関西大学法学部教授 栗田 隆

民事訴訟法講義「当事者1」の注


注1 冒用訴訟ではないが、最判昭和44.7.8民集23-8-1407。この法理の適用の限界事例(適用否定事例)として、最判平成10年9月10日(平成5年(オ)第1211号、第1212号)がある。

注2 ただし、次の先例は、死者を被告とした訴えであれば本訴は訴訟関係の不成立をきたすという考えを前提にしつつ、表示の誤りとして処理している。

大判昭和11.3.11民集15−977 [百選*1998a] 39事件

事実の概要

A(破産者)
‖      昭和9年3月訴え提起
X(管財人)−−−−−>Y(昭和7年4月死亡。名は、司)
            ‖家督相続
             B(未成年者。名は、司郎)
             (Yの妻でBの母Cが送達を事実上受領)

  • 第一審は、擬制自白によりX勝訴判決。
  • Yの死亡に気付いたXがBに対して訴訟手続の受継を申し立てると共に、控訴を提起し、原判決の取消、差戻を求める。
  • 第二審は、一審判決がすでに下されているので訴状の補正は不可能であるとして、原判決を取り消し、訴えを却下した。
  • 上告審は、次の理由により、第二審判決のうち訴え却下部分を破棄し、事件を第一審へ差戻した。
[判旨大要]  実質上の被告は相続人Bであり、原告がその表示をあやまったものにすぎず、一審裁判所は訴状に於ける被告の表示をBに訂正させて訴訟手続を進行させるべきであり、そうしなかった一審判決は違法であるが、被告の表示の誤りにより本訴は実質上訴訟関係の不成立を来したということはできない。

注3 大判昭和16年3月15日民集20巻3号151頁は、この場合に再審の訴えを否定する。前訴において訴状の送達が公示送達によってなされた事件であり、裁判所は、この点を重視しつつ、相続人には前訴判決の効力が及ばず、再審の訴えは提起できないが、前訴判決の無効確認を求めるとともに、その実質的な目的である抹消登記の回復を求めることもできるとした。

注4 本文に挙げたものの外に、次の場合も挙げられている。

注5から8まで、空番

注9 民法423条による債権者代位訴訟も、伝統的な見解によれば、訴訟担当である(訴訟担当説)。訴訟担当ではなく、債権者自身のために訴訟をしているのであり、固有の当事者適格に基づいて訴訟追行権限を有するとの見解(固有適格説)もある。自然人が破産した場合については、破産管財人による破産財団所属財産に関する訴訟も訴訟担当に含まれる(破産法80条)。ただし、破産財団法人説に従えば、管財人は当事者たる破産財団の代表者と位置づけられる。

原告側 被告側
被冒用者
(訴状における当事者)
冒用者

注10 各確定基準にしたがった場合の当事者を整理しておこう。

注11 複数の会社が同一の地に主たる営業所を有することはよくあることである。しかし、混同しやすい名称の会社の主たる営業所が同一地または近接地に所在すること好ましいことではない。商業登記法は、同一称号・同一住所の会社の登記を禁止している(27条)。なお、会社法の制定前において、商法旧19条が同一称号の使用をこれよりも広く規制し、同20条が称号投機者に類似称号使用の差止請求権を認めていたが、これらの規制は会社設立手続のコスト増になるとの批判を受けて廃止された。会社法の下では、同法8条の規制及び不正競争防止法3条ないし5条の規制にとどまっている。これらの規制は、基本的には競争関係にある会社間での名称・称号の使用規制であるが、会社法8条にいう「不正の目的」は広くとらえてよく、例えば取引相手を混乱させて権利行使を妨げるという目的も含まれ、系列関係にある会社間でも、「他の会社と誤認されるおそれのある名称又は称号」を使用することは許されないと解すべきであろう。

注12 もっとも、納谷説と佐上説との間には、微妙な差異がある。当事者確定機能を最も狭くとらえる納谷説は、次のように説く。当事者確定は、第1回口頭弁論期日にいたるまでの裁判所の行為(訴状審査や訴状の送達、期日の呼出状の送達)の決定に意味を持つに過ぎない。第1回口頭弁論期日終了時までは、当事者死亡、法人格否認法理の適用、相手方の不誠実な行動による紛争主体の誤認等を理由とする訴状の記載の訂正ないし補正は「当事者の表示の訂正」として扱われ、それ以降の時点においては、当事者の確定の問題として扱うべきではなく、多くの場合、任意的当事者変更として扱われるべきである。

注13 その他に、適格説と呼ばれる見解があり、訴訟上に存在するすべての徴表を斟酌して判決による解決を与えることが最も適切と認められる実体法上の紛争主体を当事者と見るべきであると説く。位置付けが難しいので(本間[中野=松浦=鈴木*1998a]80頁)、注で紹介するに留める。

注14 法の世界では、ある概念が多数の規定の中に現われることがある。その概念は、しばしば多数の法律問題を解決する基本概念として扱われ、その内容設定が重要となる。「当事者」もその一つである。しかし、同一の概念をすべての規定を通して統一的に定めることは、理論的には美しいことであるが、しかし、現実は、我々がその美しさにひたることを許すほどに単純ではない。この場合の解釈の技法としては、次の2つがある。

さまざまな規定において当事者概念が現われている以上、当事者確定基準に相応の役割を認めなければならない(換言すれば、「当事者確定基準」の機能を過大評価したり過小評価しないように注意すべきである)。こうした立場から規範分類説を見ると、当事者確定基準の相対化を認め、かつ、行為段階と評価段階にわけて確定基準の設定方針を示している点で、正当なものを多く含んだ見解であるということができる。

注15 この見解は、氏名冒用訴訟の取扱いについて旧来の意思説と違った結論を主張する点があるので、独立の見解としておく。

注16 もっとも、代表者の氏名まで考慮すると、議論は複雑になる。しかし、ここでは、Xが売買の時点で買主の代表者の氏名を確認しなかったという場合を想定する。

注17 竹下[兼子*1986a]731頁など。

注18 この場合の取扱いについては、次の2つの選択肢がある。多くの文献で1の選択肢が採用されており、おそらくそれでよいであろう。

  1. 訴状却下の段階を過ぎたのであるから、裁判所が訴え却下判決をする。
  2. 訴え却下判決をしてもその送達もできないから、裁判長が訴状を却下する。

注19 手続のやり直しが必要になるような表示の訂正は、判決確定後は許されない。もはや手続のやり直しの余地がないからである。訂正後に当事者となるべきであった者に訴状が送達されていなかった以上、判決の効力は、この者に及ばないとせざるをえない。

注20 もし訴訟承継を認めるとなると、訴状送達前に被告の死亡が判明した場合の取扱いが問題となる。当事者の死亡を理由とする訴訟承継は訴訟手続の中断・受継を予定している。訴状送達前に被告が死亡した場合には、その時点で訴訟手続が中断し、被告への訴状の送達行為そのものが許されなくなるのが原則である(132条1項)。これを前提にして、次の2つの選択肢が考えられる。

  1. 例外的に、訴状をそのまま送達する  しかし、これでは相続人は自己を名宛人としない訴状を送達されることになり、適当とは思われない。
  2. 原則に従い、中断状態を解消してから訴状を送達する  しかし、そのためには原告からの受継申立が必要となり(126条)、裁判所は受継申立のあったことを被告の承継人に通知すべきことになる(127条)。   しかし、未だ送達された訴状がないので、受継申立てがあったことの通知を受けた承継人が混乱する。

いずれも良い結果をもたらさない。結局のところ、提出された訴状の補正を原告に求め、それから相続人に送達するのがもっとも単純明快である。それは訴訟承継でない。

被告の相続人が訴状を受領して実質的に応訴した場合にのみ訴訟承継を認めることも考えられる。しかし、同じ結果は、訴訟係属中に判明した場合には任意的当事者変更を認め、判決確定後に判明した場合には、115条の解釈問題として扱うことによってももたらされる。多分に説明の差異にすぎない。この講義では、後者の説明を採用する。

注21 雉本「民事訴訟法論文集」25頁注1は、「訴状に於て当事者として記載されたる者を以て当事者と為す可き」と述べているので、形式的表示説に分類することができる。ただし、実質的表示説との対決の中で形式的表示説を主張しているわけではないかろうことに注意する必要がある。