関西大学法学部教授 栗田 隆
民事訴訟法講義「判決の効力2」の比較法メモ
注1 既判力(客観的範囲と主観的範囲)
テッヒョー「訴訟法草案」(原文はカタカナ縦書。項番号は、アラビア数字で記したが、原文にはない。号番号は、ローマ数字で記したが、原文は漢数字である。)
- 391条 判決確定の効力は判決文に示したる判決に止まりその理由に及ふことなきものとす。
明治23年民事訴訟法(原文はカタカナ縦書。項番号は、アラビア数字で記したが、原文にはない。号番号は、ローマ数字で記したが、原文は漢数字である。)
- 244条 判決はその主文に包含するものに限り確定力を有す。
バイエルン王国民事訴訟法(1869年)
- 294条 判決の効力は、一方で、争訟の対象及びこの中で裁判された争点に制限され、他方で、争訟の当事者となった者又は争訟に呼び出された者、民法の原則によれば訴訟追行当事者の一人によって争訟において代表される権利を有する者及び上記の者らの相続人に及ぶ。ただし、争訟の提起後に初めて当事者の一方から権利を取得した第三者にも、民法において動産の占有者のための例外が生じない限り、判決は通用する。
- 295条 判決に含まれる裁判のみが確定力を有するが、判決のその余の内容は、裁判の意味及び範囲に関する裁判所の意図の評定のために利用され得る。
ドイツ民事訴訟法草案(1871年プロイセン司法省案)(項番号は、アラビア数字で記したが、原文にはない。号番号は、ローマ数字で記したが、原文はアラビア数字である。)
- 268条
- 判決は、訴えにより又は反訴により提起された請求が裁判された範囲でのみ既判力を有する。
- ただし、抗弁により主張された反対債権の存在(Bestehen)又は不存在に関する裁判は、相殺されるべき額まで既判力を有する。
- 確定力の発生は、確定力を生ずる裁判が判決主文に取り込まれていることに依存しない。
- 訳注 「Bestehen」の語は、大正15年民訴法199条2項において「成立」と訳されている。
1877年ドイツ民事訴訟法(司法省『和訳 欧州各国民事訴訟法』(清水書店、大正15年)に掲載された翻訳。原文はカタカナ。読点を適宜補充した(原文では、各項の最後の読点は省略されていて、途中には読点が付されている))
- 322条
- 判決は訴え又は反訴を以て起したる請求に付き裁判したる部分に限り確定力を有す。
- 被告が反対債権の相殺を主張したるときは反対債権か存在せすとの裁判は相殺を主張したる額まてに限り確定力を有す。
- 325条
- 確定判決は当事者及び権利拘束の発生後当事者の承継人と為りたる者又は当事者若くは承継人の間接占有者と為りたる為め係争物件を占有する者の為に又は之に対し効力を生す。
- 権利なき者より権利を移転せられたる者に対する利益の為め設けたる民法の規定は之を準用す。
- 登記したる土地負担、抵当、土地債務、定期土地債務により生せる請求に対する判決は其負担したる土地を譲渡したる場合に於ては其土地に関しては其権利拘束を知らさる承継人に対しても又その効力を及ほす。強制競売に依り譲渡したる土地の競落人に対しては判決は遅くとも競売期日に於て競売申出の催告前権利拘束を通知させれたるときのみ効力を及ほす。
1877年ドイツ民事訴訟法(2011条12月22日現在。[法務大臣官房*2012a]に掲載された翻訳)
- 322条(実体的確定力)
- 訴え又は反訴により提起された請求について裁判がなされた範囲において、判決は確定力を有する。
- 被告が反対債権による相殺を主張したときは、反対債権が存在しないとの裁判は、相殺が主張された数額まで確定力を有する。
- 325条(既判力の主観的効力)
- 確定した判決は、当事者のため及び当事者に対して、並びに、訴訟係属の発生後に当事者の権利承継人になった者のため及びこの者に対して、又は、係争物の占有者であって、当事者の一方若しくはその権利承継人が間接占有者になる方法によって係争物の占有を取得した者のため及びこの者に対して、効力を生ずる。
- 無権利者から権利を移転された者の利益を図る民法の規定を準用する。
- 判決が、登記された物的担保、抵当権、土地債務又は定期土地債務に基づく請求権に関する場合において、その負担付の土地の譲渡があったときは、その土地に関しては、判決は、権利承継人が訴訟係属を知らなかったときといえども、その者に対して効力を生じる。強制競売の方法で譲渡された土地の買受人に対しては、判決は、遅くとも訴訟係属が競売期日における買受申出の催告前に届け出られていたときに限り、その効力を有する。
- 判決が登録された船舶抵当に基づく請求に関するときは、第3項第1文を準用する。
- 325条a(投資家間紛争モデル訴訟における裁判の確定効) 投資家間紛争モデル訴訟における裁判の拡張的効力(Weitergehende Wirkungen
des Musterentscheids)については、投資家間紛争モデル訴訟手続法の規定を準用する
オーストリー民事訴訟法(1895年法) (司法省『和訳 欧州各国民事訴訟法』(清水書店、大正15年)に掲載された訳。原文はカタカナ。読点を補充した)
- 411条
- 上訴に依り争ふことを得さるに至りたる判決は訴又は反訴に依り主張せられたる請求又は訴訟の進行中争と為りたる法律関係又は権利にして第236条又は第259条の規定に従ひ其成立又は不成立の確定の申立ありたるものに付き其裁判を為したるときに限り確定力を有す。被告か相殺の為め主張したる反対請求[1]の成立又は不成立に付ての裁判は其相殺す可き金額に至る迄の範囲に於て確定力を有す。
- 判決の確定は職権を以て之を調査することを要す。
- 568条 第560条に掲けたる物件の貸借契約の成立又は消滅に関し借主に対して為したる総ての通告、命令、裁判及ひ処分は亦転借人に対して効力を生し且之を執行することを得。但転借人と貸主との間に成立する法律関係に於て之に抵触するときはこの限に在らす。
- 栗田注
- 411条1項中の「反対請求」の原語は「Gegenforderung」である。「反対債権」と訳すのが適切であろう。
オーストリー一般民法(1811年法)
- 12条 個々の事件において下された処分及び特定の争訟において裁判官により下された判決は、法律の効力を有さず、他の事件又は他の者に対して拡張され得ない。
オーストリー民訴法は、確定力の主観的範囲に関する一般規定を有さず、民法12条から当事者にのみ及ぶとの原則が認められている。特定承継人への確定力の拡張を一般的に認める規定もないが、その拡張は通説により承認されている(Fasching,
Zivilprozessrecht, 1984, Manz, Rn. 1525ff.)。他の法令に確定力の拡張を認める規定があり、登記法にもあるとのことである。
注2 [サヴィニー/小橋訳*現代6]313頁(原書367頁)で挙げられている例である。確定力が判決後に生じたの事実の主張に基づく訴訟に影響しないことにつき、次の頁も参照:321頁。
注3 [サヴィニー/小橋訳*現代6]315頁(原書369頁)は、これとは異なる見解を主張する:「これまでなされた研究は、確定力が裁判自体(有責判決または免訴判決)にのみならず、それの客観的理由にも付与されなければならないという結果に、すなわち、これらの理由は判決の不可欠の部分とみられるべきであり、したがって確定力の範囲は常にそういう理由と結び付いた判決の内容により決定されなければならないという結果に至った。」。
注4 古くから認められていることである。[サヴィニー/小橋訳*現代6]350頁(原書416頁)が確定力の抗弁について次のように述べている:「すべての他の抗弁と同様に、この抗弁も、訴訟の状態がそうする機会を供するときには、再抗弁又は再々抗弁の形で主張できる。このような場合には、それにより相手方の訴えではなくて、相手方の抗弁または再抗弁が無効にされる。それゆえに、すべてのこれらの場合について、共通の決まり文句は、こう言い表される:それによって常に、確定力のある判決と矛盾するような相手方の請求[Anspruch]が無効とされるべきである。」。ここで、Anspruchが「請求」と訳されているが、もちろん、現行の日本民訴法133条2項2号にいう「請求」の意味ではない。抗弁や再抗弁の形で提出されるAnspruchであり、「権利主張」(より一般的には「法律関係の主張」)の意味である。
[サヴィニー/小橋訳*現代6]356頁(原書424頁)以下で、訴訟物の同一性ではなく、法律問題の同一性が重要であることがさらに詳述されている。