Webページによる権利侵害と通信設備設置者の責任

−−インターネットプロバイダーと大学について−−

関西大学法学部教授
栗田隆


本稿は、1996年10月3日の大阪大学での研究会の報告原稿に手を加えて、題名を改めたものである。


  1. はじめに
  2. 電気通信事業者の責任
  3. 学生のホームページによる権利侵害と大学の責任

1. はじめに

パスカルやデカルトが言うように、人間は考える葦であり、考えることができるがゆえに自分の存在を確信できるのである。そして人間は、自分の考えや思いを他人に伝えることに悦びを感ずる動物でもある。自己を表現し、他人の思想・感情を知ることは、人格の発展にとって不可欠のことである。表現の自由の重要性は、それにとどまらない。歴史は、思想の自由な流通が民主主義の維持に不可欠なことを教えている。

それゆえ、より多くの者が自己の思想・感情をより多くの人々により簡便に伝えることができるようになることは、すばらしいことである。今、インターネット、なかでもWebの普及により、それが実現されようとしている。数年前には考えられもしなかったことである。もちろん、多数の者が一斉に自己表現をした場合には、自己表現の氾濫となり、平均して見た場合に、一人当たりの自己表現が実際に伝えられる相手の数は、それほど多くはないことになろう。しかし、それは重要ではない。自己の思想・感情を多くの人々に伝達する手段が多くの者に与えられること自体に意味がある。Webによる自己表現機会の拡大は、同時に、自己表現機会の平等化である。それが急激であるという意味で、表現機会の平等化革命と言ってよい。

したがって、インターネットによる新たな表現手段の利用を学生に教えることは、現在の大学にとって重要事項の一つといってよい(注1)。すでにいくつかの大学がその方向で動き出している。そこで本稿では、《大学の通信設備(インターネットに接続されたLANやWebサーバー)を利用して有線送信される学生のWebのページにより第三者の権利が侵害される場合に、大学や教員はどのような民事上の責任を負うのか》という問題を議論の終着駅としつつ、通信設備を学生の利用に供している大学と類似の立場に立つインターネットプロバイダーの責任の範囲も検討することにしたい。 問題の発生の根源は、もちろん、次の2点にある。

以下では、学生のHTML文書等が大学のサーバー用コンピュータから読者のコンピュータに有線送信され、読者がWeb閲覧ソフトによりそれを閲覧する場合を想定する。文書がサーバー用コンピュータにより自動送信されうる形でハードディスクに配置されることは、World Wide Web という大きなシステムの中で、誰もがいつでも閲覧できる状態にしたことであり、これを比喩的に「著作物をWeb(ないしWebサーバー)に掲載した」と言うことにする(注2)。著作物をWebに掲載する者は、その著作物を有線送信する者である。


2. 電気通信事業者の責任

大学が学生にサーバーの利用を許可した場合に生ずる法律問題を考える前提として、まず、電気通信事業者(インターネットプロバイダー)(注3)がその電気通信設備(特に、Webサーバー用コンピュータ)を顧客の通信(HTML文書の有線送信)の用に供し、その顧客が当該文書により第三者の権利(特に、名誉権や著作権)を侵害した場合に、電気通信事業者がどのような責任を負うかを検討しておこう。

2.1. 電気通信事業法の関係規定

人は、自己の思想・感情を他人に知られることなく特定の者に伝える自由を有し、それは通信の秘密として保護されなければならない(憲法21条2項)。電話のような特定の者から特定の者への通信については、その通信内容のみならず、通信当事者が誰であるかも、原則として秘密保護を受けるべきである。コンピュータ通信もそれが特定の者から特定の者に対してなされる限り、通信の秘密として保護されるべきである。この憲法上の要請を受けて、電気通信事業法は、次のように規定している(注4)。

3条(検閲の禁止)
「電気通信事業者の取扱中に係る通信は、検閲してはならない」
4条(秘密の保護)
「(1)電気通信事業者の取扱中に係る通信の秘密は、侵してはならない。
 (2)電気通信事業に従事する者は、在職中電気通信事業者の取扱中に係る通信に関して知り得た他人の秘密を守らなければならない。その職を退いた後においても、同様とする。」
104条
「(1)電気通信事業者の取扱中に係る通信(第90条第2項に規定する通信を含む)の秘密を侵した者は、1年以下の懲役又は30万円以下の罰金に処する。
(2)電気通信事業に従事する者が前項の行為をしたときは、2年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する。
(3)前2項の未遂罪は、罰する。」

そして、通信手段の公共性に鑑み、次のような差別禁止規定が置かれている。

7条(利用の公平)
「電気通信事業者は、電気通信役務の提供について、不当な差別的取扱いをしてはならない」

一般のインターネットプロバイダーは第2種電気通信事業者(6条3項)に該当し、プロバイダーが取り扱う通信については、これらの法条が適用される。そのうちで、第7条の名宛人が通信事業者であるのは、明らかである。4条の名宛人は、明示されていないが、これを担保する104条を考慮すれば、

のすべてを名宛人としているというべきであろう。もっとも、通信当事者は、通信の秘密の保護を享受する者であり、当事者双方の意思に基づき通信中に通信内容を公開することは許されようし、通信内容を各当事者がどのように利用するかは、4条の対象外というべきであろう。

ともあれ、《憲法の人権保障の規定は、国家の個人に対する権利保障であり、労働基本権を定める28条のような例外を除けば、私人間には直接適用されない》という伝統的な見解(間接適用説)を前提にすれば、電気通信事業法4条は、通信の秘密の保障を私人間に拡張したという点に意義を有することになる。

3条の検閲も同様に理解してよいであろうか(注5)。

  1. 憲法21条2項の検閲は、「行政権が主体となって、思想内容等の表現物を対象とし、その全部又は一部の発表の禁止を目的として、対象とされる一定の表現物につき網羅的一般的に、発表前にその内容を審査した上、不適当と認めるものの発表を禁止することを、その特質として備えるものを指す」(最判昭和59.12.12民集38-12-1308、最判昭和61.6.11民集40-4-872)。
  2. 電気通信事業法3条の検閲については、「国その他の公の機関が強権的にある表現又はそれを通じて表現される思想の内容を調べることをいう」との見解が有力である(堀部政男「猥褻画像の発信とインターネットの規制」法学教室187号104頁参照)。

3条についていずれの検閲概念を採用すべきか迷うところであるが、前記2の概念を採用すると、3条は4条と同内容の規定にならないだろうか。3条と4条は、憲法21条2項の趣旨を気通信について規定したものと理解するのが素直であり、そうだとすれば、3条についても憲法21条2項と同様な検閲概念を採用した上で、電気通信の特性にあわせてその内容を修正する方がよいであろう。従って、3条にいう検閲は、「思想内容等の表現物を対象とし、その全部又は一部の通信の禁止を目的として、対象とされる一定の表現物につき網羅的一般的に、通信前にその内容を審査した上、不適当と認めるものの通信を禁止することを、その特質として備えるものを指す」と理解したい。そして、3条にいう「電気通信事業者の取扱中に係る通信」は、電気通信事業者に送信依頼のあった通信や電気通信事業者の電気通信設備を利用して送信されるべき通信(送信前の通信)も含むものと解したい。

そして、この検閲主体を行政権に限定すれば、電気通信事業者は、同条の名宛人にならないことになる。しかし、次のことを考慮すれば、本条は電気通信事業者をも名宛人とした規定と考えるべきであり、その点で憲法21条の権利保障を拡張する規定であると理解したい。

2.2. 電気通信事業者の責任範囲

以上のことを前提にして、顧客のページが第三者の権利を侵害している場合、ないしは侵害していると主張されている場合に、どのような義務ないし責任が電気通信事業者に認められるべきかを検討しよう。基本的な選択肢としては、おそらく、次の2つがあろう。

  1. 電気通信事業者は、顧客のページが第三者の権利を侵害しないように、配慮する義務を負う。
  2. 電気通信事業者は、サーバーの利用を提供したにすぎず、その内容については顧客が責任を負うべきであり、電気通信事業者は、顧客が第三者の権利を侵害したことについて、原則として責任を負わない。

Webのような公開の通信にあっては、電気通信事業者の責任をまったく否定することはできないし、他方で、事業者に大きな責任を負わせることも適当でないという意味では、第三の解決が考えられるべきことになるが、しかし、上記の2つの基本的選択肢のうちでは、第2の選択肢をとるべきであろう。それは、次の理由による。

それゆえ、顧客のWebページの内容が第三者の権利を侵害しないように通信事業者が常時監視する義務などは、否定すべきである。このことは、事業者と顧客との間で、《顧客が第三者の権利を侵害する内容のページ掲載した場合には、事業者は利用契約を解除することができる》といった条項が定められている場合でも変わらないというべきである。そのような条項は、第三者の権利を侵害する文書が掲載されたことが明らかになった場合に、事業者の解除権を根拠付けるに過ぎず、第三者との関係で事業者が顧客のページを常時監視する義務を事業者に負わせる根拠としては、不十分である。もしその条項の存在を理由に通信事業者が第三者に対して損害賠償義務を負うのであれば、そのような条項を置かなかったために顧客の侵害行為を阻止できなかったことも、損害賠償義務の原因となろう。それゆえ、そのような条項の存否は、第三者に対して損害賠償を負うか否かの問題との関係では、重要ではない。

2.3. Webサーバー利用者の住所・氏名の開示

他方で、顧客のページにより第三者の権利が侵害されているのに、事業者が通信の秘密を盾に、顧客の氏名・住所を明らかにしないのは、行きすぎである。公開性の高いWebサーバーの利用者たる顧客の住所・氏名がそもそも通信の秘密にあたるとすべきか否かは迷わざるをえないが、たとえ通信の秘密にあたるとしても、被害者に司法的救済を得させるための開示は、正当な行為として許され、電気通信事業法104条の罪にもあたらないとすべきである。それは、次の理由による。

それゆえ、電気通信事業者に次のような責任を認めるべきである(注6)。

このような責任を認めることにより、被害者から見れば常に責任者が存在するようにすべきであろう。

ただ、このことは、第三者が顧客のページにより被害を受けたと主張すれば、常に顧客の住所・氏名をその第三者に開示すべきことを意味するものではない。住所や氏名が公開されれば、それがまたプライバシーの侵害等の契機となる。また、顧客が政治的思想をWeb上で表明した場合に、その顧客がそれに反対する思想の者から一方的な攻撃(身体・財産への攻撃)にさらされることになろう。それゆえ、被害を受けたと自称する第三者の主張に根拠がないことが明らかな場合には、事業者は、開示要求に応ずるべきではない。

しかし、多くの場合は、被害を受けたと自称する者の主張に根拠があるか否かが不明確であろう。その場合に、事業者にあまりにも正確に判断を要求すれば、その問題を避けるために電気通信事業者が委縮し、Webサーバーの提供自体が中止されることになる。それは、表現の機会の拡大・平等化の観点から望ましいことではない。そこで、被害者が司法上の救済を求める意思を次のような形で明確にした場合には、電気通信事業者は、特段の事情のない限り、予め顧客に通知の上、顧客の住所・氏名を被害者に開示しても、顧客から責任を問われることはないと考えたい。

2.4. 事業者のその他の義務

Webに掲載された顧客の文書が他人の権利を侵害するものである場合に、電気通信事業者がそれを中止させる義務を広く認めることは、結果的に表現機会の拡大を鈍らせることになる。とりわけ、利用者が掲載する文書の内容を事前に点検する義務まで課すことは、電気通信事業法3条により禁止される。顧客がWebに掲載した文書を定期的に見て、違法行為が行われていないか監視する義務も認める必要はないであろう。その内容を精査することは、膨大な手間を必要とし、料金の上昇につながり、ひいては、公共の用に供せられる電気通信事業の発展の阻害要因となろう(電気通信事業法1条参照)。

しかし、違法性が明白な文書が掲載されていることを被害者からの抗議あるいは他の者からの通報により知った場合でも電気通信事業者はそれを放置することができ、被害者は常に加害者を相手に差止の訴訟を提起するより仕方がないとするのも、問題ではなかろうか。通信事業者は、自己のサーバーに違法性が顕著な著作物が掲載されたことを知った場合には、その掲載を中止させ、他の者の権利が侵害されないように配慮する義務があるというべきであろう。ただ、通信事業者がそのような義務を負うのは、掲載物の違法性が顕著な場合に限られ、その他の場合には、掲載者の住所氏名を被害者に開示することにより責任を免れるとすべきであると考えたい。例えば、次のようなことが考えられる。顧客の行為が著作権侵害にあたるか否か微妙であり、裁判してみないとわからないといった場合には、第三者が差止訴訟(著作権法112条)で勝訴しても、そのこと自体は通信事業者が敗訴した顧客とのサーバー利用契約を解除すべき理由にはならないであろう。しかし、その顧客が敗訴判決にもかかわらず類似の侵害行為を再び行う場合に、当該第三者が再び訴訟をしなければならないというのでは、負担が重すぎよう。すでに確定した判決を基準に考えれば、顧客の新たな行為も第三者の著作権を侵害するものであることが明らかである場合には、通信事業者はサーバー利用契約を解除すべきであり、それを怠ったことにより第三者に損害が生じた場合には、通信事業者も賠償責任を負うとしてよいのではなかろうか。かつ、通信事業者の責任は、その程度にとどまるものと考えたい。

電気通信事業者にそのような義務を認める以上、通信事業者は、被害者からの抗議あるいはその他の者からの通報を受け付ける窓口を用意しておくべきである。


3. 学生のホームページによる権利侵害と大学の責任

3.1. 大学の通信設備の位置付け−−自営通信設備

現在、インターネットに接続されたネットワークを有する大学の設置者(国や地方公共団体あるいは学校法人)は、電子メイルサービスやWebサーバーの利用サービスを行うことにより、第2種通信事業者が行っている程度の通信サービスを提供することは可能である(企業についても同じである)。違いは、サービスを受ける者が大学の学生・教職員に限定されるか否かである。これらの者は大学設置者の内部の者であると見れば、大学設置者の行う通信サービスは、「他人の通信の媒介」や「電気通信設備を他人の通信の用に供すること」にはあたらず、したがって、大学設置者の行う通信サービスは電気通信事業法2条3号にいう電気通信役務にはあたらず、同法3条等の適用はないことになる(自営通信)。このことは、私立大学が学生や教職員等の通信にどのような規制をおこなうか、さらには検閲を行うか否かは、それぞれの通信設備の設置目的に応じて決定できることを意味する。

国公立大学にあっては、憲法の直接適用があるとは言え、それでも、大学に電気通信設備が設置されていること自体に基づいて、学生や教職員がそれらの設備を利用する権利を当然に取得するわけではなく、その利用については、別途、大学設置者の利用許可が必要であり、その利用許可の中で利用目的・方法を制限することができよう。それゆえ、国立大学の場合でも私立大学の場合でも、問題の本質は変わらないと思われるが、ただ議論を単純にするために、以下では、私立大学の場合について議論することにしよう。

私立大学において学生や教職員等の通信にどのような規制あるいは検閲を行うかは、各大学において電気通信設備を設置した目的に応じて大学設置者が決定できることは、しかし、大学設置者が恣意的に決定できることまで意味するものではない。憲法の人権保障は、私人間には直接適用がないとしても、その内容は、民法90条の「公の秩序または善良な風俗」の内容となるのであり、それを無視した規制あるいは検閲は違法行為になりうる。通信の自由の制限の当否は、通信設備の設置した目的(この目的自体正当なものでなければならない)との関係で判断されるべきである。

大学における通信設備の設置目的は、教育、研究ならびにそれらを支援する事務の効率的な遂行である。研究活動については、学問の自由(憲法23条)が保障されていることとの関係から、その一環として研究者の通信の自由(検閲の禁止と通信の秘密)も尊重されるべきである。憲法23条は、学生をも対象とするものではないが、大学の通信設備を利用する学生の通信の自由の制限は、教育目的上必要な範囲に限定されるべきであり、それを越えた制限(特に電子メイルの秘密の侵害)は、違法行為になると考えたい。

以上のことを前提にして、問題をもう少し分析することにしよう。なお、学生との関係を論ずる祭に「大学設置者」の語を用いると、論述がぎこちなくなるので、以下では、「大学設置者」の語に代えて「大学」の語を用いることにする。

3.2. ホームページを開いた学生と大学との法律関係

学生の作成したHTML文書が大学の管理するコンピュータから有線送信されるようになっている場合に、その学生と大学との法律関係は、学生と大学との合意によりさまざまに定められうる。さしあたり次のような関係が考えられる。

  1. 大学ないし教員が有線送信の主体となり、学生の著作物を利用する関係。
  2. 大学が学生にWebサーバーの利用を許可し、学生が掲載する文書の内容を自由に決めることができ、従って、有線送信の主体は学生であると評価できる関係。学生が掲載する内容の決定の自由度は、教育目的ないしネットワーク設備の設置目的にしたがい、各大学において定められるべきことである。例えば、次のようなことが想定される。
    1. 情報処理関係の授業において、HTML文書の作成技術の習得一環としてWebサーバーの利用を許可する場合。この場合には、学生の作成する文書内容をこの目的に必要な範囲に厳格に限定することができる(特定的利用許可)。
    2. 大学が、特定の授業とは無関係に、自由な表現のために、学生にサーバーの利用を許可すること(一般的利用許可)。

3.3. 教員が有線送信主体になる場合

教員が有線送信者となって学生の著作物をその許諾を得て掲載している場合には、通常の図書出版における出版社と同様な注意義務が課せられる。学生の著作物によって他人の権利が侵害されないように教員が注意する義務は、最も高い。

3.4. 学生が有線送信の主体となる場合

この場合には、大学生のなかに未成年者がいるので、民法712条の適用の有無が問題になろう。次の理由により、大学または親権者が民法714条の監督義務を負うことはないものと考えたい。

3.4.1. 一般的利用許可の場合

大学が電気通信事業法3条・4条に規定されているのと同様な通信の自由を学生・教職員に与えることは、肯定的に評価されるべきである。そのような自由を与えられた学生が大学の提供するサーバーに掲載した表現物により第三者の権利が侵害された場合の大学と被害者との関係については、電気通信事業者について述べたことが当てはまると考えてよいであろう。

3.4.2. 特定の授業との関係で利用が許可された場合

学生の責任能力を肯定する以上、Webサーバーの利用を許した大学ないし教員が民法714条の監督責任を問われることは原則としてないと考えたいが、授業の中でHTML文書作成とサーバーへの掲載の課題が出された場合については、次のことを考慮すべきであろう。

これらの事情は、民法714条(責任無能力者の監督義務者の責任)や715条(使用者責任)とは別に、授業担当者に学生の作品により他人の権利が侵害されないように配慮する義務を生じさせ、その義務を過失により怠ったため他人の権利が侵害された場合には、教員は損害賠償義務を負うことにおそらくなると思われる。具体的な注意義務がどの程度のものになるかは、今後の議論に委ねられることになるが、次のように考えておきたい。

逆に、上記の注意を払っておれば、特段の事情がない限り、学生の作品により他人の権利が侵害されても、授業担当者は賠償責任を免れると考えたい。成績評価終了後も学生にWebサーバーの利用を許す場合には、その法律関係は、通常は、一般的利用許可となろう。その場合には、権利侵害が生じても、それは個々の授業担当者の責任の範囲外のこととなる。


(注1) Webのページ閲覧は、この1・2年で大抵の大学において学生に開放されるようになった。この急激な変化に決定的な影響を与えたのは、企業が求人情報をWebに掲載するようになったことと見てよいであろう。大学にとって、学生の就職は死活的事項であり、その影響力は、極めて大きい。求人情報のWebの掲載は、今後も継続しよう。各種の求人情報誌に情報を掲載するよりも、その方がコストが安いであろう。環境保護の点から見れば、求人情報紙に用いられる紙資源の節約となる(Webに用いられるコンピュータに使用される電気エネルギーとの比較という難しい問題はあるが、森林資源の保存の方が重要と考えてよいであろう)。大学から見れば、従来の求人情報紙がすべての大学のすべての学生に平等に配布されていたのではないことを考慮すると、求人公告に接する機会の平等化となる。こうした理由により、Webによる求人公告の普及は、ぜひ望みたいところであり、そのためには、適切なリンク集が編集されることも必要であろう。(本文に戻る

(注2) 著作物をWeb上で発行したと言っても良いが、ハードディスクにファイルを配置することとの関係で、日本語としては、「発行」より「掲載」の方がわかりやすいであろう。(本文に戻る

(注3) 郵政省編『平成8年版通信白書』(大蔵省印刷局、1996年)216頁によれば、平成7年12月末現在、プロバイダーとしてサービスしている第二種電気通信事業者数は、278社(届け出ベース)とのことである。(本文に戻る

(注4)通信の秘密につき、さしあたり次の文献を参照。郵政省電気通信局監修『電気通信とプライバシー保護(第2版)』(第一法規・平成4年)35頁以下。(本文に戻る

(注5)電気通信事業法は104条は、通信の秘密を侵したことに対する罰則規定であり、検閲が同時に通信の秘密の侵害を伴うことがあるという意味では、104条は3条の実効性を担保する機能をもつ刑罰規定ということができる。ただ、法文の形式上は、104条は直接には4条にのみ関係している。(本文に戻る

(注6) 同様な問題は、e-mailや newsにも生ずるが、これらについては立ち入らない。(本文に戻る


本稿は、1995年度−1996年度文部省科学研究費補助金による総合研究「著作権を中心とした知的財産権の法的保護」の成果の一部である。

<1996年11月16日稿>