注1 198条4項では、「当該担保権の行使によって弁済を受けることができない債権の額」のみが挙げられているが、根抵当権の放棄や極度額の減縮による不足額の拡大を排除する趣旨と解するのは適当でない。
注2 209条3項で199条1項3号・2項が準用されていないが、当然のことである([小川*2004a]276頁参照)。
注3 旧法下において、東京地裁では、破産管財人は、不動産放棄について裁判所の許可を得てからすみやかに次の内容の通知を別除権者に書面によりなすべきものとされていた時期もある([東京地裁*1996a])。
「不動産の放棄につき,○年○月○日付で破産裁判所の許可を得たので,右許可の日から2週間を経過した後に,同不動産の放棄の手続をとる予定である。」
注4 最高裁判所 平成12年4月28日 第2小法廷 決定(平成11年(許)第40号)は、破産者が法人である場合にも、破産管財人が破産財団から担保不動産を放棄することができることを前提にして、破産財団から放棄された財産を目的とする別除権につき放棄の意思表示をすべき相手方は破産者であり、破産管財人にしても放棄の効果は生ぜず、旧破産法277条による除斥を免れないとの趣旨を判示している。なお、この判示を反面解釈すると、破産者に担保権放棄の意思表示をすれば除斥を免れるかのように読むことができるが、破産財団から放棄された担保不動産について破産管財人はもはや管理処分権を有せず、換価できないことを前提にすると、破産者に対して別除権放棄の意思表示をしても、除斥は免れないと解すべきであろう。
注5 大正11年破産法では、停止条件付債権や別除権付債権については、これの事由のないときは「配当から除斥せらる」と規定されていた(同法275条・277条)。したがって、私は、配当表には記載されるが、除斥期間内にこれらの事由が生じなければ配当表が更正されると解していた。現行法ては、これらの事由のないときは、そもそも配当手続に参加することができないのであるから、破産管財人の作成する配当表に記載されることになるはずである。そのように変更した理由は、[小川*2004a]273頁−291頁に書かれていない。むしろ、「旧法は、・・・別除権者の配当参加を、・・・(いわゆる不足額)を証明した場合に限っていました」との記述からすると、旧法も現行法と同じであったと理解されているようである。
注6 債権額がゼロに確定された者については、配当表から除去してもよいし、債権者として残しつつ債権額をゼロと記載してもよい。
注7 破産法の世界では、一般に、「将来の請求権」は「法定の停止条件付債権」と説明されているので、以下では、将来の請求権と通常の停止条件付債権とを区別することをやめ、「停止条件の成就」と「債権を行使することができるに至ること」とが同義であるとして説明する。
注8 旧法下では、根抵当権の極度額が被担保債権額を下回る場合を代表とする一部抵当の場合には、抵当権を実行するまでもなく不足額の存在が明かになる。担保物の換価完了前にその部分について配当を受けることができるかについては、見解が分かれていた。
担保不動産が超過負担の状態に陥っている場合には、破産管財人は、203条による換価に利益を有しない。この場合には、担保権者が担保物を換価すべきである。もし、破産手続の終結までに担保権者が担保を完了しない場合には、破産者が法人のときに、当該担保物の帰属が不明確になり、困難な問題を引き起こすことを考慮すると、担保権者の担保物換価責任を肯定し、不足額主義はこれをも考慮した制度と理解する余地がある。この理解を前提にすると、否定説が支持される。他方、担保権者の換価責任を考慮しないで済むのであれば、肯定説が正当である。
現行法は、立法的決断として、肯定説を採用した。
ところで、個人破産の場合には、超過負担の状態にある不動産があれば、破産管財人はそれを破産財団から放棄して、債務者に管理処分に委ねることができる。このことを考慮すると、担保権者の換価責任は法人破産に特有な問題であり、これについては別途の道を探すべきであろう。したがって、一般論としては、肯定説を支持すべきである。
注9 破産管財人が電子記録債権法25条1項3号イ・ロのいずれにあたるのか迷うが、ロにあたると解してよいであろう。あまり重要な問題ではないが、電子記録債務者が個人である場合に、破産管財人が万一にも支払等記録の請求を失念した場合に、電子記録債務者(破産者)自身もその請求をすることができる点に実益がある。