関西大学法学部教授 栗田 隆


民事訴訟法講義「送達」の注


注1 [法務省*1998a]123頁に詳細な新旧対照表がある。

注2 [注釈*1997b]206頁(小川英明)。裁判所の廊下で出会ったにすぎない場合には、105条の出会送達の余地はあるが、書記官送達にはならない。送達されるべき書類に関する事件以外の事件について出頭した場合でもよい。しかし、見学に来たような場合は、含まれない。同一建物に地方裁判所と高等裁判所が同居している場合に、高等裁判所の事件について出頭した者に地方裁判所の裁判所書記官は、この送達をなすことはできない。

注3 就業場所が送達場所として届け出られている場合でも、106条2項の適用はもちろん、107条1項3号下段カッコ書の適用もある([法務省*1998a]111頁)。

注4 もう少し丁寧に書いておこう。例えば、一人暮らしの被告が釧路市内に住所を有し、釧路市内に勤務しているが、6カ月ほど東京に出張している間に訴えが提起されたとしよう。原告は、被告が東京に出張中であることを知らないとすると、次の順番で送達が試みられる。

  1. 初回送達
  2. 2回目の送達
  3. 3回目以降の送達

前記の設例を少し変えて、第一回目の送達を就業場所で受けた後に送達場所を届けることなく、東京に出張したとしよう。

  1. 初回送達
  2. 2回目の送達
  3. 3回目以降の送達

注5 事例として、最高裁判所平成10年9月10日第1小法廷判決(平成5年(オ)第1211号)を参照。妻が夫に無断でクレジットカードの会員となり、クレジット会社から夫に立替金償還請求の訴えが提起され、訴状は書留郵便に付する送達により送達され、判決は妻が補充送達受領資格者として交付を受けたが、送達名宛人に渡さなかった事例である。

注6 なお、この問題を補充送達がなされた旨の通知で解決しようとしても困難であろう。住所等に通知しても、被告本人の手に渡る可能性は少なく、就業場所に通知するとなると、多数の正常な事件についてまで就業場所の確定やプライバシー保護の負担が生ずるからである。

注7  最高裁判所平成10年9月10日第1小法廷判決(平成5年(オ)第1211号)

注8  訴状は、被告に対する私法上の意思表示等も含まれていることが多く、被告に送達されることによりその意思表示等の効力を生ずる必要がある。そこで、被告に送達されることにより意思表示の効力が生ずべき書類であること(表示意思があること)を明確にするために、原告が提出する副本が送達に用いられる(規則58条1項)。副本とは、原本ないし正本と同一内容で同一の効力を有するものとして作成されたものである([条解*1997a]85頁)。

注9  原告も訴状を手元に有しているが、それは原本ではなく、写しである。

注10  もっとも、判決の送達には正本が用いられるが、特許庁の審決の送達には謄本が用いられることに示されるように(特許法157条3項)、「原本と同等の効力を認められた」ということにそれほど重要な意味があるとは思われない。

注11  ファックスで提出することができない書面の代表例が、[最高裁*1997b]121頁以下に列挙されている。幾つかを挙げておこう。

注12  この送達の効果は民事手続との関係で認められるのであり、実体法上通知が要求されている場合には(例えば、民法155条)、文書が現実に到達した時点で当該文書による通知がなされたことになる。書留郵便物が裁判所に返送された場合には、通知はなかったことになる(最高裁判所 平成7年9月5日 第3小法廷 判決(平成7年(オ)第374号))。このような場合には、公示送達(民訴113条)または公示による意思表示(民法98条)が必要である。

注13  この送達については、郵便認証司による認証を受けるものとされ(郵便法49条)、その認証は、「郵便物が民事訴訟法第百三条 から第百六条 までに掲げる方法により適正に送達されたこと及びその送達に関する事項が同法第百九条 の書面に適正に記載されていることを確認し、その旨を当該書面に記載し、これに署名し、又は記名押印すること」をいうとされている(郵便法58条2号)。

注14  この場合の就業場所は、受訴送達者が日常的に勤務している場所を意味する(受送達者が営業職等にある場合のことも考慮すると、受送達者が就業場所とされた場所に常時する所在することまでは要求されないが、勤務日に一定時間は就業場所とされた場所に所在することは必要と解すべきである。そうでないと、送達の実効性があがらないし、106条2項の規定により補充送達がなされた場合に、問題が生じよう。同項の補充送達をする場合には、送達実施期間は、受送達者が就業場所における勤務状況を確認し、送達書類が受送達者に渡される可能性が高いことを確かめておくべきである。

大学生については、就学場所が103条2項・106条2項の就業場所に準じうるかが問題となるが、少なくとも文化系の学部の学生については、定常的に所在すべき固定した場所はないことを考慮すると、否定すべきである。学部の事務室の職員に対して106条2項の補充送達をしても、送達書類の交付のために学生を呼び出す必要が生ずるのが通常であろう。そのような必要が生ずることが予想される場合には、大学の職員も同項の補充送達を拒むべきである。