最高裁判所 平成 22年 4月 13日 第3小法廷 判決 ( 平成21年(受)第609号 )
事件名:  発信者情報開示等請求・上告事件
要 旨
 インターネット上のウェブサイト「2ちゃんねる」の電子掲示板の「A学園Part2」と題するスレッドに、学園長(原告)を指して「気違い」と述べる書込みがなされていた場合に、電気通信事業(被告)に対する発信者情報の開示請求は認容されたが、裁判外で開示請求に応じなかったことに重大な過失があったことを理由とする損害賠償請求は棄却された事例。(本判決で取り上げられたのは、後者のみ)
 1.開示関係役務提供者は,侵害情報の流通による開示請求者の権利侵害が明白であることなど当該開示請求が「特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律」4条1項各号所定の要件のいずれにも該当することを認識し,又は上記要件のいずれにも該当することが一見明白であり,その旨認識することができなかったことにつき重大な過失がある場合にのみ,損害賠償責任を負うものと解するのが相当である。
 1a. 匿名掲示板のあるスレッドへのある者による書込み中に原告を侮辱する文言として「気違い」という表現の一語があるが、特段の根拠を示すこともなく,その者の意見ないし感想としてこれが述べられていることも考慮すれば,その書込みの文言それ自体から,これが社会通念上許される限度を超える侮辱行為であることが一見明白であるということはできず,スレッドの他の書込みの内容,本件書込みがされた経緯等を考慮しなければ,権利侵害の明白性の有無を判断することはできないものというべきであり、そのような判断は,裁判外において発信者情報の開示請求を受けた被告(特定電気通信役務提供者)にとって,必ずしも容易なものではないと判断された事例。 /書き込み/インターネット・プロバイダー/DION/表現の自由/通信の秘密/名誉感情/
参照条文: /民法:709条/特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律:4条/憲法:21条/
全 文 h220413supreme3.html

大阪地方裁判所 平成 21年 4月 23日 第26民事部 判決 ( 平成19年(ワ)第8023号 )
事件名:  不正競争行為差止等請求事件
要 旨
 関西地域において周知性を獲得している動物愛護団体(原告「アニマル・レフュージ・カンサイ(Animal Refuge Kansai)」)の表示(団体の名称の英語表記の頭文字をとった「ARK」及びこの文字からなる英単語の発音である「アーク」)に類似する表示(「Ark-Angels」「アーク・エンジェルズ」等)を大阪市内に本拠を置く被告が使用している場合に、不正競争防止法2条1項1号により、その表示を付した衣類の販売の差止、動物を扱う事業及びこれに付帯する事業においてその表示を使用することの差止等の外に、「ark-angels.jp」のドメイン名の使用の差止。「http://ark-angels.jp」において開設するウェブサイトからその表示を抹消することが命じられた事例。 (訴訟法上の注意点)
 1.原告が被告各表示の使用差止等について、異なる実体法上の権利に基づいて複数の請求を選択的に併合している場合に、裁判所が一つの請求を認容するにあたって、他の請求が認容されるとしても「差止の範囲が変わることがない」ことを明示した上で、他の請求については判断しないと説示した事例。
 2.原告(非営利法人)が動物愛護活動について築いてきた信用が被告の行為により傷つけられ,無形の損害を被ったと認められる場合に、原告がその損害賠償を慰謝料と表現していたが、裁判所が「個人の慰謝料に相当する無形損害の賠償を認めるべきである」とした事例。 /知的財産権/民事事件/不正競争防止法/
参照条文: /不正競争防止法:2条1項1号/民法:709条;710条/
全 文 h210423osakaD.html

東京地方裁判所 平成 14年 12月 27日 民事第47部 判決 ( 平成12年(ワ)第14226号,平成14年(ワ)第4485号 )
事件名:  不正競争行為差止等請求本訴事件,不正競争行為差止請求権不存在確認等請求反訴事件
要 旨
 本訴:
 ポターの創作に係るピーターラビットの商品化事業を行う原告会社と,子供用品の製造販売を業とする被告会社(株式会社ファミリア)との間でライセンス契約が締結され,被告が「ピーターラビット」等の商標権を取得すると共に,ピーターラビットの図柄および「ピーターラビット」等の表示を使用して商品の製造販売を行っていたが,その後ライセンス契約が終了したため,被告が自社の表示である「familiar」と組み合わせて「ピーターラビット」等の表示の付された商品を製造販売していた場合に,原告がこれを不正競争行為であるとして訴えを提起したところ,差止請求ならびに損害賠償請求は認容されたが,商標権移転登録手続請求は棄却された事例。
 反訴:
 不正競争防止法に基づく差止請求を含む本訴の係属中に,被告が,被告商品の販売・販売のための展示について原告が不正競争防止法に基づく差止請求権および損害賠償請求権を有しないことの確認請求の反訴を提起した場合に,訴えの利益は肯定されたが,請求は棄却された事例。
 1.不正競争防止法1条1項1号の要件がすべて充足されていると認定された事例。
 2.ライセンス契約において商標登録がライセンシーの負担とされている場合に,ライセンシーの商標登録はライセンサーの承諾により得ることができたものとみるべきであるから,ライセンス契約終了後にライセンサーからの不正競争防止法に基づく差止請求に対して商標権を有することを抗弁として主張することは許されないとされた事例。
 3.被告が,「ピーターラビット」のライセンス契約終了後に,ピーターラビットの図柄のない「ピーターラビット」等の表示のみを使用した被告商品を,その図柄の付されている原告グループ会社の商品とともに販売した場合に,その販売方法は消費者に出所の混同をもたらすものであり,「ピーターラビット」等の表示を被告が不正の目的なく使用しているとは認められないとされた事例。
 4.ライセンス契約における「ファミリア[被告・ライセンシー]が,その意思により,ライセンス商品の製造を行わないことを決めた場合,ファミリアはウォーン[原告・ライセンサー]とファミリアの間で相互に合意する合理的な条項及び条件に従って前記商標をウォーンに移転しかつ譲渡する。」との条項について,「被告が,自らの意思に基づいて自発的にライセンス製品の製造を中止した場合には,本件商標権を原告に移転するという意味のものである」と解するのが相当であり,ライセンス契約の改定交渉が決裂した場合は含まれないとされた事例。(契約の解釈/意思表示の解釈)
 5.ライセンス契約終了後の商品の出荷高金額を記載した被告提出文書について,販売態様はライセンス契約存続中と変わらないのに売上金額が極端に減少しているので不自然であると原告が主張したのに対し,裁判所が,顧客吸引力の大きいピーターラビットの図柄を使用していないことを考慮すれば信用できるとした事例。(自由心証主義)
 6.原告が特定した「Peter Rabbit」の表示を付した商品を被告が販売することの差止請求訴訟の係属中に,被告が,これとは字体が異なりかつ「familiar」の表示が付加されている商品について原告が差止請求権を有しないことの確認請求の反訴を提起した場合に,その反訴は原告と被告との紛争を抜本的に解決するために必要なものとして確認の利益を認めることができるとされた事例。
 6a.反訴は本訴事件の解決を長びかせるために提起されたものであり,訴権の濫用に当たるとの主張が排斥された事例。
 6b.差止請求権不存在確認請求の反訴について,対象となる物件目録の変更が軽微であるから訴えの変更に当たらないとされた事例。(訴訟物) /知的財産権/無体財産権/不正競争防止法/キャラクター商品/
参照条文: /不正競争.2条1項1号/商標.4条1項7号/民訴.143条/民訴.247条/民訴.146条/
全 文 h141227tokyoD.html

名古屋高等裁判所 平成 14年 5月 22日 民事第2部 判決 ( 平成14年(ネ)第69号 )
事件名:  執行判決請求控訴事件
要 旨
 アメリカ合衆国カリフォルニア州ベンチュラ郡上級裁判所の養育費支払条項を含む‘stipulation and order on order to show cause’(理由開示命令手続における合意及び命令)は,執行判決の対象となる外国裁判所の判決には当たらないとされた事例。
 1.民事執行法24条にいう「外国裁判所の判決」及び民事訴訟法118条にいう「外国裁判所の確定判決」とは,外国における裁判権を行使する権限を有する機関が,私法上の法律関係について当事者双方の審尋を保証する手続により終局的に行った裁判で,通常の不服申立の方法では不服申立ができないものをいう。
 1a.同法24条により執行判決を求めることができるのは,外国裁判所の判決および仲裁判断に限られ,それ以外の同判決と同一の効力を有するにすぎないものは,これに含まれない。
参照条文: /民訴.118条/民執.24条/
全 文 h140522nagoyaH.html

東京地方裁判所 平成 14年 1月 29日 民事第47部 判決 ( 平成12年(ワ)第23425号 )
事件名:  商標権侵害差止等請求事件
要 旨
 被告標章「United sports」は、「United」を要部とするものであり、原告商標のアルファベット標記「UNITED」と類似しているとして、被告標章を付した衣類の輸入・販売の差止めならびに商標権侵害による損害の一部請求(2億円)が認容された事例。
 商標権侵害を理由とする損害賠償請求につき、被告標章が付された衣料の仕入単価,仕入量,販売単価,販売数量の記載のある売上元帳,仕入元帳等の帳簿の文書提出命令が発せられた場合に、被告が「コンピュータを用いて仕入,売上管理をしているから,売上元帳や仕入元帳を所持しておらず,また,コンピュータのデータについても,平成12年以降のものしか保有していない」と主張したが、正当な主張と認められず、民訴224条3項により,原告が立証しようとした事実(被告が,被告標章の付された衣料を,1枚450円以上で,平成2年11月11日から平成12年11月10日までの10年間に,1年に200万枚販売し,販売価格から仕入価格を引いた粗利益率が3割以上であったという事実)が真実と認められた事例。 /知的財産権/無体財産権/工業所有権/商標権/書証/
参照条文: /民訴.224条3項/商標.37条/商標.38条2項/商標.39条/特許.105条1項/
全 文 h140129tokyoD.html

最高裁判所 平成 13年 7月 6日 第2小法廷 判決 ( 平成12年(行ヒ)第172号 )
事件名:  審決取消請求上告事件
要 旨
 洋服等を指定商品とする「PALM SPRINGS POLO CLUB」等の文字から成る商標は、著名デザイナーであるラルフ・ローレンが被服等の商品について使用している「POLO」又は「ポロ」の文字から成る各商標と類似しており、ラルフ・ローレンの業務に係る商品と「混同を生ずるおそれがある商標」(商標法4条1項15号)に当たるとされた事例。
 1.商標法4条1項15号にいう「他人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるおそれがある商標」には,当該商標をその指定商品又は指定役務に使用したときに,当該商品又は役務が他人の業務に係る商品又は役務であると誤信されるおそれがある商標のみならず,当該商品又は役務が上記他人との間にいわゆる親子会社や系列会社等の緊密な営業上の関係又は同一の表示による商品化事業を営むグループに属する関係にある営業主の業務に係る商品又は役務であると誤信されるおそれがある商標が含まれる。
 1a.「混同を生ずるおそれ」の有無は,当該商標と他人の表示との類似性の程度,他人の表示の周知著名性及び独創性の程度や,当該商標の指定商品又は指定役務と他人の業務に係る商品又は役務との間の性質,用途又は目的における関連性の程度並びに商品又は役務の取引者及び需要者の共通性その他取引の実情などに照らし,当該商標の指定商品又は指定役務の取引者及び需要者において普通に払われる注意力を基準として,総合的に判断されるべきものである。
 2.著名商標の顧客吸引力へのただ乗り(いわゆるフリーライド)やその希釈化(いわゆるダイリューション)を招くと虞があると認められた事例。 /知的財産権/無体財産権/工業所有権/意匠権/ポロ商標/
参照条文: /商標.4条1号15号/
全 文 h130706supreme51.html

最高裁判所 平成 13年 6月 11日 第1小法廷 判決 ( 平成12年(受)第67号 )
事件名:  売掛代金請求本訴・損害賠償請求反訴上告事件
要 旨
 衣料品の卸売業者と小売業者との間における周知性のある他人(米国ポロ社)の商品等表示と同一又は類似のものを使用したインドネシア製の商品の売買契約が民法90条により無効とされ、卸売業者は小売業者に対して代金支払を請求できないとされた事例。 /知的財産権/無体財産権/工業所有権/商標権/不正競争防止法/ポロ・ローレンス/POLO BY RALPHLAUREN/馬に乗ったポロ競技者の図形/ポロシャツ/公序良俗違反/
参照条文: /民法:90条/不正競争.2条1項1号/
全 文 h130611supreme.html

富山地方裁判所 平成 12年 12月 6日 民事部 判決 ( 平成10年(ワ)第323号 )
事件名:  不正競争行為差止等請求事件<ドメイン名事件>
要 旨
 インターネット上でドメイン名「http://www.jaccs.co.jp」を使用し、かつ、開設するホームページにおいて「JACCS」の表示を用いて営業活動をする被告に対し、「JACCS」という営業表示を有する原告が、被告によるこれらの行為が不正競争行為に当たるとして、その差止めを請求し、認容された事例。(メモ参照)
 1.ドメイン名はその登録者を識別する機能を有する場合があるから、ドメイン名の登録者がその開設するホームページにおいて商品の販売や役務の提供をするときには、ドメイン名が、当該ホームページにおいて表れる商品や役務の出所を識別する機能をも具備する場合があると解するのが相当である。
 1a.ドメイン名の使用が不正競争防止法2条1項1号、2号所定の「商品等表示」の「使用」に当たるか否かは、当該ドメイン名の文字列が有する意味(一般のインターネット利用者が通常そこから読みとるであろう意味)と当該ドメイン名により到達するホームページの表示内容を総合して判断するのが相当である。
 1b.ドメイン名の使用が、商品等表示に当たると判断された事例。
 2.商品等表示としての被告のドメイン名「http://www.jaccs.co.jp」の要部は第三レベルドメイン名である「jaccs」であるから、被告のドメイン名と原告の営業表示「JACCS」とは類似するとされた事例。
 3.被告が原告に本件ドメイン名を登録した旨及び「御社が将来的に損失を被る恐れ有りとお考えの節は、譲渡又はレンタルそのものに応じる形もあろうかと思います」などと記載した書面等を送付したことが、本件ドメイン名の対価として金銭を要求していたものと評価された事例。
 3a.被告が本件ドメイン名の登録後間もなく原告に対しドメイン名に関して金銭を要求していることをも根拠にして、被告が当初から原告から金銭を取得する目的で本件ドメイン名を登録したものと推認された事例。
 4.ドメイン名の登録が先願主義であることをもって、ドメイン名の使用の差止め請求を阻止することはできない。
 4a.被告が本件ドメイン名の登録後間もなく原告に対しドメイン名に関して金銭を要求していた等の事情を考慮して、先願申請の努力をしなかった原告が先願申請者である被告に対してドメイン名使用の差止めを請求することが権利濫用に該当しないと判断された事例。
 4b.原告がドメイン名「jaccscard.co」を登録・使用していることは、被告のドメイン名「http://www.jaccs.co.jp」の使用差止めを求める必要性を失わせるものではないとされた事例。 /知的財産権/無体財産権/不正競争防止法/
参照条文: /不正競争.2条1項1号/不正競争.2条1項2号/不正競争.3条/民法:1条3項/
全 文 h121206toyamaD.html

東京高等裁判所 平成 12年 1月 27日 第18民事部 判決 ( 平成11年(行ケ)第253号 )
事件名:  審決取消請求事件<PALM SPRINGS POLO CLUB商標>
要 旨
 1.「PALM SPRINGS POLO CLUB」の欧文字と「パームスプリングスポロクラブ」の片仮名文字とを上下二段に横書きした構成よりなる本願商標は、その指定商品の取引者、需要者がこれに接した場合、極く自然に、「PALM SPRINGS」にある「ポロ競技のクラブ」を意味するものと認識するものと認められ、ラルフ・ローレンに係る引用商標の周知・著名性を考慮しても、本願商標から、「PALM SPRINGS」にある「ラルフ・ローレンに係るポロ製品の愛好者のクラブ」との観念が生ずるとか、「POLO/ポロ」の部分のみが注目され、直ちに引用商標が連想されるとまで認めることはできないとされた事例。(登録拒絶査定を支持した審決の取消)
 2.本願商標のように結合商標中に「POLO/ポロ」が含まれている場合、当該商標からラルフ・ローレンに係る引用商標を連想するか否かは、上記の引用商標の強い識別力等を前提にして、個別具体的に判断するほかはない。
 3.本願商標がその指定商品の取引者、需要者によって「PALM SPRINGS」にある「ポロ競技のクラブ」と認識されるために、「PALM SPRINGS POLO CLUB」が実在することは、不可欠の前提ではない。 /知的財産権/無体財産権/工業所有権/意匠権/ポロ商標/
参照条文: /商標.4条1号15号/
全 文 h120127tokyoH54.html

東京高等裁判所 平成 11年 12月 16日 第6民事部 判決 ( 平成11年(行ケ)第290号 )
事件名:  審決取消請求事件<ROYAL PRINCE POLO CLUB商標>
要 旨
 1.「ROYAL PRINCE POLO CLUB」の欧文字を横書きした本願商標をその指定商品(時計
 その他本類に属する商品)に使用するときは、これに接する取引者・需要者はその構成中の「POLO」の文字に注目し、周知になっているラルフ・ローレンに係る「POLO」標章を想起し、該商品がラルフ・ローレン又は同人と組織的・経済的に何らかの関係を有する者の業務に係る商品であるかの如く出所の混同を生ずるおそれがある、と判断された事例。(登録拒絶査定を支持した審決を支持) (知的財産権/無体財産権/工業所有権/商標権/ポロ商標)
参照条文: /商標.4条1項15号/
全 文 h111216tokyoH8.html