法務部・知的財産部のための民事訴訟法セミナー記録

余 録


はじめに

共同訴訟

複数の者が知的財産権を共有している場合に、その権利行使のための訴訟はどのようになるかを学びます。各共有者は、単独で訴えを提起することができるのか、それとも共同して訴えを提起しなければならないのか。こうした問題は、共同訴訟の問題の一部ですので、併せて共同訴訟全体を学びます。「他社との共同開発あるいは大学との共同研究の場合に、特許を受ける権利の行使についてどのような契約条項をいれたらよいか」、という問題も意識していただければ幸いです。

補助参加

自分の売った製品が原因で顧客が訴えられた場合に、顧客が敗訴すると、その顧客から製品の欠陥を理由にして損害賠償の訴えを提起される可能性があります。それを未然に防ぐために、顧客が勝訴するように、訴訟で顧客を補助することが認められています。補助参加の制度です。また、他から仕入れた部品が原因て自分の商品に欠陥が生じ(あるいは特許権侵害となり)、自分がが訴えられた場合には、万一敗訴したときには、部品供給者に対して損害賠償請求する必要があります。その損害賠償請求権の行使を確実にするためには、部品供給者に訴訟を提起されたことを告知する制度が用意されています。訴訟告知の制度です。判例を中心にして、これらの制度について学びます。


判例リスト

C 共同訴訟


D 補助参加

    補助参加の可否(補助参加の利益)

    1. 東京地方裁判所 平成12年7月14日 民事第47部 判決(平成8年(ワ)第23184号、平成10年(ワ)第7031号)   実用新案権者である原告が、完成品の製造販売業者である被告に対して、被告が原告の実用新案権を侵害する部品を使用したことにより実用新案権を侵害したと主張して、損害賠償請求等の訴えを提起した場合に、部品の供給者が部品納入先である被告に補助参加した事例。
    2. 最高裁判所平成13年1月30日第1小法廷決定(平成12年(許)第17号)   取締役らが忠実義務に違反して粉飾決算を指示し又は粉飾の存在を見逃したことを原因とする取締役らに対する損害賠償請求権を訴訟物とする株主代表訴訟において、会社が取締役のために補助参加することが許可された事例。
    3. 最高裁判所 平成13年2月22日 第1小法廷 決定(平成12年(行フ)第3号)  労災保険給付の不支給決定の取消訴訟において,事業主が被告(労働基準監督署長)を補助するため訴訟に参加することが認められた事例。
    4. 最高裁判所平成13年3月13日第3小法廷判決(平成10年(受)第168号)  交通事故とそれに続く医療事故が共同不法行為を構成する場合に、被害者の病院に対する損害賠償請求訴訟に交通事故の加害者が被害者側に補助参加していた事例。
    5. 最高裁判所 平成14年9月26日 第1小法廷 決定(平成13年(行ニ)第5号、6号 )   不当労働行為事件において、労働組合の申立てによりその所属組合員たる労働者に差額賃金を支払うべきことを命ずる救済命令が発せられた場合に、当該労働者は、その救済命令の取消訴訟ついて行政事件訴訟法22条1項にいう「訴訟の結果により権利を害される第三者」には当たらず、その訴訟に補助参加することができない。
    6. 最高裁判所 平成15年1月24日 第3小法廷 決定(平成14年(行フ)第7号)   廃棄物の処理及び清掃に関する法律(平成9年法律第85号による改正前のもの)15条に基づいてなされた管理型最終処分場の設置許可申請に対する岡山県知事の不許可処分の取消しを請求する行政訴訟において,設置予定場所の町および周辺住民が被告側に補助参加することが許された事例。

    補助参加人の訴訟行為

    1. 最高裁判所 昭和25年9月8日 第2小法廷 判決(昭和24年(オ)第321号、昭和24年(オ)第342号)  補助参加人は、被参加人のために定められた上告申立期間内にかぎつて、上告の申立をなし得る。
    2. 最高裁判所昭和37年1月19日第2小法廷判決(昭和36年(オ)第469号)  補助参加人は、被参加人のために定められた控訴申立期間内に限つて控訴の申立をなしうる。

    訴訟告知・参加的効力

    1. 最高裁判所昭和45年10月22日第1小法廷判決(昭和45年(オ)第166号)   民訴法70条[現46条]の定める判決の補助参加人に対する効力は、いわゆる既判力ではなく、判決の確定後補助参加人が被参加人に対してその判決が不当であると主張することを禁ずる効力であつて、判決の主文に包含された訴訟物たる権利関係の存否についての判断だけではなく、その前提として判決の理由中でなされた事実の認定や先決的権利関係の存否についての判断などにも及ぶ。
    2. 東京高等裁判所 昭和60年6月25日 民事第8部 判決(昭和54年(ネ)第1293号)   訴訟告知による参加的効力が否定された事例: 交通事故の加害者に対する損害賠償請求の前訴において、加害者が被害者の診療に当たった病院に訴訟告知をしたが、病院が原告(被害者の遺族)側に補助参加し、前訴裁判所が交通事故と医療過誤との競合(異時的共同不法行為)を認定し、全損害の賠償請求を認容した場合に、加害者の病院に対する求償請求の後訴の裁判所が、前訴判決中の病院の医療過誤を認めた判断は傍論に過ぎず、この判断に訴訟告知による参加的効力を認めることはできないとした事例(病院の医療行為と被害者の死亡との間の因果関係も証明されないとして、求償請求棄却)。
    3. 最高裁判所平成14年1月22日第3小法廷判決(平成10年(オ)第512号)   参加的効力の及ぶ理由中の判断とは,判決の主文を導き出すために必要な主要事実に係る認定及び法律判断などをいうものであって,これに当たらない事実又は論点について示された認定や法律判断を含むものではない。

    共同訴訟的補助参加

    1. 東京高等裁判所昭和51年9月22日判決・無体財産権関係民事・行政裁判例集8巻2号378頁   登録無効審判の除斥期間内に自ら請求せず、また、その審判手続に参加あるいは参加申請をしていない者が審決取消訴訟の被告側に補助参加した場合に、その参加は共同訴訟的補助参加であると判断され、被告が原告主張の事実を全部認めたが、補助参加人が争ったため、被告の自白は効力を生じないとされた事例。(大正10年実用新案法の事件)

    その他

    1. 最高裁判所昭和43年9月12日第1小法廷判決・民集22巻9号1896頁   共同訴訟人が相互に補助しようとするときでも、補助参加の申出をすることを要する。
    2. 最高裁判所昭和46年12月9日第1小法廷判決(昭和44年(オ)第279号)   訴訟告知を受けた者は、告知によって当然に当事者または補助参加人となるものではない。(したがって、訴訟に参加しない共有者に訴訟告知をしたことをもっては、固有必要的共同訴訟の要件を満たしたとは言えない。)