目次


クリップアートの出所と著作者の表示

関西大学法学部教授
栗田 隆


この破産法学習ノートで使用されているクリップアートは、次の2つに大別させます。

  1. 関西大学法学研究所・知的財産権研究班のクリップアート集から採録したもの
  2. CG & ART WORKS : 株式会社 SIFCA /インプレス編集部編『カラークリップアーツ CD-ROM for Macintosh』(1995) から採録したもの

後者のクリップアート集は市販のものですので、著作者の表示として、「by SIFCA」を付記しています。著作権法の研究もしておりますので、こうした点についての説明を下記に記載しておきます。なお、「著作権フリーの表示のある著作物とそのWeb出版における利用−−クリップアートを中心にして−−」もあわせてお読みいただければ幸いです。

1996/3 初稿
1997/6/8 改訂


1. 出所の表示

この破産法学習ノートにおいて、「by SIFCA」の表示とともに使用されているクリップアートは、購入者に一般的な利用を認める下記のクリップアート集から採録したものです。

CG & ART WORKS : 株式会社 SIFCA /インプレス編集部編『カラークリップアーツ CD-ROM for Macintosh』(1995)

この破産法学習ノートでのクリップアートの利用は、著作権法30条以下の著作権の制限に関する規定による利用ではなく、著作権者の許諾に基づく利用ですので、出所明示義務を規定する著作権法 48条 の規定は適用されません。したがって、

すべきことになります。

利用許諾条件(上記図書の134頁)では出所表示は要求されていませんので、出所表示は義務ではありません。しかし、私の場合には、学術的著作で引用の際に出所を表示する習慣がついているので、クリップアートについても出所も明示しないと落ち着きません。そこで、その表示をすることにしました。出所は、個々のクリップアートごとに表示するのが本来ですが、個々のクリップアートごとに著作者を表示をすることはクリップアートの利用目的(紙面・画面の装飾)にそぐわないので、ここに一括表示します。


2. 著作者の表示

著作者の表示については利用許諾の条件の中で特に何も述べられていませんので、氏名表示権に関する19条の規定にしたがって表示すべきことになります。クリップアート集では、著作権者が株式会社シフカであることは明示されています(134頁)。しかし、私が現に利用している個々のクリップアートの著作者が

  1. 株式会社シフカであるのか、
  2. 奥付のスタッフリストに表示されている、ディレクター(長田智行)および製作スタッフ(昆野浩明・渡辺寿明・堀本武秀・野口明・鈴木忍・品川恭子・中原敏幸・瀬上麻紀・下川健次郎・高橋千穂)の諸氏 であるのか、 それとも、
  3. 著作者名は表示されていない

と考えるべきなのか、必ずしも明瞭ではありません。

3番目の選択肢をとればれば、著作権法19条2項により、著作者名は表示しなくてもよいことになります。著作者名が意図的に表示されていない場合はもちろん、意図的でない場合でも、著作者名が表示されていない以上、利用者は著作者名を表示しなくてもよいでしょう。著作者名を調査してまで表示する義務はないと考えます。しかし、次のことを考慮すると、この選択肢をとることは適当ではなく、1番目か2番目の選択肢をとるべきでしょう。

1番目の選択肢と2番目の選択肢のいずれをとるべきかは、迷います。SIFCAが著作権を有すると表示されていることからは、次の2つの可能性が想定されます。

  1. 著作者は制作フタッフたる個人で、株式会社SIFCAがその著作権を取得した。
  2. 著作者は著作権法15条(職務上作成する著作物の著作者)の規定により株式会社シフカであり、それゆえSIFCAが当初の著作権者である。

第1の可能性も否定できませんが、それでも、著作権法15条の適用により株式会社SIFCAが著作者であると考えてよいでしょう。そのように考えた場合には、著作権法15条1項が「法人等が自己の著作の名義において公表したもの」であることを使用者著作の要件の一つとしていることとの関係で、制作スタッフの表示をどのように理解するかが問題となります。制作スタッフの表示を著作者の表示と理解すると、15条は適用されず、制作スタッフが著作者になってしまい、適当ではありません。したがって、この表示は士気を高めるために記載されたものにすぎず、著作者の表示ではないと考えるべきでしょう。そして、そのような趣旨での制作スタッフの表示も許されること(著作権法15条1項の適用を妨げないこと)を強調しておくべきでしょう。

破産法学習ノートでは、上記の考えに立って、『カラークリップアーツ CD-ROM for Macintosh』から採録したクリップアートについては、著作者をSIFCAとして表示しています。


3. 著作者の表示の省略の可能性

なお、クリップアートの特質に鑑み、著作権法19条3項により、著作者名の表示を省略できると考える余地もあります。有償で購入したクリップアート集については、そのように考える余地が大きいでしょう(但し、「著作権フリー」の表示ないし一般的利用許諾がなされており、著作物の利用が許容されていることを前提にします)。これに対して、無償のクリップアートについてそのように考えるのが適当かは、問題だろうと思います。ともあれ、この選択肢には判断の誤りという危険が付きまといます。

こうしたことを考慮すると、クリップアートの利用条件の中で、「著作者の氏名表示を省略することができる」旨が明記されていると、利用しやすくなります。氏名表示権は著作者人格権で、「著作者の一身に専属し、譲渡することができない」ものとなっており(59条)、したがって氏名表示権の全面的な放棄は認められませんが、氏名表示権を留保しつつ、氏名表示権が一身専属的な権利とされている趣旨に反し限度で、利用者の氏名表示義務を免除することは許されます。著作権法自体、著作者の氏名が常に表示されることを要求しているわけではありません(19条3項)。

したがって、著作者の氏名をクリップアート集(CD-ROM、あるいはそれに添付されたパンフレットや図書)に表示してその人格的利益を守りつつ、クリップアートの利用の促進のために、個々のクリップアートの利用者について氏名表示義務を免除することは、著作権法上許されます。今後その趣旨が明記されたクリップアート集が増えることを期待します。


4. 著作者がはっきりしない場合の措置

以前は、クリップアートの著作者が誰であるか判断がつきかねて、いわば窮余の策として、この頁に制作スタッフ等を表示した後、クリップアートごとにその作品番号を次のように書きました(詳細別記方式)。



しかし、この方式には次のような問題があります。

著作者がはっきりしないと、可能性のある著作者をすべて表記しなければなりません。それを個々のクリップアートの近くに表記すると見苦しくなりますので、上記のような方式をとることにしたのですが、結局実用的ではありませんでした。著作者の表示が必要な場合には、それを個々のクリップアートに近接して簡潔に表示できるのが、最善です。そのためには、次の2つのことが必要です。

「by SIFCA」という表示は、簡潔でよいものです。これが正当な著作者表示あることを願っています。


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Author: 栗田 隆
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Last Updated: 1997年 6月 8日