弁済者代位

(べんさいしゃだいい)[/法学/民法/破産法/]


意義  典型的には、債務者Aの債権者Bに対する債務を第三者Cが弁済した場合に、C(弁済者)のAに対する求償権の確保のために、C(弁済者)がB(原債権者)に代わって債権者の地位に就くこと(BのAに対する債権を取得すること)を「弁済による代位」(略して「弁済者代位」)という。

制度目的  第三者(保証人等)が債務者に代わって債権者に弁済する場合に、第三者が弁済に係る債権を取得することを欲しない場合もあるが(この場合には当該債権は完全に消滅する)、通常は、債務者に対する求償権を確保するために、その債権(原債権)を取得することを欲する[1]。この場合の弁済は、債権を消滅させる意味での弁済ではなく、弁済者が債務者に対して取得する求償権の確保のために原債権を弁済者に移転させることを前提にした弁済であり、原債権は、「求償権の確保」という制約の下で存続することになる(経済的に見れば、弁済者が債権者にした給付は、債権移転の対価と位置づけることができる)。民法は、この形態の債権移転を認め、これを「弁済によって債権者に代位する」と表現している。

類似の制度  代位取得とよばれるものには、他に、次のものがある:賠償者代位(民法422条)、保険者代位(保険法24条・25条、労働者災害補償保険法12条の4第1項)。ここでは弁済者代位のみを扱う。

法律構成  弁済者代位の意味ないし法律構成については様々な理解があるが、端的に言えば、代位弁済によって債権を取得することである([我妻*債権総論]253頁)とするのが多数説である。この形態の債権の移転を、債権譲渡(民法466条)や転付(民執法159条)と区別して、「代位による移転」あるいは「代位」という。代位による債権取得を「債権の代位取得」という。原債権者に代わって弁済者が債権者の地位につくことを「代位する」と表現しているのであり、弁済者からみれば、「債権を取得する」と表現することができ[2]、「弁済により債権者に代位する」と「弁済により債権を代位取得する」とは、同じことの別表現である。ただ、前者よりも後者の方が用いやすい。

弁済者代位が生ずる事例  弁済者代位の典型例は、債権者に対して債務を負っていない第三者による弁済であるが、保証債務の履行の場合のように、弁済者自身が債権者に対して負っている債務(保証債務)の履行として弁済がなされる場合でも、その弁済が他者(主債務者)に対する債権者の債権(主債権)の満足をもたらし、かつ、弁済者がその他者に対して求償権を取得する関係にあるときには、求償権の確保のために弁済者代位が認められている。弁済者代位は、連帯債務者の一人が債務全額を弁済した場合のように、共同債務者間でも生ずる(内部的負担割合が100%の共同債務者が弁済した場合には、他の共同債務者に対する求償権が生じないので、代位取得も生じない)。AのBに対する債務(主債務)をCとDが連帯保証し、Cが保証債務を履行した場合には、Cは、Aに対して弁済額全部の求償権を取得し、その確保のためにBのAに対する債権(主催権)を代位取得するとともに、Dに対して自己の負担割合を超える弁済について求償権を取得し、その確保のためにBのDに対する保証債権を代位取得する。

代位の効果  代位取得の特徴は、債権者は債権を全部取得(一部弁済の場合には弁済額に応じて取得)し、取得した債権の全部を行使することができるが、これによる満足(弁済受領)が求償権の満足に必要な範囲に限定されることである(ただし、別の見解もある)。


[1] ローマ法に関する[クリンゲンベルク*2001a]109頁の説明が分かりやすい。

[2] 労働者災害補償保険法12条の4第1項では、「請求権を取得する」の表現が用いられている。

参考文献


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2014年 2月 28日 −2014年6月12日