法学学習ガイダンス3
関西大学法学部教授 栗田 隆
法学の教育・研究に影響を与えた身近な科学技術の発展として、古くはコピー機の発明がある。コピーの労力は大きいが、貴重な資料の正確な写しを手許に置くことができることの恩恵は大きかった。現在では、なんといっても、インターネット、そのうちでもとりわけWWWであろう。WWWは、World Wide Webの略語である。これは、多数の情報を蓄積した世界中のコンピュータがリンクにより蜘蛛の巣のように結び付けられて状態を表している。
WWWを利用すれば、法情報を持つ者は、大量の情報を安価に万人に向けて発信することができるようになった。法情報を入手しようと思う者は、コンピュータと通信回線さえあれば、基礎的な資料はかなり集められるようになった。関西大学には、インターネットにつながったコンピュータが多数用意されていて、学生諸君は無料で利用できる。
インターネットの世界ではURL(Universal Resource Location)という、情報の所在場所とアクセスの方法をひとまとめにした表記方法が使用される。関西大学のサイトについて言えば、「http://www.kansai-u.ac.jp/index.html」である。最初のhttpがアクセスの方法であり、www以下が所在場所である。以下では、このURLを付記しながら、無料でアクセスできる法情報関係のサイトをいくつか紹介していくことにしよう。紹介されなかったものについては、情報検索用のサイトも発達しているので、自分で探し出してほしい。また、関西大学図書館のページにも優れたリンク集がある(http://www.kansai-u.ac.jp/library/home.htm)迷うときには、ここに行くとよいだろう。このサイトで紹介されている有料データベースの多くには、関西大学の学生諸君は、学内から自由にアクセスできる。
電子政府構想にしたがって政府が提供しているのが総務省行政管理局の「法令データ提供システム」である(http://law.e-gov.go.jp/cgi-bin/idxsearch.cgi)。最高裁規則は、最高裁のサイトに掲載されている(http://www.courts.go.jp/kisokusyu/)。いずれも常時アップデートされていて、最新の法状態を知ることができる。
自治体の条例を知るには、鹿児島大学の「全国条例データベース」が優れている(http://joreimaster.leh.kagoshima-u.ac.jp/)。
法律の審議過程の情報も重要である。WWWが普及する以前であれば、発信コストの関係で、こうした資料には一般人はなかなかアクセスできなかった。しかし、今やコスト面での障壁はなくなり、情報公開の追い風を受けて、政府提出法案が審議会等で議論される場合に、その経過も相当程度公開されるようになった。一般民事法や刑事法は法務省が管轄している(http://www.moj.go.jp/)。審議会のページには、そこから辿っていくことができる。法律を作る際に、ある程度の骨格ができると、中間試案が発表され、それに対するパブリック・コメントが募集されることが多い。個々の法令のできる経過を知る上で、これらは有益な資料である。古い資料も是非公開しておいてもらいたいところであるが、保存される保障はないので、必要な資料は、自分でせっせと保存するより仕方がない。
他の官庁が管轄する法律については、管轄官庁のページを見ることになる。例えば、著作権法は文化庁が管轄している(http://www.bunka.go.jp/)。司法制度改革のような内閣主導の改革については、首相官邸のサイトに掲載されていることが多い(http://www.kantei.go.jp/)。このサイトで、「司法制度改革」をキーワードにして検索してみるとよい。
法律を制定するのは、国会である(衆議院:http://www.shugiin.go.jp/、参議院:http://www.sangiin.go.jp/)。国会の議事録も公開されるようになった。民事訴訟法のような専門技術的な法律については、それほど深い議論を期待することができないが、しかし、弁護士出身の国会議員も多数おり、その議論はしっかりしている。内閣提出法案が国会で修正される場合にも、議事録は重要となる。議員提出法案については、いうまでもない。国会図書館には第一回国会からの会議録がデータベース化されていて、キーワードで検索することができるようになっている(http://www.ndl.go.jp/index.html)。
これは、裁判所のサイトで6種類用意されている(http://www.courts.go.jp/)。最高裁判例集、高裁判所判例集、 下級判所判例集、行政事件判例集、労働事件判例集、知的財産判例集である。かつては、これらの判例集を通じた横断的検索ができなかったが、現在ではそれも可能になっている。。
諸君は、法制度を理解して、自分あるいは他人の行動結果について予測を立て、それを基に意思決定を行うことにより法律学を実生活に役立てることができるが、その最終段階は、一定の書面を作成して裁判所等に提出することである。その書面を作成する上で役立つのが、各種の書式である。以前は充実した書式集が、「最高裁」のディレクトリー内のみならず「各地の裁判所」のディレクトリー内にもあったが、現在は「裁判所」のディレクトリー内に集約されてしまったようである(http://www.courts.go.jp/saiban/tetuzuki/syosiki/index.html)。そのため、掲載されてる書式の数が減少したことは残念であるが、今後増加させていく予定とのことである。ともあれ、書式集を見ていると、法律の知識を生かす場所は、訴訟以外にも多数あることがわかる。
社会的に重要な事件について、当事者ないし代理人弁護士が、自己の主張を社会にアピールするために、訴訟資料を掲載することがある(国際的な企業や公的機関が公表することもある)。有益な資料を良識にしたがい節度を保って公開している限り、好ましい現象と評価すべきである(進行中の訴訟について資料が公開されると、世界の誰も傍聴人になれる。そこに個人名が開示されることの当否は問題となるが、開示されても個人がそれに耐えて生きていくことができるだけの強さを身につけることも必要であり、また、社会も個人の過去の行為についてより寛容でなければならない)。ページの出現・消滅の激しいので参照指示はしないが、検索すれば、興味を引くページに巡り会うであろう。
法律は、さまざまな社会事象の中での人間の行動を規律の対象とする。法を理解するためには、そうした社会事象を理解することが必要である。例えば、破産法については、倒産現象一般を理解するために、帝国データバンクの倒産情報を見ておとよい(http://www.tdb.co.jp/)。また、インターネットで公開されている情報としては、判例・法令を別にすれば、法律分野よりも経済分野の方が圧倒的に多い。それは、社会的需要の差の現れとみることもできる。経済分野の資料の中にも法律学にとって有用な情報が含まれている。余裕があったら、それらにも目を通しておこう。少々内容が難しいかもしれないが、日銀のサイトにアクセスしてみよう(http://www.boj.or.jp/)。その中の「会見・談話・講演」のページが取っ付きやすいであろう。民間企業のサイトにもよいものがある(リンク集:http://civilpro.law.kansai-u.ac.jp/kurita/etc/links/linkToEconomics.html)
ここでは、アメリカ合衆国のサイトを簡単に紹介しておこう。合衆国は、情報公開の先進国であり、多数の情報が世界に向けて惜しげもなく公開されている。合衆国の法制度が世界標準になることが合衆国の国益にかなうと言わんばかりである。英語が国際的共通語になっているだけに、その影響は大きい。最初の一歩としては、議会図書館(http://www.loc.gov/)を見るのがよいだろう。裁判所については、http://www.uscourts.gov/が玄関である。連邦の法令については、Cornell 大学の LII(Legal Information Institute)(http://www.law.cornell.edu/)が有用である。
このように、多数の法情報がWebに掲載されているが、全部が掲載されているわけではない。とりわけ、学術的な研究論文の多くは、今でも、紙に印刷されるだけである。図書館に行って本も読もう。Webに掲載される資料も、丁寧に読もうとすれば、紙にプリントアウトし、書込みをしながら読むのがよい。現在のところ、コンピュータの画面上の資料で事足りるとは考えない方がよい。
紙数の関係で一部削除のうえ、関西大学法学部「アクセス」に掲載