法務部・知的財産部のための民事訴訟法セミナー記録
余 録
はじめに
共同訴訟
複数の者が知的財産権を共有している場合に、その権利行使のための訴訟はどのようになるかを学びます。各共有者は、単独で訴えを提起することができるのか、それとも共同して訴えを提起しなければならないのか。こうした問題は、共同訴訟の問題の一部ですので、併せて共同訴訟全体を学びます。「他社との共同開発あるいは大学との共同研究の場合に、特許を受ける権利の行使についてどのような契約条項をいれたらよいか」、という問題も意識していただければ幸いです。
補助参加
自分の売った製品が原因で顧客が訴えられた場合に、顧客が敗訴すると、その顧客から製品の欠陥を理由にして損害賠償の訴えを提起される可能性があります。それを未然に防ぐために、顧客が勝訴するように、訴訟で顧客を補助することが認められています。補助参加の制度です。また、他から仕入れた部品が原因て自分の商品に欠陥が生じ(あるいは特許権侵害となり)、自分がが訴えられた場合には、万一敗訴したときには、部品供給者に対して損害賠償請求する必要があります。その損害賠償請求権の行使を確実にするためには、部品供給者に訴訟を提起されたことを告知する制度が用意されています。訴訟告知の制度です。判例を中心にして、これらの制度について学びます。
判例リスト
C 共同訴訟
共有者が外部の者に対して提起する訴訟
- 最高裁判所昭和31年5月10日第1小法廷判決(昭和29年(オ)第4号) 不動産の共有権者の一人がその持分に基き登記簿上の所有名義人に対してこの者への所有権移転登記の抹消を求めることは保存行為に属し、各共有者は、その登記の全部の抹消を単独で訴求することができる。
- 最高裁判所昭和40年5月20日第1小法廷判決(昭和39年(オ)第764号) 共有持分権の及ぶ範囲は、共有地の全部にわたるのであるから、各共有者は、その持分権にもとづき、その土地の一部が自己の所有に属すると主張する第三者に対し、単独で、係争地が自己の共有持分権に属することの確認を訴求することができる。
- 最高裁判所昭和46年10月7日第1小法廷判決(昭和42年(オ)第535号) 一個の物を共有する数名の者全員が、共同原告となり、いわゆる共有権(数人が共同して有する一個の所有権)に基づき、その共有権を争う第三者を相手方として、共有権の確認を求めているときは、その訴訟の形態はいわゆる固有必要的共同訴訟と解するのが相当である。
- 最高裁判所平成15年7月11日第2小法廷判決(平成13年(受)第320号) 不動産の共有者の一人は,共有不動産について全く実体上の権利を有しないのに持分移転登記を経由している者に対し,単独でその持分移転登記の抹消登記手続を請求することができる。
外部の者が共有者に対して提起する訴訟
- 最高裁判所昭和34年7月3日第2小法廷判決(昭和31年(オ)第454号) 真の所有者であると主張する者が公簿(家屋台帳)上の共有名義人を被告として提起した所有権確認の訴えは、必要的共同訴訟ではない。
- 最高裁判所昭和38年3月12日第3小法廷判決(昭和34年(オ)第44号) 所有権移転請求権保全の仮登記のなされている建物を共同して取得した被告らに対して、右仮登記に基づき本登記を経由した原告が、右共有名義の所有権移転登記の抹消登記手続を請求する場合に、その訴訟は必要的共同訴訟である。
- 最高裁判所昭和43年3月15日第2小法廷判決(昭和41年(オ)第162号) 土地の所有者がその所有権に基づいて地上の建物の所有者である共同相続人を相手方として建物収去土地明渡を請求する訴訟は、いわゆる固有必要的共同訴訟ではない。
- 最高裁判所昭和45年5月22日第2小法廷判決(昭和45年(オ)第64号) 賃借人から賃貸人の共同相続人に対する賃借権確認の訴は、固有必要的共同訴訟ではない。
知的財産訴訟
- 最高裁判所昭和36年8月31日第1小法廷判決(昭和35年(オ)第684号) 実用新案登録出願を拒絶すべき旨の審決を取り消すか否かは、登録を受ける権利を共同して有する者全員について合一にのみ確定すべきものであるから、その審決取消の訴は共同権利者全員が共同して提起することを要する。(固有必要的共同訴訟)
- 最高裁判所昭和55年1月18日第2小法廷判決(昭和52年(行ツ)第28号) 実用新案登録を受ける権利を有する共有者の一人が提起した拒絶査定を支持する審決の取消の訴えが、当事者適格の欠如を理由に却下された事例。
- 東京高等裁判所平成6年1月27日第18民事部判決(平成4年(行ケ)第170号) 実用新案登録出願に対する拒絶査定及びこれを維持する審決は,実用新案登録を受ける権利の実現を阻害するという意味で妨害行為に当たると解することができるから,共有者の一部の者がかかる妨害行為を排除するために審決取消訴訟を提起する行為は,実用新案登録を受ける権利の保存行為(民法252条ただし書)に当たり、単独ですることができる。
- 最高裁判所平成7年3月7日第3小法廷判決(平成6年(行ツ)第83号) 実用新案登録を受ける権利の共有者が、その共有に係る権利を目的とする実用新案登録出願の拒絶査定を受けて共同で審判を請求し、請求が成り立たない旨の審決を受けた場合に、右共有者の提起する審決取消訴訟は、共有者が全員で提起することを要するいわゆる固有必要的共同訴訟と解すべきである。
- 最高裁判所平成14年2月22日第2小法廷判決(平成13年(行ヒ)第142号) 商標権の共有者の1人は,共有に係る商標登録の無効審決がされたときは,単独で無効審決の取消訴訟を提起することができる。(固有必要的共同訴訟に当たらない)
- 最高裁判所平成14年2月28日第1小法廷判決(平成13年(行ヒ)第12号) 商標権の共有者は,共有に係る商標登録の無効審決がされたときは,各自,単独で無効審決の取消訴訟を提起することができる。(固有必要的共同訴訟に当たらない)
- 最高裁判所平成14年3月25日第2小法廷判決(平成13年(行ヒ)第154号) 共有に係る特許権が特許異議の申立てに基づき特許庁により取り消された場合に,特許権の共有者の一人が単独で提起した特許取消決定の取消訴訟が適法とされた事例。
遺産訴訟−共有者間の内部紛争
- 最高裁判所平成9年3月14日第2小法廷判決(平成5年(オ)第920号) 遺産確認の訴えは、特定の財産が被相続人の遺産に属することを共同相続人全員の間で合一に確定するための訴えである。
- 関連事件 最高裁判所平成9年3月14日第2小法廷判決(平成5年(オ)第921号) 3名の共同相続人(甲・乙・丙)中の2名(甲・乙)がある不動産について相互に所有権を主張したが、裁判所は被相続人の遺産に属すると判断して、甲の所有権確認請求と乙の明渡反訴請求を棄却する判決が確定した後に、遺産分割手続において乙が単独所有権を主張したため甲が共有持分権を主張して所有権一部移転登記手続を請求した場合であっても、甲の共有持分権の主張は、前訴判決の既判力により遮断されるとされた事例。
- 最高裁判所平成16年7月6日第3小法廷判決(平成15年(受)第1153号) 他の共同相続人が被相続人の遺産につき相続人の地位を有しないことの確認を求める訴えは,共同相続人全員が当事者として関与し,その間で合一にのみ確定することを要するものというべきであり,いわゆる固有必要的共同訴訟である。
住民訴訟
- 最高裁判所昭和58年4月1日第2小法廷判決(昭和57年(行ツ)第11号) 必要的共同訴訟人の一部が控訴を提起した場合に、控訴審は第一審の共同訴訟人全員を名宛人として一個の終局判決をすべきであり、控訴を提起した者のみを控訴人としてした判決は、違法である。
- 最高裁判所平成9年4月2日大法廷判決(平成4年(行ツ)第156号) 複数の住民が共同訴訟人として提起した住民訴訟において、共同訴訟人の一部の者が上訴すれば、それによって原判決の確定が妨げられ、当該訴訟は全体として上訴審に移審し、上訴審の判決の効力は上訴をしなかった共同訴訟人にも及ぶが、上訴をしなかった共同訴訟人は、上訴人にはならず、上訴をした共同訴訟人のうちの一部の者が上訴を取り下げた場合は、その者は上訴人ではなくなる。
会社訴訟
- 最高裁判所平成10年3月27日第2小法廷判決(平成8年(オ)第1681号) 商法257条3項所定の取締役解任の訴えは、会社と取締役との間の会社法上の法律関係の解消を目的とする形成の訴えであるから、当該法律関係の当事者である会社と取締役の双方を被告とすべき固有必要的共同訴訟である。
- 最高裁判所平成12年7月7日第2小法廷判決(平成8年(オ)第270号) 複数の株主の追行する株主代表訴訟は、いわゆる類似必要的共同訴訟である。株主代表訴訟おいて、共同訴訟人の一部の者が上訴すればそれによって原判決の確定が妨げられ、当該訴訟は全体として上訴審に移審し、上訴審の判決の効力は上訴をしなかった共同訴訟人にも及ぶが、自ら上訴をしなかった共同訴訟人を上訴人の地位に就かせる効力までが民訴法40条1項によって生ずると解するのは相当でなく、自ら上訴をしなかった共同訴訟人たる株主は上訴人にはならないものと解すべきである。
主観的順位的併合(旧法事件)
- 東京高等裁判所昭和42年7月4日第14民事部判決 主観的予備的併合の訴えが却下された事例(旧法事件)。
- 最高裁判所昭和43年3月8日第2小法廷判決(昭和42年(オ)第1088号) 訴の主観的予備的併合は不適法であつて許されない。(旧法事件)
同時審判申出共同訴訟(41 条)
- 参考事例: 最高裁判所平成14年1月22日第3小法廷判決(平成10年(オ)第512号) 商品の売主が建築工事の請負人に対して代金支払請求の訴えを提起したところ,買主は施主であるとの主張がなされたため,売主が施主に訴訟告知をしたが,施主が補助参加することなく,買主は請負人ではなく施主であるとの理由で請負人に対する代金支払請求が棄却された後で,売主が施主に代金支払請求をした場合に,前訴判決中の買主は施主であるとの判断に参加的効力は生じないとされた事例。
共同訴訟参加
- 最高裁判所平成14年1月22日第3小法廷判決(平成10年(オ)第282号) 株主代表訴訟において、原告株主が第1審において被告の主張事実を自白したため敗訴した場合に、控訴審において、他の株主が自白された事実を争うために共同訴訟参加することが許された事例。
D 補助参加
補助参加の可否(補助参加の利益)
- 東京地方裁判所 平成12年7月14日
民事第47部 判決(平成8年(ワ)第23184号、平成10年(ワ)第7031号)
実用新案権者である原告が、完成品の製造販売業者である被告に対して、被告が原告の実用新案権を侵害する部品を使用したことにより実用新案権を侵害したと主張して、損害賠償請求等の訴えを提起した場合に、部品の供給者が部品納入先である被告に補助参加した事例。
- 最高裁判所平成13年1月30日第1小法廷決定(平成12年(許)第17号)
取締役らが忠実義務に違反して粉飾決算を指示し又は粉飾の存在を見逃したことを原因とする取締役らに対する損害賠償請求権を訴訟物とする株主代表訴訟において、会社が取締役のために補助参加することが許可された事例。
- 最高裁判所 平成13年2月22日
第1小法廷 決定(平成12年(行フ)第3号) 労災保険給付の不支給決定の取消訴訟において,事業主が被告(労働基準監督署長)を補助するため訴訟に参加することが認められた事例。
- 最高裁判所平成13年3月13日第3小法廷判決(平成10年(受)第168号) 交通事故とそれに続く医療事故が共同不法行為を構成する場合に、被害者の病院に対する損害賠償請求訴訟に交通事故の加害者が被害者側に補助参加していた事例。
- 最高裁判所 平成14年9月26日
第1小法廷 決定(平成13年(行ニ)第5号、6号 ) 不当労働行為事件において、労働組合の申立てによりその所属組合員たる労働者に差額賃金を支払うべきことを命ずる救済命令が発せられた場合に、当該労働者は、その救済命令の取消訴訟ついて行政事件訴訟法22条1項にいう「訴訟の結果により権利を害される第三者」には当たらず、その訴訟に補助参加することができない。
- 最高裁判所 平成15年1月24日
第3小法廷 決定(平成14年(行フ)第7号) 廃棄物の処理及び清掃に関する法律(平成9年法律第85号による改正前のもの)15条に基づいてなされた管理型最終処分場の設置許可申請に対する岡山県知事の不許可処分の取消しを請求する行政訴訟において,設置予定場所の町および周辺住民が被告側に補助参加することが許された事例。
補助参加人の訴訟行為
- 最高裁判所 昭和25年9月8日
第2小法廷 判決(昭和24年(オ)第321号、昭和24年(オ)第342号) 補助参加人は、被参加人のために定められた上告申立期間内にかぎつて、上告の申立をなし得る。
- 最高裁判所昭和37年1月19日第2小法廷判決(昭和36年(オ)第469号) 補助参加人は、被参加人のために定められた控訴申立期間内に限つて控訴の申立をなしうる。
訴訟告知・参加的効力
- 最高裁判所昭和45年10月22日第1小法廷判決(昭和45年(オ)第166号)
民訴法70条[現46条]の定める判決の補助参加人に対する効力は、いわゆる既判力ではなく、判決の確定後補助参加人が被参加人に対してその判決が不当であると主張することを禁ずる効力であつて、判決の主文に包含された訴訟物たる権利関係の存否についての判断だけではなく、その前提として判決の理由中でなされた事実の認定や先決的権利関係の存否についての判断などにも及ぶ。
- 東京高等裁判所 昭和60年6月25日
民事第8部 判決(昭和54年(ネ)第1293号) 訴訟告知による参加的効力が否定された事例: 交通事故の加害者に対する損害賠償請求の前訴において、加害者が被害者の診療に当たった病院に訴訟告知をしたが、病院が原告(被害者の遺族)側に補助参加し、前訴裁判所が交通事故と医療過誤との競合(異時的共同不法行為)を認定し、全損害の賠償請求を認容した場合に、加害者の病院に対する求償請求の後訴の裁判所が、前訴判決中の病院の医療過誤を認めた判断は傍論に過ぎず、この判断に訴訟告知による参加的効力を認めることはできないとした事例(病院の医療行為と被害者の死亡との間の因果関係も証明されないとして、求償請求棄却)。
- 最高裁判所平成14年1月22日第3小法廷判決(平成10年(オ)第512号)
参加的効力の及ぶ理由中の判断とは,判決の主文を導き出すために必要な主要事実に係る認定及び法律判断などをいうものであって,これに当たらない事実又は論点について示された認定や法律判断を含むものではない。
共同訴訟的補助参加
- 東京高等裁判所昭和51年9月22日判決・無体財産権関係民事・行政裁判例集8巻2号378頁
登録無効審判の除斥期間内に自ら請求せず、また、その審判手続に参加あるいは参加申請をしていない者が審決取消訴訟の被告側に補助参加した場合に、その参加は共同訴訟的補助参加であると判断され、被告が原告主張の事実を全部認めたが、補助参加人が争ったため、被告の自白は効力を生じないとされた事例。(大正10年実用新案法の事件)
その他
- 最高裁判所昭和43年9月12日第1小法廷判決・民集22巻9号1896頁
共同訴訟人が相互に補助しようとするときでも、補助参加の申出をすることを要する。
- 最高裁判所昭和46年12月9日第1小法廷判決(昭和44年(オ)第279号)
訴訟告知を受けた者は、告知によって当然に当事者または補助参加人となるものではない。(したがって、訴訟に参加しない共有者に訴訟告知をしたことをもっては、固有必要的共同訴訟の要件を満たしたとは言えない。)