注1 差押禁止財産の委付 民執法以前にあっては、旧民訴570条4項によって債務者の承諾があれば差押禁止財産も差し押さえることができるとされ、旧破6条3項も民執法制定以前は同趣旨を定めていたが、民執法によりこの点は変更された。弱い立場にある債務者の生活の確保のためである。
注2 帰属上の一身専属的権利(相続の対象とならない権利)であること自体は、当該権利の差押えを禁止するものではなく、破産財団に含まれることを妨げない。しかし、帰属上の一身専属的権利は、同時に、行使上の一身専属性を有するものが多く、そうである限りは、破産財団に含まれない。もっとも、帰属上の一身専属権であること自体により差押えの対象にならないとする見解もある(酒井一[百選*2006]44頁)。
帰属上の一身専属性のみを有し、行使上の一身専属性を有しない権利として、終身定期金債権(民法689条)がある。このような権利の取扱いは、譲渡性の有無によって分かれよう。
注4 民執法131条6号の財産の範囲は拡張されてきていて、内科開業医が使用するレントゲン撮影機も差押禁止財産とされている(東京地(八王子支)決昭和55年12月5日判時999号86頁[百選*1994a]65事件) 。
注5 責任保険の保険金請求権も、被保険者の破産手続開始後に生じた事故に関し、原理的には破産手続開始時に将来の請求権として破産財団に属していたことになるが、保険法22条の規定により、一般の破産債権者への配当に充てるべき財産としての意味を実際上持たない。
注6 破産手続開始時に破産者がまだ退職していなかったため、将来の請求権としての退職金債権の3/4が差押禁止財産であったが(民執法152条2項)、破産手続中に退職して退職金が支払われた場合に、差押禁止部分も現金あるいは銀行預金債権に変われば差押えが可能であることを理由に全額が破産財団に属することになると解すべきか否かについては、見解が分かれ。しかし、退職金債権が差押禁止債権とされたことの趣旨からすれば、差押禁止部分は、支払後も自由財産に属すると解すべきであろう([高田*2002a]766頁)。
注7 自動車損害賠償保障法では、保険会社に対する直接請求権が被害者(賠償請求権者)に認められている(16条1項)。同法は、保険法の特別法であり、同規定は、保険法22条1項の特則であると説明される([萩本*2010a]134頁注3)。自動車損害責任保険の約款などでは、被害者の保険会社に対する直接請求権が認められているのみならず、被保険者が破産した場合には保険会社は被害者に直接支払うことができると規定されている(たまたま手元にある資料であるが、例えば、富士火災海上保険株式会社の「自家用自動車総合保険普通保険約款」(2003年10月改訂)6条2項4号(イ)参照)。被害者(損害賠償請求権者)に先取特権を認める保険法22条は強行規定であるが、約款中のこうした規定は被害者の先取特権を侵害するものではないから、有効である。
被害者に直接請求権が認められる場合でも、保険金請求権は破産財団に属するとの位置付けを変える必要はないであろう(もし反対の見解をとるならば、被保険者について破産手続が開始されていない場合に、被保険者が自己の財産から被害者に賠償金を支払ったとき、被害者に属していた保険金請求権が賠償金支払により被保険者に移転すると構成することになる)。なお、この直接請求権は、民法613条1項本文所定の賃貸人の転借人に対する直接請求権と同類のものと理解してよいと思われる。また、被害者が保険金請求権について法定質権を有するとの構成が採用されているわけではないが、実質はこれに近く、債権質権者の取立権限と類比することも許されよう。
注8 最高裁判所 平成13年11月22日 第1小法廷 判決( 平成10年(オ)第989号)。
注9 慰謝料請求権のような行使上の一身専属権については、当該債権の譲渡の中に行使の意思が表明されていると見る見解もある(例えば[石田*1953a]205頁。「遺留分減殺請求権は,遺留分権利者が,これを第三者に譲渡するなど,権利行使の確定的意思を有することを外部に表明したと認められる特段の事情がある場合を除き,債権者代位の目的とすることができないと解するのが相当である」と判示する最高裁判所 平成13年11月22日 第1小法廷 判決( 平成10年(オ)第989号)もこれを前提とする)。そこで、この見解を前提にすると、破産手続中にこれらの権利が破産者によって譲渡された場合の取扱いが問題となる。譲渡の意思表示をすることにより一身専属性を失うと共に、(α)譲渡対象財産が破産財団に属する財産であることにより、譲渡は破産財団に対抗し得ず、その後は破産管財人が行使すると解すべきか、(β)譲渡が有効になされて初めて一身専属性を失うのであるから、一身専属性を失った時点では破産財団の財産ではないから、破産者がした譲渡は破産財団との関係でも有効であると考えるべきかが問題となる。理論的には前者の選択肢が正当と思われるが、ただ、この選択肢をとると、破産者は実際上譲渡をなしえなくなり、権利の時効消滅が生じやすくなるが、それでよいのか悩むところである。
注10 その点からすれば、2条14号の定義は、若干の言葉を補って読んだ方がよい。例えば、「・・・権利が専属するものの集合をいう」あるいは「・・・権利が専属するもの全体をいう」
注11 旧法281条では、破産終結時に換価されていない財産について債権者集会が処分の決議をすることが規定されていたが、この制度は廃止された([小川*2004a]180頁)。
注12 旧法下では、次のような議論もあったが、現行法はこの議論を取り入れた規定をおいておらず、また、破産財団の範囲に関しては破産者に有利な規定をおいているところから見て、これらの議論を否定したと見るべきであろう。
注13 この解決は、退職金からの満足について破産手続開始後の債権者との競合が生じうる点で破産債権者にとって不利な面があるが(108条2項参照)、やむを得ないであろう。
注14 なお、2条14項の「破産財団」の定義の中で「破産管財人」の語が使われているが、同条12項の「破産管財人」の定義のなかでも「破産財団」の語が使われており、循環定義の様相を呈する。この点からは、破産財団の外延的定義が34条で与えられているのであるから、2条14項で内包的定義を無理に与える必要はない、と言うこともできる。内包的定義にこだわるのであれば、両者はいわば同時に定義されるべき対概念であり、同一の項のなかで定義する方がよいであろう。
注15 例外は、労働組合である(解散原因を定める労組法10条で、破産手続の開始が挙げられていない)。しかし、破産した労働組合が解散することなく存続すれば、残債務について弁済責任を負うことになるから、残余財産が生ずる場合は別として、組合規約に破産手続の開始が解散事由と定められていない場合でも、総会決議により解散することになろう(労組法10条2号)。そこで、この学習ノートでは、破産手続の開始された労働組合が解散することなく存続することは想定しないことにする。
注16 なお、破産免責が与えられるか否かにかかわらず、破産手続中に退職した場合あるいは退職が確実であるような場合に、その退職金債権が破産財団に帰属すると解すれば足りると説く見解も有力であ([加藤*2006a]121頁以下)。この見解が、その他の場合に、退職金債権がそもそも破産財団に属さないという趣旨なのか、破産財団に属するが破産管財人は破産財団から放棄すべきであるという趣旨かは明瞭ではないが、おそらく後者であろう。
注17 従前(2008年8月2日以前)は、下記の表のように要件設定をして説明していた。
説明番号 | 法定財団 | 自由財産 |
---|---|---|
1 | 換価になじむ財産であること | |
2 | 破産者に属すること(34条1項)⇔取戻権 日本国内にあるか否かをとわない(普及主義[5]) |
|
3 | 破産手続開始時に破産者に属すること(将来の請求権を含む)(34条1項・2項)。 固定主義。 | 新得財産(破産者が破産手続開始後に得た財産) |
4 | 差押禁止財産を中心とする個人債務者に留保された財産に該当しないこと(34条3項・4項)。 | 差押禁止財産を中心とする留保財産 |
5 | 一身専属的権利でないこと | 一身専属的権利 |
しかし、「換価になじむ財産であること」を要件に掲げると、換価価値のない財産について明快な説明をすることが困難になる(従来していた「換価になじむものであればよく、価値があるか否かは問わない」という説明も、わかりやすいとは言えない)。
そこで、「換価になじむ財産であること」に代えて、「破産管財人による管理処分になじむこと」を要件に掲げることにし、この要件の中に「一身専属的権利でないこと」も吸収させることにした。
注18 44条1項にいう「破産財団に関する」は、「破産財団に属する財産及び財団債権に関する」と「破産債権に関する」とに分析されることになるが、後者を破産財団の概念の中に含めることは、幾分異例のことであり、混乱を引き起こしやすい。44条1項にいう「破産財団に関する訴訟手続」は、「破産者の財産関係の訴訟手続」(24条1項3号参照)の語に置き換える方がよい。
注19 もし「取戻権に対応する返還義務」が「破産財団」に含まれるとするならば、その義務を現実財団に含めるか法定財団に含めるかが問題となる。もし現実財団に含めるとすれば、その義務は、破産管財人が当該財産を現に管理していることと表裏をなし、特別に取り上げる実益は乏しい。もし法定財団に含めるとすると、同一物の法律関係が義務の面から見れば法定財団に属し、管理の面から見れば法定財団ではなく現実財団に属することになり、議論に混乱が生じよう。
注20 破産者が建物の賃借人であり、消防設備等の災害防止設備が破産者に属する場合には、賃借権が破産財団に属するときには、災害防止設備も不動産賃借権とともに売却されるとしてよく、不動産の賃貸借が破産管財人により解除されるときにも、破産財団に属する財産として換価される(必要であれば所有者に買い取らせる)べきだからである。
注21 被害者(損害賠償請求権者)が保険金から確実に賠償を得ることができるようにする方法として、(α)被害者に保険者に対する直接請求権を与える方法と、(β)特別の先取特権を与える方法とが考えられる。前者の方法では、賠償責任の有無や賠償金額に争いがある場合(特に過失割合が問題になる場合)に、被害者と保険者との間の訴訟で賠償金額等を確定することになり、保険者に彼の直接知り得ない争点に関する主張立証を強いることになり適切ではないとの理由で、前者の方法が否定され、後者の方法が採用されたとのことである([萩本*2010a]134頁注2)。
注23 松下淳一「判例研究」ジュリスト901号105頁が、請負法人が破産者である場合について、大正11年破産法の解釈として、次のように述べている:「破産手続外で仕事の完成がなされた場合、固定主義(破6条1項)により、少なくとも宣告後の労務提供に相当する部分については、新得財産破産法人の自由財産になるはずである(同64条2項の反対解釈)。株式会社においては破産は解散原因であるから(商404条1号・94条5号)、自由財産を破産手続外の清算手続(同417条以下)で、破産債権者又は株主に配分することになろう。」。
注24 [条解*2014a]303頁、[高田*2015a]908頁。
注25 こうした解決は、死亡保険金が破産財団に含まれるか否かが被保険者の死亡時期という偶然に依存させることになり(結果の偶然依存)、その点て好ましくないのは確かである。しかし、結果の偶然依存を完全に排除することは無理であり、そもそも破産者を保険金受取人とする生命保険契約が破産手続開始前に締結されていたかも偶然であると言うべきであろう。区切りのよいところで妥協ないし諦める(一定時期以降に被保険者が死亡した場合には、保険金は破産財団に属さないとする)べきであろう。
注26 解釈論としてはこれが無難であろう。行使上の一身専属性のある慰謝料請求権について、破産終結決定後に一身専属性を失っても追加配当の原資にならないとする最高裁判所 昭和58年10月6日 第1小法廷 判決(昭和54年(オ)第719号)を参照。立法論となれば、破産手続終結後一定期間(例えば1年)以内に現在の請求権になった場合には追加配当の原資になるとすることも考えられる。