関西大学法学部教授 栗田 隆

破産法学習ノート2「取戻権」の注


注1 [住友証*1998a]参照。

注2 b2の場合に、代償的取戻権を全面的に否定する見解として、[注解*1998a]643頁(野村秀敏)がある。破産者の債権者が、当該代償財産が破産者の責任財産であることを信頼する場合があることを根拠とする。なお、[谷口*1981a]216頁も参照。

注3 この登記は、当該債権の債務者以外の第三者との関係で、確定日付のある債権譲渡の通知(民467条)とみなされ、登記の日が確定日付となる(4条1項)。また、債権の譲受人が登記事項証明書を交付して譲渡を通知すれば、債務者との関係でも譲渡の通知と見なされる(4条2項)。登記事項として、特例法8条2項1号・7条1項8号では、登記の年月日が挙げられているにとどまるが、動産・債権譲渡登記規則16条1項4号で登記ファイルへの記録事項として登記の時刻が挙げられており、これにより差押命令の第三債務者への到達時刻との先後が判定される([法務省*1998c]37頁以下、[植垣=小川*2005a]57頁参照)。登記の日時は、登記事項証明書にも記載される(規則23条1項)

注4 法律の規定により分別保管が義務づけられていない場合に、破産者が分別保管のために各顧客からの預かり金を自己の名義で開設した預金口座に入金しておいた場合の取扱いは明瞭ではないが、これは破産者の一般財産の一部とみるべきであろう。破産者となる債務者の一般財産への混入を避けるためには、顧客名義の預金口座を開設して、債務者が預金の出し入れについて代理権を得るようにするのが一つの方法であろう。

注5 売主の取戻権と問屋の取戻権とでこの点の規律が異なっているのは、売買契約と買付委託契約との差異に基づくものと理解してよい。すなわち、売買であれば、売主は、目的物を他に売却できるのが通常であるが、買付委託契約の場合には、受託者は他の者から同様な委託を受けることは予定されておらず、委託者に当該物品を引き取ってもらうよりしかたがないので、53条の適用を否定しつつ、問屋は発送した商品について特別の先取特権を有するとされた。

注6 53条1項の解除に遡及効があるかいなかは、解除される契約の特質に依存する。売買契約の解除については、一般に遡及効が肯定される。もし買付委託契約を売買契約と同様に処理しようとして、受託者に53条1項の解除権を与えるとすると、委託契約の遡及的解除をもたらす解除権を与えることになろう。しかし、それは、委任契約の解除に遡及倖を否定している民法652条の規定に反する(実質的な理由は、注5に述べたことである)。特に、委任契約は63条3項が適用される場面では、問屋が委託された物品を既に買い入れて発送しているので、委託契約を遡及的に消滅させることになる契約解除権を破産管財人に与えるのは適当ではない。