関西大学法学部教授 栗田 隆

民事訴訟法講義「争点整理手続」の注


注1 弁論準備手続を行った受命裁判官以外の裁判官について、次の点に注意。

なお、結果陳述は一方の当事者がすれば足りるので、その場合には他方の当事者の主張を直接には聴かないままになるが、一方の当事者が陳述するのは、双方の当事者の主張の整理結果であるので、双方審尋主義の点からは問題ない。

注2 争点整理の手続をどのように構成するかについては多様な選択肢がある。ドイツ法の展開を考察した文献として、[鈴木*2000a]= 鈴木正裕「争点整理の方策について−−その史的考察−−」原井龍一郎先生古希祝賀『改革期の民事手続法』(法律文化社、2000年2月)を参照。

注3 平成15年改正以前においては、171条2項カッコ書により許されなかった。しかし、文書は、争点整理のために必要な資料であり、受命裁判官が先に閲読して、その後に合議体の他の裁判官が閲読するという形の証拠調べをしても基本的に問題のない証拠であるので、平成15年改正により、弁論準備手続を行う受命裁判官も文書・準文書の証拠調べをすることができるようになった(取り調べる文書は、当事者が提出したものでも、送付嘱託により送付されたものでもよい)。この点は、文書の取調べについては、171条2項カッコ書の改正前後の文言の対照から明らかになる。すなわち、従前は、「 前条第2項を除く」と定めていたが、平成15年改正により、「前条第2項に規定する裁判を除く」と改められた。文書・準文書の取り調べは裁判にあたらないから、受命裁判官もすることができると解される。

もっとも、平成15年改正対応版である[中野=松浦=鈴木*2004a] 262頁注7(上原敏夫)は、「受命裁判官が弁論準備手続を実施する場合は、文書の証拠調べはできない」としていた。

なお、この講義では、改正前においても、受命裁判官は、提出された文書の証拠調べをできないが、閲読して争点整理に利用することは許されるという解釈をとっていた。

注4 この説明は、相手方当事者が求める場合になされるので、相手方当事者に対する義務のようにも見える。しかし、訴訟手続協力義務から派生する義務であり、訴訟に関与する3者間の義務と理解すべきである。相手方の求めがある場合に説明しなければならないとされた理由は、次のように理解すべきである。ある攻撃防御方法を時機に後れたものとして却下すべきか否かの判断は微妙であり、裁判資源の浪費の防止と当事者の納得のいく裁判の提供という相矛盾した要請に応えなければならない裁判所が職権で判断することには抵抗が伴う。そうであれば、この問題に最も利害関係を有する相手方に主導権をもたせる方がよい。現行法が相手方の説明要求権を認めたのはその表れである。相手方が訴訟の迅速な進行を望むのであれば、説明要求権を積極的に行使し、裁判所が157条により却下しやすい環境を作り出すことが期待されている。

注5 証人尋問と書証との間にある差(反対尋問の機会の有無)が同時に証人とその供述書の信用力の差となるのであり、また、文書は証人と異なり繰返し取り調べることができるのであるから、証人となるべき者の供述書を制限公開の手続の中で事案の把握・争点の整理のために使用することを認めてよい。証人尋問の申出の採否を決するに際に、供述書は、立証事項との関連性を判断するのに役立とう。もっとも、弁論準備手続のどの段階で提出するのがよいか、どの程度に信用力のある証拠として用いるべきかなどについて、議論が多い。[笠井*1998a]= 笠井正俊「民事訴訟における争点及び証拠の早期整理とディスクロージャー」京大法学論叢142巻5=6号154頁以下参照。

注6 ただし、例外的に、違法に収集された証拠で証拠能力を問題にすべきものが提出された場合には、一時的に合議体で争点整理を行うこととし、合議体で証拠の採否につき裁判すべきであろう。

注7 この確認ができるように争点と証拠を整理することが手続の目的の一つである。しかし、確認に値する整理がなされなければ、確認はできない([中野*1997a]= 中野貞一郎『解説新民事訴訟法』(有斐閣リブレ)36頁:「確認が必要で可能である場合に確認するという意味である」)。

注8 なお、司法書士が、地裁事件において弁護士法72条に違反することなく本人訴訟を傍聴しながら本人を支援することができることを前提にした場合には、限定公開とされていることは、司法書士に支援された本人訴訟において重要な問題となる。ただ、当事者の申し出た司法書士の傍聴が「手続を行うのに支障を生ずるおそれがある」(169条2項但書)と判断されることは、通常はないであろう。

注9  弁論準備手続で受命裁判官が文書の証拠調べをすることの意味は、次の点にある。

他方、受命裁判官が文書の証拠調べをすれば、裁判所としての証拠調べは完了し、他の裁判官はその文書の証拠調べ(特に閲読)をする必要はなくなるとの結論を出すことができるかは疑問である。[高橋*2003a]51頁以下は、それが直接主義に反することを認めつつ、平成15年改正により規範上はその結論が肯定されたことになるとする。しかし、受命裁判官が文書の証拠調べをすることができるとしたのは、それが当事者の主張の整理に役立てるためであり、受命裁判官による証拠調べが合議体としての証拠調べに代わるとの趣旨を含まないと見るべきであろう。文書の形式的証拠力の判断も実質的証拠力の判断も合議体がなすべきであり、その前提として、合議体の他の構成員も当該文書の閲読しなければならないと考えたい。

なお、弁論準備手続の結果の口頭弁論における陳述(173条)に際しては、文書が当事者から提出された場合について言えば、次のことが陳述されるべきであろう。当該文書について書証の申出があったこと、その申出について受命裁判官がした裁判の内容、受命裁判官がそれを取り調べた場合にはその旨。弁論準備手続の段階では、受命裁判官は成立の真正について争いのある文書について判断を示す必要はないが、もし示せば、その判断内容も結果陳述の対象とすべきである。重要な文書について、受命裁判官が示した成立の真否についての判断が誤っており、その結果弁論準備手続が不当に行われたと考える当事者は、そのことを口頭弁論において主張し、当該文書の成立の真否について合議体の判断を求めることができ、合議体は、受命裁判官のした判断に拘束されることなく当該文書の成立の真否を判断することができると解したい。

注10 口頭弁論期日において文書を提出してする書証の申出に関しては、提出された文書の留め置きは、口頭弁論の期日においてなされる裁判であると考える余地もある。