関西大学法学部教授 栗田 隆

民事訴訟法講義「口頭弁論 3」の注


注1 [中野*1997a]43頁参照。但し、必ずしも確立された用語法というわけではなく、「不出頭」と「欠席」とを同義で用いる教科書もある。例えば、[伊藤*民訴]246頁。

注2 池田[中野=松浦=鈴木*1998a]227頁は、このような場合の263条の1か月の起算点を当初の欠席期日ではなく裁判長が職権で指定した新期日とする。しかし、この問題は、旧法では意味があったが、現行法の下では、263条2文が連続2回の欠席も訴えの取下げとみなしたことにより、解消されたのではなかろうか。[中野*1997a]43頁参照。

注3 [松本*2000a]195頁以下。

注4 公示送達により訴状・準備書面が送達される場合の意思表示の到達は、113条により擬制される。書留郵便に付する送達がなされたが、相手方が旅行中などのために受領されなかった場合には、送達の効力は生じても、私法上の意思表示は到達しなかったことになろうか。

注5 263条では「退廷」と「退席」の使い分けがなされているが、これは、口頭弁論期日は法廷で開かれることを強調する趣旨である。

注6 [宇野*2000a]348頁以下。訴訟政策的配慮について、次のように述べている。

  1. 各当事者の相殺の効力が生ずる時点は、弁論においてそれが主張された時点であり、各当事者が同じ期日において先を争って主張しようとする場合には、裁判所は、その相殺の抗弁を記載した準備書面を裁判所に先に提出した者に最初に主張させればよいとする(865頁)。
  2. 裁判所の審理の対象となるのは、多くても、訴求債権、被告の反対債権、原告の別債権の3個にとどまり、審判の対象が際限なく広がることはない(866頁以下)。

aの点は、若干気に掛かる。私法行為説を貫徹すれば、予備的相殺の意思表示を記載した準備書面が相手方に到達した時点ですでに相殺の効力が解除条件付で生じているのであるから、その意思表示をした旨を裁判所に主張する時点の先後で相殺の抗弁の優劣を判定するのは適当ではないように思える。

bの点は正当であろう。原告の先行的再抗弁に先行して被告が更に相殺の再々抗弁を提出することは実際上にあり得ないこと、および、相殺適状の時期が先行することを理由とする逆相殺は否定されるべきことを前提にすれば、確かにそうなると思われるからである。

注7 被告が原告に対して「***の訴えを取下げよ」という訴えを提起するのではないことに注意。

注8 なお、仲裁手続においては、手続の基礎となっている仲裁契約に包含されない請求権を相殺の抗弁として主張できるかという興味深い問題があり、訴訟における相殺の抗弁の特質を考える上でも有用な論点である。これに関する最近の論文として、[堤*2002a]=堤龍弥「仲裁における相殺の抗弁の取扱い」神戸学院法学32巻2号(2002年9月)1頁-18頁がある。仲裁申立人の請求との関連性を主な要件にして、仲裁人の審判権限を広く認める代わりに、反対債権に係る仲裁判断には既判力を否定するのがよいとの見解を提示している。

注11 [伊藤*民訴]274頁以下。

注12 相手方も欠席していた場合に、この規定が適用されるかは微妙である。(α)双方不出頭の場合には、弁論の余地はないと考えれば、266条2項の適用は否定され、訴えの取下げの擬制に向かう。(β)訴えの取下げより請求の放棄または認諾の方が訴訟の根本的な解決になると考え、この目標の達成を優先させるとすれば、陳述擬制は出頭の擬制も含むと解釈し(したがって158条の適用も肯定し)、当事者双方が現実に出頭していない場合でも適用があると解することも考えられる。(β)の解釈は、強引すぎようか?

注16 弁論準備手続や和解手続でもこの陳述擬制は可能なのであるから、口頭弁論期日において陳述する場合に、初回期日に限定する必要はない。