(たいしつ)[/法学/民事訴訟法/]
同一の尋問事項について複数の証人の証言に食い違いがある場合には、どちらの証言か正しいかを明確にするために、証人同士を対決させる必要が生ずる。対決の方法としては、証人に相互に質問させて答えさせることも考えられるが、あまり生産的とは思われない(法廷に怒声が響きそうである)。むしろ、裁判長等の尋問者の面前に複数の証人を並べて、同一の質問をし、あるいは一方の証人の証言に関連させて別の証人に別の質問をして、その証言内容あるいは証言態度をみながらどちらの証人の証言が信用できるかを判断する方が、理性的で効率的である。日本では、証人同士の対決は、この方法で行われている(大正15年民訴法改正に際して、立案担当者が明示していることである([山内*1931a] 79頁))。これを対質という(民訴規則規118条1項)。
このように、対質は、証人同士を対決させるために、それに適した前記の方法で尋問を行うことを意味し、証人尋問の1つの方法である。対質は、現在では、証人の証言に食い違いがある場合に限られず、対質をおこなう必要があると裁判所が認める場合におこなうことができる。証言に食い違いがない場合に行われる対質にあっては、「対決」の意味あいは小さくなり、証人尋問を「複数の証人を同時に並べる方式」で行う点に特色があるにすぎない。
対質は、証言の信用性の判断に迷う場合に効果的な尋問方法であり、集中人証調べを行うことにより現実に可能となる。対質尋問については、裁判長が最初に尋問することができる(規118条3項)。
対質は、複数の証人の間で行うことができるのみならず、当事者と他の当事者との間で、あるいは証人と当事者との間で行うこともできる(民訴規則126条)。規則118条は、鑑定にも準用されているので(民訴規則134条)、複数の鑑定人の対質も可能である。鑑定人と証人、鑑定人と当事者との間の対質は、実際上の必要性は少ないであろうが、証人あるいは当事者が相当の専門的知識を有する場合には、その対質を行うことになお意味があり、許容されるべきである。
規定の文言の変遷 対質の方法に関する規定の文言は、明治23年民訴法の原案となったテヒョー草案が最もわかりやすい。
上記の諸規定にいう「命ずる」は、「証人尋問を対質尋問の方式で実施する旨の裁判をする」の意味である。裁判長のする裁判であるからその裁判は「命令」と呼ばれ、「命ずる」の語が使われているが、「証人に一定の行為を命ずる」という意味はあまりない。しかし、「通常の尋問とは異なる方式で尋問することを甘受せよ」という意味を込めることは可能である。
もし自由に規定を作ることが許されるのであれば、次のような文言にしたいところである。
余談 「対質」の「質」は、質問の意味である。現在行われているような対質の方式を前提にすると、「対」は「一対(いっつい)」の意味であると理解したくなる。そのように理解すると、「たいしつ」と読むより「ついしつ」と読みたくなる(「つい」は呉音)。しかし、対質の基になったドイツ語は、gegeueberstllenであり、「対決させる」を意味する。この由来を尊重すれば「たいしつ」と読むのがやはり正しいであろう。