注1 立法論としては、附帯控訴として提起された以上、その趣旨に従い、控訴に従属すると考える方が魅力的である。
注3 この判決は、一部判決の一種と位置づけられるが、特殊なものであり、独立の不服申立が禁止されているほか、控訴審は結末判決において本案の審理結果に基づいてその内容を変更できるという点で、自己拘束力を有しない。これは、本案の裁判に付随する事項についての裁判であるという特殊性に由来する。
注4 原判決中控訴審判決と合致する部分は正当である。第一審判決の仮執行宣言の効力(260条)は、このことを前提にして検討すべきである。
注5 判決理由中の判断に争点効を認める立場に立てば、その拘束力を排除するためだけの控訴を許すことも必要となろう。
注6 このことは、給付判決の場合には、原判決に基づく不当な執行の回避のために重要である。サンプルとして、東京高等裁判所 平成8年5月28日 第2民事部 判決(平成7年(ネ)第3078号)・判例タイムズ910号264頁参照。
注7 第一審判決言渡し前の控訴権放棄の申述や、控訴提起後に控訴の取下げとともにしない放棄の申述は、受理されるべきではない。しかし、誤ってその申述が受理された場合に、その申述はどのように処理すべきであろうか。(α) 控訴提起後の控訴権放棄について控訴の取下げが要求されているのは、単に手続を単純にするためであると考えてよく、控訴の取下げを伴わない控訴権の放棄も有効としてよく、控訴審は、控訴権の消滅を理由に控訴を却下すべきである。(β)原判決言渡し前に一方の当事者のみが控訴権を放棄した場合に、第一審判決の言渡しとともにそれが有効となることはない。その放棄にかかわらず、控訴を提起することができる。しかし、相手方も控訴権を放棄した場合に、どうするかは迷うが、同時的双方放棄は、形式上の差異を無視すれば、不控訴の合意と同じであり、異時的双方放棄は、最後の放棄の意思表示の時点で不控訴の合意が設立したとみなすことができるとしてよいであろう。
注9 306条の場合には、内容は正当であっても成立過程に瑕疵のある判決を取り消して控訴審が同じ内容の完全に有効な判決をすること自体に意味があるが、判決の成立過程外の手続的瑕疵についてはそのような処理をする必要がなく、控訴審が原判決を取り消して自判する事は予定されていない。換言すれば、当事者の審級の利益を害するような重大な手続上の瑕疵がある場合に限り、判決内容の当否にかかわらず、原判決を取り消して事件を差し戻すべきである。
絶対的上告理由(312条2項)またはこれに準ずる重大な違反がある場合には、当事者の審級の利益を守るために、原判決を取り消して差し戻すことが原則となる。例えば、第一審の訴訟代理人に訴訟代理権がなかった場合がそうである。
注11 [安見*2000a]26頁以下(特に31頁以下)によれば、フランス法は、訴訟不変の原則(控訴審における新申立ての禁止の原則)をとりつつも、さまざまな例外を認めて柔軟に対応しているようである。
注12 その他に、次のものがある:最高裁判所平成11年3月25日第1小法廷判決(平成10年(オ)第1183号);最高裁判所 平成14年1月22日 第3小法廷 判決(平成9年(行ツ)第7号);最高裁判所 平成18年11月2日 第1小法廷 判決(平成16年(行ヒ)第114号)。
注13 附帯控訴の制度の趣旨は、武器平等の原則の観念を用いて、次のように説明することもできる。附帯控訴は、一方のみが控訴を適法に提起した場合に、他方にも平等に原判決の変更を求める権利(武器)を与える制度であり、「武器平等の原則」の一つの現れである。平等に武器が与えられるから、あわてて武器を取りに走る必要はなく、これにより不必要な控訴が抑制される。
注14 例えば、債務者からの債務不存在確認請求の訴えに対して、債権者が支払請求の反訴を提起した場合に、第一審が訴えの利益を否定して訴えを却下したのに対し、控訴審が訴えの利益を肯定すれば、控訴審は、本訴の本案についても判決することができる(事案が少し異なるが、最判昭和58年3月31日判例時報1075号119頁参照)。ただし、上記の問題は、最高裁判所 平成16年3月25日 第1小法廷 判決(平成14年(行ヒ)第154号)が債務不存在確認の本訴について訴えの利益を否定したので、現在では、仮定の問題となった。
注15 美学上の問題で省略されているものと理解してよいであろう。すなわち、原判決は「変更後の裁判と抵触する範囲で」取り消されるのであるが、この限定句が美観を損ねる。
注16 一方の当事者が相手方に対して放棄の意思を表示する形での控訴権放棄の取扱いについては、相手方への放棄に控訴権消滅の効果を肯定する見解と否定する見解とが対立している。否定説を支持すべきであろう([高橋*重点講義・下]464頁以下参照)。
この問題は、実際上は、次のような形で現れよう。
控訴権放棄が重要な効果を伴うことを考慮すると、それは、裁判所に対する意思表示に限定してよい。裁判所を名宛人とする放棄の意思表示の書面を相手方が使者として裁判所に提出することは妨げられないが(その場合でも委任状は必要とすべきである)、相手方を名宛人とする放棄の意思表示では放棄の効果は生じないと解すべきである。これを前提にすると、相手方に対してした控訴権放棄の意思表示は、裁判所に対して放棄の申述をする意思があることの表明としてのみ意味があることになる。その意思表明が裁判所を名宛人とする放棄の申述書を相手方に交付する形でなされたとしても、放棄の効果は裁判所に申述がなされた時に生ずるものであり、それ以前に控訴が提起されれば、相手方に対してした放棄の意思表示は効力を失うとすべきである。
注17 確かに、飛越上告を、事実認定に不満がない場合に法律問題について迅速に解決を得るための制度であると位置づけてしまえば、第一審判決言渡し前の飛越上告の合意は許されなくなる。しかし、そのような飛越上告の合意は、仲裁契約やその延長線上にある不控訴の合意とは異質なものと言うべきであろう。
現行法を離れて言えば、当事者間の公平が保たれている限り、紛争解決コストの削減のために、当事者が三審制ではなく二審制を選択することを禁ずる強い理由はなく、そのための飛越上告の合意は、仲裁契約の延長線上にあるものであり、判決言渡し前でも許され、また、合意の効力は差戻後の第一審判決にも及ぶとの選択肢を採用することも十分に可能である。
ただ、現行法の解釈として、そのように解することができるかは、なお微妙である。第一審判決前の飛越上告の合意を肯定することは、当事者の合意による二審制を肯定することになり、現行法が三審制を採用していることとの整合性が問題となるからである。当事者の合意による二審制も、それが法定の三審制との比較において裁判資源の節約になるのであれば、許容してよいであろう。ところで、三審制は、第2審の判決に対する上告が比較的少ないのであれば、資源が限られている第3審(上告審)の負担軽減の機能を果たし、飛越上告はその負担を増加させることになる。とりわけ、第一審判決の事実認定に争いがある状態で、事実認定の違法の是正を求めて飛越上告がなされるときに、そのことは重要となろう。もっとも、この点は、三審制の下で、第一審の事実認定の違法が第二審で是正される結果、事実認定の違法を理由とする上告が減少することの度合いにも依存することである。第一審判決前の飛越上告の合意の許容が、上告審の負担を重くすることになるとは限らないが、ともあれ、そのことがいくつかの訴訟上の社会状況に依存することは確かである。そうであるならば、法律の文言に素直に従っておくのがよいであろう。
注18 判決言渡し前になされた不控訴の合意については、判決言渡しまでは、合意解除を許すべきである。
注19 この拘束力の法的性質については、さまざまな見解がある。[高島*1957a]52頁以下参照(既判力類似の効力と解している)。