法務部・知的財産部のための民事訴訟法セミナー記録

第2日目


はじめに

第2日目のテーマは、訴えと判決です。「訴えなければ判決なし」というのは、民事訴訟の基本原則の一つである処分権主義を表した言葉です。この言葉に示されるように、訴えと判決とは密接に関係していますので、このセミナーでは、両者を同じに日にすることにしました。両者の間にある審理は、第3日目にします。

今日は、訴訟物であるとか既判力といった民事訴訟の基本概念がいくつか出てきます。それらの概念を用いてさまざまな事例を検討することになりますが、一度にたくさんすると疲れますので、基本的な事例を通して基礎的な概念を学ぶことにとどめます。

今話題の非係争条項も取り上げることにしましょう(公正取引委員会のプレスリリース ( PDF ))。これは、民事訴訟法の世界では、「不起訴の合意」と呼ばれ、多数説は有効としています。しかし、この合意が不公正な取引方法の一部としてなされ、それが公正取引委員会の審決により廃棄されれば、この合意は効力を失い、提訴が可能となります。問題は、非係争条項の対象となった侵害行為がなされてから、既に消滅時効期間に相当する年数が経過している場合に、損害賠償請求権の時効はどうなるかでしょう。この問題は本日のテーマのごく一部ですが、このような問題も意識しながら参加していただければ幸いです。


事前の課題

訴えについての理解を早めるために、次の2つの判決について、それに対応する訴状を自分で作成しておいてください。

訴状のサンプルは、下記のサイトにあります。

ほとんどの項目は、判決書の適当な箇所をコピー&ペーストするだけで十分です。判決で省略されている住所等は、適当に設定してください(架空の住所を記入しておいてください)。

「請求の原因」の項目は、訴訟物の特定に必要な範囲で簡単に書いてください。訴えを理解するための準備作業ですので、気楽に書いてください(わからなければ、わかる範囲で、判決の適当な箇所をコピー&ペーストしてください)。


Discussion

攻撃防御方法と規則53条3項(休憩時間の議論)

先ほど、「攻撃は、原告の判決申立てで、攻撃方法は、原告が自己の判決申立てを根拠づけるために提出する資料ないし一切の資料提出行為です。防御は、被告の判決申立てで、防御方法は、被告が自己の判決申立てを根拠づけるために提出する資料ないし一切の資料提出行為です」と説明されましたね。その説明と「攻撃又は防御の方法を記載した訴状は、準備書面を兼ねるものとする」と規定している規則53条3項との関係がよくわからない。

これまで意識したことのなかった問題なので、どう説明すべきかとまどっています。先に、民訴法146条から説明しましょう。146条では、被告は、「本訴の目的である請求と関連する請求」または「防御の方法と関連する請求」について反訴を提起することができると規定されています。「攻撃の方法と関連する請求」が挙げられていないのは、被告が提出するのは防御方法であって、攻撃方法ではないからです。先ほどの説明と146条とは整合的です。

規則53条3項の前身にあたる旧民訴法(大正15年法)の規定では、「準備書面に関する規定は訴状に之を準用す」と定められていました。その基本的趣旨は、準備書面に記載することができる事項は、任意的記載事項として、訴状に記載することができるということです。準用される規定の内で重要なのは、現行法で言えば161条です。現行法の立案の段階で、この規定は法律で定めるまでもないと判断され、それを受けて、規則53条3項が置かれました。従って、同項の規定の趣旨は、「訴状には、準備書面に記載する事項を記載することができる。この場合には、訴状は準備書面を兼ねるものとする」ということになります。この文言であれば、混乱は生じないでしょう。53条3項の現在の文言は、誤解を招きやすいといってよいと思います。


判例リスト

F 訴えと判決

    課題の判例

    1. 東京地方裁判所 平成12年10月17日 民事第46部 判決 (平成12年(ワ)第16890号)  実用新案権の侵害を理由とする損害賠償又は不当利得返還請求の訴えが、内金請求又は一定の台数分の被告製品についての請求という形に細分化して多数回にわたり提起されたが、すべて請求棄却あるいは訴え却下の判決がなされている場合に、それにもかかわらず更に提起された訴えが、金銭債権の数量的一部請求訴訟で敗訴した者が残部請求の訴えを提起することは原則として許されない旨の判例の趣旨に照らしても信義則に反し、また、実質的に同内容の前訴について訴え却下の判決が確定しているにもかかわらず本件訴訟が提起されたことからすれば訴権の濫用に当たるとして、却下された事例。
    2. 東京地方裁判所 平成14年3月25日 民事第29部 判決 (平成11年(ワ)第20820号(本訴),同12年(ワ)第14077号(反訴))  「宇宙戦艦ヤマト」の一連のアニメーション映画の著作者が誰であるかが争われた事例。

    時効の中断

    1. 最高裁判所昭和34年2月20日第2小法廷 判決(昭和31年(オ)第388号)・民集13巻2号209頁  一個の債権の数量的な一部についてのみ判決を求める旨を明示して訴が提起された場合(明示の一部請求)、訴訟物となるのは右債権の一部であつて全部ではないから、訴提起による消滅時効中断の効力は、その一部の範囲においてのみ生じ、その後時効完成前残部につき請求を拡張すれば、残部についての時効は、拡張の書面を裁判所に提出したとき中断する。
    2. 最高裁判所 昭和45年7月24日 第2小法廷 判決(昭和44年(オ)第882号)  一個の債権の一部についてのみ判決を求める趣旨が明示されていないときは(黙示の一部請求)、請求額を訴訟物たる債権の全部として訴求したものと解され、時効中断の効力は、債権の同一性の範囲内においてその全部に及ぶ。
    3. 最高裁判所平成10年12月17日第1小法廷判決(平成6年(オ)第857号) 被相続人が貸金庫内に保管していた預金証書および株券を共同相続人の一人が密かに持ち出して、預金の払戻金および株券の売却代金を着服したので、他の共同相続人が損害賠償請求ならびにまだ売却されていないと考えた株券の引渡請求の訴えを提起し、その訴訟の係属中に不当利得返還請求を追加した場合に、当初の請求には不当利得返還請求権の行使の意思が表れていたと見ることができ、不当利得返還請求権についても催告が継続していたと解すべきであり、不当利得返還請求の追加により、右請求権の消滅時効について時効中断の効果が確定的に生じたものと解すべきであるとされた事例。

    重複起訴の禁止

    1. 最高裁判所 昭和48年4月24日 第3小法廷 判決(昭和47年(オ)第908号)・民集27巻3号596頁  債権者が民法423条1項の規定により代位権を行使して第三債務者に対し訴を提起した場合であつても、債務者が民訴法71条(現47条)により右代位訴訟に参加し第三債務者に対し右代位訴訟と訴訟物を同じくする訴を提起することは、民訴法231条(現142条)の重複起訴禁止にふれるものではない。
    2. 最高裁判所 昭和63年3月15日 第3小法廷 判決(昭和58年(オ)第1406号)  賃金の仮払を命ずる仮処分の執行に係る仮払金の返還請求訴訟において、仮処分債権者が本案訴訟で訴求中の賃金債権を自働債権とする相殺の抗弁を提出することは許されない。
    3. 最高裁判所平成3年12月17日第3小法廷判決(昭和62年(オ)第1385号)   係属中の別訴において訴訟物となっている債権を自働債権として他の訴訟において相殺の抗弁を主張することは許されず、このことは右抗弁が控訴審の段階で初めて主張され、両事件が併合審理された場合についても同様である。
    4. 大阪地方裁判所 平成8年1月26日 第11民事部 判決(平成7年(ワ)第4361号)  係属中の別訴において自働債権として相殺の抗弁を提出した債権について他の訴訟で請求することは許されない。
    5. 最高裁判平成10年6月30日第3小法廷判決(平成6年(オ)第698号)   別訴において一部請求をしている債権の残部を自働債権として相殺の抗弁を主張することは、特段の事情の存しない限り、許される。

    訴訟物の特定

    1. 最高裁判所 昭和61年5月30日 第2小法廷 判決(昭和58年(オ)第516号)  著作物に対する同一の行為により著作財産権と著作者人格権とが侵害された場合であつても、著作財産権侵害による精神的損害と著作者人格権侵害による精神的損害とは両立しうるものであつて、両者の賠償を訴訟上併せて請求するときは、訴訟物を異にする二個の請求が併合されているものであるから、被侵害利益の相違に従い著作財産権侵害に基づく慰謝料額と著作者人格権侵害に基づく慰謝料額とをそれぞれ特定して請求すべきである。

    判決の効力

    1. 最高裁判所 昭和32年6月7日 第2小法廷 判決(昭和28年(オ)第878号)  ある金額の請求を訴訟物(分割債務)の全部として訴求して、その全部につき勝訴の確定判決をえた後、その請求は訴訟物(連帯債務)の一部にすぎなかった旨を主張して残額を訴求することは、許されない。
    2. 最高裁判所 昭和37年8月10日 第2小法廷 判決(昭和35年(オ)第359号)  一個の債権の数量的な一部についてのみ判決を求める旨を明示して訴が提起された場合は、訴訟物となるのは右債権の一部の存否のみであり、一部の請求についての確定判決の既判力は残部の請求に及ばない。
    3. 最高裁判所 昭和42年7月18日 第3小法廷 判決(昭和40年(オ)第1232号)  同一の不法行為により生じた損害のうち、前訴はその事実の最後の口頭弁論終結時までに支出された治療費を損害として主張しその賠償を求めるものであり、後訴(本訴)はその後に再手術を受けることを余儀なくされるにいたったと主張してその治療に要した費用を損害としてその賠償を訴求するものである場合には、両者は訴訟物を異にし、前訴判決の既判力は後訴に及ばない。
    4. 最高裁判所 昭和43年4月11日 第1小法廷 判決(昭和39年(オ)第538号)  交通事故により受傷した母と子らに5万円を支払い、受傷者らはその余の請求を放棄する旨の調停が成立してから10ヶ月後に、事故が原因で母が死亡した場合に、母の死亡を理由とする子らからの慰謝料請求は、前記調停において解決済みであるとはいえないとされた事例。
    5. 最高裁判所 昭和49年4月26日 第2小法廷 判決(昭和46年(オ)第411号)  相続財産の限度で支払を命じた留保付判決が確定した後において、債権者が、第二審口頭弁論終結時以前に存在した限定承認と相容れない事実(たとえば民法921条の法定単純承認の事実)を主張して、右債権につき無留保の判決を得るため新たに訴を提起することは許されない(上告棄却理由)。
    6. 最高裁判所 昭和61年7月17日 第1小法廷 判決(昭和56年(オ)第756号)  土地の所有者が不法占拠者に対し土地の使用収益を妨げられていることによって受ける損害の賠償を求める請求権は、通常生ずべき損害及び特別事情によって生ずる損害を通じて一個の請求権であって、その履行を求める訴えにおいて、通常損害と特別損害のいずれか一方についてのみ判決を求める旨が明示されていない場合には、たとえ請求原因としてはその一方のみを主張しているにとどまるときであっても、一部請求であることが明示されているのと同視しうるような特段の事情の存在しない限り、これに対する判決の既判力は右請求権の全部に及び、新たに訴えを提起して、右請求を一部請求であったと主張し、他の一方の損害の賠償を求めることはできないものと解するのが相当である。(仮換地の不法占拠の事例)
    7. 最高裁判所 平成9年3月14日 第2小法廷 判決(平成5年(オ)第921号)  所有権確認請求訴訟において請求棄却の判決が確定したときは、原告が同訴訟の事実審口頭弁論終結の時点において目的物の所有権を有していない旨の判断につき既判力が生じるから、原告が右時点以前に生じた所有権の一部たる共有持分の取得原因事実を後の訴訟において主張することは、右確定判決の既判力に抵触する。
    8. 最高裁判所平成10年6月12日第2小法廷判決(平成9年(オ)第849号)  金銭債権の数量的一部請求訴訟で敗訴した原告が残部請求の訴えを提起することは、特段の事情がない限り、信義則に反して許されない。

    既判力の標準時後の形成権の行使

    1. 最高裁判所 昭和55年10月23日 第1小法廷 判決(昭和55年(オ)第589号)   売買契約による所有権の移転を請求原因とする買主からの所有権確認訴訟が係属した場合に、売主が右売買契約の詐欺による取消権を行使することができたのにこれを行使しないで事実審の口頭弁論が終結され、右売買契約による所有権の移転を認める請求認容の判決があり同判決が確定したときは、もはやその後の訴訟において売主が右取消権を行使して右売買契約により移転した所有権の存否を争うことは許されない。
    2. 最高裁判所 昭和57年3月30日 第3小法廷 判決(昭和54年(オ)第110号)  手形所持人が白地手形に基づいて手形金請求の訴えを提起したところ、手形要件の欠缺を理由とする請求棄却の判決が確定するに至つたのち、その者が白地部分を補充した手形に基づいて再度前訴の被告に対し手形金請求の訴えを提起した場合において、手形所持人が前訴の事実審の最終の口頭弁論期日以前に白地補充権を有しており、これを行使したうえ手形金の請求をすることができたにもかかわらずこれを行使しなかつた場合には、右期日ののちに該手形の白地部分を補充しこれに基づき後訴を提起して手形上の権利の存在を主張することは、特段の事情の存在が認められない限り、前訴判決の既判力によつて遮断され、許されない。
    3. 最高裁判所 平成7年12月15日 第2小法廷 判決(平成4年(オ)第991号)  借地上に建物を所有する土地の賃借人が、賃貸人から提起された建物収去土地明渡請求訴訟の事実審口頭弁論終結時までに建物買取請求権を行使しないまま、賃貸人の右請求を認容する判決がされ、同判決が確定した場合であっても、賃借人は、その後に建物買取請求権を行使した上、賃貸人に対して右確定判決による強制執行の不許を求める請求異議の訴えを提起し、建物買取請求権行使の効果を異議の事由として主張することができる。

    その他

    1. 最高裁判所 平成6年11月22日 第3小法廷 判決(平成2年(オ)第1146号)  特定の金銭債権の一部を請求する事件において、被告から相殺の抗弁が提出されてそれに理由がある場合には、まず、当該債権の総額を確定し、その額から自働債権の額を控除した残存額を算定した上、原告の請求に係る一部請求の額が残存額の範囲内であるときはそのまま認容し、残存額を超えるときはその残存額の限度でこれを認容すべきである。