民事執行法概説「不動産の強制競売 1」の注

関西大学法学部教授 栗田 隆


注1 「使用借権にも建物の差押えの効力が及ぶ」と解釈することは可能であるが、通常は使用借権の譲渡性が否定されるので、そのように解釈する実益はない。この場合には、建物を敷地権無しで売却することになるので、建物の本来の価格に比較的近い価格で売却することができるのは、建物を解体して移築すること又は近接地に移動すること(曳き家)が可能である場合に限られよう(その場合でも、工事費が相当にかかるので、売却価格は建物の本来の価格よりは確実に低くなる)。

質権に基づいて質権者が建物所有のために土地を利用している場合に、建物の差押えの効力を質権に及ぼすこともできない。この場合も、建物の売却は、使用借権の場合と基本的に同じになる。

質権の被担保債権が移転すると、それにともない、質権も移転し、建物の敷地利用権者と建物所有者とが分離することになる。建物の存続を尊重する立場からは、建物のために賃借権の成立を認めるべきことになる。被担保債権が契約により譲渡される場合には、当事者の任意の契約に委ねることになるが、被担保債権が債権執行により移転する場合(転付命令、譲渡命令、売却命令によ移転する場合)には、建物のために法定賃借権の成立を認める必要が生ずる。さらに進んで、被担保債権と建物とを一括して売却する道を開くことも考えられる。しかし、これらを解釈権として主張するためには、付随的な問題を検討することが必要であろうが、その実際上の必要があるかと言えば、現在の日本の社会において、質権の設定が極めて少ないことを考慮すると、その必要はほとんどないであろう。したがって、この問題は、議論の実際上の必要が生ずるまで、未解決の問題として解決が保留されることになる。

注2 [竹下*1985a]147頁。これに対して、登記された地上権は独立に処分されあるいは執行の対象(43条2項)となるので、建物の差押えの効力は及ばないとの見解(否定説)も有力である。この見解では、建物の売却により法定賃借権が生ずると解される(国税徴収127.2、立木6条1項・3項参照)。否定説に従うと、土地の所有者と地上権者と法定賃借権者が登場し、法律関係が複雑になりやすい(例えば、地上権者が地代を支払わない場合の処理が問題となる)。法律関係の簡明な処理の点では、肯定説のほうがすぐれている。しかし、次のことを考慮すると、理論的には、否定説のほうが優れている。

いずれにせよ、競売申立債権者としては、不確実性をできるだけ排除するために、建物とともに地上権についても競売申立てをするべきである(地上権が未登記の場合には、債権者代位権に基づいて地上権設定登記をしておくことが望ましい)。

注3 これとは反対に、差押債権者は民法177条の第三者には当たらないとする見解もある:[杉本*1999a]868頁など。

注4 裁判所書記官からの催告には、根抵当権の確定との関係で見逃すことのできない次の効力がある。不動産が差し押えられると根抵当権は確定することになり、根抵当権者は、確定後に被担保債権と根抵当権を他に譲渡することができるようになる(民法398条の7参照(反面解釈))。根抵当権の確定の登記も共同申請の原則に服するが、確定した根抵当権の移転登記の申請と共にする場合には、根抵当権確定の効果が差押えの効力の消滅により覆ることはないので(民法39条の20第2項)、根抵当権確定に関する証明書として裁判所書記官からの催告書を提出すれば、根抵当権者が単独で根抵当権確定の登記を申請することができる(不登法93条)。[法務省*1999a] 111頁以下参照。

注5 。平成29年改正前は、条文上は「差押え」に時効中断の効力が認められていたが(民法147条2号・154条)、中断効の発生時点は、競売申立ての時点と解されていた(競売法による競売事件についてであるが、大判昭和13年6月27日民集17巻1324頁。[注釈*1967a]116頁(川井健)、[川島*1975b] 497頁、[内田*民法1v3]318頁。ただし、古い判例は、動産執行に関し、執行吏(現在は、執行官)が執行行為に着手した時に中断の効力が生ずるとしていて(大判大正6年1月16日民録23輯1頁)、これに同調する文献もある([注釈*1987a]175頁(稲本洋之助)))[16]。

なお、平成29年民法改正前でも、抵当権実行のための競売は、被担保債権に基づく強力な権利実行手段であるから、時効中断事由として差押えと同等の効力を有すると解されていた(最高裁判所昭和50年11月21日第2小法廷判決・民集29巻10号1537頁)。被担保債権の債務者と競売不動産の所有者とが異なる場合には、競売の開始が債務者に通知された時に被担保債権の時効を中断する効力が生じ(民法155条)、執行裁判所による競売開始決定の正本の送達もこの通知に含まれる(前掲最判)。極度額を超える金額の被担保債権を請求債権とする根抵当権の実行による消滅時効中断の効力は、請求債権として表示された当該被担保債権の全部について生じる(最高裁判所平成11年9月9日第1小法廷判決(平成8年(オ)第2422号))。

注6 平成8年度司法統計年報1(民事・行政編)によれば、自動車などを含む不動産等の担保競売の既済事件数は、47,408件。その内、配当により終結した事件は27,342件、他の事件で配当を受けたものが2,374件(第179表)。これに対して、強制競売の事件数は、それぞれ13,630件、1,027件、756件である(第171表)。配当により終結した強制競売事件数は、担保競売事件数の3.8%にすぎない。

平成3年度司法統計年報によれば、自動車などを含む不動産等の担保競売の既済事件数は、27,805件。その内、配当により終結した事件は14,426件、他の事件で配当を受けたものが1,836件。これに対して、強制競売の事件数は、それぞれ15,051件、1,141件、839件である。配当により終結した強制競売事件数は、担保競売事件数の7.9%にすぎない。

なお、司法統計の概略を示すページが最高裁のサイトにある[R62]。

注7 平成8年度の強制管理既済事件数は、51件である。平成3年度の強制管理既済事件数は、18件である。

注8 主物に設定された抵当権と従物との関係については議論があるが、従物が主物の常用に供されたのが抵当権設定前であるか否かにかかわらず、民法370条により抵当権の効力が及ぶとするのが通説ないし大勢である([槇*担保物権]153頁以下、 [内田*民法3v3]396頁以下参照)。比較法的考察として、[槇*1960a]参照。

注9 未登記建物や付属建物との関係につき、[松田*1998a]参照。

注10 嘱託による所有権移転登記ができない場合の取扱いについても見解は分かれようが、原則として、競売手続を取り消して、代金を買受人に返還すべきである。これを可能にするために、所有権移転登記がなされたことが確認されるまでは、代金を債権者に配当あるいは交付すべきではない。

注11 土地に定着している庭木が動産執行の方法により差し押えられると、庭木はその性質上債務者に保管させるのが相当であり、この場合には民執法123条3項により差押えの表示がなされ、これが明認方法となる。庭木は、土地から分離されて買受人に引き渡され、そして買受人が再び自己の管理する土地に定着させることになる。分離の準備作業(いわゆる根切り)は、買受人が確定してから引渡しまでの時間を短縮するために、執行官の責任においてなすべきであるとせざるを得ないが、分離作業自体は、その良否により庭木の価値が左右されるであろうことを考慮すると、買受人がなすべきであろう。執行官は、売却した動産の引渡しの一環として、分離作業に立ち会って、分離作業を債務者が妨害することを阻止しなければならない。なお、庭木を差し押えると共に庭木を土地から分離し、動産にすることも考えられないわけではないが、庭木の保存上適当とは思われない。


注12 なお、担保競売の事件において、借地上の建物について不実の所有権保存登記がなされ、登記名義人から建物を譲り受けた者により設定された抵当権の実行により建物の買受人となつた者に対して、真実の建物所有者が借地権を被保全債権として土地所有者に代位して建物収去土地明渡しを求めた場合に、建物につき民法94条2項等により抵当権者が保護される事情があっても、敷地の賃借権につきそのような事情がないとして、建物買受人の賃借権取得が否定され、建物収去請求等が認容された事例(最高裁判所 平成12年12月19日 第3小法廷 判決(平成11年(受)第1197号))があるので、注意が必要である。もっとも、建物について民法94条2項等により保護される抵当権者は、敷地の借地権についても保護されるべきであるのが原則と思われるが、この事案において敷地の借地について抵当権者が民法94条2項により保護されるべき事情がなかったということが具体的に何を意味するのかは明瞭でない。建物については、真の所有者の責めに帰すべき不実の登記があったが、敷地借地権についてそれがなかったということが影響しているのであろうか。もしそうであるとすれば、賛成できない。借地権は建物の登記により公示されていると考えるべきだからである。

注13 請求債権額が執行債権のうちの一部であることを明示して強制執行の申立てをした場合には、その請求債権額の範囲で弁済金の交付ないし配当を受ける。このことは、同順位債権者の存否に関わらない。しかし、同順位債権者が存在する場合には、この問題とは別個に、同順位債権者間でいくらの金額を基準にして比例配分を受けるか(執行債権額全体か、その一部であることを明示した請求債権額か)の問題が生ずる。最高裁判所 平成17年11月24日 第1小法廷 判決(平成15年(受)第278号)は、申立書の記載から執行債権額全体を比例配分の基準額としつつその一部である請求金額の範囲で配当を受けたい趣旨であることが明らかであるときは、執行債権額全体を基準にして比例配分すべきであるとした。

注14 破産法47条・49条・257条・258条参照。

注15 現行法では「担保不動産競売」と呼ばれているが、民事執行法制定当時は、「不動産競売」と名付けられていた(当時の181条1項参照)。

注16 平成29年改正前は、競売申立てが取り下げられた場合には、時効中断の効果は遡及的に消滅し(民法旧154条)、取下げの時点まで民法旧153条の催告が継続していると解するのは相当でないとされていた(最高裁判所平成11年9月9日第1小法廷判決(平成8年(オ)第2422号))。

なお、平成29年改正前において、担保不動産競売による時効中断時期を申立て時とすることについて、[内田*民法1v3]318頁は「抵当権の実行は「請求」に相当する債務者に対する権利行使なので」と説明する。しかし、これでは、執行の一環としてなされるすべての「差押え」が請求に相当する権利行使の要素を含むことになり、請求と差押えとを区別した意義が薄れる。時効中断事由としての差押えと請求との区別は、後者について承認されている「裁判上の催告」の理論が前者には適用がないこと、民法434条は時効中断事由としての差押えには適用がないことなどを考慮すると、差押えと請求との区別は重要である(なぜこのように区別するのかという根本問題は残されているが、ここでは立ち入らない)。時効中断時期を申立て時とすることの理由は、訴え提起により時効中断の場合と同じと考えてよく(断固たる権利行使の意思が表明されていること、その後の裁判所内部での手続の遅れのために時効が完成することを認めたのでは権利者に酷であること)、そうであれば、実定法の説明としては、民執法20条により民訴法147条が準用される結果であると説明するのが簡明である。

注17 金銭執行は、一般に、差押え・換価・配当の3段階に区分することができる。そして、対象財産の特質に応じて種々の差異が生じ、対象財産ごとに各種の金銭執行が規定されている。そのため、さまざまな記述方法が考えられる。本文にあげた記述方法の他に、各段階ごとに各種の金銭執行・担保執行を横断的に記述する方法もある。

注18 土地に定着している状態の庭木は、民法上は、不動産である(民法86条1項)。不動産であるいうことは、土地とは別個の処分の対象とすることを禁ずる趣旨ではなく、別個の処分対象とされる場合には、土地とは別個の方法で権利変動を公示し、第三者に対抗する道が開かれなければならない。動産ではなく不動産と位置づけたのであるから、対抗手段は引渡しではなく、また登記ができないから、土地とは別個に処分対象とされていることを明らかにする明認方法で足りる([我妻*1997a]199頁以下、[我妻*1969b]212頁以下。なお、[内田*民法1v3]460頁は、立木の譲渡の明認方法を動産物権変動の対抗要件の中で説明しており、動産と位置づける趣旨であろう)。なお、土地に定着した状態で庭木が売却された場合に、即時取得の規定の適用が肯定されるかについては争いがある。不動産であるとの性質決定を重視すれば否定されることになるが、その実質的理由付けには相当の説明が必要となろう。

注19 特に平成23年改正前は、強制執行を対象とする独立の規定は96条の2(強制執行妨害)のみであり、当時の刑法96条の3(競売等妨害)の「公の競売又は入札」は、強制競売・担保競売も包摂する規定であった。平成23年改正により、刑法旧96条の3の適用対象から強制執行を分離し、96条の3(強制執行行為妨害)及び新96条の4(強制執行関係売却妨害)の規定が新設された(旧96条の3の内容は、適用対象から強制執行を除外して96条の6に移された)。