関西大学法学部教授 栗田 隆

民事執行法概説「債権執行 1」の注


注1 差押債権が存在しなければ転付の効力が生じないのは当然であるが、差押債権の存在自体は、転付命令の発令の要件ではなく、転付命令の申立にあたって証明する必要はない([東京地研*1994a]197頁(秋山寿延))。

注2 [中野*民執v2]547頁。もちろん、第三債務者との関係では取立権限の消滅時点をこの通知の時とすることも考えられる(民訴法36条1項も参照)。しかし、善意の第三債務者の保護が民478条により図られるのであるから、実体関係を素直に反映させてよいであろう。

注3 大判大正14.7.3民集4-613頁、東京地判昭和45.5.28判時605-72頁。

注4 優先主義を採用するドイツでは、転付命令を利用する実益は少なく、ほとんど利用されていないことにつき、[堤*1990a]208頁参照。

注5  [廣木=松田* 実務 ] 63頁。ドイツ法につき、[堤*1990a]211頁参照。

注6 ただし、有価証券無効宣言公示催告手続により除権決定(非訟事件手続法160条1項)が下されると、有価証券なしに行使できるようになった債権(非訟事件手続法160条2項)が債権執行の対象となる。公示催告申立後、除権決定前においては、(a)有価証券に表章された債権と、(b)除権決定が下された場合に有価証券なしに行使しうる債権(条件付債権)とが併存していると考えられる(有価証券が滅失していれば前者はありえない)。この場合に、後者に対する債権執行も可能である(旧法下の事件であるが、最判昭和51.4.8.民集30-3-197・[百選*1994a]68事件)。しかし、第三者から除権決定申立人の権利を争う旨の申述があったため、留保決定付きの除権決定がなされた場合は(同法159条2項・148条3項)、債権執行は、留保付きの債権に対する執行となり、執行の成否は留保に関わる争いの解決に依存する。留保に関する争いの解決に当たるのは、基本的には執行債務者であるが、差押えの効力により、その争いを執行債権者に不利な形で解決することは許されない。執行債権者も、訴訟外でその争いを執行債務者に不利な形で解決することは許されない(彼は、差押債権が存在しないと判断する場合には、差押えを取り下げるべきである)。その争いを訴訟で解決する場合には、取立権限を付与された執行債権者が当事者となるべきである。

なお、旧・公示催告手続ニ関スル法律の下では留保決定の制度がなかったため、有価証券の占有者等からの異議により除権判決に至らない場合には(公示催告手続ニ関スル法律770条)、債権執行は対象財産を欠くことになり、無効となった。

注7 [中野*民執v2]526頁以下、参照。

「将来の請求権」の語は、さまざまな意味で使われる。

破産の場合と異なり、債権執行においては、債権が未発生であるか、それとも発生しているが不確定期限付きであるかといったことは、あまり重要ではない。重要なのは、次のことである:(α)当該債権から満足をうけることに利益を有する債権者に差押えの機会を与えること;(β)差押債権について債権が発生して履行期が到来するまで注意を払うことを要求される第三債務者の負担との調整を図ること(将来生ずる債権について[中野*民執v3]541頁参照)。

例えば、労働者の退職時に支払われるべき退職金債権の差押可能性については、見解が分かれているが([内山*1990b]927頁参照)、労働者が退職の時点を選択できるのであるから、労働者の債権者に差押えの機会を与えるために、退職前から差し押えることを原則的に認める必要がある([中野*民執v3]545頁以下)。他方で、第三債務者である使用者は、退職金を労働者に支払わない根拠の証明資料として差押命令を労働者の退職まで保管しておかなければならない。退職時期が差押命令の発令から例えば20年後になれば、第三債務者の負担が大きすぎよう。このような場合には、差押命令の有効期間を例えば5年に限定し、有効期間満了前に執行債権者に再度差押命令を申立てさせるのが執行債権者と第三債務者の間の負担調整として適当であろう。現行法には、そのための規定は何も用意されていない。しかし、差押命令を発する裁判所が差押命令の有効期間を限定することは、解釈論として認めてよいのではなかろうか。

注8 税金の将来の還付請求権の差押えは、執行法の理論としてはもちろん肯定すべきである。ただ、納税者が確定申告書を提出した後の差押えにあっては、徴税機関は、送達された差押命令をすでに提出されている申告書に添付して処理を進めればよく、この場合の事務負担は少ないであろうが、納税者からの確定申告書の提出前の差押えを許すと、差押債権者よりもさきに執行債務者が確定申告書を提出して還付を求める事態も予想されるので、徴税機関は納税者からのすべての還付請求について差押えがなされているか否かを点検する負担を負うことになろう。年度末に多数の確定申告書が提出される中で、その負担に耐えることができるか、そのコストは最終的に国民の負担となるが、それはどの程度かという実際上の問題が気にかかるところである。すでにコンピュータ処理により簡便に点検できるようになっていて、上記の問題が杞憂であることを望む。なお、ドイツにおける議論につき、[内山*2000a]630頁以下参照。

注9 問題は、2つの視点から見ることができる。

注10 この場合に、先の執行により受領済みの配当金は、法定充当の方法により、元本に優先して後の差押命令発令日までの附帯請求債権に充当されることを認めるべきである(福岡高決平成9.6.26判時1609-117、[栗田*1998e]147頁)。[山本*1998b]202頁は、最判昭和62.12.18民集41-8-1592を援用してこれに反対する。しかし、この判決は、不動産競売の配当手続において同一債権者が複数の債権を有する場合には、民法489条ないし491条の規定にしたがった弁済充当(法定充当)がなされるべきであると判示したものであり、この最高裁判決により前述の解釈(民法491条により、請求債権となっていない附帯債権に充当されたとみなすこと)が妨げられると理解する必要はないであろう。

注11 [山本*1998b]200頁以下に従う。[栗田*1998e]148頁末尾の叙述は、もっぱらcの場合を念頭に置いたものであり、不適切である。本文のように補正する。

注12 「以降」の語は「以上」や「以下」と異なり、基準点を含む意味で使用すべきことが確立しているとは言えない。本稿の問題に関係する先例では、基準点(日)を含まない意味で使用されていることが多いので、ここでもその意味で使用する。基準点としては、差押命令の申立日が挙げられることが多いが、これと差押命令の発令日とが異なることもあり、発令日を基準日にしても執行債権に含まれる附帯請求の計算に支障があるわけではないから、執行債権者は、彼に有利な発令日を基準にすることができるとすべきであろう。

注13 [田中*1980a]336頁、[中野*民執v2]547頁[中野*民執v5]672頁以下[中野*民執v6]700頁など。

注14 固有適格説の立場から[福永*1975a]。訴訟担当説の立場から[三ケ月*1972a1]。

注15 [竹下*1985a]237頁など。

注16 [中野*民執v2]564頁注2に従う。これに対して、[竹下*1985a]235頁は、残部につき差押えの効力が存続する限りは取立権も存続し、差押えの効力は残部についての執行申立の取下げまたは取消しによってはじめて消滅し(73条4項を援用)、第三債務者にその旨の通知がなされる(規136条1項・3項)と説く。

注17 即時決済可能性の要件は、[中野*民執v2]555頁以下([中野*民執v5]681頁以下[中野*民執v6]709頁以下)に従う。この語を用いてなされる要件整序は、当初は必ずしも一般に普及していたわけではなく、しばしば「券面額」の語でまかなわれている。しかし、「券面額」の要件を「額」の問題に純化させていけば、これを包摂する要件として即時決済可能性を承認するのがよく、[百選*2005]が出版される頃には、かなり一般的に用いられるようになった。

注18 [田中*1980a]333頁、[中野*民執v2]554頁[中野*民執v5]679頁[中野*民執v6]708頁。これに対して、[竹下*1985a]238頁は、弁済受領債権者にとって弁済金が不当利得になるわけではなく、第三債務者は執行債務者に求償するしかないとする。

注19 [竹下*1985a]239頁。これに対して[中野*民執v2]549頁は、この結論を、第三債務者の負担軽減を目的として参加命令の制度が設けられた趣旨に照らし許されず、参加命令を受けた差押債権者が別個に提起した取立の訴えは権利保護の利益を欠き、却下されるべきであると説明する。

注20 [竹下*1985a]240頁。

注21 [竹下*1985a]247頁、[中野*民執v2]559頁、東京高決昭和56.12.11判時1032-67頁[百選*1994a]84事件[百選*2005a]77事件の1(甲斐哲彦)など。ただし、反対の見解も有力である。東京高決昭和57.3.15下民集33-1=4-110頁[百選*1994a]84事件[百選*2005a]77事件の2(甲斐哲彦)。問題は、執行証書について深刻となる(傳田[百選*1994a]181頁参照)。

注22 加害者が事前に賠償することを加害者の保険会社に対する保険金請求権の要件とするかにみえる自賠法15条の趣旨は、被害者が賠償を得ることを確実にする点にある。被害者が保険金請求権を取得して行使することを禁ずる趣旨とみるべきではなく、被害者が加害者の有する保険金請求権を取得したことは、加害者による賠償とみてよい。

注23 この種の問題は、大抵の種類の債権について生じうることである。当事者間において債権額が確定していることを転付命令の発令要件としたのでは、転付命令の制度の機能する場面が狭くなりすぎる。

注24 大阪高決昭和63.4.25判時1278-85・[百選*1994a]82事件は、支払保証委託契約の委託者が保証人たる銀行に担保(債権質)として提供した預金債権に対する転付命令は許されないとした。

注25 相殺について次の先例がある。大審院明治31.2.8判決・民抄録1巻22頁、大阪区判大正6.5.29法律新聞1277-33(受働債権の弁済期・自働債権の弁済期が差押え・転付前に到来)、長崎控訴院判決大正11.7.10法律新聞2016-13、大判昭和3.9.14法律新聞2907-13(自働債権の弁済期が差押え・転付前に到来)、大判昭和10.5.30民集14-970(賃料債権と土地の利用を賃貸人が妨げたことに対する賠償請求権との相殺。両債権とも差押え前に弁済期到来)。

注26 株主が有する配当金請求権は、株主総会での配当決議の前でも差し押さえることができる(長崎控訴院判決大正11.7.10法律新聞2016-13)。

注27 これは、差押え当時に自働債権の弁済期が未到来でかつ受働債権の弁済期に後れる場合には、第三債務者は相殺を差押債権者に対抗できず、相殺予約による相殺も対抗できないとした最高裁判所 昭和39年12月23日 大法廷 判決・民集18-10-2217を変更したものである。

差押えと相殺に関する先例を幾つかあげておこう:

その他、注25の先例も参照。

注28 将来の診療報酬請求権は、診療行為が将来なされた時に初めて発生する債権と考えるべきであろう。しかし、診療を継続する見込みがある限り、診療請求権の発生は比較的確実に見込まれ、財産的価値がある。診療機関が診療器具を購入するための融資を得るために、それを担保に提供し、あるいは代物弁済として譲渡する需要は高い(ただし、毎期の報酬債権の全額が弁済に充当されるのでは、病院経営が成り立たないので、一定期間の診療報酬の全部ではなく一部が代物弁済等に供されることになろう)。

最判昭和53.12.15判時916-25頁は、将来の1年分の診療報酬債権の譲渡を有効とした。これを受けて、将来の診療報酬債権の差押えも認められている。かつ、その範囲を差押命令発令時から1年以内のものに限定する見解が実務の大勢であった。例えば、札幌高決昭和60年10月16日判例タイムズ586号82頁・[百選*1994a]69事件、[東京地研*1994a]40頁以下。他方、より長期の差押えを肯定する見解も有力であった([中野*民執v2]527頁、[内山*1990a]52頁、[内山*1990b]928頁)。

こうした状況の中で、最判平成11年1月29日(平成9年(オ)第219号)は、昭和57年12月から平成3年2月までに支払われるべき診療報酬債権の一定額を譲渡する契約が昭和57年11月28日に締結されたが、平成1年5月に平成1年7月1日から平成2年6月30日までの診療報酬債権が滞納処分により差し押さえられた事案において、差押えに係る部分の債権譲渡も有効であるとした。この部分は、譲渡開始の時点から6年8月後に弁済期が到来する1年間の診療報酬債権であるので、従前の基準からすれば、あまりにも将来の債権である。最高裁は、将来の診療報酬債権を担保にして有利な融資を得て診療設備を整備することについて医師が有する利益を重視して、債権譲渡契約が譲渡人の営業活動を著しく制限したりあるいは他の債権者に不当な不利益を与えるものであるといった特段の事情がないかぎり、譲渡の時から1年を超える部分についても報酬債権の譲渡は有効であるとした。この最高裁判決を前提にすれば、将来の診療債権の差押可能な範囲も拡張されてよいことになる。そうでなければ、将来の診療報酬債権の譲渡により差押債権者の利益が害されるからである。

ただ、将来の診療報酬の全額(毎期に受ける報酬の全額)が差し押えられ、診療活動の継続に必要な資金を得ることができなければ、診療所経営は早晩行き詰まる([佐藤*1994a]149頁)。その場合には、裁判所は、153条1項により差押命令の一部を取り消すことができる。しかし差押えを免れた部分が診療のために支出されるという保障はない。強硬な債権者の裁判外の要求に押されて、代物弁済として譲渡され、診療所経営経営が行き詰まる可能性がある。それを避けようとすれば、診療所経営の強制管理が必要となるが、現行法には用意されていない。強硬な債権者の裁判外の要求を拒否することは、債務者に委ねざるを得ない。それでも、前記最判平成11年の特段の事情に関する判示部分を踏まえれば、診療所経営を破滅に導くような診療報酬債権の譲渡(特に代物弁済としての譲渡)は、無効としてよい(ただし、このような解釈を主張しても、それが診療所経営の維持に現実にどの程度役立つだろうかという疑問は残る)。

なお、診療所の開設のために将来の診療報酬をも担保に多額の資金を融資する者としては、第三者が診療報酬債権に介入し、ひいては診療所の維持が困難になることを防ぐために、一定期間の診療報酬全部の譲渡を受けた上で、毎期、受領した診療報酬の中から融資金の割賦弁済金を控除し、診療所の維持管理に必要な費用を代位弁済し、剰余を債務者に支払う旨の契約をすることも考えられる。そのような契約が有効とされる場合には、医師の一般債権者は、融資者(診療報酬の一括譲受人)を第三債務者としてこの者に対する医師の金銭債権を差し押えることになる。

ともあれ、金銭債権の証券化(あるいは担保化)に際して、将来発生する債権をも取り込む需要があるので[住友証*1998b]、将来の債権についての譲渡と差押えの競合の問題は、今後も重要な問題となろう。

注29 [内山*1990b]929頁参照。

注30 個々の債権は、相手方が現在有する債権のみならず、将来取得される債権のための担保にもなっているからである。交互計算の担保的機能をその発展史の中で詳細に論じた文献として、[前田*1962a]参照(特に(1)65頁以下)。なお、当座勘定取引契約は、いわゆる段階的交互計算であり([前田*1962a](2)45頁)、現在の残高が差押えの対象となる。保険代理店が保険会社に引き渡すべき保険料の支払債務と保険会社が代理店に支払うべき手数料の債務とが段階的交互計算に組み入れられている場合には、後者が前者より常に小さいので、代理店の債権者が手数料債権を差し押さえようとしても、それが差押えの対象となる残額債権として存在することはない(大阪高等裁判所 平成14年1月31日 第13民事部 判決(平成13年(ネ)第2883号)の事例参照)。

注31  交互計算関係には、一定の継続的取引関係から生ずる債権相互間に根保証の関係を認めることができるが、根抵当権の場合と異なり(民398条の20第1項4号参照)、差押えは被担保債権の確定ないし交互計算関係の終了をもたらさないのが原則である(これに対し、破産は交互計算の終了事由である。旧破産66条破産法59条)。

注32  自動車損害賠償法16条1項により被害者が保険会社に対して有する直接請求権は、被害者に現実に賠償金を得させるために、同法18条により差押禁止債権とされているが、これは被害者が加害者に対して有する損害賠償請求権の実現を確実にするための補助的請求権であるので、損害賠償請求権が転付されると直接請求権も差押債権者に移転する(最高裁判所 平成12年3月9日 第1小法廷 判決(平成9年(オ)第992号・同第993号)−反対意見あり)。

注33  後者の見解によれば、執行債務者の提起した訴訟の係属中に差押債権者が取立訴訟を提起した場合に、双方の訴訟を併合して審理し、ともに認容することもできる。

注34  ただし、次の問題がある。被担保債権額を控除した金額を転付の対象としても、不可分性の原則により、質権は転付された債権にも及ぶ。したがって、第三債務者が弁済をすることなく破産した場合には、質権者は、目的債権全額について質権を行使して、配当金から被担保債権の満足を受けることになり、転付債権者はその残額のみを得ることになる。この場合に転付債権者が受ける不利益は、一面で、第三債務者の無資力の危険であるが、しかし、それにつきるわけではなく、質権の存在が影響している。

注35  債権譲渡の場合の異議を留めない承諾に抗弁喪失の効果が結びつけられている(民法468条1項本文)のと対照的である。この違いは、承諾をするかしないかは任意であるのに対し、第三債務者の陳述は義務であることに由来する。

注36  枚挙にいとまがないほどに多数の規定がある。総務省 行政管理局の法令データ提供システムで、法令用語検索するとよい。キーワードを「差し押」にして検索すると、検索結果の多くは債権の差押禁止を定める規定である。

注37  指名債権譲渡の予約について確定日付のある証書により通知または承諾がなされただけでは足らず、予約完結権行使について確定日付のある証書による通知または承諾が必要であり、それがない場合には、譲受人はその後に債権を差し押さえた者に債権取得を対抗できない(最高裁判所 平成13年11月27日 第3小法廷 判決(平成10年(オ)第331号)。ゴルフ会員権について滞納処分としての差押えがなされた事案)。

注38  このような建物の取引は、買主にとって極めて危険になることに注意しなければならない。本文所掲の最判平成10年では、「差押債権者の債権及び執行費用の額を限度として」という限定句が挿入されているが、配当要求がないような通常の場合を想定しての立言と理解すべきであろう。差押えの処分禁止効について手続相対効説がとられており、これを前提にすれば、建物の譲受人は、差押債権者の執行債権が完済されるまでのみならず、その後の配当要求債権者(154条)等の債権の満足に至るまで賃料を収受できないという危険がある。不動産が競売される場合には、物件明細書においてこのことは開示されるべきである。ただ、不動産取引の安全確保という視点からは、むしろ、不動産譲渡後にあっては、賃料債権に対する債権執行手続における配当要求を制限することが検討されてよいであろう。

注39  不動産の賃料債権が差し押さえられた場合には、賃借人は、賃貸借契約が終了して目的不動産を明け渡した後であれば、敷金を未払賃料の弁済に充当してこれを消滅させることができる。先順位抵当権者が物上代位権に基づいて賃料債権を差し押さえた場合でも同様である。最高裁判所 平成14年3月28日 第1小法廷 判決(平成12年(受)第836号)。この場合の弁済充当は、実質的に見て相殺に類似するが、最高裁は、「敷金の充当による未払賃料等の消滅は,敷金契約から発生する効果であって,相殺のように当事者の意思表示を必要とするものではないから,民法511条によって上記当然消滅の効果が妨げられない」と説示しており、相殺とは異なるとしている。これによれば、転付債権者からの逆相殺の余地はないであろう。

注40  債権が存在するとの不実の陳述に基づき提起した取立訴訟の徒費も賠償されるべき損害となりうるが、実際上は少ないであろう。訴訟になる以上、第三債務者は催告に応じてなした陳述をすでに撤回し、支払義務を争っているのが通常であり、差押債権者は、その段階で改めて第三債務者の主張を検討した上で取立訴訟を提起すべきか否かを判断すべきだからである。ただし、第三債務者は、取立訴訟が提起されるまでに、弁済義務がないことを手持の証拠を示して十分に説明すべきである。それをしなければ、差押債権者が第三債務者の当初の陳述を頼りに訴えを提起することはやむ得ないことであり、訴訟追行の徒費が賠償されるべき損害に含まれることもありえよう。

注41  債権の任意譲渡による移転と転付命令による移転とは、基本的に同じものであるはずであるが、この局面では大きな違いが生ずる。最判 平成14年の背後にある実質的価値判断として、次の2つを挙げることができる。

上記の内で、前者は債権の任意譲渡が代物弁済としてなされた場合にも必要なことであること、後者については、自己の債権の回収のために裁判外で勤勉な努力をし、その一つの方法として債権の任意譲渡を受ける者もいるであろうことを考慮すると、これらが任意譲渡の場合と転付命令の場合とを区別する十分な理由になりうるかは、疑問である。従って、次の理由も付加すべきであろう。

確かに、目的債権が賃料債権の場合には、他の債権者が先に転付命令を得ることにより抵当権者が物上代位権を行使することができなくなっても、彼に決定的な不利益が生ずるわけではない。もともと抵当権者に賃料債権への物上代位を認めるべきかどうかは微妙な問題であったのだから、最高裁のような2元論も一つの妥当な解決である。しかし、目的債権が抵当不動産に成り代わるものであり、物上代位ができなくなれば抵当権設定の意味がなくなるような場合には、抵当信用制度の維持のために、やはり抵当権に基づく物上代位権行使を優先させるべきであり、少なくとも、優先権を確保できるような形で差押えをする機会が与えられるべきものと思われる。その点で、最判 平成14年には、疑問を感ずる。

注42  旧破産法63条が、賃料前払は破産宣告の時における登記および次期に関するものを除いては破産債権者に対抗することができないとしていたのに対し、破産法56条では、賃料前払の効力を制限する規定がなくなったことにも注意してよいであろう。

注43  融資の合意により借主が貸主に対して融資請求権を有する場合でも、消費貸借契約が要物契約であることに鑑みれば、借主の債権者がこの請求権を差し押さえて満足を得ることは認めるべきではなかろう。2002年のアルゼンチン政府の債務不履行に際して、≪ローマの裁判所が、8月9日、イタリア政府がアル ゼンチンに対して予定している融資250万ユーロ(約3億円)を仮差し押さえする決定を下した≫ことが報じられている。民間の融資契約では、このような場合のために貸主にいわゆる不安の抗弁権が認められているであろうから、通常は、この抗弁権により融資金債権への執行は無意味となろう。

注44  第三債務者が法人である場合については、民事訴訟法103条1項にいう営業所とは,会社の本店又は支店など,少なくともある範囲の営業の中心を成す場所で,ある程度独立して業務を行うことができるものをいい,他から指揮監督を受けて単に実地の業務を執行するにとどまる程度の場所はこれに当たらない(大阪高等裁判所 平成14年6月27日 第3民事部 判決(平成13年(ネ)第3531号)。鉄道会社の保線区の業務場所を送達場所として補充送達がなされが、無効とされた事例)。

注45  債権執行の場面ではないが、預金債権が誰に帰属するかが問題となった事例として、次の先例を参照。

注46  債務者が承諾することにより譲渡禁止特約付き債権の譲渡がいつから有効となるかによって説明が若干異なるが、それにより結論が左右されることはない。最判昭和52年3月17日民集31巻2号308頁は、異なる事案においてであるが、債権譲渡の時にさかのぼって有効になるとする。そのような遡及的に有効とする行為も差押えにより禁止される。

注47  かつては債権譲渡禁止特約を有効とする民法466条2項を転付命令にも適用する見解が判例・多数説であった。これに強く反対して、適用を否定すべきことを強調した文献として、[杉之原*1925a]がある。なお、すでに、明治29年民法の起草段階で、譲渡禁止特約があっても債権執行の対象になるとの見解が梅謙次郎により示されていた([前田ほか*史料]403頁)。

注48  151条の2第1項柱書で「その一部に不履行があるとき」にいう「その」は、定期金債権全体を指す。期限が到来している部分に関していえば、「その全部又は一部に不履行があるとき」に151条の2の適用があることになる。

注49  同所において「その支払いにつき不確定期限が定められている場合であっても、適用される」とあるが、不確定期限付であれば、151条の2の適用はないから不確定期限到来後でなければならないはずである。不確定期限付の扶養料債権でも、その期限が到来すれば152条3項の適用があるという趣旨であれば、それは期限到来済み債権に含めてよいので、本文の記述と同一に帰しよう。

注50  かつては、譲渡人の商業登記簿等にも債権譲渡に関する一定の事項が登記されることが規定されていた(特例法旧9条2項)。債権の譲渡人の財産状況を把握しやすくためである。しかし、これは廃止された。

注51  特定債権等に係る事業の規制に関する法律(平成4年6月5日法律第77号)は、リース料債権の譲渡について、債権譲渡の公告がなされたこともって「民法第467条の規定による確定日付のある証書による通知があったものとみなす」と規定していた(7条)。しかし、この方法は、コストがかかるという問題があった。同法は、信託業法(平成16年12月3日法律第154号)により、平成16年12月30日に廃止され、この対抗要件の制度も廃止された(附則2条)。

注52  可能であれば、次のような論拠も付け加えたいところである。

個人について認められる無限責任の原則は、個人が将来の労働によって得る財産が責任財産になることを中核的内容とする原則である。その原則を有効に機能させるためには、賃金債権は個人の最終責任財産として一般債権者のために留保されるべきように思われる。その視点からすれば、賃金債権の譲受人は、一般債権者が賃金債権に対する執行によって得た金銭を不当利得として返還請求できないと解すべきである。

しかし、賃金債権を担保として利用することを許すべき社会的必要性(需要)があるのも確かであり、その需要に応えるために、質権者が193条の規定により質権を実行することも肯定しなければならない。そうなると、賃金債権を個人の最終責任財産として一般債権者のために留保すべきであるとの主張することができなくなる。

もちろん、賃金債権の上に質権を設定することを許すべきか否かという根本的問題はある。しかし、労働者が将来の賃金債権(特に退職金債権)を担保に低利融資を受けることの利益も尊重すべきであり、現行民執法193条2項は、この利益を尊重して賃金債権の上に設定された質権を民事執行手続により実現することことを肯定している(そのように理解すべきである)。

注53  議員立法により制定された短い法律である。全文を掲げておこう。

東日本大震災関連義援金に係る差押禁止等に関する法律(平成23年8月30日法律第103号)

1 東日本大震災関連義援金の交付を受けることとなった者の当該交付を受ける権利は、譲り渡し、担保に供し、又は差し押さえることができない。
2 東日本大震災関連義援金として交付を受けた金銭は、差し押さえることができない。
3 この法律において「東日本大震災関連義援金」とは、東日本大震災(平成二十三年三月十一日に発生した東北地方太平洋沖地震及びこれに伴う原子力発電所の事故による災害をいう。)の被災者又はその遺族(以下この項において「被災者等」という。)の生活を支援し、被災者等を慰藉する等のため自発的に拠出された金銭を原資として、都道府県又は市町村(特別区を含む。)が一定の配分の基準に従い被災者等に交付する金銭をいう。
附則
1 この法律は、公布の日から施行する。
2 この法律は、この法律の施行前に交付を受け、又は交付を受けることとなった東日本大震災関連義援金についても適用する。ただし、この法律の施行前に生じた効力を妨げない。

注54  平成29年民法改正前の法状態に関しては、次のように考えていた。

譲渡禁止特約付き債権について譲渡と差押えが競合した場合
譲渡禁止特約は、本来は、譲渡される債権の債務者の利益のために付された特約である。 譲渡禁止特約付き債権が悪意又は重過失のある譲受人(A)に譲渡され、譲渡人(G)から債務者(S)に確定日付のある通知がなされた後で譲渡人(G)の債権者(B)がその債権を差し押さえた場合に、 Bが譲渡禁止特約を援用して譲渡の無効を主張することは、特約の目的を越えると評価される余地がある。しかし、そのような評価をすると、 Aは、Bに債権譲渡のあったことを主張できるが、AはSに対して債権譲渡を主張できないことになり、当該債権の利用(ないし、当該債権により給付されるべき金銭の利用)が阻害される結果となる。 従って、譲渡禁止特約は、差押債権者のためにも効力を発揮するとせざるを得ない([栗田*2004b]参照)。

では、譲渡禁止特約付債権が悪意又は重過失のある譲受人に譲渡された後で執行債権者によって差し押さえられた場合に、その後に執行債務者が譲渡を承諾して譲渡を有効とすることができるであろうか。 最高裁判所 平成9年6月5日 第1小法廷 判決(平成5年(オ)第1164号)は、次のように判示した:譲渡禁止の特約のある指名債権について、 譲受人が右特約の存在を知り、又は重大な過失により右特約の存在を知らないでこれを譲り受けた場合でも、その後、債務者が右債権の譲渡について承諾を与えたときは、 右債権譲渡は譲渡の時にさかのぼって有効となるが、民法116条の法意に照らし、 第三者である差押債権者の権利を害することはできない[46]。

ただし、 譲渡禁止特約付債権が譲渡され,債務者が債権者不確知を理由に弁済供託をした場合に,特別清算手続中の譲渡人が譲受人に対して債権譲渡の無効を主張することができるかが問題となった事案において、 最高裁判所 平成21年3月27日 第2小法廷 判決(平成19年(受)第1280号)が、次のように説示して譲渡を有効としているので、注意が必要である: 「債権の譲渡性を否定する意思を表示した譲渡禁止の特約は,債務者の利益を保護するために付されるものと解される。そうすると,譲渡禁止の特約に反して債権を譲渡した債権者は, 同特約の存在を理由に譲渡の無効を主張する独自の利益を有しないのであって,債務者に譲渡の無効を主張する意思があることが明らかであるなどの特段の事情がない限り, その無効を主張することは許されないと解するのが相当である」