主体の表示

(しゅたいのひょうじ)[/大学教育/法学教育/]


法律学では、個人や法人などの法主体の間の権利義務の関係が議論される。法学教育では、このような主体(権利義務の帰属主体)を適切に表示することが重要である。表示の仕方としては、絶対表示と相対表示がある。

絶対表示  絶対表示は、当面する法学的説明に登場する主体に適当な記号ないし固有名詞をもって表示することである。かつては、甲・乙・丙といった漢字が割り当てられることが多かったが、1970年代頃までには、X・Y・Zといったアルファベットの大文字が用いられることが多くなった。そして、甲・乙・丙といった漢字は、甲地・乙建物といった形で、客体に用いられる。

主体にアルファベットを割り当てる場合には、訴訟当事者にはX・Y・Zを用い、訴外人には、A・B・Cなどを用いることが多い。しかし、この方法では、立場の異なる訴訟当事者が4人以上いる場合には、記号が不足する。Zの次にどの記号を持ってくるかが問題となるが、P・Q・R・・・Vがよいであろう。

訴訟当事者に最初から順次P・Q・R・・Zを割り当てるのも一つの方法であるが、原告をXとし、 被告をYとすることが慣例としてかなり確立していることを考慮すると、あまり適当とは思われない。

相対表示  相対表示は、原告・被告、売主・買主、債権者・債務者といった概念で表示することである。これらの概念は主体間の相対的関係を表す概念であり、同一人があるときは原告となり、別のときには被告となりうる。したがって、これらの概念による表示は、相対表示と呼ばれる。

絶対表示と相対表示の間の選択  絶対表示を用いる場合には、主体間の関係を別途指定する必要がある。(「XがYに商品を売り、その代金債権の支払請求の訴えを提起する」)。相対表示の場合には、この指定は省略できる(「売主が買主に対して、代金支払い請求の訴えを提起する」)。このことは、スライドなどで、限られたスペースに図示する場合に重要である。簡単な設例については、相対表示がよい。

しかし、少し複雑な事例になると、絶対表示を用いないと混乱が生ずる(債権担保のために債権譲渡がなされる場合がそうてある。「XがYに対して有する債権を、AのBに対する債権の担保のために、Aに譲渡する」。相殺の事例においてすら、相対的概念を用いて主体を表示することは混乱を招きやすい)。

相対表示の内で特に注意を要するのは、「相手方」である。相対度が極めて高いこの表示を講義中にアドリブで迂闊に用いると、混乱に陥りやすい(例えば、「各当事者は準備書面を相手方に直送し、相手方は受領した旨の書面を相手方に直送する」(民訴規則83条1項・2項前段の言換え))。「相手方は、相手方の主張について」という表現は避けるべきである。2つの相手方が同じ者を指すのであれば、「相手方は、自己の主張について」と言い換える方がよい。異なるのであれば、一方当事者と他方当事者を予め明確にして、「他方当事者は、一方当事者の主張について」と言う方がよい(あるいは、「自白者の相手方は、自白者の主張について」という)。


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2004年 9月 7日