構成要件/要件/要件要素/要件事実/考慮要素/判定基準/テスト

(こうせいようけん)/(ようけん)/(ようけんようそ)/(ようけんじじつ)/(こうりょようそ)/(はんていきじゅん)/(てすと)[/法学/民法/民事訴訟法/]


構成要件と要件要素  法規は、多くの場合、一定の条件が充足されると一定の法律効果が発生するという形式で定められる。その条件の全体を指して「構成要件」(略して「要件」)という。要件は、複数の要素に分解することができる場合もあれば、分解できない(あるいは分解する必要がない)場合もある。後者の場合には、要件は一つの要素から構成されていると考える[1]。要件を構成する要素を「要件要素」という。例えば、民法587条は、「消費貸借は、・・・その効力を生ずる」の部分が法律効果であり、「当事者の一方が種類、品質及び数量の同じ物をもって返還をすることを約して相手方から金銭その他の物を受け取る」の部分が要件である。要件を構成する要素(要件要素)は、通常、「金銭その他の代替物の授受」と「その返還約束」の2つであると説明される。もっとも、「要件」と「要件要素」の語はそれほど厳密に使い分けられておらず、「要件要素」の意味で「要件」の語を用いることも多い。

要件事実  要件事実は、学説上、「権利を定める規範において要件を構成する事実」と定義される(例えば、[中野*2005a]19頁)。換言すれば、要件要素が事実に関係する場合に、それを「要件事実」というのである(倉田卓次訳[ローゼンベルク*1975a]15頁が、「メルクマール」を「要件事実」と訳しているのも、この用語法の一例である)。もっとも、これは主として学説が用いる用語法である。裁判実務では、「要件事実」の語は、通常、「権利を定める規範において要件を構成する事実に該当する具体的事実(主要事実)」の意味で用いられる(例えば、[裁判所職員総研*2005a]121頁注3 )。

考慮要素  法律効果の発生条件(構成要件ないし要件要素)が充足されているか否かが複数の事項を総合的に考慮して判断される場合に、考慮されるべき要素を「考慮要素」(略して「要素」)という。例えば、労働法の世界において、整理解雇が有効であるための要件として、(1)整理解雇の必要性、(2)整理解雇回避の努力、(3)整理基準・人選の客観性・合理性、(4)労働者・労働組合との誠実な協議の4つが定立されたが、その後この4要件を全て充足する必要があるかが議論され、これら4つの要素を総合的に考慮して整理解雇の有効性を判断すべきであると考えられるようになった。その変遷を、標語的に、「4要件から4要素へ」と言う([三井*2010a]8頁参照)。ここにいう「要素」を要件要素の意味にとると、混乱が生ずる。前記の標語は、前述の用語法に従って丁寧に言えば、「4つの要件要素から4つの考慮要素へ」と表現される[6]。

テスト・判定基準  憲法の世界において、基本的人権を規制する法規や処分の合憲性が問題になるときに、「規制目的の正当性」と「目的達成のための手段の正当性」が問題にされる。これらは要件要素と位置づけることができるが、アメリカ法の影響を受けて、「テスト」の語がよく用いられる。「テスト」を日本語に訳すならば(といっても、これまた外来語である漢語に訳すことになるが)「判定基準」(略して「基準」)がよいであろう。もっとも、試験の意味での「テスト」の語が外来語として日本語の中に定着しているのと同様に、これとは若干異なる「判定基準」の意味での「テスト」も現在では外来語として定着していると見てよいようである。上記の意味でのテストの語は、憲法のみならず、労働法やその他の法領域でも用いられるようになっている[2]。

証明責任の分配表現との関係  法規の多くは、一定の要件が充足されると一定の法律効果が発生という形で規定される。当該要件の要素に該当する具体的事実が証明されない場合には、要件が充足されたとはいえないので、その法規は適用されないとの原則(真偽不明の場合には法規を適用しないとの原則)を「法規不適用の原則」という。この原則を前提にすると、要件の記述により証明責任の分配も同時に記述されることになり、証明責任の分配を別途規定する必要がなくなり、規定が簡潔になる。証明責任の分配は、このような形で規定されているという考えを「法律要件分類説」という[3]。法律要件分類説を前提にした場合に、一つの規定の中に複数の要件要素があるときに、その要件要素はすべて同一人が証明責任を負うことになるように規定を記述すると、証明責任の分配が読み取りやすくなる。そして、通常は、そのように記述される。例えば、前述の民法587条について言えば、「金銭その他の代替物の授受」も「その返還約束」も、「返還請求権」を主張する者が証明責任を負う。

一般的な形で考えてみよう。

Aが証明され、かつ、Bが証明されない場合には[4]、法律効果Rが発生することを規定する場合に、規定の仕方として、次の2つの形式が考えられる。

民法の規定は、通常、形式1をとる。この場合に、本文(第1文)を権利根拠規定といい、ただし書部分(第2文)を権利障害規定という。2番目の形式の場合には、証明責任負担者を異にする要件要素が一つの文の中で記述されており、1文が長くなってしまうことと相俟って、形式1の場合よりも証明責任分配が読み取りにくくなる。形式2の例として、雇用機会均等法7条を挙げることができる。同条は、次のような文言である。

構造が解りやすいように、記号で示すと、次のようになる。

これを形式1に書き直すと、次のようになる。

本文を要件と効果を明示する形に書き直すと、次のようになる(ただし書は省略する)。

証明責任の分配表現の視点から見ると、形式2の場合には、要件要素ごとに証明責任を論ずることになる(したがって、構成要件と要件要素とを区別する必要性が高い)。他方、形式1の場合には、要件要素をひとまとめにして誰が証明責任を論ずれば足りる(したがって。個々の要件要素の証明責任の分配と構成要件(要件要素の集合)の証明責任の分配とが一致し、証明責任との関係では、構成要件と要件要素とを区別する必要性は低い)。

考慮要素の証明責任  考慮要素を含む規定として、労働契約法10条がある。同条本文は次のように規定している。

この規定の中で、「変更後の就業規則を労働者に周知させ」は一つの要件要素である。その後にある「就業規則の変更が、労働者の受ける不利益の程度、労働条件の変更の必要性、変更後の就業規則の内容の相当性、労働組合等との交渉の状況その他の就業規則の変更に係る事情に照らして合理的なものである」も一つの要件要素であるが、厳密な意味で要件要素となるのは、「就業規則の変更が合理的なものである」ことである。これについては、同条本文の適用を求める者(通常は使用者)が証明責任を負う(合理的あるとも、合理的でないとも判断できないときには、同条本文は適用されない)。「労働者の受ける不利益の程度、労働条件の変更の必要性、変更後の就業規則の内容の相当性、労働組合等との交渉の状況その他の就業規則の変更に係る事情」は、合理性の判断の考慮要素である。この考慮要素の証明責任はどのように考えるべきであろうか。

考慮要素については、通常は、証明責任を考える必要はないであろう。なぜなら、(α)証明責任は、予め法規で分配が確定されている責任(確定責任)であり、その証明責任の分配が法規のなかでどのように規定されているかを問題にしていることを前提にすると、真偽不明の場合の処理が個々の訴訟の状況により定まるような事項については、証明責任は問題にならない;(β)条文の文言からあるいは解釈により、「特定の考慮要素に該当する事実が証明された場合にのみ、その事実を考慮することが許される」とのルールが定立されることは、理論的にありうることであるが(この場合には、考慮要素の証明責任を語ることができる)、それは例外的なことと見るのがよく、そのようなルールが定立されていない通常の場合については、立法者は、考慮要素に該当する事実が真偽不明であることも考慮して要件要素(先の例では「就業規則の変更が合理的なものである」)が充足されているか否かを判断することを裁判所に委ねたと考えることができるからである。換言すれば、「労働者の受ける不利益の程度」に関する事実Aの存否が不明である場合に、裁判所は、事実Aが「存在するとの証明がない」ことを理由付けに用いることも、「存在しないとの証明がない(あるいは、存在の可能性がないとはいえない)」ことを理由付けに用いることもできると解すべきである。

もちろん、訴訟当事者は、自己の有利に考慮されるべき事実を主張・立証する必要がある。しかし、その必要は、本来の意味での証明責任ではない。裁判所が要件要素が充足されるか否かを判断(評価)するに際して、事実の存否が不明であること自体を考慮することができるのであれば、その事実について証明責任を語る意味はないからである。

仮に労働契約法10条が列挙する考慮要素について証明責任を観念することが可能であるとした場合には、「労働者の受ける不利益」の発生及び「不利益の程度」が高いと評価させる事実は労働者側が証明責任を負い、「不利益の程度」が低いと評価させる事実及び「労働条件の変更の必要性」の存在は、事業主が証明責任を負うことになろう。ところが、同条は、これらの要素を単純に並列しており、証明責任の分配を適切に表現しているとは言い難いこと、少なくとも、法律要件分類説を前提にして規定の形式により証明責任の分配を表現しているとは言い難いことに注意する必要がある。


[1] 要件と要素の関係に係る一種の定義である。集合論の言葉を用いて説明すれば次のようになる:構成要件は、少なくとも一つの要件要素を要素とする集合である(構成要件は、定義上、空集合でない)。

[2] 例えば、[三井*2010a]56頁では、この語が次のように用いられている:「解雇権濫用となる場合の合理性のテストと相当性のテストの内容が抽象的なままではっきりしない」

[3] ローゼンベルの「規範説」は、法律要件分類説の代表的な見解である。

[4] ここでは{B1、B2、・・・Bn}の全部の要素が証明されるべきことを前提にしたが、いずれか一つの要素が証明されればよい場合もある。

[5] 「B1の場合、B2の場合その他B3の場合」の部分については、厳密には、B3のみが考慮要素であり、B1とB2は、その例示にすぎない。表現上の工夫の余地はあるが、論述の単純化のために本文記載のようにした。

[6] 他の例を挙げよう。賃金について年俸制が採用されている場合に、次年度の年俸について使用者と労働者との間で合意が成立すればそれによることになるが、合意が成立しない場合に、使用者が年俸額を一方的に決定することができるためには、その権限(一方的年俸額決定権)が予め労働契約上有効に設定されていることが必要である。その権限を就業規則によって設定するためには、「合理的な年俸額決定の手続」が就業規則で規定されていることが要請されるが、決定手続が合理的なものであるためには一定の事項(年俸額結滞のための成果・業績評価基準、不服申立手続等)が満たされることが必要になる。その事項を要件と考えるべきか要素と考えるべきかについて、[荒木*2013a]120頁は、次のように述べる:その事項は、「制度が有効となるための要件ではなく、制度が契約内容となるための合理性を判断する重要な「要素」と位置づけるのが妥当と思われる」。


栗田隆のホーム

Contact: <kurita@kansai-u.ac.jp>
2014年6月10日 −2014年6月22日