関西大学法学部教授 栗田 隆
以下の練習問題には難易度に差のあるものが含まれているので、学習上の参考のために、次の3つのレベルに分類し、その表示をすることにした。
レベル1と2の問題は、いずれも、条文と最高裁判例に従えば結論がおおむね明確になる問題である。反対説が存在することにより、判例の射程距離の理解の相違により、あるいはその他の理由により、幾分なりとも結論が分かれそうな問題については、できるだけaの記号を付加するようにした(例:[L2a])。[L2b]は、参考文献を参照して解答することが期待されている問題である。
解答にあたっては、次の点に注意しなさい。
なお、学部の定期試験(本試験)においては、次の問題は出題範囲外とする(この出題範囲の制限は、本試験にのみ適用し、追試験には適用しない)。
練習問題の答案は、必ず友人とチームを作って考えなさい。それが、答案の質を高める最も確実な方法である。
なお、住宅は、30年前に建築されたものであり、パソコンは、5年前に新製品として発売され、発売直後にAが10万円で購入したものである。また、Aは、法学部に勤務していて、他の普通の法学部教授と同様に、自宅で仕事をすることが多く、また、彼の勤務する大学では、校費で購入した備品を自宅で使用することを一切禁止しているものとする。
[小問1]破産財団の範囲について、一般的に説明しなさい。
[小問2]Aの下記の財産は、破産財団に含まれるか、あるいは、破産法34条4項により破産財団に含まれない財産とすることができるか。
小問(1)破産財団の範囲について、一般的に説明しなさい。
小問(2)Aの下記の財産は、破産財団に含まれるか、あるいは、破産法34条4項により破産財団に含まれない財産とすることができるか。
- 家族が使用している布団。
- Aの退職金債権。退職金は、就業規則で、退職金の支払請求があった日から2週間を経過した日に支払うものとされている。
- Aが家主に差し入れている敷金60万円の返還請求権(いゆる敷引特約はない)。
- 本年6月5日にAの父が死亡し、死亡の1年前に作成された遺言状によりAが相続することになった金銭200万円。
- 妻が病院に母親を送っていくために使用しているA所有の軽自動車(新車で購入してすでに7年間使用していて、走行距離は3万キロ程度である。使用には支障はないが、車体にいろいろキズがあることもあって、複数の中古自動車店が3万円以下でないと買い取れないと言っている)。
- 破産手続開始申立ての1週間前に銀行預金から引き出した現金から家賃(翌月分)や生活費を支出した後の残額111万円(6月1日の時点での金額)
なお、Aには免責不許可事由はなく、免責が与えられる見込みである。また、6月1日の時点でAが有するめぼしい財産は、上記のほかに、若干の家財道具があるのみである。
注意 次の点に留意して答案を書くこと。特にレポートを提出する場合には、教師の添削の負担が重くならないように注意して書くこと。
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一方、Yは、6月9日に自己破産の申立てをし、6月23日に破産手続開始決定が下された。訴訟事件は、まだ控訴審に係属中である。
[小問1] Xは、6月24日の時点で、Zからβ債権を取り立てる権限を有するか。 Zが6月24日にXに弁済すると、その弁済の効力はどうなるか。なお、Zは、
Yについて破産手続開始申立てのあったことは知っていたが、開始決定のあったこ とは知らないものとする。必要であれば、適宜場合分けをして解答しなさ
い。
[小問2] Zが6月24日にYの破産手続開始申立ても破産手続開始決定も知らずにXに弁済した場合に、Yの破産管財人は、XおよびZに対して、どのように行動したらよいか。
[小問3] 控訴審に係属中のXのYに対する訴訟は、破産手続開始後にどうなるか。(1)ZがXに弁済していない場合と、(2)ZがXから支払請求を受けた日に弁済した場合とについて検討しなさい。
なお、いずれの小問についても、否認権の問題には立ち入らなくてよい。
控訴審に係属中のXのYに対する訴訟は、破産手続開始後にどうなるか。 否認権の行使には言及しなくてもよい。
メモ:従来は下記のような問題であったが、これでは47条の単純な適用問題になり、レベル3の問題にならないのではないかとの指摘を学生から受けた。作ったときは、いろいろ論点を思い浮かべていたのであろうが、再点検すると確かに議論すべき論点の少ない問題であるので(失敗作であるので)、上記のように改め、レベルも下げた。
[L3・類題]宝石販売業を営むX(個人)はある年の3月1日に、その店頭で、Yと、店頭に展示されているX所有のダイヤモンド入りの指輪を200万円でYに販売する契約を締結した。履行期は3月22日の午前、履行場所はXの店頭とされ、Yは解約手付金20万円を支払った。ところが、3月12日にXの債権者BがXの破産手続開始を申し立て、3月22日午前11時に破産手続開始決定がなされた。Yは、3月22日の午前にxの店頭に行き、売買代金から手付金を差し引いた残額180万円を支払って、商品を受領して帰宅した。この場合について、下記の問に答えなさい。なお、否認権の問題は考慮しなくてもよいものとする。
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計算能力提供契約・・・ 第1条 提供者は、自己の管理する建物内に計算機を用意し、これを次の条件で利用者に賃貸することにより、計算能力を利用者に提供するものとする。
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[L1]Xは、Y株式会社の従業員である。Y会社が破産した。Xは、Y会社に対して、退職金債権のための先取特権(民法306条・308条)を行使して、民事執行法により会社財産の競売を申し立てることができるか。
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(2)Bは、Y所有地を期間30年、権利金1500万円、毎年の借地料50万円の約定で賃借した。彼は、契約後すみやかに住宅を建築し、ただちに所有権保存登記をした。破産手続開始時点において、この賃貸借契約の残存期間は25年であり、建物自体の評価額は2000万円である。なお、賃貸借期間の満了したときに、賃貸借を同一の条件で更新するときには、その時点における適正地代の30年分を支払うことが約定されており、その点からこの権利金は賃料の一部前払の性質を有すると判断されるものとする。
(3)Cは、Y所有地を一時使用のために、期間7年、毎年の借地料は50万円、7年分の賃料全額前払の約定で賃借した。彼は、7年分の賃料350万円を前払して契約した後、すみやかに建物を建築し、ただちに所有権保存登記をした。破産手続開始時点において、この賃貸借契約の残存期間は5年であり、建物自体の評価額は500万円である。なお、この土地賃借権は、借地借家法25条の適用のある一時使用目的の借地権であるとする。
(4)Dは、(2)のBと同様な条件で土地を賃借し、建物を建築したが、建物の登記をしていなかった。Yについて破産手続が開始されたことを知って、あわてて建物の登記をした。その他の状況は、(2)の場合と同じである。
(5)Eは、Yと地上権設定契約を締結した。地上権設定の対価は1500万円、毎年の地代50万円である。彼は、地上権の設定を受けた後すみやかに住宅を建築した。しかし、建物の登記も地上権設定登記もなされなかった。Yについて破産手続が開始されたことを知って、あわててYの協力を得て地上権設定登記を経由した。破産手続開始時点において、この地上権の残存期間は25年であり、建物自体の評価額は2000万円である。なお、地上権設定の対価は、地代の一部前払の性質を有すると評価できるものとする。
[L1]2005年に5月初旬に、Yは債務の弁済ができなくなって重要書類をもって夜逃げをした。翌週、債権者XがYを見つけだして、金銭貸付の時に約束していたYの別荘を代物弁済として譲渡することを求め、所有権移転登記を経由した(仮登記はなされていなかったものとする)。2006年8月にYの別の債権者がYについて破産手続の開始を申し立て、間もなく破産手続が開始された。破産管財人Zは、前記代物弁済を否認することができるか。証明責任の点に注意しながら説明しなさい。
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(1)β債権をもって代物弁済する方法(代物弁済契約に基づく債権移転の対抗要件としての通知をSからDにするとの措置)
(2)Gがβ債権をSから1億円で買い受ける売買契約を締結し、その代金債務とα債権とを相殺する方法(売買契約に基づく債権移転の対抗要件としての通知をSからDにするとの措置)。
(3)GがDとの間でβ債権について併存的債務引受契約を締結し、その債務とα債権とを相殺し、β債権の消滅費用の償還としてDから1億円を受領する方法(債務引受契約を締結して、その旨の通知をSにするとの措置)。