注2 なお、訴訟の開始自体が被告にとって負担であることを考慮して、被告に応訴義務を課すためには「原告はさしあたりどのような事実をどの程度提出すべきなのか」を問題にする有力な見解([松尾*1991a]62号96頁)がある。
注3 訴訟要件については、このほかに、次のような分類がなされている。
形式的訴訟要件と実体関係的訴訟要件
積極的訴訟要件と消極的訴訟要件
注4 本文と同様に、重複起訴の禁止を訴えの利益(権利保護の利益)の問題に含めない文献もある:[中野=松浦=鈴木*新民訴v2.1](福永有利)135頁以下。逆に、これも訴えの利益に含める文献もある:[伊藤*民訴v3.2]144頁。
注5 夫婦同居協力義務のように強制執行に適しない給付義務でも、給付判決の対象とすることができるとの考えもある。しかし、そのような判決があやまって執行される可能性のあることを考慮すると、強制執行に適さない給付義務については確認判決に止め、給付判決をすべきではない。当事者にとっても、給付義務の執行可能性をめぐる争いを執行の段階で解決するより判決手続の中で解決しておくほうが、紛争の迅速な解決となり、好ましい。
注7 [梅本*民訴v2] 297頁以下、[伊藤*民訴v3.2] 139頁以下など。最高裁判所 平成14年1月22日日 第3小法廷 判決(平成9年(行ツ)第7号)は、請求の一部を棄却すべきであるとした原判決に対して原告が上告を提起したところ、上告審が、その部分については訴えの利益が欠けているとして、当該部分につき原判決を破棄し訴えを却下した事例である。
注9 訴状が訴訟無能力者に宛てて送達された場合や、訴状が誤って被告以外の者に送達された場合がこれに該当する。
注10 [中野*1994a]81頁以下、松本[中野=松浦=鈴木*1998a]348頁、[松本=上野*1998a]161頁。
中野・前掲は、訴訟係属中に当事者が訴訟能力を失ったが訴訟代理人がいるため中断しない場合を問題にし、次のように述べる。「たとえば、訴訟係属中に当事者たる未成年者が法定代理人から営業の許可を取り消された場合には、訴訟代理人がいて訴訟手続が中断しなくても、未成年者の法定代理人が手続に登場しないまま弁論を終結して、本案判決をすることは許されない」。
しかし、訴訟能力の存在を訴訟要件とすることの意味は、何なのであろうか。上記の例について次の3つが考えられる。
もし第1の意味であるとすると、原告側に訴訟能力の喪失が生じた場合に、請求棄却判決を目指して訴訟追行した被告の利益が損なわれる。また、原告にとっては、時効完成猶予の利益が訴訟終了時から6ヶ月後には失われという問題も生じ得よう(民法147条1項柱書内のかっこ書)。
もし第2の意味であるとすると、この訴訟要件は、要件が具備するまで判決をしないという意味での停止的訴訟要件であると言うべきことになる。通常の訴訟要件の欠如が訴え却下判決をもたらすのとはかなり異なる。その点は別にしても、これは、訴訟代理人がいる間は、訴訟手続を中断しないとしたことと矛盾しないだろうか(換言すれば、訴訟能力喪失の場合には、訴訟代理人がいても訴訟手続は中断すると言う方が簡明ではなかろうか)。
もし第3の意味であるとすると、それは訴訟能力の存続を訴訟要件としなくても可能であろう。確かに、後見開始の審判を受けるべき状況にありながらそれを受けなかった場合、あるいは、法定代理人が死亡したような場合には、後見人が選任されるまでの間 訴訟代理人を適切にコントロールする者がいなくなり、無能力者の利益が適切に保護されないのではないかという不安は強い。当事者の死亡の場合に、訴訟代理人が不当な訴訟追行をすれば、相続人が事後的ではあれ責任を追及する蓋然性が高いのとは事情が異なる。しかし、法律は、この場合でも訴訟代理人を信頼して、訴訟手続は中断しないものとしたのではなかろうか。
ともあれ、当事者が訴訟能力を喪失した場合に、訴訟代理人を全面的に信頼して訴訟手続を続行することに不安が残ることは確かである。このことを知った裁判所が35条の類推適用により特別代理人を選任することができるとの解釈の余地もなくはない。しかし、当事者またはその法定代理人が信頼した訴訟代理人を特別代理人によって常にコントロールしなければならないかは、疑問である。法定代理人が選任されるまで審理を停止するというのは、58条1項・124条2項に反し、また、口頭弁論終結の直前の段階まで審理が進んだ後で、法定代理人が選任されるまで本案判決を留保するというのも、あまり意味はないであろう。
注11 [松本=上野*1998a]170頁は、これも訴訟要件とする。しかし、例えば、(α)訴訟代理人により訴え提起が有効になされた後で訴訟代理権が撤回された場合、あるいは、(β)本人が訴え提起行為を有効になした後で訴訟代理権を有効に得ていない者が訴訟追行した場合に、訴えは却下されるべきであろうか。
注12 次の2つの命題を同時に維持しようとすれば、提訴態様に関する規定の遵守は、訴訟要件から外さなければならない。
しかし、伝統的には、訴訟係属中の訴え提起の特別要件も訴訟要件に含められてきた。この伝統に従った場合でも、上記うちで1の命題が優先的に維持すべきである。二重起訴の禁止等の訴訟要件は、2の命題の例外に含めるのがよい。
なお、2の命題を厳格に貫いて、国内管轄権の存在も二重起訴の禁止と同様に起訴の態様に関する規制であり、訴訟要件ではないとする余地もあるが、そこまで進む必要もなかろう。
注13 これを訴訟要件にあげる文献([松本=上野*1998a]356頁)もあるが、少数説である。
注14 任意管轄については、応訴管轄が発生する余地があるので、職権調査事項とする意味は少ない。しかし、被告が口頭弁論に出頭せず、かつ、158条の陳述擬制もなされない場合には、管轄違いの主張が提出されてなくても、管轄権の有無を職権で調査する必要がある。この場合に、任意管轄を基礎づける事実については弁論主義が適用されるため、原告が主張した事実について自白が擬制され、その結果裁判所が管轄権の存在を認める場合もあるが、それは応訴管轄の範疇には入らない。そして、
なお、管轄権の存在は職権調査事項であるので、12条で用いられている「管轄違いの抗弁」の表現は、誤解を招きやすい表現というべきである([梅本*民訴v2]296頁参照)。「管轄違いの主張」に置き換えられるべきである。なお、1886年6月のテッヒョーの訴訟法案30条では「管轄違ノ申立」であったが、明治23年法30条では「管轄違ノ抗弁」になり、これが大正15年法26条を経て現行法に引き継がれている。法律用語の用語法が確立していない時代に使われ始めた表現が現在に引き継がれた例と見てよいであろう。
注15 ここでいう「公益」は、判断能力の不十分な者の国家による後見的保護を含めた広い意味での公益である(訴訟無能力者が自ら訴えを提起したか否かが職権調査事項とされているのは、その現れである)。「当事者の処分に委ねることが適当でない利益」ないし「任意処分に適さない利益」と言い換えてよい。
注16 14条の文言から離れることになるが、任意管轄の管轄原因事実は、職権探知事項ではないと一般に言われている。その主たる理由は、応訴管轄が認められている点にある(栂[注釈*1991a]265頁)。しかし、そうだとすれば、被告への訴状・呼出状の送達が公示送達の方法によってなされ、被告が判断資料を事実上提出できない場合には、職権探知を認めるべきである。
注17 [松本=上野*1998a]191頁も、ほぼ同じである(訴えの利益や不起訴の合意の場合に限定する)。
注18 私人が裁判所に訴えを提起して判決を求めることができることを、その者の権利と見て訴権(または、判決請求権)と呼ぶ。訴権論は、訴訟を離れて観念されるに至った私権をめぐって訴えを提起して判決を求めうる権能をどのように位置付けるかの議論である。これを私権の属性または変形と見る私法的訴権説から始まり、国家に対する公法上の権利としての訴権を認める公法的訴権説が一般化し、現在に及んでいる。訴権を公法上の権利と見た場合でも、さらに様々な概念構成が可能である。
どの概念構成をとるべきかは、定義の問題である。いずれの定義も可能である。訴権を私人の権利として観念することを否定する見解(訴権否定説)も有力である。しかし、訴えに対して裁判所が何らかの応答をすべきであり、原告は応答を求める権利があることを前提にする限り、訴権を観念することは可能である。ただ、それをどのように定義するか、どの定義が有用かの論争にあまりエネルギーを費やす必要がないだけである。
注19 幾つかの体系書・教科書における「訴えの利益」の構成を見ておこう。
微妙な差異は、次の点にある。
注20 現行法により根拠付けられないことが明らかな権利関係を主張する請求も請求適格がないとする見解も有力である(福永[中野=松浦=鈴木*1998a]121頁)。
注21 最判平成3.4.19民集45-4-518頁は、裁判所の支部を廃止する旨を定めた最高裁判所規則について、具体的な紛争を離れて抽象的に右規則の憲法違反を主張してその取消しを求める訴訟は、裁判所法3条1項にいう法律上の争訟に当たらないとした。この事件が具体的紛争であるか否かは、見解の分かれるところである。[晴山*1992a]は、規則制定者とその規則により影響を受ける住民との間の具体的紛争であったとみる。
注22 福永有利[中野=松浦=鈴木*1998a]122頁、[上田*1997a]210頁(原告に訴訟費用を負担させるべきであるとする)。
なお、大判昭和6年11月24日民集10巻1096頁は、給付判決確定後に債権者が時効中断(平成29年民法改正後の用語で言えば「時効の更新」)のために再度給付の訴えを提起した事案において、原審が、≪特別の事情がない限り同一事件について再訴をもって権利保護を請求する利益はなく、時効中断の必要は特別事情に該当しない≫としたのに対し、次のように説示した:「給付判決確定後に於ける時効中断の為にする再訴は権利保護を裁判所に要求する利益あるものと謂はさるへからす」;「原審は宜しく本訴に依るの外外時効中断の方法なきものなるや否の事実の審究することを要す」(原文はカタカナ・旧字)。この説示からすれば、同判決は、≪再度の訴えは、給付の訴えでもよい≫ということを直接認めているわけではないが、給付の訴えの利益を肯定したものであると一般に理解されている(例えば、[笠井-2016a]568頁)。
注24 幾分特徴のある事例として、次のような許容例がある。工場騒音の差止請求事件で、防音設備に設置を命ずるとともに、その設置までの間の将来の損害賠償を命じた例(名古屋地判昭和42.9.30下民18-9=10-964。岐阜地判昭和43.5.9下民19-5=6-232も同様な事件)
注25 被告の商標権の無効確認請求が適法とされた例として、最判昭和39.11.26民集19-9-1992[百選*1982a]47事件がある。
注26 最(大)判昭和45年7月15日民集24.7.861は、次のような事案に関するものである:Xが、検察官を被告にして、戦死したAがXの子であることの確認請求の訴えを提起した。Xは、真実の身分関係を明らかにして、その冥福を祈るために人訴2条3項により本訴に及んだと主張した;しかし、1審2審とも、訴えを不適法と判断。これに対して、Xが上告し、原告が恩給法に基づくAの遺族扶助料を受けるために戸籍訂正の必要があるが、Aおよび戸籍上の父母BCがいずれも死亡しているので、社会代表として検察官を相手取り本件訴えを提起したのであり、これを許さない原判決は法令に違反し、憲法32条に反する、と主張した。 最高裁は、訴えの利益を肯定した。その理由は、大隅裁判官の補足意見によく示されている:「確認の訴えは、通常は、紛争の存する現在の法律関係を対象とするのが適当であり、かつそれで足りるが、そのような現在の法律関係の基礎にある過去の基本的な法律関係を確定することが現に存する紛争の直接かつ抜本的な解決のために最も適切かつ必要と認められる場合には、過去の法律関係の存否の確認を求める訴えであっても、確認の利益を認めてこれを許容すべきであり、本件の訴えもそのような見地においてのみ是認される」。
戸籍上 | Xの主張 |
---|---|
亡B===亡C | |(準正) A |
X女===D男(婿養子/離縁・離婚) | | A |
cf. 本件において、Xが遺族扶助料支払義務者を被告に、扶助料支払の訴えあるいは扶助料受給権の確認の訴えを提起することはどうか。
注27 福永[中野=松浦=鈴木*1998a]121頁は、請求適格の要件から除外すべきであるとする。
注28 [小山*1998a]29頁は、謝罪広告ではなく謝罪そのものを求める請求も人権侵害につながり、請求適格を欠くとする。
注29 原告の無理解から請求適格を欠く請求が立てられているが、他の適当な請求に変更しても原告の目的が達成される場合には、補正可能である(三谷[注釈*1997a]463頁)。
注30 最判昭和56年の少数意見、[上田*民訴v5]214頁など。もちろん、その期間を定めることができることを前提にする。
[梅本*民訴新版]345頁以下は、判例の立場に反対して、次のように述べる:継続的な不法行為による将来の損害賠償請求権は、「停止条件付債権と解するのが相当であり、給付請求権者は条件成就を証明して執行文の付与を受けることによって(民執27条1項)、執行をできることになる。(中略)これに対し、給付義務者は、基本的には、執行文付与に対する異議の申立て(民執32条1項)により自己の利益を確保する手続が設けられ、両者の利益衡量を図っている。したがって、給付義務者の請求異議訴訟を提起する負担との比較において、給付請求権者との利益衡量を考えるのは、将来の給付の訴えを認める趣旨に反する」(345頁);最高裁判例の多数意見の立場によると、継続的侵害行為に対する法的救済を求めるために、給付請求権者は再訴の提起を促されることになり(循環訴訟現象の誘発(345頁注9))、時的限界による遮断効が形骸化することはもとより、訴訟経済にも反する(346頁)。
[新堂*新民訴v3.1]248頁は、「原告と被告との、訴訟に投入可能な資源の格差を考えるとき、疑問を禁じえない」とする。この疑問を推し進めれば、個々の訴訟における原告と被告の資力の違いも考慮して将来給付請求の適否を判断すべきであるとの主張になるであろう。
注31 例えば、[上田*民訴v5]209頁は、「裁判上主張することの認められない自然債務の訴求も許されない」とする。
注32 遺言の無効確認請求について、最判昭和47.2.15民集26-1-30[百選*1982a]46事件。もっとも、過去の法律行為の無効確認訴訟が許されるのは特段の利益が存在する場合に限られる。例えば、職務変更辞令及び給与辞令の発令の無効を前提として地位確認請求及び賃金支払請求の訴えが提起されているような場合には、その辞令の発令の無効確認請求訴訟に特段の利益があるとは認められない(最高裁判所 平成12年9月7日 第1小法廷 判決(平成8年(オ)第1677号))。
親子の一方又は双方死亡後の親子関係は過去の法律関係と見るべきであるが、戸籍の訂正のために必要であれば、その親子関係の存否確認の訴えも許される([高島*1960a]263頁以下・265頁)。
注34 登記手続への協力を求める請求は、被告に登記申請という意思表示を求める請求である。その勝訴判決が確定すれば被告の意思表示が擬制され(民執法173条)、共同申請の原則(不登法26条)の例外として、原告による単独申請が可能となる(不登法27条)。判決の執行は、この意思表示の擬制で完了し、登記の実行をもって判決の執行と考える必要はないから、登記の実行が可能であるか否かによって登記請求の訴えの利益が左右されるものではない。最判昭和41.3.18民集20-3-464[百選*1982a]50事件。
注35 単位授与の問題は、団体内部の自主的・自律的判断に委ねられるべき問題であるから司法審査の対象とならないと言うより、単位の授与のみでは、裁判制度の利用を正当化するほどの法的利益が認められないと考えるべきであろう。換言すれば、卒業認定がなされないことの違法確認の訴訟の中で、卒業認定がされない理由として修得単位不足が主張された場合には、単位授与の問題は卒業認定の当否の前提問題として裁判所の判断に服すというべきである。もちろん、その場合でも、単位認定権限者の認定行為の裁量性などは尊重されるべきであるが、それにも限界がある。まして、セクシャル ハラスメントの一環として単位が認定されなかったことが主張されている場合に、団体の内部問題であることを理由に司法審査の対象にならないとすることは、許されない。
とはいえ、卒業認定がなされないことの違法確認の訴訟の中で、単位認定の不当を主張することが現実的かと言えば、それも問題である。たとえば、4年制の学部教育において、1年の時の不当な単位不認定のために卒業できないときに、卒業すべき時期に提起される訴訟の中で1年の時の単位不認定の不当を主張されても、試験の答案等の成績評価資料は廃棄処分されているのが通常である。将来の訴訟を予期して全部の学生について1年の時からの成績評価資料を保存すること、あるいは不合格となった学生全員の答案を保存することは、おそらく現実的ではなかろう(不合格の学生についてのみ保存するという選択肢をとる場合にでも、成績評価の公平性が争われる場合に備えて、比較対照のために合格者の答案もある程度保存することが必要となろう)。むしろ、単位認定の公表後速やかに異議申立ての機会を与え、異議申立てがなければ大学側は成績評価資料の保存義務を免れるとし、学生からの異議申立てに対して教員が合理的な説明を与えることができない場合には、その段階で学生は単位不認定の当否を訴訟により争うことができるとしておく方が、合理的なように思える。
注36 最判昭和51.9.30民集30-8-799[百選*1982a]103事件は、20年前の訴訟を実質的に蒸し返す訴訟を信義則違反を理由に却下した。
注37 最高裁判所平成11年6月11日第2小法廷判決(平成7年(オ)第1631号))は、遺言者がアルツハイマー病にかかり禁治産宣告を受けているため、遺言の取消しの余地が実際上ないと認められる場合に、推定相続人が遺贈の相手方に対して提起した遺言無効確認の訴えも不適法であるとした。ただ、このような場合には、遺言の効力は遺言者の看護・介護に当たる者の熱意に影響を与えることが予想され、その点を無視してよいのか気にかかるところである。
注38 類似の先例が多数ある。このサイトにあるものを挙げておこう。
注39 [伊藤*1998a]260頁・266頁が、この見解を支持する。もっとも、同書132頁は、伝統的な2分法に従っているように読める。
注40 他方、債務不存在確認の本訴の係属中に給付請求の反訴が提起され、裁判所が反訴請求について本案判決をする場合に、本訴の訴えの利益が消滅するかについては、利益存続説と利益消滅説とに分かれる。しかし、最高裁判所平成16年3月25日第1小法廷判決(平成13年(オ)第734号,平成13年(受)第723号)が権利消滅説を宣明したので、今後はこれに統一されよう(これ以前に利益消滅説をとる先例として、次のものがある。大阪地方裁判所 平成11年10月14日 第21民事部 判決(平成8年(ワ)第13483号ほか))。
もっとも、反訴が何らかの事情で却下されれば、債務不存在確認の訴えの適法性が復活することになるので、履行請求の反訴が提起された段階で直ちに債務不存在確認の本訴を却下するのは適当ではない。ただし、前掲最判は、本訴請求認容・反訴請求棄却の原判決を破棄して反訴請求棄却部分を原審に差し戻す段階で、本訴を却下する判決を自らしているので、反訴が提起された段階で直ちに本訴を却下することを許容する立場であると読むこともできないわけではない。しかし、事件が最高裁に行った段階で反訴の適法性が否定されていなければ、もはやその点が覆る可能性はきわめて低いことを考慮すると、これと第一審の場合とを同列に論ずるのは適当ではなかろう。
また、本訴の不適法は、後に提起された反訴により生ずるのであるから、本訴の却下自体を理由に訴訟費用を本訴原告に負担させるのは適当ではなく、反訴についての結論に従い負担者を決めるべきである(特に訴え提起の手数料についてこのことが妥当する)。反訴請求が棄却される場合には、本訴の却下にかかわらず、訴訟費用は本訴被告の負担とするのが原則となる(ちなみに、利益消滅説をとる前記2つの先例は、反訴請求棄却の場合に本訴を却下した例ではないことに注意しておいておく方がよい)。
なお、札幌地方裁判所 平成14年5月29日 民事第1部 判決(平成10年(ワ)第1586号ほか)は、「債務不存在確認請求訴訟は事後的に二重起訴として不適法となる」として訴えを却下しているが、結論はともかく、説明としては不当である。第1に、同一手続で審理される場合には、142条の適用はないからである。第2に、この判決は後訴の給付の訴えが別訴として提起された場合にも142条の適用があるとしているが、それでは前訴と後訴の裁判所が異なる場合には、前訴の却下により前訴の審理が無駄になる。
これに対して、大阪高決平成26年12月2日判時2248号53頁は、不貞を理由とする損害賠償債務の不存在確認請求の訴訟が東京地裁に係属した後に、同一債務に関する給付請求の訴えが神戸地裁に提起された事案において、17条により後訴事件を東京地裁に移送した。
大阪高決平成26年が正当であろう。債務不存在確認請求の訴訟係属後に同一債務の給付の訴えが別訴として提起された場合には、後訴が前訴の受訴裁判所において併合審理されるようにして、従前の審理を生かすべきである。すなわち、後訴事件(給付請求事件)を前訴事件(債務不存在確認請求事件)の係属する裁判所に移送すれば受送裁判所において併合審理される余地がある限り、後訴裁判所は、後訴事件を前訴事件の係属する裁判所に移送し、また、受送裁判所の内部において前訴事件を担当する裁判所(裁判機関)は、後訴と前訴の弁論を併合して142条違反を回避すべきである。もっとも、受送裁判所において後訴は反訴として提起されない限り142条違反になると判断されれば、その時点で後訴は却下され、後訴の原告は、前訴の訴訟手続において、給付の請求の反訴を新たに提起すべきことになる。
注41 最近の事例として、最高裁判所 平成11年11月9日 第3小法廷 判決(平成9年(オ)第426号)がある。
注42 実例として、東京高等裁判所 平成11年11月17日 第13民事部 判決(平成11年(ネ)第3452号)参照。この判決文では、前訴で原告が敗訴判決を受けたとなっているにすぎないが、第一審判決が別表を作成するほどに訴訟が繰り返されたようであり、最初の訴訟では請求棄却判決が下されたと理解してよいであろう。
注43 もっとも、既判力により同一の本案判決を繰り返すべきであるとの立場を前提にしても、このような濫訴について口頭弁論を経る必要があるのか、訴状を被告に送達する必要があるのかを問い直す価値はある。濫訴の場合にはこれらは必要ないとすれば、請求棄却も訴え却下も、実際上の差異はなくなる。しかし、解釈論としては、本案判決をする場合には口頭弁論を経なければならないとの原則(87条)を維持しておくのが素直であろう。
注44 訴え却下と請求棄却の使い分けを示す簡潔なサンブルとして、東京地方裁判所 平成11年12月20日 民事第29部 判決(平成10年(ワ)第18411号)参照。
注45 宗教団体の内部紛争は、しばしば信仰の問題と関係するが、しかし全てがそうだというわけではなく、裁判所が本案判決をすることができる場合もある。両者の場合を含めて、宗教団体の内部紛争に関する先例をこのサイトの「小さな判例集」から拾ってみよう。
注46 もっとも、時効取得は原始取得ではあるが、所有権移転登記の形式で公示される(大判昭和2年10月10日民集6-558頁、[浦野*1994a]170頁)。なお、登記原因の日付として、占有の始期を記載する(民144条)。
注47 「土地の境界線は、公法上の事実である」と言われることもある。公法上の問題にとって重要な事実であるという意味であろう。しかし、筆界線は何よりも私法上重要であることに注意すべきである。その点はさておき、筆界線を事実とすることは、筆界確定訴訟を形式的形成訴訟と理解する立場とは調和しない。判決で形成することができるのは法律関係であり、事実を判決で形成することはできないと考えるのが素直だからである。
注48 もっとも、前訴において「土地のある部分が一筆の土地の一部であり、原告の所有に属することを確認する」ことが請求されていた場合には、これを所有権確認請求と見るか、筆界確定請求と見るか、それとも両者の複合形態とみるかの問題が生ずる。この請求ではなお請求棄却の余地があり、それゆえ所有権確認請求の一種とみる方がよい。
注49 不動産登記事務取扱手続準則16条・17条・50条以下参照。旧不動産登記事務取扱手続準則25条・96条以下、[佐藤*1995a]41頁以下、204頁以下も参照。
注50 最高裁判所 昭和56年4月7日 第3小法廷 判決(昭和51年(オ)第749号)の多数意見は(α)を採用し、寺田治郎裁判官の意見は(β)を主張した。
(β)の採用例として、砂川事件における最(大)判昭和34年12月16日 (昭和34年(あ)第710号)もあげてよいであろう(日米安全保障条約のように高度の政治性を有する条約の内容が違憲なりや否やの法的判断は、一見極めて明白に違憲無効であると認められない限りは、裁判所の司法審査権の範囲外のものであるとし、明白に違憲無効であるとは認められないから有効であるとした)。
注51 この協議については、筆界線そのものは協議で変更できないことを前提にすると、所有権の及ぶ範囲の協議として拘束力を肯定するか、筆界を暫定的に定める協議であるとして拘束力を否定することになる。いずれに該当するかは、協議の解釈の問題である。
注52 不動産登記法123条以下で規定されている筆界特定手続の外に、特殊な場合についての境界の確定手続として、次のものがある。
注53 事業協同組合のような、経済目的によって結ばれる団体の内部規律に関しては,宗教法人や学校法人などの内部規律とは異なり,当該団体の裁量的判断にゆだねられる余地は少ない(最高裁判所 平成13年4月26日 第1小法廷 判決(平成11年(受)第722号))。
注54 [中野*論点2]50頁(最近の学説が「事実」一般に確認訴訟の対象適格を認めるのは行き過ぎであるとする)。
なお、「原告が出生による日本の国籍を現に引続き有すること」の確認が求められた国籍訴訟(最判昭和32年7月20日民集11巻7号1314頁)に関しては、「出生による」という部分は過去の事実の確認を求めるものであるとの見解も有力であるが、法律関係の一部とみてよい。問題は、日本国にとっては国籍取得原因を問題にする必要がないのに対し、外国にとってはそれが重要であり、それゆえに同じ国籍関係であっても取得原因ごとに区別されるということである。一種の国際私法上の問題である。外国にとって重要な法律関係の確認として許容すべきである。それは、少数意見が言うように、「外国の国籍を有する日本国民であること」の確認請求と同趣旨であるが、当該外国との関係で法律関係を明確にする主文として、原告の選択した請求の趣旨を尊重してよい。
注56 もっとも、最高裁判所 昭和24年5月31日 第3小法廷 判決(昭和23年(オ)第150号)は、手形債権者が手形の裏書人に対して給付の訴えを提起している場合に、振出人に対して手形債権確認の訴えを提起できる(その訴えも適法である)としている。
注57 時折微妙な問題となり、最高裁の判決の中でも意見が分かれることがある。最高裁判所 平成13年12月13日 第1小法廷 判決(平成10年(行ツ)第159号)の事例参照(日化工らの工場から排出された六価クロム鉱滓の処理のために東京都が都有地に原因者たる日化工らの負担で処理施設を設置した場合に,住民が,施設の所有者は日化工らであり,日化工らはこれにより東京都の土地を不法に占拠しているととらえて,東京都に代位して日化工に対して収去請求の住民訴訟を提起しているときに,その訴えを非財務的行為を対象とする不適法な訴えであると解するのは相当でないとした事例である(反対意見あり))。
注58 ここで、(1)不確定期限付権利と(2)停止条件付権利との異同を見てみよう(不確定期限の例:「高齢の居住者が死亡したときに建物の引渡と残代金の支払をする」という趣旨の条項が付された建物の売買契約から生ずる建物引渡請求権と代金支払請求権。停止条件付権利の例:「あなたが28歳までに司法試験に合格したら、お祝いに10万円をプレゼントしましょう」「ありがとうございます」といった贈与契約から生ずる権利)。
こうした異同が民事手続法の領域で両者の取扱いにどのように反映されているかを見てみよう。
停止条件付法律行為から発生する権利について、条件成就前の段階でその存否をどのように説明するのかを簡単に見てみよう。次の2つの説明が考えられる。
伝統的にはAの理解がとられている(例えば、[川島*1975b]262頁、「条件の成就によって生ずべき権利(条件付権利)は条件の成否確定前にはまだ存在していないとはいえ、すでに当事者の意思から独立した存在である。(中略)この条件付権利を期待権と呼ぶ」)。
注59 さらに進んで、最高裁判所 昭和39年11月26日 第1小法廷 判決(昭和38年(オ)第491号)は、「三羽鶴」なる文字を縦書きにした同一内容の標章についてXとYの双方が別個に商標権の登録を受けている場合に、その標章を使用しているXからの請求に基づきYの商標登録を無効とする審決が下され、これに対しYから審決取消の訴が提起され、その訴訟が係属中であっても、前記標章を現に使用しているYは、Xに対し、Xの商標権は営業を廃止して解散した会社が有していた商標権を引き継いだものであり、前主の営業廃止によりすでに消滅していると主張して右商標権の不存在確認および抹消登録手続の請求をするについて、訴えの利益を有するとしている。この場合には、密接に関連する権利に関して、一方は行政訴訟手続であり、他方は民事訴訟手続であることが影響していると見て良いであろう。
注60 最高裁判所 平成14年7月9日 第3小法廷 判決(平成10年(行ツ)第239号が次のように述べている場合が典型例である:「国又は地方公共団体が提起した訴訟であって,財産権の主体として自己の財産上の権利利益の保護救済を求めるような場合には,法律上の争訟に当たるというべきであるが,国又は地方公共団体が専ら行政権の主体として国民に対して行政上の義務の履行を求める訴訟は,法規の適用の適正ないし一般公益の保護を目的とするものであって,自己の権利利益の保護救済を目的とするものということはできないから,法律上の争訟として当然に裁判所の審判の対象となるものではなく,法律に特別の規定がある場合に限り,提起することが許される」。この説示から、行政上の義務の履行を巡る紛争も法を適用して解決できる紛争であることが読みとれる。特別の規定があればその訴えも許される(法律上の争訟になる)と説示されているからである。
注61 なお、個々の事件を離れて定型的に民事訴訟以外の手続により解決されるべき問題は、前述のように、請求適格の問題に分類したが(2.1(b1)参照)、権利保護の利益の問題とされることもある。
注62 例えば、離婚請求認容判決確定後に、当該婚姻の無効確認の訴えを提起することは許されない。法務省民事局参事官室「人事訴訟手続法の見直し等に関する要項中間試案の補足説明」(法務省のサイト)参照。
注63 約束事の多くは時代とともに変化し、この約束事もおそらくそうであろう(昭和31年代には、「法律関係の確認を求めるものであるから、確認の利益を欠くものとして該請求は棄却さるべきである」とした最高裁判決もある(最高裁判所 昭和31年12月20日 第1小法廷 判決(平成25年(オ)第128号)))。その意味で、この約束事にあまりこだわりたくない気持ちはあるが、しかし、現在のところ、訴訟法の世界ではこの用語法に高度の規範性がある。
注65 仲裁法施行前における仲裁判断取消しの訴え(公催仲裁801条)もこれに該当する。なお、仲裁法施行後は、仲裁判断の取消しの申立てに対する裁判は決定でなされる(仲裁法44条・6条)。
注66 同趣旨の先例として、次のものがある。最高裁判所 平成19年4月27日 第1小法廷 判決(平成17年(受)第1735号)
注67 給付の訴えを許さないとする主たる理由は、二重執行の可能性を事前に摘み取っておくことが望ましいということである。すなわち、時効の更新のために給付の訴えが許されるとすれば、新訴の請求認容判決を得た場合に、債権者が最初に旧訴判決に基づく執行により満足を得た後で、新訴判決に基づいて強制執行の申立てをする可能性がある。
給付の新訴を許した場合に生じうる二重執行の危険は、請求異議の訴えにより回避することになり、その負担を債務者に負わせることの当否が問題となる(債務を弁済しなかったことから生ずる負担であり、債務者に負わせてよいと考えることも、一つの割切り方であるが、唯一の選択肢というわけではない)。
給付の訴えを認めた上で二重執行の危険を防止する方法としては、次のことが考えられる。
上記のうちで、(β)方法を採用する場合には、債権者がすでに旧判決の執行正本を得ている場合には、その執行正本も効力を失うとしなければならない。現実に旧判決の執行正本に基づいて強制執行が開始された場合には、債務者からの執行異議により債権者に新判決の執行正本を再提出させることになるが、それが適切であるかは疑問である。(γ)の方法の方がよいであろう。
なお、類似の問題は、執行証書を得ている債権者が時効の更新更新のために給付の訴えを提起する場合にも生ずるが、執行力と既判力とが2つの文書に分散している状態よりも、一つの文書に集約されている状態の方が単純で好ましいから、時効更新のための給付の訴えを許すべきであろう。
注68 本文に挙げた3つの要件の内で、第2の要件(β)の趣旨が幾分わかりにくいが、敷衍して述べれば次のようなことであろう。
(a)将来にわたって継続的に生ずるであろう債務の履行を命ずる判決(将来給付判決)が確定すると、その債務の継続的発生が終了したときあるいは債務の内容が変動したときに、債務者は請求異議の訴えを提起してその判決の執行力の全部又は一部を排除しなければならず、かつ、債務の継続的発生の終了事由あるいは債務内容の変動事由について、債務者が証明責任を負う。
(b)債務者は、相応の勝訴の見込みがないと請求異議の訴えを提起することができない。したがって、債務の存続又は内容の変動をもたらす事情を予め明確に予測できる場合には、その事情を主張して請求異議の訴えを提起することを債務者に期待することができるが、そうでなければ、権利変動をもたらす事情変動が生じているにもかかわらず請求異議の訴えを提起することを躊躇することにより不当な結果が生じたり、権利変動をもたらす事情変動が生じていないにもかかわらず、そのような事情変動が生じたと誤信して請求異議の訴えを提起して敗訴するという結果が生じやすくなる。このような結果は避けるべきである。権利変動をもたらすか否かの評価が不明確であることから生ずるリスクは債権者に負わせる方がよく、権利変動をもたらす事情変動であるか否かの評価及びその事情変動の有無は、債権者が提起する再訴の中で審理すべきである。
この意味での予測可能性は、請求異議の訴えを提起する段階での予測可能性と言うことができる。第2の要件には、このほかに次の趣旨も含まれていると読むことができる。
(c)第3の要件で述べられている比較考量をするためには、債務者が請求異議の訴えにより主張すべき債務消滅事由が事前に明確になっていなければならず、債務消滅事由等を予め明確に予測できない場合には、そもそも第3の要件で述べられている比較考量をすることができないので将来給付請求の適格を肯定することはできない。
この意味での予測可能性は、将来給付請求の訴えの許容性を判断する段階での予測可能性である。
注69 [中野=松浦=鈴木*新民訴v3]159頁(福永有利)。
注70 既判力のある判断内容に差異を持たせるか否かについての解釈論的決断にあたっては、上訴の利益の点も考慮する必要がある。すなわち、債権の消滅事由についての判断にも既判力が生ずるというかたちで既判力の生ずる判断内容に差異を持たせる場合には、第一訴訟の金銭支払請求を消滅時効の完成を理由に棄却する第一審判決に対して、被告は棄却理由が弁済に変更されることに上訴の利益を有するとすべきである。他方、訴求債権の消滅事由についての判断には既判力は生ぜす、第1訴訟において訴求債権の消滅時効の完成を理由に請求が棄却されたときでも、第1訴訟の被告が提起する金銭支払請求の第2訴訟において、被告(第1訴訟の原告)が第1訴訟の訴求債権を自働債権とする相殺の抗弁を提出しても、原告(第1訴訟の被告)は第1訴訟の訴求債権は弁済によって消滅したと主張することができるとの立場に立てば、第1訴訟の請求棄却理由の差し替えのための上訴を許容する必要はない。
注71 ここでは、次のような場合が想定されている。例えば、被告の不法占拠により土地所有権を侵害されたと主張する原告が損害賠償請求の訴えを提起した場合に、原告は、当該土地について自己が所有権を有することの根拠となる事実と被告が当該土地を占有している事実について証明責任を負う。原告に所有権が属すること及び被告が占有権原を有しないことについては争いがなく、占有に関する事実が争いになり、訴訟開始前のある時点から被告が占有を開始し、口頭弁論終結時においても占有していることを証明し、裁判所が占有開始時から明渡しに至るまでの間、1月当たり一定金額の賠償金の支払を命じたものとしよう(占有開始時から口頭弁論終時までの損害の賠償請求は現在給付の請求であり、口頭弁論終結の翌日からの賠償請求は、将来給付請求である)。その判決後に前訴被告が土地を任意に退去したが、退去の時期について争いがあるものとする。前訴原告は、ある年の11月30日まで前訴被告は占有を継続していたと主張し、前訴被告は、その年の6月30日に退去したと主張している場合に、前訴原告が11月30日までの占有継続を前提にして強制執行しようとするので、前訴被告が6月30日に退去したことを前提にして、6月30日までの占有による損害賠償額を超える金額について強制執行を許さない旨の判決を求めて請求異議の訴えを提起したときに、7月1日以降の占有についてどちらが証明責任を負うのであろうか。この場合に、186条2項を類推適用して、ある時点において占有の事実が証明されれば、それ以降の占有の継続が推定されると考えれば、問題はその推定則により解決されてしまうが、今はそのような推定はなされないものとしよう。すると、問題は、将来給付を命ずる判決の主文において請求権が継続的に発生するとされた場合に、その発生について争いが生じた場合に、継続的発生について本来は権利者が証明責任を負うのであるが、確定判決が存在することにより、前訴被告が発生の終了について証明責任を負うことになる(証明責任が転換される)と考えるべきか否かになる。
注72 単に「確認対象の適切性」と言うよりも、「当事者及び確認対象の適切性」と言う方が正確であるが、通常は前者の表現が用いられる。なお、「当事者(被告)の適切性」を独立させて、4つの視点に分析する立場も([新堂*新民訴v3.1]249頁。もちろん、本質的な差違ではない)。
注73 一例として、貸金業法(昭和58年5月13日法律32号)が平成18年に改正されるまで43条で規定されていた「任意に支払つた場合のみなし弁済」の規定(利息制限法に反する超過利息の任意弁済を「有効な利息の債務の弁済とみなす」規定)の適用のある超過利息債権を挙げることができる。
注75 平成17年の不動産登記法改正前は「境界確定訴訟」と呼ばれ、古くは「経界確定訴訟」ともいわれた。なお、筆界をめぐる紛争を訴訟によらずに解決することの実効性を高めるために、平成17年改正により、不動産登記法123条以下に、筆界特定の制度が設けられた。