懲罰的損害賠償

(ちょうばつてきそんがいばいしょう)[/法学/民法/民事訴訟法/]


損害賠償制度は違法行為によって被害者に生じた損害の回復を主たる目的とする制度であると考えると、実際に生じた損害の回復に必要な金額以上の賠償金の支払を命ずることは許されなくなる(損害賠償制度を損害回復制度として純化させ、違法行為の抑制は刑事制裁に委ねるべきであるとの思想)。しかし、違法行為の抑制も同制度の目的の一つであると考えると、実際に生じた損害額以上の賠償金を被害者に支払うことを加害者に命ずることも許されことになる。日本法は、前者の立場に立っているが、アメリカ法は、後者の立場に立ち、違法行為者の有責性を考慮した一定の要件の下で、損害額を超える賠償金の支払義務を加害者に負わせることを認めている。これを懲罰的損害賠償という(損害額の2倍あるいは3倍の金額の支払を命ずることにちなんで、「2倍賠償制度」あるいは「3倍賠償制度」の語が用いられることもある)。単純化して言えば、懲罰的損害賠償制度は、被害者に生じた損害の回復に必要な金額以上の金銭を損害賠償として支払わせる制度である。

日本法は、一般的な制度としては、これを認めていない。原告が懲罰的損害賠償ないし制裁的慰謝料の支払を求めたが、否定された裁判例として、次のものがある。

懲罰的損害賠償類似の制度  我が国は、懲罰的損害賠償の制度を認めていないが、これに類似する制度は少数ながらある。

外国判決の承認との関係  いわゆる懲罰的損害賠償を命じた外国判決(アメリカ合衆国カリフォルニア州裁判所の判決)は我が国の公の秩序に反するから、これに執行判決をすることはできない(最高裁判所平成9年7月11日第2小法廷判決(平成5年(オ)第1762号))。

なお、香港の裁判所が、インデムニティ・ベイシスの基準に基づき、当事者の一方に不誠実な行動があったことが考慮して、弁護士費用を含む訴訟費用のほぼ全額をその者に負担させる裁判は、懲罰的な評価が含まれていることが認められるが、負担を命じられた訴訟費用の額は実際に生じた費用の額を超えるものではないから、その訴訟費用負担命令等の内容が我が国の公の秩序に反するということはできないとされている(最高裁判所平成10年4月28日第3小法廷判決(平成6年(オ)第1838号))。


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2014年6月20日 −2014年6月20日