著作権法から見たHTTPとFTP

関西大学法学部教授
栗田隆

初稿 1996.10.2 
最終加筆 1997.5.6


本稿は、1996年10月2日の比較法研究センターでの研究会の報告準備原稿 を整理加筆したものである。
  1. はじめに
  2. HTTPについて
  3. FTPについて

1. はじめに

コンピュータネットワークの中で最も普遍性のあるインターネットにおいては、さまざまなデータないし著作物がさまざまな形態で送信されている。代表的な送信形態として、次のようなものがある。

これらは、いずれも基層レベルで見ればTCP/IPを利用しているという点で共通しているが、ユーザーに近い上層レベルではそれぞれに特色がある。ここでは、HTTP とFTPとを取り上げて、著作権法の視点から検討することにしたい。

法的問題の検討に入る前に、これら2つの通信プロトコルによるデータ通信をおおよその時間的順序にしたがって整理しておこう。

HTTPでは、次のようになる。

  1. 自動送信のためのプログラム(HTTPD)が起動される。
  2. 著作者が自分のブラウザーで確認しながらHTML文書を作成する。
  3. HTML文書がサーバーのハードディスクに配置される。
  4. クライアントからのリクエストに応じてHTML文書が送信される。
  5. プロキシーの指定がある場合には、プロキシーを経由してリクエストおよびHTML文書が送られる。
  6. クライアントのコンピュータのメモリーとハードディスクに一時蓄積される。
  7. クライアントのコンピュータのブラウザーがHTML文書を解釈して、画面に表示する。
  8. クライアントが画面を見る。

FTPでは、つぎのようになる。

  1. 自動送信のためのプログラムが起動される。
  2. 送信されるファイルがサーバーのハードディスクに配置される。
  3. クライアントからのリクエストに応じてファイルが送信される。
  4. 送信されたファイルがクライアントのコンピュータのハードディスクに蓄積される。
  5. クライアントがそのファイルを使用する。

HTTPもFTPも有線を用いてデータが送信され、かつ、リクエストに応じて送信するものであるという意味で、有線放送ではなく、その他の有線送信である。しかし、送信された後のデータ(著作物)の利用形態はかなり異なる。これらの有線送信から生ずる著作権法上の問題として何があり、どのように解決したらよいかを検討するのが、本稿の課題である。


2. HTTPについて

2.1.  HTML文書の著作物性

HTTPにより送信される最も基本的なデータは、HTMLにより書かれたドキュメントである。それは、一定の文法により書かれ、ブラウザーにより解釈実行されるという意味で、プログラムの一種である。しかし、著作権法上は、プログラムと位置づけるのは適当ではないであろう。内容が、あまりにも通常の言語の著作物に近いからである。換言すれば、リンク機能やフォーム機能を別にすれば、通常の言語の著作物の内容を異なる機種のコンピュータでも閲覧できるように文書整形用タグを付加したに過ぎないものだからである。

実際の作成手順はさまざまである。最近では、通常の文書作成ソフトで作成した文書を自動的にHTML文書に変換することも可能となっている。他方で、テキストエディタやHTML文書作成ソフトを用いて最初からHTML文書を作成し、それを閲覧ソフトで確認することもある。いずれの場合でも、同一人がこの作業をする限り、実際上あまり問題は生じない。

問題は、原文書をある者が著作し、他の者がそれを手作業により(つまり自動変換によることなく)HTML文書に変換した場合に、そのHTML文書を独立の著作物(二次的著作物)と認めることができるかである。HTML文書にも多種多様なものがあり、一概に論ずることはできないが、通常は、独立の著作物と認める必要はないであろう。なぜなら、

したがって、この場合のHTML文書は原著作物の単なる変形物にすぎず、閲覧ソフトがHTML文書を解釈して表示した文書とともに原文書の著作権にのみ服し、その利用については原文書の著作権者の承諾で足り、HTML文書に変形した者の承諾は、著作権法上は必要ない。

しかし、それでもレイアウト等に特別の創意工夫がある場合には、一般の図書のレイアウトについてと同じ創作性基準にしたがって創作性の有無を判断し、創作性ありと判断されるうる場合もありうることは認めておいてよいであろう。

2.2. プロキシーサーバーのハードディスクへの蓄積

サーバーから送信されたデータがクライアントのコンピュータに行き着くまでに、いくつかのコンピュータを経由し、そこで一時的にメモリーに複写されることはあるが、それはごく短時間のことであり、複製権に服する意味での複製というべきではない。これに対して、通信量の削減を目指して主としてクライアント側のネットワーク管理者により設置されるproxyサーバーのハードディスクへの蓄積は、継続性があり(24時間を越えることもある)、複製にあたる。そして、proxyサーバーが蓄積しているファイルについてリクエストがあった場合に、proxyがHTTPサーバーにそのファイルの作成日付を問い合わせ、一時蓄積されているファイルの作成日付とを比較し、後者が古ければ新しいファイルを取り寄せて転送するようになっていれば問題は少ないが、そうでない場合には、蓄積期間が長ければ送信者が最新の著作物を送信しようとしても、読者にはproxyから古いものが送られるという問題が生ずる。この点も考慮して、Proxyサーバーのハードディスクヘの蓄積を著作権法上どのようにとらえるのかが問題となる。

クライアントに最新のファイルないし比較的最新のファイルが転送されることを条件に、proxyサーバーへの一時蓄積は許容すべきであろう。proxyサーバーの利用による通信量の削減の必要性の度合いは、時と共に変わるが、現状ではその度合いは強い。より多数の者がWebにより著作物を発表することができるように、Webに著作物を掲載する者は、proxyサーバーへの蓄積を受忍すべきである。proxyサーバーが通常に運用されている限り、このことは、著作物が無償で送信される場合のみならず、有償で送信される場合にも妥当する。現在のところ、proxyサーバーはインターネットの一つの重要な構成要素であり、有償で著作物を送信する者は、それを前提にして、料金徴収方法を工夫すべきである。ただ、対価の獲得を意図的に妨げるようなproxyサーバーの運用は、禁止されるべきである。

proxyサーバーのハードディスクへの一時蓄積を複製としながら、それが許容される根拠の説明は、どのようにすべきであろうか。著作権の制限規定の中に、この場合に適用されうるものがあればよいが、明文の規定は見あたらない。Fair Useの法理を定めるアメリカ合衆国著作権法107条のような一般条項もない。

次のように説明してよいであろう(いずれか一方の根拠で足りるが、両方とも妥当する)。

2.3. クライアントのコンピュータにおけるHTML文書の位置づけ

Webサーバーから送られたHTML文書がクライアントのコンピュータの主記憶に読み込まれている状態、および、ディスプレイに表示されている状態は、どのように理解したら良いのであろうか。それは有線送信者の行為の結果なのかそれともクライアントの行為の結果なのか。それは、著作権法2条15号の複製にあたるのか、それともそれ以外のものになるのか、

これをどのように位置づけようとも、具体的な結論はそれほど変わらないであろうが、体系的な整理はやはり必要である。この問題を考えるにあたっては、次の点を確認しておくのがよいであろう。

以上のことを前提にすると、次のように考えてよいであろう。放送により送られてくる著作物は、放送されている時間だけディスプレイに表示されるのに対し、HTML文書の内容は静止画像として表示され、しかも、有線送信終了後も著作物全体を有線送信者の意思から離れて受信者が任意の時間ディスプレイに表示できる。この差異は、ディスプレイへの表示とそれに不可避的に伴う主記憶の複製をクライアントの複製行為であると考えることに向かわせる。

しかし、HTML文書の送信者はクライアントのディスプレイに著作物が表示されることを意図して有線送信しているのであるから、最初にディスプレイに表示されたのは、有線送信の結果というべきであろう。その後に著作物がディスプレイに表示され続けていることについて、クライアントの積極的な行為はない。なにもしないという消極的な行為をもって複製行為というのには抵抗があり、それを言うためには、クライアントにディスプレイの表示を一定時間後消去する義務があるといわなければならない。しかし、そうした義務を認める必要があるのであろうか。

それゆえ、HTML文書の内容がクライアントのディスプレイに長時間表示されることも、HTML文書の有線送信の結果であり、クライアントの複製行為はないと言うべきであろう。HTML文書の有線送信とは本来そうしたものであり、有線送信者はそのことを前提にし有線送信していると考えてよいであろう。有線送信者が自己の著作物(ないし自己が著作権を有する著作物)については、そのように割り切っても問題は生じないし、他人が著作権を有する著作物の有線送信については、結局のところその他人がHTML文書の有線送信を許諾するか否か、ならびに許諾する場合の対価の設定の問題と言ってよいであろう。

2.4. 伝達権

有線送信の受信者が送信された著作物を受信装置を用いて公に伝達することは、著作者の伝達権に服する(23条2項)。この意味での伝達の典型例は、「放送されている番組をそのままスピーカーを通じてお客に聞かせるというように、放送された著作物を受信装置を用いて公衆に試聴させる」ことである。そして、著作権法は、この伝達権を現在の日本に厳格に貫徹させることは実情にあわないとの政策的考慮に基づき、38条3項において、放送ならびに有線放送について、無償の伝達および家庭用受信装置を用いての伝達は、伝達権には服しないとした。しかし、WWWによる有線送信は、放送でも有線放送でもないから、この例外規定の適用はない。有線放送以外の有線送信がなぜ38条3項から除外されたのかは、必ずしも明瞭ではないが、次のように考えてよいであろうか。伝達権が規定された当時、放送や有線放送が普及していて、受信者による公衆への伝達行為もかなりの範囲で行われていたので、それを一挙に著作者の伝達権に服させるのは適当でないと判断された。他方、有線送信はまだそれほど普及してはおらず、したがって公衆への伝達もあまり行われていなかったので、これについては、伝達権に服させ、社会がこの規範に従うことを期待した。

上記のことを前提にすれば、WWWのページの受信画像を受信装置を用いて公衆に伝達することは、例外なく伝達権に服することになる。幸い、WWWのページを伝達しようと思う者は、電子メイルを用いて比較的容易にその許諾を得ることができるので、問題は比較的少なかろう。


3. FTPについて

FTPによる有線送信についても、HTTPの有線送信について述べたことの前半部分が当てはまる。しかし、FTPでは、送信されたファイルがクライアントのハードディスクに複製されるので、その複製をどのように位置づけるかが問題となる(HTTPでも同様なことがなされるのであれば、それもここでの議論に含まれる)。それは、

と考えるのかが問題となる。

具体的な問題としては、次のことが想定されよう。

  1. FTPにより他人の著作物を有線送信する者は、有線送信の許諾のみならず複製の許諾を得ることが必要なのか、それとも有線送信の許諾のみで足りるのか。後者の場合には、クライアントが複製の許諾を得ることが必要なのか。
  2. クライアントが送信者に対価を払って有線送信を受けた著作物が第三者の著作物であり、送信者が無断で送信した者であることが後日判明した場合に、クライアントは、無断複製したことになるのか。ないしは、著作権者に複製料を支払うことが必要なのか。
  3. 有線送信者が無権限で他人の著作物を有線送信していることをクライアントが知りながら有線送信を依頼して、自己のハードディスクにその内容が複製された場合、どうなるのか。

第1の問題については、クライアントが複製の許諾を得ることを期待するのは適当ではない。有線送信者が複製の許諾も得るべきであると考えるべきであろう。有線送信の許諾契約においてFTPにより有線送信することが認められていれば、有線送信の結果としての複製の許諾もあったと考えてよいであろう。

第2の問題については、クライアントは無断で複製された物(有体物)を善意で取得した者と同じであり、その複製物の使用は著作権侵害とはならない(著作権法113条参照)。その意味で、クライアントの複製行為はないと言うべきである。

第3の問題については、このようなクライアントの行為が許されるべきでないことは当然であるが、クライアントの複製行為はないとした場合に、どのような制裁が可能かが問題となる。著作権法113条2項により侵害とみなされる場合は、プログラムの著作物が業務上使用される場合に限定されている。著作権法は、有線送信者に制裁を加えれば足り、クライアントへの制裁は自制したと見るべきであろうか。この場合の有線送信の依頼を著作権侵害行為と見る余地もあるが、しかし、これは、違法な複製物であることを知りながらそれを購入することと同様な評価に服することであり、後者は現行法上著作権侵害行為とはされていないのではなかろうか。

疑問はなお残るが、ともあれ、FTPによる有線送信によりクライアントのハードディスクに著作物が複製されることも、有線送信者の行為の結果と見てよいであろう。