関西大学法学部教授 栗田 隆

民事訴訟法講義「序論」の注


注1  [中野=松浦=鈴木*1995a]19頁以下(中野貞一郎)と同旨([中野=松浦=鈴木*1998a]11頁では、目的論についての自説の記述が省略されているが、惜しまれる)。なお、この点についての藤田・三カ月論争について、[岡*2002a]26頁参照。

注2  民事訴訟制度と刑事裁判制度とは、本来、別個の目的に奉仕する別個の制度である。両者の関係について言及した最近の判例を挙げておこう。

注3  当事者の権利義務に及ぼす影響が大きい事項及び手続の大綱となる事項は法律で定め、その他の事項は最高裁判所規則で規定するとの基本方針の下に、法律と規則との間で規律事項の分担がなされている。アメリカ合衆国では、法律により、連邦裁判所に訴訟事件の一般的な手続規則および証拠規則を定める権限が付与され、これに基づき、連邦裁判所の民事訴訟法は裁判所規則の形式で存在している。日本とアメリカの民事訴訟法規の制定過程を比較検討した論文として、[笠井*1999a]参照。

注4  民事保全手続は、(α)保全されるべき権利と保全の必要性を審理する発令手続と、(β)保全命令を執行する保全執行手続とに分かれる。前者は判決手続に相当するものであるが、簡略な審理手続であり、慎重な審理手続である判決手続との間に重要な差異がある。[長谷部*2000a]16頁以下参照。

注5  被告の訴訟活動が著しく公正さを欠くと指弾された例として、次の先例を参照。

注6  [橋本*2000a]によれば、合衆国では多くの州で、被後見人の利益保護のために代理人が選任されるべきであるとされ、その場合に、代理人は本人の意思を尊重して行動すべきなのか(対立当事者アプローチ)、それとも本人の最善の利益になるように意思能力が不十分と主張されている本人の意思に反してでも行動すべきなのか(最善の利益アプローチ)が問題とされている。通常の判決手続には見られない問題であり、それがこの手続の特質の一つとなることは、日本も合衆国も同じである。

注7  社会と法との関係については、様々な記述の仕方があるが、時には、他の学問分野の理論モデルと比較することも有益であろう。生物の免疫機構と比較した文献として、[太田*2000a]1頁以下がある。免疫型システムの特徴である、(1)システム遷移による外界への適応、(2)多様性の創出と多様性からの選択による適応、(3)多様性による頑丈なシステムが、社会制御システム(法)についても見られるとする(17頁)。また、紛争を抗原に、紛争解決のための法を抗体に類比させ、法創造システムを抗体生成システムと類比させて説明している。

注8  [山木戸*1961a1]は、権利保護請求権説の当否を巡るワッハとビューローとの論争を分析して、権利既存の概念は私法と訴訟制度を架橋する原理であり、個別訴訟をどのように規制(規律)するかを考える際の出発点となる考え(規制原理)であることを明確にし、個別訴訟(訴え提起前の状態から判決に至るまでの過程)をどのように構成(説明)するのがよいかを考える際の原理(構成原理)にはならないと説く。

注9  国ないし公務員により国民の基本的人権(その最大のものは、生命権)が侵害された場合に、国民は裁判所に救済を求めることが認められている(憲法32条はこの趣旨を含む)。その実効性の確保の点からも、また、民主主義の観点からも、公務員の管理する文書の提出命令が制限されていたことは、はゆゆしい問題であった。

注10  実際にあった事件のようであるが、十分な確認ができないため設例の形で書かせていただいた。なお、Webに掲載されていた報告によれば、期限内添削の実現のために、レポートの添削について教員に支払われる報酬が増額され、さらに、通信教育課程の入学試験の合格水準も引き上げられたとのことである。

注11  事例として、宮崎地方裁判所 平成14年2月15日 民事第1部 判決(平成12年(ワ)第235号)を参照。

注12  従来は、規則167条により大規模訴訟について認められていたことであるが、当事者から提出された電磁的記録を利用して主張整理表を作成したり判決書を作成することが一般事件についても普及したことにともない、かつ、計画審理に関する規定(147条の2以下)が民事訴訟法に新設されたことをふまえて、規則旧167条を廃止して、3条の2において一般規定がおかれた。計画審理の実施に当たっては、主張整理表(案)ないし争点整理案の作成が重要となり、それを円滑に行うためには、電磁的記録の提出を受けて、copy & paste の手法で主張整理表を円滑に作成できることが不可欠である。提出された電磁的記録を下に、裁判所書記官が主張整理案、争点整理案、事実経過対照表案などを作成して主張の整理を進めることが、現在では、多くの事件でよくおこなわれる審理方式になりつつあるようである。複雑訴訟についであるが[最高裁*2001c]35頁以下・71頁などを参照。

注13  概括的にはこのように言うことができるが、フランス革命以降の歴史の中では、「国家による産業の保護・奨励」あるいは「個人を国家の担い手である自由で責任ある主体に育てる政策」も重視される中で、個人(労働者や貧民)の自由について様々な考えの対立があったようである。[今野*2011a]23巻1号148頁以下参照。

注14  フランス民法典における不法行為責任の規範の形成について、[今野*2011a]23巻1号163頁以下参照(不法行為責任の規定は、合意を媒介とすることなく賠償責任を負わせる点で、社会秩序の維持のための規範であったこと、また、監督者の代位責任の規定は、自由主義に基づく規定ではなく身分関係を前提とする社会秩序の維持のための規定であったことが強調されている)。

注15  和解により解決することが適切な紛争に言及する文献として、次のものがある(目にしたものアトランダムに記録している段階である):[杉島*1985a]45頁・62頁・67頁。

注16  そこで予定された改革内容を、司法制度改革推進本部顧問会議に提出された各種の文書から読みとって欲しい。

注17  権利能力の歴史的発展について、エーアリッヒ(川島武宜=三藤正)『権利能力論』(岩波書店、1975年改訳第一刷)参照。

注18  2006年10月に日本司法支援センターが事業を開始する以前においては、法律扶助協会が民事法律扶助事業を行っていた。同協会は、1952年に日本弁護士連合会によって設立された財団法人であり、2006年10月に視認司法支援センターに事業を引き継ぎ、2007年3月末日に解散しにより消滅した。同財団の法律扶助事業の支援のために民事法律扶助法が制定されていた[R2] 。

注19  Jhering, Geist des roemischen Rechts, Teil 3 ( Scientia 1993, Unveraenderter Neudruck der 5. Auflage Leipzig 1906) S.339 und S.351.