PTSD

(ぴーてーえすでー)[/医学/]


Posttraumatic stress disorderの略語であり、外傷体験を原因とする外傷後ストレス障害を意味する。損害賠償請求訴訟において、原告が被告の行為によりこの障害を惹起したとして、損害賠償請求がなされることがある。

例えば、最高裁判所 平成23年4月26日 第3小法廷 判決(平成21年(受)第733号)の事件においては、原告が過去のストーカー被害などの外傷体験を原因とする外傷後ストレス障害に罹患していたにもかかわらず,被告の開設する病院のA医師から誤診に基づきパーソナリティー障害(人格障害)であるとの病名を告知され,また,治療を拒絶されるなどしたことにより,同診療時には発現が抑えられていたPTSDの症状が発現するに至ったと主張して,被告に対し,診療契約上の債務不履行又は不法行為に基づく損害賠償を求める訴えが提起された。

原審は、原告が訴える症状(頭痛,集中力低下,突然泣いてしまうなど)をPTSDの発症と認め、A医師との面接時において,PTSDを発症する可能性がある状態にあったところ,A医師の言動により,その主体的意思ないし人格を否定されたと感じたことから,これが心的外傷となり,そのとき保持されていたバランスが崩れ,過去の外傷体験が一挙に噴出してPTSDの症状が現れる結果となったと判断して,A医師の言動と原告の症状の発症との間に相当因果関係があると認め,請求を一部認容した。

しかし、最高裁は、おおむね次のような理由で、原判決を破棄して請求を棄却した:(α)PTSDについて広く用いられている診断基準の一つであるDSM−IV−TRによれば,PTSDの発症を認定するための要件の一つとして,「実際にまたは危うく死ぬまたは重傷を負うような出来事を,1度または数度,あるいは自分または他人の身体の保全に迫る危険を,その人が体験し,目撃し,または直面した」というような外傷的な出来事に暴露されたことを要するとされているが、A医師の言動が原告の生命身体に危害が及ぶことを想起させるような内容のものではないことは明らかであって,前記のPTSDの診断基準に照らすならば,それ自体がPTSDの発症原因となり得る外傷的な出来事に当たるとみる余地はない;(β)A医師の言動は,原告がPTSD発症のそもそもの原因となった外傷体験であると主張するストーカー等の被害と類似し,又はこれを想起させるものであるとみることもできないし,また,PTSDの発症原因となり得る外傷体験のある者は,これとは類似せず,また,これを想起させるものともいえない他の重大でないストレス要因によってもPTSDを発症することがある旨の医学的知見が認められているわけではない。


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2011年 5月 5日