関西大学法学部教授 栗田 隆
著作権法 第13条注釈の注 |
注1 実例として、東京地方裁判所 平成4年7月8日 民事第21部 執行処分(物件明細書)判例タイムズ807号263頁がある。
注2 判決が著作権の保護の対象となる第三者の著作物を著作者の氏名を表示することなく大量に引用(借用)しており、著作権法上その判決が自由に複製されることを是認できないという事態は、理論上はあり得ても、実際にはほとんどないであろう。たとえあったとしても、その旨を付記すればその判決を自由に利用できるとすべきである。
注3 理論的にはこのように考えて良いとはいえ、現実に複製あるいは公衆送信等をする場合には、トラブル回避のために、原告の意思を忖度して自制することもある。原告は、他人が自己の著作物が無断で利用することを禁止しようとして、著作権侵害を理由とする損害賠償・差止請求訴訟を提起しているのである。その著作物を判決の一部として複製あるいは公衆送信することは、公衆に警告を発するという意味で原告の意思に合致する場合もあろうが、逆に、原告の意思に反する場合もありうるからである。
注4 文学的及び美術的著作物の保護に関するベルヌ条約パリ改正条約第2条4項および5条1項(内国民待遇の原則)参照。
注5 40条・42条・32条に基づく利用の場合には、翻案して利用することができない(43条1号参照)。当事者および代理人は、判決作成に必要な範囲で裁判所が利用することを翻案を含めて広範に許諾しているというべきであろう。
注6 但し、指示された書類の「調書への包摂」を伴う点で、論文等におけるような単なる参照指示にとどまらない。民訴規則69条にいう引用は、正確には、「調書への包摂を伴う参照指示」である。
注7 判決が19条1項の「公衆への提供もしくは提示」を前提にして作成されるものであるか否かはいくぶん微妙な問題となるが、それでも、公開法廷で言い渡されるのが原則であり(憲82条1項、民訴規則155条2項)、判決が著作権の対象とならず自由に複製されうることを考慮すると、公衆に提供されることを前提に第三者の著作物を利用すべきである。
注8 原告は、自ら訴えを提起したことにより著作物を公表したと考えてよい。被告の著作物が未公表であれば、原告の著作権の侵害の問題は生じないのが通常であろう。
注9 Webにより公衆送信する場合には、画像ファイルが判決文のファイル(htmlで書かれたファイル)とは別個の画像ファイルとして保存され、受信者のディスプレイ上で合成される。そのため、第三者が判決文とは別個の自己の文書のhtmlファイルの中でその画像ファイルのソース指定を行い、自己の文書と共に表示させる事が技術的に可能である。そのような行為が著作権法上許されるかについては、議論は分かれるが、私は原則として許されないとの立場である。許されるとの立場に立てば、画像ファイルのみを独立に公衆送信される形でハードディスクに保存することがそもそも許されないということになり、実際上、判決に含まれた図画のWebによる公衆送信は困難となる。しかし、それはWebが安価で便利な情報伝達手段として利用されている現状に合わない。その点はともあれ、技術的には、図画のみが独立に公衆送信させられる可能性がある以上、その図画に判決および著作者名(原告、被告または第三者の氏名)を付記しておくことが望ましい。
注10 裁判所が当事者あるいは代理人が主張する法理論を採用し、アイデアのみならず表現まで利用する場合には、氏名表示権をどの程度尊重すべきかが問題となる。訴訟代理人が多数いる場合に、どの訴訟代理人の著作物かを個別に点検する作業を裁判所に課すのは、適当ではないであろう。また、これについて氏名表示権を尊重すべきであるとすることは、判例の編集にあたって、当事者および訴訟代理人に氏名を表示すべきであるとの帰結をもたらす。訴訟代理人が少ない場合は問題ないが、社会的に耳目を集める事件については、名目的な代理人が多数並ぶことがある。その場合に全員の名を表記することは現実的ではない。訴訟代理人が交替した場合に、従前の代理人の氏名を記載すべきかという問題も生ずる。また、名誉毀損事件や家事事件については当事者本人の名前を省略しあるいは仮名にすることが幸福追求権の尊重の点から望ましいことがあり、本人訴訟の場合にこれとの調整も難しい問題となる。代理人は、自己の主張が「原告の主張」「被告の主張」として表示されれば足りるということを前提にして主張あるいは陳述しているというべきである(著作者人格権の行使権限の一部放棄)。
注11 著作者の権利が認められないのであるから、誰が著作者であるかを問題にする必要は少ないが、それでも著作者は誰であるか問われれば、15条1項を適用して、国または地方公共団体であると答えることになる。
注12 もっとも、13条は、法令や判決等の著作物性を否定した規定であると見る見解もある([田村*1998a]195頁)。
注13 裁判(特に判決)の自由利用のいわば物理的前提となるのが、判決原本の保存とそのデータベース化である。その動きについて、[梅本*1998a]参照。