関西大学法学部教授 栗田 隆

民事訴訟法講義「口頭弁論1」の注


注1  [鈴木*1984a]および[鈴木*1995a]がこの問題を詳しく論じている。

注2  それは、次のことを意味する。

  1. 口頭弁論に顕出された資料のみに基づいて裁判しなければならない。
  2. 期日外で申立てがなされた場合に、その申立てについて裁判するにあたっては口頭弁論期日を開かなければならない。 

上記の内で、bの点についての多数説の態度は必ずしも明瞭とは言えないが、aの原則を貫徹すれば、そうなろう。

注3  この場合の審尋は、双方審尋主義における審尋と同じ意味であり、口頭弁論(任意的口頭弁論または必要的口頭弁論)において言い分を聴くことも含まれる。もっとも、87条2項の審尋を任意的審尋と呼び、これと必要的審尋とを対立的に並べられている教科書も多い。しかし、それでは、必要的審尋の場合には、口頭弁論において言い分を聴くことができないかのような印象を与えることになり、適当ではない。

注4  ここで、本案は、請求の当否および訴えの適法性を意味する。

注5  憲法82条1項は、法廷で傍聴人がメモを取ることを権利として保障しているものではないが、法廷で傍聴人がメモを取ることは、その見聞する裁判を認識、記憶するためにされるものである限り、憲法21条1項の精神に照らし尊重に値し、故なく妨げられてはならない(最高裁判所 平成元年3月8日 大法廷 判決(昭和63年(オ)第436号))。

注6  [長谷部*1998a5]136頁以下は、合衆国のプリトライアルも公開要請に服さないが、これと日本の弁論準備手続との間には後続の公開審理との関係で重要な相違があることを指摘する。

注7  合衆国の判例につき、[長谷部*1998a5]を参照。

注8  [長谷部*2000a]21頁注26第2段落は、個人のプライバシーが裁判官からも保護される必要があることを指摘する。

注9  もっとも、弁論としての主張についても相手方に反論の機会を与える必要があることを考えると、尋問に代わる審尋の際に相手方の立会権を保障する根拠として、これだけを挙げたのでは不十分である。次のことを付加してよい。

注10  改正後においても、通信状況が悪いため通信出頭者の意思確認が難しいと判断される場合には、裁判所は和解の成立を認めるべきではないが、これは裁判所の裁量に属する。

注11  92条の2が定める2項関与は、「専門委員が証人、当事者本人又は鑑定人に対し直接に問いを発する」方法による関与である。ところが、92条の3の定める通信関与は「裁判所及び当事者双方が専門委員との間で音声の送受信により同時に通話をする」方法による関与であり、証人と専門委員との間の通話は予定されていない。したがって、92条の3にいう「発問」を92条の2にいう「問いを発する」を指すものと理解すると、専門委員が証人に直接に発門することができるのか疑問が生ずる。この疑問は、鑑定人に対する質問、さらには訴訟代理人がいる場合の当事者本人の尋問についても生ずる。

その点はともあれ、通信による証人尋問がテレビ会議方式でなされることを考慮すると、音声のみによる通信で専門委員が証人に質問することには不安が残るが、ただ、証人が受訴裁判所にいて裁判官が証人の陳述の態度や表情を見ることができることを考慮すると、音声のみによる通信で専門委員が証人に質問することを認める実益はありそうである。

ただ、通信コストが非常に低廉になってきている現在では、証人等に対する質問は、できるだけテレビ会議方式の方が好ましい(専門委員が証人に威圧的な質問をするとは思わないが、しかしそれでも多くの証人にとって法廷での証言は初めての異常な体験であり、質問者の顔が見えないこと自体が一つの不安となり、円滑なコミュニケーションを阻害する要因になろう)。テレビ会議方式を前提にすれば、証人の所在場所は、かなり自由になろう。次の3つのケースが考えられる。

  1. 専門委員のみが遠隔地にいて、証人等が受訴裁判所にいる場合
  2. 専門委員と証人等とが同じ遠隔地(受訴裁判所以外の裁判所(法204条210条規則123条1項))にいる場合。
  3. 専門委員と証人等とが別の遠隔地にいる場合(証人等は、受訴裁判所以外の裁判所にいなければならない(法204条・210条、規則123条1項))。

各ケースで留意すべき事項は異なるが、基本的に、いずれも許容してよい。

注12  当事者の陳述は、書面でなされても口頭でなされても、審尋と呼ぶのが慣例である([兼子*1967a]218頁)。しかし、審尋を書面審理の補充ととらえ、口頭での陳述の聴取のみを審尋ととらえている文献([上田*1998a]237頁)もある。

注13  他の手続法では、「裁判は、口頭弁論を経ずになすことができる」と規定されていることが多く、これにより当該裁判の形式が判決ではなく決定であることも明らかにされている。例:民執法4条破産法8条

注14  裁判手続(特に刑事裁判手続)の傍聴を趣味とする人々も存在する。裁判の公開制度の主目的である裁判の公正の確保という視点からすれば、そのような人々の存在も貴重である。

注15  決定で裁判する問題について、必要的口頭弁論(本案についての口頭弁論)の期日の中で審理することも許される(任意的口頭弁論の期日を別個に指定する必要はない)。問題の性質上、必要的口頭弁論の期日の中で審理・裁判されてしまうのが通常となる問題、あるいはそうすることが少なくないであろうと予想される問題もある。

注16  弁論としての当事者ないし訴訟代理人の陳述については、その多くは準備書面に記載されているので、調書の作成負担はそれほど大きくないと思われる。

注17  当事者の提出する営業秘密に関する資料が相手方当事者に開示されることさえ重大な不利益をもたらす場合がある。しかし、相手方に開示されない資料を裁判の基礎にすることはできない。裁判の基礎資料となるためには、相手方にも開示され、その批判に曝されることが必要である。

注18  教科書の記述を見ておこう。

裁判
多数説
少数説
兼子・217頁・472頁 新堂・414頁・797頁 中野ほか・新民訴528頁(上野) 注釈民訴(3)89頁(竹下) 中野ほか・新民訴198頁(池田)
一時訴訟行為(34条) 必要 (必要) 任意 任意
担保提供(75条) 必要
訴えの変更(143条4項) 必要 必要 必要 任意 任意
訴訟指揮等に対する異議(150条) 必要
釈明処分(151条) 必要 (必要) 任意
弁論の制限・分離等の決(152条) 必要 (必要) 任意 任意
攻撃防御方法の却下の申立て(157条) 必要 必要 必要 任意
証拠の申出(180条) 必要
文書提出命令(223条) 必要 (必要) 任意 任意
仮執行宣言(294条) 必要

略語は、次のことを意味する。

注19  そのほかに、つぎの点も指摘しておきたい。

注20  但し、次のことを確認しておきたい。

注21  被告が現在採用している製造方法が原告の発明した製造方法の技術的範囲に含まれるかどうかの判断の詳細を別紙でした(と判決理由中で記載されている)裁判例として、東京地方裁判所 平成16年1月30日 民事第46部 判決(平成13年(ワ)第17772号)がある。単に判決書が膨大になるのを回避するために別紙に記載したにすぎないと見る余地もあるが、秘密保護のための措置と見たい。こうした点に憶測が生じないように、別紙にした理由も簡潔に書かれる方がよいであろう。