関西大学法学部教授 栗田 隆

破産法学習ノート「未解決の法律関係」の比較法メモ


1. 概説

スイス法

SchKG 211条が、非金銭債権が相当額の金銭債権に転換されることを規定する(1項)。その後で、「但し、破産管財人は破産者の義務を履行する権利を有する。債権者はこの場合に、彼に履行が担保されることを求めることができる」(2項)、と規定している。

これについて次のような説明がなされている。<< この場合の担保の提供は、双務契約において一方が支払不能である場合におけるOR 83 による担保請求権と比較することができる。そして、担保が拒絶された場合には、債権者は契約を拒絶することができる。債権者は実物履行 Realerfuellung によっても担保の提供によっても完全な満足を得ることができ、単なる破産配当に甘んずる必要はないので、この措置は、実際上、債権者が相応の反対給付をなさなければならない双務契約の場合にのみ正当化される。破産者がまだ完全には履行していない双務契約を解決する abwickeln ことが債権者全体にとって有利である場合には、破産管財人はSchKG 211.2 により金銭給付もなすことができる。例えば、破産者の営業の継続に必要な事務所の賃料。従って、賃料債権は財団債務となるが、賃貸人により期間満了前に契約が解消させられることを阻止するためには、OR 266 により担保が提供されなければならない。>>(Amonn3S.338)

明治23年商法(第3編破産)

 993条「破産宣告の時に破産者及ひ其相手方の未た履行せす又は履行を終らさる双務契約は孰れの方よりも無賠償にて其解約を申入るることを得
 賃貸借契約又は雇用契約に在ては解約申入の期間に付き協議調はさるときは法律上又は慣習上の予告期間を遵守す可し 」

2. 一部履行済みの場合における59条の問題点

ドイツ法の処理(KO)

ドイツ法の処理(InsO von5.10.1994)

3. 賃貸人の破産

ドイツ法

目的物が賃借人に引き渡されている場合には、管財人は賃貸借契約に拘束され、§17DKOの選択権を行使できない。しかし、目的物が§21 od. 126により売却された場合には、買受人は、法定告知期間を保って賃貸借契約を解約できる(§21 mit §57c ZVG cf. Baur/St rner2)。この特別の解約権も、判例によれば、賃借人保護法の制限に服する(Zeller10 §57a Randnr 5)。

4. 賃貸人破産の場合の前払い賃料の取扱い

ドイツ法

§21 Abs.2 DKO:賃料の処分前払いは当月のもののみが有効。破産宣告が月の15日より後になされた場合には、当月および次月についてのものも有効。但し、建設協力金については、判例法により全額対抗できる。

5. 労働契約の解除

オーストリー破産法25条

6. 組合

ドイツ民法§728: 組合員の破産を組合の解散事由とする。なお、組合員の一人の死亡も原則として組合の解散をもたらす。

7. 保険

ドイツ法

cf. §13 DVVG, §177 DVAG。

Bauer/St rner10S.411 :生命保険において、保険契約者の死亡後にその相続財産に対して破産が開始された場合、保険金の受取人が第三者または相続人であれば、保険金は破産財団に入らない。

8. 反復的供給契約

cf. Bauer/Stuerner, S.404

9 . 委任契約

1994年ドイツ倒産法115条(委任の終了)
「(1)債務者によって与えられた委任で倒産財団に属する財産に係るものは、倒産手続の開始により終了する。
 (2)危険の回避のために必要な場合には、受任者は、倒産管財人が他の方法で処理できるようになるまで、委託された事務の処理を続行しなければならない。委任は、その限りで、存続するものとする。この続行から生ずる賠償請求権について、受任者は財団債権者である。
 (3)受任者が手続の開始を過失なく知らなかった間は、委任は彼のために存続するものとする。この続行から生ずる賠償請求権について、受任者は、倒産債権者である。 」

 116条(事務処理契約の終了)
「 ある者が債務者との雇用契約又は請負契約により債務者のために事務を処理しなければならない場合には、第115条を準用する。この場合に、事務処理の続行から生ずる賠償請求権についての規定は、報酬請求権についても適用される。第1文は、振替契約、支払契約、移転契約(Uebertragungsvertag)には適用されない;これらは財団のために有効に存続する。」

 117条(代理権)
「(1)債務者により与えられた代理権で倒産財団に属する財産に関するものは、倒産手続の開始により消滅する・
 (2)委任又は事務処理契約が115条2項により存続する範囲では、代理権も存続するものとする。
 (3)代理人が手続の開始を過失なく知らなかった場合には、民法179条の責任を負わない。 」

1914年オーストリー破産法26条(委任及び申込み)
「(1)破産者によって与えられた委任は、破産開始により終了する。
 (2)破産開始前に破産者によってまだ承諾されていない申込みは、申込者の別段の意思が状況から明らかにならない限り、維持される。
 (3) 破産者の申込みで破産開始前にまだ承諾されていないものは、破産管財人を拘束しない。」

スイス債務法401条(取得した権利の移転)
「1項 受任者が委任者の計算のために自己の名において第三者に対して債権を取得した場合には、その権利は、委任者が彼の側で委任関係から生ずる全ての義務を履行すれば、直ちに委任者に移転する。
 2項 受任者が破産した場合に、破産財団との関係で同様とする。
 3項 委任者は、受任者の破産において、受任者が委任者の計算のために自己の名において所有権を取得した動産の引渡しを求めることができる。ただし、受任者の留置権は留保される。

10 . 破産手続開始前に発生した相手方の解除権の行使

明治23年商法第3編破産に次の規定がある。

994条 「契約者の一方の義務不履行の為め他の一方に於て契約を解除する権利又は既に給付したる物を取戻す権利は財団に対して之を行ふことを得す。」

同条につき、次の文献を参照:[磯部*1891a]3789頁参照。この規定により、破産宣告後の不履行を理由とする解除権の行使が禁止されることには明らかであるが、破産宣告前の不履行により破産宣告前にすでに発生していた解除権を破産宣告後に行使も禁止されるのかは明瞭ではない。前掲書の注釈でも、解除権の発生時期については言及がない。ただ、破産手続開始前に解除権が発生している場合に、その解除権を破産宣告後に行使しても、破産宣告前に給付した物の返還を求めることはできないとの帰結は肯定されるのであるから、結局のところ、破産宣告前に生じた解除権の行使も禁止する趣旨であると理解してよいであろう。

この規定は、993条(双方未履行の双務契約の解除)と995条(相殺)との間に置かれているが、ロエスレル草案にはない(明治23年商法993条に対応する草案1047条の次の規定(1048条)は、法995条に対応する)