有線送信としてのWeb出版

関西大学法学部教授
栗田 隆

1996年6月30日初稿


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1. 問題の提起

Webを通じて、著作物を提供する行為は、比喩的に、Web出版と呼ばれることがあるが、もとより、通常の出版、特に図書出版と異なることは明らかである。通常の図書出版の著作権法上の位置づけは、基本的には、著作物の複製であり、著作権者の有する複製権に服する行為である。では、Web出版は著作権法上どのように位置づけられるのであろうか。

著作権法23条1項は、著作者に著作物を「放送し、又は有線送信」する排他的権利を与えている。同条は、昭和61年の改正前は、「放送し、又は有線放送する権利」を規定していた。ところが、データベースのオンラインサービスなど個々の利用者のリクエストに応じて個別に送信する形態のものが普及してきたので、これも著作者の排他的権利に服することを明確にする趣旨で、昭和61年に現行法のように改正された(加戸[1994a]152頁、著作権審議会第7小委員会(データベース及びニューメディア関係)報告書(昭和60年9月)(研究会[1980a]4248頁)参照)。それゆえ、著作権法23条1項に言う有線送信(2条17号)には、次の2つのものが含まれる。

  1. 有線放送(2条9号の2)
  2. その他の有線送信(リクエストベースの有線送信)

Web出版は、有線を通じて送られてくるクライアントからのリクエストに応じてサーバーとなるコンピュータが有線を通じて自動的にデータを送付するものであるから、有線放送ではなく、上記の2に当たる。

サーバー用コンピュータがネットワークにすでに接続され、 Webのサーバープログラム(httpd)が起動されていることを前提にして、新規にある著作物をWebで有線送信する場合の通常のプロセスは、次のようになろう。

  1. ドキュメントファイルを作成する。
  2. それを、コンピュータが自動的に送信できるように、サーバーの適当なディレクトリーに配置する。
  3. 公衆のある者(クライアント)からのリクエストにこたえて、コンピュータが自動的にそのファイルの内容を送信する。

著作権法23条1項に言う有線送信とは、具体的には、上記のプロセスのうちのどの段階の動作を言うのであろうか(以下では、動作という言葉を人間の行為と、機械による自動的動作の両方を含めた意味で使うことにする)。表現を変えて言うならば、上記の動作のうちのどの動作が著作者の有線送信権に服するのであろうか。

ある著作者の著作物について有線送信権も有線送信の許諾も得ていない者が上記のようなプロセスを経て有線送信をなし、著作者の有線送信権を侵害した、という場合を念頭においてこの問題を考えてみることにしよう。


2. 2つの考え方

さて、上記のうちの3番の動作が有線送信権に服することは、問題ないであろう。問題は、それだけでたりるか、2番の動作も有線送信権に服させる必要はないかということである。この点については、次の二つの考えがありえよう。

実送信説
クライアントからのリクエストにこたえて、コンピュータが実際にデータを送信することが有線送信であり、これが著作者の有線送信権に服する。ドキュメントファイルをサーバーの適当なディレクトリーに配置する行為そのものは、有線送信にはあたらない。
配置説
クライアントからリクエストがあれば、コンピュータが自動的に送信するようになっているのであるから、ドキュメントファイルを自動送信可能なように配置する行為も、著作者の有線送信権に服させるべきであり、この行為も有線送信に該当する。


3. 2つの説の比較

これら二つの見解の間に、実質的な差異があるのであろうか。有線送信により著作権を侵害される著作権者が有線送信者に対して有する差止請求権(112条)と損害賠償請求権(民法709条、著作権法114条)について検討してみよう。

差止請求権(112条)との関係
配置説にしたがえば、有線送信者が著作物の入ったファイルを自動送信可能な形で適当なディレクトリーに配置した時点で有線送信権侵害が生じ、著作者はその侵害行為の停止、すなわち、そのファイルの削除を請求することができる。他方、実送信説に従えば、実際にリクエストがあって送信されるまでは、送信権侵害とならないので、著作者はそれまではファイルの削除を求めることができないようにもみえるが、112条は侵害をなすおそれのある者に対して侵害の予防を求めることができるとしているから、実際に送信がなされていなくても、ファイルの削除を請求することができよう。したがって、差止請求権との関係では、両者の間に実際上の差異はないといってよい。
損害賠償請求権(民法709条、著作権法114条)との関係
例えば、ある著作物がWebサーバーに無断で掲載されたために、その著作物の図書の販売が減少し、著作者が損害を受けたとしよう(但しこれは説明のための仮定である。Webに掲載されたのを読んで、内容がよいので図書を購入するという場合もありえようが、ここではその点は無視する)。この場合に、Webサーバーにアクセスした者がWeb上でそれを読んだためにその図書を購入しなくなったことによる損害のみを考えるのであれば、実送信説が適当であろう。しかし、そのWebサーバーにリクエストすればいつでも読むことができるので、買わないということによる損害も考慮すれば、配置説による方がよいであろう。

114条2項(損害額の推定)との関係ではどうか。同条にいう「著作権の行使につき通常受けるべき金銭の額」の算定の方法としては、個別送信ごとに計算する方法と、個別送信の有無に関わりなしにファイルを配置した期間に応じて計算する方法とがあり、いずれをとるかは有線送信許諾契約により定まることになろう。有線送信許諾契約なしに有線送信された場合の損害額の算定をどの方式にするかは、配置説をとるか実送信説をとるかによって直ちに決まるものではないであろうが、それでも、実送信説に従えば、個別送信の回数に応じて計算するのが素直な算定方法であろう。これに対して、配置説にしたがえば、個別送信の回数に応じて計算する方法も、期間に応じて計算する方法もとりえよう。


4. 問題の解決

こうした差異を考慮しつつ、いずれの説をとるべきかを決めることにしよう。物理現象的な見地からすれば、実送信説の方が理解しやすいであろう。しかし、今問題にしているのは物理現象的な問題ではなく、著作権法上の問題である。著作権は、著作物の利用に関する排他的な権利である。それは、他人がその著作物を利用することを一般的に禁止することができるという権利(ならびにそれを前提にして、他人の利用を許諾する権利)である。このように、著作権が他人の行為を禁止する権利である以上、自然の作用や機械の自動的動作は、著作権によって禁止される対象とはならない。

当面している問題について人間の行為として重要なのは、ファイルを自動送信可能な形で適当なディレクトリーに配置する行為(作為)である。もちろん、クライアントからのリクエストに応じてコンピュータが送信することをとめなかったという行為(不作為)も考えられるが、リクエストに応じて自動送信するのがWeb出版なのであるから、その不作為を問題にすることは無意味である。

したがって、リクエストに応じて自動送信するWeb出版において著作者の有線送信権により禁止される行為は、自動送信可能な形でファイルを配置する行為であり、この行為も23条1項に言う有線送信にあたるといわなければならない。

このことを前提にしつつ、なお、有線送信行為は実際に送信がなされた時点で完成するという意味で、実送信説をとる余地もないわけではない。しかし、114条2項の損害賠償額の算定との関係では、著作者の側は個別送信の記録を証拠として提出することは困難ではなかろうか。有線送信権侵害となるファイルがいつ頃から配置され、いつ頃まで配置されていたかを立証することの方が、通常は容易であろう。そして、著作者は、期間に応じて計算される使用料相当額と、個別送信の回数に応じて計算される使用料相当額とのいずれかを任意に選択して賠償請求できるとする方がよいであろう。

それゆえWeb出版にあっては、著作物の入ったファイルを自動送信可能な形で配置することが著作権法23条1項の有線送信であると考えたい。


本稿を草するにあたっては、1996年6月27日の知的財産研究班定例研究会において、野一色勲教授から多くのご教示をいただいた。この場をお借りして、あらためてお礼申し上げた。もちろん、本稿についての責任は、私にある。