関西大学法学部教授 栗田 隆


民事執行法概説「不動産の強制競売 3」の注


注1 現行の67条では、「その買受けの申出の額が、買受可能価額以上で、かつ、最高価買受申出人の申出の額から買受けの申出の保証の額を控除した額以上である場合に限り」となっているが、当初は、「以上」は「超え」という表現されていた。この表現が不適切であり、「以上」に読み換えられるべきであることは、夙に指摘されていたが([田中*1980a]182頁)、平成16年改正でやっと現行規定のように表現が改められた。

注2 アトランダムに先例を挙げておこう。

注3 相手方が執行債務者であり、その占有権原が彼の共有持分のみであった場合には、彼は共有持分の喪失により無権原占有者となり、買受人は共有物の保存行為として明渡しを求めることができる。執行債務者の占有が他の共有者の持分によっても根拠付けられている場合には、買受人が取得した共有持分のみで引渡命令を求めることができるかが問題となるが、肯定してよい。この問題は、実体法上の問題として、必要であれば執行債務者からの請求異議の訴えにより争わせれば足りるからである。

一般論として言うならば、執行債務者を引渡命令で排除できないことは、共有持分の売却価格の低下につながり、責任財産あるいは担保権の実現にとって好ましいことではない。共有持分の売却の場合には、買受人と他の共有者との間で管理方法について意見の不一致が生じ、共有物の分割にいたる可能性がある。分割を円滑に行なうためには占有権原のない者の排除が必要であり、引渡命令がその準備の機能を営むことになることも肯定してよい。

注4 売却基準価額が不当に高く決定されたことは債務者の不利益にはならないが、債務者がその点を主張し立証しているにもかかわらずそれを無視して売却を許可することは、執行売却の信用を損なうことになりうる。売却基準価額の誤りが認められる以上は、売却を不許可にすべきである。ただこの売却不許可事由は最高価買受申出人を保護するためのものであるから、最高価買受申出人が期日に出席して売却の許可を求めている場合には、売却を許可すべきである。彼が期日に出席していないためその意思を確認できない場合には、原則として売却を不許可にし、彼がそれでも買受を希望する場合には、売却の許可を求めて執行抗告をなしうるとすべきであろう。最高価買受申出人の不出頭による沈黙を買受希望の維持と見ることは、執行売却の信用維持にとって危険であろう。

この解釈は、70条の文言に反するように見えるが、逆に、債務者から提出された資料であるとの一事でそれを無視することは、71条において売却不許可事由が職権調査事項とされていることに反しよう。基本的には、70条と71条とが微妙な矛盾関係にあると言わざるをえない。

注5 [後藤=小堀*1998a]64頁(いわゆる占有屋が入り込んで買受希望者が入札できないようにしているため売却ができない場合などは、本条の対象外であるとする)。

注6 現行法は、自力救済を禁止し、権利の強制的実現を国家の使命とした。客観的な瑕疵のない不動産の売却を完遂して金銭債権の実現にあたることは、国家の使命である。しかし、現実に売却ができなければ、差押債権者に彼に可能な適当な措置をとることを期待してよい。(α)68条の2の保管がなされれば売却の見込みが高まるのに、差押債権者がその申立てをしない場合が問題となる。保管申立ては予備的な買受申出を必要とし、差押債権者に不動産の買受を求めることは好ましいことではない。差押債権者のなかには、買受申出額に相当する保証を提供するだけの資力のない場合もあろう。金融機関は、金融業務に専念するのがよく、不動産の買受とその処理の負担を負わせるのは適当ではない。他方、(β)55条の保管命令は、予備的買受申出を伴うわけではない。債務者あるいは占有者の行為が55条の保管処分を根拠づける行為にあたると判断され、その執行官保管をすれば売却の見込みが高まるにもかかわらず、担保提供能力のある差押債権者が55条の保全処分の申立てをしない場合には、裁判所は68条の3により執行を停止することができると考えたい。

注7  [中野*民執v3]477頁は、このほかに売却許可決定の確定を独立の要件として挙げる。本稿では、これは買受人の代金支払の前提条件であり、独立の要件として挙げないことにする(もちろん、売却許可決定確定前に代金を納付しても引渡命令を求めることはできない)。

注8  東京高等裁判所 平成1年3月3日 民事第5部 決定(平成1年(ラ)第11号)・判例時報1315号64頁も、ほぼ同旨。

注9  買受人が執行債務者から任意の引渡しを受けた場合には引渡命令の発令は認められないとの立場にたてば、執行記録限定説をとることは困難である。なぜなら、執行裁判所は執行債務者を審尋することなく引渡命令を発するのであるから、この事由は抗告審でのみ斟酌されることになり、執行記録限定説とは両立しがたいからである。なお、[注解*1986b](中山一郎)は、261頁・327頁で代金納付後の買受人の占有取得を引渡命令申立権の消滅事由としつつ、328頁では抗告審での新資料の提出に消極的である。首尾一貫するのか、気にかかるところである。

注10  買受人が元所有者に売却したが、売買代金不払いを理由に契約を解除して引渡命令を申し立てた事案において、執行裁判所が引渡命令を発令したのに対し、抗告審は、売買契約の時に元所有者から買受人への占有改定による任意の引渡しと買受人から元所有者への簡易の引渡しがあったと認定して、引渡命令の申立を棄却した。

 このような事例は、稀な例外というわけではないであろう(但し、[生熊*1990a] 211頁は、滅多にないことであるとする)。民事執行法が、悪質な競売ブローカーを排除して一般人が安心して買受申出できるようにさまざまな配慮をしてはいるが、それでも、悪質でない専門業者が競売物件を買受けることは許され、経験と専門的知識を用いて多数回買受けるようになる。彼らは、競売不動産上に残された権利関係を整理して、他に転売することにより利益を得るのであり、転売先として現在の占有者が有力な候補となる。執行により満足を受けるべき債権の債務者が占有者である場合に、その者への転売は民執法68条の趣旨からすれば望ましいことではないが、しかし執行売却終了後は、契約自由の領域のことと言わざるえない。そして、買受人が占有者に不動産を売却したが代金を支払わない場合に、引渡命令により引渡しを得ることができるとすれば、競売ブローカーは占有者との売買契約の履行上極めて有利な地位に立ち、そのことは、ひいては、競売ブローカーの買受申出の促進要素となろう。しかし、そこにまた危険が潜んでいるように思われる。競売ブローカーから競売不動産を買い戻そうとする占有者は、おそらく元の所有者であろう。失いかけた不動産を再び手に入れようと無理を重ねがちになろう。契約締結交渉上、競売ブローカーが優位な地位にある。その彼に、引渡命令という強力な武器を与えられることに不安を感ずる。さらに、競売ブローカーが悪質であれば、新買主が代金を支払った後でも、引渡命令を申し立てる可能性があり、それを排除することも必要である。買受人は、新買主が一定期間内に代金全額を支払うことを売買契約の効力発生の条件とすることにより対応すべきであろう。

注11  もっとも、実行担保権の債務者であるが所有者ではない者の買受申出を否定すべきかについては見解が分かれよう。この債務者は、買受資金があるのであれば、それを任意弁済に廻して担保権者の債権回収コストの削減に協力すべきであるのは確かである。しかし、そのことのみをもって買受禁止の十分な根拠となりうるかは疑問である。担保権者としても、被担保債権の債務者の財産を探索する手間を考慮すると、この債務者が任意に支払う売却代金から満足を得ることは悪い選択肢ではない。

注12  この差異は、次のように説明することができる。

民法400条によれば、特定物の引渡債務者は、引渡しをなすまで目的物の保存について善管注意義務を負う。競売により債務者が目的物の引渡義務を特定の買受人に対して負うのは、売却許可決定が確定した時からであるが、それ以前においても、最高価買受人が定まった時点以降は、その者への売却の可能性が高まるので(民執法72条3項・76条に注意)、債務者の目的物保存についての注意義務を高めてよく、民執法77条の保全処分命令における要件緩和は、売主の保存義務の高まりに対応するものとみることができる。

平成15年改正により55条の要件が緩和された現在では、次のような説明も付加すべきであろう。

差し押えられた不動産は、売却が予定された物件であり、所有者は、差押え債権者との関係で、差押えの時から目的物の保存について善管注意義務を負うと解すべきである。55条の要件緩和は、債務者のこうした保存義務の積極的な肯定に対応するものである。

注13  売却不許可事由が重要なものに限定され、すべて職権調査事項とされたことを考慮すると、執行抗告の段階でもこれらの者の主張を聞いて売却不許可事由の存否を判断することは、不当な売却を防止する上で望ましいことである。しかし、現行法は、それよりも競売手続の迅速な進行を重視し、そのような事由は、それにより直接不利益を受ける者(本文の例では、買受人)が執行抗告を提起して主張した場合に限り、取り上げることとしたのである。

注14  但し、無権代理を看過した売却許可決定が確定すれば、本人が買受人となる。その場合でも、彼が買受けを望まなければ代金を納付しなければよいだけで、彼に不利益が生ずることはないから、準再審による取消をする必要性は、あまりない(無権代理人が提供した保証金には80条が適用される)。なお、保証金を本人が出捐していた場合が例外となろうが、ただ、その場合には無権代理と言えるか、表見代理が成立しないかが問題となろう。

注15  注釈民執法(3)211頁(大橋)、注解民執法(3)133頁(中野)。

注16  東京地裁民事執行実務研究会『不動産執行の理論と実務』478頁、東京地裁民事執行実務研究会『民事執行法上の保全処分』166頁(上田正俊)。

注17  町田「不動産価値の保全と適正売却価格の確保」(竹下=鈴木編『民事執行法の基本構造』)305頁、中野・『民事執行法(三訂版)』409頁)。

注18  注釈民執法(3)210頁以下(大橋)。

注19  例えば、札幌地決平成10.8.27判タ1009-272頁(現況調査報告書提出の3月前に所有者の夫が競売建物内で自殺したが、そのことが報告書に記載されておらず、評価人の評価にも最低売却価額(現在の売却基準価額)の決定にも反映されていなかった事案)

注20  平成14年3月28日に公表された「担保・執行法制の見直しに関する要綱中間試案」において提案され、その補足説明の中で議論されている論点である(「第 2  主として執行法制に関する事項/3  その他/(4)  不動産競売に関するその他の見直し」において、「物件明細書を一般の閲覧に供する方法につき,執行裁判所に備え置く方法(民事執行法62条)に代えて,インターネットを利用して閲覧に供する方法によることができるものとする」とされている)。

注21  債務者の居住する室内の写真や詳細な見取図までインターネットで公開するのが適当かは議論が分かれるところであろう。これらの情報が犯罪に利用されること(端的には売却前にまたは売却後に強盗・窃盗に利用されること)は、最悪の事態であろう。そうした事態を恐れてインターネットで公開するのを避けても、裁判所に備え置かれた物件明細書は一般公開に付されるのであるから、状況はそれほど改善されるわけではない。

注22  平成15年3月31日以前においては、普通郵便によった場合は無効であるとされていた。しかし、訴状の提出も普通郵便ですることができることを考慮すると、入札書の送付に限って書留郵便にする根拠は薄いと考えられるので、平成15年4月1日から信書便法が施行されるのを機にして、普通郵便での入札書の送付もできるように規則47条が改められた([榎本=永末*2003a]参照)。入札希望者は、所定の送付方法のうちから、自己の危険において任意の送付方法を選択することができる。入札書が入札期間内に到着しなかった場合の危険並びに到着したことの証明責任は、彼が負う。

注23  このサイトは、現在(2003年4月13日)、裁判所の委託を受けてある会社によって運営されている。そのTopページには、「許可なく当サイトへのリンクを設けることを禁止します」との表示が出されている。気に掛かるところである。ちなみに、裁判所とサイト運営受託者の間の法律関係がどのようなものか判然としないが、リンク許可申請フォームにおいては、「貴社が運営するホームページへリンクすることについて」の文言があり、申請先は受託会社のようである。それでも、これらは委託者の指示に基づく措置と推測してよいであろう(以下では、このことを前提にする)。

リンクという形で有益な情報へのアクセスを促進して社会の発展を目指すのがWWWの精神である。リンクは、原則として自由である方がよい。

注24  競売等妨害罪を定める刑法96条の3第1項によって保護されるのは、個々の売却方法の公正ではなく、それらを内包する不動産の競売手続全体であり、特別売却が行われている場合の妨害行為も、同条の処罰の対象となる(札幌高等裁判所 平成13年9月25日 刑事部 判決(平成13年(う)第73号))。

注25  このように割り切ると、できるだけ高価に迅速に売却するという政策目標の追求が不十分となる。例えば、(α) 他に有効な買受申出をした者がおれば、その者により安い価額で売却することになる。(β) 他に有効な買受申出がない場合に、再度の売却実施をすれば、売却が遅れることになり、随意売却に切り替えて資格証明書を提出しなかった買受申出人に買受申出を促せば、最低売却価格で買い受けられる蓋然性が高くなろう。

こうした問題点があることは認めつつも、それでも、競争売却を実施する以上、買受申出の方式を明確に定め、それを厳格に遵守しないと混乱が生じよう。

注26  最高価買受申出人に指定されなかった買受申出人が、自己が指定されるべきであったと主張して執行抗告をすることが許されるかについては、見解の対立がある。[長谷川*2005a]624頁注7が詳しい(高額入札人が執行抗告をする場合には、適法とみることもできるとする)。

注27  平成15年改正前には、保全処分の対象となるのは、債務者以外の者については、1項の中で、消除基準債権者に対抗できない占有者に限定されていたが、この限定は、平成15年改正では68条の2が55条2項を準用することにより実現されている。この点の改正は、形式的なものであり、実質的変更を伴うものではない([谷口=筒井*2004a]85頁注83)。

注28  立法論としては、買受人が配当又は弁済を受けるべき金額を控除してよいと思われる。

注29  見方を変えれば、72条は、売却実施終了後における執行の一時停止文書の効力を定める規定とみることができる。

注30  住宅金融支援機構の前身である住宅金融公庫は、裁判所が特に指定した物件について中古住宅購入融資を利用する道も用意されていた。例えば、函館地方裁判所に、「競売物件について住宅金融公庫の中古住宅購入融資の利用可能物件にするために」のページがあった。

注31  2002.10.1更新の「BITシステムについて」による。最高裁広報テーマ「インターネットによる競売物件情報の提供サービス」も参照。

注32  [森田=五十嵐*2003a]=森田恵祐=五十嵐哲「物件明細書等のインターネットによる提供の利用状況等および今後の展開」金融法務事情1669号(2003年3月15日)65頁。

注33  差引納付の制度を利用しやすくするために平成15年改正により、(α)差引納付の申出期限が「売却決定期日の終了まで」から「売却許可決定が確定するまで」に伸張され、(β)金銭納付をなすべき時期については、「買受人の受けるべき配当の額について異議の陳述又は申出があつたときは、買受人は、直ちに」から「買受人の受けるべき配当の額について異議の申出があつたときは、買受人は、当該配当期日から1週間以内に」に伸張された(78条4項)。それとともに、(γ)配当異議の訴え等の提起の証明期間は、従前は一番の場合と同様に「配当期日から1週間以内」であったのが、差引納付を申し出た買受人の配当額に対する異議に限り「配当期日から2週間以内」に伸張された(90条6項)。以上につき、[谷口=筒井*2004a]94頁以下、[上原*2016a]126頁注7・133頁参照。

注34  2000年10月の段階では、公示方法に改善の余地のある例があった。大津地方裁判所がなす新聞公示は、横書きで、かつ、土地付建物・マンション・土地の大分類の後は、価格順に掲載されていて、見やすい。ところが、大阪地裁などの新聞公示は、縦書きで、しかも、大分類の後は事件番号順に掲載されている。一定の地域の物件あるいは一定の価格帯の物件にのみ関心のある者も、すべての物件表示に目を通すことが必要となっていて、不便であった。

注35  民法536条1項は、「債権者は、履行を拒むことができる」と規定しているので、買主(債権者)が代金を支払っていないことを前提にしていると理解される。この理解の下では、買主が代金を支払った後では、536条1項の適用はないことになるが、567条1項の反面規律により、買主は売主に対して支払った代金の返還を請求できる。

なお、改正前の民法536条1項にいう「債務者は、反対給付を受ける権利を有しない」が改正後に「債権者は反対給付の履行を拒むことができる」になった経緯について、[内田*改正民法]79頁を参照。

注36  多くの自治体が独自に定める暴力団排除条例において暴力団関係者を不動産取引から排除する規定が置かれている。例えば、大阪府暴力団排除条例では、「第5章 不動産の譲渡等に関する措置等」の中で、次のこと等が規定されている。

 19条3項「不動産の譲渡等をしようとする者は、当該譲渡等に係る契約において、次に掲げる事項を定めるよう努めるものとする。
  一 契約の相手方は、当該不動産を暴力団事務所の用に供してはならないこと。
  二 譲渡等をした不動産が暴力団事務所の用に供されることが判明したときは、当該譲渡等をした者は、催告をすることなく当該契約を解除し、又は当該不動産を買い戻すことができること。」

 20条1項「動産の譲渡等の代理又は媒介をする者は、当該譲渡等に係る契約の当事者の一方又は双方に対し、前条の規定の遵守に関し助言その他の必要な措置を講じなければならない。」

このように暴力団事務所として利用する目的で不動産が売買されることを抑制する規定を含む暴力段排除条例は平成22年頃から各地の警察(警察本部組織犯罪対策課)の要請で制定されるようになった(福岡県警察のWeb ページによれば、平成22年4月1月に全国で初めて施行されたとのことである。発端は、広島市市営住宅等条例等において入居資格に「その者及び現に同居し、又は同居しようとする親族が暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律(平成3年法律第77号)第2条第6号に規定する暴力団員(以下「暴力団員」という。)でないこと。」が平成16年に追加されたことのようである)。

これを受けて、宅地建物取引業者が仲介する不動産売買契約書では、暴力団事務所としての利用を目的とする売買でないことを確認する条項のみならず、契約当事者がともに暴力団関係者でないことを確認する条項が置かれている。

令和1年に新設された民執法65条の2は、通常の不動産取引におけるこうした動きを受けたものである。

注37  代金納付後に引渡しがなされるので、民法575条2項本文の適用はない。代金の納付期限後の代金納付を許してよいかについては見解が分かれていて、肯定説に立てば、同項ただ書により利息支払義務も生ずると解する余地があるが、肯定説もそこまで主張しているわけではない。

注38  [中野=下村*民執]514頁は、買受人が「買受保全処分につき納付した代金」も78条2項の対象となると解するようであるが(条文の文言上は、その余地はあるが)、代金として支払われた金銭が同項の対象になる余地はないとみる方がよいであろう。

注39  土地は、消費税の対象となる課税資産ではない(消費税法6条1項・別表第1第1号)。建物は、課税対象となるが、債務者(売主)が事業者(2条4号)に該当しない場合(いわゆる消費者である場合)には、消費税は発生しない。債務者が事業者であり、消費税が発生する場合でも、その消費税額を買受人から代金額とは別に徴収するとなると、競売の実施が煩雑になるので、代金額には消費税額相当額が含まれているものと扱われる。売却を実施する執行官には不動産の代金から手数料が支払われるが、この手数料に係る役務の提供(売却の実施)は、消費税の課税対象ではない(消費税法別表5号ハ)。

なお、買受人が代金額とは別個に負担する税金については、 秋田地方裁判所「競売不動産と税金 Q&A 」・「不動産競売で買受けを希望する方へ」等のページを参照。

注40  売買契約の原則からすれば、代金の支払と目的物の引渡とは同時に履行されるべきものであるが、不動産の執行売却では、代金の支払が先に履行され、かつまた、買受人が目的物の引渡しを受ける前に売却代金を債権者に配当することを認めている。そこに通常の売買と異質な要素があり、その異質な要素がある執行売却に、通常の売買の一般原則を適用しようとするのであるから、違和感が生ずる。

なお、買受人に通常の売買の買主に与えられるのと同等の保護を与えるという視点からは、買受人が目的物の引渡しを受けるまで配当金の支払を留保し、買受人が引渡しを受けたことを確認してから配当金を支払い、目的物の引渡しを受けることができないため、買受人が売買契約を解除する場合には、配当されるべきであった代金を買受人に返還することが好ましい。

注41  ただし、強制執行としての競売において債務者が目的物のを任意に引き渡すことを期待するのは、本来無理であろう;これを前提にすると、執行債務者が競売不動産を任意に引き渡さないこと自体は強制競売により成立する売買契約の解除事由にはならず、買受人は、引渡命令により明け渡しを求めるべきであり、引渡命令の執行が効を奏さない場合(例えば、引渡命令の執行が過酷執行として許されない場合)に初めて民法568条1項により売買契約を解除することができると解する余地が生ずる。この解釈により、引渡債務の不履行による契約解除を抑制したとしても、引渡しがなされるまでに生じた滅失を理由とする解除を抑制することは難しいであろう。

注42  明治29年民法制定時の議論について、[中野*1971a5]145頁以下参照。

注43  場合を分けて検討しておこう。以下では、不動産の代金額が5000万円であるとする。

  1. 債権者は一人だけで、彼が競売申立人になり、そして買受人になった;彼の手続上の債権額が3000万円であり、差引2000万円を納付して所有権移転登記を得た;債務者には、2000万円から手続費用を控除した金額が交付された;しかし、彼の債権は実際には存在しなかった。 この場合には、買受人の所有権取得を否定してよい。担保競売の場合には、被担保債権が存在しなければ抵当権も存在しないので、184条の問題になる。同条は買受人が競売申立て債権者である場合には適用がないと解されているので、前記の結論が同条により妨げられることはない。 もっとも、債務者の原状回復を求める請求権(所有権移転登記請求権や明渡請求権)と買受人が納付した代金の返還請求権とは同時履行関係に立つとすべきである。強制競売の場合には、 債務者から買受人への所有権移転の基礎は有効な債務名義の存在であり、債務名義が有効に存在する限り、債務名義に表示された執行債権がたとえ不存在であったとしても、 買受人は有効に所有権を取得するのが原則である。しかし、不当な競売申立てをした買受人よりも債務者を保護すべきであるとの視点から、買受人の所有権取得を否定してよいと思われる。
    買受人が返還請求することができる金額は、()配当等を受けた債権者が他にいなければ、執行債権者が現実に納付した2000万円のうち手続費用を控除して債務者に交付された金額とすべきであろう(手続費用は執行債権者の負担とすべきである)。これに対して、()他に債権者が存在し、 その者にも弁済金交付(84条2項)がなされた場合はどうか(その者へ交付額を例えば500万円とし、差引納付額からこの金額を控除した金額1500万円からさらに手続費用を控除した金額が債務者に交付されていたとする);この場合には、競売手続がまったく無駄であったというわけではないから、手続費用は債務者の負担としてよく、債務者の原状回復請求権と同時履行関係に立つべき買受人の代金返還請求権額は、差引納付額2000万円としてよいであろう(他の債権者への交付額500万円は、もちろん債務者の負担となる)。
  2. 買受人の実債権額は2800万円であるとし、この点を除き他は上記1の場合と同様であるとする。この場合には、買受人は代金2200万円を納付すべきところ、まだ2000万円しか納付していないのであるから、79条の要件を充足しているとは言い難いのは確かである。 しかし、担保競売にあっては被担保債権及び担保権が存在することにより、また、強制競売にあっては債務名義が有効に存在することにより、売却は有効になるのが原則であり、 そして当事者間の公平の視点からその例外を認めるべき状況にあるかは疑問である。(α)不動産の代金の全部が支払われていないから所有権移転の効果は生じていないとしても、 買受人が残代金200万円を支払えば所有権移転の効果が生ずることは認めるべきであろう。(β)買受人について破産手続が開始された場合には、2000万円の差引納付をした時点では所有権移転の効果が生じていないから、 債務者は2000万円の支払と引換えに取戻権を行使しうると解するか、すでに所有権移転の効果が生じていて債務者は200万円の残代金支払請求権ないし不当利得返還請求権を有するにすぎず、それは破産債権になるとするかの問題が生じ 、その問題は債務者と買受人の他の債権者との間の公平の問題になる;債務者は配当異議の申出により不当な差引納付を阻止する機会が与えられていたことを考慮すれば、後者の選択肢(所有権移転肯定説)をとるべきであろう。 (γ)所有権移転否定説が主張するように、配当異議の申出の効果を維持するのに必要な配当異議等の提訴証明期間が短いことは確かである; しかし、現行法の解釈論として、所有権移転否定説を採用しなければならないほどに短いとは思われない(債務者が債権者の債権額を争う機会は、競売申立て、配当要求又は債権届出がなされたときから存在するからである); また、仮に2週間では短すぎるのであれば、立法論になるが、所有権移転肯定説を維持することができるように、提訴証明期間を延長することにより解決すべきである。
  3. 第1順位の抵当権者(被担保債権額2000万円)の申立てに基づき競売がなされ、第2順位の抵当権者(届け出られた被担保債権額1000万円)が買受人となり、代金5000万円から想定配当額1000万円を差し引いた4000万円を納付して所有権移転登記を受けた。 この場合に、所有権移転否定説を採った場合に、債務者が買受人に4000万円を支払うのと引換えに所有権の登記を債務者に戻して競売手続を続行することになるが、それは現実的ではない。 第1順位の抵当権者が受領した1000万円を債務者に返還させ、すでに抹消されている第1順位の抵当権を復活させることは、実際問題として困難であり、かつ、手続的に無駄だからである。 したがって、この場合も、前記2と同様に、債務者は買受人に対して1000万円の残代金支払請求権ないし不当利得返還請求権を有するにとどまると解するのがよいと思われる。

前記2と3の場合に、債務者は買受人に対して残代金支払請求権を有すると構成することの趣旨は、残代金の支払がなければ、競売により成立した売買契約を解除する余地を認めることにある。 もちろん、他の債権者が不動産の競売により得た満足に影響を与えないように原状回復を図るべきであるから、この解除により生ずる原状回復義務は、次のように定められるべきである: (1)買受人が納付した金額に彼が実際の債権額に応じて受けるべきであった配当額等を加えた金額を債務者が買受人に支払う義務を負う;(2)買受人は競売不動産の登記及び占有を原状に服させる義務を負う; (3)両義務は、同時履行関係に立つ(民法546条の類推適用)。これは、買受人が残金を支払うだけの資金を有せず、 債務者(所有者)が前記(1)の支払をするだけに資力を回復させている状況においてのみ現実性を帯びる問題であり、解釈論としてここまで進む必要性は高くない。しかし、ないとは言えない。

注44   土地付き建物の競売において、敷地が多数の筆に分かれている場合に、建物の直下の筆の土地の所有権を買受人に移転させることができなければ、契約の目的を達することができないことになるが、周辺の筆の土地の所有権を移転させることができなくても、建物の理由に支障が生じないのであれば、契約の目的を達することができないとはいえず、代金の減額で問題を解決すべきである。

注45   民法567条を法定売却条件とした上で、その変更を利害関係人の事前の合意により変更することができるとすることも検討対象になる。しかし、民執法59条5項は、売却に伴う権利変更について合意による変更を認めているが、危険負担の変更まで認めている訳ではない。したがって、これは諦めざるを得ない。

注46   功利主義の視点からは次のように述べることも許されよう:この場合にまで買受人は契約を解除することができないとすれば、むしろ、買受希望者が減少して、競売制度の機能が低下しよう。ただ、このように述べても、機能低下の度合いを実証することができるわけではなく、それほど説得力があるわけではない。

注47  民執法75条でも、代金減額の選択肢は用意されていない。売却許可決定を取り消すか取り消さないかのいずれかである。

注48  債務名義に表示された請求権の不存在を理由に請求異議を認容する判決は、その請求権不存在の判断について既判力を有するかの問題があるが、既判力があるとしても、別個の請求権である通常の実体法上の請求権の主張は妨げられない。

注49  ともあれ、そのような執行担当が許されるのであれば、競売不動産が専門業者によって買い受けられて転売される場合に、 買受人が譲受人に対して負う目的物の引渡義務の履行を円滑にするのに役立つ。専門業者の社会的役割は、裁判所とは異なった視点からの不動産の評価をすることと、不動産の引渡しを受けて清掃等をして流通市場に供給することが主要な役割となる(この場合には、引渡しを受けてから転売である)。しかし、資金負担を軽減するために、引渡しを受ける前に転売契約を締結することもあるようである。

なお、個人として不動産を転売する場合には、不動産の短期譲渡所得の税率は比較的高いので(復興所得税を除いて、2020年時点で、所得税30.63%+住民税9%計39.63%)、大きな利益が残るわけではない。

注50  この執行担当は、「債務名義を有する者による執行担当」一類型であり、現在の権利者が前の権利者に授権するという意味で、「逆授権型」あるいは「戻し授権型」と呼ばれる。[下村*2005a]171頁・173頁参照。

注51  原審が引渡命令に表示されている請求権は所有権に基づく物権請求ではないとして異議を棄却したのに対し、最高裁はこの問題に立ち入ることなく異議に理由がないとした。そのため曖昧さが残っていることに注意。

注52  訴訟数を減らすという視点からはどうか。建物とその敷地が競売される場合に、敷地一杯に建物が建てられている場合(建蔽率が高い場合)には、敷地全部に法定地上権が成立することは明らかであり、紛争が生ずることは低いと思われる。他方、建物に比して敷地が広い場合には、紛争が生じやすい。後者の場合に、買受人から引渡命令を示された債務者は不安に駆られて請求異議の訴えを提起する方向に走り安いであろう。他方、買受人は、もともと法定地上権が成立することを前提に買い受けているのであるから、訴訟に走る動機は多くない。買受人に引渡訴訟の提訴責任を負わせる方が、訴訟の数は少なくなるであろう。

注53  [浦野*1985a]381頁は、引渡命令に表示される請求権に言及しておらず、一元説というわけではないが、「引渡命令の相手方の占有は、不動産の直接占有であることを必要としないと」と述べ、その具体例として、債務者(所有者)を挙げる。債務者(所有者)以外の間接占有者に対しても引渡命令を発することができるとするのであるが、その具体例は、賃借人が賃貸不動産を転貸している場合であろう。

注54  売買契約成立後に売主を賃借人とする賃貸借契約が締結された場合には、買主の売買契約に基づく引渡請求に対して、売主は賃貸借契約を以て対抗することができるとすべきである。この場合に、(α)売買契約に基づく引渡請求権は賃貸借契約の締結により消滅したと構成すべきか、それとも、(β)賃借権は権利行使阻止事由になると構成すべきかが問題になるが、前者と解すべきであろう。確かに、所有権に基づく引渡請求権に対して賃借権は権利行使阻止事由になるが、売買契約に基づく引渡請求権は、所有権に基づく引渡請求権のような恒久的なものではなく、売主(賃貸人)と買主(賃借人)との間で賃貸借契約の締結によりにあらたな債権関係が構築される際に、売買契約に基づく引渡請求権を消滅させる合意が黙示的に(場合によれば明示的に)なされたと見るのが素直と思われるからである。

注55  同条の新雪を含む「民事執行法及び国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約の実施に関する法律の一部を改正する法律」の施行期日は令和2年4月1日である(令和元年12月18日制令189号)。法65条の2は、令和2年4月1日以降に申立てのあった競売事件に適用されると考えらる。実際の入札において暴力団無関係陳述書が必要となるのは、概ね令和2年6月頃に入札期間が始まる入札である。執行官室によっては、特定の日からの入札入札開始分について陳述書が必要である旨の広報をがなされている。

注56  別の選択肢として、短く「清廉陳述書」とすることも考えられる。