破産法の練習問題

---レベル1・2・3---

関西大学法学部教授 栗田 隆


以下の練習問題には難易度に差のあるものが含まれているので、学習上の参考のために、次の3つのレベルに分類し、その表示をすることにした。

レベル1と2の問題は、いずれも、条文と最高裁判例に従えば結論がおおむね明確になる問題である。反対説が存在することにより、判例の射程距離の理解の相違により、あるいはその他の理由により、幾分なりとも結論が分かれそうな問題については、できるだけaの記号を付加するようにした(例:[L2a])。[L2b]は、参考文献を参照して解答することが期待されている問題である。


解答にあたっては、次の点に注意しなさい。

ヒントについて

なお、学部の定期試験(本試験)においては、次の問題は出題範囲外とする(この出題範囲の制限は、本試験にのみ適用し、追試験には適用しない)。

練習問題の答案は、必ず友人とチームを作って考えなさい。それが、答案の質を高める最も確実な方法である。


注 意


破産手続の開始

  1. [L1]Aは、大阪市内に住んでいる元サラリーマンである。神戸市内にある勤務先の会社が倒産して収入が激減し、免責許可決定を得るために破産手続開始の申立てをせざるをえなくなった。債権者は、京都市内に本店のある6社のみである。Aは、どの裁判所に破産手続開始の申立てをすればよいか。


  2. [L1]Aは、吹田市内に借家住まいしている元サラリーマンである。債務が400万円あったが、元利金の支払に差し支えのない給与収入があった。しかし、勤務先の会社が倒産し、現在、失業中である。Aの収入は、雇用保険による失業給付のみとなり、利息の返済もできなくなった。Aは、免責許可決定を得るために破産手続開始の申立てをせざるをえなくなった。Aにはめぼしい財産はなく、その財産のほとんどは差押禁止財産に該当する。裁判所は、破産手続開始の決定をして、破産管財人を選任するだろうか。

    メモ:雇用保険法(昭和49年12月28日法116号)11条「失業等給付を受ける権利は、譲り渡し、担保に供し、又は差し押えることができない。」。
  3. [L1]Xは、自営業者Yの債権者である。経済的に行き詰まったYが夜逃げをした。家のドアには、債権者への詫び状の紙が貼り付けられている。Xは、Yの破産手続の開始を申し立てようと考えている。この場合に、何を破産手続開始原因として主張し、それをどのように証明したらよいか。

破産財団

  1. [L1]大学教授Aが破産し、Bが破産管財人に選任された。Aが所有している宅地と住宅は、誰が管理処分するのか。彼が自宅で講義ノートや論文の作成に使用している彼のパソコンはどうか。

    なお、住宅は、30年前に建築されたものであり、パソコンは、5年前に新製品として発売され、発売直後にAが10万円で購入したものである。また、Aは、法学部に勤務していて、他の普通の法学部教授と同様に、自宅で仕事をすることが多く、また、彼の勤務する大学では、校費で購入した備品を自宅で使用することを一切禁止しているものとする。


    ヒント: 破産法1条・2条12項・14項・34条・78条・79条、民執法131条6号。
    ヒント: この問題に30分の時間をかけることができる場合には、破産制度の目的から書き始めることを期待している。

  2. [L2]Aは、妻と子供2人と妻の病弱な母親と同居している。家族5人で、家賃月額10万円の借家(アパート)で暮しているが、やや手狭である。賃貸借契約は、5年ほど前に期間2年の約定で締結され、現在は期間の定めのない賃貸借契約となっている。契約書では、賃借人は3カ月の期間を置いて解約の申し入れをすることができるとされている。Aは、賃貸借契約を誠実に履行しており、未払賃料はなく、建物の使用状況も良好である。Aは、ある会社に勤務していて、本年中に退職すれば退職金500万円(源泉徴収される公租公課を控除した手取額)を受領することができる。 Aは、他人の保証人になったことがきっかけで、複数の債権者に総計3000万円の債務を負うに至り、自己破産の申立てをした。

    Aからの申立てに基づき、裁判所は、6月1日に破産手続を開始すべきであるとの判断を固め、破産管財人を選任すべきか、同時廃止にすべきかを検討しているところである。Aは、破産手続が開始されれば、すみやかに、破産に至った事情を会社に説明して退職願いを提出し、退職金の支払を受ける予定であり、会社も退職を承認するであろう旨を裁判所に述べている。また、Aには免責不許可事由はなく、免責が与えられる見込みであり、6月1日の時点でAが有する財産は、(α)下記の小問2に掲記されているbからdの財産及び若干の家財道具等の外に、(β)破産手続開始申立ての1週間前に銀行預金から引き出した現金から家賃(翌月分)や生活費を支出した後の残額111万円(6月1日の時点での金額)があるだけで、他にめぼしい財産はない。

    6月1日中に破産手続開始決定がなされるものとして、次の小問に答えなさい。

    [小問1]破産財団の範囲について、一般的に説明しなさい。

    [小問2]Aの下記の財産は、破産財団に含まれるか、あるいは、破産法34条4項により破産財団に含まれない財産とすることができるか。

    1. 家族が使用している布団。
    2. Aの退職金債権。退職金は、就業規則で、退職金の支払請求があった日から2週間を経過した日に支払うものとされている。
    3. Aが家主に差し入れている敷金60万円の返還請求権(いゆる敷引特約はない)。   
    4. 妻が病院に母親を送っていくために使用しているA所有の軽自動車(新車で購入してすでに7年間使用していて、走行距離は3万キロ程度である。使用には支障はないが、車体にいろいろキズがあることもあって、複数の中古自動車店が3万円以下でないと買い取れないと言っている)。
    5. 本年7月15日にAの父が死亡し、死亡の1年前に作成された遺言状によりAが相続することになる金銭200万円。

    [小問3]破産管財人が選任されると仮定した場合に、彼は、上記aからeの財産のうち破産財団に含まれる財産をどのように換価するのがよいか。破産法34条4項が適用されれば破産財団から除外されるであろう財産、あるいは破産財団に含まれるか否かに関し見解の対立のある財産についても、ひとまず破産財団に含まれるものとして答えなさい。

  3. [L2・類題]Aは、妻と子供2人と妻の病弱な母親と同居している。家族5人で、家賃月額10万円の借家(アパート)で暮しているが、やや手狭である。賃貸借契約は、5年ほど前に期間2年の約定で締結され、現在は期間の定めのない賃貸借契約となっている。契約書では、賃借人は3カ月の期間を置いて解約の申し入れをすることができるとされている。Aは、賃貸借契約を誠実に履行しており、未払賃料はなく、建物の使用状況も良好である。Aは、ある会社に勤務していて、本年中に退職すれば退職金500万円(源泉徴収される公租公課を控除した手取額)を受領することができる。Aは、他人の保証人になったことがきっかけで、複数の債権者に総計3000万円の債務を負うに至り、自己破産の申立てをした。 Aは、本年6月1日に破産手続開始決定を受けた。翌日、Aは、破産に至った事情を会社に説明して退職願いを提出し、退職金の支払を請求した。会社も退職を承認した。次の小問に答えなさい。

    小問(1)破産財団の範囲について、一般的に説明しなさい。

    小問(2)Aの下記の財産は、破産財団に含まれるか、あるいは、破産法34条4項により破産財団に含まれない財産とすることができるか。

    1. 家族が使用している布団。
    2. Aの退職金債権。退職金は、就業規則で、退職金の支払請求があった日から2週間を経過した日に支払うものとされている。
    3. Aが家主に差し入れている敷金60万円の返還請求権(いゆる敷引特約はない)。   
    4. 本年6月5日にAの父が死亡し、死亡の1年前に作成された遺言状によりAが相続することになった金銭200万円。
    5. 妻が病院に母親を送っていくために使用しているA所有の軽自動車(新車で購入してすでに7年間使用していて、走行距離は3万キロ程度である。使用には支障はないが、車体にいろいろキズがあることもあって、複数の中古自動車店が3万円以下でないと買い取れないと言っている)。
    6. 破産手続開始申立ての1週間前に銀行預金から引き出した現金から家賃(翌月分)や生活費を支出した後の残額111万円(6月1日の時点での金額)

    なお、Aには免責不許可事由はなく、免責が与えられる見込みである。また、6月1日の時点でAが有するめぼしい財産は、上記のほかに、若干の家財道具があるのみである。


係属中の訴訟等

注意  次の点に留意して答案を書くこと。特にレポートを提出する場合には、教師の添削の負担が重くならないように注意して書くこと。

  • 中断・受継の対象となるのは、「訴訟手続」であり、「訴訟」ではない。「訴訟の承継」と「訴訟手続の受継」とを区別すること。
  • 「破産管財人が認めず、又は届出をした破産債権者が異議を述べた破産債権」は、「異議等のある破産債権」と短縮することができる(125条1項)。この内で、「破産管財人が認めず」を「破産管財人が否認し」と言い換えることは、適当ではない。理由:
    • 書面による債権調査において、破産管財人が認否書に認否を記載しない事項について、それを認めたものとみなす規定(117条4項・5項・119条4項後段)が置かれていて、その適用範囲は広いが、それでも、債権届出期間経過後に届出のあった債権が一般調査期日において調査される場合に、破産管財人がまったく認否を明らかにしない債権については、このみなし規定の適用はなく(117条5項参照)、したがって「認めず」に該当することになる。
    • 期日における調査については、このみなし規定に相当する規定は置かれておらず、かつ、破産管財人が認否を保留することも許されるとされている。認否保留の場合を含めて、認否のない場合には、「認めず」に該当することになる。
  • 係属中の訴訟手続が127条1項の規定により受継される場合に、この訴訟は「破産債権確定訴訟として続行される」というのは正しいが、「査定異議訴訟として続行される」というのは適切でない。なぜなら、査定異議の訴えは形成訴訟であり(主文例:「査定の裁判を・・・に変更する」)、他方、債権確定訴訟は確認訴訟である(主文例:「原告が・・・の破産債権を有することを確定する」)。両者は区別されるべきであり、かつ、係属中の訴訟がある場合には、破産債権査定手続は行われないので(125条1項ただし書)、査定異議の訴えの余地もないからである。なお、受継後の訴訟が「異議訴訟として続行される」と説明している教科書もあるが([伊藤*破産v4.1]296頁)、この説明は採用できない。
  1. [L1]X所有地上にYが無権原で建物を建て、土地を不法占拠した。XがYに対して建物収去・土地明渡請求および損害賠償請求の訴えを提起した。その訴訟の途中でYについて破産手続が開始された。訴訟はどうなるか。

    ヒント:「破産債権」の問題1のヒントを参照。

  2. [L3]ある年のことである。XがYに対する1億円の金銭債権(α債権)について、支払請求の訴えを提起した。第一審で請求認容判決がだされ、Yが直ちに控訴を提起した。この判決には仮執行宣言が付されていて、Xは、6月24日に弁済期が到来するYのZに対する8000万円の債権(β債権)について、差押命令の申立てをした。差押命令が6月12日にZに送達された。Zは、供託することなく様子を見ることにした。6月15日にはYに差押命令が送達され、1週間の執行抗告期間を徒過して確定した。Zは、6月24日に、Xから8000万円の支払請求を受けた(民執法155条1項参照)。

    一方、Yは、6月9日に自己破産の申立てをし、6月23日に破産手続開始決定が下された。訴訟事件は、まだ控訴審に係属中である。

     [小問1]  Xは、6月24日の時点で、Zからβ債権を取り立てる権限を有するか。 Zが6月24日にXに弁済すると、その弁済の効力はどうなるか。なお、Zは、 Yについて破産手続開始申立てのあったことは知っていたが、開始決定のあったこ とは知らないものとする。必要であれば、適宜場合分けをして解答しなさ い。

     [小問2]  Zが6月24日にYの破産手続開始申立ても破産手続開始決定も知らずにXに弁済した場合に、Yの破産管財人は、XおよびZに対して、どのように行動したらよいか。

     [小問3]  控訴審に係属中のXのYに対する訴訟は、破産手続開始後にどうなるか。(1)ZがXに弁済していない場合と、(2)ZがXから支払請求を受けた日に弁済した場合とについて検討しなさい。

    なお、いずれの小問についても、否認権の問題には立ち入らなくてよい。




  3. [L2]ある年のことである。XがYに対する1億円の金銭債権(α債権)について、支払請求の訴えを提起した。第一審で請求認容判決がだされ、Yが直ちに控訴を提起した。この判決には仮執行宣言が付されていて、Xは、6月24日に弁済期が到来するYのZに対する8000万円の債権(β債権)について、差押命令の申立てをした。差押命令が6月12日にZに送達された。Zは、供託することなく様子を見ることにした。6月15日にはYに差押命令が送達され、1週間の執行抗告期間を徒過して確定した。Zは、6月24日に、Xから8000万円の支払請求を受け(民執法155条1項参照)、その日に全額支払った。一方、Yは、同年9月23日に自己破産の申立てをし、9月27日に破産手続開始決定が下された。訴訟事件は、まだ控訴審に係属中である。

    控訴審に係属中のXのYに対する訴訟は、破産手続開始後にどうなるか。 否認権の行使には言及しなくてもよい。


    ヒント: 42条・44条・100条・124条・129条。最高裁判所 平成13年12月13日 第1小法廷 決定(平成13年(許)第21号)を参考に論ずるのがよいであろう。
    メモ: 学部以外の試験では、「否認権の行使には言及しなくてもよい。」の部分を削除することもある。

  4. [L3]Aは、Bから1億円の土地を買い受ける契約を締結し、引渡しを受けたが、所有権移転登記を受けていない。代金の支払の有無については、Aは全額支払ったと主張し、Bはこれを否定している。 この紛争に関し、次のような経過をたどった訴訟事件がある。
    1. Cは、Aに対する1億円の債権(以下「α債権」という。)について執行証書を有している。これに基づく強制執行の準備として、Cは、D弁護士を訴訟代理人に選任し、Aに代位して、Bに対して当該土地の処分を禁止する仮処分命令を申請し、仮処分の執行を経た後に、当該土地についてBからAへの所有権移転登記手続を命ずる判決を求める訴えを提起した。これに対して、Bは、第1次的にはCの当事者適格を争って訴え却下判決を求め、第2次的には、代金が支払われていないことを理由に売買契約を解除していると反論して請求棄却判決を求めた。
    2. その訴訟の第一審係属中に、AがCに対する2億円の反対債権を主張し、これとα債権とを対当額で相殺する旨の内容証明郵便を送付するとともに、E弁護士を訴訟代理人に選任して、この訴訟に独立当事者参加し、Cに対して債務不存在確認請求の訴えを、Bに対して所有権移転登記請求の訴えを提起した。Aは、その土地について処分禁止の仮処分をしなかった。
    3. 第一審裁判所は、A主張のCに対する2億円の反対債権の発生を否定し、C主張のAに対する債権を認めて、AのCに対する債務不存在確認請求を棄却し、AのBに対する訴えを却下し、CのBに対する請求を認容する判決を言い渡した。
    4. その翌日に、Aについて破産手続が開始され、F弁護士が破産管財人に選任された。Fは、調査の結果、次のように判断した:CのAに対する破産債権は、Aが前記のように相殺したことにより消滅している;AはBに代金を支払っており、この点については、十分な証拠がある;しかし、その土地は、第一審の口頭弁論終結の日の翌日にBからGに売却され、所有権移転登記が経由されている。
    次の小問に答えなさい。
      (1)この訴訟の今後の展開は、どのようになると予想されるか。
      (2)破産管財人は、本件土地を破産財団に属す財産として換価することができるであろうか。


  5. [L3]下記の各訴訟の係属中に、当事者であるYについて破産手続が開始された。各訴訟はどうなるか。

    (1)XとYとがある土地をめぐって争っている。Xの主張によれば、その土地はX所有地であり、Yがその土地上に無権原で建物を建て、土地を不法占拠しているとのことである。XがYに対して建物収去・土地明渡請求および明渡しまでの損害賠償請求の訴えを提起し、その訴訟が第一審に係属中である。

    (2)Yが、勤務先のA会社を退職して退職金1000万円の支払請求の訴えを提起し、その訴訟が第一審に係属中である。

    (3)BがYに対して300万円の損害賠償の訴えを提起し、第一審において仮執行宣言付勝訴判決を得た。Yが控訴を提起した。Yの破産手続の開始前に、Bが仮執行により300万円及び遅延損害金を取り立てたが、訴訟はまだ控訴審に係属中である。


  6. [L1]Aは、ある年の3月下旬に納期限が到来した1000万円の国税を滞納している納税者である。その翌年4月3日に、Aが内密にしていたA名義の土地が発見され、滞納処分としての差押えがなされた。同年4月10日にAが自己破産の申立てをして、4月24日に破産手続が開始された。利息や延滞税及び各種の手続費用は無視しうるものとして、下記の1組の条件の下で、徴税職員は、税金をどれだけ回収することができるか。
    (α)差押えに係る租税債権は1000万円であり、破産手続開始前に滞納されている公租公課はこれのみであり、この租税債権のほかに、財団債権が300万(うち200万円は148条1項1号・2号に該当する)、確定した破産債権(全て普通破産債権)が総額で3000万円ある(これ以外に届け出られた破産債権はない)。

    (β)滞納処分により差し押さえられた土地には担保権等の負担はなく、400万円で売却でき(誰が売却してもこの価額になるものとする)、破産財団に属するその他の財産を換価すると、500万円の金銭が得られる。

法律行為に関する破産の効力

  1. [L1]Y(個人)を破産者とする破産手続開始決定書に、決定の年月日時として、ある年の5月10日午前11時が記載されている。破産手続開始の公告(32条1項)は、同月24日付けの官報に掲載された(同日中にWebでも閲覧可能になった)。また、公告事項は、同月14日に破産者に通知された(32条3項)。同月10日午前0時の時点において、AはYに対して1000万円の債権を有しており、BはYに対して50万円の債務を負っている。

    必要に応じて場合分けをしながら、次の各小問に答えなさい。
     (1) 同月10日にYがAに1000万円を弁済した。この弁済は有効か(否認の問題は考慮しなくてもよい)。
     (2) 同月10日にBがYに現金を交付する方法で50万円を弁済した。この弁済は有効か。

  2. [L2]宝飾品等の販売業を営むX(個人)はある年の3月1日に、その店頭で、Yと、店頭に展示されているものと同品質の高級腕時計(X所有の在庫品5個のうちの一つ)を200万円で販売する契約を締結した。履行期は3月22日の午前、履行場所はXの店頭とされ、Yは解約手付金20万円を支払った。Yは、3月22日の午前にXの店頭に行き、売買代金から手付金を差し引いた残額180万円を支払って、商品を受領して帰宅した。
    ZもYと同じ日時に店頭に展示されているルビーの指輪についてXと同様の売買契約を締結したが、Zは、そのルビーの指輪に「Z様売約済」の表示をしてもらった上で、Yと同じ日時に代金を支払って、商品を受領して帰宅した。
      ところが、3月12日にXの債権者BがXの破産手続開始を申し立て、3月22日午前11時に破産手続開始決定がなされた。Xは、Y及びZから受領した各180万円を破産管財人に引き渡すことなく費消した。

    この場合について、下記の問に答えなさい。なお、否認権の問題は考慮しなくてもよい。
    1. 破産管財人が上記の腕時計及び指輪を各々250万円で他者に売却することを考えている場合に、Y及びZは腕時計及び指輪の所有権取得を破産管財人に主張することができるか。
    2. 破産管財人がXZ間で合意された価格200万円は適正であるが、その代金(手付金を控除した残額180万円)は破産管財人に支払われるべきであると主張している場合に、ZはXにした180万円の弁済の効力を破産手続との関係で主張することができるか。

    ヒント:民法176条・178条・183条、破産法47条(1項のみならず2項にも注意)・50条・51条
    メモ:宝石の売買の実務に疎いので、実際から離れた問題になっているかも知れないがご容赦いただきたい。

    メモ:従来は下記のような問題であったが、これでは47条の単純な適用問題になり、レベル3の問題にならないのではないかとの指摘を学生から受けた。作ったときは、いろいろ論点を思い浮かべていたのであろうが、再点検すると確かに議論すべき論点の少ない問題であるので(失敗作であるので)、上記のように改め、レベルも下げた。

    [L3・類題]宝石販売業を営むX(個人)はある年の3月1日に、その店頭で、Yと、店頭に展示されているX所有のダイヤモンド入りの指輪を200万円でYに販売する契約を締結した。履行期は3月22日の午前、履行場所はXの店頭とされ、Yは解約手付金20万円を支払った。ところが、3月12日にXの債権者BがXの破産手続開始を申し立て、3月22日午前11時に破産手続開始決定がなされた。Yは、3月22日の午前にxの店頭に行き、売買代金から手付金を差し引いた残額180万円を支払って、商品を受領して帰宅した。この場合について、下記の問に答えなさい。なお、否認権の問題は考慮しなくてもよいものとする。
    1. 破産管財人がその指輪を250万円で他者に売却することを考えている場合に、Yはその指輪の所有権取得を破産管財人に主張することができるか。
    2. 破産管財人がXY間で合意された価格200万円は適正であるが、その代金(手付金を控除した残額180万円)は破産管財人に支払われるべきであると主張している場合に、YはXにした180万円の弁済の効力を破産手続との関係で主張することができるか。

  3. [L3]建設業を営むX(個人)は資金繰りが逼迫してきたため、ある年の3月1日に、その所有する甲不動産を売却する契約をY(個人)と締結した。代金は5000万円、履行期は3月22日9時半、履行場所はXの営業所と定められた。ところが、3月12日にXの債権者BがXの破産手続開始を申し立て、3月21日に破産手続開始決定がなされた。Yは、Xの経営が苦しいことは聞いていたが、破産手続が開始されたとは知らずに、3月22日に司法書士Cと共にXの営業所を訪れ、Xに代金5000万円を交付し、Xは所有権移転登記に必要な情報が記された書類ならびに移転登記に必要な一切の書類をYに交付した。Yの依頼を受けた司法書士Cが書類に不備がないことを確認して、売買契約の履行が完了し、司法書士Cは、その日の11時に所有権移転登記の申請を終えた。また、Xは、同じ頃、自己の債権者であるDの銀行口座に債務の弁済として3000万円を振り込み、残金は、自己の預金口座に入金した。

    この場合について、下記の問に答えなさい。なお、否認権の問題は考慮しなくてもよいものとする。
    1. 破産管財人が甲不動産を他者に5500万円で売却することを考えている場合に、Yは甲不動産の所有権取得を破産管財人に主張することができるか。
    2. 破産管財人がXY間で合意された甲不動産の価格5000万円は適正であるが、その代金は破産管財人に支払われるべきであると主張している場合に、YはXにした代金支払の効力を破産手続との関係で主張することができるか。
    3. Dは、Xから受けた弁済金を保持できるか。

  4. [L3・類題]建設業を営むX(個人)は資金繰りが逼迫してきたため、ある年の3月1日に、その所有する甲不動産を売却する契約をY(個人)と締結した。代金は5000万円、履行期は3月22日9時30分、履行場所はA銀行吹田支店と定められた。甲不動産には、A銀行のために抵当権が設定されていて、被担保債権は、A銀行のXに対する貸付金で現在額は3000万円である。3月12日にXの債権者BがXの破産手続開始を申し立て、3月22日9時30分に破産手続開始決定がなされた。Yは、X会社の経営が苦しいことは聞いていたが、破産手続開始申立てがなされていたとは知らなかった。Yは、3月22日9時30分少し前に司法書士Cと共にA銀行吹田支店に来て、X及びA銀行の担当者と挨拶を含めた雑談をした後、Xに代金5000万円を交付し、Xは、そのうちの3000万円を甲不動産に設定されていた抵当権の被担保債権の弁済のためにA銀行に交付し、A銀行は抵当権設定登記の抹消に必要な情報が記載された書類及び抵当権設定登記の抹消に必要なその他の書類をXに交付し、Xはこの書類と共に、所有権移転登記に必要な情報が記された書類ならびに移転登記に必要なその他の書類をYに交付し、Yの依頼を受けた司法書士Cが書類に不備がないことを確認して売買契約の履行が完了した。Xは、手許に残った2000万円をA銀行に開設してある自己の預金口座にいったん入金した後、その日の内に2000万円をE銀行吹田支店にあるF(Xの父親)の預金口座に宛てて送金した。C司法書士は、その日の11時には所有権移転登記の申請及び抵当権設定登記の抹消の申請を終えた。

    この場合について、下記の問に答えなさい(必要に応じて、場合分けをして解答しなさい)。なお、否認権の問題は考慮しなくてもよいものとする。
    1. 破産管財人が甲不動産を他者に5500万円で売却することを考えている場合に、Yは甲不動産の所有権取得を破産管財人に主張することができるか。
    2. 破産管財人がXY間で合意された甲不動産の売買価格5000万円は適正であるが、その代金は破産管財人に支払われるべきであると主張している場合に、YはXにした弁済の効力を破産手続との関係で主張することができるか。
    3. A銀行は、Xから受けた被担保債権の弁済金を保持できるか。

  5. [L1]Y会社について、ある年の2月5日に債権者Xにより破産手続開始の申立てがなされ、2月9日午前11時に破産手続開始決定がなされ、Vが破産管財人に選任され、2月19日付けの官報に公告が掲載され、その日の正午にはWebで閲覧可能な状態になった。同年中になされた次の法律行為ないし準法律行為による財産的利益の取得は、破産財団に対抗できるか。なお、保全処分は発せられていないものとする。また、否認の問題には言及しなくてよい。
    1. AがY社に100万円の債権(α債権)を有し、Y社がZに100万円の債権(β債権)を有していて、Y社が弁済をしないので、Aが2月8日に代物弁済的にβ債権を譲り受け、Aが債権譲渡証書をZに提示して、債権譲渡の承認を求め、Zが2月10日付けの確定日付のある書面でこれを承認した場合の、Aによるβ債権の取得。
    2. BがY社から不動産を買い受ける契約を2月1日にし、2月9日が契約履行の日とされ、その日の9時半にBがY社の代表者に代金を支払うとともに、Y社の代表者がBに所有権移転登記に必要な書類を交付し、Bの依頼を受けた司法書士Pが登記手続に必要なすべての書類が整っていることを確認した。Pが、BとY社の代理人として、2月9日の午後に所有権移転登記の申請をし、その旨の登記がなされた場合の、Bによるその不動産の所有権取得。必要に応じて場合分けをしなさい。
    3. Y社に70万円の買掛代金債務を負っているCのところに、2月9日の午後3時にY社の集金係の従業員Wがいつものように集金にやって来た。CがWに「Xがあんたの会社に対して破産申立てをしたという噂があるけれど本当か」と尋ねると、Wが「破産申立てはまだされていないようで、上司からXに早く弁済しないと破産申立てされるから集金活動をしっかりやってこいと言われています」と答えた。Cは、いつものように正規の領収書と引き換えに70万円をWに渡した。しかし、Wは、その弁済金をVに渡さなかった。この場合における、CのY社に対する債務の消滅。必要に応じて場合分けをしながら答えなさい。 なお、Wの給与は、月額25万円で、Y社には退職金制度はなく、給与の支払の遅滞もないものとする。


  6. [L1]Y会社の財務が著しく悪化した。従業員に対して退職の勧奨が盛んに行われるようになった。それでも、Y社の長年の営業部員で集金も担当しているAは、手取給料30万円を払ってくれた会社のために頑張って働いた。しかし残念なことに、2月19日午後2時にY社について破産手続が開始され、その公告が2月29日発行の官報に掲載された。Aは、2月19日に定型的業務の一環として集金のために顧客まわりをしていた。2月19日の午後3時間頃に、Aは、上司から電話で破産手続開始を知らされ、そのまま集金を続けるように指示された。Aは、午後3時半に、顧客Z(個人)の事務所に到着した。Zは、1ヶ月ほど前にY社から購入した商品について、30万円の代金債務を負っていた。ZがAに手渡しの方法で30万円を支払い、AがY社所定の所定の受取書に署名押印してそれをZに交付した。破産管財人は、その日の午後5時に、従業員全員に対して、1ケ月後に雇用契約を終了させる旨の解雇通知をした。Aは、Zから受領した30万円を破産管財人に渡さずに生活費に費消した。

    この場合について、下記の小問に答えなさい。
    (1)ZがAに30万円を支払おうとする時点で、Y社のZに対する商品代金債権について管理処分権を有するのは誰か。
    (2)Aは、Y社のZに対する商品代金債権について、弁済金を受領する権限を有するか。
    (3)破産管財人は、Zに対して、再度30万円の支払を求めることができるか。適当に場合分けをして解答すること。
    (3a)小問3の場合と異なり、1月25日に支払われるべき1月分の給料が2月19日午前10時の時点でまだ支払われていないという事情があるものとする。破産管財人がZに対して再度30万円の支払を求めたときに、Zはその支払いを拒むことができるか。 なお、破産管財人がこの支払を求めた時点でも1月分の給料の支払はまだなされておらず、Zはそのことを知っているものとする。


  7. [L1]Y会社の財務が著しく悪化した。1月分の給料が2月18日になってもまだ払われない状況である。それでも、Y社の長年の営業部員で集金も担当しているAは、手取給料30万円を払ってくれた会社のために頑張って働いた。Aも薄々は気付いていたことではあるが、2月19日午前10時にY社について破産手続が開始された。Y社に30万円の債務を負っているZ(個人)は、2月19日午後2時に次の各方法でY社に30万円を弁済したとする。各方法による弁済の効力は、破産手続との関係においてどうなるか。なお、Zは、2月19日午後1時にY社の破産手続開始を知ったものとする。
    1. ZがB銀行にあるY社の預金口座に振り込む方法で支払った場合
    2. ZがAに手渡しの方法で支払い、AがY社所定の所定の受取書に署名押印してそれをZに交付したが、AがZから受領した30万円を破産管財人に渡さずに生活費に費消した場合。 必要に応じて場合分けをして、答えなさい。

  8. [L1]Xは、ある機械をYに販売する契約をYと締結した。履行期の1週間前にYについて破産手続が開始された。Yの破産管財人が、機械の引渡しを求めてきた。Xの代金債権は、どうなるか。

  9. [L1]コンピュータの小売業者であるXは、倉庫にある売れ残りのコンピュータを食品業を営むYにその会計処理に用いるコンピュータとして販売する契約を締結した。代金は90万円、支払時期は納品後2週間以内と定められた。コンピュータの納品期日の1週間前にYについて破産手続が開始された。Yの破産管財人が、契約を履行するともしないとも言ってこない。コンピュータの価格低下は早い。今なら、90万円で他に売却できるが、3ヵ月先には70万円でしか売れそうもない。Xはどうしたらよいか。


  10. [L1]XはY会社に建物を賃貸し、Y社はこれを本社として使用している。賃料が毎月支払われていたが、Y社について破産手続が開始された。破産手続開始後の賃料債権は、どのように扱われるか。Xは誰に賃料を請求したらよいのか。

  11. [L1]Xは、ある年の1月25日にYから賃貸マンションを2月1日から期間3年の約定で借りる契約をし、同年2月1日に引渡しを受け、現在に至るまで居住している。賃料は毎月25日までに翌月分を支払うものとし、月額20万円と定められていた。賃貸借契約を締結してから1年後の1月25日に、Xが2月分の賃料を支払うと、Yから、「経営が苦しいので、今年の8月までの賃料の前払をお願いできないか。その代わり、賃料を1割引にする」と言われた。Xは、それに応じた。ところが、その年の3月31日午前11時にYについて破産手続が開始された。

    下記の各小問に答えなさい。
     (1) XY間の賃貸借契約は、「破産者及びその相手方が破産手続開始の時において共にまだその履行を完了していない」双務契約(双方未履行の双務契約)ということができるか。
     (2) Yの破産管財人は、この賃貸借契約を解除することができるか。
     (3)Xが前払した賃料は、どうなるか。(否認権の問題には言及しなくてよい)

  12. [L3]Y会社に対してある年の9月22日に債権者から破産手続開始の申立てがなされ、10月22日に破産手続が開始され、Vが破産管財人に選任された。Y社が当事者となっている次の契約は、どのようになるか。これらの契約あるいは契約の解除から生ずる請求権についても、適宜言及すること。
    1. Y社は、A電力会社から電気の供給を受けている。検針日は、毎月20日で、検針日から20日後までが早収料金(割引料金)の支払期限である。Y社は、8月20日を検針日とする電気料金15万円、9月20日を検針日とする電気料金10万円、10月20日を検針日とする電気料金7万円を滞納している。破産管財人が管財業務を行うためには、電気の供給が不可欠である。A電力会社の若い担当者が、未払の電気料金の全額を支払わないと電気の供給を停止すると言ってきている。
    2. Y社は、その所有地に小規模な社員用の独身寮を有していて、破産手続開始前に、それを学生用のワンルームアパートに改装して土地とともに3億円で売却する計画を立て、B建築会社が2000万円で内装及び外装の工事を請け負う旨の契約をB社と締結していた。請負代金のうち700万円はY社のB社に対する売掛代金債権700万円と相殺し、残金は工事完成後に支払う予定であった(相殺の意思表示や相殺の合意はまだされていない)。B社は、破産会社の仕事はしたくないと述べ、工事の準備に取りかかったことの報酬50万円、これに含まれない費用50万円、並びに他の仕事を断ったことによる損害80万円の支払を要求している。Vは、別の建築会社に請け負わせると、工事が1月ほど遅れることにより土地建物の売却が遅れ、少なくとも100万円の損害が生ずると判断した(B社との請負工事契約中にも、工事の完成の遅延による損害金の賠償請求権を根拠付ける条項がおかれている)。Vは、B社にこの請負契約を履行させることができるか。
    3. Y社は賃貸ビルを所有しており、その清掃・衛生管理につき、C会社とビルメンテナンス契約を締結している。破産手続開始の1年前に、比較的安価な料金(月額料金50万円)で締結した契約である。契約期間は2年である。Vは、賃貸ビルを売却する予定ではあるが、少なくともそれまでは、必要であれば破産法55条を援用して、このメンテナンス契約を継続しておきたい。毎月の料金は、月末に支払うことが約定されているが、8月分と9月分とが未払である。C会社が、破産手続開始の翌日に、「本件契約は請負契約であり、未払料金全額を払ってもらえないのであれば、契約を解除したい」と言ってきた。C社の代表者は、9月10日に8月分の支払の催告を、10月10日に8月分と9月分の支払の催告をしており、破産手続開始前に解除権が発生していると主張している。しかし、VがY社の関係者から事情聴取をしたところ、そのような催告がなされたとの事実は誰も知らないとのことであった。この契約が解除されると、新規にビルメンテナンス契約を締結する必要があり、Vが調査した限りでは、月額料金60万円と契約一時金120万円でないと引き受け手がいない(契約一時金は、メンテナンス計画の立案、その準備としての調査および各種資材の持込み等のための初期費用として請求されるものであり、契約が途中で終了しても返還されないとされている)。Vは、C社との契約を維持するために、未払料金全額を支払わなければならないか。
    4. Y社がD社から計算能力提供サービスを受けている。これは、D社が保有する高性能コンピュータと各種アプリケーションプログラムをY社がネットワークを介してY社内に設置されているY社所有の端末用コンピュータ(ハードディスク等の外部記憶装置のないタイプ)から利用するものである。Y社の財務データ等は、すべてD社のデータセンターのハードディスクに保存されている。そのため、この計算能力提供サービス契約を維持しないと、管財業務を行うことができない。しかし、ここでもY社は料金を滞納している。D会社が、破産手続開始の翌日に、「本件契約は賃貸借契約であり、未払料金全額を払ってもらえないのであれば、契約を解除したい」と言ってきた。料金額、滞納額、催告の事実の有無、新規契約の場合の料金額は、偶然にも(c)の場合と同じである。Vは、D社との契約を維持するために、未払料金全額を支払わなければならないか。なお、契約書の冒頭部分は次のようになっている。

      計算能力提供契約

      ・・・

      第1条 提供者は、自己の管理する建物内に計算機を用意し、これを次の条件で利用者に賃貸することにより、計算能力を利用者に提供するものとする。

      1. 利用者は、提供者が利用者に賃貸する本件計算機をネットワークを経由して使用する。
      2. 提供者は、利用者が賃借する本件計算機を快適に利用できるように、保守管理を行うものとする。


      ヒント: aについて、53条・55条・148条1項7号。
      ヒント: bについて、53条・民法642条。
      ヒント: cについては、民法642条にも言及すること。適切な理由付けがなされていれば、結論はいずれでもよい。
      ヒント: dについては、YD間の契約は無名契約であると認定される場合と、賃貸借契約の一種であると認定される場合の双方について論述すること。賃貸借契約と認定される場合については、55条の規定の趣旨を論じた上で、55条の適用ないし類推適用の有無を論ずること。例えば、「したがってこの契約には55条の適用はない」、あるいは「たとえ賃貸借契約であるしても、このような契約には55条の適用ないし類推適用を認めるべきである」などと書く。理由付けが適切になされているかにより採点する。
      メモ: cについて、当初は、C会社の法定解除権が発生することを前提にした問題を作成したが、これだと、C社は、破産手続開始前に発生した法定解除権を開始後に破産管財人に対して行使することができるから、破産管財人は破産手続開始前の未払料金を全部支払わないと契約を維持できないとし、他の論点に触れない答案が出てきた。結論を引き出すのに必要最小限の論点に触れれば足りるとの立場に立てば、この答案でもよいことになる。しかし、教師が期待した論点(契約の法的性質論、民法642条の適用の有無等)には、触れていないので、それらの論点に触れた答案との比較で、成績評価が難しくなる(定期試験で、期待された論点への言及がないことを理由に低い成績をつければ、学生から成績評価の説明要求を受けたときに苦慮することになろう)。こうした問題を避けるために、法定解除権が発生していると判断される場合と発生しているとは判断されない場合の双方に言及するようにとの趣旨で、催告の事実については双方の主張が食い違っているとの問題文にした。なお、この契約に民法642条の適用を認める立場に立っても、642条の解除よりも法定解除権の方が相手方にとって有利であるから(642条3項参照)、法定解除権についても触れるべきである。また、この契約は請負契約であるから642条の適用があるとの立場に立っても、この契約に破産法55条の適用があるのであれば、55条の規定の趣旨との関係で、642条1項の解除権の行使を認めるべきかは論ずべき点であるから、その議論の前提として、55条の要件が充足されるかも論ずべきであると言ってよいであろう。なお、ビルメンテナンス契約に関する各種数値は、現実を反映したものではない。教室事例ということでご容赦いただきたい。

  13. [L1]Yは、高速道路を利用して片道2時間ほどかかる距離に住んでいるAから代金150万円前払で風景画の油絵の制作の注文を受けていた。Yは、その油絵の引渡し、絵画及びその架設の説明、絵画が注文に応じた作品であることの確認、並びに新規の受注の事務を、ある年の4月1日に、信頼のできるXに、費用及び報酬の合計額を5万円と定めて、委託した。Xは、翌朝10時に出発して、所定の用務を果たして、Yのところに行き、事務処理を報告するとともに、費用及び報酬の合計額5万円の支払を請求した。ところが、Yから「今朝の9時半に破産手続開始決定を受けてしまった。破産管財人はV弁護士だ」と言われて、Xは驚いた。Xの費用・報酬債権は、破産手続上どのように扱われるか。


  14. [L2]Yは、高速道路を利用して片道3時間ほどかかる距離に住んでいるAから代金150万円前払で風景画の油絵の制作の注文を受けていた。Yは、その油絵の引渡し、絵画及びその架設の説明、絵画が注文に応じた作品であることの確認、並びに新規の受注の事務を、ある年の4月1日に、信頼のできるXに、費用及び報酬の合計額を5万円と定めて、委託した。Xは、翌朝10時に出発して、所定の用務を果たして、Yのところに行き、事務処理を報告するとともに、費用及び報酬の合計額5万円の支払を請求した。ところが、Yから「今朝の9時半に破産手続開始決定を受けてしまった。破産管財人はV弁護士だ」と言われて、Xは驚いた。

     上記の事例について、下記の問に答えなさい。
     (1)Xの費用・報酬債権は、破産手続においてどのように位置付けられるか。
     (2)Xがその年の3月1日にYから桜の花の絵画を10万円で買い受けていたが、その代金が未払いであった場合に、Xは、費用・報酬債権を自働債権にして、絵画の代金債権と対当額で相殺することができるか。



  15. [L2]Yは、高速道路を利用して片道2時間ほどかかる距離に住んでいるAから代金150万円後払でAの肖像画の制作の注文を受けていた。肖像画を完成されたYは、その油絵の引渡し、絵画及びその架設の説明、絵画が注文に応じた作品であることの確認、並びに代金150万円をYの銀行口座に振り込むことの依頼の事務を、ある年の4月1日に、信頼のできるXに、費用及び報酬の合計額を5万円と定めて、委託した。Xは、翌朝10時に出発して、所定の用務を果たして、Yのところに行き、事務処理を報告するとともに、費用及び報酬の合計額5万円の支払を請求した。ところが、Yから「今朝の9時半に破産手続開始決定を受けてしまった。破産管財人はV弁護士だ」と言われて、Xは驚いた。Xは、V弁護士に電話をし、破産手続開始後に委任事務を処理したこと、代金150万円はYの預金口座に振り込まれるであろうことを報告した。Vは、「Aさんの肖像画ですね。Aさん以外には関心を持つ人はいない絵なんでしょうね。代金が150万円が入金されるのであれば、それで結構です」と述べた。Xの費用・報酬債権は、破産手続上どのように扱われるか。なお、Xが念のために領収書等により証明することができる費用(高速道路利用料金+燃料代)を計算したところ、2万円であった。



  16. [L3]Yは、高速道路を利用して片道2時間ほどかかる距離に住んでいるAから代金150万円前払で風景画の油絵の制作の注文を受けていた。Yは、その油絵の引渡し、絵画及びその架設の説明、絵画が注文に応じた作品であることの確認、並びに新規の受注の事務を、ある年の4月1日に、信頼のできるXに、費用及び報酬の合計額を5万円と定めて、委託した。Xは、翌朝10時に出発して、所定の用務を果たして、Yのところに行き、事務処理を報告するとともに、費用及び報酬の合計額5万円の支払を請求した。ところが、Yから「今朝の9時半に破産手続開始決定を受けてしまった。破産管財人はV弁護士だ」と言われて、Xは驚いた。 Xが念のために領収書等により証明することができる費用(高速道路利用料金+燃料代)を計算したところ、2万円であった。
    1. Xの費用・報酬債権は、破産手続上どのように扱われるか。
    2. その風景画を気に入った者が300万円で買いたいとVに言ってきた。Vは、Aに、Xが引き渡した絵画の返還を求めることができるか。なお、AY間の契約で、制作された絵画の所有権は、YがAに絵画を引き渡し、Aが検品の上受領することによりAに移転すると定められていたものとする。



  17. [L2]小売業を営むX会社は、建築業を営むY会社と、代金5000万円でY社がX社のある店舗の工事をすることの請負契約を締結した。X社がY社に工事代金の内金2600万円を支払った後で、工事が途中まで進んだ段階で、Y社について破産手続が開始された。その時点での工事の出来高は、2000万円と評価できる。

    次の各小問に答えなさい。 なお、今から1月以内に別の業者に工事の続行を依頼すると、インフレ期であるために、総工事費用が6000万円(契約金額に対して1000万円の費用増加)になり、かつ、工事の引継ぎに時間を要するために工事の完成が遅れることにより500万円の損害が発生するものとする。
     (1)Y社の破産管財人は、この請負工事契約をどのように処理したらよいか。可能な選択肢を挙げ、各選択肢ごとにXの権利がどのようになるか説明しなさい。
     (2)Y社の破産管財人がこの請負工事契約について何も言ってこない場合に、X社はどうしたらよいか。
     

    • ヒント: 53条2項。破産管財人が解除を選択した場合には54条。破産管財人が履行を選択した場合については、この事例に関する限り問題点は少ないであろうから、簡潔に説明すればよい。財団債権の行使について、2条7項・151条・152条・42条1項を基に簡潔に書く。
    • ヒント: 最高裁判所 昭和62年11月26日 第1小法廷 判決(昭和59年(オ)第521号)

  18. [L3]ある会社の法務部に勤務しているAが貴方のところにやってきて、次のような法律問題について助言を求めた。

     1.Aの勤務先の株式会社Xでは、Yが10年前にX会社の社長に就任して、昨年退任した。その前社長Yが2年前に会社の経営に関して不正行為を働き、会社に3億円の損害を与えた。その賠償金の支払について、先日、次のような調停が成立した。賠償金元本を2億円に減免する;未払いの賠償金について、年10%の割合による損害金を支払う。
     2.X会社としては、賠償金を少しでも多く取り立てたいが、Yの唯一の不動産については、B銀行のために順位1番の根抵当権が設定されていて、極度額は5億円である。C銀行のために順位2番の抵当権が設定されていて、被担保債権額は20億円である。Yには、この不動産以外にはめぼしい財産はなく、しかも不動産の時価は、4億円に過ぎない。
     3.B銀行は、X会社の運転資金を融資しており、Yは、X会社の社長時代に、その融資債権について根保証をしていた(B銀行との根保証契約の締結は1年前で、元本確定期日(民法465条の3)は契約時から5年後である)。前記不動産上の順位1番の根抵当権は、債権回収を確実にするための根抵当権である。B銀行のX会社に対する前記の融資については、期間1年の短期融資が繰り返されてきている。半年前に4億円の融資がなされたところである。なお、X会社のB銀行に対する債務については、現在の社長も保証を提供している。
     4.普通の方法では、X会社のYに対する損害賠償請求権の回収は困難であるので、会社内部で検討した結果、次のようなシナリオではどうだろうかということになった。X会社がYの破産手続開始を申し立てる(破産手続の費用がX会社の負担になってもかまわない);Yの破産管財人が、B銀行とC銀行の同意を得て抵当不動産を任意換価して、その代金で被担保債権を消滅させれば、YはX会社に対して求償権を取得することになる;破産管財人が求償権を行使してきた時点で損害賠償債権と相殺することにより、損害賠償請求権を可能な限り多く回収する。どうだろうか。

     貴方は、会社の賠償請求権と求償権との相殺の可否の点は難しい問題であるので、回答を留保する予定であるが、ただ、前提となる求償権がそもそも発生するのかについて疑問をもち、根抵当権の被担保債権が何であるかを明確にする必要を感じた。貴方は、Aにどのような質問をし、どのような回答をすべきであろうか。


  19. [L2]Xは、土地A、B、Cの所有者である。Xは、2015年4月1日に、各土地を前記の順でP、Q、R(以下「P等」と総称する)に別々に貸した。P等は、各自が借りている土地を各自の事業に供している。土地の利用目的は資材置場であり、借地上に建物は存在しない(土地の賃貸借契約である場合に、その登記もなされていない)。2016年6月1日にXについて破産手続が開始された。貸借期間満了前に貸借契約が終了させられると、P等は大量の資材の移動のために、100万円の損害が生ずるものと見込まれている。
     XとP等との間の契約関係及び土地の価額等は、下記のように異なる。破産管財人は、各土地の貸借契約をどのように処理するのがよいか。
     (1)XP間では、土地Aについて、次の内容の賃貸借契約が締結された:期間10年;借地料月30万円;保証金なし。破産管財人が土地を更地として売却すると、5000万円で売却できることが見込まれている。
     (2)XQ間では、土地Bについて、次の内容の賃貸借契約が締結された:期間10年;借地料月30万円全額前払;保証金なし。Qは、2015年3月31日に賃料10年分を全額前払している。破産管財人が土地を更地として売却すると、5000万円で売却できることが見込まれている。
     (3)XR間では、かつてXの事業が行き詰まったときにRの先代から援助を受けた恩義があり、また、土地Cが辺鄙な場所にあるので、使用貸借契約が締結され、期間は10年とする条項を含む契約書が作成された。破産管財人が土地を更地として売却すると、300万円で売却できることが見込まれている。Rが近隣で資材置場用に同等の土地を借りようとすると、年12万円の賃料を出す必要がある。
  20. [L2] 2015年4月1日に、Xは、ある中古機械をYに1000万円で売却する契約を締結した。同日、Y(買主)が代金の一部700万円をX(売主)に支払い、これと引換えに、XがYに中古機械を引き渡した。残代金300万円は1ヵ月後に支払う約束であった。しかし、同年6月1日になってもYが残代金を支払わないため、Xはやむなく売買契約を解除することにし、解除の意思表示は、同年6月6日にXに到達した。Xは、Yに対して機械の返還を求めたが、Yがこれに応ずる前の同年7月7日にYについて破産手続が開始され、A弁護士が破産管財人に選任された。前記解除により、Xに生ずる損害は、機械の損料を含め、200万円と見込まれる。Xは、破産管財人に対してどのような権利を主張することができるか、その権利をどのように行使したらよいか。破産管財人は、どのように対応したらよいか。なお、当該中古機械の販路は狭く、A弁護士の人脈を頼って売却することは困難であるとする。

取戻権

  1. [L1]Xは、Aから借りた自転車をYに貸した。Yについて破産手続が開始された。Xは、Yの破産管財人に自転車の返還を請求できるか。

  2. [L1]Xは、Yから50万円を借り、その担保のために100万円の価値のある名画をYに譲渡した。名画はYが大事に保管していたが、Yが破産してしまった。Xが破産管財人に事情を説明して名画の返却を求めたら、「すでに100万円で買いたいという人が現われているから、100万円の支払と引換えにお返ししましょう」と言われた。Xは100万円を支払わなければならないか。

  3. [L1]Xは、ある名画を80万円の価値はあると告げて美術商のYに無償で貸した。ところが、その絵をYが、自分の経営する画廊に飾り、自分の所有する絵だと偽って、善意無過失の来客Aに50万円で売却し、引き渡してしまった。その直後にYについて破産手続が開始された。(α)Aがまだ代金を支払っていない場合に、Xはどうすることができるか。(β)破産管財人が代金を受け取った場合に、Xはどうすることができるか。

    上記の問題について、下記の順番に回答しなさい。
    1. 取戻権と代償的取戻権について説明しなさい。
    2. 財団債権としての不当利得返還請求権について説明しなさい。
    3. 上記の (α)の問に答えなさい。
    4. 上記の (β)の問に答えなさい。



  4. [L1a・類題]Xは、外国に住む画家Aから名画を販売又は賃貸の目的で預かった(賃貸については、Xが賃貸人となって第三者と賃貸借契約を締結することを所有者Aが承諾する旨が定められていた)。Xは、その絵をYに賃料年20万円で1年間賃貸する契約をYと締結して、1年分の賃料と引換えに引き渡した。その際に、XはYに、その絵の市場価格は200万円だと告げた。ところが、それから6ヵ月後に、Yは、自分が経営する高級喫茶店に飾っていたその絵を自分の所有する絵だと偽って善意無過失の美術愛好家のBに120万円で売却し、引き渡してしまった。その直後にYについて破産手続が開始された。(α)Bがまだ代金を支払っていない場合に、Xはどうすることができるか。(β)破産管財人がBから代金を受け取った場合に、Xはどうすることができるか。なお、Aは、破産管財人に対して、なんの権利行使もしていない。


別除権

  1. [L1]Y会社について破産手続が開始された。
      (1)破産手続開始の4週間前に、Aは、Y会社に、100万円の機械αを代金の支払時期を6週間後と定めて販売し、商品を即日納入した。破産手続開始後に、Aは、動産売買先取特権に基づき、機械αの競売を申し立てることができるか。
      (2)Y会社の従業員であるBは、破産手続開始の前日に退職し、退職時の給与の10月分相当額の退職金債権を有している。Bは、破産手続開始後に、退職金債権のための先取特権(民法306条・308条)を行使して、民事執行法により会社財産の競売を申し立てることができるか。



  2. [L1]A社はB社に7000万円を年利8%・期間1年の約定で貸し付け、その担保のためにB所有の不動産上に第一順位の抵当権の設定を受け、その登記を経由した。それから4か月後にBの取引先が突然破産し、そのあおりで、Bも破産した。AがBに貸付けをしてから半年後のことであった。

    次の小問に答えなさい。なお、消費貸借契約書には、「債務者について破産手続開始申立てがなされた場合には、期限の利益が喪失される」旨の条項が含まれているものとする。

    (1) Aは、抵当権を破産手続外で実行することができるか。
    (2) Aは、抵当不動産の売却価額が約2000万円であると予想される場合に、7000万円および破産手続開始の前日までの利息280万円の全額を破産債権として行使できるか。

  3. [L1]A社は5年ほど前からB社に原材料を供給している。その売掛代金債権の担保のために、取引開始の時点で、B社所有の不動産上に第一順位の根抵当権(極度額5000万円)の設定を受け、その登記を経由している。ところが、1月10日にB社の取引先が突然倒産したあおりで、B社について3月3日に破産手続開始申立てがなされ、3月23日に破産手続が開始された。破産手続開始時点でのA社のB社に対する売掛代金債権額は4000万円で、弁済期は破産手続開始の日と同じであった。また、この代金債権について、利息の約定はないが、遅延損害金の約定はあった。

    下記の2つの小問に答えなさい。なお、抵当権を実行すれば、不動産の売却代金から手続費用を控除した2100万円がA社に交付され、そのうち100万円は弁済期の翌日から代金交付までの間の遅延損害金100万円に充当され、2000万円が代金(元本)に充当されるものとする。

    (1)A社は、根抵当権を破産手続外で実行することができるか。
    (2)A社は、4000万円全額を破産債権として行使できるか。
  4. [L2]A社は、B社に7000万円を年利8%・期間1年の約定で貸し付け、その担保のためにB社所有の不動産上に第一順位の抵当権の設定を受け、その登記を経由した。それから4か月後にB社の取引先が突然破産し、そのあおりで、B社も破産した。AがB社に貸付をしてから半年後のことであった。

    下記の2つの小問に答えなさい。なお、消費貸借契約書には、「債務者について破産手続開始申立てがなされた場合には、期限の利益が喪失される」旨の条項が含まれているものとする。また、抵当権を実行すれば、破産手続開始の日から1年後に不動産の売却代金から手続費用を控除した2000万円全額がXに交付されるものとする。

    (1) A社は、抵当権を破産手続外で実行することができるか。
    (2)A社は、7000万円および破産手続開始の前日までの利息280万円の全額を破産債権として行使できるか。

  5. [L1]X株式会社は、Y株式会社から委託を受けてY会社所有の半製品を加工している。X会社は、加工代金債権の弁済を得るまでY会社から預かった半製品に商事留置権を行使することができる(商法521条)。Y会社について破産手続が開始された。X会社の留置権は、破産手続上どのように扱われるか。

  6. [L3]X(個人)は衣料品の加工業者である。A会社から半製品を加工して完成品に仕上げる仕事を1着200円で請け負っている。A社は、Xが仕事を納期に間に合わせるように優先的に行うことを条件に、毎月最低でも2000着分の仕事を廻すことを保証し、納期厳守の義務が生ずるのは最高で4000着分であるとした。実際には、今年に入ってからは毎月2000着分の仕事しか廻ってこなかった。加工賃は、月末締めで翌々月の25日に支払われる。ある年の1月分(2000着)の加工を22日に完了して納品し、3月25日に1月分の工賃を受領する予定であった。ところが、A社は資金繰りが苦しいと言って支払をしないまま、3月30日に破産手続開始の申立てをした。2月22日に納品した2月分(2000着)の工賃の支払も危ない。Xの手元には4月に加工する素材が2000着がすでに届けられている。また、Xの加工した製品のうち、3月分(2000着)のみは、まだXの手元にある。この状態で、4月15日にA社について破産手続が開始された。Xは、加工賃の回収のために、どのようにしたらよいか。必要に応じて場合分けをして解答しないさい。
    なお、半製品は、そのままでは、1着500円程度でしか売却できず、Xが加工した完成品は小売店で3000円で売却されているが、倒産会社の商品として小売業者に売却するとなると、1000円になるものとする。



相殺権

  1. [L1]YはXに対して100万円の貸金債権(α債権)を有している。Xは、Yから100万円の機械(新品)を購入することにし、代金を先に支払った。メーカからその機械がYの営業所に配達される前にYについて破産手続が開始され、Xはその機械を入手することができなかった。Yの破産管財人がXに対してα債権の弁済を求めてきた。Xは、どうするのが一番得か。なお、破産手続開始当時における当該機械の市場価格は100万円であるとする。

  2. [L1]平成18年8月31日午前11時に、A社について破産手続開始の決定がなされた。これに先だって同年4月28日、Y銀行は、Aの委託を受けて、A社が同日から平成19年4月27日までの間にB社に対して負う買掛債務及び手形債務の元本について保証人になった。Bから通知を受けて、Yは、Bの保証債務履行請求の内容を精査の上、平成19年3月27日に、保証債務の履行として、AのBに対する800万円の債務の代位弁済をした。これによりYはAに対し800万円の求償権を取得するとともに(民法459条1項)、B社がA社に対して有していた売掛代金債権等を代位取得した(民法500条・501条)。Aは、破産手続開始当時にY銀行に対して元本1000万円の預金債権を有していたので、Aの破産管財人Xは、この預金契約を解約して、Yに対して預金1000万円と利息の払戻しを求めたところ、Yが前記求償権との相殺の意思表示をした。
     上記の事例について、下記の問に答えなさい。
     (1)Yは、代位取得したBのAに対する売掛代金債権等を自働債権にして、AのYに対する預金債権と対当額で相殺することができるか。
     (2)Yは、Aに対する求償権を自働債権にして、AのYに対する預金債権と対当額で相殺することができるか。

  3. [L2]平成18年8月31日午前11時に、A社について破産手続開始の決定がなされた。これに先だって同年4月28日、Y銀行は、A社が同日から平成19年4月27日までの間にB社に対して負う買掛債務及び手形債務の元本について、Aの委託を受けることなく、Bから保証料を徴して、保証人になった。Bから通知を受けて、Yは、Bの保証債務履行請求の内容を精査の上、平成19年3月27日に、保証債務の履行として、AのBに対する800万円の債務の代位弁 済をした。これによりYはAに対し800万円の求償権を取得した(民法462条)。Aは、破産手続開始当時にY銀行に対して元本1000万円の預金債権を有していたので、Aの破産管財人Xは、この預金契約を解約して、Yに対して預金1000万円と利息の払戻しを求めたところ、Yが前記求償権との相殺の意思表示をした。Xは、この相殺は許されないと主張して、預金返還請求の訴えを提起した。
     上記の事例について、下記の問に答えなさい。
     (1)YのAに対する求償権の原因は何か。この求償権は破産債権になるか。
     (2)Yは、Aに対する求償権を自働債権にして、AのYに対する預金債権と対当額で相殺することができるか。


  4. [L3]Xは、YがAに負っている1500万円の債務について、連帯保証人になった。3年後にYについて破産手続開始の申立てがなされ、まもなくして開始決定が下された。破産手続開始当時におけるYのAに対する債務額は1000万円である。Aは、Yから債権の回収を図ることを諦め(Yの破産手続に参加することなく)、Xに保証債務の履行を求めている。ところで、Yは、Xに1000万円の代金債権を有していて、破産管財人がその履行を求めた。Xは保証債務をまだまったく履行していないが、適当な時点でXのYに対する求償権とYのXに対する代金債権とを相殺したいと考えている。これは可能か。いつの時点で可能になるか。(α)XがYの委託を受けた保証人である場合と、(β)委託を受けない保証人で、かつ、そのことをYがまったく知らされていない場合とに分けて、検討しなさい。

  5. [L1]YがXに対して100万円の代金債権(α債権)を有している。Yの財産状態が悪化し、支払が停止された。それを知ったXは、BがYに対して有する100万円の貸金債権(β債権)を20万円で買い受け、代金を支払うのと引き換えにBからY宛の債権譲渡通知書を受け取り、直ちに配達証明付き内容証明郵便で送った(この債権について譲渡禁止特約はない)。それから6月後に、Yについて破産手続開始の申立てがなされ、2週間後に開始決定が下された。破産管財人がXにα債権の支払を求めた。Xは、弁済期が到来しているβ債権と相殺すると主張した。この主張は、認められるか。


  6. [L1]X銀行は、Yに1000万円の貸金債権を有している。Yは、ある商品をAに1000万円で販売した。売買契約の中で、代金はX銀行にあるYの預金口座に振り込む方法で支払うことが合意されていた(この合意にX銀行は関与していない)。その後、Yについて破産手続が開始され、Zが破産管財人に選任された。(1)そのことを知らないAは、破産手続開始の翌日に代金1000万円をX銀行のYの預金口座に振り込んだ。ZがX銀行に預金の払戻しを求めたところ、X銀行は、貸金債権と相殺すると主張した。この主張は認められるか。(2)Aによる振込みが破産手続開始の前日になされていた場合はどうか。

  7. [L1a]Aは、Yに対して50万円の債務を負っている。Yについて破産手続開始の申立てがなされた後で、「お前がさっさと弁済しないから、俺が破産手続開始申立てを受けてしまったではないか!」と叫ぶYから強硬な取立てを受けた。Aは、Yの暴行により生じた傷の治療のために30万円の治療費を支出し、慰謝料60万円によって慰謝されるべき精神的損害を受けたと主張している。しかし、Yはこれを争い、Aの傷は、YがAの自宅から帰ろうとした時に、A自身の自傷行為により生じたものであると主張し、たとえYの取立行為が原因であるとしても、慰謝料額はそんなに多くないと争っている。その後、Yについて破産手続が開始された。破産管財人がAに50万円の支払を求めてきた。Aは、これを支払わなければならないか。Aは、自己の損害賠償請求権について、どうすべきか。

  8. [L1]ある年の9月15日に、A社は、Y社に納入した原材料の代金債権についてY社を振出人とする1億円の約束手形を受け取った(支払期は同年10月25日で、利息の約定なし)。その日の夜にA社の取締役であるPは、Y社に勤務する旧知のQから、内密の話として、Y社が支払不能の状況に陥っていることを知らされた。A社の取引先にB社があり、A社はB社から1億円の融資を受けていて、その弁済期も同年10月25日である。B社はY社から製品を購入する立場にあり、Y社の財産状況についてはあまり注意を払っておらず、Y社が支払不能の状況にあることを知らずにいる。A社は、B社がY社から1億円の商品を購入し、その代金債務の支払期も同年10月25日であることを9月16日に知った。

    Y社は、10月9日に支払停止をし、10月10日に自ら破産手続開始の申立てをした。10月20日に破産手続が開始された。次の2つのケースにおいて、Y社の破産管財人Xは、B社に対する商品代金債権1億円(又はその相当額)を回収することができるか。



  9. [L3・類題]不況が続くある年のことである。9月15日に、A社は、Y社に納入した原材料の代金債権についてY社を振出人とする1億円の約束手形を受け取った(支払期は同年10月25日で、利息の約定なし)。A社は、取引先のB社から1億円の商品を購入しており、その弁済期も同年10月25日である。B社はY社から製品を購入する立場にあり、B社の役員全員がY社の財産状況についてはあまり注意を払っておらず、決算書に記載された通りに健全な財務状況にあると思っている。A社の代表取締役Eは、B社がY社から1億円の商品を購入し、その代金債務の支払期も同年10月25日であることを聞かされていた。
      Y社は、10月1日に支払停止をした。10月8日に破産手続開始の申立てがなされた。次の4つのケースにおいて、Y社の破産管財人Xは、B社に対する商品代金債権1億円又はその相当額をB社又はA社から回収することができるか。



  10. [L1a]Xは、Yに建物の建築工事を注文した。建物が完成し、未払の工事代金10億円の弁済期が6か月後に迫っている。しかし、建築請負契約を締結したのがバブル期で、今考えると約定の工事代金額もずいぶん高かったし、完成間近の建物にもいろいろ不満があり、Xは、工事代金を3億円ほど減額させてやりたいと考えている。そんなとき、Yの取引先が倒産し、これに連鎖してYの資金繰りが非常に苦しくなり、弁済期にある大口の債務を支払うことができない状況に立ち至った。Yは、15日後に迫った7億円の手形の弁済資金の調達に苦慮し、Xに期限前の支払を依頼したが断られた。逆に、Xから、Xの商品を代金後払で売ってやるから、それをXが紹介するいくつかの業者に転売して資金を調達したらどうかと提案された。せっぱ詰まっていたYは、Xの提示する価格が少々高いことは認識していたが、信用力がない以上仕方ないと考え、それに応ずることにし、当該商品を10億円分購入した。しかし、売り急いだために、6億5000万円でしか売れなかった。こうした無理な資金調達をいくつか重ねて、Yの財務状態は一層悪化し、結局、破産手続が開始された。それは、XのYに対する債務の弁済期の日のことであった。破産管財人がXに対して10億円の代金の支払を求めたところ、Xは、売掛代金債権と相殺すると抗弁した。
     次の2つの問に答えなさい。なお、詐欺の点については検討しなくてもよい。
     (1)YがXから購入した商品の相場価格が、購入時点において10億円であった場合に、相殺は認められるか。

     (2)その価格が7億円であった場合はどうか。(XY間の売買について詐欺は成立しないものとする)


  11. [L3]X会社は、Y所有のビルを次の条件で賃借して営業を営んでいる:賃貸期間3年;賃料月100万円;保証金は賃料の10カ月分;保証金は、賃貸借契約が終了し、X会社が建物を明け渡した後で返還するものとし、保証金には利息を付さないものとする。Xが建物に入居してから2年後に、Yについて破産手続が開始された。
    (1) 破産管財人が賃貸ビルを売却する場合に、Xの保証金返還請求権はどうなるか。Xは保証金を回収することができるか。
    (2) Xがその建物の賃借を継続することを望んでいるとする。それにもかかわらず、破産管財人が賃貸借契約の解除を求めてきた場合に、Xはこれに応じなければならないか。
    (3) その建物での営業が芳しくなく、Xが賃貸借契約を解除して営業場所を他に移転しようと考えているとする。Xは、保証金を回収することができるか。回収するためにはどのようにしたらよいか。
    (4) 上記(3)の場合に、次のような事情があるときは、どうなるか:Xが賃借建物に入居すると、Yは直ちに将来の賃料3年分をZに譲渡し、債権譲渡の登記がなされた;Xは、そのことを知らないまま、従前どおり賃料をYに支払っていたが、Yについて破産手続が開始されると、すぐにZから債権譲渡の登記事項証明書を付して債権譲渡の通知書が送られてきて、通知書には、今後1年分の賃料はZにお払い下さいと記されていた。Xは、保証金を回収することができるか。回収するためにはどのようにしたらよいか。
  12. [L3] ある不況の年の6月初旬のことである。A会社は、そのp支店を通じて、B会社所有の賃貸用不動産を9億円の価値のあるものとして買い受けることにした。その不動産は、次の条件で10社に賃貸されていた:賃料月額50万円、管理費月額5万円;毎月25日に翌月分前払;保証金は賃料10ヶ月分。賃借人の中にY会社がいて、その経営状況が悪化し、5月分と6月分の賃料を滞納していた。B社はY社に対して未払賃料の催告をしているが、しかし、保証金にゆとりがあるので、B社はまだ契約を解除していない。A社がY会社に今後の賃料支払の見通しを問い合わせると、複数の債権者への弁済を滞っている状態であるが、C社に販売した商品の代金がもうじき支払われるので、それが入金されれば一気に資金繰りが好転して支払が可能になると言われた。A社は、それを信用することにし、その不動産を賃借権の負担付きで購入することにした。代金額は、上記9億円から保証金総額5000万円を差し引いた8億5000万円にY社に対する未収賃料債権100万円を加えた8億5100万円と決定された。売買契約書を作成して調印する前日に、C社の倒産が報道され、Y社に多額の損失が生ずるであろうとの報道がなされた。A社内でこの売買契約の締結のリスクを検討したが、万一にもY社について破産手続が開始されたとしても保証金に余裕があり、また、倒産手続が開始される方が不動産の明渡しがスムーズにいくであろうと判断された。ただ、Y社の今後の賃料債務についてはB社に債務保証を行わせるべきであるとの結論が出された。翌日(6月10日)に、代金額を上記のように定めた売買契約書が調印されるとともに、Y社の7月分以降1年間の賃料債務をB社が保証する旨の保証契約書が作成され、さらに、賃貸人の地位をA社がB社から承継し、敷金500万円の返還債務をA社が引き受け(対外的には併存的に引き受け、対内的にはB社の負担部分をゼロとし)、未収賃料債権についてはB社がA社に譲渡する旨の合意書を作成され、この債務引受け及び債権譲渡の合意内容が即日Y社に内容証明郵便で通知された。予期されたように、7月10日にY会社は支払停止を表明するとともに、翌日に破産手続開始申立てをし、8月1日に破産手続開始決定を受けた。ところで、A会社のq支店は、Y会社に対して4月にある商品を販売していて、その売掛代金債権200万円を有していた。

    (1)破産手続開始後・賃貸借契約終了までの賃料債権は、どのように扱われるか。
    (2)破産管財人が本件不動産を管財業務を行うために6ヶ月ほど賃貸借契約を継続したいと言ってきた。A社は、破産手続開始前の未払賃料の存在を理由に、破産管財人に対して賃貸借契約の解除の意思表示をして、即時明渡を求めることができるか。
    (3)A社は、p支店を通じて負った前記1000万円の保証金返還債務とq支店を通じて取得した200万円の破産債権とを対当額で相殺することができるか。

破産管財人

  1. [L1]大阪に住所を有する一人暮らしの男(56歳)について破産手続が開始された。(a)破産者宛てに、釧路市市役所から固定資産税の支払請求に関する郵便物が発送された。破産管財人は、この郵便物を入手して、開封して読むことができるか。(b)破産者と同姓のミュンヘン市在住の女性からの外国郵便物(封書)はどうか。



  2. [L2]Aが長年にわたって代表取締役を務めているY株式会社について破産手続が開始され、Vが破産管財人に選任された。
    (1) Aは、破産手続開始申立てがなされる前に、決済期日の迫っているY社振出の約束手形の弁済資金5000万円の融資を長年の取引先であるP会社に依頼した。P会社は、自らも資金繰りが苦しかったために、これを断った。しかし、Aがあまりにも懇願するので、P社の代表取締役であるQは、やむを得ず、「5000万円の手形を振り出すから、これで何とか資金を調達してくれ。ただし、弁済期までには必ずその手形を当社に戻してくれ」と述べて、その旨の念書を作成の上、P社を振出人、Y社を受取人とする約束手形を振り出した。Aは、これを金融機関に持ち込んで割引を依頼したが、P社の経営状況を把握していないこと等を理由に断られた。Y社は、結局、支払不能に陥り、破産手続開始決定を受けてしまった。Vは、P社に対して、P社振出の約束手形の支払を請求することができるか。

    (2) Y社は、破産手続開始の5年前に、その所有地をRに建物所有目的で賃貸した。6か月後にRは、その土地に建物を建築したが、その建物について登記(表示の登記及び所有権保存登記)がなされることはなかった。Y社について破産手続開始の申立てがなされたことを知ったRは、破産手続開始の翌日に建物の登記の申請をし、その登記を得た。その土地を更地にして売却しようと考えているVは、Rに対して、建物収去土地明渡しを請求することができるか。

    (3) Aは、友人のSから、「債権者から住宅を差し押さえられそうだ。Y社で不動産を買い取ったことにして、私が賃借人として居住し続けることができるようにしてくれないか」と頼まれた。そこで、市場価格7000万円の住宅について売買価格を5000万円とする売買契約書、代金相当額について、Sを貸主・Y社を借主とし、利率を年6%とする消費貸借契約書、その住宅についてY社を賃貸人としSを賃借人とし賃料を月額25万円とする賃貸借契約書、ならびに、前記消費貸借契約の利息と賃料とを相殺し、固定資産税等の公租公課ならびに本件不動産の管理に関する一切の費用はSの負担とする旨の合意書が作成され、SからY社への所有権移転登記が経由された。破産手続開始申立ての1年6か月前のことであった。破産手続開始後に、Sが上記の事情を明らかにし、所有権移転の効力は生じていないと主張して、所有権移転登記の抹消を求めてきた。Vは、Aに確認を求めた結果、Sの主張が真実に合致していると判断した。Vは、Sの要求に応じなければならないか。


  3. [L3]Yについて破産手続が開始された。Yは、破産手続開始前に、下記のように各不動産に各利用権を設定していた。破産管財人Vは、これらの利用権を否定して、各不動産を利用権の負担のない状態で換価したいと考えている。Vは、各利用権者に対して地上建物を収去して不動産の明渡しを求めることができるか。各利用権者は、もし利用権が否定され、不動産を明け渡さざるを得ないのであれば、これにより生ずる損害ないし損失の回復を得たいと考えている。損害ないし損失の回復を求める権利は、破産手続上どのように扱われるか。
    (1)Yの子であるAは、Y所有地を30年間無償で借りる契約(使用貸借契約)を結び、その土地上に住宅を建築し、ただちに所有権保存登記をした。破産手続開始時点において、この使用貸借契約の残存期間は25年であり、建物自体の評価額は1000万円である。

    (2)Bは、Y所有地を期間30年、権利金1500万円、毎年の借地料50万円の約定で賃借した。彼は、契約後すみやかに住宅を建築し、ただちに所有権保存登記をした。破産手続開始時点において、この賃貸借契約の残存期間は25年であり、建物自体の評価額は2000万円である。なお、賃貸借期間の満了したときに、賃貸借を同一の条件で更新するときには、その時点における適正地代の30年分を支払うことが約定されており、その点からこの権利金は賃料の一部前払の性質を有すると判断されるものとする。

    (3)Cは、Y所有地を一時使用のために、期間7年、毎年の借地料は50万円、7年分の賃料全額前払の約定で賃借した。彼は、7年分の賃料350万円を前払して契約した後、すみやかに建物を建築し、ただちに所有権保存登記をした。破産手続開始時点において、この賃貸借契約の残存期間は5年であり、建物自体の評価額は500万円である。なお、この土地賃借権は、借地借家法25条の適用のある一時使用目的の借地権であるとする。

    (4)Dは、(2)のBと同様な条件で土地を賃借し、建物を建築したが、建物の登記をしていなかった。Yについて破産手続が開始されたことを知って、あわてて建物の登記をした。その他の状況は、(2)の場合と同じである。

    (5)Eは、Yと地上権設定契約を締結した。地上権設定の対価は1500万円、毎年の地代50万円である。彼は、地上権の設定を受けた後すみやかに住宅を建築した。しかし、建物の登記も地上権設定登記もなされなかった。Yについて破産手続が開始されたことを知って、あわててYの協力を得て地上権設定登記を経由した。破産手続開始時点において、この地上権の残存期間は25年であり、建物自体の評価額は2000万円である。なお、地上権設定の対価は、地代の一部前払の性質を有すると評価できるものとする。


  4. [L3・類題]次の各場合に、破産管財人Vは、建物所有者に建物収去土地明渡を請求することができるか。請求できるとした場合に、建物所有者は、どのような損失についてどのような請求をすることができるか。特に、建物収去によって生ずる損害の賠償請求の可否について論じなさない。
     a.土地所有者AがBに建物所有目的で賃貸借の登記をすることなく土地を賃貸し、Bが地上建物を建築したが、建物について登記をすることなく1年を経過した後でAについて破産手続が開始され、Vが破産管財人に選任された場合。
     b.土地所有者AがBに建物所有目的で賃貸借の登記をすることなく土地を賃貸し、Bが地上建物を建築したが、建物について登記をすることなく1年を経過した後でAが土地をCに譲渡し、その所有権移転登記がなされた後でCについて破産手続が開始され、Vが破産管財人に選任された場合。
     c.土地所有者AがBのために建物所有目的の地上権を設定した(期間30年、地代の支払なし、地上権設定の対価3000万円、地上権設定登記はしない)。Bが地上権設定の対価を支払って、土地の引渡を受け、建物を建築した。しかし、地上権設定の時から1年後に、Bが建物の登記をする前に、Aについて破産手続が開始され、Vが破産管財人に選任された場合。
     d.土地所有者AがBと建物所有目的で土地の使用貸借契約を締結し、Bが地上建物を建築したが、建物について登記をすることなく1年を経過した後でAについて破産手続が開始され、Vが破産管財人に選任された場合?
    e.Aがその所有地をBに売却する契約をBと締結した。Bが代金の一部である3000万円を支払って土地の引渡を受け、建物を建築した。Bは、残金1000万円を提供して所有権移転登記手続に協力することを求めたが、Aは、残金は2000万円であると主張して、これに応ぜず、むしろ建物収去・土地明渡を求めてきた。その紛争がこじれているうちに、Aについて破産手続が開始され、Vが破産管財人に選任された場合。

破産債権

  1. [L1]Xは、その所有地をY会社に建物所有の目的で賃貸したが、Y会社が賃料を支払わないので、賃貸借契約を解除した。その直後にY社について破産手続が開始された。Xは、次の権利をどのように行使すべきか。
    1. Yが所有する建物を収去して賃貸土地の明渡しを求める請求権。
    2. 破産手続の開始までの未払賃料および不法占拠を理由とする損害賠償請求権。
    3. 破産手続開始後の不法占拠を理由とする損害賠償請求権。


  2. [L1]Xは、Y会社に長年勤務していた。毎月の給料額は、50万円である。Y社の経営が思わしくなく、退職させられた。その翌日にY社について破産手続が開始された。Xは、1000万円の退職金債権を有している。Xは、退職金債権をどのように行使したらよいか。なお、金額は、いずれも、税金や社会保険料を控除する前の金額であるとする。また、独立行政法人・労働者健康福祉機構が実施する賃金立替払制度には言及しなくてよい。



  3. [L1]小豆1トンの売買契約が締結され、買主が代金を支払った。売主が小豆の引渡しの準備をする前に売主が破産した。買主は、どうしたらよいか。破産管財人に小豆の引渡しを請求できるかについても言及すること。



  4. [L1]XがYに1000万円を貸し付け、ZがYの委託を受けてこの債務について連帯保証人となった。弁済期が到来したのにYが支払をしないので、ZはXの要求に押され100万円支払った。1週間後に、Yについて破産手続が開始された。その1週間後に、ZはXにさらに300万円支払った。これからXは、破産債権の届出をしようと思う。XがYの破産手続において行使できる破産債権額はいくらか。Zは、Yの破産手続に参加することができるか。



  5. [L1・類題]ある年の2月1日にXがYに3000万円を貸し付け、ZがYの委託を受けてこの債務について連帯保証人となった。Yの財産状況は3月3日までは良好であった。ところが、3月4日に発生した大災害により、Yは、多くの資産を失なった。そのため、Yは、Xに対する債務の弁済期(同年7月31日)が到来しても、弁済できなかった。XがZに保証債務の履行を求め、同年8月8日に、Zは500万円を支払った。同年8月10日に、Yが自己破産の申立てをし、8月21日に破産手続が開始された。その1週間後に、ZはXにさらに300万円を支払った。 なお、ZY間の保証委託契約においては、民法460条(事前求償権)の適用を排除する特約が合意されているものとする。
    1. これからXは、破産債権の届出をしようと思う。XがYの破産手続において行使できる破産債権額はいくらか。Zはどうか。
    2. Xが破産債権の届出をしない場合に、Zは、どれだけの金額でもって破産手続に参加することができるか。 配当手続への参加については、どうか。
    3. YがZに対して2000万円の債権を有している場合に、その弁済期である同年10月31日に破産管財人から支払を求められたZは、Yに対する求償権でもって相殺することができるか。最後配当の公告は、翌年10月31日になされる予定であるとする。Xが破産手続に参加していない場合について答えなさい。


  6. [L1]Xは、友人Yに100万円を貸した。長年の友情により、無利子である。弁済期まであと1年半の時点で、Yについて破産手続が開始された。Xがこの債権を破産債権として行使する場合に、劣後的部分とそうでない部分とは、それぞれいくらか(金額は、計算式を示すだけでよい)。



  7. [L2]XがYに対して7000万円の債権を有している。その債権の担保のために、Aが所有する不動産に抵当権が設定された。Yが破産手続開始決定を受けた。Aがその不動産をBに譲渡した。Xの抵当権の放棄と引換えに、BがXに3000万円を弁済した。Yの破産手続において、Xが行使できる破産債権額はいくらか。Bは、この破産手続に参加することができるか。



  8. [L2](1)Xは、水道供給事業者である。Xの顧客である個人商人Aは、建物の1階でスボーツ用品販売店を営み、2階・3階部分を住宅として使用していた。そのAが水道料金をある年の1月分から滞納し、同年5月15日に破産手続開始申立てをし、6月3日に破産手続開始決定を受けた。XのAに対する水道料金債権は、優先的破産債権となるか。なお、破産手続開始の申立てがなされた時点でAら家族は他に転居し、破産管財人は就任後直ちに水道供給契約を解除したものとする。
    (2)上記の場合に、AがB株式会社を設立して、B株式会社の名前でスボーツ用品販売店を営み、水道事業者との給水契約の当事者がB株式会社である場合は、どうか。

    なお、いずれの小問についても、破産法55条には言及しなくてもよい。


  9. [L2] Gは、Sとの消費貸借契約に基づき、2口の債権を有している。1つは債権額100万円の債権で、他は200万円の債権である(前者を「α債権」あるいはSから見て「α債務」といい、後者を「β債権」あるいは「β債務」という)。Zは、Sの委託を受けて、これら債務について連帯保証人になった。Sについて破産手続が開始されたが、その前日における債権額は利息・遅延損害金を含めて上記の通りであったとする。破産手続開始の前日にZは、α債権についてのみ保証債務を完済することができた。
     破産手続における配当率が10%であると仮定して、下記の小問に答えなさい(G又はZが破産配当により受領する金額も明示しなさい)。なお、Zがα債権について保証債務を履行したことによるSに対する求償権について、履行日の法定利息(民法459条2項・442条2項参照)は無視しうるものとする。

     (小問1)GがSの破産手続に参加しない場合に、ZはSに対する求償権をもってSの破産手続に参加することができるか。できるとすれば、どのような債権をもって破産手続に参加し、どのような配当を得ることができるか。

     (小問2)GがSの破産手続に参加する場合に、Gはどのような債権をもって破産手続に参加することができるか。また、Gが参加した場合に、Zは破産手続に参加することができるか;できるとすれば、どのような債権をもって破産手続に参加することができるか。GとZは、どのような配当を得ることができるか。
  10. [L2b] 2001年4月1日にGがSに1000万円を貸し付けた。利息は、毎年3月31日に年5%の割合で支払い、元本は2006年3月31日に返済することが約定された(2006年3月31日に、元本1000万円及び最後の1年分の利息50万円が支払われるものとする)。Sの委託を受けたZが連帯保証人になった。
     次の小問に回答しなさい。なお、採点の都合があるので、劣後的破産債権については言及しなくてもよい。

     (ケースA)財産状況が悪化したSは2003年3月24日(月)に破産手続開始申立てを受け、このため消費貸借契約の約定に基づき期限の利益を喪失した。Sは、元本はもちろん、2002年3月31日に支払うべき利息も支払うことができないまま、2003年4月1日(火)に破産手続開始決定を受けた。Zの財産状況は良好とは言えないが、まだ破産手続開始決定を受けるほどではない。Sの破産手続開始の直前の2003年3月31日にZが利息(この日までの利息である。以下同じ)の外に元本の一部200万を返済し、さらに、破産手続中の2004年3月31日に利息の外に元本300万円をGに支払った。その後でSの破産手続において最後配当がなされるものとする。
     (小問A1)Zは破産手続に参加することができるか。できるとすれば、どのような債権をもって破産手続に参加することができるか。
     (小問A2)Gはどのような債権をもって破産手続に参加することができるか。Gはどの金額を基準にして配当を受けることになるか。
     (ケースB)Sの財産状況は良好であり、2002年3月31日に約定の利息を支払った。しかし、Zの財産状況が悪化したので、Gの要請により、2003年3月31日にSが利息の外に元本の一部200万を繰上返済した。その翌日の2003年4月1日(月)にZについて破産手続が開始された。2004年3月31日にSが弁済期到来済みの利息の外に、Gの要請により元本の一部300万円を繰上返済し、その後でZの破産手続において最後配当がなされるものとする。
     (小問B1)SはZの破産手続に参加することができるか。できるとすれば、どのような債権をもって破産手続に参加することができるか。
     (小問B2)Gはどのような債権をもって破産手続に参加することができるか。Gはどの金額を基準にして配当を受けることになるか。


  11. [L2b] 2017年4月1日にGは、SとTに機械を1000万円で売却し、SとTは、代金債務について連帯債務者となった(連帯債務の負担割合は等しいものとする)。代金の弁済期は同年6月30日(金)とされ、利息の約定はなされなかった。
     次の小問に回答しなさい。なお、採点の都合があるので、劣後的破産債権については言及しなくてもよい。

     (ケースA)Tは、同年6月30日午前10時に500万円を支払った。しかし、財産状況が悪化したSは、Gに何の支払もすることなく、同年6月30日午後3時に破産手続開始決定を受けた。Tは、さらに、Sの破産手続中の同年7月31日に200万円を支払った。Sの破産手続における最後配当の公告および配当は、2018年6月になされるものとする。
     (小問A1)TはSの破産手続に参加することができるか。できるとすれば、どのような債権をもって破産手続に参加することができるか。
     (小問A2)Gはどのような債権をもって破産手続に参加することができるか。Gはどの金額を基準にして配当を受けることになるか。
     (ケースB)Tは、2017年6月30日午前10時に300万円を支払った。しかし、財産状況が悪化したSは、Gに何の支払もすることなく、同年6月30日午後3時に破産手続開始決定を受けた。Tは、さらに、Sの破産手続中の同年7月31日に200万円を支払った。Sの破産手続において配当がなされる前の2018年7月13日(金)に、Tについて破産手続が開始された。、Tの破産破産手続は迅速に進行し、同年12月に最後配当の公告がなされ、1割配当がなされた。Sの破産手続における最後配当の公告および配当は、2018年6月になされるものとする。
     (小問B1)Gは、Sの破産手続とTの破産手続に各々いくらの金額で参加することができるか。
     (小問B2)T又はTの破産管財人は、Sの破産手続に参加することができるか。できるとすれば、どのような債権をもって破産手続に参加し、Tの破産管財人はどの金額を基準にして配当を受けることになるか。

財団債権

  1. [L1]Xは、Yに対して2000万円の売掛代金債権を有している。ある年の9月下旬に、債権者Xは、債務者Yについて破産手続の開始を申し立てた。申立手数料として2万円(民訴費用法別表第1第12項)、各種費用の予納金(22条)として250万円を裁判所に納付した。同年10月上旬に破産手続開始決定が下された。Xが前記2000万円の債権を届け出た後で、Aが1000万円の貸金債権(AがYに開始決定の1年前に貸し付けたことにより生じた債権)を届け出た。B税務署長が所得税の未納額100万円(開始決定がなされた年の3月が納期限であるもの)を破産管財人に主張している。
    (1)Xが納付した金銭総計252万円は、破産財団から償還してもらえるか。その方法はどうなるか。
    (2)Xの252万円の償還請求権とXの2000万円の債権とAの1000万円の債権との順位関係はどうなるか。
    (3)Bの租税債権は、破産債権として届け出ることは必要か。破産管財人がBの租税債権とXの252万円の償還請求権との順位関係はどうか。



  2. [L1]債務者Aは、B市内に不動産を10年前から所有している。その固定資産税の課税標準時は毎年1月1日であり、税額は、ここ5年ほど同じで、年40万円である。B市の固定資産税は、4期に均等割して分納され、各期の納期限は、毎年5月・7月・9月・12月の末日である(Aは、毎年、各納付時期に10万円を納付しなければならない)。Aについて破産手続の開始が申し立てられた。包括的禁止命令が発せられることなく、審理が進められ、[X]年6月15日に破産手続開始決定がなされた。Aは、[X−3]年の第1期分から固定資産税を納付することができない状況が続いているが、滞納処分を受けることなく現在に至っている。この不動産にはあまり善良とは言えない賃借人がいる。破産管財人は、不動産の明渡しを得てから売却する予定であり、換価に至るまでに2年程度の時間がかかる見込みである。
      この不動産に対する固定資産税の支払は、どのようになるか。(a)破産手続開始前に原因のあるものと、(b)破産手続開始後に原因のあるものとに分け、前者については、(a1)破産手続開始当時において納期限が到来してから1年を経過しているものと、(a2)1年を経過していないものとに分けて説明しなさい。


否認権

  1. [L1]Xは、Yに対して請負代金債権を有している。Yの別の債権者がYについて破産手続開始の申立てをした。その日の深夜にこれを知ったXは、翌早朝、急いでYの所に行き、Yの倉庫にある商品による代物弁済を求め、Yにこれを承諾させた。Xは、商品をトラックに載せて、運び去った。午前中にすべてが完了した。財産の処分禁止及び既存債務の弁済禁止を内容とする保全処分命令(28条)が出されたのは、その日の15時であった。それから2週間後にYについて破産手続が開始され、Zが破産管財人に選任された。Zは、Xに対して何を主張できるか。



  2. [L1]Xは、Yに対して請負代金債権を有している。Yの別の債権者がYについて破産手続開始の申立てをした。Xは、翌早朝、急いでYの所に行き、Yの倉庫にある商品による代物弁済を求め、Yにこれを承諾させた。Xは、商品をトラックに載せて、運び去った。午前中にすべてが完了した。財産の処分禁止及び既存債務の弁済禁止を内容とする保全処分命令(28条)が出されたのは、その日の15時であった。それから2週間後にYについて破産手続が開始され、Zが破産管財人に選任された。破産管財人は、上記の事実経過を証明することができるものとする。Zは、Xに対して何を主張できるか。



  3. [L1]2011年6月15日(水)10時に、債務者Y(自営業者)についてその債権者Pが破産手続開始の申立てをした。翌日の15時に、財産の処分禁止及び既存債務の弁済禁止を内容とする保全処分命令(28条)が出された。6月29日13時に破産手続開始決定がなされ、Zが破産管財人に選任された。破産管財人は、次の場合に、Yの行為を否認することができるか。
    1. Aは、Yに対して6月1日を弁済期とする請負代金債権を有している。Pによる破産手続開始の申立ての翌日の早朝7時にYの所に行き、Yの倉庫にある商品による代物弁済を求め、Yにこれを承諾させた。Xは、商品をトラックに載せて運び去った。午前中にすべてが完了した。
    2. 6月15日15時に、BはYから市場価値200万円の品物を180万円で買ってくれと頼まれた。Bは、PからYについて破産手続開始申立てをしたことを知らされていたので、返事を渋っていると、30分もしないうちに、売値の180万円が100万円になり20万円になった。Bは、その日の16時に、Yに現金20万円を渡して、Yからその品物の引渡しを受けた。
    3. Cは、Yに対して6月1日を弁済期とする貸金債権100万円を有している。6月15日18時にY宅に赴き、債務の弁済を強く迫った。YはBから受領した現金20万円の内から10万円を支払って、やっとCに帰ってもらった。

    なお、破産管財人は、上記の文中に述べられた事実は、容易に証明できるものとし、その他の事実については、証明できるかどうかは分からないものとする。

  4. [L1]大阪市内に居住するXは、吹田市内に居住するYの兄であり、Yに対して請負代金債権800万円を有している。履行期が過ぎていた。Yが自己破産の申立てをした。翌日にYが銀行振込みの方法で、Xに債務の全額を弁済した。間もなくして、Yについて破産手続が開始され、Zが破産管財人に選任された。Zが、前記弁済金の返還を求めて否認の請求をし、これを認容する決定が下され、Xが異議の訴えを提起した。その訴訟で、XがYの破産申立てを知っていたかどうかが争点となった。裁判所が証拠調べをしたが、この点について確信をもつことができなかった。どうなるか。



  5. [L1]Xは、Yに対して請負代金債権を有している。Xは、注文通りに建物を完成させたと考えている。しかし、Yが工事に欠陥があると主張して、代金を支払わないので、Xは、Yに対して請負代金支払請求の訴えを提起した。請求認容判決が確定した。しかし、Yが欠陥工事により生じた損害の賠償請求権と相殺するなどと主張して、代金の大部分を支払わないので、Xは、Yの不動産について強制競売の申立てをした。競売手続の途中で、Yの別の債権者AがYについて破産手続開始を申し立てた。それを知ってXはあわてたが、幸いと競売手続は順調に進み、破産手続開始申立てがあった日の1週間後に配当金を受領した。それから2週間後に、Yについて破産手続を開始する決定が下され、Zが破産管財人に選任された。Zは、前記配当金の返還をXに求めることができるか。なお、執行手続中止命令や包括的禁止命令は、発せられていなかったものとする。



  6. [L1]2005年6月6日に、Yは債務の弁済ができなくなって重要書類をもって夜逃げをした。1週間後の6月13日に、債権者XがYを見つけだして、金銭貸付の時に約束していたYの別荘を代物弁済として譲渡することを要求し、Yから所有権移転登記に必要な書類を得た。Xは、翌日に登記申請をして。登記を得た(仮登記はなされていなかったものとする)。翌年にYの別の債権者AがYについて破産手続の開始を申し立て、申立てから3週間後に破産手続が開始された。次の2つの場合に、破産管財人Zは、前記代物弁済を否認することができるかを、証明責任の点に注意しながら説明しなさい。
    (a)破産手続開始申立てが2006年6月1日(木)になされ、6月22日に開始決定がなされた場合
    (b)破産手続開始申立てが2006年7月6日(木)になされ、7月27日に開始決定がなされた場合



  7. [L1]2005年5月初旬に、Yは債務の弁済ができなくなって重要書類をもって夜逃げをした。翌週、債権者XがYを見つけだして、Yの別荘を代物弁済として譲渡することを求めた。Yはこれに渋々応じた。2005年8月に、Yについて破産手続が開始された。破産管財人Zは、前記代物弁済の事実をYからすぐに聞いて、交渉で解決しようとしたが、だめであった。Zは、2007年12月に否認の請求をした(174条)。請求は認められるか。



  8. [L3]Gは、Sに対して1億円の債権を有している。Gは、Sがまだ支払停止をしていないが実のところ支払不能の状態にあることを知り、S所有の時価1億円の不動産から債権を回収することにした。次の2つの方法で債権を回収した場合に、売買契約から1年半が経過してからSに対する破産手続開始の申立てがなされ、その申立てに基づき破産手続が開始されたときに、Gは債権回収の結果を維持できるか。
    (1)その不動産により代物弁済を受ける方法
    (2)Gがその不動産をSから1億円で買い受ける売買契約を締結し、その代金債務とGのSに対する債権とを相殺する方法。


    ヒント:162条・71条(特に1項2号・2項3号)。166条の適用要件を充足しないことにも言及しておくことが望ましい。
    メモ:[L2]の問題とすべきか[L3]の問題とすべきか迷ったが、小問(2)については、破産管財人がGS間の不動産売買契約を否認することができるかが問題となり、162条の規定の趣旨との関係で相応の議論が必要になると判断して[L3]にした。

  9. [L3・類題] Gは、Sに対して1億円の債権(α債権)を有している(期限到来済みである)。SはDに対して1億円の債権(β債権)を有している(期限は、下記のSの破産手続開始時よりも後である)。Gは、Sがまだ支払停止をしていないが実のところ支払不能の状態にあることを知り、Sのβ債権から自己のα債権を回収することにした。下記の3つの方法で債権を回収した場合に、下記のかっこ内に示した措置がとられた時から1年半後の申立てに基づき開始されたSの破産手続において、Gは債権回収の結果を維持できるか。

     (1)β債権をもって代物弁済する方法(代物弁済契約に基づく債権移転の対抗要件としての通知をSからDにするとの措置)

     (2)Gがβ債権をSから1億円で買い受ける売買契約を締結し、その代金債務とα債権とを相殺する方法(売買契約に基づく債権移転の対抗要件としての通知をSからDにするとの措置)。

     (3)GがDとの間でβ債権について併存的債務引受契約を締結し、その債務とα債権とを相殺し、β債権の消滅費用の償還としてDから1億円を受領する方法(債務引受契約を締結して、その旨の通知をSにするとの措置)。


    ヒント:結果に違いがあるのであれば、その当否も論ずること。前の問題のヒントも参照。

  10. [L3]A銀行は、取引先であるB会社と提携して、B会社の社員のために無担保の住宅ローンを始めることにした。そのローンの利用に当たっては、原則として、B会社の社員がA銀行に預金口座を開設し、その預金口座を給与の振込用口座とすることが必要であり、かつ、社員の退職金はその口座に振り込む方法で支払うことが特に合意されていた。ただ、A銀行に開設された預金口座を給与の振込口座とすることができない場合には、社員がA銀行に支払うべき割賦金は、社員の委託に基づきB社がA銀行に支払い、社員が退職する場合には、B社はその旨をA銀行に通知し、A銀行は住宅ローンの未弁済額を計算して退職金の手取額の1/4の範囲で繰上げ弁済を社員に請求することができ、社員は退職金からその弁済をすることをB社に予め委託しておくものとされた。
     (1) B社の社員Pがこの制度を利用してA銀行に給与振込用の口座を開設して、2000万円を借り受けた。しかし、5年後に、住宅ローンの残元本額が1200万円まで減少した時点で、Pは、自己破産の申立てをせざるを得なくなり、破産手続開始申立ての翌日に退職し、A銀行にもその旨(破産手続開始申立てをしたことに伴い退職する旨)を通知した。B社は、破産手続開始の前日に退職金1200万円を給与振込用の口座に振り込んだ。破産管財人がA銀行にこの1200万円の預金の払戻しを請求したところ、住宅ローンの残債権1200万円と相殺すると主張した。破産管財人は、1200万円の払戻しを受けることができるか。
     (2) B社の社員QはC銀行に給与振込用の口座を開設していて、それを変更することはできないので、弁済委託の方法を選択し、毎月の給料ならびに退職金から所定の弁済金をA銀行に支払うことをB社に委託し、これを受けてA銀行はQに融資を実行した。しかし、5年後に、住宅ローンの残元本額が1200万円まで減少した時点で、自己破産の申立てをせざるを得なくなり、破産手続開始申立ての翌日に退職し、A銀行にもその旨(破産手続開始申立てをしたことに伴い退職する旨)を通知した。B社は、Qに支払うべき退職金からQがA銀行に支払うべき金額300万円をQに委託に基づきA銀行に支払ったが、それはたまたま破産手続開始の前日のことであった。破産管財人は、A銀行にこの300万円の返還を請求できるか。

免責

  1. [L1]Xは、友人の保証人になり、その保証債務800万円の支払に追われているうちに、勤務先の会社が倒産し、収入が激減し、生活が極めて苦しくなった。数社のクレジットカードを利用して、当座をしのいだが、妻の出産のために、2月8日に金融業を営むA社から50万円借りた。しかし、このままでは展望が開けないので、2月22日に破産手続開始の申立をした。Xは、裁判所に債権者一覧表を提出したが(20条2項)、それにA社の名前・債権額等を記載しなかった。A社は、Xの破産に気が付かなかった。免責許可決定が確定した。免責の効力は、A社に及ぶか。



  2. [L1]ある年の2月8日にGがSに200万円貸し付け、Hが連帯保証人になった。その年の12月8日にSが自己破産の申立てをし、裁判所は、破産手続開始決定と同時に破産手続を廃止した。まもなくして免責許可決定が確定した。GはHに保証債務の履行を請求できるか。



  3.  28才のサラリーマンAは、ある年の1月に友人Bに頼まれて、Bがサラ金業者から300万円を借りるにあたって、その保証人となった。Aは4月に家族とトライブするために、300万円の自動車をローンで買った(そのうち頭金として50万円を現金で支払った)。その直後にBがサラ金債務を返済しないため、Aがそれを無理に弁済させられた。Aは直ちに自分の自動車ローンの返済が困難になり、その返済資金のために自分もサラ金業者数社から借りるjようになった。しかし高金利のため返済が困難とな借替えを繰り返すうちに債務が雪だるま式に増えた。通常の仕方では債務
    を完済できないAは翌年の4月に、一獲千金を夢見て、サラ金から毎回10万円を借りて、5回ギャンブルをしてみたが、5回とも失敗した(ギャンブルに費やしたのは、合計50万円である)。Aは弁護士に相談した結果、5月に自己破産の申立てをすることにした。
     下記の小問に答えなさい。なお、小問(6)と小問(7)(8)とは独立とする。
     (1)個人の破産手続開始原因は何か。それは、株式会社の破産手続開始原因とどう違うか。
     (2)Aにはローンで買った自動車と退職金債権以外にはめぼしい財産が。自動車は販売業者に所有権が留保されており、残代金と清算すると、余剰価値はない。Aが今退職すると、60万円の退職金を受け取ることができる。裁判所は、破産手続開始決定をする際に、同時廃止決定をすべきか。同時廃止とは何か。
     (3)Aについて破産手続開始決定がなされた。Aの退職金債権は、破産財団に属するか。属するとして、それは全額か。破産財団とは何かも説明しなさい。
     (4)自動車の売主は自動車に対して、破産法上どのような権利を有するか。
     (5)サラ金業者の一人が、破産手続中にに債務の返済を迫る電話をしできた。Aは、法律上どのように応答するごとができるか。
     (6)Aは、免責許可の決定がなされることを望んでいる。Aは、破産手続開始決定が確定した後に免責許可の申立てをする必要があるか。裁判所は、どのような理由でどのような内容の決定をすべきか。下記の小問(7)(8)とは無関係に、自分の判断を述べなさい。
     (7)免責許可決定が確定したとして、この決定により、Aの債務はどうなるか。Aは、友人Cから破産手続開始決定前に10万円を借りていたが、これを債権者一覧表に記載していなかった。この債務はどうなるか。
     (8)Aは、知人Dから50万円を借りていて、これは債権者一覧表に記載していた。Aの兄Eは、Dの親友である。Eは、弟のAに、Dの債務だけは破産手続開始後に働いて弁済するように迫ったが、Aは拒んだ。Eは、弟の不始末をわびながら、Dに50万円を返済した。Aについて免責許可決定が確定したとして、Dは、この50万円について、Aに支払を求めることができか。

  4. [L1a]Sは、きまじめではあるが、幾分短気な性格であった。仕事がうまくいかないときに、気晴らしにギャンブルをして儲けた。自分にギャンブルの才能があることを感じた。しかし、所詮は胴元が儲けるようになっている。Sは、自己の才能の証明のためにギャンブルを続け、死んだ親が残してくれた金を使い果たした。金融業者から借金をして、またギャンブルを続けた。借金だらけになった。それでもギャンブルを続けた。4歳の子供が風邪をこじらせて肺炎になった日にも、病院に連れていく金を稼いでくると言って競馬場に行き、また負けた。その日に子供は死んだ。失ってはいけないものを失って、やっと自分の愚かさを自覚した。人生をやり直そうと思い、破産手続の開始を申し立てた。Sは、申立書に上記の事実も正直に書くと共に、「これから真人間になって働きます」と書いた。債権者である金融業者から、「ギャンブルをして多額の債務を負ったのであるから免責を不許可にすべきである」との意見が出された。免責は認められるか。



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Last Updated: 2000年1月12日−2005年6月1日−2019年7月5日