関西大学法学部教授 栗田 隆

著作権法 第26条の2注釈の注


注1  その他、次の文献を参照:[岸本*1999a]47頁以下、[吉田*1999a]11頁以下。

注2  頒布権が問題にならない場面での先例をあげておこう。

東京高等裁判所 平成11年3月18日 第18民事部 判決(平成7年(ネ)第3344号)は、シミュレーションゲームソフト「三國志 III 」の著作者人格権侵害等を理由とする差止等請求事件において、静止画像が圧倒的に多い等の理由により、このゲームソフトは映画の著作物に該当しないとした。

大阪高等裁判所 平成11年4月27日 第8民事部 判決(平成9年(ネ)第3587号))は、シミュレーションゲームソフト「ときめきメモリアル」の著作者人格権侵害を理由とする損害賠償請求事件において、次の趣旨を判示した:「映画の著作物」には、映画の効果に類似する視覚的又は視聴覚的効果を生じさせる方法で表現され、かつ、物に固定されている著作物を含む(2条3項)から、本件ゲームソフトが再生機器を用いてモニターに各場面に応じて(連続的ではないとしても)変化する影像を映し出し、登場人物が当該場面に相応しい台詞を述べて一定のストーリーを展開しているゲームソフトは、「映画の著作物」に該当するものということができる。

注3  [岸本*1999a]49頁は、原作品を「著作物が化体された最初の有体物」ととらえたうえで、本条2項3号の根拠の説明にあたって、特定少数者への譲渡によっては譲渡権は消滅しないこととすると、「特に原作品についてはいつまでも譲渡権が行使できる状態が続くこととなり不適当であること」を挙げている。そこでは、原作品の譲渡が公衆への提供になりうることが前提にされており、本注釈と同じ立場である。

なお、原作品の譲渡が譲渡権の対象となりうるのは、次のような考えがとられた場合である。

  1. 例えばブロンズの作品が同一の鋳型を用いて多数個作られたような場合に、最初の作品を原作品と考え他を複製物と考えるのではなく、そのすべてを原作品と考える場合。
  2. 一つの原作品または複製物を売却するときであっても、売買契約等の誘因を公衆に対してすれば「譲渡により公衆に提供する」ことに該当する。

上記の内で、1は原作品の定義の問題であり、譲渡権に関する限り、重要ではない。このような定義の問題に煩わされないように、本条1項では、「原作品は又は複製物」となっているのである。本文に挙げた事例は、油絵の作品のように、原作品が1つ(たとえ複数存在しても、ごく少数)しか存在しない場合であり、この場合ではない。

本文にあげたの、2の当否であり、「譲渡により公衆に提供する」という文言の解釈問題であるる。発行と異なり、「譲渡」は目的物の引渡に完了する行為であり、単なる誘因は譲渡ではないが、誘因の段階で不特定の者に譲渡することは、公衆への提供と考えるるべきであろう。

仮に反対の見解をとれば、一つまたは少数しか存在しない原作品の譲渡は、事物の性質上、公衆への提供にはならず、譲渡権による禁止対象にはならない。


注4 [岸本*1999a]49頁は、これを次のbの場合に位置付けている。それが正当なのかもしれないが、この注釈では4号の「承諾」を3号の「承諾」あるいは1号の「許諾」と同趣旨に解したいので、強制許諾はここに分類した。

注5  配信時の契約により、記録媒体の譲渡の禁止が合意されていることもあるかもしれないが、これはここで取り上げる問題ではない。そのような契約は、記録媒体の譲受人に対しては拘束力がないのが原則である。

注6  [泉*1998a]521頁以下は、ゲームソフトが映画の著作物であるとしても頒布権まで認めるのは不適当であるとする。

注7  頒布権による譲渡制限についてであるが[泉*1998a]516頁以下参照(ゲームソフトの譲渡や中古販売の禁止による流通制限は、著作権者であるゲームソフトメーカーの行為であっても独禁法23条の適用を受けるとは思われないとする)。