関西大学法学部教授 栗田 隆

民事訴訟法講義「訴訟要件2/2」の注


注1 [伊藤*民訴]156頁。

注2 この他に、次のような説明もよくなされている。正当な当事者は、「訴訟物である権利関係の存否の確定について、法律上の利害の対立する者である」([兼子*1967a]159頁)。なお、実体法上の財産管理権の所在に従い当事者適格の所在を決する考えもなされていたことがある。しかし、今では不適当とされている。[中野*1994a]95頁以下参照。

注3 この見解のメリットとして、「判決によって保護されるべき法的利益」の重要度にしたがい、当事者適格を肯定し、あるいは補助参加人の地位を認め、あるいはいずれも認めないとすることが可能となり、また、すべての訴訟類型について適格基準の統一化がもたらされること等が指摘されている。[中野*1994a]99頁以下参照。

注4 [堀野*1993a]223頁以下によれば、ドイツでは、同業者組合など構成員の利益増進を目的とする団体が構成員に属する権利について訴訟担当することが認められている。そのための要件は、次のように要約されている。

注5 私人(利益主体)は、自己の法律関係を処理する権限を他人に与えることができる。また、彼の意思に基づくことなく、法律の規定等によりこの権限が他人に与えられることがある。この場合の他人の地位は、次の2つの類型に分けることができる。

  1. 本人の名においてなすもの  代理である。代理人のなした行為の効果は、本人に直接生ずる。実体法でも訴訟法でもこの点に差異はない。
  2. 権限を授与された者(受託者)の名においてなすもの  これは、さらに次の2つに分かれる。
    1. 権利・義務を利益主体に帰属させたまま、受託者が自己の名において法律関係を処理する権限(管理処分権)のみを得て、法律関係を処理するもの。代理との親近性が高い。
    2. 利益主体に帰属すべき権利・義務を受託者に移転させてから受託者が処理し、その結果を利益主体に戻すもの。

b1の例として、次のものがある。

訴訟担当もb1である。本人の意思に基づく訴訟担当については「訴訟信託」と呼ばれることもある。「当事者は、自己の名において訴訟追行する権限を与えられた者であり、利益帰属主体ではない」ことがしばしば強調されるが、訴訟追行の最も重要な効果である既判力は、紛争解決を確実にするために、当然に本人に及ぶ(115条1項2号)。その他の効果(訴訟費用の負担など)は、当然には本人に及ばない。

実体法上の行為についてb1の権限が与えられている場合に、内部関係はともあれ対外的にはそれが権利放棄の権限まで含むのであれば、受託者は訴訟追行も授権されているとみてよい。ただし、訴訟信託が許容されるか否かは、弁護士代理の原則に反しないか等の視点から、さらに吟味されることが必要である。もちろん、対外的に権利放棄の権限が与えられていることが訴訟追行の授権の要件というわけではない。訴訟追行が拙劣なために権利を失い、あるいは義務を負うと決まっているわけではなく、むしろ、一般論としては、そうした可能性は高くないからである。しかし、それでも、当該権利の不存在の確定をもたらす可能性がある以上、実体法上の行為についての権限付与の事実から訴訟追行も授権されていると見ることには、慎重でなければならない。

信託(信託法1条)や問屋への委託は、b2である。受託者がなした法律行為の効果は、当然には本人には及ばず、受託者から本人(受益者)への権利移転には、移転行為(商551)あるいは信託の終了(信託法56条以下)等が必要である。これらにあっては、受託者は法形式上自己に属する権利について自己の名において訴訟をするのであるから、115条1項2号の意味での訴訟担当と考えるべきできはない。判決の効力は、受託者から本人への権利ないし法的地位の移転にともない、115条1項3号により本人に及ぶ。音楽著作権の管理団体が著作者から著作権の信託的譲渡を受けて、著作物利用料を裁判外および裁判上請求する場合も、b2である(名古屋地方裁判所 平成11年10月8日 民事第9部 判決(平成11年(ワ)第932号)の事案参照)。

なお、実体法における位置付けと訴訟法における位置付けとは、並行的ではない。典型例は、建物の区分所有等に関する法律第25条に定める管理者である。実体法上の行為については区分所有者の代理人であるが(同法26条2項)、自己の名において訴訟することができる(同法26条4項)。法定訴訟担当の領域では、遺言執行者をあげることができる。彼は、実体法上は相続人の代理人とみなされるが(民1015条。[中川*1970a]393頁)、訴訟法上は訴訟担当者であると解するのが通説・判例である。

また、商法旧309条1項・現会社法705条1項の社債管理会社についても、同様に解する余地がある(例えば、『注釈会社法(7)』(有斐閣、昭和46年)(藤井俊雄)は、受託会社は社債権者の「一種の法定代理人」であるとしつつ(291頁)、裁判上の行為について、次のように述べる:「受託会社は社債権者のために償還請求の訴につき原告となるのであるから、判決は社債権者に対しても効力を有する」と述べる(290頁))。しかし、会社法705条1項に関しては、708条が「社債管理者・・・が社債権者のために裁判上又は裁判外の行為をするときは、個別の社債権者を表示することを要しない」と規定している点に照らせば、社債管理者は、訴訟上の行為についても、民訴法115条1項2号の意味での訴訟担当者ではなく、代理人とみるべきであろう(代理人であるから、本人を表示するのが本来であるが、負担軽減のために本人を個別に表示することを要しないと規定されたと見るべきである)。

注6 ただし、隠れた取立委任裏書の場合には、手形所持人が取立訴訟の追行を取立人に授権したと解することになるが、この場合でも、信託法11条により無効とされる余地がある。

注7 判例によれば、遺言執行者は次の訴訟について当事者適格を有する。

他方、遺言執行者は、次の訴訟について当事者適格を有しない。

遺言執行者の訴訟追行権に関する詳細の文献として[福永*1988a] があり、ドイツ法を概観した後、日本法について、様々な場合について検討している。

注8 [百選*1982a]21事件

注9 ドイツ法の流れを追跡した文献として[堀野*1999a]を参照。

注10 訴訟の途中で弁護士が解任され、あるいは弁護士が辞任した場合に、本人訴訟に戻る可能性が残されているが、その場合には、弁護士代理の原則を潜脱するおそれがあることを理由に当事者本人の弁論を禁じ、期日不出頭の不利益を課すべきである。このような解釈をとって、実体法の領域における需要に応じて、任意的訴訟担当の許容範囲を広げていくのがよいであろう。

注11 このことは、担当者と被担当者との間の実体的法律関係の中に認められる黙示的な授権が任意的訴訟担当を根拠づける場合でも変わらない。なお、[堀野*1999a]2号285頁は、明示の授権を要しない任意的訴訟担当においては、被担当者の手続法上の地位への配慮が必要であり、これが欠けるときには判決効拡張が否定されるべき場合があることを肯定する。具体例が挙げられるまでには至っていないが、一般論としては肯定してよいであろう。明示の授権を得ることができないまま訴訟担当者による訴訟追行を肯定せざるを得ない場合もありうるからである。もちろん、相手方勝訴判決の判決効を被担当者に拡張することが否定されれば、相手方は二重に訴訟の負担を負わされることになるから、手続の初期段階で明示の授権を得ておくのが最善である。

注12 最近では[中野*1994a]111頁以下が強力である。これに対する反論として、[堀野*1999a]2号281頁以下がある。

注13  もう一つ別の例を挙げておこう。こちらの方が現代的で面白いが、「差止請求権の行使上の一身専属性の問題は脇に置く」という留保をいれなければならない点がつらい。

初めの一歩
問題  Xのガールフレンド(G)がストーカー(Y)につきまとわれて、精神的に追いつめられている。Xは、Yに対してGの身辺に近づくことを禁止する判決を求めて訴えを提起することができるか。

この場合には、訴訟物となるべきYに対する請求権として、次の2つが考えられる。

  1. XがGの恋人であることに基づくX自身の差止請求権
  2. Gの人格権に基づく差止請求権

X自身の請求権(a)が認められるかは、実体法の問題である(かなり難しい)。Xがそれを認められるべきものと主張して原告となることは許される(原告適格を有する)。

Gの人格権に基づく差止請求権(b)は、実体法上肯定される可能性が高い。しかし、それをXが当事者となって行使することができるか否かは、訴訟上の問題である。仮にXが当事者となって行使することを肯定してみよう。Xの訴訟追行が不適切であったために敗訴した場合(例えば、適法な債権取立て行為であると判断された場合)に、その判決の既判力がGに及ぶかが問題となる。

GまたはYにそのような不利益を及ぼしてまでこの訴訟をする必要がXにあると思われない。したがって、Xは、Gの人格権に基づく差止請求訴訟の正当な当事者となることができず、訴えは不適法として却下されるべきである。

注14  次の判決などを参照: 最高裁判所 平成9年1月28日 第3小法廷 判決(平成6年(行ツ)第189号)、最高裁判所 平成11年11月25日 第1小法廷 判決(平成8年(行ツ)第76号)。

注15  詳細な学説史研究として[福永*1967a]を参照。

注16 [堀野*1993a]191頁。[福永*1962a]335頁以下では、この危険の大きさが検討され、個別的な事情にかなり左右されることが論証されている。

注17 もっとも、「訴訟追行権」が多義的に用いられることを承認する方がよいのかもしれない。「訴訟追行権」の多義的使用を減少させるために、「訴訟追行の授権」に代えて「訴訟担当の授権」「訴訟担当権の授与」などと言い換えることも考えられる。

注18 特定の財産を特定の相続人に相続させる旨の遺言がなされている場合には、その相続人と遺言執行者との関係が問題となる。この遺言は遺産分割方法の指定であり、相続開始と共にその財産はその相続人に帰属すると解するのが最高裁判例の立場である(この遺言をめぐる問題の全般につき、[千藤*1998a]参照)。これを前提にして、次の準則が建てられている。

注19 [中野*1994a]119頁、[福永*1962a]339頁参照。

注20  訴訟担当を認める合理的必要があれば足りる。本人が訴訟物たる権利関係について権利保護の利益を有する限り、担当者がその権利関係の主張についてさらに特別の固有の利益を有することまでは必要ない。[福永*1962a]348頁以下参照。

注21  もっとも、(α)既判力の拡張の問題と(β)訴訟手続の中断・受継および訴訟代理権不消滅の問題とを分離し、例えば、債権者代位訴訟等の場合に、既判力の拡張は肯定しつつ、代位資格の喪失の場合には訴訟手続が中断して利益帰属主体に受継されるのではなく、訴訟は訴え却下により終了すると考えることもできないわけではない。ただ、そうなると、一審で請求棄却判決を得て、控訴審で代位資格が失われた場合に典型的に現れるように、被告としては、自己に有利に展開している訴訟の生成中の既判力を利用できなくなるという問題が生ずる。やはり、(α)と(β)の問題は、一体的に考えるのが素直であろう。

注22  例えば、最高裁判所昭和45年11月11日大法廷判決民集24巻12号1854頁

注23  商標登録無効審判の請求人適格について、東京高等裁判所 平成11年11月4日 第6民事部 判決(平成11年(行ケ)第105号)参照。なお、株主総会決議取消しの訴えの被告となるべき者は、現在では法定されているが、かつてはが法定されていない時代があった。

注24  [谷口*1970a]59頁以下。株主総会の現在の機能(取締役会の決定の批准機関)を前提にして、決議の効力を守るのに最も関心があるのは提案者である取締役会であり、そこから選出され取締役会の利害を代表する立場にあるのが代表取締役であることを根拠とする。株主の提案を認める決議がなされた場合には、提案活動を行った株主が被告となるべきであるとする([谷口*1970a]59頁注61)。この見解と通説と比較すると、一般の決議については、実際の訴訟追行者は差異がないことになるが、それでも訴訟費用の点で差異が出てくる(決議の効力が否定された場合に、代表取締役が自ら負担しなければならない)([谷口*1970a]60頁)。また、住職資格存否確認訴訟につき、資格を争われている住職と宗教法人の双方を被告とすべきであると説く([谷口*1970a]67頁)。

注25  [伊藤*民訴1.1]は、「当事者適格は、訴訟追行権とも呼ばれる」(145頁)と述べつつも、固有必要的共同訴訟について「当事者適格に基づく訴訟追行権が共同でのみ行使される以上・・・」(563頁)との説明を加えている。後者の表現では、当事者適格と訴訟追行権とは、密接な関係にはあるが別個のものと観念されていることになろうか。

注26  債権者代位権に基づき債権者が債務者の第三債務者に対する権利を代位行使する場合について、これは代位債権者が自己の利益(債権回収)のために訴訟を追行しているのであり、判決効を債務者に及ぼすべきではないとの見解に従った場合が代表例である。

これと区別されるべき場合として、不動産の共有者の一人の持分について、法律上の原因なくして第三者に持分移転登記がなされた場合に、他の共有者は自己の持分に基づいてその移転登記の抹消登記を請求する場合がある(最高裁判所 平成15年7月11日 第2小法廷 判決(平成13年(受)第320号))。外見上は、移転登記に係る持分が帰属する共有者の妨害排除請求権が行使されているのと同じように見えるが、しかし、原告となる共有者が行使しているのは、自己の持分権に基づく妨害排除請求権であって、移転登記に係る持分が帰属する共有者のそれではない。したがって、訴訟担当と見る余地はない。

注27  旧人訴法2条4項では、検察官を被告とする訴訟の係属後に原告が死亡した場合に、弁護士が訴訟手続を受継することが規定されていた。

注28  旧人事訴訟手続法では、検察官が被告になることができる訴訟が限定的に規定されていて(2条3項・26条・32条2項)、親子関係存否確認の訴えについては否定されていた。しかし、現行の人事訴訟法では、検察官が被告となることができる訴訟が人事訴訟一般に拡張され(12条3項)、親子関係存否確認訴訟についても肯定されている。親子関係存否確認訴訟における検察官の被告適格について、[高島*1960a]参照(旧法下において、親子関係存否確認の訴えについても検察官の被告適格を肯定すべきである(257頁)と主張した文献である。原理的な考察に富み、現在においても有益である)。

注29 [黒川*2003a]90頁参照。

注30 なお、遺言執行者の位置付けは、文献により異なる。[伊藤*民訴v5]189頁・190頁注46)は、「狭義の法定訴訟担当者」と「職務上の当事者」の区分を立て、破産管財人を前者に含めつつ、遺言執行者を後者に含めている。

注31 すでに廃止された法令に基づくものとして、次のものがあった。