関西大学法学部教授 栗田 隆

民事執行法概説「不動産の強制競売 4」の注


注1 この場合につき、旧法下では、最判昭和40年4月30日民集19-3-782[百選*1994a]54事件[百選*2005a]51事件(目黒大輔)が、(1)異議を受けた債権者から取り上げられた金員を他の債権者に与えるべきでないとしつつ、傍論において、(2)異議債権者に全額の満足を与えてなお余剰がある場合には、それは債務者に与えるべきであるとしていた。現行法下では、(2)の点について、この旧法下の最判に同調する少数の見解もあるが、本文に述べた見解が多数説である。

注2 ただし、債務者からみれば、利息がほとんどつかない供託の形で資金が固定化されるのは不利なことである。

注3 国税徴収法による交付要求には、次の2種類がある。

82条交付要求が配当要求に準ずるものとして、配当要求の終期に服することに異論はない。そうでなければ、無剰余措置(63条)をとるべき否かの判定ができない。

22条交付要求については見解が分かれていたが、最判平成2.6.28民集44-4-785[百選*1994a]28事件、[百選*2005a]27事件(山口幸雄)が配当要求の終期に服すべきものとした。このことを前提にして、次のことが問題となろう。

  1. 交付要求が配当要求の終期に後れたため配当を得ることができなかった租税徴収機関は、抵当権者に不当利得返還請求できるか。
  2. 競売を申し立てた抵当権者の被担保債権額を上回る交付要求が配当要求の終期までになされた場合に、その競売申立は、競売申立人に何の利益ももたらさない無益な執行の申立として却下されるべきか。

22条交付要求は、納税者の財産が譲渡された結果82条交付要求が否定されることから生ずる不都合を解決するために認められたものであるから、22条交付要求権を82条交付要求権よりも厚遇する必要はない。82条交付要求が配当要求の終期の制度により遮断される場合に不当利得返還請求を認める必要はないのであるから、22条交付要求が配当要求の終期により遮断される場合にも不当利得返還請求権を認める必要はない。したがって、上記の残された問題のうちの1は、否定される。

問題2の場合には、その競売申立てが無益執行の側面を有することは確かであるが、それでも国税徴収法22条3項の存在を考慮すると、その競売は租税債権の満足に有益な執行であり、続行させるべきであろう。

注4 配当要求が不適法として却下された場合には、時効中断効は生じない(民法154条)。他方、不動産競売手続が申立債権者の追加手続費用の不納付等を理由に取り消された場合には、取消決定が確定する時まで中断効は継続する(最高裁判所平成11年4月27日第3小法廷判決(平成9年(オ)第2037号)。

注5 もっとも、最判平成11年10月21日(平成9年(オ)第1771号)が、≪後順位抵当権者は先順位抵当権の被担保債権の消滅時効を援用することができない≫としていることに注意が必要である。

注6 [堤*2000a]284頁・294頁など。

注7  未経過利息ないし控除された中間利息を執行手続外で請求できるかは、別個の問題であり、88条を単なる手続規定と解するか、それとも配当等がなされた範囲で実体権を変更する規定と解するかに依存しよう。前者の選択肢が理論的には正当であろう。

注8  債権執行についてであるが、最判平成12年3月9日(平成10年(オ)第560号)は、離婚に伴う慰謝料請求権等に対する他の債権者からの配当異議訴訟において、当該慰謝料請求権に配当が与えられるべきでない理由として主位的に通謀虚偽表示、予備的に詐害行為取消権が主張された場合に、これを請求の予備的併合と理解している(原審は、攻撃防御方法の主位的主張・予備的主張ととらえたようであり、第一審が通謀虚偽表示を認めたのに対し、これを否定した上で詐害行為を肯定して、単に控訴棄却判決を下した。最高裁は、これを主位請求棄却・予備請求認容の趣旨と理解した)。異議事由が通謀虚偽表示であれば当該債権全部の不存在、詐害行為取消であれば慰謝料等として不相当な部分のみの消滅となり、被告に防御に重要な差異が生ずること、あるいは、詐害行為取消の場合には判決主文において取消宣言が必要であることを考慮してのことであろうか。ただ、それでも、訴訟物の捉え方が狭すぎるように思われる。債務不存在確認訴訟において、旧訴訟物理論に従っても、債務の消滅事由(弁済、相殺、時効等)が訴訟物の差異をもたらさないように、配当異議訴訟においても、異議対象債権の消滅事由あるいは不発生事由は、訴訟物の相違をもたらさないと解すべきであろう。

注9  担保権者への配当を停止するために提出されるべき文書の格式が、91条1項4号と3号とで異なっている。4号では「正本」の提出が要求されているのに対し、3号では、183条1号6号の文書すなわち「謄本」の提出が要求されている(なお、183条1項7号では、競売手続停止文書として「謄本」の提出が規定されている)。不揃いの憾みはあるが、担保権の実行が担保権の存在を公証する文書ではなく担保権自体に基づくことに由来する差違である。実際上は、いずれの場合でも正本が提出されることになるであろうから、特に意味のある差異ではない。

注10  先行差押えに後れて登記された担保権者が競売を申し立てていても、この債権者の申立てに基づく続行は、認められない。他方、先行差押債権者に優先する担保権に基づいて競売申立てがなされる場合には、先行差押債権者の利益保護よりも抵当権者の適時に債権を回収する利益が優先されるべきである(188条により準用される場合の47条4項の解釈問題となる)。

注11  条文の文言上は、仮差押えの登記と差押えの登記との中間に登記された担保権も4号に含まれることになるが(4号の文言ならびに2項と3項の文言の対照)、これへの配当と仮差押債権者への配当を同時に掲記することは矛盾するので、仮差押債権者勝訴を予定した配当表を本配当表とし、これには中間担保権者への配当は記載せずにおき、中間担保権者への配当は仮差押債権者敗訴の場合を予定した予備配当表に記載することになる(この点で、規定の体裁はあまりよくないように思える)。

注12  なお、47条4項では売却条件のうち62条2項の権利のみが問題にされているが、法定地上権の成立のためには地上の建物が差押え前に存在していることを必要とする説が有力である。この説を前提にすれば、先行差押えと後行差押えの中間の時期に建物が再築されたために法定地上権について変更が生ずる場合にも、続行申立てはできないと解すべきであろう。

注13  もし否定するとなると、差押登記前に仮差押えの登記がなされているため当然に配当受領資格を有する仮差押債権者(87条1項3号)の取扱いが問題となる。

注14  87条1号4号・91条1項5号は、旧法下の最高裁判所 昭和50年4月25日 第3小法廷 判決(昭和49年(オ)第1131号)判時780号40頁の見解を明文化したものである。

注15  通常は、別の債権のために成立した別の債務名義に基づいてなされるが、同一債権について別の債務名義に基づいて競売申立てをすることも、理論上は肯定してよいであろう。例えば、手形債権について公正証書に基づいて強制執行を申し立てたが、請求異議の訴えを提起されたので、手形訴訟を提起して判決を得て、その判決に基づき強制執行を申し立てる場合が考えられる。執行証書の執行力が成立の瑕疵を理由に排除される場合に、この執行力排除は手形債権の存在や手形判決の確定によっては影響を受けないことを前提にすると、手形判決に基づく第2の執行申立ての前に抵当権あるいは用益権が設定されているときに、第1の競売申立てに基づく差押えの効力を第2の競売申立てに流用することは適当ではない。

注16  申立手数料は、債権額にかかわらず、4000円である(民訴費用法別表第1第11項)

注17  明白な誤記,計算違いがある場合がある場合について、同趣旨を説示する先例として、最高裁判所 平成14年10月22日 第3小法廷 判決(平成13年(受)第1567号)がある。

注18  配当異議訴訟は、執行裁判所が専属管轄裁判所であるので(90条2項・19条)、複数の配当異議訴訟の弁論の併合は容易である。しかし、債務者の提起する請求異議訴訟は、例えば債務名義が判決である場合について言えば当該判決の第一審裁判所が専属管轄裁判所であり(35条3項・33条2項1号)、配当異議訴訟の管轄裁判所とは異なることがあり、訴え提起の時期も異なりうるし、また、請求異議認容判決が被告にもたらす不利益は配当異議認容判決のそれよりも大きいので、判決の確定に至る時間も異なりうる。従って、請求異議訴訟と配当異議訴訟とを統一的に審理して判決することができない場合は、多々生ずる。