日本法(訴訟承継主義) 日本では、判決の効力は口頭弁論の終結後の承継人に拡張されるという方式を採用している。明治23年民訴法は、そもそも判決効(既判力)の主観的範囲を拡張する規定を有さず、執行力を限られた範囲で拡張する規定(519条)しか有していなかった。そのことから生ずる弊害(特に被告の特定承継人に判決効が及ばないことによる弊害)を阻止するために、大正15年法において、判決効を拡張する規定を設けられた(201条。内容的には現115条と同じである。)。その際、判決効の拡張を受ける承継人は、訴訟係属後の承継人ではなく口頭弁論終結後の承継人に限定された。そのため、訴訟係属中に係争物の譲渡ないし係争権利義務の移転があった場合に、被承継人が係争権利義務の帰属主体でなくなったことが訴訟で考慮されることになり、そのことから生ずる弊害を回避するために、訴訟承継・訴訟引受の制度が設けられた。
ドイツ法(当事者恒定主義+訴訟担当) これに対して、ドイツ民事訴訟法は、判決効が拡張される承継人の範囲を訴訟係属後の承継人にしている(325条1項)。そのため、訴訟係属後に当事者に特定承継があった場合には、被承継人が当事者として訴訟を追行し、その判決効は特定承継人に及ぶことになるので、被承継人は訴訟係属後の承継人のための訴訟担当者になる。訴訟手続が係争物あるいは係争請求権の譲渡によって影響を受けないようにするためである(265条2項1文。同条1項が、訴訟係属は係争物あるいは係争債権の譲渡を妨げないことを規定している)。もっとも、被承継人である原告は、承継関係の発生に応じて請求の趣旨を変更する必要があり、例えば、「原告への給付」を「承継人への給付」に改める必要があり、それを怠るとAktivlegitimationを欠くことを理由に、請求は棄却される。
このように被承継人による訴訟担当を前提にした上で、承継人が自ら訴訟を追行する道も開いている(265条2項)。承継人は、相手方当事者の同意がなければ、主当事者として訴訟を引き受けることも、主参加の訴えを提起することもできない(265条2項)。承継人は、被承継人に代わる主当事者として訴訟を引き受けることもできるが、これには、相手方の同意のみならず、被承継人の同意も必要である(訴訟引受により、被承継人は裁判なしに訴訟からは退出(ausscheiden)する。Sein/Jonas, ZPO, 21 Aufl., $ 265 Rdn. 56)。承継人は、被承継人側に従参加(補助参加)することもでき、これには相手方の同意は必要ない。この場合に、判決効は従参加人に及ぶにもかかわらず、69条の適用はなく、共同訴訟的補助参加人になるわけではない。
係争物又は係争請求権が譲渡された場合に、譲渡人が受けた判決の効力は譲受人に及ぶことが原則であるが、善意者を保護する必要もある。そこで、「無権利者から権利を得た者のための民法の規定を準用する」(325条2項)と規定されている。したがって、無権利者からの善意取得が可能な場合に、承継人が訴訟係属又は確定力(Rechtskraft)に関して善意であれば、判決の効力は彼に対して(不利に)及ぶことはない(Sein/Jonas, ZPO, 21 Aufl., $ 325 Rdn. 32; Rosenberg/Schwab/Gottwald, ZPR, 16 Aufl., S 1079。判決効が拡張される「訴訟係属後の承継人」の中には判決確定後の承継人も含まれ、後者についてはRechtskraftについて善意であるか否かが問題になる)。
したがって、判決が325条により譲受人に対して効力を有しない場合が存在しうることになるが、その場合に、相手方当事者は譲渡人との間で訴訟を続行して判決を得る意味はなく、必要であれば譲受人を相手に訴訟をすることになろう。そのような場合に、譲渡をしたのが原告であるときは、彼は、請求権を主張する権限を有しないとの抗弁をもって対抗され得る(265条3項)。被告が譲渡した場合については、3項の適用はなく、2項が適用され。その場合に、原告は承継人の同意を得て給付の訴えを承継人に対するものに変えるのが実際的な解決であるとされる(Baumbach et al, ZPO, 66 Aufl., S 1053 Nr 28 zur $265。Sein/Jonas, ZPO, 21 Aufl., $ 265 Rdn. 53は、当事者変更の方法により取得者を現訴訟に引き込むことも排除されていないとする)。
不動産上の権利義務の存否が争われている場合には、係争利益が大きいだけに承継人の訴訟参加の要件を広げておく必要がある。この場合には、不動産の譲渡による承継人は、主当事者として訴訟を引き受ける権利を有し、相手方の申立てによりその義務を負う(266条1項1文)。この規定は、民法の無権利者から権利を得た者のための規定によって対抗される場合には、適用されない(266条2項1文)。この場合に、原告が譲渡したのであれば、265条3項が適用される。
スイス法 2008年のスイス民事訴訟法は、既判力の第三者への拡張に関する明文規定を有しないが、一定の時点以降の特定承継人に判決効が拡張されることは承認されている。その一定の時点が訴訟係属の時なのか、裁判の基準時(口頭弁論終結時)なのかが問題となるが、次のように考えられている:訴訟係属後裁判の基準時前に承継があった場合に、既判力は特定承継人が訴訟に参加した場合にのみ、この者に及ぶ(Oberhammer, KUKO ZPO, $236f Rdn. 56, S. 913 f.)。したがって、訴訟係属後に係争権利関係について特定承継があった場合に、承継人が訴訟に加わらなければ。その訴訟は訴訟係属前に特定承継があった場合と同様に意味のない訴訟であり、手続は抹消(ausschreiben)される(Oberhammer, KUKO ZPO, $236 Rdn. 56, S. 912)。
承継人の訴訟参加については、次の規定が置かれている。
83条1項「係争物(Streitobjekt)が訴訟中に譲渡されたときは、譲受人は譲渡当事者の地位において訴訟に参加することができる。」
4項「係争物の譲渡がない場合には、当事者交替は、相手方当事者の同意を得てのみ許される;承継に関する特別の法規邸は、影響を受けない。」
したがって、係争物の譲渡のよる係争権利関係の承継の場合には、相手方当事者の同意なしに承継人は訴訟に参加することできる(しかし、参加義務はない)。譲渡当事者の同意については、この者は原則として同意しなければならないと考えられている(BSK ZPO in Art. 83 N 8)。
オーストリー法
訴訟承継についての制度上の違いに注意する必要があるが、外国法は次のようになっている。
スイス民事訴訟法(2008年) 参加当事者が全部の訴訟費用について責任を負い、脱退当事者(ausscheidende Partei)は当事者の交替までの訴訟費用について連帯責任を負う(83条2項)。参加当事者の資力に疑問がある場合その根拠のある場合には、参加当事者は、相手方当事者の求めにより、裁判の執行のために担保を提供しなければならない(83条3項)、と規定されていて、そこにいう裁判は本案の裁判に限られず、訴訟費用の裁判も含まれるとする文献がある(Oberhammer, KUKO ZPO, S. 356 N13)。