注1 短期の土地取引に対する重課税の債権 最判昭和62年4月21日民集41巻3号329頁・[百選*1990a]111事件(山本弘)は、「土地重課税の課税の対象となる土地等の中に別除権の目的となっている土地等が含まれ、かつ、その譲渡による譲渡利益金額の中に別除権者に対する優先弁済部分が存するときは、土地重課税又は予納法人税の土地重課部分のうち、右課税の対象となる土地等の譲渡に係る譲渡利益金額の合計額から右優先弁済部分を控除した金額(譲渡利益金額の合計額の中の実質的に破産財団に帰属する部分)を基礎に計算される土地重課税の額に相当する部分のみが破産債権者において共益的な支出として共同負担するのが相当な破産財団管理上の経費」として財団債権になるとした。判旨は妥当であるが、ただ、重課税規定を破産財団所属財産の換価に適用すること自体について不満の声が聞かれる。破産手続では迅速な換価が要請され、土地重課税を避けるために換価を延ばすことができないことを考慮すると、立法論としては、「財産の取得から換価までの時期が短期間であることを理由とする課税規定は、破産財団所属財産の換価には適用しないものとする」としてよいであろう。破産債権者が破産者をダミーにして短期譲渡所得に対する重課税を潜脱するという事例は実際上稀であろうし、その稀な事例については、そのことを理由に重課税の免除を否定すれば足りよう。
注2 [伊藤*破産・民再v3]311頁は、148条1項3号・149条の財団債権も含めて、破産者の責任が肯定される財団債権は存在しないとする。なお、[伊藤*2006a]221頁は、148条1項3号・149条の財団債権以外には、破産者の責任が肯定される財団債権は存在しないとした。
注3 [伊藤*破産・民再v3]311頁は、148条1項6号の債権について、「委任終了後の事務によって利益を受けているのは、破産財団、いいかえれば、破産債権者であるから、破産者に個人的責任を負わせる理由はない」とする。しかし、破産財団に属する財産は破産者の財産であり、破産財団の利益は破産者の利益でもある。破産財団からより多くの弁済がなされることは、破産者の債務の減少を意味し、その点でも破産者の利益になる。破産者の責任も肯定して、受任者が急迫の必要に応じて適切な行為をなすことを奨励するのがよい。
他方、8号については、破産宣告と同時に破産者が契約を終了させようとしても、その権限を失っていることを考慮すると、彼に破産宣告後契約終了までの間に生じた債務の弁済責任を負わせるのは適当ではない。もっとも、破産者(個人)が賃借不動産に居住し、破産管財人が賃貸借契約を解除した場合には、破産手続開始から賃貸借契約終了までの賃料債権は財団債権になるが、その間に破産者が賃借不動産に居住することにより利益を得ているのであるから、破産管財人は破産者に対してその自由財産から賃料相当額を償還することを請求できると解すべきである。
注4 しかし、課税対象となる所得の大部分が破産財団に流入している場合(現金あるいは預貯金の形で破産財団中に存在する場合)には、その所得税を自由財産の負担とすることは、破産者に酷であり、その更生を妨げることとなろう。破産者が破産手続開始前に得た所得については、その時点までの所得額に対する所得税・住民税については財団債権になるとし、当該課税年度の収入全体に対する課税額からこれを控除した残額が自由財産から徴収されるべき税額として、破産者の負担を軽減するのが妥当であるように思われる(勤労者の給与から所得税が源泉徴収される場合には、実際上このように結果になろう)。
注5 破産手続開始前に退職して、退職金を受領し、それが預金しておいたため破産財団に取り込まれた場合に、その退職金に対する住民税の納付資金の調達の問題が生ずる。注4に述べるように、住民税のうち退職金所得相当部分を財団債権とすることのほかに、これに相当する金額を扶助料として給与することも考えられないわけではない。他方、破産手続開始後に退職した場合には、退職金債権額の3/4は自由財産になるので、住民税は自由財産から納付させてよいであろう。
注6 特別の先取特権のうちで、不動産賃貸借の先取特権の被担保債権の範囲は、前期・当期・次期の賃料債務その他の債務並びに前期及び当期に生じた損害の賠償債務に限定される(民法315条)。基準時は、破産手続開の時となる。もっとも、破産管財人が履行を選択した場合については、破産手続開の時から数期間が過ぎてから財団不足が判明することがあり得ることを想定すると、財団不足が判明した時を基準時にするのがよいのかもしれない。
注7 2007年に生じたミートホープ事件では、500万円から600万円に上ると報道されている。
注8 [加藤*1952a]118頁、[中田*破産・和議]143頁。
注9 なお、「破産手続の迅速処理のため」という説明が書かれていなくても、旧52条を財団債権の比例弁済から切り離して説明している文献は、基本的にこれと同趣旨と見てよいであろう。例えば、加藤哲夫『破産法[第4版補正版]』(弘文堂、平成18年)272頁、宗田親彦『破産法概説(新訂第2版)』(慶應義塾大学出版会、2005年)482頁、伊藤眞『破産法・民事再生法』(有斐閣、2007年)222頁。
注10 斎藤秀夫=鈴木潔=麻上正信・編『注解破産法』(青林書院、昭和59年)190頁(斎藤秀夫)。
注11 [山木戸*1974a]140頁(「破産手続の迅速処理のため」の説明なし)、霜島甲一『倒産法体系』(勁草書房、1990年)220頁(共益的債権が弁済不能の場合には、「未払の共益的債権は、倒産債権にならって、現在化金銭化したうえ(破52条)、法令の定める順序にかかわらず、まだ弁済しない債権を平等に弁済する」)。安藤一郎『現代破産法入門』(三省堂、1994年)198頁(「迅速な処理のため」との説明あり)。
注12 松下論文前に同趣旨の結論を述べるものとして、山本和彦ほか『倒産法概説』(弘文堂、平成19年) 80頁(沖野眞巳)があり、松下論文後において、これに賛成するものとして、竹下守夫・編集代表『大コンメンタール破産法』(青林書院、2007年)587頁(上原敏夫)がある。
注13 97条柱書かっこ書の中の「財団債権であるもの」は、3号の請求権などについては、「基本となる債権が財団債権であるもの」と読みたくなる。しかし、そう読むことは、5号の請求権でつまずく。5号の請求権は、制裁的要素が強いので、本税が財団債権であっても、劣後的破産債権になると解されているからである。したがって、97条柱書かっこ書は、2条5項末尾と同趣旨であり、不要である。前記のような読み方を惹起させやすいという点では、誤解を招きやすい文言である。
注14 破産手続開始前の原因に基づいて生じた租税等の請求権(本税)が財団債権である場合に、それが破産手続開始後にただちに弁済がなされないことによる延滞税等は148条1項4号の規定により財団債権になることについて、[小川*2004a]195頁参照。
注15 このことが条文の文言上明瞭であるかは疑問である。97条3号と5号を対比させると、「本税が破産債権である場合には破産手続開始前の加算税も劣後的破産債権になる」ことは明らかであるが、そこから「本税が財団債権である場合にも加算税債権が破産債権になる」ことまで引き出すことはできないからである。実際、本税が財団債権である場合には、97条3号の規定にかかわらず、破産手続開始後の延滞税も財団債権になるとされているのである。そうであれば、本税が財団債権である限り、加算税も97条5号の規定にかかわらず財団債権になると解しても、規定の文言に反するわけではなかろう。本税が財団債権である場合に、延滞税は破産手続開始の前後に拘わらず財団債権になり、加算税は全て劣後的破産債権になるというのは、結局のところ、延滞税と加算税の性質の違いを考慮した一つの解釈であると言わざるをえない。
なお、旧法下では、破産管財人の報酬について彼が徴収義務を負う源泉所得税の債権の不納付を理由とする加算税について、「不納付加算税の債権も,本税である源泉所得税の債権に附帯して生ずるものであるから,旧破産法の下において,財団債権に当たる」とされた(最高裁判所 平成23年1月14日 第2小法廷 判決(平成20年(行ツ)第236号))。
現行法下では、加算税が制裁的性質を有することを考慮し、これを破産債権者の負担において徴収するのは適当でないという理由で、その発生の時期が破産手続開始の前であるか後であるかを問わず(したがって、本税が財団債権の場合にも)、劣後的破産債権であると解されているのであるが、それで徴税事務が適切に行いうるかという疑問は残る。例えば、破産財団所属財産を売却したことによる消費税を破産管財人が納付しない場合に、課税庁は、最終的には破産管財人個人に対して消費税相当額の損害賠償請求をなしうるが(85条2項)、不納付加算税も財団債権とし、これについても破産管財人個人に損害賠償請求をすることができるとする方が、より強力な強制手段となろう。そして、不納付が破産管財人の行為である場合には、不納付加算税を148条4号により財団債権になるとすることは、解釈論として可能であろう(97条柱書内のかっこ書にも注意)。そのように解するか否かは、政策的決断の問題である。
注16 [山木戸*1974a]126頁は、「事務処理が財産関係のものであれば、破産財団に対し事務管理となることがあり、その場合には」という要件のもとで、事務管理による債権が財団債権になることを認める。この要件は、「その事務処理が破産財団にとって有益である」ことを明示的に要求していない点で、本文記述の要件よりは緩やかなようにも読めるが、「破産財団にとって有益である」ことは「財団債権を発生させる事務管理」の概念の中に含まれていると理解すれば、差異はないことになろう。
注17 大正11年破産法に関するものであるが、最高裁判所 昭和43年10月8日 第3小法廷 判決(昭和39年(行ツ)第6号)及び最高裁判所 昭和62年4月21日 第3小法廷 判決(昭和59年(行ツ)第333号)が、次の趣旨を述べている:破産法47条2号が、国税徴収法または国税徴収の例によつて徴収することのできる請求権で破産宣告後の原因に基づくもののうち「破産財団ニ関シテ生シタルモノ」に限つて財団債権とした趣旨は、それが破産債権者にとつて共益的な支出であることにあるものと解すべく、従つて、その「破産財団ニ関シテ生シタル」請求権とは、破産財団を構成する各個の財産の所有の事実に基づいて課せられ、あるいはそれら各個の財産のそれぞれからの収益そのものに対して課せられる租税その他破産財団の管理上当然その経費と認められる公租公課のごときを指すものと解するのを相当とする。
注18 破産手続開始後に原因のある租税債権等のうち、財団債権にならないものは、破産債権であり(97条4号)、劣後的破産債権である(99条1項1号)。