最高裁判所 令和 4年 2月 7日 第2小法廷 判決 ( 令和3年(行ツ)第73号 )
事件名:  非認定処分取消請求・上告事件
要 旨
 専門学校を設置する法人(原告)が,あん摩マツサージ指圧師,はり師,きゆう師等に関する法律に基づき,あん摩マッサージ指圧師に係る養成施設で視覚障害者以外の者を養成するものについての認定を申請したところ,厚生労働大臣から,視覚障害者であるあん摩マッサージ指圧師の生計の維持が著しく困難とならないようにするため必要があるとして,同法19条1項の規定(本件規定)により上記認定をしない処分を受けたため,同規定は憲法22条1項等に違反して無効であると主張して,非認定処分の取消しを求める訴えを提起したが,同規定について,≪重要な公共の利益のために必要かつ合理的な措置であることについての立法府の判断が,その政策的,技術的な裁量の範囲を逸脱し,著しく不合理であることが明白である≫ということはできず,≪同規定が憲法22条1項に違反する≫ということはできないとされた事例。
 1.職業の自由に対する規制措置の適合性は,具体的な規制措置について,規制の目的,必要性,内容,これによって制限される職業の自由の性質,内容及び制限の程度を検討し,これらを比較考量した上で慎重に決定されなければならない
 1a.上記のような検討と考量をするのは,第一次的には立法府の権限と責務であり,裁判所としては,規制の目的が公共の福祉に合致するものと認められる以上,そのための規制措置の具体的内容及び必要性と合理性については,立法府の判断がその合理的裁量の範囲にとどまる限り,立法政策上の問題としてこれを尊重すべきものである。
 1b.立法府の合理的裁量の範囲については,裁判所は,具体的な規制の目的,対象,方法等の性質と内容に照らして,これを決すべきものである。
 1c.職業の許可制は,職業の自由に対する強力な制限であるから,その合憲性を肯定し得るためには,原則として,重要な公共の利益のために必要かつ合理的な措置であることを要する。
 2.本件規定の目的(障害のために従事し得る職業が限られるなどして経済的弱者の立場にある視覚障害がある者を保護するという目的)が公共の福祉に合致することは明らかである。
 2a.上記の目的のためにあん摩マッサージ指圧師について,その特性等に着目して,一定以上の障害がある視覚障害者の職域を確保すべく,視覚障害者以外の者等の職業の自由に係る規制を行う必要があるかどうかや,具体的にどのような規制措置が適切妥当であるかを判断するに当たっては,対象となる社会経済等の実態についての正確な基礎資料を収集した上,多方面にわたりかつ相互に関連する諸条件について,将来予測を含む専門的,技術的な評価を加え,これに基づき,視覚障害がある者についていかなる方法でどの程度の保護を図るのが相当であるかという,社会福祉,社会経済,国家財政等の国政全般からの総合的な政策判断を行うことを必要とし,このような規制措置の必要性及び合理性については,立法府の政策的,技術的な判断に委ねるべきものであり,裁判所は,基本的にはその裁量的判断を尊重すべきであり,立法府の判断が,その政策的,技術的な裁量の範囲を逸脱し,著しく不合理であることが明白な場合でない限り,憲法22条1項の規定に違反するものということはできない。
 3.視覚障害がある者の職業事情に加えて,視覚障害がある者にその障害にも適する職業に就く機会を保障することは,その自立及び社会経済活動への参加を促進するという積極的意義を有するといえること等も考慮すれば,視覚障害がある者について障害基礎年金等の一定の社会福祉施策が講じられていることを踏まえても,視覚障害がある者の保護という重要な公共の利益のため,あん摩マッサージ指圧師について一定以上の障害がある視覚障害者の職域を確保すべく,視覚障害者以外のあん摩マッサージ指圧師の増加を抑制する必要があるとすることをもって,不合理であるということはできない。
 3a.あん摩マッサージ指圧師に係る養成施設等で視覚障害者以外の者を対象とするものについての認定又はその生徒の定員の増加の承認をしないことができるものとすることは,規制の手段として相応の合理性を有する。
 3b.本件規定は,上記養成施設等の設置又はその生徒の定員の増加を全面的に禁止するものではなく,視覚障害者であるあん摩マッサージ指圧師の生計の維持が著しく困難とならないようにするため必要があると認めるときに限り非認定等の処分ができるとされ,かつ,当該処分の適正さを担保するための方策(医道審議会の意見の聴取)も講じられていること,視覚障害者以外の者は,既存の養成施設等において教育又は養成を受ければ,あん摩マッサージ指圧師国家試験に合格することにより,免許を受けることが可能であること,あん摩マッサージ指圧師に係る養成施設等で視覚障害者以外の者を対象とするものは,10都府県に合計21施設あり,その1学年の定員は合計1239人と相当数に及んでおり,その定員に対する受験者数の割合も著しく高いとまではいえないことからすれば,本件規定による上記の者の職業の自由に対する制限の程度は,限定的なものにとどまり,本件規定について,重要な公共の利益のために必要かつ合理的な措置であることについての立法府の判断が,その政策的,技術的な裁量の範囲を逸脱し,著しく不合理であることが明白であるということはできない。
参照条文: / あん摩マツサージ指圧師,はり師,きゆう師等に関する法律:19条1項/憲法:22条1項/
全 文 r040207supreme.html

最高裁判所 令和 4年 1月 28日 第2小法廷 判決 ( 令和2年(受)第1765号 )
事件名:  離婚等請求本訴,同反訴・上告事件
要 旨
 離婚に伴う慰謝料請求権について,それは婚姻関係を破綻させたことに反訴被告に責任があることを前提とするものであり,本件では,婚姻関係破綻時は平成29年民法改正の施行前であると認められるから,慰謝料として反訴被告が負担すべき損害賠償債務の遅延損害金の利率は,改正前の民法所定の年5分であるとした原判決が破棄され,請求権発生時期は離婚成立時であり,改正法施行後に離婚が成立するのであるから,遅延損害金の利率は改正後の民法404条2項所定の年3パーセントであるとされた事例。
 1.離婚に伴う慰謝料請求は,夫婦の一方が,他方に対し,その有責行為により離婚をやむなくされ精神的苦痛を被ったことを理由として損害の賠償を求めるものであり,このような損害は,離婚が成立して初めて評価されるものであるから,その請求権は,当該夫婦の離婚の成立により発生するものと解すべきである。
 1a.不法行為による損害賠償債務は,損害の発生と同時に,何らの催告を要することなく,遅滞に陥るものである。(先例の確認)
 1b.離婚に伴う慰謝料として夫婦の一方が負担すべき損害賠償債務は,離婚の成立時に遅滞に陥る。
 2.離婚訴訟の一方からの慰謝料請求について,それが婚姻関係の破綻を生ずる原因となった他方の個別の違法行為を理由とするものではない場合には,離婚に伴う慰謝料とは別に婚姻関係の破綻自体による慰謝料が問題となる余地はないというべきであり,離婚に伴う慰謝料を請求するものと解すべきであるとされた事例。
参照条文: /民法:404条;419条1項;709条/
全 文 r040128supreme.html

最高裁判所 令和 4年 1月 20日 第1小法廷 判決 ( 令和2年(あ)第457号 )
事件名:  不正指令電磁的記録保管被告事件・上告事件
要 旨
 Webサイトの運営者が,収入を得るために,仮想通貨(暗号資産)の取引履歴の承認作業等の演算をWebページの閲覧者のコンピュータにさせる指令を与える電磁的記録をサーバー内に蔵置し,閲覧者にその旨を告知していなかった場合に,サイト運営者の行為が「人が電子計算機を使用するに際してその意図に沿うべき動作をさせず,又はその意図に反する動作をさせるべき不正な指令を与える電磁的記録」(刑法168条の2第1項1号)を「保管した」(同168条の3)に該当するかが争われた事件において,この電磁的記録は,反意図性は認められるが,不正性は認められないとして,不正指令電磁的記録とは認められなかった事例。
 1.反意図性は,当該プログラムについて一般の使用者が認識すべき動作と実際の動作が異なる場合に肯定されるものと解するのが相当であり,一般の使用者が認識すべき動作の認定に当たっては,当該プログラムの動作の内容に加え,プログラムに付された名称,動作に関する説明の内容,想定される当該プログラムの利用方法等を考慮する必要がある。
 2.不正性は,電子計算機による情報処理に対する社会一般の信頼を保護し,電子計算機の社会的機能を保護するという観点から,社会的に許容し得ないプログラムについて肯定されるものと解するのが相当であり,その判断に当たっては,当該プログラムの動作の内容に加え,その動作が電子計算機の機能や電子計算機による情報処理に与える影響の有無・程度,当該プログラムの利用方法等を考慮する必要がある。
 2a. (1)不正指令が閲覧中に閲覧者の電子計算機の中央処理装置を一定程度使用することにとどまり,その使用の程度も,閲覧者の電子計算機の消費電力が若干増加したり中央処理装置の処理速度が遅くなったりするが,閲覧者がその変化に気付くほどのものではなかったこと, (2)ウェブサイトの運営者が閲覧を通じて利益を得る仕組みは,ウェブサイトによる情報の流通にとって重要であるところ本件プログラムコードは,そのような仕組みとして社会的に受容されている広告表示プログラムと比較しても,閲覧者の電子計算機の機能や電子計算機による情報処理に与える影響において有意な差異は認められず,事前の同意を得ることなく閲覧中に閲覧者の電子計算機を一定程度使用するという利用方法等の点についても社会的に許容し得る範囲内といえるものであること, (3)本件プログラムコードの動作の内容であるマイニング自体は,仮想通貨の信頼性を確保するための仕組みであり,社会的に許容し得ないものとはいい難いことを理由にして,不正性が否定された事例。
 /マイニング/Coinhive/コインハイブ/
参照条文: /刑法:168条の2;168条の3/
全 文 r040120supreme91.html

最高裁判所 令和 4年 1月 18日 第3小法廷 判決 ( 令和2年(受)第1518号 )
事件名:  損害賠償請求・上告事件
要 旨
 既存株主の株式の価値を著しく毀損する新株発行が既存株主に対する不法行為にあたるとされた場合に,その損害賠償債務の遅延損害金ついて民法405条の(類推)適用が否定された事例。
 1.民法405条(利息の元本への組入れ)は,債務者において著しく利息の支払を延滞しているにもかかわらず,その延滞利息に対して利息を付すことができないとすれば,債権者は,利息を使用することができないため少なからぬ損害を受けることになることから,利息の支払の延滞に対して特に債権者の保護を図る趣旨に出たものと解される。/法定重利/
 1a.遅延損害金であっても,貸金債務の履行遅滞により生ずるものについては,その性質等に照らし,民法405条の規定の趣旨が当てはまる。(前提の議論。先例の確認)
 1b.不法行為に基づく損害賠償債務の遅延損害金は,民法405条の適用又は類推適用により元本に組み入れることはできない。
参照条文: /民法:405条;419条;709条/
全 文 r040118supreme.html

最高裁判所 令和 3年 12月 22日 第2小法廷 決定 ( 令和3年(許)第4号,第5号,第6号 )
事件名:  令和3年(許)第4号,第5号,第6号
要 旨
 再生計画の決議が不正の方法によって成立するに至ったとまではいえないとされた事例。
 1.A社のB法人に対する債権について執行証書が作成された後にAについて民事再生手続が開始され、さらにBについても再生手続が開始され、Bの管財人がAの再生手続においてBのAに対する不当利得返還請求権を届け出て、その査定申立てをしたが、Bについても再生手続が開始され、AのBの前記執行証書記載の債権が届け出られ、Bの管財人がその全額を否認して、前記執行証書の執行力の排除を求める請求異議の訴えを提起したが、いずれについても勝訴の見込みがあると言えない場合に、Bの再生手続において管財人が再生計画案を提出し、その決議のための債権者集会の約3週間前にBの破産管財人が、裁判所の許可を得てAと、(1)Bの管財人が前記請求異議の訴えを取り下げた後、Aが本件再生計画案に賛成票を投ずること、(2)A・B間の債権債務関係を相互に同額の債権を有する関係に切り替えて相殺の方法により解決することを内容とする和解を締結し、この和解契約に従いAが賛成票を投ずることにより再生計画案が可決されて認可されたが、賛成者の債権額は再生債権の総額の61%であり、Aの債権額が再生債権総額の20%であったため、数人の再生債権者が民事再生法174条2項3号(再生計画の決議が不正の方法により成立するに至ったとき)等に該当する事由があると主張して、認可決定に対して即時抗をしたが、「本件和解契約の締結は,Aに一方的に有利なものではなく,Bにとっても合理性があるものであった」ということができ,「本件和解契約の内容,Bの置かれていた客観的状況に加え,本件和解契約の締結の経緯等にも照らせば,本件和解契約が専らAの議決権行使に影響を及ぼす意図で締結されたとまではいえない」から、「本件の事実関係の下において,本件再生計画の決議が不正の方法によって成立するに至ったとまではいえない」として、即時抗告に理由がないとされた事例。
参照条文: /民事再生法:174条2項3号;41条1項6号/
全 文 r031222supreme.html

最高裁判所 令和 3年 11月 30日 第3小法廷 決定 ( 令和2年(ク)第638号 )
事件名:  性別の取扱いの変更申立て却下審判に対する抗告棄却決定に対する特別抗告事件
要 旨
  ≪既に性別適合手術を終え,現在,身体的に女性となり,女性の名前に改名しており,精神的・身体的に女性であって,社会的にも女性として行動している者≫が,性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律により変更の審判を申し立てたが,未成年の子の存在を理由に認められなかった場合に,同法3条1項3号が変更審判が認められるための要件として「現に未成年の子がいないこと」を定めることが憲法の規定に違反しないとされた事例。
 1.性同一性障害者につき性別の取扱いの変更の審判が認められるための要件として「現に未成年の子がいないこと」を求める性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律3条1項3号の規定は,憲法13条,14条1項に違反するものでない。
参照条文: /性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律:3条1項3号/憲法:13条;14条1項/戸籍法:13条4号;20-4条/戸籍法施行規則:35条16号;39条1項9号/家事事件手続法:232条;別表第1第126項/
全 文 r031130supreme.html

最高裁判所 令和 3年 11月 2日 第3小法廷 判決 ( 令和2年(受)第1252号 )
事件名:  損害賠償請求・上告事件
要 旨
 交通事故の車両損害の賠償請求権の消滅時効は,身体損害の賠償請求権の消滅時効とは別個に進行を開始し、その起算点は被害者が身体傷害を含む事故による損害の全体を知った時からではないとされ,両方の損害の賠償を求める訴え提起前に車両損害の賠償請求権の消滅時効が完成していたとされた事例。
 1.交通事故の被害者の加害者に対する車両損傷を理由とする不法行為に基づく損害賠償請求権の短期消滅時効は,同一の交通事故により同一の被害者に身体傷害を理由とする損害が生じた場合であっても,被害者が,加害者に加え,上記車両損傷を理由とする損害を知った時から進行する。
 1a. 車両損傷を理由とする損害と身体傷害を理由とする損害とは,これらが同一の交通事故により同一の被害者に生じたものであっても,被侵害利益を異にするものであり,車両損傷を理由とする不法行為に基づく損害賠償請求権は,身体傷害を理由とする不法行為に基づく損害賠償請求権とは異なる請求権である。
参照条文: /民法:724条/
全 文 r031102supreme.html

最高裁判所 令和 3年 10月 28日 第1小法廷 決定 ( 令和2年(許)第44号 )
事件名:  財産分与申立て却下審判に対する抗告一部却下等決定に対する許可抗告事件
要 旨
 財産分与の審判の申立てを却下する審判に対し,当該申立ての相手方は即時抗告をすることができるとされた事例。(相手方自身も審判申立てをしていたが、その申立てが申立期間徒過を理由に却下された場合について)
 1.家事事件手続法156条5号は、財産分与の審判及びその申立てを却下する審判に対しては,当該審判の内容等の具体的な事情のいかんにかかわらず,夫又は妻であった者はいずれも当然に抗告の利益を有するものとして,これらの者に即時抗告権を付与したものである。
 /形式的不服説/新実質的不服説/
参照条文: /家事事件手続法:156条5号/民法:768条2項/
全 文 r031028supreme.html

最高裁判所 令和 3年 7月 19日 第2小法廷 判決 ( 令和1年(受)第1968号 )
事件名:  損害賠償請求・上告事件
要 旨
 監査役設置会社が,その監査役であった者に対し,その任務を怠ったことにより会社の従業員による継続的な横領の発覚が遅れて損害が生じたと主張して,会社法423条1項に基づき損害賠償を請求した事案において,原審が,≪会計限定監査役は,特段の事情のない限り,計算書類等に表示された情報が会計帳簿の内容に合致していることを確認していれば任務を怠ったとはいえない≫として請求を棄却したのに対し,上告審が,≪計算書類等に表示された情報が会計帳簿の内容に合致していることを確認しさえすれば,常にその任務を尽くしたといえるものではない≫として破棄差戻しの裁判をした事例。
 1.監査役は,会計帳簿の内容が正確であることを当然の前提として計算書類等の監査を行ってよいものではなく,会計帳簿が信頼性を欠くものであることが明らかでなくとも,計算書類等が会社の財産及び損益の状況を全ての重要な点において適正に表示しているかどうかを確認するため,会計帳簿の作成状況等につき取締役等に報告を求め,又はその基礎資料を確かめるなどすべき場合があるというべきである。
 1a.会計限定監査役にも,取締役等に対して会計に関する報告を求め,会社の財産の状況等を調査する権限が与えられていること(会社法389条4項,5項)などに照らせば,上記のことは会計限定監査役についても異なるものではない。
 1b. 会計限定監査役は,計算書類等の監査を行うに当たり,会計帳簿が信頼性を欠くものであることが明らかでない場合であっても,計算書類等に表示された情報が会計帳簿の内容に合致していることを確認しさえすれば,常にその任務を尽くしたといえるものではない。
参照条文: /会社法:389条;423条1項;436条1項/会社計算規則:121条2項;122条1項2号/会社計算規則(平成21年法務省令第7号による改正前のもの):149条2項;150条1項2号/
全 文 r030719supreme.html

最高裁判所 令和 3年 7月 5日 第2小法廷 判決 ( 令和1年(受)第2052号 )
事件名:  株主総会議事録閲覧謄写請求・上告事件
要 旨
 株式の併合により端株を有することになる株主が会社に対して株式買取請求をしたが,価格が調わないため価格決定の申立をした場合に,会社が会社法182条の5第5項に基づく支払をしたときであっても,買取価格が定まるまでは,株式買取請求者は,同法318条4項にいう債権者として,株主総会の議事録の閲覧謄写を請求することができるとされた事例。
 1.会社法182条の4第1項に基づき株式の買取請求をした者は,同法182条の5第5項に基づく支払を受けた場合であっても,上記株式の価格につき会社との協議が調い又はその決定に係る裁判が確定するまでは,同法318条4項にいう債権者に当たる。
参照条文: /会社法:182-4条1項;182-5条5項;318条4項/
全 文 r030705supreme.html

最高裁判所 令和 3年 6月 29日 第3小法廷 判決 ( 令和2年(受)第205号,同3年(オ)第577号 )
事件名:  報酬等請求本訴,不当利得返還請求反訴,民訴法260条2項の申立て・上告事件
要 旨
 訴外会社の専任の宅地建物取引士である者(原告)が,その人脈等を通じて得た情報を活用して取引を行うことを予定して新会社(被告・代表者y)を設立し,同社がyを専任の取引士として宅建業者としての免許を受けた後,原告がC所有不動産の売却案件について,Dを最終的な買主として選定し,被告を買主とする契約及び被告を売主としDを買主とする契約の取引事務を行うに際して,被告との間で両売買の差額から費用を控除した利益の内から名義借料を被告に支払い,残余を原告に帰属させる利益分配の合意をし,売買契約の履行後に原告が利益分配合意に基づく支払を被告に求めた事件において,原審はこの利益分配の合意は有効であるとしたが,最高裁は,≪この合意は名義借りの合意と一体のものと見るべきであり宅地建物取引業法12条1項及び13条1項の趣旨に反して無効である≫とした事例。
 1. 無免許者が宅地建物取引業を営むために宅建業者との間でするその名義を借りる旨の合意は,宅地建物取引業法12条1項及び13条1項の趣旨に反し,公序良俗に反するものである。
 1a.無免許者が宅地建物取引業を営むために宅建業者からその名義を借り,当該名義を借りてされた取引による利益を両者で分配する旨の合意は,名義を借りる旨の合意と一体のものとみるべきであり,同法12条1項及び13条1項の趣旨に反するものとして,公序良俗に反し,無効である。
参照条文: /宅地建物取引業法:12条1項;13条1項/民法(平成29年法律第44号による改正前のもの):90条/
全 文 r030629supreme.html

最高裁判所 令和 3年 4月 16日 第2小法廷 判決 ( 令和2年(受)第645号 )
事件名:  遺言有効確認請求・上告事件
要 旨
  Aの共同相続人XとYとの間で,Xが提起した遺産の一部に関する前件訴訟において,Xが自己に遺産全部を相続させる旨のAの遺言の存在を主張したにもかかわらず時機に後れた攻撃防御方法であるとして却下され,Yが相続分を有することを前提とする判決が確定した後で,XがYを被告にして,前記遺言の有効確認を求める本件訴えを提起することが信義則に反するとはいえないとされた事例。
参照条文: /民事訴訟法:2条;2編1章/
全 文 r030416supreme.html

最高裁判所 令和 3年 3月 25日 第1小法廷 判決 ( 令和2年(受)第753号,第754号 )
事件名:  退職金等請求・上告事件
要 旨
 被共済者である母の死亡当時に父が母と事実上の離婚状態にあり,かつ,母が危急時遺言の方式によって推定相続人である父を廃除し,母と生活を共にしていた子に全ての遺産を相続させる旨の遺言をしていた場合に,中小企業退職金共済法による死亡退職金の受給権者は子であるとされた事例。
 1.中小企業退職金共済法14条の遺族の範囲及び順位の定めは,被共済者の収入に依拠していた遺族の生活保障を主な目的として,民法上の相続とは別の立場で受給権者を定めたものと解される。
 1a.被共済者の 死亡による退職金の受給権者である遺族の範囲は,社会保障的性格を有する公的給付の場合と同様に,家族関係の実態に即し,現実的な観点から理解すべきであって,遺族である配偶者については,死亡した者との関係において,互いに協力して社会通念上夫婦としての共同生活を現実に営んでいた者をいう。(先例の確認)
 1b. 民法上の配偶者は,その婚姻関係が実体を失って形骸化し,かつ,その状態が固定化して近い将来解消される見込みのない場合,すなわち,事実上の離婚状態にある場合には,中小企業退職金共済法14条1項1号にいう配偶者に当たらないず,このことは,民法上の配偶者のほかに事実上婚姻関係と同様の事情にあった者が存するか否かによって左右されるものではない。
 2.JPP基金規約に基づく遺族給付金についても同様である。
参照条文: /中小企業退職金共済法:14条/
全 文 r030325supreme.html

最高裁判所 令和 3年 3月 18日 第1小法廷 決定 ( 令和2年(許)第10号 )
事件名:  検証物提示命令に対する抗告棄却決定に対する許可抗告事件
要 旨
 動画配信サービス等のウェブサイトの管理運営者X(抗告の相手方)が顧客からの問合せ用フォームを通じて脅迫的表現を含む匿名の電子メールを受信したが,それはY(抗告人)の管理する電気通信設備を用いて送信されたものであったため,メールの送信者に対する損害賠償請求訴訟を提起する予定であり,送信者の氏名,住所等の送信者情報が記録又は記載された記録媒体等(電磁的記録媒体又は文書)についてあらかじめ証拠調べをしておかなければその証拠を使用することが困難となる事情があると主張し,提訴前における証拠保全として,記録媒体等につき検証の申出をするとともにYに対する検証物提示命令の申立てをしたが,認められなかった事例。
 1.電気通信事業従事者等は,民訴法197条1項2号の類推適用により,職務上知り得た事実で黙秘すべきものについて証言を拒むことができる。
 1a.民訴法197条1項2号所定の「黙秘すべきもの」とは,一般に知られていない事実のうち,法定専門職従事者等に職務の遂行を依頼した者が,これを秘匿することについて,単に主観的利益だけではなく,客観的にみて保護に値するような利益を有するものをいう。(先例の確認)
 1b. 電気通信の送信者は,当該通信の内容にかかわらず,送信者情報を秘匿することについて,単に主観的利益だけではなく,客観的にみて保護に値するような利益を有し,このことは,送信者情報について電気通信事業従事者等が証人として尋問を受ける場合と,送信者情報が記載され,又は記録された文書又は準文書について電気通信事業者に対する検証物提示命令の申立てがされる場合とで異なるものではない。
 1c.電気通信事業者は,その管理する電気通信設備を用いて送信された通信の送信者情報で黙秘の義務が免除されていないものが記載され,又は記録された文書又は準文書について,当該通信の内容にかかわらず,検証の目的として提示する義務を負わない。 /法定専門職従事者/証言拒絶権/文書提出命令/
参照条文: /民事訴訟法:197条1項2号;220条4号ハ;232条2項;234条/電気通信事業法:4条/
全 文 r030318supreme.html

最高裁判所 令和 3年 2月 24日 大法廷 判決 ( 令和元年(行ツ)第222号,同年(行ヒ)第262号 )
事件名:  固定資産税等課税免除措置取消(住民訴訟)請求・上告事件
要 旨
 那覇市がその管理する都市公園内に儒教の祖である孔子等を祀った久米至聖廟を設置することを一般社団法人(被告補助参加人)に許可した上で,その敷地の使用料の全額を免除した当時の市長の行為は,憲法の定める政教分離原則に違反し,無効であり,那覇市長(被告)が参加人に対して平成26年4月1日から同年7月24日までの間の公園使用料181万7063円を請求しないことが違法に財産の管理を怠るものであると主張して,市の住民(原告)が,被告を相手に,地方自治法242条の2第1項3号に基づき上記怠る事実の違法確認を求める住民訴訟において,本件免除は,市と宗教との関わり合いが,我が国の社会的,文化的諸条件に照らし,信教の自由の保障の確保という制度の根本目的との関係で相当とされる限度を超えるものとして,憲法20条3項の禁止する宗教的活動に該当するとされた事例。(本件免除が憲法20条1項後段,89条に違反するか否かについては,判断するまでもないされた)
 1.(憲法所定の政教分離原則の意義)
 
 憲法は,20条1項後段,3項,89条において,政教分離原則に基づく諸規定(政教分離規定)を設けているところ,一般に,政教分離原則とは,国家(地方公共団体を含む)の非宗教性ないし宗教的中立性を意味するものとされている。
 1a. (信教の自由の確保手段としての政教分離規定)
 
 各種の宗教が多元的,重層的に発達,併存してきている我が国において,信教の自由を確実に実現するためには,単に信教の自由を無条件に保障するのみでは足りず,国家といかなる宗教との結び付きをも排除するため,政教分離規定を設ける必要性が大であった。
 1b. (政教分離規定に違反するか否かの判断枠組み)
 
 国家と宗教との関わり合いには種々の形態があり,およそ国家が宗教との一切の関係を持つことが許されないというものではなく,政教分離規定は,その関わり合いが我が国の社会的,文化的諸条件に照らし,信教の自由の保障の確保という制度の根本目的との関係で相当とされる限度を超えるものと認められる場合に,これを許さないとするものであると解される。
 1c.(土地使用料の免除の場合の考慮要素──社会通念に照らした総合判断)
 
 国又は地方公共団体が,国公有地上にある施設の敷地の使用料の免除をする場合においては,当該施設の性格や当該免除をすることとした経緯等には様々なものがあり得ることが容易に想定されるところであり,例えば,一般的には宗教的施設としての性格を有する施設であっても,同時に歴史的,文化財的な建造物として保護の対象となるものであったり,観光資源,国際親善,地域の親睦の場などといった他の意義を有していたりすることも少なくなく,それらの文化的あるいは社会的な価値や意義に着目して当該免除がされる場合もあり得,これらの事情のいかんは,当該免除が,一般人の目から見て特定の宗教に対する援助等と評価されるか否かに影響するものと考えられるから,政教分離原則との関係を考えるに当たっても重要な考慮要素とされるべきものであり,したがって,当該免除が,前記諸条件に照らし,信教の自由の保障の確保という制度の根本目的との関係で相当とされる限度を超えて,政教分離規定に違反するか否かを判断するに当たっては,当該施設の性格,当該免除をすることとした経緯,当該免除に伴う当該国公有地の無償提供の態様,これらに対する一般人の評価等,諸般の事情を考慮し,社会通念に照らして総合的に判断すべきである。
 2.久米至聖廟は,その外観等(孔子像や神位の配置,家族繁栄や学業成就等を祈願する人々の参拝を受けていること,大成殿の香炉灰が封入された「学業成就(祈願)カード」の販売),施設内で行われる釋奠祭禮の性格(供物を並べて孔子の霊を迎え,上香,祝文奉読等をした後にこれを送り返すというものであることに鑑みると,その霊の存在を前提として,これを崇め奉るという宗教的意義を有する儀式であること),及び明治期以降の歴史的経緯に照らすと,宗教性を肯定することができ,その程度も軽微とはいえない,と認定された事例。
 3.補助参加人が控訴を提起した後に被参加人が提起した控訴は,二重上訴であって不適法であるから,却下すべきであるとされた事例。
 /二重控訴/
参照条文: /憲法:20条3項/地方自治法:242-2条1項3号/民事訴訟法:45条1項;290条/
全 文 r030224supreme.html

最高裁判所 令和 3年 1月 26日 第3小法廷 判決 ( 令和元年(受)第984号 )
事件名:  不当利得返還請求・上告事件
要 旨
 1.債権者が会社に金銭を貸し付けるに際し,社債の発行に仮託して,不当に高利を得る目的で当該会社に働きかけて社債を発行させるなど,社債の発行の目的,募集事項の内容,その決定の経緯等に照らし,当該社債の発行が利息制限法の規制を潜脱することを企図して行われたものと認められるなどの特段の事情がある場合を除き,社債には利息制限法1条の規定は適用されない。
参照条文: /利息制限法:1条/会社法:2条23号;4編/
全 文 r030126supreme.html

最高裁判所 令和 3年 1月 22日 第3小法廷 判決 ( 令和元年(受)第861号 )
事件名:  取立債権請求・上告事件
要 旨
 1.土地の売買契約の買主は,債務履行を求めるための訴訟の提起・追行又は保全命令若しくは強制執行の申立てに関する事務を弁護士に委任した場合であっても,売主に対し,これらの事務に係る弁護士報酬を債務不履行に基づく損害賠償として請求することはできない。
参照条文: /民法:415条1項/
全 文 r030122supreme.html

最高裁判所 令和 3年 1月 22日 第2小法廷 判決 ( 令和元年(行ヒ)第393号 )
事件名:  裁決取消等請求・上告事件
要 旨
 地方公営企業法の適用のある病院事業について管理者が置かれていて、診療記録等の開示請求に対して病院事業管理者がなんらの処分をしないという不作為をし、この不作為(管理者不作為)に対する審査請求が知事に対してなされたが、知事が裁決することなく管理者が審査請求を却下する裁決をした場合に、(a)同裁決の取消訴訟及び管理者不作為を理由とする国家賠償法による損害賠償訴訟が提起されたが、そのいずれについても被告(兵庫県)を代表するのは同管理者であり、知事ではないとされ、訴えが却下された事例(訴状の補正が第一審裁判所により命じられたが、原告が補正しなかった場合の事例);
 (b)知事が管理者の上級行政庁に当たることを前提にして、知事に対する審査請求について知事が裁決をしなかったという不作為の違法確認の訴えが提起されたが、開示決定等に関し知事が管理者に対して指揮監督権を有する旨の規定が存在しないから、前記不作為及びその後の裁決について知事は管理者の上級行政庁には当たらないとされ、知事はこの審査請求について応答義務を負わず、この審査請求をもって原告が知事に対して法令に基づく申請をしたということはできないとして、訴えが却下された事例(知事が本件審査請求を認容する裁決をすることの義務付けを求める訴えも同様に却下)。
 1.地方公営企業法の定めによれば,管理者は,原則として地方公営企業の業務の執行に関し地方公共団体を代表するものとされ(同法8条1項),地方公共団体の長は,管理者に対し,同法16条所定の場合に限って必要な指示をすることができるにとどまるものとされている(同条)から,同法は,地方公営企業の業務の執行を原則として管理者に委ねているものと解され,その業務の執行に関し管理者が当該地方公共団体の代表権を有する場合には,当該地方公共団体の長はその代表権を有しない。
 1a.本件の病院事業管理者は,「個人情報の保護に関する条例」において保有個人情報に係る開示決定等をする権限を与えられているところ,その権限を行使しないという管理者の不作為は,病院事業の業務の執行に関するものといえ,この管理者不作為についての審査請求に対してされた本件裁決(管理者による審査請求却下の裁決)も,これと同様であるといえるから,本件訴えのうち裁決取消請求及び管理者の不作為を理由とする慰謝料請求に係る部分につき応訴することは,病院事業の業務の執行に関するものと解される。
 2.地方公共団体の長は,地方公営企業法における管理者に対し,同法16条所定の場合に限って必要な指示をすることができるにとどまり,地方公共団体の長の管理者に対する一般的指揮監督権は排除されているものと解され、また,本件管理者による開示決定等に関し,知事が本件管理者に対して指揮監督権を有する旨の法令の定めも存しないから,「個人情報の保護に関する条例」に基づく開示請求に対する本件管理者の不作為について,知事は,指揮監督権を有せず,これを是正する職責や権限を有しないから,本件管理者の上級行政庁には当たらない。
 2a. 不作為の違法確認の訴え(行政事件訴訟法3条5項)は,違法の確認を求める不作為に係る行政庁(不作為庁)に対して法令に基づく申請をした者に限り,提起することができるものである(同法37条)。
 2b.管理者の不作為についての本件審査請求は,審査庁を知事と記載した審査請求書を知事に宛てて提出することによりされたものの,本件では、管理者不作為についての審査請求をすべき行政庁である管理者に対してされた審査請求であるとの整理がされ,管理者により本件裁決をするという取扱いがされたことからすれば,管理者の不作為についての審査請求は,管理者に対してされたものとみるべきであり,知事は審査請求に対する応答義務を負うものとは解されず,本件審査請求をもって,原告が不作為庁である知事に対して法令に基づく申請をしたということはできないから、本件の知事の不作為の違法確認を求める訴えは不適法であり,その不備を補正することができない。
 3.訴えが不適法でその不備を補正することができない場合に、訴えを適法とした控訴審判決を上告審が破棄して自判をするに際して、口頭弁論を経ないで判決するとされた事例。
参照条文: /民事訴訟法:140条/地方公営企業法:8条1項;16条/行政事件訴訟法:3条5項;3条6項;37条/個人情報の保護に関する条例(平成8年兵庫県条例24号):2条4号;14条20条/
全 文 r30122supreme2.html

最高裁判所 令和 3年 1月 18日 第1小法廷 判決 ( 平成31年(受)第427号,第428号 )
事件名:  遺言無効確認請求本訴,死因贈与契約存在確認等請求反訴・上告事件
要 旨
 1.自筆証書によって遺言をするには,真実遺言が成立した日の日付を記載しなければならない(先例の確認)
 1a.民法968条1項が,自筆証書遺言の方式として,遺言の全文,日付及び氏名の自書並びに押印を要するとした趣旨は,遺言者の真意を確保すること等にあるところ,必要以上に遺言の方式を厳格に解するときは,かえって遺言者の真意の実現を阻害するおそれがある。
 1b.遺言者が,入院中の平成27年4月13日に遺言の全文,同日の日付及び氏名を自書し,退院して9日後の同年5月10日に押印した場合に,遺言書に真実遺言が成立した日(押印がされて遺言が完成した5月10日)と相違する日の日付(4月13日)が記載されているからといって直ちに本件遺言が無効となるものではないとされた事例。
 2.本訴請求(遺言無効確認請求)が認容される場合に備えて、予備的に反訴請求(死因贈与契約存在確認等請求)が提起され、原審が本訴請求を認容するとともに反訴請求についても裁判した場合に、上告審が本訴請求認容部分を破棄して差し戻すときは、反訴に係る部分についても当然に原判決は破棄差戻しを免れない。
参照条文: /民法:968条1項/
全 文 r030118supreme.html

最高裁判所 令和 3年 1月 12日 第3小法廷 判決 ( 令和元年(受)第1166号 )
事件名:  損害賠償等請求・上告事件
要 旨
 1.債権の仮差押えを受けた仮差押債務者は,債権の処分を禁止されるから,仮差押債務者がその後に第三債務者との間で当該債権の金額を確認する旨の示談をしても,仮差押債務者及び第三債務者は,仮差押債権者を害する限度において,示談をもって仮差押債権者に対抗することができない。(対抗できないとされた事例)
 1a.被保全債権及び仮差押債権が不法行為に基づく損害賠償請求権であることや,示談金額が損害賠償金として社会通念上相当な額であることなどは、上記の判断を左右するものではない。
参照条文: /民事保全法:50条1項/
全 文 r030112supreme.html

最高裁判所 令和 2年 12月 22日 第3小法廷 判決 ( 平成30年(受)第1961号 )
事件名:  損害賠償請求・上告事件
要 旨
 株式会社エフオーアイ(本件会社)の株式を取得した者又はその承継人らが,本件会社が東証マザーズへの上場に当たり提出した有価証券届出書に架空売上げの計上による虚偽の記載があったなどと主張して,本件会社等と元引受契約を締結していた金融商品取引業者のうち主幹事会社であったみずほインベスターズ証券株式会社を吸収合併した被告に対し,金融商品取引法21条1項4号に基づく損害賠償を請求した場合に,被告が同条2項3号による免責を主張したが、上告審により免責が否定された事例。
 1.金商法21条2項3号は,同条1項4号に基づく損害賠償責任について元引受業者が免責を受けるためには,財務計算部分以外の部分に虚偽記載等がある場合には相当な注意を用いたにもかかわらず当該虚偽記載等を知ることができなかったことを証明すべきものとする一方,財務計算部分に虚偽記載等がある場合には当該虚偽記載等について知らなかったことを証明すべきものとする旨規定したものである。
 1a. 財務計算部分に虚偽記載等がある場合についての金商法21条2項3号の規定は,独立監査人との合理的な役割分担の観点から,元引受契約を締結しようとする金融商品取引業者等が財務計算部分についての独立監査人による監査を信頼して引受審査を行うことを許容したものであり,当該金融商品取引業者等にとって監査が信頼し得るものであることを当然の前提とする。
 1b.財務計算部分に虚偽記載等がある場合に,元引受業者が引受審査に際して監査の信頼性の基礎に重大な疑義を生じさせる情報に接していたときには,元引受業者は,当該疑義の内容等に応じて,監査が信頼性の基礎を欠くものではないことにつき調査確認を行ったものでなければ,金商法21条1項4号の損害賠償責任につき,同条2項3号による免責を受けることはできない 。
 1c. 上場予定会社の粉飾決算を指摘し対処を求める内容の匿名の投書を受け取ったことにより,元引受業者である被告は,財務諸表についての会計士による監査の信頼性の基礎に重大な疑義を生じさせる情報に接していたものというべきであり、これについて被告は、投書による疑義の内容等に応じて調査確認を行ったとみることはできないとして、免責が否定された事例。
参照条文: /金融商品取引法:21条1項4号;21条2項3号/
全 文 r021222supreme.html

最高裁判所 令和 2年 9月 18日 第2小法廷 判決 ( 平成31年(受)第310号 )
事件名:  管理費等反訴請求・上告事件
要 旨
 マンションの一区画の共有持分について強制競売手続が開始され、管理組合が区分所有法7条1項の先取特権を主張して管理費・修繕積立金等の滞納分の配当要求をしたが、強制競売手続が取下げにより終了した場合に、配当要求による時効中断効が生ずるためには、「債務者が上記配当要求債権についての配当異議の申出等をすることなく配当等が実施されるに至ったこと」が必要であるとした原判決が破棄され、「法定文書(民執法181条1項各号に掲げる文書)により先取特権の存在が競売手続において証明されれば足りる」とされた事例。
 1.不動産競売手続において区分所有法7条1項の先取特権を有する債権者が配当要求をしたことにより,配当要求債権について差押え(平成29年法律第44号による改正前の民法147条2号)に準ずるものとして消滅時効の中断の効力が生ずるためには,法定文書(民執法181条1項各号に掲げる文書)により上記債権者が先取特権を有することが競売手続において証明されれば足り,債務者が配当要求債権についての配当異議の申出等をすることなく配当等が実施されるに至ったことを要しない。 /団地建物所有者団体/時効完成猶予/時効更新/
参照条文: /民事執行法:51条1項/建物の区分所有等に関する法律:7条1項;66条/民法:147条2号/
全 文 r020918supreme.html

最高裁判所 令和 2年 9月 11日 第2小法廷 判決 ( 平成30年(受)第2064号 )
事件名:  請負代金請求本訴,建物瑕疵修補等請求反訴・上告事件
要 旨: 請負代金請求の本訴に対して瑕疵修補に代わる損害賠償請求の反訴が提起された場合に、反訴被告が本訴請求債権にを自働債権とする相殺の抗弁を提出することが許されるとされた事例。
 1.請負人の注文者に対する請負代金債権と注文者の請負人に対する瑕疵修補に代わる損害賠償債権は,同時履行の関係にあるとはいえ,相互に現実の履行をさせなければならない特別の利益があるものとはいえず,両債権の間で相殺を認めても,相手方に不利益を与えることはなく,むしろ,相殺による清算的調整を図ることが当事者双方の便宜と公平にかない,法律関係を簡明にするものであるといえる。(先例の確認)
 1a.(弁論分離の不許)
 請負代金債権と瑕疵修補に代わる損害賠償債権の関係に鑑みると,両債権の一方を本訴請求債権とし,他方を反訴請求債権とする本訴及び反訴が係属している場合に,反訴被告から,本訴請求債権を自働債権とし,反訴請求債権を受働債権とする相殺の抗弁が主張されたときに,これらの本訴と反訴の弁論を分離すると,本訴請求債権の存否等に係る判断に矛盾抵触が生ずるおそれがあり,また,審理の重複によって訴訟上の不経済が生ずるため,このようなときには,両者の弁論を分離することは許されないというべきである。
 1b.(本訴請求債権を自働債権とし反訴請求債権を受働債権とする相殺の抗弁が許される場合)
 上記2aの場合に弁論の分離が許されないことを前提にするならば、本訴及び反訴が併合して審理判断される限り,上記相殺の抗弁について判断をしても,上記のおそれ等はないのであるから,上記相殺の抗弁を主張することは,重複起訴を禁じた民訴法142条の趣旨に反するものとはいえない。
 1c.(判旨)
 
 請負契約に基づく請負代金債権と同契約の目的物の瑕疵修補に代わる損害賠償債権の一方を本訴請求債権とし,他方を反訴請求債権とする本訴及び反訴が係属中に,本訴原告が,反訴において,上記本訴請求債権を自働債権とし,上記反訴請求債権を受働債権とする相殺の抗弁を主張することは許される。
 2.請負代金債権を自働債権として瑕疵修補に代わる損害賠償債権と相殺する旨の意思表示をした場合,注文者は,請負人に対する相殺後の請負残代金債務について,相殺の意思表示をした日の翌日から履行遅滞による責任を負う。(先例の確認)
参照条文: /民事訴訟法:114条2項;142条;152条;157条/
全 文 r020911supreme..html

最高裁判所 令和 2年 9月 8日 第3小法廷 判決 ( 平成31年(受)第61号 )
事件名:  請負代金請求・上告事件
要 旨
 請負人が資金繰りに窮して工事続行が困難である旨を注文者に相談した日より2箇月以上から7箇月以上前に別々に締結された4件の工事請負契約中に違約金条項(請負人の責めに帰すべき事由により工事を完成しないときは、注文者は契約を解除することができ、報酬額の1割に相当する額を違約金とする)が含まれていて、注文者が請負人の支払停止を知った後・破産手続開始前3日までに未完成工事契約(3件)を解除して違約金債権を取得した場合に、請負人の破産管財人が報酬債権(完成済工事の報酬債権及び未完成工事の出来高報酬債権)の支払を請求したのに対し、注文者が違約金債権との相殺を主張し、原審は報酬債権と違約金債権が同一契約に基づく範囲でのみ相殺を認めたのに対し、上告審が同一契約に基づかない場合でも相殺できるとした事例
 1.破産法は,破産債権についての債権者間の公平・平等な扱いを基本原則とする破産手続の趣旨が没却されることのないよう,72条1項3号本文において,破産者に対して債務を負担する者において支払の停止があったことを知って破産者に対して破産債権を取得した場合にこれを自働債権とする相殺を禁止する一方,同条2項2号において,上記破産債権の取得が「支払の停止があったことを破産者に対して債務を負担する者が知った時より前に生じた原因」に基づく場合には,相殺の担保的機能に対するその者の期待は合理的なものであって,これを保護することとしても,上記破産手続の趣旨に反するものではないことから,相殺を禁止しないこととしているものと解される。
 1a.本件各違約金債権の取得は,破産法72条2項2号に掲げる「支払の停止があったことを破産者に対して債務を負担する者が知った時より前に生じた原因」に基づく場合に当たり,本件各違約金債権を自働債権,本件各報酬債権を受働債権とする相殺は,自働債権と受働債権とが同一の請負契約に基づくものであるか否かにかかわらず,許されるとされた事例。
参照条文: 破産法:72条1項3号;72条2項2号/
全 文 r020908suprem.html

最高裁判所 令和 2年 9月 7日 第2小法廷 判決 ( 平成31年(受)第619号 )
事件名:  特許権侵害による損害賠償債務不存在確認等請求・上告事件
要 旨
 原告Xが,第三者である参加人Sの被告Yに対する債務の不存在の確認を求める訴えについて、原告Xの権利又は法的地位への危険又は不安を除去するために必要かつ適切であるということはできないとされた事例。
 XがYの特許権の本件通常実施権を得、特許に係る本件機械装置をYの競合会社であるSに販売し、Sが本件機械装置を使用して韓国内で本件製品を製造して日本及び米国に輸出したところ、Yが≪本件実施許諾契約にはXが本件通常実施権に基づいて製造した機械装置を上告人の競合会社に販売することを禁止する特約が付されていたから,Sによる本件各製品の製造販売はYの米国特許権を侵害するものである≫とを主張して、Sに対し損害賠償を求める訴訟(別件米国訴訟)を米国において提起し、その第1審で特許権侵害の主張が認められてSに対して損害賠償を命ずる判決が言い渡されたが、X・S間では≪Sが本件各機械装置を使用することに関して,第三者からの特許権の行使により損害を被った場合には,Xがその損害を補償する≫旨の本件補償合意がなされていた場合に、XがYに対して、SのYに対する損害賠償債務の不存在確認請求の訴えを提起し、SがXに補助参加したたが、本件訴えは確認の利益を欠くとして却下された事例。
 (原判決は、別件米国訴訟の第1審においてSに対して損害賠償を命ずる判決が言い渡されたこと等に照らすと,XのYに対する上記損害賠償請求に係る権利又は法的地位について現実の不安が生じているから確認の利益があるとしたが、破棄された)
 1.本件確認請求に係る訴えは,原告Xが,第三者である参加人Sの被告Yに対する債務の不存在の確認を求める訴えであり,たとえ本件確認請求を認容する判決が確定したとしても,その判決の効力はSとYとの間には及ばず,YがSに対して本件損害賠償請求権を行使することは妨げられず、また、YのSに対する損害賠償請求権の行使によりSが損害を被った場合に,XがSに対し本件補償合意に基づきその損害を補償し,その補償額についてYに対し本件実施許諾契約の債務不履行に基づく損害賠償請求をすることがあるとしても,実際にSの損害に対する補償を通じてXに損害が発生するか否かは不確実であるし,Xは,現実に同損害が発生したときに,Yに対して本件実施許諾契約の債務不履行に基づく損害賠償請求訴訟を提起することができるのであるから,本件損害賠償請求権が存在しない旨の確認判決を得ることが,原告Xの権利又は法的地位への危険又は不安を除去するために必要かつ適切であるということはできない。 /訴えの利益/客観的利益/確認の利益/即時確定の利益/
参照条文: /民法:415条;709条/民事訴訟法:2編1章;140条/特許法:78条/
全 文 r020907supreme.html

最高裁判所 令和 2年 9月 2日 第2小法廷 決定 ( 令和2年(ク)第275号,同年(許)第11号 )
事件名:  売却許可決定に対する執行抗告棄却決定に対する特別抗告及び許可抗告事件
要 旨
 最高価買受申出人に次ぐ高額の買受申出人が民事執行法71条4号に掲げる売却不許可事由を主張してなした最高価買受申出人への売却許可決定に対する執行抗告が.不適法として却下されべきであるとされた事例。
 1.民事執行法71条4号イに掲げる売却不許可事由(最高価買受申出人又はその背後者が65条1号の売却の適正な実施を妨害した者又はさせた者に該当すること)がある場合に,執行裁判所は,売却不許可決定をした上で,原則として,改めて売却実施処分から上記手続をやり直すべきであって,他の買受申出人は,上記最高価買受申出人に次いで高額の買受けの申出をしていたとしても,上記売却不許可決定がされることにより売却許可決定を受けることになるものではない。
 1a.民事執行法71条4号イに掲げる売却不許可事由があるにもかかわらず最高価買受申出人に対する売却許可決定がされ,これが確定したとしても,他の買受申出人は,原則として再度の売却手続において買受けの申出をする機会を得られないこととなるにすぎず,そのことをもって,上記売却許可決定により自己の権利が害されるもの(74条1項))とはいえない。
 1b. 担保不動産競売の手続において,最高価買受申出人が受けた売却許可決定に対し,他の買受申出人は,特段の事情のない限り,民事執行法71条4号イに掲げる売却不許可事由を主張して執行抗告をすることはできない。(特段の事由があるとは言えないとされた事例)
参照条文: /民事執行法:65条1号;71条4号イ;74条/
全 文 r020902supreme.html

最高裁判所 令和 2年 4月 7日 第3小法廷 判決 ( 平成31年(受)第606号 )
事件名:  不法行為による損害賠償請求・上告事件
要 旨
 建物の一部の明渡しを命ずる判決に基づく強制執行について,民事執行法42条1項所定の執行費用を支出した原告(被上告人)が,執行費用を被告(上告人)らによる本件建物部分の占有に係る共同不法行為による損害額及びこの損害賠償請求請求に係る弁護士費用相当額の合計177万4568円並びにこれに対する遅延損害金の連帯支払等を求めたが、棄却された事例。
 1.強制執行においてその申立てをした債権者が当該強制執行に要した費用のうち費用法2条各号に掲げられた費目のものについては,民事執行法42条2項により債務者から執行手続において取り立てるほかは専ら費用額確定処分を経て取り立てることが予定されているというべきであって,これを当該強制執行における債務者に対する不法行為に基づく損害賠償請求において損害として主張することは許されない。 /手続の排他性/
参照条文: /民事執行法:42条/民事訴訟費用等に関する法律:2条/ (/民事執行法:168条/民事訴訟費用等に関する法律:2条3号/執行官法:1条1号;8条1項19号;9条1項/執行官の手数料及び費用に関する規則:11条/)
全 文 r020407supreme.html

最高裁判所 令和 1年 9月 19日 第1小法廷 判決 ( 平成30年(受)第1137号 )
事件名:  請求異議・上告事件
要 旨
 債権差押命令が第三債務者に送達されて差押えの効力が生じたが、執行債務者への送達が完了せずに10年以上が経過し、その間に執行債務者が差押えの事実を了知する機会がなかった場合でも、差押えによる時効中断効は妨げられないとされた事例。
 1.民法155条は,差押え等による時効中断の効力が中断行為の当事者及びその承継人に対してのみ及ぶとした同法148条の原則を修正して差押え等による時効中断の効力を当該中断行為の当事者及びその承継人以外で時効の利益を受ける者に及ぼす場合において,その者が不測の不利益を被ることのないよう,その者に対する通知を要することとした規定である。(先例の確認)
 1a.民法155条を「差押え等による時効中断の効力を当該中断行為の当事者又はその承継人に生じさせるために,その者が当該差押え等を了知し得る状態に置かれることを要するとする趣旨のものである」と解することはできない。 (その趣旨に解した原判決の破棄)
 2.債権執行における差押えによる請求債権の消滅時効の中断において,その債務者(執行債務者)は,中断行為の当事者にほかならないから,中断の効力が生ずるためには,その債務者が当該差押えを了知し得る状態に置かれることを要しない。(判旨)
参照条文: /民法:147条2項;148条;155条/民事執行法:145条3項;145条4項/
全 文 r010919supreme.html

知的財産高等裁判所 平成 31年 3月 6日 第3部 判決 ( 平成30年(ネ)第10053号,同年(ネ)第10072号 )
事件名:  育成者権侵害差止等請求控訴,同附帯控訴事件
要 旨
 種苗法に基づき品種登録されたしいたけの育成者権(登録第7219号)を有する原告が,被告らは,遅くとも平成23年8月頃以降,しいたけの種苗及びその収穫物を生産,譲渡等しているところ,これらの行為は本件育成者権を侵害するものであると主張して,被告に対し,{1}法33条1項に基づく前記種苗及びその収穫物の生産,譲渡等の差止め,{2}同条2項に基づく前記種苗等の廃棄,{3}法44条に基づく謝罪広告の新聞掲載,{4}共同不法行為に基づく損害額合計2億5063万6734円及びこれに対する訴状送達日の翌日である平成26年11月26日から支払済みまでの遅延損害金の支払を求めたが,891万6375円及び完済までの遅延損害金の損害賠償請求のみが認容された事例。
 1.原告が被告に送付にした侵害警告に対し,平成24年6月4日原告到達の回答書により,被告は,侵害行為が疑われる菌床を生産した中国法人3社と当該菌床の種菌を生産した中国法人2社のみならず,当該菌床を輸入・販売した日本法人の会社名と住所を回答しており,回答書の到達後は,原告は,「育成者権者等において,当該第三者が登録品種を利用している事実を知っており,かつ,育成者権者等が許諾等により権利行使することが法的に可能」であったといえ,種苗の段階で「権利を行使する適当な機会がなかった場合」に該当するとはいえないとされ,生産者栽培期間(培養80日,発生150日,計230日)を考慮して,平成24年9月から平成25年1月までの被告各しいたけの販売のうちその半量分と,平成25年2月以降に行われた被告各しいたけの販売は,法2条5項2号かっこ書の要件を満たさないものとして,同号本文の利用行為に該当せず,原告は被告に対し権利行使できないとされた事例。
 (/カスケイド原則/育成者権の段階的行使の原則/カスケード原則)
 2.原告の逸失利益の算定に際して,被告の譲渡数量(損害額算定の基礎となる譲渡数量)に原告のしいたけ1kg当たりの利益額152円を乗じた額を算出した上で,そのうち70%については,原告において「販売することができないとする事情」(種苗法34条1項ただし書)があったと認められ,7割が減じられた金額が原告(育成権者)の逸失利益額とされた事例。
参照条文: /種苗法:2条5項2号;33条;34条;35条;44条/
全 文 h310306chizaiH.html

東京地方裁判所 平成 31年 3月 1日 民事第40部 判決 ( 平成30年(ワ)第11967号 )
事件名:  損害賠償請求事件
要 旨
 1.不正競争防止法2条1項15号(信用を害する虚偽事実の告知・流布)の成立が認められた事例。
 1a. 印刷会社が食品メーカーからデザインを含めた包装フィルムの製造委託を受け,そのデザイン作成業務を社内のデザイナーにより,又は,社外のデザイナーに委託することにより行っている場合に,印刷会社とその委託を受けた社外デザイナー(デザイン業務全般等を請け負う個人事業主)との間に競争関係にあると認められた事例。
 1b.デザイン部門を有する印刷会社(原告)からの委託を受けて外部デザイナー(被告)が作成したデザインについて,それを原告の内部デザイナーが修正して原告が印刷した場合に,被告は,原告が修正を加えることを,その取引の当初から包括的に承諾していたと認定され,被告が原告の顧客に対して告知した事実(原告が被告デザインを無断で改変しているとの事実)は虚偽であると認定された事例。
 2.被告が原告の顧客に原告の信用を害する虚偽事実を含む書面を送付したのは,別訴の証拠収集のための正当な訴訟活動としてしたものであるから,同行為の違法性は阻却されると主張したが,「証拠収集の目的であっても,原告の顧客に対して虚偽の事実を告知することは社会的相当性の範囲を逸脱するものであり,被告の行為の違法性が阻却されるということはできない」とされた事例。 /訴訟物/民法709条の損害賠償請求権と不正競争防止法4条の損害賠償請求権との関係/
参照条文: /不正競争防止法:2条15号;4条/
全 文 h310301tokyoD.html

最高裁判所 平成 31年 1月 23日 第2小法廷 決定 ( 平成30年(許)第1号 )
事件名:  譲渡命令に対する執行抗告審の取消決定に対する許可抗告事件
要 旨
 相続財産が振替機関に開設された被相続人名義の口座に記録等がなされている振替株式等である場合に、共同相続人の一人を執行債務者にして、その共有持分について差押命令及び譲渡命令を発することができるかが問題となった事案において、社債等振替法は,振替株式等についての権利の帰属は振替口座簿の記録等により定まるものと規定し、かつ、共同相続人の一人の名義で開設される口座に共有持分の記録等をすることができなくても(制度的に認められていなくても)、その一事で執行債務者の共有持分の差押命令が違法であるということはできず、また、共有持分の譲渡命令を発することができないとはいえないとされた事例。
 1.被相続人名義の口座に記録等がされている振替株式等は,相続人の口座に記録等がされているものとみることができ、このことは,共同相続の場合であっても異ならない。
 1a.したがって,被相続人名義の口座に記録等がされている振替株式等が共同相続された場合において,その共同相続により債務者が承継した共有持分に対する差押命令は,当該振替株式等について債務者名義の口座に記録等がされていないとの一事をもって違法であるということはできない。
 2.共同相続された振替株式等につき共同相続人の1人の名義の口座にその共有持分の記録等をすることができないからといって,当該共有持分についての譲渡命令が確定した結果,当該譲渡命令による譲渡の効力が生じ得ないものとはいえない。
 2a.したがって,執行裁判所は,譲渡命令の申立てが振替株式等の共同相続により債務者が承継した共有持分についてのものであることから直ちに当該譲渡命令を発することができないとはいえない。
参照条文: /社債,株式等の振替に関する法律:66条;121条;128条1項;226条1項/民法:896条;898条/民事執行規則:150-2条;150-7条1項1号/
全 文 h310123supreme.html

最高裁判所 平成 31年 1月 22日 第3小法廷 決定 ( 平成30年(許)第7号 )
事件名:  文書提出命令申立てについてした決定に対する抗告審の取消決定等に対する許可抗告事件
要 旨
 大阪府警察の違法な捜査により傷害事件の被疑者として逮捕されたなどとして,大阪府に対し国家賠償法1条1項に基づき損害賠償を求める訴訟において,大阪府が所持する本件傷害事件の捜査に関する報告書等の各写し並びに上記の逮捕に係る逮捕状請求書,逮捕状請求の疎明資料及び逮捕状の各写しについて,民訴法220条1号ないし3号に基づき,文書提出命令の申立てをした事件において,申立てを却下した原決定が破棄されて差し戻された事例。
 1.民事訴訟の当事者が,民訴法220条3号後段の規定に基づき,刑訴法47条により原則的に公開が禁止される「訴訟に関する書類」に該当する文書の提出を求める場合においても,当該文書の保管者の上記裁量的判断は尊重されるべきであるが,当該文書が法律関係文書に該当する場合であって,その保管者が提出を拒否したことが,民事訴訟における当該文書を取り調べる必要性の有無,程度,当該文書が開示されることによる上記の弊害発生のおそれの有無等の諸般の事情に照らし,その裁量権の範囲を逸脱し,又はこれを濫用するものであると認められるときは,裁判所は,当該文書の提出を命ずることができる。
 (先例の確認)
 1a. 民事訴訟の当事者が,民訴法220条1号の規定に基づき,上記「訴訟に関する書類」に該当する文書の提出を求める場合においても,引用されたことにより当該文書自体が公開されないことによって保護される利益の全てが当然に放棄されたものとはいえないから,上記と同様に解すべきであり,当該文書が引用文書に該当する場合であって,その保管者が提出を拒否したことが,上記の諸般の事情に照らし,その裁量権の範囲を逸脱し,又はこれを濫用するものであると認められるときは,裁判所は,当該文書の提出を命ずることができる。
 2.刑事事件の捜査に関して作成された書類の写しで,それ自体もその原本も公判に提出されなかったものを,その捜査を担当した都道府県警察を置く都道府県が所持し,当該写しについて引用文書又は法律関係文書に該当するとして文書提出命令の申立てがされた場合においては,当該原本を検察官が保管しているときであっても,当該写しが引用文書又は法律関係文書に該当し,かつ,当該都道府県が当該写しの提出を拒否したことが,前記イの諸般の事情に照らし,その裁量権の範囲を逸脱し,又はこれを濫用するものであると認められるときは,裁判所は,当該写しの提出を命ずることができる。
 2a.≪原本は大阪地方検察庁の検察官が保管しており,刑訴法47条ただし書の規定によってこれを公にすることを相当と認めることができるか否かを決定する権限は当該検察官が有していて,相手方(大阪府警察を設置する大阪府)は,本件各原本の写しである本件各文書を公にすることを相当と認めることができるか否かを決定する権限を有しないというべきであるから,裁判所は,相手方に対して本件各文書の提出を命ずることができない≫とした原決定が破棄された事例。
参照条文: /民事訴訟法:220条1号;220条3号;220条4号ホ/刑事訴訟法:47条/
全 文 h310122supreme.html

最高裁判所 平成 31年 1月 18日 第2小法廷 判決 ( 平成29年(受)第2177号 )
事件名:  執行判決請求・上告事件
要 旨
 カリフォルニア州民事訴訟法上の欠席判決(デフォルト・ジャッジメント)に関し,原告が判決書の写しを添付した判決登録通知が誤った住所を宛先として普通郵便で発送したため、その通知が被告に届いたとはいえない場合に,民訴法118条3号にいう公の秩序に反することを理由に、第二審判決が執行判決請求を棄却したが、上告審が審理不尽を理由に破棄して差し戻した事例。
 1.外国判決に係る訴訟手続が我が国の採用していない制度に基づくものを含むからといって,その一事をもって直ちに上記要件を満たさないということはできないが,それが我が国の法秩序の基本原則ないし基本理念と相いれないものと認められる場合には,その外国判決に係る訴訟手続は,同条3号にいう公の秩序に反するというべきである。(先例の確認)
 2.外国判決に係る訴訟手続において,判決書の送達がされていないことの一事をもって直ちに民訴法118条3号にいう公の秩序に反するものと解することはできない。
 2a. 外国判決に係る訴訟手続において,当該外国判決の内容を了知させることが可能であったにもかかわらず,実際には訴訟当事者にこれが了知されず又は了知する機会も実質的に与えられなかったことにより,不服申立ての機会が与えられないまま当該外国判決が確定した場合,その訴訟手続は,我が国の法秩序の基本原則ないし基本理念と相いれないものとして,民訴法118条3号にいう公の秩序に反するということができる。
参照条文: /民事訴訟法:118条3号/民事執行法:22条6号;24条/
全 文 h310118supreme.html

最高裁判所 平成 30年 12月 21日 第2小法廷 判決 ( 平成29年(受)第1793号 )
事件名:  損害賠償請求・上告事件
要 旨
 1.弁護士会照会(弁護士法23条の2の照会)をした弁護士会が,その相手方に対し,当該照会に対する報告をする義務があることの確認を求める訴えは,確認の利益を欠くものとして不適法である。
参照条文: /弁護士法:23-2条/民事訴訟法:2編1章;140条/
全 文 h301221supreme.html

最高裁判所 平成 30年 12月 7日 第2小法廷 判決 ( 平成29年(受)第1124号 )
事件名:  不当利得返還等請求・上告事件
要 旨
 売買代金の額が期間ごとに算定される継続的な動産の売買契約に付された所有権留保の合意が、目的物の引渡しからその完済までの間,その支払を確保する手段を売主に与えるものであって,その限度で目的物の所有権を留保するものであると認定され、売買の目的である動産の所有権は、動産が買主に引き渡された後でも、売買代金が完済されるまで売主から買主に移転しないから、当該動産が買主とその貸金債権者(金融機関)との間で集合動産譲渡担保設定契約の対象となっている場合でも、貸金債権者は売主に対して譲渡担保権を主張することができないとされた事例。
 1.売買代金債権の支払を確保するために売主に所有権が留保されている場合には、代金の支払がなされるまでは、買主は売買の目的である動産の所有権を取得せず、当該動産が買主が他の債権者との間で締結した集合動産譲渡担保設定契約の対象になっている場合でも、譲渡担保権者は売主に対して譲渡担保権を主張することができない。
 1a.上記のことは、売主が買主に対して売買代金を支払うための資金を確保させる趣旨で動産の転売を包括的に承諾していたとしても、変わらない。
参照条文: /民法:176条;369条(譲渡担保);369条(所有権留保)/
全 文 h301207supreme.html

最高裁判所 平成 30年 10月 17日 大法廷 決定 ( 平成30年(分)第1号 )
事件名:  裁判官に対する懲戒申立て事件
要 旨
 東京高等裁判所所属裁判官が,ツイッター上の同裁判官の実名が付された自己のアカウントにおいて(同アカウントにおけるツイートが同裁判官によるものであることが不特定多数の者に知られている状況の下で),同裁判所で控訴審判決がされて確定した自己の担当外の事件である犬の返還請求等に関する民事訴訟についての報道記事を閲覧することができるウェブサイトにアクセスすることができるようにするとともに,「公園に放置されていた犬を保護し育てていたら,3か月くらい経って,もとの飼い主が名乗り出てきて,「返して下さい」/え?あなた?この犬を捨てたんでしょ? 3か月も放置しておきながら・・裁判の結果は・・」の文言を記載した投稿(本件ツイート)をして,上記訴訟を提起して犬の返還請求が認められた当事者の感情を傷つけたことは,裁判所法49条にいう「品位を辱める行状」に当たると判断され,裁判官分限法2条により、同裁判官に対する戒告処分がなされたた事例。
 1.裁判官は,職務を遂行するに際してはもとより,職務を離れた私人としての生活においても,その職責と相いれないような行為をしてはならず,また,裁判所や裁判官に対する国民の信頼を傷つけることのないように,慎重に行動すべき義務を負っている。(先例の確認)
参照条文: /裁判所法:49条/憲法:21条/裁判官分限法:2条/
全 文 h301017supreme.html

最高裁判所 平成 30年 10月 11日 第1小法廷 判決 ( 平成29年(受)第1496号 )
事件名:  各損害賠償請求・上告事件
要 旨
 1.金商法18条1項に基づく損害賠償請求訴訟において,請求権者の受けた損害につき,有価証券届出書の虚偽記載等によって生ずべき当該有価証券の値下がり以外の事情により生じたことが認められる場合に,当該事情により生じた損害の性質上その額を立証することが極めて困難であるときは,裁判所は,民訴法248条の類推適用により,口頭弁論の全趣旨及び証拠調べの結果に基づき,金商法19条2項の賠償の責めに任じない損害の額として相当な額を認定することができる。
参照条文: /金融商品取引法:18条;19条;22条の2/民事訴訟法:248条/
全 文 h301011supreme.html

京都地方裁判所 平成 30年 9月 14日 第4民事部 判決 ( 平成27年(ワ)第3147号 )
事件名:  損害賠償請求事件
要 旨
 1.外傷性てんかんに罹患していた従業員が使用者(株式会社)の業務の執行として会社所有自動車の運転中に,てんかん発作で意識を消失し,車両を車道から逸走させ,歩行者を次々とはねて死亡させた事故に関し,被害者の法定相続人である原告が,会社に対して自動車損害賠償法3条による責任及び民法709条・715条の責任を追及し、請求が認容された事例。
 1a.被害者の法定相続人が、自動車の運行供用者である会社の代表者個人に対して、外傷性てんかんに罹患していた従業員に運転をさせない義務があるにもかかわらずそれを怠ったことが不法行為に当たるとして損害の賠償を請求したが、代表者は、従業員がてんかんに罹患していることを知っていたとは認められないので、運転させない義務を負っていたとはいえないとして、請求が棄却された事例。
 1b. 外傷性てんかん罹患者の家族(母・父・姉)に対して、運転制止義務違反・雇主(運行供用者)への通報義務違反を理由とする損害賠償請求の訴えが提起されたが、家族が実際にした以上の制止義務も通報義務も負わないとされて、請求が棄却された事例。 /交通事故の加害車両の運行供用者(被告会社)に対する損害賠償請求訴訟手続が被告会社の破産管財人により破産債権確定訴訟手続として受継された事例/
参照条文: /自動車損害賠償法:3条/民法:709条;7014条;715条/破産法:127条/
全 文 h300914kyotoD.html

最高裁判所 平成 30年 7月 19日 第1小法廷 判決 ( 平成29年(受)第842号 )
事件名:  未払賃金請求・上告事件
要 旨
 いわゆる定額残業代の支払を法定の時間外手当の全部又は一部の支払とみなすことができないとした原判決が破棄された事例。
 1.雇用契約においてある手当が時間外労働等に対する対価として支払われるものとされているか否かは,雇用契約に係る契約書等の記載内容のほか,具体的事案に応じ,使用者の労働者に対する当該手当や割増賃金に関する説明の内容,労働者の実際の労働時間等の勤務状況などの事情を考慮して判断すべきである。
 1a. しかし,当該手当の支払によって割増賃金の全部又は一部を支払ったものといえるために,原審が判示するような事情(定額残業代を上回る金額の時間外手当が法律上発生した場合にその事実を労働者が認識して直ちに支払を請求することができる仕組み(発生していない場合にはそのことを労働者が認識することができる仕組み)が備わっており,これらの仕組みが雇用主により誠実に実行されているほか,基本給と定額残業代の金額のバランスが適切であり,その他法定の時間外手当の不払や長時間労働による健康状態の悪化など労働者の福祉を損なう出来事の温床となる要因がないこと)が認められることが必須であるとは解されない。
 1b.雇用契約書及び採用条件確認書並びに賃金規程において,月々支払われる所定賃金のうち業務手当が時間外労働に対する対価として支払われる旨が記載されている場合に、被告(使用者)の賃金体系においては,業務手当が時間外労働等に対する対価として支払われるものと位置付けられていたということができるとされ、さらに,原告(労働者)に支払われた業務手当は,1か月当たりの平均所定労働時間(157.3時間)を基に算定すると,約28時間分の時間外労働に対する割増賃金に相当するものであり,原告の実際の時間外労働等の状況と大きくかい離するものではないという事情の下で、原告に支払われた業務手当は,時間外労働等に対する対価として支払われるものとされていたと認められるから,業務手当の支払をもって,時間外労働等に対する賃金の支払とみることができるとされた事例。
参照条文: /労働基準法:37条/
全 文 h300719supreme.html

最高裁判所 平成 30年 7月 17日 第3小法廷 判決 ( 平成29年(受)第2212号 )
事件名:  放送受信料請求・上告事件
要 旨
 1.NHK(日本放送協会)との放送受信契約に基づく受信料債権は,一定の金銭を定期に給付させることを目的とする債権であり,定期金債権に当たる。
 1a. 放送法の規定により締結が強制される公共放送事業者(NHK)との受信契約に基づく受信料債権には,民法168条1項前段の規定は適用されない。
参照条文: /民法:168条1項前段/放送法:64条/
全 文 h300717supreme.html

最高裁判所 平成 30年 6月 1日 第2小法廷 判決 ( 平成29年(受)第442号 )
事件名:  地位確認等請求・上告事件
要 旨
 使用者(長澤運輸)と無期労働契約を締結して正社員として就労し、定年退職後に有期労働契約を締結して嘱託乗務員(バラセメントタンク車の乗務員)として引き続き就労していた原告等が、正社員との間に労働契約法20条に違反する労働条件の相違があると主張して,使用者に対し,主位的に,正社員に関する就業規則等が適用される労働契約上の地位にあることの確認を求めるとともに,労働契約に基づき,上記就業規則等により支給されるべき賃金と実際に支給された賃金との差額及びこれに対する遅延損害金の支払を求め,予備的に,不法行為に基づき,上記差額に相当する額の損害賠償金及びこれに対する遅延損害金の支払を求めたが、主位的請求は棄却され、また、予備的請求は、精勤手当及びこれを計算上の基礎に含めるべき時間外手当(正社員について超勤手当)についてのみ認容されるべきであるとされ、基本賃金(正社員について基本給)等に関する労働条件の相違については労働契約法20条にいう不合理とは認められないから棄却されるべきであるとされた事例。
 1.労働契約法20条は,有期契約労働者と無期契約労働者との労働条件に相違があり得ることを前提に,職務の内容,当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情を考慮して,その相違が不合理と認められるものであってはならないとするものであり,職務の内容等の違いに応じた均衡のとれた処遇を求める規定であると解される。
 1a. 本件使用者における嘱託乗務員及び正社員は,その業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度に違いはなく,業務の都合により配置転換等を命じられることがある点でも違いはないから,両者は,職務の内容並びに当該職務の内容及び配置の変更の範囲において相違はないと認定された事例。
 2. 有期契約労働者と無期契約労働者との労働条件の相違が不合理と認められるものであるか否かを判断する際に考慮されることとなる事情は,労働者の職務内容及び変更範囲並びにこれらに関連する事情に限定されるものではない。
 2a.有期契約労働者が定年退職後に再雇用された者であることは,当該有期契約労働者と無期契約労働者との労働条件の相違が不合理と認められるものであるか否かの判断において,労働契約法20条にいう「その他の事情」として考慮されることとなる事情に当たる 。
 3.有期契約労働者と無期契約労働者との個々の賃金項目に係る労働条件の相違が不合理と認められるものであるか否かを判断するに当たっては,両者の賃金の総額を比較することのみによるのではなく,当該賃金項目の趣旨を個別に考慮すべきである。
 3a.嘱託乗務員と正社員との職務内容及び変更範囲が同一であるといった事情を踏まえても,正社員に対して能率給及び職務給を支給する一方で,嘱託乗務員に対して能率給及び職務給を支給せずに歩合給を支給するという労働条件の相違は,不合理であると評価することができるものとはいえないから,労働契約法20条にいう不合理と認められるものに当たらない とされた事例。(住宅手当、家族手当、役付手当及び賞与が嘱託乗務員に支給されないことについても同じ)。
 3b.本件使用者における精勤手当は,その支給要件及び内容に照らせば,従業員に対して休日以外は1日も欠かさずに出勤することを奨励する趣旨で支給されるものであるということができ,嘱託乗務員と正社員との職務の内容が同一である以上,両者の間で,その皆勤を奨励する必要性に相違はないというべきであるから、正社員に対して精勤手当を支給する一方で,嘱託乗務員に対してこれを支給しないという労働条件の相違は,不合理であると評価することができるものであるから,労働契約法20条にいう不合理と認められるものに当たるとされた事例。
 3c.嘱託乗務員に精勤手当を支給しないことは,不合理であると評価することができるものに当たり,正社員の超勤手当の計算の基礎に精勤手当が含まれるにもかかわらず,嘱託乗務員の時間外手当の計算の基礎には精勤手当が含まれないという労働条件の相違は,不合理であると評価することができるものであるから,労働契約法20条にいう不合理と認められるものに当たるとされた事例。
 4.有期契約労働者と無期契約労働者との労働条件の相違が同条に違反する場合であっても,同条の効力により,当該有期契約労働者の労働条件が比較の対象である無期契約労働者の労働条件と同一のものとなるものではない。
 4a. 嘱託社員労働契約の内容となる本件再雇用者採用条件は,精勤手当について何ら定めておらず,嘱託乗務員に対する精勤手当の支給を予定していないような就業規則等の定めにも鑑みれば,嘱託乗務員が精勤手当の支給を受けることのできる労働契約上の地位にあるものと解することは,就業規則の合理的な解釈としても困難であるとされた事例。
 5.嘱託乗務員に精勤手当を支給しないことは労働契約法20条に違反するものであり、また、本件使用者が嘱託乗務員に精勤手当を支給しないという違法な取扱いをしたことについては,組合との団体交渉において嘱託乗務員の労働条件の改善を求められていたという経緯に鑑みても,過失があったというべきであり、嘱託乗務員は正社員であれば支給を受けることができた精勤手当の額に相当する損害を被ったということができるから、使用者は,上告人らに対し,不法行為に基づく損害賠償として,上記金額の損害賠償金及びこれに対する精勤手当の各支払期日から各支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払義務を負うとされた事例。(超勤手当(時間外手当)に係る予備的請求については、これを棄却した原判決を破棄して、審理を尽くさせるために差し戻した)
参照条文: /労働契約法:20条/民法:709条/
全 文 h300601supreme.html

最高裁判所 平成 30年 6月 1日 第2小法廷 判決 ( 平成28年(受)第2099号,第2100号 )
事件名:  未払賃金等支払請求上告事件、同附帯上告事件
要 旨
 1.労働契約法20条の規定は私法上の効力を有するものと解するのが相当であり,有期労働契約のうち同条に違反する労働条件の相違を設ける部分は無効となる。
 2.有期契約労働者と無期契約労働者との労働条件の相違が労働契約法20条に違反する場合であっても,同条の効力により有期契約労働者の労働条件が比較の対象である無期契約労働者の労働条件と同一のものとなるものではない。(労働契約に基づき正社員と同一の権利を有する地位にあることの確認請求の棄却,労働契約に基づく各種手当て支払請求の棄却)
 2a.(付加的理由)本件においては,正社員に適用される就業規則である正社員就業規則及び正社員給与規程と,契約社員に適用される就業規則である契約社員就業規則とが,別個独立のものとして作成されていること等にも鑑みれば,両者の労働条件の相違が同条に違反する場合に,正社員就業規則又は正社員給与規程の定めが契約社員に適用されることとなると解することは,就業規則の合理的な解釈としても困難である。
 3.労働契約法20条にいう「期間の定めがあることにより」とは,有期契約労働者と無期契約労働者との労働条件の相違が期間の定めの有無に関連して生じたものであることをいう。
 3a. 労働契約法20条にいう「不合理と認められるもの」とは,有期契約労働者と無期契約労働者との労働条件の相違が不合理であると評価することができるものであることをいう。(「合理的でないもの」と同義であると解すべきではない)。
 3b. 労働契約法20条にいう「不合理と認められるもの」とは,有期契約労働者と無期契約労働者との労働条件の相違が不合理であると評価することができるものであることをいい,両者の労働条件の相違が不合理であるか否かの判断は規範的評価を伴うものであるから,当該相違が不合理であるとの評価を基礎付ける事実については当該相違が同条に違反することを主張する者が,当該相違が不合理であるとの評価を妨げる事実については当該相違が同条に違反することを争う者が,それぞれ主張立証責任を負う。
 3c. 正社員に対して住宅手当を支給する一方で,契約社員に対してこれを支給しないという労働条件の相違は,不合理であると評価することができるものとはいえないから,労働契約法20条にいう不合理と認められるものに当たらないとされた事例。
 3d.正社員に対して皆勤手当,無事故手当,作業手当及び休職手当を支給する一方で,契約社員に対してこれらを支給しないという労働条件の相違,並びに,正社員と契約社員との間で通勤手当の金額が異なるという労働条件の相違は,不合理であると評価することができるものであるから,労働契約法20条にいう不合理と認められるものに当たるとされ,損害賠償請求が認容された事例。
参照条文: /労働契約法:20条/民法:709条/
全 文 h300601supreme2.html

名古屋高等裁判所 平成 30年 5月 10日 民事第3部 判決 ( 平成29年(ネ)第696号 )
事件名:  査定に対する異議控訴事件
要 旨
 1.老人保健法(平成18年改正後:高齢者の医療の確保に関する法律)に基づいて医療法人に対して診療報酬の支払をしていた市町村が,当該医療法人に対して有する{1}過誤請求・不正請求に係る診療報酬の返還請求権,{2}同法42条3項に定める加算金の請求権は,いずれも私法上の金銭債権であり,その消滅時効期間については,地方自治法236条1項の適用はなく,民法167条1項により10年である。
 1a.普通地方公共団体の有する金銭債権の消滅時効につき地方自治法又は民法のいずれの規定が適用されるかは,当該債権が公法上の金銭債権であるときは地方自治法の時効に関する規定が,私法上の金銭債権であるときは民法の時効に関する規定が適用されると解するのが相当であり,公法上の金銭債権又は私法上の金銭債権の別は,当該債権を発生させる法律関係の性質及び当該債権の実定法上の取扱い方を検討して決することが相当である。
 1b.保険医療機関等の市町村に対する診療報酬債権を発生させる法律関係は,公法上の契約関係と解されるが,過払金の返還請求権を発生させる法律関係は,公法上の契約関係ではなく,あくまで不当利得関係であって,これを公法に属するということはできない。
 1c. 不正請求分に係る加算金を定める老人保健法42条3項は,診療報酬の過払金の返還請求権が不当利得返還請求権としての法的性質を有することを前提として,過払が保険医療機関等の不正請求によって生じた場合における不当利得返還義務についての特則を設けたものと解され,加算金支払義務は,市町村と保険医療機関等との間の不当利得(又は不法行為)関係から生じる返還義務(又は損害賠償)の範囲を定めるものと解するのが相当である。
参照条文: /民法:167条1項;703条;704条/地方自治法:236条1項/老人保健法:42条3項/
全 文 h300510nagoyaH.html

最高裁判所 平成 30年 4月 18日 第2小法廷 決定 ( 平成29年(許)第13号 )
事件名:  株式差押命令取消決定に対する執行抗告棄却決定に対する許可抗告事件
要 旨
 株券が発行されていない株式(振替株式でないもの)に対する強制執行手続が差押え・売却命令による換価まで進んだが,配当異議の訴えが提起されて配当が完了していない段階で執行債務者に対して破産手続が開始された場合に,破産法42条2項本文の適用があり,執行裁判所は職権により差押命令を取り消すことができるとされた事例。
 1.株券が発行されていない株式に対する強制執行の手続において,当該株式につき売却命令による売却がされた後,配当表記載の債権者の配当額について配当異議の訴えが提起されたために上記配当額に相当する金銭の供託がされた場合において,その供託の事由が消滅して供託金の支払委託がされるまでに債務者が破産手続開始の決定を受けたときは,当該強制執行の手続につき,破産法42条2項本文の適用がある。
参照条文: /破産法:42条2項/民事執行法:91条1項;92条1項;166条;167条1項/民事執行規則:61条;145条/供託規則:30条/
全 文 h300418supremei.html

最高裁判所 平成 30年 4月 17日 第3小法廷 決定 ( 平成30年(許)第3号 )
事件名:  不動産引渡命令に対する執行抗告審の取消決定に対する許可抗告事件
要 旨
 1.抵当権者に対抗することができない賃借権が設定された建物が担保不動産競売により売却された場合において,その競売手続の開始前から当該賃借権により建物の使用又は収益をする者は,当該賃借権が滞納処分による差押えがされた後に設定されたときであっても,民法395条1項1号に掲げる「競売手続の開始前から使用又は収益をする者」に当たる。
 1a.民法395条1項1号に規定する「競売手続の開始」は滞納処分による差押えを含むと解することができない。 /抵当建物使用者/
参照条文: /民法:395条1項1号/民事執行法:83条;188条/
全 文 h300417supreme.html

最高裁判所 平成 30年 2月 23日 第2小法廷 判決 ( 平成29年(受)第468号 )
事件名:  建物根抵当権設定仮登記抹消登記手続請求・上告事件
要 旨
 1.免責許可の決定の効力を受ける債権は,債権者において訴えをもって履行 を請求しその強制的実現を図ることができなくなり,上記債権については,もはや民法166条1項に定める「権利を行使することができる時」を起算点とする消滅 時効の進行を観念することができないというべきである。(先例の確認)
 2.抵当権の被担保債権が免責許可の決定の効力を受ける場合に は,民法396条は適用されず,債務者及び抵当権設定者に対する関係において も,当該抵当権自体が,同法167条2項所定の20年の消滅時効にかかる。(新判示)
参照条文: /民法:166条1項;167条2項;396条/破産法:253条1項/
全 文 h300223supreme.html

最高裁判所 平成 29年 12月 21日 第1小法廷 決定 ( 平成29年(許)第9号 )
事件名:  終局決定の変更決定に対する許可抗告事件
要 旨
 国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約の実施に関する法律(ハーグ実施法)26条の規定による子の返還を命ずる終局決定(変更前決定。平成28年1月確定)の執行が平成28年9月13日に試みられたが、返還対象の4人の子のうちの年長の2人(執行当時13歳)の返還拒絶意思が強固であったため、執行不能により終了した後に,同決定が事情変更(年長の2人が変更前決定の審理手続においてのみならず,執行に際しても明確に拒絶意思を表示していたこと,返還請求者が外国において住居を競売により喪失し,監護の経済的基盤を有しなくなったこと等)を理由に変更され,返還申立てが却下された事例。
参照条文: /国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約の実施に関する法律:26条;28条1項4号;28条1項5号;28条1項ただし書;117条1項/国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約の実施に関する法律による子の返還に関する事件の手続等に関する規則:89条2号/
全 文 h291221supreme.html

最高裁判所 平成 29年 12月 19日 第3小法廷 判決 ( 平成28年(受)第1797号 )
事件名:  認権行使請求・上告事件
要 旨
 第三債務者が債権差押命令に反して執行債務者に弁済した後で執行債権者にも弁済した場合に、執行債務者の破産手続との関係で、後者の弁済は否認の対象にならないとされた事例。
 1.破産法162条1項の「債務の消滅に関する行為」とは,破産者の意思に基づく行為のみならず,執行力のある債務名義に基づいてされた行為であっても,破産者の財産をもって債務を消滅させる効果を生ぜしめるものであれば,これに含まれる。(先例の確認)
 2.債権差押命令の送達を受けた第三債務者が,差押債権につき差押債務者に対して弁済をし,これを差押債権者に対して対抗することができないために差押債権者に対して更に弁済をした後,差押債務者が破産手続開始の決定を受けた場合,前者の弁済により差押債権は既に消滅しているから,後者の弁済は,差押債務者の財産をもって債務を消滅させる効果を生ぜしめるものとはいえず,破産法162条1項の「債務の消滅に関する行為」に当たらないから、後者の弁済は,同項の規定による否認権行使の対象とならない。
参照条文: /破産法:162条1項/民法:481条1項/
全 文 h291219supreme.html

最高裁判所 平成 29年 12月 19日 第3小法廷 決定 ( 平成29年(許)第10号 )
事件名:  債権仮差押命令を取り消す決定に対する保全抗告審の債権仮差押命令一部認可決定に対する許可抗告事件
要 旨
  1.老人ホーム用建物の賃貸借契約において賃借人が契約当事者を実質的に変更することが禁止され、違反したときは賃貸人は賃借人に対して違約金を請求することができるなどの定めがあるにもかかわらず、賃借人(吸収分割会社)が子会社を新設のうえ吸収分割の方法により子会社(吸収分割承継会社)に賃借人の老人ホームの事業に係る権利義務を承継させた場合に、吸収分割契約に分割前の債務について吸収分割会社は責任を負わないものとする条項があることを理由に吸収分割会社が違約金債務を負わないと主張することは、信義則に反し許されないとされ、賃貸人の賃借人に対する違約金債権を被保全債権とする債権仮差押えが認められた事例。
 2.本件違約金債権は吸収分割の効力発生後に賃貸人が賃借人に解除の意思表示をすることによって発生するものであるから、賃貸人が本件違約金債権を有しているとして吸収分割について同条1項2号の規定による異議を述べることができたとは解されないとされ、そのことも要旨1の信義則違反の理由の一つとされた事例。
参照条文: /民法:1条2項/会社法:759条1項;789条1項2号/
全 文 h291219supreme2.html

最高裁判所 平成 29年 12月 19日 第3小法廷 決定 ( 平成29年(許)第19号 )
事件名:  再生計画認可決定に対する抗告審の取消決定に対する許可抗告事件
要 旨
 1.小規模個人再生における再生計画案が住宅資金特別条項を定めたものである場合に適用される法202条2項4号所定の不認可事由である「再生計画の決議が不正の方法によって成立するに至ったとき」には,議決権を行使した再生債権者が詐欺,強迫又は不正な利益の供与等を受けたことにより再生計画案が可決された場合はもとより,再生計画案の可決が信義則に反する行為に基づいてされた場合も含まれる。
 1a.小規模個人再生において,再生債権の届出がされ,一般異議申述期間又は特別異議申述期間を経過するまでに異議が述べられなかったとしても,住宅資金特別条項を定めた再生計画案の可決が信義則に反する行為に基づいてされた場合に当たるか否かの判断に当たっては,当該再生債権の存否を含め,当該再生債権の届出等に係る諸般の事情を考慮することができる。
 1b. 小規模個人再生における再生計画案に一般異議申述期間内に異議を述べなかった者(再生債務者の実弟)の貸付債権が異議なく確定し,かつ,全届出債権の過半を占めているため,再生計画案が可決された場合であっても,再生債務者が債権者に対し公平かつ誠実に再生手続を追行する義務を負う立場にあることに照らすと,再生債務者が原審において当該貸付債権の裏付けとなる資料の提出を求められながら借用証や金銭の交付を裏付ける客観的な資料を提出していないなど,貸付債権が実際には存在しないことをうかがわせる事情があり,再生計画案の可決が信義則に反する行為に基づいてされた疑いが存するにもかかわらず,原々審は,再生計画案の可決が信義則に反する行為に基づいてされた場合に当たるか否かについて,貸付債権の存否を含めた調査を尽くしていないと認定され,原々審決定は取り消されるべきであるとされた事例。
 (再生計画案認可決定を取り消した抗告審決定に対する許可抗告が棄却された事例)
参照条文: /民事再生法:38条2項;202条2項4号;225条;231条1項/
全 文 h291219supreme3.html

最高裁判所 平成 29年 12月 14日 第1小法廷 判決 ( 平成29年(受)第675号 )
事件名:  建物明渡等請求・上告事件
要 旨
 土地の賃貸借契約が賃貸人からの解除の意思表示により終了したが、それ以前から賃借人(運送会社)が賃貸人(生コン製造会社)に対して運送委託料債権を有している場合に,賃借人は、この商事債権を被担保債権とする商事留置権により,被担保債権の弁済があるまで、賃借していた土地を留置することができるとされた事例。
 1.不動産は,商法521条が商人間の留置権の目的物として定める「物」に当たる。
参照条文: /商法:521条/民法:295条1項/
全 文 h291214supreme.html

最高裁判所 平成 29年 12月 7日 第1小法廷 判決 ( 平成29年(受)第408号 )
事件名:  自動車引渡請求・上告事件
要 旨
 自動車の所有権留保付売買の代金債権の保証人は,保証債務の履行後に買主について破産手続が開始された後で,破産手続開始当時に所有権移転登録を受けていなくても、別除権の行使として、破産管財人に対して自動車の引渡しを求めることができるとされた事例。
 1.自動車の所有権留保付売買の代金債権の保証人は,保証債務の履行後に買主について破産手続が開始された場合に,販売会社を所有者として登録されている自動車につき,保証人を所有者とする登録なくして,販売会社から法定代位により取得した留保所有権を別除権として行使することができる。
参照条文: /破産法:49条;65条1項/民法:369条;500条;501条/道路運送車両法:5条/
全 文 h291207supreme.html

最高裁判所 平成 29年 11月 16日 第1小法廷 判決 ( 平成29年(受)第761号 )
事件名:  再生債権査定異議・上告事件
要 旨
 主債務者からも債権者からも保証料その他の対価を得ることなく連帯保証人となった会社が,保証契約締結から6ヶ月弱ほど後に再生手続開始の申立てをして再生手続が開始された場合に,債権者の届出債権(保証債務履行請求権)についてゼロ円の査定がなされ,債権者から提起された査定異議訴訟において,管財人が民事再生法法127条3項(無償否認)に基づく否認権を行使することが認められた事例。
 1.再生債務者が否認対象である無償行為等をした時に債務超過であること又はその無償行為等により債務超過になることは,民事再生法127条3項に基づく否認権行使の要件ではない。
参照条文: /民再.127条3項/
全 文 h291116supreme.html

最高裁判所 平成 29年 10月 23日 第2小法廷 判決 ( 平成28年(受)第1892号 )
事件名:  損害賠償請求・上告事件
要 旨
 通信教育等を目的とする会社(被告)がその受講者(未成年者)の氏名・性別・生年月日・郵便番号・住所・電話番号及び保護者(原告)の氏名に係る情報を管理していたが,これらの情報が被告から外部へ漏えいした場合に,保護者の個人情報の漏えいとして保護者に対する不法行為に当たるとして提起された損害賠償請求(慰謝料及び遅延損害金の支払請求)訴訟において,原審が≪不快感等を超える損害の発生についての主張,立証がされていない≫ということのみから直ちに請求を棄却すべきものと判断したことには,審理不尽の違法があるとされた事例。
 1.本件個人情報(未成年者の氏名・性別・生年月日・郵便番号・住所・電話番号及び保護者の氏名)は,原告(保護者)のプライバシーに係る情報として法的保護の対象となり,その漏えいによって原告はそのプライバシーを侵害されたといえる。
参照条文: /民法:709条/
全 文 h291023supreme.html

最高裁判所 平成 29年 10月 10日 第3小法廷 決定 ( 平成28年(許)第46号 )
事件名:  債権差押命令申立て却下決定に対する執行抗告棄却決定に対する許可抗告事件
要 旨
 1.第三債務者が遅延損害金の額を計算する負担を負うことのないように,債権差押命令の申立書には,請求債権中の遅延損害金につき,申立日までの確定金額を記載させる取扱い(本件取扱い)は、請求債権の金額を確定することによって,第三債務者自らが請求債権中の遅延損害金の金額を計算しなければ,差押債権者の取立てに応ずべき金額が分からないという事態が生ずることのないようにするための配慮として,合理性を有する。(先例の確認)
 2.本件取扱いに従って債権差押命令の申立てをした債権者は,債権差押命令に基づく差押債権の取立てに係る金員の充当の場面では,もはや第三債務者の負担に配慮をする必要がないのであるから,上記金員が支払済みまでの遅延損害金に充当されることについて合理的期待を有していると解するのが相当であり,債権者が本件取扱いに従って債権差押命令の申立てをしたからといって,直ちに申立日の翌日以降の遅延損害金を上記金員の充当の対象から除外すべき理由はない。
 2a.差押債権者は、本件取扱いに従って前回の申立てをした場合であっても、取立金が前回の差押命令申立日以降の遅延損害金に充当されたときには、そのことを前提に算出された残債権額を請求債権額にして、今回の債権差押命令の申立てをすることができる。
参照条文: /民事執行法:155条/民法:491条/
全 文 h291010supreme.html

最高裁判所 平成 29年 10月 4日 第2小法廷 決定 ( 平成29年(行フ)第2号 )
事件名:  文書提出命令申立て却下決定に対する抗告審の変更決定に対する許可抗告事件
要 旨
 県議会議員らが受領した政務活動費の中に使途基準に違反して支出されたものがあるとして,地方自治法242条の2第1項4号に基づき,県知事に対し,上記の支出に相当する金額について,当該支出をした議員らに不当利得の返還請求をすることを求めて提起された訴訟において、議長が条例の定めに従って議員らから提出を受けて保存している領収書について、議長の属する地方公共団体(香川県)は,文書提出命令の名宛人となる文書の所持者に当たるとされた事例。
 1.地方公共団体は,その機関が保管する文書について,文書提出命令の名宛人となる文書の所持者に当たる。
 1a. 地方自治法242条の2第1項4号が普通地方公共団体の執行機関又は職員を被告とすべき者と定めていることは,上記の判断を左右するものではない。
参照条文: /民事訴訟法:220条;223条/地方自治法:242-2条/香川県議会政務活動費交付条例(平成13年香川県条例第4号):11条/
全 文 h291004supreme.html

最高裁判所 平成 29年 9月 12日 第3小法廷 決定 ( 平成29年(許)第3号 )
事件名:  配当表に対する異議申立て却下決定に対する抗告審の取消決定に対する許可抗告事件
要 旨
 破産者が債権者Gに対して負う債務について保証人となったXが破産手続開始後に元本全額と破産手続開始の前日までの利息の全額・遅延損害金の一部を弁済し、これによりXが破産者に対して取得した求償債権(5651万1233円)を破産債権として届け出、この求償権について物上保証をしていたAがその後に一部弁済(2593万9092円)をし、これによる求償権をAが予備的に届け出ていた場合に、Xの破産手続開始時における債権額を基準にして得られた計算上の配当額(4512万4808円)がXの残債権額(3057万2141円)を上回るときでも、その金額全部をXに配当して交付すべきであり、Xの残債権額を超える部分(1455万2667円)をAに配当すべきでないとされた事例。
  (破産管財人が「Xには残債権額に満つるまで配当し、超過部分をAに配当する」旨の配当表を作成し、これに対してXが異議を述べ、破産管財人作成の配当表を正当とする第一審決定に対してAが即時抗告をしたところ、抗告審(原審)が超過部分は他の債権者への配当に充てるべきであるとして第一審決定を取り消して事件を第一審に差し戻す旨の決定をし、これに対して破産管財人が許可抗告を申し立てた事例)
 1.破産法104条1項及び2項は,複数の全部義務者を設けることが責任財産を集積して当該債権の目的である給付の実現をより確実にするという機能を有することに鑑みて,配当額の計算の基礎となる債権額と実体法上の債権額とのかい離を認めるものであり,その結果として,債権者が実体法上の債権額を超過する額の配当を受けるという事態が生じ得ることを許容しているものと解される(なお,そのような配当を受けた債権者が,債権の一部を弁済した求償権者に対し,不当利得として超過部分相当額を返還すべき義務を負うことは別論である。)。
 1a.保証人の権利行使
 
 債権者が主債務者の破産手続に参加した場合には、破産手続開始後に破産債権の一部を弁済した保証人(求償権者)は,当該債権について超過部分が生ずるときに配当の手続に参加する趣旨で予備的にその求償権を破産債権として届け出ることができず(104条3項ただし書)、また、当該配当の段階において,債権者が有した権利を破産債権者として行使することができず(104条4項)、このことは、物上保証人についても同じである(104条5項)。
 1b.被保証債権者の権利行使
 
 破産債権者が破産手続開始後に物上保証人から債権の一部の弁済を受けた場合において,破産手続開始の時における債権の額として確定したものを基礎として計算された配当額が実体法上の残債権額を超過するときには,その超過する部分も当該債権者について配当すべきである。 /全部義務者/全部義務債権/
参照条文: /破産法:104条;103条4項;198条2項/民法:500条;501条/
全 文 h290912supreme.html

最高裁判所 平成 29年 7月 10日 第2小法廷 判決 ( 平成28年(受)第632号 )
事件名:  特許権侵害差止等請求・上告事件
要 旨
 特許権侵害訴訟において,被告が特許法123条1項2号による特許無効の抗弁を主張し,原告(特許権者)が事実審の口頭弁論終結時までに訂正の再抗弁を主張しなかったため,事実審がこの再抗弁を考慮することなく無効の抗弁を認めて請求を棄却する判決を言い渡した場合には,その後に訂正審決等が確定しても,特許権者が訂正審決等の確定を理由に事実審の判断を上告審において争うことは,事実審の口頭弁論終結時まで訂正の再抗弁を主張しなかったことについてやむを得ないといえるだけの特段の事情がない限り,特許権の侵害に係る紛争の解決を不当に遅延させるものとして,特許法104条の3及び104条の4の各規定の趣旨に照らして許されないと判示され,かつ,前記特段の事情は認められないとされた事例。
 原告が控訴審において主張していなかった再抗弁に係る審決が上告審係属津中に確定した場合に,原告が,その審決確定は民事訴訟法338条1項8号の再審事由に該当すると主張したが,認められなかった事例。
 1.特許権者が,事実審の口頭弁論終結時までに訂正の再抗弁を主張しなかったにもかかわらず,その後に訂正審決等が確定したことを理由に事実審の判断を争うことは,訂正の再抗弁を主張しなかったことについてやむを得ないといえるだけの特段の事情がない限り,特許権の侵害に係る紛争の解決を不当に遅延させるものとして,特許法104条の3及び104条の4の各規定の趣旨に照らして許されない。
 (特段の事情の不存在)
 2.特許法123条1項2号の無効の抗弁に対する訂正の再抗弁を主張するためには,現に訂正審判の請求又は訂正の請求をしている必要はない。
 2a.特許侵害訴訟の係属中に被告により特許法123条1項1号又は4号の無効理由が存在することを理由とする特許無効審判の請求がなされ,その決着がついていないため,原告が侵害訴訟の控訴審の口頭弁論終結時までに同法123条1項2号の無効理由を解消するための訂正についての訂正審判の請求又は訂正の請求をすることが法律上できなかったとしても,そのことは,原告が控訴審において同項2号の無効の抗弁に対する訂正の再抗弁を主張することができない特段の事情にはあたらないとされた事例。
参照条文: /特許法:29条;104-2条;104-3条;104-4条;123条;126条2項;134-2条/民事訴訟法:338条1項8号/
全 文 h290710supreme.html

最高裁判所 平成 29年 7月 7日 第2小法廷 判決 ( 平成28年(受)第222号 )
事件名:  地位確認等請求・上告事件
要 旨
 1.使用者が労働者に対して労働基準法37条の定める割増賃金を支払ったとすることができるか否かを判断するためには,割増賃金として支払われた金額が,通常の労働時間の賃金に相当する部分の金額を基礎として,労働基準法37条等に定められた方法により算定した割増賃金の額を下回らないか否かを検討することになるところ,割増賃金をあらかじめ基本給等に含める方法で支払う場合においては,上記の検討の前提として,労働契約における基本給等の定めにつき,通常の労働時間の賃金に当たる部分と割増賃金に当たる部分とを判別することができることが必要である。
 1a. 医師の給与が年俸をもって定められ,時間外勤務に対する給与については,医師時間外勤務給与規程の定めによるものとされていたが,時間外規程において,≪{1}時間外手当の対象となる業務は,原則として,病院収入に直接貢献する業務又は必要不可欠な緊急業務に限ること,・・・{3}時間外手当の対象となる時間外勤務の対象時間は,勤務日の午後9時から翌日の午前8時30分までの間及び休日に発生する緊急業務に要した時間とすること,{4}通常業務の延長とみなされる時間外業務は,時間外手当の対象とならないこと≫等が定められている場合に,時間外規程に基づき支払われるもの以外の時間外労働等に対する割増賃金について,年俸1700万円に含まれることが合意されていたが,年俸のうち時間外労働等に対する割増賃金に当たる部分は明らかにされておらず,支払われた年俸について,通常の労働時間の賃金に当たる部分と割増賃金に当たる部分とを判別することはできないから,年俸の支払により時間外労働及び深夜労働に対する割増賃金が支払われたということはできないと判断された事例。
参照条文: /労働基準法:37条/
全 文 h290707supreme..html

名古屋高等裁判所 平成 29年 6月 30日 民事第3部 判決 ( 平成28年(ネ)第912号 )
事件名:  損害賠償請求控訴事件
要 旨
 不法行為に基づく損害賠償を求める別件訴訟において賠償金支払などを内容とする訴訟上の和解がなされた後,債権者の代理人弁護士が債務者に対する強制執行の準備のため,所属する愛知県弁護士会(本件原告)に対し,弁護士法23条の2第1項に基づき,債務者宛ての郵便物に係る転居届の提出の有無及び転居届記載の新住所(居所)等について郵便事業を営む会社(本件被告)に23条照会をすることを申し出,弁護士会がその旨の照会を行ったが,回答が拒否された場合に、弁護士会の照会先に対する報告義務確認請求の訴えが適法とされ、電話番号についての報告を除き、報告義務確認請求が認容された事例。
 1.弁護士法は,我が国の司法制度に関与する主体としての弁護士及び弁護士会を規律する点からすると,国法の類型を公法と私法に分かつならば,公法の性質を有しているものと解される。
 1a. 23条照会を受けた公務所又は公私の団体は,報告をしないことについて正当な理由があるときを除き、照会事項を報告すべき法的義務があるとともに,23条照会が公法の性質を有する弁護士法により認められた公益を図る制度であることに照らせば,その義務は公法上の義務であると解される(倫理的な指針としての意味しか有しないとの主張は、採用することができない)。
 2.行訴法4条後段にいう「公法上の法律関係に関する訴訟」は,国民と行政主体との間の紛争を予定するものであり,「公法上の法律関係に関する確認の訴え」が認められる行政主体との紛争は,行政処分を背景とし,あるいは後に行政処分が控えていることにより,現に存在する不利益を除去するための確認の利益が認められる紛争である。
 2a.弁護士会照会に対して照会先が報告義務を負うことの確認を求める訴えは、「公法上の法律関係に関する確認の訴え」ではなく、民事訴訟である。
 3.弁護士会照会に対して照会先が報告を拒絶した場合に、弁護士会が照会先に対して提起した報告義務確認請求の訴えについて、確認対象の選択は適切であり、即時確定の利益も肯定され、給付の訴えではなく確認の訴えを選択したことも適切であるとして、確認の利益が肯定された事例。
 3a.23条照会を受けた公務所又は公私の団体は,公法上の報告義務を弁護士会に対して負い,23条照会を拒絶する照会先に対して報告を促す権限と責務を負うのは弁護士会であるから,23条照会に対する報告義務の存否をめぐる紛争の主体は,弁護士会と照会先である。
 4.23条照会については,照会先に対し全ての照会事項について必ず報告する義務を負わせるものではなく,照会先において,報告をしないことについて正当な理由があるときは,その全部又は一部について報告を拒絶することが許される。
 4a.守秘義務を負う照会先は,23条照会に対し報告をする必要があるか自ら判断すべき職責があり、弁護士会の審査に不備があり得るとしても,そのことは,この職責を放棄し,常に守秘義務を優越させて報告を拒むことを肯定する理由にはならない。
 4b.転居届に係る情報は,憲法21条2項後段の「通信の秘密」及び郵便法8条1項の「信書の秘密」に当たらない。
 4c.訴訟上の和解に基づいて動産執行の申立てをするために債務者の転居先を知る必要がある場合に、転居届の有無及び転居先である新住所について、照会先(郵便事業会社)が23条照会をした弁護士会に対して報告義務を負うとされ、債務者の電話番号については動産執行の申立てのために知る必要性は低いとして、報告義務を負わないとされた事例。
参照条文: /行政事件訴訟法:4条;41条/弁護士法:23-2条/民事訴訟法:2編1章;140条/憲法:21条2項/郵便法:8条/
全 文 h290630nagoyaH.html

最高裁判所 平成 29年 4月 6日 第1小法廷 判決 ( 平成28年(受)第579号 )
事件名:  預金返還等請求・上告事件
要 旨
 被相続人が金融機関に対して有していた普通預金債権、定期預金債権、定期積金債権について、共同相続人の一人が相続により分割取得したと主張して、金融機関に対して法定相続分相当額の支払を請求したが、認められなかった事例。
 1.共同相続された普通預金債権は,相続開始と同時に当然に相続分に応じて分割されることはない。(先例の確認)
 2.共同相続された定期預金債権及び定期積金債権は,いずれも,相続開始と同時に当然に相続分に応じて分割されることはない。
参照条文: /民法:427条;898条;899条/
全 文 h290406supreme.html

最高裁判所 平成 29年 3月 15日 大法廷 判決 ( 平成28年(あ)第442号 )
事件名:  窃盗,建造物侵入,傷害被告事件(上告事件)
要 旨
 無令状のGPS捜査によって直接得られた証拠及びこれと密接な関連性を有する証拠の証拠能力が否定された事例。
 1.個人のプライバシーの侵害を可能とする機器をその所持品に秘かに装着することによって,合理的に推認される個人の意思に反してその私的領域に侵入する捜査手法であるGPS捜査は,個人の意思を制圧して憲法の保障する重要な法的利益を侵害するものとして,刑訴法上,特別の根拠規定がなければ許容されない強制の処分に当たるとともに,一般的には,現行犯人逮捕等の令状を要しないものとされている処分と同視すべき事情があると認めるのも困難であるから,令状がなければ行うことのできない処分と解すべきである。
 2.GPS捜査の特質に鑑みれば,これについて刑訴法が規定する令状を発付することには疑義がある。
 (原審が令状発付の可能性に触れているので,捜査及び令状発付の実務への影響に鑑み,最高裁が示した判断。本件との関係では傍論。)
 2a. GPS捜査が今後も広く用いられ得る有力な捜査手法であるとすれば,その特質に着目して憲法,刑訴法の諸原則に適合する立法的な措置が講じられることが望ましい。
参照条文: /刑事訴訟法:197条1項;218条;222条1項;110条/憲法:35条/
全 文 h290315supreme.html

最高裁判所 平成 29年 3月 13日 第2小法廷 判決 ( 平成28年(受)第944号 )
事件名:  貸金請求事件・上告事件
要 旨
 連帯保証債務について「債務弁済契約公正証書」と題する証書が作成され、その公正証書の記載と同一の貸金債権について支払督促の申立てがなされ、仮執行宣言付支払督促が発せられた場合に、その支払督促は,保証債務履行請求権について消滅時効の中断の効力を生ずるものではないとされた事例。
参照条文: /民法:147条1号;150条/
全 文 h290313supreme.html

最高裁判所 平成 29年 2月 28日 第3小法廷 判決 ( 平成27年(受)第1998号 )
事件名:  賃金請求・上告事件
要 旨
 タクシー乗務員がタクシー会社に対して,≪歩合給の計算に当たり残業手当等に相当する金額を控除する旨を定めるタクシー会社の賃金規則上の定めが無効である≫と主張して,控除された残業手当等に相当する金額の賃金等の支払を求めた事案において,原審が,≪揚高が同額である限り,時間外労働等をしていた場合もしていなかった場合も乗務員に支払われる賃金は同額になるから,その規定は,労働基準法37条の規制を潜脱するものである≫として原告の主張を認めた場合に,原判決が審理不尽等を理由に破棄された事例。
 1.使用者が,労働者に対し,時間外労働等の対価として労働基準法37条の定める割増賃金を支払ったとすることができるか否かを判断するには,労働契約における賃金の定めにつき,それが通常の労働時間の賃金に当たる部分と同条の定める割増賃金に当たる部分とに判別することができるか否かを検討した上で,そのような判別をすることができる場合に,割増賃金として支払われた金額が,通常の労働時間の賃金に相当する部分の金額を基礎として,労働基準法37条等に定められた方法により算定した割増賃金の額を下回らないか否かを検討すべきである。(先例の確認)
 1a.上記割増賃金として支払われた金額が労働基準法37条等に定められた方法により算定した割増賃金の額を下回るときは,使用者がその差額を労働者に支払う義務を負う。
 2.労働基準法37条は,労働契約における通常の労働時間の賃金をどのように定めるかについて特に規定をしていないことに鑑みると,労働契約において売上高等の一定割合に相当する金額から同条に定める割増賃金に相当する額を控除したものを通常の労働時間の賃金とする旨が定められていた場合に,当該定めに基づく割増賃金の支払が同条の定める割増賃金の支払といえるか否かは問題となり得るものの,当該定めが当然に同条の趣旨に反するものとして公序良俗に反し,無効であると解することはできないというべきである。(本件についての判示)
 2a.原審が,歩合給の計算に当たり対象額Aから割増金に相当する額を控除している部分が労働基準法37条の趣旨に反し,公序良俗に反し無効であると判断するのみで,賃金規則における賃金の定めにつき,通常の労働時間の賃金に当たる部分と同条の定める割増賃金に当たる部分とを判別することができるか否か,また,そのような判別をすることができる場合に,賃金規則に基づいて割増賃金として支払われた金額が労働基準法37条等に定められた方法により算定した割増賃金の額を下回らないか否かについて審理判断することなく,未払賃金の請求を一部認容すべきであるとした場合に,その判断には,前記2の点について審理を尽くさなかった違法があるとされた事例。
参照条文: /労働基準法:37条/
全 文 h290228supreme.html

最高裁判所 平成 29年 2月 28日 第3小法廷 判決 ( 平成27年(受)第1876号 )
事件名:  不正競争防止法による差止等請求本訴,商標権侵害行為差止等請求反訴・上告事件
要 旨
 米国法人A社との間で同社の製造する電気瞬間湯沸器につき日本国内における独占的な販売代理店契約を締結し,「エマックス」,「EemaX」又は「Eemax」の文字を横書きして成る商標(原告使用商標)を使用して湯沸器を販売している原告が,湯沸器を独自に輸入して日本国内で販売している被告に対し,原告使用商標と同一の商標を使用する被告の行為が不正競争防止法2条1項1号所定の不正競争に該当するなどと主張して,その商標の使用の差止め及び損害賠償等を求めた事案において,その請求を認容した原判決が破棄され,事件が差し戻された事例。
 1.原告の本件湯沸器の具体的な販売状況等について十分に審理することなく,原審摘示の事情のみをもって直ちに,原告使用商標が不正競争防止法2条1項1号にいう「需要者の間に広く認識されている」商標に当たるとした判断に,法令適用の誤りがあるとされた事例。
 2.商標法47条1項の趣旨は,同号の規定に違反する商標登録は無効とされるべきものであるが,商標登録の無効審判が請求されることなく除斥期間が経過したときは,商標登録がされたことにより生じた既存の継続的な状態を保護するために,商標登録の有効性を争い得ないものとしたことにあると解される。(先例の確認)
 2a.商標法4条1項10号該当を理由とする商標登録の無効審判が請求されないまま商標権の設定登録の日から5年を経過した後においては,当該商標登録が不正競争の目的で受けたものである場合を除き,商標権侵害訴訟の相手方は,その登録商標が同号に該当することによる商標登録の無効理由の存在をもって,特許法104条の3第1項の規定に係る抗弁を主張することが許されないと解するのが相当である。
 3.商標法4条1項10号該当を理由とする商標登録の無効審判が請求されないまま商標権の設定登録の日から5年を経過した後であっても,当該商標登録が不正競争の目的で受けたものであるか否かにかかわらず,商標権侵害訴訟の相手方は,その登録商標が自己の業務に係る商品等を表示するものとして当該商標登録の出願時において需要者の間に広く認識されている商標又はこれに類似する商標であるために同号に該当することを理由として,自己に対する商標権の行使が権利の濫用に当たることを抗弁として主張することが許されると解するのが相当である。 /参照条文/不正競争防止法:2条1項1号/商標法:4条1項10号;47条1項;39条/特許法:104-3条1項/
参照条文: /不正競争防止法:2条1項1号/商標法:4条1項10号;47条1項;39条/特許法:104-3条1項/
全 文 h290228supreme2.html

最高裁判所 平成 29年 1月 31日 第3小法廷 決定 ( 平成28年(許)第45号 )
事件名:  投稿記事削除仮処分決定認可決定に対する抗告審の取消決定に対する許可抗告事件
要 旨
 インターネット上の情報の検索事業者に対し,自己のプライバシーに属する事実を含む記事等が掲載されたウェブサイトのURL並びに当該ウェブサイトの表題及び抜粋を検索結果から削除することを命ずる仮処分の申立てが棄却された事例。
 1.個人のプライバシーに属する事実をみだりに公表されない利益は,法的保護の対象となる。(前提命題。先例の確認)
 2.検索事業者による検索結果の提供は,検索事業者自身による表現行為という側面を有する。
 2a.検索事業者による検索結果の提供は,現代社会においてインターネット上の情報流通の基盤として大きな役割を果たしており,検索事業者による特定の検索結果の提供行為が違法とされ,その削除を余儀なくされるということは,検索事業者の方針に沿った一貫性を有する表現行為の制約であることはもとより,検索結果の提供を通じて果たされている上記役割に対する制約でもある。
 3.検索事業者が,ある者に関する条件による検索の求めに応じ,その者のプライバシーに属する事実を含む記事等が掲載されたウェブサイトのURL等情報を検索結果の一部として提供する行為が違法となるか否かは,当該事実の性質及び内容,当該URL等情報が提供されることによってその者のプライバシーに属する事実が伝達される範囲とその者が被る具体的被害の程度,その者の社会的地位や影響力,上記記事等の目的や意義,上記記事等が掲載された時の社会的状況とその後の変化,上記記事等において当該事実を記載する必要性など,当該事実を公表されない法的利益と当該URL等情報を検索結果として提供する理由に関する諸事情を比較衡量して判断すべきもので,その結果,当該事実を公表されない法的利益が優越することが明らかな場合には,検索事業者に対し,当該URL等情報を検索結果から削除することを求めることができる。
 3a.申立人(情報主体)が検索事業者(グーグル)に対して,人格権ないし人格的利益に基づき,本件事実(申立人が児童買春をしたとの被疑事実に基づき逮捕されたという事実)の検索結果の削除を求める仮処分命令の申立てをした事案において,次の理由により,申立人が妻子と共に生活し,罰金刑に処せられた後は一定期間犯罪を犯すことなく民間企業で稼働していることがうかがわれることなどの事情を考慮しても,本件事実を公表されない法的利益が優越することが明らかであるとはいえないとされた事例(申立て棄却):(1)児童買春をしたとの被疑事実に基づき逮捕されたという本件事実は,他人にみだりに知られたくないプライバシーに属するものではあるが,児童買春が児童に対する性的搾取及び性的虐待と位置付けられており,社会的に強い非難の対象とされ,罰則をもって禁止されていることに照らし,今なお公共の利害に関する事項であるといえる;(2)検索結果は申立人の居住する県の名称及び申立人の氏名を条件とした場合の検索結果の一部であることなどからすると,本件事実が伝達される範囲はある程度限られたものであるといえる。
 /個人の尊厳/表現の自由/
参照条文: /民法:2条;198条.類推;199条.類推/憲法:21条/
全 文 h290131supreme.html

最高裁判所 平成 28年 12月 19日 大法廷 決定 ( 遺産分割審判に対する抗告棄却決定に対する許可抗告事件 )
事件名:  平成27年(許)第11号
要 旨
 1.共同相続された普通預金債権,通常貯金債権及び定期貯金債権は,いずれも,相続開始と同時に当然に相続分に応じて分割されることはなく,遺産分割の対象となる。(判例変更)
 2.共同相続人全員に帰属するに至った普通預金債権及び通常貯金債権は,預貯金契約上の地位を準共有する共同相続人が全員で預貯金契約を解約しない限り,同一性を保持しながら常にその残高が変動し得るものとして存在し,各共同相続人に確定額の債権として分割されることはない。
参照条文: /民法:264条;427条;898条;907条/
全 文 h281219supreme2.html

最高裁判所 平成 28年 12月 19日 第1小法廷 判決 ( 平成27年(受)第1394号 )
事件名:  不当利得返還請求・上告事件
要 旨
 セーフティネット保証制度(全国的に業況の悪化している一定の業種に属する事業を行う中小企業者に対し,信用保証協会が通常の信用保証とは別枠で信用保証を行う制度)を利用する主債務者が、平成20年12月16日に制度利用に必要な認定を市長から得た後、事業を第三者に譲渡し、そのことを知らずに金融機関が同年12月29日に信用保証協会との間で保証契約を締結し、平成21年1月9日に5000万円の貸付を行ったところ、同年6月になって主債務者が破産手続開始申立ての準備を始めた旨を債権者に通知して弁済をしなくなり、信用保証協会が保証債務の履行として約4926万円を代位弁済したが、その後に主債務者が融資実行当時に事業譲渡によりセーフティネット保証制度の利用資格たる中小企業者の実体を有していなかったことが判明した場合に、信用保証協会が要素の錯誤を理由に保証契約の無効を主張して代位弁済金について不当利得返還請求の訴えを提起したが、要素の錯誤が認められなかった事例。
 1.意思表示における動機の錯誤が法律行為の要素に錯誤があるものとしてその無効を来すためには,その動機が相手方に表示されて法律行為の内容となり,もし錯誤がなかったならば表意者がその意思表示をしなかったであろうと認められる場合であることを要する。
 1a.動機は,たとえそれが表示されても,当事者の意思解釈上,それが法律行為の内容とされたものと認められない限り,表意者の意思表示に要素の錯誤はないと解するのが相当である。(要素の錯誤がないとされた事例)
 2.(判旨)
 信用保証協会が中小企業の委託を受けて金融機関と締結する保証契約について、主債務者が事業譲渡によって制度対象たる中小企業者の実体を有しないこととなっていたことが判明していた場合には保証契約が締結されることはなかったと考えられるが、主債務者が中小企業者の実体を有するということについて誤認があったことが事後的に判明した場合に保証契約の効力を否定することまでを金融機関と信用保証協会の双方が前提としていたとはいえないとされ、このことは,主債務者が制度の対象となる事業を行う者でないことが事後的に判明した場合においても異ならないとされた事例。
 2a.(傍論)
 もっとも,金融機関は,信用保証に関する基本契約に基づき,個々の保証契約を締結して融資を実行するのに先立ち,主債務者が中小企業者の実体を有する者であることについて,相当と認められる調査をすべき義務を負うというべきであり,金融機関がこのような義務に違反し,その結果,中小企業者の実体を有しない者を主債務者とする融資について保証契約が締結された場合には,信用保証協会は,そのことを主張立証し,保証契約中の免責条項にいう金融機関が「保証契約に違反したとき」に当たるとして,保証債務の全部又は一部の責めを免れることができると解するのが相当である。(本件においてこの法理が適用されるか否かは問題にされていない)
 2b.(結論)
 「主債務者が中小企業者の実体を有する」という保証人(信用保証協会)の動機は,それが表示されていたとしても,当事者の意思解釈上,保証契約の内容となっていたとは認められず,保証人の保証契約の意思表示に要素の錯誤はないとされた事例。
参照条文: /民法:95条;446条/
全 文 h281219supreme.html

最高裁判所 平成 28年 12月 1日 第1小法廷 判決 ( 平成27年(受)第477号 )
事件名:  (第1事件)損害賠償等,(第2事件)境界確定等請求・上告事件
要 旨
 A所有の甲地上の建物がA所有の乙地にはみ出して存在する場合に、Aの債権者(日本債権回収株式会社)が建物と甲地のみについて仮差押えの執行をし、Aが乙地をその妻Xに贈与し、その後に仮差押えが本執行に移行してYが建物と甲地を強制競売により買受け、Xが乙地の所有権に基づいてYに対して乙地上に存する建物部分の収去及び土地の明渡し並びに土地明渡しまでの不法占拠による損害金を求めた事案において、民事執行法81条により、建物のために乙地上に法定地上権が成立するとされた事例(第2事件)。
 1.地上建物に仮差押えがされ,その後,当該仮差押えが本執行に移行してされた強制競売手続における売却により買受人がその所有権を取得した場合において,土地及び地上建物が当該仮差押えの時点で同一の所有者に属していたときは,その後に土地が第三者に譲渡された結果,当該強制競売手続における差押えの時点では土地及び地上建物が同一の所有者に属していなかったとしても,法定地上権が成立する。
参照条文: /民事執行法:81条/
全 文 h281201supreme.html

札幌地方裁判所 平成 28年 10月 19日 民事第2部 判決 ( 平成27年(ワ)第1195号 )
事件名:  否認権行使請求事件
要 旨
 破産会社が破産手続開始申立てを弁護士に依頼した後・受任弁護士が債権者らに債務整理受任通知を発する前に,それ以前に手形不渡りが生ずることを避けようとして従業員がした手形金支払について,破産法162条1項1号の否認権行使が認められなかった事例。
 1.否認要件としての支払不能の意義に関し,弁済期未到来の債務について将来支払えないことが確実である場合も支払不能と認められるべきである旨を破産管財人が主張したが,認められなかった事例。
 1a. 支払不能は,弁済期の到来している債務の支払可能性を問題とする概念であるから,弁済期の到来している[総ての]債務を弁済することができている以上は支払不能ではない。
 1b. 表面上は,弁済期の到来している[総ての]債務を支払っている場合であっても,全く返済の見込みの立たない借入れや商品の投げ売り等によって資金を調達して延命を図っているような状態にある場合,すなわち,債務者が無理算段をしているような場合には,いわば糊塗された支払能力に基づいて一時的に支払をしたにすぎないのであるから,客観的な支払能力の欠如する場合として,支払不能を認める余地がある。
 (これに該当するとは認められなかった事例)
 2.破産会社と金融機関との間の取引約定書における期限の利益喪失条項の文言全体の内容ないし構成に照らせば,「弁護士等へ債務整理を委任したとき」との事由は,「支払を停止したと認められる事実が発生したとき」の例示として挙げられているものと解するのが相当であるから,上記条項は,全体として,支払を停止したと認められる事実が発生したと評価し得る場合に,期限の利益を喪失する旨を定めた規定と解するのが合理的であるとされ,破産法における「支払の停止」とは,債務者が,支払能力を欠くために一般的かつ継続的に債務の支払をすることができないと考えて,その旨を明示的又は黙示的に外部に表示する行為をいうところ,本件では,弁護士等へ債務整理の委任が外部に表明されたのは,否認されるべき手形金支払がなされた日より後であり,手形金支払時には破産会社は期限の利益を喪失しておらず,支払がなされた手形金債務以外に弁済期にある債務があったとはいえないとされた事例。
参照条文: /破産法:2条11項;162条1項;162条3項/
全 文 h281019sapporo.D.html

最高裁判所 平成 28年 10月 18日 第3小法廷 判決 ( 平成27年(受)第1036号 )
事件名:  損害賠償請求・上告事件
要 旨
 不法行為に基づく損害賠償を求める別件訴訟において賠償金支払などを内容とする訴訟上の和解がなされた後,債権者の代理人弁護士が債務者に対する強制執行の準備のため,所属する愛知県弁護士会(本件原告)に対し,弁護士法23条の2第1項に基づき,債務者宛ての郵便物に係る転居届の提出の有無及び転居届記載の新住所(居所)等について郵便事業を営む会社(本件被告)に23条照会をすることを申し出,弁護士会がその旨の照会を行ったが,被告が回答を拒否したため,弁護士会が損害賠償請求の訴えを提起し,控訴審において報告義務確認請求を予備的に追加したところ,控訴審が主位請求を認容したのに対し,上告審が主位請求に理由がないとし,予備請求の審理のために事件を差し戻した事例。
 1.23条照会を受けた公務所又は公私の団体は,正当な理由がない限り,照会された事項について報告をすべきものと解される。
 2.弁護士会が23条照会の権限を付与されているのは飽くまで制度の適正な運用を図るためにすぎないのであって,23条照会に対する報告を受けることについて弁護士会が法律上保護される利益を有するものとは解されない。
 2a. 23条照会に対する報告を拒絶する行為が,23条照会をした弁護士会の法律上保護される利益を侵害するものとして当該弁護士会に対する不法行為を構成することはない。 /弁護士会照会/
参照条文: /弁護士法:23-2条/民法:709条/
全 文 h281018supreme.html

最高裁判所 平成 28年 9月 6日 第3小法廷 判決 ( 平成27年(受)第766号 )
事件名:  損害賠償請求事件・上告事件
要 旨
 営業者(被告Y1会社)が行う事業から生じた損益の全部を匿名組合員(原告会社)に分配する旨の匿名組合契約(出資額3億円)が締結され、Y1がその出資金の一部1.8億円を設立資金(出資額0.8億円+新株予約権付社債1億円)として用いてD会社(総出資額1億円)を設立し、Dの取締役に被告Y2(Y1の代表取締役)、代表取締役に被告Y3(Y2の弟)が就任している場合に、Y2・Y3が全部保有するC会社の株式をDが1.5億円で買い取る旨の売買契約を含む一連の取引について、それが営業者の関係者であるY2及びY3と匿名組合員との間に実質的な利益相反関係が生ずるものであること、また、取引金額等を考慮すると匿名組合員の利益を害する危険性の高いものであることを考慮すると、営業者が上記一連の行為を行うことは,匿名組合員の承諾を得ない限り,営業者の善管注意義務に違反するものであるとされた事例。 /会社の新設分割/
参照条文: /民法:709条/会社法:429条1項/商法:535条/
全 文 h280916supreme.html

最高裁判所 平成 28年 7月 8日 第2小法廷 判決 ( 平成26年(受)第865号 )
事件名:  清算金請求・上告事件
要 旨
 ISDAマスター契約に準拠したデリバティプ取引(通貨オプション取引及び通貨スワップ取引)により再生債務者に対して清算金債務を負担する者が,この清算金債権を受働債権とし,自らと完全親会社を同じくするグルーブ内の別会社が有する再生債権である清算金債権を自働債権として相殺することは許されないとされた事例。
 1.再生債務者に対して債務を負担する者が,当該債務に係る債権を受働債権とし,自らと完全親会社を同じくする他の株式会社が有する再生債権を自働債権としてする相殺は,これをすることができる旨の合意があらかじめされていた場合であっても,民事再生法92条1項によりすることができる相殺に該当しないものと解するのが相当である。 /債務負担の相互性/国際スワップ・デリバティブズ協会/姉妹会社/倒産/信用保証提供者/
参照条文: /民法:505条/民事再生法:92条1項;93-2条1項/
全 文 h280708supreme.html

最高裁判所 平成 28年 7月 8日 第2小法廷 判決 ( 平成26年(行ヒ)第494号 )
事件名:  遺族補償給付等不支給処分取消請求・上告事件
要 旨
 社長に提出すべき期限が翌日に迫った資料の作成業務を工場で行っていた労働者Bが,当該業務を一時中断して研修生の歓送迎会に途中から参加した後,当該業務を再開するため会社所有の車両を運転して工場に戻る際,併せて研修生らを送るため研修生らを同乗させてその宿泊アパートに向かう途上で発生した交通事故により死亡した場合に、その事故が業務上の事由による災害に当たるとされた事例。
 1.労働者の負傷,疾病,障害又は死亡が労働者災害補償保険法に基づく業務災害に関する保険給付の対象となるには,それが業務上の事由によるものであることを要するところ,そのための要件の一つとして,労働者が労働契約に基づき事業主の支配下にある状態において当該災害が発生したことが必要である。(先例の確認)
 1a.社長業務を代行する部長の発案による研修生歓送迎会が会社の業務に密接に関連して行われたものであると認められた事例。
 1b.労働者Bが歓送迎会後に研修生を宿泊先に送ったことが、部長らの明示的な指示を受けてされたものとはうかがわれないこと等を考慮しても、会社から要請されていた一連の行動の範囲内のものであり、その途中で生じた交通事故の際にBはなお会社の支配下にあったというべきであるとされた事例。 /労働基準法/遺族補償給付/不支給決定の取消し/行橋労働基準監督署長/
参照条文: /労働者災害補償保険法:1条;12-8条2項/労働基準法:79条;80条/
全 文 h280708supreme2.html

最高裁判所 平成 28年 7月 1日 第1小法廷 決定 ( 平成28年(許)第4号ないし第20号 )
事件名:  株式取得価格決定に対する抗告棄却決定に対する許可抗告事件
要 旨
 全部取得条項付種類株式の取得価格を裁判所が定めるに際して、公開買付け公表後の事情を考慮した補正をしたことが違法とされた事例。
 1.多数株主が株式会社の株式等の公開買付けを行い,その後に当該株式会社の株式を全部取得条項付種類株式とし,当該株式会社が同株式の全部を取得する取引において,独立した第三者委員会や専門家の意見を聴くなど多数株主等と少数株主との間の利益相反関係の存在により意思決定過程が恣意的になることを排除するための措置が講じられ,公開買付けに応募しなかった株主の保有する上記株式も公開買付けに係る買付け等の価格と同額で取得する旨が明示されているなど一般に公正と認められる手続により上記公開買付けが行われ,その後に当該株式会社が上記買付け等の価格と同額で全部取得条項付種類株式を取得した場合には,上記取引の基礎となった事情に予期しない変動が生じたと認めるに足りる特段の事情がない限り,裁判所は,上記株式の取得価格を上記公開買付けにおける買付け等の価格と同額とするのが相当である。
参照条文: /h26h90改正前.会社法:172条1項/
全 文 h280701supreme.html

最高裁判所 平成 28年 6月 27日 第1小法廷 判決 ( 平成26年(受)第1813号,第1814号 )
事件名:  損害賠償請求・上告事件
要 旨
 1.債務整理を依頼された認定司法書士は,当該債務整理の対象となる個別の債権の価額が法3条1項7号に規定する額(140万円)を超える場合には,その債権に係る裁判外の和解について代理することができない。
 1a.認定司法書士が 140万円を超える価額の債権について債務者から債務整理の依頼を受けて債権者と裁判外の和解をして依頼者から報酬を得た場合に,裁判外の和解について代理することができないにもかかわらず,違法にこれを行って報酬を受領したものであるから,依頼者に対し不法行為による損害賠償として上記報酬相当額の支払義務を負うとされた事例。 /過払金返還請求/利息制限法違反の過払利息/簡裁代理権/
参照条文: /民法:709条/司法書士法:3条1項7号;3条2項/裁判所法:33条1項1号/
全 文 h280627supreme.html

最高裁判所 平成 28年 6月 3日 第2小法廷 判決 ( 平成27年(受)第118号 )
事件名:  遺言書真正確認等,求償金等請求・上告事件
要 旨
 被相続人が平成15年5月6日の日付及び氏名を自書し,その名下にいわゆる花押を書いたが,印章による押印のない遺言書が,自筆証書遺言の要件を満たさないとされた事例。
 1.花押を書くことは,印章による押印と同視することはできず,民法968条1項の押印の要件を満たさない。
参照条文: /民法:968条1項/
全 文 h280603supreme.html

最高裁判所 平成 28年 6月 2日 第1小法廷 判決 ( 平成26年(受)第949号 )
事件名:  債券償還等請求・上告事件
要 旨
 外国国家が発行した円建て債券の償還等請求訴訟について、債券管理会社が債券保有者のために原告として訴訟を追行する資格が肯定された事例。(任意的訴訟担当の肯定事例)
 1.任意的訴訟担当については,本来の権利主体からの訴訟追行権の授与があることを前提として,弁護士代理の原則(民訴法54条1項本文)を回避し,又は訴訟信託の禁止(信託法10条)を潜脱するおそれがなく,かつ,これを認める合理的必要性がある場合には許容することができる。(先例の確認)
 2.外国国家が円建てソブリン債券を発行するに際して、日本の銀行との間で債券管理委託契約を締結し、同契約中に≪債券の管理会社は,本件債権者のために本件債券に基づく弁済を受け,又は債権の実現を保全するために必要な一切の裁判上又は裁判外の行為をする権限及び義務を有するものとする≫等の授権条項が含まれ、これが目論見書や「債券の要綱」に記載されていた場合に、この管理委託契約は第三者である債券等保有者のためにする契約であると解され,債券等保有者は,債券の購入に伴い,債券に係る償還等請求訴訟を提起することも含む債券の管理を管理会社に委託することについて受益の意思表示をしたものであって,管理会社に対し本件訴訟(債券償還等請求訴訟)の訴訟追行権を授与したものと認めるのが相当であるとされた事例。 /当事者適格/原告適格/訴訟要件/
参照条文: /信託法:10条/民事訴訟法:54条1項;2編1章/
全 文 h280602supreme.html

最高裁判所 平成 28年 4月 28日 第1小法廷 判決 ( 平成27年(受)第330号 )
事件名:  債務不存在確認等請求本訴,不当利得返還請求反訴・上告事件
要 旨
 長男が父母を保険金受取人とし自らを被保険者とする生命保険契約及び生命共済契約を締結し、父母の破産手続開始後に長男が死亡し、死亡保険金・死亡共済金を父母が受領したが、その一部を破産管財人に引き渡さなかった場合に、これらの保険金請求権・共済金請求権は破産法34条2項により破産財団に属するとして、破産管財人の破産者に対する不当利得返還請求(本訴請求)が認容された事例。。
 1.第三者のためにする生命保険契約の死亡保険金受取人は,当該契約の成立により,当該契約で定める期間内に被保険者が死亡することを停止条件とする死亡保険金請求権を取得する。(先例の確認)
 1a. 破産手続開始前に成立した第三者のためにする生命保険契約に基づき破産者である死亡保険金受取人が有する死亡保険金請求権は,破産法34条2項にいう「破産者が破産手続開始前に生じた原因に基づいて行うことがある将来の請求権」に該当するものとして,上記死亡保険金受取人の破産財団に属する。
 2.破産者が破産財団に属すべき金員を費消するにあたって弁護士の助言を得ていた場合に、その弁護士が破産管財人に対して損害賠償義務を負うとされ、かつ、破産者の不当利得返還債務と重なり合う部分について、弁護士は破産者と連帯して支払いをなすべきものとされた事例。(判時事項ではない。なお、本判決2・3からこの要旨を作成したが、原判決により確認する必要がある) /不真正連帯債務/全部義務/
参照条文: /破産法:34条2項/保険法:42条/
全 文 h280428supreme.html

最高裁判所 平成 28年 4月 21日 第1小法廷 判決 ( 平成26年(受)第755号 )
事件名:  損害賠償請求・上告事件
要 旨
 建造物損壊罪で懲役1年の判決を受け,これを不服として控訴している本件原告(大阪拘置所に収容中の未決拘禁者)が,11食連続して食事をしておらず,入所時と比較して体重が5kg減少しており,食事をするよう指導をしてもこれを拒絶していることから,大阪拘置所医務部の医師が,このままでは原告の生命に危険が及ぶおそれがあると判断し,その同意を得ることなく,鼻腔から胃の内部にカテーテルを挿入し栄養剤を注入する鼻腔経管栄養補給の処置を実施し,その後,カテーテルを引き抜いたところ,同人の鼻腔から出血が認められたので,医師の指示により止血処置が行われた場合に,この処置について,原告が拘置所に収容された被勾留者に対する診療行為における安全配慮義務に違反し債務不履行を構成するなどと主張して,損害賠償請求の訴えを提起したが棄却された事例。
 1.未決勾留による拘禁関係は,当事者の一方又は双方が相手方に対して信義則上の安全配慮義務を負うべき特別な社会的接触の関係とはいえない。
 1a. したがって,国は,拘置所に収容された被勾留者に対して,その不履行が損害賠償責任を生じさせることとなる信義則上の安全配慮義務を負わないというべきである
 2.(傍論)
 事実関係次第では,国が当該被勾留者に対して国家賠償法1条1項に基づく損害賠償責任を負う場合があり得る。 /被勾留者/
参照条文: /刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律:31条;56条/
全 文 h280421supreme.html

最高裁判所 平成 28年 4月 12日 第3小法廷 判決 ( 平成26年(受)第754号 )
事件名:  損害賠償請求・上告事件
要 旨
 死刑確定者として大阪拘置所に収容されている者が再審請求の弁護人に宛てた信書について、拘置所長による一部発信不許可・返戻に対して被収容者が国家賠償請求の訴えを提起したが、発信不許可処分に違法性は認められないとして、請求が棄却された事例。
 1.刑事収容施設法139条2項にいう交友関係の維持については信書の発受の相手方との関係で検討されるべきものである。
 1a.再審請求の弁護人であるA弁護士に宛てた便箋7枚の信書のうち再審請求の支援者ら4名に対する連絡事項等が記載された部分(便箋6枚分)は、本件信書の発信の相手方であるA弁護士との交友関係の維持に関わるものでないから、刑事収容施設法139条2項にいう「発受の相手方との交友関係の維持」に必要な信書には該当せず、刑事施設の長がこの部分を発信者(死刑確定者)に返戻したことは、違法ではないとされた事例。
参照条文: /刑事収容施設.139条/国賠.1条1項/
全 文 h280412supreme.html

最高裁判所 平成 28年 3月 31日 第1小法廷 判決 ( 平成27年(行ヒ)第374号 )
事件名:  供託金払渡認可義務付等請求・上告事件
要 旨
 平成10年3月31日をもって宅地建物取引業(宅建業)の免許の有効期間が満了した宅建業者が,宅地建物取引業法(宅建業法)25条1項に基づき供託した営業保証金につき,30条2項本文の取戻公告(営業保証金につき還付請求権を有する者に対し6か月を下らない一定期間内に申し出るべき旨の公告)をすることなく,同25年9月20日に取戻請求をした場合に,取戻請求権の消滅時効期間は10年であり、その消滅時効は取戻事由が発生した同10年4月1日から10年経過した時から進行するから,その消滅時効はまだ完成していないとされた事例。(取戻請求権の消滅時効が完成していたとして取戻請求を却下した供託官の決定を取り消して,払渡認可決定を義務付ける判決がなされた事例)。
 1.宅建業法に基づく営業保証金の供託は,民法上の寄託契約の性質を有するものであることから,その取戻請求権の消滅時効は,同法166条1項により「権利を行使することができる時」から進行し,同法167条1項により10年をもって完成する。
 1a. 宅建業法30条1項前段所定の取戻事由が発生した場合において取戻公告がされなかったときは,宅建業者であった者等は,同条2項の定めによれば,取戻事由が発生した時から10年を経過するまでの間,上記取戻請求権を行使することはできないこととなるのであるから,上記の間,上記取戻請求権の行使について法律上の障害がある(その間、時効は進行しない)。
 1b.宅建業法30条2項の規定は,取戻請求をするに当たり,同項本文所定の取戻公告をすることを義務的なもの又は原則的なものとする趣旨ではなく,取戻公告をして取戻請求をするか,取戻公告をすることなく同項ただし書所定の期間の経過後に取戻請求をするかの選択を,宅建業者であった者等の自由な判断に委ねる趣旨であると解するのが相当である。
参照条文: /民法:166条;167条/宅地建物取:25条;30条/
全 文 h280331supreme.html

最高裁判所 平成 28年 3月 29日 第3小法廷 判決 ( 平成26年(行ヒ)第228号 )
事件名:  差押処分取消請求・上告事件
要 旨
 旧信託法が適用される信託契約による信託財産である土地と受託者の固有財産である不動産に対して固定資産税の徴収のために,信託財産である土地と固有財産である地上家屋を目的とする賃貸借契約に基づく賃料債権を対象にして滞納処分としての差押えがなされた場合に,賃料債権は信託財産に係る部分と固有財産に係る部分とに区分され,前者の賃料部分は前者の固定資産税にのみ充当することができるが,差押え自体は適法であるとされた事例。
 1.信託の登記がなされている土地と受託者の固有財産である地上家屋を対象にした不動産賃貸借契約において土地の賃料相当額部分と家屋の賃料相当額部分の内訳につき明示の合意はなされていない場合であっても,旧信託法28条が信託契約の受託者は信託財産を固有財産及び他の信託財産と分別して管理することを要する旨規定していること,土地と家屋とは別個の不動産であり,その経済的な価値は別個に観念することが可能であること等に鑑みると,土地及び家屋の経済的な価値の割合や利用状況等に応じて,賃料債権は土地の賃料相当額部分と家屋の賃料相当額部分とに区分される。
 1a.信託財産に係る賃料部分を固有財産に係る固定資産税部分に充当することはできないから,信託財産に係る固定資産税部分が信託財産に係る賃料部分からの充当により消滅した場合には,滞納処分により賃料債権を取り立てた租税債権者は,それ以降における信託財産に係る賃料相当額を受託者に交付すべきであり,交付されない場合には,受託者は不当利得の返還を求めることができる。(メモ1参照)
 1b.信託された土地の固定資産税相当額部分は,旧信託法16条1項[現21条1項]にいう「信託事務ノ処理ニ付生シタル権利」に該当し,受託者が信託された土地を賃貸することにより取得する賃料債権は,旧信託法14条[現16条1号]により信託財産に属する。(当然の前提)
 2.固定資産税の納税義務者が同一の市町村内に複数の不動産を有する場合には,課税技術上,固定資産税は,全ての不動産につき一体として賦課されることとなるが,各不動産に課される固定資産税の課税標準は当該不動産の価格を基準とするから,各不動産の課税標準で按分することにより,各不動産の固定資産税相当額を算定することができるというべきである。
 2a. 固定資産税の納税義務者が同一の市町村内に信託財産と固有財産とを有し,納税義務者(賃貸人)が両者を目的とする賃貸借契約により賃料債権を有する場合に,固定資産税の徴収のために賃料債権全体を差し押さえることは違法ではない。
参照条文: /t11.信託法:14条;16条1項;28条/国税徴収法:63条/地方税法:349条;387条/
全 文 h280329supreme.html

最高裁判所 平成 28年 3月 18日 第2小法廷 決定 ( 平成27年(許)第15号 )
事件名:  仮処分決定取消及び仮処分命令申立て却下決定に対する保全抗告棄却決定に対する許可抗告事件
要 旨
 1.建物の区分所有等に関する法律59条1項に規定する競売を請求する権利を被保全権利として,民事保全法53条又は55条に規定する方法により仮処分の執行を行う処分禁止の仮処分を申し立てることはできない。
 1a.建物の区分所有等に関する法律59条1項に規定する競売請求権は,特定の区分所有者が,区分所有者の共同の利益に反する行為をし,又はその行為をするおそれがあることを原因として,区分所有者の共同生活の維持を図るため,他の区分所有者等において,当該行為に係る区分所有者の区分所有権等を競売により強制的に処分させ,もって当該区分所有者を区分所有関係から排除しようとする趣旨のものであるから,当該区分所有者が任意にその区分所有権等を処分することは妨げられず,それを,民事保全法53条又は55条所定の処分禁止の仮処分により禁止することは相当でない。
参照条文: /建物の区分所有等に関する法律:59条1項/民事保全法:53条;55条/
全 文 h280318supreme.html

最高裁判所 平成 28年 3月 15日 第3小法廷 判決 ( 平成26年(受)第2454号 )
事件名:  損害賠償請求・上告事件
要 旨
 消費者金融会社(武富士)が無担保普通社債(発行日平成14年6月.発行総額300億円,利率年4%,償還期限平成34年6月)について,会計上早期に償還したものと取り扱うとともに将来支払うべき利息の負担の軽減を図るという取引の枠組みの作成をY2(メリルリンチ日本証券)に依頼し,Y2が仕組債(インデックスCDSを組込み、未償還元本につき年利4%の利息支払合意を含む各種条件付債券)を用いた取引を提案し,武富士が公認会計士及び弁護士の意見を徴した上,その取引の実行として,社債の償還原資として信託銀行に300億円余を信託し,保証の買手でもあるY1が組成しSPV(アイルランド法人)が発行する前記仕組債をY1・Y2を経由して信託銀行が購入したところ,その後,急激な市況の悪化及びこれに伴う信用不安(アメリカのサブプライム ローン バブルの崩壊とリーマン ショック)により,本件仕組債に組み込まれた担保債券(シグマファイナンスが設立したSIV発行の債券)及びインデックスCDSの各評価額の下落が生じ,Y1が本件仕組債の要素となっている契約を解除した結果本件取引が解消され,SPVから期日前償還金として3億円余のみが支払われ,武富士が300億円を超す損害を被った事案において,更生手続が開始された武富士の管財人がY2らに対して,説明義務違反等があったと主張して不法行為による損害賠償請求の訴えを提起したが,最高裁が,Y2が本件取引を行った際に説明義務違反があったということはできないとして,請求を棄却すべきとした事例。 /クレジット・デフォルト・スワップ/ディフィーザンス/債務の実質返済/債務のオフバランス/CPDO/定率債務証券/
参照条文: /民法:709条/
全 文 h280315supreme.html

最高裁判所 平成 28年 3月 10日 第1小法廷 判決 ( 平成26年(受)第1985号 )
事件名:  損害賠償請求・上告事件
要 旨
 米国法人(カジノの運営を主たる業務とするネバダ州法人)がそのウェブサイトに掲載した英文記事により名誉と信用を害されたと主張する日本法人及びその取締役が、ネバダ州法人を被告にして東京地方裁判所に損害賠償請求の訴えを提起したところ、原告らの名誉及び信用の毀損という結果が日本国内で発生したといえることから,本件訴えについては日本の裁判所が管轄権を有することとなる場合(民訴法3条の3第8号)に当たるが、本件訴訟(平成24年8月提起)は別件米国訴訟(平成24年2月提起)に係る紛争から派生した紛争に係るものであり,事実関係や法律上の争点について,本件訴訟と共通し又は関連する点が多い別件米国訴訟の状況に照らし,本件訴訟の本案の審理において想定される主な争点についての証拠方法は,主に米国に所在するものといえる等の事情に照らせば、「日本の裁判所が審理及び裁判をすることが当事者間の衡平を害し,又は適正かつ迅速な審理の実現を妨げることとなる特別の事情」(民訴法3条の9)があるとして訴えが却下された事例。 /パチンコ遊技機/ゲーミング(賭博営業)免許/海外腐敗行為防止法/
参照条文: /民事訴訟法:3-3条8号;3-9条/
全 文 h280310supreme.html

最高裁判所 平成 28年 3月 10日 第1小法廷 判決 ( 平成27年(行ヒ)第221号 )
事件名:  個人情報一部不開示決定処分取消等請求・上告事件
要 旨
 京都府個人情報保護条例(平成8年京都府条例第1号)に基づき,実施機関である京都府警察本部長(処分行政庁)に対し,開示請求者(本件訴訟の原告)の子が建物から転落して死亡した件について京都府警察田辺警察署において作成又は取得した書類等一式に記録されている自己の個人情報の開示請求をしたところ,平成24年10月12日付けでその一部を開示する旨の決定を受けたため,同25年4月19日に,不開示部分の取消しを求めるとともに,不開示部分に係る個人情報の開示決定の義務付けを求める訴えを提起した場合に,不開示部分を塗りつぶした開示文書が到着したのは同月22日であるが,決定通知書自体は同月15日に到着しているから,本件訴えは本件処分のあったことを知った日から6か月の出訴期間を経過した後に提起されたものであり,また,出訴期間を経過した後に提起されたことにつき行政事件訴訟法14条1項ただし書の「正当な理由」があるということはできないとして,訴えが却下された事例。
 1.処分がその名宛人に個別に通知される場合には,行政事件訴訟法14条1項本文にいう「処分があったことを知った日」とは,その者が処分のあったことを現実に知った日のことをいい,当該処分の内容の詳細や不利益性等の認識までを要するものではない。
 1a.本件通知書には本件開示請求に対する応答として一部を開示する旨が明示されている上に,本件通知書には本件文書に記録された個人情報のうち本件処分において不開示とされた部分を特定してその理由が示されているから,出訴期間の起算点は,本件通知書が到達した時であると判断された事例。
参照条文: /行政事件訴訟法:14条1項/京都府個人情報保護条例(平成8年京都府条例第1号):15条;16条/
全 文 h280310supreme2.html

最高裁判所 平成 28年 3月 4日 第2小法廷 判決 ( 平成27年(受)第1384号 )
事件名:  保険金請求本訴,不当利得返還請求反訴・上告事件
要 旨
 老人デイサービスセンターの利用者(83歳、骨粗しょう症、身長約115cm、円背)が自宅前の平坦な場所に停車した送迎車から降車する際に、車両の床ステップと地面との間に38cmの段差があるため通常ならば職員が用意する踏み台を使用して降車するのであるが、当日は職員が踏み台を用意することなく利用者の手を引いて車両の床ステップからアスファルトの地面に降ろしたところ,利用者が着地の際に右大腿骨頚部骨折の傷害を負った場合に、本件事故は,本件車両の運行が本来的に有する危険が顕在化したものであるということはできないので,本件車両に係る自動車保険契約の搭乗者傷害特約における当該送迎車の運行に起因するものとはいえないとされた事例(保険金請求棄却)。
参照条文: /保険法:2条6号;2条7号/
全 文 h280304supreme.html

最高裁判所 平成 28年 3月 4日 第2小法廷 判決 ( 平成27年(受)第1431号 )
事件名:  株主総会決議取消請求・上告事件
要 旨
 株主(上告人)らを取締役から解任する旨の議案を否決する株主総会決議の取消請求の訴えが提起された場合に、否決決議が取り消されれば,別途上告人らに対して提起されている役員の解任の訴えが不適法として却下されることとなるから,本件否決決議取消しの訴えの利益は肯定されるべきであるとの主張が排斥され、否決決議取消しの訴えが却下された事例。
 1.一般に,ある議案を否決する株主総会等の決議によって新たな法律関係が生ずることはないし,当該決議を取り消すことによって新たな法律関係が生ずるものでもないから,ある議案を否決する株主総会等の決議の取消しを請求する訴えは不適法であると解するのが相当である。
 1a.このことは,当該議案が役員を解任する旨のものであった場合でも異なるものではない。 /訴えの客観的利益/訴訟要件/訴えの適法性/
参照条文: /会社法:831条;854条/民事訴訟法:2編1章/
全 文 h280304supreme2.html

最高裁判所 平成 28年 3月 1日 第3小法廷 判決 ( 平成26年(受)第1434号,第1435号 )
事件名:  損害賠償請求・上告事件
要 旨
 アルツハイマー型認知症に罹患した老人(当時91歳)が平成19年に一人で自宅を抜け出して駅構内で駅ホームから降りて線路に立ち入り,列車と衝突して死亡するとともに,鉄道会社(JR東海)に列車遅延による損害等を与えた場合に,鉄道会社がその妻(当時85歳)と長男に対して 民法714条1項に基づく損害賠償金(719万円余)を請求したが,被告等は民法714条1項の監督義務者にあたらず,本件の事情の下ではこれに準ずる者にも該当しないとして,請求が棄却された事例。
 1.平成11年改正前の精神保健及び精神障害者福祉に関する法律20条所定の保護者の精神障害者に対する自傷他害防止監督義務は,平成11年改正により廃止されており,また,平成11年改正後の民法858条において成年後見人に課された身上配慮義務は,成年後見人が契約等の法律行為を行う際に成年被後見人の身上について配慮すべきことを求めるものであって,成年後見人に対し事実行為として成年被後見人の現実の介護を行うことや成年被後見人の行動を監督することを求めるものと解することはできないから,平成19年当時において,保護者や成年後見人であることだけでは直ちに法定の監督義務者に該当するということはできない。
 1a.精神障害者と同居する配偶者であるからといって,その者が民法714条1項にいう「責任無能力者を監督する法定の義務を負う者」に当たるとすることはできない。
 2.法定の監督義務者に該当しない者であっても,責任無能力者との身分関係や日常生活における接触状況に照らし,第三者に対する加害行為の防止に向けてその者が当該責任無能力者の監督を現に行いその態様が単なる事実上の監督を超えているなどその監督義務を引き受けたとみるべき特段の事情が認められる場合には,衡平の見地から法定の監督義務を負う者と同視してその者に対し民法714条に基づく損害賠償責任を問うことができるとするのが相当であり,このような者については,法定の監督義務者に準ずべき者として,同条1項が類推適用されると解すべきである。
 2a. ある者が,精神障害者に関し,このような法定の監督義務者に準ずべき者に当たるか否かは,その者自身の生活状況や心身の状況などとともに,精神障害者との親族関係の有無・濃淡,同居の有無その他の日常的な接触の程度,精神障害者の財産管理への関与の状況などその者と精神障害者との関わりの実情,精神障害者の心身の状況や日常生活における問題行動の有無・内容,これらに対応して行われている監護や介護の実態など諸般の事情を総合考慮して,その者が精神障害者を現に監督しているかあるいは監督することが可能かつ容易であるなど衡平の見地からその者に対し精神障害者の行為に係る責任を問うのが相当といえる客観的状況が認められるか否かという観点から判断すべきである。
参照条文: /民法:714条;843条;853条/精神保健及び精神障害者福祉に関する法律:20条;22条/
全 文 h280301supreme.html

最高裁判所 平成 28年 2月 29日 第1小法廷 判決 ( 平成27年(行ヒ)第75号 )
事件名:  法人税更正処分取消請求・上告事件
要 旨
 1.法人税法(平成22年法律第6号による改正前のもの)132条の2条にいう「法人税の負担を不当に減少させる結果となると認められるもの」とは,法人の行為又は計算が組織再編成に関する税制(以下「組織再編税制」という。)に係る各規定を租税回避の手段として濫用することにより法人税の負担を減少させるものであることをいうと解すべきであり,その濫用の有無の判断に当たっては,{1}当該法人の行為又は計算が,通常は想定されない組織再編成の手順や方法に基づいたり,実態とは乖離した形式を作出したりするなど,不自然なものであるかどうか,{2}税負担の減少以外にそのような行為又は計算を行うことの合理的な理由となる事業目的その他の事由が存在するかどうか等の事情を考慮した上で,当該行為又は計算が,組織再編成を利用して税負担を減少させることを意図したものであって,組織再編税制に係る各規定の本来の趣旨及び目的から逸脱する態様でその適用を受けるもの又は免れるものと認められるか否かという観点から判断するのが相当である。
 1a.法人税更正処分を受けた原告会社が約666億円の未処理欠損金を有するb社を買収するに際して,原告会社の代表取締役が買収の数月前にb社の取締役副社長に就任したことが,本件の諸事情に鑑みると,組織再編成を利用して税負担を減少させることを意図したものであって,適格合併における未処理欠損金額の引継ぎを定める法人税法57条2項,みなし共同事業要件に該当しない適格合併につき同項の例外を定める同条3項及び特定役員引継要件を定める同法施行令(平成22年政令第51号による改正前のもの)112条7項5号の本来の趣旨及び目的を逸脱する態様でその適用を受けるもの又は免れるものと認められた事例。
 2.法人税法(平成22年法律第6号による改正前のもの)132条の2にいう「その法人の行為又は計算」とは,更正又は決定を受ける法人の行為又は計算に限られるものではなく,「次に掲げる法人」の行為又は計算,すなわち,同条各号に掲げられている法人の行為又は計算を意味するものと解するのが相当である。
 2a.本件副社長就任は,本件更正処分等を受けた原告会社の行為とは評価し得ないとしても,本件合併の被合併法人(同条1号)であるb社の行為である以上,同条による否認の対象となるとされた事例。 /適格合併/非適格合併/適格組織再編成/非適格組織再編成/
参照条文: /平成22年法律第6号改正前.法人税法:132-2条;2条12-8号;57条/平成22年政令第51号改正前.法人税法施行令:112条7項/
全 文 h280229supreme.html

最高裁判所 平成 28年 2月 29日 第2小法廷 判決 ( 平成27年(行ヒ)第177号 )
事件名:  法人税更正処分等取消請求・上告事件
要 旨
 非適格分割と主張された分割が適格分割の実質を有すると評価され、組織再編成に係る行為又は計算の否認規定である法人税法(平成22年法律第6号による改正前のもの)132条の2の適用が肯定され、62条の8第1項の資産調整勘定の金額(損金に算入される金額)は生じなかったものとされた事例。
 1.法人税法132条の2にいう「法人税の負担を不当に減少させる結果となると認められるもの」とは,法人の行為又は計算が組織再編税制に係る各規定を租税回避の手段として濫用することにより法人税の負担を減少させるものであることをいうと解すべきであり,その濫用の有無の判断に当たっては,{1}当該法人の行為又は計算が,通常は想定されない組織再編成の手順や方法に基づいたり,実態とは乖離した形式を作出したりするなど,不自然なものであるかどうか,{2}税負担の減少以外にそのような行為又は計算を行うことの合理的な理由となる事業目的その他の事由が存在するかどうか等の事情を考慮した上で,当該行為又は計算が,組織再編成を利用して税負担を減少させることを意図したものであって,組織再編税制に係る各規定の本来の趣旨及び目的から逸脱する態様でその適用を受けるもの又は免れるものと認められるか否かという観点から判断するのが相当である。 /IDCフロンティア/過少申告加算税/未処理欠損金/損金算入
参照条文: /平成22年法律第6号改正前.法人税法:132-2条;2条12-11号;57条;62条1項;62-8条/法人税法:62-3条/平成22年政令第51号改正前.法人税法施行令:4-2条/
全 文 h280229supreme2.html

最高裁判所 平成 28年 2月 26日 第2小法廷 判決 ( 平成26年(受)第1312号,第1313号 )
事件名:  価額償還請求上告,同附帯上告事件
要 旨
 1.相続開始後の認知によって相続人となった者が他の共同相続人に対して民法910条に基づき価額の支払を請求する場合における遺産の価額算定の基準時は,価額の支払を請求した時であると解するのが相当である。
 2.民法910条に基づく他の共同相続人の価額の支払債務は,期限の定めのない債務であって,履行の請求を受けた時に遅滞に陥ると解するのが相当である。
 2a.この場合の遅延損害金の起算日は,価額支払請求がなされた日の翌日である。
参照条文: /民法:910条;412条2項/
全 文 h280226supreme.html

最高裁判所 平成 28年 2月 19日 第2小法廷 判決 ( 平成25年(受)第2595号 )
事件名:  退職金請求・上告事件
要 旨
 1.就業規則に定められた賃金や退職金に関する労働条件の変更に対する労働者の同意の有無については,当該変更を受け入れる旨の労働者の行為の有無だけでなく,当該変更により労働者にもたらされる不利益の内容及び程度,労働者により当該行為がされるに至った経緯及びその態様,当該行為に先立つ労働者への情報提供又は説明の内容等に照らして,当該行為が労働者の自由な意思に基づいてされたものと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在するか否かという観点からも,判断されるべきものと解するのが相当である。
 1a.信用組合の救済合併に伴う救済される側の労働者の退職金支給基準の変更について,管理職にある労働者らが基準変更への同意をするか否かについて自ら検討し判断するために必要十分な情報を与えられていたというためには,同人らに対し,旧規程の支給基準を変更する必要性等についての情報提供や説明がされるだけでは足りず,自己都合退職の場合には支給される退職金額が0円となる可能性が高くなることや,救済する側の従前からの職員に係る支給基準との関係でも著しく均衡を欠く結果となることなど,退職金の支給につき生ずる具体的な不利益の内容や程度についても,情報提供や説明がされる必要があったというべきであるとされた事例。(審理不尽を理由に破棄・差戻し)
 2.労働協約書に署名押印をした執行委員長の権限に関して,職員組合の規約に,組合を代表しその業務を統括する権限を有する旨が定められているにすぎない場合に,上記規約をもって上記執行委員長に退職金支給基準の変更に係る労働協約を締結する権限を付与するものと解することはできず,上記執行委員長が労働協約を締結する権限を有していたというためには,職員組合の機関である大会又は執行委員会により上記の権限が付与されていたことが必要であるとされた事例。(審理不尽を理由に破棄・差戻し)
参照条文: /h19前.労働基準法:89条3-2号;93条/労働組合法:14条/
全 文 h280219supreme.html

最高裁判所 平成 28年 1月 22日 第2小法廷 判決 ( 平成27年(行ヒ)第156号 )
事件名:  損害賠償請求・上告事件
要 旨
 町長が漁業災害対策資金として漁業協同組合の理事会の議決に基づきした組合員に対する貸付について,その根拠となる東洋町漁業災害対策資金貸付規則が東洋町公告式条例にしたがった公告を経ていないため効力を生じていないものであっても,同規則に基づく貸付けと同様の目的を有する貸付けであり,同規則が定める合理的なものと認められる手続によって行ったものということができるから,同貸付に係る支出負担行為及び支出命令が町長の裁量権の範囲を逸脱してされたものということはできないとされた事例。
 1.漁業協同組合の理事会の議決が,当該議決について特別の利害関係を有する理事が加わってされたものであっても,当該理事を除外してもなお議決の成立に必要な多数が存するときは,その効力は否定されるものではないと解するのが相当である。 /高知県安芸郡東洋町/住民訴訟/平成23年台風6号/
参照条文: / 水産業協同組合法:37条2項/東洋町漁業災害対策資金貸付規則/地方自治法:242-2条1項4号/
全 文 h280122supreme.html

最高裁判所 平成 28年 1月 12日 第3小法廷 判決 ( 平成25年(受)第1195号 )
事件名:  貸金返還請求・上告事件
要 旨
 信用保証協会において主債務者が反社会的勢力でないことを前提として保証契約を締結し,金融機関において融資を実行したが,その後,主債務者が反社会的勢力であることが判明した場合には,信用保証協会の意思表示に動機の錯誤があるということができるが,信用保証協会のその動機は,それが明示又は黙示に表示されていたとしても,当事者の意思解釈上,本件保証契約の内容となっていたとは認められず,保証人の本件保証契約の意思表示に要素の錯誤はないとされた事例(主債務者が反社会的勢力に属することが事後的に判明した場合の取扱いについて定めがなされていなかった事案)。
 1.意思表示における動機の錯誤が法律行為の要素に錯誤があるものとしてその無効を来すためには,その動機が相手方に表示されて法律行為の内容となり,もし錯誤がなかったならば表意者がその意思表示をしなかったであろうと認められる場合であることを要する。
 1a.動機は,たとえそれが表示されても,当事者の意思解釈上,それが法律行為の内容とされたものと認められない限り,表意者の意思表示に要素の錯誤はないと解するのが相当である。
参照条文: /民法:95条/
全 文 h280112supreme.html

最高裁判所 平成 28年 1月 12日 第3小法廷 判決 ( 平成26年(受)第1351号 )
事件名:  保証債務請求・上告事件
要 旨
 信用保証協会において主債務者が反社会的勢力でないことを前提として保証契約を締結し,金融機関において融資を実行したが,その後,主債務者が反社会的勢力であることが判明した場合に,保証債務履行請求訴訟において、被告が{1}要素の錯誤を理由とする契約の無効と、{2}原告の保証契約違反を理由とする免責を主張し、前者の抗弁は否定されたが、後者の抗弁に理由があるとして、これを否定した原判決が破棄されて差し戻された事例。
 1.意思表示における動機の錯誤が法律行為の要素に錯誤があるものとしてその無効を来すためには,その動機が相手方に表示されて法律行為の内容となり,もし錯誤がなかったならば表意者がその意思表示をしなかったであろうと認められる場合であることを要する。
 1a.動機は,たとえそれが表示されても,当事者の意思解釈上,それが法律行為の内容とされたものと認められない限り,表意者の意思表示に要素の錯誤はないと解するのが相当である。
 1b. 主債務者が反社会的勢力でないことという保証人の動機は,それが明示又は黙示に表示されていたとしても,当事者の意思解釈上,これが本件各保証契約の内容となっていたとは認められず,保証人の本件各保証契約の意思表示に要素の錯誤はないとされた事例。
 2.保証契約上の付随義務として,債権者及び保証人は,個々の保証契約を締結して融資を実行するのに先立ち,相互に主債務者が反社会的勢力であるか否かについてその時点において一般的に行われている調査方法等に鑑みて相当と認められる調査をすべき義務を負うとされた事例。
 2a.信用保証協会と銀行と間で、債権者(銀行)が「保証契約に違反したとき」は,保証人は債権者に対する保証債務の履行につき,その全部又は一部の責めを免れるものとする旨の定め(免責条項)のある基本契約が締結されている場合に、債権者が上記調査義務に違反し,その結果,反社会的勢力を主債務者とする融資について保証契約が締結されたことは,基本契約中の免責条項にいう債権者が「保証契約に違反したとき」に当たる。
 2b.債権者が上記調査義務に違反し、その結果,保証契約が締結されたといえる場合には,保証人は、基本契約中の免責条項により保証契約に基づく保証債務の履行の責めを免れ、その免責の範囲は,上記の点についての保証人の調査状況等も勘案して定められる。
参照条文: /民法:91条;95条/信用保証協会法:1条/
全 文 h280112supreme2.html

最高裁判所 平成 27年 12月 17日 第1小法廷 判決 ( 平成27年(行フ)第1号 )
事件名:  訴訟救助申立て却下決定に対する抗告状却下命令に対する許可抗告事件
要 旨
 訴訟救助却下決定に対する即時抗告の抗告状に所定の印紙を貼付していなかったため,原審裁判長から手数料納付の補正命令を受けたが,抗告人が命令で定められた期間内に上記手数料を納付しなかった場合に,抗告状却下命令(原命令)の告知のために抗告人に宛てて発送された原命令の謄本の送達を受ける前に抗告人が手数料を納付したときは,その不納付の瑕疵は補正され,抗告状は当初に遡って有効となり,これを却下した原命令は失当であることに帰し,原命令は破棄を免れないとされた事例。
 1.抗告提起の手数料の納付を命ずる裁判長の補正命令を受けた者が,当該命令において定められた期間内にこれを納付しなかった場合においても,その不納付を理由とする抗告状却下命令が確定する前にこれを納付すれば,その不納付の瑕疵は補正され,抗告状は当初に遡って有効となる。
参照条文: /行政事件訴訟法:7条/民事訴訟法:331条;288条;137条/
全 文 h271217supreme.html

最高裁判所 平成 27年 12月 14日 第1小法廷 判決 ( 平成25年(オ)第918号 )
事件名:  不当利得返還請求本訴,貸金請求反訴・上告事件
要 旨
 原告・被告間で時期を異にする継続的取引が2つなされ、原告が両取引の一連性を主張して過払金返還請求(本訴請求)の訴えを提起したのに対して、被告が一連性を否定して過払金返還請求権の発生原因となる取引の終了後に開始された継続的取引による貸金債権の反訴を提起し、原告が本訴請求債権が時効により消滅したと判断される場合に備えて、その判断がなされることを条件にして、反訴請求に対して本訴請求債権を自働債権とする相殺の抗弁を提出している事案において、反訴請求に対するこの抗弁は民訴法142条の趣旨に反するものではなく、したがってこれについて判断することなく反訴請求を認容することは、主文を導き出すための理由の一部が欠けているといわざるを得ず,民訴法312条2項6号に掲げる理由の不備があるとされた事例。
 1.係属中の別訴において訴訟物となっている債権を自働債権として他の訴訟において相殺の抗弁を主張することは,重複起訴を禁じた民訴法142条の趣旨に反し,許されない。(傍論/先例の確認)
 2.本訴において訴訟物となっている債権の全部又は一部が時効により消滅したと判断されることを条件として,反訴において,当該債権のうち時効により消滅した部分を自働債権として相殺の抗弁を主張することは許される。
 3.相殺の抗弁が提出されているにもかかわらず、これについて何の判断もすることなく請求を認容することは、主文を導き出すための理由の一部が欠けているといわざるを得ず,民訴法312条2項6号に掲げる理由の不備がある /重複起訴の禁止/二重起訴の禁止/
参照条文: /民法:505条;508条/民事訴訟法:114条2項;142条;146条;312条2項6号/
全 文 h271214supreme.html

最高裁判所 平成 27年 11月 19日 第1小法廷 判決 ( 平成25年(受)第2001号 )
事件名:  償金等請求・上告事件
要 旨
 1.民法465条に規定する共同保証人間の求償権は,主たる債務者の資力が不十分な場合に,弁済をした保証人のみが損失を負担しなければならないとすると共同保証人間の公平に反することから,共同保証人間の負担を最終的に調整するためのものであり,保証人が主たる債務者に対して取得した求償権を担保するためのものではない。
 1a. したがって,保証人が主たる債務者に対して取得した求償権の消滅時効の中断事由がある場合であっても,共同保証人間の求償権について消滅時効の中断の効力は生じない。(民法457条1項の類推適用はない)
参照条文: /民法:457条1項;465条/
全 文 h271119supreme.html

最高裁判所 平成 27年 10月 27日 第3小法廷 判決 ( 平成25年(受)第2415号 )
事件名:  配当異議事件・上告事件
要 旨
 1.担保不動産競売の手続における根抵当権者に対する配当は,根抵当権の優先弁済権を実現して被担保債権を満足させるものであるから,配当によって消滅するのは,配当の時点において実体法上存在する被担保債権であるというべきである。(判旨の前提)
 1a.担保不動産競売の手続における配当金が被担保債権の全てを消滅させるに足りない場合には,その配当金は法定充当がされる。(先例の確認)
 1b. 配当表記載の根抵当権者の配当額について配当異議の訴えが提起されたためにその配当額に相当する金銭が供託され,その後,当該根抵当権者が上記訴えに係る訴訟において勝訴したことにより,当該根抵当権者に対し上記配当表記載のとおりに配当がされる場合には,その配当の実施は,供託金の支払委託によって行われ、当該供託金は,その支払委託がされた時点における被担保債権に法定充当がされるものと解するのが相当である。(判旨)
参照条文: /民事執行法:91条1項7号;92条1項;188条/民法:489条/
全 文 h271027supreme.html

最高裁判所 平成 27年 9月 18日 第2小法廷 判決 ( 平成25年(受)第843号 )
事件名:  不当利得返還請求・上告事件
要 旨
 一部の区分所有者が共用部分を第三者に賃貸して得た賃料のうち各区分所有者の持分割合に相当する部分につき生ずる不当利得返還請求権が各区分所有者に帰属する場合に、本件管理規約には,管理者が共用部分の管理を行い,共用部分を特定の区分所有者に無償で使用させることができる旨の定めがあり,この定めは,区分所有者の団体のみが上記不当利得返還請求権を行使することができる旨を含むものと解すべきであるから,各区分所有者はこれを行使することができないと説示され、各区分所有者による行使が許されることを前提とする請求が棄却された事例(原告適格は肯定)。
 1.一部の区分所有者が共用部分を第三者に賃貸して得た賃料のうち各区分所有者の持分割合に相当する部分につき生ずる不当利得返還請求権は各区分所有者に帰属するから,各区分所有者は,原則として,上記請求権を行使することができる。
 2.区分所有者の団体は,区分所有者の団体のみが上記請求権を行使することができる旨を集会で決議し,又は規約で定めることができ,その旨の決議又は規約の定めがある場合には,各区分所有者は,上記請求権を行使することができない。
 2a.区分所有者の団体の執行機関である管理者が共用部分の管理を行い,共用部分を使用させることができる旨の集会の決議又は規約の定めは,区分所有者の団体のみが上記請求権を行使することができる旨を含むものと解される。 /事件適格/実体適格/当事者適格/
参照条文: /建物の区分所有等に関する法律:3条;1章2節;18条;1章5節/
全 文 h270918supreme.html

最高裁判所 平成 27年 9月 15日 第3小法廷 判決 ( 平成25年(受)第1989号 )
事件名:  不当利得返還請求・上告事件
要 旨
 1.特定調停手続は,支払不能に陥るおそれのある債務者等の経済的再生に資するため,債務者が負っている金銭債務に係る利害関係の調整を促進することを目的とするものであり,特定債務者の有する金銭債権の有無やその内容を確定等することを当然には予定していない。
 2.特定調停において,残元利金合計額を確認する条項(残債務確認条項=確認条項)と,調停当事者間にそれ以外の債権債務がないことを相互に確認する条項(清算済み確認条項=清算条項)を含む調停が成立した場合でも,調停の目的が継続的金銭消費貸借取引のうちの特定の期間内の借受金等の債務であると申立書に明記されているときは,上記各条項の対象である権利義務関係も,特定債務者である申立人の相手方に対する上記借受金等の債務に限られ,申立人の相手方に対する過払金返還請求権等の債権はこれに含まれないと解するのが相当である。
 3.継続的消費貸借取引の一部の期間内の取引について特定調停がなされた場合に,全部の期間を通じてみれば調停成立時点ですでに過払金が発生しているときでも,残債務確認条項が調停対象期間内の借受け及びこれに対する返済を利息制限法所定の制限利率に引き直して計算した残元利金を超えない金額の支払義務を確認する内容のものであるときは,確認条項及び清算条項自体が同法に違反するものとはいえない。
 3a.上記の特定調停が成立した日以降の特定調停に従った支払は,法律上の原因がないとはいえず,この支払により過払金返還請求権等が発生するとはいえない。
参照条文: /民法:90条;91条;695条;703条;704条/平成18年法律115号による改正前.利息制限法:1条1項/民事調停法:16条;特定債務等の調整の促進のための特定調停に関する法律:2条;3条/
全 文 h270915supreme.html

最高裁判所 平成 27年 6月 8日 第2小法廷 判決 ( 平成25年(受)第2430号 )
事件名:  地位確認等請求反訴事件・上告事件/専修大学打切補償解雇事件
要 旨
 労災保険法12条の8第1項1号の療養補償給付を受ける労働者が,療養開始後3年を経過しても疾病等(頸肩腕症候群)が治らない場合に,使用者(学校法人専修大学)は,労働基準法75条による療養補償を受ける労働者が上記の状況にある場合と同様に,同法81条の規定による打切補償の支払をすることにより,解雇制限の除外事由を定める同法19条1項ただし書の適用を受けることができるとされた事例。
 
 1.労災保険法12条の8第1項1号の療養補償給付を受ける労働者は,解雇制限に関する労働基準法19条1項の適用に関しては,同項ただし書が打切補償の根拠規定として掲げる同法81条にいう同法75条の規定によって補償を受ける労働者に含まれる。
参照条文: /労働者災害補償保険法:12-8条/労働基準法:19条1項;75条;81条/
全 文 h270608supreme..html

最高裁判所 平成 27年 6月 1日 第2小法廷 判決 ( 平成26年(受)第2344号 )
事件名:  不当利得返還請求・上告事件
要 旨
 1.債務者が異議をとどめないで指名債権譲渡の承諾をした場合において,譲渡人に対抗することができた事由の存在を譲受人が知らなかったとしても,このことについて譲受人に過失があるときには,債務者は,当該事由をもって譲受人に対抗することができると解するのが相当である。 /取引の安全/善意者保護/
参照条文: /民法:467条;468条/
全 文 h270601supreme.html

最高裁判所 平成 27年 6月 1日 第2小法廷 判決 ( 平成26年(受)第1817号 )
事件名:  不当利得返還請求・上告事件
要 旨
 貸金業法の規制をうける貸金債権がこれと相殺されるべき過払金返還請求権が存在しないことを前提にして譲渡され、債務者が異議を留めない承諾をし、債務者が譲受人との間で金銭消費貸借取引を10年以上 継続した場合に、債務者が、譲渡債権と譲渡前に生じていた過払金とを相殺して、相殺後の残額を基準にして利息を再計算すると過払利息が発生していると主張して、譲受人に対して不当利得返還を請求した事案において、上告審が、≪譲渡前の過払金返還請求権の存在を貸金債権の譲受人が知らなかったことについて過失がある場合には、債務者が異議を留めない承諾をしていたときでも、債務者は、過払金返還請求権と譲渡債権との相殺を譲受人に対抗することができる≫旨を説示し、≪原審は譲受人に重大な過失がないとして相殺を対抗できないと判断しているが、過失の有無について審理不十分である≫として、原判決を破棄して差し戻した事例。
 1.債務者が異議をとどめないで指名債権譲渡の承諾をした場合において,譲渡人に対抗することができた事由の存在を譲受人が知らなかったとしても,このことについて譲受人に過失があるときには,債務者は,当該事由をもって譲受人に対抗することができると解するのが相当である。
 2.貸金業法の規制をうける貸金債権の過払利息返還請求訴訟において、債務者が、貸金債権の譲渡人と債務者との取引について同法18条書面の交付が全くなく,このことは同債権の譲受人も知り得たものである旨を主張している場合には、裁判所は18条書面の交付の有無や,仮に交付がなかったときにこれを貸金債権の譲受人被上告人において知り得たか否かなどについて審理判断をすべきである。 /取引の安全/善意者保護/貸金業の規制等に関する法律/
参照条文: /民法:467条;468条/
全 文 h270601supreme2.html

最高裁判所 平成 27年 5月 19日 第3小法廷 決定 ( 平成26年(許)第36号 )
事件名:  手数料還付申立て却下決定に対する抗告棄却決定に対する許可抗告事件
要 旨
 使用者を相手に雇用契約上の地位の確認等を求める訴訟を提起した原告が,労働基準法26条の休業手当の請求及びこれに係る同法114条の付加金の請求を追加した際に,付加金請求に係る請求追加の手数料として4万8000円を納付した後,付加金の請求の価額は民訴法9条2項により訴訟の目的の価額に算入しないものとすべきであり,上記手数料は過大に納められたものであるとして,民事訴訟費用等に関する法律9条1項に基づき,その還付の申立てをしたところ、それが認められた事例。
 1.民訴法9条2項の規定が,金銭債権の元本に対する遅延損害金などのように訴えの提起の際に訴訟の目的の価額を算定することが困難な場合のみならず,それ以外の場合を含めて果実等の請求をその適用の対象として掲げ,これらの請求が訴訟の附帯の目的であるときはその価額を訴訟の目的の価額に算入しないものとしているのは,このような訴訟の附帯の目的である果実等の請求については,その当否の審理判断がその請求権の発生の基礎となる主たる請求の当否の審理判断を前提に同一の手続においてこれに付随して行われることなどに鑑み,その価額を別個に訴訟の目的の価額に算入することなく,主たる請求の価額のみを管轄の決定や訴えの提起等の手数料に係る算定の基準とすれば足りるとし,これらの基準を簡明なものとする趣旨によるものと解される。
 1a.労働基準法114条の付加金の請求については,同条所定の未払金の請求に係る訴訟において同請求とともにされるときは,民訴法9条2項にいう訴訟の附帯の目的である損害賠償又は違約金の請求に含まれるものとして,その価額は当該訴訟の目的の価額に算入されないものと解するのが相当である。
 2.抗告人の申立てが認容された場合に、手続の総費用が抗告人の負担とされた事例。 /訴えの変更/
参照条文: /民事訴訟法:9条2項/民事訴訟費用等に関する法律:3条1項;別表第1の5項;4条1項/労働基準法:114条/
全 文 h270519supreme.html

最高裁判所 平成 27年 4月 28日 第3小法廷 判決 ( 平成26年(行ヒ)第75号 )
事件名:  審決取消等請求・上告事件
要 旨
 JASRACがほとんど全ての放送事業者との間で包括徴収による利用許諾契約を締結しこれに基づいて放送利用割合が反映されない放送使用料を徴収する行為が、独占禁止法2条5項所定の排除型私的独占に該当するとされた事例。
 1.ある市場におけるある事業者のある行為が独占禁止法2条5項にいう「他の事業者の事業活動を排除」する行為に該当するか否かは,その行為につき,自らの市場支配力の形成,維持ないし強化という観点からみて正常な競争手段の範囲を逸脱するような人為性を有するものであり,他の事業者のその市場への参入を著しく困難にするなどの効果を有するものといえるか否かによって決すべきものである。(先例の確認)。
 1a.JASRACの本件行為(ほとんど全ての放送事業者との間で包括徴収による利用許諾契約を締結しこれに基づいて放送利用割合が反映されない放送使用料を徴収する行為)が上記の効果を有するものといえるか否かについては,本件市場(放送事業者による管理楽曲の放送利用に係る利用許諾に関する市場)を含む音楽著作権管理事業に係る市場の状況,JASRAC及び他の管理事業者の上記市場における地位及び競争条件の差異,放送利用における音楽著作物の特性,本件行為の態様や継続期間等の諸要素を総合的に考慮して判断されるべきである。
 1b.JASRACの本件行為は,本件市場において,音楽著作権管理事業の許可制から登録制への移行後も大部分の音楽著作権につき管理の委託を受けている参加人との間で包括許諾による利用許諾契約を締結しないことが放送事業者にとっておよそ想定し難い状況の下で,JASRACの管理楽曲の利用許諾に係る放送使用料についてその金額の算定に放送利用割合が反映されない徴収方法を採ることにより,放送事業者が他の管理事業者に放送使用料を支払うとその負担すべき放送使用料の総額が増加するため,楽曲の放送利用における基本的に代替的な性格もあいまって,放送事業者による他の管理事業者の管理楽曲の利用を抑制するものであり,その抑制の範囲がほとんど全ての放送事業者に及び,その継続期間も相当の長期間にわたるものであることなどに照らせば,他の管理事業者の本件市場への参入を著しく困難にする効果を有する 、と判断された事例。
 1c.JASRACの本件行為は,別異に解すべき特段の事情のない限り,自らの市場支配力の形成,維持ないし強化という観点からみて正常な競争手段の範囲を逸脱するような人為性を有すると解された事例。
参照条文: /私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律:2条5項;3条/著作権等管理事業法:2条1項/
全 文 h270428supreme.html

最高裁判所 平成 27年 3月 27日 第2小法廷 判決 ( 平成25年(オ)第1655号 )
事件名:  建物明渡等請求・上告事件
要 旨
 1.西宮市営住宅条例(平成9年西宮市条例第44号)46条1項柱書及び6号の規定のうち,入居者が暴力団員であることが判明した場合に市営住宅の明渡しを請求することができる旨を定める部分は、暴力団員について合理的な理由のない差別をするものということはできないから,憲法14条1項に違反しない。
 2.西宮市営住宅条例(平成9年西宮市条例第44号)46条1項柱書及び6号の規定のうち,入居者が暴力団員であることが判明した場合に市営住宅の明渡しを請求することができる旨を定める部分により制限される利益は,社会福祉的観点から供給される市営住宅に暴力団員が入居し又は入居し続ける利益にすぎず,同規定による居住の制限は,公共の福祉による必要かつ合理的なものであることが明らかであるから,同規定は,憲法22条1項に違反しない。 /法の下の平等/居住の自由/
参照条文: /日本国憲法:14条1項;22条1項/西宮市営住宅条例(平成9年西宮市条例第44号):46条1項/暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律:2条6号/
全 文 h270327supreme.html

最高裁判所 平成 27年 3月 26日 第1小法廷 決定 ( 平成26年(許)第39号 )
事件名:  株式買取価格決定に対する抗告棄却決定に対する許可抗告事件
要 旨
 1.非上場会社において会社法785条1項に基づく株式買取請求がされ,裁判所が収益還元法を用いて株式の買取価格を決定する場合に,非流動性ディスカウントを行うことはできない。
 2.他の手続費用から切離して、鑑定料を当事者の合意に照らして鑑定結果と各当事者の主張金額との乖離額に応じて分担させた事例。
参照条文: /会社法:785条1項;786条2項/
全 文 h270326supreme.html

最高裁判所 平成 27年 3月 4日 大法廷 判決 ( 平成24年(受)第1478号 )
事件名:  損害賠償請求事件・上告事件
要 旨
 被害者が不法行為によって死亡した場合において,その損害賠償請求権を取得した相続人が遺族補償年金の支給を受け,又は支給を受けることが確定したときは,損害賠償額を算定するに当たり,遺族補償年金につき,その填補の対象となる被扶養利益の喪失による損害と同性質であり,かつ,相互補完性を有する逸失利益等の消極損害の元本との間で,損益相殺的な調整を行うべきものとした原審判断が正当であるとされた事例。(遅延損害金への充当を認めた最判平成16年12月20日判決の判例変更)
 1.被害者が不法行為によって死亡し,その損害賠償請求権を取得した相続人が不法行為と同一の原因によって利益を受ける場合には,損害と利益との間に同質性がある限り,公平の見地から,その利益の額を相続人が加害者に対して賠償を求める損害額から控除することによって損益相殺的な調整を図ることが必要なときがあり得る。(先例の確認)
 1a. 相続人が受ける利益が,被害者の死亡に関する労災保険法に基づく保険給付であるときは,民事上の損害賠償の対象となる損害のうち,当該保険給付による填補の対象となる損害と同性質であり,かつ,相互補完性を有するものについて,損益相殺的な調整を図るべきものと解される。(先例の確認)
 2.被害者が不法行為によって死亡した場合において,その損害賠償請求権を取得した相続人が遺族補償年金の支給を受け,又は支給を受けることが確定したときは,制度の予定するところと異なってその支給が著しく遅滞するなどの特段の事情のない限り,その填補の対象となる損害は不法行為の時に填補されたものと法的に評価して損益相殺的な調整をすることが公平の見地からみて相当である。
 (被害者の労働能力喪失事例に関する先例の趣旨を死亡事例である本件に確認) /てん補/
参照条文: /民法:412条;709条/労働者災害補償保険法:16条/
全 文 h270304supremei.html

最高裁判所 平成 27年 2月 26日 第1小法廷 判決 ( 平成26年(受)第1310号 )
事件名:  懲戒処分無効確認等請求事件・上告事件
要 旨
 管理職の地位にある男性従業員が女性の派遣社員等に対してした発言がセクハラに該当することを理由に、使用者(大阪市が出資する第三セクター)が前記男性従業員に対してした出勤停止の懲戒処分及び降格が、権利の濫用に当たらず有効であるとされた事例。
 1.男性労働者(加害労働者)が、精算室において1人で勤務している女性従業員(被害従業員)に対して,自らの不貞相手に関する性的な事柄や自らの性器,性欲等について殊更に具体的な話をするなど,極めて露骨で卑わいな発言を繰り返したこと等がセクハラ行為に当たるとして、使用者が加害労働者に対して出勤停止の懲戒処分をした事案において、加害労働者が懲戒を受ける前にセクハラに対する懲戒に関する使用者の具体的な方針を認識する機会がなく事前に警告や注意等を受けていなかったことは、加害労働者が管理職の地位にあり,セクハラの防止やこれに対する懲戒等に関する使用者の方針や取組を当然に認識すべきであったといえることに加え,被害従業員らが使用者に対して被害の申告に及ぶまで1年余にわたり加害労働者がセクハラ行為を継続していたことや,セクハラ行為の多くが第三者のいない状況で行われており,被害従業員から被害の申告を受ける前の時点において,使用者が加害労働者のセクハラ行為及びこれによる被害従業員の被害の事実を具体的に認識して警告や注意等を行い得る機会があったとはうかがわれないことからすれば,加害労働者に有利に斟酌し得る事情であるとはいえないとされた事例。 /セクシャル・ハラスメント/懲戒権の濫用/人事権の濫用/海遊館/
参照条文: /労働契約法:3条5項;5条/
全 文 h270226supreme.html

名古屋高等裁判所 平成 27年 2月 26日 民事第1部 判決 ( 平成25年(ネ)第957号 )
事件名:  損害賠償請求控訴事件
要 旨
 不法行為に基づく損害賠償を求める別件訴訟において賠償金支払などを内容とする訴訟上の和解がなされた後,債権者Aの代理人弁護士が債務者に対する強制執行の準備のため,所属する愛知県弁護士会に対し,弁護士法23条の2第1項に基づき,債務者宛ての郵便物に係る転居届の提出の有無及び転居届記載の新住所(居所)等について郵便事業を営む会社(本件被告)に23条照会をすることを申し出,弁護士会がその旨の照会を行ったが,本件被告が回答を拒否したため,A及び弁護士会が損害賠償請求の訴えを提起し,弁護士会が控訴審において報告義務確認請求を予備的に追加したところ,控訴審がAの請求を棄却すべきものとし,弁護士会の主位請求を一部認容した事例。
 1.23条照会の申出をした弁護士の依頼者は,弁護士会に対し,23条照会をすることを求める実体法上の権利を持つものではなく,23条照会に対する報告がされることによって依頼者が受ける利益については,その制度が適正に運用された結果もたらされる事実上の利益にすぎないというべきである。
 1a.照会先の回答拒絶が依頼者の権利,利益等を害する目的でされたとは認められないから,侵害行為の態様(違法性の程度)との関係からみても依頼者の権利ないし法的保護に値する利益が侵害されたということはできず,仮に依頼者に動産執行を実現する法的利益があるとしても,本件回答拒絶によりそれが害されたとは認められないとされた事例。
 2.23条照会は,依頼者の私益を図る制度ではなく,事件を適正に解決することにより国民の権利を実現するという公益を図る制度として理解されるべきであるから,照会先である公務所又は公私の団体は,23条照会により報告を求められた事項について,照会をした弁護士会に対し報告をする公法上の義務を負う。
 2a.23条照会については,照会先に対し全ての照会事項について必ず報告する義務を負わせるものではなく,照会先において,報告をしないことについて正当な理由があるときは,その全部又は一部について報告を拒絶することが許される。(回答拒絶に正当な理由がないとされて違法性が肯定された事例。過失及び損害の発生も肯定されて損害賠償請求が一部認容された事例)
 3.両立可能な請求の予備的併合(義務違反を理由とする損害賠償請求を主位とし,その前提となる行為義務の確認請求を予備とする併合)の事案において,裁判所が主位的請求の一部を認容し,予備的請求については,主位的請求が全部棄却である場合の予備的請求であることが明らかであるとして,裁判しなかった事例。 /弁護士会照会/
参照条文: /弁護士法:23-2条/民法:709条/民事訴訟法:136条/
全 文 h270226magoyaH.html

最高裁判所 平成 27年 2月 19日 第1小法廷 判決 ( 平成25年(受)第650号 )
事件名:  株主総会決議取消請求・上告事件
要 旨
 BとXが各1/2の割合で共同相続した株式の遺産分割前の議決権行使は、準共有株式の管理に関する行為として各共有者の持分の価格に従いその過半数で決せられるものであるから、{1}取締役の選任,{2}代表取締役の選任並びに{3}本店の所在地を変更する旨の定款の変更及び本店の移転を議案とする株主総会において、Bが準共有株式の全部について議決権を単独で行使することについて会社が同意していても、XがBによる議決権行使に同意していない以上、Bによる議決権行使は適法ではないとされた事例。(株主総会決議取消訴訟)
 1.共有に属する株式について会社法106条本文の規定に基づく指定及び通知を欠いたまま当該株式についての権利が行使された場合において,当該権利の行使が民法の共有に関する規定に従ったものでないときは,株式会社が同条ただし書の同意をしても,当該権利の行使は,適法となるものではない。
 1a.共有に属する株式についての議決権の行使は,当該議決権の行使をもって直ちに株式を処分し,又は株式の内容を変更することになるなど特段の事情のない限り,株式の管理に関する行為として,民法252条本文により,各共有者の持分の価格に従い,その過半数で決せられる。
参照条文: /会社法:106条/民法:252条;264条/
全 文 h270219supreme.html

最高裁判所 平成 27年 2月 17日 第3小法廷 判決 ( 平成24年(受)第1831号 )
事件名:  求償金等請求事件・上告事件
要 旨
 1.事前求償権を被保全債権とする仮差押えは,事後求償権の消滅時効をも中断する効力を有する。 /受託保証人/信用保証/保証委託契約/時効中断/
参照条文: /民法:147条2号;459条1項;460条2号/
全 文 h270217supreme.html

最高裁判所 平成 27年 1月 22日 第2小法廷 決定 ( 平成26年(許)第17号 )
事件名:  間接強制決定に対する執行抗告棄却決定に対する許可抗告事件
要 旨
 佐賀地裁の諫早湾干拓地潮受堤防の排水門の開放を国に命ずる確定判決に基づいて、債務者に対して排水門開放の遅滞に応じて一日あたり一定の金員の支払を命ずる間接強制決定がなされ、その間接強制決定がなされた日に、長崎地裁が国に対し本件排水門を開放してはならない旨を命ずる仮処分決定をし,義務不履行の場合に一日あたり一定の金員を支払うべき旨の間接強制決定がなされた場合に,執行債務者である国が佐賀地裁の間接強制決定について、≪その意思では排除することができない事実上の障害があり,債務者の意思のみでこれを履行することができないから,間接強制決定は許されない≫と主張して許可抗告をしたが,認められなかった事例。
 1.本件確定判決に基づき債務者が負う債務の内容は,防災上やむを得ない場合を除き一定期間本件排水門を開放することだけであるから,それ自体,性質上債務者の意思のみで履行することができるものであり,このことは,債務者が別件仮処分決定により本件排水門を開放してはならない旨の義務を負ったことにより左右されるものではない。
 1a.本件確定判決により本件排水門を開放すべき義務を負った執行債務者が,別件仮処分決定により本件排水門を開放してはならない旨の義務を負ったとしても,間接強制の申立ての許否を判断する執行裁判所としては,これら各裁判における実体的な判断の当否を審理すべき立場にはなく,本件確定判決に基づき間接強制決定を求める申立てがされ,民事執行法上その要件が満たされている以上,同決定を発すべきものである。
 2.本件排水門の開放に関し,本件確定判決と別件仮処分決定とによって執行債務者が実質的に相反する実体的な義務を負い,それぞれの義務について強制執行の申立てがされるという事態は民事訴訟の構造等から制度上あり得るとしても,そのような事態を解消し,全体的に紛争を解決するための十分な努力が期待されるところである。
参照条文: /民事執行法:172条1項/
全 文 h270122supreme.html

最高裁判所 平成 27年 1月 22日 第2小法廷 決定 ( 平成26年(許)第26号 )
事件名:  間接強制決定に対する執行抗告棄却決定に対する許可抗告事件
要 旨
 佐賀地裁の諫早湾干拓地潮受堤防の排水門の開放を国に命ずる確定判決に基づいて、債務者に対して排水門開放の遅滞に応じて一日あたり一定の金員の支払を命ずる間接強制決定がなされ、その間接強制決定がなされた日に、長崎地裁が国に対し本件排水門を開放してはならない旨を命ずる仮処分決定をし,その仮処分決定に基づき義務不履行の場合に一日あたり一定の金員を支払うべき旨の間接強制決定がなされた場合に,執行債務者である国が長崎地裁の仮処分決定に基づく間接強制決定について、≪その意思では排除することができない事実上の障害があり,債務者の意思のみでこれを履行することができないから,間接強制決定は許されない≫と主張して許可抗告をしたが,認められなかった事例。
 1.本件仮処分決定に基づき債務者が負う債務の内容は,排水門を開放してはならないということだけであるから,それ自体,性質上抗告人の意思のみで履行することができるものであり、このことは,債務者が別件確定判決により本件排水門を開放すべき義務を負っていることにより左右されるものではない。
 1a.本件仮処分決定により本件排水門を開放してはならない旨の義務を負った執行債務者が,別件確定判決により本件排水門を開放すべき義務を負っているとしても,間接強制の申立ての許否を判断する執行裁判所としては,これら各裁判における実体的な判断の当否を審理すべき立場にはなく,本件仮処分決定に基づき間接強制決定を求める申立てがされ,民事執行法上その要件が満たされている以上,同決定を発すべきものである。
 2.本件排水門の開放に関し,本件仮処分決定と別件確定判決とによって執行債務者が実質的に相反する実体的な義務を負い,それぞれの義務について強制執行の申立てがされるという事態は民事訴訟の構造等から制度上あり得るとしても,そのような事態を解消し,全体的に紛争を解決するための十分な努力が期待されるところである。
参照条文: /民事執行法:172条1項/
全 文 h270122supreme2.html

最高裁判所 平成 26年 11月 27日 第1小法廷 決定 ( 平成26年(許)第19号 )
事件名:  訴訟費用額確定処分異議申立て却下決定に対する抗告棄却決定に対する許可抗告事件
要 旨
 当事者が準備書面の直送をするために支出した郵便料金は,訴訟費用には含まれないとされた事例
 1.当事者が準備書面の直送をするためにした支出については,民事訴訟費用等に関する法律2条2号の規定は類推適用されない。
参照条文: /民事訴訟費用等に関する法律:2条;11条/
全 文 h261127supreme.html

最高裁判所 平成 26年 11月 4日 第3小法廷 決定 ( 平成26年(許)第15号 )
事件名:  売却許可決定に対する執行抗告棄却決定に対する許可抗告事件
要 旨
 不動産競売の開札期日において執行官が2名の買受申出人のうちで代表者資格証明書を提出していなかった者を最高価買受申出人に定めたため,執行裁判所が売却不許可決定をした場合に,他の買受申出人の買受意思を確認したうえで,新たな売却を行わずに,開札期日を再実施して競売手続を続行することは違法でないとされた事例。
 1.最高価買受人の選定に誤りがあった本件のような場合には,当初の入札までの手続を前提に再度の開札期日を定めてその後の手続を続行することは,競売事件における公正かつ迅速な手続による売却の実現に資するものとして合理的なものということができ,このことは,新たに売却実施処分をした場合には,他の買受申出人の入札価額より高額での買受けの申出がされる可能性があったとしても,何ら異なるものではない。 /売却手続に瑕疵があった場合のやり直し/売却許否決定/ /関連事項/売却許可決定に対する執行抗告/
参照条文: /民事執行法:71条7号/民事執行規則38条3項;41条3項;49条/
全 文 h261104supreme.html

最高裁判所 平成 26年 10月 29日 第2小法廷 判決 ( 平成26年(行フ)第3号 )
事件名:  文書提出命令に対する抗告審の取消決定に対する許可抗告事件
要 旨
 岡山県議会議員が平成22年度に受領した政務調査費のうち使途基準に違反して支出した金額に相当する額について,県知事に対し同議員に不当利得の返還請求をすることを求める住民訴訟が提起され、その訴訟において、同議員が所持する平成22年度分の政務調査費の1万円以下の支出に係る領収書その他の証拠書類等及び会計帳簿について、文書提出命令が発せられた事例。
 1.ある文書が,その作成目的,記載内容,これを現在の所持者が所持するに至るまでの経緯,その他の事情から判断して,専ら内部の者の利用に供する目的で作成され,外部の者に開示することが予定されていない文書であって,開示されると個人のプライバシーが侵害されたり個人ないし団体の自由な意思形成が阻害されたりするなど,開示によって所持者の側に看過し難い不利益が生ずるおそれがあると認められる場合には,特段の事情がない限り,当該文書は民訴法220条4号ニ所定の「専ら文書の所持者の利用に供するための文書」に当たると解するのが相当である。(先例の確認)
 2.平成21年改正後の「岡山県議会の政務調査費の交付に関する条例」の下で、政務調査費の支出に係る金額1万円以下の領収書及び会計帳簿は、それらを議長に提出することが義務付けられていないが、議長において同条例に基づく調査を行う際に必要に応じて直接確認することが予定されているものと解すべきである。
 2a.同条例の下では、政務調査費の支出に係る領収書(金額が1万円以下ものを含む)その他の証拠書類等及び会計帳簿は、外部の者に開示することが予定されていない文書であるとは認められず、民事訴訟法220条4号ニの文書に該当しないとされた事例。 /文書提出命令/書証/証拠/自己利用文書/自己専利用文書/
参照条文: /民事訴訟法:220条4号ニ/地方自治法:100条14項;100条15項/
全 文 h261029supreme.html

最高裁判所 平成 26年 10月 28日 第3小法廷 判決 ( 平成24年(受)第2007号 )
事件名:  不当利得返還等請求・上告事件
要 旨
 無限連鎖講を組織した会社について破産手続が開始され、講に参加した会員に賠償金を支払うために破産管財人が、配当金を得た会員に対して、配当金から出資金を控除した金額が不当利得に当たると主張してその返還を請求した場合に、配当金を得た会員は、信義則上、無限連鎖講の配当金が不法原因給付にあたると主張することができないとされた事例。 /公序良俗違反/
参照条文: /民法:90条;703条;708条/無限連鎖講の防止に関する法律:2条/
全 文 h261028supreme.html

最高裁判所 平成 26年 10月 23日 第1小法廷 判決 ( 平成24年(受)第2231号 )
事件名:  地位確認等請求・上告事件
要 旨
 被告(医療介護事業等を行う消費生活協同組合)に雇用され副主任の地位にある原告(理学療法士・女性)が,労働基準法65条3項に基づく妊娠中の軽易な業務への転換に際して副主任を免ぜられ,育児休業の終了後も副主任に任ぜられなかったことから,被告に対し,副主任を免じた措置は雇用分野男女均等法9条3項に違反する無効なものであるなどと主張して,管理職(副主任)手当の支払及び債務不履行又は不法行為に基づく損害賠償を求めた事案において,≪原告を副主任から免じた本件措置は,原告の同意を得た上で,人事配置上の必要性に基づいてその裁量権の範囲内で行われたものであり,原告の妊娠に伴う軽易な業務への転換請求のみをもってなされたものではないから,雇用分野男女均等法9条3項に違反する無効なものではない≫とした原判決が審理不十分を理由に破棄され,事件が差し戻された事例。
 1.雇用分野男女均等法9条3項の規定は,これに反する事業主による措置を禁止する強行規定として設けられたものと解するのが相当であり,女性労働者につき,妊娠,出産,産前休業の請求,産前産後の休業又は軽易業務への転換等を理由として解雇その他不利益な取扱いをすることは,同項に違反するものとして違法であり,無効である。
 2.雇用分野男女均等法1条及び2条の規定する同法の目的及び基本的理念やこれらに基づいて同法9条3項の規制が設けられた趣旨及び目的に照らせば,女性労働者につき妊娠中の軽易業務への転換を契機として降格させる事業主の措置は,原則として同項の禁止する取扱いに当たるものと解される。
 2a.ただし,当該労働者が軽易業務への転換及び上記措置により受ける有利な影響並びに上記措置により受ける不利な影響の内容や程度,上記措置に係る事業主による説明の内容その他の経緯や当該労働者の意向等に照らして,当該労働者につき自由な意思に基づいて降格を承諾したものと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在するとき,又は事業主において当該労働者につき降格の措置を執ることなく軽易業務への転換をさせることに円滑な業務運営や人員の適正配置の確保などの業務上の必要性から支障がある場合であって,その業務上の必要性の内容や程度及び上記の有利又は不利な影響の内容や程度に照らして,上記措置につき同項の趣旨及び目的に実質的に反しないものと認められる特段の事情が存在するときは,同項の禁止する取扱いに当たらないものと解するのが相当である。
 3.上記2aの承諾に係る合理的な理由に関しては,上記の有利又は不利な影響の内容や程度の評価に当たって,上記措置の前後における職務内容の実質,業務上の負担の内容や程度,労働条件の内容等を勘案し,当該労働者が上記措置による影響につき事業主から適切な説明を受けて十分に理解した上でその諾否を決定し得たか否かという観点から,その存否を判断すべきである。
 3a.上記2aの特段の事情に関しては,上記の業務上の必要性の有無及びその内容や程度の評価に当たって,当該労働者の転換後の業務の性質や内容,転換後の職場の組織や業務態勢及び人員配置の状況,当該労働者の知識や経験等を勘案するとともに,上記の有利又は不利な影響の内容や程度の評価に当たって,上記措置に係る経緯や当該労働者の意向等をも勘案して,その存否を判断すべきである。
参照条文: /雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律:1条;2条;9条3項/労働基準法:65条3項/育児休業,介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律:21条;22条/
全 文 h261023supreme.html

最高裁判所 平成 26年 10月 23日 第1小法廷 判決 ( 平成25年(受)第492号 )
事件名:  損害賠償等請求・上告事件
要 旨
 生活保護法27条1項に基づく被保護者に対する書面による指示について,自動車を活用して請負業務による収入を月額11万円まで増収することのみが記載されている場合に,それができないときには,自動車を処分すれば保護の廃止を免れることができる趣旨の指示でるあると解釈することは許されないとされた事例。
 生活保護廃止の前提となる生活保護法27条1項に基づく書面による指導又は指示の内容は,生活保護法施行規則19条の規定の趣旨に照らすと,当該書面自体において指導又は指示の内容として記載されていなければならず,指導又は指示に至る経緯及び従前の指導又は指示の内容やそれらに対する被保護者の認識,当該書面に指導又は指示の理由として記載された事項等を考慮に入れることにより,当該書面に指導又は指示の内容として記載されていない事項まで指導又は指示の内容に含まれると解することはできないというべきである。
 指示の内容として,請負業務による収入を月額11万円まで増収すべき旨が記載されているのみであり,自動車を処分すべきことも指示の内容に含まれているものと解すべき記載は見当たらない場合に,指示の内容は上記の増収のみと解され,処分行政庁が被保護者に対し従前から増収とともにこれに代わる対応として自動車の処分を口頭で指導し,被保護者がその指導の内容を理解しており,指示書にも指示の理由として従前の指導の経過が記載されていたとしても,自動車の処分が本件指示の内容に含まれると解することはできないとされた事例。
参照条文: /生活保護法:27条;62条/生活保護法施行規則:19条/
全 文 h261023supreme2.html

最高裁判所 平成 26年 10月 9日 第1小法廷 判決 ( 平成26年(受)第771号 )
事件名:  損害賠償請求・上告事件
要 旨
 大阪府泉南地域に存在した石綿(アスベスト)製品の製造,加工等を行う工場又は作業場において,石綿製品の製造作業等又は運搬作業に従事したことにより,石綿肺,肺がん,中皮腫等の石綿関連疾患にり患したと主張する元従業員又はその承継人が,国に対し,国が石綿関連疾患の発生又はその増悪を防止するために旧労働基準法及び労働安全衛生法に基づく規制権限を行使しなかったことが違法であるなどと主張して,国家賠償法1条1項に基づく損害賠償を求めた事案において,昭和33年5月26日から昭和46年4月28日までの期間内において石綿工場で石綿の粉じんにばく露した者について請求が認容され,石綿工場で石綿製品の製造等に従事していた時期が昭和56年5月6日以降であった1名については請求が棄却された事例。
 1.国又は公共団体の公務員による規制権限の不行使は,その権限を定めた法令の趣旨,目的や,その権限の性質等に照らし,具体的事情の下において,その不行使が許容される限度を逸脱して著しく合理性を欠くと認められるときは,その不行使により被害を受けた者との関係において,国家賠償法1条1項の適用上違法となるものと解するのが相当である。(先例の確認)
 1a.労働大臣の旧労基法及び安衛法に基づく規制権限は,粉じん作業等に従事する労働者の労働環境を整備し,その生命,身体に対する危害を防止し,その健康を確保することをその主要な目的として,できる限り速やかに,技術の進歩や最新の医学的知見等に適合したものに改正すべく,適時にかつ適切に行使されるべきものである。
 2.労働大臣は,昭和33年5月26日には,旧労基法に基づく省令制定権限を行使して,罰則をもって石綿工場に局所排気装置を設置することを義務付けるべきであったのであり,旧特化則が制定された昭和46年4月28日まで,労働大臣が旧労基法に基づく上記省令制定権限を行使しなかったことは,旧労基法の趣旨,目的や,その権限の性質等に照らし,著しく合理性を欠くものであって,国家賠償法1条1項の適用上違法であるというべきであるとされた事例。
 3.労働大臣が,昭和49年9月30日以降,石綿の抑制濃度の規制値を昭和50年告示により5μm以上の石綿繊維が1cm3当たり5本とし,労働省告示の改正により1cm3当たり2本としなかったことが,安衛法の趣旨,目的や,その権限の性質等に照らし,著しく合理性を欠くとまでは認められず,国家賠償法1条1項の適用上違法であるということはできないとされた事例。
 3a. 労働大臣が,石綿工場での作業に関し,昭和47年9月30日以降,安衛法に基づく省令制定権限を行使して事業者に対し労働者に防じんマスクを使用させること及びその使用を徹底させるための石綿関連疾患に対応する特別安全教育の実施を義務付けなかったことが,安衛法の趣旨,目的や,その権限の性質等に照らし,著しく合理性を欠くとまでは認められず,国家賠償法1条1項の適用上違法であるということはできないとされた事例。
参照条文: /旧.労働着準法:1条;42条;45条/じん肺法:5条;6条/労働安全衛生法:1条;22条;26条;59条/国家賠償法:1条1項/特定化学物質等障害予防規則/
全 文 h261009supreme.html

最高裁判所 平成 26年 9月 25日 第1小法廷 判決 ( 平成25年(行ヒ)第35号 )
事件名:  固定資産税等賦課取消請求・上告事件
要 旨
 平成22年度の固定資産税及び都市計画税の賦課決定処分を受けた建物所有者が,自分は同年度の賦課期日である平成22年1月1日の時点において登記簿又は家屋補充課税台帳に上記家屋の所有者として登記又は登録されていなかったから,同年度の固定資産税等の納税義務者ではなく,賦課決定処分は違法であると主張して,その取消しを求めた事案において,原告は,平成21年12月に家屋を新築してその所有権を取得し,同22年10月に所有者を原告とし登記原因を「平成21年12月7日新築」とする表題登記がされ,平成22年12月1日に本件処分がされたから,原告は,賦課決定処分時までに賦課期日である同年1月1日現在の所有者として登記されている者として,家屋に係る平成22年度の固定資産税の納税義務を負うとされた事例。
 1.土地又は家屋につき,賦課期日の時点において登記簿又は補充課税台帳に登記又は登録がされていない場合において,賦課決定処分時までに賦課期日現在の所有者として登記又は登録されている者は,当該賦課期日に係る年度における固定資産税の納税義務を負う。
参照条文: /地方税法:343条1項;343条2項;359条/
全 文 h260925supreme2.html

最高裁判所 平成 26年 9月 25日 第1小法廷 判決 ( 平成25年(受)第1649号 )
事件名:  建物賃料増額確認請求・上告事件
要 旨
 賃借人が賃料を平成16年4月1日から月額240万円に減額する旨の意思表示をし,その賃料額の確認等を求める訴えが平成17年6月8日に提起し,他方で,賃貸人が平成17年8月1日から月額320万2200円に増額する旨の意思表示をし,その賃料額の確認等を求める反訴が平成17年9月6日に提起され,両請求を併合審理した事実審の口頭弁論が平成20年10月9日に終結し,「本件賃料が平成16年4月1日から月額254万5400円であること」を確認する判決が確定した場合に,平成19年6月30日に本件賃料を同年7月1日から月額360万円に増額する旨の意思表示をしていた賃貸人が前訴判決の口頭弁論終結後にその賃料額の確認を求めて提起した訴訟において,賃貸人が「前訴の口頭弁論終結時前の平成19年7月1日における賃料額が月額360万円である」と主張することは,前訴判決の既判力に抵触しないとされた事例。
 1.借地借家法32条1項所定の賃料増減請求権は形成権であり,その要件を満たす権利の行使がされると当然に効果が生ずるが,その効果は,将来に向かって,増減請求の範囲内かつ客観的に相当な額について生ずるものである。(先例の確認)
 1a.賃料増減請求権行使の効果は,賃料増減請求があって初めて生ずるものであるから,賃料増減額確認請求訴訟の係属中に賃料増減を相当とする事由が生じたとしても,新たな賃料増減請求がされない限り,上記事由に基づく賃料の増減が生ずることはない。(先例の確認)
 1b.賃料増減額確認請求訴訟において,その前提である賃料増減請求の当否及び相当賃料額について審理判断がされることとなり,これらを審理判断するに当たっては,賃貸借契約の当事者が現実に合意した賃料のうち直近のもの(直近の賃料の変動が賃料増減請求による場合にはそれによる賃料)を基にして,その合意等がされた日から当該賃料増減額確認請求訴訟に係る賃料増減請求の日までの間の経済事情の変動等を総合的に考慮すべきものである。(先例の確認)
 2.確認の利益
 
 賃貸借契約は継続的な法律関係であり,賃料増減請求により増減された時点の賃料が法的に確定されれば,その後新たな賃料増減請求がされるなどの特段の事情がない限り,当該賃料の支払につき任意の履行が期待されるのが通常であるといえるから,上記の確定により,当事者間における賃料に係る紛争の直接かつ抜本的解決が図られるものといえる。
 2a.請求の解釈
 
 賃料増減額確認請求訴訟の請求の趣旨において,通常,特定の時点からの賃料額の確認を求めるものとされているのは,その前提である賃料増減請求の効果が生じたとする時点を特定する趣旨に止まると解され,終期が示されていないにもかかわらず,特定の期間の賃料額の確認を求める趣旨と解すべき必然性は認め難い。
 2b.既判力の生ずる判断
 
 賃料増減額確認請求訴訟の確定判決の既判力は,原告が特定の期間の賃料額について確認を求めていると認められる特段の事情のない限り,前提である賃料増減請求の効果が生じた時点の賃料額に係る判断について生ずる。 /過去の一定時点における賃料額の確認の利益/過去の法律関係の確認の利益/訴えの利益/訴訟要件/
参照条文: /借地借家法:32条1項/民事訴訟法:114条1項;134条/
全 文 h260925supreme.html

最高裁判所 平成 26年 9月 5日 第2小法廷 判決 ( 平成25年(受)第2024号 )
事件名:  放送受信料請求・上告事件
要 旨
 1.日本放送協会の放送受信契約に基づく受信料債権は,年又はこれより短い時期によって定めた金銭の給付を目的とする債権に当たり,その消滅時効期間は,民法169条により5年と解すべきである。
参照条文: /民法:169条/放送法(平成22年法律第65号による改正前のもの):32条/放送法:64条/
全 文 h260905supreme.html

大阪高等裁判所 平成 26年 8月 28日 民事第13部 判決 ( 平成25年(ネ)第3473号 )
事件名:  損害賠償請求控訴事件
要 旨
 税理士が元顧問先(委嘱者・依頼者)の確定申告書及び総勘定元帳の7年分の写しを弁護士会照会に応じて弁護士会に送付したことが、元顧問先に対する不法行為になるとされた事例。
 1.(照会に応じて報告する義務)
 23条照会を受けた公務所又は公私の団体は、同照会に応じずに報告をしなかった場合についての制裁を定めた規定はないものの、当該照会により報告を求められた事項について、照会をした弁護士会に対して、法律上、原則として報告する公的な義務を負う。
 1a.23条照会による報告義務は弁護士会に対する公的な義務であって、23条照会を利用する個々の弁護士や依頼者個人に対する関係での義務ではないから、照会を受けた者が報告義務に違反して23条照会に対する報告を拒絶したとしても、原則として、23条照会の申出をした個々の弁護士や依頼者個人に対する関係で不法行為となるものではない。
 2.(正当な理由による報告拒絶)
  23条照会を受けた者は、どのような場合でも報告義務を負うと解するのは相当ではなく、正当な理由がある場合には、報告を拒絶できる。
 2a.正当な理由がある場合とは、照会に対する報告を拒絶することによって保護すべき権利利益が存在し、報告が得られないことによる不利益と照会に応じて報告することによる不利益とを比較衡量して、後者の不利益が勝ると認められる場合をいい、この比較衡量は、23条照会の制度の趣旨に照らし、保護すべき権利利益の内容や照会の必要性、照会事項の適否を含め、個々の事案に応じて具体的に行わなければならない。
 3.(税理士の守秘義務)
 税理士の守秘義務の例外としての「正当な理由」(税理士法38条)とは、本人の許諾又は法令に基づく義務があることをいうと解されるところ、一般には23条照会に対する報告義務も「法令に基づく義務」に当たると解される。
 3a.税理士は、23条照会によって納税義務者のプライバシーに関する事項について報告を求められた場合、正当な理由があるときは、報告を拒絶すべきであり、それにもかかわらず照会に応じて報告したときは、税理士法38条の守秘義務に違反するものというべきである。
 4.(税理士の守秘義務違反による不法行為)
 税理士が故意又は過失により、守秘義務に違反して納税義務者に関する情報を第三者(照会した弁護士会及び照会申出をした弁護士)に開示した場合には、当該納税義務者に対して不法行為責任を負う。
 4a.(23条照会の相当性の欠如)
 税理士が依頼者Aの確定申告を平成15年から平成21年まで行っている場合に、Aの平成22年3月以降の体調不良を立証しようとするのであれば、Aの平成22年の確定申告書等とそれ以前の確定申告書等を比較するのでなければ意味がないにもかかわらず、弁護士会が税理士に直近10年分の確定申告書等の送付を求める照会をしたことは、23条照会としての必要性、相当性を欠く不適切なものといわざるを得ず、23条照会の公共的性格という観点からみても、その照会が別件訴訟における真実の発見及び判断の適正を図るために必要かつ有益であるとは言い難いとされた事例。
 4b.(守秘義務違反の違法性)
 税理士が上記の弁護士会照会に応じて、依頼者Aの平成15年から21年までの7年間にわたる確定申告書及び総勘定元帳の写しを送付したことが税理士法38条の守秘義務に違反する違法な行為であるとされた事例。
 4c.(故意過失)
 平成22年分以降の確定申告の依頼を受けていない税理士が、平成24年12月に、元顧問先の意向を確認する等のこともなく安易に弁護士会照会に応じて、元顧問先の平成15年から21年までの7年間にわたる確定申告書等を開示したことにつき、過失があるとされた事例。d
参照条文: /弁護士法:23-2条/税理士法:38条/民法:709条/
全 文 h260828OsakaH.html

最高裁判所 平成 26年 8月 19日 第2小法廷 決定 ( 平成26年(行ト)第55号 )
事件名:  執行停止申立て却下決定に対する抗告棄却決定に対する特別抗告事件
要 旨
 1.逃亡犯罪人引渡法35条1項の規定が,同法14条1項に基づく逃亡犯罪人の引渡命令につき,同法に基づく他の処分と同様に行政手続法第3章の規定の適用を除外し,上記命令の発令手続において改めて当該逃亡犯罪人に弁明の機会を与えるものとまではしていないことは,上記の手続全体からみて逃亡犯罪人の手続保障に欠けるものとはいえず,憲法31条の法意に反するものということはできない。
 2.逃亡犯罪人引渡法が東京高等裁判所による同法10条1項3号の決定につき不服申立ての方法を設けていないことは,憲法81条に違反するものではない。 /適正手続/適正法定手続/デュープロセス/違憲審査権/
参照条文: /憲法:31条;81条/逃亡犯罪人引渡法:14条1項;10条1項;35条1項/
全 文 h260819supreme.html

東京地方判所 平成 26年 8月 7日 民事第1部 判決 ( 平成26年(ワ)第2804号 )
事件名:  損害賠償等請求事件
要 旨
 強制執行の対象となる財産の探索のために、全国銀行個人信用情報センターを設営する一般社団法人全国銀行協会に対して、債務者の個人信用情報の報告を求める弁護士会照会がなされ、その報告が拒絶された場合に、報告拒絶の違法性を主張して、照会申出弁護士の依頼者が照会先に対して損害賠償請求の訴えを提起し、併せて、照会先が弁護士会に対して報告義務を負うことの中間確認の訴えを提起したが、前者の請求は報告拒絶について正当な理由があることを理由に棄却され、後者の訴えは先決性の欠如を理由に却下された事例。
 1.弁護士会照会制度の趣旨から,弁護士会照会を受けた公務所又は公私の団体は,報告を求められた事項について,照会した弁護士会に対して報告をする公法上の義務を負うと解される。
 2.照会先が照会事項について報告義務を負う場合であっても,当該義務は照会先が弁護士会に対して負う公法上の義務であり,照会申出弁護士の依頼者に対する義務ではないから,照会先が照会事項について報告することによる依頼者の利益は,法律上の利益とはいえない。
 2a.(中間確認の訴えの先決性の否定)
 仮に,被告(照会先)の弁護士会に対する報告義務違反が認められても,それにより原告(照会申出弁護士の依頼者)に対する不法行為上の義務違反が認められるわけではなく、他方,被告に上記義務違反が認められないとしても,そのことによって原告の個別具体的な権利の侵害がおよそ認められなくなるとまではいえないから,被告が本件照会事項について弁護士会に対して報告すべき公法上の義務を負うか否かの判断は,被告が本件照会事項について報告を拒否した行為が原告に対する不法行為を構成するかどうかの判断との関係で,先決関係にあるとはいえないとされた事例。
 2b. 中間確認の訴えにより確認を求められた権利関係が当初請求と先決関係にないことを理由に、中間確認の訴えについて訴えの利益が認められないとされた事例。
 3.債務名義(確定判決)を有する債権者の受任弁護士が、債務者の責任財産の探索のために、当該債務者に関し全国銀行個人信用情報センターに登録されている情報のうち本人による登録情報開示申込みがあった場合に回答する全ての事項について報告することを求める照会申出を所属弁護士会にし、弁護士会が同センターを設営する一般社団法人全国銀行協会にその旨の照会をしたが、報告拒絶の回答があった事案において、照会が一般的・探索的に情報の開示を求めるものであるのに比して,照会先が情報を開示すれば,情報の目的外の利用となり,その影響が甚大であることを考慮すると,本件照会事項に係る個人信用情報について報告をしないことに正当な理由があるから、報告拒否は違法ではないされた事例。 /23条照会/
参照条文: /弁護士法:23-2条/民法:709条/民事訴訟法:145条/
全 文 h260807tokyoD.html

最高裁判所 平成 26年 7月 29日 第3小法廷 判決 ( 平成24年(行ヒ)第267号 )
事件名:  許可処分無効確認及び許可取消義務付け,更新許可取消請求・上告事件
要 旨
 宮崎県北諸県郡高城町に設置された産業廃棄物の最終処分場を事業の用に供する施設として,宮崎県知事が事業者に対してした産業廃棄物処分業及び特別管理産業廃棄物処分業の各許可処分及び各許可更新処分につき,住民が各許可処分の無効確認及びその取消処分の義務付け並びに上記各許可更新処分の取消しを求めた事案において,
 
 a. 最終処分場の中心地点から約1.8kmの範囲内の地域に居住する者については,処分場の位置と居住地との距離関係などに加えて,環境影響調査報告書において調査の対象とされる地域にその住居があり、処分場から有害な物質が排出された場合にこれに起因する大気や土壌の汚染,水質の汚濁,悪臭等による健康又は生活環境に係る著しい被害を直接的に受けるものと想定される地域に居住するものということができ,著しい被害を直接的に受けるおそれのある者にあたるとして,原告適格が肯定された事例。
 b.処分場の中心地点から少なくとも20km以上離れた地に居住する者については,処分場からの有害な物質の排出に起因する大気や土壌の汚染,水質の汚濁,悪臭等による健康又は生活環境に係る著しい被害を直接的に受けるものと想定される地域に居住するものということはできず,著しい被害を直接的に受けるおそれのある者に当たるとは認められないとして,原告適格が否定された事例。
 1.行政事件訴訟法9条1項にいう当該処分の取消しを求めるにつき「法律上の利益を有する者」とは,当該処分により自己の権利若しくは法律上保護された利益を侵害され,又は必然的に侵害されるおそれのある者をいうのであり,当該処分を定めた行政法規が,不特定多数者の具体的利益を専ら一般的公益の中に吸収解消させるにとどめず,それが帰属する個々人の個別的利益としてもこれを保護すべきものとする趣旨を含むと解される場合には,このような利益もここにいう法律上保護された利益に当たり,当該処分によりこれを侵害され又は必然的に侵害されるおそれのある者は,当該処分の取消訴訟における原告適格を有するものというべきである。(先例の確認)
 1a. 処分の相手方以外の者について上記の法律上保護された利益の有無を判断するに当たっては,当該処分の根拠となる法令の規定の文言のみによることなく,当該法令の趣旨及び目的並びに当該処分において考慮されるべき利益の内容及び性質を考慮し,この場合において,当該法令の趣旨及び目的を考慮するに当たっては,当該法令と目的を共通にする関係法令があるときはその趣旨及び目的をも参酌し,当該利益の内容及び性質を考慮するに当たっては,当該処分がその根拠となる法令に違反してされた場合に害されることとなる利益の内容及び性質並びにこれが害される態様及び程度をも勘案すべきものである。(先例の確認)
 1b. 行政事件訴訟法36条にいう当該処分の無効等の確認を求めるにつき「法律上の利益を有する者」についても,上記の取消訴訟の原告適格の場合と同義に解するのが相当である。
 2.廃棄物処理法は,公衆衛生の向上を図るなどの公益的見地から産業廃棄物等処分業を規制するとともに,産業廃棄物の最終処分場からの有害な物質の排出に起因する大気や土壌の汚染,水質の汚濁,悪臭等によって健康又は生活環境に係る著しい被害を直接的に受けるおそれのある個々の住民に対して,そのような被害を受けないという利益を個々人の個別的利益としても保護すべきものとする趣旨を含むと解するのが相当である。
 2a.産業廃棄物の最終処分場の周辺に居住する住民のうち,当該最終処分場から有害な物質が排出された場合にこれに起因する大気や土壌の汚染,水質の汚濁,悪臭等による健康又は生活環境に係る著しい被害を直接的に受けるおそれのある者は,当該最終処分場を事業の用に供する施設としてされた産業廃棄物等処分業の許可処分及び許可更新処分の取消し及び無効確認を求めるにつき法律上の利益を有する者として,その取消訴訟及び無効確認訴訟における原告適格を有するものというべきであり,また,以上の理は,上記許可の取消処分の義務付けを求める訴えについても,同様に解される。
 2b.産業廃棄物の最終処分場の周辺に居住する住民が,当該最終処分場から有害な物質が排出された場合にこれに起因する大気や土壌の汚染,水質の汚濁,悪臭等により健康又は生活環境に係る著しい被害を直接的に受けるおそれのある者に当たるか否かは,当該住民の居住する地域が上記の著しい被害を直接的に受けるものと想定される地域であるか否かによって判断すべきものと解され,当該住民の居住する地域がそのような地域であるか否かについては,産業廃棄物の最終処分場の種類や規模等の具体的な諸条件を考慮に入れた上で,当該住民の居住する地域と当該最終処分場の位置との距離関係を中心として,社会通念に照らし,合理的に判断すべきものである。 /当事者適格/
参照条文: /行政事件訴訟法:9条;36条/廃棄物の処理及び清掃に関する法律(平成22年法律第34号による改正前のもの):14条;14-4条/
全 文 h260729supreme.html

東京地方裁判所 平成 26年 7月 22日 民事第49部 判決 ( 平成26年(ワ)第2803号 )
事件名:  損害賠償等請求事件
要 旨
 損害賠償を命ずる確定判決を有する債権者(原告)の依頼を受けた弁護士が、強制執行の準備(債務者の責任財産の探知)のために、被告(一般社団法人全国銀行協会)が設置・運営する全国銀行個人信用情報センターに債務者の登録情報の照会をすることを所属弁護士会に申し出、弁護士会が報告を求めたところ,被告が報告を拒絶したため、債権者が、(1)不法行為に基づく損害賠償請求の訴えを提起するとともに、(2)弁護士会に対する被告の報告義務があること又はあったことの中間確認の訴えを提起した事案において、損害賠償請求が棄却され、中間確認の訴えが確認の利益を欠くとして却下された事例。
 1.23条照会(弁護士会照会)に係る権限は飽くまで弁護士会のみにあると解されるのであって,申出をした個々の弁護士及びその依頼者は,照会先に対し,報告を求める権利を有しないことはもとより,報告を求めることにつき法律上の利益を有していると認めることもできない。
 1a.照会申出弁護士の依頼者は,法律上保護された利益として照会請求に対する報告・回答を享受する利益を有するものとはいえないから,仮に照会先が弁護士会に対して回答義務を負う場合であっても、その回答拒否をもって依頼者の法律上の利益を侵害するものとはいえない。(依頼者に対する不法行為の成立を否定)
 2.弁護士会照会に対する報告拒否は、照会申出弁護士の依頼者の法律上保護された利益を侵害するものとはいえず、このことは,照会先が弁護士会に対して報告義務を負うか否かに左右されるものではない。
 2a.したがって、照会先の弁護士会に対する報告義務の有無は,依頼者の照会先に対する不法行為に基づく損害賠償請求権の存否の先決関係に立つ法律関係に該当せず,報告義務の中間確認の訴えは不適法として却下されるべきである。 /23条照会/
参照条文: /弁護士法:23-2条/民法:709条/民事訴訟法:145条/
全 文 h260722tokyoD.html

最高裁判所 平成 26年 7月 17日 第1小法廷 判決 ( 平成24年(受)第1402号 )
事件名:  親子関係不存在確認請求・上告事件
要 旨
 甲(妻)がA(夫)との婚姻中に乙と性交渉をもち、乙の子Bを出産し、BがAの嫡出子として戸籍に記載されたが、その後に甲とAとが離婚し、甲・Bが乙と生活を共にしている場合に、BがAの子ではない旨のDNA鑑定を提出にして、甲がBの法定代理人としてAに対して親子関係不存在確認の訴えを提起した事案において、≪民法772条により嫡出の推定を受ける子につきその嫡出であることを否認するためには,夫からの嫡出否認の訴えによるべきあり、その例外の場合にも該当しない≫として、訴えが却下された事例。
 1.夫と子との間に生物学上の父子関係が認められないことが科学的証拠により明らかであり,かつ,夫と妻が既に離婚して別居し,子が親権者である妻の下で監護されているという事情があっても,子の身分関係の法的安定を保持する必要が当然になくなるものではないから,上記の事情が存在するからといって,同条による嫡出の推定が及ばなくなるものとはいえず,親子関係不存在確認の訴えをもって当該父子関係の存否を争うことはできない。
 1a. 民法772条2項所定の期間内に妻が出産した子について,妻がその子を懐胎すべき時期に,既に夫婦が事実上の離婚をして夫婦の実態が失われ,又は遠隔地に居住して,夫婦間に性的関係を持つ機会がなかったことが明らかであるなどの事情が存在する場合には,上記子は実質的には同条の推定を受けない嫡出子に当たるということができるから,同法774条以下の規定にかかわらず,親子関係不存在確認の訴えをもって夫と上記子との間の父子関係の存否を争うことができる。(先例の確認。本件はこれに該当しない) /嫡出推定/
参照条文: /民法:772条;774条;775条/
全 文 h260717supreme.html

最高裁判所 平成 26年 7月 17日 第1小法廷 判決 ( 平成25年(受)第233号 )
事件名:  親子関係不存在確認請求・上告事件
要 旨
 甲(妻)がA(夫)との婚姻中に乙と性交渉をもち、乙の子Bを出産し、BがAの嫡出子として戸籍に記載されたが、その後に甲とAとが離婚し、甲・Bが乙及びその前妻の子らと生活を共にしている場合に、BがAの子ではない旨のDNA鑑定を提出にして、甲がBの法定代理人としてAに対して親子関係不存在確認の訴えを提起した事案において、≪民法772条により嫡出の推定を受ける子につきその嫡出であることを否認するためには,夫からの嫡出否認の訴えによるべきあり、その例外の場合にも該当しない≫として、訴えが却下された事例。
 1.夫と子との間に生物学上の父子関係が認められないことが科学的証拠により明らかであり,かつ,夫と妻が既に離婚して別居し,子が親権者である妻の下で監護されているという事情があっても,子の身分関係の法的安定を保持する必要が当然になくなるものではないから,上記の事情が存在するからといって,同条による嫡出の推定が及ばなくなるものとはいえず,親子関係不存在確認の訴えをもって当該父子関係の存否を争うことはできない。
 1a. 民法772条2項所定の期間内に妻が出産した子について,妻がその子を懐胎すべき時期に,既に夫婦が事実上の離婚をして夫婦の実態が失われ,又は遠隔地に居住して,夫婦間に性的関係を持つ機会がなかったことが明らかであるなどの事情が存在する場合には,上記子は実質的には同条の推定を受けない嫡出子に当たるということができるから,同法774条以下の規定にかかわらず,親子関係不存在確認の訴えをもって夫と上記子との間の父子関係の存否を争うことができる。(先例の確認。本件はこれに該当しない) /嫡出推定/
参照条文: /民法:772条;774条;775条/
全 文 h260717supreme2.html

最高裁判所 平成 26年 7月 14日 第2小法廷 判決 ( 平成24年(行ヒ)第33号 )
事件名:  文書不開示決定処分取消等請求・上告事件
要 旨
 情報公開法に基づき,外務大臣等に対し,琉球諸島及び大東諸島に関する日本国とアメリカ合衆国との間の協定の内容に関する文書等の開示請求に対し,文書を保有していないとして不開示とする旨の決定がなされ,その決定の取消し等を求める訴訟においては,原告が開示決定時に行政機関が行政文書を保有していたことについて主張立証責任を負うとされ,その立証がなされていないとされた事例。
 1.情報公開法により開示請求の対象とされた行政文書を行政機関が保有していないことを理由とする不開示決定の取消訴訟においては,その取消しを求める者が,不開示決定時に行政機関が行政文書を保有していたことについて主張立証責任を負う。
 1aある時点において当該行政機関の職員が当該行政文書を作成し,又は取得したことが立証された場合において,不開示決定時においても当該行政機関が当該行政文書を保有していたことを直接立証することができないときに,これを推認することができるか否かについては,当該行政文書の内容や性質,その作成又は取得の経緯や上記決定時までの期間,その保管の体制や状況等に応じて,その可否を個別具体的に検討すべきものであり,特に,他国との外交交渉の過程で作成される行政文書に関しては,公にすることにより他国との信頼関係が損なわれるおそれ又は他国との交渉上不利益を被るおそれがあるもの(情報公開法5条3号参照)等につき,その保管の体制や状況等が通常と異なる場合も想定されることを踏まえて,その可否の検討をすべきである。 /証明責任/
参照条文: /情報公開法=行政機関の保有する情報の公開に関する法律:2条2項;3条/民事訴訟法:247条/
全 文 h260714supreme.html

最高裁判所 平成 26年 7月 10日 第1小法廷 決定 ( 平成25年(ク)第1158号,同年(許)第35号 )
事件名:  再審請求棄却決定に対する抗告棄却決定に対する特別抗告及び許可抗告事件
要 旨
 Y4会社の株主の多数派であるが会社解散決議をする程に多数派であるとはいえないY1らが提起した会社解散の訴えの請求認容判決が確定した場合に、少数派株主が会社解散訴訟の係属さえも知らされていなかった等の事実を主張して、原訴訟に独立当事者参加(詐害防止参加)をするとともに、再審の訴えを提起したが、参加人の請求が定立されていないことを理由に不適法な独立当事者参加であるとして、再審の訴えが却下された事例。
 1.株式会社の解散の訴えに係る請求を認容する確定判決の効力を受ける第三者は,確定判決に係る訴訟について独立当事者参加の申出をすることによって,確定判決に対する再審の訴えの原告適格を有する。
 2.独立当事者参加の申出は,参加人が参加を申し出た訴訟において裁判を受けるべき請求を提出しなければならず,単に当事者の一方の請求に対して訴え却下又は請求棄却の判決を求めるのみの参加の申出は許されない。(先例の確認)
 2a.原訴訟(会社解散訴訟)の当事者でない第三者が原訴訟について独立当事者参加の申出をするとともに再審の訴えを提起したが,原訴訟の原告の被告会社に対する会社解散請求に対して請求棄却の判決を求めただけであって,原告又は被告に対し何らの請求も提出していない場合に、その独立当事者参加の申出は不適法であるとされた事例。
 2b.再審訴状の「再審の理由」欄に,原訴訟の被告との関係で解散の事由が存在しないことの確認を求める旨の記載がある場合に、仮に参加人(再審原告)が上記独立当事者参加の申出につきこのような確認の請求を提出していたと解したとしても,このような事実の確認を求める訴えは確認の利益を欠くものというべきであって,独立当事者参加の申出が不適法であることに変わりはない。
参照条文: /民事訴訟法:47条;338条/会社法:309条2項11号;833条;834条20号/
全 文 h260710supreme.html

最高裁判所 平成 26年 7月 9日 第2小法廷 決定 ( 平成26年(行ツ)第96号,平成26年(行ヒ)第101号 )
事件名:  選挙無効請求・上告事件
要 旨
 公職選挙法204条の占拠無効訴訟において、原告が同法205条1項所定の選挙無効の原因として受刑者の選挙権を一律に制限した同法11条1項2号及び3号の規定の違憲等を主張し、原審がこれらの規定が憲法に違反するとはいえない旨の判断を付随的に説示した事案において、同判決に対する上告の理由が明らかに民訴法312条1項又は2項に規定する事由に該当しないとして、上告棄却の決定をした事例。(憲法適合性の判断は必要な場合にのみ行うべきであるとの補足意見がある)
 1.公職選挙法204条の選挙無効訴訟訟において選挙人が他者の選挙権の制限に係る当該規定の違憲を主張してこれを争うことは法律上予定されておらず、選挙人が同法205条1項所定の選挙無効の原因として同法9条1項並びに11条1項2号及び3号の規定の違憲を主張することはできない。
参照条文: /公職選挙法:9条1項;11条1項;204条;205条1項/民事訴訟法:312条/
全 文 h260709supreme.html

最高裁判所 平成 26年 7月 8日 第1小法廷 決定 ( 平成25年(あ)第169号 )
事件名:  強制わいせつ致死,殺人被告事件(上告事件)
要 旨
 被告人が平成20年5月7日未明京都府舞鶴市内の朝来川岸付近において15歳の女子高校生に強いてわいせつな行為をして殺害したとして起訴され,第一審が有罪(無期懲役)としたのに対し,原審が,目撃証人の信用性を否定し,被告人の捜査段階での供述の中に犯人しか知り得ない事実が含まれているとみることはできないとの理由により,無罪とした事案につき,原判決は,第一審判決の事実認定が論理則,経験則等に照らして不合理であることを具体的に示しおり,その判断に事実誤認があるとも認められないとされた事例。 /舞鶴女子高校生殺害事件/
参照条文: /刑法:181条1項;176条前段;199条/刑事訴訟法:336条;382条;397条1項/
全 文 h260708supreme91.html

最高裁判所 平成 26年 6月 5日 第1小法廷 判決 ( 平成24年(受)第880号,第881号,第882号 )
事件名:  配当異議事件・上告事件
要 旨
 ≪再生計画認可決定の効力不発生の確定,再生計画不認可決定の確定又は再生手続廃止の決定≫を別除権協定の解除条件とする本件合意は,契約当事者の意思を合理的に解釈すれば,≪再生債務者がその再生計画の履行完了前に再生手続廃止の決定を経ずに破産手続開始の決定を受けた時から別除権協定はその効力を失う≫旨の内容を含むとされた事例。 /意思解釈/契約の解釈/受戻価格/予定不足額/被担保債権額/民事再生/
参照条文: /民事再生法:88条/民法:1編5章/
全 文 h260605supreme.html

最高裁判所 平成 26年 5月 27日 第3小法廷 判決 ( 平成24年(オ)第888号 )
事件名:  損害賠償請求・上告事件
要 旨
 2親等規制(市議会議員の2親等以内の親族が経営する企業は市の工事等の請負契約等を辞退しなければならず,当該議員は当該企業の辞退届を徴して提出するよう努めなければならない)を定める広島県府中市議会議員政治倫理条例(平成20年府中市条例第26号)は,憲法21条1項並びに憲法22条1項及び29条に違反するものではない。
 1.2親等規制を定める規定が憲法21条1項に違反するかどうかは,2親等規制による議員活動の自由についての制約が必要かつ合理的なものとして是認されるかどうかによるものと解されるが,これは,その目的のために制約が必要とされる程度と,制約される自由の内容及び性質,具体的な制約の態様及び程度等を較量して決するのが相当である。
 1a. 府中市議会議員政治倫理条例が定める2親等規制の目的は,議員の職務執行の公正を確保するとともに,議員の職務執行の公正さに対する市民の疑惑や不信を招くような行為の防止を図り,もって議会の公正な運営と市政に対する市民の信頼を確保することにあるものと解され,このような規制の目的は正当なものということができる。
 1b.府中市議会議員政治倫理条例が定める2親等規制は,議員に対して2親等内親族企業の辞退届を提出するよう努める義務を課すにとどまり,その義務は議員本人の意思と努力のみで履行し得る性質のものであり,また,議員がこのような義務を履行しなかった場合には,本件条例所定の手続を経て,警告や辞職勧告等の措置を受け,審査会の審査結果を公表されることによって,議員の政治的立場への影響を通じて議員活動の自由についての事実上の制約が生ずることがあり得るが,これらは議員の地位を失わせるなどの法的な効果や強制力を有するものではないこと等を考慮すると,同規制に基づく議員の議員活動の自由についての制約は,地方公共団体の民主的な運営におけるその活動の意義等を考慮してもなお,前記の正当な目的を達成するための手段として必要かつ合理的な範囲のものということができる。
 2.府中市議会議員政治倫理条例が定める2親等規制の対象となる企業の経済活動が府中市の工事等に係る請負契約等の締結に限られること,2親等内親族企業は上記の請負契約等を辞退しなければならないとされているものの,制裁を課するなどしてその辞退を法的に強制する規定は設けられておらず,2親等内親族企業が上記の請負契約等を締結した場合でも当該契約が私法上無効となるものではないこと等の事情も考慮すると,2親等規制に基づく2親等内親族企業の経済活動についての制約は,同規制の正当な目的を達成するための手段として必要性や合理性に欠けるものとはいえず,2親等規制を定めた市議会の判断はその合理的な裁量の範囲を超えるものではないということができる。
参照条文: /憲法:21条;22条;29条/府中市議会議員政治倫理条例:4条/地方自治法:92-2条;169条;198-2条/
全 文 h260527supreme.html

最高裁判所 平成 26年 4月 24日 第1小法廷 判決 ( 平成25年(受)第419号 )
事件名:  執行文付与請求・上告事件
要 旨
 1.民事執行法33条1項は,その規定の文言に照らすと,執行文付与の訴えにおける審理の対象を,請求が債権者の証明すべき事実の到来に係る場合におけるその事実の到来の有無又は債務名義に表示された当事者以外の者に対し,若しくはその者のために強制執行をすることの可否に限っており,破産債権者表に記載された確定した破産債権が非免責債権に該当するか否かを審理することを予定していないものと解される。
 1a.破産事件の記録の存する裁判所の裁判所書記官は,破産債権者表に免責許可の決定が確定した旨の記載がされている場合であっても,破産債権者表に記載された確定した破産債権がその記載内容等から非免責債権に該当すると認められるときには,民事執行法26条の規定により執行文を付与することができる。 /破産免責/
参照条文: /民事執行法:26条;27条;33条1項/破産法:221条;253条/
全 文 h260424supreme.html

最高裁判所 平成 26年 4月 24日 第1小法廷 判決 ( 平成23年(受)第1781号 )
事件名:  執行判決請求・上告事件
要 旨
 1.人事に関する訴え以外の訴えにおける間接管轄の有無については,基本的に我が国の民訴法の定める国際裁判管轄に関する規定に準拠しつつ,個々の事案における具体的事情に即して,外国裁判所の判決を我が国が承認するのが適当か否かという観点から,条理に照らして判断すべきものと解するのが相当である。
 2.差止請求に関する訴えについては,違法行為により権利利益を侵害されるおそれがあるにすぎない者も提起することができる以上は,民訴法3条の3第8号の「不法行為があった地」は,違法行為が行われるおそれのある地や,権利利益を侵害されるおそれのある地をも含むものと解するのが相当である。
 2a. 違法行為により権利利益を侵害され,又は侵害されるおそれがある者が提起する差止請求に関する訴えの場合は,現実の損害が生じたことは必ずしも請求権発生の要件とされていないのであるから,このような訴えの場合において,民訴法3条の3第8号の「不法行為があった地」が判決国内にあるというためには,仮に被告が原告の権利利益を侵害する行為を判決国内では行っておらず,また原告の権利利益が判決国内では現実に侵害されていないとしても,被告が原告の権利利益を侵害する行為を判決国内で行うおそれがあるか,原告の権利利益が判決国内で侵害されるおそれがあるとの客観的事実関係が証明されれば足りるというべきである。
 2b.被告(不正競争行為による加害者)らが原告(被害者)の権利利益を侵害する行為を米国内で行うおそれがあるか,原告の権利利益が米国内で侵害されるおそれがあるとの客観的事実関係が証明された場合には,米国判決のうち差止めを命じた部分については,民訴法3条の3第8号に準拠しつつ,条理に照らして間接管轄を認める余地が出てき、また,そうであれば,米国判決のうち損害賠償を命じた部分についても,民訴法3条の6に準拠しつつ,条理に照らして間接管轄を認める余地も出てくるにもかかわらず、その点の審理をすることなく米国裁判所の間接管轄を否定した原判決が破棄された事例。 /執行判決/外国判決の承認/
参照条文: /民事訴訟法:3-3条;3-6条;118条/
全 文 h260424supreme2.html

最高裁判所 平成 26年 3月 28日 第2小法廷 判決 ( 平成25年(受)第442号 )
事件名:  認知無効確認請求・上告事件
要 旨
 1.血縁上の父子関係がないにもかかわらずされた認知は,認知制度の本来の趣旨に反するものであって無効というべきである。
 1a.認知者による血縁上の父子関係がないことを理由とする認知の無効の主張が民法785条によって制限されると解することもできない。
 1b.認知者は,民法786条に規定する利害関係人に当たり,自らした認知の無効を主張することができるというべきであり,この理は,認知者が血縁上の父子関係がないことを知りながら認知をした場合においても異なるところはない。(判旨)
参照条文: /民法:785条;786条/
全 文 h260328supreme.html

最高裁判所 平成 26年 3月 24日 第2小法廷 判決 ( 平成23年(受)第1259号 )
事件名:  解雇無効確認等請求・上告事件//東芝うつ病事件/
要 旨
 1.過重な業務によって労働者が鬱病を発症し増悪させた場合に,使用者が安全配慮義務違反等に基づく損害賠償として労働者に対し賠償すべき額を定めるに当たって,労働者が自らの精神的健康(メンタルヘルス)に関する情報を使用者に申告しなかったことをもって,民法418条又は722条2項の規定による過失相殺をすることはできないとされた事例。
 1a.使用者は,必ずしも労働者からの申告がなくても,その健康に関わる労働環境等に十分な注意を払うべき安全配慮義務を負っているところ,労働者にとって過重な業務が続く中でその体調の悪化が看取される場合には,労働者の精神的健康に関する情報については労働者本人からの積極的な申告が期待し難いことを前提とした上で,必要に応じてその業務を軽減するなど労働者の心身の健康への配慮に努める必要があるものというべきである。
 1b. 労働者が,過重な業務が続く中で,体調が不良であることを使用者に伝えて相当の日数の欠勤を繰り返し,業務の軽減の申出をするなどしていた場合に,使用者としては,そのような状態が過重な業務によって生じていることを認識し得る状況にあり,その状態の悪化を防ぐために労働者の業務の軽減をするなどの措置を執ることは可能であったとされた事例。
 1c.過重な業務によって鬱病を発症し増悪させた労働者について,同種の業務に従事する労働者の個性の多様さとして通常想定される範囲を外れるぜい弱性などの特性等を有していたことをうかがわせるに足りる事情があるということはできないとされた事例。
 2.安全配慮義務違反等に基づく損害賠償金は,労働者に生じた休業損害につき業務上の疾病による損害の賠償として支払われるべきものであるところ,健康保険組合から支給された傷病手当金等は,業務外の事由による疾病等に関する保険給付として支給されるものであるから,後者のうち労働者保有分は,不当利得として健康保険組合に返還されるべきものであって,これを損害賠償の額から控除することはできない。
 3.安全配慮義務違反等に基づく損害賠償金の額からいまだ現実の支給がされていない休業補償給付の額を控除することはできないから(先例の確認),前者からいまだ支給決定を受けていない休業補償給付の額を控除することもできない。 /労働事件/労働災害/東芝うつ病事件/
参照条文: /民法:418条;722条2項/健康保険法:1条;55条1項/
全 文 h260324supreme.html

最高裁判所 平成 26年 3月 14日 第2小法廷 判決 ( 平成25年(受)第1420号 )
事件名:  遺留分減殺請求・上告事件
要 旨
 共同相続人の一人が成年後見開始の審判を受ける前に事理弁識能力を欠く状況にあったかを審理することなく、その者の遺留分減殺請求権の消滅時効について,「時効の期間の満了前に後見開始の審判を受けていない者に民法158条1項は類推適用されない」として時効の停止の主張を排斥した原判決が破棄された事例。
 1.時効の期間の満了前6箇月以内の間に精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く常況にある者に法定代理人がない場合において,少なくとも,時効の期間の満了前の申立てに基づき後見開始の審判がされたときは,民法158条1項の類推適用により,法定代理人が就職した時から6箇月を経過するまでの間は,その者に対して,時効は,完成しないと解するのが相当である。
参照条文: /民法:158条1項;1042条/
全 文 h260314supreme.html

東京高等裁判所 平成 26年 3月 5日 第22民事部 決定 ( 平成26年(ラ)第316号 )
事件名:  免責許可決定に対する抗告事件
要 旨
 破産者が代表者を務める健康医学社が詐欺的商法により出資金を集め、健康医学社が支払不能の状態に陥った後に破産者が整理屋グルーブに依頼してその指示に従って会社資産を他に移転させた場合に、原審は裁量免責を認めたが、抗告審が免責を許可しなかった事例。
 1.裁量免責の可否を判断するに当たっては、免責不許可事由該当行為の性質、程度に加えて、破産原因が生じるに至った経緯、破産手続開始の決定後の事情、破産者の今後の生活設計などの要素を考慮し、破産免責により破産者の経済的更生を図ることが破産者自身にとってはもとより、社会公共的見地からも相当であると評価されるか否かという判断枠組みを用いるのが相当である。(裁量免責が否定された事例)
 2.会社代表者(破産者)が会社資産を他に移転させる行為をした場合に、それによる財産の減少自体を破産者の固有財産の減少行為とみることはできないが、破産者が会社に対する貸金債権や会社の株式を有するときは、その資産移転行為は、破産者の固有財産に含まれる貸金債権や株式の価値を損なわせるものであり、破産財団を構成することになる財産を減少させたものと解されるから、会社資産の移転行為は、破産法252条1項1号所定の免責不許可事由に該当する行為であると認められた事例。
参照条文: /破産法:252条1項;252条2項/
全 文 h260305tokyoH.html

最高裁判所 平成 26年 2月 27日 第1小法廷 判決 ( 平成23年(受)第2196号 )
事件名:  所有権移転登記手続等請求・上告事件
要 旨
 1.権利能力のない社団の構成員全員に総有的に帰属する不動産については,当該社団の代表者が自己の個人名義に所有権移転登記手続をすることを求める訴訟を提起することが認められているが,このような訴訟が許容されるからといって,当該社団自身が原告となって訴訟を追行することを認める実益がないとはいえない。
 2.権利能力のない社団は,構成員全員に総有的に帰属する不動産について,その所有権の登記名義人に対し,当該社団の代表者の個人名義に所有権移転登記手続をすることを求める訴訟の原告適格を有する。(団体の原告適格/当事者適格/訴えの主観的利益/先例の確認)
 2a. その訴訟の判決の効力は,構成員全員に及ぶ。(判決効の主観的範囲)
 2b.当該判決の確定後,団体の代表者は,当該判決により自己の個人名義への所有権移転登記の申請をすることができる。
 2c. この登記申請に当たって上記代表者が執行文の付与を受ける必要はない。
 3.権利能力のない社団の代表者である旨の肩書を付した代表者個人名義の登記をすることは許されない。(先例の確認)
 3a.判決主文で 権利能力のない社団の代表者である旨の肩書を付した代表者個人名義への移転登記手続が命じられていても,その主文は,代表者の個人名義に持分移転登記手続をすることを命ずる趣旨のものと解すべきであり,登記手続を命ずる原判決主文に「社団代表者」という記載があることをもって原判決に違法があるということはできない。
 3b.原判決の主文が不適切である場合に,上告審が原判決主文を更正することなく上告を棄却した事例。
参照条文: /民法:33条/民事訴訟法:第1編第3章;29条;115条/民事執行法:27条2項/不動産登記法:63条1項/
全 文 h260227supreme.html

最高裁判所 平成 26年 1月 24日 第3小法廷 判決 ( 平成23年(受)第1561号 )
事件名:  認知無効,離婚等請求本訴,損害賠償請求反訴・上告事件
要 旨
  フィリッピン人の実父がいる子について、その母と結婚する日本人男が自己と父子関係がないことを知りながら認知をしたが、その後母に対して離婚の訴えを提起するとともに、子に対して認知無効の訴え(「認知を無効とする」との判決を求める訴え)を提起した場合に、認知者は,民法786条に規定する利害関係人に当たり,自らした認知の無効を主張することができるとされた事例。
 1.認知者は,民法786条に規定する利害関係人に当たり,自らした認知の無効を主張することができる。
 1a. この理は,認知者が血縁上の父子関係がないことを知りながら認知をした場合においても異なるところはない。
 1b. 血縁上の父子関係がないにもかかわらずされた認知については,具体的な事案に応じてその必要がある場合には,権利濫用の法理などによりこの主張を制限することも可能である。(傍論)
参照条文: /民法:785条;786条/
全 文 h260114supreme.html

最高裁判所 平成 25年 12月 19日 第1小法廷 決定 ( 平成25年(許)第6号 )
事件名:  文書提出命令申立て却下決定に対する抗告審の一部変更決定に対する許可抗告事件
要 旨
 国立大学法人(文書所持者・抗告人)が設置する大学の人文学部に所属する教授らが同学部長等からハラスメントを受けたとして抗告人に苦情を申し立て、同大学に置かれたハラスメントの防止,対策又は調査に係る委員会の運営及び調査の方法が不当であったために不利益を被ったなどと主張して,抗告人に対し,再調査の実施,損害賠償の支払等を求め、同委員会の運営及び調査の方法が不当であったことを立証するために必要であるとして,抗告人の所持する文書について文書提出命令の申立てをしたところ、民事訴訟法220条4号ニ括弧書の類推適用が肯定され、ロの文書にはあたらないとして、申立てが認容された事例。
 1. 国立大学法人が所持し,その役員又は職員が組織的に用いる文書についての文書提出命令の申立てには,民訴法220条4号ニ括弧書部分が類推適用される。
 2.国立大学法人の役員及び職員の地位等に関する国立大学法人法の規定に照らすと,民訴法220条4号ロにいう「公務員」には上記役員及び職員も含まれると解するのが相当である。
 2a. ハラスメントの防止,対策又は調査に係る委員会の運営及び調査の方法が不当であったことを立証するために申し立てられた文書提出命令の対象文書が民訴法220条4号ロに該当しないとされた事例。 /書証/
参照条文: /民事訴訟法:220条/国立大学法人法:2条;7条;12条/
全 文 h251219supreme.html

最高裁判所 平成 25年 11月 29日 第2小法廷 判決 ( 平成22年(受)第2355号 )
事件名:  共有物分割等請求・上告事件
要 旨
 1.共有物について,遺産分割前の遺産共有の状態にある共有持分(遺産共有持分)と他の共有持分とが併存する場合,共有者が遺産共有持分と他の共有持分との間の共有関係の解消を求める方法として裁判上採るべき手続は民法258条に基づく共有物分割訴訟であり,共有物分割の判決によって遺産共有持分権者に分与された財産は遺産分割の対象となり,この財産の共有関係の解消については同法907条に基づく遺産分割によるべきである。(先例の確認)
 2. 民法258条に基づく共有物分割訴訟は,その本質において非訟事件であって,法は,裁判所の適切な裁量権の行使により,共有者間の公平を保ちつつ,当該共有物の性質や共有状態の実情に適合した妥当な分割が実現されることを期したものと考えられる。
 3.遺産共有持分と他の共有持分とが併存する共有物について,遺産共有持分を他の共有持分を有する者に取得させ,その者に遺産共有持分の価格を賠償させる方法による分割の判決がされた場合には,遺産共有持分権者に支払われる賠償金は,遺産分割によりその帰属が確定されるべきものであるから,賠償金の支払を受けた遺産共有持分権者は,これをその時点で確定的に取得するものではなく,遺産分割がされるまでの間これを保管する義務を負う。
 3a.裁判所は,遺産共有持分を他の共有持分を有する者に取得させ,その者に遺産共有持分の価格を賠償させてその賠償金を遺産分割の対象とする価格賠償の方法による分割の判決をする場合には,その判決において,各遺産共有持分権者において遺産分割がされるまで保管すべき賠償金の範囲を定めた上で,遺産共有持分を取得する者に対し,各遺産共有持分権者にその保管すべき範囲に応じた額の賠償金を支払うことを命ずることができる。
 3b.遺産に含まれる共有持分について完全価格賠償を命ずる原審判決の主文において,≪共有持分取得者は,共同相続人ら4名に対し,466万4660円を支払え≫との趣旨が命じられている場合には,共同相続人ら4名に466万4660円の4分の1ずつの額の支払を命ずるものと解するほかはないが,原審は,共同相続人間の関係,紛争の実情等に鑑み,遺産分割がされるまでの間,対立する当事者の双方に単純に平等の割合で賠償金の保管をさせておくのが相当であるとの考慮に基づき,その趣旨で共有持分取得者にその割合に従った賠償金の支払を命じたものと解し得ないこともないから,原審の判断にその裁量の範囲を逸脱した違法があるとまではいえないとされた事例。 /分割債権/
参照条文: /民法:258条;907条/
全 文 h251129supreme.html

最高裁判所 平成 25年 11月 21日 第1小法廷 判決 ( 平成24年(受)第105号 )
事件名:  求償債権等請求・上告事件
要 旨
 代金の一部が前払されている売買契約の売主について再生手続が開始され、管財人が契約を解除したため、買主が前払代金の返還請求権(前受金返還債権)を共益債権として行使することができる場合に、買主が前受金返還債権を再生債権として届け出、これを再生債権として記載した再生計画案の付議決定がなされた後で、この債権の受託保証人が代位弁済をし、代位取得した前受金返還債権を再生計画認可決定の確定後に共益債権であると主張してその返還請求の訴えを提起したが、これを共益債権であると主張して再生手続によらずに行使することは許されないとの理由により、前受金返還請求の訴えが却下された事例。
 1.民事再生法上の共益債権に当たる債権を有する者は,当該債権につき再生債権として届出がされただけで,本来共益債権であるものを予備的に再生債権であるとして届出をする旨の付記もされず,この届出を前提として作成された再生計画案を決議に付する旨の決定がされた場合には,当該債権が共益債権であることを主張して再生手続によらずにこれを行使することは許されないと解するのが相当である。(許されないとされた事例)
参照条文: /民事再生法:49条5項;85条1項;121条1項;179条1項/破産法:54条2項/
全 文 h251121supreme.html

最高裁判所 平成 25年 11月 21日 第1小法廷 決定 ( 平成24年(許)第43号 )
事件名:  再審請求棄却決定に対する抗告棄却決定に対する許可抗告事件
要 旨
 1.新株発行の無効の訴えに係る請求を認容する確定判決の効力を受ける第三者は,確定判決に係る訴訟について独立当事者参加の申出をすることによって,確定判決に対する再審の訴えの原告適格を有する。
 1a.新株発行無効請求を認容する判決の効力を受ける第三者が終了した原訴訟への独立当事者参加の申出をするとともに再審の訴えを提起した(にとどまり、予備的に補助参加の申出をしていない)場合に、この者が共同訴訟的補助参加をすることができるものであることを理由にして直ちにこの者に再審原告適格を肯定することはできないとされた事例。
 2.新株発行会社の訴訟活動が著しく信義に反しており,新株発行無効請求を認容する確定判決の効力を受ける第三者に確定判決の効力を及ぼすことが手続保障の観点から看過することができない場合には,確定判決には,民訴法338条1項3号の再審事由があるというべきである。
 2a.新株発行の無効の訴えの被告である発行会社は、新株発行を受けた者との関係で信義に従って訴訟を追行する義務を負い、第三者が新株発行の有効性を主張していることを知りながら、この者に訴訟係属を通知することなく、請求及び請求原因事実を認め等の訴訟行為をしたことは、信義に反する訴訟追行であり、再審事由があるとされた事例。
参照条文: /民事訴訟法:2条;47条;338条1項3号/会社法:834条2号;838条/
全 文 h251121supreme2.html

最高裁判所 平成 25年 11月 13日 第2小法廷 決定 ( 平成24年(ラ)第133号 )
事件名:  訴訟費用負担決定に対する抗告審の取消決定に対する許可抗告事件
要 旨
 金銭支払請求訴訟の係属中に被告会社について更生手続が開始され、訴求債権が更生債権として届け出られて確定し、更生計画認可決定により当該訴訟が当然に終了した場合に、訴訟費用請求権が更生債権として届け出られていなかったときは、更生会社は認可決定があったことによりその責任を免れたのであるから,訴訟費用の負担を命ずる決定の申立ては,申立ての利益を欠き,却下すべきものであるとされた事例。
 1.更生債権に関する訴訟が更生手続開始前に係属した場合において,当該訴訟が会社更生法156条又は158条の規定により受継されることなく終了したときは,当該訴訟に係る訴訟費用請求権は,更生債権に当たると解するのが相当である。
参照条文: /会社更生法:2条8項;52条1項;204条1項/民事訴訟法:73条/
全 文 h251113supreme.html

京都地方裁判所 平成 25年 10月 29日 判決 ( 平成25年(ワ)第579号 )
事件名:  損害賠償請求事件
要 旨
 税理士法人に対する弁護士法23条の2に基づく照会に応じて,代表役員たる税理士(被告)が被告の顧問先(原告)の確定申告書控えなどをその承諾を得ないまま弁護士会に送付(報告)した場合に,原告が,その報告行為によるプライバシー権侵害等を主張して,被告に対して慰謝料を訴求したが,弁護士会照会に応じて報告したことについては特段の事情がない限り不法行為責任を免れるとして,損害賠償請求が棄却された事例。
 1.23条照会を受けた者は,照会の申出が権利の濫用にあたるなどの特段の事情のない限り,報告を求められた事項について,照会をした弁護士会に対して報告をする法律上の義務を負い,当該報告をしたことについて不法行為責任を免れる。(権利の濫用にあたるなどの特段の事情は認められないとされた事例)
 1a.照会を受けた者は,照会事項が個人情報に該当するようなものであっても,その情報に係る本人の同意の有無にかかわらず,当該照会に対する報告義務を負う。
 2.23条照会に対する回答は,「法令に基づく義務がある」場合に該当し,税理士法38条の「正当な理由」があるものと解するのが相当である。
 2a.個人情報保護法16条及び23条は,予め本人の同意を得ずに個人情報の目的外使用や第三者提供をすることを原則として禁じているが,「法令に基づく場合」には,例外として本人の同意を得ない個人情報の目的外利用や第三者提供を許容しており,23条照会に対する回答は,この「法令に基づく場合」に該当する。
参照条文: /弁護士法:23-2条/民法:709条/個人情報保護法:16条;23条/税理士法:38条/
全 文 h251029KyotoD.html

名古屋地方裁判所 平成 25年 10月 25日 民事第6部 判決 ( 平成23年(ワ)第7490号 )
事件名:  損害賠償請求事件
要 旨
 弁護士会照会に対する回答拒絶が不法行為にあたることを理由とする損害賠償請求が、拒絶は不当であったが、拒絶したことについて過失があったとは言えないことを理由に棄却された事例。
 1.23条照会を受けた公務所又は公私の団体は,当該照会により報告を求められた事項について,照会をした弁護士会に対し報告をする公法上の義務を負う。
 1a.照会を受けた者は,報告をしないことについて正当な理由を有するときは,報告を拒絶することが許される。
 2.転居届は,通信や信書そのものではなく,個々の郵便物とは別個の存在であって,そこに記載された照会事項に係る情報が報告されても,個々の通信の内容が推知されるものではないから,同情報は,憲法21条2項後段の「通信の秘密」に該当せず,郵便法8条1項の「信書の秘密」にも該当しない。
 2a.転居届は,郵便業務を遂行する過程で取得されるものであるから,転居届の情報は,郵便法8条2項にいう「郵便物に関して知り得た他人の秘密」に当たる。
 (回答拒絶の正当な理由の有無)
 3.23条照会の役割の重要性に鑑みれば,これに対する報告を拒む「正当な理由」は,相手方が法律上の守秘義務を負っていることだけで一律に又は原則として認められると解することは相当でなく,照会事項のそれぞれについて,当該事項に係る情報の秘匿性の程度や,国民の権利救済の実現のために報告を受ける必要性の程度等を踏まえた利益衡量によって,拒絶することに正当性が存するかどうかが判断されるべきである。
 3a. 未公開株詐欺の被害者が加害者Aに対して損害賠償請求訴訟を提起し,Aが賠償をなす旨の裁判上の和解が成立し,その強制執行(動産執行)のためにAの住居所を知る必要が生じ,その目的で日本郵便株式会社(本件被告)に対して,(ア)Aの転居届の提出の有無,(イ)A宛ての郵便物についての転居届の届出年月日及び(ウ)転居届記載の新住居所並びに(エ)電話番号について弁護士会照会がなされたが,その回答が拒絶された場合に,本件照会によって報告を求められた情報の秘匿性の程度や,報告の必要性の程度に照らせば,被告が照会事項(ア)ないし(ウ)について報告すべき義務は,これらについて被告が負うべき守秘義務に優越すると解するのが相当であり,照会事項(エ)についても,少なくとも他にAの現在の住居所を知るための適切な手段が存しない場合には,これを報告すべき義務が守秘義務に優越すると解する余地があるから,本件照会事項の全部について報告を拒絶した被告の対応には,正当な理由を欠くところがあったと判断された事例。
 (回答拒絶についての被告の過失の有無)
 4.被告に課せられた守秘義務と報告義務とが衝突しているところ,このうちいずれの義務が優越すると解すべきの判断は,弁護士法や郵便法等の関連諸規定の趣旨を踏まえた解釈を前提とし,各照会事項ごとに情報の秘匿性の程度や報告を受ける必要性の程度等を踏まえた利益衡量に基づく微妙な判断とならざるを得ないから,その判断が事後的に誤りとされたからといって,直ちに過失があるとすることは酷であり,相当でないというべきである。
 4a.公的な存在である弁護士会において相当であると判断されて23条照会が行われた以上,相手方はその判断を信頼して照会に応ずれば守秘義務違反について過失がないとする考えは,漫然と23条照会に応じた相手方の損害賠償責任を肯定した昭和56年判例が現に存在するのであるから,採用できない。
 4b.本件の事情を総合勘案すれば,本件において,郵便法8条2項の守秘義務を負っている被告(日本郵便株式会社)が本件照会に対して報告できない旨の回答をしたことに相応の事情が存したことは否定できず,被告に過失があるとまではいえないと判断された事例。
参照条文: /憲法:21条2項/郵便法:8条/弁護士法:23-2条/民法:709条/
全 文 h251025nagoyaD.html

最高裁判所 平成 25年 9月 13日 第2小法廷 判決 ( 平成23年(受)第2543号 )
事件名:  求償金請求・上告事件
要 旨
 受託保証人Xの主債務者Bに対する求償権をBの親族が連帯保証し、Xが保証債務を履行して求償権を取得した後に、YがBを単独で相続し、Yが主債務を相続したことを知りながら保証債務の一部を履行した場合に、その一部履行は、主債務についても時効中断事由としての債務の承認にあたるとされ、Yは主債務について消滅時効が完成したから保証債務も消滅したと主張することができないとされた事例。
 1.保証人が主たる債務を相続したことを知りながら保証債務の弁済をした場合,当該弁済は,特段の事情のない限り,主たる債務者による承認として当該主たる債務の消滅時効を中断する効力を有する。 /保証債務の附従性/
参照条文: /民法:147条3号;148条;448条;457条1項/
全 文 h250913supreme.html

福岡高等裁判所 平成 25年 9月 10日 第1民事部 判決 ( 平成25年(ネ)第505号、平成25年(ネ)第672号 )
事件名:  弁護士照会等回答拒否に対する損害賠償請求控訴、同附帯控訴事件
要 旨
 依頼者(妻)から離婚訴訟の委任を受けた弁護士が訴状の送達先の確認及び強制執行の申立てに必要な夫の就業先を知るために、全国健康保険協会(の船員保険部)に対して調査嘱託及び弁護士法23条の2に基づく照会(23条照会)が行われたが,同協会がこれらに対する回答及び報告を拒否したことによって、依頼者の裁判を受ける権利等及び弁護士の情報収集権といった権利又は法律上保護される利益が侵害された旨主張して、弁護士及び依頼者が不法行為による損害の賠償請求の訴えを提起したが、弁護士も依頼者も調査嘱託及び23条照会を受けた者に対して回答及び報告を求める権利又は利益を有すると解すべき法律上の根拠はないとして、請求が棄却された事例。
 1.民事訴訟法151条1項6号及び186条は、調査嘱託をする権限を裁判所に与え、弁護士法23条の2第2項は、23条照会をする権限を弁護士会に与えており、調査嘱託を申し立てた弁護士の依頼者及び23条照会の申出をした弁護士の依頼者が調査嘱託及び23条照会を受けた者に対して回答及び報告を求める権利又は利益を有すると解すべき法律上の根拠はない。
 1a.調査嘱託及び23条照会は、いずれも、正確な事実に基づく適切妥当な法律事務がなされることを目的とする公的な制度であり、当事者がこれらにより情報を得ることによる利益は、上記目的に収れんされ、あるいは上記目的が履行されることにより得られる反射的利益であり、当事者固有の利益ではない。
 1b.調査嘱託及び23条照会を受けた者がこれに応じる公法上の義務に違反したために当事者が上記反射的利益を享受することができなかったとしても、当事者の権利又は法律上保護される利益が侵害されたものということはできない。 /弁護士会照会/
参照条文: /民事訴訟法:151条1項6号;186条/弁護士法:23-2条/民法:709条/
全 文 h250910HukuokaH.html

最高裁判所 平成 25年 9月 4日 大法廷 決定 ( 平成24年(ク)第984号,第985号 )
事件名:  遺産分割審判に対する抗告棄却決定に対する特別抗告事件
要 旨
 嫡出子が非嫡出子を相手にして遺産分割審判を申し立てた事件において,民法900条4号ただし書の規定のうち嫡出でない子の相続分を嫡出子の相続分の2分の1とする部分(「相続分差別規定」)が,遅くとも,相続開始時である平成13年7月当時において,憲法14条1項に違反していたとされた事例。
 1.憲法14条1項は,事柄の性質に応じた合理的な根拠に基づくものでない限り,法的な差別的取扱いを禁止する趣旨のものである。
 1a.相続制度は,国の伝統,社会事情,国民感情,婚姻ないし親子関係に対する規律,国民の意識等を総合的に考慮した上で定められるべきものであり,相続制度をどのように定めるかは,立法府の合理的な裁量判断に委ねられているが,相続分について嫡出子と非嫡出子とを区別することが立法府に与えられた裁量権を考慮しても合理的な根拠が認められない場合には,当該区別は,憲法14条1項に違反するものと解するのが相当である。
 1b. 法律婚という制度自体は我が国に定着しているとしても,家族という共同体の中における個人の尊重がより明確に認識されてきたことに伴い,父母が婚姻関係になかったという,子にとっては自ら選択ないし修正する余地のない事柄を理由としてその子に不利益を及ぼすことは許されず,子を個人として尊重し,その権利を保障すべきであるという考えが確立されてきているものということができること等を総合すれば,遅くとも平成13年7月当時においては,立法府の裁量権を考慮しても,嫡出子と嫡出でない子の法定相続分を区別する合理的な根拠は失われていたというべきであり,したがって,相続分差別規定は,遅くとも平成13年7月当時において,憲法14条1項に違反していたものというべきである。
 2.(違憲判断の事実上の拘束性)
 相続分差別規定が遅くとも平成13年7月当時において憲法14条1項に違反していたとする本決定の判断は,当時から本決定までの間に開始された他の相続につき,相続分差別規定が有効であることを前提としてされた遺産分割審判その他の裁判,遺産分割協議その他の合意等により確定的なものとなった法律関係に影響を及ぼすものではない。 /付随的違憲審査制/違憲判断に関する個別的効力説/法的安定性/実質的な判例変更/
参照条文: /憲法:14条/民法:900条4号ただし書/
全 文 h250904supreme.html

最高裁判所 平成 25年 6月 6日 第1小法廷 判決 ( 平成24年(受)第349号 )
事件名:  未収金請求・上告事件
要 旨
 債権者が金銭債権の時効完成の直前に催告(第1の催告)をし,その時から6ヶ月以内に明示的一部請求の訴えを提起し,第1の催告の時から6ヶ月経過後であるがその訴訟の終了前に別訴により残部請求の訴えを提起した場合に,明示の一部請求の訴えは残部について裁判上の催告の効力を有するが,催告の繰返しによって時効の完成を遅らせることはできないとの法理は第2の催告が裁判上の催告の場合にも妥当するので,第1の催告の時から6ヶ月が経過した時点で残部について消滅時効が完成していたと判断された事例。
 1.数量的に可分な債権の一部についてのみ判決を求める旨を明示して訴えが提起された場合,当該訴えの提起による裁判上の請求としての消滅時効の中断の効力は,その一部についてのみ生ずるのであって,当該訴えの提起は,残部について,裁判上の請求に準ずるものとして消滅時効の中断の効力を生ずるものではない。
 1a. 明示的一部請求の訴えが提起された場合,債権者が将来にわたって残部をおよそ請求しない旨の意思を明らかにしているなど,残部につき権利行使の意思が継続的に表示されているとはいえない特段の事情のない限り,当該訴えの提起は,残部について,裁判上の催告として消滅時効の中断の効力を生ずるというべきであり,債権者は,当該訴えに係る訴訟の終了後6箇月以内に民法153条所定の措置を講ずることにより,残部について消滅時効を確定的に中断することができる。
 1b. 消滅時効期間が経過した後,その経過前にした催告から6箇月以内に再び催告をしても,第1の催告から6箇月以内に民法153条所定の措置を講じなかった以上は,第1の催告から6箇月を経過することにより,消滅時効が完成するというべきであり,この理は,第2の催告が明示的一部請求の訴えの提起による裁判上の催告であっても異なるものではない。
参照条文: /民法:147条;153条/民事訴訟法:147条/
全 文 h250606supreme.html

最高裁判所 平成 25年 6月 6日 第1小法廷 判決 ( 平成23年(受)第2183号 )
事件名:  年次有給休暇請求権存在確認等請求・上告事件
要 旨
 1.労働基準法39条1項及び2項における出勤率の算定に当たっては,前年度の総暦日の中で,就業規則や労働協約等に定められた休日以外の不就労日のうち,労働者の責めに帰すべき事由によるとはいえないものは,不可抗力や使用者側に起因する経営,管理上の障害による休業日等のように当事者間の衡平等の観点から出勤日数に算入するのが相当でなく全労働日から除かれるべきものは別として,出勤日数に算入すべきものとして全労働日に含まれるものと解するのが相当である。
 1a.無効な解雇の場合のように労働者が使用者から正当な理由なく就労を拒まれたために就労することができなかった日は,労働者の責めに帰すべき事由によるとはいえない不就労日であり,このような日は使用者の責めに帰すべき事由による不就労日であっても当事者間の衡平等の観点から出勤日数に算入するのが相当でなく全労働日から除かれるべきものとはいえないから,労働基準法39条1項及び2項における出勤率の算定に当たっては,出勤日数に算入すべきものとして全労働日に含まれるものというべきである。 /年次有給休暇の時季に係る請求/
参照条文: /労働基準法:39条/
全 文 h250606supreme2.html

名古屋高等裁判所 平成 25年 5月 27日 民事第3部 決定 ( 平成24年(ラ)第267号 )
事件名:  文書提出命令申立却下決定に対する即時抗告事件
要 旨
 1.民事訴訟法220条4号ハが指示している197条1項2号にいう「黙秘すべきもの」とは,医師等に関しては、一般に知られていない事実のうち,医師等に診療を行うことを依頼した本人が,これを秘匿することについて,単に主観的利益だけではなく,客観的にみて保護に値するような利益を有するものをいう。
 1a.医療記録であっても,民事訴訟法220条4号ハにより文書提出義務を除外される文書は,同法197条1項2号が定めるとおり医師又は医師であった者の作成に係る文書に限られ、医師以外の医療従事者(看護師等)が作成した医療記録は,それが診療録に該当しない以上,同号所定の文書には当たらない。
 1b.医師が作成すべき診療録の記載事項(特に病名及び主要症状,治療方法)は,患者の疾病等の内容やその治療経過に関するものとして,深く患者のプライバシーに関する事項に該当するものというべきであり,したがって,患者には,その秘匿について主観的利益があるのみならず,客観的にみて保護に値するような利益があるものということができるから、診療録の記載事項については,個別に医師の黙秘の義務が免除されていない限りは,民事訴訟法220条4号ハに該当する。
 1c.民事訴訟法197条1項2号が専門家の証言拒絶権を認めたのは,職業の性質に照らして他人の秘密を知る機会が多いことに照らし,専門家に秘密を開示した者の利益を保護するためである。
 1d.診療録の提出命令の申立人と患者との訴訟において、患者が申立人からの不法行為によりてPTSDに罹患し,診療録を所持する医療機関に通院している旨を主張し、申立人の不法行為によって受けた傷害の傷病名及び症状とその経過について,詳細な主張をし,同主張に沿う診断書を証拠として提出するとともに,傷病名及び症状とその経過について上記主張をより具体的かつ詳細に記載した被告の陳述書を証拠として提出している場合には、患者は,上記陳述書に記載された傷病名及び症状とその経過という,一般に知られていない事実を自ら開示し,その限度で保護されるべき利益を放棄したものというべきであり、診療録の記載事項中,上記陳述書に記載された限度で,医師の黙秘の義務は免除されたものというべきである。 /書証/文書提出命令/診療カルテ/
参照条文: /民事訴訟法:197条1項2号;220条4号ハ/
全 文 h250527nagoyaH.html

最高裁判所 平成 25年 4月 26日 第2小法廷 決定 ( 平成24年(許)第15号 )
事件名:  担保取消決定に対する抗告棄却決定に対する許可抗告事件
要 旨
 不当利得返還請求を認容する仮執行宣言付判決に基づく仮執行の停止のために金銭を供託する方法で担保が提供され,その後に債務者に会社更生手続が開始され,債権者が同債権を更生債権として届け出たが,執行停止による損害賠償請求権を届け出ていなかった場合に,更生計画認可決定確定後に管財人が賠償請求権の失権を理由に担保取消しを申し立てたが,賠償請求権は更生債権であり,供託所に対する供託金還付請求権は,会社更生法203条2項にいう「更生会社と共に債務を負担する者に対して有する権利」として行使することができるから,更生債権の失権は担保の事由の消滅をもたらさないとされた事例。
 1.民訴法405条2項・77条は,被供託者が供託金につき還付請求権を有すること,すなわち,被供託者が,供託所に対し供託金の還付請求権を行使して,独占的,排他的に供託金の払渡しを受け,被担保債権につき優先的に弁済を受ける権利を有することを意味するものと解するのが相当であって,これをもって被供託者に特別の先取特権その他の会社更生法2条10項所定の担保権を付与したものと解することはできない。
 1a.仮執行宣言付判決に対する上訴に伴い,金銭を供託する方法により担保を立てさせて強制執行の停止がされた後に,債務者につき更生手続開始の決定がされた場合,その被担保債権である損害賠償請求権は,更生担保権ではなく,更生債権に当たる。
 1b.仮執行宣言付判決に対する上訴に伴う強制執行の停止に当たって金銭を供託する方法により担保が立てられた場合,被供託者は,債務者につき更生計画認可の決定がされても,被供託者が供託金の還付請求権を有することの確認を求める訴えを提起し,これを認容する確定判決の謄本を供託規則24条1項1号所定の書面として供託物払渡請求書に添付することによって,会社更生法203条2項にいう「更生会社と共に債務を負担する者に対して有する権利」として,供託金の還付請求権を行使することができると解され,このことは,被供託者が更生手続において被担保債権につき届出をせず,被担保債権が失権した場合であっても異なるものではない。
参照条文: /民事訴訟法:75条;76条;77条;79条;405条2項/会社更生法:2条8項;2条10項;203条2項;204条/
全 文 h250426supreme.html

最高裁判所 平成 25年 4月 19日 第3小法廷 決定 ( 平成25年(行フ)第2号 )
事件名:  文書提出命令申立一部認容決定に対する許可抗告事件
要 旨
 生活保護法に基づく生活扶助の支給を受けている原告が,保護変更決定の取消し等を求めた訴訟(基本事件)において,厚生労働大臣が保護基準を改定するに当たって根拠とした統計に係る集計の手法等が不合理であることを立証するために必要があるとして,統計法上の基幹統計に指定されている統計ために行われた全国消費実態調査の調査票情報を記録した準文書(磁気テープ又はCD-ROM)の提出命令を申し立てたが,同準文書は,民訴法231条において準用する同法220条4号ロ所定の「その提出により…公務の遂行に著しい支障を生ずるおそれがあるもの」に当たるとされた事例。
 1.統計法上の基幹統計に指定されている統計ために行われた全国消費実態調査に関しては,被調査者の当該統計制度に係る情報保護に対する信頼の確保に係るの要請に加え,全国消費実態調査に係る調査票情報である本件準文書に記録された情報の性質や内容等に係る事情も併せ考慮すれば,仮に本件準文書が本案訴訟において提出されると,調査票情報に含まれる個人の情報が保護されることを前提として任意に調査に協力した被調査者の信頼を著しく損ない,ひいては,被調査者の任意の協力を通じて統計の真実性及び正確性を担保することが著しく困難となることは避け難いものというべきであって,これにより,基幹統計調査としての全国消費実態調査に係る統計業務の遂行に著しい支障をもたらす具体的なおそれがあるものといわなければならない。 /書証/文書提出義務/
参照条文: /民事訴訟法:220条4号;231条/統計法:1条/
全 文 h250419supreme.html

最高裁判所 平成 25年 4月 16日 第3小法廷 判決 ( 平成23年(受)第1043号 )
事件名:  傷害保険金等請求・上告事件
要 旨
 1.普通傷害保険契約が保険金の支払事由を「被保険者が急激かつ偶然な外来の事故によってその身体に傷害を被ったこと」と定めている場合に,そこにいう「外来の事故」とは,その文言上,「被保険者の身体の外部からの作用による事故」をいうものであると解される。
 1a.誤嚥は,嚥下した物が食道にではなく気管に入ることをいうのであり,身体の外部からの作用を当然に伴っているのであって,その作用によるものというべきであるから,本件普通傷害保険契約にいう外来の事故に該当すると解することが相当であり,この理は,誤嚥による気道閉塞を生じさせた物がもともと被保険者の胃の内容物であった吐物であるとしても,同様であるとされた事例。
参照条文: /(平成20年法律第57号改正前)商法:2編10章/保険法:2章/民法:91条/
全 文 h250416supreme.html

最高裁判所 平成 25年 4月 16日 第3小法廷 判決 ( 平成24年(受)第651号 )
事件名:  損害賠償請求・上告事件
要 旨
 消費者金融業者の債務者から債務整理の委任を受けた弁護士が,和解に応じない消費者金融会社に対する債務について弁済をすることなく消滅時効の完成を待つ方針を採用する場合には,その方針をとることにより高率の遅延損害金が発生すること等の不利点や他の選択肢を含めて委任者に十分に説明をする義務を負うとされ,他社が和解に応じている中で和解に応じなかった1社に対する債務についてこの方針を採用したことについて委任者(個人)に対する説明義務違反の責任が認められた事例。 /委任契約/受任者の説明義務/
参照条文: /民法:415条;644条/
全 文 h250416supreme2.html

東京高等裁判所 平成 25年 4月 11日 第21民事部 判決 ( 平成24年(ネ)第7990号、平成25年(ネ)第1019号 )
事件名:  弁護士会照会に対する回答義務存在確認請求控訴、同附帯控訴事件
要 旨
 1.強制執行の対象となる財産の発見のために債務者B社及びBの債務者A社(Bに対する債権執行の第三債務者)の預金債権について銀行に対して弁護士会照会がなされたが、報告拒絶の回答があったため、照会申出弁護士の依頼者(原告)が銀行(被告)に対して、(1)被告が弁護士会に対して照会事項について報告する義務を負っていることの確認請求、及び(2)報告拒絶が不法行為に該当することを理由とする損害賠償請求(慰謝料請求)の訴えを提起したが、前者の訴えは確認の利益がないとして却下され、後者の請求は棄却された事例。
 (確認の利益について)
 1.23条照会制度に基づく法律関係は弁護士会と照会先との間に係るものであるから、照会先が照会に対して回答すべき義務を負うとしても、当該義務は、弁護士会に対して負う一般公法上の義務にすぎず、照会申出弁護士の依頼者に対して直接義務を負うものではない。
 1a.照会に対して照会先が回答することによる利益は、依頼者にとっては反射的利益にすぎないのであるから、照会先が回答をしないことについて、依頼者の権利又は法律関係について危険や不安が現に存在するとはいえない。
 1b. 仮に、依頼者において照会先が照会に回答しなかったことにより自己の権利等について危険又は不安が生じたというのであれば、その除去のためには、義務の確認の訴えによるよりも、回答拒否が違法であることを理由とする民法709条に基づく損害賠償請求等による方がより有効かつ適切であると説示された事例。
 1c.本件確認の訴えは、弁護士会照会の照会先が照会申出弁護士の依頼者に対して回答義務を負うことの確認を求めるものであり、かつ、照会先が照会に対して回答をしなかった行為を公権力の行使に当たる行為とすることはできないから、行政事件訴訟法4条にいう「公法上の法律関係に関する確認の訴え」とみる余地はない、と説示された事例。
 (慰謝料請求について)
 2.(被侵害利益)
 23条照会の権限は、あくまで弁護士会にのみあるのであって、弁護士及びその依頼者は、個々の照会先に対し、回答を求める権利を有しないことはもとより、回答を求めることにつき法律上の利益を有していると認めることはできない。
 2a.(違法性の欠如)
 
 仮に照会先が23条照会に対して回答すべき義務を負うとしても、その義務はあくまで弁護士の職務の公共性に鑑み認められた弁護士会に対する公的義務であるから、照会先が上記義務に違反して照会に対して回答を拒否したとしても、照会申出弁護士の依頼者の個別具体的な権利を侵害するものとは認められず、また、依頼者の法律上の利益を侵害するものともいえないので、民法709条の不法行為の要件である違法な行為があったとは認められない。
 2b.(過失)
 金融機関が23条照会に対して法的な報告義務を負うかについて金融機関の秘密保持義務との関係から直接判断した最高裁判例はなく、確立した銀行実務上の運用基準も存在しないこと、銀行が顧客に対する秘密保持義務を果たすことは銀行の重要な責務の一つであり、顧客の同意が得られない限り報告してはならないとする見解もあり、これを一概に不合理なものとして排斥できないこと、銀行が顧客に関する情報を不当に報告した場合、秘密保持義務違反を理由に顧客から法的責任の追及を受ける立場にある上、情報はいったん開示されてしまうとその原状回復は困難であることから、これによって当該情報に係る顧客の法的利益が回復不可能なまでに侵害されること、23条照会を受けた銀行は、確認訴訟において報告義務が確定するまでは自己の判断で対応することを余儀なくされるから、それだけ慎重な対応が要請されることなどの事情を総合考慮すれば、本件各照会に対して報告できない旨の回答をし、その後現在に至るまで報告を拒否していることにつき、銀行に故意又は過失があるとはいえないとされた事例。 /訴訟要件/
参照条文: /民法:709条/弁護士法:23-2条/
全 文 h241126tokyoD.html

福岡地方裁判所 平成 25年 4月 9日 判決 ( 平成24年(ワ)第1549号 )
事件名:  弁護士照会等回答拒否に対する損害賠償請求事件
要 旨
 依頼者(妻)から離婚訴訟の委任を受けた弁護士が訴状の送達先として夫の就業先を知るために、全国健康保険協会(の船員保険部)に対して調査嘱託及び弁護士会照会(第1次照会)が行われたが,同協会がこれらに対する回答及び報告を拒否し、また、その後に妻(債権者)と夫(債務者)との間でなされた裁判上の和解を債務名義とする強制執行の申立ての準備として夫の勤務先について再度の弁護士会照会(第2次照会)が行われたが、同協会がこれの回答も拒否したことによって、依頼者の裁判を受ける権利等及び弁護士の情報収集権といった権利又は法律上保護される利益が侵害された旨主張して、弁護士及び依頼者が不法行為による損害の賠償請求の訴えを提起したが、第2次照会に対する回答拒絶についてのみ、依頼者の法律上の利益の侵害が認められ、損害賠償が命じられた事例。
 1.釈明処分としての調査嘱託は、訴訟関係を明瞭にするために必要な事項について、裁判所が職権で公私の団体から調査報告を受けるためのものであり、その回答は直接に国の司法作用のために供されるものであるから、嘱託を受けた公私の団体は、裁判所に対し、正当な事由がない限り、これに応じる公法上の義務を負うものと解すべきである。
 1a.23条照会の制度の趣旨に照らすと、23条照会を受けた公務所及び公私の団体は、弁護士会に対し、正当な事由がない限り、これに応じる公法上の義務を負うものと解すべきである。
 1b.離婚訴訟の被告(夫)の勤務先を知るためになされた調査の嘱託及び弁護士会照会について、調査嘱託及び照会に応じることは、個人情報保護法23条1項1号所定の「法令に基づく場合」に当たるから、本人の同意を得る必要はないとされた事例。
 2.(訴状送達先を知るためになされた調査の嘱託・弁護士会照会)
 民事訴訟法186条は、調査嘱託をする権限を裁判所に与え、弁護士法23条の2第2項は、23条照会をする権限を弁護士会に与えており、調査嘱託を申し立てた弁護士の依頼者及び23条照会の申出をした弁護士の依頼者(以下、これらの者を「当事者」という。)が調査嘱託及び23条照会を受けた者に対して回答及び報告を求める権利又は利益を有すると解すべき法律上の根拠はない。
 2a.当事者(弁護士の依頼者)は、調査嘱託及び23条照会に対する回答及び報告がされることによる反射的利益を享受することができるにすぎず、当事者が照会等により回答を得る利益が法律上保護されるものとはいえないから、調査嘱託及び23条照会を受けた者がこれに応じる公法上の義務に違反したために当事者が上記反射的利益を享受することができなかったとしても、当事者の権利又は法律上保護される利益が侵害されたものということはできない。
 2b.(強制執行の準備としてなされた弁護士会照会)
 
 訴訟事件において成立した和解を記載した調書という債務名義により行われる強制執行によって自己の権利を実現する利益は法律上保護されるものというべきであり、債権執行を行うためになされた債務者の勤務先についての照会に対する報告拒絶は、債権者の法律上保護される利益を侵害するものというべきである。(過失も肯定して、損害賠償請求認容)
 3.弁護士は、当事者の訴訟代理人として、調査嘱託及び23条照会に対する回答及び報告がされることによる反射的利益を享受することができるにすぎず、弁護士が照会等により回答を得る利益及び弁護士の所属弁護士会に対する情報収集権が法律上保護されるものとはいえないから、調査嘱託及び23条照会を受けた者がこれに応じる公法上の義務に違反したために弁護士が上記反射的利益を享受することができなかったとしても,弁護士の権利又は法律上保護される利益が侵害されたものということはできない。
参照条文: /民事訴訟法:151条1項6号;186条/弁護士法:23-2条/民法:709条/個人情報保護法:23条1項/
全 文 h250409HukuokaD.html

最高裁判所 平成 25年 3月 26日 第3小法廷 判決 ( 平成23年(受)第1496号 )
事件名:  損害賠償請求本訴,受払金請求反訴・上告事件
要 旨
 足場工事等を目的とする株式会社(原告)がメインバンクでない銀行(被告)から合計4000万円を借り入れたが,その際にメインバンクからの借入金が約5億円ほどあることを知った被告銀行の担当者から,前記借入れから約3ヵ月後に,金利が上昇した際のリスクヘッジのための商品として,プレーン・バニラ・金利スワップを勧められ,一定の説明を受けた後に,想定元本4億円・固定金利年2.145%・期間6年・1年先スタート型の金利スワップ契約と,想定元本5000万円・固定金利年3.035%・1年先スタート型の金利スワップ契約を締結したが,その後,原告がこの契約を履行することができなくなり,被告銀行の説明義務違反等が問題になった事案において,「本件取引は,将来の金利変動の予測が当たるか否かのみによって結果の有利不利が左右されるものであって,その基本的な構造ないし原理自体は単純で,少なくとも企業経営者であれば,その理解は一般に困難なものではないはずで,当該企業に対して契約締結のリスクを負わせることに何ら問題のないもの」であり,被告は,原告に対し,「本件取引の基本的な仕組みや,契約上設定された変動金利及び固定金利について説明するとともに,変動金利が一定の利率を上回らなければ,融資における金利の支払よりも多額の金利を支払うリスクがある旨を説明したというのであり,基本的に説明義務を尽くしたものということができる」と説示された事例。
参照条文: /民法:709条/
全 文 h250326supreme.html

最高裁判所 平成 25年 3月 7日 第1小法廷 判決 ( 平成23年(受)第1493号 )
事件名:  損害賠償請求・上告事件
要 旨
 銀行が企業に1.5億円を融資する際に金利上昇のリスクヘッジ目的で提案した金利スワップ取引(想定元本3億円)について、銀行は基本的に説明義務を尽くしているとして、説明義務違反を理由とする不法行為による損害賠償請求が棄却された事例(融資利率=短期プライムレート+0.75%の変動金利(契約時のプライムレート=年1.375%);締結された金利スワップ契約=1年先スタート、プレーン・バニラ;銀行支払変動金利=3箇月TIBOR(契約時の相場=年0.09%)+0%、債務者支払固定金利=年2.445%)。
参照条文: /民法:709条/
全 文 h250307supreme.html

最高裁判所 平成 24年 12月 21日 第2小法廷 判決 ( 平成23年(受)第1626号 )
事件名:  所有権移転登記手続,持分移転登記抹消登記手続等,持分権確認等請求・上告事件
要 旨
 共有者の一人が共有土地を50台程度の広さの駐車場として賃貸することにより得た賃料収入について他の共有者が自己の持分に応じた不当利得返還の訴えを提起した場合に、事実審の口頭弁論終結後に生ずる利得の返還請求の訴えは、将来給付の訴えとして不適法であるとされた事例。
 1.共有者の1人が共有物を第三者に賃貸して得る収益につき,その持分割合を超える部分の不当利得返還を求める他の共有者の請求のうち,事実審の口頭弁論終結の日の翌日以降の分は,その性質上,将来の給付の訴えを提起することのできる請求としての適格を有しない。
 2.訴えが不適法で不備を補正することができないにもかかわらず控訴審が請求を認容した場合に、上告審が口頭弁論を経ることなく原判決を破棄して訴え却下の判決をした事例。
参照条文: /民事訴訟法:135条:313条:297条:140条/
全 文 h241221supreme.html

最高裁判所 平成 24年 12月 14日 第2小法廷 判決 ( 平成23年(受)第1833号 )
事件名:  貸金請求・上告事件
要 旨
 根保証契約に定める元本確定期日前に被保証債権が譲渡された場合に,保証債権もこれに随伴するとされた事例。
 1.根保証契約を締結した当事者は,通常,主たる債務の範囲に含まれる個別の債務が発生すれば保証人がこれをその都度保証し,当該債務の弁済期が到来すれば,当該根保証契約に定める元本確定期日前であっても,保証人に対してその保証債務の履行を求めることができるものとして契約を締結し,被保証債権が譲渡された場合には保証債権もこれに随伴して移転することを前提としているものと解するのが合理的である。
 1a.被保証債権を譲り受けた者は,その譲渡が当該根保証契約に定める元本確定期日前にされた場合であっても,当該根保証契約の当事者間において被保証債権の譲受人の請求を妨げるような別段の合意がない限り,保証人に対し,保証債務の履行を求めることができる。
 2.根保証契約において保証期間の定めがある場合には,保証期間の満了日の翌日を元本確定期日とする定めをしたものと解することができる。
参照条文: /民法:446条1項;465-2条1項;466条1項/
全 文 h241214supreme.html

最高裁判所 平成 24年 11月 27日 第3小法廷 判決 ( 平成23年(受)第1400号 )
事件名:  損害賠償請求・上告事件
要 旨
 Aの委託を受けた金融機関Yがアレンジャーとなり、Yから招へいを受けた金融機関Xらが参加して組成された本件シンジケートローンについて、Yの担当者EがAの代表者Bと契約書を調印する場で、Bが別件シンジケートローンのアレンジャーである他行の要求に基づき≪直近の決算書において一部不適切な処理がされている可能性があるため専門家に精査を依頼する予定である≫旨を記載したA名義の書面をEに示して、その書面を別件ローンに参加する各金融機関に送付した旨を説明したが、そのまま本件ローン契約が調印されて実行された場合に、その後にAについて再生手続が開始され、これによりXらが受けた損害について、上記招へいに際してYからXらに交付された資料の中に,≪資料に含まれる情報の正確性・真実性についてYは一切の責任を負わず,招へい先金融機関で独自にAの信用力等の審査を行う必要がある≫旨記載されていたものがあるとしても,Yは,Bから説明された情報を本件ローン組成・実行前にXらに提供すべき注意義務を信義則上負うとされ、その義務違反による不法行為責任が肯定された事例。
参照条文: /民法:709条/
全 文 h241127supreme.html

東京地方裁判所 平成 24年 11月 26日 民事第33部 判決 ( 平成24年(ワ)第8757号 )
事件名:  弁護士会照会に対する回答義務存在確認請求事件
要 旨
 債務名義(執行証書)を有する債権者の代理人弁護士が,債務者の執行対象財産を探知するために,債務者が預金口座を有していると思われる銀行に対して,債務者の預金口座のある支店名や預金額等について弁護士会照会の申出をし,弁護士会が照会をしたが,銀行が報告を拒絶したため,照会申出弁護士の依頼者である債権者が,受照会者(銀行)に対して,受照会者が弁護士会に対して報告義務を負っていることの確認請求及び報告拒絶が違法であることを理由とする損害賠償請求の訴えを提起したところ,報告義務確認請求が認容され,損害賠償請求が棄却された事例。
 1.弁護士会の公法上の権限に基づく弁護士会照会に対しては,照会により必要な事項の報告を求められた公務所又は公私の団体は,照会された事項の報告をすべき公法上の義務を負っていると解される。
 1a. しかし,弁護士会照会の趣旨により照会を受けた者が報告をしないことについて正当な理由を有するときは,報告を拒絶することができる。
 2.弁護士会照会制度ないし司法制度の究極の目的である国民の実効的な権利救済のために照会事項についての報告が不可欠であり,他方で報告をすることにより照会を受けた公務所又は公私の団体に重大な不利益を生じない場合には,金融機関が守秘義務を負う事項であっても,当該照会事項について報告義務を負う。
 2a.銀行預金に対する債権執行の申立てを実効的にするためには,あらかじめ債権者が債務者の預金口座のある支店とその預金額を知ることが必要不可欠であり,債権者が債務名義を得ていて確実な権利を有するにもかかわらず,債務者の銀行預金を差し押さえるために必要な預金の存在する支店及び預金額を知ることができず,ほかに執行可能な財産の所在も不明であり,照会事項に対する回答を得ることで,預金の存在する支店及びその預金額,あるいはその預金から第三者への送金状況を知ることにより強制執行が可能な財産の所在が判明する可能性が相当程度にあるものと見込まれる場合に,銀行法により免許を受けて銀行業を営む者は,決済機能を独占する銀行業務の公共性からみて,報告しないことによって保護されるべき正当な理由があるとは認められず,弁護士会に対し照会事項につき報告すべき公法上の義務を負うとされた事例。
 3.受照会者である被告が弁護士法23条の2に基づく報告義務に反して報告しないことの直接の結果として,照会申出弁護士の依頼者である原告が強制執行による権利の実現が妨げられている場合には,原告は,被告が公法上の義務を履行しないことによって債務名義による債務者に対する権利の実現が妨げられているのであるから,被告による権利実現の妨害を排除して権利救済を受けるため,被告に対し,照会事項につき弁護士会に対する報告義務が存することの確認を求めることができる。
 4.金融機関が弁護士会照会に対して法的な報告義務を負うか等の弁護士会照会と金融機関の秘密保持義務との関係について直接判断した最高裁判例はなく,確立した銀行実務上の運用基準も存在しないこと,銀行が顧客に対する秘密保持義務を果たすことは銀行の重要な責務の一つであり,顧客の同意が得られない限り報告してはならないとする考え方もあること,銀行が顧客に関する情報を不当に報告した場合,秘密保持義務違反を理由に顧客から法的責任の追及を受ける立場にあることはもとより,情報はいったん開示されてしまうとその原状回復は困難であることから,これによって当該情報に係る顧客の法的利益が回復不可能なまでに侵害されること,弁護士会照会を受けた銀行は,確認訴訟において報告義務が確定するまでは裁判外で対応することを余儀なくされるから,それだけ慎重な対応が要請されることなどの事情を勘案すれば,本件被告が本件各照会に対して報告できない旨の回答をし,その後現在に至るまで報告をしていないことについては,その対応が弁護士法23条の2に基づく報告義務に違反し違法であると評価することはできても,そのような違法性を認識することができなかった被告の判断につき,故意又は過失があるとまではいえないとされた事例。
参照条文: /行政事件訴訟法:4条/民事訴訟法:134条/民法:709条/弁護士法:23-2条/
全 文 h241126tokyoD.html

さいたま地方裁判所 平成 24年 10月 24日 第4民事部 判決 判決 ( 平成22年(ワ)第3472号 )
事件名:  地位確認及び未払賃金等請求事件
要 旨
 出入国管理及び難民認定法における外国人研修・技能実習制度(団体管理型)の下で中国から本邦に入国し在留した原告Aらが,使用者である被告Dに対し,Dの責めに帰すべき事由により就労することができなかった期間における最低賃金法所定の賃金及びこれに対する賃金の支払の確保等に関する法律所定年14.6パーセントの割合による遅延利息及び労働基準法114条所定の付加金等を訴求し,第一次受入れ機関である被告組合に対し,研修及び実務実習の管理を怠ったことによる不法行為の損害賠償を訴求し,その一部が認容された事例。
 1.[使用者性の認定]
 自らが経営していた会社について再生手続開始決定を受けたことのあるDが,取締役等として会社法上の責任を負う地位に就くことなく会社を経営しようとして,F会社の名義を使用することができる地位を譲り受けたこと,自らの判断により外国人研修・技能実習制度の下で研修生を受け入れ、Aらとの間で訴外Fの名義を使用して雇用契約を締結し、自ら又は他者に指示してK会社の売上の中からAらの研修手当及び給与を支払っていたこと,Aらが働いていた作業場においてAらから「社長」と呼ばれ,Aらに対し,自ら又は他者を通じて,作業上の指揮・命令を行い,Aらのタイムカードを管理していたこと,Aらの雇用契約の終了の決定をしたことが認められる場合に,Dは,実質的にAらに対して指揮命令をして,Aらから労務の提供を受け,Aらに対して賃金を支払っていた又は賃金を支払うべき者といえるから,Aらとの関係では,研修期間及び技能実習期間を通じて,使用者であったといえるとされた事例。
 1a.[労働者性の認定]
 外国人研修・技能実習制度における研修生が,労働契約法及び最低賃金法上の労働者に当たるか否かについては,受入れ機関側における研修体制の構築の有無,実際に実施された研修内容・時間,特に非実務研修の実施の有無,その内容・時間のほか,研修生が研修手当を受領していた場合にはその手当についての認識等を総合考慮した上で,研修生が行った作業であっても,労務の提供として賃金の支払を受けるにふさわしいものであった場合には,労働者に当たるというべきである。(労働者性が肯定された事例)
 2.[研修の監理]
 外国人研修・技能実習制度の団体監理型における第一次受入れ機関は,研修を受けようとする者に対して,第二次受入れ機関が研修を適正に実施する体制を備えず,体制を備えることが全く期待できない場合にあっては,そもそもそのような機関に研修生を受け入れさせてはならない義務を負い,また,研修生に対して,自ら第一次受入れ機関として適正な研修を実施し,第二次受入れ機関による研修が研修計画どおり実施されているか,実質的に労働となっていないか等について監査し,不適切な研修が行われている場合には,これを指導し,管轄の地方入国管理局長に報告する義務を負うというべきである。(義務違反による不法行為責任が肯定された事例)
 2a.[実習の監理]
 外国人研修・技能実習制度における技能実習は,研修により一定水準以上の技術等を修得した者が,研修を行ってきた機関を実習実施機関として,同機関との間で雇用契約を締結し,生産現場での労働を通じてより実践的な技術等を修得するものであり,第一次受入れ機関は,技能実習を監理する地位にはなく,基本的には,技能実習の実施について注意義務を負うものではないが,実態のない会社と雇用契約を締結しようとしていることを管轄する地方入国管理局長に報告しないなど実習実施機関における不法就労を殊更助長しているといえる場合には,不法行為責任を負うというべきである。(不法行為責任が肯定された事例)
 3.事実認定に証拠保全の結果が多数用いられた例。
参照条文: /出入国管理及び難民認定法:7条/労働基準法:2条;10条;114条/最低賃金法:2条/賃金の支払の確保等に関する法律:6条/
全 文 h241024saitamaD.html

東京高等裁判所 平成 24年 10月 24日 第20民事部 判決 ( 平成24年(ネ)第4113号 )
事件名:  回答義務確認請求・控訴事件
要 旨
 詐欺の加害者から携帯電話の番号を手書きした名刺を受領していた被害者がが損害賠償請求訴訟を提起し、訴訟を有効に追行することができるようにするために釈明処分として携帯電話会社に対する調査の嘱託を上申し、裁判所がこれに応じて、特定の電話番号の加入名義人の氏名・住所地等の報告を求める調査の嘱託をしたが、電話会社が通信の秘密等を理由にこれに応じなかった場合に、その訴訟(別件)の終了後に、被害者が電話会社に対して、調査嘱託に応じなかったことが不法行為に当たるとして損害賠償請求の訴えを提起し、中間確認の訴えとしてとして、報告義務があったことの確認請求訴訟(本件)を提起したが、賠償請求は棄却され、確認の訴えは不適法として却下された事例。
 1.調査嘱託を受けた者が、回答を求められた事項について回答すべき義務があるにもかかわらず、故意又は過失により当該義務に違反して回答しないため、調査嘱託の職権発動を求めた訴訟当事者の権利又は利益を違法に侵害して財産的損害を被らせたと評価できる場合には、不法行為が成立する場合もあると解するのが相当である。
 1a. 調査の嘱託に回答すべき義務があったと認定されたが、義務違反が故意又は過失により行われた評価することはできないとして、損害賠償請求が棄却された事例。
 2.調査報告の嘱託を受けた者に報告義務があったことの確認を求める訴えが、確認の利益を欠くとされた事例。
参照条文: /民事訴訟法:2編1章;145条;151条;186条/民法:709条/電気通信事業法:4条/
全 文 h241024tokyoH.html

最高裁判所 平成 24年 10月 19日 第2小法廷 判決 ( 平成23年(受)第462号 )
事件名:  否認権行使請求・上告事件
要 旨
 債務者の代理人である弁護士が債権者一般に対して債務整理開始通知を送付し(1月18日頃),債務者が特定の債権者に対して弁済をし(2月15日から7月15日),債務者について破産手続が開始された(8月5日)場合に,債務整理開始通知は「支払の停止」に当たるとして,否認が認められた事例。
 1.破産法162条1項1号イ及び3項にいう「支払の停止」とは,債務者が,支払能力を欠くために一般的かつ継続的に債務の支払をすることができないと考えて,その旨を明示的又は黙示的に外部に表示する行為をいう。(先例の確認)
 1a. 債務者が単なる給与所得者であり広く事業を営む者ではない場合に,債務者から依頼を受けた弁護士が債権者一般に対して発送した債務整理開始通知に,(α)債務者が債務の支払の猶予又は減免等についての事務である債務整理を法律事務の専門家である弁護士らに委任した旨の記載がされ,また,(β)代理人である弁護士らが,債権者一般に宛てて債務者等への連絡及び取立て行為の中止を求めるなど依頼者の債務につき統一的かつ公平な弁済を図ろうとしている旨をうかがわせる記載がされているときは,その通知に自己破産を予定している旨が明示されていなくても,支払能力を欠くために一般的かつ継続的に債務の支払をすることができないことが少なくとも黙示的に外部に表示されているとみるのが相当であり,その通知を送付した行為は,破産法162条1項1号イ及び3項にいう「支払の停止」に当たるというべきである。 /倒産法/消費者破産/偏頗否認/
参照条文: /破産法:162条/
全 文 h241019supreme.html

最高裁判所 平成 24年 10月 12日 第2小法廷 判決 ( 平成22年(受)第622号 )
事件名:  詐害行為取消請求・上告事件
要 旨
 1.新設分割は,一又は二以上の株式会社又は合同会社がその事業に関して有する権利義務の全部又は一部を分割により設立する会社に承継させることであるから(会社法2条30号),財産権を目的とする法律行為としての性質を有する。
 1a. 株式会社を設立する新設分割がされた場合において,新設分割設立株式会社にその債権に係る債務が承継されず,新設分割について会社法810条の異議を述べることもできない新設分割株式会社の債権者は,民法424条の規定により,詐害行為取消権を行使して新設分割を取り消すことができる。(注:平成26年法律90号により会社法764条に追加された4項・5項・6項に注意)
 1b. この場合においては,その債権の保全に必要な限度で新設分割設立株式会社への権利の承継の効力を否定することができる。
 1c. 詐害行為取消権の行使によって新設分割を取り消したとしても,その取消しの効力は,新設分割による株式会社の設立の効力には何ら影響を及ぼすものではない。
参照条文: /民法:424条/会社法:5編2節2款;764条;810条/
全 文 h241012supreme.html

最高裁判所 平成 24年 5月 29日 第3小法廷 判決 ( 平成22年(受)第2035号 )
事件名:  求償金請求事件・上告事件
要 旨
 人身傷害保障条項付自動車保険契約において、「保険金請求権者が他人に損害賠償の請求をすることができる場合には,保険者は,その損害に対して支払った保険金の額の限度内で,かつ,保険金請求権者の権利を害さない範囲内で,保険金請求権者がその他人に対して有する権利を取得する」との条項(代位条項)が定められている場合に、保険金を支払った保険者が代位条項に基づいて被害者に代位することのできる損害賠償請求金額は、「人傷基準損害額に過失相殺をした金員から既払額等を控除した残額」ではなく、「過失相殺前の損害額(裁判基準損害額)が支払済保険金の額と過失相殺後の損害賠償請求権の額との合計額を上回る場合に、その上回る範囲内」に限られるとされた事例。
 1.代位条項付人身傷害補償条項の被保険者である被害者に交通事故の発生等につき過失がある場合には、被保険者が被った損害に対して保険金を支払った保険者は,保険約款中の代位条項にいう「保険金請求権者の権利を害さない範囲」の額として,被害者について民法上認められるべき過失相殺前の損害額(裁判基準損害額)に相当する額が保険金請求権者に確保されるように,支払済保険金の額と被害者の加害者に対する過失相殺後の損害賠償請求権の額との合計額が裁判基準損害額を上回るときに限り,その上回る部分に相当する額の範囲で保険金請求権者の加害者に対する損害賠償請求権を代位取得すると解するのが相当である。 /保険者の代位/請求権代位/
参照条文: /-h20L57.商法:662条/保険法:25条/民法:91条;709条;722条2項/
全 文 h240529supreme.html

最高裁判所 平成 24年 5月 28日 第2小法廷 判決 ( 平成21年(受)第1567号 )
事件名:  預金返還請求・上告事件
要 旨
 1.無委託保証人が主たる債務者の破産手続開始前に締結した保証契約に基づき同手続開始後に弁済をした場合において,保証人が主たる債務者である破産者に対して取得する求償権は,破産債権である。
 2. 無委託保証人が主たる債務者の破産手続開始前に締結した保証契約に基づき同手続開始後に弁済をした場合において,保証人が取得する求償権を自働債権とし,主たる債務者である破産者が保証人に対して有する債権を受働債権とする相殺は,破産法72条1項1号の類推適用により許されないと解するのが相当である。
 3.破産管財人が提起した破産財団所属の債権の取立訴訟において、請求を棄却すべきものとした控訴審の口頭弁論終結後に破産管財人が交替した場合に、上告審が請求を認容すべきものと判断したときに、控訴審の口頭弁論終結後に生じた上告人(破産管財人)による権利の承継に基づき訴えを変更するため,事件が原審に差し戻された事例。
参照条文: /民事訴訟法:124条/民法:462条/破産法:2条5項;67条;72条/
全 文 h240528supreme.html

東京地方裁判所 平成 24年 5月 22日 民事第26部 判決 判決 ( 平成23年(ワ)第33251号 )
事件名:  回答義務確認請求事件
要 旨
 詐欺の加害者から携帯電話の番号を手書きした名刺を受領していた被害者がが損害賠償請求訴訟を提起し,訴訟を有効に追行することができるようにするために釈明処分として携帯電話会社に対する調査の嘱託を上申し,裁判所がこれに応じて,特定の電話番号の加入名義人の氏名・住所地等の報告を求める調査の嘱託をしたが,電話会社が通信の秘密等を理由にこれに応じなかった場合に,その訴訟(別件)の終了後に,被害者が電話会社に対して,調査嘱託に応じなかったことが不法行為に当たるとして損害賠償請求の訴えを提起し,中間確認の訴えとしてとして,報告義務があったことの確認請求訴訟(本件)を提起したが,賠償請求は棄却され,確認の訴えは不適法として却下された事例。
 1.携帯電話会社が特定の電話番号の契約者の氏名及び住所地等について裁判所から調査の嘱託を受けた場合に,回答義務を負うとされた事例。(傍論)
 1a.携帯電話会社が特定の電話番号の契約者の電話料金の支払方法(口座引き落としであればその金融機関名)について裁判所から調査の嘱託を受けた場合に,回答義務を負わないとされた事例。
 
 2.調査の嘱託を受けた第三者に回答義務があったと認定されたが,この義務は裁判所に対する義務であり,調査の嘱託を申し立てた当事者に対する義務ではないとして,回答拒絶を理由とする損害賠償請求が棄却された事例。`
 3.別件訴訟において調査の嘱託を受けた者(本件被告)が裁判所に報告する義務を負っていたことの確認を求める訴えが,確認の利益を欠くとされた事例。
 3a.確認の訴えについて訴えの利益があるというためには,原告の権利又は法律関係について危険又は不安が現に存在し,かつ,それを除去する方法として,原告と被告との間でその権利又は法律関係について確認することが有効かつ適切であると認められることが必要である。
参照条文: /民事訴訟法:2編1章;145条;151条;186条/民法:709条/電気通信事業法:4条/
全 文 h240522tokyoD.html

最高裁判所 平成 24年 4月 27日 第2小法廷 判決 ( 平成23年(受)第903号 )
事件名:  地位確認等請求・上告事件(通称:日本ヒューレットパッカード事件)
要 旨
 精神的不調に陥った労働者について、休職等の処分を検討することなく無断欠勤を理由に懲戒解雇したことが適切とは言い難いとして、解雇が無効とされた事例。
 1.精神的な不調のために欠勤を続けていると認められる労働者に対しては,精神的な不調が解消されない限り引き続き出勤しないことが予想されるところであるから,使用者は,その欠勤の原因や経緯が本件のようなものである場合(職場における嫌がらせ等の被害妄想による欠勤であるが、妄想された被害を理由に欠勤することが使用者に伝えられていた場合)には、精神科医による健康診断を実施するなどした上で,その診断結果等に応じて,必要な場合は治療を勧めた上で休職等の処分を検討し,その後の経過を見るなどの対応を採るべきである。
 (注:労働者の精神的不調が業務起因性を有していると認定されていない事案である)
  1a.精神的な不調のために欠勤を続けていると認められる労働者に対して、精神科医による健康診断を実施するなどした上で,その診断結果等に応じて,必要な場合は治療を勧めた上で休職等の処分を検討し,その後の経過を見るなどの対応を採ることなく,労働者の出勤しない理由が存在しない事実(妄想)に基づくものであることから直ちにその欠勤を正当な理由なく無断でされたものとして諭旨退職の懲戒処分の措置を執ることは,精神的な不調を抱える労働者に対する使用者の対応としては適切なものとはいい難いとして、解雇が無効とされた事例。
参照条文: /労働契約法:16条/民法:627条1項/
全 文 h240427supreme.html

最高裁判所 平成 24年 4月 24日 第3小法廷 判決 ( 平成22年(受)第1212号 )
事件名:  新株発行無効請求・上告事件
要 旨
 1.株式譲渡制限会社の取締役会が旧商法280条ノ21第1項に基づく株主総会決議による委任を受けて新株予約権の行使条件を定めた場合に,新株予約権の発行後に上記行使条件を変更することができる旨の明示の委任がされているのであれば格別,そのような委任がないときは,当該新株予約権の発行後に上記行使条件を取締役会決議によって変更することは原則として許されず,これを変更する取締役会決議は,上記株主総会決議による委任に基づき定められた新株予約権の行使条件の細目的な変更をするにとどまるものであるときを除き,無効と解するのが相当である。
 1a.非公開会社の株主総会の特別決議に基づき取締役会決議により新株予約権の行使条件として株式の上場を定めた後で、株式の上場が困難になったために、取締役会が行使条件から株式の上場を除外する旨の変更決議をした場合に、上場条件の撤廃が行使条件の細目的な変更に当たるとみる余地はなく,それを可能とする旨の明示的な委任がされたことはうかがわれない本件においては、その変更決議は無効であるとされた事例。
 2.非公開会社において,株主総会の特別決議を経ないまま株主割当て以外の方法による募集株式の発行がされた場合,その発行手続には重大な法令違反があり,この瑕疵は上記株式発行の無効原因になると解するのが相当である。
 2a.非公開会社が株主割当て以外の方法により発行した新株予約権に株主総会によって行使条件が付された場合に,この行使条件が当該新株予約権を発行した趣旨に照らして当該新株予約権の重要な内容を構成しているときは,上記行使条件に反した新株予約権の行使による株式の発行は,これにより既存株主の持株比率がその意思に反して影響を受けることになる点において,株主総会の特別決議を経ないまま株主割当て以外の方法による募集株式の発行がされた場合と異なるところはないから,上記の新株予約権の行使による株式の発行には,無効原因があると解するのが相当である。
 2b.上場条件は,総会決議による委任を受けた取締役会の決議に基づき総会決議の趣旨に沿って定められた行使条件であるから,株主総会によって付された行使条件であるとみることができ、また,新株予約権が経営陣の意欲や士気の高揚を目的として発行されたことからすると,上場条件はその目的を実現するための動機付けとなるものとして,新株予約権の重要な内容を構成していることも明らかであるから,上場条件に反する新株予約権の行使による本件株式発行には,無効原因があるとされた事例。
参照条文: /会社法:199条;828条1項2号/商法:280-5-2条1項;280-21条1項/
全 文 h240424supreme.html

東京地方裁判所 平成 24年 3月 23日 民事第25部 判決 ( 平成23年(ワ)第40705号 )
事件名:  請負代金請求事件
要 旨
 建設会社(注文者・被告)から建設工事を請け負った会社について破産手続が開始され、破産管財人が破産法53条1項の規程により請負契約を解除して既施工部分の出来高1949万円余から既払額を控除した残金1746万円余及び遅延損害金の支払を求める訴えを提起したところ、注文者が残工事を他に注文したことによる超過費用2184万8062円(消費税別)の超過支出を強いられ,これに消費税を加えた2294万0465円の損害の賠償請求権を54条1項による破産債権として主張し、対当額での相殺の抗弁を提出したが、72条1項1号によりこの相殺は許されないとされた事例。
 1.請負人の破産管財人が破産法53条1項により請負契約を解除したことによる注文者の損害賠償請求権は、破産手続開始前には発生すらしていなかったもので,破産手続開始前に注文者がこの請求権を取得していたものと同視することはできないし,注文者が保護に値する相殺に対する期待を有していたとも認められないから、この損害賠償請求権を自働債権とし破産財団に属する請負報酬請求権を受働債権とする相殺は、同法72条1項1号の類推適用により許されない。
参照条文: /破産法:67条;72条1項1号/
全 文 h240323tokyoD.html

最高裁判所 平成 24年 3月 16日 第2小法廷 判決 ( 平成22年(受)第336号 )
事件名:  第三者異議・上告事件
要 旨
 土地の買主(原告)が所有権移転登記を経由することなく土地をサトウキビ畑として耕作して占有を継続し,その時から取得時効期間満了した後に売主の相続人(登記名義人)が第三者(被告)のために抵当権設定登記をし,その時からさらに原告が抵当権の設定を知らないまま占有を継続して10年の取得時効期間が満了した場合に,その後に被告が抵当権の実行としての競売を申し立て,差押えの登記が経由されたところ,競売土地を時効取得したと主張する原告が,競売の不許を求めて第三者異議訴訟を提起して,認容された事例。
 1.時効取得者と取得時効の完成後に抵当権の設定を受けてその設定登記をした者との関係は,対抗問題となる。
 1a.不動産の取得時効の完成後,所有権移転登記がされることのないまま,第三者が原所有者から抵当権の設定を受けて抵当権設定登記を了した場合において,上記不動産の時効取得者である占有者が,その後引き続き時効取得に必要な期間占有を継続したときは,上記占有者が上記抵当権の存在を容認していたなど抵当権の消滅を妨げる特段の事情がない限り,上記占有者は,上記不動産を時効取得し,その結果,上記抵当権は消滅すると解するのが相当である。
参照条文: /民法:162条;177条;397条/民事執行法:194条;38条/
全 文 h240316supreme.html

東京高等裁判所 平成 24年 3月 9日 第22民事部 決定 ( 平成24年(ラ)第266号 )
事件名:  再生手続開始申立棄却決定に対する抗告事件
要 旨
 債務者からの再生手続開始申立てが、再生債権者の権利変更による調整が必要ではないのに、第1次再生手続における再生計画によって弁済を受ける再生債権者(旧債権者)及び同手続後に生じた債権者(新債権者)を巻き込み、専ら物上保証をした第1順位の本件根抵当権の抹消をすることを目的としたものであり、「不当な目的で再生手続開始の申立てがされたとき」(民事再生法25条4号)に該当すると評価され、棄却された事例。
 1.民事再生法25条4号は、再生手続開始の申立ての棄却事由として、「不当な目的で再生手続開始の申立てがされたとき、その他申立てが誠実にされたものでないとき」と定めるが、これは、その趣旨に鑑み、申立てが本来の目的から逸脱した濫用的な目的で行われた場合をいうと解するのが相当である。
参照条文: /民事再生法:25条/
全 文 h240309tokyoH.html

最高裁判所 平成 24年 3月 8日 第1小法廷 判決 ( 平成21年(受)第1186号 )
事件名:  損害賠償・残業代支払請求,仮執行による原状回復請求申立て・上告事件
要 旨
 1.基本給を月額41万円とした上で,月間総労働時間が180時間を超える場合に1時間当たり一定額を別途支払い,月間総労働時間が140時間未満の場合に1時間当たり一定額を減額する旨の約定のある労働契約について,通常の月給制の定めと異なる趣旨に解すべき特段の事情のない限り,就業規則における1日の労働時間の定め及び休日の定めに従って1か月勤務することの対価として月額41万円の基本給が支払われるという通常の月給制による賃金を定めたものと解するのが相当であり,月額41万円の基本給の一部が時間外労働に対する賃金である旨の合意がされたものということはできず,使用者は,月間180時間以内の労働時間中の時間外労働についても,基本給とは別に,労働基準法37条1項の規定する割増賃金を支払う義務を負うとされた事例。
 2.労働者による賃金債権の放棄がされたというためには,その旨の意思表示があり,それが当該労働者の自由な意思に基づくものであることが明確でなければならない。(先例の確認)
 2a.月間180時間の労働に対して月額41万円の基本給が支払われる派遣労働者について,労働者が雇用契約の締結の当時又はその後に時間外手当の請求権を放棄する旨の意思表示をしたことを示す事情の存在がうかがわれないことに加え,毎月の時間外労働時間は相当大きく変動し得るのであり,労働者がその時間数をあらかじめ予測することが容易ではないことからすれば,労働者の自由な意思に基づく時間外手当の請求権を放棄する旨の意思表示があったとはいえず,月間180時間以内の労働時間中の時間外労働に対する時間外手当の請求権を放棄したということはできないとされた事例。 /雇用契約の解釈/
参照条文: /労働基準法:37条1項/
全 文 h240308supreme.html

最高裁判所 平成 24年 2月 29日 第2小法廷 決定 ( 平成23年(許)第21号・第22号事件 )
事件名:  株式買取価格決定に対する抗告棄却決定に対する許可抗告事件
要 旨
 1.「公正な価格」の額の算定に当たっては,反対株主と株式移転完全子会社との間に売買契約が成立したのと同様の法律関係が生ずる時点であり,かつ,株主が会社から退出する意思を明示した時点である株式買取請求がされた日を基準日とするのが合理的である。
 2.株式移転完全子会社の反対株主がした株式買取請求に係る「公正な価格」は,(α) 株式移転によりシナジー効果その他の企業価値の増加が生じない場合には,原則として,当該株式買取請求がされた日における,株式移転を承認する旨の株主総会決議がされることがなければその株式が有したであろう価格をいうと解するのが相当であるが,(β)それ以外の場合には,原則として,株式移転計画において定められていた株式移転比率が公正なものであったならば当該株式買取請求がされた日においてその株式が有していると認められる価格をいうものと解するのが相当である。
 3.相互に特別の資本関係がない会社間において,株主の判断の基礎となる情報が適切に開示された上で適法に株主総会で承認されるなど一般に公正と認められる手続により株式移転の効力が発生した場合には,当該株主総会における株主の合理的な判断が妨げられたと認めるに足りる特段の事情がない限り,当該株式移転における株式移転比率は公正なものとみるのが相当である。
 4.株式が上場されている場合,市場株価が企業の客観的価値を反映していないことをうかがわせる事情がない限り,「公正な価格」を算定するに当たって,その基礎資料として市場株価を用いることには合理性があるといえる。
 4a.株式移転計画に定められた株式移転比率が公正なものと認められる場合には,株式移転比率が公表された後における市場株価は,特段の事情がない限り,公正な株式移転比率により株式移転がされることを織り込んだ上で形成されているとみられるものであるから,上記の場合は,株式移転により企業価値の増加が生じないときを除き,反対株主の株式買取請求に係る「公正な価格」を算定するに当たって参照すべき市場株価として,基準日である株式買取請求がされた日における市場株価や,偶発的要素による株価の変動の影響を排除するためこれに近接する一定期間の市場株価の平均値を用いることは,当該事案に係る事情を踏まえた裁判所の合理的な裁量の範囲内にある。 /株式買取価格/
参照条文: /会社法:773条1項6号;806条1項;807条2項/
全 文 h240229supreme.html

名古屋地方裁判所 平成 24年 2月 24日 民事第8部 決定 ( 平成22年(モ)第919号,平成23年(モ)第310号 )
事件名:  文書提出命令申立事件
要 旨
 A子(当時16歳の少女)と性交類似行為をしたとして,児童買春等処罰法違反で逮捕,勾留,起訴され,その後,無罪判決が言い渡されて確定したXが,国及び県に対し,逮捕,勾留請求,起訴等の違法を理由として,国家賠償法1条1項に基づく損害賠償等を請求している基本事件において,それらの違法性を基礎付けるのに必要な事実(春日井署が逮捕状等の請求当時どのような資料等に基づいてどのような根拠で,「Xが罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由」があり,逮捕・勾留等の必要性があると考えていたか等)を要証事実として,逮捕状請求書に疎明資料として添付された捜査報告書や身体検査令状請求書等計8点について,文書提出命令を申立て,裁判所が,いずれも民訴法220条3号後段の法律関係文書に該当し,証拠調べの必要性があり,文書所持者である国が刑訴法47条の「訴訟に関する書類」に該当することを理由に提出を拒むことは裁量権の濫用にあたるとして,提出を命じた事例。
 1.(職務行為基準説)
 
 公訴の提起等の違法性の判断について,無罪の判決が確定したというだけでは直ちに公訴の提起等が違法となるものではなく,公訴の提起等の捜査機関の心証は,判決時における裁判官の心証とは異なり,上記時点における各種の証拠資料を総合勘案して合理的な判断過程により有罪と認められる嫌疑等があれば足りること(職務行為基準説),上記証拠資料として,捜査機関が現に収集した証拠資料及び通常要求される捜査を遂行すれば収集し得た証拠資料が含まれることを重視すべきである。
 1a.(取調べの必要性)
 
 各時点において捜査機関が収集していた証拠資料や,収集しようとしたのに収集できなかった資料がどのようなものであったかなどの点が争われている場合には,これらを具体的,客観的に明らかにすることが必要不可欠であって,令状請求書に疎明資料として添付された報告書等の取調べが必要であり,捜査官の証人尋問等によって代替できるものではない。
 1b.(武器平等)
 
 (報告書の取調べを回避のために)捜査官が,提出の求められている「総括及び強制捜査の必要性の捜査報告書」を閲読したり,その内容を代理人等から教示されたりした上で陳述書を作成したり証言したりするとすれば,原告やその訴訟代理人は,その文書を閲読できず,その内容を知ることができない場合には,証拠の偏在により極めて不公平な事態が生じることになるのであって,その提出なしに基本事件の審理を行うことは,民事訴訟における武器平等の原則に反することになって,公正,誠実ではないことになり,裁判所及び当事者の責務(法2条)にも反する。
 2.(主張されていない事実を知るための証拠調べ)
 
 提出の求められている捜査官作成文書(「タクシー会社関係事項聴取の電話通信書」)に記載されていると推認される内容について,争いがない場合であっても,その文書に申立人と愛知県や相手方との間で争いのない事項のみが記載されているとは限らないのであり,また,申立人と相手方や愛知県の主張が一致しているのは概括的な部分であり,基本事件の性質上,概括的なところで主張が一致しているからといって,具体的な資料の検討を不要とすることはできず,相手方がこれを嫌うのは,そこに相手方や愛知県に不利ないし不利となる可能性のある記載があり,これを発見されるのを恐れているといった可能性もある。
 3.(法律関係文書)
 民訴法法220条3号後段の法律関係文書とは,挙証者と文書の所持者との間の法律関係それ自体ないしそれに関連する事項を記載した文書であって,所持者が専ら自己の利用を目的として作成した内部文書を含まない。(最高裁判例の確認)
 3a. 本件の捜査報告書3通はいずれも逮捕状請求書の添付資料として,申立人が罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由や逮捕の必要性についての疎明資料ないしこれらを説明する文書として添付された書類であり,申立人と相手方との法律関係に関連する事項が記載された文書であるから,法律関係文書に該当する。
 3b.送致書は,刑訴法246条により,司法警察員から検察官に事件が送致される際に,犯罪捜査規範195条により作成が義務づけられている捜査書類であり,司法警察員から検察官に送られた証拠資料が列挙されて記載してあり,送致書が作成された段階における検察官が有していた証拠を明らかにしたものであるから,基本事件のように略式請求やその後も公訴を維持した検察官の判断の違法性が問題となる場合においては,送致書は,申立人(原告)と相手方(国)との間の略式請求や公訴維持についての法律関係について記載された,法律関係文書ということができる。
 3b',司法警察員は,警察法により設置された警察庁又は都道府県警察に所属する警察官などであるのに対し,検察官は,検察庁法により設置された検察庁に所属している検事などであるから,両者は全く別の組織に属するし,検察官は,司法警察員が行った逮捕手続の適否や勾留の要件を独立した立場で判断すべきものであって,制度上も一体のものであってはならないことからすると,送致書が捜査機関の内部文書にあたるということはできない。
 3c.「関係書類追送書」は,(1)本件身体検査令状及び本件「身体検査令状請求書」の取扱いに関連して作成された文書であるから申立人と相手方との間の法律関係に関連する事項が記載された文書ということができ,また,(2)身体検査令状を捜査機関である春日井署の警察官が事実上執行したのか否か(本件身体検査令状を示して行うべき身体検査を,これを示さずに行ってしまったのか否か)という法律関係に関連する事項が記載された文書でもあるので,法律関係文書に該当する。
 4.(刑事訴訟書類に関する裁量権の濫用)
 民事訴訟の当事者が,民訴法220条3号後段の規定に基づき,刑訴法47条所定の「訴訟に関する書類」に該当する文書の提出を求める場合においても,当該文書の保管者の裁量的判断は尊重されるべきであるが,当該文書が法律関係文書に該当する場合であって,その保管者が提出を拒否したことが,民事訴訟における当該文書を取り調べる必要性の有無,程度,当該文書が開示されることによる弊害発生のおそれの有無等の諸般の事情に照らし,その裁量権の範囲を逸脱し,又は濫用するものであると認められるときは,裁判所は,当該文書の提出を命ずることができる。(最高裁判例の確認)
 4a.基本的な視点
 
 (α)無罪が言い渡された事件においては,捜査機関が,被疑事実と矛盾する証拠を有していることや,被疑事実があったとすれば当然存在すべき証拠が存在しないことを把握していたり,把握すべきものを見落としていたりする可能性があるが,このような事情は,捜査機関が保有している情報であり,いわゆる捜査の秘密によって守られているものであるから,このような性質上,被疑者・被告人とされていた者の側では当然に知り得る事実ではなく,具体的に主張することが性質上困難であり,基本事件において明らかとなったように,捜査機関において,令状やその請求書について不正な取扱いが行われていたような場合などには,被疑事実と矛盾する証拠の存在や,存在すべき証拠の不存在が隠されている可能性が高いのであるから,公判に提出されなかった書類の開示の必要性はより高くなる。
 (β)捜査官の判断の誤りにより被害を被ったと主張する被疑者・被告人を,職務行為基準説の判断構造の下で,適切な証拠に基づいた審理を行って救済すべきか否かの判断を行うことは,個人の救済にとどまらない司法の適正を確保する公的な利益がある。
 4b. 相手方は,本件文書が提出されると,≪捜査官においてどのような証拠が揃った場合に,どのようなタイミングで強制捜査に着手するのかが明らかになる≫ことや,≪第三者のプライバシーを侵害するおそれのある記載があり得る≫ことを主張するが,いずれも,一般的,抽象的な主張であり,具体性を持ったものではなく,このような一般的,抽象的な理由で文書全部の提出の拒否を認めることは相当でない。
 4c. 犯罪被害を届け出たA子やその友人による本件刑事事件に関する部分の供述については,それ自体の性質上A子らのプライバシーに関わるものであるといえるが,A子の供述等の信用性に関わるものであるから,本件のようなA子の供述等の信用性が重要な争点である事案においては,A子らのプライバシーを理由に提出の拒否を認めることは相当でない。
  4d.相手方は,第三者からの事情聴取の結果等が記載された書類について,本件刑事事件にのみ使用されるという前提で任意で捜査に協力した第三者の信頼を裏切ることになり,ひいては,将来の捜査において国民一般の協力を得られなくなるというおそれがあるなどと主張するが,国民が任意で捜査機関の捜査に協力するのは,提供した情報や資料等によって,刑事司法が適正かつ公平に運用されることを期待しているからであって,提供したものが犯罪の嫌疑を否定するような情報や資料である場合には,そのようなものとして被疑者・被告人に有利に使用されることを期待しているものであり,国民から提供された情報や資料が,被疑者・被告人や被疑者・被告人であった者にも開示され,公平・公正な刑事司法の運営や,基本事件のようなこれを当事者の主張,立証を通じて検証することとなる民事訴訟においても役立てられることで,将来における国民一般の協力が得られることになるというべきである。
 4e.捜査機関に協力したことが被疑者・被告人の側に知られることなどにより,協力者が身の危険を感じるような事態が生じる可能性がある場合もあるものといえるが,このような事案であることは,相手方において具体的に主張すべきであり,本件において,このような事案であることをうかがわせるような事情は認められない。
 4f.刑事訴訟において無罪の確定判決を得ている被告人が,逮捕,勾留請求,起訴等の違法を主張して国家賠償請求訴訟を提起し,当該刑事訴訟の書類(本件各文書)の提出を求めている場合に,当該書類が開示されると,将来の捜査に支障が生ずるといった一般的,抽象的な理由及びその他の理由(供述の信用性が問われている被害者のプライバシー等)により,本件各文書の提出を拒否する相手方(国)の判断は,いずれも裁量権の範囲を逸脱し,かつこれを濫用したものというべきであり,相手方は本件各文書の提出義務があるとされた事例。 /模索的証拠申出/模索的証明/
参照条文: /民事訴訟法:220条3号;2条/刑事訴訟法:47条/国家賠償法:1条1項/
全 文 h240224nagoyaD.html

最高裁判所 平成 24年 2月 23日 第1小法廷 判決 ( 平成23年(受)第268号 )
事件名:  配当異議・上告事件
要 旨
 債務者の第三債務者に対する債権について仮差押えが執行された後に他の債権者により差押えがなされた場合に,仮差押えの被保全債権については請求棄却判決が確定したが,これと請求の基礎を同一にする貸金債権については請求認容判決が確定したときは,仮差押債権者は,他の債権者の債権の存在を争って配当異議の訴えを提起する利益を有するとされた事例。
 1.保全命令は,一定の権利関係を保全するため,緊急かつ必要の限度において発令されるものであって,これによって保全される一定の権利関係を疎明する資料についても制約があることなどを考慮すると,仮差押命令は,当該命令に表示された被保全債権と異なる債権についても,これが上記被保全債権と請求の基礎を同一にするものであれば,その実現を保全する効力を有する。(先例の確認)
 1a. 債務者に対する債務名義を取得した仮差押債権者は,債務名義に表示された金銭債権が仮差押命令の被保全債権と異なる場合であっても,上記の金銭債権が上記の被保全債権と請求の基礎を同一にするものであるときは,仮差押命令の目的財産につき他の債権者が申し立てた強制執行手続において,仮差押債権者として配当を受領し得る地位を有している。
 1b.貸金債権の債務者が債権者に無断で担保建物を取り壊した場合に,貸金債権者が,債権回収が困難になったことにより貸金債権相当額を含む損害を被ったことを理由として,損害賠償請求権を被保全債権として仮差押えの執行を得た場合に,貸金債権の発生原因事実は,損害賠償債権の発生原因事実に包含されていることが明らかであり,貸金債権に基づく請求は,損害賠償債権に基づく請求と,請求の基礎を同一にするものというべきであるとされた事例。 /訴えの利益/
参照条文: /民事保全法:20条/民事訴訟法:2編1章;143条1項/民事執行法:166条2項;90条/
全 文 h240223supreme.html

最高裁判所 平成 24年 2月 20日 第1小法廷 判決 ( 平成21年(受)第1461号 )
事件名:  損害賠償請求・上告事件
要 旨
  自動車保険契約の人身傷害条項に基づき保険会社が交通事故の被害者(被保険者)の被った損害について保険金を支払った場合に,保険会社は、保険金の額(5824万円余)と被害者の加害者に対する過失相殺後の損害賠償請求権の額(7045万円余)との合計額が裁判基準損害額(7828万円余)を上回る場合に限り,その上回る部分に相当する額(5041万円余)の範囲で保険金請求権者の加害者に対する損害賠償請求権を代位取得し、その限度で被害者の加害者に対する過失相殺後賠償請求権額が減少するとされた事例。
 1.自動車保険契約に適用される普通保険約款中の人身傷害条項に基づき,被保険者である交通事故等の被害者が被った損害に対して保険金を支払った保険会社が,保険金の額の限度内で,これによって填補される損害に係る保険金請求権者の加害者に対する賠償請求権を代位取得し,その結果,保険会社が代位取得する限度で,保険金請求権者は上記請求権を失い,上記請求権の額が減少することとなる場合に,保険会社がいかなる範囲で保険金請求権者の上記請求権を代位取得するのかは,約款の定めるところによることとなる。
 1a.人身傷害条項に基づき,保険会社は,交通事故等により被保険者が死傷した場合に,被保険者に過失があるときでも,その過失割合を考慮することなく算定される額の保険金を支払うものとされているのであれば、上記保険金は,被害者が被る損害に対して支払われる傷害保険金として,被害者が被る実損をその過失の有無,割合にかかわらず填補する趣旨・目的の下で支払われるものと解される。
 1b.人身傷害条項に基づく保険金が上記の趣旨・目的で支払われる場合には,代位条項にいう「保険金請求権者の権利を害さない範囲」との文言は,保険金請求権者が,被保険者である被害者の過失の有無,割合にかかわらず,上記保険金の支払によって民法上認められるべき過失相殺前の損害額(裁判基準損害額)を確保することができるように解することが合理的である。
 1c.交通事故の被害者と保険会社との間の自動車保険契約中の人身傷害条項に基づき、保険会社が被害者(被保険者)に保険金を支払った場合に,保険会社は、保険金請求権者に裁判基準損害額に相当する額が確保されるように,保険金の額と被害者の加害者に対する過失相殺後の損害賠償請求権の額との合計額が裁判基準損害額を上回る場合に限り,その上回る部分に相当する額の範囲で保険金請求権者の加害者に対する損害賠償請求権を代位取得すると解するのが相当である。
 2.人身傷害条項に基づいて支払われる保険金が,被害者が被る損害の元本を填補するものであり,損害の元本に対する遅延損害金を填補するものではないと解される場合に,保険金を支払った保険会社は,その支払時に,保険金に相当する額の保険金請求権者の加害者に対する損害金元本の支払請求権を代位取得するものであって,損害金元本に対する遅延損害金の支払請求権を代位取得するものではない。
 3.交通事故の加害者の損害賠償債務も,事故時に発生し,かつ,何らの催告を要することなく,遅滞に陥いるものであるから,交通事故が原因で死亡した被害者の父母の固有の損害賠償請求権についても、その元本に対する事故日から保険金支払日までの遅延損害金の支払請求が否定される理由はない。 /保険者の代位/請求権代位/
参照条文: /商法:662条/民法:91条;709条;民法722条2項/
全 文 h240220supreme.html

最高裁判所 平成 24年 2月 7日 第3小法廷 決定 ( 平成23年(許)第31号 )
事件名:  担保不動産競売手続取消決定に対する執行抗告棄却決定に対する許可抗告事件
要 旨
 共有物を売却してその代金を持分に応じて分割することを命ずる判決に基づいて共有不動産の競売手続が開始された場合に、競売不動産上に買受可能価額を大幅に上回る極度額の根抵当権が設定されているため、競売裁判所が民事執行法63条1項2号に該当する旨の通知を発したが、競売申立人ら(分割請求訴訟の原告ら)が同条2項1号の措置をとらなかったため、競売手続が取り消された事例。
 1.民法258条2項所定の競売を命ずる判決に基づく不動産競売については,民事執行法59条が準用されることを前提として同法63条が準用される。 /共有物分割のための競売/形式競売/形式的競売/換価のための競売/消除主義/無剰余措置/無剰余見込通知/剰余主義/担保権/抵当権/不可分性/
参照条文: /民法:258条2項;296条;372条/民事執行法:59条;63条;188条;195条/
全 文 h240207supreme.html

最高裁判所 平成 24年 2月 2日 第1小法廷 判決 ( 平成21年(受)第2056号 )
事件名:  損害賠償請求・上告事件
要 旨
 1.人の氏名,肖像等は,個人の人格の象徴であるから,当該個人は,人格権に由来するものとして,これをみだりに利用されない権利を有する。(先例の確認。本件判旨の前提命題)
 1a.肖像等は,商品の販売等を促進する顧客吸引力を有する場合があり,このような顧客吸引力を排他的に利用する権利(パブリシティ権)は,肖像等それ自体の商業的価値に基づくものであるから,上記の人格権に由来する権利の一内容を構成する。
 1a.肖像等を無断で使用する行為は,{1}肖像等それ自体を独立して鑑賞の対象となる商品等として使用し,{2}商品等の差別化を図る目的で肖像等を商品等に付し,{3}肖像等を商品等の広告として使用するなど,専ら肖像等の有する顧客吸引力の利用を目的とするといえる場合に,パブリシティ権を侵害するものとして,不法行為法上違法となる。(判旨)
 2. ピンク・レディー(原告ら・上告人らの芸名)の肖像が顧客吸引力を有すると認定された事例。
 2a.肖像写真の無断掲載が専ら肖像の有する顧客吸引力の利用を目的とするものとはいえないと認定された事例。
 = ピンク・レディーを被写体とする14枚の白黒写真を使用した「ピンク・レディー de ダイエット」と題する記事(週刊誌「女性自身」に掲載された記事)について、本件各写真は,ピンク・レディーの振り付けを利用したダイエット法を解説し,これに付随して子供の頃に上記振り付けをまねていたタレントの思い出等を紹介するに当たって,読者の記憶を喚起するなど,本件記事の内容を補足する目的で使用されたものというべきであるから,被告が本件各写真を原告らに無断で本件雑誌に掲載する行為は,専ら原告らの肖像の有する顧客吸引力の利用を目的とするものとはいえず,不法行為法上違法であるということはできない、とされた事例。
参照条文: /民法:709条/
全 文 h240202supreme51.html

最高裁判所 平成 24年 1月 26日 第1小法廷 決定 ( 平成23年(許)第25号 )
事件名:  遺産分割審判に対する抗告審の変更決定に対する許可抗告事件
要 旨
 1.遺留分減殺請求により相続分の指定が減殺された場合には,遺留分割合を超える相続分を指定された相続人の指定相続分が,その遺留分割合を超える部分の割合に応じて修正されるものと解するのが相当である。
 2.被相続人が,特別受益に当たる贈与につき,当該贈与に係る財産の価額を相続財産に算入することを要しない旨の意思表示をしていた場合であっても,上記価額は遺留分算定の基礎となる財産額に算入されるものと解される。
 2a.遺留分減殺請求により特別受益に当たる贈与についてされた持戻し免除の意思表示が減殺された場合,持戻し免除の意思表示は,遺留分を侵害する限度で失効し,当該贈与に係る財産の価額は,上記の限度で,遺留分権利者である相続人の相続分に加算され,当該贈与を受けた相続人の相続分から控除されるものと解するのが相当である。
参照条文: /民法:1031条;903条/
全 文 h240126supreme.html

高松高等裁判所 平成 24年 1月 20日 第4部 判決 ( 平成23年(ネ)第153号 )
事件名:  配当異議・控訴事件
要 旨
 別除権協定による被担保債権減額の効果が再生債務者の破産手続開始によって消滅しないとされた事例。
 再生債務者と別除権者との間で、担保不動産の受戻価格を定め、被担保債権額を受戻価格相当額に減額する旨の別除権協定が締結され、減額後の被担保債権額については別除権協定に従って、担保されないことになった部分(「別除権不足額」)については再生計画に従って分割弁済がなされてきたが、再生計画の履行完了前に再生債務者について破産手続が開始された場合に、別除権協定による被担保債権の減額の効果は維持されるから、別除権行使としての担保競売手続において別除権者が配当を受領することができる金額は、減額後の被担保債権額から既払額を控除した金額の範囲内に限られ、これを超過する部分については配当受領権を有しないとされた事例。
 1.別除権協定において、その解除事由として「再生計画認可決定の効力が生じないことが確定すること、再生計画不認可決定が確定すること、または再生手続廃止決定がなされること」が定められている場合に、準自己破産申立てに基づく破産手続開始決定は、そのいずれにも直接該当せず、また、再生債務者が破産開始決定を受けたことによって別除権協定が失効し、いったん実体法上確定した別除権で担保される部分が変動するとすることは,民事再生法88条、182条に定める不足額確定主義や、別除権不足額について別除権者が再生計画に基づく支払を受けてきていること等の事実とそぐわない。
 1a.再生債務者について破産手続開始決定等があった場合に、再生債権者であった破産債権者等と再生債権者ではなかった破産債権者等との間の公平を図るなどの観点から、当該再生手続上、再生債権として取り扱われた債権のうち、再生計画によって変更された部分を「原状に復する」ことを特に法定したものである民事再生法190条の趣旨を、同規定とは根拠や趣旨を異にする別除権協定に基づく変更についてまで当然に及ぼすべきものであるとか、再生計画の失効に伴って別除権協定も失効するものと解することはできない。
参照条文: /民事再生法:190条;41条1項6号;41条1項9号;88条;182条/
全 文 h240120takamatuH.html

最高裁判所 平成 23年 12月 15日 第1小法廷 判決 ( 平成22年(受)第16号 )
事件名:  不当利得返還請求・上告事件
要 旨
 1.取立委任を受けた約束手形につき商事留置権を有する者は,当該約束手形の取立てに係る取立金を留置することができる。
 1a.上記取立金を法定の手続によらず債務の弁済に充当できる旨定める銀行取引約定は,別除権の行使に付随する合意として,民事再生法上も有効である。
 1b.会社から取立委任を受けた約束手形につき商事留置権を有する銀行は,同会社の再生手続開始後の取立てに係る取立金を,法定の手続によらず同会社の債務の弁済に充当し得る旨を定める銀行取引約定に基づき,同会社の債務の弁済に充当することができる。 /留置権/
参照条文: /民事再生法:53条;85条1項/商法:521条/手形法:18条;77条1項1号/民法:91条/
全 文 h231215supreme.html

大阪地方裁判所 平成 23年 12月 9日 第3民事部 判決 ( 平成20年(ワ)第6274号 )
事件名:  費用補償請求事件
要 旨
 公有地の有効利用提案競技において最優秀提案者に選定された原告(受託者・信託銀行)との間で,信託事業の結果として被告(委託者・大阪市交通局)に借入金債務等の負担を及ぼさない旨の合意及び被告が提案計画に基づいた一定の経済的利益を与えられる旨の合意を含む基本契約が締結され、これを前提にした公有地信託(公有地を当初信託財産として、その地上に商業施設等を建設して収益を得ること内容とする信託)に関して、受託者が信託事業の運転資金・建設資金等に宛てるために借り入れた資金を固有財産から弁済した場合に、この弁済費用が旧信託法36条2項本文にいう「費用」に当たるとされ、委託者に対してその補償が命じられた事例。
 1.旧信託法36条は,信託により生じる利益を享受する信託財産ないし受益者が,信託から生じる損失や費用も全て負担するのが原則であるとの考え方を基礎としていると考えられる。
 1a.受託者が旧信託法36条2項本文に基づいて行使できる補償請求権は,信託財産の価額に限定されないと解するのが相当である。
 2.旧信託法36条1項及び2項本文にいう「費用」とは,受託者が信託事務を処理するに当たり信託財産に関して負担した債務等のために要した費用であれば足り,当該債務等を負担するに至った原因を問わないものと解するのが相当である。
 2a.公有地(旧大阪市交通局住之江車庫用地の一部)を当初信託財産として、その地上に商業施設等(オスカードリーム)を建設して収益を得ること内容とする信託に関して、受託者(信託銀行)が信託事業の運転資金・建設資金等に宛てるために借り入れた資金を固有財産(銀行勘定)から弁済した場合に、この弁済費用が旧信託法36条2項本文にいう「費用」に当たるとされた事例。
 3.被告(委託者・大阪市交通局)が主催した信託による公有地の有効利用提案競技において最優秀提案者に選定された原告(受託者・信託銀行)との間で,信託事業の結果として被告に借入金債務等の負担を及ぼさない旨の合意及び被告が提案計画に基づいた一定の経済的利益を与えられる旨の合意を含む基本契約が締結されたが、その合意内容に合致する法的拘束力をもつ法律関係がこの基本契約により成立したとは認められないとされた事例。
 4.公有地の有効利用提案競技において最優秀に選定された提案に従った信託契約において旧信託法36条2項本文所定の補償請求権(受託者が支出した費用が信託財産の価値を超過する場合の受益者に対する補償請求権)について言及がなく、選定時の基本契約締結後の契約交渉においても同補償請求権について検討がなされなかった場合に、同補償請求権を排除する旨の合意が成立していたとは認められないとされた事例。
 5.公有地信託事業の委託者が受託者に下記のような各種の義務違反があると主張して、これによる損害賠償請求権を自働債権とする相殺主張したが、いずれも認められなかつた事例:(1)安全性・安定性に配慮した事業計画を提案する義務の違反、(2)事業計画の内容等を正確に説明する義務の違反、(3)事業を遂行するための準備行為を速やかに行う義務の違反、(4)事業の遂行状況を正確かつ具体的に報告・説明する義務及び事業計画の修正・変更あるいは中止を提案する義務の違反、(5)事業計画どおりの収入を確保するとともに経費を削減するために努力する義務の違反。
参照条文: /t11.信託法:36条/
全 文 h231209osakaD.html

最高裁判所 平成 23年 12月 2日 第2小法廷 判決 ( 平成22年(行ヒ)第175号 )
事件名:  賃借料返還等請求住民訴訟・上告事件
要 旨
 地方自治体が工場誘致のための土地開発事業(この結果として、毎年固定資産税約4500万円及び法人住民税5億円の増収並びに約700人分の雇用創出がもたらされた)の一環として、入会団体からその所有地を賃借して毎年1000万円の賃料を支払う旨の賃貸借契約を締結したことに相応の合理性があり、この契約は私法上無効ではなく、この契約に基づく賃料としての公金の支出は違法ではないとされた事例。
 1.土地の賃貸借契約が工場誘致のための開発事業の実施や土地の環境保全のために必要不可欠である場合に、開発事業によって得られる税収入や雇用の増加といったいわゆる開発利益を実現したり,開発事業によって影響を受ける自然環境を保全したりするためにどの程度の公費を支出するか,これらの相対立する利益をいかに調整するかといった事柄に関する判断に当たっては,住民の福祉の増進を図ることを基本として地域における行政を自主的かつ総合的に実施する役割を広く担う地方公共団体(地方自治法1条の2第1項)に,政策的ないし技術的な見地からの裁量が認められるものというべきである。
 1a.地方公共団体が私人(入会団体)と賃貸借契約を締結したことについて、地方自治法2条14項、地方財政法4条1項の趣旨を没却する結果となる特段の事情があるとは認められないとされた事例。 /三重県/いなべ市/員弁郡/大安町/門前区/住民訴訟/公金支出差止訴訟/
参照条文: /地方自治法:1-2条1項;2条14項;242-2条1項/地方財政法:4条1項/
全 文 h231202supreme.html

最高裁判所 平成 23年 12月 1日 第1小法廷 判決 ( 平成23年(受)第307号 )
事件名:  不当利得返還請求・上告事件
要 旨
 1.貸金業法17条1項6号及び貸金業法施行規則13条1項1号チが17条書面に返済期間,返済金額等の記載をすることを求めた趣旨・目的は,これらの記載により,借主が自己の債務の状況を認識し,返済計画を立てることを容易にすることにあると解される。
 1a.リボルビング方式の貸付けについて,貸金業者が17条書面として交付する書面に確定的な返済期間,返済金額等の記載に準ずる記載をしない場合は,平成17年判決の言渡し日以前であっても,当該貸金業者が制限超過部分の受領につき貸金業法43条1項の適用があるとの認識を有することに平成19年判決の判示する特段の事情があるということはできず,当該貸金業者は,法律上の原因がないことを知りながら過払金を取得した者,すなわち民法704条の「悪意の受益者」であると推定されるものというべきである。
 1b.利息金の過払のために貸金債務は存在しなくなった以降も利息の支払がなされた場合には,その利息の支払いについてある時期から適法な17条書面が交付されても,貸金業者がそれまでに発生した過払金の取得につき悪意の受益者である以上,その時期に発生した過払金の取得についても悪意の受益者であることを否定することはできない。
 2.17条書面として消費者に交付された各書面に,平成16年9月までは,次回の最低返済額とその返済期日の記載があったにとどまり,確定的な返済期間,返済金額等の記載に準ずる記載がなかったというのであるから,貸金業者において平成19年判決の判示する特段の事情があるということはできず,貸金業者は,この時期までの取引から発生した過払金の取得につき悪意の受益者であると推定され,この推定を覆すべき事情は見当たらないとされた事例。 /法的評価の推定/不当利得返還請求/消費者金融/
参照条文: /貸金業法:17条/貸金業法施行規則:13条/民法:704条/
全 文 h231201supreme.html

東京地方裁判所 平成 23年 11月 29日 民事第46部 判決 ( 平成23年(ワ)第16905号 )
事件名:  損害賠償請求事件
要 旨
 著作権等管理事業者である原告(日本音楽著作権協会)が著作権管理をしている音楽著作物のデータについて、被告がこれをレンタルサーバのハードディスクに蔵置し,携帯電話を使用してインターネットを利用する不特定多数の者の求めに応じてダウンロードさせ、これにより前記音楽著作物の複製権及び公衆送信権を侵害した旨を原告が主張して,被告に対し,不法行為に基づく損害賠償を訴求したところ、公示送達により呼出しを受けた被告が口頭弁論の期日に出頭しなかった事案において、著作権侵害の事実及び使用料相当損害金については原告の主張が全部認められたが、弁護士費用に関して主張の一部が認められなかった事例(使用料相当損害金の1割である1608万9570円を主張したが、1000万円に減額された事例)。
 住居所不明の被告について、最後の住所(住民票上の住所)と氏名により被告の特定がなされた事例。 /着うた/着うたフル/違法配信サイト/
参照条文: /民法:709条/著作権法:114条;21条;23条/民事訴訟法:133条2項1号/
全 文 h231129tokyoD.html

知的財産高等裁判所 平成 23年 11月 28日 判決 ( 平成23年(ネ)第10044号 )
事件名:  損害賠償請求・控訴事件
要 旨
 原告の作詞・作曲した楽曲を被告がコンサートで無断で歌唱し、原告が被告に対して日本赤十字社に匿名で寄付する方法で賠償することを電子メイルで要求し、被告がいったんはこれに応ずる態度を示しながら履行しなかった事案において、原告からの130万円の損害賠償請求に対して原審が3万円の範囲で請求を認容し、これに対して被告が控訴して、財産的損害のみが認められるべきであり、JASRACの算定方法によれば損害額は336円にすぎないと主張したが、控訴審が、「著作権侵害を含む一切の不法行為として損害賠償を請求しているものと認められるところ,控訴人がいったんは6万3000円の支払に半ば同意したかのような前記事情も考慮すると,損害賠償金として3万円の支払を命じることが高きに失するということはできない」として、控訴を棄却した事例。 /知的財産/民事訴訟/
参照条文: /著作権法:22条;114条/民法:710条/
全 文 h231128chizaiH.html

最高裁判所 平成 23年 11月 24日 第1小法廷 判決 ( 平成22年(受)第1587号 )
事件名:  前渡金返還請求・上告事件
要 旨
 再生債務者である請負人が手続開始前に注文者から前受金を受領していたが,管財人が請負契約を解除したため,注文者が前受金返還請求権を共益債権として行使することができる場合に,前受金返還請求権の受託保証人が代位弁済をして求償権(再生債権)を得るとともに,原債権(前受金返還請求権)を代位取得したときに,保証人は代位取得した原債権を共益債権として行使することができるとされた事例。
 1.弁済による代位の制度は,代位弁済者が債務者に対して取得する求償権を確保するために,法の規定により弁済によって消滅すべきはずの債権者の債務者に対する債権(原債権)及びその担保権を代位弁済者に移転させ,代位弁済者がその求償権の範囲内で原債権及びその担保権を行使することを認める制度である。(前提の議論)
 1a.弁済による代位により民事再生法上の共益債権を取得した者は,同人が再生債務者に対して取得した求償権が再生債権にすぎない場合であっても,再生手続によらないで上記共益債権を行使することができる。(本件の判旨)
 1b. 再生計画によって上記求償権の額や弁済期が変更されることがあるとしても,共益債権を行使する限度では再生計画による上記求償権の権利の変更の効力は及ばない。(将来の事件のための傍論)
参照条文: /民事再生法:85条1項;121条1項;121条2項;177条2項/民法:500条;501条/
全 文 h231124supreme.html

最高裁判所 平成 23年 11月 22日 第3小法廷 判決 ( 平成22年(受)第78号 )
事件名:  求償債権等請求・上告事件
要 旨
 会社について破産手続が開始され,従業員の給料債権が破産法149条1項により財団債権となる場合に,破産会社からの委託に基づき破産手続開始前に給料債権(原債権)を弁済することによりこれを代位取得した者は,求償権が破産債権である場合でも,求償権について満足を得るために,原債権を財団債権として行使することができるとされた事例。
 1.弁済による代位の制度は,代位弁済者が債務者に対して取得する求償権を確保するために,法の規定により弁済によって消滅すべきはずの原債権及びその担保権を代位弁済者に移転させ,代位弁済者がその求償権の範囲内で原債権及びその担保権を行使することを認める制度であり,原債権を求償権を確保するための一種の担保として機能させることをその趣旨とするものである。
 1a.弁済による代位により財団債権を取得した者は,同人が破産者に対して取得した求償権が破産債権にすぎない場合であっても,破産手続によらないで財団債権を行使することができる。
参照条文: /破産法:2条5項;2条7項;100条1項;149条1項;151条/民法:500条/
全 文 h231122supreme.html

東京地方裁判所 平成 23年 11月 21日 民事第28部 判決 ( 平成23年(ワ)第2 1 1 45号 )
事件名:  執行文付与請求事件
要 旨
 氏名と就業場所により特定された被告に対する損害賠償請求(前訴請求)が公示送達後に認容された後にその被告の住所が判明した場合に、原告が被告に対して、氏名と住所により特定された被告に対する損害賠償請求と前訴判決への執行文付与請求とを選択的に併合した訴え(後訴)を提起したところ、被告が前訴判決の口頭弁論終結後の事由を主張していないとして、再度の損害賠償請求が認容された事例。 /給付の訴えの利益/既判力の基準時/標準時/
参照条文: /民事訴訟法:114条;140条/民事執行法:33条1項/
全 文 h231121tokyoD.html

最高裁判所 平成 23年 11月 17日 第1小法廷 判決 ( 平成22年(受)第1584号 )
事件名:  立替金請求・上告事件
要 旨
 地方自治法が規定する公有地信託制度に基づいて,兵庫県(委託者兼受益者)が,昭和62年に信託銀行(受託者)との間で,信託期間を契約締結の日から28年間として,所有地を(信託土地)を信託譲渡し,受託者において,信託土地上にゴルフ場を中核とするスポーツ・レクリエーション施設(信託施設)を建設し,これを管理運営することを目的とする土地信託契約を締結し,信託契約において,受託者が,73億円(後に94億円)を限度として建設資金等を借り入れた上で信託施設を建設し,これを管理運用して得られる収益から借入金を返済し,その完済後は剰余金を信託配当として上告人に支払うものとされ,平成3年8月に営業が開始されたが,阪神・淡路大震災が発生した平成7年以降その入場者数が落ち込み,事業収支が悪化し,平成13年には信託期間満了時に約81億円もの借入金が残存する予想される状況に至った場合に,受託者が,信託事務の遂行のために負担した借入金を自己の固有財産をもって弁済したと主張して,旧信託法36条2項本文に基づき,受益者に対し,負担した費用の補償を請求する事案において,受益者が上記信託契約において受益者に対する費用補償請求権を定めた同項本文の適用を排除する旨の合意が成立していたと主張したが,裁判所がこれを否定し,受託者の費用補償請求を認容した事例。
 1.信託契約において,受益者に対する費用補償請求権を定めた旧信託法36条2項本文の適用を排除する旨の合意が成立していたとはいえないとされた事例。
 1a. 旧信託法36条2項本文所定の費用補償請求権を直ちに行使することは,契約書18条本文(信託財産に関する造成・建設工事等請負代金,借入金の返済金及び利息を含めた信託事務に必要な費用は,信託財産から支弁する旨の条項)によっても妨げられることはないとされた事例。
参照条文: /t11.信託法:36条2項/
全 文 h231117supreme.html

最高裁判所 平成 23年 10月 27日 第1小法廷 判決 ( 平成22年(行ツ)第463号 )
事件名:  地方自治法に基づく怠る事実の違法確認等,地方自治法に基づく怠る事実の違法確認請求・上告事件
要 旨
 南安曇郡三郷村が過半を出資して設立された株式会社(第三セクター)に融資した複数の金融機関等と同村及び合併により同村を承継した安曇野市との間で締結された融資損失補償契約につき,市の住民が,同契約は財政援助制限法(法人に対する政府の財政援助の制限に関する法律)3条に違反して無効であると主張して,地方自治法242条の2第1項1号等に基づき,損失補償契約に基づく公金支出の差止め等を求めたが,請求を認容する原判決の言渡し後に損失補償契約に係る会社が清算手続に入り,補償金全額が既に支払われおり,今後補償金が支払われる蓋然性はないから訴えは不適法であるとして,上告審が原判決破棄・第一審判決取消し及び訴え却下の判決をした事例。
 1.地方公共団体が第三セクターの債権者と締結した損補償契約に基づく公金の支出差止め等を求める請求を認容する原判決言渡し後に第三セクターが清算手続に移行し,地方公共団体がすでに債権者に全額弁済していた場合には,地方自治法242条の2第1項1号に基づく差止めの対象となる行為が行われることが相当の確実さをもって予測されるとはいえないことが明らかであるから,上告審は,職権で上記訴えを却下すべきである。
 1a.上記訴えは,不適法でその不備を補正することができないものであるから,上告審は,上記の判決を口頭弁論を経ないですることができる。
 2.地方公共団体が法人の事業に関して当該法人の債権者との間で締結した損失補償契約について,財政援助制限法3条の規定の類推適用によって直ちに違法,無効となる場合があると解することは,地方自治法等における保証と損失補償の法文上の区別を踏まえた当該規定の文言の文理等に照らすと,相当ではない。(傍論)
 2a.地方公共団体が法人の事業に関して当該法人の債権者との間で締結した損失補償契約の適法性及び有効性は,地方自治法232条の2の規定の趣旨等に鑑み,契約の締結に係る公益上の必要性に関する地方公共団体の執行機関の判断にその裁量権の範囲の逸脱又はその濫用があったか否かによって決せられるべきである。(傍論)
参照条文: /財政援助制限法=法人に対する政府の財政援助の制限に関する法律:3条/地方自治法:232-2条;242-2条1項/民事訴訟法:140条;322条/
全 文 h231027supreme.html

最高裁判所 平成 23年 10月 25日 第3小法廷 判決 ( 平成21年(受)第1096号 )
事件名:  債務不存在確認等請求及び当事者参加・上告事件
要 旨
 1.個品割賦購入あっせんは,法的には,別個の契約関係である購入者と割賦購入あっせん業者との間の立替払契約と,購入者と販売業者との間の売買契約を前提とするものであるから,両契約が経済的,実質的に密接な関係にあることは否定し得ないとしても,購入者が売買契約上生じている事由をもって当然にあっせん業者に対抗することはできないというべきであり,割賦販売法30条の4第1項の規定は,法が,購入者保護の観点から,購入者において売買契約上生じている事由をあっせん業者に対抗し得ることを新たに認めたものにほかならない。
 1a.個品割賦購入あっせんにおいて,購入者と販売業者との間の売買契約が公序良俗に反し無効とされる場合であっても,販売業者とあっせん業者との関係,販売業者の立替払契約締結手続への関与の内容及び程度,販売業者の公序良俗に反する行為についてのあっせん業者の認識の有無及び程度等に照らし,販売業者による公序良俗に反する行為の結果をあっせん業者に帰せしめ,売買契約と一体的に立替払契約についてもその効力を否定することを信義則上相当とする特段の事情があるときでない限り,売買契約と別個の契約である購入者とあっせん業者との間の立替払契約が無効となる余地はないと解するのが相当である。
 1b.販売業者が不当な販売方法を用いて締結した宝飾品の売買契約が公序良俗に反し無効であるとしても,立替払契約の効力を否定することを信義則上相当とする特段の事情があるとは認められないとして,立替払契約の無効を理由とする既払金の返還請求が棄却された事例。
 2.あっせん業者がその加盟店の行為について調査する義務を怠ったとはいえないから,あっせん業者の不法行為に基づく既払金相当額の損害賠償請求も理由がないとされた事例。 /斡旋業者/個品割賦購入斡旋/消費生活センター/クレーム/抗弁権の接続/
参照条文: /消費者契約法:4条;5条1項;7条1項/割賦販売法:2条3項2号;30-4条1項/
全 文 h231025supreme.html

最高裁判所 平成 23年 10月 18日 第3小法廷 判決 ( 平成22年(受)第722号 )
事件名:  売買代金請求・上告事件
要 旨
 1.無権利者を委託者とする物の販売委託契約が締結された場合に,当該物の所有者が,自己と同契約の受託者との間に同契約に基づく債権債務を発生させる趣旨でこれを追認したとしても,その所有者が同契約に基づく販売代金の引渡請求権を取得すると解することはできない。
 2.控訴審において追加された第2次予備的請求が認容された場合に、被告のみが上告受理申立てをし、主位的請求及び第1次予備的請求を棄却すべきものとした部分について原告が不服申立てをしていないため、同部分は上告審の審理判断の対象とならないとされた事例。
参照条文: /民法:116条/民事訴訟法:320条;136条/
全 文 h231018supreme.html

最高裁判所 平成 23年 10月 14日 第2小法廷 判決 ( 平成20年(行ヒ)第67号 )
事件名:  行政文書不開示処分取消請求・上告事件
要 旨
 省エネルギー法の規定により事業者が経済産業大臣への定期報告書に記載した各工場における燃料等及び電気の使用の状況等に関する事項(数値情報)が,情報公開法5条2号イの不開示情報(公にされることにより事業者の競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがあるもの)に当たるとされた事例。
 1.各工場において特定の年度に使用された各種エネルギーの種別及び使用量並びに前年度比等の各数値を示す情報は,事業者の内部において管理される情報としての性質を有するものであって,製造業者としての事業活動に係る技術上又は営業上の事項等と密接に関係するものということができるとされた事例。
参照条文: /行政機関の保有する情報の公開に関する法律(平成17年法律102号改正前):5条2号イ/エネルギーの使用の合理化に関する法律:11条/
全 文 h231014supreme.html

最高裁判所 平成 23年 10月 11日 第3小法廷 決定 ( 平成23年(行ト)第42号 )
事件名:  文書提出命令申立て却下決定に対する特別抗告及び許可抗告事件
要 旨
 所属弁護士会から戒告の懲戒処分を受けた弁護士(原告)が、日本弁護士連合会(被告)に対してした審査請求を棄却する裁決を受けたため,その裁決の取消し等を求める訴訟において、所属弁護士会の綱紀委員会における議論の経過を立証するために必要であるとして,その所持する文書(議事録及び議案書)について文書提出命令の申立てをしたが、当該文書は民訴法220条4号ニ所定の「専ら文書の所持者の利用に供するための文書」に当たり、従ってまた法律関係文書に該当しないとして、申立てが棄却された事例。
 1.ある文書が,その作成目的,記載内容,これを現在の所持者が所持するに至るまでの経緯,その他の事情から判断して,専ら内部の者の利用に供する目的で作成され,外部の者に開示することが予定されていない文書であって,開示されると個人のプライバシーが侵害されたり個人ないし団体の自由な意思形成が阻害されたりするなど,開示によって所持者の側に看過し難い不利益が生ずるおそれがあると認められる場合には,特段の事情がない限り,当該文書は民訴法220条4号ニ所定の「専ら文書の所持者の利用に供するための文書」に当たる。
 1a,本件議事録のうち審議の内容である「重要な発言の要旨」に当たる部分は,綱紀委員会内部における意思形成過程に関する情報が記載されているものであり,その記載内容に照らして,これが開示されると,綱紀委員会における自由な意見の表明に支障を来し,その自由な意思形成が阻害されるおそれがあることは明らかであり、綱紀委員会の審議の内容と密接な関連を有する本件議案書についても,これと別異に解すべき理由はないとされた事例。
 1b.立証趣旨に照らすと,本件議事録のうち審議の内容である「重要な発言の要旨」に当たる部分の提出を求め,これと関連する限りにおいてのみその他の記載事項の部分及び本件議案書の提出を求めているものと解されるとして、文書全体についてその提出を命ずるべきではないとされた事例(申立ての一部認容として、「重要な発言の要旨」を除いた部分の提出を命ずることがされなかった事例)。
 2
 文書の所持者が訴訟当事者以外の第三者である文書提出命令申立て事件において申立ての相手方となるのは,当該第三者であり,訴訟の相手方当事者ではない。
 2a. 東京弁護士会が所持する文書の提出命令申立て事件において、原審が本案事件の被告である日本弁護士連合会を相手方に指定したが、この指定は誤りであるとして、抗告審(最高裁)が文書所持者である東京弁護士会を相手方に指定した事例。
参照条文: /民事訴訟法:220条;323条2項;335条/
全 文 h231011supreme.html

最高裁判所 平成 23年 10月 11日 第3小法廷 決定 ( 平成23年(ク)第166号 )
事件名:  不動産競売申立て一部却下決定に対する抗告棄却決定に対する特別抗告及び許可抗告事件
要 旨
 区分所有建物の所有権者Aが管理組合法人に対して多額の未払管理費の支払をなさないため,管理組合法人がAに対し建物の競売請求の訴えを提起し,その認容判決を得たが,その判決確定前にAが共有持分5分の4をBに譲渡した場合に、Bの持分についての競売申立てが却下された事案。
 1.建物の区分所有等に関する法律59条1項の競売の請求は,特定の区分所有者が,区分所有者の共同の利益に反する行為をし,又はその行為をするおそれがあることを原因として認められるものであるから,同項に基づく訴訟の口頭弁論終結後に被告であった区分所有者がその区分所有権及び敷地利用権を譲渡した場合に,その譲受人に対し同訴訟の判決に基づいて競売を申し立てることはできない。 /換価競売/形式競売/形式的競売/
参照条文: /建物の区分所有等に関する法律:59条1項/民事執行法:195条/
全 文 h231011supreme2.html

最高裁判所 平成 23年 9月 30日 第2小法廷 判決 ( 平成23年(受)第516号 )
事件名:  不当利得返還請求・上告事件
要 旨
 消費者金融業を営む子会社の再編のためにその完全親会社が子会社との間で業務提携契約を締結し、その中で「子会社の顧客に対する過払利息返還債務を含む一切の債務について、親会社も連帯して債務を負い、親会社の内部的負担割合はゼロとする」旨の合意がなされた場合に、それは第三者のための合意であり,顧客が親会社からの勧誘に応じて貸出債権の債権者を子会社から親会社に変更することを申し出たことの中に受益意思表示が認められるとされ,その意思表示後に業務提携契約を変更する契約により、「過払金返還債務については子会社のみが責任を負い,親会社は何らの債務も責任も負わない」旨が合意されても,顧客が親会社に対して既に取得した過払金返還請求権は影響を受けないとされた事例。
 1.併存的債務引受は、第三者(債権者)のための合意であり、第三者の受益の意思表示が必要であることが前提にされた事例。
 1a.顧客が親会社からの勧誘に応じて貸出債権の債権者を子会社から親会社に変更することを申し出たことの中に受益意思表示が認められた事例。
 1b.併存的債務引受の受益意思表示を含む合意が債権者・債務引受人間でなされた後では、債務引受人・原債務者間において債務引受を排除する変更契約が締結されたからといって,債権者・債務引受人間の合意の効力が左右される余地はない。
参照条文: /民法:91条;537条;538条;703条/
全 文 h230930supreme.html

最高裁判所 平成 23年 9月 20日 第3小法廷 決定 ( 平成23年(許)第34号 )
事件名:  債権差押命令申立て却下決定に対する執行抗告棄却決定に対する許可抗告事件
要 旨
 全店一括順位付け方式による債権差押申立てが、被差押債権の特定を欠き不適法であるとされた事例。
 1.民事執行規則133条2項の求める差押債権の特定とは,債権差押命令の送達を受けた第三債務者において,直ちにとはいえないまでも,差押えの効力が送達の時点で生ずることにそぐわない事態とならない程度に速やかに,かつ,確実に,差し押さえられた債権を識別することができるものでなければならないと解するのが相当であり,この要請を満たさない債権差押命令の申立ては,差押債権の特定を欠き不適法というべきである。
 1a.大規模な金融機関である第三債務者らの全ての店舗を対象として順位付けをし,先順位の店舗の預貯金債権の額が差押債権額に満たないときは,順次予備的に後順位の店舗の預貯金債権を差押債権とする旨の差押命令が発せられると,第三債務者において,先順位の店舗の預貯金債権の全てについて,その存否及び先行の差押え又は仮差押えの有無,定期預金,普通預金等の種別,差押命令送達時点での残高等を調査して,差押えの効力が生ずる預貯金債権の総額を把握する作業が完了しない限り,後順位の店舗の預貯金債権に差押えの効力が生ずるか否かが判明しないのであるから,その申立てにおける差押債権の表示は,送達を受けた第三債務者において上記の程度に速やかに確実に差し押えられた債権を識別することができるものであるということはできず、差押債権の特定を欠き不適法というべきであるとされた事例。
参照条文: /民事執行法:145条;156条2項/民事執行規則:133条2項/
全 文 h230920supreme.html

最高裁判所 平成 23年 9月 13日 第3小法廷 判決 ( 平成22年(受)第1485号 )
事件名:  損害賠償請求・上告事件
要 旨
 有価証券報告書等に虚偽の記載がされている会社の上場株式を取引所において取得した投資者が虚偽記載の公表後のいわゆるろうばい売りが集中することによる過剰な下落が生じた時期に株式を売却した場合に,虚偽記載と相当因果関係のある損害の中に,過剰な下落による損失も含めるべきであるとされた事例。
 1.有価証券報告書等に虚偽の記載がされている会社の上場株式を取引所市場において取得した投資者が,虚偽記載がなければこれを取得することはなかったとみるべき場合において,虚偽記載の公表後に上記株式を取引所市場において処分したときは,虚偽記載により上記投資者に生じた損害の額,すなわち虚偽記載と相当因果関係のある損害の額は,その取得価額と処分価額との差額を基礎とし,経済情勢,市場動向,会社の業績等当該虚偽記載に起因しない市場価額の下落分を差額から控除して,これを算定すべきものと解される。
 1a.虚偽記載が公表された後の市場価額の変動のうち,いわゆるろうばい売りが集中することによる過剰な下落は,有価証券報告書等に虚偽の記載がされ,それが判明することによって通常生ずることが予想される事態であって,これを当該虚偽記載とは無関係な要因に基づく市場価額の変動であるということはできず,当該虚偽記載と相当因果関係のない損害として上記差額から控除することはできないというべきである。
 2.有価証券報告書等の虚偽記載に関係する大口株主が虚偽記載の公表前に虚偽記載に係る他人名義株を売却するなどして虚偽記載が一部解消されていた場合に,その頃虚偽記載に起因して虚偽記載会社の株の市場価額が下落していた可能性があるとされた事例[この売却による市場価額の下落は,虚偽記載に起因したものとみる余地があるとされた事例]。
 2a. 虚偽記載と相当因果関係のある損害の額は,取得価額と処分価額との差額から,公表時までの下落分のうち経済情勢,市場動向,会社の業績等虚偽記載とは無関係な要因によるものを控除して,これを算定すべきであるとされた事例において,算定すべき損害の額の立証が極めて困難であることが予想されるが,その場合には民訴法248条により相当な損害額を認定すべきであるとされた事例。 /狼狽売り/
参照条文: /民法:709条/民事訴訟法:248条/
全 文 h230913supreme2.html

最高裁判所 平成 23年 9月 13日 第3小法廷 判決 ( 平成21年(受)第1177号 )
事件名:  損害賠償請求・上告事件
要 旨
 1.有価証券報告書等に虚偽の記載がされている上場株式を取引所市場において取得した投資者が,当該虚偽記載がなければこれを取得することはなかったとみるべき場合,当該虚偽記載により上記投資者に生じた損害の額,すなわち当該虚偽記載と相当因果関係のある損害の額は,上記投資者が,当該虚偽記載の公表後,上記株式を取引所市場において処分したときはその取得価額と処分価額との差額を,また,上記株式を保有し続けているときはその取得価額と事実審の口頭弁論終結時の上記株式の市場価額(上場が廃止された場合にはその非上場株式としての評価額)との差額をそれぞれ基礎とし,経済情勢,市場動向,当該会社の業績等当該虚偽記載に起因しない市場価額の下落分を上記差額から控除して,これを算定すべきである。(会社の業績不振による株式価額の下落など当該株式に特有の価額下落による損失を相当因果関係なしとして損害額から控除することについて,これに反対する寺田裁判官の意見がある。)
 1a. 以上のようにして算定すべき損害の額の立証は極めて困難であることが予想されるが,そのような場合には民訴法248条により相当な損害額を認定すべきである。 /ろうばい売りによる株価下落が原因となって生ずる損害/狼狽売り/
参照条文: /民法:709条/民事訴訟法:248条/
全 文 h230913supreme.html

東京高等裁判所 平成 23年 8月 3日 第1民事部 判決 ( 平成22年(ネ)第6527号 )
事件名:  預金取引記録開示等請求・控訴事件
要 旨
 元預金者の共同相続人の一人が単独で弁護士に依頼し,弁護士の申出に基づき弁護士会が預金口座のあった銀行に対してした預金等取引の照会及び弁護士自身からの照会について,銀行が回答を拒絶したことが不法行為を構成しないとされた事例。
 1.金融機関は,預金契約に基づき,預金者の求めに応じて預金口座の取引経過を開示すべき義務を負い,預金者が死亡した場合,その共同相続人の一人は,共同相続人全員に帰属する預金契約上の地位に基づき,被相続人名義の預金口座について,その取引経過の開示を求める権利を単独で行使できる。(最高裁判例の確認)
 2.委任契約や準委任契約においても,契約終了後は,受任者に,遅滞なくその経過及び結果を報告すべき義務があるにとどまり,委任者が,引き続き,いつでも過去の委任事務の処理の状況の報告を求められるわけではない。
 2a. 預金契約についても,銀行は,預金契約の解約後,元預金者に対し,遅滞なく,従前の取引経過及び解約の結果を報告すべき義務を負うと解することはできるが,その報告を完了した後も,過去の預金契約につき,預金契約締結中と同内容の取引経過開示義務を負い続けると解することはできない。
 2b.銀行が,預金者に対し,総合口座に係る取引経過について,解約の前月までの各月の取引経過を記載した明細書を毎月文書で送付し,解約のあった月の取引経過についても,翌月,解約を含めた取引経過を記載した明細書を送付し,預金者が,解約から死亡するまでの約1年半の間,銀行に対し,総合口座の取引経過や解約の内容等に関し,更なる報告を求めたなどの事情はうかがわれない場合に,預金等契約に基づく取引経過の報告は預金者の生前に完了したというべきであり,その後も銀行が,預金等契約締結中と同様に,預金者の求めに応じて,いつでも取引経過を開示すべき義務を負い続けていたと解することはできないとされた事例。
 2c. 仮に,銀行が,預金等契約が終了し,預金者に対する取引経過の報告を終えた後も,なお,信義則上,元預金者に対して取引経過開示義務を負う場合があるとしても,その義務は飽くまで元預金者の必要に応ずべき義務であって,元預金者の相続人の必要に応ずべき義務ではない。
 2d.仮に,銀行が,信義則上,預金等契約終了後も契約期間中の取引経過の開示に応ずべき義務を負う場合があるとしても,預金者の共同相続人の一人による本件開示請求は,(1)相続財産の発見や共同相続人間の紛争解決等を目的とするものであり,預金の増減とその原因等を把握し銀行の事務処理の適否を判断するという預金者が預金契約上有する利益とは性質を異にするものであるから銀行の義務を超えるものというべきであり,仮に超えないとしても,(2)口座番号を特定しない包括的概括的な本件開示請求に応ずるためには紙ベースの資料の調査も必要となり,調査に要する人件費を考慮すると銀行に著しく過大な負担を生じさせるものとして,権利の濫用というべきであるとされた事例。
 3.弁護士会照会制度は,その照会を受けた相手方が,正当な理由がない限り,報告を行う義務を負うことを,その内容に含む制度というべきである。
 
 3a.照会を受けた相手方が負う義務は,公的な制度上の義務であり,相手方が,当該照会に係る事件当事者に対する関係で,私法上,報告を行うべき義務を負うものではない。 /弁護士照会/
参照条文: /弁護士法:23条の2/民法:252条;264条;645条;656条;666条;709条/
全 文 h230803tokyoH.html

最高裁判所 平成 23年 7月 27日 第3小法廷 決定 ( 平成23年(行フ)第1号 )
事件名:  上告却下決定及び上告受理申立て却下決定に対する許可抗告事件
要 旨
 1.普通地方公共団体の行政庁の処分又は裁決に係る当該普通地方公共団体を被告とする抗告訴訟につき,当該普通地方公共団体が控訴若しくは上告の提起又は上告受理の申立てをするには,地方自治法96条1項12号に基づくその議会の議決を要するものではない。
 1a.行政事件訴訟法3条6項1号所定の義務付けの訴えに係る訴訟は抗告訴訟の一類型であるから,これにつき普通地方公共団体が上告及び上告受理の申立てをするには,その議会の議決を要しない。
 1b.抗告訴訟につき当該普通地方公共団体が適法な控訴若しくは上告の提起又は上告受理の申立てをした場合には,その議会がこれらの取下げを求める旨の決議をしたとしても,これらの効力が左右されるものではない。
参照条文: /地方自治法:96条1項12号/行政事件訴訟法:3条6項1号;11条1項;38条1項/
全 文 h230727supreme2.html

最高裁判所 平成 23年 7月 27日 第3小法廷 決定 ( 平成23年(ク)第531号 )
事件名:  審判期日を指定しないことに対する抗告却下決定に対する特別抗告事件
要 旨
 1.家事審判法9条1項乙類に係る調停事件は,これに該当しない他の家庭に関する事項と併せて調停の申立てがされた場合であっても,調停申立人が調停不成立のときに審判への移行を求める意思を有していないなど特段の事情がない限り,その事件名にかかわらず,調停不成立のときに,同法26条1項に基づいて審判に移行する。
 1a.財産分与及び年金分割を求める調停事件について、調停不成立により審判に移行するとされた事例。
参照条文: /家事審判法:9条1項乙類;26条1項/
全 文 h230727supreme.html

最高裁判所 平成 23年 7月 21日 第1小法廷 判決 ( 平成21年(受)第1019号 )
事件名:  損害賠償請求・上告事件
要 旨
 1.最高裁判所 平成19年7月6日 第2小法廷 判決にいう「建物としての基本的な安全性を損なう瑕疵」とは,居住者等の生命,身体又は財産を危険にさらすような瑕疵をいい,建物の瑕疵が,居住者等の生命,身体又は財産に対する現実的な危険をもたらしている場合に限らず,当該瑕疵の性質に鑑み,これを放置するといずれは居住者等の生命,身体又は財産に対する危険が現実化することになる場合には,当該瑕疵は,建物としての基本的な安全性を損なう瑕疵に該当する。
 1a.建物の構造耐力に関わらない瑕疵であっても,これを放置した場合に,例えば,外壁が剥落して通行人の上に落下したり,開口部,ベランダ,階段等の瑕疵により建物の利用者が転落したりするなどして人身被害につながる危険があるときや,漏水,有害物質の発生等により建物の利用者の健康や財産が損なわれる危険があるときには,建物としての基本的な安全性を損なう瑕疵に該当する。
 1b.建物の美観や居住者の居住環境の快適さを損なうにとどまる瑕疵は,これに該当しない。
 2.建物の所有者は,自らが取得した建物に建物としての基本的な安全性を損なう瑕疵がある場合には,特段の事情がない限り,設計・施工者等に対し,瑕疵の修補費用相当額の損害賠償を請求することができ,所有者が,建物を第三者に売却するなどして,その所有権を失った場合であっても,その際,修補費用相当額の補填を受けたなど特段の事情がない限り,一旦取得した損害賠償請求権を当然に失うものではない。
参照条文: /民法:709条/
全 文 h230721supreme.html

最高裁判所 平成 23年 7月 12日 第3小法廷 判決 ( 平成22年(受)第676号 )
事件名:  保証金返還請求・上告事件
要 旨
 1.賃貸人が契約条件の一つとしていわゆる敷引特約を定め,賃借人がこれを明確に認識した上で賃貸借契約の締結に至ったのであれば,それは賃貸人,賃借人双方の経済的合理性を有する行為と評価すべきものであるから,消費者契約である居住用建物の賃貸借契約に付された敷引特約は,敷引金の額が賃料の額等に照らし高額に過ぎるなどの事情があれば格別,そうでない限り,これが信義則に反して消費者である賃借人の利益を一方的に害するものということはできない。
参照条文: /消費者契約法:10条/民法:619条2項/
全 文 h230712supreme.html

最高裁判所 平成 23年 6月 3日 第2小法廷 判決 ( 平成22年(受)第285号 )
事件名:  土地所有権確認請求・上告事件
要 旨
 1.表題部所有者の登記も所有権の登記もなく,所有者が不明な土地を時効取得した者は,自己が当該土地を時効取得したことを証する情報等を登記所に提供して自己を表題部所有者とする登記の申請をし(不動産登記法18条,27条3号,不動産登記令3条13号,別表4項),その表示に関する登記を得た上で,当該土地につき保存登記の申請をすることができる(不動産登記法74条1項1号,不動産登記令7条3項1号)。[傍論]
 2.表題部所有者の登記も所有権の登記もなく,従前の所有者が全く不明な土地を時効により取得したと主張する者(原告)が,前記1の手続を尽くしないまま,土地の所有名義を取得するために,その土地が自己の所有に属しないことを自認する国に対して所有権確認請求の訴えを提起したが,確認の利益を欠き不適法であるとされた事例。 /訴訟要件/訴えの利益/被告適格/当事者適格/
参照条文: /民事訴訟法:2編1章/不動産登記法:18条;27条3号;74条1項1号/不動産登記令:3条13号;7条3項1号;別表4項/
全 文 h230603supreme.html

最高裁判所 平成 23年 5月 31日 大法廷 決定 ( 平成23年(す)第220号 )
事件名:  忌避申立て事件
要 旨
 最高裁判所長官の職にある竹崎博允裁判官が,{1}最高裁判所長官就任前の昭和63年に陪参審制度の研究のため渡米しており,また,{2}就任後,裁判員の参加する刑事裁判に関する法律の施行を推進するために裁判員制度を説明するパンフレット等の配布を許すとともに,{3}憲法記念日に際して裁判員制度を肯定するような発言をしていること等に照らし,裁判員制度の憲法適合性を争点とする本件について,刑訴法21条1項にいう「不公平な裁判をする虞」があることを理由とする忌避申立てが却下された事例。
 1.最高裁判所長官は,最高裁判所において事件を審理裁判する職責に加えて,司法行政事務の職責をも併せ有しているのであって(裁判所法12条1項参照),その一環として上記{2}{3}のような司法行政事務に関与することも,法律上当然に予定されているところであるから,そのゆえに事件を審理裁判する職責に差し支えが生ずるものと解すべき根拠はない。
参照条文: /裁判所法:12条/刑事訴訟法:21条/
全 文 h230531supreme.html

最高裁判所 平成 23年 5月 30日 第2小法廷 決定 ( 平成23年(許)第13号 )
事件名:  分離移送決定に対する抗告棄却決定等に対する許可抗告事件
要 旨
 6名の被告に対する貸金返還請求の訴えの各々は簡易裁判所の事物管轄に属するが合算すると地方裁判所の事物管轄に属する場合に,貸金業者である原告が,被告全員の住所地を管轄する名古屋地方裁判所に,民訴法38条後段の規定により併合して提訴したところ,名古屋地方裁判所が、被告への訴状送達に先だって弁論を分離し、民訴法16条に基づき職権で各被告の住所地を管轄する簡易裁判所に事件を移送した事案において,38条後段の場合には7条ただし書により9条の適用も排除されるとして移送を認めた原決定が破棄された事例。
 1.法38条後段の共同訴訟であって,いずれの共同訴訟人に係る部分も受訴裁判所が土地管轄権を有しているものについて,法7条ただし書により法9条の適用が排除されることはない。 /訴額の合算/訴訟の目的の価額/
参照条文: /民事訴訟法:5条1号;7条;9条;16条;38条/裁判所法:33条/
全 文 h230530supreme.html

最高裁判所 平成 23年 5月 30日 第2小法廷 判決 ( 平成22年(行ツ)第54号 )
事件名:  再雇用拒否処分取消等請求・上告事件
要 旨
 都立高等学校の教諭であった原告が,卒業式における国歌斉唱の際に国旗に向かって起立し国歌を斉唱することを命ずる旨の校長の職務命令に従わなかったところ,その後,定年退職に先立ち申し込んだ非常勤の嘱託員及び常時勤務を要する職又は短時間勤務の職の採用選考において,東京都教育委員会から,上記職務命令違反を理由に不合格とされたため,上記職務命令は憲法19条に違反し,原告を不合格としたことは違法であるなどと主張して,国家賠償法1条1項に基づく損害賠償等を求めた事案において、上記職務命令は,原告の思想及び良心の自由を侵すものとして憲法19条に違反するとはいえないとされた事例。
 1.個人の歴史観ないし世界観には多種多様なものがあり得るのであり,それが内心にとどまらず,それに由来する行動の実行又は拒否という外部的行動として現れ,当該外部的行動が社会一般の規範等と抵触する場面において制限を受けることがあるところ,その制限が必要かつ合理的なものである場合には,その制限を介して生ずる間接的な制約も許容され得る。
 1a.間接的な制約が許容されるか否かは,職務命令の目的及び内容並びに上記の制限を介して生ずる制約の態様等を総合的に較量して,当該職務命令に上記の制約を許容し得る程度の必要性及び合理性が認められるか否かという観点から判断するのが相当である。
 2.本件職務命令に係る起立斉唱行為は,上告人の歴史観ないし世界観との関係で否定的な評価の対象となるものに対する敬意の表明の要素を含むものであることから,本件職務命令については,前記のように外部的行動の制限を介して上告人の思想及び良心の自由についての間接的な制約となる面はあるものの,職務命令の目的及び内容並びに上記の制限を介して生ずる制約の態様等を総合的に較量すれば,上記の制約を許容し得る程度の必要性及び合理性が認められるとされた事例。
参照条文: /日本国憲法:19条;15条2項/地方公務員法:30条;32条/国家賠償法:1条1項/国旗及び国歌に関する法律:1条;2条/
全 文 h230530supreme2.html

最高裁判所 平成 23年 5月 18日 第2小法廷 決定 ( 平成23年(許)第4号 )
事件名:  移送決定に対する抗告棄却決定に対する許可抗告事件
要 旨
 3名の被告に対する過払金返還請求の訴えの各々は簡易裁判所の事物管轄に属するが合算すると地方裁判所の事物管轄に属する場合に,犬山簡易裁判所管内に住所を有する原告が,自己の住所地を管轄する名古屋地方裁判所に,3名の被告に対する訴えを民訴法38条後段の規定により併合して提起したところ,1名の被告が民訴法16条により犬山簡易裁判所への移送を申し立てた事案において,38条後段の場合には7条ただし書により9条の適用も排除されるとして移送を認めた原決定が破棄された事例。
 1.民事訴訟法38条後段の共同訴訟であって,いずれの共同訴訟人に係る部分も受訴裁判所が土地管轄権を有しているものについて,7条ただし書により9条の適用が排除されることはない。 /訴額の合算/訴訟の目的の価額/
参照条文: /民事訴訟法:5条1号;7条;9条;16条;38条/裁判所法:33条/
全 文 h230518supreme.html

最高裁判所 平成 23年 4月 28日 第1小法廷 判決 ( 平成21年(受)第2057号 )
事件名:  損害賠償請求・上告事件
要 旨
 1.民事上の不法行為である名誉毀損については,その行為が公共の利害に関する事実に係り,その目的が専ら公益を図るものである場合には,摘示された事実が真実であることの証明がなくても,行為者がそれを真実と信ずるについて相当の理由があるときは,同行為には故意又は過失がなく,不法行為は成立しない。
 2.新聞社が,通信社からの配信に基づき,自己の発行する新聞に記事を掲載した場合において,少なくとも,当該通信社と当該新聞社とが,記事の取材,作成,配信及び掲載という一連の過程において,報道主体としての一体性を有すると評価することができるときは,当該新聞社は,当該通信社を取材機関として利用し,取材を代行させたものとして,当該通信社の取材を当該新聞社の取材と同視することが相当であって,当該通信社が当該配信記事に摘示された事実を真実と信ずるについて相当の理由があるのであれば,当該新聞社が当該配信記事に摘示された事実の真実性に疑いを抱くべき事実があるにもかかわらずこれを漫然と掲載したなど特段の事情のない限り,当該新聞社が自己の発行する新聞に掲載した記事に摘示された事実を真実と信ずるについても相当の理由があるというべきである。
 2a.通信社と新聞社とが報道主体としての一体性を有すると評価すべきか否かは,通信社と新聞社との関係,通信社から新聞社への記事配信の仕組み,新聞社による記事の内容の実質的変更の可否等の事情を総合考慮して判断するのが相当である。
 2b.以上の理は,新聞社が掲載した記事に,これが通信社からの配信に基づく記事である旨の表示がない場合であっても異なるものではない。
 2c. ある通信社の加盟社が,自らの報道内容を充実させるために通信社の社員となってその経営等に関与し,同社は加盟社のために,加盟社に代わって取材をし,記事を作成してこれを加盟社に配信し,加盟社は当該配信記事を原則としてそのまま掲載するという体制が構築されているということができ,通信社と加盟社は,記事の取材,作成,配信及び掲載という一連の過程において,報道主体としての一体性を有すると評価するのが相当であるとされた事例。 /配信記事の抗弁/
参照条文: /民法:709条;710条/憲法:21条/
全 文 h230428supreme.html

最高裁判所 平成 23年 4月 26日 第3小法廷 判決 ( 平成21年(受)第733号 )
事件名:  損害賠償請求・上告事件
要 旨
 医師の診察時における言動(パーソナリティー障害(人格障害)であるとの病名を患者に告知したこと等)が、患者のPTSD症状の発現と相当因果関係にある原因と見ることはできないとされた事例。 /自由心証主義/事実認定/事実の評価/
参照条文: /民法:415条;709条/
全 文 h230426supreme.html

最高裁判所 平成 23年 4月 26日 第3小法廷 決定 ( 平成22年(許)第47号 )
事件名:  株式買取価格決定に対する抗告審の変更決定に対する許可抗告事件
要 旨
 株式交換完全子会社の株主が株式交換に反対し,会社に対して株式買取請求をした場合に,「公正な価格」の算定の基準日を株式交換の効力発生日とした原判決が破棄され,株式買取請求がされた日とすべきであるとされた事例。
 1.会社法782条1項所定の吸収合併等によりシナジーその他の企業価値の増加が生じない場合に,同項所定の消滅株式会社等の反対株主がした株式買取請求に係る「公正な価格」は,原則として,当該株式買取請求がされた日における,同項所定の吸収合併契約等を承認する旨の決議がされることがなければその株式が有したであろう価格(ナカリセバ価格)をいう。
 1a.上場されている株式について,反対株主が株式買取請求をした日のナカリセバ価格を算定するに当たり,株式交換を行う旨の公表等がされる前の市場株価を参照することや,上記公表等がされた後株式買取請求がされた日までの間に当該吸収合併等以外の市場の一般的な価格変動要因により,当該株式の市場株価が変動している場合に,これを踏まえて参照した株価に補正を加えるなどして同日のナカリセバ価格を算定することは,裁判所の合理的な裁量の範囲内にある。
参照条文: /会社法:785条;786条/
全 文 h230426supreme2.html

最高裁判所 平成 23年 4月 22日 第2小法廷 判決 ( 平成21年(受)第1830号 )
事件名:  不当利得返還請求・上告事件
要 旨
 大阪司法書士会に入るに際して大阪司法書士会館の管理運営費として20万円を納付した者が、不当利得として司法書士会にその返還を請求したが、棄却された事例。
 1.司法書士会に新たに入会する者のみに課される負担であっても,その履行が入会の要件となっていないものは,その負担が新たに入会しようとする者の入会を事実上制限するような効果を持つほど重大なものであるなどの特段の事情のない限り,司法書士法15条7号にいう「入会金その他の入会についての特別の負担」には当たらないというべきである。
 1a.大阪司法書士会館の管理運営に関し,大阪司法書士会会館管理運営規則において定められている会館維持協力金は,大阪司法書士会に入会する者のみに課される負担ではあるが,会への入会の要件となるものではなく、その納付は延納又は分割払の方法によることができ,また,金額は20万円であったというのであり,その負担が新たに入会しようとする者の入会を事実上制限するような効果を持つほど重大なものであったということもできないから、会館維持協力金は,司法書士法15条7号にいう「入会金その他の入会についての特別の負担」には当たらず,これを会則に定めて法務大臣の認可を受けることを要しないとされた事例。
参照条文: /司法書士法:15条;15-2条/民法:703条;704条/
全 文 h230422supreme3.html

最高裁判所 平成 23年 4月 22日 第2小法廷 判決 ( 平成21年(受)第131号 )
事件名:  損害賠償請求・上告事件
要 旨
 1.民法724条にいう「損害及び加害者を知った時」とは,被害者において,加害者に対する賠償請求をすることが事実上可能な状況の下に,それが可能な程度に損害及び加害者を知った時を意味する。
 1a.信用協同組合である被告の勧誘に応じて300万円を出資した原告が,被告の経営破綻により持分の払戻しを受けられなくなったため,平成19年3月5日に,被告は勧誘に当たり実質的な債務超過の状態にあり経営が破綻するおそれがあることを説明すべき義務に違反したなどと主張して,不法行為による損害賠償請求の訴えを提起した場合に,原告が平成12年3月に本件出資をしてから平成12年12月16日に被告に対して金融整理管財人による業務及び財産の管理を命ずる処分がなされるまでの期間は9か月に満たなかったことや,同日に発表された金融再生委員会委員長の談話,平成13年3月12日に発表された金融整理管財人の報告書の内容,平成13年6月頃以降原告と同様の立場にある出資者らにより同様な訴訟が逐次提起され,同年中には集団訴訟も提起された等の事情を考慮すると,被告が実質的な債務超過の状態にありながら,経営破綻の現実的な危険があることを説明しないまま上記の勧誘をしたことが違法であると判断するに足りる事実についても,原告は,遅くとも平成13年末には認識したものとみるのが相当であり,同時点においては,上記の点についての被告の代表理事らの具体的認識に関する証拠となる資料を現実には得ていなかったとしても,上記の判断は何ら左右されないとされた事例。 /消滅時効の起算点/
参照条文: /民法:724条/
全 文 h230422supreme2.html

最高裁判所 平成 23年 4月 22日 第2小法廷 判決 ( 平成20年(受)第1940号 )
事件名:  損害賠償請求・上告事件
要 旨
 信用協同組合である被告の勧誘に応じて500万円を出資したが,被告の経営が破綻して持分の払戻しを受けられなくなった原告が,≪被告は,勧誘に当たり,被告が実質的な債務超過の状態にあり経営が破綻するおそれがあることを原告に説明すべき義務に違反した≫などと主張して,主位的に,不法行為による損害賠償請求権等を主張し,予備的に,説明義務違反が出資契約上の債務不履行にあたることを前提にして、債務不履行による損害賠償請求権を主張して,500万円及び遅延損害金の支払を求めた事案において、民法724条の時効期間が満了しているためもあって、原判決が主位請求を棄却して予備請求を認容し、被告のみが上告受理申立てをし、上告審が、契約の締結前の段階における信義則上の説明義務に違反したことは出資契約上の債務不履行には当たらないとして、予備請求を棄却した事例。
 1.契約の一方当事者が,当該契約の締結に先立ち,信義則上の説明義務に違反して,当該契約を締結するか否かに関する判断に影響を及ぼすべき情報を相手方に提供しなかった場合には,上記一方当事者は,相手方が当該契約を締結したことにより被った損害につき,不法行為による賠償責任を負うことがあるのは格別,当該契約上の債務の不履行による賠償責任を負うことはない。
参照条文: /民法:1条2項;415条/
全 文 h230422supreme.html

最高裁判所 平成 23年 4月 19日 第3小法廷 決定 ( 平成22年(許)第30号 )
事件名:  株式買取価格決定に対する抗告棄却決定に対する許可抗告事件
要 旨
 東京放送を吸収分割株式会社とする吸収分割に反対した株主(楽天)から株式買取請求について会社法786条2項に基づく「公正な価格」の決定が申し立てられた事件において,本件吸収分割は吸収分割株式会社の株式の価値に変動をもたらすものではないというのであるから,本件買取請求に係る「公正な価格」は,買取請求がされた日におけるナカリセバ価格をいうものと解するのが相当であり。原審が,買取請求がされた日の市場株価を用いて同日のナカリセバ価格を算定したことは,その合理的な裁量の範囲内にあるとされた事例。
 (公正な価格)
 1.裁判所による買取価格の決定は,客観的に定まっている過去のある一定時点の株価を確認するものではなく,裁判所において,「公正な価格」での株式の買取りを請求する権利が付与された趣旨に従い,「公正な価格」を形成するものであり,また,会社法が価格決定の基準について格別の規定を置いていないことからすると,その決定は,裁判所の合理的な裁量に委ねられているものと解される。
 (企業価値の増加が生じない場合の公正な価格の算定)
 2.会社法782条1項所定の吸収合併等によりシナジーその他の企業価値の増加が生じない場合に,同項所定の消滅株式会社等の反対株主がした株式買取請求に係る「公正な価格」は,原則として,当該株式買取請求がされた日におけるナカリセバ価格(吸収合併契約等を承認する旨の株主総会の決議がされることがなければその株式が有したであろう価格)をいうものと解するのが相当である。
 (ナカリセバ価格の算定)
 3.上場されている株式について,反対株主が株式買取請求をした日のナカリセバ価格を算定するに当たっては,それが企業の客観的価値を反映していないことをうかがわせる事情があれば格別,そうでなければ,その算定における基礎資料として市場株価を用いることには,合理性が認められる。
 3a.吸収合併等による影響
 ナカリセバ価格を算定するに当たり,吸収合併等による影響を排除するために,吸収合併等を行う旨の公表等がされる前の市場株価(参照株価)を参照してこれを算定することや,その際,上記公表がされた日の前日等の特定の時点の市場株価を参照するのか,それとも一定期間の市場株価の平均値を参照するのか等については,当該事案における消滅株式会社等や株式買取請求をした株主に係る事情を踏まえた裁判所の合理的な裁量に委ねられているものというべきである。
 3b.市場の一般的な価格変動要因
 
 上記公表等がされた後株式買取請求がされた日までの間に当該吸収合併等以外の市場の一般的な価格変動要因により,当該株式の市場株価が変動している場合に,これを踏まえて参照株価に補正を加えるなどして同日のナカリセバ価格を算定するについても,同様である。
 3c.吸収合併等により企業価値が増加も毀損もしないため,当該吸収合併等が消滅株式会社等の株式の価値に変動をもたらすものではなかったときは,その市場株価は当該吸収合併等による影響を受けるものではなかったとみることができるから,株式買取請求がされた日のナカリセバ価格を算定するに当たって参照すべき市場株価として,同日における市場株価やこれに近接する一定期間の市場株価の平均値を用いることも,当該事案に係る事情を踏まえた裁判所の合理的な裁量の範囲内にあるものというべきである。
参照条文: /会社法:785条;786条/
全 文 h230419supreme.html

最高裁判所 平成 23年 4月 13日 第2小法廷 決定 ( 平成22年(ク)第1088号 )
事件名:  文書提出命令に対する抗告審の取消決定に対する特別抗告事件
要 旨
 時間外勤務手当の支払を求める訴訟において,原告の申立てに基づき第一審が被告に対してタイムカードの提出を命ずる決定をし,これに対して被告がその所持の事実を争って即時抗告をした場合に,抗告審が,提出命令申立人(原告)に即時抗告申立書の写しを送付することも,即時抗告のあったことを知らせることもなしに,被告による所持の事実を認めに足りないとして文書提出命令を取り消したことが違法であるとされた事例。
 1.訴訟の行方に大きな影響を与える文書の提出命令の即時抗告審が,即時抗告申立書の写しを提出命令申立人に送付するなどして同人に攻撃防御の機会を与えることをしないまま,提出命令を取り消し,提出命令申立てを却下するという提出命令申立人に不利益な判断をしたことは,明らかに民事訴訟における手続的正義の要求に反するというべきであり,その審理手続には,裁量の範囲を逸脱した違法があるとされた事例。
参照条文: /民事訴訟法:2条;220条;223条7項;335条;336条/
全 文 h230413supreme.html

最高裁判所 平成 23年 4月 12日 第3小法廷 判決 ( 不当労働行為救済命令取消請求・上告事件 )
事件名:  平成21年(行ヒ)第226号
要 旨
 年間を通して多数のオペラ公演を主催している財団法人が,試聴会の審査の結果一定水準以上の歌唱技能を有すると認めた者を原則として年間シーズンの全ての公演に出演することが可能である契約メンバーとして確保するために,その者との間で期間1年の出演基本契約を締結していた場合に,あるシーズンについて契約メンバーとして出演基本契約を締結していたAを試聴会の審査の結果翌シーズンについては契約メンバーとしなかったことが不当労働行為に該当するか等が問題になった事案において,原審が,Aは労働組合法上の労働者にあたるとはいえないとしたのに対し,上告審が,歌唱労務の提供についての決定権限は財団法人にあり,契約メンバーはその指揮命令に受けること並びに公演や稽古のための日数及び年間報酬額の実績(Aについて年間230日・約300万円)等を考慮すれば,Aはこの財団法人との関係において労働組合法上の労働者にあたるとした事例。 /団体交渉応諾義務/団交/現代舞台芸術/不当労働行為救済命令/
参照条文: /労働組合法:3条;6条;7条/
全 文 h230412supreme2.html

最高裁判所 平成 23年 4月 12日 第3小法廷 判決 ( 平成21年(行ヒ)第473号 )
事件名:  不当労働行為救済命令取消請求・上告事件
要 旨
 住宅設備機器の修理補修等を業とする会社と業務委託契約を締結してその修理補修等の業務に従事する者(CE=カスタマーエンジニア)が労働組合法上の労働者に該当すると認定され,その者が加入した労働組合からCEの労働条件の変更等を議題とする団体交渉の申入れを受けたにもかかわらず,会社が,CEは個人事業主であって労働者に当たらないとして上記申入れを拒絶したことは,不当労働行為に該当するとされた事例。
参照条文: /労働組合法:3条;7条/
全 文 h230412supreme.html

東京高等裁判所 平成 23年 3月 31日 決定 ( 平成22年(ラ)第2289号 )
事件名:  担保不動産競売手続取消決定に対する執行抗告事件
要 旨
 共有物を売却してその代金を持分に応じて分割することを命ずる判決に基づいて共有不動産の競売手続が開始された場合に、競売不動産上に買受可能価額を大幅に上回る極度額の根抵当権が設定されているため、競売裁判所が民事執行法63条1項2号に該当する旨の通知を発したが、競売申立人ら(分割請求訴訟の原告ら)が同条2項1号の措置をとらなかったため、競売手続が取り消された事例。
 1.共有不動産の分割手続が行われている場合に、先順位抵当権者等が自ら競売の申立てをしないのは、現状では担保債権の十全な満足を得ることができないため当該不動産の価額の値上がりを待っているなどの事情があることが通常であり、先順位抵当権者等の上記期待を無視して、無剰余であるにもかかわらず、共有物の分割手続を終了させるためだけの目的で共有物の分割のための不動産競売を進行させることは相当でない /共有物分割のための競売/形式競売/形式的競売/換価のための競売/消除主義/無剰余措置/無剰余見込通知/剰余主義/担保権/抵当権/不可分性/
参照条文: /民法:258条2項;296条;372条/民事執行法:59条;63条;188条;195条/
全 文 h230331tokyoH.html

最高裁判所 平成 23年 3月 25日 第2小法廷 判決 ( 平成21年(行ヒ)第154号 )
事件名:  固定資産税賦課処分取消請求・上告事件
要 旨
 土地と地上建物の所有者が、建物を解体して新建物を建築する契約を訴外会社と締結し、平成16年7月から17年5月を新建物の工事期間として工事が開始されたが、地下一階部分の工事の欠陥により平成17年2月頃に建築工事が中断され、その後周辺住民からの苦情により工事が再開されることのないまま、平成18年4月に訴外会社が敷地と建築途中の新建物を買い取る旨の和解契約が締結された場合に、土地の固定資産税及び都市計画税(各賦課期日は各年の1月1日)について、平成16年度分と17年度分については、当該土地は地方税法349条の3の2第1項の「住宅用地」にあたるとされたが、平成18年度分については、当たらないとされた事例。 /建替工事期間中の住宅用地の認定/
参照条文: /地方税法:349-3-2条;359条;702-3条;702-6条/
全 文 h230325supreme.html

最高裁判所 平成 23年 3月 24日 第1小法廷 判決 ( 平成21年(受)第1679号 )
事件名:  敷金返還等請求・上告事件
要 旨
 1.賃借物件の損耗の発生は,賃貸借という契約の本質上当然に予定されているものであるから,賃借人は,特約のない限り,通常損耗等についての原状回復義務を負わず,その補修費用を負担する義務も負わない。
 1a.賃借人に通常損耗等の補修費用を負担させる趣旨を含む敷引特約は,任意規定の適用による場合に比し,消費者である賃借人の義務を加重するものというべきである。
 2.通常損耗等の補修費用は,賃料にこれを含ませてその回収が図られているのが通常だとしても,これに充てるべき金員を敷引金として授受する旨の合意が成立している場合には,その反面において,上記補修費用が含まれないものとして賃料の額が合意されているとみるのが相当であって,敷引特約によって賃借人が上記補修費用を二重に負担するということはできず,また,上記補修費用に充てるために賃貸人が取得する金員を具体的な一定の額とすることは,通常損耗等の補修の要否やその費用の額をめぐる紛争を防止するといった観点から,あながち不合理なものとはいえず,敷引特約が信義則に反して賃借人の利益を一方的に害するものであると直ちにいうことはできない。
 3.消費者契約である居住用建物の賃貸借契約に付された敷引特約は,当該建物に生ずる通常損耗等の補修費用として通常想定される額,賃料の額,礼金等他の一時金の授受の有無及びその額等に照らし,敷引金の額が高額に過ぎると評価すべきものである場合には,当該賃料が近傍同種の建物の賃料相場に比して大幅に低額であるなど特段の事情のない限り,信義則に反して消費者である賃借人の利益を一方的に害するものであって,消費者契約法10条により無効となる。
 3a. 敷引金の額が高額に過ぎると評価することはできず,敷引特約が消費者契約法10条により無効であるということはできないとされた事例。
参照条文: /消費者契約法:10条/民法:601条/
全 文 h230324supreme.html

最高裁判所 平成 23年 3月 23日 大法廷 判決 ( 平成22年(行ツ)第207号 )
事件名:  選挙無効請求・上告事件
要 旨
 平成21年8月30日施行の衆議院議員総選挙について,東京都第2区等の選挙人らが,衆議院小選挙区選出議員の選挙の選挙区割り及び選挙運動に関する公職選挙法等の規定は憲法に違反し無効であるから,これに基づき施行された選挙の各選挙区における選挙も無効であると主張して提起した選挙無効訴訟において、(a)区割基準のうち1人別枠方式に係る部分は,憲法の投票価値の平等の要求に反するに至っており,同基準に従って改定された選挙区割りも,憲法の投票価値の平等の要求に反するに至っていたものではあるが,いずれも憲法上要求される合理的期間内における是正がされなかったとはいえず,区割基準規定及び区割規定が憲法14条1項等の憲法の規定に違反するものということはできないとされ、また、(b)一定の要件を備えた政党(候補者届出政党)に候補者個人とは別に選挙運動を認める公職選挙法の規定は,国会の合理的裁量の限界を超えているということはできず,なお違憲ではないとされた事例。
参照条文: /憲法:14条;43条;47条/衆議院議員選挙区画定審議会設置法:/公職選挙法:13条1項;別表第1;150条1項/
全 文 h230323supreme.html

最高裁判所 平成 23年 3月 22日 第3小法廷 判決 ( 平成22年(受)第1238号 )
事件名:  過払金返還等請求,民訴法260条2項の申立て・上告事件
要 旨
 貸金業者が貸金債権を一括して他の貸金業者に譲渡した場合に,譲渡契約の実行日より前に譲渡業者と継続的金銭消費貸借契約を締結して実行日より後に譲受業者に借入金を弁済した借主が譲受業者に対して過払金の返還を請求した事案において,過払金返還債務の承継を認めた原審の判断に違法があるとされた事例。
 1.貸金業者が貸金債権を一括して他の貸金業者に譲渡する旨の合意をした場合において,譲渡業者の有する資産のうち何が譲渡の対象であるかは,合意の内容いかんによるというべきであり,それが営業譲渡の性質を有するときであっても,借主と譲渡業者との間の金銭消費貸借取引に係る契約上の地位が譲受業者に当然に移転すると解することはできない。
 1a.貸金債権の一括譲渡契約において,譲受業者は,「クロージング(譲渡契約の実行)日以降に発生し,かつ,クロージング日以降に開始する期間に関するもの」に限って,譲渡対象資産に含まれる契約に基づき生ずる義務も承継する旨が合意されている場合に,貸金債権の「買主は,超過利息の支払の返還請求のうち,クロージング日以後初めて書面により買主に対して,または買主および売主に対して主張されたものについては,自らの単独の絶対的な裁量により,自ら費用および経費を負担して,これを防禦,解決または履行する。買主は,かかる請求に関して売主からの補償または負担を請求しない」旨を定める条項をもって,「借主と譲渡業者との間の金銭消費貸借取引に係る過払金返還債務のうち,クロージング日後に初めて書面により譲受業者に対して履行を請求されたものについては,譲受業者においてこれを重畳的に引き受ける」旨の規定であると解することは許されないとされた事例。
 2.第一審判決に対して控訴審においてした不服申立ての範囲を上告審において拡張することは許されない。
 2a.金銭支払請求を認容した第一審判決に対して被告が控訴を提起してその一部の取消しを求めたが,控訴を棄却された場合に,上告審において, 控訴審において求めた範囲を超えて第一審判決の取消しを求めることは許されないとされた事例。 /重畳的債務引受/
参照条文: /民事訴訟法:304条;320条/
全 文 h230322supreme2.html

最高裁判所 平成 23年 3月 22日 第3小法廷 判決 ( 平成21年(受)第747号 )
事件名:  求償金請求・上告事件
要 旨
 賃金債権の強制執行を受けた者が源泉所得税を源泉徴収することなく国に納付した場合に,賃金の支払を受けた者に対して,源泉所得税相当額を求償することができるとされた事例。
 1.所得税法28条1項に規定する給与等の支払をする者が,その支払を命ずる判決に基づく強制執行により支払をする場合であっても,上記の者は,同法183条1項所定の源泉徴収義務を負う。
 1a.上記の場合に,給与等の支払をする者は,これを支払う際に源泉所得税を徴収することができないが,源泉所得税を納付したときには,法222条に基づき,徴収をしていなかった源泉所得税に相当する金額を,その徴収をされるべき者に対して請求等することができる。
参照条文: /所得税法:183条1項;222条/
全 文 h230322supreme.html

最高裁判所 平成 23年 3月 18日 第2小法廷 判決 ( 平成21年(受)第332号 )
事件名:  離婚等請求本訴,同反訴・上告事件
要 旨
 妻が3人の子を出産したが,二男は夫以外の男性の子であり,妻が夫(上告人)にそのことを告げなかったため,夫は民法777条の出訴期間内に嫡出否認の訴えを提起することができず,出生してから7年後に初めてそのことを知って提起した親子関係不存在確認請求の訴えが却下された場合に,その後の離婚訴訟において3人の子は全て妻が養育するものとされ,二男以外の子の監護費用の分担が夫に命じられたが,二男については,「二男との親子関係を否定することができなくなった上記の経緯に照らせば,上告人に離婚後も二男の監護費用を分担させることは,過大な負担を課するものというべき」であり,その分担を求めることは,「監護費用の分担につき判断するに当たっては子の福祉に十分配慮すべきであることを考慮してもなお,権利の濫用に当たる」とされた事例。
参照条文: /民法:1条3項;777条/人事訴訟法:32条/
全 文 h230318supreme.html

最高裁判所 平成 23年 3月 9日 第3小法廷 決定 ( 平成21年(ク)第1027号 )
事件名:  遺産分割審判に対する抗告審の変更決定に対する特別抗告事件
要 旨
 1.抗告人と相手方との間において,抗告後に,抗告事件を終了させることを合意内容に含む裁判外の和解が成立した場合には,当該抗告は,抗告の利益を欠くに至り、不適法として却下を免れない。
 1a.民法900条4号ただし書の規定が憲法14条1項等に違反する旨の特別抗告がなされた後で、抗告人が、紛争を早期に解決する必要を感じて、訴訟代理人弁護士に連絡することなく自ら相手方と直接交渉して、原審決定よりも若干有利な形で紛争を全面的に解決した場合に、特別抗告事件が大法廷に回付された後でそのことが上告審に判明したときでも、特別抗告は抗告の利益を欠き不適法として却下されるべきであるとされた事例。 /上訴の利益/
参照条文: /民法:900条/民事訴訟法:336条/
全 文 h230309supreme.html

最高裁判所 平成 23年 3月 1日 第3小法廷 判決 ( 平成22年(受)第798号 )
事件名:  不当利得返還請求・上告事件
要 旨
 1.届出のない再生債権である過払金返還請求権について,≪その債権者により請求がされ,再生債権が確定した時(訴訟等の手続がされている場合には,その手続によって債権が確定する。),届出のあった再生債権のために定められた一般的基準に従って権利の変更を受け,その時から3か月以内に,一般的基準に定める額を弁済する≫ことが再生計画において定められている場合に,届出をしなかった再生債権者は,一般的基準による変更後の金額を再生債権が確定された日の3か月後に支払うことを求めることのできる債権を有するにとどまるとされた事例。
 2.現在の給付を求める訴えが提起されたが,期限が未到来である場合に,本件の事案の性質,その審理の経過等に鑑みると,原告の請求は,審理の結果,本件債権の弁済期が到来していないと判断されるときは,その弁済期が到来した時点での給付を求める趣旨を含むものと解するのが合理的であり,また,本件においては,あらかじめその請求をする必要があると認められるとして,将来の給付を命ずる判決が下された事例。
 3.原告の請求を「30万円及びうち23万6614円に対する平成21年5月26日から支払済みまで年5分の割合による金員の支払を求める限度」で認容する原判決に対して被告のみが不服申立て(上告)をした場合に,上訴審は,「平成23年6月1日限り本件債権の元本である30万円及びこれに対するその翌日である同月2日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度」で認容すべきであるとの判断に達したが,原告からの不服申立てがないために,不利益変更禁止原則を適用して,「平成23年6月1日限り30万円及びうち23万6614円に対する同月2日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え」との判決をした事例。 /利益変更禁止原則/
参照条文: /民事再生法:181条/民事訴訟法:135条;304条;313条/
全 文 h230301supreme.html

松山地方裁判所 平成 23年 3月 1日 判決 ( 平成21年(ワ)第731号 )
事件名:  配当異議事件
要 旨
 別除権協定による被担保債権減額の効果が再生債務者の破産手続開始によって消滅するとされた事例。
 1.再生債務者と別除権者との間で、担保不動産の受戻価格を定め、被担保債権額を受戻価格相当額に減額する旨の別除権協定が締結され、減額後の被担保債権額については別除権協定に従って、担保されないことになった部分(「別除権不足額」)については再生計画に従って分割弁済がなされてきたが、再生計画の履行完了前に再生債務者について破産手続が開始された場合に、別除権協定は、本件破産手続開始決定により失効し、本件各担保権の被担保債権の実体法的減額の効果も失われる(原状に復する)とされた事例。
 1a.別除権を有する再生債権者とこれを有しない再生債権者との間の公平を図るという不足額責任主義(民事再生法88条、同182条)の趣旨からすれば、別除権協定に基づく再生債務者の弁済の不履行を理由に別除権者が同協定を解除したとしても、別除権の被担保債権のうち、別除権で担保される部分が受戻価格相当額に減額されたという実体法的効果は、再生計画ないし再生手続が存続する限り、維持ないし固定されるものと解するのが相当である。
 1b.再生計画の履行完了前に再生債務者に対する破産手続開始決定がされた場合には、再生計画が当然にその効力を失って、これによる権利の変更の効果も失われ、再生計画によって変更された再生債権が原状に復するというのであるから、もはや別除権で担保されない部分(別除権不足額)及び担保される部分(受戻価格相当額)を実体法的に確定しておく必要が失われているといえる。
参照条文: /民事再生法:190条;41条1項6号;41条1項9号;88条;182条/
全 文 h230301matuyamaD.html

最高裁判所 平成 23年 2月 25日 第2小法廷 判決 ( 平成21年(受)第65号 )
事件名:  損害賠償請求・上告事件
要 旨
 1.患者が適切な医療行為を受けることができなかった場合に,医師が,患者に対して,適切な医療行為を受ける期待権の侵害のみを理由とする不法行為責任を負うことがあるか否かは,当該医療行為が著しく不適切なものである事案について検討し得るにとどまるべきものである。
 1a.左脛骨高原骨折の傷害を負った患者が、被告病院の被告整形外科医から骨接合術及び骨移植術を受けたが、手術時に装着されたボルトの抜釘後は左足の腫れを訴えることのないまま,手術後約9年を経過した平成9年10月22日にいたって被告医師の診察を受けた際に左足の腫れを訴えたにとどまり、その後も,平成12年2月以後及び平成13年1月4日に被告病院で診察を受けた際に被告医師に左足の腫れや皮膚のあざ様の変色を訴えたにとどまっている場合に、被告医師が上記各診察時にレントゲン検査等を行い,皮膚科での受診を勧めるなどしており,また上記診察当時,下肢の手術に伴う深部静脈血栓症の発症の頻度が高いことが我が国の整形外科医において一般に認識されていたわけでもないという事情の下では、被告医師が,患者の左足の腫れ等の原因が深部静脈血栓症にあることを疑うには至らず,専門医に紹介するなどしなかったとしても,被告医師の上記医療行為が著しく不適切なものであったということができないとされた事例。
参照条文: /民法:709条/
全 文 h230225supreme.html

最高裁判所 平成 23年 2月 22日 第3小法廷 判決 ( 平成21年(受)第1260号 )
事件名:  土地建物共有持分権確認請求・上告事件
要 旨
 1.「相続させる」旨の遺言は,当該遺言により遺産を相続させるものとされた推定相続人が遺言者の死亡以前に死亡した場合には,当該「相続させる」旨の遺言に係る条項と遺言書の他の記載との関係,遺言書作成当時の事情及び遺言者の置かれていた状況などから,遺言者が,上記の場合には,当該推定相続人の代襲者その他の者に遺産を相続させる旨の意思を有していたとみるべき特段の事情のない限り,その効力を生ずることはないと解するのが相当である。
 1a,公正証書による遺言書に,Aの遺産全部をBに相続させる旨を記載した条項及び遺言執行者の指定に係る条項のわずか2か条しかない場合に,上記特段の事情があるとはいえないとされ,Bの子のために効力が生ずるとの主張が否定された事例。
参照条文: /民法:985条1項/
全 文 h230222supreme.html

最高裁判所 平成 23年 2月 18日 第2小法廷 判決 ( 平成21年(受)第216号 )
事件名:  損害賠償,中間確認請求・上告事件
要 旨
 簡易生命保険契約の被保険者である原告Xに無断で保険金及び契約者配当金が郵便局員である被告Y3の関与の下に他の被告Y1・Y2に支払われた場合に,Xが日本郵政公社に対し保険金等の支払を請求したが,日本郵政公社がY1及びY2に対する支払は有効な弁済であるとしてこれを拒絶したため,Xが被告らに対して損害賠償請求の訴えを提起した事案において,Y1・Y2への支払が有効な弁済とはならず,Xが依然として本件保険金等請求権を有しているとしても,Y1・Y2が,Xに損害が発生したことを否認して請求を争うことは,信義誠実の原則に反し許されないものというべきであり,また,Y3においても,Xが自ら手続を執ったかのような外形を整えるために,Y2にX名義の支払請求書兼受領証の作成を指示してこれを作成させ,自らも内容虚偽の本人確認記録票を作成してまで支払手続を進めたのであるから,共同不法行為責任を負うY1・Y2と同様に,Xに損害が発生したことを否認して請求を争うことは,信義誠実の原則に反し許されないものというべきであるとされた事例。
 1.第三者から原告に支払われるべき金銭を被告が不正な方法により第三者に対して支払請求をして受領した場合に,原告の第三者に対する金銭の支払請求権は消滅していないことを理由に被告が損害賠償義務を免れることとなれば,原告は,被告に対する金銭の支払が有効な弁済であったか否かという,自らが関与していない問題についての判断をした上で,請求の内容及び訴訟の相手方を選択し,攻撃防御を尽くさなければならないということになることを考慮すると,被告は原告との関係で受領した金銭を保有する理由がないことは明らかであるのに,何ら非のない原告がこのような訴訟上の負担を受忍しなければならないと解することは相当ではないから,支払請求が消滅していないから原告に損害が生じていないと被告が主張することは,信義誠実の原則に反して許されない。(リフレイズ)
参照条文: /民法:709条/民事訴訟法:2条;157条/
全 文 h230218supreme.html

最高裁判所 平成 23年 2月 17日 第1小法廷 決定 ( 平成21年(オ)第1022号 )
事件名:  養子縁組無効確認請求・上告及び上告受理申立事件
要 旨
 1.数人の提起する養子縁組無効の訴えは,いわゆる類似必要的共同訴訟と解すべきである。
 1a.類似必要的共同訴訟人の一人が上告を提起し,上告受理の申立てをしていた場合に、その後に他の共同訴訟人が提起した上告は,二重上告であり,上告受理の申立ては,二重上告受理の申立てであり、いずれも不適法であるとして却下された事例。
 2.上告審が不適法な上告受理申立てを決定により却下した事例。
参照条文: /民事訴訟法:40条1項;317条1項/
全 文 h230217supreme.html

最高裁判所 平成 23年 2月 15日 第3小法廷 判決 ( 平成21年(受)第627号 )
事件名:  損害賠償等請求・上告事件
要 旨
 マンションの管理組合(権利能力なき社団)が、区分所有者である被告らに対して、共用部分について管理組合の承諾を得ることなく改造工事等を行ったなどと主張して,組合規約に基づいて、工作物の撤去等を主位請求として、損害賠償等を予備請求とする訴えを提起した場合に、原審が、共用部分は区分所有者の共有に属するものであるから,本件各請求は区分所有者においてすべきものであると判断して,管理組合の原告適格を否定して訴えを却下したのに対し、上告審が、管理組合の原告適格を肯定して、原判決を破棄した事例。
 1.給付の訴えにおいては,自らがその給付を請求する権利を有すると主張する者に原告適格がある。 /法人でない社団/
参照条文: /民事訴訟法:29条;2編1章/建物の区分所有等に関する法律:3条/
全 文 h230215supreme.html

岐阜地方裁判所 平成 23年 2月 10日 判決 ( 平成22年(行ウ)第10号 )
事件名:  弁護士会照会回答拒否の違法確認等請求事件
要 旨
 患者を診療所から高次医療機関へ救急搬送した救急隊の活動について、愛知県弁護士会会長が岐阜中消防署長に弁護士法23条の2による照会(弁護士会照会)をしたが、消防署長の照会事項について回答しない旨の回答をした場合に、その拒絶回答が照会を申し出た弁護士及びその依頼者との関係で違法であるとして、依頼者への損害賠償(慰謝料1万円+弁護士会照会費用5250円)及び弁護士への損害賠償(訴状等の文書作成費用5万円)が命じられ、公務所に対する弁護士会照会が公法上の申請であることを前提とする不作為の違法確認請求及び回答義務づけ請求の訴えが不適法であるとして却下された事例。
 1.弁護士会照会制度は,弁護士会が,所属弁護士による申出に基づき,公務所又は公私の団体に照会して必要な事項の報告を求めることができる制度として規定されており,公務所ないし公的団体のみならず,私的団体をも照会の相手方とすることができるものであるから,公務所ないし公的団体に対して弁護士会照会がされた場合であっても,照会者(又は照会申出者)と被照会者とが公法上の法律関係に立つと認めることはできず、したがって,照会者(又は照会申出者)と被照会者との関係は,行政事件訴訟法4条にいう「公法上の法律関係」には該当しないから,回答拒否が違法であることの確認の訴えは,不適法である。
 1a. 弁護士会照会は,行政事件訴訟法3条6項2号・37条の3にいう「申請」に該当しない。
 1b.回答拒否(又は拒否回答)が違法であることの確認の訴えによることは,回答拒否が違法であることを理由とする国家賠償法1条1項に基づく損害賠償請求によること以上に,紛争解決にとって有効ないし適切であるということはできないから,同確認の訴えは,民事訴訟としても確認の利益がなく,不適法である。
 2.違法性
 2a.弁護士会照会を受けた公務所又は公私の団体は,自己の職務の執行に支障がある場合又は照会に応じて報告することの持つ公共的利益にも勝り保護しなければならない法益が他に存在する場合を除き,当該照会に対して報告する法的義務を負い,その義務は公的性格の強い弁護士会に対する公的義務である。
 2b. 弁護士会照会に対し報告する上記法的義務の存在は,申出弁護士ないしその依頼者が,公務所又は公私の団体に対して,照会への回答を求める権利を有することを意味するものではないと言うべきであるが,弁護士法23条の2がその照会の主体を弁護士会としたのは,所属弁護士による照会の必要性,相当性の判断を,弁護士を監督する地位にある弁護士会の自律的判断に委ねることをもって,弁護士会照会制度の適正かつ慎重な運用を担保する趣旨であり,同制度によって情報を得ることにより自己の権利の実現ないし法的利益を享受する実質的な主体は,申出をした弁護士及びその依頼者である。
 2c. 弁護士会照会の被照会者が,照会に対する回答・報告を正当な理由なく怠り,申出弁護士の業務遂行の利益や,依頼者の裁判を受ける権利ないし司法手続により紛争を解決する利益が侵害されたと評価しうる場合には,被照会者は,これにつき損害賠償責任を負うことがありうる。
 3.回答拒否には正当な理由があるか(1)
 3a.個人情報保護法制に基づく開示請求の制度と弁護士会照会制度は,制度趣旨を全く異にするほか,弁護士会照会制度の重要性に鑑みれば,同制度の機能が情報開示制度の存在により限定されると解すべき理由はない。
 3b. 照会事項が条例に基づく情報開示により入手可能な情報であるとしても,弁護士会照会に対する回答を拒絶する正当な理由には当たらないとされた事例。
 4.回答拒否には正当な理由があるか(2)
 4a.「地方公共団体にとって弁護士会照会は本人以外の第三者からの照会であるからこれに回答することは,個人情報保護条例に基づく開示請求に応じる場合と比較して,自己の情報を開示された本人から損害賠償責任を追及されるおそれが高い」旨の主張が、個人情報の主体であるDが既に死亡していること,Dが死亡した原因に関して損害賠償請求をするに当たりDの夫が委任した弁護士の申出によってなされたものであることが弁護士会長の通知書により被照会者に対して明らかにされていることを理由に、排斥された事例。
 5.回答拒否には正当な理由があるか(3)
 5a.弁護士会照会における照会事項は,照会先において容易に回答することができる法律解釈等に当たらない意見や判断を求めるものは,照会事項として不適当というべきである。
 5b. 通報を確知した時刻から現場到着時刻まで、到着時刻から現場出発時刻まで、出発時刻から収容医療機関への到着時刻までの「各経過時間に分節して,各々経過時間として通例か異例か,もし異例だとした場合,その原因・理由として考えられること,ないし消防署が把握している原因・事情」に関する照会について、その前提となる平均的な救急車の移動時間ないし傷病者を搭乗させるための所要時間等は,当該地区を所管している消防署にとって容易に判断することができない意見ないし評価であるとは認められず,また,それとの比較における遅延の有無及びその原因についても,容易に判断することができない意見ないし評価であるとは認められないから、照会できる事項に当たるとは言えないとされた事例。
 6.損害の発生と因果関係
 6a.(a)死亡した患者Dが入院していた訴外診療所の医師によるE病院への搬送指示から救急車の現場到着までに約1時間20分を要した原因がどこにあるのかを判別するうえで不可欠な情報、(b)訴外診療所の近隣にも複数の高次医療機関が存在したにもかかわらず,約30分をかけて比較的遠方のE病院にDが搬送された理由が,搬送先の選定が不適切であったことによるのか否か,あるいは,選定が不適切であったとすれば,訴外診療所と岐阜中消防署のいずれに落ち度があるのかを判別する上で重要な事実、(c)本件救急活動につき,岐阜中消防署に救急活動において通常尽くされるべき注意義務を欠く過失があるのかどうかを判断するため,また,過失があると判断される場合には,その具体的態様を特定するため,明らかにされる必要がある重要な事実、(d)救急活動が平均的な場合よりも遅延している場合には,その原因として考えられる本件固有の事情に関する弁護士会照会により弁護士及びその依頼者が取得しようとした情報は,Dの死亡原因についての損害賠償責任を追及する民事訴訟を提起するにあたって,適切な相手方を選別し,またその選別した相手方の責任原因を特定する上で不可欠という重要なものであるほか,本件照会による以外の方法により確実かつ信頼性の高い情報として取得することが困難なものであったと認められるから、照会事項についての回答拒否により,依頼者の司法制度による紛争解決を適切に実現する利益ないし弁護士の依頼者のために事務処理を円滑に遂行する利益が妨げられたと言うべきであるとされた事例。 /23条照会/弁護士照会/
参照条文: /弁護士法:23条の2/国家賠償法:1条1項/行政事件訴訟法:3条6項2号;37条の3/
全 文 h230210gihuD.html

最高裁判所 平成 23年 2月 9日 第2小法廷 決定 ( 平成22年(許)第43号 )
事件名:  不動産仮差押命令申立て却下決定に対する抗告棄却決定に対する許可抗告事件
要 旨
 1.権利能力のない社団を債務者とする金銭債権を有する債権者が,構成員の総有不動産に対して仮差押えをする場合において,不動産につき,当該社団のために第三者がその登記名義人とされているときは,債権者は,登記記録の表題部に債務者以外の者が所有者として記録されている不動産に対する仮差押えをする場合(民事保全規則20条1号イ)に準じて,仮差押命令の申立書に,不動産が当該社団の構成員全員の総有に属する事実を証する書面を添付して,社団を債務者とする仮差押命令の申立てをすることができるものと解すべきであり,上記書面は,強制執行の場合とは異なり,上記事実を証明するものであれば足り,必ずしも確定判決等であることを要しないと解するのが相当である。
 1a. 不動産が権利能力のない社団の構成員全員の総有に属することの確認請求を認容する未確定第1審判決及びその訴訟において提出された主な書証の集合が、前記証明文書として足りるとされた事例。 /法人でない社団/
参照条文: /民事保全法:7条/民事訴訟法:29条/民事保全規則:20条1号イ/
全 文 h230209supreme.html

最高裁判所 平成 23年 1月 21日 第2小法廷 判決 ( 平成21年(受)第729号 )
事件名:  建物収去土地明渡等請求・上告事件
要 旨
 1.抵当権の目的不動産につき賃借権を有する者は,当該抵当権の設定登記に先立って対抗要件を具備しなければ,当該抵当権を消滅させる競売や公売により目的不動産を買い受けた者に対し,賃借権を対抗することができないのが原則であり,このことは,抵当権の設定登記後にその目的不動産について賃借権を時効により取得した者があったとしても,異なるところはない。
 1a.不動産につき賃借権を有する者がその対抗要件を具備しない間に,当該不動産に抵当権が設定されてその旨の登記がされた場合,上記の者は,抵当権設定登記後,賃借権の時効取得に必要とされる期間,不動産を継続的に用益したとしても,競売又は公売により不動産を買い受けた者に対し,賃借権を時効により取得したと主張して,これを対抗することはできない。
参照条文: /民法:177条;605条/借地借家法:10条/民事執行法:59条2項/
全 文 h230121supreme.html

最高裁判所 平成 23年 1月 20日 第1小法廷 判決 ( 平成21年(受)第788号 )
事件名:  著作権侵害差止等請求・上告事件
要 旨
 「ロクラクII」という名称のインターネット通信機能を有するハードディスクレコーダーを用いたサービス(被告が親機を自己の管理場所内に設置して,放送の受信・入力を管理し,利用者が子機を用いて録画の指示を出すことができ,この指示に従い親機に自動的に録画された番組や録画を経ない番組をインターネットを介して利用者が受信することができる有料サービス)を提供する被告に対し,放送事業者である原告が,同サービスは原告の放送番組等の複製権を侵害するなどと主張して,その複製の差止め,損害賠償の支払等を求めた事案において,各親機ロクラクが被告の管理,支配する場所に設置されていたとしても,被告はサービスの利用者が複製を容易にするための環境等を提供しているにすぎず,被告において番組等の複製をしているとはいえないとして,原審は請求を棄却したが,破棄された事例。
 1.複製の主体の判断に当たっては,複製の対象,方法,複製への関与の内容,程度等の諸要素を考慮して,誰が当該著作物の複製をしているといえるかを判断するのが相当である。
 1a. 放送番組等の複製物を取得することを可能にするサービスにおいて,サービスを提供する者(以下「サービス提供者」という。)が,その管理,支配下において,テレビアンテナで受信した放送を複製の機能を有する機器(以下「複製機器」という。)に入力していて,当該複製機器に録画の指示がされると放送番組等の複製が自動的に行われる場合には,その録画の指示を当該サービスの利用者がするものであっても,サービス提供者はその複製の主体であると解するのが相当である。
参照条文: /著作権法:15条;21条;98条/
全 文 h230120supreme.html

東京高等裁判所 平成 23年 1月 20日 第8民事部 判決 ( 平成21年(ネ)第3486号 )
事件名:  深夜勤就労義務不存在確認等請求控訴事件(通称:郵便事業株式会社就業規則変更)
要 旨
 1.日本郵便株式会社(被告)の支店において不規則な深夜勤務を命じられてきた労働者(原告)らが,「深夜勤」勤務に従事する義務のないことの確認請求の訴えを提起したが,≪連続「深夜勤」勤務の指定を可能とする労働協約及び就業規則等は,憲法13条,18条,25条,国際人権規約A規約7条の趣旨を考慮しても,その内容が公序良俗に反し又はその他の強行法規に反して無効であるとはいえない≫として,請求が棄却された事例。
 2.日本郵便株式会社の支店に勤務する労働者(原告)らが,不規則な深夜勤務に従事したことにより概日リズムを乱され,うつ病又はうつ状態に陥ったと主張して,債務不履行(安全配慮義務違反)又は不法行為(人格権侵害)を理由に使用者に対して損害賠償を請求したが,原告らに対する「深夜勤」勤務等の指定それ自体が原告らの生命・身体等に危険を及ぼす程度のものであったとは認められないとして,請求が棄却された事例。
参照条文: /民法:90条;415条;709条/
全 文 h230120tokyoH.html

最高裁判所 平成 23年 1月 18日 第3小法廷 判決 ( 平成21年(受)第653号 )
事件名:  著作権侵害差止等請求・上告事件
要 旨
 原判決が、個々のベースステーションがあらかじめ設定された単一の機器宛てに送信する機能しか有しないことのみを理由に、これを用いた送信が自動公衆送信に当たらないとしたが、破棄された事例。
 1.(自動公衆送信装置)
 公衆の用に供されている電気通信回線に接続することにより,入力情報を受信者からの求めに応じ自動的に送信する機能を有する装置は,これがあらかじめ設定された単一の機器宛てに送信する機能しか有しない場合であっても,当該装置を用いて行われる送信が自動公衆送信であるといえるときは,自動公衆送信装置に当たる。
 1a.(自動公衆送信の主体)
 自動公衆送信が,当該装置に入力される情報を受信者からの求めに応じ自動的に送信する機能を有する装置の使用を前提としていることに鑑みると,その主体は,当該装置が受信者からの求めに応じ情報を自動的に送信することができる状態を作り出す行為を行う者と解するのが相当であり,当該装置が公衆の用に供されている電気通信回線に接続しており,これに継続的に情報が入力されている場合には,当該装置に情報を入力する者が送信の主体であると解するのが相当である。
 1b.放送事業者である原告らの複数のテレビ放送を被告が自ら管理するアンテナで継続的に受信し、分配機を介して利用者ごとに用意されたベースステーションと呼ばれる装置(受信されたアナログ放送が継続的に入力されており、各利用者からの送信指示に応じて自動的にデジタルデータ化して各利用者宛に送信する装置)に送り、そこからインターネットを介して各利用者にその要求に応じて自動送信している場合には、各利用者が各ベースステーションを所有しているとしても、ベースステーションに放送の入力をしている者は被告であり,ベースステーションを用いて行われる送信の主体は被告であるとみるのが相当であるとされた事例。
 1c.送信の主体である被告からみて,利用者は不特定の者として公衆に当たるから,ベースステーションを用いて行われる送信は自動公衆送信であり,したがって,ベースステーションは自動公衆送信装置に当たり,インターネットに接続している自動公衆送信装置であるベースステーションに放送を入力する行為は,放送の送信可能化に当たるとされた事例。
 2.被告が管理するアンテナから利用者が所有するベースステーションまでの送信の主体が被告である上、ベースステーションから利用者の端末機器までの送信の主体も被告であるから、テレビアンテナから利用者の端末機器に番組を送信することは公衆送信にあたるとされた事例。
参照条文: /著作権法:2条1項9-5号;23条1項;99-2条/
全 文 h230118supreme.html

最高裁判所 平成 23年 1月 14日 第2小法廷 判決 ( 平成20年(行ツ)第236号 )
事件名:  源泉徴収納付義務不存在確認請求・上告事件
要 旨
 
 破産手続開始前に雇用され破産手続開始の日に退職した元従業員の退職金債権に対する配当について、破産管財人は、所得税の源泉徴収義務を負わないとされた事例。
 1.弁護士である破産管財人は,その報酬につき,所得税法204条1項にいう「支払をする者」に当たり,同項2号の規定に基づき,自らの報酬の支払の際にその報酬について所得税を徴収し,これを国に納付する義務を負う。
 1a.弁護士である破産管財人の報酬に係る源泉所得税の債権は,旧破産法47条2号ただし書にいう「破産財団ニ関シテ生シタルモノ」として,財団債権に当たる。
 1b.不納付加算税の債権も,本税である源泉所得税の債権に附帯して生ずるものであるから,旧破産法の下において,財団債権に当たる。
 2.破産管財人は,破産手続を適正かつ公平に遂行するために,破産者から独立した地位を与えられて,法令上定められた職務の遂行に当たる者であり,破産者が雇用していた労働者との間において,破産宣告前の雇用関係に関し直接の債権債務関係に立つものではなく,破産債権である上記雇用関係に基づく退職手当等の債権に対して配当をする場合も,これを破産手続上の職務の遂行として行うのであるから,このような破産管財人と上記労働者との間に,使用者と労働者との関係に準ずるような特に密接な関係があるということはできない。
 2a.破産管財人は,破産財団の管理処分権を破産者から承継するが(旧破産法7条),破産宣告前の雇用関係に基づく退職手当等の支払に関し,その支払の際に所得税の源泉徴収をすべき者としての地位を破産者から当然に承継すると解すべき法令上の根拠は存しない。
 2b.破産管財人は,破産宣告前の雇用関係に基づく退職手当等につき,所得税法199条にいう「支払をする者」に含まれず,破産債権である上記退職手当等の債権に対する配当の際にその退職手当等について所得税を徴収し,これを国に納付する義務を負うものではないと解するのが相当である。
参照条文: /所得税法:199条;204条1項/t11.破産法:7条;47条2号/
全 文 h230114supreme.html

最高裁判所 平成 23年 1月 14日 第2小法廷 判決 ( 平成20年(行ヒ)第348号 )
事件名:  損害賠償請求・上告事件
要 旨
 1.地方自治法232条の2にいう「寄附又は補助」には,普通地方公共団体の所有する普通財産の譲与(無償譲渡)も含まれる。
 1a.マンションの建設に伴い会員数の急増した自治会が地域住民等の共同の利用に供される地域集会所を建設することを助成するために,斑鳩町が,マンション建設会社から土地購入費用相当額の寄付(施設協力金)を受けて土地を購入し,町議会において一連の経緯及びその説明を踏まえて無償譲渡を承認する旨の議決を経て,土地を自治会に無償譲渡した場合に,その土地の無償譲渡について地方自治法232条の2所定の公益上の必要があるとした町長の判断は,その裁量権の範囲を逸脱し,又はこれを濫用したものであるということはできないから,その無償譲渡は,同条に違反して違法なものであるということはできないとされた事例。
 2.公有地拡大法17条1項1号ロは,道路,公園,緑地その他の公共施設又は公用施設の用に供する土地の取得,造成その他の管理及び処分を行うことを土地開発公社の業務と定めており,自治会の地域集会所は上記「公共施設」に当たると解されるから,土地開発公社がその用に供するための土地を取得して地方公共団体や自治会に譲渡することは,公有地拡大法の規定及び趣旨に反するものではない。 /住民訴訟/
参照条文: /地方自治法:232-2条/公有地の拡大の推進に関する法律:17条/
全 文 h230114supreme2.html

東京高等裁判所 平成 22年 12月 22日 第1民事部 判決 ( 平成22年(ネ)第5307号 )
事件名:  詐害行為取消等請求控訴事件
要 旨
 小規模個人再生手続の開始前になされた再生債務者による不動産処分について、ある再生債権者が手続開始後に詐害行為取消訴訟を提起したが、その訴訟の係属中に、≪再生債務者の資産として現金・預貯金4万3333円及び土地建物(処分済み)の価値635万7400円の合計640万0733円を計上し、返済期間を5年間として毎月合計10万6683円を弁済し,総額で640万1130円(債権額の64.43%)を弁済する≫ことを内容とする再生計画案が認可された場合に、詐害行為取消権行使の請求が棄却された事例。
 1.小規模個人再生においても,再生手続が開始された後は,債権者間の公平を図るために,再生債権の個別的な権利行使は許されないものとして,債権者が再生手続外で別途,詐害行為取消権を行使することはできない。
 1a. 小規模個人再生においては,個人債務者の簡易迅速な経済的再生を実現するという目的から,最終的な決着までに時間を要する否認権制度を採用せず,仮に,債務者によって否認にあたる行為がなされていても,再生手続開始前に判明した場合は,破産による否認権の行使を免れるという不当な目的でなされたものとして,再生手続開始の申立てを棄却することができ(同法25条4号),再生手続開始後に判明した場合は,否認権の行使によって回復されるべき財産に相当する価額を加算した額以上の弁済を内容とする再生計画案が再生債務者から提出されない限り,債権者の一般の利益に反するものとして,再生手続を廃止(同法191条1号,2号)するか,あるいは不認可決定(同法174条2項4号)をすることができるので,否認にあたる行為を排除して債権者の利益を保護するための手続的保障があるのであるから,否認権制度の適用が除外されていることをもって,倒産手続の基本原則である債権の個別的権利行使の禁止を修正して,債権者に詐害行為取消権を行使させる必要性は認められない。
参照条文: /民事再生法:85条;238条;40-2条;25条4号;174条2項4号;191条/民法:424条/
全 文 h221222tokyoH.html

最高裁判所 平成 22年 12月 17日 第2小法廷 判決 ( 平成21年(行ヒ)第348号 )
事件名:  審決取消請求・上告事件
要 旨
 電気通信事業法38条により他の電気通信事業者から自己の通信設備への接続請求があればこれに応ずる義務を負う第一種電気通信事業者であるNTT東日本が,平成14年6月1日から同16年3月31日までの間,戸建て住宅向けのFTTHサービスを自ら提供するに際し,分岐方式の利用者との接続を暫定的に芯線直結方式でしていた場合に、そのユーザー料金を,同等のFTTHサービスを利用者に提供するためにNTT東日本の設備に芯線直結方式で接続する他の電気通信事業者から取得すべき接続料金より低額に設定した行為が独禁法2条5項所定のいわゆる排除型私的独占に該当し,同法3条に違反するとされた事例。
 1.独禁法の制定趣旨にかんがみれば,FTTHサービスを提供する第一種電気通信事業者である原告の本件行為(原告が提供するFTTHサービスのユーザ料金を原告の設備に接続する他の電気通信事業者から原告が取得すべき接続料金よりも実質的に低額に設定した行為)が独禁法2条5項にいう「他の事業者の事業活動を排除」する行為に該当するか否かは,本件行為の単独かつ一方的な取引拒絶ないし廉売としての側面が,自らの市場支配力の形成,維持ないし強化という観点からみて正常な競争手段の範囲を逸脱するような人為性を有するものであり,競業者のFTTHサービス市場への参入を著しく困難にするなどの効果を持つものといえるか否かによって決すべきものである。
 1a.上記の点は,具体的には,FTTHサービス市場における競業者が光ファイバ設備接続市場において原告に代わり得る接続先を確保することの難易,FTTHサービスの特性,本件行為の態様,原告及び競業者のFTTHサービス市場における地位及び競争条件の差異,本件行為の継続期間等の諸要素を総合的に考慮して判断すべきものと解される。
 2.ブロードバンドサービスの中でADSLサービス等との価格差とは無関係に通信速度等の観点からFTTHサービスを選好する需要者が現に存在し,それらの者については他のブロードバンドサービスとの間における需要の代替性はほとんど生じていなかったものと解されるから,FTTHサービス市場は,当該市場自体が独立して独禁法2条5項にいう「一定の取引分野」であったと評価することができるとされた事例。 /ダークファイバ/独占禁止法/
参照条文: /私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律:2条5項;3条/電気通信事業法:38条/
全 文 h221217supreme.html

最高裁判所 平成 22年 12月 2日 第1小法廷 決定 ( 平成22年(許)第14号 )
事件名:  債権差押命令に対する執行抗告棄却決定に対する許可抗告事件
要 旨
 構成部分の変動する集合動産(養殖施設内の養殖魚)を目的とする譲渡担保権の設定者が養殖業を廃業する場合に、担保目的動産(養殖魚)が赤潮によりが死滅したことに対する損害保険金請求権(共済金請求権)を譲渡担保権者が物上代位権の行使として差し押えることができるとされた事例。
 1.構成部分の変動する集合動産を目的とする集合物譲渡担保権は,譲渡担保権者において譲渡担保の目的である集合動産を構成するに至った動産の価値を担保として把握するものであるから,その効力は,目的動産が滅失した場合にその損害をてん補するために譲渡担保権設定者に対して支払われる損害保険金に係る請求権に及ぶと解するのが相当である。
 1a.構成部分の変動する集合動産を目的とする集合物譲渡担保契約は,譲渡担保権設定者が目的動産を販売して営業を継続することを前提とするものであるから,譲渡担保権設定者が通常の営業を継続している場合には,目的動産の滅失により上記請求権が発生したとしても,これに対して直ちに物上代位権を行使することができる旨が合意されているなどの特段の事情がない限り,譲渡担保権者が当該請求権に対して物上代位権を行使することは許されない。(非該当事例) /集合物譲渡担保権者/
参照条文: /民法:304条;369条/
全 文 h221202supreme.html

前橋地方裁判所 平成 22年 11月 22日 高崎支部 決定 ( 平成22年(ケ)第127号 )
事件名:  [共有物分割のための共有不動産競売事件]
要 旨
 共有物を売却してその代金を持分に応じて分割することを命ずる判決に基づいて共有不動産の競売手続が開始された場合に、競売不動産上に買受可能価額を大幅に上回る極度額の根抵当権が設定されているため、競売裁判所が民事執行法63条1項2号に該当する旨の通知を発したが、競売申立人ら(分割請求訴訟の原告ら)が同条2項1号の措置をとらなかったため、競売手続が取り消された事例。 /共有物分割のための競売/形式競売/形式的競売/換価のための競売/消除主義/無剰余措置/無剰余見込通知/剰余主義/担保権/抵当権/不可分性/
参照条文: /民法:258条2項;296条;372条/民事執行法:59条;63条;188条;195条/
全 文 h221122maebashiD.html

最高裁判所 平成 22年 10月 22日 第2小法廷 判決 ( 平成20年(受)第1631号 )
事件名:  損害賠償請求・上告事件
要 旨
 被告がA社の発行するC種類株式に係る株券を買い付けるに当たり,普通株式と共に公開買付けによらなければならなかったのに,これによらなかったことが違法であり,その結果,その保有していた普通株式を売却する機会を逸し,損害を被ったなどと主張して,A社の発行する普通株式を保有していた原告が,被告に対し,不法行為に基づく損害賠償を求めたが,特定の種類の株券等のみを対象とする特定買付け等については,公開買付けを義務づける規定にいう「株券等」の中に特定買付け等の対象とならない株券等は含まれないから,普通株式を有する株主の同意を得ずに公開買付けによらずに本件買付けを行ったことは,証券取引法27条の2第1項に違反するものとはいえず,原告との関係で,不法行為法上違法なものであるということはできないとして,賠償請求が棄却された事例。
 1.平成18年政令第377号による改正前の証券取引法施行令施行令7条5項4号,平成18年内閣府令第86号による改正前の「発行者以外の者による株券等の公開買付けの開示に関する内閣府令」(他社株府令)3条の2の4第1項及び第2項所定の「株券等」には,特定買付け等の対象とならない株券等は含まれない。
参照条文: /(平成18年政令377号改正前)証券取引法施行令施行令:7条5項4号/(平成18年内閣府令86号改正前)発行者以外の者による株券等の公開買付けの開示に関する内閣府令:3-2-4条/証券取引法:24条;27-2条/
全 文 h221022supreme.html

最高裁判所 平成 22年 10月 19日 第3小法廷 判決 ( 平成21年(受)第708号 )
事件名:  詐害行為取消等請求・上告事件
要 旨
 債務者に対して甲債権と乙債権を有する者が、債務者から不動産の持分を買い受けた者(受益者)に対して,甲債権を被保全債権として,その売買が詐害行為にあたるとして,その取消しを求める訴えを提起し,これにより詐害行為取消権の消滅時効を中断した場合に,その後に甲債権が債務者との和解により消滅したため,被保全債権を乙債権に変更した事案において,この被保全債権の主張の変更は攻撃方法の変更にすぎず,訴え提起による消滅時効の中断の効力に影響しないとされた事例。
 1.詐害行為取消権の制度は,債務者の一般財産を保全するため,取消債権者において,債務者・受益者間の詐害行為を取り消した上,債務者の一般財産から逸出した財産を,総債権者のために,受益者又は転得者から取り戻すことができるとした制度であり,取り戻された財産又はこれに代わる価格賠償は,債務者の一般財産に回復されたものとして,総債権者において平等の割合で弁済を受け得るものとなるのであり,取消債権者の個々の債権の満足を直接予定しているものではない。
 1a.詐害行為取消訴訟の訴訟物である詐害行為取消権は,取消債権者が有する個々の被保全債権に対応して複数発生するものではない。(訴訟物の特定要素)
 1b.詐害行為取消訴訟において、取消債権者の被保全債権に係る主張が交換的に変更されたとしても,攻撃防御方法が変更されたにすぎず,訴えの交換的変更には当たらない。
 1c.甲債権と乙債権を有する者が甲債権を被保全債権として詐害行為取消しの訴えを提起し,これにより詐害行為取消権の消滅時効を中断した場合には,その後に甲債権が債務者との和解により消滅したため乙債権を被保全債権として主張しても,詐害行為取消権の消滅時効の中断の効力に影響がない。
参照条文: /民事訴訟法:133条2項;143条;147条/民法:424条;149条;426条/
全 文 h221019supreme.html

最高裁判所 平成 22年 10月 15日 第2小法廷 判決 ( 平成21年(行ヒ)第65号 )
事件名:  相続税更正処分取消請求・上告事件
要 旨
 1.所得税更正処分及び過少申告加算税賦課決定処分の取消判決が確定した場合には,上記各処分は,処分時にさかのぼってその効力を失うから,上記各処分に基づいて納付された所得税,過少申告加算税及び延滞税は,納付の時点から法律上の原因を欠いていたこととなり,上記所得税等に係る過納金の還付請求権は,納付の時点において既に発生していたこととなる。
 1a.被相続人が所得税更正処分及び過少申告加算税賦課決定処分に基づき所得税,過少申告加算税及び延滞税を納付するとともに上記各処分の取消訴訟を提起していたところ,その係属中に被相続人が死亡したため相続人が同訴訟を承継し,上記各処分の取消判決が確定するに至ったときは,上記所得税等に係る過納金の還付請求権は,被相続人の相続財産を構成し,相続税の課税財産となる。
参照条文: /相続税法:2条1項/行政事件訴訟法:33条/
全 文 h221015supreme2.html

最高裁判所 平成 22年 10月 14日 第1小法廷 判決 ( 平成20年(受)第1590号 )
事件名:  雇用関係存在確認等請求・上告事件
要 旨
 第一審以来定年延長の合意の存否が当事者間で争われている場合に,控訴審が合意の存在を否定しつつも,実際上70歳定年制の運用がなされていたことを基に,「解雇の告知の時から1年を経過するまでは,賃金支払義務との関係では,信義則上,定年退職の効果を主張することができない」としたことについて,釈明権の行使を怠った違法があるとされた事例。
 1.大学の教員である原告が定年規程で定められた退職年齢(65歳)に達したことを理由に被告(大学を設置している学校法人)から解雇されたため,原告が,定年を80歳とする合意があったことを主張して,雇用関係の存在等を訴求した事件において,第一審の弁論準備手続において争点は前記合意の有無であることが確認され,口頭弁論期日においてその結果陳述がなされ,証拠調べの結果前記合意の存在が認められないとして請求が棄却され,控訴審における当事者の主張も専ら前記合意の存否に関するものである場合に,控訴審が,前記合意の間接事実として主張された事実(実際上70歳定年制の運用がなされていたこと)を基に,「被告には,原告に対し,定年退職の1年前までに,定年規程を厳格に適用し,かつ,再雇用をしない旨を告知すべき信義則上の義務があったとした上,さらに,具体的な告知の時から1年を経過するまでは,賃金支払義務との関係では,信義則上,定年退職の効果を主張することができない」とする法律効果を導き出して請求の一部を認容することは,当事者にとって従前の訴訟の経過等からは予測が困難であり,このような法律構成を採るのであれば,その法律構成の適否を含め,被告に十分な反論及び反証の機会を与えた上で判断をすべきであるとして,請求の一部を認容した原判決を上告審が破棄して差し戻した事例。 /愛知学泉大学/釈明権不行使/審理不尽/
参照条文: /民事訴訟法:165条;170条5項;173条;149条/
全 文 h221014supreme2.html

最高裁判所 平成 22年 10月 14日 第1小法廷 判決 ( 平成21年(受)第976号 )
事件名:  請負代金請求・上告事件
要 旨
 受注先からの入金がなければ発注先に請負代金の支払はしない旨の入金リンクという特約が、停止条件付代金支払義務を定める特約ではなく、代金支払期限に関する特約であるとされた事例。
 1.甲(第三次請負人)から注文を受けた乙がさらに丙に本件機器の製造等の注文をし、乙丙間の請負契約の締結に際して,入金リンク条項のある注文書と請書とを取り交わし,乙が甲から機器の製造等に係る請負代金の支払を受けた後に丙に対して本件代金を支払う旨を合意したとしても,有償双務契約である請負契約の性質に即して,当事者の意思を合理的に解釈すれば,代金の支払につき,乙が上記支払を受けることを停止条件とする旨を定めたものとはいえず,乙丙の本件請負契約においては,乙が甲から請負代金の支払を受けたときは,その時点で乙の丙に対する代金の支払期限が到来すること,また,乙が甲から支払を受ける見込みがなくなったときは,その時点で乙の丙に対する代金の支払期限が到来することが合意されたものと解するのが相当であるさされた事例。
 1a.第一次請負人から直接注文を受けることができない丙の働きかけに応じて第一次請負人が甲と乙を介在させて丙に注文することにし、その際、甲が乙に、乙は入金リンクの特約を付して丙に発注することができるから乙にリスクが生ずることはないと説明し、甲乙間の代金額と乙丙間の代金額とを等しく定められていた場合でも、本件請負契約の代金額が3億1500万円と高額であったこと等を考慮すると、本件入金リンク特約は支払期限に関する特約と解釈すべきであり、甲について破産手続が開始された時点で乙は丙に対して請負代金全額を支払わなければならないとされた事例。
参照条文: /民法:632条;127条1項;135条1項/
全 文 h221014supreme.html

最高裁判所 平成 22年 10月 8日 第2小法廷 判決 ( 平成21年(受)第565号 )
事件名:  遺産確認請求・上告事件
要 旨
 1.郵便貯金法は定額郵便貯金債権の分割を許容するものではなく,同債権は,その預金者が死亡したからといって,相続開始と同時に当然に相続分に応じて分割されることはない。
 2.共同相続人間において定額郵便貯金債権が現に被相続人の遺産に属することの確認を求める訴えについては,その帰属に争いがある限り,確認の利益が肯定される。 /訴えの利益/遺産確認訴訟/
参照条文: /郵便貯金法:7条/民法:427条;898条;899条/民事訴訟法:2編1章/
全 文 h221008supreme.html

東京地方裁判所 平成 22年 9月 30日 民事第47部 判決 ( 平成21年(ワ)第6194号 )
事件名:  譲受債権請求承継参加申立事件
要 旨
 1.[国際裁判管轄]
 我が国の国際裁判管轄をいかなる場合に肯定すべきかについては,国際的に承認された一般的な準則が存在せず,国際的慣習法の成熟も十分ではないため,当事者間の公平や,裁判の適正・迅速の理念により,条理に従って決定するのが相当である。
 1a. 我が国の民訴法の規定する裁判籍のいずれかが我が国内にあるときは,我が国で裁判を行うことが上記理念に反する特段の事情があると認められる場合を除き,原則として,我が国の裁判所に提起された訴訟事件につき,被告を我が国の裁判権に服させるのが相当である。
 1b.被告が日本に本店を有する日本法人である場合に,我が国で裁判を行うことについて上記特段の事情が存在すると認めるに足りる証拠がないとして,我が国の国際裁判管轄が認められた事例。
 2.[国際的二重訴訟]
 民訴法142条にいう「裁判所」とは,日本の裁判所を意味し,外国の裁判所を含まない。
 3.[準拠法]
 日本法人が外国法人に日本で創作された著作物(ウルトラマン)の日本以外の国における独占的利用を許諾する契約の成立及び効力の準拠法について,契約書には準拠法についての規定がなく,契約当事者において準拠法の選択について合意していたことを認めるに足りる証拠もないので,法例7条により,準拠法は,契約の行為地である我が国の法によることになるとされた事例。
 3a.外国での訴訟において,当事者の一方がその外国の法が準拠法になると主張し,他方がそれに異議を述べなかったことは,日本での訴訟における準拠法決定に影響しないとされた事例。
 3b.原告により「被告は日本,中国及びタイ王国に所在する各ライセンサーに対してライセンスを付与し,各ライセンシーからのライセンス料を日本に送金させている」と主張されている事案において,不当利得返還請求権の準拠法は,法例11条により,原因事実発生地,すなわち被告が利益を取得した地の法となり,被告が利益を取得した地である日本法が準拠法となるとされた事例。
 4.[契約の成立]
 著作物の独占的利用権を有することの確認訴訟において,独占的利用権許諾契約が有効に成立していることを前提にして,請求認容判決が確定した後に,被告(著作権者)が同判決の口頭弁論終結前から第三者に著作物利用を許諾したことにより原告(独占的利用権者)が損害・損失を受けたとして,債務不履行による損害の賠償・不当利得の返還を求める訴えが提起され、その訴訟係属中に訴求債権を譲り受けた者が当事者参加した場合に、被告が前訴で主張したのと同じ事実を主張して,独占的利用権許諾契約の成立を争うことは,前訴の主張の蒸し返しにすぎず,信義則に照らして許されないとされた事例。
 4a.著作物の独占的利用権許諾が著作権者が負っている債務の代物弁済としてなされたのであり,担保のためになされたのではないと認定された事例。
 5.[契約の内容・効力]
 著作物の独占的利用権許諾契約において許諾の対象となるキャラクター(ウルトラマン)が特定して記載されている場合に,独占的利用権の内容に著作物の翻案権が含まれず,著作者は,二次的著作物(新ウルトラマン)を創作して利用することを制限されないとされた事例。
 6.[権利侵害の成否・賠償請求の可否]
 日本で創作された著作物を日本国外において利用することについての独占的許諾契約の対象国であるタイ国において,この契約の成立を否定する判決が確定している場合でも,利用権者が日本の裁判所に訴えを提起して,著作権者が契約に反してタイ国において第三者にライセンスを許諾したことによる損害の賠償等を求めることは、権利濫用に当たらないとされた事例。
 7.[債権譲渡の有効性]
 外国人ある債権者に不利な外国判決が確定している場合に,その不利益をできるだけ避ける意図で日本国内において新会社を設立して,新会社に債権を譲渡して,譲受人が日本の裁判所において債権取立てのための訴訟を追行することが,その判決と相反する日本の裁判所の判決が確定していることを考慮すると,日本の公序に反するとは認められないとされた事例。 /国際私法/国際民事訴訟法/円谷プロダクション/チャイヨ・フィルム・カンパニー/
参照条文: /民事訴訟法:第1編第1章:4条;114条;142条/法例:7条;11条/弁護士法:73条/
全 文 h220930tokyoD.html

東京高等裁判所 平成 22年 9月 29日 第22民事部 判決 ( 平成21年(ネ)第4150号 )
事件名:  損害賠償請求・控訴事件
要 旨
 転居届について23条照会(弁護士法23条の2が規定する照会)を受けた郵便事業会社の報告拒否行為により法的利益を侵害されたとして照会申出弁護士の依頼者が郵便事業会社に対して損害賠償を請求した事案において,郵便事業会社が照会事項の一部(転居届の提出の有無、転居届記載の転送先等)の報告を拒絶したことは、23条報告義務違反に当たり、過失も認められ、弁護士会は無形の損害を受けたと言うべきであるが、照会申出をした弁護士の依頼者に対する不法行為にはならないとされた事例。
 1.23条照会を受けた者は、報告を求められた事項について、照会した弁護士会に対し23条報告をする公法上の義務を負う。ただし、照会を受けた者が23条報告をしないことについて正当な理由を有するときは、報告を拒絶することが許される。
 2. 郵便法8条1項(信書の秘密)は、憲法21条2項後段(通信の秘密)を受けて、これを信書について定めたものであり、郵便法8条1項の対象とする範囲は、憲法21条2項後段の定める範囲と同一である。
 2a転居届は、通信、信書そのものとはいえず、個々の郵便物とは離れて存在するものであり、転居届の情報が報告されても、個々の通信の内容は何ら推知されるものではないから、同情報は、憲法21条2項後段の「通信の秘密」に該当せず、郵便法8条1項の「信書の秘密」にも該当しない。
 2b.郵便法8条2項は、「信書の秘密」よりも広い「郵便物に関して知り得た他人の秘密」を保護するものである。
 2c.転居届は、郵便事業会社が郵便業務を遂行する過程で取得するものであるから、「郵便物に関して知り得た他人の秘密」に当たるというべきであり、したがって、郵便事業会社は、転居届の情報について、郵便法8条2項に基づく守秘義務を負う。
 3.住居所は、人が社会生活を営む上で一定の範囲の他者には当然開示されることが予定されている情報であり、個人の内面に関わるような秘匿性の高い情報とはいえないが、これがみだりに第三者に開示又は公表されないことについては、やはり利益が存するということができるから、住居所についての情報はプライバシー性を有すると解される。
 3a.郵便事業会社が23条照会事項についてプライバシーに基づく守秘義務を負うとされた事例。
 4.転居届の情報は、生存する個人に関する情報であって、当該情報に含まれる氏名、生年月日その他の記述等により特定の個人を識別することができるものに当たり、個人情報保護法23条1項により保護される個人情報に当たるが、同条項1号は、法令に基づく場合には、あらかじめ本人の承諾を得ないで、個人情報(個人データ)を第三者に提供することを許容しているから、郵便事業会社が弁護士法23条の2に基づく照会に対して報告することには、法的な制約はない。
 4a.郵便事業会社が照会事項について個人情報保護法に基づく守秘義務を負うことはないとされた事例。
 5.23条照会を受けた者が照会事項について報告しても、報告された情報を得るのは弁護士会のほか、照会申出をした弁護士及びその依頼者のみであるから、これが知られる範囲は限定的なものということができる、との認識が示された裁判例。
 6.照会事項群1(転居届の有無、その提出年月日及び転居届記載の転送先)について
 
 23条照会は、弁護士が受任した事件を処理するために必要として所属弁護士会に照会申出をし、弁護士会が照会を相当と認めた情報について報告を求めるものであり、23条報告は、これに応えて、その情報を弁護士会に報告する義務であるから、その制度趣旨からして23条報告の必要性は高いというべきであるから、郵便事業会社が本件照会事項{1}ないし{3}について報告すべき義務は、「郵便物に関して知り得た他人の秘密」(郵便法8条2項)としての守秘義務及びプライバシーとしての守秘義務に優越すると判断された事例。
 7.照会事項群2(転居届の筆跡の状況(又は転居届の写しの送付)、転居届受理の際の本人確認の有無及びその方法)について
 
 これらの情報は、照会事項群1と比べると秘密性が高いということができ、他方、経験則によれば、照会申出の目的である強制執行(動産執行)をするためには比較的必要性が低いことに照らせば、これらについての「郵便物に関して知り得た他人の秘密」(郵便法8条2項)に基づく守秘義務は、23条報告義務に優越すると判断された事例。
 8.23条照会は、弁護士会が所属弁護士の照会申出を審査した上で行うものであり、このように濫用的照会を排除する制度的保障が設けられている以上、23条照会を受けた郵便事業会社としては、弁護士会が濫用的照会でないことを確認したことを前提として、特段の事情のない限り、当該照会に係る事案の個別事情に関する事実(例えば転居届以外に乙川の新住居所を調べる方法がないかどうか)等を調査することなく、郵便法8条1項、2項、プライバシー、個人情報等に基づく守秘義務と23条報告義務との優劣を判断すれば足り、その判断が困難であるということはできないとされた事例。
 8a.最高裁昭和56年4月14日第3小法廷判決(民集35巻3号620頁)は、前科及び犯罪経歴というプライバシーの中でも最も他人に知られたくない、いわゆるセンシティブ情報に関する事案についての事例判例であり、このような情報について23条照会がされた場合、「通信の秘密」や「信書の秘密」に基づく守秘義務、「郵便物に関して知り得た他人の秘密」に基づく守秘義務、プライバシーや個人情報に基づく守秘義務の全部又は一部が23条報告義務に優越すると判断することは、さほど困難であるとはいえないであろう、との認識が示された裁判例。
 9.郵便事業会社が23条照会に対する報告を拒絶したことにより、弁護士会が、その権限の適正な行使を阻害されたことは明らかであり、23条照会の適正な制度運用につき一定の責任ある立場に立つ弁護士会が、適正な権限行使を阻害されたことにつき、無形の損害を受けたと評価することもできるとされた事例。
 9a. 23条照会の権利、利益の主体は、弁護士法23条の2の構造上、弁護士会に属するものであり、個々の弁護士及びその依頼者は、その反射的利益として、これを享受することがあるというべきものと解されるから、個々の弁護士の依頼者は、23条報告による利益を享受する立場にはあるが、23条報告が得られない場合に直ちに法的保護に値する法益侵害があったとみることは困難であるとされた事例。
 10.請求棄却判決の理由中において、被告である郵便事業会社に対して、原告が必要とする情報を提供するように要請がなされた事例:「当裁判所としては、この判決を契機として、本件照会に改めて応じて報告することを要請したい。また、さらに、新住居所という転居届に記載された情報に関しては、本判決の意のあるところを汲み、23条照会に応ずる態勢を組むことを切に要請したいと考える」。 /弁護士照会/弁護士会照会/23条照会/
参照条文: /弁護士法:23-2条/民法:709条/
全 文 h220929tokyoH.html

東京地方裁判所 平成 22年 9月 16日 民事第13部 判決 ( 平成21年(ワ)第20256号 )
事件名:  預金取引記録開示等請求事件
要 旨
 1.金融機関は,預金契約に基づき,預金者の求めに応じて預金口座の取引経過を開示すべき義務を負う。(最高裁判例の確認)
 2.取引経過開示義務は,預金等契約に基づき,その解約後もなお残存する。(新判断)
 2a. 当事者間の公平等を考慮すれば,解約後の上記開示義務の存続期間それ自体を合理的な期間内に限るのが相当である。
 2b. 被告は銀行業を営む株式会社であり,預金者が銀行に対し預金等契約に基づく事務処理に関して取得し得る債権は商事債権として5年の消滅時効にかかることを考慮すると,預金等契約解約後の取引経過開示義務は,上記債権が成立し得る最後の日である解約の日から5年の限度で存続すると考えるのが合理的であるとされた事例。
 2c.訴訟継続中に5年が経過したから,開示義務も消滅しているとされた事例。
 3.弁護士法23条の2の定める弁護士照会の制度は,弁護士が,基本的人権を擁護し,社会正義を実現することを使命としていることにかんがみ,受任事件についての事実の調査及び証拠の収集を容易にして職務を円滑に遂行し得るようにする一方で,照会請求の必要性,相当性の判断を弁護士会の自立的判断に委ねることでその適正かつ慎重な運用を確保しようとしたものと見られる。
 3a. 弁護士照会を受けた相手方は,自己の職務の執行に支障のある場合,又は照会に応じて報告することのもつ公共的利益にも勝り保護しなければならない法益が他に存在するような場合を除き,原則としてこれを拒否することはできない。
 3a.被照会者が回答拒絶理由とした守秘義務の存在について,開示の相手方が共同相続人であるから守秘義務違反の問題が生じる余地はないとされた事例。
 3b.対象及び範囲を包括的概括的なものとする預金等取引経過の開示請求は,債務不履行責任を免れるために金融機関に過剰な調査の負担を課し,業務に著しい支障を生じさせるとの主張が,具体的主張が欠けるため、正当な拒絶理由にあたるとは言えないとされた事例。
 3c.元預金者の共同相続人の一人が単独で弁護士に依頼し,弁護士の申立てに基づき弁護士会が預金口座のあった銀行に対してした預金等取引の照会及び弁護士自身からの照会について,銀行が回答を拒絶したことが違法なものとして不法行為を構成するとされた事例。
 3d.照会の主体が弁護士会とされているのは,制度の適正かつ慎重な運用を担保する趣旨によるものであり,同制度が受任事件についての事実の調査及び証拠の収集を容易にして弁護士がその職務を円滑に遂行し得るようにすることをその目的とする以上,照会に対する回答に実質的な利害関係を有するのは,申立てをした弁護士,ひいてはその依頼者であることは明らかであり,弁護士会照会に対する回答拒否が依頼者の権利ないし法的利益を侵害する場合には,やはり依頼者に対する不法行為責任を生じ得る。
 3e.銀行が元預金者の共同相続人の一人が弁護士会照会の方法によりした取引経過開示請求に応じなかったことにより原告が受けた精神的損害を慰謝するには,5万円をもって相当とすべきであるとされた事例。
 4.取引経過開示請求に応じなかったことが不法行為とされた場合に,遅延損害金の利率が商事法定利率(年6%)とされた事例。
 
参照条文: /弁護士法:23条の2/民法:645条;656条;666条;709条;710条/商法:522条/
全 文 h220916tokyoD.html

最高裁判所 平成 22年 9月 13日 第1小法廷 判決 ( 平成20年(受)第494号・第495号 )
事件名:  損害賠償請求・上告事件
要 旨
 1.被害者が不法行為によって損害を被ると同時に,同一の原因によって利益を受ける場合には,損害と利益との間に同質性がある限り,公平の見地から,その利益の額を被害者が加害者に対して賠償を求める損害額から控除することによって損益相殺的な調整を図る必要がある。
 1a.被害者が,不法行為によって傷害を受け,その後に後遺障害が残った場合において,≪労災保険法に基づく各種保険給付≫や≪公的年金制度に基づく各種年金給付≫を受けたときは,これらの社会保険給付は,それぞれの制度の趣旨目的に従い,特定の損害について必要額をてん補するために支給されるものであるから,同給付については,てん補の対象となる特定の損害と同性質であり,かつ,相互補完性を有する損害の元本との間で,損益相殺的な調整を行うべきである。
 2.労働者が通勤により負傷し又は疾病にかかった場合に,≪治療費等の療養に要する費用をてん補するために支給される療養給付≫及び≪負傷又は疾病により労働することができないために受けることができない賃金をてん補するために支給される休業給付≫については,その趣旨目的に照らせば,これらの給付はこれによるてん補の対象となる損害と同性質であり,かつ,相互補完性を有する関係にある治療費等の療養に要する費用又は休業損害の元本との間で損益相殺的な調整を行うべきであり,これらに対する遅延損害金が発生しているとしてそれとの間で損益相殺的な調整を行うことは相当でない。
 3.労働者ないし被保険者が負傷し又は疾病にかかり,なおったときに障害が残った場合に,≪労働能力を喪失し,又はこれが制限されることによる逸失利益をてん補するために支給される年金給付≫については,その趣旨目的に照らせば,これによるてん補の対象となる損害と同性質であり,かつ,相互補完性を有する関係にある後遺障害による逸失利益の元本との間で損益相殺的な調整を行うべきであり,これに対する遅延損害金が発生しているとしてそれとの間で損益相殺的な調整を行うことは相当でない。
 4.不法行為による損害賠償債務は,不法行為の時に発生し,かつ,何らの催告を要することなく遅滞に陥るものと解される。
 4a.被害者が不法行為によって傷害を受け,その後に後遺障害が残った場合においては,不法行為の時から相当な時間が経過した後に現実化する損害につき,不確実,不確定な要素に関する蓋然性に基づく将来予測や擬制の下に,不法行為の時におけるその額を算定せざるを得ないから,その額の算定に当たっては,一般に,不法行為の時から損害が現実化する時までの間の中間利息が必ずしも厳密に控除されるわけではないこと,上記の場合に支給される≪労災保険法に基づく各種保険給付≫や≪公的年金制度に基づく各種年金給付≫は,それぞれの制度の趣旨目的に従い,特定の損害について必要額をてん補するために,てん補の対象となる損害が現実化する都度ないし現実化するのに対応して定期的に支給されることが予定されていることなどを考慮すると,制度の予定するところと異なってその支給が著しく遅滞するなどの特段の事情のない限り,これらが支給され,又は支給されることが確定することにより,そのてん補の対象となる損害は不法行為の時にてん補されたものと法的に評価して損益相殺的な調整をすることが,公平の見地からみて相当というべきである。 /填補/
参照条文: /労働者災害補償保険法:22-2条;22-3条/民法:709条/
全 文 h220913supreme.html

最高裁判所 平成 22年 9月 10日 第2小法廷 判決 ( 平成20年(行ヒ)第432号 )
事件名:  損害賠償請求・上告事件
要 旨
 茨木市長が平成16年度の6月及び12月に同市の臨時的任用職員に対し一時金(期末手当)を支給したことにつき,当該一時金は,非常勤の職員に対する手当であり,その額及び支給方法が条例で定められてもいないから,これを支給することは,常勤の職員に対してのみ手当の支給を許容し,手当の額及び支給方法は条例で定めなければならないとした地方自治法(平成20年法律第69号による改正前のもの)に違反する違法な公金の支出に当たるが、当時の法の解釈・運用の一般的状況に照らすと、違法な支出行為をしたことに過失があるとまではいえないとされた事例。
 1.臨時的任用職員に対する手当の支給が地方自治法204条2項に基づく手当の支給として適法であるというためには,当該臨時的任用職員の勤務に要する時間に照らして,その勤務が通常の勤務形態の正規職員に準ずるものとして常勤と評価できる程度のものであることが必要であり,かつ,支給される当該手当の性質からみて,当該臨時的任用職員の職務の内容及びその勤務を継続する期間等の諸事情にかんがみ,その支給の決定が合理的な裁量の範囲内であるといえることを要する。
 1a.茨木市において週3日以上の勤務をした臨時的任用職員に支給された一時金について、週3日の勤務では通常の勤務形態の正規職員の勤務時間の6割に満たず,しかも,パートタイムの臨時的任用職員が週3日勤務した場合の勤務時間は更にそれより短いものとなるのであって,人事院規則15-15が,国家公務員について,非常勤の職員の勤務時間は常勤の職員の4分の3を超えない範囲において各省各庁の長が定めるとしていることなどをも参酌すると,勤務日数が週3日という程度では,その勤務に要する時間に照らして,その勤務が上記正規職員に準ずるものとして常勤と評価できる程度のものとはいい難いから、その一時金の支給は,一時金の性質及び当該臨時的任用職員に係るその他の事情について検討するまでもなく,地方自治法204条2項の要件を満たさず,違法というべきであるとされた事例。
 2.地方自治法203条5項,204条3項の規定の趣旨,特に議会による民主的統制の要請に照らすと,職員の給与の額及び支給方法を条例で定めないことは許されず,また,条例において,一定の細則的事項を規則等に委任することは許され得るとしても,職員の給与の額及び支給方法に係る基本的事項を規則等に委任することは許されず、少なくとも,その職に従事すべく任用される職員の給与の額等を定めるに当たって依拠すべき一般的基準等の基本的事項は,可能な限り条例において定められるべきである。
 2a.一時金の支給を受けた者だけでも約800名に及ぶという多数の臨時的任用職員が市の大半の部署に配置されており,その多くが常設的な事務に係る職に従事していたことがうかがわれる場合に、手当の額及び支給方法又はそれらに係る基本的事項について条例に定めのないまま一時金の支給をしたことは、職員の給与の額及び支給方法を条例で定めなければならないとした地方自治法の規定に反するものであり,違法というべきであるとされた事例。
 3.普通地方公共団体の長の権限に属する財務会計上の行為を,補助職員が専決により処理した場合には,長は,補助職員が財務会計上の違法行為をすることを阻止すべき指揮監督上の義務に違反し,故意又は過失によりこれを阻止しなかったときに限り,自らも財務会計上の違法行為を行ったものとして,普通地方公共団体が被った損害を賠償する義務を負うものであるが、本件の違法な支給がなされた当時の法の解釈・運用の一般的な状況に照らせば、本件一時金の支給当時の市長において,補助職員が専決により財務会計上の違法行為である上記支給をすることを阻止すべき指揮監督上の義務に違反し,故意又は過失によりこれを阻止しなかったとまではいえないとされた事例。
参照条文: /地方自治法:203条;204条/
全 文 h220910supreme.html

最高裁判所 平成 22年 9月 9日 第1小法廷 判決 ( 平成21年(受)第1661号 )
事件名:  損害賠償等請求本訴,同反訴・上告事件
要 旨
 土地の転借人が所有する建物の抵当権者が、転貸人及び土地所有者から、「転借地料の不払いにより転借地権消滅のおそれが生じた場合に転貸人等は抵当権者に事前に通知しなければならない」旨の念書を得ていた場合に、その義務の不履行を理由とする損害賠償が一部認容された事例。
 1.銀行が転借人(丁)との銀行取引等に係る債権の担保のために転借地上の建物に極度額5000万円の根抵当権の設定を受ける際に、土地所有者(甲・乙)、転貸人(丙)から、「丁の地代不払い,無断転貸など借地権の消滅もしくは変更を来たすようなおそれのある事実の生じた場合またはこのような事実が生じるおそれのある場合は,甲,乙,丙および丁は貴行に通知するとともに,借地権の保全に努めます。」と記載された条項(事前通知条項)を含む念書を得ていたところ、再生手続開始決定を受けた転借人(丁)が同決定の翌月分以降の地代を支払わなかったため、転貸人(丙)が抵当権者に事前通知をすることなく転貸借契約を解除し、建物収去・土地明渡請求訴訟の係属中に抵当権者に訴訟告知したが、抵当権者が補助参加することのないまま請求認容判決が確定し、建物が収去された場合に、損害額が980万円と認定され、8割の過失相殺の上、請求が一部認容された事例。
 1a.転貸人等は、前記の念書の差し入れにより事前通知義務を負い、その不履行により抵当権者に生じた損害について賠償義務を負うことになるが、このことは、転貸人等が念書の内容,効力等につき抵当権者から直接説明を受けておらず,念書を差し入れるに当たり抵当権者から対価の支払を受けていなかったなどの事情があっても,異ならないとされた事例。
 1b.土地の転貸人等が抵当権者に差し入れた念書により生じた事前通知義務の履行を怠ったことにより抵当権者が損害賠償請求権を取得した場合に、抵当権者がそれを行使したことが信義則に反しないとされた事例。
参照条文: /民事執行法:56条/民法:1条2項;3編2章1節1款/
全 文 h220909supreme.html

最高裁判所 平成 22年 8月 25日 第1小法廷 決定 ( 平成22年(許)第2号 )
事件名:  売却許可決定に対する抗告審の取消決定に対する許可抗告事件
要 旨
 平成20年(ケ)第117号の不動産競売事件において,期間入札が選択されたところ,最も高い価額(2250万円)の入札書を提出したと主張する者Aが入札書を封入した封筒に開札期日を正しく記載したが,事件番号を誤って「平成21年(ケ)第117号」と記載したため,執行官が開札期日において無効な買受申出と判断してその封筒を開けることなく,入札書(1900万0100円)の提出に不備のない者Bを最高価買受申出人と定めた場合に,執行裁判所がBへの売却を許可し,Aが売却の手続に重大な誤りがあるとして執行抗告をし,抗告審が,売却許可決定を取り消し,これに対するBからの許可抗告事件において,原決定が正当とされ,この場合には,改めて期間入札を実施する必要はなく,開札期日からやり直せば足りるとされた事例。
 1.担保不動産競売事件の期間入札において,執行官が,最高の価額で買受けの申出をした入札人の入札を誤って無効と判断し,他の者を最高価買受申出人と定めて開札期日を終了した場合,売却の手続に重大な誤りがある。
 1a.この場合,執行裁判所は,誤って最高価買受申出人と定められた者に対する売却を不許可とした上で,当初の入札までの手続を前提に改めて開札期日及び売却決定期日を定め,これを受けて執行官が再び開札期日を開き,最高価買受申出人を定め直すべきである。
 1b.自らが最高の価額で買受けの申出をしたにもかかわらず,執行官の誤りにより当該入札が無効と判断されて他の者が最高価買受申出人と定められたため,買受人となることができなかったことを主張する入札人は,法188条,74条1項に基づき,この者が受けた売却許可決定に対し執行抗告をすることができる。
 2.民事執行規則173条1項,47条が入札書を入れた封筒に開札期日の記載を求めるのみで,事件番号や物件番号の記載を求めていないのは,開札期日の記載があれば当該封筒を開封すべき開札期日を特定することができるため,入札書の記載から判明する事件番号や物件番号については記載の必要がないからであると解されるから,当該封筒を開封すべき開札期日を特定することができるのであれば,当該封筒に記載された事件番号がその添付書類に記載されたそれと一致していないとしても,当該入札が無効であるということはできず,執行官は開札期日において当該封筒を開封することを要する。
参照条文: /民事執行法:188条;71条7号;74条/民事執行規則:174条1項;49条;41条3項;47条/
全 文 h220825supreme.html

東京高等裁判所 平成 22年 8月 10日 第4民事部 決定 ( 平成22年(ラ)第1258号 )
事件名:  訴状却下命令に対する抗告事件
要 旨
 A会社の従業員Bにより株式購入代金を騙取されたCが提起した損害賠償請求訴訟において、Bの氏名は明らかになっているが現在の住居所も最後の住所地も不明である場合に,Bの最後の就業場所(A社の本店所在地)と氏名により被告を特定することで足りるとされた事例。
 1.(一般原則)
 当事者は,判決の名宛人としてその効力を受ける者であるから,訴状における当事者の記載(民事訴訟法133条2項1号)は,裁判所において,他の者と識別することができる程度に特定して行う必要がある。
 1a.(特定の方法)
 自然人である当事者の特定は,氏名及び住所の記載によって行うのが一般的であるが,当事者の特定の機能を果たすものである限り,氏名に代わるものとして通称等を表示したり,住所が不明である場合に居所,居所が不明である場合に最後の住所を記載するなどして行うことも許されるものである。
 1b.(就業場所による特定)
 自然人が雇用,委任その他の法律上の行為に基づき就業する就業場所は,当該自然人が労務の提供等を行う場所であることにかんがみれば,それがいかなる場所であるか客観的に特定することができるものである限り,就業場所の記載をもって氏名等の他の特定要素と併せて自然人である当事者を特定することも許されるものというべきであり,この点は,原則として当該自然人がすでにその就業場所では就業していない場合についても同様であると解するのが相当である。
参照条文: /民事訴訟法:133条2項1号/
全 文 h220810tokyoH.html

最高裁判所 平成 22年 8月 4日 第2小法廷 決定 ( 平成22年(ク)第376号 )
事件名:  人身保護請求棄却決定に対する特別抗告事件
要 旨
 1.人身保護法11条1項にいう「請求の理由のないことが明白なとき」とは,人身保護規則21条1項1号から5号までに規定する場合のほか,これらに準ずる程度に請求に理由のないことが明白な場合(同項6号)に限られる。
 1a.アメリカ合衆国ウィスコンシン州ミルウォーキー郡巡回裁判所の確定判決(民訴法118条の承認要件を満たす判決)により子の単独監護権者に指定されている父親が,子を拘束している母親及びその両親らに対して,人身保護法に基づき子の引渡し等を求める事案において,被拘束者を請求者の監護の下に置くことが拘束者の監護の下に置くことに比べて子の幸福の観点から著しく不当なものであることが一見して明らかであるとすることはできないから,保護請求を決定により棄却するのではなく,審問手続を経た上で判決によりその判断を示すべきであったとされた事例。
 2. 下級審が審問手続を経て判決により判断すべき人身保護請求を審問手続を経ることなく決定により棄却した場合には,上級審(特別抗告審)においてこれを是正するのではなく,改めて請求がされたときにこれを審理する裁判所において審問手続を経た判断が行われることが,法の予定するところである。
参照条文: /人身保護法:11条1項/人身保護規則:21条1項/
全 文 h220804supreme.html

最高裁判所 平成 22年 7月 16日 第2小法廷 判決 ( 平成20年(行ヒ)第304号 )
事件名:  不当利得返還等請求,共同訴訟参加・上告事件
要 旨
 1.Aの提起した住民訴訟とBの提起した住民訴訟とが請求の趣旨と原因を共通にする場合に,Aの訴えは適法な住民監査請求を前置しておらず不適法であるとしてこれを却下する判決が確定しているときは,Bの提起した訴訟にAが共同訴訟参加する旨の申し出は,その判決の既判力により不適法な申出として却下されるべきである。
 2.共同訴訟参加の申出が不適法でその不備を補正することができないものであるため、この申出を却下しなかった原判決が上告審において口頭弁論を経ることなく破棄された事例。
参照条文: /民事訴訟法:52条;114条;140条;297条;313条/
全 文 h220716supreme3.html

最高裁判所 平成 22年 7月 9日 第2小法廷 判決 ( 平成21年(受)第1539号 )
事件名:  損害賠償請求本訴,同反訴・上告事件
要 旨
 X2を含む原告らが被告に対して横領等を理由とする損害賠償請求の本訴を提起したのに対して,その請求を棄却する第一審判決に対する控訴審において,本訴提起は被告に対する不法行為に当たるとして被告が原告らに対して損害賠償請求の反訴を提起した事案において,控訴審が,「本訴の請求原因事実である本件横領行為等を全体的にみれば,X2が自己の主張する権利又は法律関係が事実的,法律的根拠を欠くものであることを知りながら,又は通常人であれば容易にそのことを知り得たのにあえて本訴を提起したなど,本訴の提起が裁判制度の趣旨目的に照らして著しく相当性を欠くものとまでは認めることができない」として反訴を棄却したのに対し,上告審が,「X2は,本訴で主張した権利が事実的根拠を欠くものであることを知っていたか,又は通常人であれば容易に知り得る状況にあった蓋然性が高く,本訴の提起が裁判制度の趣旨目的に照らして著しく相当性を欠くと認められる可能性がある」として,破棄差戻をした事例。
 1.訴えの提起が相手方に対する違法な行為といえるのは,当該訴訟において提訴者の主張した権利又は法律関係が事実的,法律的根拠を欠くものである上,提訴者が,そのことを知りながら,又は通常人であれば容易にそのことを知り得たといえるのにあえて訴えを提起したなど,訴えの提起が裁判制度の趣旨目的に照らして著しく相当性を欠くと認められるときに限られる。(先例の確認) /不当提訴/
参照条文: /民法:709条/民事訴訟法:2編1章/
全 文 h220709supreme.html

最高裁判所 平成 22年 6月 29日 第3小法廷 判決 ( 平成21年(受)第1298号 )
事件名:  執行文付与請求・上告事件
要 旨
 1.権利能力のない社団を債務者とする金銭債権を表示した債務名義を有する債権者が,構成員の総有不動産に対して強制執行をしようとする場合において,不動産につき,社団のために第三者がその登記名義人とされているときは,債権者は,強制執行の申立書に,社団を債務者とする執行文の付された債務名義の正本のほか,不動産が社団の構成員全員の総有に属することを確認する旨の債権者と社団及び登記名義人との間の確定判決その他これに準ずる文書を添付して,当該社団を債務者とする強制執行の申立てをすべきものと解するのが相当であって,民事執行法23条3項の規定を拡張解釈して,登記名義人を債務者として不動産を執行対象財産とする27条2項の執行文の付与を求めることはできないというべきである。
 2.民事執行法23条3項の規定を金銭債権についての強制執行の場合にまで拡張解釈することは許されない。 /法人でない社団/
参照条文: /民事執行法:20条;23条3項;27条2項;45条;48条/民事訴訟法:29条/民事執行規則:23条1号/不動産登記法:16条2項;25条7号;76条2項/
全 文 h220629supreme.html

最高裁判所 平成 22年 6月 29日 第3小法廷 判決 ( 平成21年(受)第1709号 )
事件名:  目隠しフェンス設置等請求・上告事件
要 旨
 被告(葬儀会社)が運営する葬儀場と15.3mの市道を挟んで立っている原告の建物の2階から出棺の様子などが見えるため,日常的な居住生活の場における宗教的感情の平穏に関する人格権ないし人格的利益を違法に侵害されているなどと主張して,原告が葬儀場において目隠しのために設置されているフェンスを更に1.5m高くすることを求めるとともに,不法行為に基づき慰謝料及び弁護士費用相当額の支払を求めた事案において,葬儀場の営業が社会生活上受忍すべき程度を超え原告の平穏に日常生活を送るという利益を侵害しているということはできないとして,請求が棄却された事例。
参照条文: /民法:2条;235条;709条/
全 文 h220629supreme2.html

仙台高等裁判所 平成 22年 6月 23日 第3民事部 決定 ( 平成22年(ラ)第62号 )
事件名:  検証物提示命令申立却下決定に対する即時抗告事件
要 旨
 医療過誤により患者(妻)に重大な後遺障害が生じたため、夫自身が重大な精神的苦痛を被ったことを理由とする損害賠償請求訴訟の起訴前の証拠保全として、夫が、妻の診療に関連して作成された診療録等の検証と相手方に対する検証物提示命令を申し立てたところ、裁判所が、検証物提示命令は検証の際に必要に応じて発することにして、検証の実施のみを決定した場合に、検証実施病院に臨場した裁判官が、相手方立会人(副院長)から≪患者本人又はその代理人の同意がない限り診療録等の開示には応じられないが、これらの者の同意があれば任意に開示する≫との申入れを受けて、検証不能として検証を打ち切った事案において、抗告審が、「原審裁判所は、検証を打ち切った時点で検証物提示命令の申立てに対する黙示の却下決定をした」と認めた事例(検証打切日を起算点とする即時抗告期間を経過した後に提起された即時抗告を不適法として却下した事例)。(/決定の告知/)
 証拠保全の申立ての中で検証物提示命令の申立てもなされている場合であっても、証拠保全のための検証期日が終了した以上、申立てに係る診療録等につき改めてこの手続内で証拠調べを行う余地はないから、その終了後にされた検証物提示命令の黙示的却下に対する即時抗告は、不適法であるとされた事例。
参照条文: /民事訴訟法:119条;187条;234条;332条/
全 文 h220623sendaiH.html

最高裁判所 平成 22年 6月 4日 第2小法廷 判決 ( 平成21年(受)第284号 )
事件名:  自動車引渡請求・上告事件
要 旨
 1.自動車の買主・売主・立替払人の間の三者契約における所有権留保条項について、それは、販売会社において留保していた所有権が代位により立替払人に移転することを確認したものではなく,立替払人が,立替金等債権(残代金相当額の立替金債権+手数料債権)を担保するために,販売会社から自動車の所有権の移転を受け,これを留保することを合意したものと解するのが相当であり,立替払人が別除権として行使し得るのは,立替金等債権を担保するために留保された上記所有権であると解された事例。
 2.再生手続が開始した場合において再生債務者の財産について特定の担保権を有する者の別除権の行使が認められるためには,個別の権利行使が禁止される一般債権者と再生手続によらないで別除権を行使することができる債権者との衡平を図るなどの趣旨から,原則として再生手続開始の時点で当該特定の担保権につき登記,登録等を具備している必要があるのであって(民事再生法45条参照),自動車が買主・売主・立替払人(立替金債権者)の間の契約により立替金等債権を担保するために所有権を留保して販売された場合に、その自動車につき,再生手続開始の時点で立替金債権者を所有者とする登録がされていない限り,販売会社を所有者とする登録がされていても,立替金債権者が,三者間の契約に基づき留保した所有権を別除権として行使することは許されない。 /所有権留保売買/意思解釈/
参照条文: /民事再生法:45条1項/破産法:49条1項/
全 文 h220604supreme.html

最高裁判所 平成 22年 6月 4日 第2小法廷 判決 ( 平成20年(受)第2114号 )
事件名:  不当利得返還請求・上告事件
要 旨
 会社更生手続を経た貸金業者(クレジットカード会社)に対し顧客が過払利息の返還を請求した事案において,申立て後開始決定前の段階で新聞紙上に「ライフカードは,これまで通りお使いいただけます。」という見出しの社告が掲載された際に,過払金返還請求権につき債権の届出をしないと失権するなどの説明がなされなかったとしても,開始決定前に生じた過払金返還請求権を届け出なかった顧客に対して更生後の会社が失権効(免責効)を主張することが信義則に反しないとされた事例。
参照条文: /s27h171.会社更生法:241条/民法:1条2項/
全 文 h220604supreme2.html

最高裁判所 平成 22年 6月 3日 第1小法廷 判決 ( 平成21年(受)第1338号 )
事件名:  損害賠償請求・上告事件
要 旨
 経年減点補正率が一般用倉庫等は冷凍倉庫等よりも低いために,評価額が前者は後者よりも高くなる場合に,冷凍倉庫を課税庁が過失により違法に一般用倉庫として評価して賦課決定をしたため,原告が過大に納税をしたことにより過納金相当額の損害を受けたと主張して,所定の不服申立手続を経ることなく国家賠償法1条1項に基づき損害賠償を求めた事案において,≪この請求を許容することは,実質的に,課税処分を取り消すことなく過納金の還付を請求することを認めたのと同一の効果を生じ,課税処分や登録価格の不服申立方法及び期間を制限してその早期確定を図った地方税法の趣旨を潜脱するばかりか,課税処分の公定力をも実質的に否定することになって妥当ではない≫との理由により請求を棄却した原判決が破棄された事例。
 1.行政処分が違法であることを理由として国家賠償請求をするについては,あらかじめ当該行政処分について取消し又は無効確認の判決を得なければならないものではない。(先例の確認)
 1a.このことは,当該行政処分が金銭を納付させることを直接の目的としており,その違法を理由とする国家賠償請求を認容したとすれば,結果的に当該行政処分を取り消した場合と同様の経済的効果が得られるという場合であっても異ならない。
 1b.固定資産の価格の決定及びこれに基づく固定資産税等の賦課決定に無効事由が認められない場合であっても,公務員が納税者に対する職務上の法的義務に違背して当該固定資産の価格ないし固定資産税等の税額を過大に決定したときは,これによって損害を被った当該納税者は,地方税法432条1項本文に基づく審査の申出及び同法434条1項に基づく取消訴訟等の手続を経るまでもなく,国家賠償請求を行い得るものと解すべきである。
 2.倉庫の設計図に「冷蔵室(-30℃)」との記載があることや倉庫の外観からもクーリングタワー等の特徴的な設備の存在が容易に確認し得ることがうかがわれ等の事情に照らすと,原判決が説示するような理由だけでは,原告の倉庫を一般用の倉庫等として評価してその価格を決定したことについて名古屋市長に過失が認められないということもできないとされた事例。
参照条文: /国家賠償法:1条1項/地方税法:403条1項;432条1項;434条/
全 文 h220603supreme.html

最高裁判所 平成 22年 5月 25日 第3小法廷 判決 ( 平成21年(オ)第1727号 )
事件名:  損害賠償請求・上告事件
要 旨
 解雇権の濫用が否定され、不当解雇による不法行為の成立が否定された事例。
 1.民訴法23条1項6号にいう「前審の裁判」とは,当該事件の直接又は間接の下級審の裁判を指すと解すべきであるから,労働審判に対し適法な異議の申立てがあったため訴えの提起があったものとみなされて訴訟に移行した場合(労働審判法22条参照)において,当該労働審判が「前審の裁判」に当たるということはできない。
 2.従業員(取締役)の勤務状況が就業規則所定の普通解雇事由である「技能,能率又は勤務状態が著しく不良で,就業に適さないとき」に該当するとされた事例。
 2a.原告(解雇された労働者)が入社直後から営業部の次長ないし部長という幹部従業員であり,平成19年5月以降は統括事業部長を兼務する取締役という地位にあったにもかかわらず,その飲酒癖のために、欠勤や勤務時間中の居眠りをすることがあり、その勤務態度について従業員からだけでなく取引先からも苦情が寄せられるほどで,社長から注意されても飲酒を控えることがなかったという事実関係の下では,原告に対して解雇の意思表示がなされた時点において,幹部従業員である原告にみられた欠勤を含むこれらの勤務態度の問題点は,被告(会社)の正常な職場機能,秩序を乱す程度のものであり,原告が自ら勤務態度を改める見込みも乏しかったとみるのが相当であるから,原告に就業規則所定の解雇事由に該当する事情があることは明らかであったから,被告が原告に対し,欠勤を契機として解雇をしたことはやむを得なかったものというべきであり,懲戒処分などの解雇以外の方法を採ることなくされたとしても,解雇が著しく相当性を欠き,被上告人に対する不法行為を構成するものということはできないとされた事例。
参照条文: /民事訴訟法:23条1項6号/労働審判法:20条1項;22条/労働契約法:16条/民法:709条/
全 文 h220525supreme.html

大阪高等裁判所 平成 22年 5月 21日 平成21年(ネ)第2559号 判決 ( 平成21年(ネ)第2559号 )
事件名:  前渡金返還請求・控訴事件
要 旨
 再生債務者である請負人が手続開始前に注文者から前受金を受領していたが,管財人が請負契約を解除したため,注文者が前受金返還請求権を共益債権として行使することができる場合に,前受金返還請求権の受託保証人が代位弁済をして求償権(再生債権)を得るとともに,原債権(前受金返還請求権)を代位取得したときに,保証人は代位取得した原債権を共益債権として行使することができるとされた事例。
 1.民法501条柱書の解釈として,債務者が原債権を行使する代位弁済者に対し,求償権の行使に手続法上の制約が存することをもって対抗できると解するのは相当でない。
 2.受託保証人が保証債務を履行することにより取得した原債権が共益債権である場合に,保証人が求償権の確保のために原債権の弁済を求める訴えを再生債務者の管財人に対して提起したとき,管財人は,民法501条柱書を根拠として,求償権に存する手続法上の制約(再生債権として,民事再生手続開始後は,原則として再生計画の定めるところによらなければ弁済等が許されないこと)をもって対抗することはできない。 /昭和ナミレイ/
参照条文: /民事再生法:85条;177条2項/民法:500条;501条/
全 文 h220521osakaH.html

横浜地方裁判所 平成 22年 4月 23日 川崎支部民事部 判決 ( 平成21年(ワ)第458号 )
事件名:  財団債権不存在確認請求事件
要 旨
 労働者健康福祉機構が未払賃金立替払制度の実施として事業主の破産手続開始前3月以内の未払賃金1月半分の8割を破産手続開始後に支払った場合に,これにより取得した原債権は財団債権であり,機構は原債権を財団債権として行使することができるとされた事例。
 1.弁済による代位の制度(民法501条)は,代位弁済者の債務者に対する求償権を確保することを目的として,弁済によって消滅するはずの原債権及びその担保権を代位弁済者に移転させ,代位弁済者がその求償権を有する限度で移転した原債権及びその担保権を行使することを認めたものであり,原債権はその性質を保ったまま代位弁済者に移転すると解するのが相当である。
 1a.労働者健康福祉機構による賃金債権の立替払は,最終的には優先的に支払われる賃金債権について,早期に支払うということで上記労働者保護の目的に合致しているものといえることからすれば,機構が立替払により取得する代位債権も,破産法149条1項により財団債権とするのが相当である。
 2.求償権の行使に実体法上又は手続法上の制約が存する場合,原債権の行使もその制約に服するとの考えもあるが,機構が立替払により事業主に対して取得する求償債権は,破産法148条1項5号所定の倒産手続開始後の事務管理又は不当利得に基づく請求権として財団債権といえるから,仮に上記のような考え方を取ったとしても,機構による原債権の行使が求償権の性質による制約を受けることはないと解すべきである。 /社会復帰促進等事業/労働福祉事業/
参照条文: /民法:499条;501条;702条/破産法:100条;148条1項5号;149条1項/労働者災害補償保険法:29条3項/賃金の支払の確保等に関する法律:7条/独立行政法人労働者健康福祉機構法:12条6号/
全 文 h220423yokohamaD.html

最高裁判所 平成 22年 4月 20日 第3小法廷 判決 ( 平成21年(受)第955号 )
事件名:  不当利得返還請求・上告事件
要 旨
 1.継続的な金銭消費貸借取引に関する基本契約に基づいて金銭の借入れと弁済が繰り返され,同契約に基づく債務の弁済がその借入金全体に対して行われる場合には,各借入れの時点における従前の借入金残元本と新たな借入金との合計額が利息制限法1条1項にいう「元本」の額に当たると解するのが相当であり,同契約における利息の約定は,その利息が上記の「元本」の額に応じて定まる同項所定の制限を超えるときは,その超過部分が無効となる。
 1a.取引の過程で,ある借入れがされたことによって従前の借入金残元本と新たな借入金との合計額が利息制限法1条1項所定の各区分における上限額を超えることになったとき,すなわち,上記の合計額が10万円未満から10万円以上に,あるいは100万円未満から100万円以上に増加したときは,上記取引に適用される制限利率が変更され,新たな制限を超える利息の約定が無効となるが,ある借入れの時点で上記の合計額が同項所定の各区分における下限額を下回るに至ったとしても,いったん無効となった利息の約定が有効になることはなく,上記取引に適用される制限利率が変更されることはない。
参照条文: /利息制限法:1条/民法:491条/
全 文 h220420supreme4.html

最高裁判所 平成 22年 4月 13日 第3小法廷 判決 ( 平成21年(受)第609号 )
事件名:  発信者情報開示等請求・上告事件
要 旨
 インターネット上のウェブサイト「2ちゃんねる」の電子掲示板の「A学園Part2」と題するスレッドに、学園長(原告)を指して「気違い」と述べる書込みがなされていた場合に、電気通信事業(被告)に対する発信者情報の開示請求は認容されたが、裁判外で開示請求に応じなかったことに重大な過失があったことを理由とする損害賠償請求は棄却された事例。(本判決で取り上げられたのは、後者のみ)
 1.開示関係役務提供者は,侵害情報の流通による開示請求者の権利侵害が明白であることなど当該開示請求が「特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律」4条1項各号所定の要件のいずれにも該当することを認識し,又は上記要件のいずれにも該当することが一見明白であり,その旨認識することができなかったことにつき重大な過失がある場合にのみ,損害賠償責任を負うものと解するのが相当である。
 1a. 匿名掲示板のあるスレッドへのある者による書込み中に原告を侮辱する文言として「気違い」という表現の一語があるが、特段の根拠を示すこともなく,その者の意見ないし感想としてこれが述べられていることも考慮すれば,その書込みの文言それ自体から,これが社会通念上許される限度を超える侮辱行為であることが一見明白であるということはできず,スレッドの他の書込みの内容,本件書込みがされた経緯等を考慮しなければ,権利侵害の明白性の有無を判断することはできないものというべきであり、そのような判断は,裁判外において発信者情報の開示請求を受けた被告(特定電気通信役務提供者)にとって,必ずしも容易なものではないと判断された事例。 /書き込み/インターネット・プロバイダー/DION/表現の自由/通信の秘密/名誉感情/
参照条文: /民法:709条/特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律:4条/憲法:21条/
全 文 h220413supreme3.html

最高裁判所 平成 22年 4月 12日 第2小法廷 決定 ( 平成21年(フ)第3号 )
事件名:  文書提出命令に対する抗告棄却決定に対する許可抗告事件
要 旨
 名古屋市の住民が地方自治法242条の2第1項4号に基づき,市長に対し,自由民主党名古屋市会議員団が平成16年度に受領した政務調査費のうち所属議員らに支出したとする金額に相当する額について,不当利得の返還請求をすることを求める訴えを提起し,その訴訟の中で,議員が同会派に提出して現在同会派が所持している平成16年度分の政務調査費報告書とこれに添付された領収書について,文書提出命令を申し立てたところ,第一審及び原審とも提出を命じたが,最高裁が,民訴法220条4号ニ所定の「専ら文書の所持者の利用に供するための文書」に当たるとして,申立てを棄却した事例。
 1.ある文書が,その作成目的,記載内容,これを現在の所持者が所持するに至るまでの経緯,その他の事情から判断して,専ら内部の者の利用に供する目的で作成され,外部の者に開示することが予定されていない文書であって,開示されると個人のプライバシーが侵害されたり個人ないし団体の自由な意思形成が阻害されたりするなど,開示によって所持者の側に看過し難い不利益が生ずるおそれがあると認められる場合には,特段の事情がない限り,当該文書は民訴法220条4号ニ所定の「専ら文書の所持者の利用に供するための文書」に当たると解するのが相当である。(先例の確認)
 2.政務調査費は議会による市の執行機関に対する監視等の機能を果たすための調査研究活動に充てられることも多いと考えられるところ,会派による個々の政務調査費の支出について,その具体的な金額,支出先等を逐一公にしなければならないとなると,当該支出に係る調査研究活動の目的,内容等を推知され,その会派及び所属議員の活動に対する執行機関や他の会派等からの干渉を受けるおそれを生ずるなど,調査研究活動の自由が妨げられ,議員の調査研究活動の基盤の充実という制度の趣旨,目的を損なうことにもなりかねないことから,政務調査費の収支に関する議長への報告の内容等を具体的に記載を要しないものにとどめることにより,会派及び議員の調査研究活動に対する執行機関や他の会派等からの干渉を防止しようとするところにあるものと解される。
 3.[非開示性]
 
 名古屋市会政務調査費の交付に関する規則が会派の経理責任者に会計帳簿の調製,領収書等の証拠書類の整理及びこれらの書類の保管を義務付けているのは,政務調査費の適正な使用についての各会派の自律を促すとともに,各会派の代表者らが議長等による事情聴取に対し確実な証拠に基づいてその説明責任を果たすことができるようにその基礎資料を整えておくことを求めたものであり,議長等の会派外部の者による調査等の際にこれらの書類を提出させることを予定したものではないと解するのが相当であるから,これらの規定上,上記の会計帳簿や領収書等の証拠書類は,専ら各会派の内部にとどめて利用すべき文書であることが予定されているものというべきである。
 4.[開示不利益性]
 
 本件各文書(会派所属議員提出の政務調査費報告書とこれに添付された領収書)は,個々の政務調査費の支出について,当該支出に係る調査研究活動をした議員の氏名,当該議員が用いた金額やその使途,主な調査内容等が具体的に記載されるものであり,これが開示された場合には,所持者である会派及びそれに所属する議員の調査研究活動の目的,内容等を推知され,その調査研究活動が執行機関や他の会派等からの干渉によって阻害されるおそれがあるものというべきであり,加えて,本件各文書には,調査研究活動に協力するなどした第三者の氏名等が記載されているがい然性が高く,これが開示されると,以後の調査研究活動への協力が得られにくくなって支障が生ずるばかりか,その第三者のプライバシーが侵害されるなどのおそれもあるものというべきであるから,本件各文書の開示によって所持者の側に看過し難い不利益が生ずるおそれがあると認められる。 /内部文書/書証/
参照条文: /民事訴訟法:220条4号/
全 文 h220412supreme.html

最高裁判所 平成 22年 4月 8日 第1小法廷 判決 ( 平成21年(受)第1049号 )
事件名:  発信者情報開示請求・上告事件
要 旨
 1.最終的に不特定の者に受信されることを目的として特定電気通信設備の記録媒体に情報を記録するためにする発信者とコンテンツプロバイダとの間の通信を媒介する経由プロバイダは,法2条3号にいう「特定電気通信役務提供者」に該当する。 /プロバイダー責任制限法/
参照条文: /特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律:3条;4条/電気通信事業法:3条/
全 文 h220408supreme.html

最高裁判所 平成 22年 3月 30日 第3小法廷 判決 ( 平成21年(行ヒ)第211号 )
事件名:  損害賠償履行請求・上告事件
要 旨
 札幌市議会の定例会等の会議に出席した議員に費用弁償として日額1万円を支給する旨の札幌市条例の定めは,地方自治法203条が普通地方公共団体の議会に与えた裁量権の範囲を超え又はそれを濫用したものとして違法,無効となると断ずることはできないとされた事例。(住民訴訟)
 1.地方法203条3項にいう費用の弁償について,条例で,あらかじめその支給事由を定め,それに該当するときには標準的な実費である一定額を支給する取扱いをする場合,いかなる事由を支給事由として定めるか,また,上記一定額をいくらとするかは,条例を制定する普通地方公共団体の議会の裁量判断にゆだねられている。
参照条文: /平成20年法律69号改正前.地方自治法:203条3項;203条5項/地方自治法:242-2条1項4号/平成19年札幌市条例33号改正前.昭和26年札幌市条例30号.札幌市議会議員の報酬,費用弁償及び期末手当に関する条例:2条;附則11項/
全 文 h220330supreme5.html

最高裁判所 平成 22年 3月 30日 第3小法廷 判決 ( 平成21年(受)第1232号 )
事件名:  学納金返還請求・上告事件
要 旨
 専願等を資格要件としない推薦入学試験の合格者が入学年度開始後の4月5日に在学契約を解除した場合に,学生募集要項に「補欠者につき4月7日までに通知がない場合に不合格となる」旨の記載があっても,その解除との関係では,「いったん納付した学生納付金は一切返還しない」旨の特約は有効であるとされた事例。 /学生納付金不返還特約/
参照条文: /消費者契約法:9条/民法:420条/学校教育法:6条/
全 文 h220330supreme.html

最高裁判所 平成 22年 3月 30日 第3小法廷 判決 ( 平成20年(受)第909号 )
事件名:  損害賠償,立替金請求・上告事件
要 旨
 金の商品先物取引の委託契約契約において,Y(東京工業品取引所の会員である商品取引員)との間で商品先物取引の委託を内容とする基本契約を締結して間もないX(取引時に64歳前後)が、Yの外務員の勧誘に応じて金の証拠金取引の注文を出したところ、その翌日に金価格が急落し、多額の損失を出した場合に、≪外務員は、東京市場における金の価格が上昇傾向にあることを告げた上,この傾向は年内は続くとの自己の相場予測を伝え,金を購入すれば利益を得られる旨説明しながら、東京市場における金の価格の高騰は異常であり,ロコ・ロンドン市場における金の価格と極端にかい離していたことなど,将来における金の価格が暴落する可能性があることを示す事実を告げなかった≫ことを理由に、消費者契約法4条1項2号又は2項本文により委託契約の申込みの意思表示を取り消した旨を主張して、証拠金の返還を請求するとともに、Yからの立替金相当額の支払を拒絶したが、消費者契約法4条1項2号及び2項本文の適用が否定された事例。
 1.消費者契約法4条2項本文にいう「重要事項」とは,同条4項において,当該消費者契約の目的となるものの「質,用途その他の内容」又は「対価その他の取引条件」をいうものと定義されているのであって,同条1項2号では断定的判断の提供の対象となる事項につき「将来におけるその価額,将来において当該消費者が受け取るべき金額その他の将来における変動が不確実な事項」と明示されているのとは異なり,同条2項,4項では商品先物取引の委託契約に係る将来における当該商品の価格など将来における変動が不確実な事項を含意するような文言は用いられていない。
 1a. 金の商品先物取引の委託契約契約において,将来における金の価格は「重要事項」に当たらず、受託者が将来における金の価格が暴落する可能性を示す事実を告げなかったからといって,消費者契約法4条2項本文により委託契約の申込みの意思表示を取り消すことはできないとされた事例。
 2.商品取引員の外務員が顧客に対し断定的判断の提供をしたということはできず,消費者契約法4条1項2号に基づく取消しの主張に理由がないとされた事例。
参照条文: /消費者契約法:4条/
全 文 h220330supreme3.html

最高裁判所 平成 22年 3月 30日 第3小法廷 判決 ( 平成21年(受)第1780号 )
事件名:  損害賠償請求・上告事件
要 旨
 1.貸金業を営む株式会社(被告)が複数の被用者にその職務を分掌させている場合に,原告がそのうちの一人によって貸金の原資に充てるためとの虚言により欺罔されて,当該従業員に金員を交付したことにより被った損害の賠償を民法715条に基づき被告に求めた訴訟において、その欺罔行為が会社の事業の執行についてされたものであるというためには,貸金の原資の調達が使用者である被告会社の事業の範囲に属するというだけでなく,これが客観的,外形的にみて,その被用者が担当する職務の範囲に属するものでなければならないとされた事例。 2.請求の認容のためには要件要素aのみならずb,c,dの充足も必要であるにもかかわらず、原審がこれらの要素の充足を認定することなく請求を認容したため、上告審が原判決を破棄するときに、原告がこれらの要素について主張立証をしておらず、またbの要素が充足される余地はないとして、差し戻すことなく自判(請求を棄却した第一審判決が正当であるとして控訴を棄却)した事例。
参照条文: /民法:715条/民事訴訟法:326条1号/
全 文 h220330supreme2.html

最高裁判所 平成 22年 3月 25日 第1小法廷 判決 ( 平成21年(行ヒ)第42号 )
事件名:  不当利得金返還等請求・上告事件
要 旨
 A市から補助金を受給していたB団体が解散するにあたり、剰余金を清算金として支払った後で、補助金の支給が違法な公金の支出に当たる主張して、B団体に対して受領した補助金を不当利得としてA市に返還請求することを求める住民訴訟が提起されたために、清算金の支払後2年6か月経過後に、A市とB団体との間で、補助金相当額が不当利得に当たるとされた場合には清算金を不当利得返還債務に充当する旨の合意がなされた事案において、その合意が有効とされた事例。
 1.いったん弁済によって生じた法律上の効果を当事者双方の合意により排除することは妨げられない。
参照条文: /民法:3編1章5節1款;488条/
全 文 h220325supreme2.html

最高裁判所 平成 22年 3月 25日 第1小法廷 判決 ( 平成21年(受)第1168号 )
事件名:  損害賠償請求事件・上告事件
要 旨
 退職した従業員(営業担当者と製作現場担当者)による競業行為が社会通念上自由競争の範囲を逸脱した違法なものということはできず,また,信義則上の競業避止義務違反があるともいえないとされた事例。
 1.従業員が退職後に協業行為を行うために休眠会社を利用した場合に,代表取締役就任等の登記手続の時期が遅くなったことをもって隠ぺい工作ということは困難であるとされた事例。
 2.退職者は競業行為を行うことについて元の勤務先に開示する義務を当然に負うものではない。
 2a.退職者が競業行為を元の勤務先に告げなかったからといって,競業行為を違法と評価すべき事由ということはできないとされた事例。
参照条文: /民法:709条/
全 文 h220325supreme.html

最高裁判所 平成 22年 3月 18日 第1小法廷 判決 ( 平成20年(受)第1392号 )
事件名:  各損害賠償,理事会決議無効確認等請求・上告事件
要 旨
 学校法人の理事が法人債務を連帯保証している場合に、新理事長予定者から、「新理事らが法人債務の連帯保証人になって債権者たる金融機関から現理事らの保証債務の免除を受ける」との説明を受け、これを信頼して自ら理事の職を辞するとともに新理事選任の決議に賛成したところ、金融機関が新理事長の資力等を考慮すると旧理事らの保証債務を免除することができないとした事案において、原判決が、議決権行使に要素の錯誤があり、決議は無効であるとしたが、上告審がこれを破棄した事例。
 1.金融機関と交渉して当該金融機関に対する連帯保証人の保証債務を免れさせるという債務を履行する力量についての誤信は,ただ単に,債務者にその債務を履行する能力があると信頼したにもかかわらず,実際にはその能力がなく,その債務を履行することができなかったというだけでは,民法95条にいう要素の錯誤とするに足りず,債務者自身の資力,他からの資金調達の見込み等,債務の履行可能性を左右すべき重要な具体的事実に関する認識に誤りがあり,それが表示されていた場合に初めて,要素の錯誤となり得る。
参照条文: /民法:95条/
全 文 h220318supreme.html

最高裁判所 平成 22年 3月 16日 第3小法廷 判決 ( 平成20年(受)第1459号 )
事件名:  破産債権査定異議・上告事件
要 旨
 主債務者が一人の債権者に負っている複数の債務の連帯保証人について破産手続が開始された後に,主債務者および物上保証人から弁済がなされ,民法所定の充当を行えばそのうちの一部の債権を完済したことになるときに,債権者が弁済金受領後1年以上経過してから約定の充当指定権を行使して弁済金を各被保証債権の一部に充当することにより,どの被保証債権も破産手続開始時の現存額で破産債権として行使することができると主張することは許されないとされた事例。
 1.弁済充当特約が,民法488条1項に基づく弁済者による充当の指定を排除するとともに,同条2項ただし書に基づく弁済受領者による充当の指定に対する弁済者の異議権を排除することを主たる目的とする合意と解すべきであるとされた事例。
 1a.弁済充当特約において,債権者において任意の時期に充当の指定ができる旨が合意されているとしても,弁済を受けてから1年以上が経過した時期において初めて,弁済充当特約に基づく充当指定権を行使することは,法的安定性を著しく害するものとして,許されないとされた事例。 /開始時現存額主義/開始時残存額主義/
参照条文: /破産法:104条/民法:488条;489条/
全 文 h220316supreme3.html

最高裁判所 平成 22年 3月 16日 第3小法廷 判決 ( 平成20年(受)第1202号 )
事件名:  破産債権査定異議・上告事件
要 旨
 債権者の主債務者に対する複数の債権について根抵当権をもって物上保証人となった者が,主債務者の破産手続開始後に物上保証に供された不動産の任意換価により複数の債権のうちの一部のみを完済したが,複数の債権の全部の弁済には至っていない場合に,その破産手続において,物上保証人は完済された債権について求償権を行使することができ,債権者は完済された債権を破産債権として行使することができないとされた事例。
 1.破産法104条1項及び2項にいう「その債権の全額」は,特に「破産債権者の有する総債権」などと規定されていない以上,弁済等に係る当該破産債権の全額を意味すると解するのが相当である。
 1a.債権者が複数の全部義務者に対して複数の債権を有し,全部義務者の破産手続開始の決定後に,他の全部義務者が上記の複数債権のうちの一部の債権につきその全額を弁済等した場合には,弁済等に係る当該破産債権についてはその全額が消滅しているのであるから,複数債権の全部が消滅していなくても,同項にいう「その債権の全額が消滅した場合」に該当するものとして,債権者は,当該破産債権についてはその権利を行使することはできない。
 2.債務者の破産手続開始の決定後に,物上保証人が複数の被担保債権のうちの一部の債権につきその全額を弁済した場合には,複数の被担保債権の全部が消滅していなくても,上記の弁済に係る当該債権については,破産法104条5項により準用される同条2項にいう「その債権の全額が消滅した場合」に該当し,債権者は,破産手続においてその権利を行使することができない。[根抵当権をもって複数の債権が物上保証されている場合でも,開始時現存額主義は,個々の債権ごとに適用されるのであって,複数債権を一括してその全体について適用されるのではない。] /開始時残存額主義/
参照条文: /破産法:104条/民法:351条;372条/
全 文 h220316supreme2.html

最高裁判所 平成 22年 3月 16日 第3小法廷 判決 ( 平成21年(受)第1154号 )
事件名:  職慰労金等請求・上告事件
要 旨
 平成2年6月から平成11年6月29日まで被告会社(銀行)の常務取締役の地位にあった者(原告)に対する退職慰労金について,会社の定める一定の基準による相当額の範囲内で贈呈することとし,その具体的金額,贈呈の時期,方法等については取締役会に一任する旨の決議が株主総会においてなされ,退任当時の内規にしたがって,原告に退職慰労一時金が支給され,退職慰労年金が支給されてきたが,被告会社の経営悪化のために,平成16年4月12日開催の取締役会において,同月30日をもって従前の内規を廃止する旨の決議をし,同年5月1日,退職慰労金として退職慰労一時金だけを支給するものとする「役員退職慰労金内規」を施行して,同月以降の退職慰労年金の支給を打ち切ったため,原告が従前の内規に従った退職慰労年金の支給を求めた事案において,「退職慰労年金については,集団的,画一的処理を図るという制度的要請から,被告会社は,変更等の必要性,内容の妥当性,手続の相当性を考慮して一定の場合には本件内規を改廃することができ,本件内規が改廃された場合には,これに同意しない者に対してもその効力が及ぶと解すべきである」との理由で請求を棄却した原判決が破棄され,差し戻された事例。
 1.取締役に対する退職慰労年金が,取締役の職務執行の対価として支給される趣旨を含むものと解され,会社法361条1項にいう報酬等に当たるとされた事例。
 1a. 会社が,内規により退任役員に対して支給すべき退職慰労金の算定基準等を定めているからといって,異なる時期に退任する取締役相互間についてまで画一的に退職慰労年金の支給の可否,金額等を決定することが予定されているものではなく,退職慰労年金の支給につき,退任取締役相互間の公平を図るために,いったん成立した契約の効力を否定してまで集団的,画一的な処理を図ることが制度上要請されているとみることはできない。
 1b. 退任取締役が株主総会決議による個別の判断を経て具体的な退職慰労年金債権を取得したものである以上,その支給期間が長期にわたり,その間に社会経済情勢等が変化し得ることや,その後の本件内規の改廃により将来退任する取締役との間に不公平が生ずるおそれがあることなどを勘案しても,退職慰労年金については,集団的,画一的処理が制度上要請されているという理由のみから,内規の廃止の効力を既に退任した取締役に及ぼすことは許されず,その同意なく上記退職慰労年金債権を失わせることはできないとされた事例。
参照条文: /会社法:361条1項/
全 文 h220316supreme.html

最高裁判所 平成 22年 3月 16日 第3小法廷 判決 ( 平成20年(オ)第999号 )
事件名:  遺言無効確認等請求・上告事件
要 旨
 1.共同相続人甲が他の共同相続人乙と丙を被告にして,乙が民法891条5号所定の相続欠格者に当たるとして,乙が相続人の地位を有しないことの確認を請求する訴訟は,共同相続人全員が当事者として関与し,その間で合一にのみ確定することを要する固有必要的共同訴訟である。
 1a. 甲のこの確認請求を棄却する第一審判決に対して、甲は、乙との関係で控訴の利益を有するのみならず、丙との関係でも控訴の利益を有する。
 2.原告甲の被告乙及び丙に対する訴えが固有必要的共同訴訟であるにもかかわらず,甲の乙に対する請求を認容し,甲の丙に対する請求を棄却するという趣旨の判決がされた場合には,上訴審は,甲が上訴又は附帯上訴をしていないときであっても,合一確定に必要な限度で,上記判決のうち丙に関する部分を,丙に不利益に変更することができる。
 3.上告審は,上記のような理由により原判決を破棄する旨の判決をする場合には,民訴法319条並びに同法313条及び297条により上告審の訴訟手続に準用される同法140条の規定の趣旨に照らし,必ずしも口頭弁論を経ることを要しない。
参照条文: /民法:891条5号/民事訴訟法:40条;304条;319条;313条;297条;140条/
全 文 h220316supreme4.html

最高裁判所 平成 22年 3月 15日 第1小法廷 決定 ( 平成21年(あ)第360号 )
事件名:  名誉毀損被告事件(上告事件)
要 旨
 インターネットの個人利用者がWeb上で虚実の事実を摘示して他人の名誉を毀損した場合に,真実と誤信したことに相当な理由があるとはいえないとされた事例。
 1.インターネットの個人利用者による表現行為の場合においても,他の場合と同様に,行為者が摘示した事実を真実であると誤信したことについて,確実な資料,根拠に照らして相当の理由があると認められるときに限り,名誉毀損罪は成立しないものと解するのが相当であって,より緩やかな要件で同罪の成立を否定すべきものとは解されない。
 1a.被告人は,商業登記簿謄本,市販の雑誌記事,インターネット上の書き込み,加盟店の店長であった者から受信したメール等の資料に基づいて,摘示した事実を真実であると誤信して本件表現行為を行ったものであるが,このような資料の中には一方的立場から作成されたにすぎないものもあること,フランチャイズシステムについて記載された資料に対する被告人の理解が不正確であったこと,被告人が被害会社の関係者に事実関係を確認することも一切なかったことなどの事実関係の下においては,被告人が摘示した事実を真実であると誤信したことについて,確実な資料,根拠に照らして相当の理由があるとはいえないとされた事例。 /電子掲示板/
参照条文: /刑法:230-2条1項/
全 文 h220315supreme.html

最高裁判所 平成 22年 3月 2日 第3小法廷 判決 ( 平成20年(受)第1418号 )
事件名:  損害賠償請求・上告事件
要 旨
 北海道内の高速道路において,自動車の運転者が,キツネとの衝突を避けようとして自損事故を起こし停車中,後続車に衝突されて死亡したことについて,運転者の相続人らが,高速道路の管理者(日本道路公団)の訴訟承継人に対し,キツネの侵入防止措置が不十分であった点で,高速道路の設置又は管理に瑕疵があったと主張して,国家賠償法2条1項に基づく損害賠償を求めたが,道路に設置又は管理の瑕疵があったとみることはできないとして棄却された事例。
 1.国家賠償法2条1項にいう営造物の設置又は管理の瑕疵とは,営造物が通常有すべき安全性を欠いていることをいい,当該営造物の使用に関連して事故が発生し,被害が生じた場合において,当該営造物の設置又は管理に瑕疵があったとみられるかどうかは,その事故当時における当該営造物の構造,用法,場所的環境,利用状況等諸般の事情を総合考慮して具体的個別的に判断すべきである。
 1a.キツネ等の小動物が本件道路に侵入したとしても,走行中の自動車がキツネ等の小動物と接触すること自体により自動車の運転者等が死傷するような事故が発生する危険性は高いものではなく,通常は,自動車の運転者が適切な運転操作を行うことにより死傷事故を回避することを期待することができ,そのことは,本件事故以前に,本件区間においては,道路に侵入したキツネが走行中の自動車に接触して死ぬ事故が年間数十件も発生していながら,その事故に起因して自動車の運転者等が死傷するような事故が発生していたことはうかがわれず,北海道縦貫自動車道函館名寄線の全体を通じても,道路に侵入したキツネとの衝突を避けようとしたことに起因する死亡事故は平成6年に1件あったにとどまることかことらも明らかであることを理由の一つとして,さらに有刺鉄線の柵や動物注意の標識が設置されていたとこと等を理由に,道路が通常有すべき安全性を欠いていたということはできず,道路に設置又は管理の瑕疵があったとみることはできないとされた事例。
参照条文: /国家賠償法:2条1項/
全 文 h220302supreme2.html

最高裁判所 平成 22年 3月 2日 第3小法廷 判決 ( 平成19年(行ヒ)第105号 )
事件名:  所得税納税告知処分取消等請求・上告事件
要 旨
 1.一般に,「期間」とは,ある時点から他の時点までの時間的隔たりといった,時的連続性を持った概念である。
 1a.ホステス報酬の額が一定の期間ごとに計算されて支払われている場合においては,施行令322条にいう「当該支払金額の計算期間の日数」は,ホステスの実際の稼働日数ではなく,当該期間に含まれるすべての日数を指す。 /源泉徴収/基礎控除方式/
参照条文: /所得税法施行令:322条/
全 文 h220302supreme.html

最高裁判所 平成 22年 2月 25日 第1小法廷 判決 ( 平成21年(行ヒ)第25号 )
事件名:  公文書非公開決定処分取消等請求・上告事件
要 旨
 茨木市教育委員会が教職員の意欲・資質能力の向上,教育活動等の充実及び組織の活性化を図ることを目的として導入している評価・育成システムにおいて教職員が作成した自己申告票及び校長が作成した評価・育成シートの一部の公開の請求が茨木市情報公開条例に基づきなされたが,請求された部分が公開されると,学校の組織活性化等を目的とした本件システムに係る事務の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあり,ひいては公正かつ円滑な人事の確保に支障を及ぼすおそれがあり,その情報は条例7条6号柱書き及び同号エの定める非公開情報に当たるというべきであるから,茨木市教育委員会がした非公開の決定は正当であるとされた事例。
参照条文: /茨木市情報公開条例(平成15年条例第35号):7条/
全 文 h220225supreme.html

最高裁判所 平成 22年 2月 23日 第3小法廷 判決 ( 平成21年(行ヒ)第234号 )
事件名:  公金不当利得返還等請求・上告事件
要 旨
 1.地方自治法100条13項・函館市議会政務調査費の交付に関する条例5条を受けて制定された函館市議会政務調査費の交付に関する条例施行規則(平成13年函館市規則第4号)は,政務調査費の使途について、例えば調査旅費を「会派が行う調査研究に必要な先進地調査または現地調査に要する経費」と規定しているが、そこにいう「会派が行う」調査研究活動には,会派がその名において自ら行うもののほか,会派の所属議員等にこれをゆだね,又は所属議員による調査研究活動を会派のためのものとして承認する方法によって行うものも含まれると解すべきである。
 1a.一般に,会派は,議会の内部において議員により組織される団体であり,その内部的な意思決定手続等に関する特別の取決めがされていない限り,会派の代表者が会派の名においてした行為は,会派自らがした行為と評価される。
参照条文: /地方自治法:100条13項/函館市議会政務調査費の交付に関する条例:5条/函館市議会政務調査費の交付に関する条例施行規則;/
全 文 h220223supreme2.html

最高裁判所 平成 22年 2月 23日 第3小法廷 判決 ( 平成18年(行ヒ)第79号 )
事件名:  損害賠償請求・上告事件
要 旨
 八代市が経営する屠畜場の廃止に当たり,市が屠畜場の利用業者・屠殺業務従事者に対してした支援金の支出について、市の住民らが,地方自治法(平成14年法律第4号改正前)242条の2第1項4号に基づき,市に代位して,当時の市長に対し損害賠償を求めた事案において、支援金の法的性格が損失補償金と補助金のいずれであるかを明示することなく,支援金の支出が違法であるとはいえないとして請求を棄却した原判決が,審理不尽を理由に破棄された事例。
 1.市の行政財産である屠畜場の利用資格に制限がなく,利用業者又は屠殺業務従事者らと市との間に委託契約,雇用契約等の継続的契約関係がない場合に、単に利用業者等が屠畜場を事実上,独占的に使用する状況が継続していたという事情をもって,その使用関係を国有財産法19条,24条2項を類推適用すべき継続的な使用関係と同視することはできないとされた事例。
 1a.屠畜場がと畜場法施行令の改正等に伴い必要となる施設の新築が実現困難であるためにやむなく廃止される場合に、市と継続的契約関係になく屠畜場を事実上独占的に使用していたにとどまる利用業者等が享受してきた利益は,基本的には屠畜場が公共の用に供されたことの反射的利益にとどまるものと考えられ、屠畜場廃止による不利益は住民が等しく受忍すべきものであるから,利用業者等が屠畜場を利用し得なくなったという不利益は,憲法29条3項による損失補償を要する特別の犠牲には当たらないとされた事例。
 2.支援金の支出が補助金の支出として適法なものであるというためには,「補償,補填及び賠償金」の節に計上されていた本件支援金を補助金と解することにより,実質的に議会による予算統制の潜脱となるような違法な予算執行を許容するに等しい結果をもたらさないか否か等について審理,判断する必要があり,支援金が他に流用されるおそれがないとする点も,支援金の支出方法が市費補助等取扱要綱の趣旨を損なうものではないかという点を含めて説示されるべきであるとされた事例。
参照条文: /国有財産法:19条;24条2項/憲法29条3項/
全 文 h220223supreme.html

最高裁判所 平成 22年 2月 17日 第2小法廷 決定 ( 平成21年(あ)第934号 )
事件名:  非現住建造物等放火被告事件(上告事件)
要 旨
 被告人が非現住建物(事務所)に正当な理由なく同じ日の夜に2回侵入し、初回侵入時には現金や商品券等を窃取するとともに自己の不正行為に関連する文書を持ち出した上出入口を施錠して退去し、2回目の侵入時に放火をした場合に、初回侵入時の建造建物侵入・窃盗を訴因とする訴え(前訴)と2回目の侵入時の放火を訴因とする訴え(後訴=本訴)とについて弁論が併合された後で、弁護人の請求により分離されたときに、先に確定した前訴判決の一事不再理効が後訴に及ぶかが問題とされた事案において、2回目の侵入が初回侵入と時間的に接着していて、証拠隠滅という目的を同じくするとしても、2回目の侵入は新たな犯意によるものと認めることが相当であるとして、各侵入行為を包括一罪と評価すべきではないから、初回侵入時の犯罪行為(建造建物侵入・窃盗)と2回目侵入時の犯罪行為(放火行為)とは牽連関係に立たず、前訴判決の一事不再理効は本訴(後訴)には及ばないとされた事例。 /公訴事実の単一性/既判力/
参照条文: /日本国憲法:39条後段/刑事訴訟法:337条1号/
全 文 h220217supreme91.html

最高裁判所 平成 22年 2月 16日 第3小法廷 判決 ( 平成20年(行ヒ)第356号 )
事件名:  軽油引取税更正,決定処分取消請求・上告事件
要 旨
 他社に原料を教習して軽油の製造を依頼し、その他社が製造した軽油を引き取って他に譲渡していた者が地方税法700条の4第1項5号に基づく納税義務者に当たるかが問題となった事例。
 1.平成16年法律第17号によって創設された地方税法(平成21年法律第9号による改正前のもの)700条の4の2第1項は,地方税法700条の4第1項5号等に基づく軽油引取税の納税義務者が他に存在することが明らかである場合はもとより,上記納税義務者が存在するか否かが不明である場合(すなわち,物理的に軽油の製造を行った者が,実際には本件規定等に基づく本来の納税義務者である可能性を排除することができない場合)にも適用し得るものと解すべきである。
 1a.軽油の製造及び譲渡に関与した行為者が複数存在する場合において,造り出された軽油の原始的所有権の帰属に加え,軽油の製造及び譲渡に係る全過程における各行為者の行為態様及びその意図,各行為者間における利益及びリスクの帰属等の諸要素を総合的に勘案した結果,上記過程において実質的に果たしていた役割からみて,ある者が当該軽油を製造してこれを他に譲渡していたものと評価することができるときには,その者が法的にみて当該軽油の所有権を原始的に取得したとはいえないというだけの理由で,地方税法700条の4第1項5号に基づく納税義務者に当たらないということはできない。
参照条文: /地方税法:700-4条;700-4-2条/
全 文 h220216supreme.html

東京地方裁判所 平成 22年 2月 10日 民事第29部 判決 ( 平成16年(ワ)第18443号 )
事件名:  損害賠償請求事件
要 旨
 1.信託譲渡された著作権について
 1a.信託財産である著作権の返還については,引渡しを観念することはできず,また,上記著作権は,いずれも信託について著作権登録がされたものではないから,返還のために特段の手続を取ることを必要とせず,著作権は帰属権利者に返還され,返還事務としては既に完了した状態にあると解するのが相当である。
 2.信託期間中に生じた著作権侵害による損害賠償請求権について
 2a.信託期間中に生じた著作権侵害による損害賠償請求権について受託者が既に訴訟を提起している場合には,いまだに損害金の現実の回収・分配が完了したものではないから,原則的には,現実の回収及び分配が完了するまで清算事務が継続すると解するのが相当である。
 1b.ただし,法定信託における清算事務を継続することに著しい支障が生じており,帰属権利者において,早期に信託財産の返還を受け,その管理利用の在り方について改めて検討できる機会を付与されることが,帰属権利者の利益の観点から相当な場合には,帰属権利者に対して残余の信託財産(損害賠償請求権)を移転すれば足り,それにより清算事務は完了すると解するのが相当である。
 1c.音楽の著作権者が著作権を第1次受託者に信託し,この者がさらに第2次受託者に信託し,第2次受託者が管理している間の著作権侵害により生じた損害賠償請求権について,第2次受託者が賠償請求の訴えを提起したが,訴訟係属中に第1次受託者が解散するとともに,第2次受託者との間の信託契約を解除した場合に,原権利者(兼帰属権利者)の半数程度とは容易に連絡が取れない状況となっているときに,仮に,原告が,使用料相当額の損害金を回収したとしても,帰属権利者がその回収等を信託の清算事務として原告に委ねる旨の特段の意思を明確に表明していない限りは,その後の,第2次受託者と第1次受託者間,第1次受託者間と原権利者間の各清算事務が円滑に遂行されることは到底期待できず,既発生の使用料相当額の損害賠償請求権についても,その回収方法を著作権の管理と併せて検討する機会を与えることが,帰属権利者の利益保護の観点から相当であること等からすると,帰属権利者において,既発生の上記損害金について,上記の意思を表明しない限り,法定信託における清算事務を継続することに著しい支障が生じているというべきであるから,受託者としては,帰属権利者に上記損害賠償請求権を移転すれば足り,それにより清算事務は完了すると解するのが相当であるとされた事例。(この部分の請求については,訴え却下の判決がなされたが,控訴審において請求棄却判決に変更された)
 1d.帰属権利者が,第2次受託者(原告)に対し,信託の清算事務として,本件訴訟における使用料相当額の損害賠償請求権を行使すること,及び,訴訟を追行することを認めるとの意思を表明している場合には,著作権侵害に基づく損害賠償請求権は第2次受託者に帰属し,かつ,彼がこれを行使することができるとされた事例。 /知的財産権/著作権/民事訴訟/
参照条文: /t11.信託法:14条;56条;63条/
全 文 h220210tokyoD.html

最高裁判所 平成 22年 1月 29日 第2小法廷 判決 ( 平成19年(受)第2065号 )
事件名:  連帯保証債務履行請求・上告事件
要 旨
 連帯保証債務の履行請求が権利の濫用にあたるとされた事例。
 1.A社グループに属する会社の支店を法人化することにより設立されたM社の経営状況が悪化した後に,親会社の取締役Lの働きかけでM社の代表取締役になった被告が,Lの指示に従い,M社の資金繰りのために、A社グループに属する金融会社である原告からM社が借り受ける400万円の債務について連帯保証人になった場合に,原告の被告に対するその保証債務の履行請求は,M社が既に事業を停止している状況の下において,A社グループに属する各社がM社の事業活動から経営顧問契約等の各種契約に基づき顧問料等の名目で確実に収入を得ていた一方で,わずかの期間同社の代表取締役に就任したとはいえ,経営に関する裁量をほとんど与えられていない経営体制の下で,経験も浅く若年の単なる従業員に等しい立場にあった被告だけに,同社の事業活動による損失の負担を求めるものといわざるを得ず,被告が同社の代表取締役に就任した当時の同社の経営状況,就任の経緯,原告の同社に対する金員貸付けの条件,被告は本件保証契約の締結を拒むことが事実上困難な立場にあったことなどをも考慮すると,権利の濫用に当たり許されないものというべきであるとされた事例。
参照条文: /民法:1条3項/
全 文 h220129supreme.html

最高裁判所 平成 22年 1月 26日 第3小法廷 判決 ( 平成20年(受)第666号 )
事件名:  協力金請求・上告事件
要 旨
 マンションの管理組合である原告が,マンションの維持管理活動に関する居住組合員と不在組合員との間の不公平を是正するために,不在組合員の承諾を得ることなく,不在組合員にのみ月額2500円の「住民活動協力金」を課すように規約を変更して,不在組合員である被告に対して協力金の支払を請求した事案において,その規約の変更は,建物の区分所有等に関する法律31条1項後段にいう「一部の区分所有者の権利に特別の影響を及ぼすべきとき」に該当せず,不在組合員の承諾を要しないとされた事例。
 1.建物の区分所有等に関する法律66条が準用する法31条1項後段の「規約の設定,変更又は廃止が一部の団地建物所有者の権利に特別の影響を及ぼすべきとき」とは,規約の設定,変更等の必要性及び合理性とこれによって一部の団地建物所有者が受ける不利益とを比較衡量し,当該団地建物所有関係の実態に照らして,その不利益が一部の団地建物所有者の受忍すべき限度を超えると認められる場合をいう。
参照条文: /建物の区分所有等に関する法律:66条;31条1項/
全 文 h220126supreme2.html

最高裁判所 平成 22年 1月 26日 第3小法廷 判決 ( 平成20年(受)第2029号 )
事件名:  損害賠償請求・上告事件
要 旨
 入院中の80歳の患者がせん妄状態で興奮して、消灯後から深夜にかけて頻繁にナースコールを繰り返し,車いすで詰所に行っては看護師にオムツの交換を求め,更には詰所や病室で大声を出すなどした上,ベッドごと個室に移された後も興奮が収まらず,ベッドに起き上がろうとする行動を繰り返していて、歩行中に転倒したりベッドから転落したりして骨折等の重大な傷害を負う危険性が極めて高かったため、看護師がミトンを用いて患者の両上肢をベッドに拘束した場合に、その行為が診療契約上の義務に違反する違法な行為にも不法行為にも当たらないとされた事例。
参照条文: /民法:415条;709条/
全 文 h220126supreme.html

最高裁判所 平成 22年 1月 20日 大法廷 判決 ( 平成19年(行ツ)第260号 )
事件名:  財産管理を怠る事実の違法確認請求・上告事件
要 旨
 砂川市がその所有する土地を神社施設の敷地として無償で使用させていることは,憲法の定める政教分離原則に違反する行為であって,敷地の使用貸借契約を解除し同施設の撤去及び土地明渡しを請求しないことが違法に財産の管理を怠るものであるとして,市の住民らが,地方自治法242条の2第1項3号に基づき上記怠る事実の違法確認を求めた事案において,最高裁が,利用提供行為を違憲とした原審判断は正当であるが,利用提供行為の違憲性を解消するための他の手段の存否等について審理が尽くされていないとして,原判決を職権で破棄して事件を差し戻した事例。
 1.神社付近の住民らから構成される氏子集団が神社を管理運営している場合に,この氏子集団は,総代及び世話役各10名を置き,祭りの際には寄附を集め,その会計を町内会の会計とは別に管理しているが,組織についての規約等はなく,氏子の範囲を明確に特定することはできないから,権利能力なき社団と認めることはできないとされた事例(神社物件(祠や鳥居等)が氏子執団を包摂する町内会の所有に属すると認められた事例)。
 2.国公有地が無償で宗教的施設の敷地としての用に供されている状態が,信教の自由の保障の確保という制度の根本目的との関係で相当とされる限度を超えて憲法89条に違反するか否かを判断するに当たっては,当該宗教的施設の性格,当該土地が無償で当該施設の敷地としての用に供されるに至った経緯,当該無償提供の態様,これらに対する一般人の評価等,諸般の事情を考慮し,社会通念に照らして総合的に判断すべきである。
 2a.地域の集会場等である建物の一角に所在する祠とそれに連なる鳥居,地神宮が一体として神道の神社施設に当たるとされた事例。
 2b.神社付近の住民らで構成される氏子集団によって管理運営されている神社において行われている諸行事が,地域の伝統的行事として親睦などの意義を有するとしても,神道の方式にのっとって行われているその態様にかんがみると,宗教的な意義の希薄な,単なる世俗的行事にすぎないということはできないとされた事例。
 2c.宗教法人によって管理されていない神社物件を管理している氏子集団が,町内会に包摂される団体ではあるものの,町内会とは別に社会的に実在しているものと認められ,宗教的行事等を行うことを主たる目的としている宗教団体であって,寄附を集めて神社の祭事を行っており,憲法89条にいう「宗教上の組織若しくは団体」に当たるとされた事例。
 2d.神社物件の敷地として無償で貸与することを条件に市に寄付された土地を市がその条件に従って神社物件のために無償で提供している行為が,市と神社ないし神道とのかかわり合いが,我が国の社会的,文化的諸条件に照らし信教の自由の保障の確保という制度の根本目的との関係で相当とされる限度を超えるものとして,憲法89条の禁止する公の財産の利用提供に当たり,ひいては憲法20条1項後段の禁止する宗教団体に対する特権の付与にも該当するとされた事例。
 3.市が市有地から神社物件の撤去及び土地明渡請求をすることを怠る事実を原審が違法と判断する以上は,原審において,私有地の利用提供行為の違憲性を解消するための他の合理的で現実的な手段が存在するか否かについて適切に審理判断するか,当事者に対して釈明権を行使する必要があったというべきであり,原審が,この点につき何ら審理判断せず,上記釈明権を行使することもないまま,上記の怠る事実を違法と判断したことには,怠る事実の適否に関する審理を尽くさなかった結果,法令の解釈適用を誤ったか,釈明権の行使を怠った違法があるとされた事例。
参照条文: /憲法:20条;89条/民事訴訟法:149条1項;322条;325条2項/地方自治法:242-2条1項3号/
全 文 h220120supreme2.html

最高裁判所 平成 22年 1月 20日 大法廷 判決 ( 平成19年(行ツ)第334号 )
事件名:  財産管理を怠る事実の違法確認請求・上告事件
要 旨
 砂川市が神社の敷地となっている市有地を認可地縁団体である砂川市T町内会に無償で譲与したことは,憲法の定める政教分離原則に違反する無効な行為にあたらないとされた事例。
 1.砂川市が神社の敷地となっている市有地を砂川市T町内会に無償で譲与したことは,土地の財産的価値にのみ着目すれば,町内会に一方的に利益を提供するという側面を有しており,ひいては,地域住民の集団に対しても神社敷地の無償使用の継続を可能にするという便益を及ぼすとの評価はあり得るが、本件各土地は,昭和10年に教員住宅の敷地として寄附される前は,町内会の前身であるT各部落会が実質的に所有していたのであるから,同50年に教員住宅の敷地としての用途が廃止された以上,これを本件町内会に譲与することは,公用の廃止された普通財産を寄附者の包括承継人に譲与することを認める市の「財産の交換,譲与,無償貸付等に関する条例」(平成4年砂川市条例第20号)3条の趣旨にも適合すること等の事情を考慮し,社会通念に照らして総合的に判断すると,本件譲与は,市と本件神社ないし神道との間に,我が国の社会的,文化的諸条件に照らし,信教の自由の保障の確保という制度の根本目的との関係で相当とされる限度を超えるかかわり合いをもたらすものということはできず,憲法20条3項,89条に違反するものではないとされた事例。
参照条文: /地方自治法:260-2条/憲法:20条3項;89条/財産の交換,譲与,無償貸付等に関する条例(平成4年砂川市条例第20号):3条/
全 文 h220120supreme.html

最高裁判所 平成 22年 1月 19日 第3小法廷 判決 ( 平成21年(受)第96号 )
事件名:  不当利得返還請求・上告事件
要 旨
 不動産の共有者の一人(被告)が不動産の賃貸から生じた賃料を全額収受したため,他の共有者(原告)が不動利得の返還を請求した事案において,被告が,原告に帰属する賃料収入部分も含めて自己の不動産所得に係る収入金額に計上して所得税の確定申告をした結果同税及び市県民税を過大に支払ったことが事務管理に当たるとして,事務管理に基づく費用償還請求権との相殺を主張したが,事務管理に該当しないとして相殺が認められなかった事例。
 1.本来他人に帰属すべき収入を自己の収入として所得金額を計算したため税額を過大に申告した場合であっても,それにより当該他人が過大に申告された分の所得税の納税義務を負うわけではなく,また,過大な申告をした者が申告に係る所得税を全額納付したとしても,これによって当該他人が本来負うべき納税義務が消滅するものではない。
 1a.共有者の1人が共有不動産から生ずる賃料を全額自己の収入として不動産所得の金額を計算し,納付すべき所得税の額を過大に申告してこれを納付したとしても,過大に納付した分を含め,所得税の申告納付は自己の事務であるから,他人のために事務を管理したということはできず,事務管理は成立しないと解すべきである。
 1b. このことは,市県民税についても同様である。
参照条文: /民法:697条/所得税法:7条/
全 文 h220119supreme.html

東京高等裁判所 平成 21年 12月 25日 第12民事郤 判決 ( 平戍21年(ネ)第4 2 4 2号 )
事件名:  損害賠償請求・控訴事件
要 旨
 自然人である被告の特定が氏名と旧就業場所で足りるとされた事例(第一審の却下判決を控訴審が取り消して差し戻した例)。
 1.自然人である当事者は,氏名及び住所によって特定するのが通常であるが,氏名は,通称や芸名などでもよく,現住所が判明しないときは,居所又は最後の住所等によって特定することも許される。
 1a.就業場所は,自然人の職業生活上の本拠として当該自然人との結び付きの強い場所であるから,就業場所が客観的に特定されている限り,これによって自然人を特定することも許されるものと解するのが相当であり,旧就業場所についても同様であると解される。
参照条文: /民事訴訟法:133条/
全 文 h211225tokyoH.html

最高裁判所 平成 21年 12月 18日 第2小法廷 判決 ( 平成21年(受)第35号 )
事件名:  債務不存在確認等,遺言無効確認等請求・上告事件
要 旨
 遺産分割の方法の指定した遺言に基づき遺産の一部を相続により取得した共同相続人(X)が,他の共同相続人ら(Y1,Y2)から遺留分減殺請求を受けたため,Y1はXに対する遺留分減殺請求権を有しないことの確認を求める旨及びY2がXに対して有する遺留分減殺請求権は一定額を超えて存在しないことの確認を求める旨を訴状に記載して提起した各訴えにつき,確認の利益を欠くとして訴えを却下した原判決が破棄された事例。
 1.Y1はXに対する遺留分減殺請求権を有しないことの確認を求める旨の訴えは,これを合理的に解釈すれば,遺言による遺産分割の方法の指定はY1の遺留分を侵害するものではなく,遺留分減殺請求がされても,遺産分割の方法の指定によりXが取得した財産につき,Y1が持分権を取得することはないとして,その財産につきY1が持分権を有していないことの確認を求める趣旨に出るものであると理解することが可能であり,その趣旨の訴えであれば,確認の利益は認められる。
 1a.釈明権を行使すれば確認の利益の認められる訴えに変更が可能である場合に,釈明権を行使することなく確認の利益を欠くとして訴えを却下したことが違法であるとされた事例。
 2.一般に,遺贈につき遺留分権利者が遺留分減殺請求権を行使すると,遺贈は遺留分を侵害する限度で失効し,受遺者が取得した権利は上記の限度で当然に減殺請求をした遺留分権利者に帰属するが,この場合,受遺者は,遺留分権利者に対し同人に帰属した遺贈の目的物を返還すべき義務を負うものの,民法1041条の規定により減殺を受けるべき限度において遺贈の目的物の価額を弁償し,又はその履行の提供をすることにより,目的物の返還義務を免れることができる。
 2a.このことは,特定の遺産を特定の相続人に相続させる旨の遺言による遺産分割の方法の指定が遺留分減殺の対象となる場合においても,異ならない。
 2b.遺留分権利者が受遺者等(受遺者及び上記の特定の相続人)に対して遺留分減殺請求権を行使したが,いまだ価額弁償請求権を確定的に取得していない段階においては,受遺者等は,遺留分権利者に帰属した目的物の価額を弁償し,又はその履行の提供をすることを解除条件として,上記目的物の返還義務を負うものということができ,このような解除条件付きの義務の内容は,条件の内容を含めて現在の法律関係というに妨げなく,確認の対象としての適格に欠けるところはない。
 2c.価額弁償における価額算定の基準時は現実に弁償がされる時であるが,弁償額の確認の訴えに係る訴訟において,この時に最も接着した時点である事実審の口頭弁論終結の時を基準として,その額を確定することになっても,訴えの利益が否定されるものではない。
 2d.遺留分減殺請求権が一定額を超えて存在しないことの確認を求める旨の訴えは,民法1041条の規定に基づき現物の返還義務を免れるために支払うべき額が当該一定額であることの確認を求める趣旨をいうものであると解されるから,原告において上記の額が判決によって確定されたときはこれを速やかに支払う意思がある旨を表明していれば,特段の事情がない限り,この訴えには確認の利益があるというべきである。
参照条文: /民法:1031条;1041条/民事訴訟法:2編1章;149条/
全 文 h211218supreme5.html

最高裁判所 平成 21年 12月 18日 第2小法廷 判決 ( 平成21年(受)第629号 )
事件名:  損害賠償請求・上告事件
要 旨
 1.商品先物取引は,相場変動の大きい,リスクの高い取引であり,専門的な知識を有しない委託者には的確な投資判断を行うことが困難な取引であること,商品取引員が,委託者に対し,投資判断の材料となる情報を提供し,委託者が,情報を投資判断の材料として,商品取引員に対し,取引を委託するものであるのが一般的であることは,公知の事実である。
 1a.商品取引員が委託玉と自己玉とを通算した売りの取組高と買いの取組高とを均衡するように自己玉を建てることを繰り返す取引手法を用いている場合には,取引が決済されると,委託者全体の総益金が総損金より多いときには商品取引員に損失が生じ,委託者全体の総損金が総益金より多いときには商品取引員に利益が生ずる関係となるのであるから,この取引手法には,委託者全体の総損金が総益金より多くなるようにするために,商品取引員において,故意に,委託者に対し,投資判断を誤らせるような不適切な情報を提供する危険が内在することが明らかであり,商品取引員がこの取引手法を用いていることは,商品取引員が提供する情報一般の信用性に対する委託者の評価を低下させる可能性が高く,委託者の投資判断に無視することのできない影響を与えるものというべきである。
 2.少なくとも,特定の商品(商品取引所法2条4項)の先物取引について≪委託玉と自己玉とを通算した売りの取組高と買いの取組高とを均衡するように自己玉を建てることを繰り返す取引手法≫を用いている商品取引員が専門的な知識を有しない委託者から当該特定の商品の先物取引を受託しようとする場合には,その商品取引員の従業員は,信義則上,その取引を受託する前に,委託者に対し,その取引についてはこの取引手法を用いていること及びこの取引手法は商品取引員と委託者との間に利益相反関係が生ずる可能性の高いものであることを十分に説明すべき義務を負うものというべきである。 /差玉向かい/東京工業品取引所/白金/
参照条文: /民法:1条2項;709条;715条/
全 文 h211218supreme4.html

最高裁判所 平成 21年 12月 18日 第2小法廷 判決 ( 平成21年(受)第440号 )
事件名:  損害賠償請求本訴,同反訴・上告事件
要 旨
 美容室及び理容室を経営する被告に雇用されていた原告が,労働基準法37条3項に基づく深夜割増賃金等の支払を求めた事件において,労基法41条2号にいう「監督若しくは管理の地位にある者」(管理監督者)には,深夜割増賃金に関する規定は適用されないと解した原判決が破棄された事例。
 1.労基法37条3項は,使用者が原則として午後10時から午前5時までの間において労働させた場合においては,その時間の労働について所定の割増賃金を支払わなければならない旨を規定するが,同項は,労働が1日のうちのどのような時間帯に行われるかに着目して深夜労働に関し一定の規制をする点で,労働時間に関する労基法中の他の規定とはその趣旨目的を異にすると解される。
 1a.労基法41条2号の規定によって同法37条3項の適用が除外されることはなく,管理監督者に該当する労働者は同項に基づく深夜割増賃金を請求することができる。
参照条文: /労働基準法:37条3項;41条2号/
全 文 h211218supreme3.html

最高裁判所 平成 21年 12月 18日 第2小法廷 判決 ( 平成20年(受)第1240号 )
事件名:  地位確認等請求・上告事件
要 旨
 1.請負契約においては,請負人は注文者に対して仕事完成義務を負うが,請負人に雇用されている労働者に対する具体的な作業の指揮命令は専ら請負人にゆだねられている。
 1a.請負人による労働者に対する指揮命令がなく,注文者がその場屋内において労働者に直接具体的な指揮命令をして作業を行わせているような場合には,たとい請負人と注文者との間において請負契約という法形式が採られていたとしても,これを請負契約と評価することはできない。
 1b.上記の場合において,注文者と労働者との間に雇用契約が締結されていないのであれば,労働者と注文者と請負人との間の関係は,労働者派遣法2条1号にいう労働者派遣に該当すると解すべきである。
 1c.このような労働者派遣も,それが労働者派遣である以上は,職業安定法4条6項にいう労働者供給に該当する余地はないものというべきである。
 1d.労働者派遣法の趣旨及びその取締法規としての性質,さらには派遣労働者を保護する必要性等にかんがみれば,仮に労働者派遣法に違反する労働者派遣が行われた場合においても,特段の事情のない限り,そのことだけによっては派遣労働者と派遣元との間の雇用契約が無効になることはないと解すべきである。
 2.期間の定めのある雇用契約があたかも期間の定めのない契約と実質的に異ならない状態で存在している場合,又は,労働者においてその期間満了後も雇用関係が継続されるものと期待することに合理性が認められる場合には,当該雇用契約の雇止めは,客観的に合理的な理由を欠き社会通念上相当であると認められないときには許されない。
 2a.使用者と労働者との間の雇用契約が一度も更新されていない上,契約の更新を拒絶する旨の使用者の意図が雇用契約締結前から労働者及び労働組合に対しても明らかにされていた場合に,期間の定めのある雇用契約があたかも期間の定めのない契約と実質的に異ならない状態で存在していたとはいえないことはもとより,労働者においてその期間満了後も雇用関係が継続されるものと期待することに合理性が認められる場合にも当たらないから,雇用契約が雇止め(更新拒絶)により終了したと判断された事例。
 3.実質は派遣でありながら請負の形式がされていた場合に,注文者(派遣先会社)の指揮命令の下で1年以上にわたり労働に従事していた労働者が労働者派遣法違反を大阪労働局への申告したため,会社がその労働者を平成17年8月に直接雇用して,PDPの不良品のリペア作業を命じた場合に,その作業が使用者において平成14年3月以降行なわれていなかった作業であり,それをあえてその労働者のみに行わせたことからすれば,大阪労働局への申告に対する報復等の動機によって命じたものと推認するのが相当であるとされた事例。
 3a.労働者派遣法違反を大阪労働局への申告した労働者を雇止めにした使用者の行為が,上記申告に起因する不利益な取扱いと評価せざるを得ないから,上記行為が労働者に対する不法行為に当たるとされた事例。 /公益通報者に対する報復/請負偽装派遣/プラズマディスプレイパネル/
参照条文: /労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の就業条件の整備等に関する法律:2条1号;40-3条/職業安定法:44条/民法:632条;629条1項;709条/民事訴訟法:247条/
全 文 h211218supreme.html

最高裁判所 平成 21年 12月 18日 第2小法廷 判決 ( 平成21年(受)第233号 )
事件名:  損害賠償等請求・上告事件
要 旨
 会社法361条1項の規定により取締役の退職慰労金の額を株主総会の決議によって定めるべきであるが、従前、取締役会で定められた内規に従って算定される退職慰労金額を発行済株式総数の99%以上を有する代表取締役の決済により支払い、株主総会にはその計算書類の承認を求めるにとどまっていた会社において、会社が民事再生手続開始決定を受ける約10月前に退任した取締役の退職慰労金について、代表取締役が不支給の通告をしたにもかかわらず、弁護士を通じてなされた支払請求に応じて、代表取締役の決裁を経ることなく慰労金が支払われた場合に、再生手続開始後に会社が慰労金の支給は法律上の原因を欠くとしてその返還を請求し、原審がこれを認容したところ、上告審が被告から出されていた「返還請求は信義則等に反する」との抗弁について審理が尽くされていないとして破棄差戻しの裁判がなされた事例。 /信義誠実の原則/権利濫用の禁止/審理不尽/
参照条文: /会社法:361条1項/民法:1条2項;1条3項/
全 文 h211218supreme2.html

最高裁判所 平成 21年 12月 17日 第1小法廷 判決 ( 平成21年(行ヒ)第162号 )
事件名:  公金支出返還請求・上告事件
要 旨
 市長が土地開発公社から土地を買い取った行為について、財務会計法規上の義務違反がないとされた事例。
 宮津市が,丹後地区土地開発公社との間で,土地の先行取得の委託契約を締結し,これに基づいて公社が取得した土地の買取りのための売買契約を締結したところ,市の住民が,同土地は取得する必要のない土地であり,その取得価格も著しく高額であるから,委託契約は地方財政法等に違反して締結されたものであって,これに基づいてされた売買契約の締結も違法であると主張して,地方自治法(平成14年法律第4号による改正前のもの)242条の2第1項4号に基づき,市に代位して,売買契約締結時に市長の職にあった被告に対し,売買契約の代金に相当する額の損害賠償を求めた事案において、原審が、「委託契約は公序良俗に反して当然に無効であるとは言えないとしても著しく合理性を欠くものであり、被告が公社の理事長を兼務していたとの事情を考慮すれば、委託契約を解消することができる特殊な事情があったというべきであるから、それを解消することなく委託契約に基づき売買契約を締結したことは違法である」として、損害賠償請求を認容したが、上告審が、市が公社と締結した委託契約を解消することは実際上困難であったとして、原判決を破棄した事例。
参照条文: /地方自治法:242-2条1項4号/
全 文 h211217supreme4.html

最高裁判所 平成 21年 12月 17日 第1小法廷 判決 ( 平成20年(受)第1192号 )
事件名:  損害填補金請求・上告事件
要 旨
 交通事故の加害者が当て逃げをしたため、通勤途上の被害者が自動車損害賠償保障法72条1項により損害の填補を受ける場合に、後遺障害が残ったことにより取得した労災保険法所定の障害年金の額を控除するに際して、将来の給付分を含めて控除すべきであるとされた事例。
 1.自賠法73条1項は,被害者が他法令給付に当たる年金の受給権を有する場合には,政府は,当該受給権に基づき被害者が支給を受けることになる将来の給付分も含めて,その給付に相当する金額の限度で保障事業による損害のてん補をしない旨を定めたものと解するのが相当である。
 1a.したがって,被害者が他法令給付に当たる年金の受給権を有する場合において,政府が自賠法72条1項によりてん補すべき損害額は,支給を受けることが確定した年金の額を控除するのではなく,当該受給権に基づき被害者が支給を受けることになる将来の給付分も含めた年金の額を控除して,これを算定すべきである。
 1b.後遺障害が残ったことにより取得した障害年金の受給権に基づき被害者が支給を受けることになる将来の給付分を含めた障害年金の額は,上記受給権を取得した当時の年金額が平均余命期間支給されると仮定した場合の支給総額の現在額をもって算定するのが相当である。 /損益相殺/
参照条文: /自動車損害賠償保障法:72条1項;73条1項/
全 文 h211217supreme2.html

最高裁判所 平成 21年 12月 17日 第1小法廷 判決 ( 平成20年(行ヒ)第386号 )
事件名:  公文書非開示処分取消等請求・上告事件
要 旨
 品川区の住民が,政務調査費の使途を問題とする住民監査請求に係る監査に際し品川区監査委員が品川区議会における会派から任意に提出を受けた文書について,品川区情報公開・個人情報保護条例に基づき,情報公開実施機関に対してその公開を請求した場合に、本件文書に記録された情報は,条例8条6号ア(監査を困難にするおそれ)所定の非公開情報に当たるとされた事例。
 1.品川区政務調査費条例は,政務調査費の支出に使途制限違反があることが収支報告書等の記載から明らかにうかがわれるような場合を除き,監査委員を含め区の執行機関が,実際に行われた政務調査活動の具体的な目的や内容等に立ち入ってその使途制限適合性を審査することを予定していないと解される。
 1a.区議会の議員等が監査委員から説明等を求められた場合,政務調査活動の具体的な目的や内容等について逐一回答すべき義務を負っているとまでは解し難く,また,区議会の議員等がその回答をしない場合,その一事をもって,当該政務調査活動が適正に行われたものではないとの推定を及ぼすこともできないというべきである。
 2.政務調査活動が本来執行機関に対する監視機能を果たすための活動としての性格を帯びていることに照らすと,区議会の議員等がその具体的な目的や内容等を監査委員に任意に回答する場合,監査委員限りで当該情報が活用されるものと信頼し,監査委員においてもそのような保障の下にこれを入手するものと考えられ、仮に,そのような保障がなく、政務調査活動に関し具体的に回答したところが情報公開の対象となり得るとすれば,区議会の議員等において,監査委員にその回答をすることに慎重になり,あるいは協力を一律に控えるなどの対応をすることも想定され、そのような事態になれば,同種の住民監査請求がされた場合,正確な事実の把握が困難になるとともに,違法又は不当な行為の発見も困難になり,議員等の任意の協力の下に上記情報を入手して監査を実施した場合と比較して,監査事務の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあることは明らかであるから、本件文書に記録された情報は,条例8条6号ア所定の非公開情報に当たる。
参照条文: 品川区政務調査費条例:8条/
全 文 h211217supreme.html

最高裁判所 平成 21年 12月 10日 第1小法廷 判決 ( 平成20年(受)第284号 )
事件名:  教育債務履行等請求・上告事件
要 旨
 被告が設置する中学校又は高等学校に在籍していた生徒の親である原告らが,被告に対し,原告が,各学校の生徒を募集する際,学校案内や学校説明会等において,論語に依拠した道徳教育の実施を約束したにもかかわらず,子の入学後に同教育を廃止したことは,被告と原告らとの間で締結された在学契約上の債務不履行に当たり,また,被上告人らの学校選択の自由を侵害し,不法行為を構成するなどと主張して,債務不履行又は不法行為に基づく損害賠償等を求めたが,いずれの請求も棄却された事例。
 1.親の学校選択の自由については,その性質上,特定の学校の選択を強要されたり,これを妨害されたりするなど,学校を選択する際にその侵害が問題となり得るものであって,親が子を入学させる学校を選択する際に考慮した当該学校の教育内容や指導方法が子の入学後に変更されたとしても,学校が教育内容等の変更を予定しながら,生徒募集の際にそのことを秘して従来どおりの教育を行う旨説明,宣伝したなどの特段の事情がない限り,親の学校選択の自由が侵害されたものということはできない。(特段の事情の主張・立証がなかったとされた事例)
 2.(教育内容の決定についての裁量)
 学校教育における教育内容等の決定は,当該学校の教育理念,生徒の実情,物的設備・施設の設置状況,教師・職員の配置状況,財政事情等の各学校固有の事情のほか,学校教育に関する諸法令や学習指導要領との適合性,社会情勢等,諸般の事情に照らし,全体としての教育的効果や特定の教育内容等の実施の可能性,相当性,必要性等を総合考慮して行われるものであって,上記決定は,学校教育に関する諸法令や学習指導要領の下において,教育専門家であり当該学校の事情にも精通する学校設置者や教師の裁量にゆだねられるべきものと考えられる。
 2a.(教育内容の変更についての裁量)
 教育内容等については,上記諸般の事情の変化をも踏まえ,その教育的効果等の評価,検討が不断に行われるべきであり,従前の教育内容等に対する評価の変化に応じてこれを変更することについても,学校設置者や教師に裁量が認められるべきものと考えられる。
 3.学校による生徒募集の際に説明,宣伝された教育内容等の一部が変更され,これが実施されなくなったことが,親の期待,信頼を損なう違法なものとして不法行為を構成するのは,当該学校において生徒が受ける教育全体の中での当該教育内容等の位置付け,当該変更の程度,当該変更の必要性,合理性等の事情に照らし,当該変更が,学校設置者や教師に裁量が認められることを考慮してもなお,社会通念上是認することができないものと認められる場合に限られる。
 3a.被告が,各学校の生徒募集の際,道徳授業等の内容を具体的に説明し,そこで行われていた論語に依拠した道徳教育の教育的効果を強調し,積極的にこれを宣伝していたという事情を考慮しても,被告が同教育を廃止したことは,社会通念上是認することができないものであるとまではいえず,これが,原告らの期待,信頼を損なう違法なものとして不法行為を構成するとは認められないとされた事例。
 4.複数の請求を選択的に併合した原告の意思は,各請求のうち一方が認容されれば他方は撤回するが,一方が棄却されるときは他方についても審判を求めるというものであることは明らかであって,この意思は,全審級を通じて維持されているものというべきであるから,第一審が各請求を全部棄却し,控訴審が甲請求によりその一部を認容して残部を棄却し,乙請求についても,甲請求の認容額を超える部分を棄却し,これに対して被告のみが上告受理申立てをして,原告が不服申立てを一切していない場合に,上告審は,原判決中の原告の認容部分を破棄し,同部分に係る甲請求を棄却した第1審判決に対する控訴を棄却すべきものと判断して自判をするときは,乙請求を棄却した第1審判決中,甲請求の認容部分と選択的併合の関係にある部分についての原告の控訴の当否についても,審理判断することを要する。(当該部分の控訴も棄却された事例)
参照条文: /民事訴訟法:136条;320条;313条;304条/民法:415条;709条/
全 文 h211210supreme2.html

最高裁判所 平成 21年 12月 10日 第1小法廷 判決 ( 平成20年(行ヒ)第177号 )
事件名:  第二次納税義務告知処分取消請求・上告事件
要 旨
 遺産分割協議によりその相続分を超える財産を取得した者が,同分割協議によりその相続分に満たない財産を取得した共同相続人の滞納に係る国税につき国税徴収法39条に基づく第二次納税義務を負うとされた事例。
 1.遺産分割協議は,相続の開始によって共同相続人の共有となった相続財産について,その全部又は一部を,各相続人の単独所有とし,又は新たな共有関係に移行させることによって,相続財産の帰属を確定させるものであるから,国税の滞納者を含む共同相続人の間で成立した遺産分割協議が,滞納者である相続人にその相続分に満たない財産を取得させ,他の相続人にその相続分を超える財産を取得させるものであるときは,国税徴収法39条にいう第三者に利益を与える処分に当たり得るものと解するのが相当である。
 1a. 国税徴収法39条の規定によれば,滞納者に詐害の意思のあることは同条所定の第二次納税義務の成立要件ではない。
参照条文: /国税徴収法:39条/
全 文 h211210supreme.html

最高裁判所 平成 21年 12月 4日 第2小法廷 判決 ( 平成20年(受)第1535号 )
事件名:  遺留分減殺請求・上告事件
要 旨
 養親がその遺産の多くを長男に相続させることなどを内容とする公正証書遺言をしたことにより遺留分を侵害されたと主張する養子から遺留分減殺請求がなされた場合に、請求の前提としての養親子関係が否定されて、請求が棄却された事例。
 1.昭和22年法律第222号による改正前の民法730条2項は,「養親カ養家ヲ去リタルトキハ其者…ト養子トノ親族関係ハ之ニ因リテ止ム」と定めるところ,養親自身が婚姻又は養子縁組によってその家に入った者である場合に,その養親が養家を去ったときは,この規定の定める場合に該当すると解すべきである。
参照条文: /m31h9.民法:730条2項/
全 文 h211204supreme2.html

最高裁判所 平成 21年 12月 4日 第2小法廷 判決 ( 平成21年(行ヒ)第199号 )
事件名:  所得税更正処分取消等請求・上告事件
要 旨
 芦屋税務署長が,原告の所得税について,租税特別措置法40条の4第1項に基づき,シンガポール共和国において設立され原告がその発行済株式総数の6割を有する会社の未処分所得を,原告の雑所得の金額の計算上総収入金額に算入するとの更正及び過少申告加算税の賦課決定をしたため,原告が,措置法の上記規定は「所得に対する租税に関する二重課税の回避及び脱税の防止のための日本国政府とシンガポール共和国政府との間の協定」(日星租税条約)7条1項に違反するなどと主張して,これらの処分の取消しを求めたが,前記課税は,日星租税条約7条1項により禁止又は制限されるものではないとされた事例。
 1.日星租税条約7条1項は,いわゆる法的二重課税を禁止するにとどまるものであって,同項が禁止又は制限している行為は,一方の締約国の企業に対する他方の締約国の課税権の行使に限られる。
 1a.租税特別措置法40条の4第1項による課税が,あくまで我が国の居住者に対する課税権の行使として行われるものである以上,日星租税条約7条1項による禁止又は制限の対象に含まれない。
 2.租税特別措置法40条の4が規定するタックス・ヘイブン対策税制は,特定外国子会社等に所得を留保して我が国の税負担を免れることとなる居住者に対しては当該所得を当該居住者の所得に合算して課税することによって税負担の公平性を追求しつつ,特定外国子会社等の事業活動に経済合理性が認められる場合を適用除外とするなど,全体として合理性のある制度ということができ,上記のタックス・ヘイブン対策税制は,シンガポール共和国の課税権や同国との間の国際取引を不当に阻害し,ひいては日星租税条約の趣旨目的に反するようなものということもできない。
参照条文: /租税特別措置法:40-4条/所得に対する租税に関する二重課税の回避及び脱税の防止のための日本国政府とシンガポール共和国政府との間の協定=日星租税条約:7条1項/
全 文 h211204supreme3.html

最高裁判所 平成 21年 12月 3日 第1小法廷 判決 ( 平成20年(行ヒ)第43号 )
事件名:  法人税更正処分取消等請求・上告事件
要 旨
 損害保険業を営む内国法人である原告がチャネル諸島のガーンジーにおいてキャプティブ保険会社である子会社Aを設立し、ガーンジーの法人所得税の標準税率が20%であるにもかかわらず、≪国際課税資格を取得した法人の所得に対して適用される税率は、法人が0%を上回り30%までの間で申請し,税務当局により承認された税率とすることができる≫とのガーンジーの税制に従い、26%の税率で納税することにより、日本の租税特別措置法施行令39条の14第1項2号の適用を免れるようにしたため、課税庁が、平成11年から14年までの各事業年度の法人税について,子会社Aは租税特別措置法66条の6第1項に規定する「特定外国子会社等」に該当するとして,その未処分所得の金額のうち所定の金額を原告の所得の金額の計算上益金の額に算入して別紙処分目録記載のとおりの更正及び過少申告加算税の賦課決定をした場合に、原告が,子会社Aは特定外国子会社等に該当しないとしてこれらの処分の取消しを求め、認容された事例。
 1.ガーンジーにおいてAが国際課税法人として納付した税(日本から見て外国税)については,納付後,さかのぼって免税の申請をすることができるとはされておらず,また,これについて還付請求をすることができるともされていないから、Aが納付した外国税は,法人税法施行令141条3項1号に規定する税に該当するということはできないとされた事例。
 1a.Aが納付した外国税は,納付が猶予される期間を本件子会社が任意に定めることができるとはされていないから,法人税法施行令141条3項2号に規定する税にも該当しないとされた事例。
 1b.
 Aが納付した外国税は,その税率が納税者と税務当局との合意により決定されるなど,納税者の裁量が広いものではあるが,その税率の決定については飽くまで税務当局の承認が必要なものとされているのであって,納税者の選択した税率がそのまま適用税率になるものとされているわけではなく、また,ガーンジーにおいて,所定の要件を満たす団体が免税の申請をした場合に,常にそれが認められるという事実は確定されていないから、Aは,その任意の選択により税負担を免れることができたのにあえて国際課税資格による課税を選択したということもできず、むしろ,Aは,税率26%の本件外国税を納付することによって実質的にみても本件外国税に相当する税を現に負担しており,これを免れるすべはなくなっているものというべきであるから、Aが納付した外国税を法人税法施行令141条3項1号又は2号に規定する税に類する税ということもできないとされた事例。 /タックス・ヘイブン対策税制の適用の回避/
参照条文: /租税特別措置法:66-6条/租税特別措置法施行令:39-14条/法人税法施行令:141条/
全 文 h211203supreme.html

最高裁判所 平成 21年 11月 27日 第2小法廷 判決 ( 平成20年(受)第1340号 )
事件名:  建物収去土地明渡請求・上告事件
要 旨
 借地人が所有する建物の再築に際して、再築後の建物につき借地人の持分を1割、その妻の持分を2割、息子の持分を7割とすることを前提にして、400万円の承諾料を支払って地主の承諾を得たが、実際には借地人の持分をゼロ、妻の持分を3割、息子の持分を7割とする所有権保存登記がなされ、さらに息子とその妻との離婚に際して、息子の持分が財産分与としてその妻に譲渡された場合に、地主が、無断転貸を理由に借地契約を解除して建物の収去と借地の明渡し等を求めた事案において、これらの無断転貸につき賃貸人に対する背信行為と認めるに足りない特段の事情があるとされた事例。
参照条文: /民法:612条/
全 文 h211127supreme2.html

最高裁判所 平成 21年 11月 27日 第2小法廷 判決 ( 平成19年(受)第1056号 )
事件名:  損害賠償請求・上告事件
要 旨
 1.高知県の公金等取扱指定金融機関である銀行が,県の商工政策課長らの依頼に基づき,県が融資を行うまでのつなぎとして,経営状態の悪化した訴外会社に対して融資を行った場合に,追加融資を実行しなければ訴外会社が破綻,倒産する可能性は高く,県融資により回収を予定していたつなぎ融資金9億5000万円までもが回収不能となるおそれがあった状況の下で決裁関与取締役が追加融資の実行を決裁したことに合理性が認められるのは,つなぎ融資の融資金の回収原資をもたらす県融資が実行される相当程度の確実性があり,これが実行されるまで訴外会社の破綻,倒産を回避して,これを存続させるために追加融資を実行した方が,追加融資分それ自体が回収不能となる危険性を考慮しても,全体の回収不能額を小さくすることができると判断すること(回収見込判断)に合理性が認められる場合に限られる。
 1a.追加融資の一部について回収見込判断の合理性が肯定され,一部について否定された事例。
 2.会社(銀行)の取締役が善管注意義務に違反した融資を行ったことを理由とする会社の損害賠償請求権を株主が代位行使する訴訟(株主代表訴訟)において,会社が被告である取締役側に補助参加した事例。 /役員責任追及訴訟/
参照条文: /民事訴訟法:42条/会社法:423条;847条;849条/
全 文 h211127supreme3.html

最高裁判所 平成 21年 11月 27日 第2小法廷 判決 ( 平成19年(受)第1503号 )
事件名:  損害賠償等請求・上告事件
要 旨
 農業協同組合である原告が,その監事であった被告に対し,代表理事が資金調達のめどが立たない状況の下で虚偽の事実を述べて堆肥センターの建設事業を進めたことにつき,被告による監査に忠実義務違反があったなどと主張して,農業協同組合法(平成17年法律第87号による改正前のもの)39条2項,33条2項に基づく損害賠償の一部を請求し、認容された事例。
 1.農業協同組合の監事が理事長の行為を調査して確認する義務を怠ったとされた事例。
 2.農業協同組合の資金を投じて行われた事業が中止されたことにより投下資金及び事業の清算のための費用に相当する額の損害が生じた場合に、この損害と農業協同組合の監事が任務を怠ったこととの間に相当因果関係があるとされた事例。 /善管注意義務違反/監査/
参照条文: /農業協同組合法:39条;33条/
全 文 h211127supreme.html

最高裁判所 平成 21年 11月 26日 第1小法廷 判決 ( 平成21年(行ヒ)第75号 )
事件名:  横浜市立保育園廃止処分取消請求・上告事件
要 旨
 横浜市が設置する保育所を廃止する条例の制定について,その取消を求める訴訟が入所中の児童の又はその保護者から提起された場合に,この条例の制定行為は抗告訴訟の対象となる行政処分に当るが,現時点においては,原告らに係る保育の実施期間がすべて満了しているから,その取消しを求める訴えの利益は失われたとして,訴えが却下された事例。
 1.平成9年法律第74号による児童福祉法の改正が,市町村による要保育児童の原則的受入れの仕組みを採用したのは,女性の社会進出や就労形態の多様化に伴って,乳児保育や保育時間の延長を始めとする多様なサービスの提供が必要となった状況を踏まえ,その保育所の受入れ能力がある限り,希望どおりの入所を図らなければならないこととして,保護者の選択を制度上保障したものと解される。
 1a.特定の保育所で現に保育を受けている児童及びその保護者は,保育の実施期間が満了するまでの間は当該保育所における保育を受けることを期待し得る法的地位を有する。
 2.条例の制定は,普通地方公共団体の議会が行う立法作用に属するから,一般的には,抗告訴訟の対象となる行政処分に当たるものでない。
 2a.横浜市保育所条例の一部を改正する条例(平成15年横浜市条例第62号)は,市立保育所の民営化のために,一部の市立保育所の廃止のみを内容とするものであって,他に行政庁の処分を待つことなく,その施行により保育所廃止の効果を発生させ,保育所に現に入所中の児童及びその保護者という限られた特定の者らに対して,直接,保育所において保育を受けることを期待し得る法的地位を奪う結果を生じさせるものであるから,その制定行為は,行政庁の処分と実質的に同視し得るものとして,抗告訴訟の対象になるとされた事例。
参照条文: /行政事件訴訟法:3条;9条/
全 文 h211126supreme.html

東京高等裁判所 平成 21年 11月 26日 第5民事部 決定 ( 平成21年(ラ)第1698号 )
事件名:  売却許可決定に対する執行抗告事件
要 旨
 1.入札書が封入されている封筒(内封筒)に開札期日が記載されている場合には,同時に提出される入札保証金振込証明書等の事件番号の記載と異なる事件番号が当該封筒に記載されているときでも,執行官は,当該封筒を開封の上,封入された入札書自体の効力を判断すべきであって,およそ当該封筒を開封することなく,当該入札を無効と判断することは許されない。
 1a.開札期日が記載されている内封筒を執行官が開封しなかった場合には、その売却手続には重大な誤りがあり,民事執行法188条・71条7号の売却不許可事由があるというべきである。
 2. 執行官により違法に入札に加えられなかった買受申出人は,執行官が自己の入札を有効と判断していたならば自己が最高価買受人となり,自己に対する売却許可決定がされるべきであったと主張するときは,他の買受申出人を最高価買受人に定めた執行官の違法な手続を是認した原決定により自己の権利が害されることを主張する者に該当し,他の者への売却許可決定に対して執行抗告をすることができる。
参照条文: /民事執行法:188条;71条7号;74条/民事執行規則:174条1項;49条;41条3項;47条/
全 文 h211126tokyoH.html

最高裁判所 平成 21年 11月 18日 大法廷 判決 ( 平成21年(行ヒ)第83号 )
事件名:  解職請求署名簿無効決定異議申立棄却決定取消請求・上告事件
要 旨
 東洋町選挙管理委員会が,町議会議員に係る解職請求者署名簿の署名について,解職請求代表者に非常勤の公務員である農業委員会委員が含まれているとして,そのすべてを無効とする旨の決定をした場合に,議員の解職請求において請求代表者に農業委員会委員が含まれていることのみを理由として当該解職請求者署名簿の署名の効力を否定することは許されないとされた事例。
 1.地方自治法85条1項は,専ら解職の投票に関する規定であり,これに基づき政令で定めることができるのもその範囲に限られるものであって,解職の請求についてまで政令で規定することを許容するものということはできない。
 1a.地方自治法施行令115条,113条,108条2項,109条の規定は,地自法85条1項に基づき公選法89条1項本文を議員の解職請求代表者の資格について準用し,公務員について解職請求代表者となることを禁止しているが,これは,地自法85条1項に基づく政令の定めとして許される範囲を超えたものであって,その資格制限が請求手続にまで及ぼされる限りで無効と解するのが相当である。
参照条文: //地方自治法:85条/地方自治法施行令:85条1項;113条;108条2項;109条;115条/公職選挙法:89条/
全 文 h211118supreme.html

東京地方裁判所 平成 21年 11月 10日 民事第26部 判決 ( 平成21年(ワ)第10775号 )
事件名:  預金払戻請求事件
要 旨
 A銀行の債務者が再生手続開始申立ての日にB銀行にある自己の預金口座から多額の資金をA銀行にある自己の預金口座に振り込み、Aが振込金の一部を債務者に対する貸金債権の利息の弁済に充当し、残りを元本債権と相殺した場合に、その弁済充当及び相殺が民事再生法93条1項2号及び3号の規定に違反せず、有効であるとされた事例。
 1.A銀行の債務者がB銀行にある自己の預金口座からA銀行にある自己の預金口座に多額の資金を振り込んだ動機が、他の債権者からの差押えを回避する目的であった場合に、その振込みは債務者により一方的に行われたものであり、A銀行が債務者に働きかけを行うなどの何らかの関与をしたことをうかがわせる証拠は一切在在しないから、A銀行が預金払戻債務を負担するに当たり、「専ら再生債権をもってする相殺に供する目的」を有していたと認める余地はないとされた事例。
 2.債務者(サンライズファイナンス株式会社)の親会社の親会社(米国法人であるリーマン・ブラザーズ・ホールディングス)がアメリカ連邦破産法第11章の適用を申請し、親会社(日本法人であるリーマン・ブラザーズ証券株式会社)が再生手続開始の申立てをしたこと自体は、別の法人である債務者が自身の資力欠乏のため債務の支払をすることができない旨を外部に表示する行為(支払停止)に当たるものでない。
 2a. 債務者の親会社等が破綻した場合に、債務者が積極的に支払可能である旨を外部に表明しなかったとの不作為が、支払をすることができない旨を黙示に表示する行為に当たるというためには、少なくとも親会社等からの支援がなければ債務者が破綻必至となる状況にあったとか,親会社等の破綻が明らかになった時点において親会社のみならずその子会社である債務者も支払不能状態に陥ることが債務者と債権者の共通の認識となっていたことを要する。(共通認識になっていたと認められなかった事例)
 2b.再生債務者が再生手続開始申立ての前日にとった翌日以降の利息支払のキャンセル措置をもって、資力欠乏のため債務の支払をすることができない旨を外部に表示する行為(支払停止)ということはできないとされた事例。 /民事再生/
参照条文: /民事再生法:93条/
全 文 h211110tokyoD.html

最高裁判所 平成 21年 10月 29日 第1小法廷 判決 ( 平成20年(行ヒ)第91号 )
事件名:  法人税更正処分取消等請求・上告事件
要 旨
 日本の課税庁が,日本法人である原告の法人税について,租税特別措置法(平成12年法律第97号改正前)66条の6第1項に基づき,シンガポール共和国において設立された子会社の未処分所得を原告の所得金額の計算上その益金の額に算入する更正及び過少申告加算税賦課決定をした場合に,租税特別措置法の当該規定が日星租税条約7条1項の規定に違反しないとされた事例。
 1.日星租税条約7条1項は,一方の締約国(A国)の企業の利得に対して他方の締約国(B国)が課税するためには,当該企業がB国において恒久的施設を通じて事業を行っていることが必要であるとし(同項前段),かつ,B国による当該企業に対する課税が可能な場合であっても,その対象を当該恒久的施設に帰属する利得に限定することとしている(同項後段)のである。
 1a.日星租税条約7条1項は,一方の締約国の企業の利得に対しては,他方の締約国は,自国の内国法人に対する課税という形であっても,恒久的施設がない限り一切課税権を行使することはできないことを規定したものではない。
 1b.租税特別措置法66条の6第1項の規定は,内国法人が,法人の所得等に対する租税の負担がないか又は極端に低い国若しくは地域(タックス・ヘイブン)に子会社を設立して経済活動を行い,当該子会社に所得を留保することによって,我が国における租税の負担を回避しようとする事例が生ずるようになったことから,このような事例に対処して税負担の実質的な公平を図ることを目的として,一定の要件を満たす外国会社を特定外国子会社等と規定し,その課税対象留保金額を内国法人の所得の計算上益金の額に算入することとしたものである。
 2.租税特別措置法66条の6第1項・第3項・66条の7第1項等から成る我が国のタックス・ヘイブン対策税制は,特定外国子会社等に所得を留保して我が国の税負担を免れることとなる内国法人に対しては当該所得を当該内国法人の所得に合算して課税することによって税負担の公平性を追求しつつ,特定外国子会社等の事業活動に経済合理性が認められる場合を適用除外とし,かつ,それが適用される場合であっても所定の方法による外国法人税額の控除を認めるなど,全体として合理性のある制度ということができるから,我が国のタックス・ヘイブン対策税制は,シンガポールの課税権や同国との間の国際取引を不当に阻害し,ひいては日星租税条約の趣旨目的に反するようなものということはできない。
参照条文: /租税特別措置法(平成12年法律97号改正前):66-6条;66-7条/所得に対する租税に関する二重課税の回避及び脱税の防止のための日本国政府とシンガポール共和国政府との間の協定(日星租税条約):7条/
全 文 h211029supreme.html

最高裁判所 平成 21年 10月 23日 第2小法廷 判決 ( 平成20年(受)第1043号 )
事件名:  求償金請求・上告事件
要 旨
 1.市町村が設置する中学校の教諭がその職務を行うについて故意又は過失によって違法に生徒に損害を与えた場合において,当該教諭の給料その他の給与を負担する都道府県が国家賠償法1条1項,3条1項に従い上記生徒に対して損害を賠償したときは,当該都道府県は,同条2項に基づき,賠償した損害の全額を当該中学校を設置する市町村に対して求償することができる。
 1a.市町村が設置する中学校の教諭がその職務を行うについて故意又は過失によって違法に生徒に与えた損害を賠償するための費用は,地方財政法9条ただし書所定の経費には該当せず,上記損害を賠償するための費用については,法令上,当該中学校を設置する市町村がその全額を負担すべきものである。
参照条文: /国家賠償法:3条2項/地方財政法:9条/
全 文 h211023supreme.html

最高裁判所 平成 21年 10月 23日 第2小法廷 判決 ( 平成20年(受)第1427号 )
事件名:  謝罪広告等請求本訴,慰謝料請求反訴・上告事件
要 旨
 施設(特別養護老人ホーム)の職員が入所者に対して虐待行為をした疑いがあるとして,平成16年6月8日に札幌市が立入調査をし,これを受けて施設においても内部調査が行われたが,暴行をおこなったと複数の者から名指しされている職員がこれを全面的に否定しており,また入所者の身体に暴行の痕跡があったとの確たる記録もなく,後に公表された札幌市の調査結果においても,個別の虐待事例については証拠等により特定するには至らなかったとされた場合に,施設職員である被告らが提供した虐待行為等に関する情報に基づく新聞記事により原告(施設を設置・経営する社会福祉法人)の信用及び名誉が損なわれたとして,原告が被告らに対して損害賠償を求める訴えを提起したことが不法行為に該当するとは言えないとされた事例。
 1.法的紛争の当事者が当該紛争の終局的解決を裁判所に求め得ることは,法治国家の根幹にかかわる重要な事柄であるから,訴えの提起が不法行為を構成するか否かを判断するに当たっては,いやしくも裁判制度の利用を不当に制限する結果とならないよう慎重な配慮が必要とされる。
 1a.法的紛争の当事者が紛争の解決を求めて訴えを提起することは,原則として正当な行為であり,訴えの提起が相手方に対する違法な行為といえるのは,当該訴訟において提訴者の主張した権利又は法律関係が事実的,法律的根拠を欠くものである上,提訴者がそのことを知りながら又は通常人であれば容易にそのことを知り得たといえるのにあえて訴えを提起したなど,訴えの提起が裁判制度の趣旨目的に照らして著しく相当性を欠くと認められるときに限られるものと解するのが相当である。
 1b.報道により信用又は名誉が損なわれたとして救済を求める場合,訴えの提起は,紛争解決のための数少ない手段の一つであるから,報道の自由等に配慮する必要があることは当然としても,訴えの提起が不法行為を構成するか否かを判断するに当たっては,慎重な配慮をもって臨むべきである。
 2.原告が,本訴により主張する権利又は法律関係が事実的,法律的根拠を欠くものであることを知りながら又は通常人であれば容易にそのことを知り得たのにあえて本訴を提起したとまでは認められず,本訴の提起が被告らに対する計画的な嫌がらせ行為として組織的に行われたものともいえないから,本訴の提起は,いまだ裁判制度の趣旨目的に照らして著しく相当性を欠くものとはいえず,被告らに対する違法な行為とはいえないとされた事例。 /不当提訴/
参照条文: /民法:709条/民事訴訟法:2条;133条/憲法:32条/
全 文 h211023supreme2.html

最高裁判所 平成 21年 10月 16日 第2小法廷 判決 ( 平成20年(受)第6号 )
事件名:  解雇無効確認等請求・上告事件
要 旨
 被告(アメリカ合衆国ジョージア州港湾局)の日本における事務所の職員として日本において雇用されていた原告が,被告のした解雇が無効であると主張して,被告に対し雇用契約上の権利を有する地位にあることの確認及び解雇後の賃金の支払を求めた事件について,被告が日本の民事裁判権から免除されるとして訴えを却下した原判決が破棄されて差し戻された事例。
 1.外国国家は,その主権的行為については,我が国の民事裁判権から免除され得る。
 1a.連邦国家である米国の州は,外国国家と同様に,その主権的行為については我が国の民事裁判権から免除され得る。
 2.米国の州の私法的ないし業務管理的な行為については,我が国による民事裁判権の行使がその主権的な権能を侵害するおそれがあるなど特段の事情がない限り,我が国の民事裁判権から免除されない。
 2a.被告(米国の州の港湾局)と原告(日本において雇用された者)との間の雇用関係について,原告は被告の極東代表部の代表者との間で口頭でのやり取りのみに基づき現地職員として雇用されたものであり,極東代表部には日本の厚生年金保険,健康保険,雇用保険及び労働者災害補償保険が適用され,その業務内容も,日本において被告の港湾施設を宣伝し,その利用の促進を図ることであって,被告による主権的な権能の行使と関係するものとはいえない等の事情を総合的に考慮すると,この雇用関係は私法的ないし業務管理的なものである,とされた事例。
 2b.被告(米国の州の港湾局)による原告(日本において雇用された者)の解雇が,被告の極東代表部を財政上の理由により閉鎖することに伴うものであり,私法的ないし業務管理的な行為に当たるとされた事例。
参照条文: /主権免除法.9条/
全 文 h211016supreme.html

大阪高等裁判所 平成 21年 10月 16日 第1民事部 判決 ( 平成21年(ネ)第924号 )
事件名:  求償債権等請求・控訴事件
要 旨
 会社について破産手続が開始され,従業員の給料債権が破産法149条1項により財団債権となる場合に,破産会社からの委託に基づき破産手続開始前に給料債権(原債権)を弁済することによりこれを代位取得した者は,求償権が破産債権であるから,原債権を財団債権として行使することはできないとされた事例。
 1.原債権によって確保されるべき求償権が破産債権(破産法2条5項)にすぎず,破産手続によらなければ行使することができない権利である場合には,求償権に対し附従性を有する原債権についても,求償権の限度でのみ効力を認めれば足りることとなるから,第三者が弁済による代位によって取得した原債権たる労働債権は財団債権ではなく,一般の破産債権として取り扱われるものと解するのが相当である。
 2. 破産に瀕した新聞販売会社が日々の宅配義務を「新聞の信用」の維持の上で最重要と考え,その継続のために従業員に対する前月分の給料を速やかに支払うことが必要であると判断し,破産手続開始申立て後・開始決定前に取引先に依頼して,給与の立替払をしてもらった場合に,その立替金償還請求権が委任契約又準委任契約の費用償還請求権と認定され,破産債権に当たるとされた事例。
参照条文: /民法:499条;500条;501条;650条/破産法:149条1項/
全 文 h211016osakaH.html

最高裁判所 平成 21年 10月 15日 第1小法廷 判決 ( 平成20年(行ヒ)第247号 )
事件名:  場外車券発売施設設置許可処分取消請求・上告事件
要 旨
 経済産業大臣が訴外人に対し自転車競技法に基づき場外車券発売施設「サテライト大阪」の設置の許可をしたところ,施設の周辺において病院等を開設するなどして事業を営み又は居住する原告らが,本件許可は場外車券発売施設の設置許可要件を満たさない違法なものであるなどと主張して,被告に対しその取消しを求めた事案において、第1審が原告適格を否定したのに対し、原審が≪自転車競技法及び自転車競技法施行規則は、場外施設の敷地の周辺から1000m以内の地域において居住し又は事業を営む住民に対し,違法な場外施設の設置許可に起因する善良な風俗及び生活環境に対する著しい被害を受けないという具体的利益を保護したものと解するのが相当である≫として原告らの原告適格を肯定したところ、上告審が、一部の原告の原告適格を否定し、一部の原告について原告適格を肯定する余地があるが審理不十分であるとして、後者に係る部分について原判決を破棄して事件を第1審に差し戻した事例。
 1.自転車競技法施行規則(平成18年経済産業省令第126号による改正前)15条1項1号の規定する位置基準は、一般的公益を保護する趣旨に加えて,業務上の支障が具体的に生ずるおそれのある医療施設等の開設者において,健全で静穏な環境の下で円滑に業務を行うことのできる利益を,個々の開設者の個別的利益として保護する趣旨をも含む規定であるというべきであるから,当該場外施設の設置,運営に伴い著しい業務上の支障が生ずるおそれがあると位置的に認められる区域に医療施設等を開設する者は,位置基準を根拠として当該場外施設の設置許可の取消しを求める原告適格を有する。
 1a.この見地から,当該医療施設等の開設者が原告適格を有するか否かを判断するに当たっては,場外施設が設置,運営された場合にその規模,周辺の交通等の地理的状況等から合理的に予測される来場者の流れや滞留の状況等を考慮して,当該医療施設等が上記のような区域に所在しているか否かを,当該場外施設と当該医療施設等との距離や位置関係を中心として社会通念に照らし合理的に判断すべきである。
 1b.場外施設の設置,運営が周辺の医療施設等に対して及ぼす影響はその周辺の地理的状況等に応じて一様ではないから,地理的状況等を一切問題とすることなく1000m以内の地域にある医療施設等設置者すべてに一律に原告適格が認められるとすることはできない。
 1c.場外車券発売施設の敷地の周辺から約800m離れた場所に医療施設を開設する者について、医療施設が場外車券発売施設の設置,運営により保健衛生上著しい支障を来すおそれがあると位置的に認められる区域内に所在しているとは認められないとして、位置基準を根拠として場外車券発売施設の設置許可の取消しを求める原告適格を有しないとされた事例。
 1d.場外車券発売施設の敷地の周辺から約120mないし200m離れた場所に医療施設を開設する者について,前記(1a)の考慮要素を勘案することなく原告適格を有するか否かを的確に判断することは困難というべきであるとされた事例。
 2.自転車競技法施行規則15条1項4号の定める周辺環境調和基準は、場外施設の規模,構造及び設備並びにこれらの配置が周辺環境と調和したものであることをその設置許可要件の一つとして定めるものであるが、そこから,場外施設の周辺に居住する者等の具体的利益を個々人の個別的利益として保護する趣旨を読み取ることは困難といわざるを得ず、周辺環境調和基準を根拠として本件許可の取消しを求める原告適格を有するということはできない。
 3.行政処分取消訴訟の控訴審判決の言渡し前に原告の1人が死亡し、訴訟承継の余地がないために、上告審が、職権判断により、原判決を破棄して訴訟の終了を宣言した事例。
参照条文: /自転車競技法(平成19年法律第82号による改正前):4条2項/自転車競技法施行規則(平成18年経済産業省令第126号による改正前):15条/
全 文 h211015supreme.html

最高裁判所 平成 21年 10月 8日 第1小法廷 判決 ( 平成20年(受)第889号 )
事件名:  著作権侵害差止等請求・上告事件
要 旨
 1.著作者が自然人である著作物の旧法(昭和45年法律第48号による改正前の旧著作権法)による著作権の存続期間については,当該自然人が著作者である旨がその実名をもって表示され,当該著作物が公表された場合には,それにより当該著作者の死亡の時点を把握することができる以上,仮に団体の著作名義の表示があったとしても,旧法6条ではなく旧法3条が適用され,上記時点を基準に定められると解するのが相当である。
 1a.自然人であるチャップリンを著作者とする独創性を有する著作物である複数の映画について,各映画には,それぞれチャップリンの原作に基づき同人が監督等をしたことが表示されているから,各映画は,自然人であるチャップリンが著作者である旨が実名をもって表示されて公表されたものとして,旧法(昭和45年法律第48号による改正前の旧著作権法)による著作権の存続期間については,旧法6条ではなく,旧法3条1項が適用されるというべきであり,団体を著作者とする旨の登録がされていることや映画の映像上団体が著作権者である旨が表示されていることは,上記結論を左右しないとされた事例。
参照条文: /著作権法(昭和45年法律第48号による改正前のもの):3条1項;6条/
全 文 h211008supreme.html

最高裁判所 平成 21年 10月 1日 平成21年(受)第540号 判決 ( 平成21年(受)第540号 )
事件名:  保険金請求・上告事件
要 旨
 1.簡易生命保険特約約款の別表は,手術保険金の支払対象となる手術として「その他の子宮観血手術(人工妊娠中絶術を除く。)」を掲げるところ,ここにいう「子宮観血手術」は,切開,切除の操作によるものか否かにかかわりなく,子宮に関する手術のうち一般に出血を伴う手術を指すと解するのが相当である。
 1a.流産後に子宮内容除去術を行うに際しては,子宮壁と胎盤とをつなぐ血管を切断したり,子宮壁に損傷が生じたりして,一般に出血を伴うというのであるから,子宮内容除去術は,別表において手術保険金の支払対象外と明示されている人工妊娠中絶術を除き,別表にいう「子宮観血手術」に該当するとされた事例。 /契約の解釈/
参照条文: /民法:1編5章/
全 文 h211001supreme.html

最高裁判所 平成 21年 9月 30日 大法廷 判決 ( 平成20年(行ツ)第209号 )
事件名:  選挙無効請求・上告事件
要 旨
 平成19年7月29日施行の参議院議員通常選挙について,選挙当時の公職選挙法14条,別表第3の参議院(選挙区選出)議員の定数配分規定(選挙区間における議員1人当たりの選挙人数の最大較差は1対4.86)が憲法に違反するに至っていたということはできないとされた事例。
 1.憲法は,選挙権の内容の平等,換言すれば,議員の選出における各選挙人の投票の有する影響力の平等,すなわち投票価値の平等を要求していると解される。
 1a.しかしながら,憲法は,どのような選挙制度が国民の利害や意見を公正かつ効果的に国政に反映させることになるのかの決定を国会の裁量にゆだねているのであるから,投票価値の平等は,選挙制度の仕組みを決定する唯一,絶対の基準となるものではなく,参議院の独自性など,国会が正当に考慮することができる他の政策的目的ないし理由との関連において調和的に実現されるべきものであるから,国会が具体的に定めたところがその裁量権の行使として合理性を是認し得るものである限り,それによって投票価値の平等が一定の限度で譲歩を求められることになっても,憲法に違反するとはいえない。
 1b.現行の参議院議員の選挙制度の仕組みは,憲法が二院制を採用し参議院の実質的内容ないし機能に独特の要素を持たせようとしたこと,都道府県が歴史的にも政治的,経済的,社会的にも独自の意義と実体を有し一つの政治的まとまりを有する単位としてとらえ得ること,憲法46条が参議院議員については3年ごとにその半数を改選すべきものとしていること等に照らし,相応の合理性を有するものであり,国会の有する裁量権の合理的な行使の範囲を超えているとはいえない。
 1c.社会的,経済的変化の激しい時代にあって不断に生ずる人口の変動につき,それをどのような形で選挙制度の仕組みに反映させるかなどの問題は,複雑かつ高度に政策的な考慮と判断を要するものであって,その決定は,基本的に国会の裁量にゆだねられているものであるが,人口の変動の結果,投票価値の著しい不平等状態が生じ,かつ,それが相当期間継続しているにもかかわらずこれを是正する措置を講じないことが,国会の裁量権の限界を超えると判断される場合には,当該議員定数配分規定が憲法に違反するに至るものと解するのが相当である。 [意見から:事情判決/一部認容/]
参照条文: /公職選挙法:144条;別表第3/憲法:14条;15条;42条;43条;44条;46条;47条/
全 文 h210930supreme2.html

最高裁判所 平成 21年 9月 30日 第2小法廷 決定 ( 平成20年(ク)第1193号 )
事件名:  遺産分割申立て事件の審判に対する抗告棄却決定に対する特別抗告事件
要 旨
 1.非嫡出子の相続分を嫡出子の相続分の2分の1と定めた民法900条4号ただし書前段の規定は、憲法14条1項に違反するものではない。 /法の下の平等/平等原則/差別/法律婚主義/ [意見から:/憲法適合性の判断基準時/法律婚の尊重/家族観の変化/国際連合・自由権規約委員会/違憲判断の効力の遡及/再審事由/]
参照条文: /憲法:14条1項;24条2項/民法:900条4号/
全 文 h210930supreme.html

最高裁判所 平成 21年 9月 29日 第2小法廷 決定 ( 平成21年(し)第302号 )
事件名:  検察官がした刑事確定訴訟記録の閲覧申出一部不許可処分に対する準抗告棄却決定に対する特別抗告事件
要 旨
 1.再審請求人により選任された弁護人が,再審請求のための記録確認を目的として,当該再審請求がされた刑事被告事件に係る保管記録の閲覧を請求した場合には,同弁護人は,法4条2項ただし書にいう「閲覧につき正当な理由があると認められる者」に該当する。
参照条文: /刑事確定訴訟記録法:4条2項/
全 文 h210929supreme91.html

最高裁判所 平成 21年 9月 28日 第3小法廷 決定 ( 平成19年(あ)第798号 )
事件名:  国際的な協力の下に規制薬物に係る不正行為を助長する行為等の防止を図るための麻薬及び向精神薬取締法等の特例等に関する法律違反,覚せい剤取締法違反被告事件(上告事件)
要 旨
 違法な捜査(エックス線検査)により得られた情報に基づき取得された捜索許可状に基づく捜査において発見された証拠(覚せい剤等)の証拠能力が肯定された事例。
 1.荷送人の依頼に基づき宅配便業者の運送過程下にある荷物について,捜査機関が,捜査目的を達成するため,荷送人や荷受人の承諾を得ることなく,これに外部からエックス線を照射して内容物の射影を観察すること(エックス線検査)は,その射影によって荷物の内容物の形状や材質をうかがい知ることができる上,内容物によってはその品目等を相当程度具体的に特定することも可能であって,荷送人や荷受人の内容物に対するプライバシー等を大きく侵害するものであるから,検証としての性質を有する強制処分に当たり,検証許可状の発付を得ることが可能だったにもかかわらず検証許可状によることなくこれを行ったことは,違法であるとされた事例。
 2.エックス線検査が行われた当時,本件会社関係者に対する宅配便を利用した覚せい剤譲受け事犯の嫌疑が高まっており,更に事案を解明するためには本件エックス線検査を行う実質的必要性があったこと,警察官らは,荷物そのものを現実に占有し管理している宅配便業者の承諾を得た上で本件エックス線検査を実施し,その際,検査の対象を限定する配慮もしていたのであって,令状主義に関する諸規定を潜脱する意図があったとはいえないこと,本件覚せい剤等は,司法審査を経て発付された各捜索差押許可状に基づく捜索において発見されたものであり,その発付に当たっては,本件エックス線検査の結果以外の証拠も資料として提供されたものとうかがわれることなどの諸事情にかんがみれば,本件覚せい剤等は,本件エックス線検査と上記の関連性を有するとしても,その証拠収集過程に重大な違法があるとまではいえず,その他,これらの証拠の重要性等諸般の事情を総合すると,その証拠能力を肯定することができるとされた事例。
参照条文: /日本国憲法:35条/刑事訴訟法:218条;317条/
全 文 h210928supreme91.html

最高裁判所 平成 21年 9月 15日 第2小法廷 決定 ( 平成19年(あ)第1352号 )
事件名:  補助金等に係る予算の執行の適正化に関する法律違反,関税法違反被告事件(上告事件)
要 旨
 1.補助金等に係る予算の執行の適正化に関する法律29条1項の文理及び趣旨に照らせば,補助金等不正受交付罪は,不正の手段と因果関係のある受交付額について成立し,因果関係については,不正の手段の態様,補助金交付の目的,条件,交付額の算定方法等を考慮して判断することが相当である。
 1a.牛海綿状脳症(BSE)検査が実施されることになった平成13年10月18日以前にと畜・解体処理された国産牛肉を市場から隔離して一定期間保管するという牛肉在庫緊急保管対策事業を悪用し,被告人が,(1)対象牛肉に加え,(2)それ以外の又は実在しない牛肉につき,これらが対象牛肉であってその保管又は処分をしたと偽って,これを上乗せした合計量に対する補助金の交付を申請し,これに対する補助金の交付を受けた場合に,不正の手段と因果関係のある受交付額は,(2)の牛肉に係る受交付額であり,補助金等不正受交付罪はその受交付額について成立するとされた事例(原審は全体について罪が成立するとしたが,その誤りは本件における同罪の成否に影響を及ぼさず,量刑も不当ではないとされた)。 /農畜産業振興事業団/愛知食肉卸売市場協同組合/
参照条文: /補助金等に係る予算の執行の適正化に関する法律:29条1項/
全 文 h210915supreme91.html

最高裁判所 平成 21年 9月 15日 第3小法廷 判決 ( 平成20年(受)第1565号 )
事件名:  土地明渡等,代表役員の登記抹消手続請求・上告事件
要 旨
 包括宗教法人の管長による擯斥処分により被包括宗教法人の住職の地位を奪われたと主張されている僧侶に対する被包括法人の本堂等から退去して境内地を明渡すことを求める訴えが,裁判所法3条にいう「法律上の争訟」に当たらず,不適法であるとして却下された事例。
 1.包括法人の宗制では管長以外の者が法階を授与することは禁じられているにもかかわらず,被包括法人の僧侶である被告が在家僧侶養成講座の講師として受講者に法階を授与した行為についてなされた擯斥処分について,その行為が「宗制に違反して甚だしく本派の秩序を紊した」こと(懲誡規定5条1号)に当たるか否かが問題となっているのであれば,必ずしも宗教上の教義ないし信仰の内容に立ち入って審理,判断する必要はなかったものと考えられるが,「宗旨又は教義に異議を唱え宗門の秩序を紊した」こと(懲誡規定4条1項3号)に該当する旨主張されている本件では,争点である擯斥処分の効力の有無を判断するには,宗教上の教義ないし信仰の内容に立ち入って審理,判断することを避けることはできないから,本件訴えは,裁判所法3条にいう「法律上の争訟」に当たらず,不適法であるとされた事例。 /宗教団体の内部紛争/
参照条文: /裁判所.3条/憲.20条1項/民訴.2偏1章/
全 文 h210915supreme.html

最高裁判所 平成 21年 9月 11日 第2小法廷 判決 ( 平成19年(受)第1128号 )
事件名:  貸金等請求本訴,不当利得返還請求反訴・上告事件
要 旨
 利息制限法所定の制限利率を超えて支払った利息を元本に充当すると過払金が発生するかが問題になった事案において,貸金業者が,支払遅延が生じた後の弁済金のうち元本充当分以外は,利息(年29.0%)として受領したではなく遅延損害金(年29.2%)として受領したと主張する前提として,支払遅延があったので特約により期限の利益が失われていると主張することが信義則に反するかが争われ,信義則に反するとした原判決が破棄された事例。
 原審は,(1)債権者が,債務者の期限の利益を喪失した後も元利金の一括弁済を求めず,一部弁済を受領し続けたこと,(2)約定の利息の利率と約定の遅延損害金の利率とが同一ないし近似していること,(3)期限の利益を喪失した後に追加的な貸付けがなされたとの諸事情を指摘して,債権者が期限の利益の喪失を主張することは信義則に反して許されないとしているが,第1及び第3の事情は,基本的に貸主が自由に決めることができることであり,(α)債権者が領収書兼利用明細書に弁済金を遅延損害金のみ又は遅延損害金と元金に充当する旨記載して期限の利益喪失の効果を主張してきたこと,(β)期限の利益を喪失した後,当初の約定で定められた支払期日までに弁済したことはほとんどなく,客観的な弁済態様は,債務者が期限の利益を喪失していないものと誤信してその後の弁済をしたことをうかがわせるものとはいえないことを考慮すると,原審の掲げる3つの事情のみによっては,貸金業者において,債務者が特約により期限の利益を喪失したと主張することが,信義則に反し許されないということはできないとされた事例。
参照条文: /民法:1条2項;412条;415条/利息制限法:1条;4条/
全 文 h210911supreme.html

最高裁判所 平成 21年 9月 11日 第2小法廷 判決 ( 平成21年(受)第138号 )
事件名:  不当利得返還請求・上告事件
要 旨
 約定利率を年29.8%,遅延損害金利率を年36.5%(ただし,期限の利益喪失後,毎月15日までに支払われた遅延損害金については年29.8%)とする消費貸借契約の借主が利息制限法所定の制限利率を超えて支払った利息の返還を貸主に求めた訴訟において,借主が第5回目の支払期日における支払を遅滞したことによって期限の利益を喪失した後も,約6年間にわたり,残元本全額及びこれに対する遅延損害金の一括弁済を求めることなく,貸主が弁済金を受領し続けてきた等の事情があるにもかかわらず,貸主が「借主は期限の利益を喪失していた」と主張することは,信義則に反するとされた事例。 /過払金返還請求/
参照条文: /民法:1条2項/利息制限法:1条;4条/
全 文 h210911supreme2.html

最高裁判所 平成 21年 9月 4日 第2小法廷 判決 ( 平成21年(受)第1192号 )
事件名:  不当利得返還請求・上告事件
要 旨
 1.金銭消費貸借の借主が利息制限法1条1項所定の制限を超えて利息の支払を継続し,その制限超過部分を元本に充当すると過払金が発生した場合において,貸主が悪意の受益者であるときは,貸主は,民法704条前段の規定に基づき,過払金発生の時から同条前段所定の利息を支払わなければならない。
 1a.このことは,金銭消費貸借が,貸主と借主との間で継続的に金銭の借入れとその弁済が繰り返される旨の基本契約に基づくものであって,当該基本契約が過払金が発生した当時他の借入金債務が存在しなければ過払金をその後に発生する新たな借入金債務に充当する旨の合意を含むものであった場合でも,異なるところはない。
参照条文: /民法:704条/利息制限法:1条1項/
全 文 h210904supreme.html

最高裁判所 平成 21年 9月 4日 第2小法廷 判決 ( 平成21年(受)第47号 )
事件名:  不当利得返還請求・上告事件
要 旨
 1.貸金業者が,借主に対し貸金の支払を請求し,借主から弁済を受ける行為それ自体は,当該貸金債権が存在しないと事後的に判断されたことや,長期間にわたり制限超過部分を含む弁済を受けたことにより結果的に過払金が多額となったことのみをもって直ちに不法行為を構成するということはできず,これが不法行為を構成するのは,上記請求ないし受領が暴行,脅迫等を伴うものであったり,貸金業者が当該貸金債権が事実的,法律的根拠を欠くものであることを知りながら,又は通常の貸金業者であれば容易にそのことを知り得たのに,あえてその請求をしたりしたなど,その行為の態様が社会通念に照らして著しく相当性を欠く場合に限られる。
 1a.この理は,当該貸金業者が過払金の受領につき,民法704条所定の悪意の受益者であると推定される場合においても異なるところはない。
 2.利息制限法違反の利息の支払いの合意の約定がなされている消費貸借契約の貸主が借主から元本完済後も弁済を受けていた場合に,貸主が民法704条所定の悪意の受益者であると推定されるとしても,事件の事実関係に照らせば,貸主が,過払金の発生以後,貸金債権が事実的,法律的根拠を欠くものであることを知りながら,又は通常の貸金業者であれば容易にそのことを知り得たのにあえてその請求をしたということもできず,その行為の態様が社会通念に照らして著しく相当性を欠くものであったとはいえないとして,貸主が過払金を受領し続けた行為は不法行為を構成するものではないとされた事例。
参照条文: /民法:709条/利息制限法:1条/
全 文 h210904supreme2.html

大阪地方裁判所 平成 21年 9月 4日 第11民事部 判決 ( 平成20年(ワ)第11774号 )
事件名:  前渡金返還請求事件
要 旨
 再生債務者である請負人が手続開始前に注文者から前受金を受領していたが,管財人が請負契約を解除したため,注文者が前受金返還請求権を共益債権として行使することができる場合に,前受金返還請求権の保証人が保証債務を履行して求償権(再生債権)を得るとともに,原債権(前受金返還請求権)を代位取得したときに,保証人による原債権の行使は,求償権が再生債権であるからこれと同様の制約に服することになるとして,管財人に対する原債権支払請求の訴えが却下された事例。
 1.請負代金の一部を前受金として受領した請負人について民事再生手続が開始された場合に,管財人が双方未履行の双務契約である請負契約を解除したことにより相手方が取得する前受金返還請求権は,共益債権となる(民事再生法49条5項,破産法54条2項)。(前提問題)
 2.民法501条柱書の「自己の権利に基づいて求償をすることができる範囲内」とは,求償権の存在や額を行使の上限とする趣旨にとどまらず,求償権の行使に実体法上又は手続法上の制約が存する場合には,原債権がその制約に服することをも意味しているものと解すべきであり,債務者としては,当該求償権に対抗できる全ての抗弁をもって,原債権の行使にも対抗できる。
 2a. 原債権(前受金返還請求権)が共益債権であっても,その保証債務を履行した保証人の求償権には,再生債権として,民事再生手続開始後は,原則として再生計画の定めるところによらなければ弁済等が許されない(民事再生法85条1項)という行使についての手続法上の制約が存するから,原債権を求償権と独立して行使することができない以上,原債権の行使については,再生債権と同様の制約に服することになる。 /昭和ナミレイ/
参照条文: /民法:500条;501条/民事再生法:49条;85条/破産法:54条2項/
全 文 h210904osakaD.html

最高裁判所 平成 21年 8月 12日 第1小法廷 決定 ( 平成20年(許)第49号 )
事件名:  債権仮差押命令保全異議申立てについての決定に対する保全抗告棄却決 定に対する許可抗告事件
要 旨
 1.債権の管理又は回収の委託を受けた弁護士が,その手段として本案訴訟の提起や保全命令の申立てをするために当該債権を譲り受ける行為は,他人間の法的紛争に介入し,司法機関を利用して不当な利益を追求することを目的として行われたなど,公序良俗に反するような事情があれば格別,仮にこれが弁護士法28条に違反するものであったとしても,直ちにその私法上の効力が否定されるものではない。
 1a.弁護士が債権の管理又は回収を行うための手段として本案訴訟の提起や仮差押えの申立てをするために債権を譲り受けた場合に,原審の確定した事実のみをもっては債権の譲受けが公序良俗に反するということはできないとされた事例。
参照条文: /弁護士法:28条/民法:90条
全 文 h210812supreme.html

最高裁判所 平成 21年 8月 7日 第3小法廷 決定 ( 平成21年(し)第359号 )
事件名:  鑑定入院命令に対する取消し請求棄却決定に対する特別抗告事件
要 旨
 1.鑑定入院命令が発せられた後に鑑定入院の必要がなくなったことなどの事情は,心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者の医療及び観察等に関する法律72条1項の鑑定入院命令取消し請求の理由には当たらない
 1a.鑑定入院命令が発せられた後に、鑑定人の意見を聴くなどして鑑定入院命令が発せられた後に法による医療を受けさせる必要が明らかにないことが判明したときなど,鑑定入院の必要がないと判断した場合には,裁判所は,職権で鑑定入院命令を取り消すことができ,対象者,保護者又は付添人は,その職権発動を促すことができる。
参照条文: /心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者の医療及び観察等に関する法律:72条/
全 文 h210807supreme.html

東京地方裁判所 平成 21年 7月 27日 民事第31部 判決 ( 平成20年(ワ)第35979号 )
事件名:  損害賠償請求事件
要 旨
 転送届(正確には、転居届)について23条照会(弁護士法23条の2が規定する照会)を受けた郵便事業会社の報告拒否行為により法的利益を侵害されたとして照会申出弁護士の依頼者が郵便事業会社に対して損害賠償を請求した事案において,郵便事業会社が照会の際に交付された書面を基に利益衡量に基づく報告義務の有無の判断することが困難であったから,報告拒否に正当な理由があったとして,請求が棄却された事例。
 1.23条照会を受けた公務所又は公私の団体は,当該照会により報告を求められた事項について,報告を拒絶する正当な理由がない限り,当該照会をした弁護士会に対して報告する法的義務を負い,その義務は公的性格の強い弁護士会に対する公的義務である。
 2.憲法21条2項及び郵便法8条・81条による通信の秘密の保障は,通信の内容のみならず,その差出人又は受取人の氏名・住所・居所及び通信の日時や個数など,通信に関するすべての事項に及ぶ。
 2a.郵便物の転送届やそれに関連する事柄は,通信内容に直接関係するものではないものの,郵便の送達を行うにあたり重要な事項であることから,通信の周辺情報として,また,個々の信書の送達以外に使用されることのない情報として,届出人から取得しているものとして,その秘密は尊重されるべきものと考えられ,特に,転送届は,届出人の変更後の住所又は居所が記載されたものであり,住所又は居所という個人情報は,自己が欲しない他者にみだりに開示されたくないと考えることが自然であるプライバシーに係る情報としての性質を有するものでもある。
 3.23条照会において,照会を受けた者は,当該照会の報告義務の有無を,照会申出書又は照会事項書など照会の際に交付される書面の範囲内で判断すれば足りる。
 3a.判決に基づく動産執行の申立てのために,債務者が郵便事業会社に提出した転送届に記載された事項に関して,債権者の受任弁護士の申出に基づいて,郵便事業会社に対して弁護士照会がなされた場合に,判決に基づく強制執行を行う必要性や,郵便事業会社に対して照会事項に関する情報の開示を求める以外に債務者の住居所を調査する適当な方法が存しないこと,照会事項に回答することが転送届をした者一般の信頼を害して通信の自由を一般的に妨げることとならないことの説明など,郵便事業会社において,郵便法所定の通信の秘密の確保に対する例外的な取扱いを行うべきことの判断が可能となるような資料等が提示されたことをうかがわせる証拠は存しないから,信書の秘密に関する事項の開示に関し慎重な判断が求められている郵便事業会社において,照会に回答することによって得られる利益と回答することによって失われる利益の衡量をして,本件照会に対する報告義務があると判断することは困難であったということができ,従って,郵便事業会社が本件照会に対する報告を拒絶することについて正当な理由があり,報告義務違反は認められないとされた事例。
 4.23条照会に対して報告すべき義務は,公的性格の強い弁護士会に対する公的義務であり,必ずしもそれを利用する個々の弁護士やその依頼者個人に対する関係での義務ではなく,個々の弁護士や依頼者がその権利として,被照会者に対し,報告を求める権利を有するものではない。
 4a.23条照会に対する報告拒否行為は,原則としては,照会申出弁護士の依頼者の権利を侵害するものではないし,その法的に保護された利益を侵害するものであるということもできない。 /弁護士照会/弁護士会照会/ /弁護士照会/23条照会/
参照条文: /弁護士法:23-2条/民法:709条/
全 文 h210727tokyoD.html

京都地方裁判所 平成 21年 7月 23日 第6民事部 判決 ( 平成20年(ワ)第3224号 )
事件名:  敷金返還請求事件
要 旨
 居住用建物の賃貸借契約における敷金引き特約及び更新料特約が消費者契約法10条により無効であるとされた事例。
 1.消費者契約法10条との関係では,民法1条2項に規定する基本原則に反して消費者の利益を一方的に害するか否かは,消費者と事業者との間に情報の質及び量並びに交渉力の格差があること(消費者契約法1条)にかんがみ,当事者の属性や契約条項の内容,そして,契約条項が具体的かつ明確に説明され,消費者がその条項を理解できるものであったか等種々の事情を総合考慮して判断すべきである。
 2.敷引金を賃借人に負担させるには,その旨が具体的かつ明確に説明され,賃借人がその内容を認識した上で合意されることが必要であり,そうでなければ,民法1条2項に規定する基本原則(信義則)に反して賃借人の利益を一方的に害するものというべきである。
 2a.賃借人が本件敷引特約の存在自体は認識していたといえるが,賃借人が賃貸人からその主張のような敷引特約の趣旨,すわなち,敷引金30万円がどのようにして決められたのか,自然損耗料,リフォーム費用,空室損料,賃貸借契約成立の謝礼,当初賃貸借期間の前払賃料,あるいは,中途解約権の対価の要素を有するのかということについて,具体的かつ明確な説明を受けていたとは認められないから,本件敷引特約は,消費者契約法10条に該当し,無効であるとされた事例。
 3.更新料を賃借人に負担させる場合は,その旨が具体的かつ明確に説明され,賃借人がその内容を認識した上で合意されることが必要であり,そうでなければ,民法1条2項に規定する基本原則(信義則)に反して賃借人の利益を一方的に害するものというべきである。
 3a.
 賃借人が本件更新料特約の存在自体は認識していたといえるが,賃借人が賃貸人からその主張のような更新料特約の趣旨,すわなち,更新料が更新拒絶権放棄の対価,賃借権強化の対価,賃料の補充,あるいは,中途解約権の対価の要素を有するということについて,具体的かつ明確な説明を受けていたとは認められないから,本件更新料特約は,消費者契約法10条に該当し,無効であるとされた事例。
 4.更新料が,賃料の補充としての性質を有しているといえるかは疑問であるが,仮にその性質を有していたとしても,その支払時期が早い点(民法614条参照)で賃借人の義務を加重する特約であるといえる。 /信義誠実の原則/
参照条文: /消費者契約法:10条/民法:1条2項/
全 文 h210723kyotoD.html

松山地方裁判所 平成 21年 7月 23日 刑事部 判決 ( 平成20年(わ)第450号等 )
事件名:  窃盗,強盗致傷(認定事実は強盗致傷,傷害),単純逃走,犯人隠避教 唆,道路交通法違反被告事件
要 旨
 1.万引きの実行犯(35歳男性)が,彼を逮捕しようとした警備員2名のうちの1人(58歳女性)の着衣の左袖を持ち,眼鏡付近を目掛けてスプレーを二,三回左右に振るようにして2秒間くらい噴射したため,警備員が体をひねってよけようとしたはずみで地面に転倒して右膝部打撲の傷害を受けた場合に,その暴行行為について強盗致傷罪の成立が認められ,他の1人(49歳女性)の頭部にスプレーを噴射した上,その手を振りほどいて引き離すなどの暴行を加えたため,警備員がその場に転倒して右小指擦過傷,左肘関節部打撲血腫の傷害を受けた場合に,その暴行行為は逮捕を断念させる程度のものではないとして,強盗致傷罪の成立が否定され,傷害罪の成立が認められた事例。
 2.窃盗の常習者が私有地内の駐車場において駐車中の他車に衝突する事故をおこしながら最寄りの警察署の警察官に報告することなく立ち去ったことが道路交通法72条1項後段のいわゆる報告義務違反の罪に当たるかが問われたが,≪本件駐車場は,不特定多数の人ないし車両等が常時自由に通り抜けができるような客観的状況にはなく,かつ,その利用実態も,主として駐車場運営会社関係者など,特定の狭い範囲の者が車両の駐車場として利用していたと認められ,道路交通法における規制の対象とし,交通の安全と円滑を図り,通行する自動車の運転者や歩行者の生命,身体に対する危険を防止する必要性が高い場所とはいえない≫として,接触事故は同法72条1項の「交通事故」に該当せず,報告義務違反の罪は成立しないとされた事例。
参照条文: /刑法:204条;240条/道路交通法:72条1項/
全 文 h210723matuyamaD91.html

最高裁判所 平成 21年 7月 21日 第3小法廷 決定 ( 平成21年(あ)第291号 )
事件名:  窃盗未遂,窃盗被告事件(上告事件)
要 旨
 1.検察官において共謀共同正犯者の存在に言及することなく,被告人が当該犯罪を行ったとの訴因で公訴を提起した場合において,被告人1人の行為により犯罪構成要件のすべてが満たされたと認められるときは,他に共謀共同正犯者が存在するとしてもその犯罪の成否は左右されないから,裁判所は訴因どおりに犯罪事実を認定することが許される。
参照条文: /刑法:60条;235条/刑事訴訟法:256条/
全 文 h210721supreme91.html

最高裁判所 平成 21年 7月 17日 第2小法廷 判決 ( 平成19年(受)第315号 )
事件名:  自動車代金等請求・上告事件
要 旨
 Y所有の複数車台番号状態にある接合自動車がオークションにかけられ,その事実を知らずに買い受けたXがBに転売し,売主Yから中間省略登録の方法により所有者C・使用者Bとする移転登録がなされた後で,接合自動車であることを知ったBからの要求によりXが買い戻し,Xが性状の錯誤を理由にYとの売買契約の無効を主張し,売買代金の返還を請求した事案において,YがXから自動車の移転登録手続を受け,かつ,その引渡しを受けることとの引換給付を求める同時履行の抗弁を主張したが,YがXに対して移転登録請求権を有するとしても,複数車台番号状態にある接合自動車の移転登録は困難であるから,YがXに対し移転登録手続を受けることとの引換給付を求めることは信義則に反し許されないとして,自動車の引渡しとの引換給付の抗弁のみが認められた事例。
 1.道路運送車両法は,自動車をその車台に打刻された車台番号によって特定した上,その自動車の自動車登録ファイルへの登録をするものとしており,1台の自動車につき複数の車台番号が存在したり,複数の自動車登録がされるということを予定していないから,車台の接合等がされたことにより,その車台に二つの車台番号が打刻されていて,そのいずれの車台番号が真正なものであるかを確定することができない場合には,少なくともその状態のままでは新規登録や移転登録をすることは許されないものと解される。
 1a.上記の状態にある自動車の買主が性状の錯誤を理由に売買契約の無効を主張して売主に対して代金の返還を請求した場合に,売主が取得した時点で既に接合自動車であり,売主が新規登録を申請したことや,自動車を自動車オークションに出品したことについて,売主に責められるべき点がなかったとしても,複数車台番号状態であるために困難を伴う自動車の移転登録手続との同時履行関係を認めることは,買主と売主との間の公平を欠くものといわざるを得ず,したがって,仮に売主が買主に対し移転登録請求権を有するとしても,売主が買主からの売買代金返還請求に対し,同時履行の抗弁を主張して,移転登録手続を受けることとの引換給付を求めることは,信義則上許されないとされた事例。
参照条文: /民法:1条2項/民法:95条/民法:545条/民法:546条/民法:533条/道路運送車両.7条/道路運送車両.8条/道路運送車両.12条/道路運送車両.15条/道路運送車両.29条/道路運送車両.30条/道路運送車両.31条/道路運送車両.32条/道路運送車両.33条/
全 文 h210717supreme.html

最高裁判所 平成 21年 7月 16日 第1小法廷 判決 ( 平成20年(受)第802号 )
事件名:  損害賠償請求・上告事件
要 旨
 東京穀物商品取引所及び東京工業品取引所の取引員である業者が,バイカイ付け出しの方法により差玉向かいを行っていたにもかかわらず,顧客にそのことを開示することなく注文を受けていた場合に,業者は,委託契約に基づく説明義務に違反するものとして,顧客に対し債務不履行責任を負うとされた事例。
 1.商品先物取引を受託する商品取引員は,商法上の問屋であり(商法551条),委託者との間には,委任に関する規定が準用されるから(同法552条2項),商品取引員は,委託者に対し,委託の本旨に従い,善良な管理者の注意をもって,誠実かつ公正に,その業務を遂行する義務を負う(民法644条)。
 2.少なくとも,特定の種類の商品先物取引について差玉向かいを行っている商品取引員が専門的な知識を有しない委託者との間で商品先物取引委託契約を締結した場合には,商品取引員は,上記委託契約上,商品取引員が差玉向かいを行っている特定の種類の商品先物取引を受託する前に,委託者に対し,その取引については差玉向かいを行っていること及び差玉向かいは商品取引員と委託者との間に利益相反関係が生ずる可能性の高いものであることを十分に説明すべき義務を負い,委託者が上記の説明を受けた上で上記取引を委託したときにも,委託者において,どの程度の頻度で,自らの委託玉が商品取引員の自己玉と対当する結果となっているのかを確認することができるように,自己玉を建てる都度,その自己玉に対当する委託玉を建てた委託者に対し,その委託玉が商品取引員の自己玉と対当する結果となったことを通知する義務を負う。
 3.取引員が板寄せによる取引について差玉向かいを行っていたにもかかわらず,顧客から板寄せによる取引に該当する取引を受託するに当たり,顧客に対し,差玉向かいを行っていることを説明しない場合には,取引員は委託契約に基づく説明義務に違反するものとして,債務不履行責任を負うとされた事例。
参照条文: /民法:644条/商法:551条;552条2項/
全 文 h210716supreme.html

最高裁判所 平成 21年 7月 16日 第1小法廷 判決 ( 平成20年(あ)第1870号 )
事件名:  暴行被告事件(上告事件)
要 旨
 48歳・身長約175cmの男性(B)の侵害行為に対抗して、74歳・身長約149cm・要介護1の女性である被告人がBの胸を数回押したためBが後退して転倒した場合に、被告人がBの胸を押した行為について、原審が暴行罪の成立を認めたのに対し、上告審が正当防衛の成立を認めて無罪を言い渡した事例。
 1.Bらが立入禁止等と記載した看板を本件建物に設置することは,被告人らの建物に対するの共有持分権,賃借権等を侵害するとともに,被告人が代表者である会社の業務を妨害し,被告人らの名誉を害するものであり、Bの依頼を受けたCらが建物のすぐ前において看板を取り付ける作業を開始し,被告人がこれを取り上げて踏み付けた後も,Bがこれを持ち上げ,付けてくれと言ってCに渡そうとした行為は,被告人らの上記権利や業務,名誉に対する急迫不正の侵害に当たるとされた事例。
 2.被告人とBとの間に体格差等があることや,Bが後退して転倒したのは被告人の力のみによるものとは認め難いことなどからすれば,被告人の暴行の程度は軽微なものであったというべきであり、本件暴行は,被告人らの主として財産的権利を防衛するためにBの身体の安全を侵害したものであることを考慮しても,いまだBらによる侵害に対する防衛手段としての相当性の範囲を超えたものということはできないとされた事例。
参照条文: /刑法:36条1項;208条/
全 文 h210716supreme91.html

最高裁判所 平成 21年 7月 16日 第1小法廷 判決 ( 平成19年(あ)第1951号 )
事件名:  道路交通法違反,労働基準法違反被告事件(上告事件)
要 旨
 いわゆる36協定で1か月につき延長することができる時間外労働時間が定められている場合における労働基準法32条1項違反事件について,訴因の変更を許可することなく公訴事実について無罪を言い渡した原判決が破棄された事例。
 1.≪36協定において,法定労働時間を超えて延長することができる時間は,1日につき7時間,1か月につき130時間などと定められていたにもかかわらず,使用者が1か月130時間を超えて,平成17年11月16日から同年12月15日までの間に15時間30分,同月16日から平成18年1月15日までの間に38時間15分の合計53時間45分の時間外労働をさせた≫ことを理由とする労働基準法32条1項違反事件において,公訴事実(旧訴因)が月単位の時間外労働を示す内容となっており,当該月の特定はされているものの,週の特定はもとより週という言葉さえ出てきていない場合に,原審が,検察官の請求した週単位の時間外労働の事実(当該月の中で違反となる週を特定したもの)を明示する予備的訴因変更を≪旧訴因の月単位の時間外労働協定違反の事実と新訴因の週単位の時間外労働の事実とでは基本的事実関係を異にし,公訴事実の同一性が認められない≫との理由で不許可としたのに対し,上告審が,≪旧訴因は,週単位の時間外労働の規制違反の事実を摘示しその処罰を求めようとした趣旨ではあったが,結果として,違反に係る週の特定に欠けるという不備が生じてしまったと解するのが相当であり,訴因の特定が不十分でその記載に瑕疵がある場合に当たり,その瑕疵の内容にかんがみると,訴因変更と同様の手続を採って訴因を補正すべき場合である≫として,原判決を破棄して事件を差し戻した事例。
 2.いわゆる36協定で1か月につき延長することができる時間外労働時間が定められている場合における労働基準法32条1項違反の罪に関しては,原則的な労働時間制の場合であれば,始期から順次1週間について40時間の法定労働時間を超えて労働させた時間を計算し,これを最初の週から順次積算し,上記延長することができる時間に至るまでは36協定の効力によって時間外労働の違法性が阻却されるものの,これを超えた時点以後は,36協定の効力は及ばず,週40時間の法定労働時間を超える時間外労働として違法となり,その週以降の週につき,上記時間外労働があれば,それぞれ同条項違反の罪が成立し,各違反の罪は併合罪の関係に立つものと解すべきである。
 2a.1週間が,単位となる月をまたぐ場合に関しては,問題となる事業場において就業規則等に別段の定めがあればこれによるが,これがないときには,労働基準法32条1項が「1週間について40時間」とのみ規定するものであることなどにかんがみると,その始期を36協定における特定の月の起算日に合わせて訴因を構成することも許される。
参照条文: /労働基準法:32条1項;36条/刑事訴訟法:312条/
全 文 h210716supreme92.html

最高裁判所 平成 21年 7月 14日 第1小法廷 決定 ( 平成19年(あ)第2355号 )
事件名:  強制執行妨害,電磁的公正証書原本不実記録,同供用被告事件(上告事件)
要 旨
 1.刑法96条の2にいう「強制執行」には,民事執行法1条所定の「担保権の実行としての競売」が含まれる。
参照条文: /刑.96-2条/民執.1条/
全 文 h210714supreme91.html

最高裁判所 平成 21年 7月 14日 第3小法廷 判決 ( 平成20年(受)第1134号 )
事件名:  配当異議・上告事件
要 旨
 債権差押命令の申立書に記載する請求債権中の遅延損害金を申立日までの確定金額とすることを求める大阪地裁堺支部の取扱いに従って債権差押命令の申立てをした複数の債権者の中の1人が配当期日までの遅延損害金の額を記載した計算書を提出していた場合に,執行裁判所が各債権者の申立書に従って申立ての日までの遅延損害金のみを請求金額に含めて配当表を作成したため,配当期日までの遅延損害金の額を記載した計算書を提出していた債権者がそのような計算書を提出していない債権者を被告にして配当異議の訴えを提起したところ,異議が認容された事例。
 1.債権差押命令の申立書に記載する請求債権中の遅延損害金を申立日までの確定金額とすることを求める実務的取扱いは,法令上の根拠に基づくものではないが,請求債権の金額を確定することによって,第三債務者自らが請求債権中の遅延損害金の金額を計算しなければ,差押債権者の取立てに応ずべき金額が分からないという事態が生ずることのないようにするための配慮として,合理性を有するものというべきである。
 2.債権差押命令の申立書に記載する請求債権中の遅延損害金を申立日までの確定金額とすることを求める実務的取扱いに従って債権差押命令の申立てをした債権者については,計算書で請求債権中の遅延損害金を申立日までの確定金額として配当を受けることを求める意思を明らかにしたなどの特段の事情のない限り,配当手続において,債務名義の金額に基づく配当を求める意思を有するものとして取り扱われるべきであり,計算書提出の有無を問わず,債務名義の金額に基づく配当を受けることができる。
参照条文: /民執.155条/民執.156条/民執.156条/民執.85条/民執.89条/民執.90条/
全 文 h210714supreme.html

最高裁判所 平成 21年 7月 14日 第3小法廷 判決 ( 平成20年(受)第1729号 )
事件名:  不当利得返還等請求・上告事件
要 旨
 貸金業者に対する債務者の過払金返還請求訴訟において,平成18年判決(債務者が利息制限法1条1項所定の制限を超える約定利息の支払を遅滞したときには当然に期限の利益を喪失する旨の特約の下で制限超過部分を支払った場合,その支払は原則として貸金業法43条1項(平成18年改正前)にいう「債務者が利息として任意に支払った」ものということはできない旨を判示)及び平成19年判決(貸金業者が制限超過部分を利息の債務の弁済として受領したが,その受領につき貸金業法43条1項の適用が認められない場合には,当該貸金業者は,同項の適用があるとの認識を有しており,かつ,そのような認識を有するに至ったことについてやむを得ないといえる特段の事情があるときでない限り,法律上の原因がないことを知りながら過払金を取得した者,すなわち民法704条の「悪意の受益者」であると推定される旨を判示)を前提にして,原審が,平成18年判決の言渡し日以前の制限超過利息の支払について,期限の利益喪失特約下の支払の受領というだけで平成19年判決にいう特段の事情なしとして貸金業者を悪意の受益者と認めたところ,上告審がこれを破棄して差戻した事例。
 1.平成18年判決が言い渡されるまでは,貸金業者において,期限の利益喪失特約下の支払であることから直ちに同項の適用が否定されるものではないとの認識を有していたとしてもやむを得ないというべきであり,貸金業者が上記認識を有していたことについては,平成19年判決の判示する特段の事情があると認めるのが相当である。
 1a.平成18年判決の言渡し日以前の期限の利益喪失特約下の支払については,これを受領したことのみを理由として当該貸金業者を悪意の受益者であると推定することはできない。 /事実の認定と評価/
参照条文: /民法:704条/貸金.43条1項/利息制限.1条1項/民訴.321条1項/
全 文 h210714supreme2.html

最高裁判所 平成 21年 7月 14日 第3小法廷 判決 ( 平成20年(あ)第1575号 )
事件名:  業務上横領被告事件(上告事件)
要 旨
 1.審級制度については,憲法81条に規定するところを除いては,憲法はこれを法律の定めるところにゆだねており,事件の類型によって一般の事件と異なる上訴制限を定めても,それが合理的な理由に基づくものであれば憲法32条に違反するものではない。
 1a.即決裁判手続に被告人に対する手続保障と科刑の制限が用意されていることを前提に,刑訴法403条の2第1項は,即決裁判手続の制度を実効あらしめるため,同手続による判決において示された罪となるべき事実の誤認を理由とする控訴の申立てを制限しているものと解されるから,同規定については,相応の合理的な理由があるというべきであり,同規定は憲法32条に違反するものでない。
 1b.被告人に対する手続保障の内容に照らすと,即決裁判手続の制度自体が所論のような自白を誘発するものとはいえない。 /裁判を受ける権利/
参照条文: /刑事訴訟法:403-2条1項/憲法:32条/
全 文 h210714supreme92.html

最高裁判所 平成 21年 7月 13日 第1小法廷 決定 ( 平成20年(あ)第835号 )
事件名:  建造物侵入,危険運転致傷,窃盗被告事件(上告事件)
要 旨
 交通違反等の取締りに当たる捜査車両の車種やナンバーを把握するため,八尾警察署東側塀の上によじ上がった行為について,建造物侵入罪の成立が認められた事例。
 1.建物とその敷地を他から明確に画するとともに外部からの干渉を排除する作用を果たしている塀が,建物の利用のために供されている工作物であって,刑法130条にいう「建造物」の一部を構成すると認められた事例。
参照条文: /刑法:130条/
全 文 h210713supreme91.html

最高裁判所 平成 21年 7月 10日 第2小法廷 判決 ( 平成20年(受)第1728号 )
事件名:  不当利得返還等請求・上告事件
要 旨
 貸金業者に対する債務者の過払金返還請求訴訟において,平成18年判決(債務者が利息制限法1条1項所定の制限を超える約定利息の支払を遅滞したときには当然に期限の利益を喪失する旨の特約の下で制限超過部分を支払った場合,その支払は原則として貸金業法43条1項(平成18年改正前)にいう「債務者が利息として任意に支払った」ものということはできない旨を判示)及び平成19年判決(貸金業者が制限超過部分を利息の債務の弁済として受領したが,その受領につき貸金業法43条1項の適用が認められない場合には,当該貸金業者は,同項の適用があるとの認識を有しており,かつ,そのような認識を有するに至ったことについてやむを得ないといえる特段の事情があるときでない限り,法律上の原因がないことを知りながら過払金を取得した者,すなわち民法704条の「悪意の受益者」であると推定される旨を判示)を前提にして,原審が,平成18年判決の言渡し日以前の制限超過利息の支払について,期限の利益喪失特約下の支払の受領というだけで平成19年判決にいう特段の事情なしとして貸金業者を悪意の受益者と認めたところ,上告審がこれを破棄して差戻した事例。
 1.平成18年判決が言い渡されるまでは,貸金業者において,期限の利益喪失特約下の支払であることから直ちに同項の適用が否定されるものではないとの認識を有していたとしてもやむを得ないというべきであり,貸金業者が上記認識を有していたことについては,平成19年判決の判示する特段の事情があると認めるのが相当である。
 1a.平成18年判決の言渡し日以前の期限の利益喪失特約下の支払については,これを受領したことのみを理由として当該貸金業者を悪意の受益者であると推定することはできない。 /事実の認定と評価/
参照条文: /民法:704条/貸金.43条1項/利息制限.1条1項/民訴.321条1項/
全 文 h210710supreme3.html

最高裁判所 平成 21年 7月 10日 第2小法廷 判決 ( 平成19年(行ヒ)第28号 )
事件名:  更正すべき理由がない旨の処分の取消請求事・上告事件
要 旨
 納税者が確定申告において所得税額の控除の計算を誤ったため納付すべき法人税額を過大に申告した場合に,その更正請求が許された事例。
 1.法人税法68条3項は,納税者である法人が,確定申告において,当該事業年度中に支払を受けた配当等に係る所得税額の全部又は一部につき,所得税額控除制度の適用を受けることを選択しなかった以上,後になってこれを覆し,同制度の適用を受ける範囲を追加的に拡張する趣旨で更正の請求をすることを許さないこととしたものと解される。
 1a.法人税法68条3項の適用を受けるために,確定申告書の添付書類「所得税額の控除に関する明細書」中の「銘柄別簡便法による場合」の銘柄欄に,その所有する株式の全銘柄を記載し,配当等として受け取った収入金額及びこれに対して課された所得税額を各銘柄別にすべて記載したものの,「利子配当等の計算期末の所有元本数等」欄及び「利子配当等の計算期首の所有元本数等」欄に,本来ならば配当等の計算の基礎となった期間の期末及び期首の各時点における所有株式数を記載すべきところ,誤って本件事業年度の期末及び期首の各時点における所有株式数を記載したため,一部の銘柄につき銘柄別簡便法の計算を誤り,その結果,控除を受ける所得税額を過少に記載したにとどまる場合に,その更正請求は,所得税額控除制度の適用を受ける範囲を追加的に拡張する趣旨のものではないから,法人税法68条3項の趣旨に反するということはできず,国税通則法23条1項1号により許されるとされた事例。
参照条文: /国税通則法:23条/法人税法:68条/
全 文 h210710supreme.html

最高裁判所 平成 21年 7月 10日 第2小法廷 判決 ( 平成19年(受)第1163号 )
事件名:  産業廃棄物最終処分場使用差止請求・上告事件
要 旨
 旧福間町の承継人である原告が,旧福間町の区域内にあった土地に産業廃棄物の最終処分場を設置している被告に対し,旧福間町と被告との間の公害防止協定を基礎とする新協定で定められた処分場の使用期限が経過したと主張し,同協定に基づく義務の履行として,土地を本件処分場として使用することの差止めを求めた事案において,この期限条項に法的拘束力を認めることは廃棄物処理法及び福岡県産業廃棄物処理施設の設置に係る紛争の予防及び調整に関する条例15条の趣旨にそぐわないとして請求を棄却すべきものとした原判決が,破棄された事例。
 1.廃棄物処分業者が,公害防止協定において,協定の相手方に対し,その事業や処理施設を将来廃止する旨を約束することは,処分業者自身の自由な判断で行えることであり,その結果,処理施設の設置の許可が効力を有する期間内に事業や処理施設が廃止されることがあったとしても,廃棄物処理法に何ら抵触するものではない。
 1a.旧福間町の区域内にあった土地に産業廃棄物の最終処分場を設置している廃棄物処理業者と旧福間町との間で締結された公害防止協定で定められた処分場の使用期限を定める条項が廃棄物処理法の趣旨に反するということはできないとされた事例。
参照条文: /廃棄物の処理及び清掃に関する法律:1条;14条;15条;14-3条;7-2条;7-3条;9条/福岡県産業廃棄物処理施設の設置に係る紛争の予防及び調整に関する条例:15条/
全 文 h210710supreme2.html

東京地方裁判所 平成 21年 7月 10日 判決 ( 平成20年(ワ)第14950号 )
事件名:  損害賠償請求事件
要 旨
 主婦に対する海外先物取引委託契約の勧誘とその締結が詐欺類型の不法行為に当たるとして提起された投資会社らに対する損害賠償請求訴訟において、原告と裁判所が調査嘱託の方法等を用いて相当に努力しても住居所が判明しなかった共同被告(従業員)について、原告に対して名乗られた氏名と就業場所をもって被告が特定されたままとなったが、被告の特定として不十分であるとして、訴えが却下された事例。
 1.公示送達が予定される場合の被告の特定方法
 
 被告とされる者の住所が知れず,公示送達の方法により送達する場合には,送達後の手続過程において,訴状記載の被告たる自然人の実在と特定とが確認されていく手続上の保障がないから,この場合の被告の特定には,少なくとも,最後の住所,住民登録地等を確認,表示するなどの方法により,氏名だけでなく,客観的に自然人として特定し得る要素を示す必要がある。
 1a.被告として表示される者が,原告に対面して自らある氏名を名乗った者であるという場合であっても,当該の者に現時点で原告自身が再度対面すれば,原告自身としては識別し得るはずであるというだけでは,被告の特定方法として十分でないというべきであり,第三者において,その者が当該被告であると識別し得る程度に特定されていなければならない。 /訴訟要件/
参照条文: /民事訴訟法:110条;133条2項1号;140条;151条1項6号/
全 文 h210710tokyoD.html

最高裁判所 平成 21年 7月 9日 第1小法廷 判決 ( 平成20年(受)第1602号 )
事件名:  損害賠償請求・上告事件
要 旨
 被告会社の従業員らが営業成績を上げる目的で架空の売上げを計上したため有価証券報告書に不実の記載がされ,その後同事実が公表されて被告の株価が下落したことについて,公表前に被告の株式を取得した原告が,被告の代表取締役に従業員らの不正行為を防止するためのリスク管理体制を構築すべき義務に違反した過失があり,その結果原告が損害を被ったなどと主張して,被告に対し,会社法350条に基づき損害賠償を請求した事案において,被告の代表取締役に,従業員らによる不正行為を防止するためのリスク管理体制を構築すべき義務に違反した過失があるということはできないとされ,請求が棄却された事例。
参照条文: /会社.350条/
全 文 h210709supreme.html

最高裁判所 平成 21年 7月 9日 第1小法廷 判決 ( 平成19年(行ヒ)第270号 )
事件名:  行政文書部分公開決定処分取消請求・上告事件
要 旨
 警察庁刑事局刑事企画課長から新潟県警本部長に対し送付された「凶悪重大犯罪等に係る出所情報の活用について」と題する行政文書について,新潟県情報公開条例に基づき,実施機関である新潟県警察本部長に対し公開請求がなされたが,文書中の「出所者の入所罪名」,「出所者の出所事由の種別」及び「出所情報ファイルの有効活用」に係る情報等の記録された部分は条例7条4号所定の非公開情報に該当するとして,この部分を不公開とする決定がなされたため,その取消しを求める訴えが提起されたところ,これらの情報を公にすることにより犯罪の捜査等に支障を及ぼすおそれがあると認めた新潟県警本部長の判断には相当の理由があるとして,請求が棄却された事例。 /知る権利/
参照条文: /新潟県情報公開条例(平成13年新潟県条例57号).7条/
全 文 h210709supreme2.html

最高裁判所 平成 21年 7月 7日 第2小法廷 決定 ( 平成20年(あ)第1703号 )
事件名:  児童買春,児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律違反,わいせつ図画販売,わいせつ図画販売目的所持,組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律違反被告事件(上告事件)
要 旨
 訴因変更手続に違法がないとされた事例。
 1.児童買春,児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律2条3項にいう児童ポルノを,不特定又は多数の者に提供するとともに,不特定又は多数の者に提供する目的で所持した場合には,児童の権利を擁護しようとする同法の立法趣旨に照らし,同法7条4項の児童ポルノ提供罪と同条5項の同提供目的所持罪とは併合罪の関係にある。(傍論)
 2.児童ポルノであり,かつ,刑法175条のわいせつ物である物を,他のわいせつ物である物も含め,不特定又は多数の者に販売して提供するとともに,不特定又は多数の者に販売して提供する目的で所持した場合においては,わいせつ物販売と同販売目的所持が包括して一罪を構成すると認められるところ,その一部であるわいせつ物販売と児童ポルノ提供,同じくわいせつ物販売目的所持と児童ポルノ提供目的所持は,それぞれ社会的,自然的事象としては同一の行為であって観念的競合の関係に立つから,結局以上の全体が一罪となる。(判旨)
 3.弁護人の上告趣意中の判例違反の主張が罪数判断に関して被告人にとり不利益な主張であり、不適法であるとされた事例。
参照条文: /児童買春,児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律:7条4項;7条5項/刑法:45条;54条1項;175条/刑事訴訟法:312条;405条3号/
全 文 h210707supreme91.html

最高裁判所 平成 21年 7月 7日 第3小法廷 判決 ( 平成19年(行ヒ)第170号 )
事件名:  公金不当利得返還等請求・上告事件
要 旨
 函館市議会の会派の所属議員が,具体的な調査研究活動ごとに,その活動内容及びこれに必要な政務調査費からの支出を求める金額を会派に申請し,会派の代表者及び経理責任者からその活動内容及び金額の承認を得た上で,経理責任者からその金員の交付を受けて支出したと主張している金銭について,同市の条例によれば,「函館市における政務調査費の支出は,「会派が行う」調査研究活動に対するものでなければならず」,「会派の代表者の承認があるだけでは「会派が行う」調査研究活動とはいえない」として,この支出を違法とした原判決が破棄された事例。
 1.函館市議会政務調査費の交付に関する条例施行規則により定められた政務調査費使途基準にいう「会派が行う」調査研究活動には,会派がその名において自ら行うもののほか,会派の所属議員等にこれをゆだね,又は所属議員による調査研究活動を会派のためのものとして承認する方法によって行うものも含まれると解すべきであ,会派は,一般に,議会の内部において議員により組織される団体であり,その内部的な意思決定手続等に関する特別の取決めがされていない限り,会派の代表者が会派の名においてした行為は,会派自らがした行為と評価される,とされた事例。 /住民訴訟/
参照条文: /地自.100条12項/函館市議会政務調査費の交付に関する条例.5条/函館市議会政務調査費の交付に関する条例施行規則.6条/
全 文 h210707supreme.html

最高裁判所 平成 21年 7月 3日 第2小法廷 判決 ( 平成19年(受)第1538号 )
事件名:  賃料等請求事件・上告事件
要 旨
 抵当権設定前からの賃借人が賃貸人に対して有していた保証金返還債権について、他の債権者からの差押等を期限の利益の喪失事由とする特約が抵当権設定後に合意され、その後の滞納処分により期限の利益が失われ、その後に抵当権に基づいて担保不動産収益執行が開始され、管理人が賃借人に賃料の支払を請求した事案において、賃借人が賃料債権の一部と保証金返還債権との相殺の意思表示を所有者にした場合に、その相殺が有効とされた事例。
 1.担保不動産収益執行の趣旨及び管理人の権限にかんがみると,管理人が取得するのは,賃料債権等の担保不動産の収益に係る給付を求める権利自体ではなく,その権利を行使する権限にとどまり,賃料債権等は,担保不動産収益執行の開始決定が効力を生じた後も,所有者に帰属しているものと解するのが相当であり,このことは,担保不動産収益執行の開始決定が効力を生じた後に弁済期の到来する賃料債権等についても変わるところはない。
 1a.担保不動産収益執行の開始決定の効力が生じた後も,担保不動産の所有者は賃料債権等を受働債権とする相殺の意思表示を受領する資格を失うものではない。
 2.賃借人が抵当権設定登記の前に取得した賃貸人に対する債権については,賃料債権と相殺することに対する賃借人の期待が抵当権の効力に優先して保護されるべきであるから,担保不動産の賃借人は,抵当権に基づく担保不動産収益執行の開始決定の効力が生じた後においても,抵当権設定登記の前に取得した賃貸人に対する債権を自働債権とし,賃料債権を受働債権とする相殺をもって管理人に対抗することができる。
 3.賃借人が賃貸人に対して有する保証金返還債権について抵当権設定後になされた期限の喪失特約の効力が抵当権に基づく担保不動産収益執行の管理人との関係で否定されずに、この特約により期限が到来した保証金返還債権を自働債権とする賃料債権との相殺が有効とされた事例。
参照条文: /民執.188条/民執.93条1項/民執.95条1項/民法:371条/民法:505条/民法:506条/民法:511条/
全 文 h210703supreme.html

最高裁判所 平成 21年 6月 30日 第3小法廷 決定 ( 平成21年(許)第9号 )
事件名:  特別抗告却下決定に対する許可抗告事件
要 旨
 特別抗告の理由として形式的には憲法違反の主張があるが,それが実質的には法令違反の主張にすぎない場合であっても,最高裁判所が当該特別抗告を棄却することができるにとどまり(民訴法336条3項,327条2項,317条2項),原裁判所が同法336条3項,327条2項,316条1項によりこれを却下することはできない。
参照条文: /民訴.317条2項/民訴.327条2項/民訴.336条3項/民訴316条1項/民訴327条2項/民訴.336条3項/
全 文 h210630supreme.html

最高裁判所 平成 21年 6月 30日 第3小法廷 決定 ( 平成19年(あ)第1580号 )
事件名:  住居侵入,強盗致傷被告事件(上告事件)
要 旨
 共犯者による住居侵入後・強盗行為前に犯行現場から離脱した者について,住居侵入及び強盗致傷の共同正犯が成立するとされた事例。
 1.被告人と共に住居に侵入して強盗に及ぶことを共謀した者のうちの一部が家人の在宅する住居に侵入した後,見張り役の共犯者が既に住居内に侵入していた共犯者に電話で「犯行をやめた方がよい,先に帰る」などと一方的に伝えただけで,被告人において格別それ以後の犯行を防止する措置を講ずることなく待機していた場所から見張り役らと共に離脱したにすぎず,残された共犯者らがそのまま強盗に及んだものと認められる場合には,被告人が離脱したのは強盗行為に着手する前であり,たとえ被告人も見張り役の上記電話内容を認識した上で離脱し,残された共犯者らが被告人の離脱をその後知るに至ったという事情があったとしても,当初の共謀関係が解消したということはできず,その後の共犯者らの強盗も当初の共謀に基づいて行われたものと認めるのが相当であり,被告人は住居侵入のみならず強盗致傷についても共同正犯の責任を負うとされた事例。
参照条文: /刑.60条/刑.130条/刑.230条/刑.240条/
全 文 h210630supreme91.html

最高裁判所 平成 21年 6月 29日 第1小法廷 決定 ( 平成21年(あ)第328号 )
事件名:  建造物侵入,窃盗被告事件(上告事件)
要 旨
 1.X,A,Bが共謀してゴト行為によりパチスロ遊技機からメダルを窃取することを企て,Xが専ら店内の防犯カメラや店員による監視からAのゴト行為を隠ぺいする目的をもって,ゴト行為のなされている遊技機の左隣の遊技機において,通常の方法により遊戯をし,これにより取得したメダルとAがゴト行為により取得したメダルとがXの太ももの上のドル箱に混在していた場合に,窃盗罪が成立する範囲は,ドル箱内のメダルについてはその一部にとどまるというべきであり,全部について窃盗罪の成立を認めた原判決は,窃盗罪における占有侵害に関する法令の解釈適用を誤ったものというべきであるとされた事例。
 2.原判決は,窃盗罪における占有侵害に関する法令の解釈適用を誤り,ひいては事実を誤認したものであるが,原判決の認定判示した量刑事情に照らすと,刑訴法411条を適用して原判決を破棄すべきものとは認められないとされた事例。 /回胴式遊技機/
参照条文: /刑.235条/刑訴.411条/
全 文 h210629supreme91.html

東京地方裁判所 平成 21年 6月 19日 民事第4部 判決 ( 平成20年(ワ)第38457号 )
事件名:  損害賠償請求事件
要 旨
 海外先物取引を行う会社の役員・従業員を被告として損害賠償の訴えを提起しようとする者(原告)が、将来の強制執行のことも考慮して、公示送達ではなく通常の送達方法により訴状を送達することを可能にするために、被告の現在の住所を知ろうとして、訴状提出先の裁判所に社会保険事務所及び公共職業安定所を嘱託先とする調査の嘱託の申立てをし、裁判所が被告の住所の調査の嘱託をしたが、社会保険庁個人情報保護管理規定あるいは職業安定法51条の2を根拠に報告が拒絶された場合に、その拒絶行為が国家賠償法1条1項の違法に当たると主張して原告が国に対して損害賠償の訴えを提起した事案において、嘱託先が裁判所の調査の嘱託に応ずる義務は当事者に対して負担する義務ではなく、当事者の法律上保護された利益を侵害したということもできないとして、請求が棄却された事例。
 1.民事訴訟法186条は、裁判所は、必要な調査を官庁若しくは公署、外国の官庁若しくは公署又は学校、商工会議所、取引所その他の団体に嘱託することができるとしており、裁判所にこのような権限を与えていることにかんがみると、嘱託を受けた内国の官公署は、正当な事由がない限り、嘱託に応じる義務を負う。
 
 1a.この義務は、調査嘱託についての裁判所の権限に対応した一般公法上の義務であり、嘱託先が調査嘱託の申立てをした当事者に対して負担する法的義務であるとは解されず、当事者との関係で職務上の法的義務に違背したことになるとはいえず、当事者の法律上保護された利益を侵害したということもできない。
参照条文: /民事訴訟法:186条/国家賠償法:1条1項/
全 文 h210619tokyoD.html

最高裁判所 平成 21年 6月 5日 第2小法廷 判決 ( 平成19年(行ヒ)第388号 )
事件名:  一般廃棄物処理業及び浄化槽清掃業の各不許可処分取消請求・上告事件
要 旨
 原告らが,くみ取し尿及びし尿浄化槽汚泥の収集運搬業並びに浄化槽清掃業を行おうとして,廃棄物処理法7条1項所定の許可及び浄化槽法35条1項所定の許可を被告に申請したが,いずれも不許可とする処分を受けたため,それらの取消しを求めた事案において,原審は、原告らが行う浄化槽の清掃により引き出される汚泥等の収集運搬につき,既に許可を受けているA社(被告補助参加人)と原告らとの間で業務委託契約が締結される見込みがあったのかどうかなどの事実について審理を尽くすことなく,A社の業務引受義務を根拠に,原告らは汚泥等の収集運搬をA社に業務委託することができる体制にあったとして,清掃業不許可処分に違法があるとしたが、原審のこの判断には判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反があるとされた事例。
 1.浄化槽清掃業の許可申請者が,浄化槽の清掃により引き出される汚泥等の収集運搬につき,これに必要な一般廃棄物処理業の許可を有しておらず,また,他の一般廃棄物処理業者に業務委託すること等により適切に処理する方法も有していない場合には,上記許可申請者は,浄化槽法36条2号ホにいう「その業務に関し不正又は不誠実な行為をするおそれがあると認めるに足りる相当の理由がある者」に当たる。
 2.大野広域連合長がA社のみに対し,一般廃棄物のうちし尿汚泥の収集運搬業の許可処分及び浄化槽清掃業の許可処分をした趣旨が,大野郡8か町村の区域内における浄化槽の清掃とこれにより引き出される汚泥等の収集運搬については,両者を一体として併せてA社に行わせるという趣旨であると解される場合に,A社としては,区域内の住民等から浄化槽の清掃とこれにより引き出される汚泥等の収集運搬とを併せて依頼されたときに,これを引き受けて業務を適切に行いさえすれば,処理計画に従った業務を遂行しているということができるのであり,これを超えて,他の事業者が行う浄化槽の清掃により引き出される汚泥等につき収集運搬を行うことを義務付けられる理由はないとされた事例。
参照条文: /浄化槽.35条/浄化槽.36条/廃棄物処理.7条1項/
全 文 h210605supreme.html

最高裁判所 平成 21年 6月 5日 第2小法廷 判決 ( 平成18年(行ヒ)第179号 )
事件名:  固定資産評価審査申出に対する決定取消請求・上告事件
要 旨
 西宮市の北部,六甲山系の北側の斜面に位置する区域が昭和45年の都市計画決定により市街化区域に指定され,その区域内に農地等を有する原告らが,平成12年度の価格について固定資産評価審査申出をしたが、棄却する決定がなされたため、その取消訴訟を提起した場合に,原審が,本件区域は現に市街地を形成していないだけでなく,今後人口の増加により市街化が図られることも見込めず,本件都市計画決定から35年後も,いまだ都市計画法7条2項にいう「おおむね10年以内に優先的かつ計画的に市街化を図るべき区域」とはかけ離れた状況にあり,一般的には,その区域内の市街化区域農地,原野及び雑種地が宅地に準じた価格で取引される状況にはないといわざるを得ず,西宮市長が所定の評価方法により決定した価格は,適正な時価を上回ると認められるから,本件決定のうち本件各土地に係る部分は違法であるとしたが,上告審により破棄された事例。
 1.市街化区域農地は,農地法4条1項又は5条1項の許可を受けることを要せず,あらかじめ農業委員会に届け出ることによって,農地以外のものに転用し又はそのために同法3条1項本文所定の権利を設定し若しくは移転することができるものとされている農地であるから,宅地化の需要が生じやすい区域に在り,かつ,宅地への転用が容易な農地であり,取引される場合には宅地に転用される可能性が高く,その意味で,宅地としての潜在的価値を有する農地ということができ,このことは,正常な条件の下に成立する市街化区域農地の取引において前提とされることが通常であるから,その客観的な交換価値を算定する上で必ず考慮されなければならない要素というべきである。
 2.地方税法附則19条の2第1項は,課税の公平及び市街化区域における宅地の供給の促進の見地から,市街化区域農地に対して課する固定資産税の課税標準となるべき価格については,当該市街化区域農地とその状況が類似する宅地の固定資産税の課税標準とされる価格に比準する価格によって定められるべき旨を規定していると解され,固定資産評価基準(昭和38年自治省告示第158号)所定の市街化区域農地の評価方法は,上記規定に従うものであり,市街化区域農地の適正な時価を算定する方法として一般的な合理性を有するものということができる。
 2a.本件土地の評価に用いられた西宮市土地評価要領は,評価基準所定の評価方法を前提として,市街化区域農地と状況が類似する宅地の価格を算定する際その評点数を市街地宅地評価法により付設する旨を定めるとともに,市街化区域農地を宅地に転用する場合に通常必要と認められる造成費相当額を具体的に定めるものであって,評価基準の定めを具体化するものとして一般的な合理性があるということができる。
参照条文: /地方税.附則19-2条/都市計画.7条/都市計画.13条/都市計画.29条/都市計画.33条/農地.4条/農地.5条/
全 文 h210605supreme2.html

最高裁判所 平成 21年 6月 4日 第1小法廷 判決 ( 平成19年(受)第1987号 )
事件名:  保険金請求事件・上告事件
要 旨
 保育園,老人ホーム,診療所として使用されている3つの建物を有するXが,最初の2つの建物についてY保険会社と店舗総合保険契約を締結し,残りの1つの建物についてA保険会社と店舗総合保険契約を締結していたところ,水害により床上浸水の被害を受けたため,Y保険会社に対して契約で定められた水害保険金100万円を請求した事案において,Yが,3つの建物は同一構内にあり,A保険会社に対しても100万円の水害保険金を請求できる場合であるから,A保険会社との別件保険契約は本件保険契約に適用される普通保険約款14条4項3号にいう「他の保険契約」に該当し,Yが支払うべき保険金額は50万円であると主張し,原審がこの主張を是認したのに対し,上告審が,「本件保険契約と保険の目的を異にする別件保険契約は,本件約款14条4項にいう『他の保険契約』には該当しない」として,Y保険会社は100万円の保険金を支払うべきであるとした事例。
 1.水害保険金と費用保険金との間にある保険給付の性質の相異に鑑みると,保険の目的を異にする保険契約が締結されている場合に,費用保険金については他の保険契約との間で保険給付の調整を図ることとし,水害保険金についてはそのような保険給付の調整は図らないこととすることには,実質的にみても,合理的な理由がある。 /重複保険/
参照条文: /保険.20条/普通保険約款
全 文 h210604supreme.html

大阪高等裁判所 平成 21年 6月 3日 第11民事部 決定 ( 平成21年(ラ)第408号 )
事件名:  担保権実行手続中止命令に対する抗告事件
要 旨
 金融機関の医療法人に対する当座貸越契約に基づく貸付債権の担保のために国民健康保険団体連合会に対する平成21年1月から12月までの間の診療報酬債権が譲渡担保に供され、同年4月20日に医療法人について再生手続が開始され、開始決定の翌日に同年2月分の診療報酬債権(4月24日入金分)につき、担保権実行手続中止命令が発せられ、これに対して債権者が即時抗告を申し立てたが、棄却された事例。
 (当座貸越限度額:8000万円、再生手続開始時の債権額(元本額):5200万円、本決定時の残元本額4200万円、再生手続開始後の診療報酬債権の月額:5000万円前後)
 1.民事再生法上の担保権実行手続中止命令は、担保権の実行により再生債務者の事業に不可欠な財産が失われて事業再生が困難となり、再生債権者一般の利益に反する事態が起こりうることを想定し、担保権の実行を一時的に中止し、再生債務者と担保権者との間で被担保債権の弁済方法等を協議し、利害の調整を図ることを目的としたものであり、債権を対象とする譲渡担保権でも、同様の状況が想定できる場合は、担保権実行手続中止命令の趣旨に沿い、民事再生法31条が類推適用される。
 2.集合債権譲渡担保では、新たに発生して譲渡担保権の対象に組み込まれる債権が存在するから、譲渡担保権の対象となった債権の一部が担保権実行手続中止命令の結果、再生債務者への弁済により事実上消滅する可能性があることのみをもって、担保権者に不当な損害が生じるということはできないとされた事例。
 3.担保権中止命令の対象となった譲渡担保権が対象債権の弁済により消滅しても、抗告により中止命令が取り消されれば、抗告の相手方(再生債務者)が対象債権の弁済を受けたことは不当利得を構成し、抗告人(譲渡担保権者)の不当利得返還請求権は、民事再生法119条6号により共益債権になる余地があると解されるから、抗告の利益があると認められた事例。
参照条文: /民事再生法:31条;119条6号/民法:703条/
全 文 h210603osakaH.html

最高裁判所 平成 21年 6月 2日 第3小法廷 判決 ( 平成21年(受)第226号 )
事件名:  死亡給付金等請求,民訴法260条2項の申立て・上告事件
要 旨
 保険契約者兼被保険者であると夫Aと指定受取人である妻Cとが同じ頃に死亡し,その先後が明らかで場合に,民法32条の2の規定により,両名は同時に死亡したものと推定され,AはCの法定相続人にはならないから,Aの相続人が保険金受取人となることはなく,保険金受取人は,商法676条2項の規定により,Cの相続人のみとなるとされた事例。
 1.商法676条2項にいう「保険金額ヲ受取ルヘキ者ノ相続人」とは,指定受取人の法定相続人又はその順次の法定相続人であって被保険者の死亡時に現に生存する者をいい,ここでいう法定相続人は民法の規定に従って確定されるべきものであって,指定受取人の死亡の時点で生存していなかった者はその法定相続人になる余地はない。
参照条文: /民法:32-2条/民法:882条/保険.46条/
全 文 h210602supreme.html

大阪高等裁判所 平成 21年 5月 27日 第7民事部 判決 ( 平成20年(ネ)第2971号 )
事件名:  預金返還請求・控訴事件
要 旨
 主債務者の破産手続開始前にその委託を受けずに保証人となった銀行が破産手続開始後に破産債権者に保証債務を履行したことにより取得した求償権を自働債権として破産者の預金債権と相殺した場合に、その相殺が破産法72条1項により禁止されないとされた事例。
 1.保証人の主たる債務者に対する事後求償権の法的性質は、主たる債務者の委託を受けて保証した場合は委任契約(保証委託契約)に基づく事務処理費用償還請求権であり、主たる債務者の委託を受けないで保証した場合は事務管理に基づく費用償還請求権とみるべきであるが、いずれの場合でも、上記事後求償権が、保証契約に基づき、保証人による弁済等を法定の停止条件として発生することに変わりはなく、主たる債務者の委託を受けたか否か、また主たる債務者の意思に反するか否かは、上記事後求償権の範囲及び限度を画する事実にすぎないと解すべきである。
 2.[最高裁判所平成7年1月20日第二小法廷判決・民集49巻1号1頁及び同裁判所平成10年4月14日第三小法廷判決・民集52巻3号813頁の射程距離]
 
 両判決の判旨は、数人の全部義務者の一人について和議開始決定があり、和議認可決定が確定した場合には、和議開始決定後の弁済により和議債務者に対して求償権を取得した他の全部義務者の求償権の行使は、和議制度の趣旨から、弁済による代位によって取得する和議債権(和議条件により変更された原債権)の限度に制限されるというものであり、上記求償権が和議債権であるか否かについては明示の判断を示しているものではないと解される。
参照条文: /民法:462条;650条;697条;702条;703条/破産法:67条;70条;72条/
全 文 h210527osakaH.html

最高裁判所 平成 21年 4月 28日 第3小法廷 判決 ( 平成20年(受)第804号 )
事件名:  損害賠償請求事件・上告事件
要 旨
 加害者が被害者を殺害した後に死体を自宅の床下に掘った穴に埋めて隠匿するなどしたため,被害者の両親及び兄弟らが被害者の死亡の事実を知ることができず,相続人が確定せず損害賠償請求権を行使する機会がないまま殺害行為から20年が経過した場合に,その後の加害者の自首により相続人らが被害者の死亡を知り,それから3か月内に限定承認又は相続の放棄をしなかったことによって単純承認をしたものとみなされ,これにより相続人が確定したところ,更にそれから6か月内に加害者に対して損害賠償請求の訴えを提起したときに,民法724条後段の規定にかかわらず,特段の事情があるとして,殺害行為に係る損害賠償請求権が消滅したということはできないとされた事例。
 1.民法724条後段の規定は,不法行為による損害賠償請求権の除斥期間を定めたものであり,不法行為による損害賠償を求める訴えが除斥期間の経過後に提起された場合には,裁判所は,当事者からの主張がなくても,除斥期間の経過により上記請求権が消滅したものと判断すべきである。(前提問題についての先例の確認。意見あり)
 2.被害者を殺害した加害者が,被害者の相続人において被害者の死亡の事実を知り得ない状況を殊更に作出し,そのために相続人はその事実を知ることができず,相続人が確定しないまま上記殺害の時から20年が経過した場合において,その後相続人が確定した時から6か月内に相続人が上記殺害に係る不法行為に基づく損害賠償請求権を行使したなど特段の事情があるときは,民法160条の法意に照らし,同法724条後段の効果は生じない。
参照条文: /民法:724条/民法:160条/
全 文 h210428supreme.html

最高裁判所 平成 21年 4月 28日 第3小法廷 判決 ( 平成20年(受)第981号 )
事件名:  損害賠償請求・上告事件
要 旨
 小学校の教師が,休み時間に悪ふざけをした2年生の男子児童に対し,その胸元を右手でつかんで壁に押し当て,大声で「もう,すんなよ。」と叱った場合に,その行為は,児童の身体に対する有形力の行使ではあるが,他人を蹴るという一連の悪ふざけについて,これからはそのような悪ふざけをしないように指導するために行われたものであり,悪ふざけの罰として肉体的苦痛を与えるために行われたものではないことが明らかであり,その行為は,その目的,態様,継続時間等から判断して,教員が児童に対して行うことが許される教育的指導の範囲を逸脱するものではなく,学校教育法11条ただし書にいう体罰に該当するものではないとされた事例。 /教師の児童に対する指導行為について,母親が長期にわたって学校関係者等に対し極めて激しい抗議行動を続けた事例/
参照条文: /民法:709条/国賠.1条1項/学校教育.11条/
全 文 h210428supreme3.html

最高裁判所 平成 21年 4月 28日 第3小法廷 判決 ( 平成20年(行ヒ)第97号 )
事件名:  損害賠償代位等請求・上告事件
要 旨
 住民が市に代位して提起した談合による不法行為に基づく損害賠償請求訴訟において,原審が,提出された証拠の具体的内容等を十分に検討することなく,談合による不法行為に基づく損害賠償請求権が容易に主張,立証が可能な債権というものではないなどといった一般的,形式的な理由により,公正取引委員会の審決が確定するまで市長が不法行為に基づく損害賠償請求権を行使しないことに合理性があり,請求権の不行使は違法な怠る事実に当たらないと判断したことが違法であるとされた事例。
 1.地方公共団体が有する債権の管理について定める地方自治法240条,同法施行令171条から171条の7までの規定によれば,客観的に存在する債権を理由もなく放置したり免除したりすることは許されず,原則として,地方公共団体の長にその行使又は不行使についての裁量はない。
 1a.もっとも,地方公共団体の長が債権の存在をおよそ認識し得ないような場合にまでその行使を義務付けることはできない上,不法行為に基づく損害賠償請求権は,債権の存否自体が必ずしも明らかではない場合が多いことからすると,その不行使が違法な怠る事実に当たるというためには,少なくとも,客観的に見て不法行為の成立を認定するに足りる証拠資料を地方公共団体の長が入手し,又は入手し得たことを要するものというべきである。
 2.独禁法違反の行為によって自己の法的利益を害された者は,当該行為が民法上の不法行為に該当する限り,公取委による審決の有無にかかわらず,不法行為に基づく損害賠償請求権を行使することを妨げられない。
 2a.独禁法違反行為(談合)の排除を命ずる審決が確定するまで不法行為に基づく損害賠償請求権を行使しないこととすると,地方公共団体が被った損害の回復が遅れることとなる上,同請求権につき民法724条所定の消滅時効が完成するなどのおそれもあるから,仮に,独禁法違反の事実を認める審決がされ,将来的にその審決が確定した場合には独禁法25条に基づく損害賠償請求権を行使することが可能になる(そして,同請求権を行使する場合,不法行為に基づく損害賠償請求権を行使する場合と比べ,主張,立証の負担が軽減される)としても,そのことだけでは,当然に不法行為に基づく損害賠償請求権を行使しないことを正当化する理由となるものではない。
 3.原審が,独禁法違反行為(談合)の排除を命ずる審決審決が確定した時点をその行為による不法行為に基づく損害賠償請求権の消滅時効の起算点と解することができるとしたのに対し,上告審が,本件の事情の下では,市長は,談合による賠償請求をすることが事実上可能な状況の下に,それが可能な程度に損害及び加害者を知ったものということができ,審決が確定していないことは,不法行為による損害賠償請求権の消滅時効の進行を妨げるものではないとした事例。 /尼崎市ストーカ炉談合/
参照条文: /民法:709条/民法:724条/独禁.25条/地自.240条/地自.242-2条1項4号/
全 文 h210428supreme2.html

最高裁判所 平成 21年 4月 24日 第2小法廷 判決 ( 平成20年(受)第224号 )
事件名:  損害賠償等請求・上告事件
要 旨
 1.仮処分命令における保全すべき権利が,本案訴訟の判決において,当該仮処分命令の発令時から存在しなかったものと判断され,このことが事情の変更に当たるとして当該仮処分命令を取り消す旨の決定が確定した場合には,当該仮処分命令を受けた債務者は,その保全執行としてされた間接強制決定に基づき取り立てられた金銭につき,債権者に対して不当利得返還請求をすることができる。 /被保全権利/仮の地位を定める仮処分/仮地位仮処分/
参照条文: /民法:703条/民保.1条/民保.24条/民保38条/民執.172条/
全 文 h210424supreme.html

最高裁判所 平成 21年 4月 23日 第1小法廷 判決 ( 平成19年(受)第2069号 )
事件名:  弁護士報酬請求・上告事件
要 旨
 1.地方自治法242条の2第7項の立法趣旨に照らすと,同項にいう「相当と認められる額」とは,旧4号住民訴訟において住民から訴訟委任を受けた弁護士が当該訴訟のために行った活動の対価として必要かつ十分な程度として社会通念上適正妥当と認められる額をいい,その具体的な額は,当該訴訟における事案の難易,弁護士が要した労力の程度及び時間,認容された額,判決の結果普通地方公共団体が回収した額,住民訴訟の性格その他諸般の事情を総合的に勘案して定められるべきものと解するのが相当である。
 1a.住民訴訟の判決認容額が1億3000万円を超え,判決の結果地方自治体が約9500万円を既に回収している場合に,この住民訴訟に関する弁護士報酬の「相当と認められる額」を定めるに当たっては,これら認容額及び回収額は重要な考慮要素となるとされ,これを従たる要素として他の要素に加味する程度にとどめて報酬額を300万円と定めた原判決が破棄された事例。 /大阪弁護士会報酬規程/
参照条文: /地自.242-2条/
全 文 h210423supreme.html

最高裁判所 平成 21年 4月 23日 第1小法廷 判決 ( 平成20年(オ)第1298号 )
事件名:  所有権移転登記手続等請求・上告事件
要 旨
 規制の目的,必要性,内容,その規制によって制限される財産権の種類,性質及び制限の程度等を比較考量して判断すれば,区分所有法70条は,憲法29条に違反するものではない。
 1.区分所有建物について,老朽化等によって建替えの必要が生じたような場合に,大多数の区分所有者が建替えの意思を有していても一部の区分所有者が反対すれば建替えができないということになると,良好かつ安全な住環境の確保や敷地の有効活用の支障となるばかりか,一部の区分所有者の区分所有権の行使によって,大多数の区分所有者の区分所有権の合理的な行使が妨げられることになるから,1棟建替えの場合に区分所有者及び議決権の各5分の4以上の多数で建替え決議ができる旨定めた区分所有法62条1項は,区分所有権の上記性質にかんがみて,十分な合理性を有する。
 1a.区分所有法70条1項は,団地内の各建物の区分所有者及び議決権の各3分の2以上の賛成があれば,団地内区分所有者及び議決権の各5分の4以上の多数の賛成で団地内全建物一括建替えの決議ができるものとしているが,団地内全建物一括建替えは,団地全体として計画的に良好かつ安全な住環境を確保し,その敷地全体の効率的かつ一体的な利用を図ろうとするものであるところ,区分所有権の性質にかんがみると,同1項の定めは,なお合理性を失うものではないというべきであり,また,団地内全建物一括建替えの場合,1棟建替えの場合と同じく,建替えに参加しない区分所有者は,売渡請求権の行使を受けることにより,区分所有権及び敷地利用権を時価で売り渡すこととされているのであり,その経済的損失については相応の手当がされているというべきである。
参照条文: /区分所有.62条/区分所有.63条/区分所有.70条/憲.29条/
全 文 h210423supreme2.html

大阪地方裁判所 平成 21年 4月 23日 第26民事部 判決 ( 平成19年(ワ)第8023号 )
事件名:  不正競争行為差止等請求事件
要 旨
 関西地域において周知性を獲得している動物愛護団体(原告「アニマル・レフュージ・カンサイ(Animal Refuge Kansai)」)の表示(団体の名称の英語表記の頭文字をとった「ARK」及びこの文字からなる英単語の発音である「アーク」)に類似する表示(「Ark-Angels」「アーク・エンジェルズ」等)を大阪市内に本拠を置く被告が使用している場合に、不正競争防止法2条1項1号により、その表示を付した衣類の販売の差止、動物を扱う事業及びこれに付帯する事業においてその表示を使用することの差止等の外に、「ark-angels.jp」のドメイン名の使用の差止。「http://ark-angels.jp」において開設するウェブサイトからその表示を抹消することが命じられた事例。 (訴訟法上の注意点)
 1.原告が被告各表示の使用差止等について、異なる実体法上の権利に基づいて複数の請求を選択的に併合している場合に、裁判所が一つの請求を認容するにあたって、他の請求が認容されるとしても「差止の範囲が変わることがない」ことを明示した上で、他の請求については判断しないと説示した事例。
 2.原告(非営利法人)が動物愛護活動について築いてきた信用が被告の行為により傷つけられ,無形の損害を被ったと認められる場合に、原告がその損害賠償を慰謝料と表現していたが、裁判所が「個人の慰謝料に相当する無形損害の賠償を認めるべきである」とした事例。 /知的財産権/民事事件/不正競争防止法/
参照条文: /不正競争防止法:2条1項1号/民法:709条;710条/
全 文 h210423osakaD.html

最高裁判所 平成 21年 4月 21日 第3小法廷 判決 ( 平成17年(あ)第1805号 )
事件名:  殺人,同未遂,詐欺被告事件(上告事件)
要 旨
 自治会の夏祭りに際して,参加者に提供されるカレーの入った鍋に猛毒の亜砒酸を大量に混入し,同カレーを食した住民ら67名を急性砒素中毒にり患させ,うち4名を殺害したが,その余の63名については死亡させるに至らなかったという事案(和歌山カレー毒物混入事件)について,死刑判決が維持された事例。
 1.犯行動機が解明されていないことは,被告人が犯人であるとの認定を左右するものではないとされた事例。
 1a.殺人,殺人未遂の事実について,合理的な疑いを差し挟む余地のない程度に証明されているとされた事例。
参照条文: /刑訴.411条/刑訴.317条/刑.199条/
全 文 h210421supreme91.html

京都地方裁判所 平成 21年 4月 21日 決定 ( [平成21年(再)第2号] )
事件名:  担保権実行手続中止命令申立て事件
要 旨
 再生債務者が国民健康保険団体連合会に対して有する診療報酬債権を対象とする譲渡担保について、担保権実行手続中止命令が発せられた事例。 /民事再生/
参照条文: /民事再生法:31条/
全 文 h210421kyotoD.html

最高裁判所 平成 21年 4月 17日 第2小法廷 判決 ( 平成20年(受)第951号 )
事件名:  株主総会等決議不存在確認請求・上告事件
要 旨
 株主総会決議により取締役を解任された原告らが提起した旧役員の解任・新役員の選任を内容とする株主総会決議不存在確認の訴えの係属中に株式会社が破産手続開始の決定を受けた場合に,原審が,破産手続の開始により会社との委任関係は当然に終了するから,新取締役らは当然にその地位を失い,旧取締役らがその地位に復活することはないことを理由に,訴えの利益は消滅したと判断したのに対し,上告審が,この種の決議不存在確認の訴えについては破産手続の開始により当然に訴えの利益が消滅することはないとした事例。
 1.
 民法653条は,委任者が破産手続開始の決定を受けたことを委任の終了事由として規定するが,これは,破産手続開始により委任者が自らすることができなくなった財産の管理又は処分に関する行為は,受任者もまたこれをすることができないため,委任者の財産に関する行為を内容とする通常の委任は目的を達し得ず終了することによるものと解される。
 2.会社が破産手続開始の決定を受けた場合,破産財団についての管理処分権限は破産管財人に帰属するが,役員の選任又は解任のような破産財団に関する管理処分権限と無関係な会社組織に係る行為等は,破産管財人の権限に属するものではなく,破産者たる会社が自ら行うことができる。
 2a.会社につき破産手続開始の決定がされても直ちには会社と取締役又は監査役との委任関係は終了するものではないから,破産手続開始当時の取締役らは,破産手続開始によりその地位を当然には失わず,会社組織に係る行為等については取締役らとしての権限を行使し得る。
 2b.株式会社の取締役又は監査役の解任又は選任を内容とする株主総会決議不存在確認の訴えの係属中に当該株式会社が破産手続開始の決定を受けても,上記訴訟についての訴えの利益は当然には消滅しないと解すべきである。
参照条文: /民法:653条/会社.330条/会社.会社.834条16号/
全 文 h210417supreme.html

最高裁判所 平成 21年 4月 17日 第2小法廷 判決 ( 平成19年(受)第1219号 )
事件名:  約束手形金,不当利得返還等請求・上告事件
要 旨
 1.代表取締役が取締役会の決議を経ないでした重要な業務執行に該当する取引も,内部的な意思決定を欠くにすぎないから,原則として有効であり,取引の相手方が取締役会の決議を経ていないことを知り又は知り得べかりしときに限り無効になる。
 1a.株式会社の代表取締役が取締役会の決議を経ないで重要な業務執行に該当する取引をした場合,取締役会の決議を経ていないことを理由とする同取引の無効は,原則として会社のみが主張することができ,会社以外の者は,会社の取締役会が上記無効を主張する旨の決議をしているなどの特段の事情がない限り,これを主張することはできない。
 1b.倒産した会社の過払金返還請求権が取締役会の議決を経ることなく代表取締役により第三者に譲渡された場合に,債権譲受人の債務者に対する支払請求訴訟において,債権譲渡会社の取締役会が債権譲渡の無効を主張する旨の決議をしているなどの特段の事情はうかがわれないから,債権譲渡の対象とされた過払金返還請求権の債務者は,債権譲受人に対し,譲渡会社の取締役会の決議を経ていないことを理由とする債権譲渡の無効を主張することはできないとされた事例。
 2.墓地の所有者から墓地使用権の設定を受けた者が債権担保のために墓地使用権を債権者に譲渡したが,その後に被担保債権が消滅した場合に,墓地所有者が使用権譲受人に対して提起した譲受人に使用権が帰属しないことの確認訴訟において,譲渡当事者間において帰属に争いがない以上所有者は譲受人に墓地使用権が属することを認めざるを得ないとして請求を棄却した原判決が破棄され,請求が認容された事例。
 2a.墓地の所有者は,彼が設定した墓地使用権を譲り受けたと主張する者に対して,墓地使用権がその者に帰属しない旨の確認を求めることができる。 /確認の利益/訴えの利益/
参照条文: /会社.362条4項/
全 文 h210417supreme2.html

最高裁判所 平成 21年 4月 17日 第2小法廷 判決 ( 平成20年(行ヒ)第35号 )
事件名:  住民票不記載処分取消等請求・上告事件
要 旨
 「非嫡出子」あるいは「嫡出でない子」という用語を差別的と考える父が,その非嫡出子の出生の届出義務者である母に代わって,自らを届出人とし,「嫡出子又は嫡出でない子」の記載欄を空白にした届出書を世田谷区長に提出したところ,不受理処分がなされ,その後,父が上記の子につき住民票の記載を求める申出をしたところ,記載しない旨の応答がなされたため,この応答が行政処分であることを前提に,父がその取消しを求めるとともに,住民票の記載をしない不作為が違法であると主張して,父母と子が国家賠償法1条1項に基づく損害賠償等を求める訴えを提起した場合に,上記応答は抗告訴訟の対象となる行政処分に該当しないとして訴えが却下され,また区長が職権で住民票に子の記載をしなかったことが違法であるとは言えないとして,損害賠償請求が棄却された事例。
 1.嫡出でない子につき住民票の記載をすることを求める父の申出については,区長に応答義務が課されておらず,住民票の記載に係る職権の発動を促す住民基本台帳法14条2項所定申出とみるほかなく,したがって,その応答は,法令に根拠のない事実上の応答にすぎず,これにより子又は父の権利義務ないし法律上の地位に直接影響を及ぼすものではないから,抗告訴訟の対象となる行政処分に該当しない。
 2.住民基本台帳法及び住民基本台帳法施行令は,出生した子につき出生届が提出されなかった場合において,当該子に係る住民票の記載をするための手続として,出生届の届出義務者に対し届出の催告等をし,出生届の提出を待って,戸籍の記載に基づき,職権で住民票の記載をする方法(届出の催告等による方法)と,職権調査を行って当該子の身分関係等を把握し,その結果に基づき,職権で住民票の記載をする方法(職権調査による方法)の2種類の手続を設けているが,法は,両手続のうち,届出の催告等による方法を原則的な方法として定めているものと解するのが相当である。
 2a.したがって,市町村長は,父又は母の戸籍に入る子について出生届が提出されない結果,住民票の記載もされていない場合,常に職権調査による方法で住民票の記載をしなければならないものではなく,原則として,出生届の届出義務者にその提出を促し,戸籍の記載に基づき住民票の記載をすれば足りる。
 2b.戸籍に記載のない子については,届出の催告等による方法により住民票の記載をするのが原則的な手続であるとはいえ,その方法によって住民票の記載をすることが社会通念に照らし著しく困難であり又は相当性を欠くなどの特段の事情がある場合にまで,出生届が提出されていないことを理由に住民票の記載をしないことが許されるものではなく,このような場合には,市町村長に職権調査による方法で当該子につき住民票の記載をすべきことが義務付けられることがある。
 2c.特段の事情があるとは認められなかったため,区長が職権調査による方法で子につき住民票の記載をしなかったことに違法はないとされ,損害賠償請求が棄却された事例。
参照条文: /国賠.1条1項/行訴.3条2項/戸籍.49条2項1号/住民基本台帳.8条/住民基本台帳.9条/住民基本台帳.14条2項/住民基本台帳.22条1項/住民基本台帳法施行令.7条/住民基本台帳法施行令.11条/住民基本台帳法施行令.12条/
全 文 h210417supreme3.html

最高裁判所 平成 21年 4月 14日 第3小法廷 判決 ( 平成19年(受)第996号 )
事件名:  貸金請求本訴,損害賠償等請求反訴・上告事件
要 旨
 債権者(貸金業者)が債務者に対し弁済の遅滞による期限の利益の喪失を宥恕し,再度期限の利益を付与したとの原審の判断に,審理不十分の違法があるとされた事例。(事実の評価の誤り)
 1.分割弁済の約定のある消費貸借契約の債務者が元利金の支払いを怠ったために期限の利益を喪失した後に,当初の約定の元利金相当額を継続的に支払い、債権者がこれを受領していた場合に,債権者が期限の利益が失われたことを前提とする記載がされた書面(元本部分を除く弁済金を利息としてではなく損害金として受領する旨の書面)を交付していたときには,債権者が別途同書面の記載内容とは異なる内容の請求をしていたなどの特段の事情のない限り,債権者が同書面の記載内容と矛盾する宥恕や期限の利益の再度付与の意思表示をしたとは認められず,債権者が残元利金の一括支払を請求していないなどの事情は,特段の事情に当たるものではないとされた事例。
参照条文: /民法:137条/
全 文 h210414supreme.html

最高裁判所 平成 21年 4月 14日 第3小法廷 判決 ( 平成19年(あ)第1785号 )
事件名:  強制わいせつ被告事件(上告事件)
要 旨
 小田急電鉄の朝の通勤・通学時間帯における満員電車内で痴漢を受けたとの被害者(当時17才の女性)の供述が公訴事実(強制わいせつ)を基礎づける唯一の証拠であって,物的証拠等の客観的証拠が存在しない場合に,事実審が被害者の供述を信用して有罪としたのに対し,上告審が供述の信用性にはなお疑いを入れる余地があり,被害者の供述の信用性を全面的に肯定した第1審判決及び原判決の判断は,必要とされる慎重さを欠いており,被告人が公訴事実の犯行を行ったと断定するについては,なお合理的な疑いが残るとして,無罪判決を下した事例。
 1.上告審における事実誤認の主張に関する審査は,上告審が法律審であることを原則としていることにかんがみ,原判決の認定が論理則,経験則等に照らして不合理といえるかどうかの観点から行うべきである。
 1a.満員電車内の痴漢事件においては,被害事実や犯人の特定について物的証拠等の客観的証拠が得られにくく,被害者の供述が唯一の証拠である場合も多い上,被害者の思い込みその他により被害申告がされて被告人が犯人と特定された場合,その者が有効な防御を行うことが容易ではないという特質が認められることから,これらの点を考慮した上で特に慎重な判断をすることが求められる。 /疑わしきは被告人の利益に/冤罪防止/合理的な疑いを超えた証明/
参照条文: /刑.176条/刑訴.411条3号/
全 文 h210414supreme91.html

最高裁判所 平成 21年 3月 31日 第3小法廷 判決 ( 平成20年(受)第442号 )
事件名:  組合員代表訴訟・上告事件
要 旨
 1.農業協同組合の理事に対する代表訴訟を提起しようとする組合員が,農業協同組合の代表者として監事ではなく代表理事を記載した提訴請求書を農業協同組合に対して送付した場合であっても,監事において,上記請求書の記載内容を正確に認識した上で当該理事に対する訴訟を提起すべきか否かを自ら判断する機会があったといえるときには,監事は,農業協同組合の代表者として監事が記載された提訴請求書の送付を受けたのと異ならない状態に置かれたものといえるから,上記組合員が提起した代表訴訟については,代表者として監事が記載された適式な提訴請求書があらかじめ農業協同組合に送付されていたのと同視することができ,これを不適法として却下することはできない。
 1a.農協の代表理事組合長が理事会において,出席していた理事及び監事に対し,提訴請求についての審議を求め,その際,提訴請求書の記載内容を読み上げて,審議の結果,提訴請求書の記載内容に沿って訴訟を提起することを決議されたが,その後に提訴しない旨の決議がなされたため,組合員が理事らに対して代表訴訟の訴えを提起した場合に,監事は,提訴請求書の記載内容を正確に認識した上で訴訟を提起すべきか否かを自ら判断する機会があったというべきであるから,組合員が提起した代表訴訟の訴えは,提訴請求の時点において同農協の理事であった者らに関する部分についても,適式な提訴請求があったのと同視することができ,これを不適法として却下することはできないとされた事例。
 2.4農協の合併契約の中の「合併日の財産目録及び貸借対照表並びにこれに附属する各種書類に,故意又は重大な過失による誤びゅう脱落若しくは隠れた瑕疵があったため,新組合が損害を受けたときは,その損害を与えた被合併組合の役員は,各個人の資格において連帯して賠償の責に任ずるものとする」との条項(損害賠償条項)に基づく損害賠償請求訴訟において,合併前のある農協の理事らが損害賠償が含まれていることを十分に承知した上で,その農協が合併契約を締結することに賛成するなどして,その締結手続を代表理事にゆだねているのであるから,代表理事を介して,旧4農協に対して個人として賠償条項に基づく責任を負う旨の意思表示をしたものと認めるのが相当であるとされ,旧4農協の権利義務を承継した新農協に対する関係でも,賠償条項に基づく責任を免れないものというべきであるとされた事例。
参照条文: /農業協同組合.39条/会社.386条2項1号/会社.847条/民法:第3編第2章/
全 文 h210331supreme.html

最高裁判所 平成 21年 3月 27日 第2小法廷 判決 ( 平成19年(受)第783号 )
事件名:  損害賠償請求・上告事件
要 旨
 左大腿骨頸部を骨折した患者が,被告の設置する病院において,全身麻酔と局所麻酔である硬膜外麻酔を併用して左大腿骨の人工骨頭置換術を受けたところ,術中に心停止となり,死亡した場合に,担当医師らには,麻酔薬の過剰投与等の過失があるとして,患者の死亡について不法行為に基づく損害の賠償が命じられた例。
 1.原審は,硬膜外麻酔のために用いられた塩酸メピバカインの投与量を減らしたとしても,その程度は麻酔担当医の裁量に属するものであり,その減量により心停止及び死亡の結果を回避することができたといえる資料もないから,死亡と因果関係を有する過失の具体的内容を確定することはできないとしつつ,適切な処置をしていれば患者の死亡を回避し,延命を得た可能性が相当程度あることは否定できないとして,その可能性の侵害の限度で損害の賠償を命じたのに対し,上告審は,本件の個別事情に即した薬量の配慮をせずに高度の麻酔効果を発生させ,これにより心停止が生じ,死亡の原因となったことが確定できる以上,これをもって,死亡の原因となった過失であるとするに不足はない。塩酸メピバカインをいかなる程度減量すれば心停止及び死亡の結果を回避することができたといえるかが確定できないとしても,単にそのことをもって,死亡の原因となった過失がないとすることはできないとした事例。 /医療過誤/プロポフォール/
参照条文: /民法:709条/民訴.247条/
全 文 h210327supreme.html

最高裁判所 平成 21年 3月 27日 第2小法廷 判決 ( 平成19年(受)第1280号 )
事件名:  供託金還付請求権帰属確認請求本訴,同反訴事件・上告事件
要 旨
 
 譲渡禁止特約付債権が譲渡され,債務者が債権者不確知を理由に弁済供託をした場合に,特別清算手続中の譲渡人が譲受人に対して債権譲渡の無効を主張することができないとされた事例。
 1.債権の譲渡性を否定する意思を表示した譲渡禁止の特約は,債務者の利益を保護するために付されるものと解される。
 1a.譲渡禁止の特約に反して債権を譲渡した債権者は,同特約の存在を理由に譲渡の無効を主張する独自の利益を有しないのであって,債務者に譲渡の無効を主張する意思があることが明らかであるなどの特段の事情がない限り,その無効を主張することは許されない。
 2.債務者が債権譲渡の無効を主張することなく債権者不確知を理由として債権の債権額に相当する金員を供託している場合に,譲渡人には譲渡禁止の特約の存在を理由とする債権譲渡の無効を主張する独自の利益はなく,前記特段の事情の存在もうかがわれないから,譲渡人が譲渡の無効を主張することは許されないとされた事例。 /債権譲渡禁止特約/
参照条文: /民法:466条/
全 文 h210327supreme2.html

最高裁判所 平成 21年 3月 24日 第3小法廷 判決 ( 平成19年(受)第1548号 )
事件名:  持分権移転登記手続請求・上告事件
要 旨
 1.相続人のうちの1人に対して財産全部を相続させる旨の遺言により相続分の全部が当該相続人に指定された場合,遺言の趣旨等から相続債務については当該相続人にすべてを相続させる意思のないことが明らかであるなどの特段の事情のない限り,当該相続人に相続債務もすべて相続させる旨の意思が表示されたものと解すべきであり,これにより,相続人間においては,当該相続人が指定相続分の割合に応じて相続債務をすべて承継することになると解するのが相当である。
 1a. 上記遺言による相続債務についての相続分の指定は,相続債権者の関与なくされたものであるから,相続債権者に対してはその効力が及ばず,各相続人は,相続債権者から法定相続分に従った相続債務の履行を求められたときには,これに応じなければならず,指定相続分に応じて相続債務を承継したことを主張することはできない。
 1b.相続債権者の方から相続債務についての相続分の指定の効力を承認し,各相続人に対し,指定相続分に応じた相続債務の履行を請求することは妨げられない。
 2.遺留分の侵害額は,確定された遺留分算定の基礎となる財産額に民法1028条所定の遺留分の割合を乗じるなどして算定された遺留分の額から,遺留分権利者が相続によって得た財産の額を控除し,同人が負担すべき相続債務の額を加算して算定すべきものである。(先例の確認)
 2a. 相続人のうちの1人に対して財産全部を相続させる旨の遺言がされ,当該相続人が相続債務もすべて承継したと解される場合,遺留分の侵害額の算定においては,遺留分権利者の法定相続分に応じた相続債務の額を遺留分の額に加算することは許されない。
 2b.遺留分権利者が相続債権者から相続債務について法定相続分に応じた履行を求められ,これに応じた場合も,履行した相続債務の額を遺留分の額に加算することはできず,相続債務をすべて承継した相続人に対して求償し得るにとどまる。
参照条文: /民法:427条;899条;902条;908条;1029条;1031条/
全 文 h210324supreme

大阪地方裁判所 平成 21年 3月 12日 判決 ( 平成20年(ワ)第5191号 )
事件名:  求償債権等請求事件
要 旨
 会社について破産手続が開始され,従業員の給料債権が破産法149条1項により財団債権となるが,破産会社からの委託に基づき破産手続開始前に給料債権(原債権)を弁済することによりこれを代位取得した者の求償権(委任契約に基づく費用償還請求権)は破産債権である場合に,代位取得者は,特段の事情のない限り原債権を財団債権として行使することができないが,本件では特段の事情があるとして,その行使が認められた事例。
 1.第三者が給料の立替払をした場合には,労働者保護の観点から給料債権を財団債権とした破産法上の趣旨が達成されたといえるから,特段の事情のない限り,財団債権には当たらない。
 1a.特段の事情があるとされた事例。
 
 給料の立替払をした原告が業務として破産会社の債務の保証等を行ってはおらず,立替払が破産会社の代表者から給料は優先債権であり決して迷惑はかけないとして懇請されてなしたものであること,代位によって取得した給料債権が財団債権に当たらないとした場合,原告が委任ないし準委任契約の錯誤無効を主張し,従業員に対して立替払した給料の返還請求を行い,従業員が財団債権者となる事態も予想され,労働者の保護という破産法の趣旨が達成されたとはいえなくなることからすれば,本件においては,原告が取得した給料債権(原債権)は,なお財団債権としての優先的な効力を付与すべき特段の事情がある。
参照条文: /破産法:149条1項/民法:500条;501条;650条1項/
全 文 h210312osakaD.html

最高裁判所 平成 21年 3月 6日 第2小法廷 判決 ( 平成20年(受)第1170号 )
事件名:  不当利得返還請求事件・上告事件
要 旨
 過払金充当合意を含む基本契約に基づく継続的な金銭消費貸借取引に係る弁済金のうちの過払部分の不当利得返還請求権について,その消滅時効の起算点は,過払金返還請求権の発生時ではなく,継続的取引の終了時点であるとされた事例。
 1.一般に,過払金充当合意には,借主は基本契約に基づく新たな借入金債務の発生が見込まれなくなった時点,すなわち,基本契約に基づく継続的な金銭消費貸借取引が終了した時点で過払金が存在していればその返還請求権を行使することとし,それまでは過払金が発生してもその都度その返還を請求することはせず,これをそのままその後に発生する新たな借入金債務への充当の用に供するという趣旨が含まれているものと解するのが相当であり,過払金充当合意を含む基本契約に基づく継続的な金銭消費貸借取引においては,同取引継続中は過払金充当合意により過払金返還請求権の行使が妨げられていると解するのが相当である。(原審と異なる判断)
 1a.借主は,基本契約に基づく借入れを継続する義務を負うものではないので,一方的に基本契約に基づく継続的な金銭消費貸借取引を終了させ,その時点において存在する過払金を請求することができるが,それをもって過払金発生時からその返還請求権の消滅時効が進行すると解することは,借主に対し,過払金が発生すればその返還請求権の消滅時効期間経過前に貸主との間の継続的な金銭消費貸借取引を終了させることを求めるに等しく,過払金充当合意を含む基本契約の趣旨に反することとなるから,そのように解することはできない。(参照判例あり)
 1b.過払金充当合意を含む基本契約に基づく継続的な金銭消費貸借取引においては,同取引により発生した過払金返還請求権の消滅時効は,過払金返還請求権の行使について上記内容と異なる合意が存在するなど特段の事情がない限り,同取引が終了した時点から進行する。(先例の確認)
参照条文: /民法:166条1項/民法:167条/民法:704条/
全 文 h210306supreme.html

最高裁判所 平成 21年 3月 3日 第3小法廷 判決 ( 平成20年(受)第543号 )
事件名:  不当利得返還請求・上告事件
要 旨
 過払金充当合意を含む基本契約に基づく継続的な金銭消費貸借取引に係る弁済金のうちの過払部分の不当利得返還請求権について,その消滅時効の起算点は,過払金返還請求権の発生時ではなく,継続的取引の終了時点であるとされた事例。
 1.一般に,過払金充当合意には,借主は基本契約に基づく新たな借入金債務の発生が見込まれなくなった時点,すなわち,基本契約に基づく継続的な金銭消費貸借取引が終了した時点で過払金が存在していればその返還請求権を行使することとし,それまでは過払金が発生してもその都度その返還を請求することはせず,これをそのままその後に発生する新たな借入金債務への充当の用に供するという趣旨が含まれているものと解するのが相当であり,過払金充当合意を含む基本契約に基づく継続的な金銭消費貸借取引においては,同取引継続中は過払金充当合意が過払金返還請求権の行使を妨げるものと解するのが相当である。(原審と異なる判断)
 1a.借主は,基本契約に基づく借入れを継続する義務を負うものではないので,一方的に基本契約に基づく継続的な金銭消費貸借取引を終了させ,その時点において存在する過払金を請求することができるが,それをもって過払金発生時からその返還請求権の消滅時効が進行すると解することは,借主に対し,過払金が発生すればその返還請求権の消滅時効期間経過前に貸主との間の継続的な金銭消費貸借取引を終了させることを求めるに等しく,過払金充当合意を含む基本契約の趣旨に反することとなるから相当でない。(参照判例あり)
 1b.過払金充当合意を含む基本契約に基づく継続的な金銭消費貸借取引においては,同取引により発生した過払金返還請求権の消滅時効は,過払金返還請求権の行使について上記内容と異なる合意が存在するなど特段の事情がない限り,同取引が終了した時点から進行する。(先例の確認)
参照条文: /民法:166条1項/民法:167条/民法:704条//商.19条3項/
全 文 h210303supreme.html

最高裁判所 平成 21年 2月 27日 第2小法廷 判決 ( 平成18年(行ヒ)第285号 )
事件名:  優良運転免許証交付等請求・上告事件
要 旨
 道路交通法所定の違反行為があったとして,優良運転者である旨の記載のない運転免許証を交付されて更新処分を受けた原告が,違反行為を否認し,優良運転者に当たると主張して,更新処分中の原告を一般運転者とする部分の取消しを求め(更新処分取消しの訴え),併せて,公安委員会がした更新処分についての異議申立てに対する棄却決定の取消しと優良運転者の記載のある運転免許証を交付して行う更新処分の義務付けとを訴求した場合に、更新処分取消しの訴えに訴えの利益が肯定された事例。
 1.免許証の更新を受けようとする者が優良運転者であるか一般運転者であるかによって,他の公安委員会を経由した更新申請書の提出の可否並びに更新時講習の講習事項等及び手数料の額が異なるものとされているが,それらは,いずれも,免許証の更新処分がされるまでの手続上の要件のみにかかわる事項であって,同更新処分がその名あて人にもたらした法律上の地位に対する不利益な影響とは解し得ないから,これ自体が同更新処分の取消しを求める利益の根拠となるものではない。(原審の理由付けの否定)
 2.道路交通法は,客観的に優良運転者の要件を満たす者に対しては優良運転者である旨の記載のある免許証を交付して更新処分を行うということを,単なる事実上の措置にとどめず,その者の法律上の地位として保障するとの立法政策を,交通事故の防止を図るという制度の目的を全うするため,特に採用したものと解するのが相当である。
 2a.免許証に優良運転者である旨の記載があるか否かによって,免許証の有効期間等が左右されるものではなく、また,上記記載のある免許証を交付して更新処分を行うことは,免許証の更新の申請の内容を成す事項ではないが,客観的に優良運転者の要件を満たす者であれば優良運転者である旨の記載のある免許証を交付して行う更新処分を受ける法律上の地位を有することが肯定される以上,一般運転者として扱われ上記記載のない免許証を交付されて免許証の更新処分を受けた者は,上記の法律上の地位を否定されたことを理由として,これを回復するため,更新処分の取消しを求める訴えの利益を有するというべきものである。(最高裁の理由付け)
参照条文: /道路交通.92-2条1項/道路交通.93条/道路交通.101条/行訴.9条1項/
全 文 h210227supreme.html

最高裁判所 平成 21年 2月 24日 第1小法廷 決定 ( 平成20年(あ)第2102号 )
事件名:  傷害被告事件(上告事件)
要 旨
 ≪被害者が折り畳み机を被告人に向けて押し倒してきたのに対し,被告人がその身体を防衛するため,防衛の程度を超え,同机を被害者に向けて押し返した上,これにより転倒した同人の顔面を手けんで数回殴打する暴行を加えて,同人に本件傷害を負わせた≫行為について,過剰防衛による傷害罪の成立が認められた事例。
 1.
 1.急迫不正の侵害に対する防衛手段としての相当性が認められる第1暴行に続いて,反撃や抵抗が困難な状態になった被害者に対し,その顔面を手けんで数回殴打する第2暴行がなされた場合に,第1暴行によって生じた傷害について,2つの暴行を全体的に考察して1個の過剰防衛としての傷害罪の成立を認めるのが相当であるとされた事例。
参照条文: /刑.36条/刑.204条/
全 文 h210224supreme91.html

最高裁判所 平成 21年 1月 22日 第1小法廷 判決 ( 平成20年(受)第468号 )
事件名:  不当利得返還等請求・上告事件
要 旨
 過払金充当合意を含む基本契約に基づく継続的な金銭消費貸借取引に係る弁済金のうちの過払部分の不当利得返還請求権について,その消滅時効の起算点は,過払金返還請求権の発生時ではなく,継続的取引の終了時点であるとされた事例。
 1.一般に,過払金充当合意には,借主は基本契約に基づく新たな借入金債務の発生が見込まれなくなった時点,すなわち,基本契約に基づく継続的な金銭消費貸借取引が終了した時点で過払金が存在していればその返還請求権を行使することとし,それまでは過払金が発生してもその都度その返還を請求することはせず,これをそのままその後に発生する新たな借入金債務への充当の用に供するという趣旨が含まれているものと解するのが相当であり,過払金充当合意を含む基本契約に基づく継続的な金銭消費貸借取引においては,同取引継続中は過払金充当合意が法律上の障害となるというべきであり,過払金返還請求権の行使を妨げるものと解するのが相当である。
 1a.借主は,基本契約に基づく借入れを継続する義務を負うものではないので,一方的に基本契約に基づく継続的な金銭消費貸借取引を終了させ,その時点において存在する過払金の返還を請求することができるが,それをもって過払金発生時からその返還請求権の消滅時効が進行すると解することは,借主に対し,過払金が発生すればその返還請求権の消滅時効期間経過前に貸主との間の継続的な金銭消費貸借取引を終了させることを求めるに等しく,過払金充当合意を含む基本契約の趣旨に反することとなるから,そのように解することはできない。(参照判例あり)
 1b.過払金充当合意を含む基本契約に基づく継続的な金銭消費貸借取引においては,同取引により発生した過払金返還請求権の消滅時効は,過払金返還請求権の行使について上記内容と異なる合意が存在するなど特段の事情がない限り,同取引が終了した時点から進行する。
参照条文: /民法:166条1項/民法:167条/民法:704条/
全 文 h210122supreme.html

最高裁判所 平成 21年 1月 22日 第1小法廷 判決 ( 平成19年(受)第1919号 )
事件名:  預金取引記録開示請求・上告事件
要 旨
 相続開始当時に被相続人が有していた預金口座について,各共同相続人は,単独で,金融機関に対して預金口座の取引経過の開示を求める権利を有するとされた事例。
 1.金融機関は,預金契約に基づき,預金者の求めに応じて預金口座の取引経過を開示すべき義務を負う。
 2.預金者が死亡した場合,その共同相続人の一人は,預金債権の一部を相続により取得するにとどまるが,これとは別に,共同相続人全員に帰属する預金契約上の地位に基づき,被相続人名義の預金口座についてその取引経過の開示を求める権利を単独で行使することができ,他の共同相続人全員の同意がないことは上記権利行使を妨げる理由となるものではない。 /委任契約/準委任契約/受任者の報告義務/
参照条文: /民法:252条;264条;645条;656条;666条;898条/
全 文 h210122supreme2.html

最高裁判所 平成 20年 12月 16日 第3小法廷 判決 ( 平成19年(受)第1030号 )
事件名:  動産引渡等請求・上告事件
要 旨
 いわゆるフルペイアウト方式のファイナンス・リース契約に付されていた≪民事再生手続開始の申立てがあったことを解除事由とする特約≫が民事再生手続との関係で無効とされた事例。
 1.ファイナンス・リース契約におけるリース物件は,リース料が支払われない場合には,リース業者においてリース契約を解除してリース物件の返還を求め,その交換価値によって未払リース料や規定損害金の弁済を受けるという担保としての意義を有するものであるが,同契約において,民事再生手続開始の申立てがあったことを解除事由とする特約による解除を認めることは,このような担保としての意義を有するにとどまるリース物件を,一債権者と債務者との間の事前の合意により,民事再生手続開始前に債務者の責任財産から逸出させ,民事再生手続の中で債務者の事業等におけるリース物件の必要性に応じた対応をする機会を失わせることを認めることにほかならないから,民事再生手続の趣旨,目的に反することは明らかであり,この種の特約は無効とすべきである。
参照条文: /民法:91条;540条1項;601条/民事再生法:1条;31条;148条/
全 文 h201216supreme.html

最高裁判所 平成 20年 11月 25日 第3小法廷 決定 ( 平成19年(オ)第669号、平成19年(受)第769号 )
事件名:  損害賠償請求・上告事件/上告受理申立事件
要 旨
 大阪高等裁判所 平成19年1月30日 第12民事部 判決(平成18年(ネ)第779号)に対する上告受理申立てが、民訴法318条1項により受理すべきものと認められないとされた事例。
参照条文: /民事訴訟法:318条/
全 文 h201125supreme.html

最高裁判所 平成 20年 11月 25日 第3小法廷 決定 ( 平成20年(許)第18号 )
事件名:  文書提出命令に対する抗告審の変更決定に対する許可抗告事件
要 旨: 要旨:
 再生債務者(会社)のメインバンクが再生手続開始前に債務者の経営破綻の可能性が大きいことを認識し,同社を全面的に支援する意思は有していなかったにもかかわらず,全面的に支援すると説明して同社の取引先を欺罔したため,あるいは,同社の経営状態についてできる限り正確な情報を同社の取引先に提供すべき注意義務を負っていたのにこれを怠ったため,取引先は同社との取引を継続したが,取引の途中で同社が民事再生手続開始決定を受けたことにより売掛金が回収不能になり,損害を被ったことなどを主張して,同社の取引先である再生債権者が再生債務者のメインバンクに対して損害賠償請求訴訟を提起し,メインバンクが≪債務者の経営状況の把握,同社に対する貸出金の管理及び同社の債務者区分の決定等を行う目的で再生手続開始前作成し,保管していた自己査定資料一式≫の提出命令を申し立てたところ,第三者に関わる部分を除き,再生債務者が提供した財務情報部分についても,メインバンク作成の分析評価情報部分についても提出が命ぜられた事例。
 1.[顧客が金融機関(文書所持者)に提出した財務情報が記載された文書]
 1a.金融機関は,顧客との取引内容に関する情報や顧客との取引に関して得た顧客の信用にかかわる情報などの顧客情報について,商慣習上又は契約上の守秘義務を負う。
 1b.上記守秘義務は,上記の根拠に基づき個々の顧客との関係において認められるにすぎないものであるから,金融機関が民事訴訟の当事者として開示を求められた顧客情報について,顧客が民事訴訟の受訴裁判所から同情報の開示を求められればこれを開示すべき義務を負う場合には,顧客は同情報につき金融機関の守秘義務により保護されるべき正当な利益を有さず,金融機関は,訴訟手続において同情報を開示しても守秘義務には違反しないと解するのが相当である。(先例の確認)
 1c.民訴法220条4号ハにおいて引用される同法197条1項3号にいう「職業の秘密」とは,その事項が公開されると,当該職業に深刻な影響を与え以後その遂行が困難になるものをいう。
 1d.顧客が開示義務を負う顧客情報については,金融機関は,訴訟手続上,顧客に対し守秘義務を負うことを理由としてその開示を拒絶することはできず,同情報は,金融機関がこれにつき職業の秘密として保護に値する独自の利益を有する場合は別として,職業の秘密として保護されるものではないというべきである。
 2.再生手続開始決定を受けた顧客の同決定前の非公開財務情報について,金融機関がこれを秘匿する独自の利益を有するものとはいえないとされた事例。(要旨1dの適用事例)
 2a.金融機関の顧客である会社が非公開財務情報を金融機関に提出した後に民事再生手続開始決定を受けた場合に,同決定以前の顧客の信用状態を対象とする非公開財務情報が開示されても顧客の受ける不利益は通常は軽微なものと考えられること,再生債権者は民事再生手続の中で顧客の非公開財務情報に接することも可能であることなどに照らせば,非公開財務情報が開示されても顧客の業務に深刻な影響を与え以後その遂行が困難になるとはいえないから,同情報は顧客の職業の秘密には当たらないというべきであり,したがって,顧客は民訴法220条4号ハに基づいて同情報の提出を拒絶することはできないとされた事例。(要旨1cの法理に基づき,同号ハの適用なしとされた事例)
 2b. 金融機関の顧客が融資を受ける際に金融機関に提出した非公開財務情報部分は,少なくとも金融機関に提出することを想定して作成されたものと解されるので,専ら内部の者の利用に供する目的で作成され,外部の者に開示することが予定されていない文書とはいえないから,顧客は民訴法220条4号ニに基づいて同部分の提出を拒絶することもできないとされた事例。
 3.[顧客の財務状況について金融機関(文書所持者)が作成した分析評価情報が記載された文書]
 3a. 文書提出命令の対象文書に所持者の職業の秘密に当たる情報が記載されていても,所持者が民訴法220条4号ハ,197条1項3号に基づき文書の提出を拒絶することができるのは,対象文書に記載された職業の秘密が保護に値する秘密に当たる場合に限られ,当該情報が保護に値する秘密であるかどうかは,その情報の内容,性質,その情報が開示されることにより所持者に与える不利益の内容,程度等と,当該民事事件の内容,性質,当該民事事件の証拠として当該文書を必要とする程度等の諸事情を比較衡量して決すべきものである。(先例の確認)
 3b. 一般に,金融機関が顧客の財務状況,業務状況等について分析,評価した情報は,これが開示されれば当該顧客が重大な不利益を被り,当該顧客の金融機関に対する信頼が損なわれるなど金融機関の業務に深刻な影響を与え,以後その遂行が困難になるものといえるから,金融機関の職業の秘密に当たる。
 3c.金融機関の顧客である会社が民事再生手続開始決定を受けた場合に,顧客の同決定前の財務状況・業務状況等を分析評価情報が記載された文書について,これが開示されても顧客が受ける不利益は小さく,金融機関の業務に対する影響も通常は軽微なものであると考えられ,他方で,顧客の再生債権者(提出命令申立人)と金融機関(文書所持者)との間の基本事件は必ずしも軽微な事件であるとはいえず,また,両者間の紛争発生以前に作成されたもので,しかも,監督官庁の事後的検証に備える目的もあって保存されたものであるから,顧客の経営状態に対する金融機関の率直かつ正確な認識が記載されているものと考えられ,訴訟の争点を立証する書証としての証拠価値は高く,これに代わる中立的・客観的な証拠の存在はうかがわれないとの理由で,その提出を命ずるべきであるとされた事例。 4.民訴法223条6項の手続(インカメラ手続)は,事実認定のための審理の一環として行われるもので,法律審で行うべきものではないから,原審の認定が一件記録に照らして明らかに不合理であるといえるような特段の事情がない限り,同手続による原審の認定を法律審である許可抗告審において争うことはできない。 /書証/
参照条文: /民事訴訟法:197条1項3号;220条4号;223条6項;337条/
全 文 h201125supreme2.html

大阪地方裁判所 平成 20年 10月 31日 第13民事部 判決 ( 平成20年(ワ)第6489号 )
事件名:  根抵当権設定登記手続等請求事件
要 旨
 建物の建築資金を融資した金融機関(商工組合中央金庫)に対して債務者が建物の完成後根抵当権を設定する旨を確約していたにもかかわらず、債務者が根抵当権設定契約を履行することなく民事再生手続を申し立てた場合に、債権者は再生手続開始後の債務者に対して根抵当権の取得を対抗できないから、その登記を請求することができないとされた事例。(平成19年9月28日2億円融資、同年10月29日建物完成、同年12月11日受付けの所有権保存登記、平成20年1月29日根抵当権設定契約書作成、同年2月13日再生手続開始申立て、同月20日、再生手続開始決定)
 1.再生債務者は、登記をしなければ物権の取得を対抗できない民法177条の第三者である再生債権者の利益を実現すべき再生手続上の機関として、再生債権者と同様、民法177条の第三者にあたると解するのが相当である。 /民事再生/
参照条文: /民法:177条/民事再生法:38条;45条;85条/
全 文 h201031osakaD2.html

大阪地方裁判所 平成 20年 10月 31日 第3民事部 判決 ( 平成19年(ワ)第6131号 )
事件名:  預金返還請求事件
要 旨
 1.委託を受けない保証人が保証契約締結後に発生する債権のみを保証したが、主債務者の破産手続開始後に、誤って保証契約締結前に発生していた債権について弁済をした場合に、この弁済は保証債務の履行には該当しないから、主債務者に対する求償権が破産手続開始前に原因のある債権とは言えないとされた事例。
 1a.保証人が保証契約の対象外の債務を弁済にした場合に、民法462条1項に基づき事後求償権を取得することはないものの、有効な第三者弁済として、民法703条等に基づく求償権を取得することはあり得るが、主債務者について破産手続開始決定がされた後の第三者弁済により生じた求償権は、破産手続開始前の原因に基づいて生じたとはいえないから、非破産債権であり、これを自働債権として破産財団に属する債権と相殺することは許されない。
 2.[民法462条1項の「その当時利益を受けた限度」の意義(主債務者について破産手続が開始された後に保証が履行された場合には、破産者は、破産手続において配当額が確定するまで弁済をする必要がないから、即時に全額を弁済すべき義務を免れたという利益を受けたわけではないとの主張に対する判断)]
 
 
 
 破産手続開始決定により破産者が破産債務の弁済を猶予される場合があるとしても、破産債務が消滅することはないのであるから、委託を受けない保証人の弁済により破産者が破産債務を免れたときは、特段の事情がない限り、免れた金額に相当する利益を受けたものと解するのが相当である。
 3.保証人は、保証契約を締結すれば、主たる債務者から委託を受けているか否かにかかわらず、保証債務を履行する義務を負うのであり、保証債務を履行すれば当然に、主たる債務者に対する事後求償権を取得するのであるから、事後求償権の主たる発生原因は、弁済の事実ではなく、保証契約の締結である。
 3a.委託を受けない保証人が取得する事後求償権が事務管理に基づく費用償還請求権の性質を有するとしても、民法462条が、保証が主たる債務者の意思に反するかどうかにより求償権の範囲を区別しており、弁済が主たる債務者の意思に反するかどうかによっては区別していないことにかんがみると、事務管理行為に当たるのは保証契約の締結であって、弁済ではない(弁済そのものは、保証契約によって負担した保証債務の履行であって、事務管理行為ではない。)とみるべきである。
 3a.[最高裁判所平成7年1月20日第二小法廷判決・民集49巻1号1頁の射程距離]
 
 平成7年判決は、連帯保証人の1人について和議開始決定がされ、{1}和議認可決定確定の日から6か月を経過した日を第1回とし、以後1年目ごとに合計15回にわたり、毎年和議債権元本の4パーセント相当額を支払う(総計60パーセント)、{2}債務者が前項の支払を終えたときは、債権者は債務者に対し、その余の和議債権元本並びに利息及び遅延損害金の支払義務を免除する旨の和議認可決定が確定し、それから6か月が経過して和議条件に従った弁済が開始され、3回目の弁済期が到来した後にまでわたって、他の連帯保証人が債権者に対して弁済し、これにより取得した事後求償権を和議開始決定を受けた連帯保証人に対し行使しようとしたという事実関係の下で、つまり、事後求償権に和議条件を適用することが不可能であったという事案について、事後求償権の行使は和議条件により変更された原債権の限度で許される旨判示したものであって、一般的に、和議開始決定後の弁済により生じた事後求償権は和議債権に当たらない旨を判示したものではないと解される。
 3b.仮に委託を受けない保証人が取得する事後求償権が破産債権でないとすると、同保証人は保証債務を履行しても、これにより取得する事後求償権を主たる債務者の破産手続において一切行使することができないことになるし、上記事後求償権は免責の対象にならないことになるが、このような結論が妥当であるとは認められない。
 4.委託を受けない保証人は、主債務者に対して保証対象債務の金額を超える反対債権を常に有しているとは限らないのであるから、主債務者の信用リスクを第一次的に負担するのであり、委託を受けない保証人が債権者から保証料を受け取っているからといって、保証人の相殺の期待が法的保護に値しないとはいえない。
 5.保証人が主債務者の破産手続開始前に締結した保証契約に基づく保証債務を破産手続開始後に履行したことにより取得した事後求償権は、破産手続開始後に取得した他人の破産債権には当たらず、破産法72条1項1号の適用を受けない。
 5a.破産法72条1項1号にいう取得とは、将来の請求権の場合には、将来の請求権の現実化ではなく、現実化する前の将来の請求権を取得することをいう。
 5b.委託を受けない保証人が主債務者の支払不能等の事実を知るより前に締結していた場合には、同契約に基づく保証債務を履行したことにより彼が取得した事後求償権は、その時より前に生じた原因に基づくものであり、これを自働債権とする相殺が破産法72条1項2号ないし4号により禁止されるということはできない。
 6.破産法70条の寄託請求は、破産管財人に対し、弁済金を費消しないよう求める意思表示であると解されるから、弁済をするより前あるいは弁済と同時にする必要がある。
 6a.破産管財人が、破産財団に属する債権について弁済を受けるに当たり、弁済者に対して寄託請求をするかどうか確認すべき義務を負うと解することはできない。
 6b.破産者の債務者が寄託請求をなしうる場合に、破産管財人がその者から弁済を受けるに際して寄託請求をするかどうか確認しなかったからといって、破産管財人がその者に対する支払請求訴訟において寄託請求がない旨を主張することが、信義に反するなどということはできないとされた事例。
参照条文: /民法:462条;697条;703条/破産法:67条;70条;72条/
全 文 h201031osakaD.html

最高裁判所 平成 20年 10月 10日 第2小法廷 判決 ( 平成19年(受)第152号 )
事件名:  預金払戻請求・上告事件
要 旨
 ある者(妻)の預金口座への振込が他人(夫)の預金通帳を窃取した者の意思に基づき他人の預金の解約金を用いてなされた場合に、振込の受取人(妻)は、銀行に対して振込金相当額の預金債権を取得し、その払戻請求は、受取人(妻)が振込依頼の名義人(夫)に対して不当利得返還義務を負担しているというだけでは権利の濫用には当たらず、また、銀行が受取人の通帳も窃取していた者から依頼を受けた者に払戻しをしていたことも払戻請求を権利濫用とする事情となるものではないとされた事例。(銀行が窃取者から依頼を受けた者に払戻しをしたことが債権の準占有者への弁済に当たるかを審理させるために、差戻し)。
 1.振込依頼人から受取人として指定された者の銀行の普通預金口座に振込みがあったときは,振込依頼人と受取人との間に振込みの原因となる法律関係が存在するか否かにかかわらず,受取人と銀行との間に振込金額相当の普通預金契約が成立し,受取人において銀行に対し上記金額相当の普通預金債権を取得する。(先例の確認)
 1a. 受取人が振込依頼人に対して不当利得返還義務を負う場合であっても,受取人が普通預金債権を有する以上,その行使が不当利得返還義務の履行手段としてのものなどに限定される理由はない。
 1b.受取人の普通預金口座への振込みを依頼した振込依頼人と受取人との間に振込みの原因となる法律関係が存在しない場合において,受取人が当該振込みに係る預金の払戻しを請求することについては,払戻しを受けることが当該振込みに係る金員を不正に取得するための行為であって,詐欺罪等の犯行の一環を成す場合であるなど,これを認めることが著しく正義に反するような特段の事情があるときは,権利の濫用に当たるとしても,受取人が振込依頼人に対して不当利得返還義務を負担しているというだけでは,権利の濫用に当たるということはできない。
参照条文: /民法:1条3項;666条;478条/
全 文 h201010supreme.html

最高裁判所 平成 20年 10月 7日 第3小法廷 判決 ( 平成20年(受)第12号 )
事件名:  損害賠償,求償金請求・上告事件
要 旨
 交通事故の被害者の損害額が1億7382万8332円で、その過失割合が5割である場合に、被害者の父が締結していた自動車保険の人身傷害補償条項に基づき保険会社が567万5693円を支払い、保険契約中の代位条項に基づき被害者の加害者に対する損害賠償請求権の一部を代位取得する結果、[過失相殺後の損害賠償請求権額]から[保険会社が請求権代位により取得する部分]を控除することが必要になった事案において、原審が傷害補償条項を含む保険契約の具体的内容等について審理判断することなく,被害者の損害額から被害者の過失割合による減額をし,その残額から傷害保険金の金額を控除したところ、上告審が審理不尽であるとして原判決を破棄して差し戻した事例。 /過失相殺後控除説/保険者の代位/請求権代位/
参照条文: /民法:709条;722条2項/商法:662条/
全 文 h201007supreme.html

最高裁判所 平成 20年 7月 17日 第1小法廷 判決 ( 平成18年(受)第1818号 )
事件名:  入会権確認請求・上告事件
要 旨
 1.特定の土地が入会地であることの確認を求める訴えは,原審の上記3(1)の説示のとおり,入会集団の構成員全員が当事者として関与し,その間で合一にのみ確定することを要する固有必要的共同訴訟である。
 1a.特定の土地が入会地であるのか第三者の所有地であるのかについて争いがあり,入会集団の一部の構成員が,当該第三者を被告として,訴訟によって当該土地が入会地であることの確認を求めたいと考えた場合において,訴えの提起に同調しない構成員がいるために構成員全員で訴えを提起することができないときは,上記一部の構成員は,訴えの提起に同調しない構成員も被告に加え,構成員全員が訴訟当事者となる形式で当該土地が入会地であること,すなわち,入会集団の構成員全員が当該土地について入会権を有することの確認を求める訴えを提起することが許され,構成員全員による訴えの提起ではないことを理由に当事者適格を否定されることはない。
 2.このような訴えの提起を認めて,判決の効力を入会集団の構成員全員に及ぼしても,構成員全員が訴訟の当事者として関与するのであるから,構成員の利益が害されることはないというべきである。 /固有必要的共同訴訟/共有の性質を有する入会権/確認訴訟の当事者適格/
参照条文: /民法:263条/民訴.40条/民訴.1編3章/民訴.115条1項1号/
全 文 h200717supreme.html

最高裁判所 平成 20年 7月 11日 第3小法廷 決定 ( 平成20年(し)第147号 )
事件名:  強盗致傷保護事件についてした不処分決定に対する抗告の決定に対する再抗告事件
要 旨
 1.少年の再抗告事件において,原決定に少年法35条1項所定の事由が認められない場合でも,同法32条所定の事由があって,これを取り消さなければ著しく正義に反すると認められるときは,職権により原決定を取り消すことができる。(前提の問題についての先例の確認)
 2.強盗致傷の非行事実を認定して少年を中等少年院送致とした第1次家裁決定に対する第1次抗告審が,事実の取調べを行った上,送致事実に沿う少年及び共犯者とされた者らの自白の信用性に疑問があり,第1次家裁決定には重大な事実の誤認の疑いがあるとして事件を差し戻し,受差戻審が,検察官の申し出た証拠(「本件現場付近で撮影された防犯ビデオカメラに撮影された人物については,実際には身長,体格に大きな差があっても,位置関係による遠近等から,画像上,一見すると,身長,体格にほとんど差がないように見えること」を明らかにする趣旨で,共犯者とされた者3名及び少年と身長体重の類似する警察官4名に本件現場付近を実際に走らせた姿を上記防犯ビデオカメラで撮影した映像を収録したDVD)を取り調べる必要がないものとして,これを取り調べることなく少年を保護処分に付さないとの決定をしたところ,第2次抗告審が本件DVDを取り調べるべきであったとして受差戻審決定を取り消して事件を差し戻した場合に,再抗告審(最高裁)が,本件の事情の下では,本件DVD等を取り調べることによって,第1次抗告審決定の結論が覆る蓋然性があったとも認められず,本件の審理経過や早期,迅速な処理が要請される少年保護事件の特質をも考慮すると,第1次抗告審決定を受けた受差戻審が,本件DVD等を取り調べなかった措置は,合理的な裁量の範囲内のものと認められ,受差戻審の決定に違法はないとして,第2次抗告審決定が取り消された事例。
参照条文: /少年.35条/少年.32-4条/
全 文 h200711supreme91.html

最高裁判所 平成 20年 7月 10日 第1小法廷 判決 ( 平成19年(受)第1985号 )
事件名:  損害賠償請求・上告事件
要 旨
 前訴(損害賠償請求訴訟)において損害の費目を特定する方法により一部請求であることが明示されていたと認定され,その一部認容・一部棄却判決の既判力により後訴における残部請求(他の費目の損害賠償請求)が遮断されることはないとされた事例。
 県による買収予定地の所有者が地上樹木について仮差押えをした者に対して起訴命令の申立てをし,その本案訴訟において,応訴のための弁護士費用相当額の賠償請求の反訴を提起して一部のみが認容(250万円の請求が50万円の限度で認容され、残部は棄却)された場合に,本訴請求の棄却判決の確定後に仮差押命令の取消しを得て樹木を撤去して買収金を得た後に,買収金の受領が後れたことによる損害の賠償を仮差押債権者に対して請求する訴えを提起したときに,前事件反訴の請求権と後訴の請求権とは仮差押命令の申立てが違法であることを理由とする不法行為に基づく損害賠償請求権という1個の債権の一部を構成するものであるが,前事件反訴において後者の損害の発生も主張されており,また,両損害は実質的な発生事由を異にする別個の損害であり,後者の損害額は前事件の係属中は未だ確定していなかった等の本件の諸事情に照らせば,前事件反訴においては,仮差押命令の申立ての違法を理由とする損害賠償請求権の一部である弁護士費用損害についての賠償請求権についてのみ判決を求める旨が明示されていたものと解すべきであり,その既判力は買収金の受領の遅延による損害の賠償請求に関する訴訟には及ばないとされた事例。 /既判力の客観的範囲/
参照条文: /民訴.114条1項/民訴.133条2項2号/民訴規.53条1項/民法:709条/
全 文 h200710supreme2.html

最高裁判所 平成 20年 7月 10日 第1小法廷 判決 ( 平成19年(行ヒ)第318号 )
事件名:  特許取消決定取消請求・上告事件
要 旨
 4つの請求項に係る特許に対し特許異議の申し立てがなされ,これに応じて各請求項について訂正請求がなされた場合に,請求項2についての訂正が改正前の特許法126条1項ただし書又は2項の規定に適合しないから他の請求項についての訂正について判断するまでもなく特許請求範囲の訂正は認められず,訂正前の特許請求範囲の記載に従って特定される発明は進歩性を欠くとの理由で特許庁が特許取消決定をしたときに,最高裁が,特許異議申立事件においては請求項ごとに訂正を請求することができるとして,請求範囲の減縮のための訂正がなされている請求項1に関し,特許取消決定を取り消した事例。
 1.複数の請求項に係る特許出願であっても,特許出願の分割をしない限り,当該特許出願の全体を一体不可分のものとして特許査定又は拒絶査定をするほかなく,一部の請求項に係る特許出願について特許査定をし,他の請求項に係る特許出願について拒絶査定をするというような可分的な取扱いは予定されていない。(前提となる原則)
 1a.複数の請求項について訂正を求める訂正審判請求は,複数の請求項に係る特許出願の手続と同様,その全体を一体不可分のものとして取り扱うことが予定されている。(原則から派生する命題。本件では傍論)
 2.特許異議の申立てについては,各請求項ごとに個別に特許異議の申立てをすることが許されており,各請求項ごとに特許取消しの当否が個別に判断されることに対応して,特許異議の申立てがされている請求項についての特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正請求についても,各請求項ごとに個別に訂正請求をすることが許容され,その許否も各請求項ごとに個別に判断される。(原則に対する例外。本件判旨)
 2a.特許異議申立事件の係属中に複数の請求項に係る訂正請求がされた場合,特許異議の申立てがされている請求項についての特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正については,訂正の対象となっている請求項ごとに個別にその許否を判断すべきであり,一部の請求項に係る訂正事項が訂正の要件に適合しないことのみを理由として,他の請求項に係る訂正事項を含む訂正の全部を認めないとすることは許されない。(破棄理由) /発光ダイオードモジュール/発光ダイオード光源/
参照条文: /特許123条1項柱書/特許.126条/
全 文 h200710supreme51.html

最高裁判所 平成 20年 7月 4日 第2小法廷 判決 ( 平成19年(受)第1386号 )
事件名:  損害賠償請求・上告事件
要 旨
 暴走中の車両を停止させるために,前照灯と尾灯をつけたパトカーが赤色の回転等をつけずに道路を斜めに塞いだところ,暴走行為をしていた自動二輪車がこれに衝突し,後部座席に同乗していた被害者Bが頭蓋骨骨折等の傷害を負って死亡した場合に,被害者の遺族からパトカーの運行供用者に対する自賠法3条の規定に基づく損害賠償請求について,自動二輪車の運転者であるA,同乗者B,パトカーの運転手Cの過失割合を6:2:2とし,AとBとの間に身分上・生活上の一体性はないからAの過失をBの過失に含めることはできないとして,Bとの関係でCの過失割合を8割とした原判決が破棄され,Aが駐車場に停車していた小型パトカーを見つけてからその様子をうかがうために脇見運転をして本件パトカーに衝突するまでのAの本件運転行為は,BとAが共同して行っていた暴走行為から独立したAの単独行為とみることはできず,AとBが共同して繰り返した共同暴走行為の一環を成すものというべきであるから,本件パトカーの運行供用者との関係で民法722条2項の過失相殺をするに当たっては,公平の見地に照らし,本件運転行為におけるAの過失もBの過失として考慮することができるとされた事例。 /共同不法行為/
参照条文: /民法:722条/民法:719条/自賠.3条/
全 文 h200704supreme2.html

最高裁判所 平成 20年 7月 4日 第2小法廷 判決 ( 平成19年(受)第1401号 )
事件名:  書類引渡等,請求書引渡等請求・上告事件
要 旨
 コンビニエンス・ストアのフランチャイズ・チェーンを運営する被告との間で加盟店基本契約を締結してそれぞれ加盟店の一つを経営している原告らが,被告に対し,被告が加盟店基本契約に基づき原告らの仕入れた商品の代金を原告らに代わって支払ってきたことに関し,支払先,支払日,支払金額,商品名とその単価・個数,値引きの有無等,具体的な支払内容について報告する義務があるとされた事例。
 1.フランチャイズ契約に基づく発注委託について,加盟店経営者が基本契約所定の本件発注システムによって商品を仕入れる場合,仕入商品の売買契約は加盟店経営者と推薦仕入先との間に成立し,その代金の支払に関する事務を加盟店経営者が被上告人に委託するという法律関係にあるものと解されるから,本件委託は,準委任(民法656条)の性質を有するとされた事例。
 2.コンビニエンス・ストアは,商品を仕入れてこれを販売することによって成り立っているのであり,商品の仕入れは,加盟店の経営の根幹を成すものということができるところ,加盟店経営者は,フランチャイズ・チェーン運営会社とは独立の事業者であって,自らが支払義務を負う仕入先に対する代金の支払を運営会社に委託しているのであるから,仕入代金の支払についてその具体的内容を知りたいと考えるのは当然のことというべきであり,また,本件にあっては,運営会社に集約された情報の範囲内で具体的な支払内容を加盟店経営者に報告することに大きな困難があるとも考えられないことを考慮すると,本件発注システムによる仕入代金の支払に関する運営会社から加盟店経営者への報告について何らの定めがないからといって,委託者である加盟店経営者から請求があった場合に,民法の規定する受任者の報告義務(民法656条,645条)が認められない理由はなく,本件基本契約の合理的解釈としては,運営会社は報告義務を免れないとされた事例。
 2a.本件委託は,通常の準委任とは異なる特性(運営会社は,仕入代金相当額の費用の前払を受けることなく委託を受けた事務を処理し,支出した費用について支出の日以降オープンアカウントによる決済の時までの利息の償還を請求し得ず,委託に基づく仕入代金の支払について報酬請求権も有しないなど)を有しているが,運営会社は,オープンアカウントによる決済の方法を提供することにより仕入代金の支払に必要な資金を準備できないような者との間でも本件基本契約を締結して加盟店を増やすことができるという利益を受け,また,加盟店経営者がオープンアカウントによる決済の方法を利用して仕入商品を増やせば,売上げも増えることが見込まれ,売上利益に応じた加盟店経営に関する対価を取得する運営会社の利益につながることを考慮すると,本件特性があるために運営会社は本件報告をする義務を負わないものと解することはできないとされた事例。
参照条文: /民法:656条/民法:645条/民法:650条/商.512条/
全 文 h200704supreme.html

最高裁判所 平成 20年 6月 25日 第1小法廷 決定 ( 平成20年(あ)第124号 )
事件名:  傷害被告事件(上告事件)
要 旨
 時間的,場所的には連続している2つの暴行行為について,被害者の死をもたらした第1暴行は正当防衛であるとされたが,第2暴行は,被害者が転倒して意識を失ったのちになされたものであり,侵害の継続性及び防衛の意思の有無の点で第1暴行行為とは性質を異にしており,両者を全体的に考察して1個の過剰防衛の成立を認めるのは相当ではないとして,第2暴行行為について傷害罪の成立が認められた事例。
参照条文: /刑.36条/
全 文 h200625supreme92.html

最高裁判所 平成 20年 6月 24日 第2小法廷 決定 ( 平成20年(し)第30号 )
事件名:  検察官がした刑事確定訴訟記録の閲覧申出一部不許可処分に対する準抗告棄却決定に対する特別抗告事件
要 旨
 1.訴訟関係人のする刑事確定訴訟記録法に基づく保管記録の閲覧請求であっても,それが権利の濫用に当たる場合には許されない。 1a.関係人の名誉又は生活の平穏を害する行為をする目的でされた閲覧請求は,権利の濫用として許されない。
 2.刑事確定訴訟の被告人であった者からの刑事事件記録の閲覧請求について,本件の事実関係にかんがみると,関係者の名誉又は生活の平穏を害する行為をする目的でされたと認められる相当の理由があり,権利の濫用として許されないというべきであるから,関係者の身上,経歴等プライバシーに関する部分について閲覧を不許可とした保管検察官の処分は是認されるとされた事例。
参照条文: /刑事確定訴訟記録.6条/
全 文 h200624supreme91.html

最高裁判所 平成 20年 6月 24日 第2小法廷 決定 ( 平成20年(し)第30号 )
事件名:  検察官がした刑事確定訴訟記録の閲覧申出一部不許可処分に対する準抗告棄却決定に対する特別抗告事件
要 旨
 1.訴訟関係人のする刑事確定訴訟記録法に基づく保管記録の閲覧請求であっても,それが権利の濫用に当たる場合には許されない。 1a.関係人の名誉又は生活の平穏を害する行為をする目的でされた閲覧請求は,権利の濫用として許されない。
 2.刑事確定訴訟の被告人であった者からの刑事事件記録の閲覧請求について,本件の事実関係にかんがみると,関係者の名誉又は生活の平穏を害する行為をする目的でされたと認められる相当の理由があり,権利の濫用として許されないというべきであるから,関係者の身上,経歴等プライバシーに関する部分について閲覧を不許可とした保管検察官の処分は是認されるとされた事例。
参照条文: /刑事確定訴訟記録.6条/
全 文 h200624supreme91.html

最高裁判所 平成 20年 6月 24日 第3小法廷 判決 ( 平成19年(受)第1146号 )
事件名:  損害賠償請求・上告事件
要 旨
 1.社会の倫理,道徳に反する醜悪な行為(反倫理的行為)に該当する不法行為の被害者が,これによって損害を被るとともに,当該反倫理的行為に係る給付を受けて利益を得た場合には,同利益については,加害者からの不当利得返還請求が許されないだけでなく,被害者からの不法行為に基づく損害賠償請求において損益相殺ないし損益相殺的な調整の対象として被害者の損害額から控除することも許されない。(先例の確認)
 1a.被告により米国債の購入資金名下に金員を騙取された原告らが,不法行為に基づく損害賠償として,騙取された金員等の支払を求めた場合に,被告が米国債の購入を仮装するために原告らに配当金を交付したことは詐欺の発覚を防ぐための手段であり,仮装配当金の交付によって原告らが得た利益は交付は不法原因給付によって生じたものというべきであるから,損害賠償請求において損益相殺ないし損益相殺的な調整の対象として各騙取金の額から仮装配当金の額を控除することは許されないとされた事例。
参照条文: /民法:709条/
全 文 h200624supreme.html

最高裁判所 平成 20年 6月 18日 第3小法廷 決定 ( 平成20年(医へ)第1号 )
事件名:  心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者の医療及び観察等に関する法律による処遇・再抗告事件
要 旨
 妄想型統合失調症の症状である幻聴,妄想等に基づいて行われた事後強盗行為が医療観察法2条2項5号に規定する対象行為に当たるとされた事例。
 1.医療観察法2条3項の対象者の行為が対象行為に該当するかどうかの判断は,対象者が妄想型統合失調症による幻覚妄想状態の中で幻聴,妄想等に基づいて行為を行った場合には,対象者が幻聴,妄想等により認識した内容に基づいて行うべきでなく,対象者の行為を当時の状況の下で外形的,客観的に考察し,心神喪失の状態にない者が同じ行為を行ったとすれば,主観的要素を含め,対象行為を犯したと評価することができる行為であると認められるかどうかの観点から行うべきであり,これが肯定されるときは,対象者は対象行為を行ったと認定することができると解するのが相当である。 /心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者の医療及び観察等に関する法律/
参照条文: /医療観察=心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者の医療及び観察等に関する法律/医療観察.1条/医療観察2条/刑.238条/
全 文 h200618supreme.html

最高裁判所 平成 20年 6月 12日 第1小法廷 判決 ( 平成19年(受)第808号 )
事件名:  損害賠償請求・上告事件
要 旨
 従軍慰安婦問題を裁く民衆法廷「日本軍性奴隷制を裁く女性国際戦犯法廷」を取り上げたテレビジョン放送番組を放送したことについて,本件番組のための取材を受け,これに協力した原告が,放送事業者であるY1(NHK),本件番組について取材,制作に関与したY2(Y1の委託による放送番組の制作等を業とする会社及びY2と共に番組について取材,制作に関与したY3(映像の企画・制作等を業とする会社)に対し,(1)実際に制作,放送された本件番組の趣旨,内容は,原告が取材を受けた際に説明を受けたものとは異なっており,被告らは,本件女性法廷をつぶさに紹介する趣旨,内容の放送がされるとの原告の期待,信頼が侵害されたことについて不法行為責任を負う,(2)被告らは,本件番組の趣旨,内容が変更されたことを原告に説明しなかったことについて,債務不履行責任又は不法行為責任を負うと主張して,損害賠償を求めたが,請求が棄却された事例。
 (規範設定の前提)
 1.法律上,放送事業者がどのような内容の放送をするか,すなわち,どのように番組の編集をするかは,表現の自由の保障の下,公共の福祉の適合性に配慮した放送事業者の自律的判断にゆだねられているが,これは放送事業者による放送の性質上当然のことということもでき,国民一般に認識されていることでもあると考えられる。
 1b.放送事業者の制作した番組として放送されるものである以上,番組の編集に当たっては,放送事業者の内部で,様々な立場,様々な観点から検討され,意見が述べられるのは,当然のことであり,その結果,最終的な放送の内容が編集の段階で当初企画されたものとは異なるものになったり,企画された番組自体が放送に至らない可能性があることも当然のことと国民一般に認識されているものと考えられる。
 (原則規範)
 2.放送事業者又は制作業者から素材収集のための取材を受けた取材対象者が,取材担当者の言動等によって,当該取材で得られた素材が一定の内容,方法により放送に使用されるものと期待し,あるいは信頼したとしても,その期待や信頼は原則として法的保護の対象とはならない。
 (例外規範)(意見あり)
 3.当該取材に応ずることにより必然的に取材対象者に格段の負担が生ずる場合において,取材担当者が,そのことを認識した上で,取材対象者に対し,取材で得た素材について,必ず一定の内容,方法により番組中で取り上げる旨説明し,その説明が客観的に見ても取材対象者に取材に応ずるという意思決定をさせる原因となるようなものであったときは,取材対象者が同人に対する取材で得られた素材が上記一定の内容,方法で当該番組において取り上げられるものと期待し,信頼したことが法律上保護される利益となり得る。
 3a.そのような場合に,結果として放送された番組の内容が取材担当者の説明と異なるものとなった場合には,当該番組の種類,性質やその後の事情の変化等の諸般の事情により,当該番組において上記素材が上記説明のとおりに取り上げられなかったこともやむを得ないといえるようなときは別として,取材対象者の上記期待,信頼を不当に損なうものとして,放送事業者や制作業者に不法行為責任が認められる余地がある。
 (本件への当てはめ)
 4.本件における実際の取材活動は,そのほとんどが取材とは無関係に当初から予定されていた事柄に対するものであることが明らかであり,原告に格段の負担が生ずるものとはいえないし,取材担当者の取材対象者に対する説明が,番組において必ず一定の内容,方法で取り上げるというものであったことはうかがわれないのであって,取材対象者においても,番組の編集段階における検討により最終的な放送の内容が上記説明と異なるものになる可能性があることを認識することができたものと解されるから,取材対象者の主張する番組の内容についての期待,信頼が法的保護の対象となるものとすることはできないとされた事例。
参照条文: /民法:709条/憲.21条/放送.1条/放送.3条/放送.3-2条/
全 文 h200612supreme.html

最高裁判所 平成 20年 6月 10日 第3小法廷 判決 ( 平成19年(受)第569号 )
事件名:  損害賠償請求・上告事件
要 旨
 いわゆるヤミ金融の組織に属する業者から,出資法に違反する著しく高率の利息を取り立てられて被害を受けた原告らが,組織の統括者であった被告に対し,不法行為に基づく損害賠償を求める事案において,原告が弁済として交付した金員に相当する損害と貸付金として受領した金員に相当する利得との損益相殺ないし損益相殺的調整は許されないとされた事例。
 1.民法708条は,不法原因給付,すなわち,社会の倫理,道徳に反する醜悪な行為(反倫理的行為)に係る給付については不当利得返還請求を許さない旨を定め,これによって,反倫理的行為については,同条ただし書に定める場合を除き,法律上保護されないことを明らかにしたものである。
 1a.反倫理的行為に該当する不法行為の被害者が,これによって損害を被るとともに,当該反倫理的行為に係る給付を受けて利益を得た場合には,同利益については,加害者からの不当利得返還請求が許されないだけでなく,被害者からの不法行為に基づく損害賠償請求において損益相殺ないし損益相殺的な調整の対象として被害者の損害額から控除することも,上記のような民法708条の趣旨に反するものとして許されない。(意見あり)
 2.著しく高利の貸付けという形をとって原告らから元利金等の名目で違法に金員を取得し,多大の利益を得るという反倫理的行為に該当する不法行為の手段として,原告らに対して貸付けとしての金員が交付された場合に,この金員の交付によって原告らが得た利益は,不法原因給付によって生じたものというべきであり,同利益を損益相殺ないし損益相殺的な調整の対象として原告らの損害額から控除することは許されないとされた事例。
参照条文: /民法:708条/出資.5条/
全 文 h200610supreme2.html

最高裁判所 平成 20年 6月 10日 第3小法廷 判決 ( 平成18年(受)第890号 )
事件名:  預託金返還請求・上告事件
要 旨
 会社分割により設立された被告会社が分割会社からゴルフ場の事業を承継したが預託金返還債務は承継しなかった場合に,被告会社が、会社法22条1項の類推適用により,クラブの会員である原告が分割会社に預託した預託金の返還義務を負うとされた事例。
 1.預託金会員制のゴルフクラブの名称がゴルフ場の事業主体を表示するものとして用いられている場合において,ゴルフ場の事業が譲渡され,譲渡会社が用いていたゴルフクラブの名称を譲受会社が引き続き使用しているときには,譲受会社が譲受後遅滞なく当該ゴルフクラブの会員によるゴルフ場施設の優先的利用を拒否したなどの特段の事情がない限り,譲受会社は,会社法22条1項の類推適用により,当該ゴルフクラブの会員が譲渡会社に交付した預託金の返還義務を負う。(先例の確認)
 1a.このことは,ゴルフ場の事業が譲渡された場合だけではなく,会社分割に伴いゴルフ場の事業が他の会社又は設立会社に承継された場合にも同様に妥当する。
 2.会社分割により設立された被告会社が分割会社からゴルフ場の事業を承継したが預託金返還債務は承継しなかった場合に,分割会社が事業主体を表示する名称として用いていたクラブの名称を引き続き使用しているときに、被告会社が会社分割後遅滞なくゴルフクラブの会員によるゴルフ場施設の優先的利用を拒否したなどの特段の事情がない限り,会社法22条1項の類推適用により,クラブの会員である原告に対し,原告が分割会社に預託した預託金の返還義務を負うとされた事例。
 2a.会社分割により設立された被告会社及び分割会社がクラブの会員に送付した「お願い書」の内容(会社分割により被告会社がゴルフ場を経営する会社として設立されたこと及びクラブの会員権を被告会社発行の株式へ転換することによりクラブを被告会社経営の株主会員制のゴルフクラブに改革することを伝え,クラブの会員権を被告会社発行の株式に転換するよう依頼するというもの)からは,被告会社が,株式への転換に応じない会員にはゴルフ場施設の優先的利用を認めないなど分割会社が従前の会員に対して負っていた義務を引き継がなかったことを明らかにしたものと解することはできないとされた事例。(補足意見及び意見がある)
参照条文: /会社.32条1項/
全 文 h200610supreme.html

最高裁判所 平成 20年 6月 10日 第3小法廷 判決 ( 平成18年(受)第265号 )
事件名:  損害賠償請求・上告事件
要 旨
 1.被告会社の従業員による採石行為が原告の採石権を侵害するものであることを知りながら,被告会社の代表者が従業員らに対して採石行為を指示してこれを行わせたのであるのならば,代表者についても不法行為が成立し,採石行為について被告会社が不法行為責任を負うことは代表者が損害賠償責任を免れる理由にはならないとされた事例。
 2.和解前には原告が採石権を有し,和解により被告の採石権が認められた土地について,原告が和解前の被告による採石行為による損害の賠償を請求した事案において,被告による和解前の採石量と和解後の採石量とを明確に区別することができない場合に,損害額の立証がないことを理由に請求を棄却した原判決が破棄され,民訴法248条により,口頭弁論の全趣旨及び証拠調べの結果に基づいて,相当な損害額が認定されなければならないとされた事例。 /自由心証主義/
参照条文: /民法:709条/民訴.247条/民訴.248条/
全 文 h200610supreme3.html

最高裁判所 平成 20年 6月 4日 大法廷 判決 ( 平成18年(行ツ)第135号 )
事件名:  退去強制令書発付処分取消等請求・上告事件
要 旨
 法律上の婚姻関係にない日本国民である父とフィリピン共和国籍を有する母との間に日本において出生した原告が,出生後父から認知されたことを理由として平成15年に法務大臣あてに国籍取得届を提出したところ,国籍取得の条件を備えておらず,日本国籍を取得していないものとされたことから,被告に対し,日本国籍を有することの確認を求めている事案において,国籍法3条1項の規定が,日本国民である父の非嫡出子について,父母の婚姻により嫡出子たる身分を取得した者に限り日本国籍の取得を認めていることによって,同じく日本国民である父から認知された子でありながら父母が法律上の婚姻をしていない非嫡出子は,その余の同項所定の要件を満たしても日本国籍を取得することができないという区別(本件区別)が生じているところ,今日において,国籍法3条1項の規定は,日本国民である父から出生後に認知されたにとどまる非嫡出子に対して,日本国籍の取得において著しく不利益な差別的取扱いを生じさせているといわざるを得ず,遅くとも原告が法務大臣あてに国籍取得届を提出した時点において,国籍法3条1項の規定が本件区別を生じさせていることは,憲法14条1項に違反するものであったというべきであるとされ,届出による国籍の取得が肯定された事例。
 1.憲法14条1項は,法の下の平等を定めており,この規定は,事柄の性質に即応した合理的な根拠に基づくものでない限り,法的な差別的取扱いを禁止する趣旨である。(先例の確認)
 2.(国籍要件に関する立法府の裁量)
 憲法10条の規定は,国籍は国家の構成員としての資格であり,国籍の得喪に関する要件を定めるに当たってはそれぞれの国の歴史的事情,伝統,政治的,社会的及び経済的環境等,種々の要因を考慮する必要があることから,これをどのように定めるかについて,立法府の裁量判断にゆだねる趣旨のものであると解される。
 2a.
 このようにして定められた日本国籍の取得に関する法律の要件によって生じた区別であっても,立法府に与えられた上記のような裁量権を考慮しても,なおそのような区別をすることの立法目的に合理的な根拠が認められない場合,又はその具体的な区別と上記の立法目的との間に合理的関連性が認められない場合には,合理的な理由のない差別として,同項に違反するものと解されることになる。
 3.(立法目的)
 国籍法3条1項は,同法の基本的な原則である血統主義を基調としつつ,日本国民との法律上の親子関係の存在に加え我が国との密接な結び付きの指標となる一定の要件を設けて,これらを満たす場合に限り出生後における日本国籍の取得を認めることとしたものと解され,この立法目的自体には,合理的な根拠があるというべきである。
 4.(立法目的と実現手段との間の合理的関連性)
 国籍法3条1項の規定が設けられた当時の社会通念や社会的状況の下においては,日本国民である父と日本国民でない母との間の子について,父母が法律上の婚姻をしたことをもって日本国民である父との家族生活を通じた我が国との密接な結び付きの存在を示すものとみることには相応の理由があったものとみられ,当時の諸外国における前記のような国籍法制の傾向にかんがみても,同項の規定が認知に加えて準正を日本国籍取得の要件としたことには,上記の立法目的との間に一定の合理的関連性があったものということができる。
 4a.しかし,その後の我が国を取り巻く国内的,国際的な社会的環境等の変化に照らしてみると,準正を出生後における届出による日本国籍取得の要件としておくことについて,前記の立法目的との間に合理的関連性を見いだすことがもはや難しくなっているというべきである。
 4b.父母両系血統主義を採用する国籍法の下で,日本国民である母の非嫡出子が出生により日本国籍を取得するにもかかわらず,日本国民である父から出生後に認知されたにとどまる非嫡出子が届出による日本国籍の取得すら認められないことには,両性の平等という観点からみてその基本的立場に沿わないところがあるというべきである。
 4c.国籍法が,同じく日本国民との間に法律上の親子関係を生じた子であるにもかかわらず,上記のような非嫡出子についてのみ,父母の婚姻という,子にはどうすることもできない父母の身分行為が行われない限り,生来的にも届出によっても日本国籍の取得を認めないとしている点は,今日においては,立法府に与えられた裁量権を考慮しても,我が国との密接な結び付きを有する者に限り日本国籍を付与するという立法目的との合理的関連性の認められる範囲を著しく超える手段を採用しているものというほかなく,その結果,不合理な差別を生じさせているものといわざるを得ない。
 5.(違憲性)本件区別については,これを生じさせた立法目的自体に合理的な根拠は認められるものの,立法目的との間における合理的関連性は,我が国の内外における社会的環境の変化等によって失われており,今日において,国籍法3条1項の規定は,日本国民である父から出生後に認知されたにとどまる非嫡出子に対して,日本国籍の取得において著しく不利益な差別的取扱いを生じさせているといわざるを得ず,国籍取得の要件を定めるに当たって立法府に与えられた裁量権を考慮しても,この結果について,上記の立法目的との間において合理的関連性があるものということはもはやできない。
 5a.遅くとも原告が法務大臣あてに国籍取得届を提出した時点において,国籍法3条1項の規定が本件区別を生じさせていることは,憲法14条1項に違反するものであったというべきである。
 6.(違憲状態の是正方法)
 憲法14条1項に基づく平等取扱いの要請と国籍法の採用した基本的な原則である父母両系血統主義とを踏まえれば,日本国民である父と日本国民でない母との間に出生し,父から出生後に認知されたにとどまる子についても,血統主義を基調として出生後における日本国籍の取得を認めた同法3条1項の規定の趣旨・内容を等しく及ぼすほかはなく,このような子についても,父母の婚姻により嫡出子たる身分を取得したことという部分を除いた同項所定の要件が満たされる場合に,届出により日本国籍を取得することが認められるものとすることによって,同項及び同法の合憲的で合理的な解釈が可能となるものということができる。
 6a.上記の解釈は,本件区別に係る違憲の瑕疵を是正するため,国籍法3条1項につき,同項を全体として無効とすることなく,過剰な要件を設けることにより本件区別を生じさせている部分のみを除いて合理的に解釈したものであって,その結果も,準正子と同様の要件による日本国籍の取得を認めるにとどまるものであり,この解釈をもって,裁判所が法律にない新たな国籍取得の要件を創設するものであって国会の本来的な機能である立法作用を行うものとして許されないと評価することは,国籍取得の要件に関する他の立法上の合理的な選択肢の存在の可能性を考慮したとしても,当を得ない。 //立法不作為の違憲状態/胎児認知/生後認知/非嫡出子・非準正子の差別的取扱い/法令の合憲的解釈/法令審査権の限界/
参照条文: /憲法:14条1項;10条;81条/国籍法:3条/市民的及び政治的権利に関する国際規約:24条3項/児童の権利に関する条約:7条1項/
全 文 h200604supreme.html

最高裁判所 平成 20年 6月 4日 大法廷 判決 ( 平成19年(行ツ)第164号 )
事件名:  国籍確認請求・上告事件
要 旨
 日本国民である父とフィリピン共和国民である母との間に本邦において出生した非嫡出子である原告らが,出生後父から認知を受けたことを理由として平成17年に法務大臣あてに国籍取得届を提出した当時において,国籍法3条1項が父母の婚姻により嫡出子たる身分を取得した者に限り日本国籍の取得を認めるとの要件を課していることは,憲法14条1項に違反しており,3条1項はこの要件を除いて適用すべきであるとして,原告らが日本国籍を有することの確認を求める請求が認容された事例。
 1.憲法14条1項は,法の下の平等を定めており,この規定は,事柄の性質に即応した合理的な根拠に基づくものでない限り,法的な差別的取扱いを禁止する趣旨である。
 1a.憲法10条の規定は,国籍は国家の構成員としての資格であり,国籍の得喪に関する要件を定めるに当たってはそれぞれの国の歴史的事情,伝統,政治的,社会的及び経済的環境等,種々の要因を考慮する必要があることから,これをどのように定めるかについて,立法府の裁量判断にゆだねる趣旨のものである。
 1b.日本国籍の取得に関する法律の要件によって生じた区別が合理的理由のない差別的取扱いとなるときは,憲法14条1項違反の問題を生じ,立法府に与えられた裁量権を考慮しても,なお当該区別をすることの立法目的に合理的な根拠が認められない場合,又はその具体的な区別と上記の立法目的との間に合理的関連性が認められない場合には,当該区別は,合理的な理由のない差別として,同項に違反する。
 2.国籍法3条1項の規定は,法律上の婚姻関係にない日本国民である父と日本国民でない母との間に生まれた子について,「父母の婚姻により嫡出子たる身分を取得した者に限り日本国籍の取得を認めていることによって,同じく日本国民である父から認知された子でありながら父母が法律上の婚姻をしていない非嫡出子は,その余の同項所定の要件を満たしても日本国籍を取得することができない」という区別をしているが,この区別(本件区別)については,これを生じさせた立法目的自体に合理的な根拠は認められるものの,立法目的との間における合理的関連性は,我が国の内外における社会的環境の変化等によって失われており,今日において,国籍法3条1項の規定は,日本国籍の取得につき合理性を欠いた過剰な要件を課するものとなっており,日本国民である父から出生後に認知されたにとどまる非嫡出子に対して,日本国籍の取得において著しく不利益な差別的取扱いを生じさせているといわざるを得ず,国籍取得の要件を定めるに当たって立法府に与えられた裁量権を考慮しても,遅くとも原告らが法務大臣あてに国籍取得届を提出した当時には,本件区別は合理的な理由のない差別となっていたといわざるを得ず,国籍法3条1項の規定が本件区別を生じさせていることは,憲法14条1項に違反するものであったというべきである。
 3.国籍法3条1項が日本国籍の取得について過剰な要件を課したことにより本件区別が生じたからといって,本件区別による違憲の状態を解消するために同項の規定自体を全部無効として,準正のあった子の届出による日本国籍の取得をもすべて否定することは,血統主義を補完するために出生後の国籍取得の制度を設けた同法の趣旨を没却するものであり,立法者の合理的意思として想定し難いものであって,採り得ない解釈であるといわざるを得ず,準正子について届出による日本国籍の取得を認める同項の存在を前提として,本件区別により不合理な差別的取扱いを受けている者の救済を図り,本件区別による違憲の状態を是正する必要がある。
 3a.憲法14条1項に基づく平等取扱いの要請と国籍法の採用した基本的な原則である父母両系血統主義とを踏まえれば,日本国民である父と日本国民でない母との間に出生し,父から出生後に認知されたにとどまる子についても,父母の婚姻により嫡出子たる身分を取得したことという部分を除いた同項所定の要件が満たされる場合に,届出により日本国籍を取得することが認められるものとすることによって,同項及び同法の合憲的で合理的な解釈が可能となるものということができ,この解釈は,本件区別による不合理な差別的取扱いを受けている者に対して直接的な救済のみちを開くという観点からも,相当性を有する。
 3b.日本国民である父と日本国民でない母との間に出生し,父から出生後に認知された子は,父母の婚姻により嫡出子たる身分を取得したという部分を除いた国籍法3条1項所定の要件が満たされるときは,同項に基づいて日本国籍を取得することが認められる。 /立法不作為の違憲状態/
参照条文: /憲法:14条1項;10条;81条/国籍法:3条/市民的及び政治的権利に関する国際規約:24条3項/児童の権利に関する条約:7条1項/
全 文 h200604supreme2.html

大阪高等裁判所 平成 20年 5月 30日 第14民事部 判決 ( 平成19年(ネ)第2033号 )
事件名:  破産債権査定異議控訴事件
要 旨
 複数口債権のために連帯保証人と物上保証人が存在し、保証人の破産手続開始後に一部の口の債権が物上保証人の財産の換価により完済された場合に、連帯保証人の破産手続において、債権者が開始時現存額主義の適用あるいは拡張的適用により複数口債権の全部について開始時の債権額を基準にして配当を受けることができると主張したが、完済された債権については開始時現存額主義は適用されず、一部弁済にとどまる債権についてのみ開始時の債権額を基準にして配当を受けることができるとされた事例。
 1.破産債権確定手続が開始された段階で指定充当権を行使しなかった債権者が、破産債権査定決定に対する異議訴訟の控訴審になって、債権者と主債務者との間で合意された債権者の側における任意充当の合意が存在し、この合意に基づく指定充当権を行使すると主張することは、信義則上許されないとされた事例。
 2.破産法104条所定の開始時現存額主義が対象としているのは、個別の債権の一部が弁済された場合であり、債権ごとに適用される。
 2a.開始時現存額主義は、責任財産の集積による債権の効力の強化を図る人的担保の効用を倒産の際において承認することを意味するが、その内容は個別の債権の一部弁済があったときの処理を規律するものであり、複数口債権のうちの一部の口の債権の全部弁済の場合にまで及ぶものではない。
 3.破産法105条は、保証人の破産時に、催告の抗弁権や検索の抗弁権の行使を許さず、保証債務の補充性を排除するものであるが、同時に、破産開始決定後に、主たる債務者から一部任意弁済を受けたり、あるいは主たる債務者に対する強制執行により一部の満足を得ても、債権者の保証債権である届出債権の額には影響がないこととなることをも定めたと解され、この点では開始時現存額主義は保証債務の附従性を後退させる意義を含むと考えられる。(傍論)
 4.保証人破産の場合において主たる債務者からの弁済により複数口の債権のうちの一部の口の債権が完済されているときでも、なお総債権について弁済がなければ債権者が総債権全額の権利行使を認められるとするならば、破産手続においては、本来、平等に取り扱われるべき当該債権者と他の一般債権者との均衡が大きく崩れ、他の一般債権者の保護に欠ける憾みがあるといわざるをえないから、開始時現存額主義を、複数口債権のうちの一部の口債権に対する全額弁済があった場面にまで拡張するのは相当ではない。
 5.複数口債権のために連帯保証人と物上保証人が存在し、保証人の破産手続開始後に一部の口の債権が物上保証人の財産の換価により完済された場合に、連帯保証人の破産手続において、物上保証人は完済された債務について連帯保証人に対する求償権(弁済額の2分の1)を行使することができ、開始時現存額主義はこれを妨げるものではない。(傍論)
 5a.昭和62年4月最高裁判決は、債権者Aが、債務者兼所有者Bに対して2口の金員を貸し付け、根抵当権の設定を受けた後、上記2口の債権のうち1口は第三者Cから代位弁済を受けた事案について、債権の一部について代位弁済がされた場合、当該債権を被担保債権とする根抵当権の実行による売却代金の配当については、債権者Aは代位弁済者Cに優先するものと解すべきであるとするが、この事案では、債権者Aが、配当の原資となる不動産に対して根抵当権を有し、根抵当権の極度額の限度で優先弁済権を確保していたという関係にあるが故をもって、優越的な地位を与えられていると理解できる。しかしながら、本件の場合においては、債権者は、配当の原資となる破産会社の一般財産に対しては何ら優先的な地位を有していないのであるから、昭和62年4月最高裁判決の利益衡量を援用することは相当ではない。
 5b.物上保証人は担保物の価値の限度においてのみ責任を負うものであり、担保権が実行されることにより責任をすべて果たしている場合に、債権者が担保物の交換価値を超えて被担保債権全部の満足を得るまで、物上保証人は債権者に劣後するとみるのは妥当ではない。
 5c.
 数個の債権の内の一部について物上保証人から全額の満足を得た債権者が、連帯保証人の破産手続において、当該債権についても開始時現存額主義の適用により債権者が破産債権者として配当を受けることができるとの主張の根拠付けのために、債権者と物上保証人との間には代位権不行使の特約があり、この特約により物上保証人は当該債権について代位権を行使することができない旨を主張したが、その特約は、一個の債権の一部についてのみ弁済された場合を想定していると解されるから、物上保証人の代位権行使は妨げられないとされた事例。
参照条文: /破産法:104条;105条/民法:441条;501条;501条;502条/
全 文 h200530osakaH.html

最高裁判所 平成 20年 5月 20日 第2小法廷 決定 ( 平成18年(あ)2618号 )
事件名:  傷害被告事件(上告事件)
要 旨
 正当防衛の成立が否定された事例。
 1.被告人が,相手方から攻撃されるに先立ち,相手方に対して暴行を加えていて,相手方の攻撃は被告人の暴行に触発された,その直後における近接した場所での一連,一体の事態ということができ,相手方の攻撃が被告人の前記暴行の程度を大きく超えるものでない場合に,被告人は不正の行為により自ら侵害を招いたものといえるから,被告人の傷害行為は,被告人において何らかの反撃行為に出ることが正当とされる状況における行為とはいえないとして,正当防衛の成立が否定され,相手方からの攻撃に反撃して護身用の特殊警棒により相手方の顔面や防御しようとした左手を数回殴打する暴行を加え,加療約3週間を要する顔面挫創,左手小指中節骨骨折の傷害を負わせた行為に傷害罪の成立が認められた事例。
参照条文: /刑.36条1項/刑.204条/
全 文 h200520supreme91.html

最高裁判所 平成 20年 5月 19日 第1小法廷 決定 ( 平成18年(あ)第2030号 )
事件名:  商法違反被告事件(上告事件)
要 旨
 金融庁の検査を間近に控えて銀行の代表取締役がその任務に違背して自己保身及び融資先の利益を図るために行った融資が特別背任行為にあたる場合に,融資の前提となるスキームを提案し,担保となるゴルフ場の評価額を大幅に水増しした不動産鑑定評価書を作らせるなどして,融資の実現に積極的に加担した融資先会社の実質的経営者である被告人は,特別背任行為について共同加功したものと評価することができ,被告人は特別背任罪の行為主体の身分を有していないが,特別背任罪の共同正犯が成立するとされた事例。
参照条文: /会社.960条1項/刑.65条1項/
全 文 h200519supreme91.html

名古屋地方裁判所 平成 20年 5月 16日 民事第7部 判決 ( 平成19年(ワ)第577号,平成19年(ワ)第920号 )
事件名:  損害賠償請求事件
要 旨
 刑事施設に収容中の不動産所有者兼債務者(原告)に対する競売開始決定及び引渡命令の送達が公示送達により実施された場合に,「刑務所に服役中」との情報の真偽を確認するための補充調査を怠った過失が裁判所書記官にあり,担当書記官の過失と原告が在監中の刑務所に本件競売開始決定及び本件引渡命令の各正本の送達を受けられなかったこととの間には相当因果関係があり,弁護士等に依頼するなどして対処する機会を得られなかったことの精神的苦痛に対する慰謝料として,原告の国家賠償請求が30万円の限度で認容された事例(公示送達がなされたことと財産的損害との間には相当因果関係はないとして,その賠償請求は否定された)。
 1.裁判所書記官が公示送達を行うにあたっては,受送達者の最後の住所,転居先,その他就業場所等の送達すべき場所が見当たらないことの客観的事情を証明するに足りる資料を収集するよう努めるべきであり,また,それによって得られた情報を総合的に考慮してもなお送達すべき場所が不明であるか否かを合理的に判断しなければならない。
 1a. 近隣住民からの原告が「(静岡ないし静岡方面の)刑務所に服役中」との情報が果たして根拠のあるものか否かについて,なお補充調査をして確認をすることが必要であったと言わざるを得ず,かかる確認のための補充調査をせずして直ちに公示送達を実施することは,送達が裁判所書記官の裁量に属することとはいっても,収集した情報を踏まえての判断としては,合理性を欠くものというべきであるとされた事例。
参照条文: /国家賠償法:1条1項/民事執行法:83条;20条;45条2項;188条/民事訴訟法:110条/
全 文 h200516nagoyaD.html

最高裁判所 平成 20年 5月 8日 第3小法廷 決定 ( 平成19年(ク)第1128号 )
事件名:  婚姻費用分担審判に対する抗告審の変更決定に対する特別抗告事件
要 旨
 家事審判手続において妻が夫に対して婚姻費用の分担金の支払を求め,第一審が,夫に対し,過去の未払分95万円と1か月12万円の割合による金員の支払を命ずる審判をしたのに対し,妻の抗告に基づき,抗告審が,夫に反論の機会を与えることなく夫の負担すべき分担金として,過去の未払分167万円と1か月16万円の割合による金員の支払を命ずる決定をしたため,夫が憲法32条違反を理由に特別抗告を提起し,許可抗告を申し立てなかった場合に,最高裁が憲法32条違反の主張には理由がないと説示して特別抗告を棄却し,職権による原決定の破棄をしなかった事例。(反対意見あり)
 1.憲法32条所定の裁判を受ける権利は,性質上固有の司法作用の対象となるべき純然たる訴訟事件につき裁判所の判断は求めることができる権利をいう。(反対意見あり)
 1a.本質的に非訟事件である婚姻費用の分担に関する処分の審判に対する抗告審において手続にかかわる機会を失う不利益は,同条所定の「裁判を受ける権利」とは直接の関係がないというべきであるから,原審が,原審における相手方に対し抗告状及び抗告理由書の副本を送達せず,反論の機会を与えることなく不利益な判断をしたことが同条所定の「裁判を受ける権利」を侵害したものであるということはできない。
 2.家事審判手続において,抗告審が,抗告審の相手方に対し抗告状及び抗告理由書の副本を送達せず,反論の機会を与えることなく不利益な判断をしたことは,問題があるといわざるを得ず,抗告審は,原決定を相手方に不利に変更する場合には,家事審判手続の特質を損なわない範囲でできる限り相手方にも攻撃防御の機会を与えるべきであったとされた事例。 /審問請求権/審尋請求権/手続関与権/
参照条文: /憲.31条/憲.32条/家事審判.7条/家事審判規.18条/家事審判規.5条/家事審判規.14条/非訟事件.25条/民訴.335条/民訴.336条/
全 文 h200508supreme.html

最高裁判所 平成 20年 4月 25日 第2小法廷 判決 ( 平成18年(あ)第876号 )
事件名:  傷害致死被告事件(上告事件)
要 旨
 1.被告人の精神状態が刑法39条にいう心神喪失又は心神耗弱に該当するかどうかは法律判断であって専ら裁判所にゆだねられるべき問題であることはもとより,その前提となる生物学的,心理学的要素についても,上記法律判断との関係で究極的には裁判所の評価にゆだねられるべき問題である。(先例の確認)
 1a.しかしながら,生物学的要素である精神障害の有無及び程度並びにこれが心理学的要素に与えた影響の有無及び程度については,その診断が臨床精神医学の本分であることにかんがみれば,専門家たる精神医学者の意見が鑑定等として証拠となっている場合には,鑑定人の公正さや能力に疑いが生じたり,鑑定の前提条件に問題があったりするなど,これを採用し得ない合理的な事情が認められるのでない限り,その意見を十分に尊重して認定すべきである。
 2.第1審で裁判所から被告人の精神鑑定を命じられた医師が,被告人の犯行(傷害致死)が統合失調症の幻覚妄想状態に支配され,あるいは,それに駆動されたものであり,他方で正常な社会生活を営み得る能力を備えていたとしても,それは「二重見当識」等として説明が可能な現象であって,被告人が事物の理非善悪を弁識する能力及びこの弁識に従って行動する能力を備えていたことを意味しないとの鑑定をしている場合に,これらの鑑定を採用し得ないとする合理的な事情が認められないにもかかわらず,原判決が,両鑑定は被告人に正常な精神作用の部分があることについて「二重見当識」と説明するだけでこれを十分検討していないとの理由で,その信用性を否定したことは,相当ではないとされた事例。(破棄理由)
 2a.裁判所から命じられてなされた精神鑑定に説明不十分な点があるとされた事例(差戻し理由)。 /責任能力/
参照条文: /刑.39条/刑訴.165条/刑訴.318条/
全 文 h200425supreme91.html

最高裁判所 平成 20年 4月 24日 第1小法廷 判決 ( 平成18年(受)第1772号 )
事件名:  特許権に基づく製造販売禁止等請求・上告受理申立て事件
要 旨
 1.特許侵害訴訟において,原判決が,原告の発明に係る特許には特許法29条項(進歩性)違反の無効理由が存在するとして,損害賠償請求を棄却した後に,原告の訂正審判請求に基づく訂正審決が確定した場合に,これにより原告の特許の無効理由が解消されている可能性がないとは言えないから,民訴法338条1項8号の再審事由が存するものと解される余地があるとされた事例。(前提の議論。反対意見あり)
 2.前記1に示されたような再審事由が存するとしても,特許侵害訴訟の原告が訂正審決の確定を理由に原審の判断を争うことは,特許権の侵害に係る紛争の解決を不当に遅延させるものであり,特許法104条の3の規定の趣旨に照らして許されないとされた事例。
 2a.特許法104条の3第2項の規定が,同条1項の規定による攻撃防御方法が審理を不当に遅延させることを目的として提出されたものと認められるときは,裁判所はこれを却下することができるとしているのは,無効主張について審理,判断することによって訴訟遅延が生ずることを防ぐためであると解され,このような同条2項の規定の趣旨に照らすと,無効主張のみならず,無効主張を否定し,又は覆す主張(対抗主張)も却下の対象となり,特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正を理由とする無効主張に対する対抗主張も,審理を不当に遅延させることを目的として提出されたものと認められれば,却下されることになるというべきである。
参照条文: /特許.29条2項/特許.104-3条2項/民訴.157条/民訴.338条1項8号/
全 文 h200424supreme.html

最高裁判所 平成 20年 4月 24日 第1小法廷 判決 ( 平成18年(受)第1632号 )
事件名:  損害賠償請求事件・上告事件
要 旨
 1.
 一般に,チーム医療として手術が行われる場合,チーム医療の総責任者は,条理上,患者やその家族に対し,手術の必要性,内容,危険性等についての説明が十分に行われるように配慮すべき義務を有する。
 1a.しかし,チーム医療の総責任者は,上記説明を常に自ら行わなければならないものではなく,手術に至るまで患者の診療に当たってきた主治医が上記説明をするのに十分な知識,経験を有している場合には,主治医に上記説明をゆだね,自らは必要に応じて主治医を指導,監督するにとどめることも許される。
 1b.したがって,チーム医療の総責任者は,主治医の説明が十分なものであれば,自ら説明しなかったことを理由に説明義務違反の不法行為責任を負うことはないというべきであり,また,主治医の上記説明が不十分なものであったとしても,当該主治医が上記説明をするのに十分な知識,経験を有し,チーム医療の総責任者が必要に応じて当該主治医を指導,監督していた場合には,同総責任者は説明義務違反の不法行為責任を負わないというべきであり,このことは,チーム医療の総責任者が手術の執刀者であったとしても,変わるところはない。(破棄理由)
参照条文: /民法:709条/
全 文 h200424supreme2.html

最高裁判所 平成 20年 4月 22日 第3小法廷 判決 ( 平成19年(あ)第1055号 )
事件名:  国際的な協力の下に規制薬物に係る不正行為を助長する行為等の防止を図るための麻薬及び向精神薬取締法等の特例等に関する法律違反幇助被告事件(上告事件)
要 旨: 麻薬特例法11条1項(2条3項),13条1項は,薬物犯罪の犯罪行為により得られた財産等である薬物犯罪収益等をこれを得た者から没収・追徴することを定めた規定であるが,幇助犯から没収・追徴できるのは,幇助犯が薬物犯罪の幇助行為により得た財産等に限られる。
参照条文: /麻薬特例=国際的な協力の下に規制薬物に係る不正行為を助長する行為等の防止を図るための麻薬及び向精神薬取締法等の特例等に関する法律/麻薬特例.2条3項/麻薬特例.11条1項/麻薬特例.13条1項/刑.62条/
全 文 h200422supreme91.html

大阪高等裁判所 平成 20年 4月 17日 第13民事部 判決 ( 平成19年(ネ)第2032号 )
事件名:  破産債権査定異議控訴事件
要 旨
 
 債権者の主債務者に対する複数の債権について根抵当権をもって物上保証人となった者が,主債務者の破産手続開始後に物上保証に供された不動産の任意換価により複数の債権のうちの一部のみを完済したが,複数の債権の全部の弁済には至っていない場合には,その破産手続において,物上保証人は完済された債権についても求償権を行使することができず,他方,債権者は物上保証人による弁済額を控除されることなく開始時の複数債権全部を破産債権として行使することができるとされた事例。
 1.複数の債務の全部義務者は,他の債務者について破産手続が開始された後,そのうちの一部の債務を全額弁済しても,当該弁済した分について債権者に代位することはできず,債権者は上記弁済分を控除しない金額で破産債権を行使することができる(破産法104条2項が適用される。)と解するのが相当である。
 1a.1個の根抵当権で複数の債権を担保している場合,主債務者の破産手続開始決定後,当該不動産の売却等によって上記複数の被担保債権の一部についてのみ全額弁済がなされたときには,債権者及び物上保証人の状況は1個の債権の物上保証人がその債権の一部弁済をした場合と同様のものと考えることができるから,破産法104条5項による同条2項,4項の準用により,物上保証人は債権者に代位して破産手続に参加することはできず,他方,債権者は,物上保証人による弁済額を控除されることなく届出債権全額について破産債権として行使することができるものと解するのが相当である。 /開始時現存額主義/開始時残存額主義/
参照条文: /破産法:104条/民法:351条;372条/
全 文 h200417osakaH.html

最高裁判所 平成 20年 4月 15日 第2小法廷 決定 ( 平成19年(あ)第839号 )
事件名:  窃盗,窃盗未遂,住居侵入,強盗殺人被告事件(上告事件)
要 旨
 1.最高裁昭和40年(あ)第1187号同44年12月24日大法廷判決・刑集23巻12号1625頁,最高裁昭和59年(あ)第1025号同61年2月14日第二小法廷判決・刑集40巻1号48頁)は,警察官による人の容ぼう等の撮影が,現に犯罪が行われ又は行われた後間がないと認められる場合のほかは許されないという趣旨まで判示したものではない。
 2.捜査機関が,強盗殺人等事件の捜査に関し,防犯ビデオに写っていた人物の容ぼう,体型等と被告人の容ぼう,体型等との同一性の有無という犯人の特定のための重要な判断に必要な証拠資料を入手するため,これに必要な限度において,公道上を歩いている被告人の容ぼう等を撮影し,あるいは不特定多数の客が集まるパチンコ店内において被告人の容ぼう等をビデオに撮影したことが,捜査目的を達成するため,必要な範囲において,かつ,相当な方法によって行われたものといえ,捜査活動として適法なものであるとされた事例。
 3.市町村によるゴミ収集場所である公道上のごみ集積所に排出されたごみについては,通常,そのまま収集されて他人にその内容が見られることはないという期待があるとしても,捜査の必要がある場合には,刑訴法221条により,これを遺留物として領置することができる。
参照条文: /刑訴.221条/憲.13条/
全 文 h200415supreme91.html

最高裁判所 平成 20年 4月 15日 第3小法廷 判決 ( 平成18年(受)第263号 )
事件名:  損害賠償請求・上告事件
要 旨
 広島弁護士会が,受刑者からの人権救済の申立てを受け,調査の一環として被害状況を目撃したとされる他の受刑者との接見を求めたところ刑務所長がこれを許さなかったことは違法であり,それによって弁護士会の社会的評価等が低下したとして,国に対し,国家賠償法1条1項に基づき,損害賠償を求めたが,違法性の欠如を理由に請求が棄却された事例。
 1.公務員による公権力の行使に国家賠償法1条1項にいう違法があるというためには,公務員が,当該行為によって損害を被ったと主張する者に対して負う職務上の法的義務に違反したと認められることが必要である。(先例の確認)
 1a.旧監獄法45条2項は,親族以外の者から受刑者との接見の申入れを受けた刑務所長に対し,接見の許否を判断するに当たり接見を求める者の固有の利益に配慮すべき法的義務を課するものではない。
 1b.弁護士及び弁護士会が行う基本的人権の擁護活動が弁護士法1条1項ないし弁護士法全体に根拠を有するものであり,その意味で人権擁護委員会の調査活動が法的正当性を保障されたものであるとしても,法律上人権擁護委員会に強制的な調査権限が付与されているわけではなく,この意味においても刑務所長には人権擁護委員会の調査活動の一環として行われる受刑者との接見の申入れに応ずべき法的義務は存在しない。
参照条文: /国賠.1条1項/弁護士.1条1項/刑事収容.111条/刑事収容.112条/
全 文 h200415supreme.html

最高裁判所 平成 20年 4月 14日 第1小法廷 判決 ( 平成18年(受)第336号 )
事件名:  所有権移転登記抹消登記手続等,入会権確認請求・上告事件
要 旨
 1.共有の性質を有する入会権について,入会団体の構成員(部落の世帯主)からなる権利能力なき社団が成立し,入会地を管理処分する権能が前記社団に帰属することになったとしても,入会地が部落の世帯主の総有に属するものであることは,その社団の成立の前後を通じて変わりがないから,入会団体の世帯主が有していた入会権が共有の性質を有しないもの,すなわち,他人の所有に属する土地を目的とするものになったということはできないとされた事例。(共有の性質を有する入会権が共有の性質を有しない入会権に変わったことを前提にして入会権が時効により消滅したとする原審判断が否定された事例)
 2.共有の性質を有する入会権の目的である入会地について,その管理を入会団体の構成員からなる権利能力なき社団の役員会の全員一致の決議にゆだねる旨の慣習が成立していたと認定された事例。(この認定は経験則に反するとの少数意見あり)
 2a.民法263条は,共有の性質を有する入会権について,各地方の慣習に従う旨を定めており,慣習は民法の共有に関する規定に優先して適用されるところ,慣習の効力は,入会権の処分についても及び,慣習が入会権の処分につき入会集団の構成員全員の同意を要件としないものであっても,公序良俗に反するなどその効力を否定すべき特段の事情が認められない限り,その効力を有するものと解すべきである。(慣習が効力を有するとされた事例) /事実の認定/慣習の認定/
参照条文: /民法:263条/民訴.247条/民訴.321条/
全 文 h200414supreme.html

最高裁判所 平成 20年 4月 11日 第2小法廷 判決 ( 平成17年(あ)第2652号 )
事件名:  住居侵入被告事件(上告事件)
要 旨
 イラク派兵反対ビラを配布する目的で防衛庁立川宿舎に立ち入った行為について,刑法130条前段の罪(住居侵入罪)が成立するとされた事例。
 1.防衛庁立川宿舎の各号棟の1階出入口から各室玄関前までの部分は,居住用の建物である宿舎の各号棟の建物の一部であり,宿舎管理者の管理に係るものであるから,居住用の建物の一部として刑法130条にいう「人の看守する邸宅」に当たる。
 1a.防衛庁立川宿舎の各号棟の敷地のうち建築物が建築されている部分を除く部分は,各号棟の建物に接してその周辺に存在し,かつ,管理者が外部との境界に門塀等の囲障を設置することにより,これが各号棟の建物の付属地として建物利用のために供されるものであることを明示していると認められるから,上記部分は,「人の看守する邸宅」の囲にょう地として,邸宅侵入罪の客体になる。
 1b.「立川自衛隊監視テント村」のメンバーが,イラク派兵反対ビラを配布する目的で,防衛庁立川宿舎の敷地内及び各号棟の1階出入口から各室玄関前までに立ち入った行為について,それが管理権者の意思に反するものであることは本件事実関係から明らかであるとされた事例。
 2.憲法21条1項も,表現の自由を絶対無制限に保障したものではなく,公共の福祉のため必要かつ合理的な制限を是認するものであって,たとえ思想を外部に発表するための手段であっても,その手段が他人の権利を不当に害するようなものは許されない。(先例の確認)
 2a.防衛庁の職員及びその家族が私的生活を営む場所である集合住宅の共用部分及びその敷地は,一般に人が自由に出入りすることのできる場所ではなく,たとえ表現の自由の行使のためとはいっても,このような場所に管理権者の意思に反して立ち入ることは,管理権者の管理権を侵害するのみならず,そこで私的生活を営む者の私生活の平穏を侵害するものといわざるを得ず,したがって,そこに立ち入る行為をもって刑法130条前段の罪に問うことは,憲法21条1項に違反するものではない。
参照条文: /刑.130条/憲.21条/
全 文 h200411supreme91.html

最高裁判所 平成 20年 4月 1日 第2小法廷 判決 ( 平成19年(受)第1180号 )
事件名:  損害賠償請求・上告事件
要 旨
 公立小学校の3年生の教室内で,朝自習の時間帯に,男子児童がベストについたほこりを払うためにベストを頭上で振り回した際に,そのファスナー部分が女子児童の右眼に当たり当該女子児童が負傷したという事故について,教室の入口付近の教師席に座って児童から忘れ物の申告などの話を聴いていた担任教諭に児童の指導監督上の義務を怠った過失があるということはできないとされた事例。
参照条文: /民法:709条/
全 文 h200418supreme.html

最高裁判所 平成 20年 3月 27日 第1小法廷 判決 ( 平成18年(受)第1870号 )
事件名:  損害賠償請求・上告事件
要 旨
 労災事故の損害賠償請求訴訟の第一審において,被告が,労働者の自己健康管理保持に著しい過失がある等の主張をしつつも,これは過失相殺を主張する趣旨ではない旨釈明し,控訴審において,労働者が陳旧性心筋梗塞の合併症を有する家族性高コレステロール血症にり患していたことなどから,過失相殺に関する規定を類推適用して賠償すべき金額を減額すべきである旨主張した場合に,原審が,控訴審におけるこの主張は著しく信義に反し,また,第1審の軽視にもつながり許されないとしたのに対し,上告審が,本件訴訟の経過にかんがみれば,第1審の段階では被告において労働者が家族性高コレステロール血症にり患していた事実を認識していなかったことがうかがわれるのであって,上告人の控訴審における前記主張が訴訟上の信義則に反するものということもできないとして,原判決を破棄して事件を差し戻した事例。
 1.被害者に対する加害行為と加害行為前から存在した被害者の疾患とが共に原因となって損害が発生した場合において,当該疾患の態様,程度等に照らし,加害者に損害の全部を賠償させるのが公平を失するときは,裁判所は,損害賠償の額を定めるに当たり,民法722条2項の規定を類推適用して,被害者の疾患をしんしゃくすることができる。(先例の確認)
 1a.このことは,労災事故による損害賠償請求の場合においても,基本的に同様である。
 2.民法722条2項の規定による過失相殺については,賠償義務者から過失相殺の主張がなくとも,裁判所は訴訟にあらわれた資料に基づき被害者に過失があると認めるべき場合には,損害賠償の額を定めるに当たり,職権をもってこれをしんしゃくすることができる(先例の確認)。
 2a.このことは,同項の規定を前記1のように類推適用する場合においても,別異に解すべき理由はない。
 3.労働者が急性心筋虚血により死亡するに至ったことについて,業務上の過重負荷と労働者が有していた基礎疾患(家族性高コレステロール血症(ヘテロ型)にり患し,冠状動脈の2枝に障害があり,陳旧性心筋梗塞の合併症を有していたこと)とが共に原因となったものということができる場合に,その基礎疾患の態様,程度,本件における不法行為の態様等に照らせば,会社に労働者の死亡による損害の全部を賠償させることは,公平を失するとされた事例。 /弁論主義/原因競合/
参照条文: /民訴.2条/民訴.157条/民法:722条2項/
全 文 h200327supreme.html

最高裁判所 平成 20年 3月 27日 第3小法廷 決定 ( 平成18年(あ)第348号 )
事件名:  受託収賄被告事件(上告事件)
要 旨
 参議院議員が,いわゆる職人大学の設置を目指す財団法人の会長理事である者から,参議院本会議において内閣総理大臣の演説に対して所属会派を代表して質疑するに当たり,国策として職人大学の設置を支援するよう提案するなど職人大学設置のため有利な取り計らいを求める質問をされたい旨の請託等を受けて金銭を受領した行為について,受託収賄罪が成立するとされた事例。
参照条文: /刑.197条1項/
全 文 h200327supreme91.html

最高裁判所 平成 20年 3月 24日 第2小法廷 決定 ( 平成16年(し)第258号 )
事件名:  再審請求棄却決定に対する即時抗告棄却決定に対する特別抗告事件
要 旨
 いわゆる袴田事件の再審請求について,申立人が住居侵入,強盗殺人,現住建造物等放火事件の犯人であるとした確定判決の事実認定に合理的な疑いが生じる余地はなく,刑訴法435条6号所定の再審理由は認められないとした原決定は相当であるとされた事例。
 1.刑訴法435条6号の再審事由といえるためには,新たな証拠等により,確定判決において詳しく認定判示されたところの一部について合理的な疑いを生じさせることでは足りず,そのことにより更に進んで罪となるべき事実の存在そのものに合理的な疑いを生じさせるに至るものでなければならない(先例の確認)。 /犯人性の認定/
参照条文: /刑訴.435条6号/
全 文 h200324supreme91.html

最高裁判所 平成 20年 3月 18日 第3小法廷 判決 ( 平成18年(受)第2056号 )
事件名:  親子関係不存在確認請求事件・上告事件
要 旨
 韓国の国籍を有する夫婦が日本において非実子Yを引き取って,実子として出生した旨の届出をし,Yが韓国の戸籍にも実子として記載され,夫婦とYとの間に実の親子としての生活関係が続いていたが,夫婦の一方Aの死後に,その実子がYに対してAY間の親子関係不存在確認請求を提起した事例に関し,原審がAの本国法である韓国民法を適用して,その請求が権利の濫用に当たらないと判断したのに対し,上告審が,権利の濫用に当たらないとした部分は是認できないとした事例。
 1.韓国民法865条が定める実親子関係不存在確認請求訴訟は,実親子関係という基本的親族関係の存否について関係者間に紛争がある場合に対世的効力を有する判決をもって画一的確定を図り,これにより実親子関係を公証する戸籍の記載の正確性を確保する機能を有するものであると解されるから,真実の実親子関係と戸籍の記載が異なる場合には,実親子関係が存在しないことの確認を求めることができるのが原則というべきである。
 2.戸籍上の両親以外の第三者である丙が,乙とその戸籍上の父である甲との間の実親子関係が存在しないことの確認を求めている場合において,甲乙間に実の親子と同様の生活の実体があった期間の長さ,判決をもって実親子関係の不存在を確定することにより乙及びその関係者の受ける精神的苦痛,経済的不利益,改めて養子縁組届出をすることにより乙が甲の実子としての身分を取得する可能性の有無,丙が実親子関係の不存在確認請求をするに至った経緯及び請求をする動機,目的,実親子関係が存在しないことが確定されないとした場合に丙以外に著しい不利益を受ける者の有無等の諸般の事情を考慮し,実親子関係の不存在を確定することが著しく不当な結果をもたらすものといえるときには,当該確認請求は,韓国民法2条2項にいう権利の濫用に当たり許されないものというべきである。
参照条文: /法適用通則.2条/韓国民.2条2項/韓国民.865条/
全 文 h200318supreme.html

最高裁判所 平成 20年 3月 17日 第1小法廷 判決 ( 平成18年(行ヒ)第168号 )
事件名:  損害賠償代位請求・上告事件
要 旨
 宮城県の住民を構成員とする権利能力のない社団が,平成6年度及び同7年度における宮城県警察本部総務室総務課の事務連絡又は業務視察を目的とする県外出張に係る旅費の支出について,これらの出張は架空のもの又は業務上必要のないものであると主張して,地方自治法242条の2第1項4号に基づき,上記旅費を受領した職員等に対し損害賠償を求めた場合に,原審が,遅くとも平成13年10月24日には,本件各出張に係る旅費の支出について監査請求をするに足りる程度にその存在及び内容を知っていたということができ,それから8か月後の同14年6月24日に本件監査請求がされたことについては,地方自治法242条2項ただし書にいう正当な理由はないとして,訴えを却下したのに対し,上告審が,第1次開示において,支出負担行為兼支出命令決議書・旅行命令(依頼)票・復命書の重要な項目の多くが墨塗りにされて開示されず,平成14年5月24日の第2次開示において初めてこれらの事項が開示されたのであるから,その時から1か月後に監査請求がされたことについては地方自治法242条2項ただし書にいう正当な理由があるというべきであるとして,原判決を破棄した事例。 /住民代表訴訟/代位訴訟/監査前置主義/
参照条文: /地自.242条2項/地自.242-2条/
全 文 h200317supreme.html

最高裁判所 平成 20年 3月 14日 第2小法廷 判決 ( 平成19年(れ)第1号 )
事件名:  治安維持法違反被告事件(上告事件)
要 旨
 いわゆる「横浜事件」において治安維持法違反の有罪の確定判決を受けた者の遺族が無罪判決を求め再審請求をした場合に,(α)第一審裁判所が,公判裁判所が公訴について実体的審理をして有罪無罪の裁判をすることができるのは,当該事件に対する具体的公訴権が発生し,かつ,これが存続することを条件とするのであり,免訴事由の存在により公訴権が消滅した場合には,裁判所は実体上の審理を進めることも,有罪無罪の裁判をすることも許されないから,大赦令により大赦を受けている被告人らを免訴する判決を言い渡し,これに対して弁護人が無罪判決を求めて控訴審提起したところ,(β)控訴審が,免訴判決に対し被告人の側から免訴判決自体の誤りを主張しあるいは無罪判決を求めて上訴の申立てをするのはその利益を欠き,不適法であるとして,旧刑訴法400条により控訴を棄却する判決を言い渡し,(γ)上告新が,第一審判決及び控訴審判決の前記判断はいずれも正当であるとした事例。
 1.旧刑訴法等の諸規定は,再審の審判手続において,免訴事由が存する場合に,免訴に関する規定の適用を排除して実体判決をすることを予定しているとは解されず,原確定判決後に刑の廃止又は大赦が行われた場合に,旧刑訴法363条2号及び3号の適用を排除して実体判決をすることは許されず,免訴判決が言い渡されるべきである。
 2.通常の審判手続において,免訴判決に対し被告人が無罪を主張して上訴することはできず,再審の審判手続につきこれと別異に解すべき理由はないから,再審の審判手続においても,免訴判決に対し被告人が無罪を主張して上訴することはできない。
 3.再審の審判手続が開始されてその第1審判決及び控訴審判決がそれぞれ言い渡され,更に上告に及んだ後に,当該再審の請求人が死亡しても,同請求人が既に上告審の弁護人を選任しており,かつ,同弁護人が,同請求人の死亡後も引き続き弁護活動を継続する意思を有する限り,再審の審判手続は終了しない。
参照条文: /旧刑訴.363条/旧刑訴.400条/旧刑訴.485条6号/旧刑訴.511条/
全 文 h200314supreme91.html

最高裁判所 平成 20年 3月 13日 第1小法廷 決定 ( 平成19年(許)第24号 )
事件名:  再生計画認可決定に対する抗告審の取消決定に対する許可抗告事件
要 旨
 1.民事再生法174条が,再生計画案が可決された場合においてなお,再生裁判所の認可の決定を要するものとし,再生裁判所は一定の場合に不認可の決定をすることとした趣旨は,再生計画が,再生債務者とその債権者との間の民事上の権利関係を適切に調整し,もって当該債務者の事業又は経済生活の再生を図るという法の目的(1条)を達成するに適しているかどうかを,再生裁判所に改めて審査させ,その際,後見的な見地から少数債権者の保護を図り,ひいては再生債権者の一般の利益を保護しようとするものである。
 1a.民事再生法174条2項3号所定の「再生計画の決議が不正の方法によって成立するに至ったとき」には,議決権を行使した再生債権者が詐欺,強迫又は不正な利益の供与等を受けたことにより再生計画案が可決された場合はもとより,再生計画案の可決が信義則に反する行為に基づいてされた場合も含まれる。
 2.再生計画案が,議決権者の過半数の同意が見込まれない状況にあったにもかかわらず,再生債務者(会社)の取締役の一人から別の取締役へ回収可能性のない債権の一部が譲渡され,再生債務者の関係者4名が債権者となり議決権者の過半数を占めることによって可決されたものであって,再生計画の決議は,民事再生法172条の3第1項1号の少額債権者保護の趣旨を潜脱し,再生債務者らの信義則に反する行為によって,不正の方法によって成立したものというべきであるとして,不認可の決定がされた事例。
参照条文: /民再.38条2項/民再.1条民再.172-3条/民再.174条/
全 文 h200313supreme.html

最高裁判所 平成 20年 3月 6日 第1小法廷 判決 ( 平成19年(オ)第403号 )
事件名:  損害賠償請求・上告事件
要 旨
 行政機関が住民基本台帳ネットワークシステム(住基ネット)により原告である住民の個人情報を収集,管理又は利用することは,憲法13条の保障するプライバシー権その他の人格権を違法に侵害するものであるなどと主張して,原告が,原告の住民基本台帳を保管する地方公共団体の長に対し,人格権に基づく妨害排除請求として,住民基本台帳から原告の住民票コードを削除すること求める訴えを提起したが,棄却された事例。
 1.憲法13条は,国民の私生活上の自由が公権力の行使に対しても保護されるべきことを規定しているものであり,個人の私生活上の自由の一つとして,何人も,個人に関する情報をみだりに第三者に開示又は公表されない自由を有する。(先例の確認)
 2.住基ネットのシステム上の欠陥等により外部から不当にアクセスされるなどして本人確認情報が容易に漏えいする具体的な危険はないこと,受領者による本人確認情報の目的外利用又は本人確認情報に関する秘密の漏えい等は,懲戒処分又は刑罰をもって禁止されていること,住基法は,都道府県に本人確認情報の保護に関する審議会を,指定情報処理機関に本人確認情報保護委員会を設置することとして,本人確認情報の適切な取扱いを担保するための制度的措置を講じていることなどに照らせば,住基ネットにシステム技術上又は法制度上の不備があり,そのために本人確認情報が法令等の根拠に基づかずに又は正当な行政目的の範囲を逸脱して第三者に開示又は公表される具体的な危険が生じているということはできない。
 2a.行政個人情報保護法は,行政機関における個人情報一般についてその取扱いに関する基本的事項を定めるものであるのに対し,住基法30条の34等の本人確認情報の保護規定は,個人情報のうち住基ネットにより管理,利用等される本人確認情報につきその保護措置を講ずるために特に設けられた規定であるから,本人確認情報については,住基法中の保護規定が行政個人情報保護法の規定に優先して適用されると解すべきであって,住基法による目的外利用の禁止に実効性がないということはできない。
 3.行政機関が住基ネットにより住民の本人確認情報を管理,利用等する行為は,個人に関する情報をみだりに第三者に開示又は公表するものということはできず,当該個人がこれに同意していないとしても,憲法13条により保障された私生活上の自由を侵害するものではない。
参照条文: /参照条文/憲.13条/住民基本台帳.6条/住民基本台帳.7条13号/住民基本台帳.30-2条/住民基本台帳.30-5条/住民基本台帳.30-6条/住民基本台帳.30-7条/住民基本台帳.30-8条/住民基本台帳.30-34条/行政個人情報保護.3条/行政個人情報保護.8条2項/
全 文 h200306supreme.html

最高裁判所 平成 20年 3月 6日 第1小法廷 決定 ( 平成19年(行フ)第6号 )
事件名:  排除措置命令違反に対する過料事件の決定に対する許可抗告事件
要 旨
 公正取引委員会から一般消費者の誤認を排除するための措置を命ずる審決を受けた者が同審決の履行をけ怠していた場合に,その者が一般消費者の誤認やその結果の排除に努めていたことなどの事情に照らせば,その者を処罰しないこととした原審の結論が是認された事例。
 1.独占禁止法97条の趣旨に照らせば,裁判所は,審理の結果,排除措置命令に違反する行為が認められる場合には,原則として,当該行為をした者を過料に処すべきであるが,違反行為の態様,程度その他諸般の事情を考慮して,処罰を必要としないと認めるときは,上記の者を処罰しない旨の決定をすることもできるものと解するのが相当である。
参照条文: /独占禁止.97条/
全 文 h200306supreme2.html

最高裁判所 平成 20年 3月 4日 第3小法廷 判決 ( 平成19年(あ)第1659号 )
事件名:  覚せい剤取締法違反,関税法違反被告事件(上告事件)
要 旨
 北朝鮮において覚せい剤を密輸船に積み込んだ上,本邦近海まで航行させ,同船から海上に投下した覚せい剤を小型船舶で回収して本邦に陸揚げするという方法で覚せい剤を輸入することが計画されたが,悪天候に阻まれて覚醒剤を海上で回収することができなかった場合に,覚せい剤取締法41条の輸入罪及び関税法109条1項,3項の禁制品輸入罪の各実行の着手を認めず,被告人らの行為がいずれの犯罪についても予備にとどまると判断された事例。
参照条文: /覚せい剤取締.41条/関税.109条/
全 文 h200304supreme91.html

最高裁判所 平成 20年 3月 3日 第2小法廷 決定 ( 平成17年(あ)第947号 )
事件名:  業務上過失致死被告事件(上告事件)
要 旨
 ミドリ十字株式会社が,米国から輸入した血しょうと国内血しょうとの混合血しょうを原料とした非加熱第IX因子製剤であるクリスマシンを製造販売し,これを購入した大学病院の医師が肝機能障害に伴う食道静脈りゅうの硬化術を受けた患者(被害者)に対し合計1200単位を投与したため,被害者がヒト免疫不全ウイルス(HIV)に感染し,その結果,被害者が平成5年9月ころまでに後天性免疫不全症候群(エイズ)の症状である抗酸菌感染症等を発症して,平成7年12月,同病院において死亡した事件について,昭和59年7月16日から昭和61年6月29日までの間,公衆衛生の向上及び増進を図ることなどを任務とする厚生省の薬務局生物製剤課長として,同課所管に係る生物学的製剤の製造業・輸入販売業の許可,製造・輸入の承認,検定及び検査等に関する事務全般を統括していた被告人は,薬品による危害発生の防止の業務に従事する者として,必要に応じて他の部局等と協議して所要の措置を採ることを促すことを含め,薬務行政上必要かつ十分な対応を図るべき義務があったのにこれを怠ったと認められ,業務上過失致死罪が成立するとされた事例。
参照条文: /刑.211条1項/
全 文 h200303supreme91.html

最高裁判所 平成 20年 2月 29日 第2小法廷 判決 ( 平成18年(受)第192号 )
事件名:  賃料減額確認請求本訴,同反訴・上告事件
要 旨
 土地所有者と建物の賃借人となるべき者とが,後者の指定する仕様に基づく施設及び駐車場を建設して,レジャー,スポーツ及びリゾートを中心とした15年間の継続事業を展開することを内容とする協定を結び,土地所有者が賃借人から提供された建設協力金を用いて,建物を建築して賃貸したが,その後に賃借人が賃料の減額を請求した場合に,賃料を増減について考慮すべき事情の発生の基準時点を自動増額特約により増額された賃料の授受が開始された時点とした原判決が破棄された事例。
 1.借地借家法32条1項の規定は,強行法規であり,賃料自動改定特約によってその適用を排除することはできない。(先例の確認)
 2.借地借家法32条1項の規定に基づく賃料減額請求の当否及び相当賃料額を判断するに当たっては,賃貸借契約の当事者が現実に合意した賃料のうち直近のもの(直近合意賃料)を基にして,同賃料が合意された日以降の同項所定の経済事情の変動等のほか,諸般の事情を総合的に考慮すべきであり,賃料自動改定特約が存在したとしても,上記判断に当たっては,同特約に拘束されることはなく,上記諸般の事情の一つとして,同特約の存在や,同特約が定められるに至った経緯等が考慮の対象となるにすぎない。
 2a.自動増額特約によって増額された純賃料を基にして,増額前の経済事情の変動等を考慮の対象から除外し,増額された日から減額請求の日までの間に限定して,その間の経済事情の変動等を考慮して判断することは許されない。 /事情変更の原則/賃料増減請求権/
参照条文: /借地借家.32条1項/
全 文 h200229supreme.html

最高裁判所 平成 20年 2月 28日 第1小法廷 判決 ( 平成19年(受)第733号 )
事件名:  保険金請求・上告事件
要 旨
 1.保険金支払条項による履行期は,同条項のただし書にかかわらず,保険金請求手続が行われた日からその日を含めて30日を経過した日に到来する。(先例の確認)
 2.保険金支払条項に基づく履行期が到来した後に保険会社の代理人弁護士から保険契約者に対し,保険金請求についてはなお調査中であり,その調査に契約者の協力を求める旨を記載した協力依頼書が送付され,その後1か月余り経過して同弁護士から契約者に対し,調査への協力には感謝するが,調査の結果,保険金請求には応じられないとの結論に達した旨を記載した免責通知書が送付された場合に,保険会社の代理人による協力依頼書の送付行為は,保険金支払条項に基づく履行期を調査結果が出るまで延期することを求めるものでもあり,契約者は,調査に協力することにより,これに応じたものと解するのが相当であり,したがって,保険金請求権の履行期は,合意によって,免責通知書が契約者に到達した日まで延期され,消滅時効の起算点はその翌日になるとされた事例。
参照条文: /民法:166条/
全 文 h200228supreme.html

最高裁判所 平成 20年 2月 28日 第1小法廷 判決 ( 平成17年(行ヒ)第47号 )
事件名:  保護申請却下処分取消等請求・上告事件
要 旨
 1.国外に現在している被保護者であっても,生活保護法19条所定の「居住地」に当たると認められる居住の場所を国内に有しているものは,同条に基づき当該居住地を所管する実施機関から保護の実施を受けられる。
 2.平成13年5月14日に保護開始日を同年4月16日とする生活保護開始決定を受けた者が同年6月14日にタイのバンコクに渡航して同年7月13日帰国し,その渡航費用(交通費及び宿泊料)として少なくとも7万0920円を支出したとして,同金額の給与の申請をした場合に,福祉事務所長がこの申請を却下すると共に,渡航期間中に係る生活扶助の金額を6月分の生活扶助から減じ,9月分の生活扶助から差し引いて給与する旨の保護の変更の決定をしたことは,被保護者が少なくとも上記金額の本来その最低限度の生活の維持のために活用すべき金銭を保有していたのであるから,適法であるとされた事例。
参照条文: /生活保護.2条/生活保護.4条/生活保護.8条/生活保護.19条/生活保護.25条/生活保護.30条/
全 文 h200228supreme2.html

最高裁判所 平成 20年 2月 28日 第1小法廷 判決 ( 平成19年(受)第611号 )
事件名:  損害賠償請求・上告事件
要 旨
 1.被害者の死亡をもたらした暴行の現場に居合わせた少年らに,暴行を制止すべき法的義務や暴行を抑制するため現場から立ち去るべき法的義務を負っていたということはできないとされた事例。
 2.暴行の現場に居合せた少年らが,被害者の様子を見て救急車を呼ぶことを認識し,また加害少年らの指示に従い被害者を移動させたり意識を回復させるために水をかけたりしたが,救急車を呼んだり,第三者に通報するなど,被害者を救護するための措置を執るべき法的義務を負っていたとまでいうことはできないとされた事例。(反対意見がある) /救護義務/通報義務/
参照条文: /民法:709条/
全 文 h200228supreme3.html

最高裁判所 平成 20年 2月 26日 第3小法廷 判決 ( 平成19年(受)第1443号 )
事件名:  取締役解任請求・上告事件
要 旨
 1.会社法346条1項に基づき退任後もなお会社の役員としての権利義務を有する者(役員権利義務者)の職務の執行に関し不正行為等があった場合において,同法854条を適用又は類推適用して株主が訴えをもって当該役員権利義務者の解任請求をすることは,許されない。
 1a.株主は,仮役員の選任を申し立てることにより,役員権利義務者の地位を失わせることができる。
参照条文: /会社.346条/会社.854条/
全 文 h200226supreme.html

最高裁判所 平成 20年 2月 22日 第2小法廷 判決 ( 平成19年(ネ)第528号 )
事件名:  所有権移転登記抹消登記手続等請求本訴,貸金請求反訴,所有権移転登記抹消登記手続請求・上告事件
要 旨
 1.会社の行為は商行為と推定され,これを争う者において当該行為が当該会社の事業のためにするものでないこと,すなわち当該会社の事業と無関係であることの主張立証責任を負う。
 1a.1億円の貸付けが,貸主たる会社の代表者の融資依頼者(借主本人ないし関係人)に対する情宜に基づいてされたものとみる余地があるとしても,それだけでは,貸主の事業と無関係であることの立証がされたということはできず,他にこれをうかがわせるような事情が存しないとされ,当該貸付けに係る債権は,商行為によって生じた債権に当たり,同債権には商法522条(商事消滅時効)の適用があるとされた事例。
 2.反訴被告を債務者とする主位請求と保証人とする予備請求とが併合された事案において,原審が,反訴被告がいずれであるにせよ請求に理由があるとして反訴請求金額の支払いを命じた場合に,上告審が,原判決全体を破棄して事件を差し戻すに際し,「差戻し後の控訴審においては,まず,主位的請求の請求原因として主張されている事実,すなわち本件貸付けに係る借主が上告人であるか否かを判断する必要があり,これが否定された場合には,予備的請求に対する判断を行うべきこととなる」と説示した事例。 /証明責任/予備的併合/
参照条文: /会社.5条/商.4条1項/商.503条2項/商.522条/民訴.136条/
全 文 h200222supreme.html

最高裁判所 平成 19年 12月 25日 第3小法廷 決定 ( 平成19年(し)第424号 )
事件名:  証拠開示命令請求棄却決定に対する即時抗告決定に対する特別抗告事件
要 旨
 1.公判前整理手続及び期日間整理手続における証拠開示制度は,争点整理と証拠調べを有効かつ効率的に行うためのものであり,このような証拠開示制度の趣旨にかんがみれば,刑訴法316条の26第1項の証拠開示命令の対象となる証拠は,必ずしも検察官が現に保管している証拠に限られず,当該事件の捜査の過程で作成され,又は入手した書面等であって,公務員が職務上現に保管し,かつ,検察官において入手が容易なものを含む。(高裁判断の対立の解決)
 2.[メモについての一般論]
 公務員がその職務の過程で作成するメモについては,専ら自己が使用するために作成したもので,他に見せたり提出することを全く想定していないものがあり,これを証拠開示命令の対象とするのが相当でない。
 2a.[犯罪捜査規範13条にいう備忘録]
 しかしながら,取調警察官が,犯罪捜査規範13条に基づき作成した備忘録であって,取調べの経過その他参考となるべき事項が記録され,捜査機関において保管されている書面は,個人的メモの域を超え,捜査関係の公文書ということができ,これに該当する備忘録については,当該事件の公判審理において,当該取調べ状況に関する証拠調べが行われる場合には,証拠開示の対象となり得る。
 3.裁判所が備忘録も開示の対象となり得ることを前提に,検察官にその存否を明らかにし,開示による弊害についても具体的に主張するよう求めたのに対し,検察官が,そもそも備忘録は開示の対象とならないとの見解の下に,その求めに応じなかった場合に,裁判所が備忘録の証拠開示の必要性・相当性について具体的な判断をすることなく開示を命じた措置を違法ということはできないとされた事例。
参照条文: /刑訴.316-15条1項/刑訴.316-20条1項/刑訴.316-26条1項/犯罪捜査規範.13条/
全 文 h191225supreme91.html

最高裁判所 平成 19年 12月 18日 第3小法廷 判決 ( 平成19(受)第1105号 )
事件名:  著作権侵害差止等請求・上告事件
要 旨
 1.平成16年1月1日から施行された著作権法改正法は,「この法律の施行の際現に改正前の著作権法による著作権が存する映画の著作物」の保護期間を延長するものであるから,1953年(昭和28年)に最初に公表された映画「シェーン」を含め,昭和28年に団体の著作名義をもって公表された独創性を有する映画の著作物は,この著作権法改正法による保護期間の延長措置の対象となるものではなく,その著作権は平成15年12月31日の終了をもって存続期間が満了し消滅したというべきである。
 2.一般に,法令の経過規定において,「この法律の施行の際現に」という文言が用いられているのは,新法令の施行日においても継続することとなる旧法令下の事実状態又は法状態が想定される場合に,新法令の施行日において現に継続中の旧法令下の事実状態又は法状態を新法令がどのように取り扱うかを明らかにするためである。
 2a.平成15年著作権法改正法の経過規定(「改正後の著作権法・・・第54条第1項の規定は,この法律の施行の際現に改正前の著作権法による著作権が存する映画の著作物について適用し,この法律の施行の際現に改正前の著作権法による著作権が消滅している映画の著作物については,なお従前の例による」)中の「この法律の施行の際現に」の文言について一般用法とは異なる用い方をするというのが立法者意思であり,それに従った解釈をするというのであれば,その立法者意思が明白であることを要するというべきであるが,本件改正法の制定に当たり,そのような立法者意思が,国会審議や附帯決議等によって明らかにされたということはできず,法案の提出準備作業を担った文化庁の担当者において,映画の著作物の保護期間が延長される対象に昭和28年に公表された作品が含まれるものと想定していたというにすぎないのであるから,これをもって前記のような立法者意思が明白であるとすることはできないとされた事例。
参照条文: /著作権.54条1項/著作権法の一部を改正する法律(平成15年法律第85号).附則2条/
全 文 h191218supreme.html

最高裁判所 平成 19年 12月 18日 第3小法廷 判決 ( 平成17年(受)第2044号 )
事件名:  賃金請求・上告事件
要 旨
 私立学校を設置する法人の就業規則に「職員の給与ならびにその支給の方法については,給与規程によりこれを定める。」との規定があるにとどまる場合に,具体的な支給額又はその算定方法の定めがないのであるから,前年度の支給実績を下回らない期末勤勉手当を支給する旨の労使慣行が存したなどの事情がうかがわれないときは,期末勤勉手当の請求権は,理事会が支給すべき金額を定めることにより初めて具体的権利として発生するものというべきであり,したがって,前年度の支給実績を下回る期末勤勉手当を支給する旨の決定が既に発生した具体的権利である本件各期末勤勉手当の請求権を処分し又は変更するものであるということはできず,その決定は,個別の労働者の同意がなくても有効であるとされた事例。
参照条文: /労基.2章/
全 文 h191218supreme3.html

最高裁判所 平成 19年 12月 18日 第3小法廷 決定 ( 平成19年(行フ)第5号 )
事件名:  執行停止決定に対する許可抗告事件
要 旨
 弁護士が所属弁護士会から業務停止3月の懲戒処分を受けた場合に,当該業務停止期間中に期日が指定されているものだけで31件の訴訟案件を受任していたなどの事実関係の下においては,懲戒処分によって生ずる社会的信用の低下,業務上の信頼関係の毀損等の損害が行政事件訴訟法25条2項に規定する「重大な損害」に当たるとして,懲戒処分の執行が停止された事例。
参照条文: /行訴.25条2項/
全 文 h191218supreme2.html

最高裁判所 平成 19年 12月 12日 第2小法廷 決定 ( 平成19年(許)第22号 )
事件名:  文書提出命令に対する抗告審の変更決定に対する許可抗告事件
要 旨
 強姦の被害を受けたと主張する女性からの告訴に基づき,加害者と主張された男性が逮捕・拘留されたが,その後に拘留の裁判が取り消され,不起訴の処分がなされ,また女性が男性に対して提起した損害賠償請求訴訟も請求放棄で終了した場合に,男性及びこの男性が代表取締役を務める会社が,男性の違法拘留により損害を受けたと主張して国家賠償を求めて提起した訴訟において,女性の告訴状,司法警察員に対する供述調書等について文書提出命令の申立てをしたところ,第一審及び抗告審がこれを認めたために,文書所持者が許可抗告の申立てをし,抗告審が前記告訴状及び供述調書についてのみ抗告を許可し,最高裁が,許可抗告の対象となった文書について,会社の申立ては却下されるべきであるが,男性の申立ては認容されるべきであるとした事例(他の文書についても抗告を許可すべきであったとの補足意見がある)。
 1.勾留状は,これによって被拘留者の身体の自由を制約して,被拘留者にこれを受忍させるという国と被拘留者との間の法律関係を生じさせる文書であり,また,勾留請求書は,勾留状の発付を求めるために,刑訴規則147条により作成を要することとされている文書であるから,いずれも被拘留者と国との間の法律関係文書に該当し,勾留請求に当たって,刑訴規則148条1項3号所定の資料として,検察官が裁判官に提供した文書もまた被拘留者と国との間の法律関係文書に該当する。
 1a.被拘留者が代表取締役を務める会社との関係においては,拘留状は,会社の権利等を制約したり,会社にこれを受忍させるというものではないから,国と会社との間の法律関係を生じさせる文書であるとはいえず,勾留請求に当たって裁判官に提供された文書も国と会社との間の法律関係文書に該当するとはいえない。
 2.民事訴訟の当事者が,民訴法220条3号後段の規定に基づき,刑事訴訟法47所定の「訴訟に関する書類」に該当する文書の提出を求める場合においても,同条ただし書により当該文書の保管者に認められた裁量的判断は尊重されるべきであるが,当該文書が法律関係文書に該当する場合であって,その保管者が提出を拒否したことが,民事訴訟における当該文書を取り調べる必要性の有無,程度,当該文書が開示されることによる弊害発生のおそれ(被告人,被疑者及び関係者の名誉,プライバシーの侵害,捜査や公判に及ぼす不当な影響等の弊害発生のおそれ)の有無等の諸般の事情に照らし,その裁量権の範囲を逸脱し,又は濫用するものであると認められるときは,裁判所は,当該文書の提出を命ずることができる。
 2a.強姦の嫌疑で逮捕・勾留された男性が拘留請求の違法性を主張して国に対して提起した賠償請求訴訟において,告訴状や女性の供述調書等の提出命令の申立てがなされた場合に,この訴訟においてはそれらの文書を取り調べる必要があり,また,女性が被拘留者に対して損害賠償請求の訴えを提起していた等の種々の事情を考慮すれば,これらの文書が開示されることによって,告訴をした女性の名誉・プライバシーが侵害されることによる弊害が発生するおそれがあると認めることはできない等の事情に照らすと,本件各文書の提出を拒否した抗告人(文書保管者)の判断は,裁量権の範囲を逸脱し,又はこれを濫用するものというべきであるとされた事例。 /書証/
参照条文: /民訴.220条3号/民訴220条4号ホ/刑訴.47条/民訴.337条1項/
全 文 h191212supreme.html

最高裁判所 平成 19年 12月 11日 第3小法廷 決定 ( 平成19年(許)第23号 )
事件名:  文書提出命令に対する抗告審の取消決定に対する許可抗告事件
要 旨
 共同相続人の一人が被相続人名義の預金口座から預貯金の払い戻しを受けたことに関連して,この共同相続人に対して他の共同相続人が遺留分減殺請求権を行使したとして提起した訴訟において,原告が被告と金融機関との間の平成5年からの取引履歴が記載されている取引明細表を金融機関に提出させる文書提出命令を申し立てた場合に,その申立てが認められた事例。
 1.金融機関は,顧客との取引内容に関する情報や顧客との取引に関して得た顧客の信用にかかわる情報などの顧客情報につき,商慣習上又は契約上,当該顧客との関係において守秘義務を負い,その顧客情報をみだりに外部に漏らすことは許されない。
 2.金融機関が有する上記守秘義務は,上記の根拠に基づき個々の顧客との関係において認められるにすぎないものであるから,金融機関が民事訴訟において訴訟外の第三者として開示を求められた顧客情報について,当該顧客自身が当該民事訴訟の当事者として開示義務を負う場合には,当該顧客は上記顧客情報につき金融機関の守秘義務により保護されるべき正当な利益を有さず,金融機関は,訴訟手続において上記顧客情報を開示しても守秘義務には違反しないというべきである。
 3.顧客自身が民事訴訟の当事者として開示義務を負う場合には,金融機関は,訴訟手続上,顧客に対し守秘義務を負うことを理由として上記顧客情報の開示を拒否することはできず,同情報は,金融機関がこれにつき職業の秘密として保護に値する独自の利益を有する場合は別として,民訴法197条1項3号にいう職業の秘密として保護されない。
 3a.金融機関は,その顧客との取引履歴を秘匿する独自の利益を有するものとはいえず,これについて顧客との関係において守秘義務を負っているにすぎず,文書提出命令の申立てに係る取引履歴明細表は,本案の訴訟当事者である顧客が所持しているとすれば,民訴法220条4号所定の事由のいずれにも該当せず,提出義務の認められる文書であるから,金融機関が本案訴訟において本件明細表を提出しても,守秘義務に違反するものではないというべきであり,したがって本件明細表は,職業の秘密として保護されるべき情報が記載された文書とはいえないから,金融機関は取引明細表の提出を拒否することはできないとされた事例。 /内部文書/文書提出命令/書証/
参照条文: /民訴.220条4号ハ/民訴.197条1項3号/
全 文 h191211supreme.html

最高裁判所 平成 19年 11月 30日 第2小法廷 決定 ( 平成19年(許)第5号 )
事件名:  文書提出命令に対する抗告審の変更決定に対する許可抗告事件
要 旨
 銀行が融資先である会社の経営状況の把握,同社に対する貸出金の管理及び同社の債務者区分の決定等を行う目的で作成し,保管していた自己査定資料が民事訴訟法220条4号ニ所定の「専ら文書の所持者の利用に供するための文書」に当たらないとされた事例(4号ハの文書に該当するかを審理させるために差し戻し)。
 1.ある文書が,その作成目的,記載内容,これを現在の所持者が所持するに至るまでの経緯,その他の事情から判断して,専ら内部の者の利用に供する目的で作成され,外部の者に開示することが予定されていない文書であって,開示されると個人のプライバシーが侵害されたり個人ないし団体の自由な意思形成が阻害されたりするなど,開示によって所持者の側に看過し難い不利益が生ずるおそれがあると認められる場合には,特段の事情がない限り,当該文書は民訴法220条4号ニ所定の「専ら文書の所持者の利用に供するための文書」に当たる(先例の確認)。
 1a.銀行(文書所持者)が,銀行法の規定に従い、法令により義務付けられている資産査定のために,金融監督庁作成の金融検査マニュアルに沿って,融資先に対して有する債権の資産査定を行う前提となる債務者区分を行うために作成し,事後的検証に備える目的もあって保存した資料(本件文書)は,監督官庁による資産査定に関する検査において,資産査定の正確性を裏付ける資料として必要とされているものであるから,銀行自身による利用にとどまらず,銀行以外の者による利用が予定されているものということができ,本件文書は,専ら内部の者の利用に供する目的で作成され,外部の者に開示することが予定されていない文書であるということはできず,民訴法220条4号ニ所定の「専ら文書の所持者の利用に供するための文書」に当たらないとされた事例。 /自己資本規制/銀行の健全性/
参照条文: /民事訴訟法:220条4号/金融機能の再生のための緊急措置に関する法律:6条/銀行法:25条/
全 文 h191130supreme.html

最高裁判所 平成 19年 11月 1日 第1小法廷 判決 ( 平成17年(受)第1977号 )
事件名:  損害賠償請求・上告事件
要 旨
 広島・長崎で被爆してその後韓国に居住した者が,健康管理手当等の受給権を取得した「被爆者」が日本国外に居住地を移した場合に受給権が失権するものとした402号通達により損害を受けたと主張して,国に対して損害賠償を請求した事件において,(α)この通達は原爆二法に反する違法なものであり,(β)通達を作成,発出し,また,これに従った失権取扱いを継続した国の担当者の行為は,公務員の職務上の注意義務に違反するものとして,国家賠償法1条1項の適用上違法なものであり,担当者に過失があることも明らかであって,国には上記行為によって原告らが被った損害を賠償すべき責任があると判断され,また,(γ)原告らが財産上の損害を被ったものとまですることはできないことを前提として,原告らは法的保護に値する内心の静穏な感情を侵害され精神的損害を被ったものとして各原告につき100万円の慰謝料を認めた原審の判断が是認できないではないされた事例。((β)と(γ)について反対意見がある)
 1.いったん健康管理手当等の受給権を取得した「被爆者」が日本国外に居住地を移した場合に,受給権が失権するものとした402号通達の失権取扱いの定めは,原爆二法の解釈を誤る違法なものであったといわざるを得ず,したがって,402号通達の失権取扱いの定めは,原爆二法を統合する形で制定された被爆者援護法にも反することは明らかである。
 2.法律を執行する行政機関の担当者の発出した通達の定めが法の解釈を誤る違法なものであったとしても,そのことから直ちに同通達を発出し,これに従った取扱いを継続した担当者の行為に国家賠償法1条1項にいう違法があったと評価されることにはならず,担当者が職務上通常尽くすべき注意義務を尽くすことなく漫然と上記行為をしたと認められるような事情がある場合に限り,上記の評価がされることになる。
 2a.402号通達は,被爆者についていったん具体的な法律上の権利として発生した健康管理手当等の受給権について失権の取扱いをするという重大な結果を伴う定めを内容とするものであることからすれば,原爆三法の統一的な解釈,運用について直接の権限と責任を有する上級行政機関たる国の担当者がこのような重大な結果を伴う通達を発出し,これに従った取扱いを継続するに当たっては,その内容が原爆三法の規定の内容と整合する適法なものといえるか否かについて,相当程度に慎重な検討を行うべき職務上の注意義務が存したものというべきである。
 2b.402号通達が発出された際の状況を考慮すれば,国の担当者が,原爆二法の解釈を誤る違法な内容の402号通達を発出したことは,国家賠償法上も違法の評価を免れず,そして,このような違法な402号通達に従った失権取扱いを継続したことも,同様に,国家賠償法上違法というべきであるとされた事例。
 3.原爆三法の解釈を誤った違法な402号通達の作成,発出及びこれに従った失権取扱いの継続によって,原告らが長期間にわたり原爆三法に基づく援護措置の対象外に置かれた場合に,原告らが財産上の損害を被ったものとまですることはできないことを前提として,原告らは法的保護に値する内心の静穏な感情を侵害され精神的損害を被ったものとして慰謝料を認めた原審の判断は,是認できないではない。 /国賠/公務員の違法行為/原子爆弾/
参照条文: /国賠.1条1項/
全 文 h191101supreme.html

最高裁判所 平成 19年 10月 19日 第2小法廷 判決 ( 平成19年(受)第301号 )
事件名:  保険金請求事件・上告事件
要 旨
 冠動脈バイパス手術を受けた後,狭心症発作予防薬等を定期的に服用していた者(被保険者)が運転していた自動車がため池に転落し,その者が溺死し,その相続人が,疾病免責条項のない自動車総合保険契約の人身障害補償特約に基づき保険金支払を請求した場合に,その特約の下では,保険金請求者は,運行事故と被保険者がその身体に被った傷害との間に相当因果関係があることを主張,立証すれば足り,仮に被保険者がため池に転落した原因が疾病により適切な運転操作ができなくなったためであったとしても,保険会社は保険特約による保険金支払義務を負うとされた事例。
 1.自動車総合保険契約の人身障害補償特約が急激かつ偶然な外来の事故のうち運行起因事故及び運行中事故に該当するものを保険事故としている場合には,その特約にいう「外来の事故」とは,その文言上,被保険者の身体の外部からの作用による事故をいうと解され,被保険者の疾病によって生じた運行事故もこれに該当する。
 1a.上記の特約に基づき保険金を請求する者は,運行事故と被保険者がその身体に被った傷害(特約所定の傷害除外条項に当たるものを除く)との間に相当因果関係があることを主張,立証すれば足りる。 /証明責任/挙証責任/立証責任/主張責任/保険契約の解釈/
参照条文: 
全 文 h191019supreme.html

最高裁判所 平成 19年 9月 28日 第2小法廷 判決 ( 平成17年(行ヒ)第89号 )
事件名:  法人税,消費税及び地方消費税更正処分取消請求・上告事件
要 旨
 海運業を営む内国法人である原告が,パナマ共和国において設立した子会社に生じた欠損が実質的には親会社である原告に帰属するとして,これを原告の損金に算入して平成6年から9年までの各事業年度に係る法人税等の申告をしたところ,課税庁から,子会社の欠損を原告の損金に算入することは租税特別措置法66条の6の規定の認めるところではないなどとして,法人税等の更正及び過少申告加算税賦課決定を受けた場合に,課税庁の決定が支持された事例。
 1.租税特別措置法66条の6第1項の規定は,内国法人が,法人の所得等に対する租税の負担がないか又は極端に低い国又は地域に子会社を設立して経済活動を行い,当該子会社に所得を留保することによって,我が国における租税の負担を回避しようとする事例が生ずるようになったことから,課税要件を明確化して課税執行面における安定性を確保しつつ,このような事例に対処して税負担の実質的な公平を図ることを目的として,一定の要件を満たす外国会社を特定外国子会社等と規定し,これが適用対象留保金額を有する場合に,その内国法人の有する株式等に対応するものとして算出された一定の金額を内国法人の所得の計算上益金の額に算入することとしたものである。
 
 1a.租税特別措置法66条の6第2項2号は,特定外国子会社等の留保所得について内国法人の益金の額に算入すべきものとしたこととの均衡等に配慮して,当該特定外国子会社等に生じた欠損の金額についてその未処分所得の金額の計算上5年間の繰越控除を認めることとしたものと解されから,内国法人に係る特定外国子会社等に欠損が生じた場合には,これを翌事業年度以降の当該特定外国子会社等における未処分所得の金額の算定に当たり5年を限度として繰り越して控除することが認められているにとどまるものというべきであって,当該特定外国子会社等の所得について,同条1項の規定により当該特定外国子会社等に係る内国法人に対し上記の益金算入がされる関係にあることをもって,当該内国法人の所得を計算するに当たり,上記の欠損の金額を損金の額に算入することができると解することはできない。
 1b.原告の子会社は,措置法66条の6第1項にいう特定外国子会社等に該当し,本店所在地であるパナマに事務所を有しておらず,その事業の管理,支配及び運営は原告が行っており,措置法66条の6第3項所定の要件は満たさないが,他方において,パナマ船籍の船舶を所有し,原告から資金を調達した上で自ら船舶の発注者として造船契約を締結していたほか,これらの船舶の傭船に係る収益を上げ,船員を雇用するなどの支出も行うなど,原告とは別法人として独自の活動を行っていたというのであるから,原告に損益が帰属すると認めるべき事情はなく,子会社に損益が帰属し,同社に欠損が生じたものというべきであり,原告の所得の金額を算定するに当たり,子会社の欠損の金額を損金の額に算入することはできないとされた事例。
参照条文: /租税特別措置法:66-6条/
全 文 h190928supreme.html

最高裁判所 平成 19年 8月 23日 第2小法廷 決定 ( 平成19年(許)第18号 )
事件名:  文書提出命令に対する抗告審の変更決定に対する許可抗告事件
要 旨
 介護サービス事業法人たる原告が,退任した取締役を被告にして,彼が原告の従業員を違法に引き抜くとともに,原告の顧客名簿を利用し,原告に関する虚偽の風説を流布するなどして不正に顧客を奪ったと主張して,不法行為に基づく損害賠償を求める訴訟を提起し,被告が代表者となっている法人を相手方(文書所持者)として,指定居宅サービス事業者として介護給付費等を審査支払機関に請求するために必要な情報をコンピューターに入力することに伴って自動的に作成される文書の内容(利用者の氏名を含む)から利用者の生年月日,性別等の個人情報を除いたもののリスト(「サービス種類別利用チェックリスト」)の提出命令を申し立て,認容された事例。
 1.ある文書が,その作成目的,記載内容,これを現在の所持者が所持するに至るまでの経緯,その他の事情から判断して,専ら内部の者の利用に供する目的で作成され,外部の者に開示することが予定されていない文書であって,開示されると個人のプライバシーが侵害されたり個人ないし団体の自由な意思形成が阻害されたりするなど,開示によって所持者の側に看過し難い不利益が生ずるおそれがあると認められる場合には,特段の事情がない限り,当該文書は民訴法220条4号ニ所定の「専ら文書の所持者の利用に供するための文書」に当たる。(先例の確認)(非開示性が否定された事例)
 2.指定居宅サービス事業者が介護給付費等の請求のために審査支払機関に伝送した情報の請求者側の控えというべき性質の文書に記載された内容は第三者への開示が予定されていたものということができ,その文書は,民訴法220条4号ニ所定の「専ら文書の所持者の利用に供するための文書」に当たらないとされた事例。
 3.介護サービス事業者が介護給付費等の請求のために審査支払機関に伝送する「サービス種類別利用チェックリスト」が,本案訴訟において取調べの必要性の高い証拠であると解される一方,当該文書に係る96名の顧客が文書提出命令の申立人において介護サービスの利用者として現に認識されている者であり,当該文書を提出させた場合に所持者の業務に与える影響はさほど大きなものとはいえないと解されること等を考慮して,民事訴訟法220条4号ハの職業上の秘密が記載された文書に当たらないとされた事例。 /文書提出命令/自己利用文書/
参照条文: /民訴.220条4号/民訴197条1項3号/
全 文 h190823supreme.html

最高裁判所 平成 19年 7月 13日 第2小法廷 判決 ( 平成18年(受)第276号 )
事件名:  不当利得返還等請求・上告事件
要 旨
 貸金業者に対する過払利息の不当利得返還請求訴訟において,貸金業者が法律上の原因がないことを知りながら過払金を取得した「悪意の受益者」に当たらないとする特段の事由があるとした原審の判断に誤りがあるとして,原判決が破棄され,特段の事情の審理のために差し戻された事例。
 1.金銭を目的とする消費貸借において制限利率を超過する利息の契約は,その超過部分につき無効であって,貸金業者については,貸金業法43条1項が適用される場合に限り,制限超過部分を有効な利息の債務の弁済として受領することができるとする法の趣旨からすれば,貸金業者は,同項の適用がない場合には,制限超過部分は,貸付金の残元本があればこれに充当され,残元本が完済になった後の過払金は不当利得として借主に返還すべきものであることを十分に認識しているものというべきである。
 1a.貸金業者が制限超過部分を利息の債務の弁済として受領したが,その受領につき貸金業法43条1項の適用が認められない場合には,当該貸金業者は,同項の適用があるとの認識を有しており,かつ,そのような認識を有するに至ったことについてやむを得ないといえる特段の事情があるときでない限り,法律上の原因がないことを知りながら過払金を取得した者,すなわち民法704条の「悪意の受益者」であると推定される。
 2.貸金業法43条1項の適用が認められるためには,各回の返済期日,各回の返済金額及びその元本・利息の内訳並びに融資残額を記載した償還表が交付されていても,更に18条書面が交付される必要がある。
 3.少なくとも平成11年判決以後において,貸金業者が,事前に債務者に上記償還表を交付していれば18条書面を交付しなくても貸金業法43条1項の適用があるとの認識を有するに至ったことについてやむを得ないといえる特段の事情があるというためには,同判決以後,上記認識に一致する解釈を示す裁判例が相当数あったとか,上記認識に一致する解釈を示す学説が有力であったというような合理的な根拠があって上記認識を有するに至ったことが必要であり,上記認識に一致する見解があったというだけで上記特段の事情があると解することはできない。 /関係する法の趣旨を考慮した事実推定/法規の解釈についての認識の誤りが当該法規の適用を免れるための特段の事情にならないとされた事例/
参照条文: /民法:704条/貸金.43条/貸金.18条/民訴.247条/
全 文 h190713supreme.html

最高裁判所 平成 19年 7月 13日 第2小法廷 判決 ( 平成18年(受)第1970号 )
事件名:  不当利得返還請求・上告事件
要 旨
 貸金業法17条所定の書面の交付があったとは言えないことを前提にすることができる事案において,貸金業者が制限超過部分(利息制限法1条1項所定の利息の制限額を超えて利息として支払われた部分)を含む弁済金を受領した場合に,特段の事情のない限り,過払金の取得について悪意の受益者であると推定されるとされた事例。
 1.貸金業法17条1項が,貸金業者につき,貸付けに係る契約を締結したときに,17条書面を交付すべき義務を定めた趣旨は,貸付けに係る合意の内容を書面化することで,貸金業者の業務の適正な運営を確保するとともに,後日になって当事者間に貸付けに係る合意の内容をめぐって紛争が発生するのを防止することにあると解されるから,貸金業法17条1項所定の事項の記載があるとして交付された書面の記載内容が正確でないときや明確でないときには,同法43条1項の適用要件を欠くというべきである。
 1a.貸金業法17条所定の書面の交付があったとの原審判断が不当であるとされた事例。
 2.貸金業者は,貸金業法43条1項の適用がない場合には,制限超過部分は,貸付金の残元本があればこれに充当され,残元本が完済になった後の過払金は不当利得として借主に返還すべきものであることを十分に認識しているものというべきである。
 2a.貸金業者が制限超過部分を利息の債務の弁済として受領したが,その受領につき貸金業法43条1項の適用が認められない場合には,当該貸金業者は,同項の適用があるとの認識を有しており,かつ,そのような認識を有するに至ったことについてやむを得ないといえる特段の事情があるときでない限り,法律上の原因がないことを知りながら過払金を取得した者,すなわち民法704条の「悪意の受益者」であると推定されるものというべきである。
参照条文: /民法:704条/貸金.43条/貸金.17条/民訴.247条/
全 文 h190713supreme2.html

最高裁判所 平成 19年 7月 6日 第2小法廷 判決 ( 平成19年(受)第95号 )
事件名:  補償金請求・上告事件
要 旨
 中小企業災害補償共済事業等を行う財団法人に対して,その会員企業が,被共済者が餅を喉に詰まられて窒息し,低酸素脳症による意識障害が残ったため,災害補償に関する規約に基づき補償費の支払を請求したところ,被告が,被共済者はパーキンソン病と診断されており,本件事故は疾病を原因として生じたものであるから,規約で定められた外来の事故で傷害を受けたとはいえないと主張して,請求を争ったが,規約の文言や構造に照らせば,補償費請求者は被共済者の傷害が被共済者の疾病を原因として生じたものではないことまで主張,立証すべき責任を負うものではないとして,請求が認容された事例。
 1.災害補償に関する規約が,補償費の支払事由を被共済者が急激かつ偶然の外来の事故で身体に傷害を受けたことと定め,これとは別に,補償の免責規定として,被共済者の疾病によって生じた傷害については補償費を支払わない旨の規定を置いている場合には,請求者は,外部からの作用による事故と被共済者の傷害との間に相当因果関係があることを主張,立証すれば足り,被共済者の傷害が被共済者の疾病を原因として生じたものではないことまで主張,立証すべき責任を負うものではない。
 1a.被共済者がその身体の外にあったもちをのどに詰まらせて窒息したことは,急激かつ偶然の外来の事故に当たること及び本件事故と傷害との間に相当因果関係があることは明らかであるとされた事例。 /証明責任/主張責任/挙証責任/立証責任/
参照条文: 
全 文 h190706supreme.html

最高裁判所 平成 19年 7月 6日 第2小法廷 判決 ( 平成17年(受)第702号 )
事件名:  損害賠償請求・上告事件
要 旨
 1.建物は,そこに居住する者,そこで働く者,そこを訪問する者等の様々な者によって利用されるとともに,当該建物の周辺には他の建物や道路等が存在しているから,建物は,これらの建物利用者や隣人,通行人等の生命,身体又は財産を危険にさらすことがないような安全性を備えていなければならず,このような安全性は,建物としての基本的な安全性というべきであから,建物の建築に携わる設計者,施工者及び工事監理者は,建物の建築に当たり,契約関係にない居住者等に対する関係でも,当該建物に建物としての基本的な安全性が欠けることがないように配慮すべき注意義務を負う。
 1a.設計・施工者等がこの義務を怠ったために建築された建物に建物としての基本的な安全性を損なう瑕疵があり,それにより居住者等の生命,身体又は財産が侵害された場合には,設計・施工者等は,不法行為の成立を主張する者が上記瑕疵の存在を知りながらこれを前提として当該建物を買い受けていたなど特段の事情がない限り,これによって生じた損害について不法行為による賠償責任を負い,居住者等が当該建物の建築主からその譲渡を受けた者であっても異なるところはない。
 1b.例えば,バルコニーの手すりの瑕疵であっても,これにより居住者等が通常の使用をしている際に転落するという,生命又は身体を危険にさらすようなものもあり得るのであり,そのような瑕疵があればその建物には建物としての基本的な安全性を損なう瑕疵があるというべきであって,建物の基礎や構造く体に瑕疵がある場合に限って不法行為責任が認められると解すべき理由もない。
参照条文: /民法:709条/
全 文 h190706supreme2.html

最高裁判所 平成 19年 6月 7日 第1小法廷 判決 ( 平成17年(受)第1519号 )
事件名:  預金返還請求・上告事件
要 旨
 期間1年の自動継続特約付き手定期預金の自動更新がその制限回数10回に達した場合に,その払戻請求権の消滅時効の起算点は,初回満期日ではなく,最終更新後の預金の満期日であるとされた事例。
 1.自動継続定期預金契約における預金払戻請求権の消滅時効は,自動継続の取扱いがされることのなくなった満期日が到来した時から進行する。(判旨)
 1a.自動継続定期預金契約は,自動継続特約の効力が維持されている間は,満期日が経過すると新たな満期日が弁済期となるということを繰り返すため,預金者は,満期日から満期日までの間は任意に預金払戻請求権を行使することができず,したがって,初回満期日が到来しても,預金払戻請求権の行使については法律上の障害があるというべきである。
 1b.自動継続定期預金契約にあっては、預金者が継続停止の申出をするか否かは,預金契約上,預金者の自由にゆだねられた行為というべきであり,したがって,預金者が初回満期日前にこのような行為をして初回満期日に預金の払戻しを請求することを前提に,消滅時効に関し,初回満期日から預金払戻請求権を行使することができると解することは,預金者に対し契約上その自由にゆだねられた行為を事実上行うよう要求するに等しいものであり,自動継続定期預金契約の趣旨に反するというべきであるから,初回満期日前の継続停止の申出が可能であるからといって,預金払戻請求権の消滅時効が初回満期日から進行すると解することはできない。
参照条文: /民法:166条/
全 文 h190607supreme.html

最高裁判所 平成 19年 5月 29日 第3小法廷 判決 ( 平成18年(ネ)第173号 )
事件名:  保険金請求・上告事件
要 旨
 高速自動車道で自損事故を起こした運転手が,走行車線と追越車線の中間で停止した事故車両から降りて路肩付近に避難したが,事故車両と路肩との間を通過した後続の大型貨物自動車と接触して転倒し,更に後続の大型貨物自動車により轢過されて死亡した場合には,運行起因事故である自損事故と轢過による死亡との間に相当因果関係があると認められ,自家用自動車保険契約に含まれる搭乗者傷害条項がこの死亡に適用されるとされた事例。 /高速道路/れき過/
参照条文: /商.629条/
全 文 h190529supreme.html

最高裁判所 平成 19年 5月 29日 第3小法廷 判決 ( 平成18年(受)第882号 )
事件名:  横田基地夜間飛行差止等請求・上告事件
要 旨
  横田飛行場において離着陸する米軍の航空機の発する騒音等により精神的又は身体的被害等を被っていることを理由とする周辺住民の国に対する損害賠償請求訴訟において、控訴審が口頭弁論終結の日から判決言渡期日までに生ずる損害についても賠償請求を認容したが、上告審が、この期間に生ずる損害賠償請求権はその性質上将来の給付の訴えを提起することのできる請求権としての適格を有しないとして、訴えを却下すべきであるとした事例。
 1.継続的不法行為に基づき将来発生すべき損害賠償請求権については,たとえ同一態様の行為が将来も継続されることが予測される場合であっても,損害賠償請求権の成否及びその額をあらかじめ一義的に明確に認定することができず,具体的に請求権が成立したとされる時点において初めてこれを認定することができ,かつ,その場合における権利の成立要件の具備については債権者においてこれを立証すべく,事情の変動を専ら債務者の立証すべき新たな権利成立阻却事由の発生としてとらえてその負担を債務者に課するのは不当であると考えられるようなものは,将来の給付の訴えを提起することのできる請求権としての適格を有しないものと解するのが相当である。
 1a.飛行場等において離着陸する航空機の発する騒音等により周辺住民らが精神的又は身体的被害等を被っていることを理由とする損害賠償請求権のうち事実審の口頭弁論終結の日の翌日以降の分については,将来それが具体的に成立したとされる時点の事実関係に基づきその成立の有無及び内容を判断すべく,かつ,その成立要件の具備については請求者においてその立証の責任を負うべき性質のものであって,このような請求権が将来の給付の訴えを提起することのできる請求権としての適格を有しないものである。
 2.訴えが不適法で不備を補正することができないにもかかわらず控訴審が請求を認容した場合に、上告審が、口頭弁論を経ることなく原判決を破棄して、訴えを却下すべき旨の判決をした事例。
参照条文: /民事訴訟法:135条:313条:297条:140条/
全 文 h190529supreme2.html

最高裁判所 平成 19年 4月 27日 第2小法廷 判決 ( 平成16年(受)第1658号 )
事件名:  損害賠償請求・上告事件
要 旨
 第2次大戦中に日本国内の労働力不足を補うために中国から移入され国内の建設現場において強制労働に従事させられた中国人の労働者の建設会社に対する安全配慮義務違反等を理由とする損害賠償請求権について,昭和47年9月29日の日中共同声明5条の請求権放棄の効力は個人の個人又は法人に対する請求権にも及び,この放棄は請求権自体の消滅ではなく裁判上訴求する権能の喪失を意味し,請求権者からの裁判上の請求に対して請求権放棄の抗弁が主張されたときは,当該請求は棄却を免れないとされた事例。
 1.サンフランシスコ平和条約の枠組みにおける請求権放棄の趣旨は,請求権の問題を事後的個別的な民事裁判上の権利行使による解決にゆだねるのを避けるという点にあり,ここでいう請求権の「放棄」とは,請求権を実体的に消滅させることまでを意味するものではなく,当該請求権に基づいて裁判上訴求する権能を失わせるにとどまる。
 1a.サンフランシスコ平和条約の枠組みによって,戦争の遂行中に生じたすべての請求権の放棄が行われても,個別具体的な請求権について,その内容等にかんがみ,債務者側において任意の自発的な対応をすることは妨げられない。
 1b.(公知の事実の例)
 サンフランシスコ平和条約14条(b)の解釈をめぐって,吉田茂内閣総理大臣が,オランダ王国代表スティッカー外務大臣に対する書簡において,上記のような自発的な対応の可能性を表明していることは公知の事実である。
 2.日中共同声明は,中華人民共和国政府はもちろん,日本国政府にとっても平和条約の実質を有する。
 2a.日中共同声明は,サンフランシスコ平和条約の枠組みと異なる趣旨のものではなく,請求権の処理については,個人の請求権を含め,戦争の遂行中に生じたすべての請求権を相互に放棄することを明らかにしたものというべきである。
 3.日中戦争の遂行中に生じた中華人民共和国の国民の日本国又はその国民若しくは法人に対する請求権は,日中共同声明5項によって,裁判上訴求する権能を失ったというべきであり,そのような請求権に基づく裁判上の請求に対し,同項に基づく請求権放棄の抗弁が主張されたときは,当該請求は棄却を免れない。
参照条文: /サンフランシスコ平和条約/昭和47年9月29日日中共同声明.5条/
全 文 h190427supreme.html

最高最判所 平成 19年 4月 27日 第1小法廷 判決 ( 平成17年(受)第1735号 )
事件名:  損害賠償等請求・上告事件
要 旨: 第2次大戦中に当時15歳及び13歳であった中国人女性が,日本軍の構成員らによって監禁され,繰り返し強姦されるなどの被害を被ったと主張し,日本国に対し,民法715条1項,当時の中華民国民法上の使用者責任等に基づき,損害賠償及び謝罪広告の掲載を求めた事案において,昭和47年9月29日の日中共同声明5条の請求権放棄の効力は個人の個人又は法人に対する請求権にも及び,この放棄は請求権自体の消滅ではなく裁判上訴求する権能の喪失を意味し,請求権者からの裁判上の請求に対して請求権放棄の抗弁が主張されたときは,当該請求は棄却を免れないとされた事例。
 1.サンフランシスコ平和条約の枠組みにおける請求権放棄の趣旨は,請求権の問題を事後的個別的な民事裁判上の権利行使による解決にゆだねるのを避けるという点にあることにかんがみると,ここでいう請求権の「放棄」とは,請求権を実体的に消滅させることまでを意味するものではなく,当該請求権に基づいて裁判上訴求する権能を失わせるにとどまる。
 2.日中共同声明は,中華人民共和国政府はもちろん,日本国政府にとっても平和条約の実質を有する。
 2a.日中共同声明は,サンフランシスコ平和条約の枠組みと異なる趣旨のものではなく,請求権の処理については,個人の請求権を含め,戦争の遂行中に生じたすべての請求権を相互に放棄することを明らかにしたものというべきである。
 3.日中戦争の遂行中に生じた中華人民共和国の国民の日本国又はその国民若しくは法人に対する請求権は,日中共同声明5項によって,裁判上訴求する権能を失ったというべきであり,そのような請求権に基づく裁判上の請求に対し,同項に基づく請求権放棄の抗弁が主張されたときは,当該請求は棄却を免れない。
参照条文: /サンフランシスコ平和条約/昭和47年9月29日日中共同声明.5条/
全 文 h190427supreme2.html

東京高等裁判所 平成 19年 4月 26日 第21民事部 判決 ( 平成18年(ネ)第6031号,平成19年(ネ)第951号 )
事件名:  請負代金請求控訴事件,同附帯控訴事件
要 旨
 会員である顧客に対し不動産競売物件の記録を提供する等の業務を行う者が,情報提供を受けた顧客との間で,顧客が特定の建物と底地(底地については共有持分)の買受人になったときは,{1} 競売建物の占有者(買受人に対抗できる占有権原を有する者を除く)と明渡交渉をして建物から退去させること,{2} 底地の分割請求訴訟を提起するについて,その準備を行い,顧客に訴訟代理人となる弁護士を紹介し,弁護士と連絡をとって訴訟を円滑に進行させる旨の請負契約を締結した場合に,その請負契約は弁護士法第72条本文に違反する事項を目的とする契約として民法第90条により無効であるとされ,業務完了後の報酬支払請求が棄却された事例。 /競売不動産の引渡し/業務性/律事務の取扱い/律事務の周旋/
参照条文: /弁護士法:72条/民法:90条/民事執行法:13条/
全 文 h190426tokyoH.html

最高裁判所 平成 19年 4月 24日 第3小法廷 判決 ( 平成17年(受)第844号 )
事件名:  預金払戻請求・上告事件
要 旨
 1.自動継続定期預金契約における預金払戻請求権の消滅時効は,預金者による解約の申入れがされたことなどにより,それ以降自動継続の取扱いがされることのなくなった満期日が到来した時から進行する。
参照条文: /民法:166条/
全 文 h190424supreme.html

最高裁判所 平成 19年 4月 23日 第1小法廷 判決 ( 平成17年(受)第1841号 )
事件名:  保険金請求・上告事件
要 旨
 盗難保険の付された自動車の所有者が買い物のために訪れたショッピングセンターの5階屋上駐車場に自動車を駐車していたところ午後0時頃から1時40分頃までの間に盗難に遭った旨の盗難届を交番に提出し,保険会社に対して保険金の保険金を請求したところ,保険会社が,原告は保険会社による盗難被害歴の調査に対し事実に反して「なし」との回答した等の事実があり,これは保険者の免責事由である不実記載に該当すること,本件車両の盗難被害の申告は信ぴょう性に乏しく,本件事故は,その偶然性に疑問の余地があると主張して保険金の支払を拒絶した事案において,原審が,≪本件事故前後の状況や原告の行動,とりわけ本件車両の駐車状況に照らし,外形的・客観的にみて第三者による本件車両の持ち去りとみて矛盾のない状況が立証されているということができる一方,本件事故が原告の意思に基づき発生したと疑うべき事情は立証されていないから,本件事故は,盗難に該当する≫として保険金の支払を命じたのに対し,上告審が,盗難の外形的な事実が合理的な疑いを超える程度にまで立証されたとはいえないとして,原判決を破棄して差し戻した事例。
 1.自動車保険約款について,被保険自動車の盗難という保険事故が発生したとして車両保険金の支払を請求する者は,被保険自動車の持ち去りが被保険者の意思に基づかないものであることを主張,立証すべき責任を負うものではないが,「被保険者以外の者が被保険者の占有に係る被保険自動車をその所在場所から持ち去ったこと」という盗難の外形的な事実を主張,立証する責任を負うとされた事例。
 1a.上記の外形的な事実は,「被保険者の占有に係る被保険自動車が保険金請求者の主張する所在場所に置かれていたこと」及び「被保険者以外の者がその場所から被保険自動車を持ち去ったこと」という事実から構成されるものというべきである。
 1b.「外形的・客観的にみて第三者による持ち去りとみて矛盾のない状況」が立証されただけでは,盗難の外形的な事実を合理的な疑いを超える程度にまで立証したことにならない。 /自由心証主義/証明責任/
参照条文: /商.641条/民訴.247条/
全 文 h190423supreme.html

名古屋地方裁判所 平成 19年 3月 30日 民事第9部 決定 ( 平成18年(行ク)第22号 )
事件名:  文書提出命令申立事件
要 旨
 滞納処分の取消訴訟において、納税者からの文書提出命令の申立てにかかる文書(行政庁から提出された書証のうち黒塗りされている部分も記載されている原本)が、インカメラ手続を経た上で、公務員の職務上の秘密に関する事項であると認定され、同申立てが却下された事例。
 1.文書不所持を理由とする提出命令申立ての却下
  a.納税猶予に関する地方税法15条によれば,分納の期間は1年以内とされており,同法16条1項では,50万円を超える地方税を猶予する場合には特別の事情がない限り担保を徴さなければならないと規定されていることに照らしてみると,担保を供することなく24回の分納を願い出る納付誓約書の提出による分納は,地方税法所定の行政処分たる納税猶予処分であるとは解されないとされた事例。
 b.行政処分たる納税猶予処分に該当しない納付誓約書の提出による分納について、担当者がその経緯を整理状況と題する文書に記載して上司の供覧に付していることは認められるが,稟議書を作成して決裁を受けたことを推認すべき事情は見あたらないとされ、稟議書の提出命令申立てが却下された事例。
 2.引用文書にあたらないとされた事例
 a.原告が「整理状況」と題する文書の提出命令を申し立て、これに任意に応ずる趣旨で被告(行政庁)が,公務員の職務上の秘密に関する記載部分として提出すべきでないと思料する部分を黒塗りした写しを乙11号証として提出した場合に、被告において整理状況と題する文書の存在を自己の主張の根拠として積極的に言及・引用した経緯により提出したものではなく,したがって被告の準備書面中でも,乙11号証の記載の限度でこれを引用するに止めており,黒塗りにかかる部分の内容は引用していないのであるから,当該部分を含む「整理状況」と題する文書(原本)が引用文書に当たるということはできないとされた事例。
 3.公務秘密文書に該当するとされるた事例
 3a.提出命令の申立てに係る文書が利益文書又は法律関係文書に該当するとしても,民訴法220条4号ロの公務員の職務上の秘密に該当する文書で,公務の遂行に著しい支障を生ずるおそれがあると認められるから,同法197条1項1号,191条の各規定の趣旨に照らし,処分行政庁は,その提出を拒むことができるとされた事例。
 3b. 公務員が組織的に用いる文書は、民訴法220条4号ロにも該当しないとの解釈は、採用できない。
 3c.滞納処分庁が行った納税者の資産調査の状況に関する記載,及び滞納処分庁の担当者が他の道府県の地方税事務担当者から聴取した滞納金等の取扱状況等に関する情報や担当者の氏名等の記載は、公務員の職務上の秘密に関する事項であるとされた事例。
参照条文: /民事訴訟法:191条;197条1項1号;220条1号;220条4号ロ;223条6項/
全 文 h190330nagoyaD.html

最高裁判所 平成 19年 3月 20日 第3小法廷 決定 ( 平成18年(許)第39号 )
事件名:  再審請求棄却決定に対する抗告棄却決定に対する許可抗告事件
要 旨
 同居している義父により無断で連帯保証人とされた者(X)に対して保証債務履行請求の訴えが提起され,その訴状及び第1回口頭弁論期日の呼出状の送達がなされたが,これらの送達書類を義父が同居者として受領しながら本人に引き渡さなかったため,Xが不出頭のまま請求認容判決に言い渡され,その判決の判決書に代わる調書が書留郵便に付する方法によりなされ,これを受領しなかったXが控訴が提起しなかったために判決が確定した場合に,判決確定から約2年後にXが民訴法338条1項3号の再審事由の存在を主張して提起した再審の訴えについて,訴状等の送達が有効になされていることを理由に再審事由の存在を否定した原決定が破棄された事例。
 1.民訴法106条1項は,就業場所以外の送達をすべき場所において受送達者に出会わないときは,「使用人その他の従業者又は同居者であって,書類の受領について相当のわきまえのあるもの」に書類を交付すれば,受送達者に対する送達の効力が生ずるものとしており,その後,書類が同居者等から受送達者に交付されたか否か,同居者等が上記交付の事実を受送達者に告知したか否かは,送達の効力に影響を及ぼすものではない。
 1a.受送達者あての訴訟関係書類の交付を受けた同居者等が,その訴訟において受送達者の相手方当事者又はこれと同視し得る者に当たる場合は別として(民法108条参照),その訴訟に関して受送達者との間に事実上の利害関係の対立があるにすぎない場合には,当該同居者等に対して上記書類を交付することによって,受送達者に対する送達の効力が生ずる。
 2.訴状等の送達が補充送達として有効であるからといって,直ちに民訴法338条1項3号の再審事由の存在が否定されることにはならず,事由の存否は,当事者に保障されるべき手続関与の機会が与えられていたか否かの観点から改めて判断されなければならない。
 2a.受送達者あての訴訟関係書類の交付を受けた同居者等と受送達者との間に,その訴訟に関して事実上の利害関係の対立があるため,同居者等から受送達者に対して訴訟関係書類が速やかに交付されることを期待することができない場合において,実際にも当該同居者等から受送達者に対して訴訟関係書類が実際に交付されず,そのため,受送達者が訴訟が提起されていることを知らないまま判決がされたときには,当事者の代理人として訴訟行為をした者が代理権を欠いた場合と別異に扱う理由はないから,民訴法338条1項3号の再審事由があると解するのが相当である。 /補充送達/
参照条文: /民事訴訟法:106条;338条1項3号/民法:108条/
全 文 h190320supreme.html

最高裁判所 平成 19年 2月 27日 第3小法廷 判決 ( 平成17年(受)第869号 )
事件名:  損害賠償請求・上告事件
要 旨
 米国の会社であるAが,Bを通じて,Yにカジノで使用するゲーム機を開発することができる業者を手配することを委託し,これを受けてYがXにゲーム機の開発を打診し,開発費は最終的にAの負担とすること,少なくとも1000台の取引を目標とすることを合意の上,Xが開発に着手し,量産期30台を製造したが,前記4社の契約締結の際にA社が突然仕様の変更を要求したため,契約締結に至らなかった場合に,Aから正式の発注を受けていないYがXとの間の契約当事者になることを前提にして,Xに対して発注書を交付したり,条件提示書を送付するなど,Xに契約が確実に締結されるとの過大な期待を抱かせる行為をし,これを受けてXが部品の発注や金型の完成,装置の改良を進めた等の事情のある本件では,Yには契約準備段階における信義則上の注意義務違反があり,YはこれによりXに生じた損害を賠償すべき責任を負うとされた事例。
参照条文: /民法:3編2章1節1款/民法:709条/民法:1条2項/
全 文 h190227suprreme.html

最高裁判所 平成 19年 2月 27日 第3小法廷 判決 ( 平成16年(行ツ)第328号 )
事件名:  戒告処分取消請求・上告事件
要 旨
 公立小学校の校長が,従来からの例に従い卒業式及び入学式の式次第に「国歌斉唱」を入れて音楽専科の教諭にピアノ伴奏を命じたが,教諭が自分の思想,信条上,また音楽の教師としても,これを行うことができない旨を述べ,式の当時においても国歌の伴奏をしなかったため,校長が予め用意していた録音テープによる伴奏により斉唱が行われた場合に,この職務命令に従わなかったことが地方公務員法32条及び33条に違反するとして地方公務員法29条1項1号ないし3号に基づきなされた戒告処分が憲法19条に違反しないとされた事例。
 1.「君が代」が過去の日本のアジア侵略と結び付いており,これを公然と歌ったり,伴奏することはできない,また,子どもに「君が代」がアジア侵略で果たしてきた役割等の正確な歴史的事実を教えず,子どもの思想及び良心の自由を実質的に保障する措置を執らないまま「君が代」を歌わせるという人権侵害に加担することはできないなどの原告主張の考えは,「君が代」が過去の我が国において果たした役割に係わる原告人自身の歴史観ないし世界観及びこれに由来する社会生活上の信念等ということができるとされた事例。
 1a.上記の考えをもっている原告に対して入学式の国歌斉唱の際にピアノ伴奏を求めることを内容とする職務命令が,直ちに原告の有する上記の歴史観ないし世界観それ自体を否定するものと認めることはできないとされた事例。
 2.公立小学校における儀式的行事において広く行われ,原告所属の小学校でも従前から入学式等において行われていた国歌斉唱に際し,音楽専科の教諭である原告にそのピアノ伴奏を命ずる職務命令は,原告に対して,特定の思想を持つことを強制したり,あるいはこれを禁止したりするものではなく,特定の思想の有無について告白することを強要するものでもなく,児童に対して一方的な思想や理念を教え込むことを強制するものとみることもできないとされた事例。
 3.憲法15条2項,地方公務員法30条,学校教育法18条2号の各規定の趣旨及び学校教育法20条,学校教育法施行規則25条に基づいて定められた小学校学習指導要領(平成元年文部省告示第24号)第4章第2D(1)の規定の趣旨に鑑みれば,また原告所属の小学校では従来から入学式等において音楽専科の教諭によるピアノ伴奏で「君が代」の斉唱が行われてきたことに照らせば,上記の信念を有する原告(音楽専科の教諭)に対して国歌斉唱の際にピアノ伴奏を命ずる本件職務命令は,その目的及び内容において不合理であるということはできないとされた事例。 /思想良心の自由/
参照条文: /憲.19条/憲.15条/地方公務員.30条/学校教育.18条/
全 文 h190227supreme2.html

最高裁判所 平成 19年 2月 15日 第1小法廷 判決 ( 平成16年(行ヒ)第310号 )
事件名:  債権差押処分取消請求・上告事件
要 旨
 1.国税の法定納期限等以前に,将来発生すべき債権を目的として,債権譲渡の効果の発生を留保する特段の付款のない譲渡担保契約が締結され,その債権譲渡につき第三者に対する対抗要件が具備されていた場合には,譲渡担保の目的とされた債権が国税の法定納期限等の到来後に発生したとしても,当該債権は,国税徴収法24条6項の「国税の法定納期限等以前に譲渡担保財産となっている」ものに該当する。
 2.約定の担保権実行の事由が生じたことに基づき,譲渡担保権者が目的債権の債務者に対して担保権実行の通知をするまでは,設定者がその計算において目的債権につき弁済を受けることができるとの付款をもって,債権譲渡の効果の発生を留保する付款であると解することはできないとされた事例。 /集合債権譲渡担保/第二次納税義務者/
参照条文: /国税徴収.24条6項/
全 文 h190215supreme.html

最高裁判所 平成 19年 2月 13日 第3小法廷 判決 ( 平成18年(受)第1187号 )
事件名:  不当利得返還等請求本訴,貸金返還請求反訴・上告事件
要 旨
 1.貸主と借主との間で基本契約が締結されていない場合において,第1の貸付けに係る債務の各弁済金のうち利息の制限額を超えて利息として支払われた部分を元本に充当すると過払金が発生し,その後,第2の貸付けに係る債務が発生したときには,その貸主と借主との間で,基本契約が締結されているのと同様の貸付けが繰り返されており,第1の貸付けの際にも第2の貸付けが想定されていたとか,その貸主と借主との間に第1貸付け過払金の充当に関する特約が存在するなどの特段の事情のない限り,第1貸付け過払金は,第1の貸付けに係る債務の各弁済が第2の貸付けの前にされたものであるか否かにかかわらず,第2の貸付けに係る債務には充当されないと解するのが相当である。
 2.商行為である貸付けに係る債務の弁済金のうち利息の制限額を超えて利息として支払われた部分を元本に充当することにより発生する過払金を不当利得として返還する場合において,悪意の受益者が付すべき民法704条前段所定の利息の利率は,民法所定の年5分と解するのが相当である。
参照条文: /民法:488条/民法:489条/民法:704条/民法:404条/商.514条/
全 文 h190213supreme.html

最高裁判所 平成 19年 2月 8日 第1小法廷 決定 ( 平成18年(あ)第1733号 )
事件名:  覚せい剤取締法違反被告事件(上告事件)
要 旨
 警察官が,被告人に対する覚せい剤取締法違反被疑事件につき,捜索場所を被告人方居室等,差し押さえるべき物を覚せい剤等とする捜索差押許可状に基づき,被告人立会いの下に上記居室を捜索中,宅配便の配達員によって被告人あてに配達され,被告人が受領した荷物について,警察官において,これを開封したところ,中から覚せい剤が発見されたため,被告人を覚せい剤所持罪で現行犯逮捕し,逮捕の現場で上記覚せい剤を差し押さえた場合に、警察官は,このような荷物についても前記許可状に基づき捜索できるとされた事例。
参照条文: /刑訴.218条/刑訴.219条/
全 文 h190208supreme91.html

最高裁判所 平成 19年 2月 6日 第3小法廷 判決 ( 平成18年(行ヒ)第136号 )
事件名:  在ブラジル被爆者健康管理手当等請求・上告事件
要 旨
 被爆者援護法等に基づく健康管理手当の受給権が時効により消滅したとの主張が,信義則に反し許されないとされた事例。
 1.被爆者援護法等に基づく健康管理手当の受給権を出国者に認めないこととした402号通達が発出されたために,受給権者の権利行使が困難となり,消滅時効が完成した場合に,国から事務処理を委託された者が消滅時効を主張して未支給の本件健康管理手当の支給義務を免れようとすることは,違法な通達を定めて受給権者の権利行使を困難にしていた国から事務の委任を受け,又は事務を受託し,自らも上記通達に従い違法な事務処理をしていた普通地方公共団体ないしその機関自身が,受給権者によるその権利の不行使を理由として支払義務を免れようとするに等しいものといわざるを得ず,この消滅時効の主張は,402号通達が発出されているにもかかわらず,当該被爆者については同通達に基づく失権の取扱いに対し訴訟を提起するなどして自己の権利を行使することが合理的に期待できる事情があったなどの特段の事情のない限り,信義則に反し許されない。
 2.地方自治法236条2項後段が,普通地方公共団体に対する権利で金銭の給付を目的とするものは,法律に特別の定めがある場合を除くほか,時効の援用を要しないこととしたのは,上記権利については,その性質上,法令に従い適正かつ画一的にこれを処理することが,当該普通地方公共団体の事務処理上の便宜及び住民の平等的取扱いの理念(同法10条2項参照)に資することから,時効援用の制度(民法145条)を適用する必要がないと判断されたことによるものと解され,このような趣旨にかんがみると,普通地方公共団体に対する債権に関する消滅時効の主張が信義則に反し許されないとされる場合は,極めて限定されるものというべきである。
 2a.普通地方公共団体が,基本的な義務に反して,既に具体的な権利として発生している国民の重要な権利に関し,法令に違反してその行使を積極的に妨げるような一方的かつ統一的な取扱いをし,その行使を著しく困難にさせた結果,これを消滅時効にかからせたという極めて例外的な場合においては,地方自治法236条2項後段所定の便宜を与える基礎を欠くといわざるを得ず,また,当該普通地方公共団体による時効の主張を許さないこととしても,国民の平等的取扱いの理念に反するとは解されず,かつ,その事務処理に格別の支障を与えるとも考え難いから,地方自治体が同規定を根拠に消滅時効を主張することは許されない。
参照条文: /地自.236条2項/民法:145条/民法:1条2項/
全 文 h190206supreme.html

最高裁判所 平成 19年 2月 2日 第2小法廷 判決 ( 平成16年(受)第1787号 )
事件名:  組合員たる地位の不存在確認等請求・上告事件
要 旨
 使用者との間でユニオン・ショップ協定及びチェック・オフ協定を締結している労働組合の組合員が、当該労働組合から脱退しないこと等を使用者と合意した場合に、その合意のうち,労働組合から脱退する権利をおよそ行使しないことを労働者に義務付けて,脱退の効力そのものを生じさせないとする部分は,脱退の自由という重要な権利を奪い,組合の統制への永続的な服従を強いるものであるから,公序良俗に反し,無効であり、組合から脱退した労働者は使用者にチェック・オフの中止を求めることができるとされた事例。
 1.一般に,労働組合の組合員は,脱退の自由,すなわち,その意思により組合員としての地位を離れる自由を有する。(先例の確認)
 1a.労働組合は,組合員に対する統制権の保持を法律上認められ,組合員はこれに服し,組合の決定した活動に加わり,組合費を納付するなどの義務を免れない立場に置かれるものであるが,それは,組合からの脱退の自由を前提として初めて容認されることである。
 2.(確認請求の例)
 被告(使用者)が原告(労働者)に組合費を控除しない金額の賃金を支払う義務を負うことの確認を求める請求が認容された事例。
参照条文: /労組.2条/民法:90条/
全 文 h190202supreme.html

大阪高等裁判所 平成 19年 1月 30日 第12民事部 判決 ( 平成18年(ネ)第779号 )
事件名:  損害賠償請求・控訴事件
要 旨
 住所を秘匿しているヤミ金融業者の被害者から依頼を受けた弁護士が業者の住所・電話番号を知るために,その申出により,弁護士会がこれらの事項について振込先であるヤミ金融業者の口座が開設されている銀行に対して弁護士法23条の2の照会(弁護士会照会)をし,また,同弁護士の上申に基づき裁判所が民訴法151条1項6号・2項・186条に基づいて同事項について同銀行に対して調査の嘱託をしたが,いずれについても銀行が顧客の同意が得られないことを理由に回答を拒絶した(あるいは一時拒絶した)場合に,銀行の弁護士会に対する回答義務及び裁判所に対する回答義務は肯定されたが,回答拒絶が弁護士の依頼者との関係で権利侵害行為になるものではないとして,依頼者の銀行に対する損害賠償請求が棄却された事例。
 1.弁護士法23条の2所定の照会を受けた公務所又は公私の団体は,当該照会により報告を求められた事項について,照会をした弁護士会に対して,法律上,報告する公的な義務を負う。
 1a.民訴法186条の調査嘱託は,民事訴訟を審理する裁判所が,職権で,当該事件の審理をする上で必要であると判断した事項についてされるもので,その回答は直接に国の司法作用のために供されるのであり,民事訴訟法において明文で上記規定が定められたものであることに照らしても,これに応じなかった場合の制裁を直接に定めた規定が民訴法その他の法律にはないものの,嘱託を受けた民訴法186条所定の公私の団体は,裁判所に対し,これに応じる公的な義務を負う。
 1b.照会や調査嘱託を受けた者が,弁護士会や裁判所に対して負っている法的義務に違反し,司法制度の維持のために弁護士会や裁判所が必要と判断した情報の提供を拒絶して,これに協力しなかったことは,社会的に非難されるべき行為であるとされた事例。
 1c.23条照会及び調査嘱託を受けた者の回答義務は,個人情報保護の観点から何らの制約を受けないものであって,23条照会及び調査嘱託を受けた以上,照会及び調査を嘱託された情報が法人又は他の団体の情報であるときはむろん,個人の情報であっても,それらの者の同意の有無に関わらず,照会をした弁護士会及び嘱託をした裁判所に対し,求められた上記各情報について当然に回答義務を負うと解される。
 2.弁護士法23条の2所定の照会や裁判所の調査嘱託に対して回答すべき法的義務は,司法制度上の重要な役割を担う公的性格の強い弁護士会や国の司法機関である裁判所に対する公的な義務であって,必ずしも,それを利用する個々の弁護士やその依頼者個人に対する関係での義務ではない。
 3.弁護士会照会や裁判所の調査嘱託に対する回答拒否行為は,弁護士会や裁判所に対する公的な義務に違反するものではあるが,原則的には,依頼者や当事者の個々の権利を侵害するものではなく,また,その法的に保護された利益を侵害するものとまでもいえないもので,民法709条の「他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した」との要件には当たらない。
 3a.原告の主張の中に,被告において,原告がヤミ金融業者からの違法な取立行為に遭ってその生活が脅かされており,その違法な取立行為を防止するためには,預金者の住所等についての回答が不可欠な状況であることを十分に認識したにも関わらず,被告は回答拒否行為を継続して原告の人格権を侵害したとの趣旨の主張が含まれるとしても,原告のこのような窮状等を裏付ける資料を原告代理人が被告に提供したことまでは認められず,被告がそのような認識を有していたことまでは,これを認めるに足りる証拠はなく,被告の回答拒否行為が原告に対する関係で違法となることを肯認する事情は認められないとされた事例。
 4.弁護士照会や裁判所の調査嘱託に対して銀行(被告)が回答を拒否したことにより銀行が原告「法律上保護される利益を侵害した」と主張されている場合に,被告は法人であるから,民法709条のみによって損害賠償請求をすることはできないとされた事例。(企業責任の理論の否定) /弁護士照会/
参照条文: /民法:709条;715条/弁護士法:23-2条/民事訴訟法:151条;186条/
全 文 h190130osakaH.html

最高裁判所 平成 19年 1月 25日 第1小法廷 判決 ( 平成17年(受)第2335号、第2336号 )
事件名:  損害賠償請求・上告事件
要 旨
 母親が病気療養のため家庭での養育が困難になった児童について,県が児童福祉法法27条1項3号に基づき児童養護施設への入所措置を行ったが,その児童が入所中の他の児童ら4名から暴行を受け,右不全麻痺,外傷性くも膜下出血等の傷害を負った場合に,施設の職員に入所児童を保護監督すべき注意義務を懈怠した過失があったとして提起された損害賠償請求訴訟において,この養育監護は公権力の行使に当たるとして,県の賠償義務が肯定され,施設を設置する社会福祉法人の賠償義務が否定された事例。
 1.
 児童福祉法27条1項3号に基づく入所措置(3号措置)に基づき児童養護施設に入所した児童に対する関係では,入所後の施設における養育監護は本来都道府県が行うべき事務であり,このような児童の養育監護に当たる児童養護施設の長は,3号措置に伴い,本来都道府県が有する公的な権限を委譲されてこれを都道府県のために行使するものと解される。
 1a.都道府県による3号措置に基づき社会福祉法人の設置運営する児童養護施設に入所した児童に対する当該施設の職員等による養育監護行為は,都道府県の公権力の行使に当たる公務員の職務行為と解するのが相当である。
 2.国家賠償法1条1項は,国又は公共団体の公権力の行使に当たる公務員が,その職務を行うについて,故意又は過失によって違法に他人に損害を与えた場合には,国又は公共団体がその被害者に対して賠償の責めに任ずることとし,公務員個人は民事上の損害賠償責任を負わないこととしたものと解される。(先例の確認)
 2a.国又は公共団体以外の者の被用者が第三者に損害を加えた場合であっても,当該被用者の行為が国又は公共団体の公権力の行使に当たるとして国又は公共団体が被害者に対して同項に基づく損害賠償責任を負う場合には,被用者個人が民法709条に基づく損害賠償責任を負わないのみならず,使用者も同法715条に基づく損害賠償責任を負わない。
参照条文: /民法:715条/国賠1条1項/児童福祉.27条1項3号/
全 文 h190125supreme.html

京都地方裁判所 平成 19年 1月 24日 第1民事部 判決 ( 平成18年(ワ)第1665号 )
事件名:  損害賠償請求事件
要 旨
 戸籍簿に被相続人(遺言者)の子として記載されている原告から遺留分減殺請求手続の委任を受けた弁護士が、遺言執行者である被告(司法書士)から受任事件の処理に必要な情報を得ようとして、所属弁護士会に23条照会(弁護士法23条の2の照会)の申出をし、弁護士会が被告に照会をしたが、受遺者から同意が得られないこと、原告が相続人であることが確認できないことを理由に報告を拒絶し、また、民法1011条1項に基づく財産目録の作成及び交付請求にも回答しなかった場合に,これらの行為が不法行為を構成するとして、原告が受けた精神的損害に対する慰謝料の支払が命じられた事例。
 1.23条照会を受けた相手方は,自己の職務の執行に支障のある場合及び照会に応じて報告することの持つ公共的利益にも勝り保護しなければならない法益がほかに存在する場合を除き,原則としてこれを拒否することができない。
 1a. 23条照会制度においてその照会先を公務所又は公私の団体に限定した趣旨は,公務所又は公私の団体からの報告は,一般に,個人からの報告に較べて信用性が高く,資料の保管,報告の手続も整備されていることから,同制度の公共的性格の維持に資すると考えられる点にあると解されることに照らせば,法人格を有さない司法書士事務所等に対する照会であっても,個人と区別できるほどに団体としての実体を備え上記趣旨を損なわない場合には,適法な照会と解するべきである。
 1b.遺言執行者は,相続人に対しては遺言執行の内容について報告する義務を負っている(民法1012条2項,645条,1015条)のであるから,相続人との関係では,受遺者や被相続人への守秘義務を理由に遺言執行状況の開示を拒むことはできない立場にあり、したがって,受遺者の同意がないことを理由とした報告拒否には正当理由はない。
 1c. 遺言執行者は,善管注意義務をもって円滑迅速に遺言執行の職務を遂行すべき義務を負い,かつ,それで足り,戸籍上原告が遺言者の子とされている以上,原告は遺言者の子であると事実上推認され,原告が相続人であることを疑うべき特段の事情が存在しない本件においては,遺言執行者は,戸籍の記載に従った相続人との関係で任務を遂行すれば足り,それ以上に独自に原告の相続人性を調査し,独自の判断で相続人の範囲を定めるまでの権限も義務もないとされた事例。
 1d.遺言執行者が23条照会を拒否したことについて,正当な事由があるとは認められないから,その報告拒否は違法の評価を免れないとされ、かつ,少なくとも,遺言執行者に指定された司法書士が当然有すべき法的知見及び弁護士会から23条照会に基づく報告義務について教示した文書を受領していることに照らせば,受遺者の同意が得られないこと及び照会申出弁護士の依頼者が相続人であることが確認できないとの理由により報告拒否の判断をしたことについては,少なくとも過失があるといえるとされた事例。
 1e.弁護士法が23条照会の主体を弁護士会としたのは,その適正かつ慎重な運用を担保する趣旨であり,23条照会の情報を得ることにより自己の権利の実現ないし法的利益の享受を求めている実質的な主体は,申出をした弁護士であり,ひいてはその依頼者であることからすれば,照会を受けた者の違法な報告拒否が依頼者の権利ないし法的利益を侵害する場合には,依頼者に対する損害賠償義務が生じ得る。
 1f.相続人は、23条照会を受けた遺言執行者の報告拒否により,直ちに開示されてしかるべき遺言執行状況を知ることができず,ほかの迂遠な手段を講じてその内容を憶測することを余儀なくされ,期間制限のある遺留分減殺請求権の円滑な行使を阻まれたから,遺言執行者の違法な報告拒否は相続人に対する不法行為を構成すると認められた事例。 /弁護士会照会/弁護士照会/
参照条文: /弁護士法:23-2条/民法:709条;1011条/
全 文 h190124kyotoD.html

最高裁判所 平成 19年 1月 23日 第3小法廷 判決 ( 平成17年(行ヒ)第9号 )
事件名:  相続税更正処分等取消請求・上告事件
要 旨
 被相続人の居住の用に供されている宅地が土地区画整理事業のために使用を停止され,地上建物が収去された後,仮換地の使用が許可される前に相続が開始した場合に,相続開始時に相続土地も仮換地も更地であったことを理由に租税特別措置法69条の3の「特定居住用宅地等」に該当しないとした原判決が破棄された事例。
 1.相続開始の直前においては本件土地は更地となり,本件仮換地もいまだ居住の用に供されてはいなかったものであるが,それは公共事業である本件事業における仮換地指定により両土地の使用収益が共に禁止された結果,やむを得ずそのような状況に立たされたためであるから,相続開始ないし相続税申告の時点において,被相続人又は相続人らが本件仮換地を居住の用に供する予定がなかったと認めるに足りる特段の事情のない限り,本件土地は,措置法69条の3にいう「相続の開始の直前において・・・居住の用に供されていた宅地」に当たると解するのが相当であり,そして,本件においては,被相続人及び相続人らは,仮換地指定通知に伴って仮設住宅に転居しており,また,相続人らは,相続開始後とはいえ,本件仮換地の使用収益が可能となると,本件仮換地上に本件ビルを建築してこれに入居したものであって,上記の特段の事情は認めることができないから,本件土地について本件特例が適用されるものというべきであるとされた事例。
参照条文: /租税特別措置.69-3条/
全 文 h190123supreme.html

最高裁判所 平成 19年 1月 19日 第2小法廷 判決 ( 平成16年(行ヒ)第253号 )
事件名:  審査決定取消請求・上告事件
要 旨
 1.三鷹市のような大都市近郊の市街化区域内においては,特段の事情のない限り,同一の位置にある農地の基本価額が宅地の価額を上回ることは想定し難いというべきであるから,農地の評価額がそれを宅地と同様に画地計算法に従って評価した価額を上回る場合,その限度で違法となる。(原審判断の一部の是認)
 2.平成12年自治省告示第217号による改正前の固定資産評価基準にいう通路開設補正率は,当該無道路地が公路に接続しない状態を解消するための通路を確保するのに必要な費用及び期間に着目した補正率であると解され,現に自己所有地を通路として使用し,これによって公路に接続している土地は,たとえ公図上は公路に接していなくとも,新たにこれを公路に接続させる通路を確保するための費用及び期間を要しないのであるから,通路開設補正を適用しない取扱いをすることも許される。(破棄理由)
参照条文: /地方税.403条1項/地方税.388条1項/固定資産評価基準/
全 文 h190119supreme.html

最高裁判所 平成 19年 1月 18日 第1小法廷 判決 ( 平成16年(受)第380号 )
事件名:  賃金債権確認請求・上告事件
要 旨
 従業員の申出と使用者(信用農業協同組合)の承認により効果の生ずる選択定年制の下で,従業員が退職の申出をしたが,使用者が経営の悪化を理由に承認しなかった場合に,選択定年制による退職の効果は生じておらず,所定の割増退職金債権は発生していないとされた事例。
 1.本件選択定年制による退職に伴う割増退職金は,従業員の申出と使用者の承認とを前提に,早期の退職の代償として特別の利益を付与するものであるところ,本件選択定年制による退職の申出に対し承認がされなかったとしても,その申出をした従業員は,上記の特別の利益を付与されることこそないものの,本件選択定年制によらない退職を申し出るなどすることは何ら妨げられていないのであり,その退職の自由を制限されるものではないから,従業員がした本件選択定年制による退職の申出に対して上告人が承認をしなければ,割増退職金債権の発生を伴う退職の効果が生ずる余地はないとされた事例。
 1a.使用者が,経営悪化から事業譲渡及び解散が不可避となったとの判断の下に,事業を譲渡する前に退職者の増加によりその継続が困難になる事態を防ぐために,選択定年制による退職の申出を承認しないとした場合に,不承認の理由が不十分であるというべきではないとされた事例。
参照条文: /労基.2条/
全 文 h190118supreme.html

最高裁判所 平成 18年 12月 22日 第2小法廷 判決 ( 平成17年(受)第1762号 )
事件名:  学納金返還請求・上告事件
要 旨
 鍼灸・あん摩マッサージ指圧学科のみを設置し,修業年限を3年,入学時期を毎年4月1日,入学定員を30名とする鍼灸学校に入学を許可された者が,妊娠を理由に3月25日から27日までの間に入学を辞退して学納金の返還を請求した場合に,入学金の返還が認められず,授業料の返還が認められた事例。
 1.鍼灸学校との在学契約が消費者契約に当たり,授業料の不返還特約は,在学契約の解除に伴う損害賠償額の予定又は違約金の定めの性質を有し,消費者契約法9条1号にいう「当該消費者契約の解除に伴う損害賠償の額を予定し,又は違約金を定める条項」に当たるとされた事例。
 1a.鍼灸学校が,その入学試験に合格しても入学しない者があることを見込んで,定員割れが生ずることを回避するため,入学定員を若干上回る数の合格者を決定し,また補欠者を定めている等の事情に照らすと,大学の場合と同じく,入学すべき年の3月31日までは,学校と在学契約を締結した学生が学校に入学することが客観的にも高い蓋然性をもって予測されるような状況にはなく,同日までの在学契約の解除について学校に生ずべき平均的な損害は存しないものというべきであるとされた事例。
参照条文: /消費者契約.9条1号/
全 文 h181222supreme.html

最高裁判所 平成 18年 12月 21日 第1小法廷 判決 ( 平成17年(受)第276号 )
事件名:  損害賠償請求・上告事件
要 旨
 賃借人が敷金返還請求権に質権を設定した後に破産宣告を受けた場合に、破産管財人が賃貸借契約をただちに解除することなく存続させ、破産宣告後の賃料債権が財団債権になり、かつ、その支払をなすに足る預金があるにもかかわらず、賃料を支払わずにおいて、契約解除に際して敷金を未払賃料に充当する合意を賃貸人とすることにより、質権の目的である敷金を消滅させたことについて、質権者に対する担保価値維持義務に違反するものであるが、当時学説や判例が乏しかったこと等に鑑み、破産管財人としての善管注意義務違反の責任を問うことはできない(過失の否定)との理由で、質権者の破産管財人に対する損害賠償請求が棄却されたが、破産財団に対する不当利得返還請求は認容された事例。
 1.債権が質権の目的とされた場合において,質権設定者は,質権者に対し,当該債権の担保価値を維持すべき義務を負い,債権の放棄,免除,相殺,更改等当該債権を消滅,変更させる一切の行為その他当該債権の担保価値を害するような行為を行うことは,同義務に違反するものとして許されない。
 1a.条件付債権としての敷金返還請求権が質権の目的とされた場合において,質権設定者である賃借人が,正当な理由に基づくことなく賃貸人に対し未払債務を生じさせて敷金返還請求権の発生を阻害することは,質権者に対する義務に違反する。
 2.質権設定者が破産した場合において,質権は,別除権として取り扱われ(旧破産法92条),破産手続によってその効力に影響を受けないものとされており(同法95条),他に質権設定者と質権者との間の法律関係が破産管財人に承継されないと解すべき法律上の根拠もないから,破産管財人は,質権設定者が質権者に対して負う担保価値維持義務を承継する。
 2a. 宣告後賃料等のうち原状回復費用については,賃貸人において原状回復を行ってその費用を返還すべき敷金から控除することも広く行われているものであって,敷金返還請求権に質権の設定を受けた質権者も,これを予定した上で担保価値を把握しているものと考えられるから,敷金をもってその支払に当てることも,正当な理由があるものとして許されるとされた事例。
 2b. 宣告後賃料等のうち原状回復費用を除く賃料及び共益費(賃料等)については,破産財団にこれらを支払うのに十分な銀行預金が存在しており,現実にこれを支払うことに支障がなかったにもかかわらず,破産管財人がこれを現実に支払わないで敷金をもって充当する旨の合意をし,敷金返還請求権の発生を阻害する行為は,特段の事情がない限り,正当な理由に基づくものとはいえないというべきであり、この行為が破産財団の減少を防ぎ,破産債権者に対する配当額を増大させるために行われたものであるとしても,破産宣告の日以後の賃料等の債権は旧破産法47条7号又は8号により財団債権となり,破産債権に優先して弁済すべきものであるから,これを現実に支払わずに敷金をもって充当することについて破産債権者が保護に値する期待を有するとはいえず,正当な理由があるとはいえないとされた事例。
 3.破産管財人は,職務を執行するに当たり,総債権者の公平な満足を実現するため,善良な管理者の注意をもって,破産財団をめぐる利害関係を調整しながら適切に配当の基礎となる破産財団を形成すべき義務を負い,この善管注意義務違反に係る責任は,破産管財人としての地位において一般的に要求される平均的な注意義務に違反した場合に生ずる。
 4.破産者が提供した敷金額を上回る金額の債権のために敷金返還請求権に質権が設定されている場合に、破産管財人が敷金を破産宣告後の賃料等に充当する旨の合意をしたことにより破産財団が賃料等の金額の支出を免れ,その結果,同額の敷金返還請求権が消滅し,質権者が優先弁済を受けることができなくなったときには,破産財団は,質権者の損失において宣告後賃料等に相当する金額を利得したというべきである。
参照条文: /民法:362条;703条;709条/t11.破産法:47条7号;47条8号;49条;50条;92条;95条/
全 文 h181221supreme.html

最高裁判所 平成 18年 12月 21日 第1小法廷 判決 ( 平成17年(オ)第184号 )
事件名:  不当利得返還請求・上告事件
要 旨
 質権の目的となっている敷金返還請求権を破産管財人が破産手続開始後の未払賃料に充当したことにより質権者が損失を受けた場合に,破産管財人に対する不当利得返還請求権が肯定されたが,この問題を論ずる学説・判例が乏しかったこと等の本件事情の下では,破産管財人は,悪意の受益者にあたらないとされた事例。
 1.債権が質権の目的とされた場合において,質権設定者は,質権者に対し,当該債権の担保価値を維持すべき義務を負い,債権の放棄,免除,相殺,更改等当該債権を消滅,変更させる一切の行為その他当該債権の担保価値を害するような行為を行うことは,同義務に違反するものとして許されない。(前提の議論)
 1a.建物賃貸借における敷金返還請求権は,賃貸借終了後,建物の明渡しがされた時において,敷金からそれまでに生じた賃料債権その他賃貸借契約により賃貸人が賃借人に対して取得する一切の債権を控除し,なお残額があることを条件として,その残額につき発生する条件付債権である。(先例の確認)
 1b.条件付債権としての敷金返還請求権が質権の目的とされた場合において,質権設定者である賃借人が,正当な理由に基づくことなく賃貸人に対し未払債務を生じさせて敷金返還請求権の発生を阻害することは,質権者に対する上記義務に違反するものというべきである。
 1c.質権設定者が破産した場合において,質権は,別除権として取り扱われ,破産手続によってその効力に影響を受けないものとされており,他に質権設定者と質権者との間の法律関係が破産管財人に承継されないと解すべき法律上の根拠もないから,破産管財人は,質権設定者が質権者に対して負う上記義務を承継すると解される。
 1d.賃貸借契約を解除した時点において,破産財団に賃料等を支払うのに十分な銀行預金が存在しており,現実にこれを支払うことに支障がなかったこと,また,破産宣告の日以後の賃料等の債権は財団債権となり,破産債権に優先して弁済すべきものであるから,これを現実に支払わずに敷金をもって充当することについて破産債権者が保護に値する期待を有するとはいえないことを考慮すれば,本件においては,破産管財人が敷金を未払い賃料に充当することについて正当な事由があったとはいえないとされた事例。
 2.民法704条の「悪意の受益者」とは,法律上の原因がないことを知りながら利得した者をいう。
 2a.破産財団に属する財産について質権を有する者が破産管財人の行為により損失を受け,破産管財人が利得を得た場合に,その利得が法律上の原因を欠くことになるのは,その行為によって破産財団の減少を防ぐことに正当な理由があるとは認められず,その行為が質権者に対する義務に違反するからであるが,上記正当な理由があるか否かは,破産債権者のために破産財団の減少を防ぐという破産管財人の職務上の義務と質権設定者が質権者に対して負う義務との関係をどのように解するかによって結論の異なり得る問題であって,この点について論ずる学説や判例も乏しかったことや,破産裁判所の許可を得ていることを考慮すると,破産管財人が正当な理由のないこと,すなわち法律上の原因のないことを知りながら質権の目的財産を消滅させる行為を行ったということはできず,破産管財人を悪意の受益者であるということはできないとされた事例。
 3.破産管財人の職務違反を理由とする質権者からの損害賠償請求が棄却された事例。 /担保価値維持義務/
参照条文: /民法:703条/民法:704条/破産.65条/破産.85条/破産.148条1項7号破産./148条1項8号/破産.151条/破産.2条7項/
全 文 h181221supreme2.html

最高裁判所 平成 18年 12月 14日 第1小法廷 判決 ( 平成17年(受)第1461号 )
事件名:  取立債権請求・上告事件
要 旨
 1.証券投資信託であるMMFについて,受益証券等の解約の申込みは受益権販売業者の店舗で受け付けること,解約金は取扱商品ごとに定められた日に販売業者の店舗にある受益者の指定預金口座に入金することが定められている場合に,販売業者は,受益者に対する関係で,受益者から受益証券について一部解約実行請求を受けたときは,これを受け付けて投資信託販売業者に通知する義務及びこの通知に従って一部解約を実行した委託業者から一部解約金の交付を受けたときに受益者に一部解約金を支払う義務を負い(換言すれば,販売業者は,受益者に対し,委託偽証者から一部解約金の交付を受けることを条件として一部解約金の支払義務を負い),受益者は,販売業者に対し,上記条件の付いた一部解約金支払請求権を有する。
 2.投資信託の受益者に受益証券が交付されることが予定されていない場合に,受益者が受益権販売業者に対して有する条件付きの解約金支払請求権は,債権差押えの対象となる。
 3.投資信託の受益者が受益権販売業者に対して有する条件付一部解約金支払請求権を差し押さえた債権者は,取立権の行使として,販売業者に対して解約実行請求の意思表示をすることができ,投資信託委託業者によって一部解約が実行されて販売業者が一部解約金の交付を受けたときは,受益権販売業者から一部解約金支払請求権を取り立てることができる。
 4.投資信託の受益者から解約の意思表示を受けた受益権販売業者がその旨を投資信託委託業者に通知し,委託業者が解約を解約を実行して,解約金を販売業者に交付した時に初めて受益者の販売業者に対する解約金支払い請求権が現実のものになる場合に,受益者が販売業者に対する条件付解約金支払請求権を差し押さえた債権者が受益権販売業者に対して一部解約実行請求の意思表示をしたにもかかわらず,販売業者がその意思表示があったことを投資信託委託業者に通知していない場合には,販売業者が上記通知をしないことについて民法130条所定の要件が充足されるのであれば,同条により前記条件が成就したものとみなされ,販売業者は,受益者に対して解約実行請求に基づく一部解約金の支払義務を負う余地がある。
参照条文: /民執.143条/民執.155条/民法:130条/
全 文 h181214supreme.html

最高裁判所 平成 18年 12月 13日 第3小法廷 決定 ( 平成17年(あ)第1153号 )
事件名:  詐欺,公正証書原本不実記載,同行使,強制執行妨害,競売入札妨害,電磁的公正証書原本不実記録,同供用被告事件(上告事件)
要 旨
 競売不動産の所有会社の代表取締役らが賃借権の設定を仮装し,現況調査に訪れた執行官に対して虚偽の事実を申し向け,内容虚偽の契約書類を提出した行為は,刑法96条の3第1項の偽計を用いた「公の競売又は入札の公正を害すべき行為」に当たるが,その時点をもって刑訴法253条1項にいう「犯罪行為が終つた時」と解すべきものではなく,上記虚偽の事実の陳述等に基づく競売手続が進行する限り,上記「犯罪行為が終つた時」には至らない。 /競売入札妨害/民事執行妨害/
参照条文: /刑.96-3条1項/刑訴.253条1項/民執.57条/
全 文 h181213supreme91.html

最高裁判所 平成 18年 12月 8日 第2小法廷 判決 ( 平成16年(行ヒ)第50号 )
事件名:  不当労働行為救済命令取消請求・上告事件
要 旨
 労働組合が分裂した直後に既存組合の組合員である上司が新組合に移籍した部下に対して新組合からの脱退勧奨等を行った場合に,それを既存組合の組合員の立場からの行為であり,会社の不当労働行為には当たらないとした原判決が破棄された事例。
 1.労働組合法2条1号所定の使用者の利益代表者に近接する職制上の地位にある者が使用者の意を体して労働組合に対する支配介入を行った場合には,使用者との間で具体的な意思の連絡がなくとも,当該支配介入をもって使用者の不当労働行為と評価することができる。
 1a.使用者の利益代表者に近接する職制上の地位にある者が,労働組合の分裂直後に,新組合に移籍した組合員に対し,「会社が当たることにとやかく言わないでくれ。」,「会社による誘導をのんでくれ。」,「もしそういうことだったら,あなたは本当に職場にいられなくなるよ。」,「科長,助役はみんなそうですので,よい返事を待っています。」など,会社の意向に沿って上司としての立場からされた発言と見ざるを得ない言葉をもって,新組合からの脱退を勧める発言をした場合には,その発言は,既存労組の組合員としての発言であるとか,相手方との個人的な関係からの発言であることが明らかであるなどの特段の事情のない限り,会社の意を体してされたものと認めるのが相当である。
参照条文: /労働組合.7条3号/
全 文 h181208supreme.html

最高裁判所 平成 18年 12月 8日 第3小法廷 決定 ( 平成18年(あ)第1038号 )
事件名:  窃盗被告事件(上告事件)
要 旨
 1.供述録取書についての刑訴法321条1項にいう「署名」には,刑訴規則61条の適用があり,代署の場合には,代署した者が代署の理由を記載する必要がある。
 2.供述者本人が「体調不調であると述べ,署名ができない旨申し立てたことから,立会人である供述人の次男の野田勉をして代署させた」旨が検察官調書の末尾に調書作成者により記載されている場合には,代書した者が代書の理由を記載していなくても,刑訴規則61条の代署方式を履践したのに等しいということができ,この代署をもって,刑訴法321条1項にいう供述者の「署名」があるのと同視することができるとされた事例。
参照条文: /刑訴.321条1項/刑訴規.61条/
全 文 h181208supreme91.html

最高裁判所 平成 18年 12月 1日 第2小法廷 判決 ( 平成15年(行ヒ)第74号 )
事件名:  損害賠償請求・上告事件
要 旨
 1.資金前渡職員のする普通地方公共団体に債務を負担させる行為(個別債務負担行為)及び支払は,地方自治法242条1項にいう「公金の支出」に当たり,住民訴訟の対象となる。
 1a.資金前渡職員は,個別債務負担行為及び支払の適否が問題とされている住民訴訟において,地方自治法旧242条の2第1項4号にいう「当該職員」に該当する。
 1b.普通地方公共団体の長は,支出負担行為をする権限を法令上本来的に有するとされている以上,資金前渡をした場合であっても,資金前渡職員のする個別債務負担行為の適否が問題とされている住民訴訟において,同号所定の「当該職員」に該当する。
 1c.資金前渡職員が個別債務負担行為をした場合においては,普通地方公共団体の長は,当該資金前渡職員が財務会計上の違法行為をすることを阻止すべき指揮監督上の義務に違反し,故意又は過失により同資金前渡職員が財務会計上の違法行為をすることを阻止しなかったときに限り,自らも財務会計上の違法行為を行ったものとして,普通地方公共団体に対し,上記違法行為により当該普通地方公共団体が被った損害につき賠償責任を負う。
 2.普通地方公共団体も社会的実体を有するものとして活動している以上,当該普通地方公共団体の事務を遂行し対外的折衝等を行う過程において,長又はその他の執行機関が各種団体等の主催する会合に列席するとともにその際に祝金を主催者に交付するなどの交際をすることは,社会通念上儀礼の範囲にとどまる限り,上記事務に随伴するものとして許容される。
 2a.普通地方公共団体が住民の福祉の増進を図ることを基本として地域における行政を自主的かつ総合的に実施する役割を広く担うものとされていること(地方自治法1条の2第1項)などを考慮すると,その交際が特定の事務を遂行し対外的折衝等を行う過程において具体的な目的をもってされるものではなく,一般的な友好,信頼関係の維持増進自体を目的としてされるものであったからといって,直ちに許されないこととなるものではなく,それが,普通地方公共団体の上記の役割を果たすため相手方との友好,信頼関係の維持増進を図ることを目的とすると客観的にみることができ,かつ,社会通念上儀礼の範囲にとどまる限り,当該普通地方公共団体の事務に含まれるものとして許容される。
 (本件への適用)
 3a.市内のライブハウスの新店主披露祝賀会に市長が列席するに際して支出された祝金1万円,武蔵野市部課長会の研修後の懇親会に市長,助役及び収入役が列席するに際して支出された祝金3万円,市内に所在するある寺の第10世住職継承披露祝賀会に市長が列席するに際して出された祝金1万円について,それらの会合への列席及び祝金の交付は,普通地方公共団体の地域における行政を自主的かつ総合的に実施する役割を果たすため相手方との友好,信頼関係の維持増進を図ることを目的とすると客観的にみることのできるものとはいい難いから,市においてその費用を支出することは許されないと判断された事例。
 3b.B大学を出身した市議会議員及び市職員から成る武蔵野市役所B会の懇親会に市長が列席するに際して支出された祝金1万円,市議会の会派であるCクラブの忘年会に市長が列席するに際して支出された祝金1万円,宮崎県内の全焼酎製造業者によって結成された同県の特産品の消費拡大等を目的とする団体の定例会に市長が列席するに際して支出された祝金5000円について,それらの会合への列席及び祝金の交付は,上記のことを目的とすると客観的にみることのできるものといえないではなく,また,社会通念上儀礼の範囲にとどまるものということができるから,その費用を支出するためにされた本件支払及びその前提としてされた各個別債務負担行為は違法とはいえないとされた事例。
参照条文: /地自.1-2条1項/地自.242条1項/地自.242-2条1項/
全 文 h181201supreme.html

最高裁判所 平成 18年 11月 27日 第2小法廷 判決 ( 平成17年(受)第1158号,第1159号 )
事件名:  不当利得返還請・上告事件
要 旨
 入学辞退者の学納金返還請求が一部認容された事例。
 1.在学契約の性質
 
 大学の在学契約は,複合的な要素を有するものである上,大学の目的や大学の公共性(教育基本法6条1項)等から,教育法規や教育の理念によって規律されることが予定されており,取引法の原理にはなじまない側面も少なからず有している等の点にかんがみると,有償双務契約としての性質を有する私法上の無名契約と解するのが相当である。
 2.在学契約の成立時期
 
 大学の学則や入学試験要項,入学手続要項等において,入学試験の合格者について,入学に先立ち,入学金,授業料等の諸費用(「学生納付金」)の納付や必要書類の提出などの入学手続を行う期間を定め,この期間内に所定の入学手続を完了しなかった者の入学を認めないものとする一方,上記入学手続を行った者については,入学予定者として取り扱い,大学の学生として受け入れる準備を行っている場合には,特段の事情のない限り,学生が要項等に定める入学手続の期間内に学生納付金の納付を含む入学手続を完了することによって,両者の間に在学契約が成立する。
 2a.要項等において,入学金とそれ以外の学生納付金とで異なる納付期限を設定し,入学金を納付することによって,その後一定期限までに残余の学生納付金を納付して在学契約を成立させることのできる地位を与えている場合には,その定めに従って入学金を納付し,入学手続の一部を行った時点で在学契約の予約が成立する一方,残余の手続を所定の期間内に完了した時点で在学契約が成立し,これを完了しなかった場合には上記予約は効力を失う。
 2b.双務契約としての対価関係の発生時期
 
 入学手続を完了して在学契約を締結した者が大学の学生の身分を取得するのは,大学が定める入学時期すなわち通常は入学年度の4月1日であり,大学によって教育役務の提供等が行われるのも同日以降であるから,双務契約としての在学契約における対価関係は,同日以降に発生する。
 3.入学金の法的性質
 
 入学金は,その額が不相当に高額であるなど他の性質を有するものと認められる特段の事情のない限り,学生が大学に入学し得る地位を取得するための対価としての性質を有するものであり,大学が合格した者を学生として受け入れるための事務手続等に要する費用にも充てられることが予定されているものというべきである。
 3a.在学契約等を締結するに当たって入学金の納付を義務付けていることが公序良俗に反するということはできない。
 4.在学契約等の解除
 
 教育を受ける権利を保障している憲法26条1項の趣旨や教育の理念にかんがみると,大学との間で在学契約等を締結した学生が,大学において教育を受けるかどうかについては,学生の意思が最大限尊重されるべきであるから,学生は,原則として,いつでも任意に在学契約等を将来に向かって解除することができる一方,大学が正当な理由なく在学契約等を一方的に解除することは許されないものと解するのが相当である。
 4a.学校教育法施行規則67条は,学生の退学は,教授会の議を経て学長が定める旨規定し,各大学の学則において,学生の側からの退学(在学契約の解除)について学長等の許可を得ることなどと定めている場合があるが,これらの定めをもって,学生による在学解約の解除権の行使を制約し,あるいは在学契約の解除の効力を妨げる趣旨のものと解すべきものではない。
 4b.入学辞退の申出が学生本人の確定的な意思に基づくものであることが表示されている以上は,口頭によるものであっても,原則として有効な在学契約の解除の意思表示と認めるのが相当である。
 4c.要項等に,「入学式を無断欠席した場合には入学を辞退したものとみなす」,あるいは「入学式を無断欠席した場合には入学を取り消す」というような記載がある場合には,学生が入学式を無断で欠席することは,特段の事情のない限り,黙示の在学契約解除の意思表示をしたものと解するのが相当である。
 5.解除の効果
 
 在学契約は,解除により将来に向かってその効力を失う。
 5a.各種学納金の返還義務
 
 学生が大学に入学する日(通常は入学年度の4月1日)よりも前に在学契約が解除される場合には,特約のない限り,大学は学生にこれを返還する義務を負うものというべきであるし,同日よりも後に在学契約が解除された場合であっても,前納された授業料等に対応する学期又は学年の中途で在学契約が解除されたものであるときは,いまだ大学が在学契約に基づく給付を提供していない部分に対応する授業料等については,大学が当然にこれを取得し得るものではない。
 5b.諸会費等についても,在学契約が解除されて将来に向かって効力を失った場合,原則として,その返還に関して授業料等と別異に解すべき理由はなく,諸会費等の中には大学が別個の団体に交付すべきものが含まれているとしても,それだけでは大学には利得がないとして大学がその返還義務を免れる理由にはならない。
 5c.学生が大学に入学し得る地位を取得する対価の性質を有する入学金については,その納付をもって学生は上記地位を取得するものであるから,その後に在学契約等が解除され,あるいは失効しても,大学はその返還義務を負う理由はない。
 6.不返還特約の性質
 
 不返還特約のうち入学金に関する部分は注意的な定めにすぎない。
 6a.不返還特約のうち授業料等に関する部分は,在学契約の解除に伴う損害賠償額の予定又は違約金の定めの性質を有し,この点は,不返還特約のうち諸会費等に関する部分についても,基本的に妥当する。
 7.在学契約等への消費者契約法の適用
 
 営利目的,非営利目的を問わず,公法人や公益法人を含むすべての法人が,消費者契約法2条2項にいう事業者としての「法人」に該当する。
 7a.在学契約の当事者である学生及び大学(学校法人等)は,それぞれ上記の消費者及び事業者に当たる。
 7b.消費者契約法施行後に締結された在学契約等は,同法2条3項所定の消費者契約に該当する。
 7c.在学契約に係る不返還特約は,違約金等条項に当たる。
 8.不返還特約の公序良俗該当性
 
 不返還特約は,その目的,意義に照らして,学生の大学選択に関する自由な意思決定を過度に制約し,その他学生の著しい不利益において大学が過大な利益を得ることになるような著しく合理性を欠くと認められるものでない限り,公序良俗に反するものとはいえないというべきである。
 9.不返還特約の消費者契約法上の効力
 
 消費者契約法9条1号にいう平均的な損害及びこれを超える部分については,事実上の推定が働く余地があるとしても,基本的には,違約金等条項である不返還特約の全部又は一部が平均的な損害を超えて無効であると主張する学生において主張立証責任を負う。
 9a.一般に,4月1日には,学生が特定の大学に入学することが客観的にも高い蓋然性をもって予測されるものというべきであるから,在学契約の解除の意思表示がその前日である3月31日までにされた場合には,原則として,大学に生ずべき平均的な損害は存しないものであって,不返還特約はすべて無効となり,在学契約の解除の意思表示が同日よりも後にされた場合には,原則として,学生が納付した授業料等及び諸会費等は,それが初年度に納付すべき範囲内のものにとどまる限り,大学に生ずべき平均的な損害を超えず,不返還特約はすべて有効となるというべきである。
 9b.入学試験要項の定めにより,その大学,学部を専願あるいは第1志望とすること,又は入学することを確約することができることが出願資格とされている推薦入学試験(これに類する入学試験を含む。)に合格して大学と在学契約を締結した学生については,学生が在学契約を締結した時点で大学に入学することが客観的にも高い蓋然性をもって予測されるものというべきであるから,在学契約が解除された場合には,その時期が大学において解除を前提として他の入学試験等によって代わりの入学者を通常容易に確保することができる時期を経過していないなどの特段の事情がない限り,大学には解除に伴い初年度に納付すべき授業料等及び諸会費等に相当する平均的な損害が生ずるものというべきである。
 10.不返還特約等の消費者契約法10条該当性
 
 不返還特約のうち消費者契約法9条1号によって無効とならない部分は,同法10条にいう「民法第1条第2項に規定する基本原則に反して消費者の利益を一方的に害するもの」に該当しない。
 10a.入学金の納付の定めは,入学し得る地位を取得するための対価に関する定めであるから,消費者契約法10条にいう「民法,商法その他の法律の公の秩序に関しない規定の適用による場合に比し,消費者の権利を制限し,又は消費者の義務を加重する消費者契約の条項」には該当せず,同条適用の要件を欠く。
参照条文: /消費者契約.3条/消費者契約.9条/消費者契約.10条/憲.26条/
全 文 h181127supreme5.html

最高裁判所 平成 18年 11月 27日 第2小法廷 判決 ( 平成16年(受)第2117号,平成16年(受)第2118号 )
事件名:  学納金返還請求・上告事件
要 旨
 平成13年3月に医学部に入学を許可された者が入学前に入学辞退の意思表示をし,すでに納付していた学納金(入学金100万円及び授業料等614万円)の返還を請求したが,本件にあっては学納金不返還特約は公序良俗に反せず有効であるとして,請求が全部棄却された事例。(不返還特約は有効であるが,これを根拠に返還を拒絶することは,本件にあっては信義誠実の原則に反するとの反対意見あり)
 1.在学契約の性質
 
 大学の在学契約は,複合的な要素を有するものである上,大学の目的や大学の公共性(教育基本法6条1項)等から,教育法規や教育の理念によって規律されることが予定されており,取引法の原理にはなじまない側面も少なからず有している等の点にかんがみると,有償双務契約としての性質を有する私法上の無名契約と解するのが相当である。
 2.在学契約の成立時期
 
 大学の学則や入学試験要項,入学手続要項等において,入学試験の合格者について,入学に先立ち,入学金,授業料等の諸費用(「学生納付金」)の納付や必要書類の提出などの入学手続を行う期間を定め,この期間内に所定の入学手続を完了しなかった者の入学を認めないものとする一方,上記入学手続を行った者については,入学予定者として取り扱い,大学の学生として受け入れる準備を行っている場合には,特段の事情のない限り,学生が要項等に定める入学手続の期間内に学生納付金の納付を含む入学手続を完了することによって,両者の間に在学契約が成立する。
 2a.要項等において,入学金とそれ以外の学生納付金とで異なる納付期限を設定し,入学金を納付することによって,その後一定期限までに残余の学生納付金を納付して在学契約を成立させることのできる地位を与えている場合には,その定めに従って入学金を納付し,入学手続の一部を行った時点で在学契約の予約が成立する一方,残余の手続を所定の期間内に完了した時点で在学契約が成立し,これを完了しなかった場合には上記予約は効力を失う。
 2b.双務契約としての対価関係の発生時期
 
 入学手続を完了して在学契約を締結した者が大学の学生の身分を取得するのは,大学が定める入学時期すなわち通常は入学年度の4月1日であり,大学によって教育役務の提供等が行われるのも同日以降であるから,双務契約としての在学契約における対価関係は,同日以降に発生する。
 3.入学金の法的性質
 
 入学金は,その額が不相当に高額であるなど他の性質を有するものと認められる特段の事情のない限り,学生が大学に入学し得る地位を取得するための対価としての性質を有するものであり,大学が合格した者を学生として受け入れるための事務手続等に要する費用にも充てられることが予定されているものというべきである。
 3a.在学契約等を締結するに当たって入学金の納付を義務付けていることが公序良俗に反するということはできない。
 4.在学契約等の解除
 
 教育を受ける権利を保障している憲法26条1項の趣旨や教育の理念にかんがみると,大学との間で在学契約等を締結した学生が,大学において教育を受けるかどうかについては,学生の意思が最大限尊重されるべきであるから,学生は,原則として,いつでも任意に在学契約等を将来に向かって解除することができる一方,大学が正当な理由なく在学契約等を一方的に解除することは許されないものと解するのが相当である。
 4a.学校教育法施行規則67条は,学生の退学は,教授会の議を経て学長が定める旨規定し,各大学の学則において,学生の側からの退学(在学契約の解除)について学長等の許可を得ることなどと定めている場合があるが,これらの定めをもって,学生による在学解約の解除権の行使を制約し,あるいは在学契約の解除の効力を妨げる趣旨のものと解すべきものではない。
 4b.入学辞退の申出が学生本人の確定的な意思に基づくものであることが表示されている以上は,口頭によるものであっても,原則として有効な在学契約の解除の意思表示と認めるのが相当である。
 4c.要項等に,「入学式を無断欠席した場合には入学を辞退したものとみなす」,あるいは「入学式を無断欠席した場合には入学を取り消す」というような記載がある場合には,学生が入学式を無断で欠席することは,特段の事情のない限り,黙示の在学契約解除の意思表示をしたものと解するのが相当である。
 5.各種学納金の返還義務
 5a.学生が大学に入学する日(通常は入学年度の4月1日)よりも前に在学契約が解除される場合には,特約のない限り,大学は学生にこれを返還する義務を負うものというべきであるし,同日よりも後に在学契約が解除された場合であっても,前納された授業料等に対応する学期又は学年の中途で在学契約が解除されたものであるときは,いまだ大学が在学契約に基づく給付を提供していない部分に対応する授業料等については,大学が当然にこれを取得し得るものではない。
 5b.諸会費等についても,在学契約が解除されて将来に向かって効力を失った場合,原則として,その返還に関して授業料等と別異に解すべき理由はなく,諸会費等の中には大学が別個の団体に交付すべきものが含まれているとしても,それだけでは大学には利得がないとして大学がその返還義務を免れる理由にはならない。
 5c.学生が大学に入学し得る地位を取得する対価の性質を有する入学金については,その納付をもって学生は上記地位を取得するものであるから,その後に在学契約等が解除され,あるいは失効しても,大学はその返還義務を負う理由はない。
 6.不返還特約の性質
 6a.不返還特約のうち入学金に関する部分は注意的な定めにすぎない。(5c参照)
 6b.不返還特約のうち授業料等に関する部分は,在学契約の解除に伴う損害賠償額の予定又は違約金の定めの性質を有し,この点は,不返還特約のうち諸会費等に関する部分についても,基本的に妥当する。
 7.公序良俗違反の該当性
 7a.不返還特約は,その目的,意義に照らして,学生の大学選択に関する自由な意思決定を過度に制約し,その他学生の著しい不利益において大学が過大な利益を得ることになるような著しく合理性を欠くと認められるものでない限り,公序良俗に反するものとはいえないというべきである。
 7b.医学・歯学関係の学部の特殊性
 
 
 医学関係又は歯学関係の学部においては,一般に入学金,授業料等ともかなり高額に定められているが,他の学部と比較して,国庫補助金交付の関係等から厳しい定員管理が必要とされているため,あらかじめ入学定員を大幅に上回る数の合格者を決定しておくことは困難であること,大学設置基準等によって一定の水準を満たす附属病院の設置が義務付けられていること,その性質上少人数制の教育が必要であるために,施設設備の設置運営に巨額の費用を要し,学生一人当たりに要する経費も他の学部に比べて格段に高額であること,修業年限が6年と長期であることなどの事情に照らすと,入学辞退によって欠員が生じる可能性が潜在的に高く,欠員が生じた場合に生ずる損失が多額になることは否定し難く,このような事情にかんがみると,その入学金の額及び不返還特約に係る損害賠償額の予定又は違約金が相当高額になることをもって,直ちに入学金の定め及び不返還特約が公序良俗に反するものとはいえないというべきである。
参照条文: /民法:90条/民法:1条2項/
全 文 h181127supreme2.html

最高裁判所 平成 18年 11月 27日 第2小法廷 判決 ( 平成17年(オ)第886号 )
事件名:  不当利得返還請求・上告事件
要 旨
 1.財産権に対する規制が憲法29条2項にいう公共の福祉に適合するものとして是認されるべきものであるかどうかは,規制の目的,必要性,内容,その規制によって制限される財産権の種類,性質及び制限の程度等を比較考量して判断すべきものである。(先例の確認)
 1a.消費者契約法2条3項に規定する消費者契約を対象として損害賠償の予定等を定める条項の効力を制限する同法9条1号は,憲法29条に違反するものではない。(判旨)
参照条文: /憲.29条2項/消費者契約.9条1号/
全 文 h181127supreme4.html

最高裁判所 平成 18年 11月 27日 第2小法廷 判決 ( 平成18年(受)第1130号 )
事件名:  不当利得返還請求・上告事件
要 旨
 3月26日に大学に電話で入学辞退について問い合わせをしたところ,大学職員から3月25日にまでに文書により入学辞退をしなければならない旨を教示された合格者について,4月2日の入学式に無断欠席したことことが黙示的に入学辞退(在学契約の解除)と認められ,4月1日よりも前に在学契約を解除する機会を失わせた大学が解除が4月1日以降になされたことを理由に授業料等の返還を拒むことは許されないとして,入学金以外の学納金の返還請求が認容された事例。
 
 1.在学契約の性質
 
 大学の在学契約は,複合的な要素を有するものである上,大学の目的や大学の公共性(教育基本法6条1項)等から,教育法規や教育の理念によって規律されることが予定されており,取引法の原理にはなじまない側面も少なからず有している等の点にかんがみると,有償双務契約としての性質を有する私法上の無名契約と解するのが相当である。
 2.在学契約の成立時期
 
 大学の学則や入学試験要項,入学手続要項等において,入学試験の合格者について,入学に先立ち,入学金,授業料等の諸費用(「学生納付金」)の納付や必要書類の提出などの入学手続を行う期間を定め,この期間内に所定の入学手続を完了しなかった者の入学を認めないものとする一方,上記入学手続を行った者については,入学予定者として取り扱い,大学の学生として受け入れる準備を行っている場合には,特段の事情のない限り,学生が要項等に定める入学手続の期間内に学生納付金の納付を含む入学手続を完了することによって,両者の間に在学契約が成立する。
 2a.要項等において,入学金とそれ以外の学生納付金とで異なる納付期限を設定し,入学金を納付することによって,その後一定期限までに残余の学生納付金を納付して在学契約を成立させることのできる地位を与えている場合には,その定めに従って入学金を納付し,入学手続の一部を行った時点で在学契約の予約が成立する一方,残余の手続を所定の期間内に完了した時点で在学契約が成立し,これを完了しなかった場合には上記予約は効力を失う。
 2b.双務契約としての対価関係の発生時期
 
 入学手続を完了して在学契約を締結した者が大学の学生の身分を取得するのは,大学が定める入学時期すなわち通常は入学年度の4月1日であり,大学によって教育役務の提供等が行われるのも同日以降であるから,双務契約としての在学契約における対価関係は,同日以降に発生する。
 3.入学金の法的性質
 
 入学金は,その額が不相当に高額であるなど他の性質を有するものと認められる特段の事情のない限り,学生が大学に入学し得る地位を取得するための対価としての性質を有するものであり,大学が合格した者を学生として受け入れるための事務手続等に要する費用にも充てられることが予定されているものというべきである。
 3a.在学契約等を締結するに当たって入学金の納付を義務付けていることが公序良俗に反するということはできない。
 4.在学契約等の解除
 
 教育を受ける権利を保障している憲法26条1項の趣旨や教育の理念にかんがみると,大学との間で在学契約等を締結した学生が,大学において教育を受けるかどうかについては,学生の意思が最大限尊重されるべきであるから,学生は,原則として,いつでも任意に在学契約等を将来に向かって解除することができる一方,大学が正当な理由なく在学契約等を一方的に解除することは許されないものと解するのが相当である。
 4a.学校教育法施行規則67条は,学生の退学は,教授会の議を経て学長が定める旨規定し,各大学の学則において,学生の側からの退学(在学契約の解除)について学長等の許可を得ることなどと定めている場合があるが,これらの定めをもって,学生による在学解約の解除権の行使を制約し,あるいは在学契約の解除の効力を妨げる趣旨のものと解すべきものではない。
 4b.入学辞退の申出が学生本人の確定的な意思に基づくものであることが表示されている以上は,口頭によるものであっても,原則として有効な在学契約の解除の意思表示と認めるのが相当である。
 4c.要項等に,「入学式を無断欠席した場合には入学を辞退したものとみなす」,あるいは「入学式を無断欠席した場合には入学を取り消す」というような記載がある場合には,学生が入学式を無断で欠席することは,特段の事情のない限り,黙示の在学契約解除の意思表示をしたものと解するのが相当である。
 5.解除の効果
 
 在学契約は,解除により将来に向かってその効力を失う。
 5a.各種学納金の返還義務
 
 学生が大学に入学する日(通常は入学年度の4月1日)よりも前に在学契約が解除される場合には,特約のない限り,大学は学生にこれを返還する義務を負うものというべきであるし,同日よりも後に在学契約が解除された場合であっても,前納された授業料等に対応する学期又は学年の中途で在学契約が解除されたものであるときは,いまだ大学が在学契約に基づく給付を提供していない部分に対応する授業料等については,大学が当然にこれを取得し得るものではない。
 5b.諸会費等についても,在学契約が解除されて将来に向かって効力を失った場合,原則として,その返還に関して授業料等と別異に解すべき理由はなく,諸会費等の中には大学が別個の団体に交付すべきものが含まれているとしても,それだけでは大学には利得がないとして大学がその返還義務を免れる理由にはならない。
 5c.学生が大学に入学し得る地位を取得する対価の性質を有する入学金については,その納付をもって学生は上記地位を取得するものであるから,その後に在学契約等が解除され,あるいは失効しても,大学はその返還義務を負う理由はない。
 6.不返還特約の性質
 
 不返還特約のうち入学金に関する部分は注意的な定めにすぎない。
 6a.不返還特約のうち授業料等に関する部分は,在学契約の解除に伴う損害賠償額の予定又は違約金の定めの性質を有し,この点は,不返還特約のうち諸会費等に関する部分についても,基本的に妥当する。
 7.在学契約等への消費者契約法の適用
 
 営利目的,非営利目的を問わず,公法人や公益法人を含むすべての法人が,消費者契約法2条2項にいう事業者としての「法人」に該当する。
 7a.在学契約の当事者である学生及び大学(学校法人等)は,それぞれ上記の消費者及び事業者に当たる。
 7b.消費者契約法施行後に締結された在学契約等は,同法2条3項所定の消費者契約に該当する。
 7c.在学契約に係る不返還特約は,違約金等条項に当たる。
 8.不返還特約の公序良俗該当性
 
 不返還特約は,その目的,意義に照らして,学生の大学選択に関する自由な意思決定を過度に制約し,その他学生の著しい不利益において大学が過大な利益を得ることになるような著しく合理性を欠くと認められるものでない限り,公序良俗に反するものとはいえないというべきである。
 9.不返還特約の消費者契約法上の効力
 
 消費者契約法9条1号にいう平均的な損害及びこれを超える部分については,事実上の推定が働く余地があるとしても,基本的には,違約金等条項である不返還特約の全部又は一部が平均的な損害を超えて無効であると主張する学生において主張立証責任を負う。
 9a.一般に,4月1日には,学生が特定の大学に入学することが客観的にも高い蓋然性をもって予測されるものというべきであるから,在学契約の解除の意思表示がその前日である3月31日までにされた場合には,原則として,大学に生ずべき平均的な損害は存しないものであって,不返還特約はすべて無効となり,在学契約の解除の意思表示が同日よりも後にされた場合には,原則として,学生が納付した授業料等及び諸会費等は,それが初年度に納付すべき範囲内のものにとどまる限り,大学に生ずべき平均的な損害を超えず,不返還特約はすべて有効となるというべきである。
 10.不返還特約等の消費者契約法10条該当性
 
 不返還特約のうち消費者契約法9条1号によって無効とならない部分は,同法10条にいう「民法第1条第2項に規定する基本原則に反して消費者の利益を一方的に害するもの」に該当しない。
 10a.入学金の納付の定めは,入学し得る地位を取得するための対価に関する定めであるから,消費者契約法10条にいう「民法,商法その他の法律の公の秩序に関しない規定の適用による場合に比し,消費者の権利を制限し,又は消費者の義務を加重する消費者契約の条項」には該当せず,同条適用の要件を欠く。
参照条文: /消費者契約.3条/消費者契約.9条/消費者契約.10条/憲.26条/
全 文 h181127supreme3.html

最高裁判所 平成 18年 11月 27日 第2小法廷 判決 ( 平成17年(受)第1437号,第1438号 )
事件名:  学納金返還請求・上告事件
要 旨
 大学の入学試験要項等に「入学式を無断欠席した場合には入学を辞退したものとみなす」,「入学式を無断欠席した場合には入学を取り消す」との記載がなされている場合に,4月2日の入学式への無断欠席が在学契約の黙示的解除と評価され,この時点では,大学に入学することが客観的に高い蓋然性をもって予測されるような状況になく,この在学契約の解除については被告大学に生ずべき平均的な損害は存しないとして,入学金を除く学納金(授業料等)の返還が認められた事例。(平均的的損害があるとして授業料等の一部の返還のみを認めた原判決が破棄された事例)
 大学の入学試験要項等に「入学式を無断欠席した場合には入学を辞退したものとみなす」等の記載がない場合に,4月2日に入学辞退の通知をした学生からの授業料等の返還請求について,在学契約の解除により大学に生ずべき平均的な損害は,納付された授業料等の全額を下回るものではないとして,棄却判決がなされた事例。(平均的損害は納付済みの授業料等を下回るとして,一部の返還を認めた原判決が破棄された事例)
 1.在学契約の性質
 
 大学の在学契約は,複合的な要素を有するものである上,大学の目的や大学の公共性(教育基本法6条1項)等から,教育法規や教育の理念によって規律されることが予定されており,取引法の原理にはなじまない側面も少なからず有している等の点にかんがみると,有償双務契約としての性質を有する私法上の無名契約と解するのが相当である。
 2.在学契約の成立時期
 
 大学の学則や入学試験要項,入学手続要項等において,入学試験の合格者について,入学に先立ち,入学金,授業料等の諸費用(「学生納付金」)の納付や必要書類の提出などの入学手続を行う期間を定め,この期間内に所定の入学手続を完了しなかった者の入学を認めないものとする一方,上記入学手続を行った者については,入学予定者として取り扱い,大学の学生として受け入れる準備を行っている場合には,特段の事情のない限り,学生が要項等に定める入学手続の期間内に学生納付金の納付を含む入学手続を完了することによって,両者の間に在学契約が成立する。
 2a.要項等において,入学金とそれ以外の学生納付金とで異なる納付期限を設定し,入学金を納付することによって,その後一定期限までに残余の学生納付金を納付して在学契約を成立させることのできる地位を与えている場合には,その定めに従って入学金を納付し,入学手続の一部を行った時点で在学契約の予約が成立する一方,残余の手続を所定の期間内に完了した時点で在学契約が成立し,これを完了しなかった場合には上記予約は効力を失う。
 2b.双務契約としての対価関係の発生時期
 
 入学手続を完了して在学契約を締結した者が大学の学生の身分を取得するのは,大学が定める入学時期すなわち通常は入学年度の4月1日であり,大学によって教育役務の提供等が行われるのも同日以降であるから,双務契約としての在学契約における対価関係は,同日以降に発生する。
 3.入学金の法的性質
 
 入学金は,その額が不相当に高額であるなど他の性質を有するものと認められる特段の事情のない限り,学生が大学に入学し得る地位を取得するための対価としての性質を有するものであり,大学が合格した者を学生として受け入れるための事務手続等に要する費用にも充てられることが予定されているものというべきである。
 3a.在学契約等を締結するに当たって入学金の納付を義務付けていることが公序良俗に反するということはできない。
 4.在学契約等の解除
 
 教育を受ける権利を保障している憲法26条1項の趣旨や教育の理念にかんがみると,大学との間で在学契約等を締結した学生が,大学において教育を受けるかどうかについては,学生の意思が最大限尊重されるべきであるから,学生は,原則として,いつでも任意に在学契約等を将来に向かって解除することができる一方,大学が正当な理由なく在学契約等を一方的に解除することは許されないものと解するのが相当である。
 4a.学校教育法施行規則67条は,学生の退学は,教授会の議を経て学長が定める旨規定し,各大学の学則において,学生の側からの退学(在学契約の解除)について学長等の許可を得ることなどと定めている場合があるが,これらの定めをもって,学生による在学解約の解除権の行使を制約し,あるいは在学契約の解除の効力を妨げる趣旨のものと解すべきものではない。
 4b.入学辞退の申出が学生本人の確定的な意思に基づくものであることが表示されている以上は,口頭によるものであっても,原則として有効な在学契約の解除の意思表示と認めるのが相当である。
 4c.要項等に,「入学式を無断欠席した場合には入学を辞退したものとみなす」,あるいは「入学式を無断欠席した場合には入学を取り消す」というような記載がある場合には,学生が入学式を無断で欠席することは,特段の事情のない限り,黙示の在学契約解除の意思表示をしたものと解するのが相当である。
 5.解除の効果
 
 在学契約は,解除により将来に向かってその効力を失う。
 5a.各種学納金の返還義務
 
 学生が大学に入学する日(通常は入学年度の4月1日)よりも前に在学契約が解除される場合には,特約のない限り,大学は学生にこれを返還する義務を負うものというべきであるし,同日よりも後に在学契約が解除された場合であっても,前納された授業料等に対応する学期又は学年の中途で在学契約が解除されたものであるときは,いまだ大学が在学契約に基づく給付を提供していない部分に対応する授業料等については,大学が当然にこれを取得し得るものではない。
 5b.諸会費等についても,在学契約が解除されて将来に向かって効力を失った場合,原則として,その返還に関して授業料等と別異に解すべき理由はなく,諸会費等の中には大学が別個の団体に交付すべきものが含まれているとしても,それだけでは大学には利得がないとして大学がその返還義務を免れる理由にはならない。
 5c.学生が大学に入学し得る地位を取得する対価の性質を有する入学金については,その納付をもって学生は上記地位を取得するものであるから,その後に在学契約等が解除され,あるいは失効しても,大学はその返還義務を負う理由はない。
 6.不返還特約の性質
 
 不返還特約のうち入学金に関する部分は注意的な定めにすぎない。
 6a.不返還特約のうち授業料等に関する部分は,在学契約の解除に伴う損害賠償額の予定又は違約金の定めの性質を有し,この点は,不返還特約のうち諸会費等に関する部分についても,基本的に妥当する。
 7.在学契約等への消費者契約法の適用
 
 営利目的,非営利目的を問わず,公法人や公益法人を含むすべての法人が,消費者契約法2条2項にいう事業者としての「法人」に該当する。
 7a.在学契約の当事者である学生及び大学(学校法人等)は,それぞれ上記の消費者及び事業者に当たる。
 7b.消費者契約法施行後に締結された在学契約等は,同法2条3項所定の消費者契約に該当する。
 7c.在学契約に係る不返還特約は,違約金等条項に当たる。
 8.不返還特約の公序良俗該当性
 
 不返還特約は,その目的,意義に照らして,学生の大学選択に関する自由な意思決定を過度に制約し,その他学生の著しい不利益において大学が過大な利益を得ることになるような著しく合理性を欠くと認められるものでない限り,公序良俗に反するものとはいえないというべきである。
 9.不返還特約の消費者契約法上の効力
 
 消費者契約法9条1号にいう平均的な損害及びこれを超える部分については,事実上の推定が働く余地があるとしても,基本的には,違約金等条項である不返還特約の全部又は一部が平均的な損害を超えて無効であると主張する学生において主張立証責任を負う。
 9a.一般に,4月1日には,学生が特定の大学に入学することが客観的にも高い蓋然性をもって予測されるものというべきであるから,在学契約の解除の意思表示がその前日である3月31日までにされた場合には,原則として,大学に生ずべき平均的な損害は存しないものであって,不返還特約はすべて無効となり,在学契約の解除の意思表示が同日よりも後にされた場合には,原則として,学生が納付した授業料等及び諸会費等は,それが初年度に納付すべき範囲内のものにとどまる限り,大学に生ずべき平均的な損害を超えず,不返還特約はすべて有効となるというべきである。
 9b.要項等に,「入学式を無断欠席した場合には入学を辞退したものとみなす」,「入学式を無断欠席した場合には入学を取り消す」などと記載されている場合には,当該大学は,学生の入学の意思の有無を入学式の出欠により最終的に確認し,入学式を無断で欠席した学生については入学しなかったものとして取り扱うこととしており,学生もこのような前提の下に行動しているものということができるから,入学式の日までに在学契約が解除されることや,入学式を無断で欠席することにより学生によって在学契約が黙示に解除されることがあることは,当該大学の予測の範囲内であり,入学式の日の翌日に,学生が当該大学に入学することが客観的にも高い蓋然性をもって予測されることになるものというべきであるから,入学式の日までに学生が明示又は黙示に在学契約を解除しても,原則として,当該大学に生ずべき平均的な損害は存しないものというべきである。
 10.不返還特約等の消費者契約法10条該当性
 
 不返還特約のうち消費者契約法9条1号によって無効とならない部分は,同法10条にいう「民法第1条第2項に規定する基本原則に反して消費者の利益を一方的に害するもの」に該当しない。
 10a.入学金の納付の定めは,入学し得る地位を取得するための対価に関する定めであるから,消費者契約法10条にいう「民法,商法その他の法律の公の秩序に関しない規定の適用による場合に比し,消費者の権利を制限し,又は消費者の義務を加重する消費者契約の条項」には該当せず,同条適用の要件を欠く。
参照条文: /消費者契約.3条/消費者契約.9条/消費者契約.10条/憲.26条/
全 文 h181127supreme6.html

最高裁判所 平成 18年 11月 21日 第3小法廷 決定 ( 平成17年(あ)第302号 )
事件名:  法人税法違反,証拠隠滅教唆被告事件(上告事件)
要 旨
 会社の代表取締役が,会社に国税局の査察調査が入るに及び,逮捕や処罰を免れるために知人に相談し,知人の提案にしたがって内容虚偽の契約書の作成を知人に依頼して作成させ,脱税額を少なく見せかけようとした行為について,その知人に対する証拠偽造の教唆の犯罪が成立するとされた事例。
参照条文: /刑.61条/刑.104条/
全 文 h181121supreme91.html

最高裁判所 平成 18年 11月 20日 第3小法廷 決定 ( 平成18年(あ)第590号 )
事件名:  詐欺,恐喝未遂,出資の受入れ,預り金及び金利等の取締りに関する法律違反被告事件(上告事件)
要 旨
 1.出資法5条2項違反の各行為は,個々の制限超過利息受領行為ごとに一罪が成立し,併合罪として処断すべきものである。(先例の確認)
 2.出資法違反の複数の行為のうちの一つについて公訴が提起された場合には,その余の行為については訴因変更請求ではなく追起訴の手続によるべきであるが,訴因変更請求がなされたときは,検察官において,訴因変更請求書を裁判所に提出することにより,その請求に係る特定の事実に対する訴追意思を表明したものとみられるから,その時点で刑訴法254条1項に準じて公訴時効の進行が停止する。
参照条文: /出資法.5条2項/刑訴.254条1項/
全 文 h181120supreme91.html

最高裁判所 平成 18年 11月 16日 第1小法廷 判決 ( 平成17年(行ヒ)第96号 )
事件名:  各所得税更正処分等取消請求・上告事件
要 旨
 納税者が、平成11年分の所得税につき、取締役として勤務している会社の親会社である米国法人から付与されたストックオプションを行使して得た利益を一時所得として申告したことについて,平成10年分の所得税につきストックオプションの権利行使益は給与所得に当たるとして増額更正を受けていたことを考慮しても,なお国税通則法65条4項にいう「正当な理由」があるとして、納税者に対する過少申告加算税賦課決定が取り消された事例。
 1.過少申告があっても例外的に過少申告加算税が課されない場合として国税通則法65条4項が定めた「正当な理由があると認められる」場合とは,真に納税者の責めに帰することのできない客観的な事情があり,過少申告加算税の趣旨に照らしてもなお納税者に過少申告加算税を賦課することが不当又は酷になる場合をいう。
 2.所得区分に関する所得税法の解釈問題について,一時所得とする見解にも相応の論拠があり,その後,下級審の裁判例においても判断が分かれることになった状況において,課税庁が従来の取扱いを変更しようとする場合には,法令の改正によらないとしても,通達を発するなどして変更後の取扱いを納税者に周知させ,これが定着するよう必要な措置を講ずべきものである。
 2a.外国法人である親会社から付与されたストックオプションの権利行使益について、課税庁が,課税上の取扱いを変更したにもかかわらず,その変更をした時点では通達によりこれを明示することなく,変更後3年以上経ってから所得税基本通達の改正によって初めて変更後の取扱いを通達に明記したときには,少なくともそれまでの間は,課税庁において前記の必要な措置を講じていたということはできず,納税者が上記の権利行使益を一時所得に当たるものとして申告したとしても,それをもって納税者の主観的事情に基づく単なる法律解釈の誤りにすぎないものということはできない。
参照条文: /国税通則.65条4項/所得税.28条1項/
全 文 h181116supreme.html

最高裁判所 平成 18年 11月 14日 第3小法廷 判決 ( 平成17年(受)第1594号 )
事件名:  求償金請求・上告事件
要 旨
 1.債権者が物上保証人に対して申し立てた不動産競売について,執行裁判所が競売開始決定をし,同決定正本が主債務者に送達された後に,主債務者から保証の委託を受けていた保証人が,代位弁済をした上で,債権者から物上保証人に対する担保権の移転の付記登記を受け,差押債権者の承継を執行裁判所に申し出た場合には,承継の申出について主債務者に対して民法155条所定の通知がされなくても,代位弁済によって保証人が主債務者に対して取得する求償権の消滅時効は,承継の申出の時から不動産競売の手続の終了に至るまで中断する。
参照条文: /民法:155条/民法:457条1項/民法:147条/
全 文 h181114supreme.html

最高裁判所 平成 18年 11月 14日 第3小法廷 判決 ( 平成16年(受)第2226号 )
事件名:  損害賠償請求・上告事件
要 旨
 病院に入院して上行結腸ポリープの摘出手術を受けた患者が術後9日目に急性胃潰瘍に起因する出血性ショックにより死亡したことについて,患者の相続人らが,病院の医師には,患者に対し十分な輸血と輸液を行って全身の循環状態が悪化しないよう努めるなどして患者のショック状態による重篤化を防止する義務があったのに,これを怠った過失があるなどと主張して,病院と医師に対し不法行為に基づく損害賠償を求めた事案において、第一審が請求を認容したのに対し、控訴審が1回の期日で口頭弁論を終結して原判決を取り消して請求を棄却した場合に、緊急輸血の必要性およびその実施時期に関し、第一審において原告から提出された鑑定意見者と控訴審において被告から提出された意見書との比較検討が不十分であり、採証法則に違反するして、控訴審判決が破棄されて、差し戻された事例。 /自由心証主義/出血性ショック状態にある患者に対する輸血実施義務の認定/
参照条文: /民法:709条/民訴.247条/
全 文 h181114supreme2.html

最高裁判所 平成 18年 11月 7日 第3小法廷 判決 ( 平成17年(あ)第378号 )
事件名:  現住建造物等放火,殺人,詐欺未遂被告事件(上告事件)
要 旨
 証人の供述の証明力を争うために提出された書面が,刑訴法の定める要件を満す供述録取書に該当しないので,328条が許容する証拠には当たらないとされた事例。
 1.刑訴法328条は,公判準備又は公判期日における被告人,証人その他の者の供述が,別の機会にしたその者の供述と矛盾する場合に,矛盾する供述をしたこと自体の立証を許すことにより,公判準備又は公判期日におけるその者の供述の信用性の減殺を図ることを許容する趣旨のものであり,別の機会に矛盾する供述をしたという事実の立証については,刑訴法が定める厳格な証明を要する。
 1a.刑訴法328条により許容される証拠は,信用性を争う供述をした者のそれと矛盾する内容の供述が,同人の供述書,供述を録取した書面(刑訴法が定める要件を満たすものに限る。),同人の供述を聞いたとする者の公判期日の供述又はこれらと同視し得る証拠の中に現れている部分に限られる。
参照条文: /刑訴328条/
全 文 h181107supreme91.html

最高裁判所 平成 18年 11月 2日 第1小法廷 判決 ( 平成16年(行ヒ)第114号 )
事件名:  小田急線連続立体交差事業認可処分取消,事業認可処分取消請求・上告事件
要 旨
 都市高速鉄道に係る都市計画の変更につき,鉄道の構造として地下式でなく高架式(一部掘割式)を採用した点において裁量権の範囲の逸脱又は濫用の違法があるとは言えないとされ,計画変更の決定の違法を前提とする鉄道事業認可及び付属街路事業認可の取消請求が認容されなかった事例。
 1.都市計画法は,都市計画事業認可の基準の一つとして,事業の内容が都市計画に適合することを掲げているから,都市計画事業認可が適法であるためには,その前提となる都市計画が適法であることが必要である。
 1a.裁判所が都市施設に関する都市計画の決定又は変更の内容の適否を審査するに当たっては,当該決定又は変更が裁量権の行使としてされたことを前提として,その基礎とされた重要な事実に誤認があること等により重要な事実の基礎を欠くこととなる場合,又は,事実に対する評価が明らかに合理性を欠くこと,判断の過程において考慮すべき事情を考慮しないこと等によりその内容が社会通念に照らし著しく妥当性を欠くものと認められる場合に限り,裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用したものとして違法となるとすべきである。
 2.鉄道事業認可の取消請求に係る訴えを原審が却下したが,上告審が請求を棄却すべきであると判断した場合に,請求棄却の結論は原判決よりも上告人らに不利益となり,民訴法313条,304条により,原判決を上告人らに不利益に変更することは許されないので,上告裁判所は原判決の結論を維持して上告を棄却するにとどめるほかはないとされた事例。 /不利益変更禁止/処分権主義/小田急小田原線/
参照条文: /都市計画.61条/民訴.304条/民訴.313条/
全 文 h181102supreme.html

最高裁判所 平成 18年 10月 27日 第2小法廷 判決 ( 平成18年(受)第1612号 )
事件名:  損害賠償請求・上告事件
要 旨
 左内けい動脈分岐部に未破裂脳動脈りゅうの存在が確認された患者が,コイルそく栓術を受けたところ,術中にコイルがりゅう外に逸脱するなどして,脳こうそくが生じ,死亡した場合に,医師の説明義務違反を理由とする損害賠償請求を棄却した原判決が,説明義務違反はないとした判断に誤りがあるとして,破棄された事例。
 1.医師は,患者の疾患の治療のために手術を実施するにあたっては,診療契約に基づき,特別の事情のない限り,患者に対し,当該疾患の診断(病名と病状),実施予定の手術の内容,手術に付随する危険性,他に選択可能な治療方法があれば,その内容と利害得失,予後などについて説明すべき義務があり,また,医療水準として確立した療法(術式)が複数存在する場合には,患者がそのいずれを選択するかにつき熟慮の上判断することができるような仕方で,それぞれの療法(術式)の違いや利害得失を分かりやすく説明することが求められる。(先例の確認)
 1a.医師が患者に予防的な療法(術式)を実施するに当たって,医療水準として確立した療法(術式)が複数存在する場合には,その中のある療法(術式)を受けるという選択肢と共に,いずれの療法(術式)も受けずに保存的に経過を見るという選択肢も存在し,そのいずれを選択するかは,患者自身の生き方や生活の質にもかかわるものでもあるし,また,上記選択をするための時間的な余裕もあることから,患者がいずれの選択肢を選択するかにつき熟慮の上判断することができるように,医師は各療法(術式)の違いや経過観察も含めた各選択肢の利害得失について分かりやすく説明することが求められる。
 2.患者が2月23日に開頭手術を選択した後の同月27日の手術前のカンファレンスにおいて,開頭手術はかなり困難であることが新たに判明したため,翌日患者らにコイルそく栓術には術中を含め脳こうそく等の合併症の危険があり,合併症により死に至る頻度が2~3%とされていることについての説明も行った上で,その日の夕方に患者らコイルそく栓術を実施することの承諾を得て28日に手術を実施したが,手術中に患者が死亡した場合に,医師は患者に開頭手術の危険性とコイルそく栓術の危険性をわかりやすく説明し,両者を比較検討できるようにカンファレンスで判明した開頭手術に伴う問題点について具体的に説明し,さらに,開頭手術とコイルそく栓術のいずれを選択するのか,いずれの手術も受けずに保存的に経過を見ることとするのかを熟慮する機会を改めて与える必要があったにもかかわらず,それが十分になされたとはいえないとされた事例。 /医療過誤/
参照条文: /民法:709条/
全 文 h181027supreme2.html

最高裁判所 平成 18年 10月 27日 第2小法廷 判決 ( 平成18年(行ツ)第189号 )
事件名:  選挙無効請求・上告事件
要 旨
 平成17年9月11日に施行された衆議院議員の総選挙のうち東京都選挙区における比例代表選出議員の選挙について,公職選挙法の規定は憲法に違反しないとされた事例。
参照条文: /憲.14条1項/憲.15条1項/憲.15条3項/憲.43条/憲.44条/憲.47条/公職選挙.13条2項/公職選挙.別表第2/公職選挙.86-2条/公職選挙.95-2条/
全 文 h181027supreme.html

最高裁判所 平成 18年 10月 27日 第2小法廷 決定 ( 平成18年(許)第21号 )
事件名:  競売申立て却下決定に対する執行抗告棄却決定に対する許可抗告事件
要 旨
 1.民法上の留置権の成立には,{1}債権者が目的物に関して生じた債権を有していること(目的物と牽連性のある債権の存在)及び{2}債権者が目的物を占有していること(目的物の占有)が必要である。
 1a.留置権の成立要件のうち目的物の占有の要件については,債権者が目的物と牽連性のある債権を有していれば,当該債権の成立以後,その時期を問わず債権者が何らかの事情により当該目的物の占有を取得するに至った場合に,法律上当然に民法295条1項所定の留置権が成立するものであって,同要件は,権利行使時に存在することを要し,かつ,それで足りる。
 2.登録自動車を目的とする民法上の留置権による競売においては,その被担保債権が当該登録自動車に関して生じたことが主要事実として認定されている確定判決であれば,民事執行法181条1項1号所定の「担保権の存在を証する確定判決」に当たる。
参照条文: /民法:295条/民執.181条1項1号/民執.195条/民執規.176条2項/
全 文 h181027supreme3.html

最高裁判所 平成 18年 10月 26日 第1小法廷 判決 ( 平成17年(受)第2087号 )
事件名:  損害賠償請求・上告事件
要 旨
 1.過疎の村(木屋平村)が,その発注する建設工事の請負契約に係る一般競争入札及び指名競争入札に参加する者に必要な資格等に関する資格審査要綱を定め,木屋平村の区域内に主たる営業所を有する建設業者を「村内業者」,その他の建設業者を「村外業者」と定義して,村内業者で対応できる工事は村内業者のみを競争入札の参加資格者として指名する運用を行っている場合に,主たる営業所あるいは村内業者の要件をどのように判定するのかに関する客観的で具体的な基準も明らかにされておらないので,村内業者か否かの判断を適当に行うなどの方法を採ることにより,し意的運用が可能となるものであって,公共工事の入札及び契約の適正化の促進に関する法律の定める公表義務に反し,同法及び地方自治法の趣旨にも反するとされた事例。(反対意見あり)
 2.過疎の村が発注する建設工事の請負契約について,村内業者で対応できる工事は村内業者のみを競争入札の参加資格者として指名するとの運用基準が,地方自治法234条,同施行令167条等の法令の趣旨に反するとされ,村内に主たる営業所を有しないために村外業者と認定された原告を,この基準に従い,村内業者で対応できる一切の工事の競争入札から排除する措置をとることは,極めて不合理であり,社会通念上著しく妥当性を欠くとされた事例。(反対意見あり)
 2a.地方公共団体が,指名競争入札に参加させようとする者を指名するに当たり,{1} 工事現場等への距離が近く現場に関する知識等を有していることから契約の確実な履行が期待できることや,{2} 地元の経済の活性化にも寄与することなどを考慮し,地元企業を優先する指名を行うことについては,その合理性を肯定することができるものの,{1}又は{2}の観点からは村内業者と同様の条件を満たす村外業者もあり得るのであり,価格の有利性確保(競争性の低下防止)の観点を考慮すれば,考慮すべき他の諸事情にかかわらず,およそ村内業者では対応できない工事以外の工事は村内業者のみを指名するという運用について,常に合理性があり裁量権の範囲内であるということはできない。
参照条文: /地自.234条/地自施行令.167条/公共工事の入札及び契約の適正化の促進に関する法律.3条/
全 文 h181026supreme.html

最高裁判所 平成 18年 10月 24日 第3小法廷 判決 ( 平成17年(行ヒ)第20号 )
事件名:  各所得税更正処分等取消請求・上告事件
要 旨
 平成11年度分の確定申告において、外国法人である親会社から日本法人である子会社の従業員等に付与されたストックオプションの権利行使益を一時所得として納税したことについて、国税通則法65条4項にいう「正当な理由」があり、過少申告加算税を賦課することはできないとされた事例。
 1.過少申告があっても例外的に過少申告加算税が課されない場合として国税通則法65条4項が定めた「正当な理由があると認められる」場合とは,真に納税者の責めに帰することのできない客観的な事情があり,過少申告加算税の趣旨に照らしてもなお納税者に過少申告加算税を賦課することが不当又は酷になる場合をいう。(先例の確認)
 2.外国法人である親会社から日本法人である子会社の従業員等に付与されたストックオプションの権利行使益の所得税法上の所得区分に関して,課税庁がかつてはこれを一時所得として取り扱い,課税庁の職員が監修等をした公刊物でもその旨の見解が述べられていたが,平成10年分の所得税の確定申告の時期以降,その取扱いを変更し,給与所得として統一的に取り扱うようになったという経緯があり、また、この所得区分を一時所得とする見解にも相応の論拠があり,平成17年1月25日の最高裁判決よってこれを給与所得とする判断が示されるまでは,下級審の裁判例においてその判断が分かれていた場合に、その問題について課税庁が従来の取扱いを変更しようとするときには,法令の改正によることが望ましく,仮に法令の改正によらないとしても,通達を発するなどして変更後の取扱いを納税者に周知させ,これが定着するよう必要な措置を講ずべきものであるにもかかわらず、平成14年6月の所得税基本通達の改正によって初めて変更後の取扱いを通達に明記したという事情のもとでは、少なくともそれまでの間は,納税者において,上記ストックオプションの権利行使益が一時所得に当たるものと解して上記権利行使益を一時所得として申告したとしても,それには無理からぬ面があり,それをもって納税者の主観的な事情に基づく単なる法律解釈の誤りにすぎないものということはできず、納税者が平成11年分の所得税の確定申告をする前に同8年分ないし同10年分の所得税についてストックオプションの権利行使益が給与所得に当たるとして増額更正を受けていたことを考慮しても,平成11年分の所得税の確定申告において権利行使益を一時所得として申告したことについて,真に上告人の責めに帰することのできない客観的な事情があり,過少申告加算税の趣旨に照らしてもなお上告人に過少申告加算税を賦課することは不当又は酷になるというのが相当であるから,国税通則法65条4項にいう「正当な理由」があるものというべきであるとされた事例。
参照条文: /国税通則.65条4項/
全 文 h181024supreme.html

最高裁判所 平成 18年 10月 20日 第2小法廷 判決 ( 平成16年(受)第1641号 )
事件名:  第三者異議・上告事件
要 旨
 1.不動産を目的とする譲渡担保において,被担保債権の弁済期後に譲渡担保権者の債権者が目的不動産を差し押さえ,その旨の登記がされたときは,設定者は,差押登記後に債務の全額を弁済しても,第三者異議の訴えにより強制執行の不許を求めることはできない。(該当事例)
 1a.被担保債権の弁済期前に譲渡担保権者の債権者が目的不動産を差し押さえた場合は,少なくとも,設定者が弁済期までに債務の全額を弁済して目的不動産を受け戻したときは,設定者は,第三者異議の訴えにより強制執行の不許を求めることができる。 /受戻権/
参照条文: /民執.38条/民執.46条/
全 文 h181020supreme.html

最高裁判所 平成 18年 10月 17日 第3小法廷 判決 ( 平成16年(受)第781号 )
事件名:  補償金請求・上告事件
要 旨
 1.外国の特許を受ける権利の譲渡に伴って譲渡人が譲受人に対しその対価を請求できるかどうか,その対価の額はいくらであるかなどの特許を受ける権利の譲渡の対価に関する問題は,譲渡当事者間における譲渡の原因関係である契約その他の債権的法律行為の効力の問題であると解されるから,その準拠法は,法例7条1項(現:法の適用に関する通則法7条)の規定により,第1次的には当事者の意思に従って定められる。
 1a.譲渡契約の成立及び効力につきその準拠法を我が国の法律とする旨の黙示の合意が存在する認定される場合に,外国の特許を受ける権利を含めてその譲渡の対価を請求できるかどうかなど,譲渡契約に基づく特許を受ける権利の譲渡の対価に関する問題については,我が国の法律が準拠法となるとされた事例。
 2.従業者等が特許法35条1項所定の職務発明に係る外国の特許を受ける権利を使用者等に譲渡した場合において,当該外国の特許を受ける権利の譲渡に伴う対価請求については,同項及び同条4項の規定を直接適用することはできないが,同条3項及び4項の規定が類推適用される。
参照条文: /特許.35条/法例.7条/法適用通則.7条/
全 文 h181017supreme.html

最高裁判所 平成 18年 10月 12日 第1小法廷 判決 ( 平成17年(あ)第2437号 )
事件名:  未成年者誘拐被告事件(上告事件)
要 旨
 娘の再婚に反対する両親(AB)が,娘の長男(D。ABの孫)を再婚先から連れ戻し,自宅にて養育していたが,未成年者誘拐罪で起訴され,ABが裁判所の示唆に従いDをその意思にかかわらず娘の居宅で引き渡すことを誓約したが,引渡予定日の10日前にABの住宅で引渡しの仮処分が執行され,Dがこれに強く抵抗し,以後外出を拒むようになったため引渡しができない状態が続いていた場合に,原判決が,Dの引渡しが実現しない以上AB共に実刑を免れないとしたのに対し,上告審が,その量刑は甚だしく重きに過ぎ,これを破棄しなければ著しく正義に反するとして,懲役10月の刑に執行猶予を付した事例。
参照条文: /刑.224条/
全 文 h181012supreme91.html

最高裁判所 平成 18年 10月 10日 第3小法廷 決定 ( 平成18年(あ)第1414号 )
事件名:  強姦未遂,住居侵入未遂,住居侵入,窃盗被告事件(上告事件)
要 旨
 刑法及び刑事訴訟法の一部を改正する法律(平成18年法律第36号)により窃盗罪の法定刑は「10年以下の懲役」から「10年以下の懲役又は50万円以下の罰金」に変更されたが,その改正の趣旨は,従来,法定刑が懲役刑に限られていた窃盗罪について,罰金刑の選択を可能として,比較的軽微な事案に対しても適正な科刑の実現を図ることにあり,これまで懲役刑が科されてきた事案の処理に広く影響を与えることを意図するものとは解されず,このような法改正の内容,趣旨にかんがみると,当該窃盗罪の犯情,第1審判決が併せて認定した刑の変更のない他の犯罪の有無及びその内容等に照らし,上記法改正との関係からは第1審判決の量刑を再検討する余地のないことが明らかである場合には,刑訴法397条1項により破棄すべき「刑の変更」には当たらず,第1審判決を破棄する必要はない。
参照条文: /刑訴.383条/刑訴.383条2号/刑.235条/
全 文 h181010supreme91.html

最高裁判所 平成 18年 10月 6日 第2小法廷 判決 ( 平成16年(受)第918号 )
事件名:  労働契約上の地位確認等請求・上告事件,民訴法260条2項の申立て事件
要 旨
 1.使用者の懲戒権の行使は,企業秩序維持の観点から労働契約関係に基づく使用者の権能として行われるものであるが,就業規則所定の懲戒事由に該当する事実が存在する場合であっても,当該具体的事情の下において,それが客観的に合理的な理由を欠き,社会通念上相当なものとして是認することができないときには,権利の濫用として無効になる。
 1a.従業員の上司に対する暴言・暴行事件から7年以上経過した後にされた諭旨退職処分が,処分時点において企業秩序維持の観点からそのような重い懲戒処分を必要とする客観的に合理的な理由を欠くものといわざるを得ず,社会通念上相当なものとして是認することはできず,権利の濫用として無効というべきであるとされた事例。
 2.原告の被告に対する請求を認容する仮執行宣言付第一審判決が控訴審で取り消され,控訴審が民訴260条2項による返還を命ずるとともに,これに仮執行宣言を付し,その仮執行がなされた後で,上告審が控訴審判決を破棄して被告の控訴を棄却する判決をするに当たって,被告が前記仮執行により得た金銭の返還を民訴260条2項により被告に命じた事例。
参照条文: /民法:1条3項/民訴.260条2項/労基.18-2条/
全 文 h181006supreme.html

最高裁判所 平成 18年 10月 5日 第1小法廷 判決 ( 平成17年(行ヒ)第395号 )
事件名:  退去強制令書発付処分取消請求・上告事件
要 旨
 不法残留を理由として東京入国管理局主任審査官から退去強制令書発付処分を受けた外国人(イラン・イスラム共和国の国籍を有する者)が,同処分に先立って法務大臣がした出入国管理及び難民認定法49条3項に基づく裁決につき裁決書が作成されていないという違法があるなどと主張して,同裁決及び同処分の取消しを求めたが,法務大臣が裁決書を作成しなかったという瑕疵は,本件裁決及びその後の退去強制令書発付処分を取り消すべき違法事由に当たるとまではいえないとして,処分取消請求が棄却された事例。
 1.出入国管理及び難民認定法施行規則43条が法務大臣の裁決につき裁決書によって行うものとすると規定した趣旨は,法務大臣が異議の申出に対し審理判断をするに当たり,その判断の慎重,適正を期するとともに,後続する手続を行う機関に対し退去強制令書の発付の事前手続が終了したことを明らかにするため,行政庁の内部において文書を作成すべきこととしたものにすぎないというべきであるから,同条は,書面の作成を裁決の成立要件とするものではないと解するのが相当である。そして,同条は,容疑者に対し,裁決書により理由を明らかにして取消訴訟等を提起する便宜を与えるなどの手続的利益を保障したものではないというべきである。
 1a.裁決書の作成を定める規則43条は,その文理上,法49条3項に規定する裁決に係る書面の作成を定めるにとどまり,法50条1項の規定により特別に在留を許可するかどうかの判断に係る書面の作成を求めるものではない。
参照条文: /入管=出入国管理及び難民認定法/入管.24条/入管.49条/入管.50条/出入国管理及び難民認定法施行規則.43条/
全 文 h181005supreme.html

最高裁判所 平成 18年 10月 4日 大法廷 判決 ( 平成17年(行ツ)第247号 )
事件名:  選挙無効請求・上告事件
要 旨
 公職選挙法の一部を改正する法律(平成12年法律第118号)による改正後の公職選挙法14条,別表第3の参議院(選挙区選出)議員の議員定数配分規定は憲法14条1項等に違反するとは言えないと判断され,これに基づき施行された平成16年7月11日施行の参議院議員選挙の選挙区における選挙の無効請求が棄却された事例。
 1.憲法は,国会の両議院の議員を選挙する国民固有の権利につき,選挙人の資格における人種,信条,性別,社会的身分,門地,教育,財産又は収入による差別を禁止するにとどまらず,選挙権の内容の平等,換言すれば,議員の選出における各選挙人の投票の有する影響力の平等,すなわち投票価値の平等をも要求していると解するのが相当である。
 1a.憲法は,投票価値の平等を選挙制度の仕組みの決定における唯一,絶対の基準としているものではなく,どのような選挙制度が国民の利害や意見を公正かつ効果的に国政に反映させることになるのかの決定を国会の裁量にゆだねており,投票価値の平等は,参議院の独自性など,国会が正当に考慮することができる他の政策的目的ないし理由との関連において調和的に実現されるべきものとしていると解さなければならない。それゆえ,国会が具体的に定めたところがその裁量権の行使として合理性を是認し得るものである限り,それによって投票価値の平等が損なわれることになっても,憲法に違反するとはいえない。
 1b.社会的,経済的変化の激しい時代にあって不断に生ずる人口の変動につき,それをどのような形で選挙制度の仕組みに反映させるかなどの問題は,複雑かつ高度に政策的な考慮と判断を要するものであって,その決定は,種々の社会情勢の変動に対応して適切な選挙制度の内容を決定する責務と権限を有する国会の裁量にゆだねられているが,議員定数配分規定の制定又は改正の結果,上記のような選挙制度の仕組みの下において投票価値の平等の有すべき重要性に照らして到底看過することができないと認められる程度の投票価値の著しい不平等状態を生じさせたこと,あるいは,その後の人口の変動が上記のような不平等状態を生じさせ,かつ,それが相当期間継続しているにもかかわらずこれを是正する措置を講じないことが,複雑かつ高度に政策的な考慮と判断の上に立って行使されるべき国会の裁量的権限に係るものであることを考慮しても,その許される限界を超えると判断される場合に,初めて議員定数配分規定が憲法に違反するに至るものと解するのが相当である。 /最大剰余方式/偶数配分制/半数改選制/都道府県単位の選挙区/
参照条文: /憲.14条1項/憲.15条/憲.42条/憲.43条/憲.47条/公選.14条/公選.36条/公選.別表第3/
全 文 h181004supreme.html

最高裁判所 平成 18年 10月 3日 第3小法廷 決定 ( 平成18年(許)第19号 )
事件名:  証拠調べ共助事件における証人の証言拒絶についての決定に対する抗告棄却決定に対する許可抗告事件
要 旨
 アメリカ合衆国政府職員により日本の国税庁職員に不当な情報開示がなされ,開示された情報に基づく報道により株価が下落したことにより損害を受けたこと等を理由とする合衆国政府に対する損害賠償請求訴訟において,合衆国連邦裁判所が,その開示(ディスカバリー)手続の国際司法共助事件として,日本の裁判所に,当該報道に関する取材活動をしたNHK記者に対する証人尋問を嘱託した場合に,取材源の特定に関する質問事項について,それが職業の秘密に当たることを理由に証言を拒絶することが認められた事例。
 1.報道関係者の取材源は,一般に,それがみだりに開示されると,報道関係者と取材源となる者との間の信頼関係が損なわれ,将来にわたる自由で円滑な取材活動が妨げられることとなり,報道機関の業務に深刻な影響を与え以後その遂行が困難になると解されるので,取材源の秘密は職業の秘密に当たるというべきである。
 1a.取材源の秘密が保護に値する秘密であるかどうかは,当該報道の内容,性質,その持つ社会的な意義・価値,当該取材の態様,将来における同種の取材活動が妨げられることによって生ずる不利益の内容,程度等と,当該民事事件の内容,性質,その持つ社会的な意義・価値,当該民事事件において当該証言を必要とする程度,代替証拠の有無等の諸事情を比較衡量して決すべきである。
 1b.報道が公共の利益に関するものであって,その取材の手段,方法が一般の刑罰法令に触れるとか,取材源となった者が取材源の秘密の開示を承諾しているなどの事情がなく,しかも,当該民事事件が社会的意義や影響のある重大な民事事件であるため,当該取材源の秘密の社会的価値を考慮してもなお公正な裁判を実現すべき必要性が高く,そのために当該証言を得ることが必要不可欠であるといった事情が認められない場合には,当該取材源の秘密は保護に値すると解すべきであり,証人は,原則として,当該取材源に係る証言を拒絶することができる。
 2.報道が公共の利害に関することが明らかであり,その取材の手段,方法が一般の刑罰法令に触れるようなものであるとか,取材源となった者が取材源の秘密の開示を承諾しているなどの事情はうかがわれず,一方,嘱託証人尋問の基本事件は,株価の下落,配当の減少等による損害の賠償を求めているものであり,社会的意義や影響のある重大な民事事件であるかどうかは明らかでなく,また,基本事件の手続がいまだ開示(ディスカバリー)の段階にあり,公正な裁判を実現するために当該取材源に係る証言を得ることが必要不可欠であるといった事情も認めることはできない場合に,記者は民訴法197条1項3号に基づき取材源に関する証言を拒むことができるとされた事例。 /報道のための取材の自由/証言拒絶権/
参照条文: /憲.21条/民訴.197条1項3号/
全 文 h181003supreme.html

最高裁判所 平成 18年 9月 28日 第1小法廷 決定 ( 平成18年(許)第12号 )
事件名:  検査役選任決定申請却下決定に対する抗告審の取消決定に対する許可抗告事件
要 旨
 1.株式会社の株主が商法294条1項に基づき裁判所に当該会社の検査役選任の申請をした時点で,当該株主が当該会社の総株主の議決権の100分の3以上を有していたとしても,その後,当該会社が新株を発行したことにより,当該株主が当該会社の総株主の議決権の100分の3未満しか有しないものとなった場合には,当該会社が当該株主の上記申請を妨害する目的で新株を発行したなどの特段の事情のない限り,上記申請は,申請人の適格を欠くものとして不適法であり却下を免れない。
 1a.株主が検査役の申請をした後の新株発行によっては検査役選任請求権は消滅しないとした原決定が破棄され,特段の事情の有無を調査させるために差し戻された事例。
参照条文: 
全 文 h180928supreme.html

大阪地方裁判所 平成 18年 9月 27日 第18民事部 判決 ( 平成18年(ワ)第1464号 )
事件名:  慰謝料請求事件
要 旨
 弁護士が面識のない者から受け取った電子メイルについて弁護士法23条の守秘義務が肯定され、その違反を理由とする損害賠償請求が認容された事例。
 1.弁護士法23条及により弁護士が守秘すべき秘密とは,委任関係を有する依頼者の秘密に限定されるものではなく,弁護士が職務上知り得た秘密が広くその対象になり,同規定にいう「職務上知り得た」とは,弁護士でなければ知ることができなかったであろうが,弁護士であるが故に知り得たという意味であると解される。
 1a.秘密とは,世間一般に知られていない事実で,社会通念上,本人が第三者,特に利害関係のある第三者に知られたくないと考える事実,考えるであろう事実を意味すると解される。
 2.被告がある県で活躍している弁護士であることを理由として,原告が,被告の属する研究会のホームページ上の送信フォームを利用したメールにより,セクハラを受けたことや受任弁護士の対応に関する原告の心情を伝えたうえ,不満足な内容の和解で解決するほかないのか,司法の場で解決することはできないのかと述べた場合に,被告が弁護士でなければ,原告が自分のセクハラ被害をメールで伝えることもなく,受任弁護士の対応に不満を述べるはずもないと考えられることからすると,原告がセクハラ被害を受けたことだけでなく,原告がセクハラ被害を受けたことにつき受任弁護士に相談していること,そのことに対する不満,不安を被告に述べたということも,被告がその職務上知り得た事柄にあたり,また,メールの内容は原告にとって秘密に当たるから,被告はこれについて守秘義務を負うと判断され,このメールに基づき被告が原告の委任している弁護士に原告が実在の人物であるかを確認することを主たる目的としてその旨の電話をしたことが不法行為に該当するとして,20万円の慰謝料の支払いが命じられた事例。
参照条文: /弁護士法:23条/民法:709条/民法:710条/
全 文 h180927osakaD.html

最高裁判所 平成 18年 9月 15日 第3小法廷 決定 ( 平成18年(し)第202号 )
事件名:  控訴棄却決定に対する異議申立て棄却決定に対する特別抗告事件
要 旨
 死刑判決を受けた被告人(オーム真理教教祖)の訴訟能力が肯定された事例。
 私選弁護人が控訴趣意書を作成したと明言しながら第一審の裁判所の再三にわたる趣意書の提出勧告に対し,裁判所が行おうとしている精神鑑定の方法に問題があるなどとして提出しなかった場合に,趣意書の提出の遅延について,刑訴規則238条にいう「やむを得ない事情」があるとは認められず,また弁護人が被告人と意思疎通ができなかったことは,本件においては,同趣意書の提出の遅延を正当化する理由とはなり得ないとされた事例。
参照条文: /刑訴規.238条/
全 文 h180915supreme91.html

最高裁判所 平成 18年 9月 14日 第1小法廷 判決 ( 平成17年(受)第2205号 )
事件名:  保険金請求・上告事件
要 旨
 火災が漏電等による偶発的なものかテナント総合保険普通保険約款の保険契約者の代表取締役による放火のいずれかであるが,そのいずれであるとも認定できない場合に,火災により損害を受けた保険契約者の保険金請求を棄却した原判決が,保険契約者は事故の発生が保険契約者等の意思に基づかないものであることについて主張,立証すべき責任を負わず,保険契約者等の故意又は重過失によって保険事故が発生したことは保険者が免責事由として主張,立証する責任を負うとの理由により,破棄された事例。
 1.商法629条が損害保険契約の保険事故として規定する「偶然ナル一定ノ事故」とは,保険契約成立時において発生するかどうかが不確定な事故をいうものと解される。
 1a.店舗内の什器備品等の損傷及び休業による損害を保険の目的とする加盟店総合保険契約に適用されるテナント総合保険普通保険約款において,「すべての偶然な事故」によって生じた損害に対して保険金を支払うこと及び保険契約者等の故意又は重大な過失によって生じた損害に対しては保険金を支払わないことが定められている場合に,この約款は,保険契約成立時に発生するかどうかが不確定な事故をすべて保険事故とすることを明らかにしたものと解するのが相当であり,約款にいう「偶然な事故」を,商法629条にいう「偶然ナル」事故とは異なり,保険事故の発生時において保険契約者等の意思に基づかない事故であること(保険事故の偶発性)をいうものと解することはできないとされた事例。
 1b.上記の保険約款に基づき保険金を請求する者は,事故の発生が保険契約者等の意思に基づかないものであることについて主張,立証すべき責任を負わず,保険契約者等の故意又は重過失によって保険事故が発生したことは,保険者において,免責事由として主張,立証する責任を負うとされた事例。 /主張責任/立証責任/証明責任/挙証責任/
参照条文: /民訴.2編/商.629条/商.641条/
全 文 h180914supreme.html

最高裁判所 平成 18年 9月 14日 第1小法廷 判決 ( 平成15年(行ヒ)第68号 )
事件名:  裁決取消請求・上告事件
要 旨
 弁護士が依頼者のために預かった金銭についての報告義務及び引渡義務を懈怠したことを理由に,弁護士会が「品位を失うべき非行」があったとして業務停止3月の懲戒処分をしたことが裁量権の逸脱又は濫用に当たるということはできないとされた事例。
 1.ある事実関係が「品位を失うべき非行」といった弁護士に対する懲戒事由に該当するかどうか,また,該当するとした場合に懲戒するか否か,懲戒するとしてどのような処分を選択するかについては,弁護士会の合理的な裁量にゆだねられているものと解され,弁護士会の裁量権の行使としての懲戒処分は,全く事実の基礎を欠くか,又は社会通念上著しく妥当性を欠き,裁量権の範囲を超え又は裁量権を濫用してされたと認められる場合に限り,違法となる。
 2.弁護士が依頼者のために預かった金品に関する報告は重要なものであり,さらに,依頼事項に関連して相手方や第三者から金品を預かった場合,そのことを依頼者に報告することも報告義務の内容となる。
 3.弁護士会による弁護士の懲戒に手続的瑕疵がないとされた事例。
 3a.弁護士懲戒請求は,弁護士会による懲戒権の発動を促す申立てにすぎず,懲戒権発動の端緒となるものにすぎないから,懲戒請求が不適法であることが当然に発動された懲戒権の行使自体を違法とするものではない。
 3b.綱紀委員会は,懲戒委員会に審査を求めるか否かを調査する機関にすぎず,その調査において,被請求人は,通知を受け,期日に出頭し,陳述する権利を法律上認められているわけではない。 /弁護士倫理規定/
参照条文: /民法:645条/民法:646条/弁護士.56条/弁護士.71条/弁護士.67条2項/
全 文 h180914supreme2.html

最高裁判所 平成 18年 9月 11日 第2小法廷 決定 ( 平成18年(許)第13号 )
事件名:  債権差押命令及び転付命令に対する執行抗告却下決定に対する執行抗告棄却決定に対する許可抗告事件
要 旨
 1.不執行の合意等は,実体法上,債権者に強制執行の申立てをしないという不作為義務を負わせるにとどまり,執行機関を直接拘束するものではないから,不執行の合意等のされた債権を請求債権として実施された強制執行が民事執行法規に照らして直ちに違法になるということはできない。
 2.強制執行を受けた債務者が,その請求債権につき強制執行を行う権利の放棄又は不執行の合意があったことを主張して裁判所に強制執行の排除を求める場合には,執行抗告又は執行異議の方法によることはできず,請求異議の訴えによるべきである。(判例変更)
参照条文: /民執.10条/民執.11条/民執.35条/民執.145条5項/
全 文 h180911supreme.html

最高裁判所 平成 18年 9月 4日 第2小法廷 判決 ( 平成17年(オ)第1451号 )
事件名:  臨時総会招集請求・上告事件
要 旨
 訴訟物たる権利関係が一身専属的なものであり、当事者の一方が原審の口頭弁論終結後・判決言渡前に死亡し,これにより訴訟が当然に終了した場合に,相手方の上告に基づく上告審が判決で訴訟終了の宣言をした事例。 1.訴訟の終了の宣言は,既に訴訟が終了していることを裁判の形式を採って手続上明確にするものにすぎないから,民訴法319条及び140条(同法313条及び297条により上告審に準用)の規定の趣旨に照らし,上告審において判決で訴訟の終了を宣言するに当たり,その前提として原判決を破棄するについては,必ずしも口頭弁論を経る必要はない。
参照条文: /民訴.319条/民訴.140条/民訴.313条/民訴.297条/
全 文 h180904supreme.html

最高裁判所 平成 18年 9月 4日 第2小法廷 判決 ( 平成17年(受)第1016号 )
事件名:  損害賠償請求・上告事件
要 旨
 大学構内に研究教育用建物を建築することを計画している者が,文部科学省に申請した補助金の交付の内定があったため,設計業者に建物の設計監理を委託し,施行業者はまだ決定されていない段階で,建物の竣工予定時期に間に合わせるために外国で製造される特殊な建具を発注する必要が生じ,設計業者の求めにより当該建具の取扱業者に納入準備を依頼したが,その後,建物の建築計画を中止し,補助金の申請を取り下げた場合に,建築計画者は,建具取扱業者が支出した費用について,特段の事情のないかぎり,不法行為による損害賠償義務を負うとされた事例。
 1.建物の建築計画者の依頼により,建具取扱業者が将来選定される施工業者との間で建具の納入等の下請契約を確実に締結できるものと信頼して納入準備作業を開始し,建築計画者がそのことを予見し得たのであれば,信義衡平の原則に照らし,建具取扱業者の信頼には法的保護が与えられなければならず,建築計画者は,建具取扱業者との関係で建物の施工業者を選定して請負契約の締結を図るべき法的義務があったとまでは認め難いとしても,上記信頼に基づく行為によって建具取扱業者が支出した費用を補てんするなどの代償的措置を講ずることなく自己の将来の収支に不安定な要因があることを理由として建物の建築計画を中止することは,建具取扱業者の信頼を不当に損なうものというべきであり,これにより生じた損害について不法行為による賠償責任を免れない。
参照条文: /民法:709条/
全 文 h180904supreme2.html

最高裁判所 平成 18年 9月 4日 第2小法廷 判決 ( 平成16年(受)第1748号 )
事件名:  認知請求・上告事件
要 旨
 慢性骨髄性白血病の治療を受け,骨髄移植手術を行うことが決まった夫が,骨髄移植手術に伴い大量の放射線照射を受けることにより無精子症になることを危ぐし,その精子を冷凍保存し,妻に対して自分が死亡するようなことがあっても再婚しないのであれば自分の子を生んでほしいという話をし,また自己の両親や弟等に対して自分に何かあった場合には妻に保存精子を用いて子を授かり家を継いでもらいたいとの意向を伝え,そして,骨髄移植手術の成功後に保存精子を用いて体外受精を行うことにしたが,その実施に至る前に死亡した場合に,妻が夫の両親と相談の上,保存精子を用いて体外受精を行い,これにより出まれた子が検察官を被告にし死後認知の訴えを提起したが,棄却された事例。
 1.死後懐胎子と死亡した父との間の法律上の親子関係の形成に関する問題は,本来的には,死亡した者の保存精子を用いる人工生殖に関する生命倫理,生まれてくる子の福祉,親子関係や親族関係を形成されることになる関係者の意識,更にはこれらに関する社会一般の考え方等多角的な観点からの検討を行った上,親子関係を認めるか否か,認めるとした場合の要件や効果を定める立法によって解決されるべき問題であり,そのような立法がない以上,死後懐胎子と死亡した父との間の法律上の親子関係の形成は認められない。 /裁判による法創造の限界/生殖医療/生殖補助医療/人工生殖/冷凍保存精子/
参照条文: /民法:787条/民法:4編3章/
全 文 h180904supreme3.html

最高裁判所 平成 18年 9月 4日 第2小法廷 判決 ( 平成15年(行ヒ)第321号 )
事件名:  事業認可処分取消請求・上告事件
要 旨
 林業試験場の跡地を利用して設置される都市計画公園との公道との接続のために利用できる土地として国有地と民有とがある場合に国有地ではなく民有地を公園の区域に含めるとした都市計画決定に違法はないとした原判決が、審理不十分を理由に破棄された事例。
 1.都市施設は,その性質上,土地利用,交通等の現状及び将来の見通しを勘案して,適切な規模で必要な位置に配置することにより,円滑な都市活動を確保し,良好な都市環境を保持するように定めなければならないものであるから,都市施設に関する都市計画を決定するに当たり、都市施設の区域は,都市施設が適切な規模で必要な位置に配置されたものとなるような合理性をもって定められるべきものであるが、この場合において,民有地に代えて公有地を利用することができるときには,そのことも上記の合理性を判断する一つの考慮要素となり得ると解すべきである。
参照条文: /都市計画.4条/
全 文 h180904supreme4.html

最高裁判所 平成 18年 8月 30日 第2小法廷 決定 ( 平成17年(あ)第2535号 )
事件名:  窃盗,出入国管理及び難民認定法違反被告事件(上告事件)
要 旨
 勾留事実(窃盗)と非勾留事実(不法在留)とが併合罪によって処断される場合に,非勾留事実に由来する罰金刑についても刑法21条により未決勾留日数を算入することができるとされた事例。
 1.刑法は,併合罪関係にある数罪を併合審理して刑を言い渡す場合,その数罪を包括的に評価して,それに対し1個の主文による刑を言い渡すべきものとしているから,その刑が刑法21条にいう「本刑」に該当すると解すべきであり,この理は,その刑が懲役刑と罰金刑を併科するものであるときでも異なるところはない。
参照条文: /刑.21条/
全 文 h180830supreme91.html

最高裁判所 平成 18年 8月 30日 第2小法廷 決定 ( 平成18年(あ)第334号 )
事件名:  窃盗被告事件(上告事件)
要 旨
 刑の必要的免除を定める刑法244条1項は,内縁の配偶者に適用又は類推適用されることはない。 /親族間の犯罪/
参照条文: /刑.244条1項/
全 文 h180830supreme92.html

最高裁判所 平成 18年 7月 21日 第2小法廷 判決 ( 平成15年(受)第1231号 )
事件名:  貸金請求・上告事件
要 旨
 民間企業が,外国国家の国防省との間でその関連会社をその代理人として高性能コンピュータの売買契約を締結して納入し,その代金債務について準消費貸借更契約を締結したと主張して,外国国家を被告にして貸金請求の訴えを提起したが,外国国家が代理権の授与を否認し,売買契約の成立を争っている場合に,外国国家はその事件について日本の民事裁判権に服するとされた事例。(絶対免除主義から制限免除主義への移行/判例変更)
 1.外国国家は,その私法的ないし業務管理的な行為については,我が国による民事裁判権の行使が当該外国国家の主権を侵害するおそれがあるなど特段の事情がない限り,我が国の民事裁判権から免除されない。
 2.外国国家の行為が私法的ないし業務管理的な行為であるか否かにかかわらず,外国国家は,私人との間の書面による契約に含まれた明文の規定により当該契約から生じた紛争について我が国の民事裁判権に服することを約することによって,我が国の民事裁判権に服する旨の意思を明確に表明した場合にも,原則として,当該紛争について我が国の民事裁判権から免除されない。
 3.外国国家が,民間企業との間で高性能コンピューター等を買い受ける旨の売買契約を締結し,売買の目的物の引渡しを受けた後,売買代金債務を消費貸借の目的とする準消費貸借契約を締結する行為は,その性質上,私人でも行うことが可能な商業取引であるから,その目的のいかんにかかわらず,私法的ないし業務管理的な行為に当たる。
参照条文: /民訴.1編2章/裁判所.3条/
全 文 h180721supreme.html

最高裁判所 平成 18年 7月 21日 第2小法廷 判決 ( 平成17年(行ヒ)第149号 )
事件名:  運転免許取消処分取消請求・上告事件
要 旨
 自動車運転者が,交差点を直進する際に,交差する優先道路の歩道上を進行中の自転車と衝突してその運転者を負傷させる事故を起こした場合に,同事故が専ら自動車運転者の不注意によって発生したものであり,違反行為に係る累積点数が15点に達したとしてなされた免許取消処分が正当であるとされた事例。 /交差点安全進行義務違反/
参照条文: /道路交通.38条1項/道路交通.36.条4項/道路交通.103条/
全 文 h180721supreme2.html

最高裁判所 平成 18年 7月 20日 第1小法廷 判決 ( 平成17年(受)第948号 )
事件名:  所有権確認請求・上告事件
要 旨
 1.漁場内のいけすにおいて飼育生産管理されている養殖魚を売却し、買主がこれを売主に預託する旨の契約が譲渡担保契約と解された事例。
 1a.先順位の譲渡担保が設定され,占有改定の方法による引渡しをもってその対抗要件が具備されている動産について,重複して譲渡担保を設定すること自体は許されるとしても,劣後する譲渡担保に独自の私的実行の権限を認めた場合,配当の手続が整備されている民事執行法上の執行手続が行われる場合と異なり,先行する譲渡担保権者には優先権を行使する機会が与えられず,その譲渡担保は有名無実のものとなりかねないから、このような結果を招来する後順位譲渡担保権者による私的実行を認めることはできない。
 1b.先順位の譲渡担保権が設定されている動産に重ねて譲渡担保権が設定され、占有改定の方法により引渡しがなされたにすぎない場合には、占有改定による引渡しを受けたにとどまる者に即時取得を認めることはできないから,その者が即時取得により完全な譲渡担保を取得したということもできない。
 2.構成部分の変動する集合動産を目的とする譲渡担保においては,集合物の内容が譲渡担保設定者の営業活動を通じて当然に変動することが予定されているのであるから,譲渡担保設定者には,その通常の営業の範囲内で,譲渡担保の目的を構成する動産を処分する権限が付与されており,この権限内でされた処分の相手方は,当該動産について,譲渡担保の拘束を受けることなく確定的に所有権を取得することができる。
 2a.対抗要件を備えた集合動産譲渡担保の設定者がその目的物である動産につき通常の営業の範囲を超える売却処分をした場合,当該処分は上記権限に基づかないものである以上,譲渡担保契約に定められた保管場所から搬出されるなどして当該譲渡担保の目的である集合物から離脱したと認められる場合でない限り,当該処分の相手方は目的物の所有権を承継取得することはできない。(通常の営業の範囲内の売却がなされたのか否かの審理のために差し戻された事例)
参照条文: 
全 文 h180720supreme2.html

最高裁判所 平成 18年 7月 20日 第1小法廷 判決 ( 平成16年(受)第226号 )
事件名:  差押債権取立請求・上告事件
要 旨
 1.取引銀行に対して先日付振込みの依頼をした後にその振込みに係る債権について仮差押命令の送達を受けた第三債務者は,振込依頼を撤回して債務者の預金口座に振込入金されるのを止めることができる限り,弁済をするかどうかについての決定権を依然として有するというべきであり,取引銀行に対して先日付振込みを依頼したというだけでは,仮差押命令の弁済禁止の効力を免れることはできない。
 1a.上記第三債務者は,原則として,仮差押命令の送達後にされた債務者の預金口座への振込みをもって仮差押債権者に対抗することはできず,送達を受けた時点において,その第三債務者に人的又は時間的余裕がなく,振込依頼を撤回することが著しく困難であるなどの特段の事情がある場合に限り,上記振込みによる弁済を仮差押債権者に対抗することができる。
参照条文: /民法:481条1項/民保.50条5項/民執.145条4項/
全 文 h180720supreme.html

最高裁判所 平成 18年 7月 14日 第2小法廷 判決 ( 平成17年(受)第883号 )
事件名:  求償金請求・上告事件
要 旨
 共同相続人の一人(母)が意思無能力者であった場合に,他の共同相続人(子ら)の一人が母に代わってその相続税を申告して納付した後で,母が死亡して子らが共同相続した場合に,母に代わって相続税を納付した者が他の共同相続人に対して,事務管理に基づく費用償還請求として母の相続税の分担額を請求したときに,意思無能力者に代わってした相続税の申告はその者に納税義務を生じさせる不利益なものであるとして事務管理に基づく費用償還請求権を否定した原判決が破棄された事例。
 1.相続人が意思無能力者であっても,納付すべき相続税額がある以上,法定代理人又は後見人の有無にかかわらず,申告書の提出義務は発生しているというべきであって,法定代理人又は後見人がないときは,その期限が到来しないというにすぎない。
 2.相続税法35条2項1号は,申告書の提出期限とかかわりなく,被相続人が死亡した日の翌日から6か月を経過すれば税務署長は相続税額の決定をすることができる旨を定めたものと解すべきであり,同号は,意思無能力者に対しても適用される。
参照条文: /相続税.27条1項/相続税.35条/民法:702条/
全 文 h180714supreme.html

最高裁判所 平成 18年 7月 14日 第2小法廷 判決 ( 平成15年(行ツ)第35号 )
事件名:  給水条例無効確認等請求・上告事件
要 旨
 別荘給水契約者と別荘以外の給水契約者との間の基本料金に大きな格差が設ける高根町簡易水道事業給水条例について,その大きな格差を正当化するに足りる合理性を有しないとして,その条例の基本料金改定部分は地方自治法244条3項にいう不当な差別的取扱いに当たるとされた事例。
 1.抗告訴訟の対象となる行政処分とは,行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為をいう。
 1a.町の条例が町営簡易水道事業の水道料金を一般的に改定するものであって,限られた特定の者に対してのみ適用されるものではない場合に,その条例の制定行為をもって行政庁が法の執行として行う処分と実質的に同視することはできないから,その条例の制定行為は,抗告訴訟の対象となる行政処分には当たらないとされた事例。
 2.地方自治法244条3項が憲法14条1項が保障する法の下の平等の原則を公の施設の利用関係につき具体的に規定したものであることを考えれば,住民に準ずる地位にある者が公の施設を利用することについて,公の施設の性質やこれらの者と普通地方公共団体との結び付きの程度等に照らし合理的な理由なく差別的取扱いをすることは,地方自治法244条3項に違反する。
 2a.公営企業として営まれる水道事業において水道使用の対価である水道料金は原則として給水に要する個別原価に基づいて設定されるべきである。
 2b.別荘給水契約者と別荘以外の給水契約者との間の基本料金に大きな格差が設ける料金改定条例について,その大きな格差を正当化するに足りる合理性を有しないとして,その条例の基本料金改定部分は地方自治法244条3項にいう不当な差別的取扱いに当たるとされた事例。
参照条文: /地自244条/憲.14条/
全 文 h180714supreme2.html

最高裁判所 平成 18年 7月 13日 第1小法廷 判決 ( 平成17年(オ)第22号 )
事件名:  損害賠償請求事件・上告事件
要 旨: 平成12年に行われた衆議院議員総選挙等までに精神的原因による投票困難者に対して選挙権行使の機会を確保するための立法措置が執られなかったことについて,この立法不作為は,国民に憲法上保障されている権利行使の機会を確保するために所要の立法措置を執ることが必要不可欠であり,それが明白であるにもかかわらず,国会が正当な理由なく長期にわたってこれを怠る場合などに当たるということはできないから,国家賠償法1条1項の適用上,違法の評価を受けるものではないとされた事例。
 1.国会議員の立法行為又は立法不作為が国家賠償法1条1項の適用上違法となるかどうかは,国会議員の立法過程における行動が個別の国民に対して負う職務上の法的義務に違背したかどうかの問題であって,当該立法の内容又は立法不作為の違憲性の問題とは区別されるべきであり,仮に当該立法の内容又は立法不作為が憲法の規定に違反するものであるとしても,直ちに違法の評価を受けるものではない。(先例の確認)
 1a.立法の内容又は立法不作為が国民に憲法上保障されている権利を違法に侵害するものであることが明白な場合や,国民に憲法上保障されている権利行使の機会を確保するために所要の立法措置を執ることが必要不可欠であり,それが明白であるにもかかわらず,国会が正当な理由なく長期にわたってこれを怠る場合などには,例外的に,国会議員の立法行為又は立法不作為は,国家賠償法1条1項の規定の適用上,違法の評価を受ける。(先例の確認) /不在者投票/
参照条文: /憲.14条/憲.15条/憲.44条/公選.49条/公選.49条/国賠.1条1項/
全 文 h180713supreme2.html

最高裁判所 平成 18年 7月 13日 第1小法廷 判決 ( 平成16年(行ヒ)第117号 )
事件名:  行政文書部分公開決定処分取消等請求・上告事件
要 旨
 原告らが、大阪府情報公開条例に基づき,大阪府土地開発公社による公共事業用地の代替地の取得又は処分に関する文書である「平成11年度代替地取得及び処分協議決裁文書」等の公開を請求したところ,文書の一部を非公開とする旨の決定を受けたため,その取消しを求めて訴訟を提起し、その一部(土地の評価答申額等に関する情報に関する部分)が認容された事例。
 1.代替地の取得価格及び譲渡価格が一般人であればおおよその見当をつけることができる一定の範囲内の客観的な価格である場合に、これらの価格から推知される評価答申額等に関する情報は,性質上公開に親しまないような個人情報であるとはいえず、したがって土地の所有者等が個人である場合の評価答申額等に関する情報は,いずれも大阪府情報公開条例9条1号所定の非公開情報に該当しない。
 2.土地の所有者等が法人である場合に、「平成11年度代替地取得及び処分協議決裁文書」に記載された買収価格等及び評価答申額等に関する情報は,これらの価格に関する情報を公にすることにより当該法人の競争上その他正当な利益を害するとは認め難いから、大阪府情報公開条例8条1号又は4号所定の非公開条例に該当しない。
参照条文: /大阪府情報公開条例.8条/
全 文 h180713supreme3.html

最高裁判所 平成 18年 7月 13日 第1小法廷 判決 ( 平成17年(受)第1327号 )
事件名:  補償金請求・上告事件
要 旨
 破産した証券会社が取り扱った実体のない社債の取引のために証券会社に金銭を預託していた顧客が投資者保護基金に対して補償金の支払を請求した場合に,社債発行会社と証券会社との間の社債募集取扱い契約が不成立または無効であれば顧客と証券会社との間の社債取引は証券業に係る取引に当たらないとして請求を棄却した原判決が破棄された事例。
 1.投資者保護基金による補償の対象となるためには,証券業に係る取引に関して預託された金銭に係る債権であることが必要であるが,補償対象債権の支払によって投資者の保護,ひいては証券取引に対する信頼性の維持を図るという基金が設けられた趣旨等にかんがみると,証券業に係る取引には,証券会社が,証券業に係る取引の実体を有しないのに,同取引のように仮装して行った取引も含まれる。
 1a.もっとも,証券会社と取引をする者が,取引の際,上記仮装の事実を知っていたか,あるいは,知らなかったことにつき重大な過失があるときには,当該取引は証券業に係る取引の該当性が否定される。
参照条文: /証取.79-20条/
全 文 h180713supreme.html

最高裁判所 平成 18年 7月 10日 第2小法廷 判決 ( 平成17年(受)第614号 )
事件名:  理事長選任互選不存在確認等請求・上告事件
要 旨
 1.社会福祉法は,理事の退任によって定款に定めた理事の員数を欠くに至り,かつ,定款の定めによれば,在任する理事だけでは後任理事を選任するのに必要な員数に満たないため後任理事を選任することができない場合については,原則として,仮理事を選任し,在任する理事と仮理事とにおいて後任理事を選任することを予定している。
 1a.しかし,社会福祉法人と理事との関係は,基本的には,民法の委任に関する規定に従うものと解されるから,仮理事の選任を待つことができないような急迫の事情があり,かつ,退任した理事と社会福祉法人との間の信頼関係が維持されていて,退任した理事に後任理事の選任をゆだねても選任の適正が損なわれるおそれがない場合には,受任者は委任の終了後に急迫の事情があるときは必要な処分をしなければならない旨定めた民法654条の趣旨に照らし,退任した理事は,後任理事の選任をすることができる。(肯定事例) /団体の内部紛争/
参照条文: /民法:56条/民法:654条/社会福祉.45条/
全 文 h180710supreme.html

最高裁判所 平成 18年 7月 7日 第2小法廷 判決 ( 平成17年(受)第833号 )
事件名:  親子関係不存在確認請求・上告事件
要 旨
 実親子関係がないにもかかわらず戸籍上実子として記載されて55年間にわたり親子関係を継続した子について,戸籍上の両親が死亡した後で,その子を被告にしてその姉が実親子関係不存在確認請求の訴えを提起した場合に,その確認請求が権利の濫用に当たらないとした原判決が破棄されて差し戻された事例。
 1.実親子関係不存在確認訴訟は,実親子関係という基本的親族関係の存否について関係者間に紛争がある場合に対世的効力を有する判決をもって画一的確定を図り,これにより実親子関係を公証する戸籍の記載の正確性を確保する機能を有するものであるから,真実の実親子関係と戸籍の記載が異なる場合には,実親子関係が存在しないことの確認を求めることができるのが原則である。
 2.戸籍上の両親以外の第三者である丁が甲乙夫婦とその戸籍上の子である丙との間の実親子関係が存在しないことの確認を求めている場合においては,甲乙夫婦と丙との間に実の親子と同様の生活の実体があった期間の長さ,判決をもって実親子関係の不存在を確定することにより丙及びその関係者の被る精神的苦痛,経済的不利益,改めて養子縁組の届出をすることにより丙が甲乙夫婦の嫡出子としての身分を取得する可能性の有無,丁が実親子関係の不存在確認請求をするに至った経緯及び請求をする動機,目的,実親子関係が存在しないことが確定されないとした場合に丁以外に著しい不利益を受ける者の有無等の諸般の事情を考慮し,実親子関係の不存在を確定することが著しく不当な結果をもたらすものといえるときには,当該確認請求は権利の濫用に当たり許されない。
参照条文: /民法:4編3章/人訴.2条2号/
全 文 h180707supreme.html

最高裁判所 平成 18年 7月 7日 第2小法廷 判決 ( 平成17年(受)第1708号 )
事件名:  親子関係不存在確認請求・上告事件
要 旨
 真実の親子関係はないが,戸籍上も実生活上も50年以上にわたって実の親子として扱われていた子に対する親子関係不存在確認請求について,その請求が権利濫用に当たらないとした原判決が審理不尽を理由に破棄された事例。
 1.実親子関係不存在確認訴訟は,実親子関係という基本的親族関係の存否について関係者間に紛争がある場合に対世的効力を有する判決をもって画一的確定を図り,これにより実親子関係を公証する戸籍の記載の正確性を確保する機能を有するものであるから,真実の実親子関係と戸籍の記載が異なる場合には,実親子関係が存在しないことの確認を求めることができるのが原則である。
 1a.真実の親子関係と異なる出生の届出に基づき乙が戸籍上甲の嫡出子として記載されているが,甲が乙との間の実親子関係の存在しないことの確認を求めている場合においては,甲乙間に実の親子と同様の生活の実体があった期間の長さ,判決をもって実親子関係の不存在を確定することにより乙及びその関係者の受ける精神的苦痛,経済的不利益,甲が実親子関係の不存在確認請求をするに至った経緯及び請求をする動機,目的,実親子関係が存在しないことが確定されないとした場合に甲以外に著しい不利益を受ける者の有無等の諸般の事情を考慮し,実親子関係の不存在を確定することが著しく不当な結果をもたらすものといえるときには,当該確認請求は権利の濫用に当たり許されない。
参照条文: /民法:1条3項/民法:4編3章/人訴32条2号/
全 文 h180707supreme2.html

最高裁判所 平成 18年 7月 7日 第2小法廷 判決 ( 平成15年(行ヒ)第30号 )
事件名:  固定資産評価審査決定取消請求・上告事件
要 旨
 固定資産税の課税標準である固定資産の適正な時価の算定について,値上がり益や将来の収益の現在価値を含まない,その年度において当該固定資産から得ることのできる収益を基準に資本還元した価格,すなわち,収益還元価格によって算定されなければならないとした原判決が破棄された事例。
 1.土地に対する固定資産税は,土地の資産価値に着目し,その所有という事実に担税力を認めて課する一種の財産税であって,個々の土地の収益性の有無にかかわらず,その所有者に対して課するものであるから,その課税標準とされている土地の価格である適正な時価とは,正常な条件の下に成立する当該土地の取引価格,すなわち,客観的な交換価値をいう。(先例の確認) /固定資産評価基準/
参照条文: /地方税.349条/地方税.341条/地方税.403条/
全 文 h180707supreme3.html

最高裁判所 平成 18年 6月 23日 第2小法廷 判決 ( 平成17年(受)第1192号 )
事件名:  預金払戻請求・上告事件
要 旨
 信用協同組合(信用組合)との預金契約に基づく預金返還債務について、その不履行による遅延損害金の利率は商事法定利率ではなく民事法定利率によるべきであるとされた事例。
 1.中小企業等協同組合法に基づいて設立された信用協同組合は,今日,その事業の範囲はかなり拡張されてきているとはいえ,なお組合員の事業・家計の助成を図ることを目的とする共同組織であるとの性格に基本的な変更はないとみるべきであって,その業務は営利を目的とするものではないというべきであるから,商法上の商人には当たらない。
参照条文: /商.514条/商.503条/民法:419条/民法:404条/
全 文 h180623supreme.html

最高裁判所 平成 18年 6月 23日 第2小法廷 判決 ( 平成17年(受)第2184号 )
事件名:  靖国参拝違憲確認等請求・上告事件
要 旨
 内閣総理大臣の地位にある小泉純一郎が平成13年8月13日に行った靖國神社の参拝は,政教分離原則を規定した憲法20条3項に違反するものであり,この参拝により精神的苦痛を受けたことなどを理由に、国,小泉純一郎及び靖國神社に対してそれぞれ1万円の損害賠償請求を求める請求が棄却され、また、参拝が違憲であることの確認を求める訴えが確認の利益を欠くとして却下された事例。
 1.人が神社に参拝する行為自体は,他人の信仰生活等に対して圧迫,干渉を加えるような性質のものではないから,他人が特定の神社に参拝することによって,自己の心情ないし宗教上の感情が害されたとし,不快の念を抱いたとしても,これを被侵害利益として,直ちに損害賠償を求めることはできない。
 1a.このことは,内閣総理大臣の地位にある者が靖國神社を参拝した場合においても異なるものではない。
参照条文: /憲.20条3項/民法:709条/民法:710条/国賠.1条1項/
全 文 h180623supreme2.html

最高裁判所 平成 18年 6月 20日 第3小法廷 判決 ( 平成14年(あ)第730号 )
事件名:  殺人,強姦致死,窃盗被告事件(上告事件)
要 旨
 18歳の少年が,白昼,配水管の検査を装って上がり込んだアパートの一室において23歳の主婦を強姦しようとしたが激しく抵抗されたため殺害した上で姦淫し,その後,同所において激しく泣き続ける生後11か月の被害者の長女をも殺害し,さらに,その後,同所において現金等在中の財布1個を窃取した殺人・強姦致死・窃盗の事案について、控訴審判決が、死刑の選択を回避するに足りる特に酌量すべき事情の存否について審理を尽くすことなく被告人を無期懲役に処した第1審判決の量刑を是認したものであって,その刑の量定は甚だしく不当であるとして破棄された事例。
参照条文: /刑.199条/刑.181条/
全 文 h180620supreme91.html

最高裁判所 平成 18年 6月 19日 第2小法廷 判決 ( 平成15年(行ヒ)第343号 )
事件名:  軽油引取税決定処分等取消請求・上告事件
要 旨
 1.炭化水素油の販売等を軽油引取税の課税の対象とする地方税法700条の3は,炭化水素油について,「炭化水素とその他の物との混合物又は単一の炭化水素で,1気圧において温度15度で液状であるものを含む」と規定しているが,そこにいう「炭化水素とその他の物との混合物」とは,炭化水素を主成分とする混合物に限らず,広く炭化水素とその他の物質とを混合した物質をいうものと解するのが相当である。
 1a.炭化水素の含有割合が33.7%ないし46.8%である自動車用燃料(ガイアックス)が「炭化水素とその他の物との混合物」に当たるとされた事例。
参照条文: /地方税.700条の3/
全 文 h180619supreme.html

最高裁判所 平成 18年 6月 16日 第2小法廷 判決 ( 平成16年(受)第672号,第673号 )
事件名:  損害賠償請求・上告事件
要 旨
 1.訴訟上の因果関係の立証は,一点の疑義も許されない自然科学的証明ではなく,経験則に照らして全証拠を総合検討し,特定の事実が特定の結果発生を招来した関係を是認し得る高度の蓋然性を証明することであり,その判定は,通常人が疑いを差し挟まない程度に真実性の確信を持ち得るものであることを必要とし,かつ,それで足りる。(先例の確認)
 1a.(経験則による因果関係の認定例)
 
 昭和61年から母子間感染阻止事業が開始された結果,同年生まれ以降の世代における新たな持続感染者の発生がほとんどみられなくなったことは,幼少児については,垂直感染を阻止することにより同世代の幼少児の水平感染も防ぐことができたことを意味し,このことは,一般に,幼少児については,集団予防接種等における注射器の連続使用によるもの以外は,家庭内感染を含む水平感染の可能性が極めて低かったことを示すものであり,このことと,本件において,原告らについて,本件集団予防接種等のほかには感染の原因となる可能性の高い具体的な事実の存在はうかがわれず,他の原因による感染の可能性は,一般的,抽象的なものにすぎないこと(原告らの家族の中には,過去にB型肝炎ウイルスに感染した者が存在するけれども,家族から感染した可能性が高いことを示す具体的な事実の存在はうかがわれない。)などを総合すると,原告らは,本件集団予防接種等における注射器の連続使用によってB型肝炎ウイルスに感染した蓋然性が高いというべきであり,経験則上,本件集団予防接種等と原告らの感染との間の因果関係を肯定するのが相当であるとされた事例。
 2.民法724条後段所定の除斥期間は,身体に蓄積する物質が原因で人の健康が害されることによる損害や,一定の潜伏期間が経過した後に症状が現れる疾病による損害のように,当該不法行為により発生する損害の性質上,加害行為が終了してから相当期間が経過した後に損害が発生する場合には,当該損害の全部又は一部が発生した時が起算点となる。
 2a.B型肝炎を発症したことによる損害は,その損害の性質上,加害行為が終了してから相当期間が経過した後に発生するものと認められるから,除斥期間の起算点は,加害行為(集団予防接種等)の時ではなく,損害の発生(B型肝炎の発症)の時というべきである。(集団予防接種等が行われた時期を起算点とした原判決が破棄された事例) /経験則による事実認定/自由心証主義/
参照条文: /民訴.247条/国賠.1条1項/国賠.4条/民法:724条/
全 文 h180616supreme.html

最高裁判所 平成 18年 6月 13日 第3小法廷 判決 ( 平成15年(行ヒ)第130号 )
事件名:  在外(韓)被爆者の健康管理手当支給停止処分取消請求・上告事件
要 旨
 長崎市長から被爆者健康手帳の交付を受けた外国人が母国に帰国した後に国に対して未払いの健康管理手当等の支払を請求したが、支払義務者は国ではないとして請求が棄却された事例。
 1.被爆者援護法等は,都道府県知事が機関委任事務として処理する健康管理手当の支給に要する費用は,当該都道府県が支弁する,すなわち債務者として支払うことを定めており,支給認定により具体的に発生し確定した支給請求権に基づく健康管理手当の支給については,支給認定をした長の所属する都道府県が受給権者に対しその支給義務を負うものであり,国がその支給義務を負うものではない。
 2.健康管理手当の支給認定を受けた被爆者に対する同手当の支給義務は,原則として支給認定をした長の所属する都道府県がこれを負い,その後の居住地の移転に伴い被爆者援護法等関連法令の定めるところにより新居住地の都道府県知事が実施機関となる場合には当該都道府県がこれを負うことになるが,日本国外への居住地の移転に伴い支給義務が他に移転する旨の定めはないのであるから,日本国外に居住地を移転した被爆者に対しては,従前支給義務を負っていた最後の居住地の都道府県が支給義務を負うものであって,国がその支給義務を負うものではない。 /原子爆弾/原爆/
参照条文: /被爆者援護.43条1項/原爆特別措置.10条/原爆特別措置.15条/地自.232条/地自.148条2項/地自.150条/国家行政組織.15条2項/
全 文 h180613supreme.html

最高裁判所 平成 18年 6月 12日 第1小法廷 判決 ( 平成16年(受)第1219号 )
事件名:  根抵当権抹消登記手続等請求・上告事件
要 旨
 銀行と建築会社の担当者が、銀行の顧客である原告の自己資金2億8770万円に借入金9000万円を加えた資金で,原告の所有地上にあった建物を取り壊し,自宅部分,賃貸部分及び店舗・事務所から成る建物を新たに建築し,建物の賃貸部分からの賃料収入を借入金の返済等に充てる計画を立案し、上記自己資金については,建物を建築した後,建物の敷地の北側に位置する土地のうち約80坪分を売却して調達することを前提にした経営企画書を作成して、これを原告に提案し、原告がこれに応じて銀行から融資を受け、建築会社との間で建物の設計契約及び建築請負契約を締結して建物が建築された場合に、容積率の制限のために北側土地には建物を建築することができないために予定した価格では売却することができないこと判明し、その結果原告の弁済計画が行き詰まり、建物と敷地に設定された根抵当権に基づく競売開始決定がなされた場合に、容積率の制限のために北側土地を予定した価格では売却できないことを認識しながらこれを原告に説明しなかった建築会社担当者について説明義務違反が認定され、銀行担当者については,北側土地の売却について銀行も取引先に働き掛けてでも確実に実現させる旨述べるなど特段の事情が認められるのであれば,北側土地の売却可能性を調査して原告に説明すべき信義則上の義務を肯認する余地があるとされた事例(説明義務を否定した原判決が破棄された事例)。
 1.一般に消費貸借契約を締結するに当たり,返済計画の具体的な実現可能性は借受人において検討すべき事柄であり,借受人の土地の売却が返済計画の内容となっている場合でも、融資を行う者には,その土地の売却の可能性について調査した上で借受人に説明すべき義務が当然にあるわけではないが、特段の事情があるときには、調査の上その説明をすべき信義則上の義務を肯認する余地がある。 /契約の成立過程における説明義務/
参照条文: /民法:1条2項/民法:415条/民法:587条/民法:632条/
全 文 h180612supreme.html

最高裁判所 平成 18年 6月 6日 第3小法廷 判決 ( 平成17年(受)第2058号 )
事件名:  保険金等支払請求・上告事件
要 旨
 車両の表面に傷が付けられたことが保険事故に該当するとして車両保険金の支払を請求する者は,事故の発生が被保険者の意思に基づかないものであることについて主張,立証すべき責任を負わないとされた事例。
 1.商法629条が損害保険契約の保険事故を「偶然ナル一定ノ事故」と規定したのは,損害保険契約は保険契約成立時においては発生するかどうか不確定な事故によって損害が生じた場合にその損害をてん補することを約束するものであり,保険契約成立時において保険事故が発生すること又は発生しないことが確定している場合には,保険契約が成立しないということを明らかにしたものと解すべきである。
 1a.自動車損害保険契約中の≪偶然な事故によって自動車に生じた損害に対して,自動車の所有者に保険金を支払います≫との趣旨の条項にいう「偶然な事故」を,商法629条にいう「偶然ナル」事故とは異なり,保険事故の発生時において事故が被保険者の意思に基づかないこと(保険事故の偶発性)をいうものと解することはできない。 /主張責任/立証責任/証明責任/損害保険/
参照条文: /商.629条/商.641条/民訴.1編4章/
全 文 h180606supreme.html

最高裁判所 平成 18年 6月 1日 第1小法廷 判決 ( 平成17年(受)第1206号 )
事件名:  損害賠償請求・上告事件
要 旨
 車両の水没が保険事故に該当するとしてこの条項に基づいて車両保険金の支払を請求する者は,事故の発生が被保険者の意思に基づかないものであることについて主張,立証すべき責任を負わないとされた事例。
 1.商法629条が損害保険契約の保険事故を「偶然ナル一定ノ事故」と規定したのは,損害保険契約は保険契約成立時においては発生するかどうか不確定な事故によって損害が生じた場合にその損害をてん補することを約束するものであり,保険契約成立時において保険事故が発生すること又は発生しないことが確定している場合には,保険契約が成立しないということを明らかにしたものと解すべきである。
 1a.「衝突,接触,墜落,転覆,物の飛来,物の落下,火災,爆発,盗難,台風,こう水,高潮その他偶然な事故によって保険証券記載の自動車に生じた損害に対して,被保険自動車の所有者に保険金を支払います。」との条項にいう「偶然な事故」を,商法の629条にいう「偶然ナル」事故(保険契約成立時においては発生するかどうか不確定な事故)とは異なり,保険事故の発生時において事故が被保険者の意思に基づかないこと(保険事故の偶発性)をいうものと解することはできないとされた事例。 /主張責任/立証責任/証明責任/挙証責任/
参照条文: /商.629条/商.641条/民訴.2編/
全 文 h180601supreme2.html

最高裁判所 平成 18年 6月 1日 第1小法廷 判決 ( 平成16年(行ヒ)第61号 )
事件名:  違法公金支出返還請求・上告事件
要 旨
 鎌倉市内に事務所を有する権利能力のない社団が,市が勧奨により退職し再就職した職員の給与の上乗せ分を業務委託費の名目で再就職先の外郭団体に対して支出したことが違法であると主張して,地方自治法242条の2第1項4号に基づき,市に代位して,市長の職にあった者に対し損害賠償を求めたが,平成11年9月24日までになされた当該支出並びにその原因となった支出負担行為及び支出命令から1年経過後である平成12年10月27日に住民監査請求がなされたことについて正当な理由がないとして,請求が棄却された事例。
 1.普通地方公共団体の住民が相当の注意力をもって調査を尽くしても客観的にみて監査請求をするに足りる程度に財務会計上の行為の存在又は内容を知ることができなかった場合には,地方自治法242条2項ただし書にいう正当な理由の有無は,特段の事情のない限り,住民が相当の注意力をもって調査すれば客観的にみて上記の程度に当該行為の存在及び内容を知ることができたと解される時から相当な期間内に監査請求をしたかどうかによって判断すべきである。(先例の確認)
 1a.鎌倉市が勧奨により退職し再就職した職員の給与の上乗せ分を業務委託費の名目で再就職先の外郭団体に対して支出したことが平成11年度から行われていたことが平成12年9月8日の市議会において明らかになり,それが翌日の新聞で報道され[以上は反対意見から],10月27日に監査請求がなされた事例において,平成12年4月28日付けの神奈川新聞が,市は職員が勧奨に応じて外郭団体に再就職した場合には退職時の給与月額を保証する制度を実施し,外郭団体に対し再就職した者の人件費の差額を補助していること,この制度により平成11年度において外郭団体に再就職した者がいることを報道していて,この報道を基に市の一般住民が相当の注意力をもって調査すれば客観的に見て監査請求をするに足りる程度にその対象とする財務会計上の行為の存在及び内容を知ることができたというべきであるとの理由により,この報道から6か月後になされた監査請求に地方自治法242条2項ただし書にいう正当な理由があるということはできないとされた事例。(反対意見あり)
参照条文: /地自.242条2項/地自.242-2条1項4号/
全 文 h180601supreme.html

最高裁判所 平成 18年 5月 16日 第3小法廷 決定 ( 平成15年(あ)第1348号 )
事件名:  わいせつ図画頒布,わいせつ図画販売,児童買春,児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律違反,わいせつ図画販売目的所持被告事件(上告事件)
要 旨
 児童ポルノの原画像ファイルを加工したファイルをハードディスクに保存し,それを販売用コンパクトディスクに複写して販売していた者が,加工前のデータをバックアップ用に光磁気ディスクに保存していた場合には,その光磁気ディスクの製造,所持は,児童買春,児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律7条2項にいう「前項に掲げる行為の目的」のうちの児童ポルノを販売する目的で行われたものであり,その所持は,刑法175条後段にいう「販売の目的」で行われたものということができる。
参照条文: /児童買春ポルノ.7条2項/刑.175条/
全 文 h180516supreme91.html

最高裁判所 平成 18年 4月 25日 第3小法廷 判決 ( 平成16年(行ヒ)第86号、第87号 )
事件名:  所得税更正処分等取消請求・上告事件
要 旨
 1.納税者以外の者が隠ぺい仮装行為を行った場合であっても,それが納税者本人の行為と同視することができるときには,形式的にそれが納税者自身の行為でないというだけで重加算税の賦課が許されないわけではない。
 1a.納税者において税理士が隠ぺい仮装行為を行うこと若しくは行ったことを認識し,又は容易に認識することができ,法定申告期限までにその是正や過少申告防止の措置を講ずることができたにもかかわらず,納税者においてこれを防止せずに隠ぺい仮装行為が行われ,それに基づいて過少申告がされたときには,隠ぺい仮装行為を納税者本人の行為と同視することができ,重加算税を賦課することができる。
 1b.税理士の選任又は監督につき納税者に何らかの落ち度があるというだけで,当然に税理士による隠ぺい仮装行為を納税者本人の行為と同視することができるとはいえない。
 1c.国税局に勤務していた税理士が,税務署職員と共謀して架空経費を計上した内容虚偽の納税申告書を作成,提出して過少申告を行った場合に,税理士が適法に確定申告手続を行うものと信頼して委任した納税者において,税理士の不正行為を容易に認識し得たというべき事情もうかがわれないので,税理士の不正行為をもって納税者本人の行為と同視することはできず,国税通則法68条1項所定の重加算税賦課の要件を満たすものということはできないとされた事例。
 2.国税通則法70条5項は,納税者本人が偽りその他不正の行為を行った場合に限られず,納税者から申告の委任を受けた者が偽りその他不正の行為を行い,これにより納税者が税額の全部又は一部を免れた場合にも適用される。(先例の確認)
 2a.国税通則法70条5項の適用範囲は,偽りその他不正の行為によって免れた税額に相当する部分のみに限られるものではなく,同項により本来の期間を超えて7年に延長された除斥期間において更正をする場合,偽りその他不正の行為により全部又は一部の税額を免れた当該国税の全部が更正の対象となるものである。(先例の確認)
 2b.偽りその他不正の行為により免れた税額に相当する部分について修正申告がされたとしても,当該年分の当該国税に更正すべき税額があるときは,延長された除斥期間内であれば,なお更正をすることができるとされた事例。
 3.国税通則法65条4項にいう「正当な理由があると認められる」場合とは,真に納税者の責めに帰することのできない客観的な事情があり,上記のような過少申告加算税の趣旨に照らしても,なお,納税者に過少申告加算税を賦課することが不当又は酷になる場合をいう。
 3a.税理士に必要な納税資金を提供していた納税者の想像を超えて税理士が不正行為をして脱税を図り,しかも確定申告書を受理した税務署の職員が,収賄の上,不正行為に積極的に共謀加担した事実が認められ場合に,国税通則法65条4項にいう「正当な理由」が認められた事例。
参照条文: /国税通則.68条1項/国税通則.65条4項/国税通則.70条5項/
全 文 h180425supreme1.html

最高裁判所 平成 18年 4月 25日 第3小法廷 判決 ( 平成16年(行ヒ)第312号 )
事件名:  公金支出差止請求・上告事件
要 旨
 東京都羽村市の住民が提起した市を被告とする公金支出差止請求及び元市長に対する公金額相当額等の損害賠償請求訴訟において,予めなされるべき監査請求が対象の特定性を欠く不適法なものであったとして訴えを却下した第一審判決を正当とした控訴審判決が破棄され,第一審判決の取消しと第一審への差戻しの自判がなされた事例。
 1.住民監査請求においては,その対象とする財務会計上の行為又は怠る事実が他の事項から区別し特定して認識することができるように個別的,具体的に摘示されていることを要するが,その特定の程度としては,監査請求書及びこれに添付された事実を証する書面の各記載,監査請求人が提出したその他の資料等を総合して,住民監査請求の対象が特定の当該行為であることを監査委員が認識することができる程度に摘示されているのであれば,これをもって足り,上記の程度を超えてまで当該行為を個別的,具体的に摘示することを要するものではない。
 1a.地方公共団体が特定の事業を実施する場合に,当該事業の実施が違法又は不当であり,これにかかわる経費の支出全体が違法又は不当であるとして住民監査請求をするときは,通常,当該事業を特定することにより,これにかかわる複数の経費の支出を個別に摘示しなくても,対象となる当該行為とそうでない行為との識別は可能であるし,当該事業にかかわる経費の支出がすべて違法又は不当であるという以上,これらを一体として違法性又は不当性を判断することが可能かつ相当ということができる。(肯定例)
 1b.当該行為を防止するために必要な措置を求める場合には,当該行為が行われることが相当の確実さをもって予測されるか否かの点についての判断が可能である程度に特定されていることも必要になるが,当該事業を特定することによってこの点を判断することも可能であるときは,当該事業にかかわる個々の支出を一つ一つ個別具体的に摘示しなくても,住民監査請求の対象の特定が欠けることにはならない。(肯定例)
参照条文: /地自.242条/地自.242-2条/民訴.326条/民訴.307条/
全 文 h180425supreme.html

最高裁判所 平成 18年 4月 24日 第3小法廷 決定 ( 平成18年(し)第82号 )
事件名:  再審請求棄却決定に対する即時抗告棄却決定に対する即時抗告棄却決定に対する特別抗告事件
要 旨
 再審請求を棄却する決定に対して法定期間経過後に即時抗告が提起された場合に、再審請求を棄却した裁判所が刑訴法375条を類推適用してその即時抗告を棄却することは違法であるが、その即時抗告棄却決定を取り消さなければ著しく正義に反するとまでは認められないとされた事例。
 1.抗告については,控訴に関する刑訴法375条に相応する規定がなく,即時抗告の申立てを受理した裁判所が,同条を類推適用してその申立てを自ら棄却することはできない。
参照条文: /刑訴.375条/刑訴.450条/
全 文 h180424supreme91.html

最高裁判所 平成 18年 4月 20日 第1小法廷 判決 ( 平成17年(行ヒ)第9号 )
事件名:  所得税更正処分等取消,国家賠償請求・上告事件
要 旨
 静岡県の住民が食料費の支出に関する公文書の公開を請求したところ,一部非開示の決定がなされたため,その取消訴訟が提起され,取消請求を認容する判決が確定した後で,開示請求者が知事を被告にして,知事及び県財政課の担当職員が虚偽の公文書作成及び違法な公金支出の事実を隠ぺいする目的で一部非開示の判断をしたこと並びにこの一部非開示決定の取消訴訟に知事が応訴したことなどが国家賠償法上違法な行為であると主張して,慰謝料並びに前記取消訴訟及び本訴に関して支出した弁護士費用相当額等の賠償を請求したが,非開示部分に虚偽の記載があることを県財政課の担当職員が認識していたとはいえないし,記載内容の真否の調査をしなかったことについて過失があったともいえないとして,請求が棄却された事例。
 1.条例に基づく公文書の非開示決定に取り消し得べき瑕疵があるとしても,そのことから直ちに国家賠償法1条1項にいう違法があったとの評価を受けるものではなく,公務員が職務上通常尽くすべき注意義務を尽くすことなく漫然と上記決定をしたと認め得るような事情がある場合に限り,上記評価を受ける。(先例の確認)
 1a.開示請求に係る公文書の記載内容の真否を調査すべき旨の定めがなく,かえって,公文書の開示の可否は原則として15日以内に決定しなければならないと定められている静岡県公文書の開示に関する条例(平成元年静岡県条例第15号)に基づく開示請求に対して,県財政課の職員が,請求に係る多数の文書の記載内容の真否の調査を行わずに虚偽記載部分についても非開示の判断をしたことが,職務上通常尽くすべき注意義務を怠ったものということはできないとされた事例。(補足意見と反対意見あり)
 2.県における食糧費をめぐる初めての情報公開訴訟に対して,他の訴訟対象文書と共通の争点が含まれているため,知事らが司法の最終判断を求めるべく応訴した場合に,訴訟において知事らが虚偽の主張立証をしたこともうかがわれないことも勘案すると,非開示決定を取り消すことなく応訴したことが,裁判制度の趣旨目的に照らして著しく相当性を欠き,国家賠償法上違法な行為ということはできないとされた事例。 /情報公開/公文書公開/
参照条文: /静岡県公文書の開示に関する条例(平成元年静岡県条例第15号)5条/静岡県公文書の開示に関する条例(平成元年静岡県条例第15号)9条/国賠.1条1項/
全 文 h180420supreme.html

最高裁判所 平成 18年 4月 20日 第1小法廷 判決 ( 平成17年(行ヒ)第9号 )
事件名:  所得税更正処分等取消,国家賠償請求・上告事件
要 旨
 税理士が納税者から交付された納税資金を詐取するために隠ぺい仮装行為をして脱税をしたが、脱税の意図のない高齢の納税者がそのことを予想するし得なかった場合に,税務署職員や長男から税額は800万円程度と言われながら,これが550万円で済むとの税理士の言葉を信じて,それ以上の調査,確認をすることも,確定申告書の内容をあらかじめ確認することもせず,また確定申告書の控えや納税に係る領収書等の交付を同税理士に要求したり,申告について税務署に問い合わせたりはしなかったという納税者の落ち度が見受けられ,他方,確定申告書を受理した税務署の職員が税理士による脱税行為に加担した事実は認められないという事実関係の下において,(α)税理士の隠ぺい仮装行為をもって納税者本人の行為と同視することはできず,国税通則法68条1項所定の重加算税賦課の要件を満たすものということはできないとされたが、他方、(β)過少申告加算税の趣旨に照らしてもなお納税者に過少申告加算税を賦課することが不当又は酷になるものとまでは認めることはできず,国税通則法65条4項にいう「正当な理由」があると認めることはできないとされた事例。
 1.納税者が税理士に納税申告の手続を委任した場合に,納税者において当該税理士が隠ぺい仮装行為を行うこと若しくは行ったことを認識し,又は容易に認識することができ,法定申告期限までにその是正や過少申告防止の措置を講ずることができたにもかかわらず,納税者においてこれを防止せずに隠ぺい仮装行為が行われ,それに基づいて過少申告がされたときには,当該隠ぺい仮装行為を納税者本人の行為と同視することができ,重加算税を賦課することができる。
 1a.他方,当該税理士の選任又は監督につき納税者に何らかの落ち度があるというだけで,当然に当該税理士による隠ぺい仮装行為を納税者本人の行為と同視することができるとはいえない。
 2.過少申告加算税は,過少申告による納税義務違反の事実があれば,原則としてその違反者に対し課されるものであり,これによって,当初から適法に申告し納税した納税者との間の客観的不公平の実質的な是正を図るとともに,過少申告による納税義務違反の発生を防止し,適正な申告納税の実現を図り,もって納税の実を挙げようとする行政上の措置であり,主観的責任の追及という意味での制裁的な要素は重加算税に比して少ないものである。
 2a.過少申告加算税の趣旨に照らせば,国税通則法65条4項にいう「正当な理由があると認められる」場合とは,真に納税者の責めに帰することのできない客観的な事情があり,上記のような過少申告加算税の趣旨に照らしても,なお,納税者に過少申告加算税を賦課することが不当又は酷になる場合をいうものと解するのが相当である。
参照条文: /国税通則.65条4項/国税通則.68条1項/
全 文 h180420supreme2.html

最高裁判所 平成 18年 4月 20日 第1小法廷 判決 ( 平成15年(行ヒ)第217号 )
事件名:  所得税更正処分等取消請求・上告事件
要 旨
 土地改良区内の農地が転用目的で売り渡される場合に,売主が土地改良区に支払うべき決済金が所得税法の土地の譲渡費用に当たるとされた事例。
 1.譲渡所得に対する課税は,資産の値上がりによりその資産の所有者に帰属する増加益を所得として,その資産が所有者の支配を離れて他に移転するのを機会に,これを清算して課税する趣旨のものであるが,所得税法上,抽象的に発生している資産の増加益そのものが課税の対象となっているわけではなく,原則として,資産の譲渡により実現した所得が課税の対象となっている。(前提の議論)
 2.資産の譲渡に当たって支出された費用が所得税法33条3項にいう譲渡費用に当たるかどうかは,一般的,抽象的に当該資産を譲渡するために当該費用が必要であるかどうかによって判断するのではなく,現実に行われた資産の譲渡を前提として,客観的に見てその譲渡を実現するために当該費用が必要であったかどうかによって判断すべきである。
 2a.土地改良区内の農地が転用目的で売り渡される場合に,土地改良法42条2項及びこれを受けて制定された本件処理規程により売主が支払わなければならない決済金は,客観的に見て売買契約に基づく土地の譲渡を実現するために必要であった費用に当たり,土地の譲渡費用に当たるとされた事例。
 2b.ただし,決済金の中に土地を転用目的で譲渡するか否かにかかわらず決済の時点で既に支払義務が発生していた賦課金等の未納入金が含まれていた場合には,上記未納入金に係る部分は土地の譲渡費用に当たらないされた事例。
 2c.農地の売主が施設等使用負担金として支払った協力金等は,土地の譲渡費用に当たるとされた事例。
参照条文: /所得税.33条3項/土地改良.42条/
全 文 h180420supreme3.html

最高裁判所 平成 18年 4月 18日 第3小法廷 判決 ( 平成15年(受)第723号 )
事件名:  賃金支払請求・上告事件
要 旨
 生コンの製造販売業者が労働者の怠業行為により受注額が激減し資金繰りが悪化したため賃金負担による損害を免れるために行ったロックアウトが,労使の交渉態度,経過に関する具体的事情に照らし,衡平の見地からみて,争議行為に対する対抗防衛手段として相当と認められ,ロックアウト期間中の賃金についての労働者からの支払請求が棄却された事例。
 1.個々の具体的な労働争議の場において,労働者の争議行為により使用者側が著しく不利な圧力を受けることになるような場合には,衡平の原則に照らし,労使間の勢力の均衡を回復するための対抗防衛手段として相当性を認められる限りにおいては,使用者の争議行為も正当なものとして是認されると解すべきであり,使用者のロックアウトが正当な争議行為として是認されるかどうかも,上記に述べたところに従い,個々の具体的な労働争議における労使間の交渉態度,経過,組合側の争議行為の態様,それによって使用者側の受ける打撃の程度等に関する具体的諸事情に照らし,衡平の見地からみて労働者側の争議行為に対する対抗防衛手段として相当と認められるかどうかによってこれを決すべきである。(先例の確認)
 1a.使用者のロックアウトに対抗防衛手段としての相当性を認めることができる場合には,使用者は,ロックアウトの期間中における対象労働者に対する個別的労働契約上の賃金支払義務を免れる。(先例の確認)
参照条文: /憲.28条/労基.26条/民法:623条/
全 文 h180418supreme.html

最高裁判所 平成 18年 4月 18日 第3小法廷 判決 ( 平成16年(受)第1147号 )
事件名:  損害賠償請求・上告事件
要 旨
 冠状動脈バイパス手術を受けた患者が術後に腸管え死となって死亡した場合に,術後管理を担当する医師が,腸管え死の発生している可能性が高いと診断した上で,直ちに開腹手術を実施し,腸管にえ死部分があればこれを切除すべき注意義務があったのにこれを怠り,対症療法を行っただけで,経過観察を続けたことには過失があるとして,過失を否定した原判決を破棄し,注意義務違反と患者の死亡との間の因果関係の有無等について審理を尽くさせるために事件を差し戻した事例。 /診断義務/開腹手術実施義務/事実評価/医学的知見/
参照条文: /民法:709条/民法:415条/
全 文 h180418supreme2.html

最高裁判所 平成 18年 4月 14日 第2小法廷 判決 ( 平成16年(受)第519号 )
事件名:  損害賠償等請求本訴,請負代金等請求反訴・上告事件
要 旨
 注文者の瑕疵修補に代わる損害賠償請求に対して、被告が請負代金債権の反訴を提起し、その後に反訴請求債権をもって本訴において相殺の抗弁を提出した場合に、この相殺の抗弁は適法であり、反訴は予備的反訴に変更されたと認められた事例。
 1.本訴及び反訴が係属中に,反訴請求債権を自働債権とし,本訴請求債権を受働債権として相殺の抗弁を主張することは禁じられない。
 1a.この場合においては,反訴原告において異なる意思表示をしない限り,反訴は,反訴請求債権につき本訴において相殺の自働債権として既判力ある判断が示された場合にはその部分については反訴請求としない趣旨の予備的反訴に変更されることになるものと解するのが相当である。
 1b.上記の訴えの変更は,本訴,反訴を通じた審判の対象に変更を生ずるものではなく,反訴被告の利益を損なうものでもないから,書面によることを要せず,反訴被告の同意も要しない。
 2.注文者の瑕疵修補に代わる損害賠償債権と請負人の請負代金債権とは民法634条2項により同時履行の関係に立つから,契約当事者の一方は,相手方から債務の履行又はその提供を受けるまで自己の債務の全額について履行遅滞による責任を負うものではなく,請負人が請負代金債権を自働債権として瑕疵修補に代わる損害賠償債権と相殺する旨の意思表示をした場合,請負人は,注文者に対する相殺後の損害賠償残債務について,相殺の意思表示をした日の翌日から履行遅滞による責任を負う。 /重複起訴の禁止/
参照条文: /民事訴訟法:142条;146条;114条2項;261条2項/民法:634条/
全 文 h180414supreme2.html

最高裁判所 平成 18年 4月 11日 第3小法廷 判決 ( 平成14年(受)第1358号,1359号 )
事件名:  保険金引渡請求・上告事件
要 旨
 会社が,その従業員の死亡について従業員の周知・同意を得ることなく6000万円を超える高額の団体定期保険を掛けたが,死亡した従業員の遺族に社内規定に基づいて退職金等として支払われた金額が1000万円前後であったため,遺族が残額の保険金の引渡を請求した場合に,原審が,生命保険会社と会社との間の協定書等において団体定期保険契約の目的を明確にし,保険金の全部又は一部を社内規定に基づいて遺族等に支払う給付に充当することが確約されていたことをもって,保険契約者である会社と保険会社との間で社会的に相当な金額に満つるまでの額を被保険者の遺族に対する給付として充当する旨の合意がなされた認定し,これは第三者のためにする契約にあたるから被保険者又はその遺族が受益の意思表示をしたときは保険契約者に対する給付請求権を取得すると判断したのに対し,上告審が,そのような合意の成立の認定判断は経験則に反するとして,原判決を破棄した事例。
 1.会社が,団体定期保険の本来の目的に照らし,保険金の全部又は一部を社内規定に基づく給付に充当すべきことを認識し,そのことを生命保険会社に確約していたからといって,このことは,社内規定に基づく給付額を超えて死亡時給付金を遺族等に支払うことを約したなどと認めるべき根拠となるものではなく,また,会社が,死亡従業員の遺族に支払うべき死亡時給付金が社内規定に基づく給付額の範囲内にとどまることは当然のことと考え,そのような取扱いに終始していたような本件の事実関係の下で,会社が,社内規定に基づく給付額を超えて,受領した保険金の全部又は一部を遺族に支払うことを合意したと認定判断することは,経験則に反する。 /事実認定/自由心証主義/
参照条文: /商.674条1項/民法:537条/民訴.247条/民訴.321条1項/
全 文 h180411supreme.html

最高裁判所 平成 18年 4月 10日 第2小法廷 判決 ( 平成15年(受)第1154号 )
事件名:  損害賠償請求・上告事件
要 旨: 株主代表訴訟において、取締役の忠実義務・善管注意義務違反の責任、及び株主に対する利益供与の禁止規定違反の責任が肯定された事例。
 1.証券取引所に上場され,自由に取引されている株式について,暴力団関係者等会社にとって好ましくないと判断される者がこれを取得して株主となることを阻止することはできないのであるから,会社経営者としては,そのような株主から,株主の地位を濫用した不当な要求がされた場合には,法令に従った適切な対応をすべき義務を有する。
 1a.大株主の恐喝的言動に対して,警察に届け出るなどの適切な対応をすることが期待できないような状況にあったということはできないから,当該大株主の理不尽な要求に従って約300億円という巨額の金員を当該大株主の関係会社に交付することを提案し又はこれに同意した取締役らの行為について,過失を否定することはできないとして、忠実義務,善管注意義務違反(商法266条1項5号)の責任が肯定された事例。
 2.会社から見て好ましくないと判断される株主が議決権等の株主の権利を行使することを回避する目的で,当該株主から株式を譲り受けるための対価を何人かに供与する行為は,商法266条1項2号にいう「株主ノ権利ノ行使ニ関シ」利益を供与する行為というべきである。
 2a.暴力団関係者の会社に株式を譲渡したとの大株主Aの言説を信じた取締役らが、暴力団関係者が自社の大株主として経営等に干渉する事態となることを恐れ,これを回避する目的で,株式の買戻しを受けるため,約300億円というおよそ正当化できない巨額の金員を,う回融資の形式を取ってAに供与したことは,商法294条ノ2第1項にいう「株主ノ権利ノ行使ニ関シ」されたものであるとされた事例。
参照条文: /商.266条/商.267条/
全 文 h180410supreme.html

最高裁判所 平成 18年 3月 31日 第3小法廷 決定 ( 平成17年(あ)第2113号 )
事件名:  わいせつ略取,強盗強姦,強盗強姦未遂,窃盗,道路運送車両法違反,強姦未遂,強姦,わいせつ略取誘拐被告事件(上告事件)
要 旨
 併合罪の関係にある複数の犯罪事実の一部についてのみ勾留が行われた場合に,勾留されていない事実に係る罰金刑に,他の事実に係る未決勾留日数を算入したことが適法とされた事例。
 1.刑法21条は,裁判所が未決勾留日数の全部又は一部を刑に算入するのが相当であると認める場合に,勾留事実に係る罪に対する刑に算入するのを原則とし,この原則によるのが相当でないと認められる特段の合理的理由があるときには,非勾留事実に係る罪に対する刑に算入することも許す趣旨と解するのが相当である。
 1a.勾留事実に係る罪を含む併合罪関係にある数罪についての刑に未決勾留日数を算入する限り,上記原則に従ったものであり,この理は,懲役刑に罰金刑を併科するものであるときでも異なるものではない。
参照条文: /刑.21条/刑.45条/
全 文 h180831supreme91.html

最高裁判所 平成 18年 3月 30日 第1小法廷 判決 ( 平成17年(受)第1628号 )
事件名:  損害賠償請求・上告事件
要 旨
 1.自動車損害賠償保障法16条1項に基づいて被害者が保険会社に対して損害賠償額の支払を請求する訴訟において,裁判所は,16条の3第1項が規定する支払基準によることなく損害賠償額を算定して支払を命じることができる。
 1a.自動車損害賠償保障法16条の3第1項が規定する支払基準は,保険会社が訴訟外で保険金等を支払う場合に従うべき基準にすぎない。
参照条文: /自賠.16条/自賠.16-3条/
全 文 h180330supreme.html

最高裁判所 平成 18年 3月 30日 第1小法廷 判決 ( 平成17年(受)第364号 )
事件名:  建築物撤去等請求・上告事件
要 旨
 国立市の「大学通り」と称される街路の景観が、それに面する建物の高さが低くなっていることも一因となって良好である場合に、その街路の末端付近に最高点の高さが43.65mの集合住宅を建築されようとしたため、その建物の周辺に居住する住民やその街路に面する土地に学校を設置・運営している学校法人等が、建物の建築主たる会社等に対して、景観権ないし景観利益の侵害を理由に建物のうち20mを超える部分の撤去及び慰謝料等を求める訴えを提起したところ、住民が景観利益を有することは肯定されたが、建物の建築が原告らの景観利益を違法に侵害する行為に当たるということはできないとして、請求が棄却された事例。
 1.良好な景観に近接する地域内に居住し,その恵沢を日常的に享受している者は,良好な景観が有する客観的な価値の侵害に対して密接な利害関係を有するものというべきであり,これらの者が有する良好な景観の恵沢を享受する利益(景観利益)は,法律上保護に値する。
 2.景観利益の内容は,景観の性質,態様等によって異なり得るものであるし,社会の変化に伴って変化する可能性のあるものでもあるところ,現時点においては,私法上の権利といい得るような明確な実体を有するものとは認められず,景観利益を超えて「景観権」という権利性を有するものを認めることはできない。
 3.建物の建築が第三者に対する関係において景観利益の違法な侵害となるかどうかは,被侵害利益である景観利益の性質と内容,当該景観の所在地の地域環境,侵害行為の態様,程度,侵害の経過等を総合的に考察して判断すべきである。
 3a.ある行為が景観利益に対する違法な侵害に当たるといえるためには,少なくとも,その侵害行為が刑罰法規や行政法規の規制に違反するものであったり,公序良俗違反や権利の濫用に該当するものであるなど,侵害行為の態様や程度の面において社会的に容認された行為としての相当性を欠くことが求められる。(相当性を欠くとは認められなかった事例)
参照条文: /景観.2条/民法:709条/
全 文 h180330supreme2.html

最高裁判所 平成 18年 3月 28日 第3小法廷 判決 ( 平成17年(受)第1751号 )
事件名:  損害賠償等請求・上告事件
要 旨
 胎児を宿している母の運転中の自動車(被害車両)が交通事故に遭い,出生した胎児に重大な後遺症が生じたが,加害車両が無保険自動車である場合に,胎児に生じた損害は,被害車両に付されていた自動車総合保険契約中の無保険車傷害条項の定める被保険者のうちの「記名被保険者又はその配偶者の同居の親族」に生じた傷害及び後遺障害による損害に準ずるとして,保険会社に保険金の支払いが命じられた事例。
 1.民法721条により,胎児は,損害賠償の請求権については,既に生まれたものとみなされるから,胎児である間に受けた不法行為によって出生後に傷害が生じ,後遺障害が残存した場合には,それらによる損害については,加害者に対して損害賠償請求をすることができる。
 1a.本件無保険車傷害条項付保険契約は,賠償義務者が賠償義務を負う損害はすべて保険金によるてん補の対象となるとの意思で締結されたものと解するのが相当であるされた事例。
参照条文: /民法:721条/
全 文 h180328supreme.html

最高裁判所 平成 18年 3月 28日 第3小法廷 判決 ( 平成15年(受)第1099号 )
事件名:  解雇無効確認等請求・上告事件
要 旨
 1.使用者の責めに帰すべき事由によって解雇された労働者が解雇期間中に他の職に就いて利益(中間利益)を得たときは,使用者は,労働者に解雇期間中の賃金を支払うに当たり中間利益の額を賃金額から控除することができるが,上記賃金額のうち労働基準法12条1項所定の平均賃金の6割に達するまでの部分については利益控除の対象とすることは許されない。
 1a.使用者が労働者に対して負う解雇期間中の賃金支払債務の額のうち平均賃金額の6割を超える部分から中間利益の額を控除することは許され,中間利益の額が平均賃金額の4割を超える場合には,更に平均賃金算定の基礎に算入されない賃金(労働基準法12条4項所定の賃金)の全額を対象として利益額を控除することが許される。(先例の確認)
参照条文: /労基.26条/労基.12条/民法:536条2項/
全 文 h180328supreme2.html

最高裁判所 平成 18年 3月 28日 第3小法廷 判決 ( 平成16年(オ)第1365号 )
事件名:  損害賠償請求・上告事件
要 旨
 1.旭川市介護保険条例に低所得者に対して配慮した規定が置かれていること,また,介護保険制度が国民の共同連帯の理念に基づき設けられたものであることにかんがみると,同条例が,介護保険の第1号被保険者のうち,生活保護法6条2項に規定する要保護者で地方税法295条により市町村民税が非課税とされる者について,一律に保険料を賦課しないものとする旨の規定又は保険料を全額免除する旨の規定を設けていないとしても,それが著しく合理性を欠くということはできないし,また,経済的弱者について合理的な理由のない差別をしたものということはできないから,同条例が上記の規定を設けていないことは,憲法14条,25条に違反しない。
 2.介護保険法135条の規定による介護保険の第1号被保険者の保険料についての特別徴収の制度は,著しく合理性を欠くということはできないし,経済的弱者を合理的な理由なく差別したものではないから,憲法14条,25条に違反しない。
 3.介護保険法129条2項は,介護保険の第1号被保険者に対して課する保険料の料率を,政令で定める基準に従い条例で定めるところにより算定する旨を規定し,具体的な保険料率の決定を,同条3項の定め及び介護保険法施行令38条所定の基準に従って制定される条例の定めるところにゆだねたのであって,保険者のし意を許容したものではないから,憲法84条の趣旨に反するということはできない。
参照条文: /介護保険.129条/介護保険.135条/介護保険.1条/憲.14条/憲.25条/憲.84条/
全 文 h180328supreme3.html

最高裁判所 平成 18年 3月 28日 第3小法廷 判決 ( 平成15年(行ツ)第202号 )
事件名:  滞納処分取消請求・上告事件
要 旨
 1.農業災害補償法に基づく共済掛金及び賦課金には,憲法84条の趣旨が及ぶ。
 2.共済掛金及び賦課金の賦課に関する農業災害補償法の規定は,憲法84条の趣旨に反しない。
参照条文: /憲.84条/農業災害補償.43条/農業災害補償.45-2条/農業災害補償.86条/農業災害補償.87条/農業災害補償.107条/
全 文 h180328supreme4.html

最高裁判所 平成 18年 3月 27日 第1小法廷 決定 ( 平成17年(あ)第2091号 )
事件名:  暴行,逮捕監禁致死被告事件(上告事件)
要 旨
 被害者の死亡原因が直接的には追突事故を起こした第三者の甚だしい過失行為にあるとしても,道路上で停車中の普通乗用自動車後部のトランク内に被害者を監禁した本件監禁行為と被害者の死亡との間の因果関係を肯定することができるとされた事例。
参照条文: /刑.221条/
全 文 h180327supreme91.html

最高裁判所 平成 18年 3月 23日 第1小法廷 判決 ( 平成15年(オ)第422号,平成15年(受)第428号 )
事件名:  損害賠償請求・上告事件
要 旨
 受刑者の新聞社への信書の発信を刑務所長が不許可にしたことが違法であるとされた事例。
 1.表現の自由を保障した憲法21条の規定の趣旨,目的にかんがみると,受刑者のその親族でない者との間の信書の発受は,受刑者の性向,行状,監獄内の管理,保安の状況,当該信書の内容その他の具体的事情の下で,これを許すことにより,監獄内の規律及び秩序の維持,受刑者の身柄の確保,受刑者の改善,更生の点において放置することのできない程度の障害が生ずる相当のがい然性があると認められる場合に限って,これを制限することが許されるものというべきであり,その場合においても,その制限の程度は,上記の障害の発生防止のために必要かつ合理的な範囲にとどまるべきものと解するのが相当である。
 1a.監獄法46条2項は,その文言上は,特に必要があると認められる場合に限って上記信書の発受を許すものとしているようにみられるけれども,上記信書の発受の必要性は広く認められ,上記要件及び範囲でのみその制限が許されることを定めたものと解するのが相当であり,したがって,同項が憲法21条,14条1項に違反するものでない。(先例の確認)
 2.懲役18年の刑を受けて刑務所に収容されている者が,国会議員2名あてに「受刑者処遇の在り方の改善のための獄中からの請願書」を送付し,熊本地方検察庁あてに熊本刑務所職員等についての告訴告発状を送付した後,これらの文書の内容についての取材,調査及び報道を求める旨の内容を記載した新聞社あての手紙の発信の許可を熊本刑務所長に求めたところ,刑務所長が受刑者のその親族でない者との間の信書の発受は特に必要があると認められる場合に限って許されるべきものであると解した上で,この信書の発信については,権利救済又は不服申立て等のためのものであるとは認められず,その必要性も認められないと判断して,これを不許可としたことが,監獄法46条2項の規定の適用上違法であるのみならず,国家賠償法1条1項の規定の適用上も違法であるとして,国に1万円の損害賠償が命じられた事例。 /通信の自由/表現の自由/
参照条文: /憲.21条/憲.14条1項/監獄.46条2項/国賠.1条1項/
全 文 h180323supreme2.html

最高裁判所 平成 18年 3月 23日 第1小法廷 判決 ( 平成15年(受)第1886号 )
事件名:  工作物撤去等請求・上告事件
要 旨
 幅員4mの私道(本件道路)に面している土地の所有者の一部の者(被告ら)が、私道の内の自己の所有地部分(本件土地)と他の土地との境界線上にブロック塀を設置する等して軽自動車よりも大きい普通自動車の通行を妨げた場合に、本件道路に面する他の土地上に建物を所有して住居を有している者(原告ら)が、本件道路が建築基準法42条2項の道路であると主張して,通行の自由権(人格権的権利)に基づく妨害排除請求として,ブロック塀等の工作物の撤去を求めたところ、被告らが,本件道路は基準時である昭和29年5月当時に建築法42条2項の要件を満たしていなかったと主張して,本件私道が2項道路であるとの主張を争った事案において、被告らが自宅建物を建築する際に,本件道路が2項道路であることを前提に建築確認を得,本件土地に幅員4mの道路を開設したというのであるから,本件道路は,被告らの建物のみならず,その周辺に存する建物やその居住者の安全等にも寄与することが求められているものというべきであり、さらに、本件土地は公衆用道路として非課税とされていることも考慮すると,被告らが,現に建物を所有しながら本件道路が2項道路であることを否定することは,本件道路周辺の建物所有者等との関係において著しく正義に反し,本件道路が2項道路であることを否定する趣旨の主張をすることは,信義則上許されないとされた事例。
参照条文: /建築基準.42条2項/
全 文 h180323supreme.html

最高裁判所 平成 18年 3月 17日 第2小法廷 判決 ( 平成17年(テ)第21号 )
事件名:  貸金等請求・特別上告事件
要 旨
 特別上告において主張された理由の実質が単なる法令違反(貸金業法18条・43条の解釈適用の誤り)である場合に、最高裁判所が原審及び原々審の判断の当否を職権で判断し、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反があることを理由に原判決を破棄して、事件を原々審に差し戻した事例。
 1.貸金業法18条1項所定の書面の記載事項に関する内閣府令の規定(施行規則15条2項)のうち,弁済を受けた債権に係る貸付けの契約を契約番号その他により明示することをもって同法18条1項1号から3号までに掲げる事項の記載に代えることができる旨定めた部分は,他の事項の記載をもって法定事項の一部の記載に代えることを定めたものであるから,法の委任の範囲を逸脱した違法な規定として無効と解すべきである。(先例の確認)
 2.期限の利益喪失特約のうち,債務者が支払期日に利息制限超過部分の支払を怠った場合に期限の利益を喪失するとする部分は,利息制限法1条1項の趣旨に反して無効であり,債務者は,支払期日に約定の元本及び利息の制限額を支払いさえすれば,制限超過部分の支払を怠ったとしても,期限の利益を喪失することはない。
 2a.制限超過部分の支払遅滞をも期限の利益の喪失事由とする特約の下で,債務者が,利息として,利息の制限額を超える額の金銭を支払った場合には,特段の事情のない限り,債務者が自己の自由な意思によって制限超過部分を支払ったものということはできない。(先例の確認)
参照条文: /民訴.327条/民訴.322条/貸金業.18条/貸金業./貸金業.43条/利息制限1条/
全 文 h180317supreme2.html

最高裁判所 平成 18年 3月 17日 第2小法廷 判決 ( 平成16年(受)第1968号 )
事件名:  地位確認等請求・上告事件
要 旨
 1.沖縄県のある部落における,古来「杣山」と呼称される林野に立ち入って薪を採取したり材木を伐採することなどを内容とし,第2次世界大戦後は駐留軍の用に供するために使用されることの対価としての賃料の分配を受けることも内容とする入会権の帰属を規律する慣習の内で,各世帯の構成員の人数にかかわらず各世帯の代表者にのみ入会権者の地位を認める部分(世帯主要件)は,入会団体の団体としての統制の維持という点からも,入会権行使における各世帯間の平等という点からも,不合理ということはできず,現在においても,公序良俗に反するものということはできないとされた事例。
 2.入会権者の資格を原則として男子孫に限り,部落民以外の男性と婚姻した女子孫は離婚して旧姓に復しない限り入会権者の資格を認めないとする部分(男子孫要件)は,専ら女子であることのみを理由として女子を男子と差別したものというべきであり,遅くとも本件請求がされている平成4年以降においては,性別のみによる不合理な差別として民法90条の規定により無効であるとされた事例。 /法人でない社団/
参照条文: /憲法:14条/民法:90条;263条;294条/
全 文 h180317supreme.html

最高裁判所 平成 18年 3月 16日 第1小法廷 判決 ( 平成17年(受)第1208号 )
事件名:  通行権確認等請求及び承継参加・上告事件
要 旨
 自動車通行可能な幅4mの道路(第三者の所有地)を通じて公道に出ることができる土地を購入した者がその土地を墓地として利用しようとしたところ,当該道路を歩行者専用道路として利用するために自動車の通行を妨げるポールが設置されたために,当該土地購入者が道路の所有者に対して民法210条の通行権を主張して,通行権確認請求,自動車通行妨害禁止請求等の訴えを提起した場合に,原審が213条通行権が成立し得ることを理由に210条通行権を否定したのに対し,上告審が,当該道路が従前自動車の通行できる道路として利用されていたこと等を指摘して,原判決を破棄して事件を差し戻した事例。
 1.自動車による通行を前提とする210条通行権の成否及びその具体的内容は,他の土地について自動車による通行を認める必要性,周辺の土地の状況,自動車による通行を前提とする210条通行権が認められることにより他の土地の所有者が被る不利益等の諸事情を総合考慮して判断すべきである。
 2.通行権確認請求と当該通行権を前提とする通行妨害禁止・妨害物撤去請求とが単純併合されている事案において,請求を棄却すべきとした原判決に対して原告が上告受理申立てをしたが,後者の請求について上告受理申立て理由を記載した書面を提出しなかった場合に,上告審が,前者の請求に関する部分については上告に理由があるとして原判決を破棄して事件を差し戻したが,後者の請求に関する部分については理由を記載した書面の提出がないことを理由に上告を却下した事例。
参照条文: /民法:210条/民法:213条/民訴.318条5項/民訴.317条1項/民訴.316条1項2号/
全 文 h180316supreme.html

最高裁判所 平成 18年 3月 14日 第2小法廷 決定 ( 平成17年(あ)第2035号 )
事件名:  危険運転致傷,道路交通法違反,傷害被告事件(上告事件)
要 旨
 交差点を右折進行すべく,信号機がまだ赤色信号を表示していたのに構うことなく発進し,対向車線に進出して,時速約20㎞の速度で自車を運転して同交差点に進入しようとしたことにより交通事故が生じ,その結果相手方車両の運転手等が傷害を受けた場合に,危険運転致傷罪の成立が認められた事例。
 1.対面信号機の赤色表示に構わず対向車線に進出して交差点に進入しようとして交通事故が生じた場合には,赤色信号を殊更に無視した危険運転行為により被害者らの傷害の結果が発生したものである以上,他の交通法規違反又は注意義務違反(自車を対向車線上に進出させたこと)があっても,危険運転行為と事故との間の因果関係は否定されない。
参照条文: /刑.208-2条2項/
全 文 h180314supreme91.html

最高裁判所 平成 18年 3月 13日 第2小法廷 判決 ( 平成17年(受)第76号 )
事件名:  損害賠償請求・上告事件
要 旨
 高等学校の課外活動として行われたサッカー大会に参加した生徒が試合中に落雷事故にあった場合に,引率教諭に落雷事故の予見可能性がなかったことを理由に学校の不法行為責任を否定し,また,大会のバンフレットに主催者として「財団法人Y2協会C連盟」と記載されているがY2は主催者ではないと認定してその賠償責任を否定した原判決が破棄された事例。
 1.教育活動の一環として行われる学校の課外のクラブ活動においては,生徒は担当教諭の指導監督に従って行動するのであるから,担当教諭は,できる限り生徒の安全にかかわる事故の危険性を具体的に予見し,その予見に基づいて当該事故の発生を未然に防止する措置を執り,クラブ活動中の生徒を保護すべき注意義務を負う。
 1a.試合の開始直前ころには,運動広場の南西方向の上空には黒く固まった暗雲が立ち込め,雷鳴が聞こえ,雲の間で放電が起きるのが目撃されていた場合に,雷鳴が大きな音ではなかったとしても,引率者兼監督であった教諭は,落雷事故発生の危険が迫っていることを具体的に予見することが可能であったというべきであり,また,予見すべき注意義務を怠ったものというべきであるとされた事例。
 2.大阪府教育委員会の認可を受けて設立されたスポーツ振興等を主な目的とする財団法人Y2協会が,その加盟団体であり権利能力なき社団であるC連盟にサッカー大会の実行委員会を設置させて大会を開催し,大会の行われる運動広場の貸与を受けていたのが協会であり,大会のパンフレットには,主催者として「財団法人Y2協会C連盟」という名称が記載されていた場合に,特段の事情のない限り,Y2協会は大会の主催者であると推認するのが相当であり,C連盟が大会の実施を担当していたからといって,特段の事情があるということはできないとされた事例。 /自由心証主義/事実認定/
参照条文: /民法:709条/民法:715条/民法:415条/民訴.247条/
全 文 h180313supreme.html

最高裁判所 平成 18年 3月 3日 第2小法廷 判決 ( 平成14年(行ヒ)第96号 )
事件名:  公務外認定処分取消請求・上告事件
要 旨
 心臓疾患を有する教育委員会職員が公務としてバレーボール大会の試合に出場し,急性心筋こうそくを発症して死亡した場合に,地方公務員災害補償法に基づく公務災害の認定請求に関し,当該職員の死亡とバレーボールの試合に出場したこととの間に相当因果関係があるということはできないとした原判決が破棄された事例。
 1.バレーボールの試合中に急性心筋こうそくを発症して死亡した者の心臓疾患が,確たる発症因子がなくてもその自然の経過により心筋こうそくを発症させる寸前にまでは増悪していなかったと認められる場合には,その者はバレーボールの試合に出場したことにより心臓疾患をその自然の経過を超えて増悪させ心筋こうそくを発症して死亡したものとみるのが相当であって,死亡の原因となった心筋こうそくの発症とバレーボールの試合に出場したこととの間に相当因果関係の存在を肯定することができる。
参照条文: /民訴.247条/地方公務員災害補償.31条/
全 文 h180303supreme.html

最高裁判所 平成 18年 3月 1日 大法廷 判決 ( 平成12年(行ツ)第62号,平成12年(行ヒ)第66号 )
事件名:  国民健康保険料賦課処分取消等請求・上告事件
要 旨
 1.国又は地方公共団体が,課税権に基づき,その経費に充てるための資金を調達する目的をもって,特別の給付に対する反対給付としてでなく,一定の要件に該当するすべての者に対して課する金銭給付は,その形式のいかんにかかわらず,憲法84条に規定する租税に当たる。
 1a.市町村が行う国民健康保険の保険料は,被保険者において保険給付を受け得ることに対する反対給付として徴収されるものであり,これに憲法84条の規定が直接に適用されることはない。
 2.憲法84条は,課税要件及び租税の賦課徴収の手続が法律で明確に定められるべきことを規定するものであり,国民に対して義務を課し又は権利を制限するには法律の根拠を要するという法原則を租税について厳格化した形で明文化したものというべきであるから,国,地方公共団体等が賦課徴収する租税以外の公課であっても,その性質に応じて,法律又は法律の範囲内で制定された条例によって適正な規律がされるべきものと解すべきであり,憲法84条に規定する租税ではないという理由だけから,そのすべてが当然に同条に現れた上記のような法原則のらち外にあると判断することは相当ではない。
 2a.租税以外の公課は,租税とその性質が共通する点や異なる点があり,また,賦課徴収の目的に応じて多種多様であるから,賦課要件が法律又は条例にどの程度明確に定められるべきかなどその規律の在り方については,当該公課の性質,賦課徴収の目的,その強制の度合い等を総合考慮して判断すべきものである。
 2b.市町村が行う国民健康保険は,保険料を徴収する方式のものであっても,強制加入とされ,保険料が強制徴収され,賦課徴収の強制の度合いにおいては租税に類似する性質を有するものであるから,これについても憲法84条の趣旨が及ぶと解すべきであるが,他方において,保険料の使途は,国民健康保険事業に要する費用に限定されているのであって,国民健康保険法81条の委任に基づき条例において賦課要件がどの程度明確に定められるべきかは,賦課徴収の強制の度合いのほか,社会保険としての国民健康保険の目的,特質等をも総合考慮して判断する必要がある。
 3.旭川市国民健康保険条例は,保険料率算定の基礎となる賦課総額の算定基準を明確に規定した上で,その算定に必要な上記の費用及び収入の各見込額並びに予定収納率の推計に関する専門的及び技術的な細目にかかわる事項を,市長の合理的な選択にゆだねたものであり,また,上記見込額等の推計については,国民健康保険事業特別会計の予算及び決算の審議を通じて議会による民主的統制が及ぶものということができるので,条例が市長に対し,同基準に基づいて保険料率を決定し,決定した保険料率を告示の方式により公示することを委任したことをもって,国民健康保険法法81条に違反するということはできず,また,これが憲法84条の趣旨に反するということもできない。
 3a.旭川市国民健康保険条例により賦課総額の算定基準及び賦課総額に基づく保険料率の算定方法が賦課期日までに明らかにされており,この算定基準にのっとって収支均衡を図る観点から決定される賦課総額に基づいて算定される保険料率についてはし意的な判断が加わる余地はなく,これが賦課期日後に決定されたとしても法的安定が害されるものではないから,市長が条例の規定に基づき平成6年度から同8年度までの各年度の保険料率をそれぞれ各年度の賦課期日後に告示したことは,憲法84条の趣旨に反するものとはいえない。
 4.旭川市国民健康保険条例の規定が恒常的に生活が困窮している状態にある者を保険料の減免の対象としないことは,国民健康保険法77条の委任の範囲を超えるものということはできず,また,経済的弱者について合理的な理由のない差別をしたものということもできないから,憲法25条,14条に違反しない。 /租税法律主義/
参照条文: /憲.25条/憲.14条/憲.84条/国民健康保険.77条/国民健康保険.81条/
全 文 h180301supreme.html

最高裁判所 平成 18年 2月 28日 第3小法廷 決定 ( 平成17年(あ)第1899号 )
事件名:  廃棄物の処理及び清掃に関する法律違反事件(上告事件)
要 旨
 一般廃棄物以外の廃棄物の搬入が許されていないし尿処理施設へ一般廃棄物たるし尿を含む汚泥を搬入するように装い,一般廃棄物たる汚泥と産業廃棄物たる汚泥を混合させた廃棄物を施設の受入口から投入した場合に,その混合物全量について,廃棄物の処理及び清掃に関する法律16条にいう「みだりに廃棄物を捨て」る行為を行ったものと認められ,不法投棄罪が成立するとされた事例。
参照条文: /廃棄物処理=廃棄物の処理及び清掃に関する法律/廃棄物処理.16条/
全 文 h180228supreme91.html

最高裁判所 平成 18年 2月 27日 第2小法廷 決定 ( 平成17年(あ)第1680号 )
事件名:  道路交通法違反,道路運送車両法違反,自動車損害賠償保障法違反,業務上過失傷害被告事件(上告事件)
要 旨
 1.控訴審判決が刑訴法402条にいう「原判決の刑より重い刑」を言い渡したものであるかどうかを判断する上では,各判決の主文を全体として総合的に考慮するのが相当である。
 1a.第一審が「被告人を懲役1年6月及び罰金7000円に処する。その罰金を完納することができないときは,金7000円を1日に換算した期間被告人を労役場に留置する。」との判決を言い渡した場合に、控訴審が言い渡した「被告人を懲役1年2月及び罰金1万円に処する。その罰金を完納することができないときは,金5000円を1日に換算した期間,被告人を労役場に留置する」との刑は、刑訴法402条の「原判決の刑より重い刑」に当たらない。 /不利益変更禁止/
参照条文: /刑訴.402条/
全 文 h180227supreme92.html

最高裁判所 平成 18年 2月 27日 第3小法廷 決定 ( 平成17年(あ)第1743号 )
事件名:  道路交通法違反,業務上過失傷害被告事件(上告事件)
要 旨
 運転席及び座席が合計15人分設けられていた自動車の後方の6人分の座席が取り外されていたが、自動車検査証には乗車定員が15人と記載されていた場合、その自動車を普通自動車免許で運転したことに無免許運転罪の成立が認められた事例。
 1.乗車定員が11人以上である大型自動車の座席の一部が取り外されて現実に存する席が10人分以下となった場合においても,乗車定員の変更につき国土交通大臣が行う自動車検査証の記入を受けていないときは,当該自動車はなお道路交通法上の大型自動車に当たる。
参照条文: /道路交通.3条/道路交通.64条/
全 文 h180227supreme91.html

最高裁判所 平成 18年 2月 24日 第2小法廷 判決 ( 平成17年(受)第882号 )
事件名:  損害賠償請求・上告事件
要 旨
 1.未成年者が責任能力を有する場合であっても,その監督義務者に監督義務違反があり,これと未成年者の不法行為によって生じた損害との間に相当因果関係を認め得るときには,監督義務者は,民法709条に基づき損害賠償責任を負う。(先例の確認)
 1a.19歳を超えてから少年院を仮退院した少年らが傷害事件を起こし,被害者が少年らの親権者らに監督義務違反があったと主張して損害賠償を請求したが,本件事件当時,少年らが本件事件のような犯罪を犯すことを予測し得る事情があったということはできないし,少年らの生活状態自体が直ちに再入院手続等を執るべき状態にあったということもできないとして,請求が棄却された事例。
参照条文: /民法:709条/
全 文 h180224supreme.html

最高裁判所 平成 18年 2月 23日 第1小法廷 判決 ( 平成15年(受)第1103号 )
事件名:  所有権移転登記抹消登記手続請求・上告事件
要 旨
 不動産の所有者が、賃貸の仲介の依頼をしたことのあるAに言われるままに、不動産の登記済証,印鑑登録証明書及び所有者を申請者とする登記申請書をAに預け、Aがかってに自己への所有権移転登記をして第三者に転売した場合について、Aによって虚偽の外観(不実の登記)が作出されたことについての所有者Bの帰責性の程度は,自ら外観の作出に積極的に関与した場合やこれを知りながらあえて放置した場合と同視し得るほど重いものというべきであり、第三者は,Aが所有者であるとの外観を信じ,また,そのように信ずることについて過失がなかったから、民法94条2項,110条の類推適用により,所有者は,Aが本件不動産の所有権を取得していないことを第三者に対し主張することができないとされた事例。
参照条文: /民法:176条/民法:94条2項/民法:11条/
全 文 h180223supreme.html

最高裁判所 平成 18年 2月 23日 第1小法廷 判決 ( 平成16年(行ヒ)第326号 )
事件名:  法人税更正処分等取消請求事件 ・上告事件
要 旨
 利息に対して15%の割合の源泉税が課される外国に設立された法人が運用する資金の調達について,当該源泉税の負担を実質的に軽減する目的で、外国税額控除の余裕枠のある日本の銀行が資金調達に介在した場合に、日本の銀行が当該法人への貸付金に対して負担した源泉税を外国税額控除の対象とすることはできないとして,過少申告加算税が課された事例。
 1.法人税法69条の定める外国税額控除の制度は,内国法人が外国法人税を納付することとなる場合に,一定の限度で,その外国法人税の額を我が国の法人税の額から控除するという制度であり,我が国の企業の海外における経済活動の振興を図るという政策的要請の下に,国際的二重課税を防止し,海外取引に対する課税の公平と税制の中立性を維持することを目的として設けられたものである。
 1a.本来は内国法人が負担すべきでない外国法人税について,邦銀が対価を得て引き受け,これを自らの外国税額控除の余裕枠を利用して我が国において納付されるべき法人税額を減らすことによって回収することを内容とする取引は,我が国の外国税額控除の制度をその本来の趣旨及び目的から著しく逸脱する態様で利用することにより納税を免れ,我が国において納付されるべき法人税額を減少させた上,この免れた税額を原資とする利益を取引関係者が分け合うために,邦銀にとっては外国法人税を負担することにより損失が生ずるだけの取引をあえて行うものというべきであって,我が国ひいては我が国の納税者の負担の下に取引関係者の利益を図るものにほかならないから,外国税額控除の制度を濫用するものであり,これに基づいて生じた所得に対する外国法人税を法人税法69条の定める外国税額控除の対象とすることはできない。 /外国税額控除制度の濫用/
参照条文: /法人税.69条/
全 文 h180223supreme2.html

大阪地方裁判所 平成 18年 2月 22日 第2民事部 判決 ( 平成15年(ワ)第4290号 )
事件名:  損害賠償請求事件
要 旨
 住所を秘匿しているヤミ金融業者の被害者から依頼を受けた弁護士が業者の住所・電話番号を知るために,振込先であるヤミ金融業者の口座が開設されている銀行に対して23条照会(弁護士法23条の2の照会)の申出を弁護士会にし,弁護士会が銀行に照会をしたが,銀行が顧客の同意が得られないことを理由に回答を拒絶した場合に,銀行の回答義務が肯定され,回答拒絶が弁護士の依頼者との関係で権利侵害行為に当たるとされたが,銀行に過失はなかったとして,依頼者の銀行に対する損害賠償請求が棄却された事例。
 1.23条照会を受けた公務所又は公私の団体は,当該照会により報告を求められた事項について,当該弁護士会に対して報告する法的義務を負い,また,調査の嘱託を受けた内国の官庁若しくは公署又は団体は,嘱託をした裁判所に対し,嘱託に応じて調査をしその結果得られた事項について報告する法的義務を負うものと解されるが,当該報告義務は性質上絶対無制約のものではなく,当該公務所又は公私の団体は照会に対する報告義務を免れ,また,当該官庁若しくは公署又は団体は調査の嘱託に対する報告義務を免れる場合がある。
 1a.銀行は,顧客に関する情報について23条照会又は調査の嘱託により報告を求められた場合には,当該情報を報告することについて当該顧客の同意を得た場合を除いて,原則として報告する義務を免れる。
 1b.銀行が顧客等との間で預金等の受入れを内容とする契約の締結等をするに当たり取得した当該顧客の氏名又は名称,住所又は所在地,電話番号等当該顧客の特定に資する情報についてこれを開示することを求める内容の23条照会又は調査の嘱託を受けた場合,23条照会に係る照会書やその添付書類等又は調査の嘱託書やその添付書類等からして,{1}当該顧客の行為によって23条照会又は調査の嘱託により当該顧客の特定に資する情報の開示を求める者(当該照会申出をした弁護士の依頼者又は当事者)の権利ないし法的利益が侵害されていることが明らかであるとみえること,{2}当該情報が開示請求者の権利ないし法的利益の裁判制度による回復を求めるために必要である場合その他これに準じる当該情報の開示を受けるべき正当な理由があること,{3}当該銀行に対して当該顧客の特定に資する情報の開示を求める以外に当該顧客を特定するための他に適当な方法がないこと,の要件をいずれも満たす場合には,当該銀行は,23条照会又は調査の嘱託に対して当該照会又は嘱託により報告を求められた顧客の特定に資する情報について照会をした弁護士会又は嘱託をした裁判所に報告する義務を負う。
 1c.上記各要件を満たす場合において,銀行が23条照会又は調査の嘱託に応じて顧客の特定に資する情報を報告したときは,銀行の当該報告行為は正当業務行為に該当し,銀行は当該顧客に対し秘密保持義務違反を理由とする法的責任を免れる。
 1d.23条照会を受けた公務所又は公私の団体が当該照会により報告を求められた事項を報告する義務は,弁護士法23条の2に基づき当該照会をした弁護士会に対して負う法的義務であり,また,調査の嘱託を受けた内国の官庁若しくは公署又は団体が嘱託に応じて調査をしその結果得られた事項について報告する義務は,民訴法186条に基づき当該嘱託をした裁判所に対して負う法的義務であるから,当該義務に違反したことが直ちに当該報告により利益を受ける者(当該23条照会を申し出た弁護士の依頼者ないし当該調査の嘱託の発動を求めた訴訟当事者)に対する不法行為を構成するものではないが,23条照会を受けた者又は調査の嘱託を受けた者が報告を求められた事項について報告すべき義務を負うにもかかわらず故意又は過失により当該義務に違反して報告しないことによって当該23条照会を申し出た弁護士の依頼者ないし当該調査の嘱託の発動を求めた訴訟当事者の権利ないし法的利益を違法に侵害し損害を与えたものと評価することができるような事実関係が認められる場合においては,23条照会を受けた者又は調査の嘱託を受けた者は,そのような損害を受けた者に対し,不法行為に基づく損害賠償責任を負うことがある。
 2.23条照会あるいは調査の嘱託を受けた銀行が顧客の住所に関する情報を弁護士会あるいは裁判所に回答しなかったことが23条照会あるいは調査の嘱託の申出をした弁護士の依頼者との関係で権利侵害行為にあたると評価された事例。
 2a.23条照会あるいは調査の嘱託がなされた平成14年当時のみならず今日においても,銀行が顧客等との間で預金等の受入れを内容とする契約の締結等をするに当たり取得した当該顧客の氏名又は名称,住所又は所在地,電話番号等当該顧客の特定に資する情報についてこれを開示することを求める内容の23条照会又は調査の嘱託を受けた場合,いかなる要件の下に当該事項について報告する義務を負うかについての解釈が確立していたとは認められない上,平成14年当時の銀行実務において一定の運用基準が確立していたことを認めるに足りる証拠がないこと等を総合考慮すれば,顧客の住所を回答することを拒否したことに過失がなかったものというべきであるとされ,損害賠償請求が棄却された事例。
 3.23条照会の制度は,弁護士が基本的人権を擁護し社会正義を実現することを使命とする(弁護士法1条1項)ことにかんがみ,弁護士が,受任している事件を処理するために必要な事実の調査及び証拠の発見,収集を容易にし,当該事件の適正な解決に資することを目的として設けられたものであり,その適正な運用を確保する趣旨から,照会する権限を弁護士会に付与し,その権限の発動を個々の弁護士の申出にかからせるとともに,個々の弁護士の申出が23条照会の制度の趣旨に照らして適当でないか否かの認定を当該弁護士会の自律的判断にゆだねたものと解される。
 3a.民事訴訟法186条の調査の嘱託は,証拠方法として規律される必要のない程度の公正さを有する者に,その報告書作成過程において過誤のないことが期待される手許にある客観的資料から容易に結果の得られる事項について報告させることにより,簡易迅速な証拠調べを行うことができるものとする趣旨で設けられた,簡易かつ特殊な証拠調べの方法であり,このような調査の嘱託制度の趣旨及び性質からすれば,調査の嘱託を受けた内国の官庁若しくは公署又は団体は,嘱託をした裁判所に対し,嘱託に応じて調査をしその結果得られた事項について報告する法的義務を負うものと解すべきである。
 4.プロバイダー責任法4条1項項1号の要件については,被害者において不法行為等の成立を阻却する事由の存在をうかがわせるような事情が存在しないことについても立証しなければならない(同号にいう「権利が侵害されたことが明らかであるとき」については上記の趣旨に解される)。
 4a.プロバイダ責任制限法4条1項により私法上の請求権としての発信者情報開示請求権が創設された趣旨及び目的にかんがみると,特定電気通信による情報の流通によって自己の権利を侵害されたとする者が侵害情報の発信者の特定に資する情報を得ようとする場合は,同項の定める発信者情報の開示請求制度によるべきであって,発信者情報開示請求権の行使によらずに23条照会や調査の嘱託により開示関係役務提供者に対して発信者情報を開示することを求めることは許されない(すなわち,開示関係役務提供者は,プロバイダ責任制限法4条1項が適用される限りにおいて,発信者情報の開示を内容とする23条照会又は調査の嘱託に対して報告する義務を負わない)ものと解される。 /弁護士照会/弁護士会照会/
参照条文: /弁護士法:23-2条/民事訴訟法:186条/民法:709条/特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律:4条/
全 文 h180222osakaD.html

最高裁判所 平成 18年 2月 21日 第3小法廷 判決 ( 平成14年(受)第133号 )
事件名:  占有権に基づく妨害予防請求・上告事件
要 旨
 1.占有権の取得原因事実は,自己のためにする意思をもって物を所持することであるところ(民法180条),ここでいう所持とは,社会通念上,その物がその人の事実的支配に属するものというべき客観的関係にあることを指す。(先例の確認)
 1a.地方公共団体が,道路を一般交通の用に供するために管理しており,その管理の内容,態様によれば,社会通念上,道路が地方公共団体の事実的支配に属するものというべき客観的関係にあると認められる場合には,地方公共団体は,道路法上の道路管理権を有するか否かにかかわらず,自己のためにする意思をもって道路を所持するものということができるから,道路を構成する敷地について占有権を有するというべきである。
参照条文: /民法:180条/
全 文 h180221supreme.html

最高裁判所 平成 18年 2月 20日 第2小法廷 決定 ( 平成16年(あ)第1683号 )
事件名:  廃棄物の処理及び清掃に関する法律違反被告事件(上告事件)
要 旨
 工場敷地内で産業廃棄物を埋立処分をするのに法令上必要とされる設備を設けたり,あるいは許可等を取得していない会社において、常務取締役兼工場長が工場のアルミニウム再生精錬過程から排出された産業廃棄物である汚泥,金属くず,鉱さい,れんがくず等合計約9724kgを平成13年8月10日ころから同年11月28日ころまでの間,前後7回にわたり,投棄用の穴のわきに運ばせ,無造作に積み上げさせた行為が、みだりに廃棄物を捨てる行為に該当し、廃棄物不法投棄の罪が成立するされた事例。
参照条文: /廃棄物処理.25条/廃棄物処理.16条/
全 文 h180220supreme91.html

最高裁判所 平成 18年 2月 20日 第3小法廷 決定 ( 平成17年(あ)第1342号 )
事件名:  わいせつ図画販売,同販売目的所持,児童買春,児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律違反被告(上告事件)
要 旨
 1.児童買春,児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律2条3項各号のいずれかに掲げる姿態を児童にとらせ,これを電磁的記録に係る記録媒体に記録した者が,当該電磁的記録を別の記録媒体に記憶させて児童ポルノを製造する行為は,同法7条3項の児童ポルノ製造罪に当たる。
参照条文: /児童ポルノ=児童買春,児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律/児童ポルノ.2条3項/児童ポルノ.7条3項/
全 文 h180220supreme92.html

最高裁判所 平成 18年 2月 17日 第2小法廷 決定 ( 平成17年(許)第39号 )
事件名:  文書提出命令に対する抗告棄却決定に対する許可抗告事件
要 旨
 1.ある文書が,その作成目的,記載内容,これを現在の所持者が所持するに至るまでの経緯,その他の事情から判断して,専ら内部の者の利用に供する目的で作成され,外部の者に開示することが予定されていない文書であって,開示されると個人のプライバシーが侵害されたり個人ないし団体の自由な意思形成が阻害されたりするなど,開示によって所持者の側に看過し難い不利益が生ずるおそれがあると認められる場合には,特段の事情がない限り,当該文書は民訴法220条4号ニ所定の「専ら文書の所持者の利用に供するための文書」に当たる。(先例の確認)
 1a.銀行の本部の担当部署から各営業店長等にあてて発出されたいわゆる社内通達文書であって,その内容が,変額一時払終身保険に対する融資案件を推進するとの一般的な業務遂行上の指針を示し,あるいは,客観的な業務結果報告を記載したものであり,取引先の顧客の信用情報や銀行の高度なノウハウに関する記載は含まれていないものについて,内部の者の利用に供する目的で作成されたものということはできるが,開示によって文書所持者たる銀行に看過し難い不利益が生ずるおそれがあるということはできないとして,文書提出義務が肯定された事例。 /内部文書/文書提出命令/書証/
参照条文: /民訴.220条4号二/
全 文 h180217supreme.html

最高裁判所 平成 18年 2月 14日 第1小法廷 決定 ( 平成17年(あ)第1601号 )
事件名:  強姦,恐喝,窃盗,電子計算機使用詐欺被告事件(上告事件)
要 旨
 被告人が,窃取したクレジットカードの番号等を冒用し,出会い系サイトの携帯電話によるメール情報受送信サービスを利用する際の決済手段として使用される電子マネーを不正に取得しようと企て,携帯電話機を使用して,インターネットを介し,クレジットカード決済代行業者が電子マネー販売等の事務処理に使用する電子計算機に接続されているハードディスクに,名義人が同カードにより販売価格合計11万3000円相当の電子マネーを購入したとする電磁的記録を作り,同額相当の電子マネーの利用権を取得したことについて,電子計算機使用詐欺罪が成立するとされた事例。
参照条文: /刑.246-2条/
全 文 h180214supreme91.html

大阪地方裁判所 平成 18年 2月 9日 第7民事部 判決 ( 平成15年(ワ)第3127号等 )
事件名:  住民基本台帳ネットワークシステム差止等請求事件
要 旨
 1.住民基本台帳法改正法(平成11年法律第133号)の立法行為・施行行為・施行業務について,それを国賠法上の違法又は不法行為における違法と評価することはできないとして,損害賠償請求が棄却された事例。
 1a.国会議員の立法行為が国賠法上違法とされるのは,立法の内容が,国民に憲法上保障されている権利を侵害するものであることが明白な場合など,憲法の一義的な文言に違反しているにもかかわらず国会があえて当該立法を行うような例外的な場合をいう。
 1b.憲法13条が個人の尊重と生命・身体・幸福追求の権利の尊重を定め,同法19条以下において思想良心の自由等を保障している趣旨に照らせば,個人がその人格の生存や発展を阻害されるような態様で公権力の管理下に置かれない利益は,人格的生存に不可欠な利益として法的に保護されるべきである。
 1c.住民基本台帳法改正法において住民票コードを指定し,住民票への記載を規定したことが,直ちに個人の人格の生存や発展を阻害するものであるとはいえないとされた事例。
 1d.個人に関する情報が行政機関や民間企業において収集,管理,利用され,また,インターネットを通じて情報が瞬時に流通する現代の情報化社会において,個人の私生活上の自由や人格的自律を保障するためには,個人に関する情報について,行政機関等から不当に収集されたり,利用されたり,他に提供されたりしないように保護することにとどまらず,行政機関等が不当に個人情報を保有,利用しているような場合には,その情報が他の行政機関等へ提供されることを差し止めたり,その情報の抹消を求めたりする権利も保障される必要があるが,プライバシー権が,人格権の一種として憲法13条の個人の尊重の理念に基礎を置くものである以上,保護の対象として中心となるのは,人格の生存や発展に不可欠な情報であり,それに直接かかわらない,外的事項に関する個人情報については,行政機関等が正当な目的で,正当な方法により収集,利用,他へ提供しても,プライバシー権の侵害とはならないと解される(このような内容の権利として憲法上保障されるべき権利を「自己情報管理権」という)。
 1e.住民基本台帳ネットワークシステムにおける本人確認情報は,いずれも思想,信条などの人格の生存や発展に不可欠な情報ではなく,外的事項に関する個人情報であるから,行政機関による収集,利用,他への提供が,正当な目的に基づいて,正当な方法によってされる場合には,自己情報管理権の侵害とはならない。
 1f.住民基本台帳法改正法が,住基ネットにより本人確認情報が住所地市町村外に提供されることを定めたことは,同市町村の地方自治の本旨に反するものではなく,改正法を立法した行為は,国賠法上の違法の要件を満たすものではない。
 2.住民基本台帳ネットワークシステムの差止請求が棄却された事例。
 2a.個人が,その人格の生存や発展を阻害されるような態様で公権力の管理に置かれない利益は,法的に保護されるべきものであるが,住民票コードを指定し,住民票にそれを記載する旨を規定したことがこのような利益を直ちに侵害するとはいえないとして,公権力の管理の客体に置かれない権利に基づくその差止請求が棄却された事例。
 2b.住基ネットにおける本人確認情報は,いずれも個人の外的事項に関する個人情報であるから,行政機関が正当な目的により,正当な方法に基づいて収集,利用,他への提供をする限り,住民の自己情報管理権を侵害するものとはいえない。
 2b’.住基ネットには,行政事務を効率化し,行政サービスの利便性を高めるという観点からの必要性が認められる上に,行政機関による情報の統合や本人確認情報の漏えい,改ざんなどの具体的危険は認めらないから,住基ネットの稼働は,住民である原告らの自己情報管理権を侵害するものとはいえず,同人らが求める本人確認情報の提供等の差止め又は本人確認情報の抹消請求は認められないとされた事例。
 /秘密保持義務/安全確保義務/セキュリティ/
参照条文: /憲.13条/憲.19条/住民基本台帳.6条/住民基本台帳.7条13号/住民基本台帳.30-2条/住民基本台帳.30-5条/住民基本台帳.30-6条/住民基本台帳.30-7条/住民基本台帳.30-8条/住民基本台帳.30-10条/住民基本台帳.30-34条/行政個人情報保護.3条/行政個人情報保護.8条2項/
全 文 h180209osakaD.html

最高裁判所 平成 18年 2月 7日 第3小法廷 判決 ( 平成17年(受)第282号 )
事件名:  建物明渡請求・上告事件
要 旨
 不動産の買戻特約付売買契約が譲渡担保契約であるとされた事例。
 1.買戻特約付売買契約の形式が採られていても,目的不動産を何らかの債権の担保とする目的で締結された契約は,譲渡担保契約と解するのが相当である。
 1a.買戻特約付売買契約の形式が採られていても,目的不動産の占有の移転を伴わない契約は,特段の事情のない限り,債権担保の目的で締結されたものと推認され,その性質は譲渡担保契約と解するのが相当である。
 2.不動産の買戻特約付売買契約の形式が採用されている契約について、目的建物の占有の移転を伴わないこと、買主が契約を締結した主たる動機は,別件貸付けの利息を回収することにあり,実際にも,別件貸付けの元金1000万円に対する月3分の利息9か月分に相当する270万円を代金から控除していること,買戻権付与の対価である67万5000円が売買代金額750万円に対する買戻期間3か月分の月3分の利息金額と一致することなど、契約が債権担保の目的を有することをうかがわせる事情が存在することから,本件契約は,譲渡担保契約と解すべきであるとされ、真正な買戻特約付売買契約を本件建物の所有権取得原因とする買主の売主に対する建物明渡請求が棄却された事例。
参照条文: /民法:579条/
全 文 h180207supreme2.html

最高裁判所 平成 18年 2月 7日 第3小法廷 判決 ( 平成15年(受)第2001号 )
事件名:  損害賠償請求・上告事件
要 旨
 広島県の公立小中学校等に勤務する教職員によって組織された職員団体が,その主催する第49次広島県教育研究集会の会場として,呉市立二河中学校の体育館等の学校施設の使用を申し出たところ,いったんは口頭でこれを了承する返事を校長から得たのに,その後,呉市教育委員会から不当にその使用を拒否されたことを理由に、国家賠償法に基づき損害賠償を請求し、認容された事例。
 1.公立学校施設をその設置目的である学校教育の目的に使用する場合には,地方自治法244条の規律に服することになるが,これを設置目的外に使用するためには,同法238条の4第4項に基づく許可が必要であり,この許可は,地方教育行政の組織及び運営に関する法律23条2号により,本来教育委員会が行うこととなる。
 2.学校施設の目的外使用を許可するか否かは,原則として,管理者の裁量にゆだねられている。
 2a.その裁量権の行使が逸脱濫用に当たるか否かの司法審査においては,その判断が裁量権の行使としてされたことを前提とした上で,その判断要素の選択や判断過程に合理性を欠くところがないかを検討し,その判断が,重要な事実の基礎を欠くか,又は社会通念に照らし著しく妥当性を欠くものと認められる場合に限って,裁量権の逸脱又は濫用として違法となるとすべきである。
 3.過去,教育研究集会の会場とされた学校に右翼団体の街宣車が来て街宣活動を行ったことがあったというのであるから,抽象的には街宣活動のおそれはあったといわざるを得ず,学校施設の使用を許可した場合,その学校施設周辺で騒じょう状態が生じたり,学校教育施設としてふさわしくない混乱が生じたりする具体的なおそれが認められるときには,それを考慮して不許可とすることも学校施設管理者の裁量判断としてあり得るところである。
 3a.不許可処分の時点で,本件集会について具体的な妨害の動きがあったことは認められず,本件集会の予定された日は,休校日である土曜日と日曜日であり,生徒の登校は予定されていなかったことからすると,仮に妨害行動がされても,生徒に対する影響は間接的なものにとどまる可能性が高かったと認定された事例。
 3b.中学校及びその周辺の学校や地域に混乱を招き,児童生徒に教育上悪影響を与え,学校教育に支障を来すことが予想されるとの理由で行われた学校施設利用不許可処分が,裁量権を逸脱したものである判断された事例。
参照条文: /地自.244条/地自.238-4条/
全 文 h180207supreme.html

京都地方裁判所 平成 18年 2月 3日 第1民事部 判決 ( 平成15年(ワ)第1359号 )
事件名:  損害賠償請求事件
要 旨
 西陣信用金庫のコスモ地所株式会社に対する融資が大口信用供与規制に違反し,安全性の原則から逸脱した(延滞に陥っていた売上げ皆無の債務超過会社に対して,実質的には担保を徴求せず,具体的な返済計画も求めないまま貸し付けた。)違法なものであるとして,当時の理事長及び専務理事に対する損害賠償請求が認容された事例。
 信用金庫を退職した理事の退職慰労金債権の発生が否定された事例。
 1.[大口信用供与規制]
 
 信用金庫の理事は,大口信用供与規制に反する貸付けがされないように監視すべき義務があり,仮に,これに反する事態が生じている場合には,速やかに是正する義務を負い,大口信用供与規制に反する貸付けを決裁した場合には,その違法性を阻却する特段の事情が認められない限り,理事の任務に違背した違法な行為であるといわざるを得ず,同規制に反する行為は,原則として,信用組合の財務の健全性を害する不合理なものというべきであって,経営者の裁量権の範囲を逸脱するものというほかないから,単に経営上の判断ということのみで,その責任を免れることはできない。
 1a.融資先である個人とこの者によって設立された2つの法人について,その者の個人企業としてその者と経済的には一体のものと評価でき,銀行法13条における「同一人」に該当するとされ,これらに対する融資が大口信用供与規制に違反するとされた事例。
 2.[安全性の原則]
 
 信用金庫の代表理事(理事長)は,会員に貸付けをするかどうか,貸し付けるとしても幾らまでを貸し付けるのか,担保を徴求するのかどうかを判断するに当たっては,当該貸付けに係る貸金が約定どおりに返済されずに,信用金庫が損失を被る危険性を考慮して,その危険性が信用金庫の経営上合理的な範囲にとどまる場合に限って,あるいは,合理的な範囲にとどまるよう担保を徴求するなどの措置をとった上で,これを行うべき任務を負っている。 /京都みやこ信金/日本地所株式会社/
参照条文: /銀行.13条/信用金庫.89条1項/
全 文 h180203kyotoD.html

大阪地方裁判所 平成 18年 2月 3日 第7刑事部 ( 平成17年(わ)第3350号 )
事件名:  現住建造物等放火被告事件における被告人の供述書の取調べ請求
要 旨
 現住建造物等放火被告事件において,被告人の検察官調書2通及び警察官調書2通に関する検察官の証拠調べ請求が,供述調書の任意性に疑問があるとの理由で却下された事例。
 1.現住建造物等放火被告事件において,火災発生当日における任意捜査段階における刑事による取り調べ方法が,その後の捜査や裁判の方向性を歪めかねない悪しき「見込み捜査」との誹りを免れないばかりか,社会的に相当なものとして是認される限度をはるかに超えた身体的接触を伴う過度に強圧的で執拗な追及により自己の意図する「真実」に沿う自白を強要したものであって,違法であると断ぜざるを得ないし,また,それにより被告人が自由な意思に基づいて供述し又は供述しないことを非常に困難にしたという点では,被告人の黙秘権を実質的に著しく侵害するものであると判断され、また、取調べにあたった刑事が被告人に対して黙秘権の告知をしたか否かについては供述対立しているが,上記のような過酷な取調べが現になされている以上,被告人の黙秘権が実質的に損なわれていることは明らかであって,仮に黙秘権の告知が形式的になされていたとしても,それは単なるリップサービス以上の意味を有するものではないとされた事例。
参照条文: /刑訴.198条2項/刑訴.319条/刑訴.322条/
全 文 h180203osakaD91.html

最高裁判所 平成 18年 1月 27日 第2小法廷 判決 ( 平成15年(受)第1739号 )
事件名:  損害賠償請求・上告事件
要 旨
 脳こうそくの発作で入院していた高齢の患者がメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)に感染した後に全身状態が悪化して死亡した場合に、抗生剤の投与が不適切であったと主張する遺族からの損害賠償請求訴訟において、原審に提出された専門家の鑑定書や意見書等を上告審が検討して、医師らの抗生剤の使用に過失があったとは認められないとした原審の判断に経験則又は採証法則に反する違法があったとされた事例。
 1.平成5年当時の臨床医学においては第3世代セフェム系抗生剤を投与するのがむしろ一般的であったことがうかがわれるとしても,直ちに,それが当時の医療水準にかなうものであったと判断することはできないとされた事例。
 1a.被告から提出された専門家の意見書に≪医師らが臨床的に呼吸器感染を疑ってエポセリンを投与したことは妥当な選択であり,緑のう菌の対策としてスルペラゾンを投与したことも妥当である≫とする被告に有利な記載部分がある場合に、当該意見書は,エポセリンやスルペラゾンがその投与の時点で細菌に対する感受性を有していたことを指摘するにとどまるものであって,これらに代えて狭域の抗生剤を投与すべきであったか否かという点については検討をしていないこと、同意見書は被告提出のものであり,その内容について原告の尋問にさらされていないことも考慮すると,安易に同意見書の結論を採用することは相当でなく、同意見書に前記記載部分があることをもって,第3世代セフェム系抗生剤のエポセリンやスルペラゾンを投与したことの過失を否定する根拠とすることはできないとされた事例。
 2.平成5年の時点でMRSAに感染した患者にバンコマイシンを投与しなかったことに過失があるということはできないとした原審の判断は,経験則又は採証法則に反するとされた事例。
 3.実情としては多種類の抗生剤を投与することが平成5年当時の医療現場においては一般的であったことがうかがわれるというだけで,それが当時の医療水準にかなうものであったか否かを確定することなく,医師が多種類の抗生剤を投与したことに過失があったとは認め難いとした原審の判断は,経験則又は採証法則に反するとされた事例。 /証拠/書証/事実認定/自由心証主義/医療事故/医療過誤/
参照条文: /民訴.247条/民訴.3231条1項/
全 文 h180127supreme.html

最高裁判所 平成 18年 1月 24日 第3小法廷 判決 ( 平成17年(受)第541号 )
事件名:  損害賠償請求・上告事件
要 旨
 信用金庫が貸付債権の担保のために債務者が有する特許権に質権の設定を受け、その設定登録の申請をしたが、特許庁の担当職員の過失によりその登録が遅れている間に債務者から特許権を譲り受けた者が特許権の移転登録の申請をし、これが先に登録されたため、質権設定登録が不能となった場合に、信用金庫が質権を実行して債権を回収することができなくなったことによる損害について国に対して賠償請求をした事案において、原審が損害の発生を否定したのに対し、上告審がこれを肯定し、かつ、損害額の立証が極めて困難であったとしても,民訴法248条により,口頭弁論の全趣旨及び証拠調べの結果に基づいて,相当な損害額が認定されなければならないとした事例。
 1.特許庁の担当職員の過失により特許権を目的とする質権を取得することができなかった場合,これによる損害額は,特段の事情のない限り,その被担保債権が履行遅滞に陥ったころ,当該質権を実行することによって回収することができたはずの債権額である。
 1a.質権を実行して債権を回収すべき時期より後に、特許権の事業化が困難と判断され、特許料の不納付により特許権が消滅した場合に、質権の被担保債権が履行遅滞に陥った時期には,事業収益を生み出す見込みのある発明として相応の経済的評価ができるものであったと認定され、質権の実行によって被担保債権について相応の回収が見込まれたとされた事例。
 2.特許庁の担当職員の過失により質権を取得することができなかったことにより損害が発生したというべき場合には、仮に損害額の立証が極めて困難であったとしても,民訴法248条により,口頭弁論の全趣旨及び証拠調べの結果に基づいて,相当な損害額が認定されなければならない。
参照条文: /民訴.248条/国賠.1条1項/特許.98条1項/
全 文 h180124supreme3.html

最高裁判所 平成 18年 1月 24日 第3小法廷 判決 ( 平成15年(受)第1653号 )
事件名:  生命保険証券及び傷害保険証券返還等請求事件・上告事件
要 旨
 1.貸金業法17条の書面に同条1項所定の事項の一部が記載されていないときは,同法43条1項の規定の適用要件を欠くというべきであって,利息制限法所定の利率を超える利息の支払いを有効な利息の債務の弁済とみなすことはできない。(先例の確認)
 1a.貸金業法17条1項所定の事項の記載内容が正確でないときや明確でないときにも,同法43条1項の規定の適用要件を欠くというべきである。
 2.17条書面となるべき借用証書の記載内容が不正確あるいは不明確であるとして,貸金業法43条1項の適用が否定された事例。
 2a.借用証書には,「契約手渡金額」欄があり,同欄の下部には,「上記のとおり借用し本日この金員を受領しました。」との記載があるにもかかわらず,「契約手渡金額」欄には,貸付けに係る契約の際に債権者から債務者に実際に手渡された金額ではなく,実際に手渡された金額とその直前の貸付金の残元本の金額との合計金額が記載されていた場合には,借用証書の記載内容は正確でないというべきである。
 2b.借用証書に集金休日の記載がされていなかった場合には,借用証書の記載内容は正確でなく,借用証書に「その他取引をなさない慣習のある休日」を集金休日とする旨の記載がされていた場合には,記載内容は明確でないというべきである。
 2c.債務者が貸付けに係る契約を締結した日に債権者のために生命保険金請求権等に根質権を設定し,保険証券を交付した場合には,借用証書に保険証券や本件根質権の内容等を記載しなければならず,これが記載されていないときには,貸金業法17条1項所定の事項の一部についての記載がされていないこととなる。
 2d.借用証書における従前の貸付けの契約に基づく債務の残元本額の記載が誤っていた場合には,記載内容は正確でないというべきである。
 3.日賦貸金業者について貸金業法43条1項の規定が適用されるためには,契約締結時の契約内容において出資法附則9項所定の各要件が充足されている必要があることはもとより,実際の貸付けにおいても各要件が現実に充足されている必要がある。
 3a.契約締結時の契約内容においては,返済期間が100日以上と定められていたところ,約定の返済期間の途中で,残元本に貸増しが行われ,貸増し後の元本の合計金額を契約金額として,新たにその直後の貸付けに係る契約が締結され,旧債務が消滅したために,旧債務については,返済期間が100日未満となった場合には,実際の貸付けにおいては上記要件が現実に充足されていなかったのであるから,貸金業法43条1項の規定の適用はない。
 3b.契約締結時の契約内容において出資法附則9項3号所定の要件が充足されているが,実際の貸付けにおいては,債務者の営業所等において債権者が自ら集金する方法により金銭を取り立てた日数が返済期間の全日数の100分の70未満であった場合に,貸金業法43条1項の規定の適用はないとされた事例。
参照条文: /貸金.17条1項/貸金.18条1項/貸金.43条1項/利息制限.1条/利息制限.2条/出資.s58L33附則9項/
全 文 h180124supreme2.html

最高裁判所 平成 18年 1月 24日 第3小法廷 判決 ( 平成16年(受)第424号 )
事件名:  不当利得返還請求・上告事件
要 旨
 1.貸金業法の17条書面及び18条書面には所定事項のすべてが記載されていることを要するものであり,それらの一部が記載されていないときは,同法43条1項の規定の適用要件を欠くというべきであって,有効な利息の債務の弁済とみなすことはできない。(先例の確認)
 1a.貸金業法17条1項及び18条1項所定の事項の記載内容が正確でないときや明確でないときにも,同法43条1項の規定の適用要件を欠くというべきであって,有効な利息の債務の弁済とみなすことはできない。
 1b.17条書面中の「契約手渡金額」欄に、貸主から借主に実際に手渡された金額ではなく,実際に手渡された金額とその直前の貸付金の残元本の金額との合計金額が記載されていた場合には、借用証書の上記事項の記載内容は正確でないというべきであって、その借用証書の写しの交付をもって17条書面の交付がされたものとみることはできず、このことは,借用証書に別途従前の貸付けの債務の残高が記載されているとしても,左右されるものではない。
 1c.17条書面には「各回の返済期日及び返済金額」を記載しなければならないが(平成12年法律第112号による改正前の貸金業法17条1項8号,貸金業の規制等に関する法律施行規則13条1項1号チ),集金休日の記載がされていなかった場合には、その借用証書の上記事項の記載内容は正確でないというべきであり,また,「その他取引をなさない慣習のある休日」を集金休日とする旨の記載がされていた場合には、その借用証書の上記事項の記載内容は明確でないというべきである。
 1d.18条書面に記載すべき「受領金額及びその利息,賠償額の予定に基づく賠償金又は元本への充当額」に関し、受領金額の記載が誤っていたため,この領収書の交付をもって18条書面の交付がされたものとみることはできないとされた事例。
 2.貸金業法17条1項が,貸金業者に17条書面の交付義務を定めた趣旨は,貸付けに係る合意の内容を書面化することで,貸金業者の業務の適正な運営を確保するとともに,後日になって当事者間に貸付けに係る合意の内容をめぐって紛争が発生するのを防止することにあるのであるから,同項及びその委任に基づき定められた施行規則13条1項は,飽くまでも当事者が合意した内容を正確に記載することを要求しているものと解するのが相当であり,このことは,当該合意が法律の解釈適用によって無効又は一部無効となる場合であっても左右されるものではない。
 3.貸金業法43条1項にいう「債務者が利息として任意に支払った」とは,債務者が利息の契約に基づく利息の支払に充当されることを認識した上,自己の自由な意思によってこれを支払ったことをいい,債務者が,事実上にせよ強制を受けて利息の制限額を超える額の金銭の支払をした場合には,制限超過部分を自己の自由な意思によって支払ったものということはできず,同項の規定の適用要件を欠く。
 4.支払期日に制限超過部分を含む約定利息の支払を怠った場合には,元本についての期限の利益を当然に喪失し,残元本全額及び経過利息を直ちに一括して支払う義務を負うことになる条項のうち、制限超過部分の利息の支払を怠った場合には期限の利益を喪失するとする部分は、利息制限法1条1項の趣旨に反して無効である。
 4a.上記の期限の利益喪失条項の下で,債務者が利息として制限超過部分を支払った場合には,上記のような誤解が生じなかったといえるような特段の事情のない限り,債務者が自己の自由な意思によって支払ったものということはできない。
 5.日賦貸金業者について貸金業法43条1項の規定が適用されるためには,契約締結時の契約内容において出資法附則9項所定の各要件が充足されている必要があることはもとより,実際の貸付けにおいても上記各要件が現実に充足されている必要がある。
 5a.契約締結時の契約内容においては,返済期間が100日以上と定められていたが、約定の返済期間の途中で,残元本に貸増しが行われ,貸増し後の元本の合計金額を契約金額として,新たに貸付け契約が締結され,その結果、旧貸付け債務については,返済期間が100日未満となった場合には、貸金業法43条1項の規定の適用はない。
 5b.出資法附則9項3号の文理に照らすと,日賦貸金業者が貸付けの相手方の営業所等において自ら集金する方法により金銭を取り立てた日数が,返済のされなかった日を含めて,返済期間の全日数の100分の70以上であれば,実際の貸付けにおいて同号所定の要件が現実に充足されていると解すべきである。
参照条文: /貸金業.17条/貸金業.18条/貸金業.43条/出資.附則9項/出資.附則8項/
全 文 h180124supreme.html

最高裁判所 平成 18年 1月 24日 第3小法廷 判決 ( 平成16年(行ヒ)第128号 )
事件名:  法人税更正処分等取消請求・上告事件
要 旨
 原告が100%出資する子会社であるA社が,その発行済株式総数の15倍の新株をB社に著しく有利な価額で発行したことに関して,税務署署長が,A社株式の資産価値のうち新株発行によってB社に移転したものを,原告のB社に対する寄附金と認定して,原告の平成6年10月から翌年9月までの事業年度の法人税の増額更正及びこれに係る過少申告加算税賦課決定をしたことから,原告が,上記更正のうち申告額を超える部分及び賦課決定の取消しを求めたところ,この資産価値の移転は法人税法22条2項にいう取引に当たるとした原審の判断は正当であるが,原審が採用したA社の保有資産の評価について違法があるとして,差戻しが命じられた事例。
 1.原告が,A社の唯一の株主の立場において,同社に発行済株式総数の15倍の新株を著しく有利な価額で発行させたのは,原告のA社に対する持株割合を100%から6.25%に減少させ,B社の持株割合を93.75%とすることによって,A社株式200株に表章されていた同社の資産価値の相当部分を対価を得ることなくB社に移転させることを意図したものということができ,また,上記の新株発行は,原告,A社,B社及びB社の株主である財団法人Eの各役員が意思を相通じて行ったというのであるから,B社においても,上記の事情を十分に了解した上で,上記の資産価値の移転を受けたものということができる場合に,この資産価値の移転は,原告の支配の及ばない外的要因によって生じたものではなく,原告において意図し,かつ,B社において了解したところが実現したものということができるから,法人税法22条2項にいう取引に当たるとされた事例。
 2.企業の継続を前提とした株式の評価を行う場合であっても,法人税額等相当額を控除して算定された1株当たりの純資産価額は,平成7年2月当時において,一般には通常の取引における当事者の合理的意思に合致するものとして,法人税基本通達(平成12年課法2-7による改正前のもの)9-1-14(4)にいう「1株当たりの純資産価額等を参酌して通常取引されると認められる価額」に当たるというべきである。
 2a.平成7年2月当時における非上場会社の1株当たりの純資産価額の評価において,企業の継続を前提とした価額を求める場合であることのみを根拠として,法人税額等相当額を控除することが不合理であって通常の取引における当事者の合理的意思に合致しないものであるということはできず,他に上記控除が上記の評価において著しく不合理な結果を生じさせるなど課税上の弊害をもたらす事情がうかがわれない本件においては,これを控除して1株当たりの純資産価額を評価すべきであるとされた事例。
 3.非上場会社の株式を合計で28.4%有するだけでありその同族株主に該当しない株主が有する株式について,平成15年前の財産評価基本通達により,配当還元方式により評価すべきであり,原審が配当還元方式により評価することが著しく不合理な結果を生じさせるなど課税上の弊害をもたらす場合に当たるとの判断を示すことなく時価純資産価額方式により評価すべきであるとしたことは,違法であるとされた事例。
参照条文: /法人税.22条2項法人税基本通達./財産評価基本通達./
全 文 h180124supreme4.html

最高裁判所 平成 18年 1月 24日 第3小法廷 判決 ( 平成12年(行ヒ)第133号 )
事件名:  法人税更正処分取消等請求・上告事件
要 旨
 民法上の組合による映画の購入が,実質的に見て,映画会社による映画の興行に対する融資のためになされこと,及び組合が映画について使用収益権限及び処分権限を失っていること等の事情を考慮すると,本件映画は組合の事業の用に供しているものということはできないから,法人税法31条1項にいう減価償却資産に当たらないとされ,組合員の税務処理において絵画の減価償却費を損金処理することが否定された事例。 /租税回避行為/過少申告加算税/
参照条文: /法人税.31条1項/
全 文 h180124supreme5.html

京都地方裁判所 平成 18年 1月 24日 第1民事部 判決 ( 平成17年(ワ)第341号 )
事件名:  損害賠償請求事件
要 旨
 夫の浮気について妻から調査の依頼を受けた調査会社の社員が,夫の浮気相手と主張されている原告の居室のあるマンションの2階のエレベータ脇にヴィデオカメラを設置し,原告の居室に出入りする人物や原告の容貌を無断で撮影したことがプライバシー侵害に当たるとして,調査会社に対して50万円の損害賠償が命じられた事例。
参照条文: /民法:709条/民法:710条/民法:715条/
全 文 h180124kyotoD.html

最高裁判所 平成 18年 1月 23日 第2小法廷 判決 ( 平成17年(受)第1344号 )
事件名:  不当利得返還請求・上告事件
要 旨
 地方公務員共済組合に対して債務を負っている地方公務員が破産した後に退職し,給与支払機関が,破産者の自由財産に属する退職手当の中から貸付残額相当額を破産者に代わって共済組合の口座に払い込んだ場合に,それは破産者による任意弁済とはいえないので,破産者は共済組合に対して不当利得返還請求権を有するとされた事例。
 1.破産手続中,破産者がその自由な判断により自由財産の中から破産債権に対する任意の弁済をすることは妨げられない。
 1a.自由財産は本来破産者の経済的更生と生活保障のために用いられるものであり,破産者は破産手続中に自由財産から破産債権に対する弁済を強制されるものではないことからすると,破産者がした弁済が任意の弁済に当たるか否かは厳格に解すべきであり,少しでも強制的な要素を伴う場合には任意の弁済に当たるということはできない。
 2.地共法の弁済方法は,組合員の給与支給機関が組合に対する組合員の債務の弁済を代行するものにほかならず,組合員が破産宣告を受けた場合において,地共法115条2項により,組合員の自由財産である退職手当の中から組合の破産債権につき地共法の弁済方法で弁済を受け得る地位が組合に付与されたものと解することはできない。(先例の確認)
 2a.組合員の破産手続中にその自由財産である退職手当の中から地共法の弁済方法により組合員の組合に対する貸付金債務についてされた弁済が組合員による任意の弁済であるというためには,組合員が,破産宣告後に,自由財産から破産債権に対する弁済を強制されるものではないことを認識しながら,その自由な判断により,地共法の弁済方法をもって上記貸付金債務を弁済したものということができることが必要である。
参照条文: /破産.100条1項/
全 文 h180123supreme.html

最高裁判所 平成 18年 1月 23日 第2小法廷 決定 ( 平成16年(あ)第272号 )
事件名:  贈賄被告事件(上告事件)
要 旨
 病院経営者が,その経営に係る関連病院に対する医師の派遣について便宜ある取り計らいを受けたことなどの謝礼等の趣旨の下に,公立大学(奈良医大)の救急医学教室教授兼附属病院救急科部長に対して金員を供与した行為について,それが贈賄罪に当たるとされた事例。
参照条文: /刑.198条/
全 文 h180123supreme91.html

最高裁判所 平成 18年 1月 20日 第2小法廷 判決 ( 平成17年(受)第575号 )
事件名:  名称使用差止等請求・上告事件
要 旨
 宗教法人天理教(原告)の被包括法人である宗教法人天理教豊文分教会(被告)の代表役員が,原告の教義は教祖中山みきの教えとは異なったものであると考えるようになり,被告と原告との被包括関係を廃止し,被告の名称を宗教法人天理教豊文教会に変更して宗教活動を継続した場合に,原告が,被告による「天理教豊文教会」の名称の使用は,不正競争防止法2条1項1号又は2号所定の不正競争に該当し,又は原告の名称権を侵害するものであるとして,「天理教豊文教会」その他の「天理教」を含む名称の使用の差止め及び名称の登記の抹消登記手続を求める訴えを提起したが,棄却された事例。
 1.不正競争防止法2条1項1号,2号でいう「営業」の意義は,取引社会における競争関係を前提とするものとして解釈されるべきであり,したがって,上記「営業」は,宗教法人の本来的な宗教活動及びこれと密接不可分の関係にある事業を含まない。
 2.宗教法人も人格的利益を有しており,その名称がその宗教法人を象徴するものとして保護されるべきことは,個人の氏名と同様であるから,宗教法人は,その名称を他の宗教法人等に冒用されない権利を有し,これを違法に侵害されたときは,加害者に対し,侵害行為の差止めを求めることができる。
 2a.宗教法人は,その名称に係る人格的利益の一内容として,名称を自由に選定し,使用する自由を有し,宗教法人の名称使用の自由には,その教義を簡潔に示す語を冠した名称を使用することも含まれる。
 2b.甲宗教法人の名称と同一又は類似の名称を乙宗教法人が使用している場合において,当該行為が甲宗教法人の名称を冒用されない権利を違法に侵害するものであるか否かは,乙宗教法人の名称使用の自由に配慮し,両者の名称の同一性又は類似性だけでなく,甲宗教法人の名称の周知性の有無,程度,双方の名称の識別可能性,乙宗教法人において当該名称を使用するに至った経緯,その使用態様等の諸事情を総合考慮して判断されなければならない。 /宗教団体の内部紛争/
参照条文: /不正競争.2条1項/民法:1編3条/宗教法人.1条/宗教法人.4条/
全 文 h180120supreme.html

最高裁判所 平成 18年 1月 19日 第1小法廷 判決 ( 平成17年(受)第761号 )
事件名:  損害賠償請求・上告事件
要 旨
 投資顧問業の営業保証金として供託された有価証券の取戻請求権について二重に差押があった場合に,後行事件の債権者が先行事件の配当手続に加えられなかったことについて後行事件の執行裁判所に過失があり,後行事件の債権者に過失相殺の対象となる過失はないとして,配当手続に加えられていれば得られたであろう配当金相当額および遅延損害金の損害賠償請求が認容された事例。
 1.1個の動産引渡請求権に対して複数の差押命令が発せられ,差押えの競合が生じている場合において,配当手続を実施するときには,執行裁判所は,執行官が当該動産の引渡しを受けた時までに差押え,仮差押え又は配当要求をした債権者を配当を受けるべき債権者として配当期日に呼び出さなければならない。
 1a.動産引渡請求権の差押事件(後行事件)の執行裁判所は,第三債務者が提出した陳述書から先行事件の存在を知った場合,配当手続の実施に備えて,後行事件の存在を先行事件の執行裁判所に知らせる民事執行手続上の義務を負う。
 1b.後行事件の差押債権者には,先行事件で実施される配当手続に参加するために,自らの差押事件の執行裁判所及び先行事件の執行裁判所に対し,自らの差押事件の進行について問い合わせをするなどして,競合差押債権者の存在を認識させる措置を執るべき義務はなく,したがって,このような措置を執らなかったことは,過失相殺の対象となる過失にあたらない。
参照条文: /国賠.1条1項/民執.165条4号/民執.166条/民執.85条2項/
全 文 h180119supreme2.html

最高裁判所 平成 18年 1月 19日 第1小法廷 判決 ( 平成17年(オ)第48号,平成17年(受)第57号 )
事件名:  建物収去土地明渡等請求・上告事件
要 旨
 1.控訴審が第一審判決を継ぎはぎ的に引用したために判決理由に食違いが生じ,破棄された事例(建物収去土地明渡訴訟において,控訴審が建物所有者を被告の子であると認定しながら,これを被告であると認定する第一審判決を引用して請求を認容した事例)。(補足意見参照)
 2.借地上の建物について,当初は所在地番が正しく登記されていたにもかかわらず,登記官が職権で表示の変更の登記をするに際し地番の表示を誤った結果,所在地番の表示が実際の地番と相違することとなった場合には,建物の構造,床面積等他の記載とあいまって建物の同一性を認めることが困難であるような事情がない限り,登記の更正がされる前であっても借地借家法10条1項の対抗力を否定すべきではない。
 (土地の担保競売において,現況調査報告書に建物は未登記であると記載され,物件明細書に賃借権は対抗力なしとして記載されていた場合に,買受人が地上建物の収去と土地の明渡しを請求した事例) /自己完結的な控訴審判決書/絶対的上告事由の例/
参照条文: /民訴.312条2項6号/民訴規.184条/借地借家.10条1項/
全 文 h180119supreme4.html

最高裁判所 平成 18年 1月 19日 第1小法廷 判決 ( 平成15年(行ヒ)第299号 )
事件名:  違法公金支出返還請求・上告事件
要 旨
 静岡県が権利能力のない社団である「元県議会議員会」に対してした補助金の支出は公益上の必要性を欠き違法であるなどと主張して,住民が地方自治法242条の2第1項4号に基づき,県に代位して,補助金が支出された当時県知事の職にあった者等及び元議員会に対し,損害賠償(元議員会に対し予備的に不当利得の返還)を請求した事件において,補助の対象となった具体的事業の公益性を肯定した原判決が破棄された事例。
 1.補助金の対象となった事業は,補助金受領団体の会員を対象とした内部的な行事等であって,住民の福祉に直接役立つものではなく,その事業それ自体に公益性を認めることはできないとされた事例。
 2.県議会議員の職にあった者も,その職を退いた後は,もはや県民を代表する立場にはないのであるから,元議員会の内部的な事業に要する経費を補助するとしても,県議会議員の職にあった者に対する礼遇として社会通念上是認し得る限度を超えて補助金を交付することは許されない。
 2a.権利能力のない社団である「元県議会議員会」に対する補助金の交付が,その金額(平成11年度に450万円,平成12年度に241万1026円),元議員会の事業の内容や会員数に照らしても,県議会議員の職にあった者に対する礼遇として社会通念上是認し得る限度を超えているとされた事例。
参照条文: /地自.242-2条/
全 文 h180119supreme3.html

最高裁判所 平成 18年 1月 19日 第1小法廷 判決 ( 平成16年(行ヒ)第275号 )
事件名:  裁決取消請求・上告事件
要 旨
 1.国税徴収法39条所定の第二次納税義務者は,主たる課税処分につき国税通則法75条に基づく不服申立てをすることができる。(意見あり)
 2.国税徴収法39条所定の第二次納税義務者が主たる課税処分に対する不服申立てをする場合,国税通則法77条1項所定の「処分があったことを知った日」とは,当該第二次納税義務者に対する納付告知(納付通知書の送達)がされた日をいい,不服申立期間の起算日は納付告知がされた日の翌日である。
参照条文: /税徴.39条/国税通則.77条/
全 文 h180119supreme5.html

最高裁判所 平成 18年 1月 19日 第1小法廷 判決 ( 平成15年(オ)第456号,平成15年(受)第467号 )
事件名:  貸金請求・上告事件
要 旨
 1.貸金業法43条1項にいう「債務者が利息として任意に支払った」とは,債務者が利息の契約に基づく利息の支払に充当されることを認識した上,自己の自由な意思によってこれを支払ったことをいい,債務者において,その支払った金銭の額が利息の制限額を超えていることあるいは当該超過部分の契約が無効であることまで認識していることを要しないが,債務者が,事実上にせよ強制を受けて利息の制限額を超える額の金銭の支払をした場合には,制限超過部分を自己の自由な意思によって支払ったものということはできず,法43条1項の規定の適用要件を欠く。
 2.利息制限法超過利率の支払いの合意のある消費貸借契約における期限の利益喪失特約については,制限超過部分の支払を怠った場合に期限の利益を喪失するとする部分は,利息制限法1条1項の趣旨に反して無効であり,債務者は,支払期日に約定の元本及び利息の制限額を支払いさえすれば,制限超過部分の支払を怠ったとしても,期限の利益を喪失することはない。
 3.支払期日に約定の元本と共に制限超過部分を含む約定利息を支払わない限り,期限の利益を喪失し,残元本全額を直ちに一括して支払い,これに対する遅延損害金を支払うべき義務を負うことになるとの誤解を与える特約が存在する場合には,債務者は,制限超過部分を支払うことを債務者に事実上強制されることになり,そのような誤解が生じなかったといえるような特段の事情のない限り,当該特約に従って支払われた制限超過利息については,金業法43条1項の適用はない。(破棄理由)
参照条文: /利息制限.1条/貸金業.43条/
全 文 h180119supreme.html

最高裁判所 平成 18年 1月 17日 第3小法廷 判決 ( 平成13年(あ)第1205号 )
事件名:  誘拐,殺人,死体損壊,死体遺棄,わいせつ誘拐,強制わいせつ被告事件(上告事件)
要 旨
 自己の性的欲求を満たすために,当時4歳から7歳のいたいけない女児5名を次々と誘拐し,うち4名の被害者をその日のうちに殺害する等の凶悪な犯行を重ねた被告人について,背景に被告人が先天性の前腕の障害に悩んできた経緯があり,前科はなく,捜査段階では事実を認めていたこと等を考慮しても,死刑の科刑は是認されるとされた事例。
参照条文: /刑.9条/刑.199条/
全 文 h180117supreme92.html

最高裁判所 平成 18年 1月 17日 第3小法廷 判決 ( 平成17年(受)第144号 )
事件名:  所有権確認請求本訴,所有権確認等請求反訴,土地所有権確認請求・上告事件
要 旨
 取得時効完成後の土地を元の所有者から買い受けて所有権移転登記を経由した者が,時効取得者の登記の欠缺を主張するについて正当な利益を有しない第三者(背信的悪意者)に該当するというためには,買受人が時効取得者による多年にわたる占有継続の事実を認識している必要があるとされ,この点を確定することなく背信的悪意者に該当するとした原判決が破棄された事例。
 1.時効により不動産の所有権を取得した者は,時効完成前に当該不動産を譲り受けて所有権移転登記を了した者に対しては,時効取得した所有権を対抗することができるが,時効完成後に当該不動産を譲り受けて所有権移転登記を了した者に対しては,特段の事情のない限り,これを対抗することができない。(先例の確認)
 2.民法177条にいう第三者については,一般的にはその善意・悪意を問わないものであるが,実体上物権変動があった事実を知る者において,同物権変動についての登記の欠缺を主張することが信義に反するものと認められる事情がある場合には,登記の欠缺を主張するについて正当な利益を有しないものであって,このような背信的悪意者は,民法177条にいう第三者に当たらない。(先例の確認)
 2a.甲が時効取得した不動産について,その取得時効完成後に乙が当該不動産の譲渡を受けて所有権移転登記を了した場合において,乙が,当該不動産の譲渡を受けた時点において,甲が多年にわたり当該不動産を占有している事実を認識しており,甲の登記の欠缺を主張することが信義に反するものと認められる事情が存在するときは,乙は背信的悪意者に当たる。
 2b.乙において,甲が取得時効の成立要件を充足していることをすべて具体的に認識していなくても,背信的悪意者と認められる場合があるというべきであるが,その場合であっても,少なくとも,乙が甲による多年にわたる占有継続の事実を認識している必要がある。(破棄理由)
 2c.取得時効完成後の土地(通路地)を含む土地を元の所有者から買い受けた者が時効取得者による多年にわたる占有継続の事実を認識していたことを確定せずに,単に,買受人が土地等の購入時,時効取得者が当該土地を通路として使用しており,これを通路として使用できないと公道へ出ることが困難となることを知っていたこと,買受人が調査をすれば時効取得を容易に知り得たことをもって,買受人は時効取得者の所有権の登記の欠缺を主張するにつき正当な利益を有する第三者に当たらないと判断することは許されないとされた事例。
参照条文: /民法:177条/民法:162条1項/不動産登記.5条/
全 文 h180117supreme.html

最高裁判所 平成 18年 1月 17日 第3小法廷 決定 ( 平成16年(あ)第2154号 )
事件名:  建造物損壊被告事件(上告事件)
要 旨
 区立公園内に設置された公衆便所の白色外壁に,ラッカースプレー2本を用いて赤色及び黒色のペンキを吹き付け,その南東側及び北東側の白色外壁部分のほとんどを埋め尽くすような形で,「反戦」,「戦争反対」及び「スペクタクル社会」と大書した行為について,その行為は,建物の外観ないし美観を著しく汚損し,原状回復に相当の困難を生じさせたものであって,その効用を減損させたものというべきであるから,刑法260条前段にいう「損壊」に当たるとされた事例。
参照条文: /刑法:260条/
全 文 h180117supreme91.html

最高裁判所 平成 18年 1月 16日 第1小法廷 決定 ( 平成17年(あ)第829号 )
事件名:  廃棄物の処理及び清掃に関する法律違反被告事件(上告事件)
要 旨
 廃棄物の処理及び清掃に関する法律(平成15年法律第93号による改正前のもの)25条4号にいう「第12条第3項(中略)の規定に違反して,産業廃棄物の処理を他人に委託した」とは,上記12条3項所定の者に自ら委託する場合以外の,当該処理を目的とするすべての委託行為を含むと解するのが相当であるから,その他人自らが処分を行うように委託する場合のみならず,更に他の者に処分を行うように再委託することを委託する場合も含み,再委託先についての指示いかんを問わない。
参照条文: /廃棄物処理.25条4号/廃棄物処理.12条3項/
全 文 h180116supreme91.html

最高裁判所 平成 18年 1月 13日 第2小法廷 決定 ( 平成16年(受)第1518号 )
事件名:  貸金請求・上告事件
要 旨
 1.消費貸借契約における期限の利益喪失特約のうち,利息制限法1条1項所定の利息の制限額を超える部分の支払を怠った場合に期限の利益を喪失するとする部分は無効であり,支払期日に約定の元本又は利息の制限額の支払を怠った場合に限り,期限の利益を喪失する。(前提の議論)
 1a.貸金業法17条1項及びその委任に基づき定められた施行規則13条1項は,飽くまでも当事者が合意した内容を正確に記載することを要求しているものと解するのが相当であり,当該合意が法律の解釈適用によって無効又は一部無効となる場合についても同様と解される。(判旨)
 2.貸金業法18条1項所定の書面の記載事項に関する内閣府令の規定(施行規則15条2項)のうち,弁済を受けた債権に係る貸付けの契約を契約番号その他により明示することをもって,同法18条1項1号から3号までに掲げる事項の記載に代えることができる旨定めた部分は,他の事項の記載をもって法定事項の一部の記載に代えることを定めたものであるから,内閣府令に対する法の委任の範囲を逸脱した違法な規定として無効と解すべきである。(判旨:破棄理由)
 3.貸金業法43条1項にいう「債務者が利息として任意に支払った」とは,債務者が利息の契約に基づく利息の支払に充当されることを認識した上,自己の自由な意思によってこれを支払ったことをいい,債務者において,その支払った金銭の額が利息の制限額を超えていることあるいは当該超過部分の契約が無効であることまで認識していることを要しない。(先例の確認)
 3a.しかし,債務者が,事実上にせよ強制を受けて利息の制限額を超える額の金銭の支払をした場合には,制限超過部分を自己の自由な意思によって支払ったものということはできず,法43条1項の規定の適用要件を欠くというべきである。(判旨)
 3b.制限超過部分の支払遅滞をも期限の利益の喪失事由とする特約の下で,債務者が,利息として,利息の制限額を超える額の金銭を支払った場合には,特段の事情のない限り,債務者が自己の自由な意思によって制限超過部分を支払ったものということはできない。(判旨:破棄理由)
参照条文: /貸金業.18条/貸金業./貸金業.43条/利息制限1条/
全 文 h180113supreme.html

最高裁判所 平成 17年 12月 19日 第2小法廷 判決 ( 平成15年(行ヒ)第215号 )
事件名:  法人税更正処分取消請求・上告事件
要 旨
 利息に対して15%の割合の源泉税が課されるクック諸島において設立されたB社が運用する資金の調達について,源泉税の負担を軽減する目的で,投資家からの資金をクック諸島法人のC社に集め,その資金を日本の銀行に預金し,日本の銀行がB社に貸し付けた場合に,日本の銀行がB社に対する貸付金に対して負担した源泉税を外国税額控除の対象とすることはできないとして,過少申告加算税が課された事例。
 1.法人税法69条の定める外国税額控除の制度は,同一の所得に対する国際的二重課税を排斥し,かつ,事業活動に対する税制の中立性を確保しようとする政策目的に基づく制度である。
 2.本件取引は,全体としてみれば,本来は外国法人が負担すべき外国法人税について我が国の銀行が対価を得て引き受け,その負担を自己の外国税額控除の余裕枠を利用して国内で納付すべき法人税額を減らすことによって免れ,我が国において納付されるべき法人税額を減少させた上,この免れた税額を原資とする利益を取引関係者が享受するものであるから,本件取引に基づいて生じた所得に対する外国法人税を法人税法69条の定める外国税額控除の対象とすることは,外国税額控除制度を濫用するものであり,さらには,税負担の公平を著しく害するものとして許されない。 /外国税額控除制度の濫用/
参照条文: /法人税.69条/
全 文 h171219supreme.html

最高裁判所 平成 17年 12月 16日 第2小法廷 判決 ( 平成16年(受)第1573号 )
事件名:  敷金返還請求・上告事件
要 旨
 通常損耗の補修費用を賃借人に負担される旨の特約が明確に合意されているとはいえないとされた事例。
 1.建物の賃借人にその賃貸借において生ずる通常損耗についての原状回復義務を負わせるのは,賃借人に予期しない特別の負担を課すことになるから,賃借人に同義務が認められるためには,少なくとも,賃借人が補修費用を負担することになる通常損耗の範囲が賃貸借契約書の条項自体に具体的に明記されているか,仮に賃貸借契約書では明らかでない場合には,賃貸人が口頭により説明し,賃借人がその旨を明確に認識し,それを合意の内容としたものと認められるなど,その旨の特約(通常損耗補修特約)が明確に合意されていることが必要である。
 2.賃貸借契約の内容をなす負担区分表の要補修状況を記載した「基準になる状況」欄に,「襖紙・障子紙」の項目についての要補修状況は「汚損(手垢の汚れ,タバコの煤けなど生活することによる変色を含む)・汚れ」,「各種床仕上材」の項目についての要補修状況は「生活することによる変色・汚損・破損と認められるもの」,「各種壁・天井等仕上材」の項目についての要補修状況は「生活することによる変色・汚損・破損」と記され,いずれも退去者が補修費用を負担するものとされている場合であっても,その文言自体からは,通常損耗を含む趣旨であることが一義的に明白であるとはいえないとされた事例。
参照条文: 
全 文 h171216supreme2.html

最高裁判所 平成 17年 12月 16日 第2小法廷 判決 ( 平成15年(受)第1980号 )
事件名:  土地所有権確認請求・上告事件
要 旨
 埋立免許を受けて海面の埋立工事が開始されたが竣功認可のなかった埋立地について、埋立工事の完成した昭和32年9月頃に買い受けた者が販売用の松を植樹するなどして占有を継続していた場合に、買受人の相続人が占有を開始した昭和45年1月27日の時点においては、埋立地は公共用財産としての形態,機能を完全に喪失したので、私法上所有権の客体となる土地として存続することが確定し,同時に,黙示的に公用が廃止されたものとして,取得時効の対象となるものと解すべきであるとされた事例。
 1.竣工未認可埋立地が長年にわたり事実上公の目的に使用されることもなく放置され,公共用財産としての形態,機能を完全に喪失し,その上に他人の平穏かつ公然の占有が継続したが,そのため実際上公の目的が害されるようなこともなく,これを公共用財産として維持すべき理由がなくなった場合には,公有水面埋立法35条1項に定める原状回復義務の対象とならない。
 1a.上記の場合には,竣功未認可埋立地であっても私法上所有権の客体となる土地として存続することが確定し,同時に,黙示的に公用が廃止されたものとして,取得時効の対象となる。
参照条文: /民法:162条/民法:86条/民法:2編/公有水面埋立法.35条1項/
全 文 h171216supreme.html

最高裁判所 平成 17年 12月 15日 第1小法廷 判決 ( 平成17年(受)第560号 )
事件名:  不当利得返還請求・上告事件
要 旨
 借入限度額の範囲内で借入れと返済を繰り返すことを予定し,追加貸付けがあっても当該追加貸付けを含めたその時点での全貸付けの残元利金について毎月返済期日に最低返済額及び経過利息を支払えば足り,返済額の決定を借主にゆだねるリボルビング方式の貸付けがなされた場合に,貸金業者が個々の貸付の際に貸金業法の17条書面に「返済期間及び返済回数」や施行規則13条1項1号チに掲げる各回の「返済金額」を記載しなかったため,貸金業法43条1項の適用が否定され,利息制限法1条1項所定の制限利率により計算した金額を超えて支払った過払利息について,不当利得返還請求が認容された事例。
 1.リボルビング方式の貸付けにあっても,返済期間,返済金額等を17条書面に記載すべき義務を免れるものではなく,個々の貸付けの時点での残元利金について,最低返済額及び経過利息を毎月の返済期日に返済する場合の返済期間,返済金額等を17条書面に記載することは可能であり,これを確定的な返済期間,返済金額等の記載に準ずるものとして,17条書面として交付する書面に記載すべきである。
参照条文: /貸金.17条/貸金43条/民法:703条/利息制限.1条/利息制限.2条/
全 文 h171215supreme3.html

最高裁判所 平成 17年 12月 15日 第1小法廷 判決 ( 平成14年(行ヒ)第325号 )
事件名:  違法公金支出金返還請求・上告事件
要 旨
 1.普通地方公共団体の住民が相当の注意力をもって調査を尽くしても客観的にみて監査請求をするに足りる程度に当該行為の存在又は内容を知ることができなかった場合には,法242条2項ただし書にいう正当な理由の有無は,特段の事情のない限り,当該普通地方公共団体の住民が相当の注意力をもって調査すれば客観的にみて上記の程度に当該行為の存在及び内容を知ることができたと解される時から相当な期間内に監査請求をしたかどうかによって判断すべきである。(先例の確認)
 1a.市民団体(市民オンブズマン北九州)が,市の平成7年度の食糧費の支出に関する文書につい情報公開請求をしたところ,平成9年8月19日になって,相手方出席者に係る情報を塗りつぶした多数の一般支出決議書等(1422件・3258枚)の写しを交付された場合に,それにより,個別の食糧費の支出の日,金額,その内訳及び債権者名並びに食糧費の支出に係る会合の場所,出席人数及び市側の出席者が明らかになったのであるから,支出の件数が多数に及ぶものであったとしても,市民団体の構成員は,同日において,監査請求をするに足りる程度に各支出の存在及び内容を知ることができたというべきであるから,そのころから約4か月弱の期間が経過した同年12月15日にされた監査請求は,相当な期間内にされたものということはできないとされた事例。 /住民訴訟/
参照条文: /地自.242条2項/地自.242条の2/
全 文 h171215supreme.html

最高裁判所 平成 17年 12月 15日 第1小法廷 判決 ( 平成16年(オ)第402号 )
事件名:  土地所有権移転登記抹消登記手続請求・上告事件
要 旨
 1.更正登記は,錯誤又は遺漏のため登記と実体関係の間に原始的な不一致がある場合に,その不一致を解消させるべく既存登記の内容の一部を訂正補充する目的をもってされる登記であり,更正の前後を通じて登記としての同一性がある場合に限り認められるものである。(先例の確認)
 2.被相続人Aの遺産に属する不動産について,遺産分割協議が有効に成立したことを前提にして,協議により不動産を取得した相続人Bの相続人Yへの所有権移転登記がなされている場合に,協議の不成立を前提にして,その登記をBを含めたAの相続人らへの所有権移転登記とBからYへの共有持分移転登記に是正すべき場合に,是正前の登記と是正後の第一の登記とは登記名義人が異なるので同一性を欠き,かつ登記の個数が増加するので,この是正を更正登記によってすることはできない。
 2a.上記の場合に,Bの相続人の一人で,分割協議が成立していないことを主張するあるXは,Yに対して,相続によって取得した共有持分権に基づき,AからYへの所有権移転登記について抹消登記手続をなすことを求めることができる。
参照条文: /不登.2条16項/
全 文 h171215supreme2.html

最高裁判所 平成 17年 12月 13日 第1小法廷 決定 ( 平成17年(あ)第204号 )
事件名:  電磁的公正証書原本不実記録,同供用被告事件 (上告事件)
要 旨
 銀行の増資にあたって,銀行が新株引受会社に対して迂回融資の方法により資金を提供し,かつ,新株引受会社が銀行の実質的支配下にあり,銀行がその直接の融資先に銀行の依頼による転融資先から返済を受けない限り融資の返済を求めない旨を約束し,最終融資先である新株引受会社は銀行の経済的支援なしには資金の返済が困難な状況にあった場合に,新株引受会社による払込みは,いずれも株式の払込みとしての効力を有しないから,電磁的公正証書原本不実記録,同供用罪が成立するとされた事例。
参照条文: /刑.157条1項/158条1項/会社.208条/
全 文 h171213supreme91.html

最高裁判所 平成 17年 12月 13日 第3小法廷 判決 ( 平成17年(受)第1398号 )
事件名:  社員総会決議無効確認等請求・上告事件
要 旨
 公共嘱託登記土地家屋調査士協会の社員の除名処分決議をなす総会の招集通知書に,除名事由あたる具体的事実がまったく記載されておらず,かつ,総会において除名事由該当する事実が口頭で示されたが,除名事由に当たる事実を具体的に特定しているとはいえない場合に,除名決議が無効であるとされた事例。
 1.官公署等による登記に関する手続の円滑な実施に資すること等を目的とする公共嘱託登記土地家屋調査士協会の内部規律に関しては,宗教法人や学校法人の内部規律とは異なり,その裁量的判断にゆだねられる余地は少なく,社員の除名といった法律関係を終了させる処分は,当該社員の存在が協会の目的に反し,又はその目的を阻害するといった明確な事実があったときに許容される。(先例の確認)
 1a.加入拒否について法律上制限がある公共嘱託登記土地家屋調査士協会においては,除名の決議に当たって,除名の対象者を含む社員に対して,除名事由に当たる事実を具体的に特定して示し,除名の対象者に対し,当該具体的な事実について必要かつ十分な弁明の機会を与えるとともに,議決権者である社員が当該具体的な事実に基づいて除名事由の存否を的確に判断することができるようにすべきである。
 2.除名決議に当たって,除名対象者を含む社員に対して,除名事由に当たる事実を具体的に特定して示し,除名対象者に対し,具体的な事実について必要かつ十分な弁明の機会を与えるとともに,議決権者である社員が具体的な事実に基づいて除名事由の存否を的確に判断することができるようにしたものということはできないとされた事例。 /団体/社団法人の内部規律/司法審査/
参照条文: /土地家屋調査士.63条/
全 文 h171213supreme.html

最高裁判所 平成 17年 12月 9日 第2小法廷 決定 ( 平成17年(許)第18号 )
事件名:  間接強制決定に対する執行抗告棄却決定に対する許可抗告事件
要 旨
 1.不作為を目的とする債務の強制執行として民事執行法172条1項所定の間接強制決定をするには,債権者において,債務者がその不作為義務に違反するおそれがあることを立証すれば足り,債務者が現にその不作為義務に違反していることを立証する必要はない。
 1a.義務違反のおそれの立証は必要であるが,この要件は,高度の蓋然性や急迫性に裏付けられたものである必要はない。
 2.間接強制決定の発令後,進んで,前記金銭を取り立てるためには,執行文の付与を受ける必要があり,そのためには,間接強制決定に係る義務違反があったとの事実を立証することが求められる。
参照条文: /民執.172条1項/民執.27条/
全 文 h171209supreme.html

最高裁判所 平成 17年 12月 8日 第1小法廷 判決 ( 平成17年(受)第715号 )
事件名:  損害賠償請求・上告事件
要 旨
 1.勾留されている患者の診療に当たった拘置所の職員である医師が,過失により患者を適時に外部の適切な医療機関へ転送すべき義務を怠った場合において,適時に適切な医療機関への転送が行われ,同病院において適切な医療行為を受けていたならば,患者に重大な後遺症が残らなかった相当程度の可能性の存在が証明されるときは,国は,患者が上記可能性を侵害されたことによって被った損害について国家賠償責任を負う。(先例の確認)(相当程度の可能性の証明がないとして請求が棄却された事例)
 2.「患者が適時に適切な医療機関へ転送され,同医療機関において適切な検査,治療等の医療行為を受ける利益」を不法行為法上の保護利益とすべきであるとの少数意見が否定された事例。 /立証の困難の軽減/適切な専門的サービスを受ける利益/
参照条文: /国賠.1条1項/
全 文 h171208supreme.html

最高裁判所 平成 17年 12月 7日 大法廷 判決 ( 平成16年(行ヒ)第114号 )
事件名:  小田急線連続立体交差事業認可処分取消,事業認可処分取消請求・上告事件
要 旨
 小田急線の連続立体交差事業のために,鉄道の嵩上事業とこれに付属して街路事業が都市計画事業として認可されたのに対し,沿線住民が地下式にすべきであると主張して認可取消訴訟を提起した場合に,取消訴訟の原告適格が問題とされた事例。
 1.行政事件訴訟法9条1項にいう当該処分の取消しを求めるにつき「法律上の利益を有する者」とは,当該処分により自己の権利若しくは法律上保護された利益を侵害され,又は必然的に侵害されるおそれのある者をいうのであり,当該処分を定めた行政法規が,不特定多数者の具体的利益を専ら一般的公益の中に吸収解消させるにとどめず,それが帰属する個々人の個別的利益としてもこれを保護すべきものとする趣旨を含むと解される場合には,このような利益もここにいう法律上保護された利益に当たり,当該処分によりこれを侵害され又は必然的に侵害されるおそれのある者は,当該処分の取消訴訟における原告適格を有する。
 2.都市計画事業の認可に関する都市計画法の規定は,事業に伴う騒音,振動等によって,事業地の周辺地域に居住する住民に健康又は生活環境の被害が発生することを防止し,もって健康で文化的な都市生活を確保し,良好な生活環境を保全することも,その趣旨及び目的とするものと解される。
 2a.都市計画事業の認可に関する都市画同法の規定は,その趣旨及び目的にかんがみれば,事業地の周辺地域に居住する住民に対し,違法な事業に起因する騒音,振動等によってこのような健康又は生活環境に係る著しい被害を受けないという具体的利益を保護しようとするものと解され,この具体的利益は,一般的公益の中に吸収解消させることが困難なものといわざるを得ない。
 2b.都市計画事業の事業地の周辺に居住する住民のうち当該事業が実施されることにより騒音,振動等による健康又は生活環境に係る著しい被害を直接的に受けるおそれのある者は,当該事業の認可の取消しを求めるにつき法律上の利益を有する者として,その取消訴訟における原告適格を有する。(判例変更)
 2c.鉄道事業に係る関係地域内の住所地に居住している者について,その住所地と鉄道事業の事業地との距離関係などを考慮して,鉄道事業が実施されることにより騒音,振動等による健康又は生活環境に係る著しい被害を直接的に受けるおそれのある者に当たると認められ,鉄道事業認可の取消しを求める原告適格が肯定された事例。
 2d.鉄道事業に係る関係地域外に居住している者について,鉄道事業が実施されることにより騒音,振動等による健康又は生活環境に係る著しい被害を直接的に受けるおそれがあるとはいえないとして,鉄道事業認可の取消しを求める原告適格が否定された事例。
 3.鉄道の連続立体交差化のための鉄道事業とこれに付属する街路事業とは,密接な関連を有するものの,それぞれ独立した都市計画事業であるから,付属街路事業認可の取消しを求める原告適格の有無は,鉄道事業とは別個にかつ個々の付属事業ごとに検討すべきである。(補足意見と反対意見あり) /当事者適格/公害防止計画/
参照条文: /行訴.9条/都市計画.13条/都市計画.59条/都市計画.61条/
全 文 h171207supreme.html

最高裁判所 平成 17年 12月 6日 第2小法廷 決定 ( 平成16年(あ)第2199号 )
事件名:  未成年者略取被告事件(上告事件)
要 旨
 別居中の妻(母)が養育している子(2歳)が祖母に伴われて保育園から帰宅しようとしたところを夫(父)が連れ去った行為について,未成年者略取罪の成立が認められた事例。
 1.共同親権者の1人である母の実家において母及びその両親に監護養育されて平穏に生活していた子を,親権ないし監護権を制約する法的処分を受けていない父が,有形力を用いて連れ去り,保護されている環境から引き離して自分の事実的支配下に置くことにより,未成年者略取罪の構成要件に該当する行為をした場合に,父が親権者の1人であることは,行為の違法性が例外的に阻却されるかどうかの判断において考慮されるべき事情である。
参照条文: /刑.224条/民法:818条/民法:820条/
全 文 h171206supreme91.html

最高裁判所 平成 17年 12月 6日 第3小法廷 決定 ( 平成17年(許)第19号 )
事件名:  債権差押命令申立て一部却下決定に対する執行抗告棄却決定に対する許可抗告事件
要 旨
 1.保険医療機関,指定医療機関等の指定を受けた病院又は診療所が支払基金に対して取得する診療報酬債権は,基本となる同一の法律関係に基づき継続的に発生するものであり,民事執行法151条の2第2項に規定する「継続的給付に係る債権」に当たる。
 1a.医療機関が診療担当者として支払基金に対して診療報酬を請求し得る地位は,法律の規定に基づき保険医療機関としての指定を受けることにより発生し,継続的に保持される性質のものである。
参照条文: /民執.151-2条/
全 文 h171206supreme.html

最高裁判所 平成 17年 12月 1日 第1小法廷 判決 ( 平成14年(オ)第1615号,平成14年(受)第1654号 )
事件名:  損害賠償請求・上告事件
要 旨
 1.一般に社会公共的な問題について国民全体の意思を組織的に決定,実現すべき立場にある国は,国政の一部として広く適切な教育政策を樹立,実施すべく,また,し得る者として,あるいは子供自身の利益の擁護のため,あるいは子供の成長に対する社会公共の利益と関心にこたえるため,必要かつ相当と認められる範囲において,教育内容についてもこれを決定する権能を有する。(先例の確認)
 2.平成3年当時に行われていた教科用図書検定制度が,憲法26条,13条,21条,23条,に違反するとはいえないとされた事例。
 2a.平成3年当時に行われていた教科用図書検定制度および同制度により実施された検定が,憲法31条の法意に反するということはできないとされた事例。
 3.文部大臣が検定審議会の答申等に基づいて行う合否の判定や,必要な修正を行った後に再度審査を行うことが適当であると検定審議会が認める場合に申請者に通知する検定意見の内容等の審査,判断は,申請図書について,内容が学問的に正確であるか,中立・公正であるか,教科の目標等を達成する上で適切であるか,児童,生徒の心身の発達段階に適応しているかなどの様々な観点から多角的に行われるもので,学術的,教育的な専門技術的判断であるから,事柄の性質上,文部大臣の合理的な裁量にゆだねられるものであるが,上記の判定等についての検定審議会の判断の過程に,原稿の記述内容又は欠陥の指摘の根拠となるべき検定当時の学説状況,教育状況についての認識や,検定基準に違反するとの評価等に看過し難い過誤があって,文部大臣の判断がこれに依拠してされたと認められる場合には,上記判断は,裁量権の範囲を逸脱したものとして,国家賠償法上違法となる。
 3a.検定意見に看過し難い過誤があるかどうかについては,{1}原稿記述が誤りであるとして他説による記述を求める場合は,検定意見の根拠となる学説が通説,定説として学界に広く受け入れられており,原稿記述が誤りと評価し得るかなどの観点から,{2}原稿記述が一面的,断定的であるとして両説併記等を求める場合は,学界においていまだ定説とされる学説がなく,原稿記述が一面的であると評価し得るかなどの観点から判断すべきであり,{3}内容の選択や内容の程度等に関する検定意見は,原稿記述の学問的な正確性ではなく,教育的な相当性を問題とするものであって,取り上げた内容が学習指導要領に規定する教科の目標等や児童,生徒の心身の発達段階等に照らして不適切であると評価し得るかなどの観点から判断すべきである。
 3b.検定意見に看過し難い過誤があったとは認められなかった事例。
参照条文: /憲.13条/憲.21条/憲.23条/憲.26条/憲.31条/国賠.1条/学校教育.51条/学校教育.21条/学校教育.43条/学校教育.106条/教科用図書検定規.7条/教科用図書検定規.8条/
全 文 h171201supreme.html

最高裁判所 平成 17年 11月 29日 第3小法廷 決定 ( 平成16年(あ)第2172号 )
事件名:  逮捕監禁,営利略取,殺人,死体遺棄被告事件
要 旨
 殺人,死体遺棄の公訴事実について,専ら殺意を否認していた被告人が,第6回公判期日の冒頭において,従前の供述を翻して全面的に否認する旨主張したが,弁護人が第8回公判期日における最終弁論において,罪体に関し,被告人の第6回公判期日以降の供述を前提とせず,第5回公判期日までの供述を前提として有罪の主張をした場合に,第一審裁判所が弁護人に更に弁論を尽くさせるなどせず,この主張を放置して結審したとしても,その訴訟手続に被告人の防御権ないし弁護人選任権を侵害する違法はないとされた事例。
参照条文: /刑訴.272条/刑訴.293条2項/
全 文 h171129supreme91.html

東京簡易裁判所 平成 17年 11月 28日 民事第8室 決定 ( 平成17年(サ)第077212号 )
事件名:  証拠保全申立事件
要 旨
 衆議院議員選挙期間中の放送番組における解説者の発言について虚偽等が含まれていると主張する者が、放送法4条1項に規定する訂正放送を求める訴訟及び参政権侵害を理由とす損害賠償請求訴訟を提起する予定であり、放送法5条により保管義務が3箇月とされている放送局保管のビデオ等の証拠保全(検証)を申し立てたが、申立人の法案訴訟における請求は法的な基盤を欠いており、証拠調べをしないことが客観的に明らかであるとの理由により、証拠保全の申立てが却下された事例。
 1.証拠保全は,本案訴訟における証拠調べに先立って行われる手続であるから,本案訴訟における請求が前述したとおり実体法上の基礎づけを欠いていて主張自体失当であることが明らかであり,証拠調べをしないことが客観的に明らかな場合には,証拠保全の申立ては証拠保全の必要性の要件を欠くものとして却下を免れない。
参照条文: /放送法:4条;5条/民事訴訟法:234条/
全 文 h171128tokyoS.html

最高裁判所 平成 17年 11月 25日 第2小法廷 決定 ( 平成17年(し)第380号 )
事件名:  裁判官がした証拠保全における押収の裁判に対する準抗告の決定に対する特別抗告事件
要 旨: 1.捜査機関が収集し保管している証拠については,特段の事情が存しない限り,刑訴法179条の証拠保全手続の対象にならない。
参照条文: /刑訴.179条/
全 文 h171125supreme92.html

最高裁判所 平成 17年 11月 25日 第2小法廷 決定 ( 平成16年(あ)第2571号 )
事件名:  ストーカー行為等の規制等に関する法律違反被告事件(上告事件)
要 旨
 1.ストーカー行為等の規制等に関する法律2条2項の「ストーカー行為」とは,同条1項1号から8号までに掲げる「つきまとい等」のうち,いずれかの行為をすることを反復する行為をいい,特定の行為あるいは特定の号に掲げられた行為を反復する場合に限るものではない。
参照条文: /ストーカー行為規制.2条/
全 文 h171125supreme91.html

最高裁判所 平成 17年 11月 24日 第1小法廷 判決 ( 平成15年(受)第278号 )
事件名:  配当異議・上告事件
要 旨
 複数の1番根抵当権者が存在する不動産について,そのうちの一人が担保不動産競売を申し立て,申立書に,「被担保債権及び請求債権」として,「金8億円
 但し,債権者が債務者に対して有する下記債権のうち,下記記載の順序にしたがい上記金額に満つるまで。」との記載に続けて,7件の手形貸付に係る各約定遅延損害金債権及び各元本債権がその順に記載されている場合に,その記載は,手形貸付債権の全部の額を配当額の計算の基礎として,8億円までの範囲で配当を請求することを示す趣旨のものと解するのが相当であり,民事執行規則170条4号の「被担保債権の一部について担保権の実行」をする旨及び「その範囲」を示す記載であると解すべきではないとされた事例。 /一部請求/
参照条文: /民執.85条5項/民執.85条4項/民執規.170条2号/民執規170条4号/
全 文 h171124supreme.html

東京高等裁判所 平成 17年 11月 24日 第21民事部 判決 ( 平成17年(ネ)第3598号 )
事件名:  損害賠償・控訴事件
要 旨
 船橋市西図書館の司書が,「新しい歴史・公民教科書およびその他の教科書の作成を企画・提案し,それらを児童・生徒の手に渡すことを目的とする」団体(新しい歴史教科書をつくる会)やこれに賛同する者等及びその著書に対する否定的評価と反感から,その独断で,これらの者の執筆又は編集に係る書籍を含む合計107冊を,他の職員に指示して手元に集めた上,資料除籍基準に定められた「除籍対象資料」に該当しないにもかかわらず,蔵書リストから除籍する処理をして廃棄したことが,廃棄された図書の著作者との関係で,著作者の≪公立図書館という公的な場においてその著作物の思想,意見等を公衆に伝達する利益≫を侵害するものとして,国家賠償法上違法になるとされ,各著作者及び権利能力なき社団である新しい歴史教科書をつくる会に各3000円の賠償金を支払うことが船橋市に対して命じられた事例。
 1.公立図書館は,住民に対して思想,意見その他の種々の情報を含む図書館資料を提供してその教養を高めること等を目的とする公的な場ということができ,公立図書館の図書館職員は,公立図書館が上記のような役割を果たせるように,公正に図書館資料を取り扱うべき職務上の義務を負い,閲覧に供された図書について,独断的な評価や個人的な好みによってこれを廃棄するなど合理的な理由のない不公正な取扱いをすることは,図書館職員としての基本的な職務上の義務に反する。
 1a.公立図書館において,その著作物が閲覧に供されることにより,著作者は,その著作物について,合理的な理由なしに不公正な取扱いを受けないという利益を取得し,この利益は,法的保護に値する人格的利益であり,公立図書館の図書館職員である公務員が,図書の廃棄について,基本的な職務上の義務に反し,著作者又は著作物に対する独断的な評価や個人的な好みによって不公正な取扱いをしたときは,当該図書の著作者の人格的利益を侵害するものとして国家賠償法上違法となる。
参照条文: /憲.21条/国賠.1条1項/図書館法.2条/図書館法.3条/教育基本法.7条/社会教育法.9条/
全 文 h171124tokyoH.html

最高裁判所 平成 17年 11月 21日 第2小法廷 判決 ( 平成17年(受)第721号 )
事件名:  診療費等請求・上告事件
要 旨
 1.公立病院において行われる診療に関する法律関係は,本質上私法関係というべきであるから,公立病院の診療に関する債権の消滅時効期間は,地方自治法236条1項所定の5年ではなく,民法170条1号により3年と解すべきである。
参照条文: /民法:170条/地自.236条1項/
全 文 h171121supreme2.html

最高裁判所 平成 17年 11月 21日 第2小法廷 判決 ( 平成16年(受)第1434号 )
事件名:  損害賠償請求・上告事件
要 旨
 1.船舶の衝突によって生じた損害賠償請求権の消滅時効は,民法724条により,被害者が損害及び加害者を知った時から進行する。
参照条文: /民法:724条/商.798条1項/
全 文 h171121supreme.html

最高裁判所 平成 17年 11月 21日 第2小法廷 決定 ( 平成16年(あ)第1478号 )
事件名:  私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律違反被告事件(上告事件)
要 旨
 防衛庁調達実施本部の実施する石油製品の指名競争入札に参加するに際し,長年の慣行に従って,前年度の油種ごとの受注実績を勘案して受注予定会社を決定した上,同社が受注できるような価格で入札を行うように受注調整をした場合に,その慣行により指名競争入札制度が形がい化していたとしても,その受注調整は,指名競争入札における競争を実質的に制限したものであることは明らかであるから,平成14年法律第47号による改正前の私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律89条1項1号,3条違反の罪の成立が認められるとされた事例。
参照条文: /独禁.89条1項/独禁.3条/
全 文 h171121supreme91.html

最高裁判所 平成 17年 11月 18日 第2小法廷 決定 ( 平成17年(ク)第626号 )
事件名:  過料不処罰決定に対する特別抗告事件
要 旨
 1.民訴法209条1項に規定する過料の裁判は,裁判所が職権によって行うものであり,訴訟の当事者はその裁判を求める申立権を有しない。
 1a.上記過料の裁判の申立ては,原裁判所に職権の発動を求める効果を有するにすぎず、申立人は、申立てを却下する決定に対し不服を申し立てることは許されない。 /当事者尋問における虚偽陳述に対する制裁の申立権/
参照条文: /民事訴訟法:209条1項;328条/
全 文 h171118supreme.html

最高裁判所 平成 17年 11月 17日 第1小法廷 判決 ( 平成15年(行ヒ)第231号 )
事件名:  損害賠償代位請求・上告事件
要 旨
 山形県の小国町の住民らが,元町長が町長在職中に町の財産である砂利を低廉な価格で第三者に譲渡したことにより,町が損害を被ったとして,町に代位して元町長に対し損害賠償を求めた訴訟において,原審が,地方自治法237条2項の議会の議決があったというためには実質的に対価の妥当性が審議されていれば足りるとしたのに対し,最高裁が,譲渡等が適正な対価によらないものであることを前提として審議がされた上当該譲渡等を行うことを認める趣旨の議決がされたことを要するとして,破棄・差戻しの裁判をした事例。
 1.地方自治法237条2項の議会の議決があったというためには,譲渡等が適正な対価によらないものであることを前提として審議がされた上当該譲渡等を行うことを認める趣旨の議決がされたことを要する。
 1a.議会において当該譲渡等の対価の妥当性について審議がされた上当該譲渡等を行うことを認める趣旨の議決がされたというだけでは,当該譲渡等が適正な対価によらないものであることを前提として審議がされた上議決がされたということはできない。
参照条文: /地自.237条2項/
全 文 h171117supreme.html

最高裁判所 平成 17年 11月 15日 第1小法廷 決定 ( 平成16年(あ)第385号 )
事件名:  業務上過失致死被告事件(上告事件)
要 旨
 埼玉医科大学総合医療センターの耳鼻咽喉科の患者の主治医が,抗がん剤の投与計画の立案を誤り,抗がん剤を過剰投与するなどして患者を死亡させた医療事故において,同科の医療行為全般を統括し,同科の医師を指導監督して,診察,治療,手術等に従事させる立場にある耳鼻咽喉科科長について,投与計画の具体的内容を把握しその当否を検討することなく,VAC療法の選択の点のみに承認を与え,誤った投与計画を是正しなかった過失があり,また,VAC療法の実施に当たり,自らもその副作用と対応方法について調査研究した上で,主治医らの硫酸ビンクリスチンの副作用に関する知識を確かめ,副作用に的確に対応できるように事前に指導するとともに,懸念される副作用が発現した場合には直ちに自己に報告するよう具体的に指示すべき注意義務があったにもかかわらずこれを怠った過失があるとして,業務上過失致死罪が成立するとされた事例。
参照条文: /刑.211条1項/
全 文 h171115supreme91.html

最高裁判所 平成 17年 11月 15日 第2小法廷 決定 ( 平成14年(あ)第1396号 )
事件名:  被告人Aに対する公正証書原本不実記載,同行使,有印私文書偽造,同行使,被告人Bに対する公正証書原本不実記載,同行使各被告事件(上告事件)
要 旨
 債務者の代表者が全株式を有する関連会社(以下,発行会社)の株式の全部を譲渡担保に供し,債権者が発行会社の役員を選任した後で,債務者の代表者が譲渡担保権者によって選任された役員を譲渡担保権者の関与なしに解任し,自己とその関係者を発行会社の取締役等に選任する臨時株主総会議事録及び自己を代表取締役に選任したこと等を内容とする取締役会議事録を添付して株式会社変更登記申請書を法務局に提出し,商業登記簿の原本にその旨の記載させた場合に,公正証書原本不実記載罪,同行使罪の成立が認められた事例。(譲渡担保設定者に株主共益権があるとの主張が排斥された事例)
 1.株式を譲渡担保に供した場合の株主共益権の帰属については,その株式の内容,譲渡担保契約に至る経緯,契約の内容等諸般の事情を考慮して,契約当事者の合理的な意思解釈によって決すべきである。
 1a.株式の譲渡担保が,単に株式の交換価値の把握を目的にしたものにとどまらず,債権者において,発行会社の営業権を貸付金の実質的な担保として確保する目的で株式を取得することによって,発行会社の経営権を確保しようとしたものであると認定され,譲渡担保の設定に伴い,契約当事者間において,株主共益権を債権者に帰属させる旨の合意があったものと認められた事例。
参照条文: /刑.157条1項/158条1項/
全 文 h171115supreme92.html

最高裁判所 平成 17年 11月 15日 第3小法廷 判決 ( 平成16年(行ヒ)第46号 )
事件名:  損害賠償請求・上告事件
要 旨
 篠山市近郊に居住する者で旧海軍の軍務に従事した経歴のあるものが会員となっている民間団体が年1回約2時間にわたって市が管理している墓地の草刈り作業を行っていて,その団体の開催する会合に市の助役が出席した際に市長交際費を1万円支出した場合に,市の住民である原告が,地方自治法242条の2第1項4号に基づき,市に代位して,市長の職にある被告に対し,支出相当額の損害賠償を求めたところ,原審において,参加者の支払う懇親会費は1人5000円であり,懇親会費用の不足分には年会費の中から合計1万8000円が支出されたが,5000円を超える額はごくわずかであると認定された事案において,原審が,懇親会の会費相当額のうち5000円を超過する額を具体的に判断することなく,また祝儀金は無償の労働奉仕に対する謝意を示す性質を有していたのではないかということがうかがわれるにもかかわらずその点の検討もすることなしに,1万円の祝儀の支出は市長交際費支出基準に基づき社会通念上相当と認められる範囲を逸脱する違法なものであると判断して,5000円の損害賠償を命じたことには,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反があるとされた事例。
参照条文: /民訴.325条2項/地自.242-2条/
全 文 h171115supreme.html

最高裁判所 平成 17年 11月 11日 第2小法廷 決定 ( 平成17年(許)第22号 )
事件名:  担保不動産競売申立て却下決定に対する執行抗告棄却決定に対する許可抗告事件
要 旨
 1.民事執行法は,担保権実行の申立ての要件として,換価権の原因である担保権の存在を証明する法定文書の提出を要求する一方,法定文書の提出さえあれば,担保権の存在について実体判断をすることなく,競売手続の開始を決定することとし,担保権の不存在,消滅等の実体上の事由は,債務者又は不動産所有者の側からの指摘を待って,執行抗告等の手続で審理判断するという構成を採っているから,根抵当権者が競売申立ての際に提出した登記事項証明書に「譲渡担保の売買」を登記原因とする同人への所有権移転登記がなされている場合でも,根抵当権登記が記載されている登記事項証明書は,民事執行法181条1項3号同号所定の法定文書にあたる。
 2.根抵当権者が競売申立ての際に提出した登記事項証明書に所有権移転登記の記載があるが,その登記原因は「譲渡担保の売買」である場合には,譲渡担保権を取得したというだけでは不動産の所有権が確定的に債権者に移転しているということはできないから,根抵当権が混同により消滅したということはできないし,その登記事項証明書が法定文書に当たらないものということはできない。
参照条文: /民事執行法:181条/民法:179条1項/
全 文 h171111supreme.html

最高裁判所 平成 17年 11月 10日 第1小法廷 判決 ( 平成15年(受)第281号 )
事件名:  損害賠償請求・上告事件
要 旨
 平成10年7月に和歌山市内で発生したカレーライスへの毒物混入事件等につき,殺人罪等により起訴されたAが被疑者である段階において行われた勾留理由開示手続において、「FOCUS」と題する写真週刊誌のカメラマンが小型カメラを法廷に隠して持ち込み,刑事事件の手続におけるAの動静を報道する目的で,閉廷直後の時間帯に,裁判所の許可を得ることなく,かつ,Aに無断で,裁判所職員及び訴訟関係人に気付かれないようにして,傍聴席からAの容貌等を写真撮影し、出版社が週刊誌に、手錠をされ腰縄を付けられた状態にあるAの写真ならびにイラストを公表したことが不法行為に当たるとされ、他方、Aが訴訟関係人から資料を見せられている状態及び手振りを交えて話しているような状態が描かれたイラストを公表したことが受忍限度内にあるとされた事例。
 1.人は,みだりに自己の容ぼう等を撮影されないということについて法律上保護されるべき人格的利益を有する。(先例の確認)
 1a.ある者の容ぼう等をその承諾なく撮影することが不法行為法上違法となるかどうかは,被撮影者の社会的地位,撮影された被撮影者の活動内容,撮影の場所,撮影の目的,撮影の態様,撮影の必要性等を総合考慮して,被撮影者の人格的利益の侵害が社会生活上受忍の限度を超えるものといえるかどうかを判断して決すべきである。
 1b.人は,自己の容ぼう等を撮影された写真をみだりに公表されない人格的利益も有し,人の容ぼう等の撮影が違法と評価される場合には,その容ぼう等が撮影された写真を公表する行為は,被撮影者の人格的利益を侵害するものとして,違法性を有する。
 2.人は,自己の容ぼう等を描写したイラスト画についても,これをみだりに公表されない人格的利益を有する。
 2a.人の容ぼう等を描写したイラスト画は,その描写に作者の主観や技術が反映するものであり,それが公表された場合も,作者の主観や技術を反映したものであることを前提とした受け取り方をされるものであるから、人の容ぼう等を描写したイラスト画を公表する行為が社会生活上受忍の限度を超えて不法行為法上違法と評価されるか否かの判断に当たっては,写真とは異なるイラスト画の上記特質が参酌されなければならない。
参照条文: /民法:709条/民法:715条/民法:710条/憲.14条/憲.21条/
全 文 h171110supreme3.html

最高裁判所 平成 17年 11月 10日 第1小法廷 判決 ( 平成13年(行ヒ)第243号 )
事件名:  損害賠償請求・上告事件
要 旨
 下関市が主導して民間企業と共に設立した日韓高速船株式会社(いわゆる第三セクターの会社)が経営不振に陥り、その負債の整理のために下関市が補助金を支出するにあたって、市長が公益上の必要があると判断したことは,裁量権の逸脱又は濫用と断ずべき程度に不合理なものであるということはできないから,第2補助金の支出は,地方自治法232条の2に違反し違法なものであるということはできないとして、住民からの当時の市長に対する地方自治法242条の2第1項4号に基づく補助金相当額の損害賠償請求が棄却された事例。(反対意見あり) /住民代表訴訟/公益性/
参照条文: /地自.232-2条地自.242-2条1項4号/
全 文 h171110supreme2.html

最高裁判所 平成 17年 11月 10日 第1小法廷 決定 ( 平成17年(行フ)第2号 )
事件名:  文書提出命令申立却下決定に対する抗告棄却決定に対する許可抗告事件
要 旨
 仙台市の住民が市長に対し提起した,市議会の会派である相手方らにその受領した政務調査費に相当する額の不当利得の返還請求をすることを求める住民代表訴訟において,相手方らに所属する議員等が出張して行った調査研究に関し,「仙台市政務調査費の交付に関する要綱」に基づいて作成され,各会派に提出された調査研究報告書及びその添付書類について,原告が文書提出命令を申し立てたが,棄却された事例。
 1.ある文書が,その作成目的,記載内容,これを現在の所持者が所持するに至るまでの経緯などの事情から判断して,専ら内部の者の利用に供する目的で作成され,外部の者に開示することが予定されていない文書であって,開示されると個人のプライバシーが侵害されたり個人ないし団体の自由な意思形成が阻害されたりするなど,開示によってその文書の所持者の側に看過し難い不利益が生ずるおそれがあると認められる場合には,特段の事情がない限り,当該文書は民訴法220条4号ニ所定の「専ら文書の所持者の利用に供するための文書」に当たる。(先例の確認,前提の議論)
 2.地方自治法100条所定の政務調査費を用いて議員が行なった調査研究に関し,議員が所属会派の代表者に提出した調査報告書が,内部の者の利用に供する目的で作成され,外部の者に開示することが予定されていない文書であり,かつ,開示された場合には,所持者である相手方ら及びそれに所属する議員の調査研究が執行機関,他の会派等の干渉等によって阻害されるおそれがあり,また,調査研究への協力が得られにくくなって以後の調査研究に支障が生ずるばかりか,その第三者のプライバシーが侵害されるなどのおそれもあり,開示によって相手方ら各自の側に看過し難い不利益が生ずるおそれがあるから,民訴法220条4号ニ所定の「専ら文書の所持者の利用に供するための文書」に当たるとされた事例。(棄却理由) /内部文書/書証/
参照条文: /民訴.220条4号/地自.100条/
全 文 h171110supreme.html

最高裁判所 平成 17年 11月 8日 第3小法廷 判決 ( 平成17年(オ)第153号,平成17年(受)第178号 )
事件名:  詐害行為取消請求・上告事件
要 旨
 ゴルフ場の経営等を目的とするA会社がその親会社の債務の担保のために,394筆の土地と3棟の建物に共同根抵当権(総極度額200億円)を設定し,これによりA社の債務と責任の合計額がその積極財産(約327億5436万円)を4億8620万円だけ上回ることになり,その後にA会社について会社更生手続が開始され,管財人が根抵当権設定契約について旧会社更生法78条1項1号の否認権を行使した場合に,被告が,管財人が否認登記手続を求めることができるのは,本件各不動産のうち,根抵当権の設定によってAの有していた積極財産の総額を上回ることとなった債務及び責任の額である約4億8620万円に相当する部分にとどまるべきであると主張したが,認められなかった事例。
 1.更生会社の管財人が旧会社更生法78条1項1号(現86条1項1号)の否認権を行使する場合には,同号に該当する行為の目的物が複数で可分であったとしても,目的物すべてに否認の効果が及ぶと解するのが相当である。
参照条文: /会更.86条1項1号/
全 文 h140213supreme.html

最高裁判所 平成 17年 11月 8日 第3小法廷 判決 ( 平成16年(受)第1939号 )
事件名:  檀信徒総会決議不存在確認等請求・上告事件
要 旨
 1.確認の利益は,判決をもって法律関係の存否を確定することが,その法律関係に関する法律上の紛争を解決し,当事者の法律上の地位ないし利益が害される危険を除去するために必要かつ適切である場合に認められる。(先例の確認)
 1a.宗教法人の責任役員及び代表役員として行動している原告が当該宗教法人の規則に照らせば責任役員でも代表役員でもなかったこと明らかである場合には,原告を責任役員及び代表役員から解任する旨の決議によって原告の法律上の地位ないし利益が害される危険があるとは認められないから,解任決議の不存在確認請求に係る訴えに確認の利益はないとされた事例。
 2.法人の意思決定機関である会議体の決議の効力に関する疑義が前提となって,決議から派生した法律関係につき現に紛争が存在するときは,決議の存否を判決をもって確定することが,当事者の法律上の地位ないし利益が害される危険を除去するために必要かつ適切である場合があり得る。(先例の確認)
 2a.
 原告が被告宗教法人の檀信徒であり,責任役員及び代表役員を選定する権限を有する檀信徒総会の構成員である場合には,責任役員や代表役員の行為によってその地位ないし利益が害される危険があり,責任役員及び代表役員が適正に選定されることについて法律上の利益を有するものと認められるから,現在,誰が被告の責任役員及び代表役員であるかについて争いがあり,その争いが檀信徒総会選任決議に対する疑義から派生しているものである場合には,同決議の存否を確定することが原告の檀信徒としての地位ないし利益が害される危険を除去するために必要かつ適切であるというべきであるから,檀信徒総会選任決議の不存在確認請求に係る訴えに確認の利益があるとされた事例。
 3.檀信徒総会において責任役員及び代表役員を選定しなければならない状態にあった宗教法人において,責任役員として役員選定のための檀信徒総会を招集することのできた唯一の者がその職責を果たすことを期待できない状態にあった場合に,宗教法人の檀信徒であり,責任役員又は責任役員代務者と称してその運営にかかわってきた者が役員選定のための檀信徒総会を招集することも許されるとされた事例。 /訴訟要件/訴えの客観的利益/確認の利益/宗教団体の内部紛争/
参照条文: /民訴.2編1章/
全 文 h171108supreme3.html

最高裁判所 平成 17年 11月 8日 第3小法廷 決定 ( 平成15年(あ)第163号 )
事件名:  銃砲刀剣類所持等取締法違反被告事件(上告事件)
要 旨
 被告人が激しい反目状態にあった男性とのけんか抗争等に備える目的で,刃物(刃体の長さ約11cmのはさみの片刃を加工して作製した刃物)を自動車のダッシュボード内に入れておいたことは,不法な刃物の携帯というべきであり,その後抗争相手から自動車の衝突・転覆というかたちで仕掛けられたけんかにおいて,ゴルフクラブを所持する相手に立ち向かう際に,刃物をダッシュボードから取り出して,護身用にポケットに移し替えて携帯したとしても,それは不法な刃物の携帯の一部と評価するのが相当であるとされた事例。 /銃砲刀剣類所持等取締法/
参照条文: /銃刀=銃砲刀剣類所持等取締法/銃刀.22/条/銃刀.32条/
全 文 h171108supreme91.html

最高裁判所 平成 17年 11月 8日 第3小法廷 判決 ( 平成14年(行ヒ)第112号 )
事件名:  所得税更正処分等取消請求・上告事件
要 旨
 非上場会社の新株の発行価額と時価との間に差額が存在する場合に,昭和62年に新株を引き受けた者の所得税額の算定の基礎となる時価の算定方法。
 1.評価通達(平成2年直評12,直資2-203による改正前のもの)185が定める1株当たりの純資産価額の算定方式を所得税課税においてそのまま採用すると,相続税や贈与税との性質の違いにより課税上の弊害が生ずる場合には,これを解消するために修正を加えるべきであるが,このような修正をした上で同通達所定の1株当たりの純資産価額の算定方式にのっとって算定された価額は,一般に通常の取引における当事者の合理的意思に合致するものとして,所得税基本通達(平成10年課法8-2,課所4-5による改正前のもの)23~35共-9(4)にいう「1株当たりの純資産価額等を参酌して通常取引されると認められる価額」に当たる。
 1a.営業活動を順調に行っている会社の株式であっても,法人税額等相当額を控除して算定された1株当たりの純資産価額は,昭和62年当時において,一般には通常の取引における当事者の合理的意思に合致するものとして,所得税基本通達(平成10年課法8-2,課所4-5による改正前のもの)23~35共-9(4)にいう「1株当たりの純資産価額等を参酌して通常取引されると認められる価額」に当たり,このように解釈される「1株当たりの純資産価額等を参酌して通常取引されると認められる価額」によって株式の価額を評価して所得の金額を計算することは,所得税法及び所得税法施行令の解釈として合理性を有する。
参照条文: /所得税.36条/所得税法施行令.84条/所得税基本通達./評価通達./
全 文 h171108supreme.html

最高裁判所 平成 17年 11月 1日 第3小法廷 判決 ( 平成14年(行ツ)第187号,平成14年(行ヒ)第218号 )
事件名:  市道区域決定処分取消等請求・上告事件
要 旨
 都市計画法53条に基づく建築制限が旧法下における決定から数えて60年余にわたって継続していることによる損失について,一般的に当然に受忍すべきものとされる制限の範囲を超えて特別の犠牲を課せられたものということがいまだ困難であるから,直接憲法29条3項を根拠として補償請求をすることはできないとされた事例。
参照条文: /憲.29条3項/都市計画.53条/
全 文 h171101supreme.html

最高裁判所 平成 17年 10月 28日 第2小法廷 判決 ( 平成14年(行ヒ)第144号 )
事件名:  損害賠償請求事件・上告事件
要 旨
 1.大分県大分郡挾間町の委託を受けて陣屋の村自然活用施設の運営している団体(振興協会)の理事長(兼町長)が調理員を新規に雇用したことによって赤字を増加させ、その補填のために町が補助金を従来よりも増額して協会に交付したことについて、住民が地方自治法232条の2の定める「公益上必要がある場合」の要件を満たさないからその支出は違法であると主張して、補助金相当額の損害賠償を町長の遺族に求める住民代表訴訟を提起した場合に、調理員を新規に雇用したことによって赤字が増加したという事情があったからといって,それだけで,陣屋の村を存続させるためにその赤字を補てんするのに必要な補助金を振興協会に交付することを特に不合理な措置ということはできず、又、本件雇用をしたことや,本件雇用をした年度の末日までの間に他の調理員を解雇する措置に踏み切らなかったことが経営上の裁量を逸脱した放漫な行為であったとはいえないと判断され、請求が棄却された事例。
 2.地方自治法242条の2第1項4号に基づく住民訴訟において,これを提起した住民は,その請求を放棄することができない。
参照条文: /地自.232-2条/地自.242-2条/民訴.266条/
全 文 h171028supreme.html

東京簡易裁判所 平成 17年 10月 28日 民事第8室少額訴訟係 判決 ( 平成17年(少コ)第2377号 )
事件名:  解雇予告手当請求事件(通常手続移行)
要 旨
 労働者の辞職が,労働者の事情に基づく自主的な判断による退職ではなく,使用者の事情により労働者に対し辞職を求めた結果であると認定され,解雇予告手当の支払いが命じられた事例。
参照条文: /労基.20条/
全 文 h171028tokyoS.html

東京簡易裁判所 平成 17年 10月 27日 民事第2室 判決 ( 平成17年(ハ)第2642号 )
事件名:  損害賠償請求事件
要 旨
 減価償却期間を過ぎた自動販売機が事故により損壊された場合の自動販売機自体の損害額と営業損害額の算定。
 1.減価償却資産としての耐用年数5年が経過して使用中の自動販売機について、被告提出の見積書によると帳簿残存価格は2万5787円であり,また実用耐用年数10年として実質最終残存価額を定額法で購入額50万6000円の20%の10万1200円とされていることを踏まえて,[帳簿価格2万5787円十(実用耐用年数による残存価額10万1200円-帳簿価格2万5787円)×50%]=6万3494円(円未満四捨五入)をもって,損傷時の自動販売機の時価額とみるのが相当であるとされた事例。
 2.既存自動販売機の営業損害は,損傷自動販売機を撤去し代替自動販売機を設置するまでの稼働できなかった期間の損害とみるべきである。
参照条文: /民法:709条/民訴.247条/
全 文 h171027tokyoS.html

最高裁判所 平成 17年 10月 25日 第3小法廷 判決 ( 平成15年(行ヒ)第320号 )
事件名:  勧告取消請求事件・上告事件
要 旨
 1.病院開設計画者に対する医療法30条の7の規定に基づく病床数削減勧告(行政指導)は、医療法及び健康保険法の規定の内容やその運用の実情に照らすと,行政事件訴訟法3条2項にいう「行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為」に当たる。 /抗告訴訟/
参照条文: /行訴.3条2項/医療.30-7条/健康保険.43-3条/
全 文 h171025supreme.html

最高裁判所 平成 17年 10月 24日 第2小法廷 決定 ( 平成17年(し)第406号 )
事件名:  勾留理由開示の期日調書の謄写を許可しないとの裁判に対する準抗告棄却決定に対する特別抗告
要 旨
 勾留理由開示の期日調書の謄写を許可しないとの裁判は,刑事訴訟法429条1項2号にいう「勾留(中略)に関する裁判」には当たらないから,これに対しては,準抗告を申し立てることはできず,同法309条2項により異議を申し立てることができるにとどまる。
参照条文: /刑訴.429条1項/刑訴.309条2項/
全 文 h171024supreme91.html

大阪地方裁判所 平成 17年 10月 24日 第26民事部 判決 ( 平成17年(ワ)第488号 )
事件名:  著作権侵害差止等請求事件(著作権/民事訴訟事件)
要 旨
 集合住宅においてテレビ番組を録画して入居者に自動公衆送信する装置の販売の差止請求が、著作権法112条1項の類推適用により、認容された事例。
 1.請求の特定に欠けるところがないとされた事例。
 1a.被告商品を使用し又は使用させることの差止め、被告商品を販売することの差止め及び被告商品の廃棄を命ずることを請求するにあたっては、商品名によって請求の対象物を特定すれば足り、その構造や性能による特定は、請求の対象物の特定としては、必ずしも必要ではない。
 1b.放送事業者の著作隣接権に基づく請求の際に「放送」の特定が十分ではなかったり、放送番組の著作権に基づく請求の際に番組の特定やその著作権の取得原因等の主張が十分ではなかったとしても、それは請求原因の主張が十分にされていないというにすぎないものであり、訴えを不適法とするものではない。
 2.集合住宅に設置され、テレビ番組を「全局予約モード」で録画することを特長の一つとし、各テレビ番組につき全入居者に送信されうる一つの録画ファイルを保存して、それを入居者のリクエストに応じて自動送信するサーバー装置(商品名「選撮見録」)について、その利用者である入居者は、「公衆」であるということができ、その装置は自動公衆送信の用に供されている装置であると認定された事例。
 3.直接には、複製行為あるいは送信可能化行為をしない者であっても、現実の複製行為あるいは送信可能化行為の過程を管理・支配し、かつ、これによって利益を受けている者がいる場合には、その者も、著作権法による規律の観点からは、複製行為ないし送信可能化行為を直接に行う者と同視することができ、その結果、その者も、複製行為ないし送信可能化行為の主体となる。
 3a.自動公衆送信装置を販売し、設置者の委託を受けて当該装置の管理を行っている者が送信可能化行為の主体であるとは認められなかった事例。
 4.ある行為が行われることによって、その後、ほぼ必然的に権利侵害の結果が生じ、その回避が非常に困難である場合には、その行為は、権利を直接侵害する行為ではないものの、結果としてほぼ確実に権利侵害の結果を惹起するものであるから、その結果発生まで一定の時間や他者の関与が必要になる場合があるとしても、権利侵害の発生という結果から見れば、直接の権利侵害行為と同視することができ、その行為は、著作隣接権に基づく差止めの対象となる。
 4a.集合住宅においてテレビ番組を録画して入居者に自動公衆送信する装置の販売業者が、当該装置の設置者ではなく、またその装置の販売行為自体は著作隣接権を直接侵害する行為ではないが上記の意味で権利侵害行為と同視できる行為であるから、著作権法112条1項の類推適用により、放送事業者は、その装置の製造販売業者に対して、自己の放送区域内においてその装置を販売することの差止めを請求することができるとされた事例。
参照条文: /著作.112条1項/著作.98条/著作.99-2条/著作2条1項9-4号/著作2条1項9-5号/著作2条5項/
全 文 h171024osakaD.html

東京簡易裁判所 平成 17年 10月 20日 民事第8室非訟係 決定 ( 平成17年(ヘ)第238号 )
事件名:  公示催告申立事件
要 旨
 日本の会社が日本で発行した外国を陸揚港とする船荷証券について、荷受人に交付する前に日本国内において紛失したと主張する荷送人が、公示催告・除権決定手続の管轄権は発行人の普通裁判籍を有する地を管轄する東京簡易裁判所にあると主張してその申立てをしたが、その船荷証券の義務履行地は陸揚港のキールン(台湾)であり、国際的裁判管轄権は日本にはないとして却下された事例。
 1.有価証券の公示催告・除権決定の手続については,利害関係人の関心や便宜,除権決定の実効性の確保等々を考えると,義務履行地のある国で手続が行われることが最も妥当であり,義務履行地の属する国以外の国では,この手続を行うことはできず,管轄権がないものと考えるべきである。
 1a.船荷証券の義務履行地が日本にない場合は,わが国に公示催告・除権決定手続の裁判管轄権はない。 /国際裁判管轄/国際民事訴訟法/国際手続法/
参照条文: /非訟.157条/
全 文 h171020tokyoS.html

最高裁判所 平成 17年 10月 18日 第3小法廷 判決 ( 平成17年(行ヒ)第106号 )
事件名:  審決取消請求・上告事件
要 旨
 上告審が,特許無効審決取消し請求を棄却した原判決を破棄して,無効審決を取り消した事例。
 1.特許を無効にすべき旨の審決の取消請求を棄却した原判決に対して上告受理の申立てがされ,その後,当該特許について特許出願の願書に添付された明細書を訂正すべき旨の審決が確定し,特許請求の範囲が減縮された場合には,原判決の基礎となった行政処分が後の行政処分によって変更されたものとして,原判決には民訴法338条1項8号に規定する再審の事由があり,この場合には,原判決には判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反があったものというべきである。(破棄理由=再審事由)
 1a.特許を無効にすべき旨の審決の取消しを求める訴訟の係属中に,当該特許について特許出願の願書に添付された明細書を訂正すべき旨の審決が確定し,特許請求の範囲が減縮された場合には,特許を無効にすべき旨の審決を取り消さなければならない。(審決取消理由)
 2.上告審が原判決を破棄して請求を認容した場合であるが,行政事件訴訟法7条,民訴法62条を適用して,訴訟の総費用を上告人の負担とした事例。
参照条文: /民訴.338条1項8号/特許.123条/特許.181条/行訴.7条/民訴.62条/
全 文 h171018supreme.html

最高裁判所 平成 17年 10月 14日 第3小法廷 決定 ( 平成17年(許)第11号 )
事件名:  文書提出命令に対する抗告審の変更決定に対する許可抗告事件
要 旨
 労働災害により死亡した労働者の遺族が会社に対して提起した損害賠償請求訴訟において,当該事故について労働基準監督官が調査して作成した労働基準監督署長宛の報告書である災害調査復命書について,文書提出命令の申立てがなされた場合に,復命書に記載されている{1}事業場の安全管理体制,労災事故の発生状況,発生原因等の会社にとっての私的な情報に係る部分も,{2}再発防止策,行政上の措置についての調査担当者の意見,署長判決及び意見等の行政内部の意思形成過程に関する情報に係る部分も民訴法220条4号ロにいう「公務員の職務上の秘密に関する文書」に当たるとされ,{2}の部分については,民訴法220条4号ロ所定の「公務の遂行に著しい支障を生ずるおそれ」が具体的に存在することが明らかであるとして,提出義務が否定され,{1}の部分については,そのおそれが具体的に存在するということはできないとして,提出義務が肯定された事例。
 1.民訴法220条4号ロにいう「公務員の職務上の秘密」とは,公務員が職務上知り得た非公知の事項であって,実質的にもそれを秘密として保護するに値すると認められるものをいう。
 1a.「公務員の職務上の秘密」には,公務員の所掌事務に属する秘密だけでなく,公務員が職務を遂行する上で知ることができた私人の秘密であって,それが本案事件において公にされることにより,私人との信頼関係が損なわれ,公務の公正かつ円滑な運営に支障を来すこととなるものも含まれる。
 2.民訴法220条4号ロにいう「その提出により公共の利益を害し,又は公務の遂行に著しい支障を生ずるおそれがある」とは,単に文書の性格から公共の利益を害し,又は公務の遂行に著しい支障を生ずる抽象的なおそれがあることが認められるだけでは足りず,その文書の記載内容からみてそのおそれの存在することが具体的に認められることが必要である。
 2a.災害調査復命書中の「再発防止策,行政上の措置についての調査担当者の意見,署長判決及び意見等」は,行政内部の意思形成過程に関する情報が記載されたものであり,その記載内容に照らして,これが本案事件(労災事故により死亡した労働者の遺族が会社に対して提起した損害賠償請求訴訟)において提出されると,行政の自由な意思決定が阻害され,公務の遂行に著しい支障を生ずるおそれが具体的に存在することが明らかであり,したがって「公務の遂行に著しい支障を生ずるおそれがあるもの」に該当しないとはいえないとして,提出義務が否定された事例。(注:「該当しないとはいえない」の部分は,証明責任の分配を考慮した措辞であろう)
 2b.労災事故の調査にあたった労働基準監督官が職務上知ることができた事業場の安全管理体制,労災事故の発生状況,発生原因等の被告会社にとっての私的な情報は,労働基準監督署長が事業者・労働者等に対して罰則付の出頭命令の権限等を有すること等を考慮すると,それを記載した調査復命書の部分が本案事件において提出されることによって公務の遂行に著しい支障が生ずるおそれが具体的に存在するということはできず,したがつて「公務の遂行に著しい支障を生ずるおそれがあるもの」に該当しないとして,提出義務が肯定された事例。
 3.労働基準監督官が作成する災害調査復命書は,厚生労働省内において組織的に利用される内部文書であって,公表を予定していないものと認められる。 /書証/部分的開示命令/
参照条文: /民事訴訟法:220条1項4号;197条1項1号/
全 文 h171014supreme3.html

最高裁判所 平成 17年 10月 12日 第1小法廷 決定 ( 平成17年(あ)第660号 )
事件名:  国際的な協力の下に規制薬物に係る不正行為を助長する行為等の防止を図るための麻薬及び向精神薬取締法等の特例等に関する法律違反,覚せい剤取締法違反被告事件(上告事件)
要 旨
 規制薬物を譲り渡すなどの行為をすることを業とし,又はこれらの行為と薬物犯罪を犯す意思をもって薬物その他の物品を規制薬物として譲り渡すなどの行為を併せてすることを業とすることをその構成要件とする麻薬特例法5条の罪の公訴事実の記載に、訴因の特定の点で不備がないとされた事例。
参照条文: /麻薬特例=国際的な協力の下に規制薬物に係る不正行為を助長する行為等の防止を図るための麻薬及び向精神薬取締法等の特例等に関する法律/麻薬特例.5条/刑訴.256条/
全 文 h171012supreme91.html

最高裁判所 平成 17年 10月 11日 第3小法廷 決定 ( 平成17年(許)第14号 )
事件名:  遺産分割審判に対する抗告審の変更決定に対する許可抗告事件
要 旨
 1.遺産は,相続人が数人ある場合において,それが当然に分割されるものでないときは,相続開始から遺産分割までの間,共同相続人の共有に属し,この共有の性質は,基本的には民法249条以下に規定する共有と性質を異にするものではない。(先例の確認)
 1a.共同相続人が取得する遺産の共有持分権は,実体上の権利であって遺産分割の対象となる。
 1b.Aの遺産について相続分に応じた共有持分権を取得したBについて相続が開始された場合には,その共有持分権はBの遺産を構成するものであるから,これをBの共同相続人に分属させるには,遺産分割手続を経る必要があり,共同相続人の中にBから特別受益に当たる贈与を受けた者があるときは,その持戻しをして各共同相続人の具体的相続分を算定しなければならない。
参照条文: /民法:903条/
全 文 h171011supreme2.html

最高裁判所 平成 17年 10月 7日 第3小法廷 判決 ( 平成14年(あ)第1431号 )
事件名:  商法違反,背任,有価証券偽造,同行使,有印私文書偽造,同行使被告事件(上告事件)
要 旨
 イトマン事件において、イトマンの理事兼企画監理本部長の立場にあった被告人について,給与等の支給をイトマンから受けることがなかったとしても,「営業ニ関スル或種類若ハ特定ノ事項ノ委任ヲ受ケタル使用人」に当たるとして,特別背任罪の成立が肯定された事例。
参照条文: /商.486条/会社.960条/
全 文 h171007supreme93.html

最高裁判所 平成 17年 9月 27日 第2小法廷 決定 ( 平成17年(あ)第684号 )
事件名:  大阪府公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例違反,器物損壊被告事件(上告事件)
要 旨
 1.捜査官が,被害者や被疑者の供述内容を明確にすることを主たる目的にして,これらの者に被害・犯行状況について再現させた結果を記録したものと認められ,再現されたとおりの犯罪事実の存在が要証事実になるような内容の実況見分調書や写真撮影報告書等の証拠能力については,刑訴法326条の同意が得られない場合には,同法321条3項所定の要件を満たす必要があることはもとより,再現者の供述の録取部分及び写真については,再現者が被告人以外の者である場合には同法321条1項2号ないし3号所定の,被告人である場合には同法322条1項所定の要件を満たす必要があるというべきである。
 1a.写真については,撮影,現像等の記録の過程が機械的操作によってなされることから前記各要件のうち再現者の署名押印は不要と解される。
参照条文: /刑訴.321条/刑訴.322条/刑訴.326条/
全 文 h170927supreme91.html

最高裁判所 平成 17年 9月 27日 第3小法廷 判決 ( 平成17年(行ツ)第71号 )
事件名:  選挙無効請求・上告事件
要 旨
 1.平成15年11月9日に施行された衆議院議員の総選挙のうち東京都第1区における小選挙区選出議員の選挙を無効とする判決を求める訴えについて,上告審に事件が係属している平成17年8月8日に衆議院が解散されたことにより訴えの利益が消滅したとして,訴えが却下された事例。
 2.訴えが不適法でその不備を補正することができないものである場合には,上告審は,口頭弁論を経ないで原審の本案判決を破棄して訴えを却下することができる。
参照条文: /民訴.142条/民訴.民訴313条/民訴.297条/
全 文 h170927supreme.html

最高裁判所 平成 17年 9月 16日 第2小法廷 判決 ( 平成16年(受)第1847号 )
事件名:  損害賠償請求・上告事件
要 旨
 1.防火扉が設置されているマンションの一室が,防火扉の電源スイッチが切られて作動しない状態で買主に引き渡された場合に,売主(マンションの建築分譲会社)には売買契約上の附随義務として電源スイッチの位置・操作方法等について説明する義務があり,販売代理人(売主により不動産販売等の代理業務等を行うために設立された完全子会社)も,信義則上,売主と同様の説明義務を負うとされ,義務違反により買主に生じた損害(防火扉が自動的に作動しなかったことにより延焼したことによる損害)について,不法行為による損害賠償義務を負うとされた事例。
 2.原審の事実認定に経験則違反の違法があるとされた事例
 
 室内で火災が発生した場合に出火区画から他区画への延焼等を防止するように防火扉が設置されていたにもかかわらず,電源スイッチが切られていたため防火扉が作動しなかった事例において,非出火区画の焼損,変色等による損傷は,防火戸が作動していた場合には,消火活動等により防火戸が開けられたとしても,防火戸が作動しなかった場合に比べ,その範囲が狭く,かつ,程度が軽かったことは明らかというべきであり,したがって,前者の場合における原状回復に要する費用の額は,特段の事情がない限り,後者の場合における原状回復に要する費用の額に比べて低額にとどまると推認するのが相当であるとされた事例。 /防火扉の電源スイッチが切られた状態でマンションの一室が販売されたことについて瑕疵担保責任が認められた事例/自由心証主義/
参照条文: /民法:709条/民法:570条/民訴.247条/民訴.321条/
全 文 h170916supreme.html

最高裁判所 平成 17年 9月 14日 大法廷 判決 ( 平成13(行ツ)第82号、平成13(行ヒ)第76号、平成13(行ツ)第83号、平成13(行ヒ)第77号 )
事件名:  在外日本人選挙権剥奪違法確認等請求・上告事件
要 旨
 選挙の執行について責任を負う内閣が既に昭和59年の時点で在外選挙制度の創設を内容とする「公職選挙法の一部を改正する法律案」を国会に提出していることを考慮すると,同法律案が廃案となった後,国会が,10年以上の長きにわたって在外選挙制度を何ら創設しないまま放置し,平成8年10月20日の総選挙において在外国民が投票をすることを認めなかったことについては,やむを得ない事由があったとはいうことができず,改正前の公職選挙法が在外国民の投票を全く認めていなかったことは,憲法15条1項及び3項,43条1項並びに44条ただし書に違反するものであったと判断され,次回総選挙において選挙権を有することの確認請求が認容され,また,立法不作為の結果過去の選挙において投票をすることができなかったことを理由とする慰謝料請求が認容された事例。
 1.自ら選挙の公正を害する行為をした者等の選挙権について一定の制限をすることは別として,国民の選挙権又はその行使を制限することは原則として許されず,国民の選挙権又はその行使を制限するためには,そのような制限をすることがやむを得ないと認められる事由がなければならない。
 1a.在外国民も,憲法によって選挙権を保障されていることに変わりはなく,国には,選挙の公正の確保に留意しつつ,その行使を現実的に可能にするために所要の措置を執るべき責務があるのであって,選挙の公正を確保しつつそのような措置を執ることが事実上不能ないし著しく困難であると認められる場合に限り,当該措置を執らないことについて上記のやむを得ない事由があるというべきである。
 1b.平成10年改正前の公職選挙法が,平成8年10月20日の総選挙当時,在外国民の投票を全く認めていなかったことは,憲法15条1項及び3項,43条1項並びに44条ただし書に違反する。
 1c.本判決言渡し後に初めて行われる衆議院議員の総選挙又は参議院議員の通常選挙の時点においては,衆議院小選挙区選出議員の選挙及び参議院選挙区選出議員の選挙について在外国民に投票をすることを認めないことについて,やむを得ない事由があるということはできず,公職選挙法附則8項の規定のうち,在外選挙制度の対象となる選挙を当分の間両議院の比例代表選出議員の選挙に限定する部分は,憲法15条1項及び3項,43条1項並びに44条ただし書に違反する。
 2.平成10年改正前の公職選挙法が在外国民である原告らに衆議院議員の選挙及び参議院議員の選挙における選挙権の行使を認めていない点において違法であることの確認を求める訴えは,過去の法律関係の確認を求めるものであり,この確認を求めることが現に存する法律上の紛争の直接かつ抜本的な解決のために適切かつ必要な場合であるとはいえないから,確認の利益が認められず,不適法であるとされた事例。
 3.確認の訴えは,他により適切な訴えによってその目的を達成することができる場合には,確認の利益を欠き不適法である。
 3a.平成10年改正後の公職選挙法が在外国民である原告らに衆議院小選挙区選出議員の選挙及び参議院選挙区選出議員の選挙における選挙権の行使を認めていない点において違法であることの確認を求める主位請求に係る訴えよりも,次回の総選挙において在外選挙人名簿に登録されていることに基づいて投票をすることができる地位にあることの確認を求める予備的請求に係る訴えの方がより適切な訴えであるから,前者の訴えは不適法であるとされた事例。
 4.選挙権は,これを行使することができなければ意味がないものであり,侵害を受けた後に争うことによっては権利行使の実質を回復することができない性質のものであるから,その権利の重要性にかんがみると,[将来行われるべき]具体的な選挙につき選挙権を行使する権利の有無につき争いがある場合にこれを有することの確認を求める訴えについては,それが有効適切な手段であると認められる限り,確認の利益を肯定すべきである。
 5.国会議員の立法行為又は立法不作為が国家賠償法1条1項の適用上違法となるかどうかは,国会議員の立法過程における行動が個別の国民に対して負う職務上の法的義務に違背したかどうかの問題であって,当該立法の内容又は立法不作為の違憲性の問題とは区別されるべきであり,仮に当該立法の内容又は立法不作為が憲法の規定に違反するものであるとしても,そのゆえに国会議員の立法行為又は立法不作為が直ちに違法の評価を受けるものではない。
 5a.立法の内容又は立法不作為が国民に憲法上保障されている権利を違法に侵害するものであることが明白な場合や,国民に憲法上保障されている権利行使の機会を確保するために所要の立法措置を執ることが必要不可欠であり,それが明白であるにもかかわらず,国会が正当な理由なく長期にわたってこれを怠る場合などには,例外的に,国会議員の立法行為又は立法不作為は,国家賠償法1条1項の規定の適用上,違法の評価を受けるものというべきであり,これにより被った精神的苦痛の慰謝料を求める国家賠償請求は,認容すべきである。(反対意見あり)
 5b.昭和59年に在外国民の投票を可能にするための法律案が閣議決定されて国会に提出されたものの,同法律案が廃案となった後10年以上の長きにわたって何らの立法措置も執られなかった場合について,過失の存在が肯定され,立法不作為の結果選挙において投票をすることができなかった原告らが被った精神的苦痛について,国家賠償として,各原告につき慰謝料5000円の支払が命じられた事例。
参照条文: /憲.15条/憲.43条/憲.44条/民訴.2編1章/国賠.1条1項/公選.42条/公選.附則8項/
全 文 h170914supreme.html

最高裁判所 平成 17年 9月 13日 第3小法廷 判決 ( 平成14年(行ヒ)第72号 )
事件名:  審決取消請求・上告事件
要 旨
 独禁法2条2項にいう事業者団体に該当する日本機械保険連盟において,会員保険会社が機械保険及び組立保険の引受けをする際の保険料率を連盟が決める一定の保険料率によることとさせた行為が,独禁法8条1項1号の規定に違反する営業保険料率に関するカルテル行為であるとして,公正取引委員会が,独禁法8条の3の規定に基づき,会員保険会社らに対し,平成12年6月2日付けで,営業保険料の合計額を役務の対価として,これに100分の6を乗じた総額54億4976万円の課徴金の納付を命ずる審決をした場合に,会員保険会社らが,課徴金の額を算定する基礎となる役務の対価は,カルテル実行期間中に収受した営業保険料の合計額から純保険料又は実際に保険金の支払に充てられた部分の額等を控除した残額であると主張して,審決の一部取消しを請求したが,認められなかった事例。
 1.独禁法7条の2所定の売上額の意義については,事業者の事業活動から生ずる収益から費用を差し引く前の数値を意味すると解釈されるべきものであり,損害保険業においては,保険契約者に対して提供される役務すなわち損害保険の引受けの対価である営業保険料の合計額が,独禁法8条の3において準用する同法7条の2の規定にいう売上額である。
 2.(法解釈参考事実の例)
 
 課徴金の額を定めるに当たって売上額に乗ずる比率については,業種ごとに一定率が法定されているが,この一定率については,課徴金制度に係る独禁法の規定の立法及び改正の過程において,売上高を分母とし,経常利益ないし営業利益を分子とする比率を参考にして定められているところ,企業会計上の概念である売上高は,個別の取引による実現収益として,事業者が取引の相手方から契約に基づいて受け取る対価である代金ないし報酬の合計から費用項目を差し引く前の数値であり,課徴金の額を定めるに当たって用いられる上記売上額は,この売上高と同義のものというべきである。
参照条文: /独禁.7-2条/独禁.8-3条/独禁.8条/
全 文 h170913supreme.html

最高裁判所 平成 17年 9月 8日 第1小法廷 判決 ( 平成14年(行ツ)第36号、平成14年(行ヒ)第39号 )
事件名:  保険医療機関指定拒否処分取消請求・上告事件
要 旨
 医療法30条の7の規定に基づき病院の開設を中止すべき旨の勧告を受けたにもかかわらずこれに従わずに開設された病院について,健康保険法43条ノ3第2項にいう「其ノ他保険医療機関若ハ保険薬局トシテ著シク不適当ト認ムルモノナルトキ」に当たるとして同項により保険医療機関の指定を拒否したことが、健康保険法43条ノ3第2項、憲法22条1項に違反するとは認められないとされた事例。
 1.健康保険法43条ノ3第2項が保険医療機関の指定を拒否することができる要件として規定する「其ノ他保険医療機関若ハ保険薬局トシテ著シク不適当ト認ムルモノナルトキ」には,医療保険の運営の効率化という観点からみて著しく不適当と認められる事由がある場合も含まれる。
 2.医療の分野においては,供給が需要を生む傾向があり,人口当たりの病床数が増加すると1人当たりの入院費も増大するという相関関係がある。(原審認定の経験則/法適用参考事実)
参照条文: /憲.22条1項/健康保険.43-3条2項/医療.30-7条/
全 文 h170908supreme2.html

最高裁判所 平成 17年 9月 8日 第1小法廷 判決 ( 平成16年(受)第1222号 )
事件名:  預託金返還請求・上告事件
要 旨
 1.遺産は,相続人が数人あるときは,相続開始から遺産分割までの間,共同相続人の共有に属するものであるから,この間に遺産である賃貸不動産を使用管理した結果生ずる金銭債権たる賃料債権は,遺産とは別個の財産というべきであって,各共同相続人がその相続分に応じて分割単独債権として確定的に取得する。
 1a.遺産分割は,相続開始の時にさかのぼってその効力を生ずるものであるが,各共同相続人がその相続分に応じて分割単独債権として確定的に取得した賃料債権(遺産である賃貸不動産から生じた賃料債権)の帰属は,後にされた遺産分割の影響を受けない。
参照条文: /民法:909条/民法:898条/民法:427条/
全 文 h170908supreme3.html

最高裁判所 平成 17年 8月 30日 第1小法廷 決定 ( 平成16年(あ)第2716号 )
事件名:  住居侵入,強盗致死,強盗傷人,強盗被告・上告事件
要 旨
 1.裁判官が事件について公訴棄却の判決をし,又はその判決に至る手続に関与したことは,その手続において再起訴後の第1審で採用された証拠又はそれと実質的に同一の証拠が取り調べられていたとしても,事件について前審の裁判又はその基礎となった取調べに関与したものとはいえないから,刑訴法20条の定める裁判官の除斥原因に該当しない。 /前審関与/
参照条文: /刑訴.20条/
全 文 h170830supreme91.html

最高裁判所 平成 17年 8月 23日 第2小法廷 決定 ( 平成17年(し)第346号 )
事件名:  検察官送致決定に対する特別抗告事件
要 旨: 1.少年法20条による検察官送致決定に対しては,特別抗告をすることはできない。
参照条文: /少年.20条/刑訴.433条/
全 文 h170823supreme91.html

最高裁判所 平成 17年 8月 1日 第1小法廷 決定 ( 平成16年(あ)第2723号 )
事件名:  貸金業の規制等に関する法律違反,出資の受入れ,預り金及び金利等の取締りに関する法律違反,組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律違反被告事件(上告事件)
要 旨
 1.高金利の契約を処罰する出資法5条1項に違反する行為が反復累行された場合には,特段の事情のない限り,個々の契約又は受領ごとに一罪が成立し,併合罪として処断すべきであるところ,同条2項に違反する行為が反復累行された場合も,特段の事情のない限り,個々の契約又は受領ごとに一罪が成立し,併合罪として処断すべきである。
 2.貸金業法47条2号,11条1項は無登録貸金業を処罰するものであるところ,無登録貸金業の行為と,業として金銭の貸付けを行う中で個別的に出資法5条2項に定める利率を超える利息を受領する行為とは,社会的見解上1個のものと評価することができず,犯罪の通常の形態として,一方が他方の手段又は結果であるともいえないから,刑法54条1項の観念的競合又は牽連犯とはならず,併合罪として処断すべきである。
 3.無登録貸金業の営業による貸付けの元金及び利息並びに出資法5条2項違反の利息の取得につき継続的に事実を仮装する意図で,架空人名義の銀行預金口座を入手し,同口座に上記元金及び利息を振り込ませることにより,上記架空人が犯罪収益等を取得したものであるように仮装したという本件の事実関係の下においては,組織的犯罪処罰法10条1項に違反する上記行為と,個別的な制限超過利息の受領行為とは,社会的見解上1個のものと評価することができず,併合罪として処断すべきであるとされた事例。 /高利金融/
参照条文: /刑.54条/刑.45条/出資.5条/貸金業.47条/貸金業.11条/貸金業.3条/組織的犯罪処罰.10条1項/
全 文 h170801supreme91.html

最高裁判所 平成 17年 7月 22日 第2小法廷 判決 ( 平成16年(受)第443号 )
事件名:  親子関係不存在確認等,相続回復,土地所有権確認等請求・上告事件
要 旨
 兄の子を自己の嫡出子として届出をしてその子と39年間にわたって実の親子と同様に暮した者が作成した自筆の遺言書が4項目から成っていて,1項から3項までには特定の財産について特定人を指定して贈与等する旨記載されており,4項には「遺言者は法的に定められたる相續人を以って相續を与へる」と記載されている場合に,4項の「相續人」は,戸籍上唯一の相続人であったその子を指すと解すべきであるとされた事例。
 1.遺言を解釈するに当たっては,遺言書の文言を形式的に判断するだけでなく,遺言者の真意を探究すべきであり,遺言書が複数の条項から成る場合に,そのうちの特定の条項を解釈するに当たっても,単に遺言書の中から当該条項のみを他から切り離して抽出し,その文言を形式的に解釈するだけでは十分でなく,遺言書の全記載との関連,遺言書作成当時の事情及び遺言者の置かれていた状況などを考慮して,遺言者の真意を探究し,当該条項の趣旨を確定すべきである。(先例の確認)
参照条文: /民法:964条/
全 文 h170722supreme3.html

最高裁判所 平成 17年 7月 22日 第2小法廷 決定 ( 平成17年(許)第4号 )
事件名:  一部文書提出命令に対する抗告審の変更決定に対する許可抗告事件
要 旨
 千葉県議会議員宅放火事件に関してなされた捜索差押えが違法であり,これにより損害を受けたことを理由とする国家賠償請求事件において,捜索差押令状請求書の提出命令が否定され,捜索差押許可状の提出命令が肯定された事例。
 1.文書提出命令の申立書に記載すべき「証明すべき事実」が「警視庁所属の警察官による本件各許可状の請求及び本件各捜索差押えの執行が違憲違法である」というものであっても足りるとされた事例。
 2.捜索差押許可状は,これに基づき捜索を受けた者と捜索を行った警察官が所属する警視庁との間で捜索・差押えの権限とその受忍という法律関係を生じさせる文書であり,捜索差押令状請求書は許可状の発付を求めるために法律上作成を要することとされている文書であるから,いずれも法律関係文書に該当する。
 3.刑訴法47条ただし書の規定によって「訴訟に関する書類」を公にすることを相当と認めることができるか否かの判断は,当該「訴訟に関する書類」を公にする目的,必要性の有無,程度,公にすることによる被告人,被疑者及び関係者の名誉,プライバシーの侵害,捜査や公判に及ぼす不当な影響等の弊害発生のおそれの有無等の諸般の事情を総合的に考慮してされるべきものであり,当該「訴訟に関する書類」を保管する者の合理的な裁量にゆだねられている。
 3a.民事訴訟の当事者が,民訴法220条3号後段の規定に基づき,上記「訴訟に関する書類」に該当する文書の提出を求める場合においても,当該文書の保管者の裁量的判断は尊重されるべきであるが,当該文書が法律関係文書に該当する場合であって,その保管者が提出を拒否したことが,民事訴訟における当該文書を取り調べる必要性の有無,程度,当該文書が開示されることによる上記の弊害発生のおそれの有無等の諸般の事情に照らし,その裁量権の範囲を逸脱し,又は濫用するものであると認められるときは,裁判所は,当該文書の提出を命ずることができる。(先例の確認)
 4.本件捜索差押許可状の提出を拒否した警視庁の判断は,裁量権の範囲を逸脱し,又はこれを濫用したものというべきであるとされた事例。
 4a.本件捜索差押令状請求書にはいまだ公表されていない犯行態様等捜査の秘密にかかわる事項や被害者等のプライバシーに属する事項が記載されている蓋然性が高いと認められ,捜索差押えから約2~4年以上経過してはいるが,請求書を開示することによって,被疑事件の今後の捜査及び公判に悪影響が生じたり,関係者のプライバシーが侵害されたりする具体的なおそれがいまだ存するものというべきであって,これらを証拠として取り調べる必要性を考慮しても,開示による弊害が大きいものといわざるを得ないから,請求書の提出を拒否した警視庁の判断が,その裁量権の範囲を逸脱し,又はこれを濫用したものということはできないとされた事例。(破棄理由) /書証/
参照条文: /民訴.220条3号/民訴.220条1項4号/刑訴.47条/
全 文 h170722supreme.html

最高裁判所 平成 17年 7月 22日 第2小法廷 決定 ( 平成17年(行フ)第4号 )
事件名:  文書提出命令に対する許可抗告事件
要 旨
 日本に入国したパキスタン国民が,難民であることを主張して,退去強制令書の発付処分等の取消しを請求した訴訟において,原告の提出したパキスタン官憲の作成名義に係る初期犯罪レポートの写し及び逮捕状の写し真否が問題となった場合に,
 ・法務省が逮捕状等の写しの原本の存在及び成立の真正に関し照会を行った際に外務省に交付した依頼文書の控え, 並びに,外交実務上「口上書」と称される外交文書の形式によるものであると主張されている
 ・外務省が作成してパキスタン公機関に交付した照会文書の控え及び
 ・外務省がパキスタン公機関から交付を受けた上記照会に対する回答文書 の提出を命じた原決定が審理不尽を理由に破棄されて,差し戻された事例。
 1.文書提出命令の対象となっている外務省への依頼文書には,証拠として既に提出されている文書によっては公にされていない事項が記載されている場合に,その内容によっては,依頼文書の提出により他国との間に外交上の問題が生ずることなどから他国との信頼関係が損なわれ,今後の難民に関する調査活動等の遂行に著しい支障を生ずるおそれがあるものと認める余地があると判断された事例。
 2.文書提出命令の対象となっている文書が,外交実務上「口上書」と称される外交文書の形式によるものであると主張されている場合には,文書所持者が主張する記載の存否及び内容に加えて,所持者の主張する外交実務上の慣例(非公開の慣例)の有無等について審理した上で,これらが提出された場合に我が国と他国との信頼関係に与える影響等について検討しなければ,民訴法223条4項1号に掲げるおそれがあることを理由として同法220条4号ロ所定の文書に該当する旨の当該監督官庁の意見に相当の理由があると認めるに足りない場合に当たるか否かについて,判断することはできない。(意見あり) /書証/
参照条文: /民訴.220条4号/民訴.223条4項1号/
全 文 h170722supreme2.html

最高裁判所 平成 17年 7月 22日 第3小法廷 決定 ( 平成16年(あ)第2554号 )
事件名:  国際的な協力の下に規制薬物に係る不正行為を助長する行為等の防止を図るための麻薬及び向精神薬取締法等の特例等に関する法律違反,出入国管理及び難民認定法違反被告事件(上告事件)
要 旨: 規制薬物譲渡の犯罪において,麻薬特例法2条3項にいう「薬物犯罪の犯罪行為により得た財産」とは,規制薬物の対価として得た財産そのものをいい,同法11条1項1号による没収や同法13条1項前段による追徴に当たっては,当該財産を得るために犯人が支出した費用等を控除すべきではない。
参照条文: /麻薬特例=国際的な協力の下に規制薬物に係る不正行為を助長する行為等の防止を図るための麻薬及び向精神薬取締法等の特例等に関する法律/麻薬特例.2条/麻薬特例.11条/麻薬特例.13条/
全 文 h170722supreme91.html

最高裁判所 平成 17年 7月 19日 第1小法廷 決定 ( 平成17年(あ)第202号 )
事件名:  覚せい剤取締法違反被告事件(上告事件)
要 旨
 医師が救急患者を説得して麻酔をかけて縫合手術等の治療行為を行い,その際に採取した尿から覚醒剤反応があったため警察官に通報し,患者が覚せい剤取締法違反で訴追された場合に,その尿の鑑定書等の証拠能力が肯定された事例。
 1.医師が救急患者に対する治療の目的で採取した尿について薬物検査を行った場合に,医師の上記行為には医療上の必要があったと認められるから,たとえ被告人から承諾を得ていたと認められないとしても,上記行為は医療行為として違法であるとはいえないとされた事例。
 2.医師が必要な治療又は検査の過程で採取した患者の尿から違法な薬物の成分を検出した場合に,これを捜査機関に通報することは,正当行為として許容され,医師の守秘義務に違反しない。
参照条文: /刑.134条/刑訴.317条/
全 文 h170719supreme91.html

最高裁判所 平成 17年 7月 19日 第3小法廷 判決 ( 平成16年(受)第965号 )
事件名:  過払金等請求・上告事件
要 旨
 貸金業者の取引履歴開示拒絶行為が違法性を有し,これによって債務者が被った精神的損害について,過払金返還請求が認められることにより損害がてん補される関係にはないとして,不法行為による損害賠償が認められた事例。
 1.貸金業法は,罰則をもって貸金業者に業務帳簿の作成・備付け義務を課すことによって,貸金業の適正な運営を確保して貸金業者から貸付けを受ける債務者の利益の保護を図るとともに,債務内容に疑義が生じた場合は,これを業務帳簿によって明らかにし,みなし弁済をめぐる紛争も含めて,貸金業者と債務者との間の貸付けに関する紛争の発生を未然に防止し又は生じた紛争を速やかに解決することを図ったものと解するのが相当である。
 1a.貸金業者は,債務者から取引履歴の開示を求められた場合には,その開示要求が濫用にわたると認められるなど特段の事情のない限り,貸金業法の適用を受ける金銭消費貸借契約の付随義務として,信義則上,保存している業務帳簿(保存期間を経過して保存しているものを含む。)に基づいて取引履歴を開示すべき義務を負うものと解すべきであり,貸金業者がこの義務に違反して取引履歴の開示を拒絶したときは,その行為は,違法性を有し,不法行為を構成する。
参照条文: /民法:709条/民法:710条/貸金業.19条/貸金業施行規.16条/貸金業.49条/
全 文 h170719supreme2.html

最高裁判所 平成 17年 7月 15日 第2小法廷 判決 ( 平成15年(行ヒ)第250号 )
事件名:  非公開決定処分取消請求上告事件
要 旨
 名古屋市の住民(原告)が,名古屋市公文書公開条例(昭和61年名古屋市条例第29号)に基づき,被告に対し,名古屋市土地開発公社が市の委託により先行取得して保有している土地に関する一覧表の公開を請求したところ,一部非公開決定がされたので,その一部の取消しを求めた事案において,取得価格に関する部分は非公開情報に該当しないが,補償金の額は非公開情報に該当するとされた事例。
 1.本件条例9条1項1号は,私事に関する情報のうち性質上公開に親しまないような個人情報が記録されている公文書の公開をしないことができるとしているものと解される。
 2.公有地の拡大の推進に関する法律7条の適用がある土地について,その取得価格が当該土地と地価公示法2条1項の標準地との位置,地積,環境等の土地の客観的価値に作用する諸要因について比較して,標準地の公示価格と当該土地の取得価格との間に均衡を保たせるように算定された場合には,当該土地が公社に買い取られた事実については不動産登記簿に登記されて公示される性質のものである上,当該土地の取得価格に影響する諸要因,例えば,駅や商店街への接近の程度,周辺の環境,前面道路の状況,公法上の規制,当該土地の形状,地積等については,一般に周知されている事項か,容易に調査することができる事項であるから,これらの価格要因に基づいて公示価格を規準として算定した価格は,一般人であればおおよその見当をつけることができる一定の範囲内の客観的な価格であるということができるから,上記取得価格をもって公社に土地を買収されたことは,個人地権者にとって,私事としての性質が強いものではないから,その情報(別紙目録2に記載の情報)は,性質上公開に親しまないような個人情報であるということはできない。
 3.公社が土地を買収した際に個人に対して支払った建物,工作物,立木,動産等に係る補償金の額は,一定の算定方式にのっとって算定されるべき適正な価格であるとしても,個人がどのような工作物,立木,動産等を有するかについては,必ずしも外部に明らかになっているものではなく,建物については,所有状況が不動産登記簿に登記されて公示されるものの,その価格要因のすべてが公示されるものではなく,建物の内部の構造,使用資材,施工態様,損耗の状況等の詳細まで外部に明らかになっているとはいえないから,これらの要因を考慮して算定される補償金の額は,一般人であればおおよその見当をつけることができるものではなく,個人としては,通常他人に知られたくないと望むものであり,そのことは正当であるということができる。 /公情報公開 /公文書開示/公文書公開/プライバシー情報/私事情報/個人情報/
参照条文: /名古屋市公文書公開条例.9条/名古屋市公文書公開条例.6条/
全 文 h170715supreme2.html

最高裁判所 平成 17年 7月 15日 第2小法廷 判決 ( 平成16年(受)第1611号 )
事件名:  第三者異議上告事件
要 旨
 多数の会員から預託金の返還を求める訴えを提起されているゴルフ場経営会社が,その勝訴判決に基づいて強制執行に及ぶことを予想して,これを妨害するという違法不当な目的で関連会社の法人格を濫用している場合に,ゴルフ場経営会社を債務者とする動産執行に対して関連会社(原告)が提起した第三者異議訴訟において,原告は,執行債務者と別個の法人格であることを主張して強制執行の不許を求めることは許されないとされた事例。
 1.(傍論)
 甲会社がその債務を免れるために乙会社の法人格を濫用している場合には,法人格否認の法理により,両会社は,その取引の相手方に対し,両会社が別個の法人格であることを主張することができず,相手方は,両会社のいずれに対してもその債務について履行を求めることができるが,判決の既判力及び執行力の範囲については,法人格否認の法理を適用して判決に当事者として表示されていない会社にまでこれを拡張することは許されない(先例の確認)。
 2.(判旨)
 第三者異議の訴えは,執行債務者に対して適法に開始された強制執行の目的物について原告が所有権その他目的物の譲渡又は引渡しを妨げる権利を有するなど強制執行による侵害を受忍すべき地位にないことを異議事由として強制執行の排除を求めるものであるから,第三者異議の訴えについて,法人格否認の法理の適用を排除すべき理由はなく,原告の法人格が執行債務者に対する強制執行を回避するために濫用されている場合には,原告は,執行債務者と別個の法人格であることを主張して強制執行の不許を求めることは許されない。
参照条文: /民執.38条/民法:1条/民訴.3条/民執.23条/民訴.115条/
全 文 h170715supreme3.html

最高裁判所 平成 17年 7月 15日 第2小法廷 判決 ( 平成14年(行ヒ)第207号 )
事件名:  勧告取消等請求上告事件
要 旨
 行政処分の申請に対し,当該処分に係る行為をしないことの勧告がなされた場合に,その勧告自体に直接的不利益(不許可の不利益)が結びつけられていなくても,その勧告に従わなかった者が後に関連する行政処分を申請しても相当程度の確実性をもって認められないという間接的不利益が結びつけられていて,その間接的不利益が当初の許可に係る行為を実際上断念させるほどに重要である場合には,その勧告は,行政事件訴訟法3条2項の「行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為」に当たり,このことは,関連行政処分の拒絶処分を別途抗告訴訟により争うことができる場合であっても同じであるとされた事例。
 1.原告が富山県高岡市内において病院の開設を計画し,病床数を400床とする病院開設に係る医療法7条1項の許可の申請をしたところ,被告が医療法30条の7の規定に基づき,「高岡医療圏における病院の病床数が,富山県地域医療計画に定める当該医療圏の必要病床数に達しているため」という理由で,病院の開設を中止するよう勧告したため,原告が勧告の取消し等を訴求した場合に,原審は,本件勧告が行政事件訴訟法3条2項の「行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為」に当たらないとして訴えを却下したのに対し,上告審は,本件勧告に従わない場合には病院を開設しても保険医療機関の指定を受けることができなくなるという結果を相当程度の確実さをもってもたらすと認定し,勧告は行政事件訴訟法3条2項の「行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為」に当たる。
 2.いわゆる国民皆保険制度が採用されている我が国においては,健康保険,国民健康保険等を利用しないで病院で受診する者はほとんどなく,保険医療機関の指定を受けずに診療行為を行う病院がほとんど存在しないことは公知の事実である。
参照条文: /行訴.3条2項/民訴.179条/
全 文 h170715supreme.html

最高裁判所 平成 17年 7月 14日 第1小法廷 判決 ( 平成16年(行ヒ)第4号 )
事件名:  審決取消請求上告事件
要 旨
 複数の役務群を指定役務とする商標登録出願(原出願)について拒絶審決がなされ、その審決取消訴訟の係属中に一部の役務群を指定役務とする分割出願がなされた場合に、原審が、≪商標法10条1項の定める要件を充足している限り,分割出願がされることによって,原出願の指定商品及び指定役務は,原出願と分割出願のそれぞれの指定商品等に当然に分割され,原出願の指定商品等について,分割出願の指定商品等として移行する商品等が削除されることは,分割出願自体に含まれ,その効果は10条2項により原出願時さかのぼる≫との見解を前提にして、分割出願後の原出願と他人の先願とは指定役務が同一又は類似であるとはいえないとして、原出願の拒絶審決を取り消したところ、上告審により破棄された事例。
 1.[判旨]
 拒絶審決に対する訴えが裁判所に係属している場合に,商標法10条1項の規定に基づいて新たな商標登録出願がされ,もとの商標登録出願について願書から指定商品等を削除する補正がされたときには,その補正の効果が商標登録出願の時にさかのぼって生ずることはなく,審決が結果的に指定商品等に関する判断を誤ったことにはならない。
 1a.[理由1]
 拒絶審決に対する訴えが裁判所に係属している場合に,商標法10条1項の規定に基づいて新たな商標登録出願がされ,もとの商標登録出願について補正がされたときには,その補正は,商標法68条の40第1項が規定する補正ではないから,同項によってその効果が商標登録出願の時にさかのぼって生ずることはない。
 1b.[理由2]
 拒絶審決を受けた商標登録出願人は,審決において拒絶理由があるとされた指定商品等以外の指定商品等について,商標法10条1項の規定に基づいて新たな商標登録出願をすれば,その商標登録出願は,もとの商標登録出願の時にしたものとみなされることになり,出願した指定商品等の一部について拒絶理由があるために全体が拒絶されるという不利益を免れることができる。 /知的財産権/無体財産権/工業所有権/商標権/
参照条文: /商標.10条/商標.68-10条/
全 文 h170714supreme51.html

最高裁判所 平成 17年 7月 14日 第1小法廷 判決 ( 平成15年(受)第1284号 )
事件名:  損害賠償請求上告事件
要 旨
 資本金は1億2000万円,年間取引高200~300億円の水産物卸売会社が,経営安定資金として計26億円の公的低利融資(うち20億円は10年後一括返済,6億円は5年間の元利均等返済,いずれも年利2%)を受け,当面使用する予定のない資金を証券取引で運用する方針を立て,その運用の一環として,日経平均株価オプションの取引をし,1回目及び2回目は専らコール・オプションの買い取引のみを数量的にも限定的に行い,その結果として利益の計上と損失の負担を実際に経験している場合に,証券会社の担当者がオプションの売り取引を勧誘して3回目及び4回目の取引を行わせた行為が,適合性の原則から著しく逸脱するものであったということはできず,この点について証券会社の不法行為責任を認めることはできないとされた事例。
 1.証券会社の担当者が,顧客の意向と実情に反して,明らかに過大な危険を伴う取引を積極的に勧誘するなど,適合性の原則から著しく逸脱した証券取引の勧誘をしてこれを行わせたときは,当該行為は不法行為法上も違法となる。
 1a.証券会社の担当者によるオプションの売り取引の勧誘が適合性の原則から著しく逸脱していることを理由とする不法行為の成否に関し,顧客の適合性を判断するに当たっては,単にオプションの売り取引という取引類型における一般的抽象的なリスクのみを考慮するのではなく,当該オプションの基礎商品が何か,当該オプションは上場商品とされているかどうかなどの具体的な商品特性を踏まえて,これとの相関関係において,顧客の投資経験,証券取引の知識,投資意向,財産状態等の諸要素を総合的に考慮する必要がある。
 2.日経平均株価オプションの売り取引は,単にオプションの売り取引という類型としてみれば,一般的抽象的には高いリスクを伴うものであるが,そのことのみから,当然に一般投資家の適合性を否定すべきものであるとはいえない。
参照条文: /民法:709条/民法:715条/証取引.43条/
全 文 h170714supreme4.html

最高裁判所 平成 17年 7月 14日 第1小法廷 判決 ( 平成13年(行ヒ)第348号 )
事件名:  公文書非公開決定処分取消請求上告事件
要 旨
 北九州市の区域内に事務所を有する権利能力のない社団である原告が,旧北九州市情報公開条例に基づき,平成7年度の市の局長ないしこれに準ずる職員の交際費の支出に関する文書等の公開を請求したところ,公文書一部非公開決定を受けたため,その取消しを求める訴えを提起して一部認容された事例。
 1.交際の相手方が識別されるものであっても,相手方の氏名等が外部に公表され,又は披露されることがもともと予定されているもの,すなわち,交際の相手方及び内容が不特定の者に知られ得る状態でされる交際に関するものなど,相手方の氏名等を公表することによって交際の相手方との信頼関係あるいは友好関係を損ない,ひいては交際事務の目的が損なわれたり,交際事務の適正又は円滑な執行に著しい支障が生じたりするおそれがあるとは認められないようなものは,例外として旧北九州市情報公開条例6条7号所定の非公開情報に該当しない。(先例の確認)
 2.支出目的が「弔意」に分類されるもののうち,
 2a.葬儀等の際の供花及び供物は,献呈者の名を付して一般参列者の目に触れる場所に飾られるのが通例であり,これを見ればそのおおよその価格を知ることができるものであるから,その相手方及び内容が不特定の者に知られ得る状態でされるものということができ,その交際費の支出に関する情報は,旧北九州市情報公開条例6条7号所定の非公開情報には当たらない
 2b.香典及び弔慰金は,その性質上,支出の要否や金額等が相手方とのかかわり等をしんしゃくして個別に決定されるものであり,贈呈の事実はともかく,その具体的金額までが一般参列者に知られることは通常考えられないから,その交際費の支出に関する情報は,旧北九州市情報公開条例6条7号所定の非公開情報に当たる。
 3.公然とされる交際のうち,会費の金額が相手方により一定の金額に定められているものについては,その交際費の支出に関する情報を公開しても,相手方との間の信頼関係あるいは友好関係を損なうなどの支障が生ずるおそれがあるとは認められない。
 4.支出目的が「懇談」に分類されるものの支出は,その性質上,支出金額,内容等が不特定の者に知られ得る状態でされるものとは通常考えられないから,これらの懇談に係る交際費の支出に関する情報が旧北九州市情報公開条例6条7号所定の非公開情報に当たる蓋然性は高いというべきであるが,例えば,局長等が他の地方公共団体の公務員との間で公式に開催する定例の会合等は,その相手方及び内容が明らかにされても,通常,これによって相手方が不快な感情を抱き,当該交際の目的に反するような事態を招くことがあるとはいえないから,具体的な類型を明らかにしなければ,その交際費の支出に関する情報が同号所定の非公開情報に当たるかどうかを判断することはできない。
 5.支出目的が「御祝」,「餞別」,「見舞い」,「賛助」,「土産」又は「お礼」に分類されるものについては,その性質上,その支出の要否や金額等が相手方とのかかわり等をしんしゃくして個別に決定されるものであり,贈呈等の事実はともかく,具体的な金額等が不特定の者に知られ得る状態でされるものとは通常考えられないものであるから,その交際費の支出に関する情報は,旧北九州市情報公開条例6条7号所定の非公開情報に当たる。 /公情報公開/公文書開示/プライバシー/個人情報/
参照条文: /旧北九州市情報公開条例.6条/
全 文 h170714supreme3.html

最高裁判所 平成 17年 7月 14日 第1小法廷 判決 ( 平成16年(受)第930号 )
事件名:  損害賠償請求上告事件
要 旨
 船橋市西図書館の司書が,「新しい歴史・公民教科書およびその他の教科書の作成を企画・提案し,それらを児童・生徒の手に渡すことを目的とする」団体やこれに賛同する者等及びその著書に対する否定的評価と反感から,その独断で,これらの者の執筆又は編集に係る書籍を含む合計107冊を,他の職員に指示して手元に集めた上,資料除籍基準に定められた「除籍対象資料」に該当しないにもかかわらず,蔵書リストから除籍する処理をして廃棄したことが,廃棄された図書の著作者との関係で,≪著作者の著作物によってその思想,意見等を公衆に伝達する人格的利益≫を侵害するものとして,国家賠償法上違法になるとされた事例。
 1.公立図書館は,住民に対して思想,意見その他の種々の情報を含む図書館資料を提供してその教養を高めること等を目的とする公的な場ということができる。
 1a.公立図書館の図書館職員は,公立図書館が上記のような役割を果たせるように,独断的な評価や個人的な好みにとらわれることなく,公正に図書館資料を取り扱うべき職務上の義務を負うものというべきであり,閲覧に供されている図書について,独断的な評価や個人的な好みによってこれを廃棄することは,図書館職員としての基本的な職務上の義務に反する。
 2.公立図書館は,そこで閲覧に供された図書の著作者にとって,その思想,意見等を公衆に伝達する公的な場でもあるということができる。
 2a.公立図書館において,その著作物が閲覧に供されている著作者が有する≪著作物によってその思想,意見等を公衆に伝達する利益≫は,法的保護に値する人格的利益であり,公立図書館の図書館職員である公務員が,図書の廃棄について,基本的な職務上の義務に反し,著作者又は著作物に対する独断的な評価や個人的な好みによって不公正な取扱いをしたときは,当該図書の著作者の上記人格的利益を侵害するものとして国家賠償法上違法となる。 /表現の自由/
参照条文: /憲.21条/国賠.1条1項/図書館法.2条/図書館法.3条/教育基本法.7条/社会教育法.9条/
全 文 h170714supreme2.html

最高裁判所 平成 17年 7月 14日 第1小法廷 判決 ( 平成16年(オ)第1653号,平成16年(受)第1799号 )
事件名:  売掛代金請求上告事件
要 旨
 被告が,「原告の訴求債権について滞納処分としての差押がなされ,元本債権と遅延損害金債権の双方について徴税職員に支払いをした」という趣旨の主張をし,証拠として,元本債権と遅延損害金債権の支払の領収書と遅延損害金債権の差押通知書を提出しながら,元本債権の差押通知書を提出していない場合に,裁判所が,元本債権に対する差押えについての主張の補正及び立証をするかどうかについて釈明権を行使することなく,同差押えの事実を認めることができないとして,被告の同債権に対する弁済の主張を排斥したのは,釈明権の行使を怠った違法があるとされた事例。
参照条文: /民訴.149条/
全 文 h170714supreme.html

最高裁判所 平成 17年 7月 11日 第2小法廷 判決 ( 平成16年(受)第2134号 )
事件名:  預金払戻,不当利得返還請求・上告事件
要 旨
 3名の共同相続のうちの1名(C)が金銭より不動産に関心がある旨の発言をしたため,他の2名が遺産に属する預金債権の全額の支払いを受けた後で,Cが銀行に対して法定相続分に従った預金の払い戻しを求めたので,銀行が全額の払戻しを受けた共同相続人に対し不当利得請求権に基づきCの相続分相当額の返還を請求する訴えを提起した場合に,両事件の弁論が併合され,原審がCの預金払戻請求を認容しつつも,銀行の不当利得返還請求を棄却したのに対し,上告審が銀行の請求も認容すべきであるとした事例。
 1.共同相続人の一部の者が他の共同相続人(C)の相続分まで預金の払戻しを受けたが,債権の準占有者に対する弁済にはあたらないため,銀行がその相続人(C)に対してなお預金債務を負う場合には,銀行は,その払戻しをしたことによりその相続人の法定相続分に相当する金員の損失を被ったと言うべきであ。(銀行がその相続人に現実に払戻しをした時点で損失が生ずるとした原判決が破棄された事例)。
 2.不当利得者が利得当時は悪意であったとまではいえないが,不当利得返還請求の訴状送達を受けた日から悪意となったものと認めるのが相当であるとして,訴訟送達日から支払済みまでの法定利率による利息金の支払義務があるとされた事例。 /原告の被告に対する訴訟と,それを契機にして提起された被告の第三者に対する訴訟の弁論が併合された事例/
参照条文: /民法:703条/民法:704条/民訴.152条/
全 文 h170711supreme2.html

最高裁判所 平成 17年 7月 4日 第2小法廷 決定 ( 平成17年(し)第125号 )
事件名:  控訴申立棄却決定に対する異議申立て棄却決定に対する特別抗告事件
要 旨
 1.電子複写機によって複写されたコピーであって,作成名義人たる外国人である被告人の署名がない控訴申立書による控訴申立ては,同書面中に被告人の署名が複写されていたとしても,無効と解すべきである。
参照条文: /刑訴.374条/刑訴規.60条/
全 文 h170704supreme92.html

最高裁判所 平成 17年 7月 4日 第2小法廷 決定 ( 平成15年(あ)第1468号 )
事件名:  殺人被告事件(上告事件)
要 旨
 手の平で患者の患部をたたいてエネルギーを患者に通すことにより自己治癒力を高めるという「シャクティパット」と称する独自の治療(シャクティ治療)を施す特別の能力を持つなどとして信奉者を集めていた被告人について,自己の責めに帰すべき事由により患者の生命に具体的な危険を生じさせ,被告人を信奉する患者の親族から重篤な患者に対する手当てを全面的にゆだねられたときに,患者の重篤な状態を認識し,これを自らが救命できるとする根拠を有しなかった場合に,直ちに患者の生命を維持するために必要な医療措置を受けさせる義務を負うとされ,未必的な殺意をもって医療措置を受けさせないまま放置して患者を死亡させたことにより不作為による殺人罪が成立するとされた事例。
参照条文: /刑.199条/
全 文 h170704supreme91.html

東京高等裁判所 平成 17年 6月 30日 第16民事部 判決 ( 平成17年(ネ)第1910号 )
事件名:  代位債権請求・控訴事件
要 旨
 輸入業者が輸入品の引取り前に納付すべき関税その他の税の延納を申請するに際して銀行に支払保証を依頼し,銀行がこれを承諾して税関と保証契約を締結したところ,輸入業者が延納期限までに関税等の租税を納付することなく民事再生手続の開始を申し立てたため,保証人である銀行が延納期限に保証契約の履行として納付した場合に,民事再生手続開始後に破産手続開始決定を受けた輸入業者(破産会社)の破産管財人に対して,保証人が,(A)代位取得した租税債権が旧破産法47条2号の財団債権に当たると主張してその支払を請求し,また,(B)再生手続開始後に保証会社が破産会社のために租税債務を納付したことにより破産会社が得た利得は民事再生法119条6号の不当利得にあたり共益債権(破産手続開始後は財団債権)であると主張して,両者を選択的に併合して破産手続外で訴求したが,裁判所が,A請求については,求償権が破産債権であるから代位取得した租税債権は財団債権ではなく破産債権であるとし,B請求については,たとえそれが成立するとしても破産債権であるとし,いずれも破産手続により行使すべきであるとして訴えを却下した事例。
 1.倒産手続法上付与された優先的な効力は,租税債権の内在的なものとして保有する固有の権利内容ではなく,各倒産手続法の立法政策上の判断によって創設的に付与されたものと解すべきであり,旧破産法47条2号の規定の趣旨に照らすと,私人が民法501条の代位による弁済によって租税債権を取得した場合には,もはや当該私人にまで租税債権としての優先的な効力を付与すべき理由がなくなる。
 1a.原債権である租税債権の行使によって確保されるべき求償権は,保証人の破産会社に対する優先性のない事後求償権であり,破産債権としてしか行使できない抗弁が附着したものであるから,保証人が民法501条の弁済による代位によって取得したと主張する租税債権も,破産債権である求償権の限度でのみ効力を認めれば足りる。
 2. 民事再生法119条6号が「不当利得により再生手続開始後に再生債務者に対して生じた請求権」を共益債権として掲げている趣旨は,それが再生手続開始後に生じた,再生債務者のために支出すべきやむを得ない費用の請求権であって(同条7号参照),再生債権者全体の利益に資するものであることから,衡平の観点から共益債権として扱うことにしたものであるとの趣旨に照らせば,不当利得返還請求権として構成する余地のあるものでも,不当利得の損失者と再生債権者全体との衡平を害するものは,同号に当たらないものと解すべきである。
 2a. 事後求償権について再生債権者にすぎないのに,事後求償権と同一の事実関係から生ずる不当利得返還請求権については共益債権として再生手続によらないで随時弁済を受けることができるとすることは,再生債権にすぎない事後求償権に必要以上の効力を与える結果となり,不当利得返還請求権者と再生債権者全体との衡平を害することになるから,その不当利得返還請求権は,民事再生法119条6号に当たらないというべきであり,その後破産会社が破産宣告を受けたことにより旧破産法上の財団債権となることもないと解すべきである。
参照条文: /民法:501条/t11.破産法:47条;16条/民事再生法:119条/
全 文 h170630tokyoH.html

最高裁判所 平成 17年 6月 24日 第2小法廷 判決 ( 平成16年(行フ)第7号 )
事件名:  訴えの変更許可決定に対する抗告棄却決定に対する許可抗告事件
要 旨
 建築基準法6条の2第1項所定の指定を受けた指定確認検査機関たる本件会社が,横浜市内に建築することが計画されていた大規模分譲マンションの建築物の計画が建築基準関係規定に適合するものであること等につき同項所定の確認をしたのに対し,周辺に居住する者が,建築物の建築によって生命,身体の安全等が害されるなどと主張して,本件会社を被告とする確認の取消しを求める訴えを提起したが,訴訟中に建築物に関する完了検査が終了し,訴えの利益が消滅した場合に,行政事件訴訟法21条1項の規定に基づいて,上記訴えを,本件確認の違法を原因として,本件確認に係る事務の帰属する公共団体に対する損害賠償を求める訴えに変更することが許可された事例。
 1.指定確認検査機関の確認に係る建築物について確認をする権限を有する建築主事が置かれた地方公共団体は,指定確認検査機関の当該確認につき,行政事件訴訟法21条1項所定の「当該処分又は裁決に係る事務の帰属する国又は公共団体」に当たる。 /当事者変更/訴えの主観的変更/訴えの変更/
参照条文: /行訴.21条1項/建築基準.6-2条/
全 文 h170624supreme.html

最高裁判所 平成 17年 6月 17日 第2小法廷 判決 ( 平成16年(受)第997号 )
事件名:  特許権侵害差止請求上告受理申立て事件
要 旨
 他人のために専用実施権を設定している特許権者が,特許権侵害者に対して侵害物件の販売の差止めを請求して,認容された事例。
 1.特許権者は,その特許権について専用実施権を設定したときであっても,当該特許権に基づく差止請求権を行使することができる。 /知的財産権/無体財産権/工業所有権/特許権/生体高分子-リガンド分子の安定複合体構造の探索方法/
参照条文: /特許.100条/特許.68条/
全 文 h170617supreme.html

最高裁判所 平成 17年 6月 16日 第1小法廷 判決 ( 平成15年(受)第900号 )
事件名:  損害賠償等請求上告事件
要 旨
 「私の傍聴した『東京HIV訴訟』裁判(最終回)」と題する記事及び単行本「エイズ犯罪
 血友病患者の悲劇」執筆したフリーのジャーナリストに対して,加熱製剤の製造承認のための治験の統括医の地位にあった者が名誉毀損を理由に損害賠償を請求したが,被告が摘示した事実及び意見ないし論評の前提としている事実について真実であることの証明がないとしても,被告がこれらの事実を真実と信ずるについて相当の理由があるということができるからその故意又は過失は否定され,かつ,意見ないし論評の部分も意見・論評の域を逸脱するものではないとして,名誉毀損による不法行為は成立しないとされた事例。
 1.事実を摘示しての名誉毀損にあっては,その行為が公共の利害に関する事実に係り,かつ,その目的が専ら公益を図ることにあった場合に,摘示された事実がその重要な部分について真実であることの証明があったときには,上記行為には違法性がなく,仮に上記証明がないときにも,行為者において上記事実の重要な部分を真実と信ずるについて相当の理由があれば,その故意又は過失は否定される。(先例の確認)
 2.ある事実を基礎としての意見ないし論評の表明による名誉毀損にあっては,その行為が公共の利害に関する事実に係り,かつ,その目的が専ら公益を図ることにあった場合に,上記意見ないし論評の前提としている事実が重要な部分について真実であることの証明があったときには,人身攻撃に及ぶなど意見ないし論評としての域を逸脱したものでない限り,上記行為は違法性を欠くものというべきであり,仮に上記証明がないときにも,行為者において上記事実の重要な部分を真実と信ずるについて相当の理由があれば,その故意又は過失は否定される。(先例の確認) /表現の自由/意見表明の自由/薬害/
参照条文: /民法:709条/
全 文 h170616supreme.html

最高裁判所 平成 17年 6月 14日 第3小法廷 判決 ( 平成13年(行ヒ)第263号 )
事件名:  県営渡船情報非公開処分取消請求上告事件
要 旨
 岐阜県の住民が,旧岐阜県情報公開条例に基づき,県の大垣土木事務所の県営渡船越立業務等に関する公文書等の公開を請求したところ,当該文書には公開を請求された県営渡船越立業務に関するもの以外の情報又は同業務に関するものとそれ以外のものの数額が合算された情報が記録されている部分があり,公開すると,そのすべてが同業務に関するものであると混同されるおそれがあるとの理由で,当該部分を非公開とし残部を公開する旨の部分公開決定がなされた場合に,同決定中の非公開部分に関する部分が取り消された事例。
 1.条例に基づく公開の請求の対象が「情報」ではなく「公文書」である場合には,請求者が記録されている情報の面から公開を請求する公文書を特定した場合であっても,当該公文書のうちその情報が記録されている部分のみが公開の請求の対象となるものではなく,公文書全体がその対象となる。
 1a.この場合に,実施機関が,公開請求に係る公文書に請求対象外となる情報等が記録されている部分があるとし,公開すると,そのすべてが公開の請求に係る事項に関するものであると混同されるおそれがあるとの理由で,上記部分を公開しないことは許されない。 /公情報公開 /公文書公開/
参照条文: /岐阜県情報公開条例(平成6年岐阜県条例第22号).2条/岐阜県情報公開条例(平成6年岐阜県条例第22号).5条/
全 文 h170614supreme2.html

最高裁判所 平成 17年 6月 14日 第3小法廷 判決 ( 平成16年(受)第1888号 )
事件名:  損害賠償請求・上告事件
要 旨
 交通事故による逸失利益を現在価額に換算するための中間利息の控除にあたって,名目金利ではなく実質金利によるべきであるとして,我が国の昭和31年から平成14年までの47年間における定期預金(1年物)の金利(税引き後)と賃金上昇率との差(プラスとなった年は16年で,マイナスとなった年は31年であること,そのうちプラス2%を超えたのは3年(最大値はプラス2.3%)であり,マイナス5%を下回った年は16年(最小値はマイナス21.4%)であり,全期間の平均値はマイナス3.32%であり,平成8年から平成14年までの期間の平均値は0.25%であることを考慮して,中間利息の控除割合を年3%とした原判決が破棄された事例。
 1.損害賠償額の算定に当たり,被害者の将来の逸失利益を現在価額に換算するために控除すべき中間利息の割合は,民事法定利率によらなければならない。
参照条文: /民法:709条/民法:404条/民執.88条2項/破産.99条1項2号/
全 文 h170614supreme.html

知的財産高等裁判所 平成 17年 6月 14日 第2部 判決 ( 平成17年(ネ)第10023号 )
事件名:  番組公衆送信差止等請求控訴事件
要 旨
 日本放送協会が平成15年1月5日から放送を開始したNHK大河ドラマ「武蔵
 MUSASHI」の第1回(1月5日)放映分が昭和29年に東宝株式会社が黒澤明監督の下で製作した劇映画「七人の侍」との間で有する類似点ないし共通点は,結局はアイデアの段階の類似点ないし共通点にすぎないものであり,前記映画又はその脚本の表現上の本質的特徴を前記番組又はその脚本から感得することはできないとされた事例。
 1.著作権法27条にいう「翻案」とは,既存の著作物に依拠し,かつ,その表現上の本質的な特徴の同一性を維持しつつ,具体的表現に修正,増減,変更等を加えて,新たに思想又は感情を創作的に表現することにより,これに接する者が既存の著作物の表現上の本質的な特徴を直接感得することのできる別の著作物を創作する行為をいい,したがって,既存の著作物に依拠して創作された著作物が,思想,感情若しくはアイデア,事実若しくは事件など表現それ自体でない部分又は表現上の創作性がない部分において,既存の著作物と同一性を有するにすぎない場合には,翻案には当たらない。(先例の確認)
 2.著作物の表現上の本質的な特徴を直接感得するものであるか否かは,対象となる原著作物が著名であるか否かによって差異があるということはできない。
 2a.不正競争防止法2条1項2号の趣旨が著作権法に関する紛争に及ぼされるものということはできない。 /知的財産権/無体財産権/著作権/フリーライド/ただ乗り/
参照条文: /著作.28条/不正競争.2条1項2号/
全 文 h170614chizaiH.html

最高裁判所 平成 17年 6月 3日 第2小法廷 判決 ( 平成14年(受)第1250号 )
事件名:  未払賃金請求上告事件
要 旨
 臨床研修期間中に死亡した研修医が最低賃金法2条所定の労働者に当たるとされ,研修先の病院の開設者が最低賃金と同額の賃金を支払うべき義務を負っていたとされた事例。
 1.研修医が医療行為等に従事する場合には,その医療行為等は病院の開設者のための労務の遂行という側面を不可避的に有することとなるのであり,病院の開設者の指揮監督の下にこれを行ったと評価することができる限り,上記研修医は労働基準法9条所定の労働者に当たる。 /関西医科大学附属病院/
参照条文: /労基.9条/最低賃金.2条/最低賃金.5条/
全 文 h170603supreme.html

最高裁判所 平成 17年 6月 2日 第1小法廷 判決 ( 平成16年(受)第29号 )
事件名:  自動車損害賠償保障法に基づく損害てん補請求上告事件
要 旨
 無保険車両の起こした交通事故の被害者の遺族が,自動車損害賠償保障法72条1項後段の規定により,政府に損害のてん補を求めた事例。
 1.自動車損害賠償保障法72条1項後段の規定による損害のてん補額の支払義務は,期限の定めのない債務として発生し,民法412条3項の規定により政府が被害者から履行の請求を受けた時から遅滞に陥る。
 2.自動車損害賠償保障法58条1項の規定による葬祭費の支給は,同法73条1項に規定する損害のてん補に相当する給付に該当するから,72条1項後段の規定による損害のてん補額の算定に当たり,被害者の過失をしんしゃくすべき場合であって,上記葬祭費の支給額を控除すべきときは,被害者に生じた現実の損害の額から過失割合による減額をし,その残額からこれを控除する方法によるのが相当である。 /履行遅滞/
参照条文: /自賠.58条/自賠.72条/自賠073条/民法:412条/
全 文 h170602supreme.html

名古屋地方裁判所 平成 17年 5月 27日 民事第8部 判決 ( 平成17年(レ)第8号 )
事件名:  解約返戻金等請求・控訴事件
要 旨
 建物共済の契約者が破産して免責決定を得た後に解約返戻金を請求した場合に、相手方は、破産者に対して有する貸付金債権と相殺することができるとされた事例。
 1.一般に,相殺が有効であるためには,原則として,相殺の意思表示がされた当時に相殺適状が現存していることが必要である。(一般命題・先例の確認)
 2.破産債権者であった者は,自己の有する自働債権が免責の対象となっても,破産宣告の以前から受働債権との相殺につき合理的期待を有しており,かつ,当該受働債権が破産財団に属すべきものであった場合には,特段の事情がない限り,破産法所定の制約の下に相殺することができる。(例外命題。判旨)
 2a.免責の効果については,その対象となった債務が消滅するのではなく,その責任が免除されるにとどまる(いわゆる自然債務となる)。
 3.破産債権者は,その債務が破産宣告の時において期限付である場合には,特段の事情がない限り,期限の利益を放棄したときだけでなく,破産宣告後にその期限が到来したときにも,旧破産法99条後段(現67条2項後段)の規定により,その債務に対応する債権を受働債権とし,破産債権を自働債権として相殺することができ,また,その債務が破産宣告の時において停止条件付である場合には,停止条件不成就の利益を放棄したときだけでなく,破産宣告後に停止条件が成就したときにも,同様に相殺することができる。(先例の確認) /破産免責/
参照条文: /破産.67条/破産.253条1項柱書き/
全 文 h170527nagoyaD.html

最高裁判所 平成 17年 4月 26日 第3小法廷 判決 ( 平成16年(受)第1742号 )
事件名:  自治会費等請求・上告事件
要 旨
 1.県営住宅3棟によって構成される団地の入居者全員を会員とする自治会会について、会員相互の親ぼくを図ること,快適な環境の維持管理及び共同の利害に対処すること,会員相互の福祉・助け合いを行うことを目的として設立された権利能力のない社団であり,いわゆる強制加入団体でもなく,その規約において会員の退会を制限する規定を設けていないのであるから,会員は,いつでも自治会に対する一方的意思表示により退会することができるとされた事例。(破棄理由)
 2.団地の管理業務を行っている公社が,自治会及び団地の各入居者に対し,共益費については,自治会が団地全体の共益費を一括して業者等に対して支払うこと及び各入居者は各共益費を自治会に支払うことを指示している等の事情がある場合に、自治会を退会した入居者の自治会に対する共益費の支払義務は消滅しないとされた事例。 /法人でない社団が当事者となった事例/
参照条文: /民訴.29条/民法:3編2章/
全 文 h170426supreme3.html

最高裁判所 平成 17年 4月 26日 第3小法廷 判決 ( 平成16年(行ツ)第178号 )
事件名:  差押処分無効確認等請求・上告事件
要 旨
 1.農業災害補償法が水稲等の耕作の業務を営む者でその耕作面積が一定の規模以上のものは農業共済組合の組合員となり当該組合との間で農作物共済の共済関係が当然に成立するという仕組みをを採用していることは,公共の福祉に合致する目的のために必要かつ合理的な範囲にとどまる措置ということができ,立法府の政策的,技術的な裁量の範囲を逸脱するもので著しく不合理であることが明白であるとは認め難いから,上記の当然加入制を定める法の規定は,職業の自由を侵害するものとして憲法22条1項に違反するということはできない。
参照条文: /憲.22条1項/農業災害補償.104条1項/
全 文 h170426supreme2.html

最高裁判所 平成 17年 4月 21日 第1小法廷 判決 ( 平成16年(受)第2030号 )
事件名:  損害賠償請求・上告受理申立事件
要 旨
 強盗強姦事件の被害者が被害申告を行い、証拠物件を警察官に提出して所有権放棄書に署名捺印したところ、科学捜査研究所による鑑定の終了後に、捜査がなお継続中であるにもかかわらず、担当警察官が捜査上領置の必要性が失われたと判断して、犯罪発生時からわずか6月後に、年末の不要品一斉処分の一環として前記証拠物件を廃棄処分した場合に、被害者が人格的利益の侵害を主張して、国家賠償法1条1項により損害賠償を請求したが、棄却された事例。
 1.犯罪の被害者は,証拠物を司法警察職員に対して任意提出した上,その所有権を放棄する旨の意思表示をした場合,当該証拠物の廃棄処分が単に適正を欠くというだけでは国家賠償法の規定に基づく損害賠償請求をすることができない。
参照条文: /国賠.1条1項/
全 文 h170421supreme.html

最高裁判所 平成 17年 4月 21日 第1小法廷 判決 ( 平成16年(行ヒ)第332号 )
事件名:  遺族共済年金不支給処分取消請求・上告受理申立事件
要 旨
 共済組合の加入者と法律上の妻の婚姻関係が実体を失って修復の余地がないまでに形骸化しているということができる一方で,加入者に婚姻の届出をしていないが事実上婚姻関係と同様の事情にある者(内縁の妻)がいる場合に,法律上の妻が私立学校教職員共済法25条において準用する国家公務員共済組合法2条1項3号所定の遺族として遺族共済年金の支給を受けるべき「配偶者」に当たらず,内縁の妻がこれに当たるとされた事例。 /重婚的内縁/
参照条文: /私立学校教職員共済.25条/国家公務員共済組合.2条1項3号/
全 文 h170421supreme2.html

最高裁判所 平成 17年 4月 21日 第2小法廷 判決 ( 平成16年(あ)第1595号 )
事件名:  出入国管理及び難民認定法違反被告事件(上告事件)
要 旨
 在留期間内に在留期間更新の申請をしたが,不許可の決定がなされた場合に、申請者がその通知を受け取っていなくても、通知の発出された以降の残留が出入国管理及び難民認定法70条1項5号の不法残留罪に当たるとされた事例。
 不法残留罪で起訴されている被告人が在留期間更新の申請に当たり,居住地や日本人の配偶者等としての在留資格の基礎に係る妻との同居の事実について虚偽の申出をしたほか,申請の審査のために入国管理局が求めた出頭要請等にも誠実に対応していないから,これまで5回に及ぶ在留期間の更新がいずれも許可されてきたことなどを考慮しても,不法残留について違法性が阻却されるものということはできないとされた事例。
参照条文: /入管=出入国管理及び難民認定法/入管.70条/
全 文 h170421supreme91.html

最高裁判所 平成 17年 4月 19日 第3小法廷 判決 ( 平成12年(受)第243号,平成17年(オ)第251号 )
事件名:  国家賠償請求上告受理申立,同附帯上告事件
要 旨
 弁護人の接見交通権が違法に侵害されたことを理由とする国家賠償請求(慰謝料請求)が棄却された事例。
 1.被疑者が,検察官による取調べのため,その勾留場所から検察庁に押送され,その庁舎内に滞在している間に弁護人等から接見の申出があった場合には,検察官が現に被疑者を取調べ中である場合や,間近い時に取調べ等をする確実な予定があって,弁護人等の申出に沿った接見を認めたのでは,取調べ等が予定どおり開始できなくなるおそれがある場合など,捜査に顕著な支障が生ずる場合には,検察官が上記の申出に直ちに応じなかったとしても,これを違法ということはできない。(先例の確認)
 1a.検察庁の庁舎内に被疑者が滞在している場合であっても,弁護人等から接見の申出があった時点で,検察官による取調べが開始されるまでに相当の時間があるとき,又は当日の取調べが既に終了しており,勾留場所等へ押送されるまでに相当の時間があるときなど,これに応じても捜査に顕著な支障が生ずるおそれがない場合には,本来,検察官は,上記の申出に応ずべきものである。
 1b.被疑者と弁護人等との接見には,被疑者の逃亡,罪証の隠滅及び戒護上の支障の発生の防止の観点からの制約があるから,検察庁の庁舎内において,弁護人等と被疑者との立会人なしの接見を認めても,被疑者の逃亡や罪証の隠滅を防止することができ,戒護上の支障が生じないような設備のある部屋等が存在しない場合には,上記の申出を拒否したとしても,これを違法ということはできない。
 1c.上記の設備のある部屋等とは,接見室等の接見のための専用の設備がある部屋に限られるものではないが,その本来の用途,設備内容等からみて,接見の申出を受けた検察官が,その部屋等を接見のためにも用い得ることを容易に想到することができ,また,その部屋等を接見のために用いても,被疑者の逃亡,罪証の隠滅及び戒護上の支障の発生の防止の観点からの問題が生じないことを容易に判断し得るような部屋等でなければならない。
 1d.広島地検の庁舎内には,弁護人等と被疑者との立会人なしの接見を認めても,被疑者の逃亡や罪証の隠滅を防止することができ,戒護上の支障が生じないような設備のある部屋等は存在しないから,検察官がそのことを理由に弁護人からの接見の申出を拒否したとしても,これを直ちに違法ということはできないとされた事例。
 2.検察官が設備のある部屋等が存在しないことを理由として接見の申出を拒否したにもかかわらず,弁護人等がなお検察庁の庁舎内における即時の接見を求め,即時に接見をする必要性が認められる場合には,検察官は,例えば立会人の居る部屋での短時間の「接見」などのように,いわゆる秘密交通権が十分に保障されないような態様の短時間の「接見」(「面会接見」)であってもよいかどうかという点につき,弁護人等の意向を確かめ,弁護人等がそのような面会接見であっても差し支えないとの意向を示したときは,面会接見ができるように特別の配慮をすべき義務がある。
 2a.検察官が面会接見に関する配慮義務を怠ったことが違法であるとされた事例。
 2b.検察官が面会接見に関する配慮義務を怠ったことは違法であるが,接見の申出がされた平成4年当時,広島地検では,接見のための専用の設備の無い検察庁の庁舎内においては弁護人等と被疑者との接見はできないとの立場を採っており,そのことを第1審強化方策広島地方協議会等において説明してきていること等に照らすと,検察官が上記の配慮義務を怠ったことに過失があったとまではいえないとされた事例。
 3.上告受理申立てに対して附帯上告をすることはできない。(先例の確認)
 3a.附帯上告が上告と別個の理由に基づくものであるときは,当該上告の上告理由書の提出期間内に原裁判所に附帯上告状及び附帯上告理由書を提出してすることを要する。(先例の確認)
 3b.検察官の接見の拒否が違法ではなく,また,検察官に過失がないことを理由とする上告受理申立てに対して,原判決認定の損害額が過少であることを理由とする附帯上告状が,上告受理申立て理由書の提出期間(平成11年12月6日から50日)を過ぎた平成17年2月4日上告裁判所に提出された場合に,その附帯上告はこの点においても不適法であるとされた事例。 /国家賠償請求/
参照条文: /刑訴.39条/国賠.1条/民訴.313条/民訴.293条/
全 文 h170419supreme.html

最高裁判所 平成 17年 4月 18日 第1小法廷 決定 ( 平成16年(あ)第971号 )
事件名:  殺人,銃砲刀剣類所持等取締法違反,殺人未遂被告事件(上告事件)
要 旨
 民家等の立ち並ぶ国道上を走行中の普通乗用自動車内において,助手席に乗車していた被害者に対し,背後から,銃口を下向きにして同人の左肩部にけん銃を突き付け,体内に向けて弾丸1発を発射した行為が銃砲刀剣類所持等取締法3条の13,31条のけん銃等発射罪に当たるとされた事例。
参照条文: /銃刀=銃砲刀剣類所持等取締法/銃刀.33-13条/銃刀.31条/
全 文 h170418supreme91.html

東京地方裁判所 平成 17年 4月 15日 民事第16部 判決 ( 平成16年(ワ)第22073号 )
事件名:  共益債権等請求事件
要 旨
 租税(関税及び消費税)債務の受託保証人(金融機関)が主債務者の再生手続開始後に保証債務を履行した場合に、その給付行為を再生手続開始後の第三者弁済と構成して、第三者弁済による求償権が民事再生法199条2号又は6号の共益債権に該当すること、及び、代位取得した租税債権が一般優先債権に該当することを主張して、再生債務者に対して求償権又は被代位債権の随時弁済を訴求したが、共益債権性及び優先債権性とも否定された事例。
 1.請求権の発生原因事実のうち主たるものが再生手続開始前に備わっていれば、当該請求権は再生債権となるものであり、したがって、保証人が自己の保証債務の履行として主債務を弁済したことに基づいて発生する、主債務者に対する求償権についても、弁済自体が再生手続開始後であっても、その発生原因事実のうち主たるものが再生手続開始前に備わっていれば,再生債権となる。
 1a.保証人による主債務の弁済は、その主観的な意図にかかわらず、保証債務の履行以外の何物ではないから、保証人が、自己の保証債務の弁済をした場合の求償権が再生債権となるにもかかわらず、保証債務の弁済という方法によらずに主債務について第三者弁済を行えば求償権が共益債権となるということは、考えられない
 2.再生会社に対する租税債権が、国税徴収法8条又は地方税法14条及び民事再生法122条1項により一般優先債権とされる趣旨は、租税は、国家存立の財政的基盤であることから、再生会社に対する租税債権を債権者平等原則の例外である一般優先債権であるとして、随時の弁済を受けられるものとすることによって、租税収入の確保を図るという点にある。
 2a.保証人が租税(関税)債務を代位弁済することにより税関においてその租税収入の確保を図ることができた以上、租税債権を一般優先債権とした趣旨は既に達成されており、被代位債権を一般優先債権として扱う必要性はもはやないから、保証人は、一般優先債権である租税債権について、一般優先債権者として代位することはできない。 /弁済者代位/
参照条文: /民事再生法:119条;122条/国税徴収法:8条/民法:474条;501条/
全 文 h170415tokyoD.html

最高裁判所 平成 17年 4月 14日 第1小法廷 判決 ( 平成13年(行ヒ)第25号 )
事件名:  処分取消請求上告受理申立て事件
要 旨
 1.登録免許税の納税義務者は,過大に登録免許税を納付して登記等を受けた場合には,そのことによって当然に還付請求権を取得し,同法56条,74条により5年間は過誤納金の還付を受けることができ(登録免許税法31条6項4号参照),その還付がされないときは,還付金請求訴訟を提起することができる。(反対意見あり)
 2.登録免許税法31条2項は,登記等を受けた者に対し,簡易迅速に還付を受けることができる手続を利用することができる地位を保障しているものであり,同項に基づく還付通知をすべき旨の請求に対してされた拒否通知は,登記機関が還付通知を行わず,還付手続を執らないことを明らかにするものであって,これにより,登記等を受けた者は,簡易迅速に還付を受けることができる手続を利用することができなくなるから,拒否通知は,登記等を受けた者に対して上記の手続上の地位を否定する法的効果を有するものとして,抗告訴訟の対象となる行政処分に当たる。(原審の見解を否定)
 3.納付した登録免許税の還付請求を棄却する判決の確定により,納付者が納付した登録免許税の還付を受けることができる地位にないことが既判力をもって確定されている場合には,納付者は,還付通知をすべき旨の請求に対してされた拒否通知を取り消す旨の判決を得たとしても,これによって還付を受けることができる地位を回復する余地はないから,拒否通知取消しの訴えにつき訴えの利益を有するものとすることはできない。(反対意見あり) /訴訟要件/
参照条文: /登録免許税.56条/登録免許税.74条/登録免許税.31条/
全 文 h170414supreme.html

最高裁判所 平成 17年 3月 29日 第3小法廷 判決 ( 平成15年(受)第1590号 )
事件名:  車両通行妨害等禁止請求上告事件
要 旨
 1.承役地たる通路土地について,幅員2.8m未満・積載量2.5t以下の自動車による通行を目的として同土地の幅員全部を対象とする通行地役権を有する原告が,承役地上に自動車を恒常的に駐車させている被告に対し,地役権に基づく妨害排除ないし妨害予防請求権により,駐車行為の禁止を求めた場合に,承役地に車両を恒常的に駐車させることによって同土地の一部を独占的に使用することは,この部分を地役権者が通行することを妨げ,地役権を侵害するものというべきであり,このことは被告が車両を駐車させた場所では残余の幅員が3m余りあることにより左右されものではないとして,≪被告は,車両を恒常的に駐車させて,原告による幅員2.8m未満,積載量2.5t以下の車両の通行を妨害してはならない≫との給付判決が下された事例。
 2.通行地役権は,承役地を通行の目的の範囲内において使用することのできる権利にすぎないから,通行地役権に基づき,通行妨害行為の禁止を超えて,承役地の目的外使用一般の禁止を求めることはできない。
参照条文: /民法:280条/
全 文 h170329supreme.html

最高裁判所 平成 17年 3月 29日 第3小法廷 決定 ( 平成16年(行フ)第5号 )
事件名:  訴状一部却下命令に対する抗告事件
要 旨
 同一敷地内にある一つのリゾートホテルを構成する数個の建物についてなされた固定資産評価審査委員会の審査決定について,納税者がその取消しを求めた場合に,各不動産ごとの審査決定取消請求は、関連請求にあたり、併合して提起することができるから,訴え提起の手数料は,各請求ごとに算定した手数料額の合計額とするのではなく,各請求の訴額の合算額を基準にして算出した額とすべきであるとされた事例。(訴え提起の手数料未納を理由とする訴状却下命令が取り消された事例)
 1.固定資産評価額に関する固定資産評価審査委員会の審査決定は,個々の固定資産ごとにされるものであり,1通の審査決定書において同一人の所有に係る複数の固定資産の登録価格について決定をしている場合でも,審査決定は,当該固定資産の数だけある。(原審判断是認)
 2.同一人の所有に係る,同一の敷地にあって一つのリゾートホテルを構成している数個の建物について,同一年度の登録価格につき,需給事情による減点補正がされていないのは違法であるとして,納税者が,固定資産評価審査委員会の審査決定について各建物の適正な時価と主張する価格を超える部分の取消しを求める場合には,各審査取消請求は,互いに行政事件訴訟法13条6号所定の関連請求に当たり,同法16条1項により併合して提起することができる。(破棄理由) /訴えをもって主張した利益/
参照条文: /行訴.13条6号/行訴.16条1項/民訴.137条/民訴.9条1項/
全 文 h170329supreme2.html

最高裁判所 平成 17年 3月 18日 第1小法廷 判決 ( 平成16年(し)第316号 )
事件名:  刑の執行猶予言渡取消決定に対する即時抗告棄却決定に対する特別抗告事件
要 旨
 1.刑の執行猶予言渡しの取消請求手続において,被請求人(成人)から刑訴法349条の2第1項に基づく求意見に対する回答を含む一切の権限の委任を受けたとする被請求人の母親は,執行猶予言渡しの取消決定に対して,被請求人のため即時抗告を申し立てる権限を有しない。 2.上訴について,弁護士以外の者による委任代理は許されない。(反対意見あり)
参照条文: /刑訴.349-2条/刑訴.26条/刑訴.355条/
全 文 h170318supreme91.html

最高裁判所 平成 17年 3月 11日 第1小法廷 決定 ( 平成15年(あ)第434号 )
事件名:  収賄被告事件(上告事件)
要 旨
 警視庁調布警察署管内の交番に勤務する警察官が公正証書原本不実記載等の事件につき同庁多摩中央警察署長に対し告発状を提出していた者から現金の供与を受けた行為につき,同警察官が同事件の捜査に関与していなかったとしても,同庁警察官の犯罪捜査に関する職務権限が同庁の管轄区域である東京都の全域に及ぶと解されることなどに照らし,収賄罪が成立するとされた事例。
参照条文: /刑.197条/
全 文 h170311supreme91.html

最高裁判所 平成 17年 3月 10日 第1小法廷 判決 ( 平成14年(受)第1954号 )
事件名:  賃料請求本訴,賃料額確認・不当利得返還請求反訴事件(上告事件)
要 旨
 賃借人の要望にそって建築され,他への転用の困難な大型スーパーマーケット用建物の賃貸借について,賃借人が賃料の減額(当初の賃貸借契約で合意されていた賃料増額をしないこと)を求めた場合に,この賃貸借契約は共同事業の一環として締結されたものであり,借地借家法の想定する賃貸借契約の契約とは趣を異にし,賃料減額は特段の事情のある場合にのみ許されると説示し,公租公課の上昇・賃借人の業績の堅調な推移等を考慮して減額請求を否定した原判決が破棄された事例。
 1.借地借家法32条1項の規定は,強行法規であり,賃料自動改定特約等の特約によってその適用を排除することはできない。(先例の確認)
 1a.賃借人の要望にそって建築され,他への転用の困難な大型スーパーマーケット用建物の賃貸借についても,賃料減額請求の当否を判断するに当たっては,諸般の事情を総合的に考慮すべきであり,賃借人の経営状態など特定の要素を基にした上で,当初の合意賃料を維持することが公平を失し信義に反するというような特段の事情があるか否かをみるなどの独自の基準を設けて,これを判断することは許されないととされた事例。 /賃料増減請求権/
参照条文: /借地借家.32条/借地借家.37条/
全 文 h170310supreme5.html

最高裁判所 平成 17年 3月 10日 第1小法廷 判決 ( 平成13年(オ)第656号,平成13年(受)第645号 )
事件名:  建物明渡請求(上告及び上告受理申立て事件)
要 旨
 債務者所有の土地と地上建物に債権額17億円余の抵当権が設定された後の平成4年12月に建物に期間5年の賃借権が設定され,その後に転貸された場合に,建物所有会社が被担保債務を一切弁済しておらず,賃料が著しく低廉であり,かつ,賃料額に比して敷金・保証金額が著しく高額であること,また,賃借会社と転借会社の代表取締役が同一人であり,債務者会社の代表取締役が賃借会社の取締役の地位にあったこと,競売手続が進まない状況の下で債務者会社の代表取締役が100万円と引き換えに土地抵当権の放棄を要求した経緯があることを考慮の上,この賃借権は抵当権実行としての競売手続を妨害する目的のものであると認定して,抵当権者が占有者(転借人)に対し抵当権に基づく妨害排除請求権の行使として自己への引渡しを求めた請求が認容された事例。
 1.所有者以外の第三者が抵当不動産を不法占有することにより,抵当不動産の交換価値の実現が妨げられ,抵当権者の優先弁済請求権の行使が困難となるような状態があるときは,抵当権者は,占有者に対し,抵当権に基づく妨害排除請求として,上記状態の排除を求めることができる。(先例の確認)
 1a.抵当権設定登記後に抵当不動産の所有者から占有権原の設定を受けてこれを占有する者についても,その占有権原の設定に抵当権の実行としての競売手続を妨害する目的が認められ,その占有により抵当不動産の交換価値の実現が妨げられて抵当権者の優先弁済請求権の行使が困難となるような状態があるときは,抵当権者は,当該占有者に対し,抵当権に基づく妨害排除請求として,上記状態の排除を求めることができる。(新判断)
 1b.抵当権に基づく妨害排除請求権の行使に当たり,抵当不動産の所有者において抵当権に対する侵害が生じないように抵当不動産を適切に維持管理することが期待できない場合には,抵当権者は,占有者に対し,直接自己への抵当不動産の明渡しを求めることができる。(新判断)
 2.抵当権者は,抵当不動産に対する第三者の占有により賃料額相当の損害を被るものではない。
 2a.抵当権者が抵当権に基づく妨害排除請求により取得する占有は,抵当不動産の所有者に代わり抵当不動産を維持管理することを目的とするものであって,抵当不動産の使用及びその使用による利益の取得を目的とするものではない。 /抵当権者の物上請求権/担保価値維持請求権/
参照条文: /民法:369条/
全 文 h170310supreme4.html

最高裁判所 平成 17年 3月 10日 第1小法廷 判決 ( 平成14年(受)第1565号 )
事件名:  土地明渡請求・上告受理申立て事件
要 旨
 土地の賃借人が土地を無断転貸し,転借人が違法に産業廃棄物を投棄したため,賃貸人が,賃貸借契約を解除して,賃借人の連帯保証人に対して撤去請求した場合に,産業廃棄物の投棄は専ら転貸人の単独で行った犯罪行為であるとの理由で賃借人および連帯保証人の撤去義務を否定した原判決が破棄された事例。
 1.不動産の賃借人は,賃貸借契約上の義務に違反する行為により生じた賃借目的物の毀損について,賃貸借契約終了時に原状回復義務を負う。(前提)
 1a.賃借人が,賃貸借契約上の義務に違反して,土地を無断で転貸し,転借人が土地に産業廃棄物を不法に投棄した場合に,賃借人は,賃借土地の原状回復義務として,産業廃棄物を撤去すべき義務を免れることはできない。(判旨)
参照条文: /民法:612条/616条/598条/
全 文 h170310supreme3.html

最高裁判所 平成 17年 3月 10日 第1小法廷 判決 ( 平成13年(行ヒ)第40号 )
事件名:  県職員野球観戦旅費返還請求事件・上告受理申立て事件
要 旨
 1.普通地方公共団体の長は,普通地方公共団体の公務を遂行するために合理的な必要性がある場合には,その裁量により,補助機関である職員に対して旅行命令を発することができるが,裁量権の行使に逸脱又は濫用があるときは,当該旅行命令は違法となる。
 1a.このことは,旅行命令が普通地方公共団体の長から委任を受けるなどしてその権限を有するに至った職員により発せられる場合にも,同様に当てはまる。
 1b.全国都道府県議会議員軟式野球大会に参加する県議会議員を応援する用務及び大阪事務所において訓示をする用務を目的として大分県総務部長が自己及び部下に発した旅行命令に,裁量権を逸脱し又は濫用した違法があるとされた事例。
 2.財務会計上の行為を行った職員に対して法242条の2第1項4号に基づいて損害賠償責任を問うことができるのは,先行する原因行為に違法事由がある場合であっても,原因行為を前提にしてされた職員の行為自体が財務会計法規上の義務に違反する違法なものであるときに限られる。(先例の確認)
 2a.知事の権限に属する旅費の支出命令につき専決を任された総務部財政課主幹兼総務係長は,権限を有する職員が発した旅行命令を是正する権限を有していたとはいえない場合には.旅行命令が著しく合理性を欠き,そのために予算執行の適正確保の見地から看過し得ない瑕疵があるときでない限り,これを尊重し,その内容に応じた財務会計上の措置を執る義務がある。
 2b.全国都道府県議会議員軟式野球大会に参加する県議会議員の応援に赴く用務のほか,県の機関において職務執行基準の遵守を徹底するために訓示するという総務部長の職務に属する用務も目的の一つとする旅行命令について.それが著しく合理性を欠き,そのために予算執行の適正確保の見地から看過し得ない瑕疵があるということはできないから,それを前提としてなさた支出命令が財務会計法規上の義務に違反してされた違法なものであるということはできないとされた事例。
 3.普通地方公共団体の職員は,職務命令である旅行命令に従って旅行をした場合に,旅行命令に重大かつ明白な瑕疵がない限り,当該旅行に対して旅費の支給を受けることができ,支給された旅費が不当利得となるものではない。(先例の確認)
 3a.全国都道府県議会議員軟式野球大会に参加する県議会議員の応援に赴ことを主たる目的とする旅行命令に従って大分県総務部長が出張をした場合に.その旅行命令に重大かつ明白な瑕疵があったということはできないから.当該旅行に対して総務部長に支給された旅費は不当利得とはならないとされた事例。 /住民訴訟/
参照条文: /地自.242-2条/地公.32条/
全 文 h170310supreme2.html

最高裁判所 平成 17年 3月 10日 第1小法廷 判決 ( 平成16年(行ヒ)第278号 )
事件名:  消費税更正処分等取消請求・上告受理申立て事件
要 旨
 1.
 事業者が消費税法30条1項の適用を受けるには,同法30条7項に規定する帳簿等を整理し,これらを所定の期間及び場所において,同法62条に基づく国税庁,国税局又は税務署の職員による検査に当たって適時に提示することが可能なように態勢を整えて保存することを要し,事業者がこれを行っていなかった場合には,同法30条7項により,事業者が災害その他やむを得ない事情によりこれをすることができなかったことを証明しない限り(同項ただし書),同条1項の規定は適用されない。(先例の確認)
 1a.税務調査に際して納税者の関係者がビデオカメラによる撮影を開始して調査理由の開示等を求めたのに対し,税務職員が調査理由を所得金額の確認のためであると説明して撮影の停止を要求したが,納税者の関係者がこれに応じなかったため,税務職員が納税者が調査を拒否したものと判断して調査場所を辞去し,その後も調査に応ずるよう求めたが協力を得ることができなかった等の事実関係がある場合に,納税者は,調査が行われた時点で帳簿等を保管していたとしても,消費税法62条に基づく税務職員による帳簿等の検査に当たって適時にこれを提示することが可能なように態勢を整えて帳簿等を保存していたということはできないと判断され,納税者に対して同条1項の適用がないとしてした更正処分等に違法はないと判断された事例。
 2.法人税法126条1項は,青色申告の承認を受けた法人に対し,大蔵省令で定めるところにより,帳簿書類を備え付けてこれにその取引を記録すべきことはもとより,これらが行われていたとしても,さらに,税務職員が必要と判断したときにその帳簿書類を検査してその内容の真実性を確認することができるような態勢の下に,帳簿書類を保存しなければならないこととしているというべきであり,法人が税務職員の同法153条の規定に基づく検査に適時にこれを提示することが可能なように態勢を整えて当該帳簿書類を保存していなかった場合は,同法126条1項の規定に違反し,同法127条1項1号に該当する。
 2a.法人税法127条1項1号に該当する事実がある場合に当たるから,青色取消処分に違法はないとされた事例。
参照条文: /法人税.126条/法人税.127条/消費税.30条/消費税.62条/
全 文 h170310supreme.html

東京高等裁判所 平成 17年 3月 3日 知的財産第4部 判決 ( 平成16年(ネ)第2067号 )
事件名:  著作権侵害差止等請求・控訴事件
要 旨
 書籍「ファンブック
 罪に濡れたふたり~Kasumi~」に収録の対談記事の一部が何者かによりインターネット上の匿名の掲示板「2ちゃんねる」に無断で転載された場合に、著作権者から掲示板設置者に対する自動公衆送信等の差止請求が認容され、かつ、掲示板の記載内容自体から書籍からの転載であることが明らかであり、著作権者からファックスや電子メイルにより削除要求がなされ、かつ、代理人弁護士から内容証明郵便により削除要請がなされたにもかかわらず掲示板設置者が削除しなかったとの事情の下で、著作権侵害を理由とする損害賠償請求が認容された事例。
 1.インターネット上においてだれもが匿名で書き込みが可能な電子掲示板を開設し運営する者は,著作権侵害となるような書き込みをしないよう,適切な注意事項を適宜な方法で案内するなどの事前の対策を講じるだけでなく,著作権侵害となる書き込みがあった際には,これに対し適切な是正措置を速やかに取る態勢で臨むべき義務がある。
 1a.掲示板運営者は,少なくとも,著作権者等から著作権侵害の事実の指摘を受けた場合には,可能ならば発言者に対してその点に関する照会をし,更には,著作権侵害であることが極めて明白なときには当該発言を直ちに削除するなど,速やかにこれに対処すべきである。
 2.匿名の掲示板への記載が、その記載内容自体から公刊された書籍から転載されたものであることが掲示板設置者にとっても容易に理解し得たはずであるとされた事例。
 2a.(発信者の追跡の容易性)
 
 「2ちゃんねる」の掲示板設置者が、他人がした著作権侵害の書込みについて免責されるべき理由として、発信者をIPログから追跡することが可能であると主張したが、排斥された事例。
 2b.(公知の事実の例)
 
 IPアドレスによって特定されるのは当該発言がいずれのプロバイダーから発信されたかにとどまり,発言者までの特定は当該プロバイダーが厳格に管理している個人情報を得て初めて可能になるものであることは,公知の事実である。
 2c.匿名掲示板における無断転載について掲示板設置者が著作権侵害の責任を負う場合に、週刊誌のファクシミリによるバックナンバー記事提供サービスの情報料が記事1回当たり300円であることを考慮して、無断転載された記事の著作物使用料を200円と認めた上で,損害賠償額が算定された事例。
 2d.対談記事の著作権が共有に属する場合に、持分割合が対談者の頭数に応じて算定された事例。(原告の主張をそのまま認めた事例である) /知的財産権/無体財産権/著作権/
参照条文: /民法:709条/著作.112条/著作.114条/著作.117条/
全 文 h170303tokyoH.html

最高裁判所 平成 17年 2月 22日 第3小法廷 判決 ( 平成16年(受)第1271号 )
事件名:  売掛代金請求及び独立当事者参加・上告事件
要 旨
 動産の買主の破産管財人が転売代金債権を第三者に譲渡して,譲受人がその対抗要件が具備した後に,動産の売主が動産売買先取特権に基づく物上代位権行使のために転売代金債権を差し押さえた場合に,この物上代位権行使は許されず,転買人は債権の譲受人に代金を支払うべきであるとされた事例。
 1.民法304条1項ただし書の規定は,抵当権とは異なり公示方法が存在しない動産売買の先取特権については,物上代位の目的債権の譲受人等の第三者の利益を保護する趣旨を含むものというべきである。
 1a.動産売買の先取特権者は,物上代位の目的債権が譲渡され,第三者に対する対抗要件が備えられた後においては,目的債権を差し押さえて物上代位権を行使することはできない。
参照条文: /民法:304条/民事執行法:193条/
全 文 h170222supreme.html

最高裁判所 平成 17年 2月 15日 第3小法廷 判決 ( 平成15年(受)第995号 )
事件名:  損害賠償請求・上告事件
要 旨
 株式会社の役員報酬が定款及び商法の規定に違反して株主総会の決議に基づかずに支払われたことを理由とする損害賠償請求訴訟の開始後に,報酬を被告らに過去にさかのぼって支払う旨の総会決議なされた場合に,その決議に訴訟を被告らの勝訴に導く意図が認められるとしても,それだけでは,被告らにおいて決議の存在を主張することが訴訟上の信義に反すると解することはできないとされた事例。
 1.株主総会において,役員報酬を過去にさかのぼって支給することを決議することも禁止されるものではない。(原審判断の肯認)
 2.株式会社の取締役及び監査役の報酬について,定款にその額の定めがないときは,株主総会の決議によって定めると規定している趣旨目的は,取締役の報酬にあっては,取締役ないし取締役会によるいわゆるお手盛りの弊害を防止し,監査役の報酬にあっては,監査役の独立性を保持し,さらに,双方を通じて,役員報酬の額の決定を株主の自主的な判断にゆだねるところにあると解される。
 2a.株主総会の決議を経ずに役員報酬が支払われた場合であっても,これについて後に株主総会の決議を経ることにより,事後的にせよ上記の規定の趣旨目的は達せられるものということができるから,当該決議の内容等に照らして上記規定の趣旨目的を没却するような特段の事情があると認められない限り,当該役員報酬の支払は株主総会の決議に基づく適法有効なものになる。
参照条文: /商.269条/商.279条1項/
全 文 h170215supreme.html

最高裁判所 平成 17年 2月 1日 第3小法廷 判決 ( 平成13年(行ヒ)第276号 )
事件名:  所得税更正処分取消請求・上告事件
要 旨
 父が代金1200万円で取得したゴルフ会員権が子に贈与され、子が名義書換手数料として82万4000円支払い、その後100万円で譲渡とした場合に、父が支払った代金額と子の支払った名義書換手数料の合計1282万4000円を資産の取得費とし、それと売却代金との差額とを総合課税の対象となる所得税法33条3項2号所定の長期譲渡所得の金額の計算上生じた損失の金額とすることができるとされた事例。
 1.所得税法60条1項の規定の本旨は,増加益に対する課税の繰延べにあるから,この規定は,受贈者の譲渡所得の金額の計算において,受贈者の資産の保有期間に係る増加益に贈与者の資産の保有期間に係る増加益を合わせたものを超えて所得として把握することを予定していないというべきである。
 1a.受贈者が贈与者から資産を取得するための付随費用の額は,受贈者の資産の保有期間に係る増加益の計算において,「資産の取得に要した金額」(所得税法38条1項)として収入金額から控除されるべき性質のものである。
参照条文: /所得税.60条/所得税.38条/
全 文 h170201supreme2.html

最高裁判所 平成 17年 2月 1日 第3小法廷 判決 ( 平成12年(行ヒ)第126号 )
事件名:  消費税決定処分等取消請求・上告受理申立て事件
要 旨
 消費税法9条1項の規定により消費税を納める義務を免除される事業者に該当しないとされた事例。
 1.消費税法9条2項に規定する「基準期間における課税売上高」を算定するに当たり,課税資産の譲渡等の対価の額に含まないものとされる「課されるべき消費税に相当する額」とは,基準期間に当たる課税期間について事業者に現実に課されることとなる消費税の額をいい,事業者が同条1項に該当するとして納税義務を免除される消費税の額を含まない。 /免税事業者/無申告加算税/
参照条文: /消費税.9条1項/消費税.28条/
全 文 h170201supreme.html

東京地方裁判所 平成 17年 2月 1日 民事第47部 判決 ( 平成16年(ワ)第16732号 )
事件名:  特許権侵害差止請求事件
要 旨
 松下電器産業がジャストシステムを被告にして、「アイコンの機能説明を表示させる機能を実行させる第1のアイコン,および所定の情報処理機能を実行させるための第2のアイコンを表示画面に表示させる表示手段と,前記表示手段の表示画面上に表示されたアイコンを指定する指定手段と,前記指定手段による,第1のアイコンの指定に引き続く第2のアイコンの指定に応じて,前記表示手段の表示画面上に前記第2のアイコンの機能説明を表示させる制御手段とを有することを特徴とする情報処理装置」の特許権侵害を理由に、被告製品の製造・譲渡等の差止等及び製品の廃棄を請求して認容された事例。
 1.特許請求の範囲の記載における「アイコン」の意義が争われた事例。
 2.特許法101条2号の間接侵害の成立が肯定された事例
 2a.コンピュータプログラムをインストールしたパソコン及びその使用が特許を受けた発明の構成要件を充足する場合に、そのプログラム製品は、その「製品をインストールしたパソコン」の生産に用いるものである。
 2b.特許を受けた発明と同様の機能がオペレーティングシステムそのものに備わっていて、アプリケーションプログラムである被告製品がその機能を呼び出しているにすぎない場合でも、被告製品で使用されているその機能は、被告製品をインストールしたパソコンによってしか実行できないものであるから,被告製品は発明による課題の解決に不可欠なものであり,被告製品をインストールする行為は,原告の特許権を侵害する物の生産である。
 3.先行の公知技術として、(α)ある機能の説明を表示させるために、説明表示用のキーを押したあとで、説明されるべき機能に対応するキーを押すという技術、 (β)キーボード上のキーを画面上のアイコンで表示するという技術が存在する場合に、アイコンは現実のキーボードのキーに存する数量的あるいは位置的な制約を離れて,多様な機能を自由に担わせることができるものであって,両者の間には質的な相違が存在しているから、(γ)第1のアイコンの指定に引き続く第2のアイコンの指定に応じて,表示画面上に第2のアイコンの機能説明を表示させる技術は、当業者が容易に想到することができることが明らかであるものとはいえないと判断された事例。
参照条文: /特許.101条/特許.104-3条/特許.29条2項/
全 文 h170201tokyoD.html

最高裁判所 平成 17年 1月 27日 第1小法廷 判決 ( 平成16年(受)第1019号 )
事件名:  更生担保権優先関係確認請求・上告受理申立て事件
要 旨
 1.不動産を目的とする1個の抵当権が数個の債権を担保し,そのうちの1個の債権のみについての保証人が当該債権に係る残債務全額につき代位弁済した場合は,当該抵当権は債権者と保証人の準共有となり,当該抵当不動産の換価による売却代金が被担保債権のすべてを消滅させるに足りないときには,債権者と保証人は,両者間に上記売却代金からの弁済の受領についての特段の合意がない限り,上記売却代金につき,債権者が有する残債権額と保証人が代位によって取得した債権額に応じて案分して弁済を受けるものと解すべきである。
参照条文: /民法:249条;264条;500条;501条;502条/民事執行法:85条5項/
全 文 h170127supreme.html

最高裁判所 平成 17年 1月 26日 大法廷 判決 ( 平成10年(行ツ)第93号 )
事件名:  管理職選考受験資格確認等請求・上告事件
要 旨
 昭和63年4月に保健婦として東京都に採用された原告(特別永住者)が.平成6年度及び同7年度に東京都人事委員会の実施した管理職選考を受験しようとしたところ,日本の国籍を有しないことを理由に受験が認められなかったため,国家賠償法1条1項に基づき,東京都に対し慰謝料の支払等を請求したが.棄却された事例。
 1.普通地方公共団体は,職員に採用した在留外国人について,国籍を理由として,給与,勤務時間その他の勤務条件につき差別的取扱いをしてはならず(労働基準法3条,112条,地方公務員法58条3項),地方公務員法24条6項に基づく給与に関する条例で定められる昇格等も上記の勤務条件に含まれる。
 1a.上記の定めは,普通地方公共団体が職員に採用した在留外国人の処遇につき合理的な理由に基づいて日本国民と異なる取扱いをすることまで許されないとするものではなく,そのような取扱いは,合理的な理由に基づくものである限り,憲法14条1項に違反するものでもない。
 1b.管理職への昇任は,昇格等を伴うのが通例であるから,在留外国人を職員に採用するに当たって管理職への昇任を前提としない条件の下でのみ就任を認めることとする場合には,そのように取り扱うことにつき合理的な理由が存在することが必要である。
 2.地方公務員のうち,住民の権利義務を直接形成し,その範囲を確定するなどの公権力の行使に当たる行為を行い,若しくは普通地方公共団体の重要な施策に関する決定を行い,又はこれらに参画することを職務とするもの(公権力行使等地方公務員)については,原則として日本の国籍を有する者がこれに就任することが想定されているとみるべきであり,我が国以外の国家に帰属し,その国家との間でその国民としての権利義務を有する外国人が就任することは,本来我が国の法体系の想定するところではない。
 2a.普通地方公共団体が,公務員制度を構築するに当たって,公権力行使等地方公務員の職とこれに昇任するのに必要な職務経験を積むために経るべき職とを包含する一体的な管理職の任用制度を構築して人事の適正な運用を図ることも,その判断により行うことができ.そのような管理職の任用制度を構築した上で,日本国民である職員に限って管理職に昇任することができることとする措置を執ることは,合理的な理由に基づいて日本国民である職員と在留外国人である職員とを区別するものであり,上記の措置は,労働基準法3条にも,憲法14条1項にも違反するものではない。
 2b.この理は,特別永住者についても異なるものではない。 /国民主権/自己統治の原則/職業選択の自由/永住者/
参照条文: /憲.1条/憲.14条1項/憲.15条/憲.22条1項/国賠.1条/地公.24条6項/地公.58条3項/労基.3条/労基.112条/
全 文 h170126supreme.html

最高裁判所 平成 17年 1月 25日 第3小法廷 判決 ( 平成16年(行ヒ)第141号 )
事件名:  所得税更正処分等取消請求・上告受理申立て事件
要 旨
 B社がその100%子会社であるA社の代表取締役に与えたストックオブションの権利行使益が,雇用契約又はこれに類する原因に基づき提供された非独立的な労務の対価として給付されたものとして,所得税法28条1項所定の給与所得に当たるとされた事例。
参照条文: /所得税.28条/所得税.34条1項/
全 文 h170125supreme.html

最高裁判所 平成 17年 1月 20日 第1小法廷 判決 ( 平成16年(許)第26号 )
事件名:  債権差押命令に対する執行抗告棄却決定に対する許可抗告事件
要 旨
 民事保全法43条2項は,定期金の給付を命ずる仮処分の執行についても適用され,仮処分命令の送達の日より後に支払期限が到来するものについては,送達の日からではなく,当該定期金の支払期限から同項の期間を起算すべきである。 /執行期間/
参照条文: /民事執行法:43条2項/
全 文 h170120supreme.html

最高裁判所 平成 17年 1月 17日 第2小法廷 判決 ( 平成13年(受)第704号 )
事件名:  破産債権確定,解約返戻金請求・上告受理申立て事件
要 旨
 1.破産債権者は,自己の債務が破産宣告の時において期限付である場合には,特段の事情のない限り,期限の利益を放棄したときだけでなく,破産宣告後にその期限が到来したときにも,旧破産法99条後段(現67条2項後段)の規定により,その債務に対応する債権を受働債権とし,破産債権を自働債権として相殺をすることができる。
 1a.破産債権者は,その債務が破産宣告の時において停止条件付である場合には,停止条件不成就の利益を放棄したときだけでなく,破産宣告後に停止条件が成就したときにも,同様に相殺をすることができる。
 1b.保険会社が,保険契約者に対して,一方で保険金詐取を理由とする損害賠償請求権を有し,他方で満期が到来したときは満期返戻金を支払うべき期限付債務及び解約されたときは解約返戻金を支払うべき停止条件付債務を負っていたところ,保険契約者が破産宣告を受け,その後にその期限が到来し,あるいは解約によりその停止条件が成就した場合に,保険会社は,破産債権を自働債権とし,返戻金債権を受働債権として相殺をすることができるとされた事例。
 2.不法行為の被害者が負担した弁護士費用は,被害者が当該不法行為に基づくその余の費目の損害の賠償を求めるについて弁護士に訴訟の追行を委任し,かつ,相手方に対して勝訴した場合に限って,事案の難易,請求額,認容額その他諸般の事情を考慮して相当と認められる額の範囲内のものに限り,当該不法行為と相当因果関係のある損害として賠償を請求することができる。(先例の確認)
 2a.不法行為による被害者(保険会社)が加害者(保険契約者)に対して不法行為による賠償請求の訴え(別件訴訟)を提起した後で,加害者が解約返戻金支払請求の訴え(本件訴訟)を提起したため,被害者が本件訴訟において損害賠償請求権との相殺の抗弁を提出したところ,両訴訟が併合審理され,別件訴訟について訴えを却下する第一審判決が確定している場合に,被害者が別件訴訟の追行のために要した弁護士費用は,加害者の不法行為と相当因果関係がある損害とは認められないとされた事例。 /訴えの利益/訴訟要件/
参照条文: /民法:709条/破産.67条2項/
全 文 h170117supreme2.html

最高裁判所 平成 17年 1月 17日 第2小法廷 判決 ( 平成14年(行ヒ)第103号 )
事件名:  過少申告加算税賦課処分取消等請求・上告受理申立て事件
要 旨
 1.国税通則法70条5項は,納税者本人が偽りその他不正の行為を行った場合に限らず,納税者から申告の委任を受けた者が偽りその他不正の行為を行い,これにより納税者が税額の全部又は一部を免れた場合にも適用される。
 1a.平成2年分の所得税について,納税義務者が申告を委任した税理士の脱税行為によりその税額の一部を免れた場合に,同年分の所得税に係る重加算税賦課決定等については国税通則法70条5項が適用されるから,平成9年12月19日になされた賦課決定はその除斥期間内にされたものというべきであるとされた事例。
 2.税理士が,土地の譲渡所得に関し,納税義務者に対し,土地の買手の紹介料等を経費として記載したメモを示しながら,800万円も税額を減少させて得をすることができる旨の説明をしたが,納税義務者は,紹介料を実際に出費していなかったし,出費した旨を税理士に告げたこともなかったにもかかわらず,この説明を受けた上で,税理士に対し,平成2年分の所得税の申告を委任し,税務代理の報酬5万円のほか,減少させた納税資金1800万円を交付した場合に,納税義務者は,税理士が架空経費の計上などの違法な手段により税額を減少させようと企図していることを了知していたとみることができるから,特段の事情のない限り,納税義務者は,税理士が土地の譲渡所得につき架空経費を計上するなど事実を隠ぺいし,又は仮装することを容認していたと推認するのが相当であるとされた事例。(事実認定が経験則に反することを理由とする原判決破棄の事例)
参照条文: /国税通則.70条5項/国税通則68条1項/民訴.247条/民訴.321条/
全 文 h170117supreme.html

東京高等裁判所 平成 17年 1月 13日 第7民事部 決定 ( 平成16年(ラ)第2015号 )
事件名:  再生手続開始決定に対する抗告事件
要 旨
 債務者(預託金会員制ゴルフ場の経営会社)が再生手続開始申立て(第1次申立て)をし、再生計画案が債権者集会において可決されたが、再生計画が債権者平等原則に反することを理由に不認可とする抗告審決定が確定した後で、一部の債権者が会社更生手続開始の申立てをする前日に債務者が再び再生手続開始申立て(第2次申立て)をし、第1次再生計画の不認可理由を踏まえて相当多数の債権者の意向も聴取しながら作成された再生計画案を提出している場合に、抗告審が、第2次再生手続開始申立てについて民事再生法25条2号・3号・4号所定の棄却事由があるとは認められないとした事例。
 1.再生計画不認可の決定が確定した場合であっても,その決定の効力は,不認可とされた当該再生計画について,当該決定で存在するとされた法174条2項各号に規定する不認可事由のいずれかが存在することを確定し,当該再生手続を終局させる効力を有するとしても,それ以上に,同一の再生債務者について再度の再生手続開始の申立てをすることを一般的に不適法とする効力まで有するものではない。
 2.再生手続と更生手続の各開始の申立てがされた場合には,両者の調整は後者の手続において図ることが予定されているものというべきであり,したがって,前者の申立てがあった裁判所は,更生手続開始の申立てがあったことを再生手続を開始するかどうかの判断に当たって考慮する必要はなく,法25条2号に明文の規定がないのに,これを拡大解釈して,会社更生手続が債権者の一般の利益に適合するかどうかを判断して同号の棄却事由があるという判断をすることは許されない /民事再生/鹿島の杜カントリー倶楽部/株式会社整理回収機構/RCC/サーベラス・ジャパン・インベストメント/
参照条文: /民事再生法:25条;174条/会社更生法:24条1項1号;50条1項/
全 文 h170113tokyoH.html

最高裁判所 平成 16年 12月 24日 第2小法廷 判決 ( 平成14年(受)第1355号 )
事件名:  損害賠償請求上告事件
要 旨
 不法行為による後遺障害の損害賠償請求権の消滅時効が,遅くとも症状固定の診断を受けた時には進行するとされた事例。
 1.民法724条にいう「損害及ヒ加害者ヲ知リタル時」とは,被害者において,加害者に対する賠償請求をすることが事実上可能な状況の下に,それが可能な程度に損害及び加害者を知った時を意味し,同条にいう被害者が損害を知った時とは,被害者が損害の発生を現実に認識した時をいう。(先例の確認)
 1a.交通事故の被害者が後遺障害につき症状固定という診断を受け,これに基づき後遺障害等級の事前認定を申請し,異議申立てによって等級認定がされた場合に,被害者は,遅くとも症状固定の診断を受けた時には,後遺障害の存在を現実に認識し,加害者に対する賠償請求をすることが事実上可能な状況の下に,それが可能な程度に損害の発生を知ったものというべきであるとされた事例。
参照条文: /民法:166条/民法:724条/
全 文 h161224supreme4.html

最高裁判所 平成 16年 12月 24日 第2小法廷 判決 ( 平成14年(受)第1244号 )
事件名:  総会決議不存在確認請求上告事件
要 旨
 医療法人の社員総会における入社承認決議,理事選任決議,分院の開設に関する定款変更決議の不存在確認の訴えについて,確認の利益があるとされた事例。
 1.確認の利益は,判決をもって法律関係等の存否を確定することが,その法律関係等に関する法律上の紛争を解決し,当事者の法律上の地位ないし利益が害される危険を除去するために必要,適切である場合に認められる。
 1a.法人の意思決定機関である会議体の決議は,法人における諸般の法律関係の基礎となるものであるから,その決議の存否に関して疑義があり,これが前提となって,決議から派生した法律上の紛争が現に存在するときに,決議の存否を判決をもって確定することが,紛争の解決のために必要,適切な手段である場合があり得る。(先例の確認)
 1b.社団たる医療法人の社員総会の決議が存在しないことの確認を求める訴えは,決議の存否を確定することが,当該決議から派生した現在の法律上の紛争を解決し,当事者の法律上の地位ないし利益が害される危険を除去するために必要,適切であるときは,許容される。
 2.社団たる医療法人が入社承認決議及び理事選任決議が存在すると主張しており,社員総会議事録にはこれらの決議がされたことを前提とした記載がある場合には,理事及び社員に関する事項が社団たる医療法人の登記事項ではないとしても,上記各決議について決議が存在するとの外形があるというべきである。(原判決と判断を異にする点)
 2a.社団たる医療法人の社員は,診療所の開設,運営が法令及び定款に従い適正に行われることについて法律上の利益を有する。 /訴えの利益/訴訟要件/
参照条文: /民訴.140条/
全 文 h161224supreme2.html

最高裁判所 平成 16年 12月 24日 第2小法廷 判決 ( 平成12年(行ツ)第209号,平成12年(行ヒ)第206号 )
事件名:  規制対象事業場認定処分取消請求上告事件
要 旨
 原告が計画している産業廃棄物中間処理施設の建設を紀伊長島町水道水源保護条例2条5号所定の規制対象事業場と認定する旨の被告の処分の取消しを求める訴訟において,処分の違法性を否定した原判決が破棄されて差し戻され事例。
 1.産業廃棄物処理業者が県知事に対してした産業廃棄物処理施設設置許可の申請に係る事前協議に処理場建設予定地の町長が関係機関として加わったことを契機として,町の区域内に施設を設置されようとしていることを知った町が水道水源保護条例を制定した場合に,町長はその施設を規制対象事業場と認定するに当たっては,条例の定める手続において,業者と十分な協議を尽くし,業者に対して地下水使用量の限定を促すなどして予定取水量を水源保護の目的にかなう適正なものに改めるよう適切な指導をし,業者の地位を不当に害することのないよう配慮すべき義務があり,そのような義務に違反してされた処分は違法となるとされた事例。
参照条文: /水道.2条/紀伊長島町水道水源保護条例.2条/
全 文 h161224supreme3.html

最高裁判所 平成 16年 12月 24日 第2小法廷 判決 ( 平成14年(行ヒ)第147号 )
事件名:  法人税更正処分等取消請求上告事件
要 旨
 住宅金融専門会社に対し残高合計3760億5500万円の貸付債権を有していた株式会社日本興業銀行が,平成8年3月29日に本件債権を放棄し,同年3月31日を末日とする事業年度の法人税について,前記債権相当額を損金の額に算入して欠損金額を132億7988万7629円とする申告をしたところ,損金算入を否認され,同年8月23日に法人税の更正及びこれに係る過少申告加算税の賦課決定を受け,同10年3月31日に所得金額を3641億8109万9162円とする法人税の再更正並びにこれに係る過少申告加算税及び重加算税の各賦課決定を受けた場合に,これらの取消しを求める請求が認容された事例。
 1.法人の各事業年度の所得の金額の計算において,金銭債権の貸倒損失を法人税法22条3項3号にいう「当該事業年度の損失の額」として当該事業年度の損金の額に算入するためには,当該金銭債権の全額が回収不能であることを要し,その全額が回収不能であることは客観的に明らかでなければならないが,そのことは,債務者の資産状況,支払能力等の債務者側の事情のみならず,債権回収に必要な労力,債権額と取立費用との比較衡量,債権回収を強行することによって生ずる他の債権者とのあつれきなどによる経営的損失等といった債権者側の事情,経済的環境等も踏まえ,社会通念に従って総合的に判断されるべきものである。
 1a.興銀が母体行の一つとなって設立された住宅金融専門会社に対する興銀の貸付債権について,興銀が非母体金融機関に対して債権額に応じた損失の平等負担を主張することは,平成8年3月末までの間に社会通念上不可能となっており,当時の債務者会社の資産等の状況からすると,債権の全額が回収不能であることは客観的に明らかとなっていたというべきであるとして,貸し倒れ損失の直接償却が是認された事例。
参照条文: /法人税.22条/
全 文 h161224supreme.html

最高裁判所 平成 16年 12月 21日 第3小法廷 決定 ( 平成16年(あ)第2031号 )
事件名:  公職選挙法違反被告事件(上告事件)
要 旨
 1.投票を電話により依頼する要員を確保して派遣する行為及び投票を電話により依頼する行為は,いずれも選挙運動である。
 1a.電話による通信販売業務の企画,実施,労働者派遣事業等を営む会社にこれらの行為を依頼し、その対価として金銭を支払う意思を表示したことについて、公職選挙法221条1項2号の罪(買収及び利害誘導罪)が成立するとされた事例。
参照条文: /公選.221条/
全 文 h161221supreme91.html

札幌地方裁判所 平成 16年 12月 21日 民事第1部 中間判決 ( 平成16年(ワ)第1610号 )
事件名:  敷金返還等請求事件
要 旨
 賃貸人対する保証金返還請求権等について銀行のために質権を設定していた賃借人について再生手続が開始され,賃借人=質権設定者が銀行との間で締結した別除権協定の中で質権の目的債権の取立てを委ねられていた場合に,その合意は,質権設定による取立権限の解除ではなく,任意的訴訟担当を含む取立委任とされ,かつ,この任意的訴訟担当は許容されるとの判断が中間判決で示された事例。
 1.指名債権についての質権の設定による取立権の制限は,第三債務者に通知し,あるいは第三債務者が承諾しなければ,第三債務者に対抗できない(民法364条1項)ことからすると,その取立制限の解除も,やはり,質権者から第三債務者に通知し,あるいは第三債務者が承諾しなければ第三債務者に対抗できない。
 2.任意的訴訟担当は,民訴法54条1項本文が訴訟代理人を原則として弁護士に限り,また,信託法11条が訴訟行為をなさしめることを主たる目的とする信託を禁止している趣旨に照らし,一般に無制限にこれを許容することはできないが,必ずしも民訴法30条(選定当事者)の場合に限られるものではなく,当該訴訟担当がこのような制限を回避,潜脱するおそれがなく,かつ,これを認める合理的な必要性がある場合には許容される。
 2.1
 債権質権者である銀行が設定者に担保の目的たる債権の取立訴訟を担当させることが許されるとされた事例。 /当事者適格/訴訟要件/民事再生/
参照条文: /民訴.140条/民法:367条/民法:364条/民訴.54条1項/信託.11条/
全 文 h161221sapporoD.html

最高裁判所 平成 16年 12月 20日 第2小法廷 判決 ( 平成16年(受)第525号 )
事件名:  損害賠償請求上告受理申立て事件
要 旨
 交通事故により死亡した被害者の遺族からの損害賠償請求権と自賠責保険金・遺族補償年金・遺族厚生年金との関係
 1.不法行為による損害賠償債務は,不法行為の日に発生し,かつ,何らの催告を要することなく遅滞に陥いるものである。(先例の確認)
 1a.自賠責保険金等によっててん補される損害についても,事故時から自賠責保険金等の支払日までの間の遅延損害金が既に発生しているから,自賠責保険金等が支払時における損害金の元本及び遅延損害金の全部を消滅させるに足りないときは,遅延損害金の支払債務にまず充当されるべきである。(破棄理由)
 2.不法行為によって被害者が死亡し,その損害賠償請求権を取得した相続人が不法行為と同一の原因によって利益を受ける場合には,損害と利益との間に同質性がある限り,公平の見地から,その利益の額を当該相続人が加害者に対して賠償を求め得る損害の額から控除することによって,損益相殺的な調整を図ることが必要である。(先例の確認)
 2a.不法行為により死亡した被害者の相続人が,その死亡を原因として遺族年金(遺族厚生年金・遺族補償年金)の受給権を取得したときは,給与収入等を含めた逸失利益全般との関係で,支給を受けることが確定した遺族年金を控除すべきである。(メモ参照)
 3.不法行為の被害者の相続人が受給権を取得した遺族厚生年金等を損害賠償の額から控除するに当たっては,現にその支給を受ける受給権者についてのみこれを行うべきものである。(先例の確認。破棄理由) /填補/
参照条文: /民法:709条/民法:491条/
全 文 h161220supreme2.html

最高裁判所 平成 16年 12月 20日 第2小法廷 判決 ( 平成16年(行ヒ)第37号 )
事件名:  法人税更正処分等取消請求上告受理申立て事件
要 旨
 保存義務のある帳簿等を税務調査に際して提示しなかった場合に,消費税法30条1項(仕入れに係る消費税額の控除)の適用が否定された事例。
 1.事業者は,消費税法30条1項の適用を受けるには,法30条7項に規定する帳簿等を整理し,これらを所定の期間及び場所において,法62条に基づく税務職員による検査に当たって適時に提示することが可能なように態勢を整えて保存することを要するのであり,事業者がこれを行っていなかった場合には,法30条7項により,事業者が災害その他やむを得ない事情によりこれをすることができなかったことを証明しない限り(同項ただし書),同条1項の規定は適用されない。(先例の確認) /租税法律主義/
参照条文: /消費税.30条/消費税.62条/
全 文 h161220supreme.html

最高裁判所 平成 16年 12月 17日 第2小法廷 判決 ( 平成16年(受)第633号 )
事件名:  損害賠償請求上告受理申立て事件
要 旨
 課税処分を受けた者が,課税処分に係る税額及び延滞金を納付したうえ課税処分について審査請求をしたが,裁決がされないまま約1年2か月が経過したため,課税処分が違法であるとして,国家賠償法1条1項に基づき,損害賠償請求訴訟を提起したところ,訴訟係属中に課税処分が取り消され,過誤納額及び還付加算金額が支払われた場合に,訴訟の提起及び追行に係る弁護士費用のうち相当と認められる額の範囲内のものは,課税処分と相当因果関係のある損害にあたるとされた事例。
参照条文: /国賠.1条1項/
全 文 h161217supreme.html

最高裁判所 平成 16年 12月 16日 第1小法廷 判決 ( 平成13年(行ヒ)第116号 )
事件名:  課税処分取消請求上告受理申立て事件
要 旨
 保存義務のある帳簿等を税務調査に際して提示しなかった場合に,消費税法30条1項(仕入れに係る消費税額の控除)の適用が否定された事例。
 1.事業者が,消費税法30条7項に規定する帳簿又は請求書等を整理し,これらを所定の期間及び場所において,法62条に基づく税務職員による検査に当たって適時にこれを提示することが可能なように態勢を整えて保存していなかった場合は,法30条7項にいう「事業者が当該課税期間の課税仕入れ等の税額の控除に係る帳簿又は請求書等を保存しない場合」に当たり,事業者が災害その他やむを得ない事情により当該保存をすることができなかったことを証明しない限り(同項ただし書),同条1項の規定は,当該保存がない課税仕入れに係る課税仕入れ等の税額については,適用されない。
参照条文: /消費税.30条/消費税.62条/
全 文 h161216supreme.html

最高裁判所 平成 16年 12月 16日 第1小法廷 決定 ( 平成16年(許)第20号 )
事件名:  過料取消決定に対する抗告却下決定に対する許可抗告事件
要 旨
 新たな取締役及び監査役の選任がなされないと退任した取締役等の退任の登記ができない関係にある場合に、取締役,代表取締役及び監査役の退任登記を怠ったことを理由とする過料の裁判がなされた後で、取締役及び監査役の各選任を怠ったことを理由とする過料の裁判がなされ、いずれも確定したが、その後、第2裁判は不当であってこれを維持することが著しく正義に反することが明らかであるとして,取り消された事例。
 1.非訟事件手続法19条1項の規定に基づく取消しの裁判は,法207条3項に規定する過料の裁判に当たるものではなく,これについて抗告を禁ずるとの規定がなく,かつ,即時抗告によるとする規定もない以上,同裁判に対しては通常抗告をすることができるものと解するのが相当である(法20条1項)。(破棄理由)
 2.非訟事件の裁判は,法律上の実体的権利義務の存否を終局的に確定する民事訴訟事件の裁判とは異なり,裁判所が実体的権利義務の存在を前提として合目的な裁量によってその具体的内容を定めたり,私法秩序の安定を期して秩序罰たる過料の制裁を科するなどの民事上の後見的な作用を行うものである。(先例の確認)
 2a.非訟事件の裁判の本質に照らすと,裁判の当時存在し,裁判所に認識されていたならば当該裁判がされなかったであろうと認められる事情の存在が,裁判の確定後に判明し,かつ,当該裁判が不当であってこれを維持することが著しく正義に反することが明らかな場合には,当該裁判を行った裁判所は,職権により同裁判を取り消し又は変更することができる。(原々決定に対する抗告の棄却理由)
参照条文: /非訟.20条/非訟.19条/非訟.208-2条/商.498条/
全 文 h161216supreme2.html

最高裁判所 平成 16年 12月 13日 第2小法廷 判決 ( 平成16年(受)第988号 )
事件名:  保険金請求上告受理申立て事件
要 旨
 火災保険金請求者が,火災発生が偶然のものであることの主張立証責任を負わないとされた事例。
 1.商法665条,641条は,保険金の請求者(被保険者)が火災の発生によって損害を被ったことさえ立証すれば,火災発生が偶然のものであることを立証しなくても,保険金の支払を受けられることとする趣旨である。
 2.保険約款1条1項に,保険金を支払う場合として,火災によって保険の目的について生じた損害に対して損害保険金を支払う旨が規定され,また,2条1項(1)に,保険金を支払わない場合として,保険契約者,被保険者又はこれらの者の法定代理人の故意若しくは重大な過失又は法令違反によって生じた損害に対しては保険金を支払わない旨が規定されている場合に,その約款は,火災の発生により損害が生じたことを火災保険金請求権の成立要件とし,同損害が保険契約者,被保険者又はこれらの者の法定代理人の故意又は重大な過失によるものであることを免責事由としたものと解するのが相当であり、したがって,この保険約款に基づき火災保険金を請求する者は,火災発生が偶然のものであることを主張,立証すべき責任を負わないものと解すべきであるとされた事例。 /主張責任/立証責任/証明責任/挙証責任/
参照条文: /民訴.247条/商.665条/商.641条/
全 文 h161213supreme.html

最高裁判所 平成 16年 12月 10日 第2小法廷 判決 ( 平成16年(あ)第92号 )
事件名:  住居侵入,事後強盗,銃砲刀剣類所持等取締法違反被告事件 (上告事件)
要 旨
 住宅に侵入して財布等を窃取した犯人が,だれからも発見・追跡されることなくいったん犯行現場を離れ,ある程度の時間を過ごしてから再度窃盗をする目的で犯行現場に戻ったが,家人に発見され,逮捕を免れるため,ポケットからボウイナイフを取り出し,家人に刃先を示し,左右に振って近付き,家人がひるんで後退したすきを見て逃走した場合に,事後強盗罪の成立は認められないとされた事例。
参照条文: /刑.238条/
全 文 h161210supreme91.html

最高裁判所 平成 16年 12月 10日 第2小法廷 決定 ( 平成16年(あ)第1065号 )
事件名:  宅地建物取引業法違反被告事件(上告事件)
要 旨
 1.民事執行法上の競売手続により宅地又は建物を買い受ける行為は宅地建物取引業法2条2号にいう宅地又は建物の「売買」に当たる。
参照条文: /宅建業.2条/宅建業.79条/宅建業.12条/民執.13条/民執.71条/
全 文 h161210supreme92.html

半田簡易裁判所 平成 16年 12月 10日 判決 ( 平成16年(ハ)第197号 )
事件名:  解約返戻金等請求事件
要 旨
 建物共済の契約者が破産して免責決定を得た後に解約返戻金を請求した場合に、相手方は、破産者に対して有する貸付金債権と相殺することができるとされた事例。
 1.免責された破産債権であっても、破産宣告時に相殺の要件を備えていた場合等免責決定確定前に相殺への合理的期待が生じており、相殺を認めることが免責制度の趣旨に反しない場合には、これを自働債権として相殺することができる。
 1a.免責された債務も、それ自体が消滅するのではなく、責任を免除されるにとどまり、いわゆる自然債務として存続する。
 1b.破産手続終了後は、破産債権者間の公平を考慮する必要はないから、旧破産法104条に規定する相殺禁止にあたる場合であっても、破産宣告時において、破産者との関係で相殺への合理的期待が認められる場合には、なお、相殺権を行使することができる。 /破産免責/
参照条文: /破産.67条/破産.253条1項柱書き/
全 文 h161210handaS.html

東京地方裁判所 平成 16年 12月 8日 民事第40部 判決 ( 平成16年(ワ)第8553号 )
事件名:  特許権侵害差止請求事件
要 旨
 インクジェットプリンタ用のインクタンクに関し特許権を有する原告(キャノン株式会社)が,その特許権の実施品である原告製品の使用済み品を利用して製品化された被告製品を輸入販売する被告(リサイクル・アシスト株式会社)に対し,特許権に基づき,被告製品の輸入,販売等の差止め及び廃棄,並びに不法行為に基づき,損害金及び遅延損害金の支払を求めたが,当業者が容易に想到することができたものであったことを理由に特許は無効であると判断され,請求が棄却された事例。 /知的財産権/無体財産権/工業所有権/特許権/進歩性の欠如/
参照条文: /特許.29条2項/
全 文 h161208tokyoD2.html

最高裁判所 平成 16年 12月 7日 第3小法廷 判決 ( 平成16年(行ツ)第244号 )
事件名:  選挙無効請求上告事件
要 旨
 平成15年11月9日に施行された衆議院議員総選挙当時において,公職選挙法13条2項及び別表第二,86条の2並びに95条の2の規定並びに同法の選挙運動に関する規定が憲法に違反するに至っていたものとすることができない。
参照条文: /公選.13条/
全 文 h161207supreme.html

最高裁判所 平成 16年 11月 30日 第2小法廷 決定 ( 平成16年(あ)第761号 )
事件名:  有印私文書偽造,同行使,詐欺,公正証書原本不実記載,同行使被告事件(上告事件)
要 旨
 金員に窮した被告人が,支払督促制度を悪用して叔父の財産を不正に差し押さえ,強制執行することなどにより金員を得ようと考え,叔父に対して6000万円を超える立替金債権を有する旨の虚偽の支払督促を申し立てた上,裁判所から債務者とされた叔父あてに発送される支払督促正本及び仮執行宣言付支払督促正本について,共犯者があらかじめ被告人から連絡を受けた日時ころに叔父方付近で待ち受け,支払督促正本等の送達に赴いた郵便配達員に対して,自ら叔父の氏名を名乗り出て受送達者本人であるように装い,郵便送達報告書の受領者の押印又は署名欄に叔父の氏名を記載して郵便配達員に提出し,共犯者を受送達者本人であると誤信した郵便配達員から支払督促正本等を受け取った場合に,有印私文書偽造罪の成立が肯定され,詐欺罪の成立が否定された事例。
 1.郵便送達報告書の受領者の押印又は署名欄に他人である受送達者本人の氏名を冒書する行為は,同人名義の受領書を偽造したものとして,有印私文書偽造罪を構成する。
 2.郵便配達員を欺いて交付を受けた支払督促正本等について,廃棄するだけで外に何らかの用途に利用,処分する意思がなかった場合には,支払督促正本等に対する不法領得の意思を認めることはできないというべきであり,このことは,郵便配達員からの受領行為を財産的利得を得るための手段の一つとして行ったときであっても異ならない。
参照条文: /民訴.99条2項/民訴.101条/民訴.388条/刑.159条/刑.246条/
全 文 h161130supreme91.html

最高裁判所 平成 16年 11月 29日 第2小法廷 判決 ( 平成15年(オ)第1895号 )
事件名:  アジア太平洋戦争韓国人犠牲者補償請求上告事件
要 旨
 1.第二次世界大戦及びその敗戦によって生じた戦争犠牲ないし戦争損害に対する補償は,憲法の全く予想しないところというべきであり,このような戦争犠牲ないし戦争損害に対しては,単に政策的見地からの配慮をするかどうかが考えられるにすぎない。(先例の確認)
 2.第二次世界大戦時の軍隊慰安婦関係の損失は,憲法の施行前の行為によって生じたものであるから,憲法29条3項が適用されない。
 3.日韓請求権協定(昭和40年条約第27号)の締結後,旧日本軍の軍人軍属又はその遺族であったが日本国との平和条約により日本国籍を喪失した大韓民国に在住する韓国人に対して何らかの措置を講ずることなく戦傷病者戦没者遺族等援護法附則2項,恩給法9条1項3号の各規定を存置したことが憲法14条1項に違反するということができない。(先例の確認)
 4.第二次世界大戦の敗戦に伴う国家間の財産処理といった事項は,憲法の予定しないところであり,そのための処理に関して損害が生じたとしても,その損害に対する補償は,戦争損害と同様に憲法の予想しないものであるから,日韓請求権協定第2条の実施に伴う大韓民国等の財産権に対する措置に関する法律(昭和40年法律第144号)が憲法17条,29条2項・3項に違反するということはできない。(先例の確認) /アジア太平洋戦争/韓国人犠牲者/
参照条文: /憲.14条/憲.17条/憲.29条/恩給.9条/日韓請求権協定./財産及び請求権に関する問題の解決並びに経済協力に関する日本国と大韓民国との間の協定第二条の実施に伴う大韓民国等の財産権に対する措置に関する法律./
全 文 h161129supreme.html

金沢地方裁判所 平成 16年 11月 29日 七尾支部 決定 ( 平成16年(ケ)第71号 )
事件名:  担保不動産競売申立事件
要 旨
 債務者の所有する不動産に根抵当権が設定され、債権譲渡契約に基づきCがその被担保債権と根抵当権を取得し、そのCに債務者が別個の債権の担保のために所有権を譲渡し、そのCから各被担保債権と根抵当権ならびに担保目的の所有権を取得した債権者が、根抵当権の実行として競売申立てをしたところ、他に制限物権の存在しない本件においては民法179条1項ただし書の適用はなく、根抵当権は混同により消滅しているとして、申立てが却下された事例。
参照条文: /民法:179条1項/民事執行法:180条;181条/
全 文 h161129kanazawaD.html

最高裁判所 平成 16年 11月 26日 第2小法廷 判決 ( 平成15年(受)第1710号 )
事件名:  地位確認等請求上告受理申立て事件
要 旨
 宅地建物取引業保証協会が,宅地建物取引業者からの入会申込みを,宅地建物取引業協会の会員でないことを理由に拒否した場合に,保証協会としては,入会を申し込む個々の宅地建物取引業者の信用性,その者が関係法令を遵守する業者であるか否か等について重大な利害関係を有し,弁済業務に係る制度を適切に運営し,これを維持するために,その入会資格につき,入会者の関係法令の遵守等の観点からの一定の資格要件を定めることには十分な合理性があり,本件入会資格要件は,入会者の関係法令の遵守等の観点から定められた合理的なもので,公序良俗に違反するものとはいえない等の理由により,その入会拒否は不法行為とならないとされた事例。
参照条文: /民法:709条/民法:90条/宅建業.64-3条/宅建業.64-7条/宅建業.64-8条/宅建業.64-9条/宅建業.64-10条/宅建業.64-12条/
全 文 h161126supreme2.html

最高裁判所 平成 16年 11月 26日 第2小法廷 決定 ( 平成16年(許)第14号 )
事件名:  文書提出命令申立て一部認容決定に対する許可抗告事件
要 旨
 破綻した損害保険会社の旧役員等の経営責任を明らかにするために金融監督庁長官の命令に基づき保険管理人が設置した弁護士及び公認会計士による調査委員会の調査報告書について,文書提出命令の申立てが認容された事例。
 1.ある文書が,作成の目的,記載の内容,現在の所持者がこれを所持するに至るまでの経緯などの事情から判断して,専ら内部の者の利用に供する目的で作成されたものであり,外部の者に開示することが予定されていない文書であって,開示されることによって個人のプライバシーが侵害されたり個人ないし団体の自由な意思の形成が阻害されたりするなど,開示によってその文書の所持者の側に看過し難い不利益が生ずるおそれがあると認められる場合には,特段の事情がない限り,当該文書は民訴法220条4号ニ所定の「専ら文書の所持者の利用に供するための文書」に当たる。(前提の議論について先例の確認)
 1a.破綻した損害保険会社の旧役員等の経営責任を明らかにするために金融監督庁長官の命令に基づき保険管理人が設置した弁護士及び公認会計士による調査委員会の調査報告書について,報告書は専ら抗告人の内部で利用するために作成されたものではなく,また,調査の目的からみて旧役員等の経営責任とは無関係な個人のプライバシー等に関する事項が記載されるものではないこと,及び,調査委員会は,保険管理人が,金融監督庁長官の命令に基づいて設置したものであり,保険契約者等の保護という公益のために調査を行うものということができることに照らすと,報告書は民訴法220条4号ニ所定の「専ら文書の所持者の利用に供するための文書」には当たらないと判断された事例。
 2.民訴法197条1項2号所定の「黙秘すべきもの」とは,一般に知られていない事実のうち,弁護士等に事務を行うこと等を依頼した本人が,これを秘匿することについて,単に主観的利益だけではなく,客観的にみて保護に値するような利益を有するものをいう。
 2a.金融監督庁長官の命令に基づき損害保険会社の旧役員の経営責任を明らかにするために保険管理人が設置した弁護士及び公認会計士による調査委員会の調査報告書は,民訴法220条4号ハ所定の「第197条第1項第2号に規定する事実で黙秘の義務が免除されていないものが記載されている文書」には当たらないとされた事例。 /破たん/書証/証拠/
参照条文: /民訴.197条1項2号/民訴.220条4号/
全 文 h161126supreme.html

最高裁判所 平成 16年 11月 25日 第1小法廷 判決 ( 平成13年(オ)第1513号,平成13年(受)第1508号 )
事件名:  訂正放送等請求上告・上告受理申立て事件
要 旨
 NHK総合テレビジョン番組「生活ほっとモーニング」の「妻からの離縁状・突然の別れに戸惑う夫たち」と題する放送に元夫が出演し、離婚の経緯や離婚原因に関する真実でない事項が放送され、これによって名誉が毀損され,プライバシーを侵害されたと主張して,元妻が、放送事業者に対して、民法709条,710条に基づく慰謝料等の支払,同法723条に基づく謝罪放送及び放送法4条1項に基づく訂正放送を求めた場合に,損害賠償請求の一部は認容されたが,謝罪放送と訂正放送の請求は棄却された事例。
 1.放送法4条1項は,真実でない事項の放送がされた場合において,放送内容の真実性の保障及び他からの干渉を排除することによる表現の自由の確保の観点から,放送事業者に対し,自律的に訂正放送等を行うことを国民全体に対する公法上の義務として定めたものであって,被害者に対して訂正放送等を求める私法上の請求権を付与する趣旨の規定ではない。
参照条文: /放送.4条/放送.1条/放送.3条/憲.21条/
全 文 h161125supreme.html

最高裁判所 平成 16年 11月 25日 第1小法廷 判決 ( 平成12年(行ヒ)第292号 )
事件名:  損害賠償等請求上告事件
要 旨
 監査請求について請求の対象の特定を欠くとした原判決が破棄された事例。
 1.住民監査請求においては,対象とする財務会計上の行為又は怠る事実を,他の事項から区別し特定して認識することができるように,個別的,具体的に摘示することを要するが,監査請求書及びこれに添付された事実を証する書面の各記載,監査請求人が提出したその他の資料等を総合して,住民監査請求の対象が特定の当該行為等であることを監査委員が認識することができる程度に摘示されていれば足り,これを超えて当該行為等を個別的,具体的に摘示することを要するものではない。
 1a.この理は,当該行為等が複数ある場合でも異ならない。
 2.県庁全体の複写機使用料に係る支出のうち,県の調査の結果不適切とされたものの合計額4億2021万2000円が違法な公金の支出であるとして,これによる県の損害を補てんするために必要な措置等を講ずることを求める監査請求について,県の調査においては,対象期間中の複写機使用料に係る個々の支出ごとに不適切な支出であるかどうかが検討されたというのであるから,監査請求において,対象とする各支出について,支出した部課,支出年月日,金額,支出先等の詳細が個別的,具体的に摘示されていなくとも,県監査委員において,監査請求の対象を特定して認識することができる程度に摘示されていたものということができるとされた事例。 /住民代表訴訟/
参照条文: /地自.242-2条/
全 文 h161125supreme2.html

最高裁判所 平成 16年 11月 18日 第1小法廷 判決 ( 平成14年(行ヒ)第108号 )
事件名:  情報公開請求却下決定処分取消請求上告受理申立て事件
要 旨
 1.土庄町議会事務局職員が会議録を作成するために議事内容を録音したテープについて、会議録作成のための基礎資料としての性格を有しており,会議録と同様に決裁等の対象となるものとみるべきであるから,会議録が作成され決裁等の手続が終了した後は,情報公開の実施機関において管理しているものである限り,公開の対象となり得ようとされた事例。(傍論)
 1a.会議録が作成されていない段階で会議録作成のための基礎資料としての性格を有する録音テープだけが情報公開の対象となる情報(土庄町情報公開条例2条2号にいう情報)に当たると解することはできないとされた事例。
参照条文: /土庄町情報公開条例.2条/
全 文 h161118supreme3.html

最高裁判所 平成 16年 11月 18日 第1小法廷 判決 ( 平成16年(受)第247 )
事件名:  離婚等請求上告受理申立て事件
要 旨
 1.有責配偶者からの離婚請求が信義誠実の原則に反するとして棄却された事例。
 1a.有責配偶者からされた離婚請求については,{1}夫婦の別居が両当事者の年齢及び同居期間との対比において相当の長期間に及んでいるか否か,{2}その間に未成熟の子が存在するか否か,{3}相手方配偶者が離婚により精神的・経済的に極めて苛酷な状況に置かれる等離婚請求を認容することが著しく社会正義に反するといえるような事情が存するか否か等の諸点を総合的に考慮して,当該請求が信義誠実の原則に反するといえないときには,当該請求を認容することができる。(先例の確認)
参照条文: /民法:770条1項5号/民法:1条2項/
全 文 h161118supreme2.html

最高裁判所 平成 16年 11月 18日 第1小法廷 判決 ( 平成16年(受)第482号 )
事件名:  損害賠償請求上告受理申立て事件
要 旨
 住宅事業者がその所有する賃貸住宅を分譲住宅に建て替えるにあたって,賃借人らが一般公募により販売する価格と同等の価格で優先購入できることを期待させる覚え書きを締結して賃借権を消滅させた場合に,住宅事業者が,優先譲渡契約の締結の相手方らに,一般公募を直ちにする意思がないことを全く説明せず,これにより分譲住宅の価格の適否について十分に検討した上で譲渡契約を締結するか否かを決定する機会を相手方らから奪ったことは,信義誠実の原則に著しく違反するものであり,慰謝料請求権の発生を肯認し得る違法行為と評価することができるとされた事例。 /不動産価格の下落/不法行為/損害賠償請求/
参照条文: /民法:1条2項/民法:710条/
全 文 h161118supreme.html

最高裁判所 平成 16年 11月 12日 第2小法廷 判決 ( 平成16年(受)第230号 )
事件名:  損害賠償請求上告受理申立て事件
要 旨
 1.暴力団の組長が下部組織の構成員を,その直接間接の指揮監督の下に,組の威力を利用しての資金獲得活動に係る事業に従事させていたということができる場合には,組長と下部組織の構成員との間には,同事業につき,民法715条1項所定の使用者と被用者の関係が成立していたと解するのが相当である。
 2.暴力団の下部組織における対立抗争においてその構成員がした殺傷行為は,組の威力を利用しての資金獲得活動に係る事業の執行と密接に関連する行為というべきであり,下部組織の構成員がした殺傷行為について,組長は,民法715条1項による使用者責任を負う。(補足意見あり)
 3.下部組織の組員による警察官殺害行為が,組の威力,威信を維持回復するための対立抗争行為として行われたものとみることができるから,組長の事業の執行と密接に関連する行為として,組長が使用者責任を負うとされた事例。
参照条文: /民法:715条/
全 文 h161112supreme.html

最高裁判所 平成 16年 11月 8日 第1小法 判決 ( 平成15年(受)第1943号 )
事件名:  損害賠償請求事件上告受理申立て事件
要 旨
 16年間係属した婚姻外の男女関係(パートナーシップ関係)が,生まれてくる子供ための2度の結婚と離婚を経た後で,別の女性との結婚を望んだ男性の側から破棄された場合に,両者は意図的に婚姻を回避していること,一方が相手方に無断で他者と婚姻をすること等を禁ずる関係存続に関する合意がされた形跡はないこと等の理由により,関係を破棄した者が相手方に不法行為責任を負わないとされた事例。
参照条文: /民法:709条/
全 文 h161118supreme4.html

最高裁判所 平成 16年 11月 8日 第2小法廷 判決 ( 平成15年(受)第869号 )
事件名:  賃料減額確認等本訴請求,同反訴請求事件(上告受理申立て事件)
要 旨
 遊休地となった工場敷地の所有会社(被告)が,不動産賃貸事業を行う会社(原告)からの提案を受けて,7階建ての共同住宅及び4階建ての事務所棟を建築し,賃料は2年ごとに5%ずつ増額するとの条件を付して転貸事業目的で原告に賃貸し,原告は転借人の有無にかかわらず賃料を支払う旨の予約等を内容とする業務委託協定を締結し,これに基づき被告が金融機関から多額の融資を受けて建物を建築して原告に引き渡し,原告・被告間で前記協定にそった契約が締結されたが,その後の地価下落に伴う建物賃料の低下のために,原告が被告に賃料の減額等を請求した場合,本件契約が建物の賃貸借契約であることは明らかであるから,本件契約には借地借家法32条の規定が適用されるべきものであるとされた事例。
 1.建物の賃貸借契約が不動産賃貸の共同事業(サブリース事業)の一部を構成する場合であっても,借地借家法32条の規定が適用される。(補足意見と反対意見あり)
 1a.借地借家法32条1項の規定は強行法規と解されるから,賃料自動増額特約によってその適用を排除することができない。
 2.借地借家法32条1項の規定に基づく賃料減額請求の当否及び相当賃料額を判断する場合には,賃貸借契約の締結に至る経緯に至る経緯,とりわけ賃料自動増額特約の存在は,契約当事者が契約締結当初の賃料額を決定する際の重要な要素となった事情と解されるから,衡平の見地に照らし,重要な事情として十分に考慮されるべきである。 /サプリース契約/事情変更の原則/賃料増減請求権/
参照条文: /借地借家.32条/借地借家.37条/
全 文 h161108supreme.html

最高裁判所 平成 16年 11月 8日 第3小法廷 判決 ( 平成13年(あ)第25号 )
事件名:  収賄被告事件(上告事件)
要 旨
 1.共犯者らに追徴を命じるに当たって,賄賂による不正な利益の共犯者間における帰属,分配が明らかである場合にその分配等の額に応じて各人に追徴を命じるなど,相当と認められる場合には,裁量により,各人にそれぞれ一部の額の追徴を命じ,あるいは一部の者にのみ追徴を科することも許される。
参照条文: /刑.197-5条/
全 文 h161108supreme91.html

最高裁判所 平成 16年 11月 5日 第2小法廷 判決 ( 平成14年(オ)第808号 )
事件名:  損害賠償請求上告受理申立て事件
要 旨
 「無所有共用一体社会」の思想に共鳴してヤマギシ会に参画し,そのすべての財産を出捐して返還請求しないことを約束したが,その後の事情の変更により脱退した場合に,参画の際に出捐した財産の返還請求(不当利得返還請求)が認められた事例。
 1.「無所有共用一体社会」の思想を標榜する団体に参画し,全財産を出捐してその返還請求をしないことを約束している場合でも,その後の事情変更により団体の同意を得て脱退をした場合には,前記出捐に係る約定及びこれに基づく出捐行為の目的又はその前提が消滅したものと解するのが相当であり,出捐に係る約定は,脱退の時点において将来に向かってその効力を失い,参画者は団体に対して出捐した財産につき不当利得返還請求権を有する。
 1a.この場合の不当利得返還請求権は,参画者が出捐した財産の価額の総額,参画者が団体の下で生活をしていた期間,その間に参画者が団体から受け取った生活費等の利得の総額,参画者の年齢,稼働能力等の諸般の事情及び条理に照らし,参画者の脱退の時点で,参画者への返還を肯認するのが合理的,かつ,相当と認められる範囲に限られる。
 1b.団体への参画に係る契約中の出捐財産の返還請求等を一切しない旨の約定は,全財産を団体に出捐したため団体の下を離れて生活をするための資力を全く失っている参画者に対し,事実上,団体からの脱退を断念させ,団体の下での生活を強制するものであり,参画者の団体からの脱退の自由を著しく制約するものであるから,上記の範囲の不当利得返還請求権を制限する約定部分は,公序良俗に反し,無効というべきである。 /出えん/
参照条文: /民法:703条/民法:90条/
全 文 h161105supreme.html

最高裁判所 平成 16年 11月 2日 第3小法廷 判決 ( 平成16年(行ツ)第23号 )
事件名:  所得税更正処分取消等請求上告事件
要 旨
 1.居住者と生計を一にする配偶者その他の親族が居住者と別に事業を営む場合であっても,そのことを理由に所得税法56条の適用を否定することはてきず,同条の要件を満たす限りその適用がある。
 2.所得税法が57条の定める場合に限って56条の例外を認めていることについては,それが著しく不合理であることが明らかであるとはいえない。 /法の下の平等/
参照条文: /所得税.56条/所得税.57条/憲.14条/
全 文 h161102supreme.html

最高裁判所 平成 16年 10月 29日 第2小法廷 判決 ( 平成13年(行ヒ)第224号 )
事件名:  不動産取得税賦課決定取消請求上告受理申立て事件
要 旨
 別荘地全域にわたって道路が設けられ,電気,水道が整備されているが,全体が急傾斜地であり,開発後約30年を経過しているにもかかわらず,別荘地として利用されている区画はごくわずかである場合に,その別荘地内にある斜度30度から40度の土地の課税標準となるべき価格が争われた事例。
 1.地方税法73条の21第2項に規定する固定資産課税台帳に固定資産の価格が登録されていない不動産等については,同項に基づき評価基準によって決定された価格が適正な時価を上回る場合にはその決定された価格に基づいてされた賦課決定処分は違法となる。
 1a.道府県知事が同項に基づき評価基準によって不動産取得税の課税標準となるべき価格を決定し,賦課決定処分をした場合には,不動産取得税を賦課された者は,当該価格が適正な時価を上回ると主張して課税標準たる価格を争うことができる。
 2.原判決が採用した土地の評価方法は,独自のものであって,これによって本件土地の適正な時価を算定することができるものとは考えられないして,原判決が破棄された事例。
参照条文: /地方税.73-21条/
全 文 h161029supreme2.html

最高裁判所 平成 16年 10月 29日 第2小法廷 判決 ( 平成12年(あ)第1714号 )
事件名:  法人税法違反被告事件(上告事件)
要 旨
 土地の造成業者が開発許可を受ける前提として牛久市の指導に従い流末排水路の整備のための費用を負担することになっていた場合に,事業年度終了の日までに当該費用に係る債務が確定していないときであっても,その見積金額を法人税法22条3項1号にいう「当該事業年度の収益に係る売上原価」の額として損金の額に算入することができるとされた事例。
参照条文: 法人税法違反被告事件(上告事件)
全 文 h161029supreme91.html

最高裁判所 平成 16年 10月 29日 第2小法廷 決定 ( 平成16年(許)第11号 )
事件名:  遺産分割及び寄与分を定める処分審判に対する抗告審の変更決定に対する許可抗告事件
要 旨
 死亡保険金が特別受益の持戻しの対象にならないとされた事例。
 1.被相続人が自己を保険契約者及び被保険者とし,共同相続人の1人又は一部の者を保険金受取人と指定して締結した養老保険契約に基づく死亡保険金請求権は,その保険金受取人が自らの固有の権利として取得するのであって,保険契約者又は被保険者から承継取得するものではなく,これらの者の相続財産に属するものではない。(先例の確認)
 1a.死亡保険金請求権は,被保険者が死亡した時に初めて発生するものであり,保険契約者の払い込んだ保険料と等価関係に立つものではなく,被保険者の稼働能力に代わる給付でもないのであるから,実質的に保険契約者又は被保険者の財産に属していたものとみることはできない。(先例の確認)
 2.養老保険契約に基づき保険金受取人とされた相続人が取得する死亡保険金請求権又はこれを行使して取得した死亡保険金は,民法903条1項に規定する遺贈又は贈与に係る財産には当たらない。(棄却理由)
 2a.死亡保険金請求権の取得のための費用である保険料は,被相続人が生前保険者に支払ったものであり,保険契約者である被相続人の死亡により保険金受取人である相続人に死亡保険金請求権が発生することなどにかんがみると,保険金受取人である相続人とその他の共同相続人との間に生ずる不公平が民法903条の趣旨に照らし到底是認することができないほどに著しいものであると評価すべき特段の事情が存する場合には,同条の類推適用により,当該死亡保険金請求権は特別受益に準じて持戻しの対象となると解するのが相当である。
 2b.特段の事情の有無については,保険金の額,この額の遺産の総額に対する比率のほか,同居の有無,被相続人の介護等に対する貢献の度合いなどの保険金受取人である相続人及び他の共同相続人と被相続人との関係,各相続人の生活実態等の諸般の事情を総合考慮して判断すべきである。(特段の事情がないとされた事例)
参照条文: /民法:903条/
全 文 h161029supreme.html

最高裁判所 平成 16年 10月 26日 第3小法廷 判決 ( 平成16年(受)第458号 )
事件名:  不当利得金返還請求上告受理申立て事件
要 旨
 共同相続人の一人が遺産に属する預金の全額の払戻しを受けたので,この者(被告)に対して他の共同相続人(原告)が自己の相続分相当額の不当利得返還請求をした場合に,被告が「金融機関の預金払戻しに過失があるから払戻しは民法478条の弁済として有効であるとはいえず,従って原告に損失が発生していない」と主張して原告の請求を争うことは,信義誠実の原則に反し許されないとされた事例。
参照条文: /民法:703条/民法:1条2項/民法:478条/
全 文 h161026supreme2.html

最高裁判所 平成 16年 10月 26日 第3小法廷 判決 ( 平成14年(受)第973号 )
事件名:  総代会決議無効確認等請求上告受理申立て事件
要 旨
 信用金庫の総代会の決議をもって理事を解任したが、信用金庫法38条所定の役員解任手続によらない解任は無効であるとされた事例。
 1.信用金庫の理事の解任は,信用金庫法38条の規定によらなければならない。
 2.信用金庫の総代会の決議が定款に違反することは、取消事由となるにとどまり,無効事由には該当しない。
参照条文: /信用金庫.38条/
全 文 h161026supreme.html

最高裁判所 平成 16年 10月 19日 第3小法廷 判決 ( 平成15年(あ)第1346号 )
事件名:  傷害,業務上過失致死,同傷害被告事件 (上告事件)
要 旨
 他車の運転に腹を立てた被告人が高速道路上で他車に停止を迫り,第3通行帯に停止した他車の運転手に暴行等を加えて走り去ったが,その7・8分後に停止中の当該他車に後続車が追突する事故が起きた場合に,夜明け前の暗い高速道路の第3通行帯上に自車及び他車を停止させるという被告人の過失行為は,それ自体において後続車の追突等による人身事故につながる重大な危険性を有していたから,被告人の過失行為と被害者らの死傷との間には因果関係があるとされた事例。
参照条文: 
全 文 h161019supreme91.html

最高裁判所 平成 16年 10月 15日 第2小法廷 判決 ( 平成13年(オ)第1194号,1196号,平成13年(受)第1172号,1174号 )
事件名:  損害賠償,仮執行の原状回復等請求事件(上告事件・上告受理申立て事件・附帯上告・附帯上告受理申立て事件)
要 旨
 昭和31年5月1日の水俣病の公式発見から起算して約3年半以上が経過した昭和34年12月末の時点で,通商産業大臣において,水質二法所定の規制権限を行使して,チッソに対し水俣工場のアセトアルデヒド製造施設からの工場排水についての処理方法の改善,当該施設の使用の一時停止その他必要な措置を執ることを命じなかったことが水俣病患者との関係で違法であると判断された事例。(関西水俣病訴訟)
 1.昭和35年1月以降,チッソ水俣工場の排水に関して規制権限を行使しなかったことが違法であり国・熊本県は,同月以降に水俣湾又はその周辺海域の魚介類を摂取して水俣病となった者及び健康被害の拡大があった者に対して国家賠償法1条1項による損害賠償責任を負うとの原審判断を前提にして,昭和34年12月末以前に水俣湾周辺地域からその地域外へ転居した患者については,水俣病となったことによる損害を受けているとしても,国等の違法な不作為と損害との間の因果関係を認めることはできないとされた事例。(因果関係を肯定した原判決を破棄)/事実認定/
 2.国又は公共団体の公務員による規制権限の不行使は,その権限を定めた法令の趣旨,目的や,その権限の性質等に照らし,具体的事情の下において,その不行使が許容される限度を逸脱して著しく合理性を欠くと認められるときは,その不行使により被害を受けた者との関係において,国家賠償法1条1項の適用上違法となる。(先例の確認)
 2a.昭和34年12月末の時点で,通商産業大臣において,水質二法所定の規制権限を行使して,チッソに対し水俣工場のアセトアルデヒド製造施設からの工場排水についての処理方法の改善,当該施設の使用の一時停止その他必要な措置を執ることを命ずることが可能であり,しかも,水俣病による健康被害の深刻さにかんがみると,直ちにこの権限を行使すべき状況にあり,また,この時点で上記規制権限が行使されていれば,それ以降の水俣病の被害拡大を防ぐことができたのに,その行使がされなかったために,被害が拡大する結果となったことも明らかである等の諸事情を考慮すると,昭和35年1月以降,水質二法に基づく規制権限を行使しなかったことは,水質二法の趣旨,目的や,その権限の性質等に照らし,著しく合理性を欠くものであって,国家賠償法1条1項の適用上違法であるとされた事例。
 3.身体に蓄積する物質が原因で人の健康が害されることによる損害や,一定の潜伏期間が経過した後に症状が現れる疾病による損害のように,当該不法行為により発生する損害の性質上,加害行為が終了してから相当の期間が経過した後に損害が発生する場合には,当該損害の全部又は一部が発生した時が民法724条後段所定の除斥期間の起算点となる。
 3a.水俣湾周辺地域から他の地域へ転居した患者については,転居時点が加害行為終了時であるが,遅発性水俣病の患者においては,水俣湾又はその周辺海域の魚介類の摂取を中止してから4年以内に水俣病の症状が客観的に現れることなど,原審の認定した事実関係の下では,転居から遅くとも4年を経過した時点が除斥期間の起算点となるとした原審の判断も是認し得るとされた事例。
参照条文: /国賠.1条1項/民法:724条/
全 文 h161015supreme.html

最高裁判所 平成 16年 10月 14日 第1小法廷 判決 ( 平成16年(オ)第992号 )
事件名:  不当利得返還請求本訴,同反訴事件(上告事件)
要 旨
 1.非嫡出子の相続分を嫡出子の相続分の2分の1と定めた民法900条4号ただし書前段の規定が憲法14条1項に違反するものでない。(補足意見及び反対意見がある) /法の下の平等/平等原則/差別/法律婚主義/
参照条文: /憲.14条1項/憲.13条/民法:900条4号/
全 文 h161014supreme.html

最高裁判所 平成 16年 10月 14日 第1小法廷 決定 ( 平成16年(オ)第803号、平成16年(受)第823号 )
事件名:  ウラン残土撤去請求・上告及び上告受理申立事件
要 旨: ウラン残土撤去請求を認めた判決に対する上告が棄却され、上告が受理されなかった事例。
参照条文: 
全 文 h161014supreme2.html

最高裁判所 平成 16年 10月 8日 第2小法廷 決定 ( 平成16年(し)第214号 )
事件名:  刑の執行猶予言渡取消決定に対する即時抗告棄却決定に対する即時抗告棄却決定に対する特別抗告事件
要 旨
 1.刑の執行猶予言渡しの取消請求事件は,刑事上の処分の手続の性質を有する。
 1a.在監者の上訴申立てに関する刑訴法366条1項は、刑の執行猶予言渡しの取消決定を是認する決定に対する特別抗告の申立てに類推適用される。(特別抗告が適法とされた事例)
参照条文: /刑訴.366条1項/刑訴.349-2条/
全 文 h161008supreme91.html

最高裁判所 平成 16年 10月 4日 第2小法廷 判決 ( 平成14年(受)第1289号 )
事件名:  書類閲覧等請求上告事件
要 旨
 1.商法429条は,清算の結了した株式会社の利害関係人が同条後段所定の保存者に対し,帳簿・重要資料の閲覧又は謄写の請求をすることを認める規定ではない。
 1a.商法は,清算結了後の株式会社の帳簿・重要資料についての閲覧又は謄写の請求については,これを認めていないものと解するのが相当である。 /第三者の営業秘密/
参照条文: /商.429条/商.430条2項/商293-6条/
全 文 h161004supreme.html

最高裁判所 平成 16年 10月 1日 第2小法 決定 ( 平成16年(許)第5号 )
事件名:  配当表に対する異議申立て却下決定に対する抗告審の取消決定に対する許可抗告事件
要 旨
 破産財団所属の超過負担不動産について,破産管財人が破産会社の清算人の選任のための措置をとることなく別除権者に予め通知をした上で破産裁判所の許可を得てその放棄をした場合に,後順位抵当権者が最後配当の除斥期間内に別除権放棄の意思表示を旧取締役にして最後配当について異議を申し立てたが,旧取締役は管理処分権を有しないから別除権放棄の意思表示は無効であるとして,異議が却下された事例。
 1.破産財団から放棄された財産を目的とする別除権につき別除権者がその放棄の意思表示をすべき相手方は,破産者が株式会社である場合を含め,破産者である。(先例の確認)
 1a.株式会社が破産宣告を受けて解散した場合,その後に別除権の目的とされた財産が破産財団から放棄されたとしても,当該財産につき旧取締役が管理処分権限を有するわけではない。(先例の確認)
 1b.この場合に、別除権放棄の意思表示を受領し,その抹消登記手続をすることなどの管理処分行為は,商法417条1項ただし書の規定による清算人又は同条2項の規定によって選任される清算人により行われるべきものである。
 1c.破産者が株式会社である場合において,破産財団から放棄された財産を目的とする別除権につき,別除権者が旧取締役に対してした別除権放棄の意思表示は,これを有効とみるべき特段の事情の存しない限り,無効である。(商法254条3項,民法654条の規定を類推適用して旧取締役に対する別除権放棄の意思表示を有効とした原決定が破棄された事例)。
 2.破産者が法人(会社)である場合に、破産管財人が超過負担不動産を破産財団から放棄することができることが前提にされた事例。
参照条文: /商.417条/商254条3項/民法:654条/商.254条3項/民法:654条/破産.277条/破産.197条12号/
全 文 h161001supreme.html

最高裁判所 平成 16年 9月 17日 第3小法廷 決定 ( 平成16年(ク)第545号 )
事件名:  再審却下決定に対する抗告審の取消決定に対する再抗告審の取消決定に対する特別抗告事件
要 旨
 請求棄却の確定判決を受けた者が,その後に同種事件において最高裁判所が下した違憲判決に従えば請求は認容されるべきであったことを主張して再審の訴えを提起し,再抗告審である原審が違憲判決の効力が当事者以外の者にも及ぶことを前提にして再審を開始すべき旨の決定をした場合に,特別抗告審が,再抗告審への不服申立期間を徒過していることを理由に,原決定を破棄した事例。
 1.再抗告の申立て期間については,再抗告の対象となる決定の内容が即時抗告又は通常抗告のいずれの抗告によるべき性質のものであるかにより,即時抗告期間内に申し立てなければならないか否かが定まる。
 1a.再審請求棄却の抗告審決定に対する再抗告は,民訴法332条所定の即時抗告期間内に申し立てなければならない。
参照条文: /民訴.330条/民訴.332条/民訴.347条/
全 文 h160917supreme.html

東京地方裁判所 平成 16年 9月 15日 民事第29部 判決 ( 平成14年(ワ)第15939号 )
事件名:  不正競争行為差止等請求事件
要 旨
 自動車用コーティング剤についてなされた「5年間ワックスなしで自動車の塗装の光沢を保つことができる」旨の表示が商品の品質や内容を誤認させるおそれがある表示であり、その表示をしたことが不正競争行為にあたるとして、その表示を広告、取引書類に記載することの禁止、ウェブページからの削除及び損害賠償が命じられた事例。
 1.ワックスなしで5年間自動車の塗装の光沢を保つことができる旨の表示のある自動車用コーティング剤について,JIS耐候性試験(JIS
 K2396のキセノンアーク灯式耐候性試験)を1050時間まで実施した際の光沢度等を調査した結果,および別の耐候性試験(ASTM
 G-53耐候性試験)を1000時間まで実施した際の光沢度等を調査した結果から,新車時の塗装の光沢度を5年間維持するとの効果は認められないとされた事例。
 1a.裁判所が信用した耐候性試験の結果とは異なる耐候性試験の結果を記載した書面について,作成者,作成年月日も不明であって,その信頼性には疑問が残り,採用の限りではないとされた事例。
 2.5年間という具体的な期間を示し,その間光沢度を維持することを示す表示は,商品の品質や内容を誤認させるおそれがある表示であるが,「新車の輝きをいつまでも」といった表示は,商品が新車の輝きを長期間保つことを示すものと解されるが,長期間という表現からはその期間が一義的に導き出されるものではないから,商品の品質や内容を誤認させるものとはいえないとされた事例。
 3.(a)新車購入時にコーティング施工をすることにより塗装面を保護し光沢を維持させる効果を有するコーティング剤(被告商品)と,洗車後に塗布することにより車の塗装面に光沢を与える効果を有する自動車用ワックス(原告商品)とは,市場において競合し,(b)5年間という具体的な期間を示し,その間光沢度を維持させるという被告のした表示は,被告商品の品質や内容を消費者に誤認させるおそれがあり,これらの表示を信じた消費者が被告商品を選択し,これにより原告商品の購入を差し控えるという関係が成り立ち得るので,(c)原告の営業と被告の営業との間には,被告が受けた利益を原告の損害額と推定することを規定した不正競争防止法5条2項の適用を肯定するに足りる関係が存在するとされた事例。
 3a.不正競争行為によって原告が受けた損害額の算定に当たって,被告の利益の額を基礎として,これに原告商品の自動車用ワックス全体の販売額に対する占有率を乗じ,さらに,諸事情を総合考慮して,2パーセントの割合を乗じた金額とするのが相当であるとされた事例。
 4.被告商品の通常の施工によるテフロン被膜の形成が不可能であることを根拠として,被告商品の品質及び内容を誤認させる表示を使用したとの原告の主張は採用できないとされた事例。 /知的財産権/無体財産権/不正競争防止法/自由心証主義/事実の認定/文書の形式的証拠力/株式会社ウイルソン/中央自動車工業株式会社/CPCペイントシーラント/
参照条文: /不正競争.2条13号/不正競争.5条2項/民訴.247条/民訴.228条/
全 文 h160915tokyoD.html

最高裁判所 平成 16年 9月 14日 第3小法廷 判決 ( 平成15年(受)第339号 )
事件名:  否認権行使請求上告受理申立て事件
要 旨
 1.債務者の支払停止等を停止条件とする債権譲渡契約は,その契約締結行為自体は危機時期前に行われるものであっても,契約当事者は,その契約に基づく債権譲渡の効力の発生を債務者の支払停止等の危機時期の到来にかからしめ,これを停止条件とすることにより,危機時期に至るまで債務者の責任財産に属していた債権を債務者が危機時期に至ると直ちにその責任財産から逸出させることをあらかじめ意図し,これを目的として,当該契約を締結しているものであり,破産法72条2号の規定による否認権行使の実効性を失わせ,これを潜脱しようとするものといわざるを得ないから,この契約に係る債権譲渡は,債務者に支払停止等の危機時期が到来した後の債権譲渡と同視すべきものであり,同号の規定に基づく否認権行使の対象となる。 /危機否認/
参照条文: /破産.72条/民法:466条/
全 文 h160914supreme.html

広島高等裁判所 平成 16年 9月 14日 第2部 決定 ( 平成16年(ラ)第85号 )
事件名:  救助付与取消決定に対する即時抗告事件
要 旨
 中国残留孤児の国に対する賠償請求訴訟において、原告に訴訟救助を付与すべきであるとされた事例。
 1.訴訟救助を受けるための資力要件の充足の有無を判断するに当たっては,生計を共にして同居する家族については,単に同居等していることだけから当然にそれらの家族の収入を申立人の収入に合算するというのは相当ではなく,少なくとも,本来申立人から独立して生計を営むことのできる者がたまたま何らかの事情により生計を共にするなどして同居している場合における当該同居人の収入は,これを申立人の収入として合算すべきものではない。
 2.訴訟救助の要件である資力の判断基準の例:
 (2人世帯)
 総務省統計局の家計調査(総世帯)結果表によれば,広島市の勤労者世帯における平均世帯人員数は2.28人,実支出月額は38万2558円であることが認められ,これを世帯人員数を基準として按分計算により2人世帯に換算すると,月額33万5314円となり、これを年額に換算すると402万6924円となるから,広島市における2人世帯の資力要件としては,特段の事由がない限り,年額400万円(税込みの収入額)をもって基準額とするのが相当である。
 (1人世帯)
 上記の2人世帯用の基準額に、法律扶助協会の1人世帯の基準額と2人世帯の基準額との比率を乗じて算出。
 3.顕著な事実の例:
 法律扶助協会による法律扶助制度は,近年になり民事法律扶助法が制定・施行され,その扶助内容もそれ以前のものと比較すると相当程度改善されたことは認められるものの,同様の制度を持つ欧米及び近隣の各国と比較した場合,その資金的基盤が果たして十分なものかどうかについては,必ずしも評価が一致するものではなく,議論の別れるところである(裁判所に顕著な事実)。 /裁判を受ける権利/
参照条文: /民訴.82条1項/憲.32条/
全 文 h160914hiroshimaH.html

最高裁判所 平成 16年 9月 10日 第2小法廷 判決 ( 平成13年(行ヒ)第118号 )
事件名:  公文書非開示処分取消請求上告事件
要 旨
 福井県が旅費調査委員会を設置して行った調査において作成された各部署の取りまとめ文書を基礎にして「旅費調査結果と改善方策に関する報告書」が作成されて公表された場合に,取りまとめ文書は,それについて決裁等の手続が予定されているかどうかはともかくとして,報告書について決裁の手続が予定されていたことからすると,決裁の対象となるものと同視すべきであり,同手続が終了した以上,条例により公開の対象となる文書に当たるとされた事例。 /公情報公開/公文書公開/
参照条文: /福井県公文書公開条例.2条/
全 文 h160910supreme.html

最高裁判所 平成 16年 9月 10日 第2小法廷 判決 ( 平成13年(あ)第347号 )
事件名:  背任被告事件(上告事件)
要 旨
 北國銀行の行った8000万円の融資について保証をした石川県信用保証協会が、融資直後に会社整理の申立てがなされたため融資に疑念を抱き、融資の担保である工場財団の機械166点(当時の時価評価額は約3億円)のうち機械4点(約6000万円)が登記漏れになっていることが保証条件違反に当たるとの理由で,代位弁済できない旨を北國銀行側に伝えたが、北國銀行の頭取が「160件余りの担保物件の追担の4件ぐらいで否認は無茶ではないか」と主張して代位弁済を強く求め、北國銀行から基本金の拠出分担金を受ける立場にある協会がこれに応じた場合に、協会の専務理事らとの共謀による信用保証協会に対する背任罪の成立を認めた原判決が、事実を誤認して法律の解釈適用を誤った疑いがあるとして破棄され、事件が原審に差し戻された事例。
参照条文: /刑.247条/
全 文 h160910supreme91.html

最高裁判所 平成 16年 9月 7日 第3小法廷 判決 ( 平成13年(受)第164号 )
事件名:  損害賠償請求事件上告受理申立て事件
要 旨
 1.薬物等にアレルギー反応を起こしやすい体質である旨の申告をしている患者に対し,アナフィラキシーショック症状を引き起こす可能性のある薬剤を新たに投与するに際しては,医師には,その発症の可能性があることを予見し,その発症に備えて,あらかじめ,担当の看護婦に対し,投与後の経過観察を十分に行うこと等の指示をするほか,発症後における迅速かつ的確な救急処置を執り得るような医療態勢に関する指示,連絡をしておくべき注意義務がある。
 1a.医師が,このような指示を何らしないで,薬剤の投与を担当看護婦に指示したことにつき,過失があるとされた事例。
参照条文: /民法:709条/
全 文 h160907supreme.html

最高裁判所 平成 16年 9月 7日 第3小法廷 判決 ( 平成12年(行ヒ)第320号 )
事件名:  療養補償給付不支給処分取消請求上告事件
要 旨
 慢性十二指腸かいようの基礎疾患を有する労働者(貿易会社の営業員)が,4日間にわたって国内出張をした後,1日おいただけで,外国人社長と共に,有力な取引先である英国会社との取引拡大のために重要な意義を有する海外出張に,英国人顧客に同行し,14日間に六つの国と地域を回る過密な日程の下に,12日間にわたり,休日もなく,連日長時間の勤務を続けた段階で,せん孔性十二指腸かいようを発症させた場合に,業務起因性が認められ,労働者災害補償保険法に基づく療養補償給付不支給決定が取り消された事例。 /穿孔性十二指腸潰瘍/業務上の疾病/
参照条文: /労災保険.7条1項1号/
全 文 h160907supreme3.html

最高裁判所 平成 16年 9月 7日 第3小法廷 判決 ( 平成10年(行ツ)第77号 )
事件名:  法人税更正処分等取消請求上告事件
要 旨
 同族会社が第三者から利息付で借り入れた金銭をもってその代表者が株式を購入した場合に,(α) 税務署長は,会社から代表者への無利息貸付があり,利息相当額は代表者への役員報酬にあたり,その源泉徴収がないとして,会社に対し源泉所得税の納税告知および不納付加算税の賦課決定をしたところ,(β)原審は,会社から代表者への貸付を否定し,代表者が第三者から借り入れた金銭について会社が利息を支払ったものであり,その支払利息は代表者に対する賞与であると認定し,税務署長が認定した基本的事実関係とは全く異なるから納税告知及びこれを前提とする賦課決定は違法であるとして,法人税更正処分等の取消請求を認容すべきものとしたが,(γ)最高裁は,税務署長のした納税告知及び賦課決定の実質は,会社が代表者に代わって支払利息を支払ったことにより代表者が受けた同額の給与等(賞与)に当たる経済的利益のうち貸付金に対する利息相当額の限度で会社に対し源泉徴収税の納税義務の履行を請求するにとどめたものというべきであり納税告知及び賦課決定は,会社が支払利息を支払った年月及びその額が一致する限度で適法であると判断した事例。
参照条文: /国税通則.36条/
全 文 h160907supreme4.html

最高裁判所 平成 16年 9月 7日 第3小法廷 判決 ( 平成15年(オ)第975号、平成15年(受)第1030号、1031号 )
事件名:  損害賠償請求上告事件・上告受理申立て事件
要 旨
 1.刑訴法39条3項の規定は、憲法34条前段,38条1項に違反するものではない。(先例の確認)
 2.弁護人等から接見等の申出を受けた者が,接見等のための日時等の指定につき権限のある捜査機関でないため,指定の要件の存否を判断できないときは,権限のある捜査機関に対して申出のあったことを連絡し,その具体的措置について指示を受ける等の手続を採る必要があり,こうした手続を要することにより,弁護人等が待機することになり,又はそれだけ接見等が遅れることがあったとしても,それが合理的な範囲内にとどまる限り,許容されているものと解するのが相当である。(先例の確認)
 3.検察官から被疑者との接見等に関して「接見等の指定に関する通知書」が発せられている場合,弁護人等から当該被疑者との接見等の申出を受けた留置係官が検察官に対して接見等の申出があったことを連絡し,その具体的措置について指示を受ける等の手続が採られる場合に、上記通知書を発出した検察官は,上記の手続を要することにより接見等が不当に遅延することがないようにするため,留置係官から接見等の申出があったことの連絡を受けたときは,合理的な時間内に回答すべき義務があり,これを怠ったときは,弁護人等の接見交通権を違法に侵害したものと解するのが相当である。(回答に34分あるいは40分~45分要したことが違法ではないとされた事例)
 4.弁護人等から接見の申出を受けた留置係官が,「接見等の指定に関する通知書」が発せられているため,検察官に対して接見の申出があったことを連絡する等の手続を採る必要があったのに,これを失念し,同手続を採ることなく接見を開始させた後,これに気付いて,同手続を採るために接見を中断させる措置を採ることも,それが接見開始直後にされたものであるなど社会通念上相当と認められるときは,当該措置を採ったことを違法ということはできない。
参照条文: /刑訴.39条/憲.34条/憲.38条1項/
全 文 h160907supreme2.html

鳥取地方裁判所 平成 16年 9月 7日 民事部 判決 ( 平成12年(ワ)第149号 )
事件名:  ウラン残土撤去土地明渡等請求事件
要 旨
 1.フレコンバッグに袋詰めされているウラン残土が土地から分離された独立の動産と認められ,ウラン残土からの放射能により近隣地の利用が妨げられているとして,近隣地の所有権に基づく撤去請求が認容された事例。
 2.坑道の掘削過程で生じた土砂等からなるウラン鉱石の含有率の低いウラン残土が捨石堆積場に堆積・存置されて,その上には草木が生い茂っており,外形上は土地に元々存在した土砂と異ならない状況にある場合に,その残土は土地の一部として土地の地権者の所有に属するとされ,残土を残置した被告に対する撤去請求が棄却された事例。
 3.原告が被告に対してウラン残土の撤去を求めるために土地(第1土地)を購入して訴えを提起した場合に,前所有者も撤去を望んでいたとみられること,土地の存する地区の住民もそれを望んでいたこと等の事情を考慮して,土地の所有権に基づく妨害排除請求として近隣地に存在するウラン残土の撤去を請求することが権利の濫用であるとは認められなかった事例。
 4.第1土地の所有権に基づくウラン残土撤去・土地明渡請求の訴訟において,残土が第1土地上にあるという原告の主張を前提に,原告被告双方が主張立証を尽くした後で(口頭弁論期日を9回,進行協議期日を1回行った後で),原告が,残土は第2土地上に所在するという被告の主張に合わせて,土地の使用収益を目的とせず,専ら所有権に基づく妨害排除請求を行うことを自己目的としてあえて第2土地を取得し,第2土地の所有権に基づく残土撤去・土地明渡請求を予備的に追加した場合に,それが権利の濫用として許されないとされた事例。
 5.ウラン残土により原告の土地の利用が妨げられている場合に,原告が被告に対してウラン残土を撤去させるために土地を購入したという経緯,特に,ウラン残土の影響を十分に認識していたという事情に照らすと,土地の利用を妨げられていることを理由として精神的損害を被ったと認めることはできないとされた事例。
参照条文: /民法:206条/民法:86条/
全 文 h160907tottoriD.html

最高裁判所 平成 16年 8月 30日 第3小法廷 決定 ( 平成16年(許)第19号 )
事件名:  情報提供又は協議禁止仮処分決定認可決定に対する保全抗告審の取消決定に対する許可抗告事件
要 旨
 住友信託銀行グループがUFJグループと締結したUFJ信託銀行の業務の協働事業化に関する基本合意書第12条(誠実協議)の中で,「各当事者は,直接又は間接を問わず,第三者に対し又は第三者との間で本基本合意書の目的と抵触しうる取引等にかかる情報提供・協議を行わないものとする」と定めていたが,経営状況の悪化したUFJグループが三菱東京フィナンシャルグループとの経営統合により窮状を脱しようとして,平成16年7月14日,住友信託銀行に対し基本合意の解約を通告するとともに,三菱東京フィナンシャルグループにUFJ信託銀行の営業等の移転を含む経営統合の申入れを行ったため,これにより独占交渉権を侵害されたと主張する住友信託銀行がUFJグループに対して平成18年3月末日まで経営統合に関する情報提供又は協議の禁止を命ずる仮処分命令を申請したが,認められなかった事例。
 1.独占交渉条項に基づく不作為債務は,独占交渉の相手方と交渉を続けても社会通念上最終的な合意が成立する可能性が存しないと判断されるに至った場合には,消滅する。
 1a.最終的な合意が成立する可能性は相当低いが,社会通念上,最終的な合意が成立する可能性が存しないとまではいえないから,独占交渉条項に基づく債務はいまだ消滅していないと判断された事例。
 2.仮の地位を定める仮処分命令の発令には,「争いがある権利関係について債権者に生ずる著しい損害又は急迫の危険を避けるためこれを必要とするとき」との要件が定められており(民事保全法23条2項),この要件を欠くときには,仮処分命令の申立ては理由がない。
 2a.独占交渉権が侵害されることにより生ずる損害は,第三者の介入を排除して有利な立場で相手方らと交渉を進めることにより最終的な合意が成立するとの期待が侵害されることによる損害とみるべきである。
 2b.(1)仮処分債権者に生ずる損害が事後の損害賠償によっては償えないほどのものとまではいえないことのみならず,(2)被保全権利である独占交渉権により実現されるべき最終合意の実現の可能性が低いこと,並びに(3)仮処分命令が認容された場合に仮処分債務者に生ずるであろう損害が相当に大きいであろうことも考慮して,著しい損害又は急迫の危険の要件が満たされているとは言えないとされた事例。
参照条文: /民保.23条2項/
全 文 h160830supreme.html

最高裁判所 平成 16年 8月 25日 第3小法廷 決定 ( 平成16年(あ)第882号 )
事件名:  窃盗被告事件(上告事件)
要 旨
 被害者が公園のベンチ上に置き忘れられた物(ポシェット)を,被害者がベンチから27m離れた時点で領得した行為が窃盗罪に当たるとされた事例。 /占有/
参照条文: /刑.235条/
全 文 h160825supreme91.html

東京地方裁判所 平成 16年 7月 28日 民事第8部 判決 ( 平成14年(ワ)第22037号 )
事件名:  損害賠償請求(株主代表訴訟)事件
要 旨
 R社が1988年にゴルフ場の開発を計画し,土地買収等の費用としてS建設会社に多賀の資金の預託等をしたが,バブル経済の崩壊にともないS社が破産して資金の回収ができなくなった場合に,S社に多額の使途不明金があったので,R社はS建設会社の代表取締役であったLおよびT銀行からS社に出向して常務取締役の地位にあったNないしT銀行に対して損害賠償請求権を有するからこれを行使すべきであるにもかかわらず,R社の取締役が権利行使のための訴訟を提起しなかったことは善管注意義務違反にあたるとして,R社の株主が取締役らを被告として損害賠償請求訴訟(株主代表訴訟)を提起したが,R社のL・N等に対する損害賠償請求憲の存在を立証できる高度の蓋然性があったとは言えないとして,請求が棄却された事例。
 1.会社が特定の債権を有し,ある一定時点においてその全部又は一部の回収が可能であったにもかかわらず,取締役が適切な方法で当該債権の管理・回収を図らずに放置し,かつ,そのことに過失がある場合においては,取締役に善管注意義務違反が認められる余地がある。
 2.取締役が債権の管理・回収の具体的な方法として訴訟提起を行わないと判断した場合に,(α)その判断について取締役の裁量の逸脱があったというためには,{1}取締役が訴訟を提起しないとの判断を行った時点において収集された又は収集可能であった資料に基づき,当該債権の存在を証明して勝訴し得る高度の蓋然性があったこと,{2}債務者の財産状況に照らし勝訴した場合の債権回収が確実であったこと,{3}訴訟追行により回収が期待できる利益がそのために見込まれる諸費用等を上回ることが認められることが必要であり,さらに,(β)取締役の善管注意義務違反に基づき会社に損害が発生したというためには,訴訟提起を行った場合に会社が現実に回収し得た具体的金額の立証も必要である。 /三越/内野屋工務店/千葉興銀/取締役の債権回収義務/
参照条文: /商.254-3条/
全 文 h160728tokyoD.html

東京高等裁判所 平成 16年 7月 23日 第16民事部 決定 ( 平成16年(ラ)第595号 )
事件名:  再生計画認可決定に対する抗告事件
要 旨
 預託金制ゴルフ場運営会社(鹿島の杜カントリー倶楽部)である再生債務者が会員のゴルフプレー権等の権利を保護することを基本方針にして作成して可決された再生計画について、その再生計画は、継続会員債権者間で著しい格差を設けている上、一般再生債権者と継続会員債権者との間にも著しい格差を設けているから、債権者平等原則(民事再生法155条1項)に反し実質的衡平を害するものであり、同法174条2項1号所定の「法律の規定に違反し、かつ、その不備を補正することができないものであるとき」に該当するとして、不認可となった事例。
 1.再生債権者に対する弁済は平等でなければならないから、単に弁済を受ける機会が抽選により平等に与えられるだけでは足りず、弁済の結果においても実質的に平等であることを要する。
 1a.弁済が遅れる者への弁済率を計算上均衡が失われないように高くするといった傾斜弁済という条件の付加された抽選方式などであれば合理的な理由が認められ、債権者平等原則に反しないとされる場合もあり得る。(傍論)
 1b.ゴルフ会員を継続する者の資格保証金返還請求権につき40%を免除し、10年経過後に退会すれば残60%の償還が可能となり、弁済原資額を超える退会申込みがあった場合には抽選とする再生計画について、継続会員債権者間で著しい格差が設けられているとされた事例。
 (継続会員が300名以上と想定されている場合に、10年経過後の毎年の返済原資が限られているため返還を請求し得る者は年2名程度と予想され、想定される継続会員の全員への返還が最終的に実現するのは計算上100年近い期間を要する場合に関する事例)
 2.ゴルフ会員権は、施設利用権(会員プレー権)と資格保証金返還請求権とから成るものであり、会員プレー権は再生債権を構成する財産上の請求権であるから、会員プレー権の継続は一部の請求権の100パーセント弁済である実質をもつから、会員プレー権の継続を含む再生計画では、継続会員債権者の資格保証金返還請求権の行使が10年間据え置かれること、その間に年会費とメンバーフィーを負担することなどを考慮に入れてもなお、継続会員債権者が一般再生債権者よりも有利になる可能性があると指摘された事例。
 2a.継続会員債権者への弁済について抽選方式を採用した再生計画について、いつごろまでにどれだけの償還を受けることが可能になるかの予測がなされておらず、弁済期間や弁済率の確定ができないため、弁済期間、弁済率について一般再生債権者と比較する前提の事実条件を欠くから、継続会員債権者と一般再生債権者との弁済内容について計数上の比較もできないと指摘された事例。
参照条文: /民事再生法:155条;174条/
全 文 h160723tokyoH.html

最高裁判所 平成 16年 7月 20日 第3小法廷 判決 ( 平成11年(行ヒ)第169号 )
事件名:  所得税更正処分取消等請求上告事件
要 旨
 1.所得税法(平成13年法律第6号による改正前のもの)157条の規定が株主又は社員から同族会社に対する金銭の無利息貸付けに適用があるかどうかについては,当該貸付けの目的,金額,期間等の融資条件,無利息としたことの理由等を踏まえて,個別具体的な事案に即して検討することを要する。
 2.同族会社の経営者が会社に3455億円を超える多額の金員を無利息,無期限,無担保で貸し付けたが,経営者がその経営責任を果たすためにこれを実行したなどの事情が認め難い場合に,顧問税理士が前職及び現職の東京国税局税務相談室長の編集した「昭和58年版・税務相談事例集」等を参照して所得税法157条の適用はないと判断し,利息相当分を更正前の税額の計算の基礎としなかったことについて,その書籍は,業績悪化のため資金繰りに窮した会社のために代表者個人が運転資金500万円を無利息で貸し付けたという設例について,代表者個人に所得税法36条1項にいう収入すべき金額がない旨を解説するものであって,また,当時の裁判例等に照らせば,顧問税理士等の税務担当者においても,本件貸付けに所得税法157条が適用される可能性があることを疑ってしかるべきであったから,国税通則法65条4項にいう正当な理由があったとは認めることができないとされた事例。
参照条文: /国税通則.65条/所得税.157条/
全 文 h160720supreme.html

最高裁判所 平成 16年 7月 16日 第2小法廷 判決 ( 平成13年(受)第1797号 )
事件名:  否認権行使請求上告受理申立て事件
要 旨
 平成11年2月に.債権担保のために.特定の第三債務者に対する現在及び将来の売掛債権等を包括的に譲渡し.その効力発生時期を債務者に手形等の不渡処分や支払停止・破産申立てがあった時とする債権譲渡契約がなされ.平成12年3月31日に手形の不渡・支払停止が発生し.4月3日以降に債権者が確定日付のある債権譲渡の通知をし.6月16日に破産宣告が下された場合に.債権譲渡自体の否認が肯定された事例。
 1.債務者の支払停止等を停止条件とする債権譲渡契約は,破産法72条2号の規定の趣旨に反し,その実効性を失わせるものであって,この契約に基づく債権譲渡は,債務者に支払停止等の危機時期が到来した後に行われた債権譲渡と同視すべきものであり,そのようなものとして同号の規定に基づく否認権行使の対象となる。 /債権の包括的譲渡担保/
参照条文: /破産.72条/民法:466条/
全 文 h160716supreme.html

最高裁判所 平成 16年 7月 15日 第1小法廷 判決 ( 平成14年(オ)第1206号 )
事件名:  謝罪広告等請求上告事件
要 旨
 高等学校の校長が,職務命令として,教諭が寄稿した政治的見解の表明を含む回想文を生徒会誌から削除するように指示した行為が,憲法21条1項,2項前段,23条,26条に違反しないとされた事例
参照条文: /憲.21条/憲.23条/憲.26条/
全 文 h160715supreme.html

最高裁判所 平成 16年 7月 15日 第1小法廷 判決 ( 平成16年(オ)第911号 )
事件名:  謝罪広告等請求上告事件
要 旨
 1.謝罪広告を掲載することを命ずる判決は,その広告の内容が単に事態の真相を告白し陳謝の意を表明するにとどまる程度のものである場合には,憲法19条に違反せず,また,同21条にも違反しない。
参照条文: /憲.19条/憲.21条/
全 文 h160715supreme2.html

最高裁判所 平成 16年 7月 15日 第1小法廷 判決 ( 平成15年(受)第1793号,1794号 )
事件名:  謝罪広告等請求上告受理申立て事件
要 旨
 従軍慰安婦に関する論争の中で,原告が被告の著作物(漫画)を多数引用して被告の見解を批判し,被告が漫画の図柄の原告による採録を著作権侵害であり,ドロボーであると非難すると共に,複製権侵害・同一性保持権侵害を理由に損害賠償等を求めたが,引用として許容される範囲を超えないとして複製権侵害を否定する判決が確定した後で,原告が被告に対して原告による被告の図柄の採録を被告が「ドロボー」と表現したことは名誉毀損にあたると主張して謝罪広告を訴求したが,意見ないし論評の域を逸脱しておらず違法性を欠くとして,請求が棄却された事例。
 1.ある事実を基礎としての意見ないし論評の表明による名誉毀損にあっては,その行為が公共の利害に関する事実に係り,かつ,その目的が専ら公益を図ることにあった場合に,上記意見ないし論評の前提としている事実が重要な部分について真実であることの証明があったときには,人身攻撃に及ぶなど意見ないし論評としての域を逸脱したものでない限り,上記行為は違法性を欠くものというべきであり,仮に上記証明がないときにも,行為者において上記事実の重要な部分を真実と信ずるについて相当な理由があれば,その故意又は過失は否定される。
 1a.意見ないし論評については,その内容の正当性や合理性を特に問うことなく,人身攻撃に及ぶなど意見ないし論評としての域を逸脱したものでない限り,名誉毀損の不法行為が成立しないものとされているのは,意見ないし論評を表明する自由が民主主義社会に不可欠な表現の自由の根幹を構成するものであることを考慮し,これを手厚く保障する趣旨によるものである。
 2.法的な見解の表明は,事実を摘示するものではなく,意見ないし論評の表明の範ちゅうに属し,このことは,それが判決等により裁判所が判断を示すことができる事項に係るものであっても同じである。
参照条文: /民法:709条/憲.21条/
全 文 h160716supreme.html

最高裁判所 平成 16年 7月 13日 第2小法廷 決定 ( 平成15年(あ)第1429号 )
事件名:  公正証書原本不実記載,同行使,不動産侵奪被告事件(上告事件)
要 旨
 1.小型船舶の船籍及び総トン数の測度に関する政令(平成13年政令第383号による改正前のもの)8条の2の「船籍簿」は,刑法157条1項にいう「権利若しくは義務に関する公正証書の原本」に当たる。
 2.同令4条1項に基づき新所有者と偽って内容虚偽の船籍票の書換申請を行うことは,刑法157条1項にいう「虚偽の申立て」に当たる。 /公正証書原本不実記載罪/
参照条文: /刑.157条/
全 文 h160713supreme91.html

最高裁判所 平成 16年 7月 13日 第2小法廷 決定 ( 平成16年(行フ)第4号 )
事件名:  訴訟救助決定に対する抗告審の取消決定に対する許可抗告事件
要 旨
 訴訟救助決定に対する不服申立ての利益が,訴訟費用の担保提供の申立てをしていない相手方に肯定された事例。(反対意見あり)
 1.訴訟上の救助の決定に対しては,訴訟の相手方当事者は,即時抗告をすることができる。 /上訴の利益/抗告の利益/
参照条文: /民訴.86条/民訴.82条/民訴.84条/
全 文 h160713supreme3.html

最高裁判所 平成 16年 7月 13日 第3小法廷 判決 ( 平成14年(受)第1459号 )
事件名:  土地明渡請求上告事件
要 旨
 1.他人の土地の継続的な用益という外形的事実が存在し,かつ,それが賃借の意思に基づくものであることが客観的に表現されているときは,民法163条の規定により,土地賃借権を時効により取得することができる。(前提の議論)
 2.時効による農地の賃借権の取得については,農地法3条の規定の適用はなく,同条1項所定の許可がない場合であっても,賃借権の時効取得が認められる。(判旨) /占有/耕作者/小作地/取得時効/
参照条文: /民法:163条/農地.3条/
全 文 h160713supreme.html

最高裁判所 平成 16年 7月 13日 第3小法廷 判決 ( 平成12年(行ヒ)第32号,33号,34号 )
事件名:  法人税更正処分等取消請求上告事件
要 旨
 天下一家の会の会長である亡Bの主宰していた無限連鎖講の事業主体が昭和47年5月20日から法人でない社団で代表者の定めがある研究所になったとして,研究所の名義でされた48年度及び49年度(事業年度)の法人税,法人県民税,法人事業税及び法人市民税の申告について,それぞれ増額更正がされた後,Bの相続財産の破産管財人が,C研究所は法人でない社団としての実体を欠き各更正は無効であると主張して,更正に基づき納付された金員の還付及び還付加算金の支払を求めたが,本件事実関係(Bは,税務対策等の観点から講事業の社団化を図り,自ら,C研究所の定款の作成にかかわり,発起人会,会員総会及び理事会を開催し,C研究所の名において事業活動を展開するとともに,C研究所に所得が帰属するとして法人税,法人事業税,法人県民税及び法人市民税の申告をし,申告に係るこれらの税を納付して,高額の所得税の負担を免れたという事実関係)のもとでは,更正は無効ではないとして,請求が棄却された事例。 /社団性/権利能力なき社団/ネズミ講/
参照条文: /法人税.2条8号/法人税.3条/
全 文 h160713supreme2.html

最高裁判所 平成 16年 7月 12日 第1小法廷 決定 ( 平成15年(あ)第1815号 )
事件名:  大麻取締法違反,出入国管理及び難民認定法違反被告事件 (上告事件)
要 旨
 1.直接の被害者がいない薬物犯罪等の捜査において,通常の捜査方法のみでは当該犯罪の摘発が困難である場合に,機会があれば犯罪を行う意思があると疑われる者を対象におとり捜査を行うことは,刑訴法197条1項に基づく任意捜査として許容される。(適法とされた事例)
参照条文: /刑訴.197条/
全 文 h160712supreme91.html

最高裁判所 平成 16年 7月 12日 第2小法廷 判決 ( 平成15年(行ヒ)第109号 )
事件名:  不当労働行為棄却等命令取消請求上告事件
要 旨
 1.労働委員会による不当労働行為救済制度は,労働者の団結権及び団体行動権の保護を目的とし,これらの権利を侵害する使用者の一定の行為を不当労働行為として禁止した労働組合法7条の規定の実効性を担保するために設けられたものであるとの趣旨に照らせば,使用者が同条3号の不当労働行為を行ったことを理由として救済申立てをするについては,当該労働組合のほか,その組合員も申立て適格を有する。
参照条文: /労組.7条/
全 文 h160712supreme.html

最高裁判所 平成 16年 7月 9日 第2小法廷 判決 ( 平成16年(オ)第424号、平成16年(受)第425号 )
事件名:  債務不存在確認,貸金等請求上告事件
要 旨
 債務者が貸金業者に支払った利息等のうち利息の制限額を超える部分を元本に充当すると過払金が生じていると主張した場合に,貸金業の規制等に関する法律43条1項の適用を肯定してこの主張を排斥した原判決が破棄された。
 1.貸金業者との間の金銭消費貸借上の約定に基づき利息の天引きがされた場合における天引利息については,貸金業の規制等に関する法律43条1項の規定の適用はない。
 2.18条書面は弁済の都度,直ちに交付することが義務付けられているのであるから,18条書面の交付は弁済の直後にしなければならない。
 2a.債権者が弁済を受けてから7ないし10日以上後に債務者に対して領収書を交付したことをもって,弁済の直後に18条書面を交付したものとみることはできないとされた事例。
参照条文: /貸金.18条1項/貸金.43条1項/利息制限.1条/利息制限.2条/
全 文 h160709supreme.html

最高裁判所 平成 16年 7月 7日 第3小法廷 判決 ( 平成13年(あ)第1839号 )
事件名:  詐欺被告事件(上告事件)
要 旨
 住宅金融債権管理機構(住管機構)が担保不動産の任意売却による一部弁済を受けて担保権を放棄する際には代金額が適正であることを厳格に審査し,かつ,必要な経費を除く代金全額を返済に充てさせ,売却利益を債務者に残さない方針を採っていることを知りながら,抵当不動産の所有者兼債務者が,別の取引銀行との取引により利益を得るために,真実は自己が実質的に支配するダミー会社への売却であることなどを秘して,住管機構の担当者を欺いて不動産を第三者に売却するものと誤信させ,住管機構をして根抵当権等を放棄させてその抹消登記を了した場合には,根抵当権等放棄の対価として住管機構に支払われた金員が不動産の時価評価などに基づき住管機構において相当と認めた金額であり,かつ,これで債務の一部弁済を受けて根抵当権等を放棄すること自体については住管機構に錯誤がなかったとしても,刑法246条2項の詐欺罪が成立するとされた事例。 /金融犯罪/不良債権の付替え/
参照条文: /刑.246条/
全 文 h160707supreme91.html

最高裁判所 平成 16年 7月 6日 第3小法廷 判決 ( 平成15年(受)第1153号 )
事件名:  相続権不存在確認請求上告事件
要 旨
 1.他の共同相続人が被相続人の遺産につき相続人の地位を有しないことの確認を求める訴えは,共同相続人全員が当事者として関与し,その間で合一にのみ確定することを要するものというべきであり,いわゆる固有必要的共同訴訟である。 /当事者適格/相続欠格事由/相続権不存在確認請求/合一確定/遺言書の隠匿/訴えの利益/
参照条文: /民訴.40条/民法:891条5号/
全 文 h160706supreme.html

最高裁判所 平成 16年 7月 1日 第1小法廷 判決 ( 平成15年(受)第1104号 )
事件名:  会計帳簿閲覧謄写,株主総会議事録等閲覧謄写,社員総会議事録等閲覧謄写請求上告事件
要 旨
 1.商法293条ノ6,有限会社法44条ノ2第1項の規定により株主・社員が会計帳簿等の閲覧謄写を請求する場合に,請求の理由は具体的に記載されなければならないが,その記載された請求の理由を基礎付ける事実が客観的に存在することについての立証を要しない。
 1a.会社が他者に多額の無担保融資をしたことが違法・不当であり,貸付の時期・内容等を調査する必要があるとの趣旨の閲覧請求理由は,具体性に欠けるところはないとされた事例。
 1b.美術品の購入や株式の安値売却が違法・不当であり,これに関する取引内容を調査する必要があるとの趣旨の閲覧請求理由は,具体性に欠けるところはないとされた事例。
 2.株式又は持分の譲渡につき定款で制限を設けている株式会社又は有限会社において,その有する株式等を他に譲渡しようとする株主又は社員が,会社に対する譲渡承認請求手続に適切に対処するため,株式等の適正な価格を算定する目的でした会計帳簿等の閲覧謄写請求は,特段の事情が存しない限り,株主等の権利の確保又は行使に関して調査をするために行われたものであって,商法293条ノ7第1号所定の拒絶事由(目的外請求)に該当しない。
参照条文: /商.293-6条/商.293-7条有限会社.44-2条/有限会社.46条/
全 文 h160701supreme.html

最高裁判所 平成 16年 6月 29日 第3小法廷 判決 ( 平成15年(受)第751号 )
事件名:  地代減額確認請求上告受理申立て事件
要 旨
 1.借地借家法の適用のある土地の賃貸借契約において,≪3年ごとに賃料を消費者物価指数の変動等に従って改定するが,消費者物価指数が下降したとしても賃料を減額しない≫旨の特約が存しても,借地借家法の11条1項所定の賃料増減額請求権の行使は妨げられない。
 2.賃料を減額しない旨の特約の存在が契約締結当初の賃料額を決定する際の重要な要素となった事情であると解され場合には,衡平の見地に照らし,特約の存在は借地借家法11条1項の規定に基づく賃料減額請求の当否及び相当賃料額を判断する場合における重要な事情として十分に考慮されるべきである。 /事情変更の原則/賃料増減請求権/
参照条文: /借地借家.11条1項/借地借家.16条/
全 文 h160629supreme.html

最高裁判所 平成 16年 6月 28日 第2小法廷 判決 ( 平成14年(行ツ)第279号 )
事件名:  即位儀式への公務参加手当返還,損害賠償等代位請求上告事件
要 旨
 神奈川県知事及び県議会議長が,天皇の即位に祝意を表する目的で,地方公共団体の長あるいは議会の議長の職にある者の社会的儀礼として,(α)皇室典範24条の規定する即位の礼のうち伝統的な皇位継承儀式である即位礼正殿の儀に参列した行為及び(β)即位礼に際しての皇室の重要な伝統儀式である大嘗祭の一部を構成する大嘗宮の儀に参列した行為は,いずれも,憲法20条3項により禁止される宗教的活動には当たらないとされた事例。
参照条文: /憲.20条3項/皇室典範.24条/
全 文 h160628supreme.html

東京高等裁判所 平成 16年 6月 17日 第16民事部 決定 ( 平成16年(ラ)第298号 )
事件名:  営業譲渡に関する株主総会決議に代わる許可決定に対する抗告事件
要 旨
 医療機器の製造販売会社(日本コーリン)の新社長Gらの新経営陣が、旧経営陣による会計処理に問題があったとして多額の特別損失を計上し、会社が債務超過の状態にあると主張して再生手続開始申立てをし、再生計画案として、Gが代表取締役社長に就任することが一応約束されていた投資会社(カーライル・ジャパン)に営業を譲渡し、再生債権者への弁済を行い、清算するという営業譲渡・清算型の案を作成して、事業譲渡の代替許可(株主総会決議に代わる許可)を裁判所に求めたところ、抗告審が代替許可の要件が充足されていないとして不許可にした事例。
 1.民事再生法42条1項の許可が≪再生債務者の事業の再生のために必要である≫と認められる場合に限られていることの法意は、一部譲渡により残った事業の再建継続に必要な資金を得る必要がある場合、現在の経営陣に対する取引先等の信用が失われて全部譲渡し、第三者の下で営業を続ければ取引の継続が見込まれ、事業そのものの再建が可能である場合をいうものと解すべきである。
 1a.事業譲渡の許可の可否を決定するについては、譲渡が再生債権者、株主の利害と絡むことにかんがみ、譲受人の選定過程の公正さ、譲渡代金や譲渡条件の相当性なども斟酌されるべきである。
 1b.42条1項の営業譲渡の許可の要件を充足していないとされた事例。
 2.多額の特別損失特別損失の計上がなければ、実質において再生債務者の経営上、「民事再生手続をとらなければならない緊急の債務超過の状態」に至っていなかったとも考えられる場合に、多額の特別損失を計上しなければならない合理的目的を認めるに足りる疎明はないとされた事例。
 3.民事再生法43条1項の法意は、再生債務者が債務超過で会社財産について株主が潜在的持分権を失ったも同然で実質的に再生債権者の債権の引当てと化しており、株主の株主総会における特別決議を経なければ営業譲渡できないという共益権を保護する必要性が乏しいこと、ただ、営業の譲渡による事業の再生は、再生債務者自体の事業の消滅や著しい減少を招き、株主から再生による利益の享受の機会を決定的に奪ってしまうものである可能性が大きいから、原則として、営業譲渡をしないと、当該事業が遅かれ早かれ廃業に追い込まれるような事情がある場合や、当該営業の資産的価値が著しく減少する可能性がある場合に限り、株主総会の特別決議を経ずに裁判所の株主総会に代わる審査によって臨機応変に営業譲渡を可能ならしめるものとしたものであると解すべきである。
 3a.再生債務者が債務超過の状態にあるとは認められず、また、再生債務者の営業の全部を譲渡しなければ再生債務の一部免除及び弁済猶予等によって自ら事業を継続することが困難となった、とは認めることができないとされた事例。 /日本コーリン株式会社/計画倒産/カーライル・ジャパン・ホールディングス・ツー株式会社/
参照条文: /民事再生法:42条;43条/
全 文 h160617tokyoH.html

最高裁判所 平成 16年 6月 10日 第1小法廷 判決 ( 平成12年(受)第56号 )
事件名:  取立債権請求上告受理申立て事件
要 旨
 破産宣告を受けた有限会社の取締役の放火により火災保険の対象建物が焼失したことは,保険契約中の免責条項にいう取締役の故意による事故招致に該当するとされた事例。
 1.
 火災保険契約中の「保険契約者,被保険者又はこれらの者の法定代理人(保険契約者又は被保険者が法人であるときは,その理事,取締役又は法人の業務を執行するその他の機関)の故意若しくは重大な過失又は法令違反によって生じた損害に対しては,保険金を支払わない」旨の免責条項にいう「取締役」の意義について,文字どおり,取締役の地位にある者をいう。
 2.有限会社の破産宣告当時に取締役の地位にあった者は,破産宣告によっては取締役の地位を当然には失わず,社員総会の招集等の会社組織に係る行為等については,取締役としての権限を行使し得ると解されるから,免責条項にいう「取締役」に該当する。
参照条文: /破産.1条/商.254条3項/民法:653条/
全 文 h160610supreme.html

最高裁判所 平成 16年 5月 25日 第3小法廷 決定 ( 平成15年(許)第40号 )
事件名:  文書提出命令申立て却下決定に対する抗告審の取消決定に対する許可抗告事件
要 旨
 複数の者の共謀による保険金詐取の不法行為による損害賠償請求訴訟において,共謀の事実を否認して不法行為の成立を争っている被告が,刑事事件における共犯者の供述調書のうちで公判に提出されなかったものについて,民訴法220条2号又は3号に基づき文書提出命令を申し立てた場合に,当該供述調書は3号後段の文書に該当するとしても,それを提出するか否かについては刑訴法47条により保管者が裁量権を有し,提出を拒んだことに裁量権の逸脱・濫用はないとして,申立てが棄却された事例。
 1.犯罪行為による損害賠償請求訴訟の被告が挙証者である場合に,共犯者の検察官又は司法警察員に対する供述調書は,民訴法220条3号所定の「挙証者と文書の所持者との間の法律関係について作成された」文書(法律関係文書)に該当するとの判断が否定されなかった事例。(最高裁の判断は明示されていない)
 2.刑訴法47条所定の「訴訟に関する書類」には,捜査段階で作成された供述調書で公判に提出されなかったものも含まれる。
 2a.刑訴法47条ただし書の規定による「訴訟に関する書類」を公にすることを相当と認めることができるか否かの判断は,当該「訴訟に関する書類」を保管する者の合理的な裁量にゆだねられている。
 3.民事訴訟の当事者が,民訴法220条3号後段の規定に基づき,刑訴法47条所定の「訴訟に関する書類」の提出を求める場合に,当該文書が法律関係文書に該当し,かつ,保管者が提出を拒否したことが,民事訴訟における当該文書を取り調べる必要性の有無,程度,当該文書が開示されることにより被告人,被疑者及び関係者の名誉,プライバシーが侵害されたり,公序良俗が害されることになったり,又は捜査,刑事裁判が不当な影響を受けたりするなどの弊害の発生のおそれの有無等の諸般の事情に照らし,その裁量権の範囲を逸脱し,又は濫用するものであると認められるときは,裁判所は,当該文書の提出を命ずることができる。
 3a.刑訴法47所定の文書に該当する共犯者の供述調書が民事訴訟において提出されなくても,共犯者の証人尋問の申出や,刑事公判において提出された証拠等を書証として提出すること等が可能であって,当該供述調書を証拠として取り調べることが,立証に必要不可欠なものとはいえない場合に,供述調書の提出命令の申立ての主たる目的が有罪判決に対する再審請求の裁判に有利に働くようにするためであること,供述調書が開示されることによって,共犯者らや第三者の名誉,プライバシーが侵害されるおそれがないとはいえないことも考慮して,公判に提出されなかった供述調書の提出を拒絶したことが裁量権の範囲を逸脱し,又はこれを濫用したものであるということはできないとされた事例。
 4.共犯者の供述調書が民訴法220条3号前段の文書(利益文書)にも2号の文書(閲覧請求文書)にもあたらないとされた事例。 /書証/
参照条文: /民訴.220条3号/刑訴.47条/
全 文 h160525supreme.html

東京簡易裁判所 平成 16年 5月 24日 少額訴訟係 判決 ( 平成16年(少コ)第891号 )
事件名:  解雇予告手当請求事件
要 旨
 依願退職の意思表示が有効と認められ,解雇予告手当請求が棄却された事例。
参照条文: /労基.20条/
全 文 h160524tokyoS.html

東京高等裁判所 平成 16年 5月 20日 第7民事部 決定 ( 平成15年(ラ)第1613号 )
事件名:  不動産競売手続取消決定に対する執行抗告事件
要 旨
 1.区分所有法59条に基づく競売においては,建物(区分所有権)の最低売却価額で手続費用を弁済することすらできないと認められる場合でない限り,売却を実施したとしても民事執行法63条の規定の趣旨(無益執行の禁止及び優先債権者の保護)に反するものではなく,むしろ売却を実施する必要性があるというべきであるから,同条は適用されない(換言すれば,手続費用との関係でのみ同条が適用される)。
 1a.なお、最低売却価額で手続費用を弁済する見込みがない場合であっても,競売の申立人がその不足分を負担すれば,なお,競売は実施すべきものと解される。(傍論) /形式的競売/形式競売/剰余主義/無剰余取消し/
参照条文: /民事執行法:59条;63条;188条;195条/建物の区分所有に関する法律:59条/
全 文 h160520tokyoH.html

大阪地方裁判所 平成 16年 5月 7日 第2刑事部 判決 ( 平成16年(わ)第1313号 )
事件名:  公正証書原本不実記載,同行使,強制執行妨害被告事件
要 旨
 土地の執行売却の買受人から建物収去土地明渡請求訴訟を提起されて敗訴した地上建物の所有者がその登記名義を他に転々と移転させて数年間にわたって強制執行の妨害を繰り返していた場合に、公正証書原本不実記載罪、不実記載公正証書原本行使罪、強制執行妨害罪の成立が認められ、刑及び犯情の最も重い不実記載公正証書原本行使罪の刑で処断され、かつ、威力業務妨害罪による刑の執行猶予期間中に執行官の執行予告の1週間後に被告人の実子から実妹への仮装譲渡の登記をさせたことなどを斟酌して、懲役2年の実刑判決が下された事例。 /民事執行妨害/
参照条文: /刑.157条/刑.158条/刑.96-2条/>/民執.171条/民保.55条/民保.64条/
全 文 h160507osakaD.html

最高裁判所 平成 16年 4月 27日 第3小法廷 判決 ( 平成13年(受)第1759号 )
事件名:  損害賠償,民訴法260条2項による仮執行の原状回復請求上告事件
要 旨
 筑豊地区に所在する炭鉱で粉じん作業に従事してじん肺に罹患した労働者またはその承継人が会社に対して安全配慮義務違反を理由に提起した損害賠償請求訴訟において,賠償請求権の消滅時効の起算点が争われた事例。
 1.雇用者の安全配慮義務違反によりじん肺にかかったことを理由とする損害賠償請求権の消滅時効は,じん肺法所定の管理区分についての最終の行政上の決定を受けた時から進行すると解すべきであるが,じん肺によって死亡した場合の損害については,死亡の時から損害賠償請求権の消滅時効が進行する。
 2.じん肺法所定の管理二の行政上の決定を受けた後,10年以上を経過してからじん肺により死亡した元従業員に関し,管理二に相当する病状に基づく損害賠償請求権は時効により消滅しているとの主張を前提にして,≪認容すべき慰謝料額は,じん肺による死亡に基づく損害の慰謝料相当額から管理二に相当する病状に基づく損害の慰謝料相当額を控除した金額とすべきである≫との被告の主張が認められなかった事例。 /二瀬炭鉱/嘉穂炭鉱/
参照条文: /民法:709条/民法:724条/
全 文 h160427supreme2.html

最高裁判所 平成 16年 4月 27日 第3小法廷 判決 ( 平成13年(受)第1760号 )
事件名:  損害賠償,民訴法260条2項による仮執行の原状回復請求上告受理申立て事件
要 旨
 筑豊地区に所在する炭鉱の労働者のじん肺罹患に関し,通産大臣が鉱山保安法により与えられた権限をその防止のために適切に行使しなかったことが国家賠償法1条1項の違法行為になるとされた事例。
 1.国又は公共団体の公務員による規制権限の不行使は,その権限を定めた法令の趣旨,目的や,その権限の性質等に照らし,具体的事情の下において,その不行使が許容される限度を逸脱して著しく合理性を欠くと認められるときは,その不行使により被害を受けた者との関係において,国家賠償法1条1項の適用上違法となる。
 1a.通商産業大臣は,遅くとも,昭和35年3月31日のじん肺法成立の時までに,石炭鉱山保安規則の内容の見直しをして,石炭鉱山においても,衝撃式さく岩機の湿式型化やせん孔前の散水の実施等の有効な粉じん発生防止策を一般的に義務付ける等の新たな保安規制措置を執った上で,鉱山保安法に基づく監督権限を適切に行使して,上記粉じん発生防止策の速やかな普及,実施を図るべき状況にあったというべきであり,上記の時点までに,上記の保安規制の権限(省令改正権限等)が適切に行使されていれば,それ以降の炭坑労働者のじん肺の被害拡大を相当程度防ぐことができたにもかわらず,昭和35年4月以降,鉱山保安法に基づく上記の保安規制の権限を直ちに行使しなかったことは,その趣旨,目的に照らし,著しく合理性を欠くものであって,国家賠償法1条1項の適用上違法というべきであるとされた事例。
 2.不法行為により発生する損害の性質上,加害行為が終了してから相当の期間が経過した後に損害が発生する場合には,当該損害の全部又は一部が発生した時が除斥期間の起算点となる。
 2a.じん肺は,肺胞内に取り込まれた粉じんが,長期間にわたり線維増殖性変化を進行させ,じん肺結節等の病変を生じさせるものであって,粉じんへの暴露が終わった後,相当長期間経過後に発症することも少なくないのであるから,じん肺被害を理由とする損害賠償請求権については,その損害発生の時が除斥期間の起算点となるとされた事例。
参照条文: /民法:724条/国賠.1条1項/鉱山保安.4条/鉱山保安.30条/
全 文 h160427supreme.html

最高裁判所 平成 16年 4月 26日 第1小法廷 判決 ( 平成15年(行ヒ)第206号 )
事件名:  食品衛生法違反処分取消請求上告受理申立て事件
要 旨
 「フローズン・スモークド・ツナ・フィレ」(冷凍スモークマグロ切り身)を輸入しようとした業者が検疫所長から食品衛生法6条に違反する旨の通知を受けたため,その取消しを求める訴えを提起した場合に,その通知は取消訴訟の対象である行政処分に当たらず,訴えは不適法であるとした原判決が破棄された事例。
 1.輸入届出食品が衛生法6条の規定に違反するので輸入届出の手続が完了したことを証する食品等輸入届出済証を交付しないと決定したことを趣旨とする検疫所長の輸入業者に対する食品衛生法違反通知は,食品衛生法16条に根拠を置くものであり,同通知により,輸入業者は関税法70条2項の「検査の完了又は条件の具備」を税関に証明し,その確認を受けることができなくなり,その結果,同条3項により輸入の許可も受けられなくなるのであり,関税法基本通達に基づく通関実務の下で,輸入申告書を提出しても受理されずに返却されることとなるのであるから,同通知は取消訴訟の対象となる。
参照条文: /食品衛生.6条/食品衛生.16条/関税.70条/行訴.3条/
全 文 h160426supreme.html

最高裁判所 平成 16年 4月 23日 第2小法廷 判決 ( 平成12年(行ヒ)第246号 )
事件名:  作為の違法確認等上告受理申立て事件
要 旨
 自動販売機により販売される商品の製造業者が自動販売機を都道にはみ出して設置していた場合に,東京都の住民が,はみ出し自動販売機の道路占用により占用料相当額の損害賠償請求権ないし不当利得返還請求権を取得した東京都に代位して,商品製造業者に対して,損害賠償または不当利得の返還を請求する住民訴訟を提起したが,東京都が撤去費用を商品製造業者から取り立てることが著しく不適当であると判断して取り立てなかったことを違法であると言うことはできないとして,請求が棄却された事例。
 1.道路が権原なく占有された場合には,道路管理者は,占有者に対し,占用料相当額の損害賠償請求権又は不当利得返還請求権を取得する
 1a.自動販売機が都道にはみ出して設置された場合に,東京都は,自動販売機により販売された商品の製造業者に対して,設置の日から撤去の日までの間の占用料相当額の損害賠償請求権または不当利得返還請求権を取得するとされた事例。
 2.はみ出し自動販売機の道路占用料相当額が月額1683円程度に過ぎず,はみ出し自動販売機が全体で3万6000台もあり,一台ごとに債務者を特定して債権額を算定するには多大な労力と費用が必要であり,撤去費用を商品製造業者に負担させて撤去させている等の諸事情がある場合に,東京都が更に撤去前の占用料相当額の金員を商品製造業者から取り立てることは著しく不適当であると判断したとしても,それを違法であるということはできないとされた事例。
参照条文: /地自3240条/地自施行令.171-5条/道路.32条/道路.39条/
全 文 h160423supreme2.html

最高裁判所 平成 16年 4月 20日 第3小法廷 判決 ( 平成15年(受)第670号 )
事件名:  所有権移転登記手続等,更正登記手続等請求上告受理申立て事件
要 旨
 内容が抵触する複数の遺言が存在し,そのいずれもが効力を生じなかった場合に,最初の遺言により相続財産の全部を相続したと主張する共同相続人Cに対し,共同相続人Xが,不動産についてその相続分に応じた持分の移転登記と貯金について相続分相当額の不当利得の返還を請求したところ,原判決が遺産分割協議や遺産分割審判の存在が認められないことを理由に訴えを却下したが,破棄された事例。
 1.共同相続された不動産について共有者の1人が単独所有の登記名義を有しているときは,他の共同相続人は,その者に対し,共有持分権に基づく妨害排除請求として,自己の持分についての一部抹消等の登記手続を求めることができる。
 2.相続財産中に可分債権があるときは,その債権は,相続開始と同時に当然に相続分に応じて分割されて各共同相続人の分割単独債権となり,共有関係に立つものではない。
 2a.共同相続人の1人が,相続財産中の可分債権につき,法律上の権限なく自己の債権となった分以外の債権を行使した場合には,当該権利行使は,当該債権を取得した他の共同相続人の財産に対する侵害となるから,その侵害を受けた共同相続人は,その侵害をした共同相続人に対して不法行為に基づく損害賠償又は不当利得の返還を求めることができる。
参照条文: /民法:906条/民法:907条/民法:898条/民法:899条/家審.9条乙類10号/
全 文 h160420supreme2.html

最高裁判所 平成 16年 4月 20日 第3小法廷 判決 ( 平成15年(受)第910号 )
事件名:  地位確認等請求事件上告受理申立て事件
要 旨
 岡山大学の全学生を正会員とし,同大学の学長を会長とし,学生による課外活動の推進事業の実施を目的とする権利能力のない社団(被告)について,大学が嘱託職員(原告)の発言力の増大によりその目的を適切に果たすことができなくなったと判断し,別の学生組織の結成を承認した上でその解散を決定し,社団が嘱託職員に対して解雇通知を発した場合に,この解雇が解雇権の濫用に当たらないと判断され,嘱託職員の社団に対する地位確認等請求が棄却された事例。
 1.大学の全学生を正会員とし,大学の学長を会長とし,大学の教官その他の有志職員を特別会員として組織され,大学及びその教育活動と密接な関係を有し,大学により承認された大学内部団体の運営が大学による承認の趣旨に反するものとなり,その改善が困難であるなど相当な理由がある場合には,大学は,承認を取り消して解散を決定することができる。 /法人でない社団/権利能力のない社団/
参照条文: /民法:68条/
全 文 h160420supreme.html

最高裁判所 平成 16年 4月 19日 第2小法廷 決定 ( 平成15年(あ)第1796号 )
事件名:  電気通信事業法違反被告事件(上告事件)
要 旨
 盗聴録音されたカセットテープを他から入手して十数名の者に聴かせた行為が平成11年法律第137号による改正前の電気通信事業法104条1項の「電気通信事業者の取扱中に係る通信(中略)の秘密を侵した」ことに当たり,同項の罪が成立するとされた事例。
参照条文: /電気通信事業.104条1項/
全 文 h160419supreme.html

広島高等裁判所 平成 16年 4月 14日 第3部 判決 ( 平成15年(ネ)第370号 )
事件名:  不当利得等返還請求控訴事件
要 旨
 2月20日に自己破産の申立てをした破産会社が銀行に割引のために預託していた手形について、割引実行予定日が2月20日であってそれ以前ではないと認定した上で、手形について銀行の商事留置権の成立が認められ、銀行が銀行取引約定に基づき手形を取り立てて破産会社に対する債権の回収に当てたことに違法はないと判断され、破産管財人からの不当利得返還請求権が否定され、また、4号否認権の主張が排斥された事例。 /危機否認/
参照条文: /破産.72条/商.521条/
全 文 h160414hiroshimaH.html

最高裁判所 平成 16年 4月 13日 第3小法廷 判決 ( 平成15年(あ)第1560号 )
事件名:  医師法違反,虚偽有印公文書作成,同行使被告事件(上告事件)
要 旨
 1.医師法21条にいう死体の「検案」とは,医師が死因等を判定するために死体の外表を検査することをいい,当該死体が自己の診療していた患者のものであるか否かを問わない。
 2.死体を検案して異状を認めた医師は,自己がその死因等につき診療行為における業務上過失致死等の罪責を問われるおそれがある場合にも,本件届出義務を負うとすることは,憲法38条1項に違反するものではない。 /自己負罪特権/自己に不利益な供述/異常死体/社会防衛/
参照条文: /憲.38条1項/医師.21条/
全 文 h160413supreme91.html

最高裁判所 平成 16年 4月 8日 第1小法廷 決定 ( 平成15年(許)第44号 )
事件名:  移送申立て却下決定に対する抗告審の取消決定に対する許可抗告事件
要 旨
 製品を名古屋港から輸出している原告が不正競争防止法に基づく差止請求権を主張する被告に対して差止請求権不存在確認の訴えを名古屋地方裁判所に提起した場合に,この訴えは民訴法5条9号の不法行為に関する訴えに当たり,名古屋地方裁判所は管轄権を有するとされた事例。
 1.民訴法5条9号の規定の趣旨等にかんがみると,同号の「不法行為に関する訴え」の意義については,違法行為により権利利益を侵害され,又は侵害されるおそれがある者が提起する侵害の停止又は予防を求める差止請求に関する訴えをも含むものと解するのが相当である。
 1a.不正競争防止法3条1項の規定に基づく不正競争による侵害の停止等の差止めを求める訴え及び差止請求権の不存在確認を求める訴えは,いずれも民訴法5条9号所定の訴えに該当する。 /知的財産権/無体財産権/不正競争防止法/
参照条文: /民訴.5条9号/不正競争.2条1項1号/不正競争.3条1項/
全 文 h160408supreme.html

東京高等裁判所 平成 16年 4月 7日 決定 ( 平成15年(ラ)第2137号 )
事件名:  破産決定に対する抗告事件
要 旨
 自動車損害賠償責任保険の付されていない第一種原動機付自転車を運転して交通事故を起こした者(債務者)に対して、この者に対する損害賠償請求権を2964万6367円の範囲で代位取得した国が納入告知をした後、即決和解による分割弁済を提案したにもかかわらず、債務者が国に何ら連絡をしないまま破産申立てをした場合に、第一審が破産決定をして破産管財人を選任したのに対し、国が即時抗告をし、抗告審が、ほとんど唯一の債務者である国が債務者の資力に応じた分割弁済の方法を提案しており,債務者は支払不能の状態にあるとはいえないとして、破産決定を取り消して、破産申立てを棄却した事例。
 1.債権者が履行期の到来を理由に支払を請求している場合であっても,債務者の資力に応じた分割弁済の方法を提案しており,交渉によって和解による解決の可能性があるようなときは,債務者は,即時に弁済すべき債務を弁済することができない場合には当たらないから,破産原因としての支払不能とはいえない。 /破産免責を目的とする破産申立て/原裁判所が抗告に理由がないとの意見を付して抗告裁判所に事件を送付した事例(訟務月報に付されている解説3頁参照)/
参照条文: /t11.破産法:126条;366-2条/h8.民事訴訟規則:206条/
全 文 h160407tokyoH.html

最高裁判所 平成 16年 3月 25日 第1小法廷 判決 ( 平成13年(オ)第734号,平成13年(受)第723号 )
事件名:  保険金請求請求,債務不存在確認本訴請求・保険金反訴請求 各上告・上告受理申立事件
要 旨
 生命保険契約に1年内自殺免責特約がある場合に,自殺の主たる動機,目的が,保険金を保険金受取人に取得させることにあったとしても,1年内自殺免責特約の反面解釈として,保険会社は,自殺を理由に死亡保険金の支払義務を免責されるものではないとされた事例。
 1.1年内自殺免責特約は,責任開始の日から1年内の被保険者の自殺による死亡の場合に限って,自殺の動機,目的を考慮することなく,一律に保険者を免責することにより,当該生命保険契約が不当な目的に利用されることの防止を図るものとする反面,1年経過後の被保険者の自殺による死亡については,当該自殺に関し犯罪行為等が介在し,当該自殺による死亡保険金の支払を認めることが公序良俗に違反するおそれがあるなどの特段の事情がある場合は格別,そのような事情が認められない場合には,当該自殺の動機,目的が保険金の取得にあることが認められるときであっても,免責の対象とはしない旨の約定と解するのが相当である。
 1a.このような内容の特約は,当事者の合意により,免責の対象,範囲を一定期間内の自殺による死亡に限定するものであって,商法の上記規定にかかわらず,有効と解すべきである。
 1b.被保険者の自殺に至る過程において犯罪行為等が介在した形跡はうかがわれず,その他公序良俗にかかわる事情の存在もうかがえない場合には,その自殺の主たる動機,目的が,保険金を保険金受取人である上告人らに取得させることにあったとしても,上記特段の事情があるとはいえない。
 2.債務不存在確認請求の本訴に対して当該債務の履行を求める反訴が提起された場合には,もはや本訴に確認の利益を認めることはできないから,本訴は不適法として却下を免れない。 /確認の利益/訴訟要件
参照条文: /商法:680条1項1号/民法:90条/民事訴訟法:2編1章/
全 文 h160325supreme2.html

最高裁判所 平成 16年 3月 25日 第1小法廷 判決 ( 平成14年(行ヒ)第154号 )
事件名:  免職処分取消請求上告受理申立事件
要 旨
 郵政事務官として大曲郵便局において郵便外務事務に従事していた者が,約7年間の長期にわたって,胸章不着用,始業時刻後の出勤簿押印,標準作業方法違反,研修拒否,超過勤務拒否等の非違行為その他類似の行為を繰り返し,合計937回の指導及び職務命令を受け,13回の注意,118回の訓告,5回の懲戒処分に付されていた場合に,大曲郵便局長から国家公務員法78条3号の規定に該当するとして分限免職処分を受けたのを不服として処分の取消しを求めたが,認容されなかった事例。
 1.国家公務員法78条3号の「その官職に必要な適格性を欠く場合」とは,当該職員の簡単に矯正することのできない持続性を有する素質,能力,性格等に基因してその職務の円滑な遂行に支障があり,又は支障を生ずる高度の蓋然性が認められる場合をいう。
 1a.この意味における適格性の有無は,当該職員の外部に表れた行動,態度に徴してこれを判断すべきであり,その場合,個々の行為,態度につき,その性質,態様,背景,状況等の諸般の事情に照らして評価すべきであることはもちろん,それら一連の行動,態度については相互に有機的に関連付けて評価すべきであり,さらに,当該職員の経歴や性格,社会環境等の一般的要素をも考慮する必要があり,これら諸般の要素を総合的に検討した上,当該職に要求される一般的な適格性の要件との関連において同号該当性を判断しなければならない。 /無言の不服従/
参照条文: /国公.78条3項/
全 文 h160325supreme.html

東京地方裁判所 平成 16年 3月 24日 民事第29部 判決 ( 平成14年(ワ)第28035号 )
事件名:  著作権侵害差止等請求事件
要 旨
 原告(読売新聞社)がそのホームページ「Yomiuri On-Line」においてニュース記事本文及びその記事見出し(YOL見出し)を無料で掲出(自動公衆送信)するとともに,Yahoo等に販売している場合に,被告(デジタルアライアンス)がその見出しを集めて各見出しからYahooのサイトへ新規ウインドをターゲットウインドとしてリンクを張ったファイルの内容を被告の多数の会員のベージに掲出されるようにしたことことにより,被告が原告の著作権あるいは不法行為法により保護されるべき利益を侵害したと主張して,原告が被告に損害賠償を求めたが,原告の記事見出しには著作物性がないと判断され,請求が棄却された事例。
 1.原告作成のYOL見出しは,その性質上,{1}簡潔な表現により,報道の対象となるニュース記事の内容を読者に伝えるために表記されるものであり,表現の選択の幅は広いとはいえないこと,{2}YOL見出しは25字という字数の制限の中で作成され,多くは20字未満の字数で構成されており,この点からも選択の幅は広いとはいえないこと,{3}YOL見出しは,YOL記事中の言葉をそのまま用いたり,これを短縮した表現やごく短い修飾語を付加したものにすぎないことが認められ,これらの事実に照らすならば,YOL見出しは,YOL記事で記載された事実を抜きだして記述したものと解すべきであり,著作権法10条2項所定の「事実の伝達にすぎない雑報及び時事の報道」に該当するとされた事例。
 2.情報は,著作権法等によって排他的な権利が認められない以上,第三者がこれらを利用することは,本来自由であり,不正に自らの利益を図る目的により利用した場合あるいは原告に損害を加える目的により利用した場合など特段の事情のない限り,インターネット上に公開された情報を利用することが違法となることはない。 /知的財産権/無体財産権/著作権/フリーライド/ただ乗り/
参照条文: /著作.2条1項1号/著作.10条2項/著作.21条/著作.23条/民法:709条/
全 文 h160324tokyoD.html

最高裁判所 平成 16年 3月 22日 第1小法廷 決定 ( 平成15年(あ)第1625号 )
事件名:  殺人,詐欺被告事件 (上告事件)
要 旨
 2段階の殺人計画を立てたが,第1段階の行為により既に被害者が死亡した可能性が高い場合に,実行犯3名および共謀者(教唆者)2名に殺人既遂の共同正犯の成立が認められた事例。(早過ぎた結果の発生)
 1.実行着手の時点
 
 クロロホルムを吸引させて被害者を失神させた上,その失神状態を利用して,被害者を港まで運び自動車ごと海中に転落させてでき死させるという計画が立てられて実行された場合に,第1行為は第2行為を確実かつ容易に行うために必要不可欠なものであったといえること,第1行為に成功した場合,それ以降の殺害計画を遂行する上で障害となるような特段の事情が存しなかったと認められることや,第1行為と第2行為との間の時間的場所的近接性などに照らすと,第1行為は第2行為に密接な行為であり,第1行為が開始された時点で既に殺人に至る客観的な危険性が明らかに認められるから,その時点において殺人罪の実行の着手があったものと解するのが相当であるとされた事例。
 2.共同正犯
 
 クロロホルムの吸引量が多かったため,実行犯3名の認識と異なり,第2行為の前の時点で被害者が第1行為により死亡していたとしても,殺人の故意に欠けるところはなく,実行犯3名については殺人既遂の共同正犯が成立するものと認められ,実行犯3名は被告人両名との共謀に基づいて上記殺人行為に及んだものであるから,被告人両名もまた殺人既遂の共同正犯の罪責を負うとされた事例。
参照条文: /刑.199条/刑.60条/刑.61条/
全 文 h160322supreme91.html

最高裁判所 平成 16年 3月 16日 第3小法廷 判決 ( 平成11年(行ツ)第38号 )
事件名:  保護変更決定処分取消,損害賠償請求上告事件
要 旨
 生活保護を受けながら積み立てた学資保険(満期保険金50万円,保険料月額3000円)の満期保険金の一部を収入として認定され,生活保護法に基づき金銭給付を減額する内容の保護変更決定処分を受けた被保護世帯に属する者が,同処分の取消しを求め,認容された事例。
 1.生活保護法の趣旨目的にかなった目的と態様で保護金品等を原資としてされた貯蓄等は,収入認定の対象とすべき資産には当たらない。
 1a.被保護世帯において,最低限度の生活を維持しつつ,子弟の高等学校修学のための費用を蓄える努力をすることは,生活保護法の趣旨目的に反するものではない。 /生活扶助/教育扶助/世帯内修学/
参照条文: /生活保護.8条/生活保護.31条/生活保護.60条/生活保護.11条/生活保護.4条/憲.25条/
全 文 h160316supreme.html

東京地方裁判所 平成 16年 3月 11日 民事第46部 判決 ( 平成15年(ワ)第15526号 )
事件名:  著作権侵害差止等請求事件
要 旨
 書籍「ファンブック
 罪に濡れたふたり~Kasumi~」に収録の対談記事の一部が何者かによりインターネット上の匿名の電子掲示板「2ちゃんねる」に無断で転載された場合に、著作権者から掲示板設置者に対する自動公衆送信等の差止請求および著作権侵害を理由とする損害賠償請求が棄却された事例。 (差止請求権について)
 1.著作権法112条1項に規定する差止請求の相手方は,現に侵害行為を行う主体となっているか,あるいは侵害行為を主体として行うおそれのある者に限られる。
 1a.特許法,商標法等は,権利侵害を幇助する行為のうち,一定の類型の行為を限定して権利侵害とみなす行為と定めて,差止請求権の対象としているが(特許法101条,商標法37条等参照)、著作権について,このような規定を要するまでもなく,権利侵害を教唆,幇助し,あるいはその手段を提供する行為に対して,一般的に差止請求権を行使し得るものと解することは,不法行為を理由とする差止請求が一般的に許されていないことと矛盾するだけでなく,差止請求の相手方が無制限に広がっていくおそれもあり,ひいては,自由な表現活動を脅かす結果を招きかねないものであって,採用できない。
 1b.掲示板「2ちゃんねる」に書き込みされた発言について、送信可能化を行って各発言を自動公衆送信し得る状態にした主体は発言者であって,掲示板の設置運営者は侵害行為を行う主体に該当しないとされた事例。 (損害賠償請求権について)
 2.電子掲示板開設者等は,他人が行った電子掲示板への情報の書込み,あるいはウェブページ上における表現行為が,著作権法上,複製権,送信可能化権,公衆送信権の侵害と評価される場合であっても,電子掲示板開設者等自身が当該情報の送信主体となっていると認められるような例外的な場合を除いて,特段の事情のない限り,送信可能化又は自動公衆送信の防止のために必要な措置を講ずべき作為義務を負うものではない。 /知的財産権/無体財産権/著作権/
参照条文: /民法:709条/著作.112条/著作.114条/著作.117条/憲.21条/
全 文 h160311tokyoD.html

最高裁判所 平成 16年 3月 2日 第3小法廷 判決 ( 平成11年(行ヒ)第114号 )
事件名:  損害賠償等請求事件上告受理申立事件
要 旨
 1.条例が職務専念義務の免除や勤務しないことについての承認について明示の要件を定めていない場合でも,処分権者がこれを全く自由に行うことができるというものではなく,職務専念義務の免除が服務の根本基準を定める地方公務員法30条や職務に専念すべき義務を定める同法35条の趣旨に違反したり,勤務しないことについての承認が給与の根本基準を定める同法24条1項の趣旨に違反する場合には,これらは違法となる。(第一次上告審判決の確認)
 1a.茅ヶ崎商工会議所に派遣される茅ヶ崎市の職員についてなされた職務専念義務の免除が地方公務員法30条,35条の趣旨に反し,不勤務の承認が同法24条1項の趣旨に反し,これらの免除や承認を前提にして行われた派遣職員に対する給与支出のうち欠勤者にも支給される期末手当全額及び勤勉手当の7割相当額を超える支出が違法であるとされた事例。
 2.ある事項に関する法律解釈につき異なる見解が対立し,実務上の取扱いも分かれていて,そのいずれについても相当の根拠が認められる場合に,公務員がその一方の見解を正当と解しこれに立脚して公務を執行したときは,後にその執行が違法と判断されたからといって,直ちに公務員に過失があったものとすることは相当ではない。(先例の確認)
 2a.市長が派遣職員に給与を支払ったことが違法ではあるが,故意または過失があったということはできないとされた事例。
参照条文: /地公.30条/地公.35条/地公.24条1項/茅ヶ崎市職員の職務に専念する義務の特例に関する条例/茅ヶ崎市一般職員の給与に関する条例/
全 文 h160302supreme.html

広島高等裁判所松江支部 平成 16年 2月 27日 判決 ( 平成14年(ネ)第78号 )
事件名:  ウラン残土撤去請求・控訴事件
要 旨
 
 動燃が鳥取県地域でウランの探鉱のための試掘を行い,東伯郡東郷町方面地区内の坑口付近に堆積させた捨石(ウラン鉱石以外の岩石や土砂)のうちウラン残土の約3000立方メートルについて,方面地区の住民等によって構成される自治会が,動燃との間で平成2年8月31日に締結した協定に基づき,動燃から移行した核燃料サイクル開発機構に対してした撤去請求を認容した第一審判決に対する控訴が棄却された事例。
 1.「ウラン残土の撤去は,関係自治体の協力を得て,『米』『梨』等の収穫期までに着手し,当協定書(覚書,確認書を含む)を遵守の上,一日も早く完了するものとする」との条項は,動燃にウラン残土撤去義務があることを前提に,これを円満に実施するためには,受入先として想定していた動燃人形峠事業所の存する岡山県等関係自治体の協力(同意)を得ることが必要であるとの認識のもとに,動燃のウラン残土撤去義務の履行期を岡山県等関係自治体の協力(同意)が得られたときと定め,仮に,この協力(同意)が得られない場合には,相当の期間の経過によりウラン残土撤去義務の履行期が到来するものとする不確定期限を定めたものと解すべきであるとされた事例。
 1a.ウラン残土の撤去義務について,残土の放射線量等からすると,搬出を円満に実施するためには搬出先の地元住民等の同意が事実上必要であることは推認し得るが,これが法的な制約となるとまでは認めるには至らないし,義務の履行が法的ないし社会通念上不能であるとまでは認められないとされた事例。
 1b.不確定期限の到来がみとめられた事例。
 2.ウラン残土の撤去請求が信義則違反あるいは権利の濫用に該当するものではないとされた事例。 /法人でない社団/権利能力のない社団/当事者能力/
参照条文: /民訴.29条/民訴.259条1項/民法:127条1項/民法:135条/
全 文 h160227hiroshimaH.html

最高裁判所 平成 16年 2月 26日 第1小法廷 判決 ( 平成13年(受)第398号 )
事件名:  公正証書遺言無効確認請求上告事件
要 旨
 実子が養子に対して提起した亡父の公正証書遺言無効確認請求訴訟において,原審が遺言書作成の時から3年後に作成された謄本の作成状況等から推認して遺言書作成当時に公証人が原本に署名押印したとは認められないとの理由により遺言を無効としたのに対し,上告審がこの事実判断には経験則違反又は採証法則違反があるとして原判決を破棄し,差し戻した事例。 /自由心証主義/
参照条文: /民訴.247条/民訴.321条/民訴.322条/
全 文 h160226supreme.html

最高裁判所 平成 16年 2月 24日 第3小法廷 判決 ( 平成11年(行ツ)第251号,平成11年(行ヒ)第194号 )
事件名:  食糧費情報公開請求上告事件
要 旨
 1.旧鹿児島県情報公開条例(昭和63年鹿児島県条例第4号)に基づく公文書等の開示請求権は,請求権者の一身に専属する権利であって相続の対象となるものではない。
 1a.公文書公開請求訴訟が開示請求権者の死亡により当然に終了したとして,上告審判決において訴訟終了宣言がなされた事例。
 2.旧鹿児島県情報公開条例8条2号本文にいう「個人に関する情報」は,事業を営む個人の当該事業に関する情報が除外されている以外には文言上何ら限定されていないから,個人にかかわりのある情報であって,特定の個人が識別され,又は識別され得るものは,原則として,同号所定の非開示情報に該当するというべきである。
 2a.法人等の代表者又はこれに準ずる地位にある者が当該法人等の職務として行う行為など当該法人等の行為そのものと評価される行為に関する情報については,専ら法人等に関する情報としての非開示事由が規定されていると解するのが相当であり,同条2号所定の非開示情報には該当しない。
 2b.本件条例の趣旨,目的に照らせば,公務員の職務の遂行に関する情報は,公務員個人の私事に関する情報が含まれる場合を除き,公務員個人が同号本文にいう「個人」に当たることを理由に2号所定の非開示情報に該当するとはいえない。
 2c.出席者が県職員以外の公務員である場合においても,当該出席者がその公務の遂行として懇談会等に出席したのであれば,その出席者に関する情報は,2号所定の非開示情報に該当しない。 /食糧費/公情報公開/公文書開示/プライバシー/個人情報/
参照条文: /鹿児島県情報公開条例.8条/
全 文 h160224supreme.html

東京地方裁判所 平成 16年 2月 24日 民事第47部 判決 ( 平成14年(ワ)第20521号 )
事件名:  特許権持分移転登録手続等請求事件
要 旨
 味の素株式会社の元従業員の一人が他の従業員と共同で完成させた職務発明につき,特許法35条4項の「相当の対価」が1億9935万円であるとされた事例。 /人工甘味料アスパルテーム(APM。物質名L-α-アスパルチル-L-フエニルアラニンメチルエステル)を工業的規模で製造する工程の一部をなす工業的晶析法(静置晶析法)及びAPMの束状集合晶等に関する発明/
 (外国特許に対する特許法35条の適用)
 1.職務発明に係る特許を受ける権利の承継の効力発生要件や対抗要件の法律関係の性質については,承継の客体である特許を受ける権利であると決定し,これと最も密接な関係を有する特許を受ける権利の準拠法によるものと解すべきである。
 1a.特許を受ける権利の承継に関する契約の成立や効力の法律関係の性質については,契約であると決定し,これと最も密接な関係を有する使用者と従業者の雇用契約の準拠法によるものと解すべきである。
 1b.職務発明に係る特許を受ける権利の承継の対価については,使用者と従業者の雇用契約の準拠法による。
 1c.特許法35条は,絶対的強行法規の性質を有する労働法規である。
 1d.日本人である従業員と日本法人である使用者の雇用契約については,当事者の意思によっても,条理によっても,日本法が準拠法になり,発明に係る特許を受ける権利の承継の対価請求の準拠法も,日本法であるとされた事例。
 1e.特許法35条3項にいう「特許を受ける権利」には,外国において特許を受ける権利も含まれ,使用者等は,職務発明について外国において特許を受ける権利を使用者等に承継させる意思を従業者等が有しているか否かにかかわりなく,勤務規則その他の定めにおいて,外国において特許を受ける権利が使用者等に承継される旨の条項を設けておくことができ,勤務規則等に定められた外国において特許を受ける権利を含む対価の額が特許法35条4項の趣旨及び内容に合致して初めて同条3項,4項所定の相当の対価に当たる。
 (相当の対価の額)
 2.特許を受ける権利の承継についての相当の対価を定めるに当たっては,「その発明により使用者等が受けるべき利益の額」及び「その発明がされるについて使用者等が貢献した程度」という2つの要素を考慮すべきであるが,これのみならず,使用者等が特許を受ける権利を承継して特許を受けた結果,現実に利益を受けた場合には,使用者等が上記利益を受けたことについて使用者等が貢献した程度,すなわち,具体的には発明を権利化し,独占的に実施し又はライセンス契約を締結するについて使用者等が貢献した程度その他証拠上認められる諸般の事情を総合的に考慮して,相当の対価を算定することができる。
 2a.従業者等から特許を受ける権利を承継してこれにつき特許を受けた使用者が,この特許発明を第三者に有償で実施許諾し,実施料を得た場合は,その実施料は,職務発明の実施を排他的に独占することによって得られる利益ということができ,「その発明により使用者等が受けるべき利益」に当たる。
 2b.使用者が特許を受ける権利を承継して特許を受け特許発明を自ら実施している場合は,これにより上げた利益のうち,当該特許の排他的効力により第三者の実施を排除して独占的に実施することにより得られたと認められる利益の額をもって「その発明により使用者等が受けるべき利益」というべきである。
 2c.使用者が自ら特許報奨金の算定に際し増分利益として計上した金額については,特段の事情のない限り,「被告が受けるべき利益」と解すべきである。(使用者が,増分利益に0.1%を乗じた額を報奨金とする旨の規定を設けつつ,他社にひけを取らずインパクトを持つと考えられた1000万円という金額を念頭において,増分利益を多めに計上したという事情は,特段の事情にあたるとされた事例)
 (特許を受ける前の発明実施の対価)
 3.特許法35条の職務発明は,特許発明に限定されてはいないから,発明であれば特許登録されるか否かにかかわらず同条が適用され,特許を受ける権利を使用者に譲渡することにより相当の対価の請求権を取得する。
 3a.使用者が職務発明について特許を受ける権利を承継し,特許を受ける前に発明を実施した場合に,実施により上げた利益が通常実施権によるものを超えるときには,当該発明が貢献した程度を勘案して「その発明により使用者等が受けるべき利益」を定めることができる。
 3b.平成6年法律第116号による改正前の特許法65条により出願後の発明実施に対して補償金を請求することができる段階で特許出願人である使用者が発明を実施して製造した商品の販売による利益の中には,実質的に他社を排除して実施することができたという意味で通常実施権を超える部分があると認められ,その貢献率が法律上の排他的独占権を得た時期における貢献率の2分の1である売上げの1%であるとされた事例。
 (使用者がした貢献の程度)
 4.「相当の対価」を算定する際に考慮されるべき「使用者等が貢献した程度」には,「その発明がされるについて」貢献した程度のほか,使用者等がその発明により利益を受けるについて貢献した程度も含まれる,後者には,その発明を出願し権利化し,さらに特許を維持するについての貢献度,実施料を受ける原因となった実施許諾契約を締結するについての貢献度,実施製品の売上げを得る原因となった販売契約等を締結するについての貢献度,発明者への処遇その他諸般の事情が含まれる。
 4a.使用者が発明がされるについて貢献しまた利益を受けるについて貢献した程度が,全体の95%と認められた事例。
 (共同発明者間の寄与度)
 5.共同発明者の一人である原告の共同発明者6名間での寄与度が50%と認定された事例。
 5a.報奨金支払いの際に作成された寄与率同意書において他の共同発明者が原告の長年にわたる甘味料事業への貢献に報いるために,報奨金の6分の5を原告に分配したい趣旨で作成されたという事情がある場合に,使用者が寄与率同意書記載の寄与率に従って報奨金を支払ったからといって,相当の対価の支払いに関し,原告の寄与率が6分の5であることに使用者が拘束されることはないとされた事例。
 (消滅時効の成否)
 6.消滅時効完成後に報奨金が支払われた場合に,報奨金の実質はその算定方法等を考慮すると実績補償金にあたると評価され,その支払は相当の対価の支払債務について時効が完成した後に当該債務を承認したものというべきであるから,使用者が当該債務について消滅時効を援用することは,信義則に照らし許されないと判断された事例。 /時効完成後の一部/債務承認/時効援用権の喪失/知的財産権/無体財産権/工業所有権/特許権/
参照条文: /特許.35条/民法:147条3号/
全 文 h160224tokyoD.html

福岡高等裁判所 平成 16年 2月 23日 第3民事部 判決 ( 平成15年(ネ)第534号 )
事件名:  謝罪広告等請求控訴事件
要 旨
 <聖嶽洞穴遺跡での旧石器の発掘の捏造に関与した疑いがある>との印象を与える記事が週刊誌に掲載されたことにより名誉を害されて自殺に至った大学教授の相続人が.記者.編集長.出版社に対して損害賠償と謝罪広告を掲載を請求し.認容された事例(一部棄却)。
 1.『聖嶽洞穴遺跡から発掘された石器は,発掘者自らが,別の遺跡から発掘された石器を予め埋めておいたという捏造によるものであり,B元教授がこの捏造に関与した疑いがある。』との印象を与える記事による名誉毀損の違法性阻却事由としての真実性の証明対象事実は,『聖嶽洞穴遺跡の石器は捏造されたものであること』及び『B元教授がその捏造に関与したとの疑いを抱くに足りる根拠事実があること』である。
 2.名誉を害する記事により自殺に追い込まれた者の名誉回復のために謝罪広告の掲載が命ぜられた事例。
 2a.謝罪広告においては,謝罪の趣旨を明確にするために,宛名及び差出人名を明示させるのが適当である。
 2b.民法723条の名誉回復のための処分の請求は,損害賠償の1方法として財産上の請求に属するものであり,一身専属的なものではないから,一旦発生した同請求権が相続されるのは当然である。
 2c.原告が謝罪広告の掲載場所として『広告・グラビアを除いて表表紙から最初の頁もしくはそれに準じる頁』との指定を求めたのに対し,『もしくはそれに準じる頁』では掲載場所として不特定であるので,『広告・グラビアを除いて表表紙から最初の頁』と特定して指定するとされた事例。 /文藝春秋/週間文春/
参照条文: /民法:709条/民法:710条/民法:723条/
全 文 h160223hukuokaH.html

最高裁判所 平成 16年 2月 20日 第2小法廷 判決 ( 平成15年(オ)第386号,平成15年(受)第390号 )
事件名:  不当利得返還請求上告及び上告受理申立事件
要 旨
 債務者が貸金業者に支払った利息等のうち利息の制限額を超える部分を元本に充当すると過払金が生じているとして,不当利得返還請求権に基づき過払金の返還を求めた場合に,貸金業の規制等に関する法律43条1項の適用を肯定して請求を棄却すべきものとした原判決が破棄された。
 1.貸金業法43条1項の規定は利息制限法2条の特則規定ではないから,貸金業者との間の金銭消費貸借上の約定に基づき利息の天引きがされた場合における天引利息については,法43条1項の規定の適用はない。
 2.貸金業法の17条書面には,17条1項所定の事項のすべてが記載されていることを要するものであり,その一部が記載されていないときは,43条1項適用の要件を欠くというべきである。
 2a.債務者が提供した担保の内容及び提出を受けた書面の内容が17条書面に記載されていないときには,17条1項所定の事項の一部についての記載がされていないこととなり,43条1項は適用されない。
 2b.債務者が根抵当権設定に必要な書類を提出した旨の主張をしている場合に,原審がその事実ならびにその事実の17条書面への記載について認定判断をしないで17条1項所定の要件を具備した書面の交付があったと判断したことが違法であるとされた事例。
 3.利息の制限額を超える金銭の支払が貸金業者の預金口座に対する払込みによってされたときであっても,特段の事情のない限り,法18条1項の規定に従い,貸金業者は,この払込みを受けたことを確認した都度,直ちに,すなわち弁済の直後に,18条書面を債務者に交付しなければならない。
 3a.支払がされてから20日余り経過した後にされた取引明細書の交付をもって,弁済の直後に18条書面の交付がされたものとみることはできないと判断された事例。
参照条文: /貸金.17条1項/貸金.18条1項/貸金.43条1項/利息制限.1条/利息制限.2条/
全 文 h160220supreme3.html

最高裁判所 平成 16年 2月 20日 第2小法廷 判決 ( 平成14年(受)第399号 )
事件名:  預託金返還請求上告受理申立て事件
要 旨
 1.預託金会員制のゴルフクラブの名称がゴルフ場の営業主体を表示するものとして用いられている場合において,ゴルフ場の営業の譲渡がされ,譲渡人が用いていたゴルフクラブの名称を譲受人が継続して使用しているときには,譲受人が譲受後遅滞なく当該ゴルフクラブの会員によるゴルフ場施設の優先的利用を拒否したなどの特段の事情がない限り,譲受人は,商法26条1項の類推適用により,会員が譲渡人に交付した預託金の返還義務を負う。 /預託金会員制ゴルフクラブ/
参照条文: /商.26条1項/
全 文 h160220supreme.html

最高裁判所 平成 16年 2月 20日 第2小法廷 判決 ( 平成14年(受)第912号 )
事件名:  不当利得金返還請求事件上告受理申立事件
要 旨
 貸金業者から債務者に返済期日の弁済があった場合の貸金業法18条1項所定の事項が記載されている書面で貸金業者の銀行口座への振込用紙と一体となったものが返済期日前に交付され,債務者がこの書面を利用して貸金業者の銀行口座に払い込む方法によって利息の支払をしていた場合に,18条書面の交付があたとは言えないとして,43条1項の適用が否定され,過払い利息の返還請求が認容された事例。
 1.貸金業法の趣旨,目的(1条)と,違反に対する罰則等にかんがみると,43条1項の規定の適用要件は,厳格に解釈すべきである。
 1a.利息の制限額を超える金銭の支払が貸金業者の預金口座に対する払込みによってされたときであっても,特段の事情のない限り,貸金業法18条1項の規定に従い,貸金業者は,この払込みを受けたことを確認した都度,直ちに,18条書面を債務者に交付しなければならない。(先例の確認)
 1b.貸金業者が弁済を受ける前にその弁済があった場合の貸金業法18条1項所定の事項が記載されている書面を債務者に交付したとしても,これをもって同項所定の要件を具備した書面の交付があったということはできない。 /貸金業規制法/利息制限法/
参照条文: /貸金.18条1項/貸金.43条1項/利息制限.1条/
全 文 h160220supreme2.html

最高裁判所 平成 16年 2月 20日 第2小法廷 決定 ( 平成15年(許)第48号 )
事件名:  文書提出命令申立て却下決定に対する抗告審の取消決定に対する許可抗告事件
要 旨
 徳島空港拡張事業及び同周辺整備事業に伴う海面埋立てに関し,徳島県知事の許可を受けて操業している瀬戸内海機船船びき網漁業に対する補償金等の支払を求める本案訴訟において,原告が,被告が漁業協同組合との一括補償交渉のために作成し,交渉相手である漁協にも明らかにしたことのない文書(個別の補償見積額が記載された文書)につき,民訴法220条3号又は4号に基づき,文書提出命令の申立てをしたが,同文書は同条4号ロに該当し,同条4号ロに該当する文書については同条3号による提出命令の申立ても認められないとして,申立てが棄却された事例。
 1.漁業補償交渉を円滑に進めるために,漁協との間で総額についての漁業補償協定を締結した上で,個々の組合員に対する補償額の決定,配分は,各組合員の漁業実績等を熟知している漁協の自主的な判断にゆだねるという方針の下に補償交渉がなされている場合に,補償総額を積算する過程において種々のデータを基に算出された個別の組合員の漁業に係る数値(補償見積額)が記載された文書は,民訴法220条4号ロ所定の「公務員の職務上の秘密に関する文書」に当たる。
 1a.この文書が提出され,その内容が明らかになった場合には,一括漁業補償交渉の前提が崩れ,漁協による各組合員に対する補償額の決定,配分に著しい支障を生ずるおそれがあり,漁協との間の信頼関係が失われることとなり,今後,補償義務者である文書所持人が他の漁業協同組合との間で,同様の漁業補償交渉を円滑に進める際の著しい支障ともなり得ることが明らかであるから,この文書は,民訴法220条4号ロ所定の,その提出により「公務の遂行に著しい支障を生ずるおそれがあるもの」にも当たる。
 2.公務員の職務上の秘密に関する文書であって,その提出により公務の遂行に著しい支障を生ずるおそれがあるものに当たると解される場合には,民訴法191条,197条1項1号の各規定の趣旨に照らし,文書の所持者は,その文書の提出を拒むことができ,民訴法220条3号に基づく提出申立ても理由がない。 /書証/証拠/
参照条文: /民訴.220条3号/民訴.220条4号/民訴.191条/民訴.197条1項1号/
全 文 h160220supreme4.html

東京高等裁判所 平成 16年 2月 19日 第19民事部 決定 ( 平成16年(ラ)第72号 )
事件名:  免責決定に対する抗告事件
要 旨
 勤務先の営業次長の職にあった者が取引先から資金の工面を依頼され,断り切れずに自ら多額の借金をして融通すると共に,勤務先の社員にサラ金等から借入れさせた金銭を借り受けて融通し,総額1億1200万円にも達する債務を負った挙げ句に破産し,その経緯を破産手続および免責手続において十分に説明しなかった場合に,366条の9第1号・375条1号の免責不許可事由(浪費)および366条の9第3号の免責不許可事由(説明義務違反)の存在が認定され,免責が不許可になった事例。
 1.支出が免責不許可事由としての「浪費」(375条1号)に当たるためには,それが消費的支出であることを要しない。
 1a.破産者が他人に対する資金援助という形で,その回収の見通しがほとんどなかったにもかかわらず,その地位,職業,収入及び財産状態に比して通常の程度を越えた支出をしたことは,免責不許可事由としての浪費による過大な債務負担に当たるとされた事例。
 2.破産者は,免責申立手続及びその前提として行われる破産手続において,裁判所に対し,誠実に真実を陳述すべき義務を負っており,破産者が破産に至るまでの経緯について故意に虚偽の陳述をし,その内容が悪質なものである場合には,裁判所は,破産法366条の9第3号後段を類推適用し,免責不許可の決定をすることができる。
 2a.破産者が勤務先の多数の従業員らに虚言を弄して消費者金融業者等から借り入れさせた金銭を借り受けて,従業員らに多額の債務を負担させたにもかかわらず,破産手続において提出した上申書では,従業員らからの借入れの事実は述べているものの,そのような欺罔的な手段で多数の従業員に借り入れをさせた事実には全く触れていないのみならず,免責の審尋期日においては,従業員の陳述等をすべて否定し,欺罔的な手段を用いたことはまったくない旨を述べたことは,破産法366条の9第3号後段の免責不許可事由に該当するとされた事例。 /破産免責/
参照条文: /破産.366-9条/破産.375条/
全 文 h160219tokyoH.html

最高裁判所 平成 16年 2月 17日 第2小法廷 決定 ( 平成15年(あ)第1716号 )
事件名:  傷害致死,建造物侵入,強盗,強盗未遂,道路交通法違反被告事件 (上告事件)
要 旨
 被告人らの行為により被害者の受けた傷害は,それ自体死亡の結果をもたらし得る身体の損傷であって,被害者が治療中に医師の指示に従わず安静に努めなかったために治療の効果が上がらなかったという事情が介在していたとしても,被告人らの暴行による傷害と被害者の死亡との間には因果関係があるとされた事例。
参照条文: /刑.205条/
全 文 h160217supreme91.html

最高裁判所 平成 16年 2月 16日 第2小法廷 判決 ( 平成14年(あ)第876号 )
事件名:  暴力行為等処罰に関する法律違反被告事件(上告事件)
要 旨
 1.検察官が暴力行為等処罰に関する法律違反事件で公訴を提起したところ,第1審が理由中でこれを無罪と判断しつつ,銃砲刀剣類所持等取締法違反の犯罪事実を認定し,公訴事実にはこの犯罪事実の主張も含まれているので,訴因変更の手続は不要であるとして,有罪判決を下し,これに対して刑訴法378条3号後段を理由に被告人のみが控訴を提起して,検察官は控訴を提起しなかった場合に,控訴審が同号前段の違法がある旨指摘して第1審判決を破棄するにとどまらず,本件公訴事実を有罪とする余地があるものとして第1審裁判所に差し戻し,あるいは自ら有罪の判決をすることは,職権の発動の限界を超えるものであって許されない。
 2.第一審裁判所が公訴の提起されていない犯罪事実について有罪判決を下し,これに対して被告から控訴の提起があった場合には,控訴審は,公訴提起の手続がその規定に違反したため無効である場合に準じて,公訴棄却を言い渡すべきである(先例の確認)。
参照条文: /刑訴.378条3号/刑訴.338条4号/
全 文 h160216supreme91.html

最高裁判所 平成 16年 2月 16日 第2小法廷 決定 ( 平成13年(あ)第456号 )
事件名:  道路交通法違反被告事件(上告事件)
要 旨
 被告人に前科がないものと誤認した検察官が付した科刑意見どおりに発付された略式命令について,被告人に道路交通法違反の前科が多数存在する事実をその後に知った検察官が略式命令発付の翌日にした正式裁判の請求が適法であるとされた事例。
参照条文: /刑訴.465条/
全 文 h160216supreme92.html

最高裁判所 平成 16年 2月 13日 第2小法廷 判決 ( 平成13年(行ヒ)第18号 )
事件名:  公文書一部非公開処分取消請求上告受理申立て事件
要 旨
 1
 京都市交通局の開催した地下鉄建設事業に関する地元住民との飲食を伴う協議が,(1)地元関係者に地下鉄の建設工事の内容の説明等を行うことである場合,(2)地権者から成る協議会に地下鉄の建設工事の内容及び予定を説明し協力を求め,地下鉄の開業により生ずる環境問題についての対策の取組状況及び工事進捗状況を説明し,用地契約に伴う疑義を解消することを目的としている場合,あるいは,(3)地下鉄建設工事をめぐり地元住民の間に多様な意見があり得る状況下での市政に対する任意の協力者である市政協力委員との協議である場合に,住民が協議に出席したことに関する情報が,個人識別情報のうち公開しないことが正当である私事に関する情報に当たるから,京都市公文書の公開に関する条例所定の非公開情報に該当するとされた事例。(破棄理由)
 2.京都市交通局の開催した飲食を伴う協議等に民間法人の従業員が出席した場合に,その出席が使用者の指揮命令の下に職務として行われたものであり,また,協議等の目的からしても,協議等に出席したことが従業員にとって私事としての性質が希薄であり,公開しないことが正当である私事に関する情報に当たるということはできないから,京都市公文書の公開に関する条例所定の非公開情報に該当しないとされた事例。 /地下鉄東西線/地下鉄烏丸線/公情報公開 /公文書開示/公文書公開/プライバシー情報/私事情報/
参照条文: /京都市公文書の公開に関する条例(平成3年京都市条例第12号。平成12年京都市条例第41号による改正前のもの).8条/
全 文 h160213supreme3.html

最高裁判所 平成 16年 2月 13日 第2小法廷 判決 ( 平成13年(受)第866号、867号 )
事件名:  製作販売差止等請求上告受理申立て、同附帯上告受理申立て事件
要 旨
 競走馬を所有し,又は所有していた原告らが,競走馬の名称等が有する顧客吸引力などの経済的価値を独占的に支配する財産的権利を有することを理由として,競馬を題材にしたゲームソフトを製作・販売した被告に対し,被告が無断でゲームソフトに競走馬の名称等を使用したことにより原告らの財産的権利を侵害したと主張して,ゲームソフトの製作,販売,貸渡し等の差止め及び不法行為による損害賠償を請求したが,現時点では排他的名称使用権を認めることはできないとして,請求が棄却された事例。
 1.競走馬の名称等が顧客吸引力を有するとしても,物の無体物としての面の利用の一態様である競走馬の名称等の使用につき,法令等の根拠もなく競走馬の所有者に対し排他的な使用権等を認めることは相当ではなく,また,競走馬の名称等の無断利用行為に関する不法行為の成否については,違法とされる行為の範囲,態様等が法令等により明確になっているとはいえない現時点において,これを肯定することはできない。
 2.競走馬の名称等の使用料の支払を内容とする契約が締結された実例があるとしても,それらの契約締結は,紛争をあらかじめ回避して円滑に事業を遂行するためなど,様々な目的で行われることがあり得るのであり,そのような契約締結の実例があることを理由として,競走馬の所有者が競走馬の名称等が有する経済的価値を独占的に利用することができることを承認する社会的慣習又は慣習法が存在するとまでいうことはできない。 /知的財産権/無体財産権/物のパブリシティ権/物権法定主義/
参照条文: /民法:709条/法例.2条/商.1条/民法:175条/
全 文 h160213supreme2.html

最高裁判所 平成 16年 2月 13日 第2小法廷 判決 ( 平成13年(行ヒ)第8号 )
事件名:  公文書一部非公開決定取消請求上告受理申立て事件
要 旨
 京都市公文書の公開に関する条例に基づき,原告が被告に対し,平成6年度及び同7年度の飲食を伴う接遇に関する清掃局分の経費支出決定書の公開を請求したところ,その一部が認められ,一部が認められなかった事例。
 1.(1)清掃局が既存又は計画中の埋立処分地,清掃工場,清掃事務所等の稼働又は建設計画に関して地元関係者と内密に個別折衝するために開催した会合に地元住民,地元諸団体の役員等が出席したことに関する情報,(2)計画中の埋立処分地の造成,既存の清掃工場の建替え又は運営,空き瓶の収集等の事業推進について,地元関係者の理解を得るために開催された会合に地区の対策委員会,自治会,保健協議会,PTA等の関係者が参加したことに関する情報は,個人識別情報のうち公開しないことが正当である私事に関する情報に当たり,非公開情報に該当するとされた事例。
 2.(1)清掃事業等に関する調査研究,講演等を依頼した学識経験者から結果報告を受けたり,技術指導を受けたりするために開催された会合への学識経験者の出席に関する情報,(2)清掃事業に関係する団体の職員が清掃工場の各種機器の性能検査等を実施した際に,各種機器の内容,状態等について協議するために開催された会合への出席に関する情報,(3)市の清掃事業等について関係団体の職員,他の地方公共団体の職員,関係業者等と協議するために開催された会合への出席に関する情報,(4)市の環境美化事業の調査等のために市を訪問した他の地方公共団体の職員又は関係団体の職員と情報交換及び協議を行うために開催された会合への出席に関する情報は,公開によりその者の職業ないし職務上の地位が判明することを考慮しても,個人識別情報のうち公開しないことが正当である私事に関する情報に当たるということはできないとされた事例。 /公情報公開 /公文書開示/公文書公開/プライバシー情報/私事情報/
参照条文: /京都市公文書の公開に関する条例(平成3年京都市条例第12号。平成12年京都市条例第41号による改正前のもの).8条/
全 文 h160213supreme.html

最高裁判所 平成 16年 2月 9日 第2小法廷 決定 ( 平成14年(あ)第1647号 )
事件名:  詐欺被告事件(上告事件)
要 旨
 バカラ賭博の店の客が友人から預かって使用を許されたクレジットカードを同店で賭金の貸付けなどをしていた被告人に交付した可能性が排除できない事案において,被告人は,名義人以外のカードの利用行為には応じていないガソリンスタンドで,カードの名義人本人になりすまして,カードの正当な利用権限がないのにあるように装い,その旨従業員を誤信させてガソリンの交付を受けたと認定され,その行為は詐欺罪にあたるとされた事例。
 上記の場合に,仮に,被告人が,クレジットカードの名義人からカードの使用を許されており,かつ,自らの使用に係る同カードの利用代金が会員規約に従い名義人において決済されるものと誤信していたという事情があったとしても,詐欺罪の成立は左右されない。
参照条文: /刑.246条/
全 文 h160209supreme91.html

東京地方裁判所 平成 16年 1月 30日 民事第46部 判決 ( 平成13年(ワ)第17772号 )
事件名:  特許権持分確認等請求事件
要 旨
 日亜化学工業株式会社の従業員であった原告(中村修二)が在職中に完成させた「青色発光ダイオード」の発明について,会社から支払われた報奨金が2万円に過ぎないこと,業務命令に背いて研究を続けたこと等の諸事情の下では,原告に原始的に帰属した特許を受ける権利が会社に承継されることはないと主張して,主位請求として,特許権の一部移転ならびに特許権を過去に使用して得た不当利得の一部返還の一部請求,ならびに,特許を受ける権利が会社に承継されていることを前提にして,予備請求として,発明の相当対価の一部請求として,第1次的に特許権一部の移転と1億円の支払,第2次的に200億円及び遅延損害金の支払を求める訴えを提起したところ,第2次的予備請求が認容された事例。
 (従業員の職務発明により会社が得る利益の額の算定)
 1.使用者が従業員の職務発明に関する権利を承継することによって受けるべき利益(特許法35条4項)とは,当該発明を実施して得られる利益ではなく,特許権の取得により当該発明を実施する権利を独占することによって得られる利益(独占の利益)と解するのが相当である。
 1a.特許権は,その存続期間を通じて特許発明の実施を独占することのできる権利であるから,独占の利益も,また,特許権の存続期間満了までの間に使用者があげる超過売上高に基づく利益を指し,その認定に当たって,事実審口頭弁論終結時までに生じた一切の事情を斟酌することができる。
 1b.勤務規則等に職務発明の対価の支払時期が定められている場合には,特段の事情のない限り,相当対価は当該支払時期を基準として算定された額であることが予定されているものと解されるから,特許権の存続期間を通じて算定される上記の独占の利益は,中間利息を控除して当該支払時期の時点における金額として算定するのが相当である。(相当対価の最終支払時期が,使用者の社内規則により,特許権の設定登録時であると認定された事例。)
 1c.独占の利益の算定にあたって,(1)特許権の存続する平成22年度までの総売上額を1兆2086億円余と予測され,(2)競合会社に実施許諾がなされれば,その半分は他社により販売されるであろうと見積られ,(3)実施料率は販売額の20%を下回るものではないと認定されて,(4)独占の利益はこれらの積である1208億円余であると算定された事例。
 (発明をした従業員の貢献度)
 2.小企業の貧弱な研究環境の下で,従業員発明者が個人的能力と独創的な発想により,競業会社をはじめとする世界中の研究機関に先んじて,産業界待望の世界的発明をなしとげたという,職務発明としては全く稀有な事例であるという特殊事情を考慮して,発明者である従業員の貢献度は50%を下回らないと認定された事例。
 2a.発明に対する使用者会社の貢献度とは,当該発明がされるに当たって人的物的面で客観的に寄与した内容により判断されるものであって,当該寄与が使用者会社の規模に照らしてどれほどの負担かといった,いわば使用者の主観的な側面が考慮されるものではない。
 (相当の対価の額)
 3.職務発明についての相当対価の額(特許法35条4項)が,会社の独占の利益1208億6012万円に発明者の貢献度50%を乗じた604億3006万円になるとされた事例。
 (消滅時効)
 4.勤務規則等に使用者が従業者に対して支払うべき対価の支払時期に関する条項がある場合には,その支払時期が相当の対価の支払を受ける権利の消滅時効の起算点となる。(先例の確認)
 4a.勤務規則等にいわゆる実績補償に該当する対価の支払が規定されておらず,出願補償金及び登録補償金のみを規定している場合でも,後2者は職務発明の対価の一部をなすものであり,その支払時期に関する社内規定は相当対価の支払時期に関する定めに該当し,最終の支払時期は登録補償金の支払の要否が明らかになる特許権の設定登録時以降であるとされた事例。
 4b.職務発明の相当対価請求権は,特許法35条により従業者に認められた法定の権利であるから,消滅時効期間は10年と解すべきである。
 (相当の対価の請求方法)
 5.職務発明にかかる特許を受ける権利の承継の相当の対価として,特許権の一部(共有持分)の移転登録を求めることはできない。
 5a.職務発明の相当対価請求権は,全体として1個の請求権として発生するものであり,そのうち一定の期間の受益分のみを区別することはできないから,過去の受益分に相当するものとして一部請求したとしても,それは請求権の一部を特定する意味を有するものではなく,単に,単純一部請求として請求金額を画する意味を有するにすぎない。
 (その他)
 6.被告の現製造方法が原告のなした発明の技術的範囲に属するか否かが争われた場合に,判決書には属するとの結論が示され,その理由の詳細は別紙に記載された事例。
 6a.被告の提出した監査法人の鑑定書について,これに従えば,被告会社は,平成13年度末の時点において,青色LED及びLDの製造販売により,いまだ利益を出していないばかりか,逆に14億円以上の損失を出していることになるが,これは青色LED及びLDの製造販売により被告会社が巨額の利益を得ている現在の実情とあまりにかけ離れた結論であり,鑑定書の信憑性自体に疑問を抱かざるを得ないとの指摘がなされた事例。(自由心証主義) /知的財産権/無体財産権/工業所有権/特許権/
参照条文: /民訴.92条/民訴.247条/民訴.246条/特許.35条/
全 文 h160130tokyoD.html

大阪地方裁判所 平成 16年 1月 21日 第19民事部 判決 ( 平成13年(ワ)第6038号 )
事件名:  損害賠償請求事件
要 旨
 急性喉頭蓋炎の患者が呼吸困難になって低酸素脳症に陥ったことについて,外来受診時の医師と転送先の大学病院の医師の双方に過失があるとして,双方の医師の使用者らに対して共同不法行為による損害賠償(患者本人の逸失利益・介護費等と両親の慰謝料)が命じられた事例。
 1.耳鼻咽喉科を専門としない医師に,急性喉頭蓋炎の患者の呼吸状態等の経過観察等を怠り,専門医のいる病院に適時に搬送しなかったことについて過失があるとされた事例。
 2.急性喉頭蓋炎の患者に対して緊急気道確保を実施する際に,ミニトラックを輪状甲状間膜に穿刺すべき注意義務があるところ,特段の合理的理由がないにもかかわらず第2・3気管輪間へ穿刺し,しかも,その手技は不適切であったとして,医師の過失が認定された事例。
 2a.緊急気道確保のためになされたミニトラック穿刺の適否が争われた事例で,医師がミニトラックを穿刺した部位には甲状腺峡部が存在し,ミニトラック穿刺の際に激しい出血があったのは,ミニトラック穿刺によってこれを傷つけたことが原因であると認定された事例。
 2b.医療器具のパンフレット及び取扱説明書の記載は,医療器具の問題点等についての情報を有している製造業者又は販売業者が,患者の安全を確保するために,これを使用する医師等に対し,必要な情報を提供する目的で記載するものであるから,医師は,特段の合理的な理由がない限り,説明書に記載された使用上の注意に従うべき義務がある。
 2c.第2・3気管輪間にミニトラック穿刺をする本件穿刺法は,本件事故当時,原則として許されず,{1}
 輪状甲状間膜に穿刺することができない場合等特段の合理的な理由があり,かつ,{2}
 ミニトラックを適切な用法に従って使用すること等の条件を満たした場合に限り,例外的に許されると解するのが相当である。(例外的に許される場合に該当しないと判断された事例)
 3.医療過誤により植物状態になった患者の自宅療養に疲弊した親族が患者の入院看護を望んで,入院を前提にして将来の差額室料が定期金として請求された場合に,口頭弁論終結時において入院時期が確定していないことを理由に差額室料を相当因果関係のある損害と認めることができないとした上で,現実に入院してその費用が自宅介護費を上回る場合には民訴117条の判決変更の訴えを提起することが考えられるとの示唆がなされた事例。
 3a.口頭弁論終結の日以後の自宅介護費について,被告がその損害の発生を争っているため予め請求する必要がある場合にあたるとされ,原告の死亡まで毎月30万円を支払うことが命じれられた事例。 /定期金賠償/自由心証主義/
参照条文: /民訴.135条/民訴.117条/民訴.247条/民法:709条/民法:711条/民法:719条/
全 文 h160121osakaD.html

最高裁判所 平成 16年 1月 20日 第2小法廷 判決 ( 平成15年(あ)第884号 )
事件名:  法人税法違反被告事件(上告事件)
要 旨
 1.法人税法153条ないし155条に規定する質問又は検査の権限を犯則事件の調査あるいは捜査のための手段として行使することは許されないが、その行使に当たって,取得収集される証拠資料が後に犯則事件の証拠として利用されることが想定できたとしても,そのことによって直ちに,上記権限が犯則事件の調査あるいは捜査のための手段として行使されたことにはならないというべきである。 /違法収集証拠/
参照条文: /法人税.153条/法人税.154条/法人税.155条/法人税.156条/
全 文 h160120supreme92.html

最高裁判所 平成 16年 1月 20日 第3小法廷 判決 ( 平成14年(あ)第973号 )
事件名:  公正証書原本不実記載,同行使,殺人未遂被告事件(上告事件)
要 旨
 1.事故を装い被害者を自殺させて多額の保険金を取得する目的で,被告人を極度に畏怖して服従していた被害者に対し,犯行前日に,漁港の現場で,暴行,脅迫を交えつつ,直ちに車ごと海中に転落して自殺することを執ように要求し,猶予を哀願する被害者に翌日に実行することを確約させるなどして,被告人の命令に応じて車ごと海中に飛び込む以外の行為を選択することができない精神状態に陥っていた被害者に対して,事件当日,漁港の岸壁上から車ごと海中に転落するという死亡の現実的危険性の高い行為を被害者に命令して、被害者を車ごと海に転落させた被告人の行為は,殺人罪の実行行為に当たるとされた事例。
 1a.上記の場合に、被害者には被告人の命令に応じて自殺する気持ちがなく,この点で被告人の予期したところに反していたことは,殺人罪の故意を否定すべき事情にはならないとされた事例。
参照条文: 公正証書原本不実記載,同行使,殺人未遂被告事件(上告事件)
全 文 h160120supreme91.html

最高裁判所 平成 16年 1月 15日 第1小法廷 判決 ( 平成14年(受)第1937号 )
事件名:  損害賠償請求上告受理申立て事件
要 旨
 受診者のスキルス胃癌を早期に発見することができなかった開業医に対する,早期に発見されていたならば実際の死亡時点においてもなお生存していたであろう相当程度の可能性が侵害されたことを理由とする,診療契約上の債務不履行に基づく損害賠償請求が認容された事例。
 1.医師に適時に適切な検査を行うべき診療契約上の義務を怠った過失があり,その結果患者が早期に適切な医療行為を受けることができなかった場合において,上記検査義務を怠った医師の過失と患者の死亡との間の因果関係の存在は証明されなくとも,適時に適切な検査を行うことによって病変が発見され,当該病変に対して早期に適切な治療等の医療行為が行われていたならば,患者がその死亡の時点においてなお生存していた相当程度の可能性の存在が証明されるときには,医師は,患者が上記可能性を侵害されたことによって被った損害を賠償すべき診療契約上の債務不履行責任を負う。
 1a.平成11年10月にスキルス胃癌と診断され,腹膜への転移が疑われ,11月には骨への転移が確認され,平成12年2月に死亡した患者について,平成11年7月の時点において医師が適切な再検査を行っていれば,胃癌を発見することが十分に可能であり,その再検査がなされなかったためその時点における患者の症状は不明であるが,再検査によりこれが発見されていれば上記時点における病状及び当時の医療水準に応じた化学療法が直ちに実施されて功を奏することにより,患者の延命の可能性があったことは明らかであるとされた事例。 /胃ガン/医療過誤/
参照条文: /民法:415条/
全 文 h160115supreme4.html

最高裁判所 平成 16年 1月 15日 第1小法廷 判決 ( 平成14年(受)第687号 )
事件名:  損害賠償請求上告事件
要 旨
 1.在留資格を有しない外国人が国民健康保険法(平成11年法律第160号による改正前のもの)5条所定の「住所を有する者」に該当するというためには,単に市町村の区域内に居住しているという事実だけでは足りず,少なくとも,外国人が,市町村を居住地とする外国人登録をして,入管法50条所定の在留特別許可を求めており,入国の経緯,入国時の在留資格の有無及び在留期間,その後における在留資格の更新又は変更の経緯,配偶者や子の有無及びその国籍等を含む家族に関する事情,我が国における滞在期間,生活状況等に照らし,市町村の区域内で安定した生活を継続的に営み,将来にわたってこれを維持し続ける蓋然性が高いと認められることが必要である。
 1a.在留資格を有しない外国人が国民健康保険法5条にいう「住所を有する者」に該当すると判断された事例。
 2.ある事項に関する法律解釈につき異なる見解が対立し,実務上の取扱いも分かれていて,そのいずれについても相当の根拠が認められる場合に,公務員がその一方の見解を正当と解しこれに立脚して公務を遂行したときは,後にその執行が違法と判断されたからといって,直ちに公務員に過失があったものとすることは相当ではない。(先例の確認)
 2a.公務員の判断が最高裁によって否定された場合に,その判断をしたことについて過失があったとはいえないとされた事例。
参照条文: /国賠.1条1項/国民健康保険.5条/
全 文 h160115supreme.html

最高裁判所 平成 16年 1月 15日 第1小法廷 判決 ( 平成13年(行ヒ)第266号,267号 )
事件名:  職員給与支出差止等請求・上告受理申立て事件
要 旨
 倉敷チボリ公園の建設,管理運営のために設立された第3セクター方式の株式会社に出資をしている岡山県が,この会社との間で,県の職員を派遣してその業務に従事させるとともに,派遣した職員の給与等を県において負担すること等を定めた協定を締結しすると共に,職務専念義務免除に関する条例により義務免除と給与支払いの承認をして職員を派遣した場合に,住民が,職員の派遣を受けた会社に対して給与相当額を不当利得として返還請求し,元知事に対して損害賠償を請求したが,棄却された事例。(住民訴訟)
 1.職務専念義務の免除等について明示の要件が定められていない場合であっても,処分権者がこれを全く自由に行うことができるというものではなく,職務専念義務の免除が服務の根本基準を定める地方公務員法30条や職務に専念すべき義務を定める同法35条の趣旨に違反したり,勤務しないことについての承認が給与の根本基準を定める同法24条1項の趣旨に違反する場合には,これらは違法となる。(先例の確認)
 1a.倉敷チボリ公園への派遣された職員について職務専念義務を免除したことおよび給与支払いを承認したこととが違法とされた事例。
 2.地方公務員法24条1項,30条,35条は,職員の服務義務や給与の基準を定めた規定であるにすぎず,これらの規定が地方公共団体と私人との間に締結された契約の効力に直ちに影響を及ぼす強行規定であると解することはできない。
 2a.県の職員の派遣に関する県と民間会社の協定が,締結当時公序良俗に違反するものであったということはできず,また地方公務員法24条1項,30条,35条の趣旨に反することが民間会社も知り得るほど明白であって,これを無効としなければ各規定の趣旨を没却する結果となる特段の事情があるということもできないから,私法上無効であるとはいえないとされた事例。
 3.ある事項に関する法律解釈につき異なる見解が対立し,実務上の取扱いも分かれていて,そのいずれについても相当の根拠が認められる場合に,公務員がその一方の見解を正当と解しこれに立脚して公務を執行したときは,後にその執行が違法と判断されたからといって,直ちにその公務員に過失があったものとすることは相当ではない。(先例の確認)
 3a.職員派遣が違法であるが,県知事が職員派遣協定を締結し,派遣職員に給与を支出したことにつき故意又は過失があったということはできないとされた事例。
参照条文: /地公.24条1項/地公.30条/地公.35条/
全 文 h160115supreme2.html

最高裁判所 平成 16年 1月 15日 第1小法廷 判決 ( 平成14年(行ヒ)第312号 )
事件名:  一般廃棄物処理業不許可処分取消請求・上告受理申立て事件
要 旨
 1.廃棄物処理法(平成11年法律第87号による改正前のもの)7条3項1号の「当該市町村による一般廃棄物の収集又は運搬」とは,当該市町村が自ら又は委託の方法により行う一般廃棄物の収集又は運搬をいい,一般廃棄物収集運搬業の許可を受けた業者が行う一般廃棄物の収集又は運搬はこれに当たらないものというべきであるから,許可を受けた業者が一般廃棄物の収集又は運搬をすることで区域内の一般廃棄物の収集及び運搬が適切に実施されている場合であっても,当該市町村が自ら又は委託の方法により区域内の一般廃棄物の収集又は運搬を行うことが困難であるときは,同号の要件を充足する。
 2.既存の許可業者等によって一般廃棄物の適正な収集及び運搬が行われてきており,これを踏まえて一般廃棄物処理計画が作成されているような場合には,市町村長は,これとは別にされた一般廃棄物収集運搬業の許可申請について審査するに当たり,一般廃棄物の適正な収集及び運搬を継続的かつ安定的に実施させるためには,既存の許可業者等のみに引き続きこれを行わせることが相当であるとして,当該申請の内容は一般廃棄物処理計画に適合するものであるとは認められないという判断をすることもできる。
 2a.松任市において、ある業者により一般廃棄物の収集及び運搬が円滑に遂行されてきていることを踏まえて一般廃棄物処理計画が作成されている場合に,他の業者からの一般廃棄物処理業不許可申請を「既存の許可業者で一般廃棄物の収集,運搬業務が円滑に遂行されており,新規の許可申請は廃棄物処理法第7条第3項第1号及び第2号に適合しない」との理由で不許可にしたことが適法であるとされた事例。
参照条文: /廃棄物処理.7条/
全 文 h160115supreme3.html

最高裁判所 平成 16年 1月 14日 大法廷 判決 ( 平成15年(行ツ)第24号 )
事件名:  選挙無効請求上告事件
要 旨
 平成13年7月29日施行の参議院議員選挙について,東京都選挙区の選挙人らが,平成12年法律第118号による改正後の選挙区選出議員定数配分規定は憲法14条1項等に違反し無効であると主張して選挙無効訴訟を提起したが,改正法は憲法が選挙制度の具体的な仕組みの決定につき国会にゆだねた立法裁量権の限界を超えるものではなく,定数配分規定が憲法に違反するに至っていたものとすることはできないと判断され,請求が棄却された事例。(反対意見あり) /逆転現象/法の下の平等/人口比例主義/半数改選の要請/都道府県単位の選挙区/二院制/投票価値の平等/人口の大都市集中化/地域代表/人口の過疎過密化/立法不作為/裁量権の適正行使義務/違憲審査権/違憲審査対象/司法審査/代表制民主主義/条件付宣言的判決/人口較差/選挙事項法律主義/
参照条文: /憲.14条/憲.47条/憲.46条/
全 文 h160114supreme.html

最高裁判所 平成 16年 1月 14日 大法廷 判決 ( 平成15年(行ツ)第15号 )
事件名:  選挙無効請求・上告事件
要 旨
 公職選挙法の一部を改正する法律(平成12年法律第118号)による改正後の公職選挙法のうち参議院議員の選挙(非拘束名簿式比例代表選出)の仕組みに関する規定は憲法に違反するものではないとされた事例。
 1.国会は,その裁量により,衆議院議員及び参議院議員それぞれについて公正かつ効果的な代表を選出するという目標を実現するために適切な選挙制度の仕組みを決定することができるものであるから,国会が新たな選挙制度の仕組みを採用した場合には,その具体的に定めたところが,国会の裁量権を考慮しても,議員は全国民を代表するものでなければならないという制約や法の下の平等などの憲法上の要請に反するためその限界を超えており,これを是認することができない場合に,初めてこれが憲法に違反することになる。
 2.憲法は,政党について規定するところがないが,政党の存在を当然に予定しているものであり,政党は,議会制民主主義を支える不可欠の要素であって,国民の政治意思を形成する最も有力な媒体であるから,国会が,参議院議員の選挙制度の仕組みを決定するに当たり,政党の上記のような国政上の重要な役割にかんがみて,政党を媒体として国民の政治意思を国政に反映させる名簿式比例代表制を採用することは,その裁量の範囲に属することが明らかである
 2a.非拘束名簿式比例代表制の下において,参議院名簿登載者個人には投票したいが,その者の所属する参議院名簿届出政党等には投票したくないという投票意思が認められないことをもって,国民の選挙権を侵害し,憲法15条に違反するものとまでいうことはできない。
参照条文: /憲.15条/憲.43条/憲.47条/憲.99条/公選.86-3条/公選.46条/公選.95-3条/公選.251-2条/公選.251-4条/
全 文 h160114supreme2.html

東京地方裁判所 平成 16年 1月 13日 刑事第2部 判決 ( 平成14年刑(わ)第3618号 )
事件名:  わいせつ図画請求事件
要 旨
 漫画本が刑法175条にいう「わいせつ図画」に該当すると認められた事例。
 (刑法175条の保護法益)
 1.刑法175条が目的とする性的秩序や最少限度の性道徳,健全な性風俗の維持は,性犯罪の抑止や青少年の健全な育成,売春の防止等といった個々の具体的法益の保護を下支えする基礎的な法益である。
 1a.性的秩序や性道徳,性風俗が乱れることは,強姦,強制わいせつといった性犯罪を誘発し,青少年の健全な育成を阻害し,あるいは売春等が蔓延するなどして,その被害者や青少年等の様々な人権を具体的に侵害するおそれを誘発することは自明の理である。(犯罪データを用いて刑法175条の正当性が説明された事例)
 1b.刑法175条は,性的秩序や最少限度の性道徳,健全な性風俗の維持を保護法益としていると解されるのであり,わいせつ物を見たくない自由を保護法益とするものでも,各都道府県における青少年健全育成条例のように,青少年の健全育成を直接の保護法益とするものでもない。
 (漫画という手法を用いた性的表現)
 2.漫画という手法は,写真と同様に,性交,性戯場面を有姿(ありすがた)のまま表現し,読者の視覚に直接訴えることができるという点において,文字情報のみにとどまる文書と比べると,読者に与える性的刺激の程度をより強くすることも可能な描写手法である。
 2a.性器部分に網掛けしたり,白抜きにしたりすることでその部分の描写を隠すいわゆる「消し」と呼ばれる修正が施されている漫画本について,白抜きによる修正は,その程度が弱いため,当該部分に描かれた性器の形状をおおむね把握することができ,また,網掛けによる修正も,性器の中心部のごく限られた範囲に施されているのみで,しかも,網掛けが非常に薄く,ほとんど透けて見え,当該部分に描かれた性器の形状がほぼ完全に把握できるようになっているため,修正を施したことによる性的刺激の緩和はほとんど認められないとされた事例。 /見たくない自由/
参照条文: /憲.21条/刑.175条/
全 文 h160113tokyoD.html

東京地方裁判所 平成 15年 12月 26日 民事第47部 判決 ( 平成15年(ワ)第8356号 )
事件名:  損害賠償請求事件
要 旨
 「どこまでも行こう」の作曲者から歌詞及び楽曲の著作権を編曲権を含めて信託譲渡を受けた原告(金井音楽出版)が,被告(日本音楽著作権協会)に対して,原告の編曲権を侵害する「記念樹」の利用を他者に許諾したことにより原告に損害を与えたとして損害賠償を請求した場合に,著作権法28条の権利侵害の成立が認められた事例。
 1.著作権法27条は,著作物の経済的利用に関する権利とは別個に,二次的著作物を創作するための原著作物の転用行為自体,すなわち編曲行為自体を規制する権利として規定されたものと解される。
 2.著作権法28条の権利が移転したとは認められなかった事例。
 2a.著作権法28条の権利を専有する原告の許諾を得ることなく二次的著作物を利用した者は,原告の有する法28条の権利を侵害したものであり,この利用者に二次的著作物の利用を許諾した被告は,上記権利侵害を惹起したものというべきである。
 3.著作権管理団体である日本音楽著作権協会は,その目的や業務の性質上,自ら管理し著作物の利用者に利用を許諾する音楽著作物が他人の著作権を侵害することのないように,万全の注意を尽くす義務がある。
 3a.原曲(甲曲)の著作権を有する原告がその編曲(乙曲)を作成した者に対して著作権(編曲権)侵害を理由とする損害賠償請求訴訟(別件訴訟)を提起した以降については,編曲の著作権の管理を委託された被告は,乙曲が甲曲の著作権を侵害するものであるか否かについて慎重な検討をして著作権侵害の結果を回避すべき義務があるにもかかわらず,別件訴訟の控訴審判決前に関しては,利用者に対して,格別に注意喚起すら行っておらず,控訴審判決後も漫然と乙曲の利用許諾をし続けたのであるから,過失があったと判断された事例。
 4.歌曲「記念樹」は,作詞者と作曲者のいわゆる結合著作物であり,その楽曲(乙曲)についての著作権とは別個に,歌詞についての著作権が存在しているから,楽曲としての乙曲の相当対価額の算定上は,歌詞の著作物の利用の対価額を控除するのが相当であるとされた事例。
 4a.通信カラオケ送信に係る使用料相当額の算出のために平成15年3月期の送信回数を知る必要があるが,分配保留額しか明らかでない場合に,送信回数と分配保留額が明らかな平成12年12月期の数値から送信単価を計算して,これを基にして平成15年3月期の送信回数を算出した事例(平成15年の分配保留額を平成12年の送信単価で除して算出)。
 4b.音楽著作権の侵害を理由とする損害賠償請求訴訟において,損害の算定の基礎となる演奏回数を立証することが性質上極めて困難である場合に,演奏に係る分配保留額の合計は,カラオケ演奏に付随する通信カラオケ送信の回数インタラクティブ配信送信回数,被告が乙曲のカラオケ店における歌唱による利用実績が比較的大きかったことを自認していることその他口頭弁論の全趣旨及び証拠調べの結果を総合して,著作権法114条の4を適用し,演奏回数を1万2000回と認めた事例。 /知的財産権/無体財産権/著作権/JASRAC/
参照条文: /著作.27条/著作.28条/著作.114-4条/民訴.247条/民訴.248条/
全 文 h151226tokyoD.html

最高裁判所 平成 15年 12月 25日 第3小法廷 決定 ( 平成15年(許)第37号 )
事件名:  市町村長の処分不服申立審判に対する抗告棄却決定に対する許可抗告事件
要 旨
 1.戸籍法施行規則60条が,常用平易であることが社会通念上明らかな文字を子の名に用いることのできる文字として定めなかった場合には,戸籍法50条1項が許容していない文字使用の範囲の制限を加えたことになり,その限りにおいて,施行規則60条は,法による委任の趣旨を逸脱するものとして違法,無効と解すべきである。
 1a.「曽」の字は,社会通念上明らかに常用平易な文字である。
参照条文: /戸籍.50条/戸籍施行規.60条/
全 文 h151225supreme.html

最高裁判所 平成 15年 12月 22日 第1小法廷 判決 ( 平成13年(行ヒ)第96号 )
事件名:  不当労働行為救済命令取消請求上告受理申立て事件
要 旨
 国鉄改革法により旧国鉄の一部を承継したJR北海道およびJR貨物が国労組合員を差別的に採用しなかったことについて,JR北海道およびJR貨物は不当労働行為の責任を負うものではないとされた事例。
 (4月採用について)
 1.日本国有鉄道改革法は,専ら国鉄が採用候補者の選定及び採用候補者名簿の作成に当たり組合差別をしたという場合には,労働組合法7条の適用上,専ら国鉄,次いで事業団にその責任を負わせることとしたものと解さざるを得ず,設立委員ひいては承継法人が同条にいう「使用者」として不当労働行為の責任を負うものではない。(反対意見あり)
 (6月採用について)
 2.企業者は,経済活動の一環としてする契約締結の自由を有し,自己の営業のために労働者を雇用するに当たり,いかなる者を雇い入れるか,いかなる条件でこれを雇うかについて,法律その他による特別の制限がない限り,原則として自由にこれを決定することができるものであり,他方,企業者は,いったん労働者を雇い入れ,その者に雇用関係上の一定の地位を与えた後においては,その地位を一方的に奪うことにつき,雇入れの場合のような広い範囲の自由を有するものではない。(先例の確認)
 2a.雇入れの拒否は,それが従前の雇用契約関係における不利益な取扱いにほかならないとして不当労働行為の成立を肯定することができる場合に当たるなどの特段の事情がない限り,労働組合法7条1号本文にいう不利益な取扱いに当たらない。
 2b.JR北海道がその設立後に自らが採用の条件,人員等を決定して行った6月採用は,JR北海道が雇入れについて有する広い範囲の自由に基づいてした新規の採用というべきであって,6月採用における採用の拒否について上記特段の事情があるということはできず,したがって,6月採用における採用の拒否は,労働組合法7条1号本文にいう不利益な取扱いに当たらないとされた事例。(反対意見あり)
参照条文: /労組.7条/国鉄改革.21条/国鉄改革.22条/国鉄改革.23条/
全 文 h151222supreme.html

最高裁判所 平成 15年 12月 19日 第2小法廷 判決 ( 平成10年(行ツ)第149号 )
事件名:  第二次納税義務告知処分取消請求上告事件
要 旨
 手形による決済システムの難点を解消するために銀行が監督官庁の了解を得て開発した一括支払システムを構成する当座貸越契約の中で,顧客が債権を銀行に譲渡担保に供し,その残高を貸付限度額として銀行が当座貸越をすること,譲渡担保権者である銀行が第二次納税義務者とされることを避けるために,国税徴収法24条に基づく告知が発せられたときは,当座貸越債権は何らの手続を要せず弁済期が到来するものとし,同時に担保のため譲渡した債権は当座貸越債権の代物弁済に充てることなどを内容とする合意が含まれていた場合に,顧客に対して滞納処分をしても徴収できなかった租税債権について譲渡担保権者である銀行を第二次納税義務者とする告知がなされたため,銀行が前記合意を根拠に告知処分取消請求の訴えを提起したが,棄却された事例。
 1.譲渡担保権者が納税者との間で国税徴収法24条2項の告知書の発出の時点で譲渡担保権を実行することをあらかじめ合意することは,同条2項の手続が執られたことを契機に譲渡担保権が実行されたという関係があるときにはその財産がなお譲渡担保財産として存続するものとみなすこととする同条5項の適用を回避しようとするものであるから,この合意の効力を認めることはできない。
参照条文: /税徴.24条/
全 文 h151219supreme.html

最高裁判所 平成 15年 12月 18日 第1小法廷 判決 ( 平成12年(行ヒ)第16号 )
事件名:  公文書非公開処分取消請求上告受理申立事件
要 旨
 広島県公文書公開条例(平成2年広島県条例第1号)に基づき,広島県内に事務所を有する権利能力なき社団が条例所定の実施機関に対し,平成8年7月分の広島県東京事務所の食糧費(懇談会費)の支出に係る経費支出伺,支出負担行為整理書兼支出調書及び請求書の公開を請求したところ,その一部につき非公開処分を受けたので,同処分の取消しを求めた場合に,懇談会の相手方である国家公務員の氏名,所属名及び職名の記載部分に係る情報は開示すべきであるが,各省庁のOB並びに非公務員氏名,所属名及び職名の記載部分に係る情報については,条例9条2号の非公開情報に該当すると判断された事例。
 1.本件条例9条2号本文にいう「個人に関する情報」は,「事業を営む個人の当該事業に関する情報」が除外されている以外には文言上何ら限定されていないから,個人の思想,信条,健康状態,所得,学歴,家族構成,住所等の私事に関する情報に限定されるものではなく,個人にかかわりのある情報であれば,原則として上記「個人に関する情報」に当たると解するのが相当である。
 1a.本件条例においては,法人等を代表する者が職務として行う行為等当該法人等の行為そのものと評価される行為に関する情報については,専ら法人等に関する情報としての非公開事由が規定されていると解するのが相当である。(傍論)
 2.本件条例の目的,趣旨からすれば,国及び地方公共団体の公務員の職務の遂行に関する情報は,公務員個人の私事に関する情報が含まれる場合を除き,公務員個人が本件条例9条2号にいう「個人」に当たることを理由に同号の非公開情報に当たるとはいえないと解するのが相当である。 /食糧費/公情報公開/公文書開示/プライバシー/個人情報/
参照条文: /広島県公文書公開条例.9条/
全 文 h151218supreme.html

最高裁判所 平成 15年 12月 16日 第3小法廷 判決 ( 平成14年(オ)第545号、平成14年(受)第546号 )
事件名:  損害賠償請求上告事件
要 旨
 農業協同組合の理事がした投資信託の購入により組合が損害を被ったとして,この理事に対して,その退任後に,組合が監事ではなく代表理事を代表者として,損害賠償請求の訴えを提起し,組合の合併後に新組合が新代表理事を代表者として続行した訴訟が適法であるとされた事例。
 1.商法275条ノ4の前段の規定の趣旨,目的は,訴訟の相手方が同僚の取締役である場合には,会社の利益よりもその取締役の利益を優先させ,いわゆるなれ合い訴訟により会社の利益を害するおそれがあることから,これを防止することにある。
 1a.商法275条ノ4の前段の規定にいう取締役とは,訴え提起時において取締役の地位にある者をいうものであって,退任取締役は,これに含まれない。
 2.監査役は,商法275条ノ4の後段の規定の趣旨等により,退任取締役に対するその在職中の行為についての責任を追及する訴訟について会社を代表する権限を有する。
 2a.監査役が退任取締役に対する責任追及訴訟について会社を代表する権限を有することは,会社と退任取締役との間の訴訟についての会社の代表取締役の代表権を否定するものではない。
 3.以上の点は,商法275条ノ4の規定を準用する農業協同組合法39条2項の解釈においても同様であり,組合の代表理事は
参照条文: /商.275-4条/農業協同組合.39条2項/民訴.37条/
全 文 h151216supreme.html

最高裁判所 平成 15年 12月 11日 第1小法廷 判決 ( 平成12年(受)第485号 )
事件名:  保険金請求上告事件
要 旨
 生命保険の契約約款に保険金を請求する権利は,支払事由(被保険者の死亡)が生じた日の翌日からその日を含めて3年間請求がない場合には消滅する旨の定めがある場合でも,その生命保険の被保険者が行方不明になってから間もない時期に死亡し,それから3年半以上が経過してから白骨死体で発見されたときは,約款所定の支払事由が発生した時から遺体が発見されるまでの間は消滅時効は進行しないものと解すべきであり,その権利行使が現実に期待できるようになった日(遺体発見の日)以降において消滅時効が進行するとされた事例。
 1.生命保険の契約約款が保険金請求権の消滅時効の起算点を支払事由(被保険者の死亡)が生じた日の翌日と定めている場合でも,支払事由発生当時の客観的状況等に照らし,その時からの権利行使が現実に期待できないような特段の事情の存する場合についてまでも,支払事由発生の時をもって消滅時効の起算点とする趣旨ではなく,そのような特段の事情の存する場合には,その権利行使が現実に期待することができるようになった時以降において消滅時効が進行する趣旨と解すべきである。
参照条文: /民法:166条1項/商.663条/商.683条1項/
全 文 h151211supreme.html

最高裁判所 平成 15年 12月 11日 第1小法廷 判決 ( 平成15年(あ)第520号 )
事件名:  ストーカー行為等の規制等に関する法律違反被告事件(上告事件)
要 旨
 1.ストーカー規制法の目的の正当性,規制の内容の合理性,相当性にかんがみれば,同法2条1項,2項,13条1項は,憲法13条,21条1項に違反しない。
 2.ストーカー規制法2条2項にいう「反復して」の文言は,つきまとい等を行った期間,回数等に照らし,おのずから明らかとなるものであり,不明確であるとはいえないから,憲法13条,21条1項,31条の違反の問題は生じない。 /恋愛感情の表現の自由/好意感情の表現の自由/
参照条文: /憲.13条/憲.21条/ストーカー.2条/ストーカー.13条/
全 文 h151211supreme91.html

最高裁判所 平成 15年 12月 9日 第3小法廷 判決 ( 平成14年(受)第218号 )
事件名:  保険金請求上告事件
要 旨
 阪神・淡路大震災によって延焼しまたは拡大した火災により家財道具あるいは建物を失った原告らが,「火災保険は申し込みません」との記載のある地震保険不加入確認意思欄に押印していたため,保険会社から地震免責条項を援用された場合に,地震保険に関する情報提供の不十分を理由に精神的苦痛に対する慰謝料を請求したが,これを認容した原判決が破棄され,請求が棄却された事例。
 1.地震保険に加入するか否かについての意思決定は,生命,身体等の人格的利益に関するものではなく,財産的利益に関するものであることにかんがみると,この意思決定に関し,仮に保険会社側からの情報の提供や説明に何らかの不十分,不適切な点があったとしても,特段の事情が存しない限り,これをもって慰謝料請求権の発生を肯認し得る違法行為と評価することはできない。(特段の事情が存しないとされた事例)
参照条文: /民法:709条/民法:710条/民法:415条/
全 文 h151209supreme.html

東京高等裁判所 平成 15年 12月 4日 第16民事部 判決 ( 平成15年(ネ)第3614号 )
事件名:  保証債務、土地建物抵当権設定登記抹消登記請求控訴事件
要 旨
 再生債務者について再生手続開始決定及び管理命令が発せられた後に再生債権者が再生債務者に代位して他の再生債権者に対して提起した≪再生債権である被担保債権の不存在を理由とする抵当権設定登記抹消登記請求の訴え≫が、控訴審により却下された事例。
 1.債務者が再生手続開始決定及び管理命令を受けると、その財産の管理処分権は管財人に専属するから、その後に債権者は債務者を代位してその財産に関する訴訟を提起することはできないとされた事例。
 2.再生債権者が管理命令発令後に再生債務者に代位して提起した債権者代位訴訟について、控訴審が当事者適格の欠如のために不適法であると判断し、かつ、控訴審の段階で中断させて、再生手続廃止後の破産手続における破産管財人に引き継がせるのが相当であるというような特段の事情も認められないとして、ただちに却下した事例。 /民事再生/
参照条文: /民法:423条/民事再生法:66条;67条;40-2条/t11.破産法:69条/
全 文 h151204tokyoH.html

最高裁判所 平成 15年 11月 27日 第1小法廷 判決 ( 平成15年(オ)第129号,平成15年(受)第141号 )
事件名:  工作物収去土地明渡等請求上告事件
要 旨
 日米安全保障条約に基づき沖縄県に駐留するアメリカ軍が特別措置法に基づき土地収用法の使用裁決により私人の土地を賃借していたが,賃借期間満了前に再度の使用裁決の手続が完了しなかったため,賃借期間満了前に特別措置法が改正され,暫定使用を認める規定(特別措置法15条以下と経過措置を定める附則)が置かれた場合に,土地所有者が,暫定使用の根拠となる附則2項及び特別措置法15条が憲法29条,31条,39条及び41条に違反することを理由として暫定使用期間中の違法占有に係る損害賠償(慰謝料及びこれに対する遅延損害金),及び国会議員の違法な立法行為に係る損害賠償の支払等を求める訴えを提起したが,認められなかった事例。
 1.憲法29条3項は,補償の時期については何ら規定していないのであるから,補償が私人の財産の供与に先立ち又はこれと同時に履行されるべきことを保障するものではないと解すべきである。(先例の確認)
 1a.附則2項及び特措法15条の規定による暫定使用に伴う損失の補償に関係する規定が定める暫定使用及びこれに伴う損失の補償は,その補償の時期,内容等の面で何ら不合理な点はないから,憲法29条3項に違反しない。
 2.行政手続については,それが刑事手続ではないとの理由のみで,そのすべてが当然に憲法31条による保障の枠外にあると判断することは相当ではないが,同条による保障が及ぶと解すべき場合であっても,行政処分の相手方に事前の告知,弁解,防御の機会を与えるかどうかは,行政処分により制限を受ける権利利益の内容,性質,制限の程度,行政処分により達成しようとする公益の内容,程度,緊急性等を総合較量して決定されるべきものであって,常に必ずそのような機会を与えることを必要とするものではない。(先例の確認)
 2a.上記の法理は,行政処分による権利利益の制限の場合に限られるものではなく,広く行政手続における憲法31条の保障に関するものであって,その趣旨は,一定の要件に該当する場合には,新たな行政処分を介在させずに,当然に権利利益の制限が発生することを定めた規定と憲法31条の保障との関係においても,妥当する。
 2b.上記暫定使用の権原の発生を定めた上記各規定が憲法31条の法意に反するということはできない。
 3.附則の2項後段,3項から5項までの各規定は,特定の私人が所有の土地のみを適用対象とする個別的法律ではなく,法律としての一般性,抽象性を欠くものでないとして,これらの規定が憲法41条に違反する旨の主張が排斥された例。
 4.附則3項所定のの補償すべき損失の原因となる「当該土地等の使用」は,使用期間が満了し,占有権原を喪失した後の無権原占有期間中の使用であることにかんがみると,同項に基づく損失の補償は,無権原占有による損害(賃料相当損害金等)の賠償を対象としている。 /駐留軍用地特措法=日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約第六条に基づく施設及び区域並びに日本国における合衆国軍隊の地位に関する協定の実施に伴う土地等の使用等に関する特別措置法/
参照条文: /憲.29条/憲.31条/憲.39条/憲.41条/駐留軍用地特措法.15条/駐留軍用地特措法.附則2項/
全 文 h151127supreme.html

最高裁判所 平成 15年 11月 21日 第2小法廷 判決 ( 平成12年(行ヒ)第334号 )
事件名:  公文書非開示決定取消請求上告事件
要 旨
 富山県の住民が,旧富山県情報公開条例に基づき,富山県立山土木事務所等の職員全員の平成6年度の出勤簿等の開示を請求したところ,その全部を非開示とする旨の決定を受けたためその取消しを求めた事案において,「職」,「氏名」,「採用年月日」及び「退職年月日」,出勤及び出張に関する情報,職務専念義務が免除されているか否かに関する情報,欠勤に関する情報は,開示すべきであるが,停職に関する情報は,非開示情報に該当するとされた事例。
 1.本件条例の目的,趣旨からすれば,県の職員の公務遂行に関する情報は,職員個人の私事に関する情報が含まれる場合を除き,職員が条例10条2号の個人に当たることを理由に非開示情報に該当するということはできない。
 1a.出勤簿の記載のうち,「職」,「氏名」,「採用年月日」及び「退職年月日」の各欄の記載は,各日付欄の記載と結び付くことにより特定の個人を識別し得ることになるが,それ自体が職員の私事に関する情報を含むものでなく,非開示情報に該当しない公務遂行に関する情報と結び付いている以上,これを開示すべきである。
 1b.出勤及び出張に関する情報を開示することは,その反面として,それ以外の日に公務に従事しなかったこと自体を明らかにするとしても,公務に従事しなかった理由まで直ちに明らかになるわけではないから,私事に関する情報を開示することにはならない。
 1c.職務専念義務が免除されているか否かは,公務遂行に関する情報というべきであり,職務専念義務が免除された事由が厚生事業への参加であることが明らかになる場合であっても,その個別的内容までが明らかになるものでない以上,私事に関する情報とはいい難い。
 1d.欠勤は,正規の手続による承認を得ることなく公務に従事していないことを示すものであり,その記載自体は欠勤の具体的理由を表すものではないから,私事に関する情報とはいい難い。
 2.個々の職員の休暇の種別,その原因ないし内容や取得状況を示す情報は,公務とは直接かかわりのない事柄であって,私事に関する情報ということができる。
 3.停職は,地方公務員法29条に定める懲戒処分の一つであって,職員が懲戒処分を受けたことは,公務遂行等に関して非違行為があったということを示すにとどまらず,公務員の立場を離れた個人としての評価をも低下させる性質を有する情報というべきであるから,私事に関する情報の面を含むものということができ,したがって,停職に関する情報は,本件条例10条2号の定める非開示情報に該当する。 /個人情報保護/
参照条文: /富山県情報公開条例./
全 文 h151121supreme2.html

東京地方裁判所 平成 15年 11月 17日 民事第7部 判決 ( 平成15年(手ワ)第168号,同第169号,同第180号 )
事件名:  各約束手形金請求事件
要 旨
 高利金融業者(商工ローン会社)が支配人を代理人として水戸地裁で私製手形に基づく手形訴訟を提起し,それが東京地裁に移送され,東京地裁が手形訴訟制度の濫用・支配人制度の悪用を理由に不適法な訴えであるとして却下した事例。
 1.商工ローン会社が主債務者及び連帯保証人をして私製手形を振出させているのは,手形訴訟により,原因関係に基づく抗弁を封じ,かつ,簡易・迅速に債務名義を取得して,同人らに対して強制執行手続をし,又は,同手続をすることを示して圧力をかけて金銭の取立てをすることを目的としているものであり,その私製手形に基づく手形訴訟は,手形制度及び手形訴訟制度を濫用(悪用)した不適法なものであるとして,訴えが却下された事例。
 2.商工ローン会社が,もっぱら手形金請求等の訴訟・仮差押手続を担当させるために,本店及び全国に約50店ある各支店ごとに,その従業員を支配人として登記し,支配人をして訴訟を担当させ,訴訟数に応じて同一支店に複数の支配人を選任することが多く,かつ,その入れ替わりが激しく,支配人としての在任期間も短い者が多い場合について,裁判所が,その登記された支配人を商法38条1項所定の営業主に代わってその営業に関する一切の裁判上又は裁判外の行為をする権限を有する支配人に当たると認めることはできないとして,その者により提起された訴えを無権限者が提起した不適法なものと判断した事例。
 2a.商工ローン会社が従前大量の手形訴訟を提起してきたのは,権限のない従業員を支配人として登記することによって初めて可能であったのであり,原告のこのような支配人の利用は,支配人制度の濫用(悪用)で,違法性が重大であるとして,正当な権限を有する訴訟代理人又は代表者本人による訴訟行為の追認を許すべきではないとされた事例。
 3.手形訴訟制度と支配人制度を濫用して手形訴訟を多数提起する商工ローン会社が,この点を判断する判決が下されることを回避するために,そのような判決が出されそうなときには訴えの取下げや和解を繰り返していた旨が指摘される事案において,弁護士たる訴訟代理人が口頭弁論終結後に訴え取下げの書面を提出したところ,裁判所が,訴訟委任状に委任者として記載されている者が会社の代表者ではなく支配人であることを指摘して,訴え取下げを無効と判断し,訴え却下判決を下した事例。(被告が訴え却下の答弁をしているため,訴え取下げに被告の同意が必要ない事例について)
 4.ある商工ローン会社が,平成14年11月に,東京地方裁判所から,その商工ローン会社の私製手形による手形訴訟は手形制度・手形訴訟制度・支配人制度を濫用する不適法なものであると考えられるので,同訴訟を控えるように指摘され,今後私製手形による手形訴訟は提起しない(訴訟提起する場合には,本来の貸金請求,保証債務履行請求による)旨の回答をしたにもかかわらず,平成15年5月ころ以降,東京地裁を除く全国各地の裁判所に私製手形による手形訴訟を提起している場合に,他の裁判所から移送を受けた東京地裁が私製手形訴訟を却下する判決中で,原告のこのような行動は「極めて遺憾である」との意見を表明した事例。 /訴訟要件/
参照条文: /民訴.350条/民訴.352条/民訴.259条2項/民訴.261条/民訴.2編1章/民訴.54条/商.38条/
全 文 h151117tokyoD.html

最高裁判所 平成 15年 11月 14日 第2小法廷 判決 ( 平成14年(行ヒ)第36号,第37号 )
事件名:  差止め請求等住民訴訟上告事件
要 旨
 三重県が津市所有の土地上に県立高等学校を設置して土地を不法に占有しており,津市は,これにより使用料相当の損害を被り不法行為による損害賠償請求権を有しているにもかかわらず,その行使を違法に怠っているとして,津市の住民が,地方自治法(平成14年法律第4号による改正前のもの)242条の2第1項4号に基づき,津市に代位して,怠る事実に係る相手方である三重県に対し,損害賠償を請求するほか,同項3号に基づき,津市長に対し,津市長が三重県に対して損害賠償を請求しないことが違法であることの確認を請求したが,棄却された事件。
 1.津市が,三重県に県立高等学校を設置してもらうため,三重県に対し,その敷地として土地を提供し,将来これを寄付することを予定し,三重県もこのことを前提として県立高等学校を建設するに至り,これを前提にして津市長と三重県との間で土地使用管理委譲書が授受されたという場合には,これに基づく三重県による土地の使用は,無償であることが当然の前提とされていたというべきであり,津市と三重県との間で土地使用管理委譲書が授受されたことをもって,三重県が土地を高等学校の敷地として無償で使用することを内容とする土地使用貸借契約が締結されたものと解するのが相当であるとされた事例。 /意思表示の解釈/住民訴訟/
参照条文: /民法:593条/地自.242-2条/
全 文 h151114supreme.html

最高裁判所 平成 15年 11月 13日 第1小法廷 決定 ( 平成15年(許)第21号 )
事件名:  遺産分割審判等に対する抗告却下決定に対する許可抗告事件
要 旨
 遺産の分割及び寄与分を定める申立てについての審判に対する即時抗告の追完が認められた事例。
 1.遺産分割申立てについての審判に対する即時抗告期間は,審判の告知の日が各相続人ごとに異なる場合でも,各相続人が審判の告知を受けた日から進行する。
 1a.寄与分を定める審判に対する即時抗告(家事審判規則103条の5)についても,遺産分割審判に対する即時抗告の場合と同様に解すべきである。
 2.抗告人が自己への告知の日から2週間経過後に即時抗告を提起したときであっても,即時抗告期間に関して先例となるべき最高裁判例がなく,家庭裁判所における実務においては,告知を受けた日のうち最も遅い日から全員について一律に進行すると解する見解及びこれに基づく取扱いも相当広く行われていて,抗告人が審判の告知の日がいつであるかを家庭裁判所に問い合わせた際に,裁判所書記官が,特定の日に相続人全員に対する告知が完了した旨の上記の実務上の取扱いを前提とする趣旨の回答をし,抗告人がこの回答に基づき,その日から2週間以内に即時抗告をしたという事情がある場合は,抗告人は,その責めに帰することのできない事由により即時抗告期間を遵守することができなかったものと認めるのが相当である。(訴訟行為の追完)
参照条文: /民訴.97条/家審.14条/家審規.17条/家審規.111条/家審規.103-5条/
全 文 h151113supreme.html

広島高等裁判所 平成 15年 11月 12日 第3部 判決 ( 平成15年(ネ)第282号 )
事件名:  損害賠償請求控訴事件
要 旨
 信号機のある交差点に交差進入した2つの自動車の衝突事故において,加害車両の運行供用者が自賠法3条但書き所定の免責事由として,被害車両が赤信号を無視して交差点に進入したと主張したが,その事実を認める足りる証拠はないとされ,賠償請求が認容された事例。
 1.交差点における車両衝突事故を起こした加害車両が急ブレーキをかける直前の速度について,タコグラフ解析の結果から時速60キロメートルであるとする判定結果から提出され,また,加害車両の運転手が「急ブレーキをかけたときの速度は時速約70キロメートルである」と供述したが,衝突時までのブレーキ痕の長さ及び衝突してから停止するまでの移動距離から判断して,いずれも採用できないとされた事例。
 2.事故発生交差点に加害車両が進入した当時の信号機が赤色であったか否かが問題となり,加害車両の運転手が,事故発生交差点の約200メートル手前にある交差点の信号機について,そこに至る下り坂で「赤・左折青の信号を認め減速したが,青に変わったので加速した」と陳述したが,タコグラフの記録に加速の形跡がないので信用できないとされ,両交差点の信号機の連動サイクルから判断して,加害車両が事故発生交差点に進入した当時にその対面信号が青であったと認めることはできないとされ,したがってまた,他の資料を考慮しても,被害車両が赤信号で進入したと認める証拠はないとされた事例。
 3.(過失相殺の原因としての過失)
 信号機の設置されている交差点における直進車相互の衝突事故においては,青色信号で進入した運転者には特段の事情のない限り過失はないとするのが相当である。 /事実認定/自由心証主義/
参照条文: /自賠.3条/民法:722条2項/民訴.247条/
全 文 h151112hiroshimaH.html

最高裁判所 平成 15年 11月 11日 第3小法廷 判決 ( 平成10年(行ヒ)第54号 )
事件名:  公文書非公開決定処分取消請求上告事件
要 旨
 1.大阪市公文書公開条例(昭和63年大阪市条例第11号)6条2号は,「個人に関する情報(事業を営む個人の当該事業に関する情報を除く。)」であって,特定の個人が識別され,又は識別され得るものについては,同号ただし書所定の除外事由に当たるものを除き,これが記録されている公文書を公開しないことができると規定しているるところ,同号にいう「個人に関する情報」については,「事業を営む個人の当該事業に関する情報」が除外されている以外には文言上何ら限定されていないから,個人の思想,信条,健康状態,所得,学歴,家族構成,住所等の私事に関する情報に限定されるものではなく,個人にかかわりのある情報であれば,原則として同号にいう「個人に関する情報」に当たると解するのが相当である。
 1a.法人その他の団体の従業員が職務として行った行為に関する情報は,職務の遂行に関する情報ではあっても,当該行為者個人にとっては自己の社会的活動としての側面を有し,個人にかかわりのあるものであることは否定することができないから,上記の職務の遂行に関する情報も,原則として,同号にいう「個人に関する情報」に含まれる。
 2.法人等を代表する者が職務として行う行為等当該法人等の行為そのものと評価される行為に関する情報については,専ら法人等に関する情報としての非公開事由が規定されているものと解するのが相当であり,このような情報は,同条2号の非公開情報に当たらないと解すべきであり,これには,法人等の代表者又はこれに準ずる地位にある者が当該法人等の職務として行う行為に関する情報のほか,その他の者の行為に関する情報であっても,権限に基づいて当該法人等のために行う契約の締結等に関する情報が含まれると解するのが相当である。
 3.国及び地方公共団体の公務員の職務の遂行に関する情報は,公務員個人の私事に関する情報が含まれる場合を除き,公務員個人が同条2号にいう「個人」に当たることを理由に同号の非公開情報に当たるとはいえないものと解するのが相当である。
 4.公文書非公開決定処分取消請求訴訟の第一審係属中に非公開決定処分の一部が取り消された場合には,その部分に関して訴えの利益は消滅する。
 4a.前記部分について第一審が本案判決をし,控訴によりこの部分を含めて事件全体が控訴審に移審した場合には,訴えの利益の消長は職権調査事項であるから,控訴審は,民訴法304条にかかわらず,同部分につき職権で第一審判決を取り消して訴えを却下すべきである。 /公文書公開/公情報開示/プライバシー/個人情報/食糧費/
参照条文: /大阪市公文書公開条例.6条/
全 文 h151111supreme3.html

最高裁判所 平成 15年 11月 11日 第3小法廷 判決 ( 平成14年(受)第1257号 )
事件名:  損害賠償請求・上告事件
要 旨
 1.転送義務が肯定された事例
 
 医師が患者を診療中に,点滴を開始したものの,患者のおう吐の症状が治まらず,患者に軽度の意識障害等を疑わせる言動があり,これに不安を覚えた母親から診察を求められた時点で,医師は、直ちに患者を診断した上で,患者の一連の症状からうかがわれる急性脳症等を含む重大で緊急性のある病気に対しても適切に対処し得る,高度な医療機器による精密検査及び入院加療等が可能な医療機関へ患者を転送し,適切な治療を受けさせるべき義務があったとされた事例。
 2.医師が過失により医療水準にかなった医療を行わなかった場合には,その医療行為と患者の死亡との間の因果関係の存在は証明されないが,上記医療が行われていたならば患者がその死亡の時点においてなお生存していた相当程度の可能性の存在が証明される場合には,医師は,患者が上記可能性を侵害されたことによって被った損害を賠償すべき不法行為責任を負う。(先例の確認)
 2a.患者の診療に当たった医師が,過失により患者を適時に適切な医療機関へ転送すべき義務を怠った場合において,その転送義務に違反した行為と患者の上記重大な後遺症の残存との間の因果関係の存在は証明されなくとも,適時に適切な医療機関への転送が行われ,同医療機関において適切な検査,治療等の医療行為を受けていたならば,患者に重大な後遺症が残らなかった相当程度の可能性の存在が証明されるときは,医師は,患者が上記可能性を侵害されたことによって被った損害を賠償すべき不法行為責任を負う。(先例の適用範囲の拡大)
 2b.重大な後遺症が残らなかった相当程度の可能性の存否については,本来,転送すべき時点における患者の具体的な症状に即して,転送先の病院で適切な検査,治療を受けた場合の可能性の程度を検討すべきものである。(統計データを用いて相当の可能性の存在を否定した原判決を破棄)
 2c.急性脳症の予後に関する昭和51年の統計では,生存者中,その63%には中枢神経後遺症が残ったが,残りの37%(死亡者を含めた全体の約23%)には中枢神経後遺症が残らなかったこと,昭和62年の統計では,完全回復をした者が全体の22.2%であり,残りの77.8%の数値の中には,原告患者のような重大な後遺症が残らなかった軽症の者も含まれていると考えられることは,重大な後遺症が残らなかった相当程度の可能性が存在することをうかがわせる事情というべきである。
参照条文: /民法:709条/
全 文 h151111supreme.html

最高裁判所 平成 15年 11月 11日 第3小法廷 判決 ( 平成10年(行ツ)第167号 )
事件名:  公文書非公開決定取消請求・上告事件
要 旨
 1.千葉県公文書公開条例(昭和63年千葉県条例第3号)11条2号にいう「個人に関する情報」については,「事業を営む個人の当該事業に関する情報」が除外されている以外には文言上何ら限定されていないから,個人の思想,信条,健康状態,所得,学歴,家族構成,住所等の私事に関する情報に限定されるものではなく,個人にかかわりのある情報であれば,原則として同号にいう「個人に関する情報」に当たる。
 1a.公務員の職務の遂行に関する情報は,公務員個人の私事に関する情報が含まれる場合を除き,公務員個人が非公開情報を定める規定にいう「個人」に当たることを理由に非公開情報に当たるとはいえない。
 2.校長の校外出張に係る旅行命令票は,県の公務員の職務の遂行に関する情報が記録された公文書であるから,これらに記録されている情報は,校長の私事に関する情報を含まない場合には,本件条例11条2号の非公開情報に当たらない。
 2a.校長の校外出張に係る旅行命令及び旅費請求のために作成された公文書の記載欄のうち「給料表の種類」欄及び「級・号給」欄に記録されている情報は,旅行命令や旅費請求の内容を成すものではなく,旅費請求における旅費の算定の前提とするためのものであり,「氏名」欄に記載された同校長の氏名と一体として同校長の私事に関する情報そのものを成すものであるから,千葉県公文書公開条例11条2号の非公開情報に当たるものというべきであるが,その余の情報は,いずれも同校長の私事に関する情報を含まないから,同号の非公開情報に当たらないものというべきであるとされた事例。 /個人に関する情報/私事に関する情報/ /公務員の職務の遂行/公務員個人の社会的活動/
参照条文: /千葉県公文書公開条例:11条2号/
全 文 h151111supreme2.html

最高裁判所 平成 15年 11月 11日 第3小法廷 決定 ( 平成15年(許)第23号 )
事件名:  売却許可決定に対する執行抗告棄却決定に対する許可抗告事件
要 旨
 1.不動産競売の入札の手続においては,入札書の入札価額欄の記載に不備があり,同欄の記載内容からみて,入札価額が一義的に明確であると認められないときは,そのこと自体により,その入札書による入札は無効と解するのが相当である。
 1a.位ごとに区切られた入札価額欄の枠内に各位の数字を記載するものとされている入札書において,入札価額欄の千万から十までの各位には数字が記載されているものの,一の位には,何も記載がされておらず,空白のままである場合には,入札価額が一義的に明確であると認めることはできないので,一の位にいかなる数字を入れたにせよ他の入札書の入札価額より高額になるとしても,その入札は無効と解すべきである。 /関連事項/売却許可決定に対する執行抗告/
参照条文: /民執規.38条2項4号/民執規.49条/民執規.173条1項/民執.64条/民執.188条/
全 文 h151111supreme5.html

最高裁判所 平成 15年 11月 7日 第2小法廷 判決 ( 平成14年(受)第458号 )
事件名:  損害賠償請求上告事件
要 旨
 金融機関の従業員が購入を勧誘し購入資金を融資した土地について,前面道路が私道であり接道要件を欠き建築確認を得ることができないため,買主が金融機関に対して従業員の説明義務違反による不法行為を理由として民法715条による損害賠償を請求した場合に,土地の購入当時の前面道路の所有者は売主であり,接道要件を満たすために必要な道路の位置指定につき売主の協力を求めることができたはずであるから,その当時において建物の建築について法的な支障の生ずる可能性が乏しかったこと,接道要件について説明義務を負うのは売主側の仲介業者(前面道路の現在の所有者)であることなどを考慮して,金融機関の従業員に不法行為を構成する義務違反はなかったとされた事例。
参照条文: /民法:709条/宅建業.35条1項/
全 文 h151107supreme.html

最高裁判所 平成 15年 11月 4日 第2小法廷 決定 ( 平成12年(あ)第1345号 )
事件名:  覚せい剤取締法違反被告事件(上告事件)
要 旨
 1.被告人が,普段,とび口を自己が使用する普通乗用自動車の助手席足元の床上に置き,覚せい剤をセカンドバッグに入れて持ち歩いていた場合に,警察官から職務質問を受け,各所持が発覚する際に,覚せい剤の入ったセカンドバックを助手席シート上に置いたとしても,上記の携帯及び所持は,刑法54条1項前段の「1個の行為」と評価することはできないとされた事例。
 1a.上記の場合に,とび口を隠して携帯した罪と覚せい剤の所持罪とが併合罪の関係にあるとされた事例。 /覚醒剤/
参照条文: /刑.54条1項/軽犯.1条2号/
全 文 h151104supreme91.html

最高裁判所 平成 15年 10月 31日 第2小法廷 判決 ( 平成12年(受)第1589号 )
事件名:  抵当権設定登記抹消登記手続請求上告事件
要 旨
 取得時効の援用により占有開始時にさかのぼって土地を原始取得し,その旨の登記を有している者は,時効完成後に抵当権設定登記を得た者に対して,抵当権設定登記の時から10年間占有を継続した場合でも,起算点を後の時点にずらせて,再度,取得時効の完成を主張し,抵当権の消滅を主張することはできない。
参照条文: /民法:144条/民法:162条/民法:177条/
全 文 h151031supreme.html

最高裁判所 平成 15年 10月 31日 第2小法廷 判決 ( 平成14年(行ヒ)第200号 )
事件名:  特許取消決定取消請求上告事件
要 旨
 1.特許を取り消すべき旨の決定の取消請求を棄却した原判決に対して上告又は上告受理の申立てがされ,上告審係属中に特許出願の願書に添付された明細書を訂正すべき旨の審決が確定し,特許請求の範囲が減縮された場合には,原判決の基礎となった行政処分が後の行政処分により変更されたものとして,原判決には民訴法338条1項8号に規定する再審の事由があり,上告審は,民訴法325条2項により原判決を破棄することができる。
参照条文: /民訴.338条1項8号/民訴.325条2項/
全 文 h151031supreme51.html

東京高等裁判所 平成 15年 10月 29日 第3民事部 判決 ( 平成15年(行ケ)第192号 )
事件名:  審決取消請求事件
要 旨
 食品会社であるキユーピー株式会社とその子会社である株式会社キユーソー流通システム(旧商号・株式会社キユーピー流通システム)と,昭和48年に設立され,引越運送業務等を主たる目的とし,昭和53年ころから現在までキューピー人形が手荷物を持って自動車のタイヤ様の物の上を歩く図柄の商標を使用している荒牧運輸株式会社との間で,平成4年4月6日に登録出願され,同9年1月31日に設定登録された前記商標の登録の有効性が争われ,これを無効とする審決に対して荒牧運輸株式会社が提起した審決取消請求が認容された事例。
 1.商標法4条1項15号にいう「他人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるおそれがある商標」には,当該商標をその指定商品又は指定役務に使用したときに,当該商品又は役務が他人の業務に係る商品又は役務であると誤信されるおそれがある商標のみならず,当該商品又は役務が上記他人との間にいわゆる親子会社や系列会社等の緊密な営業上の関係又は同一の表示による商品化事業を営むグループに属する関係にある営業主の業務に係る商品又は役務であると誤信されるおそれがある商標を含む。(先例の確認)
 1a.「混同を生ずるおそれ」の有無は,当該商標と他人の表示との類似性の程度,他人の表示の周知著名性及び独創性の程度や,当該商品の指定商品又は指定役務と他人の業務に係る商品又は役務との間の性質,用途又は目的における関連性の程度並びに商品又は役務の取引者及び需要者の共通性その他取引の実情などに照らし,当該商標の指定商品又は指定役務の取引者及び需要者において普通に払われる注意力を基準として,総合的に判断されるべきものである。(先例の確認)
 2.食品会社であるキユーピー株式会社のキユーピー人形の図柄からなる商標が,引越運送業務を含む「貨物自動車による輸送」の分野における一般の取引者・需要者の間において,当会社自身又はその関連会社を示すものとして広く知られているものと認めることはできないと認定された事例。
 3.被告が「キューピー人形」及び「キューピー」の語は被告会社らと関連づけられて一般に広く知られているものであることを立証する趣旨で平成12年7月に一般需要者を対象として行い,証拠として提出した調査結果が,本件商標の登録出願時及び登録査定時における「貨物自動車による輸送」の分野に属する取引者・需要者を対象とした調査でないと指摘された上に,さらに,「本件商標を使用する「キューピー引越センター」はキューピーマヨネーズと関連のある会社だと思うか」という明らかな誘導質問に対してさえ,関連性があると認識してはいない者が4割以上もいることが示されており,また他の質問項目の回答結果から,「貨物自動車による輸送」の1分野である引越運送業務において,「キューピー人形」の特徴を備えた本件商標や「キューピー」の語を含む商標の持つ顧客吸引力がそれほど高いものではないことが示されているとして,挙証者に不利に評価された事例。(自由心証主義) /知的財産権/無体財産権/工業所有権/商標権/
参照条文: /商標.4条1項15号/商標.3条/民訴.247条/
全 文 h151029tokyoH51.html

最高裁判所 平成 15年 10月 28日 第3小法廷 判決 ( 平成13年(行ヒ)第83号,84号 )
事件名:  公文書非公開決定処分取消請求上告事件
要 旨
 千葉県公文書公開条例(昭和63年千葉県条例第3号)に基づく知事交際費に係る公文書の公開が請求され,交際の相手方の氏名ならびに金額に係る情報が非公開の要件を充足するかが問題となった場合に,御祝い,激励金,香典・仏前,見舞い,賛助,懇談費及び会費に関するこれらの情報は非公開情報に該当し,新聞・雑誌・機関誌等の購読料も非公開情報に該当するが,葬儀の際の生花については,相手方の氏名も金額も非公開情報に該当しないとされた事例。
 1.千葉県公文書公開条例の趣旨,制定経緯等に照らせば,「個人に関する情報(事業を営む個人の当該事業に関する情報を除く。)であって特定個人が識別され,又は識別され得るもの」を非公開情報とする11条2号の例外を定める同号但書きにおける「ロ
 実施機関が作成し,又は収受した情報で,公表を目的としているもの」とは,公表することを直接の目的として作成し,又は収受された情報に限られるものではなく,公表することがもともと予定されているものを含むと解するのが相当であり,交際の相手方及び内容が不特定の者に知られ得る状態でされる交際に関するものについては,同号ただし書ロにより同号に該当しないというべきである。
 1a.葬儀又は通夜に際して贈られる生花は,知事の名を付して一般参列者の目に触れる場所に飾られるのが通例であり,これらの生花贈呈の事実及びその内容は不特定の者に知られ得るものであったということができるから,条例11条2号及び8号のいずれにも該当しないとされた事例。 /公情報公開/
参照条文: /千葉県公文書公開条例.11条/
全 文 h151028supreme.html

最高裁判所 平成 15年 10月 28日 第3小法廷 判決 ( 平成14年(あ)第827号 )
事件名:  麻薬及び向精神薬取締法違反,関税法違反被告事件 (上告事件)
要 旨
 薬物犯罪を遂行するために共犯者から受領した往復航空券の使用済み往路航空券分の価額を追徴したことが違法であるとして,第1審判決中の追徴部分が破棄された事例。
 1.麻薬特例法2条3項において薬物犯罪収益とされる「薬物犯罪の犯罪行為により得た財産」とは,薬物犯罪の構成要件に該当する行為自体によって犯人が取得した財産をいう。(先例の確認)
 2.薬物犯罪の犯罪行為を遂行するために費消した上,その残額を同行為の報酬として取得することとして,共犯者から交付を受けて犯人が所有する金員については,裁判所は,麻薬特例法2条3項及び刑法19条1項2号により,その全額を没収することが可能である。
 2a.共犯者から犯罪行為の遂行のために渡された往復航空券のうち未使用の復路航空券が没収された事例。
参照条文: /麻薬特例.2条3項/刑.19条1項2号/
全 文 h151028supreme91.html

最高裁判所 平成 15年 10月 23日 第1小法廷 判決 ( 平成14年(受)第852号 )
事件名:  建物賃料改定等請求本訴,収入保証額確認等請求反訴上告事件
要 旨
 不動産賃貸業等を営む会社が,土地所有者の建築したビルにおいて転貸事業を行うことを目的として,土地所有者に一定期間の賃料保証を約し,土地所有者がこの賃料保証等を前提とする収支予測の下に多額の銀行融資を受けてビルを建築した場合に,その建物に関して所有者と不動産賃貸業者との間で締結された契約(サブリース契約)が,借地借家法の締結される建物賃貸借契約であると認定され,契約中の賃料保証特約の存在は借地借家法32条の賃料増減額請求権の行使を妨げるものではないとされた事例。
 1.借地借家法32条1項の規定は,強行法規であって,賃料保証特約によってその適用を排除することができないものである。(先例の確認)
 1a.賃貸借契約中に転貸借承継合意が存することによって,賃貸人が解約の自由を有するということはできないし,仮に賃貸人が解約の自由を有するとしても,賃借人の賃料減額請求権の行使が排斥されるということもできない。(控訴審の判断の否定)
 1b.賃料減額請求の当否や相当賃料額を判断するに当たっては,賃貸借契約の当事者が賃料額決定の要素とした事情を総合考慮すべきであり,賃料保証特約が存在する場合には,その存在や保証賃料額が決定された事情をも考慮すべきである。
 2.賃料保証特約は借地借家法32条の賃料減額請求を排除するものではないから,賃料保証の期間及び額を確認しても,同期間中の賃料の具体的な額が確定するわけではなく,賃料についての被上告人の不安や危険が除去されることにも,当事者間の紛争を抜本的に解決することにもならないから,賃貸借契約中の賃料保証特約に基づき一定期間における保証賃料額の確認を求める訴えは,確認の利益を欠く。 /訴訟要件/訴えの利益/賃料増減請求権/
参照条文: /借地借家.32条/借地借家.37条/民訴.140条/
全 文 h151023supreme.html

大阪地方裁判所 平成 15年 10月 23日 第21民事部 判決 ( 平成14年(ワ)第8848号 )
事件名:  損害賠償等請求事件
要 旨
 コンピュータプログラムの講習を行う会社がソフトウエアメーカー(アドビ,クォーク,マイクロソフト)のプログラムを複数のコンピュータに無許諾で複製して使用していた場合に,会社とその代表取締役の双方に対する損害賠償請求が認容された事例。
 1.コンピュータプログラムの違法複製の証拠保全手続において被告が検証の開始を30分遅らせる等の非協力的態度をとったのみならず,証拠隠滅を疑わせる行動をとったため,違法複製が直接確認されたコンピュータについてのみならず,その痕跡のあるコンピュータについても違法複製がなされたものと推認された事例。(自由心証主義/事実認定)
 1a.複数のコンピュータに存在したプログラムの複製の痕跡が正当なインストールとアンインストールを繰り返した結果生じたものであるとの弁解が認められなかった事例。
 1b.コンピュータプログラムのパッケージや取扱説明書の存在をもってマスターディスクの存在を推認することはできないとされた事例。
 2.コンピュータプログラムを違法に複製して使用した者に対して著作権者が著作権法114条2項により請求できる「著作権の行使につき受けるべき金銭の額に相当する額」が,プログラムの正規品購入価格(標準小売価格)と同額であると認めるのが相当であるとされた事例。
 2a.著作権法114条の4あるいは民訴法248条による相当の損害額の認定を行うべき場合ではないとされた事例。
 3.プログラムの違法複製により既に生じた損害賠償請求権は,違法複製者がその後に正規品を購入しても,消滅しない。
 4.コンピュータプログラムの講習を業とする会社について,その代表取締役は,その職務上,自己又は会社従業員をして,プログラムの著作物の違法複製を行わないように注意すべき義務があるとされた事例。
 4a.代表取締役が,自己又は会社従業員をしてプログラムの著作物の違法複製を行わないように注意すべき義務を怠り,自ら違法複製を行ったか又は会社従業員がこれを行うのを漫然と放置していたから,代表取締役に少なくとも重過失があったと認定され,損害賠償責任が肯定された事例。
 5.請求のほぼ半分が認容されたにもかかわらず,原告の訴訟活動に訴訟を遅滞させる行動があったとして,原告に訴訟費用の7割の負担が命じられた事例。(不熱心訴訟追行) /知的財産権/無体財産権/著作権/ソフトウエア/ヘルプデスク/
参照条文: /著作.114条2項/著作.21条/著作.47-2条/著作.114-4条/民訴.248条/民訴.63条/民訴.247条/民法:709条/商.266-3条/民訴.234条/
全 文 h151023osakaD.html

最高裁判所 平成 15年 10月 21日 第3小法廷 判決 ( 平成12年(受)第573号,574号 )
事件名:  敷金本訴請求,賃料相当額確認反訴請求上告事件
要 旨
 大手不動産会社が土地所有者(会社)の建築する建物で転貸事業を行うために,賃貸期間,当初賃料及び賃料の改定等についての協議を調え,その協議の結果を前提とした収支予測の下に,土地所有者が転貸事業者から建築資金として約50億円の敷金の預託を受けるとともに,金融機関から約180億円の融資を受けて,所有地上に建物を建築することを内容とするサブリース契約が,借地借家法の適用される建物賃貸借契約であると認定され,契約中の賃料自動増額特約の存在は借地借家法32条の賃料増減額請求権の行使を妨げるものではないとされた事例。
 1.借地借家法32条1項の規定は,強行法規であって,賃料自動増額特約によってもその適用を排除することができない。(先例の確認)
 1a.建物賃貸借契約が賃借人の転貸事業の一部を構成し,賃貸借契約における賃料額及び本件賃料自動増額特約等に係る約定が賃貸人の多額の資本投下の前提となって,契約の重要な要素となっている場合には,これらの事情は,衡平の見地に照らし,借地借家法32条1項の規定に基づく賃料減額請求の当否(同項所定の賃料増減額請求権行使の要件充足の有無)及び相当賃料額を判断する際に,重要な事情として十分に考慮されるべきである。 /賃料増減請求権/
参照条文: /借地借家.32条/借地借家.37条/
全 文 h151021supreme2.html

最高裁判所 平成 15年 10月 21日 第3小法廷 判決 ( 平成12年(受)第123号 )
事件名:  建物賃料改定請求上告事件
要 旨
 大手不動産会社が土地所有者(会社)の建築する建物で転貸事業を行うために,賃貸期間,当初賃料及び賃料の改定等についての協議を調え,その協議の結果を前提とした収支予測の下に,土地所有者が転貸事業者から建築資金として約50億円の敷金の預託を受けるとともに,金融機関から約180億円の融資を受けて,所有地上に建物を建築することを内容とするサブリース契約が,借地借家法の締結される建物賃貸借契約であると認定され,契約中の賃料自動増額特約の存在は借地借家法32条の賃料増減額請求権の行使を妨げるものではないとされた事例。
 1.借地借家法32条1項の規定は,強行法規であって,賃料自動増額特約によってもその適用を排除することができない。(先例の確認)
 1a.建物賃貸借契約が賃借人の転貸事業の一部を構成し,賃貸借契約における賃料額及び本件賃料自動増額特約等に係る約定が賃貸人の多額の資本投下の前提となており,契約の重要な要素となっている場合には,これらの事情は,衡平の見地に照らし,借地借家法32条1項の規定に基づく賃料減額請求の当否(同項所定の賃料増減額請求権行使の要件充足の有無)及び相当賃料額を判断する場合に,重要な事情として十分に考慮されるべきである。
 2.借地借家法32条1項の規定に基づく賃料増減額請求権は,賃貸借契約に基づく建物の使用収益が開始された後において,賃料の額が,同項所定の経済事情の変動等により,又は近傍同種の建物の賃料の額に比較して不相当となったときに,将来に向かって賃料額の増減を求めるものと解されるから,賃貸借契約の当事者は,契約に基づく使用収益の開始前に,上記規定に基づいて当初賃料の額の増減を求めることはできない。 /賃料増減請求権/
参照条文: /借地借家.32条/借地借家.37条/
全 文 h151021supreme.html

東京地方裁判所 平成 15年 10月 17日 民事第7部 判決 ( 平成15年(手ワ)第186号 )
事件名:  約束手形金請求事件
要 旨
 1.私製手形により提起された手形訴訟が,手形制度及び手形訴訟制度を濫用(悪用)した不適法な訴えとして,口頭弁論を経ずに却下された事例。
 1a.私製手形を作成させた目的が,手形訴訟により,被告の抗弁を封じ,かつ,簡易・迅速に債務名義を取得して,被告に対して強制執行手続をし,又は,同手続をすることを示して圧力をかけて金銭の取立てをすることにあると推認された事例。 /手形判決/
参照条文: /民訴.350条/民訴.352条/民訴.355条/手形.75条/
全 文 h151017tokyoD.html

最高裁判所 平成 15年 10月 16日 第1小法廷 判決 ( 平成14年(受)第846号 )
事件名:  謝罪広告等請求上告事件
要 旨
 埼玉県所沢市内の野菜生産農家である原告らが,平成11年2月1日に「ニュースステーション」のダイオキシン類問題について特集番組をテレビ放送した会社に対し,所沢産の野菜等の安全性に対する信頼が傷つけられ,原告らの社会的評価が低下して精神的損害を被った旨を主張し,また,野菜の価格の暴落等により財産的損害を被った旨をも主張して,不法行為に基づき,謝罪広告及び損害賠償を求めた事案において,請求を棄却すべきものとした原判決が破棄された事例。
 1.テレビジョン放送をされた報道番組の内容が人の社会的評価を低下させるか否かについては,一般の視聴者の普通の注意と視聴の仕方とを基準として判断すべきである。
 2.テレビジョン放送をされた報道番組によって摘示された事実がどのようなものであるかという点についても,一般の視聴者の普通の注意と視聴の仕方とを基準として判断するのが相当である。
 2a.テレビジョン放送をされた報道番組においては,報道番組により摘示された事実がどのようなものであるかという点については,当該報道番組の全体的な構成,これに登場した者の発言の内容や,画面に表示されたフリップやテロップ等の文字情報の内容を重視すべきことはもとより,映像の内容,効果音,ナレーション等の映像及び音声に係る情報の内容並びに放送内容全体から受ける印象等を総合的に考慮して,判断すべきである。
 3.報道番組のテレビ放送がダイオキシン問題という公共の利害に関わる事項について,公共の利益を図る目的でなれさたものであるが,重要な部分について真実であることの証明があるとはいえないとされた事例。
参照条文: /民法:709条/民法:710条/
全 文 h151016supreme.html

大阪地方裁判所 平成 15年 10月 16日 第22民事部 判決 ( 平成14年(ワ)第6377号 )
事件名:  学納金返還請求事件
要 旨
 平成14年2月に実施された大学入学試験に合格し,その後入学を辞退した者が大学に納付した入学金及び第1学年前期分の授業料等の返還を請求し,入学金の返還請求が棄却され,授業料等の返還請求が認容された事例。(入学辞退者の学納金返還請求訴訟)
 1.大学とそこに在籍する学生との関係は,大学がその学生に対し,学校教育法52条所定の目的に応じた教育の機会を提供すること及びこれに必要な施設等の利用を許すことを中核とする義務を負い,学生がその費用を負担し報酬を支払う義務を負うことを内容とする準委任契約類似の無名契約(在学契約)に基づくものである。
 1a.在学契約は,大学の行う入学試験に合格した者が,大学に入学することを前提として,入学金を納入するなどの入学手続をとることを申込みの意思表示とし,これに対して大学が異議を留保することなく必要書類及び入学金を受領することを黙示の承諾の意思表示として成立する。
 1b.憲法26条の趣旨にかんがみれば,大学は,学生から在学契約の解約(解消)の申出があった場合には,これを拒否することができない。
 2.学校法人と個人との間に成立した在学契約は,消費者契約法の適用を受ける消費者契約に該当する。
 3.入学金とは,大学に入学し得る地位を取得することの対価として受験生から大学側に納入されるものというべきであり,したがって,入学金の納入は,入学金納入者がその大学に入学し得る地位を取得したことによってその目的を達し,入学金納入者が後に入学を辞退し,これにより,その大学から教育の機会を提供されたり,これに必要な施設等の利用を許されるという給付を受けなかったからといって,その返還を求め得るものとはいえない。
 3a.入学金を返還しない旨の条項は,損害賠償額の予定又は違約金の条項と解することはできず,同条項について消費者契約法9条1項の適用の余地はない。
 3b.入学金の不返還を定める部分が消費者契約法10条により無効となるとはいえないとされた事例。
 3c.入学金を返還しない旨を定めた部分が公序良俗に反し無効ということはできないとされた事例。
 4.入学試験に合格した受験生が入学前に納入した前期分授業料及び委託徴収金を返還しない旨の条項は,民法上返還すべき前期分授業料及び委託徴収金の返還義務を免れさせるものであるから,消費者契約法9条1項にいう「損害賠償の額を予定し,又は違約金を定める条項」に該当する。
 4a.入学試験に合格した受験生が入学前に納入した前期分授業料及び委託徴収金の合算額が,解除の事由,時期等の区分に応じ,合格した受験生と大学との間の在学契約と同種の在学契約の解除に伴い大学に生ずべき平均的な損害を超えるときは,その超える部分は無効となり,大学は,受験生に返還すべき義務を負う。
 4b.消費者契約法9条1項は,民法420条に定める損害賠償額の予定ないし違約金の制度を前提としつつ,裁判所がその額を増減することができないとされている民法上の原則を消費者契約について例外を設け,消費者契約法9条1項所定の平均的な損害を超える部分に限り損害賠償額の予定ないし違約金の合意を無効とすることとしたものである。
 4c.消費者契約法9条1項の適用のある合意にかかる損害賠償額の予定及び違約金の額が同項所定の平均的な損害を超える事実は,損害賠償額の予定ないし違約金の合意に対する権利障害事由として,上記合意の効力を否定する者,すなわち消費者がその主張責任・証明責任を負う。
 4d.合格者が入学を辞退したことによって定員を下回る入学者数しか得られなかったという状況にはならなかったと推認できるので,原告の入学辞退により大学が損害を被らなかったと認めることができるとされた事例。 /入学権利金/
参照条文: /消費者契約.9条/消費者契約.10条/民法:90条/憲.26条/民法:656条/
全 文 h151016osakaD.html

最高裁判所 平成 15年 10月 10日 第2小法廷 判決 ( 平成15年(受)第377号 )
事件名:  請負代金請求上告事件
要 旨
 建物の建築請負工事につき,当初の契約で定められた主柱より太い主柱を用いることが合意されたにもかかわらず,請負人が約定に反して細い主柱を用いて建物を完成させた場合に,注文主がした修補に代わる損害賠償請求権と請負代金債権との相殺が認められた事例。
 1.主柱に断面の寸法250mm×250mmの鉄骨鉄骨を用いても,構造計算上,居住用建物としての安全性に問題のない場合であっても,耐震性の面でより安全性の高い建物にするため300mm×300mmの鉄骨を用いることが特に約定され,これが契約の重要な内容になっていたときには,この約定に違反して250mm×250mmの鉄骨を使用して施工された工事には瑕疵があるというべきである。
 2.請負人の報酬債権に対し,注文者がこれと同時履行の関係にある目的物の瑕疵の修補に代わる損害賠償債権を自働債権とする相殺の意思表示をした場合,注文者は,請負人に対する相殺後の報酬残債務について,相殺の意思表示をした日の翌日から履行遅滞による責任を負う。
参照条文: /民法:634条2項/民法:533条/民法:419条/
全 文 h151010supreme.html

最高裁判所 平成 15年 10月 10日 第2小法廷 判決 ( 平成13年(受)第1709号 )
事件名:  解雇予告手当等請求本訴,損害賠償請求反訴,損害賠償等請求上告事件
要 旨
 就業規則が労働者代表の同意を得て制定され,労働基準監督署長に届け出られた事実を確定したのみで,その内容を労働者に周知させる手続が採られていることを認定しないまま,就業規則に法的規範としての効力を肯定し,これに基づく懲戒解雇を有効であると判断した原判決が破棄された事例。
 1.使用者が労働者を懲戒するには,あらかじめ就業規則において懲戒の種別及び事由を定めておくことを要する。(先例の確認)
 2.就業規則が法的規範としての性質を有するものとして,拘束力を生ずるためには,その内容を適用を受ける事業場の労働者に周知させる手続が採られていることを要する。
参照条文: /労基.89条/
全 文 h151010supreme2.html

大阪地方裁判所 平成 15年 10月 9日 第24民事部 判決 ( 平成14年(ワ)第9609号 )
事件名:  学納金返還請求事件
要 旨
 平成4年11月,同12年11月または同13年2月に実施された大学入学試験に合格し,その後入学を辞退した者らが大学に納付した入学金及び第1学年前期分の授業料等の返還を請求したが,学納金不返還特約が不公正な消費者契約条項にも暴利行為にも該当しないとして,請求が棄却された事例。(入学辞退者の学納金返還請求訴訟)
 1.大学を設置する学校法人とその設置に係る大学に入学した学生との関係は,学校法人が,学生に対し,講義,演習及び実習等の狭義の教育活動及び自主的な活動の機会を付与するために大学の施設を利用させること等によって,学校教育法52条所定の目的に適った教育を役務として提供し,これに対し,学生が,学校法人に対し,かかる役務の提供に対する対価を支払う有償双務契約たる在学契約の各当事者の関係にあり,このような内容の在学契約の法的性質は,学生が学校法人に対して,両者間の信頼関係を前提として教育役務提供事務を委託している点を本質とする準委任契約ないし準委任契約類似の無名契約である。
 1a.受験者が入学試験に出願することで在学契約の申込みを行い,これに対して学校法人が,その設置する大学への入学試験の合格発表を行うことによって,合格者に対し,在学契約の一身専属的な予約完結権を付与し,合格者が,当該大学へ学納金を納付するなどの入学手続を行うことによって,かかる予約完結権が行使される結果,始期を次年度の4月1日とする在学契約が成立する。
 1b.在学契約は,準委任契約ないし準委任契約類似の無名契約であることからすれば,学生ないし入学手続をした合格者は,いつでも在学契約を将来に向かって解約することができる。
 2.学生が大学を設置する当該学校法人に対して支払う金銭は,原則として,その名目の如何にかかわらず,当該大学から提供される教育役務の対価と考えられる。
 2a.合格者が入学手続時に大学へ納付した学納金が,在学契約に基づく前払費用ないし前払報酬と解された事例。
 2b.入学金の相当部分は,入学に伴って必要な大学等の手続及び準備のための諸経費に要する手数料等並びに大学の提供する様々な役務の提供を受けることができる学生としての地位を取得するについて一括して納付されるべき金銭の性格(本来的入学金の性格)を有していると考えられる。
 3.学納金のうち本来的入学金の性格を持つ部分については,これが大学の既に履行した部分の報酬及び費用等に相当する額を上回るものであったとしても,在学契約を解除した合格者が返還を請求することはできない。
 3a.本来的入学金の性格を持つ部分を除く学納金については,学生は,在学契約を解約した場合には,大学が既に履行した部分の報酬及び費用等に相当する額を控除した額の返還を請求することができる。
 3b.学納金の返還について契約当事者が上記規律とは異なる合意をした場合には,契約自由の原則の範囲内においては,これを排除するいわれはない。
 3c.学納金は特殊部分社会たる大学へ加入してその学生としての身分ないし地位を取得するための対価であり,合格者は学納金の納付によって大学の学生としての身分ないし地位を取得する目的を達成しているから,入学辞退後に返還請求できないのは当然であるとの主張が否定された事例。
 4.既に納付した学納金の返還を制限する合意については,大学が入学試験合格者に優越する状況や地位をことさらに利用して著しく対価的均衡を失する学納金を納付させるなど,その合理性を否定すべき特段の事情のない限り,公序良俗に反するものとは認めがたい。
 4a.学納金不返還特約の合理性を否定すべき特段の事情は,大学の性格,受験生が受験して合格した入試の方式,大学が定めた学納金の納入期限,受験生が入学を辞退した時期及び当該合意によって返還されないこととなる学納金の額等諸般の事情を勘案して判断すべきである。
 4b.大学が入試の時期及び方式等に応じて原告らの経済的精神的負担にそれ相応の配慮をした制度設計をしていること,入学試験合格者の入学辞退時期が在学契約の始期に直近の時点でなされていること,入学辞退者も大学へ学納金を納付することによって大学へ入学できる道を確保してより志望順位の高い大学を受験できたものであることを考慮するならば,大学を設置する学校法人が入学試験合格者に優越する状況及び地位をことさらに利用して著しく対価的均衡を失する学納金を納付させたとはいえないから,学納金不返還特約が,不公正な消費者契約条項にも暴利行為にも該当しないとされた事例。
 5.法律行為が公序に反することを目的とするものであるとして無効になるかどうかは,法律行為がされた時点の公序に照らして判断すべきである。(先例の確認)
 5a.文部科学省が平成14年5月28日,私立大学に対し,入学を辞退した合格者に授業料等を返還しない方針を平成15年度入試から改めるよう通知し,これを受けて,一部の私立大学が,平成14年度入試について,入学辞退者との間で,授業料等を返還する旨の和解をするとともに,多くの私立大学が,平成15年度入試から入学辞退者に対し授業料等を返還することとなったという事情は,平成5年度及び平成13年度の学納金不返還特約が公序良俗に反するかどうかの判断にあたって斟酌されるものではないとされた事例。
参照条文: /民法:656条/民法:651条/民法:652条/民法:649条/民法:90条/
全 文 h151009osakaD.html

最高裁判所 平成 15年 10月 7日 第3小法廷 判決 ( 平成14年(あ)第743号 )
事件名:  建造物侵入,窃盗被告事件 (上告事件)
要 旨
 1.確定判決を経由した事件の訴因及び確定判決後に起訴された確定判決前の行為に関する事件の訴因が共に単純窃盗罪である場合には,常習性の発露という要素を考慮すべき契機は存在しないのであるから,ここに常習特殊窃盗罪による一罪という観点を持ち込むことは,相当でなく,前訴の確定判決による一事不再理効は,後訴には及ばない。
参照条文: /刑.235条/盗犯.2条/刑訴.337条/
全 文 h151007supreme91.html

最高裁判所 平成 15年 10月 6日 第2小法廷 決定 ( 平成14年(あ)第1164号 )
事件名:  有印私文書偽造被告事件(上告事件)
要 旨
 ジュネーブ条約に基づく国際運転免許証の発給権限を有する団体にはあたらない国際旅行連盟の名称を用いて国際運転免許証に酷似する文書を作成する行為は,国際旅行連盟が実在の団体であり,被告人がその委託を受けていたとしても,有印私文書偽造罪に当たる。
参照条文: /刑.159条/
全 文 h151006supreme91.html

大阪地方裁判所 平成 15年 10月 6日 第18民事部 判決 ( 平成14年(ワ)第6374号、平成14年(ワ)第9624号 )
事件名:  学納金返還請求事件
要 旨
 神戸薬科大学の平成14年度推薦入学試験に合格して入学金50万円と第1学年前期授業料85万円を納付したが平成14年3月14日に入学辞退届を提出して入学を辞退した学生が,学納金不返還特約は消費者契約法9条違反等を理由に無効であると主張して,これらの学納金の返還を請求した場合に,入学金については請求が棄却され,第1学年前期授業料については,その全額が平均的な損害の額を超えるものと認められ,不返還規定は消費者契約法9条1号により無効であるとして,請求が認容された事例。
 1.在学契約は,大学等の学校が,学生に対し,学生としての身分を取得させ,文部科学省の定めた一定の基準に従って教育施設を提供し,あらかじめ設定した教育課程に従って授業等の教育を行うなどの義務を負い,他方,学生は,その対価である授業料等を学校に支払う義務を負うことを主たる内容とする契約であって,主として準委任契約,付随的に施設利用契約等の性質を併せ持つ有償双務の無名契約である。
 1a.在学契約は,社会通念上,入学試験合格者が入学金を納付した場合には,その時点においてその大学に入学する意思を表示したと理解することができるから,入学金支払時に成立したと認められる。
 1b.在学契約は,主として準委任契約の性質を有する契約であるから,学生はいつでも在学契約を将来に向かって解除できるものであることに加えて,教育を受ける権利を保障する憲法26条1項の趣旨をも勘案すると,学生の就学意思は通常の準委任契約にも増して最大限尊重されるべきであり,在学契約のこの特質にかんがみると,学生が在学契約を解除した場合に,学生は,授業料等を納付したにもかかわらず教育役務等反対債務の履行を受けていない部分があればその返還を受け,未だ納付していない授業料等についてはその支払義務を免れるものと解するのが相当である。
 2.入学金は,大学に入学し得る地位を取得することへの対価としての性質を有している。
 2a.入学金の一部は,全体としての教育役務等の提供のうち,入学段階における人的物的設備の準備,事務手続費用等,大学が学生を受け入れるために必要な準備行為の対価としての性質をも併有している。
 2b.入学試験合格者が納付した入学金が入学し得る地位及び入学準備行為の対価としての実質を有するものであると認められ,合格者は,入学金を納付して在学契約を成立させたことにより大学へ入学し得る地位の付与を受けているのであり,大学は,在学契約が解除された時点までに合格者を受け入れるための具体的諸準備を既に行っていたと考えられるから,合格者は,在学契約を解除したからといって,入学金の返還を請求することはできない。
 3.大学への在学契約が,消費者契約法2条3項に規定する「消費者契約」に当たるとされた事例。
 3b.授業料不返還規定が消費者契約法9条1号に規定する「損害賠償の額を予定し,又は違約金を定める条項」に該当するとされた事例。
 4.消費者契約法9条1号にいう「平均的な損害の額」については,消費者において損害賠償予定額が平均的な損害の額を超えることの立証責任を負う。
 4a.消費者契約法9条1号に規定する「平均的な損害の額」とは,当事者が締結する多数の同種契約事案について,当該契約の性質,解除事由,解除時期,損害填補の可能性,解除により事業者が出捐を免れた経費等諸般の事情を考慮して,契約の類型ごとに合理的な算出根拠に基づき算定された平均値をいう。
 4b.在学契約は,その性質上,学生の解除により大学が他の者から収入を得る機会を失うことがあり得ることも当然に予定しているものというべきであって,たとい学生がした在学契約の解除により大学が他の者から収入を得る機会を失ったとしても,それを大学の被る損害として観念することはできない。
 4c.大学は,入学辞退により定員割れが生じ得ることを踏まえたうえであらかじめ合格者の調整を図るべきであり,定員割れのリスクは大学において甘受すべきであるから,その予測が外れ,定員割れの事態が生じたとしても,それを学生の入学辞退による平均的な損害と評価することはできない。 /証明責任/
参照条文: /消費者契約.9条/消費者契約.10条/民法:90条/憲.26条/民法:656条/
全 文 h151006osakaD.html

東京地方裁判所 平成 15年 9月 17日 民事第32部 判決 ( 平成15年(ワ)第3992号 )
事件名:  発信者情報開示請求事件
要 旨
 インターネット上の電子掲示板(2ちゃんねる)に投稿された情報により名誉を毀損された者が,プロバイダ責任法4条に基づき,掲示板運営者のログから判明した投稿者が使用しているインターネット・サービス・プロバイダ(経由プロバイダ)に対して,このプロバイダにより特定の日時に特定のIPアドレスを割り当てられた利用者の氏名及び住所を開示することを請求し,認容された事例。
 1.経由プロバイダも,特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報開示に関する法律(プロバイダ責任法)4条1項にいう「開示関係役務提供者」に含まれる。
 2.プロバイダ責任法4条により発信者情報の開示を請求する者は,侵害情報の流通によって生じた権利侵害の客観面に加え,その侵害行為につき違法性が阻却されるような事由がないことについても主張責任・証明責任を負う。
参照条文: /プロバイダ責任.2条/プロバイダ責任.4条/
全 文 h150917tokyyoD.html

最高裁判所 平成 15年 9月 16日 第3小法廷 判決 ( 平成14年(受)第622号 )
事件名:  過払金返還請求本訴,貸金請求反訴上告事件
要 旨
 1.高利貸金業者と密接な関係を有する信用保証会社の受ける保証料等が,利息制限法3条所定のみなし利息に当たるとされた事例。
 2.同一の貸主と借主との間で基本契約に基づき継続的に貸付けが繰り返される金銭消費貸借取引において,借主がそのうちの一つの借入金債務につき利息制限法所定の制限を超える利息を任意に支払い,この制限超過部分を残元本に充当してもなお過払金が存する場合,この過払金は,当事者間に充当に関する特約が存在するなど特段の事情のない限り,民法489条及び491条の規定に従って,弁済当時存在する他の借入金債務の利息及び元本に充当され,当該他の借入金債務の利率が利息制限法所定の制限を超える場合には,貸主は充当されるべき元本に対する約定の期限までの利息を取得することができない。 /商工ローン/高利貸し/
参照条文: /利息制限.1条1項/利息制限.2条/利息制限.3条/民法:489条/民法:491条/
全 文 h150916supreme.html

最高裁判所 平成 15年 9月 12日 第2小法廷 判決 ( 平成14年(受)第1656号 )
事件名:  損害賠償等請求上告事件
要 旨
 早稲田大学が中華人民共和国の江沢民国家主席の講演会を主催するに際し,警備を担当する警察の要請にこたえて,出席希望者の個人情報を本人に無断で警察に提供した行為がプライバシーの侵害にあたり,損害賠償責任の原因になるとされた事例。
 1.大学が外国国賓講演会への出席希望者をあらかじめ把握するために学生に提供を求めて得られた学籍番号,氏名,住所及び電話番号のような個人情報も,本人が,自己が欲しない他者にはみだりにこれを開示されたくないと考えることは自然なことであり,そのことへの期待は保護されるべきものであるから,プライバシーに係る情報として法的保護の対象となる。
 1a.講演会参加者の個人情報を警察に開示することをあらかじめ明示したうえで参加希望者に名簿に個人情報を記入させる等の方法により開示について承諾を求めることが容易であったにもかかわらず,講演会主催者が参加者の個人情報を本人に無断で警察に開示した行為は,本人が任意に提供したプライバシーに係る情報の適切な管理についての合理的な期待を裏切るものであり,本人のプライバシーを侵害するものとして不法行為を構成するというべきである。原判決の説示する個人情報の秘匿性の程度,開示による具体的な不利益の不存在,開示の目的の正当性と必要性などの事情は,この結論を左右するに足りないとされた事例。
参照条文: /民法:709条/民法:710条/憲.13条/
全 文 h150912supreme.html

最高裁判所 平成 15年 9月 11日 第1小法廷 判決 ( 平成12年(受)第1000号 )
事件名:  不当利得返還等請求上告事件
要 旨
 1.貸金業者と密接な関係を有する信用保証会社の受ける保証料等が,利息制限法3条所定のみなし利息に当たるとされた事例。
 2.同一の貸主と借主との間で基本契約に基づき継続的に貸付けが繰り返される金銭消費貸借取引において,借主がそのうちの一つの借入金債務につき利息制限法所定の制限を超える利息を任意に支払い,この制限超過部分を残元本に充当してもなお過払金が存する場合,この過払金は,当事者間に充当に関する特約が存在するなど特段の事情のない限り,民法489条及び491条の規定に従って,弁済当時存在する他の借入金債務の利息及び元本に充当され,当該他の借入金債務の利率が利息制限法所定の制限を超える場合には,貸主は充当されるべき元本に対する約定の期限までの利息を取得することができない。 /商工ローン/高利貸し/
参照条文: /利息制限.1条1項/利息制限.2条/利息制限.3条/民法:489条/民法:491条/
全 文 h150911supreme.html

最高裁判所 平成 15年 9月 9日 第3小法廷 判決 ( 平成14年(行ヒ)第242号 )
事件名:  事件記録閲覧謄写許可処分取消,公正取引委員会審判事件記録閲覧謄写許可処分取消,公正取引委員会審判記録閲覧謄写許可執行取消請求上告事件
要 旨
 1.独占禁止法69条にいう利害関係人とは,当該事件の被審人のほか,同法59条及び60条により審判手続に参加し得る者並びに当該事件の対象をなす違反行為の被害者をいう。
 1a.被審人に対し独占禁止法違反行為の被害者としてその差止め又は損害賠償を請求する者は,当該事件について審決が確定する前であっても,法69条にいう利害関係人として事件記録の閲覧謄写を請求することができる。
 1a.地方公共団体の住民が,地方自治法242条の2第1項4号に基づき,独占禁止法違反行為の被害者である地方公共団体に代位して被審人に対し損害賠償を請求する住民訴訟を提起し,当該違反行為の被害者に準ずる地位を取得した場合には,当該住民は,独占禁止法69条にいう利害関係人に当たる。(新判断)
参照条文: /独禁.69条/独禁.59条/独禁.60条/地自.242-2条/
全 文 h150909supreme2.html

最高裁判所 平成 15年 9月 9日 第3小法廷 判決 ( 平成12年(受)第877号 )
事件名:  保険金請求上告事件
要 旨
 1.税理士の賠償すべき損害が,課税事業者選択届出書の提出を怠ったという税理士の税制選択上の過誤により生じたものであるときには,課税事業者選択届出書の提出を前提とする依頼者に有利な課税事業者としての申告ができないことにより,形式的にみて過少申告があったとしても,税理士職業賠償責任保険適用約款の不填補特約条項の適用はないとされた事例。 /契約の解釈/税制選択上の過誤/保険約款/
参照条文: /消費税.37条/
全 文 h150909supreme.html

最高裁判所 平成 15年 9月 5日 第2小法廷 判決 ( 平成10年(オ)第642号 )
事件名:  損害賠償請求上告事件
要 旨
 拘留中の被告人と弁護人との間の信書の授受について拘置所長が行った検閲が違法であるとして提起された損害賠償請求が棄却された事例。
 1.在監者の信書の発受に関する制限を定めた監獄法50条及び監獄法施行規則130条の規定は,憲法21条,34条,37条3項に違反するものでない。
 2.監獄法50条及び監獄法施行規則130条の規定が,市民的及び政治的権利に関する国際規約14条3項,17条に違反すると解することはできない。 /被勾留者/勾留された被告人/弁護人依頼権/接見交通権/秘密交通権/
参照条文: /監獄.50条/監獄法施規.130条/憲.21条/憲.34条/憲.37条3項/市民的及び政治的権利に関する国際規約.14条3項/市民的及び政治的権利に関する国際規約.17条/
全 文 h150905supreme.html

最高裁判所 平成 15年 9月 4日 第1小法廷 判決 ( 平成11年(行ヒ)第99号 )
事件名:  労災就学援護費不支給処分取消請求上告事件
要 旨
 1.労働基準監督署長の行う労災就学援護費の支給又は不支給の決定は,法を根拠とする優越的地位に基づいて一方的に行う公権力の行使であり,被災労働者又はその遺族の上記権利に直接影響を及ぼす法的効果を有するものであるから,抗告訴訟の対象となる行政処分に当たる。
参照条文: /行訴.3条/労災保険.23条/
全 文 h150904supreme.html

東京地方裁判所 平成 15年 8月 29日 民事第47部 判決 ( 平成14年(ワ)第16635号 )
事件名:  「窒素磁石」に係る発明の対価請求事件
要 旨
 日立金属株式会社の磁性材料研究所において永久磁石の研究開発に従事して「鉄-希土類-窒素系永久磁石」等の発明をした従業員が,特許法35条の規定により特許を受ける権利を取得した被告に対して,同条の定める相当な対価と既払いの報酬との差額の支払を請求し,一部認容された事例。
 1.特許を受ける権利の承継についての相当の対価を定めるに当たっては,「その発明により使用者等が受けるべき利益の額」及び「その発明がされるについて使用者等が貢献した程度」という2つの要素のみならず,発明を権利化し,独占的に実施し又はライセンス契約を締結するについて使用者等が貢献した程度その他証拠上認められる諸般の事情を総合的に考慮して,相当の対価を算定すべきである。
 2.特許法35条1項の「その発明により使用者等が受けるべき利益」とは,使用者等が,従業者等から特許を受ける権利を承継して特許を受けた結果,特許発明の実施を排他的に独占することによって得られる利益をいう。
 2a.使用者が,この特許発明を第三者に有償で実施許諾し,実施料を得た場合は,その実施料は,職務発明の実施を排他的に独占することによって得られる利益にあたる。
 2b.自己実施に関する受けるべき利益が「使用者等が受けるべき利益」として計上しないとされた事例。
 2c.発明の実用化・事業化のために支出した費用や,特許の権利化及び維持のために支出した費用は,「使用者等が貢献した程度」として考慮すべきであり,「その発明について使用者等が受けるべき利益の額」を定めるに当たっては考慮すべきでない。
 3.「相当の対価」の額は,「使用者等が受けるべき利益の額」について,「使用者等が貢献した程度」を割合的に認定することにより定めるのが相当である。
 3a.使用者等が貢献した程度が9割であると認定された事例。 /知的財産権/無体財産権/工業所有権/特許権/
参照条文: /特許.35条/民法:166条/
全 文 h150829tokyoD.html

神戸地方裁判所 平成 15年 8月 7日 第4民事部 判決 ( 平成13年(ワ)第2933号 )
事件名:  地上権確認請求事件
要 旨
 土地と共に共同抵当の目的となっている地上建物が阪神淡路大震災により倒壊した後,コンテナーハウス(未登記)が建築されたが,土地と同順位の抵当権が建物に設定されないまま土地のみが競売された場合に,建物の賃借人が買受人に対して,建物所有者が法定地上権を有することの確認請求の訴えを提起したが,棄却された事例。
 1.所有者が土地及び地上建物に共同抵当権を設定した後,同建物が取り壊され,同土地上に新たに建物が建築された場合には,新建物の所有者が土地所有者と同一であり,かつ,新建物が建築された時点での土地の抵当権者が新建物について土地の抵当権と同順位の共同抵当権の設定を受けたなどの特段の事情のない限り,新建物のために法定地上権は成立しない。(先例の確認)
 1a.このことは,震災等の不可抗力によって旧建物が倒壊し,その後,執行妨害の意図なく新建物が建築された場合であっても変わらない。
参照条文: /民法:388条/
全 文 h150807kobeD.html

東京高等裁判所 平成 15年 7月 25日 第16民 事部 決定 ( 平成15年(ラ)第751号 )
事件名:  再生計画認可決定に対する抗告事件
要 旨
 再生債権者が詐害行為取消訴訟を提起し、受益者の1億3000万円相当の財産について仮差押えをしている場合に、監督委員が受益者からの財産回収の見込みが低いことを理由に取消訴訟を受継しないことを決め、それを前提にして、再生債務者が第三者から借り入れる1200万円を配当原資とする再生計画案が作成され、可決・認可された場合に、抗告審が、監督委員は取消訴訟を受継すべきであり、再生計画には受継により財産が回収されることを想定した条件付きの弁済計画条項をも予備的に付加すべきであって、それを内容としていない再生計画は、「再生計画の決議が再生債権者の一般の利益に反するとき」(民事再生法174条2項4号)に該当するとして、原審の認可決定を取り消したが、監督委員に詐害行為取消訴訟を受継させ、再生債務者が本決定の趣旨を生かした再生計画案の変更を申し立てることはなお可能であって、その場合には再生計画案の提出があった場合の手続に関する規定に従った処理を再度行えば足りるから、事件を原審に差し戻すことにとどめ、再生計画を不認可とまではしないのが相当であるとされた事例。
 1.民事再生法140条2項は、監督委員が不利な訴訟状態の詐害行為取消訴訟を受継するより、自らの判断で否認訴訟等を提起できるようにする趣旨で、監督委員が独自の立場で受継の当否について裁量的に判断できることとしたものである。
 1a.(α)監督委員が詐害行為取消訴訟受継することに不利益な事情が見当たらず、(β)結果的には再生債権者に弁済計画上利益をもたらす可能性があり、かつ、(γ)詐害行為取消訴訟を受継しないことを前提とする再生計画が認可されて一括弁済されたり、一括弁済でなくとも再生債権の大幅な免除などが再生計画で定められたりすると、再生債権者が民事再生法140条3項により中断していた詐害行為取消訴訟を受け継いでも、その前提となる保全債権が消滅しているか、大幅に減少しているために、請求棄却の判決や免除後のわずかな残再生債権の範囲での一部勝訴判決しか受けられないといった不利益を受ける場合には、監督委員が詐害行為取消訴訟を受継しないことは再生債権者の利益に反する行為であり、信認上の義務違反になるとされた事例。
 2.監督委員が詐害行為取消訴訟を受継すべきであるのに受継しないで、弁済原資となる可能性のある債権の回収を怠っているのを放置したままで再生計画を成立させたことが、再生債権者の利益に反するとされた事例。
 2a.監督委員が詐害行為取消訴訟を受継することにより再生債務者財産を増加することができる見込みがある場合には、 再生計画の内容として、勝訴判決又は和解金の獲得を想定した条件付きの弁済計画条項をも予備的に付加すべきであって、それを内容としない再生計画は、「再生計画の決議が再生債権者の一般の利益に反するとき」(民事再生法174条2項4号)に該当するとされた事例。
 3.裁判所の認可決定を受けた再生計画に補正可能な不認可事由がある場合に、認可決定が取り消されれば再生債務者が再生計画案の変更を申し立てることは可能であるとして、抗告審が原決定を取り消して事件を差し戻すにとどめ、再生計画を不認可にはしなかった事例。
参照条文: /民事再生法:140条;167条;174条;187条/
全 文 h150725tokyoH.html

最高裁判所 平成 15年 7月 18日 第2小法廷 判決 ( 平成11年(行ヒ)第182号 )
事件名:  審査決定取消請求上告事件
要 旨
 1.固定資産評価基準の定める総合比準評価の方法は,再建築費の算定方法として一般的な合理性があり,市町村長が評価基準に従って決定した価格は,これによっては再建築費を適切に算定することができない特別の事情又は評価基準が定める減点補正を超える減価を要する特別の事情の存しない限り,その適正な時価であると推認するのが相当である。
 1a.市町村長が固定資産評価基準の定める総合比準評価の方法にしたがって算定した価格が不動産鑑定士が作成した鑑定評価書における評価額より高い場合に,前者の方法によっては価格を適切に算定することができないなどの特別の事情を確定することなく,前者の算定価格が賦課期日における適正な時価を超えるとした原審の判断に違法があるとされた事例。 /事実認定/自由心証主義/固定資産税/
参照条文: /民訴.247条/
全 文 h150718supreme.html

最高裁判所 平成 15年 7月 18日 第2小法廷 判決 ( 平成12年(受)第1394号 )
事件名:  保険金請求上告事件
要 旨
 一般の課税方式によって算定された消費税額の方が簡易課税方式によって算定される消費税額より低い場合に,税理士が前者を選択する旨の届け出を怠ったことにより依頼者に賠償すべきこととなった損害について,税理士職業賠償責任保険契約中の不填補特約(形式的過少申告による納税額と本来的納税額との差額の不填補特約)は,適用されないとされた事例。 /契約の解釈/税制選択上の過誤/保険約款/
参照条文: /消費税.37条/
全 文 h150718supreme3.html

最高裁判所 平成 15年 7月 18日 第2小法廷 判決 ( 平成13年(受)第1032号・第1033号 )
事件名:  不当利得請求上告事件
要 旨
 1.高利貸金業者の100%子会社である信用保証株式会社の受ける保証料及び事務手数料が,利息制限法3条所定のみなし利息に当たるとされた事例。
 2.利息制限法1条1項及び2条の規定が適用される限りにおいて,民法136条2項ただし書の規定の適用は排除される。
 2a.同一の貸主と借主との間で基本契約に基づき継続的に貸付けが繰り返される金銭消費貸借取引において,借主がそのうちの一つの借入金債務につき利息制限法所定の制限を超える利息を任意に支払い,この制限超過部分を元本に充当してもなお過払金が存する場合,この過払金は,当事者間に充当に関する特約が存在するなど特段の事情のない限り,弁済当時存在する他の借入金債務に充当され,当該他の借入金債務の利率が利息制限法所定の制限を超える場合には,貸主は充当されるべき元本に対する約定の期限までの利息を取得することができない。
参照条文: /民法:136条2項/利息制限.1条1項/利息制限.2条/利息制限.3条/
全 文 h150718supreme2.html

最高裁判所 平成 15年 7月 16日 第2小法廷 決定 ( 平成15年(あ)第35号 )
事件名:  傷害致死被告事件(上告事件)
要 旨
 暴行の被害者が被告人らから長時間激しくかつ執拗な暴行を受け,極度の恐怖感を抱いて必死に逃走を図る過程で,高速道路に進入し,疾走してきた自動車に衝突され,後続の自動車にれき過されて,死亡した場合に,暴行と死亡との間に因果関係が肯定された事例。(傷害致死)
参照条文: /刑.205条/刑.1編7章/
全 文 h150716supreme91.html

京都地方裁判所 平成 15年 7月 15日 第3民事部 判決 ( 平成13年(ワ)第2752号 )
事件名:  動産引渡等請求事件
要 旨
 原告久美浜町が実施した町道砂丘史跡線改良工事及び公共下水道管渠布設工事の結果発生した原告財産である砂を被告らが不法に第三者に売却し,その後,原告と被告らとの間で,売却した砂と同種,同量の砂を被告らが原告に返還する旨の合意をしたと主張し,この合意に基づき砂の返還を請求し,併せて,予備的代償請求として,砂の返還が執行不能の場合の損害賠償を請求し,認容された事例。
 1.町の職員が町に帰属する砂を違法に販売したことを理由とする損害賠償請求訴訟が住民訴訟として係属している間に,町が職員との間で締結した合意に基づく砂の返還請求及び執行不能の場合の代償請求の訴えを提起した場合に,両訴訟の訴訟物は同一とはいえず,重複訴訟の禁止に該当しないとされた事例。(第一審において同一の合議体で審理裁判される場合)
 2.地方公共団体は,住民訴訟が係属中であっても,同訴訟によって代位請求されている権利を処分する内容の和解契約をすることができる。(和解内容が,その成立に至る経緯や内容からみても,地方公共団体としても,財務会計上も不利益なものではなく,むしろ,損害回復のための適切な措置として行ったものと評価し得る場合に,和解を有効とした事例)
 3.自然債務であるとの主張が排斥された事例。
 4.合意による一定種類の砂の返還債務について,その種類の砂は市場において調達可能なものであり,実際に履行不能になることはないと考えられるが,その種類債務の給付を請求しつつ,その執行が不能なときに合意を解除することなく填補賠償を請求することもできるとされた事例。
参照条文: /民事訴訟法:135条;136条;142条/地方自治法:242-2条/民事執行法:31条/
全 文 h150715kyotoD.html

最高裁判所 平成 15年 7月 11日 第2小法廷 判決 ( 平成13年(受)第320号 )
事件名:  持分全部移転登記抹消登記手続等請求上告事件
要 旨
 1.不動産の共有者の一人は,共有不動産について全く実体上の権利を有しないのに持分移転登記を経由している者に対し,単独でその持分移転登記の抹消登記手続を請求することができる。
 1a.このことは,他の共有者の持分についてのみ移転登記がなされたにすぎない場合でも同じである。
参照条文: /民法:249条/民法:252条/
全 文 h150711supreme3.html

最高裁判所 平成 15年 7月 11日 第2小法廷 判決 ( 平成14年(オ)第1689号,平成14年(受)第1720号 )
事件名:  損害賠償等請求上告事件
要 旨
 A,B,Cの過失割合が1:4:1と認定できる場合には,Cに生じた損害の6分の5についてAとBとが不真正連帯債務者として賠償義務を負い,Bの負担部分はそのうちの5分の4であり,Bが負担部分を超えてCに賠償金を支払った場合には,Bは,超過部分についてAに求償できるとされた事例。
 1.複数の加害者の過失及び被害者の過失が競合する一つの交通事故において,その交通事故の原因となったすべての過失の割合(絶対的過失割合)を認定することができるときには,絶対的過失割合に基づく被害者の過失による過失相殺をした損害賠償額について,加害者らは連帯して共同不法行為に基づく賠償責任を負うものと解すべきである。
 2.自賠責保険金は,被保険者の損害賠償債務の負担による損害をてん補するものであるから,共同不法行為者間の求償関係においては,被保険者の負担部分に充当されるべきである。
参照条文: /民法:709条/民法:722条/民法:719条/
全 文 h150711supreme.html

最高裁判所 平成 15年 7月 11日 第2小法廷 判決 ( 平成12年(行ヒ)第193号 )
事件名:  損害賠償,工事遅延損害金賠償請求上告事件
要 旨
 自治省の要綱に基づき因島市が実施する指定事業の工事の完成が遅延したため,その支払に充てるために平成6年度の予算に計上されていた地方債の起債が平成6年度の出納閉鎖期日の直前の平成7年5月22日になされ,代金の支払いが工事完成検査後の7月24日に支払われたことに対し,予算措置について繰越手続を執らなかったことは違法であり,繰越手続が執られなかったことにより起債時期が早まり,これにより生じた借入利息の増大は市長が市に与えた損害に当たるとして市長に対して損害賠償請求の住民訴訟が提起され,原審がこれを認容すべきとした場合に,繰越手続の前提となる事業計画の変更の承認申請について県から平成6年11月までにすることを求められていた状況を考慮すると,市長としては,当初の予算通りに起債するか,指定事業として工事を実施することを断念するかのいずれかの選択を迫られることになるから,原審が確定した事実のみに基づいて本件起債が平成7年度に属する平成7年5月に違法に行われたために市が借入利息相当の損害を被ったと断定することはできないとされた事例。 /会計年度独立の原則/
参照条文: /地自.208条/地自.250条/地自施行令.146条/
全 文 h150711supreme2.html

最高裁判所 平成 15年 7月 10日 第1小法廷 判決 ( 平成15年(あ)第60号,88号 )
事件名:  略取,逮捕監禁致傷,窃盗被告事件 (上告事件)
要 旨
 逮捕監禁致傷罪(5年以下の懲役)と窃盗罪(10年以下の懲役)とを併合罪として科刑すべき場合に,前者の犯情は非常に悪質であるが後者の犯情は軽微であるときでも,窃盗罪に対する刑の上限の1.5倍である15年の範囲で犯情全体を考慮して刑を定めることができるとされた事例。
 1.刑法47条は,併合罪のうち2個以上の罪について有期の懲役又は禁錮に処するときは,同条が定めるところに従って併合罪を構成する各罪全体に対する統一刑を処断刑として形成し,修正された法定刑ともいうべきこの処断刑の範囲内で,併合罪を構成する各罪全体に対する具体的な刑を決することとした規定であり,処断刑の範囲内で具体的な刑を決するに当たり,併合罪の構成単位である各罪についてあらかじめ個別的な量刑判断を行った上これを合算するようなことは,法律上予定されていない。 /未成年者略取誘拐/
参照条文: /刑.47条/刑.220条/刑.224条/刑.235条/
全 文 h150710supreme91.html

最高裁判所 平成 15年 7月 3日 第1小法廷 判決 ( 平成14年(受)第1873号 )
事件名:  配当異議上告事件
要 旨
 根抵当権に基づく競売申立書に「被担保債権及び請求債権」として元金のみが記載され,利息・損害金の記載がなかった場合に,競売申立て債権者は申立書に記載した債権額に拘束されるから,利息・損害金への配当を求めて配当異議の申し立てることは許されないとした原判決が破棄された事例。
 1.民事執行規則170条2号,4号の規定の趣旨が競売手続の安定した遂行にあり,被担保債権の一部のみの実行を申し立てた者は,当該手続において申立てに係る債権の拡張を制限されてもやむを得ないということができるが,この結論は,当該申立債権者の選択を信頼した競売手続の関係者に対する禁反言の要請から生ずるものであって,上記各号の規定が被担保債権の一部実行の場合における残部の優先弁済請求権の喪失という実体法上の効果を定めるものではない。
 1a.被担保債権の一部実行を申し立てる意思はなく,錯誤,誤記等に基づき競売申立書に被担保債権の一部の記載をしなかった場合にまで,一律に真実の権利主張を禁ずることが,禁反言からの当然の帰結ということはできず,民事執行規則170条2号,4号の規定が予定するところということもできない。
 1b.配当異議の訴えにおいて,競売申立書における被担保債権の記載が錯誤,誤記等に基づくものであること及び真実の被担保債権の額が立証されたときは,真実の権利関係に即した配当表への変更を求めることができる。
 1c.競売申立書に根抵当権の元本債権の全額が記載されながら附帯債権が存する旨の記載がなかったということから,直ちに,競売申立人が附帯債権についての優先弁済請求権を放棄し,元本についてのみの実行の意思を表示したものと認めるには足りないとされた事例。
参照条文: /民執規.170条/民訴.2条/民執.188条/民執.90条/
全 文 h150703supreme.html

鳥取地方裁判所 平成 15年 7月 1日 民事部 判決 ( 平成15年(レ)第4号 )
事件名:  請求異議請求控訴事件
要 旨
 免責決定を得た債務者が破産債権者に対して請求異議の訴えを提起したが,当該債権者は,債務者が提出した債権者名簿に記載されていたということはできず,また,債務者から破産申立てを受任したとの通知を弁護士から受けていたが,それは破産宣告の3年以上も前のことであり,これをもって破産宣告について知っていたということはできないから,本件破産債権は非免責債権に当たるとして,請求が棄却された事例。 /破産免責/
参照条文: /破産.366-12条5号/
全 文 h150701tottoriD.html

最高裁判所 平成 15年 6月 30日 第1小法廷 決定 ( 平成15年(し)第42号 )
事件名:  司法警察員がした押収物の還付に関する処分に対する準抗告の決定に対する特別抗告事件
要 旨
 1.捜査機関による押収処分を受けた者は,刑事訴訟法222条1項において準用する123条1項にいう「留置の必要がない」場合に当たることを理由として,当該捜査機関に対して押収物の還付を請求することができる。
 1a.押収処分を受けた者から,還付請求を却下した処分の取消しと自己への還付を求めて刑事訴訟法430条2項の準抗告が申し立てられた場合において,押収物について留置の必要がないときは,申立人以外の者に還付することが相当である場合や,捜査機関に更に事実を調査させるなどして新たな処分をさせることが相当である場合を除き,準抗告裁判所は,原処分を取り消すとともに,捜査機関に対して,押収物を申立人に還付するよう命ずる裁判をすべきものである。
参照条文: /刑訴.430条2項/刑訴.222条1項/刑訴.123条1項/
全 文 h150630supreme91.html

東京地方裁判所 平成 15年 6月 27日 民事第34部 判決 ( 平成13年(ワ)第8783号 )
事件名:  損害賠償請求事件
要 旨
 被告の開設する病院に胸痛等の治療のために入院した患者が冠動脈造影検査(CAG)等を受けた後に死亡した場合に,その相続人らが損害賠償を請求したが,検査を担当した医師に説明義務違反は認められず,また検査に過失もないとして,棄却された事案。
 1.冠動脈造影検査により死亡が生じうることについて医師の説明義務違反があるとは認められなかった事例。 /患者の自己決定権/医者/PTCA/CABG/医療過誤/
参照条文: /民法:709条/民法:415条/
全 文 h150627tokyoD2.html

東京地方裁判所 平成 15年 6月 27日 民事第46部 判決 ( 平成14年(ワ)第10522号 )
事件名:  商標専用使用権侵害差止等請求事件
要 旨
 1.独占的通常使用権者が現に商標権者等から唯一許諾を受けた者として当該登録商標を付した商品を自ら市場において販売している場合において,無権原の第三者が当該登録商品を使用した競合商品を市場において販売しているときには,独占的通常使用権者は,固有の権利として,自ら当該第三者に対して損害賠償を請求し得る。
 1a.この場合に,当該第三者が,独占的通常使用権者による当該商品の市場における販売を認識し得る状況にあったものであれば,独占的通常使用権者に対する関係においても,商標法39条により過失が推定される。
 1b.独占的通常使用権者は,第三者の侵害行為と相当因果関係にある範囲の損害につき,その賠償を請求することができるにとどまり,独占的通常使用権者に商標法38条1項ないし3項の規定を類推適用することはできない。
 1c.独占的通常使用権の許諾契約にもかかわらず,商標権者が競業他社にも登録商標の使用を許諾していたために,原告は「唯一許諾を受けた者」にはあたらないとして,独占的通常使用権侵害を理由とする損害賠償請求が認められなかった事例。
 2.専使用権侵害を理由とする損害賠償請求が認められ,損害額の算定について商標法38条2項が適用された事例。
 3.被告標章「花粉のど飴」が菓子・パンを指定商品とする登録商標「花粉」と類似するとされた事例。
 4.「花粉のど飴」ないしそのうちの「花粉」部分が,「指定商品の普通名称,効能,用途等を表示する商標」(商標法26条1項2号)に当たらないとされた事例。
 5.信託法11条違反の抗弁が,弁論準備手続終結後,弁論終結が予定されていた第5回口頭弁論期日において初めて主張された場合に,時機に後れて提出されたものであるが,これまでの審理の結果により容易に判断できるから,訴訟の完結を遅延させるものではないとして,却下されることなく,判断が示された事例。
 5a.信託法11条は,主たる目的として訴訟行為をさせるために財産の管理処分権を移転することを禁止するものである。
 5b.原告が,自ら「花粉のど飴」の標章を使用するために相当の対価を支払って登録商標権者から独占的通常使用権の許諾を得,次いで専用使用権の設定を受けて,実際に上記標章を付した原告商品を販売し,また,訴訟については弁護士である訴訟代理人に委任し,代理人が口頭弁論期日に出頭して訴訟を追行している場合に,原告が登録商標権者に代わって被告に対する訴訟行為を行うことを主たる目的として,専用使用権の許諾を得たと認めることはできないとして,信託法11条違反の抗弁が排斥された事例。 /時機に後れて提出された攻撃防御方法/
参照条文: /商標.38条/商標.30条/商標.31条/商標.39条民訴.157条/信託.11条/
全 文 h150627tokyoD.html

最高裁判所 平成 15年 6月 26日 第1小法廷 判決 ( 平成10年(行ヒ)第41号 )
事件名:  固定資産課税審査却下決定取消請求上告事件
要 旨
 平成6年度を基準年度とする土地の固定資産税の課税標準の算定に当たって,平成4年7月1日における鑑定評価価格を基に同5年1月1日までの時点修正を行い,その7割の額をもって時価とした決定が,その額が賦課期日(平成6年1月1日)における客観的な交換価値を上回っている範囲で違法であるとして,取り消された事例。
 1.土地に対する固定資産税は,土地の資産価値に着目し,その所有という事実に担税力を認めて課する一種の財産税であって,個々の土地の収益性の有無にかかわらず,その所有者に対して課するものであるから,上記の適正な時価とは,正常な条件の下に成立する当該土地の取引価格,すなわち,客観的な交換価値をいう。
 1a.固定資産の評価の基準並びに評価の実施の方法及び手続を自治大臣の告示である評価基準にゆだねている地方税法388条1項は,賦課期日における客観的な交換価値を上回る価格を算定することまでもゆだねたものではない。 /地価の下落/資産デフレ/
参照条文: /地方税.341条/地方税.349条/地方税.388条/地方税.403条/
全 文 h150626supreme2.html

最高裁判所 平成 15年 6月 26日 第1小法廷 判決 ( 平成14年(行ヒ)第189号 )
事件名:  転居届不受理処分取消等請求上告事件
要 旨
 特定の宗教団体に属する者からの転入届を不受理とした処分が違法とされた事例。
 1.住民基本台帳は,これに住民の居住関係の事実と合致した正確な記録をすることによって,住民の居住関係の公証,選挙人名簿の登録その他の住民に関する事務の処理の基礎とするものである。(前提の議論)
 1a.地域の秩序が破壊され住民の生命や身体の安全が害される危険性が高度に認められるような特別の事情がある場合には,市町村長は転入届を受理しないことが許されるとの主張は,実定法上の根拠を欠く。(棄却理由)
参照条文: /住民台.22条/
全 文 h150626supreme.html

最高裁判所 平成 15年 6月 13日 第2小法廷 判決 ( 平成14年(受)第1008号 )
事件名:  所有権移転登記抹消登記手続等請求上告事件
要 旨: 土地建物の所有権移転及び所有権移転登記手続と売買代金の支払とを引換えとするとの約定で土地建物の売買契約が締結されたにもかかわらず,買主たる会社の代表者の巧みな言説に騙されて売主が登記済証と白紙委任状を事前に交付し,買主がこれを利用して善意の第三者に転売して所有権移転登記を経由した場合に,転買人に対する売主の所有権移転登記抹消登記手続請求を民法94条2項・110条の類推適用により棄却すべきものとした原判決が破棄された事例。 /取引の安全/ベルファースト/表見法理/
参照条文: /民法:94条2項/民法:110条/
全 文 h150613supreme.html

最高裁判所 平成 15年 6月 12日 第1小法廷 判決 ( 平成13年(行ツ)第39号、平成13年(行ヒ)第37号 )
事件名:  国籍確認請求上告事件
要 旨
 韓国人である母が日本人である夫と離婚した翌日に,法律上の婚姻関係のない日本人を父として出生した子について,出生の8か月余り後に母の元夫と子との間の親子関係の不存在確認を求める訴えが提起され,親子関係不存在を確認する判決確定の4日後に父が子を認知したという事案において,国籍法2条1号による日本国籍の取得が認められた事例。
参照条文: /国籍.2条1号/
全 文 h150612supreme.html

最高裁判所 平成 15年 6月 12日 第1小法廷 判決 ( 平成14年(受)第853号 )
事件名:  損害賠償請求上告事件
要 旨
 信用協同組合の理事であった者に対する忠実義務違反を理由とする組合員による損害賠償請求訴訟について,組合員の原告適格は,金融再生法8条1項に基づき金融整理管財人による業務及び財産の管理を命じられたことによっては失われないとされた事例。
 1.金融整理管財人は,被管理金融機関を代表し,業務の執行並びに財産の管理及び処分を行うのであり(金融再生法11条1項),被管理金融機関がその財産等に対する管理処分権を失い,金融整理管財人が被管理金融機関に代わりこれを取得するものではない。 /当事者適格/
参照条文: /中企協=中小企業等協同組合法/金融再生.11条1項/商.267条/中企協.42条/
全 文 h150612supreme4.html

最高裁判所 平成 15年 6月 12日 第1小法廷 判決 ( 平成14年(受)第689号 )
事件名:  土地賃料改定請求上告事件
要 旨
 バブル経済崩壊前の昭和62年7月に締結され,地代の自動増額特約を含む借地契約について,土地の価格の動向が既に下落に転じ,当初の半額以下になった平成9年7月1日の時点においては,借地人が借地借家法11条1項に基づく地代減額請求権を行使することに妨げはないとされた事例。
 1.借地借家法11条1項は,長期的,継続的な借地関係では,一度約定された地代等が経済事情の変動等により不相当となることも予想されるので,公平の観点から,当事者がその変化に応じて地代等の増減を請求できるようにしたものと解するのが相当であり,地代等不増額の特約がある場合を除き,契約の条件にかかわらず,地代等増減請求権を行使できるとしているのであるから,強行法規としての実質を持つ。(先例の確認)
 1a.当初は効力が認められるべきであった地代等自動改定特約であっても,その地代等改定基準を定めるに当たって基礎となっていた事情が失われることにより,同特約によって地代等の額を定めることが借地借家法11条1項の規定の趣旨に照らして不相当なものとなった場合には,同特約の適用を争う当事者はもはや同特約に拘束されない。 /事情変更の原則/
参照条文: /借地借家.11条1項/
全 文 h150612supreme3.html

最高裁判所 平成 15年 6月 12日 第1小法廷 判決 ( 平成13年(行ヒ)第274号 )
事件名:  債権差押処分無効確認等請求上告事件
要 旨
 債務整理事務を受任した弁護士が委任者から交付された金銭を自己の名義で開設した預金口座に入金して保管していたところ,委任者の租税債権者がこの預金債権は委任者の財産であるとして差し押さえた場合に,この預金債権は受任者に帰属しているとして,差押えが取り消された事例。
 1.債務整理事務の委任を受けた弁護士が委任者から債務整理事務の費用に充てるためにあらかじめ交付を受けた金銭は,民法上は同法649条の規定する前払費用に当たる。
 1a.前払費用は,交付の時に,委任者の支配を離れ,受任者がその責任と判断に基づいて支配管理し委任契約の趣旨に従って用いるものとして,受任者に帰属するものとなる。(信託法の規定の適用を示唆する補足意見がある)
参照条文: /民法:649条/信託.1条/信託.15条信託.20条/信託.20条/信託.21条/信託.22条/
全 文 h150612supreme2.html

最高裁判所 平成 15年 6月 10日 第3小法廷 判決 ( 平成13年(行ヒ)第106号 )
事件名:  公文書非開示処分取消請求上告事件
要 旨
 福岡県の住民が,福岡県情報公開条例に基づき,情報公開の実施機関である知事に対し,{1}
 県警察本部総務課の懇談会費支出に係る支出証拠書類,{2}
 県警察本部総務課の旅費支出に係る支出証拠書類,{3}
 県議会議員及び県議会事務局に対する懇談会費支出に係る支出証拠書類一切,{4}
 県議会議員及び県議会事務局に対する旅費支出に係る支出証拠書類の開示を請求したところ,知事部局において管理していないという理由で公文書不存在決定を受けたので,その取消しを求めた事件において,実施機関が管理していると判断して処分を取り消した原判決が,文書の管理者の判断について不十分な点があるとして,破棄された事例。
 1.福岡県情報公開条例(平成9年福岡県条例第62号による改正前のもの)2条1項にいう「管理」は,当該公文書を現実に支配,管理していることを意味する。
 1a.地方公共団体において情報公開の実施機関が請求に係る公文書を現実に支配,管理しているかどうかは,当該地方公共団体における保存の根拠規定,保存に至る手続,保存の方法等の実態を踏まえて判断すべきである。 /公情報公開/
参照条文: /福岡県情報公開条例./
全 文 h150610supreme.html

広島高等裁判所 平成 15年 6月 4日 第3部 判決 ( 平成13年(ネ)第414号 )
事件名:  共有持分分割本訴,持分移転登記手続履行等反訴請求控訴事件
要 旨
 共有物の分割において,判決確定後3ヶ月以内に代償金が支払われるときに共有者の一人に他の者の持分を取得させる方法により分割し,期間内に代金の支払いがない場合に競売により分割することが命じられた事例。(全面的価格賠償による分割+予備的に競売による代金分割)
 1.代償金取得者の持分に不動産の価格を超える極度額の根抵当権が設定されている場合に,滌除(抵当権消滅請求)の手続や,担保権者が増価競売を選択した場合に滌除できないことが確定するまでに要する期間を考慮して,現物取得者が代償金を支払うべき期間が3か月とされた事例。
 2.共有物についての占有が自主占有であるとするためには,他の共有者に対し,単独所有する旨の意思が表示される必要がある。(その意思表示が認められなかった事例) /共有物分割/
参照条文: /民法:256条/民法:258条/民法:185条/民法:378条/
全 文 h150604hiroshimaH.html

最高裁判所 平成 15年 6月 2日 第1小法廷 決定 ( 平成11年(あ)第697号 )
事件名:  電汽車往来危険,威力業務妨害,弁護士法違反,有印公文書変造,同行使,詐欺未遂被告事件(上告事件)
要 旨
 国鉄に対して防災工事費用の分担を申し入れたところ拒絶されたことに憤慨した被告人が線路沿いの自己所有地を電柱付近の土砂が崩壊する等の結果をもたらすほどに掘削させた行為が,電汽車往来危険罪にあたるとされた事例。
 1.平成7年法律第91号による改正前の刑法125条1項にいう「往来ノ危険」とは,汽車又は電車の脱線,転覆,衝突,破壊など,これらの交通機関の往来に危険な結果を生ずるおそれのある状態をいい,単に交通の妨害を生じさせただけでは足りないが,脱線等の実害の発生が必然的ないし蓋然的であることまで必要とするものではなく,上記実害の発生する可能性があれば足りる。(先例の確認)
参照条文: /刑.125条1項/
全 文 h150602supreme91.html

最高裁判所 平成 15年 5月 26日 第1小法廷 決定 ( 平成11年(あ)第1164号 )
事件名:  覚せい剤取締法違反被告事件(上告事件)
要 旨
 1.ラブホテルの宿泊客がチェックアウトの予定時刻を過ぎても一向にチェックアウトをせず,ホテル側から問い合わせを受けても言を左右にして長時間を経過し,その間不可解な言動をしたため、ホテル責任者が警察に宿泊客を退去させてほしい旨を要請した場合に、警察官がこれを受けて客室の内ドアの内部に立ち入ったことが違法でないとされた事例。
 2.警察官がホテル客室に赴き宿泊客に対して職務質問及び所持品検査をした結果発見された覚せい剤について,その証拠能力が肯定された事例。
参照条文: /警職.2条1項/刑訴.317条/
全 文 h150526supreme91.html

東京高等裁判所 平成 15年 5月 22日 第19民事部 決定 ( 平成15年(ラ)第794号 )
事件名:  移送申立却下決定に対する抗告事件
要 旨
 支払場所を銀行の奈良支店とする手形の原因債権を譲り受けた者が,奈良地裁の管轄区域内に普通裁判籍を有する者に対して,連帯保証債務履行請求の訴えを義務履行地を管轄する東京地裁に提起した場合に,訴訟の著しい遅滞を避け,又は当事者間の衡平を図るために,奈良地裁への移送が命じられた事例。
 1.(著しい遅滞の回避)
 保証債務履行請求訴訟の主たる争点が保証責任の有無であると考えられる場合に,本案の審理に際しては,被告の本人尋問のほか,取扱支店である奈良支店の担当者らの証人尋問が必要になる可能性が高いが,その証人予定者も奈良市あるいはその周辺に住所を有すると考えられるので,本案の審理の便宜という面では,東京地方裁判所よりも奈良地方裁判所の方が優っていると認められた事例。
 1a.(当事者間の衡平)
 銀行取引をする者にとっては,通常,その銀行の取引店舗あるいは本店を履行場所として考えるのが一般であり,新債権者の住所地が債務の弁済場所とされ,このような義務履行地に基づいて管轄裁判所が決定されることは予想外の事態であり,それによって,債務者の被る不利益は多大なものがあるとされた事例。
 2.債権譲渡があった場合,その債権の履行場所は新債権者の住所地となる。(前提の議論)
 2a.管轄の合意は,訴訟法上の合意ではあるけれども,内容的にはその債権行使の条件として,その権利関係と不可分一体のものであり,いわば債権の属性をなすものであり,記名債権に付された管轄合意の効力は,債権の譲受人にも及ぶ。(前提の議論) /手形貸付け/
参照条文: /民訴.17条/民訴.5条1号/商.516条2項/民法:484条/
全 文 h150522tokyoH.html

大阪地方裁判所 平成 15年 5月 15日 第22民事部 判決 ( 平成13年(ワ)第14018号ほか )
事件名:  供託金還付請求権確認請求事件、同反訴請求事件(第1反訴)、同反訴請求事件(第2反訴)、独立当事者参加事件請求事件
要 旨
 1.債権譲渡特例法所定の債権譲渡登記は、法人がする債権譲渡の対抗要件に関し民法の特例を定めたものにすぎず、譲渡禁止特約がある場合の債権譲渡の効力について特則を定めたものではない。
 2.銀行が融資の担保として債務者の有する売掛代金債権の譲渡を受けた際、譲渡禁止特約の存在を知らなかったことについて重大な過失があると認定された事例。
 2a.銀行は、融資の担保として譲り受ける債権について譲渡禁止特約があるかを調査するためにその債権に係る取引基本契約書の提出を求める場合に、債務者が事前にそのような基本契約書はないと主張しているときであっても、債務者に譲渡禁止特約の意味を説明し、それが存在する場合には債権譲渡担保の方法による融資の実行ができないことを理解させた上、債務者自身にその有無を調査させるべきであり、それを怠ったことは、譲渡禁止特約の存在を知らなかったことについて重大な過失があったと認定する事由の一つになるとされた事例。
参照条文: /民法:466条/動産債権譲渡特例.4条/
全 文 h150515osakaD.html

最高裁判所 平成 15年 4月 25日 第2小法廷 判決 ( 平成13年(行ヒ)第230号 )
事件名:  処分取消請求上告事件
要 旨
 共同相続人の一人が,自らの主導の下に,通謀虚偽表示により遺産分割協議が成立した外形を作出し,これに基づいて相続税の申告を行った後,遺産分割協議の無効を確認する判決が確定したとして更正の請求をした場合には,国税通則法法23条1項所定の期間内に更正の請求をしなかったことにつきやむを得ない理由があるとはいえないから,同条2項1号により更正の請求をすることは許されない。 /クリーンハンドの原則/
参照条文: /国税通則.23条/
全 文 h150425supreme.html

最高裁判所 平成 15年 4月 23日 大法廷 判決 ( 平成13年(あ)第746号 )
事件名:  業務上横領被告事件
要 旨
 1.委託を受けて他人の不動産を占有する者が,これにほしいままに抵当権を設定してその旨の登記を了した後に,受託者がその不動産につき,ほしいままに売却等による所有権移転行為を行いその旨の登記を了したときは,売却等による所有権移転行為について横領罪の成立を肯定することができ,先行の抵当権設定行為が存在することは,後行の所有権移転行為について犯罪の成立自体を妨げる事情にはならない。(判例変更)
 1a.上記の場合に,検察官は,事案の軽重,立証の難易等諸般の事情を考慮し,先行の抵当権設定行為ではなく,後行の所有権移転行為をとらえて公訴を提起することができ,また,そのような公訴の提起を受けた裁判所は,所有権移転の点だけを審判の対象とすべきであり,犯罪の成否を決するに当たり,売却に先立って横領罪を構成する抵当権設定行為があったかどうかというような訴因外の事情に立ち入って審理判断すべきものではない。
参照条文: /刑.253条/刑訴.256条/
全 文 h150423supreme91.html

最高裁判所 平成 15年 4月 22日 第3小法廷 判決 ( 平成13年(受)第1256号 )
事件名:  補償金請求上告事件
要 旨
 オリンパス光学工業株式会社においてビデオディスク装置の研究開発に従事して「ピックアップ装置」の発明をした従業員が特許法35条の規定により特許を受ける権利を取得した被告に対して,同条の定める相当な対価と既払いの報酬との差額の支払を請求し,一部認容された事例。
 1.勤務規則等により職務発明について特許を受ける権利等を使用者等に承継させた従業者等は,当該勤務規則等に,使用者等が従業者等に対して支払うべき対価に関する条項がある場合においても,これによる対価の額が同条4項の規定に従って定められる対価の額に満たないときは,同条3項の規定に基づき,その不足する額に相当する対価の支払を求めることができる。
 2.勤務規則等に,使用者等が従業者等に対して支払うべき対価の支払時期に関する条項がある場合には,その支払時期が相当の対価の支払を受ける権利の消滅時効の起算点となる。(時効期間未経過) /知的財産権/無体財産権/工業所有権/特許権/
参照条文: /特許.35条/民法:166条/
全 文 h150422supreme.html

最高裁判所 平成 15年 4月 18日 第2小法廷 判決 ( 平成11年(受)第1519号 )
事件名:  約定金,寄託金返還請求上告事件
要 旨
 昭和60年6月14日に締結された利益保証契約(損失補填契約)の履行請求が,その後に制定された規定により禁止された行為を請求するものであるとして,棄却された事例。(阪和興業/勧業角丸投資顧問)
 1.法律行為が公序に反することを目的とするものであるとして無効になるかどうかは,法律行為がされた時点の公序に照らして判断すべきである。
 1a.投資家と投資顧問会社との間で昭和60年6月14日に締結された利益保証契約(損失補填契約)が,証券取引法に違反する違法なものであるが,公序に反する無効なものであるとまでは言えないとされた事例。
 2.平成3年の改正により設けられた証券取引法42条の2第1項3号の規定は,改正前に締結された損失保証等を内容とする契約に基づく利益提供行為をも禁止するものであるが,憲法29条に反しない。
参照条文: /証取.42-2条1項3号/憲.29条/
全 文 h150418supreme.html

最高裁判所 平成 15年 4月 18日 第2小法廷 判決 ( 平成11年(受)第805号 )
事件名:  出向命令無効確認請求上告事件
要 旨
 1.在籍出向を認める規定が就業規則にあり,出向労働者利益に配慮した詳細な規定が労働協約にある場合に,八幡製鐵所の構内輸送業務のうち鉄道輸送部門の一定の業務を協力会社である株式会社日鐵運輸に業務委託することに伴い,委託される業務に従事していた従業員に対してその個別的同意なしに命じられた在籍出向命令が有効とされた事例。
 2.在籍出向命令ならびに出向延長措置が権利の濫用に当たるとはいえないとされた事例。
参照条文: /労基.13条/
全 文 h150418supreme2.html

広島高等裁判所 平成 15年 4月 18日 第2部 判決 ( 平成13年(ネ)第450号 )
事件名:  損害賠償等請求控訴事件
要 旨
 債務者に財産を分与しない旨の遺産分割協議が詐害行為に当たるとして債権者が債権者取消訴訟を提起した後で,当該債権者の申立てに基づいて破産宣告がなされ,破産管財人が取消訴訟の手続を受継して,否認権に基づく訴えに変更し,一部認容された事例。
 1.破産法72条1号の否認権が行使された場合に,受益者の善意の抗弁が認められなかった事例。(詳しい事実認定)
 2.債権者取消訴訟が否認訴訟に転換された場合には,受益者は,取消訴訟の被保全債権の不存在を主張して否認権行使の効果を争うことはできない。
 3.債権者取消訴訟が否認訴訟に転換された場合には,受益者は,取消訴訟の被保全債権が他の財産から満足を受けることができることを主張して否認権を争うことはできない。
 4.否認権行使により受益者が目的物の価格を償還すべき場合に,目的物の時価の算定基準時は破産管財人が否認権を行使したときである(先例の確認)。
 4a.受益者が平成10年7月に1億円で転得者に売却した土地について,平成12年に債権者取消訴訟が提起され,債務者の破産によりその訴訟が否認訴訟に転換され,平成14年5月の口頭弁論期日において否認権が行使された場合に,目的物の時価の算定基準時は否認権行使時であり,時価の下落傾向を考慮すれば,平成14年度の固定資産税評価額の1.3倍に相当する7500万円を超えることはないとされた事例。
参照条文: /破産.72条1号/民法:424条/民法:907条/
全 文 h150418hiroshimaH.html

最高裁判所 平成 15年 4月 14日 第3小法廷 判決 ( 平成13年(あ)第1317号 )
事件名:  建造物等以外放火,暴行被告事件
要 旨
 小学校教職員用の駐車場に無人でとめられていた車両に対し,ガソリン約1.45リットルを車体のほぼ全体にかけた上,これにガスライターで点火して放火した行為について,駐車場内の他の車両ならびに付近のゴミ集積場に延焼の危険が及んだとして,建造物等以外放火罪の成立が認められた事例。
 1.同法110条1項にいう「公共の危険」は,必ずしも同法108条及び109条1項に規定する建造物等に対する延焼の危険のみに限られるものではなく,不特定又は多数の人の生命,身体又は前記建造物等以外の財産に対する危険も含まれる。
参照条文: /刑.110条1項/
全 文 h150414supreme91.html

最高裁判所 平成 15年 4月 11日 第2小法廷 判決 ( 平成13年(受)第216号 )
事件名:  著作権使用差止請求上告事件
要 旨
 我が国に滞在した外国人がアニメーションの企画等を業とする会社において図画を作成した場合に,その者が著作権法15条1項にいう「法人等の業務に従事する者」に該当するか否かを判断するにあたって,在留資格の種別(観光ビザ・就労ビザ),雇用契約書の存否,雇用保険料,所得税等の控除の有無といった形式的事由を主たる根拠にした原判決が破棄された事例
 1.著作権法15条1項の「法人等の業務に従事する者」に当たるか否かは,法人等と著作物を作成した者との関係を実質的にみたときに,法人等の指揮監督下において労務を提供するという実態にあり,法人等がその者に対して支払う金銭が労務提供の対価であると評価できるかどうかを,業務態様,指揮監督の有無,対価の額及び支払方法等に関する具体的事情を総合的に考慮して,判断すべきである。 /知的財産権/無体財産権/著作権/職務著作/法人著作/
参照条文: /著作.15条1項/
全 文 h150411supreme2.html

最高裁判所 平成 15年 4月 11日 第2小法廷 判決 ( 平成13年(受)第505号 )
事件名:  不当利得金返還請求上告事件
要 旨
 象潟町大砂川部落に居住する33名により入会地の管理のために財産管理会(権利能力のない社団)が構成され,その総有に属する入会地の一つが象潟町に老人ホームの敷地として売却され,その代金の一部が権利者中23名に分配され,他の10名には分配されずに,残余が管理会に保管された場合に,代金の分配を受けなかった者の1人が,不法行為を理由に損害賠償請求の訴えを提起したが,棄却された事例。
 1.入会地の売却により入会権の放棄があったと認められるが,このことにより入会地に対する権利関係が総有から通常の共有に変化し,構成員が持分に応じた分割債権を取得したと解すべきではないとされた事例。 /共同所有関係/法人でない社団/
参照条文: /民法:263条/
全 文 h150411supreme.html

最高裁判所 平成 15年 4月 11日 第2小法廷 判決 ( 平成13年(あ)第1683号 )
事件名:  覚せい剤取締法違反,関税法違反被告事件(上告事件)
要 旨
 1.改正前の麻薬特例法2条3項において不法収益とされる「薬物犯罪の犯罪行為により得た財産」とは,薬物犯罪の構成要件に該当する行為自体によって犯人が取得した財産をいい,薬物犯罪を遂行する過程において費消・使用されるものとして,犯人が他の共犯者から交付を受けた財産は,これに当たらない。
 1a.被告人が共犯者から受け取った往復航空券の使用済みの往路の運賃相当額は,追徴の対象にならないとされた事例。
 2.薬物犯罪の犯罪行為を遂行するために費消した上,その残額を同行為の報酬として取得することとして,共犯者から交付を受けて犯人が所有する金員については,裁判所は,改正前の麻薬特例法14条1項及び刑法19条1項2号により,その全額を没収することが可能である。
 2a.共犯者から犯罪行為の遂行のために渡された往復航空券のうち未使用の復路航空券が没収された事例。
参照条文: /刑.19条/麻薬特例.2条3項/
全 文 h150411supreme91.html

最高裁判所 平成 15年 4月 8日 第3小法廷 判決 ( 最高裁判所 平成14年(受)第415号 )
事件名:  預託金返還請求上告事件
要 旨
 銀行の預金者が自家用車内置いてあった預金通帳を車ごと盗まれ,盗難の翌日に預金を引き出された場合に,カード機械払のほかに預金通帳機械払も可能である旨がカード規定等に規定されていなかった点に注意義務違反があるとして,銀行の民法478条の抗弁が認められなかった事例。
 1.無権限者のした機械払の方法による預金の払戻しについても,民法478条の適用があり,非対面のものであることをもって同条の適用を否定すべきではない。
 2.機械払において,無権限者に払戻しがされたことについて銀行が無過失であるというためには,払戻しの時点において通帳等と暗証番号の確認が機械的に正しく行われたというだけでなく,機械払システムの利用者の過誤を減らし,預金者に暗証番号等の重要性を認識させることを含め,同システムが全体として,可能な限度で無権限者による払戻しを排除し得るよう組み立てられ,運営されるものであることを要する。
 2b.通帳機械払のシステムを採用する銀行がシステムの設置管理について注意義務を尽くしたというためには,通帳機械払の方法により払戻しが受けられる旨を預金規定等に規定して預金者に明示することを要する。(この点について過失が認められた事例)
 2c.預金者が暗証番号を盗難された自動車登録番号の4桁の数字と同じ数字とし,かつ,通帳をダッシュボードに入れたまま車両を自宅近くの駐車場に駐車していたために,通帳を車両ごと盗まれ,暗証番号を推知されて払戻しがされた場合に,預金者のこの程度の帰責事由をもって銀行に過失があるとの判断を覆すには足りないとされた事例。
参照条文: /民法:478条/
全 文 h150408supreme.html

東京簡易裁判所 平成 15年 4月 8日 民事第5室 判決 ( 平成14年(ハ)第13095号 )
事件名:  敷金返還請求事件
要 旨
 賃貸人が賃借人の地位を譲り受けた者に対して敷金返還請求権の譲渡を異議を留めずに承諾した場合に、敷金の一部不納入の事実を譲受人に対抗できないとされた事例。
 1.民法468条1項の異議のない承諾について、錯誤無効の主張が重大な過失を理由に認められなかった事例。
 1a.債権の譲渡会社と譲受会社の商号の類似性及び会社役員の兼任の事実のみでは,民法468条1項本文の適用を受ける債権譲渡でないと認めることは相当でないとされた事例。
参照条文: /民法:95条/民法:468条1項/
全 文 h150408tokyoS.html

最高裁判所 平成 15年 3月 31日 第1小法廷 判決 ( 平成14年(オ)第1963号 )
事件名:  預金返還請求及び預金返還等請求当事者参加上告事件
要 旨
 1.非嫡出子の相続分を嫡出子の相続分の2分の1と定めた民法900条4号ただし書前段の規定は,憲法14条1項に違反するものでない。
参照条文: /民法:900条4号/憲.14条1項/
全 文 h150331supreme.html

仙台地方裁判所 平成 15年 3月 31日 第1民事部 判決 ( 昭和50年(ワ)第683号 )
事件名:  本山製作所争議行為損害賠償請求事件
要 旨
 会社が。争議行為を行った従業員(日本労働組合総評議会G労働組合H地方本部I支部の組合員で、争議行為の当時副委員長・書記長等の職にあった者)に対し、違法な争議行為によって損害を被ったと主張して、不法行為による損害賠償を請求し、一部が認容された事例。
 1.会社のロックアウトに対し、労働組合が主催した抗議集会に際して労働組合員が工場内に入ろうとして正門の門扉等を損壊したことが不法行為になるとして、労働組合及び及びその役員について損害賠償賠償義務があると判断された事例。
  1a.大規模な集会を会社正門前のそれほど広くない場所で行う場合には,集会に伴って門扉の破壊等の不法行為に発展する可能性があることは十分予見可能であったものといわざるを得ず、集会を主催した労働組合の組合役員らが、不法行為が行われないよう十分に配慮していたことを認めるに足りる証拠はないことからすれば,労働組合とその役員は不法行為について責任を負うとされた事例。
 1b. 労働組合が10月決戦と称して構内突入,職場占拠を図り,ヘルメット,青竹等を準備するとともに,宮城県内のほか東京からも新左翼グループ等を動員し,正門付近に約200名,南門付近に約220名のI支部組合員及び支援労組員,学生らが結集し,門扉,バリケード等を破壊するとともに,「我々は会社構内に侵入するぞ。」などと気勢を上げていた場合に、会社が,構内突入を阻止するための対策として,すべての管理職や従業員による厳重な警備態勢を採ったことは決して無用のものとはいえず,これに要した費用は被告らによる争議行為と因果関係があると判断され、その賠償が命じられた事例。
 2.不法行為の行われた日は,不法行為を構成する要素そのものではなく,単に不法行為を特定するために主張されるものにすぎないから,不法行為の行われた日に関する主張を変更することは,変更前の日と変更後の日において同一内容の不法行為が行われ,日の特定なしには不法行為の特定ができない場合を除き,単なる誤記の訂正であって訴えの変更には当たらないとされた事例(消滅時効中断との関係で訴えの変更にあたらないとされた事例)。
 3.不真正連帯債務者の一部に対する債務の免除は,他の不真正連帯債務者の債務には影響しないのであるから,争議行為に関わり被告らと不真正連帯債務の関係にある労働組合に対する債務が和解により免除されたとしても,これをもって被告らの債務が消滅すると解することはできないとされた事例。
参照条文: /民法:709条;719条/民事訴訟法:143条/労働組合法:8条/憲法:28条/
全 文 h150331sendaiD.html

最高裁判所 平成 15年 3月 28日 第2小法廷 判決 ( 平成14年(オ)第1630号 )
事件名:  預金返還請求及び当事者参加上告事件
要 旨
 非嫡出子の相続分を嫡出子の相続分の2分の1と定めた民法900条4号ただし書前段の規定は,憲法14条1項に違反しない。 /法の下の平等/婚外子/
参照条文: /民法:900条4号/憲.14条1項/
全 文 h150328supreme.html

最高裁判所 平成 15年 3月 27日 第1小法廷 判決 ( 平成12年(受)第469号 )
事件名:  新株発行不存在確認請求上告事件
要 旨
 1.商法280条ノ15以下に規定されている新株発行無効の訴えに準じて新株発行不存在確認の訴えを肯定すべきである。(先例の確認)
 2.新株発行無効の訴えの出訴期間に関する規定を新株発行不存在確認の訴えに類推適用すべきでなく,新株発行不存在確認の訴えに出訴期間の制限はないものと解するのが相当である。(破棄理由)
参照条文: /商.280-15条/
全 文 h150327supreme.html

最高裁判所 平成 15年 3月 27日 第1小法廷 判決 ( 平成14年(行ヒ)第46号 )
事件名:  公金返還請求上告事件
要 旨
 町が開催した新庁舎竣工式において,来賓148人に,町商工会が発行し町内の商店のみで利用することができる5000円相当の商品券を記念品の贈呈することが社会通念上儀礼の範囲を逸脱したものとまでいうことはできず,町長の支出命令は違法ではないとされた事例。
 1.普通地方公共団体も社会的実体を有するものとして活動している以上,記念行事等に際して来賓等に記念品等の贈呈を行うことは,それが社会通念上儀礼の範囲にとどまる限り,許される。
参照条文: /地自.242-2条1項4号/
全 文 h150327supreme2.html

最高裁判所 平成 15年 3月 25日 第3小法廷 判決 ( 平成12年(受)第1418号 )
事件名:  預託金返還請求上告事件
要 旨
 証券会社に所属する外務員が,顧客に対して,「客方」という実際には存在しない取引口座の存在をかたって勧誘を行い,金銭の預託を受け,これを個人的に運用した取引が,証券取引法(平成10年法律第107号による改正前)64条1項にいう「その有価証券の売買その他の取引」に当たらないとされ,証券会社と顧客との間の預託契約の成立が否定された事例。
参照条文: /証取.64条/
全 文 h150325supreme.html

最高裁判所 平成 15年 3月 25日 第3小法廷 判決 ( 平成14年(受)第297号 )
事件名:  債務不存在確認請求上告事件
要 旨
 貸金業者から貸付金の返済を迫られていた郵便局の保険外務員が,懇意にしている顧客に,「勤務時間中に野球の審判をしていたところ,バイクの荷物入れに入れていた顧客に届けなければならない満期保険金540万円を盗まれ,その日のうちに顧客に保険金を届けなければ勤務先に発覚して免職になる」などと虚偽の事実を述べて融資を申し込み,顧客が簡易保険の契約者貸付を申し込むように誘導して,その貸付金を借り受けた場合に、これにより顧客に生じた損害が,民法715条1項にいう「被用者カ其事業ノ執行ニ付キ第三者ニ加ヘタル損害」に当たらないとされた事例。 /使用者責任/
参照条文: /民法:715条1項/
全 文 h150325supreme2.html

東京簡易裁判所 平成 15年 3月 25日 民事第2室 判決 ( 平成14年(ハ)第15837号 )
事件名:  損害賠償請求事件
要 旨
 妻子のある男性と未亡人である女性との間の交際が,肉体関係があったことを認めるに足りる証拠はないが,社会的妥当性の範囲を逸脱するものであるとして,夫の交際相手に対する妻からの損害賠償請求が一部認容された事例。
参照条文: /民法:709条/民法:710条/民法:752条/
全 文 h150325tokyoS.html

東京簡易裁判所 平成 15年 3月 24日 民事第3室 判決 ( 平成14年(ハ)第79340号 )
事件名:  貸金請求事件
要 旨
 (相続放棄の熟慮期間の起算日)
 母と離婚した父が多額の債務を負い、その支払を命ずる判決の確定後に死亡し、債権者が子に、父の死亡によりその債務を子が相続した旨、ならびにその支払を求める旨の通知書を送付し、その通知書の到着から3年以上過ぎてから子に対する支払請求の訴えが提起された場合に、子が母に養育され父の生活状況をまったく知らないまま成長していることを考慮して、子が父の死亡を知り,自己のために相続の開始があったことを覚知した日は,前記通知書が到達した日ではなく、証拠書類を提示された第2回口頭弁論期日であると認定され、その直後になされた相続放棄は有効であるとして、子に対する支払請求が棄却された事例。
参照条文: /民法:915条/
全 文 h150324tokyoS.html

最高裁判所 平成 15年 3月 18日 第2小法廷 決定 ( 平成14年(あ)第805号 )
事件名:  国外移送略取,器物損壊被告事件(上告事件)
要 旨
 オランダ国籍で日本人の妻と婚姻していた被告人が,別居中の妻が監護養育していた長女(当時2歳4か月)を,オランダに連れ去る目的で,長女が妻に付き添われて入院していた病院のベットから連れ去った行為が,国外移送略取罪にあたるとされた事例。
参照条文: /刑.226条/
全 文 h150318supreme91.html

最高裁判所 平成 15年 3月 14日 第2小法廷 判決 ( 平成12年(受)第1335号 )
事件名:  損害賠償請求上告事件
要 旨
 週刊誌(週間文春)に掲載された少年犯罪を報道する記事について,それが少年法61条(少年事件情報の中の加害少年本人を推知させる事項についての報道(推知報道)を禁止する規定)に違反するものであることを前提とし,同条によって保護されるべき少年の権利ないし法的利益よりも,明らかに社会的利益を擁護する要請が強く優先されるべきであるなどの特段の事情が存する場合に限って違法性が阻却されると解すべきであるが,この特段の事情を認めることはできないとして不法行為責任を肯定した原判決が,違法性阻却の事由の存否について審理不尽の違法があるとして,破棄された事例。
 1.週刊誌に掲載された記事が他人の名誉を毀損し,プライバシーを侵害する内容を含むものとしても,記事の掲載によって不法行為が成立するか否かは,被侵害利益ごとに違法性阻却事由の有無等を審理し,個別具体的に判断すべきものである。
 1a.名誉毀損については,その行為が公共の利害に関する事実に係り,その目的が専ら公益を図るものである場合において,摘示された事実がその重要な部分において真実であることの証明があるとき,又は真実であることの証明がなくても,行為者がそれを真実と信ずるについて相当の理由があるときは,不法行為は成立しない。
 1b.プライバシーの侵害については,その事実を公表されない法的利益とこれを公表する理由とを比較衡量し,前者が後者に優越する場合に不法行為が成立する。
 2.少年法61条に違反する推知報道かどうかは,その記事等により,不特定多数の一般人がその者を当該事件の本人であると推知することができるかどうかを基準にして判断すべきである。
 2a.少年犯罪を報道する記事において,少年の当時の実名と類似する仮名が用いられ,その経歴等が記載されているものの,少年と特定するに足りる事項の記載はない場合に,その記事は少年法61条の規定に違反するものではないとされた事例。
 3.原審において審理裁判の対象となった被侵害利益が,訴訟の経過に鑑み,名誉,プライバシーであって,原審が少年法61条によって保護されるとする「少年の成長発達過程において健全に成長するための権利」までは含まれていないと判断された事例。
参照条文: /民法:709条/少年.61条/
全 文 h150314supreme4.html

最高裁判所 平成 15年 3月 14日 第2小法廷 判決 ( 平成13年(受)第751号 )
事件名:  求償金請求上告事件
要 旨
 保証債務履行請求訴訟において、主債務者たる破産会社の法人格が消滅した後に主債務の一部が時効消滅し,保証債務の一部もこれに伴って消滅したものと判断して,保証人の消滅時効の援用を認めた原判決が破棄された事例。
 1.破産終結決定がされて消滅した会社を主債務者とする保証人は,主債務についての消滅時効が会社の法人格の消滅後に完成したことを主張して時効の援用をすることはできない。
参照条文: /民法:448条/民法:457条/商.404条/商.94条/
全 文 h150314supreme2.html

最高裁判所 平成 15年 3月 14日 第2小法廷 判決 ( 平成11年(行ヒ)第70号 )
事件名:  審決取消請求上告事件
要 旨
 出資金1000万円で設立され,水道施設工事業等を営む協業組合が,独禁法3条違反行為について7条の2第1項に基づき売上額の100分の6の課徴金を国庫に納付することを命ずる審決を受けたため,当該協業組合は同条2項(平成11年法律第146号による改正前)1号の事業者に当たるから,本件審決のうち売上額の100分の3を超えて課徴金の納付を命ずる部分は同項に違反するとして,審決の取消しを求めた場合に,共同組合は7条の2第2項各号にいう「会社」には含まれないとして取消請求を認めなかった原判決が破棄された事例。
 1.個人事業者を組合員とする協業組合にあっては,当該組合固有のものに各組合員固有のものを合わせた常時使用する従業員の総数が独禁法7条の2第2項の規定する「会社」及び「個人」に関する従業員数の要件に該当するときは,同項を類推して,当該組合には軽減算定率が適用される。
参照条文: /独禁.3条/独禁.7-2条/
全 文 h150314supreme3.html

最高裁判所 平成 15年 3月 14日 第2小法廷 決定 ( 平成14年(許)第32号 )
事件名:  担保取消申立て却下決定に対する許可抗告事件
要 旨
 仮執行宣言付判決の強制執行を停止する旨の決定に基づき,被告が,金融機関との間で支払保証委託契約を締結するとともに,上記金額と同額の定期預金をした場合に,転付命令によりこの定期預金払戻請求権を取得した第三者は,上記担保の取消しの申立てをすることができない。
参照条文: /民訴.76条/民訴規.29条/民訴.79条/民訴.398条/民訴.400条/民執.159条/
全 文 h150314supreme5.html

最高裁判所 平成 15年 3月 14日 第2小法廷 決定 ( 平成14年(行フ)第10号 )
事件名:  移送申立て却下決定に対する抗告棄却決定に対する許可抗告事件
要 旨
 山西省残留将兵として軍務に服した者が京都府知事を経由して提出した旧軍人普通恩給改定請求を総務庁恩給局長が却下したことに対する取消訴訟において,京都府知事は行政事件訴訟法12条3項にいう当該処分又は裁決に関し事案の処理に当たった下級行政機関に該当するとして,京都地方裁判所に管轄権が認められ,京都地裁から東京地裁への移送申立てが却下された事例。
 1.行政事件訴訟法12条3項にいう当該処分又は裁決に関し事案の処理に当たった下級行政機関とは,当該処分等に関し事案の処理そのものに実質的に関与した下級行政機関をいうものと解すべきところ,この下級行政機関に当たるものは,当該処分等を行った行政庁の指揮監督下にある行政機関に限られない。
参照条文: /行訴.12条3項/民訴.16条/恩給給与細則.2条/恩給給与細則.22条/
全 文 h150314supreme.html

最高裁判所 平成 15年 3月 12日 第2小法廷 決定 ( 平成10年(あ)第488号 )
事件名:  詐欺被告事件
要 旨
 1.誤振込みがあることを知った預金者が,その情を秘して預金の払戻しを請求することは,詐欺罪の欺罔行為に当たり,また,誤振込みの有無に関する錯誤は同罪の錯誤に当たるというべきであるから,錯誤に陥った銀行窓口係員から受取人が預金の払戻しを受けた場合には,詐欺罪が成立する。
 2.銀行の顧客は,自己の口座に誤った振込みがあることを知った場合には,銀行に組戻しの措置を講じさせるため,誤った振込みがあった旨を銀行に告知すべき信義則上の義務がある。(前提の議論)
参照条文: /刑.246条/
全 文 h150312supreme91.html

最高裁判所 平成 15年 3月 11日 第3小法廷 判決 ( 平成14年(あ)第1198号、1239号 )
事件名:  信用毀損,業務妨害,窃盗被告事件(上告事件)
要 旨
 コンビニエンスストアで買った紙パック入りオレンジジュースに家庭用洗剤を注入した上,警察官に対して,上記コンビニエンスストアで買った紙パック入りオレンジジュースに異物が混入していた旨虚偽の申告をし,報道機関にコンビニエンスストアで異物の混入されたオレンジジュースが陳列,販売されていたことを報道させたことが信用毀損罪に当たるとされた事例。
 1.刑法233条が定める信用毀損罪は,経済的な側面における人の社会的な評価を保護するものであり,同条にいう「信用」は,人の支払能力又は支払意思に対する社会的な信頼に限定されるべきものではなく,販売される商品の品質に対する社会的な信頼も含む。(判例変更)
参照条文: /刑.233条/
全 文 h150311supreme91.html

最高裁判所 平成 15年 3月 11日 第3小法廷 決定 ( 平成14年(行フ)第11号 )
事件名:  懲戒処分執行停止に対する許可抗告事件
要 旨
 弁護士に対する戒告処分の公告の執行停止を行政事件訴訟法25条2項により求める申立てが却下された事例。
 1.弁護士に対する戒告処分の公告は,処分の効力として行われるものでも,処分の続行手続として行われるものでもないから,処分の効力又はその手続の続行を停止することによって公告が行われることを法的に阻止することはできない。
 1a.戒告処分が公告を介して第三者の知るところとなり,弁護士としての社会的信用等が低下するなどの事態を生ずるとしても,それは戒告処分によるものではないから,これをもって処分により生ずる回復困難な損害に当たるものということはできない。
参照条文: /行訴.25条2項/弁護士.56条/弁護士.57条/日弁連会則.97-3条1項5号/
全 文 h150311supreme.html

最高裁判所 平成 15年 2月 27日 第1小法廷 判決 ( 平成14年(受)第1100号 )
事件名:  損害賠償,商標権侵害差止等請求上告事件
要 旨
 商標権者から外国において商標使用許諾を得た者が商標権者の同意なく契約地域外である中華人民共和国にある工場に下請製造させた商品が輸入された場合に、商標の出所表示機能と品質保証機能が害されるおそれがあるとして、真正商品の並行輸入と認められないから,実質的違法性を欠くということはできないとされた事例。
 1.真正商品の並行輸入として,商標権侵害としての実質的違法性を欠くための要件:(1)当該商標が外国における商標権者又は当該商標権者から使用許諾を受けた者により適法に付されたものであり,(2)当該外国における商標権者と我が国の商標権者とが同一人であるか又は法律的若しくは経済的に同一人と同視し得るような関係があることにより,当該商標が我が国の登録商標と同一の出所を表示するものであって,(3)我が国の商標権者が直接的に又は間接的に当該商品の品質管理を行い得る立場にあることから,当該商品と我が国の商標権者が登録商標を付した商品とが当該登録商標の保証する品質において実質的に差異がないと評価される場合であること。 /知的財産権/無体財産権/工業所有権/商標権/ヒットユニオン株式会社/フレッドペリー(ホールディングス)リミテッド/FPH社/オシア・インターナショナル・ピーティーイー・リミテッド/オシア社/スポーツウェア/レジャーウェア/
参照条文: /商標.25条/商標.31条/商標.37条1号/
全 文 h150227supreme.html

最高裁判所 平成 15年 2月 27日 第1小法廷 決定 ( 平成14年(許)第10号 )
事件名:  株式売買価格決定申請棄却決定に対する抗告審の取消決定に対する許可抗告事件
要 旨
 1.定款に株式の譲渡につき取締役会の承認を要する旨の定めのある会社の株式について,会社に対して株式の譲渡を承認すべきこと及びこれを承認しないときは他に譲渡の相手方を指定すべきことを請求した株主は,取締役会から指定された者が株主に対して当該株式を売り渡すべき旨を請求するまで,その請求を撤回することができる。(撤回が認められた事例) /譲渡承認請求の撤回/株式譲渡制限/
参照条文: /商.204条/商.204-2条商.204-3条/商.204-4条/商.204-5条/民法:521条/民法:524条/
全 文 h150227supreme2.html

最高裁判所 平成 15年 2月 21日 第2小法廷 判決 ( 平成11年(受)第1172号 )
事件名:  預金返還,仮執行の原状回復及び損害賠償請求上告事件
要 旨
 損害保険会社の代理店が,代理店委託契約中の分別管理条項に基づき,収受した保険料を「X保険株式会社代理店Z株式会社」の名義の預金口座に預け入れていた場合に,代理店に2回目の手形不渡事故が迫ったため,代理店から通帳と印鑑の交付を受けた保険会社が,自己が預金者であると主張して預金の払戻しを請求したが,預金者は代理店であって保険会社ではないとされた事例。
 1.預金口座が「X保険株式会社代理店Z株式会社」と表示されていても,預金者をXと認めることはできないとされた事例。
 1a.保険代理店が収受した保険料を原資とする預金債権を他の財産と明確に区分して管理していたり,あるいは,預金の目的や使途について保険代理店と保険会社との間の契約によって制限が設けられ,預金口座が保険会社に交付されるべき金銭を一時入金しておくための専用口座であるという事情があるからといって,これらが金融機関に対する関係で預金債権の帰属者の認定を左右する事情になるわけではないとされた事例。
 1b.金銭については,占有と所有とが結合しているため,金銭の所有権は常に金銭の受領者(占有者)である受任者に帰属し,受任者は同額の金銭を委任者に支払うべき義務を負うことになるにすぎない。
 2.上告審において仮執行宣言付第一審判決が取り消され、民訴法260条2項の申立てが認容された事例。 /預金者の確定/契約当事者の確定/
参照条文: /民法:646条/民法:188条/民訴.313条/民訴.260条2項/
全 文 h150221supreme.html

最高裁判所 平成 15年 1月 31日 第2小法廷 決定 ( 平成14年(許)第23号 )
事件名:  不動産仮差押命令申立て却下決定に対する抗告棄却決定に対する許可抗告事件
要 旨
 1.特定の目的物について既に仮差押命令を得た債権者は,これと異なる目的物について更に仮差押えをしなければ,金銭債権の完全な弁済を受けるに足りる強制執行をすることができなくなるおそれがあるとき,又はその強制執行をするのに著しい困難を生ずるおそれがあるときには,既に発せられた仮差押命令と同一の被保全債権に基づき,異なる目的物に対し,更に仮差押命令の申立てをすることができる。(保全の必要性)
 1a.先後両仮差押命令に定められる仮差押解放金の額の合計が被保全債権の額を超えることとなる場合にも,仮差押解放金の供託により仮差押えの執行の停止又は取消しを求めようとする債務者に被保全債権の額を超える仮差押解放金の供託をさせることがないような扱いをすることが可能であり,上記の場合が生ずるとしても,異なる目的物に対し更に仮差押命令を発することの障害となるものではない。(補足意見あり)
参照条文: /民保.1条/民保.13条/民保.20条1項/民保.21条/民保.51条/供託.8条/供託規.25条/
全 文 h150131supreme.html

最高裁判所 平成 15年 1月 24日 第3小法廷 決定 ( 平成14年(行フ)第7号 )
事件名:  産業廃棄物処理施設設置不許可処分取消請求事件に対する補助参加申立てに対する異議申立て事件の決定に対する抗告棄却決定に対する許可抗告事件
要 旨
 廃棄物の処理及び清掃に関する法律(平成9年法律第85号による改正前のもの)15条に基づいてなされた管理型最終処分場の設置許可申請に対する岡山県知事の不許可処分の取消しを請求する行政訴訟において,設置予定場所の町および周辺住民が被告側に補助参加することが許された事例。
 1.廃棄物処理法15条2項の趣旨・目的及び災害による被害の内容・性質等を考慮すると,同項は,管理型最終処分場について,その周辺に居住し,当該施設から有害な物質が排出された場合に直接的かつ重大な被害を受けることが想定される範囲の住民の生命,身体の安全等を個々人の個別的利益としても保護すべきものとする趣旨を含み,したがって,上記の範囲の住民に当たることが疎明された者は,民訴法42条にいう「訴訟の結果について利害関係を有する第三者」に当たる。(/補助参加の利益/) /有害物質/水源汚染/
参照条文: /民訴.42条/民訴.44条/廃棄物処理.15条/
全 文 h150124supreme.html

東京地方裁判所 平成 15年 1月 24日 民事第48部 判決 ( 平成14年(ワ)第14626号 )
事件名:  損害賠償請求事件
要 旨
 原告が公園内の通路を自転車で通行中に,手綱をつけていなかった被告所有の大型犬が原告の自転車に衝突して,原告が転倒し,これにより生じた損害の賠償請求が一部認容された事例。
 1.動物の占有者は,動物の種類及び性質に応じて相当の注意をもって保管したことを証明しない限り,その動物が他人に加えた損害を賠償する責任を免責されないから,被告が主張するように犬が驚いて逃げ出したので衝突したとしても,手綱をつけていなかったと認められる以上,被告の責任が免責されることはないとされた事例。
 2.慰謝料の算定にあたって,事故後被告が謝罪を十分にしてこなかったことが考慮された事例。
参照条文: /民法:709条/民法:718条/民法:710条/
全 文 h150124tokyoD.html

東京地方裁判所 平成 15年 1月 20日 民事第29部 判決 ( 平成13年(ワ)第6447号 )
事件名:  著作権確認等請求事件
要 旨
 テレビアニメについて,その「全体的形成に創作的に寄与した者」は原告の従業員ではなく被告の従業員であるが,原告は製作費用を負担して自己の計算によりテレビアニメの製作を行い,発注者に対して製作の進行管理及び完成についての責任を負っていたのであるから製作者は原告であり,被告従業員はテレビアニメの製作に至る経緯を知ってその製作に参加した者であるから,著作権法29条1項により,著作権者は原告であるとされた事例。
 1.映画の製作に「発意」を有するとは,必ずしも最初にその映画の企画を立案することを要するものではなく,第三者からの働きかけによりその映画を製作する意思を有するに至った場合をも含む。
 2.サークルCの表示に続いて表示された者の著作権が否定された事例。 /知的財産権/無体財産権/著作権/竜の子プロダクション/スタジオぬえ/ビックウエスト/
参照条文: /著作.29条1項/著作.14条/著作.16条/
全 文 h150120tokyoD.html

最高裁判所 平成 15年 1月 17日 第2小法廷 判決 ( 平成12年(行ツ)第369号、平成12年(行ヒ)第352号 )
事件名:  徳島県議会野球大会旅費,日当,宿泊料等返還請求上告事件
要 旨
 徳島県の住民である原告が,県議会の議員及び事務局職員が第49回全国都道府県議会議員軟式野球大会に参加するために行われた旅費の支出は違法であると主張して,地方自治法242条の2第1項4号に基づき,県に代位して,議員やこれに随行した職員および支出行為を行った職員に対して、旅費総額相当の不当利得又は損害賠償の返還を請求し,議員に対する請求が一部認容され,他の者に対する請求が棄却された事例。(/住民訴訟/代位訴訟/)
 1.法242条の2第1項4号にいう「当該職員」とは,当該訴訟において適否が問題とされている財務会計上の行為を行う権限を法令上本来的に有するとされている者及びその者から権限の委任を受けるなどして上記権限を有するに至った者をいう。
 1a.徳島県事務決済規程により議会に係る旅費の支出負担行為および支出命令が議会事務局の総務課長の専決事項と定められている場合に,議会事務局長は法242条の2第1項4号にいう「当該職員」に該当しないとされた事例。
 2.普通地方公共団体の議会は,当該普通地方公共団体の議決機関として,その機能を適切に果たすために合理的な必要性がある場合には,その裁量により議員を国内や海外に派遣することができるが,上記裁量権の行使に逸脱又は濫用があるときは,議会による議員派遣の決定は違法となる。
 2a.野球大会に議員を派遣するために行われた議員に対する旅行命令及び議員に随行する議会事務局職員に対して発せられた旅行命令にはいずれも裁量権を逸脱,濫用した違法があるとされた事例。
 3.法242条の2第1項4号に基づき職員に損害賠償責任を問うことができるのは,先行する原因行為に違法事由がある場合であっても,上記原因行為を前提にしてされた当該職員の行為自体が財務会計法規上の義務に違反する違法なものであるときに限られる。
 3a.予算執行権を有する普通地方公共団体の長は,議会がした議員の派遣に関する決定については,これが著しく合理性を欠きそのために予算執行の適正確保の見地から看過し得ない瑕疵がある場合でない限り,議会の決定を尊重しその内容に応じた財務会計上の措置を執る義務があり,これを拒むことは許されない。
 3b.県議会議長が行った議員に対する旅行命令は違法なものではあるが,著しく合理性を欠き,そのために予算執行の適正確保の見地から看過し得ない瑕疵があるとまでいうことはできないから,知事に代わって専決の権限を有する議会事務局総務課長が議員に対する旅費についての支出負担行為及び支出命令をしたことが,財務会計法規上の義務に違反してされた違法なものであるということはできないとされた事例。
 4.普通地方公共団体の支出負担行為及び支出命令をする権限を有する職員は,故意又は重大な過失により法令の規定に違反して当該行為をした場合に限り、損害賠償責任を負う。
 5.地方公共団体の職員は,上司の職務命令に重大かつ明白な瑕疵がない限り,これに従う義務を負う。
 5a.地方公共団体の職員が職務命令である旅行命令に従って旅行をした場合には,職員は,旅行命令に重大かつ明白な瑕疵がない限り,当該旅行に対して旅費の支給を受けることができ,それが不当利得となるものではない。
参照条文: /地自.242-2条/地公.32条/
全 文 h150117supreme.html

東京地方裁判所 平成 14年 12月 27日 民事第47部 判決 ( 平成12年(ワ)第14226号,平成14年(ワ)第4485号 )
事件名:  不正競争行為差止等請求本訴事件,不正競争行為差止請求権不存在確認等請求反訴事件
要 旨
 本訴:
 ポターの創作に係るピーターラビットの商品化事業を行う原告会社と,子供用品の製造販売を業とする被告会社(株式会社ファミリア)との間でライセンス契約が締結され,被告が「ピーターラビット」等の商標権を取得すると共に,ピーターラビットの図柄および「ピーターラビット」等の表示を使用して商品の製造販売を行っていたが,その後ライセンス契約が終了したため,被告が自社の表示である「familiar」と組み合わせて「ピーターラビット」等の表示の付された商品を製造販売していた場合に,原告がこれを不正競争行為であるとして訴えを提起したところ,差止請求ならびに損害賠償請求は認容されたが,商標権移転登録手続請求は棄却された事例。
 反訴:
 不正競争防止法に基づく差止請求を含む本訴の係属中に,被告が,被告商品の販売・販売のための展示について原告が不正競争防止法に基づく差止請求権および損害賠償請求権を有しないことの確認請求の反訴を提起した場合に,訴えの利益は肯定されたが,請求は棄却された事例。
 1.不正競争防止法1条1項1号の要件がすべて充足されていると認定された事例。
 2.ライセンス契約において商標登録がライセンシーの負担とされている場合に,ライセンシーの商標登録はライセンサーの承諾により得ることができたものとみるべきであるから,ライセンス契約終了後にライセンサーからの不正競争防止法に基づく差止請求に対して商標権を有することを抗弁として主張することは許されないとされた事例。
 3.被告が,「ピーターラビット」のライセンス契約終了後に,ピーターラビットの図柄のない「ピーターラビット」等の表示のみを使用した被告商品を,その図柄の付されている原告グループ会社の商品とともに販売した場合に,その販売方法は消費者に出所の混同をもたらすものであり,「ピーターラビット」等の表示を被告が不正の目的なく使用しているとは認められないとされた事例。
 4.ライセンス契約における「ファミリア[被告・ライセンシー]が,その意思により,ライセンス商品の製造を行わないことを決めた場合,ファミリアはウォーン[原告・ライセンサー]とファミリアの間で相互に合意する合理的な条項及び条件に従って前記商標をウォーンに移転しかつ譲渡する。」との条項について,「被告が,自らの意思に基づいて自発的にライセンス製品の製造を中止した場合には,本件商標権を原告に移転するという意味のものである」と解するのが相当であり,ライセンス契約の改定交渉が決裂した場合は含まれないとされた事例。(契約の解釈/意思表示の解釈)
 5.ライセンス契約終了後の商品の出荷高金額を記載した被告提出文書について,販売態様はライセンス契約存続中と変わらないのに売上金額が極端に減少しているので不自然であると原告が主張したのに対し,裁判所が,顧客吸引力の大きいピーターラビットの図柄を使用していないことを考慮すれば信用できるとした事例。(自由心証主義)
 6.原告が特定した「Peter Rabbit」の表示を付した商品を被告が販売することの差止請求訴訟の係属中に,被告が,これとは字体が異なりかつ「familiar」の表示が付加されている商品について原告が差止請求権を有しないことの確認請求の反訴を提起した場合に,その反訴は原告と被告との紛争を抜本的に解決するために必要なものとして確認の利益を認めることができるとされた事例。
 6a.反訴は本訴事件の解決を長びかせるために提起されたものであり,訴権の濫用に当たるとの主張が排斥された事例。
 6b.差止請求権不存在確認請求の反訴について,対象となる物件目録の変更が軽微であるから訴えの変更に当たらないとされた事例。(訴訟物) /知的財産権/無体財産権/不正競争防止法/キャラクター商品/
参照条文: /不正競争.2条1項1号/商標.4条1項7号/民訴.143条/民訴.247条/民訴.146条/
全 文 h141227tokyoD.html

東京地方裁判所 平成 14年 12月 25日 民事第35部 判決 ( 平成12年(ワ)第26241号 )
事件名:  損害賠償請求事件
要 旨
 X1がY1の設置する病院で双胎の第2子として娩出されたが、低酸素血症による新生児仮死の状態で出生し,脳性麻痺による重度の障害が生じたため、X1とその父母( X2・X3)が、担当医師Y2には,X1が胎児仮死に陥っていたにもかかわらず帝王切開術の実施を怠った過失があるなどと主張して,Y1・Y2に対し,不法行為による損害賠償を求めたが、新生児仮死の状態での出産は臍帯脱出という突発的に生じた不測の事態が原因でるとして、請求が棄却された事例。(医療過誤訴訟)
 1.出産担当医が双胎の第2子について帝王切開を決定する義務の存否が時系列を追って検討された事例。
 1a.午後3時50分に遅発一過性徐脈が出現し,4時4分には基線細変動が消失したから,その時点で胎児仮死の危険が切迫していると判断して,帝王切開術実施の決定をする義務があったとの主張が認められなかった事例。
 1b.午後4時20分ころ胎児心拍数の回復が不良となり,4時25分には遅発一過性徐脈となって,胎児仮死又は低酸素状態に陥っていたから,その時点で,帝王切開術実施の決定をする義務があったとの主張が認められなかった事例する。
 1c.午後4時20分以降,変動一過性徐脈が出現し,4時40分には徐脈の回復が不良となり、この時点で第2子は低酸素状態にあったと認められるから、4時40分の時点で帝王切開術実施の決定をする義務があったとの主張が認められなかった事例。
 2.第1子娩出までの経過は順調であり,第2子も手が先進していたが,頭位であり、胎児仮死が予測されるような症例ではない場合に、臍帯脱出という不測の事態の発生前に帝王切開術の実施に至ることを予測して,あらかじめ帝王切開術の準備に着手する義務(ダブルセットアップの義務)があったというのは合理的ではないとされた事例。
 3.弁論準備手続終了後になされた新たな主張について、これは既に口頭弁論に現れている事実経過についての事情として追加された主張であり,これにより訴訟の完結を遅延させることにはならないとして、時機に後れた攻撃方法の却下の申立てが認められなかった事例。 /相当因果関係/
参照条文: /民訴.157条/民法:709条/
全 文 h141225tokyoD.html

最高裁判所 平成 14年 12月 17日 第3小法廷 判決 ( 平成13年(行ツ)第205号、平成13年(行ヒ)第202号 )
事件名:  特別土地保有税に関する更正請求否認処分取消等請求上告および上告受理申立て事件
要 旨
 1.特別土地保有税の納税義務者を定める地方税法585条1項にいう土地の取得とは,所有権の移転の形式により土地を取得するすべての場合を含み,取得の原因となった法律行為が取消し,解除等により覆されたかどうかにかかわりなく,その経過的事実に則してとらえた土地所有権取得の事実をいう。
 1a.土地の売買が詐害行為として取り消された場合に,詐害行為取消しの効果は相対的であって,取消訴訟の当事者間においてのみ当該売買契約を無効とするにとどまり,売主と買主との間では当該売買契約は依然として有効に存在する上,取消しがされたということによって,当該土地の所有権が買主に移転し買主が当該土地を取得に引き続いて所有していた経過的事実そのものがなくなるものではないから,当該土地の取得及びその所有に対して課された特別土地保有税の課税要件を失わせることになるものではないとの説明が付加された事例。
 2.平成4年度から平成10年度までの特別土地保有税に係る処分取消の訴えに加えて,平成7年度から平成10年度までに係る処分の取消を求める訴えが予備的に追加された場合に,後者の訴えが重複起訴禁止規定(民訴142条)に反するとして却下された事例。
 2a.控訴審が請求を棄却した訴えについて,上告審が重複起訴にあたる不適法な訴えであると判断して口頭弁論を開かずに却下する場合には,訴えを却下する前提となる原判決を破棄する判決も,口頭弁論を経ないですることができる。 /二重起訴の禁止/職権破棄/財産税/流通税/
参照条文: /地方税.585条/民訴.140条/民訴.142条/民訴.313条/民訴.297条/
全 文 h141217supreme.html

東京地方裁判所 平成 14年 12月 13日 民事第47部 判決 ( 平成12年(ワ)第17019号 )
事件名:  著作権侵害差止等請求事件
要 旨
 小学校用および中学校用国語教科書に掲載された文学作品の著作者が,作品を無断で引用して教科書準拠テスト教材を出版した被告会社(文理および啓林館)に対して,著作権および著作者人格権の侵害を理由に損害賠償を請求し,一部認容された事例。
 1.著作権法32条1項でいう「引用」とは,報道,批評,研究その他の目的で,自己の著作物中に,他人の著作物の原則として一部を採録するものであって,引用する著作物の表現形式上,引用する側の著作物と引用される側の著作物とを明瞭に区別して認識することができるとともに,両著作物間に,引用する側の著作物が「主」であり,引用される側の著作物が「従」である関係が存する場合をいう。
 1a.国語教科書に準拠したテスト教材が教科書に掲載された文学作品を掲載した場合に,引用される側の著作物が「従」であり,引用する側の著作物が「主」であるという関係が存するということはできないとして,32条1項に言う引用に該当しないとされた事例。
 2.「こんにちわ」を「こんにちは」に変更したこと,「でんわとる」を「じゅわきとる」に変更したこと,「?」を「。」に変更したこと等が,著作権法20条が規定する「改変」に当たるものと認められた事例。(同一性保持権の侵害の成立が肯定された事例)
 2a.テスト問題において著作物の原文自体を変更するのではなく,語句を加筆させる問題を設定することは,「改変」に当たるとは認められない。
 2b.教科書に準拠したテスト教材が著作権法20条2項1号の「第33条第1項(同条第4項において準用する場合を含む。)又は第34条第1項の規定により著作物を利用する場合」に当たらず,同号に該当する教科書に準拠した教材であるからといって20条2項1号により改変が適法になるものということはできないとされた事例。
 2c.教科書に準拠したテスト教材における著作物の改変について,著作権法20条2項4号が定める「やむを得ないと認められる改変」に該当するとは認められないとされた事例。
 2d.教科書に準拠した改変であっても,同一性保持権の侵害に当たるとされた事例。
 3.民法724条にいう被害者が損害を知った時とは,被害者が損害の発生を現実に認識した時をいう。
 3a.文学作品の著作者が教科書に掲載されたことを知っていても,そのことから直ちに,教科書に準拠したテスト教材に自己の作品が掲載されていることまで知っていたものと認めることはできないとされた事例。
 4.著作権法114条1項は,当該著作物を利用して侵害者が現実にある利益を得ている以上,著作権者が同様の方法で著作物を利用する限り同様の利益を得られる蓋然性があることに基づく規定であるから,自ら著作物の出版を行っているのではない作家等には,同法114条1項は適用されない。
 4a.著作権法114条2項による損害が認められた事例。
 4b.複数年にわたって発行された図書により著作権が侵害され,損害額の算定のために図書の発行により侵害者が得た利益を算定する必要があるが,その図書のある年度の価格を直接証明する証拠がない場合に,当該図書の価格が判明している年度と当該価格不明年度の双方について価格の判明している類似の図書の価格を参考にして,その価格が算定された事例。(自由心証主義/経験則による推認)
 4c.著作物を無断で利用した図書における著作物使用率の算定にあたって,使用ページ数は,1ページのほぼ全面に掲載されているものは1ページ,一部に掲載されているものは,2分の1ページとして計算するのが相当であるとされた事例。
 5.著作権侵害を理由とする慰謝料請求が否定され,著作者人格権侵害を理由とする慰謝料請求が肯定された事例。 /知的財産権/無体財産権/著作権/
参照条文: /著作.20条/著作.21条/著作32条/著作.33条/著作.114条/民法:724条/民166条/民訴.247条/
全 文 h141213tokyoD.html

東京簡易裁判所 平成 14年 12月 2日 民事第4室 判決 ( 平成14年(ハ)第12934号 )
事件名:  不当利得返還請求事件
要 旨
 年率300%を超す高利貸付けの債務者が弁済額全部を不当利得であるとして返還請求したのに対し,裁判所が,利息契約は暴利行為で無効であるが,消費貸借契約自体は有効なものとして処理するのが相当であるとして,利息制限法所定の利息を超える過払利息の範囲で請求を認容した事例。
参照条文: /民法:703条/民法:704条/民法:90条/利息制限.1条/
全 文 h141202tokyoS.html

東京地方裁判所 平成 14年 11月 29日 民事第47部 判決 ( 平成10年(ワ)第16832号、平成12年(ワ)第5572号 )
事件名:  補償金請求事件
要 旨
 被告である日立製作所の中央研究所において半導体レーザー装置から放出される楕円形状ビームを円形状のスポットとして収束させることを特徴とする工学的情報処理装置等の発明をした原告が,特許法35条3項の規定に基づき,相当な対価を請求し,一部認容された事例。
 1.属地主義の原則に鑑みれば,特許法35条は,我が国の特許を受ける権利にのみ適用され,外国における特許を受ける権利に適用又は類推適用されることはない。
 2.使用者が従業員から特許を受ける権利の譲渡を受けた場合の「相当の対価」の額は,発明を排他的に独占することによって得られる利益に,使用者の発明に対する貢献を考慮した額となる。
 2a.使用者が従業員から特許を受ける権利の譲渡を受けた場合の「相当の対価」の額は,客観的な市場価値と異なる。
 2b.職務発明の「相当の対価」の算定について,その発明を実施した装置の生産額に実施料率を乗じて額を算定することが妥当でないとされた事例。
 3.職務発明の相当の対価の算定について,個々のライセンス契約に基づいて使用者が得た利益の額を算定し,それを基礎に「相当の対価」の額を算定するのが合理的な算定方法であるとされた事例。
 3a.「使用者が受けるべき利益の額」の算定に当たって,複数の特許発明がライセンスの対象となっている場合にはそれぞれの発明の寄与の度合を考慮すべきであり,また,他社とライセンス契約を締結して実施料を得ていること,代替技術が存在するものの簡便且つ安価に装置を実現可能にした発明であること,無効審判請求がされておらず無効理由があるとは認められないことを考慮すべきであるとされた事例。
 3b.包括的クロスライセンス契約により「使用者が受けるべき利益」は,相手方の特許権の実施によって相手方に支払うべき実施料の支払を免れたことにある。
 3c.使用者である日立製作所が松下電器産業ととDVD-ROMの規格に関して協力体制にあり,特許の活用及び製品化に向けてのプロジェクトを推進していたことから,職務発明に係る特許権につき,松下電器産業に対する権利行使が事実上困難であったため,日立製作所が松下電器産業から実施料収入を得ていない場合に,「使用者の受けるべき利益」が存したとは認められないとされた事例。
 3d.特許法35条4項における「使用者の貢献の程度」が,出願手続における労苦ならびにライセンス交渉の労力等をも考慮して,80%と認められた事例。(事業化の貢献)
 3e.職務発明を子会社が実施した場合に,使用者たる親会社が実施料収入を得ていないことを理由に,その実施分を「相当の対価」の算定の基礎とすることができないとされた事例。
 4.職務発明の社内実施分も「相当の対価」の算定の基礎に含めるべきであるとの主張が証人尋問および原告本人尋問実施後になされた場合に,時機に後れて提出された攻撃方法として却下された事例。
 5.職務発明に係る特許権等の承継に関しては,特許法35条3項所定の「勤務規則その他の定め」により,使用者がこれを一方的に定めることができるが,その場合の「相当の対価」の額についてまで使用者が一方的に定めることができるわけではなく,使用者が職務発明の「相当の対価」の額について職務発明規程等で一方的に定めても,発明者である従業者がこれに拘束される理由はない。
 5a.職務発明規程等に定められた対価の額が特許法35条3項及び4項の定める「相当の対価」の額に足りないと認められる場合には,対価請求権を有効に放棄するなどの特段の事情のない限り,従業者は,会社に対し,不足額を請求できる。
 6.職務発明に対する使用者の規程に基づく実績補償金は,「相当な対価」の一部の支払と見るべきであり,その支払が続いている限り相当対価請求権を行使することは現実に期待し得ないから,その間は消滅時効は完成しないとされた事例。
 6a.相当対価請求権について時効が完成しているとしても,実績補償金の支払いは「相当の対価」の少なくとも一部の支払と言うことができ,これにより時効援用権が失われるとされた事例(傍論)。
 7.職務発明の相当対価請求権は,特許法35条により発生する法定債権であり,商行為によって生じたものとはいえないので,その遅延損害金は,民事法定利率により算定すべきである。 /知的財産権/無体財産権/工業所有権/特許権/
参照条文: /特許.35条3項/特許.35条4項/民訴.157条1項/
全 文 h141129tokyoD.html

東京高等裁判所 平成 14年 11月 27日 第15民事部 判決 ( 平成14年(ネ)第3161号 )
事件名:  損害賠償請求控訴事件
要 旨
 借入先の金融業者からの指示に従って別の金融業者から借り受けて弁済に当てることになった債務者が,融資の申し込みの際に既存債務額・借入れ先・毎月返済額等について虚偽の事実を申告して,145万円(手数料差し引き後の交付金額143万4775円)を年利25.55%でその借り受け,それから8日後に弁護士に債務整理を委任し,2ヶ月内に自己破産の申し立てをして免責を得た場合に,この借受け行為が悪意の不法行為に該当すると判断され,過失相殺のうえ79万円(内7万円は弁護士費用)の賠償が命じられた事例。
 1.債務者が返済能力について虚偽の申告をしたことが貸金業者に対する不法行為を構成するとされ,また,債務者が自己に返済能力がないことを認識しながらあえて上記行為をしたものと推認され,貸金業者の債務者に対する損害賠償請求権が破産法366条の12ただし書第2号にいう「破産者ガ悪意ヲ以テ加ヘタル不法行為ニ基ク損害賠償」に該当すると判断された事例。
 2.免責申立てについての異議及び免責決定に対する即時抗告は,利害関係人からの免責を許可することに対する不服申立てであるが,非免責債権とは衡平ないし具体的正義の観念や政策的考慮等に基づいて認められた免責決定が確定した後もその効果が及ばない債権をいうのであって,両者はその趣旨を異にする以上,破産者債権者が異議や即時抗告をしなかったからといって,非免責債権の主張ができなくなるものではない。 /トイチ業者/破産免責/
参照条文: /破産.366-12条ただし書2号/
全 文 h141127tokyoH.html

最高裁判所 平成 14年 11月 22日 第2小法廷 判決 ( 平成10年(オ)第2190号 )
事件名:  国籍確認等請求上告事件
要 旨
 法律上の婚姻関係のない日本国民である父とフィリピン国籍を有する母との間に出生した子(原告)が,出生後の認知と父母の婚姻により日本国籍を取得した場合に,法2条1号の解釈上認知の遡及効が否定されているのは憲法14条に違反すると主張して,国に対し,日本国籍を有することの確認及び出生の時にさかのぼって日本国籍を有する者として扱われなかったことによる慰謝料の支払を求めたが,認められなかった事例。
 1.国籍法2条1号が,子が日本人の父から出生後に認知されたことにより出生時にさかのぼって法律上の父子関係が存在するものとは認めず,出生後の認知だけでは日本国籍の生来的な取得を認めないものとしていることには,合理的根拠があり,国籍法2条1号は憲法14条1項に違反しない。 /胎児認知/非嫡出子/嫡出子/
参照条文: /国籍.2条/国籍.3条/憲.14条/
全 文 h141122supreme.html

折尾簡易裁判所 平成 14年 11月 21日 判決 ( 平成14年(ハ)第118号 )
事件名:  損害賠償請求事件
要 旨
 高利貸金業者に対して借主が提起した不当利得返還請求訴訟(小倉訴訟)において借主が勝訴した後で、貸金業者が借主に対して不当利得返還請求訴訟(折尾訴訟)を提起したが敗訴した場合に、貸金業者がこれらの2つの訴訟において借主とその子が不当な証言・陳述をしたと主張して両者に対して提起した損害賠償請求訴訟において、裁判所が、旧訴訟物理論を前提にして第2訴訟の判決の既判力は本訴に及ばないとしつつ、貸金業者の本訴提起は信義則に反して許されないとして却下した事例。 /本人訴訟/司法書士支援訴訟/
参照条文: /民訴.2条/民訴.114条/
全 文 h141121orioS.html

旭川簡易裁判所 平成 14年 11月 12日 判決 ( 平成14年(ハ)第883号 )
事件名:  損害賠償等請求事件
要 旨
 債務の弁済が困難になった多重債務者(原告)から債務整理の委任を受けた弁護士が債権者に対し取引経過の開示を請求したところ,被告たる債権者が開示しないために原告の債務整理が遅延し,精神的に不安定な状態が継続することになり精神的損害を受けたとして,取引経過の開示義務違反を理由とする損害賠償請求,並びに過払金について不当利得返還請求の訴えを提起し,一部認容された事例。
 1.債務者の求めにもかかわらず債権者か取引経過を開示しなかったことが不法行為に当たるとされた事例。
 1a.貸金業者にとって取引経過の開示が容易であり,それに応じないのは過払いの事実が判明することを遅らせ,過払金の返還請求をはぐらかそうとすることに目的があったと認められることを考慮して,取引経過を開示しないことが信義誠実の原則に反するとされた事例。
 1b.貸金業法に関連する金融庁の事務ガイドラインは,民事訴訟あるいは特定調停の手続きの運用の中で,訓示規定的行政通達の域から,貸金業法19条を具現化する規範として扱われている。
 2.多重債務に陥り,その債務を整理して,経済的再生を図ろうとする者の多くは,一般的には,利息制限法や貸金業法の知識を十分に有しているわけではなく,また,基本的な契約書,領収書等の関係書類の保存・保管も的確になされていない場合の多いのが現実であること,一方,貸金業者は,経済的には勿論のこと,組織的にも優位な立場にあり,その多くが,取引経過をコンピューターで管理していること等は,訴訟事件あるいは特定調停事件等に関与する者にとっては自明のことである。(顕著な事実の例)
 3.過払金の額について当事者双方に争いがない場合に,裁判所が計算に誤りがあるとして,当該金額より少ない金額のみを認容した事例。(弁論主義)
参照条文: /貸金.19条/民法:704条/民法:709条/民法:1条2項/民訴.179条/
全 文 h141112asahikawaS.html

最高裁判所 平成 14年 11月 8日 第2小法廷 判決 ( 平成12年(受)第1556号 )
事件名:  損害賠償請求上告事件
要 旨
 精神障害のために入院した患者(原告)がフェノバール(フェノバルビタール製剤。催眠・鎮静・抗けいれん剤)の投与を受け,これにより失明したと認定しつつも,右薬剤を投与した医師に過失がないとして原判決が請求を棄却した場合に,審理不尽の違法があるとして,破棄差戻の判決がなされた事例。
 1.精神科医は,向精神薬を治療に用いる場合において,その使用する向精神薬の副作用については,常にこれを念頭において治療に当たるべきであり,向精神薬の副作用についての医療上の知見については,その最新の添付文書を確認し,必要に応じて文献を参照するなど,当該医師の置かれた状況の下で可能な限りの最新情報を収集する義務がある。
 1a.薬剤の添付文書に「使用上の注意」の「副作用」の項に「(1)過敏症
 ときに猩紅熱様・麻疹様・中毒疹様発疹などの過敏症状があらわれることがあるので,このような場合には,投与を中止すること。
 (2)皮膚
 まれにStevens-Johnson症候群(皮膚粘膜眼症候群),Lyell症候群(中毒性表皮壊死症)があらわれることがあるので,観察を十分に行い,このような症状があらわれた場合には,投与を中止すること。」と記載されている場合に,当該薬剤と他の薬剤と併用中に薬剤の副作用と疑われる発しん等の過敏症状が生じていることを認めた医師は,過敏症状の発生から直ちに本件症候群の発症や失明の結果まで予見することが可能であったということはできないとしても,当時の医学的知見において,過敏症状が添付文書の(2)に記載された症候群へ移行することが予想し得たものとすれば,十分な経過観察を行い,過敏症状又は皮膚症状の軽快が認められないときは,当該薬剤の投与を中止して経過を観察するなど,前記症候群の発生を予見,回避すべき義務を負っていたと判断された事例。
参照条文: /民法:415条/民法:709条/
全 文 h141108supreme.html

最高裁判所 平成 14年 11月 5日 第1小法廷 判決 ( 平成11年(受)第1136号 )
事件名:  死亡保険金支払請求権確認請求上告受理申立て事件
要 旨
 自己を被保険者とする生命保険契約の契約者が死亡保険金の受取人を変更する行為は,民法1031条に規定する遺贈又は贈与に当たるものではなく,これに準ずるものではない。
参照条文: /民法:1031条/民法:896条/商.675条/商.673条/
全 文 h141105supreme.html

東京簡易裁判所 平成 14年 11月 1日 民事第1室 判決 ( 平成14年(ハ)第66177号 )
事件名:  立替金請求事件
要 旨
 連帯保証人として自ら署名押印しているのではない者について,債権者からの電話での保証意思確認において承諾したと認められた事例。(自由心証主義/事実認定/契約の成立)
参照条文: /民訴.247条/民法:3編2章1節1款/
全 文 h141101tokyoS.html

大阪高等裁判所 平成 14年 10月 31日 第5民事部 判決 ( 平成14年(ネ)第1353号 )
事件名:  配当異議・控訴事件
要 旨
 25億円余で売却されることになる不動産について総計9名の債権者のために極度額の総額480億円の根抵当権が設定されている場合に,極度額65億円の根抵当権と63億円余の被担保債権を有する債権者(原告)が請求債権額を8億円に限定して競売申立てをしたところ,執行裁判所が原告の債権額を8億円として他の債権者と比例配分する配当表を作成したため,原告が配当異議の訴えを提起して,原告についても原告の有する被担保債権額63億円余を基準にして配当すべきであると主張したが,認められなかった事例。
 1.民事執行法,同規則において,「配当の上限としての請求債権」と「あん分計算の基礎となる請求債権」とを区別する考え方は全く採られておらず,申立書に記載する請求債権(被担保債権)は,申立債権者が権利行使をする債権の趣旨で規定されているのであり,配当の上限額にすぎないものと解することはできない。
 2.不動産競売申立書において,「被担保債権及び請求債権」として,「金8億円
 但し,債権者が債務者に対して有する下記債権のうち,下記記載の順序にしたがい上記金額(8億円)に満つるまで。」と記載され,それに続けて被担保債権の順位が付されている場合に,その記載は,通常の一部請求による競売申立ての記載と異なるところはなく,その申立書からは,被担保債権及び請求債権が配当を受ける上限額の意味であり,同順位根抵当権者間におけるあん分計算の基礎となる債権としては,被担保債権全額である,あるいは配当段階でそこまで拡張できるという趣旨であると解することはできないとされた事例。 /一部請求/不動産競売/
参照条文: /民執.85条5項/民執.85条4項/民執規.170条2号/民執規170条4号/
全 文 h141031osakaH.html

最高裁判所 平成 14年 10月 29日 第3小法廷 判決 ( 平成12年(受)第612号 )
事件名:  自動車引渡等請求上告事件
要 旨
 ドイツ連邦共和国で登録され使用されていた自動車が,イタリア共和国で盗難の被害に遭い,我が国に輸入された後,道路運送車両法に基づく登録を経て,最終的に被告が販売業者から買い受けた場合に、盗難保険金の支払により所有権を取得した原告(保険会社)が、被告に対し、自動車引渡等を請求したが、日本に輸入された後は所有権取得の準拠法は日本法であり、被告の数代前の買主がすでに即時取得しており、被告はその承継人であるとして、請求が棄却された事例。
 1.自動車の所有権取得の準拠法を定める基準となる法例10条2項にいう所在地法とは,権利の得喪の原因事実が完成した当時において,当該自動車が,運行の用に供し得る状態のものである場合にはその利用の本拠地の法,運行の用に供し得る状態にない場合には,他国への輸送の途中であるなどの事情がない限り,物理的な所在地の法をいう。
 1a.ドイツで登録された自動車が,イタリアで盗まれ、日本に輸入された場合に、ドイツにおいて形式的に登録が残っていても,運行の用に供し得る状態になかったから、日本で占有が開始された時以降の所有権取得の準拠法は,物理的な所在地の法である日本法であるとされた事例。
 2.民法192条にいう善意無過失とは,動産の占有を始めた者において,取引の相手方がその動産につき無権利者でないと誤信し,かつこのように信ずるについて過失のなかったことを意味し,その動産が盗品である場合においてもそれ以上の要件を必要とするものではなく、また、そのように誤信することについて、占有取得者は過失がないものと推定され,占有取得者自身において過失がないことを立証することを要しない。
 2a.盗品を扱っている業者であるとの不審を抱かせるような事情が何ら認められない業者から個人消費者が自動車を購入する際に,新規登録に必要な適式の書類はすべて整っているのに,最後の登録国における所有関係を証する書面の存在を確認していないから同人に過失があるということはできないとされた事例。
参照条文: /法例.10条2項/民法:192条/民法:186条1項/
全 文 h141029supreme.html

最高裁判所 平成 14年 10月 25日 第2小法廷 決定 ( 平成14年(許)第11号 )
事件名:  競売手続一部取消及び停止決定に対する許可抗告事件
要 旨
 物上保証人所有の不動産を目的とする根抵当権の実行としての競売手続において,債務者の所在が不明であるため,競売開始決定正本の債務者への送達が公示送達によりされた場合には,民訴法113条の類推適用により,同法111条の規定による掲示を始めた日から2週間を経過した時に,債務者に対し民法155条の通知がされたものとして,被担保債権について消滅時効の中断の効力を生ずる。 /時効中断事由としての差押えの通知/
参照条文: /民訴.113条/民訴.111条/民法:97-2条/民法:147条/民法:148条/民法:155条/民執.45条2項/民執.188条/
全 文 h141025supreme.html

最高裁判所 平成 14年 10月 24日 第1小法廷 判決 ( 平成12年(行ヒ)第174号 )
事件名:  裁決取消請求上告事件
要 旨
 1.行政不服審査法14条1項本文の規定する「処分があったことを知った日」というのは,都市計画法における都市計画事業の認可のように,処分が個別の通知ではなく告示をもって多数の関係権利者等に画一的に告知される場合には,告示があった日をいう。
参照条文: /行審.14条1項/都計.59条1項/都計.62条1項/
全 文 h141024supreme.html

東京簡易裁判所 平成 14年 10月 24日 民事4室 判決 ( 平成14年(ハ)第11334号 )
事件名:  不当利得返還請求事件
要 旨
 利息金の支払が年率4238パーセントとなる金銭消費貸借契約について、利息契約は暴利行為として無効であり、利息の定めのない消費貸借契約としても扱うべきであるとして、過払いの弁済金の不当利得返還請求が認容された事例。(出資法違反の高金利)
参照条文: /民法:90条/民法:586条/出資.5条/
全 文 h141024tokyoS.html

最高裁判所 平成 14年 10月 22日 第2小法廷 決定 ( 平成10年(あ)第252号 )
事件名:  収賄被告事件(上告事件)
要 旨
 文部省初等中等教育局の局長が,リクルート社の事業遂行に不利益となるような行政措置を採らずにいたことに対する謝礼と今後も同様な取り計らいを受けたい等の趣旨で,リクルート社の代表取締役社長等から昭和61年9月30日に店頭登録されることが予定されているリクルートコスモス社の株式を店頭登録後に見込まれる価額よりも明らかに低い価額で供与する旨の申し入れを受け入れ,申し入れの趣旨が自己の職務に関することを認識しながらその申し入れを了承して株式を取得したことが,平成7年法律第91号による改正前の刑法197条1項前段の収賄罪に該当するとされた事例。
 1.不作為について収賄罪の職務関連性が認められるためには,何らかの行政措置を採るべき作為義務が存在することは必要ない。
参照条文: /刑.197条/
全 文 h141015supreme91.html

最高裁判所 平成 14年 10月 22日 第3小法廷 判決 ( 平成13年(受)第1567号 )
事件名:  配当異議上告事件
要 旨
 Xの有する共同抵当について同時配当が行われ,共同抵当不動産の一つ(乙不動産)に設定された抵当権の順位がYの抵当権と同順位で,Yについては同時配当が行われない場合に,執行裁判所が民法392条の割付を各不動産の価額に応じて行った後,Xについては割付額でYについては被担保債権全額で乙不動産の配当原資を比例配分した配当表を作成したのに対し,Xが配当異議の訴えを提起し,認容された事例。
 1.民法392条1項は,共同抵当の目的である複数の不動産の代価を同時に配当する場合には,共同抵当権者が優先弁済請求権を主張することのできる各不動産の価額(当該共同抵当権者が把握した担保価値)に準じて被担保債権の負担を分けることとしたものであり,この負担を分ける前提となる不動産の価額中には他の債権者が共同抵当権者に対し優先弁済請求権を主張することのできる不動産の価額(他の債権者が把握した担保価値)を含むものではない。
 1a.共同抵当の目的となった数個の不動産の代価を同時に配当すべき場合に,1個の不動産上にその共同抵当に係る抵当権と同順位の他の抵当権が存するときは,まず,当該1個の不動産の不動産価額を同順位の各抵当権の被担保債権額の割合に従って案分し,各抵当権により優先弁済請求権を主張することのできる不動産の価額(各抵当権者が把握した担保価値)を算定し,次に,民法392条1項に従い,共同抵当権者への案分額及びその余の不動産の価額に準じて(比例して)共同抵当の被担保債権の負担を分けるべきものである。
 2.競売申立書に明白な誤記,計算違いがある場合には,その後の手続においてこれを是正することが許され,これを一部請求の趣旨と解することは相当でなく,配当裁判所は,是正後の債権額に従い配当表を作成すべきである。
 2a.配当異議の訴えは実体法上の権利に基づき配当表の変更,取消しを求めるものであり(民事執行法90条4項),配当表を是正するためには,配当表の誤記が執行裁判所の責めに帰すべき事由により生じたことを要するものではない。
参照条文: /民法:392条/民執.85条/民執.90条/民執.188条/民執規.170条/民執規.60条/民執規.173条/
全 文 h141022supreme.html

最高裁判所 平成 14年 10月 21日 第2小法廷 決定 ( 平成13年(あ)第1277号 )
事件名:  住居侵入,窃盗,有印私文書偽造,同行使,詐欺,建造物侵入被告事件
要 旨
 他人の国民健康保険被保険者証を使用して他人名義の預金口座を開設し,これに伴って預金通帳1冊を取得した場合に,詐欺罪が成立するとされた事例。
 1.預金通帳は,それ自体として所有権の対象となり得るものであるにとどまらず,これを利用して預金の預入れ,払戻しを受けられるなどの財産的な価値を有するものと認められるから,他人名義で預金口座を開設し,それに伴って銀行から交付される場合であっても,刑法246条1項の財物に当たる。
参照条文: /刑.246条/刑訴.411条/
全 文 h141021supreme91.html

最高裁判所 平成 14年 10月 17日 第1小法廷 判決 ( 平成11年(行ヒ)第46号 )
事件名:  在留資格変更申請不許可処分取消請求上告事件
要 旨
 1.外国人が「日本人の配偶者」の身分を有する者として本邦に在留するためには,単にその日本人配偶者との間に法律上有効な婚姻関係にあるだけでは足りず,当該外国人が本邦において行おうとする活動が日本人の配偶者の身分を有する者としての活動に該当することを要する。
 1a.日本人との間に婚姻関係が法律上存続している外国人であっても,その婚姻関係が社会生活上の実質的基礎を失っている場合には,その者の活動は日本人の配偶者の身分を有する者としての活動に該当するということはできず,「日本人の配偶者等」の在留資格取得の要件を備えているということはできない。
 1b.日本人の配偶者の身分を有する者としての活動に該当するかどうかを決するに際しては,婚姻関係が社会生活上の実質的基礎を失っているかどうかの判断は客観的に行われるべきものであり,有責配偶者からの離婚請求が身分法秩序の観点から信義則上制約されることがあるとしても,そのことは上記判断を左右する事由にはなり得ない。
参照条文: /入管=出入国管理及び難民認定法/入管.2条/入管.4条1項16号/入管.20条3項/入管.2-2条2項/入管.7条1項2号/民法:770条/民法:4編2章/
全 文 h141017supreme.html

最高裁判所 平成 14年 10月 15日 第2小法廷 決定 ( 平成10年(あ)第961号 )
事件名:  法人税法違反被告事件(上告事件)
要 旨
 1.法人税法159条1項(平成10年法律第24号による改正前のもの)に規定する者が,所得の秘匿工作をした上,ほ脱の意思で法人税確定申告書を税務署長に提出しなかった場合には,法定納期限の経過により同項の罪が成立し,免れた法人税の額は,所得の秘匿工作が行われた部分に限定されるものではなく,その事業年度の所得の金額全額に対する税額になるというべきである。
 1a.上記のことは,事後に所得の秘匿工作を前提とする期限後申告書が提出されたときであっても同様であり,その免れた法人税の額は,期限後申告書に記載された所得以外の秘匿された所得に対する税額部分に限定されるべきではない。
参照条文: /法人税.159条1項/
全 文 h141015supreme91.html

最高裁判所 平成 14年 10月 15日 第3小法廷 判決 ( 平成13年(受)第1841号 )
事件名:  給排水施設使用許諾請求上告事件
要 旨
 1.宅地の所有者は,他の土地を経由しなければ,水道事業者の敷設した配水管から当該宅地に給水を受け,その下水を公流又は下水道等まで排出することができない場合において,他人の設置した給排水設備をその給排水のため使用することが他の方法に比べて合理的であるときは,その使用により当該給排水設備に予定される効用を著しく害するなどの特段の事情のない限り,民法220条及び221条の類推適用により,当該給排水設備を使用することができる。(肯定事例) /余水排出権/通水権/
参照条文: /民法:220条/民法:221条/
全 文 h141015supreme.html

最高裁判所 平成 14年 10月 15日 第3小法廷 判決 ( 平成10年(行ツ)第86号 )
事件名:  建物収去土地明渡等,損害賠償等請求上告事件
要 旨
 仙台市が公募した土地等の開発計画に応募して最優秀計画と決定されたグループに対する土地の貸付が違法・無効であるとして提起された住民訴訟が,監査請求期間を徒過していたこと等を理由に却下された事例。
 1.土地の賃貸借契約の締結行為は一時的行為であるから,これを対象とする監査請求については,契約締結の日を基準として地方自治法242条2項本文を適用すべきであるとされた事例。
 2.普通地方公共団体の執行機関,職員の財務会計上の行為が秘密裡にされた場合に限らず,普通地方公共団体の住民が相当の注意力をもって調査を尽くしても客観的にみて監査請求をするに足りる程度に当該行為の存在又は内容を知ることができなかった場合には,地方自治法242条2項ただし書にいう正当な理由の有無は,特段の事情のない限り,普通地方公共団体の住民が相当の注意力をもって調査すれば客観的にみて上記の程度に当該行為の存在及び内容を知ることができたと解される時から相当な期間内に監査請求をしたかどうかによって判断すべきものである。(先例の確認)
 2a.不動産鑑定士である原告住民が賃貸借契約で定められた権利金及び賃料が適正な額より低いとする旨の意見書を作成していた場合に,遅くともその時点までには監査請求をするに足りる程度に対象行為の内容を知っていたと認定された事例。
 3.土地賃借権譲渡の承諾料の代位請求は,契約に基づき債務の履行を求めるものであり,地方自治法242条の2第1項4号のいずれの請求にも該当しないとして,これに係る訴えが却下された事例。 /住民訴訟/住民代表訴訟/
参照条文: /地自.242条2項/地自.242-2条/
全 文 h141015supreme2.html

最高裁判所 平成 14年 10月 11日 第2小法廷 判決 ( 平成11年(行ヒ)第28号 )
事件名:  公文書非開示決定処分取消請求上告事件
要 旨
 高知県情報公開条例(平成2年高知県条例第1号)に基づき,同6年7月25日に実施された高知県公立学校教員採用候補者選考審査のうちの教職教養筆記審査の一部の問題について問題文及び解答が記録された文書の開示が請求されたが、実施機関により非開示決定がなされた場合に、開示により教員採用選考の公正又は円滑な執行に著しい支障を生ずるということはできないとして、非開示決定が取り消された事例。 /公情報公開/
参照条文: /高知県情報公開条例.6条8号/
全 文 h141011supreme.html

最高裁判所 平成 14年 10月 10日 第1小法廷 判決 ( 平成14年(受)第240号 )
事件名:  供託金還付請求権確認及び譲受債権請求上告事件
要 旨
 債権譲渡登記に譲渡に係る債権の発生年月日の始期は記録されているがその終期が記録されていない場合には,その債権譲渡登記に係る債権譲渡が数日にわたって発生した債権を目的とするものであったとしても,他にその債権譲渡登記中に始期当日以外の日に発生した債権も譲渡の目的である旨の記録がない限り,債権の譲受人は,その債権譲渡登記をもって,始期当日以外の日に発生した債権の譲受けを債務者以外の第三者に対抗することができない。
参照条文: /債権譲渡特例.2条/債権譲渡特例.5条/民法:466条/
全 文 h141010supreme.html

東京簡易裁判所 平成 14年 10月 10日 判決 ( 平成14年(ハ)第70909号 )
事件名:  貸金請求事件
要 旨
 時効完成後に債務者の親族が債権者の執拗な催促に圧迫されて債務の一部を弁済した場合に、債務者の時効援用権が喪失しないとされた事例。
参照条文: /民法:145条/民法:146条/
全 文 h141010tokyoS.html

最高裁判所 平成 14年 10月 4日 第1小法廷 決定 ( 平成14年(あ)第413号 )
事件名:  覚せい剤取締法違反被告事件
要 旨
 1.捜索差押許可状執行の動きを察知されれば,覚せい剤事犯の前科もある被疑者が直ちに覚せい剤を洗面所に流すなど短時間のうちに差押対象物件を破棄隠匿するおそれがある場合に,捜索差押許可状の呈示に先立って警察官らがホテル客室のドアをマスターキーで開けて入室した措置が適法であるとされた事例。
 2.同法222条1項,110条による捜索差押許可状の呈示は,手続の公正を担保するとともに,処分を受ける者の人権に配慮する趣旨に出たものであるから,令状の執行に着手する前の呈示を原則とすべきである。
 2a.警察官が令状の執行に着手して入室した上その直後に呈示を行ったことが,捜索差押えの実効性を確保するためにやむを得ないところであって,適法であるとされた事例。
参照条文: /刑訴.222条1項/刑訴.110条/刑訴.111条1項/
全 文 h141004supreme91.html

最高裁判所 平成 14年 10月 3日 第1小法廷 判決 ( 平成9年(行ツ)第62号 )
事件名:  損害賠償請求上告事件
要 旨
 県の工事について費用の水増し請求をした会社に対する損害賠償請求権を住民が代位行使する住民訴訟において,この賠償請求権の行使が怠られていることを理由とする住民監査請求には地方自治法242条2項本文の期間制限は及ばないとして,訴えが適法とされた事例。
 1.監査委員が怠る事実の監査をするに当たり,問題となっている行為が財務会計法規に違反して違法であるか否かの判断をしなければならない関係にない場合には,当該怠る事実を対象としてされた監査請求には,地方自治法242条2項本文の期間制限は及ばない。
 1a.監査請求が,≪県から建築工事を請け負った会社が工事費を不当に水増し請求するなどして県に工事代金29億円を余分に支払わせたから,県は当該工事会社に対して損害賠償請求すべきであるにもかかわらず,賠償請求を怠っているという事実≫を対象に含んでいる場合には,その事実の監査請求には地方自治法242条2項本文の監査請求期間の制限は及ばないとされた事例。
 1b.建築工事費の不当な水増し請求に違法に荷担したことを理由とする県の職員に対する損害賠償請求権の行使が怠られているという事実を対象に含む監査請求には,監査請求期間の制限が及ばないとされた事例。
 2.特定の財務会計上の行為につき権限を有する職員又はその前任者が行った準備行為の違法が財務会計上の行為の違法を構成する関係にあるときは,違法な準備行為に基づいて発生する損害賠償請求権の行使を怠る事実を対象としてされた監査請求には,当該財務会計上の行為のあった日又は終わった日を基準として地方自治法242条2項本文を適用すべきである。
 2a.特定の財務会計上の行為つき権限を有する職員を補助する職員が行った補助行為の違法が財務会計上の行為の違法を構成する関係にあるときは,違法な補助行為に基づいて発生する損害賠償請求権の行使を怠る事実を対象としてされた監査請求には,当該財務会計上の行為のあった日又は終わった日を基準として地方自治法242条2項本文を適用すべきである。 /愛知芸術文化センター/愛知県/
参照条文: /地自.242条2項/地自.242-2条/
全 文 h141003supreme2.html

最高裁判所 平成 14年 10月 3日 第1小法廷 判決 ( 平成14年(受)第310号 )
事件名:  保険金請求上告事件
要 旨
 同族会社の取締役の一人である妻が夫の女性関係に悩んで夫を殺害して自殺するという事故が発生した場合に、夫である代表取締役を被保険者とし会社を受取人とする生命保険契約に基づいて、会社が保険金の支払いを請求し、認容された事例。
 1.「被保険者が,保険契約者又は保険金受取人の故意により死亡した場合には,死亡保険金を支払わない」との免責条項は,保険契約者又は保険金受取人そのものが故意により保険事故を招致した場合のみならず,公益や信義誠実の原則という免責条項の趣旨に照らして,第三者の故意による保険事故の招致をもって保険契約者又は保険金受取人の行為と同一のものと評価することができる場合をも含むと解すべきである。
 1a.保険契約者又は保険金受取人が会社である場合において,取締役の故意により被保険者が死亡したときには,会社の規模や構成,保険事故の発生時における当該取締役の会社における地位や影響力,当該取締役と会社との経済的利害の共通性ないし当該取締役が保険金を管理又は処分する権限の有無,行為の動機等の諸事情を総合して,当該取締役が会社を実質的に支配し若しくは事故後直ちに会社を実質的に支配し得る立場にあり,又は当該取締役が保険金の受領による利益を直接享受し得る立場にあるなど,免責条項の趣旨に照らして,当該取締役の故意による保険事故の招致をもって会社の行為と同一のものと評価することができる場合には,免責条項に該当するというべきである。
 1b.取締役による保険事故招致行為が会社の行為と評価されなかった事例。
参照条文: /商.680条/民法:1条2項/民法:90条/
全 文 h141003supreme.html

最高裁判所 平成 14年 9月 30日 第1小法廷 決定 ( 平成10年(あ)第1491号 )
事件名:  威力業務妨害被告事件(上告事件)
要 旨
 東京都が民間業者に請け負わせて動く歩道の設置工事をすることを予定している通路上に200名ほどの路上生活者が起居していたため,東京都が自主的退去を促したところ,被告人らがこれを妨害するために多数の路上生活者に指示してバリケードを築き,座り込みをおこない,工事に従事する東京都職員らに対して鶏卵・旗竿等を投げつけて座り込みを続けたため,警察官が座り込みを続ける者らを一人づ引き抜く行為をして排除した場合に,威力業務妨害罪の成立が肯定された事例。
 1.上記の場合に,妨害の対象となった行為は自主的退去の説得,退去後に残存する段ボール小屋等の撤去などを内容とする環境整備工事であって,強制力を行使する権力的公務ではないから,刑法234条にいう「業務」に当たるとされた事例。
 2.環境整備工事の実施のために路上生活者が路上に置いている物件を撤去する必要があり,かつ,路上生活者の生活に配慮して自主的退去を促す措置をとった上で,環境整備工事の一環として段ボール小屋等を撤去した場合に,道路法32条1項又は43条2合に違反する物件であるとして撤去するために同法71条1項に基づき除去命令を発した上行政代執行の手続をとるならば,除却命令及び代執行の戒告等の相手方や目的物の特定等の点で困難を来し,実効性が期し難かったものと認められるので,その手続をとることなく道路管理者である東京都が段ボール小屋を撤去したことは,やむを得ない事情に基づくものであって,業務妨害罪としての要保護性を失わせるような法的瑕疵があったとは認められないとされた事例。 /自力執行/ホームレス/
参照条文: /刑.234条/道路.32条1項/道路.43条/道路.71条1項/代執.1条/代執.3条/
全 文 h140930supreme91.html

最高裁判所 平成 14年 9月 27日 第2小法廷 判決 ( 平成14年(オ)第823号 )
事件名:  損害賠償請求上告事件
要 旨
 産業廃棄物処理施設の設置についての住民投票に関する条例が投票の資格を有する者を日本国民たる住民に限るとしたことが憲法14条1項,21条1項に違反するものではないとされた事例。 /御嵩町/
参照条文: /憲.14条1項/憲.21条1項/
全 文 h140927supreme.html

東京簡易裁判所 平成 14年 9月 27日 民事第1室 判決 ( 平成14年(ハ)第3341号 )
事件名:  敷金返還請求事件
要 旨
 東京都港区のマンションの一室の賃借人が,1年7か月強居住後に賃貸借契約を解約して立ち退いたのに賃貸人が敷金を返還しないとして,敷金41万7000円及び遅延損害金の支払を請求したが,賃借人は原状回復費用として5万9640円を負担すべきであるとして,残余の額についてのみ請求が認容された事例。
 1.室内のリフォーム費用を賃借人に負担させる条項は,リフォームが大規模な修繕になるので,借地借家法の趣旨等に照らして無効であるとされた事例。
 2.マンションの一室の賃貸借契約における「ペット消毒については賃借人の負担でこれらを行うものとする。尚,この場合専門業者へ依頼するものとする」との合意が,ペットを飼育した場合には臭いの付着や毛の残存,衛生の問題等があるので,有効であるとされた事例。
 2a.ペットの犬(チワワ)を100日間ほど飼育したにすぎないとしても,1DKクリーニング費用5万円は,賃借人が負担すべきであるとされた事例。
参照条文: /民法:601条/借地借家.37条/
全 文 h140927tokyoS.html

最高裁判所 平成 14年 9月 26日 第1小法廷 判決 ( 平成12年(受)第580号 )
事件名:  損害賠償等請求上告事件
要 旨
 「FM信号復調装置」の発明について合衆国の特許権を有するが日本の特許権を有しない原告(日本に住所を有する日本人)が,その発明の技術的範囲に属する製品を日本国内で製造して合衆国に輸出し,合衆国内の子会社に輸入・販売させていた被告(日本法人)に対し,被告のこれらの行為は合衆国特許法271条(b)に規定する特許権侵害を積極的に誘導する行為に当たるとして,合衆国に輸出する目的で製造すること等の差止め,日本国内にある製品の廃棄,ならびに,不法行為による損害賠償等を求めて日本の裁判所に訴えを提起したが,棄却された事例。
 1.差止請求および廃棄請求について(判示第2,2)
 1a.差止請求及び廃棄請求が,私人の財産権に基づく請求であり,両当事者が住所又は本店所在地を我が国とする日本人及び日本法人であり,我が国における行為に関する請求ではあるが,合衆国特許法により付与された権利に基づく請求であるという点において渉外的要素を含むものであるから,準拠法を決定する必要があるとされた事例。(原審判断の否定)
 1b.特許権に基づく差止請求及び廃棄請求の準拠法は,特許権が登録された国の法律である。(原審判断の否定)
 1c.合衆国特許権に基づき我が国における行為の差止め等を認めることは,合衆国特許権の効力をその領域外である我が国に及ぼすのと実質的に同一の結果を生ずることになって,我が国の採る属地主義の原則に反するものであり,また,我が国と合衆国との間で互いに相手国の特許権の効力を自国においても認めるべき旨を定めた条約も存しないから,合衆国特許法の規定を適用して差止め又は廃棄を命ずることは,法例33条にいう我が国の公の秩序に反するとされた事例。(原審と同じ結論)
 2.損害賠償請求について(判示第3,2)(補足意見・反対意見あり)
 2a.特許権侵害を理由とする損害賠償請求の法律関係の性質は不法行為であり,その準拠法については,法例11条1項によるべきである。(原審判断の肯定)
 2b.合衆国特許権の侵害を積極的に誘導する行為(輸出目的の製造,輸出,子会社への輸入・販売の指示)が日本国内おいてなされた場合に,法例11条1項にいう「原因タル事実ノ発生シタル地」は,合衆国特許権の直接侵害行為が行われ,権利侵害という結果が生じたアメリカ合衆国と解すべきであるから,同国の法律を準拠法とすべきであるとされた事例。(原審判断の否定)
 2c.属地主義の原則を採り,合衆国特許法271条(b)項のように特許権の効力を自国の領域外における積極的誘導行為に及ぼすことを可能とする規定を持たない我が国の法律の下においては,登録国の領域外において特許権侵害を積極的に誘導する行為を違法ということはできないから,これを違法とする合衆国特許法の規定を適用することは,法例11条2項により許されない。 /渉外事件/法性決定/米国/
参照条文: /法例.11条1項/法例.11条2項/法例.33条/
全 文 h140926supreme.html

最高裁判所 平成 14年 9月 26日 第1小法廷 判決 ( 平成13年(行ニ)第5号、6号 )
事件名:  訴訟参加申立て事件
要 旨
 労働組合の申立てにより所属組合員たる労働者に差額賃金を支払うべ
 不当労働行為事件において、労働組合の申立てによりその所属組合員たる労働者に差額賃金を支払うべきことを命ずる救済命令が発せられた場合に、当該労働者は、その救済命令の取消訴訟ついて行政事件訴訟法22条1項にいう「訴訟の結果により権利を害される第三者」には当たらず、その訴訟に参加することができない。 /訴訟参加の利益/
参照条文: /行訴.22条1項/民訴.42条/労組.27条/
全 文 h140926supreme2.html

最高裁判所 平成 14年 9月 24日 第3小法廷 判決 ( 平成14年(受)第605号 )
事件名:  損害賠償請求上告事件
要 旨
 建築請負の仕事の目的物である建物に重大な瑕疵があるためにこれを建て替えざるを得ない場合には,注文者は,請負人に対し,建物の建て替えに要する費用相当額を損害としてその賠償を請求することができる。(民法635条但書の趣旨に反しない) /瑕疵担保責任/建替費用/損害賠償/
参照条文: /民法:635条/民法:634条/
全 文 h140924supreme.html

最高裁判所 平成 14年 9月 24日 第3小法廷 判決 ( 平成14年(受)第432号 )
事件名:  遺言無効確認請求上告事件
要 旨
 Cが市販の遺言書の書き方の文例を参照して標題及び本文をワープロで作成した遺言書に遺言者であるAが日付の一部と氏名を自筆で記載し,これを秘密証書遺言として公証人に提出する際に,自己の遺言書である旨及びA自身がこれを筆記した旨述べたが,遺言書の筆者としてCの氏名及び住所を述べなかった場合に,遺言の筆者はCであるから,遺言は,民法970条1項3号所定の方式を欠き,無効であるとされた事例。 /遺言の方式/方式違反/
参照条文: /民970条1項3号/
全 文 h140924supreme2.html

最高裁判所 平成 14年 9月 24日 第3小法廷 判決 ( 平成13年(オ)第852号 )
事件名:  損害賠償等請求上告事件
要 旨
 公的立場にない大学院生をモデルにし,公共の利害に関する事項を内容としない小説「石に泳ぐ魚」の出版により,モデルとされた者の精神的苦痛が倍加され,平穏な日常生活や社会生活を送ることが困難となるおそれがあると認められる場合に,小説の作者及び出版社に対する,名誉毀損,プライバシー及び名誉感情の侵害を理由とする損害賠償請求,並びに,人格権に基づく出版等の差止め請求を認容することは,憲法21条1項に違反するものではないとされた事例。 /表現の自由/不法行為/慰謝料/差止請求/モデル小説/
参照条文: /憲.21条1項/民法:710条/民法:1-2条/
全 文 h140924supreme3.html

最高裁判所 平成 14年 9月 24日 第3小法廷 判決 ( 平成13年(オ)第851号、平成13年(受)第837号 )
事件名:  損害賠償等請求上告事件
要 旨
 公的立場にない大学院生をモデルにし,公共の利害に関する事項を内容としない小説「石に泳ぐ魚」の出版により,モデルとされた者の精神的苦痛が倍加され,平穏な日常生活や社会生活を送ることが困難となるおそれがあると認められる場合に,小説の作者及び出版社に対する,名誉毀損,プライバシー及び名誉感情の侵害を理由とする損害賠償請求,並びに,人格権に基づく出版等の差止め請求を認容することは,憲法21条1項に違反するものではないとされた事例。 /表現の自由/不法行為/慰謝料/差止請求/モデル小説/
参照条文: /憲.21条1項/民法:710条/民法:1-2条/
全 文 h140924supreme4.html

最高裁判所 平成 14年 9月 24日 第3小法廷 判決 ( 平成12年(受)第1584号 )
事件名:  破産債権確定請求上告事件
要 旨
 債権全額を届け出た破産債権者が,物上保証不動産の第三取得者から根抵当権の放棄と引換えに一部弁済を受けた場合に,破産管財人が当該一部弁済額の範囲で異議を述べたために債権確定訴訟が提起され,破産債権者が当該部分についても破産債権を有することが確定された事例。
 1.債務者が破産宣告を受けた場合において,債権の全額を破産債権として届け出た債権者は,破産宣告後に物上保証人から届出債権の弁済を得ても,届出債権全部の満足を得ない限り,なお届出債権の全額について破産債権者としての権利を行使することができる。
 1a.弁済による代位は代位弁済者が債務者に対して取得する求償権を確保するための制度であり,そのために債権者が不利益を被ることを予定するものではないから,債権の一部を弁済した物上保証人は,同債権を被担保債権とする抵当権の実行による競落代金の配当について債権者に劣後する。(前提の議論)
 1b.破産法26条2項にいう「其ノ弁済ノ割合ニ応シテ債権者ノ権利ヲ取得ス」の意味は,複数の全部義務者による一部ずつの弁済により,債権者に届出債権全部を満足させてなお配当金に余剰が生じた場合に,その余剰部分について,その全部義務者が各自の弁済額の割合に応じて債権者の権利を取得する旨を定めたものであって,債権の一部を弁済したにすぎない全部義務者において直ちに届出債権額に対する弁済額の割合に応じて債権者の権利を取得する旨を定めたものではない。(前提の議論)
 2.物上保証人から抵当不動産を取得した者が破産宣告時における債権の全額を破産債権として届け出た破産債権者に対しその一部を弁済する場合であっても,破産債権者は債権全額について権利を行使できる。 /全部義務者/
参照条文: /破産.26条/破産.24条/民法:502条/
全 文 h140924supreme5.html

最高裁判所 平成 14年 9月 24日 第3小法廷 判決 ( 平成10年(オ)第1046号 )
事件名:  損害賠償請求上告事件
要 旨
 病院の医師が末期ガンの患者本人にガン告知をするのが適当でないと判断したが,診察に家族が同伴することを1度進めるに止まり,それ以上に家族との連絡を取ることをしなかったため,家族に末期ガンの説明がなされなかった場合に,病院が患者本人に対する債務不履行又は不法行為による慰藉料支払義務を負うとされた事例。
 1.医師は,診療契約上の義務として,患者に対し診断結果,治療方針等の説明義務を負担する。
 1a.患者が末期的疾患にり患し余命が限られている旨の診断をした医師が患者本人にはその旨を告知すべきではないと判断した場合には,その診断結果が患者本人やその家族にとってが重大なものであることに照らすと,医師は,診療契約に付随する義務として,少なくとも,患者の家族等のうち連絡が容易な者に対しては接触し,同人又は同人を介して更に接触できた家族等に対する告知の適否を検討し,告知が適当であると判断できたときには,その診断結果等を説明すべき義務を負う。
 1b.末期ガンに罹患していることの適時の告知によって行われるであろう家族等の協力と配慮は,患者本人にとって法的保護に値する利益である。
参照条文: /民法:709条/民法:715条/
全 文 h140924supreme6.html

東京地方裁判所 平成 14年 9月 19日 民事第46部 中間判決 ( 平成13年(ワ)第17772号 )
事件名:  特許権持分確認等請求事件
要 旨
 日亜化学工業株式会社の従業員であった原告(中村修二)が在職中に完成させた「青色発光ダイオード」の発明について,会社から支払われた報奨金が2万円に過ぎないこと,業務命令に背いて研究を続けたこと等の諸事情の下では,原告に原始的に帰属した特許を受ける権利が会社に承継されることはないと主張して,主位請求として,特許権の一部移転ならびに特許権を過去に使用して得た不当利得の一部返還の一部請求,ならびに,特許を受ける権利が会社に承継されていることを前提にして,予備請求として,発明の相当対価の一部請求として,第1次的に特許権一部の移転と1億円の支払,第2次的に20億円及び遅延損害金の支払を求める訴えを提起したところ,裁判所が,特許を受ける権利は被告に承継された旨の抗弁に理由があるとの中間判決をした事例。
 (職務発明性)
 1.従業員が会社における勤務時間中に,会社の施設内において,会社の設備を用い,また,会社従業員である補助者の労力等をも用いて発明した場合には,会社の社長が,青色発光ダイオードの研究を中止して高電子移動度トランジスタの研究をするようにとの業務命令を発したとの事情があるとしても,そのことは,職務発明に該当すると認定する妨げとなるものではないとされた事例。
 (特許を受ける権利の承継)
 2.社内規則が特許法35条にいう「勤務規則その他の定」に該当し,その施行後にされた職務発明について,特許を受ける権利が会社に承継されたと認められた事例。
 2a.従業員が特許を受ける権利を会社に譲渡する契約が成立したと認められた事例。
 (共通錯誤の主張について)
 3.特許を受ける権利が従業員に原始的に帰属していたという点について当事者双方に錯誤がないと認定された事例。
 3a.一般に,権利の移転を内容とする契約においては,最終的な権利の移転先についての合意が成立していれば足りるものであって,契約時における権利の帰属についての認識は,契約の成立のための要件ではないから,仮に契約時にこの点についての誤信があったとしても,錯誤の問題を生じないというべきである。
 (対価の僅少性を根拠とする承継不存在の主張について)
 4.特許を受ける権利又は特許権を譲渡したことに対する「相当の対価」(特許法35条3項,4項)については,最終的に,司法機関である裁判所により,同条4項に規定された基準の下で客観的に定められるべきものであって,契約や勤務規則等の定めにおいて対価として従業者等が受けるべき金額を一定金額に制限する条項を設けたとしても,強行規定である特許法35条3項,4項に違反するものとして無効であり,従業者等は,当該条項に基づいて算出された額に拘束されることなく,上記のような特許法の規定の趣旨に従った「相当の対価」を請求することができる。
 (移転契約の解除による復帰の主張について)
 5.職務発明について使用者等が特許を受ける権利ないし特許権を承継することができる地位は,特許法35条により使用者等に与えられた法定の権利というべきであり,したがって,仮にそれが契約に基づくものであった場合にも,同条の効果としてこれらの権利が使用者等に承継された後においては,もはや発明者たる従業者等は同条3項,4項の規定により相当対価の支払を求めることができるのみであって,債務不履行による契約解除等を理由として権利の承継の効果を覆すことは許されない。
 5a.原告が被告に対して主位的請求に係る請求を維持している間は,予備的請求に係る請求権の履行を確定的に求めているということはできず,民法412条3項にいう遅滞の要件としての「請求」がされたということはできない。 /中村修二/日亜化学工業株式会社/LED/心裡留保/
参照条文: /特許.35条/民法:93条/民法:95条/民訴.245条/民法:412条/民訴.136条/
全 文 h140919tokyoD.html

最高裁判所 平成 14年 9月 17日 第3小法廷 判決 ( 平成13年(行ヒ)第7号 )
事件名:  審決取消請求上告事件
要 旨
 商標登録取消理由として請求人が自己の使用する商標と同じであることを主張している場合に,特許庁がセミー・モズレー製作のエレキギターに付された表示と同一であることを審理し,これについて当事者に意見申立ての機会を与えないまま取消しの審判をしたことが,審決取消事由にならないとされた事例。
 1.特許法153条1項により当事者が申し立てない理由についても審理する場合には,同条2項により当事者に意見申立ての機会を与えなければならないが,当事者の申し立てない理由を基礎付ける事実関係が当事者の申し立てた理由に関するものと主要な部分において共通し,しかも,職権により審理された理由が当事者の関与した審判の手続に現れていて,これに対する反論の機会が実質的に与えられていたと評価し得るときなど,職権による審理がされても当事者にとって不意打ちにならないと認められる事情のあるときは,同条2項所定の手続を欠くという瑕疵は,審決を取り消すべき違法には当たらない。 /職権探知主義/知的財産権/無体財産権/工業所有権/商標権/
参照条文: /商標.56条/商標.51条1項/特許.153条2項/
全 文 h140917supreme2.html

最高裁判所 平成 14年 9月 17日 第3小法廷 判決 ( 平成13年(行ツ)第38号,平成13年(行ヒ)第36号 )
事件名:  代金返還代位請求上告事件
要 旨
 仙台市が買い取った土地の価額が不当に高額であるから売買契約は無効であるとして住民が市に代位して契約の相手方に対して提起した不当利得返還請求訴訟において,地自法242条2項本文の監査請求の起算点が問題となった事例。
 1.普通地方公共団体の住民が相当の注意力をもって調査を尽くしても客観的にみて監査請求をするに足りる程度に執行機関,職員の財務会計上の行為の存在又は内容を知ることができなかった場合には,地方自治法242条2項ただし書にいう正当な理由の有無は,特段の事情のない限り,住民が相当の注意力をもって調査すれば客観的にみて上記の程度に当該行為の存在及び内容を知ることができたと解される時から相当な期間内に監査請求をしたかどうかによって判断すべきである。
 1a.土地の売買価格が不当に高額であるとして監査請求がなされた場合に,決算説明書が一般の閲覧に供されて住民がその内容を了知することができるようになったころには,契約の締結又は代金の支出について監査請求をするに足りる程度にその存在及び内容を知ることができたというべきであるとされた事例。 /住民訴訟/住民代表訴訟/大年寺山公園計画/
参照条文: /地自.242条2項/地自.242-2条/
全 文 h140917supreme.html

東京地方裁判所 平成 14年 9月 17日 民事第46部 判決 ( 平成14年(ワ)第1572号 )
事件名:  請負代金等請求事件
要 旨
 被告(学習塾経営会社)と原告(コンピューターソフトウェアの開発会社)との間で,インターネットを使ったパソコン勉強プログラム作成及びそのプログラムを学習塾に対して利用させるサービスを開始することが決定され,原告がそのプログラムの製作を請け負い,作成に要した仕事量に応じて計算される請負代金を被告が支払うことが合意され,原告がプログラムを生徒によって利用できる程度にまで完成させたが,被告が代金の一部を支払わないため,原告が残代金の支払を請求し,認容された事例。 /知的財産権/無体財産権/著作権/請負契約/プログラムの著作物の著作権の帰属/
参照条文: /民法:632条/民法:633条/
全 文 h140917tokyoD.html

最高裁判所 平成 14年 9月 12日 第1小法廷 判決 ( 平成13年(受)第1461号 )
事件名:  所有権移転登記抹消登記手続請求上告事件
要 旨
 不動産担保貸付契約に基づく債務を期限に弁済できない債務者と債権者(A)との間で,債務者が猶予された期限までに弁済できない場合には担保不動産を債権者名義に変更することと債権者の判断で売却することを承諾する契約が成立し,弁済がなかったため債権者が予め交付されていた書類により自己への所有権移転登記をなしたものの,その後も債務者に不動産の買戻しを要請し,利息を収受したが,結局買戻しがなされなかったため,第三者(B)に売却して所有権移転登記を経由した場合に,債務者が前記契約は仮登記担保契約であり,清算金の通知がなされていないから所有権は債務者にあると主張して,所有権移転登記抹消登記手続きをなすことをA・Bに請求し,Aに対しては予備的に清算金を請求したのに対し,A・Bは代物弁済契約であると争ったところ,原審は仮登記担保であると認定して請求を認容したが,上告審は,譲渡担保契約と認定すべきであるとして,原判決を破棄し,Aに対する主位請求およびBに対する請求を棄却し,Aに対する予備請求の審理のために事件を差し戻した事例。
 1.債務の弁済がない場合に不動産を債権者に移転する旨の契約につき,原告が仮登記担保契約であると主張し,被告が代物弁済であると主張し,原審が原告の主張を認めた場合に,上告審が譲渡担保契約であると認定した事例。(裁判官藤井正雄の反対意見あり)
 1a.譲渡担保において,債務者が弁済期に債務の弁済をしない場合には,債権者は,当該譲渡担保がいわゆる帰属清算型であると処分清算型であるとを問わず,目的物を処分する権能を取得し,債権者がこの権能に基づいて目的物を第三者に譲渡したときは,譲受人は目的物の所有権を確定的に取得し,債務者はその時点で受戻権ひいては目的不動産の所有権を終局的に失う。(先例の確認) /弁論主義/不動産譲渡担保/
参照条文: /仮担保.1条/仮担保.2条1項/仮担保.3条/仮担保.11条/
全 文 h140912supreme3.html

最高裁判所 平成 14年 9月 12日 第1小法廷 判決 ( 平成11年(行ヒ)第50号 )
事件名:  奈良県食糧費情報公開請求上告事件
要 旨
 奈良県の住民である原告が奈良県情報公開条例に基づき食糧費に係る情報の公開請求をしたところ,飲食代金の請求書に記載された飲食業者の取引銀行名及び口座番号ならびに印影の部分が条例10条3号に該当するとして非開示にされたため,原告がその取消を請求し,認容された事例。
 1.奈良県情報公開条例10条3号に該当するというためには,当該情報を開示することによって当該事業者の競争上又は事業運営上の地位,社会的信用その他正当な利益が損なわれると認められることを要するところ,元来は事業者が内部限りにおいて管理して開示すべき相手方を限定する利益を有する情報であっても,事業者がそのような管理をしていないと認められる場合には,これが開示されることにより正当な利益等が損なわれると認められることにはならないものというべきである。
 1a.請求書に口座番号等を記載して顧客に交付している飲食業者は,口座番号等が多数の顧客に広く知れ渡ることを容認し,当該顧客を介してこれが更に広く知られ得る状態に置いているものということができるから,顧客が奈良県であるからこそ債権者が特別に口座番号等を開示したなど特段の事情がない限り,その口座番号等は,これを開示しても債権者の正当な利益等が損なわれると認められるものには当たらない。
 1b.一般的な飲食業者が銀行取引に使用する印章を請求書に押なつすることは通常はないと考えられるから,請求書に押なつされている飲食業者の印影は,これを開示しても債権者の正当な利益等が損なわれると認められるものには当たらない。(経験則による推認) /公情報公開/銀行印/押捺/自由心証主義/
参照条文: /奈良県情報公開条例.10条3号/民訴.247条/
全 文 h140912supreme2.html

最高裁判所 平成 14年 9月 12日 第1小法廷 判決 ( 平成10年(行ツ)第69号,70号 )
事件名:  損害賠償請求上告事件
要 旨
 公金の違法支出を理由とする損害賠償の住民代表訴訟において,監査請求期間の起算日が問題とされた事例。
 1.法242条2項本文は,財務会計上の行為のあった日又は終わった日から1年を経過したときは監査請求をすることができない旨を定めるところ,「行為のあった日」とは一時的行為のあった日を,「行為の終わった日」とは継続的行為についてその行為が終わった日を意味し,当該行為が外部に対して認識可能となるか否かは,監査請求期間の起算日の決定に影響を及ぼさない。
 1a.第三者に対する支払が予定されている支出決定,支出命令及び支出が監査請求の対象とされている場合に,支出が違法,不当であるかは支出金の具体的使途にかかり,第三者への支払によって外部の認識が可能となることを理由に監査請求期間の起算日を第三者に対する支払を終了した日を基準とした原判決が破棄された事例。
 2.普通地方公共団体の執行機関,職員の財務会計上の行為が秘密裡にされた場合に限らず,普通地方公共団体の住民が相当の注意力をもって調査を尽くしても客観的にみて監査請求をするに足りる程度に当該行為の存在又は内容を知ることができなかった場合にも法242条2項ただし書の適用があり,「正当な理由」の有無は,特段の事情のない限り,普通地方公共団体の住民が相当の注意力をもって調査すれば客観的にみて上記の程度に当該行為の存在及び内容を知ることができたと解される時から相当な期間内に監査請求をしたかどうかによって判断すべきである。
 2a.支出決定書及び支出命令書において種別,科目及び支出理由を明らかにしてされているが,その具体的な使途については,被告が持っていた領収書と市会計規則に準じて作成した金銭出納帳に記載されていて,平成元年12月12日および13日の新聞が,同月11日開催の市議会普通決算特別委員会において本件支出は領収書等がなく使途を明らかにしないまま行われた不明朗な支出である旨が指摘された事実を報道した場合には,遅くとも平成元年12月13日ころには,市の一般住民において相当の注意力をもって調査すれば客観的にみて監査請求をするに足りる程度に本件各財務会計行為の存在及び内容を知ることができたというべきであり,同日ころから相当な期間内に監査請求がなされなかった場合には,法242条2項ただし書にいう正当な理由がないとされた事例。
 2b.平成元年12月13日を起算点とする限り,平成2年1月20日付けあるいは同年2月17日付けで監査請求書を作成していたにもかかわらず,同年3月7日に初めて監査請求をしたものであるとすれば,相当な期間内に監査請求をしたものということはできないが,原告が主張するように,2月17日に監査請求書を提出しようとしたが,受理されなかったために,3月7日に配達証明付き書留郵便でこれらの書類を送付して監査請求をしたというのであれば,相当な期間内に監査請求がされたものということができるとされた事例。 /住民訴訟/
参照条文: /地自.242条2項/地自.242-2条1項4号/
全 文 h140912supreme.html

東京高等裁判所 平成 14年 9月 12日 第6民事部 判決 ( 平成13年(ネ)第4931号 )
事件名:  製作販売等差止等請求控訴事件
要 旨
 競走馬の所有者が,「その馬名・形態等から想起される競走馬としての顧客吸引力を利用して,商品を製作し,あるいは,対価を得てその商品化を許諾するなど,経済的利益ないし価値を排他的に支配する財産的権利であるいわゆるパブリシティ権を専有する」と主張して,競走馬育成シミュレーションゲームの製作メーカーである被告に対して,競走馬のパブリシティ権侵害を理由に,競走馬の名称等を使用したゲームソフトの製作・販売等の差止を請求したが,認められなかった事例。
 1.自然人は,もともとその人格権に基づき,正当な理由なく,その氏名,肖像を第三者に使用されない権利を有すると解すべきであるから,著名人も,正当な理由なく,その氏名,肖像を第三者に使用されない権利を有するということができ,この権利をとらえて,「パブリシティ権」と呼ぶことは可能であるものの,この権利は,もともと人格権に根ざすものというべきである。
 2.競走馬という物について,人格権に根ざすものとしての,氏名権,肖像権ないしはパブリシティ権を認めることはできない。 /フリーライド/只乗り/
参照条文: /憲.13条/民法:206条/商標.4条1項8号/
全 文 h140912tokyoH.html

最高裁判所 平成 14年 9月 11日 大法廷 判決 ( 平成11年(オ)第1767号 )
事件名:  損害賠償請求上告事件
要 旨
 国家公務員である郵便業務従事者が,債権差押命令を内容物とする特別送達郵便物を,過失により,民訴法に定める送達方法によらずに第三債務者の私書箱に投かんしたため,通常の業務の過程において送達されるべき時に送達されず,その結果,債権差押えの目的を達することができなくなり債権者が損害を被ったことを理由とする損害賠償請求訴訟において,郵便法68条及び73条のうち特別送達郵便物について国家賠償法に基づく国の損害賠償責任を免除し又は制限している部分は憲法17条に違反するとして,原判決が破棄された事例。
 1.憲法17条は,公務員の行為が権力的な作用に属するものから非権力的な作用に属するものにまで及び,公務員の行為の国民へのかかわり方には種々多様なものがあり得ることから,国又は公共団体が公務員の行為による不法行為責任を負うことを原則とした上,公務員のどのような行為によりいかなる要件で損害賠償責任を負うかを立法府の政策判断にゆだねたものであって,立法府に無制限の裁量権を付与するといった法律に対する白紙委任を認めているものではない。(前提の議論。裁判官滝井繁男の補足意見と,裁判官福田博,同深澤武久の意見あり)
 1a.そして,公務員の不法行為による国又は公共団体の損害賠償責任を免除し,又は制限する法律の規定が同条に適合するものとして是認されるものであるかどうかは,当該行為の態様,これによって侵害される法的利益の種類及び侵害の程度,免責又は責任制限の範囲及び程度等に応じ,当該規定の目的の正当性並びにその目的達成の手段として免責又は責任制限を認めることの合理性及び必要性を総合的に考慮して判断すべきである。
 2.郵便法68条,73条の規定のうち,書留郵便物について,郵便業務従事者の故意又は重大な過失によって損害が生じた場合に,不法行為に基づく国の損害賠償責任を免除し,又は制限している部分は,憲法17条が立法府に付与した裁量の範囲を逸脱したものであるといわざるを得ず,同条に違反し,無効である。(傍論。裁判官横尾和子の意見あり)
 3.郵便法68条,73条の規定のうち,特別送達郵便物について,郵便業務従事者の軽過失による不法行為に基づき損害が生じた場合に,国家賠償法に基づく国の損害賠償責任を免除し,又は制限している部分は,憲法17条に違反し,無効である。(破棄理由。裁判官上田豊三の意見あり)
参照条文: /憲.17条/郵便.68条/郵便.73条/民訴.99条2項/民訴.1編5章3節/
全 文 h140911supreme.html

大阪地方裁判所 平成 14年 9月 9日 第7民事部 判決 ( 平成13年(ワ)第9868号 )
事件名:  預金払戻請求事件
要 旨
 預金通帳の所持者が口座開設店以外の店で預金全額の払戻しと預金者名義の他行口座への振込みを依頼し,銀行がこれに応じた場合に,この預金払戻請求は通帳を窃取した何者かが偽造印鑑を用いてしたものであり,印影照合に過失があったと認められ,債権の準占有者に対する弁済として有効とはいえないとして,預金者からの払戻請求が認容された事例。 /副印鑑制度/
参照条文: /民法:478条/
全 文 h140909osakaD.html

東京高等裁判所 平成 14年 9月 6日 第13民事部 判決 ( 平成12年(ネ)第1516号 )
事件名:  各損害賠償請求本訴、著作権確認請求反訴控訴事件
要 旨
 歌曲「記念樹」の楽曲は、歌曲「どこまでも行こう」の楽曲の編曲であるとして、著作権(翻案権・編曲権)、同一性保持権、氏名表示権の侵害の成立が認められた事例。
 1.著作権法上,「編曲」とは、既存の著作物である楽曲(原曲)に依拠し、かつ、その表現上の本質的な特徴の同一性を維持しつつ、具体的表現に修正、増減、変更等を加えて、新たに思想又は感情を創作的に表現することにより、これに接する者が原曲の表現上の本質的な特徴を直接感得することのできる別の著作物である楽曲を創作する行為をいう。
 1a.楽曲の本質的な特徴を基礎付ける要素は多様なものであって、その同一性の判断手法を一律に論ずることができないが、少なくとも旋律を有する通常の楽曲に関する限り、著作権法上の「編曲」の成否の判断において相対的に重視されるべき要素として主要な地位を占めるのは、旋律である。
 1b.原告曲の楽曲としての表現上の本質的な特徴が、和声や形式といった要素よりは、主として、その簡素で親しみやすい旋律にあるとされた事例。
 1c.原告曲が、部分的・断片的な旋律として見れば、慣用的な音型で成り立っているということもできるとしても、その長さが1フレーズ(2分の2拍子で4小節、4分の4拍子で2小節)までの長さのものであって、4フレーズを1コーラスとする原告曲を全体として見た場合に、そのすべての旋律が現れている楽曲の例は全証拠を総合しても見当たらず、原告曲の旋律が慣用的な音型の連続として表現上の創作性を欠くということはできないとされた事例。
 1d.原告曲と被告曲が、多くの一致する音を含む(約72%)にとどまらず、楽曲全体の旋律の構成において特に重要な役割を果たすと考えられる各フレーズの最初の3音以上と最後の音及び相対的に強調され重要な役割を果たす強拍部の音が、基本的に全フレーズにわたって一致しており、特に、起承転結の「転」に当たる第3フレーズから「結」の前半に当たる第4フレーズの6音目にかけての部分を見ると、経過音レの有無とわずかな譜割りの相違という常とう的な編曲手法に係る差異があるほか、ほとんど同一というべき旋律が22音にわたって連続して存在し、ここだけを見ても、原告曲全体の3分の1以上(全16小節中の5.5小節)を占めている等の事実から、両曲は、旋律に着目した全体的な検討としては、表現上の本質的な特徴の同一性を有すると判断された事例。
 1e.和声の相違が、原告曲は明るく前向きな印象を生じさせ、被告曲は感傷的な思いを生じさせるという曲想の差異をもたらしているとはいえ、その差異は決定的なものとはいい難く、旋律に着目した場合の表現上の本質的な特徴の共通性を上回り、その同一性を損なうものということはできないとされた事例。
 1f.2分の2拍子の原曲を4分の4拍子に変更する程度のことは、演奏上のバリエーションの範囲内といえる程度の差異にすぎず、楽曲の表現上の本質的な特徴の同一性を損なうものではないとされた事例。
 2.作曲の依拠性が間接事実から推認された事例。
 2a.原告曲と被告曲の旋律の間には被告曲が原告曲に依拠したと考えるほか合理的な説明ができないほどの顕著な類似性があるほか、被告が被告曲の作曲以前に原告曲に接したであろう可能性が極めて高いことを示す客観的事情があり、これを否定すべき事情として被告の主張するところはいずれも理由がなく、他に的確な反証もないことを併せ考えると、被告曲は、原告曲に依拠して作曲されたものと推認するのが相当であるとされた事例。
 2b.被告が、自身は経験と実績を十分有する作曲家であって、被告曲のような簡素な16小節の楽曲を制作するのに造作はなく、曲想のかけ離れた原告曲をわざわざ参考にする必要性がない旨主張したが、その主張は、それ自体としては、依拠性を否定すべき十分な根拠にはならないとされた事例。
 3.損害額の算定
 3a.二次的著作物の利用の対価中には、原曲の著作権者に分配されるべき部分と、二次的著作物の著作権者及びその編曲者に分配される部分とを観念し得るから、原曲の相当対価額を定めるに当たっては、二次的著作物の利用対価から後者への分配分を控除すべきであり、その控除されるべき割合は、原曲の編曲者への分配率に準じて定めるのが相当であるとされた事例。
 3b.被告が賠償すべき損害額の算定について、ある項目の金額を控除すべきであることを明示的に主張していない場合でも、その基礎となる事実関係自体は、主張上も証拠上も明らかに提出されている以上、その項目を控除することに妨げはないとされた事例(弁論主義)。
 3c.現行著作権法は、二次的著作物に著作権が発生し同法上の保護を受ける要件として、当該二次的著作物の創作の適法性を要求していないから、著作権法114条2項の規定する相当対価額をもって編曲権侵害の損害賠償額とする場合でも、編曲者や作詞者への分配分を否定すべきではなく、それを控除した額が相当対価額となる。
 3d.著作権法114条2項の規定する相当対価額の算定に際しては、著作権管理団体の管理手数料相当額を控除すべきではない。
 4.(即時確定の利益)
 
 原告が被告曲は原告曲を違法に複製したものであると主張している段階で、被告が被告曲の著作者人格権確認請求の反訴を提起したが、その後、原告が前記主張を撤回して被告曲は原告曲の二次的著作物であると主張した場合に、原告が、編曲に係る二次的著作物について編曲者が著作権法上の保護を受ける要件として編曲の適法性が要求される、との解釈を前提とした主張をしていることも考慮して、確認の利益(即時確定の利益)が肯定された事例。 /知的財産権/無体財産権/著作権/音楽/
参照条文: /著作.2条1項1号/著作.2条1項11号/著作.20条/著作.19条/著作.27条/著作.28条/著作.114条2項/
全 文 h140906tokyoH.html

東京高等裁判所 平成 14年 9月 6日 民事第11部 決定 ( 平成14年(ラ)第1113号 )
事件名:  再生計画認可決定に対する抗告事件
要 旨
 可決された再生計画に民事再生法174条2項所定の不認可事由がないとされた事例。 /ゴルフ場運営会社の民事再生事件/倒産/プレー権/ゴルフクラブ会員/プレー会員/
参照条文: /民事再生法:155条1項;158条1項;165条1項;171条4項;174条2項;174条4項/
全 文 h140906tokyoH2.html

東京地方裁判所 平成 14年 9月 5日 民事第46部 判決 ( 平成13年(ワ)第16440号 )
事件名:  著作権侵害差止等請求事件
要 旨
 原告(サイボウズ株式会社)が被告(株式会社ネオジャパン)に対して,被告が制作販売するコンピュータ用ソフトウェア(グループウェア)「i office 2000」は原告が制作販売する同種のソフトウェア「サイボウズoffice」に依拠して作られたものであり,表示画面(画面に表示される影像)が類似しているので,表示画面ならびに表示画面の選択・配列について原告が有する著作権を侵害していると主張して,損害賠償ならびに製造・頒布等の差止め等を請求したが,認められなかった事例。
 1.電子計算機に対する指令により画面(ディスプレイ)上に表現される影像についても,それが「思想又は感情を創作的に表現したもの」(著作権法2条1項1号)である場合には,著作物として著作権法による保護の対象となり,このことは,ビジネスソフトウェアについても当てはまる。
 1a.原告ソフトの表示画面と被告ソフトの対応する表示画面との間で共通する点は,いずれもソフトウェアの機能に伴う当然の構成か,あるいは従前の掲示板,システム手帳等や同種のソフトウェアにおいて見られるありふれた構成であり,両者の間にはソフトウェアの機能ないし利用者による操作の便宜等の観点からの発想の共通性を認め得る点はあるにしても,そこに見られる共通点から表現上の創作的特徴が共通することを認めることはできないので,原告ソフトにおける個々の表示画面をそれぞれ著作物と認めることができるかどうかはともかくとして,被告ソフトの表示画面をもって,原告ソフトの表示画面の複製ないし翻案に当たるということはできないとされた事例。
 2.ビジネスソフトウェアにおいては,利用者がクリックやキー操作を通じてコンピュータに対する指令を入力することにより,異なる表示画面に転換するが,このような画面転換が,特定の思想に基づいて秩序付けられている場合において,表示画面の選択と表示画面相互間における牽連関係に創作性が存在する場合には,そのような表示画面の選択と組合せ(配列)自体も,著作物として著作権法による保護の対象となり得る。
 2a.被告ソフトは,原告ソフトにないいくつかのアプリケーションを備えているほか,原告ソフトのアプリケーションに対応するアプリケーションを見ても,少なからぬ数の表示画面が付加され,これに対応する牽連関係(リンク)も存在するので,この点で既に被告ソフトは,ソフトウェア全体においても,対応する個別のアプリケーションにおいても,原告ソフトと表示画面の選択と配列を異にするというべきであり,これに加えて,原告ソフトと被告ソフトとの間で表示画面とその牽連関係(配列)を共通とする部分における表示画面の選択・配列に創作性を認めることができないので,原告ソフトの全体又はこれに含まれる個別のアプリケーションに属する表示画面の選択及び牽連関係(配列)に,創作性を認めることができるかどうかはともかくとしても,被告ソフトにおける表示画面の選択・配列をもって,原告ソフトの複製ないし翻案ということはできないとされた事例。
 3.ソフトウェアの表示画面は,通常は,需要者が当該商品を購入して使用する段階になって初めてこれを目にするものであり,また,ソフトウェアの機能に伴う必然的な画面の構成は「商品等表示」となり得ないものと解されるから,表示画面が不正競争防止法2条1項1号にいう「商品等表示」に該当するというような事態は,ソフトウェア表示画面における機能に直接関連しない独自性のある構成につき,これを特定の商品(ソフトウェア)に特有のものである旨の大規模な広告宣伝がされたような例外的な場合にのみ,生じ得る。(例外に該当しないとされた事例)
 4.市場における競争は本来自由であるべきことに照らせば,著作権侵害行為や不正競争行為に該当しないような行為については,当該行為が市場において利益を追求するという観点を離れて,殊更に相手方に損害を与えることのみを目的としてなされたような特段の事情が存在しない限り,民法上の一般不法行為を構成することもない。(不法行為を成立させる特段の事情が認められなかった事例) /知的財産権/無体財産権/著作権/不正競争防止法/編集著作物/
参照条文: /著作.2条1項15号/著作12条1項/著作.21条/著作.27条/不正競争.2条1項1号/民法:709条/
全 文 h140905tokyoD.html

東京地方裁判所 平成 14年 8月 28日 民事第29部 判決 ( 平成13年(ワ)第5685号 )
事件名:  著作物使用禁止等請求事件
要 旨
 講談用脚本「はだしのゲンパート1」「はだしのゲンパート2」及び「新釈四谷怪談」を創作し,著作権を取得したと主張する原告が,講談師である前妻に対し,これらの著作物の上演の差止め等を請求し,認容された事例。
 1.漫画「はだしのゲン」及び「はだしのゲンはピカドンを忘れない」を原作として著作された講談用脚本が,講談師である前妻との共同著作物ではなく,原告の単独執筆であると認定された事例。
 2.著作物の利用許諾契約がいつでも解約できるものであり,使用料の滞納,契約当事者間の感情的なもつれ,著作者の反戦反核の思想信条の変更等の事情があった場合に,著作権者がした解約申入れが有効であり,上演差止請求が権利濫用に当たらないとされた事例。
 3.被告である講談師が講談用脚本の利用を差し止められることにより受ける不利益に配慮して,被告が,二次的著作物を直接感得できる程度に改変するのではなく,原作に依拠して,新たな講談用の脚本を作成した上で,これを上演するとすれば,当該行為は,二次的著作物について有する原告の著作権に抵触することはない,と裁判所が付言した事例。 /知的財産権/無体財産権/著作権/
参照条文: /著作.22条/著作.2条1項11号/著作.2条1項12号/著作.63条/民法:1条3項/
全 文 h140828tokyoD.html

名古屋簡易裁判所 平成 14年 8月 8日 判決 ( 平成14年(ハ)第591号,平成14年(ハ)第3351号 )
事件名:  損害賠償請求事件,同反訴請求事件
要 旨
 優先道路のゼブラゾーン上を走行中の被告車両と,これと交差する道路から出て反対側の駐車場に侵入するためにゼブラゾーン上で一旦停止していた原告車両との衝突事故につき,原告の過失割合を7,被告の過失割合を3と認めて,双方生じた損害について過失相殺を施した上,相手方に損害賠償を命じた事例。
 1.走行中の車両が急ブレーキをかけた場合の制動距離が,経験則(実験式)から計算された事例。
 1a.当事者尋問における当事者陳述について検討がなされ,双方の陳述の一部がともに信用できないとされた事例。
 2.ゼブラゾーンにみだりに進入した運転者に対しては,交通秩序を乱したものとして一定の不利益を課すことも可能であるとして,過失割合の認定に際して考慮された事例。
 3.交通事故による車両損壊の損害賠償請求事件につき,これを簡易裁判所において遂行することは,当事者である原告本人でも簡便になし得るので,弁護士費用を事故と相当因果関係のある損害と認めることはできないとされた事例。
参照条文: /民訴.247条/民法:709条/民法:722条2項/
全 文 h140808nagoyaS.html

東京地方裁判所 平成 14年 7月 31日 民事第29部 判決 ( 平成13年(ワ)第8137号 )
事件名:  特許権使用差止等請求事件
要 旨
 特許権者および実施権者が,被告に対して特許権侵害を理由に差止及び損害賠償を請求したが,原告の発明は周知技術に基づいて当業者が容易に発明することができたものであり,その特許は無効であるから,原告の請求は権利の濫用にあたり許されないとされた事例。
 原告の発明内容:「比較的小径部と比較的大径部との間に段部を形成したコアを用い,該段付コアと金型との間に装入された原料粉を圧粉成形し前記した段付コアの段部両側で内孔を成形した筒状体とする圧粉成形工程と,この圧粉成形体を焼結してから上記した比較的小径部と同径状態のサイジングコアと絞り部を有する金型内に上記焼結を経た焼結体を装入し,前記した段付コアの比較的大径部による成形端部側を上記絞り部とサイジングコアとの間で絞り成形しながらサイジングする工程とを有することを特徴とした焼結軸受材の製造法」 /知的財産権/無体財産権/工業所有権/特許権/進歩性/ポーライト株式会社/日本科学冶金株式会社/
参照条文: /特許.29条2項/
全 文 h140731tokyoD2.html

最高裁判所 平成 14年 7月 30日 第1小法廷 判決 ( 平成14年(行ヒ)第95号 )
事件名:  選挙無効確認請求上告事件
要 旨
 村長が,村長選挙において,戸籍謄抄本の交付権限を濫用して告示日以前の3連休中に他の立候補予定者が戸籍抄本の入手することを妨げて立候補を妨害し,無投票当選を果たしたことが,公職選挙法205条1項にいう「選挙の規定に違反することがあるとき」に当たるとされた事例。 /選挙の自由公正の原則/
参照条文: /公選.86-4条/公選.205条/
全 文 h140730supreme.html

大阪地方裁判所 平成 14年 7月 30日 第21民事部 判決 ( 平成14年(ワ)第162号 )
事件名:  売買代金等請求事件
要 旨
 被告(株式会社麦の穂)の技術指導を受けて被告のためにパイシュー生地を製造・納入した原告(山内製粉株式会社)が、被告に対して、パイシュー生地の販売代金等の支払請求をしたのに対し、被告が不正競争防止法2条1項7号の不正競争行為があったこと等を理由とする損害賠償請求権を自働債権とする相殺の抗弁を主張したが、不正競争行為はなかったと判断され、抗弁が認められなかった事例。
 1.シュー生地の製造委託者(被告)が受託者(原告)に開示したシュー生地の原料の配合比率が、非公知性を有せず、営業秘密に該当しないとされた事例。
 1a.シュー生地のミキシング工程における営業秘密が狭い範囲でのみ肯定された事例。
 1b.シュー生地の製造者が営業秘密保持者から開示された原料配合比率・製造工程に関する営業秘密を使用したとは言えないとされた事例。
 2.被告の技術指導によりパイシュー生地の製造を始めた原告が第三者のためにパイシュー生地を製造販売したことから紛争が生じたことを考慮して、被告による代金支払停止が債務不履行にはなるが、不法行為責任を生じさせるものではないから、民法419条により認められた損害賠償請求以上の賠償請求はできないとされた事例。 /知的財産権/無体財産権/不正競争防止法/営業秘密/秘密保持義務/信義則上の競業避止義務/
参照条文: /民法:419条/不正競争.2条1項7号/
全 文 h140730oskaD.html

岐阜地方裁判所 平成 14年 7月 29日 民事第2部 判決 ( 平成12年(ワ)第341号 )
事件名:  連帯保証債務支払請求
要 旨
 1.和議により主たる債務に変更が加えられても,保証債務に影響がないので(和議法第57条による破産法第326条第2項の準用),和議認可決定が確定した後においては,保証債務の附従性が失われ,保証債務の附従性を根拠にして請求以外の時効中断事由にも絶対効があると定めた民法第457条第1項は適用されず、主債務者の和議条件に従った債務を「承認」したとしても,和議認可決定が確定した後は,保証債務の消滅時効を中断する効力はない。
参照条文: /民法:457条1項/和議.57条/破産.326条2項/破産.366-13条/民法:147条3号/
全 文 h140729gihuD.html

東京地方裁判所 平成 14年 7月 23日 民事第46部 判決 ( 平成13年(ワ)第2702号 )
事件名:  損害賠償等請求事件
要 旨
 原告(株式会社ユニ・チャーム)が,紙おむつ製造装置の製造メーカーである被告(株式会社瑞光)に対し,(1)使い捨てブリーフの製造装置に関する特許権及び(2)使い捨てブリーフの製造方法に関する特許権を侵害したとして,損害賠償および製造装置の製造・販売の差止を請求したが,被告装置およびその使用は原告発明の技術的範囲に属さず,また,その点は別にしても,被告装置は原告の発明の方法との異なる用途があるとして,間接侵害の成立が否定された事例。
 1.被告装置が原告第2発明の構成要件である「前記連続ウエブの移動方向に…離間並列」との文言を満たさないとされた事例。
 2.被告第2発明の構成要件中の「サインカーブ状曲線」とは,数学的意味のサインカーブを基本とする曲線であり,これを一部変形したものまで含むと解するのが相当であるとされた事例。
 2a.被告装置の糸ゴムガイドの軌跡は,完成品において糸ゴムがきれいな曲線を形成するようにするために複雑な動きをさせており,このような軌跡が数学的意味のほぼ正確なサインカーブに当たるとは認められないから,被告装置は,原告第2発明の構成要件中の「サインカーブ状曲線」との文言も充足しないとされた事例。
 3.被告装置1においては,レッグギャザーとボディフィットギャザーは同一のユニットにより,おむつに装着される設計となっていること,おむつメーカーがレッグギャザーを不要と考えれば,レッグギャザー用の弾性部材を使わないか,トラバース手段を止めればよいこと,現に,被告装置を使用してレッグギャザーのないおむつを製造していたメーカーがあったこと,その背景に,レッグギャザーは脚回りからの漏れ防止に一定の効果があるものの,着用者に圧迫感を与えたりムレの原因となったりすることからこれを嫌う考え方があることからすれば,被告装置1においては,レッグホールに沿って弾性糸を位置させるという本件第1発明の方法と異なる用途があるというべきであり,この点でも間接侵害の要件を満たさないとされた事例。
 4.原告が,被告装置1により特許権を侵害され,さらに,これと同様の構成の他の装置によって特許権を侵害されていると主張している場合に,被告が,装置1の構成について原告の主張を争わず,他の装置については認否を保留しつつ,原告の主張を前提にすれば,装置1による侵害が成立しなければ他の装置についても同様であるという防御方法を提出した事例。 /知的財産権/無体財産権/工業所有権/特許権/
参照条文: /特許.101条2号/特許.70条/民訴.159条/
全 文 h140723tokyoD.html

最高裁判所 平成 14年 7月 18日 第1小法廷 判決 ( 平成12年(行ヒ)第76号,第77号,第79号,第80号,第81号,第82号,第83号,第84号,第85号 )
事件名:  損害賠償代位請求上告事件
要 旨
 談合をした企業に対する損害賠償請求権の行使を怠る事実についての監査請求に地方自治法242条2項本文の期間制限が及ばないとされた事例。
 1.地方自治法242条1項の住民監査請求の対象事項のうち財務会計上の行為については,当該行為があった日又は終わった日から1年を経過したときは監査請求をすることができないものと規定しているが,怠る事実については,このような期間制限は規定されておらず,怠る事実が存在する限りはこれを制限しないこととするものと解される。(原則)
 1a.もっとも,特定の財務会計上の行為が財務会計法規に違反して違法であるか又はこれが違法であって無効であるからこそ発生する実体法上の請求権の行使を怠る事実を対象として監査請求がされた場合には,当該行為のあった日又は終わった日を基準として本件規定を適用すべきものである。(例外)
 1b.しかし,監査委員が怠る事実の監査をするに当たり,当該行為が財務会計法規に違反して違法であるか否かの判断をしなければならない関係にない場合には,当該怠る事実を対象としてされた監査請求には上記の期間制限は及ばない。(例外の適用範囲の限定=一般論)
 1c.東京都町田市が日本下水道事業団に委託した下水道施設建設工事について,事業団が株式会社明電舎又は同三菱電機株式会社との間で請負契約を締結して発注した電気設備工事に係る工事請負代金が,談合によって不当につり上げられ,市がこれを負担することにより損害を被ったにもかかわらず,市がその損害賠償請求権の行使を違法に怠っているとして,住民が市に代位して損害賠償を求めている本件にあっては,監査委員は,談合行為等とこれに基づく事業団と明電舎及び三菱電機との請負契約の締結が不法行為法上違法の評価を受けるものであること,これにより市に損害が発生したことなどを確定すれば足り,本件監査請求は市の財務会計上の行為を対象とする監査請求を含むと解さなければならないものではないから,本件監査請求については地方自治法242条2項本文の監査請求期間の制限が及ばないものと解するのが相当である。(一般論の当てはめ)
参照条文: /地自.242条1項/地自.242条2項/
全 文 h140718supreme.html

最高裁判所 平成 14年 7月 18日 第1小法廷 判決 ( 平成13年(行ヒ)第104号 )
事件名:  損害賠償請求上告事件
要 旨
 大阪府が日本下水道事業団に委託した下水道施設建設工事について,事業団が株式会社明電舎及び日新電機株式会社に発注した電気設備工事の請負代金が業者らの談合と事業団の加功により不当につり上げられ,府がこれを負担することにより損害を被ったとして,住民が地方自治法242条の2第1項4号に基づき府に代位して損害賠償請求の訴えを提起した場合に,談合と府の損害との間に因果関係を認めることはできないとした原判決が破棄された事例。
 1.府と事業団とが,委託協定に定められた建設工事の施行に要する費用の直接費よりも事業団が発注した工事の請負金額が低額になったときには,事業団が府に対しその差額を還付する旨の精算の合意をしていた場合に,委託工事の内容が談合のなされた本件工事以外の工事を含むものであるとしても,談合により他の工事の請負金額が変動するものではなく,また,府が,被上告人事業団が発注する工事の請負金額の決定に介入することはできず,被上告人事業団の精算報告の内容に諾否を決めることができないとしても,そのことは上記の点に影響を及ぼすものではないから,本件談合という不法行為によって工事費に差額が生ずるのであるならば,府に差額相当額の損害が発生するものというべきである。
参照条文: /民法:709条/地自.242-2条/
全 文 h140718supreme2.html

最高裁判所 平成 14年 7月 18日 第1小法廷 判決 ( 平成12年(行ツ)第191号 )
事件名:  損害賠償等,恩給請求棄却処分取消請求上告事件
要 旨
 シベリアに抑留された旧軍人である在日韓国人の恩給請求権および憲法29条3項に基づく補償請求権が否定された事例。
 1.憲法14条1項は,法の下の平等を定めているが,この規定は合理的理由のない差別を禁止する趣旨のものであって,各人に存する経済的,社会的その他種々の事実関係上の差異を理由としてその法的取扱いに区別を設けることは,その区別が合理性を有する限り,何らこの規定に違反するものでない。
 1a.平和条約の発効まで日本の国内法上で朝鮮人としての法的地位を有していた旧軍人等について恩給法9条1項3号の例外を設けず,これらの者が同法の適用から除外されたのは,それまで日本の国内法上で朝鮮人としての法的地位を有していた人々の請求権の処理は平和条約により日本国政府と朝鮮の施政当局との特別取極の主題とされたことから,上記旧軍人等に対する補償問題もまた両政府間の外交交渉によって解決されることが予定されたことに基づくものと解されるのであり,そのことには十分な合理的根拠がある。
 1b.恩給法9条1項3号に基づき,日本の国籍を有する旧軍人等と平和条約の発効により日本の国籍を喪失し大韓民国の国籍を取得することとなった旧軍人等との間に区別が生じたとしても,同号の規定が憲法14条に違反するものとはいえない。
 2.シベリア抑留者が長期間にわたる抑留と強制労働によって受けた損害は,第2次世界大戦及びその敗戦によって生じた戦争犠牲ないし戦争損害に属するものであって,これに対する補償は,憲法29条3項の予想しないところであり,同項に基づきその補償を求めることはできない。
参照条文: /憲.14条1項/憲.29条3項/恩給.9条/
全 文 h140718supreme3.html

最高裁判所 平成 14年 7月 18日 第1小法廷 決定 ( 平成13年(あ)第318号 )
事件名:  死体遺棄,傷害致死被告事件(上告事件)
要 旨
 暴行態様を「単独又はA及びBと共謀の上,・・被害者に対し,その頭部等に手段不明の暴行を加え」,傷害内容を「頭蓋冠,頭蓋底骨折等の傷害」,死因を「頭蓋冠,頭蓋底骨折に基づく外傷性脳障害又は何らかの傷害」と概括的に表示した訴因の予備的追加が,検察官において,当時の証拠に基づき,できる限り日時,場所,方法等をもって傷害致死の罪となるべき事実を特定して訴因を明示したものと認められるから,訴因の特定に欠けるところはない,とされた事例。
参照条文: /刑訴.256条/刑訴.312条/
全 文 h140718supreme91.html

名古屋高等裁判所 平成 14年 7月 17日 民事第3部 判決 ( 平成13年(ネ)第657号 )
事件名:  損害賠償等請求控訴事件
要 旨
 1.夜間の違法駐車が誘因となって生じた自動車衝突事故について、違法駐車をしていた運転手に6分の1の割合で過失があると認定された事例。(交通事故)
 2.複数の加害者の過失及び被害者の過失が競合する一つの交通事故において,その交通事故の原因となったすべての過失の割合(絶対的過失割合)を認定することができるときに,被害者が加害者らから受領することができる賠償金の合計は、全損害額から自己の過失により負担すべき額を控除した金額であり、各加害者に請求することのできる金額は、全損害額のうち各加害者と被害者との関係ごとにその間の過失の割合(相対的過失割合)に応じて算定される金額であるとされた事例。(過失相殺)
 3.上記の場合に、各加害者の賠償すべき金額の合計額から被害者が最終的に受け取るべき賠償額を控除した金額は加害者の賠償義務が競合する部分であり、これについて各賠償義務者が負担する割合は、賠償義務者間の過失割合に従い定めるのが相当であり,自己の負担部分を超えて賠償義務を履行した場合には,他の賠償義務者に対し求償することができるとされた事例。
 4.複数の加害者のうちの一人が受けた自賠責保険金は、各加害者の独自負担部分及び賠償義務競合部分に案分して充当されるべきであるとされた事例。 /求償の循環の防止/
参照条文: /民法:709条/民法:722条/民法:719条/
全 文 h140717nagoyaH.html

最高裁判所 平成 14年 7月 16日 第3小法廷 判決 ( 平成11年(行ヒ)第131号 )
事件名:  埼玉県議旅行損害賠償請求上告事件
要 旨
 埼玉県の住民が,平成7年8月21日から9月9日までの日程で実施された県議会欧州行政視察旅行につき,その実体は単なる観光旅行であって,その旅費等の支出は地方財政法4条1項等に違反する違法なものであったとして,議員の旅費等の支出負担行為兼支出命令をした者及び随行員の旅費等の支出負担行為兼支出命令をした者に対し,各旅費等相当額の損害賠償を請求する住民代表訴訟を提起したが,前記支出に関する監査請求が請求期間経過後にされたものであり,また,地方自治法242条2項ただし書所定の正当な理由もないとして,訴えが却下された事例。
 1.公金の支出負担行為,支出命令及び支出は,公金を支出するために行われる一連の行為ではあるが,互いに独立した財務会計上の行為というべきものであり,公金の支出の違法又は不当を問題とする監査請求においては,これらの行為がそれぞれ監査請求の対象事項となるものである。
 1a.支出負担行為,支出命令及び支出については,地方自治法242条2項本文所定の監査請求期間は,それぞれの行為のあった日から各別に計算すべきものである。
参照条文: /地自.242条/地方財政.4条/地自.242-2条/
全 文 h140716supreme.html

東京高等裁判所 平成 14年 7月 16日 第18民事部 判決 ( 平成14年(ネ)第1125号 )
事件名:  特許を受ける権利の確認請求控訴事件
要 旨
 「マイクロ波インダクタコイル」の発明者である原告が、当該発明について、被告会社(株式会社日本システムデザイン)の下での職務発明には当たらず、特許を受ける権利を被告会社に承継させたことはないと主張して、原告が特許を受ける権利を有することの確認を請求したが、認められなかった事例。 /知的財産権/無体財産権/工業所有権/特許権/
参照条文: /特許.33条/特許.35条3項/特許.35条4項/
全 文 h140716tokyoH.html

最高裁判所 平成 14年 7月 15日 第1小法廷 決定 ( 平成13年(あ)第817号 )
事件名:  廃棄物の処理及び清掃に関する法律違反被告事件(上告事件)
要 旨
 県知事から産業廃棄物の中間処分(焼却,破砕)の許可を受けていた者が,平成8年8月23日ころから同年9月5日ころまでの間,24回にわたり,搬入された産業廃棄物約91.1tを中間処分を行う産業廃棄物処理施設の斜面に放出し,その上に残土,真砂土を振りかけ,それらを混合したり,地固めするなどして,原状に復するのが困難な状態にした場合に,廃棄物の処理及び清掃に関する法律14条の2第1項に違反して事業の範囲を変更したと認められた事例。 /埋立処分の事業/
参照条文: /廃棄物処理.14-2条/
全 文 h140715supreme91.html

東京地方裁判所 平成 14年 7月 15日 民事第29部 判決 ( 平成13年(ワ)第12318号 )
事件名:  不正競争行為差止請求権不存在確認等請求事件
要 旨
 ドメイン名「mp3.com」を有する者が,ドメイン名「mp3.co.jp」を有する者に対して不正競争防止法3条1項に基づくドメイン名の使用差止請求権を有しないことが確認された事例。
 1.不正競争防止法2条1項12号にいう「不正の利益を得る目的で,又は他人に損害を加える目的」でドメイン名を取得,保有,使用したということはできないとされた事例。
 1a.同号にいう「不正の利益を得る目的で」とは「公序良俗に反する態様で,自己の利益を不当に図る目的がある場合」と解すべきであり,単に,ドメイン名の取得,使用等の過程で些細な違反があった場合等を含まないものというべきである。
 1b.同号にいう「他人に損害を加える目的」とは「他人に対して財産上の損害,信用の失墜等の有形無形の損害を加える目的のある場合」と解すべきである。
 2.ドメイン名が不正競争防止法2条1項1号,2号の「商品等表示」として使用されたということはできないとされた事例。
 2a.ドメイン名は,インターネット上のアドレスにすぎないから,ウェブサイトにおいて商品の販売や役務の提供をしても,当然には,そのウェブサイトのドメイン名を同項1号,2号の「商品等表示」として使用したということはできない。
 2b.ウェブサイトにおいて,ドメイン名の全部又は一部を表示して,商品の販売や役務の提供についての情報を掲載しているなどの場合には,ドメイン名は当該ウェブサイトにおいて表示されている商品や役務の出所を識別する機能を有することもあるといえ,このような場合には,ドメイン名を同項1号,2号の「商品等表示」として使用していると解すべき場合もあり得る。
 3.日本知的財産仲裁センターの紛争処理パネルは,ドメイン名が不正の目的で登録又は使用されていると判断して,ドメイン名を移転すべき旨の裁定をしたが,裁判所はこれと異なる判断をした事例。 /知的財産権/無体財産権/不正競争防止法/消極的確認請求の事例/
参照条文: /不正競争.3条1項/不正競争.2条1項/不正競争.2条7項/
全 文 h140715tokyoD.html

最高裁判所 平成 14年 7月 12日 第2小法廷 決定 ( 平成14年(許)第2号 )
事件名:  推定相続人廃除申立て却下審判に対する抗告棄却決定に対する許可抗告事件
要 旨
 遺言執行者が推定相続人の廃除を求める審判手続において,廃除を求められていない推定相続人が利害関係人として審判手続に参加した場合に,その参加人は廃除の申立てを却下する審判に対して即時抗告をすることができない。
参照条文: /家審規.100条2項/家審規.27条2項/
全 文 h140712supreme.html

最高裁判所 平成 14年 7月 11日 第1小法廷 判決 ( 平成11年(行ツ)第93号 )
事件名:  住民訴訟請求上告事件
要 旨
 天皇の即位に当たり行われた大嘗祭は,神道施設が設置された大嘗宮において,神道の儀式にのっとり行われたというのであるから,鹿児島県知事がこれに参列し拝礼した行為は,宗教とかかわり合いを持つものであるが,宗教とのかかわり合いの程度が我が国の社会的,文化的諸条件に照らし,信教の自由の保障の確保という制度の根本目的との関係で相当とされる限度を超えるものとは認められず,憲法上の政教分離原則及びそれに基づく政教分離規定に違反するものではないとされた事例。
 1.憲法の政教分離規定の基礎となり,その解釈の指導原理となる政教分離原則は,国家が宗教的に中立であることを要求するものではあるが,国家が宗教とのかかわり合いを持つことを全く許さないとするものではなく,宗教とのかかわり合いをもたらす行為の目的及び効果にかんがみ,そのかかわり合いが,我が国の社会的,文化的諸条件に照らし,信教の自由の保障の確保という制度の根本目的との関係で相当とされる限度を超えるものと認められる場合にこれを許さないとするものである。
 1a.憲法20条3項にいう宗教的活動とは,およそ国及びその機関の活動で宗教とのかかわり合いを持つすべての行為を指すものではなく,そのかかわり合いが上記にいう相当とされる限度を超えるものに限られるというべきであって,当該行為の目的が宗教的意義を持ち,その効果が宗教に対する援助,助長,促進又は圧迫,干渉等になるような行為をいう。
 1b.ある行為が上記にいう宗教的活動に該当するかどうかを検討するに当たっては,当該行為の外形的側面のみにとらわれることなく,当該行為の行われる場所,当該行為に対する一般人の宗教的評価,当該行為者が当該行為を行うについての意図,目的及び宗教的意識の有無,程度,当該行為の一般人に与える効果,影響等,諸般の事情を考慮し,社会通念に従って,客観的に判断しなければならない。
参照条文: /憲.20条3項/憲.1条/
全 文 h140711supreme.html

最高裁判所 平成 14年 7月 11日 第3小法廷 判決 ( 平成11年(受)第602号 )
事件名:  保証債務請求上告事件
要 旨
 商品代金の立替払契約がいわゆる空クレジット契約である場合に,同契約上の債務を保証した保証人の意思表示に要素の錯誤があるとされた事例。
 1.保証契約は,特定の主債務を保証する契約であるから,主債務がいかなるものであるかは,保証契約の重要な内容であり,主債務が,商品を購入する者がその代金の立替払を依頼しその立替金を分割して支払う立替払契約上の債務である場合には,商品の売買契約の成立が立替払契約の前提となるから,商品売買契約の成否は,原則として,保証契約の重要な内容である。
参照条文: /民法:95条/
全 文 h140711supreme2.html

福岡高等裁判所 平成 14年 7月 11日 第3民事部 判決 ( 平成12年(ネ)第1055号 )
事件名:  損害賠償請求控訴事件
要 旨
 証券会社に対して顧客が一任勘定の違法取引,顧客口座からの社員による無断出金による横領を主張して損害賠償請求したが,棄却された事例。
 当事者の主張ならびに証人等の供述等を詳細に検討して事実を認定した事例(自由心証主義)。 /ワラント債/ワラント取引の説明義務/信用性/
参照条文: /参照条文/民訴.247条/
全 文 h140711hukuokaH.html

最高裁判所 平成 14年 7月 9日 第3小法廷 判決 ( 平成11年(行ツ)第77号 )
事件名:  大分県に代位して行う損害賠償等請求上告事件
要 旨
 天皇の即位に当たり行われる大嘗祭の中心的儀式である主基殿供饌の儀において使用される新穀を収穫するための儀式である主基斎田抜穂の儀は,神殿等が設置された斎場において,神道の儀式にのっとり一定の祭具を使用して行われたというのであるから,大分県の知事,副知事及び農政部長がこれに参列した行為は,宗教とかかわり合いを持つものといわざるを得ないが,宗教とのかかわり合いの程度が我が国の社会的,文化的諸条件に照らし,信教の自由の保障の確保という制度の根本目的との関係で相当とされる限度を超えるものとは認められず,憲法上の政教分離原則及びそれに基づく政教分離規定に違反するものではないとされた事例。
 1.政教分離原則は,国家が宗教的に中立であることを要求するものではあるが,国家が宗教とのかかわり合いを持つことを全く許さないとするものではなく,宗教とのかかわり合いをもたらす行為の目的及び効果にかんがみ,そのかかわり合いが,我が国の社会的,文化的諸条件に照らし,信教の自由の保障の確保という制度の根本目的との関係で相当とされる限度を超えるものと認められる場合にこれを許さないとするものである。
 1a.憲法20条3項にいう宗教的活動とは,およそ国及びその機関の活動で宗教とのかかわり合いを持つすべての行為を指すものではなく,そのかかわり合いが上記にいう相当とされる限度を超えるものに限られるというべきであって,当該行為の目的が宗教的意義を持ち,その効果が宗教に対する援助,助長,促進又は圧迫,干渉等になるような行為をいう。
 1b.ある行為が上記にいう宗教的活動に該当するかどうかを検討するに当たっては,当該行為の外形的側面のみにとらわれることなく,当該行為の行われる場所,当該行為に対する一般人の宗教的評価,当該行為者が当該行為を行うについての意図,目的及び宗教的意識の有無,程度,当該行為の一般人に与える効果,影響等,諸般の事情を考慮し,社会通念に従って,客観的に判断しなければならない。
参照条文: /憲.20条3項/憲.1条/
全 文 h140709supreme.html

最高裁判所 平成 14年 7月 9日 第3小法廷 判決 ( 平成10年(行ツ)第239号 )
事件名:  建築工事続行禁止請求上告事件
要 旨
 宝塚市の市長が、「宝塚市パチンコ店等,ゲームセンター及びラブホテルの建築等の規制に関する条例」に基づき、同市内においてパチンコ店を建築しようとする者に対し,その建築工事の中止命令を発したが,同人がこれに従わないため,同人に対し同工事を続行してはならない旨の裁判を求めた行政訴訟が法律上の争訟に該当しないとして却下された事例。
 1.国又は地方公共団体が専ら行政権の主体として国民に対して行政上の義務の履行を求める訴訟は,裁判所法3条1項にいう法律上の争訟に当たらず,これを認める特別の規定もないから,不適法である。 /訴えの利益/訴えの客観的利益/請求適格/
参照条文: /民訴.140条/裁判.3条1項/代執.1条/
全 文 h140709supreme2.html

最高裁判所 平成 14年 7月 2日 第3小法廷 判決 ( 平成10年(行ヒ)第51号 )
事件名:  損害賠償代位請求上告事件
要 旨
 談合をした企業に対する損害賠償請求権の行使を怠る事実についての監査請求に地方自治法242条2項本文の期間制限が及ばないとされた事例。
 1.地方自治法242条1項の住民監査請求の対象事項のうち怠る事実については,2項本文に定められているような監査請求の期間制限は規定されておらず,住民は怠る事実が現に存する限りいつでも監査請求をすることができる。(原則)
 1a.しかし,怠る事実を対象としてされた監査請求であっても,特定の財務会計上の行為が財務会計法規に違反して違法であるか又はこれが違法であって無効であるからこそ発生する実体法上の請求権の行使を怠る事実を対象とするものである場合には,当該行為を対象とする監査を求める趣旨を含むものとみざるを得ず,当該行為のあった日又は終わった日を基準として242条2項本文の規定を適用すべきである。(先例により認められた例外)
 1b.監査委員が怠る事実の監査を遂げるためには,特定の財務会計上の行為の存否,内容等について検討しなければならないとしても,当該行為が財務会計法規に違反して違法であるか否かの判断をしなければならない関係にはない場合には,同規定を適用すべきではない。(破棄理由=例外の適用範囲の限定=一般論)
 1c.県の実施した指名競争入札に業者が談合の上応札・落札して不当に高額の代金で請負契約を締結し,これにより業者が県に与えた損害の賠償請求権の行使が怠られている事実が監査請求の対象事項である本件にあっては,契約締結やその代金額の決定が財務会計法規に違反する違法なものであったとされて初めて県の損害賠償請求権が発生するものではなく,談合とこれに基づく入札及び県との契約締結が不法行為法上違法の評価を受けるものであること,これにより県に損害が発生したことなどを確定しさえすれば足りるのであるから,本件監査請求には地方自治法242条2項本文の規定の適用がないものと解するのが相当である。(破棄理由=一般論の当てはめ)
参照条文: /地自.242条1項/地自.242条2項/地自.242-2条/
全 文 h140702supreme.html

最高裁判所 平成 14年 7月 1日 第1小法廷 決定 ( 平成13年(あ)第1728号 )
事件名:  盗品等処分あっせん被告事件(上告事件)
要 旨
 盗品等の有償の処分のあっせんをする行為は,窃盗等の被害者を処分の相手方とする場合であっても,刑法256条2項にいう盗品等の「有償の処分のあっせん」に当たる。
参照条文: /刑.256条2項/
全 文 h140701supreme91.html

大阪高等裁判所 平成 14年 6月 27日 第3民事部 判決 ( 平成13年(ネ)第3531号 )
事件名:  取立金請求控訴事件
要 旨
 鉄道会社の従業員の給料債権に対する仮差押命令が第三債務者の支社の下部組織である保線区の業務場所においてなされたが,送達書類を受領した者が支社に送付しなかった場合に,第三債務者に対する送達の効力が生じないとされた事例。
 1.会社に対して送達がなされる場合については,民事訴訟法103条1項にいう営業所とは,会社の本店又は支店など,少なくともある範囲の営業の中心を成す場所で,ある程度独立して業務を行うことができるものをいい,他から指揮監督を受けて単に実地の業務を執行するにとどまる程度の場所はこれに当たらないものと解すべきである。
 1a.鉄道会社の支社が民訴法103条1項にいう営業所に該当することは明らかであるが,新幹線保線区は,当該会社の組織規程によれば,各支社の現業機関,すなわち,管理的な事務ではなく実地の業務を行う部署として位置付けられ,経理業務全般を統括整理する経理責任者や収入,支出に係る承認等を行う会計責任者も置かれていないなどというのであるから,支社の一部署にすぎず,営業所ということはできないとされた事例。 /送達場所/補充送達/
参照条文: /民保.50条5項/民執.145条3項/民保.7条/民訴.103条1項/民訴.106条1項/
全 文 h140627osakaH.html

札幌地方裁判所 平成 14年 6月 25日 民事第2部 判決 ( 平成11年(ワ)第2211号 )
事件名:  否認権行使事件
要 旨
 たくぎん抵当株式会社が,自己破産申立ての1カ月強前の平成9年10月9日に,特定の大口債権者のために拓銀に対する預金債権上に質権を設定した行為について,故意否認が認められなかった事例。
 否認の対象たる債権質権設定当時に,(α)破産者(たくぎん抵当)の存続の可否は拓銀の存続と表裏一体の関係にあり,拓銀の破産者に対する再建支援がある限り,破産者は存続しうる状態にあったこと, (β) 拓銀の経営破綻の直接の原因は大手デパート会社の会社更生手続開始申立てに端を発した信用不安の高まりの中で,拓銀がコール市場での資金調達ができなかったことにより準備預金の積立不足が生じたということにあり,偶発的要因に基づくものであること,(γ)質権設定の意図は,拓銀および破産者の再建を意図してされたものであり,破産者において近い将来自らの経営が破綻することを認識・予見してなされたものではないこと,(δ)本件質権は,破産者のプロラタ返済計画に協力する見返りとして,拓銀による債務保証の代替措置としてなされたものであること,(ε)質権の設定された預金債権は拓銀が破産者に対する貸付金債権といつでも相殺できるものであり,もともと破産者の他の債権者の満足に供することのできるものではななかった等の諸事情を考慮して,特定の債権者に対する質権設定が破産法72条1号所定の「破産者カ破産債権者ヲ害スルコトヲ知リテ為シタル行為」に該当しないものと認められた事例。
参照条文: /破産.72条1号/
全 文 h140625sapporoD.html

鳥取地方裁判所 平成 14年 6月 25日 民事部 判決 ( 平成12年(ワ)第133号 )
事件名:  ウラン残土撤去請求事件
要 旨
 動燃が鳥取県地域でウランの探鉱のための試掘を行い,東伯郡東郷町方面地区内の坑口付近に堆積させた捨石(ウラン鉱石以外の岩石や土砂)のうちウラン残土の約3000立方メートルについて,方面地区の住民等によって構成される自治会が,動燃との間で平成2年8月31日に締結した協定に基づき,動燃から移行した核燃料サイクル開発機構に対してした撤去請求が認容され,無担保の仮執行宣言が付された事例。
 1.「ウラン残土の撤去は,関係自治体の協力を得て,「米」「梨」等の収穫期までに着手し,当協定書(覚書,確認書を含む)を遵守の上,一日も早く完了するものとする」という条項中の「関係自治体の協力を得て」という文言は,協定の文言および成立経緯等を総合的に考慮すると,停止条件ではなく不確定期限であるとされた事例。
 1a.協定成立から10年近く経過しても期限となっている事実(関係自治体の協力)を得ることができない場合に,遅くとも協定締結の日から10年間が経過した時点において,最早不可能となったと考えるのが社会通念上相当であり,履行期が到来したと判断された事例。 /法人でない社団/権利能力のない社団/当事者能力/
参照条文: /民訴.29条/民訴.259条1項/民法:127条1項/民法:135条/
全 文 h140625tottoriD.html

大阪地方裁判所 平成 14年 6月 20日 第21民事部 判決 ( 平成13年(ワ)第4063号 )
事件名:  特許権侵害差止請求事件
要 旨
 「ズボン等のウエスト伸縮構造」の特許発明の特許権者である原告が、被告(サンク株式会社)の製造、販売しているズボンが原告の発明の技術的範囲に属すると主張して、被告に対し、製造等の差止めを請求し、認容された事例。
 1.特許の請求範囲において用いられた「ポケットの上側の布地」「ポケットの下側の布地」の語がズボン等を構成する部品の名称としても、洋服の製造工程を表す語としても、当業者間における技術常識として一般的に使用される語ではないため、明細書の発明の詳細な説明の記載及び図面を詳細に検討して、その意義が確定された事例。
 2.原告の請求が一部棄却されたが、訴訟費用は全部被告の負担とされた事例。
参照条文: /特許.70条2項/特許.100条/民訴.64条/
全 文 h140620osakaD2.html

大阪高等裁判所 平成 14年 6月 19日 第8民事部 判決 ( 平成13年(ネ)第3226号 )
事件名:  損害賠償等請求控訴事件
要 旨
 1.コルチャック先生を主人公にした舞台劇の各場面のうち,「プロローグ
 トレブリンカ」,第2幕の15「別れ」及び同17「かなたへの旅立ち」の3場面は,原告が著作した伝記の翻案であると認められた事例。
 1a.言語の著作物の翻案とは,既存の著作物に依拠し,かつ,その表現上の本質的な特徴の同一性を維持しつつ,具体的表現に修正,増減,変更等を加えて,新たに思想又は感情を創作的に表現することにより,これに接する者が既存の著作物の表現上の本質的な特徴を直接感得することのできる別の著作物を創作する行為をいい,同一性を維持しつつ,直接感得することのできる表現上の本質的な特徴とは,創作性のある表現上の本質的な特徴をいい,思想,感情若しくはアイデア,事実若しくは事件など表現それ自体でない部分又は表現上の創作性がない部分において既存の言語の著作物と同一性を有するにすぎない著作物を創作する行為は,翻案には当たらない(「江差追分事件」において最高裁判例が示した判断基準)。
 2.著作物の翻案の許諾契約の解除の主張が認められなかった事例。
 2a.著作者の精神的利益を甚だしく侵害する行為があったことを理由に,著作者が著作者人格権の一つである撤回権に基づき翻案許諾を撤回したと主張したが,撤回権の著作権法上の法的根拠が必ずしも明確でないのみならず,撤回権行使の理由となる精神的利益を侵害があったとも認められないとして,撤回権行使の主張が認められなかった事例。
 3.外国において講演された演劇の原作や脚本の記載が正確性を書き,原作者が誰であるかについて誤解を生む内容であったが,原作者の名誉・信用を害するものとはいえないとされた事例。
 4.著作物の利用(テレビ放映)の許諾について,少なくとも黙示の意思表示がなされたと推認された事例。 /知的財産権/無体財産権/著作権/著作者人格権/氏名表示権/同一性保持権/二次的著作物/ワイダ監督/映画「コルチャック先生」/
参照条文: /著作.2条1項1号/著作.2条1項11号/著作.19条/著作.20条/著作.27条/
全 文 h140619osakaH.html

最高裁判所 平成 14年 6月 13日 第1小法廷 決定 ( 平成13年(許)第30号 )
事件名:  債権差押命令に対する執行抗告棄却決定に対する許可抗告事件
要 旨
 抵当権に基づく物上代位権の行使として賃料債権が差し押さえられた場合に,賃借人が賃料債務の不存在を理由に執行抗告を申し立てたが,被差押債権の不存在又は消滅を執行抗告の理由とすることはできないとして,棄却された事例。
 1.抵当権に基づく物上代位権の行使としてされた債権差押命令に対する執行抗告において,被差押債権の不存在又は消滅を執行抗告の理由とすることはできない。
 1a.第三債務者は,被差押債権の存否について,抵当権者が提起する当該債権の取立訴訟等においてこれを主張することができ,被差押債権の全部又は一部が存在しないときは,その部分につき執行が効を奏しないことになるだけであって,そのような債権につき債権差押命令が発付されても第三債務者が法律上の不利益を被ることはない。
参照条文: /参照条文/民執.193条2項/民執.145条5項/
全 文 h140613supreme.html

前橋地方裁判所 平成 14年 6月 12日 民事第1部 判決 ( 平成11年(ワ)第442号 )
事件名:  慰謝料請求事件
要 旨
 町立中学校のバレーボール部の顧問である男性教諭が,女子部員にテーピングを施したことに対して保護者からセクハラであるとの苦情が寄せられ,校長が事実関係を調査の上,教育委員会に報告すると共に,教諭に退職願いの提出を勧告し,町教育委員長が,「教職の社会的信用を失墜させた責任は重大であり,地方公務員法第33条に違反する」として諭旨免職を相当とする内申とともに教諭から提出された退職願を県教育委員会に提出し,県教育委員会が諭旨免職を適当と判断しつつ依願退職を認めた場合に,教諭が,校長が十分な事実調査を経ずにまた弁明機会を付与することなく退職願いの提出を強要したこと等を主張して,校長や県等に対して損害賠償を請求したが,認められなかった事例。 /セクシャルハラスメント/アカハラ/アカデミックハラスメント/クラブ活動/
参照条文: /民法:709条/地公.33条/国賠.1条/国賠.3条/
全 文 h140612maebashiD.html

最高裁判所 平成 14年 6月 11日 第3小法廷 判決 ( 平成10年(行ツ)第158号 )
事件名:  土地収用補償金請求上告事件
要 旨
 1.憲法29条3項にいう「正当な補償」とは,その当時の経済状態において成立すると考えられる価格に基づき合理的に算出された相当な額をいうのであって,必ずしも常に上記の価格と完全に一致することを要するものではない。
 1a.土地収用法71条が,事業の認定の告示の時における相当な価格を近傍類地の取引価格等を考慮して算定した上で,権利取得裁決の時までの物価の変動に応ずる修正率を乗じて,権利取得裁決の時における補償金の額を決定するとしていることは,十分な合理性があり,同条の規定は,憲法29条3項に違反するものではない。
 2.法律審である上告審においては,新たな訴えの提起は許されない。
 2a.強制収用を原因とする所有権移転登記手続を求める訴えが法律審で追加的に併合されたが,損失補償請求と同一の訴訟手続内で審判されることを前提とし,専ら併合審判を受けることを目的としてされたものと認定され,損失補償請求に関する上告が棄却されるのにあわせて,不適法として却下された事例。
参照条文: /民訴.143条/土収.71条/土収.68条/土収.48条/憲.29条3項/
全 文 h140611supreme.html

神戸地方裁判所 平成 14年 6月 11日 第6民事部 判決 ( 平成11年(行ウ)第3号 )
事件名:  労働者災害補償支給処分取消請求事件
要 旨
 就業場所から帰宅する途中に交通事故に遭った労働者(原告)が被告に労災保険法による障害給付の請求をしたところ,被告が原告の後遺障害の程度は同法施行規則別表第一障害等級表に定める障害等級第12級の12(局部にがん固な神経症状を残すもの)に該当するものと認定し,同等級に応ずる障害給付を支給する旨の処分をした場合に、原告が障害等級第5級の1の2(神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し,特に軽易な労務以外の労務に服することができないもの)に該当すると主張して,処分の取消しを訴求したが、棄却された事例。
 1.交差点で信号待ちしていた原動機付自転車の運転手(原告)が、交差道路から交差点に進入して左折しようとした自動車に時速45Kmで正面衝突され、2.4m飛ばされて転倒する事故が起きた場合に、原告が事故により生じたと主張する頸椎椎間板障害は,既往の経年性変化に外傷が転機となり発症したと認定された事例。
 1a.原告の左肩関節拘縮による左肩運動機能制限の症状が事故と相当因果関係の範囲内にある後遺障害であると認められなかった事例。
 1c.事故による原告の頸椎椎間板障害のみによって生じ得る後遺障害の程度が障害等級第12級の12の域を超えるものではないと認定された事例。 /事実認定/自由心証主義/因果関係/
参照条文: /民訴.247条/労災保険./
全 文 h140611kobeD.html

最高裁判所 平成 14年 6月 10日 第2小法廷 判決 ( 平成11年(受)第271号 )
事件名:  第三者異議上告事件
要 旨
 共同相続人の一人の債権者が債務者の法定相続分について債権者代位権に基づいて共有持分権移転登記をすると共に,仮差押えおよび差押えをした場合に,「相続させる」趣旨の遺言により権利を取得したが登記を経ていない他の共同相続人が第三者異議訴訟を提起し,認容された事例。
 1.特定の遺産を特定の相続人に「相続させる」趣旨の遺言による不動産の権利の取得は,登記がなくても,第三者に対抗することができる /対抗要件/
参照条文: /民法:177条/民法:896条/民法:900条/民法:985条/民法:423条/不登.46-2条/民執.38条/
全 文 h140610supreme.html

最高裁判所 平成 14年 6月 7日 第2小法廷 判決 ( 平成13年(受)第1662号 )
事件名:  取立金請求上告事件
要 旨
 債権の仮差押え後本執行による差押えの効力が生ずるまでの間に第三債務者が被差押債権を弁済した場合において,債権者が仮差押えを取り下げたときは,仮差押えによって第三債務者につき生じていた上記弁済禁止の効力はさかのぼって消滅し,第三債務者は被差押債権の弁済をもって債権者に対抗することができる。
参照条文: /民事保全法:50条1項;7条/民事訴訟法:262条1項/
全 文 h140607supreme.html

最高裁判所 平成 14年 6月 7日 第2小法廷 判決 ( 平成13年(受)第1697号 )
事件名:  書類等閲覧等請求上告事件
要 旨
 預託金会員制ゴルフクラブがゴルフ場運営会社に対して書類等閲覧請求の訴えを提起した場合に,原告たるゴルフクラブが,固有の財産を有するとはいえなくても,民訴法29条にいう「法人でない社団」にあたるとされた事例。
 1.民訴法29条にいう「法人でない社団」に当たるというためには,団体としての組織を備え,多数決の原則が行われ,構成員の変更にかかわらず団体そのものが存続し,その組織において代表の方法,総会の運営,財産の管理その他団体としての主要な点が確定していなければならないが,これらのうち,財産的側面についていえば,必ずしも固定資産ないし基本的財産を有することは不可欠の要件ではなく,そのような資産を有していなくても,団体として,内部的に運営され,対外的に活動するのに必要な収入を得る仕組みが確保され,かつ,その収支を管理する体制が備わっているなど,他の諸事情と併せ,総合的に観察して,同条にいう「法人でない社団」として当事者能力が認められる場合がある。(破棄理由) /当事者能力/権利能力なき社団/
参照条文: /民訴.29条/
全 文 h140607supreme2.html

神戸地方裁判所 平成 14年 6月 6日 第1民事部 決定 ( 平成13年(モ)第1463号 )
事件名:  文書提出命令申立事件
要 旨
 労働者がクモ膜下出血で死亡したのは,雇用主が労働者の健康等に十分な配慮をせず,常軌を逸した過重な労働を強いたのが原因であるとして,遺族(原告)が雇用主(被告)の債務不履行又は不法行為に基づく損害賠償を請求する訴訟(基本訴訟)において,労働基準監督署長が労災補償業務のために収集して所持している文書(「調査復命書」,「同僚からの聴取書」,「地方労災医員作成の意見書」等)について,業務過重性及び業務起因性の立証のために必要であるとして原告が提出命令を申し立てた場合に,文書所持者が公務秘密文書に該当するとして提出義務を争ったが,裁判所が公務秘密文書に該当しないと推認するのが相当であるとして提出を命じた事例。
 1.民事訴訟法220条4号は「前三号に掲げる場合のほか]と規定しているものの,これは同1号ないし3号で提出義務が認められない場合に同4号がこれらを補充する趣旨を示すものではなく,単に同1号ないし3号以外にも提出義務文書の類型があることを示すにすぎず,同4号の文書提出義務は同1号ないし3号と併存する関係にあると解するのが相当である。
 2.民訴法220条4号により文書提出命令を申し立てる場合には,申立人は,その申立てにかかる文書が,「公務員の職務上の秘密に関する文書」でないこと,またはその提出により「公共の利益を害し,又は公務の遂行に著しい支障を生ずるおそれがある」文書でないことを主張・立証しなければならない。
 2a.公務員が所持する文書について民訴法220条4号により提出命令の申立てがなされた場合には,申立人は申立てにかかる文書を所持しておらず,当該文書の記載内容を具体的に認識することは困難というべきであるから,文書を所持する相手方が提出義務のあることを争うときは,同条号ロの除外事由に該当する具体的な事情を反証する必要があり,反証のない限り,除外文書に該当しないことが推認されると解するのが相当である。
 2b.「公務員の職務上の秘密」とは,単に非公知の事項であるだけでなく,実質的にも秘密として保護するに値すると認められるものでなければならず,また,「公共の利益を害し,又は公務の遂行に著しい支障を生ずるおそれがある」といえるためには,単に当該文書の一般的な性格などからみて所定の事情が生じる可能性が抽象的に存するというだけでは足りず,当該文書に記載された当該職務上の秘密の公開により,公共の利益を害し,又は公務の遂行に著しい支障を生ずる可能性が具体的に存しなければならない。 /書証/一般義務文書/証明責任/挙証責任/
参照条文: /民事訴訟法:220条4号/
全 文 h140606kobeD.html

東京高等裁判所 平成 14年 5月 31日 第13民事部 判決 ( 平成12年(ネ)第276号 )
事件名:  不正競争行為差止等請求控訴事件
要 旨
 原告(ネグロス電工株式会社)が製造販売する電路支持材(パイラック製品)のうち第1グループのものについて、商品形態が出所表示機能を有するとして、不正競争防止法2条1項1号に基づいて被告(松下電工株式会社)の製品の製造・販売の差止ならびに損害賠償が命じられ、第2グループのものについて、請求が棄却された事例。
 1.商品形態が出所表示機能を取得するためには、同種商品が一般に有するものとは異なる形態であることが必要であるが、この形態が他の同種商品と比較して特異な形状であるとまではいえなくとも、当該商品の製造販売、広告宣伝等の程度によっては、出所表示機能を取得することができる。
 1a.上記の同種商品一般と異なる形態は、必ずしも、基本的形態において具備する必要はなく、具体的形態におけるものも、当該商品の製造販売、広告宣伝等の程度に加え、その具体的形態が看者の注意をひく程度によって、出所表示機能を取得することができる。(具体的形態について出所表示機能が肯定された事例)
 1b.同一又は類似の形態のものが複数の業者により複数の同種商品に使用され、そのような状態が長期間経過した場合には、希釈化により、当該商品の形態を特定の出所の表示として認識することができなくなり、周知の商品表示ということができなくなると抗弁が認められなかった事例。
 1c.原告製品の具体的形態が技術的機能に由来するものということはできないとされた事例。
 1d.製品の意匠登録が無効とされたからといって、当該製品の形態について不正競争防止法に基づく権利を主張することが信義則に反するということはできない。
 2.不正競争防止法2条1項1号所定の「混同を生じさせる行為」とは、他人の周知の商品表示と同一又は類似のものを使用する者が自己の商品と他人の商品との誤信(狭義の混同)を生じさせる行為等をいうところ、上記「混同」とは「混同のおそれ」をもって足りる。
 2a.商品形態が実質的に同じであるから狭義の混同の生ずるおそれがあると認められた事例。
 3.不正競争行為を差し止める必要性が喪失したというためには、不正競争行為を行った者が単に当該行為を中止した事実だけでは不十分であり、当該行為を再開することが事実上困難であると認めるに足りる客観的事情が存在することが必要である。
 3a.被告が、被告製品の仕様変更を行うこととし、金型変更を完了し、その性能について試し打ち等の工程を経て、新しい仕様の製品に切り替え、(口頭弁論終結後の)平成14年1月中には、営業所に旧仕様の在庫があってもすべて引き上げることとするから、被告製品について製造販売等を差し止める必要性が喪失したと主張したが、認められなかった事例。
 4.不正競争防止法5条1項により原告に生じた損害額と推定される被告の利益額の算定に際して、被告製品の販売による利益率は、原告製品の利益率を下らないものと推認するのが相当であるとされた事例。
 5.原告の製品の形態が出所表示機能を有する場合に、これと誤認のおそれのある形態の商品を製造販売したことにより、原告が製品の製造販売による利益を維持するために種々の営業上の防衛手段を講ずることを余儀なくされたこと、それにもかかわらず、取引先や消費者一般の中に原告製品と被告製品とを混同するなど混乱を生じた者が少なからず存在したと推認されることを考慮して、信用毀損による無形損害を原告が被ったと認定され、その賠償が命ぜられた事例。
 6.被告製品の大手ホームセンターにおける販売状況に関する原告従業員作成の上申書が証拠原因となった事例。
 6a.控訴審の口頭弁論終結直前にだされた先使用権の抗弁が、本件訴訟の経緯に照らすと、時機に後れた攻撃防御方法ということまではできないとされた事例。 /知的財産権/無体財産権/不正競争防止法/金型の原価償却費/自由心証主義/
参照条文: /不正競争.2条1項1号/不正競争.3条/不正競争.4条/不正競争.5条/民法:709条/民法:710条/民訴.247条/
全 文 h140531tokyoH.html

札幌地方裁判所 平成 14年 5月 29日 民事第1部 判決 ( 平成10年(ワ)第1586号・同第2386号・同第2712号・同第2809号・平成11年(ワ)第1523号・同第2771号・平成12年(ワ)第2975号・平成13年(ワ) )
事件名:  会員資格保証金返還等請求事件,不当利得返還請求事件,債務不存在確認請求事件,貸金反訴請求事件,貸金請求事件
要 旨
 (a)会員制リゾートクラブの事業に参画し当初は自ら預託金(会員資格保証金)の返還債務を保証する計画であったが大蔵省の指摘を受けて子会社に保証させ,一部の会員に対して提携ローンにより預託金等を融資をした銀行(拓銀)に対して,会員らが預託金相当額の支払を請求した事例。(b)会員権購入資金を拓銀から借り入れた一部会員が,その貸金債権を銀行から承継した整理回収機構との間で貸金残金の返還債務が存在しないことの確認を求めた事例(第1事件)。(c)整理回収機構が,反訴(第2事件)又は別訴(第3事件)により,拓銀から承継した貸金残金の支払を求めた事例。
 1.リゾートクラブの預託金に関して,リゾートクラブ事業に参画した銀行の責任の追及のために様々な法律構成が主張されたが,すべて否定された事例:
 口頭による保証契約又は損害担保契約
 外観法理又は禁反言による保証責任
 代理,第三者のための契約
 表見代理に基づく保証責任又は損害担保責任
 完成保証契約又は損失保証契約,法人格否認法理による保証責任
 銀行を構成員とする共同企業体(民法上の組合)による共同事業であることに基づく預託金返還義務
 会員契約に基づく責任
 不法行為(詐欺,不実表示,保護義務違反,不作為による欺罔,信義則に反する売り手又は宣伝者としての責任,法44条,同法715条に基づく責任)
 説明義務違反
 錯誤無効
 抗弁権の接続
 2.多数の通常共同訴訟人がいる場合の裁判の例
 3.債務不存在確認訴訟の係属中に同一債権について支払請求訴訟が提起された場合に,債務不存在確認請求訴訟は事後的に二重起訴として不適法となるとして,訴えが却下された事例。
 3a.債権者が主張する債権額を超える債務が存在しないことの確認請求の訴えが確認の利益を欠くとして却下された事例。 /エイペックスリゾート洞爺クラブ/カブトデコム/訴えの利益/訴えの客観的利益/北海道拓殖銀行/情報訂正義務/
参照条文: /民法:709条/民法:715条/民法:44条/民訴.142条/民法:95条/民法:1条2項/民法:99条/民法:537条/民法:109条/民法:110条/
全 文 h140529sapporoD.html

東京地方裁判所 平成 14年 5月 28日 民事第28部 判決 ( 平成12年(ワ)第18782号 )
事件名:  謝罪広告等請求事件
要 旨
 意見ないし論評による名誉侵害について免責事由が認められ,似顔絵による肖像権侵害・人格権侵害が成立しないとされた事例。
 1.不法行為としての名誉毀損は,問題とされる表現が,人の品性,徳行,名声,信用等の人格的価値について社会から受ける客観的評価を低下させるものであれば,これが事実を摘示するものであるか,又は意見ないし論評を表明するものであるかを問わず成立する。
 1a.特定の事実を基礎とする意見ないし論評の表明による名誉毀損にあっては,その行為が公共の利害に関する事実に係り,かつ,その目的が専ら公益を図ることにあった場合に,当該意見ないし論評の前提としている事実が重要な部分について真実であることの証明があったときは,人身攻撃に及ぶなど意見ないし論評としての域を逸脱したものでない限り違法性を欠き,仮に上記証明がないときでも行為者において上記事実を真実と信ずるについて相当の理由があるときは,故意又は過失が否定され,行為者は不法行為責任を負わない。
 2.被告の漫画を原告著作において無断で引用して出版したのは違法な複製権侵害であるとの意見を被告が表明することは,公共の利害に関する事実に係り,上記引用行為の可否を広く一般読者に問題提起し,被告を含む漫画家の著作権を擁護する目的があり,専ら公益を図る目的を有すると認めることができるとされた事例。
 2a.名誉を侵害する意見ないし論評について,その前提となる事実が,重要な部分においていずれも真実であると認めることができるとされた事例。
 2b.被告の漫画絵を多数引用して被告を批判した原告を被告が漫画表現でもつて批判した場合に,そのことが原告に対する人身攻撃に及ぶなど意見ないし論評の域を逸脱し,相当性を欠くものと評価することはできないとされた事例。
 3.個人の私生活上の自由として,人は,みだりに自己の容貌ないし姿態を撮影され,これを公表されない人格的利益(いわゆる肖像権)を有し,これは,法的に保護される権利であり,その侵害について民事上不法行為が成立し,損害賠償の対象となる。
 3a.作者の技術により主観的に特徴を捉えて描く似顔絵については,少なくとも似顔絵自体により特定の人物を指すと容易に判別できるときに当たらないときは,肖像権侵害には当たらないと解すべきである。
 3b.名誉権,プライバシー権等とは別に似顔絵の公表自体が個人の人格権を侵害するか否かについては,全体の文脈を踏まえて,表現の目的,表現の方法,表現の内容,当該似顔絵から一般読者が受ける印象,当該個人の社会的地位,作者と当該個人との関係等の諸事情を総合考慮して判断すべきであり,社会通念に照らし,作者の表現の自由を尊重してもなお当該似顔絵の公表が相当性を逸脱する場合には,似顔絵の公表自体が違法性を帯びると解すべきである。(社会通念に照らし相当性を逸脱しているとは認められなかった事例) /ゴーマニズム宣言/従軍慰安婦問題/
参照条文: 民.709条/民法:710条/憲.13条/憲.21条/
全 文 h140528tokyoD.html

長野地方裁判所 平成 14年 5月 24日 民事部 判決 ( 平成14年(ワ)第203号 )
事件名:  請負代金請求事件
要 旨
 孫請会社が下請会社から請け負った工場屋根板金工事の期限内の完成が元請会社の責めに帰すべき事由により客観的に不可能となった場合に,元請会社の責めに帰すべき事由による工事の遅れは,孫請会社との関係では,下請会社の責任に帰属し,孫請会社は民法536条により工事請負代金全額を請求できるとされた事例。
 上記の場合に,注文主たる下請会社は民法536条2項但書により利得償還請求権を有するとされ,これとの相殺が認められた事例。
 1.請負契約において,仕事が完成しない間に,注文者の責めに帰すべき事由によりその完成が不能となった場合には,請負人は,自己の残債務を免れるが,民法536条2項によって,注文者に請負代金全額を請求することができ,ただ,自己の債務を免れたことによる利益を注文者に償還すべき義務を負うに過ぎない。
 1a.「注文者の責めに帰すべき事由」とは,注文者の故意・過失又は信義則上これと同視し得るような事由をいう。
 1b.民法536条2項ただし書きにいう被告の原告に対する利得償還請求金額は,原告が自己の債務を免れたことによって得た利益であって,被告が現実に支出した費用でない。 /損益相殺/相殺の抗弁/
参照条文: /民法:536条2項/
全 文 h140524naganoD.html

名古屋高等裁判所 平成 14年 5月 22日 民事第2部 判決 ( 平成14年(ネ)第69号 )
事件名:  執行判決請求控訴事件
要 旨
 アメリカ合衆国カリフォルニア州ベンチュラ郡上級裁判所の養育費支払条項を含む‘stipulation and order on order to show cause’(理由開示命令手続における合意及び命令)は,執行判決の対象となる外国裁判所の判決には当たらないとされた事例。
 1.民事執行法24条にいう「外国裁判所の判決」及び民事訴訟法118条にいう「外国裁判所の確定判決」とは,外国における裁判権を行使する権限を有する機関が,私法上の法律関係について当事者双方の審尋を保証する手続により終局的に行った裁判で,通常の不服申立の方法では不服申立ができないものをいう。
 1a.同法24条により執行判決を求めることができるのは,外国裁判所の判決および仲裁判断に限られ,それ以外の同判決と同一の効力を有するにすぎないものは,これに含まれない。
参照条文: /民訴.118条/民執.24条/
全 文 h140522nagoyaH.html

那覇地方裁判所 平成 14年 5月 14日 民事第1部 判決 ( 平成12年(行ウ)第6号 )
事件名:  懲戒免職行政処分取消請求事件
要 旨
 妻子のある国立大学助教授がその指導を受ける女子学生に対して性的嫌がらせ行為を行い,また,虚偽データを学位論文に使用することを強制したこと等を理由に,大学が当該助教授に対して免職処分をしたことが違法でないとされた事例。
 1.裁判所が公務員に対する懲戒処分の適否を審査するに当たっては,懲戒権者と同一の立場に立って懲戒処分をすべきであったかどうか又はいかなる処分を選択すべきであったかについて判断し,その結果と懲戒処分とを比較してその軽重を論ずべきものではなく,懲戒権者の裁量権の行使に基づく処分が社会観念上著しく妥当を欠き,裁量権を濫用したと認められる場合に限り違法であると判断すべきものである。(先例の確認)
 2.憲法39条の二重処罰の禁止の原則は,直接は刑罰法規を対象とするものであるが,これと同視すべき行政上の不利益処分についても適用されるものと解され,一旦処分をした同一事実について再度懲戒処分に付することは許されない。
 2a.女子大学院生が指導教官から性的嫌がらせを受けたとの被害届に基づき大学が設置した調査委員会が12人の証人を呼び,できるだけ多くの証言をえるように務めたものの,性的嫌がらせ行為を直接目撃したような明白な客観的証拠が認められなかったため,結局,性的嫌がらせの存否自体を判断するには至らなかったが,妻子のいる大学助教授が,自己の指導担当する学生に対して,結婚の申込みを行い,しかも,その実現に至らず,当該学生から性的嫌がらせを受けたと訴えられたという事実が認められる以上,大学人としての道義的責任を問うべきであるとの結論に達して,戒告処分をした後で,被害者からの損害賠償請求訴訟において裁判所が性的嫌がらせ行為を認定し,請求を一部認容する判決を下した場合に,その判決の確定後に,大学が助教授に対して懲戒免職の処分をすることは,二つの懲戒処分において問題とされている事実は異なるといえるから,二重の処罰禁止の原則には反しないとされた事例。 /セクシャルハラスメント/アカデミックハラスメント/アカハラ/セクハラ/
参照条文: /憲.39条/国公.82条/
全 文 h140514nahaD.html

最高裁判所 平成 14年 4月 26日 第2小法廷 決定 ( 平成14年(許)第1号 )
事件名:  担保取消決定に対する抗告棄却決定に対する許可抗告事件
要 旨
 仮執行宣言付判決に対する上訴に伴い強制執行の停止がされた後,債務者が破産宣告を受けた場合に,債権者は,強制執行の停止がされなかったとしても仮執行が破産宣告時までに終了していなかったという事情がない限り,強制執行の停止により損害を被る可能性があるから,債務者が破産宣告を受けたという一事をもって,「担保の事由が消滅したこと」に該当するということはできない。 /仮執行による満足の効力/
参照条文: /民訴.400条2項/民訴77条/破産.70条1項/
全 文 h140426supreme.html

最高裁判所 平成 14年 4月 25日 第1小法廷 判決 ( 平成11年(受)第743号 )
事件名:  債務不存在確認請求上告事件
要 旨
 群馬県司法書士会が阪神・淡路大震災により被災した兵庫県司法書士会に3000万円の復興支援金を寄付することは,その権利能力の範囲内にあり,そのために特別に負担金を徴収することは,会員の政治的又は宗教的立場や思想信条の自由を害するものではなく,総会決議で定められた負担金が会員に社会通念上過大な負担を課するものではないとして,負担金を徴収する旨の総会決議の効力が会員に対して及ぶとされた事例。
参照条文: /民法:43条/司法書士.14条2項/憲.19条/憲.29条/
全 文 h140425supreme.html

最高裁判所 平成 14年 4月 25日 第1小法廷 判決 ( 平成13年(受)第952号 )
事件名:  著作権侵害行為差止請求上告事件
要 旨
 家庭用テレビゲーム機用ソフトウエアの中古品販売業者による中古品の公衆への譲渡が著作権侵害に当たらないとされた事例。
 1.ゲームソフトが著作権法2条3項に規定する「映画の効果に類似する視覚的又は視聴覚的効果を生じさせる方法で表現され,かつ,物に固定されている著作物」であり,同法10条1項7号所定の「映画の著作物」に当たるとの原審の判断が正当であるとされた事例。
 2.ゲームソフトが映画の著作物に該当する場合には,著作権者は,著作権法26条1項所定の頒布権を専有する。
 2a.公衆に提示することを目的としない家庭用テレビゲーム機に用いられる映画の著作物については,複製物を公衆に譲渡する権利は,いったん適法に譲渡されたことにより,その目的を達成したものとして消尽し,もはや著作権の効力は,当該複製物を公衆に再譲渡する行為には及ばないものと解すべきである。 /知的財産権/無体財産権/著作権/譲渡権/
参照条文: /著作.2条3項/著作.2条1項19号/著作.26条/著作.26-2条/
全 文 h140425supreme2.html

名古屋地方裁判所 平成 14年 4月 23日 民事第5部 判決 ( 平成13年(ワ)第1415号 )
事件名:  約束手形金請求事件(異議事件)
要 旨
 手形判決により確定した遡求権の消滅時効の期間が民法174条の2により10年に変更されたものと認められ,判決確定後に期限後の戻裏書きの方法で遡求権を承継取得した者が時効期間の延長を主張することが認められた事例。
 不動産の売買の代金額の減額に伴い,その仲介手数料が黙示的に減額されたと認定された事例。(自由心証主義)
 破産した手形振出人の破産管財人がした債権者不確知を理由とする弁済供託が有効と認められ,手形所持人の遡求義務者に対する償還請求権がこの範囲で消滅していると認められた事例。 /相殺充当(弁済充当)の事例/
参照条文: /参照条文/民法:174-2条/民訴.247条/民法.494条/民法:512条/民法:491条/
全 文 h140423nagoyaD.html

最高裁判所 平成 14年 4月 12日 第2小法廷 判決 ( 平成11年(オ)第887号,平成11年(受)第741号 )
事件名:  横田基地夜間飛行差止等請求上告事件
要 旨
 アメリカ合衆国駐留軍の航空機の横田基地における夜間離発着による騒音によって人格権を侵害されているとして,合衆国に対して,午後9時から翌朝7時までの間の航空機の離発着の差止めと損害賠償を求める請求について,合衆国に対して日本の民事裁判権は及ばないことを理由に,訴えが却下された事例。
 1.外国国家の主権的行為については,民事裁判権が免除される旨の国際慣習法の存在を肯認することができる。
 1a.合衆国軍隊の航空機の横田基地における夜間離発着は,我が国に駐留する合衆国軍隊の公的活動そのものであり,その活動の目的ないし行為の性質上,主権的行為である。
 2.日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約第6条に基づく施設及び区域並びに日本国における合衆国軍隊の地位に関する協定(昭和35年6月23日条約第7号)18条5項の規定は,外国国家に対する民事裁判権免除に関する国際慣習法を前提として,外国の国家機関である合衆国軍隊による不法行為から生ずる請求の処理に関する制度を創設したものであり,合衆国に対する民事裁判権の免除を定めたものと解すべきではない。 /司法権/
参照条文: /民訴.140条/裁判.3条/憲.76条/
全 文 h140412supreme.html

大阪地方裁判所 平成 14年 4月 12日 第19民事部 判決 ( 平成12年(ワ)第5713号 )
事件名:  損害賠償請求事件
要 旨
 大学教授の大学院生に対する言動が,大学院生の有する良好な環境で研究を行う法的利益や名誉・信用等を侵害する不法行為に該当すると判断された事例(アカデミック・ハラスメント)。
 1.大学教授がその指導下にある女性の大学院生(博士課程後期課程)に対して,自らの指導不熱心を棚に上げて差別的発言をおこない,そのため大学院生が他大学に研究の場を移さざるをえないと考えて他大学の大学院を受験しようとすることを知ると,受験先の大学の教授に虚偽の悪評を知らせ,さらに,受験前における「受験許可願・退学願」の提出という学則上の手続の履践が実際には必ずしも厳格には行われていないことを知る機会があったであろうにもかかわらず,学則をたてにその手続の履践を求め,大学院生から「受験許可願・退学願」が郵送されると学務委員会の決定があるまでは指導教授としての押印はできないとの虚偽の事実を伝えたりしたこと等の行為をした場合に,これらの行為が,大学院生の有する良好な環境で研究を行う法的利益や名誉・信用等を侵害する不法行為に該当すると判断され,これらの行為は国立大学大学院における院生に対する研究指導という公権力の行使に当たる者が職務を行うについてなしたものであるから,国が賠償責任を負うとされた事例。
 2.大学院生に対するセクシャル・ハラスメントにあたると主張された指導教授の言動について,裁判所が,大学教員としての思慮分別を欠いた行動であるとしつつも,言動の内容,態様,原告に与えた不快感の程度等をも勘案して,損害賠償を認めなければならないほどの違法性があるとは認められないとされた事例。
 3.国立大学の教授がその指導下にある大学院生に対してアカデミック・ハラスメントと評価される行為をした場合につき,国がその被害者に対して賠償の責に任ずるのであって,公務員個人はその責を負わないとされた事例。
 4.国立大学の教授が大学院生に対してアカデミック・ハラスメントと評価される行為をした場合に,国の履行補助者である学長等が大学院生の苦情及び救済の申立てに対して十分な対応を採らず,在学契約ないし信義則に基づく良好な教育研究環境を整える義務を怠ったと大学院生が主張して国に対して損害賠償を求めたが,そのような義務違反があったとは認められないとされた事例。
 4a.国立大学における在学関係は,学長の入学許可という行政処分によって発生する法律関係であって,一般私法上の契約関係ではない。
 4b.国は,国立大学の大学院生に対して,信義則上,教育ないし研究に当たって支配管理する人的及び物的環境から生じうべき危険から大学院生の生命及び健康等を保護するよう配慮すべき義務を負うが,指導教授のアカデミック・ハラスメントの行為により大学院生の生命・健康が害されたわけではないから,この義務違反があったとは認められないとされた事例。
 
 5.被告である国に対して損害賠償金の支払を命ずる第一審判決において、国の仮執行免脱宣言の申立てが却下された事例。 /セクハラ/アカハラ/
参照条文: /国賠.1条1項/民法:415条/民法:709条/民訴.259条3項/
全 文 h140412osakaD.html

最高裁判所 平成 14年 4月 5日 第2小法廷 判決 ( 平成12年(あ)第585号 )
事件名:  農地法違反被告事件
要 旨
 1.農地法(平成10年法律第56号による改正前のもの)4条1項,5条1項,92条による農地の転用・権利の移転の規制の目的は,土地の農業上の効率的な利用を図り,営農条件が良好な農地を確保することによって,農業経営の安定を図るとともに,国土の合理的かつ計画的な利用を図るための他の制度と相まって,土地の農業上の利用と他の利用との利用関係を調整し,農地の環境を保全することにあると認められ,この規制目的は,農地法の立法当初と比較して農地をめぐる社会情勢が変化してきたことを考慮しても,なお正当性を肯認することができ,憲法29条に違反しない。
 2.農地法(平成10年法律第56号による改正前のもの)4条1項違反の罪と同法5条1項違反の罪の双方が成立するとされた事例。 /財産権の保障/
参照条文: /農地.4条/農地.5条/農地.92条/憲.29条/
全 文 h140405supreme91.html

秋田地方裁判所 平成 14年 4月 4日 判決 ( 平成13年(ワ)第126号 )
事件名:  建物明渡請求事件
要 旨
 不動産の賃借人が再生手続開始申立てをした場合に,賃貸人が,賃貸借契約中の「賃借人について破産,和議等の申立てがあったときは,賃貸人は,催告を要せず本件賃貸借契約を解除できる」旨の特約に基づき,契約解除の意思表示をして明渡しを請求したが,この特約は,再生手続開始の申立てと読み替えるべき和議の申立てに関する部分については,民事再生法49条1項の趣旨に反し,民事再生法の目的を没却するものであるから無効であるとされた事例。 /双方未履行契約/
参照条文: /民再.49条1項/破産.59条/会更.103条/民再.1条/
全 文 h140404akitaD.html

最高裁判所 平成 14年 3月 28日 第1小法廷 判決 ( 平成11年(受)第1220号 )
事件名:  建物明渡等請求上告事件
要 旨
 賃貸用ビルが賃借人の提供する建設協力金を得て建設され、賃借人が一括して借り受けて他に転貸していたが、賃借人の更新拒絶により賃貸借契約が終了したため、賃貸人が再転借人に対して占有部分の明渡しを請求した場合に、賃貸人は再転貸借契約の締結を承諾したにとどまらず、その締結に加功し、再転借人による占有の原因を作出したものというべきであるから、賃貸人は、信義則上、再転借人に対して賃貸借契約の終了を対抗することができず、転借人は再転借部分を引き続き使用収益することができるとされた事例。
参照条文: /民法:612条/民法:613条/民法:1条2項/
全 文 h140328supreme3.html

最高裁判所 平成 14年 3月 28日 第1小法廷 判決 ( 平成12年(受)第836号 )
事件名:  取立債権請求上告事件
要 旨
 1.敷金が授受された賃貸借契約に係る賃料債権につき抵当権者が物上代位権を行使してこれを差し押さえた場合においても,当該賃貸借契約が終了し,目的物が明け渡されたときは,賃料債権は,敷金の充当によりその限度で消滅する。
 1a.敷金の充当による未払賃料等の消滅は,敷金契約から発生する効果であって,相殺のように当事者の意思表示を必要とするものではないから,民法511条によって上記当然消滅の効果が妨げられない。
 1b.抵当権者は,物上代位権を行使して賃料債権を差し押さえる前は,原則として抵当不動産の用益関係に介入できないのであるから,抵当不動産の所有者等は,賃貸借契約に付随する契約として敷金契約を締結するか否かを自由に決定することができ,敷金契約が締結された場合は,賃料債権は敷金の充当を予定した債権になり,このことを抵当権者に主張することができる。 /債権差押え/
参照条文: /民法:511条/民執.145条/民執.193条/
全 文 h140328supreme2.html

最高裁判所 平成 14年 3月 28日 第1小法廷 判決 ( 平成9年(行ツ)第159号 )
事件名:  建築基準法第59条の2第1項による許可処分等取消請求上告事件
要 旨
 総合設計許可の取消しを求める訴えの利益が,許可に係る建築物により日照を阻害される周辺の他の建築物の居住者について肯定され,建築基準法施行令131条の2第2項に基づく認定処分の取消しを求める訴えの利益が,都市計画道路が完成して供用が開始されたことを理由に否定された事例。
 1.行政事件訴訟法9条にいう当該処分の取消しを求めるにつき「法律上の利益を有する者」とは,当該処分により自己の権利若しくは法律上保護された利益を侵害され,又は必然的に侵害されるおそれのある者をいうのであり,当該処分を定めた行政法規が,不特定多数者の具体的利益を専ら一般的公益の中に吸収解消させるにとどめず,それが帰属する個々人の個別的利益としてもこれを保護すべきものとする趣旨を含むと解される場合には,かかる利益も上記の法律上保護された利益に当たり,当該処分によりこれを侵害され又は必然的に侵害されるおそれのある者は,当該処分の取消訴訟における原告適格を有する。
 1a.建築基準法法59条の2第1項は,同項の許可に係る建築物の建築が市街地の環境の整備改善に資するようにするとともに,当該建築物により日照を阻害される周辺の他の建築物に居住する者の健康を個々人の個別的利益としても保護すべきものとする趣旨を含むものと解すべきである。
 1b.総合設計許可に係る建築物により日照を阻害される周辺の他の建築物の居住者は,総合設計許可の取消しを求めるにつき法律上の利益を有する者として,その取消訴訟における原告適格を有する。(一部の原告について原告適格を肯定)
 2.建築基準法施行令131条の2第2項に基づく認定処分は,都市計画道路が完成して供用が開始されるまでの間,所定の要件を満たす建築物につき当該計画道路をその建築物の前面道路とみなし,その計画道路内の隣地境界線がないものとして,当該建築物につき隣地斜線制限の適用を解除するものであるから,当該都市計画道路が完成して供用が開始されれば,上記認定処分の取消しを求める訴えの利益は失われる。 /訴訟要件/当事者適格/訴えの主観的利益/訴えの客観的利益/
参照条文: /建築基準.59-2条/建築基準施.131-2条/行訴.9条/民訴.140条/
全 文 h140328supreme.html

神戸地方裁判所 平成 14年 3月 28日 第5民事部 判決 ( 平成13年(ワ)第2828号 )
事件名:  代金減額請求事件
要 旨
 物上保証に供された土地・建物の担保競売において,建物占有者の主張する賃借権が存在しないものとして売却が実施されたが,買受人の建物占有者に対する明渡請求訴訟において当該賃借権が買受人に対抗できるものであると認められて明渡請求が棄却された場合に,買受人が物上保証人に対して民法568条1項の規定に基づき代金減額請求をしたが,棄却された事例。
 1.566条は,売買の目的物の完全な使用収益を妨げる他人の権利の付着の場合に,その瑕疵が質的なものであり,量的なものでないために,割合的算定が困難なので代金減額請求を認めなかったものと解されるから,566条の規定による568条1項に基づく買受人の権利は,契約解除に限られ,代金減額請求はできない。
 2.民法568条にいう「債務者」には物上保証人は含まれないと解すべきである。 /売主の担保責任/
参照条文: /民法:568条/民法:566条/
全 文 h140328kobeD.html

最高裁判所 平成 14年 3月 25日 第2小法廷 判決 ( 平成13年(行ヒ)第154号 )
事件名:  特許取消決定取消請求上告事件
要 旨
 共有に係る特許権が特許異議の申立てに基づき特許庁により取り消された場合に,特許権の共有者の一人が単独で提起した特許取消決定の取消訴訟が適法とされた事例。
 1.特許権の共有者の1人は,共有に係る特許の取消決定がされたときは,特許権の消滅を防ぐ保存行為として,単独で取消決定の取消訴訟を提起することができる。
 1a.特許権の各共有者が共同して又は各別に取消訴訟を提起した場合には,これらの訴訟は類似必要的共同訴訟に当たる。(理由付けの一部/傍論)
 1b.特許法132条3項の「特許権の共有者がその共有に係る権利について審判を請求するとき」とは,特許権の存続期間の延長登録の拒絶査定に対する不服の審判(同法67条の3第1項,121条)や訂正の審判(同法126条)等の場合を想定しているのであって,一般的に,特許権の共有の場合に常に共有者の全員が共同して行動しなければならないことまで予定しているものとは解されない。(傍論) /知的財産権/無体財産権/工業所有権/特許権/固有必要的共同訴訟/当事者適格/訴訟要件/
参照条文: /特許.132条3項/特許.38条/特許.73条/特許.67-3条/特許.121条/民訴.40条/
全 文 h140325supreme51.html

東京地方裁判所 平成 14年 3月 25日 民事第29部 判決 ( 平成11年(ワ)第20820号(本訴),同12年(ワ)第14077号(反訴) )
事件名:  著作権侵害差止等本訴請求事件,著作者人格権確認反訴請求事件
要 旨
 「宇宙戦艦ヤマト」の一連のアニメーション映画の著作者が誰であるかが争われた事例。
 アニメーション映画において原告のスタッフタイトルが「総設定,総監督」あるいは「原案,原作,総設定,監督」とされている場合に,原告の関与は部分的に過ぎない,あるいは監修的に関与したにすぎないと認定され,作品の全体的形成に創作的に寄与した者は,作品を企画し,制作スタッフとの連絡会議を含めて製作のあらゆる過程に関与し,製作担当者に対して各製作作業に即した具体的な指示を出し,最終的な決定を行った被告であり,被告が著作者であると認定された事例。 /知的財産権/無体財産権/著作権/
参照条文: /著作.16条/
全 文 h140325tokyoD.html

神戸地方裁判所 平成 14年 3月 20日 第6民事部 判決 ( 平成10年(ワ)第1888号 )
事件名:  工事代金支払請求事件
要 旨
 金融機関が建物の工事代金相当額を注文主に融資することを請負人に確約し,請負人がその確約を信頼して表示登記に必要な書類を金融機関に引き渡したにもかかわらず融資が実行されず,その後注文主が倒産したことにより請負人が工事代金額相当額の損害を被ったと主張して,請負人が金融機関に対して損害賠償を求める訴えを提起したが,融資の確約の事実を認定することはできないとして請求が棄却された事例。
 1.証拠の信用性について詳しい説示がなされた事例。
 1a.携帯電話会社に特定の電話の受発信について調査の嘱託がなされ,その結果が一方の証人の証言の信用性を一定程度高めるものであるが他の事情も考慮すると決定的とはいえず,また,他方の証人の証言の信用性を完全に否定するものとはいえないとされた事例。 /補助事実/自由心証主義/受信/発信/
参照条文: /民訴.247条/民訴.186条/
全 文 h140320kobeD2.html

神戸地方裁判所伊丹支部 平成 14年 3月 20日 判決 ( 平成13年(ワ)第453号 )
事件名:  配当異議請求事件
要 旨
 25億円余で売却されることになる不動産について総計9名の債権者のために極度額の総額480億円の根抵当権が設定されている場合に,極度額65億円の根抵当権と63億円余の被担保債権を有する債権者(原告)が請求債権額を8億円に限定して競売申立てをしたところ,執行裁判所が原告の債権額を8億円として他の債権者と比例配分する配当表を作成したため,原告が配当異議の訴えを提起して,原告についても原告の有する被担保債権額63億円余を基準にして配当すべきであると主張したが,認められなかった事例。
 1.競売手続において同順位で配当をすべき複数の債権者が存在し,かつその中に差押債権者が含まれている場合には,その差押債権者に対する配当計算の基礎額は,原則として被担保債権の全額であるが,差押債権者が被担保債権の一部のみを請求債権として競売を申し立てた場合には,請求債権の金額を配当計算の基礎額とすべきである。
 2.差押債権者が請求債権を被担保債権の一部に限定して競売を申し立て,これに基づき開始決定がなされた後においては,特段の事情のない限り,差押債権者は請求債権の拡張をすることはできない。 /一部請求/不動産競売/
参照条文: /民執.85条5項/民執.85条4項/民執規.170条2号/民執規170条4号/
全 文 h140320kobeD.html

名古屋地方裁判所 平成 14年 3月 20日 民事第4部 判決 ( 平成9年(ワ)第1912号(甲事件),平成9年(ワ)第1053号(乙事件) )
事件名:  損害賠償請求事件
要 旨
 商品先物取引により多額の損失を受けた委託者(個人顧客)が商品先物取引受託会社とその従業員に対して,従業員の勧誘行為及び取引行為が不法行為にあたると主張して損害賠償を請求したが,認容されなかった事例。
 1.短期間に頻繁な建て落ちを行ったり,特定売買を勧誘したりすることが直ちに違法となるものではなく,また,特定売買率や手数料化率が高いことから直ちに当該取引が無意味な反復売買として違法となるものでもないというべきであり,ただ,取引員が手数料稼ぎの意図のみをもって主導的に短期間の頻繁な建て落ちや特定売買を行ったことが明らかな場合は,違法と評価しうると解するのが相当である。(違法とは認定されなかった事例)
 2.商品先物取引が極めて投機性の高い取引で,一般委託者が損失を被る危険性が高いこと,加えて,専門家としての商品取引員と一般委託者とでは,先物取引に関する知識,情報,判断力等の点で商品取引員が優位に立ち,一般委託者がこれと対等な立場に立つのは容易でないことを考慮すれば,商品取引員及びその従業員は,先物取引委託契約に従って委託者が不用意に損失を拡大しないよう忠告ないし助言等を行って委託者を保護すべき注意義務を負う。
 2a.委託者に対する融資又は融資の斡旋が,委託者を保護すべき注意義務に違反すると評価しうる場合には,当該融資又は融資の斡旋が不法行為を構成することがありうる。(注意義務違反が認定されなかった事例)
参照条文: /民法:709条/商品取引所法.94条/商品取引所法.136-18条/
全 文 h140320nagoyaD.html

最高裁判所 平成 14年 3月 15日 第2小法廷 判決 ( 平成8年(あ)第267号 )
事件名:  業務上横領被告事件(上告事件)
要 旨
 第三者が株式を買い占めて会社経営権を現経営陣から奪取することを阻止するために経理部次長が会社の金銭の支出行為をした場合について,業務上横領罪における不法領得の意思を肯定した控訴審判決が,経理部次長は少なくともある段階までは経理部長の権限に基づく支出であるか,又は専ら会社のために行う正当な支出であると認識していたのではないかと解する余地があるとして、審理不尽,事実誤認の疑いなどにより破棄された事例。
 1.会社の金銭の支出行為ないしその目的とするところが違法であるなどの理由から委託者たる会社として行い得ないものであるとしても,そのことのみから,直ちに行為者に不法領得の意思を認めることはできない。
参照条文: /刑.253条/
全 文 h140315supreme91.html

名古屋地方裁判所 平成 14年 3月 13日 民事第9部 判決 ( 平成14年(ワ)第200号 )
事件名:  債務不存在確認請求事件
要 旨
 破産免責申立てをした破産者が債権者名簿に保証債務を記載しなかった場合に,それが「失念」によるものであり,当該保証債務に免責不許可に該当する事由が見あたらないこと等を考慮しても,366条の12第5号が適用され,当該債務に免責決定の効力が及ばないとされた事例。
 1.破産法366条の12第5号の趣旨に鑑みれば,破産者が知っている請求権であれば,債権者名簿に記載しなかったことが本人の過失による場合でも同号に該当し,それが故意に基づくことを要しない。
参照条文: /破産.366-12条5号/
全 文 h140313nagoyaD.html

最高裁判所 平成 14年 3月 12日 第3小法廷 判決 ( 平成12年(受)第890号 )
事件名:  配当異議上告事件
要 旨
 抵当建物の移転補償金債権を目的として発せられた転付命令が第三債務者に到達した後に,抵当権者が抵当権に基づく物上代位の行使として同債権を差し押さえた場合に,転付命令の効力は物上代位のための差し押さえに優先するとされた事例。
 1.被転付債権が抵当権の物上代位の目的となり得る場合においても,転付命令が第三債務者に送達される時までに抵当権者が被転付債権の差押えをしなかったときは,転付命令の効力を妨げることはできず,差押命令及び転付命令が確定したときには,転付命令が第三債務者に送達された時に被転付債権は差押債権者の債権及び執行費用の弁済に充当されたものとみなされ,抵当権者が被転付債権について抵当権の効力を主張することはできない。 /配当異議訴訟/配当表の変更/
参照条文: /民法:304条/民法:372条/民執.159条3項/民執.160条/民執.193条/
全 文 h140312supreme.html

最高裁判所 平成 14年 3月 8日 第2小法廷 判決 ( 平成8年(オ)第852号 )
事件名:  損害賠償請求上告事件
要 旨
 1.民事上の不法行為である名誉毀損については,その行為が公共の利害に関する事実に係り,その目的が専ら公益を図るものである場合には,摘示された事実がその重要な部分において真実であることの証明があれば,同行為には違法性がなく,また,真実であることの証明がなくても,行為者がそれを真実と信ずるについて相当の理由があるときは,同行為には故意又は過失がなく,不法行為は成立しない。
 2.いわゆるロス疑惑事件に関連して,地方新聞社が共同通信社の「大麻に狂った“乱脈”A」といったタイトルの配信記事を自己の新聞紙に掲載した場合に,掲載記事が一般的には定評があるとされる通信社から配信された記事に基づくものであるという理由によっては,記事を掲載した新聞社において配信された記事に摘示された事実を真実と信ずるについての相当の理由があると認めることはできないとされた事例。(配信サービスの抗弁が否定された事例) /クレジット/配信記事であることの表示/表現の自由/国民の知る権利/報道の自由/
参照条文: /憲.21条/民法:709条/民法:710条/
全 文 h140308supreme.html

最高裁判所 平成 14年 2月 28日 第1小法廷 判決 ( 平成13年(行ヒ)第12号 )
事件名:  審決取消請求上告事件
要 旨
 1.商標権の共有者は,共有に係る商標登録の無効審決がされたときは,各自,単独で無効審決の取消訴訟を提起することができる。(固有必要的共同訴訟に当たらない)
 1a.共有に係る商標登録の無効審決に対する取消訴訟は、類似必要的共同訴訟に当たる。(理由付けの一部/傍論) /知的財産権/無体財産権/工業所有権/商標権/当事者適格/訴訟要件/
参照条文: /行訴.32条1項/商標.56条1項/特許.132条3項/商標.63条2項/特許.181条2項/商標.46-2条/民訴.40条/
全 文 h140228supreme51.html

最高裁判所 平成 14年 2月 28日 第1小法廷 判決 ( 平成9年(行ツ)第55号 )
事件名:  交際費等非公開決定処分取消請求上告事件
要 旨
 名古屋市長の交際費の支出に係る公文書の非公開決定処分の取消訴訟において,接遇費,賛助金,生花代,記念品代及び賞品代に係る情報が名古屋市公文書公開条例9条1項6号(「試験,契約,争訟,交渉,監視,取締り,立入検査,統計,職員の身分取扱いその他の本市の機関又は国等が行う事務事業に関する情報であって,公開することにより,当該又は同種の事務事業の目的の達成が損なわれるおそれがあるもの,公共の安全及び秩序の維持に支障を生ずるおそれがあるもの,情報を保有する第三者との信頼関係を著しく損なうおそれがあるものその他本市の行政の公正又は円滑な運営に支障を生ずるおそれがあるもの」)に該当するとした原判決に審理不尽があるとされた事例。
 1.市長の交際事務に関する情報で交際の相手方が識別され得るものであっても,相手方の氏名等が外部に公表,披露されることがもともと予定されているもの,すなわち,交際の相手方及び内容が不特定の者に知られ得る状態でされる交際に関するものなど,相手方の氏名等を公表することによって交際の相手方との間の信頼関係あるいは友好関係を損なうおそれがあるとは認められないようなものは,例外として非公開文書に該当しない。(先例の確認)
 2.(経験則)
 接遇費が支出される懇談会形式の交際には,様々な趣旨・内容のものがあり,例えば,市長が他の地方公共団体の長等との間で協力関係を維持,発展させるために公式に開催する定例の会合,市政に対して功労のあった者等を市長が公に表彰するに際して行う祝宴等は,その相手方及び内容が明らかにされても,通常,これによって相手方が不快な感情を抱き,当該交際の目的に反するような事態を招くことがあるとはいえないから,懇談会の経費に関する情報の中には,相手方の氏名等を公表することによって交際の相手方との間の信頼関係あるいは友好関係を損なうおそれがあるとは認められないものとして,名古屋市公文書公開条例9条1項6号に該当しないものが含まれている蓋然性がある。
 2a.(証明責任)
 交際の相手方が識別され得る情報のうち接遇費に係るものの中には,6号の例外要件に該当するものが含まれている蓋然性が高いのであるから,実施機関としては,抽象的に公表,披露を予定したものはない旨を主張立証するだけでは足りず,接遇費の具体的な類型を明らかにした上で,これが例外要件に当たらないことを主張立証すべきである。
 3.賛助金,生花代,記念品代及び賞品代に係る情報についても,上記と同様である。
 4.交際の相手方が識別され得る情報のうちせん別金,弔慰金,見舞金,見舞品及び祝金に係るものは,少なくとも名古屋市公文書公開条例9条1項6号に該当する。
 5.名古屋市公文書公開条例9条2項(「実施機関は,公開の請求に係る公文書に,非公開情報とそれ以外の情報とが併せて記録されている場合において,非公開情報に係る部分とそれ以外の部分とを容易に分離することができ,かつ,当該分離により公開の請求の趣旨が損なわれることがないと認めるときは,非公開情報に係る部分を除いて,当該公文書の公開をするものとする」)は,1個の公文書に複数の情報が記録されている場合において,それらの情報のうちに非公開情報に該当するものがあるときは,当該部分を除いたその余の部分についてのみ,これを公開することを実施機関に義務付けているにすぎず,非公開事由に該当する独立した一体的な情報を更に細分化し,その一部を非公開とし,その余の部分にはもはや非公開事由に該当する情報は記録されていないものとみなして,これを公開することまでをも実施機関に義務付けているものと解することはできない。 /公情報公開 /公文書開示/公文書公開/
参照条文: /名古屋市公文書公開条例(昭和61年名古屋市条例第29号).9条1項6号/
全 文 h140228supreme3.html

最高裁判所 平成 14年 2月 28日 第1小法廷 判決 ( 平成9年(行ツ)第136号,137号 )
事件名:  交際費等非公開決定処分取消請求・上告事件
要 旨
 愛知県公文書公開条例(昭和61年愛知県条例第2号)に基づいて愛知県知事の交際費に係る文書の公開請求がなされたが,現金出納簿,領収書及び支払証明書等を非公開とする決定がなされた場合に,その取消訴訟において,条例6条1項9号所定の非公開事由の有無が争われた事例。
 1.知事の交際事務は,相手方との間の信頼関係ないし友好関係の維持増進を目的として行われるものであるところ,相手方の氏名等の公表,披露が当然予定されているような場合等は別として,相手方を識別し得るような文書の公開によって相手方の氏名等や支出金額が明らかにされることになれば,一般に,交際費の支出の要否,内容等は,県の相手方とのかかわり等をしんしゃくして個別に決定されるという性質を有するものであることから,不満や不快の念を抱く者が出ることが容易に予想され,そのような事態は,交際の相手方との間の信頼関係あるいは友好関係を損なうおそれがあり,交際それ自体の目的に反し,ひいては交際事務の目的が損なわれるおそれがあるというべきであること等を考慮すれば,交際費の支出に関する文書のうち交際の相手方が識別され得るものは,原則として条例6条1項9号により公開しないことができる公文書に該当するというべきである。
 2.知事の交際事務に関する情報で交際の相手方が識別され得るものであっても,相手方の氏名等が外部に公表,披露されることがもともと予定されているもの,すなわち,交際の相手方及び内容が不特定の者に知られ得る状態でされる交際に関するものなど,相手方の氏名等を公表することによって上記のおそれがあるとは認められないようなもの(「9号の例外要件」)は,例外として同号に該当しないと解するのが相当である。
 2a.交際の相手方が識別され得る情報のうち会費に係るものの中には,9号の例外要件に該当するものが含まれている蓋然性が高いのであるから,条例実施機関としては,抽象的に公表,披露を予定したものはない旨を主張立証するだけでは足りず,会費の具体的な類型を明らかにした上で,これが9号の例外要件に当たらないことを主張立証すべきであり,この点について審理を尽くさなかった原審判断は違法であるとされた事例。/証明責任の分配例/
 3. 知事と相手方との交際の事実そのものは不特定の者に知られ得るものであっても,支出金額等,交際の内容までは不特定の者に知られ得るものとはいえない情報は,他に相手方の氏名等を公表することによって上記のおそれがあるとは認められないような事情がない限り,9号に該当するものと解される。
 3a.交際の相手方が識別され得る情報のうち香料,祝金,せん別,賛助金及びその他に係るものが少なくとも条例6条1項9号に該当するとされた事例。
 4.愛知県公文書公開条例(昭和61年愛知県条例第2号)には,請求者が請求に係る公文書の内容を知り,又はその写しを取得している場合に当該公文書の公開を制限する趣旨の規定は存在せず,これらのこと等に照らすと,同条例5条所定の公開請求権者が提起した公文書の非公開決定の取消訴訟において当該公文書が書証として提出されたとしても,当該公文書の非公開決定の取消しを求める訴えの利益は消滅するものではないとされた事例。/権利保護の必要/
 5.愛知県公文書公開条例6条2項は,「実施機関は,公文書に前項各号のいずれかに該当する情報とそれ以外の情報とが併せて記録されている場合において,当該該当する情報に係る部分とそれ以外の部分とを容易に分離することができ,かつ,その分離により公文書の公開の請求の趣旨が損なわれることがないと認められるときは,同項の規定にかかわらず,当該該当する情報に係る部分を除いて,公文書の公開をしなければならない。」と規定しているが,公開請求に係る公文書に記録されている情報が条例所定の非公開事由に該当するにもかかわらず,当該情報の一部を除くことにより,残余の部分のみであれば非公開事由に該当しないことになるものとして,当該残余の部分を公開すべきものとする定め(行政機関の保有する情報の公開に関する法律6条2項に相当する定め)は存在しないから,同条例6条2項は,非公開事由に該当する独立した一体的な情報を更に細分化し,その一部を非公開とし,その余の部分にはもはや非公開事由に該当する情報は記録されていないものとみなして,これを公開することまでをも実施機関に義務付けているものと解することはできないとされた事例。
参照条文: /行政機関の保有する情報の公開に関する法律:6条/愛知県公文書公開条例(昭和61年愛知県条例第2号):6条/民事訴訟法:2編1章/
全 文 h140228supreme.html

最高裁判所 平成 14年 2月 28日 第1小法廷 決定 ( 平成14年(行フ)第1号 )
事件名:  執行停止決定に対する抗告審の取消決定に対する許可抗告事件
要 旨
 収用令書の執行停止決定に対する抗告審の取消決定に対する許可抗告が,その後に発布された退去強制令書が執行がなされているので,執行停止を求める利益が失われているとして,却下された事例。
 1.収容令書による収容は,退去強制手続において容疑事実である退去強制事由に係る審査を円滑に行い,かつ,最終的に退去強制令書が発付された場合にその執行を確実にすることを目的として行われるものであるから,退去強制令書が発付され執行されたときは,その目的を達し,収容令書は効力を失い,以後は退去強制令書の執行として収容が行われることになる。
参照条文: /入管=出入国管理及び難民認定法/入管.39条/入管.52条/行訴.25条2項/
全 文 h140228supreme5.html

東京高等裁判所 平成 14年 2月 27日 第20民事部 判決 ( 平成13年(ネ)第1419号 )
事件名:  損害賠償請求控訴事件
要 旨
 
 「無所有共用一体社会」の思想に共鳴してヤマギシ会に参画し,そのすべての財産を出捐して返還請求しないことを約束したが,その後の事情の変更により脱退した場合に,参画の際に出捐した財産の返還請求(不当利得返還請求)が一部認められた事例。
 1.ヤマギシ会に参画した者が参画時にした財産出捐行為は,信託あるいは寄託したとみることはできず,「参画契約」ともいうべき契約の一要素であると判断された事例。
 2.ヤマギシ会参画への勧誘等がその目的・手段・結果に照らして違法であるとはいえず,参画者に出捐行為をさせたこと自体及びその原因となった参画契約自体が公序良俗に違反するということはできないし,出捐行為をさせたことにつきヤマギシ会に社会的相当性を欠く行為あったとはいえないと判断された事例。
 3.「無所有」及び「無我執」というヤマギシズムの基本理念は,個人主義の思想と対立するものであり,ヤマギシ会への参画契約が脱退しても参画時に出資した財産について全く返還請求をすることができない趣旨のものとすれば,ヤマギシズムを実践する意思を喪失して脱退しようとする者に脱退を断念させ,ヤマギシズムの「無所有共用一体生活」を強制することにもなりかねず,実顕地における「無所有共用一体生活」が全人格的な思想実践の場であることをも考慮すると,そのような事態は,思想及び良心の自由を保障している憲法19条及び結社の自由を保障している憲法21条の趣旨にもとる結果になるとされた事例。
 3a.ヤマギシ会への参画契約のうち,参画者がヤマギシ会を脱退する場合にいかなる事情があっても参画者の出資した財産を「一切」返還しないとする部分(不返還約定)は,「一切」返還しないとする点において公序良俗に反するとされた事例。
参照条文: /民法:90条/民法:703条/憲.19条/憲.21条/
全 文 h140227tokyoH.html

最高裁判所 平成 14年 2月 22日 第2小法廷 判決 ( 平成13年(行ヒ)第142号 )
事件名:  審決取消請求上告事件
要 旨
 1.商標権の共有者の1人は,共有に係る商標登録の無効審決がされたときは,単独で無効審決の取消訴訟を提起することができる。(固有必要的共同訴訟に当たらない)
 1a.共有に係る商標登録の無効審決に対して各共有者が共同して又は各別に取消訴訟を提起した場合には,これらの訴訟は,類似必要的共同訴訟に当たる。(理由付けの一部/傍論) /知的財産権/無体財産権/工業所有権/商標権/当事者適格/訴訟要件/
参照条文: /行訴.32条1項/商標.56条1項/特許.132条3項/商標.63条2項/特許.181条2項/商標.46-2条/民訴.40条/
全 文 h140222supreme51.html

最高裁判所 平成 14年 2月 22日 第2小法廷 判決 ( 平成12年(行ツ)第250号、平成12年(行ヒ)第249号 )
事件名:  児童扶養手当受給資格喪失処分取消請求上告事件
要 旨
 婚姻外懐胎児童の母が児童扶養手当の支給を受けていたところ、その児童が父から認知されたため,平成10年改正前の児童扶養手当法施行令の規定により児童扶養手当受給資格喪失処分がなされた場合に、認知があったことのみをもって資格喪失事由と定めた施行令の規定は児童扶養手当法の趣旨に反する違法なものであり、同規定に基づいてなされた処分も違法であるとされた事例。
 1.児童扶養手当法4条1項各号は,類型的にみて世帯の生計維持者としての父による現実の扶養を期待することができないと考えられる児童,すなわち,児童の母と婚姻関係にあるような父が存在しない状態,あるいは児童の扶養の観点からこれと同視することができる状態にある児童を支給対象児童として定めているものと解される。
 2.父から認知された婚姻外懐胎児童を児童扶養手当の支給対象となる児童の範囲から除外した児童扶養手当法施行令1条の2第3号括弧書(平成10年政令第224号による改正前のもの)は,法の委任の範囲を逸脱した違法な規定として,無効と解すべきものである。 /法の下の平等/
参照条文: /憲.14条/児童扶養手当.4条/児童扶養手当施行令.1-2条/
全 文 h140222supreme3.html

最高裁判所 平成 14年 2月 22日 第2小法廷 判決 ( 平成11年(受)第1455号 )
事件名:  建物明渡請求上告事件
要 旨
 日蓮正宗の法主の地位に就くために必要な血脈相承を受けたか否かが前提問題となる建物明渡請求の訴えが,法律上の争訟に該当しないとして,却下された事例。
 1.請求の当否を決定するために判断することが必要な前提問題が,宗教上の教義,信仰の内容に深くかかわっており,その内容に立ち入ることなくしてはその問題の結論を下すことができないときは,その訴訟は,実質において法令の適用による終局的解決に適しないものとして,裁判所法3条にいう「法律上の争訟」に当たらないというべきである。
 1a.日蓮正宗の前の管長により任命された被包括宗教法人大経寺代表役員(上告人)が,日蓮正宗との被包括関係を廃止するために,日蓮正宗の代表役員の承認を得ることなく責任役員を解任し,廃止のための決議を行ったところ,日蓮正宗の管長の職に就いてから14年余が経つ阿部日顕が上告人を罷免し,新たに選任された大経寺代表役員の下で大経寺が上告人に対して建物の明渡しを訴求した場合に,罷免行為の有効性を判断する前提として,阿部日顕が日蓮正宗の管長の要件である法主の地位に就くための血脈相承を受けたか否かを判断することが必要であると判断され,そのような宗教上の教義にかかわる問題を含む紛争は法律上の争訟に該当しないとして,訴えが却下された事例(反対意見あり)。 /請求適格/訴訟要件/訴訟上の信義則/宗教団体の内部紛争/
参照条文: /憲.20条/憲.32条/民訴.140条/裁判.3条/民訴.2条/
全 文 h140222supreme.html

神戸地方裁判所 平成 14年 2月 22日 第6民事部 判決 ( 平成13年(ワ)第1973号 )
事件名:  帳簿閲覧請求事件
要 旨
 不当に長期にわたって株券が発行されていない株式をXがAに譲渡してその旨を会社Yに通知し,その後XがAから株式を受け戻したが,Aからその旨の通知がなされていない場合に,XがYに対して株主として商法293条の6に基づき帳簿等の閲覧を請求して認容された事例。
 1.会社が株券の発行を不当に遅滞し,信義則に照らしても株式譲渡の効力を否定すべきではないと認められる場合には,会社は,株券発行前の株式譲渡の効力を否定できず,譲受人を株主として取り扱わなければならない。
 2.会社が株券の発行を不当に遅滞し,信義則上株券不発行を理由に,会社に株式譲渡の効力を対抗できる場合には,指名債権譲渡の方法による対抗要件の取得は不要と解すべきである。
参照条文: /商.293-6条/商.204条2項/
全 文 h140222kobeD.html

宮崎地方裁判所 平成 14年 2月 15日 民事第1部 判決 ( 平成12年(ワ)第235号 )
事件名:  損害賠償請求事件
要 旨
 高利金融業者の従業員が,融資先の債務者が弁済を継続しているにもかかわらず連帯保証人の一人が自己破産の申立てをしたため,他の連帯保証人(A1)の自宅に午後8時過ぎに押し掛けて一括弁済するか別の連帯保証人を立てることを不当に要求し,要求が満たされるまで帰らないと執拗に言い続けたため,A1の内縁の夫が警察に通報したところ,警察官が9時前頃に到着にしたが、警察官が不退去の制止あるいは不退去の従業員の逮捕をせず,かえって「警察は暴力や脅迫に至ることがなければ業者を強制的に帰らせることはできない。」などと述べたため,A1がやむなく外出中の長女(A2)に電話して保証人になることを依頼し,電話を替わった従業員から脅迫めいたことを言われて,A2がやむなく保証人になることを承諾したため,従業員が9時半頃になってやっと退去した場合に,従業員による取立行為が不退去罪を構成するとともに貸金業規制法に違反する犯罪行為であると認定され,違法取立行為を理由とする高利金融業者に対する損害賠償が認容され,長女と高利金融業者との間の保証契約が公序良俗違反を理由に無効とされた事例。
 上記の場合に,警察官が違法取立行為をしている従業員を逮捕しなかったこと,あるいは退去を口頭では促したが実力で退去させなかったことが違法行為を構成しないとされた事例。 /自力救済の禁止/民事不介入の原則/
参照条文: /民法:90条/刑.130条/貸金.21条1項1号/警職.5条/
全 文 h140215miyazakiD.html

最高裁判所 平成 14年 2月 13日 大法廷 判決 ( 平成12年(オ)第1965号,平成12年(受)1703号 )
事件名:  短期売買利益返還請求上告事件
要 旨
 上場会社が,証券取引法164条1項に基づき,自己の主要株主に対し,自己の発行した株式の短期売買取引による利益の提供を請求し,認容された事例。
 
 1.証券取引法164条8項は,取引の態様等を勘案して秘密の不当利用の余地がないものと観念される取引の類型を定めることを内閣府令に委任したものであるが,同条1項の規定を適用する必要のない取引は内閣府令で定められた場合に尽きるものではなく,類型的にみて取引の態様自体から上記秘密を不当に利用することが認められない場合には,同項の規定は適用されないと解するのが相当である。(合憲性を高めるための解釈論)
 2.財産権に対する規制が憲法29条2項にいう公共の福祉に適合するものとして是認されるべきものであるかどうかは,規制の目的,必要性,内容,その規制によって制限される財産権の種類,性質及び制限の程度等を比較考量して判断すべきものである。(一般論)
 2a.証券取引法164条1項は証券取引市場の公平性,公正性を維持するとともにこれに対する一般投資家の信頼を確保するという目的による規制を定めるものであるところ,その規制目的は正当であり,規制手段が必要性又は合理性に欠けることが明らかであるとはいえないのであるから,同項は,公共の福祉に適合する制限を定めたものであって,憲法29条に違反するものではない。(判旨)
参照条文: /憲法:29条/証券取引法:164条/
全 文 h140213supreme.html

最高裁判所 平成 14年 2月 12日 第3小法廷 決定 ( 平成13年(行フ)第1号 )
事件名:  参加許可決定に対する抗告却下決定に対する許可抗告事件
要 旨
 行政事件訴訟法22条の規定する第三者の訴訟参加については,第三者を参加させる決定に対する訴訟当事者の即時抗告は予定されておらず,許されない。
参照条文: /行訴.22条/民訴.328条/
全 文 h140212supreme.html

神戸地方裁判所 平成 14年 2月 7日 第5民事部 判決 ( 平成13年(ワ)第2453号 )
事件名:  請求異議事件
要 旨
 建物所有者と称する者(Y)が複数の建物賃借人に対して賃料相当額の損害金の支払いを請求し、控訴しなかった者(X)との関係で請求認容判決が確定したが、控訴審において当事者参加したBが第一審の口頭弁論終結前に建物を代物弁済により取得していたことを主張し、Yがこの事実を自白し、第1審判決を取り消してYの請求を棄却する控訴審判決が確定した場合に、YがXに対する請求認容判決に基づいて強制執行することは信義則上許されないとして、XのYに対する請求異議が認容された事例。
 1.信義誠実の原則は訴訟法の分野をも支配するものであって,再審事由にあたる事情があり,しかも標準時以後の事情変更により請求権の行使が権利濫用になる場合には, 請求異議を求める余地がある。 /既判力/
参照条文: /参照条文/民訴.2条/民執.35条/民訴.338条1項8号/民訴.114条/
全 文 h140207kobeD.html

最高裁判所 平成 14年 2月 5日 第3小法廷 決定 ( 平成13年(許)第10号 )
事件名:  競売申立て一部却下決定に対する執行抗告棄却決定に対する許可抗告事件
要 旨
 船舶の共有者の一人が他の共有者(運輸施設整備事業団)からその共有持分を賃借して船舶を航海の用に供しつつ,船舶安全法の定める検査および修繕を業者に請け負わせた場合に,請負代金債権を被担保債権とする先取特権(動産保存の先取特権)の効力は商法704条の適用により賃貸人の共有持分にも及ぶとされた事例(先取特権者の船舶競売申立てを賃貸人の持分部分について却下した原々決定が取り消された事例)。
 1.商法704条2項本文は,同条1項の賃借人による船舶の利用に関する事項により生じた債務を担保する先取特権について,賃借人が船舶を所有している場合と同様の効力を認めることによって債権者を保護しようとするものであるから,この先取特権には民法上の先取特権も含まれると解するのが相当である。
 2.船舶の修繕費用請求権が商法842条6号所定の債権に当たらないとされた事例。
参照条文: /商.704条2項/商.842条6号/民法:311条5号/民法:321条/
全 文 h140205supreme.html

最高裁判所 平成 14年 1月 31日 第1小法廷 判決 ( 平成8年(行ツ)第42号 )
事件名:  児童扶養手当資格喪失処分取消請求・上告事件
要 旨
 1.児童扶養手当法施行令(平成10年政令第224号改正前のもの)1条の2第3号が婚姻外懐胎児童を児童扶養手当の支給対象となる児童の範囲に含めつつも、括弧書により、父から認知された児童を至急対象から除外したことは,法の委任の趣旨に反し,括弧書は法の委任の範囲を逸脱した違法な規定として無効と解すべきである。
 1a.認知された児童を児童扶養手当の支給対象から除外するという判断が違憲,違法なものと評価される場合に,同号の規定全体を不可分一体のものとして無効とすることなく,その除外部分のみを無効とすることとしても,いまだ何らの立法的判断がされていない部分につき裁判所が新たに立法を行うことと同視されるものとはいえない。
 1b.児童扶養手当法が4条1項各号で規定する類型の児童は,世帯の生計維持者としての父による現実の扶養を期待することができないと考えられる児童,すなわち,児童の母と婚姻関係にあるような父が存在しない状態,あるいは児童の扶養の観点からこれと同視することができる状態にある児童を支給対象児童として類型化しているものと解することができる。
参照条文: /児童扶養手当法:4条/児童扶養手当法施行令(平成10年政令第224号改正前のもの):1-2条/
全 文 h140131supreme.html

大阪高等裁判所 平成 14年 1月 31日 第13民事部 判決 ( 平成13年(ネ)第2883号 )
事件名:  取立債権請求控訴事件
要 旨
 保険代理店の債権者が代理店の保険会社に対する手数料債権を差し押さえて,その取立訴訟を提起したが,代理店の手数料債権は,保険会社の保険料債権と交互計算あるいは段階的交互計算に組み入れられているとして,請求が棄却された事例。
 1.保険会社とその代理店との間において,保険料債権及び手数料債権の決済につき,自賠責保険代理店委託契約においては段階的交互計算の合意が,損害保険代理店委託契約においては交互計算期間を1か月とする交互計算の合意がなされたと認定された事例。
 1a.契約の法的性質は裁判所が当事者の主張に拘束されずに決定しうるとして,当事者の一方が段階的交互計算であると主張し,他方もそれを前提にした主張をしたのに対し,裁判所が交互計算であると認定した事例。
 2.段階的交互計算においては,債権の発生の都度差引精算がなされ,清算後の残額債権が差押えの対象となりうるが,保険会社の代理店に対する保険料債権と代理店の保険会社に対する手数料債権とが段階的交互計算に組み入れられている場合には,手数料債権の方が常に小さく,残額債権は常に保険料債権であるので,差押えの対象となるべき手数料債権が存在することはないとされた事例。
 3.交互計算不可分の原則は,第三者にも主張することができ,交互計算に組み入れられた債権を個別に差し押さえることはできない。
参照条文: /商.529条/民執.145条/
全 文 h140131osakaH.html

最高裁判所 平成 14年 1月 29日 第3小法廷 判決 ( 平成7年(オ)第1421号 )
事件名:  損害賠償請求上告事件
要 旨
 いわゆるロス疑惑事件に関連して,スポーツ新聞社が共同通信社の「A,大麻草を自宅に隠す。元の妻が目撃証言」との標題を付した配信記事を自己の新聞紙に掲載した場合に,いわゆる配信サービスの抗弁が否定された事例。
 1.民事上の不法行為たる名誉毀損については,その行為が公共の利害に関する事実に係り,その目的が専ら公益を図るものである場合には,摘示された事実がその重要な部分において真実であることの証明があれば,同行為には違法性がなく,また,真実であることの証明がなくても,行為者がそれを真実と信ずるについて相当の理由があるときは,同行為には故意又は過失がなく,不法行為は成立しない。
 2.今日までの我が国の現状に照らすと,社会の関心と興味をひく私人の犯罪行為やスキャンダルないしこれに関連する事実を内容とする分野における報道については,取材のための人的物的体制が整備され,一般的にはその報道内容に一定の信頼性を有しているとされる通信社からの配信記事であっても,配信記事に摘示された事実の真実性について高い信頼性が確立しているということはできず,そのような通信社から配信された記事であるとの一事をもってしては,記事を自己の新聞紙に掲載した新聞社に同事実を真実と信ずるについて相当の理由があるとは認められないというべきである。 /クレジット/配信記事であることの表示/表現の自由/報道の自由/補助参加の事例/
参照条文: /憲.21条/民法:709条/民法:710条/
全 文 h140129supreme.html

最高裁判所 平成 14年 1月 29日 第3小法廷 判決 ( 平成8年(オ)第2607号 )
事件名:  損害賠償請求上告事件
要 旨
 拘置所に拘置されていた原告が,自己の名誉を害する記事(共同通信社の配信記事)を掲載した他の新聞社に対する損害賠償請求訴訟を通じて被告(下野新聞社)もその記事を掲載した可能性が高いことを知ったにすぎず,被告により記事が掲載され,自己の名誉が毀損され,損害が発生したことを現実に認識していたのではない場合には,その可能性が高いことを知った日をもって被告に対する損害賠償請求の消滅時効の起算点とすることはできないとされた事例。
 1.民法724条にいう被害者が損害を知った時とは,被害者が損害の発生を現実に認識した時をいう。
 1a.民法724条の短期消滅時効の趣旨は,被害者が不法行為による損害の発生及び加害者を現実に認識しながら3年間も放置していた場合に加害者の法的地位の安定を図ろうとしているものにすぎず,それ以上に加害者を保護しようという趣旨ではない。
参照条文: /民法:724条/民法:709条/民法:166条/
全 文 h140129supreme5.html

最高裁判所 平成 14年 1月 29日 第3小法廷 判決 ( 平成9年(オ)第1371号 )
事件名:  損害賠償請求上告事件
要 旨
 被告通信社が配信し,その社員(加盟社)の発行する新聞紙に掲載された記事により名誉を害された原告が不法行為に基づく損害賠償を請求したところ,控訴審が,配信記事の中心的内容である事実について,真実性の証明があったとはいえないが,配信記事に摘示された事実を真実と信ずるについて相当の理由があったとして請求を棄却したのに対し,上告審が,真実と信ずるについて相当の理由があったとはいえないとして,原判決を破棄して差し戻した事例。 /報道機関による名誉毀損/裏付け調査の義務/
参照条文: /憲.21条/民法:709条/民法:710条/
全 文 h140129supreme2.html

最高裁判所 平成 14年 1月 29日 第3小法廷 判決 ( 平成10年(オ)第780号 )
事件名:  損害賠償請求上告事件
要 旨
 「スポーツニッポン」紙を発行する東京本社の記事よりも西武本社(別会社)の記事の方が被害者の名誉を害する度合いが高く,また,東京本社のが発行紙に掲載された記事であっても,西部本社の発行紙に掲載されないことがある場合に,被害者が東京本社の新聞記事を知ったこと,九州地方において同紙を発行するのは東京本社とは異なる西部本社であることを知ったことのみから,西部本社の記事掲載を知り,名誉毀損による損害の発生を現実に認識したと認定することはできないとされた事例。
 1.民法724条にいう被害者が損害を知った時とは,被害者が損害の発生を現実に認識した時をいう。(前提の議論)
 2・事実の認定に経験則違反があるとされた事例。(破棄理由) /自由心証主義/消滅時効の起算点/
参照条文: /民法:724条/民訴.247条/
全 文 h140129supreme3.html

最高裁判所 平成 14年 1月 29日 第3小法廷 判決 ( 平成8年(オ)第576号 )
事件名:  損害賠償請求上告事件
要 旨
 1.民事上の不法行為たる名誉毀損については,その行為が公共の利害に関する事実に係り,その目的が専ら公益を図るものである場合には,摘示された事実がその重要な部分において真実であることの証明があれば,上記行為は違法性がなく,また,真実であることの証明がなくても,行為者がそれを真実と信ずるについて相当の理由があるときは,上記行為には故意又は過失がなく,不法行為は成立しない。(先例の確認。前提の議論)
 2.裁判所は,名誉毀損記事において摘示された事実の重要な部分が真実であるかどうかについては,事実審の口頭弁論終結時において,客観的な判断をすべきであり,その際に名誉毀損行為の時点では存在しなかった証拠を考慮することも当然に許される。(破棄理由)
 2a.摘示された事実を真実と信ずるについて相当の理由が行為者に認められるかどうかについて判断する際には,名誉毀損行為当時における行為者の認識内容が問題になるため,行為時に存在した資料に基づいて検討することが必要である。(傍論) /自由心証主義/
参照条文: /民法:709条/民訴.247条/
全 文 h140129supreme4.html

神戸地方裁判所 平成 14年 1月 29日 第6民事部 判決 ( 平成11年(ワ)第1800号 )
事件名:  停職処分無効確認等請求事件
要 旨
 新入生の合宿オリエンテーションにおいて学生リーダーの一人である女子学生に対してセクハラ行為をした私立大学助教授に対する停職1年の懲戒処分が有効であると判断された事例。
 1.使用者の懲戒権の行使は,当該具体的事情の下において,それが客観的に合理的理由を欠き社会通念上相当として是認することができない場合に初めて権利の濫用として無効になると解するのが相当である。(先例の確認) /性的嫌がらせ行為/セクシャルハラスメント/アカデミックハラスメント/アカハラ/
参照条文: 
全 文 h140129kobeD.html

大阪地方裁判所 平成 14年 1月 29日 第21民事部 判決 ( 平成11年(ワ)第13512号 )
事件名:  製造販売差止等請求請求事件
要 旨
 プラスチックフィルム層の送り時間とヒートシール時間の間に待ち時間を入れ、これによって装置のサイクル時間を変化させることができること等を特徴とするヒートシール装置の発明等について、その特許権の侵害の成立が認定され、差止請求、補償金請求、損害賠償請求が一部認容された事例。
 1.技術的に無意味な微動送り時間は「待ち時間」に相当するとの主張が認められなかった事例。
 2.特許の明白な無効理由(進歩性の欠如)の主張が認められなかった事例
 
 先行発明における「冷却追加時間」がシールもせず送りもしない時間であり、その挿入によりサイクル時間が延長されることがある点で、本件発明における「待ち時間」と共通するところが皆無ではないものの、その目的効果を全く異にするものであるから、当業者が先行発明に基づいて本件発明を容易に発明をすることができたとはいえないとされた事例。
 2a.発明の未完成の抗弁が認められなかった事例。
 3.特許法65条1項の補償金請求権の法的性質は、不法行為に基づく損害賠償請求権ではなく、特許法の規定により創設された特別の権利であると解すべきであるから、補償金請求の遅延損害金の起算日は、請求のあったことが明らかな訴状送達日の翌日とするのが相当であるとされた事例。
 4.被告が消滅時効の抗弁の提出を予告して弁論の再開を上申したが、当該防御方法の提出が時機に後れたことについて合理的な説明がなく、かつ、その提出を許すと訴訟の完結を遅延させることが明らかであるとして、弁論の再開が認められなかった事例。 /知的財産権/無体財産権/工業所有権/特許権/実施料率算定例/発明の仮保護の権利/
参照条文: /特許.100条/特許.65条1項/特許.102条3項/民法:709条/特許.29条2項/民訴.153条/民訴.156条/民訴.157条/
全 文 h140129osakaD.html

東京地方裁判所 平成 14年 1月 29日 民事第3部 判決 ( 平成12年(行ウ)第233号 )
事件名:  輸入禁制品該当通知取消等請求事件
要 旨
 米国のランダムハウス社が出版した写真家ロバート・メイプルソープの写真集を1994年に日本国内で発行した有限会社アップリンクの取締役が、1999年9月に商用のため日本からアメリカ合衆国に出国した際、自社出版物の見本として携行して帰国したところ、東京税関成田税関支署長から、写真集が風俗を害すべき物品と認められ、関税定率法21条1項4号の輸入禁制品に該当する旨の通知処分を受けたため、その取消し並びに写真集の占有の侵害による精神的損害の賠償を求める訴えを提起した場合に、取消請求並びに賠償請求の一部が認容された事例。
 1.一般に、ある行為を法令により規制するか否か、また規制するとしてどのような規制を行うかについては、広汎な立法裁量にゆだねられていると解すべきであり、法技術上の問題その他の諸事情により、ある行為についての法令の整備が遅れ、同様に規制されるべき行為の一方は既に規制されているにもかかわらず、その後に生じた他方の行為に関する規制が遅れたとしても、その状態が直ちに憲法14条1項に違反するとはいえない。
 1a.有体物であるわいせつな表現物が税関検査の対象とされ、関税定率法21条1項4号に該当する場合には、その輸入が禁止されるのに対し、無体物、すなわち電子情報としてわいせつな情報がインターネットを通じて我が国に流入する場合には何の規制もかからないという現状は、憲法14条1項に違反するとはいえない。
 2.わいせつ性が問題となると思われる書籍等の表現物であっても、それが既に我が国において出版等がされ、流通に置かれていたものがいったん外国に持ち出され、その後我が国に持ち込まれる場合には、従前の当該表現物の流通により、我が国における健全な性風俗が害されたと認められるときにのみ、当該表現物の輸入を許さないことができる。
 2a,写真集の原書が世界有数の出版社から刊行されたものであり、平成6年11月1日に出版されてから輸入禁制品に該当する旨の通知処分がされた平成11年10月までの間の約5年間にわたって、900冊以上販売され、その間、全国紙や写真専門誌において芸術的観点からの紹介や批評がされ、その宣伝及び流通の形態は一般の健全な芸術的書籍と同様の形態で公然と行われ、国立国会図書館のような公的機関においても一般の閲覧に供されていたにもかかわらず、写真集の販売行為に関して刑法175条のわいせつ物頒布罪等に処せられたことはなく、税関長からの通知処分後も原告が警察から警告を受けたものの、過去の販売行為については何らの刑事手続も執られていないことが認められる場合に、その写真集を携行して出国した者が再び携行して入国することにより、日本の健全な性風俗が害されるとは認め難いとされた事例。 /表現の自由/
参照条文: /憲.21条/憲.14条/関税定率.21条/関税109条/
全 文 h140129tokyoD2.html

東京地方裁判所 平成 14年 1月 29日 民事第47部 判決 ( 平成12年(ワ)第23425号 )
事件名:  商標権侵害差止等請求事件
要 旨
 被告標章「United sports」は、「United」を要部とするものであり、原告商標のアルファベット標記「UNITED」と類似しているとして、被告標章を付した衣類の輸入・販売の差止めならびに商標権侵害による損害の一部請求(2億円)が認容された事例。
 商標権侵害を理由とする損害賠償請求につき、被告標章が付された衣料の仕入単価,仕入量,販売単価,販売数量の記載のある売上元帳,仕入元帳等の帳簿の文書提出命令が発せられた場合に、被告が「コンピュータを用いて仕入,売上管理をしているから,売上元帳や仕入元帳を所持しておらず,また,コンピュータのデータについても,平成12年以降のものしか保有していない」と主張したが、正当な主張と認められず、民訴224条3項により,原告が立証しようとした事実(被告が,被告標章の付された衣料を,1枚450円以上で,平成2年11月11日から平成12年11月10日までの10年間に,1年に200万枚販売し,販売価格から仕入価格を引いた粗利益率が3割以上であったという事実)が真実と認められた事例。 /知的財産権/無体財産権/工業所有権/商標権/書証/
参照条文: /民訴.224条3項/商標.37条/商標.38条2項/商標.39条/特許.105条1項/
全 文 h140129tokyoD.html

名古屋地方裁判所 平成 14年 1月 29日 民事第1部 判決 ( 平成12年(ワ)第929号 )
事件名:  損害賠償等請求事件
要 旨
 セクシャルハラスメントを受けたことを理由とする損害賠償請求訴訟において、最初の性的行為は原告の側から積極的意思に基づいて仕掛けたものであったと認定され、その後の臀部接触についても原告が黙示的に承諾・宥恕していたと認定され、損害賠償請求が棄却された事例。
 1.原告の主張の信憑性について詳細な説示がなされた事例。
 1a.セクシャルハラスメントを理由とする損害賠償請求訴訟において、法廷での原告本人の供述がセクシャルハラスメントの微妙な部分に触れた際などにも、その供述態度に格別の感情の乱れや起伏等が生じた形跡を窺うことができないことが事実認定の一資料とされた事例。
 1b.性的接触がセクシャルハラスメントに当たるか否かが争われている訴訟において、性的接触のあった時期から間もない時期に女性が男性に電話をかけたか否かが問題となり、最初の調査嘱託が不奏功に終ったときには、女性側がデータ不提出は残念であるなどと主張しながら、裁判所が調査の嘱託の同意書の提出を求めると、その提出を拒むことは、電話の存在を強く推認させる事情である。(一種の証明妨害)
 1c.一定範囲の裁判官・検察官等にとって公知の事実とされた事例:
 
 (a)相手方の弱みである勤務先やその妻を巻き込もうとしていること、(b)執拗に謝罪文を書かせようとするなど、まず相手方が非を認めた外形を作出して、その後これを利用して自己の要求を飲ませようとしていること、(c)会社はどうしてくれるんだなどと言って、自分から極力金銭的要求を切り出さず、相手方から金銭提示が出た形をとらせようとしていること、(d)「舎弟に送らせる。」などと暴力団関係を暗示するような言辞や、「サラリーローンから金を借りろ。」「Jみたいに裁判になると、200万円や300万円ではすまんぞ。」等の脅迫的言動を弄することが、暴力団関係者等の恐喝の場合などの典型的な手口であることは、同種事件に一定の経験を積んだ裁判官・検察官等にとって公知の事実というべきである。 /自由心証主義/事実認定/弁論の全趣旨/セクハラ/証拠力の自由評価/
参照条文: /民訴.186条/民訴.179条/民訴.247条/
全 文 h140129nagoyaD.html

東京地方裁判所 平成 14年 1月 28日 民事第29部 判決 ( 平成12年(ワ)第21863号 )
事件名:  特許を受ける権利の確認請求事件
要 旨
 「マイクロ波インダクタコイル」の発明者である原告が、当該発明について、被告会社(株式会社日本システムデザイン)の下での職務発明には当たらず、特許を受ける権利を被告会社に承継させたことはないと主張して、原告が特許を受ける権利を有することの確認を請求したが、認められなかった事例。 /知的財産権/無体財産権/工業所有権/特許権/
参照条文: /特許.33条/特許.35条3項/特許.35条4項/
全 文 h140128tokyoD.html

大阪高等裁判所 平成 14年 1月 25日 第12民事部 判決 ( 平成13年(ネ)第2083号 )
事件名:  取立債権請求控訴事件
要 旨
 敷金が授受された賃貸借契約に係る賃料債権を先順位の抵当権者が物上代位権を行使して差し押さえたため、賃借人が賃料の支払いを拒絶しつつ、賃貸借契をさせて建物を明渡した後で、未払賃料と敷金との差し引き計算を主張して物上代位権者からの支払請求を争ったが、物上代位の基礎となる抵当権の設定登記に後れる債権に基づく相殺の主張は許されないとして、請求が認容された事例。
 1.敷金と賃料との差引処理も一種の相殺合意であり、その差引処理への期待も担保的機能に対する期待といえるので,「抵当権者が物上代位権を行使した後は,抵当不動産の賃借人は,抵当権設定登記の後に賃貸人に取得した債権を自働債権とする賃料債権との相殺をもって,抵当権に対抗することはできない」を判示する最高裁判決は、この差引処理にもそのまま当てはまる。
参照条文: /民法:304条/民法:372条/民執.145条/民執.193条/
全 文 h140125osakaH.html

神戸地方裁判所 平成 14年 1月 23日 第4民事部 判決 ( 平成13年(ワ)第62号 )
事件名:  一般優先債権等請求事件
要 旨
 商品の輸入者のために通関業務を代行する運送業者(原告)が関税及び仮払消費税を立替払いした場合に,民事再生手続開始決定を受けた輸入者(被告)に対して,民法501条により行使が認められる原債権(国税債権)について,「国税としての固有の権利を除いて,これに反しない権利は代位行使が認められるべきである」から「求償権についても優先債権性が認められるべきである」(一般優先債権にあたる)と主張して,その随時弁済を訴求したが,認められなかった事例。
 1.租税債権に優先債権性が認められている(国税徴収法8条)趣旨は,租税が国又は地方公共団体の存立及び活動の財政的裏付けとなるものであり,公平かつ確実に徴収されなければならないからであると解されることからすると,租税債権に優先債権としての性質が認められるのは,あくまで,国と納税義務者の間の税金の徴収という特殊な関係においてのみ認められるものというべきであり,したがって,租税を第三者が支払ったからといって,弁済による代位の結果,優先債権としての租税債権が弁済者に移転するという法的効果を認めることはできない。
 2.商品の輸入者(被告)のために通関業務を代行する運送業者(原告)が立替払いした消費税について,被告の決算時に被告が支払うべき預かり消費税から立替払分が控除されて被告が支払義務を免れるという関係があっても,原告は被告に対して求償権を取得しているから,被告について民事再生手続が開始された場合でも,弁済禁止の効力の発生により被告が利得したと認めることはできないとされた事例。 /第三者弁済/代位弁済/弁済者代位/黙示の支払委託契約/
参照条文: /民法:500条;501条;703条/民事再生法:85条1項;119条6号;122条/国税徴収法:8条/
全 文 h140123kobeD.html

最高裁判所 平成 14年 1月 22日 第3小法廷 判決 ( 平成9年(行ツ)第7号 )
事件名:  建築基準法に基づく許可処分取消,建築確認処分取消請求上告事件
要 旨
 総合設計許可に係る建築物の周辺地域に存する建築物に居住し又はこれを所有する者について、前記許可処分の取消訴訟の原告適格が認められた事例。
 1.行政事件訴訟法9条にいう処分の取消しを求めるにつき「法律上の利益を有する者」とは,当該処分により自己の権利若しくは法律上保護された利益を侵害され,又は必然的に侵害されるおそれのある者をいうのであり,当該処分を定めた行政法規が,不特定多数者の具体的利益を専ら一般的公益の中に吸収解消させるにとどめず,それが帰属する個々人の個別的利益としてもこれを保護すべきものとする趣旨を含むと解される場合には,このような利益もここにいう法律上保護された利益に当たり,当該処分によりこれを侵害され又は必然的に侵害されるおそれのある者は,当該処分の取消訴訟における原告適格を有するものというべきである。
 1a.行政法規が,不特定多数者の具体的利益をそれが帰属する個々人の個別的利益としても保護すべきものとする趣旨を含むか否かは,当該行政法規の趣旨・目的,当該行政法規が当該処分を通して保護しようとしている利益の内容・性質等を考慮して判断すべきである。
 2.建築基準法59条の2第1項は,建築物の建築が市街地の環境の整備改善に資するようにするとともに,建築物の倒壊,炎上等による被害が直接的に及ぶことが想定される周辺の一定範囲の地域に存する他の建築物についてその居住者の生命,身体の安全等及び財産としてのその建築物を,個々人の個別的利益としても保護すべきものとする趣旨を含むものと解すべきである。
 2a.総合設計許可に係る建築物の倒壊,炎上等により直接的な被害を受けることが予想される範囲の地域に存する建築物に居住し又はこれを所有する者は,総合設計許可の取消しを求めるにつき法律上の利益を有する者として,その取消訴訟における原告適格を有する。
 3.東京都市計画高度地区による第3種高度斜線制限は,その趣旨・目的等に照らし,敷地の北側境界線からの距離に応じた斜線方式による建築物の各部分の高さを制限し,周辺の日照,通風,採光等を良好に保つなど快適な居住環境を確保することができるようにするとともに,当該建築物が地震,火災等により倒壊,炎上するなどの事態が生じた場合に,その周辺の建築物や居住者に被害が及ぶことを防止することを目的とするものと解するのが相当である。
 3a.第3種高度斜線制限の適用除外の許可に係る建築物の倒壊,炎上等により直接的な被害を受けることが予想される範囲の地域に存する建築物に居住し又はこれを所有する者は,その生命,身体の安全等又は財産としての建築物を個別的利益としても保護されているものと解されるのであり,上記許可の取消しを求める原告適格を有する。
 4.建築確認は,それを受けなければ建築基準法6条1項の建築物の建築等の工事をすることができないという法的効果を付与されているにすぎないから,当該工事が完了した場合においては,建築確認の取消しを求める訴えの利益は失われる。
 5.訴えを却下すべきものとした控訴審判決に対して原告のみが上告した場合に,上告審が、訴えを適法としたうえで請求を棄却すべきと判断したが,不利益変更禁止原則により上告棄却にとどめた事例。
 6.請求を棄却すべきものとした控訴審判決に対して原告が上告した場合に,上告審が訴えの利益の欠如を理由に原判決を破棄して訴えを却下した事例。 /千代田生命/当事者適格/訴えの利益/訴えの主観的利益/訴えの客観的利益/
参照条文: /建築基準.59-2条/建築基準.52条/建築基準.55条/建築基準.56条1項/建築基準施.136条/都市計画.8条1項3号/行訴.9条/民訴.313条/民訴.304条/
全 文 h140122supreme.html

最高裁判所 平成 14年 1月 22日 第3小法廷 判決 ( 平成10年(オ)第282号 )
事件名:  損害賠償請求、共同訴訟参加上告事件
要 旨
 株主代表訴訟において、原告株主が第1審において被告の主張事実を自白したため敗訴した場合に、控訴審において、他の株主が自白された事実を争うために共同訴訟参加することが許された事例。
 1.株主代表訴訟において、控訴審における他の株主の共同訴訟参加申出が原告株主の不適切な訴訟追行(重要事実の自白)を是正するためのものであると評価され、その申出が原審の第1回口頭弁論期日の後にされたとしても遅きに失したとまでいうことはできず、また参加の申出を許した場合に原告株主のした自白が効力を生じないことになるとしても記録に現れた弁論の経過からすれば相当期間にわたる審理が必要となるとも解されないので、商法268条2項但書(現・会社法849条1項ただし書き前段)にいう「不当ニ訴訟ヲ遅延」させるときに当たるとはいえないとされた事例。 /自白の撤回/
参照条文: /民訴.52条/会社.849条1項/会社.847条/
全 文 h140122supreme2.html

最高裁判所 平成 14年 1月 22日 第3小法廷 判決 ( 平成10年(オ)第512号 )
事件名:  商品代金請求上告事件
要 旨
 商品の売主が建築工事の請負人に対して代金支払請求の訴えを提起したところ,買主は施主であるとの主張がなされたため,売主が施主に訴訟告知をしたが,施主が補助参加することなく,買主は請負人ではなく施主であるとの理由で請負人に対する代金支払請求が棄却された後で,売主が施主に代金支払請求をした場合に,前訴判決中の買主は施主であるとの判断に参加的効力は生じないとされた事例。
 1.旧民訴法70条(現46条)所定の効力は,判決の主文に包含された訴訟物たる権利関係の存否についての判断だけではなく,その前提として判決の理由中でされた事実の認定や先決的権利関係の存否についての判断などにも及ぶ。(判旨の前提となる判断)
 2.参加的効力の及ぶ理由中の判断とは,判決の主文を導き出すために必要な主要事実に係る認定及び法律判断などをいうものであって,これに当たらない事実又は論点について示された認定や法律判断を含むものではない。(判旨)
参照条文: /(大正15年)民事訴訟法:64条;70条;78条/
全 文 h140122supreme5.html

最高裁判所 平成 14年 1月 22日 第3小法廷 判決 ( 平成12年(あ)第1606号 )
事件名:  破産法違反被告事件(上告事件)
要 旨
 破産会社の債権者が,税務会計事務所において,情を知らない事務所の従業員をして,事務所内に設置されているパーソナルコンピュータで処理するフロッピーディスクに記録されたBの総勘定元帳ファイルに,破産会社が架空の債務を負担し,実際の金額より減額した賃料債権を有する旨虚偽の情報を入力させ,総勘定元帳ファイルに不正の記載をするとともに,内容虚偽の協定書,賃貸借契約書,清算貸借対照表を作成し,その清算貸借対照表を破産申立書と共に千葉地方裁判所に提出して,破産財団に属すべき金銭債権,固定資産を隠匿した行為について,破産法374条1号および3号の罪の成立が肯定された事例。(詐欺破産罪)
 1.破産法374条3号にいう「商業帳簿」には,可視性,可読性が確保されている電磁的記録が含まれる。
 1a.昭和62年法律第52号による刑法の一部改正の趣旨に徴して,電磁的記録は刑法の適用上文書の概念に包摂されないものであり,そのことは特別刑法の解釈適用でも尊重されるべきであるから,電磁的記録を帳簿と認めることはできず,本件総勘定元帳ファイルは同条3号にいう「商業帳簿」に当たらないとした原判決が破棄された事例。
参照条文: /破産.374条1号/破産.374条3号/
全 文 h140122supreme91.html

最高裁判所 平成 14年 1月 22日 第3小法廷 判決 ( 平成12年(受)第828号 )
事件名:  預託金返還請求上告事件
要 旨
 1.預託金会員制ゴルフクラブの会員契約において会員権の譲渡について理事会の承認等の手続を要するとの定めがある場合にでも,退会届けを提出した会員が有する預託金返還請求権を譲渡することについては,この承認等の手続は必要ではなく,このことは,会員権の譲受人が会員から預かった退会届けと会員権譲渡通知書をゴルフ場運営会社に送付した場合でも同じである。(破棄理由)
 2.弁護士法73条の趣旨は,主として弁護士でない者が,権利の譲渡を受けることによって,みだりに訴訟を誘発したり,紛議を助長したりするほか,同法72条本文の禁止を潜脱する行為をして,国民の法律生活上の利益に対する弊害が生ずることを防止するところにあるものと解される。
 2a.このような立法趣旨に照らすと,形式的には,他人の権利を譲り受けて訴訟等の手段によってその権利の実行をすることを業とする行為であっても,上記の弊害が生ずるおそれがなく,社会的経済的に正当な業務の範囲内にあると認められる場合には,同法73条に違反するものではないと解するのが相当である。
 2b.ゴルフ会員権の売買等を業とする者が,業として,ゴルフ会員権市場から,会員権取引における通常の方法と価格で会員権を購入した上,ゴルフ場経営会社に対して社会通念上相当な方法で預託金の返還を求めたものであれば,利益を得る目的で会員権を購入していたとしても,上記の見地から同条に違反するものではないと解される場合もある(破棄差戻し理由) /債権譲渡/
参照条文: /民法:466条/弁護士.72条/弁護士.73条/
全 文 h140122supreme6.html

最高裁判所 平成 14年 1月 22日 第3小法廷 判決 ( 平成11年(受)第1244号 )
事件名:  配当異議・上告事件
要 旨
 抵当権設定後の土地について不動産工事の先取特権の設定登記がなされ、その工事の完成前に抵当権が実行された場合に、不動産競売手続における評価人が「土地に格別の不動産工事が施されたとは認めにくい」として評価したため、工事による増加額が評価額又はこれに基づく最低売却価額の決定に反映されていないときであっても、先取特権者は売却時点での増加額の範囲内で抵当権者に優先して配当を受けることができるとされた事例。
 1.不動産工事の先取特権は,請負人等が不動産に関して行った工事による増価額が現存する場合に限り,その増価額につき,登記された予算額の範囲内において(民法327条,338条1項),抵当権に優先するものであり(同法339条),差押えの登記前に登記がされた先取特権を有する債権者は,不動産競売手続において,この増価額につき売却代金の配当等を受けることができる(民事執行法188条,87条1項4号)。
 1a.不動産工事の先取特権の対象となるべき不動産についての工事による増価額が,不動産競売手続における評価人の評価又はこれに基づく最低売却価額の決定に反映されているか否かは,同先取特権の被担保債権が優先弁済を受けるべき実体的権利に影響を与えるものではない。
 1b.評価人の評価は増価額を確定するものではなく,最低売却価額の決定も上記増価額を決定するものではなく,売却時に現存する増価額の有無を配当異議訴訟で争うことを妨げるものではない。
参照条文: /民法:327条;338条/民事執行法:188条;87条1項4号/
全 文 h140122supreme4.html

最高裁判所 平成 14年 1月 17日 第1小法廷 判決 ( 平成10年(行ヒ)第49号 )
事件名:  道路判定処分無効確認請求上告事件
要 旨
 告示により幅員4m未満1.8m以上の道を一括して建築基準法42条2項所定の「みなし道路」とする指定も,抗告訴訟の対象となる行政処分に当たる。
 原告所有地に面する通路を建築基準法42条2項所定の「みなし道路」に指定する旨の処分の不存在確認の訴えが,行政事件訴訟法36条の要件を満たすとされた事例。 /道路指定/私権の制限/訴訟要件/行政処分無効確認訴訟/行政処分不存在確認訴訟/
参照条文: /行訴.36条/行訴.3条4項/建築基準.42条2項/
全 文 h140117supreme.html

最高裁判所 平成 14年 1月 17日 第1小法廷 判決 ( 平成12年(受)第1671号 )
事件名:  預金払戻等請求上告事件
要 旨
 公共工事前払金保証事業法に従い公共工事の請負者が保証事業会社の保証のもとに地方公共団体から支払を受けた前払金について,工事途中で破産した請負者が前払金の返還義務を履行しなかったため保証会社が保証債務を履行した場合に,破産管財人が金融機関に預託された前払金の返還請求権が自己に属すると主張して,保証会社に対して預金債権が自己に属することの確認を,金融機関に対して預金の払戻しを請求したが,認められなかった事例。
 1.公共工事の請負者が保証事業会社の保証のもとに地方公共団体から支払を受けた前払金について,地方公共団体を委託者兼受益者とし,請負者を受託者とする信託契約の成立が認められ,信託財産たる前払金は,破産した請負者の破産財団に組み入れられるものではないとされた事例。
 1a.前払金が請負者に支払われた金銭であることを前提にして,請負者が金融機関に対して有する預金債権の上に保証会社のために質権が設定されたとの原審の判断が適当ではないとされた事例。 /愛知県公共工事請負契約約款/仲田建設/
参照条文: /信託法:3条1項;16条;63条/破産法:6条/公共工事の前払金保証事業に関する法律(平成11年法律160号改正前):5条;13条1項/
全 文 h140117supreme2.html

東京地方裁判所 平成 14年 1月 16日 刑事第9部 判決 ( 平成13年刑(わ)第1637号 )
事件名:  公正証書原本不実記載、同行使、強制執行妨害被告事件
要 旨
 不渡小切手を出した会社の代表取締役が,その子会社の任意整理を望む後順位債権者の要求を受けて,会社およびその子会社の不動産について,事情を知らない登記官をして登記簿に仮装の根抵当権設定仮登記および仮装の賃借権設定仮登記を記載させ,また仮装の債務を負担させたことが,公正証書原本不実記載,同行使,強制執行妨害罪に該当するとして,当該代表取締役や後順位債権者等が有罪判決を受けた事例。 /民事執行妨害/
参照条文: /参照条文/刑.157条/刑.158条/刑.96-2条/
全 文 h140116tokyoD91.html

名古屋高等裁判所 平成 13年 12月 26日 金沢支部第1部 判決 ( 平成13年(ネ)第67号 )
事件名:  建物収去土地明渡請求・控訴事件
要 旨
 敷地が被相続人の単独所有である時期に抵当権が設定され、その当時、地上建物が被相続人の単独名義になっていたが実質的に被相続人と共同相続人の一人である被告との共有であった場合に、その後に被告が被相続人から共有持分の贈与受けて単独所有者になったが、敷地が共同相続されて共有物分割の方法として競売が行われたときに、土地の抵当権が実行されていたならば法定地上権が成立していたことを前提にしつつも、敷地の共有物分割のための競売により法定地上権が成立することはないとされた事例。
 1.形式競売においては,競売裁判所は,担保権が付着したまま売却することもできるし,被担保債権を弁済して担保権を抹消する方法によって売却することも可能である。(前提の議論)
 2.民法258条の規定に基づく換価のための競売により土地が競売されて抵当権が消滅するのは、競売裁判所が競売を機会にその被担保債務を弁済するという方法を採用した結果にすぎず,抵当権がその権利者の意思によって強制的に実現された結果ではないから,たとえ抵当権設定当時,土地につき法定地上権成立の要件が具備されていたとしても,法定地上権発生の根拠は失われたものというべきである。
 2.建物所有者が敷地所有者から土地の使用借権を得ていても、その後に土地が複数の相続人により相続されて共有になり、共有物分割のために土地が競売されれば、建物所有者が相続人の一人であっても、土地使用借権を第三者である土地買受人に対抗することはできない。 /形式競売/形式的競売/換価競売/
参照条文: /民法:258条;388条;593条/民事執行法:195条/
全 文 h131226nagoyaH.html

東京地方裁判所 平成 13年 12月 25日 民事第48部 判決 ( 平成10年(ワ)第1182号 )
事件名:  謝罪広告等請求事件
要 旨
 「A」のペンネームで「聖母エヴァンゲリオン」を執筆した原告が,「オルタカルチャー日本版」という事典形式の書籍の中の記事によって名誉を毀損されたとして,その記事を書いた被告B,これを編集,発行した被告株式会社メディアワークス,これを発売した被告株式会社主婦の友社に対して,損害賠償等を求めた事案において,執筆者と編集・発行会社の責任が肯定され,発売元会社については原告からの抗議受けた後に原告の名誉を害しないように適切な措置をとらなかった範囲で責任が肯定され,損害賠償請求が一部認容されるとともに,名誉回復措置として執筆者および編集・発行会社に対して,それぞれのホームページに謝罪文を掲載することが命じられた事例。
 1.原告が「A」のペンネームで「聖母エヴァンゲリオン」を執筆したことを被告Bが知りながら,執筆者は原告の夫であると主張してその作品を揶揄する文章を作成して書籍に掲載させた場合に,それがレトリックであるとの被告の主張が否定され,名誉毀損の成立が肯定された事例。
 1a.パブリシティの権利の侵害の成立が認められなかった事例。
 2.著作物の編集発行者は,最終的には自己の責任と判断で著作物を出版するのであるから,著作物の内容に第三者の名誉を侵害するような記載があることを知った場合には,著者に訂正を求めたり,著者がその訂正に応じない場合には当該著作物の出版を見あわせるなどして,第三者の名誉を不当に侵害することがないように注意し配慮する義務がある。
 3.書籍の発売元として書籍の保管,取次業者への引渡し,在庫管理など書籍の流通部分を担当し,編集発行には実質的に関与していない出版社,書籍の内容全部について事前に第三者の名誉を毀損する部分があるかないかを確認しなければならない法的義務はない。
 3a.書籍の発売元となる出版社が,編集・発行元の出版社と,「出版物が公序良俗,業界の倫理綱領に反するものと判断した場合には,その出版物の仕入れを拒否することができる」旨の条項含む契約を締結した場合に,この契約から直ちに,発売元の出版社が第三者に対してその名誉を毀損する書籍の販売を差し止めなければならない法的義務を負うものと理解することはできないとされた事例。
 3b.書籍の発売だけを担当した出版社であっても,第三者から,当該書籍の記載内容に誤りや不適切な部分が存在し,第三者の名誉を毀損するとの指摘を受けた場合には,速やかにそのような侵害の事実の有無を確認し,事実と判明した場合には,直ちに著者や編集担当の出版者などと協議して,被害の重大性や明白性などを勘案した上,名誉毀損による被害の拡大を防止するために必要な措置や,既に発生した被害を回復するために必要な措置を検討し,そのような措置をとるのに相当と認められる期間内に必要とされる措置を講じるべき法的義務がある。(義務の懈怠が認められた事例)
 4.加害者が積極的に第三者の名誉を侵害する意図の下に名誉毀損行為を行ったことが認められる場合には,そのような主観的側面は,名誉毀損行為によって生じた損害の額の算定に際して考慮されるべき要素となるが,英米法でみられるような制裁的慰謝料(懲罰的損害賠償)を課すことはできない。(制裁的慰謝料を課すべきであるとの原告の主張が否定された事例)。
 5.インターネットによる言論が相当程度まで影響している名誉毀損事件において,原告の名誉を回復するには,金銭賠償だけでは十分ではないとして,インターネット上のホームページに謝罪文を1カ月掲載することが命じられた事例(新聞紙への掲載の必要はないとされた事例)。
 6.書籍の出版による名誉毀損事件において、被告の編集部の社員の陳述書に基づき出版部数が認定された事例(証拠原因)。 /対抗言論の法理/自由心証/上申書/
参照条文: /民法:710条/民法:709条/憲.21条/民訴.247条/
全 文 h131225tokyoD.html

大阪高等裁判所 平成 13年 12月 20日 第6民事部 判決 ( 平成13年(ネ)第2044号 )
事件名:  配当異議控訴事件
要 旨
 複数不動産が順次売却されてその都度配当がされた不動産競売事件において,配当を受けるべき債権の優先順位がC公債権,A私債権(抵当債権),B公債権の順であるが,公債権クループの中ではB公債権がC公債権に優先する場合に,国税徴収法26条の規定による調整により,先行配当手続においてC公債権の範囲でB公債権が優先弁済を受けた後で,後行配当手続においてもC公債権がなおA私債権に優先しその範囲でB公債権(残債権)がA私債権に優先して配当を受けうるため,その旨の配当表が作成されたのに対し,A私債権者が異議を述べ,配当異議の訴えの提起期間中にC公債権について第三者納付をして,B公債権に優先して配当を受けることが認められた事例。
 1.配当異議の訴えは,民事執行の手続で作成された配当表に基づく分配に不服を申し出た者がある場合に,その者が提起する通常の民事訴訟であるから,特別の根拠のない限り,事実審の口頭弁論終結の時の法律関係に基づいて判決されるべきであり,したがって,配当異議訴訟の原告及び被告の双方は,ともに,事実審の口頭弁論の終結時までに生じた一切の事由を攻撃防御の方法とすることが許される。 /租税優先の原則/
参照条文: /税徴.26条/地方税.14条/
全 文 h131220osakaH.html

東京高等裁判所 平成 13年 12月 19日 第20民事部 判決 ( 平成12年(ネ)第5379号 )
事件名:  立替金請求控訴事件
要 旨
 土地の復旧工事を行うことについて債務を負っている連帯債務者の一人が,工事債務を工事費用相当額の金銭および賠償金の支払債務に変更する更改契約を債権者と締結して金銭を支払い,他の連帯債務者に求償請求した場合に,賠償金について債権者が提起したは別件訴訟の判決で否定されていたため,工事費用相当額の範囲でのみ求償請求が認容された事例。
 1.第一審において第三者による弁済の求償を主張していた原告が,控訴審の第2回口頭弁論期日において,原告と被告は連帯債務者であり,原告が債権者と更改契約を締結してその履行をしたことにより連帯債務者として求償権を取得したと主張した場合に,これは法律構成の変更にすぎず,その基礎となる和解などの事実主張は訴訟の当初から主張され,その立証もされているから,新たな立証は不要であり,この主張の変更により訴訟の完結が遅延するとはいえないから,時機に後れて提出された攻撃防御方法にはあたらないとされた事例。
 2.復旧工事債務の履行が遅滞していることを理由に提起された履行に代わる損害賠償請求を棄却する判決の既判力は,復旧工事債務の存否には及ばないとされた事例。
 3.和解契約の中で特定の業者が債権者の土地に生じた亀裂の復旧工事を施行することが合意されたが,債権者の非協力的な言動が原因で当該業者が工事の請負を拒絶した場合に,復旧工事債務の履行について債権者の非協力的な行為あるいは受領遅滞と認められるような行為があったからといって債務者が復旧工事契約を解除することはできないとされた事例。
 4.復旧工事債務の履行が遅滞していることを理由に提起された履行に代わる損害賠償請求訴訟(前件訴訟)において被告が復旧工事債務の存在を認めた上で損害賠償債務の発生を争った場合に,これは復旧工事債務の消滅時効の中断事由たる債務の承認あたり,この承認は前件訴訟の口頭弁論終結時まで継続していたと認定された事例。
 
 5.控訴審の第2回口頭弁論期日において初めて提出された相殺の抗弁が時機に後れたものとして却下された事例。
 5a.相殺の主張についてはその成立又は不成立の判断には既判力を生ずるとされていること(民訴法114条2項)からして,その判断には慎重を期すべきであり,一審の判断を省略するようなことは一般に妥当とはいえない。 /既判力の客観的範囲/債権者遅滞/
参照条文: /民法:147条3号/民法:413条/民法:541条/民法:513条/民法:435条/民法:442条/民訴.114条1項/民訴.114条2項/民訴.157条/
全 文 h131219tokyoH.html

最高裁判所 平成 13年 12月 18日 第3小法廷 判決 ( 平成10年(オ)第730号 )
事件名:  否認権行使請求上告事件
要 旨
 破産者が破産債権者たる銀行に対して当該銀行が発行した有価証券を担保に供与した場合に,破産管財人が否認権を行使して担保供与物の価額の償還等を求めたところ,破産債権者が破産債権と有価証券上の債権との相殺を主張し,相殺が一部認められた事例。
 1.有価証券に表章された金銭債権の債務者は,その債権者に対して有する弁済期にある自己の金銭債権を自働債権とし,有価証券に表章された金銭債権を受働債権として相殺をするに当たり,有価証券の占有を取得することを要しない。(破棄理由)
 2.原判決の判断遺脱が職権により指摘され,是正された事例。
参照条文: /民法:505条/破産.98条/民訴.320条/
全 文 h131218supreme.html

最高裁判所 平成 13年 12月 18日 第3小法廷 判決 ( 平成13年(行ツ)第233号 )
事件名:  選挙無効請求上告事件
要 旨
 平成12年6月25日施行の衆議院議員総選挙のうち東京都選挙区における比例代表選挙について、選挙無効請求が棄却された事例。
 1.同時に行われる二つの選挙に同一の候補者が重複して立候補することを認めるか否かは,選挙制度の仕組みの一つとして,国会が裁量により決定することができる事項である。
 1a.衆議院議員選挙において重複立候補をすることができる者が公職選挙法86条1項1号,2号所定の要件を充足する政党その他の政治団体に所属する者に限られていることには相応の合理性が認められるので、公職選挙法が衆議院議員選挙について採用している重複立候補制は,憲法14条,15条1項,3項,44条ただし書等及び憲法の直接選挙の要請に違反するとはいえない。
 2.平成12年6月25日施行の衆議院議員総選挙において採用された小選挙区との重複立候補を認める比例代表選挙が直接選挙に当たらないということはできず,憲法43条,15条に違反するとはいえない。
参照条文: /憲.15条/憲.43条/憲.44条/公選.86条/
全 文 h131218supreme6.html

最高裁判所 平成 13年 12月 18日 第3小法廷 判決 ( 平成9年(行ツ)第21号 )
事件名:  公文書非公開決定取消請求・上告事件
要 旨
 1.個人情報保護制度が採用されていない状況の下において,情報公開制度に基づいてされた自己の個人情報の開示請求については,そのような請求を許さない趣旨の規定が置かれている場合等は格別,当該個人の権利利益を害さないことが請求自体において明らかなときは,個人に関する情報であることを理由に請求を拒否することはできないと解するのが,条例の合理的な解釈というべきである。
 1a. 個人情報保護制度が採用されていない状況において,公文書の公開等に関する条例(昭和61年兵庫県条例第3号)5条に基づき,条例の実施機関に対し,原告が自己の分娩に関する診療報酬明細書についてした公開請求については,非公開情報を規定する8条中の第1号(「個人の思想,宗教,健康状態,病歴,住所,家族関係,資格,学歴,職歴,所属団体,所得,資産等に関する情報(事業を営む個人の当該事業に関する情報を除く。)であって,特定の個人が識別され得るもののうち,通常他人に知られたくないと認められるもの」)に該当することを理由に文書を公開しないものとすることはできないとされた事例。
参照条文: /公文書の公開等に関する条例(昭和61年兵庫県条例第3号):5条;8条/
全 文 h131218supreme2.html

最高裁判所 平成 13年 12月 14日 第2小法廷 判決 ( 平成11年(行ヒ)第221号 )
事件名:  公文書非公開処分取消請求上告事件
要 旨
 徳島県の住民が,徳島県情報公開条例に基づき,県議会議員及び同事務局職員に関する平成7年8月1日から同8年7月31日までの間の,食糧費及び議長交際費に係る支出負担行為決議書兼支出命令書等の書類の公開を請求したところ,県議会は実施機関ではないという理由で請求を不受理とする旨の処分がなされ,これに対する異議申立てに対して,当該公文書は条例2条1項に規定する「公文書」に当たらないという理由で棄却決定がなされた場合に,その処分を取り消した原判決が破棄されて差し戻された事例。 /公情報公開/公文書公開/
参照条文: 
全 文 h131214supreme.html

最高裁判所 平成 13年 12月 13日 第1小法廷 判決 ( 平成10年(行ツ)第159号 )
事件名:  六価クロム汚染土壌処理工事差止請求上告事件
要 旨
 1.地方自治法242条の2第1項4号に基づく請求との関係で同3号に基づく請求を補充的なものと解する根拠はないから,請求権を代位行使する請求(4号請求)が請求権行使を怠る事実の違法確認請求(3号請求)に併合提起されていても,そのこと自体により3号請求に係る訴えが不適法になると解すべきではない。
 2.日化工らの工場から排出された六価クロム鉱滓の処理のために東京都がその所有地に原因者たる日化工らの負担で処理施設を設置した場合であっても,住民が,施設の所有者は日化工らであり,日化工らはこれにより東京都の土地を不法に占拠しているととらえて,東京都に代位して日化工に対して収去請求の住民訴訟を提起しているときに,その訴えを被財務的行為を対象とする不適法な訴えであると解するのは相当でないとされた事例。(補足意見から。反対意見あり)。
 2a.上記の場合に,日化工らが本件処理施設を所有して本件土地を占有しているか否かという点は収去請求権の有無に関する本案の問題というべきであるから,日化工らが本件土地を占有しているといえないことを根拠に「怠る事実」が不存在であるとして東京都知事に対する訴えを不適法とすることは許されない。
 3.地方自治法242条の2第2項所定の出訴期間経過後になされた訴えの追加的変更について,出訴期間内に提起した当初の訴えの提起の時に提起されたものと同視して出訴期間の遵守において欠けるところがないと解すべき特段の事情があるということができないとされた事例。 /訴訟要件/日本化学工業株式会社/公害/
参照条文: /地自.242-2条/
全 文 h131213supreme2.html

最高裁判所 平成 13年 12月 13日 第1小法廷 判決 ( 平成13年(受)第331号 )
事件名:  提供妨害禁止請求上告事件
要 旨
 兵庫県の住民であるが高知県内で牛を飼育している者が,兵庫県立中央農業技術センターに対し,県有黒毛和種種雄牛の人工授精用精液の購入を申し込んだところ,兵庫県内の畜産農家でないことを理由に拒絶された場合に,その拒絶が違法とされた事例。
 1.都道府県が開設する家畜人工授精所において,同所が改良した種雄牛の精液を当該都道府県内の畜産農家に優先的に提供することは,家畜改良増殖法の禁止するところではない。(傍論)
 2.都道府県が開設する家畜人工授精所は,精液の需給状況と無関係に,その提供を求める者が当該都道府県内の畜産農家ではないことの一事のみをもって提供を拒むことはできない。(判旨)
参照条文: /家畜改良増殖.29条/家畜改良増殖.12条/家畜改良増殖.3-3条/家畜改良増殖.2条/
全 文 h131213supreme.html

最高裁判所 平成 13年 12月 13日 第1小法廷 決定 ( 平成13年(許)第21号 )
事件名:  担保取消決定に対する抗告審の取消決定に対する許可抗告事件
要 旨
 仮執行宣言付判決に対して上訴に伴う強制執行の停止・執行処分の取消しがされた後,債務者が破産宣告を受け,破産管財人が担保取消しを申し立てたが,担保提供者が破産宣告を受けたとしても,その一事をもって「担保の事由が消滅したこと」に該当するということはできないとして,取消申立てが却下された事例。
 1.仮執行宣言付判決に係る事件が上訴審に係属中に債務者が破産宣告を受けた場合において,仮執行が破産宣告当時いまだ終了していないときは,破産法70条1項本文により仮執行はその効力を失い,債権者は破産手続においてのみ債権を行使すべきことになるが,他方,仮執行が破産宣告当時既に終了していれば,仮執行も終局的満足の段階にまで至る点において確定判決に基づく強制執行と異なるところはないから,破産宣告によってその効力が失われることはない。
 1b.仮執行宣言付判決に対して上訴に伴う強制執行停止等がされた後,債務者が破産宣告を受けた場合には,その強制執行停止等がされなかったとしても仮執行が破産宣告時までに終了していなかったとの事情がない限り,債権者は,強制執行停止等により損害を被る可能性がある。(執行停止がなければ仮執行により満足を受けることができたであろう金額と,執行停止中に債務者が破産したことにより破産債権者として受けるであろう配当額との差額は,執行停止等ために提供された担保により優先的に償われるべき損害にあたる)。
参照条文: /民訴.400条2項/民訴77条/破産.70条1項/
全 文 h131213supreme3.html

広島地方裁判所 平成 13年 12月 11日 民事第2部 決定 ( 平成12年(モ)第2051号 )
事件名:  文書提出命令申立事件
要 旨
 信販会社を相手方とする加盟店に関する文書の提出命令の申立てが却下された事例。
 1.加盟店契約締結後に信販会社が興信所に依頼して入手した加盟店に関する調査報告書や加盟店取引継続申請書等の提出命令の申立てがなされたが,相手方である信販会社の当該文書は存在しない旨の主張が認められた事例。
 2.加盟店審査のためのマニュアル等の資料および加盟店審査基準を記載した文書が,民訴法220条4号ロ(平成13年改正後のハ)所定の秘密文書にも相当し,さらに同号ハ(平成13年改正後のニ)の自己専使用文書に該当するとされた事例。
 2a.ある文書が,その作成目的,記載内容,これを現在の所持者が所持するに至るまでの経緯,その他の事情から判断して,専ら内部の者の利用に供する目的で作成され,外部の者に開示することが予定されていない文書であって,開示されると個人のプライバシーが侵害されたり個人ないし団体の自由な意思形成が阻害されたりするなど,開示によって所持者の側に看過し難い不利益が生ずるおそれがあると認められる場合には,特段の事情がない限り,当該文書は民訴法220条4号ハ所定の「専ら文書の所持者の利用に供するための文書」に当たる。
 3.提出命令の相手方である信販会社が加盟店の取り扱う商品・販売方法・営業実態・経営内容・他の信販会社の動向等について調査した結果を記載した書面,及び, 加盟店契約申請書が自己専使用文書に該当するとされた事例。
 4.信販会社が加盟店と加盟店契約を締結する際に興信所に依頼して入手した加盟店に関する調査報告書が,「職業の秘密」が記載された文書といえ,また,興信所により黙秘の義務が免除されたと認めるに足りる証拠はないので,民訴法220条4号ロ所定の秘密文書に該当するとされた事例。
 4a.民訴法220条4号ロに規定する同法197条1項3号の「職業の秘密」とは,その秘密が公開されてしまうと当該職業に深刻な影響を与え,以後の職業の維持遂行が不可能あるいは困難になるものをいい,その秘密主体は,文書の所持者が原則ではあるものの,第三者の秘密でも,当該第三者との間で,明示,黙示の契約で守秘義務を負う者や,当該第三者の被雇用者,補助者など,当該秘密につき重要な利害関係を有し,これを守らなければならない立場にある者の秘密も含まれる。 /自己使用文書/営業秘密/
参照条文: /民訴.220条4号/民訴.197条1項3号/
全 文 h131211hiroshimaD.html

最高裁判所 平成 13年 12月 7日 第2小法廷 決定 ( 平成13年(許)第15号 )
事件名:  文書提出命令に対する抗告棄却決定に対する許可抗告事件
要 旨
 経営が破綻して清算手続に入った木津信用組合の営業を譲り受けてその債権の回収業務を行っている整理回収機構が債務者等に対して提起した貸金返還請求等の訴訟において,被告らが,被告らの希望した抵当不動産の任意売却による債務弁済を不当に妨げる等の不法行為を木津信用組合がしたことによる損害賠償請求権との相殺を主張し,その立証のために,原告の所持する貸出稟議書とその付属文書等の提出命令を申し立てて,認められた事例。
 1.信用組合の貸出稟議書は,専ら信用組合内部の利用に供する目的で作成され,外部に開示することが予定されていない文書であって,開示されると信用組合内部における自由な意見の表明に支障を来し信用組合の自由な意思形成が阻害されたりするなど看過し難い不利益を生ずるおそれがあるものとして,特段の事情がない限り,民事訴訟法現220条4号ニ所定の「専ら文書の所持者の利用に供するための文書」に当たる。
 1a.貸出稟議書について,その所持者が作成者でない場合に,その提出を命ずるべき特段の事情があるとされた事例。 /文書提出命令/自己利用文書/書証/
参照条文: /民事訴訟法:220条4号/
全 文 h131207supreme2.html

最高裁判所 平成 13年 12月 7日 第2小法廷 決定 ( 平成13年(し)第108号 )
事件名:  少年補償決定に対する抗告棄却決定に対する特別抗告事件
要 旨
 少年の保護事件に係る補償に関する法律5条1項の補償に関する決定に対しては抗告は許されず,また,このように解しても憲法14条,32条に違反するものでない。 /少年保護事件/法の下の平等/刑事補償/裁判を受ける権利/
参照条文: /憲.14条/憲.32条/少年の保護事件に係る補償に関する法律.5条/刑事補償.19条1項/
全 文 h131207supreme.html

神戸地方裁判所 平成 13年 12月 6日 第6民事部 判決 ( 平成13年(タ)第63号 )
事件名:  離婚等請求事件
要 旨
 控訴審において協議離婚をする旨の訴訟上の和解がなされ、原告(X)が離婚届書に署名捺印して被告(Y)に交付したがYが離婚届出をしないため、Xがあらためて離婚の訴えを提起したところ、Yが離婚届をしないことにより訴訟上の和解は効力を失い、前訴の控訴審事件は終了していないことになるから、Xは控訴審に期日指定の申立てをなすべきであり、新訴は別訴禁止規定や重複起訴禁止規定の趣旨に抵触するとして、訴えが却下された事例。
 協議離婚をする旨の訴訟上の和解が成立し、被告が離婚届けを提出することが合意された場合に、これは離婚届の不受理を解除条件とする和解であり、被告が2年半近く経っても届け出をしないことにより解除条件が成就したと認めるのが相当であるとされた事例。
参照条文: /参照条文/民訴.142条/人訴.9条/民訴.267条/民訴.93条1項/民法:770条/民法:765条/
全 文 h131206kobeD.html

旭川地方裁判所 平成 13年 11月 30日 民事部 判決 ( 平成13年(ワ)第111号 )
事件名:  差押債権取立請求事件
要 旨
 ホテルが営業用設備と共に賃貸され、賃借人が固定賃料ならびに歩合賃料を支払うことを約束していた場合に、ホテルの建物の抵当権者が物上代位権の行使として賃料債権を差し押さえ、支払期の到来した1年分の賃料を請求して認容された事例。
 賃借人が、営業用設備・什器および土地は建物とは別個独立の賃貸借契約の目的物件であると主張して、物上代位の目的となる建物の賃料額を比例配分により定めることを主張したが、認められなかった事例。 /債権差押え/
参照条文: /民法:304条/民法:372条/民執.193条/
全 文 h131130asahikawaD.html

最高裁判所 平成 13年 11月 27日 第3小法廷 判決 ( 平成12年(受)第375号 )
事件名:  債務不存在確認請求本訴,不当利得請求反訴上告事件
要 旨
 土地の数量指示売買において,売主から測量の依頼を受けたCから更に依頼を受けたD会社が計算違いにより実際より少ない面積を報告し,これを基に売買代金額が定められた場合に,買主が差額代金の任意の支払を拒むため,売主にその損害を賠償したCに更に賠償したDに測量士賠償責任保険契約により損害額の一部に相当する保険金を支払った保険会社が,民法565条の類推適用により売主が買主に対して有する差額代金債権の一部を損害賠償者の代位(民法422条)又は保険者の代位(商法662条)によって取得した主張して,買主に対してその支払を請求した事例。
 1.民法565条は数量指示売買において数量が不足する場合又は物の一部が滅失していた場合における売主の担保責任を定めた規定にすぎないから,数量指示売買において数量が超過する場合に同条の類推適用を根拠として売主が代金の増額を請求することはできない。
 1a.数量指示売買において買主において超過部分の代金を追加して支払うとの趣旨の合意を認め得るときに売主が追加代金を請求し得ることはいうまでもないが,その合意の存否を問うことなく民法565条の規定から直ちに売主の代金増額請求権を肯定することはできないとして,これを肯定した原判決が破棄された事例。
 2.別段の合意があるために差額代金支払請求権が仮に発生するとしても,無資力でない買主が任意の支払を拒んでいるだけでは売主に損害が生じたとは言えないから,損害賠償者の代位あるいは保険者の代位の規定により権利移転の効果が生ずるとはいえない。
 2a.これらの規定による権利移転の主張は,代金請求権の全部又は一部を順次譲渡する旨の合意があったとの主張を含むものと解する余地があるとされた事例。(弁論主義/釈明権)
参照条文: /民法:565条/民法:563条1項/民法:422条/商.662条/
全 文 h131127supreme6.html

最高裁判所 平成 13年 11月 27日 第3小法廷 判決 ( 平成10年(行ツ)第22号 )
事件名:  供託金取戻却下決定取消請求上告事件
要 旨
 弁済供託をした者の供託物取戻請求権の消滅時効の起算点は,過失なくして債権者を確知することができないことを原因とする弁済供託の場合を含め,供託の基礎となった債務について消滅時効が完成するなど,供託者が免責の効果を受ける必要が消滅した時と解するのが相当である。
参照条文: /供託.8条2項/民法:166条/民167条1項/
全 文 h131127supreme.html

最高裁判所 平成 13年 11月 27日 第3小法廷 判決 ( 平成10年(オ)第576号 )
事件名:  損害賠償請求上告事件
要 旨
 乳がんの手術に当たり,当時医療水準として未確立であった乳房温存療法について医師の知る範囲で説明すべき診療契約上の義務を十分に果たしているとはいえない判断された事例。
 1.医師は,患者の疾患の治療のために手術を実施するに当たっては,診療契約に基づき,特別の事情のない限り,患者に対し,当該疾患の診断(病名と病状),実施予定の手術の内容,手術に付随する危険性,他に選択可能な治療方法があれば,その内容と利害得失,予後などについて説明すべき義務がある。
 1a.説明義務における説明は,患者が自らの身に行われようとする療法(術式)につき,その利害得失を理解した上で,当該療法(術式)を受けるか否かについて熟慮し,決断することを助けるために行われるものである。
 1b.未確立の療法ではあっても,当該療法が少なからぬ医療機関において実施されており,相当数の実施例があり,これを実施した医師の間で積極的な評価もされているものについては,患者が当該療法の適応である可能性があり,かつ,患者が当該療法の自己への適応の有無,実施可能性について強い関心を有していることを医師が知った場合などにおいては,たとえ医師自身が当該療法について消極的な評価をしており,自らはそれを実施する意思を有していないときであっても,なお,患者に対して,医師の知っている範囲で,当該療法の内容,適応可能性やそれを受けた場合の利害得失,当該療法を実施している医療機関の名称や所在などを説明すべき義務がある。
 2.患者が乳房を残すことに強い関心を有することを表明した手紙を医師に渡した以降,医師は,患者の乳がんについて乳房温存療法の適応可能性のあること及び乳房温存療法を実施している医療機関の名称や所在を自己の知る範囲で明確に説明し,自己が行う胸筋温存乳房切除術を受けるか,あるいは乳房温存療法を実施している他の医療機関において同療法を受ける可能性を探るか,そのいずれの道を選ぶかについて熟慮し判断する機会を与えるべき義務があり,その手紙を受け取る前にした乳房温存療法の消極的な説明ではこの義務を果たしたとはいえないと判断された事例。 /患者の自己決定権/インフォームド・コンセント/
参照条文: /民法:709条/民法:710条/
全 文 h131127supreme2.html

最高裁判所 平成 13年 11月 27日 第3小法廷 判決 ( 平成10年(オ)第773号 )
事件名:  損害賠償請求上告事件
要 旨
 土地と地上建物の買主が、改築の際に床面積の大幅な減少をもたらす道路位置指定の存在を土地・建物の引渡から約21年後に知り、民法570条にいう「隠れたる瑕疵」に該当するとして損害賠償を請求した場合に、民法167条1項(10年の消滅時効)の適用があるとされた事例。
 1.瑕疵担保による損害賠償請求権には消滅時効の規定(民法167条1項)の適用があり,この消滅時効は,買主が売買の目的物の引渡しを受けた時から進行する。 /消滅時効/除斥期間/瑕疵担保責任/
参照条文: /民法:167条1項/民法:570条/民法:566条3項/
全 文 h131127supreme3.html

最高裁判所 平成 13年 11月 27日 第3小法廷 判決 ( 平成9年(行ツ)第241号 )
事件名:  公文書開示決定処分取消請求上告事件
要 旨
 学校法人が施設整備費補助金の交付申請に際して栃木県に提出した文書に記載された経理に関する情報が、栃木県公文書の開示に関する条例所定の非開示事由に該当しないとされた事例。
 1.栃木県公文書の開示に関する条例6条2号にいう「法人その他の団体(国及び地方公共団体を除く。以下「法人等」という。)に関する情報又は事業を営む個人の当該事業に関する情報であって,公開することにより,当該法人等又は当該事業を営む個人に不利益を与えることが明らかであると認められるもの」とは,単に当該情報が「通常他人に知られたくない」というだけでは足りず,当該情報が開示されることによって当該法人等又は当該個人の競争上の地位その他正当な利益が害されることを要すると解すべきであり,また,そのことが客観的に明らかでなければならない。 /帝京大学理工学部/プライバシー/
参照条文: /憲.13条/栃木県公文書の開示に関する条例.6条/
全 文 h131127supreme4.html

最高裁判所 平成 13年 11月 27日 第3小法廷 判決 ( 平成10年(オ)第331号 )
事件名:  取立債権請求上告事件
要 旨
 指名債権の一種であるゴルフ会員権譲渡の予約を債務者が確定日付のある証書により承諾したが,予約完結権行使について確定日付のある証書による通知または承諾がない場合に,譲受人はその後にゴルフ会員権を差し押さえた者にゴルフ会員権の取得を対抗できないとされた事例。
 1.指名債権譲渡の予約につき確定日付のある証書により債務者に対する通知又はその承諾がされても,債務者は,これによって予約完結権の行使により当該債権の帰属が将来変更される可能性を了知するに止まり,当該債権の帰属に変更が生じた事実を認識するものではないから,上記予約の完結による債権譲渡の効力は,当該予約についてされた上記の通知又は承諾をもって,第三者に対抗することはできない。
参照条文: /民法:467条/民執.145条4項/税徴.62条3項/
全 文 h131127supreme5.html

最高裁判所 平成 13年 11月 22日 第1小法廷 判決 ( 平成12年(受)第372号 )
事件名:  売買代金返還請求上告事件
要 旨
 1.いわゆる数量指示売買とは,当事者において目的物の実際に有する数量を確保するため,その一定の面積,容積,重量,員数又は尺度があることを売主が契約において表示し,かつ,この数量を基礎として代金額が定められた売買をいう。
 1a.市街化区域内にある小規模住宅用の敷地(公簿面積177m*m,実測面積167.79m*m)について,売買契約書において公簿面積のみが記載され,実測面積の欄が空欄とされていた場合に,買主と仲介業者との交渉経過等の諸事情を考慮して,数量指示売買であると認められ,代金減額請求が認容された事例(反対意見あり)。
参照条文: /民法:565条/民法:563条1項/
全 文 h131122supreme5.html

最高裁判所 平成 13年 11月 22日 第1小法廷 判決 ( 平成10年(オ)第989号 )
事件名:  第三者異議上告事件
要 旨
 1.遺留分減殺請求権は,遺留分権利者が権利行使の確定的意思を有することを外部に表明したと認められる特段の事情がある場合を除き,債権者代位の目的とすることができない。 /行使上の一身専属性/
参照条文: /民法:423条1項/民法:1031条/民法:1043条/
全 文 h131122supreme.html

最高裁判所 平成 13年 11月 22日 第1小法廷 判決 ( 平成12年(オ)第1434号 )
事件名:  BC級戦犯公式陳謝等請求上告事件
要 旨
 第2次世界大戦下の昭和17年ころ日本軍の軍属として採用され,タイ俘虜収容所やマレー俘虜収容所等において俘虜の監視等に従事した朝鮮半島出身者で,連合国の裁判により死刑または拘禁の刑を受けた者の相続人または本人からの日本国に対する公式陳謝請求・未払給与支払請求が棄却された事例。
 1.第2次世界大戦及びその敗戦によって生じた戦争犠牲ないし戦争損害に対する補償は,憲法13条,14条,25条,29条3項の予想しないところというべきであり,その補償の要否及びその在り方については,国家財政,社会経済,損害の内容,程度等に関する資料を基礎とする立法府の裁量的判断にゆだねられたものと解するのが相当である。
 2.財産及び請求権に関する問題の解決並びに経済協力に関する日本国と大韓民国との間の協定第2条の実施に伴う大韓民国等の財産権に対する措置に関する法律は,憲法14条,29条3項,98条に違反しない。 /BC級戦犯/
参照条文: /憲.13条/憲.14条/憲.25条/憲.29条/憲.98条/財産及び請求権に関する問題の解決並びに経済協力に関する日本国と大韓民国との間の協定第2条の実施に伴う大韓民国等の財産権に対する措置に関する法律/平和条約.2条/
全 文 h131122supreme2.html

最高裁判所 平成 13年 11月 22日 第1小法廷 判決 ( 平成12年(受)第194号 )
事件名:  供託金還付請求権確認請求上告事件
要 旨
 取立権を一定の時期まで原債権者に留保した集合債権譲渡担保契約が締結され、債務者に対してされた債権譲渡担保設定通知に「譲受人から債務者に対して譲渡担保権実行通知がされた場合には,この債権に対する弁済を譲受人にされたい」との文言が含まれている場合に、その通知は債権譲渡の第三者に対する対抗要件として有効であるかが問題にされ、原審は否定したが、上告審は肯定した事例。
 1.甲が乙に対する金銭債務の担保として,発生原因となる取引の種類,発生期間等で特定される甲の丙に対する既に生じ,又は将来生ずべき債権を一括して乙に譲渡することとし,乙が丙に対し担保権実行として取立ての通知をするまでは,譲渡債権の取立てを甲に許諾し,甲が取り立てた金銭について乙への引渡しを要しないこととした甲,乙間の債権譲渡契約は,いわゆる集合債権を対象とした譲渡担保契約の一つであり,この場合は,既に生じ,又は将来生ずべき債権は,甲から乙に確定的に譲渡されており,ただ,甲,乙間において,乙に帰属した債権の一部について,甲に取立権限を付与し,取り立てた金銭の乙への引渡しを要しないとの合意が付加されているものと解すべきである。
 1a.上記債権譲渡について第三者対抗要件を具備するためには,指名債権譲渡の対抗要件(民法467条2項)の方法によることができるのであり,その際に,丙に対し,甲に付与された取立権限の行使への協力を依頼したとしても,第三者対抗要件の効果を妨げるものではない。 /取立権留保型債権譲渡/
参照条文: /民法:467条2項;466条/
全 文 h131122supreme3.html

最高裁判所 平成 13年 11月 22日 第1小法廷 判決 ( 平成10年(オ)第774号 )
事件名:  求償金請求上告事件
要 旨
 将来開場する予定の預託金会員制ゴルフクラブに入会するために支払うべき預託金をクレジット会社が一括代位弁済して、立替払金を会員が分割弁済する旨のクレジット契約ついて、その後にゴルフ場経営会社の資金繰りが悪化してゴルフ場の開場が遅延した場合でも、そのことは同契約に規定する分割払金の支払拒絶の事由に該当しないとされた事例。
 1.ゴルフ会員権クレジット契約書中で定められた代金支払拒絶事由としての「その他商品の販売について,販売会社に生じている事由」は、仮にゴルフ場経営会社が申込者に預託金等の支払を請求してきたとすれば,ゴルフ場経営会社に対し預託金等の支払を拒むことができる事由に限定されるのであって,申込者がゴルフ場経営会社に預託金等を支払って入会した後にゴルフ場経営会社に生じた債務不履行は支払拒絶の事由とならないと解するのが,当事者の合理的意思に合致する。(破棄理由。反対意見あり) /真里谷/抗弁権の接続/割賦販売/
参照条文: /割賦販売.30-4条1項/
全 文 h131122supreme4.html

最高裁判所 平成 13年 11月 21日 第2小法廷 決定 ( 平成13年(許)第20号 )
事件名:  競売にともなう土地賃借権譲受許可決定に対する抗告棄却決定に対する許可抗告事件
要 旨
 1.裁判所は,競売建物の買受人のために土地賃借権の譲渡の承諾に代わる許可の裁判をする場合には,賃貸人が旧賃借人の差し入れた敷金の担保を失うことになることをも考慮して,借地借家法法20条1項後段の付随的裁判の1つとして,当該事案に応じた相当な額の敷金を差し入れるべき旨を定め,賃借権の譲受人に対してその交付を命ずることができる(破棄理由)。
 1a.土地の賃借人が賃貸人に敷金を交付していた場合に,賃借権が賃貸人の承諾を得て旧賃借人から新賃借人に移転しても,敷金に関する旧賃借人の権利義務関係は,特段の事情のない限り,新賃借人に承継されるものではない(前提の議論)。 /不動産競売/
参照条文: /借地借家.20条/民法:612条/民執.79条/
全 文 h131121supreme.html

最高裁判所 平成 13年 11月 16日 第2小法廷 判決 ( 平成12年(受)第1666号 )
事件名:  詐害行為取消請求上告事件
要 旨
 商標権の譲渡行為が詐害行為として取り消された場合に,債務者・受益者間では当該法律行為は依然として有効であることを理由に,受益者が第三者から支払を受けた商標権使用許諾料相当額を不当利得として債権者が債務者に代位して返還請求をすることはできないとされた事例。
 1.詐害行為の取消しの効果は相対的であり,取消訴訟の当事者である債権者と受益者との間においてのみ当該法律行為を無効とするに止まり,債務者との関係では当該法律行為は依然として有効に存在するのであって,当該法律行為が詐害行為として取り消された場合であっても,債務者は,受益者に対して,当該法律行為によって目的財産が受益者に移転していることを否定することはできない。 /相対的無効/債権者代位権/詐害行為取消権/債権者取消権/
参照条文: /民法:423条/民法:424条/民法:425条/
全 文 h131116supreme.html

最高裁判所 平成 13年 11月 16日 第2小法廷 判決 ( 平成12年(行ツ)第106号 )
事件名:  恩給請求棄却処分取消請求上告事件
要 旨
 1.韓国在住の韓国人である旧軍人の恩給請求権について日韓請求権協定の取決めを受けて恩給法9条1項3号を存置することとしたことは憲法14条1項に違反しない。
 1a.憲法14条1項は法の下の平等を定めているが,この規定は,絶対的平等を保障したものではなく,合理的理由のない差別を禁止する趣旨のものであって,各人に存在する経済的,社会的その他種々の事実関係上の差異を理由としてその法的取扱いに区別を設けても,その区別が合理的な根拠に基づくものである限り,何らこの規定に違反するものではない。 /平和条約/日韓請求権協定/財産及び請求権に関する問題の解決並びに経済協力に関する日本国と大韓民国との間の協定/
参照条文: /恩給.9条1項3号/日韓請求権協定/平和条約/憲.13条/憲14条/憲.29条/財産及び請求権に関する問題の解決並びに経済協力に関する日本国と大韓民国との間の協定/
全 文 h131116supreme2.html

最高裁判所 平成 13年 11月 14日 第3小法廷 決定 ( 平成13年(あ)第92号 )
事件名:  覚せい剤取締法違反,関税法違反事件
要 旨
 1.覚せい剤取締法41条1項の覚せい剤輸入罪は,領土への陸揚げの時点で既遂に達する。
 1a.小型船舶を用いて,公海上で他の船舶から覚せい剤を受け取り,これを本邦領海内に搬入した場合に,覚せい剤を領海内に搬入した時点で覚せい剤輸入罪の既遂を肯定すべきものではない。
参照条文: /覚せい剤取締法.41条/
全 文 h131114supreme91.html

東京高等裁判所 平成 13年 11月 13日 第16民事部 判決 ( 平成13年(ネ)第2016号 )
事件名:  各供託金還付請求権確認請求及び譲受債権請求各控訴事件
要 旨
 1.将来の不特定債権の確定的譲渡契約も,将来の一定の時点で譲渡対象債権を特定し,これを第三債務者に債権譲渡登記の通知をすることによって,不測の結果をもたらさないようなことになっておれば,その契約を無効とすべきではない。
 1a.債権譲渡特例法においては,「将来,数度にわたって繰り返し発生する債権」を対象にする場合には,債権の発生の初日を始期として記録し,最後に債権が発生する日を終期として記録することが基本的に想定されいるが,[1b]その終期を年月日で特定できない場合には,債権譲渡登記規則13条1項2号,9条2項,および記録方式に関する告示3,(5)の項番32に基づき,債権を特定するために必要な事項を有益事項として記録すべきであり,その例として「本債権譲渡登記についての通知をするまでの間に発生した将来債権のうち同通知の時点で残存する債権」といった記録をすることが考えられ,このような記録があれば,その限度でその債権譲渡については対抗力を認めるべきである。(傍論)
 1c.「債権発生年月日(終期)」の記載のない債権譲渡登記が債権発生年月日に発生した債権の譲渡を公示しその限度で対抗力を有しているにとどまるとされた事例。
 2.海外赴任に関するサービス等を提供する会社が顧客企業に対して有する債権の譲渡契約について,譲渡対象となる債権は債務者・発生年月日・金額等により明確であるから,譲渡契約の当事者間においては,契約において用いられた「売掛債権」という表現は報酬債権を指すものであるとされた事例。
 2a.債権譲渡特例法による登記の対象となる債権の種類の表示が適切でない場合に,一概に対抗力がないと解するのは相当ではないが,その齟齬の程度等にかんがみて譲渡債権の識別に支障を来すと認められる場合には,譲渡債権について公示がないものとして対抗力を否定するのが相当である。
 2b.海外赴任に関するサービス等を提供する会社が顧客企業に対して有する報酬債権を「売掛債権」とした債権譲渡登記は,譲渡債権を特定するための記録に誤りがあり,報酬債権を公示しているものとは認められないとされた事例。
参照条文: /債権譲渡特例.2条/債権譲渡特例.5条/民法:466条/
全 文 h131113tokyoH.html

最高裁判所 平成 13年 11月 12日 第3小法廷 決定 ( 平成13年(あ)第882号 )
事件名:  覚せい剤取締法違反,有印私文書偽造,同行使被告事件(上告事件)
要 旨
 1.覚せい剤取締法14条,41条の2第1項にいう「所持」とは,人が物を保管する実力支配関係を内容とする行為をいい,この関係は,必ずしも覚せい剤を物理的に把持することまでは必要でなく,その存在を認識してこれを管理し得る状態にあれば足りる。
 2.ホテル内にいた被告人が窓から覚醒剤を投げ捨てた後で第三者からそれを発見した時刻に被告人が覚醒剤を所持していたと認定して、これについて覚醒剤所持罪の成立を認めたことは不当であるとされた事例。
 3.上記の場合に、原判決は覚せい剤取締法41条の2第1項の解釈適用を誤ったものであるが、被告人はそれ以前にホテル内の部屋で覚醒剤を所持しており、訴因を変更すれば覚醒剤所持罪の成立を認めることができ、この点について原審で攻撃防御が尽くされていると考えられるから、原判決を破棄するまでもないとされた事例。
参照条文: /覚せい剤取締.14条/覚せい剤取締.41-2条1項/刑訴.411条/刑訴.414条/刑訴.386条1項3号/
全 文 h131112supreme91.html

大阪高等裁判所 平成 13年 11月 6日 第8民事部 判決 ( 平成12年(ネ)第837号 )
事件名:  配当基準債権存在確認等請求・控訴事件
要 旨
 特定金外信託の委託者兼受益者(リース会社)が解散して特別清算開始の申立てをした場合に、受託者(信託銀行)がそのことを理由に信託契約を解除し、信託財産である有価証券を換価処分するなどして、その換価金等を受益者に対する貸金債権等に充当し、また、同貸金債権等と別段預金相当額の支払債務とを対当額で相殺したことが有効であるとされた事例。
 1.投資顧問会社の指図に従って株式・公社債等に運用することを内容とする利殖目的の特定金外信託に関し、委託者(会社)の解散という事態は、信託財産の運用による利殖という本件信託の目的を達成することを困難にさせるものであるから、信託契約所定の解除事由(「経済情勢の変動その他相当の事由により信託目的の達成……が困難となったと認めたとき」)に該当し、受託者からの解除が許されるとされた事例。
 2.商事留置権(商法521条)の成立要件としての他人物性と法定信託(信託法63条)
 
 
 
 信託契約の解除後に受益者に帰属すべき信託財産(有価証券)上に、受託者の帰属権利者(受益者)に対する貸付金債権を被担保債権とする商事留置権が解除と共に成立したとされた事例。
 2a.信託法63条が一種の法定信託の成立を認めたのは、例えば信託財産が不動産であるような場合、信託終了後の残存財産を権利者に帰属させるに当たって、登記手続等で、なお相当日数を要することが少なくない実情にかんがみ、そのような場合の帰属権利者の保護を図る趣旨であると解される。
 2b.有価証券によって運用される特定金外信託に関し、委託者兼受益者が解散して信託契約が解除によって終了して、受託者の職務内容が帰属権利者への残余財産の復帰、すなわち、帰属権利者への信託財産の権利の移転と同人に対抗要件を具備させることが主たる目的となる場合に、信託法36条1項、37条等に該当する事情がなく、かつ、帰属権利者(受益者)に移転すべき信託財産が特定していて、権利移転に特段の障害が存しないときには、信託契約の終了時に帰属権利者への権利帰属が即時に生じると解しても、信託法63条の趣旨に反するものではない。
 2c.信託契約が解除によって終了した時点で、直ちに信託財産の権利が帰属権利者に移転しているとされた事例。
 3.信託契約終了後に信託財産上に受託者のための商事留置権が成立した場合に、留置権者(受託者)による留置物の換価が適正かつ妥当であったとされた事例。
 3a.留置権者は、目的物の所有者に対して換価金返還債務を負うが、目的物の所有者が被担保債権の債務者であるときは、上記換価金返還債務と被担保債権とを相殺することで、事実上優先弁済を受けることができる。
 3b.留置物である株式の証券取引市場における換価処分について、売却日における当該株式銘柄の相場価格によって売却されたものと推認され、かつ、より高値で売却する方が留置権者にとっても有利になるから所有者にとって不利益となるような留置権者の恣意的裁量の余地は考え難いから、その処分方法は、一般的にみて、適正かつ妥当なものであると評価された事例。
 3c.留置物である株式の証券取引市場における換価処分について、被担保債権額が留置物の価額を上回ることも考慮すると、有効であるとされた事例。
 4.受託者が信託契約の解除と同時に信託財産上に商事留置権を取得した場合に、留置物の換価金の支払債務と帰属権利者に対する債権とを相殺すること、又はその弁済に充当することは、信託法9条、20条、22条、36条、37条の各規定に反しないとされた事例。
 4a.受託者が受益者の受益権につき質権を取得することは信託法22条の規定には抵触しない。(前提の議論についての先例の確認)
 5.受託者の帰属権利者(受益者)に対する換価金等支払債務は、信託終了時の信託財産返還債務が転化したものであり、これと実質的同一性を有すると解され、信託財産返還債務を負担するに至る原因は信託が設定されたことに存し、帰属権利者の支払停止の宣言又は特別清算開始の申立てよりも前に生じた原因に基づくものであるから、破産法104条2号但書中段に該当し、受託者による相殺及び弁済充当は許容されるとされた事例。
参照条文: /t11.信託法:9条;20条;22条;27条;36条;37条;63条/商法:456条;521条/t11.破産法:104条/
全 文 h131106osakaH.html

最高裁判所 平成 13年 11月 5日 第2小法廷 決定 ( 平成8年(あ)第267号 )
事件名:  所得税法違反,業務上横領被告事件(上告事件)
要 旨
 1.第三者が株式を買い占めて会社経営権を現経営陣から奪取することを阻止するために取締役の一人がした会社の金銭の支出行為について,業務上横領罪における不法領得の意思が認められるとされた事例。
 2.会社の金銭の支出行為の目的とするところが違法であるなどの理由から委託者たる会社として行い得ないものであることは,行為者の不法領得の意思を推認させる1つの事情とはなり得るが,行為の客観的性質の問題と行為者の主観の問題は,本来,別異のものであるから,その行為が商法その他の法令に違反するという一事から,直ちに行為者の不法領得の意思を認めることはできないというべきである(傍論)。 /業務上横領/
参照条文: /刑.253条/
全 文 h131105supreme91.html

東京地方裁判所 平成 13年 10月 30日 民事第47部 判決 ( 平成12年(ワ)第7120号 )
事件名:  発行差止等請求事件
要 旨
 原告の著作物を出版した被告会社が第1刷から第2刷への改訂に当たって原告に無断で改竄したとして、原告が、著作者人格権(同一性保持権)の侵害を理由に、著作権法115条による謝罪広告の掲載、読者からの回収と廃棄、及び不法行為による損害賠償を求めるとともに、第31回大宅賞の社内選考委員会においてされた被告会社の従業員の発言は原告の名誉を毀損するものであるとして、この者に対して、民法723条による謝罪広告の掲載及び不法行為による損害賠償を求た事例(一部認容)。
 1.出版社による無断改訂が同一性保持権の侵害に当たると判断され、その侵害について故意が認定された事例。
 2.著作者が出版社に対して第2刷以降において訂正することを指示したにもかかわらず、その訂正がなされていないことをもって原告の著作者人格権(同一性保持権)を侵害したものとは認められないとされた事例。
 2a.著作権法20条にいう「意に反する改変」とは、文字通り著作者の意思に反して著作物に変更を加えるものである。
 3.著作者人格権が侵害されたことにより原告が被った損害を金銭に評価すると、150万円が相当であるとされた事例。
 4.著作権法115条に基づく請求が認められるためには、著作者人格権の侵害によって著作者の社会的な名誉声望が毀損されることが必要である。
 4a.被告の著作者人格権侵害行為によって、原告の社会的な名誉声望が毀損されたとしても、その程度は大きいものとはいえないこと等を考慮して、被告に謝罪広告を掲載させる必要があるとは認められないとされた事例。 /「魔術師
 三原脩と西鉄ライオンズ」/文藝春秋/ノンフィクション/
参照条文: /著作.115条/著作.20条/民法:723条/
全 文 h131030tokyoD.html

最高裁判所 平成 13年 10月 26日 第2小法廷 判決 ( 平成13年(受)第94号 )
事件名:  条件付所有権移転仮登記抹消登記手続請求上告事件
要 旨
 農地の売買がなされ,農地法5条所定の転用許可を条件とする条件付所有権移転仮登記が経由されたのち,22年以上同許可申請が行われなかった場合に,売主が,買主の同許可申請手続協力請求権が時効により消滅したと主張し,農地の所有権に基づく妨害排除として,買主に対し仮登記の抹消登記手続を訴求した場合に,買主からの取得時効の完成の抗弁が認められて請求が棄却された事例。
 1.農地を農地以外のものにするために買い受けた者は,農地法5条所定の許可を得るための手続が執られなかったとしても,特段の事情のない限り,代金を支払い当該農地の引渡しを受けた時に,所有の意思をもって同農地の占有を始めたものと解するのが相当である。 /自主占有/
参照条文: /農地.5条/民法:162条1項/民法:186条/
全 文 h131026supreme.html

最高裁判所 平成 13年 10月 25日 第1小法廷 判決 ( 平成12年(受)第798号 )
事件名:  出版差止等請求上告事件<キャンディ事件>
要 旨
 連載漫画が小説形式の原稿におおむね依拠して制作された場合に,連載漫画が同原稿を原著作物とする二次的著作物であると判断され,原稿著作者からの連載漫画著作者に対する連載漫画の主人公を描いた原画の作成,複製又は配布の差止請求が認容された事例。 /キャンディ翻案権/コマ絵/知的財産権/無体財産権/著作権/
参照条文: /著作.11条/著作.28条/著作.27条/著作.2条1項11号/
全 文 h131025supreme.html

最高裁判所 平成 13年 10月 25日 第1小法廷 判決 ( 平成13年(受)第91号 )
事件名:  配当異議請求上告事件
要 旨
 抵当権に基づき物上代位権を行使する債権者は,他の債権者による債権差押事件に配当要求をすることによって優先弁済を受けることはできない。
参照条文: /民法:304条1項/民法:372条/民執.154条/民執.193条1項/
全 文 h131025supreme2.html

最高裁判所 平成 13年 10月 25日 第1小法廷 判決 ( 平成7年(オ)第1453号 )
事件名:  損害賠償請求上告事件< 全税関大阪損害賠償事件 >
要 旨
 税関職員の組織する労働組合とその組合員らが当局による昇任差別等があったとして提起した損害賠償請求を全部棄却した原判決が是認された事例。
 使用者による昇任差別の有無に関する事実の認定・評価の妥当性について意見が分かれ、上告審の判決理由中でその点について比較的詳細な説示がなされた事例。 /不当労働行為/事実認定/自由心証主義/全国税関労働組合大阪支部/全税関/大阪税関/団結権侵害/税関労働組合連絡協議会/大阪税関労働組合/職員団体/労働組合に対する支配介入/使用者の差別意思/団結権侵害/
参照条文: /民訴.247条/労組.7条/憲.28条/国公.108-7条/
全 文 h131025supreme3.html

最高裁判所 平成 13年 10月 25日 第1小法廷 判決 ( 平成11年(オ)第853号、854号 )
事件名:  損害賠償請求上告事件< 全税関横浜損害賠償事件 >
要 旨
 1.税関職員の組織する労働組合とその組合員らが当局による昇任差別等があったとして提起した損害賠償請求のうち組合の請求を一部認容しその余の請求を棄却した原判決が是認された事例。
 2.上告審において、原審の事実推認過程に経験則に違反する違法があるとは言えない旨の比較的詳しい説示がなされた事例。 /不当労働行為/事実認定/自由心証主義/全税関/横浜税関/団結権侵害/税関労働組合連絡協議会/職員団体/横浜税関労組刷新同志会/横浜税関労働組合/税関労組/横浜労組/労働組合に対する支配介入/使用者の差別意思/
参照条文: /民訴.247条/労組.7条/憲.28条/国公.108-7条/国賠.1条/
全 文 h131025supreme4.html

最高裁判所 平成 13年 10月 25日 第1小法廷 決定 ( 平成12年(あ)第1859号 )
事件名:  強盗被告事件・上告事件
要 旨
 刑事未成年者を利用して強盗を行った者につき強盗の間接正犯又は教唆犯ではなく共同正犯が成立するとされた事例。
参照条文: /刑.60条/刑.61条/
全 文 h131025supreme91.html

大阪地方裁判所 平成 13年 10月 11日 第21民事部 判決 ( 平成9年(ワ)第12402号 )
事件名:  約定金請求事件
要 旨
 原告が被告に織物用コンピュータプログラムのソースコードを開示し,その販売,改良,改良プログラムの販売を許諾する条項を含む継続的商品(ソフトウエア)取引契約を被告と締結している場合に,被告が他者にそのソースコードを開示して同種の新プログラムの制作を依頼し,それを販売したことが,原被告間の契約に服する行為であるとして,新プログラムの販売料金の支払いが命ぜられた事例。
 1.被告プログラムは,原告プログラムのうちの創作性のある部分を含む一部を複製してこれに改変を加えたものであり,原告プログラムとは同一の範囲を脱したものであるが,ソフトウエアとして原告プログラムと全く異なった程度には改変されたものとはいえず,表現上の本質的な特徴の同一性が維持され,実質的に類似するものということができ,全体として本件プログラムを翻案したものに当たると認めるのが相当であるとされた事例。
 1a.原告プログラムのうち被告プログラムに流用されたコードの数量が原告プログラムの約62%に当たる約4万6000行に及び,被告プログラムも,そのソースコード約12万8000行のうち,約46%に当たる約5万9000行が原告プログラムとほぼ同じ内容を有しているという数量的要素を考慮すれば,原告プログラムのうちで被告プログラムに使用された部分が,単に,他のプログラムやハードウエア等の外部的要因に規制される結果本来的に類似せざるを得ない部分や,一般的な処理方法など著作権法上の保護が及ばない部分のように,プログラムの創作性のない部分に止まるものとみることは合理的でないとされた事例。
 1b.翻案に当たるか否かの判定のために,文書提出命令により提出されたソースコードの同一部分の比率が詳細に説示された事例。
 2.著作物の利用許諾契約の適用を受けることを前提にする利用料請求(主位請求)と,許諾契約の適用を受けないことを前提にする損害賠償請求(予備的請求)とが予備的に併合された事例。 /知的財産権/無体財産権/著作権/予備的併合/複製権/翻案権/著作権侵害/
参照条文: /著作.10条3項/著作.21条.著作.27条/著作.63条/著作.114条2項/
全 文 h131011osakaD.html

大阪高等裁判所 平成 13年 9月 28日 第11民事部 判決 ( 平成13年(ネ)第1388号 )
事件名:  貸金等本訴・反訴請求各控訴事件
要 旨
 貸金業者の貸金返還請求(本訴請求)が一部認容され,債務者の過払金返還請求(反訴請求)が棄却された事例。
 1.貸金返還請求訴訟において,貸金業者が提出した顧客台帳の記載が杜撰であることも併せ考えると,契約書通りの金員の交付があったとは認められないとされた事例。(自由心証主義)
 1b.債務の分割弁済の途中で新たな借り入れがなされた際に,当初貸付額を借換後の債務額とする消費貸借契約書が作成されているが,その一部は旧債務残額の弁済に充当され,債務者が実際に受け取った金額はこれより少ない場合に,貸金業者が本来備え置くべき帳簿を提出しないことにより借換前の貸付残高を特定できない不利益を債務者に負担させるべきではないとして,借換時に債務者が実際に受領した金額についてのみ消費貸借契約が成立したものと解するのが相当であるとされた事例。(証明責任)
 1c.貸金業者への返済が過払いとなっていることを理由とする不当利得返還請求訴訟において,免責決定を得た債務者が,債権者名簿に記載していなかった債権者に対して,破産宣告当時にその者に債務を負担し,借換を行っていたと主張することは,信義誠実の原則に反し許されないとされた事例。 /利息制限法/貸金業法/破産免責/
参照条文: /民訴.247条/民訴.2条/破産.366-3条/
全 文 h130928osakaH.html

松山地方裁判所宇和島支部 平成 13年 9月 27日 判決 ( 平成9年(ワ)第44号 )
事件名:  正組合員たる地位確認請求事件
要 旨
 漁業協同組合が,ある組合員について,正組合員の要件の一つである漁業日数の要件を欠き,准組合員としての資格要件を具備するものと認定して,組合員資格変動通知書を送付したのに対し,当該組合員が,正組合員たる地位を有することの確認を求める訴訟を提起したが,棄却された事例。
 1.被告組合の理事が原告の取引先に不当な圧力をかけて原告の漁業継続を妨害したと主張する原告が,その立証のために,原告と取引先との会話の録音の反訳書を証拠として提出した場合に,裁判所が,その証拠としての性格は取引先の発言に関しては反対尋問を経ていない陳述書に過ぎないこと,ならびにその発言内容を考慮して,証拠としての価値が乏しいと判断した事例。 /録音テープ/自由心証主義/証拠価値/証拠力/
参照条文: /民訴.247条/民訴.202条/民訴.209条/民訴.231条/
全 文 h130927matuyamaD.html

最高裁判所 平成 13年 9月 25日 第3小法廷 判決 ( 平成9年(行ツ)第176号 )
事件名:  生活保護申請却下処分取消請求上告事件
要 旨
 1.生活保護法が不法残留者を保護の対象としないことは,憲法25条,14条1項に違反しない。
 2.経済的,社会的及び文化的権利に関する国際規約,市民的及び政治的権利に関する国際規約の規定並びに国際連合第3回総会の世界人権宣言は,生活保護法に基づく保護の対象に不法残留者が含まれると解すべき根拠とならない。
参照条文: /憲.25条/憲.14条/経済的,社会的及び文化的権利に関する国際規約/市民的及び政治的権利に関する国際規約/世界人権宣言/
全 文 h130925supreme.html

札幌高等裁判所 平成 13年 9月 25日 刑事部 判決 ( 平成13年(う)第73号 )
事件名:  競売入札妨害罪事件(控訴事件)
要 旨
 抵当権実行競売において特別売却に付された不動産について買受申出人が現れたのを知った債務者が、特別売却の手続を妨害するために、被担保債権に関する「債務承認および分割弁済約定書」に記された弁済期を平成11年から平成21年に改竄した写しを執行裁判所に提出して、被担保債権の弁済期が未到来であると主張した行為が、刑法96条の3第1項にいう競売入札妨害罪にあたるとされた事例。
 1.特別売却の手続において,その手続を妨害するような不公正な行為は,「競売又は入札」の公正を害する行為として,刑法96条の3第1項の競売入札妨害罪の処罰の対象になる。(破棄理由)
参照条文: /刑.96-3条1項/
全 文 h130925sapproH91.html

名古屋高等裁判所金沢支部 平成 13年 9月 10日 第1部 判決 ( 平成12年(ネ)第244号,平成13年(ネ)第130号 )
事件名:  不正競争行為差止等請求控訴事件,同附帯控訴事件<ドメイン名事件>
要 旨
 1.被告がホームページの開設により不正競争行為をしている場合に、被告が原告から金銭を取得する目的でドメイン名「jaccs.co.jp」を登録したことを考慮して、当該ドメイン名によるメールアドレスを用いて電子メール広告等を行い,「JACCS」という営業表示を有する原告の営業上の利益を侵害することも十分に予想されるとして,ホームページのアドレスの使用に限定せずに、ドメイン名自体の使用の差止請求が認容された事例。
 2.ドメイン名は、当該ドメイン内に開設されるホームページの開設主体を識別する機能を有しているから、「http://www.jaccs.co.jp」をキーボード入力すれば当該ホームページに到達できる状態になっていれば、当該ドメイン名の使用は、商品等表示の使用に当たる。 /知的財産権/無体財産権/不正競争防止法/
参照条文: /不正競争.2条1項1号/不正競争.2条1項2号/不正競争.3条/
全 文 h130910nagoyaH.html

東京地方裁判所 平成 13年 9月 6日 民事第46部 判決 ( 平成11年(ワ)第24433号 )
事件名:  特許権損害賠償等請求事件<石油ファンヒーター特許事件>
要 旨
 温風暖房機についての特許権及び気化管式燃焼装置についての実用新案権を有する原告が,被告の製造販売する温風暖房機は原告の特許権又は実用新案権を侵害するものであると主張して,被告に対し,その製造・販売等の差止め等および損害賠償を請求し、認容された事例。
 1.発明の進歩性の欠如を理由とする特許無効の主張が排斥された事例。
 2.原告の考案は被告の先行製品に係る公知の考案であり、実用新案法3条1項により実用新案登録を受けることができないものであるから、原告の実用新案権に基づく権利行使は権利の濫用に当たり許されないとされた事例。
 3.温風暖房機という製品の性質等を考慮して、特許発明の実施料相当額が販売価格の3%を下らないものと認められた事例。 /知的財産権/無体財産権/工業所有権/特許権/
参照条文: /実用新案.3条1項/特許.102条3項/特許.29条2項/
全 文 h130906tokyoD.html

大阪地方裁判所 平成 13年 8月 30日 第21民事部 判決 ( 平成12年(ワ)第10231号 )
事件名:  慰謝料請求事件
要 旨
 サウンドノベルゲーム(プレイヤーがゲーム画面に表示された文章を読み、物語中に数個用意された分岐点において複数表示された選択肢から一つを選ぶことにより、その後のストーリー展開が変化したり、一定の得点が得られる仕組みのゲーム)について、ゲームのシナリオ著作者である原告が、シナリオを元にゲームソフトを作成した被告に対して、被告がシナリオを429箇所にわたり無断で改変し、その題号を変更したことにより、原告の著作者人格権(同一性保持権)を侵害し、原告に精神的損害を与えたとして、慰謝料を請求し認容された事例(一部認容)。
 1.ある語を漢字で表記するか平仮名で表記するか、疑問符・感嘆符を用いるか、改行位置をどこにするかなどの表記方法に関する改変が、同一性保持権の侵害に当たるとされた事例。
 2.著作者が付した題号「毎日がすぷらった」を「まいにちがすぷらった!」に変更することが、著作権法20条1項にいう題号の改変に当たるとされた事例。
 3.ゲーム業界全体において、ソフト開発者が、シナリオ作者の了承なしに、シナリオ中の表現を修正、変更できるという事実たる慣習が形成されていると認めることはできないとされた事例。
 4.著作権法20条2項3号は、プログラムの著作物の改変に関する規定であり、言語の著作物であるシナリオには適用されない。
 5.原作シナリオに改変を施して作成されたサウンドノベルゲームのソフトについて、その改変が著作権法20条2項4号いう「やむを得ないと認められる改変」に該当しないとされた事例。
参照条文: /著作.20条1項/著作.20条2項3号/著作.20条2項4号/
全 文 h130830osakaD.html

大阪地方裁判所 平成 13年 8月 28日 第21民事部 判決 ( 平成11年(ワ)第5026号 )
事件名:  損害賠償等請求事件
要 旨
 原告の著作したコルチャック先生の伝記を参考資料の一つとして舞台劇のために被告が著作した脚本、およびこれに基づいて演じられた演劇が、原告の著作物の翻案ではないと認定された事例。
 1.翻案といえるためには、後行の著作物が先行の著作物に依拠して創作されたというだけでなく、後行の著作物において、先行の著作物の表現上の本質的な特徴を直接感得できることが必要であって、この要件は、両方の著作物を対比することによって客観的に判断すべきものである。
 1a.伝記の著作物について、先行文献等と比較した上で、その創作性は、既存の多数の文献等の中から著作者が重要と考える記述やエピソードを抽出し、相互に関連づけて対象人物の生涯を描き出した、その選択と配列及び具体的な表現方法にあるとされた事例。
 1b.伝記の著作物の個々の記述やエピソードとその伝記を参考にして制作された舞台劇とに重複する部分があったとしても、それだけで舞台劇が伝記の著作物の翻案であるとすることはできないとされた事例。
 1c.演劇の興業上の理由等により先行著作物である伝記が後行著作物である演劇の「原作」と表示され、また、演劇の脚本の執筆過程において先行著作物の著作者を後行著作物の原作者として遇して資料の提供を受けたり意見を求めていた場合に、そのことから直ちに後行著作物が先行著作物の著作権法上の翻案となるわけではないとされた事例。
 2.外国人名のカタカナ表記の仕方に創作性は認められない、とされた事例。
 3.著作物の利用(テレビ放映)の許諾について、少なくとも黙示の意思表示がなされたと推認された事例。 /知的財産権/無体財産権/著作権/著作者人格権/氏名表示権/同一性保持権/二次的著作物/ワイダ監督/映画「コルチャック先生」/
参照条文: /著作.2条1項1号/著作.2条1項11号/著作.19条/著作.20条/著作.27条/民訴.247条/
全 文 h130828osakaD.html

東京地方裁判所 平成 13年 8月 27日 民事第29部 判決 ( 平成10年(ワ)第23824号 )
事件名:  製作販売等差止等請求事件
要 旨
 競走馬を所有する原告らが,原告らの所有する競走馬の名称を使用して家庭用ビデオゲームソフトを製作,販売等する被告の行為は,いわゆる「パブリシティ権」の侵害に当たるとして,被告(株式会社アスキー)に対して,ゲームソフトの製作等の差止め及び不法行為に基づく損害賠償を請求したが,棄却された事例。
 1.「物の顧客吸引力などの経済的価値を排他的に支配する財産的権利」の存在は,肯定することはできない。
 2.慣習法の存在が否定された事例(「物から生ずる経済的利益を独占的に享受する」ことを承認する社会的な慣行が定着し,その慣行が,長い間尊重され,慣習法にまで高められていたと認めることはできない)。 /知的財産権/無体財産権/
参照条文: /民法:709条/民法:91条/法例.2条/商.1条/
全 文 h130827tokyoD.html

最高裁判所 平成 13年 7月 19日 第1小法廷 判決 ( 平成10年(あ)第806号 )
事件名:  詐欺被告事件(上告事件)
要 旨
 アースドリル工法によるくい打ち工事の定額・一括請負契約がなされた場合に,工事現場から排出され資格のある業者に正規に処理させた汚泥の量が注文主の予想量よりも少なかったため,予想量に相当する内容虚偽の汚泥処理券を提出して工事代金を受領したことが詐欺罪に問われた事例。
 1.請負契約が競争入札による定額・一括請負契約であって,請負代金の総額が定められているだけで,汚泥処理費用等その内訳については一切定めがない場合には,汚泥処理費用の実際の額が発注者の見積額を大幅に下回った場合においても,発注者は請負代金の減額請求をすることができず,内容虚偽の処理券を提出して完成検査に不正に合格しても,工事完成払金を騙取したと判断することはできないとされた事例。
 2.請負人が本来受領する権利を有する請負代金を欺罔手段を用いて不当に早く受領した場合には,その代金全額について刑法246条1項の詐欺罪が成立することがあるが,本来受領する権利を有する請負代金を不当に早く受領したことをもって詐欺罪が成立するというためには,欺罔手段を用いなかった場合に得られたであろう請負代金の支払とは社会通念上別個の支払に当たるといい得る程度の期間支払時期を早めたものであることを要する。
参照条文: /刑.246条1項/
全 文 h130719supreme91.html

東京地方裁判所 平成 13年 7月 19日 民事第46部 判決 ( 平成13年(ワ)第967号 )
事件名:  不正競争行為差止等請求事件<呉青山学院中学校事件>
要 旨
 原告・学校法人青山学院との関係で,被告がその設置する中学校につき「呉青山学院中学校」を用いる行為は,不正競争防止法2条1項2号に規定する不正競争行為に該当するとして,名称使用の差止請求が認容されたが,被告の当該名称使用行為によって原告に具体的な損害が生じたとは認められないとして,損害賠償請求は棄却された事例。
 1.不正競争防止法2条1項1号にいう「営業」とは,広く経済的対価を得ることを目的とする事業を指し,病院等の医療事業,予備校の経営や慈善事業等をも含むものであって,私立学校の経営もこれに含まれる。
 2.「青山学院」,「Aoyama
 Gakuin」の各名称が,遅くとも平成11年3月までには,原告・学校法人青山学院が行う教育事業及び原告が運営する各学校を表す名称として,学校教育及びこれと関連する分野において著名なものになっていたものと認めることができると認定された事例。
 3.営業表示の類否については,取引の実情の下において,取引者又は需要者が両表示の外観,称呼又は観念に基づく印象,記憶,連想などから両表示を全体的に類似のものと受け取るおそれがあるか否かを基準として判断するのが相当である。
 4.「青山学院中等部」等の学校を設置する原告(学校法人青山学院)が使用する「青山学院」の名称と,被告が設置する「呉青山学院中学校」の名称とは類似すると判断された事例。
 4a.原告のローマ字名称は「Aoyama
 Gakuin」と被告のローマ字名称「Kure
 Aoyama
 Gakuin」,被告の英語名称「Kure
 Aoyama
 Gakuin
 Junior
 High
 School」とは,類似すると判断された事例。
 5.所在地の地名と「学院」の組合せである「呉青山学院中学校」という名称は,不正競争防止法11条1項1号が適用される営業の普通名称又は学校について慣用されている表示に該当すると認めることはできないとされた事例。 /グッドウィル/識別力/
参照条文: /不正競争.2条1項1号/不正競争.2条1項2号/不正競争.11条1項1号/
全 文 h130719tokyoD.html

最高裁判所 平成 13年 7月 16日 第3小法廷 決定 ( 平成11年(あ)第1221号 )
事件名:  わいせつ物公然陳列被告事件(上告事件)
要 旨
 1.いわゆるパソコンネットのホストコンピュータにわいせつな画像データを記憶,蔵置させ,通常必要とされる簡単な操作により不特定多数の会員が当該画像を再生閲覧できるようにした場合に、わいせつ物公然陳列罪の成立が認められた事例。
 1a.わいせつな画像データを記憶,蔵置させたホストコンピュータのハードディスクは,刑法175条が定めるわいせつ物に当たる。
 1b.刑法175条が定めるわいせつ物を「公然と陳列した」とは,その物のわいせつな内容を不特定又は多数の者が認識できる状態に置くことをいい,その物のわいせつな内容を特段の行為を要することなく直ちに認識できる状態にするまでのことは必ずしも要しない。 /猥褻物/
参照条文: /刑.175条/
全 文 h130716supreme91.html

最高裁判所 平成 13年 7月 13日 第2小法廷 判決 ( 平成12年(行ツ)第13号 )
事件名:  所得税更正処分取消請求上告事件
要 旨
 りんご生産等の事業を営むことを目的として設立された民法上の組合が責任出役義務制が廃止して、雇用労力を用いる生産作業を行う形態に改めた後に、その組合員が,専従者として組合のりんご生産作業に従事し,組合から労務費名目で支払を受けた金員が、給与所得と認められた事例。
 (組合員が給与所得に係る収入であるとして所得税の再修正申告をしたが、事業所得に係る収入であるとして更正処分及び過少申告加算税賦課決定処分がなされたため,組合員がその取消しを請求し、認容された事例)
 1.民法上の組合の組合員が組合の事業に従事したことにつき組合から金員の支払を受けた場合,当該支払が組合の事業から生じた利益の分配に該当するのか,所得税法28条1項の給与所得に係る給与等の支払に該当するのかは,当該支払の原因となった法律関係についての組合及び組合員の意思ないし認識,当該労務の提供や支払の具体的態様等を考察して客観的,実質的に判断すべきものであって,組合員に対する金員の支払であるからといって当該支払が当然に利益の分配に該当することになるものではない。
 1a.民法上の組合の組合員が組合の事業に従事したことにつき組合から金員の支払を受けた場合,当該支払に係る組合員の収入が給与等に該当するとすることが、直ちに組合と組合員との間に矛盾した法律関係(組合員が一方で雇用契約の被用者という立場で,他方で総組合員の1人として雇用者の立場で雇用契約を締結すること)の成立を認めることになるものでもない。
参照条文: /所得税.28条1項/民法:667条/
全 文 h130713supreme.html

最高裁判所 平成 13年 7月 10日 第3小法廷 判決 ( 平成11年(受)第223号 )
事件名:  土地所有権移転登記手続請求上告事件
要 旨
 1.時効の完成により利益を受ける者は自己が直接に受けるべき利益の存する限度で時効を援用することができるものと解すべきであって,被相続人の占有により取得時効が完成した場合において,その共同相続人の一人は,自己の相続分の限度においてのみ取得時効を援用することができるにすぎない。
 (遺産分割協議の成否を審理させるために破棄差戻)
参照条文: /民法:145条/民法:162条1項/民法:898条/民法:899条/
全 文 h130710supreme2.html

最高裁判所 平成 13年 7月 10日 第3小法廷 判決 ( 平成11年(行ヒ)第24号 )
事件名:  不動産登記処分取消請求上告事件
要 旨
 1.共同相続人間においてされた相続分の譲渡に伴って生ずる農地の権利移転については,農地法3条1項の許可を要しない。
 2.相続分の譲受人たる共同相続人の遺産分割前における地位は,持分割合の数値が異なるだけで,相続によって取得した地位と本質的に異なるものではない。
 2a.共同相続人間において個々の農地ではなく包括的な相続人たる地位を譲渡すること自体は,農地法3条1項が規制の対象とするものではない。
参照条文: /農地.13条/民法:906条/民法:900条/
全 文 h130710supreme.html

最高裁判所 平成 13年 7月 6日 第2小法廷 判決 ( 平成12年(行ヒ)第172号 )
事件名:  審決取消請求上告事件
要 旨
 洋服等を指定商品とする「PALM SPRINGS POLO CLUB」等の文字から成る商標は、著名デザイナーであるラルフ・ローレンが被服等の商品について使用している「POLO」又は「ポロ」の文字から成る各商標と類似しており、ラルフ・ローレンの業務に係る商品と「混同を生ずるおそれがある商標」(商標法4条1項15号)に当たるとされた事例。
 1.商標法4条1項15号にいう「他人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるおそれがある商標」には,当該商標をその指定商品又は指定役務に使用したときに,当該商品又は役務が他人の業務に係る商品又は役務であると誤信されるおそれがある商標のみならず,当該商品又は役務が上記他人との間にいわゆる親子会社や系列会社等の緊密な営業上の関係又は同一の表示による商品化事業を営むグループに属する関係にある営業主の業務に係る商品又は役務であると誤信されるおそれがある商標が含まれる。
 1a.「混同を生ずるおそれ」の有無は,当該商標と他人の表示との類似性の程度,他人の表示の周知著名性及び独創性の程度や,当該商標の指定商品又は指定役務と他人の業務に係る商品又は役務との間の性質,用途又は目的における関連性の程度並びに商品又は役務の取引者及び需要者の共通性その他取引の実情などに照らし,当該商標の指定商品又は指定役務の取引者及び需要者において普通に払われる注意力を基準として,総合的に判断されるべきものである。
 2.著名商標の顧客吸引力へのただ乗り(いわゆるフリーライド)やその希釈化(いわゆるダイリューション)を招くと虞があると認められた事例。 /知的財産権/無体財産権/工業所有権/意匠権/ポロ商標/
参照条文: /商標.4条1号15号/
全 文 h130706supreme51.html

最高裁判所 平成 13年 6月 28日 第1小法廷 判決 ( 平成11年(受)第922号 )
事件名:  損害賠償等請求上告事件
要 旨
 江差追分に関するノンフィクション「北の波濤に唄う」と題する書籍の著作者である原告が,「ほっかいどうスペシャル・遥かなるユーラシアの歌声―江差追分のルーツを求めて―」と題するテレビ番組を製作・放送した日本放送協会等に対して,放送のナレーション部分が原告の著作物の翻案であると主張して,翻案権ならびに氏名表示権の侵害等を理由に損害賠償等を請求したが,棄却された事例。
 1.言語の著作物の翻案(著作権法27条)とは,既存の著作物に依拠し,かつ,その表現上の本質的な特徴の同一性を維持しつつ,具体的表現に修正,増減,変更等を加えて,新たに思想又は感情を創作的に表現することにより,これに接する者が既存の著作物の表現上の本質的な特徴を直接感得することのできる別の著作物を創作する行為をいう。
 1a.既存の著作物に依拠して創作された著作物が,思想,感情若しくはアイデア,事実若しくは事件など表現それ自体でない部分又は表現上の創作性がない部分において,既存の著作物と同一性を有するにすぎない場合には,翻案には当たらない。
 1b.テレビ番組のナレーションの部分が言語の著作物のプロローグの部分に依拠して創作されたものであるが,同一性を有する部分は表現それ自体ではない部分又は表現上の創作性がない部分であり,ナレーションの表現からプロローグの表現上の本質的な特徴を直接感得することはできないから,プロローグを翻案したものとはいえないとされた事例。 /知的財産権/無体財産権/著作権/
参照条文: /著作.27条/著作.2条1項1号/
全 文 h130628supreme.html

最高裁判所 平成 13年 6月 21日 第1小法廷 判決 ( 平成10年(あ)第508号 )
事件名:  地方税法違反被告事件(上告事件)
要 旨
 1.地方税法700条の4第1項5号,700条の14第1項5号が,軽油引取税の賦課徴収に当たり,特約業者及び元売業者以外の者で軽油を製造して譲渡したものを軽油の引取りを行う者とみなして,軽油引取税の申告納付義務を課しているのは,立法目的が正当であり,採用された賦課徴収の方式も合理的なものであって,憲法14条1項の規定に違反するものでない。
 2.特約業者及び元売業者以外の者が軽油を製造する工程の中に,軽油に軽油以外の炭化水素油を混和する工程が含まれていたとしても,譲渡した軽油の全量を課税標準とする軽油引取税の納付義務を免れない。 /法の下の平等/平等原則/
参照条文: /地方税.700-4条1項5号/地方税.700-14条1項5号/憲14条1項/
全 文 h130621supreme91.html

最高裁判所 平成 13年 6月 12日 第3小法廷 判決 ( 平成9年(オ)第1918号 )
事件名:  特許出願人名義変更届手続請求上告事件
要 旨
 特許を受ける権利の権利者として自ら特許出願をしていた者が,譲渡証書を無断で作成するなどして特許権の設定の登録を受けた者に対し,当該特許権につき移転登録手続を請求することができるとされた事例。
 1.無権利者が特許を受ける権利の譲渡証書を無断で作成するなどして特許権の設定の登録を受けた場合には,特許無効の審決を経て改めて特許出願をすることを権利者に求めても,既に出願公開がされていることを理由に特許出願が拒絶され,特許権者となることはできないという不当な結果になるから,権利者は,特許権の設定の登録を受けた者に対し,当該特許権につき移転登録手続を請求することができると解すべきである。
 2.補助参加の事例:
 
 AとBの共同発明に係る特許を受ける権利について、Aの持分をCに移転する旨の譲渡証書をAに無断で作成したCの申請により、BとCを共同特許権利者とする特許登録がなされた場合に、AがCに対して提起した持分移転登録手続請求訴訟において、BがAの側に補助参加した事例。 /知的財産権/無体財産権/工業所有権/特許権/
参照条文: /特許.33条/特許.66条/特許.29条/特許.98条/民訴.42条/
全 文 h130612supreme.html

最高裁判所 平成 13年 6月 11日 第1小法廷 判決 ( 平成12年(受)第67号 )
事件名:  売掛代金請求本訴・損害賠償請求反訴上告事件
要 旨
 衣料品の卸売業者と小売業者との間における周知性のある他人(米国ポロ社)の商品等表示と同一又は類似のものを使用したインドネシア製の商品の売買契約が民法90条により無効とされ、卸売業者は小売業者に対して代金支払を請求できないとされた事例。 /知的財産権/無体財産権/工業所有権/商標権/不正競争防止法/ポロ・ローレンス/POLO BY RALPHLAUREN/馬に乗ったポロ競技者の図形/ポロシャツ/公序良俗違反/
参照条文: /民法:90条/不正競争.2条1項1号/
全 文 h130611supreme.html

最高裁判所 平成 13年 6月 8日 第2小法廷 判決 ( 平成12年(オ)第929号,平成12年(受)第780号 )
事件名:  著作権確認等請求上告事件
要 旨
 1.我が国に住所等を有しない被告に対し提起された不法行為に基づく損害賠償請求訴訟につき,不法行為地の裁判籍の規定(民訴法5条9号)に依拠して我が国の裁判所の国際裁判管轄を肯定するためには,原則として,被告が我が国においてした行為により原告の法益について損害が生じたとの客観的事実関係が証明されれば足りる。
 1a.タイ王国在住の自然人たる被告により発送された著作権侵害に関する警告書が,我が国内において,原告と取引関係にある各社に到達した場合に,そのことにより原告の業務が妨害されたとの客観的事実関係は明らかであるとして,我が国裁判所の国際裁判管轄が肯定された事例。
 2.ベルヌ条約の保護の対象となる著作物についてタイ王国在住の被告が日本において著作権を有しないことの確認請求に関して,財産所在地の裁判籍(民訴法5条4号)が我が国にあることを理由に,我が国の裁判所の国際裁判管轄が肯定された事例。
 2a.上記著作物について被告がタイ王国における著作権を原告と共有しているとタイ王国における訴訟において主張している事実は,被告が日本において著作権を有しないことの確認請求の訴えの利益を基礎付けるのに十分であるとされた事例。
 3.ある管轄原因により我が国の裁判所の国際裁判管轄が肯定される場合に、他の請求につき,民訴法の併合請求の裁判籍の規定(民訴法7条本文)に依拠して我が国の裁判所の国際裁判管轄を肯定するためには,両請求間に密接な関係が認められることを要する。(肯定事例) /知的財産権/無体財産権/著作権/国際的重複訴訟/訴訟要件/ウルトラマン/円谷英二/
参照条文: /民訴.5条4号/民訴.5条9号/民訴.9条/民訴.228条/民訴.142条/
全 文 h130608supreme.html

最高裁判所 平成 13年 6月 8日 第2小法廷 判決 ( 平成9年(オ)第968号 )
事件名:  損害賠償請求上告事件
要 旨
 重い外傷の治療を行う医師が講じた細菌感染症に対する予防措置についての注意義務違反を否定した原審の認定判断に違法があるとされた事例。 /医療過誤/債務不履行/岐阜大学医学部附属病院/抗生剤/緑のう菌/細菌毒素性脳症/敗血症性ショック症候群/過失/
参照条文: /民訴.325条2項/
全 文 h130608supreme2.html

最高裁判所 平成 13年 5月 29日 第3小法廷 判決 ( 平成9年(行ツ)第152号 )
事件名:  公文書非公開決定取消請求上告事件
要 旨
 知事の交際費に係る公文書に記録された個人に対する結婚祝い及び受賞祝いに関する情報が京都府情報公開条例所定の非公開事由に該当するとされた事例。
 1.知事と相手方との交際の事実そのものは不特定の者に知られ得るものであっても,支出金額等,交際の内容までは不特定の者に知られ得るものとはいえない情報は,他に相手方の氏名等を公表することによって上記のおそれがあるとは認められないような事情がない限り,京都府情報公開条例所定の非公開事由に該当する。
 1a.結婚祝金および受賞祝賀祝金は、その具体的金額が不特定の者に知られ得るものであったとはいえないから,これらの祝金に係る知事の交際の内容に関する情報は非公開事由に該当するとされた事例。
 2.非公開事由に該当する独立した一体的な情報が記録されている公文書について,当該情報を更に細分化し,そのうち氏名,生年月日その他の特定の個人を識別することができることとなる記述等の部分(個人識別部分)のみを非公開とし,その余の部分を公開するなどといった態様の部分公開をその裁量判断により任意に行うことなども,京都府情報公開条例の許容するところであるとされた事例。 /個人情報/信頼関係/個人識別情報/公情報公開/公文書公開/
参照条文: 
全 文 h130529supreme.html

東京地方裁判所 平成 13年 5月 25日 民事第47部 中間判決 ( 平成8年(ワ)第10047号、平成8年(ワ)第25582号 )
事件名:  損害賠償等請求事件、不正競争行為差止請求事件
要 旨
 著作物性を有しない他人のデータベースに収録されたデータであるが、その他人が多大な費用と労力を費やしてデータを収集・管理している場合に、そのデータをそのまま大量に組み込んだデータベースを販売する行為が、不公正な方法により他人の営業上の利益を侵害するものとして、不法行為を構成するとされた事例。
 1.民法709条にいう不法行為の成立要件としての権利侵害は,必ずしも厳密な法律上の具体的権利の侵害であることを要せず,法的保護に値する利益の侵害をもって足りるというべきである。
 1a.他人が費用や労力をかけて情報を収集,整理することで,データベースを作成し,そのデータベースを製造販売することで営業活動を行っている場合において,そのデータベースのデータを複製して作成したデータベースを,その者の販売地域と競合する地域において販売する行為は,公正かつ自由な競争原理によって成り立つ取引社会において,著しく不公正な手段を用いて他人の法的保護に値する営業活動上の利益を侵害するものとして,不法行為を構成する場合がある。
 2.実在する自動車のデータ並びにダミーデータ及び代表データを収録したデータベースが、著作物にあたらないとされた事例(対象となる自動車の選択,自動車に関する情報の選択及び体系的構成について、創作性が否定された事例)。
 3.ダミーデータを含む大量のデータが一致することから、被告が原告のデータベースに収録されたデータを複製したと認定された事例。
 4.挙証者が証拠提供者に対して利益供与をしているとの補助事実が主張されたが、裁判所によって否定された事例。 /知的財産権/無体財産権/著作権/自由心証主義/経験則/原因判決/中間判決/
参照条文: /著作.2条1項1号/著作.2条1項10-3号/著作.12-2条/民法:709条/民訴.245条/民訴.247条/
全 文 h130525tokyoD.html

東京高等裁判所 平成 13年 5月 24日 第16民事部 判決 ( 平成13年(ネ)第391号 )
事件名:  不当利得返還請求・控訴事件
要 旨
 原告(地方公務員)が、共済組合から住宅貸付を受ける際に、給与支給機関が分割弁済金を給与から共済組合(の理事長)に振り込むことを承諾していた場合に、原告が破産宣告を受けた後に勧奨退職に応じて退職し、給与支払機関がその退職金から住宅貸付債権の残額の弁済金を共済組合に振り込んだところ、原告が、その振込みは原告の意思に反するものであり、自由財産からの任意弁済とはいえないとして、共済組合に対して不当利得返還請求をして、認容された事例。
 1.破産宣告時の退職金債権について、退職金債権は全額が破産財団に属するが、破産管財人が1/4のみを破産財団に組み入れ、残額を放棄した結果、その放棄部分が破産者の自由財産になったと説明された事例。
 1a.労働者が平成11年11月15日に破産宣告を受け、平成12年3月31日に勧奨退職した場合に、退職金手当額3,070万8,955円から所得税、市町村民税及び県民税を控除した残額は2,946万0,455円であり、破産宣告前日である平成11年11月14日までの退職金試算額(破産宣告時の将来の退職金請求権額)は、2,077万6,489円であるとされた事例。
 2.給与支払機関が、労働者の破産宣告前に住宅貸付の分割弁済金についてなされた振込委任契約に基づいて、労働者の破産宣告後にその自由財産に属する退職金債権から弁済金を振り込んだ行為が、破産者の任意弁済とは評価できないとされた事例。
 2a.事実上相殺権を行使するのと類似の取立て委託及び支払委託による退職金からの償還金控除及び破産債権者への払込みは、破産法第16条(現100条)の趣旨に反する。
 2b.[自由財産の部分についても]払込代行の委任契約は、民法653条の原則に従い、委任者が破産宣告を受けたことによって終了するとされた事例。
 3.地方公務員等共済組合法第115条は、給与の直接払の原則及び全額払の原則(地方公務員法第25条2項)との関係を考慮して、その払込手続を法定したものにすぎず、優先的な個別具体的な控除やその共済組合への優先的払込みの根拠となる趣旨の規定ではなく、破産手続の効果を否定し得るものではないから、同条は、破産宣告後の退職者の退職金債権から控除してなされた同条2項による払込みが不当利得に当たらないことの根拠となるものではない。
参照条文: /破産.100条/破産.34条/民法:653条/地方公務員等共済組合.115条/
全 文 h130524tokyoH.html

東京地方裁判所 平成 13年 5月 16日 民事第29部 判決 ( 平成12年(ワ)第7932号 )
事件名:  損害賠償等請求事件
要 旨
 (株)東京リーガルマインドがソフトウエアメーカー(アドビ,マイクロソフト,アップル)のコンピュータプログラムを多数のコンピュータのハードディスクに無許諾で複製して使用し,かつ,LANで接続されたコンピュータ上では同一シリアル番号のプログラムは使用できないようにした保護措置を無効とする特別のソフトウエアも使用していた場合に,著作権侵害を理由とする損害賠償請求が認容された事例。
 1.証拠保全としての検証が行われた事務所にあったコンピュータのうちの一部について時間不足等の理由により検証がなされなかった場合に,検証が実施された136台と実施されなかった83台との間に使用態様に相違がないものと推認され,136台について確認された被告の利益額を基準にして,これに136分の219を乗じた額が全体の利益額であると推認された事例。
 1a.被告が検証場所となった事務所以外に多数の事務所を有する場合には,検証場所で確認された違法複製が他の事務所においても行われていたと推認するのが適当でないとされた事例。
 2.著作権侵害行為と相当因果関係が認められる弁護士費用が,損害額の10パーセントを乗じた金額とされた事例。
 3.顧客が正規品に示された販売代金を支払い,正規品を購入することによって,プログラムの正規複製品をインストールして複製した上,それを使用することができる地位を獲得する契約態様が採用されている場合においては,著作権者の受けた損害額は,著作権法114条1項又は2項により,正規品小売価格と同額と解するのが最も妥当である。
 4.プログラムを違法に複製して使用した顧客がその後に正規品を購入してインストールしても,違法複製により既に生じた権利義務関係(損害賠償請求権の存否または多寡)は影響を受けない。 /BSA/LEC/権利執行/知的財産権/無体財産権/著作権/懲罰的損害賠償/
参照条文: /著作.21条/著作.114条/
全 文 h130516tokyoD.html

最高裁判所 平成 13年 4月 26日 第1小法廷 判決 ( 平成11年(受)第722号 )
事件名:  地位不存在確認請求上告事件
要 旨
 事業協同組合における組合員に対する除名決議が除名事由の特定明示を欠くとして無効とされた事例。
 1.事業協同組合における組合員の除名処分においては,遅くとも除名決議に係る総会又は総代会までに,除名の対象者及びその議決権者に対して,除名事由とされる事実を特定して明らかにすることが必要である。
 1a.事業協同組合のような経済目的によって結ばれる団体の内部規律に関しては,宗教法人,学校法人などの内部規律とは異なり,当該団体の裁量的判断にゆだねられる余地は少ない。
 1b.事業協同組合の団体としての自律的判断の尊重は,除名事由として特定された事実について相応の事実的基礎がある場合に,事業協同組合の存立の目的に照らして考慮すべきものであり,除名事由に当たる事実を特定して明らかにすることを不要とする理由になるものではない。
参照条文: /中小企業等協同組合.19条2項/中小企業等協同組合.55条/中小企業等協同組合.53条/
全 文 h130426supreme2.html

最高裁判所 平成 13年 4月 26日 第1小法廷 判決 ( 平成9年(行ツ)第229号 )
事件名:  懲戒処分取消請求上告事件
要 旨
 市立中学校の教諭が校長の発したエックス線検査受診命令に従わなかったことが懲戒事由に該当するとされた事例。
 1.市町村立中学校の教諭その他の職員は,その職務を遂行するに当たって,労働安全衛生法66条5項,結核予防法7条1項の規定に従うべきであり,職務上の上司である当該中学校の校長は,当該中学校に所属する教諭その他の職員に対し,職務上の命令として,結核の有無に関するエックス線検査を受診することを命ずることができる。
 1a.市町村立中学校の教諭が保健所でかくたん検査及び血沈検査を受け、異常なしとの結果を得て,その事実を校長に報告したとしても、そのことは結核予防法8条,労働安全衛生法66条5項ただし書の要件を満たすものということもできないとされた事例。
 1b.市立中学校の教諭が、病気治療のためのエックス線検査による過去のエックス線暴露が多くこれ以上の暴露を避けたい旨の意思を表明して、エックス線検査を拒絶した場合に、エックス線検査を行うことが相当でない身体状態ないし健康状態にあったなどの事情もうかがわれないと判断された事例。
参照条文: /結核予防.12条/結核予防.4条/結核予防.6条/結核予防.7条/学校保健.8条1項/地公.29条/労働安全衛生.66条/
全 文 h130426supreme3.html

最高裁判所 平成 13年 4月 26日 第1小法廷 決定 ( 平成13年(許)第2号 )
事件名:  文書提出命令申立て却下決定に対する抗告却下決定に対する抗告棄却決定に対する許可抗告事件
要 旨
 1.受訴裁判所が,文書提出命令の申立てを却下する決定をした上で,即時抗告前に口頭弁論を終結した場合には,もはや申立てに係る文書につき当該審級において証拠調べをする余地がないから,この決定に対し口頭弁論終結後にされた即時抗告は不適法である。
 2.文書提出命令申立て却下決定に対する即時抗告が上記1の理由により許されなくなった場合には、この却下決定は終局判決前の裁判として控訴裁判所の判断を受ける(民訴法283条本文)。 /書証/
参照条文: /民訴.223条7項/民訴.283条/
全 文 h130426supreme.html

最高裁判所 平成 13年 4月 20日 第2小法廷 判決 ( 平成10年(オ)第897号 )
事件名:  保険金請求上告事件
要 旨
 1.生命保険契約の災害割増特約に基づき災害死亡保険金の支払を請求する者は,発生した事故が偶発的な事故であることについて主張,立証すべき責任を負う。
 1a.保険約款中に,被保険者の故意等によって生じた傷害に対しては保険金を支払わない旨の定めは,保険金が支払われない場合を確認的注意的に規定したものにとどまり,被保険者の故意等によって生じた傷害であることの主張立証責任を保険者に負わせたものではないと解すべきであるとされた事例。
 1b.被保険者が5階建て建物の屋上から転落し,脊髄損傷等により死亡した場合に、それが偶然な事故であると認めることができないとされた事例。 /証明責任/立証責任/
参照条文: /民事訴訟法:247条/
全 文 h130420supreme.html

最高裁判所 平成 13年 4月 20日 第2小法廷 判決 ( 平成12年(受)第458号 )
事件名:  保険金請求上告事件
要 旨
 1.普通傷害保険契約に基づき,死亡保険金の支払を請求する者は,発生した事故が偶然な事故であることについて主張,立証すべき責任を負う。
 1a.保険約款中に,被保険者の故意等によって生じた傷害に対しては保険金を支払わない旨の定めは,保険金が支払われない場合を確認的注意的に規定したものにとどまり,被保険者の故意等によって生じた傷害であることの主張立証責任を保険者に負わせたものではないと解すべきであるとされた事例。
 1b.被保険者が5階建て建物の屋上から転落し,脊髄損傷等により死亡した場合に、それが偶然な事故であると認めることができないとされた事例。 /証明責任/立証責任/
参照条文: /民事訴訟法:247条/
全 文 h130420supreme2.html

最高裁判所 平成 13年 4月 13日 第2小法廷 決定 ( 平成12年(許)第52号 )
事件名:  売却許可決定に対する執行抗告棄却決定に対する許可抗告事件
要 旨
 抵当権に基づく不動産の競売においては,抵当権の不存在又は消滅を売却許可決定に対する執行抗告の理由とすることはできない。
参照条文: /民執.181条/民執.182条/民執.188条/民執.71条1号/
全 文 h130413supreme.html

最高裁判所 平成 13年 4月 11日 第3小法廷 決定 ( 平成11年(あ)第423号 )
事件名:  殺人,死体遺棄,現住建造物等放火,詐欺被告事件(上告事件)
要 旨
 殺人罪の共同正犯の訴因において実行行為者が被告人と明示された場合に訴因変更手続を経ることなく実行行為者が共犯者又は被告人あるいはその両名であると択一的に認定したことに違法はないとされた事例。
参照条文: /刑訴.256条/刑訴.312条/刑訴.335条/刑.60条/
全 文 h130411supreme91.html

最高裁判所 平成 13年 4月 5日 第1小法廷 判決 ( 平成10年(行ツ)第313号 )
事件名:  障害年金請求却下処分取消請求上告事件
要 旨
 いわゆる在日韓国人の軍人軍属が戦傷病者戦没者遺族等援護法の適用を求めたが、援護法附則2項により認められなかった事例。
 1.憲法14条1項は,合理的理由のない差別を禁止する趣旨のものであって,各人に存する経済的,社会的その他種々の事実関係上の差異を理由としてその法的取扱いに区別を設けることは,その区別が合理性を有する限り,何らこの規定に違反するものでない。(従前の判例の踏襲)
 2.日本の国内法上で朝鮮人としての法的地位を有していた軍人軍属が援護法の適用から除外されたのは,これらの人々の請求権の処理は平和条約により日本国政府と朝鮮の施政当局との特別取極の主題とされたことから,上記軍人軍属に対する補償問題もまた両政府間の外交交渉によって解決されることが予定されたことに基づくものと解され,そのことには十分な合理的根拠があるものというべきであるから、援護法附則2項により,日本の国籍を有する軍人軍属と平和条約の発効により日本の国籍を喪失し朝鮮国籍を取得することとなった軍人軍属との間に区別が生じたとしても,援護法附則2項は,憲法14条1項に違反するものとはいえない。(従前の先例の踏襲)
 3.日韓請求権協定の締結後,在日韓国人の軍人軍属に対して援護の措置を講ずることなく援護法附則2項を存置したことは,いまだ複雑かつ高度に政策的な考慮と判断の上に立って行使されるべき立法府の裁量の範囲を著しく逸脱したものとまでいうことはできず,本件各処分当時において憲法14条1項に違反するに至っていたものとすることはできないとされた事例。 /法の下の平等/
参照条文: /戦傷病者戦没者遺族等援護.附則2項/憲.14条1項/
全 文 h130405supreme.html

最高裁判所 平成 13年 3月 30日 大法廷 決定 ( 平成13年(分)第3号 )
事件名:  裁判官に対する懲戒申立て事件
要 旨
 犯罪(ストーカー行為)の嫌疑を受けた妻のため裁判官として許容される限界を超えた実質的に弁護活動に当たる行為をしたことを理由に,裁判官に対して戒告がされた事例。
 1.裁判官は,職務を遂行するに際してはもとより,職務を離れた私人としての生活においても,その職責と相いれないような行為をしてはならず,また,裁判所や裁判官に対する国民の信頼を傷つけることのないように,慎重に行動すべき義務を負っている。
 1a.裁判官は,一般に,捜査が相当程度進展している具体的被疑事件について,その一方当事者である被疑者に加担するような実質的に弁護活動に当たる行為をすることは,これを差し控えるべきものである。
 1b.裁判官が犯罪の嫌疑を受けた配偶者の支援ないし擁護をすることは,一定の範囲で許容されるということができる。 /福岡高裁判事/
参照条文: /裁分限.2条/裁判.49条/民訴.196条1号/民訴.201条3項/民訴.23条1項1号/刑訴.147条1号/刑訴.20条2号/
全 文 h130330supreme2.html

大阪高等裁判所 平成 13年 3月 29日 第8民事部 判決 ( 平成11年(ネ)第3484号 )
事件名:  著作権侵害行為差止請求控訴事件
要 旨
 家庭用テレビゲーム機用のゲームソフトの著作権者が、中古品販売業者に対して、ゲームソフトの複製物の中古品の頒布の差止等を請求したところ、頒布権のある映画の著作物に該当するが、最終ユーザーに譲渡された後は譲渡に係る頒布権は消尽しているとして、請求が棄却された事例。
 1.家庭用テレビゲーム機用ゲームソフトが「頒布権のある映画の著作物」に該当すると判断された事例。
 2.著作物の複製物の譲渡についても消尽理論は原則的に妥当し、例外となるのは、劇場用映画の複製物の譲渡であり、公衆に大量に販売されるゲームソフトの複製物の譲渡については、少なくとも最終ユーザーに譲渡された後は、頒布権は消尽する。
 2a.権利消尽の原則は、取引の客観的態様・性質により適否が定まるものであって、取引当事者の個別的意思表示よりその適否が左右されるものでないから、ゲームソフトの各パッケージに中古販売を禁止する旨が記載されていても、その記載により権利消尽の原則の適用を排除することはできない。 /知的財産権/無体財産権/著作権/譲渡権/商品取引の自由/
参照条文: /著作.2条3項/著作.2条1項19号/著作.26条/著作.26-2条/
全 文 h130329osakaH.html

最高裁判所 平成 13年 3月 28日 大法廷 判決 ( 平成8年(オ)第232号 )
事件名:  賃料増額確認請求上告事件
要 旨
 市街化調整区域内の農地の賃貸人が、生産緑地指定に同意しなかった小作人に対して、農地の宅地なみ課税により逆ざやが生じたこと(小作料よりも固定資産税の方が高く0なったこと)を理由に小作料の増額を請求したが、認められなかった事例。
 1.小作地に対して宅地並み課税がされたことによって固定資産税等の額が増加したことは,農地法23条1項に規定する「経済事情の変動」には該当せず,それを理由として小作料の増額を請求することはできないものと解するのが相当である。(判例変更)
 2.生産緑地法3条1項の規定による生産緑地地区の区域内の農地は宅地並み課税の対象から除外され、右指定を受けるためには、対抗力のある賃借人のいる農地については、賃借人の同意が必要とされているが、賃借人にはこれに同意をすべき信義則上の義務があるということはできず,同意をしなかったことをもって,信義,公平に反するとして,これを理由に小作料の増額を認めることもできない。 /法解釈の方法/
参照条文: /農地.23条1項/農地.20条2項/生産緑地.3条1項/都市計画.7条1項/
全 文 h130328supreme.html

東京高等裁判所 平成 13年 3月 28日 第13民事部 判決 ( 平成12年(ネ)第1268号 )
事件名:  謝罪広告等請求控訴事件
要 旨
 被告書籍からは、書籍全体としても、個別の対比箇所をそれ自体としても、原告書籍の学術に属する著作物としての表現形式上の本質的な特徴を直接感得することができるとはいえず、被告書籍は原告の翻案権を侵害するものであるとはいえないとされた事例。
 1.具体例を挙げながら一定の結論を導く形の論述が多い学術的書籍については、被告書籍が全体として原告書籍の翻案であるというためには、原告書籍中で一定の結論を導くための具体例等として記述された個別の記述部分を取り上げて被告書籍の記述部分と対比した上で、当該記述内容を前後の文脈及び書籍全体の論理展開の中に位置づけ、分析の切り口、事実の提示、その評価、結論に至る論理の運び等の総体としての創作性において、その表現形式上の本質的な特徴を被告書籍が備えるかどうかを判断し、被告書籍から原告書籍の著作物としての表現形式上の本質的な特徴を直接感得することができることを要する。
 1a.個別の記述内容それ自体を対比しても共通点が見いだせなかったり、共通点があっても、その論理展開上の位置づけが全く異なっていたり、その論理展開がごくありふれたものとして学術に属する著作物としての創作性を基礎づけるに足りないために、被告書籍から原告書籍の著作物としての表現形式上の本質的な特徴を直接感得することはできないとされた事例。 /知的財産権/無体財産権/著作権/「企業主義の興隆」/「HUMAN
 CAPITALISM」/
参照条文: /著作.27条/
全 文 h130328tokyoH.html

最高裁判所 平成 13年 3月 27日 第3小法廷 判決 ( 平成7年(オ)第1659号 )
事件名:  通話料金請求上告事件
要 旨
 平成3年当時に加入電話契約者の承諾なしにその未成年の子が利用したQ2情報サービスに係る通話料につき,NTTが加入電話契約者に対してその金額の5割を超える部分の支払を請求することが許されないとされた事例。
 (平成3年2月分通話料+消費税=8万1525円、3月分=1万9555円。約定遅延損害金14.5%。情報料は請求されていない)
 1.ダイヤルQ2情報サービスは,日常生活上の意思伝達手段という従来の通話とは異なり,その利用に係る通話料の高額化に容易に結び付く危険を内包していたものであったから,公益的事業者であるNTTとしては,一般家庭に広く普及していた加入電話から一般的に利用可能な形でダイヤルQ2事業を開始するに当たっては,同サービスの内容やその危険性等につき具体的かつ十分な周知を図るとともに,その危険の現実化をできる限り防止するために可能な対策を講じておくべき責務があった。
 1a.ダイヤルQ2情報サービスの危険性等の周知及びこれに対する対策の実施がいまだ十分とはいえない状況にあった平成3年当時,加入電話契約者である利用者が同サービスの内容及びその危険性等につき具体的な認識を有しない状態の下で,利用者の未成年の子による同サービスの多数回・長時間に及ぶ無断利用がされたために本件通話料が高額化したというのであって,この事態は,NTTが上記責務を十分に果たさなかったことによって生じたものということができる点にかんがみれば,利用者が料金高額化の事実及びその原因を認識してこれに対する措置を講ずることが可能となるまでの間に発生した通話料についてまで,電話サービス契約約款118条1項の規定が存在することの一事をもって利用者にその全部を負担させるべきものとすることは,信義則ないし衡平の観念に照らして直ちに是認し難いされた事例。 /衡平の観念/過失相殺の規定の類推/損害保険における危険変動の法理の類推/
参照条文: /民法:1条2項/商.654条/商.646条/商.656条/商.657条/民法:418条/
全 文 h130327supreme.html

最高裁判所 平成 13年 3月 27日 第3小法廷 判決 ( 平成8年(行ツ)第210号,第211号 )
事件名:  行政処分取消請求上告事件
要 旨
 1.知事と相手方との交際の事実そのものは不特定の者に知られ得るものであっても,支出金額等,交際の内容までは不特定の者に知られ得るものとはいえない情報については,大阪府公文書公開等条例8条4号又は5号の非公開事由が認められる。
 1a.祝金、香料、見舞い、懇談会、賛助金及び援助金に関する情報について、非公開事由(条例8条4号,5号または9条1号)が認められるとされた事例。
 2.交際の性質,内容等からして,交際内容等が一般に公表,披露されることがもともと予定されているものについては,大阪府公文書公開等条例8条4号又は5号の非公開事由を認めることはできない。
 2a.生花料,供花料,しきみ料及び会費に関する情報について、非公開事由が存在しないとされた事例。
 3.大阪府公文書公開等条例の部分公開に関する規定に基づき,非公開事由に該当する独立した一体的な情報を更に細分化し,その一部のみを非公開とし,その余の部分を公開すべきものとすることはできない。
 4.第2次上告審は,第1次上告審のこの法律上の判断に拘束される。
参照条文: /情報公開.5条/情報公開.6条/
全 文 h130327supreme2.html

最高裁判所 平成 13年 3月 27日 第3小法廷 判決 ( 平成10年(オ)第1037 )
事件名:  遺言無効確認請求上告事件
要 旨
 遺言公正証書の作成に当たり,たまたま当該遺言の証人となることができない者が同席していたとしても,この者によって遺言の内容が左右されたり,遺言者が自己の真意に基づいて遺言をすることを妨げられたりするなど特段の事情のない限り,当該遺言公正証書の作成手続を違法ということはできず,同遺言が無効となるものではない。
参照条文: /民法:969条/
全 文 h130327supreme3.html

最高裁判所 平成 13年 3月 27日 第3小法廷 判決 ( 平成11年(受)第766号 )
事件名:  不当利得返還等請求上告事件
要 旨
 加入電話契約者以外の者がQ2情報サービスを利用した場合に,通話料と区分されることなく請求された情報料を支払った加入電話契約者が情報料の返還をNTTに対して請求し,認容された事例。
 1.加入電話からQ2情報サービスの利用が行われた場合,利用者と情報提供者との間で,その都度,情報提供者による電話を通じた情報等の提供と利用者によるこれに対する対価である情報料の支払を内容とする有料情報提供契約が成立し,利用者は情報提供者に対して同サービスの利用時間に応じた情報料債務を負担し,情報提供者は利用者に対する情報料債権を取得することになる。
 1a.加入電話契約者以外の者がQ2情報サービスを利用したときには,有料情報提供契約の当事者でない加入電話契約者は,情報提供者に対して利用者の情報料債務を自ら負担することを承諾しているなど特段の事情がない限り,情報提供者に対して情報料債務を負うものではない。
 1b.加入電話契約者の長男の利用に係る情報料が通話料と区分されることなく請求され,加入電話契約者がその支払をした場合に,加入電話契約者が自己の債務ではない情報料が含まれていることを認識した上で,情報料債務について弁済する意思をもって支払をしたものということはできず,その支払によって情報料債務は消滅しないとされた事例。
 1c.NTTが情報提供者の代理人としてではなく自己の名において情報料を収集し,また,加入電話契約者が情報料支払債務を負担していない場合に,NTTが加入電話契約者から情報料相当額を受領しても,情報料債務の弁済としてその効果が情報提供者に帰属することはなく,加入電話契約者の情報料相当額の支払は,NTTに対する非債弁済となる。
 1d.情報提供者に対してNTTが回収した情報料の引渡義務を負うのは,情報提供者に対して情報料債務を負担する加入電話契約者から情報料を回収した場合に限られ,加入電話契約者のNTTに対する情報料相当額の支払が非債弁済となる場合には,その情報料はNTTが回収代行契約に基づく事務処理に当たって受け取ったものとはいえないから,NTTがこれを情報提供者に引き渡したとしても,回収代行契約に基づく受取物引渡義務の履行と見ることはできず,NTTは情報提供者に対して不当利得としてその返還を請求する権利を有しているものということができ,特段の事情のない限り,同返還請求権の価値に相当する利益をなお保有していることになるから,加入電話契約者は,NTTに対し,情報料相当額につき,不当利得に基づきその返還を請求することができる。 /弁済意思/
参照条文: /民法:703条/民法:705条/民法:474条/
全 文 h130327supreme4.html

大阪地方裁判所 平成 13年 3月 27日 第21民事部 判決 ( 平成12年(ワ)第8604号 )
事件名:  著作権侵害差止等請求事件
要 旨
 Yが珠算学習用ソフトのプログラムの作成をZに委託し、ZがXの了解を得てXに委託し、Xが同ソフトを作成した場合に、Xが同ソフトの著作権を有していると主張して、同ソフトの複製物を公衆送信、頒布等している被告に対し、その差止め等を請求して認容された事例。
 1.ソフト作成契約の趣旨に合致した完全版が作成されなかった場合に、その契約に基づき作成されたコンピュータソフトウエアの著作権が、ソフトを作成した受注者(著作者)に帰属し、発注者に帰属しないと判断された事例。
 2.被告が公衆送信等をしている著作物(コンピュータソフトウェア)と原告作成の著作物に関し、ソフトウェアに含まれる多くのプログラムファイルのサイズと更新日が同一であり、更新日が異なっていてもサイズが同じであることから、同一性が推認された事例。 /知的財産権/無体財産権/著作権/自由心証主義/間接事実/事実上の推定/経験則/推認/ソフトウェア作成契約/請負契約/
参照条文: /著作.2条1項2号/著作.21条/著作.23条/民訴.247条/
全 文 h130327osakaD.html

東京高等裁判所 平成 13年 3月 27日 第6民事部 判決 ( 平成11年(ネ)第3355号 )
事件名:  著作権侵害差止請求権不存在確認請求控訴事件<中古ゲームソフト販売東京高裁事件>
要 旨
 ゲームソフトが映画の著作物に該当するが、その複製物が著作権法26条1項の映画の著作物の「複製物」に該当しないとして、その販売業者(原告)に対して著作権者(被告)は販売差止請求権を有しないとされた事例。
 1.ゲームソフトの著作物が映画の著作物に該当すると判断された事例。
 1a.著作権法上の「映画の著作物」というためには,著作者の思想,感情に基づいた一貫した流れのある影像が表現されており,かつ,常に同一内容の影像が同一の順序で再現されるものであることを要するわけではない。
 2.ゲームソフト複製物が、大量に製造されてその一つ一つは少数の者によってしか視聴されないものであるとして、著作権法26条1項の映画の著作物の「複製物」に該当しないとされた事例。
 2a.著作権法26条1項の立法の趣旨に照らし,同条項にいう頒布権が認められる「複製物」とは,配給制度による流通の形態が採られている映画の著作物の複製物,及び,同法条の立法趣旨からみてこれと同等の保護に値する複製物,すなわち,一つ一つの複製物が多数の者の視聴に供される場合の複製物,したがって,通常は,少数の複製物のみが製造されることの予定されている場合のものであり,大量の複製物が製造され,その一つ一つは少数の者によってしか視聴されない場合のものは含まれないと,限定して解すべきである。
 2b.頒布権が認められない映画の著作物の複製物は,著作権法26条の3の適用除外の対象とならず,貸与権が認められることになる。(傍論) /知的財産権/無体財産権/著作権/消尽理論/ファーストセール・ドクトリン/法解釈の限界/文理解釈/ベルヌ条約/ストックホルム改正規定/WIPO著作権条約/ブラッセル規定/
参照条文: /著作.26条1項/著作.1条/著作.2条1項15号/著作.2条3項/著作.26-3条/著作.29条2項2号/
全 文 h130327tokyoH.html

最高裁判所 平成 13年 3月 23日 第2小法廷 決定 ( 平成12年(許)第42号 )
事件名:  破産決定に対する抗告却下決定に対する許可抗告事件
要 旨
 1a.破産決定に対する即時抗告期間は,同決定の公告のあった日から起算して2週間であり,このことは,同決定の公告前に送達を受けた破産者についても同じである。
 1b.破産決定の公告前に送達を受けた破産者は,公告前でも即時抗告することができる。
参照条文: /破産.108条/民訴.331条/民訴.285条/破産.112条/
全 文 h130323supreme.html

最高裁判所 平成 13年 3月 16日 第2小法廷 判決 ( 平成11年(受)第320号 )
事件名:  不当利得金返還請求上告事件
要 旨
 自動継続特約等の付された定期預金について仮差押えが執行されてから約4年後に仮差押えの申立てが取り下げられた場合に、銀行が仮差押えの執行後の最初の満期日をもって定期預金は終了したと判断して、それ以降の期間につき普通預金としての利息のみを支払ったので、預金者が定期預金としての利息との差額の支払いを求めた事例。
 1.定期預金の自動継続特約は,預入期間に関する合意として,当初の定期預金契約の一部を構成するものであるから,自動継続定期預金について仮差押えの執行がされても,同特約に基づく自動継続の効果が妨げられることはない。
 1a.特約に基づく継続が仮差押債権者を害する処分行為に当たるとして継続を否定した原判決が破棄された事例。
 2.審理不尽を理由に原判決が破棄された事例
 
 銀行が預金者に満期日の到来に際して継続の手続を遺漏なく行うことを約束し、かつ、預金者が継続の申し込みをしていた場合に、この約束は,自動継続特約でなくても、満期に際して預金者から銀行に対し継続の申入れがあれば,それによって満期日に従来の定期預金が継続されるとの趣旨(民法556条,559条参照),あるいは,銀行において預金者の継続申入れに応じるべき義務を生じるとの趣旨にも解釈し得るものであり、銀行に正当な抗弁がない限り,定期預金が継続されて以後定期預金利息が発生し,あるいは銀行にこれを継続すべき義務が生じてその履行を拒絶した銀行の債務不履行責任が問題となり得る筋合いであるから、この約束の趣旨及び法的性質を審理した上,銀行の抗弁(預金債権について仮差押命令が執行されたこと)の成否について判断すべきであるにもかかわらず、その点の判断を遺脱したとして、原判決が破棄された事例。
 2.審理不尽を理由に原判決が破棄された事例
 
 銀行が預金者に満期日の到来に際して継続の手続を遺漏なく行うことを約束し、かつ、預金者が継続の申し込みをしていた場合に、この約束は,自動継続特約でなくても、満期に際して預金者から銀行に対し継続の申入れがあれば,それによって満期日に従来の定期預金が継続されるとの趣旨(民法556条,559条参照),あるいは,銀行において預金者の継続申入れに応じるべき義務を生じるとの趣旨にも解釈し得るものであり、銀行に正当な抗弁がない限り,定期預金が継続されて以後定期預金利息が発生し,あるいは銀行にこれを継続すべき義務が生じてその履行を拒絶した銀行の債務不履行責任が問題となり得る筋合いであるから、この約束の趣旨及び法的性質を審理した上,銀行の抗弁(預金債権について仮差押命令が執行されたこと)の成否について判断すべきであるにもかかわらず、その点の判断を遺脱したとして、原判決が破棄された事例。
参照条文: /民法:556条/民法:559条/民保.50条1項/
全 文 h130316supreme.html

大阪高等裁判所 平成 13年 3月 14日 第7民事部 判決 ( 平成11年(ネ)第3716号、平成12年(ネ)第117号 )
事件名:  地位確認等請求控訴事件、同附帯控訴事件/全日本空輸解雇事件
要 旨
 1.労働者が解雇の無効を主張して、解雇意思表示後の賃金の支払を請求した場合に、判決確定後に支払期が到来するものについては、少なくとも現段階において、原告の労務提供の程度等賃金支払の前提となる諸事情が確定していないので、訴えの利益がないとされた事例。
 2.労働者がその職種や業務内容を限定して雇用された者であるときは、労働者がその業務を遂行できなくなり、現実に配置可能な部所が存在しないならば、労働者は債務の本旨に従った履行の提供ができないわけであるから、これが解雇事由となることはやむを得ない。
 2a.労働者が休業又は休職の直後においては、従前の業務に復帰させることができないとしても、労働者に基本的な労働能力に低下がなく、復帰不能な事情が休職中の機械設備の変化等によって具体的な業務を担当する知識に欠けるというような、休業又は休職にともなう一時的なもので、短期間に従前の業務に復帰可能な状態になり得る場合には、労働者が債務の本旨に従った履行の提供ができないということはできない。
 2b.使用者は、復職後の労働者に賃金を支払う以上、これに対応する労働の提供を要求できるものであるが、休業又は休職後の労働者が直ちに従前業務に復帰ができない場合でも、比較的短期間で復帰することが可能である場合には、休業又は休職に至る事情、使用者の規模、業種、労働者の配置等の実情から見て、短期間の復帰準備時間を提供したり、教育的措置をとるなどが信義則上求められるというべきで、このような信義則上の手段をとらずに、解雇することはできないというべきである。
 2c.労働者が過去に18年におよび旅客機の客室乗務員として勤務し、その経歴に応じた資格も取得してきた者で、休業及び休職となった原因は業務上の移動中の交通事故による頸椎不安定症、頸椎椎間板ヘルニア損傷等であり、筆記による知識確認の点に問題がなかったように知的能力の部分に低下があった訳ではなく、運動能力についても、背部痛、左下肢に不全麻痺等を訴えて後遺障害等級八級と認定されているものの、業務に支障のあるものではなく、医師の診断に基づいて復職となったものの、復帰者訓練の結果が不満足なものであった場合に、その不満足な結果は、主に、原告の休業及び休職中の4年間に航空機やその設備機器に変化があり、労働者がこれらに対する知識の習得をしなかったことに原因するものというべきであり、そうであれば、原告には、基本的な能力としては、その低下があった訳ではなく、具体的な、航空機に対応した能力が十分でなかったというに尽き、労働者の基本的な能力自体は従前と変わらないとすれば、これを労働者が短期間で習得することは可能というべきである、と認定された事例。
 2d.労働者に、就業規則の解雇事由である「労働能力の著しく低下したとき」に該当するような著しい労働能力の低下は認められないし、また、就業規則が規定する解雇事由に「準じる程度のやむを得ない理由があるとき」に該当する事由も認めることはできないとされ、解雇が就業規則に規定する解雇事由に該当しないにも関わらずなされたものであって、合理的な理由がなく、解雇権の濫用として無効であるとされた事例。
 3.労働者に対して使用者である会社の担当者が退職を求めた行為が、その頻度、各面談の時間の長さ、労働者に対する言動(「寄生虫みたいだ」との発言を含む)を考慮すると、社会通念上許容しうる範囲をこえており、単なる退職勧奨とはいえず、違法な退職強要として不法行為になる判断された事例。
 3a.解雇の意思表示について、無効ではあるが、不法行為として違法となるとまで認められないとされた事例。
参照条文: /民法:1条;543条;709条/
全 文 h130314osakaH.html

最高裁判所 平成 13年 3月 13日 第3小法廷 判決 ( 土地建物共有物分割本訴,遺言無効確認反訴請求上告事件 )
事件名:  成10年(オ)第936号
要 旨
 1.遺言者の住所をもって表示された不動産の遺贈につき同所にある土地及び建物のうち建物のみを目的としたものと解することはできないとされた事例。
 1a.遺言書の記載自体から遺言者の意思が合理的に解釈し得る場合に,遺言書に表われていない事情をもって,遺言の意思解釈の根拠とすることは許されないとされた事例。 /相続/共有物分割/意思解釈/
参照条文: /民法:960条/
全 文 h130313supreme.html

最高裁判所 平成 13年 3月 13日 第3小法廷 判決 ( 平成10年(受)第168号 )
事件名:  損害賠償請求上告事件
要 旨
 適切な治療が施されていれば高度の蓋然性をもって救命できた交通事故の被害者が死亡した場合に、治療に当たった医師にも過失があるとして、共同不法行為責任が認められ、発生した損害の全額について各加害者が不真正連帯債務を負うとされた事例。
 1.交通事故と医療事故とのいずれもが,被害者の死亡という不可分の一個の結果を招来し,この結果について相当因果関係を有する関係にあるときは、独立して成立する複数の不法行為が順次競合した場合であって、それらの不法行為は民法719条所定の共同不法行為に当たるから,各不法行為者は被害者の被った損害の全額について連帯して責任を負うべきものである。
 1a.≪個々の不法行為が事故の全体の一部を時間的前後関係において構成し,その行為類型が異なり,行為の本質や過失構造が異なり,かつ,共同不法行為を構成する一方又は双方の不法行為につき,被害者側に過失相殺すべき事由が存する場合には,被害者の被った損害の全額を算定した上,各加害行為の寄与度に応じてこれを案分して割り付け,その上で個々の不法行為についての過失相殺をして,各不法行為者が責任を負うべき損害賠償額を分別して認定するのが相当である≫とした原判決が破棄された事例。
 2.独立して成立する複数の不法行為が順次競合した場合であっても,過失相殺は各不法行為の加害者と被害者との間の過失の割合に応じてすべきものであり,他の不法行為者と被害者との間における過失の割合をしん酌して過失相殺をすることは許されない。
 3.交通事故とそれに続く医療事故が共同不法行為を構成する場合に、被害者の病院に対する損害賠償請求訴訟に交通事故の加害者が被害者側に補助参加していた事例。
参照条文: /民法:709条/民法:719条/民訴.42条/
全 文 h130313supreme2.html

最高裁判所 平成 13年 3月 13日 第3小法廷 判決 ( 平成11年(受)第1345号 )
事件名:  取立債権請求上告事件
要 旨
 1.抵当権者が物上代位権を行使して賃料債権の差押えをした後は,抵当不動産の賃借人は,抵当権設定登記の後に賃貸人に対して取得した債権を自働債権とする賃料債権との相殺をもって,抵当権者に対抗することはできない。
 2.抵当不動産の賃借人が賃貸人に対して有する債権と賃料債権とを対当額で相殺する旨があらかじめ合意されていた場合においても,賃借人が賃貸人に対する債権を抵当権設定登記の後に取得したものであるときは,物上代位権の行使としての差押えがされた後に発生する賃料債権については,物上代位をした抵当権者に対して相殺合意の効力を対抗することができない。 /相殺の合意/
参照条文: /民法:304条/民法:372条/民法:511条/民法:505条/民執.193条/
全 文 h130313supreme3.html

最高裁判所 平成 13年 3月 13日 第3小法廷 判決 ( 平成12年(受)第192号 )
事件名:  賃金請求上告事件
要 旨
 1.労働組合と使用者との間に労働条件その他に関する合意が成立したとしても,書面に作成され,かつ,両当事者がこれに署名し又は記名押印しない限り,これに労働協約としての規範的効力を付与することはできない。
 1a.
 従業員が,その所属する労働組合と会社との間でベースアップの金額につき合意が成立したのに,その分が支給されなかったとして,会社に対し主位的にベースアップ分及びベースアップに伴う時間外労働の増額分から成る各未払賃金等を請求したが、前記合意が労働協約としての効力を有さないとして、主位請求が棄却された事例。 /一般的拘束力/
参照条文: /労組.14条/労組.16条/労組.17条/
全 文 h130313supreme4.html

最高裁判所 平成 13年 3月 13日 第3小法廷 判決 ( 平成8年(行ツ)第180号 )
事件名:  林地開発行為許可処分取消請求上告事件
要 旨
 林地開発許可の取消訴訟と開発区域の周辺住民等の原告適格
 1.森林法10条の2第2項1号及び同項1号の2の規定は,土砂の流出又は崩壊,水害等の災害防止機能という森林の有する公益的機能の確保を図るとともに,土砂の流出又は崩壊,水害等の災害による被害が直接的に及ぶことが想定される開発区域に近接する一定範囲の地域に居住する住民の生命,身体の安全等を個々人の個別的利益としても保護すべきものとする趣旨を含むものと解すべきであるから,土砂の流出又は崩壊,水害等の災害による直接的な被害を受けることが予想される範囲の地域に居住する者は,開発許可の取消しを求めるにつき法律上の利益を有する者として,その取消訴訟における原告適格を有すると解するのが相当である。
 1a.開発区域の下方にある住居に居住する者に取消訴訟の原告適格が肯定された事例。
 2.森林法10条の2第2項1号及び同項1号の2の規定から,周辺住民の生命,身体の安全等の保護に加えて周辺土地の所有権等の財産権までを個々人の個別的利益として保護すべきものとする趣旨を含むことを読み取ることは困難であり,また,同項2号は,当該開発行為をする森林の現に有する水源のかん養の機能からみて,当該開発行為により当該機能に依存する地域における水の確保に著しい支障を及ぼすおそれがないことを,同項3号は,当該開発行為をする森林の現に有する環境の保全の機能からみて,当該開発行為により当該森林の周辺の地域における環境を著しく悪化させるおそれがないことを開発許可の要件としているけれども,これらの規定は,水の確保や良好な環境の保全という公益的な見地から開発許可の審査を行うことを予定しているものと解されるのであって,周辺住民等の個々人の個別的利益を保護する趣旨を含むものと解することはできない。
 2a.開発区域内又はその周辺に所在する土地上に立木を所有するにすぎない者,及び,開発区域を上流域とする川から取水して農業を営んでいるにすぎない者に,取消訴訟の原告適格が否定された事例。 /当事者適格/訴えの主観的利益/
参照条文: /行訴.9条/森林.10-2条/
全 文 h130313supreme5.html

最高裁判所 平成 13年 3月 12日 第3小法廷 決定 ( 平成12年(あ)第873号 )
事件名:  薬事法違反,銀行法違反被告事件(上告事件)
要 旨
 いわゆる地下銀行による外国送金が銀行法2条2項2号にいう「為替取引を行うこと」に当たるとされた事例。
 銀行法2条2項2号にいう「為替取引を行うこと」とは,顧客から,隔地者間で直接現金を輸送せずに資金を移動する仕組みを利用して資金を移動することを内容とする依頼を受けて,これを引き受けること,又はこれを引き受けて遂行することをいう。
参照条文: /銀行.2条2項2号/
全 文 h130312supreme91.html

東京高等裁判所 平成 13年 3月 12日 第13民事部 判決 ( 平成12年(行ケ)第470号 )
事件名:  特許取消決定取消請求事件
要 旨
 共有に係る特許権が特許異議の申立てに基づき特許庁により取り消された場合に,特許権の共有者の一人が単独で提起した特許取消決定の取消訴訟が不適法とされた事例。
 1.共有に係る特許権につき特許異議の申立てに基づいてされた特許取消決定の取消しを求める訴えにおいて、その取消決定を取り消すか否かは、間接的にではあれ、共有者全員の有する一個の権利の存否を決めるものとして、共有者全員につき合一に確定する必要があり、共有者それぞれについて異なった内容で確定され得ると解する余地はないから、上記訴えは、共有者が全員で提起することを要する固有必要的共同訴訟と解すべきである。 /知的財産権/無体財産権/工業所有権/特許権/当事者適格/訴訟要件/
参照条文: /特許.132条3項/特許.38条/特許.73条/特許.67-3条/特許.121条/民訴.40条/民法:252条/
全 文 h130312tokyoH51.html

東京高等裁判所 平成 13年 3月 8日 第20民事部 決定 ( 平成13年(ラ)第69号 )
事件名:  民事再生手続開始決定に対する抗告事件
要 旨
 債務者からの再生手続開始申立てが、再生計画案の可決の見込みがないことが明らかであるとして(民事再生法25条3号)、棄却された事例。
 1.ある大口債権者が債務者(会社)の破産を申し立て、これに対抗して債務者が再生手続開始を申し立て、裁判所が破産事件の手続を再生事件につき決定があるまで中止する旨を決定し、その後再生手続開始決定をした場合に、当該大口債権者が、≪自己が過半数を超える議決権を有する再生債権者であり、かつ、将来提出される再生計画案に賛成する意思は全くないから、本件は、再生計画案の可決の見込みがないことが明らかな場合として民事再生法25条3号所定の申立て棄却事由があるにもかかわらず、相手方の民事再生手続開始の申立てを棄却することなくその開始を命じた原決定は違法である≫と主張して、再生手続開始決定に対して即時抗告を提起したところ、抗告審が、≪抗告人の議決権数は総議決権数の過半数を超えている≫ことを確認のうえ、民事再生法25条3号に該当する事由があるとして、抗告を認容した事例。
 2.届け出られた再生債権が連帯保証人の再生債務者に対する事前求償債権である場合には、連帯保証人が現実に保証債務を履行することにより主債権者から連帯保証人に議決権が移転すると解するのが相当である。
 2a.保証人の事前求償権について債権者との重複行使禁止原則を適用し、再生手続開始後に保証債務を履行することにより取得することができるであろう求償権額を保証人の保有する財産から推計して、主債権者の議決権割合を算定した事例。
 3.債務者の倒産処理手続として破産手続を選択して再生手続に反対する大口債権者の議決権割合を算定する前提として、他の債権者の別除権によって担保される債権の不足額(再生債権額)を算定するに際して、担保不動産の価額の算定が問題になった事例。 /民事再生/
参照条文: /民事再生法:25条3号;86条2項;88条;171条4項/
全 文 h130308tokyoH.html

最高裁判所 平成 13年 3月 2日 第2小法 判決 ( 平成12年(受)第222号 )
事件名:  著作権侵害差止等請求上告事件
要 旨
 業務用カラオケ装置のリース業者が、飲食店経営者とリース契約を締結してカラオケ装置を引き渡すに際し,社団法人日本音楽著作権協会との間で著作物使用許諾契約を締結するよう告知したのみで,著作物使用許諾契約の締結又は申込みをしたことを確認しなかったことが、条理上の注意義務に違反しており、リース業者の注意義務の懈怠と飲食店経営者の著作権侵害による著作権者の損害との間には相当因果関係があるとして、リース業者に損害賠償が命ぜられた事例。
 1.飲食店等の経営者が,「カラオケ装置」を備え置き,客に歌唱を勧め,客の選択した曲目につきカラオケ装置により音楽著作物である歌詞及び楽曲を上映又は再生して,同楽曲を伴奏として客や従業員に歌唱させるなど,音楽著作物を上映し又は演奏して公衆に直接見せ又は聞かせるためにカラオケ装置を使用し,客の来集を図って利益をあげることを意図しているときは,上記経営者は,当該音楽著作物の著作権者の許諾を得ない限り,客や従業員による歌唱,カラオケ装置による歌詞及び楽曲の上映又は再生につき演奏権ないし上映権侵害による不法行為責任を免れない。(前提の判断)
 2.業務用カラオケ装置のリース業者は,リース契約を締結した場合に,当該装置が専ら音楽著作物を上映し又は演奏して公衆に直接見せ又は聞かせるために使用されるものであるときは,契約の相手方が当該著作権者との間で著作物使用許諾契約を締結し又は申込みをしたことを確認した上でカラオケ装置を引き渡すべき条理上の注意義務を負う。(新判断) /知的財産権/無体財産権/著作権/パブハウスニューパートナー/ナイトパブG7/レーザーディスク/通信カラオケ/
参照条文: /民法:709条/著作.22条/著作.22-2条/
全 文 h130302supreme.html

最高裁判所 平成 13年 2月 27日 第3小法廷 決定 ( 平成12年(行フ)第2号 )
事件名:  移送申立却下決定に対する抗告棄却決定に対する許可抗告事件
要 旨
 社会保険庁長官がした国民年金法による障害基礎年金の支給停止処分等の無効確認訴訟等につき,事務処理にあたった和歌山東社会保険事務所が行政事件訴訟法12条3項にいう「事案の処理に当たつた下級行政機関」に該当するとして,和歌山地方裁判所の管轄権がみとめられた事例。
 1.行政事件訴訟法12条3項の立法趣旨からすれば,同項にいう「事案の処理に当たつた下級行政機関」とは,当該処分等に関し事案の処理そのものに実質的に関与した下級行政機関をいい,当該処分等に関し事案の処理そのものに実質的に関与したと評価することができるか否かは,当該処分等の内容,性質に照らして,当該下級行政機関の関与の具体的態様,程度,当該処分等に対する影響の度合い等を総合考慮して決すべきである。
 1a.下級行政機関において自ら積極的に事案の調査を行い処分の成立に必要な資料を収集した上意見を付してこれを処分庁に送付ないし報告し,これに基づいて処分庁が最終的判断を行った上で当該処分をしたような場合はもとより,下級行政機関において処分庁に対する意見具申をしていないときであっても,処分要件該当性が一義的に明確であるような場合などは,下級行政機関の関与の具体的態様,程度等によっては,下級行政機関は処分に関し事案の処理そのものに実質的に関与したと評価することができる。
 2.社会保険庁長官がした国民年金法による障害基礎年金の支給停止処分等の無効確認訴訟等につき,和歌山東社会保険事務所における年金受給選択に関する事務処理こそが併給の調整に係る事案の処理の核心的部分に当たり,したがって,和歌山県知事は,社会保険庁長官の下級行政機関として,本件各処分に関し事案の処理そのものに実質的に関与したと評価することができるから,行政事件訴訟法12条3項にいう「事案の処理に当たつた下級行政機関」に該当するとされた事例。 /退職共済年金/障害福祉年金/年金の併給禁止/国民年金法/地方公務員等共済組合法/年金受給選択/
参照条文: /行訴.12条3項/行訴.38条1項/
全 文 h130227supreme.html

最高裁判所 平成 13年 2月 23日 第2小法廷 決定 ( 平成12年(許)第39号 )
事件名:  株式譲渡命令に対する執行抗告の原決定取消決定に対する許可抗告事件
要 旨
 不動産,船舶,動産及び債権以外の財産権に対する強制執行において,執行裁判所が,財産権の価額を0円と定めた譲渡命令を発することは許されない。 /無益執行の禁止/無剰余換価の禁止/
参照条文: /民執.167条1項/民執.161条1項/
全 文 h130223supreme.html

最高裁判所 平成 13年 2月 22日 第1小法廷 決定 ( 平成11年(オ)第1261号 )
事件名:  損害賠償請求上告事件
要 旨
 1.民法564条の除斥期間の起算点となるように≪買主が売買の目的である権利の一部が他人に属し,又は数量を指示して売買した物が不足していたことを知った≫というためには,買主が売主に対し担保責任を追及し得る程度に確実な事実関係を認識したことを要する。
 1a.土地の売買契約が締結された後,土地の一部につき,買主と同土地の隣接地の所有者との間で所有権の帰属に関する紛争が生起し,両者が裁判手続(仮処分手続および判決手続)において争うに至った場合において,隣接地の所有者が仮処分手続の中で係争地が同人の所有に属することを明確に主張したとしても,買主としては,その主張の当否について公権的判断を待って対処しようとするのが通常であって,そのような主張があったことから直ちに買主が係争地は売主に属していなかったとして売主に対し担保責任を追及し得る程度に確実な事実関係を認識したということはできないとされた事例。 /代金減額請求/
参照条文: /民法:563条/民法:564条/民法:565条/
全 文 h130222supreme.html

最高裁判所 平成 13年 2月 22日 第1小法廷 決定 ( 平成12年(行フ)第3号 )
事件名:  補助参加申出の却下決定に対する抗告棄却決定に対する許可抗告事件
要 旨
 労災保険給付の不支給決定の取消訴訟において,事業主が被告(労働基準監督署長)を補助するため訴訟に参加することが認められた事例。
 1.労災保険給付の不支給決定の取消訴訟(本案訴訟)における業務起因性についての判断は,判決理由中の判断であって,この訴訟と事業主に対する安全配慮義務違反等を理由とする損害賠償請求訴訟(後訴)とでは審判の対象及び内容を異にするのであるから,本案訴訟における業務起因性についての判断が後訴における判断に事実上不利益な影響を及ぼす可能性があることをもって事業主が訴訟の結果について法律上の利害関係を有するということはできない。(原審判断を支持)
 1a.労災保険給付の不支給決定の取消訴訟において,労災保険の保険料の徴収等に関する法律12条3項により次々年度以降の保険料が増額される可能性がある場合には,事業主は,労働基準監督署長を補助するため訴訟に参加することができる。(破棄理由) /補助参加の利益/労働災害/
参照条文: /民訴.42条/労働保険の保険料の徴収等に関する法律.12条3項/
全 文 h130222supreme2.html

最高裁判所 平成 13年 2月 22日 第1小法廷 決定 ( 平成12年(許)第10号 )
事件名:  文書提出命令に対する原決定変更決定に対する許可抗告事件
要 旨
 証券取引法193条の2の規定による監査証明を行った公認会計士又は監査法人がその事務所に備え置く監査調書の一部について、民訴220条4号ロ(平成13年改正前。現ハ)に該当しないとして、文書提出命令が発せられた事例。
 1.提出を求める文書の表示及び趣旨として「特定の会計監査に関する記録又は資料を整理した監査調書」を記載した申立ては、個々の文書の表示,趣旨の記載がなくても、対象文書の特定に不足するところはない。
 2 .裁判所は,1通の文書の記載中に提出の義務があると認めることができない部分があるときは,特段の事情のない限り,当該部分を除いて提出を命ずることができる。
 2a.監査調書として整理された記録又は資料のうち,日本住宅金融株式会社の貸付先の一部の氏名,会社名,住所,職業,電話番号及びファックス番号部分を除いて提出を命じたことが正当とされた事例。 /書証/
参照条文: /民訴.220条4号/民訴.221条1項/民訴.223条6項/証取.193-2条/
全 文 h130222supreme3.html

最高裁判所 平成 13年 2月 13日 第3小法廷 判決 ( 平成11年(受)第955号 )
事件名:  損害賠償等請求上告事件
要 旨
 コンピュータ用ゲームソフト「ときめきメモリアル」の著作者が,主人公の能力値を制作者の意図に反して予め高く設定したメモリーカードを輸入し,他人の使用を意図して流通に置いた者に対し,同一性保持権の侵害が生じたことを理由に,損害賠償を請求し,認容された事例。
 1.ゲームソフトの影像が著作権法2条1項1号にいう著作物にあたるとされた事例。
 2.パラメータにより主人公の人物像が表現され,その変化に応じてストーリーが展開される性質のゲームソフトにおいて,著作者が予定しないパラメータを設定することができるメモリーカードを使用することは,主人公の人物像を改変させ,ストーリーの改変をもたらすことになるから,ゲームソフトの著作者の有する同一性保持権の侵害にあたる。
 3.ゲームソフトのパラメータの改変のみを目的とするメモリーカードを購入した者は、現実にこれを使用したものと推認することができるとされた事例。
 4.専らゲームソフトのパラメータの改変のみを目的とするメモリーカードを輸入・販売し,他人の使用を意図して流通に置いた者は,他人の使用によるゲームソフトの同一性保持権の侵害を惹起したものとして,不法行為に基づく損害賠償責任を負う。 /知的財産権/無体財産権/著作権/恋愛シュミレーションゲーム/自由心証主義/
参照条文: /著作.2条1項1号/著作.20条/民法:709条/民訴.247条/
全 文 h130213supreme.html

最高裁判所 平成 13年 2月 13日 第3小法廷 判決 ( 平成12年(行ツ)第302号 )
事件名:  規約変更認可処分取消等請求上告事件
要 旨
 いかなる事由を理由に上告をすることを許容するかは審級制度の問題であって,憲法が81条の規定するところを除いてはこれをすべて立法の適宜に定めるところにゆだねているから、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反があることを理由として最高裁判所に上告をすることができないこととしている民訴法312条及び318条は、憲法32条に反しない。
参照条文: /憲.32条/憲.81条/民訴.312条/民訴.318条/
全 文 h130213supreme2.html

最高裁判所 平成 13年 2月 9日 第3小法廷 決定 ( 平成12年(あ)第1006号 )
事件名:  銃砲刀剣類所持等取締法違反被告事件・上告事件
要 旨
 捜査機関への申告内容に虚偽が含まれていた事案につき,刑法42条1項の自首が成立するとされた事例。
参照条文: /刑.42条/
全 文 h130209supreme91.html

最高裁判所 平成 13年 2月 7日 第2小法廷 決定 ( 平成10年(あ)第677号 )
事件名:  業務上過失致死被告事件<上告事件>
要 旨
 トンネル型水路内に周辺の河川からあふれ出た水が流れ込むのを防止する目的で設置された構造物の管理担当者に同水路内の作業員らを退避させる措置を採るべき注意義務があるとされた事例。 /国分川分水路建設工事/
参照条文: 
全 文 h130207supreme91.html

最高裁判所 平成 13年 1月 30日 第1小法廷 決定 ( 平成12年(許)第17号 )
事件名:  補助参加申立て却下決定に対する抗告棄却決定に対する許可抗告事件
要 旨
 取締役らが忠実義務に違反して粉飾決算を指示し又は粉飾の存在を見逃したことを原因とする取締役らに対する損害賠償請求権を訴訟物とする株主代表訴訟において、会社が取締役のために補助参加することが許可された事例。(注:この判決の意義は、平成17年会社法849条1項本文により減少したが、補助参加の利益を考える上で今なお重要である)
 1.民訴法42条所定の補助参加が認められるのは,専ら訴訟の結果につき法律上の利害関係を有する場合に限られ,単に事実上の利害関係を有するにとどまる場合は補助参加は許されない。(前提となる命題)
 2.取締役会の意思決定が違法であるとして取締役に対し提起された株主代表訴訟において,株式会社は,特段の事情がない限り,取締役を補助するため訴訟に参加することが許される。
参照条文: /商.281条/商.267条/民訴.42条/
全 文 h130130supreme.html

最高裁判所 平成 13年 1月 25日 第1小法廷 判決 ( 平成10年(受)第562号 )
事件名:  約束手形金請求上告事件
要 旨
 1.約束手形の受取人が手形を盗取され,第三者がそれを善意取得した後で,受取人の申立てに基づき除権判決が言い渡された場合に,善意取得者が振出人に対してなした手形金支払請求が認容された事例。
 1a.手形について除権判決の言渡しがあったとしても,これよりも前に当該手形を善意取得した者は,当該手形に表章された手形上の権利を失わない。
参照条文: /公催仲裁.785条/手形.16条/
全 文 h130125supreme.html

最高裁判所 平成 13年 1月 25日 第3小法廷 決定 ( 平成12年(許)第22号 )
事件名:  不動産引渡命令に対する抗告審の原決定取消決定に対する許可抗告事件
要 旨
 1.最先順位の抵当権者に対抗することができる不動産賃借人に対しては,この者を債務者とする抵当権が当該不動産に設定されている場合であっても,その抵当権に基づいて競売開始決定がされていた場合を除き,引渡命令を発することができない。(直接の判旨)
 2.最先順位の抵当権を有する者に対抗することができる賃借権により不動産を占有する者であっても,当該不動産が自らの債務の担保に供され,その債務の不履行により当該抵当不動産の売却代金からこの債務の弁済がされるべき事情がある場合には,その賃借権を主張することは,信義則に反し許されず、当該不動産の競売による買受人に対してその賃借権をもって対抗することができない。(前提の議論)
 2a.当該抵当権の実行として競売の開始決定がされているときは,その債務不履行の事実は民事執行法83条1項ただし書にいう「事件の記録上」明らかであるから,執行手続上もその賃借権を主張することが許されない場合に該当する。(前提の議論) /不動産引渡命令/
参照条文: /民1条2項/民執.83条/民執.59条2項/
全 文 h130125supreme2.html

大阪高等裁判所 平成 13年 1月 23日 第8民事部 判決 ( 平成12年(ネ)第2393号 )
事件名:  損害賠償請求控訴事件<街路灯デザイン図著作権>
要 旨
 街路灯工事業者たる原告が地元住民の要望を受けて街路灯のデザイン図を作成したが、被告自治体がそのデザイン図を参考にした設計図を作成して指名競争入札により他の業者に発注した場合に、工事を受注できなかった原告が、デザイン図の著作権を侵害されたこと、および、工事受注の営業上の利益を不当に侵害されたこと等を主張して、損害賠償を請求したが、棄却された事例。
 1a.街路灯を街路に配置した完成予想図(原告デザイン図)が、美的表現を追求し美的鑑賞の対象とする目的で製作されたものでなく、かつ、内容的にも、純粋美術としての性質を是認し得るような思想又は感情の高度の創作的表現まで未だ看取し得るものではないから、美術の著作物に当たるものとは認められないとされた事例。
 1b.街路灯を街路に配置した完成予想図の中の三灯式すずらん型街灯を描いた部分が、産業用デザインの一種であり、著作物性を有しないとされた事例。
 2a.いくつかの間接事実から、被告のデザイン図が原告のデザイン図を元にしてそれを修正する形で作成されたものと推認された事例。(自由心証主義)
 2b.街路灯設置工事の施工業者が公共工事として指名競争入札の方法により選定されるべき場合に、被告が原告に工事を発注することを義務づける特段の事情も、被告が原告に工事業者に選定されるとの合理的な期待を抱かせ、そのための準備行為をさせたような事情もないとして、原告の工事受注についての営業上の利益が法的に保護されるべき利益に該当せず、不法行為は成立しないとされた事例。 /知的財産権/無体財産権/著作権/不法行為/法的保護に値する利益/意匠/工業デザイン/
参照条文: /著作.2条1項1号/著作.2条1項15号/著作.10条/民法:709条/民訴.247条/
全 文 h130123osakaH.html

東京高等裁判所 平成 13年 1月 23日 第6民事部 判決 ( 平成12年(ネ)第4735号 )
事件名:  損害賠償等請求控訴事件
要 旨
 1.カエルをモチーフにした図柄を創作した原告が、被告の「ケロケロケロッピ」の図柄は原告の著作物を複製又は翻案したものであり、その図柄の使用により原告の著作権および著作者人格権を侵害していると主張して、損害賠償を請求し、併せて原告が被告図柄の著作権を有することの確認等を求めたが、原告の図柄のうち独自の創作性を認めることができる部分について被告の図柄の表現が異なり、被告図柄から原告著作物を直接感得することができるとは言えないとして、請求が棄却された事例。
 1a.ある者のある作品が他の者(著作者)の著作物の複製権又は翻案権を侵害しているといい得るためには、後者中の独自の創作性の認められる部分について表現が共通しており、その結果として前者から後者を直接感得することができることが必要である。
 2.カエルを擬人化する場合に顔、目玉、胴体、手足によって構成されることになることは明らかであるとして、原告の作品中の独自の創作の範囲が狭く認定され、原告の著作物の基本的な表現は通常予想されるありふれた表現の範囲に属し、これ自体を保護に値するキャラクターの構成要素とすることはできず、また、原告の独自の創作性が認められる部分については、被告の図柄が原告の図柄と同一のキャラクターの具体化であると見ることができないとされた事例。 /知的財産権/無体財産権/著作権/複製権/翻案権/同一性保持権/
参照条文: /著作.21条/著作.27条/著作.18条/著作.19条/著作.20条/著作2条1項1号/
全 文 h130123tokyoH.html

最高裁判所 平成 12年 12月 20日 第2小法廷 決定 ( 平成10年(あ)第579号 )
事件名:  業務上失火、業務上過失致死傷被告事件
要 旨
 鉄道トンネル内の電力ケーブルの接続工事を施工した業者につきトンネル内での火災発生の予見可能性が認められた事例 /近鉄生駒トンネル/業務上失火/業務上過失致死傷/
参照条文: /刑.211条/刑.117-2条/
全 文 h121220supreme91.html

東京地方裁判所 平成 12年 12月 20日 民事第32部 判決 ( 平成11年(ワ)第24253号 )
事件名:  預金返還請求事件
要 旨
 1.山一情報システムが富士銀行に対して負う債務関し山一證券が破産宣告前に富士銀行に差し入れた念書(「元本・利息・手数料の支払い並びに諸債務の履行を延滞なく行えるよう、当社としても常に経営に対して関心を払い、指導・監督・育成を行う所存であり、貴行にご迷惑をおかけしない様充分配慮致します」との趣旨の念書)について、その文言及び差入れの経緯等からして、保証契約、損害担保契約、指導・監督・育成義務といった法的効力を有するものとは認められないと判断された事例。
 2.預金者(原告)からの預金払戻請求に対し、銀行(被告)が預金の存在を認めた上で、これと相殺するための反対債権として、当初、保証債務履行請求権を主張し、裁判所が3回の口頭弁論期日と2回の弁論準備手続期日を経て、第4回口頭弁論期日において計4名の証人について集中証拠調べを実施し、次回口頭弁論期日にて弁論を終結する予定であることを確認した上で、期日の指定をしたところ、結審予定期日の直前になって、被告が反対債権として不法行為による損害賠償請求権を主張してこれとの相殺の抗弁を提出した場合に、この防御方法の提出が時機に後れたものとして却下された事例。 /経営指導念書/意思表示の解釈/法的拘束力の生ずる合意/適時提出主義/時機に後れた攻撃防御方法の却下/
参照条文: /民法:446条/民事訴訟法:156条;157条/
全 文 h121220tokyoD.html

最高裁判所 平成 12年 12月 19日 第3小法廷 判決 ( 平成10年(行ツ)第164号 )
事件名:  退職手当請求上告事件
要 旨
 禁錮以上の刑に処せられたため失職した地方公務員に対して一般の退職手当を支給しない旨を定めた条例の規定は、公務に対する住民の信頼を確保することを目的とするものであり、憲法13条、14条1項、29条1項に違反しない。 /退職金/法の下の平等/財産権の保障/勤続報償/
参照条文: /憲.13条/憲14条1項/憲.29条1項/憲.15条2項/地公.28条4項/地公.30条/地公.33条/
全 文 h121219supreme.html

最高裁判所 平成 12年 12月 19日 第3小法廷 判決 ( 平成11年(受)第1197号 )
事件名:  建物所有権移転登記等請求上告事件
要 旨
 借地上の建物について不実の所有権保存登記がなされ、登記名義から建物を譲り受けた者により設定された抵当権の実行により建物を買い受けた者に対して、真実の建物所有者が借地権を被保全債権として土地所有者に代位して建物収去土地明渡しを求めた場合に、建物につき民法94条2項等により抵当権者が保護される事情があっても、敷地の賃借権につきそのような事情がないとして、建物買受人の賃借権取得が否定され、建物収去請求等が認容された事例。
 1.土地賃借人がその土地上に所有する建物について抵当権を設定した場合には、原則として、右抵当権の効力は当該土地の賃借権に及び、右建物の買受人と土地賃借人との関係においては、右建物の所有権とともに土地の賃借権も買受人に移転するものと解するのが相当である。(前提の議論)
 1a.しかし、建物について抵当権を設定した者がその敷地の賃借権を有しない場合には、右抵当権の効力が敷地の賃借権に及ぶと解する理由はなく、右建物の買受人は、民法94条2項、110条の法意により建物の所有権を取得することとなるときでも、敷地の賃借権自体についても右の法意により保護されるなどの事情がない限り、建物の所有権とともに敷地の賃借権を取得するものではない。(破棄理由) /建物の従たる権利/
参照条文: /民法:423条/民法:94条2項/民法:110条/民法:87条/
全 文 h121219supreme2.html

最高裁判所 平成 12年 12月 19日 第3小法廷 判決 ( 平成8年(行ツ)第67号 )
事件名:  人骨焼却差止請求上告事件
要 旨
 東京都新宿区の住民が、地方自治法242条の2第1項に基づき、人骨処理費の支出等の差止めを求める住民訴訟を提起した場合に、同項ただし書にいう「回復の困難な損害を生ずるおそれがある場合」に当たらないとして、訴えは却下されるべきであるとされた事例。
 1.地方自治法242条の2第1項ただし書にいう「回復の困難な損害を生ずるおそれがある場合」とは、当該行為によって普通地方公共団体が事後的に回復することが困難な財産的損害を被るおそれがある場合をいう。
 1a.回復の困難な損害を生ずるおそれがないにもかかわらず提起された差止請求訴訟は、法により特に出訴が認められた住民訴訟の類型に該当しない訴えとして、不適法である。
参照条文: /地自.242-2条1項1号/行訴.42条/
全 文 h121219supreme3.html

最高裁判所 平成 12年 12月 15日 第2小法廷 判決 ( 平成12年(あ)第451号 )
事件名:  不動産侵奪、恐喝被告事件(上告事件)
要 旨
 東京都の公園予定地の一部に無権原で簡易建物を建築したことが不動産侵奪罪に当たらないとした原判決が破棄された事例。 /訴因変更/審理不尽/
参照条文: /刑.235-2条/刑訴.312条/
全 文 h121215supreme92.html

最高裁判所 平成 12年 12月 15日 第2小法廷 決定 ( 平成12年(あ)第840号 )
事件名:  不動産侵奪被告事件(上告事件)
要 旨
 使用貸借の目的とされた土地の無断転借人が引渡しを受けた同土地上の簡易施設を改造し本格的店舗を構築したことが不動産侵奪罪に当たるとされた事例。
参照条文: /刑.235-2条/
全 文 h121215supreme91.html

最高裁判所 平成 12年 12月 14日 第1小法廷 決定 ( 平成11年(許)第36号 )
事件名:  文書提出命令申立却下決定に対する抗告審の取消決定に対する許可抗告事件
要 旨
 信用金庫の理事に対する会員代表訴訟において、文書提出命令の申立てを却下した第一審決定を取り消して差し戻す旨の抗告審決定に対して相手方当事者がした許可抗告が、相手方当事者は不服申立ての利益を有しないとの理由により却下された事例。
 1.文書提出命令の申立てについての決定に対しては、文書の提出を命じられた所持者及び申立てを却下された申立人以外の者は、抗告の利益を有せず、本案事件の当事者であっても、即時抗告をすることができない。 /書証/
参照条文: /民訴.223条7項/商.267条/信用金庫.39条/
全 文 h121214supreme2.html

最高裁判所 平成 12年 12月 14日 第1小法廷 決定 ( 平成11年(許)第35号 )
事件名:  文書提出命令申立却下決定に対する抗告審の取消決定に対する許可抗告事件
要 旨
 信用金庫の理事に対する会員代表訴訟において、原告が信用金庫が所持する貸出稟議書・意見書について文書提出命令の申立てをしたが、却下された事例。
 1.信用金庫の貸出稟議書は、信用金庫の会員が代表訴訟において文書提出命令の申立てをした場合であっても、民訴法220条4号ハ(平成13年改正前。現同号ニ)所定の「専ら文書の所持者の利用に供するための文書」に当たり、また、会員代表訴訟を提起した会員は、信用金庫が所持する文書の利用関係において信用金庫と同一視することができる立場に立つものではないから、提出を認めるべき特段の事情があるということはできない。 /書証/
参照条文: /民訴220条4号/民訴.220条3号/商.267条/信用金庫.39条/
全 文 h121214supreme.html

東京高等裁判所 平成 12年 12月 13日 第13民事部 判決 ( 平成12年(ワ)第11157号 )
事件名:  不正競争行為差止等請求控訴事件<高島易断事件>
要 旨
 1.株式会社高島易断総本部が「東京高島易断運命鑑定」又は「高島易断洗心館総本部」の表示を使用する被告に対して、不正競争防止法2条1項1号所定の不正競争行為に該当すると主張して、当該名称使用の差止等を請求したが、棄却された事例。
 1a.「高島易断(高嶋易断)」が易占業者に一般的に多用され、易占業そのもの、ないし易占業の組織、団体を指す一般的な名称にすぎないことを考慮すると、「高島易断」に「総本部」の言葉を付したにすぎない「高島易断総本部」の表示は、識別力が乏しく、原告の周知な商品等表示であるとは認められないとされた事例。
 2.原告(株式会社高島易断総本部)が原告に入会した被告に対して退会後に「高島易断」及び「高島」を含む表示・姓を一切(期限の定めもなく)使用しないことを約束させた誓約が無効とされた事例。
 2a.「高島易断」が易占業ないし易占業の組織、団体を示す一般的な名称であると解されること等の経緯に鑑みれば、前記誓約は、被告が原告の組織で易占ないし易占業を修得しようとする立場に立ったことを契機として、あらかじめ、その組織を離れた後の被告の営業の自由までも不当に奪い、これに対して著しく不合理な内容の義務を負わせることで原告が不当な利益を得ようとするものと認めるほかはないから、その合意は、民法90条の規定により無効というべきである。 /知的財産権/無体財産権/不正競争防止法/自他識別力/競業行為禁止契約/公序良俗違反/
参照条文: /不正競争.2条1項1号/民法:90条/
全 文 h121213tokyoH.html

富山地方裁判所 平成 12年 12月 6日 民事部 判決 ( 平成10年(ワ)第323号 )
事件名:  不正競争行為差止等請求事件<ドメイン名事件>
要 旨
 インターネット上でドメイン名「http://www.jaccs.co.jp」を使用し、かつ、開設するホームページにおいて「JACCS」の表示を用いて営業活動をする被告に対し、「JACCS」という営業表示を有する原告が、被告によるこれらの行為が不正競争行為に当たるとして、その差止めを請求し、認容された事例。(メモ参照)
 1.ドメイン名はその登録者を識別する機能を有する場合があるから、ドメイン名の登録者がその開設するホームページにおいて商品の販売や役務の提供をするときには、ドメイン名が、当該ホームページにおいて表れる商品や役務の出所を識別する機能をも具備する場合があると解するのが相当である。
 1a.ドメイン名の使用が不正競争防止法2条1項1号、2号所定の「商品等表示」の「使用」に当たるか否かは、当該ドメイン名の文字列が有する意味(一般のインターネット利用者が通常そこから読みとるであろう意味)と当該ドメイン名により到達するホームページの表示内容を総合して判断するのが相当である。
 1b.ドメイン名の使用が、商品等表示に当たると判断された事例。
 2.商品等表示としての被告のドメイン名「http://www.jaccs.co.jp」の要部は第三レベルドメイン名である「jaccs」であるから、被告のドメイン名と原告の営業表示「JACCS」とは類似するとされた事例。
 3.被告が原告に本件ドメイン名を登録した旨及び「御社が将来的に損失を被る恐れ有りとお考えの節は、譲渡又はレンタルそのものに応じる形もあろうかと思います」などと記載した書面等を送付したことが、本件ドメイン名の対価として金銭を要求していたものと評価された事例。
 3a.被告が本件ドメイン名の登録後間もなく原告に対しドメイン名に関して金銭を要求していることをも根拠にして、被告が当初から原告から金銭を取得する目的で本件ドメイン名を登録したものと推認された事例。
 4.ドメイン名の登録が先願主義であることをもって、ドメイン名の使用の差止め請求を阻止することはできない。
 4a.被告が本件ドメイン名の登録後間もなく原告に対しドメイン名に関して金銭を要求していた等の事情を考慮して、先願申請の努力をしなかった原告が先願申請者である被告に対してドメイン名使用の差止めを請求することが権利濫用に該当しないと判断された事例。
 4b.原告がドメイン名「jaccscard.co」を登録・使用していることは、被告のドメイン名「http://www.jaccs.co.jp」の使用差止めを求める必要性を失わせるものではないとされた事例。 /知的財産権/無体財産権/不正競争防止法/
参照条文: /不正競争.2条1項1号/不正競争.2条1項2号/不正競争.3条/民法:1条3項/
全 文 h121206toyamaD.html

最高裁判所 平成 12年 11月 27日 第3小法廷 決定 ( 平成9年(あ)第821号 )
事件名:  政治資金規正法違反被告事件(上告事件)
要 旨
 政治資金規正法(平成六年法律第四号による改正前のもの)25条1項が定める同法12条1項の報告書に虚偽の記入をする罪は、その主体が限定されたものではなく、犯人の身分によって構成すべき犯罪ではない。 /身分犯/会計責任者/
参照条文: /政治資金規正.25条1項/政治資金規正.12条1項/刑.65条1項/
全 文 h121127supreme91.html

最高裁判所 平成 12年 11月 20日 第3小法廷 決定 ( 平成11年(あ)第1509号 )
事件名:  公職選挙法違反被告事件(上告事件)
要 旨
 町長選挙に立候補するため町役場を退職した者が在職中世話になったことの謝礼等の趣旨で同町職員らに対しビール券を供与した行為が公職選挙法199条の2第1項、249条の2第3項の罪に当たるとされた事例。
参照条文: /公選.199-2条/公選.249-2条/
全 文 h121120supreme91.html

最高裁判所 平成 12年 11月 14日 第3小法廷 判決 ( 平成11年(受)第1390号 )
事件名:  損害賠償請求上告事件
要 旨
 交通事故により死亡した被害者が軍人恩給としての扶助料及び戦没者等の妻に対する特別給付金を受給していた場合に、被害者が生存していれば受給することができたであろう扶助料等が逸失利益に当たるとして、相続人が加害者に対してその賠償を求めたが、逸失利益とは認められなかった事例。
 1.扶助料は、受給権者自身の生存中その生活を安定させる必要を考慮して支給するものであるから、他人の不法行為により死亡した者が生存していたならば将来受給し得たであろう扶助料は、右不法行為による損害としての逸失利益には当たらない。
参照条文: /民法:709条/
全 文 h121114supreme.html

最高裁判所 平成 12年 11月 14日 第3小法廷 判決 ( 平成11年(受)第257号 )
事件名:  損害賠償請求上告事件
要 旨
 交通事故により死亡した被害者が厚生年金保険法による遺族厚生年金及び市議会議員共済会の共済給付金としての遺族年金を受給していた場合に、被害者が生存していれば受給することができたであろうこれらの年金が逸失利益に当たるとして、相続人が加害者に対してその賠償を求めたが、逸失利益とは認められなかった事例。
 1.遺族厚生年金は、受給権者自身の生存中その生活を安定させる必要を考慮して支給するものであるから、他人の不法行為により死亡した者が生存していたならば将来受給し得たであろう右年金は、右不法行為による損害としての逸失利益には当たらない。
 1a.市議会議員共済会の共済給付金としての遺族年金も、同様である。
参照条文: /民法:709条/
全 文 h121114supreme2.html

最高裁判所 平成 12年 11月 10日 第2小法廷 判決 ( 平成11年(行ツ)第16号 )
事件名:  選挙無効請求上告事件
要 旨: 衆議院議員補欠選挙を無効とする判決を求める訴えが、その後における衆議院の解散により訴えの利益を失ったとして却下された事例。 /訴えの客観的利益/選挙無効請求訴訟/
参照条文: /公選./民訴.2編1章/
全 文 h121110supreme.html

最高裁判所 平成 12年 10月 31日 第2小法廷 決定 ( 平成11年(あ)第400号 )
事件名:  麻薬及び向精神薬取締法違反、関税法違反、業務上横領被告事件(上告事件)
要 旨
 国際捜査共助の要請に基づきアメリカ合衆国において作成された供述書が刑訴法321条1項3号の書面に当たるとされた事例 /証拠能力/
参照条文: /刑訴.321条1項3号/
全 文 h121031supreme91.html

最高裁判所 平成 12年 10月 20日 第2小法廷 判決 ( 平成11年(受)第461号 )
事件名:  株主ゴルフ会員権等確認請求上告事件
要 旨
 1.権利能力のない社団であるゴルフクラブが規約に従い総会の決議によってした構成員の資格要件を定める規約の改正は、特段の事情がない限り、右決議を承諾していない構成員に対しても効力を有する。
 1a.ゴルフクラブの資格要件が、ゴルフ場の設備を充実させるために、ゴルフ場を所有しゴルフクラブに賃貸している会社の株式を2株以上要することから3株以上有することに変更した場合に、資格変更の決議を承諾していない会員に効力を及ぼすことを妨げる特段の事情が認められないとされた事例。 /法人格のない社団/株主会員組織のゴルフクラブ/
参照条文: /民法:/
全 文 h121020supreme2.html

最高裁判所 平成 12年 10月 20日 第2小法廷 判決 ( 平成10年(オ)第920号 )
事件名:  取締役の責任追及請求上告事件
要 旨
 株式会社の取締役が商法265条1項の取引によって会社に損害を被らせた場合、当該取締役は、同法266条1項4号の責任を負う外、右取引を行うにつき故意又は過失により同法254条3項(民法644条)、商法254条ノ3に定める義務に違反したときには、同法266条1項5号の責任をも負う。 /請求権競合/取締役の忠実義務/取締役会社間の取引/自己取引/自己契約/利益相反取引/
参照条文: /商.265条1項/商.266条1項4号/商.254条3項/商.254-3条/民法:644条/
全 文 h121020supreme.html

東京地方裁判所 平成 12年 10月 17日 民事第46部 判決 ( 平成12年(ワ)第16890号 )
事件名:  損害賠償請求事件<カッター装置付きテープホルダー実用新案>
要 旨
 実用新案権の侵害を理由とする損害賠償又は不当利得返還請求の訴えが、内金請求又は一定の台数分の被告製品についての請求という形に細分化して多数回にわたり提起されたが、すべて請求棄却あるいは訴え却下の判決がなされている場合に、それにもかかわらず更に提起された訴えが、金銭債権の数量的一部請求訴訟で敗訴した者が残部請求の訴えを提起することは原則として許されない旨の判例の趣旨に照らしても信義則に反し、また、実質的に同内容の前訴について訴え却下の判決が確定しているにもかかわらず本件訴訟が提起されたことからすれば訴権の濫用に当たるとして、却下された事例。 /訴えの客観的利益/訴えの利益/既判力/一部請求/知的財産権/無体財産権/工業所有権/実用新案権/
参照条文: /民訴.2条/民訴.114条/民訴.2編1章/民訴.114条/
全 文 h121017tokyoD.html

最高裁判所 平成 12年 10月 13日 第2小法廷 決定 ( 平成12年(行フ)第1号 )
事件名:  控訴状却下命令に対する許可抗告事件
要 旨
 開発区域の周辺住民207名が林地開発行為許可処分の取消しを求める訴えを提起したが、訴額の算定方法について裁判所と原告との間で見解の相違が生じ、控訴状に貼付すべき印紙額の不足を理由に控訴状が却下されたことに対する許可抗告事件において、訴えで主張する利益が原告に共通であるとは言えず、各原告の利益を合算の上で手数料額を算定すべきであるとされた事例(単独で提起すれば6150円の控訴費用が一人あたり2567円の手数料負担になった事例)。
 1.多数の者が共同して訴えを提起した場合においても、原則として各原告の主張する利益によって算定される額を合算して訴訟の目的の価額を算定し、費用法別表第一に従って手数料の額を算出することになるが、例外的に、共同原告がその訴えで主張する利益が共通であると認められる場合には合算が不要となり、共同原告が何名であっても全員で一名分の手数料のみを負担すればよい。
 1a.林地開発行為により自己の水利権、人格権、不動産所有権等が害されるおそれがあることを主張して、開発区域周辺の複数の住民が開発許可処分の取消しを求める訴えを提起した場合には、訴えにより主張する利益は全員に共通であるとはいえないから、訴訟の目的の価額は各原告の主張する利益によって算定される額の合算額とすべきである。
参照条文: /民訴.8条/民訴.9条/民訴費用.4条1項/民訴.288条/民訴.137条/
全 文 h121013supreme.html

東京高等裁判所 平成 12年 10月 11日 第13民事部 判決 ( 平成12年(行ケ)第177号 )
事件名:  審決取消請求事件
要 旨
 1.共有に係る商標権について商標登録を無効とする審決がされた場合に、その審決の取消の訴えは、共有者が全員で提起することを要する固有必要的共同訴訟である。
 2.共有者の一部が原告になっていないため審決取消訴訟が不適法とされる場合に、訴訟に加わらなかった者が出訴期間経過後に持分放棄書を特許庁長官に提出し、その登録がなされることにより持分放棄の効力が生じ、その持分が原告となっている共有者に帰属しても、そのことによって取消の訴えが適法となるものではない。 /知的財産権/無体財産権/工業所有権/商標権/訴訟要件/当事者適格/
参照条文: /商標.56条1項/特許.132条2項/民法:255条/特許98条1項1号/行訴.17条/民訴.40条/
全 文 h121011tokyoH55.html

東京地方裁判所 平成 12年 9月 28日 民事第46部 判決 ( 平成11年(ワ)第13459号 )
事件名:  著作権に基づく損害賠償等請求事件<「角川mini文庫」シンボルマーク事件>
要 旨
 グラフィックデザイナーである原告が被告出版社(株式会社角川書店)に対しある書籍の装丁のために使用を許諾していた図画につき、被告が無断でその一部を切り離して複製し、それを許諾外の文庫本シリーズ「角川mini文庫」のシンボルマークとして、文庫の表紙や新聞雑誌広告、電車中吊り広告等に使用したと主張して、複製権侵害・同一性保持権侵害を理由として訴えを提起し、これらの侵害が肯定されて賠償請求が認容された事例。
 1.著作権法114条2項にいう「著作権の行使につき通常受けるべき金銭の額に相当する額」は、商業デザインの場合には、デザイナー個人の技量のみならず当該デザイナーの過去の実績や社会的評価等により大きく異なるので、基本的には、当該著作者の過去における同種の著作物の使用料の額を参酌して算定するのが相当である。
 1a.文庫本のシンボルマークの使用許諾料相当額の賠償額の算定のために、シンボルマークの利用の期間・地域的広がりを考慮して、原告が姫路市主催のイベントのシンボルマーク等の制作及び使用などの対価として525万円の支払を受けたことを考慮すべきであるとされた事例。 /知的財産権/無体財産権/著作権/著作者人格権/
参照条文: /著作.20条/著作.21条/著作.114条2項/著作.115条/
全 文 h120928tokyoD.html

最高裁判所 平成 12年 9月 27日 第2小法廷 決定 ( 平成12年(し)第170号 )
事件名:  勾留取消し請求却下決定に対する異議申立て棄却決定に対する特別抗告事件
要 旨
 勾留の裁判に対する異議申立てを棄却する決定がこれに対する特別抗告も棄却されて確定している場合に、再び同じ論拠に基づいて勾留の違法を主張することはできない。 /決定の拘束力/
参照条文: /刑訴./
全 文 h120927supreme91.html

最高裁判所 平成 12年 9月 25日 第2小法廷 決定 ( 平成10年(あ)第148号 )
事件名:  私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律違反被告事件(上告事件)
要 旨
 指名競争入札等の指名を受けている業者が、従前の受注割合と利益を維持することを主要な目的とし、過去の受注実績を基に算出した比率を基本にして、幹事会社が入札ごとに決定して連絡する受注予定会社、受注予定価格のとおりに受注できるように入札等を行うことを合意することは、独占禁止法2条6項所定の「公共の利益」に反するものであり、同法3条にいう不当な取引制限に当たるとされた事例 /談合/水道メーター/東京都/
参照条文: /独禁.3条/独禁.2条6項/独禁.1条/
全 文 h120925supreme91.html

最高裁判所 平成 12年 9月 22日 第2小法廷 判決 ( 平成9年(オ)第42号 )
事件名:  損害賠償請求上告事件
要 旨
 上背部痛及び心か部痛を訴えている患者について、医師が第一次的に急性膵炎を疑ってそのそのための治療処置したところ、その処置中に患者が発作を起こして死亡した場合に、胸部疾患の既往症を聞き出したり、血圧、脈拍、体温等の測定や心電図検査を行うこともせず、狭心症の疑いを持ちながらニトログリセリンの舌下投与もしていないなど、胸部疾患の可能性のある患者に対する初期治療として行うべき基本的義務を果たしていなかったと評価され、医療水準にかなった医療を受ける機会を奪われたことの精神的苦痛の慰謝料として200万円の支払いが命じられた事例。
 1.疾病のため死亡した患者の診療に当たった医師の医療行為が、その過失により、当時の医療水準にかなったものでなかった場合において、右医療行為と患者の死亡との間の因果関係の存在は証明されないけれども、医療水準にかなった医療が行われていたならば患者がその死亡の時点においてなお生存していた相当程度の可能性の存在が証明されるときは、医師は、患者に対し、不法行為による損害を賠償する責任を負う。 /医療過誤訴訟/
参照条文: /民法:709条/民法:710条/
全 文 h120922supreme.html

最高裁判所 平成 12年 9月 22日 第2小法廷 判決 ( 平成9年(オ)第2197号 )
事件名:  未払賃金請求上告事件
要 旨
 銀行が政府の方針に従い週休2日制を実施するのに伴い平日の所定労働時間を25分間延長するように就業規則を変更したため、これに同意しない労働者が差額賃金の支払いを求めたが、規則変更が労働者に与える実質的不利益は大きくなく、規則変更は、右不利益を原告らに法的に受忍させることもやむを得ない程度の必要性のある合理的内容のものであるとして、請求が棄却された事例。
参照条文: /労基.89条/労基.90条/
全 文 h120922supreme2.html

大阪地方裁判所 平成 12年 9月 14日 第21民事部 判決 ( 平成12年(ワ)第6722号 )
事件名:  不正競争行為差止等請求事件
要 旨
 阪急電鉄株式会社がグループ外の会社である株式会社阪急に対して、不正競争防止法2条1項2号違反を理由に、「株式会社阪急」、「阪急グループ」又は「Hankyu L.T.D」の表示の使用の差止め等を請求し、認容された事例。(調書判決の事例)
参照条文: /不正競争.2条1項2号/不正競争.3条/不正競争.4条/不正競争.5条2項/民訴.254条/
全 文 h120914osakaD.html

名古屋地方裁判所 平成 12年 9月 13日 民事第9部 判決 ( 平成11年(ワ)第3573号 )
事件名:  商号使用禁止等請求事件
要 旨
 調査業を営む原告が、原告を退職して調査業を営む被告に対し、被告が原告在職中に営業上の名称として使用していた「川奈高子」の呼称を営業上の名称として引き続き使用することは、原告の著作権等を侵害するものであるとして、その使用差止め等を求めたが、認められなかった事例。
 1.「川奈高子」は、特定個人の名称を指すものであり、著作物に該当しない。
 2.原告が「営業上の名称権」を根拠に被告による「川奈高子」という名称の使用の差止を求めたが、「営業上の名称権」について、その社会的必要性や許容性についてなんらの主張がないとして、認められなかった事例。
 2a.第三者の営業について一定の行為の差止めを認めた場合には、これにより侵害される利益も多大なものになるおそれがあり、営業の自由に対する重大な制約を課すことになるから、不正競争防止法による差止請求権の付与など、法律上の規定なくしてはこれを認めることができず、物権や人格権、知的所有権と同様に解するためには、それと同様の社会的必要性、許容性が求められるものである。
 3.商法21条が商号選定自由主義の例外として営業主体の名称一般を特別に保護しようとしている趣旨からすれば、当該営業主体が雇用する営業員の名称一般にまで同条の保護を及ぼすべきでない。 /知的財産権/無体財産権/著作権/商号選定自由主義/探偵業/フィクショナル・キャラクター/
参照条文: /商.16条/商.21条/著作.2条1項1号/
全 文 h120913tnagoyaD.html

最高裁判所 平成 12年 9月 12日 第3小法廷 判決 ( 平成9年(オ)第1710号 )
事件名:  時間外手当請求上告事件
要 旨
 銀行が政府の方針に従い週休2日制を実施するのに伴い平日の所定労働時間を10分間ないし60分間延長するように就業規則を変更したため、これに同意しない労働者が差額賃金の支払いを求めたが、規則変更が労働者に与える実質的不利益は大きくなく、社会的に相当な内容であるから、これに同意しなかった労働者に対しても有効であるとして、請求が棄却された事例。
参照条文: /労基.89条/労基.90条/
全 文 h120912supreme.html

東京高等裁判所 平成 12年 9月 11日 第13民事部 決定 ( 平成12年(ラ)第134号 )
事件名:  著作権仮処分命令申立却下決定に対する抗告申立事件
要 旨
 小学校用国語教科書に掲載された著作物の著作権者たる申請人が、教科書に準拠した国語テストを制作、販売する出版社に対し、テストの問題として申請人の著作物を採録していることが複製権侵害に当たるとして、テストの印刷、出版、販売等の差止の仮処分命令を申請し、認容された事例。
 1.著作権法32条1項にいう「引用」とは、一般に、報道、批評、研究その他の目的で、自己の著作物中に、他人の著作物の原則として一部を採録するものであって、引用する著作物の表現形式上、引用する側の著作物と引用される側の著作物とを明瞭に区別して認識することができるとともに、両著作物間に、引用する側の著作物が主であり、引用される側の著作物が従である関係が存する場合をいうものと解すべきであって、このことは、小学校の国語教科書の副教材として作成される国語テストと教科書に収録された著作物とに関しても妥当する。
 1a.小学校用国語教科書に掲載された著作物(児童文学作品)を題材にしたテスト問題からなる副教材について、収録部分の選定、設問部分における問題の設定及び解答の形式の選択、その配列、問題数の選択等に創意工夫があることは認められるものの、その創意工夫も直接には児童に該各著作物の収録部分を読解させることに収斂するものであって、該各著作物の創作性を度外視してはあり得ないこと、および、テストにおける著作物の収録部分とそれ以外の部分との量的な割合等を併せ考慮すると、引用する側の著作物が主であり、引用される側の著作物が従であるという関係が存するものとは認めることができないとされた事例。
 2.著作権法36条1項によって著作権者の許諾を要せずに問題として著作物の複製をすることができる試験又は検定とは、公正な実施のために、試験、検定の問題として利用する著作物が何であるかということ自体を秘密にする必要性があり、その故に、該著作物の複製につき、予め著作権者の許諾を受けることが困難であるような試験、検定をいうものであって、そのような困難性のないものは、同条1項にいう「試験又は検定」に当たらない。
 2a.国語の教科書の掲載された作品を、教科書の副教材として作成される国語テストに採録することが、著作権法36条1項所定の試験又は検定の問題としての複製に当たらないとされた事例。
 3.国語テストが、教師の作成するテストと国語教育上の意義や目的を同じくし、あるいは、著作物の通常の利用に代替したり、これと競合したりするものではないとしても、著作権法上、そのことに故に、著作権者の許諾を要せずして、本件各著作物を本件国語テストに利用できるものではなく、また、テストの作成者が著作権者から利用許諾を得るための真摯な対応をすべきであるにもかかわらず、そのような真摯な対応を経たことを認めるに足りる疎明資料はないから、テストの出版の差止を求めることが権利濫用になるものとは言えないとされた事例。 /知的財産権/無体財産権/著作権/日本ビジュアル著作権協会/曽我陽三/社団法人日本児童文芸家協会/社団法人日本児童文学者協会/社団法人日本図書教材協会/小学校国語教科書著作者の会/小学校国語教科書準拠教材における作品使用についての協定書/
参照条文: /著作.21条/著作.32条1項/著作.36条/民法:1条3項/学校教育.21条2項/
全 文 h120911tokyoH.html

最高裁判所 平成 12年 9月 7日 第1小法廷 判決 ( 平成8年(オ)第1677号 )
事件名:  地位確認等請求、仮執行の原状回復申立上告事件
要 旨
 60歳定年制を採用している銀行が、多数派労働組合の同意を得て、55歳以上の行員の賃金を平均33%以上削減するような就業規則変更を行ったが、これに同意しなかった高年層の行員に対し効力を生じないとされた事例。
 1.過去の法律行為の無効確認訴訟が許されるのは特段の利益が存在する場合に限られ、職務変更辞令及び給与辞令の発令の無効を前提として地位確認請求及び賃金支払請求の訴えが提起されているので、右辞令の発令の無効確認請求訴訟に特段の利益があるとは認められないとされた事例(この請求部分について訴えを却下した原判決をそのまま肯定)。
 2.新たな就業規則の作成又は変更によって労働者の既得の権利を奪い、労働者に不利益な労働条件を一方的に課することは、原則として許されないが、当該就業規則の作成又は変更が、その必要性及び内容の両面からみて、それによって労働者が被ることになる不利益の程度を考慮しても、なお当該労使関係における当該条項の法的規範性を是認することができるだけの合理性を有するものである場合には、個々の労働者において、これに同意しないことを理由として、その適用を拒むことは許されない。
 2a.右の合理性の有無は、具体的には、就業規則の変更によって労働者が被る不利益の程度、使用者側の変更の必要性の内容・程度、変更後の就業規則の内容自体の相当性、代償措置その他関連する他の労働条件の改善状況、労働組合等との交渉の経緯、他の労働組合又は他の従業員の対応、同種事項に関する我が国社会における一般的状況等を総合考慮して判断すべきである。
 2b.中堅層の賃金を改善し高年層の賃金を削減するための就業規則変更が、高年層の行員にのみ賃金コスト抑制の負担を負わせ、その負担の程度が大幅であり、一方的に不利益を受ける労働者について十分な救済措置が設けられておらず、また、経営危機による雇用調整(人件費抑制)が予想される状況になかったことなどを総合的に考慮して、就業規則変更当時に55歳に近づいていた従業員との関係で合理性を欠き、効力を有しないと判断された事例。 /訴えの利益/確認の利益/訴えの客観的利益/賃金体系の是正/
参照条文: /民訴140条/労基.89条/労基.90条/
全 文 h120907supreme.html

最高裁判所 平成 12年 9月 7日 第1小法廷 判決 ( 平成9年(オ)第1077号 )
事件名:  建物明渡請求上告事件<法布院事件>
要 旨
 被包括宗教の代表者が、その包括宗教団体との被包括関係を廃止するために、これに反対する責任役員を包括宗教法人の代表者の承認なしに解任し、賛成派の新役員を選定したのに対し、包括宗教法人が宗規に基づき被包括宗教法人の代表者の基礎となる主管の地位からこの者を罷免して別の者を選任し、新主管により代表された被包括法人が旧代表者に対し所有権に基づき被包括法人の建物からの立ち退きを求めた場合に、右罷免行為が「被包括関係の廃止を企てたことを理由とする不利益取扱いの禁止等を規定する宗教法人法78条1項・2項に違反するものではなく、有効であるとされた事例。
 1.包括宗教団体及び被包括宗教法人の各規則により、被包括関係の内容の一つとして、被包括宗教法人の責任役員の選任等につき包括宗教団体の代表者の承認を受けるべきものとすることは、妨げられるものではなく(宗教法人法12条1項5号、12号)、また、このような場合に、包括宗教団体の代表者がその権限を行使するに当たり、いかなる信仰上の考え等を有する者をもって被包括宗教法人の責任役員にふさわしいものとするかは、当該規則等に特別の定めがあるときなどを除き、包括宗教団体の自治的な決定にゆだねられていると解するのが相当である。 /宗教団体の内部紛争/日蓮正宗/阿部日顕/法布院/創価学会/
参照条文: /宗教法人.12条/宗教法人.78条/
全 文 h120907supreme2.html

最高裁判所 平成 12年 9月 7日 第1小法廷 判決 ( 平成11年(受)第94号 )
事件名:  損害賠償請求上告事件
要 旨
 不法行為により死亡した(殺害された)者が多額債務を負っていた場合に、相続放棄をした配偶者等の加害者に対する扶養利益喪失により受けた損害の賠償請求を認容するにあたって、多額の債務の存在を理由に死亡した被害者の逸失利益の総額を低めに算定しつつも、その算定額の総額をそのまま扶養利益の総額とした原判決が、具体的状況に応じた適正な算定をしていないとして破棄された事例。
 1.不法行為によって死亡した者の配偶者及び子が右死亡者から扶養を受けていた場合に、加害者は右配偶者等の固有の利益である扶養請求権を侵害したものであるから、右配偶者等は、相続放棄をしたときであっても、加害者に対し、扶養利益の喪失による損害賠償を請求することができる。
 2.扶養利益喪失による損害額は、相続により取得すべき死亡者の逸失利益の額と当然に同じ額となるものではなく、個々の事案において、扶養者の生前の収入、そのうち被扶養者の生計の維持に充てるべき部分、被扶養者各人につき扶養利益として認められるべき比率割合、扶養を要する状態が存続する期間などの具体的事情に応じて適正に算定すべきものである。
 2a.扶養利益喪失額の算定にあたって、殺害された扶養義務者の債務負担額が約四八億円にも達していること、子供は特段の事情がない限り扶養義務者の就労可能期間が終了する前に成長して扶養を要する状態が消滅すると考えられることが適切に考慮されていないとされた事例。
参照条文: /民法:709条/
全 文 h120907supreme3.html

最高裁判所 平成 12年 9月 7日 第1小法廷 判決 ( 平成10年(受)第332号 )
事件名:  著作権侵害差止等請求本訴、同反訴上告事件
要 旨
 1.印刷用書体が著作物に該当するためには、それが従来の印刷用書体に比して顕著な特徴を有するといった独創性およびそれ自体が美術鑑賞の対象となり得る美的特性を備えていなければならない。
 1a.係争中の書体が、従来から印刷用の書体として用いられていた種々のゴシック体を基礎とし、それを発展させたものであって、著作物に該当しないとされた事例。 /応用美術/ゴナM/ゴナU/知的財産権/無体財産権/著作権/
参照条文: /著作.2条1項1号/著作.1条2項/
全 文 h120907supreme4.html

最高裁判所 平成 12年 9月 7日 第1小法廷 判決 ( 平成10年(オ)第528号 )
事件名:  受刑者接見妨害国家賠償請求上告事件
要 旨
 受刑者が刑務所において職員から暴行を受けたこと等を主張して国家賠請求訴訟を提起し、その訴訟追行の打ち合わせのために収監先の刑務所において訴訟代理人と接見しようとしたところ、刑務所長が1回の接見時間を30分に制限したり、刑務所職員を立ち会わせるとの条件を付したため、その制限・条件が裁量権の濫用に当たるとして、受刑者及び訴訟代理人が国に対して損害賠償請求の訴えを提起した事例(請求棄却。原告からの上告事件)。
 1.接見時間を30分以内と定めた監獄法施行規則121条本文の規定及び接見には監獄職員の立会いを要する旨を定めた規則127条1項本文の規定は、憲法13条及び32条に違反するものでない。
 2.刑務所において不当な取扱いを受けたことを理由に国家賠償請求の訴えを提起した場合に、刑務所長が受刑者と訴訟代理人たる弁護士との接見について時間・回数を制限し、保安職員の立ち会いを条件としたことは、受刑者の刑務所内での行動を考慮すれば、裁量権の逸脱また濫用したものということはできないとされた事例。 /裁判を受ける権利/
参照条文: /監獄施規.121条/憲.13条/憲.32条/
全 文 h120907supreme5.html

最高裁判所 平成 12年 9月 7日 第1小法廷 判決 ( 平成10年(オ)第529号 )
事件名:  受刑者接見妨害国家賠償請求上告事件
要 旨
 受刑者が刑務所において職員から暴行を受けたこと等を主張して国家賠請求訴訟を提起し、その訴訟追行の打ち合わせのために収監先の刑務所において訴訟代理人と接見しようとしたところ、刑務所長が1回の接見時間を30分に制限したり、刑務所職員を立ち会わせるとの条件を付したため、その制限・条件が裁量権の濫用に当たるとして、受刑者及び訴訟代理人が国に対して損害賠償請求の訴えを提起した事例(請求棄却。被告からの上告事件)。
 1.刑務所における接見時間及び接見度数の制限は、多数の受刑者を収容する刑務所内における施設業務の正常な運営を維持し、受刑者の間における処遇の公平を図り、施設内の規律及び秩序を確保するために必要とされるものであり、また、受刑者との接見に刑務所職員の立会いを要するのは、不法な物品の授受等刑務所の規律及び秩序を害する行為や逃走その他収容目的を阻害する行為を防止するためであるとともに、接見を通じて観察了知される事情を当該受刑者に対する適切な処遇の実施の資料とするところにその目的があるから、具体的場合において処遇上その他の必要から30分を超える接見を認めるかどうか、あるいは教化上その他の必要から立会いを行わないこととするかどうかは、いずれも、当該受刑者の性向、行状等を含めて刑務所内の実情に通暁した刑務所長の裁量的判断にゆだねられているものと解すべきであり、刑務所長が右の裁量権の行使としてした判断は、裁量権の範囲を逸脱し、又はこれを濫用したと認められる場合でない限り、国家賠償法一条一項にいう違法な行為には当たらないと解するのが相当であり、この理は、受刑者が自己の訴訟代理人である弁護士と接見する場合でも異ならないものと解すべきである。
 1a.徳島刑務所の接見業務の運営状況や徳島刑務所の収容人数、収容対象等からすると、受刑者たる原告に30分を超える接見を認めた場合には他の受刑者との間の処遇の公平を害し、他の受刑者から同様の接見を求められたとすると、接見業務に支障が生じ、施設内の規律及び秩序を害するおそれがあったと事情の下で、刑務所長が受刑者と訴訟代理人である弁護士との接見の許可につき刑務所長が1回の接見時間を30分以内に制限したことが適法とされた事例。
 1b.受刑者が刑務所内において職員に暴行を加える等の行動により頻繁に懲罰処分を受けている場合に、訴訟代理人である弁護士との接見の許可につき刑務所長が刑務所職員の立会いを条件としたことが適法とされた事例。
 2.懲罰執行中の受刑者との接見の許可申請がその民事事件の訴訟代理人たる弁護士からなされたが、その理由が形式的・抽象的なものにとどまるため、刑務所長が、接見を許可すべき緊急性、必要性が認められないとして不許可の決定をしてそれを告知した場合に、刑務所の担当者がその後に右弁護士に接見理由を補充する機会を与えなかったことが違法ではないとされた事例。 /裁判を受ける権利/
参照条文: /監獄施規.121条/憲.13条/憲.32条/
全 文 h120907supreme6.html

最高裁判所 平成 12年 9月 6日 大法廷 判決 ( 平成11年(行ツ)第241号 )
事件名:  選挙無効請求上告事件
要 旨
 平成10年7月12日選挙当時における参議院(選挙区選出)議員の定数配分規定の合憲性 /選挙権の平等/地域格差/平等選挙/投票価値の平等/参議院選挙/比例代表/国会の裁量権/二院制/議員定数/
参照条文: /憲.14条1項/憲.44条/
全 文 h120906supreme.html

東京地方裁判所 平成 12年 8月 29日 民事第47部 判決 ( 平成12年(ワ)第4632号 )
事件名:  損害賠償等請求事件
要 旨
 1.カエルをモチーフにした図柄を創作した原告が、被告の「ケロケロケロッピ」の図柄は原告の著作物を複製又は翻案したものであり、その図柄の使用により原告の著作権および著作者人格権を侵害していると主張して、損害賠償を請求し、併せて原告が被告図柄の著作権を有することの確認等を求めたが、両者の図柄の共通点は少なく、全体として受ける印象もかなり異なっていて、両者の同一性を認めることはできず、被告図柄から原告図柄の表現形式上の特徴を直接感得することもできないとして、請求が棄却された事例。 /知的財産権/無体財産権/著作権/複製権/翻案権/同一性保持権/
参照条文: /著作.21条/著作.27条/著作.18条/著作.19条/著作.20条/
全 文 h120829tokyoD.html

名古屋地方裁判所 平成 12年 8月 9日 民事第9部 判決 ( 平成10年(ワ)第4108号 )
事件名:  損害賠償等請求事件<車椅子実用新案等>
要 旨
 アームレストが跳上げ式である車椅子の実用新案権に基づいてなされた類似品の製造販売の差止請求、実施料相当額の損害賠償、ならびに、不正競争防止法に基づく差止請求、損害賠償請求が棄却された事例。
 1.実用新案登録の経過を考慮すれば、車椅子の跳上げ式アームレストの前下端部が水平状態において「係合ボルトによって車椅子本体にロック可能に支持されている」とする構成からは、ボルト以外の棒部材を用いた係止手段が意図的に除外されているとして、前者の方法を用いた原告の実用新案と被告が用いた後者の方法との均等の成立が否定された事例。
 2.原告のアームレストが跳上げ式である車椅子について、被告の類似商品が製造販売された時期において、その商品形態に商品等表示性及び周知性があったとは言えないとして、不正競争行為の成立が否定された事例。 /知的財産権/無体財産権/工業所有権/実用新案権/不正競争防止法/均等論/
参照条文: /実用新案.16条/実用新案.26条/特許.70条/不正競争.2条1項1号/
全 文 h120809nagoyaD.html

大阪高等裁判所 平成 12年 7月 28日 第8民事部 判決 ( 平成11年(ネ)第3237号、平成12年(ネ)第152号、同第229号 )
事件名:  著作権に基づく侵害差止請求控訴事件、同附帯控訴事件<レコード著作権等>
要 旨
 1.レコードジャケット図柄の著作権(複製権)を侵害して複製された図柄を付したレコードジャケットとともにレコードを販売することの差止請求が、第一審では認容されたが、控訴審において、その口頭弁論終結前に被告が当該レコードをすべて廃棄したので当該レコードを販売するおそれはないとして、棄却された事例。(原判決変更理由。他の要旨については、原判決参照) /知的財産権/無体財産権/著作権/著作隣接権/不正競争防止法/
参照条文: /著作.19条/著作.21条/著作.96条/著作.113条1項2号/著作.101条2号/著作.115条/不正競争.2条1項1号/
全 文 h120728osakaH.html

東京地方裁判所 平成 12年 7月 28日 民事第47部 判決 ( 平成11年(ワ)第29143号 )
事件名:  商標権侵害差止等請求事件<商標>
要 旨
 原告の登録商標に類似する商標を使用して被告らがログハウスの建築工事及び別荘地の造成工事を行ったことが原告の商標権の侵害であると主張して、原告が被告らに対してその差止め等と損害賠償を求めた事案において、被告らが当該商標を使用して販売は行ったものの、当該商標を使用して造成工事をしたとは認められず、また、ログハウスの建築は被告ら以外の業者が行ったと認定され、請求が棄却された事例。 /知的財産権/無体財産権/工業所有権/商標権/
参照条文: /商標.36条/商標.38条/商標.27条2項/商標.25条/
全 文 h120728tokyoD.html

東京地方裁判所 平成 12年 7月 28日 民事第47部 判決 ( 平成11年(ワ)第4041号 )
事件名:  商品製造販売禁止等請求事件<商品形態不正競争>
要 旨
 被告が開発し製造する商品を原告が自社ブランドで販売するために、原告・被告間で販売制限条項付OEM契約が締結された場合に、その契約終了後に原告が被告による当該商品の販売の差止と金型の引渡を求めたが、認められなかった事例。
 1.OEM契約の販売制限条項が契約終了後に拘束力を有しないと判断された事例。
 2.原告が販売した商品の形態が出所表示機能を有するに至っていないと判断され、被告による同一形態の商品の販売が不正競争防止法2条1項1号の不正競争行為に当たるとはいえないとされた事例。
 3.OEM契約の受給者が供給者(製造者)に金型調達費用に相当する金額を金型使用料として支払った場合に、契約書の内容等を検討の上、金型の所有権は供給者にあると判断された事例。 /知的財産権/無体財産権/不正競争防止法/
参照条文: /不正競争.2条1項1号/
全 文 h120728tokyoD3.html

東京地方裁判所 平成 12年 7月 28日 民事第47部 判決 ( 平成12年(ワ)第3631号 )
事件名:  商標権移転登録請求事件
要 旨
 債権者から破産申立を受けた債務者の代表者が自己の有する登録商標に関する権利を債権者に移転し、債権者は破産申立を取り下げること等が合意された場合に、商標権移転の意思表示は真意に基づくものであり、心裡留保に当たらないと判断された事例。 /知的財産権/無体財産権/工業所有権/商標権/共済メール/
参照条文: /民法:93条/
全 文 h120728tokyoD2.html

大阪地方裁判所 平成 12年 7月 27日 第21民事部 判決 ( 平成7年(ワ)第2692号 )
事件名:  不正競争差止等請求事件<結露水掻取具意匠等/「結露すくいタメゴロウ」意匠>
要 旨
 原告が企画開発した商品の製造委託先によって同一金型から製造された商品を被告が仕入れて販売した場合に、そのことが原告の意匠権の侵害にあたり、また、不正競争防止法2条1項3号違反に当たるとして、被告商品の販売禁止、商品の破棄、損害賠償が命じられた事例。
 1.不正競争防止法2条1項3号が形態模倣商品の販売行為等を不正競争行為とした趣旨に照らせば、同号所定の不正競争行為につき差止めないし損害賠償を請求することができる者は、模倣対象の商品を自ら開発・商品化して市場に置いた者であり、またこの者に限られる。
 2.被告商品が原告商品の形態模倣商品であることを告知して販売を即時中止するよう警告した内容証明郵便において原告商品の形態は示されていなくても、被告は、原告に連絡を取る等して、原告商品の形態やその製造経緯を調査するのは極めて容易なことであったから、右内容証明郵便の到達以後は、商品形態の模倣を被告が認識しないことについて重過失があるとされた事例。
 3.不正競争行為の被害者に他人の実用新案権を侵害する点があったとしても、それだけでは直ちに当該被害者が不正競争行為者に対して不正競争防止法上の権利を主張する妨げとはならない。(クリーンハンドの原則の不適用)
 4.裁判所が被告に販売単価、販売個数及び販売額を記載した台帳の提出を命じる文書提出命令を発令したのに対し、被告が帳票類の調査結果の報告文書を提出したので、原告訴訟代理人が被告事務所を訪れて裏付調査を行った結果、被告提出文書が売上量を過少に報告した虚偽の事実を記載したものであることが判明した事例。
 4a.被告が文書提出命令に従わなかったが、原告の調査結果から要証事実を推認することができるとして、民訴法224条3項が適用されなかった事例。
 5.意匠法26条は、後願登録意匠が先願登録実用新案に抵触する場合に後願意匠権者が登録意匠の実施をすることができない旨を定めたにすぎず、第三者が後願意匠権者によって創作された登録意匠又はそれに類似する意匠を実施することまで容認しなければならない趣旨ではない。 /知的財産権/無体財産権/工業所有権/意匠権/不正競争防止法/書証/
参照条文: /不正競争.2条1項3号/不正競争.11条1項5号/不正競争.4条/意匠.37条1項/民訴.224条3項/
全 文 h120727osakaD2.html

最高裁判所 平成 12年 7月 26日 第3小法廷 決定 ( 平成12年(許)第1号 )
事件名:  免責決定に対する抗告却下決定に対する許可抗告事件
要 旨
 免責決定につき公告がされた場合の即時抗告期間は、その送達を受けた破産債権者についても公告のあった日から起算して2週間である。 /破産免責/
参照条文: /破産.111条/破産.112条/破産.117条/破産.366-20条/破産.366-7条/
全 文 h120726supreme.html

東京地方裁判所 平成 12年 7月 26日 民事第29部 判決 ( 平成11年(ワ)第24280号 )
事件名:  不当利得請求事件<テレホンカード実用新案>
要 旨
 テレホンカードの実用新案権者が、NTTのテレホンカードが原告の実用新案権の技術的範囲に属すると主張して不当利得の返還を請求したが、棄却された事例。
 1.テレホンカードの表裏の確認並びに差込み方向の指示のために「カード本体の一部に形成された押形部から成り、該押形部は、カード枠体を押圧して形成されたへこみ部から成ることを特徴とする」原告の実用新案につき、カードの一端面の一部を打ち抜いて半月状に切除して「切欠部」を形成した被告製品は、文言上、その技術的範囲に属せず、このことは出願過程を考慮すればいっそう明らかであるとされた事例。
 2.原出願に係る当初明細書が分割出願前に補正され出願公告されている場合には、分割出願に係る考案は、原出願に係る当初明細書及び補正後の公告明細書の双方に記載されている考案であることを要し、原出願に係る当初明細書及び図面から出願人が補正によって意識的に一部を削除した場合には、分割出願に当たって、既に削除した事項に含まれる考案を拡張することは許されず、分割出願に係る「実用新案登録請求の範囲」の確定に当たっても、右の趣旨に沿った解釈をすべきである。 /知的財産権/無体財産権/工業所有権/実用新案権/
参照条文: /実用新案.16条/実用新案.26条/特許.70条/
全 文 h120726tokyoD.html

東京地方裁判所 平成 12年 7月 26日 民事第29部 判決 ( 平成11年(ワ)第26929号 )
事件名:  不当利得請求事件<テレホンカード実用新案>
要 旨
 テレホンカードの実用新案権者(共有持分権)が、NTTの販売するテレホンカードが原告の実用新案権の技術的範囲に属すると主張して、NTTならびにカード製造業者に対して不当利得の返還を請求したが、棄却された事例。
 1.テレホンカードの表裏の確認並びに差込み方向の指示のために「カード本体の一部に形成された押形部から成り、該押形部は、カード枠体を押圧して形成されたへこみ部から成ることを特徴とする」原告の実用新案につき、カードの一端面の一部を打ち抜いて半月状に切除して「切欠部」を形成した被告製品は、文言上、その技術的範囲に属せず、このことは出願過程を考慮すればいっそう明らかであるとされた事例。 /知的財産権/無体財産権/工業所有権/実用新案権/
参照条文: /実用新案.16条/実用新案.26条/特許.70条/
全 文 h120726tokyoD2.html

最高裁判所 平成 12年 7月 18日 第3小法廷 判決 ( 平成10年(行ツ)第43号 )
事件名:  原爆被爆者医療給付認定申請却下処分取消請求上告事件
要 旨
 1.原子爆弾被爆者の医療等に関する法律7条1項の規定する放射線起因性についての証明があったとされた事例。
 1a.行政処分の要件として因果関係の存在が必要とされる場合に、その拒否処分の取消訴訟において被処分者がすべき因果関係の立証の程度は、特別の定めがない限り、通常の民事訴訟における場合と異なるものではなく、訴訟上の因果関係の立証は、一点の疑義も許されない自然科学的証明ではないが、経験則に照らして全証拠を総合検討し、特定の事実が特定の結果発生を招来した関係を是認し得る高度の蓋然性を証明することであり、その判定は、通常人が疑いを差し挟まない程度に真実性の確信を持ち得るものであることを必要とする。
 1b.原子爆弾被爆者の医療等に関する法律法7条1項は、放射線と負傷又は疾病ないしは治ゆ能力低下との間に通常の因果関係があることを要件として定めたものと解すべきであり、このことは、法や特措法の根底に国家補償法的配慮があるとしても、異なるものではなく、「相当程度の蓋然性」の証明で足りるとすることはできない。
 1c.しきい値理論とDS86とを機械的に適用する限り、原告の現症状は放射線の影響によるものではないということになる場合であっても、物理的打撃のみでは説明しきれないほどの原告の脳損傷の拡大の事実や原告に生じた脱毛の事実などを基に考えると、原告の脳損傷は、直接的には原子爆弾の爆風によって飛来したかわらの打撃により生じたものではあるが、原子爆弾の放射線を相当程度浴びたために重篤化し、又は右放射線により治ゆ能力が低下したために重篤化した結果、現に医療を要する状態にある、すなわち放射線起因性があるとの認定を導くことも可能であるとして、放射線起因性を肯定した原判決が上告審により支持された事例。 /原爆/証明度/
参照条文: /原子爆弾被爆者の医療等に関する法律:7条1項;8条1項/民事訴訟法:247条/
全 文 h120718supreme.html

東京地方裁判所 平成 12年 7月 18日 民事第46部 判決 ( 平成11年(ワ)第29128号 )
事件名:  不正競争行為差止請求事件<商品表示不正競争>
要 旨
 フランスの著名な婦人用下着メーカーから輸入代理店契約を解除された原告が、新たに輸入代理店となった被告に対して、不正競争行為あるいは不法行為を理由に、原告が取り扱っていた下着の輸入・販売の差止を請求したが、棄却された事例。
 1.輸入代理店契約を解除された輸入代理店が、これまで輸入販売していた商品に付されていた輸出元メーカーの標章は自己の商品等表示であると主張したが、認められなかった事例。
 2.不法行為(債権侵害)を理由とする差止請求が棄却された事例。 /知的財産権/無体財産権/不正競争防止法/リズシャメル社/
参照条文: /民法:709条/不正競争.2条1項2号/不正競争.3条1項/
全 文 h120718tokyoD4.html

最高裁判所 平成 12年 7月 17日 第1小法廷 判決 ( 平成7年(行ツ)第156号 )
事件名:  休業補償不支給決定取消請求上告事件
要 旨
 1.支店長付きの運転手として自動車運転の業務に従事していた者が走行中くも膜下出血を発症したことにつき、業務起因性が認められた事例。
 1a.労働者がくも膜下出血の発症の基礎となり得る疾患(脳動脈りゅう)を有していた蓋然性が高いが、労働者が発症前に従事した業務による過重な精神的、身体的負荷が上告人の右基礎疾患をその自然の経過を超えて増悪させ、右発症に至ったものとみるのが相当であって、その間に相当因果関係の存在を肯定することができるととされた事例。 /労働災害/労災補償/休業補償/労災保険/過労/
参照条文: /労基施行規則.35条/労災保険.14条/労災保険.12-8条/
全 文 h120717supreme.html

最高裁判所 平成 12年 7月 17日 第2小法廷 決定 ( 平成8年(あ)第831号 )
事件名:  わいせつ誘拐、殺人、死体遺棄被告上告事件
要 旨
 1.MCT118DNA型鑑定は、その科学的原理が理論的正確性を有すると認められる。
 1a.MCT118DNA型鑑定の具体的な実施方法がその技術を習得した者により科学的に信頼される方法で行われたと認められ、これを証拠として用いたことが許されるとされた事例。
参照条文: /刑訴.165条/
全 文 h120717supreme91.html

最高裁判所 平成 12年 7月 14日 第2小法廷 決定 ( 平成12年(オ)第547号 )
事件名:  損害賠償請求上告事件
要 旨
 1.上告状及び上告理由書提出期間内に提出された書面のいずれにも民訴法312条1項及び2項に規定する事由の記載がないときは、原裁判所は、補正命令を発すべきではなく、直ちに決定で上告を却下すべきである。
 2.民訴317条1項により、上告裁判所が決定で上告を却下した事例。
参照条文: /民訴.312条/民訴.315条/民訴.316条/民訴規.190条/民訴規.194条/民訴規.196条/
全 文 h120714supreme.html

東京地方裁判所 平成 12年 7月 14日 民事第47部 判決 ( 平成8年(ワ)第23184号、平成10年(ワ)第7031号 )
事件名:  実用新案権侵害差止請求事件(甲事件)、差止請求権不存在確認等請求事件(乙事件)<熱転写プリンタ実用新案>
要 旨
 1.熱転写プリンターに関する実用新案につき、当該考案が出願前に出願者自身によりOEM製品の中で公然実施されていたと認定され、実用新案に無効理由があるとされた事例。
 1a.実用新案の無効審決が確定する以前であっても、実用新案権侵害訴訟を審理する裁判所は、実用新案に無効理由が存在することが明らかであるか否かについて判断することができ、審理の結果、当該実用新案に無効理由が存在することが明らかであるときは、その実用新案権に基づく差止め、損害賠償等の請求は、特段の事情がない限り、権利の濫用に当たり許されない。
 2.原告が口頭弁論再開を申し立てたが、裁判所が再開を命ぜずに、その理由を判決理由中に示した事例。
 3.実用新案権者である原告が、完成品の製造販売業者である被告に対して、被告が原告の実用新案権を侵害する部品を使用したことにより実用新案権を侵害したと主張して、損害賠償請求等の訴えを提起した場合に、部品の供給者が部品納入先である被告に補助参加した事例。
 3a.被参加人に対する相手方の本訴請求と、その訴訟係属中に提起された補助参加人の相手方に対する別訴請求とが併合審理された事例。 /知的財産権/無体財産権/工業所有権/実用新案権/
参照条文: /民訴.153条/実用新案.3条1項2号/実用新案.16条/民法:1条3項/
全 文 h120714tokyoD.html

最高裁判所 平成 12年 7月 12日 第2小法廷 決定 ( 平成11年(あ)第96号 )
事件名:  詐欺被告事件(上告事件)
要 旨
 被告人から詐欺の被害を受けたと考えた者が、被告人の説明内容に不審を抱き、後日の証拠とするため、被告人との会話を録音した場合に、たとえそれが相手方の同意を得ないで行われたものであっても違法ではなく、録音テープの証拠能力を争うことはできないとされた事例。 /無断録音テープ/違法収集証拠/
参照条文: /刑訴.317条/
全 文 h120712supreme91.html

東京高等裁判所 平成 12年 7月 12日 第13民事部 判決 ( 平成11年(ネ)第5907号 )
事件名:  不正競争行為差止等請求控訴事件
要 旨
 1.街路灯設置に関する受注競争に破れた原告会社が、競争に勝った被告会社に対して、原告の退職従業員が競業避止義務に違反して被告会社の従業員として営業活動を行った等の違法行為があったとして損害賠償請求したが、認められなかった事例。
 2.退職従業員が従前の職場において築いた人間関係を新たな職場において利用して営業を行うことは、これが営業秘密の不正利用、競業避止義務違反等により違法とされない限り、原則として自由にこれを行うことができる。(違法性が認められなかった事例)。
 3.商店会等に対する街路灯の営業は、成約までに長期間を要し、契約を取るためには、その間に営業担当の従業員が商店会等の役員等をたびたび訪問して、その信頼を得ることが重要であること、そのため、この種の営業においては、長期間経費をかけて営業してはじめて利益を得ることができることが認められる場合に、営業に従事する従業員に、在職中に訪問した得意先に退職後6ヶ月に限定して競業避止義務を課した雇用契約中の約定が有効とされた事例。
 3a.原告会社から被告会社に転職した従業員について競業避止義務違反の事実が認められたが、原告会社ではなく被告会社が受注したこととの間に因果関係があるとは認められないとされた事例。 /知的財産権/無体財産権/不正競争防止法/
参照条文: /民法:399条/民法:709条/不正競争.4条/不正競争.2条1項13号/
全 文 h120712tokyoH.html

最高裁判所 平成 12年 7月 11日 第3小法廷 判決 ( 平成11年(受)第385号 )
事件名:  土地建物共有物分割等請求上告事件
要 旨
 1.受贈者又は受遺者は、遺留分減殺の目的とされた贈与又は遺贈に係る各個の財産について、民法1041条1項に基づく価額弁償をして、その返還義務を免れることができる。
 2.いわゆる単位株制度の適用のある株式につき新たに単位未満株式を生じさせる現物分割はできない。
参照条文: /民法:1041条1項/
全 文 h120711supreme.html

最高裁判所 平成 12年 7月 11日 第3小法廷 判決 ( 平成10年(行ヒ)第85号 )
事件名:  審決取消請求上告事件
要 旨
 1.商標法4条1項15号にいう「他人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるおそれがある商標」は、いわゆる広義の混同を生ずるおそれ(親子会社や系列会社等の緊密な営業上の関係又は同一の表示による商品化事業を営むグループに属する関係にある営業主の業務に係る商品等であると誤信されるおそれ)がある商標をも包含する。
 1a.「化粧用具、身飾品、頭飾品、かばん類、袋物」を指定商品とする「レールデュタン」の商標が、香水に関する著名商標である「レール・デュ・タン」との関係で、広義の混同を生ずるおそれがあると判断された事例。 /知的財産権/無体財産権/工業所有権/商標権/ただ乗り/フリーライド/希釈化/ダイリューション/ペットマーク/
参照条文: /商標.4条1項15号/
全 文 h120711supreme51.html

最高裁判所 平成 12年 7月 7日 第2小法廷 判決 ( 平成8年(オ)第270号 )
事件名:  取締役損失補填責任追及及び共同訴訟参加上告事件
要 旨
 1.証券会社の代表取締役が独占禁止法19条に違反して損失補てんを決定し、実施した行為は商法266条にいう法令に違反する行為に当たるが、故意・過失がなかったとして、賠償請求が棄却された事例(株主代表訴訟)。
 2.法令違反行為をした取締役に会社の受けた損害の賠償責任を負わせる商法266条にいう「法令」には、取締役を名宛人とし、取締役の受任者としての義務を一般的に定める商法254条3項(民法644条)、商法254条ノ3の規定及びこれを具体化する形で取締役がその職務遂行に際して遵守すべき義務を個別的に定める規定のみならず、さらに、商法その他の法令中の、会社を名宛人とし、会社がその業務を行うに際して遵守すべきすべての規定もこれに含まれる。(補足意見あり)
 2a.事業者に対して不公正な取引方法を用いることを禁止する独占禁止法19条の規定は、事業者たる会社がその業務を行うに際して遵守すべき規定であり、商法266条にいう法令に含まれる。(破棄理由)
 3.株式会社の取締役が、法令又は定款に違反する行為をしたとして、商法266条に該当することを理由に損害賠償責任を負うには、右違反行為につき取締役に故意又は過失があることを要する。
 3a.野村證券の代表取締役が東京放送を委託者とする営業特金について損失補填を決定・実施した平成2年3月の時点においては、その行為が独占禁止法に違反するとの認識を有するに至らなかったことにはやむを得ない事情があったというべきであって、右認識を欠いたことにつき過失があったとすることもできないとされた事例。
 4.複数の株主の追行する株主代表訴訟は、いわゆる類似必要的共同訴訟である。
 4a.株主代表訴訟おいて、共同訴訟人の一部の者が上訴すればそれによって原判決の確定が妨げられ、当該訴訟は全体として上訴審に移審し、上訴審の判決の効力は上訴をしなかった共同訴訟人にも及ぶが、自ら上訴をしなかった共同訴訟人を上訴人の地位に就かせる効力までが民訴法40条1項によって生ずると解するのは相当でなく、自ら上訴をしなかった共同訴訟人たる株主は上訴人にはならないものと解すべきである。
参照条文: /商.266条/独禁.19条/民訴.40条1項/
全 文 h120707supreme.html

東京高等裁判所 平成 12年 7月 4日 第18民事部 判決 ( 平成12年(ネ)第2615号 )
事件名:  損害賠償請求控訴事件<カッター装置付きテープホルダー実用新案>
要 旨
 1.「一部請求の名の下に、ことごとく敗訴の判決を受けた各訴えと実質的には同一の訴えを蒸し返すものであり、民事訴訟において要請される信義則に反するものであって、訴権の濫用に当たり、不適法であって許されない」とした原審の判断が支持された事例。
 2.被告が原告からの当事者照会に応じないから民事訴訟法159条1項が適用されるべきであると原告が主張した場合に、訴えが不適法であってその不備を補正することができず、口頭弁論を経る必要がないと判断される本件においては、同項の適用の余地はないとされた事例。
参照条文: /民訴.297条/民訴.140条/民訴.302条1項/民訴.2条/民訴.159条1項/民訴.163条/
全 文 h120704tokyoH.html

京都地方裁判所 平成 12年 6月 29日 第2民事部 判決 ( 平成11年(ワ)第58号 )
事件名:  意匠権侵害行為差止等請求事件<招き猫意匠>
要 旨
 1.原告の意匠登録された招き猫に被告物件が類似しているとして、意匠権侵害が認められた事例。
 2.招き猫の意匠の類比の判断基準
 
 まねき猫は、その置物としての性格上、正面からの全体的観察により、看者のもっとも注意を惹く構成態様である要部が類似しているときは、視覚を通じての美観を同じくするといえるから、類似しているというべきである。
 2a.原告の招き猫の意匠の要部が、既存の意匠を考慮して、大きく口を開けて笑っている表情にあるとされた事例。
 3.侵害行為により得た利益から控除されるべき費用の範囲
 
 意匠法39条2項により侵害品の販売により侵害者が得た利益の額を権利者の受けた損害として算定するにあたっては、権利者の側においては初期投資を終了しており、権利の実施品の販売をすることにより販売費、一般管理費が増える状況にないとしても、侵害者の側では、侵害製品を製造販売して利益を得るために販売費、一般管理費などを現実に支出するのであるから、これを控除すべきである。
 3a.侵害により得た利益がないため、販売価格の3%の金額が実施料相当額の損害であるとされた事例。 /知的財産権/無体財産権/工業所有権/意匠権/
参照条文: /意匠.37条/意匠.39条2項/意匠.39条3項/意匠.23条/
全 文 h120629kyotoD.html

最高裁判所 平成 12年 6月 27日 第1小法廷 決定 ( 平成12年(し)第94号 )
事件名:  勾留の裁判に対する異議申立て棄却決定に対する特別抗告事件
要 旨
 1.第一審裁判所が犯罪の証明がないことを理由として無罪の判決を言い渡した場合であっても、控訴審裁判所は、記録等の調査により、右無罪判決の理由の検討を経た上でもなお罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由があると認めるときは、勾留の理由があり、かつ、控訴審における適正、迅速な審理のためにも勾留の必要性があると認める限り、その審理の段階を問わず、被告人を勾留することができ、新たな証拠の取調べを待たなければならないものではない。
 1a.裁判所は、勾留の理由と必要性の有無の判断において、被告人に対し出入国管理及び難民認定法に基づく退去強制の手続が執られていることを考慮することができる。
 (反対意見あり)
参照条文: /刑訴.60条/刑訴.345条/
全 文 h120627supreme91.html

最高裁判所 平成 12年 6月 27日 第1小法廷 決定 ( 平成11年(あ)第1298号 )
事件名:  窃盗被告事件(上告事件)
要 旨
 第一審で執行猶予付き懲役刑の判決の言渡しを受けた住居不定の被告人に対する上告趣意書差出最終日通知書等の付郵便送達が有効とされた事例
参照条文: /刑訴規.62条1項/刑訴規.63条1項/
全 文 h120627supreme92.html

最高裁判所 平成 12年 6月 27日 第3小法廷 判決 ( 平成10年(受)第128号 )
事件名:  動産引渡請求本訴、代金返還請求反訴上告事件
要 旨
 1.占有者が民法194条に基づき所有者に対し代価弁償があるまで盗品等の引渡しを拒むことができる場合には、占有者は、右弁償の提供があるまで盗品等の使用収益権限を有し、民法189条2項等に基づく使用利益の返還義務を負うことはない。
 2.所有者から盗品の返還請求を受けた占有者が、所有者が189条2項等により訴状送達後の使用利益の返還も併せて請求するため、返還額の増大を恐れて任意に返還した場合につき、占有者は代価弁償請求権をなお有するとされた事例。(判例変更)
 2a.上記の2の代価弁償債務は期限の定めのない債務であり、盗品の返還の時に履行請求がなされたと解するのが相当であり、占有者は盗品の返還の翌日からの遅延損害金を所有者に請求できるとされた事例。
参照条文: /民法:194条/民法:193条/民法:412条3項/民法:189条2項/民法:190条1項/
全 文 h120627supreme.html

大阪地方裁判所 平成 12年 6月 6日 第21民事部 判決 ( 平成11年(ワ)第2377号 )
事件名:  損害賠償請求事件
要 旨
 街路灯工事業者たる原告が地元住民の要望を受けて街路灯のデザイン図を作成したが、被告自治体がそのデザイン図を参考にした設計図を作成して指名競争入札により他の業者に発注した場合に、工事を受注できなかった原告が、デザイン図の著作権を侵害されたこと、および、工事受注の営業上の利益を不当に侵害されたこと等を主張して、損害賠償を請求したが、棄却された事例。
 1.街路灯を街路に配置した完成予想図(原告デザイン図)が構図や色彩等の絵画的な表現形式の点において「思想又は感情を創作的に表現したもの」と評価することができ、美術の著作物に当たるものと認められる場合に、街路灯についての技術的な設計図は右デザイン図の絵画的な表現形式の創作性を有形的に再製したものとは認められないから、被告による設計図の作成が原告デザイン図の複製権又は翻案権を侵害するものとはいえないとされた事例。
 2.実用に供する物品に応用することを目的とする美術(いわゆる応用美術)も、実用品の産業上の利用を離れて、独立に美的鑑賞の対象となり得るものについては、美術の著作物として、著作権の保護を与えるのが相当であるが、そのためには、少なくとも、実用目的のために美の表現において実質的制約を受けたものであってはならない。
 2a.原告のデザイン図に描かれた街路灯のレトロなデザインが、産業上の利用を離れて、独立に美的鑑賞の対象となり得るためには、他の同種の街路灯のデザインとは、その美的表象の点で、隔絶しているといえる程度に質的に異なるものでなければならない。
 2b.原告のデザイン図に描かれた街路灯のデザインが、実用品の産業上の利用を離れて独立に美的鑑賞の対象となり得るものとはいえず、著作物であるとはいえないとされた事例。 /知的財産権/無体財産権/著作権/不法行為/法的保護に値する利益/意匠/工業デザイン/
参照条文: /著作.2条1項1号/著作.2条1項15号/著作.10条/民法:709条/
全 文 h120606osakaD.html

最高裁判所 平成 12年 5月 30日 第3小法廷 判決 ( 平成10年(オ)第994号 )
事件名:  土地所有権移転登記請求上告事件
要 旨
 共同相続登記を経由した不動産につき受遺者から共同相続人の一人が遺留分減殺を原因として所有権を取得したときに、右共同相続登記を同人への所有権移転登記に更正することはできない。
参照条文: /民法:1042条/民法:1028条/民法:964条/民法:1012条/不登.66条/
全 文 h120530supreme.html

東京高等裁判所 平成 12年 5月 30日 第6民事部 判決 ( 平成12年(ネ)第464号 )
事件名:  著作権侵害確認請求控訴事件<漫画著作権>
要 旨
 1.著作権侵害行為確認の訴えが、確認対象の特定されていないことを理由に却下を免れないとされた事例。
 2.被告イラストのキャラクターが原告漫画のキャラクターに類似しているとは認められないとされた事例。 /知的財産権/無体財産権/著作権/訴訟物の特定/請求の特定/訴訟要件/
参照条文: /著作.21条/著作.27条/民訴.133条/民訴.140条/
全 文 h120530tokyoH.html

広島高等裁判所 平成 12年 5月 25日 岡山支部 第2部 判決 ( 平成11年(ネ)第119号 )
事件名:  損害賠償請求・控訴事件
要 旨
 弁護士会の照会に応じて、銀行(被告)の行員が、顧客(原告)の同意を得ずに、その預金口座の(1)預金取引明細書の写し及び(2)照会書に記載されていないが照会申出弁護士から要請のあった預金入金票、払戻請求書の写しを弁護士会に送付した場合に、銀行員の行為に違法性は認められないとして((2)については、たとえ違法性があるとしても過失の責めを問うのは相当でないとして)、原告の損害賠償請求が棄却された事例。
 1.預金者は、預金取引に関する情報について、いわゆるプライバシーとして、これをみだりに公開されないという法律上の保護に値する利益を有するのであり,特に預金者と契約を締結し、預金を管理している銀行の従業員は、業務上知り得た預金取引に関する情報について、法律上の守秘義務を負っている。
 1a. 預金取引についての情報も完全に秘匿されるべきものではなく、これに優越する利益が認められる場合には、必要な範囲内で公開されることは許され、銀行の従業員の守秘義務も免除される。(前科等の情報との差異を指摘している)
 2.弁護士法23条の2の照会制度は、基本的人権の擁護、社会正義の実現という弁護士の使命の公共性を基礎とし、捜査機関に関する刑訴法197条2項にならって設けられたものであるから、相手方には報告義務がある。
 2a. 照会制度の公共的性格に照らすと、照会の相手方が銀行であり、照会事項が預金取引に関するものであっても、照会制度の目的に即した必要性と合理性が認められる限り、相手方である銀行はその報告をすべきであり、また、当該報告したことについて不法行為の責めを負うことを免れる。
 2b.弁護士会から銀行の支店に送付された照会書に、受任事件(別件訴訟)が具体的に記載され、「申出の理由」の欄には「貴行福山東支店に平成3年
 月頃開設された被告丙川事務所長であった甲野太郎名義の預金口座の資金の動きと、訴外破産者高和プラント株式会社の資金の動きの相関関係から、被告が破産会社を支配していた事実を立証する。(貴行支店に同口座が存在することについては破産会社側資料により確認済みであり、貴行にご迷惑がかかることはいたしませんのでご協力お願いいたします)」と具体的な記載があり、照会に係る預金口座が開設されたことが銀行側の資料とも一致していた場合に、行員が照会書の記載内容を考慮して、照会に必要性、合理性があると判断したのは相当であって、これに基づき照会に係る預金者(本件原告)の預金について報告したことには違法性が認められないとされた事例。
 2c.照会事項が特定の口座の「預金元帳」の写しの送付である場合に、銀行では「預金元帳」に相当する「取引明細表」を使用しているために、行員が「元帳」の意味について確認するため、照会申出弁護士に電話し、同弁護士から、取引明細表の写しに伝票(普通預金入金票1枚、払戻請求書2枚)の写しを付して送付するよう要請されたため、伝票の写しも送付した点についても、違法ということができないし、仮に違法であるとしても、過失の責めを問うのは相当でないとされた事例。 /弁護士照会/弁護士会照会/23条照会/
参照条文: /民法:709条/弁護士法:23条の2/
全 文 h120525hiroshimaH.html

東京高等裁判所 平成 12年 5月 23日 第6民事部 判決 ( 平成11年(ネ)第5631号 )
事件名:  著作物発行差止等請求控訴事件<手紙著作権>
要 旨
 1.手紙(私信)について著作物性が認められた事例。
 1a.著作権法は、著作物を「思想又は感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものをいう。」と定義し、特に「手紙」を除外していないから、右の定義に該当する限り、手紙であっても、著作物である。
 2.私信の名宛人が私信の著作者の死亡後に当該私信を利用した小説を執筆し、その相続人の意思に反してその小説が出版された場合に、執筆者と出版社の行為が複製権を侵害する行為及び著作者の死亡後の人格的利益を保護する著作権法60条に違反する行為にあたるとされた事例。
 2a.著作権等を侵害した被告が、行為当時に手紙の著作物性を肯定する文献がほとんどなく、確実な見解を持つことができなかったと主張して過失を争うので、裁判所が、昭和50年ころには既に交際相手にあてた私信という程度の手紙も著作物であることが一般向け週刊誌にも「法解釈上の通説」として説明されていたことを証拠により認定し、さらに、補足資料として裁判所の部の書棚の図書を列挙した事例。
 2b.著作権法113条1項2号は、著作権侵害行為、著作者人格権侵害の行為や著作権法60条の規定に違反する行為によって作成された物がいったん流通過程に置かれた後に、それを更に転売・貸与する者を全部権利侵害とすることには問題があるために、その場合に限って「情を知って」との要件を付加しているものと解すべきであり、他人の著作物を自己の書籍に掲載して出版した当の本人の頒布行為は、同法113条1項2号にいう「頒布」の問題として扱われるべき事柄ではない。
 2c.著作権法に基づく頒布差止請求が権利濫用あるいは信義則違反にあたるとの主張が認められなかった事例。
 2d.著作権法に基づく頒布差止請求を認容することが憲法21条に違反しないと判断された事例。
 3.著作者(三島由紀夫)が死亡した後における著作者の人格的利益の保護のために、名誉回復措置としての謝罪広告を侵害者に命ずることが肯定された事例。 /知的財産権/無体財産権/著作権/
参照条文: /著作.60条/著作.18条/著作.116条1項/著作.115条/著作.21条/著作.114条/著作.112条/著作.113条1項2号/民法:1条2項/民法:1条3項/憲.21条/民訴.179条/
全 文 h120523tokyoH.html

東京地方裁判所 平成 12年 5月 16日 民事第46部 判決 ( 平成10年(ワ)第17018号 )
事件名:  著作隣接権侵害差止等請求事件<レコード製作者複製権/スターデジオ100事件>
要 旨
 1.放送事業者が、音楽レコードから得られた音源を編成した音楽番組を受信契約者に向けてデジタル放送により反復提供するために、その音源を放送のための一時的固定としてサーバーに蓄積している場合に、その蓄積行為がレコード会社の有する著作隣接権(複製権)を侵害するものとはいえないとされた事例。
 1a.音楽をジャンル分けした上で多数のチャンネルにおいて同一の曲目のセットを多数回繰り返し公衆に送信することが、その実態においてリクエスト送信(聴取者からの個別のリクエストに応じて楽曲を個別に配信すること)と異ならないとしても、そのことは、各チャンネルごとに同一の内容の送信が行われ、それが公衆によって同時に受信されているという送受信の態様に影響を及ぼすものではなく、当該送信が放送であることを左右するものではない。
 1b.「放送」との関係でレコード製作者の複製権を制限する規定を設けられた理由が{1}公共性と同報性とを強く有すること、{2}番組編成の一部としてレコードを利用するにすぎないこと、{3}アナログ放送であり、レコード購入に代替する音質のものを提供するものではないこと、{4}放送により消費者の需要を喚起しレコード購入を促進する側面を持つことなどの事情があることに照らし、レコード製作者と放送事業者との関係の合理的調整の観点から、右のような制限を認めることが妥当であるとの価値判断にあるとしても、著作権法の「放送」についての規定形式からすると、著作権法は、「放送」に当たるか否かについての基準を、その定義規定に明示された送受信の態様の点のみに求める立場を採ったものというべきであるから、原告らが主張する前記{1}ないし{4}のような事情の有無によって、「放送」に当たるか否かの結論が左右されると解するのは相当でない。
 1c.音楽データの蓄積が複数回の放送に使用されることを予定したものであるとしても、それが「放送のための一時的録音」であることを否定する理由にはならない。
 2.音楽専門のデジタル多チャンネル放送番組において送信された音楽データを受信した個々の受信者がこれを受信チューナーに接続したオーディオ機器によってMDに録音する行為は、一般的に、著作権法102条1項によって準用される同法30条1項で許容される「私的使用のための複製」に当たり、音源となるレコードのレコード製作者としての複製権を侵害するものとはいえない。
 2a.著作権法30条1項は、ベルヌ条約九条(2)本文が特別の場合に著作者等の複製権を制限することを同盟国の立法に留保していることを受け、右複製権の制限が認められる一態様を規定したものということができるから、同法30条1項が同条約9条(2)ただし書の条件を満たすものであることは必要であるが、具体的にどのような態様が右条件を満たすものといえるかについては、同条約がこれを明示するものではないから、著作権法によって認められる私的使用のための複製であるか否かを論じるに当たっては、同法30条1項の規定に当たるか否かを問題とすれば足り、同条項の背景となるベルヌ条約の規定を持ち出して、その規定に当たるか否かを直接問題とする必要はない。
 3.デジタル放送が受信チューナーのRAMに蓄積される過程は、一般的なコンピュータのRAMにおけるデータ等の蓄積と同様に一時的・過渡的なものであるから、受信された音源を受信チューナーのRAMに蓄積する行為は著作権法上の「複製」には該当せず、したがって、受信された音楽レコードについてレコード製作者が有する複製権を侵害するものではない。
 3a.著作権法が有形的な再製行為(複製)行う権利を著作者が専有するものとしたのは、いったん著作物の有形的な再製物が作成されると、それが将来反復して使用される可能性が生じることになるから、右再製自体が公のものでなくとも、予防的に著作者の権利を及ぼすことが相当であるとの判断に基づくものと解され、この趣旨からすれば、著作権法上の「複製」に当たるというためには、将来反復して使用される可能性のある形態の再製物を作成するものであることが必要であり、RAMにおけるデータ等の蓄積は、一時的・過渡的な性質を有するものであるから、複製行為といえない。
 3b.ベルヌ条約9条(1)、万国著作権条約4条の2第1項は、「複製」の概念自体について規定するものではなく、所与の概念とされている「複製」に当たる行為について、その「複製」行為の方法や形式がいかなるものであるかにかかわらず、著作者がこれを許諾する排他的権利を有することを規定するものにすぎないのであり、他方、右各条約において、他に「複製」の概念を定義付ける規定もないのであるから、RAMへの蓄積が我が国の著作権法における「複製」に当たるか否かという点についての解釈が、右各条約によって覊束されるという関係は認められない。
 4.音楽専門の多チャンネル番組のデジタル放送の実態を前提とすれば、現状においてレコード制作者と放送事業者との間に実質的な利益の不均衡が生じているとの原告らの主張も理解できないではないが、その不均衡を問題とする原告の議論は、立法論として、あるいは、著作権法97条に基づく二次使用料の額の決定のための協議を行う際や文化庁長官による裁定を求める際に主張されるべきことである。 /知的財産権/無体財産権/著作権/第一興商/スターデジオ100/
参照条文: /著作.2条1項7-2号/著作.2条1項9号/著作.22条/著作.26-2条/著作.30条1項/著作.44条1項/著作.44条3項/著作.92条2項/著作.93条/著作.94条/著作.95条/著作.96条/著作.97条/著作.102条1項/著作.112条1項/著作.113条2項/放送.52-9条/放送.52-12条/ベルヌ条約.9条/万国著作権条約.4-2条/
全 文 h120516tokyoD.html

東京地方裁判所 平成 12年 5月 16日 民事第46部 判決 ( 平成10年(ワ)第19566号 )
事件名:  放送差止等請求事件請求事件<レコード製作者複製権/スターデジオ100事件>
要 旨
 1.音楽専門のデジタル多チャンネル放送番組の受信者が受信チューナーに接続したオーディオ機器によってMDに録音することが容易になるように音楽をそのまま繰返し放送する行為が、レコード製作者の複製権を侵害するものとはいえないとされた事例。
 1a.著作権法がレコード製作者にレコードの複製権を認めた趣旨が「レコード製作者の音源制作活動に作詞家・作曲家の音楽創作活動等に準じた創作性を認め、レコード製作者に対し自己が製作した音源の複製に関する排他的支配権を保障し、レコード製作者が当該音源の独占的販売による経済的利益を確保できるようにする」という点に仮にあるとしても、この実質的趣旨のみを根拠に、「レコード製作者の音源の複製に対する排他的支配の状態を妨害し、レコード製作者による当該音源の独占的販売による経済的利益の確保を阻害することとなる行為は、それが同法2条1項15号が規定する「複製」に直接当たらない行為であっても、レコード製作者の複製権を『侵害』するものといえる」として、複製権侵害行為の範囲を拡張するような解釈は、法律解釈の限界を超えるものである。
 1b.受信者が録音するか否かは受信者個々人の自由意思に基づく選択によって結果的に生じるものにすぎないのであるから、放送事業者である被告の行為が一般的に専ら受信者による録音に向けられたものであるとはいえない。また、被告と受信者との間には、被告がその送信に係る本件番組の受信を受信者に許諾し、これに対して受信者が一定の受信料を支払うという契約関係が存するのみで、受信者が録音を行うか否かは、受信者がその自由意思に基づいて決定し、自ら任意に録音のための機器を準備した上で行われるものであって、被告が受信者の右決定をコントロールし得るものではないことからすれば、被告が受信者を自己の手足として利用して本件各音源のMDへの録音を行わせていると評価しうる程度に、被告が受信者による録音行為を管理・支配しているという関係は認められない。
 2.放送事業者が、音楽レコードから得られた音源を編成した音楽番組を受信契約者に向けてデジタル放送により反復提供するために、その音源を放送のための一時的固定としてサーバーに蓄積している場合に、その蓄積行為がレコード会社の有する著作隣接権(複製権)を侵害するものとはいえないとされた事例。
 2a.「放送」
 
 著作権法44条の放送として、立法時に、レコード製作者と共存共栄関係にある公共的性格を有する放送事業者がアナログ方式により付随的に商業用レコードを使用してなす態様の放送が想定されていた事実があるとしても、著作権法が昭和45年の制定時から「放送」について「公衆によって直接受信されることを目的として無線通信の送信を行うこと」との定義規定を置き、このような「放送」との関係でレコード製作者の複製権を制限する規定を設け、その後の改正においても基本的にこれが維持されていることに鑑みれば、著作権法は、「放送」に当たるか否かについての基準を、その定義規定に明示された送受信の態様の点のみに求める立場を採ったものというべきであり、前記のような事情が妥当するか否かによって「放送」に当たるか否かの結論が左右されると解するのは相当でない。
 2b.「放送のための一時的な録音」
 
 著作権法102条1項が44条1項を準用した趣旨は、放送が一般的に放送対象物の録音物・録画物によって行われることが通常であることから、具体的な放送に通常必要とされる範囲内でのレコードの録音行為は、その放送自体が自由に行い得るのと同様の意味において、これを自由なものとして認めることにあることに鑑みれば、複数回の放送に使用することを予定したものであることを理由に、直ちに当該収録が「放送のための」録音に当たらないものと解すべき根拠はない。むしろ、著作権法44条3項が、同条1項の録音又は録画がその後の保存の継続によって違法となる場合を規定するに当たって、録音又は録画から6か月以内に当該録音物又は録画物を用いた放送があった場合には、その放送の時からさらに6か月以内は、右録音物又は録画物をなお放送のために保存することも結果的に違法にならないものとして認めていることからすれば、44条は、一度の放送によって消去されることなく、その後の放送において再び使用されることを予定した録音又は録画であっても、「放送のための一時的な録音又は録画」として許容され得ることを前提にしているものということができる。
 3.音楽専門の多チャンネル番組のデジタル放送の実態を前提とすれば、現状においてレコード制作者と放送事業者との間に実質的な利益の不均衡が生じているとの原告らの主張も理解できないではないが、その不均衡を問題とする原告の議論は、立法論として、あるいは、著作権法97条に基づく二次使用料の額の決定のための協議を行う際や文化庁長官による裁定を求める際に主張されるべきことである。 /知的財産権/無体財産権/著作権/第一興商/スターデジオ100/
参照条文: /著作.2条1項7-2号/著作.2条1項9号/著作.22条/著作.26-2条/著作.30条1項/著作.44条1項/著作.44条3項/著作.92条2項/著作.93条/著作.94条/著作.95条/著作.96条/著作.97条/著作.102条1項/著作.112条1項/
全 文 h120516tokyoD2.html

東京地方裁判所 平成 12年 5月 12日 民事第47部 判決 ( 平成10年(ワ)第16632号 )
事件名:  損害賠償等請求事件<科学技術書著作権>
要 旨
 1.カイロプラクティック(SOT)に関する科学技術書について、被告書籍の多くの部分が原告書籍のほとんど直訳であるとして、著作権(翻訳権)侵害を理由とする損害賠償請求・販売等差止請求が認容された事例。
 2.他人の著作権を侵害する書籍を十分な調査・検討を行うことなく出版したことについて過失があるとして、出版社に損害賠償が命じられた事例。
 3.著作者の遺族には、著作者人格権侵害による損害賠償請求は認められない。 /知的財産権/無体財産権/著作権/損害額算定/
参照条文: /著作.27条/著作.59条/著作.60条/著作.112条/著作.114条/
全 文 h120512tokyoD.html

最高裁判所 平成 12年 5月 1日 第1小法廷 決定 ( 平成12年(許)第5号 )
事件名:  面接交渉の審判に対する原審判変更決定に対する許可抗告事件
要 旨
 1.婚姻関係が破綻して父母が別居状態にある場合であっても、子と同居していない親が子と面接交渉することは、子の監護の一内容である。
 2.別居状態にある父母の間で面接交渉につき協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、家庭裁判所は、民法766条を類推適用し、家事審判法9条1項乙類4号により、面接交渉について相当な処分を命ずることができる。
参照条文: /民法:766条/民法:818条3項/民法:820条/家審.9条1項乙類4号/
全 文 h120501supreme.html

最高裁判所 平成 12年 4月 28日 第2小法廷 決定 ( 平成11年(許)第40号 )
事件名:  配当表に対する異議申立て却下決定に対する抗告審の取消決定に対する許可抗告事件
要 旨
 1.破産財団から放棄された財産を目的とする別除権につき放棄の意思表示をすべき相手方は、破産者が株式会社であっても、破産者である。この場合に、最後配当の除斥期間内に別除権放棄の意思表示を破産管財人に対してしても放棄の効果は生ぜず、破産法277条による除斥を免れない。
 1a.この場合に、最後配当の除斥期間内に別除権放棄の意思表示を破産管財人に対してしても放棄の効果は生ぜず、破産法277条による除斥を免れない。
 2.破産者が法人(会社)である場合に、破産管財人が超過負担不動産を破産財団から放棄することができることが前提にされた事例。
参照条文: /破産.277条/破産.7条/破産.197条12号/
全 文 h120428supeme.html

東京地方裁判所 平成 12年 4月 27日 民事第46部 判決 ( 平成8年(ワ)第3871号 )
事件名:  実用新案権侵害差止等請求事件<冠婚葬祭用木製看板実用新案>
要 旨
 1.冠婚葬祭用品の販売・レンタル業を営む被告が貸し渡した冠婚葬祭用木製看板が原告の実用新案権の技術的範囲に属し、これにより実用新案権が侵害がなされたことを理由に損害賠償が命じられた事例。(被告会社が解散し、将来における侵害の虞なしとして、差止請求は棄却された)
 2.実用新案法29条2項にいう侵害行為により得た「利益」とは、純利益を指すものではなく、粗利益(売上総利益)から売上額に比例して増減する、いわゆる変動経費を控除したものを意味する。
 2a.冠婚葬祭用品の貸出しの業態においては、一般に、当該用品の製造ないし購入に要した原価のみならず、これを管理するための人件費等の管理費も変動経費として認められる。商品の使用及び貸渡しに係る変動経費として、粗利益額のうち概ね40パーセントと認めるのが相当であるとされた事例。 /知的財産権/無体財産権/工業所有権/実用新案権/損害額算定/
参照条文: /実用新案.16条/実用新案.29条2項/
全 文 h120427tokyoD3.html

名古屋高等裁判所 平成 12年 4月 27日 民事第4部判決 判決 ( 平成11年(ネ)第968号 )
事件名:  敷金返還等請求控訴事件
要 旨
 1.カー用品の販売業を営む会社から提供された建設協力金と敷金を建設資金として土地所有者が建築した駐車場付営業用建物について、この会社が賃借人となり、賃借期間15年、建設協力金の返還について180月(15年)分割払い、賃借人から解約がなされた場合には、賃貸人は敷金および建設協力金の未返還部分の合計額に相当する額の違約金を請求することができ、前記合計額は違約金に充当される旨の合意がなされているときに、賃借人の側から本件賃貸借契約を解約し、これによって契約が終了したときは、本件建設協力金返還債務についても期限が到来すると解すべきであり、賃借人が破産して破産管財人が解除する場合にも同様に解すべきであるとされた事例。
 2.賃貸借契約においては、それぞれの契約の事情により、解約にともなう違約金に関しても様々な特約がなされるものであり、賃借人が破産した場合には、これらの特約の効力を破産管財人に対して全く主張できないとすれば、その違約金に関する特約の内容が双方の利害衡量の視点からみて合理的なものである場合にも、賃貸人は、賃借人の破産という偶然の事情によって、本来賃借人に主張できた特約を主張できなくなり、予想外の著しい不利益を被る結果になり相当ではなく、また、破産法60条によれば、破産管財人が双務契約を解除した場合には、その相手方は損害賠償請求ができることが本来の原則として定められているのであるから、民法621条は、合理的な内容の違約金に関する特約の効力まで認めない趣旨と解することはできない。(旧法事件)
 2a.本件賃貸借契約は、賃借人が建物建築費用と同額の金額を敷金及び建設協力金として地主に預託又は貸付け、地主において、賃借人が一定期間継続して賃借することを前提として、賃借人が希望する仕様の建物を建築し、これを賃貸するものであること、建物は、賃借人の希望する仕様となっているため、仮に賃貸借契約を解約された場合、賃貸人(地主)において、新たな賃借人を確保することが必ずしも容易ではなく、また、新たな賃借人を確保できても、建物の大幅な改造が必要となって、賃借条件が賃貸人にとって不利になることが予想されること、もし賃借人が賃貸借契約を解約した場合、敷金及び未返還の建設協力金全額を返還しなければならないとすれば、賃貸人は多額の出費を余儀なくされる一方で、その出費を全額回収することが困難となる可能性が極めて高いというべきであることを考慮すると、敷金ないし建設協力金の相当部分が出費ないしは回収不能による損害に充てられても、賃借人に不当な損害を与えたことにはならないものであるから、賃借人による解約の場合について定められた敷金及び建設協力金の未返済分合計額を違約金とする本件条項は合理性があり、有効であるとされた事例。
 3.破産法99条後段において、停止条件付債務や期限付債務を受働債権とする相殺が認められているから、破産宣告後に条件が成就した敷金返還債務あるいは期限が到来した建設協力金債務を受働債権として相殺したからといって、破産法104条1号の破産宣告後に破産財団に対して債務を負担したときに該当するとはいえず、したがって、右受働債権に対する相殺それ自体は禁止されていないと解される。(旧法事件)
 3a.破産手続における相殺は、他の破産債権者に優先して満足を与える結果となるものであるから、少なくとも相殺できることへの合理的な期待の範囲内で認められるべきものであり、右範囲を超える相殺は、破産債権者全体の公平を害することになって、破産法104条各号に具体的に該当しなくとも、権利の濫用として許されない。
 3b.賃貸借契約が賃借人の破産管財人により解除された場合に、賃貸人が破産財団に属する敷金(2500万円)及び建設協力金の残額(3388万円余)の返還請求権を受働債権とし、これと同額に定められた違約金債権を自働債権とする相殺に関し、賃貸借契約の経過年数(約定期間15年で、5年経過)、違約金の金額と賃借人が賃貸人に交付した敷金及び建設協力金との合計額との比率(78%)、新たな賃借人を確保するのに要すると予想される期間(1年程度)、新たな賃借人から得られる賃料・保証金が低額になると予想されること等を考慮して、2100万円を合理的な期待の範囲と認定し、この範囲で相殺を認め、さらに、建物の原状回復に要する費用750万円も自働債権とすることができるとし、相殺が許されなかった範囲で建設協力金の即時の返還を命じた事例。
参照条文: /破産.53条/破産.54条/破産.67条/破産.71条/民法:1条3項/
全 文 h120427nagoyaH.html

東京高等裁判所 平成 12年 4月 25日 第6民事部 判決 ( 平成11年(ネ)第4783号 )
事件名:  著作権侵害差止等請求控訴事件<漫画著作権>
要 旨
 1.漫画カットの引用について主従関係が肯定された事例。
 2.似顔絵の引用に際してモデルの名誉感情を侵害するおそれを低くするために、引用者が似顔絵に目隠しを施したことが「やむを得ない」改変に該当し、同一性保持権の侵害に当たらないとされた事例。
 3.複数のコマの位置関係に意味のある漫画カットの引用にあたって、その配置を変更したことが「やむを得ない改変」にあたらず、同一性保持権の侵害に当たるとされた事例。 /知的財産権/無体財産権/著作権/小林よしのり/ゴーマニズム宣言/上杉聰/
参照条文: /著作.32条/著作.20条2項4号/
全 文 h120425tokyoH.html

東京地方裁判所 平成 12年 4月 25日 民事第47部 判決 ( 平成11年(ワ)第12918号 )
事件名:  著作権確認等請求事件<映画「ちぎれ雲」脚本著作権>
要 旨
 1.映画制作を発案し制作費用を負担し映画著作権を有する会社が脚本執筆者に脚本料を支払っている場合に、脚本の著作権の譲渡があったとは認められなかった事例。
 2.映画の脚本を基に小説が制作された場合に、小説の奥付にあった原案者の氏名の表示の削除を映画制作発案会社の従業員が出版社に指示したことが氏名表示権の侵害行為であると判断され、会社に対して損害賠償が命じられた事例。 /知的財産権/無体財産権/著作権/ちぎれ雲/シナリオ/
参照条文: /著作.19条/著作.15条1項/著作.29条/著作.61条/著作.17条/民法:709条/民法:715条/
全 文 h120425tokyoD.html

東京地方裁判所 平成 12年 4月 25日 民事第47部 判決 ( 平成11年(ワ)第24434号 )
事件名:  損害賠償請求事件<おかずを挟んだごはん実用新案等>
要 旨
 1.「おかずを挟んだごはん」に係る実用新案権を有し、その商品化しようとしている原告が、被告らによる「サンドおむすび牛焼肉」の製造販売が原告の実用新案権を侵害するとともに不正競争行為に当たると主張して、損害賠償を求めたが、棄却された事例。
 2.商品化されて製造販売されたことのない商品のアイデアは、不正競争防止法2条1項1号にいう「商品等表示」に当たることはない。
 3.商品アイデアが資金労力を投下して商品化されてその製造販売がなされたことがない場合には、右アイデアが不正競争防止法2条1項3号にいう「商品」に当たることもない。
 4.実用新案権者が実用新案技術評価書を提示して警告を行ったことがないため、実用新案権侵害を理由とする損害賠償請求を行うことはできないとされた事例。 /知的財産権/無体財産権/工業所有権/実用新案権/不正競争防止法/
参照条文: /不正競争.2条1項1号/不正競争.2条1項3号/実用新案.29-2条/
全 文 h120425tokyoD3.html

東京地方裁判所 平成 12年 4月 25日 民事第47部 判決 ( 平成12年(ワ)第6663号 )
事件名:  損害賠償請求事件<カッター装置付きテープホルダー実用新案>
要 旨
 被告物件が原告の実用新案権を侵害しているとして主張する原告が、被告に対する損害賠償等の請求を一定の台数分についての一部請求に細分化して、16回にわたり東京地方裁判所に訴訟を提起した場合につき、「本訴は、一部請求の名の下に、ことごとく敗訴の判決を受けた各訴えと実質的には同一の訴えを蒸し返すものであり、民事訴訟において要請される信義則に反するものであって、訴権の濫用に当たり、不適法であって、しかもその不備を補正することができないものというべきである。」として、訴えが口頭弁論を経ることなく却下された事例。
参照条文: /民訴.140条/民訴.2条/
全 文 h120425tokyoD4.html

最高裁判所 平成 12年 4月 21日 第2小法廷 判決 ( 平成8年(オ)第1049号 )
事件名:  譲受債権請求上告事件
要 旨
 1.債権譲渡の予約にあっては、予約完結時において譲渡の目的となるべき債権を譲渡人が有する他の債権から識別することができる程度に特定されていれば足り、この理は、将来発生すべき債権が譲渡予約の目的とされている場合でも変わるものではない。
 1a.既発生債権及び将来債権を一括して目的とするいわゆる集合債権の譲渡予約において、債権者及び債務者が特定され、発生原因が特定の商品についての売買取引とされていることによって、譲渡の目的となるべき債権が他の債権から識別ができる程度に特定されているとされた事例。
参照条文: /民法:466条/民法:467条/
全 文 h120421supreme.html

最高裁判所 平成 12年 4月 21日 第2小法廷 判決 ( 平成11年(行ツ)第271号 )
事件名:  選挙無効請求上告事件
要 旨
 1.平成11年4月11日施行の千葉県議会選挙において、3つの選挙区が特例選挙区として存置されていたことは適法である。(事例)
 2.平成11年4月11日施行の千葉県議会選挙時の千葉県条例における定数配分規定は、公職選挙法15条8項に違反するものではなく、適法である。(事例)
参照条文: /憲.14条/憲.92条/憲.93条/公選.15条8項/公選.271条2項/
全 文 h120421supreme2.html

東京高等裁判所 平成 12年 4月 19日 第13民事部 判決 ( 平成11年(ネ)第1464号(その1) )
事件名:  不正競争侵害差止等請求・商標権侵害差止請求・商標権侵害差止等請求各控訴事件<FRED PERRY商標等>
要 旨
 1.商標使用許諾契約に基づき製造された商品については、その一部の条項に違反して製造されたものであっても、当該商標の出所表示機能等が害されることがなく、商品の品質が他の真正商品と実質的に同一であるような場合は、商標権侵害の実質的違法性を欠き、真正商品と認めるべきである。
 1a.商標使用許諾契約中の製造地域制限条項の違反は、商標権者及び被許諾者との内部関係というべきものであって、当該条項に違反したというだけで直ちに真正商品であることを否定するのは、商品の流通の自由を阻害するものであり、他方、商標権者には、違反防止の措置及び解除等が可能であるから、当該条項に違反して製造された商品が真正商品に当たらないということはできないとされた事例。
 1b.製造地域制限条項に違反して中国で製造された商品と英国製の真正商品とで、着用感及び快適感の点で実質的同一性を欠くとまでは認められないとされた事例。
 2.製造地域制限条項違反の商品が並行輸入における真正商品に該当するか否かは、法律上一義的に明解な問題とはいい難いが、そうである以上、当該商品を販売する者が商標使用について無権限であって本件商品が偽造品である旨を、新聞等のマスメディアに広告したり、重要な取引先等に通知することについては、より一層慎重な配慮が必要とされるべきであり、販売等の差止めを求める仮処分等の司法手続によらず、また、本件許諾契約自体が解除されていることを確認することなく、一方的に、商品が偽造品であるとする広告掲載及び通知書発送等の行為をなしたことに過失があるとして、損害賠償義務が肯定された事例。 /知的財産権/無体財産権/工業所有権/商標権/不正競争防止法/
参照条文: /商標.25条/商標.31条/商標.36条/不正競争.2条1項11号/不正競争.3条1項/不正競争.8条/
全 文 h120419tokyoH.html

東京高等裁判所 平成 12年 4月 19日 第13民事部 判決 ( 平成11年(ネ)第1464号(その2) )
事件名:  不正競争侵害差止等請求・商標権侵害差止請求・商標権侵害差止等請求各控訴事件<FRED PERRY商標等>
要 旨
 1.商標使用許諾契約に基づき製造された商品については、その一部の条項に違反して製造されたものであっても、当該商標の出所表示機能等が害されることがなく、商品の品質が他の真正商品と実質的に同一であるような場合は、商標権侵害の実質的違法性を欠き、真正商品と認めるべきである。
 1a.商標使用許諾契約中の製造地域制限条項の違反は、商標権者及び被許諾者との内部関係というべきものであって、当該条項に違反したというだけで直ちに真正商品であることを否定するのは、商品の流通の自由を阻害するものであり、他方、商標権者には、違反防止の措置及び解除等が可能であるから、当該条項に違反して製造された商品が真正商品に当たらないということはできないとされた事例。
 1b.製造地域制限条項に違反して中国で製造された商品と英国製の真正商品とで、着用感及び快適感の点で実質的同一性を欠くとまでは認められないとされた事例。
 2.製造地域制限条項違反の商品が並行輸入における真正商品に該当するか否かは、法律上一義的に明解な問題とはいい難いが、そうである以上、当該商品を販売する者が商標使用について無権限であって本件商品が偽造品である旨を、新聞等のマスメディアに広告したり、重要な取引先等に通知することについては、より一層慎重な配慮が必要とされるべきであり、販売等の差止めを求める仮処分等の司法手続によらず、また、本件許諾契約自体が解除されていることを確認することなく、一方的に、商品が偽造品であるとする広告掲載及び通知書発送等の行為をなしたことに過失があるとして、損害賠償義務が肯定された事例。 /知的財産権/無体財産権/工業所有権/商標権/不正競争防止法/
参照条文: /商標.25条/商標.31条/商標.36条/不正競争.2条1項11号/不正競争.3条1項/不正競争.8条/
全 文 h120419tokyoH2.html

東京高等裁判所 平成 12年 4月 19日 第13民事部 判決 ( 平成11年(ネ)第1464号(その3) )
事件名:  不正競争侵害差止等請求・商標権侵害差止請求・商標権侵害差止等請求各控訴事件<FRED PERRY商標等>
要 旨
 1.商標使用許諾契約に基づき製造された商品については、その一部の条項に違反して製造されたものであっても、当該商標の出所表示機能等が害されることがなく、商品の品質が他の真正商品と実質的に同一であるような場合は、商標権侵害の実質的違法性を欠き、真正商品と認めるべきである。
 1a.商標使用許諾契約中の製造地域制限条項の違反は、商標権者及び被許諾者との内部関係というべきものであって、当該条項に違反したというだけで直ちに真正商品であることを否定するのは、商品の流通の自由を阻害するものであり、他方、商標権者には、違反防止の措置及び解除等が可能であるから、当該条項に違反して製造された商品が真正商品に当たらないということはできないとされた事例。
 1b.製造地域制限条項に違反して中国で製造された商品と英国製の真正商品とで、着用感及び快適感の点で実質的同一性を欠くとまでは認められないとされた事例。
 2.製造地域制限条項違反の商品が並行輸入における真正商品に該当するか否かは、法律上一義的に明解な問題とはいい難いが、そうである以上、当該商品を販売する者が商標使用について無権限であって本件商品が偽造品である旨を、新聞等のマスメディアに広告したり、重要な取引先等に通知することについては、より一層慎重な配慮が必要とされるべきであり、販売等の差止めを求める仮処分等の司法手続によらず、また、本件許諾契約自体が解除されていることを確認することなく、一方的に、商品が偽造品であるとする広告掲載及び通知書発送等の行為をなしたことに過失があるとして、損害賠償義務が肯定された事例。 /知的財産権/無体財産権/工業所有権/商標権/不正競争防止法/
参照条文: /商標.25条/商標.31条/商標.36条/不正競争.2条1項11号/不正競争.3条1項/不正競争.8条/
全 文 h120419tokyoH3.html

大阪地方裁判所 平成 12年 4月 18日 第21民事部 判決 ( 平成11年(ワ)第4804号、同第13093号 )
事件名:  著作権侵害差止等請求事件、著作権侵害による損害賠償請求事件<カラオケ著作権>
要 旨
 1.日本音楽著作権協会が管理する著作物について、カラオケボックスの経営会社による演奏権侵害、上映権侵害が認められた事例。
 2.客が経営者によって指定された歌唱室内で、経営者が用意した特別のカラオケ装置を使って、経営者が用意した楽曲ソフトの範囲内で伴奏音楽を再生させるとともに歌唱を行い、しかも右再生・歌唱は利用料金を支払う範囲で行うことができるにすぎない場合には、客による再生・歌唱は、経営者の管理の下で行われているというべきであり、しかもカラオケ歌唱室としての営業の性質上、店舗経営者はそれによって直接的に営業上の利益を収めていることは明らかであるから、著作権法の規律の観点からは伴奏音楽の再生及び歌唱の主体は、経営者である。
 3.カラオケ歌唱室に来店する客は不特定多数であるから、経営者による伴奏音楽の再生及び歌唱は、著作権法22条の「公衆に直接見せ又は聞かせることを目的」とするものであるということができる。
 4.カラオケボックスの経営会社の取締役に商法266条ノ3第1項の責任が肯定された事例。
 5.商法266条ノ3第1項の定める損害賠償責任は、法が取締役の責任を加重するために特に認めたものであって、不法行為に基づく損害賠償責任の性質を有するものではないから、履行の請求を受けたときに遅滞に陥る。
 6.著作権侵害事件において、加害者を知ったのが訴え提起から3年以内の時点であると認定された事例。 /知的財産権/無体財産権/著作権/
参照条文: /著作.2条1項17号/著作.22条/著作.2条1号17号/著作.22-2条/商.266-3条1項/
全 文 h120418osakaD.html

最高裁判所 平成 12年 4月 14日 第2小法廷 決定 ( 平成11年(許)第23号 )
事件名:  債権差押命令に対する執行抗告棄却決定に対する許可抗告事件
要 旨
 1.民法372条によって抵当権に準用される同法304条1項に規定する「債務者」には、原則として、抵当不動産の賃借人(転貸人)は含まれないものと解すべきである。(破棄理由)
 2.もっとも、所有者の取得すべき賃料を減少させ、又は抵当権の行使を妨げるために、法人格を濫用し、又は賃貸借を仮装した上で、転貸借関係を作出したものであるなど、抵当不動産の賃借人を所有者と同視することを相当とする場合には、その賃借人が取得すべき転貸賃料債権に対して抵当権に基づく物上代位権を行使することを許すべきである。(差戻理由)
参照条文: /民法:372条/民法:304条/民執.193条/
全 文 h120414supreme.html

大阪高等裁判所 平成 12年 4月 14日 第8民事部 判決 ( 平成11年(ネ)第3563号 )
事件名:  題号等使用禁止請求控訴事件<短歌誌「新青虹」>
要 旨
 1.被告の発行する短歌誌の題号及び発行所名の使用が訴訟上の和解によって定められた合意に違反するとして、原告が被告に対しそれらの名称の使用差止を請求したが、被告に違反行為があったとは認められないとして、請求が棄却された事例。
 2.訴訟上の和解における≪被告は、現在使用する短歌誌の発行所「青虹社」との名称について、原告の名称と誤認混同しないよう努力する≫との条項の違反があったかが争われた事例。(努力条項の解釈)
 3.原告の商標権に基づく差止請求訴訟において定められた和解条項の違反を理由する差止請求と、原告が新たに取得した類似の商標権に基づく同一内容の差止請求(追加請求)とが、請求の基礎を同一にすると判断された事例。
 4.被告が発行する短歌誌の題号として「新青虹」を使用することを前訴における訴訟上の和解により認めている原告が、その後に「新青虹」について商標権を取得して、被告に対しその使用の差止を求めることは、和解内容に矛盾する行為であり、信義則上許されないとされた事例。 /知的財産権/無体財産権/工業所有権/商標権/
参照条文: /商標.25条/民法:1条/民訴.267条/民訴.143条/
全 文 h120414osakaH.html

最高裁判所 平成 12年 4月 11日 第3小法廷 判決 ( 平成10年(オ)第364号 )
事件名:  債務不存在確認請求上告事件
要 旨
 1.特許の無効審決が確定する以前であっても、特許権侵害訴訟を審理する裁判所は、特許に無効理由が存在することが明らかであるか否かについて判断することができると解すべきであり、審理の結果、当該特許に無効理由が存在することが明らかであるときは、その特許権に基づく差止め、損害賠償等の請求は、特段の事情がない限り、権利の濫用に当たり許されないと解するのが相当である。(判例変更) /知的財産権/無体財産権/工業所有権/特許権/
参照条文: /特許.39条1項/特許.29条2項/特許123条1項2号/特許.125条/特許.168条2項/民法:1条3項/
全 文 h120411supreme.html

大阪地方裁判所 平成 12年 4月 11日 第21民事部 判決 ( 平成9年(ワ)第10750号 )
事件名:  商標権侵害差止等請求事件<ASUKA商標>
要 旨
 1.漢字「株式会社」とその四倍角程度の大きさの片仮名「アスカ」をこの順序で横一列に構成した標章について、これは被告の名称であるが、被告の名称を普通に用いられる方法で表示しているとは認められないとして、商標法26条1項1号の適用が否定され、アルファベットの「ASUKA」と片仮名文字の「アスカ」を上下二段に構成した原告商標と類似するとされた事例。
 2.アルファベットの「ASUKA」と片仮名文字の「アスカ」を上下二段に構成した原告商標と、被告がモノグラム商標とアルファベット文字「s」を組合わせた結合商標であると主張している被告標章とについて、後者はアルファベット四文字を横一列に並べた「aska」をデザイン化したものと需要者に認識され得るものであり、その使用態様を考慮して、前者と類似すると判断された事例。
 3.≪登録商標に類似する標章を使用することが第三者の商品の売上に全く寄与していないことが明らかなときは、当該第三者は損害賠償の責を免れることができる≫との法理の適用が、標章の使用が被告の売上に寄与していることは明らかであるとして、否定された事例。
 4.事件に現れた一切の事情(本件商標が有する顧客吸引力、被告の使用態様等)を考慮して、被告が被告標章を使用したことによって原告に対し支払うべき使用料相当額は、売上額に1.5パーセントを乗じた金額が相当であるとされた事例。 /知的財産権/無体財産権/工業所有権/商標権/
参照条文: /商標.38条/商標.26条1項1号/商標.37条/
全 文 h120411osakaD.html

東京地方裁判所 平成 12年 4月 10日 民事第29部 判決 ( 平成11年(ワ)第19269号 )
事件名:  損害賠償請求事件<財務・在庫等の管理のための装置特許>
要 旨
 コンピューターソフトを製造・販売する被告の行為が原告の特許権を侵害すると主張してなされた損害賠償請求が、「本件全証拠によるも、請求原因事実を認めることはできない」との簡潔な理由のみを付して棄却された事例。 /知的財産権/無体財産権/工業所有権/特許権/判決理由/判決の記載事項/
参照条文: /民訴.253条/
全 文 h120410tokyoD.html

最高裁判所 平成 12年 4月 7日 第2小法廷 判決 ( 平成9年(オ)第1876号 )
事件名:  建物収去土地明渡等本訴請求、土地所有権確認等反訴請求、土地持分移転登記手続等反訴請求上告事件
要 旨
 1.共有者の一人が共有物を単独で占有する場合に、他の共有者は、その者に対して共有物の明渡しを当然には請求できない。
 2.共有者の一人が単独占有権原なしに共有物を単独で占有する場合には、この者に対して、他の共有者は、持分割合に応じて賃料相当額の不当利得金又は損害賠償金の請求をすることができる。
 3.原告が土地の単独所有者であると主張して賃料相当額の損害金の支払いを請求している場合に、被告の主張から土地が相続により原告と被告の共有に属していることを理由づける事実を認定して、原告の請求全部を認容することはできないと判断する場合には、裁判所は、原告が共有持分の相続による取得を主張していなくても、適切に釈明権を行使するなどした上でこれらを斟酌し、請求の一部を認容すべきであるかどうかについて審理判断すべきものである。 /共同相続/共有物の管理/共有持分権/弁論主義/主張共通の原則/不意打防止/審理不尽/
参照条文: /民法:249条/民252条/民訴.149条/
全 文 h120407supreme.html

最高裁判所 平成 12年 4月 7日 第2小法廷 決定 ( 平成11年(許)第42号 )
事件名:  転付命令申立却下決定に対する抗告棄却決定に対する許可抗告事件
要 旨
 1.質権が設定されている金銭債権であっても、民執法159条にいう券面額を有し、転付命令の対象となる適格がある。
 2.質権が設定されている金銭債権に転付命令が発せられ、執行債権等が券面額で弁済されたものとみなされた後に、質権が実行された結果、執行債権者が転付された金銭債権の支払を受けられないという事態が生じた場合には、転付命令により執行債権者が取得した債権によって質権の被担保債権が弁済されたことになるから、執行債権者は、支払を受けられなかった金額について、執行債務者に対して不当利得返還請求などをすることができる。
参照条文: /民執.159条/民執.160条/民法:703条/
全 文 h120407supreme2.html

最高裁判所 平成 12年 3月 31日 第2小法廷 判決 ( 平成8年(オ)第1026号 )
事件名:  譴責処分無効確認等請求上告事件
要 旨
 1.事業遂行に必要なディジタル交換機の保守技術者の養成と能力向上を図るため、各職場の代表を参加させて、一箇月に満たない比較的短期間に集中的に高度な知識、技能を修得させ、これを所属の職場に持ち帰らせることによって、各職場全体の業務の改善、向上に資することを目的として集合訓練が行われる場合には、特段の事情のない限り、訓練参加者が訓練を一部でも欠席することは、予定された知識、技能の修得に不足を生じさせ、訓練の目的を十全に達成することができない結果を招くものというべきであるから、訓練の期間中に年休が請求されたときは、使用者は、当該請求に係る年休の期間における具体的な訓練の内容が、これを欠席しても予定された知識、技能の修得に不足を生じさせないものであると認められない限り、年休請求に対して時季変更権を行使することができる。
 1a.集合訓練中の講義に教科書があるから自習が可能であること、労働者の所属していた職場である交換課が講義の内容にかかわる業務を担当していたことなどを根拠に、労働者の努力により欠席した講義内容を補うことが十分可能であるなどとして時季変更権の行使を違法と評価することはできないとされた事例。
参照条文: /労基.39条4項/
全 文 h120331supreme.html

東京地方裁判所 平成 12年 3月 31日 民事第29部 判決 ( 平成11年(ワ)第13048号 )
事件名:  著作権侵害差止請求事件<磁気テープ著作権>
要 旨
 カード式公衆電話機専用のプリペイドカード(テレホンカード)に用いる記録用磁気テープにおける磁性体によって形成される模様(配列パターン)が、美術の著作物に当たらないとされた事例。 /知的財産権/無体財産権/著作権/
参照条文: /著作.10条1項4号/
全 文 h120331tokyoD2.html

東京地方裁判所 平成 12年 3月 31日 民事第29部 判決 ( 平成10年(ワ)第25640号 )
事件名:  実用新案権侵害排除等請求事件<導尿用カテーテル>
要 旨
 1.導尿用カテーテルについて、被告物件が原告の実用新案の構成要件を充足しないと判断された事例。
 2.設計上の微差の主張を、被告物件が原告の実用新案権の均等の範囲に属する旨の主張と解した上、本質的部分について差異があると判断し、均等論の主張を排斥した事例。
 3.導尿用カテーテルのような商品は、原告及び被告らを含むメーカーから医療機関に対し販売され、その後、医師の管理指導を受けて患者に支給されるか、医師の処方に沿った特定の商品を指定薬局等で患者が購入する場合がほとんどであるという性格から、商品形態によって商品の出所を識別するという事態は想定できない等の理由により、商品形態の周知商品表示性が否定され、不正競争行為の成立が否定された事例。 /知的財産権/無体財産権/工業所有権/実用新案権/不正競争防止法/
参照条文: /実用新案.16条/実用新案.26条/特許.70条/不正競争.2条1項1号/
全 文 h120331tokyoD.html

大阪地方裁判所 平成 12年 3月 30日 第21民事部 判決 ( 平成11年(ワ)第5349号 )
事件名:  損害賠償請求事件<不正競争>
要 旨
 1.Y会社がX会社に対して業務用ハンガーの形態模倣の差止を求めて仮処分申請をし、それが認容された場合に、係争中にYが仮処分事件の係属と自社商品の購入を呼びかける広告をしたこと、仮処分申請が認容された後に、勝訴の事実とX会社の商品の購入中止を呼びかける広告を業界紙にしたことは、Xの信用を害する虚偽事実の流布に当たらないと判断された事例。
 2.Y会社がX会社の代表者Aの有する実用新案権を侵害しているとして、AがYに対してハンガーの製造・販売を求める仮処分申請をし、その申請が棄却された後に、Yが「実用新案権もYが勝つ」との広告をした場合に、この広告は、事実関係の記載が不十分なため、XがYの実用新案権を侵害したかのような認識を読者に生じさせるので、YはXの信用を害する虚偽事実を流布したものと評価された事例。(信用毀損による損害の賠償金として50万円の支払いが命じられた事例)
 3.X会社の信用を害する虚偽事実の流布とXの取引先喪失との間に6月ほどの期間がある場合に、両者の間に因果関係があると見ることは困難であるとされた事例。 /知的財産権/無体財産権/不正競争防止法/
参照条文: /不正競争.4条/不正競争.2条1項13号/民法:709条/
全 文 h120330osakaD3.html

大阪地方裁判所 平成 12年 3月 30日 第21民事部 判決 ( 平成11年(ワ)第4658号のB )
事件名:  商号使用禁止等請求事件<「住友殖産」営業表示不正競争>
要 旨
 住友財閥(住友本社)の系譜に連なり、「住友林業株式会社」との商号を使用して営業活動を行っている原告が、「住友殖産株式会社」との商号等を使用して不動産業等を営む被告に対し、「住友」の表示は旧住友財閥の系譜に連なる企業グループの名称として需要者の間に周知であるところ、被告が使用する商号等は原告の表示と類似し、需要者に誤認混同を生じるとして、「住友」の表示の使用差止め、商号抹消登記手続、看板の撤去、損害賠償等を請求し、認容された事例(賠償請求のみ一部認容)。 /知的財産権/無体財産権/不正競争防止法/フリーライド/信用力の希釈化/ダイリューション/
参照条文: /不正競争.3条/不正競争.4条/不正競争.2条1項1号/
全 文 h120330osakaD2.html

大阪地方裁判所 平成 12年 3月 30日 第21民事部 決定 ( 平成10年(ワ)第13577号 )
事件名:  著作権侵害差止等請求事件<積算くん事件/建築積算ソフトの表示画面の著作権等>
要 旨
 1.建築積算ソフト(コンピュータプログラム)の表示画面も、著作物となりえ、あえて分類すれば、学術的な性質を有する図面、図表の類というべきである。
 2.建築積算ソフトの表示画面が書式であるとしても、どのような項目をどのように表現して書式に盛り込むかという点において著作者の知的活動が介在し、場合によっては、その表現に著作者の個性が表れることもあると考えられるから、表示画面が書式であることをもって、「思想又は感情の表現」の要件を否定することはできない。
 3.建築積算ソフトを用いて積算を行った後の出力(印刷)結果である、部屋別計算表、積算集計表、部屋別集計表及び工種項目別の部屋別集計表が、ソフトの著作者の思想又は感情が創作的に表現されているとは認められないとされた事例。
 4.原告の著作権を侵害していると主張されている被告のコンピュータソフトがバージョンアップされた場合には、旧バージョンのソースプログラムが保存された媒体を被告が廃棄していないとしても、今後被告が旧バージョンソフトを販売、頒布するおそれがあると認められないとして、旧バージョンのソフトの販売・頒布の差止請求がその余の点を判断するまでもなく理由がないとされた事例。
 5.原告の建築積算ソフトの表示画面と被告の建築積算ソフトの表示画面との間に、表現が共通する部分が存在するものの、異なる表現も多々存在し、しかも、両表示画面において表現が共通する部分に原告の思想又は感情の創作的な表現があるとみることはできないとして、その余を判断するまでもなく表示画面の複製があるとは言えないとされた事例。 /知的財産権/無体財産権/著作権/著作物性/
参照条文: /著作.2条1項1号/著作.2条1項12号/著作.2条1項15号/著作.21条/
全 文 h120330osakaD.html

東京高等裁判所 平成 12年 3月 30日 第6民事部 判決 ( 平成11年(ネ)第1602号 )
事件名:  出版差止等請求控訴事件<少女漫画著作権>
要 旨
 1.漫画の物語作者と絵画作者とが異なる場合に、物語作者は、二次的著作物である漫画のコマ絵につき、それがストーリーを表しているか否かにかかわりなく、著作権法28条により、絵画作者と同一の権利を有する。
 2.連載第一回の物語原稿を受け取る前に作成された連載漫画の主人公のラフスケッチあるいは新連載予告用の絵を基にコマ絵が作成されたとしても、そのことはそのコマ絵が物語の翻案として作成された漫画の複製あるいは翻案であることを妨げないとされた事例。
 3.共有著作権の行使に関する著作権法65条3項は、漫画の物語作者と絵画作者との関係についても当てはまるものというべきである(傍論)。
 4.あるキャラクター絵画が、物語作者の作成に係るストーリーの二次的著作物と評価されるに至った以上、絵画作者は、新たなキャラクター絵画を描くに当たっては、右二次的著作物の翻案にならないように創作的工夫をするのが当然であり、それが不可能であるとする理由を見出すことはできない(例えば、二次的著作物の登場人物と目鼻立ちや髪型などがほとんど同じでも、別の人物という設定で描くことは可能であり、そのときには、右人物の絵の翻案とはならないであろう。)(傍論) /知的財産権/無体財産権/著作権/キャンデー漫画/
参照条文: /著作.27条/著作.28条/著作.65条3項/著作.2条1項11号/
全 文 h120330tokyoH.html

東京高等裁判所 平成 12年 3月 29日 第13民事 判決 ( 平成11年(ネ)第4243号 )
事件名:  損害賠償等請求控訴事件<論文著作権>
要 旨
 1.外国論文の紹介を通じて「エスニシティ」を論ずるという基本的性格において共通する面があるが、目的、構成、議論の展開、結論が異なる学術論文について、剽窃を理由とする不法行為の出帳が認められなかった事例。
 2.著作権侵害の判断に当たって、同一性(翻案)の有無より先に依拠(アクセス)の点を判断しなければならないというものではない。
 3.学術論文について、翻案であるとの主張が認められなかった事例。 /知的財産権/無体財産権/著作権/
参照条文: /著作.27条/著作.20条/民法:709条/
全 文 h120329tokyoH.html

東京高等裁判所 平成 12年 3月 29日 第13民事部 判決 ( 平成11年(ネ)第5087号 )
事件名:  著作物利用対価請求控訴事件
要 旨
 1.著作権使用対価の支払についての合意が成立したとは認められなかった事例
 2.自転車の乗り方についてのビデオ作品の一部(コツを説明したコーナー)が、制作者の依頼に基づき助言(監修)をした者の著作物の翻案にはあたらないとされた事例。 /知的財産権/無体財産権/著作権/
参照条文: /著作.27条/著作.63条/
全 文 h120329tokyoH2.html

東京地方裁判所 平成 12年 3月 27日 民事第29部 判決 ( 平成2年(ワ)第5678号、同第14203号、平成9年(ワ)第11653号、同第20755号 )
事件名:  特許権侵害差止請求事件、損害賠償請求事件<新規芳香族カルボン酸アミド誘導体の製造方法特許>
要 旨
 1.新規物質トラニラストの生産方法の発明について特許権を有している原告が、右物質を製造、販売した被告らの行為が右特許権の侵害に当たると主張して、被告らに対し、特許法104条の推定規定の適用を前提として損害賠償を求めたが、被告らがその製造、販売したトラニラストの生産に用いた方法は、原告の技術的範囲にも、その均等範囲にも属さないとして、請求が棄却された事例。
 2.特許法104条の推定規定の適用がある場合に、被告が用いた生産方法の認定について詳細な説示がなされた事例:
 {1}製造過程、原料の購入量、製品の製造量及び販売量を裏付ける証拠資料に矛盾がなく、整合していると解されること、{2}HPLC不純物分析の結果によれば、被告主張方法の生成物と市販製剤のHPLC不純物分析チャートのパターンが一致する一方、原告発明方法の生成物と市販製剤とはHPLC不純物チャートのパターンが異なると認められること、{3}被告側の特許方法や被告側の医薬品製造承認書における製造方法と被告主張方法とを対比すると、それぞれがほぼ一致していると解されること、{4}原告発明方法と被告側の特許方法や被告主張方法との経済性を比較すると、原告発明方法は、収率等の点において利点が少なく、原告発明方法を選択する合理的な理由が存在しないこと、{5}工場検分の結果によれば、被告主張方法によって、医薬品としてのトラニラストを工場的規模で製造することは可能であると認められること等諸般の事実を総合的に考慮すると、被告が、被告主張方法を用いて、トラニラスト原末を製造したことを認定することができる。
 3.挙証者の信義誠実義務:
 挙証者は、相手方の反証の機会を保証し、迅速な審理を実現する観点から、証拠価値が高い重要な証拠を、先に提出すべきであることはいうまでもなく、逆に、証拠価値の低い証拠を提出しておいて、審理状況を見た上で、後日重要な証拠を提出するような訴訟活動をすべきではない。また、挙証者は、自己が提出した証拠の作成経緯、記載内容等について、明らかでない点があれば補足説明をすべきであるし、相手方からの釈明に対しては誠実に応答し、さらに、場合によって、他の客観的な証拠を補充した上で、合理的な説明をして、相手方が証拠の信憑力に関して速やかに検討できるよう協力することが必要である。
 3a.訴訟の早い段階で提出すべき証拠の例:
 「工場内において現実に実施した医薬品の製造方法がいかなる方法であったか」が主要な立証対象である場合には、製造記録が重要な証拠となり、これは自社内で作成され、その信憑性の吟味が不可欠となり、{1}製造記録相互間で矛盾がないか、前後の流れが合理的であるか、{2}製造量、販売量に関する資料等との調和が採れているか、{3}第三者との取引資料等と整合しているかなど様々な観点から証拠価値を検討することができるようにするために、精製工程をも含む連続した一連の記録全体を速やかに提出すべきであり、記録を小分けして小出しすることは許されない。
 4.被告の訴訟活動の経過を詳細に指摘して、それが、証拠提出の順序、時期及び方法のいずれの点においても、公正さを欠き、信義誠実に著しく反すると説示した事例。(但し、問題の訴訟活動は辞任前の訴訟代理人によってなされたものであり、新たに受任した訴訟代理人から証拠評価を含めた丁寧な補足説明がなされた)。
 5.防御方法を小出しに提出する等、被告の訴訟活動が著しく公正さを欠くものであったが、被告の訴訟活動は、随時提出主義を採用した旧民事訴訟法の下で行われたこと、裁判所が被告らからの証拠提出に対して、時機に遅れた防御方法であることを理由に却下する措置を講じなかったこと等に照らし、訴訟手続における公正の要請を実体的な真実解明の要請に優先させて、遅れて提出された訴訟資料を一律的に排除して、被告らの立証は尽くされていないと判断することは相当でないと判断され、被告勝訴判決が下された事例。
 5a.被告の訴訟活動が著しく公正さを欠くものであるにもかかわらず、旧民事訴訟法のもとでの訴訟行為であること等を考慮して、被告の提出した資料を裁判の基礎資料から排除しなかったが、迅速審理を主眼とし適時提出主義を採用した現行民事訴訟法の下で同様の訴訟活動がされた場合には、時機に遅れた攻撃又は防御の方法に当たることを理由に、直ちに証拠提出を却下した上で、手続的な公正さ及び迅速審理の要請を優先させる審理がされることになると説示された事例。
 6.被告の不適当な訴訟活動のため訴訟の円滑な審理が妨げられた経緯に鑑み、民事訴訟法63条に基づき、原告に生じた訴訟費用の5分の4を勝訴の被告に負担させた事例。 /知的財産権/無体財産権/工業所有権/特許権/新規芳香族カルボン酸アミド誘導体の製造方法特許/均等論/
参照条文: /特許.104条/特許.70条/特許.68条/民訴.2条/民訴.156条/民訴.157条/民訴.63条/
全 文 h120327tokyoD2.html

最高裁判所 平成 12年 3月 24日 第2小法廷 判決 ( 平成10年(オ)第217号、第218号 )
事件名:  損害賠償請求上告事件
要 旨
 1.長時間にわたる残業を恒常的に伴う業務に従事していた労働者がうつ病にり患し自殺した場合に、使用者の民法715条に基づく損害賠償責任が肯定された事例。
 2.ある業務に従事する特定の労働者の性格が同種の業務に従事する労働者の個性の多様さとして通常想定される範囲を外れるものでない限り、裁判所は、業務の負担が過重であることを原因とする損害賠償請求において使用者の賠償すべき額を決定するに当たり、その性格及びこれに基づく業務遂行の態様等を、心因的要因として斟酌することができない。(労働者の性格が通常の範囲内であると判断された事例)
 3.業務に起因するうつ病により自殺した労働者が両親と同居していた場合に、両親が労働者の状況を改善する措置を採らなかったことを賠償額の決定の際に斟酌することが許されないとされた事例。 /過失相殺/鬱病/過労死/業務起因性/労働災害/
参照条文: /民法:709条/民法:715条/民法:722条/
全 文 h120324supreme.html

最高裁判所 平成 12年 3月 24日 第2小法廷 判決 ( 平成8年(オ)第2177号 )
事件名:  損害賠償請求上告事件
要 旨
 保養所の管理運営契約に基づく経費の支払請求権と同契約の更新拒絶に基づく損害賠償請求権とが、同一当事者間に生じた一連の紛争に起因するものであるため、前者について和解の委任を受けた訴訟代理人(弁護士)が後者についても和解の権限を有し、その放棄が有効になされたと判断された事例。
参照条文: /民訴.55条2項2号/民訴.266条1項/
全 文 h120324supreme2.html

最高裁判所 平成 12年 3月 21日 第3小法廷 判決 ( 平成9年(オ)第1927号 )
事件名:  建物共用部分確認等請求上告事件
要 旨
 マンションの特定の専有部分からの汚水が流れる排水枝管について、それが建物の躯体部分であるコンクリートスラブを貫通してその階下にある室の天井裏に配されていて、排水元の室から点検・修理を行うことが不可能でり、階下の室から実施するほかに方法がない場合に、共用部分に当たるとされた事例。
参照条文: /区分所有.2条4項/区分所有.11条/
全 文 h120321supreme2.html

最高裁判所 平成 12年 3月 21日 第3小法廷 判決 ( 平成10年(行ツ)第5号 )
事件名:  営業許可取消処分取消請求上告事件
要 旨
 形式的には名義貸しといわざるを得ないものの法の立法目的を著しく害するおそれがあるとはいい難いような特段の事情が認められる場合は別として、そうでない限り、名義貸しは、類型的にみて、風俗営業許可取消要件の一つである「著しく善良の風俗若しくは清浄な風俗環境を害し、若しくは少年の健全な育成に障害を及ぼすおそれがある」場合に当たる。
参照条文: /風俗.26条1項/風俗.11条/
全 文 h120321supreme.html

最高裁判所 平成 12年 3月 17日 第2小法廷 判決 ( 平成11年(テ)第25号 )
事件名:  損害賠償請求特別上告事件
要 旨
 少額訴訟の判決に対する異議後の判決に対して控訴をすることができないとする民訴法380条1項の規定は、憲法32条に違反しない。 /審級制度/上訴制限/
参照条文: /民訴.380条1項/憲.32条/
全 文 h120317supreme2.html

最高裁判所 平成 12年 3月 17日 第2小法廷 判決 ( 平成10年(行ツ)第10号 )
事件名:  墓地経営許可処分取消請求事件
要 旨
 墓地から300メートルに満たない地域に敷地がある住宅等に居住する者が大阪府知事のした墓地の経営許可の取消しを求める原告適格を有しないとされた事例。 /当事者適格/
参照条文: /墓地.10条1項/行訴.9条/
全 文 h120317supreme.html

最高裁判所 平成 12年 3月 17日 第2小法廷 判決 ( 平成7年(行ツ)第132号 )
事件名:  懲戒処分取消請求上告事件
要 旨
 1.人事院勧告の完全実施等を求めるストライキに関与した農林水産省職員に対する懲戒処分が裁量権の範囲を逸脱したものとはいえないとされた事例。
 2.国家公務員法98条2項の規定は、憲法28条に違反するものでない。
 3.結社の自由及び団結権の保護に関する条約(いわゆるILO87号条約)3条並びに経済的、社会的及び文化的権利に関する国際規約8条1項(C)は、いずれも公務員の争議権を保障したものとは解されない。
 4.国家公務員法第3章第6節第2款の懲戒に関する規定は、憲法31条の規定に違反するものでない。 /労働基本権/懲戒権濫用/代償措置/人勧スト/全農林労働組合/争議行為/
参照条文: /国公.98条2項/国公.98条3項/憲.28条/憲.31条/ILO87号条約.3条/社会的国際人権規約.8条1項C/
全 文 h120317supreme3.html

最高裁判所 平成 12年 3月 16日 第3小法廷 決定 ( 平成11年(許)第39号 )
事件名:  不動産引渡命令に対する執行抗告棄却決定に対する許可抗告事件
要 旨
 滞納処分による差押えの後・強制競売等による差押えまでの間に賃借権が設定された不動産が強制競売手続等により売却された場合には、右賃借権に基づく占有者に対し引渡命令を発することができる。
参照条文: /民執.83条/民執.59条/滞調.10条1項/滞調.32条/
全 文 h120316supreme.html

東京高等裁判所 平成 12年 3月 16日 第6民事部 判決 ( 平成11年(ネ)第5819号 )
事件名:  本訴実用新案権等の実施権不存在確認請求、反訴損害賠償請求控訴事件<BJ工法通常実施権設定契約>
要 旨
 当事者の主張の経過を摘示して、当事者間に争いのない事実に裁判所が拘束される旨が説示された事例。
 実用新案権の通常実施権設定契約について、代理店等の募集権限の存在に関して要素の錯誤があり、契約は無効であるとして、支払済の権利金の返還請求が認められた事例。 /知的財産権/無体財産権/工業所有権/実用新案権/BJ工法/通常実施権設定契約/
参照条文: /民訴.179条/民法:95条/
全 文 h120316tokyoH2.html

東京高等裁判所 平成 12年 3月 16日 第6民事部 判決 ( 平成11年(ネ)第1106号 )
事件名:  著作権確認等請求控訴事件<テレビ映画・ウルトラマンの著作権>
要 旨
 1.ある著作物について、≪原告がタイ国において著作権を有することの確認請求≫から≪被告が日本国において著作権を有しないことの確認請求≫に変更することが、民訴143条の請求の基礎の同一性の要件を充足すると判断された事例。
 2.訴え却下判決に対する控訴審において訴えを変更することは、控訴審が変更後の訴えを適法と認めた場合に事件を原審に差し戻す限り本案の問題について被告の審級の利益が害されるとはいえず、また、訴訟要件の問題について第一審で争う機会を失うことは訴訟要件の性質に照らして被告も甘受すべきであるから、許される。
 3.少なくとも国際裁判管轄の前提としての不法行為の認定においては、原告の主張のみによって不法行為に基づく国際裁判管轄を認めるべきではなく、管轄の決定に必要な範囲で一応の証拠調べをなし、不法行為の存在が一定以上の確度をもって認められる事案に限って、不法行為に基づく裁判管轄を肯定するのが相当である。
 3a.被告の日本における不法行為が存在しない見込みが大きいため、我が国に不法行為に基づく裁判管轄があると認めることができないとされた事例。
 4.原告の会社名と代表取締役名の社印および代表取締役印によるものと思われる印影が押捺され、その横に代表者の欧文文字の署名がなされている契約書について、被告により作成名義人と主張された原告が署名の真正のみを争い、会社印および代表取締役印の印影について何も言及していないことから、裁判所が印影は真正の会社印・代表取締役印によるものと判断し、契約書は真正に成立したものであると判断した事例。
 5.被告が日本国において著作権を有しないことの確認請求について、日本国における著作権の所在地が日本国内に存在することは権利の性質上明らかであるから、民訴法5条4号により、我が国に財産所在地の裁判管轄があると判断された事例。
 6.日本国外における著作権の帰属について紛争が生じているが、日本国における著作権に関して具体的な紛争が存在せず、抽象的に紛争発生の可能性があるというにすぎない場合に、確認の利益が否定された事例。
 7.訴えの却下を免れない請求に基づき、他の請求につき併合請求による裁判管轄を認めることは不合理であるから、許されない。(国際裁判管轄が問題となっている場合)
 8.XがYに対して日本において本件訴訟を開始後に同一紛争についてタイ国で訴訟(刑事に関連する民事事件)を開始し、後者においてXの請求の合理性ならびに受理可能性について予備的審問の手続が終了して証拠調べに入っている場合に、日本国内に事務所等を設置しておらず、営業活動も行っていないYに対し、タイ訴訟とは別に、日本の裁判所において本件訴訟に応訴することを強いることは、Yに著しく過大な負担を課すものであり、日本の国際裁判管轄を否定すべき特段の事情があるとされた事例。(予備的な説示) /知的財産権/無体財産権/著作権/国際的重複訴訟/訴訟要件/ウルトラマン/円谷英二/
参照条文: /民訴.5条4号/民訴.5条9号/民訴.9条/民訴.228条/民訴.142条/民訴.143条/
全 文 h120316tokyoH.html

東京高等裁判所 平成 12年 3月 15日 第13民事部 判決 ( 平成11年(ネ)第3084号 )
事件名:  不正競争行為差止等請求控訴事件<ポケット吸いがら入れ不正競争>
要 旨
 1.不燃性の材料で作られた名刺サイズの携帯用吸い殻入れについて、その形状が、際立った形態上の特徴点を有しないので、商品形態が商品表示としての機能を有するとはいえないとして、不正競争防止法に基づく差止請求が棄却された事例。
 2.「ポケット吸いがら入れ」という表示が、製品の用途・形状を普通に用いられる方法で表現したものであり、それ自体として出所の識別機能を備える表示であるとは認められないと判断された事例。 /知的財産権/無体財産権/不正競争防止法/
参照条文: /不正競争.2条1項/
全 文 h120315tokyoH.html

最高裁判所 平成 12年 3月 14日 第3小法廷 判決 ( 平成8年(オ)第380号 )
事件名:  親子関係不存在確認請求上告事件
要 旨
 婚姻関係が終了してその家庭が崩壊しているとの事情があっても、子の身分関係の法的安定を保持する必要が当然になくなるものではないから、右の事情が存在することの一事をもって、嫡出否認の訴えを提起し得る期間の経過後に提起された親子関係(父子関係)不存在確認の訴えを適法とすることはできない。 /訴訟要件/訴えの適法性/
参照条文: /民法:772条/民法:774条/民法:775条/民法:777条/民訴.140条/
全 文 h120314supreme.html

最高裁判所 平成 12年 3月 10日 第1小法廷 決定 ( 平成11年(許)第18号 )
事件名:  財産分与審判に対する抗告棄却決定に対する許可抗告事件
要 旨
 内縁の夫婦の一方の死亡により内縁関係が解消した場合、法律上の夫婦の離婚に伴う財産分与に関する民法768条の規定を類推適用することはできない。(生存内縁配偶者が死亡内縁配偶者の相続人に対して財産分与請求権を有すると解することはできない)
参照条文: /民法:768条/
全 文 h120310supreme.html

最高裁判所 平成 12年 3月 10日 第1小法廷 決定 ( 平成11年(許)第20号 )
事件名:  文書提出命令申立却下決定に対する許可抗告事件
要 旨
 1.証拠調べの必要性を欠くことを理由として文書提出命令の申立てを却下する決定に対しては、その必要性があることを理由として独立に不服の申立てをすることはできない。
 2.民訴法197条1項3号所定の「技術又は職業の秘密」とは、その事項が公開されると、当該技術の有する社会的価値が下落しこれによる活動が困難になるもの又は当該職業に深刻な影響を与え以後その遂行が困難になるものをいう。
 2a.電話機器類にしばしば通話不能になる瑕疵があることなどを理由に損害賠償請求を求めた原告が、機器の瑕疵を立証するために、機器の回路図及び信号流れ図につき文書提出命令を申し立てた事件において、原決定が情報の種類、性質及び開示することによる不利益の内容を具体的に認定することなく、文書に前記技術上の情報が記載されていることから直ちに「技術又は職業の秘密」を記載した文書に当たると判断したことは違法であるとして、原決定が破棄された事例。
 3.文書の開示によって所持者の側に看過し難い不利益が生じるおそれがあるかどうかを文書の内容に照らして具体的に判断することなく、文書が外部の者に見せることを全く予定せずに作成されたものであることから直ちに民訴法220条4号ハ(平成13年改正前。現ニ)所定の文書(自己利用文書)に当たると判断したことは違法であるとして、原決定が破棄された事例。 /内部文書/書証/
参照条文: /民訴.197条1項3号/民訴.220条4号/
全 文 h120310supreme2.html

最高裁判所 平成 12年 3月 10日 第1小法廷 決定 ( 平成11年(許)第26号 )
事件名:  文書提出命令に対する許可抗告事件
要 旨
 1.民訴法220条3号後段の文書(法律関係文書)には、文書の所持者が専ら自己使用のために作成した内部文書は含まれない。
 2.教科用図書検定調査審議会作成の、検定申請のあった教科用図書の判定内容を記載した書面及び文部大臣に対する報告書が、専ら文部省内部において使用されることを目的として作成した内部文書というべきであり、民訴法220条3号後段の文書に当たらないとされた事例。 /文書提出命令/自己使用文書/法律関係文書/書証/
参照条文: /民訴.220条3号/
全 文 h120310supreme3.html

東京地方裁判所 平成 12年 3月 10日 民事第47部 判決 ( 平成11年(ワ)第18949号 )
事件名:  商標権侵害差止等請求事件<「A BATHING APE」商標等>
要 旨
 衣料品の著名商標権者が中古衣料販売業者の店頭で偽造商品が陳列されているのを発見し、この業者に対して販売差止請求・廃棄請求、900万円の損害賠償請求をしたが、被告が指摘された模造品を撤去したこと、被告がこの1枚以外に偽造品を販売し又は販売のために展示したとまで認めることはできないこと等を理由に、1枚の偽造品の展示行為による損害として500円の賠償金の支払のみが命じられた事例。
 1.請求のごく一部が認容され、他が棄却された場合に、訴訟費用が全額原告の負担とされた事例。
 2.衣料品の著名商標権者が中古衣料販売業者の店頭で偽造商品が1枚陳列されているのを発見し、この業者に対して販売差止等を請求した事件において、この1枚以外に偽造品が含まれていた可能性を否定することはできないが、被告は古物商として買い取る品物の真贋の判定には日頃から注意し、偽造品を扱うことがないようにしていたものと認められ、原告は偽造商品対策室を設けて調査・摘発に当たっていたにもかかわらず、被告について右1枚以外に具体的に偽造品と指摘することができたものが存したとは認められないことから、被告が、右の一枚以外に本件商品の偽造品を販売し又は販売のために展示したとまで認めることはできないとされた事例。(自由心証主義/事実認定)
 3.中古衣料品業者である被告がブランド商品の買取広告において原告商標と類似の標章「A
 BATHING
 APE」を記載した場合に、その記載は、商標として使用されたものとは認められないから、その記載行為が原告商標権を侵害することはなく、また、その記載は、被告が自己の営業又は商品の表示として用いたものとは認められないから、その記載行為は不正競争防止法2条1項1号又は2号の不正競争行為に当たることもないと判断された事例。 /知的財産権/無体財産権/工業所有権/商標権/不正競争防止法/権利執行活動により得られた証拠/
参照条文: /民訴.247条/民訴.64条/商標.36条/商標.39条/特許.103条/不正競争.2条1項1号/不正競争.2条1項2号/
全 文 h120310tokyoD.html

最高裁判所 平成 12年 3月 9日 第1小法廷 判決 ( 平成10年(オ)第560号 )
事件名:  配当異議上告事件
要 旨
 1.離婚に伴う財産分与として金銭を給付する旨の合意は、不相当に過大な部分について、その限度において詐害行為として取り消されるべきである。
 2.離婚に伴う慰謝料を支払う旨の合意は、負担すべき損害賠償債務の額を超えた部分について詐害行為取消権行使の対象となる。
 3.配当異議訴訟において詐害行為取消権が行使された場合に、主文において取消対象たる合意を取り消すことなく配当表変更の請求を認容することは許されないとされた事例。
 4.配当異議訴訟において、異議対象債権(財産分与により生じた債権)が通謀虚偽表示により不存在であることを理由とする異議が主位請求とされ、財産分与が詐害行為として取り消されたことにより不存在であることを理由とする異議が予備的請求とされた事例(これら二つの異議が訴訟物を異にすることが前提にされているが、その点について明示的判断がなされているわけではない)。 /予備的併合/訴訟物/
参照条文: /民法:424条/民法:709条/民法:768条/民執.90条/民訴.246条/民訴.136条/
全 文 h120309supreme.html

最高裁判所 平成 12年 3月 9日 第1小法廷 判決 ( 平成9年(オ)第992号・同第993号 )
事件名:  損害賠償請求及び独立当事者参加上告事件
要 旨
 1.交通事故の被害者の保有者に対する損害賠償請求権が第三者に転付されたときは、被害者は転付された債権額の限度において自動車損害賠償保障法16条1項に基づく責任賠償金の支払請求権(直接請求権)を失う。(補足意見と反対意見あり)
 2.任意保険契約の約款中に(a)損害賠償金の額から(b)自賠責共済契約により支払われる額を控除した額が(c)保険金として支払われる旨の定めがあり、保険金額3000万円の自賠責共済契約に基づいて(d1)被害者の妻子にその固有の慰謝料としてある金額がすでに支払われていて、(d2)被害者の損害について支払われるべき金額はこれを控除した金額である場合に、(b)にあたるのは、(d2)のみであり(d1)を含めることはできないとされた事例。 /補助的請求権/差押禁止債権/自賠法/
参照条文: /自賠.18条/自賠.16条1項/民執.160条/
全 文 h120309supreme2.html

最高裁判所 平成 12年 3月 9日 第1小法廷 判決 ( 平成7年(オ)第2030号 )
事件名:  賃金請求上告事件
要 旨
 1.労働基準法(昭和六二年法律第九九号による改正前のもの)32条の労働時間とは、労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間をいい、右の労働時間に該当するか否かは、労働者の行為が使用者の指揮命令下に置かれたものと評価することができるか否かにより客観的に定まるものであって、労働契約、就業規則、労働協約等の定めのいかんにより決定されるべきものではない。
 2.労働者が始業時刻前及び終業時刻後の所定の入退場門と更衣所等との間の移動、終業時刻後の洗身等、休憩時間中の作業服及び保護具の一部の着脱等に要した時間が労働基準法上の労働時間に該当しないとされた事例。
参照条文: /労基.32条/
全 文 h120309supreme3.html

最高裁判所 平成 12年 3月 9日 第1小法廷 判決 ( 平成7年(オ)第2029号 )
事件名:  賃金請求上告事件
要 旨
 1.労働基準法(昭和六二年法律第九九号による改正前のもの)32条の労働時間とは、労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間をいい、労働者が、就業を命じられた業務の準備行為等を事業所内において行うことを使用者から義務付けられ、又はこれを余儀なくされたときは、当該行為を所定労働時間外において行うものとされている場合であっても、当該行為は、特段の事情のない限り、使用者の指揮命令下に置かれたものと評価することができ、当該行為に要した時間は、それが社会通念上必要と認められるものである限り、労働基準法上の労働時間に該当する。
 2.労働者が始業時刻前及び終業時刻後の作業服及び保護具の着脱等に要した時間が労働基準法上の労働時間に該当するとされた事例。
参照条文: /労基.32条/
全 文 h120309supreme4.html

最高裁判所 平成 12年 3月 9日 第1小法廷 判決 ( 平成11年(受)第1067号 )
事件名:  預託金返還請求上告事件
要 旨
 1.破産宣告当時双務契約の当事者双方に未履行の債務が存在していても、契約を解除することによって相手方に著しく不公平な状況が生じるような場合には、破産管財人は同項に基づく解除権を行使することができない。
 2.預託金会員制ゴルフクラブの会員が破産した場合に、破産管財人が預託期間満了前に破産法59条1項に基づく解除権を行使して預託金の返還を求めると相手方に著しく不公平な状況が生ずるとして、解除が認められなかった事例。
参照条文: /破産.59条1項/破産.60条/
全 文 h120309supreme6.html

最高裁判所 平成 12年 3月 9日 第1小法廷 判決 ( 平成10年(オ)第1116号 )
事件名:  預託金返還等請求上告事件
要 旨
 年会費のない預託金会員制ゴルフクラブの会員が破産した場合に、ゴルフ場施設を利用した場合に発生する利用料金支払義務は破産宣告時における未履行債務ということはできず、破産宣告時に会員契約が双方未履行の状態にあったということはできないから、破産管財人は破産法59条1項に基づて解除権を行使することができないとされた事例。 /双務契約/
参照条文: /破産.59条1項/
全 文 h120309supreme5.html

東京高等裁判所 平成 12年 3月 8日 第13民事部 判決 ( 平成11年(行ケ)第34号 )
事件名:  審決取消請求事件<温度センサー実用新案>
要 旨
 《内燃機関の冷却水路に取り付けられるセンサーケースと、このセンサーケースの底部に配置された水温計用のサーミスターと、伝熱材に埋設され前記センサーケースの底部から突出して設けられた電子制御装置用のサーミスターと、この電子制御用のサーミスターと前記水温計用のサーミスターとの間に介在し、両サーミスター相互間の熱干渉を防止する断熱材と、からなることを特徴とする温度センサー》の考案が、刊行物に記載された考案並びに周知の技術に基づき当業者が極めて容易に考案をすることができたものであるとして、実用新案登録が認められなかった事例。(拒絶査定を支持した審決を支持) /知的財産権/無体財産権/工業所有権/実用新案権/
参照条文: /実用新案.3条2項/
全 文 h120308tokyoH53.html

東京高等裁判所 平成 12年 3月 8日 第13民事部 判決 ( 平成10年(行ケ)第359号 )
事件名:  審決取消請求事件<キメラモノクローナル抗体の製造方法特許>
要 旨
 名称を「キメラモノクローナル抗体の製造方法」とする発明について、先行文献に記載された周知の技術的事項に基づき当業者が容易にすることができた発明であることを理由に特許が認められなかった事例。(拒絶査定を支持する審決を支持) /知的財産権/無体財産権/工業所有権/特許権/進歩性/
参照条文: /特許.29条2項/
全 文 h120308tokyoH52.html

名古屋地方裁判所 平成 12年 3月 8日 民事第9部 判決 ( 平成4年(ワ)第2130号 )
事件名:  損害賠償請求事件<設計図著作権>
要 旨
 1.施主である被告1が建築設計業者である原告にショッピングセンターの設計を依頼したが、作成された設計図書に基づく工事費が予算を超過するため、原告との設計・監理契約を解約して他の設計業者である被告2に依頼し、被告2が原告作成の設計図書を参考にしながら予算内で工事可能な設計図書を作成し、これに基づいて工事がなされた場合に、原告が、施主、設計業者および工事請負人に対して、第一次的に著作権および著作者人格権の侵害を理由に、第二次的に原告作成の設計図を使用しないとの合意に基づく不作為債権の侵害を理由に、損害賠償を請求し、設計業者に対する請求が一部認容され、他の者に対する請求が棄却された事例。
 2.建築設計図を著作物として保護するのは、建築物によって表現された美的形象を模倣建築による盗用から保護する趣旨ではないから、美術性又は芸術性を備えることは必要なく、また、法は保護の要件として、創作性があることを要求しているだけであって、創作性が高いものであることは要求していないから、設計する建物は特に新奇なものである必要はなく、そして、図面に設計者の思想が創作的に表現されていれば著作物性としては十分であり、その図面により建築するについて十分であるかどうかという図面の完全性が要求されるものでもない。
 3.建築設計図書に記載された表については、記載事項の内容や数値自体は表現方法ではないから著作物性はなく、表に著作物性が認められるのは、表の形式そのものが特別のものであったり、表を構成する項目の選択やその記載の順序などに特別の工夫が見られる場合に限られる。
 4.建物の設計図が施主の構想、指示に基づいて作られている場合であっても、著作物として保護されるべきは、著作物から読み取ることのできる建築思想(アイデア)ではなく、その表現形式自体であるから、著作権者がアイデアの発案者である必要はない。
 5.建築設計図書の一部について著作物性が認められ、他の部分について否定された事例。
 6.被告が原告の建築設計図面に依拠してこれと同一性のある図面を作成したことにより著作権を侵害したと認定された事例。
 7.2つの建築設計図面について複製の要件である同一性が認められるためには、両図面が全く同じであることは必要でなく、図面の内容及び形式を覚知させるに足る同一性があれば足りるが、逆に、同じ部分があるとしても、異なる部分の存在により、量的あるいは質的に別の著作と観念される程度に至ったものは、複製ということはできない。
 8.施主が設計業者に設計・監理契約の解除に伴い一定の金銭を支払った場合に、設計業業者が施主に設計図書の使用を許諾したと認められなかった事例。
 9.設計図書の著作権侵害により損害が生じたことが明らかな場合に、民訴法248により相当な損害額を認定するにあたって、設計図書の作成により通常得べかりし設計料を設計図書全体(128枚の図面)の対価とみて、一枚当たり32万円強と計算し、著作権が侵害された図面が3枚であり、その図面が建物の設計に占める重要度が特に大きいものとも思われないことを考慮して、損害額を100万円と算定した事例。 /知的財産権/無体財産権/著作権/
参照条文: /著作.21条/著作.2条1項15号ロ/著作.114条/民訴.248条/
全 文 h120308nagoyaD.html

東京高等裁判所 平成 12年 3月 7日 第18民事部 判決 ( 平成11年(ネ)第4022号(控訴)、同第5581号(附帯控訴) )
事件名:  意匠権侵害行為差止等請求控訴事件・同附帯控訴事件<ロープ連結環意匠>
要 旨
 原告のロープ連結環の登録意匠の要部が出願時における公知意匠等を参酌して定められ、被告のイ号物件(カラビナ)およびロ号物件(登山の際にコーヒーカッブ等の軽量品をぶら下げるキーホルダー)の意匠は、原告意匠と類似しないと判断された事例。 /知的財産権/無体財産権/工業所有権/意匠権/
参照条文: /意匠.3条/意匠.23条/
全 文 h120307tokyoH.html

最高裁判所 平成 12年 2月 29日 第3小法廷 判決 ( 平成10年(オ)第1081号、第1082号 )
事件名:  損害賠償請求上告事件
要 旨
 1.「エホバの証人」の信者である患者が、《輸血を受けることができないこと及び輸血をしなかったために生じた損傷に関して医師及び病院職員等の責任を問わない》旨を記載した免責証書を医師に手渡し、それから約1月後に手術がなされた場合に、医師が患者に対して輸血の方針に関し説明をしないで手術をして輸血をしたことは、患者が輸血を伴う可能性のある手術を受けるか否かについて意思決定をする権利を奪ったことになり、不法行為責任を負うとされた事例。
 2.患者が、輸血を受けることは自己の宗教上の信念に反するとして、輸血を伴う医療行為を拒否するとの明確な意思を有している場合、このような意思決定をする権利は、人格権の一内容として尊重されなければならない。 /自己決定権/医療過誤/人格権侵害/医師の説明義務/
参照条文: /民法:709条/民法:710条/民法:715条/
全 文 h120229supreme.html

最高裁判所 平成 12年 2月 29日 第3小法廷 判決 ( 平成8年(オ)第2224号 )
事件名:  預託金返還請求事件
要 旨
 1.破産宣告当時双務契約の当事者双方に未履行の債務が存在していても、契約を解除することによって相手方に著しく不公平な状況が生じるような場合には、破産管財人は同項に基づく解除権を行使することができないというべきであり、相手方に著しく不公平な状況が生じるかどうかは、解除によって契約当事者双方が原状回復等としてすべきことになる給付内容が均衡しているかどうか、破産法60条等の規定により相手方の不利益がどの程度回復されるか、破産者の側の未履行債務が双務契約において本質的・中核的なものかそれとも付随的なものにすぎないかなどの諸般の事情を総合的に考慮して決すべきである。
 2.預託金会員制ゴルフクラブの会員が破産した場合に、破産管財人が預託期間満了前に破産法59条1項に基づく解除権を行使して預託金の返還を求めると相手方に著しく不公平な状況が生ずるとして、解除が認められなかった事例。
参照条文: /破産.53条1項/破産.54条/
全 文 h120229supreme2.html

最高裁判所 平成 12年 2月 29日 第3小法廷 判決 ( 平成10年(行ツ)第19号 )
事件名:  審決取消請求上告事件
要 旨
 1.「植物の新品種を育種し増殖する方法」に係る発明の育種過程における反復可能性は、科学的にその植物を再現することが当業者において可能であれば足り、その確率が高いことを要しない。(反復可能性が肯定された事例)
 2.発明の反復可能性は、特許出願当時にあれば足りるから、その後親品種である晩黄桃が所在不明になったことは、発明の反復可能性の肯定判断を左右するものではないとされた事例。
参照条文: /特許.2条1項/
全 文 h120229supreme51.html

東京高等裁判所 平成 12年 2月 29日 第6民事部 判決 ( 平成11年(行ケ)第192号 )
事件名:  商標登録取消決定取消請求事件<POLOCITY商標>
要 旨
 1.「POLOCITY」の欧文字と「ポロシティー」の片仮名文字を上下に横書きした登録商標がその指定商品である被服・寝具等に使用された場合には、これに接した取引者・需要者は「POLO」の文字部分に強く印象付けられ、その商品をラルフ・ローレンと経済的または組織的に何らかの関係を有する者の取扱いに係る商品であるかのように、商品の出所について混同を生ずるおそれがあるから、本商標の登録は商標法4条1項15号により許されないとされた事例。(商標登録取消決定を支持)
 2.ラルフ・ローレンあるいはポロ社がファッション関連業者として著名といい得る状態に至っており、それらの業務に係る商品に付される商標は「POLO」等と略称されることも少なくないこと、一方、競技としての「ポロ」がわが国においては極めてなじみが薄いことに鑑みれば、ラルフ・ローレンと無関係の「POLO」の文字を含む商標は、いずれもラルフ・ローレンあるいはポロ社の業務に係る商品の標章の略称として広く知られている「POLO」等の信用力を不正に利用しようとするものであることが十分考えられるから、そのような商標が多数存在することをもって、本件商標をその指定商品に使用しても出所の混同を生ずるおそれがないことの論拠とすることはできない、と説示された事例。 /知的財産権/無体財産権/工業所有権/商標権/ポロ商標/
参照条文: /商標.4条1項15号/
全 文 h120229tokyoH51.html

東京地方裁判所 平成 12年 2月 29日 民事第46部 判決 ( 平成10年(ワ)第5887号 )
事件名:  損害賠償請求事件<サッカー選手パブリシティ等>
要 旨
 パブリシティ権の侵害が否定されて、プライバシー権の侵害が肯定された事例。
 1.マスメディア等による著名人の紹介等は、本来言論、出版、報道の自由として保障されるものであることを考慮すれば、仮に、著名人の顧客吸引力の持つ経済的価値をパブリシティ権として保護する見解を採用し得るとしても、著名人がパブリシティ権の名の下に自己に対するマスメディア等の批判を拒絶することが許されない場合がある。
 1a.有名サッカー選手である原告の生い立ちと活躍を紹介した書籍を被告らが発行し約5万5000冊を売却した場合に、その書籍における原告の氏名、肖像等の使用は、その使用の目的、方法及び態様を全体的かつ客観的に考察すると、原告の氏名、肖像等の持つ顧客吸引力に着目して専らこれを利用しようとするものであるとは認められないから、パブリシティ権を認める見解を採ったとしても、この書籍の出版行為がパブリシティ権を侵害するということはできないとされた事例。
 2.プライバシー権の侵害があるというためには、公表された内容が、(1)私生活上の事実又は私生活上の事実らしく受け取られるおそれのある事柄であって、(2)一般人の感性を基準として他人への公開を欲しない事柄であり、(3)これが一般に未だ知られておらず、かつ、(4)その公表によって被害者が不快、不安の念をおぼえるものであることを要する。
 2a.有名プロサッカー選手について、プロサッカー選手になった以降の原告の活動、並びに、プロサッカー選手になる以前の事項であっても、ジュニアユース等の日本代表選手として活躍した様子や、中学校及び高等学校のサッカー部での活動状況に関する記述がプライバシー権を侵害するものでないと判断された事例。
 2b.有名プロサッカー選手について、その出生時の状況、身体的特徴、家族構成、性格、学業成績、教諭の評価、幼少時代に出席した結婚披露宴、中学時代の詩等、サッカー競技に直接関係しない記述や写真の掲載がプライバシー権を侵害するものであると判断され、損害賠償および差止請求が認容された事例。
 2c.プライバシー権を侵害すると認められる記述及び写真等が書籍の一部にとどまるが、侵害に当たる部分とそれ以外の部分とを判然と区別することができず、侵害に当たる部分が書籍中で重要な部分を占めており、これを除いた場合には書籍が書籍としての体をなさなくなるものと認められる場合に、書籍全体の発行、販売及び頒布行為の差止めが認められた事例。
 3.中学生の詩が「学年文集」に掲載され、この文集が中学校の教諭及び同年度の卒業生に合計300部以上配布された場合に、著作者である中学生はその詩が学年文集に掲載されることを承諾していたものであるから、公表について同意していたと判断された事例。(公表権)
 4.15行から成る詩の自筆原稿が書籍のあるページにそのまま写真製版された形で掲載され、その頁が詩についての簡単なコメント以外は余白となっていて、本文中に詩に言及した記述が一切ない場合に、その掲載は著作権法32条1項により許された引用には当たらないと判断された事例。
 5.複製権侵害により原告が受けた損害額の推定のために被告が得た利益額を算定するに際して、被告が販売価格から控除すべき販売費、一般管理費等を概括的に主張しながら、費目ごとの金額をあげて控除すべき理由を明らかにせず、また、被告らが提出した証拠を総合しても、これらの費用の具体的な内容が不明である場合に、それらが控除すべき費用と認められなかった事例。(証明責任) /知的財産権/無体財産権/著作権/中田英俊選手/
参照条文: /著作.18条/著作.32条1項/著作.114条1項/民訴.246条/憲.13条/憲.21条/
全 文 h120229tokyoD2.html

最高裁判所 平成 12年 2月 24日 第1小法廷 判決 ( 平成11年(受)第110号 )
事件名:  具体的相続分確認請求上告事件
要 旨
 民法903条1項の規定により定まる相続分(具体的相続分)は、遺産分割手続における分配の前提となるべき計算上の価額又はその価額の遺産の総額に対する割合を意味するものであって、それ自体を実体法上の権利関係であるということはできず、遺産分割審判事件における遺産の分割や遺留分減殺請求に関する訴訟事件における遺留分の確定等のための前提問題として審理判断される事項であり、これのみを別個独立に判決によって確認することを求める訴えは、確認の利益を欠いて許されない。 /訴えの客観的利益/訴えの利益/
参照条文: /民訴.140条/民法:903条/
全 文 h120224supreme.html

最高裁判所 平成 12年 2月 24日 第1小法廷 決定 ( 平成8年(あ)第342号 )
事件名:  商標法違反被告事件
要 旨
 パチスロ機の完成品に組み込まれた部品(CPU)の商標について商標権侵害罪の成立が認められた事例。 /知的財産権/無体財産権/工業所有権/商標権/
参照条文: /商標.78条/商標.2条3項2号/
全 文 h120224supreme91.html

大阪地方裁判所 平成 12年 2月 24日 第21民事部 判決 ( 平成9年(ワ)第9063号 )
事件名:  特許権侵害差止請求事件<洗い米及びその包装方法特許>
要 旨
 1.≪洗滌時に吸水した水分が主に米粒の表層部にとどまっているうちに強制的に除水して得られる、米肌に亀裂がなく、米肌面にある陥没部の糠分がほとんど除去された、平均含水率が約13%以上16%を超えないことを特徴とする洗い米≫の発明について、特許権の侵害及び間接侵害の成立が認められた事例。
 2.発明の構成要件である「糠分がほとんど除去された」の意義が特許請求の範囲の記載自体からは明確ではない場合に、明細書の他の部分の記載を総合考慮して、≪消費者が洗米を行った場合の糠の除去の程度であり、そのまま炊飯した場合、飯が糠臭くない程度、また、精白米表面にある肉眼では見えない無数の微細な陥没部や、胚芽の抜け跡に入り込んでいるミクロン単位の糠粉等を、ほとんど除去しており、再びそれを洗米した場合、洗滌水がほとんど濁らない状態≫を指すものであると解された事例。
 3.発明の構成要件である「亀裂がない」の意義が特許請求の範囲の記載自体からは明確ではない場合に、明細書の他の部分の記載ならびに証拠を考慮して、≪米肌に肉眼でも明確に確認できる程度の亀裂が入った米粒の混入率が、食味において有意差が生じない概ね20%以下の割合であること≫を指すと解された事例。
 4.特許権に用いられた製造装置が工場火災により使用不能となって廃棄処分された場合に、被告が、弁論において、発明品を製造、販売しておらず、今後製造、販売する予定もないと主張したが、裁判所は、火災による滅失まで被告が被告製品が原告の特許権の技術的範囲に属することを争ってこれを継続的に販売してきたこと、火災発生後もその基本的態度に変更はないことを考慮して、差止請求を認容した事例。 /知的財産権/無体財産権/工業所有権/特許権/
参照条文: /特許.101条/特許.70条/
全 文 h120224osakaD.html

東京高等裁判所 平成 12年 2月 24日 第6民事部 判決 ( 平成10年(ネ)第2942号 )
事件名:  不正競争行為差止請求控訴事件<エレクトリックギター不正競争>
要 旨
 1.著名なエレクトリックギター製造会社である原告(ギブソン・ギター・コーポレーション)が、形態模倣品を製造・販売する被告会社に対して、不正競争防止法に基づいてその製造・販売の差止等を請求したが棄却され、民法709条による損害賠償請求も違法性の欠如を理由に棄却された事例。
 2.原告製品が遅くとも1973年頃には、我が国のロック音楽のファンの間で、エレクトリックギターにおける著名な名器としての地位を確立し、そ製品の形態が出所表示機能を有するに至ったが、その後、現在に至るまで二〇年以上にわたって、多い時には10数社の国内楽器製造業者から30以上ものブランドで、類似形態の商品が市場に出回り続け、これに対して1993年までの間は原告によって何らの対抗措置が執られていないため、出所表示性が遅くとも1993年より前までに既に消滅していたと判断された事例。(出所表示機能の希釈化(ダイリューション))
 3.商品形態の模倣行為は、不正競争防止法による不正競争に該当しない場合でも、取引界における公正かつ自由な競争として許される範囲を著しく逸脱し、それによって被控訴人の法的利益を侵害する場合には、不法行為を構成するものというべきであるが、同様の模倣行為が続いた場合、それが公正かつ自由な競争として許される範囲から逸脱する度合いは、時の経過とともに生ずる状況の変化に応じて変化することがあり得るのであり、その度合いは、行為に関連するあらゆる事柄を総合して判定すべきものである。
 3a.当初は、不法行為の要件としての違法性を有するものとして開始され、継続されていた模倣行為が、模倣された製品の形態が出所表示機能を失ったこと等の事情により、短期消滅時効が完成していない期間の模倣行為について違法性が失われていると判断された事例。 /知的財産権/無体財産権/不正競争防止法/
参照条文: /不正競争.2条1項/民法:709条/
全 文 h120224tokyoH.html

大阪高等裁判所 平成 12年 2月 23日 第8民事部 判決 ( 平成10年(ネ)第3150号 )
事件名:  意匠権に基づく侵害行為差止請求控訴事件<輸液容器意匠>
要 旨
 1.輸液容器の意匠につき、被告意匠は原告登録意匠と類似しないと判断された事例。
 2.輸液容器については、購入対象の実質的な選択を行うのは最終的にこれを使用する医療関係者であって、これらの医療関係者を意匠の類否判断の主体としての需要者と考えるべきであるから、実際の使用態様を前提として意匠の要部を認定すべきであり、要部を流通過程における取引者の目を惹く部分に限ることは正当ではない。
 2a.輸液容器の意匠について、筒状カプセル及び筒状排出口の形状を要部であるとし、また、正面だけではなく、背面及び平面の全体形状も要部であるとした判断は正当であるとされた事例。
 3.旧意匠法における類似意匠制度は、本意匠の保護(紛争の防止、権利行使の迅速化等)のため、本意匠の権利範囲(類似範囲)を客観的に明確化することを目的とする制度であり、類似意匠の登録は当該意匠が本意匠の意匠権の類似範囲に属することを確認するものであって、それによって本意匠の権利範囲(効力範囲)を拡張するものではないから、類似意匠の意匠権(あるいは、それを合体した本意匠の意匠権)に基づいて、それに類似するが本意匠には類似しない他人の意匠の実施を差し止めることはできない。 /知的財産権/無体財産権/工業所有権/意匠権/
参照条文: /意匠.23条/
全 文 h120223osakaH.html

大阪地方裁判所 平成 12年 2月 22日 第21民事部 判決 ( 平成10年(ワ)第12235号 )
事件名:  特許権侵害行為差止請求事件<シュレッダー用切断刃特許>
要 旨
 1.シュレッダー用切断刃の装着方法に関して、被告物件が原告の実用新案の技術的範囲に属しないと判断された事例(構成要件も、均等論の要件も、不完全利用論の要件も充足しない)。
 2.明細書の「シュレッダーのケーシングに軸支された軸にスペーサを挟んで切断刃を装着し、この切断刃を該軸に嵌着される取付台部分とこれを取り囲む刃先部分とで分割形成し、」という記載における「嵌着」とは、「嵌めて部材を取り付けること」を意味する技術用語であり、これを取付台を軸に着けるというほどの意味に解することはできず、被告物件の切断刃では、軸と取付台を一体形成しており、その軸と取付台を別部材として「嵌着」させたものではないから、被告物件は原告発明の構成要件を充足していないと判断された事例。
 3.均等要件としての容易想到性は、当業者たる第三者であれば、特許請求の範囲に記載された発明と実質的に同一なものとして特許権の実質的価値が及ぶものと当然に予期すべき範囲を画するための要件であるから、特許法29条2項の場合とは異なり、当業者であれば誰もが、特許請求の範囲に明記されているのと同じように認識できる程度の容易さをいうものと解するのが相当である。
 4.均等要件としての容易想到性を否定するにあたって、フライスや歯切工具についての公知技術の存在を、ただちにシュレッダーについての容易想到性の根拠として援用することはできないと説示された事例。
 5.原告が不完全利用論を主張したが、その要件の充足が否定された事例。 /知的財産権/無体財産権/工業所有権/特許権/均等論/
参照条文: /特許.70条/
全 文 h120222osakaD.html

大阪高等裁判所 平成 12年 2月 18日 第8民事部 判決 ( 平成10年(ネ)第3763号 )
事件名:  実用新案権等侵害行為差止等請求控訴事件<シュレッダー用切断刃実用新案等>
要 旨
 1.シュレッダー用切断刃の装着方法に関して、被告物件が原告の実用新案の技術的範囲に属しないと判断された事例(構成要件も、均等論の要件も充足しない)。
 2.原告考案では、切断刃は取付台部分とこれを取り囲む刃先部分からなり、右取付台部分は軸に嵌着されるべきものと記載されているから、取付台と軸は別個独立のものと想定される一方、被告物件では、切断刃の取付台部分と軸とが一体形成されていて別個独立のものとはされていないと認められるから、被告物件は原告考案と構成を異にするとされた事例。
 3.「おいて」書きの部分には、通常、公知事項や上位概念が記載されることが多く、これらの事項が独立して考案の要旨となることはないということはできるけれども、右の部分も考案の構成に欠くことができない事項であり、考案の要旨ひいては考案の本質的部分を考察するについて、除外されなければならないという理由はなく、「おいて」書きの部分をも含めて考案の要旨を認定すべきものと解するのが相当である。
 4.均等論の適用における均等要件の存否を判断するに当たって、出願時において作成、提出された意見書等を参酌することは許される。 /知的財産権/無体財産権/工業所有権/実用新案権/
参照条文: /実用新案.26条/特許.70条/
全 文 h120218osakaH.html

東京地方裁判所 平成 12年 2月 18日 民事第47部 判決 ( 平成10年(ワ)第17119号(甲事件)、同第21184号(反訴事件)、同第21285号(乙事件) )
事件名:  損害賠償請求事件(甲事件)、著作権確認請求反訴事件(反訴事件)、損害賠償請求事件(乙事件)<楽曲著作権>
要 旨
 1.小林亜星・作曲「どこまでも行こう」と服部克久・作曲「記念樹」とは、曲を対比する上で最も重要な要素であるメロディーにおいて同一性が認められるものではなく、和声については基本的な枠組みを同じくするとはいえるものの具体的な個々の和声は異なっており、拍子についても異なっているから、両曲に同一性があるとは認められないとされた事例。
 2.和声、拍子、リズム、テンポといった要素を備えた2つの曲の同一性を判断するに当たって、メロディーの同一性を第一に考慮すべきであるが、他の要素についても、必要に応じて考慮すべきであるとされた事例。
 3.ある楽曲全体が別の楽曲全体の複製であるかどうかを判断するに当たって、メロディーの同一性は、一定のまとまりを持った音列(フレーズ)を単位として対比した上で、それらの対比を総合して判断すべきである。 /知的財産権/無体財産権/著作権/音楽著作物/著作者人格権/氏名表示権/同一性保持権/複製権/
参照条文: /著作.19条/著作.20条/著作.21条/
全 文 h120218tokyoD.html

東京地方裁判所 平成 12年 2月 16日 民事第29部 判決 ( 平成9年(ワ)第11391号 )
事件名:  特許権侵害差止等請求事件<抗ウイルス剤及びその製造方法特許等>
要 旨
 「担子菌の菌糸体培養物より得られる多糖及びゼアチン関連物質を主とするサイトカイニン系活性物質の複合体を有効成分とする抗ウイルス剤」や「禾本科植物から得られ多糖および水溶性リグニンを有効成分とする抗動物ウイルス剤」について特許権を有する原告が、特許権侵害を理由に侵害の差止ならびに損害賠償を求めたが、被告の製造・販売する健康食品はサイトカイニン系活性物質や水溶性リグニンを含んでいないとして、請求が棄却された事例。
 1.被告の健康食品にサイトカイニン系活性物質が含まれていない旨の公的団体(食品衛生法等に基づく指定検査機関である財団法人日本食品分析センター)が実施した試験結果が信用され、これと異なる結論を根拠づける原告実施の試験成績が採用されなかった事例。
 2.「抗ウイルス剤」の語が、特許出願当時(昭和53年12月29日)における化学分野の一般的な意義等を考慮して、ウイルスや腫瘍に対して直接的に作用し攻撃する化学療法剤を意味するものであって、免疫反応を利用する製剤は含まないと解するのが相当であるとされた事例。
 3.リグニンは本来水不溶性であるにもかかわらず内容・性質・存否の確認方法が明確に示されていない「水溶性リグニン」が被告の食品に含まれているか否かを分析試験により明らかにすることは意味がなく、また、リグニン様物質を検出した旨の試験結果があっても、それは「水溶性リグニン」の検出を意味するものではないと認定された事例。 /知的財産権/無体財産権/工業所有権/特許権/
参照条文: /特許.70条/民訴.247条/
全 文 h120216tokyoD.html

最高裁判所 平成 12年 2月 8日 第3小法廷 判決 ( 平成5年(オ)第1189号 )
事件名:  損害賠償請求上告事件
要 旨
 1.弁護人からの被疑者との接見の申出に対して書面を交付する方法により接見の日時等の指定をしようとした検察官の措置が違法とはいえないとされた事例。
 2.刑訴法三九条三項本文にいう「捜査のため必要があるとき」とは、右接見等を認めると取調べの中断等により捜査に顕著な支障が生ずる場合に限られるが、弁護人等から接見等の申出を受けた時に、捜査機関が現に被疑者を取調べ中である場合や実況見分、検証等に立ち会わせている場合、また、間近い時に右取調べ等をする確実な予定があって、弁護人等の申出に沿った接見等を認めたのでは、右取調べ等を予定どおり開始することができなくなるおそれがある場合などは、原則としてこれに該当する。
 3.検察庁の次席検事が警察本部に対し、接見禁止決定を受けた被疑者の弁護人から監獄の長に対する接見申出があった場合には、検察官に接見の日時、場所及び時間の指定の要件の存否について判断する機会を得させるため、右申出があった旨を捜査担当の検察官等に事前連絡するように通知していた場合に、右通知は捜査機関の内部的な事務連絡であって、それ自体は弁護人又は被疑者に何ら法的な拘束力を及ぼすものではなく、一般的指定処分がされたとはいえず、右通知は準抗告の対象にならないと判断された事例。
参照条文: /憲.34条/刑訴.39条1項/刑訴.39条3項/刑訴.39条3項/刑訴.430条/国賠.1条1項/
全 文 h120222supreme.html

最高裁判所 平成 12年 2月 8日 第3小法廷 判決 ( 平成9年(あ)第613号 )
事件名:  司法書士法違反被告事件(上告事件)
要 旨
 行政書士が業として登記申請手続を代理した場合における司法書士法19条1項違反の罪の成否(積極)
参照条文: /司法書士.19条1項/司法書士.25条1項/憲.22条1項/
全 文 h120208supreme91.html

大阪地方裁判所 平成 12年 2月 8日 第21民事部 判決 ( 平成8年(ワ)第9425号(本訴)、平成10年(ワ)第6907号(反訴) )
事件名:  不正競争差止等請求本訴事件・商標権移転登録手続請求反訴事件<商品表示不正競争等>
要 旨
 1.「セラール」の商標を付してバルコニー用ユニット式ジョイントタイルを販売している原告が、類似の商標を使用して同種の商品を販売している被告に対して商標権侵害を理由に損害賠償等を請求し、請求が一部認容された事例。
 2.商標法38条2項にいう「利益の額」とは、侵害者が侵害行為により受けている利益を意味し、その算定に当たっては、侵害品の売上高から侵害行為のために要した費用のみを差し引くべきであり、いわゆる売上原価がそれに当たることは明らかであるが、販売費及び一般管理費にあっては、当該侵害行為をしたことによって増加したと認められる部分に限って、侵害行為のために要した費用と認めるのが相当であり、営業外費用、特別損失及び法人税については、特段の事情がない限り、侵害行為のために要した費用と認めることはできない。
 2a.問題となっている商品の売上高の被告全体の売上高に占める割合が1.8%程度にすぎないこと等を総合考慮して、被告商品の販売によって追加的に必要となった販売費及び一般管理費は、多くとも売上額の4%を超えることはないとして、それを基準に控除すべき販売費及び一般管理費が計算された事例。
 3.商標登録出願以前に商標登録請求権(ないし商標登録を受ける権利)というものが存在することは、法律上予定されていない。
 4.反訴原告が商標登録を受ける権利者であることを前提にした反訴被告に対する商標の移転登録手続請求権は、現行法上認められる権利ではないが、反訴原告がそのような主張に基づいて反訴被告に対し商標の移転登録手続を求める反訴を提起している場合には、紛争解決の必要性があるものというべきであり、訴えの利益の存在自体は肯定できるとされた事例。
 5.相手方が原本を確認している場合に、黒く塗りつぶされた箇所のある写しが証拠文書とされた事例。 (知的財産権/無体財産権/工業所有権/商標権/不正競争防止法/訴えの客観的利益/冒認出願)
参照条文: /不正競争.2条1項1号/商標.38条2項/商標.36条/商標1条/商標3条/民訴規.143条1項/民訴.140条/
全 文 h120208osakaD.html

最高裁判所 平成 12年 2月 7日 第1小法廷 判決 ( 平成7年(オ)第793号 )
事件名:  損害賠償請求事件
要 旨
 1.捜査機関等に対する自白の信用性を肯定して少年らが強姦未遂及び殺人の犯人であると認定した原判決に経験則違反の違法があるとされた事例。
 2.被害者の側からの損害賠償請求訴訟において、少年審判事件において犯人とされた被告を加害者と認定して損害賠償請求を認容した原判決に経験則違反の違法があるとされた事例。(刑事事件等における有罪判決等の民事訴訟事件における事実上の拘束力-井嶋意見参照) /事実上の再審/
参照条文: /民訴.247条/
全 文 h120207supreme.html

大阪地方裁判所 平成 12年 2月 3日 第21民事部 判決 ( 平成10年(ワ)第11089号 )
事件名:  実用新案権侵害差止等請求事件<薬剤分包用紙の芯管実用新案等>
要 旨
 1.薬剤分包機に内蔵されている分包紙抜止装置や分包紙がなくなったことを感知する装置に対応するために一定の構造が要求される芯管について、原告が意匠権の独占的通常実施権および実用新案権を有していて、その芯菅を所有権を留保して顧客である病院等に使用させ、使用後に回収していた場合に、被告が顧客から1本100円で買い取った芯菅に自己の薬剤分包用紙を巻き付けて芯菅と共に販売する行為が、原告の実用新案権等の侵害行為にあたるとして、差止請求および損害賠償請求が認容された事例。
 2.実用新案権の認められた考案の実施品について原告の所有権留保が認められるため、権利消尽の抗弁が排斥された事例。
 3.意匠法40条本文が意匠権侵害者の過失を推定した根拠は、登録意匠の存在及び内容が公示されていることにあり、それが何人の権利であるかが公示されていることにはないから、登録意匠の権利者として公示されない独占的通常実施権者の法的利益の侵害行為についても、意匠法40条本文を類推適用するのが相当である。
 4.実用新案法(平成5年法律第26号による改正前のもの)30条・特許法103条に定める過失の推定規定は、権利者として公示されない独占的通常実施権者の法的利益の侵害行為についても類推適用される。
 5.被告が原告の考案実施品である芯菅に考案外の分包紙を巻き付けて販売したことにより原告の実用新案権を侵害した場合に、侵害行為と相当因果関係のある損害額は、被告が販売した分包紙を巻き付けた考案実施品の巻数に、原告が分包紙を巻き付けた考案実施品1巻を販売したことにより得ることができる利益額全額を乗じることにより得られる金額と見るのが相当であるとされた事例。
 6.原告に所有権留保されている考案実施品を被告が1巻100円で購入したことは、原告の所有権を少なくとも過失により侵害したことにはなるが、しかし直ちに原告に同額の損害が生じたとは認められないとされた事例。 (知的財産権/無体財産権/工業所有権/実用新案権/意匠権)
参照条文: /意匠.40条/意匠.23条/意匠.37条/意匠.28条/実用新案.30条/特許.103条/民法:709条/民法:206条/実用新案.27条/実用新案.29条/実用新案.16条/実用新案.19条/
全 文 h120203osakaD.html

東京高等裁判所 平成 12年 2月 3日 第18民事部 判決 ( 平成10年(行ケ)第327号 )
事件名:  審決取消請求事件<金属水酸化物または金属酸化物を被覆したチタン酸アルカリ繊維およびその製造方法特許>
要 旨
 1.金属水酸化物または金属酸化物を被覆したチタン酸アルカリ繊維およびその製造方法の発明について、原告発明が先行発明と同一であることを理由に原告特許が無効とされた事例(特許無効審決取消請求の棄却)。
 2.原告が発明の新規性を根拠付けるために「表面を被覆する」という語は格別「一部」と言わない限り表面全部を覆い被せることを意味する旨を主張したが、明細書の記載等も参酌して裁判所がその主張が認めなかった事例。 (知的財産権/無体財産権/工業所有権/特許権)
参照条文: /特許.70条/特許.29条1項3号/
全 文 h120203tokyoH51.html

東京高等裁判所 平成 12年 2月 2日 第6民事部 判決 ( 平成10年(ネ)第5507号 )
事件名:  損害賠償請求、特許権侵害差止請求権存在確認請求控訴事件<免疫比濁法による血清CRPの簡易迅速定量法特許>
要 旨
 1.免疫比濁法による血清CRPの簡易迅速定量法の発明について、審査経過を考慮すれば保護を受ける技術的範囲は特定の方法に限定され、被告方法はこれに属しないとされた事例。
 2.被告方法が原告発明の技術的範囲に属するとの原告主張は、一方で、自動定量技術と原告発明とは別な技術で、容易に推考しうるものでもない旨を主張して特許権を取得し、他方で、自動定量技術の一種である被告方法が本件発明の技術的範囲に属すると主張することになるから、禁反言の法理に照らしても許されないとされた事例。
 3.均等の成立の主張が認められなかった事例。 /知的財産権/無体財産権/工業所有権/特許権/均等論/
参照条文: /特許.70条/
全 文 h120202tokyoH.html

大阪地方裁判所 平成 12年 2月 1日 第21民事部 判決 ( 平成10年(ワ)第8461号 )
事件名:  実用新案権侵害差止等請求事件<縦型埋込柵柱実用新案>
要 旨
 ポールの重力に見合った釣り合い定力を具えた定荷重ばねを備えた縦型埋込柵柱の考案について、被告物件が原告考案の技術的範囲に属し、原告の実用新案権を侵害しているとして、差止請求および損害賠償請求が認容された事例。
 原告が考案を実施していない場合に、実施料相当額の損害として被告物件の販売価額に5%を乗じた額の支払が命じられた事例。 (知的財産権/無体財産権/工業所有権/実用新案権/形状記憶合金コイルばね)
参照条文: /実用新案.27条/実用新案.29条3項/実用新案.26条/特許.70条/
全 文 h120201osakaD.html

東京高等裁判所 平成 12年 2月 1日 第6民事部 判決 ( 平成11年(行ケ)第299号 )
事件名:  審決取消請求事件<POLOTEAM商標>
要 旨
 1.本願商標「POLOTEAM」がその指定商品である「はき物(運動用特殊ぐつを除く。)
 かさ
 つえ
 これらの部品および附属品」に使用された場合には、需要者は「ポロ」の観念を想起し、これを通じて、本願商標が付される商品について、ポロ商標で著名なラルフ・ローレン又は同人と組織的・経済的に何らかの関係がある者の業務に係る商品であるかのように誤解し、その出所について混同を生ずるおそれがあるから、本願商標の登録は商標法4条1項15号により許されないとされた事例。(登録拒絶査定を支持した審決を支持)
 2.商標法4条1項15号においては、商標の類似性はその適用要件ではなく、出所の混同を生ずるおそれがあるかどうかを認定するために考慮される事実の一つにすぎない。 (知的財産権/無体財産権/工業所有権/商標権/ポロ商標)
参照条文: /商標.4条1項15号/商標.4条1項10号/
全 文 h120201tokyoH52.html

東京高等裁判所 平成 12年 2月 1日 第6民事部 判決 ( 平成11年(行ケ)第298号 )
事件名:  審決取消請求事件<ポロプレイヤー図形商標>
要 旨
 1.《首を少し左に向けた馬に、帽子をかぶり、顔面を斜め右下に向け、ポロ競技に使用するマレットを右手で上方に振りかざして乗っている1騎のポロプレーヤーと、その右後ろに、ほぼ同様の姿勢で馬に乗っているもう1騎のポロプレーヤーとを前方から黒白で描写した図形》からなる本願商標がその指定商品である「はき物(運動用特殊ぐつを除く。)
 かさ
 つえ
 これらの部品および附属品」に使用された場合には、需要者は「ポロ」の観念を想起し、これを通じて、本願商標が付される商品について、ポロ商標で著名なラルフ・ローレン又は同人と組織的・経済的に何らかの関係がある者の業務に係る商品であるかのように誤解し、その出所について混同を生ずるおそれがあるから、本願商標の登録は商標法4条1項15号により許されないとされた事例。(登録拒絶査定を支持した審決を支持)
 2.商標法4条1項15号においては、商標の類似性はその適用要件ではなく、出所の混同を生ずるおそれがあるかどうかを認定するために考慮される事実の一つにすぎない。 (知的財産権/無体財産権/工業所有権/商標権/ポロ商標)
参照条文: /商標.4条1項15号/商標.4条1項10号/
全 文 h120201tokyoH51.html

最高裁判所 平成 12年 1月 31日 第2小法廷 判決 ( 平成11年(受)第553号 )
事件名:  占有回収請求上告事件
要 旨
 宗教法人の代表者(住職)として寺院の所持を開始した者が、自己自身のためにも所持する意思を有し、現に所持していたと認められるから、僧籍はく奪の処分を受けた後に右寺院の占有を開始した右法人に対して占有回収の訴えによりその返還を求めることができるとされた事例。 /機関占有/占有訴訟/法律上の争訟/宗教団体の内部紛争/訴訟要件/
参照条文: /民法:180条/民法:200条/民訴.140条/
全 文 h120131supreme.html

東京地方裁判所 平成 12年 1月 31日 民事第29部 判決 ( 平成7年(ワ)第4566号(本訴)、平成9年(ワ)24447号(反訴) )
事件名:  特許権侵害差止等請求本訴事件、損害賠償反訴請求事件<整腸剤特許等>
要 旨
 1.宮入菌を基にした整腸剤の発明について、被告の先使用に基づく通常実施権の抗弁を認めて、特許権侵害差止等の請求を棄却した事例。
 2.原告発明は出願前から公然実施され、また、既に公知となっていたといえるから、原告の特許権は無効事由を有し、無効事由を有する特許権に基づく原告の請求は、権利濫用に当たり許されないとされた事例。(予備的判断)
 3.訴えの提起が違法な行為というためには、当該訴訟において提訴者の主張した権利関係又は法律関係が事実的、法律的根拠を欠くものである上、提訴者が、そのことを知りながら又は通常人であれば容易にそのことを知り得たといえるのにあえて訴えを提起したなど、訴えの提起が裁判制度の趣旨目的に照らして著しく相当性を欠くと認められるときに限られる。原告による訴えの提起を違法とまでは解することができないとされた事例。 (知的財産権/無体財産権/工業所有権/特許権)
参照条文: /特許.29条1項/特許.79条/民訴.2条/
全 文 h120131tokyoD.html

最高裁判所 平成 12年 1月 28日 第3小法廷 判決 ( 平成8年(オ)第128号 )
事件名:  異動命令無効確認等請求上告事件
要 旨
 家族と共に東京都品川区に居住し長男を保育園に預けている女性従業員に対する東京都目黒区所在の事業場から同八王子市所在の事業場への異動命令が権利の濫用に当たらないとされた事例。 (転勤命令権/受忍限度/労働契約/異動命令拒否を理由とする懲戒解雇)
参照条文: /労基.1条/労基.2条2項/労基.89条/
全 文 h120128supreme.html

東京地方裁判所 平成 12年 1月 28日 民事第47部 判決 ( 平成10年(ワ)第16017号 )
事件名:  特許権使用差止等請求事件<光脱毛装置特許>
要 旨
 1.原告が特許権を有する光脱毛装置の発明における「付属照射プローブ」は、目的の毛の毛根部等の狭い領域に集中して光を当てることのできる器具を意味するものと解釈されるのに対し、被告物件ハロゲンランプ照射器は、ハロゲンランプの光が拡散して照射されるのみで、毛の毛根部等の狭い領域に集中して光を当てることができる器具ではないと認められるから、被告物件は、原告発明の技術的範囲に属さないとされた事例。
 2.被告物件のハロゲンランプ照射器は原告特許の請求項5の「赤色光の付属照射プローブの先端には、照射強度を低減させて照射範囲を拡大させる光拡散用キャップが装着可能であることを特徴とする請求項1に記載の装置」と均等なものであるとの原告主張が、目的とする作用効果の違いを理由に認められなかった事例。 /知的財産権/無体財産権/工業所有権/特許権/均等論/
参照条文: /特許.70条/特許.100条/
全 文 h120128tokyoD.html

東京地方裁判所 平成 12年 1月 28日 民事第47部 判決 ( 平成7年(ワ)第23527号 )
事件名:  謝罪広告等請求事件<書籍著作権>
要 旨
 1.被告書籍は、原告書籍の成果をその基礎の一部とするものではあるが、全体として全く別の著作物であり、被告書籍が原告書籍の翻案であるとは認められないとされた事例。
 2.原告書籍と被告書籍の対応する箇所に個々の記述につき、アイデアや事実の共通性はあるが、論旨の展開や構成あるいは表現は異なっており、被告の記述は原告の記述の翻案であるとはいえないとされた事例。
 3.外国で出版された英語版書籍の日本語版が日本で出版され、その日本語版書籍により原告の翻案権が侵害された主張して謝罪広告等を求める訴えが提起された場合に、不法行為地は日本国内にあり、日本の国際裁判管轄権が認められるとされた事例。 /知的財産権/無体財産権/著作権/「企業主義の興隆」/「HUMAN
 CAPITALISM」/
参照条文: /著作.27条/民訴.5条9号/
全 文 h120128tokyoD6.html

東京地方裁判所 平成 12年 1月 28日 民事第47部 判決 ( 平成9年(ワ)第24711号 )
事件名:  損害賠償請求事件<アルミニウムと酸化アルミニウムの気体エッチング方法特許>
要 旨
 1.被告が半導体の製造のために用いている方法は、原告が発明した「反応しやすい気体をプラズマでイオンにして、エッチングしたい材料と化学反応を起こさせて気体とともに除去する方法」とは異なるから、特許権侵害による損害賠償請求は認められないとされた事例。
 2.「プラズマエッチング」なる用語は、一般の技術文献上その意味が一義的に定まるものということはできないが、発明の詳細な説明ならびに審査過程を考慮すれば、原告が特許請求範囲で用いている「プラズマエッチング」の語は、「反応しやすい気体をプラズマでイオンにして、エッチングしたい材料と化学反応を起こさせて気体とともに除去する方法」の意味で使われている認められ、化学反応によるエッチングにイオンの衝突による物理的衝撃によるエッチングが伴うエッチング方法(反応性スパッタエッチング)は原告発明の「プラズマエッチング」には含まれないというべきであり、被告が半導体製品の製造工程において行っているアルミニウムのエッチング方法は、帯電したイオンの衝突による物理的衝撃によるエッチングを含むもの(化学反応によるエッチングが存するとしても、反応性スパッタエッチングである)と認められるから、被告のエッチング方法は原告発明の技術的範囲に属しないとされた事例。 (知的財産権/無体財産権/工業所有権/特許権)
参照条文: /特許.70条/
全 文 h120128tokyoD7.html

東京地方裁判所 平成 12年 1月 28日 民事第47部 判決 ( 平成7年(ワ)第1400号 )
事件名:  特許権侵害差止等請求事件<複合プラスチック成形品の製造方法特許>
要 旨
 1.複合プラスチック成形品の製造方法に関する特許権を有する原告が、被告の販売する気密ピースは、原告特許権の技術的範囲に属すると主張して、気密ピースの販売等の差止め及び廃棄並びに損害賠償を求めたが、被告物件は原告の技術的範囲に属しないとの理由により棄却された事例。
 2.特許無効審判請求事件において特許権者が訂正をしたため、無効審判請求を不成立とする審決がなされているが、確定したことの証拠がない場合に、侵害差止請求訴訟の裁判所が、訂正前の特許には無効原因があると判断し、訂正前の発明から無効原因部分を除いたものを原告発明と解釈すべきであるとした上で、被告物件は原告の技術的範囲に属しないとした事例。 (知的財産権/無体財産権/工業所有権/特許権)
参照条文: /特許.70条/特許.29条1項3号/
全 文 h120128tokyoD5.html

東京地方裁判所 平成 12年 1月 28日 民事第47部 判決 ( 平成6年(ワ)第14241号 )
事件名:  特許権侵害差止等請求事件<三角湾曲縫合針等特許>
要 旨
 1.手術用縫合針を製造販売している原告が、手術用縫合針を輸入・販売している被告に対し、被告の輸入・販売している手術用縫合針とその製造方法が原告の「三角湾曲縫合針に関する特許権」と「先尖状軸棒の円弧状曲げ加工方法に関する特許権」を侵害していると主張して、手術用縫合針の輸入・販売の差止め及び廃棄並びに損害賠償を請求して、一部認容された事例。
 2.原告が特許権を有する製造方法により第三者が製造した製品を輸入・販売する被告のために、先使用による通常実施権が認められた事例。
 3.被告の先使用による通常使用権の抗弁は、訴訟の終結段階になって出されたものではなく、他に審理すべき事項が存する段階で出されたものであるから、訴訟の完結を遅延させるとまでは認められないとされた事例。(時機に後れた攻撃防御方法の却下申立の却下)
 4.特許権侵害により被告が得た利益の算定にあたって、販売費及び一般管理費については、必ずしも売上げの増減に比例しない経費が含まれているので全額を差し引くべきではないが、侵害物件の販売総額が被告の総売上高の約二三パーセントを占めていること等を考慮すると、販売費及び一般管理費の三〇パーセントに相当する金額を差し引くのが相当であると認められた事例。
 5.特許権侵害に基づく損害賠償請求権の消滅時効の起算点が争われた場合に、被告による侵害物品の販売の開始とともに原告が侵害行為を知ったとは認められないとして、原告が被告に警告書を送付した時期が消滅時効の起算点とされた事例。 (知的財産権/無体財産権/工業所有権/特許権)
参照条文: /特許.100条/特許.102条/特許.79条/民法:724条/民訴.157条/
全 文 h120128tokyoD4.html

東京地方裁判所 平成 12年 1月 28日 民事第47部 判決 ( 平成11年(ワ)第23548号 )
事件名:  営業表示使用差止等請求事件<「リズム」営業表示不正競争>
要 旨
 原告「リズム時計工業株式会社」の会社名が埼玉県北葛飾郡庄和町において不正競争防止法2条1項1号の周知性を有し、同町内で不動産業等を営む被告「リズムハウス有限会社」の営業表示は原告会社名と類似し、被告がこの表示を使用することは、被告と原告が同一営業主体と誤信させるか、又は、原告と被告との間に、いわゆる親会社、子会社の関係や系列関係などの緊密な営業上の関係若しくは同一の表示の事業を営むグループに属する関係があると誤信させるものと認められるから、不正競争防止法2条1項1号の不正競争行為に当たると判断された事例(差止請求ならびに損害賠償請求が一部認容)。 (知的財産権/無体財産権/不正競争防止法)
参照条文: /不正競争.2条1項1号/不正競争.3条/不正競争.4条/
全 文 h120128tokyoD3.html

東京地方裁判所 平成 12年 1月 28日 民事第47部 判決 ( 平成10年(ワ)第25787号 )
事件名:  特許権侵害差止等請求事件<装飾用電灯の端子板とコード線の接続構造特許>
要 旨
 原告が特許権を有する「装飾用電灯の端子板とコード線の接続構造」の発明について、被告が販売する物件は原告発明の技術的範囲に属しないとされた事例。(特許権侵害を理由とする差止請求・損害賠償請求の棄却) (知的財産権/無体財産権/工業所有権/特許権)
参照条文: /特許.70条/
全 文 h120128tokyoD2.html

最高裁判所 平成 12年 1月 27日 第1小法廷 判決 ( 平成7年(オ)第1203号 )
事件名:  所有権移転登記手続等請求上告事件
要 旨
 1.渉外的な法律関係において、ある一つの法律問題を解決するために不可欠な前提問題の準拠法は、我が国の国際私法によって定めるべきである。(相続問題の前提問題としての親子関係の準拠法が日本の国際私法により決定された事例)。
 2.出生以外の事由により嫡出性を取得する場合の嫡出親子関係の成立については、旧法例は準拠法決定のための規定を欠いていることになるが、同法17条を類推適用し、嫡出性を取得する原因となるべき事実が完成した当時の母の夫の本国法によって定めるのが相当である。
 3.血縁関係がない者の間における出生以外の事由による親子関係の成立については、旧法例18条1項、22条の法意にかんがみ、親子関係を成立させる原因となるべき事実が完成した当時の親の本国法及び子の本国法の双方が親子関係の成立を肯定する場合にのみ、親子関係の成立を認めるのが相当である。(破棄理由)
 4.占有者の占有が自主占有に当たらないことを理由に取得時効の成立を争う者は右占有が所有の意思のない占有に当たることについての立証責任を負い、所有の意思は、占有者の内心の意思によってではなく、占有取得の原因である権原又は占有に関する事情により外形的客観的に定められるべきものであるから、表見相続人が被相続人の死亡後単独で土地建物を占有していることを確定しながら、占有者がその後に自己が所有者又は持分権者でないことを知ったという内心の意思の変化のみによって所有の意思の推定を覆すことは許されない。(破棄理由の前提となる一般論)
 5.重婚関係にある被相続人の後婚の妻が被相続人の死後20年間相続不動産の占有を継続した場合に、自己が被相続人の唯一の配偶者で3分の1の法定相続分を有するものとして占有を開始したと見るべきであるから、相続不動産の各3分の1の持分を時効により取得したものというべきであるとされた事例。(破棄理由)
 6.共有者の一人が共有物を他に賃貸して得る収益につきその持分割合を超える部分の不当利得返還を求める他の共有者の請求のうち事実審の口頭弁論終結時後に係る請求部分は、将来の給付の訴えを提起することのできる請求としての適格を有しない。 /将来給付の訴え/請求適格/訴えの客観的利益/訴えの利益/将来給付請求/証明責任/
参照条文: /法例.17条/法例.18条/法例.22条/民法:162条/民法:186条1項/民訴.135条/民訴.140条/
全 文 h120127supreme.html

最高裁判所 平成 12年 1月 27日 第1小法廷 判決 ( 平成8年(オ)第1248号 )
事件名:  車止め撤去請求上告事件
要 旨
 1.建築基準法42条2項の指定を受け現実に開設されている道路を通行することについて日常生活上不可欠の利益を有する者は、右道路の通行をその敷地の所有者によって妨害され、又は妨害されるおそれがあるときは、敷地所有者が右通行を受忍することによって通行者の通行利益を上回る著しい損害を被るなどの特段の事情のない限り、敷地所有者に対して右妨害行為の排除及び将来の妨害行為の禁止を求める権利(人格権的権利)を有する。
 2.建築基準法42条2項の指定を受け現実に開設されている道路(私道)に接する土地の所有者である原告が、その土地を居住用としてではなく、単に賃貸駐車場として利用している場合に、私道を自動車で通行することについて日常生活上不可欠の利益を有しているとはいえないとして、右道路の敷地所有者に対する右道路内に設置され自動車の通行の妨げとなっているポールの撤去請求が否定された事例。 (通行地役権/人格権)
参照条文: /建築基準.42条/建築基準.44条/
全 文 h120127supreme5.html

最高裁判所 平成 12年 1月 27日 第1小法廷 判決 ( 平成7年(行ツ)第105号 )
事件名:  審決取消請求上告事件
要 旨
 特許法167条は、特許無効審判請求について確定審決の登録がされたときは、その登録の後に同一の事実及び同一の証拠に基づく新たな無効審判請求をすることが許されないとするものであり、それ以前になされた特許無効審判請求を不適法とするものではない。 (知的財産権/無体財産権/工業所有権/特許権)
参照条文: /特許.125条/特許.167条/
全 文 h120127supreme4.html

最高裁判所 平成 12年 1月 27日 第1小法廷 判決 ( 平成11年(オ)第773号 )
事件名:  所有権移転登記抹消登記手続請求上告事件
要 旨
 1.更正登記は、錯誤又は遺漏のため登記と実体関係の間に原始的な不一致がある場合に、その不一致を解消させるべく既存登記の内容の一部を訂正補充する目的をもってされる登記であり、更正の前後を通じて登記としての同一性がある場合に限り認められるものであるから、A名義の不動産につき、AからB、Bから甲への順次の相続を原因として直接甲に対する所有権移転登記がされているときに、右登記をAの共同相続人乙及びBに対する所有権移転登記並びにBから甲に対する持分全部移転登記に更正することはできない。
 2.原告が更正登記手続をなすことを求めている場合に、更正登記の許されない場合であるとして、同一の結果をもたらす真正な登記名義の回復を原因とする所有権一部移転登記手続が命じられた事例。 (職権破棄事例/不動産登記/訴訟物)
参照条文: /不登.63条/民訴.246条/
全 文 h120127supreme3.html

最高裁判所 平成 12年 1月 27日 第1小法廷 判決 ( 平成11年(オ)第1453号 )
事件名:  預金払戻請求上告事件
要 旨
 非嫡出子の相続分を嫡出子の相続分の2分の1と定めた民法900条4号ただし書前段の規定は、憲法14条1項に違反するものでない。 (法の下の平等/不遡及的違憲判断/法解釈の法創造機能)
参照条文: /憲.14条1項/民法:900条4号/
全 文 h120127supreme2.html

東京高等裁判所 平成 12年 1月 27日 第18民事部 判決 ( 平成11年(ネ)第3059号 )
事件名:  損害賠償等請求控訴事件<FM信号復調装置特許>
要 旨
 1.日本に住所を有する日本国民である原告が、日本に本店を有する日本法人である被告の日本内における行為が原告の有する米国特許権の侵害に当たることを理由に、侵害行為の差止、製品の廃棄、損害賠償、予備的に不当利得返還を請求したが、いずれも棄却された事例。
 2.特許権については、属地主義の原則が適用され、外国の特許権を内国で侵害するとされる行為がある場合でも、特段の法律又は条約に基づく規定がない限り、外国特許権に基づく差止め及び廃棄を内国裁判所に求めることはできないものというべきであり、外国特許権に基づく差止め及び廃棄の請求権については、法例で規定する準拠法決定の問題は生じる余地がない。
 3.特許権の侵害を理由とする損害賠償は、特許権の効力と関連性を有するものではあるが、損害賠償請求を認めることは特許権特有の問題ではなく、当該社会の法益保護を目的とするものであるから、不法行為の問題と性質決定し、法例11条1項によるべきものと解するのが相当であり、原告が不法行為に当たると主張する被告の行為は、すべて日本国内の行為である本件においては、日本法(民法709条以下)を適用すべきである。
 4.日本においては属地主義の原則を排除して米国特許権の効力を認めるべき法律又は条約は存在しないので、米国特許権は、日本の不法行為法によって保護される権利には該当しないから、米国特許権の侵害に当たる行為が日本でされたとしても、右行為は、米国特許権侵害に当たるとの主張事実のみをもってしては、日本法上不法行為たり得ない。
 5.特許侵害行為についての準拠法は、教唆、幇助行為等を含め、過失主義の原則に支配される不法行為の問題として行為者の意思行為に重点が置かれて判断されるべきであるから、本件では不法行為者とされる者の行動地である日本が法例11条1項にいう「原因タル事実ノ発生シタル地」に当たるというべきであり、結果発生地である米国を「原因タル事実ノ発生シタル地」とする見解又は共同不法行為とみて直接侵害行為が行われた米国を「原因タル事実ノ発生シタル地」とする見解は、採用することができない。
 6.日本に本店を有する日本法人である被告が日本内における行為により得たと主張されている不当利得の返還請求の準拠法については、法例11条1項により、日本法(民法703条以下)を適用すべきである。 (知的財産権/無体財産権/工業所有権/特許権/国際私法/渉外事件)
参照条文: /法例.11条1項/民法:709条/民法:703条/
全 文 h120127tokyoH.html

東京高等裁判所 平成 12年 1月 27日 第18民事部 判決 ( 平成11年(行ケ)第253号 )
事件名:  審決取消請求事件<PALM SPRINGS POLO CLUB商標>
要 旨
 1.「PALM SPRINGS POLO CLUB」の欧文字と「パームスプリングスポロクラブ」の片仮名文字とを上下二段に横書きした構成よりなる本願商標は、その指定商品の取引者、需要者がこれに接した場合、極く自然に、「PALM SPRINGS」にある「ポロ競技のクラブ」を意味するものと認識するものと認められ、ラルフ・ローレンに係る引用商標の周知・著名性を考慮しても、本願商標から、「PALM SPRINGS」にある「ラルフ・ローレンに係るポロ製品の愛好者のクラブ」との観念が生ずるとか、「POLO/ポロ」の部分のみが注目され、直ちに引用商標が連想されるとまで認めることはできないとされた事例。(登録拒絶査定を支持した審決の取消)
 2.本願商標のように結合商標中に「POLO/ポロ」が含まれている場合、当該商標からラルフ・ローレンに係る引用商標を連想するか否かは、上記の引用商標の強い識別力等を前提にして、個別具体的に判断するほかはない。
 3.本願商標がその指定商品の取引者、需要者によって「PALM SPRINGS」にある「ポロ競技のクラブ」と認識されるために、「PALM SPRINGS POLO CLUB」が実在することは、不可欠の前提ではない。 /知的財産権/無体財産権/工業所有権/意匠権/ポロ商標/
参照条文: /商標.4条1号15号/
全 文 h120127tokyoH54.html

東京高等裁判所 平成 12年 1月 27日 第6民事部 判決 ( 平成11年(行ケ)第254号 )
事件名:  審決取消請求事件<馬上人物図形商標>
要 旨
 商標登録無効審判請求手続において、審判官が職権で証拠調べをした場合に、商標法56条において準用する特許法150条5項の定める証拠調べの通知ならびに意見申立ての機会付与をしなかった違法があり、審決の結論に影響を及ぼさないことが明らかであると認めさせる特別の事情もないとして、審決が取り消された事例。 /知的財産権/無体財産権/工業所有権/商標権/職権証拠調べ/手続保障/ポロ商標/
参照条文: /商標.56条/特許.150条1項/特許.150条5項/
全 文 h120127tokyoH55.html

東京高等裁判所 平成 12年 1月 26日 第13民事部 判決 ( 平成11年(ネ)第4571号 )
事件名:  損害賠償請求控訴事件<Cutie商標>
要 旨
 1.商標権侵害を理由とする損害賠償請求が、原告の商標と被告の標章との非類似を理由に棄却された事例。
 2.被告の標章が原告の登録商標と類似するか否かは、商標の機能に照らして、両者が同一又は類似の商品に使用された場合に、その商品の出所につき誤認混同を来たすおそれがあるかどうかによって決せられるべきものであり、その際、商品に使用された被告標章と原告商標とが、その外観、観念、称呼等によって取引者・需要者に与える印象、記憶、連想等を総合して、全体的に考察すべく、かつ、その商品の取引の実情を明らかにし得る限り、その具体的取引状況に基づいて判断すべきものである。
 2a.原告の登録商標が「Cutie」との欧文字からなるのに対し、被告がレンズ付きフィルム商品に用いている標章が部分的に奇抜な形状を用いたり水玉模様や縞模様による装飾を施したりした図形の印象を与えるものであり、たとえこれを図案化した文字からなると見るとしても、その文字は「Q」と「t」である場合に、両者は外観において著しく相違し、原告商標から「かわいい娘(女の子)」との観念が生じることもあるのに対し、被告商標からは特定の観念が生じないものであって、これらの外観、観念、称呼に基づく印象、記憶、連想等を総合して、全体的に考慮し、さらに、原告商品の取引及び広告の実情をも併せ考えると、被告標章及び原告商標が、同一又は類似の商品に使用されたとしても、取引者・需要者が、商品の出所につき誤認混同を来たすおそれはないから、両者は類似しないとされた事例。
 3.原告が登録商標を付した商品(三脚)の具体的な取引の実情を証明するために提出した商品及びその外箱に原告登録商標が表示されたシールが貼り付けられているが、外箱には、側面及び上面に「Velbon」との標章が多数印刷され、また、商標表示シールが外箱の一側面に「Velbon」との標章の上に貼付されている場合に、商標の使用形態として極めて不自然であって、原告が商品に登録商標を使用していたとの事実に疑いを抱かざるを得ないと判断された事例。 (知的財産権/無体財産権/工業所有権/商標権/自由心証主義/証拠の評価)
参照条文: /商標.25条/商標.37条/民訴.247条/
全 文 h120125tokyoH2.html

東京地方裁判所 平成 12年 1月 26日 民事第29部 判決 ( 平成11年(ワ)第16773号 )
事件名:  損害賠償請求事件<dango商標>
要 旨
 NHK教育テレビの「おかあさんといっしょ」の番組において放送された歌曲「だんご3兄弟」のCDの表紙等で使用され、被告(株式会社エヌエイチケイソフトウェア)が第三者に使用許諾した標章が、「dango」を横書きした文字部分と、その下側に三つの白抜きの円を互いに間隔を置いて横に並べ、これらの中央を突き抜くように黒い直線が一本横に引かれた図形部分とからなる原告の登録商標と類似しないと判断され、商標権侵害を理由とする損害賠償請求が棄却された事例。 /知的財産権/無体財産権/工業所有権/商標権/
参照条文: /商標.37条/
全 文 h120126tokyoD2.html

東京地方裁判所 平成 12年 1月 26日 民事第29部 判決 ( 平成10年(ワ)第9409号(本訴)、平成10年(ワ)第30085号(反訴) )
事件名:  特許実施契約確認本訴請求事件、損害賠償等反訴請求事件<バランス抽出システム特許等>
要 旨
 「バランス抽出システム」の特許権に関して専用実施権を有していた被告が原告と日本国内での製造、販売等について特許実施許諾契約を締結したが、被告が前記契約に基づく債務を履行しなかったことを理由に、原告が実施契約の解除の意思表示をし、契約金の返還を求め、認容された事例。 /知的財産権/無体財産権/工業所有権/特許権/債務不履行/契約解除/
参照条文: /民法:540条/民法:541条/
全 文 h120126tokyoD.html

大阪地方裁判所 平成 12年 1月 25日 第21民事部 判決 ( 平成9年(ワ)第9458号 )
事件名:  特許権侵害差止等請求事件<植物からミネラル成分を抽出する方法特許>
要 旨
 1.「植物からミネラル成分を抽出する方法」の発明の特許権侵害を理由とする差止請求等事件において、被告が先使用に基づく通常実施権を有するとの抗弁を主張したが、認められなかった事例。
 2.被告による発明の先使用に関する供述の信用性について、詳細な説示がなされた事例(自由心証主義)。
 3.無機化学製品の分野での技術の実施許諾契約における実施料率は、少なくとも売上高の5パーセントを下らないと認められた事例。 /知的財産権/無体財産権/工業所有権/特許権/
参照条文: /特許.79条/特許.100条/特許.102条3項/民訴.247条/
全 文 h120125osakaD.html

東京高等裁判所 平成 12年 1月 25日 第6民事部 判決 ( 平成10年(ネ)第5656号 )
事件名:  損害賠償請求控訴事件< 商品等表示不正競争等>
要 旨
 1.自動車のフロントガラスの撥水処理方法に関して、原告が被告に対して、被告が営業秘密の侵害あるいは不正競争防止法1条1項1号の不正競争行為を行った等を主張して損害賠償を請求したが、棄却された事例。
 2.継続的商品供給契約の対象商品の供給が現実に困難になっている状況の下で、売主と買主との話し合いの場で、売主が買主に対して何らの対応策をも示さずに退席したことにより契約の基礎となっている相互の信頼関係が完全に失われ、買主側の一方的意思表示により、契約が終了したものと解するのが相当であるとされた事例。
 3.商標「スーパーレインカット」と商標「レインバスター」とは類似しないとされた事例。 (知的財産権/無体財産権/不正競争防止法)
参照条文: /不正競争.2条1項1号/不正競争.2条1項5号/不正競争.2条1項7号/民法:709条/
全 文 h120125tokyoH.html

東京高等裁判所 平成 12年 1月 25日 第6民事部 判決 ( (平成11年(行ケ)第288号 )
事件名:  審決取消請求事件<POLOMEMBER’SSTAFF商標>
要 旨
 1.「POLOMEMBER’SSTAFF」のローマ字から成る本願商標がその指定商品(洋服、コート、セーター類、ワイシャツ類、寝巻き類、下着、水泳着、水泳帽)に使用された場合には、本願商標に接した取引者・需要者は、冒頭にある「POLO」の部分に着目して、本願商標が付された商品について、「Polo(ポロ)」と呼ばれる著名なブランドの一種ないしは兄弟ブランドであるなどと誤解して、ラルフ・ローレン又は同人と組織的・経済的に何らかの関係がある者の業務に係る商品であるかのように、その出所について混同を生ずるおそれがあるから、その登録は商標法4条1項15号により許されないとされた事例。(登録拒絶査定を支持した審決を支持) /知的財産権/無体財産権/工業所有権/商標権/ポロ商標/
参照条文: /商標.4条1項15号/
全 文 h120125tokyoH51.html

東京地方裁判所 平成 12年 1月 25日 民事第46部 判決 ( 平成11年(行ウ)第162号 )
事件名:  特許料納付書却下処分取消等請求事件
要 旨
 1.特許法が審査請求前置主義を採用した趣旨に照らすと、審査請求前置主義の要請が満たされているというためには、訴え提起前に行った異議申立て等が適法なものであることを要し、異議申立て等が不適法として却下された場合には、その却下決定が正当である限り、処分の取消しを求める訴えは不適法になる。
 2.特許を受ける権利又は特許権が共有に係る場合には、特許権の発生及び消滅に関する判断は、共有者全員の有する一個の権利の成否を決めるものであって、共有者全員につきこれを合一に確定する必要があるから、共有に係る特許権の発生及び消滅に関する手続は、共有者全員によって行われる必要がある。
 3.特許料の納付期限および割増特許料とともに特許料を追納することができるとされた期間の終期の経過後に提出された特許料納付書の却下に対する異議申立ての実質は、消滅した本件特許権の回復を求めるものであって、共有者全員の有していた一個の権利の成否を決めるものであるから、共有者全員によって行われるべきものであり、共有者の一人のみが行った異議申立てを不適法として却下した決定は正当である。 (知的財産権/無体財産権/工業所有権/特許権/訴訟要件/準共有)
参照条文: /民訴.2編1章/特許.18-2条/特許.184-2条/特許.38条/特許.49条2号/特許.123条1項2号/特許.132条/特許.67条/特許.107条/特許.108条/特許.112条/特許.112-2条/
全 文 h120125tokyoD2.html

東京地方裁判所 平成 12年 1月 25日 民事第46部 判決 ( 平成8年(ワ)第2803号 )
事件名:  特許権に基づく差止請求権等不存在確認請求事件<磁気信号記録用の金属粉末特許>
要 旨
 1.磁気信号記録用金属粉末について、係争物件が被告発明の記述的範囲に属しないことを理由に、特許権に基づく差止請求権等の不存在確認請求が認容された事例。
 2.差止請求権・損害賠償請求権等の不存在確認訴訟において、客体を「磁気信号記録用金属粉末。ただし、原告が平成5年2月17日以後平成7年12月31日までに製造及び販売したものと同一のもの。」としたにすぎない請求について、このような金属粉末についてその製造・販売の差止請求権等の不存在を確認しても、具体的金属粉末について原告が前記期間内に製造及び販売したものと同一のものかどうかという紛争がなおも残存し、原告の法律上の地位に現に生じている不安ないし危険を除去する方法として有効適切であるとはいえず、また、被告が原告に対し前記金属粉末製造販売が被告の特許権を侵害すると主張したことを認めるに足りる証拠はなく、原告の法律上の地位に不安ないし危険が現に生じているということもできないとの理由により、確認の利益が否定された事例。
 3.特定の商品名のビデオテープに使用されている磁気信号記録用金属粉末について差止請求権等の不存在確認を求める請求は、原告・被告間の紛争の終局的解決に資するものといえるから、原告においてその磁気粉末の成分・特性等の特徴を具体的に明らかにしていなくても、確認請求の対象たる権利の客体の特定としては足りるとされた事例。
 4.金属粉末の構成要素である粒子が孔を一個より多くは含有しないことが特徴の一つとなっている「磁気信号記録用の金属粉末」の発明において、特許権者である被告が「孔」の大きさは2ナノメートルから50ナノメートルに限定されるもので、倍率12万倍の電子顕微鏡写真でとらえられない空隙は本件発明における「孔」に該当しないと主張したが、そのように限定する理由はないとされた事例。
 4a.問題となっている金属粉末粒子が「孔」を平均一個より多くは含有しないと認めることはできず、当該製品が発明の技術的範囲に属しないと判断された事例。 (知的財産権/無体財産権/工業所有権/特許権/訴えの客観的利益/訴えの利益)
参照条文: /特許.70条/民訴.140条/
全 文 h120125tokyoD.html

大阪地方裁判所 平成 12年 1月 20日 第21民事部 判決 ( 平成10年(ワ)第10756号 )
事件名:  営業妨害差止等請求反訴事件<ガスセンサ不正競争>
要 旨
 1.ガスセンサの発明について特許登録を得た反訴被告が、特許無効審判の確定するまでの間に、競合会社である反訴原告の製品について、その販売が反訴被告の特許権侵害にあたる旨を第三者に告知した場合に、それは不正競争防止法2条1項13号の虚偽事実告知にあたるが、自己の特許権が有効であると信じたことに過失がないとの理由で損害賠償請求が棄却された事例。
 2.反真実・錯誤を理由とする自白の撤回が認められた事例。
 3.当事者が提出した第三者の陳述書の内容と、裁判所の調査嘱託に対する回答書における当該第三者の回答との間に食い違がある場合に、裁判所が後者を信用できるとした事例。
 4.特許登録を受けた反訴被告が、弁理士作成の文書を顧客に配布した際に、特許権侵害を理由に競合会社である反訴原告を訴えていると述べても、それのみでは反訴原告の信用を害する事実の告知にはあたらないとされた事例。
 
 5.反訴被告が弁理士作成の「SBセンサ回路特許」との標題の下に「SB関係の回路の特許に以下のものがあります。」との記載がなされている文書を反訴原告の顧客に配布した場合に、配布先である当業者は、その文書の標題・内容からして、SBシリーズのガスセンサ自体が同文書に記載されている発明又は考案の技術的範囲に属すると認識するとは認められず、したがって、反訴被告が、上記文書を配布した際、「反訴原告がSBシリーズのガスセンサを販売することは、上記文書記載の特許又は実用新案を侵害する」と述べたとしても、相手方にそのように思いこませることは困難であるから、結局、反訴被告が、そのようなことを述べたとは認められないと判断された事例。(経験則と間接事実による推認の問題として興味を引く。類似の推認が他の箇所でもなされている)
 6.反訴被告の発明が進歩性を欠く発明であったにもかかわらず、代理人たる弁理士がパトリス(財団法人日本特許情報機構の特許関連情報サービス)を用いて先行特許・実用新案の調査を行ったが、先行の公知技術の存在・内容を知ることができなかったこと等を考慮して、自己の特許権を有効と信じたことについて過失があったといえないと判断された事例。 (知的財産権/無体財産権/不正競争防止法/工業所有権/特許権)
参照条文: /不正競争.2条1項13号/特許.29条1項3号/民訴.179条/民訴.247条/
全 文 h120120osakaD.html

東京地方裁判所 平成 12年 1月 20日 民事第46部 判決 ( 平成7年(ワ)第1751号(本訴)、平成8年(ワ)第6889号(反訴) )
事件名:  損害賠償請求事件・損害賠償反訴請求事件<童話絵本著作権>
要 旨
 1.著作者と出版社との間で、出版契約に含まれていた著作物の二次的使用に関する委任条項ならびに排他的出版条項に基づく義務違反を理由に損害賠償の本訴と反訴が提起された事例。
 2.「出版契約の対象図書が翻訳・ダイジェスト・演劇・映画・放送・録音・録画など二次的に使用される場合、著作者はその使用に関する処理を出版者に委任し、出版者は具体的条件について著作者と協議のうえ決定する」という条項は、右二次的使用を第三者に許諾等する際の事務処理につき、著作者がこれを出版者に委任することとしつつ、右事務処理に当たっての受任者たる出版者の義務として、二次的使用を許諾等する場合には、その具体的条件についてあらかじめ委任者と協議し、その同意の下でこれを決定して右事務処理を行わなければならないことを定めた趣旨のものである。(事例)
 3.著作物の二次的使用に関する委任契約に基づく受任者の義務違反により生じた損害額の算定を民訴248条の趣旨に照らして行うと説示された事例(損害額の算定について詳細な説示がなされている)。
 4.著作物の二次的使用に関する委任契約の債務不履行とその後の不適切な対応を理由に、受任者に対して委任者に20万円の慰謝料を支払うことが命じられた事例。
 5.著作物の排他的利用許諾条項に違反して他社から出版がなされていることを知りながら、著作者との契約関係を維持するために、出版社がこれを不問に付したまま著作物使用料率の増額に応じていた場合につき、出版社が他社からの出版について黙示的な許諾を与えていたと判断された事例。
 6.当事者の供述が措信できない理由が説示されている事例。 (知的財産権/無体財産権/著作権)
参照条文: /著作.28条/著作.63条/著作.79条/著作.114条2項/民法:710条/民訴.247条/民訴.248条/
全 文 h120120tokyoD.html

名古屋地方裁判所 平成 12年 1月 19日 民事第9部 判決 ( 平成10年(ワ)第527号 )
事件名:  製作販売差止等請求事件<競走馬パブリシティ>
要 旨
 1.競走馬のパブリシティ権を肯定して、競馬を題材にしたゲームソフトが実在する競走馬のパブリシティ権を侵害していることを理由に損害賠償を命じた裁判例。
 
 2.物の名称等がもつパブリシティの価値は、その物の名声、社会的評価、知名度等から派生するものということができるから、その物の所有者に帰属する財産的な利益ないし権利として、保護すべきである。
 3.
 物に関する名称等にパブリシティ権が成立するためには、著名人にパブリシティ権の成立要件と同じく、大衆が、特定の物に対し、関心や好感、憧憬、崇敬等の感情を抱き、右感情が特定の物の名称等と関連づけられた商品に対する関心や所有願望として、大衆を当該商品に向けて吸引する力を発揮してその販売促進に効果をもたらすような場合であって、物の名称等が固有の名声、社会的評価、知名度等を獲得して、それ自体が顧客吸引力を持つと客観的に認められることが必要である。物がそのような顧客吸引力を有すると認められる場合、パブリシティ権は、その物の所有者に帰属する。
 4.物に関するパブリシティ権は、対象が消滅した場合であっても、パブリシティ価値が存続している限り、対象が消滅した時点における所有者が、パブリシティ権を主張できる。
 5.物のパブリシティ権は、不法行為に基づく損害賠償の対象としての権利ないし法律上保護すべき利益には該当するが、それが経済的価値を取得する権利にすぎないことを考慮すると、現段階においては、それに基づく差止めを認めることはできない。
 6.G1に出走したことがある競走馬については、その馬名を顧客吸引力があるものとして無断で使用することはパブリシティ権の侵害になるが、その余の馬については、顧客吸引力は認められないので、パブリシティ権の侵害にならないとされた事例。
 7.競馬を題材にしたゲームソフトによる競走馬のパブリシティ権侵害を理由とする損害額の算定にあたって、別件契約において被告がゲームソフトに登場する馬の一部の馬主との間で《製品上代の三パーセントのロイヤリティを、ゲームソフトに登場する馬数で除した金額に、使用馬名の数に応じた金員を支払う》旨の合意をしていたので、原告らに生じた損害額は、同様な契約をしていたならば得られたであろう金額であると認めるのが相当であるとされた事例。 /知的財産権/無体財産権/パブリシティ権/物権法定主義/
参照条文: /民法:709条/民法:175条/
全 文 h120119nagoyaD.html

大阪地方裁判所 平成 12年 1月 18日 第21民事部 判決 ( 平成10年(ワ)第4202号 )
事件名:  製造販売差止等請求事件<支索の保護具実用新案>
要 旨
 主として電柱用支線にツタ・カズラがよじ登ることを防止するための支索の保護具の実用新案において、「両端部が遮光状態に支索に当接する」との構成が原告考案の本質的部分に当たり、下端部が五〇〇mmにわたって開口状態となっている被告物件は原告考案の技術的範囲に属さないとして、差止請求及び損害賠償請求が棄却された事例。 /知的財産権/無体財産権/工業所有権/実用新案権/均等論/
参照条文: /実用新案.26条/特許.70条/実用新案.27条/
全 文 h120118osakaD.html

東京高等裁判所 平成 12年 1月 18日 第6民事部 判決 ( 平成11年(ネ)第3988号 )
事件名:  著作権侵害差止等請求控訴事件<絵画著作権>
要 旨
 1.画家と画商との間の絵画取引に関する契約が、売買契約ではなく、販売委託契約であると認定された事例。 (知的財産権/無体財産権/著作権/契約の解釈)
参照条文: /民法:555条/民法:643条/
全 文 h120118tokyoH2.html

東京高等裁判所 平成 12年 1月 18日 第6民事部 判決 ( 平成11年(ネ)第4444号 )
事件名:  損害賠償請求控訴事件<美術作品著作権>
要 旨
 1.光源を水槽の下に配置し、波紋の生じた水面に光を透過させて、物体に投影させる手法自体は、思想または感情を表現したものということはできず、これを用いている点で被告作品が原告作品と共通性を有していても、前者は後者の複製ないし翻案したものであるとはいえないとされた事例。
 2.特定のテレビ番組に応ずる旨の合意により、その番組以外では原告の作品を紹介したり取材結果を剽窃したりしない旨の取材契約が締結され、その契約上の義務の違反があったとの主張が排斥された事例。 (知的財産権/無体財産権/著作権)
参照条文: /著作.2条1項1号/著作.2条1項11号/著作.2条1項15号/著作.21条/著作.27条/
全 文 h120118tokyoH3.html

東京高等裁判所 平成 12年 1月 18日 第6民事部 判決 ( 平成11年(ネ)第3546号 )
事件名:  特許権侵害損害賠償請求控訴事件<医薬品特許>
要 旨
 1.後発医薬品について薬事法14条所定の承認申請をするため、当該医薬品を生産し、必要な試験を行うことは、特許権の侵害にあたらず(特許法69条1項)、このことは、小分け製造承認申請のための試験の場合でも同様である。
 2.小分け製造承認申請についてデータのねつ造等の問題があるとしても、その問題は、原則として、薬事法の問題として、特許侵害訴訟とは別の手続きでその解決が図られるべきであり、その問題を根拠に特許法69条1項の試験に該当しないと見ることが許されるのは、ねつ造資料をねつ造と知りつつ提出するなどの悪質な行為があり、その悪質さのゆえにもはや小分け製造承認申請のために必要な試験と評価し得ない特別の事情のある場合に限られる。(特別事情の主張・立証がないとされた事例) /知的財産権/無体財産権/工業所有権/特許権/
参照条文: /特許.69条1項/薬事.14条/民法:709条/
全 文 h120118tokyoH.html

東京地方裁判所 平成 12年 1月 17日 民事第29 判決 ( 平成9年(ワ)第7268号 )
事件名:  不正競争行為差止等請求事件<ポップ用書体不正競争>
要 旨
 1.原告が主張する原告ポップ文字の形態上の特徴が原告ポップ文字のみに特有の形態であるとはいえず、個々の形態の組合せに独自性があったとしても、その組合せにおける独自性により需要者に強い印象を与えることはないと判断され、ポップ文字を制作する被告らに対する不正競争防止法2条1項1号に基づく差止請求等が棄却された事例。
 2.被告が原告の発行した「POP文字」に掲載された各文字をトレーシングペーパーで引き写すことにより、原告ポップ文字を模倣し、被告ポップ文字を完成させ、これを第三者に許諾して使用させたり、自ら販売したりしたとしても、その行為が原告の法的利益を侵害するものと解することはできないとして、不法行為を理由とする損害賠償請求が棄却された事例。 (知的財産権/無体財産権/不正競争防止法/書体)
参照条文: /不正競争.2条1項1号/民法:709条/
全 文 h120117tokyoD.html

東京地方裁判所 平成 11年 12月 28日 民事第46部 判決 ( 平成10年(ワ)第28675号 )
事件名:  名称等使用差止等請求事件<営業表示不正競争>
要 旨
 1.営業表示として「アーゼオン」の表示を使用する被告の行為が、原告の周知営業表示である「日本ゼオン」及び「ゼオン」の各表示と類似し、不正競争防止法2条1項1号所定の不正競争行為に該当すると主張して、原告が被告に対して使用の差止め、その文字の除去及び商号の仮登記の抹消登記手続、損害賠償を請求し、認容された事例。
 2.原告の顧客が企業・商社・地方公共団体等であって、一般消費者を相手とする営業をしていない場合に、広告出稿量が少ないことや、一般個人及び原告とは業務分野を異にする企業に勤務する会社員の間における認知度が高いとはいえないことは、原告の営業表示の周知性を妨げるものではないとされた事例。
 3.原告表示「ゼオン」と被告表示「アーゼオン」とは、「ゼ」の音の響きの強さ等を考慮すると、称呼が類似しており、したがって被告表示は「日本ゼオン」にも類似するとされた事例。
 4.原告と被告とが業務分野において一部競合する部分があり、その顧客層(政府機関や地方公共団体)が共通しているので、営業主体の混同が生じ得るとされた事例。
 5.営業上の利益の侵害のおそれの有無を判断するに当たっては、現に原告と取引をしている者がその営業主体を誤解して取引をする可能性があるかどうかだけではなく、将来原告と取引を行い得る潜在的な需要者をも考慮すべきである。 (知的財産権/無体財産権/不正競争防止法)
参照条文: /不正競争.2条1項1号/不正競争.3条1項/不正競争.3条2項/不正競争.4条/
全 文 h111228tokyoD.html

大阪高等裁判所 平成 11年 12月 27日 第8民事部 判決 ( 平成11年(ネ)第45号、第1525号 )
事件名:  損害賠償等請求控訴、同附帯控訴事件<遊戯銃カスタムパーツ不正競争>
要 旨
 1.遊戯銃のカスタムパーツの製造・販売を業とする原告が、遊戯銃及びその部品の製造・販売等を業とする被告に対し、被告が原告の取引先に対してした「原告部品はすべて不正競争防止法によって規制される被告部品の形態模倣品である」旨の口頭の告知行為が虚偽の事実を内容としており、原告の営業上の信用を害するものであって、不正競争防止法2条1項11号の営業誹謗行為に該当するとして、右行為の差止め、損害賠償及び謝罪広告の掲載を求め、損害賠償請求が一部認容された事例。
 2.不正競争防止法2条1項3号の趣旨に照らせば、模倣された商品が全く新たな種類のものであって、機能及び効用を同じくする商品がそれまで世の中に存在していなかった場合であっても、なお、当該商品の機能及び効用を発揮させるために不可避的に採らざるを得ない形態として、「同種の商品が通常有する形態」に該当し、同号の保護の対象から除外される場合もあり得るものと解される。(遊戯銃のカスタムパーツについてこれを肯定した事例)
 3.遊戯銃(エアソフトガン)のカスタムパーツについて、取引の実情に照らすと、純正部品であるからといって不正競争防止法2条1項3号の保護の対象から除外されることにはならないと判断された事例。
 4.遊戯銃のカスタムパーツについて、銃刀法及び日本遊戯銃協同組合の自主規制による材料の制限等を遵守しない製品の販売が許されるか否かは、それぞれの法律によって、それぞれの理由から規制されているのであって、模倣品製造者であると誹謗された者がそれらを遵守していないとしても、不正競争防止法2条1項11号が保護しようとする「公正競争」に該当しないとはいえない。 (知的財産権/無体財産権/不正競争防止法)
参照条文: /不正競争.2条1項3号/不正競争.2条1項13号/不正競争.3条1項/不正競争.4条/不正競争.7条/
全 文 h111227osakaH.html

東京高等裁判所 平成 11年 12月 27日 第13民事部 判決 ( 平成10年(行ケ)第381号 )
事件名:  審決取消請求事件<衛生洗浄装置の噴射ノズル駆動機構実用新案>
要 旨
 1.衛生洗浄装置の噴射ノズル駆動機構実用新案について、公開された先行考案から当業者が極めて容易に考案することができるものであるとの理由でその登録を拒絶すべきとした審決が維持された事例。
 2.特許出願の図面は当業者が出願に係る発明の技術的思想を理解し、発明の実施ができるようにするためのものであって、その程度において記載されれば足りるものであるから、審決における引用例と本願考案との一致点の認定の誤りをこの図面に基づいて根拠付けることは適当ではないとされた事例。 (知的財産権/無体財産権/工業所有権/特許権/進歩性)
参照条文: /特許.29条2項/
全 文 h111227tokyoH51.html

東京地方裁判所 平成 11年 12月 27日 民事第29部 判決 ( 平成6年(ワ)第11157号 )
事件名:  不正競争行為差止等請求事件<高島易断営業表示不正競争等>
要 旨
 1.株式会社高島易断総本部が「東京高島易断運命鑑定」又は「高島易断洗心館総本部」の表示を使用する被告に対して、不正競争防止法2条1項1号所定の不正競争行為に該当すると主張して、当該名称使用の差止め等を請求したが、「高島易断」が広く一般の易占業において使用されている経緯に照らすと、原告の周知な商品等表示であると解することはできないとして、請求が棄却された事例。
 2.退職従業員に対して「高島易断」及び「高島」を含む表示・姓を一切(期限の定めもなく)使用しないことを約束させた誓約は、「高島易断」が易占業ないし易占業の組織、団体を示す一般的な名称であると解されること等の経緯に鑑みれば、退職従業員に対して著しく不合理な内容の義務を負わせるものといえるから、公序良俗に反し無効である。(事例) /知的財産権/無体財産権/不正競争防止法/自他識別力競業行為禁止契約/
参照条文: /不正競争.2条1項1号/民法:90条/
全 文 h111227tokyoD.html

東京地方裁判所 平成 11年 12月 24日 民事第47部 判決 ( 平成11年(行ウ)第216号 )
事件名:  実用新案技術評価取消請求事件<照明装置付歯鏡実用新案>
要 旨
 実用新案法12条の規定する実用新案技術評価は、直接国民の権利義務を形成し又はその範囲を確定することが法律上認められているものとはいえないから、行政事件訴訟法3条2項の「処分」には当たらず、その取消しを求める訴えは不適法である。 (知的財産権/無体財産権/工業所有権/実用新案権/訴訟要件/請求適格/訴えの客観的利益/訴えの利益)
参照条文: /行訴.3条2項/実用新案.12条/実用新案.29-2条/実用新案.29-3条/
全 文 h111224tokyoD.html

東京高等裁判所 平成 11年 12月 22日 第13民事部 判決 ( 平成11年(ネ)第76号 )
事件名:  複製物廃棄等請求控訴事件<小説著作権>
要 旨
 他人の文芸作品(小説)を死亡した家族の作品と誤認して遺稿追悼集に掲載したことに過失があるとされた事例。
 (知的財産権/無体財産権/著作権/著作者)
参照条文: /著作.14条/著作.21条/著作.112条/民法:710条/
全 文 h111222tokyoH.html

東京地方裁判所 平成 11年 12月 22日 民事第29部 判決 ( 平成10年(ワ)第24号 )
事件名:  損害賠償請求事件<整列巻コイル実用新案>
要 旨
 1.整列巻コイルについて実用新案権を有する原告が、整列巻コイルを使用したフロッピーディスクドライブ等他者から購入し、あるいは他者から購入した整列巻コイルを使用してフロッピーディスクドライブ等を製造し、それらを単体でまたはパーソナルコンピュータに組み込んで多数販売した被告メーカーに対して、実用新案権侵害を理由に損害賠償が請求された事件において、被告が販売したコイル数を経験則を用いて推定して、損害賠償が算定された事例。
 2.被告が他者から購入した部品(コイル)に原告の実用新案権の対象となるものとそうでないものとが混在し、その割合を確定できない場合に、特段の事情のない本件においては、実用新案権の対象とものの割合を5割と推認すべきであるとされた事例。
 3.コイルがモータにおける主要な構成部分の一つであることなどを考慮して、コイルの実用新案の実施料がコイルの価格のおおむね10パーセントとするのが相当であるとされた事例。 (知的財産権/無体財産権/工業所有権/実用新案権/自由心証主義/事実上の推定)
参照条文: /民訴.247条/実用新案.29条3項/
全 文 h111222tokyoD.html

名古屋地方裁判所 平成 11年 12月 22日 民事第9部 判決 ( 平成7年(ワ)第4290号 )
事件名:  特許権侵害行為差止等請求事件<片面段ボールの製造装置における中芯保持装置特許>
要 旨
 1.原告が特許権を有する片面段ボールの製造装置における中芯保持装置の発明に関し、摩耗した枢要部品(段ロール)を肉盛溶接して再生した被告の行為が特許法101条1号で定める間接侵害に該当するとし、損害賠償が命じられた事例。
 2.「おいて」形式により特許請求の範囲が記載されている場合、前提事実の構成のみを有する従来技術が、発明の技術的範囲に属さないことは明らかであるから、発明の基本的部分以外の構成要素に該当する部分が製造されただけで発明の構成要件を充足する物が製造されなかったという場合には、その部分の製造は間接侵害を構成しないといえるとしても、製造された当該部分を構成要素として製造された物が、当該発明の構成要件を充足する場合には、右部分の製造は間接侵害を構成することになる。
 3.特許法101条1号で定める間接侵害における「生産」は、特許法2条3項1号の「生産」と同義であって、物を作り出す行為を指し、工業的生産物の生産のほか、組立て、部品を機械本体に装着することがこれに含まれるとともに、修埋又は改造の内容によっては、特許品を再生産したと評価すべき場合があり、特許権者に無断で業としてそのような修理、改造を行うことは「生産」に該当し、特許権の侵害になるものというべきである。(摩耗した段ロールの肉盛溶接再生が特許法101条1号の対象となる生産にあたるとされた事例)。
 4.特許法101条1号における「その物の生産にのみ使用する物」に該当しないためには、その物が「他の用途」に使えば使い得るといった程度の実験的又は一時的な使用の可能性では足りず、「他の用途」が商業的、経済的にも実用性のある用途として社会通念上通用し承認されたものであることが必要である。(「その物の生産にのみ使用する物」に該当するとされた事例)。
 5.特許法102条2項は、特許権者の損害である逸失利益を推定するための規定であるから、同項所定の「侵害により利益を受けているとき」における「利益」とは、特許権者が現実に特許権を実施しており、かつ、設備投資や従業員の雇用を新たに必要としない状態で製造、実施等が可能な範囲内では、侵害行為者の製品の売上額から、その製造、実施等のための変動経費のみを控除した額(限界利益)をいうものと解するのが相当である。 (知的財産権/無体財産権/工業所有権/特許権/ジェプソンタイプ/「おいて形式」/包袋禁反言/消耗部品に関する用尽的効果)
参照条文: /特許.101条1号/特許.102条2項/
全 文 h111222nagoyaD.html

大阪地方裁判所 平成 11年 12月 21日 第21民事部 判決 ( 平成10年(ワ)第14101号 )
事件名:  損害賠償等請求事件<呼び線不正競争>
要 旨
 1.電設工事に使用する呼び線について、原告と被告の商品以外に撚り線形状の呼び線は市場に現れていない状況において、被告が原告商品との比較であることを明示していなくても、「当社従来比」の付記がないため、広告等における被告商品の説明表示が原告の営業上の信用を害するおそれがある虚偽の事実を流布した行為(不正競争防止法2条1項13号)にあたると判断された事例。
 2.営業上の利益、信用が侵害されたことによる損害について、原告から具体的主張がないが、一切の事情を考慮して、50万円が認められた事例。
 3.被告の商品についての説明表示か品質誤認を招く行為(不正競争防止法2条1項12号)に該当しないとされた事例。
 (知的財産権/無体財産権/不正競争防止法)
参照条文: /不正競争.2条1号13号/不正競争.2条1号12号/
全 文 h111221osakaD.html

大阪地方裁判所 平成 11年 12月 21日 第21民事部 判決 ( 平成10年(ワ)第3008号・平成10年(ワ)第9482号 )
事件名:  不正競争防止法に基づく差止等請求事件・損害賠償等請求事件
要 旨
 1.電設工事に使用される呼び線について、原告の商品形態が当初は相当程度の特異性を有していたが、その後の取引の実情に照らすと不正競争の行為の成否を判断すべき基準時以降において原告商品の形態が需要者間において周知性を有していたとは認められないとして、類似形態の商品を製造販売した被告の行為が不正競争防止法2条1項1号に該当しないとされた事例。
 2.電設工事に使用される呼び線について、被告意匠が部分的には原告の登録意匠と類似しているが、全体としてみれば相違しており、原告の登録意匠は部分意匠ではないから、被告が原告の登録意匠を実施していることにはならないとされた事例。
 3.撚線形状の呼び線を製造、販売しているのが原告(第二事件被告)と被告(同原告)のみであるという市場の状況の下で、原告が自己の商品に「形状をまねた類似品にご注意ください」と表示することは、被告の信用を害する行為であり、被告が当初は模倣商品を製造していても、その後にその製造販売を中止し、原告商品をまねたとは言えない別製品を製造販売するようになった後も原告がこの表示を継続することは、被告の営業上の信用を害する虚偽の表示を流布する行為であると判断され、被告から表示の中止を求める警告書が原告に送付された後もその表示を継続したので表示行為の継続に過失があるとして、被告からの損害賠償請求が認められた事例。(名誉回復のための謝罪広告の請求は棄却)。
 4.不正競争行為の中止が仮処分執行の結果である場合には、本案訴訟においてなおその行為の差止を命ずることができるとされた事例。
 (知的財産権/無体財産権/工業所有権/意匠権/不正競争防止法)
参照条文: /不正競争.2条1項1号/不正競争.2条1項13号/不正競争.3条/不正競争.4条/不正競争.7条/意匠.37条/
全 文 h111221osakaD2.html

東京地方裁判所 平成 11年 12月 21日 民事第46部 判決 ( 平成10年(ワ)第8345号、平成10年(ワ)第17998号 )
事件名:  特許権差止請求権不存在確認等本訴請求事件、特許権侵害差止等反訴請求事件<養殖貝類の耳吊り装置特許等>
要 旨
 1.養殖貝類の耳吊り装置を原告が販売すること等について被告が特許権に基づく差止請求権を有しないことの確認請求、ならびに、特許権侵害の虚偽事実を被告が第三者に告知・流布することの差止請求が認容された事例
 2.養殖貝類の耳吊り装置に関する発明について、特許請求の範囲において使用された「積層」なる用語は、「複数の物を、一つの物の上に他の物を順次のせていくように、配置すること」を意味する用語であって、「複数の物を、一つの物の隣に他の物を順次並べていくように、配置すること」をも含む概念ではなく、したがつて、「積層状に並べ」は、ロープと稚貝の耳部を水平置きにすることを意味し、これらを垂直置きにすることを含まないとされた事例。
 3.分割出願が適法なものとして特許法44条2項による出願日の遡及が認められるためには、{1}分割の基になる原出願の明細書又は図面に2以上の発明が記載されており、{2}右記載された発明の一部を分割出願に係る発明としていることのほかに、{3}分割出願が原出願について補正のできる範囲で行われることが必要である。分割出願が原出願について補正のできる範囲で行われているといえるためには、分割出願の明細書又は図面が、原出願の願書に最初に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内でないものを含まないことを要し、当業者にとって自明な事項については、明細書又は図面に記載がなくともそこに記載されているものとして補正のできる範囲に含まれるとすることはできない。
 4.均等の主張が時機に後れて提出された攻撃防御方法であるが、明らかに理由がなく、訴訟の完結を遅延させるものではないので、裁判所が却下することなく判断を下した例。
 5.不正競争行為としての虚偽事実の流布の差止請求を認容するにあたって、原告従業員の作成にかかる原告代理人宛の報告書と弁論の全趣旨を総合して、原告主張のとおり、被告がその販売代理店に虚偽の説明を行った事実を認めることができるとした事例。 /知的財産権/無体財産権/工業所有権/特許権/不正競争防止法/均等論/
参照条文: /不正競争.2条1項13号/特許.44条/特許.36条/特許.70条/民訴.157条/民訴.247条/
全 文 h111221tokyoD2.html

東京地方裁判所 平成 11年 12月 21日 民事第47部 判決 ( 平成11年(ワ)第20965号 )
事件名:  著作権侵害確認請求事件<漫画著作権>
要 旨
 1.「東京地方検察庁平成九年検第一九九八七号著作権違反について、平成九年一一月二五日に不起訴処分となった本件に新たに違反が行われたので確認する。」との請求に係る訴えが、確認対象が特定されていないことを理由に却下された事例。
 2.被告イラストのキャラクターが、原告漫画のキャラクターを複製又は翻案したものであるとは認められないとされた事例。 /知的財産権/無体財産権/著作権/訴訟物の特定/請求の特定/訴訟要件/
参照条文: /著作.21条/著作.27条/民訴.133条/民訴.140条/
全 文 h111221tokyoD3.html

東京地方裁判所 平成 11年 12月 21日 民事第47部 判決 ( 平成10年(ワ)第11634号 )
事件名:  特許権侵害差止等請求事件<血液凝固の制御能を持つムコ多糖組成物及びこれを含有する医薬並びにその製造方法特許>
要 旨
 1.血液凝固の制御能を持つムコ多糖組成物及びこれを含有する医薬並びにその製造方法に関する特許権を有する原告が、被告らに対し、ウシ又はブタ腸粘膜由来のヘパリンから得られた低分子量ヘパリンのナトリウム塩(一般名:パルナパリンナトリウム)を輸入・販売する行為またはこれを有効成分とする血液凝固阻止剤(商品名:「ローヘパ注五〇〇」)を製造・販売する行為が原告の右特許権を侵害すると主張して、輸入・販売及び製造・販売の差止め、損害賠償を求めたが、認容されなかった事例。
 2.発明の要件の一部である「可溶」の条件が明細書中に明示的に記されていない場合に、その判定条件を解釈するに当たって実施例を参照すべきであり、実施例において「可溶」とされるものと同程度の条件で溶解すれば、本件発明の「可溶」を充足するということができるが、そうでなければ「可溶」を充足するということはできないとされた事例。
 3.被告物件パルナパリンナトリウムが原告の発明の実施例において「可溶」とされるものと同程度の条件で水性アルコール媒質に溶解する事実は認められないため、被告の物件が原告の発明の技術的範囲に属さないとされた事例。 (知的財産権/無体財産権/工業所有権/特許権)
参照条文: /特許.70条/特許.100条/
全 文 h111221tokyoD.html

東京地方裁判所 平成 11年 12月 21日 民事第47部 判決 ( 平成9年(ワ)第2551号 )
事件名:  不正競争行為差止等請求事件<電路支持材不正競争>
要 旨
 1.電路支持材について、不正競争防止法2条1項1号に基づいて被告製品の製造・販売の差止めならびに不法行為を理由に損害賠償が請求されたが、棄却された事例。
 2.商品の形態は、本来商品の出所表示を目的とするものではないが、特定の商品形態が他の業者の同種商品と識別しうる特別顕著性を有し、かつ、右商品形態が長期間継続的かつ独占的に使用され、又は短期間でも強力な宣伝が行われたような場合には、結果として、商品の形態が商品の出所表示の機能を有するに至り、商品表示としての形態が周知性を獲得する場合がある。
 3.原告製品の形態的特徴の主な部分が技術的機能に由来するものであり、基本的な形状を同じくする同種の製品が古くから存し、遅くとも昭和六一年ころには、日本において、原告製品と形態が酷似した複数の製品が販売されており、基本的な形状を同じくする意匠に関する他の者の意匠権も登録、公開されている等の理由により、原告製品の形態が、同種製品と識別しうる特別顕著性を有し、商品表示として周知であるとまでは認められないとされた事例(製品1について。他の製品についてもほぼ同じ)。
 4.被告が原告製品と外観において実質的に同一ともいうべき被告製品を製造し、原告製品との品番対比表を作成、配布し、かつ、原告製品よりも低い価格で販売したとしても、それ自体が自由競争の範囲を著しく逸脱した行為であるとはいえず、損害賠償の原因とはならない。 /知的財産権/無体財産権/不正競争防止法/
参照条文: /不正競争.2条1項1号/不正競争.3条/民法:709条/
全 文 h111221tokyoD5.html

東京地方裁判所 平成 11年 12月 21日 民事第47部 判決 ( 平成11年(ワ)第3134号 )
事件名:  商標権侵害差止請求事件
要 旨
 1.欧文筆記体「Salvador」と「Dali」とからなる商標等について商標権を有する原告が、これと同一又は類似する標章を付した時計及びその容器を輸入する被告に対して、その差止め等を請求し、認容された事例。
 2.被告の商品輸入元が倒産したため、被告が商標権侵害となる輸入行為をするおそれがあるとは認められないが、在庫品を廃棄せず、被告の従業員や関係者に無償で譲渡することを考えているため、商標権侵害となる譲渡・引渡・譲渡又は引渡しのための展示するおそれがあると認められた事例。
 3.商標法32条の先使用権の要件の一つである周知性が満たされていないと判断された事例。 (知的財産権/無体財産権/工業所有権/商標権)
参照条文: /商標.32条/商標.36条/商標.37条/
全 文 h111221tokyoD4.html

最高裁判所 平成 11年 12月 20日 第1法廷 判決 ( 平成10年(オ)第583号 )
事件名:  損害賠償請求上告事件
要 旨
 1.交通事故の被害者が事故に起因する傷害のために身体的機能の一部を喪失し、労働能力の一部を喪失した場合において、逸失利益の算定に当たっては、その後に被害者が別の原因により死亡したとしても、右交通事故の時点で、その死亡の原因となる具体的事由が存在し、近い将来における死亡が客観的に予測されていたなどの特段の事情がない限り、右死亡の事実は就労可能期間の認定上考慮すべきものではない。(前提の議論)
 2.交通事故の被害者が事故後に別の原因により死亡した場合には、死亡後に要したであろう介護費用を右交通事故による損害として請求することはできない。(破棄理由) (補足意見:/判決の基礎となった事情の変化/確定判決の効力/既判力/執行力/請求異議の訴え/不当利得返還請求/一括賠償/定期金賠償/)
参照条文: /民法:709条/自賠.4条/[/民訴.117条/]
全 文 h111220supreme.html

東京地方裁判所 平成 11年 12月 20日 民事第29部 判決 ( 平成10年(ワ)第18411号 )
事件名:  著作権存在確認等請求事件<著作権>
要 旨
 1.原告が確認の対象としている著作権の帰属を被告が争っているとは認められないため、著作権確認請求に係る訴えが却下された事例。
 原告が被告に対して差止を求めている著作物利用行為等をしているとは認められないため、著作物利用差止請求が棄却された事例。
 3.被告が所有権を有する写真のネガを被告が占有しているとは認められないため、引渡請求が棄却された事例。
 (知的財産権/無体財産権/著作権/訴えの利益/訴えの客観的利益/権利保護の利益/訴訟要件)
参照条文: /民訴.2編1章/著作.112条/
全 文 h111220tokyoD.html

最高裁判所 平成 11年 12月 16日 第1小法廷 判決 ( 平成10年(オ)第1499号、第1500号 )
事件名:  土地所有権移転登記手続請求及び独立当事者参加並びに土地共有持分存在確認等請求上告事件
要 旨
 1.特定の不動産を特定の相続人に相続させる趣旨の遺言がされた場合、権利移転の効果は相続開始と共に生ずるが、右相続人に右不動産の所有権移転登記を取得させることは、遺言執行者の職務権限に属し、この職務権限は、右相続人も自ら所有権に基づく同様の登記手続請求をなしうることによって影響されない。(遺言執行者に相続人への所有権移転登記請求の原告適格を肯定)(破棄理由)
 1a.ただし、相続させる遺言については不動産登記法27条により相続人が単独で登記申請をすることができるとされているから、当該不動産が被相続人名義である限りは、遺言執行者の職務は顕在化せず、遺言執行者は登記手続をすべき権利も義務も有しない。
 2.寄与分は、共同相続人間の協議により定められ、協議が調わないとき又は協議をすることができないときは家庭裁判所の審判により定められるものであって、遺留分減殺請求に係る訴訟において抗弁として主張することは許されない。(原判決の判断を是認)
 2a.特定の不動産を特定の相続人甲に相続させる趣旨の遺言がされた場合において、遺留分権利者が減殺請求権を行使するよりも前に、減殺を受けるべき甲が相続の目的を他人に譲り渡したときは、民法1040条1項が類推適用され、遺留分権利者は、譲受人が譲渡の当時遺留分権利者に損害を加えることを知っていた場合を除き(同項ただし書)、甲に対して価額の弁償を請求し得るにとどまり(同項本文)、譲受人に対し遺留分に相当する共有持分の返還等を請求することはできないものと解するのが相当であり、同項にいう「他人」には、甲の共同相続人も含まれる。(破棄理由)
 2b.遺言執行者が提起した遺言の内容に合致しない登記を是正するための訴訟に遺留分権者が当事者参加して、遺言執行者に対しても共有持分の確認を請求した場合には、遺言執行者の請求の成否と遺留分減殺請求の成否とは表裏の関係にあり、合一確定を要するから、遺言執行者は共有持分確認請求について被告適格を有する。
 3.独立当事者参加訴訟において、被告の上告に理由がないが原告の上告に理由があるため原判決を破棄して差し戻す場合に、被告の上告について、訴訟の目的を合一に確定すべき場合に当たるから、主文において上告棄却の言渡しをしないとされた事例。(遺産に属する土地のついてなされた遺言の執行のために、原告(遺言執行者)の被告(共同相続人の一部の者)に対する訴えを却下し、参加人(遺留分権者)の請求を認容する原判決に対して原告と被告が控訴した事案において、上告審が原告の当事者適格を肯定して当該土地に関して、参加人の被告に対する請求を認容する部分も含めて原判決全体を破棄して事件を差し戻す際に、差戻審における論理的合一確定に支障が生じないようにするために、参加人の被告に対する請求を認容した部分について被告の上告に理由がなくてもその上告を棄却する旨を主文に掲げないとされた事例) /相続させる遺言/当事者適格/訴訟担当/
参照条文: /民法:1040条1項/民法:904-2条/民法:908条/民法:985条/民法:1012条/民法:1028条/民訴.2編1章/民訴.47条/民訴.302条/民訴.313条/
全 文 h111216supreme.html

大阪高等裁判所 平成 11年 12月 16日 第8民事部 判決 ( 平成8年(ネ)第3445号、平成10年(ネ)第2842号 )
事件名:  営業表示差止等請求控訴、同附帯控訴事件<営業表示不正競争>
要 旨
 1.「リッツ(RITZ)」という名称(表示)が、被告が「ホテル
 ゴーフル
 リッツ」の名称でホテル経営を開始した平成元年三月当時の日本においても、原告の営業表示として周知性を獲得していた。(事例)
 2.「リッツ(RITZ)」の有する顧客吸引力に只乗りするホテルが多少存在するとしても、「リッツ(RITZ)」の表示の識別力や周知性が減殺されることにもならない。(事例)
 3.被告の洋菓子の名称である「ゴーフル(GAUFRES)」の表示と、原告の著名なホテルの名称である「リッツ(RITZ)」の表示とを結合したからといって、別個の新たな観念が生ずることはなく、単に右の二つの表示が並存しているにすぎないというべきであり、被告表示における「リッツ(RITZ)」の比重が「ゴーフル(GAUFRES)」よりも低いとはいえないから、被告表示は、全体として、原告の営業表示としての本件表示と類似性があるということができる。(事例)
 4.不正競争防止法2条1項1号にいう「混同を生じさせる行為」は、親会社、子会社の関係や系列会社などの緊密な営業上の関係が存するものと誤信させる行為をも包含し、原告の営業表示として顧客吸引力を有する「リッツ(RITZ)」の表示を含む「ホテル
 ゴーフル
 リッツ」の表示を被告が使用する行為は、ホテル業者、旅行業者及び一般需要者をして、原告と被告との間に本件表示に化体された顧客吸引力を供与するためのライセンス契約等、何らかの営業上の緊密な関係があるものと誤信させるおそれのある行為(いわゆる広義の混同行為)に該当する。(事例)
 5.周知表示混同惹起行為による営業上の利益侵害の賠償請求(300万円)ならびに賠償請求訴訟の追行のための弁護士費用額の賠償請求(300万円)は認容されたが、「リッツ(RITZ)」の商標保護のための手続(商標登録無効審判手続)に費やした代理人に対する報酬等の費用については、被告の行為との間に相当因果関係を認めることはできないとして、費用相当額の賠償請求が認容されなかった事例。
 (知的財産権/無体財産権/不正競争防止法)
参照条文: /不正競争.2条1項1号/不正競争.3条/不正競争.4条/民法:709条/
全 文 h111216osakaH.html

東京高等裁判所 平成 11年 12月 16日 第18民事部 判決 ( 平成11年(行ケ)第267号 )
事件名:  審決取消請求事件<2騎ポロ競技者図形商標>
要 旨
 1.《2本の小枝を左右対称に冠状に表した図形の中央部にスティックを持つ位置を異にした2騎の競技者がポロ競技の球を取り合う様を描出した図形》からなる本願商標が被服・布製身回品を含む指定商品に使用された場合には、これに接する取引者、需要者は、本願商標中の2騎のポロ競技者を表した図形部分より、登録異議申立人(ザ・ポロ/ローレン・カンパニー)が使用する著名なポロプレーヤー標章を連想し、該商品が登録異議申立人又はこれと組織的・経済的に何らかの関係を有する者の業務に係る商品であるかのように出所の混同を生ずるおそれがあるから、本願商標の登録は商標法4条1項15号により許されないとされた事例。(登録拒絶査定を支持した審決を支持) /知的財産権/無体財産権/工業所有権/商標権/ポロ商標/
参照条文: /商標.4条1項15号/
全 文 h111216tokyoH57.html

東京高等裁判所 平成 11年 12月 16日 第6民事部 判決 ( 平成11年(ネ)第3800号 )
事件名:  損害賠償請求控訴事件<汗吸収パッド実用新案>
要 旨
 1.汗吸収パッドの実用新案につき、登録請求の範囲及び考案の詳細な説明中の「曲率の小さな」の記載を「曲率半径の小さな」に訂正することを無効とする審決の取消訴訟を実用新案権者であるXがYを被告にして提起したが、請求が棄却された場合に、その後にXがYに対して提起する実用新案権侵害を理由とする損害賠償請求訴訟において、「曲率の小さな」は「曲率半径の小さな」の誤記であると主張することは、既判力に抵触するものではないが、確定した裁判によって解決しようとした事柄を未解決の状態に置こうとするものであり、法的安定性を著しく害するものであるから、誤記であることが外形上客観的に一見して明白であるか、あるいは、別件訴訟につき再審事由に該当するほどの事由があるなどの特段の事情がない限り、確定判決の理由中の判断を尊重するのが相当であって、再度蒸し返して争うことは、信義則に反して許されない。(1a.特段の事情は認められないとして、紛争蒸返しの主張が許されなかった事例)
 2.均等論の要件が充足されていないとされた事例。 /知的財産権/無体財産権/工業所有権/実用新案権/
参照条文: /民訴.114条/民訴.2条/実用新案.14-2条/特許.126条/
全 文 h111216tokyoH9.html

東京高等裁判所 平成 11年 12月 16日 第6民事部 判決 ( 平成11年(行ケ)第290号 )
事件名:  審決取消請求事件<ROYAL PRINCE POLO CLUB商標>
要 旨
 1.「ROYAL PRINCE POLO CLUB」の欧文字を横書きした本願商標をその指定商品(時計
 その他本類に属する商品)に使用するときは、これに接する取引者・需要者はその構成中の「POLO」の文字に注目し、周知になっているラルフ・ローレンに係る「POLO」標章を想起し、該商品がラルフ・ローレン又は同人と組織的・経済的に何らかの関係を有する者の業務に係る商品であるかの如く出所の混同を生ずるおそれがある、と判断された事例。(登録拒絶査定を支持した審決を支持) (知的財産権/無体財産権/工業所有権/商標権/ポロ商標)
参照条文: /商標.4条1項15号/
全 文 h111216tokyoH8.html

東京高等裁判所 平成 11年 12月 16日 第6民事部 判決 ( 平成11年(行ケ)第250号 )
事件名:  審決取消請求事件<The Polo Cup Challenge商標>
要 旨
 「The Polo Cup Challenge」の欧文字を横書きした本願商標をその指定商品(旧21類「かばん
 袋物
 その他本類に属する商品」)に使用するときは、これに接する取引者・需要者はその構成中の「Polo」の文字に注目し、周知になっているラルフ・ローレンに係る「Polo」標章を想起し、該商品がラルフ・ローレン又は同人と組織的・経済的に何らかの関係を有する者の業務に係る商品であるかの如く出所の混同を生ずるおそれがあると、判断された事例。(登録拒絶査定を支持した審決を支持) /知的財産権/無体財産権/工業所有権/商標権/ポロ商標/
参照条文: /商標.4条1項15号/
全 文 h111216tokyoH53.html

東京高等裁判所 平成 11年 12月 16日 第6民事部 判決 ( 平成11年(行ケ)第251号 )
事件名:  審決取消請求事件<Polo Team商標>
要 旨
 「Polo Team」の欧文字を横書きした本願商標をその指定商品(旧17類「被服
 その他本類に属する商品」)に使用するときは、これに接する取引者・需要者はその構成中の「Polo」の文字に注目し、周知になっているラルフ・ローレンに係る「Polo」標章を想起し、該商品がラルフ・ローレン又は同人と組織的・経済的に何らかの関係を有する者の業務に係る商品であるかの如く出所の混同を生ずるおそれがある、判断された事例。(登録拒絶査定を支持した審決を支持) (知的財産権/無体財産権/工業所有権/商標権/ポロ商標)
参照条文: /商標.4条1項15号/
全 文 h111216tokyoH54.html

東京高等裁判所 平成 11年 12月 16日 第6民事部 判決 ( 平成11年(行ケ)第252号 )
事件名:  審決取消請求事件<The Polo Cup Challenge商標>
要 旨
 「The Polo Cup Challenge」の欧文字を横書きした本願商標をその指定商品(旧17類「被服
 その他本類に属する商品」)に使用するときは、これに接する取引者・需要者はその構成中の「Polo」の文字に注目し、周知になっているラルフ・ローレンに係る「Polo」標章を想起し、該商品がラルフ・ローレン又は同人と組織的・経済的に何らかの関係を有する者の業務に係る商品であるかの如く出所の混同を生ずるおそれがある、判断された事例。(登録拒絶査定を支持した審決を支持) (知的財産権/無体財産権/工業所有権/商標権/ポロ商標)
参照条文: /商標.4条1項15号/
全 文 h111216tokyoH55.html

東京高等裁判所 平成 11年 12月 15日 第13民事部 判決 ( 平成11年(行ケ)第147号 )
事件名:  審決取消請求事件<ばんどう太郎商標>
要 旨
 1.「ばんどう太郎」の文字を横書きしてなり、第32類「食肉、卵、食用水産物、野菜、果実、加工食料品(他の類に属するものを除く)」を指定商品とする商標の登録を、「うなぎの蒲焼き及びそれに類似する商品」について、商標法50条(3年以上の不使用)により取り消す旨の審決が支持されたされ事例。
 2.「すし」と「うなぎの蒲焼き」とが通常の取引者・需要者により異なる食品として認識されていることは当裁判所に顕著な事実であり、両者を類似する商品ということはできない。
 (知的財産権/無体財産権/工業所有権/商標権)
参照条文: /商標.50条/
全 文 h111215tokyoH51.html

東京地方裁判所 平成 11年 12月 15日 民事第29部 判決 ( 平成10年(ワ)第18224号 )
事件名:  不正競争行為差止等請求事件<営業表示不正競争等>
要 旨
 ホテル・国内線航空会社の優先予約・料金割引・クレジットなどのサービスを提供するカード会員組織の運営会社である原告の「プレジデントクラブ」及び「PRESIDENT
 CLUB」の表示について、原告がこれらの表示を用いて営業活動や広告の掲載やダイレクトメールの発送をしていたことがあったが、その後営業休止状態に陥っており、訴訟の対象となる期間(訴え提起前3年以降)には需要者間に周知性を有している状況にあるとはいえないとして、類似の表示を用いている被告に対する不正競争防止法に基づく差止・損害賠償請求ならびに商法21に基づく差止請求が棄却された事例。
 (知的財産権/無体財産権/不正競争防止法)
参照条文: /不正競争.3条/不正競争.4条/商.21条/
全 文 h111215tokyoD.html

東京地方裁判所 平成 11年 12月 15日 民事第29部 判決 ( 平成11年(ワ)第8996号 )
事件名:  著作権侵害差止等請求事件<写真著作権>
要 旨
 1.一般に、特定の作品が先行著作物を翻案したものであるというためには、先行著作物に依拠して制作されたものであり、かつ、先行著作物の表現形式上の本質的特徴部分を当該作品から直接感得できる程度に類似しているものであることが必要である。
 2.写真に創作性が付与されるゆえんは、被写体の独自性によってではなく、撮影や現像等における独自の工夫によって創作的な表現が生じ得ることによるものであるから、いずれもが写真の著作物である二つの作品が、類似するかどうかを検討するに当たっては、特段の事情のない限り、被写体の選択、組合せ及び配置が共通するか否かではなく、撮影時刻、露光、陰影の付け方、レンズの選択、シャッター速度の設定、現像の手法等において工夫を凝らしたことによる創造的な表現部分、すなわち本質的特徴部分が共通するか否かを考慮して、判断する必要がある。
 3.スイカを題材にした写真の著作物について原告がした素材の選択、配置上の工夫は、原告写真の創作性を基礎付けるに足りる本質的特徴部分とはいえないず、原告作品と被告の作品は異なる素材を被写体とするものであり、その細部の特徴も様々な点で相違するから、被告写真は原告写真を翻案したものではないとされた事例。
 (知的財産権/無体財産権/著作権)
参照条文: /著作.27条/著作.20条/著作.2条1項1号/
全 文 h111215tokyoD2.html

最高裁判所 平成 11年 12月 14日 第3小法廷 判決 ( 平成10年(オ)第866号 )
事件名:  取締役会決議無効確認、臨時株主総会決議不存在確認等請求上告事件
要 旨
 株式が数人の共有に属する場合において、商法203条2項所定の権利行使者の指定を欠くときは、共有者全員が議決権を共同して行使する場合を除き、会社の側から議決権の行使を認めることは許されない。 (取締役会決議無効確認の訴え/株主総会決議不存在確認の訴え)
参照条文: /商.203条2項/商.252条/
全 文 h111214supreme.html

最高裁判所 平成 11年 12月 14日 第3小法廷 判決 ( 平成7年(行ツ)第93号 )
事件名:  行政処分取消請求上告事件
要 旨
 コンピューターゲームソフトを入力したフロッピーディスクが宮崎県における青少年の健全な育成に関する条例13条1項1号にいう「著しく青少年の性的感情を刺激し、その健全な成長を阻害するおそれのあるもの」に当たるとされた事例。 /表現の自由/検閲/青少年健全育成条例/性的感情の刺激/わいせつ/猥褻/
参照条文: /憲.21条1項/憲.21条2項/宮崎県における青少年の健全な育成に関する条例./
全 文 h111214supreme2.html

大阪地方裁判所 平成 11年 12月 14日 第21民事部 判決 ( 平成10年(ワ)第10052号 )
事件名:  不正競争行為等差止等請求事件<窓拭き器不正競争>
要 旨
 「ウラピカ」という商品名で製造、販売されている窓拭き器に関する不正競争防止法に基づく損害賠償請求訴訟において、原告の損害と推定される被告の利益の算定にあたって、売上高から費用項目(仕入額、貸倒損、売掛債権放棄、出荷運賃倉庫料、組立・移動費用)を控除するに際し、出荷運賃倉庫料等の推計について詳しい説示がなされた事例。
 (知的財産権/無体財産権/不正競争防止法)
参照条文: /不正競争.2条1項1号/不正競争.4条/不正競争.5条1項/
全 文 h111214osakaD.html

東京地方裁判所 平成 11年 12月 14日 民事第46部 判決 ( 平成8年(ワ)第19970号 )
事件名:  特許権侵害差止等請求事件<カテーテル用ガイドワイヤ特許>
要 旨
 1.原告が被告に対し、カテーテル用ガイドワイヤについての特許権の侵害を理由として、被告の製品の製造・販売等の差止め及び廃棄並びに損害賠償を求めたが、棄却された事例。
 2.[a]原告の発明の構成要件中の「超弾性金属体」とは、(1)回復可能な弾性ひずみが大きく(数パーセントないし十数パーセントにも達する)、(2)ひずみが一定の応力の下で比較的大きく変位し、ひずみが増加しても応力の大きさが変わらないという特性を持つ超弾性金属によって成形され、それをガイドワイヤの先端側内芯部として形成して使用したときに、ガイドワイヤの先端部に、ひずみが一定の応力の下で比較的大きく変位し、ひずみが増加しても応力の大きさが変わらないという右の特性がそのまま現われるような物を意味するものと解するのが相当であり、[b]被告製品は(2)の特性を欠くから原告の特許発明の技術的範囲に属しないとされた事例。
 (知的財産権/無体財産権/工業所有権/特許権)
参照条文: /特許.70条/特許.100条/
全 文 h111214tokyoD.html

大阪地方裁判所 平成 11年 12月 9日 第21民事部 判決 ( 平成9年(ワ)第7373号 )
事件名:  損害賠償等請求事件<不正競争等>
要 旨
 1.化粧品の販売代理店に類似商品販売禁止義務が課せられていたとはいえないとされた事例。
 2.化粧品の継続的な代理店契約の当事者である代理店が契約の対象商品と類似性の高い商品を自ら企画・開発し、販売会社の他の販売代理店や取扱サロンに対して売り込む行為は、販売会社の直接を直接侵害する行為であり、契約関係を存続させることを著しく困難ならしめる事情にあたり、販売会社は、信義則上、将来に向かって契約を解除することができるとされた事例。
 3.化粧品の販売会社が自らの顧客と流通ルートを維持するために、販売代理店や取扱サロンに対して競合会社の商品を取り扱わないよう要請することは、一般的には正当な競争行為であり、ただその要請を行う際に、競合会社の営業上の信用を害する虚偽の事実を告知する場合には不正競争行為として違法となり、また、販売代理店等に対して不当な圧力をかける行為を行った等の場合も不法行為として違法との評価を受けることがあるというべきである。(不法行為を構成するような虚偽事実の告知がなかったと認定された事例)
 (知的財産権/無体財産権/不正競争防止法)
参照条文: /不正競争.2条1号13号/不正競争.4条/民法:709条/
全 文 h111209osakaD.html

東京高等裁判所 平成 11年 12月 9日 第18民事部 判決 ( 平成10年(行ケ)第379号 )
事件名:  審決取消請求事件<半導体記憶装置特許>
要 旨
 1.名称を「半導体記憶装置」とする本願発明について、その出願前に国内において頒布された刊行物に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものと認められるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができないとした審決が支持された事例。
 2.引用例は本願発明の技術的課題を認識していないとの主張が排斥された事例。
 (知的財産権/無体財産権/工業所有権/特許権/進歩性)
参照条文: /特許.29条2項/特許.49条2号/
全 文 h111209tokyoH2.html

東京高等裁判所 平成 11年 12月 9日 第18民事部 判決 ( 平成10年(行ケ)第32号 )
事件名:  審決取消請求事件<鉄筋コンクリート工法及び該工法で使用する梁交差部柱フープ筋幅止め具特許>
要 旨
 「鉄筋コンクリート工法及び該工法で使用する梁交差部柱フープ筋幅止め具」の特許を無効とする審決について、その取消訴訟の係属中に訂正審判の申立てがなされ、訂正審決が確定したことことを理由に、特許無効審決が取り消された事例。
 (知的財産権/無体財産権/工業所有権/特許権)
参照条文: /特許.29条2項/特許.123条1項2号/特許.126条/
全 文 h111209tokyoH.html

東京高等裁判所 平成 11年 12月 8日 第13民事部 判決 ( 平成11年(ネ)第1129号 )
事件名:  実用新案権侵害排除等請求控訴事件<金型反転機実用新案等>
要 旨
 金型反転機の実用新案について、均等論の適用が否定された事例。
 (知的財産権/無体財産権/工業所有権/実用新案権)
参照条文: /実用新案.26条/特許.70条/実用新案.27条/
全 文 h111208tokyoH2.html

東京高等裁判所 平成 11年 12月 8日 第13民事部 判決 ( 平成10年(ネ)第4839号 )
事件名:  製造販売差止等請求控訴事件<POS端末機製造販売差止等>
要 旨
 1.カードシステムを訴外人に販売(使用許諾)した原告と、このシステムを稼働させるのに必要なPOS端末機器を製造販売した被告との間に締結された契約が、原告の被告に対するノウハウの実施許諾契約ではなく、被告が原告からカードシステム仕様の開示を受けて、これに対応するPOSシステム上で稼働するPOS端末機器及びその付属機器を製造して訴外人に販売することを認める契約に過ぎないと認定された事例。
 2.契約書中の文言「公知または公用の情報」に、公然と知られ、又は公然と実施されている情報から容易に想到し得る情報が含まれるものと解することができるとされた事例。公知情報から容易に想到し得る情報であっても、その推考に時間と費用を要することがないか、又は企業間で秘密の取扱いがなされていないと判断される場合に限って、公知の情報に含まれると解すべきであるとの主張が排斥された事例。
 (知的財産権/無体財産権/ノウハウ/ライセンス契約/契約の解釈/法律行為/意思解釈)
参照条文: /民法:91条/
全 文 h111208tokyoH.html

東京高等裁判所 平成 11年 12月 7日 第18民事部 判決 ( 平成11年(ネ)第2870号 )
事件名:  実用新案権侵害行為差止及び損害賠償請求控訴事件<多連棟式のガレージ付建物実用新案>
要 旨
 「多連棟式のガレージ付建物」と称する実用新案権の侵害を理由とする建物所有者に対する建物使用禁止請求、ならび建物でラブホテルを営業していることによる利益の5%の割合による実施料相当額の支払請求が、建物建築の際に通常実施権の許諾ならびに許諾料の支払があったことを理由に棄却された事例。
 (知的財産権/無体財産権/工業所有権/実用新案権)
参照条文: /実用新案.27条/実用新案.29条/実用新案.16条/実用新案.19条/実用新案.2条3項/
全 文 h111207tokyoH2.html

東京高等裁判所 平成 11年 12月 7日 第6民事部 判決 ( 平成11年(行ケ)第161号 )
事件名:  審決取消請求事件<LABRA商標>
要 旨
 引用商標「RUBRA」から「ルブラ」のみならず「ラブラ」の称呼も生ずるが、その商標権者により「ルブラ」とのみ発音されて使用されてきたことを考慮して、引用商標と「LABRA」の欧文字及び「ラブラ」の片仮名文字を二段に書してなる本願商標との間に登録を拒絶しなければならないほどの強さの称呼の共通性はないと判断された事例。
 (本願商標権者が引用商標を拒絶査定に対する審判請求を不成立とする審決後に取得していた事例)(知的財産権/無体財産権/工業所有権/意匠権)
参照条文: /商標.4条1項11号/
全 文 h111207tokyoH.html

東京高等裁判所 平成 11年 12月 2日 第6民事部 判決 ( 平成10年(行ケ)第383号 )
事件名:  実用新案取消決定取消請求事件<防獣ネット実用新案>
要 旨
 合成繊維に直径0.3mm以上の金属線を併存せしめた綱材により網地状に構成したことを特徴とする防獣ネットの本願考案について、金属細線の太さを特定しない類似の先願考案が直径0.3mm以上の金属線を用いることを包含するとして、実用新案登録を取り消した決定が、先願考案の金属細線の直径は最大でも0.1mm程度とみる余地が十分あるとの理由で取り消された事例。
 (知的財産権/無体財産権/工業所有権/実用新案権)
参照条文: /実用新案.3-2条/
全 文 h111202tokyoH.html

東京高等裁判所 平成 11年 12月 2日 第6民事部 判決 ( 平成11年(行ケ)第69号 )
事件名:  審決取消請求事件<ICソケット特許>
要 旨
 1.本件発明は、本件特許出願後に出願公開された先願の願書に最初に添付された明細書又は図面記載の発明と同一であるから、特許法29条の2により無効であるとした特許無効審決が肯認された事例。
 2.洗濯ばさみなどの例に見られるように、挟持手段において弾性部材に予め弾力を与えてプリロードをかけておくことは、IC検査用ソケットの領域にも妥当する技術常識であるとされた事例。
 (知的財産権/無体財産権/工業所有権/特許権)
参照条文: /特許.29-2条/特許.123条1項2号/
全 文 h111202tokyoH2.html

最高裁判所 平成 11年 11月 30日 第3小法廷 判決 ( 平成10年(受)第407号 )
事件名:  配当異議上告事件
要 旨
 買戻特約付売買の買主から目的不動産につき抵当権の設定を受けた者は、買戻権の行使により買主が取得した買戻代金債権について物上代位権を行使することができる。
 (担保権)
参照条文: /民法:372条/民法:304条/民法:579条/民法:583条/
全 文 h111130supreme2.html

最高裁判所 平成 11年 11月 30日 第3小法廷 判決 ( 平成10年(オ)第71号 )
事件名:  預り保証金等返還請求上告事件
要 旨
 会員募集用パンフレットに記載された高級ホテル等の施設が設置されなかったことを理由とするゴルフクラブ入会契約の債務不履行解除を認めなかった原審の判断に違法があるとされた事例
参照条文: /民法:541条/
全 文 h111130supreme.html

最高裁判所 平成 11年 11月 30日 第3小法廷 判決 ( 平成9年(オ)第2267号 )
事件名:  除権判決に対する不服申立て上告事件
要 旨
 民訴法338条1項5号の事由があるとして提起した除権判決に対する不服の訴えの係属中に罰すべき行為の公訴時効が完成した場合に、右訴えを提起することができないとされた事例。
参照条文: /民訴.338条1項5号/民訴.338条2項/公催除権.774条2号6号/
全 文 h111130supreme3.html

大阪地方裁判所 平成 11年 11月 30日 第21民事部 判決 ( 平成7年(ワ)第4285号 )
事件名:  意匠権侵害差止等請求事件<ばね製造機の線ガイド意匠等>
要 旨
 1.ばね製造機の線ガイドについて、意匠権の侵害が認められた事例(イ号物件・ロ号物件・ハ号物件)。
 2.ばね製造機の線ガイドの意匠について、先使用に基づく通常実施権の成立が否定された事例。
 3.意匠権侵害により被告が得た利益の算定にあたって、売上高の1%が荷造運賃として算定され、他の商品と一括して納品されることの多い商品であることを理由に、運送業者との間で設定された運送料金に販売個数を乗じて荷造運賃を算定するのは妥当ではないとされた事例。
 4.商品の価格表や取引書類等に、自らの商品について、他人の登録商標と同じ標章「FWG」を付している場合には、当該商標が、他社製品に適合する部品であることの説明として付記されているものであることが明白である場合はともかくとして、そうでない場合には、商標としての使用に該当するものというべきである。(互換部品であることを示すためのものであることが明らかであるということはできないため、商標法2条3項7号により商標の使用にあたる判断され、商標権侵害が認められた事例)
 5.商標の先使用権が認められなかった事例。
 6.被告の製造する「スプリングチャック」が原告の「ばね半製品のフック起こし装置」という名称の特許発明の構成要件の一部に相当する部品であり、その製造・販売行為は、特許発明の技術的範囲に属する物の生産にのみ使用する物を生産し、又は譲渡をする行為に該当し、特許権を侵害するものとみなされる(特許法101条1号)と判断された事例。
 (知的財産権/無体財産権/工業所有権/特許権/商標権/意匠権)
参照条文: /意匠.29条/意匠.39条2項/意匠.37条/商標.2条3項7号/商標.32条/商標.36条/特許.101条1号/特許.102条2項/特許.70条/特許.100条/
全 文 h111130osakaD.html

東京高等裁判所 平成 11年 11月 30日 第18民事部 判決 ( 平成11年(ネ)第1542号 )
事件名:  意匠権侵害差止等請求控訴事件<土留用プレート意匠等>
要 旨
 1.土留用プレートについて、意匠権の侵害が認められなかった事例。
 2.土留用プレートについて、実用新案権の侵害が認められなかった事例。
 (知的財産権/無体財産権/工業所有権/実用新案権/意匠権)
参照条文: /意匠.5条3号/意匠.37条/実用新案.26条/特許.70条/実用新案.27条/
全 文 h111130tokyoH.html

東京高等裁判所 平成 11年 11月 30日 第18民事部 判決 ( 平成10年(ネ)第4926号 )
事件名:  特許権侵害差止請求控訴事件<フープ材カッター特許>
要 旨
 1.被告物件が原告の特許発明の技術的範囲に属するが、製試作品1台を製作しただけで、原告から警告書を受けた後に廃棄したため、実施料相当額の損害金支払い請求が棄却された事例。
 2.特許権の存続期間が訴訟係属中に終了したため、差止請求が棄却された事例。
 (知的財産権/無体財産権/工業所有権/特許権)
参照条文: /特許.70条/特許.100条/特許.102条/特許.67条/
全 文 h111130tokyoH2.html

東京高等裁判所 平成 11年 11月 30日 第18民事部 判決 ( 平成10年(行ケ)第331号 )
事件名:  審決取消請求事件<一方向ベアリング特許>
要 旨
 軸のある方向への回転では軸承作用をなし、軸の逆方向への回転ではこれをロックさせるクラッチ機能を有する一方向ベアリングに関する発明の特許について、先行発明を考慮すれば当業者が容易に発明できるものであるから特許は無効であるとの主張が排斥された事例。
 (知的財産権/無体財産権/工業所有権/特許権/特許無効審判請求)
参照条文: /特許.29条2項/特許.123条1項2号/
全 文 h111130tokyoH5.html

東京高等裁判所 平成 11年 11月 30日 第6民事部 判決 ( 平成8年(行ケ)第55号 )
事件名:  審決取消請求事件<封止用組成物及び該組成物による封止方法特許>
要 旨
 1.封止用組成物及び該組成物による封止方法に関する発明について、その特許出願の拒絶査定に対する不服申立てを発明の容易性を理由に不成立とした審決が、進歩性の判断の比較対照を誤っていることを理由に取り消された事例。
 2.特許出願明細書中における「透明性」の語が「光学的透明性」ではなく「視覚的透明性」を意味すると認定された事例。
 (知的財産権/無体財産権/工業所有権/特許権/ヘイズ値/視覚的透明性の改良)
参照条文: /特許.29条2項/特許.70条/特許.123条1項2号/
全 文 h111130tokyoH6.html

東京高等裁判所 平成 11年 11月 30日 第6民事部 判決 ( 平成10年(行ケ)第84号 )
事件名:  審決取消請求事件<魚釣用両軸受型リール実用新案>
要 旨
 1.魚釣用両軸受型リールの実用新案について、実用新案登録の無効を主張する者からの考案の容易推考性の主張が認められなかった事例。
 2.上告及び上告受理の申立てのために判決主文において30日の付加期間が定められた事例。
 (知的財産権/無体財産権/工業所有権/実用新案権)
参照条文: /実用新案.3条2項/実用新案.37条1項2号/民訴.96条2項/
全 文 h111130tokyoH4.html

東京高等裁判所 平成 11年 11月 30日 第6民事部 判決 ( 平成10年(行ケ)第289号 )
事件名:  審決取消請求事件<特許管理士商標>
要 旨
 「特許管理士」という登録商標は本来弁理士のみがなし得る業務をも扱うことのできる資格名称であると一般の国民に誤認させるものであり、弁理士法22条の3に違反し、特許制度の利用者である一般の国民が特許管理などの専門家である弁理士に寄せる信頼を害することとなるから、登録査定時において既に社会公共の利益に反していたものである。(この理由で商標登録を無効とした審決が正当であるとされた事例) /知的財産権/無体財産権/工業所有権/商標権/発明学会/特許管理士会/
参照条文: /弁理士.22-3条/商標.4条1項7号/商標.46条1項/
全 文 h111130tokyoH3.html

東京地方裁判所 平成 11年 11月 30日 民事第47部 判決 ( 平成8年(ワ)第23932号 )
事件名:  レコード二次使用料請求事件
要 旨
 1.社団法人日本レコード協会と日本有線放送連盟との間でレコード製作者の二次使用料に関し抽象的合意のみが存在し、支払金額を算定することを可能にするまでの合意が成立していない場合、レコード協会が文化庁長官による裁定を経ることなく、これまでの交渉経過をふまえて使用料額を算定して支払請求したが、棄却された事例。
 (知的財産権/無体財産権/著作権)
参照条文: /著作.97条4項/著作.95条7項/著作.95条10項/著作.95条11項/著作.72条1項/
全 文 h111130tokyoD3.html

東京地方裁判所 平成 11年 11月 30日 民事第47部 判決 ( 平成10年(ワ)第8477号 )
事件名:  特許権侵害差止等請求事件<高純度窒素ガス製造装置特許>
要 旨
 1.高純度窒素ガス製造装置の発明について、構成要件{IX}にいう「上記分縮器内の液体空気の液面の変動にもとづき、上記精留塔に対する上記液体窒素貯蔵手段からの液体窒素の供給量を制御し」とは、分縮器内の液体空気の液面のみによって精留塔に対する液体窒素貯蔵手段からの液体窒素の供給量を制御する制御方式を意味するものと解され、分縮器内の液体空気の液面によって分縮器に対する精留塔底部からの液体空気の供給量を制御するとともに、精留塔底部の液体空気の液面によって液体窒素貯蔵手段からの液体窒素の供給量を制御するという二系列の制御方式は、構成要件{IX}にいう「制御」には含まれないものと解された事例。
 2.高純度窒素ガス製造装置について、被告物件が原告の特許発明の構成要件を充足していないと判断された事例。
 (知的財産権/無体財産権/工業所有権/特許権)
参照条文: /特許.70条/特許.100条/
全 文 h111130tokyoD.html

東京地方裁判所 平成 11年 11月 30日 民事第47部 判決 ( 平成10年(ワ)第24986号 )
事件名:  意匠権侵害差止等請求事件<医療用酸素濃縮機意匠>
要 旨
 医療用酸素濃縮機について、原告の登録意匠と被告製品の意匠とが全体として美感を異にし、類似するとは認められないと判断され、差止請求が棄却された事例。
 (知的財産権/無体財産権/工業所有権/意匠権)
参照条文: /意匠.37条/意匠.24条/
全 文 h111130tokyoD4.html

東京地方裁判所 平成 11年 11月 30日 民事第47部 判決 ( 平成7年(ワ)第2708号 )
事件名:  特許権侵害差止等請求事件<複合プラスチック成形品の製造方法特許>
要 旨
 特許無効審判請求を不成立とする審決に対する審決取消訴訟が係属している段階で、被告製品の製造方法が複合プラスチック成形品の製造方法に関する原告の特許発明の構成要件満たすと認定して、特許権侵害差止請求・損害賠償請求を認容した事例。
 (知的財産権/無体財産権/工業所有権/特許権/防塵マスク/ブロックコポリマー部材)
参照条文: /特許.70条/特許.123条1項/特許.100条/特許.102条3項/特許.103条/
全 文 h111130tokyoD2.html

最高裁判所 平成 11年 11月 29日 第2小法廷 判決 ( 平成8年(オ)第556号 )
事件名:  動産引渡請求上告事件
要 旨
 1.貸金庫の内容物については、利用者の銀行に対する貸金庫契約上の内容物引渡請求権を差し押さえる方法により、強制執行をすることができる。
 2.貸金庫契約上の内容物引渡請求権は内容物全体の一括引渡請求権であり、その取立訴訟においては、差押債権者は、貸金庫を特定して貸金庫契約が締結されていることを立証すれば足り、貸金庫内の個々の動産を特定してその存在を立証する必要はない。
 3.債権者において特定の種類の動産に限定して引渡請求権の差押命令を申し立てた場合、その趣旨は、執行裁判所に対して売得金の配当を求める動産の範囲を限定するものと解するのが相当であるが、このことにより、貸金庫の内容物全体についての一括引渡請求権という性質が変わるものではない。 /債権執行/証明責任/要件事実/
参照条文: /民事執行法:143条;163条;157条;124条/
全 文 h111129supreme.html

東京高等裁判所 平成 11年 11月 29日 第13民事部 判決 ( 平成11年(ネ)第3209号 )
事件名:  特許出願公告に基づく仮保護の権利侵害禁止請求控訴事件<目の角膜の曲率を修正するための外科的装置特許>
要 旨
 1.昭和50年特許法の下で、特許出願公告に基づく仮保護の権利の侵害禁止請求事件において、発明の構成要件の解釈が争われた事例。
 2.原告の発明の構成要件D「角膜上の前記光スポットの面積を進行的に変化させることにより、除去されるべき前記ゾーンの全てを前記光スポットによって走査する」の解釈において、「光スポットの面積を進行的に変化させることのみでは、右ゾーン全体を走査することができないものは、文言上、構成要件Dを充足するということはできない」とされた事例。
 (知的財産権/無体財産権/工業所有権/特許権)
参照条文: /特許.70条/
全 文 h111129tokyoH8.html

東京高等裁判所 平成 11年 11月 29日 第13民事部 判決 ( 平成11年(ネ)第2788号 )
事件名:  著作権侵害差止等請求控訴事件<カラオケ著作権>
要 旨
 1.業務用カラオケ装置のリース業者は、リース契約締結時に、その相手方である社交飲食店の経営者に対し、著作物使用許諾契約を締結すべき法的義務のある旨を指導して、これを了知させれば、通常は、該経営者が、かかる法的義務に従い、一審原告との著作物使用許諾契約を締結するものと考えて差し支えなく、リース契約の締結後、カラオケ装置の引渡し前に、当該経営者が、一審原告との間で著作物使用許諾契約の締結又はその申込みをしたことを確認すべき注意義務であるとか、カラオケ装置を引き渡した後においても、随時、著作物使用許諾契約の有無を確認すべき注意義務などを、一般的に負うものと解することはできない。
 
 
 但し、リース契約の相手方が著作物使用許諾契約を締結しないであろうことを予見し、あるいはこれに従っていないことを認識すべき特段の事情がある場合は、この限りでない。
 1a.業務用カラオケのリース業者は、契約の相手方が著作権侵害を理由に仮処分執行をうけた事実を認識した場合には、相手方がその後も著作物使用許諾契約を締結しない可能性を予見し得るに至ったものと認められるから、カラオケ装置を再度リースするに当たって、著作物使用許諾契約締結の事実を確認してから、カラオケ装置を引き渡すなどの著作権侵害が生じないような措置をとるべき注意義務がり、相手方に著作物使用許諾契約を締結する旨の誓約をさせたのみでは足らないとされた事例。
 2.音楽著作物の著作権管理団体とカラオケソフトの制作会社との間で締結された利用許諾契約において、音楽著作物の録音(複製)と頒布が許諾の対象とされているが、頒布先での演奏(歌唱)が許諾の対象とされていないことは明白であるとされた事例。
 3.自由心証主義
 3a.原告職員の陳述書の記載内容が信用できないとされた事例。
 3b.3c.飲食業者が業務用カラオケ装置を用いて著作物の利用を開始した時期について、カラオケ装置が設置され、直ちに使用可能となり、リース料支払義務が発生したことが証拠上明確な日であると推認するのが合理的であるとされた事例。 /知的財産権/無体財産権/著作権/
参照条文: /民法:709条/民法:719条/著作.21条/著作.22条/著作.22-2条/著作.112条2項/著作権仲介.2条/著作権仲介.3条/著作権仲介.4条/民訴.247条/
全 文 h111129tokyoH7.html

東京高等裁判所 平成 11年 11月 29日 第13民事部 判決 ( 平成10年(行ケ)第291号 )
事件名:  審決取消請求事件<遊技設備特許>
要 旨
 パチンコ遊技設備に関する発明につき、先行する発明または考案に基づいて当業者が容易に発明できるものであることを理由する特許無効審決が支持された事例。 (知的財産権/無体財産権/工業所有権/特許権/進歩性)
参照条文: /特許.29条2項/特許.123条1項2号/
全 文 h111129tokyoH6.html

東京高等裁判所 平成 11年 11月 29日 第13民事部 判決 ( 平成10年(行ケ)第18号 )
事件名:  審決取消請求事件<母衣旗商標>
要 旨
 1.福島県石川郡石川町母畑の地名の元となったと原告が主張する源義家由来の「母衣旗」が、産地、販売地を表すものとして、一般に認識されているものと認められないとされた事例。
 2.被告による本件商標「母衣旗」の取得は、町の経済の振興を図るという地方公共団体としての政策目的に基づく公益的な施策に便乗して、その遂行を阻害し、公共的利益を損なう結果に至ることを知りながら、該施策の中心に位置付けられている「母衣旗」名称による利益の独占を図る意図でしたものといわざるを得ず、本件商標は、公正な競業秩序を害するものであって、公序良俗に反すると説示して、商標登録無効審判請求を不成立とした審決を取り消した事例。
 (知的財産権/無体財産権/工業所有権/商標権)
参照条文: /商標.3条1項3号/商標.3条1項6号/商標.4条1号7号/
全 文 h111129tokyoH.html

東京高等裁判所 平成 11年 11月 29日 第13民事部 判決 ( 平成10年(行ケ)第277号 )
事件名:  審決取消請求事件<遊技設備特許>
要 旨
 パチンコ遊技設備に関する発明につき、特許無効審判請求を不成立とした審決を、先行する発明または考案に基づいて当業者が容易に発明できるものであることを理由に取り消した事例。 (知的財産権/無体財産権/工業所有権/特許権/進歩性)
参照条文: /特許.29条2項/特許.123条1項2号/
全 文 h111129tokyoH5.html

東京地方裁判所 平成 11年 11月 29日 民事第29部 判決 ( 平成10年(ワ)第10864号 )
事件名:  損害賠償請求事件<負荷装置システム特許>
要 旨
 1.発電設備の負荷試験等に使用する負荷装置システムについて、原告が製造した装置を被告が買受けて改造してできた物件が原告の特許発明の技術的範囲に属するとされた事例。
 2.原告が特許権を有する発明に係る製品を被告に販売した場合に、原告は、被告が本件装置を使用することに対して、本件特許権に基づき異議を述べない旨(使用を許諾する旨)の意思表示をしたと解するのが相当であり、売買契約が有効に存続する間は、契約の効力により、被告は適法に本件装置を使用することができるが、売買契約が合意解除された後は適法に使用することはできない。特許権成立前に売買契約がなされた場合でも、既に出願公告決定がなされ、特許権の取得が十分予測された段階で売買契約がなされている場合は、同様である(事例)。 (知的財産権/無体財産権/工業所有権/特許権/消尽/発明の実施/特許権侵害を理由とする損害賠償請求)
参照条文: /特許.68条/民法:709条/
全 文 h111129tokyoD.html

東京地方裁判所 平成 11年 11月 26日 民事第47部 判決 ( 平成7年(ワ)第9105号 )
事件名:  特許権侵害予防請求事件<ヘパリン様活性をもつオリゴーヘテロポリサツカライド類、それらの製造法及びそれらに基づく製剤特許>
要 旨
 被告の製品が原告の血栓症予防剤の特許発明の構成要件を充足しないと判断され、特許権侵害を理由とする損害賠償請求が棄却された事例。
 (知的財産権/無体財産権/工業所有権/特許権/パルナパリンナトリウム/血液凝固阻止剤/ヘパリン様活性をもつオリゴーヘテロポリサツカライド類)
参照条文: /特許.70条/
全 文 h111126tokyoD.html

最高裁判所 平成 11年 11月 25日 第1小法廷 判決 ( 平成8年(オ)第718号 )
事件名:  建物保存登記抹消登記手続等請求上告事件
要 旨
 建築請負人が注文者に対して提起した建物所有権保存登記の抹消登記手続請求は、請負代金の裁判上の請求に準ずるものではなく、また、これにより請負代金の支払を求める権利行使の意思が継続的に表示されていたということもできないから、この訴えを提起して追行しても、請負代金債権の消滅時効は中断しない(時効期間経過後に請負残代金支払請求に変更された事例)。
参照条文: /民法:147条1号/民法:153条/民訴.147条/
全 文 h111125supreme.html

最高裁判所 平成 11年 11月 25日 第1小法廷 判決 ( 平成8年(行ツ)第76号 )
事件名:  都市計画事業認可処分等取消請求上告事件
要 旨
 1.行政事件訴訟法9条にいう当該処分の取消しを求めるにつき「法律上の利益を有する者」とは、当該処分により自己の権利若しくは法律上保護された利益を侵害され又は必然的に侵害されるおそれのある者をいい、当該処分を定めた行政法規が、不特定多数者の具体的利益をそれが帰属する個々人の個別的利益としても保護すべきものとする趣旨を含むと解される場合には、当該処分によりこれを侵害され又は必然的に侵害されるおそれのある者は、当該処分の取消訴訟における原告適格を有する。
 2.都市計画事業について、事業地内の不動産につき権利を有する者は、認可等の取消しを求める原告適格を有する。
 3.都市計画事業について、事業地の周辺地域に居住し又は通勤、通学しているが事業地内の不動産につき権利を有しない者は、認可等の処分の取消しを求める原告適格を有しないとされた事例。
 (当事者適格)
参照条文: /行訴.9条/都市計画.62条/都市計画.65条/都市計画.67条/都市計画.69条/都市計画.16条/都市計画.17条/
全 文 h111125supreme2.html

大阪地方裁判所 平成 11年 11月 25日 第21民事部 判決 ( 平成9年(ワ)第6705号 )
事件名:  特許権等侵害差止等請求事件<回転体固定具特許>
要 旨
 1.従来技術を前提とした特許発明について、発明の作用効果が限定的に解釈された事例。
 2.被告の製品が原告の回転体固定具に関する特許発明の作用効果を奏しているとは認められず、発明の構成要件を充足するものとは認められなかった事例。
 3.商品の形態のみの特異性ではなく、商品の形態がもたらす特別な機能の結果、当該形態が、同種商品と識別できる程度の商品表示性を具備していると評価できるためには、当該特別な機能が当該形態に結びつけられて需要者に認識されている必要がある。
 4.原告商品の形態が商品表示として需要者に対し広く認識されていたとは認められなかった事例。
 (知的財産権/無体財産権/工業所有権/特許権/不正競争防止法)
参照条文: /特許.70条/不正競争.2条1項1号/
全 文 h111125osakaD.html

東京高等裁判所 平成 11年 11月 25日 第6民事部 判決 ( 平成10年(行ケ)第238号 )
事件名:  審決取消請求事件<エッジライトパネルの輝度向上手段特許>
要 旨
 液晶バックライト等の面光源装置に用いられるエッジライトパネルの輝度向上手段に関する発明について、蛍光増白剤による増光を計算に入れて反射率を105%にする先願発明の技術的範囲に含まれることを理由に、蛍光増白剤による増光を計算に入れずに反射率を97%に向上させる本願発明の特許を認めなかった審決が、取り消された事例。 /知的財産権/無体財産権/工業所有権/特許権/
参照条文: /特許.70条/特許.29条/
全 文 h111125tokyoH.html

東京高等裁判所 平成 11年 11月 25日 第6民事部 判決 ( 平成11年(行ケ)第117号 )
事件名:  審決取消請求事件<「ワークステーション」「WORKSTATION」商標>
要 旨
 「ワークステーション」及び「Workstation」の各文字は、楽器との関係では、「シンセサイザーにシーケンサーとエフェクトが内蔵され1台で音楽造りが行える環境を整えた機器(楽器)」の総称として使用されているから、これらの文字からなる本願商標は、上記機能を備えたシンセサイザーに使用しても、商品の品質、機能を表示するにとどまり、上記以外の楽器に使用するときは商品の品質の誤認を生じさせるおそれがあるとの理由で、商標登録が否定された事例。
 (知的財産権/無体財産権/工業所有権/商標権)
参照条文: /商標.3条1項3号/商標.4条1項16号/
全 文 h111125tokyoH2.html

最高裁判所 平成 11年 11月 24日 大法廷 判決 ( 平成8年(オ)第1697号 )
事件名:  建物明渡請求上告事件
要 旨
 1.抵当権の実行としての差押えがなされた後に、抵当権者が、抵当建物の売却を妨害している不法占有者に対して、所有者の権利の抵当権に基づく代位行使として、自己への明渡しを請求することができるとされた事例。
 2.第三者が抵当不動産を不法占有することにより抵当不動産の交換価値の実現が妨げられ、抵当権者の優先弁済請求権の行使が困難となるような状態があるときは、抵当権の効力として、抵当権者は、抵当不動産の所有者に対し、右状態を是正し抵当不動産を適切に維持又は保存するよう求める請求権を有し、右請求権を保全する必要があるときは、民法四二三条の法意に従い、所有者の不法占有者に対する妨害排除請求権を代位行使することができ、かつ、抵当権者への明渡しを求めることができる。(判例変更)
 3.第三者が抵当不動産を不法占有することにより抵当不動産の交換価値の実現が妨げられ、抵当権者の優先弁済請求権の行使が困難となるような状態があるときは、抵当権に基づく妨害排除請求として、抵当権者が右状態の排除を求めることも許される。(判例変更) /抵当権者の物上請求権/債権者代位権/担保価値維持請求権/
参照条文: /民法:369条/民法:423条/民執.46条2項/民執.187条の2/
全 文 h111124supreme.html

東京高等裁判所 平成 11年 11月 24日 第13民事部 判決 ( 平成9年(行ケ)第173号 )
事件名:  審決取消請求事件<半導体メモリで使用する行デコーダ回路特許>
要 旨
 「半導体メモリで使用する行デコーダ回路」の発明に関して、当業者が容易に発明をすることができたものと認められるので特許法29条2項の規定により特許をすることができないとした審決が、引用発明との相違点を看過していること等を理由に取り消された事例。
 (知的財産権/無体財産権/工業所有権/特許権)
参照条文: /特許.29条2項/
全 文 h111124tokyoH2.html

東京高等裁判所 平成 11年 11月 24日 第13民事部 判決 ( 平成10年(行ケ)第413号 )
事件名:  審決取消請求事件<SAKE市場MARCHE′商標>
要 旨
 1.本願商標と引用商標とが外観及び観念において異なる点があるとしても「マルシェ」の称呼を同じくする類似の商標と認められるとして、登録が拒絶された事例。
 2.本願商標「SAKE市場MARCHE′」は、一連に称呼した場合には冗長であって、かつ、各部分に分離されて認識される商標であり、商品識別機能を果たす特徴のある部分として取引に用いるのは「MARCHE′」の文字部分であるから、この商標から「マルシェ」の称呼が生じるとされた事例。
 3.2段に横書きされた「MARCHE」の欧文字及び「マルシェ」の片仮名文字と、これらの左上段で多少離れた位置にある欧文字の「D」を図案化したものと認められる円の左下の一部が欠けた図形及びその下段にあって該図形と密着した「Daiei」の欧文字とからなり、かつ、「MARCHE」の欧文字及び「マルシェ」の片仮名文字は、その各1文字がほぼ該図形及び「Daiei」の欧文字を併せたものに匹敵する大きさを有する引用商標から、「マルシェ」の称呼が生じるとされた事例。
 (知的財産権/無体財産権/工業所有権/商標権)
参照条文: /商標.4条1項11号/
全 文 h111124tokyoH.html

最高裁判所 平成 11年 11月 19日 第2小法廷 判決 ( 平成8年(行ツ)第236号 )
事件名:  公文書一部公開拒否処分取消請求上告事件
要 旨
 1.住民監査請求に関する一件記録の一部非公開処分の取消しを認めた原審の判断に条例の解釈適用を誤る違法があるとされた事例。
 2.公文書非公開処分に付記された非公開の理由の差替えを認めた事例。 /公情報公開/公文書公開/
参照条文: /逗子市情報公開条例(平成二年逗子市条例第二号).5条/
全 文 h111119supreme.html

大阪地方裁判所 平成 11年 11月 18日 第21民事部 判決 ( 平成10年(ワ)第1743号のB )
事件名:  損害賠償等請求事件<ゲームソフト著作権等>
要 旨
 1.高校野球の甲子園大会を題材にしたゲームソフトについて、基本的な商品コンセプトを案出した原告とこれを利用してゲームソフトを開発・販売した被告との間に、コンセプトの使用対価の支払いの合意があったと認定された事例。
 2.ゲームソフトの商品コンセプトの一部として作成された高校名のリストについて、それが実在する高校名の第1文字と第2文字とを入れ替えて作成されたものにすぎないものであるため、著作物性が否定された事例。
 3.高校野球の全国大会を題材とするゲームソフトの題名として使われた「甲子園」について、売上げ上位のゲームソフトと比較して売り上げ本数が少ないことなどを考慮して、不正競争防止法上の出所表示機能を営むだけの著名性を有するに至っていないと判断された事例。
 (知的財産権/無体財産権/著作権/不正競争防止法)
参照条文: /著作.2条1項1号/不正競争.2条1項2号/
全 文 h111118osakaD.html

東京高等裁判所 平成 11年 11月 18日 第18民事部 判決 ( 平成10年(行ケ)第315号 )
事件名:  審決取消請求事件<光ディスクおよび光記録再生方法特許>
要 旨
 「光ディスクおよび光記録再生方法」とする発明の特許出願が、先行発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとして、特許法29条2項により認められなかった事例。
 (知的財産権/無体財産権/工業所有権/特許権)
参照条文: /特許.29条2項/
全 文 h111118tokyoH.html

東京高等裁判所 平成 11年 11月 17日 第13民事部 判決 ( 平成10年(ネ)第2127号 )
事件名:  著作権存在確認等請求・著作権存在確認等反訴請求控訴事件<絵本著作権>
要 旨
 2人の共同著作物として公表された著作物について、そのうちの1人は補助的作業をしたにとどまり、他方の単独著作物であると認定された事例。 (知的財産権/無体財産権/著作権/絵本/ノンタン)
参照条文: /著作.2条1項2号/著作.2条1項12号/著作.14条/
全 文 h111117tokyoH.html

東京高等裁判所 平成 11年 11月 17日 第13民事部 判決 ( 平成11年(行ケ)第91号 )
事件名:  審決取消請求事件<SHL商標>
要 旨
 1.「SHL」の登録商標について、不使用に基づく登録取消の主張が認められなかった事例。
 2.搬送装置たるコンベアに用いられるアタッチメントの一種である重加重バックアップユニットが金属加工機械器具に属する商品であるとされた事例。
 3.「SHL-1BUC」及び「SHL-2BUC」の使用が、商標「SHL」と社会通念上同一性を有する商標の使用と認めることができるとされた事例。 (知的財産権/無体財産権/工業所有権/商標権)
参照条文: /商標.50条/
全 文 h111117tokyoH5.html

東京高等裁判所 平成 11年 11月 17日 第13民事部 判決 ( 平成11年(行ケ)第99号 )
事件名:  審決取消請求事件<ロックマン商標>
要 旨
 商標「ロックマン」に関し指定商品の旧別表第13類中の「金具」について不使用に基づく登録取消の審判請求がなされた事件において、当該商標が使われているボルトが専ら「ロックマンH1型」のクランプ本体に取り付けて使用するものであって、他の用途には通常用いられないとの意味で汎用性がないとしても、そのことは指定商品の「金具」のうちの「ボルト」に該当することを妨げるものではなく、数次の使用等により破損した場合には新たなものと交換する必要があるため単独でも販売されている場合には、これに該当するとされた事例。 (知的財産権/無体財産権/工業所有権/商標権)
参照条文: /商標.50条/
全 文 h111117tokyoH3.html

東京高等裁判所 平成 11年 11月 17日 第13民事部 判決 ( 平成9年(行ケ)第280号 )
事件名:  審決取消請求事件<溶融熱可塑性組成物及び該組成物の基質への適用方法特許>
要 旨
 溶融熱可塑性組成物(インキジェット印刷装置のインク)に関する発明について、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法29条2項の規定により特許を受けることができないとされた事例。
 (知的財産権/無体財産権/工業所有権/特許権)
参照条文: /特許.29条2項/
全 文 h111117tokyoH4.html

東京高等裁判所 平成 11年 11月 17日 第13民事部 判決 ( 平成11年(ネ)第3452号 )
事件名:  損害賠償請求控訴事件<カッター装置付きテープホルダー実用新案>
要 旨
 実用新案の侵害を理由とする損害賠償請求の訴えが、すでに原告敗訴判決が確定している事件と実質的に同一の訴訟であるため、不適法で補正できないものとして却下され、却下判決に対する控訴が民訴140条に則って棄却された事例。 /訴えの客観的利益/
参照条文: /民訴.140条/民訴.2条/民訴.297条/
全 文 h111117tokyoH2.html

東京地方裁判所 平成 11年 11月 17日 民事第29部 判決 ( 平成10年(ワ)第13236号 )
事件名:  著作権侵害差止等請求事件<キューピー著作権等>
要 旨
 キューピー人形について著作権を有すると主張する原告が、食品製造販売会社であるキューピー株式会社に対して、キューピーの図柄等の複製行為等が著作権著作権侵害にあたり、また、「キューピー」との商品等表示の被告による使用行為が不正競争を構成する旨を主張して、前記各行為の差止め、損害賠償及び不当利得返還を請求したが、棄却された事例。
 1.著作物が先行著作物を原著作物とする二次的著作物であると解される場合には、当該著作物の著作権は、二次的著作物において新たに加えられた創作的部分についてのみ生じ、原著作物と共通しその実質を同じくする部分には生じない。
 2.原告が著作権を取得したと主張する人形(原告人形)と被告の人形とが共通点を有するが、その共通点のほとんどは、著作権が保護期間の満了により消滅した先行作品に現われているものであること等の事実を総合判断して、被告人形が原告人形の著作権を害する形で類似しているとはいえないとされた事例。2a.イラストについても同旨。
 3.第三者の著作権の侵害行為を行って利益を得ていた原告が、その後に取得したと主張する著作権に基づき、被告による著作権侵害を主張して差止め及び損害賠償を請求することは、原告の行動に関する他の事情も考慮して、権利の濫用に該当するとされた事例。 /知的財産権/無体財産権/著作権/
参照条文: /著作.2条1項11号/著作.21条著作.28条/民法:1条3項/
全 文 h111117tokyoD.html

東京地方裁判所 平成 11年 11月 17日 民事第29部 判決 ( 平成10年(ワ)第16389号 )
事件名:  著作権侵害差止等請求事件
要 旨
 キューピー人形について著作権を有すると主張する原告が、株式会社日本興業銀行に対して、キューピーの図柄等の複製行為等が著作権著作権侵害にあたる旨を主張して、その差止め、損害賠償及び不当利得返還を請求したが、棄却された事例。
 1.著作物が先行著作物を原著作物とする二次的著作物であると解される場合には、当該著作物の著作権は、二次的著作物において新たに加えられた創作的部分についてのみ生じ、原著作物と共通しその実質を同じくする部分には生じない。
 2.原告が著作権を取得したと主張する人形(原告人形)と被告の人形とが共通点を有するが、その共通点のほとんどは、著作権が保護期間の満了により消滅した先行作品に現われているものであること等の事実を総合判断して、被告人形が原告人形の著作権を害する形で類似しているとはいえないとされた事例。2a.イラストについても同旨。
 3.第三者の著作権の侵害となる行為を多年にわたって継続していた者(訴訟参加人)が、侵害行為により作成された商品を被告に販売して、被告に長年にわたり連綿と著作物を使用させ、著作権侵害行為を積極的な誘発していた場合に、被告がその後に商品の購入を中止すると、その後に取得したと主張する著作権に基づき、被告による著作権侵害を主張して差止め及び損害賠償を請求することは、権利濫用に該当するとされた事例。 /知的財産権/無体財産権/著作権/
参照条文: /著作.2条1項11号/著作.21条著作.28条/民法:1条3項/
全 文 h111117tokyoD2.html

名古屋地方裁判所 平成 11年 11月 17日 民事第9部 判決 ( 平成10年(ワ)第3311号 )
事件名:  不正競争防止法に基づく差止等請求事件<昇降装置不正競争>
要 旨
 1.商品の形態自体が、特定の商品の出所表示機能を獲得したといえるためには、当該商品の形態が、他の同種商品とは異なった独自のものであったり、継続的かつ排他的に特定の商品に使用されたり、長期間宣伝されたり、短期間であっても強力に宣伝されるなどして、その形態自体から、商品の見分けがつき、あるいは、特定の出所であることが判明することが必要というべきである。(原告製品の商品形態が出所表示機能を有しないとされた事例)
 2.機械設備や搬送設備に豊富な知識を有する専門業者を需要者とする空気チューブ式昇降装置について、被告製品が原告製品との誤認・混同を生じさせるものではないと判断された事例。
 3.不正競争防止法2条4項の営業秘密が侵害されたことの理由として情報を知る内部者(転職した従業員)が漏らしたことが主張されている場合には、情報の管理状況として単に外部の者がそれを知ることができないような措置を講じていたというだけでは不十分であり、情報に接している内部者がそれを漏らしてはならない秘密であると認識できるような措置を講じていたことが必要である。(掛け率表及び直送先リストが秘密としての管理されているとは認められないと判断された事例)
 (知的財産権/無体財産権/不正競争防止法)
参照条文: /不正競争.2条1項1号/不正競争.2条1項8号/不正競争.2条4項/
全 文 h111117nagoyaD.html

東京高等裁判所 平成 11年 11月 16日 第6民事部 判決 ( 平成11年(行ケ)第197号 )
事件名:  審決取消請求事件<SPRA商標>
要 旨
 本願商標「SPRA」と引用商標は、「スプラ」の称呼を共通にするものであって、外観、観念についての相違を考慮しても、類似の商標というべきである。 (知的財産権/無体財産権/工業所有権/商標権)/商標.4条1項11号/
参照条文: /商標.4条1項11号/
全 文 h111116tokyoH.html

最高裁判所 平成 11年 11月 12日 第2小法廷 決定 ( 平成11年(許)第2号 )
事件名:  文書提出命令に対する許可抗告事件
要 旨
 1.文書が、その作成目的、記載内容、これを現在の所持者が所持するに至るまでの経緯、その他の事情から判断して、専ら内部の者の利用に供する目的で作成され、外部の者に開示することが予定されていない文書であって、開示されると個人のプライバシーが侵害されたり個人ないし団体の自由な意思形成が阻害されたりするなど、開示によって所持者の側に看過し難い不利益が生ずるおそれがあると認められる場合には、特段の事情がない限り、当該文書は民訴法220条4号ハ(平成13年改正前。現同号ニ)所定の「専ら文書の所持者の利用に供するための文書」に当たる。
 1a.銀行の貸出稟議書は、特段の事情がない限り、民訴法220条4号ハ(現同号ニ)所定の「専ら文書の所持者の利用に供するための文書」に当たり、文書提出命令の対象にならない。
 2.民訴法220条4号ハ(現同号ニ)所定の「専ら文書の所持者の利用に供するための文書」に該当する文書は、同条3号後段の文書(法律関係文書)に該当しない。 /自己利用文書/内部文書/書証/
参照条文: /民訴.220条4号/民訴.220条3号/
全 文 h111112supreme.html

最高裁判所 平成 11年 11月 10日 大法廷 判決 ( 平成11年(行ツ)第8号 )
事件名:  選挙無効請求上告事件
要 旨
 1.衆議院議員選挙における比例代表制は、憲法に違反しない。
 2.衆議院議員選挙における重複立候補制は、憲法に違反しない。
 3.国会は、その裁量により、衆議院議員及び参議院議員それぞれについて公正かつ効果的な代表を選出するという目標を実現するために適切な選挙制度の仕組みを決定することができるのであるから、国会が新たな選挙制度の仕組みを採用した場合には、その具体的に定めたところが、右の制約や法の下の平等などの憲法上の要請に反するため国会の右のような広い裁量権を考慮してもなおその限界を超えており、これを是認することができない場合に、初めてこれが憲法に違反することになるものと解すべきである。
参照条文: /憲.前文/憲.14条1項/憲.15条1項/憲.15条3項/憲.43条1項/憲.44条/憲.47条/
全 文 h111110supreme.html

最高裁判所 平成 11年 11月 10日 大法廷 判決 ( 平成11年(行ツ)第35号 )
事件名:  選挙無効請求上告事件
要 旨
 1.平成8年10月20日施行の衆議院議員選挙における小選挙区制は、憲法に違反しない。
 2.平成8年10月20日施行の衆議院議員総選挙における小選挙区の区割規定等は、憲法に違反しない(判示三3。反対意見あり)。
 3.候補者届出政党の選挙運動を認める公職選挙法の規定は、国会の裁量権の限界を超えていない(判示三4。反対意見あり)。
 4.国会は、その裁量により、衆議院議員及び参議院議員それぞれについて公正かつ効果的な代表を選出するという目標を実現するために適切な選挙制度の仕組みを決定することができるのであるから、国会が新たな選挙制度の仕組みを採用した場合には、その具体的に定めたところが、右の制約や法の下の平等などの憲法上の要請に反するため国会の右のような広い裁量権を考慮してもなおその限界を超えており、これを是認することができない場合に、初めてこれが憲法に違反することになる。
 5.投票価値の平等は、選挙制度の仕組みを決定する唯一、絶対の基準となるものではなく、国会が正当に考慮することのできる他の政策的目的ないし理由との関連において調和的に実現されるべきものと解さなければならない。それゆえ、国会が具体的に定めたところがその裁量権の行使として合理性を是認し得るものである限り、それによって右の投票価値の平等が損なわれることになっても、やむを得ない。
 (選挙権/地域格差/過疎/過密)
参照条文: /憲.14条1項/憲.55条/憲.57条1項/憲.59条2項/
全 文 h111110supreme2.html

最高裁判所 平成 11年 11月 10日 大法廷 判決 ( (平成11年(行ツ)第7号 )
事件名:  選挙無効請求上告事件
要 旨
 1.平成8年10月20日施行の衆議院議員総選挙における小選挙区の区割規定等は、憲法に違反しない(判示三。反対意見あり)。
 2.国会は、その裁量により、衆議院議員及び参議院議員それぞれについて公正かつ効果的な代表を選出するという目標を実現するために適切な選挙制度の仕組みを決定することができるのであるから、国会が新たな選挙制度の仕組みを採用した場合には、その具体的に定めたところが、右の制約や法の下の平等などの憲法上の要請に反するため国会の右のような広い裁量権を考慮してもなおその限界を超えており、これを是認することができない場合に、初めてこれが憲法に違反することになる。
 3.投票価値の平等は、選挙制度の仕組みを決定する唯一、絶対の基準となるものではなく、国会が正当に考慮することのできる他の政策的目的ないし理由との関連において調和的に実現されるべきものと解さなければならない。それゆえ、国会が具体的に定めたところがその裁量権の行使として合理性を是認し得るものである限り、それによって右の投票価値の平等が損なわれることになっても、やむを得ない。
 (選挙権/地域格差/過疎/過密/一人別枠制)
参照条文: /憲.14条1項/憲.55条/憲.57条1項/憲.59条2項/
全 文 h111110supreme3.html

最高裁判所 平成 11年 11月 9日 第3小法廷 判決 ( 平成9年(オ)第426号 )
事件名:  求償債権請求事件
要 旨
 1.主たる債務者である破産者が免責決定を受けた場合に、免責決定の効力の及ぶ債務の保証人は、その債権についての消滅時効を援用することができない。
 2.既に請求認容判決を得ている債権者が再度提起した給付の訴えが、時効の中断の必要性が存在しないため、訴えの利益を欠くとされた事例。 /破産免責/
参照条文: /破産.366-12条/破産.366-13条/民法:166条1項/民法:458条/民法:434条/民訴.2編1章/
全 文 h111109supreme.html

最高裁判所 平成 11年 11月 9日 第3小法廷 判決 ( 平成9年(オ)第873号 )
事件名:  土地境界確定請求上告事件
要 旨
 1.境界の確定を求める訴えは、隣接する土地の一方又は双方が数名の共有に属する場合には、共有者全員が共同してのみ訴え、又は訴えられることを要する固有必要的共同訴訟である。
 2.土地の共有者のうちに境界確定の訴えを提起することに同調しない者がいる場合、その余の共有者は、隣接地の所有者と共に訴えの提起に同調しない者を被告にして右訴えを提起することができる。
 3.共有者が原告と被告とに分かれている境界確定訴訟において、隣地の所有者は共有者全員と対立関係にあるから、被告である隣地の所有者が原告側共有者のみを相手方として提起した上訴は、被告側共有者に対しても効力を生じ、この者は被上訴人としての地位に立つ。 /第二次的被告/当事者適格/形式的形成訴訟/
参照条文: /民訴.246条/民訴.47条4項/民訴.40条2項/
全 文 h111109supreme2.html

大阪地方裁判所 平成 11年 11月 9日 第21民事部 判決 ( 平成10年(ワ)第4309号 )
事件名:  不正競争行為差止等請求事件
要 旨
 1.自動販売機等の機械を垂直かつ水平に保持するために機械の下に設置される脚止め金具とアジャストボルトについて、商品形態が原告商品であることを示す商品表示としての周知性を有しているとは認められないとして、不正競争防止法1条1項1号の適用が否定された事例。
 2,商品についての一定のアイデアが必然的に商品の一定の形態を伴う場合に、その形態を不正競争防止法2条1項1号により保護することは、アイデアの独占につながり、同号の保護の枠を超えるものである。
 (知的財産権/無体財産権/不正競争防止法/OEM)
参照条文: /不正競争.1条1項1号/
全 文 h111109osakaD.html

東京高等裁判所 平成 11年 11月 9日 第18民事部 判決 ( 平成10年(行ケ)第312号 )
事件名:  審決取消請求事件<パチンコ遊技機実用新案>
要 旨
 1.パチンコ遊技機に指向性スピーカーを用いた考案が、引用例に記載された考案及び出願前周知かつ慣用の事項に基づき当業者が極めて容易に考案をすることができたものであると認められた事例。
 2.審判請求書に請求の理由の記載がない場合にあたらないから、審判請求書における「詳細な理由は、追って補充する」と記載にかかわらず、補正命令を発することなく請求不成立の審判をしたことに違法はないとされた事例。
 (知的財産権/無体財産権/工業所有権/実用新案権)
参照条文: /実用新案.3条2項/実用新案.41条/特許.133条/
全 文 h111109tokyoH.html

東京高等裁判所 平成 11年 11月 4日 第6民事部 判決 ( 平成11年(行ケ)第105号 )
事件名:  審決取消請求事件<商標登録無効審判請求の利益>
要 旨
 商標登録の無効審判を請求するためには、当該請求をするについての法律上の利益が存する必要がある(請求人が法律上の利益を有するとは認めならなかった事例)。
 (知的財産権/無体財産権/工業所有権/商標権/商標登録異議申立制度との対比)
参照条文: /商標.46条/商標.43-2条/商標.43-6条/商標.43-9条/
全 文 h111104tokyoH.html

東京地方裁判所 平成 11年 11月 4日 民事第46部 判決 ( 平成9年(ワ)第938号 )
事件名:  損害賠償等請求事件<芳香性液体漂白剤組成物特許>
要 旨
 1.原告が被告による家庭用かび取り剤(商品名「カビキラー」)の製造販売が原告の「芳香性液体漂白剤組成物」に係る特許権を侵害すると主張して、損害賠償を請求して、認容された事例。
 2.次亜塩素酸ナトリウムの塩素臭を打ち消して使用時に快適な芳香を与えるのに適した一群の芳香剤の選定が重要な要素となっている特許発明において、その内の一つを他の芳香剤と配合しても、発明の技術的範囲に属するとされた事例。
 3.製造方法に限定のない芳香性液体漂白剤組成物という物の発明にあっては、特許請求の範囲に記載された香料を当初から添加する場合だけでなく、当該香料が製造後使用時までの間に含有されるように、当該香料を生成させ得る別の香料を製造時に添加する場合も、その技術的範囲に属するものというべきである。--被告製品の製造後の経時変化に伴う物質の変化により、消費者が製品を購入して使用する頃には必然的に原告の発明の構成要件に記載された「ジメチルベンジルカルビノール」を含有することになるから、被告製品の製造は、原告の特許発明を実施する行為に該当するとされた事例。
 4.先使用による通常実施権が、「発明の実施である事業の準備」がなかったことを理由に否定された事例。
 5.不法行為による損害賠償請求権の消滅時効の起算点としての損害を知った時期が問題とされた事例(消滅時効の完成を否定した事例)。
 6.特許侵害の製品を購入する消費者の購入動機等を考慮して、実施料相当額が製品の販売金額の1%とされた事例。
 (知的財産権/無体財産権/工業所有権/特許権)
参照条文: /特許.70条1項/特許.79条/特許.100条/特許.102条3項/民法:724条/
全 文 h111104tokyoD.html

大阪地方裁判所 平成 11年 11月 2日 第21民事部 判決 ( 平成11年(ワ)第7625号 )
事件名:  著作権侵害差止等請求事件<カラオケ著作権>
要 旨
 1.カラオケ歌唱室の経営者に対する著作権侵害を理由とする差止請求ならびに損害賠償請求が認容された事例(被告の自白が擬制された事例)。
 2.請求原因事実について被告の擬制自白が成立する事件において、原告が弁護士費用700万円を主張したのに対し、裁判所が400万円に減額した事例。 /知的財産権/無体財産権/著作権/弁論主義/
参照条文: /著作.22条/著作.112条2項/著作付則.14条/著作権仲介.2条/著作権仲介.3条/著作権仲介.4条/民法:709条/民訴.159条3項/
全 文 h111102osakaD.html

東京高等裁判所 平成 11年 10月 29日 第13民事部 判決 ( 平成10年(ネ)第3707号 )
事件名:  商標権侵害差止等請求控訴事件<筑後の国寒梅・筑後の寒梅商標>
要 旨
 1.清酒を指定商品とする商標「寒梅」の商標権者が、清酒に「筑後の国寒梅」・「筑後の寒梅」という標章を用いている者に対して提起したこれらの標章の使用差止請求が認められなかった事例。
 2.日本酒の名称に地名が含まれている場合には、取引者・需要者は、その地名に着目するのであるから、その地名部分は取引者・需要者の注意を惹く部分として要部となり得る。
 (知的財産権/無体財産権/工業所有権/商標権)
参照条文: /商標.36条1項/商標.37条1号/商標.38条1項/商標.38条2項/
全 文 h111029tokyoH.html

東京地方裁判所 平成 11年 10月 29日 民事第47部 判決 ( 平成9年(ワ)第14979号本訴、平成9年(ワ)第19792号反訴 )
事件名:  著作権侵害差止等請求事件<学習塾テキスト著作権>
要 旨
 1.学習塾の講師が作成したテキストの表紙に記載された執筆者名の表示が、著作名義の表示ではなく、講座担当者の表示であると認定された事例。
 2.学習塾のテキストについて職務著作の成立が認められ、著作者は学習塾の経営会社であるとされた事例。
 3.複製物を頒布している反訴被告が、複製物の著作権が反訴原告に帰属していることを知っていたとまでは認められないが、その点を明確にする判決の送達によって自己の複製行為が反訴原告の著作権を侵害するものであるとの情を知ることになるので、頒布行為の差止請求が判決送達時以後の将来請求の限度で理由があるとされた事例。
 (知的財産権/無体財産権/著作権)
参照条文: /著作.14条/著作.15条/著作.21条/著作.113条1項2号/
全 文 h111029tokyoD4.html

東京地方裁判所 平成 11年 10月 29日 民事第47部 判決 ( 平成11年(ワ)第11409号 )
事件名:  著作権譲渡承諾請求事件
要 旨
 1.共有著作権者がその持分を譲渡する際に他の共有者の同意を得るための努力をすることは、持分譲渡の要件ではない。
 2.破産管財人が破産者が有する共有著作権の持分を譲渡することについて、他の共有者が同意を拒む正当な理由がないとされた事例。
 (知的財産権/無体財産権/著作権)
参照条文: /著作.65条1項/著作.65条3項/破産.197条2号/
全 文 h111029tokyoD2.html

東京地方裁判所 平成 11年 10月 29日 民事第47部 判決 ( 平成7年(ワ)第221号、2959号 )
事件名:  不正競争行為差止等請求事件
要 旨
 1.商店街の街路灯の設置計画に関する情報が不正競争防止法2条4項の「営業秘密」にあたらないとされた事例。
 2.商店会等に対する街路灯の営業の担当者に退職後6月間の競業避止義務を課する約定が十分な合理性を有しており無効ではないが、義務違反の行為と権利者に生じた損害との間に因果関係があるとは認められなかった事例。 /知的財産権/無体財産権/工業所有権/不正競争防止法/転職従業員/
参照条文: /不正競争.2条1項4号/不正競争.2条1項7号/不正競争.2条1項13号/不正競争.2条4項/不正競争.3条/不正競争.4条/
全 文 h111029tokyoD3.html

東京地方裁判所 平成 11年 10月 29日 民事第47部 判決 ( 平成10年(ワ)第15700号 )
事件名:  意匠権侵害差止等請求事件<実演用ワゴンテーブル意匠>
要 旨
 1.実演用ワゴンテーブル意匠の意匠権の侵害を理由に製造販売等差止請求、並びに販売を理由とする不法行為に基づく損害賠償請求が認容された事例。
 2.意匠法39条2項にいう「利益」とは、権利者が現実に意匠権を実施しており、かつ、設備投資や従業員の雇用を新たに必要としない状態で製造、販売等が可能な範囲内では、侵害行為者の製品の売上額からその製造、販売等のための変動経費のみを控除した額をいう(金型代と一般販売管理費を控除しなかった事例)。
 3.訴え提起後も意匠権侵害の商品の販売がなされていた場合に、遅延損害金の起算日が、訴状送達の日の翌日ではなく、販売が終了した月の末日とされた事例。 (知的財産権/無体財産権/工業所有権/意匠権)
参照条文: /意匠.37条/意匠.39条2項/意匠.40条/
全 文 h111029tokyoD.html

大阪高等裁判所 平成 11年 10月 28日 第8民事部 判決 ( 平成10年(ネ)第2871号 )
事件名:  特許権侵害差止等請求控訴事件<玉子焼等食料品の加工調理機器特許>
要 旨
 原告の自動玉子焼機器の特許発明の本質的部分が、出願前に開示されていた考案・発明ならびに特許権の出願経過を考慮して限定的に解釈され、この部分において被告製品が原告発明と相違するので、均等論の要件を充足せず、被告製品が原告発明の範囲に属するとは認められないとされた事例。
 (知的財産権/無体財産権/工業所有権/特許権)
参照条文: /特許.70条/
全 文 h111028osakaH.html

東京高等裁判所 平成 11年 10月 28日 第18民事部 判決 ( 平成10年(ネ)第2983号 )
事件名:  著作権使用料等請求控訴事件<「知恵蔵」レイアウト編集著作物>
要 旨
 1.ブックデザイナーが年度版用語辞典(朝日新聞社の「知恵蔵」)のために製作したレイアウト・フォーマット用紙自体に著作権法上保護されるべき独立の著作権が成立するものと認めることはできないとされた事例。
 2.用語辞典のレイアウト・フォーマット用紙を作成したブックデザイナーが、そのレイアウト・フォーマット用紙を用いて作成された紙面の割付について編集著作権を主張したが、認められなかった事例。
 (知的財産権/無体財産権/著作権/著作物性)
参照条文: /著作.2条1項1号/著作.12条/
全 文 h111028tokyoH.html

東京地方裁判所 平成 11年 10月 27日 民事第29部 判決 ( 平成11年(ワ)第14675号 )
事件名:  損害賠償請求事件<書著作権>
要 旨
 1.書は、特定人の独占使用が許されない文字を素材とするものであるが、文字の選択、文字の形、大きさ、墨の濃淡、筆の運びないし筆勢、文字相互の組合せによる構成等により、思想、感情を表現した美的要素を備えるものであれば、筆者の個性的な表現が発揮されている美術の著作物として、著作権の保護の対象となり得る。
 2.書が複製されたか否かを判断するに当たっては、書の創作的な表現部分が再現されているかを基準としてすべきである。
 3.照明器具の宣伝のために原告の著作に係る書の作品を配置した室内風景の写真を宣伝広告用カタログに掲載された場合に、その写真では原告各作品の美的要素の基礎となる特徴的部分を感得することができないので、原告の作品が複製されたとは言えないとされた事例。
 (知的財産権/無体財産権/著作権/書道/書体)
参照条文: /著作.2条1項15号/著作.21条/著作.19条/著作.20条/
全 文 h111027tokyoD2.html

東京地方裁判所 平成 11年 10月 27日 民事第29部 判決 ( 平成10年(ワ)第12572号 )
事件名:  特許権侵害差止等請求事件<車輌用バックミラー特許>
要 旨
 車輌用バックミラーについて、被告の物件が原告の発明の技術的範囲に属するということはできないとされた事例。
 (知的財産権/無体財産権/工業所有権/特許権)
参照条文: /特許.70条/
全 文 h111027tokyoD.html

最高裁判所 平成 11年 10月 26日 第3小法廷 判決 ( 平成9年(オ)第411号 )
事件名:  謝罪広告等請求本訴、損害賠償請求反訴、損害賠償請求事件
要 旨
 名誉毀損行為が刑事第一審の判決を資料としてその認定事実と同一性のある事実を真実と信じて摘示したものである場合には、特段の事情がない限り、摘示した事実を真実と信ずるについて相当の理由がある。
参照条文: /民法:709条/民法:710条/
全 文 h111026supreme2.html

最高裁判所 平成 11年 10月 26日 第3小法廷 判決 ( 平成9年(行ツ)第24号 )
事件名:  開発行為許可処分取消等請求上告事件
要 旨
 市街化区域内にある開発区域において開発許可に係る工事が完了し検査済証が交付された後においては、区域内の予定建築物について建築確認がされていないとしても、右許可の取消しを求める訴えの利益は失われる。 /訴えの客観的利益/
参照条文: /民訴.2編1章/行訴.3条2項/都市計画.29条/都市計画.36条2項/建築基準.6条/
全 文 h111026supreme3.html

最高裁判所 平成 11年 10月 26日 第3小法廷 決定 ( 平成11年(許)第25号 )
事件名:  不動産引渡命令に対する執行抗告棄却決定に対する許可抗告事件
要 旨
 競売の対象とされた土地上に競売対象外の建物等が存在する場合であっても、右土地の引渡命令を発付することは許される。
参照条文: /民執.83条/
全 文 h111026supreme.html

最高裁判所 平成 11年 10月 22日 第2小法廷 判決 ( 平成9年(オ)第434号、第435号 )
事件名:  損害賠償請求上告事件
要 旨
 1.障害基礎年金及び障害厚生年金の逸失利益性の有無(積極)
 2.障害基礎年金及び障害厚生年金についての各加給分の逸失利益性の有無(消極)
 3.障害基礎年金及び障害厚生年金の受給権者が不法行為により死亡した場合にその相続人が受給権を取得した遺族基礎年金及び遺族厚生年金を控除すべき損害の費目(損益相殺的調整)
参照条文: /民法:709条/
全 文 h111022supreme.html

最高裁判所 平成 11年 10月 22日 第2小法廷 判決 ( 平成10年(行ヒ)第43号 )
事件名:  審決取消請求事件
要 旨
 薬事法所定の承認を受けることが必要なために特許発明を実施することができなかった期間があったことを理由に特許権の存続期間の延長登録をする場合に、特許発明を実施することができなかった期間の終期は、承認書に記載された日付けの前日ではなく、承認が申請者に到達することにより処分の効力が発生した日の前日である。
 (知的財産権/無体財産権/工業所有権/特許権)
参照条文: /特許.67条/特許.67-2条/特許.67-3条/薬事.13条/薬事.14条/
全 文 h111022supreme2.html

最高裁判所 平成 11年 10月 21日 第1小法廷 判決 ( 平成9年(オ)第1771号 )
事件名:  根抵当権抹消登記手続請求上告事件
要 旨
 1.民法145条所定の当事者として消滅時効を援用し得る者は、権利の消滅により直接利益を受ける者に限定される。
 2.後順位抵当権者は、先順位抵当権の被担保債権の消滅時効を援用することができない。
 (時効援用権者)
参照条文: /民法:145条/
全 文 h111021supreme.html

最高裁判所 平成 11年 10月 21日 第1小法廷 判決 ( 平成7年(行ツ)第122号 )
事件名:  損害賠償請求上告事件
要 旨
 市が社会福祉協議会を通じて地元の戦没者遺族会に補助金を支出したこと及び市福祉事務所職員が右遺族会の書記事務に従事したことが憲法二〇条三項により禁止される宗教的活動に当たらないとされた事例 /信教の自由/違法な公金の支出/住民訴訟/補助金/政教分離原則/
参照条文: /憲.20条/憲.89条/地自.242-2条1項4号/地自232-2条/
全 文 h111021supreme2.html

東京地方裁判所 平成 11年 10月 21日 民事第46部 判決 ( 平成8年(ワ)第6781号 )
事件名: 
要 旨
 1.取締役を退任して新会社を設立した者が取締役在任中に忠実義務に違反したとは認められなかった事例。
 2.取締役退任後の忠実義務(競業避止義務)違反が認められなかった事例。
参照条文: /商.254-3条/商.264条/
全 文 h111021tokyoD2.html

東京地方裁判所 平成 11年 10月 21日 民事第46部 判決 ( 平成11年(ワ)第438号 )
事件名:  商標権使用差止等請求事件<ヴィラージュ商標>
要 旨
 1.「土地の売買、建物の売買」を指定役務とする原告の登録商標と類似する名称を付したマンションを販売した行為が、指定役務に類似する商品について登録商標に類似する商標を使用する行為(商標法37条1号)に該当するとして、登録商標権者からの当該名称等の使用差止請求及び損害賠償請求が認容された事例。
 2.被告標章が被告の販売する個別の建物に付されているが、被告の不動産売買の営業一般について付されたものではないから、原告の登録商標の指定役務である「建物の売買」という役務に使用したとすることはできないとされた事例。
 3.造成地、建物等の不動産であっても、商標法によって保護されるべき「商品」に該当する。
 4.分譲マンションに関しては、「建物の売買」という役務の提供事業者は一般に「建物」という商品の販売主体となるものであり、需要者も一致するから、「建物」という商品は、「建物の売買」という役務に類似する。
 5.登録商標と類似する名称を分譲マンションに付したことによる商標権侵害につき、建物の需要者は建物に付された標章によって表示される出所を考慮するにしても、むしろ、その立地、床面積、間取り、設備、価格、周辺環境等の事情を重視して、購入するか否かを判断するのが通常であること等を考慮して、商標の使用料相当額として販売額の約0.5%が認められた事例。 (知的財産権/無体財産権/工業所有権/商標権/ヴィラージュ/VILLAGE)
参照条文: /商標.2条3項/商標.2条5項/商標.37条1号/商標.38条3項/
全 文 h111021tokyoD.html

大阪地方裁判所 平成 11年 10月 19日 第21民事部 判決 ( 平成10年(ワ)第4397号 )
事件名: 
要 旨
 1.消火器収納用具の意匠について、裁判所が、特許庁の類似するとの判定に反して、類似していないと判断した事例。
 2.消火器スタンドの意匠について、看者の通常の視点から見た形状の類似性を指摘して、意匠の類似性が認めて、差止請求および損害賠償請求を認容した事例。
 (知的財産権/無体財産権/工業所有権/意匠権)
参照条文: /意匠.37条/意匠.39条/意匠.25条/
全 文 h111019osakaD.html

大阪地方裁判所 平成 11年 10月 18日 第5民事部 判決 ( 平成8年(ワ)第9953号 )
事件名:  地位確認等請求事件/全日本空輸解雇事件
要 旨
 1.労働者が解雇の無効を主張して、解雇意思表示後の賃金の支払を請求した場合に、判決確定後に支払期が到来するものについては、少なくとも現段階において、原告の労務提供の程度等賃金支払の前提となる諸事情が確定していないので、訴えの利益がないとされた事例。
 2.労働者がその職種や業務内容を限定して雇用された者であるときは、労働者がその業務を遂行できなくなり、現実に配置可能な部所が存在しないならば、労働者は債務の本旨に従った履行の提供ができないわけであるから、これが解雇事由となることはやむを得ない。
 2a.労働者が休業又は休職の直後においては、従前の業務に復帰させることができないとしても、労働者に基本的な労働能力に低下がなく、復帰不能な事情が休職中の機械設備の変化等によって具体的な業務を担当する知識に欠けるというような、休業又は休職にともなう一時的なもので、短期間に従前の業務に復帰可能な状態になり得る場合には、労働者が債務の本旨に従った履行の提供ができないということはできない。
 2b.使用者は、復職後の労働者に賃金を支払う以上、これに対応する労働の提供を要求できるものであるが、休業又は休職後の労働者が直ちに従前業務に復帰ができない場合でも、比較的短期間で復帰することが可能である場合には、休業又は休職に至る事情、使用者の規模、業種、労働者の配置等の実情から見て、短期間の復帰準備時間を提供したり、教育的措置をとるなどが信義則上求められるというべきで、このような信義則上の手段をとらずに、解雇することはできないというべきである。
 2c.労働者が過去に18年におよび旅客機の客室乗務員として勤務し、その経歴に応じた資格も取得してきた者で、休業及び休職となった原因は業務上の移動中の交通事故による頸椎不安定症、頸椎椎間板ヘルニア損傷等であり、筆記による知識確認の点に問題がなかったように知的能力の部分に低下があった訳ではなく、運動能力についても、背部痛、左下肢に不全麻痺等を訴えて後遺障害等級八級と認定されているものの、業務に支障のあるものではなく、医師の診断に基づいて復職となったものの、復帰者訓練の結果が不満足なものであった場合に、その不満足な結果は、主に、原告の休業及び休職中の4年間に航空機やその設備機器に変化があり、労働者がこれらに対する知識の習得をしなかったことに原因するものというべきであり、そうであれば、原告には、基本的な能力としては、その低下があった訳ではなく、具体的な、航空機に対応した能力が十分でなかったというに尽き、労働者の基本的な能力自体は従前と変わらないとすれば、これを労働者が短期間で習得することは可能というべきである、と認定された事例。
 2d.労働者に、就業規則の解雇事由である「労働能力の著しく低下したとき」に該当するような著しい労働能力の低下は認められないし、また、就業規則が規定する解雇事由に「準じる程度のやむを得ない理由があるとき」に該当する事由も認めることはできないとされ、解雇が就業規則に規定する解雇事由に該当しないにも関わらずなされたものであって、合理的な理由がなく、解雇権の濫用として無効であるとされた事例。
 3.労働者に対して使用者である会社の担当者が退職を求めた行為が、その頻度、各面談の時間の長さ、労働者に対する言動(「寄生虫みたいだ」との発言を含む)を考慮すると、社会通念上許容しうる範囲をこえており、単なる退職勧奨とはいえず、違法な退職強要として不法行為になる判断された事例。
 3a.解雇の意思表示について、無効ではあるが、不法行為として違法となるとまで認められないとされた事例。
参照条文: /民法:1条;543条;709条/
全 文 h111018osakaD.html

東京地方裁判所 平成 11年 10月 18日 民事第29部 判決 ( 平成10年(ワ)第8761号 )
事件名:  著作物発行差止等請求事件<手紙著作権
要 旨
 1.手紙(私信)について著作物性が認められた事例。
 2.私信の名宛人が私信の著作者の死亡後に当該私信を利用した小説を執筆し、その相続人の意思に反してその小説が出版された場合に、執筆者と出版社の行為が複製権を侵害する行為及び著作者の死亡後の人格的利益を保護する著作権法60条に違反する行為にあたるとされた事例。
 3.著作者(三島由紀夫)が死亡した後における著作者の人格的利益の保護のために、相続人から侵害者に対して、名誉回復措置としての謝罪広告が請求され、認容された事例。 /知的財産権/無体財産権/著作権/
参照条文: /著作.60条/著作.18条/著作.116条1項/著作.115条/著作.21条/著作.114条/著作.112条/
全 文 h111018tokyoD2.html

東京地方裁判所 平成 11年 10月 18日 民事第29部 判決 ( 平成9年(ワ)第25756号(甲事件)、平成10年(ワ)第21658号(乙事件) )
事件名:  損害賠償等請求事件<建物建築工事不正競争等>、請負代金請求事件<請負代金請求事件>
要 旨
 1.営業情報に非公知性がないので、不正競争防止法にいう営業秘密に該当しないとされた事例。
 2.同一の請負工事に関して発生した請負人の代金債権と注文主の損害賠償債権について、工事の瑕疵が軽微であることなどを考慮して、両債権を同時履行の関係に立たせるのは信義則上相当ではないから、相殺後の残債務は支払期日の翌日に履行遅滞になるとされた事例。
参照条文: /不正競争.2条1項4号/不正競争.2条4項/民法:412条1項/民法:533条/
全 文 h111018tokyoD3.html

東京地方裁判所 平成 11年 10月 15日 民事第47部 判決 ( 平成8年(ワ)第25323号、平成9年(ワ)第24877号事件 )
事件名:  損害賠償等本訴請求事件、製造販売差止等反訴請求事件<特許>
要 旨
 1.フラックス・油脂類の洗浄剤に関する発明につき、原告から基本アイデアの提供を受けた被告が発明を完成させた場合に、原告が技術的、資金的協力等をしていないことを考慮して、被告がその発明について単独特許出願するについて原告の同意が必要であったとは認められないとされた事例。
 2.OEM取引に関する基本契約において、特許権を有する製造委託者が受託者に対して独占的製造権を付与したとは認められなかった事例。
 3.OEM取引基本契約中の「本件契約は、原告が、本製品と同一の製品及び本製品と同様あるいは類似の製品を独自に製造し、自社の商標を付して、販売することを妨げるものではない」との文言が、原告に対して競業行為を禁じるものではないことを規定したにとどまる解釈された事例。
 4.OEM取引基本契約中の「本製品に関する工業所有権の使用は、被告より原告に対して非独占的、非譲渡的に許諾されるものとする」との文言が、原告独自の製造販売についてまで被告の有する工業所有権の実施を許諾するものではないとされた事例。
 5.OEM取引基本契約の製造受託者が契約終了後に通常実施権を有することを主張したが認めらなかった事例。
 6.特許権侵害を理由とする差止請求および損害賠償請求が認められた事例。
 7.特許権に基づく差止請求権の不存在確認を求める本訴の提起後に被告から特許権に基づく差止を求める反訴が提起され、これについて本案判決がなされる場合には、本訴は確認の利益を欠き、却下を免れないとされた事例。
 8.損害賠償債務の不存在確認を求める本訴の提起後に被告から同一債務につき給付の訴えが提起され、これについて本案判決がなされる場合には、本訴は確認の利益を欠き、却下を免れないとされた事例。
 (知的財産権/無体財産権/工業所有権/特許権)
参照条文: /特許.78条/特許.100条/特許.102条/民法:91条/民訴.2編1章/
全 文 h111015tokyoD.html

大阪地方裁判所 平成 11年 10月 14日 第21民事部 判決 ( 平成8年(ワ)第13483号(甲事件本訴)、平成9年(ワ)第1959号(甲事件反訴)、平成9年(ワ)第5847号(乙事件) )
事件名:  特許権に基づく差止請求権不存在確認請求事件、特許権侵害行為差止等請求事件、損害賠償等請求事件
要 旨
 1.建築物の外壁仕上のための発明である「混合材の塗布方法」の構成要件A「適度に粉砕した自然石を、合成樹脂中に混入してなる混合材の」における「自然石」の意味につき、発明当時の技術状況等を斟酌して、自然石そのままの色が塗装面に表れるものをいい、顔料等で人工的に着色を加えたものは含まれないと解するのが相当であるとして、特許権侵害が否定された事例。
 2.明細書を読む第三者は「発明の効果」の欄に記載された内容を実施例の効果としてではなく、当該発明自体の効果として理解するのが通常であるから、そこに記載された内容を実施例の効果にすぎないと解することは、第三者の予測可能性を著しく害するものであって、相当でない。
 3.作用効果が異なることを理由に、発明の均等論の適用が否定された事例。
 4.同一の特許権に基づく差止請求権不存在確認請求の本訴と侵害行為差止請求の反訴は同一の訴訟物に関するものであるから、裁判所が反訴請求について本案判決(請求棄却判決)をすることにより、本訴は確認の利益を失うことになる。
 5.被告の行為が不正競争防止法2条1項11号(平成11年法32号による改正後の2条1項13号)にいう不正競争行為(営業誹謗行為)に該当することを認定しつつも、原告が差止請求の対象としている行為がこれと異なることを理由に、差止請求が棄却された事例。
 6.営業誹謗行為が発明の技術的範囲に関する判断の誤りに基づくものであり、被告の過失を認めることはできないとして、損害賠償請求が棄却された事例。
 (知的財産権/無体財産権/工業所有権/特許権/訴えの利益/訴えの客観的利益)
参照条文: /特許.70条/特許.100条不正競争.2条1項13号/不正競争.4条/民法:709条/民訴.2編1章/
全 文 h111014osakaD.html

大阪地方裁判所 平成 11年 10月 14日 第21民事部 判決 ( 平成9年(ワ)第11113号(本訴)、平成10年(ワ)第404号(反訴) )
事件名:  差止請求権不存在確認等本訴請求事件、特許権侵害行為差止等反訴請求事件
要 旨
 1.建築物の外壁仕上のための発明である「混合材の塗布方法」の構成要件A「適度に粉砕した自然石を、合成樹脂中に混入してなる混合材の」における「自然石」の意味につき、発明当時の技術状況等を斟酌して、自然石そのままの色が塗装面に表れるものをいい、顔料等で人工的に着色を加えたものは含まれないと解するのが相当であるとして、特許権侵害が否定された事例。
 2.明細書を読む第三者は「発明の効果」の欄に記載された内容を実施例の効果としてではなく、当該発明自体の効果として理解するのが通常であるから、そこに記載された内容を実施例の効果にすぎないと解することは、第三者の予測可能性を著しく害するものであって、相当でない。
 3.作用効果が異なることを理由に、発明の均等論の適用が否定された事例。
 4.同一の特許権に基づく差止請求権不存在確認請求の本訴と侵害行為差止請求の反訴は同一の訴訟物に関するものであるから、裁判所が反訴請求について本案判決(請求棄却判決)をすることにより、本訴は確認の利益を失うことになる。
 5.不正競争防止法2条1項11号(平成11年法32号による改正後の2条1項13号)にいう不正競争行為(営業誹謗行為)に該当するとして、差止請求が認容された事例。
 6.営業誹謗行為が発明の技術的範囲に関する判断の誤りに基づくものであり、被告の過失を認めることはできないとして、損害賠償請求が棄却された事例。
 (知的財産権/無体財産権/工業所有権/特許権/訴えの利益/訴えの客観的利益)
参照条文: /特許.70条/特許.100条不正競争.2条1項13号/不正競争.4条/民法:709条/民訴.2編1章/
全 文 h111014osakaD2.html

最高裁判所 平成 11年 10月 12日 第3小法廷 判決 ( 平成7年(行ツ)第53号 )
事件名: 
要 旨
 じん肺及びこれに合併する肺結核にり患した労働者の原発性肺がんによる死亡の業務起因性が証明されたとはいまだいえないとされた事例 (自由心証主義/経験則/証拠評価/因果関係の証明/粉じん/粉塵/労働者災害補償)
参照条文: /民訴.247条/労災保険.7条1項1号/
全 文 h111012supreme.html

名古屋地方裁判所 平成 11年 10月 8日 民事第9部 判決 ( 平成11年(ワ)第932号 )
事件名: 
要 旨
 1.音楽著作権管理団体がカラオケ歌唱室を経営する有限会社に対して提起した音楽著作物の無断使用による不当利得返還請求ならびにこの会社の代表取締役に対する有限会社法30条の3に基づく損害賠償請求が認容された事例。
 2.カラオケ歌唱室の経営会社は、客の選曲に従って自ら直接カラオケ装置を操作する代わりに、客に操作させているということができるから、各部屋においてカラオケ装置によって著作物の演奏ないしその複製物を含む映画著作物の上映を行っている主体である。
 3.カラオケボックスにおける客による歌唱は、カラオケ歌唱室の経営会社の管理の下で行われており、会社は、客に歌唱させることによって営業上の利益を得ていることからすれば、各部屋における客の歌唱による著作物の演奏の主体は会社である。
 4.カラオケ歌唱室におけるカラオケ設備は、「客に音楽を鑑賞させるための特別の設備」にあたり、その営業は、著作権法施行令附則3条1号の事業に該当するから、著作権法附則14条は適用されない。
 5.著作権の侵害があれば、特別の事由のない限り、常に使用料相当額につき不当利得が成立する(著作権侵害を理由とする損害賠償請求が短期消滅時効にかかっていたため、これに代えて不当利得返還請求が認容された事例)。 (知的財産権/無体財産権/著作権)
参照条文: /著作.22条/民法:703条/著作.附則14条/著作権法施行令.附則3条1号/
全 文 h111008nagoyaD.html

大阪地方裁判所 平成 11年 10月 7日 第21民事部 判決 ( 平成10年(ワ)第6979号、平成10年(ワ)第9774号 )
事件名:  著作権侵害行為差止請求事件
要 旨
 原告の家庭用テレビゲーム機用ソフトが映画の著作物であり頒布権が及ぶと判断され、被告の販売業者とフランチャイズチェーン運営者に対して、複製物の中古品の頒布の禁止及び保有する中古品の廃棄が命じられた事例。
 1.多数の観客に時間的・空間的な隔たりを超えて同一の思想・感情の表現としての同一の視聴覚的効果を与えることは、映画の著作物であることの要件ではなく、プレイごとにディスプレイ上に具体的に出現する連続影像が異なってくるゲームソフトも映画の著作物となりうる。
 1a.映画の著作物の要件としての固定性は、生放送番組のように生成と同時に消滅していく連続影像を映画の著作物から排除するためのものにすぎず、その存在、帰属等が明らかとなる形で何らかの媒体に固定されているものであれば、右固定性の要件を充足し、画面上に表示される影像の内容や順序が固定されていることは必要ない。
 1b.ゲームソフトの著作者は、プレイヤーの操作による影像の変化の範囲をあらかじめ織り込んだ上で、ゲームのテーマやストーリーを設定し、様々な視覚的ないし視聴覚的効果を駆使して、統一的な作品としてのゲームを製作するであり、プレイヤーの操作によって画面上に表示される具体的な影像の内容や順序が異なるといったことは、ゲームソフトに「映画の著作物」としての著作物性を肯定することの妨げにはならない。
 2.放送用映画も映画の著作物に含まれること、配給制度と直接の関係を有しない家庭用ビデオソフトにも頒布権が及ぶものとして議論されていることを考慮すると、「頒布権のある映画の著作物」を、配給制度という慣行の存在する劇場用映画の特質を備えるもののみに限定して解釈することは相当でなく、また、ゲームソフトが多額の費用と時間をかけて多数の者の組織的関与により製作される場合も多いこと、需要者に短時間で満足感を与え、人気ゲームソフトでは新作発表後2ないし3か月で中古品販売数量が新品販売数量を上回ることも少なくないというデータがあることを考慮すると、ゲームソフトについて、その投下資本の回収の多様な機会を与えることには合理性があり、映画の著作物に頒布権を認めた立法趣旨に照らして、頒布権のある映画の著作物として保護を受けるに値する実質的な理由がないとはいえない。
 2a.頒布権は第一譲渡後も消尽しない権利として一般に解されてきたこと、頒布には譲渡と貸与の双方が含まれ、譲渡についてのみ頒布権が消尽する考えることは困難であること、また、第一譲渡によって消尽する譲渡権を創設した平成11年の著作権法改正法が、映画の著作物については譲渡権の規定の適用を除外し、かつ、映画の著作物の頒布権を定めた著作権法26条の規定を特に変更していないことからすれば、右改正に当たって、映画の著作物については消尽しない頒布権を維持するものとしたことが明らかであることを考慮すると、映画の著作物に関する限りは、著作権法の規定上、第一譲渡で消尽しない頒布権が認められているものと解さざるを得ない。 /知的財産権/無体財産権/著作権/
参照条文: /著作.2条3項/著作.2条1項19号/著作.26条/著作.26-2条/
全 文 h111007osakaD.html

東京高等裁判所 平成 11年 10月 5日 第6民事部 判決 ( 平成11年(行ケ)第233号 )
事件名:  共有商標権事件
要 旨
 1.商標権の共有者が、その共有に係る商標権に対しての登録異議の申立てにより登録を取り消すべき旨の決定を受けた場合に、その共有者の提起する取消決定の取消訴訟は、共有者が全員で提起することを要するいわゆる固有必要的共同訴訟と解すべきである。(共有者の一人が単独で提起した訴えが不適法とされた事例)。 /知的財産権/無体財産権/工業所有権/商標権//訴訟要件/当事者適格/
参照条文: /商標.56条1項/特許.132条2項/行訴.17条/民訴.40条/
全 文 h111005tokyoH51.html

東京高等裁判所 平成 11年 9月 30日 第18民事部 判決 ( 平成11年(ネ)第1150号 )
事件名: 
要 旨
 1.古語の意味の暗記のための語呂合わせつき、原告の語呂合わせの一部について著作物性を認め得るが、これと実質的に同一と認められる被告の作品が原告の作品に依拠して作成されたものと認めることができず、また、原告の他の語呂合わせについては著作物性を肯定することができないとして、著作権(複製権、翻案権)および著作者人格権の侵害が否定された事例。
 2.古語に関する語呂合わせは、古語と現代語訳とを結び付けて、記憶しやすい一連の語句や文章として簡潔に表そうとするものであり、それぞれの古語や現代語訳自体は客観的に広く知られているものであるから、各作成者が独自に工夫しても、ある程度相互に似通った発想や表現が生じ得る必然性と可能性を有している。
 3.古語の語呂合わせの作品募集に応じて投稿された作品について、応募者から募集者への著作権譲渡があったとは認められなかった事例。 (知的財産権/無体財産権/著作権/偶然の暗合)
参照条文: /著作.19条/著作.20条/著作.21条/著作.27条/
全 文 h110930tokyoH10.html

最高裁判所 平成 11年 9月 28日 第3小法廷 判決 ( 平成8年(オ)第754号 )
事件名:  代表役員地位確認、建物明渡請求上告事件
要 旨
 宗教法人の代表役員及び責任役員の地位にあることの確認を求める訴えが、法律上の争訟に当たらず、不適法とされた事例 /宗教団体の内部紛争/血脈相承/不適法な訴え/訴訟要件/日蓮正宗/阿部日顕/創価学会/信仰/教義/
参照条文: /裁判.3条/民訴.2編1章/民訴.140条/
全 文 h110928supreme.html

東京地方裁判所 平成 11年 9月 28日 民事第47部 判決 ( 平成10年(ワ)第14180号 )
事件名: 
要 旨
 1.江戸時代の作品を参考にして製作された図画が原画の機械的模写ではなく創作性を有するとされた事例。
 2.被告会社の商品の包装紙・パンフレット等に使用された図柄が原告絵画に依拠してその内容及び形式を覚知させるに足りるものを再製したものと認められ、複製権の侵害、同一性保持権の侵害、氏名表示権の侵害が認められた事例(差止請求および損害賠償請求の認容)。
 3.複製権等の侵害についての故意・過失が、著作者の側からの問い合わせの手紙が送付された時期以降についてのみ認められた事例。
 4.遅延損害金の起算点が口頭弁論終結時とされた事例。
 (知的財産権/無体財産権/著作権/著作者人格権侵害に対する慰謝料請求)
参照条文: /著作.19条/著作.20条/著作.21条/著作.112条/民法:709条/
全 文 h110928tokyoD2.html

大阪地方裁判所 平成 11年 9月 21日 第21民事部 判決 ( 平成10年(ワ)第11012号・平成11年(ワ)第4128号 )
事件名: 
要 旨
 1.文字を素材とした造形表現物が美術の著作物として認められるためには、当該表現物が、知的、文化的精神活動の所産として、これを見る平均的一般人の審美感を満足させる程度の美的創作性(後述の純粋美術としての性質)を持ったものであり、かつ、その表現物に著作権による保護を与えても人間社会の情報伝達手段として自由な利用に供されるべき文字の本質を害しないことが必要である。
 2.原告の書(文字を素材とした造形表現物)が、美術の著作物に該当すると認められた事例。
 3.広義の広告に用いることを目的とする応用美術に属する文字を素材とする造形表現物については、客観的に見て純粋美術としての性質も有すると評価し得るもの、すなわち、これを見る平均的一般人の審美感を満足させる程度の美的創作性を有すると認められるものであれば、美術の著作物として、著作権の保護を与えるのが相当である。
 4.文字は、情報伝達手段として万人の共有財産とされるべきであり、また当該文字固有の字体によって識別されるものであるから、文字を素材とした美術の著作物の独占排他的な保護が認められる範囲は狭く、著作物を複写しあるいは極めて類似している場合にのみ著作権を侵害するというべきであり、単に字体や書風が類似しているというだけでは複製権や翻案権の侵害を認めることはできない。
 5.原告の書と被告の書との間に類似点もあるが相違点も随所に認めることができるので、被告の書が原告の書を複製したものとは認められないとされた事例。 (知的財産権/無体財産権/著作権/著作権フリーの表示/商業書道/書体)
参照条文: /著作.2条1項1号/著作.21条/著作.27条/
全 文 h110921osakaD.html

東京高等裁判所 平成 11年 9月 21日 第6民事部 判決 ( 平成10年(ネ)第5108号・1154号 )
事件名: 
要 旨
 1.恐竜のイラストの改変が著作者の同意した範囲を超えていて、同一性保持権の侵害が肯定された事例。
 2.美術の著作物の仲介業者は、利用申込みの都度イラストレーターにより貸出しの可否の判断がなされることにされているもの(「扱いC」のもの)につき顧客から改変利用の希望があり、これをイラストレーターに取り次ぐ場合には、顧客の希望する改変の内容、方法、範囲について正確に把握し、これを、誤解の生じないように正確にイラストレーターに伝えて承諾の可否について打診し、イラストレーターが了解を与えた場合には、その内容を誤解の生じないような形で正確に顧客に伝えることにより、顧客による著作者人格権等の侵害が発生することのないよう細心の注意を払うべき義務がある。(その義務違反が認められた事例)。
 (知的財産権/無体財産権/著作権)
参照条文: /著作.20条/民法:709条/民法:710条/
全 文 h110921tokyoH.html

東京高等裁判所 平成 11年 9月 21日 第6民事部 判決 ( 平成10年(行ケ)第316号 )
事件名: 
要 旨
 1.インクリボンカートリッジの意匠について、創作が容易な意匠であると認めることはできないとされた事例。
 2.ほぼ直方体形状の物品の四隅を斜めに直線状に切除した形状は、花瓶敷きや置物台に見られるように広く知られた形状であるが、機能への配慮などのために意匠に関する発想の自由が制限される面のあるインクリボン付カートリッジにこれを適用することは、当業者にとって意表をつく形状であったというべきである、と判断された事例。 (知的財産権/無体財産権/工業所有権/意匠権)
参照条文: /意匠.3条2項/
全 文 h110921tokyoH3.html

東京地方裁判所 平成 11年 9月 20日 民事第29部 決定 ( 平成11年(ヨ)第22125号 )
事件名: 
要 旨
 1.パーソナルコンピュータの独創的な形態が仮処分債権者の商品表示として需要者の間に広く認識されており、債務者の商品がこれと類似し混同のおそれがあるとして、不正競争防止法3条1項、2条1項1号に基づき、債務者商品の製造、販売等の差止めを命ずる仮処分命令が発せられた事例。
 2.商品の形態は、必ずしも商品の出所を表示することを目的として選択されるものではないが、商品の形態が他の商品と識別し得る独特の特徴を有し、かつ、商品の形態が、長期間継続的かつ独占的に使用されるか、又は、短期間であっても商品形態について強力な宣伝等が伴って使用されたような場合には、商品の形態が周知商品表示性を獲得することがある(肯定事例)。
 3.仮の地位を定める仮処分命令の申請事件において、初回審尋期日に債務者が答弁書・疎明資料を提出せず、口頭による陳述もしなかったため、裁判所が審尋期日が打ちきり、債務者に防御を尽くさせるために期限を付して主張、立証資料の提出の機会を与えることにより、迅速な審理を図った事例。
 4.一般に、企業が、他人の権利を侵害する可能性のある商品を製造、販売するに当たっては、自己の行為の正当性について、あらかじめ、法的な観点からの検討を行い、仮に法的紛争に至ったときには、正当性を示す根拠ないし資料を、すみやかに提示することができるよう準備をすべきである。 (知的財産権/無体財産権/工業所有権/不正競争防止法/アップル・コンピュータ/iMac)
参照条文: /不正競争.3条1項/不正競争.2条1項1号/民保.23条2項/民保.23条4項/
全 文 h110920tokyoD2.html

東京地方裁判所 平成 11年 9月 17日 民事第47部 判決 ( 平成10年(ワ)第3297号 )
事件名: 
要 旨
 1.共同著作物であることが認められた事例。
 2.自転車の乗り方についてのビデオ作品の一部(コツを説明したコーナー)が、制作者の依頼に基づき助言(監修)をした者の著作物の翻案にはあたらないとされた事例。 /知的財産権/無体財産権/著作権/
参照条文: /著作.14条/著作.27条/著作.63条/
全 文 h110917tokyoD.html

東京地方裁判所 平成 11年 9月 17日 民事第47部 判決 ( 平成9年(ワ)第20068号 )
事件名: 
要 旨: 1.発明品(消臭液)の独占販売契約の成立とその合意解除が認められた事例。
 (知的財産権/知的財産に関する契約から生じた紛争の事例)
参照条文: 
全 文 h110917tokyoD2.html

大阪地方裁判所 平成 11年 9月 16日 第21民事部 判決 ( 平成10年(ワ)第5743号 )
事件名: 
要 旨
 1.ビタミン製剤についての被告の表品表示「アリナビッグA25」は、原告の著名な商品表示「アリナミンA25」と不正競争防止法2条1項2号の意味で類似しているとして、その使用禁止等が命じられた事例。
 2.不正競争防止法2条1項2号の「類似」に該当するか否かは、取引の実情の下において、需要者又は取引者が、両者の外観、称呼又は観念に基づく印象、記憶、連想等から両者を全体的に類似のものと受け取るおそれがあるか否かを基準に判断すべきである。
 3.不正競争防止法5条1項にいう不正競争行為者が侵害行為により受けた「利益の額」は、特許法102条2項の場合と同様に、侵害者が侵害行為によって得た売上額から、製造原価・販売原価のほか、侵害者が当該侵害行為たる製造・販売に必要であった諸経費を控除した額である。
 4.不正競争行為のために要した費用のうち、販売費及び一般管理費にあっては、当該不正競争行為をしたことによって増加したと認められる部分に限って、不正競争行為のために要した費用と認めるのが相当である。
 (知的財産権/無体財産権/不正競争防止)
参照条文: /不正競争.2条1項2号/不正競争.3条1項/不正競争.3条2項/不正競争.4条/不正競争.5条1項/
全 文 h110916osakaD.html

東京高等裁判所 平成 11年 9月 16日 第6民事部 判決 ( 平成10年(ネ)第4640号 )
事件名: 
要 旨
 1.トラッククレーンにおけるアウトリガの軽量化に関する発明の要件の解釈の結果、特許権侵害が認められなかった事例。
 (知的財産権/無体財産権/工業所有権/特許権)
参照条文: /特許.70条1項/
全 文 h110916tokyoH.html

最高裁判所 平成 11年 9月 14日 第3小法廷 判決 ( 平成9年(オ)第2060号 )
事件名: 
要 旨: いわゆる危急時遺言に当たり民法976条1項にいう口授があったとされた事例
参照条文: /民法:976条1項/
全 文 h110914supreme.html

大阪地方裁判所 平成 11年 9月 14日 民事第21部 判決 ( 平成10年(ワ)第1403号 )
事件名: 
要 旨
 1.計算事務受託業務等を目的とする原告会社の保有する顧問先名簿、顧問料金表、得意先の会計・経営の情報が記載された電子フロッピーが、不正競争防止法2条4項の意味での秘密として管理されていたとは認められなかった事例。
 2.退職従業員による営業秘密の不正開示行為があったとの主張が否定された事例。
 3.公認会計士法や税理士法の規定により守秘義務が課せられる情報であっても、保有者が現実に秘密として管理していなければ、不正競争防止法上の営業秘密とは認められない。
 (知的財産権/無体財産権/不正競争防止/証拠の自由評価の例)
参照条文: /不正競争.2条1項8号/不正競争.2条4項/不正競争.3条/
全 文 h110914osakaD.html

最高裁判所 平成 11年 9月 9日 第1小法廷 判決 ( 平成10年(受)第456号 )
事件名: 
要 旨
 生命保険契約の解約返戻金請求権を差し押さえた債権者は、これを取り立てるため、債務者の有する解約権を行使することができる。 /債権者代位権/債権差押え/飛越上告の事例/
参照条文: /民執.155条/民法:423条/
全 文 h110909supreme.html

最高裁判所 平成 11年 9月 9日 第1小法廷 判決 ( 平成8年(オ)第2422号 )
事件名: 
要 旨: 1.極度額を超える金額の被担保債権を請求債権とする根抵当権の実行による消滅時効中断の効力は、請求債権として表示された当該被担保債権の全部について生じる。 2.債権者から物上保証人に対する根抵当権の実行としての競売の申立てがされ、執行裁判所が、競売開始決定正本を債務者に送達した場合には、時効の利益を受けるべき債務者に差押えの通知がされたものとして、民法155条により、債務者に対して当該根抵当権の実行に係る被担保債権について消滅時効の中断の効力を生ずるが、この時効中断事由には、根抵当権の被担保債権について催告(民法153条)としての効力はなく、債権者が不動産競売の申立てを取り下げたときは、右時効中断の効力は、差押えが権利者の請求によって取り消されたとき(民法154条)に準じ、初めから生じなかったことになる。 (債務不存在確認請求)
参照条文: /民法:153条/民法:154条/民法:155条/民執.45条2項/
全 文 h110909supreme2.html

大阪地方裁判所 平成 11年 9月 9日 第21民事部 判決 ( 平成9年(ワ)第715号 )
事件名:  著作権に基づく侵害差止請求事件<レコード著作権等>
要 旨: 1.平成8年改正法により新たに著作隣接権の保護の対象となったレコードについて、右改正法の施行期日前に複製する行為、また、右施行期日の前後を問わず、施行前複製物を頒布する行為は、いずれも、著作隣接権を侵害するものではない。 2.演奏家の写真を背景図柄として使用しレコードジャケットの図柄について著作物性が認められた事例。 3.ある著作物に他人が著作権を有する著作物が無断使用されていたとしても、その著作物の著作権者が二次的著作物の複製権に基づいて差止めを請求することがただちに権利濫用となるものではない。 4.レコードジャケット図柄の著作権(複製権)を侵害して複製された図柄を付したレコードジャケットとともにレコードを販売することが禁止された事例。 5.ジャケット図柄の識別対象はレコード製造販売者というよりはむしろ特定の音源のレコードそのものであるのが一般的であり、このような図柄を当該音源を収録したレコードのジャケットとして用いる限りにおいては、需要者の誤認混同を生じさせるものではないのであって、音源に関する権利の保護と離れて、これを不正競争防止法による保護の対象とする必要性はない。 6.レコードの原盤権と共にジャケット図柄の独占的排他的利用権限をも譲り受けた原告が、当該レコード原盤に基づいて適法に複製されたレコードを販売する被告に対して、当該ジャケット図柄の使用を不正競争防止法により請求したところ、要旨3記載の理由により排斥された事例。 7.共同原告の一人が一部勝訴し他の一人が全面敗訴した場合に、全面敗訴の原告に関し、被告に生じた訴訟費用の一部のみの負担が命じられ、その余を各自の負担とする訴訟費用の裁判がなされた事例。 /知的財産権/無体財産権/著作権/著作隣接権/不正競争防止法/
参照条文: /著作.19条/著作.21条/著作.96条/著作.113条1項2号/著作.101条2号/著作.115条/不正競争.2条1項1号/民訴.61条/
全 文 h110909osakaD.html

東京高等裁判所 平成 11年 8月 31日 第18民事部 判決 ( 平成10年(行ケ)第147号 )
事件名: 
要 旨
 1.原告が「ホテルゴーフルリッツ」の商標登録を受ける以前から「Ritz」「リッツ」の表示がセザール・リッツに由来する識別力の高い著名標章として被告によって使用されていることを理由に、原告の商標登録を無効とした審決が正当であるとされた事例。 (知的財産権/無体財産権/工業所有権/商標権)
参照条文: /商標.4条1項15号/商標.46条1項1号/
全 文 h110831tokyoH.html

東京地方裁判所 平成 11年 8月 31日 民事第47部 判決 ( 平成9年(ワ)第27869号 )
事件名:  著作権侵害差止等請求事件<漫画カット著作権等>
要 旨
 1.著作権法32条1項にいう引用とは、報道、批評、研究等の目的で他人の著作物の全部又は一部を自己の著作物中に採録するものであって、引用を含む著作物の表現形式上、引用著作物と被引用著作物を明瞭に区別して認識することができ(明瞭区別性)、かつ、両著作物の間に前者が主、後者が従の関係にあるもの(付従性)をいう。
 2.著作物の引用は、1で示した引用の要件を充たす限りにおいて、引用著作物の著者が必要と考える範囲で行うことができるものであり、引用が必要最小限度のものであることまで要求されるものではない。
 3.漫画のカットの引用が適法と認められた事例。
 4.引用しようとする漫画のカットが特定人物をその者が見れば不快に感じる程度に醜く描写している場合に、引用者がその特定人物の人格的利益を侵害しないように相当な方法でカットを改変をすることは、著作権法20条2項4号にいう「やむを得ないと認められる改変」に当たる。この場合に、描写された人物の両目部分に目隠しを施すという改変方法が「やむを得ないと認められる改変」に当たるとされ、同一性保持権の侵害の主張が排斥された事例。
 5.書籍の題号について、不正競争防止法2条1項1号または2号の不正競争行為に該当するとの主張が排斥された事例。 /知的財産権/無体財産権/著作権/不正競争防止法/小林よしのり/ゴーマニズム宣言/上杉聰/
参照条文: /著作.32条/著作.20条2項4号/不正競争.2条1項1号/不正競争.2条1項2号/
全 文 h110831tokyoD.html

東京地方裁判所 平成 11年 8月 30日 民事第29部 判決 ( 平成10年(ワ)第15575号 )
事件名: 
要 旨
 1.コンピュータ用ゲームソフトの登場人物の図柄と実質的に同じ図柄を無断で用いてアニメーションビデオを制作したことが著作権(複製権ないし翻案権)侵害にあたると判断された事例。
 2.原告作成の人物の図柄を被告が性行為を行う姿に改変したことことにより同一性保持権が侵害されたと認められた事例
 3.著作権・著作者人格権侵害に対する差止請求権が認められた事例
 4.著作権・著作者人格権侵害を理由とする損害賠償請求が認められたが、謝罪広告が認められなかった事例
 5.原告がコンピュータ用ゲームソフトの中で中心的登場人物に付与した優等生的で、清純な、さわやかな印象を与える性格付けがゲームソフトと関連商品の売上げと人気向上に大きく寄与していることを認め、この登場人物の図柄を改変して被告が成人向ビデオを制作したことは前記性格付けに対する原告の創作意図ないし目的が著しくゆがめる悪質な行為であるとして、同一性保持権侵害に対する損害賠償として200万円が認められた事例。 (知的財産権/無体財産権/著作権/ゲームソフト「ときめきメモリアル」/恋愛シュミレーションゲーム)
参照条文: /著作.20条1項/著作.21条/著作.27条/著作.112条/著作.114条1項/著作.115条/著作.112条2項/
全 文 h110830tokyoD.html

東京地方裁判所 平成 11年 8月 30日 民事第29部 判決 ( 平成10年(ワ)第14106号 )
事件名: 
要 旨
 1.著作権(複製権)の侵害および著作者人格権(氏名表示権)の侵害を理由とする損害賠償請求権の発生が肯定された事例。
 2.著作権者が通常受けるべき使用料相当額が、著作物を無断掲載した雑誌の発行部数、価格、総ページ数、著作物掲載ページ数、著作物たる写真に写されている人物(タレント)の話題性等、一切の事情を考慮して認定された事例。
 3.訴訟係属中に被告が賠償金の弁済供託をしたため請求が棄却されたが、訴訟の経過に照らし被告に訴訟費用の全部の負担を命ずるべきであるとされた事例。 (知的財産権/無体財産権/著作権)
参照条文: /著作.19条/著作.21条/著作.114条2項/著作.115条/民訴.61条/
全 文 h110830tokyoD2.html

東京地方裁判所 平成 11年 8月 27日 民事第47部 判決 ( 平成9年(ワ)第25997号 )
事件名: 
要 旨: 1.オペラ歌手を招聘した音楽プロデュース会社がリサイタルの記録用録音テープに基づいて原告の歌唱を収録したCD(コンパクトディスク)を製造販売することについて、歌手が許諾を与えていないと認定された事例。 2.著作隣接権侵害を理由とする損害賠償請求訴訟において、隣接権を侵害して制作されたCDの販売により被告の得た収入が制作費用を下回るが、CDの多くが無償配布され宣伝広告の効果があったこと等の諸般の事情を考慮して、原告の受けるべき対価の額が10万円と認定された事例。 3.実演家(歌手)である原告に無断で製造・販売されたCDの音質及び録音内容が劣悪で、聴取者に原告の歌唱力が低いという誤解を与え、名誉が毀損されたことを理由に、原告が損害賠償および謝罪広告を求めたが、原告の名誉を毀損するほどに音質及び録音内容が劣悪であるとは認められないとして請求が棄却された事例。 (知的財産権/無体財産権/著作権/著作隣接権/オペラ歌手マテウッティ)
参照条文: /著作.91条1項/著作.112条/著作.114条1項/著作.114条2項/
全 文 h110827tokyoD.html

東京地方裁判所 平成 11年 8月 27日 民事第47部 判決 ( 平成10年(ワ)第20162号 )
事件名: 
要 旨: 原告会社が著作者であるアプリケーションソフトウェアの開発を担当した原告会社の元従業員が原告会社を退職後に被告の注文に応じてソフトウェアを制作したが、そのソフトウェアが原告会社のプログラムの複製または翻案であると認められて、そのソフトウェアの複製・販売等の禁止が命じられた事例。 (コンピュータプログラム/プログラムの著作物/法人著作物/退職従業の著作物)
参照条文: /著作.21条/著作.27条/著作.112条/著作.15条/
全 文 h110827tokyoD2.html

東京地方裁判所 平成 11年 8月 27日 民事第47部 判決 ( 平成8年(ワ)第23450号 )
事件名:  不正競争行為差止等請求事件
要 旨
 1.住宅施工販売のフランチャイズ加盟店の募集及び指導育成等を目的とする原告会社の社名及び原告標章が、新聞記事および宣伝・広告等にもかかわらず、原告の営業表示として著名であるとも、山梨県内で広く知られているとも認められないから、被告による被告商号及び被告標章の使用が不正競争行為に当たるとは認められないとされた事例。
 2.商品に役務が類似するかどうかは、当該商品と当該役務に同一又は類似の商標を使用した場合に、当該役務が当該商品を製造又は販売する事業者の提供に係る役務であると誤認されるおそれがあるかどうかという観点から判断されるべきである。
 3.被告の役務(住宅の受注・販売・企画・設計・施工等)と原告の登録商標の指定商品とが類似しないとされた事例。
 4.被告の役務と原告の登録商標の指定役務とが類似しないとされた事例。 (知的財産権/無体財産権/工業所有権/商標権/不正競争)
参照条文: /不正競争.2条1項1号/不正競争.2条1項2号/商標.37条1号/
全 文 h110827tokyoD3.html

大阪地方裁判所 平成 11年 8月 24日 第21民事部 判決 ( 平成10年(ワ)第9409号、平成10年(ワ)第11624号 )
事件名: 
要 旨
 1.人証による立証を残すのみとなった段階での自白の撤回が信義則上も許されないとされた事例。
 2.カラオケ歌唱室において客が音楽著作物を再生・歌唱する場合には、伴奏音楽の再生及び歌唱の主体は、カラオケ歌唱室としての営業の性質上、その営業主であると解すべきである。
 3.カラオケ歌唱室の営業主による伴奏音楽の再生及び歌唱は、著作権法22条の「公衆に直接見せ又は聞かせることを目的」とするものに該当する。
 4.カラオケ歌唱室の営業が著作権法施行令附則3条1号に該当し、著作権法附則14条の適用がないとされた事例。
 5.著作物仲介人が、著作物の使用者に対し、認可を得た著作物使用規程に依らずに著作物使用料を徴収することは許されないが、技術や時代の変化に応じて出現した新たな使用形態における使用料を、「著作物利用の目的および態様、その他の事情に応じて使用者と協議のうえ、その使用料の額または率を定めること」は、その内容が既存の著作物使用料規程に照らして合理性・相当性があり、また利用者との意見調整を経る等の著作権仲介業務法が規定する趣旨に沿った手続を経ている場合には、認可を受けた著作物使用料規程に依るものと評価することができる。
 6.伴奏音楽・歌詞映像とともに動画映像を再生する通信カラオケの使用料率の算定において、ビデオカラオケの区分を適用することは、合理性を有する。
 (知的財産権/無体財産権/著作権)
参照条文: /民訴.179条/民訴.2条/著作.22条/著作施行令.附則3条/著作.附則14条/
全 文 h110824osakaD.html

大阪地方裁判所 平成 11年 8月 24日 第21民事部 判決 ( 平成10年(ワ)第2667号 )
事件名: 
要 旨
 クリーニング工場で使用するハンガーのタッグ装着具の実用新案に基づく侵害差止請求および損害賠償請求の訴訟において、考案の要件一つが非本質的部分(重要でない要件)であるとの主張が認められなかっため、不完全利用論が一般に採用しうるか否かに立ち入ることなく、不完全利用論の主張が排斥された事例。 (知的財産権/無体財産権/工業所有権/実用新案権)
参照条文: /実用新案.26条/特許.70条/実用新案.27条/
全 文 h110824osakaD2.html

大阪高等裁判所 平成 11年 7月 29日 第8民事部 判決 ( 平成11年(ネ)第221号 )
事件名:  特許権に基づく製造販売差止等請求控訴事件<屋根瓦特許>
要 旨
 1.屋根瓦の特許について、特許発明の技術的範囲が争われた事例。
 2.特許請求の範囲に記載された構成中に存在する対象製品との相違部分が特許発明の本質的部分であるとの理由で均等論の適用が否定された事例。 /知的財産権/無体財産権/工業所有権/特許権/
参照条文: /特許.70条1項/特許36条5項/
全 文 h110729osakaH.html

大阪地方裁判所 平成 11年 7月 29日 第21民事部 判決 ( 平成8年(ワ)第8215号 )
事件名: 
要 旨
 1.実際には微量のウレタンしか含まれていない自動車補修用スプレー塗料について、ウレタンが含有されている旨を表示し、ウレタンが含有されているから品質が優れている旨を表示することが品質誤認行為(現12号・旧10号)と認定され、その差止請求が認められた事例。
 2.不正競争行為により被告が得た利益額の主張・立証が不十分であるとの理由で、不正競争防止法5条1項に基づく損害額の主張が否定された事例。 (知的財産権/無体財産権/不正競争)
参照条文: /不正競争.2条1項12号/不正競争.7条/不正競争.5条1項/
全 文 h110729osakaD.html

東京地方裁判所 平成 11年 7月 23日 民事第29部 判決 ( 平成10年(ワ)第27729号 )
事件名:  損害賠償請求事件 <美術作品著作権>
要 旨
 光源を水槽の下に配置し、波紋の生じた水面に光を透過させて、物体に投影させる手法を用いている点で共通性を有する作品について、被告作品は原告作品を複製ないし翻案したものではないと判断された事例。 (知的財産権/無体財産権/著作権)
参照条文: /著作.2条1項11号/著作.2条1項15号/著作.21条/著作.27条/
全 文 h110723tokyoD3.html

東京地方裁判所 平成 11年 7月 23日 民事第29部 判決 ( 平成10年(ワ)第26638号 )
事件名:  損害賠償請求事件<Cutie商標>
要 旨
 1.商標権侵害を理由とする損害賠償請求が、原告の商標と被告の標章との非類似を理由に棄却された事例。
 2.原告の登録商標が欧文字の「Cutie」を丸みを帯び右に傾けた字体を用いて横書きしたものであり、被告がレンズ付きフィルム商品に用いている標章が欧文字の「Q」及び「t」との印象を与える図形から構成されるものである場合に、両者の外観における相違点が著しい点に照らすならば、称呼が類似する点を考慮してもなお商品の出所の誤認混同を来すことはないから、両者は類似しないとされた事例。 (知的財産権/無体財産権/工業所有権/商標権)
参照条文: /商標.25条/商標.37条/
全 文 h110723tokyoD5.html

東京地方裁判所 平成 11年 7月 23日 民事第47部 判決 ( 平成9年(ワ)第18763号 )
事件名:  損害賠償等請求事件
要 旨
 一部共通する部分のある社会科学の学術論文について、著作権(翻案権)及び著作者人格権(同一性保持権)の侵害の主張、並びに、剽窃による不法行為の主張が認められなかった事例。 /知的財産権/無体財産権/著作権/
参照条文: /著作.27条/著作.20条/民法:709条/
全 文 h110723tokyoD.html

東京地方裁判所 平成 11年 7月 23日 民事第47部 判決 ( 平成10年(ワ)第29546号 )
事件名: 
要 旨
 1.著作物の複製とは、既存の著作物に依拠し、その内容及び形式を覚知させるに足りるものを再製することをいう。
 2.被告のイラストレーションが原告の著作物の複製ではないと認定された事例。
 (知的財産権/無体財産権/著作権)
参照条文: /著作.21条/著作.2条1項15号/著作112条1項/
全 文 h110723tokyoD2.html

東京地方裁判所 平成 11年 7月 23日 民事第47部 判決 ( 平成11年(ワ)第5725号 )
事件名:  書籍出版差止請求事件<日本ビジュアル著作権協会事件>
要 旨
 1.民訴29条の「法人でない社団」といいうるためには、構成員が存在し、その構成員による団体としての組織を備え、構成員による多数決の原則が行われ、構成員の変更にもかかわらず団体そのものが存続し、その組織において代表の方法、総会の運営、財産の管理その他団体としての主要な点が確定していることを要する。
 1a.原告の規約に定められた会員は民訴法29条の社団の構成員と見ることはできず、他に構成員たりうる者は規定されていないから、原告は構成員を欠き、権利能力なき社団に該当しないとされた事例。
 2.原告は、特定の財産を管理していたというべき事実も認められないから、権利能力なき財団に該当しないとされた事例。
 3.原告が請求を放棄したが、当事者能力のない者による請求の放棄は効力を生じないとして、訴えが却下された事例。 /訴訟要件/知的財産権/無体財産権/著作権/
参照条文: /民訴.29条/民訴.266条/民訴.267条/
全 文 h110723tokyoD4.html

大阪地方裁判所 平成 11年 7月 22日 第21民事部 判決 ( 平成6年(ワ)第499号 )
事件名: 
要 旨
 被告の製品が原告の発明の技術的範囲に属しないとされた事例。 (加熱蒸散殺虫用器具および薬液のボトル/吸液芯の目詰まり回避) (知的財産権/無体財産権/工業所有権/特許権)
参照条文: /特許.100条/特許.70条/
全 文 h110722osakaD.html

最高裁判所 平成 11年 7月 19日 第1小法廷 判決 ( 平成7年(オ)第2468号 )
事件名: 
要 旨
 真正共同相続人の相続権を侵害している共同相続人が相続回復請求権の消滅時効を援用するためには、相続権侵害の開始時点において、他に共同相続人がいることを知らず、かつ、これを知らなかったことに合理的な事由があったこと(「善意かつ合理的事由の存在」)を主張立証しなければならない。 (相続開始から20年以上が経過していた事例)
参照条文: /民法:884条/
全 文 h110719supreme.html

最高裁判所 平成 11年 7月 19日 第1小法廷 判決 ( 平成7年(オ)第947号 )
事件名: 
要 旨
 運賃変更の認可申請を却下した運輸局長の判断にその裁量権を逸脱し又はこれを濫用した違法はないとされた事例
参照条文: /道路運送法.9条/道路運送法.10条/
全 文 h110719supreme2.html

東京地方裁判所 平成 11年 7月 19日 民事第29部 判決 ( 平成9年(ワ)第2182号 )
事件名:  損害賠償等請求事件<不正競争>
要 旨
 1.原告会社において食品の輸入・販売業務を担当していた従業員(取締役)が、在職中に得た営業秘密を退職後に再就職先の会社において不正に使用したとして、原告がこの退職従業員と再就職先の会社に対して不正競争防止法に基づき営業秘密の開示の差止め、損害賠償等を請求したが、請求が棄却された事例。
 2.極秘に二重に帳簿を作成しておいて、営業に活用するという抽象的な営業システムそれ自体の内容は、社会通念上営業秘密としての保護に値する有用な情報と認めることはできない。 /知的財産権/無体財産権/不正競争防止法/営業秘密の有用性/
参照条文: /不正競争.2条1項7号/不正競争.2条1項8号/
全 文 h110719tokyoD.html

東京地方裁判所八王子支部 平成 11年 7月 19日 民事第4部 決定 ( 平成11年(ヲ)第5471号 )
事件名:  執行官の処分に対する執行異議申立事件
要 旨
 1.妻が所有する不動産の競売手続の現況調査において妻が占有者で夫が占有補助者であると認定されたが、買受人が夫を被告に建物明渡請求訴訟を提起し、その請求認容判決の執行の段階では、妻がすでに所有権を失っており、夫が住民票上の世帯主であることを考慮して、夫を占有者、妻を占有補助者と認定すべきであるとされた事例。
 2.執行債権者からの執行異議に基づき執行裁判所が執行官に明渡執行の実施を命じた事例。
参照条文: /民執.11条/民執.168条/民法:180条/
全 文 h110719tokyoD2.html

最高裁判所 平成 11年 7月 16日 第2小法廷 判決 ( 平成10年(オ)第604号 )
事件名: 
要 旨
 1
 方法の発明に関する特許権に基づき、右方法を使用して品質規格を検定した物の製造販売の差止めを請求することはできない。
 2
 特許法100条2項にいう「侵害の予防に必要な行為」は、差止請求権の行使を実効あらしめるものであって差止請求権の実現のために必要な範囲内のものであることを要する。
 3
 医薬品の品質規格の検定が方法の発明に関する特許権を侵害する場合において、右医薬品についての薬価基準収載申請の取下げが特許法100条2項にいう「侵害の予防に必要な行為」に当たらないとされた事例。
 (カリクレイン生成阻害能の測定法/生理活性物質測定法)(知的財産権/無体財産権/工業所有権/特許権)
参照条文: /特許.2条3項2号/特許.2条3項3号/特許.68条/特許.70条1項/特許.100条1項/
全 文 h110716supreme.html

最高裁判所 平成 11年 7月 16日 第2小法廷 判決 ( 平成9年(オ)第317号 )
事件名: 
要 旨
 鋼管くいをクレーン車の装置により荷下ろしする際に玉掛け作業を手伝った者がクレーン車の運転補助者とはいえず自動車損害賠償保障法3条の他人に当たるとされた事例
参照条文: /自賠.3条/
全 文 h110716supreme2.html

最高裁判所 平成 11年 7月 15日 第1小法廷 判決 ( 平成9年(オ)第367号 )
事件名: 
要 旨
 自らの意思により出奔して所在不明となった県職員に対する懲戒免職処分が、同居していた家族への通知書の交付および県公報への掲載により効力が生じたとされた事例。
 (公示の方法による意思表示/人事院規則1210「職員の懲戒」)
参照条文: /人事院規則1210「職員の懲戒」.5条2項/民97-2条/
全 文 h110715supreme.html

東京高等裁判所 平成 11年 7月 15日 第18民事部 判決 ( 平成9年(行ケ)第178号 )
事件名:  審決取消請求事件<湿式精米装置特許>
要 旨
 湿式精米装置の発明に進歩性が認められた事例。 /知的財産権/無体財産権/工業所有権/特許権/
参照条文: /特許.29条2項/
全 文 h110715tokyoH52.html

東京高等裁判所 平成 11年 7月 15日 第18民事部 判決 ( 平成9年(行ケ)第215号 )
事件名:  審決取消請求事件<新規生理活性物質等特許>
要 旨
 1.発明の新規性が認められなかった事例
 2.学術文献に掲載された追試実験の信用性が認められた事例。 /知的財産権/無体財産権/工業所有権/特許権/新規生理活性物質/鎮痛、鎮静、抗アレルギー作用を有する医薬/自由心証主義/
参照条文: /特許.29条2項/民訴.247条/
全 文 h110715tokyoH51.html

東京高等裁判所 平成 11年 7月 15日 第18民事部 判決 ( 平成10年(行ケ)第65号 )
事件名:  審決取消請求事件<コネクタ特許>
要 旨
 特許出願の明細書の補正が、補正前の特許請求の範囲を実質上変更するものではないから許されるべきであるとされた事例。 /知的財産権/無体財産権/工業所有権/特許権/コネクタハウジング/仮係止/ターミナルの収容通路/
参照条文: /特許.159条1項/特許.53条1項/特許.17-2条/
全 文 h110715tokyoH53.html

東京高等裁判所 平成 11年 7月 14日 第13民事部 判決 ( 平成10年(行ケ)第199号 )
事件名: 
要 旨
 遠隔操作による機能変更可能なケーブルテレビジョンコンバータに関する発明について、先行発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとの理由より特許が認められなかった事例。 (知的財産権/無体財産権/工業所有権/特許権/ファームウェア/CRC回路)
参照条文: /特許.29条2項/
全 文 h110714tokyoH.html

東京高等裁判所 平成 11年 7月 14日 第13民事部 判決 ( 平成10年(行ケ)第378号 )
事件名: 
要 旨
 1.意匠の類否判断においては、まず、意匠の全体的観察を行い、基本的構成態様として、その形態上の骨格を概括的に把握すべきである。
 2.本願意匠が先願意匠と形態について類似していると判断された事例。 (知的財産権/無体財産権/工業所有権/意匠)
参照条文: /意匠.3条1項3号/
全 文 h110714tokyoH2.html

東京高等裁判所 平成 11年 7月 14日 第13民事部 判決 ( 平成11年(ネ)第196号 )
事件名: 
要 旨
 1.登録商標「壁の穴」を有する原告が株式会社壁の穴に対して「壁の穴」を商標として使用することの差し止めを求めた事件において、商品における販売者としての被告会社名の表示が商標としての表示に該当しないとされた事例。
 2.デパート等の陳列棚において被告の商品の販売価格が「壁の穴」の記載とともに表示されているが、これはデパート等が被告の商号をその販売者名として表示するために作成掲示したものであり、商標としての使用に該当しないとされた事例。
 3.標章の使用が不正競争の目的をもつものではないとされた事例。 (知的財産権/無体財産権/工業所有権/商標権)
参照条文: /商標.36条/商標.37条/商標.26条/
全 文 h110714tokyoH3.html

最高裁判所 平成 11年 7月 13日 第3小法廷 判決 ( 平成8年(オ)第539号 )
事件名:  通行権確認等請求上告事件
要 旨
 公道に1・45メートル接する土地上の建築基準法施行前からあった建物が取り壊された場合に、接道要件を満たす内容の囲繞地通行権を既に他の建物の敷地として使用されている他人の土地の上に認めることができないとされた事例
参照条文: /民法:210条/建築基準.43条1項/建築基準施.1条1号/
全 文 h110713supreme.html

東京高等裁判所 平成 11年 7月 13日 第18民事部 判決 ( 平成10年(行ケ)第116号 )
事件名: 
要 旨
 車載用ナビゲーション装置に関する本願発明が先願発明と同一であることを理由に特許法29条の2により拒絶査定をした審決が、両発明の構成が奏する効果の相違を看過しているとの理由で取り消された事例。
 (シンボルを地図情報に重畳表示した画面において、本願発明は、選択メニューを消去して表示指標を表示するものであり、先願発明は、選択メニューを表示指標として兼用し、引き続き表示するものである)(知的財産権/無体財産権/工業所有権/特許権)
参照条文: /特許.29-2条/
全 文 h110713tokyoH.html

東京高等裁判所 平成 11年 7月 13日 第18民事部 判決 ( 平成10年(ネ)第4264号、平成11年(ネ)第790号 )
事件名: 
要 旨
 1.カラオケボックスにおいて、日本音楽著作権協会が管理する著作物の無断利用(レーザーディスクカラオケの上映、通信カラオケまたはCDカラオケによる伴奏音楽の演奏)されたことを理由とする損害賠償請求・不当利得返還請求、および著作権法112条2項に基づく著作物使用差止請求、カラオケ関連機器の撤去請求が認容された事例。
 2.適法に録音された音楽の著作物の演奏の再生を当分の間自由とする著作権法付則14条の規定の適用が、カラオケボックスについて否定された事例。
 3.音楽著作物を利用したカラオケソフトの制作に関する著作物利用許諾が、カラオケボックスにおけるカラオケソフトの再生および顧客による歌唱についての許諾を含まないとされた事例。
 4.共同不法行為による著作権侵害を理由とする損害賠償請求権のうち消滅時効期間が完成した部分について請求が棄却され、これに代えて、不当利得の返還を共同不法行為者が連帯してなすことが命じられた事例。
 5.自白の撤回が許されなかった事例。 (知的財産権/無体財産権/著作権)
参照条文: /著作.22条/著作.26条2項/著作.112条2項/著作付則.14条/著作権仲介.2条/著作権仲介.3条/著作権仲介.4条/民法:709条/民法:719条/民法:703条/民法:704条/民訴.179条/
全 文 h110713tokyoH3.html

東京地方裁判所 平成 11年 7月 13日 民事第47部 判決 ( 平成11年(ワ)第1720号 )
事件名: 
要 旨
 商標権侵害を理由に、商標の実施料(商品販売価格の五%)に相当する3475円の損害賠償が請求され、被告が原告主張事実をすべて認めた事例。 (知的財産権/無体財産権/工業所有権/商標権)
参照条文: /商標.37条/商標.38条3項/
全 文 h110713tokyoD.html

東京地方裁判所 平成 11年 7月 12日 民事第29部 判決 ( 平成9年(ワ)第5200号 )
事件名:  著作権使用差止請求事件
要 旨
 図画が雇用関係に基づいて作成されたものであると認定され、著作権法15条1項の適用が肯定された事例。 /法人著作/職務著作/知的財産権/無体財産権/著作権/
参照条文: /著作.15条1項/民法:623条/
全 文 h110712tokyoD.html

大阪地方裁判所 平成 11年 7月 8日 第21民事部 判決 ( 平成9年(ワ)第3805号 )
事件名: 
要 旨
 1.被告が医薬品の包装箱等に使用した図柄が原告の著作物の二次著作物であると認定された事例。
 2.デザイン会社がデザインに関する著作権問題を解決することを条件にデザイン会社が作成した図柄を対価を支払って使用する者も、他人の著作権を侵害しないように自ら調査する注意義務を負い、その注意義務を果たしていないとして、著作権侵害を理由に損害賠償を命じられた事例。
 3.著作権法114条2項により賠償請求することのできる使用料を算定するに際して、包装箱に知名度の高い著作物を使用する場合には商品独自の顧客吸引力と著作物の顧客吸引力とが相俟って全体としての商品の価値を構成すると見るべきであるとの理由により、定率方式が採用された事例。 (知的財産権/無体財産権/著作権)
参照条文: /著作.28条/著作.21条/著作.11条/著作114条2項/
全 文 h110708osakaD.html

東京高等裁判所 平成 11年 7月 8日 第18民事部 判決 ( 平成10年(行ケ)第27号 )
事件名: 
要 旨
 回転衝撃を補償する装置に関する併合された発明の主要部の解釈に誤りがあるとして、拒絶審決が取り消された事例
 (昭和62年法律第27号による改正前の特許法38条ただし書)(知的財産権/無体財産権/工業所有権/特許権)
参照条文: /特許.37条/
全 文 h110708tokyoH.html

東京高等裁判所 平成 11年 6月 30日 第13民事部 判決 ( 平成10年(ネ)第5397号 )
事件名: 
要 旨
 称呼「エレマリーン」の登録商標を有する被告が要部称呼「エル」の標章を用いた場合に、登録商標の使用とは認められず、原告の著名な商標「ELLE」に類似するとして、その使用の差止請求が認められた事例。
 (知的財産権/無体財産権/工業所有権/商標権)
参照条文: /商標.36条/商標.37条/商標.25条/
全 文 h110630tokyoH.html

最高裁判所 平成 11年 6月 29日 第3小法廷 判決 ( 平成10年(オ)第2189号 )
事件名:  約束手形金請求・上告事件
要 旨
 1.
 上告理由としての理由不備とは、主文を導き出すための理由の全部又は一部が欠けていることをいうものであり、解除条件成就の抗弁を入れながら解除条件の成就作出の再抗弁について判断も加えないで請求を棄却したことは、これに該当しない。
 2.
 原審が解除条件成就の抗弁を入れながら解除条件の成就作出の再抗弁について判断も加えないで請求を棄却した場合に、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反があるとの理由で、原判決が職権で破棄された事例
参照条文: /民訴.325条2項/民訴312条2項6号/民法:130条/
全 文 h110629supreme.html

東京高等裁判所 平成 11年 6月 29日 第18民事部 判決 ( 平成11年(行ケ)第60号 )
事件名:  審決取消請求事件 <ばんどう太郎商標事件>
要 旨
 1
 商標法50条による商標登録取消原因である登録商標不使用の主張が認められなかった事例。
 2
 同一グループ内の2つの企業の間の取引が独立した会社間の取引であり、商品搬送に用いられた用具(プラスチックケース)に登録商標が付されていたことが商品の包装における商標の使用であると認められた事例。
 (知的財産権/無体財産権/工業所有権/商標権/ばんどう太郎)
参照条文: /商標.50条/商標.2条3項7号/
全 文 h110629tokyoH.html

東京地方裁判所 平成 11年 6月 29日 民事第46部 判決 ( 平成7年(ワ)第13557号 )
事件名: 
要 旨
 1.商品の形態は、商品の出所を表示することを目的として選択されるものではないが、特定の商品形態が同種の商品と識別し得る独自の特徴を有し、かつ、長期間継続的かつ独占的に使用されるか、又は短期間でも強力な宣伝等が伴って使用されたような場合には、結果として、商品の形態が商品の出所表示の機能を有するに至り、かつ、商品表示としての形態が需用者の間で周知になることがあり得、その場合には、右商品形態が、当該商品の技術的機能に由来する必然的・不可避的なものでない限り、不正競争防止法2条1項1号に規定する「他人の商品等表示として需用者の間に広く認識されているもの」に該当するものといえる。
 2.三宅一生がデザインした商品(婦人服)が、布地を裁断・縫製して衣服を成形した後に縦方向の細かい直線状のランダムプリーツを施すという独自の加工方法により特徴のある形態を有し、その形態が商品表示としての機能を有し、かつ、雑誌・新聞への掲載や各種の受賞により周知性を獲得していたして、不正競争防止法2条1項1号の適用が肯定された事例。
 3.被告商品が取引者ないし需要者において原告商品と誤認混同される虞がある理由として、商品形態の類似性のほかに、販売・陳列方法および販売価格の接近が指摘された事例。
 4.敗訴の共同被告に訴訟費用を連帯して負担することが命じられた例。 /知的財産権/無体財産権/不正競争/証拠収集のための販売要求/
参照条文: /不正競争.2条1項1号/民訴.61条/
全 文 h110629tokyoD.html

東京地方裁判所 平成 11年 6月 29日 民事第46部 判決 ( 平成8年(ワ)第5784号 )
事件名:  損害賠償請求事件<脇下用汗吸収パツド実用新案>
要 旨
 1.脇の下用汗吸収パツドについて、実用新案権の侵害を理由とする損害賠償請求が棄却された事例。
 2.「実用新案登録請求の範囲」及び「考案の詳細な説明」における縁部の彎曲の曲率に関する記載内容と考案の実施例を示す図面とが整合しないという点があるにしても、「実用新案登録請求の範囲」及び「考案の詳細な説明」における「曲率の小さな」という記載が「曲率半径の小さな」の明白な誤記であると認めることはできず、右の「曲率の小さな」という記載について、訂正審判を経ることなくこれを全く反対の「曲率半径の小さな」という意味に解釈することは、文言解釈の限界を超えるものとして、許されない。(事例)
 3.明細書の「実用新案登録請求の範囲」及び「考案の詳細な説明」中の「曲率の小さな」という記載を「曲率半径の小さな」と改める訂正を無効とする訂正無効審決が確定している場合に、実用新案権侵害訴訟において考案の技術的範囲を定めるに当たり、審決により無効とされた訂正を施したのと同一の結果となるような文言解釈をすることは、訂正審判制度の趣旨を没却するものとして許されない。
 4.実用新案登録出願において、出願人が、いったん考案の技術的範囲に属しないことを承認した場合に限らず、その内心の意思にかかわらず外形的にそのように解されるような行動をとった場合においても、実用新案権者が後にこれと反する主張をすることが許されず(禁反言の法理)、このことは均等の成立を妨げる特段の事情にあたる。(4a.特段の事情の存在が認められた事例) /知的財産権/無体財産権/工業所有権/実用新案権/均等論/
参照条文: /実用新案.14-2条/特許.126条/
全 文 h110629tokyoD3.html

東京地方裁判所 平成 11年 6月 25日 民事第29部 判決 ( 平成6年(ワ)第14599号 )
事件名:  著作権侵害差止等請求事件<絵画等著作権>
要 旨
 1.画家と画商との間の絵画取引に関する契約が売買契約ではなく、販売委託契約であると認定された事例。
 2.絵画を下にポストカードの製作による著作権侵害の成立が認められ、損害額として請求することのできる著作権使用料が販売額の10%とされた事例。
 (知的財産権/無体財産権/著作権契約の解釈)
参照条文: /著作.21条/著作.112条1項/著作.112条2項/著作.114条2項/民法:555条/民法:643条/
全 文 h110625tokyoD.html

東京地方裁判所 平成 11年 6月 25日 民事第29部 判決 ( 平成10年(ワ)第20088号 )
事件名: 
要 旨
 1.複製権、翻案権および同一性保持権の侵害が認められた事例。
 2.出版社は書籍を出版する際には第三者の著作権等を侵害していないか調査検討すべき義務があるのに、その義務を果たさなかったことにより他人の著作権・同一性保持権を侵害したと認められた事例。
 3.著作権侵害の損害賠償額として請求できる著作権使用料を販売価格の10%が相当であるとしつつ、書籍全体に占める侵害部分の割合を考慮して減額された事例。
 4.著作者人格権の侵害に対する名誉回復のための措置としての謝罪広告の請求が認められなかった事例。
 (知的財産権/無体財産権/著作権)
参照条文: /著作.21条/著作.27条/著作.20条/著作.114条2項/著作.115条/
全 文 h110625tokyoD2.html

最高裁判所 平成 11年 6月 24日 第1小法廷 判決 ( 平成8年(オ)第2292号 )
事件名:  遺留分減殺請求上告事件
要 旨
 遺留分減殺の対象となる贈与を受けた者が右贈与に基づき目的物の占有を継続し取得時効を援用したとしても、減殺請求をした遺留分権利者への目的物についての権利の帰属は妨げられない。
参照条文: /民法:162条/民法:144条/民法:1031条/民法:1030条/民法:1035条/民法:1042条/
全 文 h110624supreme.html

最高裁判所 平成 11年 6月 11日 第2小法廷 判決 ( 平成7年(オ)第1631号 )
事件名:  遺言無効確認請求上告事件
要 旨
 遺言者の死亡前に提起された遺言無効確認の訴えは、遺言者が心神喪失の常況にあって、遺言者による当該遺言の取消し又は変更の可能性が事実上ないとしても、不適法である。 /訴えの利益/確認の利益/訴えの客観的利益/将来の法律関係の確認請求/過去の法律関係の確認請求/
参照条文: /民訴.134条/民訴.140条/民法:985条/民法:960条/民法:1022条/
全 文 h110611supreme.html

最高裁判所 平成 11年 6月 11日 第2小法廷 判決 ( 平成10年(オ)第1077号 )
事件名: 
要 旨: 遺産分割協議は、詐害行為取消権行使の対象となる。
参照条文: /民法:424条/民法:907条/
全 文 h110611supreme2.html

最高裁判所 平成 11年 6月 10日 第1小法廷 判決 ( 平成8年(行ツ)第54号 )
事件名:  課税処分取消請求事件
要 旨
 1.相続財産に属する特定の財産を計算の基礎としない相続税の期限内申告書が提出された後に当該財産を計算の基礎とする修正申告書が提出された場合において、当該財産が相続財産に属さないか又は属する可能性が小さいことを客観的に裏付けるに足りる事実を認識して期限内申告書を提出したことを納税者が主張立証したときは、国税通則法65条4項にいう「正当な理由」があるものとして、同項の規定が適用されるものと解すべきである。
 1a.「正当な理由」があったとは認められなかった事例。
参照条文: /国税通則.65条5項/
全 文 h110610supreme.html

東京高等裁判所 平成 11年 6月 8日 第18民事部 判決 ( 平成11年(行ケ)第57号 )
事件名: 
要 旨: 取り出し穴あけ楊枝ケースの実用新案登録出願について、手続補正が出願当初の明細書の要旨を変更するものである判断された事例。 (知的財産権/無体財産権/工業所有権/実用新案権)
参照条文: /実用新案.13条/特許.53条1項/
全 文 h110713tokyoH2.html

大阪地方裁判所 平成 11年 5月 27日 第21民事部 判決 ( 平成8年(ワ)第12220号 )
事件名:  特許権侵害に基づく販売差止等請求事件<ペン型注射器等特許均等論>
要 旨
 1.敏感な薬剤を調製するために、多室シリンダアンプルとこれを内部に収納する相互にねじ込み可能な2つの管状部材により静かにゆっくりと注射液を調製する方法の発明と、それを実施する装置の発明について特許権を有する原告が、同じ機能を有する装置を製造・販売する被告に対して、その製造・販売の禁止等を請求した場合に、被告物件が原告の装置発明の技術的範囲には属せず、均等要件も充足しないが、被告の薬剤調製方法は、原告の方法発明と均等の範囲にあり、被告物件はその方法にのみ使用される物であるとして、請求が認容された事例。
 2.均等成立要件のうち、非本質性、置換可能性、置換容易性については均等を主張する者が証明責任を負い、製品・方法の容易推考性と意識的除外については成立を否定する者が証明責任を負う。
 3.多項制が採用されている現行特許法の下で、ある請求項で上位概念で構成を記載した発明を出願し、他の請求項で当該上位概念を具体化した構成で記載した発明が出願された場合に、上位概念で構成を記載した発明について、当該上位概念が他の請求項で記載された具体的構成に限定されると解する必要はない。
 4.被告装置を用いた注射液の調製方法と原告の方法発明との差異が、注射液を調製する際にほぼ垂直に保持して行うか、水平に近い斜め状態に保持して行うかの点であるにすぎない場合に、「ほぼ垂直に保持された状態で」との要件が、拒絶理由通知に対する出願人の手続補正により付加された場合に、この要件は、注射液を調製する際に空気の混入を防ぐようにするという趣旨のものであり、拒絶理由通知における特許拒絶理由を回避するために付加された要件ではないとして、均等の成立が認められた事例。
 5.特許方法又は当該特許方法と均等の範囲にある方法の実施にのみ使用する物の製造、販売等は、直接特許権を侵害する場合と同じく特許権の効力を及ばしめるものとするのが特許法101条の趣旨に適合するから、特許方法と均等の範囲にある方法の実施にのみ使用される物を製造、販売する行為を間接侵害に含ましめないとする根拠はなく、間接侵害の場合には均等の適用について厳格に解すべきであると主張は採用することができない。 /知的財産権/無体財産権/工業所有権/特許権/均等論/
参照条文: /特許.101条2号/特許.70条/特許.36条5項/
全 文 h110527osakaD.html

東京地方裁判所 平成 11年 5月 27日 民事第46部 判決 ( 平成10年(ワ)第22568号 )
事件名:  著作権侵害差止請求権不存在確認請求事件<テレビゲームソフト>
要 旨
 1.家庭用テレビゲーム機用のロールプレイングゲームソフトが映画の著作物にあたらないとの理由により、頒布権に基づく差止請求権不存在確認請求が認容された事例。
 2.「映画の著作物」に関する著作権法の規定が、いずれも、劇場用映画の利用について映画製作者による配給制度を通じての円滑な権利行使を可能とすることを企図して設けられたものであることを併せ考えると、著作権法は、多数の映画館での上映を通じて多数の観客に対して思想・感情の表現としての同一の視聴覚的効果を与えることが可能であるという、劇場用映画の特徴を備えた著作物を、「映画の著作物」として想定しているものと解するのが相当である。
 3.著作権法上の「映画の著作物」といい得るためには、(1)当該著作物が、一定の内容の影像を選択し、これを一定の順序で組み合わせることにより思想・感情を表現するものであって、(2)当該著作物ないしその複製物を用いることにより、同一の連続影像が常に再現される(常に同一内容の影像が同一の順序によりもたらされる)ものであることを要する。
 4.およそゲームソフトは、劇場用映画のようにあらかじめ決定された一定内容の連続影像と音声的効果を視聴者が所与のものとして一方的に受働的に受け取ることに終始するものではなく、プレイヤーがゲーム機の操作を通じて画面上に表示される影像を自ら選択し、その順序を決定することにより、連続影像と音声的効果を能動的に変化させていくことを本質的な特徴とするものであって、このような能動的な利用方法のため、プレイヤー個々人がそれぞれのゲーム機を操作して個別の画面上にそれぞれ異なった影像を表示するという形態で利用されるものであり、多数人が同一の影像を一度に鑑賞するという利用形態には本質的になじまないものである。(したがって、映画の著作物にはあたらない。) (知的財産権/無体財産権/著作権)
参照条文: /著作.2条1項19号/著作.2条3項/著作.10条1項7号/著作.26条/著作.112条/
全 文 h110527tokyoD.html

最高裁判所 平成 11年 5月 17日 第2小法廷 決定 ( 平成10年(許)第2号 )
事件名:  債権差押命令に対する執行抗告棄却決定に対する許可抗告事件
要 旨
 動産譲渡担保権に基づく物上代位権の行使としての差押えは、譲渡担保権設定者の破産後でもできる、とされた事例
参照条文: /民法:304条1項/民執.193条/
全 文 h110517supreme.html

最高裁判所 平成 11年 4月 27日 第3小法廷 判決 ( 平成9年(オ)第2037号 )
事件名:  求償金請求事件上告事件
要 旨
 1
 不動産競売手続において執行力のある債務名義の正本を有する債権者がする配当要求は、差押え(民法147条2号)に準ずるものとして、配当要求に係る債権につき消滅時効を中断する効力を生ずる。
 2
 右の配当要求によって生じた時効中断の効力は、不動産競売手続が申立債権者の追加手続費用の不納付を理由に取り消された場合でも、取消決定が確定する時まで継続する。 /時効中断事由の終了時点/
参照条文: /民法:147条2号/民法:154条/民法:157条/民執.51条/
全 文 h110427supreme.html

大阪高等裁判所 平成 11年 4月 27日 第8民事部 判決 ( 平成9年(ネ)第3587号 )
事件名:  損害賠償等請求控訴事件<ときめきメモリアル同一性保持権>
要 旨
 コンピュータ用ゲームソフト「ときめきメモリアル」の著作者が、主人公の能力値を制作者の意図に反して予め高く設定したメモリーカードを輸入し、他人の使用を意図して流通に置いた者に対し、同一性保持権の侵害が生じたことを理由に、損害賠償を請求し、認容された事例。
 1.ゲームソフトが、「映画の著作物」にも「プログラムの著作物」にも該当するとともに、両者が相関連して「ゲーム映像」とでもいうべき複合的な性格の著作物を形成していると認められた事例。
 2.本件ゲームソフトにおける「ゲームバランス」それ自体は、ゲームのアイデアであって、著作物として保護されるべき思想又は感情の創作的表現は、工夫された「ゲームバランス」に従って具体的にモニター画面に展開される(多数ではあるけれども限定的に設定された)ストーリー(バーチャルな恋愛模様の表現)とその影像にある。
 3.ゲームソフトのキャラクターの特性データ(初期値およびデータおよびゲーム操作の結果加減され蓄積されるセーブデータ)は、本件ゲームソフトの本質的構成部分となっているもので、これを改変し無力化することは、それによる表現内容の変容をもたらし、著作物としての同一性保持権の侵害となる。
 4.キャラクターの特性データを改変したメモリーカードを使用してゲームソフトのプログラムを実行することは、著作物の同一性保持権の侵害にあたり、そのようなメモリーカードをプレイヤーに提供する目的で制作した者は、プレイヤーを介し本件著作物の同一性保持権を侵害するものということができる。
 5.キャラクターの特性データを改変するメモリーカードの輸入、販売をした者も著作権法113条1項1号・2号より同一性保持権侵害の責任を免れない。 /知的財産権/無体財産権/著作権/恋愛シュミレーションゲーム/
参照条文: /著作.20条/著作.113条/著作.2条1項10-2号/著作.2条3項/著作.2条1項1号/民法:709条/
全 文 h110427osakaH.html

最高裁判所 平成 11年 4月 26日 第1小法廷判決 判決 ( 平成11年(オ)第133号、同年(受)第116号 )
事件名:  人身保護請求・上告事件
要 旨
 夫婦の一方から他方に対する人身保護法に基づく幼児の引渡請求を認めるべきものとされた事例 /離婚/調停/子の養育・監護/
参照条文: /人身保護法:2条/人身保護規則:4条/
全 文 h110426supreme.html

最高裁判所 平成 11年 4月 23日 第2小法廷 決定 ( 平成10年(受)第644号、同年(オ)第2177号 )
事件名:  不当利得金返還等請求上告受理、同附帯上告事件
要 旨
 上告受理の申立てに対して附帯上告を提起し、又は上告に対して附帯上告受理の申立てをすることはできない。
参照条文: /民訴.315条/民訴.313条/民訴.293条/
全 文 h110423supreme.html

最高裁判所 平成 11年 4月 22日 第1小法廷 判決 ( 平成9年(行ツ)第165号 )
事件名:  損害賠償請求事件
要 旨
 1
 地方自治法242条の2第1項4号所定の「当該職員」に対する訴えにおいて被告とすべき「当該職員」を誤ったときと行政事件訴訟法15条の準用(積極)
 2
 地方自治法242条の2第1項4号所定の「当該職員」に対する訴えにおいて被告の変更がされた場合、従前の被告に対する訴えの提起は新たな被告に対する時効中断事由に該当しない
 (正当な当事者/当事者適格/住民訴訟)
参照条文: /地自.242-2条1項4号/行訴.15/民訴.147条/民法:148条/民法:434条/
全 文 h110422supreme.html

最高裁判所 平成 11年 4月 22日 第1小法廷 判決 ( 平成9年(オ)第1104号 )
事件名: 
要 旨: 共有に係る土地及び借地権につき全面的価格賠償の方法により分割することが許された事例(補足意見あり)
 (共有物分割/準共有物分割/処分権主義/非訟事件/引換給付判決)
参照条文: /民法:258条1項/
全 文 h110422supreme2.html

最高裁判所 平成 11年 4月 22日 第1小法廷 判決 ( 平成7年(オ)第160号 )
事件名: 
要 旨
 甲乙が自動二輪車に乗車中の交通事故により死亡した甲の両親が、捜査機関の認定に反して乙が運転者であったと主張して乙に対してした損害賠償請求訴訟の提起が違法とはいえないとされた事例
 (不当提訴を理由とする賠償請求)
参照条文: /民法:709条/民訴./
全 文 h110422supreme3.html

最高裁判所 平成 11年 4月 22日 第1小法廷 判決 ( 平成8年(オ)第999号 )
事件名:  配当異議上告事件
要 旨
 1.同一の不動産競売事件について、不動産が順次売却されてその都度配当がされ、先行する配当手続で国税及び地方税等と私債権とが競合したことから国税徴収法26条の規定による調整が行われた場合において、私債権に優先するものとして国税及び地方税等に充てるべき金額の総額を決定するために用いられながら、国税、地方税等相互間では劣後するため、現実には配当を受けることができなかった国税、地方税等は、後行の配当手続においても、再び私債権に優先するものとして取り扱われることを妨げられない。 /租税優先の原則/
参照条文: /税徴.26条/地方税.14条/
全 文 h110422supreme4.html

最高裁判所 平成 11年 4月 22日 第1小法廷 判決 ( 平成7年(オ)第160号 )
事件名:  損害賠償請求本訴、損害賠償請求反訴・上告事件
要 旨
 AとYが自動二輪車に乗車中の交通事故によりAが死亡した場合に、捜査機関はAが運転者であったと認定したが、これと異なる目撃者の証言もあったため、Aの両親が運転者はYであったと主張してYに対して損害賠償請求訴訟を提起したことが不法行為にあたらないとされた事例。
 1.法的紛争の当事者が紛争の解決を求めて訴えを提起することは、原則として正当な行為であり、訴えの提起が相手方に対する違法な行為といえるのは、当該訴訟において提訴者の主張した権利又は法律関係が事実的、法律的根拠を欠くものである上、提訴者が、そのことを知りながら又は通常人であれば容易にそのことを知り得たといえるのにあえて訴えを提起したなど、訴えの提起が裁判制度の趣旨目的に照らして著しく相当性を欠くと認められるときに限られるものと解するのが相当である。 /不当提訴/
参照条文: /民法:709条/民事訴訟法:2条;133条/憲法:32条/
全 文 h110422supreme3.html

最高裁判所 平成 11年 4月 16日 第2小法廷 判決 ( 平成10年(受)第153号 )
事件名:  医薬品販売差止請求事件
要 旨
 いわゆる後発医薬品について薬事法14条所定の承認申請をするため、当該医薬品を生産し、必要な試験を行うことは、特許権を侵害しない。 (知的財産権/無体財産権/工業所有権/特許権)
参照条文: /民法:709条/特許.69条1項/薬事.14条/
全 文 h110416supreme2.html

最高裁判所 平成 11年 4月 16日 第2小法廷 判決 ( 平成8年(オ)第2358号、第2359号 )
事件名:  損害賠償請求上告、同附帯上告事件
要 旨
 執行停止のための担保提供の方法として、執行停止の申立人以外の第三者により支払保証委託契約が締結された場合に、担保権行使のために当該第三者を被告として提起された訴えが、訴えの利益を欠き不適法であるとして、却下された事例。
 1.第三者が支払保証委託契約を締結する方法によって立てた担保に対して権利行使をするための確定判決等は担保提供義務者を当事者とするものであることを要する。 /確認の利益/訴えの客観的利益/当事者適格/
参照条文: /民訴.76条/民訴規.29条/民調規.6条4項/民訴.2編1章/
全 文 h110416supreme3.html

最高裁判所 平成 11年 4月 16日 第2小法廷 決定 ( 平成10年(許)第8号 )
事件名:  破産申立却下決定に対する抗告棄却決定に対する許可抗告事件
要 旨
 債権質の設定者は、質権者の同意があるなどの特段の事情のない限り、質権の目的とされた債権に基づき当該債権の債務者に対して破産の申立てをすることはできない。
参照条文: /民法:366条/破産.18条1項/破産.100条1項/会社.471条5号/
全 文 h110416supreme.html

東京地方裁判所 平成 11年 4月 16日 民事第29部 判決 ( 平成7年(ワ)第3841号 )
事件名:  補償金請求事件
要 旨
 オリンパス光学工業株式会社においてビデオディスク装置の研究開発に従事して「ピックアップ装置」の発明をした従業員が特許法35条の規定により特許を受ける権利を取得した被告に対して,同条の定める相当な対価と既払いの報酬との差額の支払を請求し,一部認容された事例。
 1.職務発明につき、使用者たる会社の貢献度が95%と評価された事例。
 2.特許法35条が、職務発明に係る特許権等の譲渡の対価は、発明により使用者等が受けるべき利益の額及び使用者が貢献した程度を考慮して定めるべきことを規定した趣旨に照らすならば、勤務規則等に発明についての報償の規定があっても、当該報償額が法の定める相当対価の額に満たないものであれば、発明者は、使用者等に対し、不足額を請求できる。
 3.職務発明に対する特許法35条所定の相当対価請求権について、算定の基礎となる工業所有権収入の額が明らかでない時点では、権利行使を現実に期待し得ないから、消滅時効時効期間はまだ進行を開始しないとされた事例。 /知的財産権/無体財産権/工業所有権/特許権/
参照条文: /特許.35条/民法:166条/
全 文 h110416tokyoD.html

最高裁判所 平成 11年 4月 8日 第1小法廷 決定 ( 平成10年(受)第475号、第476号 )
事件名:  損害賠償請求・上告受理申立て事件
要 旨
 上告受理の申立てに対して附帯上告受理の申立てがされた場合において、上告受理の申立てにつき事件を上告審として受理しない旨の決定がされたときは、同法318条5項、313条、293条2項により、附帯上告受理の申立ては、それが上告受理の申立ての要件を備えるものでない限り、その効力を失う。
参照条文: /民事訴訟法:318条5項;313条;293条2項/
全 文 h110408supreme.html

東京高等裁判所 平成 11年 3月 31日 第3民事部 判決 ( 平成10年(行コ)第77号 )
事件名:  損害賠償等請求控訴事件
要 旨
 商工会議所に派遣された茅ヶ崎市の職員に対する給与支出について,住民代表訴訟が提起され、商工会議所に対する不当利得返還請求と市長に対する損害賠償請求が認容された事例。(市長に対する請求につき、上告審で破棄・請求棄却)
 1.商工会議所に派遣された市職員について職務専念義務免除と不勤務承認がなされ、市が派遣職員に給与を支払った場合に、派遣先である商工会議所の業務内容と市の商工業振興策とは重要な部分において必ずしも一致するとは限らず、不一致が生じた場合にそれを派遣職員が解消し得るとは必ずしも期待できず、派遣職員の会議所での具体的な職務内容が、茅ヶ崎市の企画する商工業振興策とは直接的には関連性のない会議所の内部的事務を中心とするものであったから、市長のした免除及び承認は、市の商工業振興という行政目的達成のためにする公益上の必要性があったとは認め難く、地方公務員法24条1項、30条及び35条の趣旨に反する違法なものであると判断された事例。
 2.商工会議所に派遣された市職員についてなされた職務専念義務免除及び不勤務承認並びに給与支出に存する違法事由が地方公務員の服務や給与の根本基準といった地方公務員法の根幹にかかわる重大なものである上、市で勤務しない者に給与を支払うという点で一般常識にも反する不自然なものであるから、通常人でもその違法性を容易に理解できるものであって、市の支出に責任を負うべき市長としては当然に本件給与支出の違法性を認識すべきであったというべきであるから、少なくとも違法な支出をするに当たり市長に過失があったと認められた事例。
参照条文: /地公.30条/地公.35条/地公.24条1項/茅ヶ崎市職員の職務に専念する義務の特例に関する条例/茅ヶ崎市一般職員の給与に関する条例/
全 文 h110331tokyoH.html

最高裁判所 平成 11年 3月 25日 第1小法廷 判決 ( 平成6年(オ)第715号 )
事件名: 
要 旨
 宗教団体等を批判する記事が週刊誌等に掲載された場合において、出版社等は、信者個々人に対し、心の静穏を乱したことを理由として不法行為責任を負わないとされた事例
参照条文: /民法:709条/憲.20条/憲.21条/
全 文 h110325supreme3.html

最高裁判所 平成 11年 3月 25日 第1小法廷 判決 ( 平成7年(オ)第1705号 )
事件名:  保証金返還債務確認請求・上告事件
要 旨
 建物所有者である賃貸人Aが、建物(地下2階付10階建ビル)を不動産小口化商品として39名の共有持分権者Bらに売却し、Bらが信託銀行Cに信託譲渡し、Cがリース会社Dに賃貸し、DがAに転貸し、Aからビルの一部を賃借していた賃借人Eとの関係においてAが賃貸人の地位を留保する旨が、Eの関与しない契約において合意されて実行されたが、その後Aが破産した場合に、これらの契約を知ったEがAに差し入れた敷金の性質を有する保証金の返還をCに求める訴えを提起し、請求が認容された事例。
 1.自己の所有建物を他に賃貸して引き渡した者が右建物を第三者に譲渡して所有権を移転した場合には、特段の事情のない限り、賃貸人の地位もこれに伴って当然に右第三者に移転し、賃借人から交付されていた敷金に関する権利義務関係も右第三者に承継される。(先例の確認)
 1a.この場合に、新旧所有者間において、従前からの賃貸借契約における賃貸人の地位を旧所有者に留保する旨を合意したとしても、これをもって直ちに前記特段の事情があるものということはできない。
 1b.新所有者が無資力となった場合などに旧所有者に対して敷金返還債務の履行を請求することができるかどうかは、右の賃貸人の地位の移転とは別に検討されるべき問題である。
参照条文: /借地借家.31条/民法:605条/
全 文 h110325supreme2.html

最高裁判所 平成 11年 3月 25日 第1小法廷 判決 ( 平成10年(オ)第1183号 )
事件名:  株主総会決議不存在確認等請求事件
要 旨
 1.取締役選任のための株主総会決議が存在しない場合に、その総会で選任されたと称する取締役によって構成される取締役会の招集決定に基づき右取締役会で選任された代表取締役が招集した後の株主総会において新たに取締役を選任する決議がされたとしても、その決議は、特段の事情がない限り、法律上存在しないものであり、この瑕疵が継続する限り、以後の株主総会において新たに取締役を選任することはできない。このことは、後にされた決議が監査役を選任するものであっても、同様である。(前提の議論)
 2.要旨1記載のような事情の下では、先行決議の不存在確認を求める訴えに後行決議の不存在確認を求める訴えが併合されているときは、後者について確認の利益があることはもとより、前者についても、民訴法145条1項の法意に照らし、当然に確認の利益が存するものとして、決議の存否の判断に既判力を及ぼし、紛争の根源を絶つことができるものと解すべきである。(主要な判旨)
 3.株主総会決議不存在確認訴訟において、訴えの利益の有無の判断に必要な事実について弁論主義の適用を認めた事例。(黙示的)
 4.訴え却下判決に対して原告が上告した場合に、上告審が訴えを適法と認めて請求を棄却すべきものと判断したが、不利益変更禁止の法理を適用して、上告棄却にとどめた事例。
 (訴えの利益/訴えの客観的利益)
参照条文: /民訴.145条/民訴.326条/民訴.304条/民訴.313条/商.252条/民訴.2編1章/
全 文 h110325supreme.html

最高裁判所 平成 11年 3月 24日 大法廷 判決 ( 平成5年(オ)第1189号 )
事件名:  損害賠償請求上告事件
要 旨
 1.刑訴法39条3項本文の規定は、憲法34条前段、37条3項、38条1項に違反しない。
 2.判決主文として「上告理由第二点の論旨は理由がない」と書かれた事例。 /弁護人の接見交通権/弁護人依頼権/捜査権/勾留中の被疑者の権利/
参照条文: /刑訴.39条/憲.34条/憲.37条/憲.38条/
全 文 h110324supreme.html

最高裁判所 平成 11年 3月 23日 第3小法廷 判決 ( 平成8年(オ)第609号 )
事件名: 
要 旨
 脳神経減圧手術の後間もなく発生した脳内血腫等により患者が死亡した事案につき脳内血腫等の原因が右手術にあることを否定した原審の認定判断が違法とされた事例
参照条文: /民訴.247条/民訴.321条/民法:709条/
全 文 h110323supreme.html

東京高等裁判所 平成 11年 3月 18日 第18民事部 判決 ( 平成7年(ネ)第3344号 )
事件名:  著作者人格権侵害差止請求控訴事件<三國志 III 事件>
要 旨
 1.「三國志 III 」と題するパーソナルコンピューター用シミュレーションゲームの登場人物の能力値設定ファイルに著作者の予定した範囲外の値を入力するプログラムを製作・頒布する行為が著作者人格権(同一性保持権)および著作権(翻案権)の侵害にあたらないとされた事例。
 2.ゲーム展開を処理するプログラムの改変禁止範囲の限界(同一性保持権で保護されるべき範囲)について、著作権者の意向が、ユーザーに対して明確かつ絶対的なものとしては伝えられておらず、登場人物の能力値を入力するのに著作権者所定の登録プログラムを用いるか、それでは入力できない能力値を入力するために他のプログラムを用いるかは、ユーザーの自由になし得る範囲のものであったと判断された事例。
 3.パーソナルコンピューター用シミュレーションゲームが、静止画像が圧倒的に多い等の理由により、映画の著作物に該当しないとされた事例。
 4.著作権法にゲームの著作物そのものを定義づける規定はないので、本件著作物につき、ゲームの著作物であるとして著作権侵害行為の有無を判断することはできない。
 5.プログラムの改変に関する被告の主張が事実関係の主張というより法的主張であり、原告が控訴審になってからそれを争うことにしても自白の撤回にあたらないとされた事例。
 6.訴えの追加的変更が訴訟手続を著しく遅滞させるものではないので適法であるされた事例(新請求棄却)。 /知的財産権/無体財産権/著作権/ゲームソフト/
参照条文: /著作.2条1項1号/著作.2条1項10-2号/著作.2条3項/著作.10条1項7号/著作.10条1項9号/著作.20条/著作.27条/著作.47-2条/著作.112条/民訴.143条/民訴.179条/
全 文 h110318tokyoH.html

最高裁判所 平成 11年 3月 12日 第1小法廷 決定 ( 平成10年(ク)第699号 )
事件名: 
要 旨
 高等裁判所のした保全抗告についての決定は許可抗告の対象となる
参照条文: /民訴.337条/
全 文 h110312supreme.html

最高裁判所 平成 11年 3月 11日 第1小法廷 判決 ( 平成10年(オ)第1465号 )
事件名: 
要 旨
 分割払による貸金の返済期日が「毎月X日」と定められた場合にX日が休日に当たるときの返済期日の解釈と貸金業法17条の書面に記載すべき「各回の返済期日」
参照条文: /貸金.17条/貸金.43条/
全 文 h110311supreme.html

東京高等裁判所 平成 11年 3月 10日 10第6民事部 判決 ( 平成8年(ネ)第4844号 )
事件名:  損害賠償等請求控訴事件
要 旨
 1.江差追分に関するノンフィクション「北の波濤に唄う」と題する書籍の著作者である原告が,「ほっかいどうスペシャル・遥かなるユーラシアの歌声―江差追分のルーツを求めて―」と題するテレビ番組を製作・放送した日本放送協会等に対して,放送のナレーション部分が原告の著作物の翻案であると主張が認められ,氏名表示権、翻案権、放送権の侵害を理由とする損害賠償等を請求が認容された事例。
 2.小説「ブタベスト悲歌」によってその著作者が得たと考えられる社会的評価(追分節の起源はユーラシア大陸の深奥部に求められることを初めて提唱した者としての評価)が、追分節の起源に関する学術的知識に照らし、特に、控訴人の社会的評価として確立しているものとは認められないとして、テレビ番組によりその社会的評価が侵害されたことを理由とする損害賠償請求が認められなかった事例。 /知的財産権/無体財産権/著作権/間接的名誉毀損/
参照条文: /著作.27条/著作.2条1項1号/民法:709条/
全 文 h110310tokyoH.html

名古屋地方裁判所 平成 11年 3月 10日 民事第9部 判決 ( 平成9年(ワ)第163号・平成9年(ワ)第3699号 )
事件名:  製造販売行為差止等本訴請求事件・同反訴請求事件 <合成樹脂製竹パネル特許等>
要 旨
 1.特許権について、均等の要件の一つである置換可能性が否定され、特許権侵害と認められなかった事例。
 2.実用新案権に基づく差止請求が認められた事例。
 3.実用新案権侵害訴訟において、公知例として意匠公報掲載の意匠を援用して当業者が容易になしえた考案であるとの主張がなされたが、認められなかった事例。
 4.実用新案権の侵害による損害賠償訴訟において、実用新案権の実施料相当額として売上高の3%が認められた事例。 知的財産権/無体財産権/工業所有権/実用新案権/合成樹脂製竹パネル/技術的範囲/仮保護の権利/均等論/
参照条文: /実用新案.27条1項/実用新案.27条2項/実用新案.29条2項/実用新案.29条3項/
全 文 h110310nagoyaD.html

最高裁判所 平成 11年 3月 9日 第1小法廷 決定 ( 平成11年(許)第8号 )
事件名:  上告受理申立て却下決定に対する許可抗告事件
要 旨
 上告受理の申立てに係る事件が318条1項の事件に当たるか否かは、上告裁判所である最高裁判所のみが判断し得る事項であり、原裁判所は、事件が同項の事件に当たらないことを理由として、同条5項、同法316条1項により、決定で上告受理の申立てを却下することはできない。
参照条文: /民訴.318条/民訴.316条/
全 文 h110309supreme3.html

最高裁判所 平成 11年 3月 9日 第3小法廷 判決 ( 平成7年(行ツ)第204号 )
事件名:  審決取消請求・上告事件
要 旨
 無効審決の取消しを求める訴訟の係属中に当該特許権について特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正審決が確定した場合には、当該無効審決を取り消さなければならない。
参照条文: /特許.123条/特許.126条/特許.129条/
全 文 h110309supreme5.html

最高裁判所 平成 11年 3月 9日 第3小法廷 判決 ( 平成9年(オ)第953号 )
事件名: 
要 旨
 被相続人の生存中に相続人に対し売買を原因としてされた所有権移転登記について、被相続人の死亡後に、相続を原因とするものに改める更正登記手続をすることはできない
参照条文: /民法:177条/不登.146条/
全 文 h110309supreme4.html

最高裁判所 平成 11年 3月 9日 第3小法廷 判決 ( 平成10年(オ)第1318号 )
事件名:  和議債権請求上告事件
要 旨
 和議債権者は、和議認可決定の確定により和議債権が変更された後も、右変更前の和議債権を自働債権として右確定前に相殺適状にあった受働債権と相殺することができる。(判例変更)
参照条文: /和議.5条/破産.98条/和議.57条/破産.326条/民法:505条/
全 文 h110309supreme.html

最高裁判所 平成 11年 3月 9日 第3小法廷 決定 ( 平成10年(ク)第646号 )
事件名:  上告却下決定に対する特別抗告事件
要 旨
 上告の理由が明らかに民訴法312条1項及び2項に規定する事由に該当しない上告も、上告裁判所である最高裁判所が民訴法317条2項によって決定で棄却することができるにとどまり、原裁判所又は上告裁判所が民訴法316条1項又は317条1項によって却下することはできない。
参照条文: /民訴.312条/民訴.316条/民訴.317条/
全 文 h110309supreme2.html

最高裁判所 平成 11年 2月 26日 第2小法 判決 ( 平成7年(行ツ)第66号 )
事件名:  発信不許可処分取消等請求上告事件
要 旨
 死刑確定者の信書の発送を拘置所長が監獄法46条1項に基づいて不許可とした処分について、裁量権を逸脱した違法はないとされた事例。 /表現の自由/
参照条文: /監獄.46条/監獄.50条/
全 文 h110226supreme3.html

最高裁判所 平成 11年 2月 26日 第2小法廷 判決 ( 平成9年(オ)第104号 )
事件名:  境界確定等請求本訴、同反訴上告事件
要 旨
 1.甲地のうち乙地との境界の全部に接続する部分を譲り受けた乙地所有者と残部分を譲り受けた者との間で甲乙両地の境界について争いがあり、これを確定することによって初めて各自が取得した土地の範囲の特定が可能になるという場合に、両者がこの境界確定の訴えの当事者適格を有するとされた事例。
 2.境界確定の訴えは、公簿上特定の地番により表示される甲乙両地が相隣接する場合において、その境界が不明なため争いがあるときに、裁判によってその境界を定めることを求める訴えであって、相隣接する甲乙両地の各所有者が、境界を確定するについて最も密接な利害を有する者として、その訴えの当事者適格を有する。(前提となる一般論)
 3.甲地の所有者が、甲地のうち境界の全部に接続する部分を乙地の所有者Aに譲渡し、甲地の残余の部分をBに譲渡したが、甲地の分筆登記がされず、甲地の全部についてBに対する所有権移転登記が経由された場合も、甲乙両地の境界を確定することによって初めてA及びBが譲り受けた各土地の範囲が特定されるのであるから、A及びBは、各所有する土地が相隣接し、甲乙両地の境界を確定するについて最も密接な利害を有する者として、甲乙両地の境界確定の訴えの当事者適格を有する。 /境界確定訴訟/
参照条文: /民訴.2編1章/民訴.1編3章/
全 文 h110226supreme2.html

最高裁判所 平成 11年 2月 26日 第2小法廷 判決 ( 平成7年(オ)第690号 )
事件名:  家屋明渡請求上告事件
要 旨
 譲渡担保権者から目的物を譲り受けた第三者は、譲渡担保権者に対する清算金支払請求権を被担保債権とする留置権を主張して明渡しを拒む譲渡担保権設定者に対し、右請求権の消滅時効を援用することができる。 /時効援用権者/
参照条文: /民法:145条/民法:295条/民法:300条/民法:167条/
全 文 h110226supreme.html

最高裁判所 平成 11年 2月 25日 第1小法廷 判決 ( 平成8年(オ)第2043号 )
事件名:  損害賠償請求・上告事件
要 旨
 肝硬変に罹患した患者が肝細胞癌により死亡した場合に、診療を行った医師(肝臓病の専門医)が当時の医療水準に応じた注意義務に従って肝細胞癌を早期に発見すべく適切な検査を行っていたならば、遅くとも患者の死亡の約6箇月前の時点で外科的切除術の実施も可能な程度の肝細胞癌を発見し得たと見られ、手術により患者が死亡時点でもなお生存していたであろうことを是認し得る高度の蓋然性が認められるときは、医師の注意義務違反(肝細胞癌の早期発見のために適切な検査を行う義務の違反)と、患者の死亡との間には因果関係が存在するというべきであるとされた事例。
 1.訴訟上の因果関係の立証は、一点の疑義も許されない自然科学的証明ではなく、経験則に照らして全証拠を総合検討し、特定の事実が特定の結果発生を招来した関係を是認し得る高度の蓋然性を証明することであり、その判定は、通常人が疑いを差し挟まない程度に真実性の確信を持ち得るものであることを必要とし、かつ、それで足りるものである。(先例の確認)
 1a.医師が注意義務を尽くして診療行為を行っていたならば患者がその死亡の時点においてなお生存していたであろうことを是認し得る高度の蓋然性が証明されれば、医師の右不作為と患者の死亡との間の因果関係は肯定されるものと解すべきである。
 1b. 患者が右時点の後いかほどの期間生存し得たかは、主に得べかりし利益その他の損害の額の算定に当たって考慮されるべき事由であり、前記因果関係の存否に関する判断を直ちに左右するものではない。 /事実認定/自由心証主義/証明度/因果関係の証明/
参照条文: /民法:709条/民事訴訟法:247条;321条/
全 文 h110225supreme2.html

最高裁判所 平成 11年 2月 25日 第1小法廷 判決 ( 平成10年(オ)第513号 )
事件名: 
要 旨
 契約締結後約38年8箇月を経過した木造建物所有目的の土地の使用貸借につき使用収益をするのに足りるべき期間の経過を否定した原審の判断に違法があるとされた事例
参照条文: /民法:597条/
全 文 h110225supreme.html

最高裁判所 平成 11年 2月 23日 第3小法廷 判決 ( 平成7年(オ)第1747号 )
事件名: 
要 旨
 やむを得ない事由があっても任意の脱退を許さない旨の組合契約における約定は無効である
参照条文: /民法:678条/
全 文 h110223supreme2.html

最高裁判所 平成 11年 2月 23日 第3小法廷 判決 ( 平成8年(行ツ)第26号 )
事件名:  輸入禁制品該当通知処分取消等請求上告事件
要 旨
 ホイットニー美術館で開催された写真家ロバート・メイプルソープの回顧展のカタログである輸入写真集が性器そのものを強調し、性器の描写に重きが置かれているとみざるを得ない写真を含んでおり、平成6年改正前の関税定率法21条1項3号(現4号)の「風俗を害すべき書籍、図画」として輸入禁制品に該当し、税関長のその旨の通知は適法であるとされた事例。
 1.関税定率法21条による「風俗を害すべき書籍、図画」等の貨物に関する税関検査は、憲法21条2項前段にいう「検閲」に当たらない。(先例の確認)
 1a.税関検査によるわいせつ表現物の輸入規制は憲法21条1項の規定に反するものではない。(先例の確認)
 1b.関税定率法21条1項にいう「風俗を害すべき書籍、図画」等とは、わいせつな書籍、図画等を指す。(先例の確認) /猥褻物/わいせつ物/
参照条文: /定率.21条/憲.21条/
全 文 h110223supreme.html

最高裁判所 平成 11年 1月 29日 第3小法廷 判決 ( 平成9年(オ)第2049号 )
事件名: 
要 旨
 一つの交通事故の共同不法行為者である甲及び乙のうち乙の賠償すべき額のみが過失相殺により減額された場合に甲がした損害の一部てん補が乙の賠償すべき額に及ぼす影響
参照条文: /民法:709条/民法:722条2項/
全 文 h110129supreme2.html

最高裁判所 平成 11年 1月 29日 第3小法廷 判決 ( 平成9年(オ)第219号 )
事件名:  供託金還付請求権確認請求上告事件
要 旨
 1.契約の時から8年あまりにわたる将来の診療報酬債権を目的とする債権譲渡契約がなされ、それから約6年8月後に譲渡人を債務者として当該債権につき滞納処分としての差押えがなされた場合につき、譲渡開始から6年8箇月目以降1年間に関する部分の譲渡の効力が肯定された事例。
 1a.債権譲渡契約にあっては、譲渡の目的とされる債権がその発生原因や譲渡に係る額等をもって特定される必要があり、将来の一定期間内に発生し、又は弁済期が到来すべき幾つかの債権を譲渡の目的とする場合には、適宜の方法により右期間の始期と終期を明確にするなどして譲渡の目的とされる債権が特定されるべきである。
 1b.将来発生すべき債権を目的とする債権譲渡契約にあっては、契約当事者は、目的債権の発生の基礎を成す事情を斟酌し、債権発生の可能性の程度を考慮した上、債権が見込みどおり発生しなかった場合に譲受人に生ずる不利益については譲渡人の契約上の責任の追及により清算することとして、契約を締結するものと見るべきであるから、契約締結時において債権発生の可能性が低かったことは、契約の効力を当然に左右するものではない。(破棄理由)
 1c.将来の一定期間内に発生すべき債権を目的とする債権譲渡契約ついては、対象期間の長さ等の契約内容が譲渡人の営業活動等に対して社会通念に照らし相当とされる範囲を著しく逸脱する制限を加え、又は他の債権者に不当な不利益を与えるものであると見られるなどの特段の事情の認められる場合には、公序良俗に反するなどとして、その効力の全部又は一部が否定されることがある。(特段の事情が認められなかった事例)
 1d.医師が、診療所等の開設や診療用機器の設置等のために、今後の収支見込みに基づき将来発生すべき診療報酬債権を一定の範囲で譲渡する債権譲渡契約は、能力があり、将来有望でありながら、現在は十分な資産を有しない者に対する金融的支援を可能にする合理的な手段である。医師が右のような債権譲渡契約を締結したとの一事をもって、その経済的な信用状態が当時既に悪化していたと見ることができず、また、将来において右状態の悪化を招来することを免れないと見ることもできない。
参照条文: /民法:466条1項/税徴.62条/税徴.66条/
全 文 h110129supreme.html

東京地方裁判所 平成 11年 1月 28日 民事第46部 判決 ( 平成9年(ワ)第15207号 )
事件名:  著作権確認等請求事件
要 旨
 円谷プロダクションが制作した一連の著作物(テレビ映画・ウルトラマン)について、日本以外における著作権を取得した主張するタイ王国在住者(本件被告)と株式会社円谷プロダクション(本件原告)との間で著作物の利用許諾に関する訴訟がタイ王国の裁判所において係属している場合に、日本の裁判所は、原告の著作権確認請求ならびに損害賠償請求等の訴えについて国際裁判管轄を有しないとされた事例。 /知的財産権/無体財産権/著作権/国際的重複訴訟/訴訟要件/円谷英二/
参照条文: /民訴.5条4号/民訴.5条9号/民訴.9条/民訴.228条/民訴.142条/
全 文 h110128tokyoD.html

最高裁判所 平成 11年 1月 22日 第2小法廷 判決 ( 平成10年(行ツ)第199号 )
事件名:  選挙無効請求上告事件
要 旨
 1.平成9年7月6日施行の東京都議会議員の選挙において、千代田区選挙区が特例選挙区として存置されていたことは適法である。(事例)
 2.平成9年7月6日施行の東京都議会議員選挙時の東京都条例における定数配分規定は、公職選挙法15条8項に違反するものではなく、適法である。(事例) /選挙権の平等/配当基数/
参照条文: /憲.14条/公選.15条8項/憲.92条/憲.93条/公選.271条2項/
全 文 h110122supreme.html

最高裁判所 平成 11年 1月 21日 第1小法 判決 ( 平成8年(オ)第250号 )
事件名:  請求異議等上告事件
要 旨
 貸金業者との間の金銭消費貸借上の利息の契約に基づき、債務者が利息として任意に支払った金銭の額が、利息制限法1条1項に定める制限額を超える場合において、右超過部分の支払が貸金業の規制等に関する法律43条1項によって有効な利息の債務の弁済とみなされるためには、右の支払が貸金業者の預金又は貯金の口座に対する払込みによってされたときであっても、特段の事情のない限り、貸金業者は、右の払込みを受けたことを確認した都度、直ちに、同法18条1項に規定する書面(受取証書)を債務者に交付しなければならない。
参照条文: /利息制限.1条1項/貸金.43条1項/貸金.18条1項/
全 文 h110121supreme.html

最高裁判所 平成 11年 1月 21日 第1小法廷 判決 ( 平成10年(受)第5号 )
事件名: 
要 旨
 被相続人から抵当権の設定を受けた相続債権者が相続財産法人に対して抵当権設定登記手続を請求することの可否(消極)
参照条文: /民法:957条2項/民法:929条/民法:932条/
全 文 h110121supreme5.html

最高裁判所 平成 11年 1月 21日 第1小法廷 判決 ( 平成7年(オ)第1445号 )
事件名:  債権確認請求・上告事件
要 旨
 建物賃貸借契約継続中に賃借人が敷金返還請求権の存在確認を求める訴えにつき確認の利益があるとされた事例。
 1.建物賃貸借における敷金返還請求権は、賃貸借終了後、建物明渡しがされた時において、それまでに生じた敷金の被担保債権一切を控除しなお残額があることを条件として、その残額につき発生するものであって、賃貸借契約終了前においても、このような条件付きの権利として存在するものということができる。
 1a.敷金の返還請求権の存在確認を求める訴えの確認対象は,現在の権利又は法律関係であるということができ、確認の対象としての適格に欠けるところはない。
 2.現賃貸人(建物の取得者)が賃借人の主張する前賃貸人への敷金交付の事実を争って、敷金の返還義務を負わないと主張している場合には、条件付きの権利である敷金返還請求権の存否を確定すれば、賃借人の法律上の地位に現に生じている不安ないし危険は除去されるといえるから、その確認の訴えには、即時確定の利益がある。 /確認の利益/訴えの利益/訴えの客観的利益/
参照条文: /民事訴訟法:2編1章/民法:129条;619条2項/
全 文 h110121supreme4.html

最高裁判所 平成 11年 1月 21日 第1小法廷 判決 ( 平成7年(オ)第2122号 )
事件名: 
要 旨
 水道事業者である町が水道水の需要を抑制するためマンション建設業者との給水契約を拒否したことに水道法15条1項にいう「正当の理由」があるとされた事例
参照条文: /水道.15条1項/水道.2条/水道.2-2条/
全 文 h110121supreme3.html

最高裁判所 平成 11年 1月 21日 第1小法廷 判決 ( 平成7年(行ツ)第116号 )
事件名:  住民票記載処分取消、損害賠償請求上告事件
要 旨
 平成6年以前において、事実上の夫婦の間に生まれた子について、武蔵野市長が、住民票の続柄欄に、嫡出子には通常用いない「子」という表記をした場合に、父母がその記載の取消しを求める訴えを提起したが却下され、子が損害賠償を請求したが棄却された事例。
 1.住民票に特定の住民と世帯主との続柄を記載する行為が何らかの法的効果を有すると解すべき根拠はないから、住民票に世帯主との続柄を記載する行為は、抗告訴訟の対象となる行政処分には当たらない。
 2.市町村長が住民票に法定の事項を記載する行為は、たとえ記載の内容に当該記載に係る住民等の権利ないし利益を害するところがあったとしても、そのことから直ちに国家賠償法一条一項にいう違法があったとの評価を受けるものではなく、市町村長が職務上通常尽くすべき注意義務を尽くすことなく漫然と右行為をしたと認め得るような事情がある場合に限り、右の評価を受けるものと解するのが相当である。(先例の確//職務行為基準説)
 2a.平成6年以前において、武蔵野市長が国の定めた住民基本台帳事務処理要領に従って住民票に非嫡出子の続柄を「子」と記載したことは、憲法14条等の規定を考慮に入れるとしても、職務上通常尽くすべき注意義務を尽くさず漫然と記載したということはできないとされた事例。 /プライバシー権/法律上の利益/請求適格/訴えの利益/
参照条文: /国賠.1条1項/憲.14条/住民台.7条/住民台.15条/住民台.1条/住民台.19条/住民台.49条/行訴.3条2項/
全 文 h110121supreme2.html

最高裁判所 平成 11年 1月 11日 第1小法廷 決定 ( 平成10年(行フ)第1号 )
事件名:  町議会議員除名処分執行停止決定に対する抗告棄却決定に対する許可抗告事件
要 旨
 地方議会議員の除名処分の効力を停止する決定がされた場合には、被除名者の議員としての地位が回復されるので、選挙管理委員会は、除名に伴う繰上補充による当選人の定めを撤回し、その当選を将来に向かって無効とすべき義務を負うとされた事例。 /川島町/
参照条文: /公選.112条5項/地自.135条1項4号/行訴.25条2項?/
全 文 h110111supreme.html

最高裁判所 平成 10年 12月 18日 第2小法廷 判決 ( 平成8年(オ)第2343号 )
事件名:  通行地役権確認等請求上告事件
要 旨
 通行地役権の承役地の譲受人が地役権設定登記の欠缺を主張するについて正当な利益を有する第三者に当たらない場合、通行地役権者は、譲受人に対し、地役権設定登記手続を請求することができる。
参照条文: /民法:177条/民法:280条/
全 文 h101218supreme2.html

最高裁判所 平成 10年 12月 18日 第3小法廷 判決 ( 平成6年(オ)第2415号 )
事件名: 
要 旨
 特定のメーカーの化粧品の卸売業者が特約店契約によって小売業者に対していわゆる対面販売を義務付けることが、独占禁止法19条が禁止する「不公正な取引方法」のうち一般指定の13にいう拘束条件付取引に当たらないとされた事例
 (資生堂チェインストア契約書/値引販売/拘束条件付取引/ブランドイメージ/再販売価格の拘束)
参照条文: /独禁.19条/公取一般指定.12/公取一般指定.13/
全 文 h101218supreme.html

最高裁判所 平成 10年 12月 18日 第3小法廷 判決 ( 平成9年(オ)第2156号 )
事件名: 
要 旨
 特定のメーカーの化粧品の卸売業者が特約店契約によっていわゆるカウンセリング販売を義務付けている小売業者に対し特約店契約を締結していない小売店等に対する卸売販売を禁止することが、独占禁止法一九条に違反しないとされた事例
 
 (花王ソフィーナ・ビューティプラザ契約書/卸売販売禁止の約定/値引販売/拘束条件付取引/ブランドイメージ/再販売価格の拘束)
参照条文: /独禁.19条/公取一般指定.12/公取一般指定.13/
全 文 h101218supreme3.html

最高裁判所 平成 10年 12月 18日 第3小法廷 判決 ( 平成10年(行ツ)第68号 )
事件名: 
要 旨
 一
 適法な住民監査請求が不適法として却下された場合と再度の監査請求の可否
 
 二
 適法な住民監査請求が不適法として却下された場合の住民訴訟の出訴期間
参照条文: /地自.242条2項/地自.242-2条2項1号/
全 文 h101218supreme4.html

最高裁判所 平成 10年 12月 18日 第3小法廷 決定 ( 平成10年(許)第4号 )
事件名:  債権差押命令及び転付命令に対する執行抗告棄却決定に対する許可抗告事件
要 旨
 請負工事に用いられた動産の売主は、原則として、請負人が注文者に対して有する請負代金債権に対して動産売買の先取特権に基づく物上代位権を行使することができないが、請負代金全体に占める当該動産の価額の割合や請負契約における請負人の債務の内容等に照らして請負代金債権の全部又は一部を右動産の転売による代金債権と同視するに足りる特段の事情がある場合には、右部分の請負代金債権に対して右物上代位権を行使することができる(肯定事例)。
参照条文: /民法:304条1項/
全 文 h101218supreme5.html

最高裁判所 平成 10年 12月 17日 第1小法廷 判決 ( 平成8年(行ツ)第271号 )
事件名:  風俗営業許可処分取消請求上告事件
要 旨
 風俗営業許可処分の取消訴訟において風俗営業制限地域居住者の原告適格が否定された事例 /当事者適格/パチンコ店/
参照条文: /行訴.9条/風営.3条1項/風営4条2項2号/風営施行令.6条/
全 文 h101217supreme2.html

最高裁判所 平成 10年 12月 17日 第1小法廷 判決 ( 平成6年(オ)第857号 )
事件名:  共有物確認等、株主権確認、証券所有権確認請求上告事件
要 旨
 被相続人が貸金庫内に保管していた預金証書および株券を共同相続人の一人が密かに持ち出して、預金の払戻金および株券の売却代金を着服したので、他の共同相続人が損害賠償請求ならびにまだ売却されていないと考えた株券の引渡請求の訴えを提起し、その訴訟の係属中に不当利得返還請求を追加した場合に、当初の請求には不当利得返還請求権の行使の意思が表れていたと見ることができ、不当利得返還請求権についても催告が継続していたと解すべきであり、不当利得返還請求の追加により、右請求権の消滅時効について時効中断の効果が確定的に生じたものと解すべきであるとされた事例。
 1.金員の着服を原因とする不法行為に基づく損害賠償請求の訴訟の係属中は、右着服金相当額の 不当利得返還請求権につき、時効中断事由としての催告が継続するとされた事例。
 1a.株券引渡請求の訴訟の係属中は、当該株券売却代金相当額の不当利得返還請求権につき、時効中断事由としての催告が継続するとされた事例。 /消滅時効/裁判上の催告/訴訟物/
参照条文: /民法:724条/民法:709条/民法:703条/民法:147条/民法:149条/民法:153条/民訴.147条/民訴.143条/
全 文 h101217supreme.html

東京高等裁判所 平成 10年 12月 10日 第4民事部 決定 ( 平成10年(ラ)第2852号 )
事件名: 
要 旨
 平成8年法律108号により改正された民事執行法83条が適用される不動産引渡命令事件において、抵当権設定前からの契約に基づいて競売不動産の一部を占有する者の権原が賃借権ではなく使用借権と認定され、引渡命令の発令が是認された事例。
 1.引渡命令発令手続においては、弁論主義の適用はなく、執行裁判所は、当事者の主張のない事実も判断の基礎とすることができる。 /使用貸借/物件明細書/
参照条文: /民執.83条/民法:593条/民601条/
全 文 h101210tokyoH.html

最高裁判所 平成 10年 12月 1日 大法廷 決定 ( 平成10年(分ク)第1号 )
事件名:  裁判官分限事件の決定に対する即時抗告事件
要 旨
 裁判所法52条1号が禁止する「積極的に政治運動をすること」に該当する行為をしたことを理由として裁判官に対して戒告がされた事例。 /組織的犯罪対策法に反対する全国弁護士ネットワーク/破防法、組織的犯罪対策法に反対する市民連絡会/組織的犯罪対策法に反対する共同行動/裁判官の分限事件手続規則/仙台地方裁判所事務処理規則/判官の懲戒申立て/裁判官会議/裁判官の政治運動/裁判官の独立及び中立・公正/表現の自由/裁判の公開/不告不理の原則/
参照条文: /裁判.52条1号/憲.76条3項/憲.21条1項/裁分限.7条2項/裁分限.8条2項/憲.82条1項/
全 文 h101201supreme.html

最高裁判所 平成 10年 11月 24日 第3小法廷 判決 ( 平成7年(オ)第1413号 )
事件名: 
要 旨
 1
 仮差押えによる時効中断の効力は、仮差押えの執行保全の効力が存続する間は継続する
 2
 仮差押えによる時効中断の効力は、仮差押えの被保全債権つき本案の勝訴判決が確定したとしても、これによって消滅するものではない
参照条文: /民法:147条/民法:174-2条/民保.47条1項/
全 文 h101124supreme.html

東京高等裁判所 平成 10年 11月 24日 第21民事部 決定 ( 平成10年(ウ)第774号 )
事件名:  文書提出命令申立事件
要 旨
 銀行の顧客に対する安全配慮義務に違反した過剰融資により顧客が損害を受けたと主張して提起した賠償請求訴訟において、原告の申立により、貸出稟議書・本部認可書の提出が命じられた事例。
 1.民事訴訟法220条4号ハ(現ニ)の文書は、専ら内部の者の利用に供する目的で作成され、およそ外部の者に開示することを予定していない文書を指すものと解するのが相当である。
 2.銀行が融資に際して作成する貸出稟議書及び本部認可書は、銀行内部の意思決定の過程において、その合理性を担保するために作成されるものであるが、その意思決定に関する基本的かつ最重要の公式文書というべきものであり、様々な局面で、銀行自身が貸出の合理性、正当性を外部に対し主張する場合、あるいは外部の者がこれらを確認する場合に、そのための基本的かつ最重要の資料であるということができるから、これらは、専ら内部の者の利用に供する目的で作成され、およそ外部の者に開示することを予定していない文書であるということはできない。 /組織内公式文書/書証/
参照条文: /民事訴訟法:220条3号;220条4号/
全 文 h101124tokyoH.html

最高裁判所 平成 10年 11月 20日 第2小法廷 判決 ( 平成8年(オ)第1362号 )
事件名: 
要 旨
 マンション駐車場等の専用使用権を消滅させ、又はこれを有償とする集会決議と建物の区分所有等に関する法律三一条一項後段所定の「特別の影響」の有無
 (区分所有権/マンション管理組合)
参照条文: /区分所有.31条1項/
全 文 h101120supreme.html

最高裁判所 平成 10年 11月 17日 第3小法廷 判決 ( 平成10年(行ツ)第215号 )
事件名: 
要 旨
 秘書を連座制の対象とした公職選挙法251条の2第1項5号、2項は、公職選挙の公明かつ適正を確保するという極めて重要な法益を実現するために設けられたものであって、憲法15条1項、31条に違反しない。
参照条文: /公選.251-2条1項5号/公選251-2条2項/憲.15条1項/憲.31条/
全 文 h101117supreme.html

最高裁判所 平成 10年 11月 12日 第1小法廷 判決 ( 平成6年(行ツ)第239号 )
事件名:  損害賠償請求上告事件
要 旨
 土地区画整理法に基づく保留地の処分が住民訴訟の対象となる「財産の処分」及び「契約の締結」に該当するとされた事例。
 1.普通地方公共団体の所有に属する不動産の処分は、不動産が普通地方公共団体の住民の負担に係る公租公課等によって形成されたものであると否とを問わず、地方自治法242条1項の「財産の処分」として住民訴訟の対象になる。 /訴訟要件/備後圏都市計画事業東部土地区画整理事業/福山市/
参照条文: /区画整理.96条2項/区画整理.108条1項/区画整理.118条1項/区画整理.53条2項6号/地自.242-2条1項4号/地自.242条1項/
全 文 h101112supreme.html

最高裁判所 平成 10年 11月 10日 第3小法廷 判決 ( 平成9年(行ツ)第13号 )
事件名: 
要 旨
 駐留軍用地特措法三条の規定による土地の使用に関して適用される土地収用法七二条所定の使用する土地に対する補償金と所得税法三六条一項にいう「その年において収入すべき金額」
参照条文: /駐留軍用地特措.3条/土収.72条/所税.36条1項/
全 文 h101110supreme.html

最高裁判所 平成 10年 11月 4日 第2小法廷 決定 ( 平成8年(あ)第235号 )
事件名: 
要 旨
 最高価買受申出人となった者に対する威力の使用と競売入札妨害罪の成否
参照条文: /民執.65条1号/刑.93-3条1項/
全 文 h101104supreme.html

最高裁判所 平成 10年 10月 30日 第2小法廷 判決 ( 平成8年(オ)第258号 )
事件名: 
要 旨
 1
 マンション駐車場の専用使用料を増額する集会決議と建物の区分所有等に関する法律31条1項後段所定の「特別の影響」の有無
 2
 増額された使用料の支払いに応じないことを理由とする駐車場使用契約の解除の効力が否定された事例
 (区分所有権/マンション管理組合)
参照条文: /区分所有.31条1項/民法:541条/
全 文 h101030supreme.html

最高裁判所 平成 10年 10月 30日 第2小法廷 判決 ( 平成8年(オ)第258号 )
事件名:  駐車場専用使用権確認請求・上告事件
要 旨
 マンション駐車場について、専用使用権者の承諾を得ることなく専用使用料を増額する集会決議がなされた場合に、その集会決議を有効とする原判決が審理不尽を理由に破棄され、増額がどの範囲で有効かが裁判を経ないと確定しない場合に、従前の使用料のみを支払い増額された使用料の支払いに応じなかったことを理由に駐車場使用契約を解除して使用権を失わせることは許されないとされた事例。
 1.マンション(平均価格850万円)の分譲の際に30万円ないし40万円の代金で分譲されたマンション駐車場の専用使用権についても、この専用使用権は、区分所有者全員の共有に属するマンション敷地の使用に関する権利であるから、これが分譲された後は、管理組合と組合員たる専用使用権者との関係においては、法の規定の下で、規約及び集会決議による団体的規制に服すべきものであり、管理組合は、法の定める手続要件に従い、規約又は集会決議をもって、専用使用権者の承諾を得ることなく使用料を増額することができる。
 1a.建物の区分所有等に関する法律31条1項後段は、区分所有者間の利害を調整するため、「規約の設定、変更又は廃止が一部の区分所有者の権利に特別の影響を及ぼすべきときは、その承諾を得なければならない」と定めているところ、右の「特別の影響を及ぼすべきとき」とは、規約の設定、変更等の必要性及び合理性とこれによって一部の区分所有者が受ける不利益とを比較衡量し、当該区分所有関係の実態に照らして、その不利益が区分所有者の受忍すべき限度を超えると認められる場合をいうものと解される。
 1b.マンションの駐車場の使用料の増額は一般的に専用使用権者に不利益を及ぼすものであるが、増額の必要性及び合理性が認められ、かつ、増額された使用料が当該区分所有関係において社会通念上相当な額であると認められる場合には、専用使用権者は使用料の増額を受忍すべきであり、使用料の増額に関する規約の設定、変更等は専用使用権者の権利に「特別の影響」を及ぼすものではないというべきであり、また、増額された使用料がそのままでは社会通念上相当な額とは認められない場合であっても、その範囲内の一定額をもって社会通念上相当な額と認めることができるときは、特段の事情がない限り、その限度で、規約の設定、変更等は、専用使用権者の権利に「特別の影響」を及ぼすものではなく、専用使用権者の承諾を得ていなくとも有効なものであると解するのが相当である。
 2.駐車場の専用使用権者が訴訟において使用料増額の効力を争っているような場合には、裁判所の判断を待つことなく、専用使用権者が増額された使用料の支払に応じないことを理由に駐車場使用契約を解除し、その専用使用権を失わせることは、契約の解除を相当とするに足りる特段の事情がない限り、許されないものと解するのが相当である。 /区分所有権/マンション管理組合/
参照条文: /建物の区分所有等に関する法律:31条1項/民法:541条/
全 文 h101030supreme.html

最高裁判所 平成 10年 10月 22日 第1小法廷 判決 ( 平成8年(オ)第1559号 )
事件名: 
要 旨
 マンション駐車場の専用使用権分譲の対価が、マンション管理組合ではなく、分譲業者に帰属すべきものとされた事例
 (委任/売買/区分所有権/契約の解釈/マンション管理規約)
参照条文: /民法:643条/民法:555条/区分所有./
全 文 h101022supreme.html

最高裁判所 平成 10年 10月 13日 第3小法廷 判決 ( 平成9年(行ツ)第214号 )
事件名: 
要 旨
 独占禁止法違反被告事件において罰金刑を科せられるとともに国から不当利得返還請求訴訟を提起されている者に課徴金の納付を命ずることと憲法39条、29条、31条
 課徴金の計算の基礎となる売上額の算定に際し、契約で定められた対価の合計額から消費税相当額を控除しなかったことが違法ではないとされた事例
参照条文: /憲.39条/憲.29条/憲.31条/独禁.7-2条1項/
全 文 h101013supreme.html

最高裁判所 平成 10年 9月 10日 第1小法廷 判決 ( 平成5年(オ)第1211号、第1212号 )
事件名:  損害賠償請求・上告事件
要 旨
 クレジットカードの利用による貸金等の支払を求める前訴において、前訴原告の重大な過失による誤った報告に基づいて付郵便送達がなされ、前訴被告が訴訟に関与する機会のないまま判決が確定した場合に、前訴原告に前訴被告の権利を害する意図があつたとは認められないから、前訴判決に基づき支払った金員についての損害賠償請求は確定判決の既判力ある判断と実質的に矛盾するものとして許されないとして、請求が棄却された事例。
 上記の場合に、「前訴第一審での訴訟手続に関与する機会を奪われたことにより被った精神的苦痛に対する損害賠償請求」は、前訴判決の既判力ある判断と実質的に矛盾する損害賠償請求には当たらないとして、これと異なる判断をした原判決が取り消されて差し戻された事例。
 1.当事者間に確定判決が存在する場合に、その判決の成立過程における相手方の不法行為を理由として、確定判決の既判力ある判断と実質的に矛盾する損害賠償請求をすることは、確定判決の既判力による法的安定を著しく害する結果となるから、原則として許されるべきではなく、当事者の一方が、相手方の権利を害する意図の下に、作為又は不作為によって相手方が訴訟手続に関与することを妨げ、あるいは虚偽の事実を主張して裁判所を欺罔するなどの不正な行為を行い、その結果本来あり得べからざる内容の確定判決を取得し、かつ、これを執行したなど、その行為が著しく正義に反し、確定判決の既判力による法的安定の要請を考慮してもなお容認し得ないような特別の事情がある場合に限って、許される。
 2.前訴原告の重大な過失のある報告に基づいて付郵便送達がなされたことにより第一審での訴訟手続に関与する機会を奪われたことにより被った前訴被告の精神的苦痛に対する損害賠償請求は、確定した前訴判決の既判力ある判断と実質的に矛盾する損害賠償請求にはあたらない。(反対意見あり) /付郵便送達/クレジット契約/確定判決の不当取得/上訴の追完/再審の訴え/
参照条文: /民訴.114条1項/民法:709条/民法:710条/民訴.107条/
全 文 h100910supreme2.html

最高裁判所 平成 10年 9月 10日 第1小法廷 判決 ( 平成9年(オ)第448号 )
事件名:  損害賠償請求上告事件
要 旨
 1.甲と乙が共同の不法行為により他人に損害を加えた場合において、被害者が、甲との訴訟上の和解に際し、乙の残債務をも免除する意思を有していると認められるときは、乙に対しても残債務の免除の効力が及ぶものというべきであり、甲の乙に対する求償金額は、確定した損害額である右訴訟上の和解における甲の支払額を基準とし、双方の責任割合に従いその負担部分を定めて算定すべきである。
 1a.被害者が共同不法行為者の一人甲と債務の一部免除を伴う訴訟上の和解をなし、これにより他の不法行為者乙の賠償債務も一部免除する意思を有していた可能性が十分にある場合に、その意思の存否を審理判断することなく、債務免除の効果は乙にも及ばないものとして、債務免除がない場合に甲が負担すべき金額を超えて甲が現実に支払った金額についてのみ求償権の行使を認めた原判決が違法とされた事例。 /不真正連帯債務/訴訟上の和解における残債務免除条項の解釈/
参照条文: /民法:719条/民法:437条/民法:442条/
全 文 h100910supreme4.html

最高裁判所 平成 10年 9月 10日 第1小法廷 判決 ( 平成5年(オ)第1211号 )
事件名: 
要 旨
 釧路市内住所を有する前訴被告が、同市内の通常の勤務場所を離れて東京都内に長期出張していた場合に、前訴原告(金融会社)からの不十分な調査を基にしてなされた就業場所不明の回答に基づいて、裁判所書記官が訴状等を前訴被告の住所に宛てて書留郵便に付する送達を実施したことが適法であるとされた事例(前訴被告からの国家賠償請求が棄却された事例)。
 1.裁判所書記官は、相当と認められる方法により収集した認定資料に基づいて、受送達者の就業場所の存否につき判断すれば足り、担当裁判所書記官が就業場所不明と判断して付郵便送達を実施した場合には、就業場所の存在が事後に判明したときであっても、その認定資料の収集につき裁量権の範囲を逸脱し、あるいはこれに基づく判断が合理性を欠くなどの事情がない限り、右付郵便送達は適法である。 /付郵便送達/裁判所書記官の過失/
参照条文: /国賠.1条1項/民訴.107条/民訴.98条2項/
全 文 h100910supreme3.html

最高裁判所 平成 10年 9月 10日 第1小法廷 判決 ( 平成6年(オ)第651号 )
事件名: 
要 旨
 自動車損害賠償保障法一六条一項の規定に基づく損害賠償額の支払がされた場合に国民健康保険の保険者が国民健康保険法六四条一項の規定に基づき代位取得する損害賠償請求権の額
参照条文: /自賠.16条1項/国健保.64条1項/
全 文 h100910supreme5.html

最高裁判所 平成 10年 9月 7日 第2小法廷 判決 ( 平成7年(オ)第527号、第528号 )
事件名: 
要 旨
 外国人登録法違反(指紋押なつ拒否)被疑事件における逮捕状の請求及びその発付が、明らかに逮捕の必要がなかったということはできず、適法なものであったとされた事例
 (国家賠償)
参照条文: /国賠.1条1項/刑訴.199条1項/刑訴.199条2項/外登.14条1項/
全 文 h100907supreme.html

最高裁判所 平成 10年 9月 3日 第1小法廷 判決 ( 平成9年(オ)第1446号 )
事件名:  保証金返還請求・上告事件
要 旨
 阪神・淡路大震災により建物が毀滅して賃貸借契約が終了した場合に、賃貸借契約中の敷引条項にかかわらず、同条項による敷金の差引きをすることなく敷金を返還すべきであるとされた事例。
 1.居住用の家屋の賃貸借における敷金につき、賃貸借契約終了時にそのうちの一定金額又は一定割合の金員(以下「敷引金」という。)を返還しない旨のいわゆる敷引特約がされた場合において、災害により賃借家屋が滅失し、賃貸借契約が終了したときは、特段の事情がない限り、敷引特約を適用することはできず、賃貸人は賃借人に対し敷引金を返還すべきものと解するのが相当である。
 1a.賃貸借契約において、阪神・淡路大震災のような災害によって契約が終了した場合であっても敷引金を返還しないことが明確に合意されているということはできず、その他敷引金の不返還を相当とするに足りる特段の事情も認められないとされた事例。 /自然災害/契約の解釈/敷金/
参照条文: /民法:/借地借家./
全 文 h100903supreme.html

最高裁判所 平成 10年 9月 2日 大法廷 判決 ( 平成9年(行ツ)第104号 )
事件名: 
要 旨
 平成七年七月二三日選挙当時における参議院(選挙区選出)議員の定数配分規定の合憲性
 (法の下の平等/選挙権の平等/参議院議員定数配分規定)
参照条文: /憲.14条/憲.44条/憲.47条/公選.14条/公選.別表第三/
全 文 h100902supreme.html

最高裁判所 平成 10年 8月 31日 第2小法廷 判決 ( 平成7年(オ)第2178号 )
事件名:  親子関係不存在確認請求上告事件
要 旨
 婚姻成立の日から200日後に出生した子が嫡出の推定を受けないとして、父親の死亡後にその養子が提起した親子関係不存在確認の訴えが適法とされた事例
参照条文: /民法:770条/民法:774条/民法:777条/
全 文 h100831supreme.html

最高裁判所 平成 10年 8月 31日 第2小法廷 判決 ( 平成7年(オ)第1095号 )
事件名: 
要 旨
 夫婦が別居を開始してから九箇月余り後に出生した子を被告として夫が提起した親子関係不存在確認の訴えが不適法とされた事例
参照条文: /民法:772条/人訴./
全 文 h100831supreme2.html

千葉地方裁判所 平成 10年 7月 27日 民事第2部 決定 ( 平成10年(モ)第478号 )
事件名:  文書提出命令申立事件
要 旨
 覚せい剤取締法違反被告事件で千葉刑務所拘置監に勾留され、糖尿病のため同刑務所病舎に収容されていた原告が、刑務所の職員から就寝の体勢を注意され、原告がこれに反発したことから、取調室に連行され、同所において同刑務所第三区長Aほか職員数名により暴行を受け、その後金属手錠等の戒具を装着させられて保護房に収容された際にも暴行を受けたことにより、右前額部挫傷、左前腕部挫傷等の傷害を負わされたほか、精神的、身体的苦痛を受けたとして、国に対し、国家賠償法1条1項に基づく損害賠償請求の訴えを提起し、{1}同刑務所記録係及び採証係が現場で本件の状況を記録した現場記録表及びこれに関して作成、収集した写真、録音その他の証拠資料並びに{2}保護房への収用状況を記載した保護房使用書留簿について、民事訴訟法220条3号後段の法律関係文書に該当するとしてその提出命令を申し立てたところ、前者について申立てが認容され、後者について却下された事例。
 1.民事訴訟法220条3号後段の挙証者と文書の所持者との間の法律関係につき作成された文書とは、訴訟における真実発見、証拠資料の収集の必要性と他方における文書所持者の利益の保護の調和の観点からすれば、挙証者と所持者との間の法律関係(契約関係に限らない。)それ自体のみならずこれと密接に関連する事項(当該法律関係の発生、変更、消滅をきたす事実や当該法律関係の存否の判断に直接影響を及ぼす事項等)について記載されたものをいう。
 1a.文書に挙証者の法的地位を明らかにしたり、挙証者と所持者との間の法律関係に関する記載がなされている場合でも、(α)文書がもっぱら所持者の自己使用のため作成されたものであるときは、その作成経緯や文書の重要性等に照らして、その文書を挙証者の立証に使用させないことが著しく信義、衡平に反すると認められない限りは、民事訴訟法220条3号にいう文書には該当しないと解され、また、(β)もっぱら所持者の自己使用のために作成された文書でなくても、それを提出した場合に公共の利益を害するおそれがあり、これを避ける必要性が文書提出の必要性に優越する場合には、当該文書の提出を求めることはできないというべきである。
 2.刑務所内で受刑者が反抗的行動をしたため、刑務所職員がその抑制のために実力を行使したことが違法行為にあたるとして、受刑者が国家賠償法1条1項に基づく損害賠償請求の訴えを提起した事案において、「実力行使に関する状況の記録について」と題する矯正局長通達に基づいて記録係たる職員が職務上作成する現場記録表は、もっぱら所持者の自己使用のために作成された文書として民事訴訟法220条3号後段の法律関係文書に該当しないということはできないとされた事例。 /文書提出命令/書証/
参照条文: /民事訴訟法:220条3号/
全 文 h100727chibaD.html

最高裁判所 平成 10年 7月 17日 第2小法廷 判決 ( 平成6年(オ)第1082号 )
事件名:  反論文掲載等請求上告事件
要 旨
 他人の著作物に対する論評について、当該著作物の引用紹介が全体として正確性を欠くとまではいえないから、右論評に名誉毀損としての違法性があるということはできないとされた事例 /名誉棄損/公共の利害に関する事実/著作権/著作者人格権/同一性保持権/
参照条文: /民法:710条/著作.20条1項/著作.32条1項/
全 文 h100717supreme2.html

最高裁判所 平成 10年 7月 17日 第2小法廷 判決 ( 平成8年(オ)第280号 )
事件名: 
要 旨
 新株発行に関する事項の公示を欠く新株発行につき、新株発行差止めの事由がないとは認められず、無効原因があるとされた事例
参照条文: /商.280-10条/商.280-5-2条/商.280-3-2条/
全 文 h100717supreme3.html

最高裁判所 平成 10年 7月 17日 第2小法廷 判決 ( 平成6年(オ)第1379号 )
事件名: 
要 旨
 本人が無権代理行為の追認を拒絶した場合には、その後無権代理人が本人を相続したとしても、無権代理行為が有効になるものではない。
 (本人の不動産上に根抵当権を設定した無権代理人の限定承認付き相続人が、追認拒絶により根抵当権設定登記の抹消登記を請求していた本人を更に相続した事案)
参照条文: /民法:113条/民法:117条/民法:1条2項/民法:896条/民法:922条/
全 文 h100717supreme.html

最高裁判所 平成 10年 7月 16日 第1小法廷 判決 ( 平成9年(行ツ)第97号 )
事件名: 
要 旨
 1
 酒税法9条1項、10条11号は憲法22条1項に違反しない。
 2
 酒税法9条1項、10条11号に基づく酒類販売業免許の拒否処分が適法とされた事例。
 (職業選択の自由)
参照条文: /酒税.9条1項/酒税.10条11号/憲.22条1項/
全 文 h100716supreme.html

最高裁判所 平成 10年 7月 14日 第2小法廷 決定 ( 平成10年(あ)第385号 )
事件名:  競売入札妨害被告事件
要 旨
 虚偽の賃貸借契約書の提出による偽計競売入札妨害罪の成立が肯定された事例。 /短期賃貸借/民事執行妨害/
参照条文: /刑.96-3条1項/民執./
全 文 h100714supreme.html

最高裁判所 平成 10年 7月 14日 第3小法廷 判決 ( 平成8年(オ)第2597号 )
事件名:  親子関係不存在確認請求上告事件
要 旨
 子の血縁上の父が戸籍上の父と子の間の親子関係不存在の確認を求める訴えの係属中に子を第三者の特別養子とする審判が確定した場合に訴えの利益を否定した原審の判断に違法があるとされた事例 /準再審手続/訴えの客観的利益/訴えの利益/
参照条文: /民訴.338条1項3号/民訴.349条/民法:817-6条/民訴.349条/民訴.340条/
全 文 h100714supreme3.html

最高裁判所 平成 10年 7月 14日 第3小法廷 判決 ( 平成7年(オ)第264号 )
事件名:  損害賠償請求上告事件
要 旨
 手形につき商事留置権を有していた銀行が債務者の破産後に手形交換制度によって手形を取り立てて弁済に充当する行為が破産管財人に対する不法行為にならないとされた事例。
 1.破産財団に属する手形の上に存在する商事留置権を有する者は、破産宣告後においても、右手形を留置する権能を有し、破産管財人からの手形の返還請求を拒むことができる。
 2.手形につき商事留置権を有していた銀行は、債務者の破産後に、破産法93条1項後段に定める他の特別の先取特権がなく、被担保債権額が手形金額を超えている場合には、銀行取引約定書に従い手形交換制度によって手形を取り立てて弁済に充当することができる(それは、破産管財人に対する不法行為にならない)。 /任意換価/
参照条文: /民執.192条/民執.136条/破産.93条1項/破産.204条/
全 文 h100714supreme2.html

最高裁判所 平成 10年 7月 13日 第3小法廷 決定 ( 平成10年(ク)第379号 )
事件名:  抗告不許可決定に対する特別抗告事件
要 旨
 民事訴訟法337条の許可抗告制度は憲法31条、32条に違反しない
参照条文: /民訴.337条/憲.31条/憲.32条/
全 文 h100713supreme.html

最高裁判所 平成 10年 7月 3日 第2小法廷 判決 ( 平成6年(行ツ)第53号 )
事件名: 
要 旨
 監査請求において求められた具体的措置の相手方とは異なる者を相手方として右措置の内容と異なる請求をする住民訴訟の許否
参照条文: /地自.242-2条1項/地自242条1項/
全 文 h100703supreme.html

最高裁判所 平成 10年 7月 3日 第2小法廷 判決 ( 平成6年(行ツ)第111号 )
事件名: 
要 旨
 酒税法10条10号、11号に該当するとしてされた酒類販売業免許の拒否処分を適法とした原審の判断に違法があるとされた事例
 (酒税法基本通達/酒類販売業免許等取扱要領/職業選択の自由)
参照条文: /酒税.10条10号/酒税.10条11号/憲.22条1項/
全 文 h100703supreme2.html

最高裁判所 平成 10年 7月 3日 第2小法廷 判決 ( 平成9年(オ)第128号 )
事件名: 
要 旨
 所有者が土地及び地上建物に共同抵当権を設定した後、右建物が取り壊され、右土地上に新たに建物が建築された場合には、特段の事情のない限り、新建物のために法定地上権は成立しない。
参照条文: /民法:388条/
全 文 h100703supreme3.html

最高裁判 平成 10年 6月 30日 第3小法廷 判決 ( 平成6年(オ)第698号 )
事件名:  不当利得請求上告事件
要 旨
 別訴において一部請求をしている債権の残部を自働債権として相殺の抗弁を主張することは、特段の事情の存しない限り、許される。
参照条文: /民訴.114条2項/民訴.142条/
全 文 h100630supreme.html

最高裁判所 平成 10年 6月 22日 第2小法廷 判決 ( 平成6年(オ)第586号 )
事件名: 
要 旨
 詐害行為の受益者は、詐害行為取消権を行使する債権者の債権の消滅時効を援用することができる。
参照条文: /民法:424条/民法:145条/
全 文 h100622supreme.html

最高裁判所 平成 10年 6月 16日 第3小法廷 判決 ( 平成8年(オ)第52号 )
事件名: 
要 旨
 地方自治法242条の2第7項にいう勝訴には請求の認諾がされた場合が含まれる
参照条文: /地自.242-2条7項/民訴.266条1項/
全 文 h100616supreme.html

最高裁判所 平成 10年 6月 12日 第2小法廷 判決 ( 平成8年(行ツ)第138号 )
事件名:  法人税更正処分等取消請求上告事件
要 旨: 役員退職給与として会社の固定である土地を帳簿価額で譲渡した場合において、適正な価格との差額が法人税法36条にいう損金経理をしなかった金額に該当するとされた事例。
参照条文: /法税.36条/
全 文 h100612supreme.html

最高裁判所 平成 10年 6月 12日 第2小法廷 判決 ( 平成5年(オ)第708号 )
事件名: 
要 旨
 1
 民法724条後段の規定は、不法行為による損害賠償請求権の除斥期間を定めたものである(消滅時効期間を定めたものではない)。
 2
 不法行為による損害賠償を求める訴えが除斥期間の経過後に提起された場合には、裁判所は、当事者からの主張がなくても、除斥期間の経過により右請求権が消滅したものと判断すべきである。
 3
 除斥期間の主張が信義則違反又は権利濫用であるという主張は、主張自体失当である。
 4
 不法行為の被害者が不法行為の時から20年を経過する前6箇月内において右不法行為を原因として心神喪失の常況にあるのに法定代理人を有しなかった場合において、その後当該被害者が禁治産宣告を受け、後見人に就職した者がその時から6箇月内に右損害賠償請求権を行使したなど特段の事情があるときは、民法158条の法意に照らし、同法724条後段の効果は生じない(時効停止規定の類推)。
 (予防接種が原因で心神喪失の状況に陥った場合)
参照条文: /民法:724条/民法:158条/民法:145条/
全 文 h100612supreme3.html

最高裁判所 平成 10年 6月 12日 第2小法廷 判決 ( 平成9年(オ)第849号 )
事件名:  報酬金等請求事件
要 旨
 1.金銭債権の数量的一部請求訴訟で敗訴した原告が残部請求の訴えを提起することは、特段の事情がない限り、信義則に反して許されない。
 2.訴訟物を異にする場合であっても、後訴が実質的には、敗訴に終わった前訴の請求及び主張の蒸返しに当たる場合には、後訴の提起は信義則に反して許されない。 /訴えの客観的利益/訴えの利益/既判力/紛争の蒸返し/
参照条文: /民訴.2条/民訴.114条/民訴.2編1章/民訴.114条/
全 文 h100612supreme4.html

最高裁判 平成 10年 6月 12日 第2小法廷 判決 ( 平成8年(オ)第1307号 )
事件名:  供託金還付請求権確認請求本訴、詐害行為取消請求反訴上告事件
要 旨
 確定日付のある債権譲渡の通知は、債権譲渡行為自体と切り離して詐害行為取消権行使の対象とすることができない
参照条文: /民法:424条;467条/
全 文 h100612supreme2.html

最高裁判所 平成 10年 6月 11日 第1小法廷 判決 ( 平成9九年(オ)第685号 )
事件名: 
要 旨
 1
 遺産分割協議の申入れに遺留分減殺の意思表示が含まれる場合
 2
 内容証明郵便が留置期間経過により差出人に還付された場合に意思表示の到達が認められた事例
 (集配郵便局郵便取扱手続の制定について)
参照条文: /民法:97条1項/民法:1031条/民法:1042条/
全 文 h100611supreme.html

最高裁判所 平成 10年 6月 11日 第1小法廷 判決 ( 平成9年(オ)第243号 )
事件名:  保証金還付請求事件上告事件
要 旨
 1.
 宅地建物取引業保証協会の社員と宅地建物取引業に関し取引をした者が、その取引に係る契約における損害賠償額の予定又は違約金に関する定めに基づき取得した損害賠償債権又は違約金債権は、特段の事情がない限り、弁済業務保証金による弁済の対象である宅地建物取引業法64条の8第1項所定の「その取引により生じた債権」に当たる。
 1a.協会が、その内部規約において、実損金額を超える部分を弁済業務の対象から除外する旨を定め、「その取引により生じた債権」の内容及び範囲に制限を加え、その認証を拒否することは、許されない。
参照条文: /宅建業.64-8条2項/宅建業.25条/宅建業.64-9条/宅建業.64-13条/宅建業.27条1項/
全 文 h100611supreme2.html

最高裁判所 平成 10年 5月 26日 第3小法廷 判決 ( 平成8年(オ)第497号 )
事件名: 
要 旨
 借主甲が貸主乙に指示して貸付金を丙に給付させた後に丁の強迫を理由に消費貸借契約を取り消した場合に、乙からの不当利得返還請求につき、甲が右給付により利益を受けなかったというべき特段の事情があるとされた事例
参照条文: /民法:703条/民法:704条/民法:121条/民法:96条1項/
全 文 h100526supreme.html

最高裁判所 平成 10年 4月 30日 第1小法廷 判決 ( 平成6年(オ)第799号 )
事件名:  損害賠償請求・上告事件
要 旨
 宝石加工の元請業者が客から預かった宝石を責任制限のある宅配便で下請業者に送り、加工後の宝石を下請業者が同様に宅配便で元請業者に送り返したところ、配送途中で宝石が紛失した場合に、元請業者(荷受人)が宅配業者に損害賠償を求める訴えを提起したが、本件の事実関係の下においては、荷受人が宅配業者に対し運送契約上の責任限度額である30万円を超えて損害賠償を請求することは、信義則に反し、許されないとされた事例。
 1.責任限度額の定めは、運送人の荷送人に対する債務不履行に基づく責任についてだけでなく、荷送人に対する不法行為に基づく責任についても適用されるものと解するのが当事者の合理的な意思に合致する。
 2.宅配便が有する特質、責任限度額を定めた趣旨及び約款中の運送人の重過失の場合の全額賠償責任を定める規定の存在を考慮すれば、荷受人も、少なくとも宅配便によって荷物が運送されることを容認していたなどの事情が存するときは、信義則上、責任限度額を超えて運送人に対して損害の賠償を求めることは許されない。 /標準宅配便約款/
参照条文: /民法:709条/民法:1条2項/民法:415条/
全 文 h100430supreme.html

最高裁判所 平成 10年 4月 30日 第1小法廷 判決 ( 平成5年(オ)第789号 )
事件名:  賃金請求上告事件
要 旨
 訴訟上の相殺の抗弁に対し訴訟上の相殺を再抗弁として主張することは、不適法として許されない。 /既判力/不適法な攻撃防御方法の却下/相殺の再抗弁/
参照条文: /民訴.157条/民訴.114条2項/
全 文 h100430supreme2.html

最高裁判所 平成 10年 4月 28日 第3小法廷 判決 ( 平成6年(オ)第1838号 )
事件名:  執行判決請求上告事件
要 旨: 香港高等法院がした訴訟費用負担の裁判と執行判決の要件
 1.民事執行法24条所定の「外国裁判所の判決」とは、外国の裁判所が、その裁判の名称、手続、形式のいかんを問わず、私法上の法律関係について当事者双方の手続的保障の下に終局的にした裁判をいうものであり、決定、命令等と称されるものであっても、右の性質を有するものは、同条にいう「外国裁判所の判決」に当たる。
 1a.香港高等法院がした訴訟費用負担命令およびこれに付随する費用査定書・費用証明書は、民事執行法24条所定の「外国裁判所の判決」に当たる。(事例)
 2.判決等によって支払を命じられる金員に付随して利息等が発生する場合に、これを判決等に記載するか、又は判決等には記載せず法令の規定によって執行力を付与するかは、各国の法制度によって異なるが、その相違は多分に技術的な面によるところが大きく、外国裁判所の判決等に記載がない利息等についても、我が国における承認・執行の対象とすることができないものではない。
 2a.香港高等法院がした訴訟費用負担命令等に遅延利息について何ら記載もなくても、香港最高法院首席裁判官の命令により定められた利率による法定の遅延利息についても、我が国における承認・執行の対象とすることができる。(事例)
 3.執行判決の要件である外国裁判所の判決等が確定したことの証明方法は、いわゆる確定証明書の提出に限られない。
 4.外国判決が承認されるためには判決国に国際裁判管轄が存在することが必要であるが、これが存在するか否かは、基本的に我が国の民訴法の定める土地管轄に関する規定に準拠しつつ、個々の事案における具体的事情に即して、当該外国判決を我が国が承認するのが適当か否かという観点から、条理に照らして判断すべきものである。(肯定事例)
 4a.本案判決の付随的裁判である訴訟費用負担の裁判について外国に国際裁判管轄が認められるか否かは、原則として、その本案判決について検討すべきものである。
 4b.保証債務履行請求訴訟中に被告である保証人が主債務者に対して提起した英米法系に固有な訴訟形態である第三当事者訴訟について、民訴法7条の規定の趣旨に照らし、外国判決の承認要件としての香港の国際裁判権を肯認し、香港の裁判所の判決を承認するのが条理にかなうと判断された事例。
 5.民訴法118条2号所定の被告に対する「訴訟の開始に必要な呼出し若しくは命令の送達」は、我が国の民事訴訟手続に関する法令の規定に従ったものであることを要しないが、被告が現実に訴訟手続の開始を了知することができ、かつ、その防御権の行使に支障のないものでなければならない。のみならず、裁判上の文書の送達につき、判決国と我が国との間に司法共助に関する条約が締結されていて、訴訟手続の開始に必要な文書の送達がその条約の定める方法によるべきものとされている場合には、条約に定められた方法を遵守しない送達は、同号所定の要件を満たす送達に当たるものではない。(提訴者から私的に依頼を受けた者による直接交付の方法による送達が2号の送達要件を満たさないと判断された事例)
 5a.民訴法118条2号所定の被告が「応訴したこと」とは、いわゆる応訴管轄が成立するための応訴とは異なり、被告が、防御の機会を与えられ、かつ、裁判所で防御のための方法をとったことを意味し、管轄違いの抗弁を提出したような場合もこれに含まれる。(肯定事例)
 6.訴訟費用の負担についてどのように定めるかは、各国の法制度の問題であって、実際に生じた費用の範囲内でその負担を定めるのであれば、弁護士費用を含めてその全額をいずれか一方の当事者に負担させることとしても、民訴法118条3号所定の「公の秩序」に反するものではない。
 6a.香港の裁判所が、インデムニティ・ベイシスの基準に基づき、当事者の一方に不誠実な行動があったことが考慮して、弁護士費用を含む訴訟費用のほぼ全額をその者に負担させる裁判は、懲罰的な評価が含まれていることが認められるが、他方、負担を命じられた訴訟費用の額は実際に生じた費用の額を超えるものではないから、その訴訟費用負担命令等の内容が我が国の公の秩序に反するということはできないとされた事例。
 7.民訴法118条4号所定の「相互の保証があること」とは、当該判決等をした外国裁判所の属する国において、我が国の裁判所がしたこれと同種類の判決等が、同条各号所定の要件と重要な点で異ならない要件の下で効力を有するものとされていることを意味する。
 7a.香港で適用されていたコモン・ローの下における右外国判決承認の要件は、我が国の民訴法118条各号所定の要件と重要な点において異ならないのであるから、香港と我が国との間には、外国判決の承認に関して同条4号所定の相互の保証が存在したものと認めるのが相当である。
参照条文: /民訴.118条1号/民訴.118条2号/民訴.118条3号/民訴.118条4号/民執24条2項/民執24条3項/
全 文 h100428supreme.html

最高裁判所 平成 10年 4月 24日 第2小法廷 判決 ( 平成6年(行ツ)第234号 )
事件名:  損害賠償等請求上告事件
要 旨
 職務専念義務を免除されて茅ヶ崎商工会議所に派遣され、茅ヶ崎市自身の事務に従事していない職員に市長が市の給与規定に従い給与を支払ったことの適法性が争われ、支出の適法性を肯定した原審の判断に審理不尽ひいては理由不備の違法があるとして、破棄差戻しがなされた事例。
 1.職務免除条例及び給与条例において職務専念義務の免除や勤務しないことについての承認について明示の要件を定めていない場合でも、処分権者がこれを全く自由に行うことができるというものではなく、職務専念義務の免除が服務の根本基準を定める地方公務員法30条や職務に専念すべき義務を定める同法35条の趣旨に違反したり、勤務しないことについての承認が給与の根本基準を定める同法24条1項の趣旨に違反する場合には、これらは違法になる。
 1a.商工会議所に派遣される市の常勤職員についてなされた職務専念義務免除の承認を適法と判断するためには、派遣先の実際の業務内容がどのようなものであって、それが市の商工業の振興策とどのような関連性を有していたのか、派遣職員の派遣先における具体的な職務内容がどのようなものであって、それが市の企図する商工業の振興策とどのように関係していたのかなどの諸点について、十分な審理を尽くした上、市の右行政目的の達成のために派遣をすることの公益上の必要性を検討し、これらに照らして、職務専念義務の免除及び承認が地方公務員法30条や24条1項の趣旨に反しないかどうかを判断する必要がある。
参照条文: /地公.30条/地公.35条/地公.24条1項/茅ヶ崎市職員の職務に専念する義務の特例に関する条例/茅ヶ崎市一般職員の給与に関する条例/地自.242-2条1号4号/地自.204条3項/
全 文 h100424supreme.html

最高裁判所 平成 10年 4月 24日 第2小法廷 判決 ( 平成7年(オ)第2472号 )
事件名:  損害賠償請求上告事件
要 旨
 1.
 債務の履行不能による損害賠償請求権の消滅時効は、本来の債務の履行を請求し得る時からその進行を開始する。
 2.
 本来の債務についての消滅時効の援用は、その履行不能による損害賠償請求権についての消滅時効を援用する趣旨のものと解することができるとされた事例。
参照条文: /民法:166条1項/民法:145条/民法:415条/
全 文 h100424supreme2.html

最高裁判所平成 平成 10年 4月 24日 第2小法廷 判決 ( 平成5年(オ)第2005号 )
事件名:  損害賠償請求上告事件
要 旨
 1.厳正独居拘禁及びその更新が違法なものとはいえないとされた事例。
 1a.厳正独居拘禁は、自由刑とは異なる身体罰ないし精神罰であって特別な不利益処分であるということはできず、憲法に違反するものではない。
 2.受刑者に対する軽屏禁及び文書図画閲覧禁止各10日の懲罰が違法なものとはいえないとされた事例。
 2a.監獄法が懲罰の対象となる違反行為の内容を定めていないことは、憲法31条に違反しない。
 3.監獄内の規律及び秩序の維持に障害を生ずること並びに受刑者の教化を妨げることを理由とする新聞記事、機関紙の記事、上告人の受信した信書及び上告人の発信した信書の一部抹消が違法なものとはいえず、憲法21条に違反しないされた事例。
参照条文: /憲.21条/憲.31条/監獄.47条/監獄.60条/
全 文 h100424supreme3.html

最高裁判所 平成 10年 4月 14日 第3小法廷 判決 ( 平成6年(オ)第2137号 )
事件名:  精算金請求上告事件
要 旨
 建築共同企業体の構成員の一人が和議開始の申立てをした場合に、この者に対して請負報酬代金の分配債務を負っている他の構成員は、右申立前の共同企業体の債務を申立て後に弁済したことによる求償権をもって相殺することができ、また、和議開始決定後の弁済による求償権による相殺を和議条件により変更された和議債権の限度ですることができるとされた事例。
 1.共同企業体は、基本的には民法上の組合の性質を有するものである。
 1a.共同企業体の構成員が会社である場合には、各構成員は、共同企業体がその事業のために第三者に対して負担した債務につき、商法511条1項により連帯債務を負う。
 2.連帯債務関係が発生した後に連帯債務者の一人が和議開始の申立てをした場合において、他の連帯債務者が和議開始の申立てを知った後に債権者に債務を弁済したときは、右弁済による求償権の取得は、和議法5条によって準用されたところの破産法104条4号但書にいう「和議開始の申立てを知る前の原因に基づく」ものと解するのが相当である。
 3.連帯債務者の一人について和議認可決定が確定した場合において、和議開始決定後の弁済により右連帯債務者に対して求償権を取得した他の連帯債務者は、債権者が全額の弁済を受けたときに限り、右弁済によって取得する債権者の和議債権(和議条件により変更されたもの)の限度で右求償権を行使することができ、その限度で和議債務者に対する債務との相殺もなしうる。
参照条文: /和議.5条/破産.104条4号/破産.104条3号/破産.26条/商.511条1項/
全 文 h100414supreme.html

最高裁判所 平成 10年 4月 10日 第2小法廷 判決 ( 平成6年(行ツ)第152号 )
事件名: 
要 旨
 再入国不許可処分の取消しを求める訴えの利益
 (訴えの客観的利益)
参照条文: /入管2.6条1項/民訴./
全 文 h100410supreme.html

最高裁判所 平成 10年 4月 10日 第2小法廷 判決 ( 平成6年(行ツ)第153号 )
事件名: 
要 旨
 協定永住資格を有していた韓国人に対して指紋押なつ拒否を理由としてした再入国不許可処分が違法であるとはいえないとされた事例
参照条文: /日韓地位協定.1条/外登.14条/国賠.1条1項/
全 文 h100410supreme2.html

最高裁判所 平成 10年 4月 9日 第1小法廷 判決 ( 平成7年(オ)第1230号 )
事件名:  賃金等請求・上告事件
要 旨
 1.労働者が職種や業務内容を特定せずに労働契約を締結した場合においては、現に就業を命じられた特定の業務について労務の提供が十全にはできないとしても、その能力、経験、地位、当該企業の規模、業種、当該企業における労働者の配置・異動の実情及び難易等に照らして当該労働者が配置される現実的可能性があると認められる他の業務について労務の提供をすることができ、かつ、その提供を申し出ているならば、なお債務の本旨に従った履行の提供があると解するのが相当である。
 1a.使用者(片山組)の下で21年以上にわたり建築工事現場における監督業務に従事してきた労働者が私病(バセドウ病)に罹患し、現場監督業務は行えないが事務作業による労務の提供は可能である場合に、監督業務による労務の提供ができなくなったことから直ちに債務の本旨に従った労務の提供をしなかったものと断定することはできないとされた事例(原判決が、職種や業務内容が現場監督業務に限定されていたと認定することなく、債務の本旨に従った労務の提供がされていなかったとして賃金債権を否定したが、破棄された事例)。
参照条文: /民法:493条;623条/労働基準法:第2章/
全 文 h100409supreme.html

最高裁判所 平成 10年 3月 27日 第2小法廷 判決 ( 平成8年(オ)第1681号 )
事件名:  取締役解任請求上告事件
要 旨
 商法257条3項(現会社法854条)所定の取締役解任の訴えは、会社と取締役との間の会社法上の法律関係の解消を目的とする形成の訴えであるから、当該法律関係の当事者である会社と取締役の双方を被告とすべき固有必要的共同訴訟である。 /当事者適格/訴訟要件/訴えの主観的利益/
参照条文: /商.257条3項/民訴.40条/民訴.140条/会社.855条/
全 文 h100327supreme.html

最高裁判所 平成 10年 3月 27日 第2小法廷 判決 ( 平成5年(オ)第1492号 )
事件名: 
要 旨
 定期傭船されている船舶の積荷につき船荷証券が発行された場合において、船荷証券所持人に対して運送契約上の債務を負担する運送人の確定は、船荷証券の記載に基づいてすべきである
参照条文: /商.704条1項/
全 文 h100327supreme2.html

最高裁判所 平成 10年 3月 26日 第1小法廷 判決 ( 平成6年(行ツ)第76号 )
事件名:  酒類販売業免許申請に対する拒否処分取消請求上告事件
要 旨
 1.職業の許可制は、職業選択の自由そのものに制約を課する強力な制限であるから、その憲法22条1項適合性を肯定するためには、原則として、重要な公共の利益のために必要かつ合理的な措置であることを要する。
 2.租税法の定立については、国家財政、社会経済、国民所得、国民生活等の実態についての正確な資料を基礎とする立法府の政策的、技術的な判断にゆだねるほかはなく、酒税法における酒類販売業の免許制については、公共の利益の観点からこれを必要かつ合理的であるとする立法府の判断が、右の政策的、技術的な裁量の範囲を逸脱するもので著しく不合理なものでない限り、これを憲法22条1項の規定に違反するものとはいえない。
 2a.本件処分当時において、酒税の収入総額が多額であって、販売代金に占める酒税比率もなお高率であること、税負担を消費者に適正、円滑に転嫁するという酒税の賦課徴収に関する仕組み自体はその合理性を失うに至っているとはいえないことなどを考慮すると、酒類販売業免許制を存置させていたことが、立法府の政策的、技術的な裁量の範囲を逸脱するもので著しく不合理であるとまでは断定し難いとされた事例。
参照条文: /酒税.9条1項/酒税.10条10号/憲.22条1項/
全 文 h100326supreme.html

最高裁判所 平成 10年 3月 26日 第1小法廷 判決 ( 平成8年(オ)第983号 )
事件名:  不当利得請求・上告事件
要 旨
 配当期日に配当異議の申出をしなかった一般債権者は配当を受けた他の債権者に対して不当利得返還請求をすることができない
参照条文: /民法:703条/民執.89条/
全 文 h100326supreme3.html

最高裁判所 平成 10年 3月 26日 第1小法廷判決 判決 ( 平成6年(オ)第1408号 )
事件名:  不当利得返還請求上告事件
要 旨
 賃貸建物の賃料債権が差し押さえられた後に当該建物に抵当権の設定登記を受けた者は、抵当権に基づく物上代位権の行使として右賃料債権を差し押さえても、配当を受けることができないとされた事例(配当を受けた一般債権者に対する不当利得返還請求が棄却された事例)。
 1.債権について一般債権者の差押えと抵当権者の物上代位権に基づく差押えが競合した場合には、両者の優劣は、一般債権者の申立てによる差押命令の第三債務者への送達と抵当権設定登記の先後によって決せられる。
参照条文: /民法:177条/民執.145条4項/民法:304条1項/民法:372条/
全 文 h100326supreme2.html

最高裁判所 平成 10年 3月 24日 第3小法廷 判決 ( 平成8年(オ)第551号 )
事件名:  共有持分権に基づく妨害排除、遺言無効確認等請求上告事件
要 旨
 共有者の一人が共有に属する農地を宅地造成工事により非農地化した場合に、共有物の変更に当たるとして、他の共有者からの原状回復請求が認容された事例。
 1.共有者の一部が他の共有者の同意を得ることなく共有物を物理的に損傷しあるいはこれを改変するなど共有物に変更を加える行為をしている場合には、他の共有者は、各自の共有持分権に基づいて、右行為の全部の禁止を求めることができるだけでなく、共有物を原状に復することが不能であるなどの特段の事情がある場合を除き、右行為により生じた結果を除去して共有物を原状に復させることを求めることもできる。 /共有持分権/
参照条文: /民法:249条/民法:251条/
全 文 h100324supreme.html

最高裁判所 平成 10年 3月 24日 第3小法廷 判決 ( 平成9年(オ)第2117号 )
事件名:  遺留分減殺請求本訴、損害賠償請求反訴事件
要 旨
 民法903条1項の定める相続人に対する贈与は、特段の事情のない限り、民法1030条の定める要件を満たさないものであっても、遺留分減殺の対象となる。
 路線価方式とは、宅地についての課税実務上の評価の方式であって、特段の事情のない限り宅地でない土地の評価に用いることはできないとの理由により、上告審が原審の事実認定を違法とした事例。 (自由心証主義)
参照条文: /民法:1030条/民法:903条/民訴.321条1項/民訴.247条/
全 文 h100324supreme4.html

最高裁判所 平成 10年 3月 24日 第3小法廷 判決 ( 平成7年(オ)第514号 )
事件名:  供託金還付請求権確認等請求・上告事件
要 旨
 将来における建物の賃料債権の差押えの効力が発生した後に右建物を譲り受けた者は、賃料債権の取得をもって差押債権者に対抗することができない。 /債権差押え/賃貸人の地位の移転/賃料債権の移転/
参照条文: /民事執行法:151条;145条1項/
全 文 h100324supreme2.html

最高裁判所 平成 10年 3月 20日 第3小法廷 決定 ( 平成18年(許)第39号 )
事件名:  再審請求棄却決定に対する抗告棄却決定に対する許可抗告事件
要 旨
 同居している義父により無断で連帯保証人とされた者(X)に対して保証債務履行請求の訴えが提起され,その訴状及び第1回口頭弁論期日の呼出状の送達がなされたが,これらの送達書類を義父が同居者として受領しながら本人に引き渡さなかったため,Xが不出頭のまま請求認容判決に言い渡され,その判決の判決書に代わる調書が書留郵便に付する方法によりなされ,これを受領しなかったXが控訴が提起しなかったために判決が確定した場合に,判決確定から約2年後にXが民訴法338条1項3号の再審事由の存在を主張して提起した再審の訴えについて,訴状等の送達が有効になされていることを理由に再審事由の存在を否定した原決定が破棄された事例。
 1.民訴法106条1項は,就業場所以外の送達をすべき場所において受送達者に出会わないときは,「使用人その他の従業者又は同居者であって,書類の受領について相当のわきまえのあるもの」に書類を交付すれば,受送達者に対する送達の効力が生ずるものとしており,その後,書類が同居者等から受送達者に交付されたか否か,同居者等が上記交付の事実を受送達者に告知したか否かは,送達の効力に影響を及ぼすものではない。
 1a.受送達者あての訴訟関係書類の交付を受けた同居者等が,その訴訟において受送達者の相手方当事者又はこれと同視し得る者に当たる場合は別として(民法108条参照),その訴訟に関して受送達者との間に事実上の利害関係の対立があるにすぎない場合には,当該同居者等に対して上記書類を交付することによって,受送達者に対する送達の効力が生ずる。
 2.訴状等の送達が補充送達として有効であるからといって,直ちに民訴法338条1項3号の再審事由の存在が否定されることにはならず,事由の存否は,当事者に保障されるべき手続関与の機会が与えられていたか否かの観点から改めて判断されなければならない。
 2a.受送達者あての訴訟関係書類の交付を受けた同居者等と受送達者との間に,その訴訟に関して事実上の利害関係の対立があるため,同居者等から受送達者に対して訴訟関係書類が速やかに交付されることを期待することができない場合において,実際にも当該同居者等から受送達者に対して訴訟関係書類が実際に交付されず,そのため,受送達者が訴訟が提起されていることを知らないまま判決がされたときには,当事者の代理人として訴訟行為をした者が代理権を欠いた場合と別異に扱う理由はないから,民訴法338条1項3号の再審事由があると解するのが相当である。 /補充送達/
参照条文: /民事訴訟法:106条;338条1項3号/民法:108条/
全 文 h190320supreme.html

最高裁判所 平成 10年 3月 13日 第2小法廷 判決 ( 平成9年(オ)第218号 )
事件名: 
要 旨
 遺言公正証書の作成に当たり、証人は、遺言者による署名押印に立ち会うことを要する。
 証人の一人が署名には立ち会ったが押印には立ち会わなかっ場合に、押印の直後にその証人が押印を確認したため、遺言の効力を否定すべきではないとされた事例。
参照条文: /民法:969条1号/民法:969条4号/
全 文 h100313supreme2.html

最高裁判所 平成 10年 3月 13日 第2小法廷 判決 ( 平成8年(オ)第1342号 )
事件名: 
要 旨
 国会議員の被選挙権を日本国民に限っている公職選挙法10条1項等の規定と憲法15条並びに市民的及び政治的権利に関する国際規約25条
参照条文: /公選.10条1項/憲.15/市民的人権規約.25条/
全 文 h100313supreme.html

最高裁判所 平成 10年 3月 12日 第1小法廷 判決 ( 平成6年(行ツ)第109号 )
事件名: 
要 旨
 内地人女子の嫡出でない子につき朝鮮人男子により昭和二三年六月に認知がされた場合における平和条約発効後の子の国籍
 (朝鮮民事令/共通法/朝鮮戸籍令/国際私法上の公序良俗)
参照条文: /法例.2条/法例.33条/戸籍.23条/国籍1.23条/共通法.3条/朝鮮民事令.11条/
全 文 h100312supreme.html

最高裁判所 平成 10年 3月 10日 第3小法廷 判決 ( 平成6年(オ)第1998号 )
事件名:  占有回収請求上告事件
要 旨
 宗教法人の代表者(住職)として寺院建物の所持を開始した者が、自己自身のためにも所持する意思を有し、現に所持していたと認められるから、僧籍はく脱の処分を受けた後に右建物の占有を開始した右法人に対して占有回収の訴えによりその返還を求めることができるとされた事例。 /機関占有/占有訴訟/法律上の争訟/宗教団体の内部紛争/訴訟要件/本門寺/奥乃坊/日蓮正宗/阿部日顕/僧籍剥奪処分/信仰/教義/
参照条文: /民法:180条/民法:200条/民訴.140条/
全 文 h100310supreme.html

最高裁判所 平成 10年 3月 10日 第3小法廷 判決 ( 平成8年(オ)第20号 )
事件名: 
要 旨
 受遺者が遺留分減殺請求を受ける前に遺贈の目的物を譲渡した場合、受遺者の遺留分権利者に対する価格弁償の額は、右時点における客観的に相当な額を基準として算定すべきである
参照条文: /民法:1040条1項/
全 文 h100310supreme2.html

最高裁判所 平成 10年 2月 27日 第2小法廷 判決 ( 平成7年(オ)第1993号 )
事件名:  土地賃借権確認、借地権確認請求事件
要 旨
 遺言執行者があるときであっても、遺言によって特定の相続人に相続させるものとされた特定の不動産についての賃借権確認請求訴訟の被告適格を有する者は、遺言書に当該不動産の管理及び相続人への引渡しを遺言執行者の職務とする旨の記載があるなどの特段の事情のない限り、遺言執行者ではなく、右の相続人である。
 (当事者適格/訴訟要件)
参照条文: /民法:1012条/民法:906条/民法:907条/民法:985条/
全 文 h100227supreme.html

最高裁判所 平成 10年 2月 26日 第1小法廷 判決 ( 平成9年(オ)第802号 )
事件名: 
要 旨
 相続人に対する遺贈が遺留分減殺の対象となる場合においては、右遺贈の目的の価額のうち受遺者の遺留分額を超える部分のみが、民法一〇三四条にいう目的の価額に当たる
参照条文: /民法:1034条/
全 文 h100226supreme2.html

最高裁判所 平成 10年 2月 26日 第1小法廷 判決 ( 平成6年(オ)第1900号 )
事件名: 
要 旨
 共有不動産を共同で使用する内縁の夫婦の間では、その一方が死亡した後は他方が右不動産を単独で使用する旨の合意が成立していたものと推認される
 (相続/不当利得返還請求/使用貸借/当事者の意思解釈/共有物の利用)
参照条文: /民法:703条/民法:249条/民法:896条/民法:593条/
全 文 h100226supreme.html

最高裁判所 平成 10年 2月 24日 第3小法廷 判決 ( 平成6年(オ)第1083号 )
事件名:  特許権侵害差止等請求事件
要 旨
 明細書の特許請求の範囲に記載された構成中に他人が製造等をする製品又は用いる方法と異なる部分が存する場合であっても、(1)右部分が特許発明の本質的部分ではなく、(2)右部分を右製品等におけるものと置き換えても特許発明の目的を達することができ同一の作用効果を奏するものであって、(3)右のように置き換えることに当該発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が右製品等の製造等の時点において容易に想到することができたものであり、(4)右製品等が特許発明の特許出願時における公知技術と同一又は右の者がこれから右出願時に容易に推考できたものでなく、かつ、(5)右製品等が特許出願手続において特許請求の範囲から意識的に除外されたものに当たるなどの特段の事情もないときは、右製品等は、特許請求の範囲に記載された構成と均等なものとして、特許発明の技術的範囲に属するものと解すべきである。
 (均等論を適用した原判決が(4)の進歩性の要件の検討が不十分であることを理由に破棄された事例) /知的財産権/無体財産権/工業所有権/特許権/
参照条文: /特許.70条1項/
全 文 h100224supreme.html

最高裁判所 平成 10年 2月 13日 第2小法廷 判決 ( 平成9年(オ)第966号 )
事件名: 
要 旨
 設定登記のされていない通行地役権について承役地の譲受人が登記の欠缺を主張する正当な利益を有する第三者に当たらないと解すべき場合
参照条文: /民法:177条/民法:280条/
全 文 h100213supreme.html

最高裁判所 平成 10年 2月 13日 第2小法廷 判決 ( 平成8年(オ)第2168号 )
事件名: 
要 旨
 不動産の死因贈与の受贈者が限定承認をした相続人であるときは、先に所有権移転登記を経由しても、信義則に照らし、これに後れて差押登記をした相続債権者に所有権取得を対抗することができない
 (法定単純承認/始期付所有権移転仮登記/仮登記の順位保全効/)
参照条文: /民法:1条2項/民法:177条/民執.46条/民法:554条/民法:921条/民法:922条/民法:931条/
全 文 h100213supreme2.html

最高裁判所 平成 10年 2月 10日 第3小法 判決 ( 平成8年(オ)第673号 )
事件名:  第三者異議事件
要 旨
 抵当不動産の賃料債権に対して物上代位権が行使される場合に、民法304条1項の「払渡又ハ引渡」には債権譲渡は含まれず、抵当権者は、物上代位の目的債権が他に譲渡され、その譲渡について第三者に対する対抗要件が備えられた後においても、自ら目的債権を差し押さえて物上代位権を行使することができる。 /第三債務者保護説/
参照条文: /民法:304条1項/民法:372条/民執.193条1項/
全 文 h100210supreme.html

最高裁判所 平成 10年 1月 30日 第2小法 判決 ( 平成9年(オ)第419号 )
事件名:  取立債権請求・上告事件
要 旨
 抵当権者は、物上代位の目的債権(賃料債権)が譲渡されて対抗要件が備えられた後においても、物上代位権を行使することができる。 /債権譲渡/賃料債権/第三債務者保護説/
参照条文: /民法:304条1項/民法:372条/
全 文 h100130supreme.html

最高裁判所 平成 10年 1月 30日 第2小法廷 判決 ( 平成6年(オ)第1084号 )
事件名: 
要 旨
 被告人の読書歴等から犯行の動機を推論する内容の新聞記事が同人の名誉にかかわる事実を摘示するものに当たるとされた事例
 (名誉侵害の違法性が阻却されるための要件/真実性)
参照条文: /民法:709条/民法:710条/
全 文 h100130supreme2.html

最高裁判所 平成 9年 12月 18日 第1小法廷 判決 ( 平成8年(行ツ)第111号 )
事件名:  平成8年(行ツ)第111号
要 旨
 1.破産者の財産に対する滞納処分手続において交付要求がされたときは、交付要求に係る請求権に基づき破産宣告前に国税徴収法又は国税徴収の例による差押え(参加差押えができる場合は、これを含む。)がされている場合を除き、交付要求に係る配当金は、破産管財人に交付すべきものと解するのが相当である。 /財団債権/租税債権/財団不足/
参照条文: /国税徴収法:82条;129条1項;133条1項/t11.破産法:47条2号;49条;51条1項;71条1項/
全 文 h091218supreme.html

最高裁判所 平成 9年 12月 16日 第3小法廷 判決 ( 平成7年(オ)第934号 )
事件名: 
要 旨
 1
 預託金会員制ゴルフクラブの会則によれば、会員の死亡は預託金の即時返還事由にあたらないとされて、相続人からの返還請求が棄却された事例。
 2
 預託金会員制ゴルフクラブの会員とゴルフ会社との関係が、会員と本件クラブを経営する上告人との間におけるゴルフ場施設の優先的利用権、預託した保証金の返還請求権、年会費納入の義務等を内容とする債権的法律関係であるとされた事例。
 (契約の解釈)
参照条文: /民法:/
全 文 h091216supreme.html

最高裁判所 平成 9年 11月 28日 第3小法廷 判決 ( 平成7年(オ)第1937号 )
事件名:  配当異議・上告事件
要 旨
 1.破産者所有の不動産を目的とする担保権の実行としての競売手続において交付要求がされたときは、交付要求に係る請求権に基づき破産宣告前に国税徴収法又は国税徴収の例による差押え(参加差押えを含む)がされている場合を除き、交付要求に係る配当金は、破産管財人に交付すべきである。 /財団債権/財団不足/租税債権/別除権/
参照条文: /民事執行法:84条;87条1項;188条/t11.破産法:47条2号;49条;51条1項;71条1項;95条/国税徴収法:82条/
全 文 h091128supreme.html

大阪地方裁判所 平成 9年 11月 27日 判決 ( 平成8年(ワ)第12221号 )
事件名:  損害賠償等請求事件
要 旨
 1.コンピュータ用ゲームソフト「ときめきメモリアル」の著作者が,主人公の能力値を制作者の意図に反して予め高く設定したメモリーカードを輸入し,他人の使用を意図して流通に置いた者に対し,同一性保持権の侵害が生じたことを理由に、損害賠償および謝罪広告を請求したが,棄却された事例。
 1a.コンピュータ用シュミレーションゲームソフトの登場人物のパラメータを制作者の意図に反して設定しても、ゲームソフトのプログラム自体が書き換えられるわけではなく、プログラムが停止したり暴走したりすることなく、正常にゲームを進行することができる場合には、ゲームソフトのプログラムの許容する範囲内であり、ゲームソフトが予定しているストーリーを改変するものであるとは認められないとされた事例。
 1b.終了までに長時間を要するシュミレーションゲームにおいて、プレイヤーが途中経過をメモリーカードに記録し、その記録を元に再開することができるようになっていて、かつ、他のプレイヤーが記録したメモリーカードを使用することもできるようになっている場合に、通常にプレイした場合には達成が困難ではあるがゲームとしては予定の範囲内である途中経過のデータ(ハッピーエンディング直前のデータ)を記録したメモリーカード多数輸入して販売しても同一性保持権の侵害に当たらないとされた事例。
 2.ゲームソフトのキャラクターの図柄をメモリーカードの表面に無断で複製したことが複製権侵害に当たるとして損害賠償が命じられた事例。 /知的財産権/無体財産権/著作権/恋愛シュミレーションゲーム/
参照条文: /著作.20条/著作.2条1項10-2号/著作.2条3項/著作.2条1項1号/民法:709条/
全 文 h091127osakaD.html

最高裁判所 平成 9年 11月 11日 第3小法廷 判決 ( 平成5年(オ)第1660号 )
事件名:  預託金請求上告事件
要 旨
 1.日本の民訴法の規定する裁判籍のいずれかが国内にあるときは、原則として、日本の裁判所に提起された訴訟事件につき、被告を日本の裁判権に服させるのが相当であるが、日本で裁判を行うことが当事者間の公平、裁判の適正・迅速を期するという理念に反する特段の事情があると認められる場合には、日本の国際裁判管轄を否定すべきである。
 2.日本に主たる営業所を有する原告が、ドイツに居住する被告に対して提起した預託金返還請求訴訟につき、契約の準拠法は日本法であり、義務履行地としての日本の国際裁判管轄権を肯定すべきであると主張したが、準拠法が日本法であるか否かにかかわらず、日本の国際裁判管轄を否定すべき特段の事情があるとされた事例。 /訴訟要件/
参照条文: /民訴.5条1号/
全 文 h091111supreme.html

最高裁判所 平成 9年 9月 25日 第3小法廷 判決 ( 平成8年(オ)第1430号 )
事件名:  詐害行為取消等請求・上告事件
要 旨
 自己破産事件における破産免責決定の効力が被保全債権に及んだことを理由に、受益者に対する詐害行為取消請求及び原状回復請求が棄却された事例。
 1.免責決定の効力の及ぶ破産債権(保証債務履行請求権)は、破産法第3編第1章の規定による免責決定が確定したことにより、訴えをもって履行を請求しその強制的実現を図ることができなくなる。
 1a.免責決定が確定した後は、破産者が自己破産の申立て前にした財産処分行為につき、免責決定の効力の及ぶ破産債権に基づき詐害行為取消権を行使することは許されない。
参照条文: /t11.破産法:366-12条/民法:424条/
全 文 h090225supreme3.html

東京高等裁判所 平成 9年 9月 18日 第14民事部 判決 ( 平成8年(ネ)第2484号 )
事件名:  執行判決請求・控訴事件
要 旨
 1.アメリカ合衆国オハイオ州モントゴメリー郡民事裁判所少年部が下した子の養育費の支払を命じた判決は、民事訴訟法200条(現118条)の適用を受ける外国判決であるとされた事例。
 1a.養育費請求事件は、わが国においては家事非訟事件に該当するが、当事者の手続保障を特に考慮すべき争訟的性格の強い事件であるから、その裁判の執行については、民事訴訟法200条の適用を受けるものと解するのが相当である。
 2.外国判決の承認要件の一つである間接的一般管轄権は、外国判決の承認・執行を求められた国からみて、当該外国裁判所が当該渉外事件を審理判決する権限を有していたと認められるかどうかという問題であるから、これは判決国法によって決まるものではなく、外国判決の承認・執行を求められた国(本件では、わが国)の国際民事訴訟法の立場から国際裁判管轄権が認められることが必要である。
 2a.養育費請求事件の国際裁判管轄権については、これを直接規定する法規のない現状では、養育費請求事件の特質をふまえながら、当事者間の公平、裁判の適正迅速を期するという理念により、条理に従ってこれを決定するのが相当である。
 2b. 養育費請求事件にあっては、原則として、子の住所地ないし常居所地のある国の裁判所に国際裁判管轄権を認めるのが相当であるとしても、具体的な事情に基づき条理に照らして判断し、子の住所地ないし常居所地のある国ではなく、相手方(義務者)の住所地ないし常居所地のある国の裁判所に国際裁判管轄権を認めるのを相当とする特別の事情のある場合には、右裁判所に国際裁判管轄権があると解するのが相当である。
 2c.扶養請求事件の場合においても、未成熟子から実親に対する請求の場合には、その国際裁判管轄権については、子の福祉に配慮し、右の養育費請求事件の場合と同様に、原則として、子の住所地ないし常居所地のある国の裁判所に国際裁判管轄権を認めるのが相当であるが、特別の事情のある場合には、子の住所地ないし常居所地のある国ではなく、相手方(義務者)の住所地ないし常居所地のある国の裁判所に国際裁判管轄権があると解するのが相当である。(傍論)
 2d.未成熟子及びその監護者である実親の住所地ないし常居所地がある国と非監護者である実親の住所地ないし常居所地がある国とが異なるに至った原因が、非監護者である実親(義務者)にかかわる事情にあるのではなく、未成熟子の監護者である実親(権利者)にかかわる事情にあることが明らかである場合に、養育費請求事件について、両親の間の経済的負担の調整を図ることを内容とする側面の強いものであることを考慮すれば、条理上、外国訴訟のうちの養育費請求事件の国際裁判管轄権は、同事件の被告とされた者の住所地のある日本の裁判所にあると認めるのが相当であって、子及び監護者の住所地ないし常居所地のあるアメリカ合衆国オハイオ州の裁判所にあると認めるのは相当でないとすべき特別の事情があると判断された事例。
 2e.アメリカ民事訴訟法上、被告が州の領域内で訴状を送達された場合には、一般的管轄権が認められ、また、身分関係に関する紛争の管轄権は、身分的な関係にある当事者が関係を持っているすべての州に存在し、アメリカ合衆国オハイオ州裁判所に管轄権が認められるとしても、わが国の国際民事訴訟法は、アメリカ民事訴訟法上の原則を採用していないのであるから、直ちにわが国の国際民事訴訟法上も同州の裁判所に国際裁判管轄権があると認めることはできないと判断された事例。
 2f.渉外認知事件の国際裁判管轄権については、渉外離婚事件に準じて、被告の住所地のある国の裁判所にこれを認めるのを原則とし、行方不明その他特別の事情がある場合には例外的に原告の住所地のある国にこれを認めるべきものと解するのが相当である。
 2g.未成熟子の母が、アメリカ合衆国オハイオ州の裁判所において、同州在住の夫を被告とする父子関係不存在確認請求の訴えと日本に住所を有する父を被告とする父子関係存在確認請求及び養育費支払請求の訴えを併合して提起し、いずれの請求についても認容判決(外国判決)を得た場合に、父子関係存在確認の訴えは、わが国における認知訴訟に該当すると解されるが、日本在住の父に対して提起された父子関係存在確認の訴えについて、アメリカ合衆国オハイオ州の裁判所に国際裁判管轄権を認めることはできず、養育費請求事件と父子関係存在確認の訴えとを客観的併合することにより同州の裁判所に養育費請求事件の国際裁判管轄権を認めることもできない、と判断された事例。
 2h.日本の国際私法(扶養義務の準拠法に関する法律2条2項本文)によれば扶養義務の準拠法がオハイオ州法になりうるとしても、準拠法と国際裁判管轄権の帰属とは異なる問題であるから、そのことをアメリカ合衆国オハイオ州の裁判所に国際裁判管轄権(間接管轄)を認めるべき根拠として採用することはできないとされた事例。
 3.大正15年民事訴訟法200条(現118条)2号の「訴訟ノ開始ニ必要ナル呼出若ハ命令ノ送達」が適正に行われたか否かについては、日本に住所地を有する日本人に対してこれが適正に行われたといえるためには、呼出もしくは命令の送達がわが国の司法共助法制に従って行われ、通常の弁識能力を有する日本人にとって送られてきた文書が司法共助に関する所定の手続を履践した「外国裁判所からの正式な呼出もしくは命令」であると合理的に判断できる態様のものでなければならず、そのためには、被告の語学力の程度にかかわらず、当該文書の翻訳文が添付されていることが必要であると解するのが相当である。
 3a.婚姻関係にない女に中絶をするよう説得するために男が女の母親を同行して渡米し、アメリカ合衆国オハイオ州のホテルに滞在中に同州の裁判所の送達吏から英文の訴状を送達された場合に、このような送達は、アメリカ合衆国オハイオ州の民事訴訟法としては適法な送達であったとしても、同州に住所地ないし常居所地を有せず、日本に住所地を有する被告に対する送達としては、わが国の司法共助法制に従って行われるべきものであるにもかかわらずこれに従わずに行われた送達であったこと、訴状に日本語の翻訳文の添付はなかったこと、これらの点をわが国の国際民事訴訟法の立場から考えると、有効な送達があったと認めることはできない、と判断された事例。
参照条文: /t15.民事訴訟法:200条/扶養義務の準拠法に関する法律:2条/
全 文 h090918tokyoH.html

最高裁判所 平成 9年 9月 9日 第3小法廷 判決 ( 平成7年(オ)第740号 )
事件名:  求償債権請求上告事件
要 旨
 1.債権者が主債務者の破産手続において債権全額の届出をし、その後、債権全額を代位弁済した保証人が、破産裁判所に右債権の届出をした者の地位を承継した旨の届出名義の変更の申出をしたときは、代位弁済により保証人が破産者に対して取得する求償権の消滅時効は、求償権自体について届出をしなくとも、右求償権の全部につき届出名義の変更の申出の時から破産手続の終了に至るまで中断する。
 2.前記1の場合に、保証人による届出名義の変更の申出が債権調査期日の後にされたときは、債権調査期日において届出債権につき破産管財人、破産債権者及び破産者に異議がなかったときであっても、求償権の存在及び内容について確定する手続がとられたとみることはできないから、求償権の消滅時効の期間は、民法174条ノ2第1項により10年に変更されるものではない。
参照条文: /民法:174-2条/民法:152条/民法:147条1号/破産.221条1項/破産.113条1項/
全 文 h090909supreme2.html

最高裁判所 平成 9年 9月 9日 第3小法廷 判決 ( 平成5年(オ)第747号 )
事件名:  損害賠償請求・上告事件
要 旨
 1.上告裁判所は、上告状、上告理由書、答弁書その他の書類により上告を理由なしと認める場合には、上告理由書提出期間の経過後に上告人が破産宣告を受けたときであっても、破産法所定の受継手続を経ることなく、口頭弁論を経ずに上告棄却の判決をすることができる。
参照条文: /t15.民事訴訟法:214条;222条1項;401条/t11.破産法:69条;246条/
全 文 h090909supreme3.html

最高裁判所 平成 9年 7月 17日 第1小法廷 判決 ( 平成4年(オ)第1443号 )
事件名:  著作権侵害差止等請求上告事件
要 旨
 1.一定の名称、容貌、役割等の特徴を有する登場人物が反復して描かれている一話完結形式の連載漫画においては、当該登場人物が描かれた各回の漫画それぞれが著作物に当たり、具体的な漫画を離れ、右登場人物のいわゆるキャラクターをもって著作物ということはできない。
 2.二次的著作物の著作権は、二次的著作物において新たに付与された創作的部分のみについて生じ、原著作物と共通しその実質を同じくする部分には生じない。
 3.連載漫画において後続の漫画に登場する人物が先行する漫画に登場する人物と同一と認められる場合には、当該登場人物については、最初に掲載された漫画の著作権の保護期間が満了すれば、後続の漫画の著作権の保護期間がいまだ満了していないとしても、もはや著作権を主張することができない。
 4.著作物の複製とは、既存の著作物に依拠し、その内容及び形式を覚知させるに足りるものを再製することをいい、漫画の著作物にあっては、第三者の作品が漫画の特定の画面に描かれた登場人物の絵と細部まで一致することを要するものではなく、その特徴から当該登場人物を描いたものであることを知り得るものであれば足りる。
 5.著作権法21条に規定する複製権は、民法163条にいう「所有権以外ノ財産権」に含まれるから、自己のためにする意思をもって平穏かつ公然に著作物の全部又は一部につき継続して複製権を行使する者は、複製権を時効により取得すると解することができる。
 6.時効取得の要件としての複製権の継続的な行使があるというためには、外形的に著作権者と同様に複製権を独占的、排他的に行使する状態が継続されていることを要し、そのことについては取得時効の成立を主張する者が立証責任を負う(この要件の充足が認められなかった事例)。
 7.登録された商標権が有効であることを前提に判決がなされた後で商標登録を無効とするとの審決が確定して商標登録が抹消された場合には、これは民訴法338条1項8号(旧民訴法420条1項8号)所定の再審事由に該当しうるものであるから、判決確定前の段階で上告審はこれを考慮して裁判すべきである。 /知的財産権/無体財産権/著作権/証明責任/
参照条文: /著作.2条1項1号/著作.2条1項15号/著作.21条/著作.53条1項/著作.56条1項/民法:163条/民訴.312条/民訴.338条1項8号/商標.46条1項1号/
全 文 h090717supreme.html

最高裁判所 平成 9年 7月 17日 第1小法廷 判決 ( 平成7年(オ)第1562号 )
事件名:  建物所有権確認等請求上告事件
要 旨
 1.原告が、自ら土地を賃借して建物を建築したと主張して、建物所有権等の確認を請求したのに対し、被告が建物を建築したのは原告・被告らの亡父であると主張し、裁判所が証拠調べにより被告の主張の事実を確定した場合には、原告が被告主張事実を自己の利益に援用しなかったとしても、裁判所は、適切に釈明権を行使するなどした上でこの事実を斟酌し、請求の一部を認容すべきであるかどうかについて審理判断すべきである。 /弁論主義/主張共通の原則/不意打防止/訴訟物/処分権主義/一部認容/審理不尽/訴訟物/共有持分権/
参照条文: /民訴.246条/民訴.149条/
全 文 h090717supreme2.html

最高裁判所 平成 9年 7月 15日 第3小法廷 判決 ( 平成6年(オ)第548号 )
事件名:  損害賠償請求・上告事件
要 旨
 山中の土地が競売対象である場合に、執行官が誤って隣地を対象不動産とする現況調査報告書を作成したために、それを信頼して買受人となった者が、その土地上に住宅を建築して居住していたが、土地と建物の明渡しを余儀なくされたことにより損害を被った事案において、執行官の調査に注意義務違反があったとして、国家賠償請求が認容された事例。
 1.執行官は、執行裁判所に対してはもとより、不動産の買受希望者に対する関係においても、目的不動産の現況をできる限り正確に調査すべき注意義務を負う。
 1a.現況調査報告書の記載内容が目的不動産の実際の状況と異なっても、そのことから直ちに執行官が前記注意義務に違反したと評価するのは相当ではないが、執行官が現況調査を行うに当たり、通常行うべき調査方法を採らず、あるいは、調査結果の十分な評価、検討を怠るなど、その調査及び判断の過程が合理性を欠き、その結果、現況調査報告書の記載内容と目的不動産の実際の状況との間に看過し難い相違が生じた場合には、執行官が前記注意義務に違反したものと認められ、国は、誤った現況調査報告書の記載を信じたために損害を被った者に対し、国家賠償法一条一項に基づく損害賠償の責任を負う。
参照条文: /国家賠償法:1条1項/民事執行法:57条/
全 文 h090715supreme.html

最高裁判所 平成 9年 7月 15日 第3小法廷 判決 ( 平成5年(オ)第2187号 )
事件名:  負工事代金請求、民訴法198条2項の裁判申立・上告事件
要 旨
 1.請負人の報酬債権に対し注文者がこれと同時履行の関係にある目的物の瑕疵修補に代わる損害賠償債権を自働債権とする相殺の意思表示をした場合、注文者は、請負人に対する相殺後の報酬残債務について、相殺の意思表示をした日の翌日から履行遅滞による責任を負う。(相殺適状に達した日の翌日から履行遅滞に陥るとした原審判断を否定)
参照条文: /民法:412条;506条2項;533条;634条2項/t15.民事訴訟法:198条2項/商法:514条/
全 文 h090715supreme2.html

最高裁判所 平成 9年 7月 11日 第2小法廷 判決 ( 平成5年(オ)第1762号 )
事件名:  執行判決請求上告事件
要 旨
 いわゆる懲罰的損害賠償を命じた外国判決(アメリカ合衆国カリフォルニア州裁判所の判決)は我が国の公の秩序に反するから、これに執行判決をすることはできない。
 (外国判決の承認)
参照条文: /民法:709条/民訴.118条/民執.22条6号/民執.24条/
全 文 h090711supreme.html

最高裁判所 平成 9年 7月 1日 第3小法廷 判決 ( 平成7年(オ)第1988号 )
事件名:  特許権侵害差止等請求上告事件
要 旨
 1.我が国の特許権者又はこれと同視し得る者が国外において特許製品を譲渡した場合においては、特許権者は、(a)譲受人に対しては、当該製品について販売先ないし使用地域から我が国を除外する旨を譲受人との間で合意した場合を除き、(b)譲受人から特許製品を譲り受けた第三者及びその後の転得者に対しては、譲受人との間で右の旨を合意した上特許製品にこれを明確に表示した場合を除いて、当該製品について我が国において特許権を行使することは許されない。
 2.自動車の車輪についてドイツと日本おいて特許権を有する者がドイツにおいて販売した特許製品の日本への並行輸入を日本の特許権に基づいて差し止めることはできないとされた事例。
 (知的財産権/無体財産権/工業所有権/特許権/属地主義/特許権独立の原則/国際的消尽)
参照条文: /特許.100条/特許.101条/特許.68条/
全 文 h090701supreme.html

最高裁判所 平成 9年 6月 5日 第1小法廷 判決 ( 平成5年(オ)第2172号 )
事件名:  配当異議上告事件
要 旨
 1
 所有者が土地及び地上建物に共同抵当権を設定した後、右建物が取り壊され、新たに建物が建築された場合には、新建物の所有者が土地の所有者と同一であり、かつ、新建物が建築された時点での土地の抵当権者が新建物について土地の抵当権と同順位の共同抵当権の設定を受けたなどの特段の事情のない限り、新建物のために法定地上権は成立しない。
 2
 新建物に設定された抵当権の被担保債権に法律上優先する債権が存在する場合は、新建物に右抵当権に優先する担保権が設定されている場合と実質的に異なるところがなく、法定地上権の成立が認められる特段の事情があるということはできない。
参照条文: /民法:388条/税徴.8条/税徴.16条/税徴.82条/
全 文 h090605supreme2.html

最高裁判所 平成 9年 6月 5日 第1小法廷 判決 ( 平成5年(オ)第1164号 )
事件名:  供託金還付請求権確認、供託金還付請求権取立権確認請求上告事件
要 旨
 指名債権の譲受人が譲渡禁止特約のあることについて悪意または重過失がある場合に、債務者が債権譲渡の承諾を与えたが、その前に第三者がその債権を差し押さえていたため、譲受人が譲渡の有効性を差押債権者に主張することができないとされた事例。
 1.譲渡禁止の特約のある指名債権について、譲受人が右特約の存在を知り、又は重大な過失により右特約の存在を知らないでこれを譲り受けた場合でも、その後、債務者が右債権の譲渡について承諾を与えたときは、右債権譲渡は譲渡の時にさかのぼって有効となるが、民法一一六条の法意に照らし、第三者の権利を害することはできない。 /追認/
参照条文: /民法:116条/民法:466条/民執.145条/
全 文 h090605supreme.html

最高裁判所 平成 9年 5月 27日 第3小法廷 判決 ( 平成8年(オ)第220号 )
事件名:  損害賠償請求上告事件
要 旨
 1.新聞の発行によって名誉毀損による損害が生じた後に被害者が有罪判決を受けたとしても、これによって新聞発行の時点において被害者の客観的な社会的評価が低下したという事実自体に消長を来すわけではないから、被害者が有罪判決を受けたという事実は、これによって損害が消滅したものとして、既に生じている名誉毀損による損害賠償請求権を消滅させるものではない。但し、当該記事が摘示した事実と有罪判決の理由とされた事実との間に同一性がある場合に、被害者が有罪判決を受けたという事実を、名誉毀損行為の違法性又は行為者の故意若しくは過失を否定するための事情として斟酌することができるかどうかは、別問題である。
 1a.原告の名誉を害する記事が摘示した事実と有罪判決の理由とされた事実とが同種であるということはできても、その間に同一性があるということはできないので、記事が掲載された新聞の発行後に原告が有罪判決を受けたという事実は、原告の損害賠償請求権の成否を左右するものではないとされた事例。
 
 2.名誉毀損による損害について加害者が被害者に支払うべき慰謝料の額は、事実審の口頭弁論終結時までに生じた諸般の事情を斟酌して裁判所が裁量によって算定するものであり、右諸般の事情には、被害者の品性、徳行、名声、信用等の人格的価値について社会から受ける客観的評価が当該名誉毀損以外の理由によって更に低下したという事実も含まれるものであるから、名誉毀損による損害が生じた後に被害者が有罪判決を受けたという事実を斟酌して慰謝料の額を算定することが許される。
参照条文: /民法:709条/民法:710条/
全 文 h090527supreme2.html

最高裁判所 平成 9年 5月 27日 第3小法廷 判決 ( 平成5年(オ)第1038号 )
事件名:  損害賠償請求上告事件
要 旨
 新聞記事による名誉毀損の成否は、当該新聞の編集方針、その主な読者の構成及びこれらに基づく当該新聞の性質についての社会の一般的な評価によって左右されない。
参照条文: /民法:709条/民法:710条/
全 文 h090527supreme.html

最高裁判所 平成 9年 4月 25日 第2小法廷 判決 ( 平成7年(オ)第2461号 )
事件名: 
要 旨
 遺留分減殺請求の結果共有状態になった建物および借地権について、持分6分の5を有してその建物に居住している受遺者が全面的価格賠償による共有物分割を望んでいる場合には、その方法による分割をなすべき特段の事情の存否を審理判断することなく競売による分割を命ずることは許されないとされた事例
参照条文: /民法:256条/民法:258条/
全 文 h090425supreme.html

最高裁判所 平成 9年 4月 2日 大法廷 判決 ( 平成4年(行ツ)第156号 )
事件名:  損害賠償代位請求上告事件
要 旨
 1.愛媛県が、宗教法人靖國神社の挙行した恒例の宗教上の祭祀である例大祭に際し玉串料として9回にわたり各5000円(合計4万5000円)を、同みたま祭に際し献灯料として4回にわたり各7000円又は8000円(合計3万1000円)を、宗教法人愛媛県護國神社の挙行した恒例の宗教上の祭祀である慰霊大祭に際し供物料として9回にわたり各1万円(合計9万円)を、それぞれ県の公金から支出して奉納したことは、一般人がこれを社会的儀礼にすぎないものと評価しているとは考え難く、その奉納者においてもこれが宗教的意義を有するものであるという意識を持たざるを得ず、これにより県が特定の宗教団体との間にのみ意識的に特別のかかわり合いを持ったことを否定することができないのであり、これが、一般人に対して、県が当該特定の宗教団体を特別に支援しており右宗教団体が他の宗教団体とは異なる特別のものであるとの印象を与え、特定の宗教への関心を呼び起こすものといわざるを得ないなど判示の事情の下においては、憲法20条3項、89条に違反する。(補足意見、意見及び反対意見がある)
 2.複数の住民が提起する住民訴訟は、類似必要的共同訴訟と解すべきである。
 2a.複数の住民が共同訴訟人として提起した住民訴訟において、共同訴訟人の一部の者が上訴すれば、それによって原判決の確定が妨げられ、当該訴訟は全体として上訴審に移審し、上訴審の判決の効力は上訴をしなかった共同訴訟人にも及ぶが、上訴をしなかった共同訴訟人は、上訴人にはならず、上訴をした共同訴訟人のうちの一部の者が上訴を取り下げた場合は、その者は上訴人ではなくなる。
参照条文: /憲.20条3項/憲.89条/民訴.40条/
全 文 h090402supreme.html

最高裁判所 平成 9年 3月 25日 第3小法廷 判決 ( 平成5年(オ)第1858号 )
事件名:  転付債権、取立債権請求・上告事件
要 旨
 1.損害保険契約は、保険契約者において保険料の支払義務を負う反面、保険会社は、保険事故の発生により被保険者が損害を被った場合に、当然に右損害をてん補する義務を負う双務契約であり、保険契約者の側における義務は保険料の支払により既に履行されているものであること、また、損害の発生後そのてん補がされないまま日時が経過するときは、被保険者の損害の範囲が事後的に拡大することも想定されることにかんがみれば、保険会社側の損害てん補の義務は、損害発生後、遅滞なく履行されることが期待されているものといわなければならない。
 2.保険金の支払に当たっては、これに先立って、保険会社において損害の範囲の確定、損害額の評価、免責事由の有無等について調査を行う必要のあることは、当然予想されるところであり、このような保険制度に内在する手続上の必要を考慮すれば、保険契約者等から保険金支払の請求がされた後も、調査のために必要な一定期間内は保険会社が保険金支払について遅滞の責めを負わないとすることにはそれなりの合理性があり、その旨を約款で定めたとしても、その期間が調査のために通常必要とされる合理的な範囲内であって、これにより被保険者が損害発生後遅滞なく損害のてん補を受ける利益が実質的に害されない限り、その規定は有効なものといわなければならない。
 3.火災保険普通保険約款中の「当会社は、保険契約者または被保険者が第17条(損害または傷害発生の場合の手続)の規定による手続をした日から30日以内に、保険金を支払います。ただし、当会社が、この期間内に必要な調査を終えることができないときは、これを終えた後、遅滞なく、保険金を支払います。」との規定について、そのただし書の文言は極めて抽象的であって、何をもって必要な調査というのかが条項上明らかでないのみならず、保険会社において必要な調査を終えるべき期間も明示的に限定されていないこと等を勘案すれば、ただし書は、これ自体では保険契約者等の法律上の権利義務の内容を定めた特約と解することはできず、この規定は、保険契約者等が保険の目的物に損害が発生したことを保険会社に通知し、所定の書類を提出したときは、その日から30日の経過により保険金支払についての履行期が到来することを定めたものであって、保険会社は、右期間内に必要な調査を終えることができなかったとしても、右期間経過後は保険金の支払について遅滞の責めを負うものと解するのが相当であるとされた事例。 /損害填補/約款の解釈/意思表示の解釈/
参照条文: /民法:91条;412条/商法:629条;665条/
全 文 h090325supreme.html

最高裁判所 平成 9年 3月 14日 第2小法廷 判決 ( 平成5年(オ)第920号 )
事件名:  遺産確認等請求本訴、共有持分権不存在中間確認請求反訴・上告事件
要 旨
 1.遺産確認の訴えは、特定の財産が被相続人の遺産に属することを共同相続人全員の間で合一に確定するための訴えである。
 1a.共同相続人甲、乙、丙のうち甲と乙との間において、ある土地につき甲の所有権確認請求を棄却する旨の判決が確定しても、この判決は、甲乙間において右土地につき甲の所有権の不存在を既判力をもって確定するにとどまり、甲が相続人の地位を有することや右土地が被相続人の遺産に属することを否定するものではないから、甲は、遺産確認の訴えの原告適格を失わず、共同相続人全員の間で右土地の遺産帰属性につき合一確定を求める利益を有する。 /既判力の客観的範囲/当事者適格/
参照条文: /民訴.114条1項/民訴.115条/民訴.40条/
全 文 h090314supreme2.html

最高裁判所 平成 9年 3月 14日 第2小法廷 判決 ( 平成5年(オ)第921号 )
事件名:  遺産確認等請求本訴、共有持分権不存在中間確認請求反訴・上告事件
要 旨
 1.所有権確認請求訴訟において請求棄却の判決が確定したときは、原告が同訴訟の事実審口頭弁論終結の時点において目的物の所有権を有していない旨の判断につき既判力が生じるから、原告が右時点以前に生じた所有権の一部たる共有持分の取得原因事実を後の訴訟において主張することは、右確定判決の既判力に抵触する。
 1a.3名の共同相続人(甲・乙・丙)中の2名(甲・乙)がある不動産について相互に所有権を主張したが、裁判所は被相続人の遺産に属すると判断して、甲の所有権確認請求と乙の明渡反訴請求を棄却する判決が確定した後に、遺産分割手続において乙が単独所有権を主張したため甲が共有持分権を主張して所有権一部移転登記手続を請求した場合であっても、甲の共有持分権の主張は、前訴判決の既判力により遮断されるとされた事例。(補足意見と反対意見あり) /信義則/
参照条文: /民訴.114条/民訴.2条/
全 文 h090314supreme.html

最高裁判所 平成 9年 2月 25日 第3小法廷 判決 ( 平成5年(オ)第1612号 )
事件名:  求償金請求上告事件
要 旨
 不動産の買戻代金債権について債権執行による差押えと抵当権者の物上代位権の行使としての差押えとが競合した場合に、双方の差押債権者に対し二重に弁済した第三債務者は、執行債権者に対して不当利得返還請求できる。
参照条文: /民法:304条1項/民法:372条/民法:579条/民法:703条/民法:705条/民執.193条1項/民執.145条/民執.155条/民執.159条/民執.160条/
全 文 h090225supreme.html

最高裁判所 平成 9年 2月 25日 第3小法廷 判決 ( 平成7年(オ)第1205号 )
事件名:  損害賠償請求上告事件
要 旨
 1.医療過誤訴訟において鑑定のみに依拠してされた顆粒球減少症の起因剤及び発症日の認定に経験則違反があるとされた事例。
 2.訴訟上の立証は、一点の疑義も許されない自然科学的証明ではなく、経験則に照らして全証拠を総合検討し、特定の事実の存在を是認し得る高度の蓋然性を証明することであり、その判定は、通常人が疑いを差し挾まない程度に真実性の確信を持ち得るものであることを必要とし、かつ、それで足りるものである。 /自由心証主義/事実認定/診療契約上の注意義務/証明度/
参照条文: /民事訴訟法:247条/民法:709条/
全 文 h090225supreme2.html

最高裁判所 平成 9年 2月 14日 第3小法廷 判決 ( 平成7年(オ)第261号 )
事件名: 
要 旨
 所有者が土地及び地上建物に共同抵当権を設定した後、右建物が取り壊され、新たに建物が建築された場合には、新建物の所有者が土地の所有者と同一であり、かつ、新建物が建築された時点での土地の抵当権者が新建物について土地の抵当権と同順位の共同抵当権の設定を受けたとき等特段の事情のない限り、新建物のために法定地上権は成立しない。
参照条文: /民法:388条/
全 文 h090214supreme.html

最高裁判所 平成 9年 1月 28日 第3小法廷 判決 ( 平成6年(行ツ)第189号 )
事件名:  開発許可処分取消請求上告事件
要 旨
 1
 行訴法9条にいう当該処分の取消しを求めるにつき「法律上の利益を有する者」とは、当該処分により自己の権利若しくは法律上保護された利益を侵害され、又は必然的に侵害されるおそれのある者をいい、当該処分を定めた行政法規が不特定多数者の具体的利益を個々人の個別的利益としても保護すべきものとする趣旨を含むと解される場合には、この利益も法律上保護された利益に当たり、当該処分によりこれを侵害され又は必然的に侵害されるおそれのある者は、当該処分の取消訴訟における原告適格を有する。
 2
 開発区域内の土地が都市計画法33条1項7号(平成4年法律第82号による改正前のもの)にいうがけ崩れのおそれが多い土地等に当たる場合には、がけ崩れ等により生命・身体等に直接的な被害を受けることが予想される範囲の地域に居住する者は、開発許可取消訴訟における原告適格を有する。
 3
 開発許可の取消しを求める法律上の利益が原告の生命・身体の安全等という一身専属的なものである場合には、その利益は相続の対象となるものではないから、開発許可取消訴訟は、原告の死亡により終了する。 /当事者適格/訴訟終了宣言/行政訴訟/
参照条文: /行訴.9条/都市計画.29条/都市計画.33条1項7号/民訴.124条/
全 文 h090128supreme.html

最高裁判所 平成 9年 1月 20日 第2小法廷 判決 ( 平成6年(オ)第2122号 )
事件名:  貸金等請求・上告事件
要 旨
 被担保債権の債務者をBとAとする根抵当権(共用根抵当権)が設定され、Aが負う被担保債務の中にBが負う被担保債務の保証債務が含まれている場合(根抵当権の被担保債務の一部が全部債務である場合)に、売却代金を各債務者に対する債権の担保部分に案分する際に、債務者Aに対する債権額から保証債権額(売却代金からの充当によりBの主債務が消滅すれば附従性により消滅する関係にある保証債務額)を控除することは許されず、これも含めて案分の計算をすべきであるとされた事例。
 1.不動産競売手続における債務者複数の根抵当権についての配当金が被担保債権のすべてを消滅させるに足りない場合においては、配当金を各債務者に対する債権を担保するための部分に被担保債権額に応じて案分した上、右案分額を民法489条ないし491条の規定に従って各債務者に対する被担保債権に充当すべきである。
 1a.案分の基礎となる各債務者についての被担保債権額を算出する場合には、ある債務者に対する債権の弁済によって他の債務者に対する債権も消滅するという関係にある複数の被担保債権があるときにおいても、いずれの債権もその全額を各債務者についての被担保債権額に算入するべきであって、右算入額の合計額が根抵当権者が弁済を受けることができる額を超えてはならないものではない。
参照条文: /民法:398-2条;398-14条;489条;490条;491条/民事執行法:85条/
全 文 h090120supreme.html

最高裁判所 平成 8年 12月 17日 第3小法廷 判決 ( 平成5年(オ)第1946号 )
事件名:  土地建物共有物分割等請求・上告事件
要 旨
 1.共同相続人の一人が相続開始前から被相続人の許諾を得て遺産である建物において被相続人と同居してきたときは、特段の事情のない限り、被相続人と同居の相続人との間において、被相続人が死亡し相続が開始した後も、遺産分割により右建物の所有関係が最終的に確定するまでの間は、引き続き同居の相続人にこれを無償で使用させる旨の合意があったものと推認される。(/自由心証主義/)
 1a.これを前提にすると、被相続人が死亡した場合は、この時から少なくとも遺産分割終了までの間は、被相続人の地位を承継した他の相続人等が貸主となり、同居の相続人を借主とする建物の使用貸借契約関係が存続することになる。
参照条文: /民法:249条;593条;703条;898条/t15.民事訴訟法:185条/
全 文 h081217supreme.html

最高裁判所 平成 8年 11月 26日 第3小法廷 判決 ( 平成5年(オ)第947号 )
事件名:  遺留分減殺請求に基づく持分権確認並びに持分権移転登記手続請求・上告事件
要 旨
 相続人の一人にすべての財産を包括して遺贈する旨の遺言があり、当該相続人が相続債務を弁済した場合に、相続債務は遺留分額を算定する上で無視することができるとした原審判断に誤りがあるとされ、遺留分額及び遺留分侵害額の算定方法が説示された事例。
 1.遺贈に対して遺留分権利者が減殺請求権を行使した場合、遺贈は遺留分を侵害する限度において失効し、受遺者が取得した権利は遺留分を侵害する限度で当然に遺留分権利者に帰属するところ、遺言者の財産全部の包括遺贈に対して遺留分権利者が減殺請求権を行使した場合に遺留分権利者に帰属する権利は、遺産分割の対象となる相続財産としての性質を有しない。(前提問題についての先例の確認)
 2.被相続人が相続開始の時に債務を有していた場合の遺留分の額は、(α)民法1029条、1030条、1044条に従って、被相続人が相続開始の時に有していた財産全体の価額にその贈与した財産の価額を加え、その中から債務の全額を控除して遺留分算定の基礎となる財産額を確定し、(β)それに同法1028条所定の遺留分の割合を乗じ、複数の遺留分権利者がいる場合は更に遺留分権利者それぞれの法定相続分の割合を乗じ、(γ)遺留分権利者がいわゆる特別受益財産を得ているときはその価額を控除して算定すべきものである。
 2a.遺留分の侵害額は、上記のようにして算定した遺留分の額から、遺留分権利者が相続によって得た財産がある場合はその額を控除し、同人が負担すべき相続債務がある場合はその額を加算して算定するものである。
参照条文: /民法:1028条;1029条;1030条;1031条;1044条/
全 文 h081126supreme.html

最高裁判所 平成 8年 10月 31日 第1小法廷 判決 ( 平成8年(オ)第677号 )
事件名: 
要 旨
 共有者の一部の者が運営する病院に使用されている複数の共有不動産について、病院の価格賠償の方法により共有物を分割することの許される特段の事情の存否について審理判断することなく競売による分割をすべきものとした原判決が破棄された事例
 (共有物分割訴訟)
参照条文: /民法:256条/民法:258条/
全 文 h081031supreme.html

最高裁判所 平成 8年 10月 31日 第1小法廷 判決 ( 平成7年(オ)第1962号 )
事件名: 
要 旨
 共有物分割請求者の持分が僅少であり、その持分に相当する価格が低額で、価格賠償の方法によっても賠償金の支払いが困難であるとは考えられないこと等を考慮して、全面的価格賠償方式による分割が許されるとされた事例
 (共有物分割訴訟)
参照条文: /民法:256条1項/民法:258条/
全 文 h081031supreme2.html

最高裁判所 平成 8年 10月 31日 第1小法廷 判決 ( 平成3年(オ)第1380号 )
事件名: 
要 旨
 1
 全面的価格賠償の方式による共有物分割も、一定の要件の下で許される。
 2
 全面的価格賠償の方法による共有物分割が許されるためには、賠償金の支払義務を負担する者にその支払能力があることが必要である(共有不動産を共有者の一人が住宅として使用している事例)。
 (共有物分割訴訟)
参照条文: /民法:256条/民法:258条/
全 文 h081031supreme3.html

東京地方裁判所 平成 8年 9月 30日 判決 ( 平成3年(ワ)第5651号 )
事件名:  損害賠償等請求事件<江差追分源流事件>
要 旨
 1.江差追分に関するノンフィクション「北の波濤に唄う」と題する書籍の著作者である原告が,「ほっかいどうスペシャル・遥かなるユーラシアの歌声―江差追分のルーツを求めて―」と題するテレビ番組を製作・放送した日本放送協会等に対して,放送のナレーション部分が原告の著作物の翻案であると主張が認められ,氏名表示権、翻案権、放送権の侵害を理由とする損害賠償等を請求が認容された事例。
 2.小説「ブタベスト悲歌」によってその著作者が得たと考えられる社会的評価(追分節の起源はユーラシア大陸の深奥部に求められることを初めて提唱した者としての評価)が、テレビ番組によりそ侵害されたことを理由とする損害賠償請求が認められた事例。 /知的財産権/無体財産権/著作権/間接的名誉毀損/
参照条文: /著作.27条/著作.2条1項1号/民法:709条/
全 文 h080930tokyoD.html

最高裁判所 平成 8年 8月 28日 大法廷 判決 ( 平成8年(行ツ)第90号 )
事件名:  職務執行命令裁判請求上告事件
要 旨
 1a.駐留軍用地特措法14条に基づき同法3条の規定による土地等の使用又は収用に関して適用される場合における土地収用法36条5項所定の署名等代行事務も、都道府県知事に機関委任された国の事務である。
 1b.
 駐留軍用地特措法3条の規定による土地等の使用又は収用に関して適用される場合における土地収用法36条5項所定の署名等代行事務の主務大臣は、内閣総理大臣である。
 2.地方自治法151条の2第3項の規定による職務執行命令訴訟においては、裁判所は、主務大臣の発した職務執行命令がその適法要件を充足しているか否かを客観的に審理判断すべきである。
 3a.駐留軍用地特措法は、憲法前文、9条、13条、29条3項に違反しない。
 3b.駐留軍用地特措法は、憲法31条に違反しない。
 3c.内閣総理大臣の適法な裁量判断の下に沖縄県内の土地に駐留軍用地特措法を適用することがすべて許されないとまでいうことはできず、同法の同県内での適用が憲法前文、9条、13条、14条、29条3項、92条に違反するということはできない。
 4a.使用認定にこれを当然に無効とするような瑕疵がある場合には、駐留軍用地特措法14条、土地収用法36条5項に基づく署名等代行事務の執行を命ずることは違法である。
 4b.使用認定に取り消し得べき瑕疵があるとしても、駐留軍用地特措法14条、土地収用法36条5項に基づく署名等代行事務の執行を命ずることは適法である。
 4c.駐留軍の用に供するためにされた使用認定の対象となった沖縄県内の土地が、沖縄復帰時において駐留軍の用に供することが日米両国間で合意された土地であり、その後における駐留軍の用に供された施設及び区域の整理縮小のための交渉によっても返還の合意に至らず、駐留軍基地の各種施設の敷地等として他の多くの土地と一体となって有機的に機能しており、駐留軍基地から派生する問題の軽減のための対策も講じられてきたなど判示の事実関係の下においては、同県に駐留軍基地が集中している現状や右各土地の使用状況等について沖縄県知事が主張する諸事情を考慮しても、右各土地の使用認定にこれを当然に無効とする瑕疵があるとはいえない。
 5.土地収用法36条2項は、土地調書及び物件調書が有効に成立する段階で、調書を土地所有者及び関係人に現実に提示し、記載事項の内容を周知させることを求めているものと解される。
 6.駐留軍用地特措法3条の規定により沖縄県内の土地を使用する手続において、沖縄県知事が同法14条、土地収用法36条5項に基づく署名等代行事務の執行を懈怠していることを放置することは、これにより著しく公益を害することが明らかである。 (2、3c、4cにつき補足意見がある。) /固有事務/機関委任事務/団体委任事務/私有財産権の保障/適正手続の保障/法定手続の保障/機関訴訟/当事者訴訟/収用委員会/司法権の限界/
参照条文: /土収.36条2項/土収.36条5項/地自.148条1項/地自.148条2項/地自.151-2条/地自.別表第3第1号(108)/憲.前文/憲.9条/憲.13条/憲.14条1項/憲.29条3項/憲.31条/憲.92条/行訴.6条/日米安保条約.6条/総理府設置.4条14号/駐留軍用地特措法.1条/駐留軍用地特措法.3条/駐留軍用地特措法.5条/駐留軍用地特措法.14条/日米地位協定.2条/
全 文 h080828supreme.html

最高裁判所 平成 8年 7月 12日 第2小法廷 判決 ( 平成5年(オ)第1788号 )
事件名:  根抵当権設定登記抹消登記手続請求上告事件
要 旨
 債権者から物上保証人に対する不動産競売の申立てがされ、執行裁判所のした競売開始決定による差押えの効力が生じた後、同決定正本が債務者に送達された場合には、民法155条により、右の時効中断の効力は、競売開始決定正本が債務者に送達された時に生ずる。(時効期間満了後に送達された事例)
参照条文: /民法:147条/民法:148条/民法:155条/民執.45条2項/民執.188条/
全 文 h080712supreme.html

最高裁判所 平成 8年 6月 24日 第2小法廷 判決 ( 平成5年(オ)第764号 )
事件名:  離婚等請求上告事件
要 旨
 1.ドイツ連邦共和国で下された離婚判決が、呼出要件を充足していないため、承認されないとされた事例。
 2.外国の離婚判決が日本で承認されない場合には、その訴訟で被告となった日本国籍を有し日本に居住する者は、日本において離婚の訴えを提起する利益を有する。
 2a.ドイツ連邦共和国に住所を有するドイツ国籍の妻の訴えによりドイツ連邦共和国で下された離婚判決が日本で承認されない場合には、日本に住所を有する日本国籍の夫がドイツ連邦共和国で離婚の訴えを提起しても不適法とされる可能性が高く、日本で離婚請求訴訟を提起する以外に方法はないと考えられるから、夫が日本において提起する離婚の訴えについて日本は国際裁判管轄を有するとされた事例。 /訴訟要件/訴えの利益/訴えの客観的利益/
参照条文: /人訴.1条/民訴.118条/
全 文 h080624supreme.html

最高裁判所 平成 8年 5月 31日 第2小法廷 判決 ( 平成5年(オ)第1958号 )
事件名:  損害賠償請求上告事件
要 旨
 1.交通事故の被害者が事故に起因する後遺障害のために労働能力の一部を喪失した場合における財産上の損害の額を算定するに当たっては、その後に被害者が死亡したとしても、交通事故の時点で、その死亡の原因となる具体的事由が存在し、近い将来における死亡が客観的に予測されていたなどの特段の事情がない限り、右死亡の事実は就労可能期間の算定上考慮すべきものではない。
 2.交通事故の被害者が事故に起因する後遺障害のために労働能力の一部を喪失した後に死亡した場合、労働能力の一部喪失による財産上の損害の額の算定に当たっては、交通事故と被害者の死亡との間に相当因果関係があって死亡による損害の賠償をも請求できる場合に限り、死亡後の生活費を控除することができると解するのが相当である。(死亡と本件交通事故との間に因果関係がなく、死亡による損害の賠償が請求できない場合であるの、死亡後の生活費控除は許されないとされた事例)
 (損益相殺)
参照条文: /民法:709条/
全 文 h080531supreme.html

最高裁判所 平成 8年 5月 28日 第3小法廷 判決 ( 平成7年(行ツ)第67号 )
事件名:  判決無効確認並びに年金裁定請求事件
要 旨
 不適法なことが明らかであって当事者の訴訟活動により適法とすることが全く期待できない訴えについて、口頭弁論を経ずに、訴えを却下する判決又は却下判決に対する控訴を棄却する判決を下す場合には、訴状において被告とされている者に対し訴状、控訴状又は判決正本を送達することを要しない。(上告棄却により確定した判決の無効確認の訴えが却下された事例) /訴えの客観的利益/訴えの利益/
参照条文: /民訴.140条/民訴.138条/民訴.290条/民訴.255条/
全 文 h080528supreme.html

東京高等裁判所 平成 8年 5月 28日 第2民事部 判決 ( 平成7年(ネ)第3078号 )
事件名:  建物明渡等請求控訴事件
要 旨
 1.賃料不払を理由に賃貸借契約が解除された場合に、賃借人が賃貸人に対する貸金債権等を被担保債権として賃借不動産上に商事留置権を有すると主張したが、認められなかった事例。
 1a.不動産は商法521条所定の商人間の留置権の対象とならない。
 1b.商法502条1号所定の賃貸のための投機取得、その実行行為としての賃貸とはいえないとされた事例。(補充的理由付)
参照条文: /商法:521条;502条1号/
全 文 h080528tokyoH.html

最高裁判所 平成 8年 4月 26日 第2小法廷 判決 ( 平成4年(オ)第413号 )
事件名:  第三者異議・上告事件
要 旨
 振込依頼人が振込先の記載を誤ったため、原因関係のない誤振込みがなされ、その後に受取人の債権者が預金債権を差し押えた場合に、振込人は、誤振込みに係る金額について、第三者異議の訴えにより債権執行の不許を求めることはできないとされた事例。
 1.振込依頼人から受取人の銀行の普通預金口座に振込みがあったときは、振込依頼人と受取人との間に振込みの原因となる法律関係が存在するか否かにかかわらず、受取人と銀行との間に振込金額相当の普通預金契約が成立し、受取人が銀行に対して右金額相当の普通預金債権を取得するものと解するのが相当である。
 2.振込依頼人と受取人との間に振込みの原因となる法律関係が存在しないにかかわらず、振込みによって受取人が振込金額相当の預金債権を取得したときは、振込依頼人は、受取人に対し、右同額の不当利得返還請求権を有することがあるにとどまり、右預金債権の譲渡を妨げる権利を取得するわけではないから、受取人の債権者がした右預金債権に対する強制執行の不許を求めることはできない。
参照条文: /民法:91条;666条;703条/民事執行法:38条/
全 文 h080426supreme.html

最高裁判所 平成 8年 4月 25日 第1小法廷 判決 ( 平成5年(オ)第527号 )
事件名:  損害賠償請求上告事件
要 旨
 1.交通事故の被害者が事故に起因する傷害のために身体的機能の一部を喪失し、労働能力の一部を喪失した場合において、いわゆる逸失利益の算定に当たっては、その後に被害者が死亡したとしても、右交通事故の時点で、その死亡の原因となる具体的事由が存在し、近い将来における死亡が客観的に予測されていたなどの特段の事情がない限り、右死亡の事実は就労可能期間の認定上考慮すべきものではない。(破棄理由)
 (相当因果関係/不法行為)
参照条文: /民法:709条/
全 文 h080425.supreme.html

旭川地方裁判所 平成 8年 2月 9日 民事部 決定 ( 平成7年(モ)第542号 )
事件名: 
要 旨
 1.韓国法人である債権者がロシア法人である債務者を相手になしたロシア船籍の船舶の仮差押命令の申立てについて、日本の国際裁判管轄が認められ、仮差押命令が認可された事例。
 2.日本の裁判所に本案事件の裁判権が認められなくとも、仮差押目的物が日本に存在し、外国裁判所の本案判決により、将来これに対する執行がなされる可能性のある場合には、日本の裁判所に仮差押命令事件についての裁判権が認められる。
 3.外国の裁判所において将来下される判決の執行可能性の有無を判断するにあたっては、保全命令の段階では、民事訴訟法118条各号の要件を全て具備することまでは要求されないというべきであり、同条の1号及び4号の要件を一応充たす可能性があれば、執行の可能性についてはこれを肯定することができる。
 4.商法689条の立法趣旨は、荷主その他の船舶関係者の利益と、債権者の船舶に対する権利行使の利益との調和を図るところにあり、同条に定める執行禁止は、本来、権利行使の対象たるべき財産に例外を設けるものであるから、「発航準備を終えた」ことの解釈としては、船舶が、即時に発航することができるための事実上、法律上の条件が整ったと客観的に認められる場合に限定すべきである。
参照条文: /民保.12条/民訴.118条/商.689条/
全 文 h080209asahikawaD.html

最高裁判所 平成 8年 1月 30日 第1小法廷 決定 ( 平成8年(ク)第8号 )
事件名:  宗教法人解散命令に対する抗告棄却決定に対する特別抗告事件
要 旨
 宗教法人オーム真理教に対する解散命令が憲法に違反しないとされた事例。
 1.宗教法人の解散命令は、信者の宗教上の行為を禁止したり制限したりする法的効果を一切伴わないのである。
 2.宗教法人に関する法的規制が、信者の宗教上の行為を法的に制約する効果を伴わないとしても、これに何らかの支障を生じさせることがあるとするならば、憲法の保障する精神的自由の一つとしての信教の自由の重要性に思いを致し、憲法がそのような規制を許容するものであるかどうかを慎重に吟味しなければならない。
 2a.宗教法人法81条に規定する宗教法人の解散命令の制度は、専ら宗教法人の世俗的側面を対象とし、かつ、専ら世俗的目的によるものであって、宗教団体や信者の精神的・宗教的側面に容かいする意図によるものではなく、その制度の目的も合理的であるということができる。
 2b.(α1)宗教法人オウム真理教の代表役員であった者及びその指示を受けた多数の幹部が、大量殺人を目的として毒ガスであるサリンを大量に生成することを計画した上、多数の信者を動員し、宗教法人の物的施設を利用し、宗教法人の資金を投入して、計画的、組織的にサリンを生成したというのであるから、宗教法人が、法令に違反して、著しく公共の福祉を害すると明らかに認められ、宗教団体の目的を著しく逸脱した行為をしたことが明らかであり、(α2)宗教法人の右のような行為に対処するには、宗教法人を解散し、その法人格を失わせることが必要かつ適切であり、他方、(α3)解散命令によって宗教団体であるオウム真理教やその信者らが行う宗教上の行為に何らかの支障を生ずることが避けられないとしても、その支障は、解散命令に伴う間接的で事実上のものであるにとどまるから、(α4)本件解散命令は、宗教団体であるオウム真理教やその信者らの精神的・宗教的側面に及ぼす影響を考慮しても、宗教法人の行為に対処するのに必要でやむを得ない法的規制であるということができ、また、(β)本件解散命令は、宗教法人法81条の規定に基づき、裁判所の司法審査によって発せられたものであるから、その手続の適正も担保されているから、(γ)本件解散命令は憲法20条1項に違背するものではないとされた事例。
参照条文: /憲法:20条/宗教法人法:1条;81条/
全 文 h080130supreme.html

最高裁判所 平成 8年 1月 26日 第2小法廷 判決 ( 平成3年(オ)第1772号 )
事件名:  遺留分減殺請求・上告事件
要 旨
 1.特定遺贈に対して遺留分権利者が減殺請求権を行使した場合、遺贈は遺留分を侵害する限度において失効し、受遺者が取得した権利は遺留分を侵害する限度で当然に減殺請求をした遺留分権利者に帰属し、遺留分権利者に帰属した権利は遺産分割の対象となる相続財産としての性質を有しない。(先例の確認)
 1a. 遺言者の財産全部についての包括遺贈は、遺贈の対象となる財産を個々的に掲記する代わりにこれを包括的に表示する実質を有するもので、その限りで特定遺贈とその性質を異にするものではないから、遺言者の財産全部についての包括遺贈に対して遺留分権利者が減殺請求権を行使した場合に遺留分権利者に帰属する権利は、遺産分割の対象となる相続財産としての性質を有しないと解するのが相当である。
 2.遺産全部の包括遺贈を受けた者(上告人)が遺留分減殺の意思表示を受けた後に遺産に属する不動産の一部を売却して譲渡所得税等の税金を納付した場合に、控訴審が遺留分権侵害により生じた損害額の算定に際して遺留分権者が負担すべき納税額を控除すべきでないと判断し、これに対して上告人が損益相殺の法理に従い前記控除がなされるべきであると主張したが、上告審が控訴審の判断は正当であるとした事例。
 3.控訴審の判決主文の不備が上告審の判決主文中で更正された事。
参照条文: /民法:898条;907条;964条;1031条/民事訴訟法:194条/
全 文 h080126supreme.html

最高裁判所 平成 8年 1月 26日 第2小法廷 判決 ( 平成5年(オ)第1054号 )
事件名:  売買代金返還等請求・上告事件
要 旨
 借地上の建物の強制競売において、地主が借地人(執行債務者)に対して、賃借権が存在する旨を記載した現況調査報告書(平成元年4月13日付け)が作成された後・売却許可決定(8月2日)がなされる前に、賃料不払を理由に賃貸借契約を解除する旨の意思表示(7月27日付け)をした場合に、現況調査報告書及び賃借権の存在を前提にした評価書・物件明細書を7月17日に閲覧して建物を買受けた者(本件原告)が、地主から提起された建物収去土地明渡訴訟において敗訴した後、強制競売による本件建物の売買契約を解除する旨の意思表示を執行債務者に対してし、執行債務者が無資力であったため強制競売手続において配当を受けた債権者(被告)に対して売買代金の一部(被告が受けた配当額)の返還を請求したところ、建物の所有権移転登記の抹消登記と引換えに返還が命じられた事例。
 1.建物に対する強制競売の手続において、建物のために借地権が存在することを前提として建物の評価及び最低売却価額の決定がされ、売却が実施されたことが明らかであるにもかかわらず、実際には建物の買受人が代金を納付した時点において借地権が存在しなかった場合、買受人は、そのために建物買受けの目的を達することができず、かつ、債務者が無資力であるときは、民法568条1項・2項及び566条1項・2項の類推適用により、強制競売による建物の売買契約を解除した上、売却代金の配当を受けた債権者に対し、その代金の返還を請求することができる。
参照条文: /民法:566条;568条/民事執行法:60条;62条;79条/
全 文 h080126supreme2.html

大阪地方裁判所 平成 8年 1月 26日 第11民事部 判決 ( 平成7年(ワ)第4361号 )
事件名:  賃料等請求事件
要 旨
 1.係属中の別訴において自働債権として相殺の抗弁を提出した債権について他の訴訟で請求することは許されない。
 2.賃借人の原状回復義務の不履行がないと判断された事例。 /重複起訴の禁止/二重起訴の禁止/既判力/
参照条文: /民法:505条/民訴.114条2項/民訴.142条/
全 文 h080126osakaD.html

最高裁判所 平成 7年 12月 15日 第2小法廷 判決 ( 平成4年(オ)第991号 )
事件名:  請求異議上告事件
要 旨
 借地上に建物を所有する土地の賃借人が、賃貸人から提起された建物収去土地明渡請求訴訟の事実審口頭弁論終結時までに建物買取請求権を行使しないまま、賃貸人の右請求を認容する判決がされ、同判決が確定した場合であっても、賃借人は、その後に建物買取請求権を行使した上、賃貸人に対して右確定判決による強制執行の不許を求める請求異議の訴えを提起し、建物買取請求権行使の効果を異議の事由として主張することができる。 /既判力の標準時/標準時後の形成権の行使/
参照条文: /借地借家.13条1項/民執.35条/民訴.114条/
全 文 h071215supreme.html

最高裁判所 平成 7年 12月 15日 第2小法廷 判決 ( 平成6年(オ)第1905号 )
事件名:  土地所有権移転登記、土地持分移転登記請求上告事件
要 旨
 占有者が所有権移転登記手続を求めなかったこと及び固定資産税を負担しなかったことをもって他主占有事情として十分であるということはできないとされた事例。
 1.取得時効の要件であり、民法186条1項により占有者に推定される所有の意思は、占有者の内心の意思によってではなく、占有取得の原因である権原又は占有に関する事情により外形的客観的に定められるべきものであるから、占有者の内心の意思のいかんを問わず、占有者がその性質上所有の意思のないものとされる権原に基づき占有を取得した事実が証明されるか、又は占有者が占有中、真の所有者であれば通常はとらない態度を示し、若しくは所有者であれば当然とるべき行動に出なかったなど、外形的客観的にみて占有者が他人の所有権を排斥して占有する意思を有していなかったものと解される事情(他主占有事情)が証明されて初めて、その所有の意思を否定することができる。
 1a.占有者が所有権移転登記手続を求めないことは、基本的には占有者の悪意を推認させる事情として考慮されるものであり、他主占有事情として考慮される場合においても、占有者と登記簿上の所有名義人との間の人的関係等によっては、所有者として異常な態度であるとはいえないこともあり、また、占有者が固定資産税を負担しないことも、所有権移転登記手続を求めないことと大筋において異なるところはなく、当該不動産に賦課される税額等の事情によっては、所有者として異常な態度であるとはいえないこともある。
参照条文: /参照条文/民法:162条/民法:186条/
全 文 h071215supreme2.html

東京高等裁判所 平成 7年 10月 3日 第16民事部 決定 ( 平成7年(ラ)第524号 )
事件名: 
要 旨
 譲渡担保権者により設定された抵当権が実行された場合に、譲渡担保権設定者は譲渡担保契約上の利用権、すなわち使用借権を有しているから、平成8年改正前の民事執行法83条による引渡命令の相手方にならない。
参照条文: /民執.83条/民法:593条/
全 文 h071003tokyoH.html

大阪高等裁判所 平成 7年 9月 13日 第9民事部 決定 ( 平成7年(ラ)第569号 )
事件名: 
要 旨
 1
 土地と地上建物に共同抵当権が設定された後に、抵当権設定者が建物を取り壊して建物を再築した場合に、再築建物のために法定地上権が成立することはない。
 2
 法定地上権の成立が認められない再築建物について、土地抵当権者は建物一括競売権を行使することができる。
 3
 法定地上権が成立しない建物が第三者に譲渡された場合でも、土地抵当権者は建物一括競売権を行使することができる。
参照条文: /民法:388条/民法:389条/民執.181条/民執.182条/
全 文 h070913osakaH.html

最高裁判所 平成 7年 9月 5日 第3小法廷 判決 ( 平成7年(オ)第374号 )
事件名:  保証債務金請求上告事件
要 旨
 物上保証に供された不動産の競売開始決定の正本が債務者に書留郵便に付して発送する方法により送達されたが、留置期間満了により執行裁判所に返送された場合に、被担保債権の時効中断効が認められなかった事例。
 1.債権者から物上保証人に対する不動産競売の申立てがされ、執行裁判所のした開始決定により物上保証人に対して差押えの効力が生じた後、債務者に右決定の正本が送達された場合には、時効の利益を受けるべき債務者に差押えの通知がされたものとして、民法155条により、債務者に対して、当該担保権の実行に係る被担保債権について消滅時効の中断の効力を生ずる。(前提の議論)
 1a.前記送達が書留郵便に付する方法によりされたときは(民訴法旧172条・現107条参照)、正本が郵便に付して発送されたことによってはいまだ時効中断の効力を生ぜず、右正本の到達によって初めて、債務者に対して消滅時効の中断の効力を生ずる。(上告棄却理由)
 1b.書留郵便に付する送達がなされたことの通知書の普通郵便による送付は民法155条の通知にあたらないとされた事例。
参照条文: /民法:147条/民法:148条/民法:155条/民訴.107条1項/民訴.107条3項/民執.45条2項/民執.188条/民訴規.44条/
全 文 h070905supreme.html

最高裁判所 平成 7年 9月 5日 第3小法廷 判決 ( 平成3年(オ)第771号 )
事件名:  ゴルフ会員権確認請求上告事件
要 旨
 1.預託金会員組織のゴルフクラブの会員がゴルフ場施設の利用をしない状態が継続したとしても、そのことのみによっては会員のゴルフ場施設利用権について消滅時効は進行せず、契約関係に基づく包括的権利としてのゴルフ会員権が消滅することはないが、ゴルフクラブ運営会社が会員に対して除名等を理由にその資格を否定してゴルフ場施設の利用を拒絶し、あるいはゴルフ場施設を閉鎖して会員による利用を不可能な状態としたようなときは、その時点から会員のゴルフ場施設利用権について消滅時効が進行し、右権利が時効により消滅すると、ゴルフ会員権は、その基本的な部分を構成する権利が失われることにより、もはや包括的権利としては存続し得ないものと解するのが相当である。 /消滅時効の起算点/
参照条文: /参照条文/民法:166条1項/民法:167条1項/民法:291条/民法:3編2章/
全 文 h070905supreme2.html

最高裁判所 平成 7年 7月 18日 第3小法廷 判決 ( 境界確定等請求・上告事件 )
事件名:  平成6年(オ)第2470号
要 旨
 1.境界の確定を求める訴えは、公簿上特定の地番によって表示される甲乙両地が相隣接する場合において、その境界が事実上不明なため争いがあるときに、裁判によって新たにその境界を定めることを求める訴えであって、相隣接する甲乙両地の各所有者が、境界を確定するについて最も密接な利害を有する者として、その当事者となるのである。
 1a. 境界確定訴訟において、原告が所有者であると主張する係争隣接地の全部が被告により時効取得されていた場合には、原告は、境界確定を求める訴えについての原告適格を失ったというべきである。 /当事者適格/訴えの主幹的利益/筆界確定/取得時効/
参照条文: /t15.民事訴訟法:2編1章/
全 文 h070718supreme.html

最高裁判所 平成 7年 7月 18日 第3小法廷 判決 ( 平成3年(オ)第1684号 )
事件名:  土地所有権移転登記手続請求本訴、土地明渡請求反訴・上告事件
要 旨
 1.要役地の共有持分のために地役権を設定することはできない。
 1a. 「被告は原告らに対し、本件承役地につき、原告らの本件要役地の持分について、本件要役地を要役地とする通路や子供の遊び場等として使用することを内容とする地役権設定登記手続をせよ。」との請求は、原告らがその共有持分権に基づいて、共有者全員のため本件要役地のために地役権設定登記手続を求めるものと解すべきである。
 2.要役地が数人の共有に属する場合、各共有者は、単独で共有者全員のため共有物の保存行為として、要役地のために地役権設定登記手続を求める訴えを提起することができるというべきであって、右訴えは固有必要的共同訴訟には当たらない。
参照条文: /t15.民事訴訟法:62条/民法:252条;280条/
全 文 h070718supreme2.html

最高裁判所 平成 7年 7月 5日 大法廷 決定 ( 平成3年(ク)第143号 )
事件名:  遺産分割審判に対する抗告棄却決定に対する特別抗告事件
要 旨
 非嫡出子の相続分を嫡出子の相続分の2分の1と定めた民法900条4号但書き前段は、憲法14条1項に違反しない。(補足意見及び反対意見がある) /法の下の平等/平等原則/差別/法律婚主義/ [意見から:/個人の尊重/違憲判断の不遡及的効力/民主主義社会/]
参照条文: /憲法:14条1項;24条2項/民法:900条4号/
全 文 h070705supreme.html

東京高等裁判所 平成 7年 5月 16日 判決 ( 平成6年(ネ)第3132号 )
事件名: 
要 旨
 1.宅地建物取引取引主任者資格試験の受験参考書に掲載された法令の規定事項をまとめた図表のうちで、そのまとめ方等に創作性があるものについて著作物性が肯定された例(表5・表6・表8)と、否定された例(表7)。
 2.被告の著作物が原告の著作物の複製であることないし著作物としての同一性が肯定された例(表5・表6・表8)。
 3.著作権法15条により原告会社が著作者となる受験用参考書の作成に関与した従業員が、原告会社を退職してから被告会社aの従業員となり、被告会社のために原告会社の著作物の一部(図表)をそのままあるいは一部改変して採録した受験用参考書を作成し、被告会社がそれを共同被告人に出版させたため、被告会社らによる原告会社の著作権・氏名表示権・同一性保持権の侵害が認められた事例。
 4.著作権法15条により著作者となるものについて、著作権侵害の過失が肯定された事例。
 5.出版社について著作権侵害の過失が肯定された事例。
 (知的財産権/無体財産権/著作権)
参照条文: /著作.15条/著作.19条/著作.21条/著作.27条/著作.13条/著作.2条1項1号/
全 文 h070516tokyoH.html

大阪高等裁判所 平成 7年 4月 17日 第7民事部 決定 ( 平成6年(ラ)第671号 )
事件名:  差押禁止範囲変更決定に対する執行抗告事件
要 旨
 共済組合からの借入金の償還金を地共法115条2項により給与支給機関が給与から天引きして払い込む方法により支払っている債務者に対して、別の債権者により給料債権の差押えがなされた場合に、債務者が償還金が給与から天引きされていることを理由に差押禁止債権の範囲の拡張を求めたが、認められなかった事例。
 1.地共法115条2項の規定は、共済制度の趣旨に鑑み、組合が組合員に対して有する貸付金等の債権を組合員から簡便かつ確実に回収し、もって組合の財源を確保する目的で設けられたものであるが、この払込みが他の一般債権に対して優先する旨の規定を欠くこと、「組合員に代わって」組合に払い込まれなければならないという文言に照らしてみれば、この払込みは、給与支給機関が組合に対する組合員の債務の弁済を代行するものにほかならず、組合が破産手続や民事執行手続において、他の一般債権者に優先して組合員に対する貸付債権等の弁済を受け得ることを規定したものと解することはできない。
 2.組合員が給与の差押えを受け、その差押額を差し引かれたうえ、さらに地共法の規定による償還金を控除された結果、組合員の生活が圧迫されるような危殆的事態の場合、給与の直接払、全額払の原則に戻り、給与支払機関の組合に対する払込義務は当然減免され、組合員は給与支払機関に対して、その生活状況を勘案して、償還金の一部又は全部の控除をしないことを請求し、給与支払者は、その請求に従い、組合員に対し、その生活状況を勘案して、組合に対する償還金の一部又は全部の控除をしないで、給与を支給する、との取扱いをすることが、各種制度の合理的運用並びに関係者相互間の公平に合致する。
参照条文: /地方公務員等共済組合.115条2項/民執.152条/民執.153条/
全 文 h070417osakaH.html

最高裁判所 平成 7年 4月 13日 第1小法廷 判決 ( 平成4年(あ)第776号 )
事件名:  関税法違反被告事件(上告事件)
要 旨
 1.関税定率法21条1項3号がわいせつ表現物の輸入をその目的のいかんにかかわらず一律に禁止し、関税法が関税定率法21条1項に掲げる貨物を輸入した者(109条1項)及び同項の罪を犯す目的をもってその予備をした者又は同項の犯罪の実行に着手してこれを遂げない者(同条2項)について罰則を定めていることは、憲法13条、31条に違反しない。
 2.関税法109条にいう「関税定率法第21条第1項(輸入禁制品)に掲げる貨物を輸入した者」には個人的鑑賞のための単なる所持を目的としてわいせつ表現物を輸入した者も含まれる。 /知る権利/
参照条文: /関税109条/関税定率.21条/憲.13条/憲.31条/
全 文 h070413supreme91.html

最高裁判所 平成 7年 3月 23日 第1小法廷 判決 ( 平成3年(オ)第1493号 )
事件名:  求償金請求上告事件
要 旨
 1.債権者が主たる債務者の破産手続において債権全額の届出をし、債権調査の期日が終了した後、保証人が、債権者に債権全額を弁済した上、破産裁判所に債権の届出をした者の地位を承継した旨の届出名義の変更の申出をしたときには、右弁済によって保証人が破産者に対して取得する求償権の消滅時効は、右求償権の全部についで、右届出名義の変更のときから破産手続の終了に至るまで中断する
 2.上記の場合において、届出債権につき債権調査の期日において破産管財人、破産債権者及び破産者に異議がなかったときであっても、求償権の消滅時効の期間は、民法174条ノ2第1項により10年に変更されるものではない。
参照条文: /民法:147条/民法:152条/民法:174-2条/民法:501条/民法:459条/破産.26条2項/破産.124条1項/破産.221条1項/破産.113条1項/
全 文 h070323supreme.html

大阪高等裁判所 平成 7年 3月 17日 第5民事部 判決 ( 平成6年(ネ)第3103号 )
事件名:  遺言無効確認請求・控訴事件
要 旨
 遺言者がアルツハイマー型老人性痴呆にかかり回復の見込みがないため、遺言を取消し、変更する可能性がないことが明白な場合には、遺言者の生存中であっても、例外的に遺言の無効確認を求めることができる(唯一の推定相続人が遺言者と受遺者を被告にして提起した遺言無効確認の訴えに確認の利益が認められた事例)。 (訴えの客観的利益/訴えの利益/訴訟要件)
参照条文: /民事訴訟法:第2編第1章;140条/民法:985条1項;960条;1022条/
全 文 h070317osakaH.html

名古屋地方裁判所 平成 7年 3月 10日 民事第9部 判決 ( 昭和63年(ワ)第1224号 )
事件名:  損害賠償請求事件
要 旨
 1.退職従業員について、事務引継義務の不履行がないとされた事例。
 2.平均的プログラマーが容易に作成することができるコンピューター・プログラムであっても、そのことのみをもって創作性を否定することはできない。
 3.従業員が入社前に作成したコンピュータプログラムを基に就職後に改変を加えて作成したプログラムが二次的著作物であるとみとめられ、二次的著作物について職務著作の成立が認められた事例。
 4.原著作物について複製権を有しない二次的著作権者が二次的著作権の及ぶ範囲を明らかにしないことを理由に、二次的著作物の無断複製を理由とする損害賠償請求が棄却された事例。
 5.権利侵害行為があったとはいえるが、それによる損害について証明がないとして、損害賠償請求が棄却された事例。
 (知的財産権/無体財産権/著作権)
参照条文: /民法:623条/著作.2条1項11号/著作.11条/著作.15条2項/著作.28条/著作.113条2項/著作.114条/民訴.248条/
全 文 h070310nagoyaD.html

最高裁判所 平成 7年 3月 7日 第3小法廷 判決 ( 平成6年(オ)第1728号 )
事件名:  境界確定請求上告事件
要 旨
 境界確定訴訟において、一方の土地のうち境界の全部に接続する部分を隣地の所有者が時効取得した場合に、両土地の所有者の当事者適格が肯定された事例。
 1.境界確定の訴えの当事者適格を定めるに当たっては、何ぴとをしてその名において訴訟を追行させ、また何ぴとに対し本案の判決をすることが必要かつ有意義であるかの観点から決すべきであるから、相隣接する土地の各所有者が、境界を確定するについて最も密接な利害を有する者として、その当事者となる。(前提となる一般論)
 2.境界確定の訴えにおいて、甲地のうち境界の全部に接続する部分を乙地の所有者が時効取得した場合においても、甲乙両地の各所有者は、境界に争いがある隣接土地の所有者同士という関係にあることに変わりはなく、境界確定の訴えの当事者適格を失わない。
 3.隣接地の所有者が他方の土地の一部を時効取得した場合も、これを第三者に対抗するためには登記を具備することが必要であるところ、右取得に係る土地の範囲は、両土地の境界が明確にされることによって定まる関係にあるから、登記の前提として時効取得に係る土地部分を分筆するためにも両土地の境界の確定が必要となる。
参照条文: /民訴.1編3章/民訴.2編1章/
全 文 h070307supreme.html

最高裁判所 平成 7年 3月 7日 第3小法廷 判決 ( 平成6年(行ツ)第83号 )
事件名:  審決取消請求上告事件
要 旨
 1.実用新案登録を受ける権利の共有者が、その共有に係る権利を目的とする実用新案登録出願の拒絶査定を受けて共同で審判を請求し、請求が成り立たない旨の審決を受けた場合に、右共有者の提起する審決取消訴訟は、共有者が全員で提起することを要するいわゆる固有必要的共同訴訟と解すべきである。 /知的財産権/無体財産権/工業所有権/実用新案権/当事者適格/
参照条文: /実用新案.41条/特許.132条3項/実用新案.47条/民訴.40条/
全 文 h070307supreme51.html

最高裁判所 平成 7年 2月 24日 第2小法廷 判決 ( 平成3年(行ツ)第139号 )
事件名:  審決取消請求上告事件<天井用埋込み灯事件>
要 旨
 1.類似意匠の意匠登録出願に係る意匠が先願意匠と類似する場合には、先願意匠の意匠登録出願が取り下げられ又は無効にされたときを除き、先願意匠が本意匠に類似するかどうかにかかわらず、右類似意匠の意匠登録出願は、意匠法9条1項により拒絶されるべきである。 /知的財産権/無体財産権/工業所有権/意匠権/
参照条文: /意匠.9条1項/意匠.10条/
全 文 h070224supreme.html

奈良地方裁判所葛城支部 平成 7年 2月 16日 決定 ( 平成7年(ヲ)第4号 )
事件名:  差押禁止債権範囲変更申立事件
要 旨
 1.同時廃止決定後・免責決定確定前の債務者の給与債権に対して債権執行の申立てがなされた場合に、今後免責が見込まれることを理由に当然に債権差押申立てを違法と判断することはできない。
 2.上記の場合に、今後免責が見込まれることを民事執行法153条1項所定の「債務者の生活の状況その他の事情」の一つの事情とすることができる。
 2a.免責の見込みがあること、破産に至った事情の中心が妻の病気により予定した収入が得られず家族の生活の維持に多額な出費を要したことにあったこと等を考慮して、給与債権の差押命令が取り消された事例。 /差押禁止債権/破産免責/
参照条文: /民執.153条/破産.145条/破産.366-11条/破産.366-12条/
全 文 h070216naraD.html

最高裁判所 平成 7年 1月 24日 第3小法廷 判決 ( 平成3年(オ)第1057号 )
事件名:  損害賠償請求上告事件
要 旨
 特定の不動産を特定の相続人甲に相続させる旨の遺言により、甲が被相続人の死亡とともに相続により当該不動産の所有権を取得した場合には、甲が単独でその旨の所有権移転登記手続をすることができ、遺言執行者は、遺言の執行として右の登記手続をする義務を負うものではない。 (相続人甲の遺言執行者に対する職務懈怠を理由とする損害賠償請求が棄却された事例/相続させる遺言)
参照条文: /民法:908条/民法:1012条/民法:1013条/
全 文 h070124supreme.html

最高裁判所 平成 7年 1月 20日 第2小法廷 判決 ( 平成3年(オ)第491号 )
事件名:  求償債権請求・上告事件
要 旨
 複数の連帯保証人の内の1人について和議が開始された場合に、その前後に債権者に保証債務を履行していた他の連帯保証人の和議債務者に対する求償権の内容を確定するに際して、和議開始前の弁済額、開始後の弁済額、開始時における債権者の和議債務者に債権額を確定することなく、弁済をした連帯保証人の弁済額に和議債務者の負担割合を乗じた額を求償債務額として、それが和議条件にしたがって変更された範囲で求償請求を認容した原判決が破棄された事例。
 1.連帯保証人は、自己の負担部分を超える額を弁済した場合は、民法465条1項、442条に基づき、他の連帯保証人に対し、右負担部分を超える部分についてのみ、求償権を行使し得るにとどまり、弁済した全額について負担部分の割合に応じて求償することができるものではない。
 2.連帯保証人の一人について和議開始決定があり、和議認可決定が確定した場合において、和議開始決定の時点で、他の連帯保証人が和議債務者に対して求償権を有していたときは、右求償権が和議債権となり、その内容は和議認可決定によって和議条件どおりに変更される。
 3.和議開始決定の後に債権者に弁済したことにより、和議債務者に対して求償権を有するに至った連帯保証人は、債権者が債権全部の弁済を受けたときに限り、求償権を行使することができる。
 3a.右求償権は、右弁済による代位によって取得する債権者の和議債権(和議条件により変更されたもの)の限度で、行使し得るにすぎない。
参照条文: /民法:442条;442条;465条/民事再生法:86条2項/破産法:104条/
全 文 h070120supreme.html

最高裁判所 平成 6年 12月 20日 第3小法廷 判決 ( 平成2年(オ)第663号 )
事件名:  建物収去土地明渡等請求上告事件
要 旨
 1.土地共有者の1人だけについて法定地上権を設定したものとみなすべき事由が生じたとしても、他の共有者らがその持分に基づく土地に対する使用収益権を事実上放棄し、右土地共有者の処分にゆだねていたことなどにより法定地上権の発生をあらかじめ容認していたとみることができるような特段の事情がある場合でない限り、共有土地について法定地上権は成立しない。
 2.土地が夫婦と1人の子供の共有に属し、夫が地上建物の共有者9名の1人で、土地の共有持分全部に抵当権が設定されていた場合に、法定地上権の成立が否定された事例。
参照条文: /民法:388条/民法:251条/民執.62条3号/
全 文 h061220supreme.html

最高裁判所 平成 6年 12月 6日 第3小法廷 判決 ( 平成6年(行ツ)第17号 )
事件名:  第二次納税義務告知処分取消・上告事件
要 旨
 1.第二次納税義務の納付告知は、確定した主たる納税義務の徴収手続上の一処分としての性格を有するものというべきであり、納付告知により具体的に発生する第二次納税義務は、既に確定している主たる納税義務者の納税義務を補完するものにすぎず、これと別個独立に発生するものではない。
 1a.第二次納税義務の納付告知は、ただその義務の発生を知らしめる徴収のための処分にほかならない。
 1b. 国税通則法70条が第二次納税義務の納付告知に類推適用されることはない。
参照条文: /国税徴収法:32条1項/国税通則法:70条/
全 文 h061206supreme.html

大阪高等裁判所 平成 6年 11月 25日 第2民事部 判決 ( 平成6年(ネ)第335号 )
事件名:  求償債権請求控訴事件
要 旨
 1.債権者が主債務者の破産手続において債権全額の届出をし、その後、債権全額を代位弁済した保証人が、破産裁判所に右債権の届出をした者の地位を承継した旨の届出名義の変更の申出をしたときは、これにより、求償権ひいては求償権の連帯保証債務履行請求権もまた消滅時効の中断の効果を受ける。
 2.前記の場合に、原債権が異議なく確定してその旨が破産債権表に記載されたときは、その債権表の記載は確定判決と同一の効力を有するから、保証人の求償権および求償債権の連帯保証債務履行請求権もまた原債権と同じく強い証拠力が付与されたものとみるべく、その消滅時効期間もまた右原債権のそれと同様10年に延長される。
参照条文: /民法:174-2条/民法:152条/民法:147条1号/破産.221条1項/破産.113条1項/
全 文 h061125osakaH.html

最高裁判所 平成 6年 11月 24日 第1小法廷 判決 ( 平成4年(オ)第1814号 )
事件名:  慰藉料、損害賠償請求上告事件
要 旨
 1.民法719条所定の共同不法行為[者]が負担する損害賠償債務は、いわゆる不真正連帯債務であって連帯債務ではないから、その損害賠償債務については連帯債務に関する同法437条の規定は適用されない。
 1a.共同不法行為者の一方に対する損害賠償債務の免除が他方に対してその債務を免除する意思を含むものではないと認められた事例。 /夫の不貞の相手方に対する妻の損害賠償請求/債務免除/
参照条文: /民法:719条/民法:437条/
全 文 h061124supreme.html

最高裁判所 平成 6年 11月 22日 第3小法廷 判決 ( 平成2年(オ)第1146号 )
事件名:  損害賠償請求上告事件
要 旨
 1.特定の金銭債権の一部を請求する事件において、被告から相殺の抗弁が提出されてそれに理由がある場合には、まず、当該債権の総額を確定し、その額から自働債権の額を控除した残存額を算定した上、原告の請求に係る一部請求の額が残存額の範囲内であるときはそのまま認容し、残存額を超えるときはその残存額の限度でこれを認容すべきである。
 2.特定の金銭債権の一部を請求する訴訟においては、相殺の抗弁により自働債権の存否について既判力が生ずるのは、請求の範囲に対して「相殺ヲ以テ対抗シタル額」に限られるから、当該債権の総額から自働債権の額を控除した結果残存額が一部請求の額を超えるときは、一部請求の額を超える範囲の自働債権の存否については既判力を生じない。
 2a.一部請求を認容した第一審判決に対し、被告のみが控訴し、控訴審において新たに主張された相殺の抗弁が理由がある場合に、控訴審において、まず当該債権の総額を確定し、その額から自働債権の額を控除した残存額が第一審で認容された一部請求の額を超えるとして控訴を棄却しても、不利益変更禁止の原則に反するものではない。 /判決事項/一部請求/
参照条文: /民法:505条/民訴.114条2項/民訴.246条/
全 文 h061122supreme.html

大阪地方裁判所 平成 6年 10月 28日 第11民事部 判決 ( 平成5年(ワ)第4528号 )
事件名: 
要 旨
 老人性痴呆にかかり禁治産宣告を受けた遺言者の生存中に、唯一の推定相続人が遺言者と受遺者に対して遺言無効確認の訴えを提起したが、確認の利益の欠如を理由に却下された事例。 (訴えの客観的利益/訴えの利益/訴訟要件/アルツハイマー病)
参照条文: /民訴./民法:985条1項/民法:960条/民法:1022条/
全 文 h061028osakaD.html

最高裁判所 平成 6年 9月 27日 第3小法廷 判決 ( 平成3年(オ)第1170号 )
事件名:  土地所有権移転登記手続等請求、同当事者参加・上告事件
要 旨
 土地の所有権移転登記手続請求訴訟に、被告との間でなされていた同土地の代物弁済予約あるいは売買一方の予約に基づき所有権移転仮登記を得ていた参加人が、予約完結の意思表示をしたことを理由に、被告に対しては仮登記に基づく本登記手続を求め、仮登記後にされた処分禁止仮処分登記の名義人である原告に対しては本登記手続の承諾を求めてした当事者参加の申出は、参加要件(権利関係の合一確定を目的とすること)を満たすものではないとされ、参加請求に係る部分が第一審に移送された事例。
 1.独立当事者参加の制度は、同一の権利関係について、原告、被告及び参加人の三者が互いに相争う紛争を一の訴訟手続によって、一挙に矛盾なく解決しようとする訴訟形態であって、一の判決により訴訟の目的となった権利関係を全員につき合一に確定することを目的とするものでなければならない。(参加人の請求がその目的に合致するものでないとされた事例)
 2.控訴審でなされた独立当事者参加申出が参加の要件(法律関係の合一確定を目的とするものであること)を欠き、実質は新訴の提起と解すべきときは、控訴審は参加請求に係る部分を第一審管轄裁判所に移送すべきである。(上告審が移送した事例)
参照条文: /民事訴訟法:71条/
全 文 h060927supreme.html

大阪高等裁判所 平成 6年 8月 15日 第7民事部 決定 ( 平成6年(ラ)第464号 )
事件名:  免責決定に対する即時抗告事件
要 旨
 免責について異議を述べた債権者に免責決定が送達されるとともに代用公告がなされた場合に、代用公告を起算点とする抗告期間内になされたが送達時を起算点とする抗告期間後になされた即時抗告が不適法とされた事例。
 1.免責決定について、送達か公告かの一方のみで足りるのに、送達と公告とが重複してなされているときは、送達から1週間と公告から2週間後のうちの早く到来する時点をもって、その抗告期間の徒過をみるものと解するのが相当である。 /破産免責/
参照条文: /破産.366-20条/破産.111条/破産.115条/破産.116条/破産.117条/破産.108条/民訴.415条/破産.366-条/
全 文 h060815osakaH.html

東京高等裁判所 平成 6年 8月 9日 第8民事部 決定 ( 平成5年(ラ)第1187号 )
事件名: 
要 旨
 土地の抵当権者は、抵当権設定後に抵当権設定者が築造した建物について、当該建物が第三者に譲渡された場合においても、建物一括競売権を行使することができる。
参照条文: /民法:389条/民執.181条/民執182条/
全 文 h060809tokyoH.html

東京地方裁判所 平成 6年 7月 25日 判決 ( 平成4年(ワ)第3549号 )
事件名: 
要 旨
 1.法令は、その性質上国民に広く開放され、伝達され、かつ利用されるべき著作物であり、そのため著作権法一三条一号においても、憲法その他の法令は著作者の権利の目的とならない旨規定されているのであるから、法令の全部又は一部をそのまま利用したり単に要約したりして作成されたものは、著作物性を取得しない。
 2.宅地建物取引取引主任者資格試験の受験参考書に掲載された法令の規定事項をまとめた図表のうちで、そのまとめ方等に創作性があるものについて著作物性が肯定された例(表3・表4・表5・表6・表7・表8)と、否定された例(表1・表2)。
 3.被告の著作物が原告の著作物の複製であることないし著作物としての同一性が肯定された例と(表5・表6・表7・表8)、否定された例(表3・表4)。
 4.著作権法15条により原告会社が著作者となる受験用参考書の作成に関与した従業員が、原告会社を退職してから被告会社aの従業員となり、被告会社のために原告会社の著作物の一部(図表)をそのままあるいは一部改変して採録した受験用参考書を作成し、被告会社がそれを共同被告人に出版させたため、被告会社らによる原告会社の著作権・氏名表示権・同一性保持権の侵害が認められた事例。
 5.著作権法15条により著作者となるものについて、著作権侵害の過失が肯定された事例。
 6.出版社について著作権侵害の過失が肯定された事例。
 (知的財産権/無体財産権/著作権)
参照条文: /著作.15条/著作.19条/著作.21条/著作.27条/著作.13条/著作.2条1項1号/
全 文 h060725tokyoD.html

大阪高等裁判所 平成 6年 7月 18日 第7民事部 決定 ( 平成6年(ラ)第277号 )
事件名:  債権差押命令取消決定に対する執行抗告事件
要 旨
 破産免責手続中に債権者が債務名義を取得して給料債権を差し押さえた後に,債務者が確定した免責決定を提出して差押命令の取消しを申し立てた場合に,確定した免責決定が提出されたことのみを理由に債権差押命令を取り消した原決定が取り消された事例。
 1.免責決定の正本は,執行取消文書(民事執行法40条1項・39条1項1号ないし6号)に該当しない。
 1a.執行債務者が確定した免責決の正本を提出したことは,執行障害事由にならない。
 2.抗告人が抗告状において原決定の一部の取消を求めた場合に,抗告審が,その本旨は「原決定の取消しを求めるにある」と解して,全部を取り消した事例。
参照条文: /破産.366-12条/民執.40条1項/民執.39条1項/
全 文 h060718osakaH.html

東京地方裁判所 平成 6年 7月 1日 民事第29部 判決 ( 平成5年(ワ)第4948号 )
事件名: 
要 旨
 1.劇場用映画の複製であるビデオカセットを公衆に販売する行為も26条1項所定の頒布権の対象となる。
 2.アメリカ合衆国で本件映画の著作権者の許諾を得て製造販売された本件ビデオカセットは、同国著作権法109条(a)項あるいはファーストセールドクトリンの法理の適用により、同国の国内においてはその後の頒布、流通に制限はなかったものと解されるが、右許諾が我が国内での頒布を含んだ許諾で、我が国における頒布も予測した対価が支払われていることを認めるに足りる証拠はない以上、アメリカ合衆国における前記許諾を理由に、並行輸入された本件ビデオカセットの頒布が我が国における頒布権を侵害しないとすることはできない。
 (知的財産権/無体財産権/著作権/101匹ワンチャン/並行輸入)
参照条文: /著作.2条3項/著作.6条/著作.26条/
全 文 h060701tokyoD.html

最高裁判所 平成 6年 5月 31日 第3小法廷 判決 ( 平成3年(オ)第1724号 )
事件名:  所有権確認等請求・上告事件
要 旨
 1.村落住民が入会団体を形成し、それが権利能力のない社団に当たる場合には、当該入会団体は、構成員全員の総有に属する不動産につき、これを争う者を被告とする総有権確認請求訴訟を追行する原告適格を有するものと解するのが相当である。
 1a. 権利能力のない社団である入会団体の代表者が構成員全員の総有に属する不動産について総有権確認請求訴訟を原告の代表者として追行するには、入会団体の規約等において当該不動産を処分するのに必要とされる総会の議決等の手続による授権を要するものと解するのが相当である。
 1b. ある町の地域に居住する一定の資格を有する者によって構成される入会団体が、規約により代表の方法、総会の運営、財産の管理等団体としての主要な点が確定しており、組織を備え、多数決の原則が行われ、構成員の変更にかかわらず存続することが認められるから、権利能力のない社団に当たるとされ、その代表者が、訴えの提起に先立って、本件訴訟を追行することにつき、財産処分をするのに規約上必要とされる総会における議決による承認を得ているから、前記の授権の要件をも満たしているとされた事例。
 2.権利能力のない社団である入会団体において、規約等に定められた手続により、構成員全員の総有に属する不動産につきある構成員個人を登記名義人とすることとされた場合には、当該構成員は、入会団体の代表者でなくても、自己の名で右不動産についての登記手続請求訴訟を追行する原告適格を有するものと解するのが相当である。
 2a. このように解したとしても、民訴法が訴訟代理人を原則として弁護士に限り(弁護士代理の原則)、信託法11条が訴訟行為をさせることを主たる目的とする信託を禁止している趣旨を潜脱するものということはできない。
 2b.権利能力を有しない社団に該当する入会団体の構成員が、訴えの提起に先立って、入会団体の総会における構成員全員一致の議決によって土地の登記名義人とすることに決定されていた場合に、土地の登記手続請求訴訟の原告適格を有するとされた事例。 /法人でない社団/
参照条文: /民事訴訟法:46条;79条;第2編第1章/信託法:11条/民法:263条/
全 文 h060531supreme.html

東京高等裁判所 平成 6年 5月 30日 民事17部 判決 ( 平成5年(ネ)第3904号 )
事件名:  貸金請求等控訴事件
要 旨
 高齢の父と同居する息子が、父の印鑑及び登記済証等を無断で持ち出して、原告に対する自己の債務を父が連帯保証する旨の契約書を作成すると共に、父所有の不動産に根抵当権を設定し、さらに、父に対する保証債務履行請求の訴状および期日呼出状が父宛に送達されても父に引き渡さずにおいたため、父が期日に欠席して敗訴判決を受け、その判決正本が父に送達されても父に引き渡さずにいた場合に、控訴期間経過後に父が提起した控訴が適法とされ、原判決が取り消され、事件が第一審に差し戻された事例。
 1.補充送達が有効とされた事例。
 1a.送達機関が、送達を実施するに際し、送達名宛人と同居者との間の事実上の利害関係の有無を、外形から明瞭に判定することは極めて困難であり、そのように外形上客観的に明らかでない事情によって送達の効力が左右されるとすることは、手続の安定を著しく害することとなるから、右両者間に事実上の利害の対立関係がある場合であっても、同居者の送達受領権限は否定されない。
 2.控訴の追完が認められた事例。
 2a.控訴人が高齢でその経歴を考慮すれば自ら訴訟追行することは期待できず、また、弁護士を訴訟代理人に選任するだけの資力を有しなかったことを考慮して、控訴の追完期間の始期が、控訴人が法律扶助決定の通知を受けて訴訟代理人弁護士を委任しうる状態となった日とされた事例。
 3.第一審の手続に法律違反はないが、本案につき実質的な審理が全くなされていないため、控訴審が原判決を取り消して事件を差し戻した事例。 /訴訟行為の追完/
参照条文: /民訴.106条1項/民訴.97条/民訴.305条/民訴.308条/
全 文 h060530tokyoH.html

最高裁判所 平成 6年 4月 7日 第1小法廷 判決 ( 平成4年(オ)第98号 )
事件名:  地上権不存在確認請求本訴・地上権存在確認請求反訴・上告事件
要 旨
 土地及びその上にある建物がいずれも甲、乙両名の共有に属する場合において、土地の甲の持分の差押えがあり、その売却によって第三者が右持分を取得するに至ったとしても民事執行法81条の法定地上権が成立することはない。
参照条文: /民執.81条/
全 文 h060407supreme.html

大阪高等裁判所 平成 6年 3月 4日 第6民事部 決定 ( 平成5年(ラ)第400号 )
事件名:  不動産引渡命令に対する執行抗告事件
要 旨
 不動産の共有持分の競売事件において、持分の買受人は、無権原占有者となった執行債務者に対し引渡命令を求めることができる。
参照条文: /民執.83条/民法:249条/民法:252条/
全 文 h060304osakaH.html

最高裁判所 平成 6年 2月 22日 第3小法廷 判決 ( 平成1年(オ)第23号 )
事件名:  家屋明渡請求上告事件
要 旨
 不動産を譲渡担保に供した債務者(被告・A)が弁済を怠ったため、債権者(B)が担保不動産を第三者(原告)に贈与して、その所有権移転登記が経由された後で、債務者が残債務の弁済金を供託したが、譲受人が所有権に基づき明渡しを請求した場合に、債務者が、譲受人は背信的悪意者であるから受け戻しによる所有権復帰を対抗できると主張したが認められなかった事例。
 1.不動産を目的とする譲渡担保契約において、債務者が弁済期に債務の弁済をしない場合には、債権者は、右譲渡担保契約がいわゆる帰属清算型であると処分清算型であるとを問わず、目的物を処分する権能を取得するから、債権者がこの権能に基づいて目的物を第三者に譲渡したときは、原則として、譲受人は目的物の所有権を確定的に取得し、債務者は、清算金がある場合に債権者に対してその支払を求めることができるにとどまり、残債務を弁済して目的物を受け戻すことはできなくなる。
 1a.この理は、譲渡を受けた第三者がいわゆる背信的悪意者に当たる場合であっても異なるところはない。 /受戻権/
参照条文: /仮担保.11条/仮担保.2条/
全 文 h060222supreme2.html

最高裁判所 平成 6年 2月 8日 第3小法廷 判決 ( 平成1年(オ)第1649号 )
事件名:  慰藉料請求上告事件
要 旨
 被告がノンフィクション作品「逆転」において原告の前科にかかわる事実を実名を使用して公表したことにより原告が精神的苦痛を被ったと主張して損害賠償を請求し,認容された事例。
 1.前科等にかかわる事実については,これを公表されない利益が法的保護に値する場合があると同時に,その公表が許されるべき場合もあるのであって,ある者の前科等にかかわる事実を実名を使用して著作物で公表したことが不法行為を構成するか否かは,その者のその後の生活状況のみならず,事件それ自体の歴史的又は社会的な意義,その当事者の重要性,その者の社会的活動及びその影響力について,その著作物の目的,性格等に照らした実名使用の意義及び必要性をも併せて判断すべきものである。
 1a.前科等にかかわる事実を公表されない法的利益が優越するとされる場合には,その公表によって被った精神的苦痛の賠償を求めることができる。
 2.表現の自由は,十分に尊重されなければならないものであるが,常に他の基本的人権に優越するものではなく,前科等にかかわる事実を公表することが憲法の保障する表現の自由の範囲内に属するものとして不法行為責任を追求される余地がないものと解することはできない。
参照条文: /民法:709条/民法:710条/憲.21条/憲.13条/
全 文 h060208supreme.html

東京高等裁判所 平成 6年 1月 27日 第18民事部 判決 ( 平成4年(行ケ)第170号 )
事件名:  審決取消請求事件
要 旨
 1.共有に係る実用新案登録を受ける権利の共有者の一人が提起した審決取消の訴えが適法とされた事例。
 1a.実用新案権の共有の実体的な性格は,民法の定める共有であると解すべきであり,これを合有と解する根拠はなく、合有関係であることを理由に,共有者の一部の者が提起した審決取消訴訟を固有必要的共同訴訟であると解することはできない。
 1b.実用新案登録を受ける権利の共有者の一部の者が提起した審決取消訴訟において、請求棄却判決が確定した場合には審決は確定し、反対に、請求認容判決が確定した場合には審決取消判決の効果は他の共有者にも及び(行訴法32条1項)、手続は審判請求段階に戻ると解され,共有者の一部の者に原告適格を肯定した場合においても共有者間において権利付与の可否についての判断が区々になる事態が生ずることはないから、この審決取消訴訟を固有必要的共同訴訟と解する根拠はない。
 1c.実用新案登録出願に対する拒絶査定及びこれを維持する審決は,実用新案登録を受ける権利の実現を阻害するという意味で妨害行為に当たると解することができるから,共有者の一部の者がかかる妨害行為を排除するために審決取消訴訟を提起する行為は,実用新案登録を受ける権利の保存行為(民法252条ただし書)に当たり、単独ですることができる。
 2.臨床上磁束密度が強くかつ広域にわたって磁界を発生することができる磁気治療器に関する考案の実用新案登録を拒絶する査定を支持する審決が取り消された事例。
 2a.審決が引用する考案においては、最も強い磁極面が巻線の中心軸と直交する両端面であり、本願考案にいうところの「磁極面」の向きが「人体密着面側」を向いておらず、この点で本願考案の構成と異なるから、審決は、本願考案の要旨にいう「磁極面」の技術的な解釈を誤り、引用考案との一致点を誤認したものである。 /知的財産権/無体財産権/工業所有権/実用新案権/当事者適格/合一確定/進歩性/新規性/
参照条文: /民法:264条/民法:252条/民訴.40条/実用新案.11条1項/特許.38条/実用新案.41条/特許.132条3項/実用新案.3条/行訴.32条1項/
全 文 h060127tokyoH51.html

東京高等裁判所 平成 5年 12月 24日 第9民事部 決定 ( 平成5年(ラ)第820号 )
事件名:  競売手続取消決定に対する執行抗告事件
要 旨
 平成16年破産法184条2項により破産財団所属不動産の換価のための競売に関して民事執行法63条の適用を排除する旨が明規される前にあって、限定承認者による相続不動産の競売について、民事執行法63の適用があるとされた事例。
 1.民事執行法195条は、相続財産の競売については担保権の実行としての競売の例による旨規定し、相続財産の競売についても何らの留保なく同法63条を準用しているから、相続財産の競売には無剰余取消の規定が適用されると解するのが相当である。
参照条文: /民事執行法:59条;63条;195条/民法:932条/
全 文 h051224tokyoH.html

最高裁判所 平成 5年 12月 17日 第3小法廷 判決 ( 平成2年(オ)第444号 )
事件名:  建物明渡、抹消登記承諾、土地建物所有権移転登記等抹消登記手続請求上告事件
要 旨
 1.民事執行法184条を適用するためには、競売不動産の所有者が不動産競売手続上当事者として扱われたことを要し、所有者がたまたま不動産競売手続が開始されたことを知り、その停止申立て等の措置を講ずることができたというだけでは足りない。
 1a.所有者の意思に基づかずに所有権移転登記がなされ、新たな登記名義人により抵当権設定登記がなされ、その抵当権の実行として競売がなされた場合に、真の所有者が競売手続が開始された比較的早い時期にその進行を知り、また、競売手続中に所有権移転登記・抵当権設定登記の抹消登記請求の訴えを提起していた場合であっても、真の所有者が競売手続上当事者とされていなかった場合には、民執法184条の適用はないとされた事例。
参照条文: /民執.184条/
全 文 h051217supreme.html

横浜地方裁判所 平成 5年 11月 17日 決定 ( 平成5年(ケ)第1527号 )
事件名: 
要 旨
 民法389条の規定の文言及び建物一括競売権の拡張を第三者の所有物にまで及ぼすのは行き過ぎであることからすると、同条の適用のためには、抵当地上の建物を抵当権設定者が築造し、かつ所有していることが必要である。
参照条文: /民法:389条/民執.181条/民執182条/
全 文 h051117yokohamaD.html

大阪地方裁判所 平成 5年 10月 29日 第17民事部 判決 ( 平成3年(ワ)第9599号 )
事件名:  損害賠償請求事件
要 旨
 交通事故の被害者の遺族が提起した損害賠償請求訴訟(別件訴訟)において、被害者とその遺族に給付された労災保険給付金額は損益相殺されるべきであるとの被告の主張を裏付けるためになされた23条照会(弁護士法23条の2の照会)に対して、労働基準監督署が実際の給付金額より過大な金額を回答し、この誤った回答を前提にして下された請求棄却判決が確定し、遺族が賠償金を得られなくなった場合に、その後に回答の誤りを確知した遺族が国に対して国家賠償の訴えを提起した本件訴訟において、労働基準監督署長の誤回答行為の違法性、過失及び原告に生じた損害との因果関係が肯定され、過失相殺の上で損害の一部の賠償が認められた事例。
 1.23条照会を受けた公務所又は公私の団体は、弁護士が職務遂行により実現する公共的利益のため、弁護士会に対して協力し、原則としてその照会の趣旨に応じた報告をなす義務を負う。
 2.特に、公務所がその取り扱う事務について23条照会を受けて、これに対する回答を行う場合には、一般私人の場合と異なり、公益のため行動すべき公的機関として、司法事務に協力し、訴訟における真実発見に資するよう協力すべき立場にあること、及び公務員はその担当する公務についての専門家であり、公務の遂行の正確性に対する一般の信頼を保護すべきであることから、職務上の法的義務として、照会に対する正確な回答をなすべき注意義務を負い、これに違反した場合には国家賠償法1条1項の規定の適用上、違法の評価を受ける。 /弁護士会照会/弁護士照会/
参照条文: /国家賠償法:1条1項/民法:709条/弁護士法:23-2条/
全 文 h051029osakaD.html

東京高等裁判所 平成 5年 9月 9日 第18民事部 判決 ( 平成4年(ネ)第1421号 )
事件名:  損害賠償等請求控訴事件<三沢市勢未編集映画フィルム事件>
要 旨
 1.映画製作のために撮影された未編集フィルムの映像著作物としての著作権が、映画製作者でなく映画監督に帰属するとされた事例。
 2.著作権法29条1項により映画製作者が映画の著作物の著作権を取得するためには、著作物と認められるに足りる映画が完成することが必要であり、参加約束のみによって未だ完成されていない映画について製作者が著作権を取得することはない。
 3.映像を撮影収録したフィルムがNGフィルム選別、シナリオに従った粗編集、細編集、音づけ等の映画製作過程を経ないまま未編集の状態で現在に及んでいる場合に、著作物と認めるに足りる映画は未だ存在しないとされた事例。
 (/知的財産権/無体財産権/著作権/)
参照条文: /著作権法:2条3項;16条;29条1項/
全 文 h050909tokyoH.html

最高裁判所 平成 5年 9月 7日 第3小法廷 判決 ( 昭和61年(オ)第531号 )
事件名:  代表役員等地位不存在確認請求・上告事件
要 旨
 宗祖以来の唯授一人の血脈を相承する者を宗教団体の最高権威者である法主とし、法主を管長に充て、管長を宗教法人の代表役員に充てるものとされている宗教法人日蓮正宗の管長及び代表役員の地位に特定の者がないことの確認を求める訴えが、法律上の争訟性を欠く不適法なものであるとして、却下された事例。
 1.特定の者が宗教団体の宗教活動上の地位にあることに基づいて宗教法人である当該宗教団体の代表役員の地位にあることが争われている場合には、裁判所は、原則として、右の者が宗教活動上の地位にあるか否かを審理、判断すべきものである。
 1a.裁判所の審判権は、宗教上の教義ないし信仰の内容にかかわる事項についてまで及ぶものではない。
 1b.特定の者の宗教活動上の地位の存否を審理、判断するにつき、宗教団体の教義ないし信仰の内容に立ち入って審理、判断することが必要不可欠である場合には、裁判所は、その者が宗教活動上の地位にあるか否かを審理、判断することができず、その結果、宗教法人の代表役員の地位の存否についても審理、判断することができないことになるときには、特定の者の宗教法人の代表役員の地位の存否の確認を求める訴えは、裁判所が法令の適用によって終局的な解決を図ることができない訴訟であり、裁判所法三条にいう「法律上の争訟」に当たらない。 /訴訟要件/信教の自由/
参照条文: /裁判.3条/憲.20条/民訴.2編1章/
全 文 h050907supreme.html

最高裁判所 平成 5年 9月 7日 第3小法廷 判決 ( 平成2年(オ)第100号 )
事件名:  保険金請求・上告事件
要 旨
 Dが保険会社との間で、被保険者をD、保険金受取人をDの母であるE、死亡保険金額を2000万円とする生命保険契約を締結し、Eが死亡し、次いでDが保険金受取人の再指定をすることなく死亡し(Dの直系卑属なし)、Eの法定相続人としてD及び原告らの4名がおり、Dの法定相続人として原告ら(Dの兄1名及び異父兄2名)以外に11名の異母兄姉等(Dの亡父の子等)がいる場合に、原告ら3名及びDの11名の異母兄姉等の合計14名が保険金受取人になり、各自が保険会社に対して死亡保険金額の14分の1の請求権を有するとされた事例。
 1.商法676条2項にいう「保険金額ヲ受取ルヘキ者ノ相続人」とは、保険契約者によって保険金受取人として指定された者の法定相続人又はその順次の法定相続人であって被保険者の死亡時に現に生存する者をいう。(先例の確認)。
 2.商法676条2項の規定の適用の結果、指定受取人の法定相続人とその順次の法定相続人とが保険金受取人として確定した場合には、各保険金受取人の権利の割合は、民法427条の規定の適用により、平等の割合になる。 /分割債権/
参照条文: /商法:676条2項/民法:427条/
全 文 h050907supreme2.html

東京地方裁判所 平成 5年 8月 23日 民事第16部 判決 ( 平成5年(ワ)第2604号 )
事件名:  不当利得返還請求事件
要 旨
 賃貸建物の賃料債権が差し押さえられた後に当該建物に抵当権の設定登記を受けた者は、抵当権に基づく物上代位権の行使として右賃料債権を差し押さえて、先行する差押えの対象となっている賃料についても優先的に配当を受けることができる。
参照条文: /民法:304条;372条/民執:59条2項;145条;165条/
全 文 h050823tokyoD.html

浦和地方裁判所 平成 5年 8月 16日 民事第5部 判決 ( 平成4年(ワ)第1421号 )
事件名:  優先破産債権確定請求事件
要 旨
 病気で休職したパートタイム労働者が復職するに際して会社に提供した金銭が貸付金と認定されたが、雇傭関係と密接に結び付く形で授受がなされたものであるから、この貸付金債権は雇傭関係に基づいて生じた債権であるということができ、優先破産債権にあたるとされた事例。
 1.商法295条にいう「雇傭関係ニ基ヅ」いたものかどうかの判断も、経済的社会的な会社と使用人との力関係を基本にして、当該債権の発生が雇傭関係に与えた影響の程度、それが真に使用人の自由な意思に基づく契約により発生したものかどうか等の観点から総合的に判断するのが相当である。
 1a. 病気で休職したパートタイム労働者が復職するに際して、総務部長から社内預金として300万円程度を提供しないと復職は困難であると言われたため、銀行の定期預金を解釈して350万円を提供したが、その後に会社が破産宣告を受けた場合に、その金銭の返還請求権に一般の先取特権が認められるかが問題となった事案において、その金銭は貸付金であると認定されたが、この貸付金債権は、雇傭関係を単にその発生の契機とするに止まらず、貸付金が従前の雇傭関係の維持、継続を図るために交付されたことからみても、雇傭関係と密接に結び付く形で授受がなされたものということができるから、商法295条1項所定の雇傭関係に基づいて生じた債権に該当するとされた事例。
参照条文: /m32.商法:295条1項/t11.破産法:39条/
全 文 h050816urawaD.html

最高裁判所 平成 5年 7月 20日 第3小法廷 判決 ( 昭和63年(オ)1410号 )
事件名:  損害賠償請求上告事件
要 旨
 1.憲法29条3項の規定に基づく損失補償請求は、公法上の請求として行政訴訟手続によって審理されるべきものである。(前提となる判断)
 2.国家賠償法1条1項等に基づく損害賠償請求に同一被告に対する憲法29条3項の規定に基づく損失補償請求を追加的に併合することは、いずれも対等の当事者間で金銭給付を求めるもので、その主張する経済的不利益の内容が同一で請求額もこれに見合うものであり、同一の行為に起因するものとして発生原因が実質的に共通するなど、相互に密接な関連性を有するものである場合には、請求の基礎を同一にするものとして民訴法232条(現143条)の規定による訴えの追加的変更に準じて許される。(事例は、予備的・追加的併合)
 3.国家賠償法1条1項の規定に基づく損害賠償請求に、憲法29条3項の規定に基づく損失補償請求を控訴審において追加的に併合するには、相手方の同意を要する。(同意がないため追加的変更が許されなかった事例) /当事者訴訟/
参照条文: /民訴.143条/民訴.136条/憲.29条3項/行訴.3章/
全 文 h050720supreme.html

京都地方裁判所 平成 5年 7月 2日 決定 ( 平成5年(ヲ)第120号 )
事件名:  不動産引渡命令執行事件
要 旨
 共有持分に基づく使用収益権能は観念的なものであり、他の共有者との協議を経てはじめて共有物を直接的に支配できるにすぎないから、不動産の共有持分の競売事件において持分を買受けた者は、引渡命令を申し立てることができない(執行債務者に対する引渡命令申立事件)。
参照条文: /民執.83条/民法:249条/民法:252条/
全 文 h050702kyotoD.html

東京高等裁判所 平成 5年 6月 23日 第3民事部 決定 ( 平成4年(ラ)第1033 号 )
事件名:  遺産分割審判に対する抗告事件
要 旨
 非嫡出子の相続分を嫡出子の相続分の半分とする民法900条4号但書前段の規定は、憲法14条1項の規定に違反し、無効である。 /法律婚/事実婚/法の下の平等/
参照条文: /民法:900条4号/憲.14条/
全 文 h050623tokyoH.html

東京高等裁判所 平成 5年 5月 9日 第18民事部 判決 ( 平成4年(ネ)第1421号 )
事件名:  損害賠償等請求控訴事件<三沢市勢未編集映画フィルム事件>
要 旨
 1.映画製作のために撮影された未編集フィルムの映像著作物としての著作権が、映画製作者でなく映画監督に帰属するとされた事例。
 2.著作権法29条1項により映画製作者が映画の著作物の著作権を取得するためには、著作物と認められるに足りる映画が完成することが必要であり、参加約束のみによって未だ完成されていない映画について製作者が著作権を取得することはない。
 3.映像を撮影収録したフィルムがNGフィルム選別、シナリオに従った粗編集、細編集、音づけ等の映画製作過程を経ないまま未編集の状態で現在に及んでいる場合に、著作物と認めるに足りる映画は未だ存在しないとされた事例。
 (知的財産権/無体財産権/著作権)
参照条文: /著作.2条3項/著作.16条/著作.29条1項/
全 文 h050909tokyoH.html

最高裁判所 平成 5年 3月 30日 第3小法廷 判決 ( 昭和63年(オ)第1453号 )
事件名:  配当異議上告事件
要 旨
 1
 動産売買先取特権者が物上代位の目的たる債権につき仮差押えをした後、他の債権者の差押えがあったため第三債務者が供託をした場合において、先取特権債権者が右供託前に更に物上代位権の行使として右債権の差押命令の申立てをしたときであっても、その差押命令が右供託前に第三債務者に送達されない限り、先取特権債権者は、他の債権者による債権差押事件の配当手続において、優先弁済を受けることができない。
 2
 配当要求の終期までに差押えの申立てをしたにすぎない債権者は、民事執行法165条にいう差押えをした債権者にも配当要求をした債権者にも該当しない。
参照条文: /民法:304条1項/民法:372条/民執.165条/民執.193条/
全 文 h050330supreme.html

最高裁判所 平成 5年 3月 30日 第3小法廷 判決 ( 昭和63年(オ)第1526号 )
事件名:  供託金還付請求権確認請求本訴、同反訴上告事件
要 旨
 1.滞納処分としての債権差押えの通知と確定日付のある右債権譲渡の通知とが第三債務者に到達したが、その到達の先後関係が不明であるために、その相互間の優劣を決することができない場合には、差押債権者と債権譲受人との間では、互いに相手方に対して自己が優先的地位にある債権者であると主張することが許されない。
 2.滞納処分としての債権差押えの通知と確定日付のある債権譲渡の通知の第三債務者への到達の先後関係が不明であるために、第三債務者が債権者を確知することができないことを原因として右債権額に相当する金員を供託した場合において、被差押債権額と譲受債権額との合計額が右供託金額を超過するときは、差押債権者と債権譲受人は、公平の原則に照らし、被差押債権額と譲受債権額に応じて供託金額を案分した額の供託金還付請求権をそれぞれ分割取得する。 /債権執行/
参照条文: /民法:467条/税徴.62条/税徴.67条/民執.145条/
全 文 h050330supreme2.html

東京地方裁判所 平成 5年 3月 25日 民事第12部 判決 ( 平成2年(ワ)第14513号 )
事件名:  建物明渡請求事件
要 旨
 「共有者の一部の者から共有者の協議に基づかないで共有物の占有使用を承認された第三者に対し、右占有使用を承認しなかった共有者は、当然には共有物の明渡しを請求することはできない」との法理は、共有持分を担保競売により取得した者に対して共有建物の賃借人が賃借権を対抗できない場合にも妥当する。 /短期賃貸借/共有物の利用/
参照条文: /民法:249条/民法:252条/民法:395条/
全 文 h050325tokyoD.html

最高裁判所 平成 5年 3月 24日 大法廷 判決 ( 平成63年(オ)第1749号 )
事件名:  損害賠償請求・上告事件
要 旨
 退職年金を受けている元地方公務員を死亡させた加害者に対する遺族からの損害賠償請求訴訟において、被害者が平均余命期間に受給することができた退職年金の現在額を同人の損害として賠償請求できるが、事実審の口頭弁論終結時までに受領した遺族年金額は損害額から控除すべきであるとされた事例。
 1.不法行為に基づく損害賠償制度は、被害者に生じた現実の損害を金銭的に評価し、加害者にこれを賠償させることにより、被害者が被った不利益を補てんして、不法行為がなかったときの状態に回復させることを目的とするものである。
 2.被害者が不法行為によって損害を被ると同時に、同一の原因によって利益を受ける場合には、損害と利益との間に同質性がある限り、公平の見地から、その利益の額を被害者が加害者に対して賠償を求める損害額から控除することによって損益相殺的な調整を図る必要があり、また、被害者が不法行為によって死亡し、その損害賠償請求権を取得した相続人が不法行為と同一の原因によって利益を受ける場合にも、右の損益相殺的な調整を図ることが必要なときがあり得るが、このような調整は、前記の不法行為に基づく損害賠償制度の目的から考えると、被害者又はその相続人の受ける利益によって被害者に生じた損害が現実に補てんされたということができる範囲に限られるべきである。
 2a.不法行為と同一の原因によって被害者又はその相続人が第三者に対する債権を取得した場合に、その債権につき損益相殺的な調整を図ることが許されるのは、当該債権が現実に履行された場合又はこれと同視し得る程度にその存続及び履行が確実であるということができる場合に限られる。
 3.地方公務員等共済組合法の規定する退職年金及び遺族年金は、本人及びその退職又は死亡の当時その者が直接扶養する者のその後における適当な生活の維持を図ることを目的とする地方公務員法所定の退職年金に関する制度に基づく給付であって、その目的及び機能において同質性を有する。
 3a.退職年金の受給者の相続人が遺族年金の受給権を取得した場合においても、その者の婚姻あるいは死亡などによって遺族年金の受給権の喪失が予定されているのであるから、既に支給を受けることが確定した遺族年金については、現実に履行された場合と同視し得る程度にその存続が確実であるということができるけれども、支給を受けることがいまだ確定していない遺族年金については、右の程度にその存続が確実であるということはできない。
 4.退職年金を受給していた者が不法行為によって死亡した場合には、相続人は、加害者に対し、退職年金の受給者が生存していればその平均余命期間に受給することができた退職年金の現在額を同人の損害として、その賠償を求めることができる。(藤島昭の反対意見がある)
 4a.この場合において、右の相続人のうちに、退職年金の受給者の死亡を原因として、遺族年金の受給権を取得した者があるときは、遺族年金の支給を受けるべき者につき、(α)支給を受けることが確定した遺族年金の額の限度で、その者が加害者に対して賠償を求め得る損害額からこれを控除すべきものであるが、(β)いまだ支給を受けることが確定していない遺族年金の額についてまで損害額から控除することを要しない。(βの点につて判例変更。αについて園部逸夫、佐藤庄市郎、木崎良平の反対意見があり、βについて味村治の反対意見がある)
参照条文: /民法:709条/地方公務員等共済組合.96条/
全 文 h050324supreme.html

最高裁判所 平成 5年 3月 11日 第1小法廷 判決 ( 平成1年(オ)第930号 )
事件名:  損害賠償請求・上告事件
要 旨
 納税者が収入と必要経費につき真実より過少の金額を記載して申告書を提出した場合に、納税者の調査拒否のために税務署長が反面調査により収入金額を把握し、これに基づき更正するに際して必要経費を申告書記載の金額とした結果、所得金額を過大に認定したことになっても、国家賠償法1条1項にいう違法があったということはできないとされた事例。
 1.税務署長のする所得税の更正は、所得金額を過大に認定していたとしても、そのことから直ちに国家賠償法1条1項にいう違法があったとの評価を受けるものではなく、税務署長が資料を収集し、これに基づき課税要件事実を認定、判断する上において、職務上通常尽くすべき注意義務を尽くすことなく漫然と更正をしたと認め得るような事情がある場合に限り、右の評価を受けるものと解するのが相当である。
 1a.納税者の調査拒否のために税務署長が反面調査により把握した収入金額に基づき更正をしようとする場合、客観的資料等により申告書記載の必要経費の金額を上回る金額を具体的に把握し得るなどの特段の事情がなく、また、納税義務者において税務署長の行う調査に協力せず、資料等によって申告書記載の必要経費が過少であることを明らかにしない以上、申告書記載の金額を採用して必要経費を認定することは何ら違法ではない。
 /申告納税制度/
参照条文: /国家賠償法:1条1項/
全 文 h050311supreme.html

最高裁判所 平成 5年 3月 11日 第1小法廷 判決 ( 平成1年(オ)第930号 )
事件名:  損害賠償請求・上告事件
要 旨
 納税者が収入と必要経費につき真実より過少の金額を記載して申告書を提出した場合に、納税者の調査拒否のために税務署長が反面調査により収入金額を把握し、これに基づき更正するに際して必要経費を申告書記載の金額とした結果、所得金額を過大に認定したことになっても、国家賠償法1条1項にいう違法があったということはできないとされた事例。
 1.税務署長のする所得税の更正は、所得金額を過大に認定していたとしても、そのことから直ちに国家賠償法1条1項にいう違法があったとの評価を受けるものではなく、税務署長が資料を収集し、これに基づき課税要件事実を認定、判断する上において、職務上通常尽くすべき注意義務を尽くすことなく漫然と更正をしたと認め得るような事情がある場合に限り、右の評価を受けるものと解するのが相当である。
 1a.納税者の調査拒否のために税務署長が反面調査により把握した収入金額に基づき更正をしようとする場合、客観的資料等により申告書記載の必要経費の金額を上回る金額を具体的に把握し得るなどの特段の事情がなく、また、納税義務者において税務署長の行う調査に協力せず、資料等によって申告書記載の必要経費が過少であることを明らかにしない以上、申告書記載の金額を採用して必要経費を認定することは何ら違法ではない。 /申告納税制度/
参照条文: /国家賠償法:1条1項/
全 文 h050311supreme.html

最高裁判所 平成 5年 2月 18日 第1小法廷 判決 ( 平成3年(オ)第131号 )
事件名:  請求異議上告事件
要 旨
 1.家庭裁判所の家事審判に対する請求異議の訴えが提起された後に強制執行が完了したため訴えが損害賠償請求に交換的に変更された場合には、家庭裁判所は、受訴裁判所として訴え変更の許否を決める権限を有し、訴えの変更の要件に欠けるところがなければ、これを許した上、新訴が家庭裁判所の管轄に属さない訴えであるときは、民訴法30条1項(平成8年民訴法16条1項)により、新訴を管轄裁判所に移送すべきである。 /専属管轄/
参照条文: /民訴.143条/民訴.16条1項/民執.32条2項/民執.35条/
全 文 h050218supreme.html

最高裁判所 平成 5年 1月 25日 第2小法廷 判決 ( 平成1年(オ)第1062号 )
事件名:  否認権行使請求上告事件
要 旨
 証券会社の債務超過が監督官庁の検査により明らかになり、善良な投資家の保護のために社団法人日本証券業協会と京都証券取引所が当該証券会社に対して融資を行い、この融資金から弁済がなされた後で破産宣告がなされ、破産管財人か前記融資金から弁済を受けた者に対して否認権を行使したが、認められなかった事例。
 1.破産者が、借入れの際、借入金を特定の債務の弁済に充てることを約定し、この約定をしなければ借入れができず、そのための保障措置がとられている場合に、破産者が借入金により弁済の予定された特定の債務を弁済しても、破産債権者の共同担保を減損するものではなく、破産債権者を害するものではないから、この弁済は、破産法72条1号による否認の対象とならない。 /故意否認/
参照条文: /破産.72条1号/
全 文 h050125supreme.html

最高裁判所 平成 5年 1月 20日 大法廷 判決 ( 平成3年(行ツ)第111号 )
事件名:  選挙無効請求上告事件
要 旨: 公職選挙法(平成4年法律第97号による改正前のもの)13条1項、別表第1、附則7ないし10項の衆議院議員の議員定数配分規定は、平成2年2月18日施行の衆議院議員選挙当時、憲法14条1項に違反していたものと断定することはできない。 /定数訴訟/民衆訴訟/事情判決/選挙権の平等/国勢調査/選挙制度/投票価値の平等/選挙区/
参照条文: /憲.14条1項/憲.43条/憲.47条/憲.57条1項/憲.98条/公選.204条/公選.13条1項/
全 文 h050120supreme.html

最高裁判所 平成 4年 10月 29日 第1小法廷 判決 ( 昭和60年(行ツ)第133号 )
事件名:  伊方発電所原子炉設置許可処分取消請求・上告事件
要 旨
 1.行政手続は、憲法31条による保障が及ぶと解すべき場合であっても、刑事手続とその性質においておのずから差異があり、また、行政目的に応じて多種多様であるから、常に必ず行政処分の相手方等に事前の告知、弁解、防御の機会を与えるなどの一定の手続を設けることを必要とするものではない。
 1a.原子力基本法及び核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律が、原子炉設置予定地の周辺住民を原子炉設置許可手続に参加させる手続及び設置の申請書等の公開に関する定めを置いていないからといって、その一事をもって、右各法が憲法31条の法意に反するものとはいえず、周辺住民が、原子炉設置許可処分に際し、告知、聴聞の機会を与えられなかったことが、同条の法意に反するものともいえない。
 2.原子炉施設の安全性に関する判断の適否が争われる原子炉設置許可処分の取消訴訟における裁判所の審理、判断は、原子力委員会若しくは原子炉安全専門審査会の専門技術的な調査審議及び判断を基にしてされた行政庁の判断に不合理な点があるか否かという観点から行われるべきであって、現在の科学技術水準に照らし、調査審議において用いられた具体的審査基準に不合理な点があり、あるいは当該原子炉施設が右の具体的審査基準に適合するとした原子力委員会若しくは原子炉安全専門審査会の調査審議及び判断の過程に看過し難い過誤、欠落があり、行政庁の判断がこれに依拠してされたと認められる場合には、行政庁の右判断に不合理な点があるものとして、右判断に基づく原子炉設置許可処分は違法と解すべきである。
 2a.原子炉設置許可処分についての取消訴訟においては、行政庁がした許可の判断に不合理な点があることの主張、立証責任は、本来、原告が負うべきものと解される。
 2b.原子炉施設の安全審査に関する資料をすべて行政庁の側が保持していることなどの点を考慮すると、行政庁の側において、まず、その依拠した具体的審査基準並びに調査審議及び判断の過程等、行政庁の判断に不合理な点のないことを相当の根拠、資料に基づき主張、立証する必要があり、行政庁が右主張、立証を尽くさない場合には、行政庁がした右判断に不合理な点があることが事実上推認されるものというべきである。[行政庁の判断に不合理な点があるとは認められなかった事例]
参照条文: /憲法:31条/行政事件訴訟法:3条2項/原子力基本法:/核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律:/
全 文 h041029supreme.html

最高裁判所 平成 4年 10月 20日 第3小法廷 判決 ( 平成2年(行ツ)第98号 )
事件名:  法人税額決定等の処分取消請求・上告事件
要 旨
 破産宣告後の事業年度に土地の譲渡等による清算中の所得が生じた破産会社の破産管財人に、清算中の所得の金額及び法人税の重課の対象となる土地の譲渡利益金額に係る予納法人税の予納申告等の義務があるとされた事例。
 1.破産会社にも法人税法102条(清算中の所得に係る予納申告)及び105条(清算中の所得に係る予納申告による納付)の規定の適用がある。
 1a.破産会社の破産管財人には、予納法人税が破産法47条2号ただし書にいう「破産財団ニ関シテ生シタルモノ」に当たるか否かを問わず、その予納申告等の義務がある。 /破産債権/財団債権/租税債権/
参照条文: /法人税法(昭和56年法律第12号による改正前のもの):102条;105条/t11.破産法47条2号/
全 文 h041020supreme.html

最高裁判所 平成 4年 9月 10日 第1小法廷 判決 ( 平成3年(オ)第589号 )
事件名:  立替金請求再審請求・上告事件
要 旨
 妻が夫(X)の名で買い受けた商品の代金の立替金支払請求の訴えがXに対して提起され、その訴状・呼出状をXの四女(7歳9月)に交付する方法で補充送達がなされたが、同女がこれをXに交付しなかったため、Xが訴訟の提起を知らずに口頭弁論期日に欠席して請求認容判決が下され、その判決書を同居人として受領した妻がそれをXに知らせることも交付することもしなかったためXによる控訴提起がないまま判決が確定した場合に、Xが再審の訴えを提起したところ、原審が、再審事由を知って上訴をしなかった場合には再審の訴えを提起することが許されない旨規定する民訴法420条(現338条)1項ただし書を適用してXの再審の訴えを却下したのに対し、上告審が、再審事由を現実に了知することができなかった場合には同項ただし書は適用されないとして原判決を破棄した事例。
 1.民訴法171条1項(現106条1項)に規定する「事理ヲ弁識スルニ足ルヘキ知能ヲ具フル者」とは、送達の趣旨を理解して交付を受けた書類を受送達者に交付することを期待することができる程度の能力を有する者をいうものと解されるから、7歳9月の女子はこの右能力を備える者とは認められないとされた事例。(補充送達/事理弁識能力)
 2.有効に訴状の送達がされず、その故に被告とされた者が訴訟に関与する機会が与えられないまま判決がされた場合には、当事者の代理人として訴訟行為をした者に代理権の欠缺があった場合と別異に扱う理由はないから、民訴法420条(現338条)1項3号の事由があるものと解するのが相当である。
 3.民訴法420条(現338条)1項ただし書は、再審事由を知って上訴をしなかった場合には再審の訴えを提起することが許されない旨規定するが、再審事由を現実に了知することができなかった場合は同項ただし書に当たらないものと解すべきである。
参照条文: /民事訴訟法:106条1項;338条1項/
全 文 h040910supreme.html

大阪高等裁判所 平成 4年 9月 7日 第4民事部 決定 ( 平成4年(ラ)第195号 )
事件名:  売却不許可決定に対する執行抗告事件
要 旨
 1.不動産の競売手続において買受申出人が法人である場合には、その者が競売申立債権者であるため代表者資格証明書を提出済みであっても,入札するについて資格証明書を再度提出する必要があり、資格証明書を提出しないでした買受申出は無効である。
 1a.代表者資格証明書を提出することなくなされた買受申出を執行官が有効と判定してその買受申出を最高価買受申出とした場合であっても、資格証明書の追完は許されない。(執行裁判所が売却を不許可とし、これに対して最高価買受申出人とされた者が執行抗告をした事例)
参照条文: /民執.64条/民執.71条7号/民執規.49条/民執規38条3項/
全 文 h040907osakaH.html

東京地方裁判所 平成 4年 9月 3日 民事第21部 執行処分 ( 平成3年(ケ)第1518号 )
事件名: 
要 旨
 1.土地建物の買主に買受代金を融資して抵当権の設定を受けた債権者が抵当権を実行を申し立てた場合に、売主が買主に対して有する精算金債権を被担保債権として留置権を主張することが信義に反するとされた事例。
 2.物件明細書の備考欄に、競売不動産の占有者の留置権の主張が正当なものとは認められないから、買受人が占有者に対して引渡命令の申立をした場合に引渡命令が発せられる可能性が大きいと記載された事例。
参照条文: /民法:295条/民法:1条2項/民執.59条4項/民執.62条/民執.83条/
全 文 h040903tokyoD.html

東京地方裁判所 平成 4年 7月 8日 民事第21部 執行処分(物件明細書) ( 平成2年(ケ)第170号 )
事件名: 
要 旨
 1.競売不動産の占有者に対して引渡命令が発令される可能性が高いとの判断が物件明細書の備考欄に記載された事例
 2.抵当債務者の不履行により不動産競売手続が開始された場合に、彼が抵当不動産の占有権原を主張することができるとすると、著しく信義則に反する(平成8年法律108号による改正前の民執法83条に関して)。
参照条文: /民執.83条1項/民執.62条/
全 文 h040708tokyoD.html

東京地方裁判所 平成 4年 7月 3日 民事第21部 決定 ( 平成平4年(ヲ)2324号 )
事件名:  保全処分命令申立事件
要 旨
 競売不動産の売却のための保全処分の申立事件において、相手方が暴力団と密接な関係があり、本件以外にも悪質な競売妨害に関与していると疑うべき根拠があり、相手方が本件競売事件において2回目の期間入札が実施された段階に至って、本件建物の占有を第三者に移転しようとしており、その第三者が暴力団関係者となる可能性も高いと判断される等の理由により、相手方が「不動産の価格を著しく減少する行為」をしているものと認められ、相手方に内装工事禁止・占有移転禁止を命じ、執行官に占有移転禁止の公示を命ずる保全処分が発令された事例。 /執行妨害/
参照条文: /民執.55条/
全 文 h040703tokyoD.html

最高裁判所 平成 4年 7月 1日 大法廷 判決 ( 昭和61年(行ツ)第11号 )
事件名:  工作物等使用禁止命令取消等請求上告事件
要 旨
 新東京国際空港の安全確保に関する緊急措置法(昭和59年法律第87号による改正前のもの)3条1項1号は、憲法21条1項・22条1項に違反しない。
 新東京国際空港の安全確保に関する緊急措置法(昭和59年法律第87号による改正前のもの)3条1項1号・2号は、憲法29条1項・2項に違反せず、また、31条の法意に反しない。
 新東京国際空港の安全確保に関する緊急措置法(昭和59年法律第87号による改正前のもの)3条1項・3項は、憲法35条の法意に反しない。 /集会の自由/暴力主義的破壊活動/適正手続の保障/住居の不可侵/手続的法治国の原理/行政庁による不利益処分/財産権の保障/
参照条文: /新東京国際空港緊急措置法.3条/憲.35条/憲.31条/憲.21条1項/憲.22条1項/憲.29条1項/憲.29条2項/
全 文 h040701supreme.html

東京地方裁判所 平成 4年 6月 8日 民事第21部 執行処分 ( 平成3年(ケ)第1132号 )
事件名: 
要 旨
 1
 土地及びその上に存在する建物(旧建物)について、共同抵当権の設定を受けた者がいる場合に、その後旧建物が滅失して同じ土地上に新たな建物(新建物)が建築された場合、旧建物に法定地上権が成立する要件があったときでも、その法定地上権は新建物には成立しないのが原則である。
 2
 但し、新建物の所有者が土地の所有者と同一であり、かつ、新建物が建築された時点での土地の抵当権者が新建物について土地の抵当権と同順位の共同抵当権の設定登記を受けたとき、または土地の抵当権者がそのような抵当権の設定を受ける権利を放棄したときには、新建物についての法定地上権が成立する。
参照条文: /民法:388条/民執.62条3号/
全 文 h040608tokyoD.html

仙台地方裁判所 平成 4年 3月 26日 民事第1部 判決 ( 平成2年(ワ)第873号 )
事件名:  遺産確認請求事件
要 旨
 遺産確認訴訟において、旧請求(係争財産全部が遺産に属することの確認請求)を予備的請求にし、新請求(係争財産の一部は遺産に属するが、残部は遺産に属さず、原告・被告の所有に分属する旨の確認請求)を主位的請求に変更する旨の申し立てが弁論終結予定の口頭弁論期日になされた場合に、裁判所が、「旧請求についての既判力によって、新請求に基づき別訴を提起することができなくなるような場合には、新請求への請求の変更は、よほど特別の事情がない限り、許容すべきものと解するのが相当である」として、請求の変更を許容し、係争財産は相続開始時に被相続人が全部所有していたと認定して、主位的請求を棄却し、予備的請求を認容した事例。
 1.旧請求についての既判力によって、新請求に基づき別訴を提起することができなくなるような場合には、新請求への請求の変更は、よほど特別の事情がない限り、許容すべきものと解するのが相当である。
 2.新請求を主位的請求にし旧請求を予備的請求にする場合に、旧請求を予備的請求にすることについては、訴えの取下げに準じて、被告の同意が必要である。 /予備的併合/訴えの変更/
参照条文: /t15.民事訴訟法:199条;231条;232条;236条2項/
全 文 h040326sendaiD.html

最高裁判所 平成 4年 3月 19日 第1小法廷 判決 ( 平成2年(オ)第742号 )
事件名:  所有権移転登記承諾本訴請求、所有権移転請求権保全仮登記抹消登記手続反訴請求及び当事者参加上告事件
要 旨
 1.民法145条にいう当事者として消滅時効を援用し得る者は、権利の消滅により直接利益を受ける者に限定される。
 2.売買予約に基づく所有権移転請求権保全仮登記の経由された不動産につき所有権を取得してその旨の所有権移転登記を経由した者は、予約完結権の消滅によって直接利益を受ける者に当たり、その消滅時効を援用することができる。
 (時効援用権者)
参照条文: /民法:145条/民法:556条/
全 文 h040319supreme.html

東京地方裁判所 平成 4年 3月 10日 民事第21部 決定 ( 平成4年(ヲ)第2090号 )
事件名: 
要 旨
 土地と共に共同抵当に供された地上建物が差押え後に滅失した場合に、建物を再築しても法定地上権の発生は認められないとされた事例。
 法定地上権が発生しないと判断された場合に、差押後の建物の再築が民執法55条の保全処分により禁止された事例。
参照条文: /民法:388条/民執.55条/
全 文 h040310tokyoD.html

大阪高等裁判所 平成 4年 2月 27日 第11民事部 判決 ( 平成2年(ネ)第936号 )
事件名:  土地所有権移転登記等請求控訴事件
要 旨
 被告の妻が金融会社から小口の借金をしたことに伴い、妻が交付した印鑑証明等の書類を用いて被告所有の宅地を右金融会社に譲渡する契約書が被告に無断で作成され、これに基づき原告が所有権移転登記等を求める訴えを提起したが、訴状副本の送達・期日呼出状の送達に際して被告の妻がこれらの書類を受領しながら被告に秘匿したため、被告不出頭のまま請求認容判決が下され、その正本の送達に際しても妻が書類を受領しながら被告に秘匿していたため被告の知るところとならず、判決正本の送達から約8年経過後にこのことを初めて知った被告が控訴を提起をした事案において、控訴審が、本件の事実関係のもとでは、本件土地に関する限り被告の妻が遅滞なく被告に送達書類を交付することを期待することができる状況にはなかったと認定して、被告への判決正本の送達はまだなされていないから控訴提起は適法であり、また、訴状副本および期日呼出状も有効に送達されていないと判断して、原判決を取り消して差し戻した事例。
 1.事務員、雇人又は同居者に対して送達書類の交付があっても、受送達者とこれらの者との間に実質上の利害関係の対立があってその当時の状況からみて送達書類を受領したら遅滞なく受送達者に届けることを通常期待できる事情にない場合には、補充送達の効力を否定すべきである。
 2.送達報告書に補充送達をしたのに本人に対する交付送達をした旨の虚偽の記載があったとしても、そのことが直ちにその送達が無効になるものではなく、補充送達として有効かどうかを判断すべきである。
 3.裁判所に顕著な事実の例
 
 執行官送達の送達報告書の「書類受領者の署名又は押印」欄に署名、押印を拒んだ旨の記載があっても、そのような記載は執務の慣例として書類受領者の態度如何に拘らずなされることが多いことは当裁判所に顕著な事実である。
参照条文: /民訴.285条/民訴.106条/民訴.109条/民訴.255条/民訴.138条/民訴.139条/民訴.179条/
全 文 h040227osskaH.html

大阪高等裁判所 平成 4年 2月 25日 第3民事部 判決 ( 平成3年(ネ)第820号 )
事件名:  外国裁判所判決の執行判決請求・控訴事件
要 旨
 アメリカ合衆国ミネソタ州法に準拠して設立された会社(買主)と日本国法に準拠して設立された会社(売主)との間の商取引上の紛争について、買主が売主に対してミネソタ州地区連邦地方裁判所に商品の欠陥を理由に損害賠償請求の訴えを提起し、これを認容した確定判決の執行判決を求める訴えを日本において提起した場合に、民事訴訟法200条(現118条)1号の間接管轄の要件が充足されていないとして、執行判決請求が棄却された事例。(外国判決の承認の否定例)
 1.渉外取引における紛争解決のための国際裁判管轄権は、不動産等に関する事件を除き、原則として、訴え提起の相手方である被告の住所地、支店、営業所の所在地の裁判所に属し、それ以外の裁判所には属さないものと解すべきである。
 1a.売主は、日本国内に本店を有し、アメリカ合衆国のミネソタ州は勿論のこと、アメリカ合衆国内にも、支店や営業所はなく、本件取引は、単に、売主が、信用状に基づいて、買主に対し、商品を輸出していたに過ぎないことが認められるから、条理に基づくわが国の国際民訴法の原則からみて、ミネソタ地裁には、買主と売主との商取引上の紛争に基づく損害賠償請求事件につき、外国判決をする国際裁判管轄権はないと解すべきであるとされた事例。
  1b.売主が売買契約に基づいて買主に送った商品が、ミネソタ州に保管されており、また、そこで商品の検査が行われている等の事実があるにしても、経験則上、右各証拠は、簡単にわが国の裁判所にも提出することができるから、その事実は前記1aの判断を左右するものではないとされた事例。
 2.日本商事仲裁協会の規則にのっとり仲裁に付して解決する旨の仲裁合意のある商取引について、買主がその本拠地のある外国で売主に対し商品の欠陥を理由とする損害賠償請求の訴えを提起したため、売主が弁護士を選任することなく自ら仲裁合意の存在を外国裁判所に主張したが、その外国裁判所では弁護士強制主義が採用されていたため、仲裁合意の抗弁が取り上げられることなく請求認容の本案判決がなされた場合に、我が国においてその外国判決の執行判決を求める訴訟手続において、外国裁判所が管轄権を有していなかったことの理由として、売主(被告)が仲裁抗弁の存在を主張することは妨げられない。 /国際裁判管轄/間接管轄/
参照条文: /t15.民事訴訟法:200条/
全 文 h040225osakaH.html

最高裁判所 平成 4年 1月 24日 第2小法廷 判決 ( 平成1年(オ)第867号 )
事件名:  共有物分割請求上告事件
要 旨
 多数の共有不動産を民法258条により現物分割する場合に、分割請求者が多数であるときは、分割請求の相手方の持分の限度で現物を分割し、その余は分割請求者の共有として残す方法(一部分割)によることも許される。
参照条文: /民法:258条/
全 文 h040124supreme.html

最高裁判所 平成 3年 12月 17日 第3小法廷 判決 ( 昭和62年(オ)第1385号 )
事件名:  契約金等請求上告事件
要 旨
 係属中の別訴において訴訟物となっている債権を自働債権として他の訴訟において相殺の抗弁を主張することは許されず、このことは右抗弁が控訴審の段階で初めて主張され、両事件が併合審理された場合についても同様である。
参照条文: /民法:505条/民訴.114条2項/民訴.142条/
全 文 h031217supreme.html

広島高等裁判所 平成 3年 11月 28日 第2部 判決 ( 平成3年(ネ)第38号 )
事件名:  損害賠償請求控訴事件
要 旨
 民法733条の再婚禁止期間の規定は、父性の重複の回避という目的に照らして不合理なことが明白であるとはいえず、憲法13条、14条、24条に違反するとはいえない。
参照条文: /憲.13条/憲.14条/憲.24条/国賠.1条/民法:733条/
全 文 h031128hiroshimaH.html

最高裁判所 平成 3年 7月 16日 第3小法廷 判決 ( 昭和63年(オ)第1572号 )
事件名:  建物収去土地明渡請求上告事件
要 旨
 1.(留置権の不可分性)
 
 民法296条は、留置権者が留置物の一部の占有を喪失した場合にもなお適用されるのであって、この場合、留置権者は、占有喪失部分につき留置権を失うのは格別として、その債権の全部の弁済を受けるまで留置物の残部につき留置権を行使し得る。
 2.この理は、土地の宅地造成工事を請け負った債権者が造成工事の完了した土地部分を順次債務者に引き渡した場合においても妥当するというべきであって、債権者が引渡しに伴い宅地造成工事代金の一部につき留置権による担保を失うことを承認した等の特段の事情がない限り、債権者は、宅地造成工事残代金の全額の支払を受けるに至るまで、残余の土地につきその留置権を行使することができる。
参照条文: /民法:296条/
全 文 h030716supreme.html

東京高等裁判所 平成 3年 6月 28日 第3民事部 決定 ( 平成3年(ラ)第260号 )
事件名: 
要 旨
 専属的管轄の合意のある事件が合意管轄裁判所と異なる法定管轄裁判所に提起された場合であっても、受訴裁判所が事件を合意管轄裁判所に移送することなく審理することが許されるとされた事例。 /専属的合意管轄/
参照条文: /民訴.11条/民訴.17条/民訴.20条/
全 文 h030628tokyoH.html

最高裁判所 平成 3年 5月 10日 第2小法廷 判決 ( 平成2年(オ)第1330号 )
事件名:  各約束手形金請求上告事件
要 旨
 1.連帯債務者はそれぞれ独立の債務を負担するものであるから、連帯債務者の一部の者に対する債権が転付命令によって第三者に移転したとしても、その余の連帯債務者に対する債権の帰属に変更が生ずるものではない。
参照条文: /民法:432条/民法:440条/民執.160条/
全 文 h030510supreme.html

最高裁判所 平成 3年 4月 19日 第2小法廷 判決 ( 平成1年(オ)第174号 )
事件名:  土地所有権移転登記手続請求上告事件
要 旨
 1.遺言書において特定の遺産を特定の相続人に「相続させる」趣旨の遺言者の意思が表明されている場合、遺言書の記載からその趣旨が遺贈であることが明らかであるか又は遺贈と解すべき特段の事情がない限り、その遺言は、遺産の分割の方法を定めたものと解すべきである。
 2.このような遺言にあっては、当該遺言において相続による承継を当該相続人の受諾の意思表示にかからせたなどの特段の事情のない限り、何らの行為を要せずして、被相続人の死亡の時(遺言の効力の生じた時)に直ちに当該遺産が当該相続人に相続により承継されるものと解すべきである。
参照条文: /民法:908条/民法:964条/民法:907条/
全 文 h030419supreme.html

最高裁判所 平成 3年 4月 2日 第3小法廷 判決 ( 昭和62年(オ)第526号 )
事件名:  損害賠償請求上告事件
要 旨
 1.建物とその敷地の賃借権とが売買の目的とされた場合において、右敷地についてその賃貸人において修繕義務を負担すべき欠陥が右売買契約当時に存したことがその後に判明したとしても、右売買の目的物に隠れた瑕疵があるということはできない。 /資力担保責任/売主の担保責任/
参照条文: /民法:559条/民法:569条/民法:570条/
全 文 h030402supreme.html

最高裁判所 平成 3年 4月 2日 第3小法廷 判決 ( 平成2年(オ)第1869号 )
事件名:  離婚等請求・上告事件
要 旨
 1.判決の正本は判決原本のとおり記載すべきものであり、判決原本との間に不一致が生じないよう注意を払うべきことはいうまでもないが、右不一致があっても判決原本との同一性が認められ、右不一致が敗訴当事者の上訴に関する判断の障害となり、あるいは勝訴当事者の判決確定に関する期待を覆すこともやむを得ないとするほどに重大なものであるとはいえない場合においては、その送達をもって判決正本の送達というを妨げない。
 1a. 送達された第一審判決の正本に裁判官の氏名の記載がなかったとしても、適法に第一審判決の正本の送達を受けたことになるとされた事例。
参照条文: /t15.民事訴訟法:151条4項;193条/
全 文 h030402supreme2.html

東京高等裁判所 平成 3年 3月 28日 第2民事部 判決 ( 平成2年(ネ)第3924号 )
事件名:  損害賠償請求控訴事件
要 旨
 特定不動産を相続人の一人に相続させる旨の遺言がなされた場合に、その遺言は遺贈遺言ではなく、遺言執行者は相続人のために所有権移転登記をなす義務を負わず、相続人から遺言執行者に対する職務懈怠を理由とする損害賠償請求に理由がないとされた事例。
 (相続させる遺言)
参照条文: /民法:908条/民法:1012条/民法:1013条/
全 文 h030328tokyoH.html

最高裁判所 平成 3年 3月 22日 第2小法廷 判決 ( 平成1年(オ)第1209号 )
事件名:  短期賃貸借契約解除等請求上告事件
要 旨
 1.抵当権者は、短期賃貸借が解除された後、賃借人等が抵当不動産の占有を継続していても、抵当権に基づく妨害排除請求として、その占有の排除を求め得るものでないことはもちろん、賃借人等の占有それ自体が抵当不動産の担保価値を減少させるものでない以上、抵当権者が、これによって担保価値が減少するものとしてその被担保債権を保全するため、債務者たる所有者の所有権に基づく返還請求権を代位行使して、その明渡しを求めることもできない。 /債権者代位権/抵当権者の物上請求権/
参照条文: /民法:369条/民法:395条/民法:423条/
全 文 h030322supreme.html

最高裁判所 平成 3年 3月 22日 第2小法廷 判決 ( 平成2年(オ)1820号 )
事件名:  不当利得返還請求上告事件
要 旨
 1.抵当権者は、不動産競売事件の配当期日において配当異議の申出をしなかつた場合であつても、債権又は優先権を有しないにもかかわらず配当を受けた債権者に対して、その者が配当を受けたことによつて自己が配当を受けることができなかつた金銭相当額の金員の返還を請求することができる。 /過誤配当/
参照条文: /民法:703条/民執.84条1項/民執.85条/民執.89条/
全 文 h030322supreme2.html

広島地方裁判所 平成 3年 1月 28日 民事第4部 判決 ( 平成1年(ワ)第277号 )
事件名:  損害賠償請求事件
要 旨
 1.国会議員は、立法に関しては、原則として、国民全体に対する関係で政治的責任を負うにとどまり、個別の国民の権利に対応した関係での法的義務を負うものではないというべきであって、国会議員の立法行為は、立法の内容が憲法の一義的な文言に違反しているにもかかわらず国会があえて当該立法を行うというごとき、容易に想定し難いような例外的な場合でない限り、国家賠償法一条一項の規定の適用上、違法の評価を受けない。
 1a.女子についてのみ6月の再婚禁止期間を定める民法733条の規定は、父子関係の確定の困難を避けることを立法趣旨とするものであり、憲法14条1項、24条の規定の一義的な文言に違反するとまではいえない。
 2.ある法規が存在することにより特定の個人に不利益(当該法規が存在しない場合に比べての不利益)につき憲法29条3項を根拠に補償を求め得るとされるためには、少なくとも、当該不利益が一般に受忍すべきものとされる限度を越え、当該個人に課せられた特別の犠牲であると認められること、喚言すれば、当該不利益が、当該個人のみによってではなく最終的には社会を構成する全員によって負担すべき性質のものであるとまで認められることが必要である。
 2a.ある不利益をこの意味での特別の犠牲として認めるか否かは、当該不利益の内容、性質、程度、同様の不利益を受ける個人の範囲、当該犠牲により得られる社会全体の利益等々を総合的に考察して決定する以外にはない。
 2b.民法733条が存在するために法律上の婚姻ができず、事実上の婚姻をせざるをえなかったことにより生じた不利益は、国家補償の対象となる特別の犠牲とまで評価することはできないとされた事例。
参照条文: /憲.13条/憲.14条/憲.24条/憲.29条3項/国賠.1条/民法:733条/
全 文 h030128hiroshimaD.html

最高裁判所 平成 2年 12月 18日 第3小法廷 判決 ( 平成2年(オ)第801号 )
事件名:  求償金請求・上告事件
要 旨
 1.債務者の委託を受けてその者の債務を担保するため抵当権を設定した者(物上保証人)は、被担保債権の弁済期が到来したとしても、債務者に対してあらかじめ求償権を行使することはできない。
 2.保証の委託とは、主債務者が債務の履行をしない場合に、受託者において右債務の履行をする責に任ずることを内容とする契約を受託者と債権者との間において締結することについて主債務者が受託者に委任することであるから、受託者が右委任に従った保証をしたときには、受託者は自ら保証債務を負担することになり、保証債務の弁済は右委任に係る事務処理により生ずる負担である。
 2a.物上保証の委託は、物権設定行為の委任にすぎず、債務負担行為の委任ではないから、受託者が右委任に従って抵当権を設定したとしても、受託者は抵当不動産の価額の限度で責任を負担するものにすぎず、抵当不動産の売却代金による被担保債権の消滅の有無及びその範囲は、抵当不動産の売却代金の配当等によって確定するものである。 /事前求償権/
参照条文: /民法:372条;351条;459条;460条;649条;650条/
全 文 h021218supreme.html

最高裁判所 平成 2年 11月 26日 第2小法廷 判決 ( 昭和63年(オ)第4号 )
事件名:  退職金等、同請求参加・上告事件(通称:日新製鋼退職金請求)
要 旨
 会社の住宅財形融資規程に則り住宅資金として会社並びに銀行及び労働金庫から住宅資金を借り入れた労働者が、自己破産の申立てをせざるをえなくなったため、退職を決意して、借入金の連帯保証人になっている同僚に迷惑をかけないように退職金で残債務を一括弁済することを申し出、その旨の同意書ならびに債務返済についての委任状を会社に提出して9月15日に退職し、同月22日に会社が一括弁済のための手続をとり、10月6日に労働者が自己破産の申立てをして同月19日に破産宣告を受け、会社が退職金債権と貸付金の一括返済請求権及び金融機関への返済のための費用前払請求権とを相殺した場合に、破産管財人が会社による相殺を否認して退職金の支払いを求めたが、認められなかった事例。
 1.労働基準法24条1項本文の定めるいわゆる賃金全額払の原則の趣旨とするところは、使用者が一方的に賃金を控除することを禁止し、もって労働者に賃金の全額を確実に受領させ、労働者の経済生活を脅かすことのないようにしてその保護を図ろうとするものというべきであるから、使用者が労働者に対して有する債権をもって労働者の賃金債権と相殺することを禁止する趣旨をも包含するものであるが、労働者がその自由な意思に基づき右相殺に同意した場合においては、右同意が労働者の自由な意思に基づいてされたものであると認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在するときは、右同意を得てした相殺は右規定に違反するものとはいえない。(先例の確認)
 1a.労働者が会社に対する退職金債権と会社の労働者に対する住宅資金の返済に係る請求権とを会社が相殺することを労働者が退職の際に同意した場合に、その同意が労働者の自由な意思に基づいてされたものであると認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在していたと認められ、その相殺は労働基準法24条1項本文に違反するものではないとされた事例。
 2.債権者の相殺権の行使は、債務者の破産宣告の前後を通じ、否認権行使の対象とはならない。(先例の確認)
参照条文: /労基.24条/破産.162条/破産.67条/
全 文 h021126supreme.html

最高裁判所 平成 2年 9月 27日 第1小法廷 判決 ( 平成2年(オ)第718号 )
事件名:  財産分与金請求・上告事件
要 旨
 1.離婚における財産分与として金銭の支払を命ずる裁判が確定し、その後に分与者が破産した場合において、右財産分与金の支払を目的とする債権は破産債権であって、分与の相手方は、右債権の履行を取戻権の行使として破産管財人に請求することはできない。
 1a.金銭の支払を内容とする財産分与を命ずる裁判が確定したとしても、分与の相手方は当該金銭の支払を求める債権を取得するにすぎず、右債権の額に相当する金員が分与の相手方に当然に帰属するものではない。 /破産財団/
参照条文: /民法:768条/t11.破産法:87条/
全 文 h020927supreme.html

福岡高等裁判所 平成 2年 8月 15日 民事1部 決定 ( 平成2年(ラ)第111号 )
事件名:  不動産競売売却不許可決定に対する執行抗告申立事件
要 旨
 農地の不動産競売において、買受適格証明書を有しない最高価買受申出人に対する売却不許可決定に対し,最高価買受申出人に次いだ額の買受申出をしかつ買受適格証明書を有する者が自己への売却許可決定を求める執行抗告をしたが、執行抗告の利益を有しないとされた事例。
 1.執行官が決定した最高価買受申出人以外の買受申出人には自己への売却許可を求めて原決定に対し執行抗告を申し立てる利益はない。
参照条文: /民事執行法:71条2号;74条1項/
全 文 h020815hukuokaH.html

最高裁判所 平成 2年 7月 19日 第1小法廷 判決 ( 昭和62年(オ)第1083号 )
事件名:  債務弁済否認に基づく金銭返還請求・上告事件(通称 公立学校共済組合債務弁済否認)
要 旨
 地方公務員共済組合に債務を負っている組合員が自己破産の申立てをした翌日に退職した場合に、給与支払機関が地共法115条2項に基づき前記債務の弁済のために組合に退職金の一部を振り込んだことについて、破産管財人による否認が認められた事例。
 1.地方公務員共済組合の組合員の給与支給機関が、給与を支給する際、地共法115条2項に基づき、その組合員の給与から貸付金の金額に相当する金額を控除して、これを組合員に代わって組合に払い込んだ行為は、組合員が破産宣告を受けた場合において、破産法72条2号の否認の対象となる
 1a.地共法115条2項の規定による払込は、組合に対する組合員の債務の弁済を代行するものにほかならず、組合において、破産手続上、他の一般破産債権に優先して組合員に対する貸付金債権の弁済を受け得ることを同項が規定したものと解することはできない。
参照条文: /地方公務員等共済組合.115条2項/破産.162条1項1号/
全 文 h020719supreme.html

最高裁判所 平成 2年 7月 19日 第1小法廷 判決 ( 昭和63年(オ)第1457号 )
事件名:  不当利得返還請求・上告事件(通称 国家公務員等共済組合債務弁済否認)
要 旨
 国家公務員共済組合に債務を負っている組合員が自己破産の申立てをした数日後に退職した場合に、給与支払機関が国公共済法101条2項に基づき前記債務の弁済のために組合に退職金の一部を振り込んだことは、破産管財人による否認の対象となりうるとされた事例。
 1.国家公務員等共済組合の組合員の給与支給機関が、報酬その他の給与を支給する際、国公共済法101条2項に基づき、組合員の報酬その他の給与からその未返済の貸付金の金額に相当する金額を控除して、これを組合員に代わって組合に払い込む行為は、その組合員が破産宣告を受けた場合、破産法72条2号の否認の対象となる。
 1a.国公共済法101条2項は、給与支給機関が組合に対する組合員の債務の弁済を代行することを規定したものにほかならず、組合において、破産手続上、他の一般破産債権に優先して組合員に対する貸付金債権の弁済を受け得ることを規定したものと解することができない。
 2.退職者に対し退職手当が支払われたことにより、退職手当請求債権は消滅し、既に支払われた金員について、債権に対する差押禁止を規定する民事執行法152条2項の適用はないから、その後退職者が破産宣告を受けたときは、退職手当相当の金員は破産財団を構成するというべきであり、破産者が退職手当をもって特定の債権者に対し債務を弁済した後破産宣告を受けた場合に、その金額が退職手当の4分の3の範囲内であっても、その弁済は破産法72条2号の否認の対象となり得る。
参照条文: /民事執行法:152条2項/国家公務員共済組合法:101条2項/t11L71.破産法:6条3項;72条2号/
全 文 h020719supreme2.html

最高裁判所 平成 2年 3月 20日 第3小法廷 判決 ( 昭和63年(オ)第717号 )
事件名:  請求異議上告事件
要 旨
 同時廃止決定後・免責決定確定前に強制執行により破産債権の満足を得た債権者に対し、破産者が免責決定確定後に不当利得返還請求したが、棄却された事例。
 1.破産宣告と同時に破産廃止決定がされ、右決定が確定した場合には、破産債権に基づいて適法に強制執行をすることができ、右強制執行における配当等の実施により破産債権に対する弁済がされた後に破産者を免責する旨の決定が確定したとしても、右強制執行による弁済が法律上の原因を欠くに至るものではない。 /破産免責/
参照条文: /民法:703条/破産.366-12条/
全 文 h020320supreme.html

最高裁判所 平成 2年 2月 20日 第3小法廷 判決 ( 昭和59年(オ)第1088号 )
事件名:  立替金請求・上告事件
要 旨
 1.購入者が割賦購入あっせん業者の加盟店である販売業者から証票等を利用することなく商品を購入する際に、あっせん業者が購入者との契約及び販売業者との加盟店契約に従い販売業者に対して商品代金相当額を一括立替払し、購入者があっせん業者に対して立替金及び手数料の分割払を約する仕組みの個品割賦購入あっせんは、法的には、別個の契約関係である購入者・あっせん業者間の立替払契約と購入者・販売業者間の売買契約を前提とするものであるから、両契約が経済的、実質的に密接な関係にあることは否定し得ないとしても、購入者が売買契約上生じている事由をもって当然にあっせん業者に対抗することはできないというべきである。
 1a.割賦販売法の昭和59年改正前においては、購入者と販売業者との間の売買契約が販売業者の商品引渡債務の不履行を原因として合意解除された場合であっても、購入者とあっせん業者との間の立替払契約において、かかる場合には購入者が右業者の履行請求を拒み得る旨の特別の合意があるとき、又はあっせん業者において販売業者の右不履行に至るべき事情を知り若しくは知り得べきでありながら立替払を実行したなど右不履行の結果をあっせん業者に帰せしめるのを信義則上相当とする特段の事情があるときでない限り、購入者が右合意解除をもってあっせん業者の履行請求を拒むことはできない。[特段の事情について審理を尽くさせるために破棄差戻しがなされた事例] /抗弁権の接続/
参照条文: /割賦販売法:30-4条1項/
全 文 h020220supreme.html

最高裁判所 平成 1年 12月 21日 第1小法廷 判決 ( 昭和59年(オ)第1477号 )
事件名:  国家賠償請求・上告事件
要 旨
 1
 民法724条後段の規定は、被害者側の認識のいかんを問わず時の経過によって法律関係を確定させるため、請求権の存続期間(20年の除斥期間)を定めたものである(消滅時効期間を定めたものではない)。
 2
 裁判所は、請求権が除斥期間の経過により消滅した旨の主張がなくても、除斥期間の経過により請求権が消滅したものと判断すべきである。
 3
 加害者が除斥期間の経過による請求権消滅を主張することが信義則違反又は権利濫用にあたるとの主張は、主張自体失当である。
参照条文: /民法:724条/民法:1条/民法:145条/
全 文 h011221supreme.html

最高裁判所 平成 1年 11月 20日 第2小法廷 判決 ( 平成1年(行ツ)第126号 )
事件名:  住民訴訟による損害賠償請求上告事件
要 旨
 天皇を被告とする訴えについて、訴状却下命令が抗告審において取り消されたため訴状を却下することができない場合に、訴状を被告に送達することなく、口頭弁論を経ずに訴えを却下する第一審判決が下され、その判決も送達されなかったときに、その第一審判決を維持した控訴判決が上告審により破棄するまでもないとされた事例。
 1.天皇は日本国の象徴であり日本国民統合の象徴であることにかんがみ、天皇には民事裁判権が及ばない
 1a.訴状において天皇を被告とする訴えについては、その訴状を却下すべきものである。 /訴訟係属/
参照条文: /民訴.138条/民訴.140条/
全 文 h011120supreme.html

最高裁判所 平成 1年 11月 10日 第2小法廷 判決 ( 昭和59年(オ)第1122号 )
事件名:  親子関係不存在確認等再審・上告事件
要 旨
 亡Fの子であると主張するAが、検察官を被告にして、AがFの子であることの認知を求める訴えを提起して、同請求を認容する判決が確定したところ、その後にFの実子あるいは養子がこの訴訟の係属を知り、原訴訟の被告側に補助参加する旨の申出をすることなく、前記確定判決について再審の訴えを提起した場合に、これらの者は再審の原告適格を有しないとして、再審の訴えが却下された事例。
 1.検察官を相手方とする認知の訴えにおいて認知を求められた父の子は、右訴えの確定判決に対する再審の訴えの原告適格を有するものではない。 /当事者適格/
参照条文: /t15民事訴訟法420条;425条/民法:787条/人事訴訟手続法:32条2項;2条3項/
全 文 h011110supreme.html

最高裁判所 平成 1年 10月 27日 第2小法廷 判決 ( 昭和60年(オ)第1270号 )
事件名: 
要 旨
 1.抵当不動産が賃貸された場合においては、抵当権者は、民法三七二条、三〇四条の規定の趣旨に従い、賃借人が供託した賃料の還付請求権についても抵当権を行うことができる。
 2.目的不動産について抵当権が実行されている場合でも、実行の結果抵当権が消滅するまでは、民法三七二条による物上代位の権利を行使することができる。
参照条文: /民法:304条1項/民法:372条/民法:494条/
全 文 h011027supreme.html

東京高等裁判所 平成 1年 10月 19日 判決 ( 平成1年(行ケ)第65号 )
事件名:  審決取消請求事件
要 旨
 商標登録無効審判の請求人が無効事由に引用した商標の商標権を長男に譲渡した後、審判手続中に死亡し、長男が唯一の相続人になった場合に、相続人に無効審判請求の利益が認められた事例。
 1.無効審判請求の利益は、審判請求を適法なものとして取り上げ、請求の当否について審決を得るために具備すべき要件であるから、審決時を基準として判断すべきであり、審決時に存在することを必要とするとともに、これをもって足りる。
 2.無効審判請求がなされた後請求人の死亡により相続人が請求人の地位を承継し新請求人となった場合には、無効審判請求の利益の有無は、新請求人について審決時を基準として判断されるべきである。
 3.無効審判請求人の地位は請求人の死亡により当然に相続人に承継され、相続人が新請求人になるのであって、受継手続によってはじめて新請求人となるものではない。 /知的財産権/無体財産権/工業所有権/商標権/
参照条文: /商標.77条2項/特許.24条/民訴.124条1項/商標.46条1項/
全 文 h011019tokyoH51.html

最高裁判所 平成 1年 10月 13日 第2小法廷 判決 ( 平成1年(オ)第653号 )
事件名:  土地抵当権設定登記抹消登記手続請求・上告事件
要 旨
 1.民事執行法50条の規定に従い不動産に対する強制競売手続において催告を受けた抵当権者がする債権の届出は、その届出に係る債権に関する「裁判上の請求」又は「破産手続参加」に該当せず、また、これらに準ずる時効中断事由にも該当しない。
参照条文: /民事執行法:50条/民法:147条;149条;152条/
全 文 h011013supreme.html

最高裁判所 平成 1年 9月 21日 第1小法廷 判決 ( 昭和59年(オ)第15号 )
事件名:  損害賠償等請求上告事件
要 旨
 1.商法(昭和五六年法律第七四号による改正前のもの)266条ノ3第1項前段所定の損害賠償債務は、法が取締役の責任を加重するため特に認めたものであって、不法行為に基づく損害賠償債務の性質を有するものではないから、履行の請求を受けた時に遅滞に陥り、かつ、右損害賠償債務は、商行為によって生じた債務ともいえないものであるから、その遅延損害金の利率は民法所定の年5分の割合にとどまる。 /履行遅滞/取締役の第三者責任/
参照条文: /商.266-3条1項/民法:412条/民法:404条/商.514条/
全 文 h010921supreme.html

最高裁判所 平成 1年 9月 19日 第3小法廷 判決 ( 昭和59年(オ)第199号 )
事件名:  土地所有権移転登記抹消登記手続請求本訴、土地所有権移転登記手続請求反訴・上告事件
要 旨
 1.遺産確認の訴えは、共同相続人全員が当事者として関与し、その間で合一にのみ確定することを要するいわゆる固有必要的共同訴訟と解すべきである。
 1a. 共同相続人の一人が遺産確認請求と共有持分確認請求とを選択的に併合した訴えを他の共同相続人の一部の者に対して提起したところ、遺産確認請求の訴えは共同相続人全員を当事者としていないため不適法であるとされ、共有持分確認請求が認容された事例。
 2.原審が選択的併合の関係にある2つの請求のうちの一方を認容する判決をした場合に、上訴審により他方の請求が認容されると、それにより原判決の一方の請求を認容した部分は当然に失効する。
 2a. 遺産確認請求と共有持分確認請求とを選択的に併合した訴えについて、原審が前者の請求を認容したのに対し、上告審が前者の請求の訴えは不適法であると判断し、後者の請求を認容する場合に、上告審が後者の請求を認容すれば、前者の請求を認容した原判決は当然に失効するとして、主文において原判決の破棄を宣言しなかった事例。
参照条文: /t15.民事訴訟法:62条;227条;408条/民法:162条/
全 文 h010919supreme.html

最高裁判所 平成 1年 9月 14日 第1小法廷 判決 ( 昭和63年(オ)第385号 )
事件名:  建物所有権移転登記抹消登記手続請求・上告事件
要 旨
 夫の不貞を理由とする協議離婚に際して、夫がその特有財産である不動産を妻に分与したが、後日、夫が自己に譲渡所得税が課されないことを合意の動機として表示したものであり、2億円を超える課税がされることを知っていたならば財産分与の意思表示はしなかったから、財産分与契約は要素の錯誤により無効であると主張して、元夫が元妻に対して所有権移転登記の抹消登記を訴求した事案において、原審は、≪課税の点については、夫の動機に錯誤があるにすぎず、同人に対する課税の有無は当事者間において全く話題にもならなかったのであって、右課税のないことが契約成立の前提とされ、夫においてこれを合意の動機として表示したものとはいえないから、錯誤の主張は失当である≫と判断したが、上告審は、≪夫に課税されないことが明示的には表示されなかった場合でも、要素の錯誤の成立が認められる余地がある≫として、 要素の錯誤の成否、夫の重大な過失の有無等について更に審理を尽くさせるために事件を原審に差し戻した事例。
 1.意思表示の動機の錯誤が法律行為の要素の錯誤としてその無効をきたすためには、その動機が相手方に表示されて法律行為の内容となり、もし錯誤がなかったならば表意者がその意思表示をしなかったであろうと認められる場合であることを要する。
 1a.前記の動機が黙示的に表示されているときであっても、これが法律行為の内容となることを妨げるものではない。
 2.所得税法33条1項にいう「資産の譲渡」とは、有償無償を問わず資産を移転させる一切の行為をいうものであり、夫婦の一方の特有財産である資産を財産分与として他方に譲渡することは、右「資産の譲渡」に当たり、譲渡所得を生ずるものである。
 2a.離婚に伴う財産分与として夫婦の一方がその特有財産である不動産を他方に譲渡した場合には、分与者に譲渡所得を生じたものとして課税されることとなる。
参照条文: /民法:95条;768条/所得税法:33条1項/
全 文 h010914supreme.html

最高裁判所 平成 1年 9月 8日 第2小法廷 判決 ( 昭和61年(オ)第943号 )
事件名:  建物明渡、代表役員等地位確認請求・上告事件
要 旨
 日蓮正宗の内部において創価学会を巡って教義、信仰ないし宗教活動に関する深刻な対立が生じ、その紛争の過程においてされた蓮華寺住職の職にある被告の言説が日蓮正宗の本尊観及び血脈相承に関する教義及び信仰を否定する異説であるとして、日蓮正宗の管長が宗規所定の手続を経たうえ被告を「本宗の法規に違反し、異説を唱え、訓戒を受けても改めない者」に該当するものとして、僧籍剥奪の擯斥処分に付した場合に、その処分の有効を前提にして、被告が原告(蓮華寺)の代表役員、責任役員の地位を失ったとして、被告に対して建物の明渡し等を求める訴えが提起された場合に、この訴訟では宗教上の教義、信仰に関する事項についての判断が必要不可欠であるから、この訴訟は、その実質において法令の適用により終局的に解決することができないものであり、裁判所法3条にいう「法律上の争訟」に該当しないとして、却下された事例。
 1.裁判所がその固有の権限に基づいて審判することのできる対象は、裁判所法3条にいう「法律上の争訟」、すなわち当事者間の具体的な権利義務ないし法律関係の存否に関する紛争であって、かつ、法令の適用により終局的に解決することができるものに限られ、したがって、具体的な権利義務ないし法律関係に関する紛争であっても、法令の適用により解決するに適しないものは、裁判所の審判の対象となり得ない。
 2.宗教団体における宗教上の教義、信仰に関する事項については、憲法上国の干渉からの自由が保障されているのであるから、これらの事項については、裁判所は、その自由に介入すべきではなく、一切の審判権を有しないとともに、これらの事項にかかわる紛議については厳に中立を保つべきである。
 2a.特定人についての宗教法人の代表役員等の地位の存否を審理判断する前提として、その者の宗教団体上の地位の存否を審理判断しなければならない場合において、その地位の選任、剥奪に関する手続上の準則で宗教上の教義、信仰に関する事項に何らかかわりを有しないものに従ってその選任、剥奪がなされたかどうかのみを審理判断すれば足りるときには、裁判所は右の地位の存否の審理判断をすることができるが、右の手続上の準則に従って選任、剥奪がなされたかどうかにとどまらず、宗教上の教義、信仰に関する事項をも審理判断しなければならないときには、裁判所は、かかる事項について一切の審判権を有しない以上、右の地位の存否の審理判断をすることができない。
 2b.当事者間の具体的な権利義務ないし法律関係に関する訴訟であっても、宗教団体内部においてされた懲戒処分の効力が請求の当否を決する前提問題となっており、その効力の有無が当事者間の紛争の本質的争点をなすとともに、それが宗教上の教義、信仰の内容に深くかかわっているため、右教義、信仰の内容に立ち入ることなくしてその効力の有無を判断することができず、しかも、その判断が訴訟の帰趨を左右する必要不可欠のものである場合には、右訴訟は、その実質において法令の適用による終局的解決に適しないものとして、裁判所法3条にいう「法律上の争訟」に当たらない。 /宗教団体の内部紛争/
参照条文: /裁判所.3条/憲.20条1項/民訴.第2編第1章/
全 文 h010908supreme.html

仙台高等裁判所 平成 1年 6月 20日 第2民事部 決定 ( 昭和63年(ラ)第55号 )
事件名:  免責不許可決定に対する即時抗告事件
要 旨
 同時廃止で終了した最初の自己破産手続において免責申立ててをしなかった債務者が、それから約3年ほど後に再度自己破産の申立てをして同時廃止後に免責の申立てをした場合に、本件破産及び同時破産廃止の申立ては、明らかに破産法366条ノ2の制限を免脱するためのみでなされたもので違法であり許されないものであるから、免責申立ても不適法であり許されないとされた事例。
参照条文: /破産.248条1項/破産.30条1項2号/
全 文 h010620sendaiH.html

東京地方裁判所 平成 1年 5月 31日 判決 ( 昭和62年(ワ)第4551号 )
事件名:  破産債権確定請求事件
要 旨
 被告が届け出た破産債権について、破産者の一人である原告が、第1次的に、債権調査期日までに破産者ないし破産者が理事長をしている病院から全額の弁済がなされたと主張し、第2次的に、債権調査期日後に全額の弁済がなされたと主張し、破産債権不存在確定請求の訴えを提起したが、第1次的主張に関しては、原告は債権調査期日に異議の申立てをしていないから破産債権確定の訴を提起することができないとの理由により、第2次的主張に関しては、債権調査により破産債権が確定した後の弁済を理由とする異議は、請求異議の訴えの方法によるべきであるとの理由により、訴えを却下した事例。
 1.債権調査期日に異議の申立てをしていない原告は、破産債権確定の訴を提起することができない。
 2.債権調査により破産債権が確定した場合に、確定した破産債権についての債権表の記載は確定判決と同一の効力を有するから、確定後の弁済を理由とする異議は、請求異議の訴えの方法によるべきである。
参照条文: /t11.破産法:240条;242条;244条;247条;248条/民事執行法:35条/
全 文 h010531tokyoD.html

東京地方裁判所 平成 1年 5月 24日 民事23部 判決 ( 昭和61年(ワ)第7827号 )
事件名:  詐害行為取消等請求事件
要 旨
 債権譲渡が詐害行為として取り消され、譲受人(受益者)に対して、その旨の通知を第三債務者になすことが命じられた事例。
 1.債務の一部弁済としてなされた債権譲渡が、詐害行為として取り消された事例。
 1a.取消債権の譲渡が譲渡禁止の特約に反してなされたと否とは、当該特約の効力の対抗関係にない取消債権者のする詐害行為取消に消長を来すものではない。
 2.債権譲渡につき詐害行為としてその取消を訴求する場合,債権の譲受人又は転得者が第三債務者から譲受債権の弁済を受けてないときは、原状回復の方法として、取消債権者が債権譲渡の取消を第三債務者に対抗し得るように、債権の譲受人又は転得者に対し当該債権の譲渡が詐害行為として取り消された旨第三債務者に通知することを求めることができるに止まり、取消債権者が第三債務者に対し譲受人又は転得者の未回収の債権を回収するためその金銭の支払いを求めることは、詐害行為取消による責任財産保全としての原状回復の範囲を超えるものであって許されない。
参照条文: /民法:424条/民事執行法:174条/
全 文 h010524tokyoD.html

最高裁判所 平成 1年 4月 20日 第1小法廷 判決 ( 昭和60年(オ)第217号 )
事件名:  保険金請求上告事件
要 旨
 1.自動車損害賠償保障法(自賠法)3条による被害者の保有者に対する損害賠償債権及び保有者の被害者に対する損害賠償債務が同一人に帰したときには、同法16条1項に基づく被害者の保険会社に対する損害賠償額の支払請求権は消滅する。
 1a.自動車損害賠償責任保険は、保有者が被害者に対して損害賠償責任を負担することによつて被る損害を填補することを目的とする責任保険であるところ、被害者及び保有者双方の利便のための補助的手段として、自賠法一六条一項に基づき、被害者は保険会社に対して直接損害賠償額の支払を請求し得るものとしているのである。
 1b.被害者と加害者の双方を相続した者からの保険会社に対する支払請求が棄却された事例。
 2.自賠法15条にいう「自己が支払をした」とは、自動車損害賠償責任保険の被保険者が自己の出捐によつて損害賠償債務を全部又は一部消滅させたことを意味し、混同によつて損害賠償債務が消滅した場合は、これに該当しない。
参照条文: /自賠.3条/自賠.15条/自賠.16条/民法:520条/
全 文 h010420supreme.html

最高裁判所 平成 1年 4月 11日 第3小法廷 判決 ( 昭和63年(オ)第462号 )
事件名:  損害賠償請求・上告事件
要 旨
 1.労働者災害補償保険法に基づく保険給付の原因となった事故が第三者の行為により惹起され、第三者が右行為によって生じた損害につき賠償責任を負う場合において、右事故により被害を受けた労働者に過失があるため損害賠償額を定めるにつきこれを一定の割合で斟酌すべきときは、保険給付の原因となった事由と同一の事由による損害の賠償額を算定するには、右損害の額から過失割合による減額をし、その残額から右保険給付の価額を控除する方法によるのが相当である。 /第三者行為災害/過失相殺後控除説/
参照条文: /労働者災害補償保険法:12-4条/民法:709条;722条/
全 文 h010411supreme.html

最高裁判所 平成 1年 3月 28日 第3小法廷 判決 ( 昭和60年(オ)第727号 )
事件名:  建物収去土地明渡、遺産確認並持分所有権移転登記手続請求上告事件
要 旨
 遺産確認の訴えは、当該財産が現に共同相続人による遺産分割前の共有関係にあることの確認を求める訴えであり、共同相続人全員が当事者として関与し、その間で合一にのみ確定することを要するいわゆる固有必要的共同訴訟と解するのが相当である。
参照条文: /民訴.40条/民法:898条/
全 文 h010328supreme.html

最高裁判所 平成 1年 3月 8日 大法廷 判決 ( 昭和63年(オ)第436号 )
事件名:  メモ採取不許可国家賠償請求上告事件<レペタ事件>
要 旨
 1
 憲法82条1項は、法廷で傍聴人がメモを取ることを権利として保障しているものではない。
 2
 法廷で傍聴人がメモを取ることは、その見聞する裁判を認識、記憶するためにされるものである限り、憲法21条1項の精神に照らし尊重に値し、故なく妨げられてはならない。(意見あり)
 3
 法廷警察権の行使は、裁判長の広範な裁量に委ねられ、その行使の要否、執るべき措置についての裁判長の判断は、最大限に尊重されなければならない。
 4
 法廷でメモを取ることを司法記者クラブ所属の報道機関の記者に対してのみ許可し、一般傍聴人に対して禁止する裁判長の措置は、憲法14条1項に違反しない。
 5
 法廷警察権の行使は、法廷警察権の目的、範囲を著しく逸脱し、又はその方法が甚だしく不当であるなどの特段の事情のない限り、国家賠償法1条1項にいう違法な公権力の行使ということはできない。 /裁判の公開/知る権利/表現の自由/
参照条文: /憲.14条1項/憲.21条1項/憲.82条1項/裁判.71条/刑訴.288条2項/国賠.1条1項/(/民訴規.77条/)
全 文 h010308supreme.html

東京高等裁判所 平成 1年 3月 3日 民事第5部 決定 ( 平成1年(ラ)第11号 )
事件名:  不動産引渡命令に対する執行抗告事件
要 旨
 1.引渡命令の相手方が転借人である場合に、原賃貸借が濫用的短期賃貸借であり無効であるから、転貸借もまた競売建物の買受人との関係で無効である(対抗できない)とされた事例。
 2.不動産引渡命令は、競売事件記録によって認められる事実関係に基づいて発せられるものであるから、不動産引渡命令に対する執行抗告は、原審競売事件記録において認められない事実関係を理由としてこれをすることはできない。
参照条文: /民事執行法:83条/
全 文 h010303tokyoH.html

最高裁判所 昭和 63年 12月 1日 第1小法廷 判決 ( 昭和61年(オ)第532号 )
事件名: 
要 旨
 不動産が競売手続において競落され、所有権に関する仮登記が先に登記された抵当権に対抗することができないために抹消された場合において、仮登記権利者は、所有権を取得していたときであっても、仮登記後に登記された抵当権者に対して、不当利得を理由として、その者が競売手続において交付を受けた代価の返還を請求することはできない。
参照条文: /民法:703条/仮担保.13条1項/不登.105条1項/不登.146条1項/民執.84条/民執.188条/
全 文 s631201supreme.html

最高裁判所 昭和 63年 5月 20日 第2小法廷 判決 ( 昭和62年(オ)第53号 )
事件名:  診療所明渡請求事件
要 旨
 1
 共有者の一部の者から共有物を占有使用することを承認された第三者は、その占有使用を承認しない共有者に対して共有物を排他的に占有する権原を主張することはできないが、現にする占有がそれを承認した共有者の持分に基づくものと認められる限度で共有物を占有使用する権原を有する。
 2
 第三者の占有使用を承認しなかった共有者は右第三者に対して当然には共有物の明渡しを請求することはできない。
参照条文: /民法:249条/民法:252条/
全 文 s630520supreme.html

最高裁判所 昭和 63年 3月 31日 第1小法廷 判決 ( 昭和59年(オ)第1293号 )
事件名:  土地所有権確認請求上告事件
要 旨
 共有者の一人が共有物を他に賃貸して得る収益につき、その持分割合を超える部分の不当利得返還を求める他の共有者の請求のうち事実審の口頭弁論終結時後に係る請求部分は、将来の給付の訴えを提起することのできる請求としての適格を有しないとして、この部分に係る訴えが却下された事例。
 1.将来の給付の訴えは、将来発生すべき債権についても、その基礎となるべき事実関係及び法律関係が既に存在し、その継続が予測されるとともに、右債権の発生・消滅及びその内容につき債務者に有利な将来における事情の変動が予め明確に予測し得る事由に限られ、しかもこれについて請求異議の訴えによりその発生を証明してのみ強制執行を阻止し得るという負担を債務者に課しても、当事者間の衡平を害することがなく、格別不当とはいえない場合には、提起することができる。(前提となる一般論)
 2.共有物の賃貸による収益の不当利得返還請求権は、賃貸借契約が解除等により終了した場合はもちろん、賃貸借契約自体は終了しなくても、賃借人が賃料の支払を怠っているような場合にもその基盤を欠くことになるといった事情を考慮すると、右請求権の発生・消滅及びその内容につき債務者に有利な将来における事情の変動が予め明確に予測し得る事由に限られるものということはできず、しかも将来賃料収入が得られなかった場合にその都度請求異議の訴えによって強制執行を阻止しなければならないという負担を債務者に課することは債務者に酷であり相当でないから、口頭弁論終結後にかかる請求部分は、将来の給付の訴えの対象適格を有するものということはできない。(破棄理由) /将来給付の訴え/請求適格/訴えの客観的利益/訴えの利益/将来給付請求/
参照条文: /民訴.135条/民法:249条/
全 文 s630331supreme.html

最高裁判所 昭和 63年 3月 15日 第3小法廷 判決 ( 昭和59年(オ)第1204号 )
事件名:  音楽著作権侵害差止等請求上告事件
要 旨
 1.スナック等の飲食店においてカラオケ演奏装置を用いた伴奏に応じて店のホステスあるいは客が歌唱する場合には、演奏(歌唱)という形態による当該音楽著作物の利用主体は店の営業主であり、かつ、その演奏は営利を目的として公にされたものであるというべきである。
 2.著作権の管理者の許諾を得ないで、ホステス等従業員や客にカラオケ伴奏により音楽著作物たる楽曲を歌唱させることは、店の営業主は著作権の一支分権たる演奏権を侵害するものというべきであり、演奏の主体として演奏権侵害の不法行為責任を免れない。
 2a.カラオケテープの製作に当たり、著作権者に対して使用料が支払われているとしても、それは、音楽著作物の複製(録音)の許諾のための使用料であり、それゆえ、カラオケテープの再生自体は、適法に録音された音楽著作物の演奏の再生として自由になしうるからといって(著作権法(昭和六一年法律第六四号による改正前のもの)附則一四条、著作権法施行令附則三条参照)、右カラオケテープの再生とは別の音楽著作物の利用形態であるカラオケ伴奏による客等の歌唱についてまで、著作権者の許諾なく自由になしうるものと解することはできない。 /知的財産権/無体財産権/著作権/
参照条文: /著作.22条/著作.112条/民法:709条/
全 文 s630315supreme..html

最高裁判所 昭和 63年 3月 15日 第3小法廷 判決 ( 昭和58年(オ)第1406号 )
事件名:  仮払金返戻請求上告事件
要 旨
 1.賃金の仮払を命ずる仮処分の執行後に仮処分命令が控訴審で取り消された場合には、本案訴訟が未確定であり、又は従業員としての地位保全の仮処分が同時に発せられていたときであつても、仮処分債務者は、特段の事情がない限り、仮処分債権者に対し仮払金の返還請求権を取得し、その返還義務の範囲は不当利得の規定に準じてこれを定めるべきである。
 1a.不当に利得した金銭を労働組合の分会に闘争資金として贈与した場合でも、利得は現存するとされた事例。
 2.賃金の仮払を命ずる仮処分の執行に係る仮払金の返還請求訴訟において、仮処分債権者が本案訴訟で訴求中の賃金債権を自働債権とする相殺の抗弁を提出することは許されない。 /仮地位仮処分/満足的仮処分/地位保全仮処分/不当利得返還請求/重複起訴の禁止/賃金仮払仮処分/任意の履行を期待する地位保全仮処分/解雇無効確認/
参照条文: /民訴.260条2項/民訴.142条/民訴.114条2項/民法:703条/民保.23条2項/
全 文 s630315supreme2.html

最高裁判所 昭和 63年 2月 25日 第1小法廷 判決 ( 昭和61年(行ツ)第178号 )
事件名:  損害賠償請求上告事件
要 旨
 自らも監査請求手続を経て住民訴訟を提起する資格を有する住民が、他の住民の提起した住民訴訟に共同訴訟参加できる期間内に補助参加をして控訴を提起したが、原告住民が控訴を取り下げた場合に、その補助参加は共同訴訟的補助参加には該当しないので、その控訴取下げは有効であるとされた事例。
 1.地方自治法242条の2第1項の規定による住民訴訟が係属している場合には、同一対象について適法な監査請求手続を経た他の住民は、同条2項所定の出訴期間内に共同訴訟人として住民訴訟の原告側に参加することができ、その出訴期間は監査請求をした住民ごとに個別に定められているものと解するのが相当である。(前提の議論)
 2.共同訴訟参加が可能な場合になされた補助参加については、これをいわゆる共同訴訟的補助参加と解し、共同訴訟参加をしたのと同様の効力を認めることは相当ではない。(該当事例)
参照条文: /民訴.52条/民訴.40条/民訴.42条/地自.242-2条/
全 文 s630225supreme.html

最高裁判所 昭和 63年 2月 25日 第1小法廷 判決 ( 昭和62年(オ)第491号 )
事件名:  請求異議・上告事件
要 旨
 不動産の引渡命令の発付を受けた買受人が当該不動産を第三者に譲渡したとしても、引渡命令の相手方は、右買受人に対して提起する引渡命令に対する請求異議の訴えにおいて、右譲渡の事実をもつて異議の事由とすることはできない。
参照条文: /民事執行法:35条;83条1項/
全 文 s630225supreme2.html

最高裁判所 昭和 63年 1月 26日 第3小法廷 判決 ( 昭和60年(オ)第122号 )
事件名:  損害賠償請求・上告事件
要 旨
 YのXに対する前訴が請求棄却判決の確定により終了した場合に、XがYに対して前訴提起はXに対する不法行為になると主張して損害賠償請求の訴えを提起したが、「前訴の提起は裁判制度の趣旨目的に照らして著しく相当性を欠くものとはいえず、したがつて、Xに対する違法な行為であるとはいえないから、Xに対する不法行為になるものではない」として、請求が棄却された事例。
 1.民事訴訟を提起した者が敗訴の確定判決を受けた場合において、右訴えの提起が相手方に対する違法な行為といえるのは、当該訴訟において提訴者の主張した権利又は法律関係が事実的、法律的根拠を欠くものであるうえ、提訴者が、そのことを知りながら又は通常人であれば容易にそのことを知りえたといえるのにあえて訴えを提起したなど、訴えの提起が裁判制度の趣旨目的に照らして著しく相当性を欠くと認められるときに限られる。 /不当提訴/
参照条文: /民法:709条/民事訴訟法:2編1章/
全 文 s630126supreme.html

最高裁判所 昭和 62年 12月 18日 第2小法廷 判決 ( 昭和62年(オ)第893号 )
事件名:  貸金請求・上告事件
要 旨
 被担保債権について指定充当の特約(債権者が適当と認める順序方法で充当することができる旨の特約)が存在する場合に、担保競売の代金が複数ある被担保債権の全部を弁済するのに足りないときに、配当完了後に債権者が被担保債権のうちの一つ(最も早く発生した債権)のみの連帯保証人に対して保証債務の履行を求めた訴訟で、保証人が法定充当により被保証債権は消滅していると主張したのに対し、債権者が被保証債務への充当を最後とする指定充当の意思表示をしたが、法定充当がなされるべきであるとされた事例。
 1.不動産の担保権実行競売において数個の不動産が一括売却された場合に、その各所有者を異にし、しかも各不動産を目的とする担保権の担保権者が異なるとき又は担保権者が同一であってもその被担保債権の債務者が異なるときは、同法86条2項の「各不動産ごとに売却代金の額を定める必要があるとき」に該当し、同項により各不動産ごとにその売却代金の額及び執行費用の負担を定めて、それぞれの担保権者について配当の額を算出すべきである。
 2.同一の担保権者に対する配当金がその担保権者の有する数個の被担保債権のすべてを消滅させるに足りないときは、右配当金は、右数個の債権について民法489条ないし491条の規定に従った弁済充当(法定充当)がされるべきものであって、債権者による弁済充当の指定に関する特約がされていても右特約に基づく債権者の指定充当は許されない。(判旨)
 3.一括売却による売却代金について、各不動産ごとに売却代金及び執行費用の額が案分された配当表が作成されるべきであるにもかかわらず、案分を行わない一つの配当表が作成されて、それが確定した場合でも、各不動産ごとに売却代金及び執行費用の額が案分され、複数の被担保債権に法定充当がなされたものと解すべきである。
参照条文: /民法:488条;489条;490条;491条/民事執行法:85条;86条;188条/
全 文 s621218supreme.html

最高裁判所 昭和 62年 11月 26日 第1小法廷 判決 ( 昭和59年(オ)第521号 )
事件名:  財団債権・上告事件
要 旨
 1.破産法59条(現53条)は、請負人が破産宣告を受けた場合であつても、当該請負契約の目的である仕事が破産者以外の者において完成することのできない性質のものであるため、破産管財人において破産者の債務の履行を選択する余地のないときでない限り、右契約について適用される。
 2.請負人が破産し、請負契約が破産管財により解除された場合には、注文主は、支払ずみの請負報酬の内金から工事出来高分を控除した残額について、破産法60条(現54条)2項に基づき財団債権としてその返還を求めることができる。 /双方未履行契約/
参照条文: /破産.53条/破産.54条/民法:632条/
全 文 s621126supreme.html

最高裁判所 昭和 62年 11月 10日 第3小法廷 判決 ( 昭和57年(オ)第1408号 )
事件名:  第三者異議上告事件
要 旨
 30億円余の債権を有する債権者が流動集合物譲渡担保の目的物の保管場所として指定した場所に搬入された価額585万円余の動産について、動産売買先取特権者が競売法の規定に基づき競売を申し立てたのに対し、集合物譲渡担保権者が第三者異議の訴えを提起して認容された事例。
 1.構成部分の変動する集合動産であっても、その種類、所在場所及び量的範囲を指定するなどの方法によって目的物の範囲が特定される場合には、一個の集合物として譲渡担保の目的とすることができる。(先例の確認/特定が肯定された事例)
 2.集合物を目的とする譲渡担保権設定契約が締結され、債務者がその構成部分である動産の占有を取得したときは債権者が占有改定の方法によってその占有権を取得する旨の合意に基づき、債務者が右集合物の構成部分として現に存在する動産の占有を取得した場合には、債権者は、当該集合物を目的とする譲渡担保権につき対抗要件を具備するに至ったものということができ、この対抗要件具備の効力は、その後構成部分が変動したとしても、集合物としての同一性が損なわれない限り、新たにその構成部分となった動産を包含する集合物について及ぶ。
 3.動産売買の先取特権の存在する動産が譲渡担保権の目的である集合物の構成部分となった場合に、先取特権者が右先取特権に基づいて動産競売の申立をしたときは、譲渡担保権者は、特段の事情のない限り、民法333条所定の第三取得者に該当するものとして、第三者異議の訴えをもって、右動産競売の不許を求めることができる。
参照条文: /t15.民事訴訟法:549条/民法:85条;175条;178条;181条;183条;333条/
全 文 s621110supreme.html

東京高等裁判所 昭和 62年 10月 27日 判決 ( 昭和62年(ネ)第110号 )
事件名:  中山恒三郎商店破産債権確定請求・控訴事件
要 旨
 会社の従業員らがその居住している社宅を一般の住宅を購入するよりも有利な条件で買い取るため、将来その代金の一部に充当する目的で他の預貯金を解約するなどして社内預金に預け入れた場合に、この預入れが社長の指示に基づくものであつたとしても、社宅購入の手段としてされたものである以上、任意の預入れというべく、また、雇用関係を発生の契機とするとはいえ、雇用関係との法的な結び付きは希薄であつて、むしろ通常の不動産取引上の債権に類するものであるから、一般債権と区別して特にこれらを保護すべき理由は見出し難く、商法295条の適用対象とはなりえず、会社の破産手続において優先的破産債権にならないとされた事例。 /賃金債権/一般の先取特権/雇用関係の先取特権/
参照条文: /商法:295条/t11.破産法:39条/労働基準法:18条/
全 文 s621027tokyoH.html

最高裁判所 昭和 62年 9月 2日 大法廷 判決 ( 昭和61年(オ)第260号 )
事件名:  離婚請求上告事件
要 旨
 1.有責配偶者からされた離婚請求であつても、夫婦がその年齢及び同居期間と対比して相当の長期間別居し、その間に未成熟子がいない場合には、相手方配偶者が離婚によつて精神的・社会的・経済的に極めて苛酷な状態におかれる等離婚請求を認容することが著しく社会正義に反するといえるような特段の事情のない限り、有責配偶者からの請求であるとの一事をもつて許されないとすることはできない。
 2.有責配偶者からされた離婚請求であつても、夫婦が36年間別居し、その間に未成熟子がいないときには、相手方配偶者が離婚によつて精神的・社会的・経済的に極めて苛酷な状態におかれる等離婚請求を認容することが著しく社会正義に反するといえるような特段の事情のない限り、認容すべきである。 (1につき補足意見、1、2につき意見がある。) /民.770条/民.1条2項/
参照条文: /民法:770条/民法:1条2項/
全 文 s620902supreme.html

大阪地方裁判所 昭和 62年 7月 20日 第12民事部 判決 ( 昭和61年(ワ)第7405号、第10000号 )
事件名:  弁護士法23条の2に基づく照会に対する回答請求・同参加事件
要 旨
 労働者が会社に勤務中に2回目の胸痛発作を起こして死亡し、遺族から依頼を受けた弁護士が、労災死亡認定申請をするかどうかの判断の資料に供するために、労働者が1回目の発作の際の搬送先病院に対して、労働者のカルテ類の謄写を求めたところ拒絶されたため、弁護士会に照会の申出をし、弁護士会から医療法人に照会がなされたが、照会にそった回答が得られなかった場合に、依頼者が(1)照会先(医療法人)に対して弁護士会に回答することを求める給付請求及び(2)損害賠償請求の訴えを提起し、その訴訟に照会申出弁護士が当事者参加して、(3)照会先に対して弁護士会への回答を求める給付請求及び(4)照会先と依頼者との関係において照会先から弁護士会に回答することを求める権利を弁護士が有することを確認することの請求を立てた事案において、(2)の請求が棄却され、その余の請求に係る訴えが不適法として却下された事例。
 1.弁護士法23条の2の照会を受けた照会先は原則として照会の趣旨に応じた回答を行う義務を負う。
 1a.照会先においては、正当な事由があれば、回答を拒否しうると考えられ、その正当な事由の存否は、照会を求める弁護士からの申出書に記載されている照会を求める事由との関係において個々具体的に判断すべきものであるが,例えば、(1)照会が形式的要件を欠くとき、(2)照会に応じて回答すると照会先の職務の遂行に重大な支障をきたすことが明らかなとき、(3)照会事項が第三者のプライバシー、名誉及び信用等に直接関連するものであり、かつ照会に応じた回答がされることによって当該第三者が被る不利益が、照会事項についての回答を拒絶した場合に生ずるであろう不利益より大であるときなどが、それに該当するものと考えられる。
 2.照会申出弁護士及びその依頼者の照会先に対する「弁護士会に回答することを求める給付請求」が、(1)照会先に対して直接回答請求を求める趣旨のものであるとすれば、依頼者も弁護士もその権利の主体となることが絶対にあり得ないものであり、また、(2)代位請求の内容をもつものであるとしても、代位の要件(被保全債権)を欠くから、その給付の訴えは、当事者適格を欠いて不適法であるとして、却下された事例。
 2a.弁護士法23条の2の規定は、照会先に対し照会事項の回答を請求する権能を弁護士会に専属させたものであって、非弁護士である一般私人は(弁護士に対して委任した者であっても)もちろんのこと、弁護士も、直接に照会先に対して特定の事項について回答するよう請求するいかなる権利も有しない(回答先を一般私人ないし弁護士とするものであっても、弁護士会とするものであっても、一般私人ないし弁護士と照会先との間に、当該照会に応じた回答をする権利義務関係が生じることはない)。
 2b.一般私人はもちろん、弁護士も、弁護士会に代位して照会先に対して弁護士会宛に回答するよう請求することも、右の回答請求権を弁護士会に専属させている趣旨からいって、一切許されない。
 2c.弁護士から弁護士会に対し、弁護士会が照会先に照会及び回答請求をすることを求める(司法審査の対象となり得るような)権利義務関係が生じることはない。
 3.照会申出弁護士の照会先に対する「照会事項について照会先から弁護士会に対して回答することを求める権利を弁護士が有することの確認請求」にかかる訴えが、確認の利益を欠いた不適法な訴えとして却下された事例。
 3a.照会先が弁護士会に照会に対する回答をしないことによって、かりに照会申出弁護士が受任した事件の処理に支障を生じてなんらかの具体的損害(権利侵害)を被むるといったことがあって、それが照会先の責に帰すべきものであるとしても、その場合には弁護士は照会先に対して端的に損害賠償請求をするなどの方法によって救済を求めるべきものであり、それによらずに照会先が弁護士会に対して回答義務を負うことを弁護士と照会先との間で確認しておくべき法的利益が弁護士にあるとは認められないととされた事例。
 4.照会先が23条の2の照会に対して正当な理由がないにもかかわらずこれを拒否したことによって、弁護士に事件処理を依頼した者に何らかの具体的損害が生じた場合には、照会先に損害発生が予見可能であったことを要件として、依頼者から照会先に対して不法行為による損害賠償請求を行うことが考えられなくはない。
 4a.照会先の回答拒否から当然に照会申出弁護士及びその依頼者に金銭賠償によって慰謝されるべき精神的損害が発生するとはいいがたく、具体的損害が発生した事実も認められないとして、損害賠償請求が棄却された事例。 /弁護士会照会/弁護士照会/23条照会/訴えの利益/当事者適格/訴訟要件/
参照条文: /民事訴訟法:2編1章/民法:709条/弁護士法:23-2条/
全 文 s620720osakaD.html

最高裁判所 昭和 62年 7月 17日 第2小法廷 判決 ( 昭和57年(オ)第1190号 )
事件名:  賃金支払請求上告事件
要 旨
 部分ストライキによつてストライキ不参加労働者の労働義務の履行が不能となつた場合は、使用者が不当労働行為の意思その他不当な目的をもつてことさらストライキを行わしめたなどの特別の事情がない限り、右ストライキは民法536条2項の「債権者ノ責二帰スヘキ事由」に当たらず、当該不参加労働者は賃金請求権を失う。
 労働基準法26条が「使用者の責に帰すべき事由」による休業の場合に使用者が平均賃金の6割以上の手当を労働者に支払うべき旨を規定したのは、このような事由による休業の場合に、使用者の負担において労働者の生活を右の限度で保障しようとする趣旨によるものであつて、同条項が民法536条2項の適用を排除するものではないから、当該休業の原因が民法536条2項の「債権者ノ責ニ帰スヘキ事由」に該当し、労働者が使用者に対する賃金請求権を失わない場合には、休業手当請求権と賃金請求権とは競合しうるものである(傍論)。
  /危険負担/
参照条文: /民法:536条2項/労基.26条/
全 文 s620717supreme2.html

最高裁判所 昭和 62年 7月 17日 第3小法廷 判決 ( 昭和59年(オ)第1382号 )
事件名:  損害賠償請求上告事件
要 旨
 1.訴えの主観的追加的変更は許されない。
 
 甲が乙を被告として提起した訴訟(旧訴訟)の係属後に丙を被告とする請求を追加して一個の判決を得ようとする場合は、丙に対する別訴(新訴)を提起したうえで、民訴法132条(現152条)の規定による口頭弁論の併合を裁判所に促すべきであり、新旧両訴訟の目的たる権利又は義務につき共同訴訟の要件が具備する場合であつても、新訴が当然に旧訴訟に併合されるとの効果を認めることはできない。
参照条文: /民訴.152条/民訴.143条/民訴.38条/
全 文 s620717supreme.html

大阪高等裁判所 昭和 62年 7月 17日 民事11部 決定 ( 昭和62年(ラ)第287号 )
事件名:  不動産競売売却不許可決定に対する執行抗告申立事件
要 旨
 不動産の競売事件において最高価額での買受人申出人が2名存在し(開札期日に一人は出頭、他の一人は不出頭)、追加入札において期日に出頭していた申出人が当初の買受申出額と同額の買受申出をしたところ、執行官がこれを無効と判断して抽選を行い、不出頭の申出人を最高価買受申出人に選定し、執行裁判所が≪追加入札において当初の申出額と同額の買受申出をすることは許されるから、執行官による最高価買受申出人の選定に誤りがある≫として売却不許可決定をした場合に、追加入札に参加した申出人が自己への売却許可決定も併せてなすべきであるとして執行抗告をした事案において、抗告審が、≪最高価買受申出人の選定に誤りがあることは明白であるから、執行裁判所は、追加入札をした者を最高価買受申出人と認めて、この者への売却許可の決定も併せてなすべきである≫として、事件を原審に差し戻した事例。
 1.追加入札について先の入札額と同額の入札をすることも可能である。
 2.執行官が法及び規則に従い適切に手続を進行しその結果なされる最高価買受申出人の選定は、売却許否の決定の前段階の手続として必要不可欠のものであるが、執行裁判所において右決定に明白な誤りがあると判断する場合には、執行裁判所は極めて例外的に、執行官による最高価買受申出人の選定に基づくことなく、独自に適正な最高価買受申出人と認めた者に対し売却許否の決定をすることができるものと解するのが相当である。
参照条文: /民事執行法:70条;71条;74条;188条/民事執行規則:41条;42条;45条;49条;173条/
全 文 s620717osakaH.html

最高裁判所 昭和 62年 7月 7日 第3小法廷 判決 ( 昭和60年(オ)第289号 )
事件名: 
要 旨
 1.民法117条2項の「過失」は重大な過失に限定されない。
 2.無権代理人の責任の要件と表見代理の要件がともに存在する場合に、表見代理の主張をすると否とは相手方の自由であり、無権代理人は、表見代理が成立することを抗弁として主張することはできない。
参照条文: /民法:117条1項/民法:117条2項/
全 文 s620707supreme.html

最高裁判所 昭和 62年 7月 2日 第1小法廷 判決 ( 昭和60年(オ)第1124号 )
事件名:  破産債権確定請・上告事件
要 旨
 1.主たる債務者が破産宣告を受けた場合において,債権者が当該債権の全額について破産債権の届出をしたときは、保証人は、破産宣告後に当該債権につき一部弁済をしても、債権者が当該債権の全額について満足を得ない限り、弁済の割合に応じて債権者の権利を取得することはできない。
参照条文: /破産法:104条4項/
全 文 s620702supreme.html

東京高等裁判所 昭和 62年 6月 30日 民事第14部 判決 ( 昭和61年(ネ)第3183号、昭和62年(ネ)第434号 )
事件名:  損害賠償請求控訴、同附帯控訴事件
要 旨
 農地の不動産競売事件において、次順位に高額の買受申出をした者が、「執行官が買受適格証明書を提出していない者を最高価買受申出人に定めたため、自己が買受人になることができなかったことにより、適正な市場価格と自己の買受申出額との差額の損害を受けた」と主張して、国家賠償請求の訴えを提起したが、国家賠償法上保護されるべき法的利益を有するとはいえないとして、棄却された事例。
 1.売却許可決定に対し執行抗告を申立てることができるのは、その決定により自己の権利が害される者に限られ、最高価買受申出人以外の買受申出人は、最高価買受申出人に対する売却許可決定が抗告審において取り消されたとしても、前記のように自己の買受申出について売却許可決定が得られるわけではないから、仮に買受人となる資格を有しない者に対し売却許可決定がなされたとしても、右決定により自己の権利が害されるわけでなく、したがって右決定に対し執行抗告を申立てることはできない。
 1a.民事執行法は、買受申出人に対しては、売却決定期日において意見を陳述する権利を付与することにより、執行裁判所の職権発動を促して不適法な売却許可決定がなされるのを防止し、従前の手続に重大な瑕疵、誤りがあるとして売却不許可決定がなされ新たな売却が実施される場合には、再び買受けの申出をする機会を事実上与えているにすぎず、それ以上に所有者その他実体法上の権利者に準ずるような権利を与えているものとは解されない。
 2.買受適格証明書を提出して次順位に高額の買受けの申出をしたにすぎない者は、競売土地そのものについて国家賠償法上保護されるべき法的利益を有するとはいえない。 /売却許否決定/買受人になる利益/
参照条文: /国家賠償法:1条/民事執行法:70条;71条;74条;188条/民事執行規則:33条;173条1項/
全 文 s620630tokyoH.html

最高裁判所 昭和 62年 6月 2日 第3小法廷 判決 ( 昭和60年(オ)第589号 )
事件名:  議債権・上告事件
要 旨
 1.数人が各自全部の履行をする義務を負う場合において、その全員又は一部の者が和議開始の決定を受けたときは、和議開始決定時における当該債権の全額を和議債権として届け出た債権者は、和議開始決定後に、当該和議債務者に対して将来行うことのあるべき求償権を有する全部義務者から債権の一部の弁済を受けても、届出債権全部の満足を得ない限り、右債権の全額について和議債権者としての権利を行使することができる。 /手続開始時現存額主義/民事再生/
参照条文: /破産法:104条/民事再生法:86条2項/
全 文 s620602supreme.html

最高裁判所 昭和 62年 5月 29日 第2小法廷 判決 ( 昭和58年(オ)第760号 )
事件名:  損害賠償請求・上告事件
要 旨
 B1の不法行為により390万円の損害を受けたXのB1に対する損害賠償請求権額が過失相殺により195万円にとどまる場合に、保険金額を300万円とする損害保険契約によりXに300万円を支払ったB3は、Xの有する損害賠償請求権(被保険者債権)を150万円の範囲で代位し、他方、Xは、B1に対して残額45万円の範囲で同請求権を行使することができるとされた事例。
 1.保険金額が保険価額(損害額)に達しない一部保険の場合において、被保険者が第三者に対して有する権利が損害額より少ないときは、一部保険の保険者は、填補した金額の全額について被保険者が第三者に対して有する権利を代位取得することはできず、一部保険の比例分担の原則に従い、填補した金額の損害額に対する割合に応じて、被保険者が第三者に対して有する権利を代位取得することができるにとどまるものと解するのが相当である。 /請求権代位/保険者代位/保険代位/比例説/差額説/
参照条文: /商法:662条1項/
全 文 s620529supreme.html

最高裁判所 昭和 62年 4月 23日 第1小法廷 判決 ( 昭和60年(オ)第872号 )
事件名:  配当異議・上告事件
要 旨
 主債務者の不動産上に設定された先順位根抵当権により担保されている2口の債権のうちの1口について信用保証協会が保証債務の履行として代位弁済をし、かつ、信用保証協会が求償権の満足を得ている場合であっても、先順位抵当権者は、自己の有する残債権額及び根抵当権の極度額の限度において、後順位抵当権者に優先して抵当権実行による売却代金から配当を受けることができるとされた事例。
 1.債権の一部について代位弁済がされた場合、右債権を被担保債権とする抵当権の実行による売却代金の配当については、債権者は代位弁済者に優先する。(先例の確認)
 2.債権者は、代位弁済者の求償権が消滅したと否とにかかわらず、自己の有する残債権額及び被担保債権額(根抵当権の場合にはその極度額)の限度において後順位抵当権者に優先して売却代金の交付を受けることができる。 /根抵当権/
参照条文: /民法:500条;502条;398-3条/
全 文 s620423supreme.html

最高裁判所 昭和 62年 4月 22日 大法廷 判決 ( 昭和59年(オ)第805号 )
事件名:  共有物分割等請求上告事件
要 旨
 1
 共有森林につき持分価額2分の1以下の共有者に民法256条1項所定の分割請求権を否定している森林法186条の規定は、憲法29条2項に違反して、無効である。
 2
 民法258条により共有物の現物分割をするにあたっては、その一態様として、持分の価格以上の現物を取得する共有者に当該超過分の対価を支払わせ、過不足の調整をすることも許される(価額賠償方式の分割)。
 3
 数か所に分かれて存在する多数の共有不動産を現物分割する場合には、これらを一括して分割の対象とし、分割後のそれぞれの不動産を各共有者の単独所有とすることも許される(一括分割)。
 4
 多数の者が共有する物を現物分割する場合には、分割請求者の持分の限度で現物を分割し、その余は他の者の共有として残すことも許される(一部分割)。
 (形式的形成訴訟/共有物分割)
参照条文: /森林.186条/民法:256条1項/民法:258条/
全 文 s620422supreme.html

最高裁判所 昭和 62年 4月 21日 第3小法廷 判決 ( 昭和59年(行ツ)第333号 )
事件名:  財団債務不存在確認請求・上告事件
要 旨
 1.破産法47条2号但書が、国税徴収法又は国税徴収の例により徴収することのできる請求権で破産宣告後の原因に基づくもののうち財団債権となるのは「破産財団ニ関シテ生シタルモノニ限ル」と規定しているのは、右請求権のうち、破産財団の管理のうえで当然支出を要する経費に属するものであつて、破産債権者において共益的な支出として共同負担するのが相当であるものに限つて、これを財団債権とする趣旨であると解すべく、その「破産財団ニ関シテ生シタル」請求権とは、破産財団を構成する財産の所有・換価の事実に基づいて課せられ、あるいは右財産から生ずる収益そのものに対して課せられる租税その他破産財団の管理上当然その経費と認められる公租公課のごときを指すものと解するのが相当である。
 2.法人税のうち一般部分(土地重課部分を除いた部分)
 
 予納法人税の債権は、破産債権者において共益的な支出として共同負担するのが相当な破産財団管理上の経費とはいえず、その意味において破産法47条2号但書にいう「破産財団ニ関シテ生シタルモノ」には当たらないと解するのが相当である。
 3. 法人税の土地重課部分
 
 破産財団に属する土地等が譲渡され、その譲渡利益金額が実質的に破産財団に帰属する場合には、右土地等の譲渡に係る土地重課税及び予納法人税の土地重課部分は、破産財団を構成する財産からの収益に対して課せられる租税として、破産債権者において共益的な支出として共同負担するのが相当な破産財団管理上の経費に属し、「破産財団ニ関シテ生シタルモノ」に当たると解するのが相当である。
 3a.別除権が存在する場合
 
 土地重課税の課税の対象となる土地等の中に別除権の目的となつている土地等が含まれ、かつ、その譲渡による譲渡利益金額の中に別除権者に対する優先弁済部分が存するときは、土地重課税又は予納法人税の土地重課部分のうち、右課税の対象となる土地等の譲渡に係る譲渡利益金額の合計額から右優先弁済部分を控除した金額(譲渡利益金額の合計額の中の実質的に破産財団に帰属する部分)を基礎に計算される土地重課税の額に相当する部分のみが、破産債権者において共益的な支出として共同負担するのが相当な破産財団管理上の経費として「破産財団ニ関シテ生シタルモノ」に当たり、その余の部分は、これに当たらないというべきである。
 4.過少申告加算税
  過少申告加算税の債権は、本税たる租税債権に附帯して生ずるものであるからそれが財団債権に当たるかどうかは、本税たる租税債権が財団債権性を有するかどうかにかかるものというべきである。
 5.法人に対する府民税・市民税
 5a.均等割の部分
 
 法人に対する府民税・市民税のうちの均等割は、府内又は市内に事務所又は事業所を有することに伴い資本金額等に応じ均等に課せられるものであるから、破産法人に対する均等割は、破産法人が破産の目的の範囲内においてなお存続することに伴い負担すべき経費に属し、その債権は財団債権に当たるというべきである。
 5b.法人税割の部分
 
 法人に対する府民税・市民税のうちの法人税割の性格は、予納法人税の性格と同じであり、譲渡利益金額の合計額の中の実質的に破産財団に帰属する部分に対応する部分のみが財団債権に当たり、その余の部分は財団債権に当たらないというべきであるから、法人税割に係る予納税の債権のうち財団債権に当たるのは、予納法人税の債権の財団債権部分に対応する部分であり、その余の部分は財団債権に当たらない。
 6.本件事業税
 
 法人に対し課せられる事業税は、各事業年度の所得又は清算所得を課税の対象とするものであり、その性格は、予納法人税の性格と同じであるから、その債権は財団債権に当たらない。
参照条文: /破産法:47条2号/法人税法:102条1項;105条/租税特別措置法(昭和57年法律第8号による改正前のもの):63条1項/地方税法:53条2項;72-29条1項;321-8条2項/
全 文 s620421supreme.html

最高裁判所 昭和 62年 4月 2日 第1小法廷 判決 ( 昭和60年(オ)第232号 )
事件名: 
要 旨
 動産売買の先取特権者が物上代位の目的たる債権を自ら強制執行によって差押えた場合に、他に競合する差押債権者等があるときは、先取特権者は、配当要求の終期までに担保権の存在を証する文書を提出して先取特権に基づく配当要求又はこれに準ずる先取特権行使の申出をしなければ、優先弁済を受けることができない。
参照条文: /民法:304条1項/民法:372条/民執.165条/民執.193条/
全 文 s620402supreme.html

最高裁判所 昭和 62年 2月 20日 第2小法廷 判決 ( 昭和57年(行ツ)第164号 )
事件名:  町有財産売却処分違法確認等請求及び共同訴訟参加上告事件
要 旨
 1.地方自治法242条1項の規定による住民監査請求に対し、同条3項の規定による監査委員の監査の結果が請求人に通知された場合において、請求人たる住民は、右監査の結果に対して不服があるときは、法242条の2第1項の規定に基づき同条の2第2項1号の定める期間内に訴えを提起すべきものであり、同一住民が先に監査請求の対象とした財務会計上の行為又は怠る事実と同一の行為又は怠る事実を対象とする監査請求を重ねて行うことは許されていない。
 2.普通地方公共団体の住民が当該普通地方公共団体の長その他の財務会計職員の財務会計上の行為を違法、不当であるとしてその是正措置を求める監査請求をした場合には、特段の事情が認められない限り、右監査請求は当該行為が違法、無効であることに基づいて発生する実体法上の請求権を当該普通地方公共団体において行使しないことが違法、不当であるという財産の管理を怠る事実についての監査請求をもその対象として含むものと解するのが相当である。
 3.普通地方公共団体において違法に財産の管理を怠る事実があるとして地方自治法242条1項の規定による住民監査請求があつた場合に、右監査請求が、当該普通地方公共団体の長その他の財務会計職員の特定の財務会計上の行為を違法であるとし、当該行為が違法、無効であることに基づいて発生する実体法上の請求権の不行使をもつて財産の管理を怠る事実としているものであるときは、当該監査請求については、右怠る事実に係る請求権の発生原因たる当該行為のあつた日又は終わつた日を基準として同条2項の規定を適用すべきである。
参照条文: /地自.242条/地自.242-2条/
全 文 s620220supreme.html

横浜地方裁判所 昭和 61年 11月 27日 判決 ( 昭和60年(ワ)第2614号 )
事件名:  中山恒三郎商店破産債権確定請求事件
要 旨
 1.会社が、その経営状態が悪化していた時期(昭和59年9月頃)に定期昇給(同年5月に遡及)を行い、同年12月6日に手形不渡事故をおこし、翌年2月20日に破産宣告を受けた場合に、その定期昇給は破産手続との関係でも有効であり、昇給部分の未払賃金債権は先取特権の保護を受ける、とされた事例。
 2.商法295条が必ずしも雇用契約に基づくといえない身元保証金の返還請求権をも掲げてその保護を図っている趣旨に鑑みれば、社内預金債権についても預入れの経緯、態様等を検討し、更に一般債権者の利益とも対比したうえで商法295条の適用を判断すべきものというべきである。
 2a.破産会社が毎年4月30日に支給されるべき臨時賞与を直接従業員に交付せず同日付で全額を各人の社内預金口座に入金した形で処理をしていたのは、同会社の決算日が4月30日である関係上、臨時賞与を支払えなくとも経理帳簿上これを支払ったこととし社内預金化することでその期の決算の損金にすることを企図した便法であったことが認められるから、従業員らの社内預金債権のうち臨時賞与の組入(振替)部分は、それ自体従業員らの任意の預入れとは異なるもので、この部分の返還を求めることは実質的には未払の臨時賞与の支払を訴外会社へ求めるものといえるとして、この部分の社内預金払戻請求権が優先的破産債権になるとされた事例。
 2b.退職金が社内預金に組み入れられた場合に、その預金支払請求権及び社内預金規定に従った年7.88%の割合による利息債権が先取特権の保護を受けるとされた事例。
 2c.従業員の社内預金の中に、社宅の払下げを受けるために銀行預金を解約して預け入れた部分と、賞与の振替部分とが混在し、かつ、一部払戻しがあった場合に、払戻がいずれの部分からなされたかについては、会社が主張・立証責任を負うべきであるが、その主張・立証がないとして、賞与の振替部分全額及びこれに対する社内預金規定に従った年7.88%の割合による利息債権が優先的破産債権になるとされた事例。 /賃金債権/一般の先取特権/雇用関係の先取特権/
参照条文: /商法:295条/t11.破産法:39条/労働基準法:18条/
全 文 s611127yokohamaD.html

広島地方裁判所 昭和 61年 11月 21日 民事第1部 決定 ( 昭和61年(ソ)第11号 )
事件名:  証拠保全申立却下決定に対する抗告申立事件
要 旨
 診療録等の証拠保全が認められた事例。
 1.証拠保全の事由は、当該事案に即して具体的に主張され、かつ疎明されることを要し、この理は診療録等の改ざんのおそれを証拠保全の事由とする場合でも同様である。
 1a.人は、自己に不利な記載を含む重要証拠を自ら有する場合に、これを任意にそのまま提出することを欲しないのが通常であるからといった抽象的な改ざんのおそれでは足りず,当該医師に改ざんの前歴があるとか、当該医師が、患者側から診療上の問題点について説明を求められたにもかかわらず相当な理由なくこれを拒絶したとか、或いは前後矛盾ないし虚偽の説明をしたとか、その他ことさらに不誠実又は責任回避的な態度に終始したことなど、具体的な改ざんのおそれを一応推認させるに足る事実を疎明することを要する。
 2.患者(申立人)の家族が、医師ら(相手方ら)に、患者に対する治療方法や病状悪化の理由を再三尋ねたのに対し、医師らが何ら詳しい事情を説明しようとせず、逆に説明を求める家族を叱りつけたり、さらには、入院中に患者の身体障害者等級が三級になったことにかこつけて、「身体障害者手帳が三級になったんだからいいじゃあないか。」との発言をしたり、患者の入院中に看護婦らから再三「早くつれて帰ってよい病院へ入れてあげてください。」との忠告を受けていたことが主張され、その疎明があると認められた場合に、これらの事実によれば、相手方らは、申立人の家族から診療上の問題点について説明を求められたのに相当な理由なくこれを拒絶し、不誠実かつ責任回避的な態度に終始しているから、相手方らが申立人に関する診療録等を改ざんするおそれがあると一応推認することができるから、証拠保全の事由について疎明があったものといえるとされた事例。
参照条文: /t15.民事訴訟法:343条;345条/
全 文 s611121hiroshimaD.html

名古屋地方裁判所 昭和 61年 11月 17日 民事第3部 判決 ( 昭和60年(ワ)第1868号 )
事件名:  不当利得返還請求事件
要 旨
 動産の買主が破産し、破産管財人がその動産を任意売却した場合に、売主が動産売買先取特権を喪失したことを理由に破産管財人に対して不当利得返還請求をし、予備的に先取特権侵害を理由に損害賠償請求をしたが、いずれも棄却された事例。
 1.別除権(動産先取特権)の目的物の価値的部分については破産管財人の管理処分権が及ばず、当該目的物は価値的には破産財団に帰属していないとの主張は採用することができない。
 1a.動産売買先取特権には追及効がなく、かつ、債務者たる買主は所有権者としていつでも第三者に処分する権利を有するのであるから、買主に自ら目的物の差押えを承諾する義務ありとする法律上の根拠は見出し難く、したがって、買主たる債務者と同じ地位にたつ破産管財人にもそのような義務ありとすることはできない。
 2.先取特権は目的物に対する直接の支配力を有せず、追及効もなく、担保権として弱い効力しか認められていないから、これに担保権実行のためとはいえ、目的物の引渡請求権があるとも、また差押承諾請求権があるとも解しがたいから、これらの手続的制約の存在と各請求権の存在を前提として、破産管財人の任意売却処分をもって違法な権利侵害であるとすることは、原則としてできない。(傍論として、例外の存しうることを認める)
参照条文: /民法:311条6号/民法:322条/民法:333条/破産.203条/破産.202条/破産.197条7号/破産.198条/民執.190条/
全 文 s611117nagoyaD.html

名古屋高等裁判所 昭和 61年 7月 28日 金沢支部 判決 ( 昭和61年(ネ)第31号 )
事件名:  優先破産債権確定請求・控訴事件(うえの屋賃金請求事件)
要 旨
 中小企業等協同組合法により設立された「赤帽富山県軽自動車運送事業協同組合」の組合員が、婚礼家具の販売等を業とする会社(破産会社)の配送業務に継続的に従事していた場合に、組合員と同社との間の契約が雇用契約ではなく、請負契約であるとされ、配送業務に従事した組合員の同社に対する債権は、優先的破産債権ではないとされた事例。
 1.契約が雇用契約なりや否やは契約の形式のみによらず、実質的な労務供給の実態をも総合し、それがいわゆる使用従属関係に当るか否かを基準として判断するのが相当である。
 1a.破産会社の配送業務に従事した者(原告ら)が、軽貨物自動車を保有して貨物運送事業を営む事業者であり、破産会社からの依頼に対しても諾否の自由を有し、また労務の代替性が認められ、仕事開始の時間の指定はあるが、依頼された仕事が終れば何時でも帰宅できるのであって、拘束時間の指定はなく、報酬も遠距離運送の場合は定額制で明らかに請負代金的な定め方をしていること、その他前認定にかかる実態に照らして判断すると、原告らの労務提供は、破産会社の指揮監督下での労働とみることはできず、むしろ指定された仕事の完成を目的とする請負契約であったと認めるのが相当であるとされた事例。
参照条文: /民法:306条;308条/t11.破産法:39条/
全 文 s610728nagoyaH.html

最高裁判所 昭和 61年 7月 17日 第1小法廷 判決 ( 昭和56年(オ)第756号 )
事件名:  損害金請求上告事件
要 旨
 1.土地の所有者が不法占拠者に対し土地の使用収益を妨げられていることによって受ける損害の賠償を求める請求権は、通常生ずべき損害及び特別事情によって生ずる損害を通じて一個の請求権であって、その履行を求める訴えにおいて、通常損害と特別損害のいずれか一方についてのみ判決を求める旨が明示されていない場合には、たとえ請求原因としてはその一方のみを主張しているにとどまるときであっても、一部請求であることが明示されているのと同視しうるような特段の事情の存在しない限り、これに対する判決の既判力は右請求権の全部に及び、新たに訴えを提起して、右請求を一部請求であったと主張し、他の一方の損害の賠償を求めることはできないものと解するのが相当である。(仮換地の不法占拠の事例)
 2.土地の所有者が不法占拠者に対し、将来給付の訴えにより、土地の明渡に至るまでの間、その使用収益を妨げられることによって生ずべき損害につき毎月一定の割合による損害金の支払を求め、その全部又は一部を認容する判決が確定した場合において、事実審口頭弁論の終結後に公租公課の増大、土地の価格の昂騰により、又は比隣の土地の地代に比較して、右判決の認容額が不相当となったときは、所有者は不法占拠者に対し、新たに訴えを提起して、前訴認容額と適正賃料額との差額に相当する損害金の支払を求めることができる。(仮換地の不法占拠の事例/明示の一部請求でないとされた事例) /既判力の客観的範囲/事情変更後の追加請求/黙示の一部請求/
参照条文: /民訴.114条/民訴.135条/民法:709条/
全 文 s610717supreme.html

最高裁判所 昭和 61年 7月 10日 第1小法廷 判決 ( 昭和58年(オ)第582号 )
事件名:  妨害排除等請求上告事件
要 旨: マンションの改修工事にともない、原告の部屋の外の壁面に出窓風の飾り物が設置され、原告がその飾り物の撤去をマンション管理組合に求めた場合に、「飾り物は外壁に強固に固定され、建物に附合しており(民法242条)、マンション所有者全員の共有に帰していて、管理組合にはその撤去の権限はない」との理由により管理組合の被告適格を否定して訴えを却下した原判決が否定された事例。
 1.給付の訴えにおいては、その訴えを提起する者が給付義務者であると主張している者に被告適格があり、その者が当該給付義務を負担するかどうかは本案請求の当否にかかわる事柄である。
 2.訴えを却下する控訴審判決に対して原告が上告を提起し、上告審が、訴えは適法であるが請求に理由のないことは明らかであると判断した場合には、民訴法396条、385条(現313条、304条)により、原判決を上告人に不利益に変更することは許されないので、原判決の結論を維持して上告を棄却するにとどめなければならない。 /不利益変更禁止原則/当事者適格/訴訟要件/正当な被告/
参照条文: /民訴.304条/民訴.313条/民法:242条/
全 文 s610710supreme.html

最高裁判所 昭和 61年 6月 11日 大法廷 判決 ( 昭和56年(オ)第609号 )
事件名:  損害賠償請求上告事件
要 旨
 北海道知事の立候補予定者の名誉を著しく害する文書の印刷・頒布を仮処分命令により差し止められた者が、仮処分命令の違法性等を主張して、国等に対して損害賠償を請求したが、請求が棄却された事例。
 出版物の印刷・頒布を禁ずる仮処分命令が憲法21条に反しないとされた事例。
 1.憲法21条2項前段にいう検閲とは、行政権が主体となつて、思想内容等の表現物を対象とし、その全部又は一部の発表の禁止を目的として、対象とされる一定の表現物につき網羅的一般的に、発表前にその内容を審査したうえ、不適当と認めるものの発表を禁止することをその特質として備えるものを指す。
 1a.仮処分による事前差止めは、個別的な私人間の紛争について、司法裁判所により、当事者の申請に基づき差止請求権等の私法上の被保全権利の存否、保全の必要性の有無を審理判断して発せられるものであつて、「検閲」には当たらない。
 2.名誉を違法に侵害された者は、人格権としての名誉権に基づき、加害者に対し、現に行われている侵害行為を排除し、又は将来生ずべき侵害を予防するため、侵害行為の差止めを求めることができる。
 3.事前差止の要件
 3a.(実体的要件)
 
 名誉権に基づく出版物の頒布等の事前差止めは、その対象が公務員又は公職選挙の候補者に対する評価、批判等の表現行為に関するものである場合には、その表現内容が真実でなく、又はそれが専ら公益を図る目的のものでないことが明白であつて、かつ、被害者が重大にして著しく回復困難な損害を被る虞があるときに限つて、例外的に許される。
 3b.(手続的要件)
 
 事前差止めを命ずる仮処分命令を発するについては、口頭弁論又は債務者の審尋を行い、表現内容の真実性等の主張立証の機会を与えることを原則とすべきであるが、差止めの対象が公共の利害に関する事項についての表現行為である場合においても、口頭弁論を開き又は債務者の審尋を行うまでもなく、債権者の提出した資料によつて、その表現内容が真実でなく、又はそれが専ら公益を図る目的のものでないことが明白であり、かつ、債権者が重大にして著しく回復困難な損害を被る虞があると認められるときは、口頭弁論又は債務者の審尋を経ないで差止めの仮処分命令を発したとしても、憲法21条の趣旨に反するとはいえない。 /仮の地位を定める仮処分/仮地位仮処分/満足的仮処分/断行仮処分/北方ジャーナル事件/
参照条文: /憲.21条/憲.13条/民保.23条2項/民保.23条4項/民法:1-2条/民法:198条/民法:199条/民法:709条/民法:710条/民法:723条/刑.230-2条/
全 文 s610611supreme.html

最高裁判所 昭和 61年 5月 30日 第2小法廷 判決 ( 昭和58年(オ)第516号 )
事件名:  損害賠償請求上告事件
要 旨
 1.他人が撮影した写真(アルプス山系において、スキーヤーらが雪山の斜面を波状のシユプールを描きつつ滑降している場景の写真)を素材として、その者の許諾を得ることなく作成・公表されたモンタージュ写真が、たとえパロデイと評価されうるとしても、その他人が著作者として有する写真の同一性保持権を侵害する改変であり、かつ、その著作者としてその者の氏名を表示しなかつた点において氏名表示権を侵害するものであるとされた事例。
 2.旧著作権法の下で、複製権を内容とする著作財産権と公表権、氏名表示権及び同一性保持権を内容とする著作者人格権とは、それぞれ保護法益を異にし、また、著作財産権には譲渡性及び相続性が認められ、保護期間が定められているが、著作者人格権には譲渡性及び相続性がなく、保護期間の定めがないなど、両者は、法的保護の態様を異にしており、したがつて、著作物に対する同一の行為により著作財産権と著作者人格権とが侵害された場合であつても、著作財産権侵害による精神的損害と著作者人格権侵害による精神的損害とは両立しうるものであつて、両者の賠償を訴訟上併せて請求するときは、訴訟物を異にする二個の請求が併合されているものであるから、被侵害利益の相違に従い著作財産権侵害に基づく慰謝料額と著作者人格権侵害に基づく慰謝料額とをそれぞれ特定して請求すべきである。
 3.旧著作権法36条ノ2は、著作者人格権の侵害をなした者に対して、著作者の声望名誉を回復するに適当なる処分を請求することができる旨規定するが、右規定にいう著作者の声望名誉とは、著作者がその品性、徳行、名声、信用等の人格的価値について社会から受ける客観的な評価、すなわち社会的声望名誉を指すものであつて、人が自己自身の人格的価値について有する主観的な評価、すなわち名誉感情は含まれない。 /知的財産権/無体財産権/著作権/
参照条文: /著作.17条/著作.19条/著作.20条/著作.21条/著作.115条/民訴.133条/
全 文 s610530supreme.html

最高裁判所 昭和 61年 4月 11日 第2小法廷 判決 ( 昭和57年(オ)第272号 )
事件名:  運送代金請求・上告事件
要 旨
 債権の譲受人が対抗要件を具備した後で債権差押命令・取立命令の送達により取立権限を取得した者に対して債務者が弁済をし、先に対抗要件を具備した譲受人が債務者に対して支払請求の訴えを提起し、控訴審判決を経て上告審係属中に債務者に対して破産手続が開始された場合に、上告審において給付の訴えを破産債権確定の訴えに変更することが許容され、債権の二重譲渡の場合に債務者が劣後譲受人にした弁済についても民法478条の規定の適用があり、劣後譲受人(差押債権者)への弁済について過失があるとして、弁済の効力が否定され、破産債権確定請求が認容された事例。
 1.債務者に対する金銭債権に基づく給付訴訟が上告審に係属中に、当該債務者が破産宣告を受け、破産管財人が、届け出られた当該債権につき異議を申し立てて、前記訴訟手続の受継をした場合には、当該訴訟の原告は、右債権に基づく給付の訴えを破産債権確定の訴えに変更することができる。
 2.二重に譲渡された指名債権の債務者が、民法467条2項所定の対抗要件を具備した他の譲受人(優先譲受人)より後にこれを具備した譲受人(劣後譲受人)に対してした弁済についても、同法478条の規定の適用がある(ここでいう「譲受人」には、債権の譲受人と同一債権に対し仮差押命令及び差押・取立命令の執行をした者を含む)。
 2a.民法467条2項の規定は、指名債権が二重に譲渡された場合、その優劣は対抗要件具備の先後によって決すべき旨を定めており、右の理は、債権の譲受人と同一債権に対し仮差押命令及び差押・取立命令の執行をした者との間の優劣を決する場合においても異ならない。(先例の確認)
 2b.民法478条所定の「善意」とは、弁済者において弁済請求者が真正の受領権者であると信じたことをいう。(善意が肯定された事例)
 2c. 債務者において、劣後譲受人が真正の債権者であると信じてした弁済につき過失がなかったというためには、優先譲受人の債権譲受行為又は対抗要件に瑕疵があるためその効力を生じないと誤信してもやむを得ない事情があるなど劣後譲受人を真の債権者であると信ずるにつき相当な理由があることが必要である。(無過失が否定された事例)
参照条文: /民事訴訟法:232条/破産法:244条1項;246条1項/民法:467条;478条/
全 文 s610411supreme.html

東京高等裁判所 昭和 61年 3月 27日 民事10部 判決 ( 昭和60年(ネ)第3256号 )
事件名:  配当金交付請求権存在確認請求控訴事件
要 旨
 抵当権が仮登記されたにすぎないため民執法91条1項5号により配当金が供託されたので、抵当権者が債務者を被告にして提起した配当金交付請求権存在確認請求の訴えを提起した場合に、他の債権者及び債務者から異議の申出がない場合でも、配当金交付請求権の存在を確認する必要があるとして、その訴えの利益が肯定された事例。
 1.仮登記抵当権者が既に仮登記が抹消されていることを自ら主張する以上、仮登記に基づく本登記手続を求めることはできないから、配当金の交付を受けるためには、登記義務者に対して直接当該配当金の交付(ないしは受領)請求権を有することの確認判決を得べき道を開くことを要し、かつ、それを以て足りる。 /訴えの客観的利益/確認の利益/
参照条文: /民執.91条1項5号/民訴.140条/
全 文 s610327tokyoH.html

東京高等裁判所 昭和 61年 3月 24日 民事第1部 判決 ( 昭和60年(ネ)第343号 )
事件名:  建物所有権移転登記手続、預り金請求控訴事件
要 旨
 1.原告(義父)夫婦が被告(娘婿)夫婦と同居することを希望し、新しく住宅(土地と建物)を購入することにしたが、原告が自宅を売却して得る資金だけでは不足するため、被告が財形ローンにより資金を調達し、土地について原告の単独名義で所有権移転登記がなされ、建物についてが被告の単独名義で所有権移転登記がなされた場合に、土地と建物のいずれも、原告と被告の拠出資金の割合(84:16)に応じた持分割合による共有物であるとされた事例。
 2.共有不動産の分割のために競売を命ずるに際して、第一審は、「売却代金から執行費用を控除した残額を持分の割合により分割し、被告の抵当債務を、まず被告分割金をもって配当し、なお債務に残額があるときはこれを原告の分割金中から配当し、残余の金員をそれ ぞれ原告・被告に交付することを命ずる」旨の主文を掲げたのに対し、控訴審が、「売却代金から執行費用を控除した金額を原告に100分の84、被告に100分の16ずつ分配することを命ずる」旨に変更し、第一審判決について「目的物件に設定されている抵当権が売却により消滅するものとすべきか否かは、本来、当該競売裁判所が同法の規定に基づき決定すべきものと解されるから、右抵当権の消滅を前提としたその余の部分は不相当であって取消しを免れない」と説示した事例。 /競売分割/競売による分割/
参照条文: /民法:258条/民事執行法:195条;59条;63条/
全 文 s610324tokyoH.html

最高裁判所 昭和 61年 3月 17日 第2小法廷 判決 ( 昭和59年(オ)第211号 )
事件名:  所有権移転請求権保全仮登記抹消登記手続等本訴、所有権移転請求権保全仮登記本登記手続反訴請求・上告事件
要 旨
 1.時効による債権消滅の効果は、時効期間の経過とともに確定的に生ずるものではなく、時効が援用されたときにはじめて確定的に生ずる。
 1a.農地の買主が売主に対して有する県知事に対する許可申請協力請求権の時効による消滅の効果も、10年の時効期間の経過とともに確定的に生ずるものではなく、売主が右請求権についての時効を援用したときにはじめて確定的に生ずる。
 1b.農地の買主が売主に対して有する県知事に対する許可申請協力請求権の時効完成後・その援用がされるまでの間に農地が非農地化したときには、非農地化の時点において、農地の売買契約は当然に効力を生じ、買主にその所有権が移転するものと解すべきであり、その後に売主が県知事に対する許可申請協力請求権の消滅時効を援用してもその効力を生ずるに由ないものというべきである。 /要件事実/
参照条文: /民法:144条;145条;167条1項;555条/農地法:3条1項/
全 文 s610317supreme.html

最高裁判所 昭和 61年 2月 20日 第1小法廷 判決 ( 昭和58年(オ)第881号 )
事件名:  求償債務履行請求上告事件
要 旨
 主債務の代位弁済者(原告)が主債務の連帯保証人(被告)に対して代位取得した保証債権の履行を請求した事案において、裁判所が保証債務履行請求を認容する場合には、代位弁済者の主債務者に対する求償権の存否・内容を確定したうえで、求償権の債権額が常に原債権の債権額を上回るものと認められる特段の事情のない限り、原告が主債務者に対して有する求償権の限度で被告に保証債務の履行を命じなければならないとして、上告審が、求償権の存否・内容を確定することなく保証債務履行請求を認容した原判決を破棄した事例。(注:代位弁済者は、担保不動産の第三取得者である)
 1.代位弁済者が代位取得した原債権と求償権とは、元本額、弁済期、利息・遅延損害金の有無・割合を異にすることにより総債権額が各別に変動し、債権としての性質に差違があることにより別個に消滅時効にかかるなど、別異の債権ではあるが、代位弁済者に移転した原債権及びその担保権は、求償権を確保することを目的として存在する附従的な性質を有し、求償権が消滅したときはこれによつて当然に消滅し、その行使は求償権の存する限度によつて制約されるなど、求償権の存在、その債権額と離れ、これと独立してその行使が認められるものではない。
 2.代位弁済者が原債権及び担保権を行使して訴訟においてその給付又は確認を請求する場合には、それによつて確保されるべき求償権の成立、債権の内容を主張立証しなければならず、代位行使を受けた相手方は原債権及び求償権の双方についての抗弁をもつて対抗することができ、また、裁判所が代位弁済者の原債権及び担保権についての請求を認容する場合には、求償権による右のような制約は実体法上の制約であるから、求償権の債権額が常に原債権の債権額を上回るものと認められる特段の事情のない限り、判決主文において代位弁済者が債務者に対して有する求償権の限度で給付を命じ又は確認しなければならない。 /請求権競合/
参照条文: /民法:501条/民訴.253条/
全 文 s610220supreme.html

最高裁判所 昭和 60年 11月 21日 第1小法廷 判決 ( 昭和53年(オ)第1240号 )
事件名:  損害賠償請求・上告事件
要 旨
 国会が在宅投票制度を公職選挙法の一部を改正する法律(昭和27年法律第307号)により廃止し、その後在宅投票制度を設けるための立法を行わなかったため、歩行が著しく困難であるのみならず車椅子に乗ることも著しく困難な状態にある原告が昭和43年から47年までの間に施行された合計8回の国会議員、北海道知事、北海道議会議員、小樽市長又は小樽市議会議員の選挙に際して投票をすることができなかった場合に、国会が在宅投票制度を復活しなかった立法行為(立法不作為)は、国家賠償法1条1項の適用上違法の評価を受けるものではないとされた事例。
 1.国会議員は、立法に関しては、原則として、国民全体に対する関係で政治的責任を負うにとどまり、個別の国民の権利に対応した関係での法的義務を負うものではない。
 1a.国会議員の立法行為は、立法の内容が憲法の一義的な文言に違反しているにもかかわらず国会があえて当該立法を行うというごとき、容易に想定し難いような例外的な場合でない限り、国家賠償法1条1項の規定の適用上、違法の評価を受けない。
 2.憲法47条は、「選挙区、投票の方法その他両議院の議員の選挙に関する事項は、法律でこれを定める。」と規定しているが、これは、投票の方法その他選挙に関する事項の具体的決定を原則として立法府である国会の裁量的権限に任せる趣旨である。
参照条文: /国賠.1条1項/公職選挙.49条1項/憲.13条/憲.14条1項/憲.15条/憲.44条/憲.47条/憲.51条/憲.93条/
全 文 s601121supreme.html

横浜地方裁判所 昭和 60年 10月 31日 第7民事部 判決 ( 昭和60年(ワ)第1454号 )
事件名:  配当金交付請求権存在確認請求事件
要 旨
 抵当権が仮登記されたにすぎないので民執法91条1項5号により配当金が供託されたため、抵当権者が債務者を被告にして配当金交付請求権存在確認請求の訴えを提起した場合に、他の債権者及び債務者から異議の申出がないことを理由に訴えの利益が否定され、訴えが却下された事例。
 1.配当期日において異議の申出のなかった仮登記債権者に対しては、その配当に充つべき金銭を供託したうえ他の債権者らに対し相当の期間を定めて仮登記債権者の債権・抵当権等を承認できない者は申出るよう催告し、その申出がない場合には、期間の経過により供託事由が消滅したものとして供託金を仮登記債権者に配当すべきものとし、期間内に争う趣旨の申出があれば仮登記債権者から申出人を相手にして仮登記債権者が供託金受領権のあることの確認を求める訴えを提起させ、原告勝訴の判決が確定した場合に供託事由が消滅したものとして扱うべきである。 /訴えの客観的利益/確認の利益/
参照条文: /民執.81条1項5号/民訴.140条/
全 文 s601031yokohamaD.html

最高裁判所 昭和 60年 10月 23日 大法廷 判決 ( 昭和57年(あ)第621号 )
事件名:  福岡県青少年保護育成条例違反被告事件(上告事件)
要 旨
 被告人が中学を卒業したばかりの初対面の少女を、それと知りながらドライブに誘い、海岸で駐車させた自動車の中で「俺の女にならんか」と言っていきなり性交をしたのを手始めに性交を重ね、しかも二人が会っている間は専ら性交に終始しており、結婚の話などしたことはまったくなかったという事実関係の下で、被告人が当時高校1年在学中の16歳のその少女とホテル「エンゼル」の客室で性交したことが、被告人において少女を単に自己の性的欲望を満足させるための対象として扱つているとしか認められないような性行為をした場合に該当するものというほかないから、福岡県青少年保護育成条例一〇条一項で禁止されている「淫行」に当たるとした控訴審の判断が正当とされた事例。
 1.福岡県青少年保護育成条例の各規定の趣旨及びその文理等に徴すると、本条例10条1項の規定にいう「淫行」とは、広く青少年に対する性行為一般をいうものと解すべきではなく、青少年を誘惑し、威迫し、欺罔し又は困惑させる等その心身の未成熟に乗じた不当な手段により行う性交又は性交類似行為のほか、青少年を単に自己の性的欲望を満足させるための対象として扱つているとしか認められないような性交又は性交類似制為をいうものと解するのが相当である。
 1a.「何人も、青少年に対し、淫行又はわいせつの行為をしてはならない」と規定する福岡県青少年保護育成条例10条1項にいう「淫行」を上記のように解訳することは通常の判断能力を有する一般人の理解にも適うものであり、「淫行」の意義を右のように解釈するときは、同規定につき処罰の範囲が不当に広過ぎるとも不明確であるともいえないから、同規定および同規定違反行為を処罰の対象とする16条1項が憲法31条の規定に違反するものとはいえない。
参照条文: /福岡県青少年保護育成条例.10条1項/福岡県青少年保護育成条例.16条1項/憲.31条/
全 文 s601023supreme91.html

最高裁判所 昭和 60年 9月 17日 第3小法廷 判決 ( 昭和60年(オ)第347号 )
事件名:  売買代金等請求・上告事件
要 旨
 F社に勤務している者ら(被告ら)が、D社の取締役に就任しているものの、給与、報酬等何らの金員の支払を受けたこともなく、またD社の事務所に出勤したこともない場合に、右事務所は被告らの就業する場所に当たらないものというべきであり、右事務所における補充送達は有効な送達と認めることはできないとされた事例。
 1.民訴法169条2項(現103条2項)所定の送達を受けるべき者の就業する場所とは、受送達者が現実に業務についている場所をいう。
参照条文: /t15.民事訴訟法:169条2項;171条2項/
全 文 s600917supreme.html

最高裁判所 昭和 60年 7月 19日 第2小法廷 判決 ( 昭和58年(オ)第1548号 )
事件名: 
要 旨
 1
 物上代位の目的債権(転売代金債権)について一般債権者が差押又は仮差押の執行をしたにすぎないときは、その後に先取特権者(動産売主)が目的債権に対し物上代位権を行使することは妨げられない
 2
 転付命令が第三債務者に送達される時までに、転付命令に係る金銭債権について、他の債権者が差押、仮差押の執行又は配当要求をした場合でも、転付命令を得た者が物上代位権を行使した先取特権者であるなど優先権を有する債権者であるときは、右転付命令は、その効力を生ずる。
 3
 差押命令の送達と転付命令の送達とを競合して受けた第三債務者が民事執行法一五六条二項に基づいてした供託は、転付命令が効力を生じているため法律上差押の競合があるとはいえない場合であつても、第三債務者に転付命令の効力の有無についての的確な判断を期待しえない事情があるときは、同項の類推適用により有効であると解するのが相当である。
 4
 転付命令が効力を生じないとの解釈のもとに、転付債権者を含む全差押債権者に対し、その各債権額に応じて配分する配当表が作成されたときは、転付債権者は、配当期日における配当異議の申出、さらには配当異議の訴えにより、転付命令に係る債権につき優先配当を主張して配当表の変更を求めることができる。
参照条文: /民法:304条/民法:322条/民執.156条2項/民執159条3項/民執.166条2項/民執.89条/民執.90条/
全 文 s600719supreme.html

東京高等裁判所 昭和 60年 6月 25日 民事第8部 判決 ( 昭和54年(ネ)第1293号 )
事件名:  求償金請求控訴事件
要 旨
 1.訴訟告知による参加的効力が否定された事例:
 交通事故の加害者に対する損害賠償請求の前訴において、加害者が被害者の診療に当たった病院に訴訟告知をしたが、病院が原告(被害者の遺族)側に補助参加し、前訴裁判所が交通事故と医療過誤との競合(異時的共同不法行為)を認定し、全損害の賠償請求を認容した場合に、加害者の病院に対する求償請求の後訴の裁判所が、前訴判決中の病院の医療過誤を認めた判断は傍論に過ぎず、この判断に訴訟告知による参加的効力を認めることはできないとした事例(病院の医療行為と被害者の死亡との間の因果関係も証明されないとして、求償請求棄却)。
 2.補助参加人と被参加人の相手方との間で参加的効力を認めることができないとされた事例。
 3.補助参加人と相手方当事者との間に後訴が予想され、両者間に判決の拘束力を認めないと二重敗訴の事態を生ずる危険がある場合には、補助参加人がその訴訟活動を十分に行いえたこと等を要件として前訴の判決の判断内容につき後訴への拘束力を認めるべきだとの主張が排斥された事例。
参照条文: /民訴.46条/民訴.53条/
全 文 s600625tokyoH.html

最高裁判所 昭和 60年 5月 23日 第1小法廷 判決 ( 昭和56年(オ)第1175号 )
事件名:  配当異議・上告事件
要 旨
 1.共同根抵当の目的である債務者所有の不動産と物上保証人所有の不動産にそれぞれ債権者を異にする後順位抵当権が設定されている場合において、物上保証人所有の不動産について先に競売がされ、その競落代金の交付により一番抵当権者が弁済を受けたときは、物上保証人は債務者に対して求償権を取得するとともに、代位により債務者所有の不動産に対する一番抵当権を取得するが、物上保証人所有の不動産についての後順位抵当権者は物上保証人に移転した右抵当権から債務者所有の不動産についての後順位抵当権者に優先して弁済を受けることができる。(先例の確認)
 1a.この場合に、債務者所有の不動産と物上保証人所有の不動産について共同根抵当権を有する債権者が物上保証人と根抵当権設定契約を締結するにあたり、物上保証人が弁済等によつて取得する権利は、債権者と債務者との取引が継続している限り債権者の同意がなければ行使しない旨の特約をしても、かかる特約は、後順位抵当権者が物上保証人の取得した抵当権から優先弁済を受ける権利を左右するものではない。
 2.債権者が物上保証人の設定にかかる抵当権の実行によつて債権の一部の満足を得た場合、物上保証人は、民法502条1項の規定により、債権者と共に債権者の有する抵当権を行使することができるが、この抵当権が実行されたときには、その代金の配当については債権者が優先する。 /弁済者代位/
参照条文: /民法:500条/民法:501条/民法:502条/民執.85条5項/
全 文 s600523supreme.html

最高裁判所 昭和 60年 3月 27日 大法廷 判決 ( 昭和55年(行ツ)第15号 )
事件名:  所得税決定処分取消請求上告事件
要 旨
 旧所得税法が必要経費の控除について事業所得者等と給与所得者との間に区別を設け、前者は実額控除とし、後者は概算控除としたことは、合理的なものであり、憲法14条1項の規定に違反するものではないとされた事例。
 1.憲法14条1項は、国民に対し絶対的な平等を保障したものではなく、合理的理由なくして差別することを禁止する趣旨であつて、国民各自の事実上の差異に相応して法的取扱いを区別することは、その区別が合理性を有する限り、何ら右規定に違反するものではない。
 2.(判断基準)
 租税法の定立については、国家財政、社会経済、国民所得、国民生活等の実態についての正確な資料を基礎とする立法府の政策的、技術的な判断にゆだねるほかはなく、裁判所は、基本的にはその裁量的判断を尊重せざるを得ず、所得の性質の違い等を理由とする取扱いの区別は、その立法目的が正当なものであり、かつ、当該立法において具体的に採用された区別の態様が右目的との関連で著しく不合理であることが明らかでない限り、その合理性を否定することができず、これを憲法一四条一項の規定に違反するものということはできない。
 2a.(立法目的の正当性)
 旧所得税法が給与所得に係る必要経費につき実額控除を排し、代わりに概算控除の制度を設けた目的は、給与所得者と事業所得者等との租税負担の均衡に配意しつつ、様々な弊害を防止することにあることが明らかであるところ、租税負担を国民の間に公平に配分するとともに、租税の徴収を確実・的確かつ効率的に実現することは、租税法の基本原則であるから、右の目的は正当性を有する。
 2b.(立法目的との関連における制度の合理性)
 立法目的との関連において、旧所得税法が具体的に採用する給与所得控除の制度が合理性を有するかどうかは、給与所得控除の額が給与所得に係る必要経費の額との対比において相当性を有するかどうかにかかり、そして、本件訴訟における全資料に徴しても、給与所得者において自ら負担する必要経費の額が一般に法所定の給与所得控除の額を明らかに上回るものと認めることは困難であつて、相当性を欠くことが明らかであるということはできない。
 3.(補足率の較差)
 所得の捕捉の不均衡の問題は、原則的には、税務行政の適正な執行により是正されるべき性質のものであつて、捕捉率の較差が正義衡平の観念に反する程に著しく、かつ、それが長年にわたり恒常的に存在して租税法制自体に基因していると認められるような場合であれば格別、そうでない限り、捉率の較差の存在をもつて本件課税規定が憲法一四条一項の規定に違反するということはできない。
参照条文: /憲.14条1項/所得税./
全 文 s600327supreme.html

最高裁判所 昭和 60年 3月 15日 第2小法廷 判決 ( 昭和58年(オ)第749号 )
事件名:  土地所有権確認等請求並びに同参加・上告事件
要 旨
 原告(X)の被告(Y)に対する所有権確認請求等の訴訟への当事者参加人(Z)がXY双方に対して所有権確認請求を定立した後、XがYZの同意擬制のもとにYに対する訴えを取下げた場合に、Zの主張を争わなかったXに対する参加人請求を認容し、Yに対する参加人請求を棄却した控訴審判決に対してZがXY双方を被上告人にして上告を提起した事案において、ZのXに対する上告は上告の利益を欠き不適法であるとされた事例。(上告理由によれば、ZはXから係争土地を買い受けた者である。/通常共同訴訟への転化/紛争の相対的解決/)
 1.係属中の訴訟に独立当事者参加の申立があった場合、当該訴訟の原告は、当該訴訟から脱退することができるほか、被告及び参加人の双方の同意を得て訴えを取り下げることができる。

 1a.独立当事者参加後の原告の訴え取下げによって、当該訴訟は三面訴訟関係を消失し、参加人と原告との間及び参加人と被告との間の単純な二当事者対立訴訟関係に転化する。

 1b.三面訴訟において原告が訴えを取り下げた場合、参加人との関係でも民訴法236条6項(訴え取下げの同意の擬制)の規定の適用がある。
参照条文: /t15.民事訴訟法:71条;236条6項;61条/
全 文 s600315supreme.html

東京地方裁判所 昭和 60年 3月 8日 民事第29部 判決 ( 昭和59年(ワ)第12619号 )
事件名: 
要 旨
 1.コンピュータゲームソフトの複製権侵害を理由とする損害賠償請求および差止請求が認められた事例(被告欠席事例)。
 2.原告が、コンピュータゲームソフト「ディグダダ」は映画の著作部に該当すると共に、そのオブジェクトプログラムはプログラムの著作物に該当すると主張し、被告欠席事件において裁判所がこれを否定しなかった事例。 /知的財産権/無体財産権/著作権/
参照条文: /著作.21条/著作.2条1項10-2号/著作.2条3項/著作.112条/
全 文 s600308tokyoD.html

最高裁判所 昭和 60年 2月 12日 第3小法廷 判決 ( 昭和59年(オ)第885号 )
事件名:  求償債権等請求・上告事件
要 旨
 1.委託を受けた保証人が民法459条1項後段の規定に基づき主たる債務者に対して取得する求償権(事後求償権)は、免責行為をしたときに発生し、かつ、その行使が可能となるものであるから、その消滅時効は、委託を受けた保証人が免責行為をした時から進行する。
 1a.上記のことは、保証人が事前求償権を取得している場合であっても異ならない。
 2.事前求償権は事後求償権とその発生要件を異にするうえ、事前求償権については、事後求償権については認められない抗弁が付着し、また、消滅原因が規定されている(同法461条参照)ことに照らすと、両者は別個の権利である。
参照条文: /民法:166条/民法:459条/民法:460条/民法:461条/
全 文 s600212supreme.html

名古屋高等裁判所 昭和 60年 1月 24日 民事第2部 決定 ( 昭和59年(ラ)第118号 )
事件名: 
要 旨
 1
 民法389条の趣旨からみて、抵当権設定後に第三者が抵当地上の建物を築造した場合であっても、当該第三者がその後抵当土地の譲渡を受けた場合には、土地の抵当権設定者が建物を築造した場合と何等異なるところなく、右建物について抵当権者に民法389条に基づく競売権を認めるのが相当である。
 2
 民法389条は抵当権者に一括競売権を賦与したにすぎず、その義務を課したものではない。
 (建物一括競売権)
参照条文: /民法:388条/民法:389条/民執.181条/民執.182条/
全 文 s600124nagoyaH.html

最高裁判所 昭和 59年 12月 21日 第2小法廷 判決 ( 昭和58年(オ)第934号 )
事件名:  不当利得金返還請求・上告事件
要 旨
 1.民法703条の規定に基づき不当利得の返還を請求する者は、利得者が「法律上ノ原因ナクシテ」当該利得をしたとの事実を主張・立証すべき責任を負う。 /主張立証責任/証明責任/主張責任/挙証責任/立証責任/
参照条文: /民法:703条/
全 文 s591221supreme.html

最高裁判所 昭和 59年 12月 12日 大法廷 判決 ( 昭和57年(行ツ)第156号 )
事件名:  輸入禁制品該当通知処分等取消請求上告事件
要 旨
 原告が、自己あての外国からの郵便物中に関税定率法21条1項3号(現4号)所定の物件に該当すると認めるのに相当の理由がある貨物があるとして、函館税関長の委任を受けた札幌税関支署長から同条三項の規定による通知を受け、右郵便物の配達又は交付を受けられなくなったことを不服として、同税関支署長のした通知等の取消しを求める訴えを提起したが、棄却された事例。
 1.貨物が輸入禁制品たる「公安又は風俗を害すべき書籍、図画、彫刻物その他の物品」に該当すると認めるのに相当の理由がある旨の税関長の通知は、実質的な拒否処分(不許可処分)として機能しているものということができ、右の通知及び異議の申出に対する決定(関税定率法21条5項)は、抗告訴訟の対象となる行政庁の処分及び決定に当たる。
 2.憲法21条2項前段が検閲の禁止について特別の規定を設けたのは、検閲がその性質上表現の自由に対する最も厳しい制約となるものであることにかんがみ、これについては公共の福祉を理由とする例外の許容(憲法12条、13条参照)をも認めない趣旨を明らかにしたものと解すべきである。
 2a.憲法21条2項にいう「検閲」とは、行政権が主体となって、思想内容等の表現物を対象とし、その全部又は一部の発表の禁止を目的として、対象とされる一定の表現物につき網羅的一般的に、発表前にその内容を審査した上、不適当と認めるものの発表を禁止することを、その特質として備えるものを指す。
 2b.関税定率法21条1項3号(現4号)の「公安又は風俗を害すべき」物件に関する税関検査は、憲法21条2項にいう「検閲」に当たらない。
 3.猥褻表現物がみだりに国外から流入することを阻止することは、公共の福祉に合致するものであり、税関検査による猥褻表現物の輸入規制は、憲法21条1項の規定に反するものではない。
 3a.関税定率法21条1項3号にいう「風俗を害すべき書籍、図画」等との規定を合理的に解釈すれば、右にいう「風俗」とは専ら性的風俗を意味し、右規定により輸入禁止の対象とされるのは猥褻な書籍、図画等に限られるものということができ、このような限定的な解釈が可能である以上、右規定は、何ら明確性に欠けるものではなく、憲法21条1項の規定に反しない合憲的なものというべきである。
 3b.表現の自由を規制する法律の規定の合憲性の判定にあたってその規定の限定解釈をすることが許されるのは、その解釈により、規制の対象となるものとそうでないものとが明確に区別され、かつ、合憲的に規制し得るもののみが規制の対象となることが明らかにされる場合でなければならず、また、一般国民の理解において、具体的場合に当該表現物が規制の対象となるかどうかの判断を可能ならしめるような基準をその規定から読みとることができるものでなければならない。 /わいせつ/
参照条文: /憲.21条/定率.21条/
全 文 s591212supreme.html

仙台高等裁判所 昭和 59年 12月 10日 第3民事部 判決 ( )
事件名:  保証債務履行請求控訴事件
要 旨
 民法第117条は、本人側の責任を原因とする表見代理によつては保護を受けることのできない場合の相手方を救済し、もつて取引の安全を確保しようとするものであるから、同条第二項の相手方の過失は、悪意に近いほどの重大な過失を指す。
参照条文: /民法:117条1項/民法:117条2項/
全 文 s591210sendaiH.html

東京高等裁判所 昭和 59年 9月 21日 第17民事部 決定 ( 昭和59年(ラ)第414号 )
事件名: 
要 旨
 不動産引渡命令に対する執行抗告においては、競売事件記録上表われていない事由を主張することはできない。
参照条文: /民執.83条/
全 文 s590921tokyoH.html

最高裁判所 昭和 59年 5月 29日 第3小法廷 判決 ( 昭和56年(オ)1166号 )
事件名:  不正競争行為差止等本訴、損害賠償反訴請求上告事件
要 旨
 ナシヨナル・フツトボール・リーグ・プロパテイーズ・インコーポレーテツド(NFLP)の管理するアメリカ合衆国のナシヨナル・フツトボール・リーグに加盟しているプロフツトボールチームの名称及びシンボルマークを表示した組立ロッカーを販売することが、不正競争行為に該当するとされた事例。
 1.ある商品表示が不正競争防止法1条1項2号所定の他人の商品表示と類似のものにあたるか否かについては、取引の実情のもとにおいて、取引者又は需要者が両表示の外観、称呼又は観念に基づく印象、記憶、連想等から両表示を全体的に類似のものと受け取るおそれがあるか否かを基準として判断すべきものである。
 2.不正競争防止法1条1項1号又は2号所定の他人には、特定の表示に関する商品化契約によつて結束した同表示の使用許諾者、使用権者及び再使用権者のグループのように、同表示の持つ出所識別機能、品質保証機能及び顧客吸引力を保護発展させるという共通の目的のもとに結束しているものと評価することのできるようなグループも含まれる。
 2a.右各号所定の混同を生ぜしめる行為には、周知の他人の商品表示又は営業表示と同一又は類似のものを使用する者が、自己と右他人とを同一の商品主体又は営業主体と誤信させる行為のみならず、自己と右他人との間に同一の商品化事業を営むグループに属する関係が存するものと誤信させる行為をも包含し、混同を生ぜしめる行為というためには両者間に競争関係があることを要しない。
 3.意匠に係る物品の販売行為が形式的には意匠権の行使と認められるものであつても、それが権利の濫用にあたるものであるときには、右物品の販売行為は、不正競争防止法6条所定の意匠法による権利の行使には該当しない。
 4.不正競争防止法1条1項柱書所定の営業上の利益を害されるおそれがある者には、周知表示の商品化事業に携わる周知表示の使用許諾者及び許諾を受けた使用権者であつて、同項1号又は2号に該当する行為により、再使用権者に対する管理統制、周知表示による商品の出所識別機能、品質保証機能及び顧客吸引力を害されるおそれのある者も含まれる。
参照条文: /不正競争.1条1項1号/不正競争1条1項2号/不正競争6条/意匠.6条/民法:1条3項/
全 文 s590529supreme.html

最高裁判所 昭和 59年 5月 29日 第3小法廷 判決 ( 昭和55年(オ)第351号 )
事件名:  配当異議・上告事件
要 旨
 保証人が、債務者との間で求償権について法定利率と異なる約定利率をし、物上保証人との間で民法501条但書5号の定める割合と異なる特約をした場合でも、約定による求償権の範囲内で、保証債務の履行により代位取得した原債権と根抵当権を行使することができるとされた事例。
 1.弁済による代位の制度は、代位弁済者が債務者に対して取得する求償権を確保するために、法の規定により弁済によって消滅すべきはずの債権者の債務者に対する債権(原債権)及びその担保権を代位弁済者に移転させ、代位弁済者がその求償権の範囲内で原債権及びその担保権を行使することを認める制度である。
 1a. 代位弁済者が弁済による代位によって取得した担保権を実行する場合において、その被担保債権として扱うべきものは、原債権であって、保証人の債務者に対する求償権でない。
 2.民法459条2項によって準用される同法442条2項の規定は、任意規定であって、保証人と債務者との間で法定利息に代えて法定利率と異なる約定利率による代位弁済の日の翌日以後の遅延損害金を支払う旨の特約をすることを禁ずるものではない。
 2a.保証人が代位によって行使できる原債権の額の上限は、これらの利害関係人に対する関係において、約定利率による遅延損害金を含んだ求償権の総額によって画されるものというべきである。
 3.代位弁済者は、代位によって原債権を担保する根抵当権等の担保権を取得することについて、後順位抵当権者等の利害関係人との間で物権的な対抗問題を生ずる関係に立つことはないというべきである。
 3a. 物上保証人及び保証人が代位の割合について民法501条但書5号の定める割合と異なる特約をし、これによってみずからその間の利害を具体的に調節している場合にまで、同号の定める割合によらなければならないものと解すべき理由はなく、同号が保証人と物上保証人の代位についてその頭数ないし担保不動産の価格の割合によって代位するものと規定しているのは、特約その他の特別な事情がない一般的な場合について規定しているにすぎず、同号はいわゆる補充規定であると解するのが相当である。
 3b.物上保証人との間で民法501条但書5号の定める割合と異なる特約をした保証人は、後順位抵当権者等の利害関係人に対しても特約の効力を主張することができ、その求償権の範囲内で右特約の割合に応じ抵当権等の担保権を行使することができる。 /配当異議/
参照条文: /民法:177条;442条2項;459条;501条/
全 文 s590529supreme2.html

最高裁判所 昭和 59年 5月 17日 第1小法廷 判決 ( 昭和58年(オ)第333号 )
事件名:  建物収去土地明渡・上告事件
要 旨
 借地契約終了後の建物収去土地明渡請求及び地代相当額の損害金請求の訴訟が控訴審に係属している段階で被告が破産宣告を受け、被告の破産管財人が訴訟手続を受継した場合に、控訴審が全部の請求に認容したところ、破産宣告の前日までの損害金請求権は破産債権であるから、破産債権としての届出及び債権調査における異議がある場合に限り受継を認めるべきであるとして、破棄差戻しがなされた事例。(建物収去土地明渡請求権は取戻権になり、破産宣告の日以降の損害金請求権は財団債権になり、それらに関する訴訟は破産法69条1項により破産管財人が受継する。)
 1.建物収去土地明渡請求及び賃料相当損害金請求の訴訟の事実審係属中に被告(債務者)が破産宣告を受けた場合、損害金請求のうち破産宣告の日の前日までの損害金の請求に係る訴訟は、破産法69条にいう破産財団に属する財産に関する訴訟にあたらず、同法246条所定の破産債権の確定を求める訴訟となるべきものであるから、その受継は同法246条、244条2項、247条によってすることを要する。
 1a.上記の場合に、事実審は、係争債権を破産債権とする届出があり、かつ、債権調査期日において異議があったか否かを職権により調査すべきであり、それが認められる場合に限り、その異議のあった限度で、当該異議者との間で訴訟手続を受継させ、かつ、請求の趣旨を破産債権の確定の請求に変更することを促すべきである。 /職権調査事項/
参照条文: /t11.破産法:69条;244条;246条;247条/t15.民事訴訟法:214条;218条/
全 文 s590517supreme.html

最高裁判所 昭和 59年 4月 10日 第3小法廷 判決 ( 昭和58年(オ)第152号 )
事件名:  損害賠償請求・上告事件
要 旨
 宿直勤務中の従業員が侵入者(夜間窃盗目的で訪問し退去しなかった元従業員)によって殺害された場合に、使用者の安全配慮義務違反が認定され、損害賠償が命じられた事例。
 1.雇傭契約は、労働者の労務提供と使用者の報酬支払をその基本内容とする双務有償契約であるが、通常の場合、労働者は、使用者の指定した場所に配置され、使用者の供給する設備、器具等を用いて労務の提供を行うものであるから、使用者は、右の報酬支払義務にとどまらず、労働者が労務提供のため設置する場所、設備もしくは器具等を使用し又は使用者の指示のもとに労務を提供する過程において、労働者の生命及び身体等を危険から保護するよう配慮すべき義務(安全配慮義務)を負う。
 1a.使用者の右の安全配慮義務の具体的内容は、労働者の職種、労務内容、労務提供場所等安全配慮義務が問題となる当該具体的状況等によって異なるべきものである。
 2.使用者が従業員一人に対し午前9時から24時間の宿直勤務を命じ、宿直勤務の場所を本件社屋内、就寝場所を同社屋一階商品陳列場と指示した場合に、宿直勤務の場所である本件社屋内に、宿直勤務中に盗賊等が容易に侵入できないような物的設備を施し、かつ、万一盗賊が侵入した場合は盗賊から加えられるかも知れない危害を免れることができるような物的施設を設けるとともに、これら物的施設等を十分に整備することが困難であるときは、宿直員を増員するとか宿直員に対する安全教育を十分に行うなどし、もって右物的施設等と相まって宿直勤務をする労働者の生命、身体等に危険が及ばないように配慮する義務があったとされた事例。
参照条文: /民法:415条;623条/
全 文 s590410supreme.html

最高裁判所 昭和 59年 3月 29日 第1小法廷 判決 ( 昭和58年(行ツ)第10号 )
事件名:  交付要求取消請求・上告事件
要 旨
 1.破産法人の清算中の事業年度の所得に係る予納法人税について国税徴収法82条の規定によりなされる交付要求は、行政事件訴訟法3条2項にいう「行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為」に該当するものでなく、右交付要求の取消を求める訴えは不適法である。
参照条文: /行政事件訴訟法:3条2項/国税徴収法:82条/
全 文 s590329supreme.html

最高裁判所 昭和 59年 2月 2日 第1小法廷 判決 ( 昭和56年(オ)第927号 )
事件名: 
要 旨
 動産売買の先取特権者は、債務者が破産宣告を受けた場合であつても、転売代金債権を差し押えて物上代位権を行使することができる。
 (差押え)
参照条文: /民法:304条1項/民法:322条/破産.7条/破産.92条/破産.95条/
全 文 s590202supreme.html

最高裁判所 昭和 59年 1月 20日 第2小法廷 判決 ( 昭和58年(オ)第171号 )
事件名:  書籍所有権侵害禁止請求上告事件<「顔真卿自書建中告身帖」事件>
要 旨
 1.著作権の消滅後に第三者が有体物としての美術の著作物(「顔真卿自書建中告身帖」)の原作品に対する排他的支配権能をおかすことなく原作品の著作物の面を利用したとしても、右行為は、原作品の所有権を侵害するものではないというべきである。 /知的財産権/無体財産権/著作権/
参照条文: /民法:206条/著作.2条1項1号/著作.45条1項/著作.47条/著作.51条/
全 文 s590120supreme.html

最高裁判所 昭和 58年 12月 19日 第2小法廷 判決 ( 昭和55年(オ)第909号 )
事件名:  土地建物所有権移転請求権仮登記抹消登記手続請求・上告事件
要 旨
 保証債務の担保のために自己の不動産上に抵当権を設定している保証人が、主債務者について開始された破産手続の同時廃止後・保証債務履行前に、主債務者に対する事前求償権を自働債権にして主債務者に対して負っている債務と相殺しようとしたが、事前求償権をもって相殺することはできないとされた事例。
 1.保証人が民法460条に基づいて主たる債務者に対して取得するいわゆる事前求償権は、法定相殺における自働債権としての要件に欠け、保証人はこれを相殺の用に供しえない。
 2.右の理は、主たる債務者が支払能力に欠け、保証人がその所有不動産について主たる債務者の債務を被担保債務として債権者のために担保権を設定している場合においても、これをもって債権者が債権全額の弁済を受けたことと同一視しえない以上、なお、主たる債務者に対し前記抗弁権行使の機会を与える必要性があるから、妥当する。
参照条文: /民法:460条;505条/
全 文 s581219supreme2.html

最高裁判所 昭和 58年 12月 19日 第2小法廷 判決 ( 昭和57年(オ)第798号 )
事件名:  詐害行為取消請求・上告事件
要 旨
 離婚に伴う財産分与が詐害行為にならないとされた事例。
 1.離婚における財産分与は、夫婦が婚姻中に有していた実質上の共同財産を清算分配するとともに、離婚後における相手方の生活の維持に資することにあるが、分与者の有責行為によつて離婚をやむなくされたことに対する精神的損害を賠償するための給付の要素をも含めて分与することを妨げられない。(傍論)
 1a.離婚による財産分与については、分与者が既に債務超過の状態にあつて当該財産分与によつて一般債権者に対する共同担保を減少させる結果になるとしても、それが民法七六八条三項の規定の趣旨に反して不相当に過大であり、財産分与に仮託してされた財産処分であると認めるに足りるような特段の事情のない限り、詐害行為として、債権者による取消の対象となりえない。(判旨)
 1b.有責配偶者である夫名義の不動産(宅地)の妻への財産分与が、その取得について妻の寄与が大であること、離婚後の妻と子供の生活の基盤となつていること等を考慮して、離婚に伴う慰藉料を含めた財産分与として相当なものであり、離婚当時夫が債務超過の状態にあったとしても、夫の債権者に対する詐害行為にならないとされた事例。
参照条文: /民法:424条;768条/
全 文 s581219supreme.html

最高裁判所 昭和 58年 10月 7日 第2小法廷 判決 ( 昭和57年(オ)第658号 )
事件名:  商号使用差止等請求上告事件
要 旨
 1.ある営業表示が不正競争防止法1条1項2号(現2条1項1号)にいう他人の営業表示と類似のものか否かを判断するに当たつては、取引の実情のもとにおいて、取引者、需要者が、両者の外観、称呼、又は観念に基づく印象、記憶、連想等から両者を全体的に類似のものとして受け取るおそれがあるか否かを基準として判断するのを相当とする。
 2.事務処理請負業の領域において営業を行う会社について、原告の商号「マンパワー・ジヤパン株式会社」及びその通称である「マンパワー」という名称と、被告の商号「日本ウーマン・パワー株式会社」とが類似していると判断された事例。
 3.不正競争防止法1条1項2号(現2条1項1号)にいう「混同ヲ生ゼシムル行為」は、他人の周知の営業表示と同一又は類似のものを使用する者が同人と右他人とを同一営業主体として誤信させる行為のみならず、両者間にいわゆる親会社、子会社の関係や系列関係などの緊密な営業上の関係が存するものと誤信させる行為をも包含する。(マンパワー・ジヤパン株式会社と日本ウーマン・パワー株式会社とについて肯定された事例)
 (知的財産権/無体財産権/不正競争防止法)
参照条文: /不正競争.2条1項1号/不正競争.3条/
全 文 s581007supreme.html

名古屋地方裁判所 昭和 58年 10月 7日 民事第5部 判決 ( 昭和57年(ワ)第3591号 )
事件名:  求償金請求事件
要 旨
 主債務者に対する貸金債権(弁済期日:昭和52年5月17日)の受託保証人(信用保証協会)が昭和52年12月9日に保証債務を履行したことによる求償権について、昭和57年11月16日に求償金請求の訴えが提起された場合に、被告が、原告の求償権は代位弁済により原告に移転した原債権であり、その消滅時効の起算点は原債権の弁済期であると主張し、商事債権の短期消滅時効が完成しているとの抗弁を提出したが、抗弁が認められなかった事例。
 1.保証人の事後求償権は保証人がその代位弁済によつて独自に取得した債権と解すべきであつて、債権者の主債務者に対する債権が保証人に移転したものではない。
 1a.弁済による代位として弁済者に移転するのは、求償権の効力を確保するための担保権その他の権利であり、弁済によって消滅した筈の債権そのものではない。(接木説) /弁済者代位/代位取得/
参照条文: /民法:459条1項;500条;501条/
全 文 s581007nagoyaD.html

最高裁判所 昭和 58年 10月 6日 第1小法廷 判決 ( 昭和54年(オ)第719号 )
事件名:  損害賠償請求上告事件
要 旨
 名誉侵害の被害者が破産し、被害者により慰謝料請求訴訟が提起され、その訴訟の係属中に破産終結決定がなされ、そして被害者が死亡した場合について、慰謝料請求権は破産財団には属さず、相続人が訴訟を承継し、当事者適格を有するとされた事例。
 1.名誉侵害を理由とする慰藉料請求権は、被害者が請求権行使の意思を表示しただけでいまだその具体的な金額が当事者間において客観的に確定しない間は、被害者がなおその請求意思を貫くかどうかをその自律的判断に委ねるのが相当であるから、右権利はなお一身専属性を有し、被害者の債権者は、これを差押えの対象としたり、債権者代位の目的とすることはできない。
 1a.名誉侵害を理由とする慰藉料請求権も、加害者が被害者に対し一定額の慰藉料を支払うことを内容とする合意又はかかる支払を命ずる債務名義が成立したなど具体的な金額の請求権として当事者間において客観的に確定したとき、または、それ以前の段階でも、被害者が死亡したときは、被害者の主観的意思から独立した客観的存在としての金銭債権となり、被害者の債権者においてこれを差し押えることができるし、また、債権者代位の目的とすることができる。
 2.破産終結の決定がされたのちに行使上の一身専属性を失なうに至つた慰藉料請求権については、破産法283条1項後段の適用がないと解するのが相当であるから、この慰藉料請求権がこの条項により破産財団に帰属する余地はない。 /追加配当の原資/
参照条文: 民事訴訟法:202条/破産法:6条;283条1項/
全 文 s581006supreme.html

東京地方裁判所 昭和 58年 9月 26日 民事14部 判決 ( 昭和53年(ワ)第8317号 )
事件名:  取立債権請求事件
要 旨
 Aが将来第三者に負う債務についてBが連帯保証人となる旨の保証委託契約並びにAがBに対して負うことになる求償債務についてCがAの連帯保証人となる旨の連帯保証契約がA・B・Cの三者間で締結され、CのBに対する預金債権をD(徴税機関)が差し押さえた後にBが第三者に対する保証債務を履行し、Cに対する保証債務履行請求権を自働債権として預金債務と相殺する旨の意思表示をした場合に、その相殺を差押債権者Dに対抗することができるかが争われたが、受働債権の差押え前に自働債権たる保証債務履行請求権が発生していなかったことを理由に、相殺をDに対抗できないとされた事例。
 求償債務について連帯保証がなされた場合に、事前求償権の発生を理由とする保証債務履行請求権の発生が多様に主張されたが、受働債権の差押え前における事前求償権の発生がすべて否定され、保証債務履行請求権を自働債権とする相殺を差押債権者に対抗できないとされた事例。
 1.相殺をなし得るには、差押えがなされた時点において自働債権が発生していることを要し、単に自働債権発生の原因たる法律関係が発生しているだけでは足りない。
 1a.債権者Bが主債務者Aに対して将来取得することのある債権(求償権)についてCが保証人になった場合に、保証人Cの債権者Bに対する預金債権が差し押さえられた後に、債権者Bが被保証債権である求償権(Aに対する事後求償権)を取得しても、別段の特約がないときは、Bは、保証債務履行請求権(自働債権)と預金債権(受働債権)との相殺を差押債権者に対抗することができない。
 2.求償債務の連帯保証人が滞納処分等を受けたときは債権者が連帯保証人に請求すれば求償債務者と連帯保証人に事前償還義務が発生する旨の特約がなされていた場合に、連帯保証人が滞納処分を受けたことは認定されたが、債権者が連帯保証人に対して請求したとの事実は認定できないとされた事例。(自由心証主義)
 3.AがBに対して負うことになる求償債務についてCが連帯保証人となり、AがBに対して負う債務のいずれかについて弁済期に債務を弁済しないときにはBはAに対して事前求償権を取得することの特約がなされていた場合に、Bがこの事前求償権の発生を理由とするBのCに対する保証債務履行請求権の発生を主張して、これとCのAに対する預金債権(被差押債権)との相殺を主張したが、AのBに対する債務の履行期到来前に、Aの第三者に対する債務についてBの同意を得て期限の猶予が与えられていて、その新期限がCのAに対する債権の差押え後であることを理由に、前記特約に基づく事前求償債務の保証債務の履行請求権と被差押債権との相殺を差押債権者に対抗できないとされた事例。
 3a.主債務者が保証人に対する債務の弁済期を懈怠した場合には、保証人は主債務者に対して事前求償することができるとの特約は、主債務者の特定の具体的な信用悪化の事態の顕現を要件として、保証人にいわゆる事前求償権を当然に発生せしめる特約であって、この特約の有効性は、その後に受働債権を差し押さえた債権者に対する関係においても妥当する。
 3b.(黙示的判断)
 民法460条2号ただし書は、保証人の同意を得て主債務者が期限の猶予を得た場合には適用されないとされた事例。
参照条文: /民法:459条;460条;511条;137条/民事訴訟法:247条/
全 文 s580926tokyoD.html

最高裁判所 昭和 58年 9月 6日 第3小法廷 判決 ( 昭和55年(オ)第1113号 )
事件名:  損害賠償請求・上告事件
要 旨
 交通事故の損害賠償請求が認容される場合に、弁護士費用が相当因果関係のある損害と認められた事例。
 1.不法行為の被害者が自己の権利擁護のため訴えを提起することを余儀なくされ、訴訟追行を弁護士に委任した場合には、その弁護士費用は、事案の難易、請求額、認容された額その他諸般の事情を斟酌して相当と認められる額の範囲内のものに限り、右不法行為と相当因果関係に立つ損害であり、被害者が加害者に対しその賠償を求めることができる。(先例の確認)
 2.不法行為に基づく損害賠償債務は、なんらの催告を要することなく、損害の発生と同時に遅滞に陥る。(先例の確認)
 3.弁護士費用に関する前記損害は、被害者が当該不法行為に基づくその余の費目の損害の賠償を求めるについて弁護士に訴訟の追行を委任し、かつ、相手方に対して勝訴した場合に限つて、弁護士費用の全部又は一部が損害と認められるという性質のものである。
 4.弁護士費用につき不法行為の加害者が負担すべき損害賠償債務も、不法行為の時に発生し、かつ、遅滞に陥るものと解するのが相当であるが、損害の額については、被害者が弁護士費用につき不法行為時からその支払時までの間に生ずることのありうべき中間利息を不当に利得することのないように算定すべきである。
参照条文: /民訴.709条/民法:416条/
全 文 s580906supreme.html

最高裁判所 昭和 58年 6月 22日 大法廷 判決 ( 昭和52年(オ)第927号 )
事件名:  損害賠償請求上告事件
要 旨
 東京拘置所長が、公安事件関係の被告人として拘禁されている者について、赤軍派学生によって敢行された航空機乗つ取り事件に関する新聞記事の全部を抹消する措置をとったことが違法ではないとされた事例。
 1.監獄は、多数の被拘禁者を集団として管理するにあたって、内部における規律及び秩序を維持し、その正常な状態を保持する必要があるから、この目的のために必要がある場合に、未決勾留によって拘禁された者についてもその身体的自由及びその他の行為の自由に一定の制限が加えられることは、やむをえないところであり、これらの自由に対する制限が必要かつ合理的なものとして是認されるかどうかは、この目的のために制限が必要とされる程度と、制限される自由の内容及び性質、これに加えられる具体的制限の態様及び程度等を較量して決せられるべきものである。
 2.人が、自由に、さまざまな意見、知識、情報に接し、これを摂取する機会をもつことは、その者が個人として自己の思想及び人格を形成・発展させ、社会生活の中にこれを反映させていくうえにおいて欠くことのできないものであり、また、民主主義社会における思想及び情報の自由な伝達、交流の確保という基本的原理を真に実効あるものたらしめるためにも、必要なところである。
 2a.人が、これらの意見、知識、情報の伝達の媒体である新聞紙、図書等の閲読の自由が憲法上保障されるべきことは、思想及び良心の自由の不可侵を定めた憲法19条の規定や、表現の自由を保障した憲法21条の規定の趣旨、目的から、いわばその派生原理として当然に導かれるところであり、また、すべて国民は個人として尊重される旨を定めた憲法13条の規定の趣旨に沿うゆえんでもある。
 2b.未決勾留により監獄に拘禁されている者の新聞紙、図書等の閲読の自由については、逃亡及び罪証隠滅の防止という勾留の目的のためのほか、監獄内の規律及び秩序の維持のために必要とされる場合にも、一定の制限を加えられる。
 2c.未決勾留は、刑事司法上の目的のために必要やむをえない措置として一定の範囲で個人の自由を拘束するものであり、他方、これにより拘禁される者は、当該拘禁関係に伴う制約の範囲外においては、原則として一般市民としての自由を保障されるべき者であるから、監獄内の規律及び秩序の維持のためにこれら被拘禁者の新聞紙、図書等の閲読の自由を制限することが許されるためには、当該閲読を許すことにより右の規律及び秩序が害される一般的、抽象的なおそれがあるというだけでは足りず、被拘禁者の性向、行状、監獄内の管理、保安の状況、当該新聞紙、図書等の内容その他の具体的事情のもとにおいて、その閲読を許すことにより監獄内の規律及び秩序の維持上放置することのできない程度の障害が生ずる相当の蓋然性があると認められることが必要であり、かつ、その場合においても、右の制限の程度は、右の障害発生の防止のために必要かつ合理的な範囲にとどまるべきものと解するのが相当である。
 3.監獄法31条2項、監獄法施行規則86条1項、法務大臣訓令及び法務省矯正局長依命通達は、その文言上はかなりゆるやかな要件のもとで制限を可能としているようにみられるけれども、上に述べた要件及び範囲内でのみ閲読の制限を許す旨を定めたものと解するのが相当であり、かつ、そう解することも可能であるから、右法令等は、憲法に違反するものではないとしてその効力を承認することができる。
参照条文: /憲.21条/憲.19条/憲.13条/監獄.31条2項/監獄施規.86条1項/
全 文 s580622supreme.html

最高裁判所 昭和 58年 6月 7日 第3小法廷 判決 ( 昭和57年(オ)第826号 )
事件名:  執行判決請求・上告事件
要 旨
 アメリカ合衆国コロンビア特別行政区の金銭の支払を命ずる判決が日本において承認された事例。
 1.大正15年民訴法200条(現118条)4号に定める「相互ノ保証アルコト」とは、判決をした外国裁判所の属する国(判決国)において、我が国の裁判所がしたこれと同種類の判決が同条各号所定の条件と重要な点で異ならない条件のもとに効力を有するものとされていることをいうものと解するのが相当である。(大審院判例の変更)
 2.我が国と判決国との間の相互の保証の有無についての判断にあたっても、同条3号の規定は、外国裁判所の判決の内容のみならずその成立も我が国の「公ノ秩序又ハ善良ノ風俗」に反しないことを要するとしたものと解するのが相当である。 /判例変更/外国判決の承認/執行判決/接管轄/
参照条文: /t15.民事訴訟法:200条/
全 文 s580607supreme.html

最高裁判所 昭和 58年 4月 14日 第1小法廷 判決 ( 昭和57年(オ)第1023号 )
事件名:  損害賠償請求・上告事件(破棄差戻)
要 旨
 1.乙請求とともに選択的に併合された甲請求につきその一部を認容し、原告のその余の請求を棄却した第一審判決に対し、被告が控訴の申立をし、原告が控訴及び附帯控訴の申立をしなかつた場合でも、控訴審としては、第一審判決の甲請求の認容部分を取り消すべきであるとするときには、乙請求の当否につき審理判断し、これが理由があると認めるときには第一審判決の甲請求の認容額の限度で乙請求を認容すべきであり、乙請求を全部理由がないと判断すべきときに至つてはじめて原告の請求を全部棄却しうるものと解すべきである。
参照条文: /t15.民事訴訟法:227条;385条/
全 文 s580414supreme.html

最高裁判所 昭和 58年 4月 1日 第2小法廷 判決 ( 昭和57年(行ツ)第11号 )
事件名:  土地売買無効確認請求上告事件
要 旨
 1.数人の住民が地方公共団体に代位して提起する地方自治法242条の2第1項4号所定の訴訟は、その一人に対する判決が確定すると、その効力が当該地方公共団体に及び、他の者もこれに反する主張をすることができなくなるという関係にあるから、民訴法62条1項(現40条1項)にいう「訴訟の目的が共同訴訟人の全員について合一にのみ確定すべき場合」(必要的共同訴訟)に当たる。
 1a.類似必要的共同訴訟たる住民訴訟にあっても、必要的共同訴訟人の一部が控訴を提起した場合に、控訴審は第一審の共同訴訟人全員を名宛人として一個の終局判決をすべきであり、控訴を提起した者のみを控訴人としてした判決は、違法である。(破棄理由。反対意見あり) /類似必要的共同訴訟/上訴人/
参照条文: /民訴.40条1項/
全 文 s580401supreme.html

最高裁判所 昭和 58年 3月 31日 第1小法廷 判決 ( 昭和57年(オ)第1394号 )
事件名:  約束手形金、債務不存在確認請求上告事件
要 旨
 債務者が手形金債務不存在確認請求の訴えを提起し、その後に債権者が手形金支払請求の訴えを提起し、両者を併合審理した第一審裁判所が手形金支払請求一部認容判決をしつつ、債務不存在確認の訴えについて訴えの利益を否定して訴えを却下した場合に、控訴審が債務不存在確認の訴えの利益を肯定して原判決を取り消した後、事件を原審に差し戻すことなく本案について自判したことが民訴法388条(現307条本文)に違反しないとされた事例。 /審級の利益/
参照条文: /民訴.307条/
全 文 s580331supreme.html

最高裁判所 昭和 58年 3月 22日 第3小法廷 判決 ( 昭和57年(オ)第1068号 )
事件名:  貸金等請求・上告事件
要 旨
 1.主位的請求を棄却し予備的請求を認容した第一審判決に対し、第一審被告のみが控訴し、第一審原告が控訴も附帯控訴もしない場合には、主位的請求に対する第一審の判断の当否は控訴審の審判の対象となるものではない。
参照条文: /t15.民事訴訟法:385条/
全 文 s580322supreme.html

最高裁判所 昭和 58年 3月 18日 第2小法廷 判決 ( 昭和56年(オ)第542号 )
事件名:  損害賠償請求・上告事件
要 旨
 所有権留保売買の目的動産につき、買主から譲渡担保権の設定を受けたが現実の引渡を受けていない者が、売主に対し、電話で、買主の未払残代金債務を支払う旨を申し入れ、その額を確認するまでの間動産の処分を猶予するよう要請し、売主がこれに応じるかのような態度を示していたときでも、売主が猶予する旨を約したのでない限り、売主が右動産を他に処分しても譲渡担保権の侵害にはあたらず、売主は譲渡担保権者に対しその担保権の喪失による損害を賠償する責を負わないとされた事例。
 1.所有権留保売買の目的動産が買主によって譲渡担保に供された後に買主が代金支払を怠った場合に、譲渡担保権者は、留保売主に対して残代金を支払う旨を電話で知らせていても、留保売主による目的物処分前に残代金を提供しなければ、留保売主に対し譲渡担保権を主張できない。
参照条文: /民法:128条;134条;342条;555条;709条/
全 文 s580318supreme.html

最高裁判所 昭和 58年 2月 24日 第1小法廷 判決 ( 昭和57年(オ)第1322号 )
事件名:  第三者異議上告事件
要 旨
 1.当事者の一方が適法な呼出を受けながら口頭弁論期日に出頭しない場合に、裁判所が口頭弁論を経て審理を終結し、裁判長において判決言渡期日を指定して該期日に出頭すべき旨を当事者に告知したときは、その告知は、民訴207条、190条2項[現122条、251条2項]により在廷しない当事者に対してもその効力を有するものであるから、更にその者に対して右判決言渡期日に出頭すべき旨の呼出状を送達することを要しない。
 2.譲渡担保権者は、特段の事情がないかぎり、譲渡担保権者たる地位に基づいて目的物件に対し譲渡担保権設定者の一般債権者がした民事執行法122条の規定による強制執行の排除を求めることができる。 /第三者異議の訴え/
参照条文: /民事執行法:38条;122条/t15.民事訴訟法:207条;190条2項/
全 文 s580224supreme.html

最高裁判所 昭和 58年 2月 24日 第1小法廷 判決 ( 昭和56年(オ)第1154号 )
事件名:  損害賠償請求・上告事件
要 旨
 精神障害者(37歳)について保護義務者の選任がなされておらず、禁治産後見人も付されていない場合に、その者が他人に傷害を負わせたことについて、同居中の両親が民法714条の責任を負わないとされた事例。
参照条文: /民法:713条;714条/精神衛生法;20条1項;20条2項;22条;23条;24条/
全 文 s580224supreme2.html

名古屋高等裁判所 昭和 57年 12月 22日 民事第2部 判決 ( 昭和57年(ネ)第101号 )
事件名:  請負代金請求・控訴事件
要 旨
 下請会社が孫請会社に対して負っていた請負代金債務を元請会社が下請会社の破産宣告後に孫請会社に支払った場合に、その支払は事務管理として弁済したものであり、これにより元請会社は破産者に対して求償権を取得するが、この求償権と元請会社が破産会社に対して負っていた請負代金債務とを相殺することは許されないとされた事例。
 1.破産宣告後に破産者の債務者が破産債権者に破産者のための事務管理として弁済したことに基づく求償権を自働債権とする相殺は、これを有効と認めるならば、破産債権は破産手続によらずして弁済されたのと同じ結果を容認することになる上、これはあたかも破産宣告後に他人の破産債権を取得し、これを自働債権として相殺をなす場合と異ならないのであってかかる相殺は破産法104条3号[平成16年破産法72条1項1号]により禁止されていることが明らかであるから、その効力を認めることはできない。
参照条文: /破産法:72条1項1号/民法:702条/
全 文 s571222nagoyaH.html

最高裁判所 昭和 57年 12月 17日 第2小法廷 判決 ( 昭和56年(オ)第477号 )
事件名:  求償金請求上告事件
要 旨
 連帯債務者の一人が弁済その他の免責の行為をするに先立ち、他の連帯債務者に通知することを怠つた場合は、既に弁済しその他共同の免責を得ていた他の連帯債務者に対し、民法443条2項の規定により自己の免責行為を有効であるとみなすことはできない。
参照条文: /民法:443条/
全 文 s571217supreme.html

最高裁判所 昭和 57年 12月 2日 第1小法廷 判決 ( )
事件名:  昭和54年(オ)第670号
要 旨
 被用者の金員横領発覚後・被害額判明前に使用者が被用者の妻の父にその旨を告げて締結させた身元保証契約と題する契約について、前記横領もこの契約の対象になることを前提にして、この契約は身元保証に関する法律5条(保証責任の範囲)にいう身元保証にあたるものと解するのが相当であるから、裁判所は同条により一切の事情を斟酌して保証人のこの契約に基づく損害賠償の額を定めることができるとされた事例。(身元保証人が使用者に対して有していた貸金の返還請求訴訟において、使用者が身元保証契約に基づく賠償請求権(反対債権)との相殺を主張した事例である)
参照条文: /身元保証ニ関スル法律:1条;5条/
全 文 s571202supreme.html

最高裁判所 昭和 57年 10月 19日 第3小法廷 判決 ( 昭和56年(オ)第767号 )
事件名:  損害賠償請求本訴、同反訴・上告事件
要 旨
 1.民法724条所定の3年の時効期間の計算についても、同法138条により同法140条の適用があるから、損害及び加害者を知つた時が午前零時でない限り、時効期間の初日はこれを算入すべきものではない。
 2.明示の一部請求ではないとして、債権全体について消滅時効の中断が認められた事例。 /要件事実/
参照条文: /民法:138条;140条;724条/t15.民事訴訟法:235条/
全 文 s571019supreme.html

最高裁判所 昭和 57年 10月 14日 第1小法廷 判決 ( 昭和53年(オ)第994号 )
事件名:  第三者異議・上告事件
要 旨
 一定の場所に所在する「商品(酒類・食料品等)、運搬具、什器、備品、家財一切」を目的とする譲渡担保契約が締結された場合に、本来内容の変動を予定していない物件(運搬具、什器、備品、家財)について、譲渡担保契約が契約成立の要件としての目的物の外部的、客観的な特定を欠くとして、動産執行債権者に対する譲渡担保権者の第三者異議が棄却された事例。 /集合動産の譲渡担保/動産抵当/
参照条文: /民法:369条/
全 文 s571014supreme.html

最高裁判所 昭和 57年 7月 7日 大法廷 判決 ( 昭和51年(行ツ)第30号 )
事件名:  行政処分取消等請求上告事件
要 旨
 1.障害福祉年金と児童扶養手当との併給を禁じた児童扶養手当法(昭和48年法律第93号による改正前のもの)4条3項3号は、憲法25条に違反しない。
 2.障害福祉年金と児童扶養手当との併給を禁じた児童扶養手当法(昭和48年法律第93号による改正前のもの)4条3項3号は、憲法14条・13条に違反しない。
参照条文: /憲.25条/憲.14条/憲.13条/児童福祉法/
全 文 s570707supreme.html

札幌高等裁判所 昭和 57年 6月 18日 第4部 決定 ( 昭和57年(ラ)第23号 )
事件名:  売却不許可決定に対する執行抗告事件
要 旨
 期日入札が売却方法とされた不動産競売事件において、買受申出保証額が最低売却価額3656万円の約2割にあたる732万円と定められ、その旨公告されていたが、執行官が入札期日に買受希望者に対して入札書用紙とともに配布した保証金提出袋には注意事項として、「保証金は、入札価額の2割以上の現金に限ります。」との記載がなされていたため、買受希望者の一人が、それまでは前記公告により保証の額は732万円と考えていたが、保証金提出袋の前記記載により、買受申出には入札価額の2割に相当する保証の提出を要するとの誤信に陥つたことから、当初予定していた入札価額を切り下げて、所持金740万円の5倍にあたる3700万円の金額で入札したところ、これよりも高額の買受申出をした者が執行官により最高価買受申出人とされた場合に、売却の手続に重大な誤りがあるとの理由により売却が不許可となった事例(第一審の売却不許可決定に対する最高価買受申出人の執行抗告が棄却された事例)。
参照条文: /民事執行法:66条;71条7号;188条/
全 文 s570618sapporoD.html

最高裁判所 昭和 57年 5月 27日 第1小法廷 判決 ( 昭和56年(オ)第1277号 )
事件名:  離婚等請求再審上告事件
要 旨
 離婚等請求訴訟において敗訴判決を受けた被告が再審の訴えを提起して、原告が被告の勤務場所を知っていたにもかかわらず公示送達がなされたと主張し、≪民訴420条(現338条)1項3号は、当事者の責に帰し得ない事由に基づく欠席のまま受けた判決にも類推されるべきである≫と主張したが、再審原告が主張する事由は同号の再審事由に該当しないとされた事例。
参照条文: /民訴.338条1項3号/民訴.110条1項/
全 文 s570527sureme.html

東京高等裁判所 昭和 57年 4月 22日 第6民事部 判決 ( 昭和52年(ネ)第827号 )
事件名: 
要 旨
 1.旧著作権法の下にあつても、現行著作権法第15条が規定するように、法人等の発意に基づきその法人等の業務に従事する者において職務上作成する著作物で、その法人等がその著作名義のもとに公表するものと認められるものについては、その著作物の著作者は別段の定めがない限り、その法人等であつて、その法人等が原始的に著作権を取得するものと解するのが相当である。
 2.旧著作権法下において国の機関である在外財産調査会が編纂した「日本人の海外活動に関する歴史的調査」の著作者が国あり、国が原始的に著作権を取得したとされた事例。
 3.著作物「日本人の海外活動に関する歴史的調査」が、旧著作権法一一条第一号に規定する「官公文書」に該当せず、著作権の保護を受けるとされた事例。
 4.著作権に基づく差止請求権の行使に対して、国民の知る権利等を根拠に権利濫用であるとの抗弁が主張されたが、認められなかった事例。
 (知的財産権/無体財産権/著作権)
参照条文: /著作.13条/著作.15条/著作.112条/
全 文 s570422tokyoH.html

最高裁判所 昭和 57年 3月 30日 第3小法廷 判決 ( 昭和54年(オ)第110号 )
事件名:  約束手形金請求上告事件
要 旨
 手形所持人が白地手形に基づいて手形金請求の訴えを提起したところ、手形要件の欠缺を理由とする請求棄却の判決が確定するに至つたのち、その者が白地部分を補充した手形に基づいて再度前訴の被告に対し手形金請求の訴えを提起した場合において、手形所持人が前訴の事実審の最終の口頭弁論期日以前に白地補充権を有しており、これを行使したうえ手形金の請求をすることができたにもかかわらずこれを行使しなかつた場合には、右期日ののちに該手形の白地部分を補充しこれに基づき後訴を提起して手形上の権利の存在を主張することは、特段の事情の存在が認められない限り、前訴判決の既判力によつて遮断され、許されない。 /既判力の標準時/標準時後の形成権の行使/白地補充権/
参照条文: /手形.10条/手形.77条2項/民執.35条2項/民訴.114条1項/
全 文 s570330supreme2.html

最高裁判所 昭和 57年 3月 30日 第3小法廷 判決 ( 昭和51年(オ)第538号 )
事件名:  実用新案権に基づく損害賠償請求・上告事件
要 旨
 1.実用新案登録に係る考案が、その登録出願時において新規性を有しなかつたことを理由として右登録を無効とすべき旨の審決の確定したことは、その審決取消訴訟について判決をした最高裁判所の小法廷にとって、顕著であるとされた事例。
 2.考案が登録出願時において新規性を有しなかつたとの理由により実用新案登録を無効とすべき旨の審決が確定した場合において、その実用新案権が初めから存在しなかつたものとみなされることは、実用新案法41条によつて準用される特許法125条本文の規定により明らかであるとして、実用新案権侵害を理由とする損害賠償請求が棄却されるべきであるとされた事例。 /裁判所に顕著な事実/
参照条文: /t15.民事訴訟法:257条/特許法:125条/
全 文 s570330supreme3.html

最高裁判所 昭和 57年 3月 12日 第2小法廷 判決 ( 昭和56年(オ)第811号 )
事件名:  物品引渡等請求上告事件
要 旨
 1.抵当権者の搬出物回復請求権
 
 
 工場抵当法2条の規定により工場に属する土地又は建物とともに抵当権の目的とされた動産が、抵当権者の同意を得ないで、備え付けられた工場から搬出された場合には、第三者において即時取得をしない限りは、抵当権者は搬出された目的動産をもとの備付場所である工場に戻すことを求めることができる。 /抵当権者の物上請求権/
参照条文: /民法:369条/工場抵当.2条/
全 文 s570312supreme.html

最高裁判所 昭和 57年 1月 29日 第2小法廷 判決 ( 昭和55年(オ)第666号 )
事件名:  破産債権確定請求・上告事件
要 旨
 1.執行力のある債務名義又は終局判決を有しない破産債権者は、破産債権の届出により破産手続に参加し破産債権者としてその権利を行使していることになるのであって、債権調査期日において破産管財人又は他の債権者から異議が述べられても、破産債権者は依然として権利を行使していることに変りはなく、右異議は、単に破産債権の確定を阻止する効力を有するにとどまり、これによって破産債権届出の時効中断の効力になんら消長を及ぼすものではない。
 1a.破産債権者の届出債権について、債権調査期日において破産管財人又は他の債権者から異議が述べられた場合には、届出が実質上その効力を失うという意味において、民法一五二条にいう「其請求カ却下セラレタルトキ」に該当するとの見解を採用した原判決が破棄された事例。
参照条文: /民法:152条/t11.破産法:240条1項;261条;182条2項/
全 文 s570129supreme.html

最高裁判所 昭和 57年 1月 22日 第2小法廷 判決 ( 昭和55年(オ)第153号 )
事件名:  所有権移転登記手続請求・上告事件
要 旨
 不動産を譲渡担保に供した者が被担保債務の弁済期から20年を経過した後に債務を弁済して目的不動産の所有権移転登記を請求した場合に、受戻権は20年の消滅時効に服する形成権であり、時効完成後にした弁済によって目的不動産を受け戻すことはできないとした原判決が、破棄された事例。
 1.不動産を目的とする譲渡担保契約において、債務者が債務の履行を遅滞したときは、債権者は、目的不動産を処分する権能を取得し、この権能に基づいて、当該不動産を適正に評価された価額で自己の所有に帰せしめること、又は相当の価格で第三者に売却等をすることによつて、これを換価処分し、その評価額又は売却代金等をもつて自己の債権の弁済に充てることができるが、他方、債務者は、債務の弁済期の到来後も、債権者による換価処分が完結するに至るまでは、債務を弁済して目的物を取り戻すことができる。
 2.債務者による受戻の請求は、債務の弁済により債務者の回復した所有権に基づく物権的返還請求権ないし契約に基づく債権的返還請求権、又はこれに由来する抹消ないし移転登記請求権の行使として行われるものというべきであるから、債務の弁済と右弁済に伴う目的不動産の返還請求権等とを合体して、これを一個の形成権たる受戻権であるとの法律構成をする余地はなく、したがつてこれに民法167条2項の規定を適用することは許されない。
参照条文: /民法:167条/
全 文 s570122supreme.html

最高裁判所 昭和 57年 1月 21日 第1小法廷 判決 ( 昭和54年(オ)第1244号 )
事件名:  損害賠償請求上告事件
要 旨
 土地の売買契約において、売買の対象である土地の面積が表示された場合でも、その表示が代金額決定の基礎としてされたにとどまり売買契約の目的を達成するうえで特段の意味を有するものでないときは、売主は、当該土地が表示どおりの面積を有したとすれば買主が得たであろう利益について、その損害を賠償すべき責めを負わない。 /土地値上り益/履行利益の賠償請求/数量指示売買/
参照条文: /民法:563条3項/民法:565条/
全 文 s570121supreme.html

最高裁判所 昭和 56年 12月 17日 第1小法廷 判決 ( 昭和53年(オ)第1463号 )
事件名:  第三者異議・上告事件
要 旨
 昭和50年4月9日にDがXに対する債務の担保のためにその所有機械(本件機械)をXに譲渡し(譲渡担保権の設定)、Xが、昭和51年3月5日に執行証書の執行正本に基づき本件機械を差し押さえ、その後本件機械を搬出して、昭和52年2月25日にG会社との間で再譲渡担保契約を締結したところ、同年8月20日YがDに対する債権の取立てのために本件機械について照査手続をした事案において、XのYを被告とする第三者異議が認容された事例。
 1.譲渡担保権者は、特段の事情がないかぎり、譲渡担保権者たる地位に基づいて目的物件に対し譲渡担保権設定者の一般債権者がした強制執行の排除を求めることができる。
 2.譲渡担保権者は、その目的物件につき自己の債権者(G)のために更に譲渡担保権を設定した後においても、譲渡担保権設定者(原設定者)の一般債権者がした強制執行に対し譲渡担保権者たる地位に基づいてその排除を求める権利も依然としてこれを保有している。
参照条文: /民法:369条(動産譲渡担保への類推適用)/t15.民事訴訟法:549条1項/
全 文 s561217supreme.html

最高裁判所 昭和 56年 12月 16日 大法廷 判決 ( 昭和51年(オ)第395号 )
事件名:  大阪国際空港夜間飛行禁止等請求上告事件
要 旨
 1.民事上の請求として一定の時間帯につき航空機の離着陸のためにする国営空港の供用の差止めを求める訴えは、不適法である。(大阪国際空港の事例)
 2.営造物の利用の態様及び程度が一定の限度にとどまる限りはその施設に危害を生ぜしめる危険性がなくても、これを超える利用によつて利用者又は第三者に対して危害を生ぜじめる危険性がある状況にある場合には、そのような利用に供される限りにおいて右営造物につき国家賠償法二条一項にいう設置又は管理の瑕疵があるものというべきである。
 3.当該空港に離着陸する航空機の騒音がその頻度及び大きさにおいて一定の程度に達しており、また、空港周辺住民の一部により右騒音を原因とする空港供用差止請求等の訴訟が提起され、主要日刊新聞紙上に当該空港周辺における騒音問題が頻々として報道されていたなど、判示のような状況のもとに空港周辺地域に転入した者が空港の設置・管理者たる国に対し右騒音による被害について慰藉料の支払を求めたのに対し、特段の事情の存在を確定することなく、転入当時右の者は航空機騒音が問題になつている事情ないしは航空機騒音の存在の事実をよく知らなかつたものとし、右請求を排斥すべき理由はないとした原審の認定判断には、経験則違背等の違法がある。
 4.現在不法行為が行われており、同一態様の行為が将来も継続することが予想されても、損害賠償請求権の成否及びその額をあらかじめ一義的に明確に認定することができず、具体的に請求権が成立したとされる時点においてはじめてこれを認定することができ、かつ、右権利の成立要件の具備については債権者がこれを立証すべきものと考えられる場合には、かかる将来の損害賠償請求権は、将来の給付の訴えを提起することのできる請求権としての適格性を有しない。 /継続的不法行為/公害/危険への接近/騒音公害/訴訟要件/将来給付請求/夜間飛行禁止請求/将来給付の訴え/請求適格/訴えの客観的利益/訴えの利益/
参照条文: /国賠.2条1項/民訴.135条/民訴.140条/憲.17条/
全 文 s561216supreme.html

最高裁判所 昭和 56年 10月 16日 第2小法廷 判決 ( 昭和55年(オ)第130号 )
事件名:  損害賠償請求上告事件
要 旨
 1.国際裁判管轄を直接規定する法規も、条約も、一般に承認された明確な国際法上の原則もない現状のもとにおいては、国際裁判管轄の有無は、当事者間の公平、裁判の適正・迅速を期するという理念により条理にしたがつて決定するのが相当であり、日本の民訴法の規定する裁判籍のいずれかがわが国内にあるときは、被告の国籍、所在のいかんを問わず、被告をわが国の裁判権に服させるのが右条理に適う。
 2.マレーシア国内で締結された運送契約により搭乗した航空機がマレーシア国内で墜落したため生じた損害の賠償を求めて日本に住所を有する者が提起する訴訟について、被告がマレーシア連邦会社法に準拠して設立され、同国内に本店を有する会社であっても、日本における代表者を定めて営業所を有している場合には、日本は国際裁判管轄を有する。
 3.上告審においては、当事者は原審が国内の任意管轄に関する規定に違背することを主張することが許されない(第一審が国際裁判管轄の欠如を理由に訴えを却下し、控訴審が国際裁判管轄を肯定して事件を差し戻す判決をした場合に、その判決の上告審で控訴審の第一審管轄裁判所に関する判断の当否を争うことはできない)。 /訴訟要件/
参照条文: /法例.7条/民訴5条1号/民訴5条5号/民訴4条4項/民訴299条/民訴.313条/
全 文 s561016supreme.html

最高裁判所 昭和 56年 9月 11日 第2小法廷 判決 ( 昭和54年(オ)第1208号 )
事件名:  遺言無効確認・上告事件
要 旨
 1
 遺言無効確認訴訟における確認の利益の存否を判断するにあたつては、原則として、原告の相続分が被相続人から受けた生前贈与等によりなくなるか否かを考慮すべきものではない。
 2
 単に相続分及び遺産分割の方法を指定したにすぎない遺言の無効確認を求める訴は、固有必要的共同訴訟にあたらない。
 3
 同一の証書に二人の遺言が記載されている場合は、そのうちの一方につき氏名を自書しない方式の違背があるときでも、右遺言は、民法975条により禁止された共同遺言にあたる。
参照条文: /民法:902条;903条;908条;968条1項;975条;985条/t15.民事訴訟法:62条;225条/
全 文 s560911supreme.html

東京高等裁判所 昭和 56年 8月 25日 判決 ( 昭和56年(行ケ)3号 )
事件名:  審決取消請求事件
要 旨
 特許を受ける権利の共有者の一人が特許法14条但書の選定代表者となって出願手続をしたところ、拒絶査定がなされ、これに対して代表者が審判請求した場合に、共有者全員でなすべきことを定める特許法132条3項に違反していることを理由に審査請求を却下した審決が正当であるとされた事例。
 1a.特許法第14条は、同条但書きに基づいて「代表者選定届」を提出した場合については、同条本文に掲げる手続以外の手続について代表者が全員を代表することができる旨を定めたものであり、審判の請求等同条本文に掲げる手続についてもの代表者が全員を代表できる旨を定めたものではない。
 1b.特許法第158条の規定が審査手続と審判手続とが続審関係にある旨を示したものと解されるとしても、右規定とは別個に、特許法第132条第3項において、「特許を受ける権利の共有者がその共有に係る権利について審判を請求するときは、共有者の全員が共同して請求しなければならない」と明記されたのは、審判の請求に当たつては審判請求書の記載上、共有者の全員に審判請求をなす意思のあることを、改めて(審査手続における経過とはなれて)明示することを求めた趣旨と解される。
 1c.共有者の一人の名義でなされた審判請求について、審判請求書の記載から共有者全員によりなされたことが容易に理解できたものであるから特許法第133条1項の規定に基づいて審判長は補正命令を発すべきであつたとの主張が認められなかった事例。 /知的財産権/無体財産権/工業所有権/特許権/
参照条文: /特許.14条/特許.132条3項/特許.158条/特許.133条1項/
全 文 s560825tokyoH51.html

最高裁判所 昭和 56年 7月 3日 第2小法廷 判決 ( 昭和53年(オ)第1061号 )
事件名:  損害賠償請求・上告事件
要 旨
 請負人が完成させた建物の所有権を原始的に取得したのが注文者(X)であるのか請負人であるのかが問題になった事案において、Xが請負人の承継人(Y)を被告にして提起した所有権保存登記の抹消登記手続請求訴訟で、Xを所有者と認定して請求を認容する判決が先に確定した場合に、同訴訟より先に提起されていたYに対するXの損害賠償請求訴訟において、裁判所が所有者はYでありXではないと判断して請求を棄却することは、違法ではないとされた事例。
 1.所有権に基づく所有権保存登記の抹消を求める訴についてされた判決の既判力は、その事件で訴訟物とされた抹消登記請求権の有無を確定するにとどまり、判決の理由となった所有権の帰属についての判断を確定するものではない。
 2.建物の所有権に基づく所有権保存登記の抹消を求める請求を認容する判決が確定したとしても、同判決は、建物の所有権の存否については、既判力及びこれに類似する効力を有するものではない。
参照条文: /t15.民事訴訟法:199条1項/
全 文 s560703supreme.html

東京地方裁判所 昭和 56年 6月 24日 民事第5部 判決 ( 昭和41年(ワ)第2484号 )
事件名: 
要 旨
 1.農地を目的とする売買契約締結後、目的の土地が農地でなくなった場合には、売買契約は農地法所定の知事または農業委員会の許可を得ることなく効力を生じる。
 2.前記の場合に、登記簿上の地目が農地であることから生ずる手続上の危険を避けるために、買主が農地法3条による許可申請手続および右許可を条件とする所有権移転登記手続をなすことを請求して、認容された事例。
参照条文: /農地.3条/民訴.246条/
全 文 s560624tokyoD.html

仙台高等裁判所秋田支部 昭和 56年 5月 25日 判決 ( 昭和54年(ネ)第19号 )
事件名:  物品引渡等請求控訴事件
要 旨
 1.工場抵当法2条の抵当権の目的たる動産が工場から不当に搬出された場合には、抵当権者は、その動産を権限なく占有する者に対して、元の備付場所たる土地建物に動産を搬入することを求めることができる。
 2.動産の即時取得の成立が否定された事例。 /抵当権者の物上請求権/
参照条文: /民法:369条/工場抵当.2条/民法:192条/
全 文 S560525sendaiH.html

最高裁判所 昭和 56年 4月 16日 第1小法廷 判決 ( 昭和55年(あ)第273号 )
事件名:  名誉毀損被告事件(上告事件)
要 旨
 1.私人の私生活上の行状であつても、そのたずさわる社会的活動の性質及びこれを通じて社会に及ぼす影響力の程度などのいかんによつては、その社会的活動に対する批判ないし評価の一資料として、刑法230条ノ2第1項にいう「公共ノ利害ニ関スル事実」にあたる場合がある。
 1a.多数の信徒を擁しわが国有数の宗教団体の教義ないしあり方を批判しその誤りを指摘するにあたり、その例証として摘示した、宗教団体の会長の女性関係が乱脈をきわめており、同会長と関係のあつた女性二名が同会長によつて国会に送り込まれていることなどの行状は、刑法230条ノ2第1項にいう「公共ノ利害ニ関スル事実」にあたるとされた事例。(『月刊ペン』事件)
 2.「公共ノ利害ニ関スル事実」にあたるか否かは、摘示された事実自体の内容・性質に照らして客観的に判断されるべきものであり、これを摘示する際の表現方法や事実調査の程度などは、同条にいわゆる公益目的の有無の認定等に関して考慮されるべきことがらであつて、摘示された事実が「公共ノ利害ニ関スル事実」にあたるか否かの判断を左右するものではない。 /表現の自由/
参照条文: /刑.230-2条1項/憲.21条/
全 文 s560416supreme91.html

最高裁判所 昭和 56年 4月 14日 第3小法廷 判決 ( 昭和52年(オ)第323号 )
事件名:  損害賠償等請求上告事件
要 旨
 労働事件の会社側弁護士の申出により京都弁護士会が労働者の前科を弁護士法23条の2に基づいて京都市中京区長に照会し、これにより得られた事実を弁護士の依頼者が公表したため労働者が損害を受けたとして、京都市に対して損害賠償を請求し、認容された事例。
 1.前科及び犯罪経歴(以下「前科等」という。)は人の名誉、信用に直接にかかわる事項であり、前科等のある者もこれをみだりに公開されないという法律上の保護に値する利益を有する。
 1a.弁護士の照会申出書に「中央労働委員会、京都地方裁判所に提出するため」とあつたにすぎないような場合に、市区町村長が漫然と弁護士会の照会に応じ、犯罪の種類、軽重を問わず、前科等のすべてを報告することは、公権力の違法な行使にあたる。
 2.京都市中京区長が弁護士法23条の2に基づく照会に応じてある者の前科を報告したことと、この報告を受けた弁護士の依頼者である会社の幹部らが中央労働委員会及び京都地方裁判所の構内等で、関係事件の審理終了後等に、事件関係者や傍聴のため集つていた者らの前で、被上告人の前科を摘示して公表したこととの間には相当因果関係があるとされた事例。 /プライバシー/個人情報/弁護士照会/弁護士会照会/
参照条文: /国賠.1条1項/弁護士.23-2条/
全 文 s560414supreme.html

最高裁判所 昭和 56年 4月 7日 第3小法廷 判決 ( 昭和51年(オ)第749号 )
事件名:  寄附金返還請求・上告事件
要 旨
 創価学会が戒壇の本尊を安置するための正本堂建立の建設費用に充てると称して寄付を募ったことに応じて募金した原告が、本尊のいわゆる「板まんだら」は、日蓮正宗において「日蓮が弘安2年10月12日に建立した本尊」と定められた本尊ではないことが寄付の後に判明したこと等を主張して、原告の寄付行為は錯誤により無効であることを理由に創価学会に対して寄付金の返還を請求する訴訟を提起したが、この訴訟は裁判所法3条にいう法律上の争訟にあたらないとして却下された事例。
 1.裁判所がその固有の権限に基づいて審判することのできる対象は、裁判所法3条にいう「法律上の争訟」、すなわち当事者間の具体的な権利義務ないし法律関係の存否に関する紛争であって、かつ、それが法令の適用により終局的に解決することができるものに限られる。
 1a.具体的な権利義務ないし法律関係に関する紛争であっても、法令の適用により解決するのに適しないものは裁判所の審判の対象となりえない。
 1b.訴訟が具体的な権利義務ないし法律関係に関する紛争の形式をとっていて、その結果信仰の対象の価値又は宗教上の教義に関する判断は請求の当否を決するについての前提問題であるにとどまる場合でも、その点についての判断が訴訟の帰すうを左右する必要不可欠のものと認められ、また、訴訟の争点及び当事者の主張立証もその判断に関するものがその核心となっていると認められるときには、訴訟は、その実質において法令の適用による終局的な解決の不可能なものであって、裁判所法3条にいう法律上の争訟にあたらないとされた事例。
 2.第一審の準備手続終結後における原告の仮定的主張(詐欺を理由とする贈与の取消あるいは退会により寄付は法律上の原因を欠くに至ったとの主張)が、時機に後れた攻撃方法として却下されるべきであるとされた事例。 /攻撃防御方法の却下/板曼陀羅/訴訟要件/不利益変更禁止の法理/宗教団体の内部紛争/
参照条文: /裁判所.3条/憲.20条/民訴.157条1項/
全 文 s560407supreme.html

東京高等裁判所 昭和 56年 3月 26日 第12民事部 判決 ( 昭和54年(ネ)第2666号 )
事件名:  敷金返還等請求控訴事件
要 旨
 1.民法第461条1項によれば、委託を受けた保証人から主たる債務者に対しあらかじめ求償権が行使された場合、主たる債務者は、右事前求償を拒み、まず保証人に対し担保の提供を求め、あるいは自己に免責を得せしめることを請求することができるものというべきであるから、保証人において主たる債務者の持つかかる抗弁権を消滅させた上でなければ、右求償権を自働債権として主たる債務者の保証人に対する債権につき相殺することは許されない。
参照条文: /民法:460条/民法:461条/民法:505条/
全 文 s560326tokyoH.html

最高裁判所 昭和 56年 3月 24日 第3小法廷 判決 ( 昭和53年(オ)第880号 )
事件名:  保険金請求・上告事件
要 旨
 自動車損害賠償保障法16条1項による損害賠償額支払請求権(被害者の保険会社に対する直接請求権)が時効により消滅した後で、被害者が加害者に対する損害賠償債権を執行債権として、加害者の保険会社に対する保険金請求権について転付命令を得た場合に、前記保険金請求権の被転付適格が肯定された事例。
 1.自賠責保険契約に基づく被保険者の保険金請求権は、被保険者の被害者に対する賠償金の支払を停止条件とする債権であるが、自賠法3条所定の損害賠償請求権を執行債権として右損害賠償義務の履行によって発生すべき被保険者の自賠責保険金請求権につき転付命令が申請された場合には、転付命令が有効に発せられて執行債権の弁済の効果が生ずるというまさにそのことによって右停止条件が成就するのであるから、右保険金請求権を券面額ある債権として取り扱い、その被転付適格を肯定すべきである。
 2.自動車事故の被害者の加害者(自賠責保険の被保険者)に対する訴訟において損害賠償請求を認容する判決が確定ても、その既判力は、加害者の保険会社に対する保険金支払請求権を転付命令により取得した被害者の保険会社に対する保険金支払請求訴訟に及ぶものではない。(保険金請求権の発生原因となる加害者の被害者に対する損害賠償債務の成否等につき更に審理を尽くさせるために、差戻し)
参照条文: /自動車損害賠償保障法:3条;15条;16条1項/m23.民事訴訟法:601条/t15.民事訴訟法:201条/
全 文 s560324supreme.html

大阪高等裁判所 昭和 56年 2月 27日 民事第9部 判決 ( 昭和55年(ネ)第951号 )
事件名:  求償金請求控訴事件
要 旨
 連帯債務者の一人Aが全額を弁済したが、他の連帯債務者Bに対する通知を怠っていたために、その後にBが一部弁済した場合に、AのBに対する求償請求に関し、(α)Bのなした弁済の一部は事前の通知を欠くためにAとの関係では無効であり、(β)他の一部については、Bの努力にもかかわらずAの所在が不明であったために通知がなされなかったのであり、二重弁済の結果が生じたことにBに過失がないことを理由にその弁済は有効であるとして、後者の弁済額を控除した範囲で求償請求が認容された事例。
 1.連帯債務者のうちの先行弁済者が事後の通知を怠り、後行弁済者が事前の通知を怠った場合には、双方に二重弁済について過失があつたものであり、民法443条1項・2項はともに適用がなく、一般の原則に従い、先行弁済のみが有効であつて、後行弁済は先行弁済者に対する関係では無効である。
参照条文: /民法:443条/
全 文 s560227osakaH.html

最高裁判所 昭和 56年 1月 19日 第2小法廷 判決 ( 昭和51年(オ)第353号 )
事件名:  譲受債権請求・上告事件
要 旨
 委任者の利益のみならず受任者の利益のためにもなされた委任契約(建物管理契約)について、原審が、受任者の利益のためにも委任がなされた以上、委任者はやむをえない事由があるのでない限り、委任契約を解除できないと解し、委任者が解除権自体を放棄したものとは解されない事情があるか否かを認定しないで、委任者のした委任契約の解除の効力を否定したところ、上告審によりそれが違法であるとされた事例。
 1.賃貸建物の管理人が賃借人の提供する保証金を自己の事業資金として常時自由に利用することを許した建物管理契約が、委任者(建物所有者)の利益のみならず受任者(管理人)の利益のためにもなされた委任契約であるとされた事例。
 2.単に委任者の利益のみならず受任者の利益のためにも委任がなされた場合であっても、委任契約が当事者間の信頼関係を基礎とする契約であることに徴すれば、受任者が著しく不誠実な行動に出る等やむをえない事由があるときは、委任者において委任契約を解除することができる。(先例の確認)
  2a.やむをえない事由がない場合であっても、委任者が委任契約の解除権自体を放棄したものとは解されない事情があるときは、委任者は、民法651条に則り委任契約を解除することができ、ただ、受任者がこれによって不利益を受けるときは、委任者から損害の賠償を受けることによってその不利益を填補されれば足りる。(本件判旨)
参照条文: /民法:651条/
全 文 s560119supreme.html

最高裁判所 昭和 55年 11月 28日 第2小法廷 判決 ( 昭和54年(あ)第998号 )
事件名:  わいせつ文書販売被告事件(上告事件)
要 旨
 「四畳半襖の下張」が、刑法175条にいう「わいせつの文書」にあたるとされた事例。
 1.文書のわいせつ性の判断にあたつては、当該文書の性に関する露骨で詳細な描写叙述の程度とその手法、右描写叙述の文書全体に占める比重、文書に表現された思想等と右描写叙述との関連性、文書の構成や展開、さらには芸術性・思想性等による性的刺激の緩和の程度、これらの観点から該文書を全体としてみたときに、主として、読者の好色的興味にうつたえるものと認められるか否かなどの諸点を検討することが必要であり、これらの事情を総合し、その時代の健全な社会通念に照らして、それが「徒らに性欲を興奮又は刺激せしめ、かつ、普通人の正常な性的羞恥心を害し、善良な性的道義観念に反するもの」といえるか否かを決すべきである。 /表現の自由/
参照条文: /刑.175条/憲.21条/
全 文 s551128supreme91.html

大阪地方裁判所 昭和 55年 10月 31日 判決 ( 昭和50年(ワ)第3925号等 )
事件名:  特許権侵害差止等請求事件
要 旨
 1.「・・・を特徴とする子供乗物用タイヤーの製造方法」の発明が、用途発明ではなく製造方法の発明であって、ショッピングカート用タイヤも発明の構成要件中の「子供乗物用タイヤー」に含まれるとされた事例。
 2.侵害訴訟において、ある実施行為が他の特許発明から推考容易であるか否かを決する場合の基準は、当該他の特許発明をみれば特段の実験追試を試みるまでもなく当業者であれば当然に推測できると解される程度の推考容易性がなければならない。(特許均等論/置換自明性)
 2a.タイヤの製造方法の特許発明において材料のEVAの開示が極めて不十分であることを考慮して、「EVA」の代りに「EPDM20140部、LDPE80160部の混合剤」を用いることは、必らずしも容易に推考することのできない技術事項であったと解された事例。
 3.一般に、他人が特許権侵害により何ほどかの利得を得た場合に、この利得と同額の損失が特許権者に生じたとみなければならない合理的な理由はない。
 3a.特許権侵害による損害賠償請求権が3年の短期消滅時効にかかっている場合に、予備的に不当利得返還請求権を主張したが認められなかった事例。
 4.特許権に基づく差止請求訴訟において、対象となる被告の製造方法について原告と被告の主張に争いがある場合に、実施方法中の主原料の割合の特定は技術上必らずしも容易でないことも慮り、その特定はある程度巾を持たせるのが相当であり、そうした配慮は弁論の全趣旨に照らし原告らの申立外の事項と解さなければならないほどのことではないとして、主文に、差止対象として双方の主張する製造方法が選択的に並記された事例。(処分権主義)
 5.特許権が数名の者によって準共有されている場合、そのうちの一部の者のみも侵害者に対し差止請求権を行使することができる(共有に係る特許権に基づく差止請求訴訟は、準共有者全員による必要的共同訴訟ではない)。(通常共同訴訟)
 6.特許権に基づく差止請求権の存否が争われている事案において、侵害者の新製造方法について特許権者が差止請求権を有しないことの確認請求の訴えが提起された後で特許権者が右新製造方法についても差止請求を追加し、両請求が弁論の併合により併合審理され、また、新製造方法について両当事者の主張に争いがある場合に、両請求について本案判決をすべきであるとされた事例。(重複起訴の禁止/二重起訴の禁止/訴えの利益/訴えの客観的利益) /知的財産権/無体財産権/工業所有権/特許権/
参照条文: /民訴.142条/民訴.246条/民訴.40条/特許.29条2項/特許.70条/特許.73条/特許.102条/民法:252条/民法:703条/民法:709条/
全 文 s551031osakaD.html

最高裁判所 昭和 55年 10月 28日 第3小法廷 判決 ( 昭和55年(オ)第301号 )
事件名:  建物収去土地明渡請求上告事件
要 旨
 建物賃借人は、その賃借権を保全するために、債権者代位権に基づき、建物賃貸人に代位して、土地賃貸人に対する建物買取請求権を行使することは許されない。
参照条文: /民法:423条/借地借家.13条/
全 文 s551028supreme.html

最高裁判所 昭和 55年 10月 23日 第1小法廷 判決 ( 昭和55年(オ)第589号 )
事件名:  土地所有権確認請求上告事件
要 旨
 売買契約による所有権の移転を請求原因とする買主からの所有権確認訴訟が係属した場合に、売主が右売買契約の詐欺による取消権を行使することができたのにこれを行使しないで事実審の口頭弁論が終結され、右売買契約による所有権の移転を認める請求認容の判決があり同判決が確定したときは、もはやその後の訴訟において売主が右取消権を行使して右売買契約により移転した所有権の存否を争うことは許されない。 /既判力の標準時/形成権の行使/遮断効/標準時/
参照条文: /民法:96条/民法:121条/民訴.114条/民執.35条2項/
全 文 s551023supreme.html

東京地方裁判所 昭和 55年 9月 17日 判決 ( 昭和44年(ワ)第6455号 )
事件名:  著作権確認等請求事件<「地のさざめごと」事件>
要 旨
 旧制静岡高等学校の戦没者慰霊事業の一環として編修・刊行された遺稿集「地のさざめごと」の編集者が、その編集委員会あるいはその母体となった団体ではなく、編集方針を定め素材である遺稿の選択・配列を実際に行った複数の編集委員個人であり、その者の許諾を得ずに、またその者を編集者として表示することなく新版を発刊したことが編集著作権および編集著作者人格権の侵害にあたるとして、当該団体および出版社に対して書籍の複製頒布の禁止、損害賠償、および名誉声望回復措置として謝罪広告が命じられた事例。(旧法事件)
 1.素材について創作性のある選択、配列を行った者にとどまらず、編集方針を決定した者も編集著作物の編集者となりうるが、編集に関するそれ以外の行為、例えば素材の収集行為それ自体は、素材を創作的に選択、配列することと直接関連性を有しているとはいい難いし、また編集方針や素材の選択、配列について相談に与って意見を具申すること、又は他人の行った編集方針の決定、素材の選択、配列を消極的に容認することは、いずれも直接創作に携わる行為とはいい難いから、これらの行為をした者は、当該編集著作物の編集者となりうるものではない。
 2.「静岡大学関係戦争犠牲者記念の会」事務局代表者名義で出された依頼状に応じて遺稿が提供された場合に、編集者を特定することなく遺稿集に収録することを許諾する概括的許諾があったと解するのが相当であるとして、委員会の構成員個人が編集したことは右許諾の範囲内の適法な行為であると判断された事例。
 3.原告の編集著作権を侵害する出版物が絶版にされているが、被告が原告の編集著作権を争っているため、複製頒布のおそれがなおあるとして、その差止請求が認容された事例。
 4.弁護士の意見に従い自己が編集著作者であると誤信した社団が出版社に出版の依頼をし、出版社も右団体が編集著作者であると誤信して出版がなされた場合に、そのように誤信したことについて過失があると判断された事例。
 5.著作物ないし編集著作物は、当該著作者ないし編集者の思想又は感情の表現であり主張であることに徴すれば、著作者が自己の著作物ないし編集著作物に掲載すべく執筆した序文あるいは後書きは、著作物ないし編集著作物と一体をなすものとして、右表現あるいは主張と不可分の関係にあるものといえるから、出版社との関係でも、その序文あるいは後書きの内容如何にかかわらず、最大限尊重されるべきものであって、著作者ないし編集者が、自己の執筆にかかる序文あるいは後書きについての出版社からの修正の申入れを拒絶することは何ら非難されるべきことではなく、却って著作者ないし編集者としては、この申入れに対しては特段の事情のない限り、これを拒絶することができる。(特段の事情がないとされた事例)
 5a.編集著作物の出版を当初許諾していた著作者が出版社からの序文・後書きの修正要請を拒絶したが、それにもかかわらず出版社が、当初の出版日程が切迫してるため、序文・後書きを除いて出版した場合に、そのことが編集著作物の複製権の侵害と評価され、編集著作者がその損害賠償を請求することが権利の濫用に当たらないとされた事例。
 6.共同編集者が共同編集著作物について有する編集著作者人格権の侵害によって生じた精神的損害の賠償請求権は、編集著作者人格権そのものとは性質を異にする別個の権利(不法行為に基づく損害賠償請求権)であり、共同編集者はそれぞれ自己の被った精神的損害のみの賠償を請求することができるのであって、不可分債権ではない。
 6a.共同編集者の一人のした損害賠償の訴えの提起は、他の共同編集者の有する損害賠償請求権の消滅時効の進行を中断しないとされた事例。 /知的財産権/無体財産権/著作権/編集著作権の共有/共同編集/
参照条文: /著作.12条/著作.2条1項12号/著作14条/著作.15条/著作.19条/著作.112条/著作.115条/著作.
全 文 s550917tokyoD.html

名古屋地方裁判所 昭和 55年 6月 9日 民事第6部 判決 ( 昭和54年(ワ)第1283号 )
事件名:  預金債権請求事件
要 旨
 一定年数以内に退職することが見込まれる国鉄職員について、国鉄共済組合と銀行との間で締結された基本契約に基づき、共済組合の斡旋により、職員が退職すれば得られるであろう手取退職手当金額の範囲内で、融資期間を退職手当金受領の日までとして銀行が国鉄職員に貸付けを行うとともに、職員が国鉄に対して、退職金を融資銀行にある自己の預金口座に振込むことを依頼したところ、それから1年余の後に債務者たる職員が自己破産の申立てをして退職し、退職金が振込指定依頼通りに振り込まれ、その後に破産宣告がなされた場合に、破産管財人が預金の払戻しを請求したのに対し、銀行が貸付金債権と預金債権との相殺を主張し、裁判所がこの相殺は破産法の相殺制限規定に抵触せず有効であるとして、破産管財人の請求を棄却した事例。
 1.
 破産債権者の破産者に対する債務負担の原因が危機状態を知った時より前にある場合には相殺が許されるとしている旧破産法104条2号但書き規定は、破産債権者が自己の債権の実価が下落したことを知って債務を負担したという関係がなく、そして債権者が債務者の危機状態を知る前に相殺の担保的機能を信頼していたといえる場合には現実の債務負担が偶々危機状態を知った後であったとしても、なお危機状態以前にすでに債権債務が対立していた場合と同様に保護する必要があるとみて相殺を許す趣旨と解されるから、同号但書の債務負担の原因は債権者がこの原因に基いてその債務を受働債権として相殺を期待するのが通常であるといえる程度に具体的、直接的な原因でなければならない。
 1a.指定口座振込制度を利用して融資がなされた場合に、振込指定に基づいて破産申立て後に振り込まれたことから生じた預金債務の負担は、旧破産法104条2号但書の債務負担が危機状態を知った時より「前に生じたる原因」に基く場合に当たるから、この債務と破産債権との相殺は許されるとされた事例。
参照条文: /t11.破産法:104条/
全 文 s550609nagoyaD.html

福岡高等裁判所 昭和 55年 5月 8日 第2民事部 判決 ( 昭和54年(ネ)第337号 )
事件名:  売買代金返還請求・控訴事件
要 旨
 1.自動車の所有権留保付買主が納付すべき自動車税及び延滞金を買主の破産宣告後に売主が自らの意思に基づいて立替払をした場合に、売主が立替金返還請求権と破産財団所属の清算金債権との相殺を主張したが、破産法104条4号但書の場合に該当しないから「破産宣告後に取得した破産債権である右立替金返還請求権を自働債権とする相殺は同条同号本文により許されない」とされた事例。
 2.破産法五九条一項は、双務契約につき破産者及びその相手方が破産宣告の当時未だ共にその履行を完了していないときに、破産管財人にその選択に従い契約を解除し又は破産者の債務を履行して相手方の債務の履行を請求することもできる権限を付与しているにすぎず、破産管財人に右の選択をすべき義務を課しているものではない。
 2a.自動車の所有権留保付売主が、「破産管財人が破産法59条1項所定の選択をしなかったことが不法行為にあたる」と主張して、その賠償請求権と破産財団債権所属の清算金債権との相殺を主張したが、認められなかった事例。 /租税債権/租税優先の原則/優先権/弁済者代位/求償権/
参照条文: /t11.破産法:59条;104条/民法:500条;501条/
全 文 s550508hukuokaH.html

最高裁判所 昭和 55年 3月 28日 第3小法廷 判決 ( 昭和51年(オ)第923号 )
事件名:  損害賠償請求・上告事件
要 旨
 他人が撮影した山岳写真(アルプス山系において、スキーヤーらが雪山の斜面を波状のシユプールを描きつつ滑降している場景の写真)を素材として、その者の許諾を得ることなく作成・公表されたモンタージュ写真(スキーヤーの上部に巨大なスノータイヤを配した写真)が、たとえパロデイと評価されうるとしても、モンタージユ写真から原写真(前記山岳写真)における本質的な特徴自体を直接感得することは十分できるものであるから、そのモンタージュ写真における原写真の利用は、その他人が著作者として有する写真の同一性保持権を侵害するものであるとされた事例。(他人の著作物の自由利用として許されるとした原判決の破棄)
 1.自己の著作物を創作するにあたり、他人の著作物を素材として利用することが他人の許諾なしに許されるのは、他人の著作物における表現形式上の本質的な特徴をそれ自体として直接感得させないような態様においてこれを利用する場合に限られる。 /知的財産権/無体財産権/著作権/
参照条文: /著作.17条/著作.19条/著作.20条/著作.21条/著作.115条/
全 文 s550328suprme.html

最高裁判所 昭和 55年 2月 8日 第2小法廷 判決 ( 昭和50年(オ)第701号 )
事件名:  土地所有権確認移転登記手続請求・上告事件
要 旨
 権利能力なき社団の構成員の総有に属する土地について、構成員の一部の者が受託者になって所有権保存登記がなされていたが、その後に受託者が死亡して、その相続人に所有権移転登記がなされた場合に、社団の代表者が相続人らに対して所有権移転登記の抹消登記を請求したところ、代表者が受託者として個人の名においてした請求は認容されたが、社団の名においてした請求は棄却された事例。(控訴審判決参照)
 1.沖縄の血縁団体である門柱が、権利能力のない社団と認められ、当事者能力が肯定された事例。
 2.裁判所は、権利能力なき社団において業務執行機関が欠け遅滞のため損害を生ずるおそれのある場合に、民法56条を類推して仮理事を選任することができる。
 2a.法人の仮理事については、法人の定款又は寄附行為によれば代表者となる資格のない者を仮理事に選任しうるのであつて、この理は、権利能力なき社団についても同様に解することができる。
 2b.権利能力のない社団の従前の代表者であった者Aが、社団の名において訴訟を追行するのみならず、代表者の立場において個人の名で訴訟を追行していたときには、Aの死後に社団の仮理事に選任された者は、仮理事就任と同時に、社団の名による訴訟のみならず個人の名による訴訟においてもAの地位を承継するものと認めることが相当である。 /法人でない社団/一時代表理事/
参照条文: /民法:33条;56条/民事訴訟法:46条/
全 文 s550208supreme.html

最高裁判所 昭和 55年 2月 7日 第1小法廷 判決 ( 昭和52年(オ)第1144号 )
事件名:  遺留分減殺請求・上告事件
要 旨
 被告の主張していない主要事実を基礎にして請求を棄却したことが弁論主義に違反するとされた事例。
 1.相続による特定財産の取得を主張する者は、(1)
 被相続人の右財産所有が争われているときは同人が生前その財産の所有権を取得した事実及び
 (2)
 自己が被相続人の死亡により同人の遺産を相続した事実の二つを主張立証すれば足り、(1)の事実が肯認される以上、その後被相続人の死亡時まで同人につき右財産の所有権喪失の原因となるような事実はなかったこと、及び被相続人の特段の処分行為により右財産が相続財産の範囲から逸出した事実もなかったことまで主張立証する責任はなく、これら後者の事実は、いずれも右相続人による財産の承継取得を争う者において抗弁としてこれを主張立証すべきものである。
 1a.遺産に属するか争われている本件土地について共同相続により共有持分権を取得したと主張する原告らにおいて、本件土地を被相続人が他から買い受けて取得し、相続開始により共同相続したと主張したのに対し、単独所有者として登記されている被告は、本件土地を買い受けたのは被相続人ではなく被告の亡夫(共同相続人の一人)であると主張するにとどまっている場合に、裁判所が、証拠調の結果本件不動産を買受けたのは被相続人あると認定しながら、抗弁として主張されていない事実(被告の亡夫が被相続人から本件土地の死因贈与を受けたとの事実)を認定し、したがって原告らは本件土地の所有権を相続によって取得することができないとして、持分権移転登記請求を排斥することは、弁論主義に違反する。
 1b. 大審院昭和11年10月6日判決・民集15巻1771頁は、原告が家督相続により取得したと主張して不動産の所有権確認を求める訴において、被告が右不動産は自分の買い受けたものであって未だかつて被相続人の所有に属したことはないと争った場合に、裁判所が、証拠に基づいて右不動産が相続開始前に被相続人から被告に対して譲渡された事実を認定し、原告敗訴の判決をしたのは違法ではないと判示しているが、右判例は、変更すべきものである。
参照条文: /t15.民事訴訟法:125条/
全 文 s550207supreme.html

仙台高等裁判所 昭和 55年 1月 28日 第2民事部 判決 ( 昭和50年(ネ)第162号 )
事件名:  損害賠償請求・控訴事件
要 旨
  訴訟告知を受けた者(表見代理人)は、告知者(本人)と協同して攻撃防禦方法を尽くすことにつき利害が一致しない争点(代理権及び代理行為の存否)についても、本人の相手方に対する請求を棄却する前訴判決の理由中に示された認定判断に反する主張(代理行為の不存在(転売人である)の主張)及び代理権の存在を主張することは許されないとされた事例。
 1.訴訟告知の制度は、「被告知者において告知者に補助参加する利益を有する場合」のために設けられたものと解すべきではない。
 1a. 訴訟告知の制度は、告知者が被告知者に訴訟参加をする機会を与えることにより、被告知者との間に告知の効果(民事訴訟法78条(現53条4項))を取得することを目的とする制度であり、告知者に対し、同人が係属中の訴訟において敗訴した場合には、後日被告知者との間に提起される訴訟において同一争点につき別異の認定判断がなされないことを保障するものであるから、同法76条(現53条1項)にいう「参加をなしうる第三者」に該当する者であるか否かは、当該第三者の利益を基準として判定されるべきではなく、告知者の主観的利益を基準として判定されるべきである。
 2.参加的効力を規定する民事訴訟法78条は「補助参加人が被参加人を勝訴させることによつて自己自身の利益を守る立場にあることを前提」とするとの原審の説示は、訴訟告知に基づかず、単純に同法64条により補助参加をした者と被参加人との間については妥当であろうが、訴訟告知者と被告知者との間については必らずしも妥当しない。
 2a.「被告知者において告知者と協同して相手方に対し攻撃防禦を尽くすことにつき利害が一致し、そうすることを期待できる立場にある」場合にのみ被告知者に対して参加的効力が及ぶとする原審の理論は、採用することができない。
 3.
 前訴において、Hの共同相続人Aらが係争地につき共同相続に因る共有持分権を有すると主張し、Jに対し持分権の確認及び真正な登記名義の回復のための共有持分移転登記手続を請求したのに対し、Jが、HがIに対し本件係争地を売渡して所有権移転登記手続をした旨及びこの売買についてはYがHから代理権を与えられその代理人として契約をしたものである旨を主張したので、Aらがこれらの主張事実を否認したうえ、Yに訴訟告知をしたが、YがJに補助参加し、AらのJに対する請求が棄却されたため、本訴において、AらがYに対して、Hの不動産を無権代理行為により売却したことが不法行為に当たるとして損害賠償を求めた事案において、Aらは、前訴において敗訴のときをおもんばかり、右代理権及び代理行為の各存否につき、被控訴人に対し参加的効力を及ぼすために訴訟告知をする利益を有したものというべきであり、Yは、本訴において、代理行為の不存在(転売人である旨の主張)及び代理権の存在を主張することは許されないものというべきであるとされた事例。
参照条文: /t15.民事訴訟法:64条;70条;76条;78条/
全 文 s550128sendaiH.html

最高裁判所 昭和 55年 1月 24日 第1小法廷 判決 ( 昭和53年(オ)第1129号 )
事件名:  不当利得金返還請求・上告事件
要 旨
 1.債務者が利息制限法所定の制限をこえて任意に金銭消費貸借上の利息・損害金の支払いを継続し、その制限超過部分を元本に充当すると、計算上元本が完済となつたとき、その後に支払われた金額は、債務が存在しないのにその弁済として支払われたものにほかならず、債務者において不当利得としてその返還を請求しうる。
 1a.債務者が利息制限法所定の制限をこえた利息・損害金を元本とともに任意に支払つた場合においても、その支払にあたり充当に関して特段の意思表示がないかぎり、右制限に従つた元利合計額をこえる支払額は、債務者において不当利得としてその返還を請求することができる。
 2.商法522条の適用又は類推適用されるべき債権は商行為に属する法律行為から生じたもの又はこれに準ずるものでなければならないところ、利息制限法所定の制限をこえて支払われた利息・損害金についての不当利得返還請求権は、法律の規定によつて発生する債権であり、しかも、商事取引関係の迅速な解決のため短期消滅時効を定めた立法趣旨からみて、商行為によつて生じた債権に準ずるものと解することもできないから、その消滅時効の期間は民事上の一般債権として民法167条1項により10年と解するのが相当である。
参照条文: /民法:167条1項:703条/商法:522条/利息制限法:1条2項/
全 文 s550124supreme.html

最高裁判所 昭和 55年 1月 24日 第1小法廷 判決 ( 昭和54年(オ)第730号 )
事件名:  詐害行為取消請求等・上告事件
要 旨
 詐害行為取消権の被保全債権(手形債権)の発生前に債務者と受益者(債務者の長男)との間で不動産贈与契約が締結され、被保全債権発生後に所有権移転登記がなされた場合に、贈与契約後に生じた債権の保全のために贈与契約を詐害行為として取り消すことは許されないとされ、また、所有権移転登記のみを切り離して詐害行為として取り扱うことはできないとされた事例。
 1.債務者の行為が詐害行為として債権者による取消の対象となるためには、その行為が右債権者の債権の発生後にされたものであることを必要とする。
 1a.詐害行為と主張される不動産物権の譲渡行為が債権者の債権成立前にされたものである場合には、たといその登記が右債権成立後にされたときであつても、債権者において取消権を行使するに由はない。
 2.物権移転行為自体が詐害行為を構成しない場合に、これについてされた登記のみを切り離して詐害行為として取り扱い、これに対する詐害行為取消権の行使を認めることはできない。
参照条文: /民法:424条;177条/破産法:74条/
全 文 s550124supreme2.html

最高裁判所 昭和 55年 1月 18日 第2小法廷 判決 ( 昭和52年(行ツ)第28号 )
事件名:  審決取消請求上告事件
要 旨
 1.実用新案登録を受ける権利を有する共有者の一人が提起した拒絶査定を支持する審決の取消の訴えが、当事者適格の欠如を理由に却下された事例。
 1a.実用新案登録を受ける権利の共有者がその共有に係る権利を目的とする実用新案登録出願について共同して拒絶査定不服の審判を請求しこれにつき請求が成り立たない旨の審決を受けたときに訴を提起して右審決の取消を求めることは、右共有に係る権利についての民法252条但書にいう保存行為にあたるものであると解することができない。
 1b.審決取消の訴において審決を取り消すか否かは右権利を共有する者全員につき合一にのみ確定すべきものであって、その訴は、共有者が全員で提起することを要する必要的共同訴訟である。 /知的財産権/無体財産権/工業所有権/実用新案権/当事者適格/訴訟要件/
参照条文: /民法:252条/実用新案.47条/実用新案.41条/特許.132条3項/民訴.40条/
全 文 s550118supreme51.html

最高裁判所 昭和 55年 1月 11日 第3小法廷 判決 ( 昭和53年(オ)第1199号 )
事件名:  譲受債権請求上告事件
要 旨
 1.指名債権が二重に譲渡され、確定日付のある各譲渡通知が同時に第三債務者に到達したときは、各譲受人は、第三債務者に対しそれぞれの譲受債権についてその全額の弁済を請求することができ、譲受人の一人から弁済の請求を受けた第三債務者は、他の譲受人に対する弁済その他の債務消滅事由がない限り、単に同順位の譲受人が他に存在することを理由として弁済の責めを免れることはできない。
 2.指名債権の譲渡にかかる確定日付のある譲渡通知と右債権に対する滞納処分としての債権差押通知とが同時に第三債務者に到達した場合であつても、右債権の譲受人は第三債務者に対してその給付を求める訴を提起・追行し無条件の勝訴判決を得ることができるのであり、ただ、右判決に基づいて強制執行がされた場合に、第三債務者は、二重払の負担を免れるため、当該債権に差押がされていることを執行上の障害として執行機関に呈示することにより、執行手続が満足的段階に進むことを阻止しうる(旧民訴法544条=現民執法11条参照)にすぎない。 /執行異議の事由/二重譲渡/債権譲渡/
参照条文: /民法:467条/民執.145条/民執.11条/
全 文 s550111supreme.html

最高裁判所 昭和 54年 7月 10日 第3小法廷 判決 ( 昭和53年(オ)第547号 )
事件名:  約束手形金請求上告事件
要 旨
 1.相殺適状は、原則として、相殺の意思表示がされたときに現存することを要し、相殺適状が生じた後、相殺の意思表示がされる前に一方の債権が弁済、代物弁済、更改、相殺等の事由によつて消滅していた場合には相殺は許されない。
 1a.
 転付債権者が第三債務者に対する被転付債権と第三債務者の自己に対する債権との相殺(逆相殺)の意思表示をした後で、第三債務者が執行債務者に対する債権と被転付債権との相殺(順相殺)の意思表示をした場合に、後でなされた相殺は効力を生じないとされた事例。
参照条文: /民法:505条/民法:506条/民法:508条/
全 文 s540710supreme.html

最高裁判所 昭和 54年 3月 16日 第2小法廷 判決 ( 昭和51年(オ)第49号 )
事件名:  第三者の為にする契約に基づく振込金請求上告事件
要 旨
 1.債権者代位訴訟における原告は、債務者自身が原告になつた場合と同様の地位を有し、その債務者が現に有する法律上の地位に比べてより有利な地位を享受しうるものではないから、被告(第三債務者)の提出した債務者に対する債権を自働債権とする相殺の抗弁に対し、原告の提出することのできる再抗弁は、債務者自身が主張することのできる再抗弁事由に限定されるべきであつて、債務者と関係のない、原告の独自の事情に基づく再抗弁(相殺が権利濫用に当たるとの再抗弁)を提出することはできない。
 2.主位請求棄却・予備請求認容の控訴審判決に対して被告のみが上告し、原告は上告も附帯上告もしない場合に、上告審の調査の対象となるのは予備請求に対する原審の判断の適否であり、上告に理由があるときは、上告審はこの部分のみを破棄すべきであり、主位請求部分まで破棄することは許されない。(意見あり) /権利濫用/口座振込指定による輸出円貨代金債権の担保化/第三者のためにする契約/予備的併合/予備的請求/主位的請求/
参照条文: /民法:423条1項/民1条3項/民法:537条/民訴.293条/民訴.313条/民訴.320条/
全 文 s540316supreme.html

最高裁判所 昭和 54年 3月 8日 第1小法廷 判決 ( 昭和53年(オ)第970号 )
事件名:  約束手形金本訴請求、貸金等反訴請求・上告事件
要 旨
 1.民法509条は、不法行為の被害者に現実の弁済によって損害の填補を受けさせるとともに不法行為の誘発を防止することを目的とする。
 1a. 民法509条の趣旨に照らせば、不法行為の加害者が、被害者に対して有する自己の債権を執行債権として被害者の損害賠償債権を差し押え、これにつき転付命令を受け、混同によって右債権を消滅させることは、右規定を潜脱する行為として許されず、このような転付命令はその効力を生じえない
 2.債権者は、他から自己の債権の差押えを受けても、当該債権につき給付訴訟を追行する権限を失うものではなく、無条件の勝訴判決を受けることができる。
参照条文: /民法:509条/m23.民事訴訟法:601条/
全 文 s540308supreme.html

最高裁判所 昭和 54年 2月 22日 第1小法廷 判決 ( 昭和50年(オ)第472号 )
事件名:  所有権移転登記手続請求上告事件
要 旨
 1.債務者又はその代理人の有効な作成嘱託及び執行受諾の意思表示に基づいて作成された公正証書を債務名義とする強制競売手続において、公正証書表示の権利義務関係に実体上これを無効とする事由があるとしても、請求異議の訴その他法定の方法によつて右無効を理由としてその手続が許されないものとされることなく、競落許可決定が確定し、競落代金の支払いがされて競売手続が完結したときは、もはや右無効を理由に競落人による競売物件の所有権取得の効果をくつがえすことができない。 /執行証書/
参照条文: /民執.79条/民執.25条/民執.22条5号/
全 文 s540222supreme.html

最高裁判所 昭和 54年 2月 15日 第1小法廷 判決 ( 昭和53年(オ)第925号 )
事件名:  物件引渡請求・上告事件
要 旨
 債権者(原告)と債務者との間で、債務者が倉庫業者(被告)に現に寄託し預り証が発行されている集合物の一部(乾燥ネギ8kg入り段ボール3500ケース総計28トン)について譲渡担保契約が締結され、債権者の指示に従い債務者が出荷した分の代金債務と被担保債務とを相殺することが合意された場合に、債権者が債務者に指示した出荷が譲渡担保の目的である集合物の中からではなく債務者の工場からなされたり、倉庫業者への出荷指示が債権者から指示を受けた債務者からなされていた場合に、債務者は被告に寄託中の乾燥ネギのうち二八トンを特定して譲渡担保に供したものとは認められないとした原審の判断は正当であるとされ、譲渡担保の目的である集合動産の残余を被告が債務者(寄託者)の指示に従い第三者に引き渡したことが債権者の権利(譲渡担保権)を侵害する行為にあたらないとされた事例。
 1.構成部分の変動する集合動産についても、その種類、所在場所及び量的範囲を指定するなどなんらかの方法で目的物の範囲が特定される場合には、一個の集合物として譲渡担保の目的となりうる。(「構成部分の変動する」の部分は、本件では傍論と思われる)
 2.債務者が倉庫業者に寄託している集合動産(乾燥ネギ8kg入り段ボール3500ケース)について、債権者は譲渡担保権を取得していないとされた事例。
参照条文: /民法:85条;184条;369条;467条/
全 文 s540215supreme.html

最高裁判所 昭和 53年 12月 22日 第2小法廷 判決 ( 昭和52年(オ)第844号 )
事件名:  取立債権請求上告事件
要 旨
 国が借地人の敷金返還請求権を国税徴収法に基づき差し押さえた後で、借地上の建物が競売され、地主(賃貸人)が買受人への借地権譲渡を承諾するとともに、旧借地人が敷金関係が新借地人に引き継がれることを承諾している場合に、地主は差押債権者からの敷金返還請求を拒むことをできないとされた事例。
 1.賃借権が旧賃借人から新賃借人に移転され賃貸人がこれを承諾したことにより旧賃借人が賃貸借関係から離脱した場合においては、敷金交付者が、賃貸人との間で敷金をもつて新賃借人の債務不履行の担保とすることを約し、又は新賃借人に対して敷金返還請求権を譲渡するなど特段の事情のない限り、敷金に関する敷金交付者の権利義務関係は新賃借人に承継されるものではない。
 1a.敷金交付者が敷金をもつて新賃借人の債務不履行の担保とすることを約し、又は敷金返還請求権を譲渡したときであつても、それより以前に敷金返還請求権がすでに差し押えられている場合には、右合意又は譲渡の効力をもつて差押債権者に対抗することはできない。 /不動産競売/債権差押え/処分禁止効/
参照条文: /借地借家.20条/民法:612条/民執.79条/民執.145条/
全 文 s531222supreme.html

最高裁判所 昭和 53年 12月 20日 大法廷 判決 ( 昭和48年(オ)第854号 )
事件名: 
要 旨
 共同相続人の一人甲が、相続財産のうち自己の本来の相続持分を超える部分につき他の共同相続人乙の相続権を否定し、その部分もまた自己の相続持分に属すると称してこれを占有管理し、乙の相続権を侵害しているため、乙が右侵害の排除を求める場合には、民法884条の適用があるが、甲においてその部分が乙の持分に属することを知つているとき、又はその部分につき甲に相続による持分があると信ぜられるべき合理的な事由がないときには、同条の適用が排除される。
参照条文: /民法:884条/民法:907条/
全 文 s531220supreme.html

最高裁判所 昭和 53年 12月 15日 第2小法廷 判決 ( 昭和51年(オ)第435号 )
事件名:  取立命令に基く取立請求上告事件
要 旨
 現行医療保険制度のもとでは、診療担当者である医師の支払担当機関に対する診療報酬債権は、将来生じるものであっても、それほど遠い将来のものでなければ、特段の事情のない限り、現在すでに債権発生の原因が確定し、その発生を確実に予測しうるものであるから、始期と終期を特定してその権利の範囲を確定することによって、これを有効に譲渡することができる。 /債権譲渡/
参照条文: /民法:466条/健康保険法46-9条/社会保険診療報酬支払基金法.13条/国民健康保険法.45条/
全 文 s531215supreme.html

札幌高等裁判所 昭和 53年 11月 20日 第4部 判決 ( 昭和53年(ネ)第15号 )
事件名:  弁護士会決定処分取消請求・控訴事件
要 旨
 弁護士が所属弁護士会に弁護士法23条の2第1項前段の規定に基づいて照会の申出をしたところ拒絶され、拒絶の処置について日本弁護士連合会に監督権の発動を求める申立てをしたところ監督権を発動しない旨の回答がなされた場合に、弁護士が弁護士会及び日本弁護士連合会を被告にして提起した前記の処置及び回答の取り消しを求める訴えが、いずれも裁判所の司法審査の対象にはならず不適法であるとして却下された事例。
 1.一般市民社会の中にあつてこれとは別個に自律的な法規範を有する特殊な団体における法律上の紛争のごときは、それが一般市民法秩序と直接関係を有しない内部的な問題にとどまる限り、その自主的、自律的な解決に委ねるのを適当とし、裁判所の司法審査の対象にならない。
 2.弁護士会は、弁護士の使命及び職務にかんがみ、その品位を保持し、弁護士事務の改善進歩を図るため、弁護士の指導、連絡及び監督に関する事務を行うことを目的とする法人であつて(弁護士法31条1項・2項)、その目的を達成するために必要な諸事項については、会則等によりこれを規定し、実施することができる自律的、包括的な権能を有し(同法第33条1項・2項)、一般市民社会と異なる特殊な団体を形成しているのであるから、このような特殊な団体における法律上の紛争のすべてが裁判所の司法審査の対象となるものではなく、一般市民法秩序と直接関係を有しない内部的な問題は右司法審査の対象から除外されるべきである。
 2a.弁護士からの報告を求める申出に対する弁護士会の拒絶に不服があるとしても、それは弁護士会の自主的、自律的な判断に委ねられている、純然たる弁護士会の内部問題について紛争があるにすぎないものというべく、裁判所の司法審査の対象となるところの法律上の争訟がある場合には当たらない。
 3.弁護士が日本弁護士連合会の監督権を行使しないという回答に不服があつたとしても、法律に特に出訴を認める規定がないかぎり、それも亦裁判所の司法審査の対象になるところの法律上の争訟がある場合には当たらない。 /弁護士照会/弁護士会照会/23条照会/訴訟要件/部分社会論/司法権の限界/
参照条文: /弁護士法:23-2条;31条;33条/裁判所法:3条1項/民事訴訟法:2編1章/
全 文 s531120sapporoH.html

最高裁判所 昭和 53年 9月 14日 第1小法廷 判決 ( 昭和50年(オ)第745号 )
事件名:  執行文付与請求・上告事件
要 旨
 1.Xの株式会社D(養豚業を経営)に対する損害賠償請求を認容する判決が確定することを予期し、また、D社が他にも多額の債務を負っているため、D社の代表取締役Eがその義兄Aと相談して、Aらの出資の得て新会社(D株式会社)を設立し、株式会社Dの営業用資産及び飼育中の豚をD株式会社に譲渡した場合に、Xが株式会社Dに対する確定判決に基づいてD株式会社に対する強制執行をすることができるように執行文付与の訴えを提起したところ、原審が、≪株式会社DとD株式会社とは全く同一の法人格であり、その設立登記は同一会社についてされた二重の登記とみるべきであるから、Xは株式会社Dに対し金銭の支払を命じた確定判決を債務名義としてD株式会社に対して強制執行をすることができるものと解すべきであり、右両会社の人格の同一性については債権者の提起する執行文付与の訴によつて裁判所の審理を受けるべきものである≫との見解のもとに、D株式会社に対する強制執行のための執行文付与請求を認容したところ、最高裁が、≪両者が別個の法人として設立手続、設立登記を経ているものである以上、上記のような事実関係から直ちに両会社が全く同一の法人格であると解することは、商法が、株式会社の設立の無効は一定の要件の下に認められる設立無効の訴のみによつて主張されるべきことを定めていること(同法428条)及び法的安定の見地からいつて是認し難い≫と説示して、原判決を破棄した事例。
 2.法人格否認の法理により債権者が自己と前訴被告会社間の確定判決の内容である損害賠償請求を新会社に対してすることができる場合においても、権利関係の公権的な確定及びその迅速確実な実現をはかるために手続の明確、安定を重んずる訴訟手続ないし強制執行手続においては、その手続の性格上前訴被告会社に対する判決の既判力及び執行力の範囲を新会社にまで拡張することは許されない。
 3.法人格否認の法理により債権者が自己と前訴被告会社間の確定判決の内容である損害賠償請求を新会社に対してすることができる場合に、新会社に対する執行文付与請求を認容した原判決が破棄され、差戻審において原告は新会社に対する損害賠償請求の訴えに変更する余地があるとして、事件が差し戻された事例。
参照条文: /商法:428条/t15.民事訴訟法:201条/民事執行法:23条;33条/
全 文 s530914supreme.html

神戸地方裁判所 昭和 53年 7月 27日 第18民事掛 判決 ( 昭和53年(ワ)第1号 )
事件名:  第三者異議事件
要 旨
 1.建物所有者である妻に対する債務名義に基づく建物収去土地明渡の強制執行に対して、夫が主位的に独立の占有者であること、予備的に建物の共有権を主張して第三者異議の訴えを提起したが、棄却された事例。
 2.建物に居住する夫婦の生計について夫が中心的地位にあるとしても、右の経済的劣位の関係にかかわらず、妻は右建物を所有してこれに居住しているとすれば、この事実によりその敷地を占有するものであつて、同様に右建物を占有するものとみるべきであり、特段の事情がない限り、夫を独立の占有者と解すべきでない。 /占有権に基づく第三者異議/夫婦の占有/
参照条文: /民法:180条/民法:249条/民法:752条/民法:762条/民執.38条/
全 文 s530727kobeD.html

東京高等裁判所 昭和 53年 7月 26日 民事第1部 判決 ( 昭和50年(ネ)第2970号 )
事件名:  建物所有権移転登記請求控訴事件
要 旨
 競売不動産を競落した抵当権者が納付すべき代金について配当額との差引計算をした上で所有権移転登記がなされたが、その後に債務者が債権額の一部を争い、代金が完納されていないから所有権は移転していないと主張して、真正な登記名義の回復を原因とする所有権移転登記手続等を訴求したが、抵当権の被担保債務が皆無ではなかった以上競落人は所有権を取得したというべきであるとして、棄却された事例。
 1.差引計算において競落人たる債権者の債権額が過大に計上されていたため競落人に支払わしめるべき競落代金のなお存することが後に判明した場合には、いまだ競落代金の支払は終っていないとする見解も考えられないでもないが、この見解に従うときは、右債権者の受け取るべき交付額が確定判決によって別途確定するまでは、競売手続は、真の完結を見ず、後に確定したところのいかんによっては、いったん完結の扱いをした競売手続を再び続行しなければならないという不安定な様相を呈することとなるのみならず、競落人たる債権者が代金全額を現実に競落代金を支払った上で過大に計上された自己の債権額につき右競落代金から交付を受けたのと計算上は異なるところがなく、かかる過大の交付よって損失を受けた後順位の権利者又は債務者から右債権者に対し不当利得の返還を求めるという形で競売手続外において解決されるのであるから、右見解にくみすることはできない。 /差引納付/
参照条文: /m23.民事訴訟法:693条;699条/競売法:2条;32条2項/
全 文 s530726tokyoH2.html

最高裁判所 昭和 53年 7月 10日 第1小法廷 判決 ( 昭和52年(オ)第1321号 )
事件名:  社員総会決議不存在確認請求・上告事件
要 旨
 経営の行き詰まった有限会社の社員持分が会社の再建を引き受ける者に全部譲渡され、その譲渡の承認や譲受人の一人を代表取締役に選任する旨の社員総会決議がなされたものとして譲渡等の登記がなされたが、実際にはそれらの決議がされていなかった場合に、譲渡人らが譲渡から約3年ほど経過してから会社に対して決議不存在確認請求の訴えがを提起したところ、その訴えは、判示の事実関係のもとでは、持分の譲受人に対する著しい信義違反の行為であること及び請求認容の判決が第三者である譲受人らに対しても効力を有することに鑑み、訴権の濫用にあたるとして却下された事例。
参照条文: /有限会社法:19条2項;有限会社法41条/商法:252条/民法:1条3項/民事訴訟法:第2編第1章/
全 文 s530710supreme.html

大阪地方裁判所 昭和 53年 6月 20日 判決 ( 昭和48年(ワ)第5607号・5609号、昭和52年(ワ)6760号 )
事件名:  商号使用禁止等請求事件
要 旨
 1.昭和19年設立の霊柩車による運送会社と昭和38年設立の葬祭請負会社が社名と本店の所在地と代表取締役を共通にする場合に、葬祭業を営む他社に対する商号使用禁止請求訴訟を追行することにつき当該代表取締役から委任を受けた訴訟代理人が請求原因欄に「原告は昭和19年に設立された」と記載した訴状を作成して提起したが、その訴訟の第7回口頭弁論において、訴状の当事者の表示欄における原告会社名の直後に「ただし、葬儀行為を営業目的とするもの)」との文言を補充することが、原告の表示を正確にするための一部補充として許されるとされた事例。(当事者の表示の補充であって、任意的当事者変更に当たらないとされた事例)
 2.葬祭請負業を営む原告会社の営業表示「公益社」の一定地域での周知生が肯定され、同業の株式会社高槻公益社等に対する商号使用禁止等の請求が認容された事例。
 2a.旧不正競争防止法1条1項2号(現2条1項1号)所定の営業表示が自社の創始したものではなく、他からその営業とともに譲渡を受けたものである場合において、当該表示の周知性の存否を検討するさいには、場合により前主すなわち営業表示譲渡人が当該表示を使用していた当時の使用状況(広告等の規模程度)等をもあわせ考慮することもできる。
 2b.原告の商号「株式会社公益社」と被告の商号「株式会社北摂公益」とが類似するとされた事例。
 2c.慣用表示使用の抗弁が認められなかった事例。 /知的財産権/無体財産権/不正競争防止法/
参照条文: /不正競争.2条1項1号/不正競争.11条1項1号/民訴.133条2項1号/
全 文 s530620osakaD.html

最高裁判所 昭和 53年 5月 2日 第3小法廷 判決 ( 昭和52年(オ)第676号 )
事件名:  破産債権確定請求・上告事件
要 旨
 手形が転々譲渡されたで振出人たる会社が破産した場合に、手形所持人たる銀行が破産会社に対する手形債権と破産会社の同銀行に対する預金返還請求権とを対当額において相殺することにより手形上の権利の満足実現を図ったからといって、そのために手形の裏書人が買戻請求権ないし遡求権の行使を免れ、結果において利得するところがあったとしても、裏書人の利得と破産会社がその預金返還請求権の一部を相殺によって失った損失との間に民法703条の予定する法律上の因果関係があるということはできない。 /同行相殺/
参照条文: /民法:703条/
全 文 s530502supreme.html

最高裁判所 昭和 53年 4月 13日 第1小法廷 判決 ( 昭和50年(行ツ)第27号 )
事件名:  退職手当金請求・上告事件
要 旨
 明示的一部請求訴訟における債権全体の主張が残部請求権について裁判上の催告の効力を有し、請求認容判決の確定後6月以内に提起された残部請求の訴えにより、残部請求権の消滅時効が確定的に遮断されるとした原判決が結論において正当であるとされた事例。
参照条文: /民法:147条/民法:153条/
全 文 s530413supreme.html

最高裁判所 昭和 53年 3月 23日 第1小法廷 判決 ( 昭和51年(オ)第348号 )
事件名:  損害賠償請求・上告事件
要 旨
 D運転の車両とF運転の車両の交通事故につき、D、F及び道路管理者である国の三者に過失があり、Dに生じた損害の賠償についてF運転車両の運行供用者であるEと国とが不真正連帯債務を負うとされる場合に、Dの相続人(原告)がE及び国を共同被告にして損害賠償請求の訴えを提起し、Eが同一事故から生じた損害賠償請求権との相殺を主張し、第一審裁判所が相殺を認めてEに対しては相殺額を控除した後の金額の賠償を命じ、相殺による債務消滅を主張しなかった国に対しては相殺額を控除する前の金額の賠償を命じたところ、国のみが控訴し、控訴審において国がEの相殺により自己の連帯債務も相殺額分だけ消滅していると主張し、控訴審が、E主張の自働債権の損害を確定することなく、原告・E間でEの相殺を認める判決が確定していることのみを認定して、国の債務もEの相殺により一部消滅していると判断した事案において、上告審が、原告と国の間の訴訟においてE主張の自働債権を確定することなくEの相殺による国の連帯債務の消滅を認めることは許されないとした事例。
 1.不真正連帯債務者中の一人と債権者との間の確定判決は、他の債務者にその効力を及ぼすものではなく、このことは、民訴法199条2項により確定判決の既判力が相殺のために主張された反対債権の存否について生ずる場合においても同様であると解すべきである。(判決の反射的効力の否定)
 2.当事者の双方に過失のある同一事故による物損についても、双方の損害賠償請求権を相殺することは民法509条により許されないが、そうであるとしても、その相殺を認める判決が確定すれば、民訴法199条2項による確定判決の既判力の効果として被告は相殺に供した反対債権を行使することができなくなり、その反面として原告はそれだけの利益を受けたことになり、右事実は被告が弁済等その出捐により原告の債権を満足させて消滅せしめた場合と同視することができるから、他の共同不法後者と原告との間でも前記反対債権が実体法上有効に存在することが確定されるときには、他の共同不法行為者の原告に対する損害賠償債務もその限度で消滅したことになる。
 3.前記2の場合に、原告の損害賠償請求権について被告とともに共同不法行為者になる者が、被告の損害賠償請求権について原告とともに共同不法行為者になるときは、原告は、被告が相殺に供した損害賠償請求権の消滅について、共同不法行為者に対して求償権を取得する。
参照条文: /t15.民事訴訟法:199条;201条/民法:509条/
全 文 s530323supreme.html

大阪高等裁判所 昭和 53年 3月 6日 第12民事部 決定 ( 昭和52年(ラ)第120号 )
事件名:  文書提出命令に対する即時抗告事件
要 旨
 被告(電力会社)が設営する火力発電所から排出された汚染物質による大気汚染公害を理由とする損害賠償請求訴訟において、原告(周辺住民)が、大気汚染の測定結果たる数値等につき具体的主張をすることなく、「被告第一火力から排出された汚染物質によつてa町及びその周辺の大気環境が汚染された事実」を立証事実として、汚染物質測定記録を入力した磁気テープおよびこれより各データを取出すのに必要不可欠な資料の提出を命ずる文書提出命令を申し立てたところ、被告が所持していないと認められる部分を除き、提出が命じられた事例。
 1.大気汚染の公害訴訟において、文書提出命令の申立人(原告である周辺住民)にとって過去長期間にわたり排出された汚染物質による大気汚染の数値を訴提起前に蒐集することは事実上不可能であり、従つて、具体的な大気汚染の数値を示して右記録の提出命令を求める申出を行なうべきことを要求することが、申立人に不可能を強いるか、若しくはずさんな根拠なき数値を主張させる結果を招来するおそれが生ずるのであるような場合には、申立人は、大気汚染の具体的数値を立証事実に掲げずに抽象的事項を掲げるに過ぎないときでも、その証拠申出をもって直ちに不備違法であるというべきではないとされた事例。(公平の原理)
 2.大気汚染物質の測定記録をインプツトした磁気テープは、多数の情報を電気信号に転換しこれを電磁的に記録した有形物であつて、それをプリント・アウトすれば可視的状態になしうるから、準文書というべきである。(磁気テープがその内容を直接視読できないこと、あるいは直接視読による証拠調の困難なことをもつて、その準文書性を否定することはできない。)
 2a.大気汚染物質の測定記録を入力した磁気テープを作成して所持している者について、磁気テープを提出するとともに、その内容を紙面等にアウトプツトするに必要なプログラムを作成してこれを併せて提出すべき義務があるとされた事例。
 2b.提出された磁気テープの証拠調べについては、鑑定人をして鑑定させるのも一方法であると考えられ、その場合の鑑定費用ないしアウトプツトした結果を記載した書面(写し)の作成提出に要する費用は、書証として提出する者が負担すべきであろう、とされた事例。
 3.大正15年民事訴訟法312条3号後段にいう「挙証者と所持者との法律関係につき作成された文書」とは、両者間に成立する法律関係それ自体を記載した文書だけでなく、その法律関係の形成過程において作成された文書やその法律関係に関連のある事項を記載した文書も含むと解すべきである。
 3a.火力発電所から排出された大気汚染物質の測定記録を入力した磁気テープは、大汚気染とこれによる周辺住民の損害という法律関係に関係をもつから、同条3号後段の法律関係文書に準ずるものとして、文書提出命令の対象になるとされた事例。
 4.文書提出者において、文書を提出すればその間当該文書を使用できなくなり、業務の遂行に支障をうけることもありうるが、具体的に特定し理由を挙げて立証しないで、たんに抽象的に業務の遂行に支障を生じうるとの理由をもつて、当然に文書提出命令を拒否することは許されない。
 4a.文書提出命令の制度の趣旨とくに公益性との比較均衡において考量すると、文書所持者において秘密部分を特定し、理由を明示する等して提出命令を妨げる特段の事情を立証しない限り、たんに磁気テープの中に文書所持者が企業の内部において秘密扱にしているものが含まれていることをもつて、当然にその提出を拒む理由とすることはできない。
参照条文: /t15.民事訴訟法:258条1項;312条;313条;332条/
全 文 s530306osakaH.html

名古屋高等裁判所 昭和 53年 2月 17日 民事第4部 決定 ( 昭和53年(ラ)第2号 )
事件名: 
要 旨
 更地の共有者全員がその共有持分に抵当権を設定した後にそのうちの一人がその地上に建物を築造した場合には、民法389条を拡張解釈して、土地の抵当権者に地上建物の競売権を付与するのが相当である。
 (建物一括競売権)
参照条文: /民法:389条/民執.181条/民執.182条/
全 文 s530217nagoyaH.html

最高裁判所 昭和 53年 2月 16日 第1小法廷 判決 ( 昭和51年(行ツ)第27号 )
事件名:  所得税更正決定取消等請求・上告事件
要 旨
 夫婦の一方が婚姻中自己の名で得た特有財産を離婚に際して他方に財産分与として譲渡することは、所得税法33条1項にいう「資産の譲渡」にあたるとされた事例。
 1.夫婦の一方が婚姻中自己の名で得た財産はその特有財産とすると定める民法762条1項は、憲法24条に違反するものでない。
 2.所得税法33条1項にいう「資産の譲渡」とは有償無償を問わず資産を移転させるいつさいの行為をいうものであり、夫婦の一方の特有財産である資産を財産分与として他方に譲渡することは、右「資産の譲渡」にあたり、譲渡所得を生ずるものである。
参照条文: /所得税法:33条1項/民法:762条;768条/憲法:24条/
全 文 s530216supreme.html

最高裁判所 昭和 53年 1月 23日 第1小法廷 判決 ( 昭和52年(オ)第867号 )
事件名:  債務不存在確認等請求上告事件
要 旨
 1.仮執行宣言付支払命令により手形債権が確定した場合に、右支払命令の送達前に完成した原因債権の消滅時効を手形債務者が送達後に援用し、これを右支払命令に対する請求異議の理由として主張することは、旧民訴法561条2項にいう仮執行宣言付支払命令の送達後に異議の原因を生じた場合にあたらず、したがつて、このような主張は許されない。(旧法事件。旧民訴法561条2項は民事執行法35条2項に相当するが、内容の差異に注意)
 2.民法174条ノ2の規定によつて手形債権の消滅時効期間が支払命令の確定の時から10年に延長せられるときは、これに応じて原因債権の消滅時効期間も同じくその時から10年に変ずる。
参照条文: /民法:174-2条/民法:150条/民法:145条1号/民訴.396条/民執.35条2項/
全 文 s530123supreme.html

最高裁判所 昭和 52年 11月 24日 第1小法廷 判決 ( 昭和51年(オ)第1202号 )
事件名:  執行文付与の訴・上告事件
要 旨: 1.執行文付与の訴において執行債務者が請求に関する異議の事由を反訴としてではなく単に抗弁として主張することは、許されない。
参照条文: /民執.35条/民執.33条/
全 文 s521124supreme.html

最高裁判所 昭和 52年 10月 25日 第3小法廷 判決 ( 昭和50年(オ)第930号 )
事件名:  損害賠償等請求・上告事件・附帯被上告事件
要 旨
 1.県立高校の担任教師が生徒に対して許容される限界を著しく逸脱した違法な懲戒行為を行い、翌日の朝に生徒が遺書を残して自殺した場合に、懲戒行為がなされるに至った経緯、その態様、これに対する生徒の態度、反応等からみて、教師としての相当の注意義務を尽くしたとしても、生徒が右懲戒行為によって自殺を決意することを予見することは困難な状況にあったと認定され、懲戒行為と生徒の自殺との間に相当因果関係がないとされた事例。
 2.福岡県が設置する高等学校の教師が生徒に対してした懲戒行為が違法であり、これにより生徒は福岡県に対し60万円相当の慰藉料請求権を取得し、生徒の死亡により両親が各30万円づつを相続により取得したとされた事例。
 2a.公務員である高校教師による生徒に対する違法な懲戒行為により生じた損害について公共団体が生徒に対して賠償責任を負うべき場合に、賠償請求権者が訴えを提起するのやむなきにいたり、弁護士に訴訟の追行を委任し、その手数料等を支払うことを約したとすれば、弁護士に支払うべき手数料等もまた、不法行為によって生じた損害として、その相当と認められる限度で、公共団体においてこれを賠償する責任があるとされた事例。
 3.公権力の行使に当たる国又は公共団体の公務員が、その職務を行うについて、故意又は過失によって違法に他人は与えた場合には、国又は公共団体がその被害者に対して賠償の責に任ずるのであって、公務員個人はその責任を負わないと解するのが、相当である。(先例の確認) /体罰/
参照条文: /国家賠償法:1条/民法:709条/学校教育法:11条/
全 文 s521025supreme.html

最高裁判所 昭和 52年 10月 25日 第3小法廷 判決 ( 昭和50年(オ)第621号 )
事件名:  損害賠償請求・上告事件
要 旨
 1.労働者災害補償保険法に基づく保険給付の実質は、使用者の労働基準法上の災害補償義務を政府が保険給付の形式で行うものであって、厚生年金保険法に基づく保険給付と同様、受給権者に対する損害の填補の性質をも有するから、事故が使用者の行為によって生じた場合において、受給権者に対し、政府が労働者災害補償保険法に基づく保険給付をしたときは労働基準法84条2項の規定を類推適用し、また、政府が厚生年金保険法に基づく保険給付をしたときは衡平の理念に照らし、使用者は、同一の事由については、その価額の限度において民法による損害賠償の責を免れる。
 2.政府が保険給付をしたことによって、受給権者の使用者に対する損害賠償請求権が失われるのは、右保険給付が損害の填補の性質をも有する以上、政府が現実に保険金を給付して損害を填補したときに限られ、いまだ現実の給付がない以上、たとえ将来にわたり継続して給付されることが確定していても、受給権者は使用者に対し損害賠償の請求をするにあたり、このような将来の給付額を損害賠償債権額から控除することを要しない。
参照条文: /民法:709条/労働基準法:84条2項/労働者災害補償保険法:12-4条/厚生年金保険法:40条/
全 文 s521025supreme2.html

最高裁判所 昭和 52年 7月 13日 大法廷 判決 ( 昭和46年(行ツ)第69号 )
事件名:  行政処分取消等請求上告事件
要 旨
 津市体育館の起工式が、地方公共団体である津市の主催により、同市の職員が進行係となつて、宗教法人大市神社の宮司ら四名の神職主宰のもとに神式に則り挙行され、市長がその挙式費用金7663円(神職に対する報償費金4000円、供物料金3663円)を市の公金から支出したことにつき、この地鎮祭は慣習化した社会的儀礼として行われた世俗的行事であり、憲法20条3項の禁止する宗教的活動には該当しないから違法な公金支出にはあたらないとされた事例。
 1.政教分離規定の保障の対象となる国家と宗教との分離にもおのずから一定の限界があることを免れず、政教分離原則が現実の国家制度として具現される場合には、それぞれの国の社会的・文化的諸条件に照らし、国家は実際上宗教とある程度のかかわり合いをもたざるをえないことを前提としたうえで、そのかかわり合いが、信教の自由の保障の確保という制度の根本目的との関係で、いかなる場合にいかなる限度で許されないこととなるかが、問題とならざるをえない。
 1a.憲法の政教分離規定の基礎となり、その解釈の指導原理となる政教分離原則は、国家が宗教的に中立であることを要求するものではあるが、国家が宗教とのかかわり合いをもつことを全く許さないとするものではなく、宗教とのかかわり合いをもたらす行為の目的及び効果にかんがみ、そのかかわり合いが前記諸条件に照らし相当とされる限度を超えるものと認められる場合にこれを許さないとするものであると解すべきである。
 1b.憲法20条3項にいう宗教的活動とは、およそ国及びその機関の活動で宗教とのかかわり合いをもつすべての行為を指すものではなく、そのかかわり合いが前記諸条件に照らし相当とされる限度を超えるものに限られるというべきであつて、当該行為の目的が宗教的意義をもち、その効果が宗教に対する援助、助長、促進又は圧迫、干渉等になるような行為をいうものと解すべきである。
 2.体育館の起工式が、宗教とかかわり合いをもつものであることを否定しえないが、その目的は建築着工に際し土地の平安堅固、工事の無事安全を願い、社会の一般的慣習に従つた儀礼を行うという専ら世俗的なものと認められ、その効果は神道を援助、助長、促進し又は他の宗教に圧迫、干渉を加えるものとは認められないのであるから、憲法20条3項により禁止される宗教的活動にはあたらないとされた事例。
参照条文: /憲.20条/憲.89条/
全 文 s520713suprmeme.html

京都地方裁判所 昭和 52年 6月 15日 第4民事部 判決 ( 昭和50年(ワ)第674号 )
事件名:  預託金返還請求事件
要 旨
 受託保証人が、主債務者の自己に対する債権の差押え前に事前求償権を取得し、差押え後に保証債務を履行することにより事前求償権に付着していた抗弁権を消滅させた場合に、事前求償権と被差押債権とを相殺することができるとされた事例。
 1.相殺制度の本旨に鑑みれば、民法511条は、第三債務者に対して有する債権をもって差押債権者に対し相殺をすることができることを当然の前提としたうえ、差押え後に発生した債権又は差押え後に他から取得した債権を自働債権とする相殺のみを例外的に禁止することによって、その限度において、差押債権者と第三債務者の間の利益の調和を図ったものと解すべきである。
 1a.主債務者が、彼について仮差押え、差押え、競売の申請があった場合には、通知催告を要さず即時期限の利益を失う旨の約定で、債権者から借り受け、主債務者から委託を受けた保証人がこの債務を保証し、その後に主債務者が保証人に対して有していた預託金債権が差し押さえられた場合に、この預託金債権の差押転付命令が効力を生じた時には保証人の事前求償権も主債務者の預託金債権も期限が到来していたから、保証人による相殺は民法511条に妨げられることなく有効であるとされた事例。
 2.
 民法460条2号の事前求償権について、主債務者が民法461条により受託保証人に対し担保供与或いは免責を要求しうる権利を有し、右供与があるまで求償に応じることを拒絶できる場合には、事前求償権には抗弁権が附着しているということができ、保証人は、事前求償権を自働債権として主債務者の自己に対する債権と相殺することができない。
 2a.受働債権の差押え当時に自働債権に抗弁権が附着していたとしても、その後に抗弁権が消滅して相殺適状に達したときには、第三債務者はこれを自働債権として相殺をすることができる。
参照条文: /民法:511条/民法:460条/民法:461条/
全 文 s520615kyotoD.html

東京高等裁判所 昭和 52年 6月 8日 判決 ( 昭和51年(行ケ)第70号 )
事件名:  審決取消請求事件
要 旨
 1.実用新案登録出願後に登録を受ける権利の持分の半分が他に譲渡され、その届け出がなされた後に拒絶査定がなされた場合に、当初の出願人が単独でした審判請求が不適法であるとして却下され、この審決に対して共有者全員が審決取消請求の訴えを提起したが、棄却された事例。
 1a.登録を受ける権利の共有者は、審判請求の当事者となっていない場合でも、審判の当事者に準ずるものとして、審決取消請求の訴えの原告適格を有する。
 1b.実用新案登録を受ける権利の共有者がその共有に係る権利について審判の請求をするには、共有者の全員が共同してすべきものであるから、共有者の一人のみによってなされた審判請求は不適法であつて、これを補正することができない。
 1c.原告が、特許庁における審査と審判との関係は民事訴訟手続における第一審と控訴審との関係に相当し、「必要的共同訴訟において、共同訴訟人の一人の上訴は他の共同訴訟人のためにも効力を生ずる」との法理が適用されるべきであると主張したが、黙示的に否定された事例。 /知的財産権/無体財産権/工業所有権/実用新案権/原告適格/当事者適格/必要的共同審判/固有必要的共同訴訟に相当する審判形態/共有物の保存行為/
参照条文: /民法:264条/民法:252条/実用新案.47条2項/特許.178条/実用新案.41条/特許.132条3項/
全 文 s520608tokyoH51.html

最高裁判所 昭和 52年 4月 15日 第2小法廷 判決 ( 昭和51年(オ)第1174号 )
事件名:  建物収去土地明渡請求上告事件
要 旨
 書証の成立の真正についての自白は裁判所を拘束しない。 /弁論主義/自白の拘束力/補助事実/文書の真否/自白の撤回/
参照条文: /民訴.179条/民訴.228条/
全 文 s520415supreme.html

最高裁判所 昭和 52年 3月 24日 第1小法廷 判決 ( 昭和49年(オ)第163号 )
事件名:  建物収去土地明渡等請求・上告事件
要 旨
 1.後訴の請求又は後訴における主張が前訴のそれのむし返しにすぎない場合には、後訴の請求又は後訴における主張は、信義則に照らして許されない。
参照条文: /民法:1条2項/民事訴訟法:第2篇第1章/
全 文 s520324supreme.html

最高裁判所 昭和 52年 3月 17日 第1小法廷 判決 ( 昭和48年(オ)第823号 )
事件名:  転付債権請求上告事件
要 旨
 譲渡禁止の特約のある指名債権をその譲受人が右特約の存在を知つて譲り受けた場合でも、その後、債務者が右債権の譲渡について承諾を与えたときは、右債権譲渡は譲渡の時にさかのぼつて有効となり、譲渡に際し債権者から債務者に対して確定日付のある譲渡通知がされている限り、債務者は、右承諾以後において債権を差し押え転付命令を受けた第三者に対しても、右債権譲渡が有効であることをもつて対抗することができ、右承諾に際し改めて確定日付のある証書をもつてする債権者からの譲渡通知又は債務者の承諾を要しない。 /追認/
参照条文: /民法:119条/民法:466条/民法:467条/
全 文 s520317supreme.html

最高裁判所 昭和 52年 3月 15日 第2小法廷 判決 ( 昭和46年(行ツ)第52号 )
事件名:  単位不認定等違法確認請求・上告事件
要 旨
 富山大学経済学部のある教授が昭和41年度に担当する科目について、複数の学生が4月に履修票を提出して受講していたが、同教授が過年度に成績証明書を偽装したこと等を理由に、同教授に対して同年9月に教授会への出席停止措置がとられ、同年12月に授業担当停止措置がとられ、学生達に対して代替科目を履修するように指示がなされたが、これに従わなかった原告らについて同教授が経済学部長に成績表を提出したところ、経済学部長又は学長が当該科目について終了・未修了の決定も認定もしないため、原告らが、主位的に「単位授与・不授与の決定をしないのは違法である」ことの確認請求を提起し、予備的に「単位認定の義務がある」ことの確認請求を併合した訴えを提起したが、単位授与(認定)行為は、裁判所の司法審査の対象にはならないとの理由で、訴えが却下された事例。
 1.一般市民社会の中にあつてこれとは別個に自律的な法規範を有する特殊な部分社会における法律上の係争のごときは、それが一般市民法秩序と直接の関係を有しない内部的な問題にとどまる限り、その自主的、自律的な解決に委ねるのを適当とし、裁判所の司法審査の対象にはならない。(先例の確認)
 1a.大学は、その設置目的を達成するために必要な諸事項については、法令に格別の規定がない場合でも、学則等によりこれを規定し、実施することのできる自律的、包括的な権能を有し、一般市民社会とは異なる特殊な部分社会を形成しているのであるから、大学における法律上の係争のすべてが当然に裁判所の司法審査の対象になるものではなく、一般市民法秩序と直接の関係を有しない内部的な問題は右司法審査の対象から除かれるべきものである。
 2.(単位の認定について)
 単位の授与(認定)という行為は、学生が当該授業科目を履修し試験に合格したことを確認する教育上の措置であり、卒業の要件をなすものではあるが、当然に一般市民法秩序と直接の関係を有するものでない。
 2a.単位授与(認定)行為は、他にそれが一般市民法秩序と直接の関係を有するものであることを肯認するに足りる特段の事情のない限り、純然たる大学内部の問題として大学の自主的、自律的な判断に委ねられるべきものであつて、裁判所の司法審査の対象にはならない。
 3a.特定の授業科目の単位の取得それ自体が一般市民法上一種の資格要件とされる限りにおいて単位授与(認定)行為が一般市民法秩序と直接の関係を有することは否定できないが、そのような場合はいまだ極めて限られており、一部に右のような場合があるからといつて、一般的にすべての授業科目の単位の取得が一般市民法上の資格地位に関係するものであり、単位授与(認定)行為が常に一般市民法秩序と直接の関係を有するものであるということはできない。
参照条文: /裁判所法:3条1項/大学設置基準(昭和31年文部省令第28号):31条/民事訴訟法:2編1章/
全 文 s520315supreme.html

最高裁判所 昭和 52年 2月 22日 第3小法廷 判決 ( 昭和51年(オ)第611号 )
事件名:  請負代金請求上告事件
要 旨
 1.請負契約において、注文主が予めなすべき工事をしないために、注文主の責めに帰すべき事由により請負工事が履行不能に帰したと判断された事例。
 2.請負契約において、仕事が完成しない間に、注文者の真に帰すべき事由によりその完成が不能となった場合には、請負人は、自己の残債務を免れるが、民法536条2項によって、注文者に請負代金全額を請求することができ、ただ、自己の債務を免れたことによる利益を注文者に償還すべき義務を負うにすぎない(不服申立てのない部分についての傍論)。 /損益相殺/危険負担/受領拒絶/
参照条文: /民法:536条2項/民法:632条/
全 文 s520222supreme.html

名古屋高等裁判所 昭和 52年 2月 3日 民事第1部 決定 ( 昭和51年(行ス)第1号 )
事件名:  文書提出命令申立却下決定に対する即時抗告事件
要 旨
 税務署長の推計課税処分の取消しを求める訴訟において、被告が、推計方法の合理性の立証のために、同業者が作成した納税申告書等の一部(納税者の氏名又は法人名、納税地や住所地の一部、仕入先、借入金の借入先等)を隠ぺいして証拠として提出したところ、原告が隠ぺい部分を開示した原本の提出命令を申し立てた場合に、被告の守秘義務を理由に申立てを却下した一審決定が取り消された事例。
 1.訴訟の当事者が文書(原本)の一部を隠ぺいした文書を証拠として取り調べることを請求した場合には、その文書(原本)は、その者が訴訟に提出した証拠文書をとおしてその存在を明らかにして自己の主張の根拠としたものであり、訴訟において引用した文書に当るというべきであって、一つの文書についてその一部分の内容を準備書面等において言及していないことを理由に引用文書に該当しないものということはできない。
 1a.取調のために提出された文書の内容の一部が隠ぺいされているときは、民訴法312条1号(現220条1号)の文書として、当該訴訟における相手方は原則としてその隠ぺい部分の開示を求めることができる。
 1b.文書所持者の証拠調べの協力義務である文書提出義務は、限定的ではあるが、公法上の義務、訴訟法上の義務として証人義務と同じ性格を有するものであるけれども、民訴法312条1号(現220条1号)の当事者がみずから引用した文書については、証言拒絶に関する民訴法272条、280条、281条の規定は類推適用されず、たとえ守秘義務のあるものであっても提出義務は免除されない。
参照条文: /民訴.220条1号/民訴.191条/民訴.196条/民訴.197条/
全 文 s520203nagoyaH.html

東京高等裁判所 昭和 51年 12月 1日 判決 ( 昭和44年(行ケ)第102号 )
事件名:  実用新案願拒絶査定に対する審判の審決取消請求事件
要 旨
 1.実用新案登録の出願者Aが出願後に登録を受ける権利の一部をBに譲渡し、拒絶査定を支持する審決に対す取消請求の訴えをAが単独で提起し、出訴期間経過後にBがAに持分を譲渡して訴訟係属中にその届け出をしてAが単独権利者になった場合において、Aが単独で提起した訴えは当事者適格を欠き不適法であるとして却下された事例。
 1a.実用新案の登録を受ける共有の権利に関する審決の取消訴訟は、その審決と同様の意味において、その権利の共有者全員について合一にのみ確定すべき要請を受けるから、固有必要的共同訴訟であり、共有者全員が共同して提起することを要する。
 1b.固有必要的共同訴訟において、当事者たるべき全員による訴提起でないため当事者適格を缺く場合、訴が不適法として排斥されても裁判の拒否にはならず、何人にも裁判を受ける権利を保障した憲法第32条の規定に牴触するものではない。
 1c.実用新案について登録を受ける権利が共有にかかる出願の拒絶査定に対する不服審判の審決取消訴訟を、共有物保存の訴と同様、共有者が単独で提起することができるとする見解は、取消訴訟が共有権利者全員について合一にのみ確定さるべき要請に背馳する結果をもたらすことを避け難いから、採用することができない。
 1d.審決に対する出訴期間が満了した後に持分が譲渡されて登録を受ける権利が原告独りに帰属するに至っても、審決取消請求の訴えが遡って適法となることはない。 /知的財産権/無体財産権/工業所有権/実用新案権/当事者適格/合一確定/
参照条文: /民法:264条/民法:252条/民訴.40条/実用新案.11条1項/特許.38条/実用新案.41条/特許.132条3項/
全 文 s511201tokyoH51.html

最高裁判所 昭和 51年 11月 25日 第1小法廷 判決 ( 昭和46年(オ)第457号 )
事件名:  転付金請求・上告事件
要 旨
 手形割引を得た顧客が割引銀行に対して有していた預託金請求権について仮差押えが執行され、ついで差押え・転付命令が発せられた場合に、銀行は、銀行取引約定書の規定により、仮差押えの申請があった時点で顧客に対して手形買戻請求権[=買戻金請求権]を取得したことを差押債権者に対する関係でも主張することができ、両債権を対当額で相殺することができるとされた事例。
 1.(合意による期限の利益の喪失事由)
 
 銀行の貸付金債権について、債務者にその信用を悪化させる一定の客観的事情が発生した場合に、債務者の有する右貸付金債務の期限の利益を喪失せしめ、同人の銀行に対する債権につき銀行が期限の利益を放棄し、直ちに相殺適状を生ぜしめる旨の合意は、差押債権者に対する関係においても効力を有する。(先例の確認)
 1a.債務者に対して仮差押等の申請がされることは、債務者の信用を悪化させる定型的な徴候と解することができ、特段の事情のない限りこれをもつて上記の期限の利益喪失事由とすることが許される。(先例の確認)
 2.(事実たる慣習の例・公知の事実の例)
 
 今日の銀行取引において行われる手形割引は、割引手形の主債務者の信用が基礎にあるなどの点で、純然たる消費貸借契約とは性質を異にする一面を有するとはいえ、広い意味において割引依頼人に対する信用供与の手段ということができ、割引銀行としては、直接の取引先である割引依頼人に信用悪化の事態が生じた場合には、その資金の早期かつ安全な回収をはかろうと意図することは自然かつ合理的であり、その回収の手段として、一定の場合に、割引手形の満期前においても割引手形買戻請求権が発生するものとするとの事実たる慣習が形成され、全国的に採用されている定型的な銀行取引約定の中にその旨が明文化されるに至つていることは、公知の事実である。
 3.債務者の期限の利益喪失の事由とすることが許容される一定の客観的事情が割引依頼人について生じた場合には、割引依頼人が割引を受けた全部の手形につき、銀行からなんらの通知催告がなくても当然に割引手形買戻請求権が発生し、割引依頼人は右買戻債務を直ちに弁済しなければならない旨の銀行取引約定は、割引依頼人の銀行に対する預託金返還請求権につき仮差押をしたうえ差押・転付命令を得た債権者に対する関係でも、原則として有効である。
参照条文: /民法:511条;92条/民事執行法:145条1項/民事保全法:50条1項/手形法:第1編第6章;第1編第7章/民事訴訟法:179条/
全 文 s511125supreme.html

最高裁判所 昭和 51年 10月 21日 第1小法廷 判決 ( 昭和49年(オ)第937号 )
事件名:  請求異議上告事件
要 旨
 1.保証人敗訴の判決確定後に主債務者勝訴の判決が確定しても、同判決が保証人敗訴の確定判決の基礎となつた事実審口頭弁論終結時までに生じた事実を理由としてされている限り、保証人は、主債務者勝訴の確定判決を自己の敗訴判決に対する請求異議事由にすることはできない。
 2.主債務者勝訴の理由が主債務の不成立の場合について、判旨1が認められた事例。 /反射効/既判力の標準時/遮断効/保証債務の附従性/
参照条文: /t15.民事訴訟法:199条1項;201条1項/m23.民事訴訟法:545条/民法:448条/
全 文 s511021supreme.html

最高裁判所 昭和 51年 10月 8日 第2小法廷 判決 ( 昭和51年(行ツ)第37号 )
事件名:  第二次納税義務告知処分取消請求・上告事件
要 旨
 1.国税徴収法39条(無償又は著しい低額の譲受人等の第二次納税義務)にいう「受けた利益の限度」の額は、当該受益の時を基準として算定すべきものであるから、その算定上受益財産の価額から控除すべき出捐は、右受益の時においてその存否及び数額が法律上客観的に確定しているものであることを要する。
 1a. 受益財産の取得により課される道府県民税及び市町村民税は、受益の時においてはその納税義務の存否及び数額を法律上客観的に確定することができないものであるから、たとえその後に右税額が確定しこれを納付したとしても、その納付税額は、前記「受けた利益の限度」の額の算定にあたり、これを受益財産の価額から控除すべきものではない。
参照条文: /国税徴収法:39条/
全 文 s511008supreme.html

最高裁判所 昭和 51年 9月 30日 第1小法廷 判決 ( 昭和49年(オ)第331号 )
事件名:  所有権移転登記等請求・上告事件
要 旨
 前訴と後訴(本件訴え)は、訴訟物を異にするが、土地の買収処分の無効を前提としてその取戻を目的とするものであり、後訴は、実質的には、前訴のむし返しというべきものであり、前訴において後訴の請求をすることに支障もなかつた場合に、後訴提起時にすでに右買収処分後約20年も経過しており、買収処分に基づく土地の取得者の地位を不当に長く不安定な状態におくことになることを考慮すると、後訴の提起は信義則に照らして許されないとされた事例。
参照条文: /t15.民事訴訟法:第2編第1章/民法:1条2項/
全 文 s510930supreme.html

東京高等裁判所 昭和 51年 9月 22日 判決 ( 昭和38年(行ケ)第159号・160号 )
事件名:  審決取消請求事件
要 旨
 1.登録無効審判の除斥期間内に自ら請求せず、また、その審判手続に参加あるいは参加申請をしていない者が審決取消訴訟の被告側に補助参加した場合に、その参加は共同訴訟的補助参加であると判断され、被告が原告主張の事実を全部認めたが、補助参加人が争ったため、被告の自白は効力を生じないとされた事例。(大正10年実用新案法の事件)
 1a.実用新案登録無効の審判については、その確定審決の登録がなされたときは、同一の事実及び同一の証拠に基いて再びその審判を請求することができないものであつて、その限度において審決に対世的効力があるから、このような審決の取消訴訟に補助参加した者には、補助参加人としてなしうる訴訟行為の範囲において、必要共同訴訟における共同訴訟人と同様の地位を与え、民訴法第62条(現40条)の規定を準用するのが相当である。
 1b.無効審判請求の除斥期間に関する規定(旧実用新案法第23条)は、その期間経過後において適法に係属中の登録無効の審判に参加することまで許さない趣旨ではない。(注:除斥期間の制度は昭和62年法により廃止されている)
 2.作業用メリヤス手袋(軍手)の編み方に関する考案について、単なる寄せ集めの考案であり、当業者が周知事実および公知文献に基づいて容易に推考できるものであるから、実用新案登録は無効であるとされた事例。 /知的財産権/無体財産権/工業所有権/実用新案権/進歩性/判決の対世的効力/
参照条文: /民訴.40条/民訴.42条/実用新案.37条/実用新案.41条/特許.167条/実用新案.3条2項/
全 文 s510922tokyoH51.html

最高裁判所 昭和 51年 4月 14日 大法廷 判決 ( 昭和49年(行ツ)第75号 )
事件名:  選挙無効請求上告事件
要 旨
 1.昭和47年12月10日に行われた衆議院議員選挙の千葉県第一区における選挙は、憲法に違反する議員定数配分規定に基づいて行われた点において違法であるが、これを無効とする判決をしても、これによつて直ちに違憲状態が是正されるわけではなく、かえつて憲法の所期するところに必ずしも適合しない結果を生ずるので、選挙を無効とする旨の判決を求める請求を棄却するとともに、当該選挙が違法である旨を主文で宣言するのが、相当であるとされた事例。 /選挙権の平等/地域格差/過疎/過密/平等選挙/事情判決/
参照条文: /憲.14条1項/憲.55条/憲.57条1項/憲.59条2項/公選.204条/公選.205条/行訴.31条1項/
全 文 s510414supreme.html

最高裁判所 昭和 51年 3月 30日 第3小法廷 判決 ( 昭和46年(オ)第1057号 )
事件名:  損害賠償請求・上告事件
要 旨
  Y・ZのXに対する共同不法行為(自動車事故)を理由とするXのY・Zに対する損害賠償請求訴訟の第一審において、Yに対する請求を認容し、Zに対する請求を棄却する判決がなされた場合に、自己の敗訴判決について控訴しないYは、Xに補助参加して、XのZに対する請求を棄却する判決について控訴することができるとされた事例(補助参加の利益が肯定された事例)。
 1.本件訴訟においてZのXに対する損害賠償責任が認められれば、補助参加人Yは被参加人Xに対しZと各自損害を賠償すれば足りることとなり、みずから損害を賠償したときはXに対し求償し得ることになるのであるから、補助参加人は、本件訴訟において、被参加人の敗訴を防ぎ、ZのXに対する損害賠償責任が認められる結果を得ることに利益を有するということができる。
参照条文: /t15.民事訴訟法:64条/
全 文 s510330supreme.html

最高裁判所 昭和 51年 2月 13日 第2小法廷 判決 ( 昭和49年(オ)第1152号 )
事件名:  損害賠償請求上告事件
要 旨
 1.他人の権利の売買において権利者から追奪された善意の買主が売買契約を解除した場合のように、売買契約解除による原状回復義務の履行としての目的物の返還不能が、給付受領者の責に帰すべき事由ではなく、給付者のそれによつて生じたものであるときは、給付受領者は、目的物の返還に代わる価格返還の義務を負わない。
 2.売買契約が解除された場合に、目的物の引渡を受けていた買主は、原状回復義務の内容として、解除までの間目的物を使用したことによる利益を売主に返還すべき義務を負うものであり、この理は、他人の権利の売買契約において、売主が目的物の所有権を取得して買主に移転することができず、民法561条の規定により該契約が解除された場合についても同様である。 /売主の担保責任/
参照条文: /民法:545条/民法:561条/
全 文 s510213supreme.html

最高裁判所 昭和 50年 11月 28日 第3小法廷 判決 ( 昭和49年(オ)第197号 )
事件名: 
要 旨
 1.農地買収計画についての訴願を棄却した裁決が行政事件訴訟特例法に基づく裁決取消の訴訟において買収計画の違法を理由として取り消されたときは、この買収計画は効力を失う。
 2.二重訴訟を解消するために前訴が取り下げられても、前訴の請求がそのまま後訴において維持されている場合は、前訴の提起により生じた時効中断の効力は消滅しない。
参照条文: /民法:147条/民法:149条/民訴.142条/行訴特例.12条/
全 文 s501128supreme.html

最高裁判所 昭和 50年 11月 21日 第2小法廷 判決 ( 昭和47年(オ)第723号 )
事件名: 
要 旨: 1.抵当権実行のための競売は、被担保債権に基づく強力な権利実行手段であるから、時効中断の事由として差押と同等の効力を有する 2.物上保証人に対する抵当権実行において、競売裁判所が競売開始決定正本を債務者に送達した場合には、債務者は、民法155条により、当該被担保債権の消滅時効の中断の効果を受ける。 (差押え/時効中断)
参照条文: /民法:155条/民法:147条/民法:148条/民執.188条/民執.45条2項/
全 文 s501121supreme.html

広島高等裁判所 昭和 50年 11月 17日 第2部 決定 ( 昭和50年(ラ)第42号 )
事件名: 
要 旨
 民法389条の趣旨に徴すると、たとえ抵当土地とともに建物を競売すれば過剰競売となる場合でも、同条の適用がある。
 (建物一括競売権)
参照条文: /民法:389条/民執.73条/
全 文 s501117HiroshimaH.html

最高裁判所 昭和 50年 10月 24日 第2小法廷 判決 ( 昭和48年(オ)第517号 )
事件名:  損害賠償請求上告事件
要 旨
 化膿性髄膜炎の治療を受けて快方に向かっていた3歳児が、ルンバールの施術の15分ないし20分後に発作を起こし、知能障害、運動障害等の後遺症が残った場合に、発作とその後の病変の原因がルンバールの実施にあることを断定しがたいとした原判決が、因果関係に関する法則の解釈適用を誤り、経験則違背、理由不備の違法をおかしたものであるとして破棄された事例。
 1.訴訟上の因果関係の立証は、一点の疑義も許されない自然科学的証明ではなく、経験則に照らして全証拠を総合検討し、特定の事実が特定の結果発生を招来した関係を是認しうる高度の蓋然性を証明することであり、その判定は、通常人が疑を差し挟まない程度に真実性の確信を持ちうるものであることを必要とし、かつ、それで足りるものである。
 2.上告審(補足意見)において、事実審で提出された鑑定意見の吟味がなされた事例。 /事実認定/自由心証主義/証明度/
参照条文: /t15.民事訴訟法:185条;304条/民法:709条/国家賠償法:1条1項/
全 文 s501024supreme.html

大阪高等裁判所 昭和 50年 10月 8日 民事第7部 決定 ( 昭和50年(ラ)第33号 )
事件名:  免責の申立却下決定に対する即時抗告申立事件
要 旨
 1.同時廃止決定の公告から約2月後に右決定が破産者に送達された場合でも、免責申立の期間の起算点となる決定確定時点を定めるための不服申立期間の起算点は、公告の効力が生じた日とすべきである。
 1a.同時廃止決定の公告から約2月後に右決定が破産者に送達された場合に、破産者が送達により初めて同時廃止決定のなされたことを知ったとしても、そのこと自体は破産法366条の2第5項の追完事由には該当しないとして、申立期間経過後になされた免責申立が却下された事例。 /破産免責/
参照条文: /破産.112条/破産.115条2項/破産.145条/破産.366-2条1項/破産.366-2条5項/
全 文 s501008osakaH.html

最高裁判所 昭和 50年 8月 27日 第2小法廷 判決 ( 昭和48年(行ツ)第112号 )
事件名:  課税処分取消請求・上告事件
要 旨: 主たる課税処分等が不存在又は無効でないかぎり、主たる納税義務の確定手続における所得誤認等の瑕疵は第二次納税義務の納付告知の効力に影響を及ぼすものではなく、第二次納税義務者は、右納付告知の取消訴訟において、右の確定した主たる納税義務の存否又は数額を争うことはできない。
参照条文: /国税徴収法:32条/地方税法:11条/
全 文 s500827supreme.html

最高裁判所 昭和 50年 5月 27日 第3小法廷 判決 ( 昭和47年(行ツ)第4号 )
事件名:  所得税更正処分取消請求・上告事件
要 旨
 離婚に伴う財産分与としての不動産の譲渡は、分与者に譲渡所得を生ずるものとして、課税の対象となる。
 1.譲渡所得に対する課税は、資産の値上りによりその資産の所有者に帰属する増加益を所得として、その資産が所有者の支配を離れて他に移転するのを機会に、これを清算して課税する趣旨のものであるから、その課税所得たる譲渡所得の発生には、必ずしも当該資産の譲渡が有償であることを要しない。
 1a. 所得税法33条1項にいう「資産の譲渡」とは、有償無償を問わず資産を移転させるいっさいの行為をいうものと解すべきである。
 1b. 財産分与として不動産等の資産を譲渡した場合、分与者は、これによつて、分与義務の消滅という経済的利益を享受したものというべきである。
参照条文: /所得税法:33条1項/民法:768条/
全 文 s500527supreme.html

最高裁判所 昭和 50年 4月 30日 大法廷 判決 ( 昭和43年(行ツ)第120号 )
事件名:  行政処分取消請求事件
要 旨
 薬局の開設及び医薬品等の供給業務に関して広く許可制を採用した薬事法6条2項、4項(これらを準用する同法26条2項)は、憲法22条1項に違反する。 (職業選択の自由/経済的自由/職業の許可制/国民の健康と安全/薬局の適正配置)
参照条文: /憲法:22条1項/薬事法:6条2項;6条4項/
全 文 s500430supreme.html

最高裁判所 昭和 50年 4月 25日 第3小法廷 判決 ( 昭和49年(オ)第1131号 )
事件名:  配当異議上告事件
要 旨
 競売法による不動産競売手続において、競売裁判所は、仮登記のある抵当権者に対してはその仮登記の本登記をすれば第三者に対抗することができる抵当権の順位及び内容にしたがって競売代金を配当すべく、その配当額については民訴法630条3項を類推してこれを供託し、後日その仮登記の本登記をするに必要な条件を具備するに至ったとき、これを仮登記権利者に交付すべきである。 /仮登記の順位保全効/対抗力/配当異議/
参照条文: /民執87条1項4号./民執.89条/民執.90条/民執.91条1項5号/不登.2条/不登.55条/
全 文 s500425supreme.html

東京高等裁判所 昭和 50年 4月 24日 昭和43年(行ケ)第138号 判決 ( 昭和43年(行ケ)第138号 )
事件名:  審決取消請求事件
要 旨
 1.実用新案登録を受ける権利の共有者の一人によって提起された登録を否定する審決の取消しの訴えが適法とされた事例。
 1a.実用新案権の共有者は民法上の合有によく似た制約を受けるけれども、民法上の組合、共同相続の場合とは異なり、その共有の性質は民法上の共有に属する。
 1b.実用新案登録を受ける権利または実用新案権が共有にかかるときは、これらの権利には、民法第264条により同法第249条以下の規定が準用される。
 1c.審決が実用新案登録出願の拒絶査定を正当とする場合、実用新案権それ自体またはその訂正を無効とする場合などにおいて、当該権利の共有者は、当該権利自体を維持保存することにより自己の権利を保存するため、自己の持分に基づき他の共有者の同意を得ないで審決の取消を求める訴を提起することができる。
 2.バルキー糸で編成した特に伸縮率の大なる荒目編メリヤス地と伸縮率の小さい普通のメリヤス地とを接着剤にて通気性を失わないよう貼合せ一体化したバルキー状メリヤス地の考案について、進歩性が否定され、実用新案登録が認められなかった事例。 /固有必要的共同訴訟/当事者適格/訴訟要件/
参照条文: /民訴.40条/民法:264条/民法:252条/実用新案.11条/特許.38条/特許.33条3項/実用新案.26条/特許.73条/実用新案.3条2項/
全 文 s500424tokyoH51.html

最高裁判所 昭和 50年 3月 13日 第1小法廷 判決 ( 昭和48年(オ)第699号 )
事件名:  土地所有権移転登記手続、土地所有権確認反訴、土地所有権確認等当事者参加、土地所有権確認反訴請求上告事件
要 旨
 1.独立当事者参加訴訟においては、原告、被告及び参加人の三者間にそれぞれ対立関係が生じ、かつ、その一人の上訴により全当事者につき移審の効果が生ずるものであるから、そのうちの一当事者が他の二当事者のうちの一当事者のみを相手方として上訴した場合には、この上訴の提起は残る一当事者に対しても効力を生じ、この当事者は被上訴人としての地位に立つ。
 1a.この場合に、上訴審は、上訴提起の相手方にされなかつた当事者の上訴又は附帯上訴がなくても、当該訴訟の合一確定に必要な限度においては、その当事者の利益に原審判決を変更することができるから、上訴を提起した当事者とその上訴の相手方とされなかつた当事者との利害が実質的に共通である場合であつても、そのことは後者を上訴人として取扱うべきであるとする理由とはならない。
参照条文: /民訴.47条/民訴.40条2項/民訴.304条/
全 文 s500313supreme.html

最高裁判所 昭和 50年 3月 6日 第1小法廷 判決 ( 昭和48年(オ)第369号 )
事件名:  土地所有権移転登記請求・上告事件
要 旨
 共同相続人の一人が被相続人の負った登記義務の履行を拒絶しているため、買主が他の相続人に対しても代金支払を拒絶している場合には、他の相続人は、買主に対する自己の代金債権を保全するため、債務者たる買主の資力の有無を問わず、民法423条1項本文により、買主に代位して、登記に応じない相続人に対する買主の所有権移転登記手続請求権を行使することができるとされた事例。
 1.被相続人が生前に土地を売却し、買主に対する所有権移転登記義務を負担していた場合に、数人の共同相続人がその義務を相続したときは、買主は、共同相続人の全員が登記義務の履行を提供しないかぎり、代金全額の支払を拒絶することができる。
 1a.共同相続人の一人が被相続人の負った登記義務の履行を拒絶しているときは、買主は、登記義務の履行を提供して自己の相続した代金債権の弁済を求める他の相続人に対しても代金支払を拒絶することができる。
 1b.この場合に、他の相続人は、買主に対する自己の代金債権を保全するため、債務者たる買主の資力の有無を問わず、民法423条1項本文により、買主に代位して、登記に応じない相続人に対する買主の所有権移転登記手続請求権を行使することができる。
 2.金銭債権の相続については、各共同相続人はその相続分に応じて法律上当然に分割された権利を承継する。(先例の確認)
 3.売主の共同相続人の一人は、買主の代金不払を理由に単独で契約を解除することはできないとされた事例。
参照条文: /民法:423条1項;533条;544条/
全 文 s500306supreme.html

最高裁判所 昭和 50年 2月 25日 第3小法廷 判決 ( 昭和48年(オ)第383号 )
事件名:  損害賠償請求・上告事件
要 旨
 自衛隊八戸駐屯地の車輌整備工場において、C運転の大型自動車が後進中、車輌を整備していたD(自衛隊員)の頭部を後車輪で轢き、その結果Dが即死した場合に、Dの両親が自動車損害賠償保障法3条による損害賠償請求権の短期消滅時効の完成後に国に対して損害賠償の訴えを提起した事案において、Dが特別権力関係に基づいて服務していたとの理由のみをもって安全配慮義務違反に基づく損害賠償の請求を否定した原判決が破棄された事例。
 1.国は、公務員に対し、国が公務遂行のために設置すべき場所、施設もしくは器具等の設置管理又は公務員が国もしくは上司の指示のもとに遂行する公務の管理にあたって、公務員の生命及び健康等を危険から保護するよう配慮すべき義務(安全配慮義務)を負っているものと解すべきである。
  1a.右のような安全配慮義務は、ある法律関係に基づいて特別な社会的接触の関係に入った当事者間において、当該法律関係の付随義務として当事者の一方又は双方が相手方に対して信義則上負う義務として一般的に認められるべきものである。
 2.国が、公務員に対する安全配慮義務を懈怠し違法に公務員の生命、健康等を侵害して損害を受けた公務員に対し損害賠償の義務を負う場合に、その公務員の国に対する損害賠償請求権の消滅時効期間は、会計法30条所定の5年と解すべきではなく、民法167条1項により10年と解すべきである。
参照条文: /民法:1条2項;167条1項/国家公務員法:3章6節3款3目/会計法:30条/
全 文 s500225supreme.html

東京高等裁判所 昭和 49年 12月 20日 第5民事部 判決 ( 昭和48年(行コ)第79号 )
事件名:  退職手当金請求・控訴事件
要 旨
 退職金債権の明示的一部請求訴訟(前訴)が原告勝訴判決により終了した後に残額請求訴訟(後訴)が提起された場合に、原告は、前訴において残額請求権についてもその権利存在の主張を維持し、債務の履行を欲する意思を表わし続けていたものと認めるべきであり、この主張には、「裁判上の請求」としての時効中断の効力はないとしても、いわゆる「裁判上の催告」の効力があり、その効力は右訴訟係属中維持されていたと解すべきであり、前訴終了後6ケ月以内に残部請求訴訟の提起があつたことにより残額請求権の消滅時効は中断したとされた事例。
参照条文: /民法:147条/民法:153条/
全 文 s491220tokyoH.html

最高裁判所 昭和 49年 12月 17日 第3小法廷 判決 ( 昭和49年(オ)第768号 )
事件名:  損害賠償請求上告事件
要 旨
 1.商法266条の3第1項が定める取締役の責任は、法がその責任を加重するため特に認めたものであって、不法行為責任たる性質を有するものではなく、これに不法行為責任に関する消滅時効の特則である民法724条を適用すべき実質的論拠はないから、その類推適用の余地もない。商法266条の3第1項の損害賠償請求権の消滅時効期間は、民法167条1項を適用して、10年とすべきである。
 2.民法724条が短期消滅時効を設けた趣旨は、不法行為に基づく法律関係が、通常、未知の当事者間に、予期しない偶然の事故に基づいて発生するものであるため、加害者は、損害賠償の請求を受けるかどうか、いかなる範囲まで賠償義務を負うか等が不明である結果、極めて不安定な立場におかれるので、被害者において損害及び加害者を知りながら相当の期間内に権利行使に出ないときには、損害賠償請求権が時効にかかるものとして加害者を保護することにある。(傍論) /取締役の第三者責任/
参照条文: /民法:724条/民法:167条1項/商.266-3条1項/
全 文 s491217supreme.html

最高裁判所 昭和 49年 12月 12日 第1小法廷 判決 ( 昭和49年(オ)第181号 )
事件名:  所有権移転登記抹消登記手続等請求・上告事件
要 旨
 1.民法424条所定の詐害行為の受益者又は転得者の善意、悪意は、その者の認識したところによつて決すべきであつて、その前者の善意、悪意を承継するものではない。
 2.受益者又は転得者から転得した者が悪意であるときは、たとえその前者が善意であつても民法424条に基づく債権者の追及を免れることができない。(この説示は、平成29年民法改正により新設され424条の5により否定された)
参照条文: /民法:424条/
全 文 s491212supreme.html

最高裁判所 昭和 49年 10月 24日 第1小法廷 判決 ( 昭和46年(オ)第521号 )
事件名:  転付債権(工事代金)請求上告事件
要 旨
 第三債務者が原因債権に対する仮差押命令の送達を受ける前に原因債権の支払のために小切手が振り出されたときには、仮差押命令の送達後に小切手の支払がなされた場合でも、これに対しては同仮差押命令の効力は及ばず、第三債務者は小切手の支払によって原因債権が消滅したことを仮差押債権者に対抗することができる。
参照条文: /民法:481条/民執.145条/民保.50条/
全 文 s491024supreme.html

最高裁判所 昭和 49年 10月 23日 大法廷 判決 ( 昭和46年(オ)第503号 )
事件名:  所有権移転登記抹消登記手続等請求上告事件
要 旨
 1.金銭債権担保目的の代物弁済予約等の性質
 
 
 仮登記担保権の内容は、当事者が別段の意思を表示し、かつ、それが諸般の事情に照らして合理的と認められる特別の場合を除いては、仮登記担保契約のとる形式のいかんを問わず、債務者に履行遅滞があつた場合に権利者が予約完結の意思を表示し、又は停止条件が成就したときは、権利者において目的不動産を処分する機能を取得し、これを基づいて、当該不動産を適正に評価された価額で確定的に自己の所有に帰せしめること又は相当の価格で第三者に売却等をすることによつて、これを換価処分し、その評価額又は売却代金等から自己の債権の弁済を得ることにある。
 2.仮登記担保権の実行
 2a.仮登記担保権者は、債務者が債務を履行しなかつたときは、これにより取得した目的不動産の処分権の行使による換価手続の一環として、債務者に対して仮登記の本登記手続及び右不動産の引渡を求め、更に、第三者がこれを占有している場合には、その者が不法占有者であるときは直ちに、また賃借人であるときでも、その賃借権が仮登記担保権者において本登記を経由すればこれに対抗することができなくなるものであるかぎり、本登記を条件として、その第三者に対し右不動産の明渡を求めることができる。
 2b.不動産の換価額が債権者の債権額(換価に要した相当費用額を含む)を超えるときは、仮登記担保権者は、超過額を清算金として債務者に交付すべきであり、その清算金の支払時期は、換価処分の時、即ち、(イ)いわゆる帰属清算の場合には、仮登記担保権者が目的不動産の評価清算によりその所有権を自己に帰属させる時(この場合債務者は、清算金の支払があるまで本登記手続義務の履行を拒みうる)、(ロ)いわゆる処分清算の場合には、その処分の時である。
 2c.債務者は、清算金の支払時期である右換価処分の時までは債務の全額(換価に要した相当費用額を含む)を弁済して仮登記担保権を消滅させ、その目的不動産の完全な所有権を回復することができるが、右の弁済をしないまま債権者が換価処分をしたときは、確定的に自己の所有権を失い、その後は仮登記担保権者に対して前述の清算金債権を有するのみとなる。
 3.後順位の差押債権者、抵当権者らに対する清算金支払義務の存否
 3a.仮登記担保権者は、目的不動産の換価処分により差額を生じたときはこれを清算すべきものであるが、仮登記担保権者が清算金の支払義務を負うのは、債務者又は仮登記後に目的不動産の所有権を取得してその登記を経由した第三者に対してのみであつて、仮登記後に目的不動産を差し押えた債権者や、これにつき抵当権の設定を受けた第三者等は、一定の優先順位に従つて自己の債権の満足に充てられる金額につき、自己に給付せらるべき清算金として、仮登記担保権者に直接その支払を請求することはできない。(判例変更。裁判官大隅健一郎の補足意見あり)
 3b.これらの権利者は、その債務名義又は物上代位権によつて、債権者が仮登記担保権者に対して有する清算金債権を差し押え、取立命令等を得て債権の満足を得ることができる。
 3c.これらの権利者は、仮登記担保権者からの本登記の承諾請求に対し、その承諾義務が本来本登記義務の履行されるべきことを前提とする性質のものであることにかんがみ、自己独自の抗弁として、債務者(又は第三取得者)に対する清算金の支払との引換給付の主張をすることができる。
 4.競売手続と仮登記担保権の実行(破棄理由)
 4a.第三者の申立によつて当該不動産につき競売による換価手続が開始されている場合には、手続上可能なかぎり、仮登記担保権者において、みずから右不動産の換価処分を実施することに代えて、右の競売による換価手続に参加し、その手続内において換価金から自己の債権の満足をはかることもできるものと解するのが、相当である。
 4b.仮登記担保権者が競売手続の開始に先立つて既にその権利の実行に着手し、そのための強制的手段として本登記手続又はその承諾請求訴訟を提起している場合には、後の競売手続の開始によつて先着手にかかる自己固有の権利実行手続を放棄させられるいわれはないから、そのまま従前の手続を追行し、これと牴触する競売手続の排除を求めることができる。
 4c.競売手続が先行している場合には、仮登記担保権者は、原則として先行の競売手続の排除を求めることができず、ただ、換価後の清算を必要としない場合、自己の責に帰することのできない事由により右手続内において債権の弁済を受ける機会を失つた場合、競売手続が長期にわたつて停止し迅速な債権満足を得る見込みがない場合等、特に自己固有の権利の実行について正当な法的利益を有する場合にのみこれが許される。
参照条文: /仮担保./不登.2条/民執.2章2節1款2目/民執.3章/民執.38条/民執.87条/
全 文 s491023supreme.html

最高裁判所 昭和 49年 9月 20日 第2小法廷 判決 ( 昭和47年(オ)第1194号 )
事件名:  詐害行為取消、株金等支払請求・上告事件
要 旨
 債務超過の状態にある債務者が死亡し、その共同相続人4名中の3名(原告の主張によれば資力あり)が相続を放棄し、共同相続人中の1名(被相続人の妻。原告の主張によれば無資力)に相続を集中させた場合に、債権者が、相続を放棄した3名を被告にして、民法424条の詐害行為取消権により相続放棄の取消しと相続債務の支払を訴求したが、相続の放棄は詐害行為取消権行使の対象にならないとされた事例。
 1.相続の放棄のような身分行為については、民法424条の詐害行為取消権行使の対象とならない。
参照条文: /民法:424条;939条/
全 文 s490920supreme.html

最高裁判所 昭和 49年 9月 4日 大法廷 判決 ( 昭和44年(オ)第23号 )
事件名:  土地建物明渡請求上告事件
要 旨
 他人の権利を代物弁済に供した債務者をその権利者が相続した場合に、権利者は代物弁済契約の履行を拒絶することができるとされた事例。
 1.他人の権利の売主が死亡し、その権利者が売主を相続した場合に、権利者は、相続によって売主の義務ないし地位を承継しても、相続前と同様その権利の移転につき諾否の自由を保有し、信義則に反すると認められるような特別の事情のないかぎり、右売買契約上の売主としての履行義務を拒否することができる。
 1a.このことは、売主がその相続人たるべき者と共有している権利を売買の目的とし、その後相続が生じた場合においても同様である。(判例変更) /他人物売買/売主の担保責任/
参照条文: /民法:560条/民法:896条/
全 文 s490904supreme.html

最高裁判所 昭和 49年 9月 2日 第1小法廷 判決 ( 昭和48年(オ)第30号 )
事件名: 
要 旨
 1.敷金契約は、賃貸人が賃借人に対して取得することのある債権を担保するために締結されるものであつて、賃貸借契約そのものではないから、賃貸借の終了に伴う家屋明渡債務と敷金返還債務とは、一個の双務契約によつて生じた対価的債務の関係にあるものとすることはできず、賃貸人は、特別の約定のないかぎり、賃借人から家屋明渡を受けた後に前記の敷金残額を返還すれば足り、家屋明渡債務と敷金返還債務とは同時履行の関係にたつものではない。
 2.賃借人の家屋明渡債務が賃貸人の敷金返還債務に対し先履行の関係に立つと解すべき場合にあつては、賃借人は賃貸人に対し敷金返還請求権をもつて家屋につき留置権を取得する余地はない。
 (造作買取請求権)
参照条文: /民法:533条/民法:295条/民法:619条2項/
全 文 s490902supreme.html

最高裁判所 昭和 49年 7月 22日 第1小法廷 判決 ( 昭和48年(オ)第787号 )
事件名:  所有権確認等請求上告事件
要 旨
 1.第一審において全部勝訴した原告が控訴審において準備書面により請求の趣旨の訂正として新請求を追加し、その手数料に見合う印紙を貼用していた場合に、附帯控訴の方式による請求の拡張として適法であるとされた事例(附帯控訴の手続がとられていないとの理由で新請求について訴訟係属を認めなかった控訴審判決が破棄された事例)。
 1a.第一審において全部勝訴を得た原告も、控訴番において、附帯控訴の方式により請求の拡張をなし得る。(前提の議論)
 1b.附帯控訴の方式が遵守されているかどうかは、形式的に判断すべきものではなく、訴訟記録に照らし、実質的に民訴法374条(現293条三項)、367条(現286条)の要件が具備されていると認めうる書面によつてされていれば足りる。(破棄理由)
 1c.準備書面による請求の拡張(追加)に相手方が異議を述べていないため、訴え変更の要件が具備されたかを論ずるまでもなく、請求の拡張(追加)が適法であるとされた事例。 /訴えの変更/
参照条文: /民訴293条/民訴.297条/民訴.143条/
全 文 s490722supreme.html

最高裁判所 昭和 49年 6月 28日 判決 ( 昭和47年(オ)第36号 )
事件名:  損害賠償請求・上告事件
要 旨
 自動車所有者の被用者の過失に基因する同一交通事故によつて生じた物的損害に基づく損害賠償債権相互間においても、民法509条の規定により相殺が許されないとされた事例。
 1.民法509条の趣旨は、不法行為の被害者に現実の弁済によつて損害の填補を受けさせること等にあるから、およそ不法行為による損害賠償債務を負担している者は、被害者に対する不法行為による損害賠償債権を有している場合であつても、被害者に対しその債権をもつて対当額につき相殺により右債務を免れることは許されない。
参照条文: /民法:509条/
全 文 s490628supreme.html

最高裁判所 昭和 49年 4月 26日 第2小法廷 判決 ( 昭和46年(オ)第411号 )
事件名:  否認権行使による損害賠償請求上告事件
要 旨
 1.被相続人の債務につき債権者より相続人に対し給付の訴が提起され、右訴訟において該債務の存在とともに相続人の限定承認の事実も認められたときは、裁判所は、債務名義上相続人の限定責任を明らかにするため、判決主文において、相続人に対し相続財産の限度で右債務の支払を命ずべきである(前提となる議論)。
 2.相続財産の限度で支払を命じた留保付判決が確定した後において、債権者が、第二審口頭弁論終結時以前に存在した限定承認と相容れない事実(たとえば民法921条の法定単純承認の事実)を主張して、右債権につき無留保の判決を得るため新たに訴を提起することは許されない(上告棄却理由)。
 3.被告に対し金銭給付を求める原告の請求を一部棄却した第一審判決に対し、原告が右敗訴部分の取消しを求めて控訴を申し立てたが、控訴の趣旨として、右取消しのうえ被告に対して右棄却された金額全額ではなく、単にその一部の支払を請求するにすぎないときは、第一審判決の請求棄却部分のうち、原告において右支払を求めなかつた部分については、原告の控訴はなく確定したものと解すべきである(上告棄却理由)。 /既判力の標準時/遮断効/上訴不可分の原則/
参照条文: /民訴.114条/民執.35条1項2号/民法:921条/
全 文 s490426supreme.html

大分地方裁判所 昭和 49年 4月 1日 民事第2部 判決 ( 昭和48年(ワ)第673号 )
事件名:  所有権確認等請求事件
要 旨
 1.2つの登記請求権の一方が認容されれば、他方は棄却されるという裏腹の関係にある場合には、同一物件について一方の登記請求権を求める訴は、他方の登記請求権を求める訴えと訴訟物が同一の範囲内にあると解するのが相当であり、他方の登記手続請求を認容する判決が確定している場合には、一方の登記手続請求の訴えは不適法であるから却下すべきである。
 1a.他方が仮登記に基づく所有権移転本登記手続請求であり、一方が仮登記抹消登記手続請求である場合に、上記のことが肯定され、一方の請求に係る後訴が却下された事例。
 2.農地の買主が提起した「仮登記に基づく本登記手続請求」と売主が提起する「所有権確認請求」は、訴訟物が異なるから、前者の認容判決の既判力は、後者に及ばない。
 3.農地の所有者(前訴被告)が買主(前訴原告)に対して農地法5条の許可申請手続をなすべきこと、右許可を条件として農地の仮登記に基づく所有権移転登記手続をなし農地を引き渡すべきことを内容とする請求を認容する前訴判決が確定し、同法5条1項ただし書3号所定の届出がなされた場合に、前訴被告は確定判決により所有権移転の本登記手続ならびに土地の引渡に応じなければならない状態にあるから、前訴被告が当該土地について所有権確認を求めたところで何らの利益がないものといわなければならず、したがって前訴被告が前訴原告に対して提起した当該土地の所有権確認請求の訴えは、確認の利益を欠き却下すべきであるとされた事例。 /訴訟要件/訴えの利益/既判力/既判力の客観的範囲/
参照条文: /t15.民訴.199条/t15.民訴.225条/t15.民訴.2編1章/
全 文 s490401OoitaD.html

最高裁判所 昭和 49年 3月 7日 第1小法廷 判決 ( 昭和47年(オ)第596号 )
事件名:  第三者異議上告事件
要 旨
 債権譲渡と債権仮差押えとが同じ日になされた場合に、債権譲渡の対抗要件としての通知が仮差押命令の第三債務者への送達より約1時間先になされたと認定され、債権譲渡が仮差押えに優先するとされた事例(次の判断をした原判決が破棄された事例:同一債権の譲受人相互の間の優劣は、確定日附として表示されている日附の先後のみを基準として決すべきであり、本件では、債権譲渡証書上の確定日附と仮差押命令が第三債務者に送達された日時とは同一の日であつてその先後を定めることができないから、債権譲受人と仮差押債権者との優劣を決することはできない)。
 1.
 債権が二重に譲渡された場合、譲受人相互の間の優劣は、通知又は承諾に付された確定日附の先後によつて定めるべきではなく、確定日附のある通知が債務者に到達した日時又は確定日附のある債務者の承諾の日時の先後によつて決すべきであり、また、確定日附は通知又は承諾そのものにつき必要である。
 1a.右の理は、債権の譲受人と同一債権に対し仮差押命令の執行をした者との間の優劣を決する場合においても同様に妥当する。
 2.東京都下水道局長に対する債権を譲渡した債権者が、債権譲渡証書に確定日付を受け、これを下水道局に持参してその職員に交付したときは、その時点で民法467条2項所定の確定日付ある通知があつたものと認めることができる。
参照条文: /民法:467条2項/民執.145条4項/
全 文 s490307supreme.html

東京地方裁判所 昭和 48年 12月 20日 民事6部 判決 ( 昭和47年(行ウ)第148号 )
事件名:  退職金請求事件
要 旨
 1.退職金債権の明示的一部請求訴訟(前訴)が原告勝訴判決により終了した後で残額請求訴訟(後訴)が提起された場合に、前訴における権利主張には残額債権についての権利主張も継続してなされていたものと解するのが相当であり、この権利主張は、「裁判上の請求」としての時効中断の効力は有しないまでも、訴訟係属中は継続して時効中断の効力を有し、訴訟終結後6ケ月以内に残部請求訴訟を提起したことにより時効中断の効力が維持されたものとしての、いわゆる「裁判上の催告」の効力があるとされた事例。
 2.明示的一部請求を認容する判決が確定した後に提起された追加請求が全部認容される場合に、民事訴訟法90条(現62条)に則り、訴訟費用の半分が原告の負担とされた事例。
参照条文: /民訴.62条/民法:147条/民法:153条/
全 文 s481220tokyoD.html

最高裁判所 昭和 48年 12月 14日 第2小法廷 判決 ( 昭和45年(オ)第719号 )
事件名:  土地建物抵当権設定登記抹消登記手続請求・上告事件
要 旨
 1.民法145条の規定により消滅時効を援用しうる者は、権利の消滅により直接利益を受ける者に限定されるべきである。
 2.抵当権の設定された不動産の第三取得者は、被担保債権の消滅時効を援用することができる。
 (時効援用権者)
参照条文: /民法:145条/
全 文 s481214supreme.html

最高裁判所 昭和 48年 11月 16日 第2小法廷 判決 ( 昭和45年(オ)第628号 )
事件名:  損害賠償請求上告事件
要 旨
 1.民法724条にいう「加害者ヲ知リタル時」とは、同条で時効の起算点に関する特則を設けた趣旨に鑑みれば、加害者に対する賠償請求が事実上可能な状況のもとに、その可能な程度にこれを知つた時を意味する。
 1a.被害者が不法行為の当時加害者の住所氏名を的確に知らず、しかも当時の状況においてこれに対する賠償請求権を行使することが事実上不可能な場合においては、その状況が止み、被害者が加害者の住所氏名を確認したとき、初めて「加害者ヲ知リタル時」にあたる。
参照条文: /民法:724条/民法:166条/
全 文 s481116supreme.html

最高裁判所 昭和 48年 10月 9日 第3小法廷 判決 ( 昭和45年(オ)第1038号 )
事件名:  売掛金等請求上告事件
要 旨
 権利能力なき社団に対して売掛代金債権を有する者が、その構成員に対して弁済請求したが棄却された事例。
 1.権利能力なき社団の代表者が社団の名においてした取引上の債務は、その社団の構成員全員に、一個の義務として総有的に帰属するとともに、社団の総有財産だけがその責任財産となり、構成員各自は、取引の相手方に対し、直接には個人的債務ないし責任を負わない。 /法人格/有限責任/無限責任/東北栄養食品協会/法人でない社団/
参照条文: /民法:33条/民法:427条/民法:675条/民訴.29条/
全 文 s481009supreme.html

最高裁判所 昭和 48年 7月 20日 第2小法廷 判決 ( 昭和44年(オ)第316号 )
事件名:  工事代金請求等上告事件
要 旨
 1.当事者参加訴訟において、一審判決中参加人の被告に対する請求を認容した部分は、原告のみの控訴によつても確定を遮断され、かつ、控訴審においては、被告の控訴または附帯控訴の有無にかかわらず、合一確定のため必要な限度で、一審判決中前記部分を参加人に不利に変更することができる。
 2.債権譲渡の承諾は、観念の通知であるが、意思表示に関する規定が類推適用されるべきであつて、代理に親しむ。
 3.債権譲渡の承諾書が作成された後譲受人がその承諾書に確定日付を得た場合であつても、その確定日付の時から所定の対抗力を生じる。
参照条文: /民訴.47条/民訴.40条/民訴.304条/民法:467条1項/民法:467条2項/民法:99条/
全 文 s480720supreme.html

最高裁判所 昭和 48年 7月 19日 第1小法廷 判決 ( 昭和47年(オ)第111号 )
事件名:  預金支払請求上告事件
要 旨
 1.譲渡禁止の特約の存在を知らずに債権を譲り受けた場合であつても、これにつき譲受人に重大な過失があるときは、悪意の譲受人と同様、譲渡によつてその債権を取得しえない。
 1a.銀行を債務者とする各種の預金債権については一般に譲渡禁止の特約が付されて預金証書等にその旨が記載されており、また預金の種類によつては、明示の特約がなくとも、その性質上黙示の特約があるものと解されていることは、ひろく知られているところであつて、このことは少なくとも銀行取引につき経験のある者にとつては周知の事柄に属するというべきである。
 2.原審が法令の解釈を誤ったため、釈明権を行使して事案を解明すべき事項について十分に審理を尽くしていないとされた事例。 /審理不尽/債権譲渡禁止特約/
参照条文: /民訴.149条/民法:466条2項/
全 文 s480719supreme.html

最高裁判所 昭和 48年 7月 12日 第1小法廷 判決 ( 昭和48年(オ)第157号 )
事件名:  減額請求上告事件
要 旨
 民法565条によつて準用される同法564条所定の除斥期間は、買主が善意のときは、同人が売買の目的物の数量不足を知つた時から起算されるが、買主が数量不足についてはすでに知つているものの、その責に帰すべきでない事由により売主の誰れであるかを知りえなかつたときは、買主が売主を知つた時から起算すべきである。 /売主の担保責任/代金減額請求/数量指示売買/
参照条文: /民法:564条/民法:565条/
全 文 s480712supreme.html

最高裁判所 昭和 48年 6月 21日 第1小法廷 判決 ( 昭和47年(オ)第198号 )
事件名:  所有権確認等請求上告事件
要 旨
 1.虚偽の移転登記をした真正所有者は、虚偽表示の相手方に対して名義回復のための所有権移転登記を命ずる確定判決を得ている場合でも、その口頭弁論終結後に善意で不動産を買受けた者(強制競売の競落人)に対して、虚偽登記の無効を主張することができない。
 1a.
 虚偽の移転登記をした真正所有者が、虚偽登記人に対して名義回復のための所有権移転登記を命ずる判決を得て、これに善意の買受人を虚偽登記人の承継人とする承継執行文の付与を受けて執行することは許されず、たとえ執行しても、これによる移転登記は無効である。 /真正な登記名義の回復/
参照条文: /民訴.115条1項3号/民執.23条1項3号/民執.27条2項/民法:94条2項/
全 文 s480621supreme.html

最高裁判所 昭和 48年 6月 7日 第1小法廷 判決 ( 昭和43年(オ)第1044号 )
事件名:  損害賠償請求・上告事件
要 旨
 係争物仮処分が被保全権利を欠く違法なものであったと推認される場合に、被申請人の主張する財産上および精神上の損害は、すべて、仮処分の執行によって通常生ずべき損害にあたらず、特別の事情によって生じたものと解すべきであり、申請人において仮処分の申請およびその執行の当時、右事情の存在を予見しまたは予見することを得べかりし状況にあったものとは認められないとされた事例。
 1.不法行為による損害賠償についても、民法416条が類推適用され、特別の事情によって生じた損害については、加害者において、右事情を予見しまたは予見することを得べかりしときにかぎり、これを賠償する責を負うものと解すべきである。
 2.仮処分の被保全権利の不存在が、本案訴訟において確定されていないとしても、申請人が起訴命令を受けながら本案訴訟を提起せず、かえってみずから仮処分の執行取消申請をしたという事実があるとすれば、仮処分は被保全権利を欠く違法なものであったと推認するのが相当である。
 
参照条文: /民法:416条;709条/m23.民事訴訟法:746条;755条;756条/
全 文 s480607supreme.html

最高裁判所 昭和 48年 4月 24日 第3小法廷 判決 ( 昭和47年(オ)第908号 )
事件名:  建物明渡等請求上告事件
要 旨
 1.土地の賃借人が土地の占有者に対し所有者に代位して提起した土地明渡請求訴訟に、所有者が原告に対し賃借権の不存在確認、被告に対し所有権にもとづき土地明渡を求めて独立当事者参加することができるとされた事例。
 2.債権者が民法423条1項の規定により代位権を行使して第三債務者に対し訴を提起した場合であつても、債務者が民訴法71条(現47条)により右代位訴訟に参加し第三債務者に対し右代位訴訟と訴訟物を同じくする訴を提起することは、民訴法231条(現142条)の重複起訴禁止にふれるものではない。
 3.債権者が適法に代位権行使に着手した場合において、債務者に対しその事実を通知するかまたは債務者がこれを了知したときは、債務者は代位の目的となつた権利につき債権者の代位権行使を妨げるような処分をする権能を失い、したがつて、右処分行為と目される訴を提起することができなくなる。
 3a.この理は、債務者の訴提起が独立当事者参加による場合であつても異なるものではないから、審理の結果、債権者が代位の目的となつた権利につき訴訟追行権を有していることが判明したときは、債務者は右権利につき訴訟追行権を有せず、その訴は不適法といわざるをえない反面、債権者が右訴訟追行権を有しないことが判明したときは、債務者はその訴訟追行権を失つていないものとして、その訴は適法ということができる。 /当事者適格/訴えの主観的利益/訴えの利益/訴訟要件/債権者代位権/
参照条文: /民法:423条/民訴.47条/民訴.142条/
全 文 s480424supreme.html

最高裁判所 昭和 48年 4月 6日 第2小法廷 判決 ( 昭和47年(オ)第577号 )
事件名:  債権譲渡無効確認請求・上告事件
要 旨
 被告の破産会社に対する手形割引による債権の担保のため、破産会社が有する現在及び将来にわたる売掛金債権が被告に譲渡され、担保の実行たる譲渡債権の取立は、割引手形のうちの一通でも不渡りになつた時に、被告の選択する売掛債権のうち被担保債権の未払分相当額について行なうべき旨が約されていて、右契約時にただちに破産会社から被告への権利移転の効果が生じたものとは解されない場合に、原審が、売掛債権が被告に移転された日時を確定することなく、破産法74条1項(平成16年破産法164条1項相当)の規定による対抗要件否認を認めたのは違法であるとされた事例。
 1.破産法74条1項の規定は、支払の停止または破産の申立があつたのちに対抗要件を充足する行為がなされた場合において、その行為が権利の設定、移転または変更のあつた日から15日を経過したのちに悪意でなされたものであるときにこれを否認することができる旨を定めたものであるから、右15日の期間は、当事者間における権利移転の効果を生じた日から起算すべきものであつて、権利移転の原因たる行為がなされた日から15日を経過したのちであつても、権利移転の日から15日以内に、対抗要件を具備する行為がなされた場合には、右規定に基づいてこれを否認することはできない。
参照条文: /t11.破産法:74条1項/
全 文 s480406supreme.html

最高裁判所 昭和 48年 4月 5日 第1小法廷 判決 ( 昭和43年(オ)第943号 )
事件名:  損害賠償請求・上告事件
要 旨
 1.同一事故により生じた同一の身体傷害を理由とする財産上の損害と精神上の損害とは、原因事実および被侵害利益を共通にするものであるから、その賠償の請求権は一個であり、その両者の賠償を訴訟上あわせて請求する場合にも、訴訟物は一個である。
 2.一個の損害賠償請求権のうちの一部が訴訟上請求されている場合に、過失相殺をするにあたつては、損害の全額から過失割合による減額をし、その残額が請求額をこえないときは右残額を認容し、残額が請求額をこえるときは請求の全額を認容することができる。
参照条文: /民訴.133条1項2号/民訴.246条/民法:709条/民法:710条/民法:722条2項/
全 文 s480405supreme.html

最高裁判所 昭和 48年 4月 4日 大法廷 判決 ( 昭和45年(あ)第1310号 )
事件名:  尊属殺人・上告事件
要 旨
 1.憲法14条1項は、国民に対し法の下の平等を保障した規定であつて、同項後段列挙の事項は例示的なものであり、この平等の要請は、事柄の性質に即応した合理的な根拠に基づくものでないかぎり、差別的な取扱いをすることを禁止する趣旨と解すべきである。(先例の確認)
 1a.尊属の殺害は通常の殺人に比して一般に高度の社会的道義的非難を受けて然るべきであるとして、このことをその処罰に反映させても、あながち不合理であるとはいえないから、被害者が尊属であることを犯情のひとつとして具体的事件の量刑上重視することは許されるものであるのみならず、さらに進んでこのことを類型化し、法律上、刑の加重要件とする規定を設けても、かかる差別的取扱いをもつてただちに合理的な根拠を欠くものと断ずることはできず、したがつてまた、憲法14条1項に違反するということもできない。
 1b. 普通殺のほかに尊属殺という特別の罪を設け、その刑を加重すること自体はただちに違憲であるとはいえないのであるが、加重の程度が極端であつて、前示のごとき立法目的達成の手段として甚だしく均衡を失し、これを正当化しうべき根拠を見出しえないときは、その差別は著しく不合理なものといわなければならず、かかる規定は憲法14条1項に違反して無効であるとしなければならない。
 1c.刑法200条は、尊属殺の法定刑を死刑または無期懲役刑のみに限つている点において、その立法目的達成のため必要な限度を遥かに超え、普通殺に関する刑法199条の法定刑に比し著しく不合理な差別的取扱いをするものと認められ、憲法14条1項に違反して無効であるとしなければならない。 /目的意見説/手段意見説/
参照条文: /憲法:14条1項/刑法:199条;200条/
全 文 s480404supreme.html

最高裁判所 昭和 48年 3月 13日 第3小法廷 判決 ( 昭和45年(オ)第280号 )
事件名:  貸金請求上告事件
要 旨
 1.仮差押債務者は、仮差押えがなされた債権について、第三債務者に対し給付訴訟を提起しまたはこれを追行する権限を失うものではなく、無条件の勝訴判決を得ることができる。
 2.仮差押債務者は、仮差押えがなされた債権について強制執行をすることができる。(執行債権について仮差押えがなされていることは、請求異議事由にならない。判例変更)
 2a.この場合に、第三債務者は、二重払の負担を免れるために、当該債権に仮差押がされていることを執行上の障害として執行機関に呈示することにより、執行手続が満足的段階に進むことを阻止することができる(民訴法544条=現民執法11条)。
参照条文: /民保.50条/民執.11条/民執.35条/
全 文 s480313supreme.html

最高裁判所 昭和 48年 2月 16日 第2小法廷 判決 ( 昭和46年(オ)第851号 )
事件名:  建物収去土地明渡請求・上告事件
要 旨
 破産管財人は、破産者の代理人または一般承継人ではなく,破産債権者の利益のために独立の地位を与えられた破産財団の管理機関であるから、破産宣告前破産者の設定した土地の賃借権に関しては、建物保護ニ関スル法律一条にいわゆる第三者にあたる。
参照条文: /借地借家.10条/破産.56条/破産.53条/破産.2条12項/破産.2条14項/
全 文 s480216supreme.html

最高裁判所 昭和 48年 2月 2日 第2小法廷 判決 ( 昭和46年(オ)第357号 )
事件名:  敷金返還請求・上告事件
要 旨
 1.家屋賃貸借における敷金は、賃貸借存続中の賃料債権のみならず、賃貸借終了後家屋明渡義務履行までに生ずる賃料相当損害金の債権その他賃貸借契約により賃貸人が貸借人に対して取得することのあるべき一切の債権を担保し、賃貸借終了後、家屋明渡がなされた時において、それまでに生じた右の一切の被担保債権を控除しなお残額があることを条件として、その残額につき敷金返還請求権が発生するものと解すべきである。
 2.敷金に関する法律関係は、賃貸借契約に付随従属するのであつて、これを離れて独立の意義を有するものではなく、賃貸借の当事者として、賃貸借契約に関係のない第三者が取得することがあるかも知れない債権までも敷金によつて担保することを予定していると解する余地はなく、したがつて、賃貸借終了後に家屋所有権が移転し、賃貸借契約自体が新所有者に承継されたものでない場合には、敷金に関する権利義務の関係のみが新所有者に当然に承継されるものではなく、また、旧所有者と新所有者との間の特別の合意によつても、これのみを譲渡することはできない。
 3.家屋の所有権を取得し、賃貸借契約を承継しない第三者が、とくに敷金に関する契約上の地位の譲渡を受け、自己の取得すべき貸借人に対する不法占有に基づく損害賠償などの債権に敷金を充当することを主張しうるためには、賃貸人であつた前所有者との間にその旨の合意をし、かつ、賃借人に譲渡の事実を通知するだけでは足りず、賃借人の承諾を得ることを必要とする。
参照条文: /民619条2項/
全 文 s480202supreme.html

最高裁判所 昭和 48年 1月 19日 第2小法廷 判決 ( 昭和44年(オ)第1073号 )
事件名:  退職金請求・上告事件
要 旨
 1.退職金が、就業規則においてその支給条件が予め明確に規定され、会社が当然にその支払義務を負うものというべきであるから、労働基準法11条の「労働の対償」としての賃金に該当し、したがって、その支払については、同法24条1項本文の定めるいわゆる全額払の原則が適用されるとされた事例。
 2.賃金全額払の原則の趣旨とするところは、使用者が一方的に賃金を控除することを禁止し、もって労働者に賃金の全額を確実に受領させ、労働者の経済生活をおびやかすことのないようにしてその保護をはかろうとするものであるから、労働者が退職に際しみずから賃金に該当する退職金債権を放棄する旨の意思表示をした場合には、全額払の原則が右意思表示の効力を否定する趣旨のものであるとまで解することはできない。
 2a.労働者が退職に際して賃金に該当する退職金債権を放棄する旨の意思表示をした場合に、その効力を肯定するには、それが労働者の自由な意思に基づくものであることが明確でなければならない。
 2b.退職する労働者が退職前に西日本における総責任者の地位にあったこと、労働者が退職後直ちに会社の一部門と競争関係にある他の会社に就職すること、在職中における労働者およびその部下の旅費等経費の使用につき書面上つじつまの合わない点の疑惑にかかる損害の一部を填補する趣旨で、会社が労働者に対し退職金放棄の意思表示を含む書面への署名を求めたところ、労働者がこれに署名したという事実が認められる場合に、退職金放棄の意思表示が労働者の自由な意思に基づくものであると認めるに足る合理的な理由が客観的に存在していたものということができる、と判断された事例。(反対意見あり)
参照条文: /労働基準法:11条;24条/
全 文 s480119supreme.html

最高裁判所 昭和 47年 11月 9日 第1小法廷 判決 ( 昭和47年(オ)第585号 )
事件名:  貸金請求上告事件
要 旨
 相続人は、民法936条1項の規定により相続財産管理人が選任された場合であつても、相続財産に関する訴訟につき、当事者適格を有し、相続財産管理人は、その法定代理人として訴訟に関与するものであつて、相続財産管理人の資格では当事者適格を有しない。
参照条文: /訴訟担当/訴訟要件/
全 文 s471109supreme.html

最高裁判所 昭和 47年 9月 7日 第1小法廷 判決 ( 昭和46年(オ)第1127号 )
事件名:  登記抹消手続等本訴請求、所有権移転登記手続等反訴請求・上告事件
要 旨
 売買代金を着服する目的で第三者が土地所有者に土地の売買を勧め、代理人となって売買契約を締結して代金を着服したため、売主が詐欺を理由に売買契約を有効に取り消して、無条件で所有権移転登記の抹消登記をなすことを命ずる判決を求めたが、代金返還との引換給付判決が下された事例。
 1.売買契約が詐欺を理由として有効に取り消された場合に、双方の原状回復義務は、民法533条の類推適用により同時履行の関係にあると解すべきである。
 1a.上記のことは、第三者が売主に対して詐欺を行い、売買代金を受領して売主に渡していない場合でも同じである。
参照条文: /民法:96条;121条;533条;546条/
全 文 s470907supreme.html

最高裁判所 昭和 47年 7月 13日 第1小法廷 判決 ( 昭和45年(オ)第449号 )
事件名:  剰余金返還請求・上告事件
要 旨
 昭和39年11月ごろ支払を停止した債務者について昭和40年7月7日に会社整理開始決定がなされた場合に、昭和39年2月26日に締結された譲渡担保契約に基づき昭和40年8月15日の換価処分により剰余金返還債務を負った債権者が、その債務と最終弁済期を昭和40年3月5日とする自己の手形金債権とを相殺することは、債権者が整理開始後債務を負担したときに該当するから許されないとされた事例。
 1.商法403条1項により準用される破産法104条1号(現71条1項1号)の法意に鑑みれば、会社整理が開始された株式会社の債権者が会社に対して債務を負っていた場合に、その債務が停止条件付債務であるときには、停止条件付債務を内容とする契約が整理開始前に締結された場合であっても、その契約締結によって債務を負担したものということはできず、条件が成就することによってはじめて債務を負担するにいたるものというべきであって、整理開始後に条件が成就したときは、そのときに債務を負担したものとして相殺は禁止される。
参照条文: /破産.71条1項1号/
全 文 s470713supreme.html

東京高等裁判所 昭和 47年 6月 28日 判決 ( 昭和42年(行コ)第16号 )
事件名:  納付税金返還等請求控訴事件
要 旨
 1.人格なき社団である労音(勤労者音楽協議会)が入場税の納税義務を負うとされた事例。
 1a. 国が社団に対し法律をもつていかなる権利能力を付与するかは立法政策の問題に帰し、私法上権利能力のない社団に対し公法の分野において権利能力を認めてこれを法的規制の対象とすることはなんら差し支えなく、各租税法規がそれぞれの立場から私法上の人格なき社団に納税義務を負わせることができる。
 1b.人格なき社団は、社会生活上の一単位として存在し、代表者の行為によつて対外的に活動し、第三者と取引関係を結びその効果は社団に帰属するのであつて、私法上権利能力を有しないためその名において取得した資産につきその所有権の主体たることを法律上主張し得ないが、社会的には右の資産は社団に帰属し、社団が債務を負担した場合には(法律的には債務は構成員に総有的に帰属する)前記社団の資産が、そしてそれのみが社団の債務の引当となる関係にあると解すべきものである。
 1c.入場税法は「経営者又は主催者」と、酒税法は「酒類の製造者」というようにそれ自体法的概念ではあるが社会的活動の実態に着眼して納税義務者の範囲を規定しているため、人格なき社団が納税義務を負うか否かはもつぱら各法規の解釈にゆだねられるのであり、人格なき社団についての明文の規定を備えていないことは、当該法規が人格なき社団を納税義務者に含めないことを意味するものではない。
 2.人格なき社団である労音の例会は、入場税法2条1項にいう「催物」に、同社団は同条2項にいう「主催者」に、例会を鑑賞した会員は同条3項にいう「入場者」に該当するとされた事例。
 3.労音の会員が例会会場へ入場するために納付した会費は、そのすべてが例会会場への入場の対価とみるべきであるとされた事例。
 4.入場税法1条1号にいう「映画、演劇、音楽等を多数人に見せ、又は聞かせる場所」とは、映画館、劇場、集会音楽会用ホール、野球場等映画、演劇、音楽等を多数人に見せ、又は聞かせる場所として使用することを本来の目的とする建造物または一定の区画された土地のみならず、映画、演劇、音楽等を多数人に見せ、又は聞かせる場所として使用することを本来の用途としていない学校の教室、体育館あるいは展示場等であつても現実に前記の映画、音楽等を多数人に見せ、又は聞かせる場所として使用された施設を含む。
参照条文: /入場税法:2条;3条/
全 文 s470628tokyoH.html

最高裁判所 昭和 47年 6月 2日 第2小法廷 判決 ( 昭和45年(オ)第232号 )
事件名:  所有権移転登記請求・上告事件
要 旨
 1.権利能力なき社団の資産はその社団の構成員全員に総有的に帰属しているのであつて、社団自身が私法上の権利義務の主体となることはないから、社団の資産たる不動産についても、社団はその権利主体となり得るものではなく、したがつて、登記請求権を有するものではない。
 1a.権利能力なき社団が不動産登記の申請人となることは許されない。
 2.社団構成員の総有に属する不動産は、構成員全員のために信託的に社団代表者個人の所有とされるものであるから、代表者は、受託者たるの地位において不動産につき自己の名義をもつて登記をすることができる。
 2a. 登記上の所有名義人となつた権利能力なき社団の代表者がその地位を失つてこれに代る新代表者が選任されたときは、旧代表者は右の受託者たる地位をも失い、新代表者においてその地位を取得し、新代表者は、信託法の信託における受託者の更迭の場合に準じ、旧代表者に対して、当該不動産につき自己の個人名義に所有権移転登記手続をすることの協力を求め、これを訴求することができる。
 3.権利能力なき社団の代表者を原告とする所有権移転登記手続請求訴訟の控訴審係属中に代表者が死亡したため、新たに選出された新代表者により訴訟が承継された場合に、控訴審がそのことを第一審の請求認容判決の主文に反映させなかったため、上告審が、職権により主文を変更(更正)した事例。 /法人でない社団/
参照条文: /m29.民法:177条/t15.民事訴訟法:46条;194条;211条;212条/m32.不動産登記法:36条;110条の3/
全 文 s470602supreme.html

最高裁判所 昭和 47年 5月 25日 第1小法廷 判決 ( 昭和46年(オ)第792号 )
事件名:  損害賠償請求・上告事件
要 旨
 株式会社である賃借人が賃貸借契約上の保管義務違反により負う損害賠償債務は、商行為によって生じた債務にあたり、その法定利率は年6分(商法514条)であるとされた事例。
 1.賃貸不動産の修繕のための工事費用相当額が損害額となる場合に、個々の工事費用相当額の損害金の支払請求がそれぞれ別個の訴訟物となるものではないから、プラスター補修工事費用相当額の損害額を原告主張の金額を超えて認めていても、請求総額を超える金員の支払を命ずるのを相当としたわけでもないから、大正15年民訴法186条(判決事項)に違反しないとされた事例。
 1a.工事費用額を認定する根拠となる証拠が記録中に存在しない場合に、その事実認定は経験則に違反するものというべきであるとして、原判決が破棄されて差し戻された事例。
 2.契約上の債務の不履行を原因とする損害賠償債務は、契約上の債務がその態様を変じたにすぎないものであるから、当該契約が商行為たる性格を有するのであれば、右損害賠償債務も、その性格を同じくし、商法514条にいう「商行為ニ困リテ生ジタル債務」というに妨げないものである。
 2a.株式会社を借主とする賃貸借は商法4条、52条、503条の規定により少なくとも附属的商行為たる性格を有するのであり、したがって、賃貸借契約上の債務の不履行を原因とする損害賠償債務は、商行為によって生じた債務というべきであるとされた事例。
参照条文: /t15.民事訴訟法:186条/商法:4条;52条;503条;514条/
全 文 s470525supreme.html

名古屋高等裁判所金沢支部 昭和 47年 4月 28日 第1部 判決 ( 昭和46年(ネ)第164号 )
事件名: 
要 旨: 1.民法155条は、差押をうけた者と時効による受益者とがちがつている場合に、差押による消滅時効中断の効果を差押をうけていない時効受益者に及ぼさせる代りにその前提要件を規定したものである。 2.民法155条の通知は、時効受益者の競売手続の開始を知らされる利益を満たすものであれば足りるから、裁判所が職権により時効受益者たる債務者に対し競売開始決定の送達をなした以上、同条にいう「通知」がなされたものと解することができる。
参照条文: /民法:155条/民法:147条/民法:148条/民執.188条/民執.45条2項/
全 文 s470428nagoyaH.html

最高裁判所 昭和 47年 4月 13日 第1小法廷 判決 ( 昭和46年(オ)第1035号 )
事件名:  所有権移転登記等請求・上告事件
要 旨
 詐害行為取消権者(反訴原告)は、取り消されるべき行為(抵当権設定契約と代物弁済予約)が債権者を害する事実をも覚知していたものとは認められないとして、債権者取消権の時効消滅の抗弁が否定された事例。
 1.詐害行為取消権の消滅時効は、取消権者が取消の原因を覚知した時から進行するものであるところ、右にいう取消の原因を覚知するとは、取消権者が、詐害行為取消権発生の要件たる事実、すなわち、債務者が債権者を害することを知つて当該法律行為をした事実を知つたことを意味し、単に取消権者が詐害の客観的事実を知つただけでは足りないと解すべきである。
 1a. 一般の取引における債権者は、債務者の資産状態および弁済の意思等について知識を有するのを常とするから、特段の事情のないかぎり、詐害の客観的事実を知つた場合は、詐害意思をも知つたものと推認するのを相当とする。
 /事実上の推定/
参照条文: /民法:426条/
全 文 s470413supreme.html

岐阜地方裁判所 昭和 46年 12月 20日 民事部 判決 ( 昭和45年(ワ)第328号 )
事件名:  損害賠償請求事件
要 旨
 債権者から債務者に対する不動産強制競売申立事件を受任した弁護士が、債務者所有不動産の探索のために、岐阜市が地方税徴収のために管理している名寄帳に基づいて債務者所有不動産の表示を報告するように照会することを所属弁護士会に申し出、弁護士会が弁護士法23条の2第2項の規定に従い岐阜市長にその照会をした場合に、市役所職員が自治省の担当職員に指示を求めたところ照会に応ずる必要がない旨の指示を与えたことにより岐阜市長から報告を得ることができなかったことにより損害を受けたとして主張して、弁護士が国に対して損害賠償を請求したが、棄却された事例。
 1.弁護士法23条の2の規定の趣旨は、基本的人権を擁護し、社会正義を実現することを使命とする弁護士の職務の公的性格の特殊性に鑑み、弁護士の右使命の遂行を容易ならしめることを目的としたものであって、照会を受けた公務所又は公私の団体は、自己の職務の執行に支障なき限り。弁護士会に対して協力し,原則としてその照会の趣旨に応じた報告をなす義務を負うと解すべきである。
 1a.右報告義務は、右の目的のための協力義務に基づくものであって、弁護士または依頼者個人の利益を擁護するためのものではなく、報告義務者が報告を拒否した結果弁護士の職務活動が阻害されることがあるにしても、そのために生じた損害を賠償する義務まで負うものではない。 /弁護士会照会/弁護士照会/
参照条文: /国家賠償法:4条/民法:715条/弁護士法:23-2条/
全 文 s461220gihuD.html

最高裁判所 昭和 46年 12月 9日 第1小法廷 判決 ( 昭和44年(オ)第279号 )
事件名:  境界確認請求上告事件
要 旨
 1.境界の確定を求める訴は、隣接する土地の一方または双方が数名の共有に属する場合には、共有者全員が共同してのみ訴えまたは訴えられることを要する固有必要的共同訴訟である。
 2.訴訟告知を受けた者は、告知によって当然に当事者または補助参加人となるものではない。(したがって、訴訟に参加しない共有者に訴訟告知をしたことをもっては、固有必要的共同訴訟の要件を満たしたとは言えない。) /当事者適格/境界確定訴訟/
参照条文: /民訴.40条/民法:251条/
全 文 s461209supreme.html

最高裁判所 昭和 46年 11月 25日 第1小法廷 判決 ( 昭和41年(オ)第1005号 )
事件名:  店舗明渡請求・上告事件
要 旨
 借家法の適用のある建物賃貸借契約の賃貸期間が満了した後に賃貸人がした解約申入れについて、立退料の支払により正当事由が補完され、賃貸人の立退料の支払と引換えに賃借人が建物を明け渡すことを命じた判決に違法はないとされた事例。
 1.賃貸人が上賃借人に対して立退料として300万円もしくはこれと格段の相違のない一定の範囲内で裁判所の決定する金員を支払う旨の意思を表明し、かつその支払と引き換えに本件係争店舗の明渡を求めていることをもって、賃貸人の右解約申入につき正当事由を具備したとする原審の判断は相当であるとされた事例。
 1a.解約の申入が立退料の提供を伴うことによりはじめて正当事由を有することになるものと判断される場合であつても、立退料が、明渡によって借家人の被るべき損失のすべてを補償するに足りるものでなければならない理由はないし、また、それがいかにして損失を補償しうるかを具体的に説示しなければならないものでもない。
 2.(賃貸人が立退料として300万円もしくはこれと格段の相違のない一定の範囲内で裁判所の決定する金員を支払う旨の意思を表明した場合に、裁判所が500万円の立退料の支払と引換えに建物の明渡しを命じた事例。
参照条文: /t15.民事訴訟法:186条/借家法:1-2条/
全 文 s461125supreme.html

金沢地方裁判所 昭和 46年 11月 10日 判決 ( 昭和44年(ワ)第544号 )
事件名: 
要 旨: 民法155条にいう通知には債務者に対する競売開始決定の送達の場合もこれに含まれる。 (消滅時効/時効中断/差押えの通知/職務上顕著な事実の例)
参照条文: /民法:155条/民法:147条/民法:148条/民執.188条/民執.45条2項/
全 文 s461110kanazawaD.html

最高裁判所 昭和 46年 10月 21日 第1小法廷 判決 ( 昭和44年(オ)第1254号 )
事件名:  破産債権確定請求上告事件
要 旨
 個人経営の有限会社が破産した場合に、これに対する水道料金債権が優先的破産債権に該当しないとされた事例。
 1.民法310条の債務者は自然人に限られ、法人は右債務者に含まれず、この結論はいわゆる個人会社であっても同じである。 /優先的破産債権/一般の先取特権/日用品供給の先取特権/
参照条文: /民法:306条/民法:310条/破産.39条/
全 文 s461021supreme.html

最高裁判所 昭和 46年 10月 7日 第1小法廷 判決 ( 昭和42年(オ)第535号 )
事件名:  土地所有権確認等請求上告事件
要 旨
 1.一個の物を共有する数名の者全員が、共同原告となり、いわゆる共有権(数人が共同して有する一個の所有権)に基づき、その共有権を争う第三者を相手方として、共有権の確認を求めているときは、あるいは、第三者に対して所有権移転登記を求めるときは、その訴訟の形態はいわゆる固有必要的共同訴訟と解するのが相当である。
 1a.共有者の全員が共同原告となって提起した第三者に対する共有権確認請求訴訟において、原告の一部の者が訴えを取り下げても無効であるとした上で、請求が認容された事例。
 2.裁判所が土地の所有権の帰属を証拠によつて適法に認定判断している場合には、もはや登記の推定力を問題とする余地はない。 /当事者適格/事実上の推定/
参照条文: /民訴.38条/民訴.40条/
全 文 s461007supreme.html

最高裁判所 昭和 46年 9月 21日 第3小法廷 判決 ( 昭和43年(オ)第1215号 )
事件名:  詐害行為取消本訴ならびに家屋明渡反訴各請求・上告事件
要 旨
 調停で定められた金額の婚姻費用分担債務を負う者(夫)が、分担費用の支払を遅滞した後で、唯一の財産である本件土地建物を、右債務が支払不能になることを知りながら、第三者(受益者)に売却し、その旨の所有権移転登記手続を了し、その後に処分時までの婚姻費用分担債務を履行した場合に、処分時後の婚姻費用分担債務は処分時後に新たに発生するものであるから詐害行為取消権の被保全債権にはならないとの理由で詐害行為取消請求を棄却した原判決が破棄された事例。
 1.将来の婚姻費用の支払に関する債権であつても、いつたん調停によつてその支払が決定されたものである以上、詐害行為取消権行使の許否にあたつては、それが婚姻費用であることから、直ちに、債権としてはいまだ発生していないものとすることはできない。
 1a. 婚姻費用の分担に関する債権は、これに関する調停または審判において、その終期を定めていない場合においても、少なくとも、当事者間の婚姻関係その他の事情から、右調停または審判の前提たる事実関係の存続がかなりの蓋然性をもつて予測される限度においては、これを被保全債権として詐害行為の成否を判断することが許される。
参照条文: /民法:424条;760条/
全 文 s460921supreme.html

東京地方裁判所 昭和 46年 5月 20日 判決 ( 昭和43年(ワ)第662号 )
事件名:  建物明渡請求事件
要 旨
 1.夫所有の一棟の建物を妻が夫と共に占有していても、通常独立の占有権があるとは云えないが、夫婦関係が破綻した後暗黙の合意にせよ一応占有部分を協定して占有するに至つたときは、妻の占有とされた部分について妻に占有権が生ずると判断された事例。
 2.火災により居住できなくなつた建物から占有者が一時退去したが、いずれ修理して居住するつもりであった場合に、占有権が消滅しないと判断された事例。
 3.住宅の共同占有者(夫婦)の一人が他の共同占有者の意に反して占有物を自己の単独占有にしてしまった場合に、占有を奪われた者は占有回収の訴を提起し得るが、この場合には、原告は従前どおり被告と共同占有することができるように、その目的のための引渡のみを求めることができる。
 4.家屋の単独占有者であったと主張している原告が占有を奪った被告に対して家屋の明渡しを請求している場合に、裁判所が当該家屋は原告と被告の共同占有下にあったと認定して、原被告の共同占有となるように引渡を命ずることは原告の請求の範囲に含まれるとされた事例。 /処分権主義/判決事項/一部認容/占有回収の訴え/
参照条文: /民法:180条/民法:200条/民訴.246条/
全 文 s460520tokyoD.html

最高裁判所 昭和 46年 2月 23日 第3小法廷 判決 ( 昭和44年(オ)第1048号 )
事件名:  債権確定請求上告事件
要 旨: 更生会社の数人の管財人間に職務分掌の定めない場合に、管財人の一人が単独名義でした手形の振出・裏書は、無権限による行為であり、更生会社に対しては効力を生じないのが原則であるが、この場合でも、商法262条の規定の類推適用の余地がある。(類推適用が肯定された事例) /取引の安全/表見法理/職務分掌/破産管財人/
参照条文: /会更.97条1項/商.262条/破産.163条/民再.70条/
全 文 s460223supreme.html

最高裁判所 昭和 45年 12月 25日 第3小法廷 判決 ( 昭和45年(オ)第112号 )
事件名:  売買代金請求上告事件
要 旨
 1.民法109条および商法262条の規定は、取引の相手方を保護し、取引の安全を図るために設けられた規定であるから、取引行為と異なる訴訟手続において会社を代表する権限を有する者を定めるにあたっては適用されない。
 2.法人に訴状が送達された場合に、代表者として記載された者が真正な代表者でないことがその後に判明した場合には、裁判所は、民訴法229条2項、228条1項(現138条2項・137条1項)により、上告人に対し訴状の補正を命じ、また、被上告会社に真正な代表者のない場合には、上告人よりの申立に応じて特別代理人を選任するなどして、正当な権限を有する者に対しあらためて訴状の送達をすることを要する。
 2a.上記の補正命令の手続は、第一審裁判所においてこれをなすべきものであるから、控訴審で代表者の誤りが判明した場合、控訴審は、第一審判決を取り消し、第一審裁判所に事件を差し戻すべきである。 /権利外観/表見法理/
参照条文: /民法:109条/商.262条/民訴.137条/民訴.138条/民訴.35条/
全 文 s451225supreme.html

最高裁判所 昭和 45年 12月 4日 第2小法廷 判決 ( 昭和45年(オ)第184号 )
事件名:  家屋収去土地明渡等請求・上告事件
要 旨
 1.裁判所が申立てにより文書の送付を嘱託し、これに応じて文書が裁判所に送付された場合には、挙証者が文書全部を証拠とすることを欲するとはかぎらないから、裁判所は、文書中挙証者が証拠とする旨明示または黙示に指定したものについて取り調べれば足りると解すべきである。
 2.裁判所が送付嘱託に係る文書を口頭弁論期日に提示したが、挙証者が期日に出頭していないため、右文書を証拠とする旨の指定をしなかった場合に、裁判所がこれを証拠として取り調べることなく口頭弁論を終結しても、それは違法でない。 /文書送付嘱託//証拠調べ/書証の申出/
参照条文: /t15.民事訴訟法:319条/
全 文 s451204supreme.html

最高裁判所 昭和 45年 12月 4日 第2小法廷 判決 ( 昭和45年(オ)第625号 )
事件名:  建物収去土地明渡請求・上告事件
要 旨
 1.請求を全部認容した第一審判決に対して控訴が提起され、控訴審において、原告が被告の同意を得て請求を減縮(訴の一部取下)した場合に、控訴審が原告の請求を相当とし、控訴を理由がないと判断するときは、理論的には単に控訴を棄却すればよいのであるが、第一審判決が債務名義となることを考え、そのうちなお実質的に債務名義として有効に存続している部分を明確にすることは、実務上便宜であり、判決主文にその趣旨を表示することは違法でない。
 2.当事者の申し出た証拠が唯一の証拠方法でないときは、特段の事情のないかぎり、申出につき許否を決定することなく結審しても違法でない。(先例の確認) /請求の減縮/
参照条文: /t15.民事訴訟法:182条;186条;237条;384条/
全 文 s451204supreme2

最高裁判所 昭和 45年 11月 11日 大法廷 判決 ( 昭和42年(オ)第1032号 )
事件名:  立替金請求・上告事件
要 旨
 1.任意的訴訟信託は、民訴法が訴訟代理人を原則として弁護士に限り、また、信託法11条が訴訟行為を為さしめることを主たる目的とする信託を禁止している趣旨に照らし、一般に無制限にこれを許容することはできないが、当該訴訟信託がこのような制限を回避、潜脱するおそれがなく、かつ、これを認める合理的必要がある場合には許容するに妨げないと解すべきである。(判例変更)
 1a. 民法上の組合たる企業体において、組合規約に基づいて、自己の名で組合財産を管理し、対外的業務を執行する権限を与えられた業務執行組合員は、組合財産に関する訴訟につき組合員から任意的訴訟信託を受け、自己の名で訴訟を追行する当事者適格を有するとされた事例。 /当事者適格/訴訟要件/訴えの主観的利益/正当な当事者/
参照条文: /t15.民事訴訟法:45条;47条;79条;1編2章;2編1章/民法:670条/t11.信託法:11条/
全 文 s451111supreme.html

最高裁判所 昭和 45年 11月 6日 第2小法廷 判決 ( 昭和41年(オ)第648号 )
事件名:  共有物分割ならびに所有権確認等反訴請求上告事件
要 旨
 1
 民法258条によつてなされる共有物の現物分割は、本来は各個の共有物についての分割方法をいうものと解すべきであるが、数個の建物が一筆の土地の上に建てられており外形上一団の建物とみられるときは、そのような数個の共有物を一括して、共有者がそれぞれその各個の物の単独所有権を取得する方法により分割することも現物分割の方法として許される。
 2
 共有物分割訴訟の複数の原告を同じ弁護士が代理した場合に、それが弁護士法の規定に違反するかはともかくとして、第一審または第二審において異議が述べられなければ、上告審において訴訟行為の無効を主張することはできない(異議権喪失)。
 3
 3人の兄弟が相協力して逐次取得した数個の共有不動産の分割訴訟において、分割対象となる不動産を追加することを内容とする訴えの追加的変更が、請求の基礎の変更をもたらさず、許されるとされた事例。
参照条文: /民法:256条/民法:258条/民訴.90条/民訴.143条/弁護士.25条/
全 文 s451106supreme.html

最高裁判所 昭和 45年 10月 30日 第2小法廷 判決 ( 昭和40年(オ)第1467号 )
事件名:  損害賠償請求・上告事件
要 旨
 財団不足の場合に、遅れて交付要求がなされた租税債権について破産管財人がその全額を考慮することなく破産法51条の規定による割合的弁済をしたため、当該租税債権者が本来受けることのできたはずの割合的弁済額との差額について破産管財人に対して賠償を求めた事案において、弁済原資とされる金額の算定にあたっては、当初の財団財産からは、既にされた弁済金額を控除するのみならず、破産管財人への報酬金も控除すべきであるとされた事例。
 1.破産手続において破産管財人の受けるべき報酬は、破産法47条3号にいう「破産財団ノ管理、換価及配当ニ関スル費用」に含まれると解すべきである。
 1a. 破産法47条3号にいう「破産財団ノ管理、換価及配当ニ関スル費用」は、共益費用であるから、それが国税その他の公課に優先して支払を受けられるものであることはいうまでもないことであり、このことは破産財団をもってすべての財団債権を弁済することができない場合でも同様である。
 2.財団不足の場合の財団債権への配当に誤りがあった場合の破産管財人に対する損害賠償請求権は、期限の定めのないものであるから、破産管財人はその履行の請求を受けた時から遅滞の責を負うとされた事例。
参照条文: /t11.破産法:47条;51条/
全 文 s451030supreme.html

東京地方裁判所 昭和 45年 10月 30日 判決 ( 昭和44年(行ウ)第81号 )
事件名:  審決無効確認請求事件
要 旨
 1.実用新案登録出願の拒絶査定を支持する審決の取消請求の訴えが固有必要的共同訴訟の要件を満たしていないとの理由で却下された後に、かつその出訴期間経過後に、東京地方裁判所に提起された審決無効確認請求の訴えが適法とされた事例。
 1a.審決無効確認請求の訴えは、東京高等裁判所の専属管轄に属するものではなく、東京地方裁判所に提起することができる。
 1b.特許法178条3項により出訴期間の制限を受けるのは、審決または決定の取消訴訟についてのみであつて、審決または決定の無効確認訴訟は、一般原則に従い、そして行政事件訴訟法36条の制限を受けないかぎり、期間の制限なくこれを提起することができる。
 2.同一の発明ないし考案について最初に特許出願をしたが拒絶されたので、実用新案登録出願に変更された場合に、特許出願の拒絶査定を通知したにとどまる審査官は、他の審査官によりなされた実用新案登録出願の拒絶査定の抗告審判の干与から除斥されるいわれはないとして、原査定関与を理由とする審決無効確認請求が棄却された事例。
 2a.特許出願の審査と実用新案登録出願の審査との手続は互に別個独立のものであるから、特許出願につき拒絶査定をした審査官が実用新案登録出願の拒絶査定に対する抗告審判の干与から除斥さるべき理由はない。 /審決取消請求訴訟/知的財産権/無体財産権/工業所有権/実用新案権/
参照条文: /実用新案.47条1項/実用新案.47条2項/特許.178条1項/特許.178条3項/
全 文 s451030tokyoD51.html

最高裁判所 昭和 45年 10月 22日 第1小法廷 判決 ( 昭和45年(オ)第166号 )
事件名:  家賃金等本訴並びに反訴請求上告事件
要 旨
 賃借人が第三者から追奪請求され、その訴訟に賃貸人が補助参加して自己の所有権を主張したにもかかわらず、賃貸借契約の当時から目的物は追奪請求者に帰属していたとの理由で敗訴した場合に、その後に賃貸人が賃借人に対して自己の所有権を主張することは、前訴判決の参加的効力により許されないとして、賃料支払請求が棄却された事例。
 1.民訴法70条[現46条]の定める判決の補助参加人に対する効力は、いわゆる既判力ではなく、判決の確定後補助参加人が被参加人に対してその判決が不当であると主張することを禁ずる効力であつて、判決の主文に包含された訴訟物たる権利関係の存否についての判断だけではなく、その前提として判決の理由中でなされた事実の認定や先決的権利関係の存否についての判断などにも及ぶ。(判例変更)
参照条文: /(大正15年)民事訴訟法:70条/
全 文 s451022supreme.html

最高裁判所 昭和 45年 9月 10日 第1小法廷 判決 ( 昭和45年(オ)第85号 )
事件名: 
要 旨
 1
 破産原因の存在を明らかにするために破産申立人が自己の債権を主張した場合には、その債権の主張による権利行使は、一種の裁判上の請求として、当該権利の消滅時効の進行を中断する効力を有する。
 2
 破産の申立がのちに取り下げられた場合でも、右権利行使の催告としての効力は消滅せず、取下後6ケ月内に他の強力な中断事由に訴えることにより、消滅時効を確定的に中断することができる。
 (裁判上の催告/破産申立て/時効中断)
参照条文: /民法:147条/民法:149条/民法:153条/破産.132条/
全 文 s450910supreme.html

最高裁判所 昭和 45年 7月 24日 第2小法廷 判決 ( 昭和44年(オ)第882号 )
事件名: 
要 旨
 1.
 税法上損害賠償金が非課税所得とされているからといつて、損害額の算定にあたり租税額を控除すべきものと解するのは相当でない
 2.
 一個の債権の一部についてのみ判決を求める趣旨が明示されていないときは(黙示の一部請求)、請求額を訴訟物たる債権の全部として訴求したものと解され、時効中断の効力は、債権の同一性の範囲内においてその全部に及ぶ。
参照条文: /民法:149条/民法:709条/民訴.133条/民訴.147条/民訴.246条/所税.9条1項16号/
全 文 s450724supreme.html

最高裁判所 昭和 45年 7月 16日 第1小法廷 判決 ( 平成42年(オ)第342号 )
事件名:  配当異議上告事件
要 旨
 不動産の仮差押えの執行をした債権者が仮登記仮処分により当該不動産について抵当権設定仮登記を得、仮差押解放金が供託され、当該建物が滅失し、他の債権者が債務者の有する解放金取戻請求権を差し押さえて転付命令を得、その後に抵当権の仮登記に基づく本登記請求を認容する判決が確定した場合に、仮差押解放金取戻請求権に対する債権執行において抵当権者は物上代位権者として優先弁済を受けることができるとされた事例。
 1.不動産の仮差押えがなされた場合に、仮差押解放金取戻請求権は、仮差押の目的不動産に代わるものであるから、民法372条、304条の規定の趣旨に従い、抵当権は、解放金取戻請求権にその効力を及ぼす。
 1a.この場合に、抵当権者は抵当権を実行するか、解放金取戻請求権に対する執行に際し優先権を主張するか、いずれか一方を選択して行使することができる。
 1b.抵当権者が解放金取戻請求権に対して本差押えの執行をすると共に物上代位権に基づく優先権を主張していると見られる場合には、執行裁判所はこの優先権の順位に応じた配当表を作成すべきである。
 2.仮登記を経たにとどまる抵当権は、本登記がなされた場合には仮登記の順位において第三者に優先する効力を認められるのであるから、配当裁判所は、配当に際し、仮登記を有するにすぎない抵当権についても、その順位に応じた配当額を定め、その金額を供託すべく、抵当権者が、後日、本登記手続をなすにつき必要な条件を備えるに至つたときに、同人にこれを交付すべきである。
参照条文: /民法:372条/民法:304条/民保.22条/民保.51条/民執.91条1項5号/民執.92条1項/
全 文 s450716supreme.html

最高裁判所 昭和 45年 7月 16日 第1小法廷 判決 ( 昭和39年(行ツ)第47号 )
事件名:  債権差押処分取消請求・上告事件
要 旨
 破産宣告前に生じた租税(国税)債権の徴収のために租税債権者が破産財団所属財産(破産管財人が破産管財事務に基づき訴外労働金庫に寄託していた定期預金債権)に対し国税徴収法による差押処分を破産宣告後にしたが、取り消された事例。
 1.破産法47条2号に定める請求権にあたる国税債権をもつて、破産宣告後新らたに滞納処分をすることは許されない。
 2.破産宣告前に滞納処分がなされていない財団債権である国税債権については、国税徴収法の定めるところにより、交付要求をすることができるにとどまり、仮りに、破産管財人の措置を不服とするときは裁判所の監督権の発動を促すべく、また、場合により、破産管財人に対し損害賠償責任を問う方途を講ずべきものである。
参照条文: /t11.破産法:47条2号;49条;71条/国税徴収法:47条/
全 文 s450716supreme2.html

最高裁判所 昭和 45年 7月 16日 第1小法廷 判決 ( 昭和43年(オ)第95号 )
事件名:  建物明渡請求・上告事件
要 旨
 主たる納税義務者について会社更生手続が開始された場合に、会社更生法67条2項所定の滞納処分禁止期間内になされた第二次納税義務者の財産(建物)の滞納処分による換価が違法でないとされ、公売における買受人の第二次納税義務者に対する明渡請求が認容された事例。
 1.会社更生法(昭和27年)67条2項の定めるところによれば、更生手続開始決定があったときは、決定の日から一年間は、会社財産に対し国税徴収の例による滞納処分はすることができず、既にされている滞納処分は中止すべきものとされているのであるが、これは、更生会社の財産に対する滞納処分を制限したものであって、その会社を主たる納税義務者とする第二次納税義務者の財産に対する滞納処分を一般的に制限するものではない。
 2.主たる納税義務者に対する更生手続開始決定の際、すでに主たる納税義務者に対する財産の公売を経ているなど同人に対する財産の公売があったとみられる場合においては、同人に対し更生手続開始決定があっても、地方税法(昭和34年法律第149号による改正前のもの)11条の3の第二次納税義務者の財産を公売することは、同法11条の3第2項・11条の2第2項但書の規定に違反するものではない。
参照条文: /地方税法(昭和34年法律第149号による改正前のもの):11-2条2項;11-3条/s27.会社更生法:67条2項/
全 文 s450716supreme3.html

最高裁判所 昭和 45年 7月 15日 大法廷 判決 ( 昭和40年(行ツ)第100号 )
事件名:  供託金取戻請求の却下処分取消請求上告事件
要 旨
 1.供託官が供託物取戻請求を理由がないと認めて却下した行為は行政処分であり、弁済者は右却下行為が権限のある機関によって取り消されるまでは供託物を取り戻すことができない。
 1a.供託物取戻の請求を却下した処分に対しは、行政事件訴訟法3条2項に基づき却下処分の取消しの訴えを提起することができる。
 2.弁済供託における供託物の取戻請求権の消滅時効の起算点は、供託の基礎となった債務について紛争の解決などによってその不存在が確定するなど、供託者が免責の効果を受ける必要が消滅した時と解するのが相当である。
 2a.供託金の払渡請求権の消滅時効は民法の規定により、10年をもって完成する。
参照条文: /供託.1-4条/供託.8条2項/供託規.38条/民法:166条1項/民法:167条1項/民法:496条1項/行訴.3条2項/会計.30条/
全 文 s450715supreme.html

最高裁判所 昭和 45年 6月 24日 大法廷 判決 ( 昭和39年(オ)第155号 )
事件名:  定期預金等請求上告事件
要 旨
 納税義務者の預金債権について滞納処分としての差押がなされたが、銀行が取引約定書における相殺予約条項に基づき貸付金債権との相殺の意思表示をなし、被差押債権である預金債権はこれにより消滅したと認められた事例。
 1.第三債務者は、その債権が差押後に取得されたものでないかぎり、自働債権および受働債権の弁済期の前後を問わず、相殺適状に達しさえすれば、差押後においても、これを自働債権として相殺をなしうる。(判例変更)
 2.債務者の信用を悪化させる一定の客観的事情が発生した場合に債務者のために存する期限の利益を喪失せしめ、一方、債務者の債権者に対する預金等の債権については、債権者において期限の利益を放棄し、直ちに相殺適状を生ぜしめる旨の合意は、契約自由の原則上有効である。(判例変更)
参照条文: /民法:511条/税徴.67条/民執.145条/
全 文 s450624supreme.html

最高裁判所 昭和 45年 6月 24日 大法廷 判決 ( 昭和42年(オ)第747号 )
事件名:  約束手形金請求・上告事件
要 旨
 原告が手形金支払請求の原因として、「被告は訴外人Dに宛てて本件各約束手形を振り出し、Dはこれを原告に白地裏書により譲渡し、原告は現にその所持人である」旨(手形法14条1項の適用に必要な事実)を陳述し、受取人としてDおよび同人名義の白地裏書の記載のある約束手形を証拠として提出している場合には、裏書きの連続性について原告から明示的主張がなくても、原告は、「裏書の連続する約束手形の所持人である」旨(手形法16条1項の適用に必要な事実)を主張をしているものと解すべきであるとされた事例。
 1.手形法16条1項(同法77条1項1号により約束手形に準用)の適用を主張するには、連続した裏書の記載のある手形を所持する事実を主張することを要する。(先例の確認)
 1a.原告が、連続した裏書の記載のある手形を所持し、その手形に基づき手形金の請求をしている場合には、当然に、手形法16条1項の適用の主張があるものと解するのが相当である。 /弁論主義/主要事実の主張の必要性/
参照条文: /手形法:14条1項;16条1項/t15.民事訴訟法:125条1項/
全 文 s450624supreme2.html

最高裁判所 昭和 45年 6月 11日 第1小法廷 判決 ( 昭和45年(オ)第52号 )
事件名:  売掛代金請求・上告事件
要 旨
 控訴審第2回口頭弁論期日における釈明権行使の結果 原告が請求原因を変更し、控訴審が変更後の請求を認容すべきものと判断したとしても、第一審以来控訴審第2回口頭弁論期日までの訴訟の経過に照らすと、釈明権行使が違法であるとは言えないとされた事例。
 1.釈明の制度は、弁論主義の形式的な適用による不合理を修正し、訴訟関係を明らかにし、できるだけ事案の真相をきわめることによつて、当事者間における紛争の真の解決をはかることを目的として設けられたものであるから、原告の申立に対応する請求原因として主張された事実関係とこれに基づく法律構成が、それ自体正当ではあるが、証拠資料によつて認定される事実関係との間に喰い違いがあつて、その請求を認容することができないと判断される場合においても、その訴訟の経過やすでに明らかになつた訴訟資料、証拠資料からみて、別個の法律構成に基づく事実関係が主張されるならば、原告の請求を認容することができ、当事者間における紛争の根本的な解決が期待できるにかかわらず、原告においてそのような主張をせず、かつ、そのような主張をしないことが明らかに原告の誤解または不注意と認められるようなときは、その釈明の内容が別個の請求原因にわたる結果となる場合でも、事実審裁判所としては、その権能として、原告に対しその主張の趣旨とするところを釈明することが許されるものと解すべきであり、場合によつては、発問の形式によつて具体的な法律構成を示唆してその真意を確めることが適当である場合も存する。
 2.原告が当初、被告からの依頼により原告と第三者との間に成立した木箱類の売買契約に基づく代金債権を被告が連帯保証したことによる保証債務履行請求権を主張し、その後、被告が第三者に納入する木箱類の製作について原告(請負人)・被告(注文者)間で成立した請負契約に基づく代金債権を主張するに至った場合には、請求原因の変更があったというべきである。
 2a.前記のような請求原因の変更が控訴審の第2回口頭弁論期日における釈明の結果によるものであるとしても、第一審以来控訴審第2回口頭弁論期日までの訴訟の経過に照らすと、その釈明権の行使は、事実審裁判所のとつた態度として相当であるというべきであり、原審に所論釈明権行使の範囲を逸脱した違法はないとされた事例。
 3.第一審が請求を認容し、控訴審で請求原因の変更がなされたが、控訴審が控訴棄却の主文を掲げた場合に、上告審においてこの点が問題にされなかった事例。 /訴えの変更/交換的変更/
参照条文: /t15.民事訴訟法:127条;232条/
全 文 s450611supreme.html

最高裁判所 昭和 45年 5月 22日 第2小法廷 判決 ( 昭和45年(オ)第64号 )
事件名:  借地権確認妨害排除請求上告事件
要 旨
 賃借人から賃貸人の共同相続人に対する賃借権確認の訴は、固有必要的共同訴訟ではない。
 不動産賃貸人の共同相続人らは、賃貸物を使用収益させるべき賃貸借契約上の債務を各自が不可分に負担し、賃借人は、相続人の一人に対しても右債務の全部の履行を請求することができる。 /共有/
参照条文: /民訴.40条/民法:430条/民法:898条/民法:899条/
全 文 s450522supreme.html

最高裁判所 昭和 45年 5月 22日 第2小法廷 判決 ( 昭和42年(オ)第1017号 )
事件名:  否認権行使・上告事件
要 旨
 1.控訴審における第一回口頭弁論期日の呼出状の送達が、控訴人不在のため、事理を弁識するに足る知能を有する雇人に交付する方法(補充送達)でなされた場合に、雇人への交付によって送達の効力を生じ、雇人が受送達者に対し送達書類を手交したか否か、または送達書類の交付があつたことを通知したか否かは、送達の効力に影響を及ぼすものではないとされた事例。
 2.当事者の一方が適法な呼出を受けながら口頭弁論期日に出頭しない場合において、裁判所が、右当事者の一方の不出頭のまま口頭弁論を経て審理を終結し、判決言渡期日を指定して告知したときは、その告知は、民訴法207条(現122条)において準用する同法190条2項(現251条2項)により、右期日に在廷していなかった当事者に対しても、その効力を有するから、さらにその者に対し右判決言渡期日の呼出状を送達することを要しない。
参照条文: /民事訴訟法:122条;251条2項;106条1項/
全 文 s450522supreme2.html

東京高等裁判所 昭和 45年 4月 24日 第5民事部 判決 ( 昭和44年(ネ)第1477号 )
事件名: 
要 旨
 抵当権の設定された不動産の第三取得者は、被担保債権の消滅時効を援用することができない。
 (時効援用権者)
参照条文: /民法:145条/
全 文 s450424tokyoH.html

最高裁判所 昭和 45年 4月 10日 第2小法廷 判決 ( 昭和42年(オ)第462号 )
事件名:  転付預金債権支払請求・上告事件
要 旨
 1.譲渡禁止の特約のある債権であつても、差押債権者の善意・悪意を問わず、これを差し押え、かつ、転付命令によつて移転することができるものであつて、これにつき、同法466条2項の適用ないし類推適用をなすべきではない。(判例変更)
参照条文: /民法:466条2項/民執.152条/民執.159条/
全 文 s450410supreme.html

最高裁判所 昭和 45年 4月 2日 第1小法廷 判決 ( 昭和44年(オ)第1112号 )
事件名:  株主総会決議取消、株主総会決議無効確認請求・上告事件
要 旨
 1.形成の訴は、法律の規定する要件を充たすかぎり、訴の利益の存するのが通常であるけれども、その後の事情の変化により、その利益を欠くに至る場合がある。
 1a.役員選任の総会決議取消の訴が係属中、その決議に基づいて選任された取締役ら役員がすべて任期満了により退任し、その後の株主総会の決議によつて取締役ら役員が新たに選任され、その結果、取消を求める選任決議に基づく取締役ら役員がもはや現存しなくなつたときは、特別の事情のないかぎり、決議取消の訴は実益なきに帰し、訴の利益を欠くに至る。
 2.取消し得べき決議に基づいて選任された取締役の在任中の行為について会社の受けた損害を回復するためには、今なお当該決議取消の利益があるとの原告主張の事情は、特別の事情に当たりうるとしても、原告は、本件決議取消の訴えが会社の利益のためにするものであることを立証する必要があり、その立証がないので、特別事情を認めることはできず、訴えの利益を欠くとされた事例。
参照条文: /商法:247条/民事訴訟法:2編1章/
全 文 s450402supreme.html

最高裁判所 昭和 45年 3月 26日 第1小法廷 判決 ( 昭和44年(オ)第1156号 )
事件名:  証拠金等返還請求・上告事件
要 旨
 民事訴訟法の規定に基づいて裁判所が職権ですることのできる調査の嘱託によって得られた回答書等調査の結果を証拠とするには、裁判所がこれを口頭弁論において提示して当事者に意見陳述の機会を与えれば足り、当事者の援用を要しない。 /証拠調べ/
参照条文: /t15.民事訴訟法:262条/
全 文 s450326supreme.html

東京高等裁判所 昭和 45年 2月 27日 第9民事部 決定 ( 昭和44年(ラ)第481号 )
事件名:  免責不許可決定に対する即時抗告事件
要 旨
 外形的にみれば破産法374条1号の罪の構成要件に該当し、366条ノ9の1号に定める免責不許可の事由免責不許可事由に該当する行為がなさていたとしても、破産宣告を受けるに至つた事情、その後の情況等を考慮すると、不誠実性を表徴するものとみることは破産者に対し酷に失するとして、破産者の更生を容易にする為に免責が認められた事例。
 1.免責の制度は、破産者に対する各種の差別待遇(選挙権、被選挙権についての制限等)を漸次撤廃する傾向に即応して破産者個人の更生を容易にするため設けられたものであり、裁判により不誠実でない破産者に対し破産手続による配当で弁済されなかつた残余の債務についてその責任を原則として全面的に免除する特典を与うるものである。
 1a.破産法366条ノ2・366条ノ9の文言ならびに立法の目的に照らすと、形式上366条の9各号に該当する免責不許可事由がある場合であつても、その事実が軽微である等特段の事由があるときは、裁判所はその裁量により免責を許可することができる。(裁量免責) /破産免責/
参照条文: /破産.366-2条/破産.366-9条/破産.374条1号/
全 文 s450227tokyoH.html

最高裁判所 昭和 45年 1月 29日 第1小法廷 判決 ( 昭和44年(オ)第568号 )
事件名:  第三者異議上告事件
要 旨
 仮差押執行後に債務者が破産宣告を受けたときは、仮差押執行は破産財団に対しては効力を失い、その排除を求める第三者異議の訴は、訴えの利益を有しない。
 第三者異議訴訟の原告は、債務者の破産後は、破産管財人を相手方として取戻権を行使すべきである。 /訴訟要件/
参照条文: /民執.38条/破産.42条/破産.78条1項/破産.62条/民保.46条/民保49条/
全 文 s450129supreme.html

最高裁判所 昭和 45年 1月 22日 第1小法廷 判決 ( 昭和42年(オ)第867号 )
事件名:  株主総会決議不存在確認請求・上告事件
要 旨
 1.民訴法七一条に基づく独立当事者参加の申出は、常に原被告双方を相手方としなければならず、当事者の一方のみを相手方とする参加の申出は、不適法である。(先例の確認)
 1a. 独立当事者参加の申出は、参加人が当該訴訟において裁判を受けるべき請求を提出しなければならず、単に当事者一方の請求に対して訴却下または請求棄却の判決を求めるのみの参加の申出は許されない。
 1b.原告(株主)の被告(会社)に対する株主総会決議不存在確認請求訴訟の第一審係属中に独立当事者参加した者が、請求棄却および訴却下の判決を求めただけであり、参加人が原告および被告に対し何らの請求をもしなかった場合に、独立当事者参加の申出が不適法であるとして却下された事例。
 2.原告の被告に対する株主総会決議不存在確認請求(主位的請求)および同決議取消請求(予備的請求)を認容する確定判決は、第三者に対してもその効力を有するから、この場合の補助参加はいわゆる共同訴訟的補助参加であり、この種の補助参加については、民事訴訟法69条2項の適用はなく、同法62条の準用をみるべきものである。
 2a.独立当事者参加人が予備的に被告側に共同訴訟的補助参加もしていた場合に、前者の参加申出が請求提出の欠如を理由に上告審において却下されるときでも、原審が参加人の訴訟行為につき、民事訴訟法69条2項を適用することなく、同法62条の規定により被告の利益に効力を生ずるものとして審理裁判したことは、原告と被告との間の訴訟手続に関する限り結局相当であり、参加人の訴訟行為を理由とする破棄申立てに理由がないとされた事例。
 3.控訴審において第一審判決を取り消し事件を第一審に差し戻す旨の判決があつた場合に、差戻を受けた第一審は、裁判所法4条の定めるところにより、右判決の取消の理由となつた法律上および事実上の判断に拘束されるのであるから、同条所定の拘束力が生ずる取消の理由となつた控訴審判決の判断に不服のある控訴人は、右判決に対して上告をする利益を有し右判断の違法をいうことができる。(前提の議論)
 3a.控訴人において第一審判決取消・差戻の控訴審判決の理由に不服があつても、これが第一審判決の取消の理由に対するものでない場合には、控訴人は控訴審判決に対し上告の利益を有しない。
 3b. 上告理由が控訴審が第一審判決を取り消す理由とした裁判所法4条所定の拘束力のある判断の違法をいうものではない場合に、その上告理由は上告適法の理由とすることができないとされた事例。
 4.第一審の主位的請求を棄却し予備的請求を却下する判決に対する控訴を棄却する判決について、上告審が主位請求棄却部分に破棄理由があると判断して同部分について原判決破棄・第一審判決取消し・差戻しの判決をする場合に、主位請求が認容されれば予備請求について判決の必要がなくなるので、予備請求部分を含めて原判決破棄・第一審判決取消し・差戻しの判決をした事例。
参照条文: /t15.民事訴訟法:62条;69条;71条/裁判所法:4条/
全 文 s450122supreme.html

最高裁判所 昭和 44年 12月 24日 大法廷 判決 ( 昭和40年(あ)第1187号 )
事件名:  公務執行妨害、傷害被告事件(上告事件)
要 旨
 1.昭和29年京都市条例第10号集会、集団行進及び集団示威運動に関する条例は、憲法21条に違反しない。
 2.何人も、その承諾なしに、みだりにその容貌・姿態を撮影されない自由を有し、警察官が、正当な理由もないのに、個人の容貌等を撮影することは、憲法13条の趣旨に反し許されない。
 3.警察官による個人の容ぼう等の写真撮影は、現に犯罪が行なわれもしくは行なわれたのち間がないと認められる場合であつて、証拠保全の必要性および緊急性があり、その撮影が一般的に許容される限度をこえない相当な方法をもつて行なわれるときは、撮影される本人の同意がなく、また裁判官の令状がなくても、憲法13条、35条に違反しない。 /肖像権/容ぼう/幸福追求権/
参照条文: /憲.13条/憲.21条/憲.35条/刑訴.218条2項/刑訴.220条/警察.2条1項/
全 文 s441224supreme91.html

最高裁判所 昭和 44年 12月 18日 第1小法廷 判決 ( 昭和40年(オ)第353号 )
事件名:  所有権移転登記手続請求・上告事件
要 旨
 1.所有権に基づいて不動産を占有する者についても、民法162条の適用がある。(先例の確認)
 1a.不動産の所有者が不動産を売却した場合においても、買主が売主から不動産の引渡を受けて、みずから所有の意思をもつて占有を取得し、(占有開始の時から)民法162条所定の期間を占有したときには、買主は売主に対する関係でも、時効による所有権の取得を主張することができる。 /売買契約当事者間における所有権取得時効の援用(買主について)/
参照条文: /民法:162条/
全 文 s441218supreme2.html

最高裁判所 昭和 44年 11月 27日 第1小法廷 判決 ( 昭和44年(オ)第491号 )
事件名: 
要 旨
 債務者兼抵当権設定者が債務の不存在を理由として提起した抵当権設定登記抹消登記手続請求訴訟において、債権者兼抵当権者が請求棄却の判決を求めて被担保債権の存在を主張したときは、右主張は、裁判上の請求に準ずるものとして、被担保債権につき消滅時効中断の効力を生ずる。
参照条文: /民法:147条1号/民訴.147条/
全 文 s441127supreme.html

最高裁判所 昭和 44年 11月 26日 大法廷 決定 ( 昭和44年(し)第68号 )
事件名:  取材フイルム提出命令に対する特別抗告事件
要 旨
 1.放映されたフイルムを含む放映のために準備された取材フイルムについて、付審判請求事件の審理のために提出することを命ずることが憲法21条に違反せず、またその趣旨にも抵触しないとされた事例。
 1a.報道の自由とともに、報道のための取材の自由も、憲法21条の精神に照らし、十分尊重に値いする。
 1b.公正な刑事裁判の実現を保障するために、報道機関の取材活動によつて得られたものが、証拠として必要と認められるような場合には、取材の自由がある程度の制約を蒙ることとなつてもやむを得ない。
 1c.この場合においても、一面において、審判の対象とされている犯罪の性質、態様、軽重および取材したものの証拠としての価値、ひいては、公正な刑事裁判を実現するにあたつての必要性の有無を考慮するとともに、他面において、取材したものを証拠として提出させられることによつて報道機関の取材の自由が妨げられる程度およびこれが報道の自由に及ぼす影響の度合その他諸般の事情を比較衡量して決せられるべきであり、これを刑事裁判の証拠として使用することがやむを得ないと認められる場合においても、それによつて受ける報道機関の不利益が必要な限度をこえないように配慮されなければならない。
参照条文: /憲.21条/刑訴.99条2項/刑訴.262条/
全 文 s441126supreme.html

最高裁判所 昭和 44年 10月 15日 大法廷 判決 ( 昭和39年(あ)第305号 )
事件名:  猥褻文書販売、同所持被告事件(上告事件)
要 旨
 マルキ・ド・サドの作品の邦訳『悪徳の栄え(続)―ジユリエツトの遍歴―』が猥褻文書にあたるとされた事例。
 1.文書がもつ芸術性・思想性が、文書の内容である性的描写による性的刺激を減少・緩和させて、刑法が処罰の対象とする程度以下に猥褻性を解消させる場合があることは考えられるが、右のような程度に猥褻性が解消されないかぎり、芸術的・思想的価値のある文書であつても、猥褻の文書としての取扱いを免れることはできない。
 1a.文書の芸術性・思想性を強調して、芸術的・思想的価値のある文書は猥褻の文書として処罰の対象とすることができないとか、名誉毀損罪に関する法理と同じく、文書のもつ猥褻性によつて侵害される法益と芸術的・思想的文書としてもつ公益性とを比較衡量して、猥褻罪の成否を決すべしとするような主張は、採用することができない。
 2.特定の章句の部分を取り出し、全体から切り離して、その部分だけについて猥褻性の有無を判断するのは相当でないが、特定の章句の部分について猥褻性の有無が判断されている場合でも、その判断が文書全体との関連においてなされている以上、これを不当とする理由は存在しない。
 3.芸術的・思想的価値のある文書についても、それが猥褻性をもつものである場合には、性生活に関する秩序および健全な風俗を維持するため、これを処罰の対象とすることが国民生活全体の利益に合致するものと認められるから、これを目して憲法21条、23条に違反するものということはできない。
 4.法律判断の対象となる事実が認定されており、裁判所の法律判断だけが残されている場合には、事実について当事者に争わせ、事実の取調をする意義を認めることができないから、このような場合には、改めて事実の取調をするまでもなく、刑訴法400条但書によつて、控訴裁判所がみずから有罪の判決をすることができる。(判例変更) /わいせつ文書/
参照条文: /刑.175条/憲.21条/憲.23条/刑訴.400条/
全 文 s441015supreme91.html

最高裁判所 昭和 44年 7月 17日 第1小法廷 判決 ( 昭和43年(オ)第483号 )
事件名:  家賃金請求・上告事件
要 旨
 1.敷金は、賃貸借契約終了の際に賃借人の賃料債務不履行があるときは、その弁済として当然これに充当される性質のものである。
 2.建物賃貸借契約において該建物の所有権移転に伴い賃貸人たる地位に承継があった場合には、旧賃貸人に差し入れられた敷金は、賃借人の旧賃貸人に対する未払賃料債務があればその弁済としてこれに当然充当され、その限度において敷金返還請求権は消滅し、残額についてのみその権利義務関係が新賃貸人に承継されるものと解すべきである。
参照条文: /民法:619条/借地借家.31条1項/
全 文 s440717supreme.html

最高裁判所 昭和 44年 7月 15日 第3小法廷 判決 ( 昭和42年(オ)第1399号 )
事件名:  家屋退去請求・上告事件
要 旨
 上告審でなされた独立当事者参加申出は不適法であるとして、参加申出が却下された事例。
 1.上告審である裁判所に対し独立当事者参加の申出をすることは許されない。
参照条文: /t15.民事訴訟法:71条/
全 文 s440715supreme.html

最高裁判所 昭和 44年 7月 10日 第1小法廷 判決 ( 昭和41年(オ)第805号 )
事件名:  任役員等確認請求・上告事件
要 旨
 慈照寺の前住職が新住職及び慈照寺の包括宗教法人である相国寺派を被告にして、原告が宗教法人慈照寺の代表役員及び責任役員であることの確認の訴えを提起したが、宗教法人慈照寺を被告としないこの訴えは即時確定の利益を欠くとして却下された事例。
 1.法人を当事者とすることなく、当該法人の理事者たる地位の確認を求める訴を提起することは、たとえ請求を認容する判決が得られても、その効力が当該法人に及ばず、同法人との間では何人も右判決に反する法律関係を主張することを妨げられないから、右理事者の地位をめぐる関係当事者間の紛争を根本的に解決する手段として有効適切な方法とは認められず、したがつて、このような訴は、即時確定の利益を欠き、不適法な訴として却下を免れない。
 1a.法人の理事者が、当該法人を相手方として、理事者たる地位の確認を訴求する場合にあつては、その請求を認容する確定判決により、その者が当該法人との間においてその執行機関としての組識法上の地位にあることが確定されるのであるから、事柄の性質上、何人も右権利関係の存在を認めるべきものであり、したがつて、右判決は、対世的効力を有する。
 1b.宗教法人Bの住職についてその包括宗教法人Aの管長が任免権を有し、その住職の職にある者をもつてBの代表役員充てることとなつている場合でも、Bの代表役員であることの確認の訴えは、Bを被告とすべきであり、たとえAが被告になっていても即時確定の利益を欠く。
 2.控訴審判決に対して適法な上告があつた場合においては、上告状において不服申立の範囲を原判決の一部に限定したときでも、右判決にかかる事件全部について上告審へ移審の効力を生じ、上告人は、上告理由書提出期間内において不服申立の範囲を拡張し、その理由を主張することができる。
 3.宗教法人の規則において、住職の職にある者が宗教法人の役員に充てられることが定められている場合でも、代表役員および責任役員としての法律上の地位の確認請求をすると共に、これとは別個にその前提条件としての住職たる地位の確認を求めるというのは、単に宗教上の地位の確認を求めるにすぎないものであつて、法律上の権利関係の確認を求めるものとはいえず、したがつて、このような訴は、その利益を欠くものとして却下を免れない。
 3a.宗教法人の住職であることの確認請求の訴えが請求適格を欠くとして却下された場合に、被告が適法な訴えであるとして上告した事例。(被告は訴え却下判決に対して上訴する利益を有する) /請求適格/訴訟要件
参照条文: /民事訴訟法:225条;398条1項;402条/民事訴訟規則:50条/宗教法人法:18条/
全 文 s440710supreme.html

最高裁判所 昭和 44年 7月 8日 第3小法廷 判決 ( 昭和43年(オ)第906号 )
事件名:  債務不存在確認等請求上告事件
要 旨
 貸金返還請求の前訴において、前訴原告が裁判外の和解により一部弁済を受け残部を免除すると共に訴え取下げを約束しながらそれを履行しなかったために請求認容判決が下されて確定した場合に、前訴原告がこの判決に基づいて強制執行をしたことにより前訴被告に生じた損害の賠償等を前訴被告が請求することは、確定判決の存在によって妨げられないとされた事例。
 1.判決の成立過程において、訴訟当事者が、相手方の権利を害する意図のもとに、作為または不作為によつて相手方が訴訟手続に関与することを妨げ、あるいは虚偽の事実を主張して裁判所を欺罔する等の不正な行為を行ない、その結果本来ありうべからざる内容の確定判決を取得し、かつこれを執行した場合においては、右判決が確定したからといつて、そのような当事者の不正が直ちに問責しえなくなるいわれなく、これによつて損害を被つた相手方は、かりにそれが右確定判決に対する再審事由を構成し、別に再審の訴を提起しうる場合であつても、なお独立の訴によつて、右不法行為による損害の賠償を請求することを妨げられない。 /既判力/
参照条文: /民訴.114条/民訴.388条/民法:709条/民訴.261条/
全 文 s440708supreme.html

最高裁判所 昭和 44年 6月 26日 第1小法廷 判決 ( 昭和40年(オ)第907号 )
事件名:  株券引渡等請求上告事件
要 旨
 1.遺言による寄附行為に基づく財団法人の設立行為がされたあとで、遺言者の生前処分の寄附行為に基づく財団設立行為がされて、両者が競合する形式になつた場合において、右生前処分が遺言と抵触し、したがつて、その遺言が取り消されたものとみなされるためには、少なくとも、まず、右生前処分の寄附行為に基づく財団設立行為が主務官庁の許可によつて、その財団が設立され、その効果の生じたことを必要とする。
 2.設立中の財団が、民訴法46条(現29条)にいわゆる権利能力のない財団として当事者能力を有するものとされた事例。
 3.奨学金財団が遺言による寄附行為に基づいて設立中の場合には、たとえ主務官庁の許可を得ておらず、いまだ法人として成立していないとしても、遺言執行者は、遺産中の株式をこれに帰属させ、その代表機関名義に名義を書き換える行為は、遺言の執行に必要な行為にあたり、これにより、相続人は株式についての権利を喪失するとされた事例。 /法人格/法人でない財団/
参照条文: /民法:34条/民法:41条2項/民法:42条2項/民法:1012条1項/民法:1013条/民訴.29条/
全 文 s440626supreme.html

最高裁判所 昭和 44年 6月 25日 大法廷 判決 ( 昭和41年(あ)第2472号 )
事件名:  名誉毀損被告事件(上告事件)
要 旨
 1.刑法230条ノ2第1項にいう事実が真実であることの証明がない場合でも、行為者がその事実を真実であると誤信し、その誤信したことについて、確実な資料、根拠に照らし相当の理由があるときは、犯罪の故意がなく、名誉毀損の罪は成立しない。(判例変更)
 2.証人の証言が、真実性の立証趣旨との関係では伝聞証拠であるが、真実と誤信したことについての相当性の立証趣旨との関係では伝聞証拠ではないとされた事例。
参照条文: /刑.230-2条1項/刑訴./
全 文 s440625supreme.html

最高裁判所 昭和 44年 6月 24日 第3小法廷 判決 ( 昭和41年(オ)第981号 )
事件名:  売掛代金請求上告事件
要 旨
 1.債権者代位権は、債権者の債権を保全するために認められた制度であるから、これを行使しうる範囲は、右債権の保全に必要な限度に限られるべきであって、金銭債権に基づいて金銭債権を代位行使する場合には、債権者は自己の債権額の範囲においてのみ債務者の債権を行使しうる。
参照条文: /民法:423条/
全 文 s440624supreme.html

最高裁判所 昭和 44年 6月 24日 第3小法廷 判決 ( 昭和43年(オ)第1210号 )
事件名:  記手続請求・上告事件
要 旨
 1.売買契約に基づいて所有権移転登記が経由された不動産について、買主が売主に対してその明渡しと明渡義務の履行遅滞による損害賠償を求める訴えを提起し(別件訴訟)、詐欺を理由に売買契約を取り消す旨の売主からの抗弁が排斥されて、請求認容判決が確定した場合に、その判決は、不動産の明渡請求権および契約不履行による損害賠償としての金銭支払請求権の有無について既判力を有するにすぎず、不動産の所有権の存否について、既判力およびこれに類似する効力(いわゆる争点効)を有するものではない。
 2.売買契約に基づいて所有権移転登記が経由された不動産について、売主が、買主に対して詐欺を理由に売買契約を取り消して、不動産の所有権移転登記の抹消登記請求の訴え(本件訴訟)を提起し、他方、買主が売主に対して不動産の明渡しと明渡義務の履行遅滞による損害賠償を求める訴え(別件訴訟)を提起し、第一審では併合審理されたが、控訴審以降で分離して審理された場合に、別件訴訟について買主勝訴の判決が先に確定したとしても、同判決は訴訟物である右抹消登記請求権の有無について既判力を有するにすぎず、本件不動産の所有権の存否については、既判力およびこれに類似する効力を有するものではない。
 2a.両訴訟の確定判決は、ともに本件不動産の所有権の存否について既判力およびこれに類似する効力を有するものではないから、買主が本件訴訟で敗訴しても、買主は、売主を被告として所有権確認訴訟を別途提起し、所有権の存否について既判力を有する確定判決を求めることができる。
参照条文: /t15.民事訴訟法199条1項/
全 文 s440624supreme2.html

高松高等裁判所 昭和 44年 6月 3日 第2民事部 決定 ( 昭和43年(ラ)第45号 )
事件名:  破産決定に対する即時抗告事件
要 旨
 1.破産決定に対する破産者の即時抗告期間は、送達の日から1週間であり、抗告がなされた時から2週間の抗告期間を定める112条後段の規定は、この場合に適用されない。
 1a.破産決定に対する破産者からの即時抗告が即時抗告期間内になされていなかったことを理由に却下された事例。
参照条文: /破産.112条/民訴.332条/
全 文 s440603takamatuH.html

東京地方裁判所八王子支部 昭和 44年 5月 30日 民事第1部 判決 ( 昭和43年(ワ)第231号 )
事件名: 
要 旨
 抵当権の設定された不動産の第三取得者は、被担保債権の消滅時効を援用することができない。
 (時効援用権者)
参照条文: /民法:145条/
全 文 s440530tokyoD.html

最高裁判所 昭和 44年 4月 15日 第3小法廷 判決 ( 昭和43年(オ)第1270号 )
事件名:  家賃金支払請求・上告事件
要 旨
 賃貸人が借家法7条の規定により賃料を月額2万5000円に増額する旨の意思表示をし、その支払を求める訴訟を提起したところ、第一審裁判所がその一部のみを認容した場合に、賃貸人が、右意思表示後も賃料値上事由が順次発生して適正賃料も増加しているのであるから、月額2万5000円の範囲内で、賃料値上事由の発生に応じて順次に増加後の賃料額を認めるべきである旨を控訴審及び上告審において主張したが、認められなかった事例。
 1.借家法7条の賃料増額請求がなされた後にも賃料値上事由が順次発生したからと言って、増額の意思表示により求められた賃料額の限度内において順次段階的に当然に賃料値上の効果を発生するものではなく、この意思表示に基き値上請求訴訟を提起していても同様であって、かかる段階的値上の効果が自動的に発生するものではない。(この趣旨の控訴審判決を是認) /賃料増減請求権/
参照条文: /借家法:7条/
全 文 s440415supreme.html

最高裁判所 昭和 44年 2月 27日 第1小法廷 判決 ( 昭和41年(オ)第280号 )
事件名:  抵当権設定登記抹消登記手続等請求・上告事件
要 旨
 無効な根抵当権の設定登記に基づいて競売手続が開始され、それを阻止するために所有者が弁護士に依頼して根抵当権設定登記の抹消登記手続きの訴えを提起した場合に、原告が弁護士支払った着手金(13万円)の出捐は、被告の違法行為により通常生ずべき損害であるとされた事例。
 1.相手方の故意又は過失によつて自己の権利を侵害された者が損害賠償義務者たる相手方から容易にその履行を受け得ないため、自己の権利擁護上、訴を提起することを余儀なくされた場合に、弁護士に委任するにあらざれば、十分な訴訟活動をなし得ない一般人が訴訟追行を弁護士に委任したときには、その弁護士費用は、事案の難易、請求額、認容された額その他諸般の事情を斟酌して相当と認められる額の範囲内のものに限り、不法行為と相当因果関係に立つ損害というべきである。
参照条文: /民法:416条;709条/
全 文 s440227supreme.html

最高裁判所 昭和 43年 12月 24日 第3小法廷 判決 ( 昭和43年(オ)第650号 )
事件名:  請求異議・上告事件
要 旨
 和解調書に基づき動産執行が開始されたため、債務者が請求異議の訴えを提起し、債務の一部弁済をしていること、元本残部について供託をしたこと、弁済の猶予を受けていたから地遅延害金は生ぜず、仮に猶予を受けていないとしても、弁済が遅滞したのは債権者が一度も催告をしなかったこと等の事情によるものであるから、遅延損害金の算定にあたってはこの事情を斟酌すべきであることを主張したが、債務不履行に関し債権者に過失があった事実について立証がないとされ、請求が棄却された事例。
 1.民法418条による過失相殺は、債務者の主張がなくても、裁判所が職権ですることができる。(傍論)
 1a.債権者に過失があつた事実は、債務者において立証責任を負う。 /証明責任/事実抗弁/
参照条文: /民法:418条/
全 文 s431224supreme.html

最高裁判所 昭和 43年 12月 24日 第3小法廷 判決 ( 昭和41年(オ)第837号 )
事件名:  所有権移転登記手続請求・上告事件
要 旨
 競売不動産を時効により取得したと主張する占有者が不動産競売の競落人に対して所有権移転登記手続請求の訴えを提起した事案において、取得時効が肯定されて、請求が認容された事例。
 1.占有者が所有者として登記されていない場合に、取得時効の対象となる不動産について競売開始決定に基づき差押えの効力が生じても、そのことが占有者に対して通知されないかぎり、これをもって取得時効の中断事由とするに由ないと説示された事例。
 1.民法162条にいう公然の占有とは、占有の存在を知るにつき利害関係を有する者に対して占有者が占有の事実をことさら隠蔽しないことをいう。
 1a.占有開始後の不動産競売手続が開始され、賃貸借の取調にあたった執行吏や競落人において競売不動産の占有者が所有の意思をもって占有している事実を知りえなかったからといって、ただちに被上告人の占有に隠秘の瑕疵があるものということはできない。(賃貸借取調報告書に、占有者は所有者との間で「使用貸借契約中」の記載があった事例)。
 2.民法162条にいう占有者の善意・無過失とは、自己に所有権があるものと信じ、かつ、そのように信じるにつき過失がないことをいい、占有の目的物件に対し抵当権が設定されていること、さらには、その設定登記も経由されていることを知り、または、不注意により知らなかったような場合でも、ここにいう善意・無過失の占有というを妨げない。(善意無過失であるの原審認定に違法はないとされた事例) /取得時効の要件/
参照条文: /民法:162条;155条/
全 文 s431224supreme2.html

最高裁判所 昭和 43年 12月 12日 第1小法廷 判決 ( 昭和39年(オ)第496号 )
事件名:  株券引渡請求・上告事件
要 旨
 1.問屋が委託の趣旨に従い第三者から権利を取得し、その後これを委託者に移転しない間に破産した場合においては、委託者は、右権利につき取戻権を行使することができる。(先例の確認)
 1a.顧客が破産した証券会社に対して同会社名義となっている株式について取戻権を有する場合に、証券会社が破産宣告後に株式の配当金および株主に割り当てられた新株を取得すれば、これは、その実質的利益の帰属すべき顧客の損失において破産財団の利得したものというべく、顧客は破産管財人に対し、破産法47条5号の規定に従い不当利得に基づく財団債権として、配当金および新株の給付を請求することができる。
 2.売買報告書、預り証、商業帳簿等が何一つ証拠として提出されていないことを理由として書証の記載内容および証人の証言を信用できないとした原審判断が、採証法則に違反しているとされた事例。
参照条文: /破産.148条1項5号/破産.62条/商.552条/民訴.247条/
全 文 s431212supreme.html

大阪高等裁判所 昭和 43年 11月 25日 民事第11部 判決 ( 昭和42年(ネ)第1999号 )
事件名:  約束手形金等請求・控訴事件
要 旨
 XがYに対して手形金等の支払を請求したのに対し、YがXの委託を受けてXの銀行に対する債務について物上保証人になったことによる事前求償債権を主張し、これとの相殺を主張したが、民法461条の抗弁権が自働債権に付着していることを理由に相殺が認められなかった事例。
 1.事前求償権を行使される主債務者は、債権者が全部の弁済をうけない間は、民法第461条により保証人に対して担保を供すべき旨を請求することができるから、物上保証人は、このような抗弁権の附着した事前求償債権をもって主債務者の物上保証人に対する債権に対する自働債権とすることはできない。
 2.物上保証人が主債務者の委託により債権者に物的担保を提供している場合には、主債務者の民法461条による担保提供の請求は、物的担保が被担保債権を十分満足せしめうるかぎり、もはやこれをなしえないと解する余地がないでもないが、本件では物的担保が十分とはいえないので、たとえそのように解しても、主債務者の担保の請求は妨げられないとされた事例。
参照条文: /民法:460条/民法:461条/民法:505条1項/民法:372条/民法:351条/
全 文 s431125osakaH.html

最高裁判所 昭和 43年 11月 21日 第1小法廷 判決 ( 昭和42年(オ)第1104号 )
事件名:  建物明渡請求・上告事件
要 旨
 賃借人が昭和38年11月分から同39年3月分までの約定の賃料を支払わない場合に、他に特段の事情の認められない本件においては、1カ月の賃料不払があれば無催告で解除することができる旨の特約に基づき、賃貸人が無催告で解除権を行使することも不合理であるとは認められず、解除により賃貸借契約は終了したとされた事例。
 1.家屋の賃貸借契約において、一般に、賃借人が賃料を1箇月分でも滞納したときは催告を要せず契約を解除することができる旨を定めた特約条項は、賃貸借契約が当事者間の信頼関係を基礎とする継続的債権関係であることにかんがみれば、賃料が約定の期日に支払われず、これがため契約を解除するに当たり催告をしなくてもあながち不合理とは認められないような事情が存する場合には、無催告で解除権を行使することが許される旨を定めた約定であると解するのが相当である。
 2.賃借建物の居住にある程度の支障ないし妨害があつたことは否定できないが、使用収益を不能もしくは著しく困難にする程の支障はなかった場合に、賃借人において賃料の全額について支払を拒むことは許されないとされた事例。
 3. 賃貸借契約が解除された以上、賃貸人の修繕義務および使用収益させる義務は消滅するのであるから、賃借人は、右の義務不履行を理由に未払賃料の支払を拒むことはできない。
参照条文: /民法: 541条;3編2章7節3款/
全 文 s431121supreme.html

最高裁判所 昭和 43年 11月 13日 大法廷 判決 ( 昭和41年(オ)第984号 )
事件名: 
要 旨
 所有権に基づく登記手続請求の訴訟において、被告が自己に所有権があることを主張して請求棄却の判決を求め、その主張が原審で認められた本件においては、右主張は、裁判上の請求に準ずるものとして、原告のための取得時効を中断する効力を生ずる。
参照条文: /民法:147条/民法:149条/民訴.147条/
全 文 s431113supreme.html

最高裁判所 昭和 43年 10月 17日 第1小法廷 判決 ( 昭和43年(オ)第519号 )
事件名: 
要 旨
 民法174条の2によって主債務者の債務の短期消滅時効期間が10年に延長されたときは、これに応じて保証人・連帯保証人の債務の消滅時効期間も10年に変わる。
参照条文: /民法:174-2条/民法:457条/
全 文 s431017supreme.html

最高裁判所 昭和 43年 10月 15日 第3小法廷 判決 ( 昭和41年(オ)第90号 )
事件名:  所有権移転登記手続等請求・上告事件
要 旨
 控訴審の口頭弁論期日において反訴原告が予備的に訴えの追加的変更をしたが、追加された反訴請求は全く新たな事実を請求原因としており、著しく訴訟手続を遅滞せしめるものであり、訴えの変更は許されないと控訴審が判断して、直ちに弁論を終結し、その旨を判決の主文において宣言することなく理由中において説示したことが違法でないとされた事例。
 1.裁判所が訴の変更申立を許すべからざるものと判断した場合には、その旨を判決の主文において宣言することは必ずしも必要ではなく、理由中において説示するをもって足りる。(予備的追加的変更について、著しく訴訟手続を遅滞させると判断された場合の事例)
参照条文: /t15.民事訴訟法:233条/
全 文 s431015supreme.html

最高裁判所 昭和 43年 10月 8日 第3小法廷 判決 ( 昭和39年(行ツ)第6号 )
事件名:  審査請求棄却決定取消請求・上告事件
要 旨
 破産宣告後の原因に基づく破産者の所得に課せられる所得税は、破産財団に属する財産の譲渡所得に対応する部分も含めて、破産法47条2号但書にいう「破産財団ニ関シテ生シタル」請求権にあたらないとされた事例。
 1.破産法47条2号が、国税徴収法または国税徴収の例によつて徴収することのできる請求権で破産宣告後の原因に基づくもののうち、「破産財団ニ関シテ生シタルモノ」に限つて財団債権とした趣旨は、それが破産債権者にとつて共益的な支出であることにあるものと解すべく、従つて、その「破産財団ニ関シテ生シタル」請求権とは、破産財団を構成する各個の財産の所有の事実に基づいて課せられ、あるいはそれら各個の財産のそれぞれからの収益そのものに対して課せられる租税その他破産財団の管理上当然その経費と認められる公租公課のごときを指すものと解するのを相当とする。
 2.納税者が破産宣告を受け、その総所得金額が破産財団に属する財産によるものと自由財産によるものとに基づいて算定されるような場合においても、その課税の対象は、それらとは別個の破産者個人について存する前叙の総所得金額という抽象的な金額である。
 2a.破産財団に属する財産の譲渡所得に対応する所得税額を区分して確定することが可能であるとし、その所得税を財団債権として徴収できるものであるとの主張は、肯認することができない。
参照条文: /破産法:47条2号/s22.所得税法:9条8号/
全 文 s431008supreme.html

名古屋高等裁判所 昭和 43年 9月 30日 民事第2部 決定 ( 昭和43年(ラ)第87号 )
事件名:  補助参加申立却下決定に対する抗告事件
要 旨
 所在不明の夫に対する保証債務履行請求の訴えが提起され、送達が公示送達の方法でなされている場合に、妻が夫のために補助参加できるとされた事例。
 1.夫婦の一方が金銭給付の訴を受け、所在不明のため公示送達により進行中の訴訟に応訴、防禦方法の提出その他訴訟行為ができない場合、夫婦の他方は協力扶助の義務として特別の事由のない限り、訴訟材料の提出その他の行為によりて、所在不明の配偶者に勝訴の判決を受けさせることは、夫婦の共同生活上当然である。従つて夫婦は所在不明の配偶者の訴えられ公示送達により進行中の訴訟の結果について法律上の利害関係を有する者ということができるから、その配偶者を補助する為訴訟に参加できる。
参照条文: /民訴.42条/民法:752条/
全 文 s430930nagoyaH.html

最高裁判所 昭和 43年 9月 26日 第1小法廷 判決 ( 昭和41年(オ)第77号 )
事件名:  配当異議上告事件
要 旨
 1.消滅時効を援用しうる者は、権利の時効消滅によつて直接利益を受ける者に限られる。
 2.物上保証人も被担保債権の消滅によつて直接利益を受ける者というを妨げないから、民法145条にいう当事者として右物件によつて担保された他人の債務の消滅時効を援用することが許される。
 3.金銭債権者は、その債務者が、他の債権者に対して負担する債務、または他人の債務のために物上保証人となつている場合にその被担保債権について、その消滅時効を援用しうる地位にあるのにこれを援用しないときは、債務者の資力が自己の債権の弁済を受けるについて十分でない事情にあるかぎり、その債権を保全するに必要な限度で、民法423条1項本文の規定により、債務者に代位して他の債権者に対する債務の消滅時効を援用することが許される。(反対意見あり) /時効援用権者/債権者代位権/
参照条文: /民法:145条/民法:423条/
全 文 s430926supreme.html

最高裁判所 昭和 43年 9月 12日 第1小法廷 判決 ( 昭和42年(オ)第890号 )
事件名:  建物収去土地明渡請求上告事件
要 旨
 ある土地の数人の占有者に対して土地所有者が建物収去ないし退去および土地明渡等を請求した事件において、共同被告の一人の賃料支払いにより他の者の占有による損害も填補される関係にあるときに、共同訴訟人のうちのある者によるその事実の主張の効力がその事実を主張しない他の共同訴訟人のためにも生ずると原審が判断したのは誤りであるとされた事例。
 1.通常共同訴訟人の一人のする訴訟行為は他の共同訴訟人のため効力を生じないのであつて、たとえ共同訴訟人間に共通の利害関係が存するときでも同様である。
 1a.共同訴訟人が相互に補助しようとするときでも、補助参加の申出をすることを要する。
 2.契約の解釈について、原審の判断に誤りがあるとされた事例。 /当然の補助参加関係/共同訴訟人独立の原則/
参照条文: /民訴.42条/民訴.43条/民訴.39条/
全 文 s430912supreme.html

名古屋高等裁判所 昭和 43年 9月 9日 判決 ( 昭和36年(ネ)第634号、昭和37年(ネ)第346号 )
事件名:  家賃金支払請求・控訴事件、附帯控訴事件
要 旨
 賃貸人が借家法7条の規定により賃料を月額2万5000円に増額する旨の意思表示をし、その支払を求める訴訟を提起したところ、第一審裁判所がその一部のみを認容した場合に、賃貸人が、右意思表示後も賃料値上事由が順次発生して適正賃料も増加しているのであるから、月額2万5000円の範囲内で、賃料値上事由の発生に応じて順次に増加後の賃料額を認めるべきであると主張したが、認められなかった事例。
 1.借家法7条の賃料増額請求がなされた後にも賃料値上事由が順次発生したからと言って、増額の意思表示により求められた賃料額の限度内において順次段階的に当然に賃料値上の効果を発生するものではなく、この意思表示に基き値上請求訴訟を提起していても同様であって、かかる段階的値上の効果が自動的に発生するものではない。 /賃料増減請求権/
参照条文: /借家法:7条/
全 文 s430909nagoyaH.html

最高裁判所 昭和 43年 8月 20日 第3小法廷 判決 ( 昭和41年(オ)第770号 )
事件名:  土地引渡請求上告事件
要 旨
 いわゆる数量指示売買にあたるとはいえないとされた事例。
 1.民法565条にいう「数量ヲ指示シテ売買」とは、当事者において目的物の実際に有する数量を確保するため、その一定の面積、容積、重量、員数または尺度あることを売主が契約において表示し、かつ、この数量を基礎として代金額が定められた売買を指称するものである。
 1a.売買契約において目的たる土地を登記簿記載の坪数をもつて表示したとしても、これでもつて直ちに売主がその坪数のあることを表示したものというべきではない。 /売主の担保責任/
参照条文: /民法:565条/
全 文 s430820supreme.html

最高裁判所 昭和 43年 8月 2日 第2小法廷 判決 ( 昭和42年(オ)第250号 )
事件名:  転付金請求上告事件
要 旨
 自己の権利に属さない他人の有する債権を他に譲渡し、その債権の債務者に対して確定日附ある譲渡通知をした場合にも、その譲渡人に右債権が帰属するとともに特別の意思表示を要せず当然に右債権は譲受人に移転し、その後譲受人は右譲渡通知をもつて民法467条2項の対抗要件を具備し、以後これと両立しない法律上の地位を取得した第三者に対し右債権譲渡を対抗できるとされた事例。
 (執行債権が存在しないにもかかわらず原告が転付命令により債権を取得した後で、執行債務者が執行対象たる債権を補助参加人に譲渡してその旨を第三債務者(被告)に通知し、その後に転付債権者から執行債務者に債権が返還されその旨の通知が第三債務者になされた後で、原告が再度転付命令を取得して被告に支払を請求したが、棄却された事例) /売主の担保責任/他人物売買/
参照条文: /民法:466条/民法:467条/民法:560条/
全 文 s430802supreme2.html

最高裁判所 昭和 43年 7月 11日 第1小法廷 判決 ( 昭和40年(オ)第25号 )
事件名:  株券引渡請求上告事件
要 旨
 1.問屋の債権者は問屋が委託の実行としてした売買により取得した権利についてまでも自己の債権の一般的担保として期待すべきではないから、問屋が前記権利を取得した後これを委託者に移転しない間に破産した場合には、委託者は右権利につき取戻権を行使することができる。
 1a.証券会社が顧客の委託に基づきその預託した代金により株式を取得した後に破産した場合に、その株式について顧客からの取戻権行使が肯定されるべきであるとされた事例。 /責任財産性/
参照条文: /破産.148条1項5号/破産.62条/商.552条/
全 文 s430711supreme.html

最高裁判所 昭和 43年 7月 9日 第3小法廷 判決 ( 昭和41年(オ)第700号 )
事件名:  損害賠償請求・上告事件
要 旨
 不動産の強制競売の執行債務者が≪剰余主義を定めた明治23年民事訴訟法の諸規定に違反してなされた強制執行により損害を受けた≫と主張して国家賠償を求めたが、その強制執行は執行債務者との関係で違法ではないとして、賠償請求が棄却された事例。
 1.明治23年民事訴訟法649条1項、656条、657条の規定は、差押債権者に配当されるべき余剰がなく、したがつて、差押債権者が執行によつて弁済をうけることができないのにもかかわらず、無益な競売がされるとか、また、優先権者がその意に反した時期に、その投資の不十分な回収を強要されるというような不当な結果を避け、ひいては執行機関をして無意味な執行手続から解放させる趣旨のものであるから、差押債権者、優先権者および公益を保護することを趣旨とする規定というべきである。
 2.剰余の見込みがないため前記法条により競売手続が取り消され、その結果債務者(競売目的物件の所有者)が当該不動産の所有権を保持することになるというような債務者に利益な事態が起こっても、その利益は、事実上の利益にすぎず、債務者が執行手続に同法条の違反があることを主張して請求できる法律上の利益ないし権利とはいえない。
参照条文: /m23.民事訴訟法:649条1項;656条;657条/国家賠償法:1条1項/
全 文 s430709supreme.html

最高裁判所 昭和 43年 6月 13日 第1小法廷 判決 ( 昭和40年(オ)第1146号 )
事件名:  土地建物明渡等請求・上告事件
要 旨
 1.破産者の所有に属するものとしてその財産に関する訴訟が、破産者を相手方として提起された場合には、その訴訟の対象となつている財産がいつ破産者の所有となつたかを明確にして、その財産が破産財団に属するかどうかを明らかにしたうえで、その財産に関する訴訟について、破産者が当事者となる適格を有するかどうかを判断すべきである。[不明確にしたまま本案判決をした原判決と一審判決が破棄されて、一審に差し戻された事例]
 2.破産者(被告)が破産宣告前から他人(原告)の土地を不法占拠している場合、破産宣告の日までの不法占有にもとづく所有権侵害による損害金債権は、破産法15条所定の破産債権にあたり、その行使は、破産手続によることを必要とし(同法16条)、同法228条により、破産債権者としていわゆる破産債権届出の方法によつてのみ債権の行使をすることが許されるのであるから、この部分の訴は却下すべきものである。
 2a.破産宣告の翌日以降の土地の不法占有にもとづく所有権侵害による損害金債権は、少なくとも土地上に物件を所有して占有することにともなう損害金債権については、破産法47条4号所定の財団債権に該当する。
 2b.破産宣告後の損害金債権については、破産法49条により、破産手続によらないで、これを請求することはできるが、その請求訴訟は破産財団に関する訴訟となるから、破産管財人を相手方として訴を提起すべきであつて(同法162条)、破産者を相手方として提起した訴訟は、当事者をあやまつたものとして、不適法として却下すべきである。
参照条文: /t11.破産法:6条;7条;15条;16条;47条4号;49条;162条;228条/
全 文 s430613supreme.html

最高裁判所 昭和 43年 5月 31日 第2小法廷 判決 ( 昭和42年(オ)第1023号 )
事件名:  所有権移転登記手続請求上告事件
要 旨
 特定不動産の遺贈を受けた者がその遺言の執行として目的不動産の所有権移転登記を求める訴において、被告としての適格を有する者は遺言執行者にかぎられるのであつて、相続人はその適格を有しない。
 原審が職権によつて調査すべき当事者適格に関する事項に関し審理を尽さなかつた違法があることを理由に、原判決が破棄された事例。 /訴訟要件/訴えの主観的利益/
参照条文: /民訴.28条/民法:1012条/民法:1013条/民法:1014条/民法:1015条/民訴.140条/
全 文 s430531supreme.html

大阪地方裁判所 昭和 43年 5月 17日 第21民事部 判決 ( 昭和42年(ワ)第3553号 )
事件名: 
要 旨: 1.実用新案の登録請求の範囲に記載された事項が考案の必須の要件ではないとの主張が排斥された事例。 2.第三者が実用新案の考案の作用効果を低下させる以外には他になんらすぐれた作用効果を伴わないのに、専ら権利侵害の責任を免れるために、殊更考案構成要件からそのうち比較的重要性の少い事項を省略した技術を用いて登録実用新案の実施品に類似したものを製造するときは、右の行為は考案構成要件にむしろ有害的事項を附加してその技術思想を用いるにほかならず、考案の保護範囲を侵害するものと解するのが相当である(実用新案権の侵害が肯定された事例)。 (知的財産権/無体財産権/工業所有権/実用新案権)
参照条文: /実用新案.26条/特許.70条/実用新案.27条/
全 文 s430517osakaD.html

最高裁判所 昭和 43年 4月 12日 第2小法廷 判決 ( 昭和41年(オ)第288号 )
事件名:  預金返還請求・上告事件
要 旨
 当事者参加人が第一審審決に対して原告のみを被控訴人として控訴を提起し、控訴状が被告に送達されることなく控訴審手続が進められ、参加人と原告のみを名宛人とする控訴棄却判決が下されて上告が提起された場合に、同判決が上告審により職権で破棄されて、事件が原審に差し戻された事例。
 1.当事者参加人が原告のみを相手方として控訴及び上告を提起した場合でも、それらの上訴は、被告に対しても効力を生じ、被告は、原審及び上告審における訴訟当事者となり、訴訟は、原告・被告・参加人につき、全体として、原審さらに上告審に移審して、審理の対象となっているものと解すべきである。
  1a.この場合に、原審は、参加人・原告・被告の三者を判決の名宛人として、事件の本案につき一個の終局判決をのみなすべきものであって、訴訟当事者の一部のみに関する判決をすることは許されず、一部判決とみられるべきものがあっても残余の部分を追加判決することもできない。
参照条文: /t15.民事訴訟法:71条/
全 文 s430412supreme.html

最高裁判所 昭和 43年 4月 11日 第1小法廷 判決 ( 昭和39年(オ)第538号 )
事件名:  損害賠償、慰藉料請求上告事件
要 旨
 交通事故により受傷した母と子らに5万円を支払い、受傷者らはその余の請求を放棄する旨の調停が成立してから10ヶ月後に、事故が原因で母が死亡した場合に、母の死亡を理由とする子らからの慰謝料請求は、前記調停において解決済みであるとはいえないとされた事例。
 1.交通事故による損害賠償をめぐる紛争を解決するための調停当時に、受傷者の死亡することが全く予想されていなかった場合には、身体侵害を理由とする慰藉料請求権と生命侵害を理由とする慰藉料請求権とは、被侵害権利を異にするから、同一の原因事実に基づく場合であつても、受傷に基づく慰藉料請求と生命侵害を理由とする慰藉料請求とは同一性を有しない。
 1a.受傷者の生存中に受傷者を当事者の一人として成立した調停が、受傷による損害賠償のほか、その死亡による慰藉料をも含めて、そのすべてにつき成立したと解し得るためには、これを肯定し得るに足る特別の事情が存し、且つその調停の内容が公序良俗に反しないものであることが必要である。 /確定判決と同一の効力/既判力/紛争解決の範囲/慰謝料/一部請求/
参照条文: /民法:709条/民法:710条/民法:711条/民調.16条/民訴.114条1項/民訴.267条/
全 文 s430411supreme.html

最高裁判所 昭和 43年 3月 15日 第2小法廷 判決 ( 昭和41年(オ)第162号 )
事件名:  建物収去土地明渡請求上告事件
要 旨
 1.土地の所有者がその所有権に基づいて地上の建物の所有者である共同相続人を相手方とし、建物収去土地明渡を請求する訴訟は、いわゆる固有必要的共同訴訟ではない。 /当事者適格/通常共同訴訟/共有/
参照条文: /民訴.38条/民訴.40条/民法:430条/民法:251条/
全 文 s430315supreme.html

最高裁判所 昭和 43年 3月 15日 第2小法廷 判決 ( 昭和42年(オ)第124号 )
事件名:  約束手形、約束手形金本訴並びに売買代金反訴各請求・上告事件
要 旨
 金銭の支払請求訴訟の係属中に当事者の一方について破産宣告及び同時廃止の決定がなされた場合に、従前の代表取締役が商法417条1項により当然に代表清算人になるものではないから、同条2項に則り裁判所によって選任された清算人を代表者として訴訟手続を進行すべきであるとされた事例。
 1.破産宣告を受けた株式会社について同時破産廃止の決定がされた場合には、商法417条1項但書の場合を除き、同条2項に則り、利害関係人の請求によつて裁判所が清算人を選任すべきものと解するのが相当である。
 1a.取締役は会社の破産により当然取締役の地位を失うのであって、同時破産廃止決定があったからといって、既に委任関係の終了した従前の取締役が商法417条1項本文により当然清算人となるものと解することはできない。
参照条文: /商法:404条1号;94条5号;254条3項;417条/民法:653条/
全 文 s430315sypreme2.html

東京高等裁判所 昭和 43年 3月 13日 民事第12部 判決 ( 昭和42年(ネ)第607号 )
事件名:  第三者異議控訴事件
要 旨
 内縁の夫に対する債務名義に基づく建物明渡しの強制執行に対し、内縁の妻が、自己が占有者であると主張して第三者異議の訴えを提起したが、認められなかった事例。
 1.好意から夫婦に事実上家屋の無償使用を許す場合は、一応の使用貸借契約が存在すると解されるが、この場合にその動機が妻と懇意であるためであっても、契約の当事者については、その一家の生計についての責任者を対象としてなされているものと解すべきであり、また夫婦関係にあった者達がわかれ、妻のみが残り、この者が更に他の者と夫婦関係に入り引続き居住する場合も同様に生計の責任者が借主であると解すべきであり、このことは内縁の夫婦関係の場合でも同じである。
 1a.妻が生計の責任者ではないから、独立の占有者ではないとされた事例。
 2.内縁とはいえ夫に対する不法占有を理由とする家屋明渡の請求訴訟の係属当時妻が夫の占有を認めて自らの占有を主張せしめず、その明渡についての裁判上の和解の成立を阻止せず、夫に対する家屋明渡の債務名義の成立後これにもとづく強制執行に対し自らの占有権を主張して第三者異議訴訟を提起することは、信義に反し許されない。
 3.転貸借関係の不存在の事実認定にあたって、証言の信用性等について詳細な説示がなされた事例。 /占有補助者/
参照条文: /民執.38条/民法:593条/民法:180条/民訴.247条/
全 文 s430313tokyoH.html

最高裁判所 昭和 43年 3月 12日 第3小法廷 判決 ( 昭和40年(オ)第527号 )
事件名:  退職金請求上告事件
要 旨
 1.国家公務員等退職手当法に基づき支給される一般の退職手当は、その支給条件がすべて法定されていて、同法8条に定める欠格事由のないかぎり、法定の基準に従つて一律に支給しなければならない性質のものであるから、その法律上の性質は労働基準法11条にいう「労働の対償」としての賃金に該当し、したがつて、退職者に対する支払については、その性質の許すかぎり、同法24条1項本文の規定が適用ないし準用される。
 2.退職手当法による退職手当の給付を受ける権利については、その譲渡を禁止する規定がないから、退職者またはその予定者が右退職手当の給付を受ける権利を他に譲渡した場合に譲渡自体を無効と解すべき根拠はないけれども、労働基準法24条1項が「賃金は直接労働者に支払わなければならない。」旨を定めて、使用者たる貸金支払義務者に対し罰則をもつてその履行を強制している趣旨に徴すれば、労働者が賃金の支払を受ける前に賃金債権を他に譲渡した場合においても、その支払についてはなお同条が適用され、使用者は直接労働者に対し賃金を支払わなければならず、したがつて、右賃金債権の譲受人は自ら使用者に対してその支払を求めることは許されない。
参照条文: /民法:466条/労基.24条/労基.11条/国家公務員等退職手当.2-2条/国家公務員等退職手当.1条/
全 文 s430312supreme.html

最高裁判所 昭和 43年 3月 8日 第2小法廷 判決 ( 昭和42年(オ)第1088号 )
事件名:  所有権移転登記手続等請求上告事件
要 旨
 訴の主観的予備的併合は不適法であつて許されない。(旧法事件) /通常共同訴訟/条件付訴え/
参照条文: /民訴.38条/民訴.39条/民訴.41条/
全 文 s430308supreme.html

最高裁判所 昭和 43年 2月 22日 第1小法廷 判決 ( 昭和42年(オ)第718号 )
事件名:  境界確定請求・上告事件
要 旨
 1.境界確定の訴は、隣接する土地の境界が事実上不明なため争いがある場合に、裁判によつて新たにその境界を確定することを求める訴であつて、土地所有権の範囲の確認を目的とするものではない。
 1a. 境界確定訴訟の当事者の一方が他方の土地の一部を時効により取得したとしても、これにより境界が移動するわけのものではないから、取得時効の抗弁の当否は、境界確定には無関係である。
 1b.境界確定訴訟の当事者の一方が時効取得に基づき他方の土地の一部につき所有権を主張しようとするならば、別に当該の土地につき所有権の確認を求めるべきである。
参照条文: /民事訴訟法:225条/民法:162条;223条/
全 文 s430222supreme.html

最高裁判所 昭和 43年 2月 16日 第2小法廷 判決 ( 昭和42年(オ)第687号 )
事件名:  貸金請求上告事件
要 旨
 準消費貸借契約の目的となっている旧債務の存否については、その不存在を理由に準消費貸借契約の効力を争う者がその事実の立証責任を負う。 /証明責任/
参照条文: /民法:588条/
全 文 s430216supreme.html

最高裁判所 昭和 42年 12月 26日 第3小法廷 判決 ( 昭和41年(オ)第118号 )
事件名:  土地境界確認同反訴請求上告事件
要 旨
 地面を鋤で掘っただけの排水溝をコンクリート作りに更新するに際して境界線の位置が問題となり、第三者の仲介により、従来の溝の位置に新設される排水溝の中央線を境界線とする旨の合意が相隣者間で成立して、排水溝が設置されたが、その後に再び境界線が問題となり、境界確定の訴えが提起された場合に、第一審は合意とは異なる境界を確定したが、控訴審において、排水溝が設置されている土地の所有権確認の訴えに変更され、併せて被告から類似の趣旨の所有権確認の反訴が提起され、控訴審は当事者間で先になされた和解の効力により和解により定められた境界線と異なる境界線を主張することは許されないとして、これを前提にして所有権確認請求について判決したところ、同判決が上告審により破棄された事例。
 1.相隣者間において境界を定めた事実があっても、これによって、その一筆の土地の境界自体は変動しない。
 1a.相隣者間の合意の事実を境界確定のための一資料にすることは差し支えないが、これのみにより境界を確定することは許されない。 /境界確定訴訟/自由心証主義/
参照条文: /民法:696条/民訴.247条/
全 文 s421226supreme.html

最高裁判所 昭和 42年 11月 30日 第1小法廷 判決 ( 昭和41年(オ)第712号 )
事件名:  約束手形金請求・上告事件
要 旨
 1.市長名義での手形の振出しが市長の職務行為にあたるとして、民法44条1項を適用し、市が手形所持人に対して市長の手形振出行為にもとづく損害の賠償責任を負うとされた事例。
 1a.市として約束手形を振り出して債務を負担する行為は、収入役の専権事項たる現金等の出納その他の会計事務には属さず、一般の契約の締結行為等と同様に、市の一般的執行機関たる市長が市を代表してこれにあたるべき事項であるとして、市長が法令の制限内において市を代表して約束手形を振り出す抽象的権限を有するとされた事例。
 2.不法行為による損害賠償請求権の消滅時効の起算点としての被害者側が損害を知つた時とは、単に加害行為により損害が発生したことを知つただけではなく、その加害行為が不法行為を構成することをも知つた時との意味に解するのが相当である。
 2a. 市長の手形振出行為による被害者が損害を被つたことを知つたのは、手形の満期に市がその振出の事実を否認して支払を拒絶した時ではなく、手形金支払訴訟において、市側が手形振出の無権限行為である所以を主張し、市長が市の代表者としての当事者尋問において、その主張に照応する供述をした日以降であるとされた事例。
参照条文: /民法:44条1項;724条/地方自治法:147条;170条;239条の2/
全 文 s421130supreme.html

最高裁判所 昭和 42年 10月 27日 第2小法廷 判決 ( 昭和39年(オ)第523号、第524号 )
事件名:  土地建物所有権移転登記手続等請求上告事件
要 旨
 1.債務者が時効の利益を放棄した場合に、その債権の担保のために自己の不動産を譲渡担保に供した者が被担保債権の消滅時効を援用することができるとされた事例。
 2.民法145条は、時効を援用しうる者を権利の時効消滅により直接利益を受ける者に限定したものと解されるが、他人の債務のために自己の所有物件につき質権または抵当権を設定したいわゆる物上保証人も被担保債権の消滅によつて直接利益を受ける者というを妨げないから、同条にいう当事者にあたる(判例変更)。
 2a.他人の債務のためその所有不動産を譲渡担保に供した者は、被担保債権の消滅によつて利益を受けるものである点において物上保証人となんら異るものではないから、同様に当事者として被担保債権の消滅時効を援用しうる。(破棄理由)
 3.時効の利益の放棄の効果は相対的であり、被担保債権の消滅時効完成の利益を債務者が放棄しても、その効果は物上保証人ないし右債権につき自己の所有物件を譲渡担保に供した者に影響を及ぼすものではない。
参照条文: /民法:145条/民法:146条/
全 文 s421027supreme.html

最高裁判所 昭和 42年 10月 27日 第2小法廷 判決 ( 昭和42年(オ)第186号 )
事件名:  譲渡債権請求・上告事件
要 旨
 1.請負工事報酬請求権が第三者に譲渡され対抗要件をそなえた後に請負人の仕事完成義務不履行が生じこれに基づき請負契約が解除された場合においても、債権譲渡前すでに反対給付義務が発生している以上、債権譲渡時すでに契約解除を生ずるに至るべき原因が存在していたものというべきである。
 1a.請負工事報酬請求権が第三者に譲渡された場合に、債務者は、債権譲渡について異議をとどめない承諾をすれば、契約解除をもつて報酬請求権の譲受人に対抗することができない。(傍論)
 1b.譲受債権が未完成仕事部分に関する請負報酬請求権であることを譲受人が知つていた場合には、債務者が異議をとどめない承諾をしても、債務者は譲受人に契約解除をもつて対抗することができる。 /取引の安全/善意者保護/
参照条文: /民法:467条;468条/
全 文 s421027supreme2.html

最高裁判所 昭和 42年 10月 12日 第1小法廷 判決 ( 昭和41年(オ)第1166号 )
事件名:  損害賠償請求・上告事件
要 旨
 相手方の陳述した事実に基づく訴えの変更(予備的請求の追加)が請求の基礎を異にすることのみならず、もし訴えの変更を許せば著しく訴訟手続を遅滞されることなるから変更は許されないとの理由をもって控訴審が追加請求を却下したことが正当であるとされた事例。
参照条文: /m23.民事訴訟法:232条1項/
全 文 s421012supreme.html

最高裁判所 昭和 42年 10月 6日 第2小法廷 判決 ( 昭和40年(オ)第1234号 )
事件名:  求償金請求上告事件
要 旨
 商人の性質を有しない信用保証協会と商人である主債務者との間で締結された保証委託契約は、主債務者の営業のためにするものと推定される結果、信用保証協会のした弁済行為自体は商行為にあたらないとしても、その求償権は、商法522条のいわゆる商事債権として短期消滅時効の適用を受ける。
参照条文: /商.522条/民法:167条/信用保証協会.20条/民法:459条/
全 文 s421006supreme.html

最高裁判所 昭和 42年 9月 27日 大法廷 判決 ( 昭和39年(オ)第797号 )
事件名:  建物明渡等請求上告事件
要 旨
 1.独立当事者参加の申出は、常に原被告双方を相手方としなければならず、当事者の一方のみを相手方とすることは許されないと解すべきである。(この判旨は、現行民訴47条1項により変更されている)
 2.控訴審が抗弁を時機におくれて提出したものとして却下したことが、本件訴訟の第一審以来の経過を斟酌すれば、相当であるとされた事例。
 3.控訴審が証人尋問の申出を却下したことに違法はないとされた事例。
参照条文: /民訴.46条/民訴.157条1項/民訴.181条/
全 文 s420927supreme.html

最高裁判所 昭和 42年 8月 25日 第2小法廷 判決 ( 昭和42年(オ)第208号 )
事件名:  共有権確認ならびに家屋明渡請求・上告事件
要 旨
 1.建物の使用借人に対して使用貸人(共有者4名)のうちの一部の者(2名)が使用貸借契約の終了を原因として家屋の明渡を求める場合に、その明渡請求権は債権的請求権であるが、性質上の不可分給付と見るべきものであるから、各明渡請求権者は、総明渡請求権者のため本件家屋全部の明渡を請求することができる。
参照条文: /民法:428条/
全 文 s420825supreme.html

最高裁判所 昭和 42年 7月 21日 第2小法廷 判決 ( 昭和40年(オ)第1265号 )
事件名:  家屋明渡請求・上告事件
要 旨
 贈与により所有権を取得して占有を開始した者が所有権移転登記を経る前に、贈与者が贈与後に設定した抵当権の実行としての競売がなされ、所有権移転登記を得た競落人が占有者に対して家屋の明渡しを訴求したが、所有権に基づいて占有する者の取得時効が認められ、請求が棄却された事例。(競落人への所有権移転登記の経由後に取得時効が完成した事例である)
 1.民法162条所定の占有者には、権利なくして占有をした者のほか、所有権に基づいて占有をした者をも包含する。
 1a.取得時効は、当該物件を永続して占有するという事実状態を、一定の場合に、権利関係にまで高めようとする制度であるから、所有権に基づいて不動産を永く占有する者であつても、その登記を経由していない等のために所有権取得の立証が困難であつたり、または所有権の取得を第三者に対抗することができない等の場合において、取得時効による権利取得を主張できると解することが制度本来の趣旨に合致する。 /所有権の時効取得/要件事実/
参照条文: /民法:162条;177条/
全 文 s420721supreme.html

最高裁判所 昭和 42年 7月 18日 第3小法廷 判決 ( 昭和40年(オ)第1232号 )
事件名:  損害賠償請求上告事件
要 旨
 1.一個の債権の一部についてのみ判決を求める旨を明示して訴が提起された場合には、訴訟物は、右債権の一部の存否のみであって全部の存否ではなく、従って、右一部の請求についての確定判決の既判力は残部の請求に及ばない。
 2.同一の不法行為により生じた損害のうち、前訴はその事実審の最後の口頭弁論終結時までに支出された治療費を損害として主張しその賠償を求めるものであり、後訴(本訴)はその後に再手術を受けることを余儀なくされるにいたったと主張してその治療に要した費用を損害としてその賠償を訴求するものである場合には、両者は訴訟物を異にし、前訴判決の既判力は後訴に及ばない。
 3.受傷時から相当期間経過後に後遺症が現われ、そのため受傷時においては医学的にも通常予想しえなかったような治療方法が必要とされ、その治療のため費用を支出することを余儀なくされるにいたった等の事実関係のもとにおいて、後日その治療を受けるようになるまでは、治療に要した費用すなわち損害については、民法724条所定の消滅時効は進行しないとされた事例。 /短期消滅時効/一部請求/
参照条文: /民法:724条/民訴.114条1項/民訴.133条/民訴.246条/
全 文 s420718supreme.html

東京高等裁判所 昭和 42年 7月 4日 第14民事部 判決 ( )
事件名:  所有権移転登記手続等請求控訴事件
要 旨
 主観的予備的併合の訴えが却下された事例(旧法事件)。
 1.主観的予備的請求の併合は、その請求について裁判がなされるか否かが他人間の訴訟の結果に依存し、予備的請求の被告を著しく不安定・不利益な地位に置くことになり、原告の保護に偏するものであるから、許されない。 /通常共同訴訟/条件付訴え/
参照条文: /民訴.38条/民訴.39条/民訴.41条/
全 文 s420704tokyoH.html

最高裁判所 昭和 42年 6月 16日 第2小法廷 判決 ( 昭和41年(オ)第1456号 )
事件名:  印紙代請求・上告事件
要 旨
 登記費用は売主の負担とす特約があると認定されている登記費用(印紙代)償還請求訴訟において、買主は「売主の代理人と売買契約を締結した」と主張したのに対し、裁判所が「売買契約は売主本人と締結された」と認定したことに違法はないとされた事例。(事実関係不詳)。
 1.控訴審の「買主は第三者を介して買い受けた」との摘示は、「代理人たる第三者を通じて買い受けた」趣旨を示したものと見るべきであると説示された事例。(買主の代理人についての説示)
 2.「売主の代理人から本件土地を買い受けた」との買主の主張に対し、裁判所が「売主本人から本件土地を買い受けた」と認定したとしても、いずれにせよ法律効果には変りがないのであるから、許される。(売主の代理人の有無についての説示)
参照条文: /民事訴訟法:125条;185条/
全 文 s420616supreme.html

大阪地方裁判所 昭和 42年 4月 6日 民事第7部 判決 ( 昭和39年(ワ)第4011号 )
事件名:  損害賠償請求事件
要 旨
 1.金銭の支払いと引換に建物明渡がなされるべき旨の和解調書が作成された場合に、右金銭給付は先履行されるべきものであると認定され、先履行することなく執行文の付与を受けて強制執行したことが不法行為に当たるとして、執行債権者に損害賠償が命じられた事例。
 2.内縁の妻に対する債務名義に基づく家屋明渡の強制執行を実施する執行吏に対し夫が自己が独立の占有者であることを主張したが、執行吏が妻を占有者と認めて明渡執行をした場合に、夫が右執行の違法を主張して国家賠償請求の訴えを提起したが、裁判所は建物が夫婦の共同占有下にあったことを認めたものの、内縁の妻が占有者であり夫は占有補助者であると執行官が認定したことに過失がないとして、請求を棄却した事例。
 2a.一般に、夫婦の居住家屋の占有については、夫が一家の主宰者として居住家屋を占有し、妻は夫の占有補助者とみられるのであるが、妻の特有財産に居住し妻の営業によつて生活を立てている等特別な場合には、妻が占有者で、夫は占有補助者とみられるのが普通である。 /夫婦の占有/
参照条文: /民法:709条/民法:710条/国賠.1条/民執.168条/民執.38条/民法:180条/
全 文 s420406osakaD.html

最高裁判所 昭和 42年 3月 9日 第1小法廷 判決 ( 昭和41年(オ)第251号 )
事件名:  約束手形金請求・上告事件
要 旨
 破産宣告を受けて復権していない者がその後に株式会社の代表者取締役に選任された場合に、その者が代表者になって提起した訴えが不適法として却下された事例。
 1.破産者は取締役たる地位と相容れないものであり、一旦破産者となつた者はたとえ取締役に選任されたとしても復権しないかぎり取締役たり得ない。
参照条文: /商法:254条3項;254-2条2号/民法:653条2号/
全 文 s420309supreme.html

最高裁判所 昭和 42年 2月 24日 第2小法廷 判決 ( 昭和41年(オ)第935号 )
事件名:  所有権移転登記請求、同反訴請求・上告事件
要 旨
 被告が本訴提起以前より法定代理人である母と共に本籍地とは異なる場所に住民登録をして居住していたところ、原告およびその代理人弁護士が、被告およびその母の居住する地を知り、被告の母を訪問し、本件土地所有権移転登記請求のことで接衝したが、同女が容易に承諾しなかったので、土地の登記簿上の住所地であった本籍地をもって被告の住所地であると称して本訴を提起し、受送達者の住所が不明であるとして公示送達の申立をなし、第一審においてこれが許容されて公示送達の方法により被告不出頭のまま審理判決され、その判決の送達も公示送達の方法によってなされた場合に、控訴期間経過後に第一審判決の存在を知った被告からの控訴の追完が認められた事例。 /訴訟行為の追完/
参照条文: /民事訴訟法:159条/
全 文 s420224supreme.html

最高裁判所 昭和 42年 2月 23日 第1小法廷 判決 ( 昭和40年(オ)第252号 )
事件名:  不動産売買登記抹消請求並に当事者参加上告事件
要 旨
 不動産の所有権移転登記が偽造文書によりなされたことを理由とするその抹消登記請求訴訟に、その不動産について競売開始決定を得た債権者(被告の債権者)は、その訴訟の結果により権利を害される者として、独立当事者参加することができる。(被告が防御方法を提出しなかった事例)
参照条文: /民訴.47条/
全 文 s420223supreme.html

最高裁判所 昭和 42年 2月 10日 第2小法廷 判決 ( 昭和39年(オ)第554号 )
事件名:  社員持分不存在並びに無限責任社員に非ざることの確認請求・上告事件
要 旨
 相続財産の保全を目的とする合資会社において、家督相続人であるAが未成年であるため、Aの母Bが無限責任社員となり、Aおよび他の親族C・D・E3名が有限責任社員となったが、会社定款中のCの肩書きが勝手に無限責任社員に書き換えられていたと主張して、AとBが、Cを被告にして、Cが会社の無限責任社員ではないこと及び社員であることから生ずる種々の権利(会社から利益分配を受ける権利等)を有しないことの確認を求める訴えを提起したが、原審が、会社が被告とされていない本件において原告らが勝訴の判決を得ても被告が無限責任社員でないかどうかなどという法律的紛争は根本的に解決されないとして訴えを却下し、上告審が、これを支持した事例。
 1.合資会社の社員が、他の社員を相手方として、同社員が会社の無限責任社員ではないこと及び会社から利益分配を受ける権利等を有しないことの確認を求める訴は、即時確定の利益を欠き、不適法である。
参照条文: /t18.民事訴訟法:202条;225条/
全 文 s420210supreme.html

最高裁判所 昭和 41年 12月 20日 第3小法廷 判決 ( 昭和39年(オ)第1237号 )
事件名:  貸金請求上告事件
要 旨
 重畳的債務引受がなされた場合には、反対に解すべき特段の事情のないかぎり、原債務者と引受人との関係について連帯債務関係が生じ、原債務者の債務の時効消滅の効果は、民法439条の適用上、原債務者の負担部分について債務引受人にも及ぶ。
参照条文: /民法:439条/
全 文 s411220supreme.html

最高裁判所 昭和 41年 12月 18日 第1小法廷 判決 ( 昭和40年(オ)第801号 )
事件名:  約束手形金請求・上告事件
要 旨
 1
 上告人(会社)が上告状(昭和40年5月12日)・上告理由書(同年6月29日)を提出し、上告理由書提出期間も経過して、一件記録が最高裁判所に到着した後に、上告人が破産して(同年8月14日)訴訟手続が中断した場合に、民訴法222条1項にのっとり、401条にのっとる判決が言渡された事例。
参照条文: /t15.民事訴訟法:222条1項;401条/
全 文 s411208supreme.html

最高裁判所 昭和 41年 11月 25日 第2小法廷 判決 ( 昭和34年(オ)第650号 )
事件名:  所有権移転登記手続請求・上告事件
要 旨
 1.入会権は権利者である一定の部落民に総有的に帰属するものであるから、入会権の確認を求める訴は、権利者全員が共同してのみ提起しうる固有必要的共同訴訟というべきである。
 2.部落民全員ないしは部落としての団体的占有によつて個人的色彩の強い民法上の共有権が時効取得されるとは認めらない。 /取得時効/
参照条文: /民法:263条/民訴.40条/民訴.1編3章/民法:162条/
全 文 s411125spreme.html

最高裁判所 昭和 41年 11月 22日 第3小法廷 判決 ( 昭和40年(オ)第361号 )
事件名:  保証債務金請求・上告事件
要 旨
 1.訴訟が裁判を為すに熟するときは、裁判所は口頭弁論を終結して終局判決をすることができ、当該口頭弁論期日に当事者の双方が出頭していないことは、裁判所の右職権の行使を妨げるべき理由とならない。
 1a.民訴法238条は、当事者双方が口頭弁論の期日に出頭せず、または弁論を為さないで退廷した場合において、裁判所が口頭弁論を終結せずかつ新期日の指定をもなさないで当該口頭弁論期日を終了した場合における取扱を規定したものである。
参照条文: /民事訴訟法:243条1項;244条;263条/
全 文 s411122supreme.html

最高裁判所 昭和 41年 10月 27日 第1小法廷 判決 ( 昭和41年(オ)第527号 )
事件名: 
要 旨
 建物の借主がその建物等につき賦課される公租公課を負担しても、それが使用収益に対する対価の意味をもつものと認めるに足りる特別の事情のないかぎり、この負担は借主の貸主に対する関係を使用貸借と認める妨げとなるものではない。(建物の貸借が使用貸借と認められた事例)。
参照条文: /民法:593条/民法:601条/
全 文 s411027supreme.html

最高裁判所 昭和 41年 10月 6日 第1小法廷 判決 ( 昭和41年(オ)第71号 )
事件名:  貸付請求・上告事件
要 旨
 現金の授受による金銭消費貸借契約(民法587条)に基づく貸金請求権を主張して金銭支払請求の訴えが提起されている場合に、既存債務の目的とする準消費貸借契約(同588条)に基づく貸金請求権の成立を認めて請求を認容することが許された事例。(/訴訟物/判決事項/)
 1.当事者が金銭消費貸借に基づき金員支払を求める場合において、その貸借が現金の授受によるものでなく、既存債務を目的としで成立したものと認めても、当事者の主張に係る範囲内においてなした認定でないとはいい得ないとされた事例。
参照条文: /民法:587条;588条/t15.民事訴訟法:186条/
全 文 s411006supreme.html

最高裁判所 昭和 41年 9月 22日 第1小法廷 判決 ( 昭和40年(オ)第574号 )
事件名:  貸金請求・上告事件
要 旨
 貸金請求事件において、原告の先代が第三者から買い受けた建物の代金の決済の方法として、訴求債権が第三者に譲渡がされていた旨を被告が主張し、原告が建物の売買がなされたことを認めた後にそれを撤回した場合に、建物の売買は、主要事実である債権譲渡の認定の資料となりうる間接事実にすぎず、間接事実の自白は当事者を拘束することはないとされた事例(撤回を許さなかった原判決が破棄された事例)。
 1.間接事実についての自白は、裁判所を拘束しないのはもちろん、自白した当事者を拘束するものでもない。
参照条文: /t15.民事訴訟法:257条/
全 文 s410922supreme.html

最高裁判所 昭和 41年 9月 8日 第1小法廷 判決 ( 昭和38年(オ)第1227号 )
事件名:  土地所有権移転登記手続家屋収去土地引渡請求上告事件
要 旨
 原告の所有権に基づく宅地明渡請求に対して被告が取得時効の抗弁を主張し、これに対して原告が使用貸借を主張し、裁判所が原告の主張に基づいて使用貸借の事実を確定した場合には、原告の右主張事実を被告が自己の利益に援用しなかつたとしても、裁判所は原告の請求の当否を判断するについては、この事実を斟酌すべきである。 /弁論主義/主張共通の原則/
参照条文: /民訴.87条1項/
全 文 s410908supreme.html

最高裁判所 昭和 41年 9月 8日 第1小法廷 判決 ( 昭和40年(オ)第210号 )
事件名:  損害賠償等請求上告事件
要 旨
 他人の権利を売買の目的とした場合において、売主がその権利を取得してこれを買主に移転する義務の履行不能を生じたときにあつて、その履行不能が売主の責に帰すべき事由によるものであれば、買主は、売主の担保責任に関する民法561条の規定にかかわらず、なお債務不履行一般の規定(民法543条、415条)に従つて、契約を解除し損害賠償の請求をすることができる。 /売主の担保責任/他人物売買/
参照条文: /民法:561条/民法:415条/民法:543条/
全 文 s410908supreme2.html

最高裁判所 昭和 41年 6月 23日 第1小法廷 判決 ( 昭和37年(オ)第815号 )
事件名:  名誉および信用毀損による損害賠償および慰藉料請求 ・上告事件
要 旨
 衆議院議員の総選挙の立候補者が学歴・経歴を詐称し、これにより公職選挙法違反の疑いにより警察から追及され、前科があつた旨の新聞記事について、名誉棄損たる不法行為が成立しないとされた事例。
 1.民事上の不法行為たる名誉棄損については、その行為が公共の利害に関する事実に係りもつぱら公益を図る目的に出た場合には、摘示された事実が真実であることが証明されたときは、右行為には違法性がなく、不法行為は成立しないものと解するのが相当であり、もし、右事実が真実であることが証明されなくても、その行為者においてその事実を真実と信ずるについて相当の理由があるときには、右行為には故意もしくは過失がなく、結局、不法行為は成立しないものと解するのが相当である。
参照条文: /民法:710条/刑.230-2条/
全 文 s410623supreme.html

最高裁判所 昭和 41年 6月 9日 第1小法廷 判決 ( 昭和39年(オ)第550号 )
事件名:  船舶引渡請求・上告事件
要 旨
 1.民法192条にいう「過失なきとき」とは、物の譲渡人である占有者が権利者たる外観を有しているため、その譲受人が譲渡人にこの外観に対応する権利があるものと誤信し、かつこのように信ずるについて過失のないことを意味するものであるが、およそ占有者が占有物の上に行使する権利はこれを適法に有するものと推定される以上(民法188条)、譲受人たる占有取得者が右のように信ずるについては過失のないものと推定され、占有取得者自身において過失のないことを立証することを要しないものと解すべきである。 /要件事実/
参照条文: /民法:188条;192条/
全 文 s410609supreme.html

最高裁判所 昭和 41年 5月 19日 第1小法廷 判決 ( 昭和38年(オ)第1021号 )
事件名:  土地所有権確認等請求上告事件
要 旨
 共有物の持分の価格が過半数をこえる者であっても、共有物を単独で占有する他の共有者に対し、当然にはその占有する共有物の明渡を請求することができない。 /共同相続/共有持分/共有物の管理/
参照条文: /民法:249条/民252条/
全 文 s410519supreme.html

最高裁判所 昭和 41年 4月 28日 第1小法廷 判決 ( 昭和39年(オ)第440号 )
事件名:  動産引渡請求・上告事件
要 旨
 更生手続開始当時、譲渡担保契約に基づく更生会社から債権者への担保物の所有権移転が確定的なものではなく、債権債務関係が存続していた場合には、譲渡担保権者は、更生担保権者に準じてその権利の届出をなし、更生手続によってのみ権利行使をなすべきものであり、取戻権を有しない。 /会社更生/
参照条文: /s27.会社更生法:62条;67条1項;123条;124条;126条;159条/
全 文 s410428supreme2.html

最高裁判所 昭和 41年 4月 14日 第1小法廷 判決 ( 昭和38年(オ)第831号 )
事件名:  損害賠償請求・上告事件
要 旨
 被担保債権について公正証書が作成されていたが、その譲受人が届出書に有名義債権であることを記載せずに更生担保権の届出をし、かつ、執行文の附記のない公正証書謄本を提出していた場合に、管財人がこの届出債権に異議を述べたところ、更生担保債権者が更生担保権確定の訴を提起しなかったため、債権額がゼロであるとされた事例。
 1.有名義債権又はこれを被担保債権とする更生担保権として会社更生法152条の適用をうけるためには、権利者は、その届出に際しその旨を明記しその証拠資料を提出するか、遅くとも更生債権・更生担保権の調査期日までにこれを追完すべきであって、これを怠り更生債権者表・更生担保権者表にその旨記載されなかった場合には、有名義債権又はこれを被担保債権とする更生担保権の届出としての取扱をうけることができず、異議を排除して更生債権・更生担保権の確定をはかるためには、債権者から同法147条による更生債権・更生担保権確定の訴を提起するを要する。
 1a.会社更生法152条にいう執行力ある債務名義とは、執行力ある正本と同一の効力をもち直ちに執行をなしうるものであることを要し、執行文を要するものは既に執行文を受けているものであることを要する。
 2.更生担保権者表になされた債権額ゼロの記載を訂正するためには、右記載に明白な誤謬が存する場合においては会社更生法8条により民訴法194条を準用して更正決定を得、これに基づいて訂正を加えるべく、また、前記更生担保権者表に無効な記載事項が存する場合においては、右無効を訴をもって主張しその旨の確定判決を得た後これに基づいて訂正を加えることが許される。
 (傍論)
参照条文: /会社更生法:152条;145条;144条/
全 文 s410414supreme.html

最高裁判所 昭和 41年 4月 8日 第2小法廷 判決 ( 昭和39年(オ)第1158号 )
事件名:  否認権行使による弁済金返還請求・上告事件
要 旨
 1.破産法104条1号は、破産債権者が破産宣告の後破産財団に対して債務を負担した場合の相殺を許さない旨規定しているだけであつて、破産宣告前において破産債権者が支払停止または破産申立のあつたことを知つて破産者に対する債務を負担するに至つた場合の相殺をも許さないとする規定は存しないのであるから、同法98条の原則に従つて、破産債権者は、破産宣告の当時すでに破産者に対して負担する債務と破産債権との相殺を破産手続に依らず行いうるものといわねばならない。
 1a.破産債権をすでに有する者がそれとの相殺を企図して破産者に対する債務を負担しようとするには、破産者との間に新たに債務負担行為をする場合および債権者たる破産者も加つて債務引受の合意がなされる場合は勿論、債務者と引受人とだけで債務引受の合意がなされる場合にあつても、少くとも債権者たる破産者の承認を要するから、破産者の加担なしにこれに対する債務の負担は考えられないわけであつて、破産債権を有する者が支払停止または破産申立のあつたことを知りながら破産者に対する債務を負担する場合には、右債務を負担するに至つた行為自体について否認権行使が考えられる。(傍論)
 1b. 債務者と引受人とだけで債務引受の合意がなされる場合にあつても、債権者の承認を要する。(傍論)
 2.破産債権者のなした相殺権行使自体は、破産者の行為を含まないから、破産法72条各号の否認権の対象となりえない。
参照条文: /t11.破産法:72条;98条;104条/
全 文 s410408supreme.html

広島高等裁判所 昭和 41年 2月 15日 第3部 判決 ( )
事件名:  家屋明渡請求控訴事件
要 旨
 建物の借主が貸主ために固定資産税等の支払を約したとしても、使用貸借であつて、賃貸借ではないとされた事例。
参照条文: /民法:593条/民法:601条/
全 文 s410215hiroshimaH.html

大阪高等裁判所 昭和 41年 2月 2日 第3民事部 判決 ( 昭和34年(ネ)第1476号 )
事件名:  相続税確定決定取消請求事件につき被控訴人のためにする補助参加申出事件
要 旨
 株券の贈与を約しその履行を完了したと主張する者が、受贈者が自己に対して提起した株券引渡請求訴訟を有利に進めるために、受贈者と国税局長官の相続税確定決定取消訴訟において昭和25年中に引渡が完了している旨の認定がなされるように、その訴訟で国税局長側に補助参加することを申し出たが、補助参加の利益がないとされた事例。
 1.通常の補助参加においては、被参加人の敗訴の前提となった事実上または法律上の判断につき利害関係を有するにすぎない者も補助参加をなしうるが、その利害関係は参加人・被参加人間の利害関係に限定され、参加人と被参加人の相手方との間の利害関係のようなものまで含めるべきでない。
 1a.参加的効力が生ずるべき事項(贈与の不履行)が被参加人との関係で参加人にいかなる不利益を及ぼすかが明らかでないとして、参加の利益が否定された事例。
参照条文: /民訴.42条/
全 文 s410202osakaH.html

最高裁判所 昭和 41年 1月 27日 第1小法廷 判決 ( 昭和40年(オ)第163号 )
事件名:  建物収去土地明渡請求・上告事件
要 旨
 1.土地の賃借人が賃貸人の承諾を得ることなくその賃借地を他に転貸した場合においても、賃借人の右行為を賃貸人に対する背信行為と認めるに足りない特段の事情があるときは、賃貸人は民法612条2項による解除権を行使し得ない。
 2.前記の特段の事情の存在は、土地の賃借人において主張、立証すべきものである。 /証明責任/主張責任/立証責任/
参照条文: /民法:612条2項/
全 文 s410127supreme.html

最高裁判所 昭和 41年 1月 21日 第2小法廷 判決 ( 昭和39年(オ)第1395号 )
事件名:  家屋明渡請求・上告事件
要 旨
 1.いわゆる訴の交換的変更とは、新訴の提起と旧訴の取下である。
 2.訴えの交換的変更と追加的変更とがなされた場合に、被告が追加的変更についいては異議を述べていても、交換的変更には異議なく応訴しているときには、交換的変更に係る旧訴の取下について暗黙の同意をしたものと解するのを相当とする。
参照条文: /t15.民事訴訟法:232条;236条/
全 文 s410121supreme.html

最高裁判所 昭和 40年 12月 21日 第3小法廷 判決 ( 昭和37年(オ)第1191号 )
事件名:  請求異議上告事件
要 旨
 土地所有者の借地人に対する建物収去土地明渡請求認容判決が確定していることを知らずに借地上の建物を競落した者が、右確定判決は土地所有者が借地人と通謀して競売を妨害する意図で取得したものであると主張して、右判決に対して請求異議の訴えを提起したが、口頭弁論終結後に生じた事情は、原告がその前主に対する前記確定判決の存在を知らずに建物を競落したということにすぎず、そのような事情のみによつては建物収去土地明渡請求権の行使が権利濫用に該当するにいたると解することはできないし、その余の事実は口頭弁論終結以前に生じた事由であつて、それらは請求異議事由として主張することは許されないとして、請求異議が棄却された事例。
 請求異議の訴は、債務名義に表示された請求権と現在の実体的法律状態との不一致を理由に、当該債務名義のもつ執行力の排除を目的とするものであつて、債務名義が確定判決である場合には、請求権の成立は既判力によつて確定されているのであるから、既判力の標準時以前に遡つてこれを争い、所論のような事実が存することを理由に請求異議の訴により執行力の排除を求めることは許されない。 /確定判決の不当取得/既判力の標準時/標準時後の承継人/
参照条文: /民訴.115条1項3号/民訴.114条1項/民執.35条/
全 文 s401221supreme.html

最高裁判所 昭和 40年 11月 24日 大法廷 判決 ( 昭和37年(オ)第760号 )
事件名: 
要 旨
 1.解約手附の授受された第三者所有の不動産の売買契約において、売主が右不動産を買主に譲渡する前提として当該不動産につき所有権を取得し、かつ自己名義の所有権移転登記を得た場合には、民法557条1項にいう「契約ノ履行ニ着手」したときにあたるものと解するのを相当とする。
 2.解約手附の授受された売買契約において、当事者の一方は、自ら履行に着手した場合でも、相手方が履行に着手するまでは、解除権を行使することができる。
 3.不動産の売買契約書において定められた手付金が損害賠償額の予定を兼ねた解約手附と解釈された事例。
参照条文: /民法:557条/民法:420条/
全 文 s401124supreme.html

最高裁判所 昭和 40年 11月 19日 第2小法廷 判決 ( 昭和40年(オ)第614号 )
事件名:  第三者異議上告事件
要 旨
 売主が第三者所有の特定物(船舶の備品たる動産)を売り渡した後右物件の所有権を取得した場合に、買主への所有権移転の時期・方法について特段の約定がないかぎり、右物件の所有権は、売主の所有権取得と同時に買主に移転し、売主の占有取得と同時に占有改定の方法により買主は売主より占有を取得するとされた事例。 /売主の担保責任/所有権移転時期/他人物売買/
参照条文: /民法:176条/民法:555条/民法:560条/
全 文 s401119supreme.html

最高裁判所 昭和 40年 11月 2日 第3小法廷 判決 ( 昭和38年(オ)第1003号 )
事件名:  否認権行使・上告事件
要 旨
 銀行が手形割引契約に基づき顧客から取得した手形について、顧客の支払停止を知った後に、契約で定められた買戻請求権を行使し、買戻代金債権を自働債権として顧客の預金債権と相殺した場合に、その相殺が破産法の相殺制限規定によって禁止されないとされた事例。
 1.銀行業者において、自己が割引いた手形が不渡になつた場合もしくは割引依頼者の信用が悪化した場合に該手形の買戻請求をすることができ、割引依頼者はこれに応じなければならない慣習が存するとの原審の認定が是認された事例。
 2.手形買戻代金債権は、買戻請求権の行使によつて初めて発生する債権ではあるが、その買戻請求権は手形割引契約を原因として発生したものであるから、手形買戻契約が支払停止前になされていた場合には、買戻請求権行使の結果発生した債権をもって、破産法104条3号但書(現72条2項に相当)にいう「支払ノ停止若ハ破産ノ申立アリタルコトヲ知リタル時ヨリ前ニ生シタル原因ニ基」づき取得したものということができるとされた事例。
参照条文: /破産.72条/民法:92条/
全 文 s401102supreme.html

最高裁判所 昭和 40年 10月 15日 第2小法廷 判決 ( 昭和39年(オ)第402号 )
事件名:  土地建物明渡等請求及び土地建物所有権確認請求参加・上告事件
要 旨
 不動産の買主が売主に対して提起した所有権移転登記手続請求等の訴訟に当事者参加した者が双方に対する所有権確認請求を提起した場合に、被告と参加人との間で参加人が所有者であることについて争いがないときでも、原告が参加人の所有権を争っている以上、必要的共同訴訟に関する規定の準用により、被告においてもこれを争っていることになり、したがって、参加人の所有権確認請求は、原告に対する関係のみならず、被告に対する関係においても、確認の利益が存するとされた事例(確認の利益なしとして被告に対する請求について却下の裁判をした原判決が破棄された事例)。
 1.独立当事者参加人が原告および被告の双方を相手方として参加の申出をして確認の請求をした場合において、相手方である原告または被告の一方が事実上参加人の主張・請求を全部認めて争わないときでも、他の一方が参加人の主張・請求を争っているかぎり、民訴法62条(平成8年法40条)の準用により、相手方(原告および被告)の双方において、参加人の主張・請求を争っていることになり、参加人は、右確認の請求について、相手方双方に対し合一に確定する関係上(実際上参加人の請求を争っていない者に対しても)、当然確認の利益を有するものと解すべきである。 /訴えの利益/
参照条文: /t15.民事訴訟法:62条;71条;225条/
全 文 s401015supreme.html

最高裁判所 昭和 40年 9月 17日 第2小法廷 判決 ( 昭和39年(オ)第987号 )
事件名:  債務額確定等請求上告事件
要 旨
 1.債務者が貸金債務の残存元本は一定金額を超えて存在しないことを確認することを求める訴えを提起した場合に、訴訟物は、原告が元金として残存することを自認する一定金額を貸金債権額から控除した残債務額の不存在の確認と解すべきである。
 1a.残存債務が一定額を超えて存在しない旨の確認訴訟にあっては、残債務が原告主張の一定額を超えると認める場合には、裁判所は、残存額の不存在の限度を明確にしなければならない。
 2.債務者が利息制限法所定の制限をこえる金銭貸借上の利息、損害金を任意に支払つたときには、右制限をこえる部分は、元本債権に充当される。 /債務不存在確認請求/消極的確認訴訟/判決事項/
参照条文: /民訴.246条/民訴.133条2項/利息制限.1条/
全 文 s400917supreme.html

最高裁判所 昭和 40年 6月 30日 大法廷 判決 ( 昭和38年(オ)第1294号 )
事件名:  物件引渡等請求上告事件
要 旨
 1.特定物の売買における売主のための保証においては、通常、売主の債務不履行に基因して売主が買主に対し負担することあるべき債務につき責に任ずる趣旨でなされるものと解するのが相当であるから、保証人は、債務不履行により売主が買主に対し負担する損害賠償義務についてはもちろん、特に反対の意思表示のないかぎり、売主の債務不履行により契約が解除された場合における原状回復義務についても保証の責に任ずるものと認めるのを相当とする。(判例変更)
参照条文: /民法:447条/民法:545条/
全 文 s400630supreme.html

最高裁判所 昭和 40年 6月 30日 大法廷 判決 ( 昭和37年(ク)第243号 )
事件名:  生活費請求事件の審判に対する抗告棄却決定に対する特別抗告事件
要 旨
 1.性質上純然たる訴訟事件につき当事者の意思いかんに拘らず,終局的に事実を確定し,当事者の主張する実体的権利義務の存否を確定するような裁判が,憲法所定の例外の場合を除き,公開の法廷における対審及び利決によつてなされないとするならば,それは憲法82条に違反すると共に同32条が基本的人権として裁判請求権を認めた趣旨をも没却するものといわねばならない。(前提の議論。先例の確認)
 2.家事審判法9条1項乙類3号に規定する婚姻費用分担に関する処分は,民法760条を承けて,婚姻から生ずる費用の分担額を具体的に形成決定し,その給付を命ずる裁判であつて,家庭裁判所は夫婦の資産,収入その他一切の事情を考慮して,後見的立場から,合目的の見地に立つて,裁量権を行使して,その具体的分担額を決定するもので,その性質は非訟事件の裁判であり,純然たる訴訟事件の裁判ではない。
 2a.婚姻費用分担に関する処分,公開の法廷における対審及び判決によつてなされる必要はなく,右家事審判法の規定に従つてした本件審判は何ら右憲法の規定に反するものではない。
 3.婚姻費用の分担に関する審判は,夫婦の一方が婚姻から生ずる費用を負担すべき義務あることを前提として,その分担額を形成決定するものであるが,右審判はその前提たる費用負担義務の存否を終局的に確定する趣旨のものではない。
 3a.婚姻費用負担義務の存否を終局的に確定することは正に純然たる訴訟事件であつて,憲法82条による公開法廷における対審及び判決によつて裁判さるべきものである。
参照条文: /憲.82条/憲.33条/民法:760条/家事審判.9条1項乙類3号/
全 文 s400630supreme2.html

最高裁判所 昭和 40年 6月 24日 第1小法廷 判決 ( 昭和37年(オ)第1128号 )
事件名:  行政処分取消等請求・上告事件
要 旨
 1.訴願棄却裁決の取消を求める訴訟は、公権力の行使に関する法律関係を対象とするものであつて、右法律関係は画一的に規制する必要があるから、その取消判決は、第三者に対しても効力を有する。
 1a.かかる訴訟に参加した利害関係人は、民訴法69条2項[現45条2項]の適用を受けることなく、あたかも共同訴訟人のごとく訴訟行為をなし得べき地位を有するものであり、被参加人と参加人との間には同法62条[現40条]の規定が準用され、いわゆる共同訴訟的補助参加人と解するのが相当である。
 1b. 共同訴訟的補助参加人がいる場合には、被参加人だけで控訴を取り下げたとしても、これによつて同控訴が当然効力を失うものではない。
 1c.被参加人が控訴取下げの陳述をした口頭弁論期日から約2月後に開かれた次回期日において共同訴訟的補助参加人が「控訴人の控訴取下に同意し難い」と述べた場合に、控訴の取下げはその効力を生ずるに由ないものとされた事例。
参照条文: /行政事件訴訟特例法:8条/民事訴訟法:62条;69条/
全 文 s400624supreme.html

最高裁判所 昭和 40年 5月 20日 第1小法廷 判決 ( 昭和39年(オ)第764号 )
事件名:  境界確認損害賠償請求上告事件
要 旨
 1.共有持分権の及ぶ範囲は、共有地の全部にわたるのであるから、各共有者は、その持分権にもとづき、その土地の一部が自己の所有に属すると主張する第三者に対し、単独で、係争地が自己の共有持分権に属することの確認を訴求することができる。
 2.一筆の土地であつても、所有権確認の利益があるのは、相手方の争っている地域のみであつて、争のない地域については確認の利益がない(裁判所は、争のある土地の範囲を特定して判決すべきである)。 /固有必要的共同訴訟/当事者適格/
参照条文: /民訴.140条/民訴.40条/
全 文 s400520supreme.html

最高裁判所 昭和 40年 5月 4日 第3小法廷 判決 ( 昭和39年(オ)第1033号 )
事件名:  建物収去土地明渡請求上告事件
要 旨
 借地上の建物が競売された場合に、建物の元の所有者が借地権を被保全債権にして土地所有者に代位して買受人に対して建物収去・土地明渡しを請求したが、棄却された事例。
 1.借地上の建物に設定された抵当権の実行により競落人が建物の所有権を取得した場合には、従前の建物所有者との間においては、建物が取毀しを前提とする価格で競落された等特段の事情がないかぎり、建物の所有に必要な敷地の賃借権も競落人に移転する。
 1a.上記の特段の事情の主張・立証責任は、従前の建物所有者が負う。 /建物の従たる権利/証明責任/
参照条文: /民法:423条/民法:612条/民法:87条/
全 文 s400504supreme.html

最高裁判所 昭和 40年 4月 22日 第1小法廷 判決 ( 昭和39年(オ)第1216号 )
事件名:  預金及利息金等返還請求・上告事件
要 旨
 1.破産債権者の相殺の行使は、破産法104条(現71条・72条)の制限に服するのみであつて、同法72条各号(現162条)の否認権の対象となることはない。
 2.消滅時効により権利は消滅することがあるにせよ、約定すなわち契約自体が時効により消滅することはあり得ない。
参照条文: /破産法:104条;72条/
全 文 s400422supreme.html

最高裁判所 昭和 40年 3月 9日 第3小法廷 判決 ( 昭和37年(オ)第374号 )
事件名:  否認権行使等請求上告事件
要 旨
 1.破産法74条により否認しうる対抗要件充足行為も破産者の行為またはこれと同視すべきものに限られ、破産者がその債権を譲渡した場合における当該債務者の承諾は同条による否認の対象とはならない。
参照条文: /破産72条/破産.74条/
全 文 s400309supreme.html

最高裁判所 昭和 40年 3月 4日 第1小法廷 判決 ( 昭和38年(オ)第654号 )
事件名:  占有保持請求本訴ならびに建物収去土地明渡請求反訴・上告事件
要 旨
 占有の訴え(「被告は係争土地に対する原告の占有を妨害してはならない」旨の判決を求める占有の訴え)に対して、被告が本権に基づく反訴(所有権に基づく建物収去土地明渡請求の反訴)を提起することが許された事例(本権反訴請求を本訴請求と対比すれば、牽連性がないとはいえないとされた事例)。
 1.民法202条2項は、占有の訴において本権に関する理由に基づいて裁判することを禁ずるものであり、従つて、占有の訴に対し防禦方法として本権の主張をなすことは許されないけれども、これに対し本権に基づく反訴を提起することは、右法条の禁ずるところではない。
参照条文: /民法:202条2項/民事訴訟法:239条/
全 文 s400304supreme.html

最高裁判所 昭和 40年 2月 2日 第3小法廷 判決 ( 判決 )
事件名:  昭和36年(オ)1028号
要 旨
 1.養老保険契約において保険金受取人を単に「被保険者またはその死亡の場合はその相続人」と約定し、被保険者死亡の場合の受取人を特定人の氏名を挙げることなく抽象的に指定している場合でも、保険契約者の意思を合理的に推測して、保険事故発生の時において被指定者を特定し得る以上、特段の事情のないかぎり、右指定は、被保険者死亡の時における相続人たるべき者個人を受取人として特に指定したいわゆる他人のための保険契約と解するのが相当である。
 1a.保険金受取人としてその請求権発生当時の相続人たるべき個人を特に指定した場合には、右請求権は、保険契約の効力発生と同時に右相続人の固有財産となり、被保険者(兼保険契約者)の遺産より離脱しているというべきである。
 2.終結した口頭弁論期日を再関するか否かは、原審の裁量に属する。
参照条文: /商.675条/民法:896条/民訴.153条/
全 文 s400202supreme.html

最高裁判所 昭和 39年 12月 23日 大法廷 判決 ( 昭和36年(オ)第897号 )
事件名:  預金返還請求上告事件
要 旨
 納税義務者の預金債権について滞納処分としての差押がなされ、銀行が取引約定書における相殺予約条項に基づき貸付金債権との相殺の意思表示をなしたが、受働債権より後に本来の弁済期が到来する反対債権による相殺は差押債権者に対抗できないとされた事例。
 1.債権差押の当時に被差押債権と第三債務者の反対債権とが相殺適状に達していない場合でも、被差押債権の弁済期より先にその弁済期が到来するものであるときは、民法511条の反対解釈により、第三債務者は相殺を以つて差押債権者に対抗し得る。
 2.反対債権の弁済期が被差押債権の弁済期より後に到来する場合は、第三債務者は差押当時自己の反対債権を以つて被差押債権と相殺し自己の債務を免れ得るという正当な期待を有していたものとはいえないのみならず、既に弁済期の到来した被差押債権の弁済を拒否しつつ、自己の自働債権の弁済期の到来をまつて相殺を主張するが如きは誠実な債務者とはいいがたく、かかる第三債務者を特に保護すべき必要がないから、第三債務者は相殺を以つて差押債権者に対抗できない。
 3.債権者債務者間に生じた相対立する債権債務につき将来差押を受ける等の一定の条件が発生した場合に、双方の債権債務の弁済期如何を問わず、直ちに相殺適状を生ずるものとし、相殺予約完結の意思表示により相殺を為し得るという相殺予約は、民法511条の反対解釈上相殺の対抗を許される場合に該当するものに限つてその効力を認むべきである。
 4.債権質権は、法定の対抗要件を備えていなければ、質権設定契約の存在を知っている第三者(差押債権者)にも対抗できない。
参照条文: /民法:511条/税徴.67条/民執.145条/
全 文 s391223supreme.html

最高裁判所 昭和 39年 11月 26日 第1小法廷 判決 ( 昭和38年(オ)第491号 )
事件名:  商標権不存在確認等請求上告事件
要 旨
 「三羽鶴」なる文字を縦書きにした同一内容の標章についてXとYの双方が別個に商標権の登録を受けている場合に、その標章を使用しているXからの請求に基づきYの商標登録を無効とする審決が下され、これに対しYから審決取消の訴が提起され、その訴訟が係属中であっても、前記標章を現に使用しているYは、Xに対し、Xの商標権は営業を廃止して解散した会社が有していた商標権を引き継いだものであり、前主の営業廃止によりすでに消滅していると主張して右商標権の不存在確認および抹消登録手続の請求をするについて、訴えの利益を有するとされた事例。(大正10年商標法の事件) /訴えの客観的利益/
参照条文: /民訴.140条/
全 文 s391126supreme.html

最高裁判所 昭和 39年 10月 15日 第1小法廷 判決 ( 昭和35年(オ)第1029号 )
事件名:  建物収去土地明渡請求上告事件
要 旨
 1.権利能力のない社団といいうるためには、団体としての組織をそなえ、多数決の原則が行なわれ、構成員の変更にもかかわらず団体そのものが存続し、代表の方法、総会の運営、財産の管理その他団体としての主要な点が確定していなければならない。(肯定事例)
 1a.権利能力のない社団の資産は構成員に総有的に帰属する。
 1b.権利能力のない社団は、その代表者によつてその社団の名において構成員全体のため権利を取得し、義務を負担する。
 1c.登記の場合には、権利者自体の名を登記することを要し、実質的権利者たる構成員全部の名を登記できない結果として、その代表者名義をもつて不動産登記簿に登記するよりほかに方法がない。(傍論)
 2.賃貸借の目的である土地を第三者が不法に占有する場合に、地主が右第三者に対し所有権に基づく妨害排除請求権を行使しないときは、借地人において賃借権に基づき債務者である地主に代位して、右不法占有者に対し借地の明渡請求をすることができる。 /債権者代位権/法人格/法人でない社団/
参照条文: /民法:33条/民法:423条/民訴.29条/
全 文 s391015supreme.html

最高裁判所 昭和 39年 7月 28日 第3小法廷 判決 ( 昭和37年(オ)第747号 )
事件名:  家屋明渡等請求上告事件
要 旨
 1.賃料不払を理由とする家屋賃貸借契約の解除が信義則に反し許されないとされた事例。
 1a.家屋の賃貸借において、催告期間内に延滞賃料が弁済されなかった場合であっても、催告金額9600円のうち4800円はすでに適法に弁済供託されていること、賃借人がこれまで本件延滞額を除いて賃料を延滞した事実がなかったたこと、台風で破損した家屋の修繕を賃借人が要求したにも拘らず賃貸人がしなかったので賃借人が2万9000円を支出して屋根のふきかえをしたが、右修繕費について本訴が提起されるまで償還を求めなかつたこと、賃借人が修繕費償還請求権をもつて賃料債務と相殺をなす等の措置をとらなかったことは遺憾であるが、これは賃借人が修繕費の償還を受けるまでは延滞賃料債務の支払を拒むことができると誤解していたためであること等の諸事情がある場合には、本件賃貸借の基調である相互の信頼関係を破壊するに至る程度の不誠意が賃借人にあるとは未だいえないから、賃料不払いを理由とする解除権行使は信義則に反し許されない。
 2.家屋の賃借人が簡易粗製の仮設的工作物を賃借家屋の裏側にそれと接して付置したものに止まる場合に、右改造工事は賃借家屋の利用の限度をこえないものであり、賃借家屋の保管義務に違反したものというに至らず、貸主との間の信頼関係が破壊されたものともみられないから、右改造工事を理由とする解除は無効であるとされた事例。 /権利濫用の禁止/信義誠実の原則/
参照条文: /民法:1条2項/民法:1条3項/民法:541条/
全 文 s390728supreme.html

最高裁判所 昭和 39年 7月 28日 第3小法廷 判決 ( 昭和38年(オ)第714号 )
事件名:  損害賠償請求・上告事件
要 旨
 麻酔注射に起因するブドウ状球菌の繁殖により硬膜外膿瘍および圧迫性脊髄炎に罹患した原告が医師に対し損害賠償を請求した事案において、請求を認容すべきとした原審が、麻酔注射に際し注射器具、施術者の手指あるいは患者の注射部位の消毒が不完全(消毒後の汚染を含めて)であり、このような不完全な状態で麻酔注射をしたのは医師の過失である旨判示するのみで、具体的にそのいづれについて消毒が不完全であつたかを明示していなくても、これらの消毒の不完全は、いづれも、診療行為である麻酔注射にさいしての過失とするに足るものであり、かつ、医師の診療行為としての特殊性にかんがみれば、具体的にそのいづれの消毒が不完全であつたかを確定しなくても、過失の認定事実として不完全とはいえないとされた事例。 /過失の概括的認定/
参照条文: /民法:709条/t15.民事訴訟法:185条;395条1項6号/
全 文 s390728supreme2.html

最高裁判所 昭和 39年 7月 10日 第2小法廷 判決 ( 昭和38年(オ)第1211号 )
事件名:  家屋明渡請求・上告事件
要 旨
 建物の賃貸借契約終了後に賃貸人が賃借人に対して所有権に基づいて建物の明渡しを請求したのに対して、被告が賃借建物を取り壊して自ら新築したことを主張して原告の建物所有権を争った場合に、原告が被告の主張を前提にして建物収去・土地明渡請求を予備的に追加することは、仮に請求の基礎に変更があるとしても、被告の同意なしに許されるとされた事例。
 1.相手方の提出した防禦方法を是認したうえその相手方の主張事実に立脚して新たに請求をする場合(相手方の陳述した事実をとってもって新請求の原因とする場合)においては、かりにその新請求が請求の基礎を変更する訴えの変更であっても、相手方はこれに対し異議をとなえその訴えの変更の許されないことを主張することはできず、相手方が右の訴えの変更に対し現実に同意したかどうかにかかわらず、右の訴えの変更は許される。
 1a.この場合に、相手方の陳述した事実は、狭義の抗弁、再々抗弁などの防禦方法にかぎられず、積極否認の内容となる重要なる間接事実も含まれる。 /防御方法/訴の変更/
参照条文: /t15.民事訴訟法:232条1項/
全 文 s390710supreme.html

最高裁判所 昭和 39年 5月 27日 大法廷 判決 ( 昭和37年(オ)第1472号 )
事件名:  待命処分無効確認、判定取消等請求・上告事件
要 旨
 地方公務員の任命権者である立山町長が待命条例に基づき55歳以上の高齢であることを待命処分の一応の基準とした上、勤務成績が良好でないこと等の事情をも考慮の上、ある職員(原告)に対し本件待命処分を出したことは、任命権者に任せられた裁量権の範囲を逸脱したものとは認められず、66歳であった原告に対し他の職員に比し不合理な差別をしたものとも認められないから、憲法14条1項及び地方公務員法13条に違反するものではないとされた事例。
 1.憲法14条1項及び地方公務員法13条にいう社会的身分とは、人が社会において占める継続的な地位をいうものと解されるから、高齢であるということは右の社会的身分に当らないとの原審の判断は相当と思われる。
 1a. 憲法14条1項及び地方公務員法13条は、国民に対し、法の下の平等を保障したものであり、右各法条に列挙された事由は例示的なものであつて、必ずしもそれに限るものではないと解するのが相当である。
 1b.憲法14条1項及び地方公務員法13条は、国民に対し絶対的な平等を保障したものではなく、差別すべき合理的な理由なくして差別することを禁止している趣旨と解すべきであるから、事柄の性質に即応して合理的と認められる差別的取扱をすることは、なんら右各法条の否定するところではない。
 2.地方公共団体は、条例で定める定員を超えることとなる員数の職員については、昭和29年度及び昭和30年度において、国家公務員の例に準じて条例の定めるところによつて、職員にその意に反し臨時待命を命ずることができる旨を定める地方公務員法の一部を改正する法律(昭和29年法律第192号)附則第3項に基づく待命条例により任命権者が地方公務員に臨時待命を命ずる場合においても、何人に待命を命ずるかは、任命権者が諸般の事実に基づき公正に判断して決定すべきもの、すなわち、任命権者の適正な裁量に任せられているものと解するのが相当である。
参照条文: /憲法:14条/地方公務員法:13条/s29法192.地方公務員法の一部を改正する法律(昭和29年法律192号):附則3項/
全 文 s390527supreme.html

大阪高等裁判所 昭和 39年 5月 27日 第2民事部 判決 ( )
事件名: 
要 旨
 控訴人が控訴審の最初の口頭弁論期日に出頭しなかった場合に下された簡略な判決の例。
参照条文: /民訴.297条/民訴.158条/
全 文 s390527osakaH.html

東京高等裁判所 昭和 39年 3月 9日 第9民事部 判決 ( 昭和38年(ラ)第704号 )
事件名:  請求趣旨及び請求原因の訂正を許さない旨の決定を求める申立を却下した決定に対する即時抗告事件
要 旨
 第一審において原告が訴えの変更をしたのに対して、被告がその不許の裁判を求めたが却下された場合に、その却下決定に対する抗告は許されないとされた事例。
 1.被告が訴の変更を不当として変更不許の裁判を求めた場合、裁判所が変更を正当とするときは、民訴法233条の準用により変更を許す旨の中間の裁判(決定)をなすことができる。
 1a.原告が請求の趣旨及びその原因の変更を申し立てたのに対し、被告がその不許の申立をした場合に、変更不許の申立を却下する裁判は、訴えの変更を適法としてこれを許す趣旨の裁判(決定)と解するのが相当である。
 1b.訴えの変更不許の裁判を求める被告の申立てを却下する決定が口頭弁論を経て為されたものであるときは、これに対しては民訴法410条による通常の抗告も許されない。
 1c.訴え変更不許の裁判も訴の変更を許す旨の裁判も、その性質は中間裁判であるから、判決理由中に於てその裁判するを妨げない。
 1d.訴え変更不許の裁判も訴の変更を許す旨の裁判も、その性質は中間裁判であるから、これに対しては独立して不服の申立をなし得ない。
参照条文: /t15.民事訴訟法:233条;420条/
全 文 s390309tokyoH.html

最高裁判所 昭和 39年 2月 27日 第1小法廷 判決 ( 昭和37年(オ)第1258号 )
事件名: 
要 旨
 甲の相続権を乙が侵害している場合、甲の相続人丙の乙に対する相続回復請求権の消滅時効の期間20年の起算点は、丙の相続開始の時ではなく、甲の相続開始の時と解すべきである。
参照条文: /民法:884条/
全 文 s390227supreme.html

最高裁判所 昭和 39年 1月 28日 第1小法廷 判決 ( 昭和34年(オ)第901号 )
事件名:  謝罪広告並びに慰藉料請求・上告事件
要 旨
 1.法人の名誉権侵害の場合は金銭評価の可能な無形の損害の発生すること必ずしも絶無ではなく、そのような損害は加害者をして金銭でもつて賠償させるのを社会観念上至当とすべきであり、この場合は民法723条に被害者救済の格段な方法が規定されているとの故をもつて、金銭賠償を否定することはできない。
 2.民法上のいわゆる損害とは、侵害行為がなかつたならば惹起しなかつたであろう状態(原状)を(a)とし、侵害行為によつて惹起されているところの現実の状態(現状)を(b)としa-b=xそのxを金銭で評価したものが損害である。
 2a.そのうち、数理的に算定できるものが、有形の損害すなわち財産上の損害であり、その然らざるものが無形の損害である。
参照条文: /民法:710条/民法:723条/
全 文 s390128supreme.html

和歌山地方裁判所 昭和 39年 1月 13日 判決 ( )
事件名:  債務額確定等請求事件
要 旨
 1.日歩10銭の利息の定めが利息制限法による利率の制限(元金が100万円以上の場合年1割5分)を超えていることは明らかであるけれども、任意に支払われた分については同法を適用してこれを救済することはできない。
 2.債務者が貸金債務の残存元本は一定金額を超えて存在しないことを確認することを求める訴えを提起した場合に、債務の残元本が債務者主張の一定金額を超えることは明らかであるとして、主文において残債務額を明確にすることなく、単に請求棄却を掲記した事例。 /債務不存在確認請求/消極的確認訴訟/判決事項/
参照条文: /民訴.246条/民訴.133条2項/利息制限.1条/
全 文 s390113wakayamaD.html

最高裁判所 昭和 38年 12月 27日 第2小法廷 判決 ( 昭和37年(オ)第810号 )
事件名:  所有権移転登記手続等請求上告事件
要 旨
 売主およびその相続人の共有不動産が売買の目的とされた場合において、売主が死亡し、相続人が限定承認をしなかったときは、買主が当該不動産の共有者を知っていたかどうかを問わず、相続人は、無限に売主である被相続人の権利義務を承継するから、右売買契約成立当時、共有者の一員として、当該不動産に持分を有していたことを理由とし、その持分について右売買契約における売主の義務の履行を拒みえない。(反対意見あり) /他人物売買/売主の担保責任/
参照条文: /民法:560条/民法:896条/
全 文 s381227supreme.html

大阪高等裁判所 昭和 38年 12月 5日 第9民事部 判決 ( 昭和37年(ネ)第659号 )
事件名:  動産引渡請求・控訴事件
要 旨
 譲渡担保権は会社更生法62条に定める取戻権であるが、譲渡担保権者がその債権とともに譲渡担保権を届け出でた場合には、譲渡担保権について何の定めをしていない更生計画を認可する決定が確定したことにより、譲渡担保権は消滅したとされた事例。
 1.一般に会社更生法上、譲渡担保権は、会社更生法62条に定める取戻権であつて、更生手続外で、その行使をすることが認められていると解するのが相当である。
 2.譲渡担保権は債権の担保的機能に着眼したときは、抵当権や質権と同じ作用を営むものであり、特にその更生手続への参加を許さないとする規定はないのであるから、譲渡担保権者が更生手続に参加しようとする場合には、更生手続上、抵当権や質権に準じて取り扱い、譲渡担保権者が、更生裁判所に屈け出でた債権については、更生担保権としての処理がなさるべきである。
 2a.譲渡担保権者が更生手続に参加したときは、更生計画案の作成及び決議のため、更生担保権者の組の中に、譲渡担保権者の組を設け、その組に組み入れられて、抵当権や質権などの更生担保権者より、より優先的な地位が与えられるべきである。
 2b.債権者が債権を届け出でるに当り、その担保として抵当権と譲渡担保権を届け出でた場合には、更生裁判所は、抵当権について更生担保権者として取り扱うのは勿論のこと、更生担保権者の組の中に譲渡担保権者の組を設けて、これにも債権者を組み入れ、その利益の保護をはかるべきである。 /倒産処理/
参照条文: /s27.会社更生法:62条;67条1項;123条;124条;126条;159条;241条/
全 文 s381205osakaH.html

最高裁判所 昭和 38年 10月 30日 大法廷 判決 ( 昭和35年(オ)第362号 )
事件名:  株券返還請求上告事件
要 旨
 1.留置権の被担保債権の債務者からの目的物の引渡請求訴訟における留置権の抗弁は、被担保債権についての権利主張を含んでおり、被担保債権につき消滅時効の中断の効力がある。留置権の抗弁が撤回されない限り、時効中断の効力も訴訟係属中存続し、訴訟の終結後6ケ月内に他の強力な中断事由に訴えれば、時効中断の効力は維持される。
 2.訴訟上の留置権の主張は反訴の提起ではなく、単なる抗弁に過ぎず、訴訟物である目的物の引渡請求権と留置権の原因である被担保債権とは全く別個な権利であるから、目的物の引渡請求訴訟において、留置権の抗弁を提出し、その理由として被担保債権の存在を主張したからといって、被担保債権について訴の提起に準ずる時効中断の効力があるということはできない(反対意見あり)。
参照条文: /民法:145条/民法:147条/民法:153/民法:174-2条/民訴.147条/
全 文 s381030supreme.html

最高裁判所 昭和 38年 10月 30日 大法廷 判決 ( 昭和35年(オ)第924号 )
事件名:  貸金請求上告事件
要 旨
 1.弁護士法25条1号違反の訴訟行為については、相手方たる当事者は、これに異議を述べ、裁判所に対しその行為の排除を求めることができる。
 2.相手方たる当事者が弁護士に弁護士法25条1号の禁止規定の違反のあることを知り又は知り得べかりしにかかわらず何ら異議を述べることなく訴訟手続を進行せしめ、第二審の口頭弁論を終結せしめたときは、当該訴訟行為は完全にその効力を生じ、弁護士法の禁止規定に違反することを理由として、その無効を主張することは許されない。
参照条文: /弁護士.25条1号/
全 文 s381030supreme2.html

最高裁判所 昭和 38年 10月 15日 第3小法廷 判決 ( 昭和37年(オ)第938号 )
事件名:  土地境界確認等請求上告事件
要 旨
 1.土地の境界確定訴訟において、原審の定めた境界線が明確でないことを理由に原判決が破棄された事例。
 2.境界確定訴訟にあつては、裁判所は当事者の主張に覊束されることなく、自らその正当と認めるところに従つて境界線を定むべきものであつて、客観的な境界を知り得た場合にはこれにより、客観的な境界を知り得ない場合には常識に訴え最も妥当な線を見出してこれを境界と定めるべきであり、このように定められた境界が当事者の主張以上に実際上有利であるか不利であるかは問うべきではなく、当事者の主張しない境界線を確定しても民訴186条(現246条)の規定に違反しない。
 3.第一審判決が一定の線を境界と定めたのに対し、これに不服のある当事者が控訴の申立をした場合においても、控訴裁判所が第一審判決の定めた境界線を正当でないと認めたときは、第一審判決を変更して、自己の正当とする線を境界と定むべきものであり、その結果が控訴人にとり実際上不利であり、附帯控訴をしない被控訴人に有利であっても問うところではなく、この場合には、いわゆる不利益変更禁止の原則の適用はない。(破棄理由) /処分権主義/
参照条文: /民訴.2編1章/民訴.246条/民訴.304条/
全 文 s381015supreme.html

最高裁判所 昭和 38年 10月 15日 第3小法廷 判決 ( 昭和35年(オ)第198号 )
事件名:  不動産登記抹消請求・上告事件
要 旨
 1.土地を売り渡した旨の私人件成の売渡証書と右証書による売買は登記を終了した旨の登記官吏の登記済の記入部分とが結合して記載された文書が証拠として提出された場合に、売渡証書の部分は依然として私文書たる性質を失うものではないとされた事例。(売渡証書部分の成立の真正が原審により否定された事例)
 2.一般の場合には、登記簿上の不動産所有名義人は反証のない限りその不動産を所有するものと推定すべきである。
 2a. 登記簿上の不動産の直接の前所有名義人が現所有名義人に対し当該所有権の移転を争う場合においては、所有名義人が所有者であるとの推定をなすべき限りでなく、現所有名義人が前所有名義人から所有権を取得したことを立証すべき責任を有する。(現所有者の提出した証拠ではその主張する土地売買の成立を認定するに足りないと原審が判断した事例) /要件事実/証明責任/立証責任/
参照条文: /民法:188条/民事訴訟法:325条/
全 文 s381015supreme2.html

最高裁判所 昭和 38年 6月 25日 第3小法廷 判決 ( 昭和35年(オ)第443号 )
事件名:  滞納処分による剰余金決定に対する変更請求・上告事件
要 旨
 第二次納税義務者である無限責任社員の財産上に設定された抵当権と国税債権との優劣の判定要素となる無限責任社員の国税納期限は、旧国税徴収法6条所定の無限責任者社員に対する納付通知書に指定された納期日と解すべきであるとされた事例。
 1.無限責任社員は 旧国税徴収法(明治30年法律21号)3条にいう納税人に該当し、同人の固有財産の上に抵当権を有する者は、会社財産の上に抵当権を有する者と同様、同条所定の要件を具備するのでなければ、国税に対してその先取権(優先権)を主張し得ない。
 2.旧国税徴収法3条が、納税人の財産の上に存する抵当権であつても、特にその設定が国税の納期限より一箇年前にあるものに限り、その債権に対して国税を優先せしめないこととしているのは、抵当権を設定させて金融を行う者が債務者の資産信用状態を調査することの難易を考慮し、設定当時抵当権者の予測し難い国税の滞税によつて債権の満足が妨げられるようなことがあつては、抵当金融制度の根底を動揺せしめることとなるので、かかる結果をさけるため、右の要件を備える抵当権に対しては国税徴収優先の原則を適用することを断念し、もつて抵当金融制度を保護せんとする趣旨に出たものである。
 2a.無限責任社員の固有財産の上に設定された抵当権の効力と無限責任社員の第二次納税義務徴収との優劣の問題を決定するについても、旧国税徴収法3条の一箇年の期間は、無限責任社員の納期限より起算すべきであつて、主たる納税義務者たる会社の納期限によるべきものではない。(法改正あり。メモ1参照)
 2b.無限責任社員の納期限は、無限責任社員に対する旧国税徴収法6条所定の納付通知書に指定された納期日と解するのが相当である。 /租税債権/
参照条文: /m30.国税徴収法:3条;29条/m30.国税徴収法施行細則:7条/
全 文 s380625supreme.html

福岡高等裁判所 昭和 38年 6月 19日 決定 ( 昭和38年(ラ)第61号 )
事件名: 
要 旨
 民法389条が適用されるためには、抵当権設定当時に土地の上に建物の存在しないこと、建物が抵当権設定者によって築造され彼の所有にあることを要し、建物が第三者に譲渡された場合には適用されない。
参照条文: /民法:389条/民執.71条/
全 文 s380619hukuokaH.html

最高裁判所 昭和 38年 4月 23日 第3小法廷 判決 ( 昭和35年(オ)第955号 )
事件名:  建物収去土地明渡請求上告事件
要 旨
 借地契約が終了した場合に、借地上の建物の賃借人が建物所有者の土地賃貸人に対する建物買取請求権を代位行使しようとしたが、認められなかった事例。
 1.債権者が民法423条により債務者の権利を代位行使するには、その権利の行使により債務者が利益を享受し、その利益によつて債権者の権利が保全されるという関係が存在することを要する。
 1a.建物買取請求権の行使により賃貸人が受けるべき利益は建物の代金債権に過ぎず、これにより建物賃借人の賃借権が保全されるものでないから、建物賃借人が賃借権の保全のために建物買取請求権を代位行使することは許されない。 /債権者代位権/
参照条文: /民法:423条/借地借家.13条/
全 文 s380423supreme.html

最高裁判所 昭和 38年 3月 12日 第3小法廷 判決 ( 昭和34年(オ)第44号 )
事件名:  所有権取得登記抹消請求上告事件
要 旨
 1.所有権移転請求権保全の仮登記のなされている建物を共同して取得した被告らに対して、右仮登記に基づき本登記を経由した原告が、右共有名義の所有権移転登記の抹消登記手続を請求する訴訟は、必要的共同訴訟である。
 1a.必要的共同訴訟人の一人は控訴期間内に適法に控訴を提起したが、他の者の提起した控訴は控訴期間経過後であるため却下された場合に、前者の控訴の効果は後者にも及び、後者は控訴人の地位に就くとされた事例。
参照条文: 固有必要的共同訴訟
全 文 s380312supreme.html

最高裁判所 昭和 38年 3月 8日 第2小法廷 判決 ( 昭和35年(オ)第197号 )
事件名:  貸金請求上告事件
要 旨
 1.訴が予備的に併合された場合には、主たる請求を排斥する裁判をするときは、同時に予備的請求についても裁判することを要し、これを各別に判決することは許されない。 /請求の予備的併合/
参照条文: /民訴.136条/民訴.243条/
全 文 s380308supreme.html

最高裁判所 昭和 38年 2月 22日 第2小法廷 判決 ( 昭和35年(オ)第1197号 )
事件名:  登記抹消登記手続請求上告事件
要 旨
 1.相続財産に属する不動産につき単独所有権移転の登記をした共同相続人中の乙ならびに乙から単独所有権移転の登記をうけた第三取得者丙に対し、他の共同相続人甲は自己の持分を登記なくして対抗しうる。
 1a.この場合に甲がその共有権に対する妨害排除として登記を実体的権利に合致させるため乙・丙に対し請求できるのは、各所有権取得登記の全部抹消登記手続ではなくして、甲の持分についてのみの一部抹消(更正)登記手続である。
 2.上記の事例において甲が乙・丙の登記全部の抹消登記手続を請求している場合でも、この更正登記は実質において一部抹消登記であるから、裁判所が原告の持分についてのみ更正登記を命ずることは、原告の申立の範囲内でその分量的な一部を認容することに外ならず、当事者の申し立てない事項について判決をした違法はない。
 3.適法な呼び出しを受けながら当事者が判決言渡期日に出頭しない場合に、期日に言渡が延期され次回言渡期日が指定告知されたときは、その新期日につき不出頭の当事者に対しても告知の効力を生ずる。 /処分権主義/
参照条文: /民法:177条/民法:898条/民法:249条/不登.63条/民訴.246条/民訴.94条/民訴.119条/
全 文 s380222supreme.html

最高裁判所 昭和 38年 2月 21日 第1小法廷 判決 ( 昭和35年(オ)第480号 )
事件名:  和解契約無効確認等請求事件
要 旨
 貸金請求事件における被告の訴訟代理人の和解の権限には、和解の一条項として、当該貸金債権の担保のために、訴訟対象外の被告所有不動産に抵当権を設定する契約をなす権限も包含される。 /訴訟代理権/
参照条文: /t15.民事訴訟法:81条;203条/
全 文 s380221supreme.html

最高裁判所 昭和 38年 2月 21日 第1小法廷 判決 ( 昭和34年(オ)第975号 )
事件名:  建物収去、土地明渡並びに反訴請求・上告事件
要 旨
 一審において原告の土地明渡請求に対し、被告が賃借権を有する旨を主張し、一審が賃借権を認めて原告の請求を棄却し、原告の控訴提起後に被告が賃借権確認の反訴を提起した場合に、原告がこの反訴に同意しない旨を述べ、また、原告が訴えを賃借権不存在確認に変更し、被告がこれに異議がない旨を述べたときでも、反訴は適法であるとされた事例。
 1.一審において原告の土地明渡請求に対し、被告が賃借権を有する旨を主張し、一審が賃借権を認めて原告の請求を棄却し、これに対して原告が控訴を提起し、被告が賃借権確認の反訴を提起した場合に、このような反訴は原告(控訴人)をして一審を失う不利益を与えるものとは解されず、従って、この反訴提起については同人の同意を要しない。
参照条文: /t15.民事訴訟法:239条;382条/
全 文 s380221supreme2.html

最高裁判所 昭和 38年 1月 18日 第2小法廷 判決 ( 昭和34年(オ)第1099号 )
事件名:  境界確認請求・上告事件
要 旨
 1.控訴審における境界確定の訴えから所有権確認の訴えへの交換的変更が著しい訴訟手続の遅延をもたらすものでなく、この変更を控訴審が許可したことに違法はないとされた事例。
 2.新訴により旧訴の請求の趣旨又は原因を変更した場合に、相手方がこれに対し異議を述べずに新訴につき弁論をしたときは、相手方は旧訴の取下につき暗黙の同意をしたものと解するのを相当とする。(異議なく新訴につき弁論をしたと認められた事例)
 3.旧訴たる境界確定の訴え提起によつて生じた所有権取得時効を中断する効力が、その後の所有権確認の訴えへの交替的変更にも拘わらず、失効しないとされた事例。
 3a.係争地域が原告の所有に属することの主張は終始変わらず、単に請求の趣旨を境界確定から所有権確認に交替的に変更したに過ぎないような場合には、裁判所の判断を求めることを断念して旧訴を取下げたものとみるべきではないから、訴えの終了を意図する通常の訴えの取下げとはその本質を異にし、民法149条の律意に徴して同条にいわゆる訴えの取下中にはこのような場合を含まないものと解するを相当とする。 /取得時効の中断/
参照条文: /民法:149条/t15.民事訴訟法:232条/
全 文 s380118supreme2.html

最高裁判所 昭和 38年 1月 18日 第2小法廷 判決 ( 昭和36年(オ)第449号 )
事件名:  建物明渡請求・上告事件
要 旨
 1.借家法1条1項により、建物につき物権を取得した者に効力を及ぼすべき賃貸借の内容は、従前の賃貸借契約の内容のすべてにわたり、賃料前払のごときもこれに含まれる。
参照条文: /借家法:1条/
全 文 s380118supreme.html

最高裁判所 昭和 37年 12月 25日 第3小法廷 判決 ( 昭和35年(オ)第507号 )
事件名:  所有権移転登記手続履行建物収去土地明渡(反訴)請求・上告事件
要 旨
  譲渡所得税の賦課に関しては買主側において税務署と折衝して法律上可能な限り税額を低きに止めるように努力するとの旨の諒解事項があったが、右言明が売主主張の如き本件売買契約の内容にまでなるというような強い効力を持つものであったとの事実は認められないとされた事例。
 1.動機の錯誤が法律行為の無効を来たすためには、その動機が明示又は黙示に法律行為の内容とされていて、若し錯誤がなかったならば表意者はその意思表示をしなかったであろうと認められる場合でなければならない。
参照条文: /民法:95条/
全 文 s371225supreme2.html

最高裁判所 昭和 37年 12月 25日 第3小法廷 判決 ( 昭和35年(オ)第123号 )
事件名:  農地強制譲渡無効確認等請求上告事件
要 旨
 1.訴の利益がないことを理由とする第一審判決が本案そのものの当否について何等の審理判断をも加わえていない場合に、訴えを適法として判断する控訴審が原判決を取り消したうえで本案判決をすることは、民訴388条(現307条本文)に違反して許されないとされた事例。 /審級の利益/
参照条文: 民訴.307条
全 文 s371225supreme.html

最高裁判所 昭和 37年 11月 30日 第2小法廷 判決 ( 昭和35年(オ)第1065号 )
事件名:  所有権確認等請求・上告事件
要 旨
 山林の所有権確認請求および山林の立木所有権侵害を理由とする損害賠償請求の双方を棄却する第一審判決に対して原告が控訴を提起し、控訴審が両請求を認容した場合に、被告が、上告審において、控訴状に所有権確認部分の訴訟物の価額に対応する額の印紙しか貼用されていないから控訴状は却下されるべきであったと主張したところ、控訴人が上告審の補正命令に応じて印紙の不足額を追貼したときは、控訴状は当初に遡つて有効となると説示された事例。
 1.訴訟書類の貼用印紙に不足があつた場合において、その不足額が上級審において追貼されれば、その瑕疵が補正されてその書類は当初に遡つて有効となる。
参照条文: /民事訴訟法:228条/民事訴訟用印紙法:11条/
全 文 s371130supreme.html

最高裁判所 昭和 37年 10月 24日 大法廷 判決 ( 昭和36年(オ)第496号 )
事件名:  登録取消処分無効確認等請求・上告事件
要 旨
 1.宅地建物取引業者の業務運営が適正を欠くときは一般社会に与える損害は甚大であり、公共の福祉を害する虞あることは明白であり、かような事情にかんがみれば、法律がその業務運営の適正を期するため取引主任者制度を設けて、業者に宅地建物取引業に関し必要な知識を有することを要求すると共に、前記の趣旨および程度の営業保証金の制度を設け、業者と取引する関係者に対し不測の経済的損害を蒙る虞を除去し、その信頼度を高めることとしたことは、公共の福祉を維持するための必要な規制措置として是認さるべきものである。
 1a.営業保証金の制度は、既存の業者についても、憲法22条に違反するものということはできない。
 2.上告理由として記録添付の書面を援用することは許されない。
 2a. 「原判決が引用した第一審判決理由に対する上告人の抗弁は、控訴状ならびに昭和35年8月9日付、同年9月15日付及び同年12月17日付の各準備書面を援用する」との主張は、上告論旨として不適法であるとされた事例。 /職業選択の自由/
参照条文: / 宅地建物取引業法の一部を改正する法律(昭和32年法律131号):附則6項;附則8項;12-2条;12-5条1項/宅地建物取引業法:20条2項/憲法:22条/
全 文 s371024supreme.html

最高裁判所 昭和 37年 9月 21日 第2小法廷 判決 ( 昭和36年(オ)第71号 )
事件名:  売掛代金請求上告事件
要 旨
 挙証者が、控訴状とともに証拠文書を裁判所に郵送したまま口頭弁論に終始出頭しなかった場合に、その証拠文書の提出があったとさなれかった事例。
 1.当事者が自ら所持する書証は、裁判所外における取調を求める場合の外は、口頭弁論期日(又は準備手続期日)にこれを提出して、証拠調の申出をすべきものである。 /証拠の申出/
参照条文: /民訴.219条/民訴.180条/
全 文 s370921supreme.html

最高裁判所 昭和 37年 9月 21日 第2小法廷 判決 ( 昭和35年(オ)第252号 )
事件名:  建物取除、土地明渡等本訴並びに反訴請求上告事件
要 旨
 銀行を支払人とする小切手が取引界において通常その支払が確実なものとして現金と同様に取り扱われているものであると認定できる場合に、この小切手による提供をもつて債務の本旨に従つてなされた履行の提供と認めるのが相当であるとされた事例。
参照条文: /民法:493条/
全 文 s370921supreme2.html

最高裁判所 昭和 37年 9月 18日 第3小法廷 判決 ( 昭和34年(オ)第618号 )
事件名:  抵当権移転登記手続等請求・上告事件
要 旨
 1.根抵当権者の有する被担保債権が確定債権となつた場合には、その根抵当権は普通の抵当権と同一に帰するので、弁済を為すにつき正当の利益を有する者がその債務の全額を弁済したときは、右弁済者は法定代位により右債権及び抵当権を取得する。 /連帯保証人/弁済者代位/原債権の代位取得/
参照条文: /民法:500条;501条/
全 文 s370918supreme.html

最高裁判所 昭和 37年 9月 4日 第3小法廷 判決 ( 昭和35年(オ)第941号 )
事件名:  建物収去土地明渡請求上告事件
要 旨
 1
 民法388条は、土地建物の両方が同時に抵当権の目的となつている場合にも、競売(滞納処分による公売)の結果土地と建物の所有者が異なることになれば、適用される。
 2
 民法388条は、滞納処分としての公売により土地と建物の所有者が異なることになった場合にも類推適用される。 /法定地上権/
参照条文: /民法:388条/税徴.127条/
全 文 s370904supreme.html

最高裁判所 昭和 37年 9月 4日 3小法廷 判決 ( 昭和34年(オ)第117号 )
事件名:  損害賠償請求・上告事件
要 旨
 1.被控訴人(原告)が控訴審において提出した準備書面に請求の趣旨として「控訴人は被控訴人Bに対し金二〇万円、他の被控訴人に対しそれぞれ金一〇万円ならびにこれに対する昭和三一年一月二二日から完済まで年五分の割合の金員をも併せ支払せよ」との記載があり、それが控訴審の口頭弁論期日に陳述された場合に、右書面はその内容上、附帯控訴および請求の拡張の申立書と解するのが相当であるとされた事例。
 2.原動機付自転車に乗った通行人が夜間国道上を通行中、暗渠新設工事のため同国道上に横たえられた枕木に激突、転倒し、死亡した場合、その工事が国道の管理者の許可を受けない等違法のものであっても、その死亡による損害は同国道の管理に瑕疵があったため生じたものというべきであり、国道管理者である大分県が国道管理の暇疵に基づき発生した本件事故の損害を賠償する責に任じなければならないとした原審判断は証拠関係に照らし相当であるとされた事例。
 3.不法行為によりこうむった損害の賠償債務は、損害の発生と同時に、なんらの催告を要することなく、遅滞に陥るものと解するのが相当である。
参照条文: /国家賠償法:2条1項/民法:412条/道路法:32条/t15.民事訴訟法:374条;367条;371条;385条;243条1項/
全 文 s370904supreme2.html

最高裁判所 昭和 37年 8月 10日 第2小法廷 判決 ( 昭和35年(オ)第359号 )
事件名:  損害賠償請求上告事件
要 旨
 一個の債権の数量的な一部についてのみ判決を求める旨を明示して訴が提起された場合は、訴訟物となるのは右債権の一部の存否のみであり、一部の請求についての確定判決の既判力は残部の請求に及ばない。 /一部請求/
参照条文: /民訴.114条1項/民訴.246条/
全 文 s370810supreme.html

大阪高等裁判所 昭和 37年 7月 26日 判決 ( 昭和36年(ネ)第1256号・昭和37年(ネ)第237号 )
事件名: 
要 旨
 1.原告が民法715条に基づいて賠償請求している場合でも、自賠法3条の要件が主張されている場合には、特別規定たる自賠法3条が優先的に適用され、まず自賠法3条に基づく請求として判断すべきである(訴訟物/法条競合)。
 2.自賠法3条にいわゆる「自己のために」とは、自動車の運行自体による利益を自己に帰属させることをいうのであつて、具体的に運行自体の利益を自己に帰属させる者だけでなく、一般的・抽象的にあるいは外形上運行自体の利益を自己に帰属させる者も、「自己のために自動車を運行の用に供する者」であると解すべきである。
 3.
 自賠法3条の運行供用者責任が認められた事例。
参照条文: /民訴.133条/民訴.246条/自賠.3条/自賠.4条/民法:715条/
全 文 s370726osakaH.html

最高裁判所 昭和 37年 7月 13日 第2小法廷 判決 ( 昭和34年(オ)第577号 )
事件名:  清算残金請求・上告事件
要 旨
 1.組合の清算人は組合の代理人として組合の名において組合の債権の取立訴訟を提起し得るは格別として、清算人が自己の名において当然にかかる訴訟を提起する権限を有するものでないことは勿論であり、たとえ組合員によりその主張のような権限を授与された事実ありとしても、それによつて適法ないわゆる任意的訴訟担当の信託があつたものとすることはできない。
 1a.かくのごとき場合においては民訴47条によつて訴訟の当事者となるべきものを選定すべきであり、同条によることなく、本件のごとき場合に訴訟担当の任意的信託をみとめることは許されない。 /当事者適格/訴訟要件/訴えの主観的利益/正当な当事者/任意的訴訟信託/
参照条文: /t15.民事訴訟法:46条;47条;1編2章/民法:688条1項;78条/
全 文 s370713supreme.html

東京地方裁判所 昭和 37年 6月 18日 民事第25部 判決 ( 昭和36年(ワ)第8822号 )
事件名:  売掛代金請求事件
要 旨
 清算会社の債務者が特別清算開始決定前に他から譲り受けて同決定後に対抗要件を得た債権を自働債権として相殺することはできないとされた事例。
 1.大正11年破産法104条2号の「破産宣告の後他人の破産債権を取得した」との規定は、取得原因が破産宣告前であつて、対抗要件が破産宣告後であるときも適用される。
 1a,上記のことは、 商法456条により破産法104条2号が準用される特別清算についても妥当する。
参照条文: /t11.破産法:104条/民法:467条/商法:456条/
全 文 s370618tokyoD.html

最高裁判所 昭和 37年 6月 12日 第3小法廷 判決 ( 昭和34年(オ)第355号 )
事件名:  火災保険料請求・上告事件
要 旨
 「保険期間が始マリタル後ト雖モ保険料領収前ニ生ジタル損害ハ当社之ヲ填補スル責ニ任ゼズ」との条項を含む火災保険普通保険約款に従った保険契約が締結されたが、保険契約者が保険料の支払をしなかったため、保険者が解除の意思表示をした場合に、保険会社が保険契約者に対して、保険期間の始期たる昭和29年12月29日午後4時より契約解除の効果を生じた昭和30年7月25日までの期間火災による危険担保の責任を負担したと主張して、その間の保険料を請求したが、認められなかった事例。
 1.保険者が保険契約者の保険料不払により民法541条に従い契約を解除することは許される。
 2.保険契約が保険契約者の保険料不払により民法541条に従い契約を解除された場合に、解除の効力は将来に向かってのみ生ずるのではない。
参照条文: /民法:541条/
全 文 s370612supreme.html

最高裁判所 昭和 37年 5月 24日 第1小法廷 判決 ( 昭和35年(オ)第18号 )
事件名:  請求異議上告事件
要 旨
 1.確定判決上の権利と雖も信義に従い誠実に行使すべきであって、これを濫用してならない。
 2.自動車事故の被害者が将来の営業活動が不能なほどに負傷したことを前提の下に損害賠償請求を認容した判決が確定した後に、被害者の負傷が快癒し、自らの力を以て営業可能の状態に回復するとともに、電話を引きなどして堂々と営業を営んでいる程に事情が変更し、他方において、加害者は損害賠償債務の負担を苦にして列車に飛込自殺をするなどの事故があったにも拘らず、被害者が判決確定後5年の後に至って加害者の父母らに対し確定判決たる債務名義に執行文の付与を受け、突如としてその全不動産について強制競売の申立てをなすに及んだものとすれば、その強制執行は権利濫用に当たらないとはいえないとして、請求異議を認めなかった原判決が審理不尽を理由に破棄された事例。 /既判力/
参照条文: /民執.35条/民法:1条/
全 文 s370524supreme.html

東京高等裁判所 昭和 37年 5月 23日 判決 ( 昭和36年(ネ)第2383号 )
事件名:  配当表異議控訴事件
要 旨
 請求内容が特定しないため民訴202条(現140条)により却下された配当異議の訴えについて、控訴審で補正がなされたため、原判決が取り消されて原審への差戻しがなされた事例。 /訴訟物の特定/請求の特定/訴状の必要的記載事項/審級の利益/
参照条文: /民訴.133条/民訴.140条/民訴.307条/
全 文 s370523tokyoH2.html

東京高等裁判所 昭和 37年 5月 23日 第12民事部 判決 ( )
事件名:  土地境界確認等請求控訴事件
要 旨
 1.土地の境界確定訴訟において、控訴審が原判決と判断を異にして被控訴人の有利に認定したが、被控訴人が原判決に不服を申し立てていないので原判決を変更しないとされた事例。
 (処分権主義/不利益変更禁止)
参照条文: /民訴.304条/
全 文 s370523tokyoH.html

最高裁判所 昭和 37年 4月 20日 第2小法廷 判決 ( 昭和35年(オ)第3号 )
事件名:  土地引渡所有権移転登記手続等請求上告事件
要 旨
 1.本人が無権代理人を相続した場合においては、相続人たる本人が被相続人の無権代理行為の追認を拒絶しても、何ら信義に反するところはないから、被相続人の無権代理行為は一般に本人の相続により当然有効となるものではない。(破棄理由)
 2.無権代理人が本人を相続した場合においては、自らした無権代理行為につき本人の資格において追認を拒絶する余地を認めるのは信義則に反するから、右無権代理行為は相続と共に当然有効となる。(傍論)
参照条文: /民法:113条/民法:117条/民法:896条/
全 文 s370420supreme.html

大阪高等裁判所 昭和 37年 3月 14日 第6民事部 判決 ( )
事件名:  所有権移転登記等請求控訴事件
要 旨
 1.他人の不動産の売買契約において売主がその不動産の所有権を取得することは履行の準備行為にすぎず、売主が解約手附を放棄して解約することを妨げるものではない。
 2.売買契約の履行期限前に所有権仮登記をなすことが合意されていない場合には、買主が仮登記仮処分により所有権移転仮登記を得ても、仮登記原因のない不当な仮登記であるから、買主の側の履行の着手(民法557条)と見ることはできない。
 (履行の著手)
参照条文: /民法:557条/不登.2条/不登.32条/
全 文 s370314osakaH.html

最高裁判所 昭和 37年 2月 28日 大法廷 判決 ( 昭和31年(あ)第1071号 )
事件名:  所得税法違反・上告事件
要 旨
 給与所得者の所得税に関する源泉徴収制度は、憲法29条・14条・18条の規定に違反しないとされた事例。
 1.憲法29条
 
 源泉徴収義務者の徴税義務は憲法の条項に由来し、公共の福祉によつて要請されるものであるから、この制度は所論のように憲法29条1項に反するものではなく、また、この制度のために、徴税義務者において、所論のような負担を負うものであるとしても、右負担は同条3項にいう公共のために私有財産を用いる場合には該当せず、同条項の補償を要するものでもない。
 2.憲法14条(納税者について)
 
 租税はすべて最も能率的合理的な方法によつて徴収せらるべきものであるから、同じ所得税であつても、所得の種類や態様の異なるに応じてそれぞれにふさわしいような徴税の方法、納付の時期等が別様に定められることはむしろ当然であつて、それ等が一律でないことをもつて憲法14条に違反するということはできない。
 2a. 憲法14条(徴税義務者について)
 
 法は、給与の支払をなす者が給与を受ける者と特に密接な関係にあつて、徴税上特別の便宜を有し、能率を挙げ得る点を考慮して、これを徴税義務者としているのであり、かような合理的理由がある以上これに基いて担税者と特別な関係を有する徴税義務者に一般国民と異なる特別の義務を負担させたからとて、これをもって憲法14条に違反するものということはできない。
参照条文: /憲法:14条;29条/所得税法(昭和27年3月30日法律53号による改正前のもの):38条;69-3条/
全 文 s370228supreme91.html

最高裁判所 昭和 37年 1月 19日 第2小法廷 判決 ( 昭和36年(オ)第469号 )
事件名:  認知請求上告事件
要 旨
 補助参加人は、被参加人のために定められた控訴申立期間内に限つて控訴の申立をなしうる。
参照条文: /民訴.285条/民訴.45条1項/
全 文 s370119supreme.html

最高裁判所 昭和 36年 12月 15日 第2小法廷 判決 ( 昭和32年(オ)第1222号 )
事件名:  約束手形金請求上告事件
要 旨
 1.不特定物を給付の目的物とする債権において、給付せられたものに隠れた瑕疵があつた場合には、債権者が一旦これを受領したからといつて、それ以後債権者が右の瑕疵を発見し、既になされた給付が債務の本旨に従わぬ不完全なものであると主張して改めて債務の本旨に従う完全な給付を請求することができなくなるわけのものではない。
 1a.上記の場合に、債権者は受領後もなお、取替ないし追完の方法による完全な給付の請求をなす権利を有し、従つてまた、その不完全な給付が債務者の責に帰すべき事由に基づくときは、債務不履行の一場合として、損害賠償請求権および契約解除権をも有する。 /瑕疵担保責任/不完全履行/完全履行請求権/売主の担保責任/
参照条文: /民法:415条/民法:541条/民法:570条/
全 文 s361215supreme.html

最高裁判所 昭和 36年 12月 13日 大法廷 決定 ( 昭和36年(ク)第101号 )
事件名:  破産者の免責決定に対する抗告棄却決定に対する特別抗告事件
要 旨
 1.破産免責の規定は、公共の福祉のため憲法上許された必要かつ合理的な財産権の制限であり、憲法29条各項に違反するものではない。 /人間に値する生活を営む権利/誠実な破産者の免責による更生/
参照条文: /憲法:29条;13条/t11.破産法.366-12条/
全 文 s361213supreme.html

最高裁判所 昭和 36年 8月 31日 第1小法廷 判決 ( 昭和35年(オ)第684号 )
事件名:  実用新案出願拒絶査定に対する抗告審判の審決取消請求上告事件
要 旨
 1.実用新案登録出願を拒絶すべき旨の審決を取り消すか否かは、登録を受ける権利を共同して有する者全員について合一にのみ確定すべきものであるから、その審決取消の訴は共同権利者全員が共同して提起することを要する。(固有必要的共同訴訟)
 1a .実用新案登録の共同出願人の一人が登録出願拒絶査定に対する抗告審判の審決取消請求訴訟を提起した場合に、その後にその者が他の者の登録を受ける権利の持分全部を譲り受けて単独の権利人となったが、出訴期間内にその旨の名義変更の届出がなかった以上、持分譲渡の事実を特許庁に対抗することができないとして、訴えが却下された事例。 /知的財産権/無体財産権/工業所有権/実用新案権/当事者適格/訴訟要件/
参照条文: /行訴.32条1項/実用新案.416条/特許.132条3項/民訴.40条/
全 文 s360831supreme.html

東京地方裁判所 昭和 36年 8月 31日 八王子支部 判決 ( 昭和36年(ワ)第446号 )
事件名:  土地所有権移転登記抹消及
要 旨
 1.請求原因となる具体的事実の態様が同時に管轄決定の標準となる場合においては、原告の主張する事実、その態様によって管轄の有無を決すべきである。
 1a. 管轄の基準となる不法行為地とは主たる行為地に限らず、該当事実の一部の発生地でよい。
 1b.原告所有の北海道所在の土地について、北海道居住の被告が東京都内居住の原告の住所地においてした行為により原告から被告への所有権移転登記がなされたと主張して、原告が、所有権移転登記抹消登記請求と損害賠償請求の訴えを不法行為の一部がなされた原告住所地を管轄する東京地裁に提起した場合に、不法行為による損害賠償請求について管轄権を有する東京地裁が登記抹消請求についても併合管轄を肯定した事例(損害賠償請求は損害額の証明がないとして棄却され、抹消登記請求のみが認容された事例)。/併合請求の裁判籍/
 2.戦前の旧民法・旧戸籍法下でなされた認知ついて、認知届は違法であるといえるが、それが受理された以上、届出人(出生中の父)に認知の真意が認められる本件においては、右はなんら認知の効力を防げるものではないとされた事例。
 3.前主の占有期間と併せて土地の時効取得が主張された場合に、前主の占有の始めに悪意又は過失があるとされ、取得時効が否定された事例。
参照条文: /t15.民事訴訟法:15条;21条/民法:162条2項/
全 文 s360831tokyoD.html

最高裁判所 昭和 36年 7月 20日 第1小法廷 判決 ( 昭和34年(オ)第779号 )
事件名:  所有権移転登記手続履行請求・上告事件
要 旨
 取得時効完成後に元の所有者から第三者への所有権移転登記がなされたが、その時からさらに10年の取得時効が完成した場合に、占有者は、その第三者に対して、登記を経由していなくても時効取得をもって対抗することができるとされた事例。
 
 1.時効が完成しても、その登記がなければ、その後に登記を経由した第三者に対しては時効による権利の取得を対抗しえないのに反し、第三者のなした登記後に時効が完成した場合においては、その第三者に対しては、登記を経由しなくとも時効取得をもつてこれに対抗しうる。
参照条文: /民法:162条2項;177条/
全 文 s360720supreme.html

最高裁判所 昭和 36年 7月 19日 大法廷 判決 ( 昭和30年(オ)第260号 )
事件名:  詐害行為取消請求・上告事件
要 旨
 抵当不動産(家屋)の売主(債務者)が買主(詐害行為取消権者)に所有権移転登記・引渡をすることなく抵当債権者(受益者/債務者の母方の従兄弟)に代物弁済として譲渡し、受益者がさらに転得者(本件被告/債務者の妻の伯父)に譲渡し、債務者から転得者への所有権移転登記(中間省略登記)がなされた場合に(代物弁済及び所有権移転登記は、債権者の債務者に対する所有権移転登記請求の訴えの提起の後・認容判決の前。また、抵当権設定登記は抹消済み)、8万円の抵当債務の代物弁済として10万円以上の価値のある抵当家屋を譲渡したことが詐害行為にあたるとされ、買主は、転得者を被告にして、家屋の引渡請求権を被保全債権として、債務者の代物弁済行為の取消しを請求することができ、その取消しは家屋の価格から抵当債権額を控除した残額の部分に限って許されるとされた事例。
 1.民法424条の債権者取消権は、総債権者の共同担保の保全を目的とする制度であるが、特定物引渡請求権(特定物債権)といえどもその目的物を債務者が処分することにより無資力となった場合には、該特定物債権者は右処分行為を詐害行為として取り消すことができる。
 1a. 詐害行為の取消権を有する債権者は、金銭の給付を目的とする債権を有するものでなければならないとの見解(大審院大正7年10月26日民事連合部判決・民録24輯2036頁)は、採用しない。
 1b.債権者取消権は、総債権者の利益のため債務者の一般財産の保全を目的とするものであって、しかも債務者の無資力という法律事実を要件とするものであり、また、民法177条の場合と法律効果を異にするから、登記を了していない買主が既に登記した譲受人を被告にして詐害行為の取消しを求めることは、民法177条の法意に反するものではない。
 2.債権者取消権は債権者の共同担保を保全するため、債務者の一般財産減少行為を取り消し、これを返還させることを目的とするものであるから、右の取消しは債務者の詐害行為により減少された財産の範囲にとどまるべきものと解すべきである。
 2a.抵当家屋が抵当債務の代物弁済として譲渡したことが詐害行為になる場合には、その家屋の買主による引渡請求権を被保全債権とする取消しは、家屋の価格から抵当債権額を控除した残額の部分に限って許される。
参照条文: /民法:424条;177条/
全 文 s360719supreme.html

大阪地方裁判所 昭和 36年 7月 18日 第32民事部 判決 ( )
事件名: 
要 旨
 不動産の売買契約書において定められた手付金が損害賠償額の予定を兼ねた解約手附と解釈された事例。
参照条文: /民法:557条/民法:420条/
全 文 s360718osakaD.html

東京高等裁判所 昭和 36年 6月 15日 判決 ( 昭和35年(ネ)第633号、昭和36年(ネ)第513号 )
事件名:  金員返還請求控訴事件、同附帯控訴事件
要 旨
 会社整理開始命令に伴い発せられる弁済禁止の保全処分命令(商法386条1項1号)は、会社整理の必要上、会社財産の散逸を防止し、会社の再起更生を図るとともに、それにより総債権者の利益を平等に保護するため、とくに認められた制度であるから、弁済禁止の保全処分がある場合にこれに反して会社がした弁済は、相手方が悪意である場合には無効である。
参照条文: /商.386条/
全 文 s360615tokyoH.html

最高裁判所 昭和 36年 4月 27日 第1小法廷 判決 ( 昭和33年(オ)第619号 )
事件名:  不動産所有権移転登記手続等請求・上告事件
要 旨
 不動産の二重売買がなされ、第1買主の申立てに基づく処分禁止仮処分の登記が第2買主と売主との共謀により不法に抹消された後に第2買主への所有権移転登記がなされ、その後仮処分の登記を回復した第1買主(原告)が、売主と第2買主を被告にして、第2買主への所有権移転登記の抹消と自己への所有権移転登記を訴求している場合に、原告が≪第2売買による所有権移転登記が処分禁止仮処分登記に後れるものである≫ことを主張し、民法90条による無効を主張していないときであっても、第2売買が公の秩序、善良の風俗に反する行為に該当するとの評価を根拠付ける事実が原告によって主張されているのであれば、裁判所は、≪第2売買契約は民法90条により無効であり、第2買主は民法177条にいう第三者には該当しない≫と判断することができるとされた事例。
 1.山林について第1売買がなされてから20年以上経過してから横領の意図のもとに二重売買がなされた場合に、第2売買契約は、公の秩序、善良の風俗に反する行為であつて無効たるを免れない旨、並びに、従つて、第2買主は民法177条にいわゆる「第三者」に該当しないとされた事例。
 2.裁判所は当事者が特に民法90条による無効の主張をしなくとも同条違反に該当する事実の陳述さえあれば、その有効無効の判断をなしうるものと解するを相当とする。
 3.同一不動産についてなされた第1買主の第2買主に対する所有権移転登記抹消登記本訴請求と第2買主の第1買主に対する仮処分登記抹消登記反訴請求とは、その請求原因を異にし且つ訴訟物すなわち審判の対象となる権利または法律関係が同一であるとはいい難く、この反訴請求には民事訴訟用印紙法4条(本訴ト反訴ト其目的ガ同一ノ訴訟物ナルトキハ反訴ノ訴状ニ印紙ヲ貼用スルヲ要セス)の適用がないとされた事例。 /弁論主義/
参照条文: /民法:90条;民法177条/不動産登記法:4条/民事訴訟用印紙法:4条/
全 文 s360427supreme.html

最高裁判所 昭和 36年 4月 25日 第3小法廷 判決 ( 昭和32年(オ)第962号 )
事件名:  離婚請求上告事件
要 旨
 1.民法770条1項4号所定の離婚原因(強度の精神病)が婚姻を継続し難い重大な事由のひとつであるからといって、この離婚原因を主張して離婚の訴を提起した原告は、反対の事情のないかぎり同条項5号所定の離婚原因あることをも主張するものと解することは許されない。(/訴訟物/請求原因/)
 2.精神病にかかっているけれども回復の見込がないとは断じ得ないため民法770条1項4号の離婚原因がない場合に、精神病治療のため相当長期入院加療を要すること、並びに、原判決によって認定された原告の財政状態及び家庭環境の困難を考慮しても、5号の離婚原因の成立を認めることは相当でないとされた事例。
参照条文: /民法:770条1項/民訴.246条/
全 文 s360425supreme.html

最高裁判所 昭和 36年 4月 21日 第2小法廷 判決 ( 昭和35年(オ)第248号 )
事件名:  宅地買収不服、所有権確認請求・上告事件
要 旨
 1.農地の買収計画が公告されが、買収令書の交付される前に買収申請の取下があつたため買収計画が取り消された場合に、買収計画の無効確認を求めるについて法律上の利益を欠くに至つたとされた事例。
 2.控訴審における訴の変更により新訴が追加された場合には、新訴については事実上一審として判決をなすべきものである。
 3.強行法規の違背が常に行政処分の当然無効の原因となるものと解すべきではなく、その違背が重大かつ明白と認められる場合にかぎつて当然無効の原因となるものと解すべきである。
 4.行政処分が違法であることを理由として国家賠償の請求をするについては、あらかじめ右行政処分につき取消又は無効確認の判決を得なければならないものではない。
 4a.農地賠償計画が申請の取下げにより取り下げられた場合に、農地委員会の不法行為による国家賠償を求めるという目的は、計画の無効確認を求める訴えの法律上の利益を基礎付けるのに十分でないとされた事例。 /訴えの客観的利益/
参照条文: /国家賠償法:1条/民事訴訟法:2編1章;378条;232条1項/
全 文 s360421supreme.html

大阪高等裁判所 昭和 35年 12月 15日 判決 ( 昭和33年(ネ)第1559号 )
事件名:  建物収去土地明渡請求控訴事件
要 旨
 土地(二六一坪八合三勺)と地上建物(旧建物。建坪一〇坪二合)に抵当権が設定された後に、建物が取り壊されて幼稚園舎(新築建物。その建坪は、旧建物の建坪を大幅に上回る)が建築され、土地の任意競売の開始後に被告が新築建物を購入し、原告が土地を競落し、原告が被告に対して建物収去土地明渡しを訴求した場合に、旧建物の利用上必要な範囲で法定地上権を認めても、新築建物の存立を支えるに足らないから、法定地上権は新築建物に及ばないとされた事例。
 1.抵当権設定当時の地上建物が取毀され再建築が行われたときも、場合によつては本条の適用があり、この場合旧建物が存在したとすれば認められるべき範囲において新築建物のために法定地上権が生ずるものと解することができる。(大審院判例の確認)
 1a. 旧建物が存在した場合に認められるべき法定地上権の範囲は、その建物が存した土地の一筆全部に当然に及ぶものでなく、旧建物の利用上必要な部分に限られる。
 1b. 旧建物の利用上必要な範囲で法定地上権を認めても、その範囲が過少であるため現に存する再建築後の建物の存立を支えるに足らず、結局は取毀し、または建直しを必要とするような場合には、現存建物の効用を維持するという意義は失われるので、再建築後の建物には法定地上権は及ばず、民法388条の適用はない。
参照条文: /民法:388条/
全 文 s351215osakaH.html

最高裁判所 昭和 35年 7月 27日 第1小法廷 判決 ( 昭和32年(オ)第344号 )
事件名:  土地所有権確認等請求・上告事件
要 旨
 1.時効が完成しても、その登記がなければ、その後に登記を経由した第三者に対しては時効による権利の取得を対抗しえない(民法177条)のに反し、第三者のなした登記後に時効が完成した場合においてはその第三者に対しては、登記を経由しなくとも時効取得をもつてこれに対抗しうることとなると解すべきである。
 1a.取得時効完成の時期を定めるにあたつては、取得時効の基礎たる事実が法律に定めた時効期間以上に継続した場合においても、必らず時効の基礎たる事実の開始した時を起算点として時効完成の時期を決定すべきものであつて、取得時効を援用する者において任意にその起算点を選択し、時効完成の時期を或いは早め或いは遅らせることはできない。
参照条文: /民法:162条2項;177条/
全 文 s350727supreme.html

最高裁判所 昭和 35年 5月 24日 第3小法廷 判決 ( 昭和32年(オ)第487号 )
事件名:  家屋明渡請求・上告事件
要 旨
 1.控訴審の判決原本は、上告の有無にかかわらず常に当該庁に保存しておくべきであり、上告の提起があつたときは訴訟記録に判決正本を添附して上告審に送付し、上告完結後は第二審裁判所を経由せずに、直接第一審裁判所に返還すべきものであつて、訴訟当事者は必要があるときは、何時でも、第二審判決原本を閲覧することができるものと解するを相当とするから、上告記録に原審の判決原本を添附せずに判決正本を添附してあつても、毫も違法ではない。
 2.民訴232条(現133条)の明文によれば、請求の原因を変更するにとゞまるときは、判決事項の申立である請求の趣旨を変更する場合と異り、書面によつてこれをなすことを要しない。(所有権に基づく明渡請求から使用貸借の終了を原因とする明渡請求に変更された事例)
 3.使用貸借契約の終了にもとづく明渡義務は、借主が建物から退去した事実があったとしても、それだけで直ちに履行不能となつたと速断すべきではない。 /訴えの変更/
参照条文: /民訴.143条/民訴規.197条/民法:593条/
全 文 s350524supreme.html

最高裁判所 昭和 35年 4月 12日 第3小法廷 判決 ( 昭和33年(オ)第485号 )
事件名: 
要 旨
 1畳当り月1000円位が賃料として相当な6畳の室を、親戚関係であることを考慮して、月1000円の支払を条件に借りている場合には、右金銭は使用の対価というよりは当事者間の特殊関係に基く謝礼の意味のものとみて、貸借関係は使用貸借であつて賃貸借ではないと解することができる(建物を代物弁済として取得した者からの明渡請求事件)。
参照条文: /民法:593条/民法:601条/
全 文 s350412supreme.html

最高裁判所 昭和 35年 3月 1日 第3小法廷 判決 ( 昭和33年(オ)第683号 )
事件名:  建物収去土地明渡等請求・上告事件
要 旨
 1.土地所有者(原告)が地上建物の占有者(被告)に対して建物退去・土地明渡しを訴求したのに対し、被告が、建物は土地所有者から無償で借り受けた訴外人が建築し、被告はこれを賃借したと主張し、原告がこれを争っている場合に、前記正権原の主張については被告が立証責任を負うことは明らかであり、被告は、占有者の権利推定を定めた民法188条の規定を援用して自己の正権原を土地所有者に対抗することはできない。 /要件事実/証明責任/占有者が占有物について行使する権利の適法の推定/
参照条文: /民法:188条/
全 文 s350301supreme2.html

最高裁判所 昭和 35年 2月 12日 第2小法廷 判決 ( 昭和33年(オ)第133号、昭和33年(オ)第257号 )
事件名:  家屋一部明渡請求上告事件
要 旨
 所有権に基く家屋明渡請求訴訟において、被告が、占有権原として、はじめ使用貸借の存在を主張し、原告がこれを認めた後に右主張を撤回して、家屋の前所有者との間に期間の定めのない賃貸借契約が成立していて、原告は賃貸人の地位を承継したと主張するにいたったとしても、これを自白の取消ということはできない。 /裁判上の自白/自白の撤回/証明責任/
参照条文: /民訴.179条/民訴.157条/
全 文 s350212supreme.html

最高裁判所 昭和 35年 2月 2日 第3小法廷 判決 ( 昭和32年(オ)第335号 )
事件名:  不動産売買無効等請求・上告事件
要 旨
 売主の相続人が通謀虚偽表示を理由に売買契約の無効を主張し、裁判所がこれが認める場合に、買主から抵当権の設定を受けた第三者が民法94条2項の保護をうけるためには、自己が善意であったことを主張、立証しなければならず、第三者が善意の主張をしていないにもかかわらず、この者は「通謀虚偽表示であることを知らなかつたのであり、これを知つていたと認むべき証拠はない」として94条2項の保護を与えた原判決が破棄された事例。
 1.第三者が民法94条2項の保護をうけるためには、同人において、自己が善意であつたことを主張、立証しなければならない。 /証明責任/主張責任/立証責任/弁論主義違反/
参照条文: /民法:94条/
全 文 s350202supreme.html

高松高等裁判所 昭和 35年 1月 26日 第4部 判決 ( 昭和34年(ネ)第70号 )
事件名: 
要 旨
 1
 当事者は、弁護士たる訴訟代理人に和解の代理権を授権する否かの選択権を有するだけであり、和解の代理権を細部について制限しても、訴訟法上効力を生じない。和解の権限を訴訟委任契約の解約等によつて消滅させることはできるが、本人又は訴訟代理人から事件の相手方に通知するのでなければ訴訟法上はその効力を生じない。
 2
 訴訟物以外の権利関係を導入して和解することは、その程度及び態様において、当該事件の解決という窮極の目的に背馳せず且当該事件の互譲による解決のために客観的、抽象的に観察して必要といいうるものである限りは、弁護士である訴訟代理人の和解権限中に包含される。貸金請求事件における被告の訴訟代理人の和解の権限は、当該貸金債権の担保のために、訴訟対象外の被告所有不動産に抵当権を設定する契約をなす権限を含む。
 (訴訟代理権)
参照条文: /民訴.55条2項/民訴.55条3項/民訴.267条/
全 文 s350126supreme.html

最高裁判所 昭和 34年 12月 16日 大法廷 判決 ( 昭和34年(あ)第710号 )
事件名:  刑事特別法違反被告事件事件<砂川事件上告審判決>
要 旨
 1a.憲法9条は、わが国が主権国として持つ固有の自衛権を否定するものではなく、わが国は、自国の平和と安全を維持しその存立を全うするために必要な自衛のための措置をとりうる。
 1b.日本国民は、憲法9条2項により戦力を保持しないけれども、これによって生ずる防衛力の不足は、憲法前文にいわゆる平和を愛好する諸国民の公正と信義に信頼することによつて補ない、もつてわれらの安全と生存を保持しようと決意したのであるが、その方法は、国際連合の機関である安全保障理事会等の執る軍事的安全措置等に限定されたものではなく、9条は、わが国が他国に安全保障を求めることを禁ずるものではない。
 1c.憲法9条2項において戦力の不保持を規定したのは、わが国が戦力を保持し侵略戦争を引き起こすことのないようにするためであると解されるから、同項が保持を禁止した戦力とは、わが国自体の戦力を指し、外国の軍隊は、たとえそれがわが国に駐留するとしても、これに該当しない。
 2.日米安全保障条約のように主権国としてのわが国の存立の基礎に極めて重大な関係をもつ高度の政治性を有する条約の内容が違憲なりや否やの法的判断は、その条約を締結した内閣およびこれを承認した国会の高度の政治的ないし自由裁量的判断と表裏をなす点が少なくなく、それが違憲であるか否かの判断は、純司法的機能の使命とする司法裁判所の審査には、原則としてなじまない性質のものであり、一見極めて明白に違憲無効であると認められない限りは、裁判所の司法審査権の範囲外のものである。
 3.アメリカ合衆国軍隊の駐留は、憲法9条、98条2項および前文の趣旨に適合こそすれ、これらの条章に反して違憲無効であることが一見極めて明白であるとは、認められない。 /平和主義/砂川事件/日本国とアメリカ合衆国との間の安全保障条約第3条に基く行政協定に伴う刑事特別法/統治行為論/適正手続/法定手続の保障/安保条約/違憲立法審査権/法令審査権/
参照条文: /憲.前文/憲.9条/憲.31条/憲.98条2項/憲.81条/
全 文 s341216supreme.html

最高裁判所 昭和 34年 7月 3日 第2小法廷 判決 ( 昭和31年(オ)第454号 )
事件名:  建物所有権確認請求上告事件
要 旨
 1.真の所有者であると主張する者が公簿(家屋台帳)上の共有名義人を被告として提起した所有権確認の訴えは、必要的共同訴訟ではない。
 1a.真の所有者であると主張する者が公簿上の共有名義人に対して提起した所有権確認請求において、第一審の請求認容判決に対して被告の一部が控訴せず、他の一部が控訴を取り下げた場合に、控訴審が残存する控訴のみを棄却する判決を下したことが適法であるとされた事例。 /当事者適格/
参照条文: /民訴.38条/民訴.40条/
全 文 s340703supreme.html

最高裁判所 昭和 34年 6月 25日 第1小法廷 判決 ( 昭和32年(オ)第420号 )
事件名:  債務不存在確認等請求・上告事件
要 旨
 保証人の求償権を担保する根抵当権が設定されている不動産が他の債権者の申立てにより競売された場合に、後順位債権者が、≪配当期日の時点で代位弁済がなされていないから、保証人は被担保債権に基づく配当要求をなしえず、その後に代位弁済がなされたとしても、配当金は自己に支払われるべきであった≫と主張して、保証人に対して、配当金相当額の不当利得の返還を請求したが、棄却された事例。
 1.民法460条2号は主債務が弁済期に在るということだけで保証人の求償権の事前行使を可能としている。
 1a.保証人の求償権を担保する根抵当権が設定されている不動産が他の債権者の申立てにより競売される場合に、主債務の弁済期到来後・配当期日前に求償権の事前行使としてなされた配当要求は適法である。
参照条文: /民法:460条2号;461条2項/
全 文 s340625supreme.html

東京地方裁判所 昭和 34年 4月 6日 判決 ( 昭和33年(ワ)第4106号 )
事件名:  貸金請求事件
要 旨
 破産者の債務者が、破産手続開始前に破産者が賃借人として負っている債務の連帯保証人になり、破産手続開始後に保証債務を履行したことにより取得した破産者に対する求償権と自己の破産者に対する債務との相殺を主張したが、裁判所が、求償権の範囲内で行使することができる原債権を自働債権とする相殺としてその可否を問題にし、破産法104条2号の趣意により許されないとした事例。
 1.破産法26条2項の規定は、主たる債務者が破産宣告を受け債権者がその全額につき破産債権者として権利を行使した後連帯保証人が右債権者に対して債務の弁済をなした場合には連帯保証人は主たる債務者たる破産者に対して取得する求償権の範囲において債権者に代位してその権利を取得する旨を定めており、かかる場合においては、右連帯保証人の取得する権利は破産法104条2号の趣意からして、他人の破産債権を取得したものとして同号の適用を受ける。
参照条文: /破産法:26条;104条/
全 文 s340406tokyoD.html

最高裁判所 昭和 34年 2月 20日 第2小法廷 判決 ( 昭和31年(オ)第388号 )
事件名:  損害賠償請求・上告事件
要 旨
 1
 裁判上の請求による時効の中断は、請求のあつた範囲においてのみその効力を生じ、裁判上の請求があつたというためには、単にその権利が訴訟において主張されたというだけでは足りず、いわゆる訴訟物となつたことを要する。
 2
 一個の債権の数量的な一部についてのみ判決を求める旨を明示して訴が提起された場合(明示の一部請求)、訴訟物となるのは右債権の一部であつて全部ではないから、訴提起による消滅時効中断の効力は、その一部の範囲においてのみ生じ、その後時効完成前残部につき請求を拡張すれば、残部についての時効は、拡張の書面を裁判所に提出した時に中断する。
参照条文: /民法:147条;149条/民事訴訟法:199条;186条;232条;235条/
全 文 s340220supreme.html

最高裁判所 昭和 34年 1月 8日 第1小法廷 判決 ( 昭和33年(オ)第214号 )
事件名:  所有権取得登記抹消手続請求・上告事件
要 旨
 中間省略の所有権移転登記がなされている場合に、登記を省略された元所有者(原告)が登記名義人(被告)に対して、原告から被告へ売買の事実を否認して、所有権取得登記の抹消登記手続を訴求した事案において、所有権の登記の存在から登記名義人の所有権を一応推定することが許されるとされた事例。(登記の事実上の推定力)
 1.原判決が、被告が所有名義人として登記されている事実から、被告の所有を推定したことは正当である。
 1a.本訴請求を理由あらしめるには、原告において、自己の主張事実を立証して右推定を覆す責任を負担する。 /自由心証主義/要件事実/証明責任/
参照条文: /民法:177条/民事訴訟法:185条/
全 文 s340108supreme.html

最高裁判所 昭和 33年 10月 14日 第3小法廷 判決 ( 昭和31年(オ)第822号 )
事件名:  貸金等請求上告事件
要 旨
 1.詐害行為取消訴訟において、転得者が「原告主張のような経路で本件建物の所有権が移転し、その旨の登記の存することは認めるが、その他の事実は知らない」旨を答弁した場合に、これにより転得者は、債務者から受益者への贈与が債権者を害すべきことを知らざりし旨を主張したものと解すべきであるとされた事例。(弁論主義)
 2.請求の予備的併合の場合、第一審裁判所が主たる請求を認容したるのみにて、予備的請求に対する判断をしなかつたときといえども、第二審裁判所において、主たる請求を排斥した上予備的請求につき判断をなし得る。 /審級の利益/控訴審の裁判/
参照条文: /民訴.136条/
全 文 s331014supreme.html

最高裁判所 昭和 33年 9月 26日 第2小法廷 判決 ( 昭和31年(オ)第420号 )
事件名:  詐害行為取消請求・上告事件
要 旨
 本旨弁済が原審認定の事実の下では詐害行為に当たらないとされた事例。
 1.債権者平等分配の原則は、破産宣告をまつて始めて生ずるものであるから、債務超過の状況にあつて一債権者に弁済することが他の債権者の共同担保を減少する場合においても、右弁済は、原則として詐害行為とならず、唯、債務者が一債権者と通謀し、他の債権者を害する意思をもつて弁済したような場合にのみ詐害行為となるにすぎないと解するを相当とする。(先例の確認)
 1a.
 受益者である債権者の強い弁済要求に押されて債務者(会社)が売掛金の集金を行い、その初日の集金は挙げて他の債権者の弁済に充て、その後の集金を以て受益者の債務の一部弁済に充てたという事実から見ると、受益者と債務者との間に他の債権者を回避して上告人に優先的に弁済しようとする通謀があつたとは断じ難いとして、詐害行為の成立が否定された事例。
参照条文: /民法:424条/
全 文 s330926supreme.html

最高裁判所 昭和 33年 7月 25日 第2小法廷 判決 ( 昭和28年(オ)第1389号 )
事件名:  離婚請求上告事件
要 旨
 心神喪失の常況にある妻を被告とする離婚訴訟において、原告である夫が被告のための特別代理人の選任を申し立てて訴訟を遂行したが、このような場合には、夫は妻に対する禁治産の宣告を申請し、禁治産者の後見監督人又は後見人を被告として訴を提起すべきであるとされた事例。
 1.民訴56条(現35条)の特別代理人はその訴訟かぎりの臨時の法定代理人たる性質を有するものであって、代理に親しまない離婚訴訟については同条の適用はない。
 2.心神喪失の状況にあって、未だ禁治産の宣告を受けていない者に対し離婚訴訟を提起しようとする夫婦の一方は、まず他方に対する禁治産の宣告を申請し、その宣告を得て、人訴4条(現14条)により禁治産者の後見監督人又は後見人を被告として訴を起すべきである。 /訴訟能力/訴訟無能力者/人事訴訟/
参照条文: /民訴.35条/人訴.14条/
全 文 s330725supreme.html

最高裁判所 昭和 33年 7月 22日 第3小法廷 判決 ( 昭和31年(オ)第103号 )
事件名:  所有権確認並びに所有権保存登記抹消手続請求上告事件
要 旨
 1.組合財産については、民法667条以下において特別の規定のなされていない限り、民法249条以下の共有の規定が適用される。
 2.不動産の共有権者の一人が、その持分に基き、当該不動産につき登記簿上所有名義者たるものに対して、その登記の抹消を求めることは、妨害排除の請求に外ならず、いわゆる保存行為に属する。
 2a.共有不動産について所有権(共有持分全部)移転登記がなされた場合には、各持分権者は単独でその所有権移転登記の全部の抹消を求めることができる。
参照条文: /民法:668条/民法:249条/民法:252条/民法:117条/
全 文 s330722supreme.html

最高裁判所 昭和 33年 7月 8日 第3小法廷 判決 ( 昭和31年(オ)第764号 )
事件名:  契約金請求・上告事件
要 旨
 原告が「原告は被告と、昭和24年3月18日、被告が買い受ける黒砂糖を原告が斡旋し、その斡旋料として1斤につき金10円宛を被告が原告に支払う約束をし」、昭和24年3月から4月までの間に数回にわたつて買付斡旋がなされたことを主張し、被告が第一審においてこれを否認している場合に、控訴審が、証人尋問及び原告本人尋問の結果を総合して、「原告主張の日、原告と被告の代理人である訴外Dとの間に、被告のため、原告主張の如き黒砂糖買付の斡旋に関する契約がなされ」た事実及び買付斡旋がなされた事実を認定して、また、原告が尋問における証人及び原告本人の供述を援用している事案において、原告が主張していない≪被告の代理人による斡旋契約締結の事実≫を基礎にして斡旋料支払請求を認容したことは、弁論主義に反しないとされた事例。
 1.大正15年民事訴訟法186条にいう「事項」とは訴訟物の意味に解すべきである。
 2.斡旋料支払の特約が当事者本人によつてなされたか、代理人によつてなされたかは、その法律効果に変りはないのであるから、原判決が原告と被告(上告人)代理人Dとの間に本件契約がなされた旨判示したからといって弁論主義に反するところはないとされた事例。
参照条文: /t15.民事訴訟法:186条;125条/
全 文 s330708supreme.html

最高裁判所 昭和 33年 6月 14日 第1小法廷 判決 ( 昭和31年(オ)第32号 )
事件名:  不動産所有権移転登記手続等請求上告事件
要 旨
 不動産がA・B・Cと転々譲渡されたが、登記はまだAにある段階でAB間の売買契約が合意解除された場合に、Cが債権者代位権によりBに代位してAに対して所有権移転登記を請求しても、未登記権利者であるCは解除の遡及効から保護されるべき権利者にはあたらず、また、Aは、特段の事情のないかぎり、Bに対して主張することのできる合意解除の効果を代位権者であるCに主張することができるとされた事例。
 1.合意解約は民法545条1項但書にいう契約の解除ではないが、それが契約の時に遡つて効力を有する趣旨であるときは、右契約解除の場合と同様に、第三者の権利を害することを得ないものと解するを相当とする。
 2.民法545条の解除の場合でも、これと同等の合意解除の場合でも、解除の遡及効から保護されるべき第三者の権利が不動産所有権である場合には、その所有権について登記を経由していることが必要であり、登記を経由していないときは第三者として保護されない。
 3.債務者と第三債務者との間の契約が解除された場合に、第三債務者は債務者にに対して主張することのできる合意解除の効果を代位債権者に対して主張することができる。但し、右合意解約が当事者間の通謀による虚偽の意思表示である場合等は、この限りでない。
参照条文: /民法:545条/民法:423条/民法:177条/
全 文 s330614supreme.html

最高裁判所 昭和 33年 6月 14日 第1小法廷 判決 ( 昭和32年(オ)第1171号 )
事件名:  商品代金請求上告事件
要 旨
 1.仮差押の目的となつているジヤムが一定の品質を有することを前提として和解契約をなしたところ、右ジヤムが粗悪品であったため、和解に要素の錯誤があるものとして無効とされた事例。
 2.契約の目的物の瑕疵が要素の錯誤をもたらす場合には、民法の瑕疵担保の規定の適用は排除される。
 3.訴訟上の和解が要素の錯誤により無効である場合には、判決と同一の効力は認められないとされた事例。 /売主の担保責任/
参照条文: /民法:696条/民法:95条/民法:570条/民訴.267条/
全 文 s330614supreme2.html

東京高等裁判所 昭和 33年 3月 31日 第3民事部 判決 ( )
事件名: 
要 旨
 建物の貸借が使用貸借と認められ、建物を代物弁済により取得した者からの借主に対する明渡請求が認容された事例。
参照条文: /民法:59/3条/民法:601条/
全 文 s330331tokyoH.html

最高裁判所 昭和 33年 3月 13日 第1小法廷 判決 ( 昭和31年(オ)第966号 )
事件名:  家屋明渡請求上告事件
要 旨
 1.借家法5条(造作買取請求権)は、賃借人の債務不履行ないしその背信行為のため賃貸借が解除されたような場合には、適用がない。(先例の確認)
 2.物の引渡請求に対する留置権の抗弁を理由ありと認めるときは、その引渡請求を棄却することなく、その物に関して生じた債権の弁済と引換に物の引渡を命ずべきである。 /引換給付判決/
参照条文: /借地借家.33条/民法:295条/
全 文 s330313supreme.html

最高裁判所 昭和 33年 2月 17日 大法廷 決定 ( 昭和29年(秩ち)第1号 )
事件名:  法廷等秩序維持に関する法律による制裁事件についてなした抗告棄却決定に対する特別抗告事件
要 旨
 裁判所の許可を得ずに、かつ、裁判長の命令を無視して刑事被告人の写真を公判廷において撮影した新聞社写真班員の行為が、法廷等の秩序維持に関する法律2条1項前段に該当するとして制裁が科された事例。
 1.新聞が真実を報道することは、憲法21条の認める表現の自由に属し、またそのための取材活動も認められなければならない。
 1a.公判廷における写真の撮影等は、その行われる時、場所等のいかんによっては、公判廷における審判の秩序を乱し被告人その他訴訟関係人の正当な利益を不当に害する結果を生ずる恐れがあるので、刑事訴訟規則215条は写真撮影の許可等を裁判所の裁量に委ね、その許可に従わないかぎりこれらの行為をすることができないことを明らかにしたのであって、右規則は憲法に違反するものではない。
参照条文: /法廷秩序.2条1項/憲.21条/刑訴規.215条/
全 文 s330217supreme91.html

浦和地方裁判所 昭和 32年 12月 27日 決定 ( 昭和32年(ケ)第99号 )
事件名:  不動産競売申立事件
要 旨
 抵当不動産を差し押さえた税務署が公売手続を進めないため、抵当権者が租税債権を代位弁済し、これにより取得した求償権に租税債権の優先権(先取特権)が認められるべきことを前提にして、その先取特権に基づき不動産の競売を申し立てたが、先取特権の取得が否定され、競売申立てが却下された事例。(競売申立に係る不動産が抵当不動産とは別個のものであるか否かは明らかでないが、おそらく別個であろう)
 1.租税債権は公法上の債権であるから第三者がこれを代つて納付しても民法500条・501条の規定の適用はなく、他に代位に関する特別規定も存しないので、納税者に代位して納税した者が納税者に対する求償権について租税債権の先取特権を取得することはない。 /弁済による代位/法定代位/租税優先の原則/接木説/
参照条文: /民法:500条;501条/国税徴収法:2条;3条/
全 文 s321227UrawaD.html

最高裁判所 昭和 32年 12月 24日 第3小法廷 判決 ( 昭和29年(オ)第902号 )
事件名:  前渡代金返還並びに損害賠償請求上告事件
要 旨
 原告が法定解除に基づく民法545条の原状回復請求権(前渡金900円の返還請求権)を主張して訴えを提起している場合に、合意解除を認定して法定解除を否定した事実審が請求を棄却したことに違法はないとされた事例。
 1.売買契約の一部履行があつた後、合意解約がなされた場合には、民法703条以下による不当利得返還義務の発生するのは格別、当然には民法545条所定の原状回復義務が発生するものではない。 /訴訟物/判決事項/
参照条文: /民法:545条/民法:703条/民訴.246条/
全 文 s321224supreme.html

最高裁判所 昭和 32年 9月 3日 第3小法廷 判決 ( 昭和30年(オ)第460号 )
事件名:  貸事務室明渡請求・上告事件
要 旨
 1.借家法7条に基く賃料増減請求権は、いわゆる形成権たるの性質を有するものであるから、賃料増減請求の意思表示が相手方に到達すれば、これによって爾後賃料は相当額において増減したものといわなければならない。
 1a.賃料増減請求権の行使による増減の範囲について当事者間に争ある場合には、その相当額は裁判所の裁判によって定まるのであるが、これは既に増減の請求によって客観的に定った増減の範囲を確認するに過ぎない。
 2.金銭債務の履行遅滞については債務者に故意または過失のあったことを要するものでないから、増減の意思表示が到達した後は客観的に定まった相当賃料の全額について賃料支払期限到来の時から債務者は当然履行遅滞の責を負わなければならない。
参照条文: /借家法:7条/
全 文 s320903supreme.html

最高裁判所 昭和 32年 7月 20日 大法廷 判決 ( 昭和25年(オ)第318号 )
事件名:  国籍関係確認請求上告事件
要 旨
 1.日本国籍離脱の届出が本人の意思にもとづかず、かつ、父の名義をもつてなされたため無効である場合に、それが有効であることを前提にして本人のした国籍回復申請に基づきなされた国籍回復許可も無効であると判断された事例。
 2.現在日本国籍を有することについて争のない場合でも、国籍離脱および回復に関する戸籍簿の記載を訂正するために、国籍取得が国籍回復許可によるものではなく日本人の父の子として出生したことによることを主張する者は、その旨の確認判決を求める法律上の利益を有する。
 2a.戸籍法116条によって国籍回復の戸籍の訂正をするためには、主文において国籍回復許可の無効なることを宣言する確定判決は必要ない。 /禁反言の法理/訴えの利益/確認の利益/訴えの客観的利益/請求適格/
参照条文: /民訴.134条/戸籍.116条/国籍.12条/国籍.13条/国籍.17条/
全 文 s320720supreme.html

最高裁判所 昭和 32年 7月 16日 第3小法廷 判決 ( 昭和30年(オ)第29号 )
事件名:  約束手形金請求・上告事件
要 旨
 1.手形の裏書譲渡を受けて現に所持する者(原告)による振出人(被告会社)に対する手形金支払請求訴訟の第一審係属中に、被告が被告の経理課長による偽造手形である旨を主張したため、原告が予備的に民法715条による損害賠償請求を追加した場合に、原告の請求は、旧訴新訴ともに手形の取得という事実関係に基いて、同一の経済的利益を追求するものであるから、旧訴と新訴は、ともに請求の基礎を同じくするとされた事例。
 2.会社の経理課長による手形偽造行為が会社の事業の執行につきなされたものとして、会社が手形所持人に対して損害賠償責任を負うとされた事例。(使用者責任)
参照条文: /t15.民事訴訟法:232条/m29.民法:715条/
全 文 s320716supreme.html

最高裁判所 昭和 32年 6月 7日 第2小法廷 判決 ( 昭和28年(オ)第878号 )
事件名:  損害金請求上告事件<ダイヤの帯留事件>
要 旨
 1.債権者が数人の債務者に対して金銭債務の履行を訴求する場合、連帯債務たる事実関係を何ら主張しないときは、これを分割債務の主張と解すべきである。
 1a.債権者が分割債務を主張して一旦確定判決をえたときは、更に別訴をもつて同一債権関係につきこれを連帯債務である旨主張することは、前訴判決の既判力に牴触し、許されない。
 2.ある金額の請求を訴訟物(分割債務)の全部として訴求して、その全部につき勝訴の確定判決をえた後、その請求は訴訟物(連帯債務)の一部にすぎなかった旨を主張して残額を訴求することは、許されない。 /既判力の双面性/既判力の客観的範囲/一部請求/
参照条文: /民訴.114条/民法:427条/民法:432条/商.511条1項/
全 文 s320607supreme.html

東京地方裁判所 昭和 32年 4月 10日 判決 ( 昭和29年(ワ)第8105号 )
事件名:  約束手形及小切手に基く権利確認請求事件
要 旨
 債権調査期日において異議なく確定した更生債権(手形債権及び小切手債権)を譲り受けたと主張する原告が名義変更の届出をしたが、更生会社の管財人がこれに応じないため、譲渡人を債権者にしたまま更生計画が認可された場合に、原告が管財人及び譲渡人を被告にして当該債権が原告に属することの確認請求、管財人に対して給付請求の訴えを提起したが、要旨1記載の理由により権利主張の利益を欠くとして、請求が棄却された事例。
 1.更生債権表に債権者として被告が記載されて更生計画の認可決定があり、同被告の更生債権について計画上の権利が認められた以上、その権利内容並権利主体については計画認可の段階では利害関係人に於て一切不可争の状態に置かれ、以後、別個の裁判により当該更生債権の帰属に付之を争うことができず、したがって、原告と被告間に於て譲渡に関し争があれば、右当事者間のみの争として別個に処理さるべきである。
参照条文: /s27.会社更生法:112条;128条;240条/
全 文 s320410tokyoD.html

最高裁判所 昭和 32年 3月 13日 大法廷 判決 ( 昭和28年(あ)第1713号 )
事件名:  猥褻文書販売被告事件(上告事件)
要 旨
 D・Hロレンス(作)・伊藤整(訳)「チャタレー夫人の恋人」が刑法175条の猥褻文書にあたるとされた事例。
 1.刑法175条の猥褻文書とは、「徒らに性欲を興奮又は刺戟せしめ、且つ普通人の正常な性的羞恥心を害し、善良な性的道義観念に反するものをいう」。(先例の確認)。
 1a.著作が刑法175条の猥褻文書にあたるかどうかの判断は、当該著作についてなされる事実認定の問題でなく、法解釈の問題である。(意見あり)
 1b.著作が一般読者に与える興奮、刺戟や読者のいだく羞恥感情の程度といえども、裁判所が判断すべきものであり、裁判所がこの判断をなす場合の規準は、一般社会において行われている良識すなわち社会通念である。
 1c.社会通念は、「個々人の認識の集合又はその平均値でなく、これを超えた集団意識であり」、かような社会通念が如何なるものであるかの判断は、現制度の下においては裁判官に委ねられている。
 1d.性に関する社会通念の変化が存在するにかかわらず、超ゆべからざる限界としていずれの社会においても認められまた一般的に守られている規範として、性行為の非公然性の原則が存在する。
 1e.「チャタレー夫人の恋人」の12箇所に及ぶ性的場面の描写は、相当大胆、微細、かつ写実的であり、性行為の非公然性の原則に反し、家庭の団欒においてはもちろん、世間の集会などで朗読を憚る程度に羞恥感情を害するものであり、またその及ぼす個人的、社会的効果としては、性的欲望を興奮刺戟せしめまた善良な性的道義観念に反する程度のものと認めらるから、同書は刑法175条の猥褻文書に該当するとされた事例。
 1f.芸術性と猥褻性とは別異の次元に属する概念であり、芸術的作品であるという理由からその猥褻性を否定することはできない。
 1g.猥褻性の存否は純客観的に、つまり作品自体からして判断されなければならず、作者の主観的意図によつて影響さるべきものではない。
 1h.刑法175条の罪における犯意の成立については、問題となる記載の存在の認識とこれを頒布販売することの認識があれば足り、かかる記載のある文書が同条所定の猥褻性を具備するかどうかの認識まで必要としているものでない。
 2.憲法の保障する各種の基本的人権についてそれぞれに関する各条文に制限の可能性を明示していると否とにかかわりなく、憲法12条、13条の規定からしてその濫用が禁止せられ、公共の福祉の制限の下に立つものであり、絶対無制限のものでない。(先例の確認)
 2a.表現の自由も公共の福祉によつて制限される。
 2b.性的秩序を守り、最少限度の性道徳を維持することが公共の福祉の内容をなすことについて疑問の余地がない。
 3.憲法76条の裁判官が良心に従うというのは裁判官が有形無形の外部の圧迫ないし誘惑に屈しないで自己の内心の良識と道徳感に従う意味である。(先例の確認)
 4.第一審判決が犯罪事実の存在を確定せず、犯罪の証明なしとして無罪を言い渡した場合に、控訴裁判所が事実の取調べをすることなく、訴訟記録及び第一審裁判所で取り調べた証拠だけで犯罪事実の存在を確定し有罪の判決をした事例。(真野意見、小林補足意見あり) /チヤタレー夫人/法律の錯誤/わいせつ/性的刺激物/
参照条文: /刑.175条/憲.21条/憲.12条/刑訴.400条/憲.76条/
全 文 s320313supreme91.html

東京地方裁判所 昭和 32年 3月 1日 民事第15部 判決 ( 昭和31年(ワ)第1799号 )
事件名:  執行異議事件<第三者異議事件>
要 旨
 1.妻の特有財産たる不動産(土地・建物)が担保競売事件において売却された場合に、妻に対して発せられた引渡命令に基づく明渡執行に対して夫が占有権を主張して第三者異議の訴えを提起したが、認められなかった事例。
 2.夫が戸籍筆頭者又は世帯主であるからといつて、その戸籍又は世帯を同じくする妻の特有財産たる不動産について夫が占有権をもつことになる法律上の理由はなく、夫の占有は、家屋所有者たる妻の占有の範囲内においてその補助としておこなわれているというべきである。 /夫婦別産制/夫婦財産制度/第三者異議/占有権に基づく第三者異議/夫婦の占有/
参照条文: /民執.38条/民法:180条/
全 文 s320301tokyoD.html

最高裁判所 昭和 32年 2月 28日 第1小法廷 判決 ( 昭和29年(オ)第444号 )
事件名:  貸金請求上告事件
要 旨
 第一審において貸金債権を訴訟物とする訴えが提起され、これを認容する判決に対して被告が控訴し、控訴審で訴えの変更により求償債権が訴訟物とされた場合に、控訴審が新請求を認容すべきであると判断した場合には、控訴を棄却するのではなく、新請求を認容する旨の判決をすべきであるとされた事例。
 1.大正民訴法384条2項(平成民訴法302条2項)にいわゆる「判決ヵ其ノ理由ニ依レハ不当ナル場合ニ於テモ他ノ理由ニ依リテ正当ナルトキ」とは、第一審判決と第二審判決とがその判断の対象を異にし偶々その主文の文言が同一に帰するというが如き場合をも包含するものでない。
 2.訴えの交換的変更の場合においても、訴の変更そのものが許さるべきものであるというだけでは、これによつて当然に旧訴の訴訟係属が消滅するものではなく、旧訴の訴訟係属の消滅には、訴えの有効な取下げまたは請求の放棄が必要である。
参照条文: /t15.民事訴訟法:232条;384条;236条;203条/
全 文 s320228supreme.html

最高裁判所 昭和 32年 2月 8日 第2小法廷 判決 ( 昭和30年(オ)第249号 )
事件名:  建物明渡請求・上告事件
要 旨
 1.裁判所が当事者本人の臨床訊問を立会の医師の勧告によつて途中で打ち切る措置を違法と解し得ないことは、民訴260条の趣旨からして当然である。
 1a.当事者本人に対する臨床訊問が立会の医師の勧告によつて途中で打ち切られ、相手方に反対訊問の機会が与えられなかつた場合には、単に反対訊問の機会がなかつたというだけの理由で本人訊問の結果を事実認定の資料とすることができないと解すべきではなく、合理的な自由心証によりその証拠力を決し得ると解すべきである。 /証拠能力/証拠力/自由心証主義/
参照条文: /t15.民事訴訟法:185条;260条;294条1項;295条;342条/
全 文 s320208supreme.html

東京地方裁判所 昭和 32年 2月 7日 民事第14部 判決 ( )
事件名: 
要 旨
 建物の賃借人であると主張する被告が賃貸借契約の成立に関する具体的事実を主張しないため、建物を代物弁済により取得した者からの建物明渡請求が認容された事例。
参照条文: /民訴.87条1項/民訴157条2項/
全 文 s320207tokyoD.html

最高裁判所 昭和 31年 12月 28日 第2小法廷 判決 ( 昭和30年(オ)第688号 )
事件名:  立木伐採禁止等請求上告事件
要 旨
 隣接する2筆の山林の所有者がその一方を境界線を指示して他に売り渡した後、自己の土地の側で炭焼きのために樹木の伐採をしていたところ、買主の承継人から客観的な境界線を越えて伐採を行っているとして立木伐採禁止等禁止請求の訴えが提起され、被告たる売主が売却の際に指示した境界線が正当な境界線である等の主張をして争ったが、請求が認容された事例。
 1.「控訴人方においては前示払下げを受けて以来約25年間継続して占有し植林、刈払い等の手入をしてきたものである」との主張は、取得時効完成の要件事実を陳述したものとは解されない。
 1a.時効を援用する趣旨の陳述がなかった場合に裁判所が時効取得の有無を判断しなかったのは不当ではなく、その陳述をしなかったことの責任を裁判所に転嫁し、釈明権不行使の違法をもって非難することは許されない。
 2.請求認容判決に対して控訴が提起され、控訴審で請求が減縮された場合には、この部分に対する第一審判決は、おのずからその効力を失い控訴は残余の部分に対するものとなるから、この部分につき第一審判決を変更する理由がないときは控訴棄却の判決をなすべきものである。
 3.鑑定人が一方当事者の訴訟代理人から訴訟手続外で送付された図面(実測図謄本)を鑑定の資料としたとしても、その一事により直ちに鑑定の結果を採用し得なくなるわけではなく、鑑定人がこの図面をその特別の知識経験により正確と認めて鑑定の資料に採用したものであることが鑑定書の記載を通じて看取し得る場合には、これを使用してなした鑑定を採用したことをもって違法であるとはいえない。
 4.隣接地との境界線は、当事者の合意によって変更処分し得ないものであって、境界の合意が存在したことは、単に右客観的境界の判定のための一資料として意義を有するに止まる。
 4a.一筆の土地を区画して売却したのではなく、一筆の土地全体を売却した場合には、売却の際に指示した境界線とは異なる線が客観的な境界線と認定され、これを前提に土地立入禁止請求等が認容された事例。 /境界確定/
参照条文: /民訴.149条/民訴2編3章4節/民法:145条/
全 文 s311228supreme.html

最高裁判所 昭和 31年 12月 20日 第1小法廷 判決 ( 昭和25年(オ)第128号 )
事件名:  売買契約履行請求上告事件
要 旨
 建物の引渡請求の訴えを提起したが棄却判決を受けた原告が控訴審において所有権確認請求に変更する旨の交換的変更をした場合に、滅失した建物の所有権の確認を求める新請求には即時確定の利益がないと判断して控訴棄却の主文を掲げた控訴審判決について、上告審がこれを破棄して新請求を棄却する旨の自判をするとともに、旧請求については被告が取下げに異議を述べているから原審になお係属していること(裁判の脱漏)を指摘した事例。
 1.控訴審において訴えの変更により新訴が係属した場合、控訴審は、新訴につき実質上第一審としての裁判をなすことを要し、たとえ新訴に対する控訴審の結論が第一審判決の主文の文言と合致する場合であつても控訴棄却の判決をなすべきものではなく、新訴について請求の棄却をなすべきものである。
 2.訴えの交換的変更がなされた場合でも、旧訴の撤回は、特段の事情がなければ、訴えの取下げにほかならず、被告がこれに適法に異議を述べている場合には、旧訴の撤回は効力を生じない。
 3.確認の利益を欠くと判断された請求が棄却された事例。
参照条文: /民訴.143条/民訴.302条/民訴.261条/民訴.258条/
全 文 s311220supreme.html

東京地方裁判所 昭和 31年 11月 14日 民事第14部 判決 ( 昭和30年(レ)第118号 )
事件名: 
要 旨
 使用貸借においても不動産を貸与する者は敷金ないし保証金が支払われることにつき利益を有し、敷金や保証金の支払がなされたことは、使用貸借契約であることを妨げない。
参照条文: /民法:593条/
全 文 s311114tokyoD.html

最高裁判所 昭和 31年 10月 4日 第1小法廷 判決 ( 昭和30年(オ)第95号 )
事件名:  遺言無効確認等請求上告事件
要 旨
 1
 法律行為は法律関係そのものではなく、法律行為が有効であるか無効であるかを確認の訴の対象とすることの許されない(遺贈なる法律行為について)。
 2
 現在まだ発生していない法律関係の将来における不成立ないし不存在の確認を求める訴は、不適法である(遺言無効確認の訴えについて)。
 3
 遺言者の生存中における遺言の無効確認の訴えは、不適法である(遺言者が遺贈の相手方に対して、遺贈の取消後に提起した遺言無効確認の訴え)。 /訴えの利益/確認の利益/訴えの客観的利益/将来の法律関係の確認請求/過去の法律関係の確認請求/
参照条文: /民法:985条/民訴.134条/民訴.140条/
全 文 s311004supreme.html

最高裁判所 昭和 31年 7月 20日 第2小法廷 判決 ( 昭和29年(オ)第110号 )
事件名:  建物収去土地明渡請求上告事件
要 旨
 賃料不払いを理由とする借地契約を解除した土地所有者の借地人に対する建物収去土地明渡請求を認容する判決が確定したが、その地上建物を口頭弁論終結前から賃借している者が存在する場合に、建物賃借人は、確定判決の反射的効果として、建物のための借地権の存在を主張することは許されないという法律上の拘束を当然に受けるものではない。 /確定判決の反射効/
参照条文: /民訴.115条/
全 文 s310720supreme.html

最高裁判所 昭和 31年 7月 20日 第2小法廷 判決 ( 昭和29年(オ)第634号 )
事件名:  慰籍料並びに名誉回復請求上告事件
要 旨
 1.民法44条による法人の責任と同715条による法人の責任とは、発生要件を異にし法律上別個のものである。
 2.新聞記事がたとえ精読すれば別個の意味に解されないことはないとしても、いやしくも一般読者の普通の注意と読み方を基準として解釈した意味内容に従う場合、その記事が事実に反し名誉を毀損するものと認められる以上、これをもつて名誉毀損の記事と目すべきことは当然である。
 2a.新聞紙に事実に反する記事を掲載頒布しこれにより他人の名誉を毀損することは、単なる過失による場合といえどもこれを新聞の正当業務行為と目し得ない。 /訴訟物/請求権競合/
参照条文: /民法:715条/民法:44条/民法:710条/
全 文 s310720supreme2.html

最高裁判所 昭和 31年 7月 20日 第3小法廷 判決 ( 昭和30年(オ)第70号 )
事件名:  貸金請求・上告事件
要 旨
 1.被告が原告に対し負担する貸金債務の支払確保のため小切手を振り出したという事実関係に基き、原告が、小切手が時効により消滅したと主張して利得償還の請求をなし、後に、これを右貸金債権自体の請求に改めることは、請求原因の変更にあたるが、請求の基礎の変更にあたらない
参照条文: /t15.民事訴訟法:232条/
全 文 s310720supreme3.html

最高裁判所 昭和 31年 7月 4日 大法廷 判決 ( 昭和28年(オ)第1241号 )
事件名:  謝罪広告請求上告事件
要 旨
 他人の名誉を侵害した者に対して謝罪広告を命ずることが憲法に違反しないとされた事例。
 1.他人の行為に関して無根の事実を公表し、その名誉を毀損することは言論の自由の乱用であつて、たとえ、衆議院議員選挙の際、候補者が政見発表等の機会において、かつて公職にあつた者を批判するためになしたものであったとしても、これを以て憲法の保障する言論の自由の範囲内に属すると認めることはできない。
 2.単に事態の真相を告白し陳謝の意を表明するにとどまる程度の謝罪広告の掲載は、代替的作為として、民訴733条(現民執法171条)の手続により強制することができる。
 2a.他人の名誉を害した者に対して謝罪広告を新聞紙に掲載すべきことを命ずることが、その者に屈辱的若くは苦役的労苦を科し、又はその者の有する倫理的な意思、良心の自由を侵害することを要求するものとは解されず、民法723条にいわゆる適当な処分というべきであるから許されるとされた事例。 /思想良心の自由/個人の尊重/
参照条文: /憲.19条/憲.13条/民法:723条/民執.171条/
全 文 s310704supreme.html

東京高等裁判所 昭和 31年 6月 29日 第11民事部 決定 ( 昭和31年(ラ)第235号 )
事件名:  強制執行の方法に関する異議申立事件の決定に対する即時抗告事件
要 旨
 妻に対して建物の明渡しを命ずる債務名義の執行を妻に対して実施することは、その建物に夫が同居していることによっては妨げられず、その執行は夫婦同居協力の権利義務を侵害するものではない。 /占有者/
参照条文: /民法:752条/民執.23条/民執.168条/
全 文 s310629tokyoH.html

最高裁判所 昭和 31年 6月 19日 第3小法廷 判決 ( 昭和27年(オ)第28号 )
事件名:  建物所有権移転登記手続請求・上告事件
要 旨
 1.法定更新を排除して最初に定めた期間の満了と同時に借地権者の建物を賃貸人に贈与する特約は、建物の所有を目的とする通常の土地賃貸借においては、借地権者に不利な契約条件を定めたものとして無効な場合もあろうが、契約の始めにおいて賃貸人所有の建物を取壊すという通例では困難と思われる条件を特に承諾してもらつた代りに20年の期間満了と同時に贈与することを約したような場合には、必ずしも借地権者に不利益な条件を定めたものとは認められないとして、その特約の有効性が肯定された事例。
 2.原告の請求が、当初、「被告から自己への所有権移転登記を求める」ものであったが、第一審裁判所が口頭弁論を再開して裁判官が釈明権を行使したところ、原告が「第三者に対して有する所有権移転登記請求権の保全のために、第三者に代位して、被告から第三者への所有権移転登記を求める」と請求の趣旨及び原因を訂正し、被告が異議はないと述べている場合に、訴えの変更についての書面の提出または送達の欠缺は、被告の責問権の喪失によって治癒されると解すべきであるとされた事例。 /訴えの交換的変更/訴えの変更/請求の趣旨の変更/
参照条文: /借地法:4条;11条/t15.民事訴訟法:141条;232条/
全 文 s310619supreme.html

最高裁判所 昭和 31年 5月 10日 第1小法廷 判決 ( 昭和29年(オ)第4号 )
事件名:  不動産所有権移転登記抹消登記手続請求上告事件
要 旨
 不動産の共有権者の一人がその持分に基き登記簿上の所有名義人に対してこの者への所有権移転登記の抹消を求めることは保存行為に属し、各共有者は、その登記の全部の抹消を単独で訴求することができる。 /固有必要的共同訴訟/
参照条文: /民訴.40条/民法:252条/
全 文 s310510supreme.html

最高裁判所 昭和 31年 4月 10日 第3小法廷 判決 ( 昭和29年(オ)第858号 )
事件名:  所有権確認並に引渡請求・上告事件
要 旨
 控訴審において提出された「請求ノ趣旨変更ノ申立」と題する書面に貼用すべきであつた印紙の不足額が上告審において追貼された場合に、その追貼によって右書面はその提出当時に遡つて有効になったとされた事例。
 1.下級審に差し出された訴訟書類の正本に貼用された印紙に不足があつた場合に之を上級審に於て追貼すればその瑕疵は補正されその書類は始めに遡つて有効となる。
参照条文: /民事訴訟法:228条/民事訴訟用印紙法:11条/
全 文 s310410supreme.html

最高裁判所 昭和 31年 4月 3日 第3小法廷 判決 ( 昭和29年(オ)第431号 )
事件名:  土地所有権移転登記手続等請求・上告事件
要 旨
 原告一部勝訴・一部敗訴の判決に対して被告が上告を提起した場合に、その上告が原告敗訴部分(所有権移転登記手続請求の棄却判決)の理由中の既判力の生じない判断(原告が被告に供した譲渡担保の被担保債権が完済されていないこと)を非難して、別の判断(単純な買受けにより被告が所有者であること)がなされるべきことを主張するものである場合には、上告の利益がないとされた事例。
 1.所有権に基く登記請求の訴えについてなされた判決の既判力は、その事件で訴訟物とされた登記請求権の有無を確定するにとどまり、判決の理由となった所有権の帰属についての判断をも確定するものではない。(先例の確認)
 1a.したがって、ある不動産について被告が原告からの登記請求につき敗訴しても、なお、自ら訴を提起し又は相手方の請求に応訴することによつて、当該不動産の所有権が自己に存することを主張して争うことができる。
参照条文: /参照条文/t15.民事訴訟法:3編2章;384条2項;396条/
全 文 s310403supreme.html

最高裁判所 昭和 30年 12月 1日 第1小法廷 判決 ( 昭和28年(オ)第457号 )
事件名:  土地返還請求・上告事件
要 旨
 XのYに対する所有権移転登記の無効を理由とするその抹消手続を求める前訴において請求認容判決が確定した後で、YがXに対して、土地返還請求の訴えを提起した場合に、「裁判所が判決の理由において所有権の存在を確認し、これを前提として登記請求権の存在を認定した場合には所有権の確認と登記請求権の認定とは不可分の関係にあり、仮令当事者において、訴状の請求の趣旨に所有権の確認を求めず、従つて判決においても所有権確認の主文がなくても、登記請求権と共に所有権も訴訟物となつている」と解して、原告が所有権を有するとの前訴判決の判断に既判力を認め、原告に所有権があることを前提にして土地返還請求を認容した原判決が、民訴法199条の解釈を誤ったものとして破棄された事例。
 1.判決の既判力は主文に包含される訴訟物とされた法律関係の存否に関する判断の結論そのもののみについて生ずるのであり、その前提たるに過ぎないものは大前提たる法規の解釈、適用は勿論、小前提たる法律事実に関する認定、その他一切の間接判断中に包含されるに止まるものは、たといそれが法律関係の存否に関するものであつても同条第二項のような特別の規定ある場合を除き既判力を有するものではない。
 1a. 所有権に基づく物上請求権による訴において、原告がその基本たる所有権をも訴訟物たらしめんとする意思をその請求の趣旨で黙示的に表明し、裁判所も亦主文において黙示的にその存否について裁判をしている場合、その判決が当該所有権の存否につき既判力を有すべきことは勿論であるが、請求の趣旨において登記抹消手続を命ずる判決が求められているにすぎない場合に、その請求を認容する確定判決に、請求の趣旨にも又主文にも何等表明されていない土地の所有権の存在についてまで既判力のあるものとしたことは失当であるとされた事例。
参照条文: /t15.民事訴訟法:199条/
全 文 s301201supreme.html

最高裁判所 昭和 30年 10月 11日 第3小法廷 判決 ( 昭和28年(オ)第1034号 )
事件名:  詐害行為取消請求・上告事件
要 旨
 45万円の債権を有する者の詐害行為取消請求により、時価54万円の一棟の建物の贈与の全部が取り消された事例。
 1.詐害行為取消訴訟においては、債務者のなした行為の目的物が不可分のものであるときは、たとえその価額が債権額を超過する場合であつても、行為の全部について取消しをすることができる。
参照条文: /民法:424条/
全 文 s301011supreme.html

最高裁判所 昭和 30年 7月 20日 大法廷 判決 ( 昭和28年(オ)第389号 )
事件名:  子の認知請求・上告事件
要 旨
 1.民法161条は時効の停止に関する規定で、これを認知の訴えの期間制限のごとき除斥期間に類推適用することはできない。 (訴訟代理人の死亡に伴い出訴期間を経過した場合について)
 2.認知の訴え提起の要件をいかに定めるかは立法の範囲に属する事項であって、法律が認知の訴えの提起につき、父又は母の死亡の日から、3年を経過した場合はこれをなし得ないこととする規定を設けたことは、身分関係に伴う法的安定を保持する上から相当と認められ、何ら憲法13条に違反するものではない。
 2a.民法787条但書の規定は、認知の訴えの提起に関し、すべての権利者につき一律平等にその権利の存続期間を制限したのであって、その間何ら差別を加えたものとは認められないから、同条が憲法14条に違反するとの主張は前提を欠く。
参照条文: /民法:161条;787条但書/憲法:13条;14条/
全 文 s300720supreme.html

最高裁判所 昭和 30年 7月 15日 第2小法廷 判決 ( 昭和27年(オ)第1036号 )
事件名:  貸金請求・上告事件
要 旨
 1.弁済の抗弁については、弁済の事実を主張する者に立証の責任があり、その責任は、一定の給付がなされたこと及びその給付が当該債務の履行としてなされたことを立証して初めてつくされたものというべきである。
 1a.裁判所は、一定の給付のなされた事実が認められても、それが当該債務の履行としてなされた事実の証明されない限り、弁済の点につき立証がないとして右抗弁を排斥することができるのであって、右給付が法律上いかなる性質を有するかを確定することを要しない。
 2.旧利息制限法2条にいわゆる裁判上無効とは、単に同条所定の利率を超える約定利息の支払を裁判上請求する場合にのみこれを無効とすべきことを意味するものではなく、いやしくもかかる制限超過の利息に関する限りその債権を原因とする法律的請求はすべてこれを裁判上無効とすべき趣旨をも含む。
 2a.旧利息制限法の制限を超過する部分の利息債権を担保するための抵当権設定登記は許されない。(被担保債権の記載は、利息債権(第一審判決主文では、「利息月1割の債権」)については、利息制限法所定の上限利率内でのみ許される) /要件事実/立証責任/証明責任/主張責任/
参照条文: /民法:3編1章5節1款/ m10.利息制限法:2条/
全 文 s300715supreme.html

最高裁判所 昭和 30年 7月 5日 第3小法廷 判決 ( 昭和28年(オ)第125号 )
事件名:  請求異議・上告事件
要 旨
 金銭の消費貸借契約(貸付日 昭和23年9月23日・返済期限 同年10月23日・利率年 1割)について作成された執行証書に対する請求異議訴訟において、原告が、1万9500円が謝礼金名義で天引されたことを当初から主張している場合に、第一審において、公正証書に記載されている金13万円について消費貸借契約が成立したことを認め、控訴審において、天引額を控除して実際に受領した金額である11万500円につき消費貸借が成立した趣旨の陳述することは、法律上の意見の陳述の変更に過ぎず、自白の撤回に当たらないとされた事例。
 1.法律要件たる事実(要件事実・主要事実)が明らかにされている場合に、法律上の効果についての当事者の一致した陳述は裁判所を拘束しない。
 1a.法律上の意見の陳述が変更された場合、直ちに自白の取消に関する法理を適用することは許されない。
 1b.消費貸借に際し、利息の天引が行われたような場合に、幾何の額につき消費貸借の成立を認めるかは、具体的な法律要件たる事実に基いてなされる法律効果の判断の問題であり、その点についての当事者の陳述は、法律上の意見の陳述である。
 2.消費貸借において天引利息があったときは、天引利息中旧利息制限法の制限の範囲内の金額と現実の交付額との合算額につき消費貸借が成立するから、事実審裁判所は、債務者が現実に交付を受けた金額を確定し、その上で消費貸借は金何円につき成立したかを判示すべきである。 /権利自白/自白の撤回/
参照条文: /t15.民事訴訟法:257条/m10.利息制限法:2条/民法:587条/
全 文 s300705supreme.html

最高裁判所 昭和 30年 6月 2日 第1小法廷 判決 ( 昭和28年(オ)第952号 )
事件名:  動産引渡請求・上告事件
要 旨
 動産(映写機等)の売渡担保契約がなされ債務者が引き続き担保物件を占有している場合に、占有改定による担保権者への引渡しを認めなかった原判決が破棄された事例。
 1.売渡担保契約がなされ債務者が引き続き担保物件を占有している場合には、債務者は占有の改定により爾後債権者のために占有するものであり、従つて債権者はこれによつて占有権を取得するものである。 /譲渡担保契約/対抗要件/
参照条文: /民法:178条;181条;183条/
全 文 s300602supreme.html

最高裁判所 昭和 30年 5月 31日 第3小法廷 判決 ( 昭和28年(オ)第163号 )
事件名:  共有物分割請求上告事件
要 旨
 1
 相続財産の共有は、民法改正の前後を通じ249条以下に規定する「共有」とその性質を異にするものではない。
 2
 相続財産中に金銭その他の可分債権があるときは、その債権は共同相続人間に法律上当然に分割される。
 3
 民法256条以下の規定による共有物分割は現物分割を原則とし、分割によつて著しくその価格を損する虞があるときは、その競売を命じて価格分割を行うことになる。
参照条文: /民法:249条/民法:906条/民法:898条/民法:249条/民法:256条/民法:258条/
全 文 s300531supreme.html

最高裁判所 昭和 30年 5月 31日 第3小法廷 判決 ( 昭和28年(オ)第1442号 )
事件名:  土地代金返還請求上告事件
要 旨
 1.民法561条にいわゆる移転不能とは、絶対的不能をいうものと解すべきではない。
 1a.他人の土地の売買において、正統相続人からその他人に対して相続回復等の訴えが提起され、正統相続人の所有であることが確定された等の事情がある場合に、民法561条にいわゆる移転不能に該当すると判断された事例。
 2.他人の物の売買において、買主は契約当時目的物の売主に属しないことを知つていたと否とにかかわらず解除権を行使し得る。(傍論) /他人物売買/
参照条文: /民法:560条/民法:561条/
全 文 s300531supreme2.html

最高裁判所 昭和 29年 12月 23日 第1小法廷 判決 ( 昭和26年(オ)第285号 )
事件名:  建物収去土地明渡請求上告事件
要 旨
 他の共有者の同意を得て共有地の上に建物を所有している共有者が土地の持分権について抵当権を設定し、それが実行され、法定地上権の成立事由がその者について発生したとしても、他の共有者の持分を無視して共有土地全体については地上権を設定したとみなすべきではない。
参照条文: /民法:388条/民法:251条/
全 文 s291223supreme.html

東京地方裁判所 昭和 29年 11月 29日 判決 ( 昭和28年(ワ)第3273号・昭和29年(ワ)第3300号 )
事件名:  不当利得返還請求事件及び損害賠償請求事件
要 旨
 1.昭和22、23年頃の庶民金融の実情においては月2割の利息は必ずしも稀有の事例ではなく、この程度の高利を約せしめたということだけから、借受人の窮迫に乗じたものとの事実を推測することは困難であるとして、月2割の利息の合意が民法90条により無効であるとされなかった事例。
 2. 大正15年民事訴訟法には再反訴を禁止する旨の規定がなく、反訴も一つの訴である以上、同法239条の解釈としては、反訴の要件を具備する限り、再反訴の提起も許される。 /暴利行為/公序良俗違反/
参照条文: /民法:90条/t15.民事訴訟法:239条/
全 文 s291129tokyoD.html

最高裁判所 昭和 29年 11月 18日 第1小法廷 判決 ( 昭和26年(オ)第603号 )
事件名:  約束手形金請求上告事件
要 旨
 1.書替手形の特質は、旧手形を現実に回収して発行する等特別の事情のない限り、単に旧手形債務の支払を延長する点にある。
 2.手形の振出行為の要素に錯誤があるというのは、手形の振出行為の主要な内容自体に錯誤の存する場合を指すものであつて、その振出行為の縁由に錯誤のある場合をいうものではない。
 2a.手形の振出に当り手形を他に裏書譲渡せず、かつ、新手形と引換に旧手形が返却されるものと誤信したとしても、それらは手形振出の縁由に関する錯誤であつて、その要素の錯誤といえないとされた事例。 /動機の錯誤/要素の錯誤/
参照条文: /手形.1条/民法:95条/
全 文 s291118supreme.html

大阪高等裁判所 昭和 29年 9月 16日 第1民事部 判決 ( 昭和29年(ネ)第169号 )
事件名:  所有権確認差押登記抹消登記請求・控訴事件
要 旨
 訴訟手続の同種性を欠きかつ当事者の変更を生ずるような訴えの変更(交換的変更)が第一審においてなされ、第一審は新請求を棄却する判決をしたが、控訴審は訴えの変更を許されないと判断した場合に、控訴審が新訴についてなされた原判決を取り消して訴えを却下し、旧訴について事件を第一審に差し戻した事例。
 1.訴えの交代的変更(交換的変更)であっても、訴訟手続の同種性を必要とする。(旧請求が民事訴訟、新請求が行政訴訟(抗告訴訟)の事例)
 2.原審において、訴の変更を許容して、新訴について判決がなされた場合、控訴審において、これを不当として原判決を取消すことは、一面訴訟経済に反するとともに、行政事件等の出訴期間の定めあるものについて、これを徒過せしめるおそれあるため、控訴審においては、もはや訴え変更の当否を争い得ないものとする解釈も考えられないことはないが、訴訟手続の同種性を欠きかつ当事者の変更を生ずるような訴の変更については妥当しないものというべきである。
参照条文: /t15.民事訴訟法:232条;233条/
全 文 s290916osakaH.html

最高裁判所 昭和 29年 7月 27日 第3小法廷 判決 ( 昭和26年(オ)第803号 )
事件名:  建物所有権確認請求・上告事件
要 旨
 1.建物の所有権確認請求訴訟の訴訟物は建物の所有権であるから、原告がこれを取得するにいたった事由は、請求の原因ではなく、請求を理由ずける攻撃方法としての必要な事実にすぎない。
 1a.建物の所有権確認請求訴訟の原告が初め建物の所有権の承継取得を主張し、後にその原始取得を主張するにいたったとしても、それは攻撃方法が変更されただけであって、請求の原因に変更があったのではなく、前後を通じ請求の基礎に変りがない。
 2.本案の裁判に対する上告の理由がないときは、訴訟費用の裁判に対する不服の申立ては許されない。(先例の確認)
参照条文: /t15.民事訴訟法:232条;361条;396条/
全 文 s290727supreme.html

最高裁判所 昭和 29年 6月 11日 第2小法廷 判決 ( 昭和27年(オ)第9号 )
事件名:  動産及び不動産引渡等請求・上告事件
要 旨
 思慮分別判断の能力が不良で精神能力が12、3才の児童に比せられる程度にすぎない成年を被告とする動産及び不動産引渡請求訴訟において、訴訟代理人を通じてした控訴は有効であるが、事実上の保護者である姉夫婦や訴訟代理人に相談することなく自らした控訴取下げは、意思無能力者のなした訴訟行為にあたり、その効力を生じないとされた事例。 /訴訟能力/訴訟無能力者/
参照条文: /t15.民事訴訟法:45条/
全 文 s290611supreme.html

最高裁判所 昭和 29年 6月 8日 第3小法廷 判決 ( 昭和28年(ォ)第632号 )
事件名:  家屋明渡等請求・上告事件
要 旨
 控訴審において原告が請求を拡張した場合に[たとえ請求の基礎に変更があっても]、被告がこれに異議を述べていないときは、控訴審はこれを許すことができる。
参照条文: /t15.民事訴訟法:232条/
全 文 s290608supreme.html

最高裁判所 昭和 29年 2月 26日 第2小法廷 判決 ( 昭和28年(オ)第1061号 )
事件名:  立替金請求上告事件
要 旨
 1.控訴審において、請求の基礎に変更のない請求原因の変更による交替的訴の変更がなされた場合に、新訴によって被告敗訴の判決がなされても、新訴につき審級の利益を失わせるものということはできない。 /交換的変更/
参照条文: /民訴.143条/民訴.297条/
全 文 s290226supreme.html

最高裁判所 昭和 29年 2月 19日 第2小法廷 判決 ( 昭和26年(オ)第424号 )
事件名:  増資割当株式引渡請求上告事件
要 旨
 1.喪失株券に関する除権判決の効果は、右判決以後当該株券を無効とし、申立人に株券を所持すると同一の地位を回復させるに止まるものであつて、公示催告申立の時に遡つて右株券を無効とするものではなくまた申立人が実質上株主たることを確定するものでもない。
 1a.公示催告期間中会社に対し当該株券を提示して株主名簿並に株券の名義書換を請求する第三者があつた場合、右第三者が実質上の権利者であることもありうるから、会社は単に当該株券につき喪失を理由とする公示催告の申立があるという一事を以て書換を拒むことを得ない。
参照条文: /公催仲裁.785条/商.206条/商.230条/
全 文 s290219supreme.html

最高裁判所 昭和 28年 12月 14日 第1小法廷 判決 ( 昭和24年(オ)第58号 )
事件名:  仮処分申請上告事件
要 旨
 債務者がすでに自ら権利を行使している場合には、その行使の方法又は結果の良いと否とにかかわらず、債権者は債務者を排除し又は債務者と重複して債権者代位権を行使することはできない。
参照条文: /民法:423条/
全 文 s281214supreme.html

福岡高等裁判所 昭和 28年 8月 25日 第1民事部 判決 ( )
事件名:  立替金請求控訴事件
要 旨
 衣料品の買主に対して金銭の支払を求める訴訟において、第一審が売買代金の立替金の支払請求として請求を認容したのに対し、被告が売買代金であると主張して控訴し、控訴審が売買代金債務の存在が認められるとして、控訴を棄却した事例。
 (第一審が立替金償還請求を認容し、控訴審において原告が請求を売買代金請求に交換的に変更した場合に、控訴審が、交換後の請求に理由があるとして、控訴を棄却した事例) /訴えの交換的変更/
参照条文: /民訴.302条/
全 文 s280825hukuokaH.html

最高裁判所 昭和 28年 5月 29日 第2小法廷 判決 ( 昭和26年(オ)第682号 )
事件名:  預金払戻請求上告事件
要 旨
 譲渡禁止特約のある債権について債権者が譲受人を特定して予め債務者に譲渡の同意を求め、債務者がこれに同意したときは、その後あらためて民法467条1項所定の通知又は承諾がなされなくても、当該債務者に対しては右債権譲渡をもつて対抗することができる。
参照条文: /民法:467条1項/民法:466条2項/
全 文 s280529supreme.html

最高裁判所 昭和 28年 4月 23日 第1小法廷 判決 ( 昭和24年(オ)第112号 )
事件名:  試掘権移転登録手続等請求・上告事件
要 旨
 戦地に赴く原告から父が包括的な代理権の授与を受け、父が原告(買主)の代理人として被告(売主)と鉱物試掘権の売買契約を締結し、さらに、原告の生死不明の間に父が原告を不在者とする財産管理人に選任されて原告のために本件訴訟物たる試掘権を原告の権利として訴えを提起した場合に、売買契約締結前の日である戸籍簿記載の死亡日に原告が死亡したことを原判決が認定しなかったことは不当であるとして、上告審が原判決を破棄したが、下記の要旨2及び3等の説示をして事件を差し戻した事例。
 1.戸籍簿に戦死した旨記載されている者は、右記載が戸籍法89条の報告に基いて登載されたものと認められるときは、反証がない限り、戸籍簿に記載されている日に死亡したものと認むべきである。(破棄事由)/自由心証主義/事実認定/
 2.本人の死亡を代理権消滅の原因とする民法第111条の規定は、これと異なる合意の効力を否定する趣旨ではない。(差戻審への説示)
 3.民事訴訟法57条および85条は、法定代理人又は訴訟代理人の訴訟行為の効果が実質上死亡者の相続人に帰属することを容認するものと解すべきである。(差戻審への説示)
 3a. 原告の生死不明の間に、裁判所により原告を不在者とする財産管理人に選任された者が、その許可を得て訴訟物たる権利を原告の権利として提起した場合には、たとえその後において原告死亡の事実が判明した結果、右権利が実質上原告の相続人に帰属するものと認めざるを得ない場合においても、原告の当事者としての適格を否定すべきでないと解することができるとされた事例。(差戻審への説示)
 3b.不在者の財産管理人が、不在者の生死不明の間に不在者の権利について裁判所の許可を得て訴えを提起した場合には、訴え提起当時に不在者が死亡していたことが訴訟係属中に判明したときでも、不在者の当事者としての適格を否定すべきではない(訴えの適法性を否定すべきでない)。(要旨3bの一般化)
 
参照条文: /戸籍法:89条/民法:28条;111条1項1号/t15.民事訴訟法:57条1項;85条;185条/
全 文 s280423supreme.html

最高裁判所 昭和 27年 12月 25日 第1小法廷 判決 ( 昭和24年(オ)第207号 )
事件名:  亜炭コーライト代金請求上告事件
要 旨
 1.請求の趣旨に記載された請求金額を減少させることは、訴えの一部の取下に過ぎず、請求の変更にあたらない。(/請求の減縮/訴えの変更/)
 1a.被告より本案について何等の申述も準備書面の提出もない最初の口頭弁論においてなされた訴えの取下げについて、被告の同意は必要ないとされた事例。
 2.第一審において本案の弁論をなさず又答弁書その他準備書面をも提出しなかつた被告が控訴を提起して、「(第一審判決に)全部不服であるから、ここに控訴する」旨の控訴状を出したに過ぎない場合に、この程度の記載では請求原因たる事実に対する認否を明らかにしているものとは認め得ないから、原審が擬制自白の成立を認めたのは正当であるとされた事例。
 3.主債務者と連帯保証人とを共同被告として訴が提起された場合でも、必要的共同訴訟には当らない。
参照条文: /民訴.159条1項/民訴.40条/民訴.143条/民訴.261条/
全 文 s271225supreme2.html

東京高等裁判所 昭和 27年 12月 4日 第5民事部 判決 ( )
事件名:  共有物分割請求控訴事件
要 旨
 1.共有物分割対象となる不動産が複数ある場合に、現物分割が適当ではなく、不動産を一括競売してその売得金を分割するのが適当であるとされた事例。
 2.共有物に必要費が支出された後で貨幣価値の著しい下落があっても、物価の変動に応じてその支出金額を換算し、これを共有に関する債権となす旨の規定がない以上、この方法による換算額を共有に関する債権の額とすることはできない。
 3.時機に後れて提出され、これによつて訴訟の完結を遅延させることになる攻撃防御方法であるとは言えないとされた事例。 /価額分割/時機に後れた攻撃防御方法/
参照条文: /民法:258条/民法:253条1項/民法:259条/民訴.157条1項/
全 文 s271204tokyoH.html

最高裁判所 昭和 27年 11月 27日 第1小法廷 判決 ( 昭和27年(オ)第545号 )
事件名:  家屋収去、土地明渡請求・上告事件
要 旨
 1.留置権のような権利抗弁にあつては、たとい抗弁権取得の事実関係が訴訟上主張せられたとしても権利者においてその権利を行使する意思を表明しない限り裁判所においてこれを斟酌することはできない。
 2.権利抗弁の行使の意思の表明がない場合に、裁判所はそれを斟酌することなく裁判することができないことの根拠規定として、旧民事訴訟法186条(現246条)が挙げられた例。
 3.(釈明権不行使が違法でないとされた事例)
 当事者の一方が或る権利を取得したことを窺わしめるような事実が訴訟上あらわれたに拘わらず、その当事者がこれを行使しない場合にあつても、裁判所はその者に対しその権利行使の意思の有無をたしかめ、或はその権利行使を促すべき責務あるものではない。
参照条文: /民法:295条/t15.民事訴訟法:186条;127条/
全 文 s271127supreme.html

最高裁判所 昭和 27年 11月 20日 第1小法廷 判決 ( 昭和26年(オ)第392号 )
事件名:  農業用宅地買収計画並に裁決取消請求・上告事件
要 旨
 1.自作農特別措置法47条の2にいう処分のあったことを知った日(出訴期間の起算点)とは、当事者が書類の交付、口頭の告知その他の方法により処分の存在を現実に知った日を指すものであって、抽象的な知り得べかりし日を意味するものでないと解するを相当とする。
 1a.出訴期間の制限が付されている訴訟の原告がその主張する期間不在であったことを証拠に基き認定した場合には、その不在の期間本件裁決のあったことを原告自身は現実には知らなかったことをも認定した趣旨であるとしなければならないとされた事例。 /事実の法的評価の誤り/
参照条文: /自作農特別措置法:47-2条/
全 文 s271120supreme.html

最高裁判所 昭和 27年 10月 21日 第3小法廷 判決 ( 昭和25年(オ)第219号 )
事件名:  約束手形金請求上告事件
要 旨
 1.第三者作成の文書については、挙証者の相手方が不知を以て答えた場合でも、特段の立証がなくても裁判所は弁論の全趣旨によりその成立の真正を認めることができる。
 2.手形の被偽造者は偽造手形により何ら手形上の義務を負うものではなく、このことは被偽造者に重大な過失があつたと否と、また受取人が善意であつたと否とにかかわらない。 /補助事実/自由心証主義/文書の成立の真正/不知の陳述/事実認定/
参照条文: /民訴.247条/民訴.159条2項/
全 文 s271021supreme.html

最高裁判所 昭和 27年 10月 8日 大法廷 判決 ( 昭和27年(マ)第23号 )
事件名:  日本国憲法に違反する行政処分取消請求・上告事件
要 旨
 請求の趣旨が「昭和26年4月1日以降被告のなした警察予備隊の設置に関する別紙目録記載の行政行為はこれを取消す。」である訴えが 直接 最高裁判所に提起されたが、却下された事例。
 1.わが現行の制度の下においては、特定の者の具体的な法律関係につき紛争の存する場合においてのみ裁判所にその判断を求めることができるのであり、裁判所がかような具体的事件を離れて抽象的に法律命令等の合憲牲を判断する権限を有するのではない。 /訴訟要件/裁判権/法律上の争訟/
参照条文: /憲法:76条;81条/裁判所法:3条1項/
全 文 s271008supreme.html

福岡地方裁判所 昭和 27年 9月 18日 判決 ( )
事件名:  立替金請求事件
要 旨
 衣料品の売買代金の立替払金の償還請求が認容された事例。
参照条文: 
全 文 s270918hukuokaD.html

最高裁判所 昭和 27年 2月 19日 第3小法廷 判決 ( 昭和24年(オ)第91号 )
事件名:  家屋明渡等請求上告事件
要 旨
 1.建物の占有者Aが建物を所有者Xに明け渡した後で、YがXの妻の制止を無視して建物を占有した場合に、XがYに対して占有権に基づき明渡しを請求したところ、Yが、Xの賃借人でありAの転貸人である者Bが占有者であり、その者の許諾を得て占有を開始したと主張して、Xの占有権を所持と占有意思の両面で争った事例。(Xが占有者であると認定され、請求が認容された)。
 2.所有者が家屋に錠をかけてその鍵を所持するとか標札や貼紙などで自己が現に占有することが第三者にもわかるようにしておくといった方法を講じなかったとしても、所有者に必ずしも所持なしとは言えない。
 3.家屋の所有者がその裏口に外部からの侵入を防ぐに足る何らの措置も講じていなかっとしても、自宅がその家屋に隣接するため、その家屋の裏口を常に監視して容易に侵入を制止し得る状況である場合には、所有者に占有の要件である所持があったと言い得る。
 4.家屋の所有者が転借人から家屋の明渡しを受けたとしても、所有者が賃借人のため一時的管理をしたのであり「自己ノ為メニスル意思」がない、とは言えない。
参照条文: /民法:180条/民法:200条/民法:202条/
全 文 s270219supreme.html

最高裁判所 昭和 27年 2月 8日 第2小法廷 判決 ( 昭和25年(オ)第29号 )
事件名:  調停無効確認請求上告事件
要 旨
 1.調停において他人の所有に属する物を相手方に譲渡することを約した者は、これを取得して相手方に移転すべき義務を負うのであつて、他に特別の事情のない限り、かゝる他人の所有に属する物の譲渡契約が当然に履行不能のため調停が無効であると言うことはできない。
 2.一旦調停の成立した法律関係であつても、これについて重ねて調停の申立があり調停の成立しなかつた場合に裁判所が金銭債務臨時調停法7条の裁判をすること自体はなんら妨げなく、これを当然に違法ということはできない。(棄却理由)
 2a.確定判決を経た法律関係についても紛争があれば当事者は有効に和解をなし得ることは当然であるから、一旦調停の成立により確定した法律関係についても必要に応じ、重ねて当事者は和解調停をなし得る。(前提となる一般論)
 3.当事者が和解(調停)において譲歩の方法として、係争物に関係なき物の給付を約することは、和解の本質に反するものではない。 /他人物売買/
 
参照条文: /民法:559条/民法:560条/民法:561条/民法:562条/民法:695条/戦時民事特別法(昭和17年法律63号)19条/金銭債務臨時調停法(昭和7年法律26号)7条/金銭債務臨時調停法(昭和7年法律26号)9条/
全 文 s270208supreme.html

最高裁判所 昭和 26年 11月 27日 第3小法廷 判決 ( 昭和24年(オ)第106号 )
事件名:  動産引渡請求・上告事件
要 旨
 1.民法192条にいわゆる「善意ニシテ且過失ナキトキ」とは、動産の占有を始めた者において、取引の相手方がその動産につき無権利者でないと誤信し、且つかく信ずるにつき過失のなかつたことを意味するのであり、その動産が盗品である場合においてもそれ以上の要件を必要とするものではない。
 2.民法194条により占有物を回復するには、その物の現存することを要する。 /要件事実/
参照条文: /民法:192条;194条/
全 文 s261127supreme.html

大阪地方裁判所 昭和 26年 6月 16日 判決 ( 昭和25年(レ)第15号 )
事件名:  家屋明渡控訴事件
要 旨
 1.空襲が激しさを加えて都会地およびその周辺の家屋は常時爆撃の危険にさらされていたので、これに対処するためにも家屋についてその現実の居住者が何人であるかまず重大な関心事となつていた情勢の中で、家屋の賃借人が家族を疎開させるため朝鮮に赴くに際し、営業の手伝いの夫婦に家屋に居住して家屋と営業を管理することを頼んだ場合には、賃借人が右夫婦を所持機関として家屋の所持を続けたと見ることはできず、所持は右夫婦に移り、賃借人は右夫婦を占有代理人として当該家屋を占有したことになるとされた事例。
 2.占有訴権における占有の侵奪や妨害は、所持者の意思に基づかずに所持が奪われまたはその円満が害せられる場合をいい、代理占有にあっては、右の意思は所持者たる占有代理人について決せられるもので、占有代理人が任意に占有物を他人に交付し、または任意に他人の支配を許したようなときには、占有の侵奪や妨害があったとはいえない。
 3.賃借人の代理占有者が所有者と賃貸借契約を締結した場合について、二重の賃貸借だからといって後の賃貸借が無効となるものでも、前の賃貸借に対抗できないというものでもなく、前の賃借人は後の賃借権に基づく占有者に対して賃借権に基づく妨害排除を請求することができないとされた事例。
参照条文: /民法:180条/民法:181条/民法:198条/民法:200条/民法:601条/民法:612条/
全 文 s260616osakaD.html

最高裁判所 昭和 25年 10月 26日 第1小法廷 判決 ( 昭和24年(オ)第306号 )
事件名:  売買代金返還請求上告事件
要 旨
 1.他人の物の売買にあっては、その目的物の所有者が売買成立当時からその物を他に譲渡する意思がなく、従って売主においてこれを取得し買主に移転することができないような場合であっても、なおその売買契約は有効に成立する。(民法564条参照)
 2.他人の物の売買においては、売主がその売却した権利を取得してこれを買主に移転することのできないときは、その履行の不能が原始的であると後発的であるとを問わず、また売主の責に帰すべき事由によるものたるか否かは問わず、買主は唯それだけの事由に基づき契約の解除をなすことができる。(民法561条) /売主の担保責任/他人物売買/
参照条文: /民法:560条/民法:561条/
全 文 s251026supreme.html

最高裁判所 昭和 25年 9月 8日 第2小法廷 判決 ( 昭和24年(オ)第321号、昭和24年(オ)第342号 )
事件名:  衆議院議員選挙無効請求上告事件
要 旨
 昭和24年1月23日に行われた衆議院議員選挙おいて、新潟県中蒲原郡七谷村選挙管理委員会が投票管理者及び開票管理者の選任以外の職務権限の一切を挙げて村役場事務当局に一任して顧みなかつたため種々の選挙規定違反があったとして、同村における選挙が無効とされた事例。
 1.権限のない者によつて選任せられた投票立会人の立会について、投票管理者が異義を述べなかつたからといつて、右の投票立会人が投票立会人としての資格を具有するに至るものと解することはできない。
 1a.ある村の違法な選挙をやり直せばその村の属する選挙区における候補者の当落に異動を生ずる虞があることを認定して、その村の選挙が無効とされた事例。
 2.補助参加人は、被参加人のために定められた上告申立期間内にかぎつて、上告の申立をなし得る。
 2a.自ら適法に上告の申立てをしていない補助参加人は、被参加人が上告申立をした場合に、その被参加人のために定められた上告理由書提出期間内に限つて上告理由書を提出し得る。
参照条文: /民訴.45条1項/民訴.297条/民訴.313条/民訴.285条/民訴.315条1項/衆議院議員選挙法.24条/衆議院議員選挙法82条/
全 文 s250908supreme.html

最高裁判所 昭和 25年 7月 11日 第3小法廷 判決 ( 昭和24年(オ)第219号 )
事件名:  約束手形金請求・上告事件
要 旨
 1.当事者の自白した事実が真実に合致しないことの証明がある以上、その自白は錯誤に出たものと認めることができる。
 1a.原審において被上告人の供述其他の資料により被上告人の自白を真実に合致しないものと認めた上、これを錯誤に基くものと認定したことは違法とはいえないとされた事例。
参照条文: /t15.民事訴訟法:257条/
全 文 s250711supreme.html

最高裁判所 昭和 24年 11月 8日 第3小法廷 判決 ( 昭和24年(オ)第141号 )
事件名:  家屋明渡請求・上告事件
要 旨
 1.原告が控訴審において請求の減縮をしたときは、それが訴えの一部取下げ又は請求の一部放棄のいずれであつても、その部分については訴えは初より繋属しなかつたものと看做され、この部分に対する第一審判決はおのずからその効力を失う。
 1a.原告の請求を認容する判決に対して被告が控訴を提起した場合に、控訴審において原告が請求を減縮すれば、控訴は残余の部分に対するものとなり、これにつき第一審判決を変更する理由がないときは、控訴審が控訴棄却の判決をするのは当然である。 /処分権主義/
参照条文: /t15.民事訴訟法:232条;186条;384条1項/
全 文 s241108supreme.html

東京高等裁判所 昭和 24年 10月 20日 第4民事部 判決 ( 昭和24年(ネ)第503号 )
事件名:  仮処分取消申立控訴事件
要 旨
 XがBから菜園用に賃借している土地をYが買い受け、Yが同土地に建築材料等を持ち込もうとするので、Xが、Yを相手方として、Xの賃借権を被保全債権として、(1)Xの占有を解いて執行官の保管に付してXの菜園利用を許すこと、及び、(2)Yの妨害行為を禁止することを内容とする仮処分命令が発せられ、起訴命令に応じてXが占有保全及び占有妨害禁止の訴えを提起した場合に、起訴命令不遵守を理由とする仮処分命令取消申立事件において、これらの訴えも前記仮処分命令の本案の訴えにあたるとされた事例。
 1.仮処分の申立における請求と本案の訴えにおける請求とは必ずしも全然同一たることを要せず、いやしくもその請求の基礎にして同一性を失わない限り、その請求の原因を異にするもあえて差し支えない。
 1a.賃借権は、目的物を使用牧益する権利として目的物に対する占有を伴うべきものであるから、その目的物を占有することは、一面賃借権行使の態様となり他面占有権成立の基礎ともなるので、賃借権を理由とする妨害禁止の訴えと、右賃借権に基く占有を根拠とする占有権の訴えとはその請求の基礎において同一性を失わない。
 1b.占有保全並びに占有妨害禁止の訴えも、賃借権を被保全債権とする妨害禁止等の仮処分の本案訴訟たることを得る。
参照条文: /m23.民事訴訟法:746条;756条;760条;232条/m29.民法:198条;199条/
全 文 s241020tokyoH.html

最高裁判所 昭和 24年 7月 13日 大法廷 判決 ( 昭和23年(れ)829号 )
事件名:  食糧管理法違反再上告事件
要 旨
 憲法29条は「正当な補償」と規定しているだけであって、補償が財産の供与と交換的に同時に履行さるべきことまで保障しているわけではない。
参照条文: /憲.29条3項/
全 文 s240713supreme.html

最高裁判所 昭和 24年 5月 31日 第3小法廷 判決 ( 昭和23年(オ)第150号 )
事件名:  約束手形金請求上告事件
要 旨
 1.特定物の売買においては、その物が引渡前空襲により滅失したとしても、売主の代金債権が消滅する理由がなく、従つてこれにより、その代金支払のために掘り出された手形の振出が原因を欠くに至つたものとはいえない。
 2.手形の裏書人が振出人の手形債務を保証する目的で裏書をした場合においても、裏書人の債務と振出人の債務とは別個の債務であるから手形債権者が振出人に対して、単に手形債権の確認判決を求め、また裏書人に対しては、手形債務についての給付の判決を求めてもなんら差支えない。 /危険負担/確認の訴えの利益/
参照条文: /民法:534条/民法:446条/手形.11条/
全 文 s240531supreme.html

仙台高等裁判所 昭和 24年 1月 17日 民事部 判決 ( )
事件名:  仮処分申請控訴事件
要 旨
 1.土地の買主からの目的土地の処分禁止仮処分事件において、土地の売主が解約手附金の倍戻しにより売買契約を有効に解除したかが争われ、その点についての疎明が不十分であり、仮処分申請を排斥するには不十分であるとされた事例。
 2.債権者代位権行使前に債務者が自らその権利を行使している場合には、債権者はもはや代位権を行使する余地はない。
 2a.土地の買主(債権者)が売主(債務者)に代位してその前主(第三債務者)に対してなした所有権移転登記手続請求権を保全するための仮処分命令申請の適否が、その本案訴訟の提起と債務者の第三債務者に対する訴訟の提起との先後関係に依存するとされた事例。
参照条文: /民法:423条/民法:557条/
全 文 s240117sendaiH.html

最高裁判所 昭和 23年 3月 12日 大法廷 判決 ( 昭和22年(れ)第119号 )
事件名:  尊属殺、殺人、死体遺棄事件(上告事件)
要 旨
 1.憲法は、現代多数の文化国家におけると同様に、刑罰として死刑の存置を想定し、これを是認したものと解すべきであり、死刑そのものをもつて残虐な刑罰と解し、刑法死刑の規定を憲法違反とすることはできない。
 1a.刑罰としての死刑そのものが、一般に直ちに憲法36条にいわゆる残虐な刑罰に該当するとは考えられない。
 1b.死刑といえども、他の刑罰の場合におけると同様に、その執行の方法等がその時代と環境とにおいて人道上の見地から一般に残虐性を有するものと認められる場合には、勿論これを残虐な刑罰といわねばならなず、憲法第36条に違反するものというべきである。
 2.一人の生命は、全地球よりも重い。
参照条文: /憲.36条/憲.13条/憲31条/刑.
全 文 s230312supreme91.html

大審院 昭和 15年 11月 26日 第5民事部 判決 ( 昭和15年(オ)第660号 )
事件名:  貸金請求・上告事件
要 旨
 主債務者が連帯保証人に対して有している債権が譲渡されたが、その譲渡通知前に被保証債権の弁済期が到来して保証人が主債務者に対して予め求償権を行使できるようになったが、保証債務の履行は譲渡通知後である場合に、債権の譲受人からの支払請求に対して、保証人が求償権を自働債権とする相殺をもって対抗したところ、自働債権に抗弁権(民法461条1項)が付着していることを理由に、相殺が認められなかった事例。(受働債権の譲渡の通知がなされた時点で自働債権に抗弁権が付着していたため相殺適状になかった場合には、その後にその抗弁権が消滅しても相殺は許されないとした原判決が是認された事例。)
 1.抗弁権の附著している債権を自働債権とする相殺は、許されない。(先例の確認)
 1a.民法460条2号の求償権に対しては、主債務者は民法第461条により保証人に担保を供させる権利を有し、担保の供与があるまでは求償に応ずることを拒絶することができるのであるから、この求償権には主債務者において有する抗弁権が附著するものというべきであり、保証人はこの求償権をもっては相殺をすることができない。
参照条文: /民法:460条2号;461条;468条2項/
全 文 s151126supreme.html

大審院 昭和 15年 3月 15日 第5民事部 判決 ( 昭和14年(オ)第123号 )
事件名:  転付金請求上告事件
要 旨
 債権者代位訴訟において債権者勝訴の判決が確定した後で、債務者の転付債権者が第三債務者に対して給付の訴えを提起した場合に、転付債権者は代位訴訟による時効中断の効果を主張することができるとされた事例。
 1.債権者代位訴訟において債権者が受けた判決は、債務者が訴訟に参加したか否かにかかわらず、民事訴訟法第201条第2項(現115条1項2号)により債務者に対しても効力を有する。
 1a.債権者代位訴訟において債権者が勝訴した場合に、その訴訟による時効中断の効果は、債務者にも及ぶ。(破棄理由)
 2.債権者は代位権行使について善管注意義務を負うから、訴訟追行に過失のある場合(例へば債務者に訴訟告知をなさなかったため債務者の手に存する訴訟資料を利用することができなかった場合)には、債務者に対し損害賠償の責を負う。(傍論) 債権者代位権/
参照条文: /民法:423条/民法:148条/民訴.115条1項5号/
全 文 s150315supreme.html

大審院 昭和 14年 5月 16日 第2民事部 判決 ( 昭和13年(オ)第1901号 )
事件名:  妨害排除請求上告事件
要 旨
 大理石採取のために土地を賃借した者が、賃貸人に代位して、採石妨害者に対して土地明渡・立入禁止請求の訴えを提起した場合に、その後に賃貸人が同じ被告に対して同趣旨の訴えを提起したことにより賃借人の訴えが不適法となるかが問題にされた事例。
 1.債権者代位権の行使に着手したことを債権者が債務者に対し通知するか、又はそのことを債務者が了知した時から、債務者は代位の目的債権を処分することができなくなる。 /当事者適格/
参照条文: /民法:423条/
全 文 s140516supreme.html

大審院 昭和 13年 5月 25日 民事第3部 判決 ( 昭和13年(オ)第62号 )
事件名: 
要 旨
 民法第388条の法理は、土地と建物が同一の所有者に属する場合に、土地と建物を共同抵当に供したが、後日土地または建物のみについて競売があった場合、並びに、その土地または建物の所有者に変更が生じた場合にも異なることはない(土地とその地上建物が共同抵当に供された後、建物が焼失し、抵当権設定者の妻により建物が再築された場合に、法定地上権の成立が認められた事例)。
参照条文: /民法:388条/
全 文 s130525supreme.html

大審院 昭和 10年 12月 21日 第4民事部 判決 ( 昭和10年(オ)第1009号 )
事件名:  延滞家賃請求・上告事件
要 旨
 賃貸不動産が強制競売のために差し押さえられた年(昭和7年)の5月分から賃借人が賃料を支払わなくなった場合に、賃貸人は、競落人に所有権が移転する日の前日(昭和8年7月14日)までの賃料を賃借人に請求することができるとされた事例。(差押えの日と訴え提起の日もその前後関係も不明)
 1.賃貸人が賃借人に現実に一定期間賃貸物を使用収益させたことにより取得する当該期間の賃料債権は、その発生の基礎となる賃貸借関係とは全く独立した別個の存在であり、借家法1条1項は、賃貸人が既に賃借人に家屋を使用収益させたことにより取得している賃料債権まで物権取得者に移転すべきことを定める趣旨のものではない。
参照条文: /借家法:1条1項/
全 文 s101221supreme.html

大審院 昭和 8年 6月 30日 第2民事部 決定 ( 昭和8年(ク)第771号 )
事件名: 
要 旨
 訴の変更を許さない旨の決定は、口頭弁論に基づいてなされるものであるから、これに対しては抗告できない。
参照条文: /民訴.87条1項/民訴.143条/民訴.283条/民訴.328条/
全 文 s080630supreme.html

大審院 昭和 7年 9月 30日 第2民事部 判決 ( 昭和6年(オ)第3137号 )
事件名:  強制執行異議上告事件
要 旨
 A・B・C・D4名が債権者Gに対して負っていた2500円の連帯債務につき、債権額を1200円に減額し、その内の1000円はAらが弁済義務を引き受け、200円はAらが月末までに弁済し、残余は免除する旨の更改契約が成立したが、その旨を更改契約により一切の債務を免れたDに通知しないでいる間に、GがDに対して強制執行を申し立てたためDが善意で1000円を弁済し、Dからの求償にAが応じた場合に、AはDのGに対する不当利得返還請求権ならびに不当執行による損害賠償請求権を取得するとされた事例。(二重弁済によるAの損失はDへの通知を怠ったという自らの過失により生じた損失であるとして、因果関係の中断を認めてAのGに対する請求を棄却した原判決を破棄)
 1.民法第443条第2項は、免責の通知を過失により怠った求償権者の求償権を制限し、過失なき被求償者を保護する趣旨の規定である。
 2.連帯債務者の一人Aが第1免責行為をなした後で他の連帯債務者に通知をしなかったため、他の連帯債務者Bが第2免責行為をして民法443条2項により自己の免責行為を有効とみなす権利を行使した場合に、その効果はAB間の相対的関係において第2免責行為を有効にするにとどまり、債権者および他の連帯債務者との関係においてまで第1免責行為を無効とし、第2免責行為を有効とするものではない。
 3.民法443条2項により第2免責行為が有効とみなされる場合には、民法422条に準じて、第2免責行為者の債権者に対する不当利得返還請求権は、当然に第1免責行為者に移転する。 /賠償者代位/求償要件としての通知/
参照条文: /民法:443条2項/民法:422条/
全 文 s070930supreme.html

大審院 大正 15年 2月 5日 判決 ( 大正14年(オ)第1113号 )
事件名: 
要 旨
 1
 民法第388条は、抵当権設定前より建物が土地の上に存在した場合に対する規定であって、抵当権設定後建物が建設された場合には適用されない。
 2
 民法389条により土地と共に建物の競売をなすことは土地抵当権者の権利であって、義務ではない。
 
 (法定地上権/建物一括競売権)
参照条文: /民法:388条/民法:389条/
全 文 t150205supreme.html

大審院 大正 12年 4月 7日 民事連合部 判決 ( 大正11年(オ)第319号 )
事件名:  転付金請求事件
要 旨
 抵当不動産の滅失により債務者が火災保険金債権を有するに至った場合に、抵当権者が差押をなさないうちに他の債権者が転付命令によりその債権を取得したときは、抵当権者は債務者に属しなくなった当該債権に対し物上代位権を行使することができない。
参照条文: /民法:304条/民法:372条/民執.159条/民執.160条/民執193条/
全 文 t120407supreme.html

大審院 大正 7年 10月 29日 第1民事部 判決 ( 大正7年(オ)第409号 )
事件名:  家賃金請求上告事件
要 旨
 旧所有者に対して修繕費用償還請求権を有する賃借人は、新所有者との関係で賃貸借契約が存続している場合でも、新所有者に支払うべき賃料を民法297条により留置権の被担保債権の弁済に充当することができる。
参照条文: /民法:295条/民法:297条/民法:608条/
全 文 t071029supreme.html