関西大学・栗田隆:著作権法注釈
著作権法 第51条(保護期間の原則) |
(1) 著作権の存続期間は、著作物の創作の時に始まる。 (2) 著作権は、この節に別段の定めがある場合を除き、著作者の死後(共同著作物にあつては、最終に死亡した著作者の死後。次条第1項において同じ。)50年を経過するまでの間、存続する。 |
人は、一人で生きているのではない。著作活動も、他の人々との連帯の中で、先人の文化的遺産を受け継いだ社会の中でなされる。有体物と異なり万人による自由利用が可能であるという特質を有する著作物は、次の時代の文化の発展のために、いつの日か、万人の自由利用に供されるべきである。こうした思想を背景にして、51条以下において著作権の存続期間が定められており、本条はその一般原則を定めたものである[2]。
著作権の存続期間は創作の時から始まり(1項)、著作者はこの時から著作物について著作権を有する(17条2項参照)。創作の時とは、思想又は感情が著作者の外部に表現された時、つまり、文字、画像、声、音あるいは動作自体等として表現された時である。写真の著作物などのように、著作物の性質上、物に固定される形で表現されるものもあるが、音楽や言語の著作物などは、物に固定されることは必ずしも必要のない。後者の著作物にあっては、物に固定されなくても、外部に表現されたときから著作権による保護が始まる。公表したか否か、公表する予定であるか否かは、重要でない。
著作権は、別段の定めに該当しないときは、著作者の生存する間のみならず、死亡した翌年から起算して50年間存続する。これにより、著作権の財産的価値が高まり、企業が著作者から著作権を購入する時、少なくとも50年の存続を見込んで著作権を評価することができる。著作者の遺産としても、価値を持ちうる。
著作権の存続期間の終期の算定にあたっては、死亡の年月日を起算点とするのではなく、死亡した日の属する年の翌年から計算する。したがって、ある年の12月1日死亡したのか、それとも翌年の1月1日に死亡したかは重要であるが、ある年の1月1日に死亡したか同じ年の12月31日に死亡したかは、重要ではない。これにより、著作者の死亡日を起算点にした場合よりも、死亡時期の確定をめぐる紛争が格段に減少される。
共同著作の場合には、共同著作者うちの最終死亡者を基準にして、その死後50年を経過するまで、著作権が著作物全体に対して存続する。
明治32年の旧著作権法では、著作権の存続期間を次のように定めていた。
現行法の施行前に、改正作業中の暫定措置として、この保護期間が小刻みに延長された[1]。その延長結果を含めて現行著作権法の施行の時点で著作権の存続期間がまだ満了していない著作物は、現行法による保護を受けるが、他方、現行法施行前にすでに著作権の全部が消滅している著作物は、すでに自由利用に供されているものであり、著作権が復活することはないとされた(附則2条1項)。具体的には、次のようになる([加戸*1994a]273頁 )。
旧法による著作権の一部が消滅していた場合には、現行法においてこれに対応する著作権に関する規定は適用されない(その権利は消滅したままとする)。
旧法下で、死後公表された著作物は、公表の時から著作権が30年存続する。この保護期間と、現行法による保護期間とを比較して前者の法が長ければ、前者の保護期間の満了時まで著作権は存続する(附則7条)。現行法は、昭和46年(1971年)1月1日から施行されたので、この経過措置適用のあるのは、昭和45年12月31日以前に公表された著作物ある([加戸*1994a]273頁以下 )。従って、この経過措置が意味を有するのは、2000年12月31日までである。
1949年(昭和24年)中に死亡した著作者の著作物の著作権の保護期間は、1950年1月1日から起算して満50年の1999年12月31日の経過をもって消滅する。したがって、1949年(昭和24年)12月31日以前に死亡している著作者の著作物は、死後公表の特例に該当するものを除けば、西暦2000年1月1日の時点では、著作権の保護期間がすでに終了している。これに該当するのは、例えば、次の著作者の著作物である(死亡年月日は、[新潮社*1991a]による。その他につき、青空文庫など[R201]で情報が提供されている)。
他方、次の著作者の著作物は、これに該当しない。
著作権の存続期間については、次のように、様々な特則がある。それぞれ関係する条の注釈において述べることにしよう。
韓国著作権法[R107] 第36条(保護期間の原則)
カナダ著作権法[R104] Term of copyright -- section 6