関西大学法学部教授 栗田 隆

民事訴訟法講義「複数請求訴訟2/2」
の比較法メモ


注1 スイス連邦民事訴訟法(Schweizerische Zivilprozessordnung von 19 Dezember 2008 im Stand am 1.Januar 2012)の反訴

スイス民訴法においても、反訴の概念自体は同じである(Oberhammer, KUKO ZPO, S. 854)。しかし、(α)本訴請求又は防御方法との関連性は要求されておらず(KUKO ZPO, S. 854。反訴について独立裁判籍を有しない裁判所で反訴を提起する場合に、関連性が要求されるだけである)、しかも、(β)控訴審で反訴を提起することを認める規定はなく、第一審での反訴提起も「Klageantwortにおいてすることができる」旨が規定されているだけであり、その文言を厳格に解すれば、その後の提起は許されないことになろう。反訴の要件についてスイス法と日本法とを比較すると、スイス法は≪本訴との関連性の要件を弱め、時期的制限を強めている≫のに対し、日本法は≪本訴との関連性の要件を要求し、時期的制限を弱めている≫。この要件設定の差異の中に、反訴制度の基礎理念の微妙な差異を読みとることができる。いずれの国の反訴制度も、訴訟経済や武器平等原則に立脚しているとはいえ、日本法では、本訴により提示された紛争の効率的の範囲内での平等原則の採用であり、本訴請求や防御方法と関係のない請求については別訴を提起すべきであるとされているのに対し、スイス法では、原告・被告間のすべての紛争を一つの手続で解決するという意味での平等性が重視されている(反訴が本訴と物的関連性を有する場合には、同一手続で解決することが訴訟経済に合致するので、それを容易にするために反訴の特別管轄が認められている)。これを標語的に言えば、次のように言うことができよう。「日本の反訴制度では関連紛争の解決に比較的重点が置かれ、スイスの反訴制度では本訴と関連した紛争の枠を超えた紛争の一括的解決が目指され、攻撃された者に広く反撃の機会を与えるというで、武器平等に比較的重点が置かれている」。

第14条 反訴
 1 反訴が本訴と物的関連性を有する場合には、本訴について土地管轄を有する裁判所に反訴を提起することができる。
 2 この裁判籍は、本訴がなんらかの理由により途中終了に至った場合でも、存続する。

第224条 反訴
 1 被告は、答弁書において、反訴を提起することができる。ただし、主張された請求が本訴と同じ手続により判決される場合に限る。
 2 反訴の訴額が裁判所の事物管轄を上回るときは、裁判所は、双方の訴えを上位の事物管轄権を有する裁判所に移送しなければならない。
 3 反訴が提起されたときは、裁判所は、書面による答弁の期間を原告に定める。反訴に対する反訴は許されない。