中人数教育

(ちゅうにんずうきょういく)[/教育/大学教育/]


大学教育において授業参加者数が授業内容の決定の大きな要素であることに鑑み、参加者数が20名以上50名程度である場合に可能となる授業内容の特質をさす新造語。

文科系の学部(特に法学部)においては、従来次のような区分がなされていた。

中人数教育という概念を設定する趣旨は、授業に参加する学生数が20名以上50名程度あることを前提にして、特に多人数教育との対比において、教育効果の高めるためにどのような授業をおこなうことができるかを考える点にある。受講者の人数がこの水準にある場合には、次のことが可能である。

  1. 試験を複数回行い、学生に答案を返却して、答案作成を指導することができる。
  2. 教師が学生に質問しながら講義を進めることが容易となる。
  3. 勉学の熱意が高い学生のみを集めたクラスを設けることができる。
  4. 出席調査が容易になり、出席を重視する授業運営が可能となる。
  5. レポートを数回提出させて、返却することも可能となる。

第1の点は、論述式の試験の多い法学部において重要である。学生は、最初のうちは、論述式の試験の答案の作成の仕方自体にとまどうことが多いので、1回目の試験の答案が返却され、答案作成の要領が説明されることは有意義である。また、試験が複数回行われるので、学生は、試験範囲について深く学習することができる。試験回数は、3回程度でよいであろう。

第2の点は、多人数教育でも可能ではあるが、この場合には、教師の発言はマイクを通して多くの学生に聴取可能となっても、学生の発言までマイクを通すことは実際上難しい(教師が学生にマイクを渡していたのでは不能率である)。マイクなしで学生の発言が教室内で聴取可能であることが望ましい。そのためには、受講者数が50名以下であることが必要である。

第3の点は、いわゆる受験予備校との対比において重要である。大学では、すべての学生がすべての科目について同程度の学習意欲を有するとは限らない。それぞれの学生が自己の人生設計と自己の能力に応じた熱意でもって受講しているのである。ある科目について熱意をもって受講している学生が他の科目について同程度の熱意で受講しているとは限らない。各科目についてどの程度の熱意で受講するかは、基本的に学生の自由である。また、大学の卒業証書が社会に出ていくための一般的パスボートになればなるほど、パスポートの取得のみに意義を見出し、勉学にはそれほど熱意を持たない学生が多くなることも、やむえないであろう。これに対して、受験予備校には現在のところ卒業証書の制度はなく、たとえあったとしても社会に出ていくためのパスポートにはなっていない。受験予備校では、そこで勉学すること自体に意味を見出す者が集まって、勉学に励むことになる。この違いは重要であり、学生が大学での勉学意欲の減退させ、受験予備校での勉学を賞賛することにつながりやすい。勉学の熱意の高い学生を集めたクラスを設けることが必要な時代になったと言うべきであろう。

それゆえ、上記のような特色もった教育を可能とするクラスサイズと言う意味で、中人数教育という概念を設定することできる。それは、少人数教育と多人数教育との中間に位置する。それは、多人数教育に近いが、学生数が少ないだけに学生と教師とのコミュニケーションが密になり、多人数教育にはない特色を有する教育となる。重要なことは、当初から上記の特色を意識して授業を計画し、それが実行できるようにクラスサイズを適性規模に抑えることである。そのためには、単位修得のハードルを高めに設定し、それを予告しておかなければならない。上記の4と5は、そのための手段として用いることができる。


栗田隆のホーム
Contact: <kurita@kansai-u.ac.jp>
1997年 9月 7日