受継/受け継ぐ/手続追行者

(じゅけい)/(うけつぐ)/(てつづきついこうしゃ)[/法学/民事訴訟法/破産法/]


訴訟手続が当事者や法定代理人(法人の代表者を含む)について生じた一定の事由により中断した場合に、中断状態を解消すること(手続を続行ないし再開すること)を「受継」という。

「受継」は、うっかりすると誤用してしまう概念である。そこで、まず「手続追行者」の説明から始めることにしよう。
手続追行者  訴訟手続の追行の効果は当事者に帰属し、当事者が訴訟手続を追行するのが原則である。しかし、当事者が訴訟無能力者である場合には法定代理人(当事者が法人である場合にはその代表者)が訴訟手続を追行しなければならない。現実の訴訟行為は訴訟代理人がなす場合でも、当事者または法定代理人の意思に基づいて訴訟代理人が選任され、解任されうるのであるから、手続を追行するのは当事者または法定代理人である。そこで、これらの者を「手続追行者」あるいは単に「追行者」と呼ぶ。

受継の対象  訴訟手続中に当事者が死亡し、その相続人が新たに訴訟当事者になる場合がある。このような当事者の交替を「訴訟の承継」という。相続人による訴訟の承継は法律上当然に生ずるが、相続人が実際に訴訟手続を追行することができるとは限らないので、訴訟手続は中断される。中断された訴訟手続を再開して、新追行者である相続人が訴訟手続を追行する場合に、それを「訴訟手続の受継」という。受継の対象は、「訴訟手続」であって「訴訟」ではない。

なお、前記の例では当事者の死亡と同時に訴訟の承継が生じ、かつ、訴訟手続の中断が生じており、訴訟手続の中断時=訴訟承継時である。しかし、常にそうであるとは限らない。例えば、債権者の債務者に対する支払請求訴訟の係属中に債務者について破産手続開始されて訴訟手続が中断した場合には(破産法44条1項)、訴訟を承継すべき者は、その存否を含めて、債権調査を経て確定するので(同法127条1項・129条2項参照)、訴訟手続の中断時にはまだ存在せず、訴訟承継も未だ生じていない。

受継の実現方法  訴訟手続の受継の実現方法は、次のように分類することができる。

  1. 受継が法律上当然に生ずる場合。この場合には、「当然訴訟手続を受継する」(破産法44条6項)という。これは、従前の追行者に代わって新追行者が訴訟手続を受け継ぐはずであったのに、それがなされないうちに手続を追行すべき者が従前の追行者に戻る場合である。
  2. 受継が法律上当然には生じない場合  この場合には、新追行者等の訴訟行為が必要となる。
    1. 新追行者からの受継申立てによる方法(民訴法128条参照)
    2. 相手方当事者からの受継申立てによる方法(同法126条)
    3. 裁判所の続行命令による方法(同法129条)

受継の申立てがあった場合(b1, b2の場合)には、裁判所は、相手方に通知し(民訴法127条)、受継申立ての当否を職権で調査し、理由がないと認めるときは、決定で、その申立てを却下しなければならない(同128条)。申立てが正当である場合には、そのまま手続を進行させる(通常は特に裁判することなく手続を進める)。申立てから、ここまでの手続が受継手続と呼ばれるものである。

訴訟手続を受け継ぐ  訴訟手続の受継が当然には生じない場合には、新たな手続追行者が受継の申立てをして訴訟手続を受継することが基本となる。これを簡潔に「訴訟手続を受け継ぐ」という。「Aは、訴訟手続を受け継ぐことができる」(破産法44条2項1文)、あるいは「Aは、訴訟手続を受け継がなければならない」((民訴法124条1項2文))という文言により、次のことが意味されている。

不適切な表現  以上のことから、次の表現が不適切であることは明らかである。

ただ、意味するところは十分に了解できるから、神経質になる必要はない。例えば、破産法127条の見出しは「異議等のある破産債権に関する訴訟の受継」になっている。また、「受継される訴訟手続に係る訴訟」では冗漫であり、短縮表現として、「受継される訴訟」とも言いたくなる。

次の表現は正当である。

古い法律で用いられた表現
訴訟手続の受継に関する用語は、現在では上記のように整理されているが、かつては混乱していた。


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