関西大学法学部教授
栗田 隆
信託法が平成18年に抜本的に改正された。これを機に、信託財産に属する財産に関する訴訟について、論じてみたい。取り上げるのは、次のような問題である。(α)ある財産(例えば不動産)について訴訟が係属している間に、その財産が信託された場合に、その訴訟はどうなるのか、(β)受託者の下で、信託財産に属する財産に関して訴訟が係属した場合に、その受託者の信託に関する任務が終了すると、訴訟手続はどうなるのか。(γ)信託が終了して、信託財産に属する財産が最終帰属者に帰属する場合に、その財産に関する受託者を当事者とする係属中の訴訟はどうなるのか。
いずれも、特に判例があるわけではなく、学説上も格別多くの議論のある問題でもない。しかし、それだけに、上記の問題に関する法律の規整を確認し、問題点を探っておくことは、将来実際に問題が生じたときに役立つと思われる。
信託は、信託される財産も、信託の目的も多種多様であるが、さしあたりは、委託者がその所有する賃貸不動産を未成年の親族を受益者として、その生活費の拠出のために、信頼できる者に信託するという比較的簡単な場合を想定して、上記の問題を検討することにしたい。
平成18年制定の新信託法は、本稿が取り上げる問題について特に規定を設けていない。大正11年制定の旧信託法においても特別の規定はない。したがって、本稿で取り上げる問題は、従来と同様、基本的に民事訴訟法の問題となる。明治23年の民事訴訟法の時代には、まだ信託法はなかったので、同法には特別の規定は置かれていなかった。大正15年の民事訴訟法の改正の際には、旧信託法が大正12年1月1日から施行されていたので、これを受けて、受託者の任務終了の場合について、現行民訴法124条1項4号に相当する規定を211条におき、訴訟代理人がいない場合には、訴訟手続は中断するものとした。その理由を、立案担当者の一人は、次のように説明している:「信託関係に於て受託者の任務終了したときは利害関係人の請求に因つて裁判所新受託者を選任し、信託関係は総て新受託者に移転するのである(信託法第四十九條第五十條)此の場合に於て普通権利義務移転の場合と同様に参加の規定に依つて新受託者をして訴訟を引き受けしむるものと為すは宜くないと認めて新法は受託者の更迭をもつて訴訟手続の中断及び其の受継の原因としたのである」[1]。この規定が、利害関係人の請求によって裁判所が新受託者を選任する場合を念頭において立案されたことは明白である。しかし、その場合に参加の規定によって訴訟を承継させるのではなぜ不都合なのかについての説明はない。
平成18年の信託法改正により、信託財産に属する財産を管理・処分する者として、受託者のほかに信託財産管理者と信託財産法人管理人が付け加えられたことに伴い、民訴法124条1項4号は、係属中の訴訟の当事者となっている者がそのどれであるかに分けて、訴訟手続を受継する者を規定した。しかし、そのことは、信託法改正前の規定を基本的に変更するものではない。当事者である受託者の信託に関する任務が終了した場合に、これに接続して新受託者が就任すれば、その者が訴訟手続を受継することに変わりはない。
本稿で取り上げる問題について、先例は特にない。学説をみてみよう(いずれも旧信託法下の見解であり、この点に注意が必要である)。
(1)まず、(a)大正15年民訴法211条・現行民訴法124条1項4号は、直接には受託者の交替の場合の規定であり、信託そのものの終了の場合には適用されないと、当初は解されていた(類推適用否定説)[2]。しかし、昭和13年には早くも、信託の終了による財産の帰属変動の場合にも類推適用されるとする見解(類推適用肯定説)が登場し、昭和40年代後半以降は、これが比較的多数になってきた[3][4]。類推適用肯定説の理由付けは、次の2つである。(α)「訴訟物の譲渡の規定の不備に鑑み、出来得る限り特別の規定のあるものはこれに取り入れるやうに解釈上努力せんとする」こと。(β)類推適用の肯定は、「信託財産をいわば法主体とみて、その代表者の交代(中略)と同じようにみたところから由来している」と説明できること[5]。
(2)受託者が会社で、商法21条1項、会社法11条1項により支配人が訴訟代理人になっている場合に、受託者の任務が終了したときに、支配人の訴訟代理権がどのようになるかについては、次のような議論がある[6]。
(α)58条不適用説[7] 民訴法58条(旧85条)は、訴訟委任に基づく代理人に限って適用されるもので、法定代理人あるいはこれと同様な本人との人的関係で認められる法令による訴訟代理人には及ばないとみるべきである。したがって、上記の問題の場合に、その支配人の訴訟代理権が後任の受託者のために存続することはなく、受託会社の信託任務の終了とともに訴訟代理人のない状態になるから、訴訟手続は中断する。もっとも、個人が選任した支配人の代理権は本人の死亡によっては消滅せず(商法506条)、このような場合には、訴訟代理権も相続人のために存続することになるが、これは民訴法58条の効果ではなく商法506条の効果である。
(β)58条適用説[8] 民訴法58条の規定の趣旨は、訴訟手続の迅速・円滑な進行の確保の点にあり、その趣旨は上記の問題の場合にも妥当するから、受託会社の信託任務が終了しても、支配人の訴訟代理権は消滅せず、従って、訴訟手続は中断しない。彼は、後任受託者のために義務なくして事務管理を行う者と位置づけられ、善良な管理者の注意義務をもって後任受託者のために訴訟を追行すべきである。
前述のように、民訴法124条1項4号の適用範囲については、これを信託の終了の場合にも拡張しようとする見解もある。しかし、これは大正15年改正における立案担当者の見解から離れており、また、同規定を受け継いだ現行法の文言からも離れている。まずは、同号の規定の根拠を検討しよう。
現行民訴法は、訴訟で争われている財産が口頭弁論終結前に売買等により特定的に承継された場合に関して、(α)訴訟の当然承継を否定し、口頭弁論終結前に訴訟参加又は訴訟引受の方法により訴訟を承継すべきものとし(49条以下。以下ではこの建前を、若干省略的な表現となるが、「(訴訟の)参加承継主義」と呼ぶことにする)、(β)訴訟参加又は訴訟引受により訴訟が承継されることがなかったときには、判決の効力が承継人には及ばないという意味で訴訟犠牲主義を採用している(115条1項3号の反面解釈)。
他方、民訴法124条の定める訴訟手続の中断・受継の制度は、それが当事者の変更を伴う場合には、訴訟の当然承継を前提にしており、訴訟手続の中断は訴訟を当然に承継する者の手続上の権利の保護措置でもある。同条1項が規定する中断事由は、3つのグループに分けることができる。(α)財産の一般承継がある場合(1号・2号)、(β)ある者の一般財産について包括的な管理権限を有する者が交替するにあたって、新たに財産管理をする者が直ちに財産を管理することを期待できない場合(3号。5号の内にはこれに該当する場合も含まれる(例えば破産管財人))、(γ)ある者の比較的限られた財産についてではあるが、訴訟追行の権限の基礎となる財産管理権がその者から他の者に移転するに際して、新たに財産管理を行うべき者が直ちにそれを行うことができるとは限らない場合、及び財産管理権を基礎としない訴訟追行の権限を有する者が交替するにあたって新たに訴訟を追行すべき者が直ちに訴訟を追行することができるとは限らない場合である(4号・6号及び5号の一部)。
訴訟の参加承継主義(及びこれと一体となる訴訟犠牲主義)と当然承継主義との得失の比較は難しいが、次のように言うことができよう。(α)口頭弁論終結前に係争権利関係の承継があった場合に、裁判所と相手方がそれに気付かないまま手続が進められると、いずれの主義でもそれまでの手続が無駄になる可能性が生ずるが、無駄になる範囲に違いがある。参加承継主義では、実体法上の承継後にすみやかに訴訟参加又は訴訟引受がなされれば無駄になる範囲は少ないが、参加又は引受がなされないまま訴訟手続が終了することが認められているので、その場合には、訴訟手続全体が無駄になる。当然承継主義では、当然承継の原因が生じた時点で訴訟手続が中断されるので、それ以降の手続(中断事由の発生を看過して進められた手続)のみが無駄になる。(β)参加承継主義では、そもそも係争権利の承継があったかどうかを被承継人の相手方と承継人との間でのみならず、承継人と被承継人との間で争うことも想定の範囲内である。このことは、参加承継が独立当事者参加の方法でなされることに端的に現れている(民訴法49条参照)。当然承継では、承継人と被承継人との間で承継の事実を争うことは、あまり想定されていない。このことは、特に124条1項1号(当事者の死亡)の場合に明瞭である。4号(信託に関する任務の終了)の場合には、承継人と被承継人との間で承継の事実について争いが生ずる余地があるが、しかし、それが生ずることを十分に想定して、その解決方法が用意されているとは言い難い。(γ)日本法における参加又は引受による訴訟承継に関して、次の問題が指摘されている:係争権利関係に関して実体法上の承継を理由に承継人が訴訟に参加し又はこれを引き受けた場合に、実体法上の承継があってから承継人が現実に訴訟参加又は訴訟引受をするまでの間に訴訟手続が進行したときに、被承継人が承継人のために訴訟手続を追行したとみるか(当事者恒定)、又は承継事由が生じた時点で訴訟手続は停止し、その後における被承継人を当事者とする訴訟手続の進行は無効になるとみるか(手続の中断)の2つの選択肢が考えられるが、この点について明確な規定が置かれていない[9]。信託の終了の場合にも民訴法124条1項4号を類推適用する見解の第一の理由は、この問題点をいうものである。
以上のように、当然承継主義と参加承継主義との間の得失の比較は難しく、どのような承継であれば当然承継になじみ、どのようなものであれば参加承継主義に親しむとの判断も難しいが、ともあれ、受託者等の信託に関する任務の終了の場合に当然承継を肯定し、信託の開始の場合に肯定していないことは、次の理由により是認できる。(α)前受託者の任務が終了して新受託者が就任すると、前受託者の任務終了の時に新受託者に信託に関する権利義務が承継されたものとみなされ(信託法75条1項。ただし、57条1項の辞任の場合については75条2項が承継の時期をこれより後にしている)、この点では、受託者の交替に伴う権利移転は特定財産の権利移転に似る。しかし、任務終了事由には、受託者たる個人の死亡や後見開始などが含まれ、これらの事由により任務が終了した場合には、信託財産に関し、訴訟追行を含めて財産管理を行う者が存在しない状態となり、この点では民訴法124条1項3号・5号の中断事由と状況を同じくする。他方、参加承継主義のとられる係争物の譲渡の場合には、少なくとも譲受人は権利義務を承継したことを認識しうる立場にあるのが通常であり、さらに譲渡人が誠実であれば、彼は係属中の訴訟の存在を譲受人に報告し、譲渡の事実を訴訟の相手方に通知するであろう。受託者の任務終了の場合には、新受託者がただちに就任するとは限らず、この点で利益状況を大きく異にする。(β)信託の開始の時点では、委託者から受託者への信託財産に属する財産の譲渡があり、この点では、参加承継主義に服する通常の譲渡の場合と異ならない。また、信託の開始の場合については、そもそも信託による財産承継があったかどうかについて争いが生じ得、それをも解決の対象とすることができる参加承継主義が適している。
他方、信託の終了の場合については、信託の終了原因(信託法163条)に様々なものがあるので、おそらく一律の処理は適当ではなかろう。個々の終了原因ごとに取扱いを判断する必要がある。ただ、信託の終了の場合に訴訟手続の中断を一律に肯定する最近の見解は、おそらく、信託の終了の場合に信託の清算が行われるべきことを考慮していないとみてよいであろう。信託終了時の清算について明文の規定(信託法175条以下)が置かれている現行法のもとでは、これを考慮して議論しなければならない。
委託者から受託者への財産移転は、通常の権利移転と同様に扱われることになる。その結果、口頭弁論終結前に信託がなされると、受託者による訴訟参加又は訴訟引受がなされなければ、委託者敗訴の判決の効力は、受託者に及ばない。しかし、この結果が妥当であるかは、受益者が無償で利益を受ける場合について言えば、疑問である。この場合には、通常の取引による権利移転の場合と異なり、判決の効力を受託者に及ぼしても、承継人である受託者が不測の損失を受けることはあまりないであろう。無償受益者も不測の損害を受けるとは言い難い。委託者は、その実現しようとした信託目的の実現が困難になるという不利益を被るが、これは彼の責任である。こうしたことを考慮すると、訴訟で争われている財産が信託された場合には、受託者による訴訟参加又は訴訟引受がない限り、依然として委託者が訴訟追行権限を有し、判決の効力は受託者に及ぶとすることも十分に考えられる。
しかし、受益者が受益権を有償で取得する場合、あるいは無償受益者から受益権を有償で取得した者がいる場合には、上記の利益衡量は妥当しない。そして、受益者が無償で受益権を取得する場合に限定して上記の取扱いを認めようとすると、同様な利益状況にある贈与による特定承継一般について、同様の取扱いを認めなければならなくなる。しかし、これを解釈論として一般的に主張することは難しい。
ただ、それでも、個々の事案において、口頭弁論終結前の信託により権利を承継した受託者は、委託者がその後も引き続き追行した訴訟において下された判決の正当性を争うことが信義則上できない、とすることは可能であろう。とりわけ、委託者と受益者とが事実審の口頭弁論終結時においてもなお同一人である場合については、多くの場合に、そのように考えてよいであろう。
最初に旧法下において指摘されていた論点を検討することにしよう。法令による訴訟代理人には、さまざまなものがあるが、ここでは、支配人(商法21条、会社法11条)、船長(商法713条)、特許管理人(特許法8条)を取り上げることにする。
(a)支配人の訴訟代理権は、裁判外の包括的な代理権を前提にしていると見るべきである。したがって、その訴訟代理権の存続は、裁判外の代理権の存続に依存し、民訴法58条により存続すると考えるのは適当ではない(58条不適用説が支持されるべきである)。(α)ある財産が商人又は会社に信託され、その後に受託者の任務が終了すれば、受託者はその財産について管理処分権を失い、新受託者等がその財産について管理処分権を有することになる。この場合に、その財産について前受託者の支配人が新受託者の代理人になるのではないから、その支配人の訴訟代理権も消滅すると解すべきである。(β)前受託者の支配人が新受託者のための事務管理者になるとの説明は巧妙ではあるが、しかし、新受託者のために訴訟手続が中断するのであるから、その事務管理は必要ないであろう。また、前受託者の支配人が訴訟手続を続行することができるとすることは、中断を回避して訴訟を迅速に進行させることに意味があるが、それにより最も確実に利益を受けるのは、新受託者というよりその相手方である。前受託者の支配人による訴訟の続行を新受託者のための事務管理と評価することが適切であるとは思われない。
(b)船長の訴訟代理権はどうか。ここでは、船舶が信託され、受託者が船舶の所有者になり、彼が雇い入れた船長が船籍港以外で訴訟代理権を行使している間に受託者の任務が終了し、新受託者が船舶の所有権を取得する場合について考えてみよう。船舶の所有権が移転しても、船舶の運航のためには船長およびその他の船員がその船舶で職務に従事することが必要である。そこで、船員法43条は、「相続その他の包括承継の場合を除いて、船舶所有者の変更があつたときは、雇入契約は、終了する 」(1項)としつつ、この場合には「雇入契約の終了の時から、船員と新所有者との間に従前と同一条件の雇入契約が存するものとみなす」(2項)と規定している。結局の所、前受託者により雇い入れられた船長は、自ら雇入契約の解除(2項ただし書)をするのでない限り、新受託者の下でも船長であるので、彼の訴訟代理権は消滅せず、彼は、前受託者のために追行した訴訟手続を新受託者のために追行すると解してよいであろう。このことは、前受託者の任務終了後に信託財産管理者が選任される場合も同じである。
(c)特許法は、在外者の特許手続が円滑に行われるように、特許管理人(特許に関する代理人であつて日本国内に住所又は居所を有するもの)の選任を要求しており(8条1項)、この特許管理人は、特許庁がした処分を不服とする訴訟についても代理権を有する(8条2項)。そして、この特許管理人を法令による訴訟代理人に位置づけることには若干のためらいがあるが、それでも、弁理士以外の者も「他人の求めに応じ報酬を得て」するのでなければ、特許庁における手続等を代理人としてすることができ、かつ、特許管理人に選任されうることを前提にすれば、彼は特許庁の処分の取消訴訟において代理人になることができることになる。そして、この訴訟代理人の地位は、特許管理人に選任されたことに基づくものであるから、法令による訴訟代理人と言うことができる。
彼が特許庁の処分の取消訴訟において訴訟代理人になっている段階で、彼の依頼者である受託者の任務が終了した場合を考えてみよう。在外者は、日本国内にいる特許管理人の行動を十分に監督することができるとは限らず、その点で、特許管理人と在内者の代理人とは異なるが、それでも特許法8条の規定の趣旨からすれば、特許庁における手続の代理権の不消滅を定める11条の適用を受けると言うべきである。同条は、「手続をする者の委任による代理人の代理権は、本人の死亡若しくは本人である法人の合併による消滅、本人である受託者の信託に関する任務の終了又は法定代理人の死亡若しくはその代理権の変更若しくは消滅によっては、消滅しない」と定めており、民訴法58条と趣旨を同じくする。そうであれば、特許庁の処分の取消訴訟における特許管理人の訴訟代理権については、民訴法58条1項3号の適用があるというべきである。
以上の検討結果を前提にすれば、民訴法58条1項3号は、訴訟委任による訴訟代理人を対象とした規定であり、法令による訴訟代理人に適用されないことになるが、その訴訟代理権の基礎にある裁判外での代理権が他の法令の規定により受託者の任務終了にもかかわらず新受託者等のために存続すべき場合には、訴訟代理権も存続すると解すべきである。
新信託法は、受託者の任務が終了して、新たな受託者が就任するまでの暫定的措置として、信託財産管理者の制度及び信託財産法人管理人の制度を設けた(63条・74条)。すなわち、信託法56条1項各号の事由により受託者の任務が終了した場合に、裁判所は、利害関係人の申立てにより必要と認めるときは、信託財産管理者による管理を命ずる処分(信託財産管理命令)をすることができ(63条1項)、また、受託者である個人が死亡して任務が終了した場合には、信託財産は法人となり、裁判所は、必要があると認めるときは、信託財産法人管理人による管理を命ずることができるとされた(74条)。
このように信託財産を受託者以外の者が管理する場面が生じたことを受けて、民訴法124条は、信託財産の管理者の交替に伴う訴訟手続の中断・受継の規定を詳細に定めた。ところが、これと対になる民訴法58条1項3号については、字句の軽微な修正はなされたが(「信託の任務終了」が「信託に関する任務の終了」に修正された)、基本的内容は同じままであり、受託者の任務終了の場合についてのみ訴訟代理権の不消滅が規定されていて、信託財産管理者や信託財産法人管理人の任務終了については言及がない。したがって、信託財産管理者から新受託者に信託事務が引き継がれる場合(信託法72条)に、信託財産管理者が選任した訴訟代理人が存在するときでも、その訴訟代理権は消滅し、民訴法124条2項の適用はなく、訴訟手続は常に中断されるかのように見える[10]。しかし、この結論は妥当ではない。信託財産管理者の任務終了、信託財産法人管理人の任務終了の場合にも、民訴法58条1項3号の類推適用により[11]、これらの者が選任した訴訟代理人の代理権は消滅しないとすべきである。
信託財産に関して受託者を当事者とする訴訟の係属中に受託者が破産手続開始決定を受けても、信託財産は破産財団には含まれず(信託法25条1項)、したがって信託財産に関する訴訟手続には破産法44条の適用はない。専ら、信託法56条1項3号又は4号及び民訴法124条1項4号イが適用され、破産した受託者が選任していた訴訟代理人が存在する場合には、民訴法58条1項3号・124条2項により、訴訟手続は中断されることなく続行されることになると思われる(別の解釈の余地もあるが、ここでは立ち入らない)。
この立法的選択は、次のことを考慮すると、それなりに妥当なものと評価できよう。(α)すなわち、ある者が破産手続開始決定を受けた場合に、それに至る事情は様々であり、その者の財産管理能力が低いために破産手続開始決定を受けたとは言い切れない。このことを前提にして、他の者がその者を信頼できると判断して自己の財産の管理等を委ねることを禁止すべきではないとの考えが広まっていることにも注意しなければならない(例えば破産手続開始決定を受けて復権していないことは、会社役員の欠格事由から除外されている。新信託法7条も、旧信託法5条とは異なり、破産手続開始決定を受けて復権を得ていないことを受託者の欠格事由から除外している)。(β)受託者が自己の固有財産について破産手続開始決定を受けても、そのことは彼が信託財産について不適切な財産管理をしていることの証左と見るべきではない。信託財産に属する財産は破産財団に含まれず、その管理については、彼の受託者としての任務を終了させれば足り、その財産に関する訴訟について彼が選任した訴訟代理人の代理権まで消滅させる必要はなく、その代理権は新受託者等のために存続するとしてよい。
しかし、それでも、この立法的選択には抵抗を感ずる。それは、次の理由による。(α)一般に、訴訟委任による訴訟代理権が本人の死亡等により消滅しないことの根拠としては、訴訟手続の安定を図る必要があること、訴訟代理人は、弁護士や司法書士のような専門家としての能力が確認され、専門職としての職業倫理に服することが挙げられている。しかし、本人が破産手続開始決定を受けた場合には、破産者とその財産から満足を受けるべき破産債権者との利害の対立を考慮して、破産者によって選任された訴訟代理人には民訴法58条の適用はなく、その代理権は民法653条2号・111条2項の原則規定に従い消滅するものとされている。そこには、破産によって選任された訴訟代理人が適切に訴訟を追行するだろうかという不信感がある。その不信感は、破産者が信託財産に関する訴訟の追行のために選任した訴訟代理人にも妥当するように思われる。(β)信託財産について破産者が選任した訴訟代理人に対しては、自己の財産について破産者が選任した訴訟代理人に対するほどの不信の念を持つ必要はないと言うことができるためには、信託財産について選任された訴訟代理人も、信託目的を考慮して訴訟を追行すべきであるとの規律を導入する必要があるが、しかしその規律を導入しても、それだけで十分かは疑問である。例えば、受託者敗訴の第一審判決の言渡し後に受託者が破産した場合に、受託者は信託財産から費用を捻出して控訴の提起を訴訟代理人に委任することができるとはいえ、それが適時になしうるとは限らないであろう。その結果、受託者敗訴の第一審判決が確定し、結果として信託財産が適切に管理されなかったことになる場合もあろう。
したがって、解釈論は別として、立法論としては、受託者が破産手続開始決定を受けたことにより信託に関する任務が終了した場合には、受託者により選任された訴訟代理人の代理権も消滅するとする方が、適切なように思える。その趣旨を明示する規定が置かれるべきであろう。
受託者がその任務に違反して信託財産に著しい損害を与えたことその他重要な事由があるときは、委託者又は受益者は、その解任を裁判所に申し立てることができる(信託法58条4項)。解任決定が確定して解任の効力が生ずると、受託者の選任した訴訟代理人がいなければ、彼を当事者とする訴訟手続は中断することになる。しかし、訴訟代理人がおれば、その代理権は消滅せず、訴訟手続は中断されない。受託者が その任務に違反して信託財産に著しい損害を与えたことを理由に解任されたことを考慮すると、この場合には、受託者によって選任された訴訟代理人の代理権は消滅するとの選択肢にも十分な合理性があるように思える。しかし、信託法はその選択肢を採用しなかった。信託法は、それよりも訴訟手続の円滑な進行を重視したと見るべきであろうか。
より根本的には、次の点に疑問を感ずる。すなわち、受託者が当事者となっている訴訟が、解任手続中に、委託者又は受益者に不利に進行することは、十分に予想されるところであるが、それを止めるための規定が置かれていない。委託者と受益者も訴訟手続の当事者でないことを考慮すると、解任の申立てを受けた裁判所は、受託者を当事者とする訴訟手続の中止を命ずることができるとする制度を用意しておくべきではなかろうか。
旧信託法の下で、信託が終了して、残余財産が最終帰属者に帰属する段階については、民訴法124条1項4号の適用を否定する見解と、肯定する見解とが対立していた。一律に適用を否定することが適当ではないことは、信託財産について破産手続が開始されることにより信託が終了する場合に、訴訟手続の中断を認めざるを得ないことから明らかである。
他方において、類推適用肯定説にも問題がある。信託の終了により当然に訴訟手続の中断が生ずると主張しただけでは、現行信託法の定める信託の清算に関する諸規定(175条以下)を無視したことになる。例えば、受益者が1万人いる信託の受託者が信託財産に属すると主張している100億円の債権について、その存否が債務者との間で争われていて、受託者がその債権を回収して受益者に給付すべき場合に、信託行為において定められた信託終了事由が訴訟係属中に生じて信託自体が終了したからといって、終了事由の発生時点で訴訟手続が中断し、1万人の受益者が訴訟手続を受継すべきであるとすることは、現実的でない(信託制度の目的に照らしても適切でない)。信託終了時の受託者が信託財産の清算を行うべきときには、彼が引き続き訴訟手続を追行して、その結果に従って受益者への給付を行うべきである。
類推適用肯定説は、訴訟手続が中断すべき「信託の終了」の時期を終了事由の発生時とし、その時に信託財産に属する財産は帰属権利者に物権的に帰属することになるとの前提を採用しているように見える。しかし、その前提は、新信託法の採用するところではなく、また、旧信託法もそのような前提を採用しているとはいえなかった(旧信託法63条参照)[12]。類推適用肯定説は、「信託の終了」の時期を終了事由の発生時ではなく、信託財産の清算が終了して残余財産がその帰属者に帰属すべき時と考えている、と理解する余地はある。しかし、その見解は、信託財産の破産の場合に適切ではない(この場合には、信託の終了事由たる破産手続開始決定がなされた時に訴訟手続が中断するとしなければならない)。いずれにせよ、類推適用肯定説をそのまま支持することはできない。
以下では、新信託法の下で、信託の終了事由が発生したときに信託財産に関する訴訟ないし訴訟手続がどのように扱われるべきかは、信託の終了事由に応じて異なるとの立場に立って、問題を検討することにしよう。
まず、信託が終了しても信託の清算が行われない場合について見てみよう(信託法175条かっこ書参照)。
(a)信託財産について破産手続が開始されたとき(信託法163条7号) この場合には、信託財産に関する訴訟手続は、破産法の規律に服し、同法44条1項により中断する。
(b)信託の併合がなされたとき(信託法163条5号) 併合は、従前の各信託の委託者、受託者及び受益者の合意によってなされ、会社の新設合併に相当するものと位置づけられている。会社の新設合併の場合には、民訴法124条1項2号によって訴訟手続は中断するものとされており、この規定を類推適用すれば信託の併合の場合にも訴訟手続は中断すべきことになる。しかし、会社の合併の場合には、合併前の会社の代表者と合併により新設される代表者とが異なることがあるのに対し、信託の併合は、現行法上、各信託の受託者が同一の場合にのみ認められているので(信託法2条10項)、併合前の各信託の受託者と併合後の信託の受託者とは同一であり、訴訟手続を中断させる必要はない[13][14]。
信託の終了により信託の清算がなされる場合に、(α)信託終了時の受託者がそのまま清算受託者(信託法177条1項柱書)になる場合と、(β)信託の終了後に新受託者が選任され、前受託者の任務が信託終了時又はそれ以前に終了し、新受託者が清算受託者になる場合とが想定される。後者の場合には、訴訟手続は信託終了時の受託者の任務終了とともに民訴法124条1項4号により中断されて、新受託者により受継され、その後は(α)の場合と同じになるので、主として(α)の場合について検討することにしよう。ただ、その前に、定型的に(β)に該当すると予想される場合を見ておこう。
訴訟手続の中断をもたらす信託終了事由
次の場合には、信託終了の時点又はそれ以前の時点で訴訟手続は中断される。
(c)受託者が欠けた場合であって、新受託者が就任しない状態が一年間継続したとき(信託法163条3号) 「受託者が欠けた」ことは、前受託者の任務が終了していることを意味し、前受託者の任務終了は訴訟手続の中断事由である。
(d)165条又は166条の規定により信託の終了を命ずる裁判があったとき(信託法163条6号) 特別の事情による信託の終了を命ずる裁判(信託法165条)により信託が終了した場合には、その時点で受託者の任務も終了すると考えるべきであり、その後に信託財産に属する財産を管理・処分する者が現実に管理に着手するまでに時間がかかることを考慮すると、訴訟手続の中断を認めるべきであろう。これに対して、公益の確保のために信託の終了を命ずる裁判(166条)により信託が終了する場合については、173条1項が信託の清算のための新受託者の選任を規定しており、同条3項が「新受託者が選任されたときは、前受託者の任務は、終了する」と規定しているために、迷いがあるが、この場合の前受託者の任務は、不法目的行為・違法行為を中止し、信託財産を保存する行為等に限定されるべきであろう。信託財産に関する係属中の訴訟の追行までその任務とする必要は乏しい。166条の規定により信託が終了する場合にも、新受託者の選任をまつことなく、同条の裁判が効力を生じて信託が終了した時点で訴訟手続は中断すると解したい。
訴訟手続の中断をもたらさない信託終了事由
信託終了時の受託者が清算受託者になる場合には、清算が結了するまで受託者の任務は終了せず、したがって訴訟手続は中断されないと解すべきであろう。換言すれば、係属中の訴訟を追行することは、現務にあたり、その結了は彼の職務に属する(177条1号)と言うべきである。もっとも、係属中の訴訟の対象財産(係争財産)が残余財産に属する場合、あるいは受益債権に係る債務の弁済の一つの方法として係争財産を譲渡することが許される場合には、係争財産を残余財産の給付としてあるいは受益債権に係る債務の弁済として譲渡したときに、その訴訟をどのように処理するかが問題となる。参加承継に関する規定に不備があることは確かであるが、それでもその不備は、信託の清算の方法としての財産譲渡あるいは清算後の残余財産の譲渡を通常の譲渡と同様に参加承継主義に服させることを妨げるほどに大きいとは思われない。清算受託者による係争財産の譲渡は、通常の譲渡と同様に、当然承継主義には服さず、参加承継・引受承継の対象になるとすべきである[15]。
これに該当する信託終了事由は、次のものである。
(e)委託者が破産手続開始の決定等を受け、破産法53条1項等の規定により信託契約が解除されたとき(信託法163条8号) この場合には、清算受託者が清算を結了させてから残余財産を委託者の破産管財人等に給付することになる。
(f)信託財産が費用等の償還等に不足している場合に、受託者が信託法52条の規定により信託を終了させたとき(信託法163条4号)
(g)信託の目的を達成したとき、又は信託の目的を達成することができなくなったとき(信託法163条1号) この曖昧な事由で信託が終了した場合に、それでもって訴訟手続が当然に中断したとすることは、訴訟手続を不安定にしよう。
(h)信託行為において定めた事由が生じたとき(信託法163条9号) これも(g)の場合と同様である。
(i)委託者及び受益者が信託の終了を合意したとき(信託法164条1項)。
(j)受託者が受益権の全部を固有財産で有する状態が一年間継続したとき(信託法163条2号) この場合にも信託の清算は必要であるが、通常は、信託債権を弁済した後の残りの財産は、すべて受託者に帰属することになるであろうから、訴訟当事者の交替も生じないであろう。
[1] 山内確三郎『民事訴訟法の改正・第壱巻』(法律新報社、昭和4年) 330頁以下。
[2] 山内・前掲(注1) 331頁、細野長良『民事訴訟法要義第二巻』(厳松堂、昭和8年)424頁。
[3] 前野順一『民事訴訟法論(第一編総則)』(松華堂、昭和13年)699頁(信託自体の終了の場合は委託者に於て信託財産の特定承継が生じ、旧第71条・第74条により訴訟参加をすることができ、中断を生じないのが通常であるとして、その趣旨の文献を引用しつつ、「けれども此の点に付いては疑いがある。此の場合においても訴訟物に付当然訴訟実施権の移動を生ずるが故に第211条を準用すべきが如し」と述べる)、兼子一「訴訟承継論」(『民事法研究第1巻』(酒井書店、1977年))154頁以下、兼子一『條解民事訴訟法(上)』(弘文堂、昭和40年)560頁、斎藤秀夫編『注解民事訴訟法(3)』(第一法規、昭和48年第1刷発行、昭和51年第3刷発行)474頁(遠藤功)、菊井維大=村松俊夫『全訂 民事訴訟法(1)追補版』(日本評論社、昭和59年)1186頁、兼子一=松浦馨=新堂幸司=竹下守夫『条解民事訴訟法』(弘文堂、昭和61年)242頁、斎藤秀夫=小室直人=西村宏一=林屋礼二『注解民事訴訟法[第2版](5)』(第一法規、1991年)290頁(遠藤功=奈良次郎=林屋礼二)、新堂幸司=鈴木正裕=竹下守夫・編集代表『注釈民事訴訟法(4)』(有斐閣、1997年)567頁(佐藤鉄男)、秋山幹男ほか『コンメンタール民事訴訟法2(第2版)』(日本評論社、2006年)548頁。
[4] この点が問題となった先例が見あたらないためであろうか、比較的マイナーな論点にとどまっており、大部な教科書・体系書の中にも、この点に言及しないものが多い。次の文献は、信託の終了の場合にも訴訟手続が中断するか否かを明示していない:兼子一『新修民事訴訟法体系[増訂版]』(酒井書店、1967年)287頁、小山昇『民事訴訟法[5訂版]』(青林書院、1995年)428頁、三ケ月『民事訴訟法(第3版)』(弘文堂、1995年)482頁、中野貞一郎=松浦馨=鈴木正裕『新民事訴訟法講義[第2版補訂版]』(有斐閣、2006年)180頁(堤龍弥)、新堂幸司『新民事訴訟法第3版補正版』(弘文堂、2007年)370頁、上田徹一郎『民事訴訟法[第5版]』(法学書院、2007年)282頁、梅本吉彦『民事訴訟法[第3版]』(信山社、2007年)606頁、伊藤眞『民事訴訟法[第3版再訂版]』(有斐閣、2007年)220頁。なお、『基本法コンメンタール新民事訴訟法1』(日本評論社、1997年)257頁(若林安雄)は、受託者の任務の終了の中に信託の終了が含まれないことを明示しつつ、信託の終了の場合に民訴法124条1項4号を準用(類推適用)すべきか否かについて争いがあることを紹介するにとどめている。これらの文献がこの論点に立ち入らなかったことの主たる理由は、論点の重要性が低いことにあると思われるが、それでもいくつかの文献は、旧民訴法211条・新民訴法124条1項4号の類推適用にためらいを感じているように見える。
[5] 第一の理由付けを最初に述べたのは、兼子・「訴訟承継論」前掲(注3)154頁以下であろう。第2の理由付けの中心となる信託財産の法主体性の議論自体は、四宮和夫『信託法』(有斐閣、昭和33年)23頁以下(同『信託法(新版)』(有斐閣、平成1年)69頁以下)にあり、瀬戸正二「信託の終了と訴訟手続の中断」(兼子一・編『実例法学全集・民事訴訟法上巻』(青林書院、1963年第1刷、1976年第8刷)163頁注8がこれを援用して、受託者の任務終了の場合の訴訟手続の中断・受継を説明しようとしている。しかし、この「信託財産の法主体性」を信託自体の終了の場面での旧民訴法211条(現民訴法124条1項4号)の類推適用の理由づけとして最初に援用したのは、私が見た限りでは、おそらく斎藤・前掲(注3)474頁(遠藤)であろう。その後の肯定説は、この説明を基本的に踏襲している。例えば、新堂=鈴木=竹下・前掲(注3)567頁(佐藤鉄男)、秋山ほか・前掲(注3)548頁がそうである。
[6] 瀬戸・前掲(注5)155頁以下が詳しい。
[7] 兼子=松浦=新堂=竹下・前掲(注3)242頁。
[8] 菊井=村松・前掲(注3)484頁、瀬戸・前掲(注5)157頁 、梅本・前掲(注4)606頁。
[9] 兼子・前掲(注5)147頁以下。
[10] 遺憾ながら、民訴法58条1項3号の改正の趣旨を説明した文書をまだ目にしていないので、私の誤解があることを恐れている。
[11] この場合に、訴訟委任契約から生ずる権利義務も信託法75条1項・2項にいう「信託財産に関する権利義務」に含まれると解して、これと同条3項により、信託財産管理者が選任した訴訟代理人の信託財産に関する訴訟について代理権を有するという法律関係が新受託者にも引き継がれることが根拠づけられると解することも考えられないわけではない。しかし、そうであれば、そもそも民訴法58条1項3号の内容は、信託法75条1項・2項・3項により根拠づけられ、民訴法58条1項3号は不要となろう。
[12] 新井誠『信託法[第3版]』(有斐閣、2008年)377頁以下参照。
[13] 会社の合併の場合でも、代表取締役が同一である場合には、訴訟手続を中断する必要性は乏しいであろう。この点に着目すれば、立法論としては、民訴法124条1項2号のように一律に訴訟手続を中断させるのではなく、当該訴訟について消滅会社を代表する者が承継会社の代表者にならない場合にのみ訴訟手続を中断させれば足りるように思われる。
[14] 現行法を離れて、受託者の異なる信託の併合を想定するならば、併合後の信託の受託者と併合前の各信託の受託者とが異なることがあり、その相異に応じて、訴訟手続は次のようになろう。併合の結果、併合前のある信託の受託者の全員の任務が終了する場合(民事訴訟法124条1項4号)、新たに受託者が追加されることになる場合(信託法81条の適用がある場合を除く)に中断が生ずる。他方、併合前のある信託の一部の受託者の任務が終了するにとどまり、新たに受託者が追加されることがない場合には中断しない(ただし、信託法81条により当事者となっている受託者の任務が終了する場合には、当事者となっていなかった残存受託者が当事者となるので、中断が生ずる)。
[15] 信託法169条1項の管理命令により管理人が選任された場合に、彼は、民訴法124条1項4号ロの信託財産管理者に直接には該当しないが、信託財産管理者と同様に信託財産に関する訴訟の当事者適格者になるのであるから(信託法170条4項・68条)、民訴法124条1項4号ロが類推適用されるべきである。
[研究助成の表示] 本稿は、平成17年度〜平成19年度科学研究費補助金(基盤研究(C))課題番号17530085(研究代表者:明治学院大学法学部准教授 伊室亜希子)の研究成果の一部である。
(2008年3月−2008年7月23日)