関西大学法学部教授 栗田 隆

民事訴訟法講義「複数請求訴訟2」の注


注1 明治23年民訴法211条では、訴訟進行中に争いとなった権利関係の判決による確定を「原告ハ訴ノ申立ノ拡張ニヨリ又被告ハ反訴ノ提起ニ依リ」申し立てることができると規定されていたので、被告が中間確認の反訴を提起することができることに明らかであった。大正15年民訴法はその点を明示しなかったが、その理由について、[山内*1931a]24頁以下は次の趣旨を述べている:中間の争いは原告の訴えと明らかに牽連のある事項であるから、それについて原告の主張と反対する判決を求めるために被告が反訴を提起し得ることは当然のことである;明文の規定を置かなかったのは、明治23年法の趣旨と反対の意義をもつものではない。
  なお、大正15年法の下で、被告の「本訴請求棄却の申立て」をここでいう被告の「請求」と見ることができると述べる見解もある。注解民訴(6)334頁。

注2 143条において「請求または請求の原因の変更」と書かれていることは、上述の説明との対応関係が良くないが、大正15年民訴法からの伝統である。なお、同法の「民事訴訟法改正調査委員会速記録」470頁では、「請求」の変更は、「請求の趣旨を変更された所の請求」の変更を意味するとされている)。

注3 先決性の意味については、争いがある。例えば、原告所有不動産に対する侵害行為を理由とする損害賠償請求訴訟において、請求が認容されるためには、当該不動産が原告の所有に属すること、及びその他の不法行為の成立要件の充足が必要であり、原告は当該不動産が自己に属することの確認を求めることができる。問題は、裁判所がその他の不法行為の成立要件の一つ(例えば、因果関係)が充足されないことを理由に請求を棄却しようとする場合に、中間確認の訴えはなお適法かということである。この点につき、次の見解の対立がある。

  1. 抽象的先決関係説(抽象的先決性説)  先決的法律関係は、理論上一般的に本訴の勝敗に影響を及ぼす法律関係で足りるとする見解。判例民訴(4)208頁、[伊藤*民訴v4]600頁。抽象的先決関係説の語は用いていないが、次の文献もこれに含めることができる:[梅本*民訴v4]738頁(「具体的に必要不可欠な関係にあることを要しない」) 。
  2. 具体的先決関係説(具体的先決性説)  先決関係についての判断が現実に本訴を左右する場合であることを要するとする(注解民訴(6)338頁以下)。

具体的先決関係説にたって中間確認の訴えが不適当となる場合でも、通常の訴えの追加的変更の要件を充足していれば、新請求の提起は適法となるから、実際上の差異は大きくない。しかし、それでも、訴えが適法であるか否かは、早い段階で明快になることが好ましい。具体的先決関係説では、中間確認の訴えの適法性が口頭弁論終結後の判決形成過程で初めて明らかになる場合が生じ、真剣な審理が無駄になるか阻害されることになろう。

注4 現行法の301条に相当する規定のなかった旧法下の判例として、最判昭29・2・26民集8-2-630参照。

注5 [内田*民法1v3]416頁も、反訴を禁じたところで本権の訴えが別訴により提起されれば結果は同じであること等を理由に、本権者の自力救済を認める処理になるのもやむを得ないとする。

注6 堤龍弥「1819年のジュネーヴ民事訴訟法(1)」神戸学院法学30巻1号276頁によれば、同法には、次のような興味をひく規定がある:「264条  占有訴訟に敗訴した被告は、自分に対して言い渡された有責判決を完全に履行した後でなければ、本権の訴えを提起することができない。ただし、その履行の欠如または遅延が原告に由来する場合は、この限りではない」。

注7 「請求の拡張」はこの意味で使われる外に、請求の追加的変更を含めた意味でも用いられる。例えば、145条1項・4項(中間確認の訴えに関する規定による「請求の拡張」)や、最判昭和49年7月22日金融法務事情733号31頁(控訴審での附帯控訴の方式による「請求の拡張」)がそうである。なお、「狭義の請求拡張」という表現は、[兼子*体系]370頁に見られる。[梅本*民訴v4]982頁は、「請求の原因と区別された請求の趣旨だけを質的または量的に減縮させる場合を、広義における請求の減縮という」としているが、ここで「広義」の語を用いているのは、質的減縮も含めているからであろう(同じ頁で「請求の趣旨を数量的に減少させる場合を、狭義の請求の減縮という」としていることに注意)。

注8 以上の本文に述べた通説の取扱いは、おおむね妥当と思われるが、訴え変更が許されない場合でも、独立の訴えとして適法な場合には却下することなく独立の訴えとして審理裁判すべきであるとする立場からすれば、なお不満がある。若干解釈論を離れることになるかもしれないが、原告が独立の訴えとして扱われることを望んでいる場合には、次のように処理するのが適当であると考えたい。

注9 旧人訴法の下での文献であるが、[新堂*新民訴]649頁、判例民訴(4)187頁参照。

注10 145条2項の規定の根拠は、反訴に関する146条2項と同じである。

注11 とは言え、時機に後れたことに故意または重大な過失があるときには、信義則(2条)によりその変更が許されないとされる場合もあろう。

注12 当初から併合された複数の請求のうちの一つが他の請求の先決的法律関係の確認請求である場合も、中間確認の訴えの観念に含める見解がある([梅本*民訴v4] 737頁)。しかし、中間確認の訴えに関する145条は、請求の後発的複数の場合の要件緩和規定とみるべきであろう。当初から請求が併合されている場合は、先決的法律関係についての確認請求として、訴えの利益の問題として考察すれば足りると思われる。

注13 当事者の意思を問題にするのであれば、当事者に意思を明示させるのが本則である。

注14 一般に法制度を複数の要素に分析してその複合と説明する仕方と、複数の要素の単なる複合体ではなく独自の制度であると説明する仕方とで、どちらが柔軟性に富むかと言えば、後者である。独自の制度として説明する方が、要件と効果を制度目的にあわせて設定できるからである。しかし、それでは、複雑なものを基本的要素に分解して説明するという分析的思考方法を放棄することになる。分析的思考方法を維持しつつ、要件と効果の設定の柔軟性を失わないようにするためには、要素の複合により、要件・効果に変容が生ずことを認めておけば十分であろう(複合による変容)。その変容が相当に大きければ独自の制度とせざるを得ないが、訴えの交換的変更は、複合行為として十分に説明できるように思われる。

注15 審判対象たる請求が変更されることに着目していえば、「請求の変更」である([小山*民訴・新]246頁)。「請求の併合」という表現との整合性の点で、「請求の変更」の方がわかりやすいが、一般には「訴えの変更」の語が用いられている。

注16 この要件が充足されないことを理由に変更が拒絶された例として、東京地判平成4・9・25判時1440-125がある。

注17 この見解は、「被告の利益保護は、交換的変更の要件の中で図れば足りる」とする見解と見る余地もないわけではないが、そのように述べていない以上、「請求の基礎に変更がなければ、被告の利益保護に配慮することなく、旧請求ついての訴訟係属は消滅する」ことを認める見解と解さざるを得ない。

注18 交換的変更を143条の訴えの変更の独自類型と認めることの根拠の1つとして、現行法が「訴えの変更」をもたらす「請求の変更」(143条)と「請求の追加」(144条)の2種を認めていることを挙げている。しかし、この問題は、144条に相当する規定のなかった旧法下でも生じていたのであり、新設の144条の文言がこの理論的な問題の解決の手掛かりになるとは思われない。

注19 176頁の記述は複合行為説であるが、これは裁判実務の扱いの紹介と理解してよいであろう。

注20 もっとも、第一審において異種訴訟への交換的変更(民事訴訟の請求から行政訴訟の請求への交換的変更)がなされ、第一審が新請求を棄却した場合に、控訴審が交換的変更は許されないとして、新訴を却下し、旧訴事件を差戻した事例がある(大阪高判昭和29.9.16高民7-8-627。なお、[鈴木*1988a]256頁も参照)。

注21 例えば、名古屋高等裁判所平成24年2月7日判決(平成23年(ネ)第951号)、知的財産高等裁判所平成23年6月23日判決(平成22年(ネ)第10060号,同第10075号)。

注22 大正15年法の立案担当者の一人であった山内確三郎は、次のように述べている([山内*1931a]23頁)。「請求の原因の変更は、書面を以て之を為す事を法律の上からは必要として居ない。[中略]併しながら実際の運用としては本来訴状に記載したる請求原因の変更なるが故に書面に之を具することを相当とすべき事柄であつて将来に於ける取扱例も其所に帰着することゝ思ふ。然れども再言す、是れは法律上の要件として然るものに非ざることを」(旧字は現在用いられている新字に改めた)。

注23 条文で「不当である」の文言が用いられているために、これにどのように意味を認めるべきかが問題となる。基本的には、「143条1項所定の要件を充足しない」の意味に理解すべきであろう。同項に規定されている要件は満たすが、それにもかかわらず訴えの変更がなお「不当である」と判断される場合があるか、あるいは、要件(の全部)は充足しないが「不当であるとはいえない」とは判断される場合があるかが問題となるが、もしあるとすれば、判断基準としては「不当である」か否かが挙げられているのであるから、それを基準にして決すべきであろう。

注24 2012年11月12日までは類推適用肯定説であったが、見解を改めた。

注25 控訴審における反訴の提起には原則として相手方の同意が必要であるが、同意が不要とされる場合もある。反訴請求が本訴請求と関連するという一事でもって同意不要になるわけではないが、どちらかと言えば、本訴請求と関連する反訴請求の方が同意不要になりやすい。その点を考慮すると、反訴請求が本訴請求とも防御方法とも関連する場合には、本訴請求に関連する類型に入れ、防御方法と関連する類型からは除外しておくことが便宜にかなう。以下では、これを前提に分類している。

注26 [松本=上野*民訴v6]658頁は、旧請求についての訴訟資料を移送先での新請求に利用する余地はないとの立場からこれに反対する。

注27 [谷口*1987a]182頁は、最判昭和27年を紹介するにとどまるが、訴えの取下げ説に含めてよいであろう(最判昭和27年を紹介した記述に続く「訴え変更の概念は必ずしも訴訟物概念と直結させる必要はなく、訴えの変更によって訴訟物に変更がある場合とない場合があると解しておく方が概念として便利である」との記述は、請求の減縮も訴えの変更に含める趣旨のものと読む余地がないわけではないが、その趣旨ではなかろう)。

注28 勝訴原告の追加請求を遮断するために、被告は残部について債務不存在確認の反訴を提起することもできるが、被告にとってそれ自体が負担である。被告がその負担を負わないように、残部請求を留保しての減縮には被告の同意が必要であるとする方がよい。

注29 昭和41年判決は、訴えの交換的変更と追加的変更とがなされた場合に、被告が追加的変更についいては異議を述べていても、交換的変更には異議なく応訴しているときには、交換的変更に係る旧訴の取下げについて暗黙の同意をしたものと解すべきであるとした。

注30 その外に、次の構成が考えられる:(α)予備的相殺の抗弁が認められることが解除条件になる;(β)予備的相殺の抗弁により本訴請求が棄却されることが解除条件となる;(γ)原告の主張債権が認められることにより予備的相殺の抗弁に付されていた条件がはずれたことが解除条件になる。被告の債権の不存在の判断について114条1項と2項の既判力の重複を避けるという点では,(γ)の構成が優れている。しかし、相殺の抗弁は不適法だが反訴は適法ということはあまりないであろうが、それでもあり得ることを想定すると(例えば民法511条により相殺が禁止される場合に、その余地があろう)、(γ)の構成では、自働債権が存在する場合に、相殺の抗弁が不適法とされ、かつ、解除条件成就により反訴請求についても裁判がなされないという事態が生ずる。また、(α)の構成であると、自働債権が存在しないと判断される場合には、反訴請求棄却の主文が掲げられることになり、114条1項と2項の既判力が重複的に生ずる。

注31 実質は新訴提起であるが、新たに事件番号が付されることはなく、事件名も当初の訴え提起の際に付されたものが引き続き使われ、司法法統計上の事件として計上されることない。[八木*2014a]167頁参照。

注32 [三ケ月*1995a]167頁、[八木*2014a]167頁、[条解*2011a]1438頁(竹下=上原。ただし、833頁では独自類型説である)。

注33 中村英郎「訴の変更理論の再検討」中田還暦上190頁以下、[谷口*1987a]184頁など。

注34 平成29年改正後は、改正前の時効中断効が完成猶予効と時効更新効とに分解されたので、民法148条1項の解釈適用問題とする余地もないわけではない。しかし、催告の繰返しは許されないとする規律を可能にするためには、150条1項の解釈適用問題として扱うべきである。

注35 なお、追加選定者が複数存在する場合には、30条1項の選定として扱うことも考えられないわけではないが、選定当事者に対する請求に係る訴訟が控訴審に継続していて、第一審では選定当事者に対する請求はないので無理であろう。

注36 「請求の基礎」の概念は、訴えの変更の可否の場面以外でも用いられることがある(明文の規定で「請求の基礎」が用いられていない場面で、解釈により用いられることがある)。例えば、保全命令の発令後に本案訴訟提起命令が発せられた場合に、保全命令の申請における被保全債権の主張と本案訴訟における請求とが別個でも、「請求の基礎」に変更がなければ本案訴訟に当たるとの考えを前提にして、提起された訴訟が本案訴訟に該当するか否かが問題にされる場面がそうである。考慮されるべき利益状況が異なるので、両場面での「請求の基礎」の概念は同一ではないが、それでも紛争の合理的解決・救済を求める者の権利の適切な保護が必要であるという点では共通性がある。東京高判昭24・10・20高民集2-2-216)は、後者の場面において、賃借権を被保全債権とする妨害禁止等の仮処分命令の発令後に提起された占有の訴えが本案訴訟に当たるとした(菜園用土地の賃借人が土地の買主に相手にして仮処分命令の申請がなされた事案であり、賃借権を土地の買主に対抗できないため、本案訴訟として占有の訴えが提起された事案である)。

注37 そのような法律構成も、もちろん可能である。ただ、そこまでして「既判力ある判断の同時的重複」の回避に腐心する必要があるのかという疑問も生ずる。

注38 第一審が変更不許の決定(143条3項)をし、あるいは、判決理由中で変更不許の判断をして、旧請求について終局判決を下している場合に、通説は、その判決を新請求の訴えを黙示的に却下する判決と捉えている。しかし、訴えに対しては、判決により応答がなされるべきであること、そして訴訟法律関係を明瞭にする必要があること、143条4項の決定は単なる訴訟指揮の裁判であり訴えに対する応答にはならないことを考慮すると、新請求の訴えの却下の裁判は、終局判決の中で(主文中で)、旧請求についての裁判とともになされるのが本来である。

注39 2022年6月9日前は下記のように考えていたが、現行法上は変更不許決定が即時抗告に服す裁判とされていないことを考慮して、本文のように改めた。

γ)第一審が変更不許の決定をして新請求の訴えを別訴として扱う場合には、変更不許の決定は、実質的にみて、弁論の分離に近く、原告に生ずる不利益は通常それほど大きくなく、そうであれば、原告に不服申立ての機会を与える必要は小さい。しかし、時効完成猶予効との絡みで原告に生ずる不利益が大きい場合もあろう。問題を斉一的に解決するために、次のようにしてよいであろう:変更不許の決定に対して不服申立ての機会を与えるべきである;変更不許の裁判が独立の決定でなされたか、判決理由中でなされたかに関わらず、変更不許の裁判も控訴審の審査対象になり、控訴審は訴えの変更を適法と認めて新請求について判決することができると解すべきであり、その論理的前提として、変更不許の裁判がなされた場合には、旧請求の終局判決に対する控訴により新請求も控訴審に移審すると構成構成すべきである;結局のところ、旧請求に対する終局判決が変更不許の裁判を伴う場合には、変更不許の裁判は独自の不服申立て対象になり、これについて形式的確定力を観念することができるとすべきである;変更不許の裁判が確定した時点で、新請求の訴えは別訴として扱われ、上訴審が変更不許の裁判を正当と判断する場合には、新請求の訴えを第一審に移送すべきである。(δ)第一審において変更が許されないのであれば、第一審において新請求の訴えは別訴として扱われるべきことを原告が望むのであれば、彼はその旨の申出(別訴取扱いの申出)をすることができるとしてよいであろう。この場合には、第一審裁判所が変更を許すべきでないと判断するときは、変更不許の決定(143条4項)をした上で弁論を分離すべきである。

注40 決定は言渡しにより効力を生ずるとの原則に従い、かつ、別訴扱いの効果が生ずるのは、控訴審判決が確定した時点であり、控訴審が旧請求について判決を言い渡す時点ではないことを前提にすると、このようにすべきことになる。

注41 2023年3月24日前は、別訴として扱われる新請求についての移送の裁判は決定でなされるべきことを前提にしていたが、この移送の裁判を判決で行うことも許されると考え、同日、この部分の記述を改めた。移送の裁判を控訴審が判決中でなす例としては、次の場合がある:第一審の専属管轄違反の判決を取り消して、専属管轄裁判所に移送する場合。

注42 東京高判平成25年4月11日も、被告の同趣旨の主張に引きずられて同趣旨の説示をしたものであろう。

注43 最判 平成30年12月21日以前においては次のような議論も可能であったが、現在では過去の議論である。

弁護士法23条の2による弁護士会照会により、照会先は正当な拒絶理由がなければ報告義務を負い(最判平成28年10月18日(平成27年(受)第1036号))、その義務違反を理由とする損害賠償請求訴訟において、報告義務の中間確認の訴えについては、確認の利益を肯定すべきであろう。報告義務が確認されれば、被告は再度の照会に応ずることが期待でき、これにより原告の法的地位が改善されるからである。もっとも、下級審判例の中には、照会申出弁護士の依頼者が原告の場合に、被告(照会先)が弁護士会に対して報告義務を負うことの中間確認の訴えについて、確認の利益を否定するものが多い(例えば、東京高判平成25年4月11日金商1416号26頁は、第1次的に、照会先が弁護士会に報告することによる利益は依頼者にとっては反射的なものにすぎないと説示し、第2次的に、仮に、依頼者において照会先が照会に回答しなかったことにより自己の権利等について危険又は不安が生じたというのであれば、その除去のためには、義務の確認の訴えによるよりも、回答拒否が違法であることを理由とする民法709条に基づく損害賠償請求等による方がより有効かつ適切であると説示する。しかし、前者の説示はともかくとして、後者の説示には納得しがたい)。