民事執行法概説「民事執行の概略」の注
関西大学法学部教授 栗田 隆
注1 ドイツでは、債務者に財産を開示させる制度が古くから用意されている。[内山*1998a]が比較的新しい文献で、詳しい。同論文は、「債務者の財産状態を把握することは、債権者が一人興信所を頼んで行わねばならないことではなく、実は、債権者に自力救済を禁止した国家が自ら取り組まねばならないことである」との立場から、日本法にも財産開示制度を導入すべきであると主張していた([内山*1998a]2号76頁以下に具体的提案がある)。
注2 例えば、[内田*民法3]275頁が、債権者取消権の被保全債権につき、「本来の趣旨は責任財産の保全であるから、金銭債権が想定されている」と述べている場合に、その「責任財産」は狭義である。
注3 比較的最近の文献として、次のものを参照:
- 山田斉「日本社会に組み込まれた『経済ヤクザ』の実態」エコノミスト2002年6月25日号94頁-96頁。
注4 次のような文章を読むときあるいは書くときに注意すれば足りよう。
- 執行機関の意味で「執行裁判所」の語が使われる例 「本件事件執行裁判所は,本件事件において提出された第三債務者の陳述書に本件事件と競合する本件先行事件が記載されていたのであるから,本件事件執行裁判所と同一の官署に属する本件先行事件執行裁判所に対し,本件先行事件と競合する本件事件が存在することを連絡すべきであったのに,そのような措置を講じなかった点に民事執行手続上の義務違反がある」(最高裁判所 平成18年1月19日
第1小法廷 判決(平成17年(受)第761号)。
注5 執行力は重要な概念であるので、他の文献の定義を見ておこう。
- 「執行力とは、給付義務の強制執行による実現を国家機関としての執行機関に要求できる効力をいう」(『注解民事執行法(1)』(第一法規、昭和59年)260頁(石川明))
- 「狭義の執行力とは、判決に基づき強制執行できる効力をいう」(『新版新法律学辞典』(有斐閣、昭和44年)527頁。 執行力の認められる文書として判決のみをはげているのは、不十分である。「判決」は、「債務名義」に置き換えられるべきである。
注6 現在では入札が中心であり、立法論としては、入札自体は裁判所(裁判所書記官)に行わせることも考えられる。しかし、その報酬(手数料)は、伝統的に手数料制の公務員たる執行官の主要な収入源とされてきており、現行法でも、伝統に従って、執行官が行うものとされている。
注7 執行力の概念について論じた文献として、次のものがある。
- 川崎祐子「執行力概念の再検討」信州大学刑法論集1号(2017年3月30日発行)113頁−151頁 加藤正治説、兼子一説そして竹下守夫説への展開をフォーローした文献である。
注8 「担保権の実行としての競売等」とするか、「担保権に基づく執行」又は単に「担保権の実行」とする方がよい。