注1 却下しないのであれば、判決理由の展開上判断する必要のないものを除き、判決理由中で判断を下すべきである。判断すべき攻撃防御方法を判断しなければ、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反として破棄の原因となることがある。最高裁判所 平成11年6月29日 第3小法廷 判決(平成10年(オ)第2189号)参照。
注2 進行協議期日については、釈明処分を許す規定がない。但し、進行協議期日においても、当事者の任意の協力により、専門的知識を有する関係者から説明を受けることができ、これが釈明処分と実質的に同等の機能を果たす。
注3 主張が曖昧であるため、複数の趣旨に解釈できる場合には、その趣旨を明確にさせるべきである。特に、そのうちの特定の趣旨の主張と解すれば、相手方が敗訴する可能性がある場合には、裁判所は主張の趣旨を明確にさせるべきであり、それをすることなく相手方に不利な判決をすべきでない。しかし、どの趣旨と理解しても理由のない主張であれば、その点を判決で説示する方が、趣旨不明瞭の主張として却下するよりも当事者の納得が得られて好ましい。実例として、東京高等裁判所 平成12年1月18日 第6民事部 判決(平成11年(ネ)第4444号)参照(取材契約違反の主張について、丁寧な応接がなされている)。
注4 攻撃防御方法の提出時期に関しては、いくつかの建て前があるが、これを厳しい順から緩い順に並べると次のようになる。
適時提出主義と随時提出主義との相違は微妙であるが、それでも文言に現れた理念の違いは、現実に異なる結果をもたらそう。東京地方裁判所 平成12年3月27日 民事第29部 判決(平成2年(ワ)第5678号等)参照(被告の訴訟活動が著しく公正さを欠くものであるにもかかわらず、旧民事訴訟法のもとでの訴訟行為であること等を考慮して、被告の提出した資料を裁判の基礎資料から排除しなかったが、迅速審理を主眼とし適時提出主義を採用した現行民事訴訟法の下で同様の訴訟活動がされた場合には、時機に後れた攻撃又は防御の方法に当たることを理由に、直ちに証拠提出を却下した上で、手続的な公正さ及び迅速審理の要請を優先させる審理がされることになると説示された)。
注6 「申出」と呼ばれているが、申立の一種である(証拠の取調べを求める申立て)。移送の申立などと異なり判決の基礎資料の提出行為であるので、申立てではあるが攻撃防御方法の中に入れられる。
注7 事例として、次のものがある。最高裁判所 昭和42年9月27日 大法廷 判決・民集21巻7号1925頁。
注8 この結果、例えば相手方が欠席している場合には、263条(訴え取下げの擬制)の適用が可能となる。
注9 もちろん訴訟手続の一部であり、期日に正当な理由なく欠席することは不誠実な訴訟追行態度と評価される。
注10 当事者による事実の主張(弁論)と証拠調べとの関係をどのようにするかについては、さまざまな方式がある。両者の間に証拠判決と呼ばれる裁判を入れ、証拠判決によって争点を確定し、それから証拠申出をさせて証拠調べに入る建て前を証拠分離主義という。このような区画整理をしない建て前が証拠結合主義である(ここで「結合」は、「分離」の反対語である。「非分離」に置き換えてもよい)。
注11 上訴審は、原審がその主張を理由がないとした根拠が不当であると判断する場合には、その主張がそれを斟酌すると訴訟の完結を遅延することになる時期に提出されたものであるか否かをあらためて判断すべきであろう。
注12 規則53条3項の沿革をたどると、同項の前身は、「準備書面に関する規定は訴状に之を準用す」と規定していた旧民訴法(大正15年法)224条2項である。その基本的趣旨は、準備書面に記載することができる事項は、任意的記載事項として、訴状に記載することができるということであると解されていた([条解*1986a]803頁。 準用される規定の内で重要なのは、現行法で言えば161条である)。現行法の立案の段階で、この規定は法律で定めるまでもないと判断された。それを受けて、規則53条3項が置かれたのである([条解*1997a]119頁注5 )。従って、同項は、「訴状には、準備書面に記載する事項を記載することができる。この場合には、訴状は準備書面を兼ねるものとする」という文言でもよかったのである。これであれば、混乱は生じないであろう。
規則53条3項の文言を前提にすると、次のように理解することになろう。(a)原告が訴状に記載する防御の方法は、予想される被告の防御方法(およびこれに対する原告の応答)であると理解する。(b)同項は、直接には本訴に関する規定であるが、58条により反訴について適用される。同項の文言は、この場合を想定したものであると理解する。但し、反訴状に記載される攻撃又は防御の方法は、「反訴の攻撃の方法」又は「本訴の防御の方法」である。いずれにせよ、趣旨が明瞭でなく、落ち着きの悪い表現のように思える。
注13 当該証拠により証明すべき事実が準備書面の記載あるいは口頭弁論での陳述により相手方に知らされていることを前提にして、見解は次のように分かれている。
例1 会社の上司のハラスメントにより損害を受けた原告(従業員)が会社に対して損害賠償を請求する訴訟の口頭弁論の段階で、原告が主張するハラスメント行為の存在自体が争われている場合に、
最終的に原告が主張するハラスメント行為の存在が認定されないことになる場合でも、裁判所が事件の全容を知るために必要であると判断すれば、上記のように釈明が求められる点に注意したい。なお、上記の例で、被告代理人は期日の終了後に被告会社におもむき、上記の事情を説明して、被告会社のハラスメント防止策に関する資料を求めることになる。本来は、原告からこのような主張がなされるであろうことを予想して、被告代理人が資料を予め用意しておくべきであるが、他の争点が議論の中心になっている場合には、上記のような展開になることもある。
注17 原告の判決申立てを「攻撃」と呼び、被告の判決申立てを「防御」と呼ぶことは、簡潔な表現であり私は好きである。しかし、いくつかの教科書で用いられる「攻撃防御の展開」における「攻撃」と「防御」は判決申立てのみならず攻撃防御方法の提出まで含んだ意味である。こうしたことを考慮すると、原告と被告の判決申立てを「攻撃」と「防御」と呼ぶのは、簡約にすぎるのかもしれない。「攻撃的申立て」「防御的申立て」の語の方がわかりやすいのは確かである。
注18 次の点を補足しておきたい。(α) 審理の整序の観点からは、口頭弁論終結前に独立の決定によって却下することが望ましい。(β)却下の申立があった場合には、口頭弁論終結前に裁判することが望ましい。特に、却下の申立が却下される場合には、却下申立をした者はそれに対応して攻撃防御方法を提出しなければならないからである。もっとも、口頭弁論を続行することにより、黙示的に却下されたと見ることができる場合もあろう。
注19 控訴審は続審と構成されており、控訴人は第一審で却下された攻撃防御方法を控訴審で再度提出することができる。この場合に、(α)控訴審は第一審の却下決定には拘束されず、控訴審で再び却下されることがあるにすぎないと考えれば(新堂[兼子*1986a]355頁)、第一審の却下決定に対して控訴審で終局判決とともに不服を申し立てるということにそれほど意味があるわけではない。控訴審が、第一審判決の当否を判断する際に、却下決定の当否が判断されるにとどまる。(β)第一審が一方の当事者の重要な攻撃防御方法を独立の決定によりことごく却下したことが不当であったという場合を考えれば、控訴審は原判決を取り消して事件を原審に差し戻すのが相当であり、その場合には第一審の不当な却下決定を取り消して状況を明確にしておくことになお意味があろう(明示的に取り消さなくても、308条2項により取り消されたものとみなされる場合もある)。
注20 時機に後れた攻撃防御方法については、相手方当事者からの却下申立を第一審が却下した場合に、控訴審がその却下決定を不当としてその攻撃防御方法を却下することは、ありうるとしてよいであろう。
注31 旧法下では、口頭弁論前に準備書面を相手方の準備に必要な期間をおいて裁判所に提出し、裁判所が相手方に送達することになっていたが、現実には口頭弁論期日が準備書面交換期日になることもあったと言われている。
注32 但し、63条により、勝訴しても訴訟費用を負担させられることがある。
注33 第一審判決言渡し後は、控訴提起の準備のために必要がある限り許されるべきである。口頭弁論終結後・判決言渡し前になす必要は少ないが、まったくないとは言いきれない以上、必要がある限り許されると解すべきである。
注37 例えば、貸金返還請求訴訟において、金銭の貸渡しの際に債権者の元従業員(現在音信不通とする)が債務者を侮辱する発言をしたという事実。名誉毀損を理由とする損害賠償請求権を反対債権とする相殺の抗弁が提出されている場合にはこの事実を審理の必要があるが、そうでなければ、通常は、この事実の有無を審理する必要はない。相殺の抗弁が提出されるか、攻撃防御との関連性が明らかになるまで、認否の保留を認めてよいであろう。
注38 東京地方裁判所 平成14年7月23日 民事第46部 判決(平成13年(ワ)第2702号)は、原告が,被告装置1により特許権を侵害され,さらに,これと同様の構成の他の装置によって特許権を侵害されていると主張している場合に,被告が,装置1の構成について原告の主張を争わず,他の装置については認否を保留しつつ,原告の主張を前提にすれば,装置1による侵害が成立しなければ他の装置についても同様であるという防御方法を提出した事例である。
注39 当事者が準備書面の直送をする場合に、相手方にファクシミリ受信設備があれば、これによることが費用の節減につながる。相手方にその設備がなければ、郵送することになり、またその他の理由で郵送する場合もあろう。どのような理由によるにせよ、当事者が準備書面の直送をするために支出した郵便料金が訴訟費用に含まれるかかが問題になるが、最高裁判所 平成26年11月27日 第1小法廷 決定(平成26年(許)第19号)は、「直送をするためにした支出が費用に当たるとすると,相手方当事者にとって訴訟費用額の予測が困難となり,相当とはいえない」との理由で、訴訟費用に含まれないとした。