講義要項(2008年度春学期−LS)

倒産処理法T(破産法)

関西大学法学部教授 栗田 隆


科目内容・講義概要

 債務者が支払不能ないし債務超過の状態にある場合に、その財産に対する包括的な執行ないし清算手続として、破産手続が開始される。破産手続を規律する破産法の基本的事項をスライドと口頭での説明を中心にして講義する。

授業方法

 講義の順番の設定の仕方はいろいろ考えられるが、私の講義は、法律の体系に従うことを基本としている。学生諸君が条文を丁寧に何度も読み返す上では、できるだけ法律の体系通りに講義するのがよいと思われるからである。ただし、スピードアップのために若干の前後がある。講義はスライドを中心に進めるが、時間の関係で主要な項目を重点的に取り上げるにとどまることになる。昨年度の経験に鑑み、教科書は、特に指定することはしないが、適当な体系書を各自が選定して、1冊読んでおくこと。

 判例を素材に小テスト(20分ほど)を1回と、レポート提出の課題を2回出す予定である。司法試験は、法律の試験ではあるが、それ以前に、数時間かけて日本語の文章を作成する試験である。それも、手書きであり、文章を頭の中で組み立てて、それを無駄なく筆記する能力――コンピュータを用いた文書作成が普及している現在ではやや特殊ともいえるが、しかし職業生活において極めて貴重な能力――が要求される。小テストのみならず、レポートもこの視点からすべて手書きとする。小テストとレポートは、すべて添削して返却する予定である(昨年は5回のレポート課題を出し、教員自身にとっても過重負担であったので、今年は上記のように減らす)。

各回の授業内容

  1. 破産制度の目標と概要  この科目の導入としてし、経済活動における倒産現象の位置付け、集団的債務処理手続、破産制度の目標、破産手続の概要を説明する。更に、破産者、破産債権者、破産裁判所を説明する。 
  2. 破産手続開始の申立と決定  破産手続は、債権者又は債務者からの申立てにより開始されるのが原則である。申立てから開始決定の確定までに至る次の事項を取り上げる:破産手続開始の要件、申立権者、開始申立て、破産手続開始前の処分(中止命令、包括的禁止命令、財産保全処分)、破産手続開始申立ての審理、開始決定、不服申立て、開始決定の取消し。 
  3. 小テスト+破産手続開始の効果(1)  破産手続開始決定がなされると、破産財団が成立し、破産手続と抵触することになる係属中の訴訟・執行等が制限される。破産者は、破産手続を円滑に進めるために手続協力義務を負わされ、自由を制限され、さらに、一定の職業制限・資格制限を受ける。 
  4. 破産手続開始の効果(2)  破産者は、破産手続開始後は破産財団所属財産について管理処分権を失うが、それにもかかわらず彼がした法律行為の効力はどうなるか。 
  5. 破産手続開始の効果(3)  破産手続開始当時において未解決である法律関係(特に双方未履行の状態にある双務契約)はどのように解決すべきかを説明する。
  6. 破産手続開始の効果(4)  破産手続が開始されても影響を受けない物権的権利がある。取戻権、別除権である。さらに、破産債権者が破産者に対して債務を負っている場合には、相殺が問題になり、相殺の担保的機能は尊重されるべきである。 
  7. 破産手続の機関+第1回レポートの提出  破産手続を実際に進めるのは、破産管財人である。破産管財人の権限を見る。破産手続開始前に破産管財人と同等の権限を有する保全管理人が保全管理命令により選任される場合もある。 
  8. 破産債権  破産債権者は破産財団からどのようにして満足を得ることができるかを見る。破産債権の権利行使の制限、破産債権の要件、共同債務関係、在外財産からの満足、債権者集会などが取り上げられる。 
  9. 破産債権の確定  破産財団から満足を受ける債権を総ての破産債権者との関係で確定しておく必要がある。破産債権の届出、届出の変更・取下げ、破産債権者表の作成、債権調査の方法(書面による調査と期日における調査)、異議等の解決(査定手続による解決と訴訟による解決)が取り上げられる。 
  10. 財団債権  破産手続も通常の経済社会の中で行われ、その費用は破産手続によらずに破産財団から優先的に支弁されなければならない。このような費用についての債権は、財団債権と呼ばれる。財団債権の特質、範囲、その弁済について説明する。 
  11. 破産財団の管理+第2回レポートの提出  破産管財人は、換価の準備として財産状況を把握しなければならない。さらに破産手続開始前に不当に流失した財産を取り戻すことが必要である。その権限が否認権である。破産した法人に損害を与えた役員の責任追及も必要である。 
  12. 破産財団の換価 破産管財人は、破産財団所属財産を換価し、総てを金銭にする。換価の時期はいつか、換価に適さない財産は放 棄できるか、別除権の負担のある財産はどのように換価するのか、等を取り上げる。
  13. 配当と破産手続の終了  手続の概略を説明してから、次の項目を説明する:最後配当・簡易配当・同意配当、中間配当、追加配当、終結決定、廃止決定。 
  14. 免責及び復権  破産した個人は、経済生活の再出発のために、破産債権の弁済責任を免除される。免責不許可事由、免責許可決定の効力、免責許可決定確定後の強制執行の可否を取り上げる。破産しても、いつかは破産者の烙印を消すことができるのでなければ、幸せから遠ざかったままである。復権制度を説明する。 
  15. 筆記試験   

成績評価

 成績評価は、課題と小テストを3割、定期試験(筆記)を7割の比重でもって、両者を考慮して行う。ただし、出席状況が悪い者については、そのことのみを理由に不合格とすることがある。

準備学習等についての具体的な指示

 最近の法律の傾向に従って、破産法も、解釈問題ができるだけ発生しないように、多数の詳細な規定を置いている。条文の長さにめげることなく、条文の文言から多くの情報を引き出す能力を身につけていただきたい。もちろん、最初は体系書を読んで、破産法の体系に慣れることが重要である。

教科書

 昨年度の経験に鑑み、指定しないこととする。


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Last Updated: 2008年 1月 31日